2017年8月2日 21:15
すべてを「失った女」の悲しみ…|12星座連載小説#131~蠍座 11話~
もう時間に追われることはないのね。
幸いにも、貯蓄はかなりある。無駄遣いをしなければ、普通に生活していくには困らないだろう。
―――でも、私にはそんなことどうでも良かった。
チカに餌をあげた後、家の中で、洗い物をしたり洗濯をしたり……。ダラダラと無為な時間を過ごす。
普段やらないようなところまで掃除機をかけて、家中を綺麗にする。何でそうしたいのか分からない。
ただ、何かをしていないと気が変になってしまいそうなのだ。
それでも、2時間しか経っていない―――。
なんだろう、この頭の中がただれたような感覚。やることがないって、辛い。
何かにすがるようにスマホを手に取る。
そこには、
「本日より、“雪月華”のママは“倫子”となりました。お店の名前も今月中に変わる予定です。どうぞよろしくお願い致します」
と1通だけメールがあった。
他のお客様達から私に連絡がないところを見ると、相当な圧力がかかっているのだろう。もう私は、名実ともに“銀座のママ”ではなくなったのだ。
『手が早いわね……』
戦ったって勝てないことは、十分承知している。
これからお店の名義が変更され、契約関係が更新されていくのだ。