2017年8月4日 11:00
「上田紬」女性伝統工芸士、家業でなく“女優”選んだ過去
帰国したカリナさんは、真っすぐに上田に向かった。かつてあれほど飛び出したかった紬工房に帰ったのである。
「愕然としました。活気がまったく失われていたんです」
仕事が減っていることは知っていた。それにしても、あれほど大勢いた職人はほとんどやめていて、薄暗い座敷には売れ残りの反物がうずたかく積まれている。さらにカリナさんの帰宅1週間後、工房を支えてきた祖父が倒れた。
「入院した祖父を見舞いながら、家に戻ろう、紬をやろうって。工房で受け継がれてきたものが、誰かが引き継がなければなくなってしまうという危機感と、それを守る責任を強く感じました」
時を同じくして、ドイツの和食店で働いていた弟・良馬さん(42)も実家に戻ってきていた。
2人で工房をもり立てていこうと話し合い、両親にそのことを伝えた。
「とにかく、できることから始めようと思いました。まずは仕事を覚えることから」
祖母の代から働いている職人の女性たちに教わることから奮闘は始まった。片っ端からメモを取り、写真を撮り、ときには動画も撮って、紬のあらゆる工程を覚えていったのである。