実写版『進撃の巨人』や、『劇場版MOZU』など多くの映画作品に出演し、役柄によって別の顔をみせる俳優・長谷川博己。彼の最新作は「エヴァンゲリオン」シリーズの生みの親にして、世界中でその名を轟かせている庵野秀明の脚本・総監督作『シン・ゴジラ』だ。7月29日(金)に公開されるが、いまだストーリーの多くはヴェールに包まれたまま…12年ぶりに日本で製作されるということもあって注目を集める本作について長谷川さんと同事務所でもある女優・玄理が迫り、庵野総監督の演出や撮影秘話について語ってもらった。■始まりは1954年の初代『ゴジラ』玄理:私は『ゴジラ』を今回初めて観たのですが、長谷川さんはいままでシリーズは観ていましたか?長谷川:結構、観ていました。初めて観たのは1954年の『ゴジラ』でした。小学校の頃、ほかにやっていたものも観ていたかもしれないけど初めて観たのは白黒の『ゴジラ』でしたね。玄理:映画館でご覧になったのですか?長谷川:いや、54年の作品はビデオテープで観ました。『七人の侍』も同じ年なんですよね。家に1954年の作品がたくさんあって『七人の侍』を観たあとに『ゴジラ』を観ました。玄理:小学校の頃観て『ゴジラ』を好きになりました?長谷川:ただただ、恐ろしいと思っていました。昔の特写は、ゴジラが人形で、コマ撮りになっているところもあるからちょっとカクカク動いていたりするんですね。人間の手で動かしている魂が宿った感じがとても怖いなと思いながら、ちょっと滑稽で好きでしたね。玄理:その後、いくつか『ゴジラ』シリーズは観ていたんですか?長谷川:多分観ていたと思いますよ。全部観ていたかは分からないですけど、ビデオだったり映画館だったりで。一時期やっていた『ゴジラ対モスラ』とか戦うものもたくさん観ていましたね。玄理:今回、長谷川さんはゴジラから日本を守らなきゃいけないという役でしたよね。直接の対決ではないにしろ、ゴジラと戦って、そのゴジラに対して怖いとか、憎いとかそういう気持ちはあったんですか?長谷川:ゴジラに対して憎しみとかを矢口が表現する場所ってそんなになかったと思います。庵野さんからも、そこはあまり求められてなかったです。どれだけ被害や犠牲者を出さずにうまくゴジラを倒せるか、というのがリーダーとしてあるべき姿かというのを想像しながら、それが感情的になるのはいけないことなんじゃないかと思いながら演じていたと思います。玄理:ゴジラに対しての気持ちというよりは国民を守らなきゃという思いの方が大きかったんですか?長谷川:ゴジラをどうやったら倒せるのかというところに腐心していたので、当然そういう部分の感情を出したりもしましたけど、それよりもどういう風に事態を解決していくかというところに専念してましたね。玄理:実際観て思ったのは、ゴジラを倒す以前に会議して誰の許可を取って…経なきゃいけない工程が強調されているように感じました。長谷川:そうですね。庵野さんがどう思って描いたのか、答えは聞いてはいないですけど。玄理:長谷川さんだったら煩わしいと思いますか?それともあって然るべきだと思いますか?長谷川:もっと即決できれば理想的ですが、やっぱり前例がないことが起きたときの対応は一筋縄ではいかないと思うんです。もし本当にゴジラが現れたら、現場で対処する前にいろいろしなきゃいけないと思うとちょっとゾッとしますよね。玄理:そうですよね。誇張されているものなのか、あれがリアリティなのか分からないけど、本当にこういう工程を踏まなきゃいけないとなると、無駄じゃないのかもしれないけど、助けるためにいろいろできたのに…と思いました。■庵野秀明のこだわりぬいた演出玄理:庵野さんの演出で変わったものはありましたか?長谷川:庵野さんはやっぱりこだわりがすごいですね。なかなかあれ程こだわり抜ける方はいないと思います。玄理:例えばどんなときにこだわっていると思ったんですか?長谷川:カメラが8台くらいあって、壁を取っ払って8台で撮って、今度は隣の壁を取っ払って8台で撮って…。あとはリサーチ力がすごいですね。事実に基づいて作っていると感じました。庵野さんにいろいろ聞くと、そんなに意味の大きいものなんだと思う部分がたくさんあって、台本を読めば読むほど新しい発見に気づかされました。映画もシンプルなストーリーだけどその中で行われている細かいところは専門的すぎてかなり難しいこともあるんですよね。でも観ていると全部が繋がって理にかなってる。この作品は未来のあり方を庵野さんが指し示しているなと思いました。玄理:カメラ8台はどんなカメラだったんですか?長谷川:もちろん映画用のいいカメラがメインですが、iPhoneもありましたね。あとはデジタルカメラとか…8台以上あったかもしれないですね。実際iPhoneの映像も使ってるって言ってました。玄理:みたいですね!アプリを入れて画質を揃えて…って聞いたことがあります。専門的なセリフが多かったと思うのですがどうでしたか?長谷川:内容を理解するのに時間がかかりましたね。会話の速度も速いですし、その中で即断して決めていく政治家の会話はなかなか面白いものがありました。玄理:政府の機関なども調べたりしたんですか?長谷川:そうですね、実際に取材しても本音で話してくれないかもしれないと思ったので政治家に近い友達に「こういう場合はどういう意図があると思う?」とか聞いて、「裏側でこういう欲があればこうするだろう」とかそういう話を聞いたりしましたね。玄理:長谷川さんの役って出世欲が強い役ではなかったですよね?長谷川:いや、出世欲がなければあのポジションにいなかったと思います。欲が表面に出ていなかっただけで矢口が40歳前に官房副長官の立場になれるということは、なくはないかもしれないけど、普通に考えたら若い人が抜擢されることは考えられないんじゃないでしょうか。大人の事情がありつつも選ばれるんですよ。選ばれてからも目立ちすぎると足を引っ張られると思うんです。だからそこに矢口の人物像の答えがあるなって。矢口は人とどう接するのか、周りからどう見られているのか。ということを庵野さんと相談し、想像しながら役を組み立てていきました。■そこに無いものを見る…演劇で培ったもの玄理:役としてはゴジラって初めて対峙する怪獣になりますよね?長谷川:そうですね。庵野さんからコンピューターグラフィックで作ったものを見せてもらって、こういう映像が映っていると思ってやってくださいって言われて。ほとんどグリーンバックでした。玄理:もしかしたら俳優さんによっては正確には見ているものとか、覚えているゴジラが違うかもしれないですよね?長谷川:そうですね。でも大体は見せてもらっているから思い描いているものは一緒だったと思います。玄理:今回のお芝居は、ゴジラの起こした出来事に怒りなどの感情を表現してお芝居するじゃないですか。ないものを見ながら演じることにやりづらさなどはありましたか?長谷川:僕はもともと演劇をやっていたから無いものを見えるように演技することは、ずっとやってきたことなんです。だから違和感や勝手が違うとかは感じなかったですね。(text:cinemacafe.net)
2016年07月28日なぜ、いま“ターザン”を映画化するのか?その問いにアレクサンダー・スカルスガルドは「ターザンがスーパーヒーローの原点だから」と答える。強いだけではない。思いやりがあって、ハートで人々を惹きつけ、リーダーシップの取れるヒーロー。それがターザンであり、世界がいま求めているヒーローだ。「子どもの頃、僕がターザンのことが大好きだったのは、ミュータントでもない、武器やガジェットも使わない、空も飛ばない、使うのは己の頭と身体だけ──という生身の人間であることだった。ジャングルで生きるために、より強くより素早く、ターザンは超人になっていく。そんな大好きなターザンを自分が演じることになるなんて。オファーの電話をもらったときはものすごく嬉しかったけれど、後でドッキリだったと連絡が来るんじゃないかって疑ったほどだよ(笑)。信じられないほどこのオファーは嬉しかった」。憧れのキャラクターを演じることの嬉しさに加え、新しい解釈を加えていることもスカルスガルドが惹かれた理由のひとつでもある。物語はターザンがジェーン(マーゴット・ロビー)と結婚し、イギリスで生活しているところから始まる。「冒頭、ターザンは3ピースのスーツを着た英国紳士ジョン・クレイトンとして登場するんだ。彼は首相とお茶を飲むような洗練された貴族だ。これまでのターザンは野生児からだんだん人間的になっていくストーリーだったけれど、この『ターザン REBORN』はその逆。ある出来事をきっかけに、人間の世界から自分のルーツであるジャングルの世界へ戻っていく。心理的にも外観的にも面白い解釈だと思ったよ」と語る。そして、ターザンとして存在するために厳しいトレーニングを積み、彫刻のような圧倒的な美ボディを手にした。最先端のVFXでどんな映像も可能な時代に、リアルな肉体で勝負する。そこには俳優としてのこだわりがあった。「モーションキャプチャーのスーツを着て撮影すれば、CGで理想のターザンの肉体になれただろうね。でも、そうしなかったのは理由があるんだ。何か月もかけてターザンを演じるための肉体を作る、そういう準備があるからこそターザンの気持ちになれる。大変だったけれど、とてもエキサイティングだったよ。ただ、撮影を終えてから半年後に1シーンだけ撮り直したいと言われてね。撮影後は食べたいだけ食べて太ってしまっていたから、また3か月間、お酒を断ち、ダイエットをして、トレーニングをしたんだ。撮り直しのシーンはムボンガとの闘いのシーンのひとつ。さすがに“CGでなんとかならないのか!”って、トレーニング中のジムで叫んでいたよ(笑)」。ジャングルのセットは14週間かけてスタジオに作られた。今回、美術監督を務めるのはスチュアート・クレイグ。『ハリー・ポッター』シリーズを手掛け、デイビッド・イェーツ監督とも4作一緒に仕事をしている。そのセットの素晴らしさにスカルスガルドは感嘆する。「あまりにセットが素晴らしくて、信じられない光景ばかりで、これは現実なのか?ってほっぺたをつねったよ(笑)。子どもの頃からのターザンのファンにとっては夢のような世界、僕たちだけのために“ターザンパーク”を作ってくれたようなものだからね。毎日現場に行くのが楽しかった。ツタからツタへ飛び渡るシーンはターザンの目線になって、観客もまるで自分もスイングしているかのようなリアリティを味わえると思う。ただ、ターザンはそれを軽々やってしまうけれど、そこで重要になってくるのがサミュエル・L・ジャクソンのジョージのキャラクターだ。彼はターザンのようにジャングルを走り回れないけれど、苦労することで重み(リアリティ)が生まれる。その重みが観客をジャングルにいる感覚にさせてくれるんだ」。役者としての挑戦には、そこにいないCGで描かれる動物たちとの共演もあった。たとえば、ターザンがジャングルに戻って来て、自分を育ててくれたゴリラと再会するシーン。目を見つめ合うだけで気持ちが通じ合うエモーショナルなシーンだが「僕の目の前にいるのはゴリラではなく(位置を確認するための目印の)テニスボールだけだからね(笑)。ボール相手にどうやって感情を出すのかが大変だった」。また、アクション映画に見られがちだが、実は「ラブストーリーに満ちている」と、ターザンとジェーンの愛がベースになっていると熱く語る。「観ている人が2人の愛を感じなければ、この映画は成り立たないからね。彼が殺されようが、彼女が水の中に落ちようがどうでもいい相手だったら、この物語は成立しない。愛する妻を救うために、ターザンは再びジャングルへ向かうわけだから。ジェーンが自立した女性、強い女性であることも大きなポイントだと思う。ジェーンはターザンの助けを待っているだけの乙女ではないんだ。1800年代の物語ではあるけれど、ジェーンを通して描かれる女性像はとても現代的だと思うよ」。女性はきっと、ジェーンのような女性に憧れるだろう。もちろん、スカルスガルドが作り上げたターザンの男らしさにも惚れるだろう。『メランコリア』『バトルシップ』『メイジーの瞳』『ザ・イースト』…作品ごとに違う顔を見せてくれる俳優アレクサンダー・スカルスガルドにとって『ターザン REBORN』は間違いなく大きなステップとなったが、そこに留まらないのがスター。「ターザンの撮影が終わってすぐに、インディーズ系の映画『War on Everyone』に主演したんだ。その映画で演じたのはスーパーヒーローとは真逆のキャラクター。メキシコのアルバカーキにいる非常に腐敗した警察官で、アル中でコカインもやる、悪党のお金もいただく役。ヒーローを演じた反動なのかな(笑)。僕は、役にどっぷり浸かるタイプだから、ひとつの作品が終わるとそれとは全く違う役を演じたくなるんだよ」。悪党役のスカルスガルドも気になるけれど、まずは『ターザン REBORN』。強くて、優しくて、正義感があって、たくましく美しい──パーフェクトな理想の男、ターザンを見ないことには始まらない!(text:Rie Shintani)
2016年07月27日孤児となった9歳の少女が、養子として韓国からフランスへと旅立つまでを、自身の実体験を基に描いた『冬の小鳥』(’09)のウニー・ルコント監督。その鮮烈なデビューから6年の歳月をかけて完成させたのが、長編第2作『めぐりあう日』だ。いま日本でも、尾野真千子&江口洋介出演のドラマなどで改めて注目されている養子縁組を軸に、ルコント監督は養子に出された娘と実母の運命的な再会を、再び自身の人生を重ねながら、しなやかに描き出した。本作で監督の“分身”ともいえる、実母を探し求める主人公を演じたフランスの実力派女優セリーヌ・サレットに話を聞いた。本作の舞台は、フランス北部の港町ダンケルク。生みの親を知らずに育った理学療法士のエリザは、自らの出生を知るため、息子のノエを連れてパリから引っ越してきた。ある日、ノエが通う学校で働く中年女性アネットが、患者としてエリザの療法室にやってくる。2人は治療を繰り返すうちに、不思議な親密感を覚えるようになるが…。フランス語原題の「あなたが狂おしいほどに愛されることを、私は願っている」という言葉は、監督の愛読書である作家アンドレ・ブルトンの詩集「狂気の愛」から引用されている。この1節が読み上げられるラストシーンは、親子や家族の普遍の愛と命の誕生の賛歌を謳い上げ、いつまでも心に深い余韻を残す。「力強い物語に思わず涙がこぼれました。どうしてこんなふうに感情を揺り動かされてしまうのか、意外にも思えることでしたが、とにかくそんなふうでした」と、セリーヌは最初にこのシナリオにふれたときのことを、そうふり返る。「物語そのものがもつ強さと言っていいのでしょうか。それが、映画の力強さにもなっているのです。あの瞬間に感動したと誰かが言ったとき、それは映画のどの瞬間でもあり得る。観客ひとりひとりが、それぞれ違ったシーンで感動したとしてもおかしくない、そんな力強い瞬間にあふれています。しかも、それらのシーンはけっして感傷に流されるままに演出されたものではないのです。その意味で、彼女の処女作『冬の小鳥』にきわめて近い映画だと思います」と、セリーヌは自身の感触を明かす。確かに、ルコント監督が自らの思いを切り離すかのような緻密さで描く1つ1つのシーンは、観る者を常に刺激し、あらゆる感情を誘発させる。「たぶん、背景となっている現実や状況がみごとに構成されているからではないでしょうか」とセリーヌ。「実際、それぞれのシーンの光の具合と背景にある思いや気持ちが、みごとに演出されています。もちろん、人物像や俳優の身体、演技も重要なのは言うまでもないのですが」。身体といえば、セリーヌが演じるエリザは理学療法士。“実母”とは知らずに、アネットの身体に幾度となく触れていくが、とりわけ、エリザの腕の中で母のほうが胎児のようなポーズをとるシーンは印象的だ。「偶然そうだというのではなく、彼女のキャラクターを描くにあたって、これ以上ない職業だと思います。誰かを癒してあげる、誰かを治療してあげることによって、彼女は自分のなかにある欠落を埋めることができ、母親から見捨てられたという事実を乗り越えて生きてゆくことを可能にしているのです」とセリーヌは語る。「そのため、エリザは最初、他人の世話をすることで目いっぱいなのですが、次第に自分自身を救うことの重要性に気づきます。つまり、それまで自分の意志とは違った人生を歩んできた彼女が、どうやってそうした状態から抜け出し、自らの人生をきちんと中心に置き直して、正面から向き合うことことができるのか、その答えを知ろうとするようになるのです。そのためには、まず自身の出生の秘密を知る必要があり、まさにその答えを探そうとし始めたばかりなのです」と、キャラクターの背景にも言及した。エリザ役を演じるにあたっては、「とにかくまず、理学療法士の仕事について綿密に学びました。監督のウニーは、よい意味で高い要求を課す人であり、それに応える必要があったのです。同時に彼女は、美学的にもより高い目標を設定していて、特殊効果を使ってごまかすようなことはしたくなかった。その結果、しかるべき準備が求められたわけです。こうして周到に準備し、きちんと理学療法士の仕草や仕事について学んだおかげで、映画にもよい結果がもたらされたのではないかと思います」と、手応えを覗かせるセリーヌ。「いま、私には5歳半になる娘がいるのですが、より切実感をもって“継承”という問題を感じるようになっています」と彼女は言う。「なにを、どのようにしてなすべきか、また継承してゆくことができるのか、こうしたことを知るのは人生の根本でもあるでしょう」と語るように、本作での経験は、彼女自身の人生観にも大きな影響を与えたようだ。一方、そんな彼女を主演に迎えることを、ルコント監督は「最初から考えていた」という。「複数の役者と会うことはぜず、彼女1本釣りでシナリオを送って読んでいただいて、彼女もプロジェクトを気に入ってくれたので、お会いすることになりました。ですので、カメラテストなども一切なしに、私が彼女に決めてオファーをしたという経緯です」と当初から“ベタ惚れ”だったことをコメント。みごと期待に答えた彼女の熱演を、「抑えた演技で、控えめだけれども存在感が光り、ある意味、アジア的な演技」と絶賛を贈っている。『めぐりあう日』は7月30日(土)より岩波ホールほか全国にて順次公開。(text:cinemacafe.net)
2016年07月27日この美しい人が相手なら、たちまちよろめいてしまうのも納得できるかも?女子刑務所に入った主人公パイパーのサバイバルを描く「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」で、ルビー・ローズは新登場の受刑囚ステラ・カーリンを好演。シーズン3を引っかき回すキャラクターの1人として人気を集め、ルビー自身の人生にも大きな影響を与えた。オーストラリア出身のルビーがアメリカに渡り、役者の道を本格的に歩み始めたのは数年前。ただし、それ以前から、演じることに対する情熱を静かに抱き続けていたという。「母がアーティストだったから、子どもの頃からアートに興味があったの。母はそんな私を支持してくれる人で、自分を表現する何かを探したい私の気持ちを理解してくれた。親類も協力的で、大叔母がヴィクトリア・カレッジ・オブ・アーツ(メルボルンの名門芸術学校)に行く資金を援助してくれたわ。でも、在学中にMTVオーストラリアのパーソナリティになるオーディションに受かり、役者を目指す道を貫くかタレントになるか悩んだけど、私は決して裕福な家庭に育ったわけではないから仕事を手に入れたい気持ちが勝った。その後はラジオの仕事をしたり、モデルをしたり、首相に会っていじめ問題について話し合ったり、記事を書いたり、CDをリリースしたり、いろいろな経験をさせてもらったわ。でも、やっぱり女優を諦められなかったから、アメリカでの再出発を選んだの」。しかし、その道は険しく、エージェントと契約すら結べない2年間が続いた。「予想以上に厳しかったわね。働くこともできない2年間だった。タトゥーを入れているのがいけないのか?アンドロジナスなスタイルでいるのがいけないのか?と、いろいろ悩んだわ。そんな中、『ブレイク・フリー』(原題)という短編映画を作ったの。性の垣根を超えることをテーマにした作品で、“自分に正直であれ”というメッセージを込めている。それが注目を集め、『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』のキャスティングディレクターから“オーディションを受けてみない?”と連絡をもらった。もちろん、“受けます!”って即答する状況よね(笑)。その後、何度か面接を受けることになるのかなと思っていたら、2度目の電話で“月曜から撮影だから、すぐNYに来て!”と言われたの」。そんな経緯を経て、パイパーも夢中になるステラ・カーリンが誕生。個性的で自我の強いステラ役は、「自分と似ているからこそ、難しい役」だそうだ。「例えば理想的な主婦の役なら、自分とかけ離れていて演じやすいかもしれない。だから、私はあえてステラと自分の違う部分に着目したの。私はもう少しオタクっぽいし、シャイだし、彼女ほどクールじゃないわ。ステラは自信たっぷりに振る舞うけど、あれは私には無理。パイパーにウインクするシーンが予告編にも使われ、みんなが話題にしてくれたけど、あれも本当に無理(笑)。私だったら、頑張って控えめに手を振ってみるくらいかな。“気づいたかな?う~ん、気づかなかったら仕方ない”って諦めるタイプね。そもそも、ステラは大胆過ぎると思う。パイパーにはアレックスっていう素敵な人がいるのに!」。彼女がウインクしたら相手はたちまちときめくだろうに、控えめな恋愛アプローチが精一杯とは少々意外。「ステラほどクールじゃない」と自己分析しつつ、「クールって何なのかな…?」と思わず呟く姿も可愛らしい。「好きなのは、脚本を読むこと。マーティン・スコセッシやスティーブン・スピルバーグ、デビッド・フィンチャーら、好きな監督の映画を観ること。飼い犬と遊んだり、一緒に寝たりすること。自分の犬がそばにいないときは、人の犬を借りて一緒に寝ること(笑)。パーティーや夜遊びはあまり得意じゃないし、クールな人たちの仲間になったこともないわ。でも、クールって、きっと人によって定義が違うわよね。私の友達も決して完璧な人だらけではないけど、私は彼女たちをクールだと思っているもの」。「『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』の仲間になれて、キャリアも上向いてきた。おかげでいまは以前よりずっと自信を持てているし、自分自身を受け入れられるようになったと思う」とも語るルビー。『バイオハザードVIザ・ファイナル』をはじめ、『トリプルX』のシリーズ第3弾、『ジョン・ウィック』の続編と、今後も話題作への出演が目白押しだ。「出演するだけ、尊敬する俳優も増えていくのが嬉しい。ヴィン・ディーゼル、サミュエル・L・ジャクソン、トニ・コレット、キアヌ・リーブス、ミラ・ジョヴォヴィッチ、そして今回一緒に来日したウゾ・アドゥバ…、みんな最高なの。大好きなケイト・ブランシェット、メリル・ストリープ、ケイト・ウィンスレットともいつか共演できたらいいな」。(text:Hikaru Watanabe)
2016年07月24日「ギョいしょっ」と言って腰掛けた途端、ノンストップで話し続けるのは微に入り細を穿った魚の知識。そのどれもが専門的なのにもかかわらず、魅力的な語りに思わず聞き入ってしまうのが不思議だ。日本でのディズニー/ピクサー映画興行収入No.1を記録した『ファインディング・ニモ』の続編として公開される『ファインディング・ドリー』。本作で声優と日本版海洋生物監修を担当しているのが、日本において魚にまつわることなら右に出る人はいないであろう、さかなクンだ。シネマカフェでは、さかなクンにインタビューを実施。ところで、海洋生物監修って一体どういうことなの?そんな疑問から、さかなクンの目から観た本作の魅力まで、余すことなく“ギョ紹介”してもらった。まずは、今回のさかなクンのクレジットとして記される「日本版海洋生物監修」。これって一体どういうことなの?と尋ねると、嬉々とした語り口でさかなクンは話し始める。「映画の中では、オーストラリアのグレート・バリア・リーフからアメリカの海までの大冒険が描かれていますが、そこで登場するたくさんの海洋生物がいます。ニモちゃんやマーリンさんたちのモデルであるクマノミちゃんの仲間をはじめ、ドリーちゃんのモデルにもなったナンヨウハギちゃん、エイ先生のモデルになったマダラトビエイちゃん、そしてマンボウちゃんや、マカジキさん、ミズダコのハンクさん。こういった海の生き物たちには、ナンヨウハギは“blue tang”、ミズダコの場合は“giant octopus”といった英名がついています。そのひとつひとつに、日本での呼び名である“標準和名”を申し上げさせていただきました」。次から次へと飛び出してくる魚たちの名前にはさすがの一言。その知識量には、ピクサーのクリエイターたちも舌を巻いたそうだが、そんなさかなクンにとって、魚に夢中になったというきっかけになった生き物がいる。それは、子どものときに友達の描いたイラストをきっかけに知ることになったというタコだ。タコといえば、ディズニーアニメーションでは『リトル・マーメイド』のアースラなど、どちらかといえば悪役として描かれることが多いが、本作ではドリーと行動を共にするバディとして登場するハンクの大活躍が描かれる。さかなクンにとって、主要キャラクターとしてのタコの大抜擢は願ってもみなかったことなのでは?そう指摘すると、さらに表情を明るくして「どんな役であれ、タコちゃんが出ると、タコちゃん出たーー!!と大喜びしちゃうんですが、今回のハンクさんは、動きと言いタコちゃんの習性と言い、すばらしく表現されていました」と、そのクオリティの高さに笑顔を浮かべる。さらに、「例えば、ハンクさんは一匹狼的な性格で描かれていましたが、実際にタコは海の中でも孤独を愛する生き物で、群れは作らず、大抵は一匹で静かに暮らしてるわけですね」と、実際にタコの生態に基づいたハンクの描写について解説。ちなみにクールなキャラクターといえば、前作におけるツノダシのギルもお気に入りだそうだ。東京海洋大学名誉博士をはじめ、様々な肩書きを持つさかなクンだが、イラストレーターもそのひとつであり、いまにも動き出しそうな色鮮やかな魚たちの姿には、魚に対する確かな知識と愛を感じさせ、観るものを惹きつける魅力がある。そんなイラストレーターとしてのさかなクンの目からは、ピクサーが描く魚たちの姿はどう映るのだろうか?「例えば、マーリンさんやニモちゃんのクマノミって、“ワインディング”と呼ばれるように、泳ぐときに必ず体をくねくねさせて泳ぐんですね。その動きからか、クラウン(=道化師)フィッシュ、アネモネフィッシュなんて呼ばれ方もしているんです。一方ドリーちゃんは、体を真っ直ぐさせて、胸ビレを、鳥さんのはばたきのように上下に動かして泳ぐんですね。映画では、そういった細かい動きや泳ぎ方も表現されています。今回の作品でも、クリエイターの皆さんが足繁く水族館に通って、お魚をすっギョく観察されていたと伺って、そういったことがあの自然な動きとか泳ぎ方、表情とかが、生き生きと表現されることに繋がっているんじゃないかなと感じました」と、惜しげもない賛辞を送る。「お魚って一見表情がないように見られがちなんですけど、お魚の表情とかよく見ていると、あーって大きなあくびをしたり、目を吊り上げて怒ったり、“クリーナー”と呼ばれる、ちっちゃなお魚やエビちゃんに掃除してもらってるときのウツボちゃんやクエちゃんの表情を見ると、ああ気持ちいい!って感じの顔をするんですね。だから、お魚たちの表情っていうのは観察すればするほど、いろんな表情があるんだなあって気づくんですよ」と語るさかなクン。その言葉には、長年魚たちを描き続けてきたさかなクンならではの、魚たちに対する温かい眼差しが感じられた。「お魚の世界でありながら、親子の絆でしたり、家族の大切さ、そういったものが素晴らしく描かれていて、ジーンとくるシーンもたくさんありましたね」。そうさかなクンが語るように、本作ではドリーが家族を探す冒険の中で自分自身のルーツを知り、自信を取り戻していく姿が感動的に描かれている。ディズニー/ピクサー映画ならではの普遍的なストーリーは本作の大きな魅力のひとつだが、さかなクンは作品の中で“擬人化”された登場人物としての魚だけではなく、あくまで魚として生きる彼らに対しても目線を向ける。「実際にお魚もいろんな経験をして、大人になっていくんです。小さいお魚は釣り針にかかりやすかったりするんですが、大人になるまでにいろんな危険な目に遭ったりするので、大人の魚は釣られないように、成長していくんです。もちろん映画では、魚が擬人化されている部分もあるんですけれど、お魚も家族を大切にしたり、命がけで卵を守ったりするんですね」。2010年には、絶滅したとされていた「クニマス」の再発見を実現させるなど、会いたいという気持ちを実際に大好きな魚たちとの出会いに結びつけてきたさかなクン。最近では、「東京スカパラダイスオーケストラ」とのコラボレーションや、映画『フォーカス』の企画でウィル・スミスに扮したりと、そのキャラクター性から領域をまたいで様々な活躍ぶりを見せているさかなクンに、今後の目標について聞いてみた。すると、やっぱり頭に浮かぶのは魚のことばかり。まるでその日が実現したかのような笑顔を浮かべ、さかなクンは語った。「誰も見たことのないお魚に会ってみたいなあというのは、すギョく前から思ってる夢なんです。ギョギョ!なんだこのお魚は!って、そんなお魚に会えたらいいなあと思っています」。(text:cinemacafe.net)■関連作品:ファインディング・ドリー(原題)
2016年07月20日作品を重ねるごとにそのクオリティを更新し続けているディズニー/ピクサーによる映画作品。毎年のように公開される最新長編に、全世界からの注目が集まるのはもちろんだが、忘れてはいけないのが同時上映される短編アニメーションだ。10分も満たない僅かな時間で、長編にも負けずと劣らない奥行きと世界観を表現するディズニー/ピクサーの短編作品。『トイ・ストーリー』などお馴染みのシリーズ番外編といった位置付けのものもあれば、完全オリジナルのキャラクターとストーリーで描かれる作品など、その表現の幅は多岐にわたるが、どれもが一瞬にして観客の心を掴む魅力に溢れた作品ばかりであり、そこにはディズニー/ピクサーの底知れぬクリエイティビティが感じられる。世界屈指の才能あるクリエイターたちを擁する同スタジオ、もちろんそこにはジョン・ラセターといった“天才”が強烈な存在感を発揮しているが、若手クリエイターたちも日々研鑽を重ね、作品の中で様々なかたちでその才能を開花させている。短編アニメーションは、そんな今後の活躍が期待される逸材たちにとって、監督としてデビューを果たす貴重な機会でもあるのだ。シネマカフェが実施したピクサー現地取材第2弾では、『ファインディング・ドリー』の同時上映作品『ひな鳥の冒険』で監督デビューを飾ったアラン・バリラーロと、プロデューサーのマーク・ソンドハイマーのインタビューをお届けする。まばゆい光に照らされた海岸線で、餌を探すシギの親子の姿が描かれる本作。主人公は、まだ親鳥に甘えている一羽の小さなひな鳥だ。そんなひな鳥に、なんとか自分で餌を探すように背中を押す親鳥と、突然やってくる波におびえながらも、自分で餌を探すことを覚え始めるひな鳥の成長が、美しい映像で描かれている。本作で初めて監督を手掛けるのは、『ファインディング・ニモ』を始め、『バグズ・ライフ』『トイ・ストーリー2』『モンスターズ・インク』『Mr.インクレディブル』『ウォーリー』『メリダとおそろしの森』と、ほぼ全てのピクサー映画にアニメーターとして参加しているアラン・バリラーロだ。なんと宮崎駿のファンだという彼だが、初めての監督インタビューということもあってか、熱い情熱をほとばしらせてインタビューに答えてくれた。濡れた砂浜がシギによって掘り起こされる質感に至るまで、とにかくリアルに表現された映像への感動をまず伝えると、「ありがとう。とても難しかったんだよ(笑)」とアランは頬を緩ませる。なんと本作は取材陣が訪れるつい数日前に完成したばかりであり、スタジオのスタッフですらほとんど観ていない状態だったという。「RIZ」と呼ばれる、新しいテクノロジーが用いられたという本作だが、ディズニー/ピクサーは近作『アーロと少年』においても“フォトリアル”と呼ばれるような、実写と見紛うほどのリアルな映像表現を実現させている。表現の中でのテクノロジーの重要性についての質問をすると、「まずはストーリーが最初にあるんだ」とアランは説明する。「もちろん、新しいテクノロジーはエキサイティングだよ。いまでは、アーティストがどんなフォームでも、自分たち自身を表現できるようになってきているからね。でも、僕にとって表現は、キャラクターやデザインにかなり基づいている。だから、この作品での波なんかは、ただ水をフィジカル・シミュレーションしたものじゃない。アニメーターたちの手によってかたち作られたものなんだ。だから、本物の水よりももっと水らしく感じるんだ」と、テクノロジーだけでなく、アーティスティックな感性が生かされたピクサー流の表現について語る。若手クリエイターの育成を積極的に行うピクサーだが、今回晴れて監督に抜擢されたアランにその経緯を尋ねると、「アンドリュー・スタントン(『ファインディング・ドリー』監督)が僕の机のところにやってきて、僕がやっていたテストを見たんだ。そして、僕のことを励ましてくれた。ジョン・ラセターもね」と興奮気味に話す。「あまり知られていないピクサーの大きな特徴は、こういったアーティストとのメンターシップなんだ。監督たちやアーティストたちからアートフォームとビジネスの関係について学ぶことで、とても鼓舞されたよ。ここでのメンターシップを通して、アーティストとして成長していると感じられるのは素晴らしいことだよ」。さらに、アランに続きプロデューサーのマークも、「短編を作るにはコストもかかるが、それでもピクサーとジョン・ラセターは、短編を作ることを推奨している。なぜなら、それはアランのような人々に、ストーリーを語り、学ぶ機会を与えるからだ。短編を制作することは、普段彼らがやっていることとは違うことをトライしてみる新しい機会を与えられる。そしてそれは、まさしくピクサーそのもののためなんだ」と熱く語る。アーティストにとって、才能を伸ばす上でここまで恵まれた環境はないだろう。これまでのアニメーターの仕事と、今回の監督との違いについて尋ねると、本作で表現したかったことについてアランは語った。「間違いなく、監督することはチャレンジだったよ。僕がアンドリューからストーリーについて最も学んだことは、表現しようとしていることに正直に、自分をさらすべきだということなんだ。僕はこの作品で、正直なことを表現したかった。それは、子どものときに感じた“恐れ”と、僕には3人子どもがいるんだけど、親として、どのように子どもたちがそういう状況を乗り越える手助けができるだろうか?と言うことだった」。アランが語るように、『ひな鳥の冒険』で描かれるのは『ファインディング・ドリー』においても表現される“家族”であり、“成長”の物語だ。アンドリュー・スタントンとのメンターシップを通して生まれた本作は、まさしく同時上映される作品としてはぴったりの作品だと言えるだろう。そのクオリティの高さと魅力は、本作を目当てに劇場に足を運んでもいいと言っても過言ではないほど。ピクサースタジオが送り出す新たな才能を、ぜひ目撃して欲しい。『ファインディング・ドリー』と同時上映短編『ひな鳥の冒険』は、7月16日(土)より全国にて公開。協力:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン(text:cinemacafe.net)■関連作品:ファインディング・ドリー(原題)
2016年07月17日第76回アカデミー賞で長編アニメーション賞を受賞、日本でもディズニー/ピクサー歴代興収No.1を記録した『ファインディング・ニモ』。ニモと同じカクレクマノミを見た子どもが“ニモだ!”と感激するほど社会現象化した同作の続編、『ファインディング・ドリー』もまたアニメーション史上、記録的な興行成績で全米を席巻中だ。その夏映画の大注目作に、ナンヨウハギの忘れんぼうドリーの吹き替えで室井滋が、ニモの父親で心配性の父親マーリンの吹き替えで木梨憲武もカムバック!夢の再共演を果たしたふたりにインタビューを敢行。ニモが繰り広げた奇跡の冒険から1年後の世界を描く本作は、忘れんぼうのドリーを主人公に新たなアドベンチャーを壮大なスケールで描くエンターテインメント巨編!ドリーとマーリンとして、室井さんと木梨さんは、再共演を果たすことになった。この点、室井さんは、「それこそドリーじゃないけれど、どんな風だったか思い出すことが大変で(笑)。日頃ナレーションの仕事は多いですが、吹き替えは少ないので、ドリーの感覚を思い出すために、収録の現場に入って、自分が納得できるまで多少の時間がかかりましたね」と述懐。一方のマーリン役の木梨さんも、「久しぶりだったので、時間はかかりましたね」と室井さんと同調。「ついに、この映画が帰ってくると思ったら、ニモのパート2ではなく、ドリーの話で、やったと思いましたよ。そこには、どういうストーリーが待っているんだろうって。この年月を経ていると思うと、海の映像などもとてつもないほどきれいに違いないと思いました」と期待感でいっぱいだったとか。今回のドリーは、離れ離れになってしまった両親との家族の思い出を探しに、禁断の人間の世界まで飛び出す大冒険を繰り広げる。水のない世界は、それだけで大変なのに、ドリーは極端に忘れんぼうという、言ってみればハンデを背負っている。それでもあきらめずに泳ぎ続けるドリーの姿を観ていると、ドリーを演じる室井さんも感動を禁じ得なかったと言う。「ドリーにはマイナス思考がないので、ハンデがあると自分でも思っていないんですよ。だって、忘れちゃうから。マイナス思考を持ちようがない、みたいなところがあるんです。でも、そういうところが力強いと思う。わたしたち人間は余計なことを考え過ぎて生きている。ドリーを見ているとそう思えてくる。だからこれから先の人生は、ドリーのように忘れたいことは忘れて、覚えていたいことだけ覚えていようと思いました(笑)。そこが魅力だと思いますね」。マーリン役の木梨さんも、ドリーの冒険を追体験して日々の生活にフィードバックできる感動と勇気を得たと笑顔で語る。「ドリーって、重要なことは覚えていたりもするんですよ。だからね、それさえ覚えていれば、人間だっていいんですよ。全部覚えてるから、人間はそのネタで夜酒を飲み、愚痴りながら酒に酔って寝る、そういう毎日になっているでしょ(笑)。それはそれでありなんだけど、ドリーくらいさばけているといいですよね。本当、あこがれますよ」。確かに今回初登場する7本足のタコのハンクも、ドリーの忘れんぼうの性格に最初は驚くが「記憶がないと、人生が楽でうらやましい」というような言葉を言う。しかし、それこそがドリーの魅力であって、人生を豊かに生きるヒントも隠されている。室井さんは、最後にこう付け加えた。「また、同じ失敗をドリーは繰り返すかもしれない。忘れんぼうだからね。でもドリーは、そういうことを恐れていないというか、全然気にしていないんです。過去は過去として、前だけを見ている。本当にうらやましい。すごくいいなあ」。(text/photo:Takashi Tokita)■関連作品:ファインディング・ドリー(原題)
2016年07月15日人気アニメシリーズ「ポケットモンスター」の劇場版第19弾『ポケモン・ザ・ムービーXY&Z「ボルケニオンと機巧(からくり)のマギアナ」』でゲスト声優を務めるのが、タレントで歌手の中川翔子と若手女優の松岡茉優。アゾット王国の王子ラケル役の中川さんは10年連続で劇場版声優に抜擢され、その姉であるキミア王女の声を吹き込む松岡さんはアニメ声優初挑戦となる。「2ケタ!サトシが10歳ですから、それだけの長い間」と10年という数字に驚きの声を上げる中川さんは「しかも今回はピュアで繊細な少年という難しい役どころ。まさに人生最高の幸せを更新しました。夢のようです」と“ポケモン”愛は溢れるばかり。一方の元おはガール・松岡さんは、王国支配を目論むジャービス役の声優・山寺宏一とテレビ東京系「おはスタ」以来の再共演。「中川さんが『おはスタ』時代に『ポケモン』映画』の宣伝に来て下さったこともあるので、『ポケモン』は私にとって憧れの存在でした。だから嬉しいニュースが2つ同時に飛び込んできた感じ」と思いもひとしおだ。『ポケモン映画』の例にもれず、今作でも個性的なポケモンたちが登場し、見どころの一つになっている。しかし中川さんと松岡さんは、女子ならではの目線で、もう一つの注目ポイントを口にする。それは主人公の少年・サトシの成長と進化だ。「最近のサトシは男らしくなってきていたけれど、今年は特にヤバイ!サトシを違った目線で見てしまった」と中川さんが目を見開けば、松岡さんも「帽子を取ったときのサトシはかなりのワイルド男子だった」と証言する。「アラサーばばあがスイマセン」と気持ちを自制しようとする中川さんだが「とあるシーンでのサトシの『俺は嘘をつかない』とさらっと言うところ、これが『俺は嘘をつかないぜ!』ではないのが紳士感もあって男らしく、一番高いお寿司を頼んでもてなしたいくらいカッコいい。幻のポケモン・ボルケニオンに引っ張られて引きずられるシーンでは、結構なダメージを受けるけれど、そこも“ダメージ男子”好きにはたまらんショット」とノンストップ萌え。中川さんの激愛ぶりに「その後にサトシを語ることは出来ない」とタジタジの松岡さんは、ジャービス役の山寺さんについて「悪役山ちゃんは凄い。優しいときの面影はゼロで、人間の嫌らしいところのすべてが凝縮されたキャラクターになりきっていて、まさにレジェンドです」と感銘を受けていた。本作でのアニメ声優初挑戦のほか、憧れのアイドルグループ・モーニング娘。への参加、大河ドラマへの出演など2016年は松岡さんにとって初尽くしの1年となっている。そんな破竹の勢いの松岡さんに今後叶えたい“初もの”を聞くと「番組と番組の間に放送する3分枠番組のナレーション」と具体的。テレビ好きな“テレビの住人”と自らを称しながら「あの枠はテレビ好きにはたまらない番組であり、憩いの場。食べ物で例えたら、ヒジキのような箸休め的存在です。私も、誰かが何かをやっている姿に自分のナレーションが入ることで完成する3分番組をやってみたい」と声を弾ませる。達成目標は「2020年の東京五輪までには」と力を込めた。『ポケモン映画』声優出演10年という節目の年に、実は中川さんも“初”を経験。それは自身初の一人暮らしだ。今年3月からスタートさせてまだ数か月しか経っていないが「まさにメガ進化。去年の自分が見たら“誰だ、お前は”となるくらい。いまでは掃除もしっかりして、きちんと自炊。体調管理の大切さをレベル30になって初めて知りました」と充実した表情。オタク気質が手料理に吉と出たようで「キッシュやボルチーニのリゾット、ピカチュウのオムライスとか手の込んだものを作って一人寂しく食べている」と教えてくれた。手料理を食べてくれる男性は募集中だが「ボルケニオンのような男性に食べさせたい。『どう?』と聞いたら『男は黙って食うんだよ。悪かねえな』と言ってほしい。全世界の男子は草食系とかいっていないでボルケニオン化すればいい」と妄想ばかりが膨らむ現在。10年時が経っても“しょこたん”節は健在であった。(text/photo:Hayato Ishii)
2016年07月14日「僕は『ファインディング・ニモ』のときから、ドリーの心が傷ついていることを知っていた。たとえ他の人たちは知らなくてもね。僕は、それを治してあげないといけないことがわかっていたんだよ」。日本におけるディズニー/ピクサー作品No.1の興行収入を記録した『ファインディング・ニモ』。その13年ぶりの続編で『~ニモ』の1年後を描いた『ファインディング・ドリー』において、引き続き監督を務めたアンドリュー・スタントンは、本作の主人公であるドリーについてこう語る。シネマカフェでは、本作の公開に先立ち、アメリカはカリフォルニア州エメリービルのピクサー・アニメーション・スタジオに現地取材を敢行。第1弾として、監督のアンドリュー・スタントンとプロデューサーを務めたリンジー・コリンズのインタビューをお届けする。人間に捕まってしまったクマノミの子ども、ニモを探しに、父親のマーリンが奮闘する姿を描いた前作。捕らえられてしまったニモを必死に追いかけようとするマーリンは、彼よりも少し大きくて青と黄色のカラーが特徴的なナンヨウハギと衝突してしまう。ボートを見失ったことに焦り、失望するマーリンに、その魚は明るく意気揚々と話しかける。「ボートなら見たわ!こっちよ!」ーーそれが本作の主人公、ドリーだ。自分で言ったことすらも忘れてしまう、“忘れんぼう”のドリー。1作目では、そんなドリーにうんざりさせられながらも一緒に旅をするマーリンの姿がコミカルに描かれ、コンビを組んだ彼女の人気にも火がついた。はぐれたニモを探し出す(ファインディング)ストーリーを描いた前作だが、本作もタイトルと同様、家族を探しに人間の世界へ飛び出していくドリーを、今回はマーリンとニモが探す姿が描かれる。そして何より本作では、ドリーが家族の居場所を探すことで、彼女自身を見つけるというもうひとつのストーリーが描かれていく。「彼女が彼女自身を信じ、私たちが彼女は大丈夫だと信じられるようにするためには、もう1本の映画が必要だったのよ」。そう続編に至る経緯を語るのは、プロデューサーを務めたリンジー・コリンズ。1997年に入社以来、『バグズ・ライフ』『トイ・ストーリー2』『ファインディング・ニモ』『レミーのおいしいレストラン』など、数々の作品に参加する凄腕だ。そして前作に引き続き監督を務めるのは、1990年に9人目の従業員として入社して以来、一貫して同スタジオのクリエイティブの大きな柱であり続けてきたアンドリュー・スタントンだ。「僕がドリーを作った時…それは1999年のことだけど、僕は彼女のことを忘れんぼうにしたかったことを間違いなく覚えている」。ドリーを生み出した当時を述懐するスタンドンは、前作『ファインディング・ニモ』で監督としてデビューを果たし、アカデミー賞2部門(脚本賞、長編アニメーション賞)にノミネートされ、長編アニメーション部門受賞という、ピクサーの長編アニメーションにとって初のアカデミー賞をもたらしている。「彼女がもしひとりぼっちで、マーリンに偶然出会うとすれば、それは彼女が、自分がどこから来たか忘れてしまったということに違いないと、ある意味論理的に思ったんだ」。続編製作にあたり、スタントンはドリーというキャラクターが既に持っていたストーリーを紐解いていったという。忘れんぼう、という大きな特徴と同じく、ドリーというキャラクターを魅力的にしているのは、時に強引にまで周りを巻き込んでいく彼女の明るさだろう。「ドリーを私たちが大好きなことの一つは、彼女が決して他の人の欠点を見ない、または、欠点で彼らを見ない、ということよ」そうリンジーが語るように、彼女の明るさはシリーズの全キャラクターを、とてもポジティブな方向へと導いていく。このシリーズには、一般的には“欠点”と見られてしまうようなユニークな特徴を備えたキャラクターたちが数多く登場する。ドリーの“忘れんぼう”という特徴をはじめ、ニモの“小さな右のヒレ”や、本作より登場する“7本足のタコ”のハンク、“近視”のジンベエザメのデスティニーなど、それぞれが欠点を抱えながらも、魅力的にストーリーの中で活躍する。「たとえば、ニモについていうと、ドリーは決して彼の小さなヒレについて特にネガティブに話すこともしないし、デスティニーが『うまく泳げないの』と言えば、ドリーは『あなたは美しく泳ぐと思うわ』と言うの。彼女はキャラクター全員に、自信を注入するのよ」。しかしながら、そんな明るいドリーの過去が明かされていくうちに、観客はドリーの孤独に次第に胸を締め付けられるような思いを抱かざるをえない。それは、彼女は誰かに話しかける時の「すみません」という言葉を、「エクスキューズ・ミー」ではなく、「アイム・ソーリー」と言ってしまうところにあらわされる。「彼女は多分たくさんの友だちを作り、そして彼らを忘れてしまう。または、彼らは彼女をうまく扱えなくて、逃げてしまうんだ。だから彼女は、見捨てられた、という思いをたくさん抱えているに違いない。そして、彼女はそれを自分自身のせいだと感じているんだ。それで僕は、 “アイム・ソーリー”と言うキャラクターに行き着いたんだ」と、謝ってばかりいるドリーについてスタントンは解説する。「彼女の喜びや楽観主義、誰かの助けになろうとするところは、実は彼女の鎧なんだ。もし彼女がすごく助けになれば、多分その人は彼女を置き去りにしたりしないだろうというのが、彼女なりの考えなんだよ」。前作では、子を思うマーリンの視点を通して、親子愛だけでなく自立していく子どもを見守る“親の子離れ”が描かれ、その物語の普遍性が年齢を問わず多くの人に感動をもたらしたと言えるだろう。本作においても、ドリーが自分自身のルーツに出会い、変わっていく姿を描くストーリーには、観るものの琴線に触れる普遍的なテーマを宿している。エンターテイメントの第一線を走りながらも、なぜここまでもそこに人々の感動を呼ぶ作品を生み出すことができるのだろうか?「ディズニー/ピクサー映画に共通するテーマは、人々が共感出来るように、世界共通のものであってほしいと感じていることだと思う」とリンジーは話す。「ある作品がスーパーヒーローについてで、ある作品が魚について、そしてある作品がロボットやモンスターについてで。これらの作品は表面的にはかなり違うストーリーのように見えるし、実際そうよ。でも、映画が何について描かれていて、その冒険がキャラクターにとってどういうものなのかという核を見れば、人間の条件の普遍性に本当に触れているかどうかということになる。たとえ彼らのほとんどは人間でなくてもね(笑)。だから、私たちの映画は子どもにも大人にも共感してもらえるんだと思うわ」。『ウォーリー』における、荒涼とした地球をバックに流れるルイ・アームストロングの楽曲や、『2001年宇宙の旅』のなんとも痛快なパロディシーンにおける「ツァラトゥストラはかく語りき」など、スタントンの作品には、オールディーズの楽曲が使用されたり、古典的名作への敬意あるオマージュが見られたりと、間口の広い子ども向けアニメーションとは思えないほどの、映画ファンを唸らされる演出が多分に含まれている。そのことを指摘すると、スタントンは「宇宙で“ハロー・ドーリー”を流すというアイディアを思いついた時、『これはヒップホップみたいだ』と思ったよ」と彼流の発想法について語る。「古いものを使って、新しいもののために再利用するということだ。僕らはより繊細なレベルで、いつもそういうことをしている。どんなアートを作る時でもね。アートは、アートをインスパイアするからだよ」。そしてそれはもちろん、本作でも健在だ。ラストを飾るシーアが歌う名曲「アンフォゲッタブル」はもちろん、アクション映画のようなスリリングな展開を見せる後半における、誰もが知っているであろうあの名曲の起用には、驚きとともに笑ってしまうほどの痛快さがある。「本作の目標は、ドリーがみんなに与えるのと同じ優雅さを、彼女自身に与えることだったのよ」と語るリンジー。「アイム・ソーリー」とついつい言ってしまうドリーの姿は、どこか「謝りすぎ」だと表現されがちな日本人の姿にだぶるところもある。そしてそんなドリーが自らのルーツを求め、自信を取り戻していく姿は、きっと多くの感動と勇気を観るものに与えることだろう。『ファインディング・ドリー』の冒険は、自分自身に出会うための忘れられない旅になるに違いない。『ファインディング・ドリー』は、7月16日(土)より全国にて公開。協力:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン(text:cinemacafe.net)■関連作品:ファインディング・ドリー(原題)
2016年07月09日「去年のインデペンデンス・デイ(独立記念日)に生まれた子なんだ」と言いながら、幼い息子の写真を見せてくれたジェフ・ゴールドブラム。そんな彼の一言に、誰もが思わずニヤリとしてしまうはず。それは、隣に座るリアム・ヘムズワースも同様。なぜなら、両者は『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』で共演しているからだ。『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』は、96年の大ヒット作『インデペンデンス・デイ』の20年後を描いた続編。その中でリアムは戦闘機パイロットのジェイク、ジェフは前作でも演じた科学者デイビッドに扮し、20年前に地球を攻撃したエイリアンに再び立ち向かう。続編のポイントの1つは、前作で活躍した登場人物と新しい登場人物のドラマが交錯すること。「ジェフのすべてが好き」と語るリアム、「僕はリアム・ヘムズワースが大好きだ!」と高らかに宣言するジェフも、撮影を通してすっかり打ち解けたようだ。「ジェフは人としても役者としても素晴らしい。エネルギッシュだし、周囲を明るくしてくれるんだ。人間関係を築く努力を惜しまないのがすごいよね」(リアム)「リアムに初めて会ったとき、何て真面目で地に足がついている若者なんだろうと思ったよ。才能があり、プロ意識も高い。彼のような真の好青年はなかなかいないね」(ジェフ)互いを絶賛し合う彼らの相性は、スクリーン上からも見てとれる。人類とエイリアンの死闘がスリリングに展開する中、ジェイクとデイビッドが揃って戦闘機に乗り込むシーンにはちょっとしたユーモアも。「実際の撮影では戦闘機の外に何もないわけで、“○○が見えるぞ!次は○○が来るぞ!”なんて指示に合わせて怖がってみせないといけない。そうしているうちに、ふと口から出た言葉が台詞として採用されていったんだ」(ジェフ)「ローランド(・エメリッヒ監督)は完璧主義者だから、同じシーンを何テイクも撮る。それはいろいろ試せるということでもあり、試す自由があったからこそ面白いシーンになったのだと思う。実際の僕は乗り物酔いするタイプだから、戦闘機なんてごめんだけど(笑)」(リアム)リアムの言葉を受け、「ジェットコースターも駄目なのかい?」と心配するジェフ。それに対し、「1度なら頑張れるけど、2度は無理」と本音で答えるリアムの姿はちょっとだけ甘えているようにも!?そんな彼らの撮影中の楽しみは、「映画ゲーム」だったそう。ジェフがゲームのルールを解説する。「キャストの名前からタイトルを連想したり、タイトルを聞いてキャストの名前を挙げたりするんだ。ジャック・ニコルソンと言えば『シャイニング』、『シャイニング』と言えばシェリー・デュヴァル、シェリーと言えば『ナッシュビル』、『ナッシュビル』と言えばジェフ・ゴールドブラム!といった感じでね(笑)」。「そうしているうちに、自然と“あの映画はいいよね!この俳優はいいよね!”という話になるだろう?2人とも映画が大好きだから、お互いのオススメを言い合ったりもしたんだ」とリアム。ジェフから勧められた1本を紹介してくれた。「“ジェフ・ニコルズ監督とマイケル・シャノンの新作と言えば?”という質問からの流れで、『ミッドナイト・スペシャル』(原題)をジェフに勧めてもらった。とても素晴らしい映画だったよ」。映画を愛し、芝居を愛し、互いを尊敬し合うリアムとジェフ。本編に因み、“もしエイリアンに遭遇したら?”という質問が出た際にも映画愛と演技への情熱が炸裂。「ジェフに電話して助けを求める」というリアムの一言をきっかけに、豪華過ぎる寸劇が始まった。リアム「ジェフ、エイリアンがいるよ。どうしたらいい?どうしたらいい?」ジェフ「リアム、君はいまどこにいるんだ?」リアム「わからない。怖いよ…、ジェフ!」ジェフ「周りを見渡せ!どこかに通りの名前が書いてあるだろう?」リアム「ああ、わかった。○○通りだ。でも、道を進めばいいの?止まればいいの?わかんないよ。(涙声で)ジェフ、君が必要なんだよ!助けてよ!」「その後、僕はリアムを見つけ出し、抱き合って、めでたしとなるんだ」と満足げなジェフ。『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』の展開とはだいぶ異なるが、こんな共演作も観てみたい?(text:Hikaru Watanabe/photo:Nahoko Suzuki)
2016年07月06日男子高校生二人が、放課後に、とある河原でとりとめもないことを喋る――。ほぼ全編、同じ場所で、同じ登場人物で綴る異色の青春映画『セトウツミ』。観客は、会話を糸口に、登場人物であるクールな知性派の内海想と、ややお調子者の瀬戸小吉の人となりや日常の様子を発見していく。気だるくも大阪弁を効かせた喋りのみで、青春の楽しさと人生の切なさ、若さの眩しさを覗かせる“セト&ウツミ”の二人。そして、彼らのマドンナ・樫村一期を演じるのが、今注目の若手女優、中条あやみだ。出身地である大阪を舞台にした本作で、キュートな大阪弁を披露してくれた彼女に、映画について、女優業について聞いた。ただ男子二人が話しているだけ。なのに、くすっと笑えて、人生への愛しさがこみあげてくるこの作品。中条さんの感想は?「試写室で観ていたんですが、仕事だから何となく笑いをこらえなきゃと思っていたんです。でも、誰かが“むふふ”という声をもらした途端、つられちゃってみんなで笑ってしまいました(笑)。笑いをこらえられない作品です」中条さんのツボはどこに?「ほとんどツボだったんですが、特に笑ったのは瀬戸くんのお母さんですね。私の母も大阪のおかん。ヒョウ柄の服は着ないし、あそこまでわかりやすいキャラではないですが、同じ匂いを感じるんです(笑)。“わかるわかる”という感じでしたね。“じゃがいも、買ってこいや”というシーンとか特に。自分の言いたいことだけメールを送って来たりして、とにかくマイペースなところとか似ていますね」。実は今回、それほど出演時間は多くない。にもかかわらず、二人の主人公にとって特別な存在ともいえる“樫村さん”は、とても鮮烈な印象を残している。モデルとして、佇まいや表情だけで物語性や感情を表現するという仕事を重ねて来たからなのだろう。「演技をするうえで、モデルの仕事が役に立っていると感じますね。自分の表情がどんな風に映っているかとか、カメラがこの角度から撮っているからどう見えるかというカメラ前の感覚、撮影の際の空間認識については、経験が生きているんだろうなと思います。ただ、演技はモデルの仕事とは全く違うので、いつも苦戦しています」。モデルと女優、一番違うと感じるのは?「いろいろな役を演じなくてはいけないことですね。幽霊を演じたり、ロボットに追いかけられるとかもこれまでに経験しましたが、モデルの仕事では確実にない体験。そのかわり、いろいろな人の人生を経験できる素敵な仕事だなと思います」。ドラマデビューから4年。この間に、心の変化はあったのだろうか。「最初は右も左もわからなくて、ドラマの『黒の女教師』のときは、専門用語で話をされるたびに『え、何?』っていちいち質問していました。“この人、大丈夫?”って思われていたんじゃないかなと思うと、恥ずかしくて(笑)。その頃は、演技の難しさと何もわからないこともあり、女優という仕事に向いてないのかなと思ったこともありました。でも好きだし、楽しいと思えることも増えて来たので、やればやるほど、続けていきたいと思えてくるんです。自分に合っているか、合っていないかより、好きだからやりたいという考え方に変わりました」。悩みながらも一歩一歩前に進んできた4年間。続けることができた理由とは?「女優を始めた頃、ある映画のオーディションで、初めて会った監督さんに、“モデルとして来たの?女優として来たんだったら、ちゃんと演技して”と怒られたんです。“なんでそんなきついことを言われるなんて”と自分に対して悔しさを感じたんです。その言葉がずっと残っていて。それから、そんな風に思われたくない、だから頑張ろうと感じるようになったんです。今考えると、すごく有難いこと。悔しさをばねに、上手くなりたいと思うようになったのが原動力でした」。十代の女の子にしてみれば、くじけてしまったとしてもしたかがないほど衝撃的な経験。でも、それを糧にした中条さん。彼女が発する凛とした美しさは、そんな強さから来ているのかも。「ある意味での負けず嫌いなのかなと思います」。そんな部分が、今回演じた“樫村さん”を彷彿させる。「樫村さんは内海君のことが好き。相手にしてもらえないけど、打たれ強いから冷たくされても全然諦めない。そのうち、心境の変化もあって、女性特有の母性的な優しさも感じさせる。なかなか素敵な女性ですよね」。樫村さんの恋の障害とも言える男の友情については、どう感じているだろうか。「女性の友情って複雑ですよね。でも、男性の友情ってシンプルな感じがするんです。私自身、性格が男の子っぽいので、生まれ変わったら男の子になりたいな。男子って楽しそうでいいなと思いました」。男子って楽しそう。男の友情っていいな。老若男女が、そう素直に感じられるのが、まさに本作の魅力。何気ないひとことや、ちょっとした表情で垣間見せる友への思いやりに、少年の中に芽生え始めた男前な一面を大いに感じさせてくれるのだ。いずれおとらぬ、魅力的な“セト・ウツミ”だが、どちらが好みかたずねると…。「樫村さんを演じたからなのか、私は内海君派。私も暗い人大丈夫なんです(笑)。振り向いてくれないところや、ミステリアスな部分に惹かれます。でも、どちらも素敵な人だから…。いやなことがあったときにも笑わせてくれるなと思うと、結婚したら楽しいのは、瀬戸君かなとも思います(笑)。結婚まで考えると、悩みますね(笑)」と、女子を惑わすイケナイ男子二人が登場する『セトウツミ』。3人が絡む可愛い関係がどうなるのかも気になるので、ああでもない、こうでもないと、とりとめもないガールズトークをもっとしていたい。そんな気分になった中条さんとのひとときだった。(text:June Makiguchi/photo:Nahoko Suzuki)
2016年07月01日切なさで胸が締めつけられる一方通行の恋。誰もが経験したことがあるだろう。でも、そのカタチは人それぞれ。映画『全員、片想い』には8つの秘めたる恋が描かれていて、観る者が誰かの想いに、かつての、もしくは今の自分を重ねることができる。そんな恋の中でも、トランスジェンダーの男性ソヨンの恋を描いた『片想いスパイラル』で主人公を演じているのが知英だ。難しい役に挑んだ彼女に、男のカッコ良さ、そして作品に寄せた想いを聞いた。「日本語がお上手ですね」知英さんに、こういうのは何ともはばかられる。それは、ヴァイオリニストに「ヴァイオリンがお上手ですね」とか、ピアニストに「ピアノがお上手ですね」とか言うのと同じような気がするからだ。2014年の夏から女優として活躍の場を日本に移した彼女にとって、言葉はあくまでもツールなのだ。それは、初めてトランスジェンダーの男性役に挑んだ『片想いスパイラル』のソヨン役からもよくわかる。心と裏腹な身体を抱えながら、切ない恋に苦悩する姿が観る者の胸を熱くするのだ。そのイケメンぶりにも公開前から話題が集まっているが、仕草や声、歩き方や表情こそ男性を観察したものの、特に誰かを参考にしたわけではないと話す。「誰かの真似をしたくはなかったので、自分が男性だったらどうするかという考えを土台にしたんです。撮影中の3日間は、心の中で自分は男だと言い聞かせていました」。実はソヨンに入り込みすぎて、次の作品でも男っぽさが消えず、指摘されてしまったという。外見や仕草は、役に入るための重要な鍵となる。だが、それはあくまでも役作りでのハード面だ。ソヨンのカッコ良さは、むしろキャラクターのソフトである内面の男前っぷりにある。「特に、カッコよくみせなきゃとは思わなかったんです。もちろんタバコをくわえたり、服装が男っぽかったり、外側の要素はすべてが強かったので、そこで外見的なカッコ良さは表現できると思っていました。だから、自分がカッコ良さを意識し過ぎると、ちょっとオーバーになっちゃう気がして。だから、とにかく心を強くすることで、ソヨンの内面を表現したいと思いました」。トランスジェンダーの男性で、まだ社会では好奇心を持ってみられてしまうソヨン。居場所を求めて日本に留学してきたという設定だ。「韓国では、女性だった自分を知る人が多いということで、より難しい生活を強いられていたのかもしれない。だから、より自分らしくいられる日本に来ることを選んだのでしょう。私自身も、女優として仕事をするために日本を拠点として選んだので、ソヨンの気持ちが誰よりも強いのは理解できた。そういうところは、自分も似ているかな。だから、この子は絶対に強い子じゃないといけないと思って演じたんです。そんな彼が初めて偏見を持たない女の子に出会って恋をするんです。その片想いから見えてくるのが、ソヨンの優しさ。上手く気持ちを表現できないし、心は男性でも見た目は女性という難しさもあるから臆病にもなる。強い反面、そんな繊細な部分もあるキャラクターなんです」。知英さん自身、大きな覚悟と強い決意を持って来日している。「大変な時期もあったんです。私はこのままでいいのかなと悩んだり、家族と離れて海外で暮らすことがつらかったり。ただ、大変だったけれど、自分がやりたいことがあったし、私はできるんだと希望もあったから、自分を信じて歩んできた。でも、自分だけではとてもできなかった。ファンやスタッフの皆さんが支えてくれたからできたこと。難しい時期を乗り越えてきたからこそ、もっと強くなることができて、今笑っていられるんだと思います」。くじけそうになっても、つらい時期を乗り越えられた理由とは?「帰りたかったことがないと言えばうそになる。でも、負けず嫌いなんです。 “自分が好きで選んだ道なのに、ここであきらめるわけにはいかない”という気持ちがあった。韓国にもファンの皆さんはいる。でもここには、日本人じゃない私をこんなにも応援してくれ、信じてくれる人がいる。私がいるから笑えるとか、元気になれるとか言ってくれる人がいる。だから頑張れるんだと言い聞かせていました。今は日本にも家族ができたんです。猫を飼い始めたので、今はちゃんと日本にも心の基盤ができて、とても幸せ。それに、ソヨンのような素敵な役に出会うと、尚のこと続けてきて良かったと思える。こういう役に出会えたのも、辛い時期にがんばったからだと思えるんです」。そんな知英さんですが、片想いの経験は?「幼稚園の時にあります(笑)。実はうそじゃなくて、片想いの経験がないんです。誰かを好きになるのが、すごく難しいタイプで。向こうが私を好きだと確信が持てないと、あまり意識できない。それに、片想いって切ないですよね。そんなの耐えられない。もちろん、淡い片想いはあったと思うんです。この人が気になるな、ぐらいの。でも、映画みたいに、ここまで想いを寄せて、心が痛くなるような片想いはない。そういう思いはしたくないから、自分で感情を抑えていたのかもしれませんね」。そんな彼女にも、いつか感情が抑えられないほどに好きになってしまう人があらわれるかも。「そうですね。覚悟はしておかないと(笑)。今回の映画で、片想いってすごく素敵だなと思いましたし。自分が出演した『片想いスパイラル』だけでなく、8つの物語すべてが素敵だった。片想いでもなんでも、恋するのは素敵なんだとあらためて感じました」。そう言って、輝く様な笑顔を見せる。それは、今回の映画では封印されているのだが。「そういえば、全く笑ってないですね!あまり意識していなかったけれど。ソヨンはあまり笑わない子かなと思ってはいましたが、特に監督から指示があったわけではないですね。あまり笑わない男性が、何かのきっかけで顔をくしゃっとさせて笑うとキュンと来るなと想像して、役に反映させました。ルームメイトで片想いの相手でもあるユキと2人のシーンで、ちょっと笑うんですが、まさにそんな考えを意識して演じました」。ころころと表情を変える感情表現豊かな役ではなく、感情があまり表面に出ないソヨン。内に抱え込んでいるさまざまな感情を、微妙な演技で表出させているのが見事だ。「性同一性障害、外国での孤独な暮らし、その結果のユキとの出会い。ユキは、これまでの誰とも違う優しい視線を向けてくれた。そのことが、すごくソヨンの人生では大きかったと思うんです。だから、心はとても揺さぶられていたんだと感じました。それをどうすれば、静かにでも確かに伝えられるか悩みましたね。だから、撮影中に本番の途中でも、ユキ役の佐津川愛美さん、監督と気が済むまで話をしました。結果的には台本とそれほど違わないのだけれど、このタイミングで立ち上がるとか、手を伸ばすとかそういうこと。そのひとつひとつがソヨンの感情を表すものだったので、疎かにできなかった。みんなで悩んで悩んで作り上げた作品です。そして最後には、ソヨンが素敵な恋に出会えるように、運命の人に出会える姿を想像しながら演じていましたね」。難しい役を演じきった今、女優としての大きな手ごたえを得たのではないだろうか。「まず、この映画のヴィジュアルが公開されたときに、“これ知英なんだ!”という驚きの反応がすごく多かったので、嬉しかったんです。この役になりきれたという意味で、少しは成功だったかなと感じました。いろいろな役をこれからも演じていきたいし、それができる女優になりたい。自分が信じるそんな目標にちょっとは近づいたんじゃないかなと思いますね」。(text:June Makiguchi/photo:Nahoko Suzuki)
2016年06月30日アリスが戻ってきた。前作から3年後を描いたシリーズ2作目『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』では、時間に奪われた大切なものに執着する親友マッドハッターを救うために再び冒険の旅に出る。前作から6年の月日を経て、すっかりたくましくなったアリスを演じるのは、もちろん、ミア・ワシコウスカ。女優としても、女性としても、すっかり成長した彼女が、どんなアリス像を見せてくれるか、ファンとしては気になるところだろう。来日したミアに、作品に寄せる思いを聞いた。映画の冒頭、船長として勇ましい姿を見せるアリス。時代背景となる19世紀には、男性を率いるパワフルな女性は少なかったはず。「アリスが最初に登場するとき、とても強さを持って描かれているところがとても気に入っているの。2年ほどの航海で船長という役目を立派に果たし、自分が誰であるかも確立しているし、経験からくる強さも持ち合わせている。ところが帰郷してみると、当時のイギリス社会が彼女に期待するものがとても低くて。でもアリスはそれに流されず、自分の価値は自分で決めるものだという感覚を持ち続けたまま、自分の決めた道を歩み続けていく。これはぜひ、30、40代の女性にも受け取ってもらいたいメッセージね」。今回で2回目となるアリス役も、これまでの役選びを見ても、役との結びつきがとても強いことが感じられるミア。撮影後、離れがたいと感じる役柄もあるのでは?「それぞれの役によって変わるけれど、ときには“やっと終わった、嬉しい”と、すぐに役から離れられることもあるわ。必ずしも役が嫌いだというわけではないの。例えば、『ジェーン・エア』のように、衣装がとてもきつくて、“やった!終わった”と思う役もある。もちろん、キャラクターと離れがたくて終わったときに喪失感を覚えるものもあるわ。アメリカで最初に出演した『In Treatment』というTVシリーズでは、ソフィーという女性の人生を、演技を通して追うことで、彼女の友達になったような気がしていたの。とても別れがたかったわ」。では、アリスは?「アリスはとても好きな役。特にこの2作目は演じていてとても楽しかったの。でも、衣装の着心地があまり良くなくて。毎日、シートベルトでもするみたいに、がっちり着込んでいたの。1作目も衣裳がとてもきつくて、それに比べれば今回のほうが楽だったわ。パンツルックも多かったし。オリエンタルなドレスも、スカートに見えて、実はフレアの太いパンツだったのよ。だいぶ動きやすくかったわね。今回は走ったり、跳んだりも多かったから、そのためだとも思うけれど、アリス自身も自由が反映されているとも言えるわ。とはいえ今回も、着たらそのまま衣裳を縫われてしまったり、座らないでと言われたり。すごく肉体的につらい面があった。そういう意味では、撮影が終わったとき、感傷的にならずにすんだわね(笑)」。作品の前半では、父を失い、“時間は大切なものを奪う泥棒”と考えているアリスだが、冒険を通して、時や過去への執着を解き放ち、成長していく姿が描かれていく。もし、アリス同様、時間は残酷なものだと考える女性たちがいるとしたら?「本作には時間に関する素晴らしいメッセージが込められているから、ぜひ観て欲しいわ。過去を正そう、変えようとするのではなく、過去から学ぼうとすることで自由を得ることができるし、いまこの瞬間を生きる、いま持っているものを大切にすることができる。それが、人が時間との間に築くことができる健康的な関わりだと思うの。もともと人には、そういう感じ方をする習慣がないと思うので、ぜひ学んで欲しいわ」。では、ミアには変えたい過去はない?「ないわ!もう、いまはね(笑)。もちろん、ああすればよかった、こうすればよかったと考えることはたくさんある。いまと違っていたらと思うことは誰にでもあるでしょう?でも、いまの私は時間と健康的な関係を持てていると思うわ。起きたことを悩むよりも、受け入れて先に進むほうがいいと思うから」。時間が大きなテーマとなっている作品だけに、この6年間、ミアがどんな時間を過ごしてきたのか気になるところ。「最高の6年間だったわ。多くの素晴らしい映画に出演し、作品が私を違う場所、違う時代へと連れて行ってくれた。それにプライベートも充実しているわ。実はずっと両親と住んでいたんです。映画の仕事が入れば、海外に行かなくちゃいけないから、自分の家は必要なかったの。でも、いまはやっと独り立ちして、自分の家と呼べる場所がシドニーにあるの。自分だけの場所を持つことができたことも誇らしいわ。仕事もたくさんしたけれど、仕事と離れたところで、自分の人生もしっかり確立しはじめることのできた6年だったわ」。その間には、短編2作で監督も経験。女優に新しい視点は加わったのだろうか。「短編を手掛けたおかげで、また違ったカタチでクリエイティビティというものを掘り下げることができたわね。例えば、視覚的に。実は、演技の部分はあまり考えなかったの。素晴らしい俳優をキャスティングしていたので、俳優たちは本能的に必要なものをわかってくれていると信頼できたから。だから、演技に対する不安を持たずに、カメラの裏側に立つわくわく感を味わうことができた。もちろん、不安がなかったわけではないわ。でもそれは、カメラの前で演技をするのとは全く違う種類の不安ね。人に観られるわけではないので、無心になって製作に没頭できたの。そんな経験を通して、大きな報酬を得たと思うわね」。深いクリエイティビティを発見したというミアの、ますますの活躍に期待!(text:June Makiguchi/photo:Nahoko Suzuki)
2016年06月30日これからの季節、観たくなるのは背筋がひんやりするホラー映画。『リング』や『呪怨』を筆頭に“ジャパニーズホラー”が定着しているなか、そこに新しいホラー映画が加わった。第19回日本ホラー小説大賞・読者賞を受賞し、若者の間で人気の「ホーンテッド・キャンパス」の映画化だ。オカルト研究会(通称:オカ研)の仲間たちのところに舞い込む謎の心霊現象を解決するドキドキと主人公とヒロインの恋のドキドキ。ホラーと恋と青春があわさった新感覚ホラーの世界で、中山優馬と安井謙太郎はどんなドキドキを経験したのか──。ビビりなのに霊がみえてしまう主人公・八神森司を演じるのは中山さん。今年の5月に主演舞台「それいゆ」を踏むなど役者としてのフィールドを広げている彼にとって『ホーンテッド・キャンパス』は記念すべき作品となった。初めての映画にして初主演、そのドキドキとは?「出演が決まったときは本当に嬉しかったですね。いつか映画に出てみたいと思っていたので、夢がひとつ叶いました。しかも主演で主題歌も…ありがたいことだらけです。もちろんプレッシャーはありましたけど、それ以上に楽しみの方が大きかったです」。役柄的には怖いのが苦手な設定だが、プライベートでは「小さい頃から霊感があって…」と、まさかの体験談が飛び出す。「成長するにつれて霊感が消えていったんですが、この撮影終わりに霊感、戻ってきたんです。少し前までは家にシャドーマン(黒い影として存在する霊)がいて、何人かと一緒に住んでいました。僕がぜんぜん彼らのことを怖がらないからなのか、ばんばん出てくるようになって。最終的にはこっちが気を遣っていたくらいです(笑)。最近は見かけなくなりましたけど、なかには犬の霊(影)もいて。実は僕が飼っている犬も真っ黒なんですね。なので、時々ですが愛犬なのかオバケ犬なのか分からないこともあったりしました(笑)」。恐怖の体験談になりそうな話を何とも楽しそうに話す中山さんとは対照的に「僕はホラーが苦手で…」と告白するのはオカ研の部長・黒沼役の安井さん。「僕自身はもともと霊感はないですが、優馬から『撮影後に…』というその話を聞いて、もしかすると自分の身にも起こるかも!?と、しばらくドキドキしながら生活していました。いまのところ何にも起きていないのでほっとしています(笑)。ホラーが苦手なので不安もありました。でも、優馬が主演で一緒なので安心して臨めた。優馬を筆頭に共演者のみんなが役柄同様に僕をいじってくれたんですね。みんなの協力を得てあの部長キャラを演じることができました。部長なのでセリフがオカルトの専門用語だらけで、シミュラクラ現象の“シミュラクラ”には苦労しましたけど(苦笑)」。同じジャニーズ出身。「優馬」「謙ちゃん」と呼び合う姿からも、ホラー映画であっても撮影現場はきっと和やかだったのだろうと想像がつく。そして中山さんは、撮影初日の“部長が川に落ちるシーン”が気に入っていると言う。「森司とこよみ(島崎遥香)を追いかけてきた部長が川に落ちるシーンが撮影初日でした。ホラー映画なのに敢えてコミカルなシーンが最初だったことで、みんな安心したというか現場がすごくいい雰囲気になって。僕自身は謙ちゃんがどんな人物か知っているけれど、現場に入ってみて、改めて謙ちゃんは部長役にぴったりだなぁと思ったんですよね。ホラーとは結びつかない明るいキャラクターの部長がいたことで、この作品のギアがひとつ上がりましたから」という中山さんの賛辞に「こうやって格好いいことをスラスラ言っちゃうのが凄いんだよなぁ」と今度は安井さんが中山さんを褒め殺し。「個人的に気に入っているのは、部室で森司が酔っぱらって起きたところに教授が入ってくるシーンのお芝居です。あのシーンはアドリブだったんですが、優馬がすごいのは毎回演技を変えて、しかも毎回面白い。圧倒されました。本来なら僕がコミカル担当のはずなのに、そこも持っていくのか…と(笑)」。2人が共通して「みどころ」だと語るのは、クライマックスでもある図書館のシーン。“ホラー×青春×恋愛”──この映画のすべての要素が集約されたシーンでもあり「全員の気持ちが集中していないと成立しないシーンだったので、朝から朝までの撮影で時間はかかりましたが、みんながモチベーションをあげて乗り切りました」と中山さん。ホラー的“壁ドン”も要チェックだ。本当は怖いのが苦手だけれど、大好きなこよみのためにオカ研に入り霊と対峙する森司の恋にもキュンとさせられる。「森司のこよみに対する恋心はすごく純粋。自分は弱いけれど、それでも大好きな彼女を守りたいという森司は男気があると思う」と同性として森司の魅力を語る中山さん自身の恋愛観は?「誰かを好きになったら自分から告白するのが理想ですね。でも、もしもフラれたら…と考えると躊躇してしまう気持ちもあります。ジャニーズなのでフラれたくないですし、フラれちゃダメなんじゃないかなって(笑)。もちろん、過去に片想いの経験はあります。学校一のマドンナに片想いしていましたが、彼女は足の速い男子と付き合っていて告白には至らなかった。多分…俺の方がイケメンだったと思うんですけどね(笑)」。一方、安井さんは「僕もジャニーズですけど、優馬はフラれちゃダメなタイプなのに対して僕はフラれてもいいタイプ。同じジャニーズのなかにもそういうすみ分けがある」と独自の見解を語る。「今回の映画のセリフにもあるように、部長は“人間の女には興味がない”らしくて(笑)。グイグイっていうキャラではなかったですが、僕自身はフラれてもOKなタイプだと思うので安井謙太郎としてはグイグイいって告白したいですね。僕がいちばん恋愛に積極的だったのは幼稚園の頃。好きな女の子がほかの男の子と話していると間に割って入って邪魔をしたり、手をつかんでその男の子から離したりして…。当時の僕に比べていまの僕はチキンなので、あの頃の僕になりたいです(笑)」。ホラーは得意なのにビビリで怖がりの森司を演じた中山さん、ホラーは苦手なのにオカルト好きなオカ研の部長・黒沼を演じた安井さん。本当の自分と映画のキャラクターとのギャップがあるからこそ生みだせた新しい一面。そんな2人のギャップにもきっとドキドキするはず!(text:Rie Shintani)
2016年06月29日不慮の事故で地獄にたどり着き、赤鬼・キラーKのロックバンドに加入するはめになった高校生・大助を描く『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』。宮藤官九郎監督と大助を演じた神木隆之介が、キラーKを演じた長瀬智也とのコラボレーションを語る。地獄でロックバンド「地獄図(ヘルズ)」を結成しているキラーKを演じた長瀬さんとは、ドラマ「池袋ウエストゲートパーク」以来、数々のドラマや宮藤さんの映画監督デビュー作『真夜中の弥次さん喜多さん』で組んできている。以心伝心の域に達している。「今回は本当にスムーズでしたね。キラーK仕様のギター制作やレコーディングもあったりして、クランクイン前に会う機会がいつもより多かったんです。そうすると長瀬君からもいろいろ意見が出てくるし、僕も『こうしてほしい』というのを言葉で伝えられたので、撮影が始まったときには、お互い共有できてる状態でした。撮影前に長瀬君から『鬼ってどれぐらい鬼の感じですか?特殊メイクするぐらいの感じですか?』と聞かれて、いや、そうじゃないよと答えたら『僕だと分かる感じですか?じゃあ、まだ牙がフィットしてない感じとか、そういうのもありですかね』って(笑)、そのまま採用させてもらいました」。撮影現場でも互いの意見を伝え合い、新たなものが生まれることもあった。「そこで軌道修正できるんですよね。僕は僕で準備していたものがあって、こういうふうにしたい。でも、長瀬君がやってる方が面白いなと思ったら、そっちにしようかって。下準備がうまくできて、世界観が共有できてたからかなと僕は思ってます」。神木さんは01年のドラマ「ムコ殿」以来、久々の長瀬さんとの再共演となった。「小学校以来で、最初は少し恥ずかしかったです。子どものときは全く何も考えずに演じていました。当時は長瀬さんは芝居の中でも普通に、僕に接してくださっていたのですが今回は役として向き合ってくださいました。長瀬さんは長瀬さんで、僕も僕で役づくりをして、それをぶつけ合うというのが、お互い新鮮過ぎて『恥ずかしかったよね』と話していました。だけど、一度共演させていただいたこともあって、呼吸をすぐに合わせることができたと感じています」。キラーKは、地上では“近藤さん”という地味な男性だった。大助は現世でも地獄でも一貫して彼をなめてかかるが、長瀬さんと神木さんのテンポよく息の合ったやりとりは実に楽しい。「近藤さんはキラーKっていう鬼になりたての、完成し切ってない状態で大助と会うんです。ちょっとまだぶれてるところが大助のキャラクターによって、引き出される。大助の鬼を怖がらないキャラクターが面白い。特に冒頭のシーンは思いましたね」と監督は言う。今回は特に、役者やスタッフから投げかけられる意外な発想を柔軟に取り入れたという。「そうですね。言われた通りにやるだけの役者さんよりも好きですね。違ったら『違う』って言えるし、僕も。何か仕掛けてくるというか、逸脱したアイデアを持ってる役者さんとなら、いくらでもそういうことできると思います」。(text:Yuki Tominaga/photo:Nahoko Suzuki)■関連作品:TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ 2016年6月25日より全国にて公開(C) 2016 Asmik Ace, Inc. / TOHO CO., LTD. / J Storm Inc. / PARCO CO., LTD. / AMUSE INC. / Otonakeikaku Inc. /KDDI CORPORATION / GYAO Corporation
2016年06月28日修学旅行中の不慮の事故で、なんと地獄に堕ちてしまった高校生・大助が、地獄にある高校の軽音楽部顧問の赤鬼・キラーKのバンドに加入し、現世への復活に挑む『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』。荒唐無稽なのに、なぜか胸に迫る瞬間がいくつもあるユニークなコメディを作り上げた宮藤官九郎監督、長瀬智也扮するキラーKとの迷コンビぶりが鮮烈な大助を演じた神木隆之介に話を聞いた。「長瀬君とハードロックとかヘビメタとかが、すごいぴったりくるなと思って。日本映画では、ちょっとあり得ないくらいトゥーマッチなキャラクターにしたいなと思ったので、地獄の鬼にしようと思ったんです」と宮藤監督は着想を語る。地獄とロックと長瀬智也。とても収まりのいい完ぺきなトライアングルの調和を乱す者として登場するのが大助だ。「もう1人の主人公である大助は、今の若者の感性で。大仰な地獄に対して『何これ?』って、淡々としてる若者がいるといいなと思って。大助は一貫してチャラい。地獄だっていうのに、全然なめてかかってる感じです。そのとき、『11人もいる!』っていうドラマで一緒に仕事をした神木君を思い出して、彼がいいんじゃないかなと思いました」。劇中の大助の言動1つ1つにイラっとさせられたと伝えると「うれしいです」と笑顔で応える神木さんは、台本を読んだ第一印象を「実は文字だけだと分からないところもいっぱいあったんです。地獄で鬼に吹き飛ばされる大助?どうやってどう吹き飛ばされるんだろう?とか、地獄のセットってどんなものだろう?という疑問が真っ先に頭に浮かびました」とふり返る。「『11人もいる!』のときもそうだったのですが、台本を見ながらたくさん笑って、最後には心が温かくなるような人間味があって。すごく素敵な作品だな、と。強くそう思いました」。2011年のドラマ『11人もいる!』では脚本家と俳優という関係だったが、今回は監督と主演俳優として現場で一緒に仕事した感想は?「本当にチャラい人だと困るけど、そうじゃないのは知ってたんで。『もっとやっていいよ』と言えたのは神木君だからです。どんなにやっても品があるから。逸脱し過ぎたときも『この後の展開があるから、ここはもうちょっと抑えましょうか』と言うと、すっとその微調整ができる。2歳からやってますからね、さすがだなと思いました」という監督の言葉に「いやいや(笑)」と神木さんは謙遜するが、宮藤さんは「それ結構、感心しましたね」と続ける。「神木君はすごく深く考えて、試行錯誤してたのかもしれないんですけど、僕にはそういうふうに見えずに、さらっとやってるように見えた。だけど、さらっとできるって、実はすごいことなんじゃないかなと思ってます」。「大助があまり考えていないような人だと思ったので、同じく考えない方がいいのかなとは思いました(笑)」という神木さん。「例えば、タイミングを狙うことも彼は絶対にしないですし。大助が『こうかな?こうか。ん、違うな。あ、こうか!』という過程があって結論にたどり着くのが、絶妙な瞬間やテンションだったりするのかなと。なので何も考えない方がいいのかなと思っていました」。「良かったです」と宮藤監督。「難しいと思うんです。これをやったら嫌悪感を覚えるぐらいのところを、そうならないっていうのが、すごい。深く役を掘り下げてるからなのかと思ってたんですけど。今、聞いたら何も考えてないらしいので(笑)、なおさらすごいですね」。大助は共学校に通うごく普通の高校生。かっこいいわけでも悪いわけでもなく、好きな女の子と仲よくなりたいのになかなかうまくいかず…という彼の日常は、子役時代から人気者だった神木さんの高校生活とはかなり差がありそうだが、神木さんは「とても普通の男子高校生でした」と言う。「1週間50円で過ごしたこともありますよ」(神木さん)「それは普通じゃないよ(笑)」(宮藤さん)と、やりとりしつつ、「テストも一夜漬けでしたし、文化祭も体育祭も楽しんでいました。モテるために徒競走で一着になりたくて、前日に公園で重りを持って走っていました。たぶん、そこまでみんな掘り下げないんです、文化祭や体育祭を。漫画のような高校生になりたかったです。その方が絶対楽しいと思っていて。恋愛コメディの通りに生きたら、その当事者になったら、絶対楽しいはずなんです」と力説。「その通りに生きてみようと思って。その通りに生きました(笑)」。「普通の高校生からしたら、それをやってくれてるのが神木君だと思うだろうけどね。普通の高校生役をやってる神木君を見て、ああいうふうになりたいなって。それをさらに神木君がやってる、もうわけ分かんないね」と笑う宮藤監督に、神木さんは「曲がってますね」と苦笑。ただ、漫画の世界の高校生に憧れるのは大助の感覚にも通じる。「大助を本当に楽しく演じることができました」。(text:Yuki Tominaga/photo:Nahoko Suzuki)■関連作品:TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ 2016年6月25日より全国にて公開(C) 2016 Asmik Ace, Inc. / TOHO CO., LTD. / J Storm Inc. / PARCO CO., LTD. / AMUSE INC. / Otonakeikaku Inc. /KDDI CORPORATION / GYAO Corporation
2016年06月27日どんなことでも挑戦することは簡単じゃない。挑戦を為し遂げることはもっと簡単じゃない。であるからこそ、挑戦を経て目的の場所にたどり着いた人、またその人が為し遂げたことは輝いて見える。そんな挑戦の詰まった映画『日本で一番悪い奴ら』には、正義を守るために警察への忠義を誓いすぎた男の半生が描かれ、ここまで描いちゃっていいんですか?という驚きと、悪とは何をもって悪というのか?観客は大きな問いかけを受け取るだろう。白石和彌監督と主演の綾野剛さんは映画に流れるその問いをどう受け止め、どう挑戦したのか。『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』、悪人を題材にした映画が続く白石監督。前者はノンフィクション・ベストセラー小説「凶悪 ある死刑囚の告発」、後者は「恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白」が原作となっている。実録ものに惹かれる理由を白石監督は「知りたいという探究心」だと言う。「どちらの登場人物に関しても僕のなかではそれほど悪人だとは思っていなくて。どの人にも“良い”ところ、“悪い”ところがある。そこから“一体人間って何なんだ?”ってことを見つけたいんです。だから実録ものの映画が続いているのかもしれない。実録って、小説や漫画と違って(製作していくなかで)分からないことが次から次へと出てくる。その分からないことを探していく作業が“人間って何なのか?”に繋がっていく。魅力的なんですよ」。その“魅力的”だというキャラクターとは主人公の諸星要一。北海道警の熱血警察官だが、正義感が強く真っ直ぐなゆえに、でっちあげ、やらせ逮捕、おとり捜査、拳銃購入、覚せい剤密輸…あらゆる悪事に手を染めてしまう男だ。そんな諸星のオファーを綾野さんは「自分は役者であると、何の恥じらいもなく言えるきっかけになった役」だと喜ぶ。諸星役に綾野さんを抜擢した背景には“色気”というキーワードがあった。白石監督が明かす。「稲葉(圭昭)さんの原作を読んで台本の第一稿を書き終えるまでは、諸星を誰が演じるのか全然想像できていなかったんです。というのも、諸星は柔道の猛者。大学を辞めるときにロシアの格闘技サンボの大会か北海道警かという選択を迫られて、北海道警に入った人物です。なので、稲葉さん本人に会ったときの印象は“骨太”な人でした。そして“色っぽさ”のある人でした。捕まった当時は彼女が8人いて、そのうちの2人が婦警だったそうで(苦笑)。超モテる男なんですよ。たしかに話しをしていても色っぽさがある、モテる理由が分かる。稲葉さんのその色っぽさを見て、諸星のキャスティングは色気のある人にしようと決めました。…で、綾野剛だなと」。そのチョイスはもちろん正解だった。綾野さんは、役として「スクリーンのなかに映りたいんじゃない、そこに存在したいんです」と、22歳から48歳までの諸星を演じている。必要だったのは演技におけるテクニカルさはもちろんだが、もっと動物的な感覚。白石監督の前作『凶悪』からもヒントを得たと語る。「『凶悪』を観たときに、この映画を“面白い”と思っている自分はどれほどのクズなのかと、面白いと思った自分自身と対峙しました。クズとは?面白さとは?いろいろ考えているうちに(自分に向けた)嫌悪感が出てきて。もうその時点で監督の罠にはまっているわけです。なぜ面白いと思ったのか──悪さに行き着くまでの(キャラクターの)ベクトルが決して快楽的主義なのではなく、何て言うか動物的な何かを感じたんです。白石監督は、クズ人間は好きだけどダメ人間は嫌い。生きていない人間、本気じゃない人間は好きじゃない。それは前作も今回も共通していて、それが僕にはすごく響いたんです」。綾野さんは白石監督のことを敬意と親しみを込めて「ブラック・チャーミングな人」だと言い、白石組は「毎日、楽しくて仕方なかった」とふり返る。「この手の作品は役者が自由にやっているイメージがあるかもしれないですが、自由に演技させてもらっているその先で、白石監督はしっかりと手綱をひいてくれている。いつ鞭がとんでくるのか、いつブレーキをかけるのか、そのセンスがとてつもなくいい。諸星というキャラクターは白石組が創ってくれた産物。自分で作り上げたとはこれっぽっちも思っていなくて。だからできあがった作品を観て、自分はこんな顔をしていたのか…と、ものすごく嬉しかった。と同時に諸星は今後の自分にとっての最大の敵になる、この作品でのこの役を今後の自分は超えることができるのか?と突きつけられた瞬間でもあって。いつも次回作こそ代表作だと思っているので、そういう意味でもまた白石監督と映画を作りたい。でも、今回の方法は次回には通用しない。また一からスタートして、1を50にできるか100にできるかプレッシャーはあるし、恐怖もあるけれど、そうやって自分を鼓舞することで、まだ役者をやっていていいんだなって、生きていていいんだなって思うんです」。事実は小説よりも奇なり。この映画で描かれていることが事実であることにただただ驚かされるが、驚きの事実を描ききったことにさらに驚く。というのもつい最近、喫煙シーンのある映画が「成人指定」になるなど、映画の作り手にとって厳しい世の中になりつつあるからだ。しかしながら、この『日本で一番悪い奴ら』はそんなことに縛られはしない。そういった反発が挑戦であり「ひとりくらい反発して、(ダメだということを)表現する奴がいてもいいのかなって」と言う白石監督は、なんとも格好いい反逆児だ。「映画での表現に限らず、いまの世の中は本当に潔癖症になっていて、不倫をしたらその人の人生を全否定、薬物使用で逮捕されたらその人のこれまで制作してきたものを全否定、そんなことあるかと。“罪を憎んで人を憎まず”という言葉がある国なのに、本当におかしい世の中になってきている。この映画の主人公も捕まった当時の三面記事を見ると、おそらくですが、一人の悪徳刑事が薬物所持、銃刀法違反で逮捕、なんてヒドい奴がいたもんだ…で終わってしまっていたと思うんです。でも、彼にも青春時代があって、人としての営みがあって、それを描くべきなんじゃないかと。インモラルなことを観て育ってきた身としては、世の中にはこんなことがあるのか!?というのを知って、いろんなことを学んでいくことを伝えたかった」。不道徳が何なのかを知ることで真の道徳を知る──この映画はそれを北海道警を舞台に描いているが、上司のために、警察のために突き進んでいく諸星の生き方、そのモデルである稲葉氏の生き方に「共感する」とも言う。「諸星は柔道しかやってこなくて、最初に入った社会が警察組織で、そこのルールに乗っかるしかなかったんです。僕も映画が作りたくて若松プロに入って、若松(孝二)さんみたいな人に“あれやれっ、これやれっ”と言われたら何が何でもやるしかない。それが僕の使命。若松さんがコレを撮りたいというけれど撮影許可が下りない、じゃあどうするのか?何とかやったろうか!となるわけです。たとえ社会的にはダメなことであっても(笑)。だから諸星の精神状態はよく分かるんですよ」。その言葉に綾野さんも大きく頷く。「諸星は現場で創られた産物」だと白石組を称える綾野さんに対し、白石監督は「この作品には綾野くんのような共犯者が必要だった」と称える。撮影現場で語り、撮影が終わった後に呑みながら語り、時間の許す限り語り合って、そうやってこの挑戦的な映画は完成へと辿り着いた。そして、新たな挑戦も──「嬉しいことに、綾野くんがまたやりましょうと言ってくれるので、マーティン・スコセッシ監督とレオナルド・ディカプリオみたいになれたらなって思うんですよね」。そんな最強タッグの次回作も気になるが、まずは第一作目の共犯作を目撃してほしい。(text:Rie Shintani/photo:Kyoko Akayama)
2016年06月24日働くママにとっては不安でいっぱいの職場復帰。出産前とは同じように働けないかもと、出産を機に退職を決意する女性もたくさんいます。そんな「働きたいけど働けない」という女性をテクノロジーの力でサポートしたい!とGoogle 社員の思いから生まれたのが、「Women Will Japan」の取り組み。Google でWomen Will プロジェクトのプロジェクトリード、二児のパパでもある山本裕介さんにお話をうかがいました。山本裕介さん働く女性にとって日本はまだまだ発展途上山本さん(以下、山本):「Women Will」というプロジェクトは、テクノロジーで女性の社会進出を支援するというミッションを持ち、アジア各国で活動しています。日本では、インターネットがある程度どの世代、性別でも浸透していますが、国によってはまだまだインターネットの活用が少なく、誰でも必要な情報にアクセスできるようにインターネットの浸透率を高めていく活動が必要です。しかし、日本では、浸透率を高めるよりも伝えるべきことがありました。働く女性や周辺の人たちが、テクノロジーを活用することで具体的に何ができるかに気付いて、理解してもらいたい。たとえば、社外から会社のメールにアクセスできない、テレビ会議のシステムはあるけど活用されていない…活用されていれば、働く場所、時間がもっと自由になりますよね。育児中の女性も働きやすくなるのではないでしょうか。実際、アンケートでも、25〜49 歳の女性は「時間や場所に関する制限」で仕事を続けられないと判断していることが多いとわかりました。もし、在宅勤務ができれば、通勤に長い時間をかける必要がなくなり、勤務エリアの問題もなくなります。子どもの病気で出勤できなくても、ミーティングの時だけテレビ会議に参加できるような環境があれば、働き続けられる人がもっと増えるはず。私たちは、テクノロジーでこういった問題は解決できることがあるのではないかという仮説を立て、テクノロジーの力で問題を解決するため、2014 年 10 月に「Women Will」の取り組みを始めました。先ほど話したアンケートでは、もう一つの気づきがありました。在宅勤務やフレックスなどの制度を持っている会社のうち、テクノロジーが活用されている会社の場合、ずっとこの会社で働き続けたいと思う社員が多いのです。テクノロジーを活用したことで働きやすくなる。プライベートの時間もとれるようになった。仕事の生産性を上げることも大切だけど、育児中の女性に限らず、みんながハッピーになれる。当たり前なことですが、一方で実現できていない会社があることもはっきりわかりました。制度やテクノロジーを導入してみたけど、活用されていない。こうした会社には「活用できる」文化を作っていく必要があります。どうすれば文化ができるのか…パートナー企業と問題解決に取り組む「未来への働き方コンソーシアム」山本:ひとつの解決策は「未来への働き方コンソーシアム」です。Women Will に賛同してくれた企業に実際にテクノロジーを活用するモデル部署を選んでもらいます。そこでのIT活用の実践と検証、そしてその結果を公開する、これが Women Will の取り組みのひとつ「未来への働き方コンソーシアム」。広島県庁では女性が活躍するにあたり何がハードルになっているのか職員にアンケートをとりました。「担当者にしかわからない仕事が多く、個人業務の時間確保のため、残業になりやすい」などの、実は男女に関係ない全体の生産性や効率に関する問題が出てきたのです。さまざまな企業が参画し、働きかた改革を行っているそこで、「スケジューラー」を使ってお互いの予定が見えるようにしました。はじめは自分の予定をシェアすることに抵抗感があったものの、半年試験的に利用してみて事後アンケートで効果を検証すると、部署全体の生産性・効率性が上がっていました。お互い何をやっているかわかるようになり、管理職も部下が何をやっているかが常に見えるため評価しやすくなったそうです。これにより、職員の仕事に対する満足度も上がった。さらに、プライベートの予定もスケジューラーに入れる文化ができ、お互いのプライベートを尊重する空気が生まれたそうです。仕事のやりがいだけでなく、プライベートの充実度まで上がったこともわかりました。「このテクノロジーは便利だよ」ではなく、「どう使えばいいのか」「何が解消できるのか」、実際に触って業務に取り入れてもらう。効果を感じれば、「使い続けよう」と思っていただけますし、他の部署も「うちも導入してみよう」になりますよね。そして “企業カルチャー”になっていく。「未来への働き方コンソーシアム」では、こうしたパートナーの成功事例を公開しています。どんなことをやっているのか、実際に効果が出ているのか、それがわかれば「自分たちもやってみよう」と思いやすいですよね。今後もより実例を増やしていきたいです。ワーママにとってハッピーな職場=誰もがハッピーに働ける職場「働くママが特別な存在じゃなくなるといいなと思います」これは動画に登場する職場復帰したママの生の声。そう、働くママが一番望むことは、子どもがいても普通に働くことができる環境なんですよね。山本:Women Will Japan のもう1 つの取り組み「Happy Back To Work」は2015 年3月に始動。誰でも「働く女性をハッピーにするアイデア」を投稿できるサイトを作りました。ここで重要なのが、「育児中の女性に活躍してもらう」と考えていること自体が、明らかに育児中の女性を特別扱いしている」ということです。育児で大変なときでも本人はみんなと一緒に働きたい、と考えている。誰もが働きやすい職場であれば、育児中の女性も働きやすくなるのではないでしょうか。そんな柔軟で誰もが働きやすくなるようなアイデアを集めています。「長時間働いた人がえらい、そんな空気、やめませんか?」といった意識に関するものもあれば、「18時以降は会議を禁止しよう」「退社する時にすみませんと言うのをやめよう」といったような、具体的にもっとこうしたらよくできるよね、というような具体的なアイデアもあり、現時点で5000 以上のアイデアが寄せられています。でも、アイデアを集めただけだと「ふーん、できたらいいよね」で終わってしまいますよね。Happy Back to Work ではさまざまなアイデアを募集している「未来への働き方コンソーシアム」と同じく、実践することが大事。だから、アイデアを実際にトライしている企業にサポーターになっていただいています。現在、1000 社以上のサポーター企業が、集められたアイデアを実践。こうしたアイデアも実践していきながら、少しずつでも社会を変えていくきっかけにしていきたいんです。アイデアはどなたでも投稿でき趣旨に賛同いただればどなたでも参加いただけます。みんなで社会課題に取り組み、「Happy Back To Work 」を社会的なムーブメントにしていきたいと考えています。筆者自身も子どもを保育園に預けて働いているワーキングマザーです。自分のまわりにも勤務エリアなどの問題でやむを得ず仕事をやめたママがたくさんいます。復帰当初は毎日が綱渡り状態で、仕事を続けるべきかどうか何度も悩みました。そんな想いがあったので、山本さんのお話しがとても興味深く感じました。次回からは、「Happy Back To Work」のアイデアを実践しているサポーター企業の取り組みをご紹介していきます!Google Women Will 公式サイトライター:柏木 真由子
2016年06月24日あの『リング』シリーズの貞子と『呪怨』シリーズの伽椰子という、邦画ホラー史を代表する人気キャラクターが激突する注目作『貞子vs伽椰子』に、近年女優としての活躍も目覚ましい人気モデルの玉城ティナが出演した。「この作品に関わるまでホラーは苦手でした(笑)」と本人は言うものの、その恐怖感を逆手にとって初出演のホラー映画でホラークイーンを見事に熱演した玉城さん。「モデルの時とは違い、演技の表現は感情を削っていく作業でした」と女優業を述懐する彼女に、『貞子vs伽椰子』のこと、仕事への想いを聞いた。1998年の『リング』誕生以降、数々のシリーズ作品が放たれた『リング』と『呪怨』シリーズは、ジャパニーズ・ホラーにおける二大巨頭として一大ジャンルを確立・牽引した最大の立役者たちだ。今回、玉城さんが山本美月さんとともに出演を果たした『貞子vs伽椰子』は、日本を代表する2大ホラーのキャラクターが共演・対決する最恐プロジェクト。その歴史的な作品に関わったことについて本人は素直に感激しているという。「今回は“呪いのビデオ”を改めて説明するシーンもいっぱいあって、『リング』と『呪怨』の融合ではあるけれど、まったく新しいホラー映画になっていると思いました。その記念の作品にホラーが初挑戦のわたしが参加できたことは、本当にうれしく光栄に思いました」。玉城さん演じる女子高生の高木鈴花は、訪れたら必ず死ぬという「呪いの家」の向かいに引っ越してきたことで伽椰子の呪念のターゲットになってしまう。初めてとは思えないホラークイーンとしての玉城さんの熱演が観る者を作品世界に一気に誘うが、そこには役柄に対する深い理解が演技の背景にあった。「鈴花は普段、おとなしい普通の女の子なのですが、秘めた想いがある子だと思ったので、それを表現できるように努力しました。言葉であえて説明すると難しいですが、強い正義感や怖いものに立ち向かっていく姿勢を感覚的に表現したつもりです。彼女はどんどん強くなっていくので、クライマックスに向けての成長を見守ってほしいです」。今年に入って『オオカミ少女と黒王子』で主人公のクラスメイト・立花マリン役を演じるなど、出演作が相次ぐ玉城さん。モデルとしての仕事も継続する一方で、カメラの前で演技をするという別なフィールドでの表現は刺激になっていると話す。「モデルの仕事はひとつのテーマに沿って一瞬の写真を作っていく作業ですが、演じるという俳優の仕事は、まず自分の思いをワッ!と表に出して、そこから削っていく作業という印象がありました。モデルの時は『こうかな?』と自分の感性で表現を足していく感じですが、演技は自分で加減をしてはいけないというか、そもそもわからないことだらけだったので、まずはトライをしてみてアドバイスをいただくことの繰り返しです。自分で表現を調整せず、最初から全力。一度理解したら、後は自分を信じて全力で自分を出していくイメージですね」。そして『貞子vs伽椰子』との出会いを経て、「これからも ジャンルを問わず、演じることに挑戦をしていきたいです」と女優業を強く意識するように変わったとも。「もともと好奇心が強い性格なので、もっと挑戦してみたいです。わたし、負けず嫌いなんですよ(笑)。女優として『この役を玉城に演じさせてみたい』と言われるようになりたいので、貪欲に挑戦を続けたいですね(笑)」と大きな瞳を輝かす。今後の活躍も楽しみだが、まずは『貞子vs伽椰子』の彼女の熱演を見届けてほしい。【スタイリスト】コギソマナ【ヘアメイク】今井貴子(text/photo:Takashi Tokita)
2016年06月15日全米ドラマ視聴率No.1、「NCIS ~ネイビー犯罪捜査班」のスピンオフとして、海に面した華やかな大都市ロサンゼルスを舞台に、潜入捜査のプロ、G・カレンと元海軍特殊部隊サム・ハンナの2人の活躍を1話完結で描く潜入犯罪捜査物語「NCIS: LA ~極秘潜入捜査班~」(以下「NCIS:LA」)が、現在Dlifeにて毎週水曜21時から放送中だ。カレンを演じるのは、1992年『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』で名優アル・パチーノと共演を果たし、ゴールデングローブ賞最優秀助演男優賞にノミネートされた実力派俳優クリス・オドネル、そしてハンナを演じるのは、2度のグラミー賞受賞歴を持つLL・クール・J。今回、日本語吹き替え版でG・カレンを演じる声優・森川智之が、自身の役どころや、収録の様子などをたっぷり語ったインタビューが到着した。クリス・オドネルとLL・クール・Jという2大スターの共演が話題の本作。劇中では2人が映画並みのアクションを繰り広げたり、決して正体を知られないために2人が見事な変装術や潜入術を見せるシーンが必見だが、緊迫した場面でのジョークを交えた軽快な掛け合いも本作の魅力のひとつ。森川さんも「僕が演じるカレンや大川さん演じるハンナやもちろんほかのメンバーとの、会話劇が凄いんです。その会話のキャッチボールを楽しんでもらえたらと思います」と見どころを語った。また、煌めく観光地ロスが舞台なだけに、LA支部もリゾート仕立て!マリンスポーツやバーなどで南国気分を味わいながら、事件が起きればド迫力&スリル満点のドンパチが勃発す!「外にでるとLAという舞台もあいまって、非常に派手なロケーションで、ドンパチを繰り広げる、内と外でこの2つを楽しめるドラマです」と、本作の欲張りポイントも明かした。森川さん演じるクリス・オドネルが映画『バットマン・フォーエバー』でも魅せたアクション・スターっぷりを披露すれば、5年連続グラミー賞授賞式で司会を務めるなどマルチな才能を誇るヒップ・ホップ・アーティストのLL・クール・Jは、『チャーリーズ・エンジェル』『S.W.A.T.』など多作品に出演してきた役者としての実力を発揮。ドラマの中では、なりすましキングのカレンが毎度ヤバくなったところで、ハンナが必ず助けに現れる。正反対なのに、不思議と成り立つ“コンビ愛”を見事に表現しているが、そんな相方・ハンナの日本語吹き替えを務めるのは声優・大川透だ。「僕と大川さんとでバディを組んでいるので、そこを楽しんでほしいです!」と“吹き替え版”での楽しみ方をお勧めする森川さん。さらに、自身の役柄を「カレンは一見クールガイなんですが、女性ならまさにほっとけないキャラんです。実は孤児で『母をたずねて三千里』じゃないですが、自分探しをしているんです。子どもっぽいところもあって、強がってしまうところは、たまらない萌えポイントですよね」と分析し、「それを側で支える大川さんの声…たまらないですよね(笑)」と“バディもの”ならではの胸キュンポイントを女性ファンへ向けてアピールした。そして、そんな2人をバックアップするチームの面々にも個性豊かで頼もしいキャラクターが揃う。彼らと現場捜査を共にするケンジー・ブライ、情報担当のエリック・ビールとネイト・ゲッツらが、LA支部長のヘティ・ラングの下、チームみんなで団結力して事件を解決していく。日本語吹き替え声優陣もチームとして団結しているようで、アフレコ現場もわきあいあいとしているのだとか。「みんな『NCIS:LA』を楽しみながら収録しています。『ケンジー・ブライって絶対モテないよね』とか、『このヘティって怖いよね』とか、それぞれのキャラクターにツッコミをいれながら。チームの分析官ネイトも面白いですよね。『この事件は○○だ』って分析するんですが、現場で捜査しているカレンとしては『知ってるよ!』というようなタイミングで。台本にセリフがないのに、思わずツッコミをいれそうになりました」。森川さんといえば、アニメ「金田一少年の事件簿」(明智健悟)、「ONE PIECE」(はっちゃん/エネル)など数多くのアニメ作品をはじめ、『ラストサムライ』『ミッション:インポッシブル』シリーズのトム・クルーズや、『マトリックス』シリーズのキアヌ・リーブス、『スター・ウォーズ』エピソード1&2&3のユアン・マクレガーなど…誰もが一度は聞いたことがある洋画大作の吹き替えを歴任。最近ではディズニー最新作『ズートピア』できつねのニック役を演じ、大きな話題に。人気、実力ともに兼ね備えたベテラン声優のひとりだが、約30年に渡る経歴をふり返り「実はこれだけキャリアがあるのに、あまり長寿番組に出会ったことがなくて…」と明かす。「この仕事を始めるときに、長くやっていける海外ドラマシリーズにいつか出会いたいと思っていました」「もともと海外ドラマ、特に刑事モノが大好きだったんです。小さい頃に、下條アトムさん(「刑事スタスキー&ハッチ」など)の真似をしたりしていました」「昔のアニメは大体1年くらい、短くても半年はやっていたのですが、いまは1クールが多く、出会ってすぐ最終回みたいなこともあるので、やっと役を自分のものにできたって言うときに最終回を迎えるのはさびしいですよ」「『NCIS:LA』は、アメリカでも人気のドラマなので、ぼくもカレンと一緒に成長して演じていけたらなと思っています」。本作との長い付き合いを熱望する森川さん。実際に、本国ではシーズン7までが放送されており、さらなる続編も製作される予定だとか。これまで数々の名作に出演した森川さんが、さらなる高みを目指し熱演する本作をぜひチェックしたい。(text:cinemacafe.net)
2016年06月13日女優の宮沢りえが土曜オリジナルドラマ「連続ドラマWグーグーだって猫である2 -good good the fortune cat-」に主演。少女漫画界の巨星・大島弓子による自伝的コミックエッセイをドラマ化し、好評を博した前作に続き、主人公の人気漫画家・小島麻子を演じている。東京・吉祥寺の井の頭公園を臨む自宅兼仕事場で、飼い猫2匹と暮らす麻子の日常と、彼女を取り巻く人間模様を描くハートウォーミングな本作。宮沢さんは「どの作品もそうですが、『グーグー』は特に記憶に残る現場。楽しく演技し、心に栄養がたまるような体験でした。(モデルとなる)大島先生といえば、ずば抜けた才能を思った“天才”ですから、プレッシャーもありますが、もう1度麻子さんを演じられ、とてもうれしい」と笑顔で語る。「麻子さんは漫画家として、創作のエネルギーを発揮する分、普段の日常もどこか振り切れている。同一人物とは思えないほど“幅”があり、女優にとって醍醐味ですね。例えば、鳥の鳴き声に耳を傾けるシーンはとても穏やかに見えますが、その一方でいつか書く漫画の素材として音をストックしている麻子さんがいて…。それを演技で表現できたら、とても面白いだろうし、『いい作品をつくりたい』という思いは、役者にも共通していますから」常人の発想を超えた行動に出るのも、天才・麻子さんならでは。前作ではそんな彼女によって、編集者の大森(長塚圭史)、アシスタントのミナミ(黒木華)らが振り回される姿がコミカルに描かれた。「普段は乗らない電車で、どこかに行ってしまったりね。好奇心があふれている点は、私に似ているかもしれません。自覚はないですけど、友だちからは『何をしでかすかわからないから、ドキドキする』なんて、言われるし(笑)」と宮沢さん。待望のパート2でも、麻子さんのマイペースぶりは健在!ただ、同時に今回は彼女自身が周りの人々に振り回される姿が「前作との違いであり、大きな見どころ」だという。新たなキャストに名を連ねるのは、前田敦子、西田尚美、イッセー尾形ら個性豊かな面々。「すでに前作からのチームワークが出来上がっている分、新しく『グーグー』の現場に飛び込む皆さんには緊張しないでほしかったので、私から積極的に話しかけたりしましたね」2度目の共演となる前田さんは、漫画家としての独立を考えるミナミの後任として、麻子の前に現れるアシスタントの飯田を演じている。「柔軟性があり、勉強熱心で映画や演劇に対する“貪欲さ”も持っている。どんな役柄も楽しめる健やかさも感じますね。何者にもなれる可能性を秘めていると思う」(宮沢さん)。現場では「このドラマに関しては『撮られていることを忘れて、画面に収まろうなんて思わなくていいよ』って昔、自分が尊敬する演出家に言われた宝物の言葉を伝えました」とふり返る。その助言の裏には、前作に続きメガホンをとる犬童一心監督に対する全幅の信頼がある。「監督ご本人が大島先生のことが大好きで、リスペクトしている。その監督が受け止めてくれるからこそ、私はカメラの前で自然にいられるし、指先まで集中して麻子さんでいられた」。犬童監督には本シリーズを「寅さん(『男はつらいよ』)みたいにする」という野望(!?)もあるそうで、宮沢さんも「確かに無限の可能性があると思う」と強い期待を示した。カメラマン:小暮徹スタイリスト:安野ともこ(コラソン)ヘア&メーク:千吉良恵子(cheek one)ネイリスト:三浦加納子(スリーピース)(text:Ryo Uchida)
2016年06月13日「白鳥麗子でございます!」といえば、昭和世代には懐かしの名作として胸を熱くする方も多いだろう。世間知らずの超お嬢さま・白鳥麗子と、庶民の秋本哲也との波乱万丈の恋模様を描いた漫画で、発行部数はゆうに1,700万部を超えた。このたび、20年のときを経て新たにドラマとしてカムバックし、さらには劇場版『白鳥麗子でございます! THE MOVIE』として6月11日(土)よりスクリーンでお目見えになる。秋本哲也役には初代に萩原聖人、2代目に松岡俊介と時代を彩る色男が務めてきたが、3代目として白羽の矢が立ったのが、男性グループ「BOYS AND MEN」、通称“ボイメン”のリーダー・水野勝。ボイメン聖地の名古屋では、現在レギュラーが14本(!)という売れっ子ぶりで、2016年は映画『復讐したい』の主演に続き本作が2作目の公開と、全国区へのブレイクに大手をかけている。水野さん本人は「俺はイケメン“風”なだけなんで」と、いたって謙虚にほほ笑むも、ひとたび芝居のことになると表情を引き締め、作品と役に対する滾る思いをのぞかせた。好評のうちに放送を終了したドラマ版「白鳥麗子でございます!」では、哲也が河北麻友子演じる麗子さまに振り回され、終始フラフラするという、やや情けない男にも映った。そんな哲也について、水野さんは「いやあ、男としてはダメだと思いますよ」と一蹴するも、劇場版ではそんな哲也の成長が見られると話す。「ドラマ版から客観的に哲也を見ていて、『一途にいけよ!』と思っていましたが、劇場版ではだいぶ変わっているので、『ようやく哲也わかったか!』ってうれしくなりました」。哲也の成長した行動のあらわれのひとつとして、とにかく「走る」という動きの演技が挙げられるだろう。麗子を追いかけ、救い、守るためにダッシュをする姿が精悍で清々しい。「確かに、今回走るシーンがたくさんありました。全部麗子さんのために走っているんですよね。麗子のために行動がとれるようになった哲也は、素敵になったなと思いました。愛する人のためだったら、人って何でもできると思うんです」。…となると、水野さんも愛する人のためなら猪突猛進タイプ?「僕は恋愛モードの本気スイッチが入りづらいタイプで、自分で分析すると、熱しにくく冷めにくいんです。スイッチが入ると長いので、実は過去に6年間以上片思いしていたこともあるくらいで(笑)。好きになってしまえば熱いほうかもしれないですね」と、表情をゆるめた。ちなみに、麗子さんタイプは「…苦手(笑)」だそう。水野さんはスカウトされ、芸能界にデビューしてから無我夢中に走り続けてきた。舞台、ラジオ、雑誌、テレビと様々な媒体で活動してきたが、自分の原点は「芝居です」ときっぱり言い切る。「いまグループでいろいろ活動させていただいていますが、僕の核となっているものは演技なので、そこだけは譲ってはいけないと思っているんです」。役者としてのこだわりを聞けば、「人としても役者としても嘘はつきたくないんです。映画やドラマはフィクションかもしれませんが、本気で演じている嘘と、何となく演じている嘘は違うので、嘘だけはつかないように作品と役に向き合っているつもりです」と、熱を帯びて答えた。作品の観方や受け取り方は千差万別だからこそ、全力で今の自分ができるものを届けたいと、さらに水野さんは言葉を重ねた。「観客には100%のものを見せることは当たり前なので、100%のものを見せるつもりでいつも臨んでいます。でも、演技という仕事自体に100点はないので、永遠に勉強していくお仕事だと思っています」。ますますの飛躍に、期待がかかる。(photo / text:Kyoko Akayama)
2016年06月10日D.O.(EXO)が映画初主演を努め、『建築学概論』や『私のオオカミ少年』に続く初恋純愛ストーリーとして注目を集める『純情』。このほど、6月11日(土)に迫った日本公開を前に、独占インタビューが到着した。アジアを中心に世界的な注目を浴びる次世代グループ「EXO」。その中でメインボーカルをつとめるD.O.といえば、ドラマ「大丈夫、愛だ」での名演が話題となり、その後も映画『明日へ』、ドラマ「君を憶えてる」など次々に出演、20代の男性俳優として高い評価を受けているひとりだ。1991年夏、ある港町を舞台に描かれる、甘酸っぱくも切ない少年少女の初恋物語を描く本作で彼が演じたのは、幼なじみに一途に想いを寄せる純朴な主人公ボムシル。ヒロインのスオク役には、最高視聴率46.1%を記録したドラマ「太陽を抱く月」で見事、名子役から演技派女優として転身を遂げた、こちらも次世代の最注目女優キム・ソヒョン。その夏、生まれつき足が不自由な彼女のために常に隣に寄り添い、島で育った仲間たちと楽しい日々を過ごすボムシル。そんな中、スオクが主治医であるヨンイルに心を寄せていることを知ったボムシルは、嫉妬と苛立ちから、ある真実を告げ、スオクを傷つけてしまう。眩しいくらい純粋なドキドキの毎日、気持ちをうまく伝えられない初恋のもどかしさと、泣けるほどに熱くて真っ直ぐな仲間たちとの友情は、誰もが共感し、涙なしでは見られない青春純愛ストーリーとなっている。そんな本作で演じたボンシルと自分とは似ている部分はあるのか、D.O.に尋ねてみると、「ボムシルは隣で見てて、とてももどかしい子です。僕との共通点でいうと、男らしいところは似ていますね。ボムシルの恥ずかしがり屋だったり、照れくさいところは似ていないと思います」ときっぱり。予告編にも登場していた、「一生 俺が守る」というセリフが、最も印象に残っているというD.O.。「女性に『一生守ってやる』と言うのはとても難しいことだと思います。また、この映画の核となるセリフでもあると思うので、一番印象に残っています」と語り、“男らしい”一面を覗かせる。劇中には、足の不自由なスオクを何度もおんぶするシーンが登場し、“ビニキス”といわれたビニール傘を通しての初々しいキスシーンも話題を呼んだが、自身の一番お気に入りのシーンは、「堅い固い絆で結ばれていた友だち同士の友情が、あることをきっかけに一瞬で壊れてしまうという場面ですね」と明かす。「そのシーンでの僕の出番は多くありませんが、友だち役を演じた方々の演技がとてもリアルで素晴らしくて、心にぐっと刺さりました。映像もとてもキレイだったので、一番印象に残っています」。固い絆で結ばれた幼なじみの仲間の中で、スオクに一途に想いを寄せる役柄だが、ではD.O.にとって、初恋とは?「僕が考える初恋…まだはっきりとは分かりませんね。でも、僕の考える初恋の意味は、一番幸せで、一番温かい、そんな感情が感じられるのが初恋だと思います」。自身の初恋は、「たしか高校3年生のときだったと思います。そのときがすごく温かくて、幸せでした。もちろん幸せだと感じる時間はほかにも沢山ありますが、異性に対して幸せを感じたのは、このときだったと思います」と明かし、思いを馳せた。本作での初恋の相手役キム・スヒョンについては、「ソヒョンさんは幼いころから子役として活動していたのと、僕より6歳年下なので、幼い印象がありました。でも、撮影が始まっていろいろ話しているうちに、思いやりがあったり、同年代の人に比べて思慮深かったり、大人びている部分が多いと思いました。なので、撮影のときにも現場の雰囲気も良かったし、相性も良かったと思います」と、初共演をふり返る。仲良くなるために、毎日、手を繋いで過ごしていたそうだが…!?「はい。手を繋いだのは撮影初日でしたが、おかしいですよね。初めて会った人と手をつなぐのは。撮影前に繋いでいて、アクションという監督のサインがあると手を離して演技して、カットと言われたら、また繋いで、ずっとそんな感じでした」とD.O.。「とてもぎこちなかったし、冷や汗をかきました。でも、最初の初々しいシーンの撮影にはとても効果があったと思います。ぎこちなさだったり、照れくさだったり、初々しさが必要なシーンだったので、その感情をつくるのにとても役に立ちました」。微笑ましくも、俳優として確実に力をつけていることを伺わせるエピソードだが、自身でも、「いつも1つの作品が終わるたびに成長したなと思います。自分では気づかなかったことも、ほかの俳優の演技を見て学ぶことも多いです」と語る。「僕が尊敬していて、好きな先輩方は大勢います。チョ・インソンさん、イ・ビョンホンさん…海外にもとても多いです。先輩方を目標に、より素晴らしい俳優になれるよう努力しています」と言う彼は、「僕はチャンスさえあれば、本当に全てのキャラクター、作品に挑戦してみたいです。いま考えているのは、これまでやったことのない真逆のキャラクター、例えば悪役。本当に悪い奴をうまく演じてみたいです」と、演じることに貪欲さを見せている。最後に日本のファンに向け、「いよいよ映画『純情』が日本で公開されるんですね。とても嬉しいです。韓国で撮った映画が日本で公開されて、日本のファンの方々、日本の皆さんに僕の作品を見てもらえると思うと、とても幸せです。映画を見ていただいて、温かい気持ちで帰っていただけたなら、嬉しいです」と、メッセージを贈るD.O.。彼の俳優としての成長の1歩を、本作でも確かめてみてほしい。『純情』は6月11日(土)よりTOHOシネマズ新宿ほか全国にて順次公開。(text:cinemacafe.net)
2016年06月10日スリリングにスピーディに展開するクライム・サスペンスかと思いきや、拝金主義を風刺し、勝者と弱者の格差を増幅させる社会問題にまで鋭く切り込んだ『マネーモンスター』。ジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツという2大スターの競演も話題だが、娯楽性と知性派ストーリー、エモーショナルな人間ドラマが見事に融合した良質なハリウッド映画としても注目を集めている。監督は、名女優としても知られるジョディ・フォスター。8年ぶりの来日を果たし、作品に込めたフィルムメーカーとしての想いをシネマカフェに語ってくれた。取材部屋に入ると、ブルーのパンツスーツに身を包んだフォスター監督が、「ジョディよ、よろしく」とにこやかな笑顔とともに手を差し出して迎えてくれる。子役としてデビューを果たしてから50年以上、ショービジネスの第一戦で活躍し続けているトップスターだが、とても気さくだ。立ったままのスタッフに、「あそこにも椅子があるから座ったら」と気配りも見せる。いざインタビューという段になると、するりとパンプスを脱ぎ、カウチに胡坐をかいて、リラックスした表情を見せてくれた。まず、最初に脚本を見せたのが主役を演じたジョージ・クルーニーだったという話からスタート。「役にぴったりだと思ったの。観客はジョージが演じるリー・ゲイツに最初に出会った時、きっと彼を好きになれない。エゴが強いし、惰性で生きているし、酒グセも悪いし、人への思いやりがない。自分を見失っている状態の人だから。番組をジャックされると、臆病な反応を見せるしね。でも、観客は段々と彼の状況を理解していくの。いくら有名なTVパーソナリティでも、人生で失敗しているから自己評価が低いんだなと。ところが、それが事件をきっかけに変化していくの。ある意味、彼は映画の最後でふたたび人間である自分を取り戻すことができる。だからこそ、最初は嫌われるかもしれないけれど、変化し、観客を引きつけ続ける、そんな役者が必要だったの」。ジョージがTVパーソナリティとして番組の頭で滑稽なダンスを披露するのだが、それは彼のアイディアだったそう。「今回はジョージがダンスしたいと言ってくれたのが嬉しかった。何しろ、100%コミットしてくれて、自ら笑いものになるぐらいのショーマンシップを見せてくれたことが、映画のためにもなったの。ただ、常にアドリブを取り入れるかどうかは、映画の種類によるわね。プロットがはっきりしていて、セリフが多いと脚本がしっかり詳細まで書き込まれているから、アドリブ自体取り入れにくいし。でも、監督として私自身は、役者のアイディアを頼りにしているところがあるから、こういう提案は大好きよ」。共演には、ジョージとの相性が良いジュリア・ロバーツだ。「彼女は“AMAZING JULIA ROBERTS”なの!彼女以外にこの役は考えられないぐらい素晴らしいの。ジュリアのキャスティングが決まってから、より役を掘り下げることができ、よりヒロイックなキャラクターにすることができたわ。もともと、2人が演じたキャラクターは強い絆で結ばれている必要があったの。劇中では、実際に一緒に登場するのは冒頭と終りだけ。撮影でも2人が同じ現場で演技をしたのは2日ほどなの。とてもバーチャルな共演だったから、強いケミストリーがなければいけなかったの。だから、2人から生まれるマジックが必要だったのよ」。大スターである2人が共演しているというだけでなく、幅広い観客が楽しめる良質な社会派娯楽作であるこの作品は、最近ではハリウッドであまり見られなくなったジャンルの映画とも言える。「そうね。こういうタイプの映画は、もうあまりハリウッドで作られなくなったわね。それは、スタジオが商業的な戦略としてシリーズもの、スーパーヒーローものを多く作っているから。今後はもっと観られなくなるかもしれないわ。でも、インテリジェントでチャレンジングでユニーク、オリジナルな映画を観たい観客が多くいると信じているの。作品を作るとき、観客がそれを観るのが大きいスクリーンか、アイフォーンか、ケーブルかなんて気にしない。私は映画を観てもらえればいいと思っているの。『マネー・モンスター』は一般向けのペースの速いスリラーでもあるけれど、キャラクターの心理描写も丁寧にしたし、意味深い作品だと思うわ。観客に観たいと思ってもらえれば嬉しいけれど」。本作のモチーフであるお金というものは、人の本性、価値観を如実に見せるものだとつくづく感じられる。社会的成功者として、映画監督として、お金の価値というものをどう感じている?「今回登場する男性キャラクターは、みな自分の人間としての価値を見いだせずに葛藤しているの。いまの文化では、自分の価値をはかるときに、ものさしとしてお金や知名度を意味深いものとして使っているところがあるわよね。ジョージ演じたリーに関しては、少なくとも冒頭ではそう。確かにお金にはそういう側面はあると思う。アメリカや日本のような先進国で生きていると、自分がどんな人間であるか見えにくくなる。そのときに、最初に自分が勝者なのか敗者なのかをお金や地位、名誉で測りたくなる気持ちは分かるわ。でも私にしてみれば、いままでいろいろな人とふれあってきた経験というものが最も人の価値として重んじられるべきだと思うの。それは、金銭的な財産や仕事、ましてや賞などで測れるものではないわ」。ショービズ界といえば、知名度やギャランティで重要度が測られがちな世界。そこで人生におけるほぼすべての時間を生きてきた監督が、いったい健全な価値観をどのように育んできたのだろう。「どうかしら。とにかく、やりたかったことは昔から変わらないの。映画を作るということよ。映画を作るアーティストとして生きることで、地に足を付けていられる。私の場合、小さいときから公の目にさらされる立場だったから、なるべくリアルでありたいと思ったし、リアルであることに目が向くのかもしれないわね。子どもとして、自分の実人生を奪われそうになることが多かっただけに、自分が大切にするもの、矜持の持ち方を自然に身に付けたのかもしれない。これは仕事、これは私の人生というふうに、わけて考えることでそういう感覚を保っているのかもしれないわ」。先日、ハリウッド・ウォーク・オブ・フェイムにも名前を刻んだ監督。名実ともに、ハリウッドスターとして映画史に名を刻んだわけだ。今後は、女優業との割合はどのようになっていくのか。「いまは、監督業に専念したいの。27歳で初長編を撮って、それから4本の映画を作ったけれど、決して数としては多くない。もちろん、その間も休んでいたわけではないし、役者としてのキャリアも積んだし、2人の子育てもしているから、とても満足している。でも、監督をするなら100%コミットしなければいけないの。企画と出会って、“さあ、今だ”というタイミングが来たときに、チャンスを逃がしたくない。ただ、これまで50年以上も演技をしてきた自分にとって、演技をすることはほかと比較することはできないぐらい素晴らしいことだから、止めることはないわ」。監督業にますますの意欲を見せるジョディ・フォスター監督。小さい頃から慣れ親しんできた日本文化が大好きだと話し、いつかこの独特な文化を作品に反映させられたらと考えているとか。その“いつか”も心待ちにしつつ、今後のジョディ・フォスターの活躍に注目したい。(text:June Makiguchi/photo:Kyoko Akayama)
2016年06月08日主演の綾瀬はるかに「本当の姉弟みたいだね」と言われたという。実生活では水原希子は二人姉妹の姉であり、間宮祥太朗はひとりっ子。その2人が映画『高台家の人々』において、斎藤工を“長男”に持ち、ある特殊な能力が備わった高台家の長女&次男をなんともいい感じに体現している。原作は、ドラマ化もされた「ごくせん」や「デカワンコ」でも知られる森本梢子の人気漫画。イギリス人の祖母から遺伝した「他人の心の中を読める」というテレパス能力を持った高台家の御曹司・光正と“妄想力”豊かなOL・木絵の恋を描き出す。2人が演じたのは、光正の弟妹で、同じくテレパス能力を備えた茂子と和正。茂子は美人で一見、気が強そうだが、知りたくもない他人の心が読めてしまうゆえ、少し臆病なところがある。水原さんはそんな茂子への共感を口にする。「私もそうだし、年頃の女の子なら誰もがわかると思います。ひとの考えてることが聞こえてきて、しかも恋なんてしてたらすごく複雑ですよね。恋愛になると、この能力、いい方向で生かされないので(苦笑)。演じながら、寂しくなるようなシーンも多かったし、茂子の気持ちを素直に理解し、演じました」。一方、和正はこの能力ゆえにか、はたまた末っ子だからなのか、ひねくれた性格に…。間宮さんは「小学生の男子ですよ」と笑う。「気持ちはわかりますけどね(笑)。僕も、小学生のころなんかはそんな感じで、好きな子に対して「ブス!」とか言ってましたよ。好きだから話したいんだけど、何て話しかけたらいいのかわかんないから(笑)。和正を演じる上で、一番大切にしたのは、弟っぽさ。生意気なんだけど、そこには周りへの甘えがあるんですよね。家族の中における弟らしさを見ている人に感じてもらえるように意識しました」。冒頭でも触れたが、水原さんは実生活では妹ひとりを持つ姉。今回、斎藤工を兄に、そして間宮さんを弟に持っての感想は?「ラクでした(笑)!男の人と一緒だと、気を遣わなくていいというか。決して、うちの妹もめんどくさいタイプではないので楽ではあるんですが。私自身、普段からサバサバした性格なので、男の人の中に混じったとき、素のままでいられた感じでした」。ひとりっ子の間宮さんも、兄と姉がいる環境を楽しんだよう。「兄弟がいるって楽しいなって思いましたね。今回特に、長男は少し歳が離れてるので落ち着いてますけど、茂子と和正の関係は憎まれ口を叩き合ったりして、ちょっと子どもっぽい部分もあって。兄弟がいる日常ってこんな感じなのかなと疑似体験させてもらいました」。逆に普段、自分がひとりっ子だなと感じる瞬間は?「そうですね…、わりと何でも自分で決めちゃうところですかね?物心ついたころから、習い事にしろ進学にせよ、やりたいことは自分で決めてやってきたし、そうやって自分で決める意志は強いのかもしれないですね」。映画の中に登場する、木絵の頭の中の様々な妄想がユーモラスかつキュートだが、2人は妄想癖は…?「します!」と即答したのは水原さん。「音楽が好きなので、音楽を聴きながら街中を歩いていて、よく頭の中でミュージックビデオを作ってます。あと、ブリトニー・スピアーズの『Toxic』という曲のMVが、飛行機が舞台なんですけど、飛行機に乗るとやりたくなっちゃいますね(笑)」間宮さんは「妄想女子、いいじゃないですか」と笑いつつ、自身は「僕はあんまりしないですよ」とのことだが…。「状況によってですね。道を歩いてて、強面の人が向こうからやってきたら『挟まれたな…』とか想像して、こっちの路地に入ればひとがいるとか、あの角を曲がってやり過ごして…とイメージしたり(笑)」。いやいや、それは十分、妄想男子です!ちなみに、相手に自分の考えを読まれてしまうのと、逆に相手の思考が読めるのとではどちらを選ぶ?映画を観ると、相手の心がわかってしまうのもラクじゃないな、と思ってしまうが…。水原さんはこれも「読みます!読まれたくない!ヤバい(笑)!困る!」と即答。間宮さんは、しばし思案の末に「読まれる方がいいかな?」と語る。「例えば、いまこうやって取材を受けてて、インタビュアーの方の『こいつの話なんて、別に聞きたくないな』なんて声が聞こえてきたら嫌ですから(苦笑)。読まれる方がまだいいですね」。では最後の質問。もし本当にテレパス能力を持っていたら、劇中の光正のように、その事実をきちんと愛する人に伝えるか否か?これは2人声をそろえて「言わない!」と回答。「問題起きちゃいます(笑)」と水原さんが言えば、間宮さんも「無理無理。よくないことしか想像できない(笑)」とのこと。テレパス能力はなくとも、この取材を通して2人の心の内側が見えてきた…かも?(photo / text:Naoki Kurozu)
2016年06月06日夢かなわず去って行く者たちの哀しみ、彼らにむけた惜別の思い。林遣都は又吉直樹が生み出した2015年最大のベストセラー「火花」からそんなメッセージを受け取ったという。「でも、だからと言って人生は終わらない。まだまだ通過点。そんな希望も感じました」と自らに言い聞かせるように語る。波岡一喜もまた、ここで描かれる幾人もの人々の人生を自らに重ね合わせて「僕の30代は『火花』」というくらいに強い思いをこの作品に抱いたという。出版不況のさなか、250万部超というモンスター級の大ヒットとなった、又吉直樹の芥川賞受賞小説を全10話、総計530分の重厚な人間ドラマとして映像化した「火花」。いよいよ動画配信サービス「Netflix」にて世界190か国へ全10話一挙に同時ストリーミング開始となった。売れないお笑い芸人・徳永(林さん)と、彼がある営業先で出会い、その強烈なインパクトに魅了され師と仰ぐようになった先輩芸人の神谷(波岡さん)。彼らが浮き沈みを体験しつつ、夢を追い、挫折し、それでも歩みを進めていく約10年の歳月をつづる。林さんは滋賀県出身、波岡さんは大阪出身。共に関西から夢を背負って上京してきた身であり、お笑い芸人と俳優という違いはあれども、徳永と波岡の姿はまぎれもなく自分たちそのものだった。林さんは言う。「東京に夢と目標を持って出てきて、うまいこと行かずに苦しんで、でも小さな喜びもいっぱいあって…。自分自身の日常に近いと思える部分がたくさんあって、脚本を読んで『この役はやりたい!』って強く感じました。これまでも、よくサエないナイーヴな青年を演じてきたけど(笑)、徳永は本物のナイーヴ!僕も自分はナイーヴと思ってるから『本物を見せてやる』って(笑)」。10代半ばでいきなり映画『バッテリー』で主演に抜擢され俳優デビューし、その後も次々と話題作に出演している25歳。世間から見れば陽の当たる道を歩き続けているように見えるが…。その陰で時に挫折を味わい、葛藤を抱えながら歩んできた。「よくそう(挫折したことがないと)言われますが、そんなことないです。心の底から悔しい思いをした時期もあったし、理想としているものができなかったり、行き詰まって、全てを捨てて『やめたい』って思ったこともありますよ。徳永は、それでもどこかで自分の考えてることやセンス、才能をきっと誰かが見てくれていると思ってて、それが受け入れられたらきっとブレイクできるはずと思ってる。悔しい思いをしながらふつふつと秘めている思いがあるけど、でも、それをうまく出せない葛藤、もどかしさもあって、そういう部分をうまく表現できたらという思いがありました」。波岡さんは脚本になる前に、事務所の社長から「波岡のイメージにすごく近い」と言われて原作を手渡されたという。「共通点は確かにいっぱいありました。まず、思ったことをすぐ言ってしまうところとか(笑)。あとで『言わなきゃよかった』って思うんだけど、我慢ができない(苦笑)。もろい部分も含めて似てるなと感じました」とふり返る。そして、役を勝ち取り、実際に演じる中で、神谷に背中を押された部分も。「自分が面白いと思ったことを貫いてるんですよね、神谷は。どうしても長くやっていく中で、自分を信じることを見失いがちになるし、神谷の行く末を見ても、それが必ず正しいとは限らないんですけど(笑)、それでも、自分を信じてやってるヤツってかっこいいんですよ」。波岡さん自身、まさしく自分を信じ、時に体を張り、コツコツとキャリアを積み重ねてきた俳優であると言えそうだが…。「そのつもりでしたけど、まだまだ結果がついてきてないですからね。旅の途中です。自分はホームランを狙うようなバッターじゃない。ずっとバントヒットを重ねて得点を積み重ねてきたけど、それがぶれてしまうこともある。『このままでいいのかな?』とか『やめようかな』と思ったこともある。でも神谷を演じて改めて、もっと自分を信じていいのかなと思いました。初めて出た『パッチギ!』という映画は、僕にとってバントヒットのつもりがフワフワとボールが上がって、なぜかホームランになっちゃった作品でしたけど、この『火花』ももしかしたらそんな作品になるんじゃないのかな?と期待してます(笑)!」徳永にとって、神谷との出会いが、その後の人生に大きな影響を与えることになるが、林さんも波岡さんも、本作の総監督であり、第1話、第9話、最終第10話の演出を務めている廣木隆一監督との出会いについて「衝撃だった」と口を揃える。林さんは、本読みの段階から、台本を見ずに俳優の生のやり取りだけを注視する廣木演出のすごさをこう語る。「監督が台本を見てないってことは、(シーンの)終わりがないんです。セリフが終わっても『カット』が掛からない内に僕らが勝手に芝居を終わらせるわけにいかないので。役になり切ってないと通用しない!間がもたなくて思い付きで小手先でやったらすぐ見抜かれて『足すねぇ…』と言われて(苦笑)。ただ、愛にあふれている監督で、ちゃんと役に向き合い、その人物になってやっていれば、必ずいい作品になる、必ず人の心を動かせるという演出をしてもらいました。若い人がみんな、廣木さんとやりたがる理由がよくわかりました」。波岡さんは「テストから何十回とやって『何がダメなんだ?』と思うんだけど、答えはくれないんです(笑)。現場はいい意味でピリッとしてました」と充実感を漂わせた。徳永と神谷の関係性という点でも、林さんと波岡さんは適役と言えるのかもしれない。2人が出会ったのは、林さんがデビューしてまだ間もないころに主演した映画『ラブファイト』の現場。波岡さんは「遣都が10代のころからずっと知ってるし、先輩後輩って関係も(神谷と徳永に)遠からず…です」とうなずく。林さんも、“リアル火花”とも言える2人の関係性を明かしてくれた。「僕自身、影響されやすい時期に波岡さんにビシッと言われた経験もあります。徳永がネタに悩んで妥協したり、違う道に進もうとして、神谷が正しい道に引き戻すというシーンもありますが、それに近いやり取りが波岡さんとの間にありましたよ」。いまだから、そして、この2人だからこそのドラマが、きっと多くの人々の心に、自分自身の物語として突き刺さるはずだ。(photo / text:Naoki Kurozu)
2016年06月03日「こんな恋がしたい!」と、女性の恋愛モードを上げてくれる映画がまたひとつ生まれた。「EXILE」、「三代目J Soul Brothers」のメンバーとしてだけでなく、映画『クローズEXPLODE』『HiGH&LOW THE MOVIE』など俳優としても活躍する岩田剛典。舞台・映画・ドラマ、若手俳優のなかでも演技派として注目され、現在は朝ドラ「とと姉ちゃん」のヒロインとしても活躍の高畑充希。実力と勢いのある2人がW主演するラブストーリー『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』だ。「お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか。噛みません、しつけのできた良い子です。」──岩田さんの演じる樹のこのひと言をきっかけに、樹とさやかの同居生活はスタートする。ファンタジックな出会いから始まる分、2人の空気感は「できるだけリアリティを持たせたかった」と高畑さんは言う。「撮影に入る前にさやかをどう演じるのかいろいろ考えてはいたんですが、最終的には“2人の空気感”が大切なのかなと思って。お話自体が少しファンタジックなところもあるので、その分、空気感はリアリティが大切だと思いました。ほとんど2人しか出てこない物語。とにかく心の距離を縮めようというのはありましたね。岩田さんとは初共演なので、最初は身構えてしまいましたけど、いざ現場に入ってみると自然と仲良くなれました」。いろいろな話をして空気感を作っていったそうだ。話の入口は“食”。2人とも食べることが好きで「共通の話題から徐々に会話を膨らませていきました」と語るのは岩田さん。「撮影が始まったばかりの頃は、好きなご飯屋さんの話とか、あのお店のあのメニューが美味しかったとか、おすすめだから今度行ってみてとか、食にまつわる情報交換をしていました」。映画と同じ、食が2人の距離を縮めっていった。そして、出会いのセリフについては、岩田さん本人も「すごいセリフですよね(笑)」と、今でこそ苦笑いするが、高畑さんいわく「岩田さんはカメラが回る前に『コレ、どうやって言えばいいんだ…』と悩みつつも、いざカメラが回るとごく自然に成立させていました。すごいなぁと思いましたし、とても魅力的な樹でしたね」と明かす。現実的にはそんなセリフ言わないだろう…というような、小説や映画のなかでこそ成立するものを現実的にアリにする。しかも目の前のさやか役の高畑さんはもちろん、スクリーン越しの観客もキュンとさせなくてはならない。樹を演じるにあたって岩田さんが大切にしたのは「樹になりきること」だった。簡単に聞こえるけれど、あのキャラクターに“なりきる”ことはなかなかどうして難しい。「樹を魅力的に映し出せたかどうかは観てくださる方の捉え方次第ではあるんですが、魅力的でありたい、それは大切にしていました。樹はキメゼリフの多いキャラクター。少女漫画に出てくる白馬に乗った王子様じゃないけど、それに近いキャラクターです。この物語はさやか目線で物語がすすんでいくので、樹としてさやかの目に魅力的に映り続けなければならない。そうしないと物語が成立しない。なので、とにかく魅力的なキャラクターになるために樹になりきることを大切にして演じていました」。岩田さんの役づくりについて、高畑さんも証言する。「岩田さんはカメラが回っていないところでも樹に徹してくれて。本当に優しいんです。さやかのことを最優先に考えてくれて大切に接してくれるので、何ていうのかな…ふわっと包んでもらっていたような、あったかい感覚でした。岩田さんが先に撮影を終えたときとかも『この後も撮影頑張ってね』って満面の笑みを残していってくれるんですよ」。きっと、もともと岩田さんが持っている優しさが樹というフィルターを通してさらに魅力的になったのだろう。そんな岩田さんや高畑さんの魅力が撮影現場にも広がり、高畑さんは「こたつみたいに温かい現場だった」と懐かしそうに話す。初共演ながらも樹とさやかを“ベストカップル”として映画に刻み込んだ岩田さんと高畑さん。樹とさやかがお互いの気持ちを確かめ合うシーン、「引き金二回目…知らないからな」のシーンはこの映画の代表的な胸キュンシーンだが、演じる側として一番照れたのは「意外と“引き金”とかのシーンではないんですよね…」と高畑さん。「手をつなぐシーンがいくつかあって──私が一番照れたのは川を渡る、渡り終わって手を離すっていう何気ないシーンですが、監督がすごくこだわっていた所で。さやかとしても私としても、恥ずかしいから早く手を離したいと思っているのに、監督は『そこ、もう少し粘って!』と(笑)」。岩田さんもそのシーンが同じく一番照れたそうで「撮影の序盤だったこともあると思うんです。撮影初日から仲良くはなったけれど、まだ照れがあったから、そう感じたのかもしれない。だから引き金のシーンとか2人で料理をするシーンとか、周りが『恥ずかしかったんじゃない?』と思うシーンは、照れることなく撮影しています(笑)」。ストーリーの進行と撮影がある程度リンクしていたからこその芝居でもある。ちなみに、樹が姿を消してさやかが泣くシーンは、岩田さんがクランクアップした後に撮影したのだそう。この映画の魅力は「誰かと一緒に暮らすことで生まれるしあわせ」だと2人は口を揃える。高畑さんは「恋したい、結婚したいと思いますよね。特に朝ご飯のシーンはいいなぁって、朝日の入る部屋で、2人対面して朝ご飯を食べる。それだけで今日も一日がんばろうって思えます」。岩田さんも「2人で一緒に料理を作って食卓を囲むとか、お弁当っていいなとか、おかえりやただいまという会話があるとか、当たり前の幸せを改めて感じさせてくれる映画です」。【岩田剛典】ヘアメイク:槌田美希(DIFINO akasaka)スタイリスト:ジャンボ(SPEED WHEELS)【高畑充希】ヘアメイク:市岡愛(PEACE MONKEY)スタイリスト:大石裕介(DerGLANZ)(text:Rie Shintani/photo:Nahoko Suzuki)
2016年06月02日代表作は俳優にとって、一つのステータス。その反面、そこで演じた役柄は強烈なイメージとして付きまとい、足かせとなる場合がある。20代で得た当たり役「のだめカンタービレ」は、俳優・玉木宏(36)にとって“諸刃の剣”だった。だが、玉木さんはその剣を器用に握りしめて10年ほど歩んだ結果、記録的視聴率の朝ドラ「あさが来た」に出会う。ところが当の本人は、その成功にも安住しない。「ここで満足したら成長は止まる。違うことに進まなければいけない。過去に自分が作り上げてきたものを壊していく作業をしていきたい」とストイックだ。しかし厳しい言葉とは裏腹に、表情は至って穏やか。その理由は“30”という数字にあった。「のだめ」ブーム真っただ中の20代、すべての環境がガラッと変わった。「様々な仕事が同時進行的に重なった時期。体は休みたがっているけれど、頭に入れていかなければいけない状態で、ジャンジャン新しい仕事も入ってきて、追いつかないけれど追いつくしかない。正直『うわー!』となったこともあります」。ブレイクの裏には知られざる苦悩があった。しかも2000年代は、玉木さんと同年代の若手俳優が乱立した“若手戦国時代”。「同年代のライバルが多く、我先に!と少ないパイの取り合い。20代は焦りばかりでした」とふり返る。心境の変化は30代突入を期に訪れる。「30」という年齢を分水嶺として、玉木さんと並走していた同年代の俳優たちが、それぞれの道を歩み出した。俳優を辞める者もいれば、自らのポジションを確立する者も…。玉木さん自身、30歳を起点に俳優を辞めていた可能性もあったという。それを引き留めたのは、この仕事が持つ“答えなき答えを追求する”面白さだった。「芝居には明確な答えがない分、奥が深い。これが数学のように単純明快に一つの答えが出てしまうような仕事だったら、僕自身もすぐに辞めていたかもしれない」。焦りは薄まった。しかしその分、俳優としての自分を客観的に見つめることが増えた。“答えなき答えを追求する”面白さは、実は迷宮と表裏一体。30代後半になると、難しさを感じることも多くなった。「幼少期に思い描いていた夢のステージにいまの自分がいるかというと、そうは思えない。テレビや映画に出演させていただいているけれど、出たら終わりの世界ではない。演技をして結果を残さなければいけないし、責任も生まれる。煌びやかに見える一方で、経験すればするほど難しさも増える。大袈裟かもしれないけれど、アスリートの世界に近いものがある」と笑う。その迷宮を抜け出す答えはまだ見えないが、前進するしかないことだけは分かる。「仕事を自分で選り好みしていないからこそ、これまでも色々なものに触れられて、吸収してきた。30代はこれから迎える40代、50代の基盤になるもの。20代以上に大事な時期。朝ドラの好調はとても嬉しいけれど、ここで満足してしまったら、成長は止まる。過去に自分が作り上げてきたものを壊していく作業をしていきたい」と後退は厳禁だ。プライベート面の充実も、これまで以上に視野に入れている。「朝ドラでは父親役をやって、おじいちゃんにまでなったけれど、父親を演じるときは、自分自身父親である方が芝居に説得力が生まれるはず。朝ドラのように、家族皆が隠し事なく様々な話をして、最期は家族全員に看取られるという姿には憧れます。そういった経験は、実際に家庭を持たなければ実感できないことですから」といつかの未来に思いを馳せる。新たな境地に立った玉木さんが「いまの年齢だからこそ、演じさせていただくことに意味がある」と思いを込めるのは、6月4日(土)公開の主演映画『探偵ミタライの事件簿 星籠(せいろ)の海』。IQ300超の天才脳科学者の御手洗潔役で「衣装合わせでは僕の意見を尊重してもらえました。外出時の衣裳は黒では重い気がしたので、御手洗潔のキャラクター性を壊さないように、ビビットなカラーは外してアースカラーを取り入れた」とこだわった。原作者・島田荘司もそのトレースぶりを絶賛。玉木さんは「和泉聖治監督も島田荘司さんも信頼してくれるからこそ、それがプレッシャーにもなった。でもお二人が喜んでくれるので、それを信じて演じ切ろうと思った」と控えめだが、作品を躍進させる原動力は“座長・玉木”の存在にあることは間違いない。(text/photo:Hayato Ishii)
2016年06月01日アカデミー賞女優のシャーリーズ・セロンが“邪悪な女王”ラヴェンナとして、グリム童話の名作「白雪姫」の世界で悪のパワーを発揮するアクション・アドベンチャーの続編『スノーホワイト/氷の王国』。シリーズ最新作にはシャーリーズやハンターのエリック役のクリス・ヘムズワースのほか、新たにエミリー・ブラント、ジェシカ・チャステインといった人気女優が参戦したことでも話題に。今回、本作のアジア・プレミアを開催したシンガポールで、クリスとハンターのサラ役を演じたジェシカにインタビューを実施。華麗なるアクションシーン撮影やクリスが3大女優たちのイジメに遭っていた(!?)秘話について聞いた。エミリー・ブラント演じる“氷の女王”フレイヤも加わって邪悪な姉妹が魔法の鏡で世界を手に入れようとする陰謀を、ハンターのエリックとサラが鏡を破壊することで阻止しようとする続編のストーリー。エリック役を続投したクリスは、「前作とは違うことをトライしてみたかった」と本作への期待感を持っていたことを明かす。「もちろん前作もファンだけれど、作品世界の中でもっと楽しみたかった。今回は以前ほどダークになりすぎないテイストで、冒険心と好奇心が膨らみながらもドラマもしっかりある。そういうバランスがいい世界が組み合わさった中でのキャラクターだったので、とても楽しみにしていたよ」。エリックの幼なじみで同じくハンターであるサラ役のジェシカは、「ほかとは違ったおとぎ話になるって楽しみにしていたわ」と本作の魅力を明かす。「いわゆる囚われの、救いを待っているお姫さまの役柄ではなくて、女戦士の役柄なのよね。こういったおとぎ話のキャラクターとしては、すごく現実的な作りだったと思うわ。お互いのキャラクターをすごく補完し合うようなキャラクターだったと思ったから、それも含めて楽しみにしていたの」。ハンターという役柄だけに、激しいアクションも魅力のひとつ。荒々しく斧を振り回すシーンもあれば、鳥のように華麗に宙を舞うなど、「物語のタイミングによって違ってくる」と多彩なバリエーションがあることをクリスは説明する。「最初は必死だよ。戦いの中で生死がかかっているからね。そこには苦悩もある。一方で、サラに見せびらかすような戦い方をする場面もある。そう、クジャクが羽を広げるように。彼女の気を引くためにね(笑)」。ジェシカも、「何種類もあるの」とうなずく。「彼はいい印象を与えたいのよ。ウィンクをしているような戦いっぷりもあるわ。でも、そんな彼の腹に一発キメるのがあたしよ(笑)」。ちなみにクリス以外のメインキャストが、シャーリーズ・セロン、エミリー・ブラント、ジェシカ・チャステインという大女優陣!ゆえにオフキャメラのところでクリスが3人の女優のイジメに遭っていたというネタも上がっているが、「受けるべきからかいを受けただけで、彼が被害者ヅラをしているだけ(笑)」と噂を完全否定するジェシカ。その上、「クリスのほうこそやりすぎなの」とジェシカが畳み掛けると、「おいおい、ウソだよ!僕をイジメるのは止めてくれ(笑)!」と応戦するクリス。屈強な戦士を演じておきながら、「僕のハートは傷ついていたからね!」と外見とは裏腹なか弱い発言でジェシカの笑いを誘う。最後に『スノーホワイト/氷の王国』は、「とにかく楽しみながら観てほしいけれど、愛はすべてを克服する作品なの」と本作が提示するメッセージをジェシカが代弁。それを聞いたクリスも「そうだね」とうなずいて、こう補足する。「愛!そのとおりりだし、子どもへの愛、妻や夫、恋人、パートーナーへの愛、そういう愛というものは、人生を前に進める推進力になるから、そういう部分を感じてほしいな。この映画を観た後、自分にとっての愛は何だとか、自分には戦う準備があるのかどうか考えてくれたらすごくうれしいよ」。(text:cinemacafe.net)
2016年05月30日「自由になれる瞬間があるんですよね」――。森田剛は静かに、ポツリとつぶやくようにそう語った。こちらが投げかけた質問の内容は「いま、どんなところに役者という仕事、役を演じることに対する楽しさを感じているのか?」というもの。脚本に書かれている他人の人生を生きる。そこには当然、セリフだけでなく動きなども含め、約束事や縛りが存在する。そうした状況で“自由”を体感するというのは逆説的である。「そうなんですよね(笑)。特に舞台となると、立ち位置とか決まってることが多いんですけど…その中で、いろんなものを解放して自由になる感覚があるんです。それが楽しい」。ここ数年、V6での活動に加え、役者として舞台での経験を地道に積み重ねてきた森田さん。2010年の『人間失格』以来の映画出演となった『ヒメアノ~ル』では、自身と同じ森田という名の、連続殺人鬼の役を演じ、恐ろしいまでの存在感を放っている。今年度の映画賞レース…いや、日本の映画史にも名を刻むであろう稀有なる凶器の男をどのような思いで演じたのか?演じることで自由の翼を手に入れる男の胸の内に迫る。原作は「行け!稲中卓球部」で知られる人気漫画家・古谷実の“問題作”。清掃会社で働く青年・岡田(濱田岳)は、ひょんなきっかけで高校の同級生だった森田と再会する。岡田の知る森田は、高校で壮絶なイジメを受けていたが、いまでは欲望のままに人を殺める快楽殺人者となっており、あることがきっかけでその狂気が再び暴走し始め…。映画は、ごく平凡な青年・岡田の不器用な恋愛模様と殺人者・森田の凶行という2つの物語が展開し、徐々に絡み合っていく。自身が出演していないパートも含め、完成した作品を見て森田さんは「2つの両極端な世界が森田の色に徐々に染まっていく過程はすごくドキドキしたし、気持ち悪さを感じました」と明かす。森田が醸し出すこの気持ち悪さとは何なのか?決して『ダークナイト』のジョーカーのような、見た目からして“いかにも”な悪役ではない。「殺人鬼役だけど強烈なキャラでもないし、どこにでもいそうなヤツなんですよね。でもそういう“普通”の男に普通の人々が染まっていく…それがすごく怖いなと思います」。演じる上で意識したのは、まさに「いかにも『僕、殺人鬼やってます』という感じを出さないこと」だった。「監督(吉田恵輔)から言われたのが『人間、何考えてるかわかんないし、さっき考えていたことも忘れちゃうくらい、集中力なんて長続きしない。さっきまで人を殺してた人間が、普通に飯を食べていたりする』ということ。アパートで人を殺すシーンがあっても、それをなるべく引きずらないように、後ろに控えてる撮影のことなども考えずに、その瞬間を生きることに集中しました。通常であれば、その人物に起きたひとつの出来事は、その後に何かしら影響していくものだけど、この役に関してはなるべく影響されないように気をつけましたし、それは初めての経験で難しかったです」。近年、主戦としていた舞台では「金閣寺」、「祈りと怪物~ウィルヴィルの三姉妹~」、「鉈切り丸」、「夜中に犬に起こった奇妙な事件」、「ブエノスアイレス午前零時」と様々な葛藤や苦悩、欲望を胸に抱えた主人公を見事に体現してきた。およそ6年もの間、映画から遠ざかっていたことについて、特に理由はないとしつつ「舞台でお芝居を勉強したいという気持ちはずっとあって、それをいつか映像の世界でチャレンジできたらと思ってました」とも。「これ!」と具体的にハッキリと、舞台での経験が今回の森田役に活かされたかを説明することはできないかもしれないが、その佇まいや向き合う過程の中に刻み込まれているはずだ。「蜷川(幸雄)さんの舞台で、首吊り自殺をした人間と会話をするシーンがあったんです。蜷川さんはその時『ハエが見える』って言うんですよ(笑)。『頭の中をハエが通って、それを振り払いながら会話をするんだ』って。森田を演じている時、なぜかそのことを思い出しましたね。こういう役に関しては、これまでも多かったので免疫はついてました(笑)」。とはいえ、殺人者を演じていく中で、自分なりに気持ちをコントロールすることも必要だった。ロケではこんな工夫も。「空き時間にペットショップに行って気持ちを落ち着かせるのが毎日のリズムになってました。最初は平気だと思ってたんですよ。でもひとり殺して、2人殺して…3人目、4人目を殺すシーンを撮影したくらいからだんだん重い気持ちになってきて。何かないか?と考えて、ペットショップは必ずどこかにあるので、事前にロケ地の近くのお店を探しておいて、動物たちを見て、また現場に戻るという。さっきも言ってた、シーンごとに忘れるという意味でもちょうどよかったです。『ちょっと重たいなぁ』という時は行ってました」。現場の雰囲気や共演者との関係性は?「現場は普通でした。ただ、やはりバカ騒ぎはできないし、(共演者と)一緒に並んで座っていても、黙る時間、集中する時間は多かったですが、監督の人柄もあって明るい現場でしたよ。そこでも、なるべくひとりの世界にグーッと入り込み過ぎないようにはしてました。なるべく人と目を合わせて…だんだん、合わせたくなくなっちゃうんですよ(苦笑)。どうしても下を向きたくなっちゃって」。ためらいも葛藤も、「なぜ殺すのか?」という理由もなく他人の命を奪っていく森田。行動原理が全く理解できないが、森田さんは「わからないことをやる方が楽しい」とも。いや、そもそも、世間の目からしたら、ジャニーズアイドルが、映画で連続快楽殺人者を演じるということ自体、大きなニュースだが、そこにためらいや、自身のイメージに対する心配などはなかったのだろうか?「それは全くなかったです。むしろ、こういう取材でそうやって聞かれることが多くて、だんだんそう思えてきたくらいで(笑)。語弊があるかもしれないけど、舞台をやっていても、正直、お客さんがどう思うか?という部分はあまり興味がないんですよね。ある意味、無責任に自分たちや演出家が『これが面白い』と思えるものをやれればという気持ちです。だから今回の映画に関しても、原作のファンの方に対しても『映画はこうなりました』と自信をもって言えます」。ジャニーズの俳優の中でも異彩を放つ37歳。「お芝居がどんどん好きになっていくし、楽しいなって思います。それは20代のころはあまり感じなかったことですね」。40代、さらに先とどんな姿を見せてくれるのか?その時、森田剛はどんな自由を手にしているのだろうか――?(text:Naoki Kurozu)
2016年05月30日