2017年8月2日 21:15
すべてを「失った女」の悲しみ…|12星座連載小説#131~蠍座 11話~
これまでの“銀座ママ”としての思い出が流れ出すかのように、涙が頬を静かに伝って手元を濡らす。
「ニャァーン」
おやつを食べ終えたチカが、私の足に鼻先を擦りつける。
『ごめんね……もう、ないのよ……何にも……ないの……』
そのまま机に突っ伏して大泣きし、意識はそこで途切れた。
―――黒い砂の渦の中に、飲み込まれそうになっている自分がいる。
自分のことなのに、まるで映画を見ているかのように、もうひとりの自分を眺めているのだ。
蟻地獄の巣のようなそこには、奥に異形の醜い化物がいる。「助けて!」と叫びたくても、喉から声が出ない。
ズルズルと奥に落ちていく私に、異形の化物がにじり寄り……、カマキリの鎌のような触手で、私の身体をズタズタに刻んでいく。
そして、食べられちゃった……。
不思議と気持ち悪くも、怖くもない。どこか清々しいのはどうして……?
『私……』
―――自分の声で目が覚めた。
『イタッ……』
頭が少し痛い。強いお酒を煽ったからね。時計を見ると、11時。
「支度しなくちゃ!」
……と一瞬思って、
「もう自分のお店はないんだ」
と気づく。
何だか寂しいような、安堵したような不思議な感覚。