2021年4月19日 11:00
元会社員、現“幻の”シフォンケーキ店 うつを乗り越え見えた道
頻繁に鳴る着信で仕事がストップするので工房の電話も切ってしまいました」
当の哲さんは困惑気味。じつは素直に喜べない理由があるのだ。
かつてはIT企業でコンサルタント業務に従事していた哲さんは、同じ職場のかおりさんと結婚。ところが10年ほど前、仕事の無理がたたり、うつ病を発症した。外出もままならず、電車に乗ることもできなかった。会社を休職し、“人と顔を合わせない通販ビジネスをやろう”と、療養中に考えていたという。
「同じコースを歩くと常連さんができちゃうでしょ。待たせていると思うとプレッシャーになるから、気のむくまま、適当に歩いて、行商しているんです」
無理をしてまで商売をして、うつ病を再発したくはないのだ。
「(会社を辞めても)1年半は傷病手当によって給料の6割が保障されたし、退職しても半年間、失業手当が出ます。それが打ち切られるまでに、次の仕事を探そうと思っていました」
こだわりは“地べたを這いつくばる仕事”をすること。
「それまでの社内コンサルのように、人を動かす仕事よりも、実際に自分で何かを作り、直接売っていくほうが生きてる実感が得られそうで、憧れていたんです」
とはいえ、うつ病のために人と会うことができない。