SNSやカルチャーシーンを介して身近になってきたフェミニズム。現在は第4波といわれ、性暴力に抗議する「フラワーデモ」のような社会運動にもつながっている。その立役者のひとりが、松尾亜紀子さん。フェミニズムの歴史を俯瞰してみたい人のための3冊。「黙っていても良くならない。声を上げなければと感じる10年でした」出版社勤務時代からフェミニズムに通じる本を手がけ、2018年に専門出版社「エトセトラブックス」を立ち上げた。『エトセトラ』と名付けた雑誌は、VOL.1で「コンビニからエロ本がなくなる日」を特集。大いに話題となった。編集長を毎号替えるスタイル。最新号VOL.4の特集はバックラッシュだ。編集長を、#KuTooを提唱した石川優実さんが務める。「フェミニズムが盛り上がる一方で、バックラッシュと呼ばれる揺り戻し、反フェミニズムも強くなっています。石川さんとの打ち合わせを重ねる中で、日本では、欧米や韓国ほど#MeTooの熱気が高まらなかったのはなぜかが見えてきた。実は日本でも女性運動は連綿と引き継がれていたのですが、2000年代に起きたバックラッシュで世代が分断されてしまったことが大きい。また、石川さん自身がバックラッシュに遭っていたので、女性運動の歴史を知るとともにそれについて学んでみようと考えました」石川さんへのヘイトスピーチの悪質さはご存じの読者もいるだろう。「心身ともに傷ついていた石川さんが、先輩たちの体験を聞く取材を重ねるにつれ、みな仲間で連帯して苦境をはね返してきたとわかり、元気を取り戻してきたんです」松尾さんはシスターフッド(女性同士の連帯)の大切さを強調する。1月に専門書店もオープンさせた松尾さんからのおすすめ本は下記。刊行から15年、いままた本国フランスで熱い支持を集める22万部超の『キングコング・セオリー』は、性暴力の問題やポルノグラフィー、身体の尊厳について語り尽くす。「著者自身が性被害当事者で、被害事実を受け入れる過程を自らの言葉で語っています。母性の過大評価にしても、『その言葉は誰に言わされているのだろうか』『男性が権力の道具にしているのではないか』などと常に問いかける。過激ともいわれるけれど、真摯なフェミニズム書です」。『ウーマン・イン・バトル』は、女性運動の歴史を俯瞰するのには格好のバンド・デシネ。「世界の女性たちの闘いを知れば、その連なりに自分たちがいるのだと感じることもできます」女性の数だけフェミニズムの形がある。「伝えられていない声を伝えたい。『専門の出版社や書店なんてあるんだ』という驚きをきっかけにフェミニズムの枠が拡がっていくのを願っています」『ウーマン・イン・バトル自由・平等・シスターフッド!』マルタ・ブレーン著 イェニー・ヨルダル絵枇谷玲子訳1600円(合同出版)『エトセトラ VOL.4』1300円(エトセトラブックス)『キングコング・セオリー』ヴィルジニー・デパント著相川千尋訳1700円(柏書房)『エトセトラブックス BOOKSHOP』東京都世田谷区代田4-10-18ダイタビル1F木・金・土曜12:00~20:00(週に3日のみ)※『anan』2021年2月10日号より。写真・土佐麻理子取材、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2021年02月06日人にはなかなか語れないことがある。それでも語ることで一歩踏み出す主人公、そして著者自身に心揺さぶられる崔実さんの『pray human』。デビュー作『ジニのパズル』以来、4年ぶりの新作だ。時を経てようやく語られる心の傷。話題の新鋭作家、突き刺さる第2作。「『ジニのパズル』を書いた時、最初は少しだけ精神病棟の場面があったけれど削除したんです。その時、当時の編集長と“次は精神病棟の話を書いたらどうか”と話しました」本作は17歳の時に精神を病んで入院した過去を持つ〈わたし〉が語り手。時を経て〈きみ〉に語りかける形でその日々を振り返り、さらに入院時代の仲間の一人・安城さんという女性と再会し思春期について語る。そこでは塾で受けた性的虐待の経験にも触れられて―。「最初に精神病棟の日常を書いたのですが、行き詰まった時に編集者に“入院した理由に触れたほうがいいのでは”と言われ、また新たに入院するまでの話を書きました。でも掘り下げられなくて。どこか逃げていたんです」日本で#MeToo運動が高まった頃だった。「いろんな人が声を上げる姿に勇気づけられると同時に、言葉にできない自分を責めました」そんな折ソウル国際文学交流会から登壇依頼が。「作家たちがそれぞれ“なぜ書くのか”というテーマで英語のエッセイを発表して語り合う内容でした。英語なら書けるかもと思い、初めて思春期に受けた虐待のことを書いたんです。でも当日、いざ読もうとしたら声が出せなくなり。察したデンマークの作家が“大丈夫だよ、代わりに読むね”って。会場も“大丈夫、大丈夫”って拍手してくれた。その直後は読めなかった自分に落ち込んだけど、夜、作家たちと食事したら思っているより伝わっていると分かって。今なら日本語で小説を書けると思いました。そこからまた時間がかかりました(苦笑)」最初につけたタイトルは『play human』だったという。「精神病棟の話を書いた時に“人間のふりをする”という意味でつけました。でも思春期のことも加えたし、ここに出てくる人たちみんな誰かのため、自分のために祈っている。それでLをRに替えました」〈わたし〉はつねに、誰かしらに語りかけているわけだが、「思春期を書く時、精神病棟の話に出てきたあの子に話しかけよう、って思いました。安城さんについては、〈わたし〉とはいちばん仲が悪いですが、私はいちばん好き。親友でもないけれど敵でもない。優しい人じゃないから話しやすいこともある」作中、幼い頃に教会で教わった「隣人を愛しなさい」「隣人を許しなさい」という言葉にも言及される。「その言葉がすごく好きだったのに、塾での出来事の後、精神が真っ二つに引き裂かれた感じがありました。自分がふたりいる感覚があって、それで、引き裂かれたもうひとりの子を置いてきちゃったんです。自分自身を隣人にしてしまった。今は、隣人である思春期の自分を愛して許そう、という気持ちです」ようやく声を出せた崔実さん。でも誰もがそうすべきとは思わない。「声を上げないのは、それくらいの傷を負っているということ。無理してほしくない」。自身も、書き終えた直後は達成感はなかったという。「雑誌に掲載された時は敗北感でいっぱいでした。でも本にするため読み返して直すたびに距離が生まれて、客観的に考えられるようになってきました。この闘いには意味があったなと、今は思っています」チェ・シル1985年生まれ。2016年『ジニのパズル』で群像新人文学賞を受賞しデビュー。同作は芥川賞候補となったほか、織田作之助賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。本作が2作目。『pray human』17歳の時に精神病棟に入院していた〈わたし〉は、大人になり、大切な人に向けてはじめて語りだす。入院当時の日々、そしてその後再会した仲間に打ち明けた思春期の傷を―。三島由紀夫賞候補作。講談社1500円※『anan』2020年11月11日号より。写真・土佐麻理子(崔さん)中島慶子(本)インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2020年11月06日女性の社会進出が進み男女平等が叫ばれているいっぽうで、一部の女性のなかには、都合のいい時だけ ”女であること” をアドバンテージにして、うまく生き抜こうとする人たちも。しかし、都合のいい時だけ甘い汁を吸おうとする女性は、しっかりと男性にも見られているようです! 今回は、実は男子からの評価を下げている行動について、男子の本音を聞いてみました!文・オリ子やっちゃってるかも!? 評価を下げる行動って何ですか?仕事で怒られている時、泣いてごまかそうとする「サシ飲みとか、陰で上司の悪口ばっかり言って、普段から気が強いタイプの同期の女の子。顔もかわいいしけっこう気に入ってたんだけど、この間上司に少し注意されただけなのに急に泣き出して、正直、『いつもあんな強気発言してるのにこんな時だけ泣くのかよ』と思った。上司もさすがに新人の子にみんなの前で泣かれたので、困ったのか逆に普段のいいところを褒め出して、なんだこのコントは、と感じた(笑)」(26歳・営業)「仕事で何かあったら泣きそうな顔する女。そういう時だけ泣きそうになって逃れようとしているようで評価下がる」(34歳・営業)「すぐ泣く女。泣いたらなんでも許されると思うな。特に仕事では男女平等って言ってるくせにずるい」(24歳・その他)なぜか、ビジネスの場で ”涙を流すと許される” ようなイメージが、いまだにありますよね。しかし、仕事のミスを泣いて許してもらうのは不平等なこと。もちろん、単純に涙もろかったり、泣きたい時もあると思いますが、普段の行動と合わせて、自分のその時々の行動を意識しておいたほうがベターですね!飲み会の時、奢られるのが当たり前と思っている「男2人、女1人で飲んだ時、会計でもうひとりの男が、『〇〇ちゃんはいいよ』ってカッコつけて言ったけど、俺的には『3で割るんじゃないの!?』って感じだった。給料も変わらないんだから、こういうのがよくわからないし納得いかない。それでも、『私にも払わせて』くらい言ってくれると見直すかも。まあ、そんなことその場で言ったらケチな男と思われるので言わないけど」(32歳・その他)「あるあるだけど、財布だけ出して、実はお金を出す気がない女性」(26歳・営業)鉄板ではありますが、飲み会などで「おごられて当然」、「男性が多く払って当然」と普段から考えている女性は、たとえレジの前でお財布だけ出したところで、「この子、おごられて当然と思っているタイプの子だな」という印象を与えてしまう可能性が。あまりにも「男が払うべき!」と考える女性は評価も下がってしまう可能性があるので立ち居振る舞いにはご注意を!有給使い果たして、生理休暇を使い出す「頻繁に体調不良と言って休む子が、ついに有給がなくなり、翌月からなぜか生理休暇を使用するように。本当かもしれないけど、周囲の話を聞いて総合的に判断する限り、少し胡散臭くて、その子の評価が下がった。もちろん、本当にそうかもなので、真相は僕にはわかりませんよ……」(25歳・営業)「生理休暇を乱用している子。周りの女の子経由で、そうじゃないみたい、と聞いたのでげんなりした」(30歳・その他)生理休暇は生理が辛すぎる時に休むための、正当な権利です。ただ、女性にしか与えられない休暇ということもあり、言葉にしなくとも納得していない男性もいるようです。実際、男性にはわからない生理痛を、理解してもらうのはやはり難しいですよね。また、女性からすると、上司が男性だと言いづらくて結局使えなかったり、実際に無理してでも行けなくはないので、頑張ってしまったりと辛い思いをしている方も多いはず。悩ましい問題ですよね〜。辛い時は正々堂々と生理休暇を取りましょう! ちなみに、男性から勘違いされるタイプの女性は、日頃の行いが元になっているのかもしれませんね。会議で発言しない、ニコニコしてるだけ「お客さまの先に訪問した際、ただ笑顔で何もしゃべらない子。参加しているのなら、フォローしろよって思う。かわいいから笑顔でいれば許されるのと思ってるのか。確かに、その子めっちゃ美人だけど(笑)」(24歳・サポート)「毎月の上層部とおこなう発表会議で、ひと言も話さないでいる子。男の部長に気に入られてるからそれで許されてるけど、女っていいな〜って毎月思う(笑)。彼女と2人のプロジェクトで俺だけ責められるので、辛い。俺って器が小さいのかもだけど」(30歳・マーケティング)まだまだ男女平等ではない会社が多く、正直会議で発言しにくいこともありますが、一部の男性からは、「会議の時だけ話さないのは、女性であることに甘えている」と思われてしまう可能性もあるようです。せっかく参加している会議。逆に女だからと舐められないように、しっかりと意見を持って挑んでいきたいものですね。勘違いだとしても、この時代、女性としての甘えは自己評価を下げちゃう可能も!?昔は、とにかくかわいく笑顔でいたり、何かあれば泣いらた許されることがありえたかもしれませんが、男女平等が浸透しつつある現代では、”女性だけのアドバンテージ” という印象を与えてしまう可能性のある言動は、自分の評価を下げる結果につながるようです。いずれにせよ、普段のあなたの行いが、いざという時の判断に影響を与えるのかも!? 普段から、本当の意味で愛される女でいたいものですね。©LDProd/Gettyimages©fizkes/Gettyimages
2018年11月06日「撮影するまで、#MeTooについての関心はありませんでした」 こう語るのは、映画「私は絶対許さない」で初主演を務める平塚千瑛(31)だ。12年に開催されたミス・ユニバースジャパンのセミファイナリストにも選出されている平塚は、グラビアやモデルとしての活動が注目されている。 だが、今作では一転。15歳でレイプに遭ったことで、家族にも見捨てられた全身整形のSM嬢を演じる。特筆すべきは、今作は雪村葉子さんという実在する女性の“ノンフィクション”を描いているという点だ。平塚は「雪村さんの半生を演じて、わかったことがあります」と言う。 「性被害に遭った女性が声を上げることは、とても勇気の要ることだと理解しました。女性の意見は、男性社会では埋もれてしまう。そんな中、『おかしいものはおかしい』と勇気を出して声を上げた女性は讃えられるべきです。声を上げた女性が、ときに非難に晒されてしまうということが納得できません。私は#MeToo運動を尊敬しています」 自身も飲食店のアルバイトをしていた際、写真撮影で突然肩を組まれたことがあったという平塚。当初は驚いたが、「これがセクハラなのか、そうでないのか」と苦悩した過去を回想。そして、ひとつの答えを見つける。 「女性の立場が弱いから『肩を組むのは違う』と声を上げることができなかったんだと気づきました。『言ってもムダだ』って、社会が女性に思い込ませているようにも思います。だけど私は、そう思ってほしくないんです。イヤだと思うことに対して、イヤだって言ってもいい。きちんと声を上げる。#MeToo運動などを通して、ひとりひとりが声をあげる。その勇気こそが、女性の地位を高めることに繋がっていくと思います」 衝撃的な内容のあまり“問題作”とも形容される同作だが、今年1月には性犯罪が社会問題であるインドの「ノイダ国際映画祭」で審査員特別賞を受賞。セクハラや女子高生への淫行がニュースを賑わすいま、まさに“真打ち”となる今作。#MeToo運動と共に、「女性の地位向上のために意味のある映画」と平塚は期待する。 「今回の撮影で私は、壮絶な雪村さんの人生に打ちのめされました。演じていて、感情のコントロールが出来なくもなりました。それでも役に没頭できたのは、雪村さんの半生を伝えたいという使命感があったからです。実際に性犯罪に遭った方から、『演じてくれてありがとう』と涙ながらに握手して頂いたこともあります。思わず目を背けてしまうシーンもありますが、最後まで見届けてほしい。一人でも多くの方に観ていただき、雪村さんの心の傷を伝え、いまの社会にヒントを与えることがこの映画の使命だと思います」 東京では口コミが話題を呼び、6週にもわたるロングランヒットとなった今作。平塚も「男性は、雪村さんの体験したようなことがご家族に降りかかったら…と想像して感想を打ち明けてくれます。また女性が半数近くを占める上映日もありました。伝わってるんだなと、嬉しくて思います」とその実感を明かしている。 同作の上映は、大阪の第七芸術劇場や宮城の仙台セントラルホールでは今月25日まで。茨城の土浦セントラルシネマズでは引き続き上映中。以後、大分の別府ブルーバード劇場を筆頭に、京都の出町座、山口の萩ツインシネマ、神奈川の横浜シネマ・ジャック&ベティなど全国を巡映する予定。
2018年05月21日「#MeToo」に端を発する突然のキャスト交代劇から、代役クリストファー・プラマーの史上最年長アカデミー賞ノミネートまで大きな話題となったリドリー・スコット監督作『ゲティ家の身代金』。本作では、誘拐された息子を救うため、男性社会で奮闘する“母親の強さ”が描かれている。本日5月13日の「母の日」、そんな本作と共に、「#MeToo」時代に母親の強さが感じられる映画・新旧6作品をご紹介!【息子も未来も守る。戦う母の代表格】リンダ・ハミルトン:サラ・コナー『ターミネーター2』(1991)ジェームズ・キャメロンによるSFアクション映画の傑作にして、誰もが知る強い母親サラ・コナー。前作『ターミネーター』では、未来から送られてきた殺人マシーン・ターミネーターに命を狙われ、今作では自分の息子ジョン、そして世界を守るために、再び戦いに挑んでいく。危険や法を破ることもを顧みずに、命を狙われた息子を守るために戦う姿は、ハリウッドを代表する強い女性キャラクターとして、ターミネーターに負けず劣らずの人気を誇る。【豪邸の中で密室心理戦】ジョディ・フォスター:メグ・アルトマン『パニック・ルーム』(2002)『ゲティ家の身代金』では豪邸に住む大富豪が敵となるが、今作では豪邸そのものが事件の元凶となってしまう。豪邸に隠された財産を狙い忍び込んでくる強盗相手に、母メグと娘サラ(クリステン・スチュワート)が立ち向かっていく極限状態における犯人との心理戦は必見だ。自らの知恵と身の回りにあるもので犯人に挑む必死さに、母の愛の強さが伝わってくる作品だ。監督は鬼才デヴィッド・フィンチャー。【自責の念が生み出した行動力の化身】フランシス・マクドーマンド:ミルドレッド・ヘイズ『スリー・ビルボード』(2017)第90回アカデミー賞主演女優賞、助演男優賞を受賞した記憶にも新しい本作。娘を殺した犯人を捜すために過激な行動に出る母親ミルドレッドは、その過激さからサラ・コナーと似ているように思えるが、2つの点で異なっている。1つは過激な行動の裏に、娘の死の原因の一端を自身に感じ、内向きの怒りを抱えている点。もう1つは、敵を倒すことではなく、赦すことで前に進んでいく点。物語もキャラクターも過激さと人間くささを併せ持つ魅力的な作品だ。ベネチア国際映画祭およびゴールデン・グローブ賞脚本賞受賞のマーティン・マクドナーが監督・脚本。【母親VS腐敗した社会権力】アンジェリーナ・ジョリー:クリスティン・コリンズ『チェンジリング』(2008)本作は、1920年代のロサンゼルスで起こった連続誘拐少年殺人事件を元にした実話。この事件が忌まわしいのは、犯人だけでなく警察をはじめとした権力者も同様に、醜悪な存在だということ。警察は、誘拐されたクリスティンの息子とは別の子どもを息子として引き渡し、それを訴えた彼女を異常者として精神病院に強制入院させる。それでも息子の生存を信じて過酷な状況でも諦めない母親の姿は、愛の強さを観客に強く訴える内容となっている。クリント・イーストウッド監督作品。【これが現実の話だと思うと…】ブリー・ラーソン:ママ/ジョイ・ニューサム『ルーム』(2015)第88回アカデミー賞主演女優賞を始め、多くの賞を受賞した本作。暴行目的で拉致、監禁された母とやがて生まれた息子が脱出し、閉じ込められた「部屋」だけが世界の全てだった息子ジャックの認識が徐々に変化していく物語は、衝撃と感動の涙を誘った。エマ・ドナヒューによる原作小説は、日本を含む世界各国で起きた同様の事件から着想を得ている。歪んだ男性社会の被害者で終わらず、勇気と知恵で立ち向かう『チェンジリング』や今作は、2018年現在、より意義あるものとなっている。監督はアイルランドの気鋭レニー・アブラハムソン。【彼女が戦う相手は誘拐犯、そして世界一の大富豪】ミシェル・ウィリアムズ:アビゲイル・ハリス『ゲティ家の身代金』(2018)フォーチュン誌によって、世界で初めての億万長者に認定された石油王ジャン・ポール・ゲティ。1973年、ローマで彼の孫が誘拐され、当時史上最高額とも祝える身代金を要求されたが、なんとゲティは身代金支払いを拒否!そんな世界一有名な誘拐事件を、巨匠リドリー・スコットが映画化した。誘拐犯の男たち、圧倒的な財産を持ちながら身代金を支払わない義理の父ゲティ、薬中の元旦那と、彼女の周りに存在する男たちは、ことごとく障害となる。立ちはだかる男たちと金に翻弄されながら、それでもは母アビゲイル(ゲイル)は息子を救うため、強く前に進んでいく。彼女の唯一の目的は息子を無事に取り戻すことであり、ゲティ財団のお金は子どもを取り戻す手段でしかない。「最後まで諦めない」という意思を繰り返し証明していかなければならない、ゲイルを演じるミシェル・ウィリアムズは語っている。女性であるがために軽んじられ、過小評価され、除外される…「もちろんこれはサスペンスに満ちたドラマではあるが、同時にフェミニズム映画でもあると思う。男の世界のなかで女であるというのはどういうことなのかを掘り下げる」というミシェル。「まともに受け止めてもらうには、あらゆる知力と能力を使って闘い、事態をコントロールし、周りと対等に渡り合わなければならないということを彼女は本質的に分かっていた。女であるがために軽んじられ、過小評価され、除外されるシーンがこの作品には数多く散りばめられている。こういうタフで、リアルで、尖ったところのある複雑なキャラクターを演じるのが大好き。ゲイルは崩れることが許されない。目標をしっかりと見据えないといけないが、そこまでの道筋が日々刻々と変化する。彼女のコントロールの及ばないところで様々な出来事や人々が影響して事態が変わっていく」と彼女は説明する。#MeToo問題で注目を集めた本作だが、図らずも作品内容はそれと呼応するかのごとく、弱い立場に置かれた女性が己の尊厳と愛する息子のために奮闘する物語だ。過去の事件を元にした映画ではあるが、時代と映画が持つメッセージは、現代の問題と符合している。そんな本作をぜひスクリーンで確かめてみてほしい。『ゲティ家の身代金』は5月25日(金)より全国にて公開。(text:cinemacafe.net)■関連作品:スリー・ビルボード 2018年2月1日より全国にて公開© 2017 Twentieth Century Foxゲティ家の身代金 2018年5月25日より全国にて公開© 2017 ALL THE MONEY US, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
2018年05月13日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「#MeToo」です。敵対で終わらせず、自分の行動を省みるきっかけに。ハリウッドの大物プロデューサーからセクハラを受けていたと、女優のアリッサ・ミラノさんが昨年秋にTwitterに投稿したのを機に、業界に蔓延していたセクハラや性的暴力に、声を上げていこうというムーブメント「#MeToo」が広がりました。それまでは「告発すると仕事を失う」と、我慢を強いられていた人たちが次々に、私も!と声を上げ、ムーブメントは世界に広がりました。1月のゴールデン・グローブ賞授賞式では女優たちが黒いドレスで参列し、「Time’sUp(もう、おしまい)」とセクハラ撲滅を訴えたのも大きなニュースになりましたね。一方、過熱した#MeTooムーブメントに対し、フランスの女優カトリーヌ・ドヌーブさんら女性100人が連名で署名し、新聞に、逆告発する意見書を提出。記事の内容は“#MeTooは行きすぎ。全体主義の風潮を作り出しており、性の自由を妨害している”というものでした。これは男性擁護だと強い反発が起き、ドヌーブさんはすぐさま性被害に遭った女性に対してのみ、謝罪文を出しました。日本でも、#MeToo運動は広まりましたが、被害を訴えた本人が批判の対象になり、結局皆が口をつぐんでしまうという残念な結果になってしまいました。メディアの責任も大きいのですが、いまはどうしても、A対Bという対立の構図が作られてしまいます。でも、皆の希望は告発合戦ではなく、セクハラ、パワハラのない社会をめざすことでしょう。#MeTooを、当事者だけの問題にせず、「私も誰かに不快な思いをさせていたのではないか」と、各々、自分の行動を省みる機会にしてはどうでしょうか。なにげなく後輩に、恋人の有無や異性の好みを尋ねることが、実はセクハラになっているのかもしれません。逆に、ハラスメントを恐れて会話を自制してしまうのも後ろ向きですよね。不快なことをされたら「私は嫌です」と正直な気持ちを言える環境を作ることも大切です。アメリカのセクハラ問題は深刻で、グラミー賞では参列者が白いバラをつけて連帯。今年のアカデミー賞ではどう扱われるかが注目されています。堀潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2018年3月14日号より。写真・中島慶子題字&イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年03月11日セクシュアルハラスメントは、あらゆる場で起こりうるのが現状。被害を訴えることが難しい世の中に感じますが、今、「#Metoo」運動が日本でも広まっています。自らが受けたハラスメントを、「Me too(私も)」と声を上げるのです。今回、実際に被害を受けたという3人の女性のお話を聞いてきました。生きやすい社会にするためには、どのようにすれば良いのでしょうか。文・七海賛否両論あるけれど。声を上げることはいけないことなのだろうか少し前、ハリウッド女優がセクハラ被害を訴えたニュースが注目を集めました。それから著名人を含め、さまざまな女性が「Me too(私も)」と声を上げ始めました。その波紋は日本にも広がり、「#Metoo」を見かけることが多くなりました。さまざまな考えを持った人がいるので、この「#Metoo」は大きな議論を呼んでいます。勇気ある行動だと賛同する人もいれば、反対する人もいる。反対する人の意見としては、「被害者面している」「魔女狩りのよう」といった意見が目立つように思います。賛否両論は承知の上で問いますが、被害者が声を上げるのは ”被害者面” なのでしょうか?セクシュアルハラスメントは、どんなシーンでも起こり得ます。実際に被害に遭ったという女性の声を、何人かから聞いてきました。まずはその声に耳を傾けていただければと思います。会社の ”接待”。私は性を売る商売道具じゃない中小企業で働く、OLのマリカさん(仮名)。割合としては女性が多く、勤務中にセクハラを受けることはないと言います。しかし、苦痛なのは年に数回行われる接待なのだと語ります。その接待は、社員全員が出席して、取引先企業の人や社長の友人などをもてなすものです。社長の友人の飲食店で、貸し切りにして行われます。入社してから毎回出席していますが、強い違和感を覚えるそうです。取引先企業の人や社長の友人は男性が多いです。それぞれにご飯を取りわけたりお酌をしたりするのは良いのですが、問題はその先。酔いが回ってくると、男性陣は女性を ”指名” してきます。隣に座るように言われ、体を触られます。ときには抱きつかれることもあります。二次会になると、より少人数に。誰かに気に入られると、断れないような雰囲気で、そのまま二次会に行く形になります。二次会も社長の友人の店。大抵個人経営のスナックのようなところで、ボディタッチが激しくなります。接待の欠席はできない、とマリコさんは語ります。出欠は聞かれるそうですが、形式上のものに過ぎません。とても断れるような雰囲気ではなく、断っている人を見たこともないと言います。触られたり性的な質問をされたりするのが嫌で、当日お店の隅に座っていても、社長から大声で呼ばれるそうです。「この人にお酌してあげて」といったように。取引先企業の人と円滑なコミュニケーションを取るための接待は必要だと思いますが、そこに性的な要素がいるのでしょうか。私は性を売る仕事をしているわけではないのに、と悲しそうでした。同棲している彼氏からのハラスメント。耐えるしかないのか同棲して約半年の彼氏がいるという、シオリさん(仮名)。彼氏は頭に血が上りやすく、カッとなると暴言が酷いのだと言います。普段どちらも働いていますが、家事はほとんどシオリさんがしているのだそう。残業が続いて家事が滞ってしまうこともあり、そんなときは「使えない女」だと頭ごなしに怒鳴られるそうです。彼自身几帳面な性格で、例えばタオルの四隅がきちんとそろわずにたたまれていると、ずっと文句を言われるのだと言います。家事を手伝ってほしいと訴えても、家事は女がするものだからと自分では動きません。家の中で罵られるのは我慢すれば良いかなと思ってしまうのですが、人前で罵られるのには耐えきれないと語ります。共通の友人や彼の友人と食事会をすると、「家事ができない」「デブだから食費がかかる」などと言います。お酒が入って饒舌になると、夜の営みにまで言及するそうです。付き合った当初、同棲した当初はそういったことを感じなかったそうですが、3か月ほど経ってからそういった言動が目立つようになりました。何度伝えても直す気配がなく、耐えるのが限界な今、別れを考えているのだそうです。身体的DV。過去の被害に苦しむ今5年ほど前、交際していた男性から暴力を受けていたというアミさん(仮名)。彼女は現在結婚しており、新たな命を授かっているのだと言います。今のアミさんを見ると幸せそうなのですが、過去のDV経験が、いまだに彼女を苦しめています。DVをしていた男性は、交際当初、Sっ気のある男性だという認識だったそう。性行為のときにそういった気が見られたからだと言います。しかしそれは、徐々にエスカレート。普段は優しい彼ですが、性行為になると殴ったり首を絞めたりといった行動が出るようになりました。暴力を受けるのが性的シーンであったため、誰にも相談ができなかったと言います。暴力が発覚するのを恐れてか、顔など見える部分ではなく、お腹など服で隠れる部分を殴られたそうです。泣いてやめてと叫んでも、決してやめてもらえませんでした。「お前が苦しんでいる姿を見ると興奮する」「殺して刑務所に入るのは嫌だから何度も半殺しにする」などと言われるようになり、恐怖心のあまり逃げ出しました。それでも付きまとわれ、電話番号も住居も会社も変えたのだと言います。性行為の場面での被害ということで、警察に行くのが恥ずかしかったそう。軽蔑されるのが怖くて、ご主人にも告白することができないのだと言います。これから生まれてくる子どもは女の子だそうで、「自分と同じ経験をしたらどうしよう」と涙を浮かべました。声を上げないと変わらない。「#Metoo」は本当に ”被害者面” だろうか「#Metoo」はある種ムーブメントでしょう。そこに便乗して「私も」と声を上げることは、果たして ”被害者面” をしていることになるのでしょうか。今回勇気を出して経験を語ってくれた3人の女性は、それぞれがつらい思いをしています。そして、それぞれが社会に疑問を抱き、それぞれが声を上げにくいと感じていました。声を上げなければ、”なかったこと” にされてしまいます。社会は変わらず、被害者も減りません。「#Metoo」があることで、言いやすくなったと感じる女性がいるのは事実。今まで声を上げられなかった人たちが声を上げられるようになり、社会問題が浮き彫りになるのは決して悪いことではないです。被害者は文字通り被害者であって、声を上げることと ”被害者面” をイコールとしてはならないと思います。「#Metoo」ムーブメントに不満を覚えるのはなぜですか? ”弱者” は弱者らしくしていないと不都合があるのでしょうか? ”冤罪” のような形になることを危惧する人もいるでしょうが、そもそもセクハラがなければ冤罪は起こりえません。冤罪被害を訴えるより先に、冤罪が起こりえない社会を作ったほうが、セクハラ被害者・冤罪被害者が減るのではないでしょうか。また、男性が声を上げにくい社会であることも認識しています。ジェンダー的に、「男性は強くなければならない」という風潮が根強いと感じるからです。セクシュアルハラスメントはもちろん、さまざまなハラスメントに遭う男性がいても決しておかしくありません。”男性らしさ” を求められるがゆえに、女性が「Me too(私も)」と声を上げられるのは、ともすれば疎ましく感じるのかもしれません。そういった社会も変えていきたい、私はそう考えています。女性だけでなく、男性は男性で「Me too(私も)」と声を上げられる社会が望ましいのではないかと。そうして社会問題を可視化することが、解決への糸口だと思います。ハラスメントがある社会は、決して生きやすい社会だとは思いません。勇気ある行動が、生きやすい社会を作るのです。さて、もう一度問います。被害者が声を上げるのは ”被害者面” ですか?(C)shironosov/Gettyimages(C)Rawpixel/Gettyimages(C)KatarzynaBialasiewicz/Gettyimages(C)somkku/Gettyimages(C)Björn Foreniu/Gettyimages
2017年12月30日