【『初恋の悪魔』感想6話】名前未満の愛おしいもの・ネタバレあり
坂元裕二の作品の魅力は、もちろん洒脱な言葉を選りすぐって磨かれたセリフ群ではあるけれども、更にそのセリフを対話としてふんだんに積み重ねた末に見えてくる『名づけられない関係』にあると思う。
例えば、家出少女のたまり場と言えば一般的には不穏な響きしか残らないそれを、風の強い日に髪をなびかせてみんなで道草をして、ただ「おかえり」と「ただいま」を大切にして、それ以上を求めない風通しのよい何かに描きだすこと。例えば、男社会の横暴にしなやかに抗いながらレストランを営む女たちの繋がりを、単に職場の同僚という枠におさめずに豊かに鮮やかに描きだすこと。(テレビドラマ『問題のあるレストラン』2015年フジテレビ系)
例えば、3回の結婚を経た女社長と夫たちの関係を、白黒ありがちな名前の感情にとどめずに、繊細なグラデーションの日々として描きだすこと。(テレビドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』2021年フジテレビ系)
精緻に染めた感情の糸で、社会のいまを通して、未知の布を織りあげていく。
彼が描き出す『今は』名前のない関係は、私たちが半歩先、いつか未来で見つける何かだと思う。
今作ではどんな色の、そしてどんな手触りの布に、私たちは触れることが出来るだろうか。