「上の子は“ママに会いたい”と」無痛分娩“医療ミス”の悲痛
と安全性を強調していた。
ところが実際に千惠さんの麻酔を担当したのは、2名いるはずの麻酔医ではなく、産科の老木院長。後に判明したが、クリニックに常駐の麻酔医はいなかったのだ。
事故後、第三者の専門医も加わって作成されたクリニックの事故調査報告書の記載などを基に、事故の経緯を振り返ってみよう。
1月10日15時20分、老木院長は、硬膜外麻酔をかけるため、千惠さんを横向きに寝かせた。
硬膜外麻酔とは、腰から麻酔針を刺して、脊髄(神経)を守る硬膜の外側に麻酔薬を注入することで、無痛分娩では一般的な局所麻酔方法だ。老木院長は麻酔開始から8分間にアナペインという麻酔薬を4回に分け、注入する一方、この間に、麻酔針を刺した状態で、針の刃面を180度回転させた。
なお、千惠さんの遺族側は、院長が針の刃面を回転させたことで硬膜が傷つき、そこから通常よりも量が多く、3.75倍濃度が濃い麻酔薬がくも膜下腔に入り、脊髄が麻痺したと主張している。
15時32分に千惠さんは「少し息がしにくい」と訴えたが、この時点では、院長は脊髄が麻痺しつつあることに気づかず、酸素マスクを装着させた程度だった。だが容態は急変。