恋愛情報『【小説】ひと夏の恋、永遠の恋。/恋愛部長』

2019年5月24日 21:00

【小説】ひと夏の恋、永遠の恋。/恋愛部長

目次

・消せない記憶
・変わっていく彼、離れていく心
・パリでの生活
・一瞬の隙に奪われたもの
・オレンジ色の夢
・遠ざかる季節
・秋、突然の再会
・バラの花とメール
・本当に愛しているのは
遠ざかる季節


死ぬ時に、たった1人だけ思い浮かぶ顔があるとしたらそれはきっと、彼の顔だ。たったひと時だけを共にして、生涯忘れることができない、あの男の顔だ。

■消せない記憶

バージンロードを歩くとき、涙を流す花嫁が、幸せだから泣いていると思うのは早計だ。

和紗は、まるで他人事のようにそんな風に考えて、自分の足元にまといつく純白のレースをうるさげに払った。

心の中に、どうしたって、消せない顔がある。

その男を想うことは二度と許されてはいないのに、どうしてか、今朝から、彼の顔ばかり浮かぶ。日に透ける明るい茶色の髪。なで肩の少し大きめな身体。
まぶしそうに細めてこちらを見る、あの意志の強い瞳。

「カズ」、と彼は呼んだ。低い甘い声で。無骨な長い指を髪に差し入れ、信じられないくらいやさしい仕草で、頭を撫でてくれた。

思い出すのは、あの、鮮やかなオレンジ。まるで太陽をそのまま溶かして塗ったような、オレンジの屋根と、まぶしい白い壁。家々を、街路樹を圧倒するように咲き誇る、赤やピンクの花々。からりと晴れあがったあの空気と、むせかえるような甘い花の香り。


そのすべてを思い出すだけで、胸が苦しくなり、涙が零れ落ちそうになる。

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