「そんなくだらない理由で、俺に近づいたのか?」
「くだらないって、酷い!」
「俺と汐里を引き離して、満足したか」
「ええ、満足よ。お陰でこの女の悔しそうな顔を見ることができたもの」
「最低だな」
「そういう新実さんだって、美味しい条件につられて私と婚約したくせに!」
「お前がこんな女だと知っていたら婚約なんかしなかった」
新実さんの言葉に、雪村さんはとてもショックを受けたような顔をした。その表情を見て、「あ」と、心の中で呟く。彼女は本気で新実さんのことが好きだったんだ。私を恨んでいた本当の理由は、きっとこっちだったんだね……。
「とにかく婚約は破棄だ」
「い、今さらそんなこと許されないわ。婚約破棄なんて伯父が黙っていない」
「降格でもクビでも好きにしろ。犯罪者と結婚するよりマシだ」
新実さんはそう言い放つと、私の腕を掴み会議室を後にした。
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失って初めて気が付いた
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「良かったんですか? あんなことを言って」
屋上で煙草を吸っている新実さんに問いかけると、彼は「あんなこと?」と首を傾げた。
「降格でもクビでもって」