【連載小説】この恋は幸せになれない?好きになってしまったのは、奥さんのいる人。
軽い足取りで歩く私に、悠真さんが尋ねた。
「福岡は初めて?」
「実は、子供の頃に少しだけ住んでいたの」
「そうなの? 福岡のどの辺?」
「南東部になるのかな。地図で言うと、ちょっとくびれているところなんだけど」
「ここ?」
悠真さんが、スマホを見せてきた。
「うん、そう。自然が豊かで良いところなの」
「行ってみたいなぁ、寄ってみる?」
「行けなくもないけど、今回は予定通り博多周辺を観光しようよ」
「そっか。じゃぁ、いつか行こうね」
「うん、いつかね」
そんな日が来るのかな?普通のカップルのように、「じゃぁ次は〇月にね」って、約束できないのが悲しい。彼のことを知れば知るほど、独占したい気持ちが膨らんでいく。
切なくなって悠真さんの手を掴むと、彼は指を絡めるようにして繋ぎ直してくれた。
この旅の間は、ネガティブなことを考えるのやめよう。
「わっ、すごい」
「思っていた以上だね」
予約していた旅館に着くと、その豪華さに驚いた。着物を優雅に着こなした女将さんが、ロビーで出迎えてくれる。
「ようこそ、いらっしゃいませ」
「予約していた伊野です」
チェックインを済ませた後は、仲居さんが部屋まで案内してくれるらしい。