【連載小説】この恋は幸せになれない?好きになってしまったのは、奥さんのいる人。
だけど、こんな能天気なSNSを見てると別にいいかと開き直りたくなる。待ち合わせ場所の羽田空港に着くと、先に到着していた伊野さんが手を振ってくれた。
「迷わなかった? 大丈夫?」
私の旅行鞄を持ってくれた伊野さんは、いつものスーツ姿とは違いカジュアルな格好をしている。それがとても新鮮で、ドキドキした。
「じゃぁ、行こうか」
「あ、伊野さん」
振り向いた彼は、何故か渋い顔をして首を左右に振った。
「”伊野さん”じゃなくて、”悠真”。堅苦しいのはやめよう」
「あ、じゃぁ……悠真さん」
「うん。何?」
「旅のしおりを用意したんだけど……」
言って後悔した。
悠真さんは無くなるくらい目を細めたあと、私が作成したしおりを見てさらに笑った。恥ずかしさで顔が熱くなる。
「もう返して」
「どうして? すごく良くできているよ」
「本当にもういいから」
「ごめんごめん、虐め過ぎたね。だって、千紗が可愛いから」
あ、今、名前で呼ばれた。そんな些細なことでさえ嬉しくて胸が温かくなるなんて……。
羽田空港から目的地である福岡まで、2時間弱だった。空港に着いた瞬間、何とも言えない解放感と高揚感で自然と顔が綻ぶ。