Twitterで人気ドラマの感想をつづり注目を集める、まっち棒(@ma_dr__817125)さんのドラマコラム。2022年4月スタートのテレビドラマ『持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜』(TBS系)の見どころや考察を連載していきます。どんな生き方を選んでも自由な時代だからこそ、自分にとって価値ある未来がぼやけて見えてしまうことがある。自分らしく生きるとはどういうことか、そして本当の幸せや未来まで持続可能な愛とは何を指すのか…。誰かが正解を教えてくれるわけではない、この永遠の問いの答えはどこにあるのだろうか。親子の『ダブル婚活』から始まった愛の物語はついに最終回。父・林太郎(松重豊)と娘・杏花(上野樹里)の親子が見つけた、答えとは・・・。颯からのプロポーズに、答えが出せずにいる杏花颯(磯村勇斗)から結婚してマレーシアに一緒に来てほしいとプロポーズされた杏花だったが、直ぐには答えを出せずにいた。自分は何も変わらず、自分らしいままでいられるし、南国でのヨガも杏花の思い描く働き方だ。颯は杏花にとって『最高の条件』なのだ。でも、そう簡単に決断できることではない。「いっぱい考えて、俺のこと」という颯の言葉からも、この想いは嘘じゃないという本気が伝わるのだ。杏花は本気で向き合って、自分の本当の想いを確かめたかった。そんな杏花は、晴太(田中圭)がその様子を見かけていることは知らなかった。そして晴太は、颯から「もう遅いです、俺たちもう…」と伝えられ、この恋の終わりを意識する。「足るを知ることは難しいんじゃないか?」杏花はそんな中でも自宅でのリモートのヨガなど、仕事面は順調だった。ヨガで語ることで、自分を整理してきたが、この日説いたのは『足るを知る』という教えだった。丁度レッスンを聞いていた林太郎が、老子の言葉としてのその教えを杏花に語り出す。「自分が本当に何を求めるのかそれを知らなければ、今の自分で十分だと、足るを知ることは難しいんじゃないか?」杏花の頭には、晴太と過ごした思い出、一緒に見た景色が浮かだ。自分が本当に求めるもの…。会う理由なんて何もなくても会いたい、そんな思いから、杏花は晴太と会うことを決める。しかし、二人の間には微妙な空気が流れる。会話も間があく。最後に話すことは、いつも晴太が話を聞いてくれていたくだらない話。二人は思いを隠したまま、そして杏花が颯とマレーシアに行くと勘違いしたまま別れ、すれ違いの溝が深まっていく。一方の颯は最愛の人の手をこんなところで簡単に手放すわけにはいかないからと、アプローチをかける。そんな颯に応えたいと思う杏花。それでもこれで十分だと思える自分を3人はまだ掴み切れていなかった。人間だけが言葉を持つ理由一方の林太郎は、交際することになった明里から、杏花に挨拶をしたいからといわれて沢田家を訪れることになる。林太郎は近頃一人暮らしのために頑張っていたが、直前になっても二人で言い争いながら掃除していた。大人になっても仲の良い二人にほっこりするし、とりあえず見られないだろうと、ものを投げ込む二人には親近感が湧いてくる。そして林太郎と明里の素敵な関係性を、杏花は目の当たりにしていた。「骨にも個性があるんです」と話す明里に「私は日向さんに骨抜きです!」と、バカップルと言われんばかりの仲の良さを見せつける。それでも杏花はそんな父の笑顔を見て満足そうに微笑む。そして、「お父さんと、結婚させてください」と明里に言われ、驚きながらも嬉しそうな林太郎を見て、杏花は「末長くよろしくお願いします」と答える。ここに新しい『家族』が生まれた。生きてきた環境も性格も違う誰かと共に生きていく、家族。その中で当然理解できないことが出てくる。伝わらないことがある。林太郎も陽子と全て分かり合えたわけではなかった。とっくに捨てられたと思っていた離婚届に込められた、陽子の「林太郎を自由にしてあげたい」という気持ちにも気づけなかったのだ。どんなに言葉を尽くしても、分からないことは存在する。それでも人は『伝える』という行為を繰り返し、命を繋いできた。「言葉っていうのは、誰かに気持ちを伝えるためだって、一生懸命に話す杏花が教えてくれた。気持ちを伝えたい相手がいることが、幸せなことだ」人間だけが言葉を持ったのは、はじめは愛を伝えるためだとも言われる。気持ちを伝えたい相手が今生きていることは、かけがえのない奇跡なのだ。この林太郎の言葉が杏花の胸に刺さり、杏花は一歩踏み出すのだ。晴太が気付いた本当の『答え』「颯、ごめん、私結婚はできない」その理由が晴太なのかと聞かれ、杏花は静かに頷く。颯を誰よりも悲しませたくないのは、本当の家族のように思っているからなのだ。現代の家族のカタチは様々だ。家族だと思えば、血の繋がりも住む場所も関係がない。だが、颯にとってはそれが何よりの壁だった。それでも颯が杏花を想う気持ちは変わらない、伝わって受け止めてもらえただけで、十分だった。そして颯は晴太に林太郎の人前式の招待状を渡すのだ。晴太は林太郎や安奈(瀧内公美)からも背中を押され、本当の思いに気付かされる。杏花と林太郎が34年間築き上げてきた愛情そして林太郎と明里の人前式、最初に式場の扉を開けたのは式の主役である2人ではなく、晴太だった。目の前の杏花への気持ちが晴太の中で溢れ出して止まらなかった。お父さん、お母さん、どっちでもない、大切な虹朗(鈴木楽)と杏花と共に、自分達の家族のカタチを作っていきたいと思うのだ。「今の気持ちが永遠に続くって信じてって…冷静に考えたら無茶な話で、結婚すること自体普通じゃないと思うんですよ」上手く言えない晴太にいつものように、「ちょっと何言ってるかわからない」と笑う杏花だったが、「分からないけど、分かりたいです。誰より晴太さんのこと」と答える。「じゃあ聞いてください。普通じゃないくらい、杏花さんが好きです。僕と結婚してください」杏花はプロポーズを受け入れる。そんな二人の様子を見ていた林太郎は驚きつつ、心からの祝福を贈る。この人前式は林太郎だけではなく、林太郎が誰よりも幸せになってほしいと願う杏花の二人が、それぞれが大切に想う人との持続可能な未来へ歩み出すための式だった。34年間お互いお世話になりましたの気持ち、そしておめでとうの気持ち。親子は顔を見合わせ、お互いを讃えあう。二人が34年間、築き上げてきた愛情は本物だ。最終話のテーマはきっと『持続可能』それから一年後。林太郎と明里は事実婚。そして杏花は晴太が始めた大好きなカレー屋を営む側でヨガ教室を開く。颯はマレーシアに渡り学校を作るという夢を叶えるため邁進していた。そして林太郎は一人、辞書編纂の仕事で『結婚』の語釈を考える。愛し合う男女が、正式に一緒に生活するようになること。林太郎は陽子と杏花との宝物のような思い出、そして今自分の心の中に住む明里を思って、また言葉を綴り直す。『結婚』とは、愛し合う他人同士が、わかり合いたいと願い、共に歳を重ね、互いの変化を慈しみ、それでもなお分かり合えないことを知る営み。古来人類が繰り返してきた、とわに続く愛情へのむちゃな挑戦。この物語は、自分にとって本当の幸せとは何かを、誰かを愛することを通して、決められた語釈だけではない答えを見つけていく父と娘の奮闘記が描かれてきた。そして彼らは、二度と来ない特別な毎日、限られた時間を費やしてもいいと思える大切な人と巡り合い、新しい自分に出会ってきた。そして今、この瞬間を目いっぱい感じ、自分らしく幸せに生きるための、自分だけの答えを見つけたのだ。持続可能な恋は、颯の言う通り叶わなかった恋とも言える。どう変わるのも自分の気持ち次第だからだ。だが、叶った恋だって続けることができる。それこそ、恋が愛へと変わり、時を経て形を変えながら持続可能を目指していく営みと呼べるのだ。『持続可能な恋ですか?』には毎話テーマがあった。最終話のテーマはきっと『持続可能』だろう。その持続可能という語釈はきっと、私たちの心の中にもあるはずだ。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]
2022年06月27日Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。2022年4月スタートのテレビドラマ『インビジブル』(TBS系)の見どころを連載していきます。かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。捜査一課長の犬飼(原田泰造)が不審死したとき、キリコは「私がここに来たせいで」と青ざめて言った。犯罪コーディネーターとして暴走しようとしている弟を止めたい一心で警察に協力を名乗り出たキリコ。一人の信頼できる刑事と協力しあって、それで解決した事件も何件かあったけれども、目立つその動きがキリコの弟・キリヒト(永山絢斗)の更なる犯罪を誘発もした。絡み合う価値観の中で何が最善で何が間違いだったのか。霧の中を飛び、時に落下し、這い上がり、問い続けた物語もいよいよ着地の時である。裏社会の犯罪コーディネーター・インビジブルとして生きてきた女、キリコ(柴咲コウ)と、実直で無骨者の刑事・志村貴文(高橋一生)。二人のバディを描く『インビジブル』(TBS系金曜22時)。先週のラストで、キリヒトと連携してインビジブルの凶悪化を招いている警察内の内通者『リーパー』の正体がついに監察官の猿渡紳一郎(桐谷健太)であると明らかになった。猿渡はキリコを庇おうとしたキリヒトを銃で殺害し、更にキリコと志村に一連の事件の濡れ衣を着せて捜査一課に捜査の指示を出す。なんといってもこの最終回、ドラマを盛り上げた一番の立役者は、代々の警察官一家に育ちながら素顔はサイコパスの凶悪犯罪者である、リーパーこと猿渡を演じた桐谷健太だろう。これまでも監察官として作品のトーンに絶妙に沈み込んだ演技は見応えがあったが、今回、一転して志村に執着する狂気を爆発させた演技に度肝を抜かれた視聴者は多かったと思う。もはや執着を超えて恋慕を感じるほどのサディスティックな表情は、いわゆる『兄貴キャラ』では到底収まりきれない、桐谷健太の俳優としてのこれからの大きな可能性を感じさせるものだった。結果としてキリコと志村は猿渡の罠を振り切り、その正体を暴いて逮捕することに成功する。その糸口となった同僚の磯ヶ谷(有岡大貴)と五十嵐(堀田茜)との会話で「俺たちは何を信じればいいんですか」と困惑する磯ヶ谷に、当前のように『俺を信じろ』とは言わず、「俺は自分の正義を信じてる。お前らは、どうだ」と静かに問いかける言葉が、志村貴文という刑事を、いやこの作品そのものを象徴しているようで印象深かった。そして、最後に自らの信念をかけ、キリコを挟んで対峙する志村と猿渡に決着をつけたのは、それまでずっと封じられてきた志村の射撃だった。これまでは志村の射撃は下手で危険だから所持が許されていないと噂されていたものが、実は上手すぎて躊躇がない分、激高しやすい志村の性格では危険だという理由で禁じられていたということが、オセロの白黒のように明らかになる。それは善悪、そして見えているものと見えていないものの鮮やかな逆転であり、『インビジブル』というタイトルにふさわしい仕掛けだった。端正な射撃シーンも素晴らしいが、個人的に高橋一生はこれまでの銃を使わない体当たりのアクションも非常に見応えがあったと思う。それは格闘として華やかな、形で目を惹くアクションシーンではなかったけれども、ストーリーの中で切れ目なく動きに入っていく独特のスピード感があった。昭和から刑事ドラマを見続けている知人は、その高橋一生のアクションを「古き良き時代の刑事ドラマのような、いい泥臭さのあるアクション」と称した。なるほどと思ったものである。きれいはきたない。きたないは、きれい。志村貴文という男の実直さが、サイコパスの連続殺人鬼を惹きつけ、同じように縋ってでも家族を救いたいと願った裏社会で生きる女を引き寄せ、幾つもの事件を巻き込んだ果てに、濁った霧の夜は晴れて一旦は終焉を迎える。失われた命もあるから、何が最善だったかはわからない。だからこそ、自分の正義を信じる気持ちがなければ、志村もキリコも前には進めないのだろう。ラストシーンで志村の横からキリコは姿を消しているが、これは物理的に距離が離れていても二人の信頼が変わらないことの暗喩(あんゆ)だと思いたい。恋をする前提でも、家族でもない異性のバディを描く仕事系のドラマは、次期のドラマにも数本見られ、この先しばらくトレンドになるのではないかと思う。そんな流れの中でも、刑事と犯罪者という異性バディは相当異色ではあるけれど、演者の熱演もあって、その信頼感には揺るぎないものがあった。楽しかった三ヶ月間の視聴に、心から感謝したい。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]かなTwitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。⇒ かなさんのコラムはこちら
2022年06月21日Twitterで人気ドラマの感想をつづり注目を集める、まっち棒(@ma_dr__817125)さんのドラマコラム。2022年4月スタートのテレビドラマ『持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜』(TBS系)の見どころや考察を連載していきます。『普通』や『生きる』という言葉に自分ならどんな語釈をつけるだろう。第9話ではこの作品で何度も出てきた『普通の幸せ』とは何かが描かれてる。そして、親子に隠された秘密が明かされる。明里への気持ちを抑える、林太郎の優しさ「もう終わりにしましょう」結婚して、良い妻、母親になれるように頑張りたい…。そんな杏花(上野樹里)が悩んだ末に出した答えに、晴太(田中圭)は「無理だ」と否定するだけで、杏花の気持ちは聞こうともしなかった。だが、虹朗(鈴木楽)という守るべき存在がある以上、結婚すれば杏花にかかる負担も大きなものになる。杏花なりの生き方を邪魔してしまうのだ。そしてお互いに複雑な思いを抱えたまま、別れてしまう。同じくして、林太郎(松重豊)は明里(井川遥)からの交際の申し込みを断っていた。「あなたは普通に幸せになれる人です」林太郎は想いを寄せながらも、自分と再婚することで明里が背負う不利益を考えてしまうと、どうしても一歩が踏み出せなかった。明里への精一杯の優しさゆえに、『普通の幸せ』を願ってしまうのだ。親子でダブル婚活を始めた杏花と林太郎は、父娘揃って失恋してしまった。杏花と晴太が別れたことを知った颯が、猛アプローチそして杏花と晴太が別れてしまったことを、杏花から聞かされた颯(磯村勇斗)。全然平気だと仕事の話をしながらずっと笑う杏花を見て、颯は優しく抱きしめる。「いつも笑ってなくて大丈夫」これは、杏花の第3話での言葉だ。颯はそのまま伝え返す。ただの幼馴染だからと、杏花には気持ちをはぐらかされてばかりだが、伝えたい気持ちは一つだった。そしてとある夜、策士な颯は二人きりになる口実を作って、杏花に「おやすみ」とキスをする。颯は大好きな杏花と共に歩む将来を考えていた。一方の明里は職場で倒れて入院してしまう。杏花から話を聞き、急いで林太郎は病院へ駆けつける。大切な人が倒れたという事実、林太郎は居ても立っても居られなかった。もし明里がいなくなったら自分は、耐えられない…。林太郎はこの思いに素直になることを決意し、前言を撤回し、交際を申し込むのだった。「生きて行きたいんです。日向さんの生きる世界に、自分も生きることができたら、私は幸せなんです」「そうなったら、私も幸せです。普通に幸せです」辞書編纂者である林太郎が伝える「好き」という想いは、そんな簡単な二文字では収まらない、何があっても共に生きていきたいという強い思いが詰まった告白だった。明里が欲しかった、優しさや理性を超えた想いそのものだ。二人はようやく、結ばれる。「普通に幸せって何?」と、前はそう聞き返していた明里が、「うん、幸せ」とすぐ答える。幸せを近くに感じているからこその答え。それこそが『普通の幸せ』なのかもしれない。交際を始めた林太郎を気遣い、実家を出て、一生結婚せずに一人で生きていくと決心する杏花に、林太郎は言う。「決めつけなくていいんじゃないか?生きているということは、変化していくということだ」結婚して幸せになって欲しいという一心のもと、半ば強引に親子で婚活を始めたわけだが、人生の選択は結婚することだけじゃないとわかっていた。それでも、普通の幸せを願うのには理由があった。普通であっても、色々な語釈を考えられるはずの林太郎が曖昧なものにすがってしまった訳。そこにずっと秘密にしてきた家族の34年の物語があった。杏花、林太郎、家族の『秘密』杏花は、林太郎から隠された真実を告げられる。妻の陽子(八木亜希子)とは元々親しい仲ではなかった。というのも、以前は人と関わらず、ただ本を読んで過ごすだけの日々を送っていた。そしてある日、林太郎の世界が広がる瞬間が訪れる。「言葉というのは、書物の中だけではなく、人と人との営みの中で生きているものです」世話になった教授に言われ、ハッとする。今でこそ、生きた言葉を探しているが、この時は人との繋がりの中で生きづく言葉を見ることもなかった。『生きている』という語釈は、『呼吸』や『生存』だけじゃない。生きるとは、変化していくこと。その帰りに、林太郎は陽子と運命的な再会を果たした。妊娠し、お腹を痛めている陽子に、何かできることあるかと手を差し伸べる。そんな林太郎に陽子が「結婚してくれますか」とプロポーズをしたのだった。林太郎は「はい」と答える。かけがえのない34年間の物語がここから始まった。陽子の最期の手紙の一文、「あの日、プロポーズを受けてくれてありがとう」の意味がここで明かされる。陽子は一人で産もうとしていたが、何かあった時に託せる人が欲しかった。お腹の中にいたその子どもが、杏花なのだ。林太郎と杏花には血の繋がりはなかった。「がっかりしたろ?」と哀しげに言う林太郎に、杏花から返す言葉は「びっくりした」とだけ。しかし、杏花はこうも語る。「お父さん、ありがとう。結婚してくれて」結婚の意味はまだ分からない…林太郎はずっと思い続けてきた。初めは、結婚という言葉の意味を知りたいだけだった。そこに陽子と杏花への思いはなかっただろ。だが振りかえると、思いがけない幸せに沢山出会えた。そして杏花という、何ものにも変えられない宝物に出会えたのだ。34年という長い時間の中で芽生えた愛情、そして杏花が変わらず「お父さん」と呼んでくれる事実…。共に生きてきた全てが、二人が血のつながりを超えた家族だということを証明しているように感じた。林太郎は、結婚の意味を、生きるという意味を今やっと見つけることができた。「父親になれて、『普通に』幸せだった」普通とは、特に変わることなく、ごくありふれたものという意味が一般的な語釈である。しかし、本当は何もないわけではない。変わっていないように見えて、自分の側に確かに幸せを感じる状態こそ、普通と呼ぶものなのではないだろうか。杏花が言う通り、永遠に変わらないものは存在しない。だが、幸せを変わらず感じるために、人は変わっていく。それが生きるということなのだ。『普通の幸せ』は、気がつけばそこにあるもので、いつだって自分の中にあるということを彼らが教えてくれたように思う。杏花のもとへ走り出す晴太と颯だったが…?そして晴太も林太郎から親子の真実を伝えられていた。「杏花を信じてほしい」そう言われ、晴太はようやく自分で勝手に区切りをつけてしまったことに気がつくのだ。そして晴太と颯の二人は、自分の気持ちを伝えるため、満月の夜、杏花のもとへ走り出す。先に杏花の名前を呼ぶのは、颯だった。「俺と本当の家族になろう」足を震わせながら、子どもの頃からずっと想ってきた杏花に、やっと本気が伝わるのだ。「ただいま」「おかえり」その言葉が聞きたい。杏花は何も変わらず、笑ってくれてればそれでいい…。出遅れてしまった晴太は、ただ立ち去ることしか出来なかった。前へ進み出そうとする3人を、ピンク色の満月の光が照らしていた。次回はついに最終話。杏花と晴太、颯、そして林太郎と明里、それぞれが決断、そして彼らが見つける持続可能な恋の行方とは…。持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜/TBS系で毎週火曜・夜10時~放送ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]
2022年06月20日Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。2022年4月スタートのテレビドラマ『インビジブル』(TBS系)の見どころを連載していきます。かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。犯罪者としても、警察官として捜査する立場としても、「『彼』は優秀だったのだろうな」と思う。警察がどう捜査するかを熟知しているから、犯罪者としてすり抜ける道が見える。犯罪者が、どんな心理で犯罪を行うかを知っているから、警察官として動機や逃げ道も見える。『reaper(リーパー)』という単語には、刈り取り機という意味、そこから転じて収穫者、更に死神(大鎌から転じたのだろうか)の意味があるという。『死神』と称されるほどの凶悪犯罪者の彼には、多少なりとも善悪の境界線での迷いはあったのだろうか。善悪というよりも、犯罪の快楽とそれらが誰にも認められない空しさを往還(おうかん)していたのかもしれない。警察内部にいる内通者は誰…捜査の為には荒っぽい捜査も躊躇しない無骨な刑事・志村貴文(高橋一生)と、その刑事の前に突然現れて警察への協力を申し出てきた裏社会の犯罪コーディネーター、インビジブルを名乗る女・キリコ(柴咲コウ)のバディを描く『インビジブル』(TBS系金曜22時)。物語はついに最後のクライマックスに突入した。キリコと志村は、真のインビジブルとしてより過激化して暴走するキリヒト(永山絢斗)を止めようと奔走するが、キリヒトの策略でキリコは連れ去られてしまう。更に、それまでに存在が匂わされていた警察内部の内通者の活動もあからさまになりつつある中、今回、第9話ではキリコと志村それぞれの『相手』との駆け引きが繰り広げられた。おそらく志村は、誰が警察内部の内通者なのか既に感づいていたのだと思う。事故で不審死した犬飼捜査一課長(原田泰造)の後頭部の傷、それを『やけど』と明言した監察官・猿渡紳一郎(桐谷健太)の言葉(第8話)と、その記載のない死体検案書が回想を伴って繰り返される場面がそれを暗示しているようだ。ドラマとして、内通者の存在が明言される前から、警察内部に内通者がいるという気配はあったものの、誰がそれなのかは見事なほどに分からなかった。犬飼を演じた原田泰造含め、酒向芳、山崎銀之丞、堀田茜、有岡大貴と、警察内部を演じた俳優みな、疑いだせばそう見える演技巧者揃いである(とりわけ酒向芳が演じる穏和な班長は、過去の同枠ドラマ『最愛』での怪演が視聴者の印象に強い分、ミスリードのおとりとして見事だった)。犯罪者として「リーパー」と呼ばれている内通者は、厳しくあたるように見せながらも、時には志村を案じ、時に助けの手を差し伸べてきた監察官の猿渡だった。猿渡がリーパーであると発覚する発端が、事故死した犬飼が執念で調べ続けていた、紙ベースで残された猿渡が未成年時の古い犯罪記録だという描写が興味深い。仮に警察官自身に関係する犯罪歴があったとしても、デジタルデータならば内部改ざんの可能性が高い。ならば紙データまで遡るという犬飼の執念は、執拗に犯罪を追う志村の刑事としての泥臭さに相通じるものだ。物語を通じてずっとデジタルで犯罪が依頼され、匿名のまま犯罪が行われ、データが集積されていく描写の中で、最後に紙の一枚、一文が見えない内通者をあぶり出したのである。猿渡は、志村のことを『おもちゃ』と称し、密かに弄ぶことを楽しんでいるのだとキリヒトはキリコに語る。それは、迷い自分の不甲斐なさに怒りながら生きていく、しかし、どんな泥の中でもある種の清廉さを失わない志村の生き方に対する歪んだ憧憬なのではないか。志村とキリコ。猿渡と、リーパーである猿渡を心の支えとしているキリヒト。それぞれ対称のように警察官と犯罪者、善悪の境目で手を伸ばしあう二組のバディはどんな結末を迎えるのだろうか。いよいよ次回、最終回である。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]かなTwitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。⇒ かなさんのコラムはこちら
2022年06月14日Twitterで人気ドラマの感想をつづり注目を集める、まっち棒(@ma_dr__817125)さんのドラマコラム。2022年4月スタートのテレビドラマ『持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜』(TBS系)の見どころや考察を連載していきます。「自分にとっての人生の優先順位って…?」『持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜』第8話は、独立をサポートにするにあたり、コンサルタントの安奈(瀧内公美)から人生の優先順位を聞かれ、杏花(上野樹里)は「今は仕事、独立が一番」ということを伝えるところから始まる。仕事、お金、恋愛、結婚…。『自分らしく』生きていくために、どれも大切だからと全てを取りにいけるような人生を歩むには難しい。何か一つ選べば、何かを諦めることになるのが今の厳しい世の中だ。第8話は、杏花と晴太(田中圭)が決めた持続可能な恋のためのルールが波乱を巻き起こしていく。晴太の元妻・安奈が抱える不安杏花は自分らしさが何かわからないままであるものの、仕事ファースト、晴太とはお互い無理なく付き合うことを心に決めていた。安奈は杏花の思いを汲み取り、仕事相手として独立へのプランを提案する。しかしその裏で、杏花と晴太が交際していることに気づいている安奈。恋を持続させるための、結婚しない交際。この無理のない付き合いが無意識に無理をさせているのではないかと心配していた。「再婚しても構わない、ちゃんと覚悟があるなら」安奈は結婚する気がない杏花を虹朗にむやみに会わせたくなかった。杏奈の願いは虹朗(鈴木楽)の母親になってくれること。恋愛も再婚も自由と言いながら、大阪での仕事で3年もこの場所を離れる決断を迫られている中、虹朗を残していくのが杏奈にとって、何より不安なのだ。林太郎に『お見合い』を申し込んだ明里の衝撃のひと言一方、林太郎(松重豊)は明里(井川遥)からお見合いを申し込まれる。真意が分からず混乱する林太郎だったが、明里は前回のデートで抱いた林太郎への感情が何か確かめたいのだった。林太郎は練習だと自分を納得させて臨んだお見合い当日、明里から予想外の言葉が返ってくる。「違います、練習じゃないです。私と交際していただけませんか?」腰痛持ちで歳が離れていて、介護が視野に入った自分に『恋』の感情を抱いているという明里に驚きを隠せない。杏花からも「お父さんと婚活するメリットある?」と言われたくらいだ。しかしそれでも明里は、林太郎を思う満たされない気持ちこそが恋と呼ぶべきものだと感じていた。恋=会いたい、そばにいたいと思う、満たされない気持ち。そして同時に『満たされた気持ちにもなる』のだ。明里はこの辞書以上の意味をどう伝えるべきなのか悩んでいた。林太郎はそれに「伝わりました」とだけ言い、一旦保留として立ち去ってしまい、お見合いは終了した。そんな中、フランスから帰国した颯(磯村勇斗)は杏花へお土産を渡しに沢田家に帰ってきていた。杏花がお土産を開けていると、突然、颯は杏花の左手を取り、跪く。その左手にはめられたのは…まさかのスマホリングだった。「これは婚約指輪でプロポーズの流れでしょ!?」と思いつつ、すぐスマホを無くす杏花のことを、颯は一番に考えて選んだのだ。杏花に思いは届かないままの颯だが、「杏花が一番」と何の迷いもなく真っ直ぐ伝えてくれるところについ惹かれてしまう。そんな颯は、「身寄りのない子供たちの学校を作ることが夢だ」と語る。幼い頃、杏花の家で笑いの絶えない日々を過ごしたことを思ってのことだ。颯は、杏花と出会ったことで、新しく世界が広がり、自分の夢を見つけることができたのである。キーワードとなるこの『新しい世界』。前回でも、晴太と杏花の出会いが二人の世界を広げていると強く感じたが、誰かと関わることで知らなかった自分を知ることになる。出会いは、自分らしさを知るきっかけにもなるのだ。しかし、自分らしさが何かを探し続けていると、やがて『自分』という檻を無意識に作ってしまい、その中でもがき、行く先を見失ってしまうこともあるのだ。MIKAKO(ゆりやんレトリィバァ)が言う「自分らしさなんて探してたら、不幸になる」の不幸とは、まさに行く果てだ。杏花も、仕事を優先させて、恋もする…自分らしく生きるのなら、結婚は難しいと考えたからこそ、「お互い二番で」という晴太とのルールを決めた。しかし、無理をしない日々の中には『無理』が隠されている。持続を追い求めるあまり、持続させるのに疲れるという矛盾が起きている。二人はどうでもいい話題でも沢山笑い合っていたが、いつしか仕事の邪魔か、虹朗の世話で大変か…と考え、気軽に話せなくなっていた。2人で決めたルールが破られた出来事ある日、独立へ向けた話し合いをしていた杏花のもとに晴太から電話がかかる。「熱を出した虹朗を仕事で遠い場所にいる自分に代わって迎えに行ってほしい」ということだった。仕事ファーストの杏花に、お迎えを頼むことは二人が決めたルールに反していた。そして晴太も、虹朗を一番に考えたいと思いつつも、生活を守るための仕事は結局外すことはできなかった。杏花は迎えに行くと返事をする。しかし仕事相手からは「成功したいなら優先順位を考えろ」と言われ、一度は颯に頼んだものの、どうしても気になって杏花は仕事を抜けて晴太宅に向かった。人の事情も知らずに、優先順位を勝手に決めるなと思うところだが、問題の背景にある原因や何に悩んでいるのかは、他人には知る由もない。何を優先させるのか、全ては自分次第だ。初めてそろって顔を合わせた晴太、杏花、安奈そして同じ頃、晴太達のもとに安奈も駆けつけ、初めて三人が顔を合わせる。「母親になる気がないなら、中途半端に虹朗にかかわらないでほしい」安奈は、二人の結婚を前提にせぬまま、家庭にどんどん介入してしまえば、まだ幼い虹朗も、杏花もお互いを切り離せなくなることを懸念していた。今以上に無理することを頑張らなきゃならなくなる。全部任せっきりだった晴太に代わり、安奈は家庭の全てを背負い、無理をして、限界を迎えたのだ。「全部選んで進むのは、相当覚悟がないと。私には…できなかったから」自分ができなかったからと生き方を押し付けることこそ間違っていることではあるが、ここで杏花を縛り付けることになる。自分らしくいるためにお互い無理をしないというルールは、相手を無理させないように気遣わせるだけの足枷にしかならなかった。「無理することを頑張る」なんていう、言葉がおかしいと笑えるような社会には、まだ遠いのだ。その夜、杏花は電気もつけない部屋の中で晴太のことを考え、一人、涙を流していた。「私が本当に見つけたい新たな自分って、何なんだろうって」杏花は「晴太との恋を祝福してほしい、林太郎のことも祝福するから」と伝える。林太郎は「どんな人との将来でも、新しい世界が広がるから祝福したい」と言ってくれていたからだ。林太郎は「ああ」と言うだけだった。電気もつけず、ただ一人で泣く杏花を見て、父として心から祝福はできなかった。次回、沢田夫婦の秘密が明かされる?そして杏花と晴太、林太郎と明里はそれぞれの関係がまた動き出す。「結婚を前提にお付き合いしてくれませんか」と告白した杏花だったが、晴太からは「もう終わりにしましょう」と別れを告げられ、林太郎は明里からの交際の申し込みを断ってしまう。父娘揃って失恋してしまった二人。そして沢田夫婦が抱えていた秘密とは…?それぞれの決断、恋もクライマックスへ加速していく。持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜/TBS系で毎週火曜・夜10時~放送ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]
2022年06月13日ドラマ好きなイラストレーター、ゆう。(@yamapyou)さんによるドラマコラム。2022年4月スタートのテレビドラマ『正直不動産』(NHK)の見どころや考察を連載していきます。自分が『大切にしたいもの』に捧げられることは何だろう。お金を使う、時間を作る、情報を与える…そうやって物理的に支えることの前に、もっと重要なことがある。このドラマが3か月という時間をかけて伝えてくれたもの。それは真摯に向き合うということだ。大切なもの、大切な人にこそ私たちは真摯に、そして誠実に向き合わなければならない。『正直に生きる』とはそういうことなのだ。山下智久の魅力が作り上げた主人公・永瀬財地2022年6月7日に感無量の最終回を迎えた正直不動産。ついに因縁の相手、ミネルヴァ不動産との戦いは最終局面を迎える。会社のピンチを救わなければならない永瀬(山下智久)は、一人、神社を訪れていた。すがる思いで神頼みをすると、突然妙な風が吹き始める。強い風は後ろから永瀬を襲い、その衝撃と共に長く彼を苦しめていた祟(たた)りがついに遥か彼方へと消えた。再び嘘がつけるようになった永瀬は、ついにこの日が来たと言わんばかりに、さっそく上手い言葉で上司をよいしょし、職場の女性に甘い言葉をかける。改めて思うが、山下智久は本当に美しい。あの甘いマスクと、鼻にかかる声で壁ドンをされた日には恋に落ちない女性はいないだろう。仕事のできる営業マン、失敗を踏みまくるドジな一面、女性を口説く二枚目な姿。山下智久のどの演技もこれ以上にないほど、今回の役柄に華麗にマッチしていた。ただのイケメンじゃドジな役は務まらないし、コミカルすぎても仕事ができるスマートな雰囲気や女性を虜にする妖艶さを出すのは難しい。どの武器も兼ね揃えている山下智久の素晴らしさに、このドラマを通して少しは気付いていただけただろうか。嘘はつくし、客は騙すし、だけど憎めないキャラクターに永瀬財地を仕上げることが出来たのは山下智久が持つ魅力なしでは不可能だったと思う。このドラマが成功したのは、主人公がみんなに好かれるキャラクターであったからに違いない。最終話で改めて永瀬財地が山下智久で本当によかったと感じた。壮大な伏線回収とそのメッセージ管理委託を巡るミネルヴァとの最終対決では、『正直』な姿勢を貫き、契約続行に結びつけることができた。後押しとなったのは山崎努演じる和菓子職人・石田努(山崎努)。初回ぶりの山崎努の共演に胸が熱くなった視聴者も多いはず。それに加えて私は正直不動産からの粋なメッセージに感動した。第7話のコラムにて、「過去の自分の行いは必ずブーメランとなって自分の元へ帰ってくる」という話をしていたのだが、これはこのドラマが私たちに教えてくれたメッセージだ。【『正直不動産』第7話感想・考察】視聴者を沼らせる山下智久の演技の魅力!セリフのない”あのシーン”に注目過去の行いが悪いと悪いように返ってくるし、その逆も然り。永瀬はこの伏線を見事に回収して見せた。初回で『正直』営業をしたブーメランがまさに最終回で返ってきたのである。永瀬の報われた姿を見てほっこりした人も多いだろう。これで視聴者に「自分も明日から良い行いをしようかな」と思わせることが出来たのなら、このドラマの勝ちだ。私はこのような気付きを得るためにドラマを見ているのだが、なかなかこのようなメッセージが届きにくい作品も多い。正直不動産はド直球で投げてきてくれたからこそ、多くの人に感動を与えることが出来たのだと思う。みなさんも人生をより良い方向へ導いてくれる作品に出会えて幸せだったと思ってほしい。ついに『誕生』した正直不動産最終回の章タイトルは『正直不動産、誕生』。ここでハッとさせられたのが、最終回でようやく正直不動産が誕生したことである。これまで私たちは祟(たた)りに振り回される主人公・永瀬を見てきた。しかし、このタイトルで悟った。正直不動産はまだ始まったばかりなのである。祟りに頼らない永瀬の正直人生はこれからスタートするのだ。つくづく、このドラマのキャラクターは『真摯に向き合うこと』を貫いてきた。カスタマーファーストを最後まで貫き営業成績1位を勝ち取った月下(福原遥)も、最後は奥さんに薔薇の花束を買いに行った大河部長(長谷川忍)も、仕事に全力を注ぎ成功した桐山(市原隼人)も、みな自分が大切に思うものに真摯に向き合っていた。家の数だけ人生があるということ、その人たちの数だけ大切なものがあるということ。それらに向き合うには正直でなければならない。家族、結婚、仕事、大切にしたいものは何だっていい。でも『真摯に向き合う』ことは何に対しても欠かせない。そのことに気付いた永瀬はきっとこれから多くの人々を不動産を通して幸せにしていくだろう。彼と共に成長できたこの3か月は、私たち視聴者にとってもかけがえのない時間となった。素敵な作品に出会えた春に感謝します。コラム連載に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。過去の『正直不動産』コラムはこちらから[文・構成/grape編集部]
2022年06月13日Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。2022年4月スタートのテレビドラマ『インビジブル』(TBS系)の見どころを連載していきます。かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。世間からは価値を認められていない、極めて属人的で生産性も悪い、担い手の気概だけで細々とやっている家業を青年は継いだ。自分に仕事を教えてくれた親ももういないことだし、効率化なり自分なりのやりがいなりを足してこれからも頑張ってみようと思っている。家業だから、ただ一人の家族で仕事の重要性を理解してくれる姉と苦労も成果も分かち合って頑張っていこうと思っていたのに、その姉はなぜか自分のやり方を頭ごなしに全否定した上に自分を激しく糾弾する。どういうことだ。姉は何かに血迷っているのか、他人から悪い入れ知恵でもされているのではないか。かくして青年は必死に姉の説得を始める。「これからも一緒に家業をやっていこうよ」と。これだけなら、相続から派生する姉弟の不仲として世の中にありがちな、どっちもどっちの話に聞こえるけれど、それが反社会的な行為を家業として生きてきた家族の話なら話は別だ。まして、裏社会にあって犯罪を差配するような人間たちの話ならば、なおさらのこと。3年前に捜査中に後輩を殺害され、その犯人を追い続けている無骨者の刑事・志村貴文(高橋一生)と、その志村の前に現れ捜査協力を申し出てきた裏社会の犯罪コーディネーター・インビジブルを名乗る女・キリコ(柴咲コウ)のバディを描く『インビジブル』(TBS系金曜22時)。ここまでに、キリコは真のインビジブルである弟のキリヒト(永山絢斗)の凶悪化と暴走を止めようとして警察に協力を申し出たこと、一方、キリヒトは姉であるキリコを自分の元に取り戻そうと画策をしていること、警察内部にもキリヒトへの内通者が存在していることが描かれている。第8話ではキリヒトがキリコを自分の元に引き戻すべく、警視庁相手の公開殺人ショーという大胆かつ奇抜な手に出る。3年前に殺されてしまった後輩・安野(平埜生成)の妹である東子(大野いと)を人質に取られ、助けるべく奔走していた志村もまた、キリヒトの罠に捕まってしまう。東子か志村か、どちらを殺すか選べとキリヒトから無情な選択を迫られたキリコは、苦渋の末にどちらの命も救うべく、警察の保護を離れてキリヒトの元に戻ることを約束してしまう。この交渉の中で、志村がキリコ相手に「キリコ、俺を殺せと言え」と語りかけるシーンは、やはりNHK大河ドラマの『おんな城主直虎』の主人公・井伊直虎と、直虎を陰ながら支え続けて死んだ小野政次の悲劇を彷彿とさせる場面である。前回もレビューした通り、志村とキリコはこのドラマの中で一貫して恋愛感情を伴う関係ではないが、ここぞというときの互いの信頼にエモーショナルな火花が散る。【『インビジブル』感想7話】まなざしが支えるもの高橋一生という俳優の持つ誠実さと、柴咲コウという俳優の持つ無垢さが混ざり合って、華やかな化学変化を起こすかのようだ。結局、志村と東子の命を救うためにキリコは「さようなら。志村さん」という囁きのような別れの言葉を残して志村のもとを去り、志村はキリコが生活していた部屋でぼんやりと座り込んでいる。本来ならば(内通者が誰なのかの問題は残るとはいえ)志村にとっては、元の一匹狼の刑事に戻るだけのはずだが、心配する監察官の猿渡(桐谷健太)に声をかけられた志村は、キリコがそれでもキリヒトの暴走を止めたいと願っている真意を信じる言葉とともに、「キリコを取り戻す」と力強く宣言する。例えば、『キリコを助け出す』以上に「取り戻す」という、より明確な方向を伴う言葉の根底にある意思。それは、志村にとってキリコが魂の命綱で繋がったバディであり、今はもう自分の傍らにあるべき存在だと疑わないがゆえの言葉なのだと思う。志村は、弟の執着からキリコを取り戻せるだろうか。そして、キリコはかつて「あなたの目の前では死なない」と誓った彼女自身の言葉を守り通せるだろうか。異色のバディの、最後の戦いが始まる。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]かなTwitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。⇒ かなさんのコラムはこちら
2022年06月07日Twitterで人気ドラマの感想をつづり注目を集める、まっち棒(@ma_dr__817125)さんのドラマコラム。2022年4月スタートのテレビドラマ『持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜』(TBS系)の見どころや考察を連載していきます。忙しない日常の中で、ただ今を感じる時間を過ごせることは少ない。変わらない毎日の繰り返し、そこに何の意味も見出せず、自分にも周りにも不誠実とさえ感じる時がある。偶然、杏花(上野樹里)と林太郎(松重豊)が、それぞれがデートに出かけることになった第7話では、そんな『今やかけがえのない時間』が描かれる。杏花と晴太が決めたルールキャンプから帰った夜、沢田宅から出て行ってしまった颯(磯村勇斗)を皆心配していたが、颯は商談のためフランスに来ていた。キャンプの朝、同じテントから出てきた杏花と晴太(田中圭)を見たときの切なげな表情はもう颯にはなかった。失恋した男は旅に出る…のジンクスは破られたのだ。「俺も何事も諦めが悪いからね」そう、強気な顔で語る颯。『家族になってしまった』杏花への初恋はまだ諦めるつもりはない。まだまだ杏花をめぐる三角関係のバトルは終わっていなかった。そんな中、杏花の独立の意思を認めてくれたヴァネッサ(柚希礼音)に誘われて友人のコンサルタントに会うが、それは晴太の元妻・安奈(瀧内公美)だった。相談の中で結婚の話題になるが、杏花の「結婚を前提としないお付き合い」に共感した安奈は、「『子どもを傷つけない』というルールをお互いに守るならば、離婚後も協力したい」と語る。この安奈の話から、杏花は晴太との交際ルールを決めることにする。晴太は虹朗(鈴木楽)ファーストで、杏花は仕事ファースト。そして晴太からは、結婚したくなったら、その時はこの交際は終わりにするというルールを提案される。結婚願望のない二人が、お互いの幸せを持続させるための条件だ。結婚を考えてしまったら、今まで通りにはいかなくなる。この結婚を前提としない交際ルールが、タイトルでもある『持続可能な恋』の鍵となっていくことを予感させる。明里の中で変化していく、林太郎の存在一方、明里(井川遥)からの留守電の録音を聞いていた林太郎の元に、明里から「お願いの儀 デートをして頂けませぬか」という内容のメールが届く。「拙者は…」とでも言い出しそうくらい、固すぎる文章を不思議に思いつつ、好きな人からのデートの練習のお誘いに慌てふためき、明里からの留守電の録音を垂れ流すなどウブな反応を見せる。そして林太郎が初デート場所に選んだのは書道展。明里に楽しんでもらうため、共通の話題となる『骨』を日本語の中に必死に探したのだろう…林太郎は甲骨文字を力説する。そんな我を忘れて楽しむ林太郎を見て、明里は笑顔を浮かべる。明里は婚活に行き詰まっていた。お見合い相手と会っても楽しくないし、お見合いの知らせも面倒臭かった。だが、どうしようもない悩みや相談を真剣に聞いてくれて、今の自分にぴったりな答えを導いてくれる、好きなことで無邪気に笑う…そんな林太郎といる時間だけは何より楽しいのだ。明里が結婚のコツを聞いた時も、林太郎はコツの由来となる骨に関連させて答えてくれる。「(自分は)一番長く付き合わなきゃいけない相手ですから、自分に嫌われるようなことをせず、誠実にいたい」何より日本語を大切にしている林太郎から出る言葉だからこそ、明里の中に広がっていくのだ。林太郎の真剣さと時折見せる少年のような一面を想い、明里の心には『キュン』が溢れていた。一方、娘・杏花のデートは?そして杏花達も付き合って初めてのデートをすることになる。「今日、全部連れて行ってください!晴太さんが好きな場所ならどこでも!」杏花の行きたいところに…と思っていた晴太だったが、二人とも、自分でなく相手の考えを尊重しようとしていた。好きな人と過ごせるなら場所なんて関係ない。お昼時には、ファンタジー感溢れる森林公園で二人だけのランチを。お洒落なカフェでもなく、よく晴れたからという理由で選んだ、自然の音に包まれた二人だけの空間だ。「今日はその時の気分で考えましょう」目標や目的のために邁進し続けていた頃の杏花を考えると信じられないことだ。確かにその生き方は尊敬に値する。目標があり頑張っている人間は輝かしい。だが、何もしない時間にこそ見れる景色や生まれる感情があるのだ。杏花には独立という夢や目標がもちろん今もある中、そう考えられるようになったのは晴太と出会ったおかげでもある。そして、晴太も同じように、好きなことが増えたのだ。不動産会社の結婚事業へのやりがいも、夢中になれるものが見つからなかった晴太に、「人を幸せにするいい仕事ですよね」と杏花は優しく認める。この出会いは確かに二人の世界を広げているのだ。「私、今の晴太さんに会えてよかったです。虹朗くんがいる、晴太さんが、好きです」こんな時に寝てしまうのが不器用な晴太らしいが、そんな晴太の寝顔を杏花は更に愛おしく思うのだった。緑に囲まれ何にも邪魔されず二人だけの時間が流れていく情景に安らかな気持ちになった。そんな中、虹朗を預けていた安奈に「仕事が入った」と連絡が入り、急遽虹朗も交えて晴太宅でカレーを食べることになる。一つのテーブルで、同じ料理を囲む…そして自分が誰よりも大切な人と笑い合える時間のかけがえなさを晴太も、杏花も実感していた。「今日しかない今日のことを、全部忘れたくないなって」今日話したこと、感じたこと、一緒に過ごした空間。偶然でもいい、予想外でもいい、何もしなくていい、それが例え日常の繰り返しでも、それは二度来ない特別な毎日なのだ。この二人の出会いは、偶然だった。しかしその偶然の巡り合わせから始まった時間は止まることなく、今も二人を穏やかに包んでいる。この場面で主題歌である、幾田りらの『レンズ』が入るのも秀逸だ。歌詞にある「一つもこぼさずに焼き付けていたいよ」と、今話のテーマが重なった瞬間だった。第7話ラスト。日本に帰国し、マレーシアに開業するホテルの支配人となった颯や林太郎とのお見合いを考え始めた明里、そして林太郎には結婚に感じて何か秘密を抱えた様子で…。そして最後には、晴太と杏花の関係を知った安奈が「ルール違反かな」とこぼす。虹朗のためにならない交際は別問題だった。そして安奈は杏花のヨガスタジオへ乗り込む…。杏花も晴太の持続可能な恋の行方が安奈の行動で揺らぐのか、いよいよ最終回が近づいてきた第8話も注目だ。持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜/TBS系で毎週火曜・夜10時~放送ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]
2022年06月06日ドラマ好きなイラストレーター、ゆう。(@yamapyou)さんによるドラマコラム。2022年4月スタートのテレビドラマ『正直不動産』(NHK)の見どころや考察を連載していきます。女が男を養うなんてありえない。職場で女というだけでナメられる。そんな時代はもう終わった。正直不動産はメッセージの送り方が非常に上手い。新しい時代を生きる我々へ、古い時代の考え方を捨てるよう気付きをくれる。多様化してきた現在、これまでの固定観念とはおさらばしなければならない。女性は家庭に入り、男性は外で働く。これはもう当たり前ではないのだ。別に女性の方が収入が高ければ女性が養えばいい。男性が育児をしたっていい。女性だから見下され、無下に扱われる。そんな職場はこの時代にはそぐわない。そのような考えが徐々に浸透してきてはいるものの、やはりまだ『当たり前』な世の中ではない。それなのに、永瀬(山下智久)や月下(福原遥)は「そんな時代、まだあるんですね」とあえて言い切った。古い固定観念を持ったままの人は、このセリフにグサリと来たのではないだろうか。正直不動産はその考えを容赦なく『時代遅れ』であることを示した。とても潔く、「よくぞ言ってくれました」とも思った。まだ古い時代の考え方にとらわれ、窮屈を感じ苦しんでいる人は多いだろう。大衆の意識を少しずつ変えていかなければならない。『正直不動産』第9話からは、そんな熱い想いと挑戦的なメッセージを感じた。ついに明らかになった!ミネルヴァ鵤社長と花澤の過去登坂不動産の人員までも奪い出したミネルヴァ不動産。鵤(高橋克典)がここまでする理由が気になる永瀬は、偶然出会った桐山(市原隼人)に鵤の過去について聞く。鵤は幼い頃に両親に捨てられ天涯孤独だった。不動産屋の里親に引き取られたが、虐待を受けて育つ。しかし、里親は住元不動産を騙した地面師の主犯格で潜伏先のフィリピンで逮捕され、獄中で死亡。その逮捕に協力したのが登坂社長だった。では登坂社長への攻撃は、父親の敵討ちかとも思われたが、そうではなかった。鵤は父親を憎んでいたのである。自分が殺すはずだったのに、登坂のせいで父親は獄中であっさり死んだ。だから登坂を恨んでいるのである。実に歪んだ動機だ。地面師の逮捕に協力した登坂社長は何も悪くない。腑に落ちない気持ちになったのは視聴者も永瀬も同じだろう。気になるのは登坂社長である。鵤に怒りを覚えるというよりは、どちらかというと仕方ないという雰囲気。その心の余裕は何なのだろうか。最終回での因縁の関係に決着がつくことを祈ろう。正直に生きる永瀬にキュンとした瞬間メガバンクに務める榎本美波(泉里香)から、「結婚を前提にお付き合いしてください」と猛烈なアタックを受ける永瀬。初期のころは女遊びの激しい場面も多く見せていたものの、ここ中盤は仕事に励む姿が主になり、ここに来て永瀬の恋愛パートが動き出したことにドキドキしている視聴者も多いのではないだろうか。永瀬は正直の祟(たた)りにあい、なんだか優しくなった。以前は客を人として思っていなかった永瀬だが、その心境の変化はプライベートにも確実に影響しているように思える。結婚というワードが重いのだろうが、裏を返せば、結婚するつもりがないので軽い気持ちでお付き合いし、榎本を傷つけたくないと考えているようにも思う。また、ボロアパートの窓から以前住んでいたタワマンを見上げ、最初はすぐ戻りたいと思っていた永瀬だが、最近はそう感じなくなっていた。風呂なしで電気もチカチカするようなアパートだが、ここにいる方がよっぽど生活してる感じがする。これも永瀬の心の変化だ。見栄を張って着飾るより、正直にありのまま、生活感を出して生きることの心地よさに気付いたのかもしれない。榎本と肉じゃがを食べているシーンでは、おでこにピンを付けていた永瀬が特に印象に残っている。職場でのスマートでイケメンな永瀬とは違い、オフの姿は何だか幼く、とてもキュートなのだ。こんなキュンとなる姿を、思いもよらないタイミングで出してくるのはずるい。第9話で改めて、「永瀬…変わったなあ」と感じた。いつもの居酒屋では、月下を褒め、嬉しくて泣いてしまう彼女の涙を拭いてあげる。最初は新人教育でさえ億劫そうにしていた永瀬からは考えられない姿だ。お時間のある人は是非、ドラマの初回、またはコラムの初回を読んで欲しいのだが、この変わりようは改めて見ても面白い。『正直不動産』過去コラムはこちら我々は約3か月間、永瀬という男を見守ってきた。愛着も湧き、どんどん魅力的になる。また、一緒に戦ってきた正直不動産の仲間たちも、大いにドラマを盛り上げてくれた。彼らとのお別れは辛いが、「正直不動産という素晴らしいドラマに出会えて本当によかった」そう感謝の意を込めて次回の最終回を見届けたいと思う。[文・構成/grape編集部]
2022年06月06日Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。2022年4月スタートのテレビドラマ『インビジブル』(TBS系)の見どころを連載していきます。かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。ある程度年齢を重ねて社会の中で経験値を積むと、少しずつ世の中の善悪というのは入り混じっていて、ハサミで切り落とすように白黒はつかないのだと分かってくる。犯罪と合法の境界線のようなきわどい判断ではなくても、誰かにとっての善と、他の誰かにとっての悪は絡み合っていて、見る角度の違いでしかないことも多い。ただ、それを悟ったとしても、大半の人々は常識や一般的な善人としての領域に踏みとどまって生きていく。堕落せず、人を害さず、自分の判断に折り合いをつけて生きていく。それを分かつものは何か。そんなことを考えてしまった。3年前、家族同然だった後輩を捜査中に殺害されて以来、荒れた捜査でその犯人を捜し続ける刑事・志村貴文(高橋一生)の前に現れたのは、「インビジブル」と呼ばれ恐れられている裏社会の犯罪コーディネーター・キリコ(柴咲コウ)だった。だが、犯罪者の情報提供と引き換えに捜査の実動を求めてきた彼女は、実際にはインビジブルではなく、本当のインビジブルである弟のキリヒト(永山絢斗)の、犯罪コーディネーターとして過激化していく暴走を止めることが真の目的だった。キリコのその望みに呼応し、志村はキリヒトを止めるべく協力を申し出る。そんな異色のバディを描いてきた『インビジブル』(TBS系金曜22時)。ドラマは姉と弟の争い、そして警察内部の裏切りを巻き込みながらいよいよ終盤に向かっている。この回では、急成長するITベンチャー企業の社長の殺害依頼をめぐる、志村とキリコのクールな連携が存分に楽しめた。キリヒトが裏で糸を引いている殺人を社長の警護を通して止めようとする志村と、警察内部の内通者を密室に居ながらデータから洗い出そうとするキリコのやりとりは、時に携帯電話を通して、時に盗聴から逃れる為に小声で、抑えた声で淡々と交わされるけれども、その分だけ互いの信頼感がにじむ。ふと、志村は相変わらず無愛想ではあるけれども、あまり荒んだ表情を見せなくなったなと思う。志村とキリコの二人は、互いの能力と真摯さを信じあうバディではあるけれども、少なくとも今のところは恋愛関係ではない。大きな期待や依存を寄せ合うような湿った関係でもない。簡単には名前のつけられない信頼感、それで十分だと思う。高橋一生という俳優には、そんな乾いた信頼感のある役が不思議とよく似合う。特殊能力を持つ偏屈な漫画家を演じた時も(2020年・2021年『岸辺露伴は動かない』NHK)、猟奇殺人犯を装いながら決して本心を明かさない男を演じた時も(2021年『天国と地獄』TBS系)、理屈っぽいセクシュアルマイノリティを演じた時も(2022年『恋せぬふたり』NHK)、高橋一生が演じる男と、相対する女性との関係は恋愛にはならないけれども、高橋一生は恋愛しない関係こそをロマンチックに、きちんと体温の通ったものとして魅せる。今作でもその魅力は存分に発揮されていると思う。結局、志村とキリコはITベンチャー社長を殺害依頼から守り抜くことに成功するものの、命を救った社長も、殺人を依頼してきた同会社の役員も、どちらも到底潔白とは言えない履歴の持ち主であることを知り、志村は徒労感をにじませる。善悪の境界線が揺らぐ煩雑さにうんざりする志村に、キリコは「見極めるんでしょ?何が悪なのか。…あなたが見極めて」と、かつて志村が自分を励ます為にかけてくれた言葉を電話越しに返し、背中を押す。その言葉で、志村の瞳に力が戻るようで印象的だった。善悪が渾然とするこの社会で、投げやりにならず、流されず、諦めず、信じるものを追い求めるための分かれ道は何か。志村とキリコが交わす言葉に、それは自分を信じてくれる誰かのまなざしではないかと思った。約束や誓いほど堅固でなくてもいい、温かなまなざし。それを正面から見つめ返せる自分でありたいと思えることが、何かを諦めかける瞬間に自分を支える杖たり得るのではないか。善悪の境界線で時に転び、支え合いながら、この二人はどんな未来にたどり着くのか。最後まで見届けたいと思う。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]かなTwitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。⇒ かなさんのコラムはこちら
2022年05月31日Twitterで人気ドラマの感想をつづり注目を集める、まっち棒(@ma_dr__817125)さんのドラマコラム。2022年4月スタートのテレビドラマ『持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜』(TBS系)の見どころや考察を連載していきます。ただ好きだから付き合うという、ごく当たり前だった恋愛の仕方は、大人になるにつれて一番難しくなっていく。仕事や結婚…人生設計という様々な制限がある中で、付き合うというのもそう単純にはいかなくなる。しかし、そこには私たちが忘れかけた大切な何かがある。第6話では、そのひとつの答えが描かれる。キスの後、関係性が読めないでいた杏花と晴太前回、母親を思い涙を流す杏花(上野樹里)にキスをした晴太(田中圭)だったが、結局二人はその後も何事もなく帰っていた。杏花はキスや晴太の言葉が気になって仕方なかった。この先、どう関係を進めていけば良いのか分からず、晴太の本当の思いも読めない…。そんな中で、杏花は颯(磯村勇斗)から紹介されたインド料理屋でのヨガレッスンを終えてカレーを食べていると、偶然晴太と息子の虹朗(鈴木楽)に出くわす。二人はキスの後、初めて顔を合わすため、気まずい雰囲気になる。何も知る由もない虹朗は、学童のキャンプイベントに仕事で行けない晴太の代わりに来てほしいと杏花にねだる。キャンプで好きな子に告白するつもりの虹朗は、先生である颯の好きな人が杏花だと知り、お互いの恋を応援し合う約束をしていたのだった。しかしそう簡単には考えられなかった。二人の関係を表すのに、『恋人』のような確かな名前はないのである。杏花はまだ他人である晴太の家庭に、どこまで踏み込んでいいのか悩んでいた。杏花から事情を聞いた颯は、「雰囲気変えるか…」と、改めて杏花に一緒に行くことを提案する。恋愛対象として見られない『家族』から関係を進めるため、この機会に本気で杏花と向き合いたいと考えたのだ。杏花は提案を受け、キャンプに付き合うことにした。一方の晴太は、虹朗から颯とお互いの恋を応援し合うということを聞かされる。動揺した晴太は「告白して…そのあとどうするんだ?」と虹朗に聞くが、虹朗はこう答える。「ただ好きだって伝えたいんだ」虹朗、人生何周目だよ…と思ったが、これこそ大人が忘れてしまっている『本当に大切なこと』なのだ。この真っ直ぐな言葉が晴太に響く。もう逃げるわけにはいかなかった。急に腹痛に襲われたと言い、仕事を抜け出した晴太はキャンプ場へ急ぐ。「仮病を使った大人が、救世主のように堂々と入場してくるなよ!」と突っ込んでしまったのだが、『これぞ波乱のキャンプの幕開け!』と思わせる演出が楽しかった。本気で杏花と向き合おうと決めた晴太カレー作りのチーム分けは奇しくも杏花と離れた晴太。仲良さそうな杏花と颯を見て、更に負けじとカレー作りに没頭する。こうした晴太が時折見せる子どものような姿がとても愛らしく思える。しかし「好きなものは簡単に譲れないんだよ」と、ここぞというところで真剣な表情を見せるのだ。なかなか素直になれず、少し臆病で不器用な晴太だが、本気で杏花と向き合おうと決めているのだ。虹朗の告白が無事に成功し、別のテントに泊まることになり、気まずくなった晴太と杏花は、焚き火を囲んでお茶を飲んでいた。皆寝静まり、薪が爆ぜる音だけが響く。そんな非日常的な空間は、不思議と人を素直にさせる。「キスのことは全然気にしていない」と話す杏花に晴太は食い気味に「気にしてください」と言う。今まで通りにはさせない、晴太の決心は固まっていた。「結婚を前提とせず、僕とお付き合いしてもらえませんか?」これは第1話で、杏花が晴太に言った言葉だ。しかしあの時と違う。杏花は今やっと独立に向け動き出し、晴太には何より大切な虹朗の存在がある。だから今も二人に結婚願望がないというのは同じだ。でも純粋に、大切な人と共に今を過ごしたいという気持ちがそこにはあるのだ。「ただ好きっていうだけで付き合うのはダメですか?手を繋ぎたいんです。繋がれたくないんです、他の人に」「私も」と杏花は晴太に手を差し出し、手を取り合う。これが二人が出した答えなのだ。大人になるとただ好きって伝えることさえ億劫になる。だが虹朗が言っていた「いっぱい友達がいても、すぐわかる、好きな人の声はよく聞こえる」というのは、いくら成長したって変わらないものだ。虹郎の好きな人に対して真っ直ぐな向き合い方が、私たちに気づかせてくれてくれる。純粋に好きだと伝える大切さに年齢は関係ないのだ。気になる三角関係の行方は…そして三角関係の行方。颯は虹朗の後押しで、肝試しの帰りに想いを伝えようとしていた。勘違いではなく、本当に好きだと伝えたい…そんな雰囲気を出すも、杏花にはぐらかされてしまう。そして想いを伝えられぬまま朝を迎え、颯が見たのは、同じテントから出てくる杏花と晴太だった。颯はその後、いつも通りレッスンに出かける杏花を見送る。何も見てない、何も知らないふりをして。颯にとって、杏花は近すぎて遠い存在になってしまったのだ。自分が見ることができなかった、杏花が好きな人に向ける笑顔をただ見るだけの…。「家族になっちゃったな」颯は、杏花の家を出て行ってしまった。報われない気持ちを抱えた颯の背中がただ切なく見えた。相手の『呼び方』をめぐる考え方の違い一方、林太郎(松重豊)と明里(井川遥)はウォーキング中に、明里のお見合い相手の男性が、「結婚したらパートナーと呼びたい、うちの嫁とは呼びたくない」と言ったのに対し、違和感を感じた話をしていた。一度は仕方がないことと割り切って、また男性と会っていた明里だったが、「美人すぎる女医」と言われてまた違和感を感じていた。そんな時、「女性配偶者を何と呼ぶべきか」を林太郎が語っているラジオが偶然聞こえて来る。「何でもいいんじゃないですかね?相手への敬意があって、呼ばれる方がそれでよしとするならば」林太郎の言葉で、明里はその違和感の正体に気づき、男性に別れを告げる。そこに敬意はなかったのだ。呼び方や肩書きだけで人を当てはめようとしているだけで、本当にその人を見ようとはしてないのである。第6話は親子それぞれ独立したテーマになっていると思っていたが、実は奥では繋がっているのではないかと思った。呼び方もいろんな形があっていい、ただそこに、誰かを思いやる気持ちがあれば良いのだ。そして、想いの伝え方も付き合い方もそれと同じ。自分たちなりの答えをしっかり話し合うことで、探していくことが何より大事なのである。持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜/TBS系で毎週火曜・夜10時~放送ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]
2022年05月30日ドラマ好きなイラストレーター、ゆう。(@yamapyou)さんによるドラマコラム。2022年4月スタートのテレビドラマ『正直不動産』(NHK)の見どころや考察を連載していきます。仕事において相手が信用できるかどうかは最も大切なことだろう。『正直不動産』第8話では、信じることについて描かれた。誰かに仕事を任せるとき、多少金額は上がっても、多少時間はかかったとしても、信用できる人に任せたいと思うのは当然だろう。またその額が大きくなればなるほど、取引は慎重になり、本当に信じることができる人に頼みたいと思う。今回、永瀬財地(山下智久)と月下咲良(福原遥)は、300坪・5億円の土地売買を扱うことになった。大型案件なだけに、まずはこの話を持ってきた人物の信用度が問われる。しかし、今回は永瀬の知り合いが紹介してくれたということでその点はクリアした。登坂不動産の社長(草刈正雄)は「永瀬を信じる」との一言で、後の判断はすべて永瀬に託されることに。永瀬と月下が交渉を進める中、ミネルヴァ不動産の横槍が入るも、なんとか契約を勝ち取ることができた。しかし、なんだか様子がおかしい。永瀬は一人、悶々としていた。なぜなら、取引相手の交渉術が、かつて嘘をついていた自分と重なったからだ。もしかしたら、『地面師』ではないのか。永瀬の脳内に不安が過ぎる。地面師とは土地の所有者になりすまして売却をもちかけ、多額の代金をだまし取る詐欺師のこと。そこで永瀬は信頼できる元同僚・桐山(市原隼人)に相談をすることに。桐山は、相変わらずの素っ気なさだったが、自分は過去にその相手と交渉をしたが、すぐに手を引いたと言っていた。理由は「似合わないスーツを着た人と仕事をしたくない」から。「スーツに着られている」なんてことを時々言うが、今回の取引相手は、思い返せばサイズの合っていないスーツを着用していた。普段からスーツを着ている人なら、自分に合うサイズや身の丈にあったブランドに精通していくだろう。この状況において、桐山の判断は正しいのだと悟った。ブカブカのスーツはおそらく取り急ぎで用意したのではないか。もしそうでなかったとしても、桐山の言葉を聞いたビジネスマンは、身だしなみで取引が判断されるという事実を痛感させられたであろう。あなたも良い取引をしたければ、身だしなみは整えよう。上級な相手ほど、そういったところまで見られているということである。相手は怪しいが決定的な証拠がないため、永瀬と月下は再び取引相手の事務所を訪れた。しかし、ここで永瀬の祟りが発動!「あなたたち、本当は地面師なんでしょ」と言い放つ。もはや冗談では片付かない状況に困り果てる月下。相手を激怒させてしまったため、一度帰社し、再びお詫びの品を持っていくと事務所はもぬけの殻に。永瀬の不安は的中した。やはり相手は『地面師』だったのである。危機一髪のところで地面師の被害から免れることができた登坂不動産。これまで不動産屋で成果を出してきた永瀬の勘や経験は確かだった。登坂は、会社員時代、地面師に騙された過去があった。永瀬の「『あなたたち、本当は地面師なんでしょ』という言葉をあの時、自分も言えていたならば…」そう言って悔んでいた。信頼していたからこそ、永瀬にすべてを任せた社長の判断は間違っていなかった。もし、永瀬が地面師に引っかかっていたとしても、それは永瀬を信じた自分の責任である、そう語る登坂は結果がどうあれ永瀬を守ってくれていたに違いない。今回の件で、永瀬と登坂社長の信頼関係はさらに強固なものになっただろう。やはり経験はものを言うし、不安な時は信頼できる誰かに相談することが大切だ。また身だしなみも見られているし、取引で相手を信用して任せたのならそれは自分の責任だ。今回の正直不動産も教訓がたくさん詰まっていた。生きる上、仕事をする上で大切なことを物語にして分かりやすく教えてくれる。こんな奥深いドラマはめったにない。また山下智久が永瀬を演じることで、仕事のできる営業マンな一面、正直に言葉を放ってしまう危なっかしい一面、元同僚や後輩に対しても情に厚い一面、といったメリハリの効いた様々な永瀬を楽しむことができる。そして純粋で新人目線でものを言う月下は視聴者代表と言ってもいいだろう。無知な彼女が我々の疑問を代弁してくれるし、我々の思いをツッコミとして入れてくれる。この塩梅もちょうどいい。正直不動産の心地よさは物語の構成とキャストの演技、そして存在感のある小田和正によるエンディングテーマソング『so far so good』による相乗効果が起こっているように思える。いよいよ残り2話となったが、このドラマは最終回まで安心して見ることができるとあえて言い切ろう。なぜなら、ここまでの8話分において圧倒的な『信頼』があるからだ。[文・構成/grape編集部]
2022年05月30日Twitterで人気ドラマの感想をつづり注目を集める、まっち棒(@ma_dr__817125)さんのドラマコラム。2022年4月スタートのテレビドラマ『持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜』(TBS系)の見どころや考察を連載していきます。過去を乗り越えるためにも、何かを成し遂げるためにも、前を向くことは大切なことだ。だが同時に自分の本当の気持ちに蓋をしていることに気づきにくくなる。第5話ではそんな『前を向くこと』や『会いたい』という気持ちに寄り添っていく。セミナー最終日、杏花(上野樹里)への想いが募り、杏花を抱きしめた晴太(田中圭)だったが、そんな二人を颯(磯村勇斗)が目撃してしまう。晴太は颯に気づき、ふと我に帰ってお別れのハグと誤魔化すだけ。セミナーも終わり、会う理由がなくなってしまった二人であるが、心の中では『会いたい』という気持ちを募らせていた。林太郎がお見合いを続ける理由独立に向けて全力を尽くすことを決めている杏花だったが、林太郎(松重豊)は本当にそれで幸せなのかと疑問に思っていた。亡き妻・陽子(八木亜希子)の手紙の言葉を受け、親子で始めた婚活。知り合った明里(井川遥)のことは気になりながらも、幸せとは何なのか考え始めた林太郎は、ふと陽子との生活を思い出していた。そこにあるだけのものや言葉が、初めて意味を持った日、隣にはいつも陽子がいた。『上の空』の語釈を考えるだけだった林太郎をスカイダイビングに連れ出すなど、陽子はリアルを体感させてくれた存在だった。林太郎が現在もよく街へ出かけ、写真を撮ったり、人々の会話から新しい言葉を探していたりするのも、陽子の影響なのだろう。辞書や誰かが決めた言葉の解釈だけではない世界を教えてくれた陽子は、もういない。結婚条件は『僕より長生きしてくれる人』。しつこく、杏花の結婚や普通の幸せにこだわっていたのは、自分がそうではなかったからだ。幸せだったけど、その幸せは長くは続かないことを知っている。だからこそもう杏花に負担はかけられないと、林太郎も焦ってお見合いを続けているのだ。そんな中、オーナーのヴァネッサ(柚希礼音)から『TAMAGAWAサステナブルフェス』の仕切りを任された杏花。それを聞いた林太郎は陽子の服をフェスのバザーに出品することを決心する。杏花も、偶然知り合った明里から最近の林太郎の様子を聞き、前を向き始めたことを嬉しく思っていた。フェス当日、お見合い終わりに林太郎はフェスに顔を出すが、バザーに出す予定のなかった陽子の『オレンジのストール』が手違いで出品されてしまったことを知り、ショックを受ける。このオレンジのストールには陽子とのある思い出が詰まっていた。オレンジのストールをきっかけに変わる2人の関係辞書の編集委員に選出されず、公園で途方に暮れていた林太郎に陽子はそっと寄り添った。溢れ出した悔し涙を隠すように、陽子は頭にそのオレンジのストールをかけてあげたのだった。これは第3話でお見合いが上手くいかず涙する明里に林太郎がしてあげたことだった。大切な人の涙を誰にも見せないというこの行動は、陽子が自分にしてくれた思い出からきていたのだ。そんな思い出を聞いた明里は、あの時心を軽くしてくれたのは林太郎と陽子だったと気づく。陽子のストールは林太郎にとって特別なものでもあり、明里にとっても大切なものなのだ。明里は諦めかけた林太郎の背中を押し、二人は無事にストールを探し出すことができた。「会いたいと思える人と、会える今を大切にしたい」林太郎は、もう手放しても平気だと思っていた。しかし、後ろも向かず、前だけ見て歩くということは、言い換えれば自分の忘れたくない過去や今の辛い気持ちを無理やり忘れるということなのだ。林太郎は陽子との思い出にも蓋をしようとしていた。そうではないと、先に進めないと思っていたからだ。情けなさそうに想いを話す林太郎に、明里はこう声をかける。「歳をとった分色んな思い出があるけど、そういうの皆んな引きずって…でも時々振り返りながら歩いていけたら、それで十分じゃないですか?」人は、沢山の重りを引き連れ、擦り減った靴でこれからの人生を歩いていかなくてはならないのだ。大切な人を亡くした経験も、嫌な記憶もそう簡単にはなくならない。だが、擦り減った分、同じように忘れたくない大切な記憶があるはずだ。「今の自分たちを見たらどう思うのかな?」と、時々立ち止まって思い返しながら進んでいければいい。「会いたいと思える人と、会える今を大切にしたいと思いまして」林太郎は思い出を引き連れながら、今一番会いたいと思える明里との第二の人生を考えることに決めた。晴太らしい返答にグッとくるそして晴太と杏花も会いたい人がいた。もう会う理由はないけど、どうしようもなく会いたい人が。林太郎の決心を聞いた晴太と杏花は考えることは同じだった。二人は思い出の丘で出会う。晴太から林太郎が元気そうだと聞いた杏花は、陽子が亡くなった頃の辛そうな林太郎のことを思い出していた。そして、自分のことも。杏花は父を生き返らせ、生活を守らなくてはならない、そんな使命だけで必死に生きていた。強がる杏花に晴太は言う。「でも、杏花さんだって辛かったでしょ?」愛していた父の方が悲しんでいるはずだからと、娘としての辛い気持ちに蓋をしてきた。杏花は今まで誰にも弱音を吐くことはなかったのだ。晴太の言葉を聞いて、長く堪えてきた涙が杏花の頬をつたう。「もう一度でいいから、会いたい」晴太は杏花の背中をさする。そんな自分に寄り添ってくれる大切な晴太と向き合いたいという思いが杏花の中で込み上がっていた。「会いたい、これからも会いたいです」「このままだと愚痴ばかりのおばあちゃんになっちゃう」というのは、「会いたい」と伝えなかったことを後悔したくないという気持ちなのだろう。会いたいに理由なんか必要ないのだ。そして、泣き顔は見られたくないと言う杏花に晴太はこう返す。「その顔を見る権利、僕にはある気がするんですけど」見つめあった二人は夕暮れの中、キスをする。「僕にはある」じゃなく「気がするんですけど…」といまいち締まらない弱気な感じも、なんとも晴太らしい。だが、杏花の言葉を会いたいという言葉を聞き、どんな杏花も受け止めたいという真っ直ぐな気持ちが伝わってきた。そんな二人の関係はこのキスをきっかけに進むのか?そして林太郎の第二の人生も動き出す次回が待ち遠しい。持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜/TBS系で毎週火曜・夜10時~放送ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]
2022年05月24日Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。2022年4月スタートのテレビドラマ『インビジブル』(TBS系)の見どころを連載していきます。かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。片方の男は、「悪事の依頼といえどビジネスだ。依頼が正当かどうか、誰が誰の死を望むのか。その理由も興味は無い。需要があるから僕のビジネスは成り立つ」と淡々と語る。もう片方の男は、「何が正義で何が悪かは俺が見極める」と、力強く言う。人の世で、善と悪は常に地続きだと悟っており、その複雑さに自分の意思を見失いかけて諦めようとする女に、それぞれの男は語りかける。犯罪者と刑事、語る言葉は正反対に見えるが、それはおそらく背中合わせになっている一つの価値観の表裏だ。どこまでも白黒のつかない人の世だとしても、生きている限り、人はどこかで踏み切らねばならない。数年前に同僚を何者かに殺害されてから、その真相を追うために荒っぽい捜査を厭わない無骨者の刑事・志村貴文(高橋一生)と、突如警察に捜査協力を申し出てきた裏社会の犯罪コーディネーター・インビジブルを名乗るキリコ(柴咲コウ)の異色のバディを描く『インビジブル』(TBS系金曜22時)。前回、本当のインビジブルはキリコではなく、彼女の弟のキリヒト(永山絢斗)であり、キリコは弟を探し出す為に「インビジブル」を名乗っていたことが明かされた。6話では、キリコとキリヒトの姉弟がなぜ「インビジブル」と名乗ることになったのか、なぜ二人が決裂したのか、そしてなぜキリコが志村の前に現れたのかが、ドクターと呼ばれる猟奇殺人者の事件をベースにしながら描かれた。そもそもキリコ・キリヒト、姉弟の父親が最初に「インビジブル」と呼ばれており、父親当人は犯罪を差配すること自体は必要悪であると捉えて仕事をしていたものの、後継として育てたはずの息子のキリヒトが想定以上に先鋭化してしまった。おそらく父親の中には、自分がコーディネーターとして手綱を引くことで裏社会であっても秩序が保たれるという信念があったのだろう。だが、過激化する息子と父は争い、父親の方が殺害されてしまった。残された娘、つまりキリコは弟に怒りを覚えながらも、より凶悪化する弟を止める手立てはないか探り、かつて父が敵ながらその捜査への執念を賞賛していた刑事の志村の手を借りることを思いつく(その過剰な正義感と執念が、裏社会からのコネクトを呼び寄せてしまうのも、いかにも本作らしい)。しかし、弟と育ちが繋がっている上に、現状も犯罪を通して駆け引きが続くならば、自分もまた悪事に荷担していることと同じではないかと投げやりになるキリコに、志村は力強く「正義も悪も自分で決めるのだ」と語りかける。「目の前にいる誰かが困っているなら助ける、だからお前が困っているならお前を助ける」と言い切る志村の中では、刑事の経験則として善悪の境界線を探る迷いの決着は、既についているのだろう。「(困っているなら)早く言えよ」と無愛想に言って、キリコの飲みさしの紅茶を勝手に飲んでしまう志村の無骨さに頬が緩む。飲んでしまった紅茶は、ふたりの一蓮托生のあかしかもしれない。改めて協力してキリヒトを追うことを決めた二人だが、最後にキリコは、警察内にインビジブル・キリヒトと内通している誰かがいることを志村に示唆する。前回、ハナカマキリという植物に擬態して獲物を狩るカマキリのことが語られ、それが犯罪者に擬態して獲物を捕らえるキリコの言動そのものであると志村は見抜くのだが、ハナカマキリは犯罪者側だけではなく警察内、善の側にも存在している。捜査一課、監察官、志村が所属している特命捜査対策班。いずれもくせ者ぞろい、演技巧者がそろった配役である。誰が内通者なのか、今のところ誰にも可能性があるように見える。凶悪犯罪者と警察内部、両方と戦いながら二人は望む未来を掴めるのか。物語は山場に入る。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]かなTwitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。⇒ かなさんのコラムはこちら
2022年05月24日ドラマ好きなイラストレーター、ゆう。(@yamapyou)さんによるドラマコラム。2022年4月スタートのテレビドラマ『正直不動産』(NHK)の見どころや考察を連載していきます。「自業自得」「身から出た錆(さび)」といった言葉が古くからあるように、過去の自分の行いは必ずブーメランとなって自分の元へ返ってくる。悪いことをすれば悪いように帰ってくるし、いいことをすれば同様にいいように返ってくるのだが、そうやって過去の自分が蒔いた種は、思いもよらないタイミングで芽を出すことがある。『正直不動産』第7話は、そんな自分の日頃の行い、過去の行いを改めて考えさせられる回となった。「悪いことをすればバチが当たるよ」と子供に優しく教えるように、このドラマでは主人公・永瀬(山下智久)がそれをコミカルに体現してくれている。永瀬を見ながら、過去の自分を思い浮かべた時、反省しなければならない行いも思い浮かぶかもしれない。しかし、しっぺ返しにあった時、相手とどう向き合うのか、今後どのように振る舞っていくのか、このドラマを見ればきっと答えがわかるだろう。そんな教訓がいっぱいに詰まった良作だ。ついに明らかとなった永瀬の過去課長代理に就任した永瀬は、自身の業務と並行して課長業務に追われていた。そんな多忙な時に限って、過去に物件を売った客がやって来たのである。以前に永瀬が物件のメリットだけを伝え、成約させたことで、「こんなはずじゃなかった」と今になってクレームになってしまったのだ。つくづく嘘ばかりついていた過去の自分が嫌になる永瀬。しかし、この出来事は、そもそも自分が「どうして不動産屋になったのか」「どんな不動産屋になりたかったのか」を見つめ直すきっかけとなった。永瀬は大学生のころ、悪徳不動産に騙されそうになったところを今の社長である登坂(草刈正雄) に助けてもらったのだ。登坂が家を正規の価格で売ってくれたおかげで、永瀬は両親の借金返済と引っ越し代を賄うことができたのである。深々とお礼をする永瀬に登坂は「一番儲かったのは私」と笑顔で答えた。これをきっかけに永瀬は不動産屋になることを決意。「お客からも感謝されて金も儲かるってそんな仕事最高じゃないっすか!」正直不動産ーより引用営業成績で1位を取るため、誰よりも努力してきた結果、永瀬が忘れてしまっていたこと…。それは「お客に感謝される」ことだったのである。営業トップになる前、トップと自分の違いはなんだろうと考えた。そうして辿り着いた答えが「お客を人と思わないこと」であった。永瀬はお客を人と思わないことで情で動かされることなくセールスができるようになり、見事、営業でトップの成績を取ることができた。そんな過去を振り返りながら、永瀬は目標を追うがゆえ、目的を忘れてしまっていたことに気づく。祟(たた)りにあって嘘がつけなくなってからは、成績は落ちたものの、正直にお客と向き合い、「感謝される」ことが増えたのだ。感謝される気持ちは、仕事にやりがいや達成感をもたらしてくれる。彼が祟りにあったのはこの大切な感情を取り戻させるためだったのかもしれない。自分を見つめ直した永瀬は、過去の自分が蒔いた種にも、これからは真摯に向き合うことを決意した。人生はいつだってやり直せる、ドラマはそう伝えてくれたようにも思えた。視聴者を沼らせる山下智久の演技の魅力第7話で大学生役をもこなしてみせた山下智久。回想シーンでは、ハリツヤ溢れる肌と生き生きとした瞳、いつもと違った前髪のあるセットで一瞬にして時を14年前に戻してくれた。今回、自宅の売買を考えている定年夫婦の元へメインバンクの融資課・榎本美波(泉里香)と訪問。キラキラとした学生姿から一変、商談をスマートに進め、頼もしく大人な永瀬のギャップにまた視聴者はやられてしまうのである。ここではてっきり家を売るために同席させられたのかと思いきや、榎本は、永瀬の不動産の説明のあと、自らの金融商品を案内し始めた。「待て待て、聞いてないぞ」という表情を浮かべる永瀬は、リバースモーゲージ(自宅を担保に融資を受けられるシステム)の説明が終わるまでの間、「やられた…」と言わんばかりに眉を潜めながら遠くを見つめている。最後には少し口を尖らせ、いじけたような顔を見せた。その姿はなんとも愛おしい。ドラマから山下智久のファンになった方も多いだろう(筆者もその一人である)が、彼がファンを魅了するのは、このようなさりげないシーンにも彼の魅力が詰まっているからだと思う。セリフがないシーンだからといって手を抜かない。俳優としての彼のストイックさも垣間見える中、表情はとてもお茶目でキュートなのである。大学生からエリート営業マンまでさまざまな一面を見せてくれるこのドラマで、彼が更なるファンを獲得していることは言うまでもないだろう。是非、この山下智久の沼にハマってしまった方は「このシーンが良かった!」「この演技が魅力的だった!」とあれば、Twitterで記事を引用して教えていただけるとありがたい。山下智久の引き込まれる演技と、素敵なメッセージが詰まった『正直不動産』。残り3話となったがここからの展開がさらに楽しみである。[文・構成/grape編集部]
2022年05月22日Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。2022年4月スタートのテレビドラマ『インビジブル』(TBS系)の見どころを連載していきます。かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。期待のない関係なら失望もない。いかに利用するかの駆け引きがあるだけだ。だが、互いに期待と信頼が生じ始めた時に、皮肉なことに相手の粗(あら)も見え始める。距離が縮まれば、見たくないものも目に入る。誤魔化しているところもわかる。そこが『知人以上』の最初の一線である。そこから引くか、踏み出すか。裏社会で恐れられている犯罪コーディネーターが、警察相手に協力者として指名したのは、数年前に目の前で後輩を殺されて以来、荒れた捜査を続けている無骨な刑事だった。そんな異色のバディが数々の事件に立ち向かう『インビジブル』(TBS系金曜日22時)、いよいよ中盤折り返しの5話目である。物語が始まった時から、ずっと微かな違和感があった。犯罪者たちから恐れられ、『インビジブル』と呼ばれている犯罪コーディネーターのキリコ(柴咲コウ)は確かにクレバーで、人をくったようなところがあり(志村をからかう「キレッキレじゃん」の表情の魅力的なこと)、犯罪の知識にも通じているけれども、どうも倫理観が真っ当なのである。それもまたキリコという人物の魅力に違いないのだが、本当に彼女がインビジブルなのか、あるいは彼女一人だけがインビジブルなのかは、おそらくこのドラマを楽しんでいる多くの人たちの頭の片隅に、ドラマの当初からあった疑問ではないかと思う。前回のラストで、主人公の刑事・志村貴文(高橋一生)の後輩・安野(平埜生成)が殺害された事件は、インビジブルの指示した犯罪であることが判明する。激高する志村相手に何も答えず、キリコは直後に姿を消してしまう。3年前の殺人の情報、キリコの見えない思惑、複雑な感情を抱えたまま志村はキリコを探す。その過程で志村はハッカーのラビアンローズ、通称ローズ(DAIGO)に、半ば無理矢理協力を求めるのだが、このローズのキャラクターが鮮烈でとてもいい。初回、第3話とハッカーとして少し登場していたローズだが、回を追うごとに『キャラ立ち』していくのが分かる。ジェンダーレスで派手で一見軽薄だけれども、知的好奇心に溢れている。志村が連れてきた警察の鑑識の近松(谷恭輔)に興味津々で絡みたがるが、ハッキングを始めれば知識と能力をフル稼働して仕事に没頭する。キャラクターの癖は強いが下品にならないのは、演じているDAIGO本人の持つ清潔感ゆえだと思う。この先の後半も繰り返し見たいキャラクターである。また今作では、志村を監視するキャリア監察官・猿渡紳一郎を演じる桐谷健太もまた、助演としてニュアンスのある演技を見せている。auのCMで、浦島太郎を元にした『浦ちゃん』での印象が強く、明朗な好青年のイメージで語られがちな桐谷だが、NHK連続テレビ小説『まんぷく』では敵か味方か判然としない胡散臭い男・世良勝夫を演じた。宮藤官九郎脚本の『俺の家の話』(2021年TBS系)では芸養子として主人公の家に引き取られて屈折した心情を押し殺して暮らしている青年・観山寿限無をと、内面を表に見せない複雑な役を作品のトーンに合わせて演じ分けている。今作の猿渡も真意はなかなか表に出さないが、常に志村に厳しくあたる言葉と裏腹に、無茶な捜査に走りがちな志村を案じている様子が垣間見える。その真意は志村に通じているやらいないやら、毎回絶妙なさじ加減なのが見ていて興味深い。奔走の果てに志村はキリコを見つけ合流する。そこで志村はキリコが桐島と名乗る誰かを追っていること、その為にインビジブルを装って警察に近づいたということを見抜く。そして今回の最後、二人の前に桐島つまり本来のインビジブルが現れる。本来のインビジブルであるキリヒトを演じるのは永山絢斗。登場のときから有無をいわせぬ暴力の気配をまとっているのはさすがである。更に、キリコとキリヒトが姉弟であることも明かされて5話目は終わる。ともにインビジブルを名乗る姉と弟の関係は、必ずしも良好ではなさそうである。ここまでにキリコは、志村相手に何かもの言いたげにしつつも自分の意図を語ることはなかったし、この回でも一度言いよどんで結局告げずにいる。それは弟のことまで告げてしまえば、志村を後戻りできない大きな危険に引き込むというためらいではなかったか。その一線を目の前に、志村は立ちすくむのか、踏み込むのか。物語は加速する。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]かなTwitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。⇒ かなさんのコラムはこちら
2022年05月17日Twitterで人気ドラマの感想をつづり注目を集める、まっち棒(@ma_dr__817125)さんのドラマコラム。2022年4月スタートのテレビドラマ『持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜』(TBS系)の見どころや考察を連載していきます。小さい頃は当たり前に言っていたはずの「頑張れ」は、いつしか安易に言えなくなった。今の自分に、そして誰かに向ける「頑張れ」は、本当に必要な言葉なのだろうか。第4話ではこの『頑張る』という言葉に焦点が当たる。杏花に訪れた仕事の転機突然始まった颯(磯村勇斗)との同居生活にも慣れて、杏花(上野樹里)は、社長から「都内のヨガスタジオのマネジメントを任せたい」と言われる。マネジメントであればプライベートが忙しくなった時も働きやすく、時間を大切にできる…。杏花には、想い人の晴太(田中圭)とのことを考えていきたいという気持ちが芽生えていた。しかし、杏花の夢は独立し、自分のスタジオを作ること。セミナーで『私の大事なもの』をテーマととしてジャーナリングを行ったときも、すぐ浮かぶ言葉は『ヨガ』『独立』『自分のスタジオ』。だがその視線は、隣にいる晴太に向いていた。独立が一番だから、結婚もせずプライベートはセーブをするという生き方で進み続けてきた杏花に迷いが生まれていた。夢か恋か、この中で一番大切なものを選ぶという難題が杏花に立ちはだかる。杏花を優しく肯定する颯対する晴太は…?颯と過ごす時間が増えた杏花はその悩みを打ち明ける。「だめだね、頑張んないと…」と、思わず弱音をはく杏花を颯は、優しく肯定する。「別に頑張らなくても良いんじゃない?もう頑張ってんじゃん毎日」杏花は「頑張る」という言葉がずっと引っかかっていた。「頑張れ」という言葉は、もう頑張ってる人にはキツいのだ。だからこそ、「頑張らなくても良い」と自分を肯定してくれる颯の言葉が新鮮に聞こえただろう。そんな中、杏花は晴太の誘いでパーソナルジムを営む女性起業家・足立(MEGUMI)のジムを訪ねる。カップルの利用に特化した『カップルジム』のコンセプトのもと、実際に楽しく体験し、距離は縮まったように見えた。しかし、独立するか迷っていると聞いた晴太は、本当に自分のスタジオ諦めて良いのかと杏花を問い詰める。「ヨガも大事だけど、晴太さん…」「マネジメントにまわれば、プライベートな時間が増えるし、そしたら…」杏花は、迷っているのは晴太との将来を考えたいからだと晴太に何度も伝えようとしていた。でも、そう言いかける杏花に、晴太は食い気味に自分の思いを押し付けてしまう。「頑張ってください。頑張らなきゃダメです!」晴太は、独立したいから結婚してる場合じゃないと前を向く杏花に、夢を叶えることを期待していたのだ。頑張ったら、一番欲しいものが手に入るところにいる杏花は、晴太にとって今まで一番欲しいものが叶わなかった自分が、なりたかった自分なのだと思う。晴太は自分の望みを、杏花に重ねているみたいだ。純粋に応援する気持ちが晴太にはあるはずだが、「頑張れ」を押しつけているように思えてきてしまう。二人は、これを境にすれ違ってしまう。改めて考える「頑張れ」の意味一方、颯のもとに母親からの度々着信が入っていた。面倒くさい親との関係は、たまに近況報告するぐらいのちょうどいい距離感でいいと、颯はずっと見て見ぬ振りしてきたのだ。颯が優しい性格になったのも、喧嘩ばかりする両親に自分の感情を抑えてきた結果のものだった。そんな颯に、杏花は言葉をかける。「颯、面倒でも、一度がんば…」そういいかけて、杏花はハッとする。「頑張って」という言葉が自分の頭の中に跳ね返ってくる。自分が颯に向けた、背中を押すための「頑張って」。じゃあ、あの時、晴太が迷う自分に伝えてくれた「頑張れ」の意味は…?杏花が見つけた「頑張れ」の意味ヨガレッスンで杏花はヨガではあまり使わないとされる『頑張る』を生徒に語る。「自分の本当の気持ちを教えてくれるのは、時に他人の存在だったりします」心が温かくなったり、悲しくなる瞬間。そこに思い浮かべるのは晴太の存在だった。杏花は生徒に話しながら、ヨガで自分の心の中を整理してきたのだ。ヨガは生徒にとっても、自分にとっても頑張ったことを、そしてありのままを認めてくれる場所なのだ。「力を抜くために頑張らない。それでも言いたいです。『頑張って』も優しさだから」レッスンに訪れていた颯の目を鏡越しに見つめながら、杏花は「頑張って」と伝える。そして自分に向けても、「頑張って」の応援を。颯の「もう頑張らなくていい」と晴太の「もっと頑張れ」。これまで頑張ってきた自分を認めてほしいと一番に願う人ならば、颯の言葉が沁みるはずである。でも、その中で杏花が欲しかった言葉は「頑張れ」だったのだ。「自分が頑張りたい人なんだって気づけました」晴太に応援され、独立することを決めた杏花。誰だって一歩踏み出すことは怖い。でも「頑張れ」という言葉は、背中を押してくれる最高のスパイスになるのだ。誰もが無意識に頑張ってる今、「頑張れ」は軽く口にできない言葉となっている。しかし杏花が言う通り、誰にどういう気持ちを持って言うかが重要なのだ。大切な人のためを一番に思った、「頑張れ」を伝えよう、そう教えてくれた。進展がありそうでなさそうな林太郎そして気になる父・林太郎(松重豊)と明里(井川遥)の恋路も描かれた。林太郎は明里とウォーキング仲間として治療後も会うことになるが、明里の婚活話を延々聞かされるばかり。関係性は進んでいるようで、どこか留まっている二人だが、林太郎は明里の不意の笑顔に心臓発作レベルの「キュンです!」を味わう。語句でしか知らない胸キュンを実体験する林太郎はまるで少年のようだ。だが、辞書編さん者が、言葉以上の意味を知っていくという点で、この物語上で『言葉』が大切に扱われていることがわかるだろう。そして杏花と晴太は最後のセミナーの日を迎えていた。この帰り道が終わって欲しくないと、雨が上がっても傘を閉じないままの二人。別れ難くなり、好きが溢れた晴太は杏花を抱きしめる。『火曜10時枠』名物のハグ!そして、それを見てしまう颯…!吹き荒れる三角関係の嵐は、もうすぐそこまで来ている。持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜/TBS系で毎週火曜・夜10時~放送ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]
2022年05月16日ドラマ好きなイラストレーター、ゆう。(@yamapyou)さんによるドラマコラム。2022年4月スタートのテレビドラマ『正直不動産』(NHK)の見どころや考察を連載していきます。桐山(市原隼人)のスパイ疑惑が浮上。そんな矢先、社長の命令で永瀬と桐山はペアを組み、大型案件を任されることに。一緒に仕事をする中で、永瀬は桐山の壮絶な過去と仕事に対する想いを知ることになる。桐山の不審な行動桐山の不審な行動は、以前から見られた。ライバル会社であるミネルヴァ不動産の社長との密会や、深夜に会社のパソコンにアクセスしていた痕跡などがある。また月下(福原遥)が挨拶をしていた近所の優しいおばあちゃん・衛藤明子さん(松金よね子)の家についてもそうだ。月下の調べた限りでは1億円の価値があるところを桐山は7500万円で売ろうとしていたのである。どうして2500万円も下げているのか不審に思った月下は桐山に問いかけるも、答えてはもらえなかった。ますます怪しさのます桐山。しかし、これがきっかけで我々も『本当の桐山』を知ることになる。永瀬が物にした正直営業スタイル永瀬と桐山がペアを組み、今回担当したのは『建築条件付き土地』。あまり聞き慣れない言葉だが、土地を買って、そこに家を建てる場合、特定の建設業者と契約を結ぶことが条件となる土地である。しかし、問題なのはその建築を担当する竹鶴工務店だった。竹鶴工務店は下請けに安い金額で建築を丸投げし、無茶な工期を要求する。さっそく永瀬と桐山が二人で挨拶に行くも、社員の士気は低く、雰囲気は最悪だった。金額に見合った材料と無茶な工期で建てた場合、欠陥住宅となるのは明らか。この状況を変えるべく、プランの見直しを求めて下請けの秋川工務店へと足を運んだ。しかし、なかなか取り入ってもらえず、永瀬は信頼してもらうため作業を手伝うことに。桐山は呆れたように永瀬のお得意の嘘で信じてもらえばいいじゃないですかと皮肉を言うも、永瀬ははっきりと「もう嘘はつかない。営業スタイルを変えた。顧客一人ひとりに正直に営業する」と反論。これまで嘘がつけない正直との戦いに苦戦していた永瀬だが、ここに来て顧客にも感謝され、会社にも貢献できたという経験がさらに強い彼の信念を生み出していた。それから永瀬は顔や服を汚しながら、毎日作業場へ通い、熱心に作業していた。その姿は心を打たれるものがある。営業は信頼を得るために足繁く顧客のところへ通ったり、お手伝いに行ったりするということを耳にするが、スマホやパソコンなどの電子機器が主流になった現在、対面で一生懸命に何かをしてくれるのはさらに重みがあるように思える。めげずに真摯に向かい合う、この姿勢は我々も見習わなければならない。永瀬の努力の甲斐あり、ようやく秋川工務店の棟梁がプランの見直しを検討することに。またも永瀬は『正直』で信頼を勝ち得るこができた。桐山の壮絶な過去と想い月下は近所の明子との会話を重ねる中で、桐山の過去を知ることになる。それは14年前、川崎のマンションが新築なのに壁にヒビが入って傾いたことで問題になっていた『サンフラワー建材問題』。最後には下請けの現場責任者が自殺したのである。その自殺した人が桐山の父だったのだ。秋川工務店が欠陥住宅を建てようとすることにすごい剣幕をしていた桐山。欠陥住宅を作らされた桐谷の父親は元請けや会社から全ての責任を押し付けられ、トカゲの尻尾切りのような状態にあっていたのだった。桐山が欠陥住宅を建てようとする工務店に敏感なのも腑に落ちる。やはり桐山は不正をするような人間ではなかった。明子の家についても、すぐに売りたいという明子自身の希望から、価格を下げてより買い手が早く見つかるよう、しっかりと練られたプランだったのである。仕事をする理由って何?これまで桐山が営業成績にこだわっていたのは、ここで実績を作って会社を興し、父親のような真面目な社員が報われる職場をつくりたいという想いからだった。桐山の過去と仕事に対する姿勢を目の当たりにした永瀬は「張り合ってた俺がバカみたいじゃん」と、冗談混じりに話す。仕事をする理由は人それぞれ。桐山のように明確な目的がある人もいれば、そうでない人もいるだろう。金のために仕事をしていた永瀬だが、今は何のために働いているのか。桐山に聞かれた永瀬は答えに詰まる。彼がその答えを見つけるのはもう少し先になりそうだ。今回はかなり胸が熱くなるシーンも多く、せっかく良い相棒になれそうだった二人だが、ラストで桐山が退職願を提出するという衝撃展開。『正直不動産』は、まだまだ目が離せない![文・構成/grape編集部]
2022年05月15日Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。2022年4月スタートのテレビドラマ『インビジブル』(TBS系)の見どころを連載していきます。かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。互いに大人同士であるならば、別に心の底から信用しているわけでもないけれど、ふと目の前の人の言動に小さな嘘を見つけたときに、背中がひやりとするような、なんとも言えない感覚がある。おそらく(自分も含め)大多数の人間は、自身で思うよりも、嘘というものに強い耐性がないのだと思う。過去に目の前で相棒だった後輩を殺されて、人生が変わってしまった刑事・志村貴文(高橋一生)の前に突然現れたのは、裏社会で犯罪のコーディネートを請け負う『インビジブル』と呼ばれる女・キリコ(柴咲コウ)だった。女は犯罪の情報と引き換えに、様々な事件解決のための実働役を引き受けるよう刑事に取引を持ちかける。そんな異色のバディを描くインビジブル(TBS系金曜22時)。4話では、いよいよ志村の過去の事件と現在のキリコの思惑が交錯する。今回、志村の後輩・安野(平埜生成)を殺した犯人と同じ特殊なナイフを持つ通り魔が現れ、同時期に窃盗団による名画の盗難が相次ぐ。無関係に見える二つの事件は繋がっていると教えられ、志村はキリコに連れられて闇オークションの会場に赴く。セレブリティに全く無縁な無骨者の志村が、キリコ相手に高価なタキシードをまとい、ぎこちなくマナーに悪戦苦闘する様子はロマンチックに、そしてユーモアに溢れていた。警察の作戦開始までの時間稼ぎの為に50億円を超えるオークションにおろおろしながら入札しつづける志村を、最後にキリコは「はい、おしまい。よく、できました」と囁いて制止する。志村の目をのぞき込みながらねぎらう艶のある声に、画面越しにでもぞくっとした。善悪の境界線を越えて、ごく自然に他者を『褒める』立場の人間であり、褒めるその行為一つで、相手に報われたような幸福感をもたらすことができると知らしめる。それがカリスマというものの一つの発現であるなら、柴咲コウという独特の神秘性をまとった俳優の、真骨頂のシーンだと思った。更に毎回工夫を凝らしてある、銃を持たない刑事・志村のバックヤードのアクションも、今回もまたジャケットプレイあり、皿投げありで楽しく見応えがある。この高揚感は、往年のジャッキー・チェンに代表される香港アクション映画の面白さだと思う。おそらく物語のトーンが暗くなるであろう後半でも是非継続して見てみたい。だが、絵画の盗難事件も無事終結、本来の目的の相手は逃したもののキリコと志村の信頼は更に深まったように見え、今回は楽しかったなと思っていた矢先、ラストの3分でストーリーは一気に暗転する。3年前、志村の後輩を殺害したと見られる通り魔殺人の容疑者が取り調べに応じ始め、3年前の殺人の依頼者がインビジブル、つまりキリコであると自供するのである。説明しろと、不信に揺れながら声を押し殺す志村と、ただ黙って見つめ返すキリコの場面で今回は終わる。信頼が揺らぎ、崩れようとする瞬間にこそ、これは信頼だったのだと改めて気づく。特殊なナイフを使う通り魔、キリコが手にした米国の犯罪者のリスト、記者である安野の妹の東子(大野いと)が撮影して手元に持つキリコの写真。キリコという人物の善悪自体とともに、果たして彼女は『本当に』インビジブルであるのか、そうだとして単独の存在であるのか、謎は広がっていくばかりだ。点と点を繋いでいる粗い編み目のようなそれは、果たしてこの先、志村貴文を絡め取る罠に変わるのか、あるいは落下をすくいとるセーフティーネットたりうるのか、まだ見えてこない。その編み目を満たすものが、信頼なのか利害なのかも。その答えは、これからである。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]かなTwitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。⇒ かなさんのコラムはこちら
2022年05月10日Twitterで人気ドラマの感想をつづり注目を集める、まっち棒(@ma_dr__817125)さんのドラマコラム。2022年4月スタートのテレビドラマ『持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜』(TBS系)の見どころや考察を連載していきます。大切な時間は奪われたくないものだ。「自分の時間は自分に使いたい…」と、一人で生きる選択をする人がいる中で、誰かと一緒に住むことを選ぶ人もいる。限られた時間を、誰の、何のために使いたいのか考えたことはあるだろうか。杏花(上野樹里)と林太郎(松重豊)による父と娘の婚活奮闘記。第3話では、杏花と晴太(田中圭)、颯(磯村勇斗)の三角関係も動き出す。颯の気遣いが気になる杏花晴太がとある女性・高見沢安奈(瀧内公美)と親しげに話しながら晴太の自宅を訪れているところを偶然目撃してしまった杏花は朝の支度もいつも通りにはいかない。その女性は晴太の元妻なのだが、杏花には冷静に考えてみる余裕はなかった。そんな杏花を心配に思う林太郎だったが、街中で颯に偶然出会う。杏花の好きな人が颯だと勘違いした林太郎は、颯の家が漏水で大変だと聞き、颯を自宅に住まわせることをひらめくのだった。はじめは反対だった杏花も、ズボラ故に手の届かなかったキッチンや冷蔵庫の整理もしてくれるし、朝起きたら美味しい料理がある生活も悪くないと思い始める。寝ても起きても快適な生活はむしろご褒美でしかない。しかし杏花は颯のその気遣いが気になっていた。焦げも食べるし、勧められたからと嫌いな梅干しも食べる。寝坊しても嫌な顔しない。総じて仏のような颯の優しさや笑顔が、杏花にはかえって辛く見えていたのだ。颯の貴重な時間を奪いながら、自分達だけが得している、そう思ったのだろう。「いつも笑ってなくても、好き嫌いがあっても、颯のこと嫌いになったりしないから」そういって、気をつかう必要はないことも、いい奴だってことも真っ直ぐ伝えてくれる杏花を、颯は強く抱きしめる。つい「惚れてまうやろ…!」と言いたくなるほど、杏花の芯の優しさが見えた場面だった。両片想い状態なのに、先に進めない杏花と晴太一方の晴太は、林太郎から杏花に想い人がいることを聞かされ、杏花は晴太に彼女がいると誤解したまま聞き出せずにいた。ほぼ両片想い状態なのに、暫く恋愛から遠ざかっていた二人には聞く勇気が出ない。その間にあるのは颯の存在だ。颯が杏花の家に同居していると知った晴太は負けじと、息子の虹朗(鈴木楽)と共に颯の引っ越しを手伝うことに。杏花の知らぬところで恋のバトルが勃発していた。杏花と二人きりになった晴太は、元妻や自分について話す。「口だけ優しい夫はいらない」と愛想尽かされて出ていかれ、シングルファーザーとなった晴太。それからというもの、虹朗の幸せを最優先にしてきたのだ。シングルの婚活は難しいとされる理由もここにある。大切な子どもが、婚活の場では『お荷物扱い』される現実。自分の人生の時間も体力も、子どもに費やすだけの生活。それでも自分の幸せを考えたときにその狭間で葛藤し、どんどん時間だけ過ぎていく。晴太は虹朗の幸せを考えてやれていない自分を責めていた。そんな晴太に杏花が伝えたのは、虹朗を『幸せそうな子』だと感じたことだった。お昼を蕎麦にしようとしたとき、虹朗は蕎麦を嫌いと言った。普通ならわがままな子という印象が先にきてしまうが、杏花は嫌いなものをちゃんと嫌いと言えたことを見ていたのだ。嫌いと言うことは、好きなものを好きと主張するよりはるか難しいことだ。確かにその人なりの優しさで、周りを気遣って言わない選択だってある。しかし、嫌いなものを嫌いと言える環境がちゃんとあるということが、幸せを表す一つの指標にもなる。相手との信頼関係がある環境では、自分の時間を相手に奪われることになっても、同時に別の大切な何かを相手からもらっている実感が湧いてくるものだ。時間を奪うことは、信用も目に見えない優しさも奪う行為だ。しかし、晴太も確かに心がふわっとする瞬間を感じていた。晴太と虹朗は親子との幸せな時間をしっかり過ごせているのである。林太郎と明里の恋の行方は…一方の林太郎は、明里(井川遥)から今から会えないかと言われ、林太郎はそのぎっくり腰のまま急いで明里のもとへ向かう。「会いたい」という言葉は即効薬だ。明里は、お見合いで年内結婚を視野に真剣交際に進もうと言われた男性から、家で飼っている猫を手放さない限り、結婚できないと告げられていた。初めは、林太郎は「そうですか…」しか言わなかった。お見合いで大事な聞き上手になるための相槌『さしすせそ』。しかし、林太郎は、自分の言葉で、明里に向き合おうとしていく。日本語学者として、様々な言葉の変化、時代の変化にも敏感に触れてきた。林太郎なりに、明里の大切な家族と明里の一番の幸せを考えていたのだ。「大事なのは心に誰が住んでるかということなんじゃないでしょうか。家族も一緒に住まわせてくれる方と結婚することをお勧めします」明里は誰かに、止めて欲しかった。簡単に大事な家族を手放せと言われたにもかかわらず、手放すことなんてできないはずなのに、焦って、答えが出せなかったのだ。思わず涙する明里に、そっと、ストールをかける林太郎。寒いわけないはずなのに、「寒くなってきたので…」と涙する明里を人目から隠す。火曜10時枠のドラマではおなじみの、『大切な人の涙を誰にも見せない』イケメンムーブである。何に対しても堅物な林太郎が自然に見せる大人な優しさに胸がときめいた瞬間だった。誰かと一緒に住むということとは沢田親子にますます惚れた第3話。誰に対してもまっすぐ向き合う素敵な杏花と不器用ながらも頑張る林太郎の恋路をこれからも見守っていきたいと思う。そして『突然始まる同居生活』などは、ただ恋愛模様を盛り上げるものとして王道な展開であるが、『じぞ恋』にはそれに留まることないテーマがある。誰かと一緒に住むということ。それは同時にお互いの時間を奪うこと。でも嫌なことだけではない。限られた自分の時間を費やしてもいいと思える相手に芽生えるものが、本当の愛情と呼ぶものなのかもしれない。持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜/TBS系で毎週火曜・夜10時~放送ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]
2022年05月09日ドラマ好きなイラストレーター、ゆう。(@yamapyou)さんによるドラマコラム。2022年4月スタートのテレビドラマ『正直不動産』(NHK)の見どころや考察を連載していきます。2022年5月3日、山下智久が主演を務めるNHKドラマ『正直不動産』の第5話が放送された。ライバル会社であるミネルヴァ不動産との全面対決に、スパイの正体発覚と、これまでと違って少し不穏な空気の漂う『正直不動産』。しかし、見ている間も不思議と安心感があるのはなぜだろう。怪しい、危ない、そんな状況下でも絶対的な安心をくれる理由は、紛れもなく主人公・永瀬にあった。5話で見えてきた山下智久演じる永瀬の魅力を紐解く。安心をくれる永瀬の魅力ピンチの時、すぐに自分より前に出てきてくれる上司がいたら、きっと心強い。場合によっては、自分だけでは対処できない時もあるだろう。永瀬はきっと、そんな時にすぐさま最前線へと出てきてくれるタイプだ。開始早々、受付嬢から店の前に不審な人物がいるとの報告を受けた永瀬。すぐさま「私が対応しましょう」と店前で怪しい行動を取る男性に声をかける。ナチュラルなトーンで「物件をお探しですか?」と切り出し、客ではないことを察すると、単刀直入に社員が怖がっていることを伝える。堂々とし、冷静に対処する様子はまさにスマートそのもの。もし何かあってもこの人なら守ってくれそう、彼のたたずまいはそんな安心感をくれた。後方から見ていた受付嬢もきっとホッとしたに違いない。不審な男は、月下を訪ねてきたということで店内へ通し、部下である月下咲良(福原遥)と対面。ここでも永瀬はしっかりと部下を守る。「咲良」と言いながら近寄ろうとする男との間にすぐさま入り「近づかないでください」と一喝。そして続けて「後輩が嫌がっています。警察呼びます」と徹底防衛。これまたイケメンすぎる対応。月下の動揺に気付く察しの良さと、即座に部下を守る姿勢は尊敬に値する。不安がる社員を守る真摯な対応に、心を掴まれた視聴者も多いのではないだろうか。これは経験を積んでいるからこそ見せる冷静さ、それに加え、山下智久が持つ、クールで淡白な印象が掛け合わされ生まれているものだと思う。頼れる男性の象徴だと言える永瀬。この何があっても動じない態度と守ってくれる姿勢が、ドラマ全体に絶対的な安心感を与えてくれていたのである。月下が父親についた「優しい嘘」第4話では、月下がメインのストーリーとなっており、彼女の優しさ溢れる数々の場面も今作の見どころとなった。悪徳不動産に無謀なローンを組まされ、両親が離婚した過去を持つ月下。不審な男の正体は当時、家族を置いて蒸発した父親だった。最初は動揺するも、月下は父親を問い詰めることもなく、「自分もずっと会いたかった」と胸の内を伝える。その後、数年来のわだかまりも解け、月下は父親のため、物件を探すことに。父親の「3LDKで広いキッチンがいい」という要望を聞いて、彼女はどこか嬉しそうな表情を見せていた。いつにも増して懸命になっていたのは、また家族3人で過ごせるのではという淡い期待があったからなのかもしれない。月下の紹介を待っている間、ミネルヴァ不動産から強引な営業を掛けられた父親はまんまと契約させられそうになる。しかし、そこは築5年でリノベーションされているという疑わしいタワーマンションだった。永瀬と月下の介入のおかげで、第三者によるホームインスペクション(建物状況調査)を受けることになったが、永瀬の読み通り、欠陥住宅だということが発覚する。改めて月下が家を探そうとするも、何か言いたそうな素振りを見せる父親。それは自身の再婚についてだった。新しい家族と住む家を娘に探させることに申し訳なさを感じていたのである。なかなか言い出せない彼に代わって永瀬がそのことを伝えると、淡い期待を抱いていただけに月下は動揺を隠せない様子。しかし、父親に私たちのことは気にせず幸せになってほしいという想いから目を潤ませながらも「(再婚のこと)知ってたよ」と告げた。これが月下がついた『優しい嘘』である。「正直」と向き合うはずのドラマが、時には相手を傷つけないための優しい嘘も必要なのだと教えてくれた瞬間だった。月下の優しい嘘に気付いた永瀬は声を掛けるも、強がる彼女を優しい目で見つめている。部下と上司の関係にすぎないが、確実に二人の間に強固な信頼関係が築かれていることを噛み締めるラストとなった。信頼でき、頼れる上司がいれば、部下もきっとたくましく成長するだろう。スパイの正体も明らかになり、ドラマに不穏な空気が立ち込める。しかし、私たちには永瀬がついている。まだ見ぬ次回も、どんな展開になろうと永瀬がいればきっと大丈夫。そんな約束をしてくれたような第5話に思えた。[文・構成/grape編集部]
2022年05月09日Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。2022年4月スタートのテレビドラマ『インビジブル』(TBS系)の見どころを連載していきます。かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。どのカテゴリにも属さないということは、軽やかではあるけれど、厳しく孤独なことでもある。何かを否定しないならそれを肯定していると解釈され、何かを肯定しないならそれを否定していると解釈されて、すぐに極端にカテゴライズされがちなこの世の中で、何にも属さないでいようとすれば、誰も敵にしないつもりが、気が付けばみんな敵ということになってしまう。性別、年齢、何もかもを軽やかに飛び越えて、金髪のショートカットで美麗な服を着こなす柴咲コウを見ていて、この人が静かに受け止めている孤独について考えた。三年前に相棒だった後輩の刑事を殺されてから、その事件を追って危険な捜査を繰り返す武骨な刑事・志村隆文(高橋一生)と、闇社会の犯罪コーディネーターとしてインビジブルと呼ばれ、畏怖されているキリコと名乗る女(柴咲コウ)の異質のバディを描く『インビジブル』(TBS系金曜22時)。3話の事件では、『演出家』と呼ばれる劇場型の殺人を繰り返す犯人を、バディ二人が追う展開になった。殺人者『演出家』を演じているのは要潤で、テンションの高いエキセントリックな犯罪者タイプなのかと思いきや、意外と重苦しく粘着質な犯罪者像で、要潤の大柄な体格とも相まって、不気味で見ごたえがあった。今回の事件で興味深く感じたのが、一度は失敗した警察の捜査に、キリコがいらだちを見せて匙を投げるところを、志村が根気よくその誠実さで説得して、キリコを再び捜査に引き戻すところである。互いに何度も不信と信頼の間を揺れながら、それぞれの仕事に対する尊重が積みあがっているのが垣間見えるシーンである。続く捜査協力の中で、キリコは外出許可を取りつけて、志村と二人、事件に使われた麻薬の販売先を追って薬の売人のもとを訪れる。極彩色の派手な服をまとい、まるでステージ上のように軽やかに歩くキリコと、黒ずくめの個性もなにもない服で落ち着かない風情で歩く志村と、その対比に思わず笑ってしまう。だが、同時にキリコの美しさに、この世には沢山の美しい女優がいるけれども、こんなにも少年のように美しいひとは他にいないと感嘆させられる。その神秘性を支えているものについて考えたときに、ふと柴咲が主演をつとめたNHK大河ドラマ『おんな城主直虎』最終回で、明智の遺児の命を守るために主人公直虎が、「自分は子を産んでいないからこそ、どの子も等しく愛おしい、だからこの子は渡せない」と語った場面を思い出す。誰のものでもないから誰もを愛せる。きらめく理想の言葉の下に、他者には見えない果てのない孤独がある。冬の夜の空気の中で星がひときわ輝くように、冴えた孤独のなかにこそ際立つ美しさもまたあると思う。柴咲コウの魅力は、そんな美しさの体現だと思っている。今作の面白さの一つに、普段はソフトな人物の役柄の印象が強い高橋一生の激しいアクションシーンがあるが、今作のアクションはかなり泥臭く、それが独特の面白さに繋がっている。違法捜査を繰り返す志村は、銃の所持が許可されておらず、それゆえに小麦粉を粉塵爆発させたり、プールに高圧電流を流したりして武装した犯罪者と戦うことになるのだが、とにかく転げまわり、うめき、文句を言い、知恵を絞って走り回る。いわゆる激しく打ち合うようなかっこいいアクションではないけれども、くせになりそうな面白さで、個人的には早くも3回目にしてお約束の楽しみになってきている。是非この先も銃の所持はなしで、愚痴を言いながら不憫に転げまわる志村貴文を見てみたいと思っている。そして、いよいよ次話から3年前の志村の後輩が殺された事件が因縁として動き出す様子である。2話でキリコの身の危険を案じた志村に、キリコは軽い調子で「あなたの前では死んだりしないから安心して」と返す。それは3年前の事件の因縁を考えた言葉であるのと同時に、誇り高い猫が自分の死に場所に思いをはせているようで、胸が痛んだ。犯罪に深く関わって生きてきた者が警察と絡むということの意味を一番理解しているのはキリコ自身だろう。その動機と去就、目が離せない展開が続く。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]かなTwitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。⇒ かなさんのコラムはこちら
2022年05月02日ドラマ好きなイラストレーター、ゆう。(@yamapyou)さんによるドラマコラム。2022年4月スタートのテレビドラマ『正直不動産』(NHK)の見どころや考察を連載していきます。ドラマも中盤に入り、山下智久演じる永瀬財地にようやく心の変化が起き始めた『正直不動産』第4話。嘘がつけなくなってしまう祟(たた)りにより、営業に苦戦していた永瀬だが、気付けばその弱点を味方につけたセールストークを披露していた。永瀬の柔軟さ、器用さに、人間はこうやって上手く自分の弱点と向き合って生きていかなければならないのだと考えさせられる。ドラマは時に、忙しい日々の中で私たちが忘れかけていた『大切なもの』を思い出させてくれるのだ。みなさんもドラマを見たあと、心がスッと軽くなったり、心機一転して恋や仕事、勉強に取り組むことができたりした経験はないだろうか。それは作り手が意図して作品に盛り込んだ『伝えたいこと』が、物語を通して無意識に自分の中に落とし込まれているからである。勇気を出してプロポーズをする、仕事で失敗しても諦めない、友情を大切にする、おそらくどんな作品にも伝えたい想い、もしくは教訓に近いものがきっとある。一見、コメディ色強めのお仕事ドラマだと思われている『正直不動産』だが、物語は実に視聴者に伝えたい『想い』で溢れている。この『想い』に気付いた時、私たちは今よりもっと正直不動産を好きになるに違いない。今日はそんな正直不動産という作品に込められた『想い』について考えた。捉え方は人それぞれ。『いい部屋の定義』とは第4話では、ライバル会社であるミネルヴァ不動産と競う形で、中古マンションの空き部屋を販売することになった。キーワードとなったのは『事故物件』。事故物件と聞くと、なんだか気味が悪いなと思ってしまうのは当然だろう。劇中に出てきた夫婦も中古マンションが事故物件だったと聞くと顔色を変えてキャンセルに訪れていた。そんな中、来店したのは事故物件に住みたがる奇妙なおばあさん・節子(風吹ジュン)である。彼女は事故物件に住めば、亡くなった夫が幽霊として出てきてくれるのではないかと考えていた。誰かにとっては悪い物件でも誰かにとっては良い物件の場合もある。『良い部屋の定義』とは人それぞれ異なるということだ。「物は考えよう」という言葉があるが、これは、物事は捉えかた次第で楽しく生きることができるという教えなのだと思う。中古マンションを購入した夫婦も、当初は駅から遠いのが通勤に不便だと嘆いていたが最終的に「駅からちょっと歩くけど、運動だと思えばいいか」とポジティブに捉えていた。おそらく『正直』を味方につけた永瀬もそうだ。嘘がつけないことをいつまでも悲観するのではなく、上手く利用してやろうという考えに転換することができた。中古マンション、事故物件、正直、それぞれを上手く描きながら、その裏側には壮大なテーマが隠れていたことに気付いていただけただろうか。これがドラマを見た後、視聴者を優しい気持ちにさせてくれる、作り手が仕込んだトリックなのである。初めての充足感、正直と向き合う永瀬正直を味方につけたことで永瀬が今回勝ち得たのは初めての『充足感』だった。嘘ではなく正直に向き合うことでお客にも喜んでもらうことができ、契約を取ることで会社にも貢献することができた。ここでも山下智久の表情で魅せる演技が光る。今まで味わったことのない感情が込み上げてくるその表情は、不思議な感覚であることを伺わせた。でもすぐに気付く、「自分は嬉しいんだ」と。「もしかしたら、嘘をつかなくても成績を残せるのかもしれない。正直でもやっていけるのかもしれない」正直不動産ーより引用どこか遠くを見つめるその瞳は希望で満ち溢れていた。山下智久の表情が見せるラストに温かさを感じたのは間違いない。心がほっこりするというのはこういうことだろう。こんなに作り手の想いと、キャストの演技がマッチし、優しい雰囲気を作り出せるドラマは珍しい。令和という時代で素敵な作品に出会えたことに感謝している。正直と向き合う、新しいフェーズに突入した永瀬を最後まで見守っていきたい。[文・構成/grape編集部]
2022年05月01日Twitterで人気ドラマの感想をつづり注目を集める、まっち棒(@ma_dr__817125)さんのドラマコラム。2022年4月スタートのテレビドラマ『持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜』(TBS系)の見どころや考察を連載していきます。「ご縁がありませんでした」「相性が良い」「友達以上、恋人未満」…これらの言葉には、『嘘』が隠れている。婚活パーティー後、父と娘に届いた正反対のメール父と娘のダブル婚活がスタートした沢田杏花(上野樹里)と父・林太郎(松重豊)だったが、婚活パーティーに参加した後日、メールが届く。林太郎には「もう一度会いたいという女性がいる」との報告があったものの、杏花には「ご縁は今回、残念ながら…」という断り文句だった。この「ご縁がありませんでした」というのは、私たちもよく目にする言葉である。これが日本語らしい婉曲表現として用いられていたとしても、相手を傷つけない優しい嘘だとしても、つい「初めから縁なんてないんだから…」と傷ついてしまいがちだ。杏花も、婚活自体乗り気ではなかったものの、自分の縁とは結局何なのか、考えてしまった様子だ。そんな杏花に構わず、ノリノリな林太郎は「二人で入会しよう」と言い出し、杏花も渋々入会するはめに。寂しさを埋めるために別の男性と会うも?訪れた結婚相談所で、杏花は『友達』の晴太(田中圭)と再会する。そこで、幼馴染の不破颯(磯村勇斗)から、「連絡先を教えてほしい」と聞かれたことを伝えられた杏花は、結婚カウンセラーとして紹介されているように感じ、複雑に思うのだった。杏花は既に晴太に心惹かれていたのだ。友達以上、恋人未満を意味する『サム』な関係…。寂しい思いをした杏花は『お見合いAI』でマッチングした、趣味が合うという男性・瀬川(じろう)とお見合いすることに…。現代の最新の婚活は、AIでのマッチングも主流になってきており、その約83%が成功しているそう。瀬川と杏花も、旅行が好き、和菓子が好き…。林太郎に会いたいと訪れた女性との間でも、読書という共通の趣味があった。しかし二人は、相手との会話の中で少しずつズレを感じていく。杏花は一人で旅行をすることが好きで、和菓子が好きというのも、あん団子とみたらし団子で食い違い、読書が好きというのも、林太郎の読書のレベルが高すぎて…。趣味が合うというだけで、相性が良いということにはならないのである。長年連れ添ってきた夫婦が突然離婚してしまう理由にも、ほんの小さなズレが積み重なって、本当は…というのもよく聞く話だ。父と娘の価値観のズレ結局マッチングは上手くいかず、自分のことでキャパーオーバーだと退会を決めた杏花だったが、林太郎にそのことがバレてしまう。ただ娘に幸せになって欲しいと願う父に対し、『好きな人と結婚する=幸せ』とは考えられない娘。林太郎は、自分がそうだったからという理論を押し付けているし、杏花もつい意地になって反論してしまっている。しかし、どうでもいいことで喧嘩になってしまう二人には良い時間だと思う。傾き始めた太陽の淡い光が差すリビングで、『結婚=幸せ』かどうかを真正面から話し合い、互いの価値観をぶつけ合う時間というのも必要なのだ。そんな、ただぶつかり合うだけだった二人は、結婚、そしてこれからの人生に真剣に向き合おうとしたからこそ繋がれた人達の価値観を知り、お互いを認め合えるようになっていく。婚活パーティーで職業を偽っていた女性・明里林太郎は婚活パーティーで気になっていた日向明里(井川遥)と再会する。明里はあの場では司書と嘘をついていたが、本当の職業は医者であった。医者ならば求められる存在だと思われがちであるが、この年まで結婚していないのは何故かというバイアスがかかってしまうものだ。明里は、学歴、年収、職業…相手の持ち物に期待せず、好きという気持ちだけで結婚がしたい。必要な時期に、必要な出会いがあるって奇跡を信じてみたい。そんな思いで嘘という努力をしていたのだ。林太郎は、結婚が当たり前ではない時代にもある奇跡を信じる思いに触れた。ハッとさせられる晴太の言葉杏花も相性が良いとは何なのかを考えていた。晴太と意気投合したのはお互いに結婚願望がないことだった。だが、杏花が好きなにんじんも、団子も晴太は嫌いなのだ。生活の部分でも考え方ももっと違うことがあるとするならば、相性は良くないともいえてしまう。しかし、本当は趣味や価値観の違いとは関係なく、惹かれるものであり、それと結婚は違うものなのだ。相性が良いというのは、価値観が合うということではない。「そういう違いも認めて、ちょっと諦めて、受け入れられるのが夫婦で親子で家族なんかじゃないかって」晴太の言葉にハッとさせられる。お互いの欠点を助けていきたいと思える人との出会いがご縁であり、相手の好きなものも嫌いなものも認め、そして時に優しい嘘をつきながら、生きていく…これが本当の相性が良いということなのではないだろうか。言葉の裏に隠された『優しい嘘』お互いの好きも嫌いも知ろうとする二人から感じられるのは、友達以上な恋人未満の『サム』な関係だ。友達になるには嘘になるほどはみ出した友愛と、恋人になるには嘘にはなるほど、心もとない恋心が成立させる、曖昧で幸福な関係。まだ友達だからと自分に嘘をつきながら、密かに惹かれあう二人。これも、相手や、自分を傷つけないための優しい嘘なのだ。「ご縁がありませんでした」「相性が良い」「サム」…ここには確かに『優しい嘘』が隠れている。第二話で、杏花を取り巻く関係も進展した。颯は杏花のヨガ教室に入会し、積極的にアプローチをするなど強気だ。そんな中、迎えるラストで杏花が目にしたのは、女性と待ち合わせする晴太だった…!ますます加速する親子の恋愛模様、そして杏花、晴太、颯の三角関係にも注目だ。持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜/TBS系で毎週火曜・夜10時~放送ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]
2022年05月01日Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。2022年4月スタートのテレビドラマ『インビジブル』(TBS系)の見どころを連載していきます。かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。『その人』に望む魅力とは何だろうと考える。洋菓子店に行くなら上質な甘味を。天ぷらの専門店に行くなら、からりと揚がった極上のエビやサクサクのかき揚げを私たちはごく当たり前に求めている。高橋一生という役者に私たちが求めているものはなにか。この変幻自在の俳優には、一見でそれと分かるような看板はかけられない。まるでどの国の料理がベースなのか想像もつかないが、何を頼んでも極上の一皿が現れる、路地裏にそっと開いた無国籍料理のレストランのようだ。だが一言で言い表せなくても、例えばそこに漂うスパイスの香り、シナモンであったりジンジャーであったり、高橋一生らしいと私たちが唸る何かの共通項、複雑な香りは確かにある。それは何だろうとこのドラマを見ながら考えていた。犯人逮捕の為なら違法な捜査も厭(いと)わない武闘派の刑事・志村貴文(高橋一生)と、インビジブルと呼ばれる闇社会の犯罪コーディネーター・キリコ(柴咲コウ)が、バディとなって見えざる犯罪者をあぶり出す『インビジブル』(TBS系金曜日22時)。2話では、少しずつ互いの信頼関係が強まる様子が描かれていた。今回の犯罪者は『調教師』と呼ばれる人物で、非行や家庭環境から行き場を無くした若者を取り込んで犯罪に追い込んだ上に、警察の捜査が及ぼうとすれば即座に殺して証拠を隠滅してしまう。キリコから情報を得て、志村が捜査に奔走するものの、志村自身の認識の甘さやタイミングのずれで、『調教師』に取り込まれた二人の若者を犠牲にしてしまう。このドラマで、高橋一生はこれまでにない激しいアクションシーンをいくつも演じているが、これまで捜査過程で問題ばかり起こしてきた志村は銃を持つことを許されていないという設定で、アクションは主に何かを振り回したり、椅子や家具で防御することがメインになっている。2話では武器として台所のフライパンを勢いよく振り回し、小麦粉で粉塵爆発を引き起こしてネイルガン(釘打ち銃)に対抗しており、常にアクションはキレまくってるが、同時にほんのりと可笑しみが漂っている。更に志村本人は常に眉間にしわを寄せ、一言一言の声音は荒んでいるけれども、どこか本来の甘さや生真面目さを隠しきれない瞬間があって、見ていてつい頬が緩んでしまう。そして今回の白眉は、やはり『調教師』の犯行を止められない上に志村との間に信頼関係が得られないことに落胆しつつ、紅茶を飲もうとするキリコを制して「調教師は必ず捕まえる。だからお前も力を貸せ」と目を見ながら語りかけるシーンだろう。キリコがカップを持とうとする手をそっと制する仕草に、「ああ、高橋一生の演技だな、それっぽいな」と思う。敵のように振る舞いながら幼なじみの領主を守る選択(NHKの大河ドラマ『おんな城主直虎』)も、レモンを搾ることに無造作になれない青年(TBS系のドラマ『カルテット』)も、面倒くさがりつつ怪異から編集者を守る漫画家(NHKのドラマ『岸辺露伴は動かない』)も、連続殺人犯に見せながら必死に着地点を探り続ける青年実業家(TBS系のドラマ『天国と地獄〜サイコな2人〜』)も、セクシュアルマイノリティとして人生を妥協せずに生きる青年(NHKの『恋せぬふたり』)も…。高橋一生の演技の魅力は『柔らかなその本音を包み隠す、面倒くささとの答え合わせ』にあると思う。複雑で分かりにくい分、更に目をこらして魅力的に見える。いったん捕らわれれば、その底深い魅力、本当に罪深いと思う。そして今回、インビジブルのキリコは、自らの偽名を中国人の名前で『聶小倩(シッ・シウシン)』と名乗っている。これは中国の古典短編集『聊斎志異(りょうさいしい)』に出てくる幽霊の女であり、悪い妖怪に捕らわれ、人の魂を吸い取る悪事に無理矢理荷担させられている悲しくも美しい幽霊である。幽霊の女は物語の中で、実直な男の真心と苦闘によって最後には解放される。『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』として映画化されたこの短い文芸作品は、『聊斎志異』の本編と映画で実はラストシーンが違う。もしもキリコ自身が選んで名乗っているこの偽名にインビジブル、つまりゴーストという意味以上の何かが込められているのなら、彼女はどんな道を選びたいのか、その道に志村貴文はどう絡んでいるのか。そんなことを感慨深く思う2話だった。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]かなTwitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。⇒ かなさんのコラムはこちら
2022年04月26日Twitterで人気ドラマの感想をつづり注目を集める、まっち棒(@ma_dr__817125)さんのドラマコラム。2022年4月スタートのテレビドラマ『持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜』(TBS系)の見どころや考察を連載していきます。『持続可能な開発目標』通称、SDGs。昨今誰もがよく耳しているであろう、より良い社会と地球のために掲げられた世界的な目標だ。この世の中、一瞬の煌めきではなく、将来に向け持続した取り組みが求められる。そんな『持続可能』を文字った、オリジナルラブストーリーが始まった。TBSの火曜新ドラマ『持続可能な恋ですか?〜父と娘の恋愛行進曲〜』は妻に先立たれた父と娘が持続可能な愛のカタチを見つけていく物語だ。建前上の『穏やかな暮らし』ヨガインストラクターとして働く沢田杏花(上野樹里)は、母・陽子(八木亜希子)が2年前に他界してから父・林太郎(松重豊)と共に、『心身ともに穏やかな暮らし』を送っていた。さわやかな気持ちいい朝…なのは想像上の話で、朝からカレーの焦げくさい匂いが部屋を漂っていた。穏やかな暮らしは建前上。大雑把な性格な杏花は身の回りのことも家事も雑で部屋は物だらけ。ヨガの教えも自分が一番できていないと嘆いている。しかし杏花は仕事や目標のために力を注ぎ、頑張りすぎている結果、雑になりがちになってしまうのだ。杏花のように、全部を自分のやりたいことのために使いたいと思っていても、現代の忙しさの中で知らぬ間に仕事や目標に身を潰されていることもある。杏花は日常に発散するはけ口を作りながら上手く生きているとも言える。そんな杏花の父・林太郎は辞書の編さんをしている日本語学者である。一年中コトバのことを考え、街に出て現代っ子達のお喋りを盗み聞きするほどの日本語オタク。陽子に先立たれてからというもの、その日常生活能力は低さ故に杏花とすぐ喧嘩になってしまう。ある日、杏花は独立のためのノウハウを知りたいと起業セミナーに参加する。そこで、自分と家族に優しい働き方を見つけるために参加したと話す、東村晴太(田中圭)と意気投合し、杏花は早速お茶に誘う。両者に共通していたのは結婚願望がないということ。「無理に今結婚したくないだけ。普通に恋をして普通に優しい人を好きになりたいよ」そう思う杏花にとって、優しくて、結婚を望まない相手として晴太は好都合だった。しかも、杏花にとって当たり前だと思っていたことにちゃんと「優しい」と言ってくれるし、子供みたいに雨に濡れてはしゃぐし、誰かに料理を作ってるし、名前の由来までしっかり覚えている晴太…こんなの、ときめかずにはいられない。晴太に運命を感じた杏花は半ば強引に、「結婚を前提とせずお付き合いしていただけませんか?」と切り出す。「結婚を前提として…」という前振りこそよく聞くものだが、数回会っただけの相手に交際プレゼンするとはかなり強気な性格だ。しかも晴太が7歳の息子・虹郎(鈴木楽)を育てるシングルファーザーということも知らずに…。驚く杏花だったが、晴太の自分以外の誰かを一番に考える生き方にますます惹かれた様子だ。無駄な時間も空間も、意味のあるものに感じる…。それは杏花が感じた『なかなか巡り会えない二人』というのが結婚願望がないという点だけではなく、杏花も晴太も、お互いが自分らしくいられる場所であるという意味なのだと感じた。遺品整理の途中で見つけた衝撃のもの陽子の3回忌を終えた二人は、遺品整理の途中、辞書に挟まれた封筒の中の離婚届を見つける。ショックを受けていた林太郎だったが、その翌朝、林太郎は突然、『自分と杏花の二人で婚活をする』と宣言する!父のことが心配に思ったのか、結婚願望のない杏花も渋々婚活パーティーに参加するが、無駄話の回転寿司…。しかも運営として働く晴太と遭遇してしまうし、突然幼馴染の不破颯(磯村勇斗)に「会いたかった!」とハグされ、杏花は混乱する。初回からハグをかましてくる幼馴染は、火曜10時枠の恋愛ドラマの歴史上、三角関係のラブバトルには敗北する(通称:当て馬)という相場は決まっているが、颯がアメリカンスキンシップスタイルなら話は変わってくる。晴太との出会いそして颯との再会が杏花の恋路を揺るがしていくところにも目が離せない。手紙に記された、亡き妻の思い結婚だけが幸せのカタチではないという今の価値観からすれば、親の心配も子どもからはただの圧力だ。しかし、杏花の優しさを誰よりも感じているからこそ、踏み出した婚活。幸せになってもらいたいと願う純粋な気持ちを考えれば難しい問題であるが、林太郎は二人へ残した手紙に記された陽子の思いに触れていたのだ。「私が死んだ後まで夫でいなくていい。プロポーズをしたい人を見つけてほしい。杏花も、幸せを見つけてほしい」杏花と共に婚活に踏み出すことは、陽子の願いでもあったのだ。結婚が永遠の愛を保証するものでもないし、お互い気持ちが持続するとは限らない。しかし男女が夫婦になるという辞書の言葉ではない答えを、陽子は知っていた。「結婚してからずっと幸せだった」この物語は、多様な生き方が当たり前になった時代に、自分にとって本当の幸せとは何か、そして誰かを愛することを通して、辞書の言葉だけではない、自分なりの答えを見つけていく父と娘の奮闘記なのだ。彼らが辿り着く持続可能な未来は、どんな形をしているのだろうか。持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜/TBS系で毎週火曜・夜10時~放送ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]
2022年04月25日ドラマ好きなイラストレーター、ゆう。(@yamapyou)さんによるドラマコラム。2022年4月スタートのテレビドラマ『正直不動産』(NHK)の見どころや考察を連載していきます。今、春ドラマの中でも特に注目を集めているといっても過言ではない『正直不動産』。スカッとする展開と、テンポの良い会話劇はCMなしの45分間もあっという間に感じさせるパワーを持つ。第3話は新人・月下(福原遥)の過去が明らかになり、主人公・永瀬財地(山下智久)との信頼関係がより深まった重要な回となった。また、山下智久という素晴らしい俳優が持ち合わせるクールでドライな顔と優しくソフトな顔の二面性が、このドラマにさらなる深みを与えていることを確信した回でもあった。山下智久といえば、『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』(フジテレビ系)などが有名だが、クールで感情表現が少ない役の印象が強い。当ドラマの主人公・永瀬財地も同様に、クールでスマートな不動産営業マンである。喜びや怒りが全面に出ないシンプルな役柄だからこそ、一つひとつの仕草やちょっとした表情に心情の変化が宿る。これはとても難しい役柄に違いないが、山下智久はそんな役をも器用にこなして見せる。『正直不動産』では特に皮肉めいた毒舌が視聴者の笑いを誘うのだが、そんな毒舌キャラに時折見せる厳しくも頼れる上司の顔、お客様を想う優しい表情が掛け合わさることで素晴らしい相乗効果を発揮する。これが山下智久が演じてこそ生まれた『正直不動産』の強みだと思う。毒舌なのに愛おしい、永瀬の本音が与える魅力とある謎の祠(ほこら)を破壊してしまったことで嘘がつけなくなる祟(たた)りに遭ってしまった永瀬は、商談中だろうと契約が吹っ飛んでしまうようなデメリットや本心が口から溢れ出てしまう。しかも丁寧な接客とは一変、心の声はいつも毒舌である。第3話では夫の退職金で商店街に駄菓子店を開こうとする夫婦が登場。しかし、希望あふれる二人に永瀬の水を差す一言が…。「甘い。甘すぎます。駄菓子屋で買った水あめに練乳かけたくらい甘すぎます。そんな年寄りのノスタルジーだけでお店の経営ができると思ってるんですか?」正直不動産ーより引用どストレートすぎる…!確かに駄菓子店は客単価も低い。今の時代、「都会で経営は厳しいのでは…」と誰しもが思うだろうが、客となればはっきりと言えないことの方が多い。それを何のオブラートにも包まず、放ってしまうのが当ドラマの見どころでもある。客だろうと上司だろうと、この祟りは止まらない。永瀬の恋愛事情に切り込むシーンでは、彼女は作らないという永瀬に月下が「そうなんですか?えっ、でも永瀬先輩、めっちゃモテそうなのに」と上手にヨイショする。いつもなら謙虚にかわすはずの永瀬だが、ここでも祟りの力が発揮されてしまう。「いや、そんな全然もうモテ…て、モテてしょうがねえわ。誰に向かって言ってんだ、おい」正直不動産ーより引用おっしゃる通りだ。誰もが認める国宝級イケメンにこんなことまで言わせてしまうのだから、このドラマは素晴らしい。毒舌なのに何だかとても愛おしく、嫌味に聞こえないトーンもまた山下智久の魅力である。このような随所にあふれるコミカルなシーンに、気付けば誰しもが魅了されているのだった。信頼できる部下の存在、永瀬の心の変化嘘がつけていた頃は金を稼ぐことにしか興味がなかった永瀬だが、カスタマーファーストにこだわる新人の月下と接することで、少しずつ心境に変化が起こっていた。先述した商店街に駄菓子店を開きたい夫婦だが、月下は商店街を活性化させるためにも良い案だと前向きに捉えていた。彼女は駄菓子店を子供が気軽に通えて、仕事で家にいない親たちが安心できる場所にしたいと語る。そんな月下とは対照に市原隼人演じる桐山は、荻窪の喫茶店を契約後、上司に、もし店が潰れてもすぐに次の借主を見つけ、これを続ければ仲介手数料を延々と稼げると話していた。両者の話を聞いていた永瀬はなんだか腑に落ちない表情を浮かべる。そこに言葉はなかったが「不動産を売る」という意義を自らに問いかけているようにも見えた。契約時の利益だけを目的に、後先を考えていない営業は果たして善と言えるのか。これまで部下の指導でも、どこか億劫な一面が見られた永瀬だが、最後に月下に投げかけた言葉は視聴者の心をグッと掴んだ。「今度は一人で行ってきな」正直不動産ーより引用これはカスタマーファーストで見事に気難しいオーナーの心を掴んだ月下へ送る、永瀬なりの愛情表現である。トゲのある言葉から一変、柔らかく優しい演技で第3話のラストを包み込んでくれた山下智久の演技に私たちがどっぷりとハマっているのはこれで明らかとなった。信頼できるパートナー・月下と共に奮闘する姿をこれからも見守っていきたい。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]
2022年04月25日Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。2022年4月スタートのテレビドラマ『インビジブル』(TBS系)の見どころを連載していきます。かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。『きれいはきたない、きたないはきれい。飛んでいこうよ、霧と汚れた空の中』。シェイクスピアのマクベス。三人の魔女が主人公のマクベスに語りかける、あまりにも有名なこの一節。TBS系で放送される金曜22時、重めのサスペンスに定評のあるこの枠で、新しく始まったドラマ『インビジブル』(主演・高橋一生)を見ながら上記の一節を思い浮かべていた。優秀な刑事が、同僚の事故や殉職を契機にアウトローに変貌して、法を無視した捜査を始める。周囲はそれをもてあます。これは『あるある』。そこに風変わりな(往々にして主人公の刑事とは性格が逆の)パートナーが現れる。どうやら主人公の過去の事件とも因縁がありそうだ。二人はいくつかの現在進行形の事件を解決しながら、過去の事件が動き出す。これも『あるある』。今作が違うのは、現れたパートナーが裏社会の周辺いやど真ん中、闇サイト等を通じて犯罪者を連携させ支援する『犯罪コーディネーター』という謎の存在であること。そしてインビジブルと称されるその犯罪コーディネーターは、年齢も来歴も一切不明で、中性的な容姿の女性であるということ。違法な捜査に微塵も躊躇のない暴力上等の刑事・志村貴文は、高橋一生。これまでインテリやソフトな役の印象が強いが、今回は荒んだ刑事の役にうまくハマっている。そしてインビジブルと称される犯罪コーディネーター・キリコには、柴咲コウ。性別も年齢も善悪も超えた謎めいた存在を体現するのに、これ以上の配役はないと思う。そしてこの二人といえば、やはりNHK大河ドラマ『おんな城主直虎』(2017年)での共演を抜きには語れないだろう。強大な外敵に翻弄されながらも小さな領地と領民を知略で守り抜いた女領主と、月の光のように命をかけて彼女を支えた家老と。柴咲コウ演じる直虎が、高橋一生演じる小野政次を槍で突き刺して殺す場面は、名作揃いの大河ドラマの中でも屈指の名場面たり得ると思っている。その二人が再びバディとして共演する。柴咲コウが演じる奔放な女に、高橋一生演じる面倒くさい男が翻弄される。もう一度そんな二人が見られる。その一点だけでも、週末の夜の時間をこのチャンネルに捧げる価値があるというものである。ドラマの魅力を詰め込む『名刺』とも言うべき初回は、志村をめぐる警察の人間関係を整理して見せつつ、都心で起きた爆発事件とボランティア団体の寄付金詐欺をめぐる顛末(てんまつ)をテンポ良く描いていた。それまで見えていた善と悪が一瞬の種明かしでオセロのように入れ替わる驚きは、他のサスペンスにはないスリルだと思う。記憶に残るサスペンスドラマは、テンポの速さや、二番底のような衝撃、らせん状の謎の開示といったその作品独特の味わいがあるもので、今作のそれは転々と転がる善悪の価値観になるのかもしれない。キリコの助言と志村の奔走で事件は解決するが、善だと思っていたものが底深い悪で、かといって悪に見えていたものも決して潔白ではない。しかし、なんともいえない後味の苦さが、今、最前線で求められているエンタテインメントなのだと思う。今作は万人受けする勧善懲悪のシンプルな味わいよりも、複雑な後味をじっくり噛みしめたい人のためのドラマになるだろう。是非安易にわかりやすい結末よりも、見た後しばらく考え込んでしまうような、自らの善悪の境界線がぐらつくようなドラマを見せてほしいと思っている。今作のように、犯罪者がその知識を供与して主人公が捜査を行うフィクションの傑作といえばアメリカのスリラー映画『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクターが思い浮かぶ。ハンニバル・レクターは人の肉を食らうが、『インビジブル』のキリコはその神秘的な魅力で見る者の魂を食う。美しく謎めいた魔女、キリコに手招きされて、私たちも主人公の志村貴文の目線で『きれい』と『きたない』の混じり合う、霧の空へと飛び立つのである。ドラマコラムの一覧はこちら[文・構成/grape編集部]かなTwitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。⇒ かなさんのコラムはこちら
2022年04月19日ドラマ好きなイラストレーター、ゆう。(@yamapyou)さんによるドラマコラム。2022年4月スタートのテレビドラマ『正直不動産』(NHK)の見どころや考察を連載していきます。4月に入り、真新しいスーツに身を包んだ新入社員が入ってきた会社も多いことだろう。今回の正直不動産ではそんな新人にありがちな出来事が面白く折り込まれていた。特に販売や営業職についた新人とその教育担当者は共感ができるのではないだろうか。やる気に満ちた新人たちは、お客様のためを思い、時間を惜しみなく使って誰よりも丁寧な接客を心がけようとする。なぜならそれは「お客様のため」だから。では会社にとってはどうなのか?単価や利益はそれぞれ異なるが、1つのものを売るのにどれだけの時間をかけてもいいのか売る前に是非一度、考えてみてほしい。本作でも同様、キラキラと目を輝かせ「カスタマーファースト(顧客第一主義)」という言葉を大切にしながら仕事をする新人・月下咲良(福原遥)が登場する。そんな彼女に、営業マンのなんたるかを嘘偽りなく(正しくは嘘をつけない)教える主人公・永瀬財地(山下智久)の言葉を紹介しよう。客から見たら100点だけど会社から見たら0点な接客新人・月下咲良は客が納得するまで何件も内見を回る。それは客から見たら100点だが、会社から見たら0点なのである。0点という言葉にショックを受けつつも、それの何が悪いのかと食い下がる月下に、財地はこう語る。「良い営業は、いかに少ない内見回数で多くの契約を取るかを考えるの」正直不動産ーより引用その方が断然効率がいい。限られた時間で他人より契約を取ろうとするならば効率はやはり重視していかなければならない。営業成績で一位を目指すなら尚更だ。ドラマでは、不動産屋の基本給は10万ちょっと。売ってこそ、インセンティブが付くが売れなければフリーターよりも稼げないという恐ろしい給料体制である。しかし、月下にこの言葉はさほど刺さっていないようだった。むしろ「自分が胸を張ってその部屋に住みたいって思えるような部屋をお客さんに紹介したいです」と反論。自分の利益よりカスタマーファーストにこだわる月下に、少しだけ財地の表情が変わった。月下のこだわりは新人にありがちで、会社の利益を考えず丁寧に時間をかけて商品を売ってしまうのである。財地の教える『効率』を上手く取り入れることでより素晴らしいビジネスマンになっていくのだろう。同様に効率を重視しすぎて主人公が忘れかけていた大切な考えこそが『カスタマーファースト』なのかもしれない。説教したはずの財地だったが、客と真摯にぶつかる月下の姿から改めて気付かされることも多いはず。今後もこの二人が互いに成長していく姿が楽しみである。ドラマで学ぶ営業テクニック新人・月下咲良が賃貸契約に手こずる中、同じ物件をスマートに契約した桐山貴久(市原隼人)。彼は永瀬と首位を争うトップ営業マンの一人である。彼の接客からは、目から鱗の営業テクニックが学べる。まず一つは、予算12万のお客に対して、「少しオーバーしますが13万円の物件があります」と紹介するのと、「ここの相場は15万円ですが13万円の物件があります」と紹介するのでは、後者の方が安く感じるという仕掛け。これは心理学のアンカー効果という手法だ。アンカーとは初期値のことで、先に掲示された金額が比較対象となり、後に出された数字に損得を感じる効果がある。セールチラシにわざわざ値引き前と値引き後の金額が書いてあるのも同様の効果を利用したものだと言える。これはほんの一部だが、ドラマ内では他にも「なるほど…」と感心させられる営業テクニックが紹介されている。そして山下智久が丁寧に解説までしてくれている。こんな親切なドラマはめったにない。ましてお堅めのビジネスドラマではなく、時折、数々の女性と関係を持つプレイボーイな山下智久や、成績不調な財地にマグロ漁船への出向をチラつかせる強面の上司などコメディ要素もたっぷりでライトに楽しむことができる。平日夜の貴重な時間だが、火曜10時はこのドラマに捧げてみてはどうだろう。きっと仕事をする上でのあなたにとっても良いヒントが見つかるはずだ。[文・構成/grape編集部]
2022年04月18日ドラマ好きなイラストレーター、ゆう。(@yamapyou)さんによるドラマコラム。2022年4月スタートのテレビドラマ『正直不動産』(NHK)の見どころや考察を連載していきます。仕事はお金のためにするのか、喜んでくれるお客様のためにするのか。気持ちの持ちようで仕事に対する姿勢は大きく変わるだろう。2022年4月5日の夜10時から始まった新ドラマ『正直不動産』。山下智久演じる主人公・永瀬財地は不動産仲介でトップの成績を誇る営業マンだが、契約を取るために息を吐くように嘘をつく。そんな彼がある日、お客様の土地にあった謎の祠(ほこら)を破壊したことで『嘘がつけなくなってしまう祟(たた)り』にあうのだ。嘘をつけないとなると契約上、客の不利になる事実まですべてを明かすことになってしまう。これでは契約が取れなくなってしまうと焦る永瀬だが、この『正直者になる』祟りは吉と出るのか凶と出るのか。普段心の中でつぶやいていた皮肉も溢れ出す主人公に職場の人間関係はどうなるのか?クスッと笑いながら楽しめるお仕事ドラマの見どころをピックアップ。3年ぶりの主演ドラマ、山下智久のコミカルな演技が光る山下智久と言えば、過去には『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』(フジテレビ系)や『プロポーズ大作戦』(フジテレビ系)など数々のヒット作を生み出してきた。そんな山下が『インハンド』(TBS系)以来、3年ぶりとなる主演を務める。いつもは感情表現の少ないクールな演技が特徴的だが、今回演じる永瀬も淡々と不動産契約を進める姿がなんともスマートでかっこいい。医師やお坊さんの役も似合うがサラリーマン役の山下智久も貴重である。そして、祟りのせいで嘘をつこうとすると心の声が口から溢れるように出てしまう難しいコミカルな演技も見事に演じて見せた。第1話冒頭から、プレイボーイな一面と共に鍛え上げられた裸体に女性とのキスシーンにはSNSでも動揺が広がり、初回の掴みとしてはなかなかのものだったと思う。10年ぶりの山﨑努との共演が熱いそして第1話でさらに話題となったのは、スペシャルゲストである、山﨑努との共演。山﨑と山下は過去に、『クロサギ』(TBS系)、『最高の人生の終り方~エンディングプランナー~』(TBS系)で共演していた。山下が「今僕が演技の仕事をできているのは努さんのおかげです」というほど、山﨑を慕っていることもあり、ドラマで再び二人の姿を見られることに目頭が熱くなるものがある。さらに印象的だったのは、ドラマ最後の、このかけあいだ。「儲からないのになんで50年も菓子作ってるのかって聞いたな。俺の菓子食うとみんな幸せそうな顔する、だから続けられた」「それは一円にもなりませんね」「でも仕事っていうのはそういうもんだ」正直不動産ーより引用契約のために嘘をついて仕事をしていた永瀬が正直になり客と向き合う。我々は何のために仕事をするのか、客を喜ばせるためではないのか、この二人の会話がこのドラマ最大のテーマなのかもしれない。タメになる!不動産知識も盛りだくさんストーリーももちろん面白い上に、サブリース契約や激安賃貸物件に潜む罠など、タメになる不動産知識が織り交ぜられたこのドラマ。サブリース契約は不動産側が相手に良い情報だけを伝え、途中解約が可能なことは伝えずに契約を結ぶ。条件が悪くなったらいつでもオーナーを見捨てることができる仕組みになっているのだ。そんな契約書の小さな注釈にも気をつけなければならない。一方で劇中で登場する激安賃貸物件の理由は、住居者に嫌がらせをして短期間で追い出すオーナーが原因だった。追い出す目的は敷金礼金。入れ替わりのたびに新しい入居者から敷金礼金を受け取ることでおいしい思いをしていたのである。私たちが物件選びをする際にも気をつけておきたい情報を得ることができるのもこのドラマの見どころだろう。これから不動産に行く機会があれば是非とも参考にしたい知識ばかりだ。「正直者」な営業マンが結果的に信頼を勝ち取る契約を進めるにあたり嘘がつけないことに焦る永瀬だったが、正直に話したことにより、包み隠さない姿が逆に客の信頼を得ることができたのだ。大きな買い物をする際、やはり信頼できる人にお任せしたいというのが人間の真理だろう。良い情報も悪い情報も正直に伝えることで結果的に信頼され契約に至ることとなった。これが本当の『契約』ではないだろうか。当初は契約することしか頭になかった永瀬は祟りを機に今後、少しずつ代わり始めるかもしれない。正直者になった永瀬の行く末、これからのストーリー展開に期待である。[文・構成/grape編集部]
2022年04月11日