くらし情報『『君たちはどう生きるか』作品評 理屈を超越した「漫画映画」への回帰』

『君たちはどう生きるか』作品評 理屈を超越した「漫画映画」への回帰

の境界線を踏み越える危うさに満ちており、子供向けの直截な素朴さはない。しかし、どれほど世界が混乱しようが、主人公たちは刹那的な多幸感に包まれて帰還を果たす。つまり、明快な「漫画映画」の枠組みは最後まで守られている。

宮崎監督は「少年少女に対する善意」「世界の楽観的肯定」を制作の動機に挙げており、常にそこに立ち返る重要性を語って来た。それは、かつて自身の進路を決定づけた日本初のカラー長編漫画映画『白蛇伝』(1958年)やロシア(ソ連)の『雪の女王』(1957年)といった先行作品の志を受け継ぐものでもある。『白蛇伝』の演出を担当した薮下泰司は次のような言葉を遺している。

「漫画映画の殆どすべては(略)先ず少年たちに対する善意から出発する」

(藪下泰司「漫画映画とその技術」島崎清彦編『映画講座4 映画の技術』1954年)

本作は「漫画映画の志」を後世に手渡す一作であったと考える。日本を代表するアニメーターをはじめとする精鋭スタッフによって、制作作業が担われた意義も大きい。


つじつまを無視した「クルミわり人形」との出会い

2011年、東日本大震災と福島第一原子力発電所事故を経て宮崎駿監督は以下のように記していた。

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