世界的な映画監督イングマール・ベルイマンが遺した独白劇に、大竹しのぶが挑む話題作『ヴィクトリア』。ひとりの女性の悲劇的な半生が、彼女のひとり語りによって綴られていく。大竹がひとり芝居の舞台に立つのは、『売り言葉』以来21年ぶり。そして演出を手がけるのは、蜷川幸雄の演出助手時代からの仲だという藤田俊太郎。このふたりのタッグが、いかなる劇世界を生み出すことになるのか。稽古開始が直前に迫る大竹に、現在の想いを訊いた。自分とはかけ離れた、悲劇的な女性を演じる面白さ――21年ぶりのひとり芝居です。オファーがあった時の心境は?ひとり芝居というよりも、まずは戯曲に興味を持ちました。あとからこれをひとりでやるんだってことに気がついて、ちょっとびっくりしちゃったくらい。でも興味は持っちゃったし、どうしよう……みたいな(笑)。そうか、ひとりなんだってことを、今ひしひしと感じているところです。――ひとり芝居自体はお好きですか?はい。だからまたこうしてトライ出来ることがすごく嬉しいです。21年前に『売り言葉』(作演出・野田秀樹)をやった時も、すごく楽しくて。自分でイメージを作れるので、ある意味とても楽というか。相手役との呼吸ではなく、自分ひとりで呼吸を作れますからね。それはひとり芝居ならではの面白さだと思います。ただやっていくうちに、さすがに自分の声に飽きました(笑)。お客さんも誰か違う人の声を聴きたくならないかな? と不安になったくらいです。――ひとり芝居以上に興味を惹かれたのが、ベルイマンの戯曲だったとのこと。どんなところに魅力を感じられたのでしょうか?やっぱりヴィクトリアという、ひとりの女性の人生を描いているところだと思います。本当にちょっとのことで人生が狂っていくさまというのは、とても悲しいなぁと。愛されていないこととか、自分に自信が持てないこととか。ちょっと(『欲望という名の電車』の主人公の)ブランチじゃないですが、プライドが高くて、でも弱くて、きちんと愛されていなくて、どこか違う世界に行ってしまう。「現実の世界なんて存在しない」と言って逃避して、それで楽になろうとする。そういったところは、どこかブランチに似ているなと思いました。――ヴィクトリアやブランチなど、悲劇的な女性を演じる面白さはどんなところにあると思われますか?精神が崩壊していくって、実際に起きたらすごく怖いですけど、お芝居の中だと面白いんですよね。自分とはかけ離れているから。それがお芝居の面白さというか、演劇の面白さでもあって。本当に繊細な、1ミリぐらいの隙間を見つけながらお芝居していく。そのジリジリ、チリチリとした感じを劇場で味わうのが好きなんです。――観客の中にも、そういった感覚を味わうのが好きな方は多いと思います。あっ、本当ですか?良かった!実はこんな悲しいお話、誰が観たいんだろう? とも思っていて(笑)。でもそれなら大丈夫かな。もちろんこの前の『GYPSY』(編注:2023年4~5月上演。大竹さんはステージママ役で出演)のような、パーンと前向きな女性を演じるのも好きですが、ヴィクトリアやブランチのような役どころも大好き。ただ観終わったあと、お客さんは疲れそうですけどね(笑)。“ものを作る”者同士として、しっかりバトルし合いたい――演出を手がけられるのは、若手注目株の藤田俊太郎さんです。ちゃんとご一緒するのは今回が初めてですけど、蜷川(幸雄)さんの演出助手をやっていた時から藤田さんのことはずっと知っていました。いつもは俊太郎と呼んでいますが、それが今や売れっ子の、「よっ、人気演出家!」みたいな感じです。今ごろ蜷川さんも喜んでいると思いますよ。藤田さんのこと、すごく可愛がっていましたから。――これまでの演出作品をご覧になられて、藤田さん作品ならではの面白さをどんなところに感じられましたか?えー、どこだろう(笑)。でも本当に彼は真面目に、いつも作品に取り組んでいるなと思います。お稽古はこれからですが、今のところ困った顔しか浮かんでこなくて(笑)。すごく難しい戯曲ですからね。俊太郎とふたりで、必死になって困って、なんとか道を見つけていけたらと思います。――同じひとり芝居でも、『売り言葉』とはまったく違ったものになりそうですね。あれは野田さんの作演出だったので、野田さんの言葉の世界で遊ぶ作品でしたから。でも今回は、例えば「コーヒーを飲む」というシーンがあった時に、コーヒーカップをどこに置くかとか、どこに戸棚があって、どっちにバスルームがあるのか。そういう細かいことをしっかり決めておかないと、絶対にその場に生きている人にはなれないなと思っています。あとポーン、ポーンとシーンが変わっていくので、それをどう表すのか……藤田俊太郎にかかっていると思います(笑)。――稽古場で一番頼りになるのは、お互いの存在になるわけですよね。藤田さんとはぜひバトルし合いたいですね。それが“ものを作る”ということですから。私は藤田さんの演出の助けを借りて、藤田さんは私のお芝居で、本当にふたりで作り上げていかないと、この文学的でもある言葉をきちんと伝えられないだろうなと。そして演劇としてしっかりと提示出来るものにしていきたいと思っています。――本作を通し、お客様にお届けしたいこととは?「演劇ってこんなに面白いものなんだ!」と思ってもらえたらなと。劇場って、過去も現在も未來も見ることが出来る場所ですから。あとなにかひとつでも心に残る言葉があれば、劇場で生の人間が放つ言葉を受け止めてもらえたら、すごく嬉しいです。それこそ演劇でしか体験出来ないことではないかと思います。取材・文:野上瑠美子撮影:源賀津巳ヘアメイク:新井克英(e.a.t…)スタイリスト:申谷弘美(Bipost)衣裳:スカート¥39,600(DOUBLE STANDARD CLOTHING(TEL 03-5413-4141)・リング¥181,500/PRMAL(TEL 050-5361-3059)<公演情報>『ヴィクトリア』【東京公演】2023年6月24日(土)~6月30日(金)会場:スパイラルホール【西宮公演】2023年7月5日(水)~7月6日(木)会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール【京都公演】2023年7月8日(土)~7月9日(日)会場:京都芸術劇場 春秋座【豊橋公演】2023年7月11日(火)会場:穂の国とよはし芸術劇場 PLAT 主ホールアフタートークあり:東京公演6月28日(水)、西宮公演7月5日(水)、京都公演7月8日(土)、豊橋公演7月11日(火)それぞれ14時公演の終演後★2023年5月21日(日) 10:00より、チケット一般発売!
2023年05月19日巨匠イングマール・ベルイマンが暮らした島を舞台に、映画監督カップルの愛の行方を描く『ベルイマン島にて』より、カップルが島でひと夏を過ごす様子、そして主人公が書き始めた脚本の劇中劇をとらえた場面写真が解禁された。本作の舞台となるのは、スウェーデン本土の南東海岸に位置するフォーレ島。ベルイマンが魅せられた神秘的な自然や郷愁を誘う風車、そして彼が公私ともに時を過ごした家屋や傑作を生みだしたロケ地などが現存することから、いつしか映画ファンから「ベルイマン島」と呼ばれるようになったバルト海に浮かぶ島だ。この度解禁されたのは、映画監督カップルのクリス(ヴィッキー・クリープス)とトニー(ティム・ロス)が、フォーレ島で過ごす北欧での夏時間、そしてクリスが自身の初恋をモチーフに脚本を手掛けた劇中劇を切り取った場面写真8枚。ベルイマンをリスペクトするクリスとトニーにとって、彼が実際に暮らし、傑作を生みだしたこの島は文字通り“聖地”。そこを訪れるだけでなく、実際に撮影に使われた部屋に滞在して仕事できるのは、ファンにとって夢のような体験。そう、言うならばそれはまさに<聖地巡礼の最終形態>。劇中に登場する部屋(これらは実際にベルイマン監督作の撮影に使われたこともある、彼の仕事部屋である)は、どれも木をふんだんに使ったぬくもりが感じられるナチュラルかつ洗練されたインテリアで、ベルイマンファンや映画ファンはもちろんのこと、北欧インテリア好きも見逃せない。陽光に包まれる巨匠の仕事部屋に吸い寄せられるクリスを切り取ったカットは、聖域に足を踏み入れようとしているかのような神聖さも感じる。そこかしこに巨匠の息吹が宿る島での旅暮らしの中で、クリスは自身の実らなかった初恋を投影した次回作の脚本執筆に取り掛り、その構想は本篇中でエミリー(ミア・ワシコウスカ)を主人公とした劇中劇として描かれる。劇中劇を切り取ったカットには、北欧の夏の清涼感とともに、自分ではコントロールできないエミリーの恋の情熱や切なさが詰め込まれている。そのほか、海に行っても、草原を散歩しても、どこか心晴れない様子のクリスの姿がとらえられており、少しずつすれ違っていくトニーとの距離感が垣間見える。憧れの人物の存在を全身で感じる島で展開されるクリスの物語、クリスが生み出す劇中劇として紡がれるラブストーリーの行方、そして、クリスの目を通して目撃されるベルイマンの所縁の部屋や品々…。彼女が“聖地”でインスピレーションを得て創作したストーリーの先にあったものとは?カップルの行く末が気になる場面写真となっている。『ベルイマン島にて』は4月22日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国にて順次公開。(text:cinemacafe.net)■関連作品:ベルイマン島にて 2022年4月29日よりシネスイッチ銀座ほか全国にて公開© 2020 CG Cinéma - Neue Bioskop Film - Scope Pictures - Plattform Produktion - Arte France Cinéma
2022年03月09日映画『ベルイマン島にて』が、2022年4月22日(金)より公開される。監督・脚本はミア・ハンセン=ラブ。ミア・ハンセン=ラブ最新作は巨匠ベイルマンへのオマージュ映画『ベルイマン島にて』は、『あの夏の子供たち』『EDEN/エデン』といった作品を手がけ、『未来よ こんにちは』で第66回ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)を獲得したミア・ハンセン=ラブによる最新作。スティーヴン・スピルバーグやマーティン・スコセッシに多大な影響を与えた“20世紀最大の巨匠”イングマール・ベルイマンに、彼の彼の熱狂的な支持者の一人であるミア・ハンセン=ラブ監督がオマージュを捧げた作品だ。映画『ベルイマン島にて』の舞台となるのは、北欧スウェーデンの“フォーレ島”。ベルイマンが数々の傑作を生みだした島であり、ベルイマンの原風景と言われている。“フォーレ島”にある彼の仕事場は、現在は世界中のアーティストに開放されているという。創作活動も夫婦関係も停滞中のカップル、彼らの行く末は?物語の主人公は、映画監督カップルのクリスとトニー。クリスとトニーは、新作のインスピレーションを得ようと、“フォーレ島”でひと夏を過ごすことにした。一面真っ青で煌びやかな海に、心が晴れやかになるような青空、大自然の緑に囲まれて過ごす2人だったが、<離婚する人が続出した映画>と言われたベルイマン監督の『ある結婚の風景』が撮影された家で過ごすうちに、まるでその魔力にかかったかのようにギクシャクし始めてしまう。そんな中、“フォーレ島”で再会し恋心が再燃するかつての恋人同士の物語を紡ぎ始めたクリス。新作の構想に対して、他人事のようにクールな返事しか返してくれないトニーに、苛立ちを隠せない。やがて、島で見つけた暮らしや思いがけない出会いが、彼女の心模様を変えていき―クリスとトニー、そしてクリスが紡ぐ物語のカップル。果たして、彼らの物語の行方は―?ヴィッキー・クリープスやティム・ロスが出演キャストは、『ファントム・スレッド』のヴィッキー・クリープス、『海の上のピアニスト』のティム・ロス、『アリス・イン・ワンダーランド』のミア・ワシコウスカ、『パーソナル・ショッパー』のアンデルシュ・ダニエルセン・リーといった実力派が揃った。【詳細】映画『ベルイマン島にて』公開日:2022年4月22日(金)監督・脚本:ミア・ハンセン=ラブ出演:ヴィッキー・クリープス、ティム・ロス、ミア・ワシコウスカ、アンデルシュ・ダニエルセン・リー原題:BERGMAN ISLAND│2021年│フランス・ベルギー・ドイツ・スウェーデン│英語│113分│カラー│スコープ│5.1ch│日本語字幕:平井かおり│映倫区分:G
2022年02月21日巨匠イングマール・ベルイマンが暮らした島を舞台に描く、映画監督夫婦の物語『ベルイマン島にて』より、予告編が解禁された。スティーヴン・スピルバーグやマーティン・スコセッシなど、多くの名監督たちに多大な影響を与えた“20世紀最大の巨匠”イングマール・ベルイマン。本作は、彼の熱狂的な支持者の一人であるミア・ハンセン=ラブ監督が、ベルイマンの原風景と言われるスウェーデンの島を舞台に撮影したあるカップルの物語だ。今回解禁された予告篇では、映画監督カップルのクリス(ヴィッキー・クリープス)とトニー(ティム・ロス)がスウェーデンの“フォーレ島”へやってくるシーンから始まる。そこは巨匠イングマール・ベルイマンが数々の傑作を生みだした島。彼のかつての仕事場が現在は世界中のアーティストに開放されており、クリスとトニーは新作のインスピレーションを得ようとひと夏を過ごすためにやってきたのだった。一面真っ青で煌びやかな海に、晴れやかな青空、大自然の緑に囲まれた時間に、「穏やかで完璧すぎて」「息が詰まる」と言うクリス。一方、トニーは涼しい顔で「落ち着くよ」と答える。<離婚する人が続出した映画>と言われたベルイマン監督の『ある結婚の風景』が撮影された家で過ごすうちに、まるでその魔力にかかったかのように少しずつギクシャクし始める2人…。やがて、フォーレ島で再会し恋心が再燃するかつての恋人同士(ミア・ワシコウスカ、アンデルシュ・ダニエルセン・リー)の物語を紡ぎ始めるクリス。だが、「脚本執筆は拷問みたい」と悪戦苦闘しながら書いた新作の構想を相談しても、「(そんなに辛いなら)他のことをやれば?」と、トニーは他人事のような返事しかくれず、そんな彼にクリスは苛立ちを隠せない。やがて島で見つけた暮らしや思いがけない出会いが、彼女の心模様を変えていく…。イングマール・ベルイマンの息吹がそこかしこに残る北欧の島でひと夏過ごすクリスとトニー、クリスの脚本の中のカップル。果たして、彼らの物語の行方は?北欧の離島での旅行気分に浸れると同時に、穏やかな風景が観る者の心にさざ波を立たせる、味わい深い一作だ。『ベルイマン島にて』は4月22日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国にて順次公開。(text:cinemacafe.net)■関連作品:ベルイマン島にて 2022年4月、シネスイッチ銀座ほか全国にて公開© 2020 CG Cinéma - Neue Bioskop Film - Scope Pictures - Plattform Produktion - Arte France Cinéma
2022年02月15日第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され高評を得たミア・ハンセン=ラブ監督最新作『ベルイマン島にて』(原題:BERGMAN ISLAND)の日本公開が決定した。アメリカからスウェーデンのフォーレ島にやってきた、映画監督カップルのクリスとトニー。創作活動にも、互いの関係にも、停滞感を抱いていた2人は、敬愛するベルイマンが数々の傑作を撮ったこの島でひと夏暮らし、インスピレーションを得ようと考えた。やがて、島の魔力がクリスに作用し、彼女は自身の初恋を投影した脚本を書き始めるのだが――。本作は、スティーヴン・スピルバーグやマーティン・スコセッシらに多大な影響を与えた“20世紀最大の巨匠”イングマール・ベルイマンの熱狂的な支持者のひとり、フランスのラブ監督が、ベルイマンの原風景と言われるスウェーデンの島を舞台にした、ひと夏の物語。ラブ監督自身と彼女の元パートナーの実体験を彷彿させるクリスとトニー。クリスを演じるのは、『ファントム・スレッド』のヴィッキー・クリープス。トニーは、『海の上のピアニスト』のティム・ロスが演じる。また、劇中劇として映像化されるクリスの次回作にはミア・ワシコウスカとアンデルシュ・ダニエルセン・リーが参加している。実在した巨星ベルイマンの人生、実際に多くの映画ファンが訪れ聖地となったフォーレ島、その島で展開される監督カップルのフィクション、劇中劇として紡がれるストーリー、そこに落とされるラブ監督の影――。本作は、現実と虚構が入り混じり、その境目が曖昧になっていく。さらに公開決定と合わせて、同じ景色を見ているようでどこか心がすれ違っているかのような表情のクリスとトニーを切り取った場面写真も到着。そして、創作ノートをモチーフにしたデザインのポスタービジュアルの下段には、劇中劇の主人公エイミーの姿も。初恋の相手を前にして、揺れる内面を隠し切れない表情が印象的。また、ベルイマン監督が公私ともに過ごした赤と白のコントラストが鮮やかな家屋や、木をふんだんに使用したインテリアは、映画ファン&北欧デザインファンも必見。『ベルイマン島にて』は4月、シネスイッチ銀座ほか全国にて順次公開予定。(cinemacafe.net)■関連作品:ベルイマン島にて 2022年4月、シネスイッチ銀座ほか全国にて公開© 2020 CG Cinéma - Neue Bioskop Film - Scope Pictures - Plattform Produktion - Arte France Cinéma
2022年01月31日現在、日生劇場で上演中の三島由紀夫没後50周年企画「MISHIMA2020」。4人の演出家が、異なる三島由紀夫作品で競演するこのシリーズは、今週末9月26日(土)・27日(日)に会期後半戦を迎え、残る2名の演出家が登場する。その2名のうちのひとり、古典戯曲の鋭角的な演出で知られる熊林弘高が取り上げるのは、三島の演劇の仕事を代表する名作短編戯曲集「近代能楽集」から、「班女」。愛した男を待ち続け、精神を病んでしまった女、花子。美しい彼女を引き取り、彼女を独占しようと企む画家の実子。狂女の噂を聞きつけ、ようやく彼女のもとを訪れる不実な恋人・吉雄。三人三様の愛憎が、論理と逆説のセリフの応酬に結晶する。これまでにも何回か、三島作品演出のオファーはあったと熊林弘高。ただし、実際に手がけるのは今回が初。「十代のころ、上京したばかりのときに観た、デヴィッド・ルヴォー演出の「葵上/班女」と、その後に観たイングマール・ベルイマン演出の「サド侯爵夫人」(映像)の衝撃があって、三島由紀夫の戯曲を演出するのは半ば封印していた。でも、今回の企画には、なぜかすんなり、「じゃあ「班女」をやります」と返事をしてしまいました」。コロナ禍に翻弄される演劇主催者たちへのエールもあっただろう。禁断の愛を描いたワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」のピアノ版をポイントで用いる。日生劇場の広い舞台へ、たった3人の登場人物を目いっぱいの間隔で配置。人物と人物の間のディスタンスは大きいのに、戯曲が内蔵する愛と憎しみのマグマは、フルの熱量で伝わってくる。三島のセリフは、言葉のオペラ。「「班女」は一見、とらえどころのない戯曲。でも、俳優たちと稽古しているうちに、この作品が湛える、登場人物たちの思いの濃密さを改めて発見しました」。普段なら、俳優たちを官能的に接触させるのが熊林演出のはずだが、コロナ下の今、それは禁じ手だ。「その分、三島の文体に対峙して、セリフの響かせ方をしっかり磨き込むことに専念しています」。実子の麻実れい、吉雄の中村蒼は熊林演出の常連俳優。そこへ、熊林とは初顔合せとなる花子の橋本愛が絡むトライアングルをお楽しみに。なお、「班女」は、加藤拓也が作・演出する「真夏の死」とともに2作品続けて上演される。オンライン配信、アーカイブ配信もあるので、そちらもぜひチェックしてみてほしい。取材・文:戸塚成
2020年09月25日マックス・フォン・シドーが亡くなった。90歳だった。1929年、スウェーデン生まれ。イングマール・ベルイマン監督の作品で映画俳優としてのキャリアを積み、『偉大な生涯の物語』(65)でハリウッドデビューを果たす。73年には『エクソシスト』に出演、87年の『ペレ』では、スウェーデン俳優として初めてオスカーにノミネートされた。その他の出演作に、工藤夕貴と共演した『ヒマラヤ杉に降る雪』、『デューン/砂の惑星』『ハンナとその姉妹』『マイノリティ・リポート』『シャッター・アイランド』『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』など。テレビドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』では、エミー賞にノミネートされた。最初の妻はスウェーデン人、97年から連れ添った再婚相手はフランス人。本人も、2002年にフランス市民権を取得し、スウェーデンの国籍を放棄している。亡くなったのは、南仏、プロヴァンスの自宅だった。文=猿渡由紀
2020年03月10日日曜日(現地時間)、『エクソシスト』、『エクソシスト2』のメリン神父役で知られるスウェーデン出身の名優、マックス・フォン・シドーが亡くなった。享年90。「AP通信」などが報じた。エージェントのジーン・ダイアモンド氏が、「胸が張り裂けそうな、果てしない悲しみ。マックス・フォン・シドーがこの世を去ったことをお伝えするのは、とてもつらいことです」とマックスの死を報告した。1929年4月10日、スウェーデンに生まれたマックスは、1949年に同国の『母というだけ』で俳優デビュー。以降、近年まで160以上の作品に出演してきた。若い頃は、母国でよく舞台に立ったり、20世紀最大の巨匠の1人といわれるイングマール・ベルイマン監督作に多く出演。1973年に『エクソシスト』でメリン神父役を演じ、一躍有名に。『ペレ』(1987)でアカデミー主演男優賞に、『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』(2011)でアカデミー助演男優賞にノミネートされた。最近では、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』にロー・サン・テッカ役として、「ゲーム・オブ・スローンズ」で三つ目の鴉役として出演していた。他出演作品は『ラッシュアワー3』、「THE TUDORS~背徳の王冠~」、『シャッター アイランド』など。(Hiromi Kaku)
2020年03月10日《text:山崎まどか》『マリッジ・ストーリー』が今季の賞レースにおける注目作なんて、何だか不思議な気がする。それはこの映画がベリー・ノア・バームバックとしか言いようがないものだからだ。すなわち、1.ノア・バームバック自身のライフ・ストーリーを感じさせるものであり 2.ニューヨークの映画人らしい嗜好に溢れた映画であり 3.とても“個人的”な作品。ノア・バームバックは自身の体験から映画の題材を紡ぎ出すが、監督自身の弁によると、彼の映画は「自伝的ではないが個人的」な作品だという。バームバックの映画を追うことは、彼の人生の出来事を追体験するのと同時に、彼の物語の中に自分の体験を見出すことだ。まずは1.“ライフ・ストーリー”から『マリッジ・ストーリー』を見てみよう。前作『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』(2017)には、2019年の3月に亡くなった父ジョナサン・バームバックを入院させた時のことがフィードバックされていたが、今回はアダム・ドライバー演じる演出家のチャーリーとスカーレット・ヨハンソン扮する女優ニコールの関係に、かつて夫婦だったノア・バームバックと女優ジェニファー・ジェイソン・リーを重ねる人も多いだろう。二人は2013年に離婚している。チャーリーの劇団を看板女優として、そして妻として支えてきたニコールは、かつてはハリウッドで学園映画のスターだった。映画内に登場するニコールの主演映画はいかにも90~00年代の学園コメディという感じで、彼女はそこのパーティ・シーンでいきなりシャツを脱いで上半身ヌードになり、話題を集めたという設定だ。ジェニファー・ジェイソン・リーのブレイク作だった『初体験リッジモント・ハイ』(1982)を思い起こさせる。ニコールはチャーリーと彼の劇団から離れ、古巣のハリウッドでSFドラマのパイロット(試作)制作に参加する。その前に出演していたチャーリーの舞台では、彼女は黒子のような俳優たちに手足を操られて演技していた。自分のキャリアを築くのではなく「夫の才能に寄与してしまった」というニコールの言葉を裏付けるような演出だ。しかし、彼女が自分で選んだはずのSFドラマでも同じことが起こる。グリーンバックの中で、SFX用に様々な仮面を着けて撮影される彼女はやはり操り人形のようだ。植物に世界を乗っ取られるというこのドラマの内容自体が、リーの出演した『アナイアレイション-全滅領域-』(2018)を思わせる。バームバックらしい皮肉が見え隠れする。ここに2.“ニューヨークの映画人”としてのバームバックの要素もある。愛する人が去っていた先のロサンゼルスに対するニューヨーク派の複雑な思いを描いた作品といえばウディ・アレンの『アニー・ホール』(1977)だ。『グリーンバーグ』(2010)で既に“ニューヨーク派のロサンゼルス映画”を撮っているバームバックだが、今回はアレンもその影響下にあるイングマール・ベルイマンへのオマージュが見られる。クローズアップの多用がベルイマンの『仮面/ペルソナ』(1966)の影響から来ているのはバームバック本人も認めているし、何よりクライマックスのチャーリーとニコールの激しい口論のシーンに、ベルイマンの『ある結婚の風景』(1973)の第三部に出てくるエルランド・ヨセフソンとリヴ・ウルマンのシーンが重なる。チャーリーとニコールが息子とベッドに寝ているシーンのショットは『ある結婚の風景』だけではなく『ファニーとアレクサンデル』(1982)も思わせる。もう一つ、ニューヨークらしい要素といえばスティーヴン・ソンドハイムのブロードウェイ・ミュージカル「カンパニー」の曲の使用だ。ニューヨークで35歳の誕生日を迎える独身の主人公をめぐる、様々なカップルの矛盾や関係の破綻を描いたこの作品からの二曲「You Could Drive A Person Crazy」と「Being Alone」が歌われるシーンはこの映画のハイライトとなっている。余談だが、今年は『ジョーカー』に「リトル・ナイト・ミュージック」から「哀しきクラウン」、『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』に「フォリーズ」から「Losing My Mind」が使われるなど、ソンドハイムの年だった。そして3.。『マリッジ・ストーリー』はバームバックの作品で最も“個人的”といえる『イカとクジラ』(2005)と呼応する。それぞれ破綻していく家族の物語だが、『イカとクジラ』の基になっているのはバームバックの父母の離婚であり、今回は彼自身の体験だ。映画の冒頭近くに置かれた短いテニスのシーン、猫の存在、「日常的だが映画に出てこない身振りを入れたかった」という『イカとクジラ』のローラ・リニーがくちびるの皮を剥く場面と、ニコールが弁護士に二人の経緯を語る長回しのシーンで、さりげなく彼女がバッグからリップクリームを出して塗るポイント。様々なシンクロがある。しかしチャーリーは喧嘩の最中にニコールにこう怒鳴る。「父親と俺を比較するな!」かつて子供として見ていた父母の問題が、今度は彼自身のものになった。その描き方に、子供の側に心を寄せた青年から、中年になったバームバックの成熟が見られる。その成長は彼の経験から来たものだが、バームバックのことを知らなくても、とても“個人的な体験”として観客に響くような傑作を撮る力をもたらした。『マリッジ・ストーリー』はバームバックの醍醐味が詰まっている、彼の最高傑作だ。Netflix映画『マリッジ・ストーリー』は12月6日(金)よりNetflixにて独占配信中。(text:山崎まどか)■関連作品:【Netflix映画】ブライト 2017年12月22日よりNetflixにて全世界同時オンラインストリーミング【Netflix映画】マッドバウンド 哀しき友情 2017年11月17日よりNetflixにて全世界同時配信【Netflixオリジナルドラマ】オルタード・カーボン 2018年2月2日より全世界同時オンラインストリーミング2月2日(金)より全世界同時オンラインストリーミング
2019年12月16日人生はひとつの出来事によって大きく変わってしまうこともありますが、それこそがまさに運命。誰もがそんな瞬間を一度は経験したことがあるのでは?そこで今回ご紹介するオススメの映画は、運命に翻弄されてしまったある家族を描いた衝撃作です。それは……。世界が注目する話題作『運命は踊る』!【映画、ときどき私】 vol. 190ミハエルとダフナ夫妻は、突然やってきた軍の役人によって、息子ヨナタンの戦死を知らされる。ショックのあまり気を失うダフナに対し、平静を装うミハエル。しかし、いらだちが募ったそのとき、戦死の知らせが誤りだったことが発覚する。ミハエルは怒りを爆発させ、息子をすぐに呼び戻すように要求するのだった。その頃、ラクダが通る検問所で、穏やかな時間を過ごしていたヨナタン。いつも通り、簡単な取り調べを行っていたが、ある勘違いが悲劇を引き起こしてしまうのだった……。先の見えない展開に、誰もが引き込まれてしまう本作ですが、普遍的な感情の背景に見え隠れするのは、イスラエルの文化。というわけで、今回は作品の理解をより深めるために、こちらの方にお話をうかがってきました。それは……。イスラエルのサミュエル・マオズ監督!本国イスラエルで公開された際には、一部の政治家から攻撃を受け、物議を醸した作品。そのいっぽうで、世界的にはヴェネチア国際映画祭で審査員グランプリを受賞するなど、高く評価されています。そこで、監督が本作に込めたこだわりや日本人に伝えたい思いを語ってもらいました。映画の基となった衝撃の実体験とは?―まずは、息子の訃報という出来事から物語を始めたきっかけを教えてください。監督実は、これは私自身に起こった出来事をもとにしているのです。長女が高校に通っていた頃、朝早く起きられない娘は遅刻しないようにタクシーを呼んで欲しいと言いました。それはお金がかかるだけでなく、教育上も悪いこと。頭にきた私はみんなと同じようにバスを使うように命じました。言い争いをしながらも、結局はバスに乗るために娘は出ていきましたが、その30分後、彼女が乗るはずのバスがテロリストによって爆破され、多くの人が犠牲になったというニュースを知ることになったのです。―その後、どうなったのでしょうか?監督娘に電話をしても繋がらず、人生で最悪の時間を過ごすこととなりましたが、それは私が経験した戦争の時期をすべて合わせたよりもひどい時間でした。ところが1時間後、娘は爆破されたバスに乗り遅れて家に帰ってきたのです。―そのような体験をされていたとは驚きです。では、このストーリーを語るうえで、本作を三部構成にしたのはどのような理由からでしょうか?監督今回は、ギリシャ悲劇の三部構成のようになっていますが、それは私のアイデアを伝えるのに最適な形式だと思えたからです。それと同時に、観客に感情の旅を提供することもできました。まず第一部でショックを与え、第二部で幻惑させ、そして第三部で感動を与えるというものです。―なかでも、第一部と第二部では描き方が大きく違いますが、どのようなことを意識しましたか?監督まず、第一部ではイスラエルの国防軍を非難しているような内容になっていますが、実はこれはとてもセンシティブで触れてはならない領域。というのも、イスラエルの人々にとって、国防軍というのはトラウマから民を解放した軍であるといわれているからなのです。そういったこともあり、それを非難するためには、第二部で比喩的な表現が必要だと思いました。そのために第二部のヨナタンがいる検問所はただの検問所ではなく、イスラエル社会の縮図として描いています。つまり、外から見ると不穏な空気に包まれていて怖いと思われていますが、実際は何もないということ。今回はシュールレアリスムの手法を取りましたが、劇中ではタンクがどんどんと傾いていくのも、我々の社会が少しずつ傾いているということを表しているのです。字幕がなくてもビジュアルで感じて欲しい―映画を作るうえで監督が一貫してこだわっていることはありますか?監督デビュー作『レバノン』とも共通していることですが、私が重視しているのはビジュアルや音。そういったこともあり、セリフはなるべくそぎ落としたいと思っています。たとえば、今回でいうと、「息子さんが亡くなりました」と言われて倒れるダフナの後ろにある絵は、ミハエルの精神状態をX線でのぞき込んでいるような絵。そうやってひとつの絵で語っていくのも私の手法なんです。―劇中ではそのようなシーンをほかにも入れ込んでいるのでしょうか?監督第一部でミハエルが「ひとりでいたい」というセリフを言っている引きのショットがありますが、それだけで彼がどういう人で、どういう生活を送っているかわかるようになっています。なぜなら彼を囲むアパートの様子はとても冷たく、シンメトリーで幾何学的。細部までこだわるあまり、不快感をもよおしてしまうようなデザインにもなっているわけですが、それはどんなセリフよりも、彼の有様を雄弁に語っているのです。おそらくセリフにしたら4~5ページくらいは必要になるかもしれませんね。―そこまでビジュアルにこだわるようになったのはなぜですか?監督なぜなら、言葉は真実の前にあるフィルターでしかないと思っているからです。つまり、本当に真実を語っているのは、人の目線や体のこなし方。そこにこそ真に迫る描写ができると感じているからです。だから、「美しい」という言葉がいくつあったとしても、美しさを表したひとつのビジュアルのほうが雄弁だと思うし、違う国の人でも字幕なしでもそれを感じ取ることができますよね?ビジュアルにはそういう良さがあると思うんです。観客を離さないためのこだわりとは?――犬や鳥など動物の使い方もすごく印象的に感じましたが、なかでもラクダの使い方には驚きました。ラクダはイスラエルではシンボル的な存在なのですか?監督イスラエルでは砂漠ですから、ラクダはあちこちにいますよ。しかも、観光客がいればちゃんと演技の指示を聞いてくれるラクダもいるほどなんです(笑)。ただ、今回ラクダにはいくつかの役割がありますが、まずは「チェーホフの銃」と言われる伏線の手法といえると思います。だから今回も、「まさか!」という形で期待を裏切ってくれるわけですよね。ただ、それ以上にあのラクダが象徴しているのは、あの砂漠にいることの不毛さです。つまり、検問所で兵士が踊っていて、ラクダがトコトコやってくるショットを見るだけで、「ここは戦争の前線ではないんだ」ということを一瞬にして観客にわからせることができますが、さらにいうと、イスラエル社会のやっていることの不毛さを描いてもいます。というのは、「イスラエルは終わりなき戦争にとらわれているんだ」という意識にがんじがらめになっていますが、実情はそうではありません。だからこそ、あの検問所は社会の鏡でもあるのです。―ラクダひとつとっても、それだけの意味が込められているのですね。監督実はラクダにはもうひとつの役割があるんです。というのも、観客というのは、監督のビジョンに付いていって楽しみたいと思っているものですが、今回は第二部でまったく違う世界へと連れていってしまうので、それを裏切っているといえます。だからこそ、第二部は最初の数秒で観客をつかんでおかないと離れていってしまうので、緊張感を味わってもらったあとにちょっと笑いを入れるようにしました。そのために、兵士を踊らせたり、ラクダを登場させたりしているわけです。―いまのスタイルを確立させるために映画を研究し続けている印象を受けますが、これまでに監督が影響を受けている人や作品があれば教えてください。監督影響を受けた映像作家たちを挙げたらきりがないんですけど、イングマール・ベルイマンやアンドレイ・タルコフスキー、スタンリー・キューブリック、黒澤明。それから、哲学や文学の分野だと、ニーチェやカフカ、村上春樹など、とにかく大勢いますよ。映像作家というのは、自分の内面世界や視点だけでなく、先人たちの影響というのも合わさって何かが生むことができるのだと思っています。たとえば、撮影中に感じるのは、「アクション!」と言った瞬間に自分の世界が産声を上げますが、その瞬間に周りの世界は止まってくれていて、「カット!」と言ったところで、世界がふたたび動き出すような感覚があるのです。―そもそも映画の道に進んだきっかけはどのようなものでしたか?監督幼い頃、テルアビブ近郊の小さな町に住んでいましたが、私の父は俳優になりたいと思いながらバスの運転手をやっていました。そのバスというのが、中心街にある映画館に行くためのバス。そのおかげで私もタダで映画が観ることができたので、西部劇やモンスターもの、カンフー映画など、父にはいろんな映画に連れて行ってもらいました。―そのなかで思い出に残っていることはありますか?監督ある映画で汽車がカメラのうえを通過するシーンに興奮した私は、13歳のときにお祝いで父に買ってもらった8ミリのカメラを翌日に線路に置いてそのシーンを録ろうとしました。しかし、汽車が来た瞬間にカメラが粉々に砕け散ってしまって……(笑)。でも、父はそのあとに新しいカメラをまた買ってくれたので、そのあと従軍するまでの間に何本もの短編を作ることができました。ちなみに、父はいつも悪役として登場してくれましたよ(笑)。日本人だからこそ感じられることがある―日本でも最近は中東を舞台にした作品の公開が続いており注目度も高まっているので、日本の観客に向けてメッセージをお願いします!監督描いていることは政治的なメッセージではなく、家族の離散やどのようにしてふたたび家族が結ばれていったのかということ、そして罪悪感の葛藤や愛によってどのようにして苦しみを乗り越えていくのかということを描きました。なので、こういったことは、中東の政治や哲学に詳しくなくても、わかるものだと思っています。実際、私はそういう心に訴えかける映画を作りたいと思っているし、ちゃんと作れば人に届くと信じているのです。我々はいろいろな宗教などで分離されていますが、根底では繋がっているもの。私のやりたいことの神髄は、人間を描くところにあると思っています。それから、この映画はイスラエルのトラウマを描いているので、そういう意味では現代の歴史における最たるトラウマを生み出したヒロシマやナガサキを経験している日本人には、共感してもらえるのではないでしょうか。いまの若い世代たちはそこから抜け出しはじめているかもしれませんが、そういったトラウマや歴史というのは、国民としての在り方と分離できないものだと私は思っています。運命が引き起こすミステリーから目が離せない!細部にわたるまで監督のこだわりを感じさせる本作。私たちは運命に踊らされているのか、それとも自分の意志で人生を動かすことができるのか。運命とは何かを考えずにはいられない心のざわつきと、新たな映画体験をぜひ味わってみては?見逃せない予告編はこちら!作品情報『運命は踊る』9月29日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開配給:ビターズ・エンドⓒ Pola Pandora - Spiro Films - A.S.A.P. Films - Knm - Arte France Cinéma – 2017
2018年09月28日「日本・スウェーデン外交関係樹立 150周年 スウェーデン映画への招待(仮)」が、東京・京都・福岡で開催される。東京・国立映画アーカイブにて2018年11月27日(火)から12月23日(日)まで、京都国立近代美術館にて12月7日(金)、8日(土)、福岡市総合図書館にて2019年2月1日(金)から24日(日) までを予定。スウェーデン映画の特集上映会2018年4月には第70回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールを受賞したリューベン・オストルンド監督の『ザ・スクエア 思いやりの聖域』が公開され、7月には生誕100年を迎えた巨匠イングマール・ベルイマン監督の映画祭が全国の劇場で開催されるなど、日本でも盛り上がりを見せるスウェーデン映画。「日本・スウェーデン外交関係樹立 150周年 スウェーデン映画への招待(仮)」は、日本・スウェーデンの外交関係樹立150周年を記念した、スウェーデン映画の上映会だ。国立映画アーカイブ(旧:東京国立近代美術館フィルムセンター)でのスウェーデン映画の大規模な特集は35年ぶりとなる。上映会には、ベルイマンの初期の傑作『牢獄』(1949)や『道化師の夜』(1953)をはじめ、女優イングリッド・バーグマンのスウェーデン時代の名作『女の顔』(1938)など、スウェーデン映画史を代表する24プログラムが集結。その他にも、上映が珍しい貴重な短篇を組み合わせた<イングリッド・バーグマン選集>や、1930年代のトーキー初期作品から1982年の『アンドレーの北極気球探検行』まで、時を経ても色褪せることのない不朽の名作をラインナップする。【詳細】日本・スウェーデン外交関係樹立 150周年 スウェーデン映画への招待(仮)会期:2018年11月27日(火)~12月23日(日) ※予定 ※月曜休館会場:国立映画アーカイブ 長瀬記念ホール OZU(2階)住所:東京都中央区京橋 3-7-6TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)主催:国立映画アーカイブ、スウェーデン映画協会協力:スウェーデン大使館■京都会期:2018年12月7日(金)、8日(土)場所:京都国立近代美術館住所:京都市左京区岡崎円勝寺町26-1■福岡会期:2019年2月1日(金)~24日(日) ※月曜日・火曜日は休館場所:福岡市総合図書館 映像ホール・シネラ住所:福岡市早良区百道浜3-7-1
2018年07月29日映画界の巨匠イングマール・ベルイマン監督の『夏の夜は三たび微笑む』から着想し、ミュージカル界の同じく巨匠スティーヴン・ソンドハイムが作曲・作詞を手掛けたミュージカル『リトル・ナイト・ミュージック』が、4月8日に東京・日生劇場で開幕した。主人公のデジレ役に大竹しのぶ、その元恋人フレデリック役に風間杜夫。日本を代表する俳優同士の27年ぶりの共演が、なんとミュージカルで実現したことでも話題を呼ぶ。また演出は、自身も女優・歌手で、本作出演経験のある英国人マリア・フリードマンが務める。チケット情報はこちら19世紀末のスウェーデン。弁護士フレデリック(風間)は、18歳の若妻アン(蓮佛美沙子)との結婚生活が11か月経過した今も彼女に手が出せずにいる。前妻との息子ヘンリック(ウエンツ瑛士)は、年下の義母アンに密かに恋心を抱いている。ある日、フレデリックとアンは芝居を観に行くが、その主演女優はフレデリックのかつての恋人デジレ(大竹)。デジレとフレデリックは14年ぶりに接近するが、デジレにもカールマグナス伯爵(栗原英雄)という恋人が。既婚の彼はデジレと堂々と不倫中で、あろうことか妻シャーロット(安蘭けい)に、デジレとフレデリックの関係を探らせる。奇妙な縁で結ばれた6人はやがて、デジレの母と娘が住む郊外の屋敷で顔を揃え……。北欧の短い明るく暖かな時期を思わせる薄明るい照明の下で、登場人物たちがワルツを踊っている幕開き。パートナーを替えながら舞う様子が、これから繰り広げられる波乱の恋愛模様を暗喩しているかのよう。登場人物は誰もが、特に恋愛においては、自分の気持ちに正直だ。義母への秘めた恋であるはずのヘンリックでさえ、彼女を前にすると想いがあふれ出てしまう(当人のアンだけ気づいていない)。正直な感情と、複雑な人間関係。アンバランスな両者を取り持つのが、ミュージカルといえど安易な“歌い上げ”を許さぬ、ソンドハイム独特の難解なメロディラインだ。風間・蓮佛らミュージカル初挑戦組もベテランも、“音階のパズル”とでも呼びたい独特のピッチへの苦労は想像に難くないが、ソンドハイム2作目にして楽曲を自分のものにしている大竹をはじめ、いわゆる“芝居歌”を歌える芝居巧者で固めた布陣が吉と出ている。結果、メロディの複雑さに阻まれることなく、正直な肉声が切々と届いてくるのだ。演出のフリードマン曰く、「この物語は間違った相手と恋に落ち、最終的には正しい相手と結ばれるというお話」。今のコンプライアンス社会ではとても真似できないおとぎ話かもしれないが、自分に正直な人間とはかくもチャーミングなものかとハッとさせられ、わずかな勇気をもらった気がする。公演は4月30日(月・祝)まで同劇場にて。5月には大阪・梅田芸術劇場メインホール、静岡市清水文化会館(マリナート)大ホール、富山 オーバード・ホールでも上演される。チケットはいずれも発売中。(取材・文:武田吏都)
2018年04月11日写真展「世界的アーティストたち、ダリ等」が東京・銀座のArt Gallery M84にて開催される。会期は2018年4月23日(月)から6月9日(土)まで。写真展「世界的アーティストたち、ダリ等」は、パブロ・ピカソやサルバドール・ダリといった芸術家を撮影した写真約30点を展示するもの。その他にも、20世紀を代表する画家マルク・シャガール、ハリウッドが誇る映画監督オーソン・ウェルズ、1940年代に『美女と野獣』を実写映画化したことで知られる映画監督ジャン・コクトー、ジャズトランペット奏者マイルス・デイヴィスなどを写したポートレイトが並べられる。これらのポートレイトが、依頼による撮影だけでなく、ジャンルー・シーフやルシアン・クレルグといった有名写真家との交友関係のもとで撮影されている点にも注目したい。信仰の深い写真家によって切り取られたアーティストたちの表情は、彼らの考え方や生き方までをも写し出しているかのようだ。なお貴重なビンテージを含む展示作品は、すべて購入することができる。【詳細】写真展「世界的アーティストたち、ダリ等」期間:2018年4月23日(月)~6月9日(土)※日曜休館開館時間:10:30~18:30(最終日17:00まで)場所:Art Gallery M84住所:東京都中央区銀座四丁目-11-3ウインド銀座ビル5階TEL:03-3248-8454入場料:1,000円■アーティストブラッサイ、セザール・バルダッチーニ、シャルル・アズナヴール、ダリダ、オーソン・ウェルズ、ジルベール・ベコー、アンリ=ジョルジュ・クルーゾー、イングマール・ベルイマン、ジャック・ブレル、ジャン・コクトー、フジタ・ツグハル、マルク・シャガール、マリー=クロード・ピエトラガラ、マイルス・デイヴィス、ナダール、パブロ・ピカソ、ピエール・スーラージュ、サラ・ベルナール、サルバドール・ダリ、セロニアス・モンク、ヴィクトル・ユーゴー■写真家ジャン・ディユザイド、ジャンルー・シーフ、ルシアン・クレルグ、ユーサフ・カーシュ、グザビエ・ランブール、ウィリアム・P・ゴットリーブなど
2018年03月10日ナチスとスターリンに引き裂かれた国エストニアを舞台に、秘密警察に追われる元フェンシングのスター選手と子どもたちが希望を取り戻すまでを描く『こころに剣士を』。実話から生まれた本作から、主演を務めたマルト・アバンディのコメントとともに、子どもたちとフェンシングとの“出会い”のシーンをとらえた本編映像がシネマカフェに到着した。舞台となったエストニアは、第二次世界大戦中はドイツに、その末期からはソ連に占領され、2つの国に翻弄された人々は鬱屈した生活を強いられていた。父親がいなくなり、母親は働きに出て子どもたちは放っておかれ、誰もが下を向いてひっそりと暮らしている。そんな日常に、まっすぐに相手と向き合い、必要とあれば立ち向かっていくフェンシングというスポーツが、元フェンシング選手のエンデル・ネリスによってもたらされる。息の詰まる生活をしていた子どもたちはたちまちフェンシングに夢中になり、そこに希望が芽生え始める。さらに、秘密警察に追われるエンデル自身も、いつしか剣士のこころを取り戻していくが…。あるフェンシングの指導者の実話をもとにした本作。監督は、『ヤコブへの手紙』などで知られるフィンランドの名匠クラウス・ハロ。長編監督作全5本のうち、本作を含む4本がアカデミー賞外国語映画賞のフィンランド代表作品に選ばれている。2004年にはスウェーデンのアカデミー賞「イングマール・ベルイマン賞」を受賞。また、2016年の第73回ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞にもノミネートされた。そんな本作から届いた映像は、1人で壁に向かい、フェンシングの練習をするエンデル(マルト・アバンディ)に、地元の少女マルタが声をかける本編シーン。エンデルの人生も、子どもたちの人生も変わり始める“出会い”のシーン。「なにをやってるの?教えてください。バレエを習いたいけど教室がないの」とお願いするマルタの健気な様子が印象的だ。エンデルを演じたマルト・アバンディは、「この映画が大好きです。出演作だからではなく、客観的にみてもいい映画だと思います。誠実さがこの映画のいいところです。正直でまっすぐなのです。本作の強みである誠実さが、皆さんにも伝わるはずだと思います」と力強いコメントを寄せている。『こころに剣士を』は12月24日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて公開。(text:cinemacafe.net)
2016年12月18日かつてのフェンシングの名選手と子どもたちとの交流と絆を描き、第73回ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞にノミネートされたフィンランド映画『こころに剣士を』(原題:THE FENCER)が12月24日(土)より公開される。このほど、その待望の予告編が解禁となった。舞台となるのは、1950年初め、バルト3国の1国、エストニア。第2次世界大戦中はドイツに、大戦末期はソ連に占領され、2つの国に翻弄された人々は鬱屈した生活を強いられていた。父親は兵士に取られ、母親は働きに出て、子どもたちは放っておかれ、誰もが下を向いてひっそりと暮らしていた。そんな日常に、まっすぐに相手と向き合い、必要とあれば立ち向かっていくフェンシングというスポーツが、元フェンシング選手のエンデル・ネリスによってもたらされる。ソ連の秘密警察に追われるエンデルは、小学校の教師として田舎町ハープサルにやってきた。やがてエンデルは課外授業としてフェンシングを教えることになるが、実は子どもが苦手。そんなエンデルを変えたのは、学ぶことの喜びにキラキラと輝く子どもたちの瞳だった。息の詰まる生活をしていた子どもたちはたちまちフェンシングに夢中になり、そこに希望が芽生え始める。なかでも、幼い妹たちの面倒を見るマルタと、祖父と2人暮らしのヤーンは、エンデルを父のように慕うようになる。あるとき、レニングラードで開かれる全国大会に出たいと、子どもたちにせがまれたエンデル。戻れば捕まることになるが、子どもたちの夢を叶えようと、彼は決意する――。エストニアを舞台に、戦争の犠牲になった元フェンシング戦士と子どもたちが希望を取り戻すまでを描く“実話から生まれた”本作。第73回ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞にノミネートされた珠玉作は、昨年の京都ヒストリカ映画祭でも上映され話題を呼んでいた。監督を務めたのは、『ヤコブへの手紙』のクラウス・ハロ。フィンランドを代表する映画監督として高く評価されており、長編監督作全5本のうち、本作を含む4本がアカデミー賞外国語映画賞のフィンランド代表作品に選ばれている。2004年にはスウェーデンのアカデミー賞といわれる“イングマール・ベルイマン賞”を受賞。本国以外の監督としては初受賞の快挙を成し遂げ、巨匠ベルイマン監督本人からも称えられた。今回解禁となった予告編では、雪が降るエストニアを訪れた伝説のフェンシング選手エンデル・ネリスが、子どもたちの純粋なひたむきさによって心を開いていく様子が、繊細で透明感のある音楽と映像とともに映し出されていく。誰もが自由に生きられなかった時代に、次第に輝きを取り戻していく子どもたちの瞳にはハッとさせられ、秘密警察に追われるエンデル自身も、いつしか“剣士のこころ”を取り戻していく様が見て取れる。エンデルと子どもたちがフェンシングに託した思いとは…?感動の実話に期待が高まる予告映像となっている。『こころに剣士を』は12月24日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて公開。(text:cinemacafe.net)
2016年10月11日“シンプル・タイムレス・ユニセックス”をコンセプトに、日本でも人気の北欧のファッション・ブランド「マリメッコ」。その創業者アルミ・ラティアのパワフルな人生を描く『ファブリックの女王』が、2016年5月、日本公開されることが決まった。1951年、戦後間もないフィンランドで、高い理想を持って「マリメッコ」を立ち上げ、瞬く間に世界的なブランドへと押し上げた女性、アルミ・ラティア。ファブリックのデザインにとどまらず、人々の幸せな未来のために、ライフスタイルそのものを変えようとしたアルミの「何をも恐れない」パワフルで波瀾万丈な人生を、彩り鮮やかに描き出す。スウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマン監督作『ファニーとアレクサンドル』のプロデューサーとして、フィンランド人で唯一のオスカー受賞者であるヨールン・ドンネルがメガホンをとった本作。初期「マリメッコ」の役員のひとりでもあった彼は、アルミ・ラティアを知る生き証人として、構想50年の熱い想いを本作に込める。「マリメッコ」といえば、美しい色彩とクオリティの高いデザインで日本でも人気のファッションブランド。劇中にはそんな「マリメッコ」の美しいデザインが数多く登場し、世界中の老若男女に愛され続ける“シンプル・タイムレス・ユニセックス”というコンセプトに貫かれた、先鋭的かつ、しなやかなスピリットに迫っていく。なお、創業65年となる2016年は、創業者アルミや初期のデザイナーにオマージュを捧げた春夏コレクションの発表や、1月より全国巡回する国内初の大規模展覧会「マリメッコ展デザイン、ファブリック、ライフスタイル 布からはじまる北欧のくらし」の開催など、文字どおり原点をふり返る“マリメッコ・イヤー”となるようだ。創業者アルミ・ラティアの人生そのもののように鮮やかに彩られた本作を、楽しみにしていて。『ファブリックの女王』は2016年5月、 ヒューマントラストシネマ有楽町・渋谷ほか全国にて順次公開。(text:cinemacafe.net)
2015年12月11日個性派俳優としても引っ張りだこの芸人・板尾創路がナレーションを担当した、話題のスウェーデン映画『さよなら、人類』が8月8日(土)より公開される。昨年来、劇場でロングランヒットとなった『シンプル・シモン』や『100歳の華麗なる冒険』、さらにカンヌ国際映画祭で「ある視点」部門審査員賞を受賞した『フレンチアルプスで起きたこと』が7月4日(土)に公開となるなど、いま、スウェーデンには勢いのある作品ばかり。独特の世界観で人々を魅了し続ける、スウェーデン映画の魅力に迫った。スウェーデンといえば、近年話題の北欧インテリアや空間デザインの魅力が先行されがちだが、実はこれまで、映画界をけん引してきた巨匠・鬼才を数多く輩出する“映画大国”としての一面も持っている。その代表的な存在が、板尾さん始め、倉本美津留(放送作家)、岡田利規(演劇作家)、福里真一(CMプランナー)など、業界の垣根を越えた熱狂的なファンを有する、巨匠ロイ・アンダーソンだ。ロイ・アンダーソン、その才能を世界が絶賛!CF界でも活躍アカデミー賞受賞作『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』を抑え、第71回ヴェネチア国際映画祭にて「金獅子賞」(グランプリ)を受賞したアンダーソン監督の『さよなら、人類』。「ヴェネチア史上最高の映画!」(ポジティフ誌)との絶賛を受け、すでに日本のTwitter上でも「最新作公開が待ちきれない!」という声も相次いでいる。彼が26歳で完成させた『スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー』(’69)は、初の長編映画にしてベルリン国際映画祭で4つの賞を受賞。少年と少女の淡い恋を瑞々しく描いた本作は、スウェーデンで70万人を超える動員を記録し社会現象にもなった。以降、2作目『Giliap』がカンヌ国際映画祭の監督週間に選出。人間の本質がシニカルな視点で描かれた“リビング・トリロジー”3部作の<序章>『散歩する惑星』(’00)はカンヌ国際映画祭「審査員特別賞」を受賞し、続く<第2章>『愛おしき隣人』(’07)では、スウェーデンアカデミー賞にて「グランプリ」を含む3冠に輝いた。アンダーソン監督独自の、固定ショットや綿密に構想された絵画的なシーン、不条理な笑い、本質的なヒューマニティは、常に各国の映画祭から大絶賛。5作目となる長編映画『さよなら、人類』は、15年かけて完結した“リビング・トリロジー”の最終章となる。ストックホルムに自身のスタジオを設立し、CG全盛のこの時代に、全編にわたり細部にまでこだわったセットを組み立て撮影を行った。また、アンダーソン監督は映画製作の傍ら、1975年にコマーシャル監督としてのキャリアをスタート。世界3大広告賞の一つといわれるカンヌ広告祭では「ゴールドライオン」を8度受賞。人間であるがゆえの愚かさ、滑稽さを優しいユーモアに包みながら、丁寧に描き出してきた監督の魅力は、日本でも多くのクリエイターから支持され、愛されている。映画史に影響を与えてきたスウェーデンの至宝たち昨年、日本公開のものだけでも、『シンプル・シモン』(アンドレアス・エーマン監督)、『ストックホルムでワルツを』(ペール・フライ監督)、『100歳の華麗なる冒険』(フェリックス・ハーングレン監督)と、相次いでスマッシュヒット。加えて、今年は、カンヌで話題を呼んだ『フレンチアルプスで起きたこと』(リューベン・オストルンド監督)、そしてロイ・アンダーソンの『さよなら、人類』と、今年もその人気はとどまるところを知らない。意外と知られていないが(!?)、スウェーデン映画界の巨匠たちは世界でも一目置かれる存在だ。■イングマール・ベルイマン(1918-2007)黒澤明、フェデリコ・フェリーニとならび「20世紀最大の巨匠」と称される、スウェーデンを代表する映画監督。スティーヴン・スピルバーグ、スタンリー・キューブリックやトリュフォー、ゴダールなどなど、現在に至るまで、ベルイマンに影響を受けた監督は数多い。『第七の封印』(’57)『野いちご』(’57)『処女の泉』(’60)で各国の映画賞を受賞し、世界的名声を確立。スウェーデン映画界の基盤を築く。■ラッセ・ハルストレム(1946-)『アバ/ザ・ムービー』(’78)が世界的にヒット。『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』(’88)がアカデミー賞「監督賞」にノミネート。以後、ハリウッドでも活躍。『サイダーハウス・ルール』や『ショコラ』など、アカデミー賞ノミネート作品を続々発表。世界的評価を受ける、ドラマ性のある作品を数多く手掛けている。■トーマス・アルフレッドソン(1945-) 『ぼくのエリ 200歳の少女』(’08)で国際的に知られ、ハリウッドでは『モールス』としてリメイクされた。また、ジョン・ル・カレのスパイ小説「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」の映画化で、ゲイリー・オールドマンを主演に迎えた『裏切りのサーカス』はヴェネツィア国際映画祭でプレミア上映され、「金獅子賞」にもノミネートされた。このように、北欧の中でもひと際異彩を放つ監督を多く輩出しているスウェーデン。これからも、従来の価値観をくつがえす世界を見せてくれる、スウェーデン映画から目が離せない。『さよなら、人類』は8月8日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国にて公開。(text:cinemacafe.net)
2015年06月23日10月25日、東京芸術劇場・シアターイーストにてL’Equipe(レキップ) vol.1『秋のソナタ』が開幕。世界中にたくさんのファンをもつスウェーデンの監督・演出家、イングマール・ベルイマンの名作映画を舞台化する試みで、佐藤オリエと満島ひかりのふたり芝居。開幕前日のゲネプロに潜入した。『秋のソナタ』チケット情報ノルウェーの田舎町にある静かな牧師館。ここで夫と暮らすエヴァ(満島)は、7年間会っていなかった母親を招待する。国際的に活躍するピアニストの母・シャルロッテ(佐藤)は、長年共に暮らした恋人を亡くしたばかりだった。再会を喜び合うふたりだが、もうひとりの娘・重病のヘレナがいることを知り苛立つ母。次第にエヴァと母親の思いがむき出しになっていく……。寒い地方の質素な牧師館をあらわすように、舞台上には大きなガラス窓とドア、そしてたくさんのろうそくが置かれたミニテーブル。中央には白い布で覆われた大きな物体が。暗闇にぼんやりと薄明りが見えると、奥からエヴァを演じる満島がゆっくりと歩いてくる。黒く地味なワンピースに厚手のタイツ。ひっつめ髪でいかにも静かに暮らしている様子が伺える。彼女が真ん中の布をめくるとそこは大きなテーブル。落ち着いた声音の満島自身のナレーションは、母に宛てた手紙を読み上げる。すると、そこに佐藤演じる母・シャルロッテが。エヴァとは対照的な鮮やかな緑のツーピース、ヒールのある靴に赤い口紅。一気に劇場の空気が変わり、明るいけれどもどこか空疎な言葉がシャルロッテの口から次々に出てくる。お互いの気持ちを探りながら表面では再会を喜び合うふたりの声音・表情にぐっとひきつけられる客席。舞台上にたったふたり。エヴァが世界的なピアニストである母の前で緊張しながらたどたどしくピアノを弾く場面はとくに印象に残る。無音でふたりのレベルの差を、それによって巻き起こるふたりの胸の中の嵐を見せつける演出。やがて深夜、お互いの思いをぶちまけるシーンではまさにふたりの女優ががっぷりと組み合い、火花を散らしあう姿に、恐れすら感じた。1時間半の芝居の間、満島が演じるエヴァは数えきれないほど母親に「ママ」と呼びかける。愛しているのに愛されない、愛と憎しみが同居した悲痛な「ママ」が耳に残って離れない。劇場を出て外の寒さが頬を突き刺すとき、観客は再びあの母娘に思いを馳せる。公演は10月25日(金)から11月3日(日・祝)まで。チケット発売中。取材・文:釣木文恵
2013年10月25日映画館のない中目黒に生まれた無料の移動式映画館「中目黒シネマズ」。2013年1月からの本格始動に向け、11月24日(土)にプレイベントとしてウディ・アレン監督の傑作『アニー・ホール』(’78)が上映された。上映後には映画文筆家の松崎健夫と映画解説者・中井圭による作品解説トークショーが行われ、熱い“ウディ・アレン”論を繰り広げた。中目黒の街全体を映画館として、月に1度、無料で誰でも映画を鑑賞できるスペースを提供する映画プロジェクト「中目黒シネマズ」。今後は、同じく中目黒で定期開催される、食と体験のプロジェクト「中目黒マルシェ」と連動していく構想もあるという。壁一面を覆う巨大スクリーン、そして通常の映画館の客席とは違い、アンティークなソファや椅子、また前方にはラグを敷いた床に座て鑑賞するゆったりとしたスタイル。今回の本映画祭で上映されたのは、名作中の名作『アニー・ホール』。中井さんは「『中目黒シネマズ』プレ開催第一回目の作品選定に大変悩みましたが、『アニー・ホール』が一番ふさわしく、みなさんに面白いと思っていただけて本当に良かった」と安堵の表情。一方の松崎さんは「当時、『アニー・ホール』は斬新だと言われていました。ネクタイやパンツなど、アニーが着ている男っぽい服など、ちょうどウーマンリブが活発になり始めた頃ですね。ファッションの面でも『アニー・ホール』は影響を与えていたんです」とウディ・アレン作品の時代を掴むアンテナの鋭さに改めて賞賛を送る。さらに「『アニー・ホール』では、イングマール・ベルイマン監督の『野いちご』(’62)にオマージュを捧げているんですね。冒頭では突然観客に話しかけ、敬愛する監督の作品を取り入れ、それはとても当時斬新でした。取り込んで自分のものにし、そして新しく見えるものに変えているんです」と解説し、知られざる映画秘話についても言及。監督がどんな映画に影響を受けたのか考えながら作品を観るというのも映画鑑賞の楽しみの一つではあるが、「ウディ・アレンが好きな日本映画は『羅生門』(’50)、『七人の侍』(’54)、『蜘蛛巣城』(’57)」と松崎さん。日本人として大変誇らしいこの事実に、中井さんも「ウディ・アレンが影響を受けていると思って、次は黒澤映画を観る。映画は数珠繋ぎですね」と深々とうなずいていた。今回のプレイベントに寄せられた意見・リクエスト・アドバイスを反映させ、12月下旬には第2回目のプレイベントを開催予定、そして2013年1月より本格的にプロジェクトのスタートを迎える「中目黒シネマズ」。新たな映画鑑賞スペースの誕生に、多くの注目が集まっている。(photo:Horiba Toshiaki)「中目黒シネマズ」公式サイト:公式Facebook:公式Twitter:■関連作品:恋のロンドン狂騒曲 2012年12月1日よりTOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほか全国にて公開© 2010 Mediapro, Versátil Cinema & Gravier Production, Inc.
2012年11月27日昭和の文豪・井上靖の自伝的小説を映画化した『わが母の記』が劇場公開を前に4月18日(水)、「日本外国特派員協会」で上映され、主演の役所広司、樹木希林、原田眞人監督が上映後の記者会見に出席した。複雑な思いを抱えつつも、老いた母を引き取った作家の伊上洪作。ずっと距離を置いてきた母と向き合うことでこれまで知ることのなかったある真実を知り、それまで伝えられなかった思いが時を経て母と子を結び付けていく。原田監督は本作を「イングマール・ベルイマン、小津安二郎といった監督たちへのオマージュ」と明かし、井上さんの数ある小説の中から「わが母の記~花の下・月の光・雪の面~」を選んだ点について「英語とフランス語に訳され、海外で最も読まれている井上さんの作品が『猟銃』と本作。日本のみならずワールドワイドな人々に観てほしい。原作では家族は娘2人と息子2人ですが、『リア王』を彷彿とさせたくて娘3人にしました。そこは上手くいったと自負しています」と流暢な英語で海外の記者たちに向け、自らの意図を説明した。役所さんは「原田監督と10年ぶりにご一緒できました。しかもこの映画をやることは、亡くなった母を思い出す時間でした」としみじみと語る。外国人記者からは認知症の老いた母親を演じた樹木さんを絶賛する声が相次いだが、樹木さんは「大ざっぱな役者なので(認知症について)リサーチはないんです。ただ(来年で)70歳になるんですが、認知症の役をみんなやりたがらないので私に回ってくる(笑)」とおどけながら明かした。製作費2億8千万円で本作を作り上げた監督は、井上さんの邸宅や別荘、原作にも登場する川奈ホテルで撮影が実現した点について「幸運だった」とふり返るが、樹木さんは与えられた条件を最大に生かそうとする監督の才能を絶賛。役所さんは「いつかふんだんな時間と予算を与えて監督に(大作を)撮らせて欲しい。でもハリウッドから予算をもらっても、監督は『この予算で4本撮らせて』と言いそう」と語り会場の笑いを誘った。外国人記者からは早くもアカデミー賞外国映画賞へのノミネートについての質問も飛んだが、監督は「願っていますが、僕はこの業界で決して好感は持たれていないので…」と言葉を濁す。樹木さんも「すでにムコ(本木雅弘)がもらっているので」と語ったが、役所さんは「僕はスピーチが英語でできるように練習中です!」とノリノリで意欲を明かした。『わが母の記』は4月28日(土)より全国にて公開。■関連作品:わが母の記 2012年4月28日より全国にて公開© 2012「わが母の記」製作委員会■関連記事:理想の“尽くす男”たちを発表!水嶋ヒロ、役所広司ら“侍”型の俳優たちが上位に役所広司、宮崎あおいからの「色気がある」という言葉に大テレシネマカフェ読者ゴコロなんでもベスト5(第24回)理想の“尽くす男”俳優は?豪華キャストで描く家族愛『わが母の記』完成披露試写会に50組100名様をご招待日本の家族の絆に、海外も涙『わが母の記』独占試写会に35組70名様をご招待
2012年04月18日トム・ハンクス、サンドラ・ブロック出演の映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』で主演を務めた14歳のトーマス・ホーン少年が今月中旬にPRのために来日。オスカー俳優たちと対等に渡り合い“若き天才俳優”と称されるホーンが初めて日本の地を踏むことになった。その他の写真映画は、父を亡くした9歳の少年・オスカーを主人公に、突然、愛する者を失ってしまった人間たちがいかにして自らと向き合い、去った者を想いながら“現在”を生きていくかを、3世代に渡る壮大なスケールで描いたヒューマンドラマ。主人公オスカー役に抜擢されたのがホーン少年は、幼少期より読書を愛好し、アメリカの人気クイズ番組に出演して優勝を勝ち取り“天才少年”として注目を集めた経歴をもつ。演技経験はなかったが、『ソーシャル・ネットワーク』『トゥルー・グリット』の製作者スコット・ルーディンの目に止まり、オーディションを突破。デビュー作でハンクス、ブロックらと渡り合う鮮烈なデビューを飾った。ホーン少年の今後はまだ未知数だが、本作を手がけたスティーヴン・ダルドリー監督は、過去に『リトル・ダンサー』で子役だったジェイミー・ベルを抜擢しており、彼が“未来の実力派俳優”になる可能性は高い。ちなみに本作でホーン少年は、名優マックス・フォン・シドーとも共演している。シドーはスウェーデン出身の俳優で、イングマール・ベルイマン、マーティン・スコセッシ、スティーヴン・スピルバーグ、ウィリアム・フリードキンら数々の映画作家の作品に出演してきた。本作ではセリフを一切することなく、主人公オスカーの祖母の家に間借りしている謎の老人を演じ、本年度のアカデミー助演男優賞にノミネートされている。このほど公開された本編映像は、ホーン少年とシドーの共演シーン。一方が言葉を次々と発し、もう一方はセリフをまったく用いずにやりとりする“年の差68歳”のふたりの掛け合いを観賞できる。『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』2月18日(土) 丸の内ピカデリーほか全国ロードショー(C)2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
2012年02月02日