【連載小説】この恋は幸せになれない?好きになってしまったのは、奥さんのいる人。
私と悠真さんが親密になった頃ってこと?綾香とのセックスが苦痛で仕方ないと打ち明けられた時には、もうできていたんだね。
そう考えると、胸の奥にムカムカとした感情が渦巻いた。この感情って――――嫉妬?
綾香の妊娠を知った日の夜、ホテルの一室で悠真さんと会った。複雑な心境だった私は、彼の顔をまともに見れない。
「僕も驚いているんだ、まさかこのタイミングで子供ができるとは」
「おめでとうって言うべきよね」
「まだ実感が湧かないよ」
「もう会うのは、やめた方がいいね」
生まれてくる赤ん坊から、父親を奪うわけにはいかない。それくらいの良識は、まだ残っている。こうなってしまった以上、私たちの関係は清算して彼は家庭に戻った方が良い。
頭では分かっているんだけど、涙が零れそうになる。
泣き顔を見られたくなくて背中を向けたまま「じゃぁね」って部屋から出ようとした瞬間、抱きしめられた。「千紗」
「離して。後腐れないようにしようよ」
「そんなの無理だ」
「じゃぁ、どうするの?」
「離婚したい気持ちに変わりはない。だから、少しだけ待ってて」
私はいつか、この時のことを後悔する。引き返せるはずだったのに、どうして流されてしまったの?って。