2021年4月19日 11:00
元会社員、現“幻の”シフォンケーキ店 うつを乗り越え見えた道
モノを売るには、通販しか選択肢はなかった。
「通販ビジネスをする前段階としてブログを開設して、1日3回記事をアップ。ネット上の知り合いを1万人作れば、起業したときのお客さんになると思ったんです」
では、何を売ればいいのか──。そう思案しているときに、料理好きのかおりさんの母が、シフォンケーキを焼いてくれたのだった。
「しっとりもちもちして口の中もパサパサにならない。すっごくおいしくて、その場で『これを売って生きていく』と決意したんですね。最初は誰も信じなかったけど」
しばらくすると、哲さん同様、かおりさんも会社を退職。以来、約10年、地元の自営業の仲間たちのIT支援やデザインなどを行う、フリーのデザイナーとして活動するかたわら、哲さんとともに「ちゃんちき堂」を切り盛りしている。
そんな風景が、現在まで続いているのだ。
「(飼い猫の)aoとシロが、私のところへ来てヘンな格好で寝ていたんだよ」(かおりさん)
「え、オレのところには全然来てくれないのに。なんで猫派のオレより、犬派のかおりさんのところばっかり!」(哲さん)
毎朝6時から、こんなありふれた夫婦の日常の会話をしながら、シフォンケーキ作りが始まる。