「山崎賢人の芝居は技巧じゃないから凄い」行定勲監督が語る新作映画『劇場』
エンタテインメントや芸術に、人は救われるんです。それを信じるしかない。
――とてもよく分かります。
それだけに、エンタテインメントや芸術と向き合って生きている人間は相当な覚悟をしなきゃいけない。なのに、それが認められなかったら、その状況は死にも値します。
そう言うと、大袈裟だと思うかもしれないけれど、ひとりの人間にとっては大袈裟なことじゃないし、永田は特に、社会からなくてもいいと思われ、いちばん最初に切り捨てられるエンタテインメントの世界の中でも最低なクズのような人間ですからね。
そんな小っぽけな人間が、己の自我で大切な人ですら救えなくなるという。そこが、この映画を観て、いちばん感じて欲しいところです。
僕はそこに、人間の根源が描かれていると思っていますから。
生々しく真実に近いラブストーリー
――そこが数多ある普通のラブストーリーと違うところですね。
普通のラブストーリーは格差社会や対立、差別がドラマの背景になることが多い。
恋人たちの悲恋が社会を浮き彫りにする構造が基本だけど、永田の場合は何もないところから自我を作り上げ、上手くいくはずだった生活に背を向け、沙希と傷つけ合ってしまう。