4月もまだまだ幅広い話題作が公開を控えていますが、そのなかでも日本映画界が誇る実力派キャストとスタッフが集結したことで注目を集めている1本といえば最新作『ヴィレッジ』。閉鎖的な村社会を舞台に描いた衝撃のサスペンス・エンタテインメントとしても関心が高まっているところですが、本作の裏側についてこちらの方々にお話をうかがってきました。奥平大兼さん & 藤井道人監督【映画、ときどき私】 vol. 572横浜流星さん演じる主人公・優が働くごみ処理施設に後輩として入ってくるワケありな青年の龍太を演じたのは、デビュー作『MOTHER マザー』で数々の賞に輝き、ブレイク必至の若手俳優と話題の奥平さん(写真・左)。そして、監督と脚本を手掛けたのは、『新聞記者』や『ヤクザと家族 The Family』、大ヒット作『余命10年』などで高く評価され、いまや“日本映画界の寵児”とも呼ばれている藤井監督(右)です。今回は、お互いに対する思いや周りに流されないために意識していること、そして人生が変わったと感じた瞬間などについて語っていただきました。―本作のきっかけは、プロデューサーの故・河村光庸さんから「お面をかぶった人々の行列」や「能」といったいくつかのお題を出されたことだそうですが、最初にお話があったときはどのように思われましたか?監督いきなりバーッと言われてしまったので、いつも通り何を言っているのかわかりませんでした(笑)。奥平さんそうなんですか!?監督というのも、河村さんは頭の回転が早すぎて口が追いついていないような方ですからね。でも、そのときから「今回の映画は村社会を描きたい」「若い人の話にしないと意味がない」ということは特に言われていました。―そこからすぐに物語のイメージは湧いたのでしょうか?監督いや、まったくです…。こんなにも脚本の決定稿までに時間がかかったことはありませんでした。衣装合わせのときにもまだできあがっていなくて、みなさんにも「これから作るので少々お待ちください」と伝えていたほどです。自分とかけ離れた人物を演じるのは楽しい―キャストの方々には、監督から一人ずつキャラクターシートが渡されていたそうですが、それを踏まえて奥平さんはどのように役作りしましたか?奥平さんなかでもよく覚えているのは、劇中に匂わせるシーンもないのに「ヒップホップグループの『舐達麻(なめだるま)』を聴いている」と書かれていたことです。それでもとりあえず聴いてみようと思って、京都にいる間はずっと聴くことに。いまではすっかりファンになりました(笑)。―金髪にタトゥーという外見で、キャラクターとしてもいままでにない役だったと思います。奥平さん今回はそれもすごく楽しみでした。というのも、役者の仕事では短期間でも自分が生きられない人生を味わえるので、疑似的に体験できたり、他人の感覚を知れたりするのはうれしかったです。自分とかけ離れた人物を演じるのは、楽しいことだと改めて感じました。―おふたりがご一緒するのは本作が初めてですが、監督は奥平さんに対してどのような印象をお持ちでしたか?監督河村さんが『MOTHER マザー』をプロデュースしたときに「次のスターを見つけた!」とずっと自慢していたので、実は最初は「うるさいなぁ」って思っていたんです(笑)。でも、信頼している流星のマネージャーたちからも「すごいのが入りました」と話があって、そんなにみんなが言うなら見てみようかなと。奥平さんそれはハードル上がりすぎです(笑)。大兼は見てきた俳優のなかでも一番ニュートラル―実際お会いしてみて、評判通りだと思われましたか?監督評判以上の生き物でしたね(笑)。というのも、大兼は同じことをしないというか、本当に自由にやってくれますから。でも、そこが好きなところです。奥平さんありがとうございます!監督あとは、いろんな俳優を見てきましたが、大兼は一番ニュートラルというか、計算せずに感じたことでやるタイプなんだなとも思いました。実際、衣装合わせで会ったときに、「僕は事前に考えていくよりも、やってみて理解するタイプなんです」と本人からも言われて何も返せなかったです(笑)。奥平さんあははは!監督でも、だからこそ今回演じてもらった龍太という役にはぴったりだなと。芯の部分を持っているのにそこをなかなか出せない人物だったので、そういうところが大兼とシンクロしていて撮るのが楽しかったです。―奥平さんは藤井監督の演出に関して、「ヒントをくれつつ自分で答えを見つけさせてくれた」と感じたそうですが、改めて振り返ってみていかがですか?奥平さんまずこの現場に行く前のお話をすると、ありがたいことではありますが、まだほとんど経験のないときにいろんな映画賞や新人賞をいただいたこともあって、周りの方々が思っている僕と自分自身とのギャップがありすぎてつらいと感じていた時期がありました。というのも、実は僕はあまり自分に自信がないタイプだったので…。俳優部と成長過程を共有できるのは幸せなこと―順風満帆のように見えていたので、意外です。奥平さんだから、現場に行くと「自由にやっていいよ」と言われてしまうこともよくありました。でも、僕自身は「何か言ってほしいな」とずっと思っていたんです。そんなときに藤井さんの現場に行ったら、いろいろと言ってくださったのでそれがすごくうれしくて。おかげで自分に足りないことやできないことがだんだんわかってきたので、勉強になりました。この作品以降はほかの現場に行っても、毎回藤井さんの言葉がフラッシュバックするくらい。本当にありがたいことだなと思っています。監督こちらこそ、そう言ってもらえてうれしいです。―主演の横浜流星さんについてもおうかがいしますが、長い付き合いがある監督だから言える魅力や素顔について教えてください。監督役者のなかには、「作品をどんどんこなしては消化されていく」というのを何回も繰り返していくなかで、潰れてしまう人や間違った方向に行ってしまう人もいます。でも、流星は本当に純粋なので、「作品と監督を信じる」というシンプルだけどすごく難しいことをやり続けられる人。その結果が今回もちゃんと出ていたので、最後のシーンを撮っていたときに「いい役者になったなぁ」とうれしくなりました。大兼にも言えることですが、俳優部と成長過程を共有できるというのは幸せなことです。このままではダメになると思って、考え方を変えた―素敵な関係ですね。奥平さんは横浜さんとは初共演ですが、すごくかっこよくて完璧な方だったので、思わず惚れそうになったとか。奥平さん流星くんは同じ事務所の先輩なのでいろんな話を聞いてはいましたが、実際に会ってみないとどんな人かはわからないなと思っていました。ただ、すごくストイックな方なんだろうなとは想像していたので、現場ではなるべく話しかけないほうがいいかなと最初は遠慮してたんです。でも、あるとき思い切って話しかけたら、集中しないといけないときだったにもかかわらず、すごくやさしく話をしてくれました。そういう僕個人の流星くんに対する気持ちは役とも重なりましたし、おかげで安心してできたと思います。ただ先輩に助けてもらったというだけでなく、人としても教わることがありました。―監督は『新聞記者』、奥平さんは『MOTHER マザー』で一躍注目されるようになってから、環境が大きく変わったと感じていらっしゃるようですが、日本にはこの作品で描かれているように同調圧力が強いところがあります。そのなかで苦労されることもあると思いますが、周りに流されないためにご自身で意識していることはありますか?奥平さん以前は自信がほしいと思っていましたが、最近は「自信は持たなくてもいいっか!」と開き直るようになりました。あとは、小さくてもいいので自分なりの目標を持ち、目の前の壁をちゃんと乗り越えようという意識は持つようにしています。というのも、実は一度だけ調子に乗りかけた時期があって、何でもやればできちゃう気がして作品に対するベクトルがずれそうになったことがありまして…。でも、「そんなわけはない」とすぐに気がつき、このままでは絶対にダメだと思って考え方を変えました。自分を否定してくれる人を大事にしている―そこで客観的に自分を見て修正できるのはすごいですね。監督はいかがですか?監督僕は、自分を否定してくれる人やディスってくれる人を大事にするようにしています。監督は神ではありませんが、現場ではどうしてもそういう雰囲気になってしまうことがありますからね。そういったこともあって、自分に対して気を遣わずに話してくれる人にはなるべく近くにいてもらうようにお願いしています。―なるほど。劇中では、主人公が人生を逆転させたことで生きている実感を得ていく様子も描かれていますが、おふたりにもそういう瞬間はありましたか?奥平さんすごい前のことですが、空手の大会で優勝したときです。強い人たちがたくさんいましたが、会場のなかで一番自分が強いんだと思えました。といっても、いろんな部門があるので本当はそんなことないのですが…。でも、それまでちゃんと努力していたので、報われてよかったなと感じられた瞬間です。監督僕は、いま思えば昨年亡くなってしまった河村さんに引っ張ってもらって、一緒に映画を作るようになってから気が楽になったように思います。それまでは自分がはみ出し者のように感じていましたが、自分よりもはみ出している大人がいることを知ったので(笑)。「この人がオッケーなら自分も大丈夫だな」と考えるようになってから、余裕が出るようになりました。誰もが壁を乗り越えようとしていると知ってほしい―それでは最後に、ananweb読者にメッセージをお願いいたします。奥平さんこの映画はいろんな人の目線から見てほしいなと思いますが、その理由は、誰にでもそれぞれ壁があって、それを乗り越えようとしているということがわかるからです。みんな表に出していないだけで、押さえつけられていることって実はたくさんありますよね。そういうことを知る機会というのはありそうでないので、それを知ることができるだけでも気が楽になるのではないかなと思っています。あとは、お願いですからぜひ映画館で観ていただきたいです。監督まさにその通りで、もし悩みがあっても、みんなが同じように悩んでいる姿を見れば、自分なりの答えを見つけられるのではないかなと。そして答えが出なくても、それもまた正解だと伝えたいです。「素敵な俳優たちを堪能するもよし、物語にハマってもらうもよし」なので、まずは楽しんでください。インタビューを終えてみて…。終始和気あいあいとした雰囲気で、とにかく楽しそうにお話をされていたのが印象的だった奥平さんと藤井監督。そんなおふたりの様子からは、お互いを信頼し合っている気持ちも伝わってきました。近いうちにまたタッグを組まれることがあるのではないかとも感じたので、今後にもぜひ期待したいと思います。現代社会の在り方に一石を投じる!日本社会の縮図とも言えるような村を舞台に、現代にはびこる闇をあぶりだしていく本作。心を揺さぶる俳優陣の熱演と映像美に圧倒されるとともに、生きづらさを抱えるリアルな若者たちに自らの姿を重ね、さまざまな問いと答えが頭のなかを駆け巡るはず。写真・園山友基(奥平大兼、藤井道人)取材、文・志村昌美ヘアメイク・速水昭仁スタイリスト・伊藤省吾(奥平大兼)ストーリー美しいかやぶき屋根が並ぶ山あいにあり、夜霧が幻想的な集落・霞門村(かもんむら)。神秘的な「薪能」の儀式が行われている近くの山には、のどかな景観には似つかわしくない巨大なゴミの最終処分場がそびえ立っていた。幼い頃から霞門村に住む片山優は、この施設で働いていたが、父親が起こした事件の汚名を背負い、さらに母親が抱えた借金の支払いに追われる希望のない日々を送っている。優には人生の選択肢などなかったが、幼馴染の美咲が東京から戻ったことをきっかけに人生が大きく動き出すのだった…。目が離せない予告編はこちら!作品情報『ヴィレッジ』4月21日(金)より、全国公開配給:KADOKAWA/スターサンズ(C)2023「ヴィレッジ」製作委員会写真・園山友基(奥平大兼、藤井道人)
2023年04月20日2部構成で上演時間計約8時間。怯むのもむべなるかな。でも、一見小難しそうな話なのに、観始めたらなんだか引き込まれて思いもよらないところにたどり着く。『エンジェルス・イン・アメリカ』はそんな作品だ。とはいえ、上演するとなったら作り手側は生半可な覚悟じゃできないはず。それが今回上演されることになった。しかもキャストはフルオーディションで選ばれた面々だ。数々の賞に輝いた一大傑作戯曲に“演劇にイカれた”俳優たちが集結。「同じ企画で上村聡史さん演出のフルオーディションで上演された舞台『斬られの仙太』を観た時、俳優さんたちの熱量の高さに驚かされたんです。全員がこれをやりたいと思って集まった人たちで、観ていてもそれが伝わってくる。今はキャスティングありきの作品が主流だけど、そうじゃないところからお芝居を作るっていうことがあっていいし、そこに参加したいと思ったんです」山西惇さんといえばドラマ『相棒』などで活躍する人気俳優。それでも敢えてオーディションに参加することに抵抗はなかったのだろうか。「一次審査の最初に言われたのが、主催側が俳優をオーディションする場であるのと同時に、俳優側もこの企画や主催側をオーディションする時間でもあると思ってください、と。なんかすごく腑に落ちたんです。いわゆるコンテストではなく、演出の上村さんの描くイメージや、全体のバランスを見ながら、ぴったり合う人を探していく場なんだなと」他にも鈴木杏さんや元宝塚トップスター・水夏希さんの名前が並ぶ。「そもそもこれをやりたいなんて、自分を含めて演劇に対してイカれてる人たちしかいないわけで(笑)、最初から志を同じくする人たちが8人いる状態はすごくいいですよね」1980年代、死の病だったエイズの恐怖に怯えていたNYを背景に、ジェンダーや宗教、人種問題や政治などで混沌とするアメリカの世情を、群像劇によって浮き彫りにした本作。「劇的に何かが大きく動く話じゃないのに、ずっと観ちゃうのはなんなんだろうって思うんです。まず、ひとつひとつのシーンがギュッとコンパクト。その終わりに必ず登場人物の状況が変わるから、台本を読んでいる僕らも、この次どうなるんだっけって気になるくらい。懐石料理みたいなんですよね。次にどんなお皿が出てくるのか予測もつかないまま、どんどん引っ張られていって、最後には大団円を迎える。構成が巧みなんです。観劇って、僕は精神の旅行に近い気がしているんですけれど、この作品は登場人物たちと一緒に外の景色をゆっくり眺めながら目的地に向かっていたら、すごく遠いところに連れてきてもらえるような。僕らも稽古しながら、予想外に笑えたり、人のシーンで涙が出たり、台本を読んだ時点では想像していなかったような体験をしているくらい」演じるのは弁護士のロイ・コーン。勝つために手段を選ばない剛腕で、アメリカでは“悪名高き”との枕詞で語られる実在の人物がベースだ。「やってきたことはたしかに悪いことかもしれないけれど、そのおかげで今のアメリカがあると言えなくもない。本人はひねくれ者というか(笑)、ユダヤ系の出自ながら反ユダヤを煽動したり、ゲイでありながら世間への発覚を恐れて過剰に否定したり、すごく人間くさい。悪徳な面も出しつつも人間くささをうまく表現できたら、とても魅力的な人物になるんじゃないかと思っています」『エンジェルス・イン・アメリカ』1985年のNY。同棲中の恋人・プライアー(岩永)から、自身がエイズだと告げられたルイス(長村)は、職場で裁判所書記官のジョー(坂本)と親しくなる。一方のジョーは、剛腕弁護士のロイ・コーン(山西)から司法省への栄転を持ちかけられ…。4月18日(火)~5月28日(日)初台・新国立劇場 小劇場作/トニー・クシュナー翻訳/小田島創志演出/上村聡史出演/浅野雅博、岩永達也、長村航希、坂本慶介、鈴木杏、那須佐代子、水夏希、山西惇A席7700円B席3300円Z席(当日券)1650円一部・二部通し券1万3800円新国立劇場ボックスオフィス TEL:03・5352・9999やまにし・あつし1962年12月12日生まれ、京都府出身。劇団そとばこまちを経て、映像作品のほか、こまつ座、ナイロン100°Cなどさまざまな舞台で活躍。ドラマ『相棒』は全シリーズに出演。撮影:藤記美帆※『anan』2023年4月19日号より。インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2023年04月18日品格と色気、にじむユーモアで役を体現。日本映画の文化を担い、継承する立役者、役所広司さんが日本映画への深い愛情を惜しみなく語ってくれた。日本映画の継続のために、若い才能の育成を。長崎県で生まれ、上京後は区役所勤めの後に俳優養成所に入り、’80年に俳優デビュー。以来43年間、テレビ、舞台、映画とさまざまなフィールドで活躍してきた。その中で、最も思い入れがあるのは映画だと語る。「テレビドラマは、作品がお茶の間に入り込んでいくものなので、やはりいろいろな制約がある。一方映画は、お客さんがお金を払って映画館に足を運んで観に来てくれるものなので、冒険やチャレンジができる。そういう意味で僕は、映画を中心にずっとやってきた。映画界には本当に良くしてもらったと思っていますし、だからこそ、少しでも役に立てるのであれば、日本映画の力になりたいんです」と言うのも、役所さんの目に映る今の日本映画界の現場は、とても恵まれた環境とはいえないからだ。「働く時間、ギャランティ、制作費…、物理的な意味では決して豊かな場所ではありません。それに加え、なにより僕が心配をしているのは、映画を作る人材が育っていないということです。昭和の時代、俳優を含めスタッフのほとんどが映画会社の社員だった時代は、人を育てる余裕があったと思うのですが、今はほとんどの人材がフリーです。コロナ禍でパンデミックのようなことが起こると制作が止まるので、みんな仕事がなくなってしまい、映画業界を夢見ていた人も辞めざるを得なくなる。才能がある若い人がそういった理由で映画界を去っていくなんてことはあってはならないし、本来はそういう才能をきちんと育てることが、将来的に日本映画が世界へ羽ばたくことの近道だと思う。日本映画を持続可能なものにするためには、若い人を育てることが一番大事なんですよ」利潤の追求が必須である現代の消費社会においては、映画とて経済と無関係ではいられない。確実に興行収入が望める作品にする、あるいはお金や時間をあまりかけずに製作するといった流れは、当然でもある。しかし、「確かに、作品を作り続けるためには映画界が潤わなきゃいけないのは分かります。でも一方で映画は、さまざまな種類の作品があるからこそ文化なんです。日本の映画界には、文芸作品は当たらないとか、時代劇はお金がかかるわりにヒットしないといったジンクスがあるんですが、そのせいか、年々そういった作品が減っている気がします。でも撮り続けていかないと時代劇を作れるスタッフはいなくなるし、演じられる俳優も育たない。目の前の利益だけでなく、映画界の未来を考えられるプロデューサーに出てきてほしいですね。『ちょっとチャレンジングな企画だけど、これやろうよ』と言える人。そこに日本映画の今後がかかっているんじゃないかな」映画は、監督や俳優、脚本家だけでなく、照明、衣装、美術など、さまざまなスタッフの職人芸が集まって初めて一本の作品になる、と役所さん。「かつての僕は、自分が出演した映画を観たときに、セリフがとても聞き取りやすかったので、自分はセリフを言うのがうまいと思っていたんです。でも実は、セリフの聞き取りづらい部分の出力を上げて調整してくれたり、テストのときの音声と一部だけ入れ替えるといった録音部の方の働きによって、聞きやすくなっているんですよ。それを知ったとき、自分の力だけだと思っていたことを恥じたと同時に、映画によって与えられる感動というのは、本当にたくさんの職人さんの技によって作られているんだということを、改めて実感しました」最後に、エンターテインメントに関わる俳優としての夢を聞いてみた。「僕の夢は、自分が死んだ後、50年、100年後にも上映され、なおかつ愛される作品に参加すること。映画は、役者として唯一残せる財産。そういう日本映画に出たいと今までも思ってきましたし、これからもずっと願い続けていくんだと思います」やくしょ・こうじ1956年生まれ、長崎県出身。代表作は多数あり、最近では『すばらしき世界』(’21)でシカゴ国際映画祭最優秀演技賞などを受賞。成島監督作は『ファミリア』(’22)などに続き4作目の出演。ジャケット¥143,000パンツ¥55,000シャツ¥51,700(以上エンポリオ アルマーニ/ジョルジオ アルマーニ ジャパン TEL:03・6274・7070)チーフ¥17,600(ジョルジオアルマーニ/ジョルジオ アルマーニ ジャパン)『銀河鉄道の父』唯一無二の世界観で、今では世界中から愛されている作家の宮沢賢治。しかし実は賢治は生前、家業を継ぐのを拒否し、謎の商売を始めようとしたり、家出をして宗教にハマったりと、両親を振り回すダメ息子だった…!!厳しくも息子を優しく愛した父親・政次郎の視点で描かれる、宮沢家の愛ある家族の物語。出演は役所広司、菅田将暉、森七菜ほか。監督は成島出、脚本は坂口理子。5月5日より全国公開。※『anan』2023年4月19日号より。写真・野呂知功(TRIVAL)スタイリスト・安野ともこヘア&メイク・勇見勝彦(THYMON Inc.)(by anan編集部)
2023年04月16日昨今の名作といわれる作品には、必ずこの人の名前がある。あまたの監督から絶大な信頼を寄せられている、役所広司さん。宮沢賢治の父を演じた主演映画『銀河鉄道の父』について語っていただきました。平凡なサラリーマン、歴史上の人物、暴力的な刑事、更生を誓った元犯罪者など、幅広い役柄を数多く演じてきた役所広司さん。国内外から評価される高い演技力の持ち主ゆえに、役柄にリアリティがあるのは言わずもがな。その上で、善人だろうが悪人だろうが、役所さんが演じることでその役に愛らしさや切なさが加わり、“愛すべき人間らしさ”が溢れるキャラクターになる。だからこそ私たちは、役所さんが出演する作品に釘付けになるのだろう。映画『銀河鉄道の父』で演じた宮沢賢治の父・政次郎も、厳格さと優しさ、そして愛らしさを併せ持った、愛すべきキャラクターだ。「恥ずかしながら僕は、宮沢賢治のことは『銀河鉄道の夜』と『雨ニモマケズ』くらいの知識しかなく、当然父親の政次郎さんのこともまったく知りませんでした。そんな僕にこの映画の話が来たわけですが、成島(出)監督とは本当に古い仕事仲間であり友人でもあるので、久しぶりに一緒に仕事ができるのが嬉しくて、とりあえず原作を読んでみたわけです。ご存じの通り賢治と妹は病気で命を落としており、その父親の話ですから悲しい物語ではあるんですが、それも含めた家族の様子がユーモアを交えながらとても明るく書かれていて、とても楽しい本でした。これが原作なら非常に温かい映画になるのではと思ったのが、出演を決めた理由の一つ。あとやはり、賢治役の菅田将暉くんと芝居ができるということ。出演が決まったときから、現場に入るのがとても楽しみでした」葛藤し、暴走する息子と、それを見つめる父親の物語。役所さんと菅田さんは今作が初共演。映画の中では文字通り二人が正面で向き合うシーンがいくつもあり、そのいずれでも、セリフ、息遣いなど二人のテンポが驚くほどぴったり。“こういう父子、いるいる…”と、あまりの微笑ましさに思わず顔がほころんでしまう。「菅田くんは本当に、役者になるべくしてなったような才能の持ち主です。そして、これまでたくさんの役者が宮沢賢治を演じてきましたが、その中でも彼は特に、賢治を演じる役者に必要なものを持っている人だとも思う。何かになりたいけれども何にもなれないもどかしさや、父を超えたいけれど超えられないといった葛藤を抱えた青年を、切なく愛おしく、のびのびと繊細に演じています。そんな賢治に、僕が演じる政次郎はホロッとさせられたりするわけです」明治時代、質屋を営む裕福な家の長男として、家業を継いでいる政次郎。そんな政次郎と妻のイチとの間に生まれたのが、長男の賢治。政次郎は跡取りである賢治をそれはそれは大切に育てており、その溺愛ぶりは、赤痢にかかった息子を自ら甲斐甲斐しく世話をしたことにもよく表れている。「このお父さんは親の言いつけどおり質屋を継いではいますが、明治の男としてはちょっと変わった人だったらしいんです。“男は強くあれ”という価値観が当たり前、子供の世話は女の仕事、という時代の中で、病気の息子の看病をしていたことからも、それは分かります。思うに政次郎さんも、本当は、家業よりもやりたいことがあったんじゃないでしょうかね。だからこそ、家を継ぐことにノーと言い、好き勝手に思い切り生きている賢治に対し、イライラはすれどもどこか羨ましい気持ちもあり、眩しく見守っていたんじゃないのかな、と思います」しかし、親の心子知らずとはよく言ったもので、賢治は迷走を繰り返す。謎の商売を始めようとしたり、宗教に生きると言い出し家出をしたりと、なかなか道が定まらない。「この子は本当に、詐欺師にでもなっちゃうんじゃないか?と、正直心配になりましたよ(笑)。だからこそ、最終的に息子が文学の道を見つけたときは、本当に嬉しかっただろうな、と。ちなみにどうやら政次郎さんも文学が好きだったらしく、おそらく彼は息子の作る物語の良さもきちんと理解をしていたんでしょうね。息子に黙って陰でスポンサーとして支える姿には、賢治への愛が溢れていたと思います」前述の通り、子供を亡くす父親の悲しい物語ではあるものの、この作品には、真面目さの中にどこかクスッとしてしまうウィットがちりばめられている。感動と笑いのバランスが絶妙で、神妙なシーンでも思わず笑いがこみ上げてくるのがたまらない。「撮影に入る前に監督が、『やっぱりユーモアのある映画を撮りたいんだ』とおっしゃっていたんです。なので脚本を読みながら、どこにおもしろい種が潜んでいるかをみんなで探しながら、作り上げていった気がします」シリアスさと滑稽さ、あるいは喜びと悲しみ。相反する2つの価値観や感情が背中合わせになっているからこそユーモアは生まれるのであり、さらにその絶妙なバランスの上に成り立つ映画が好きだ、と役所さんは語る。「ユーモアが感じられる映画って、誰でもスッと入っていける垣根の低さがあるんだけど、でも同時に品もあるから好きなんです。そして、ユーモアにはいろんな種類がありますが、特に僕が惹かれるのは人間らしさを感じさせる笑い。僕はユーモアとは人間らしさのことだと思っていて、映画とは人間を描くものです。だからこそ、笑いが大事なんです」また一方で、この世界には完璧な人間というのはほとんどおらず、だからこそ徹底的に完璧な人間を演じると、その役の欠点、すなわち人間らしさが露呈する、とも。「もちろん、全部かっこよくいけりゃあいいんですけれど、そんなヤツいねぇだろ?とも思うわけで(笑)。さらに全てがかっこいいものばかりを見せられても、作り物みたいな感じがするじゃないですか。観ている人は完璧なかっこよさよりも、“図らずも見えてしまった人間らしさ”のような部分に、心を寄せたり共感したりするんだと思うんですよ」ちなみに政次郎はまさにそんなキャラクターで、厳格ぶっているけれども実は隙だらけの男だそう。「この映画でも、真面目な状況を突き詰めた結果、それはもはやコメディなのでは?というシーンが何か所かあります。神妙な場面ではありますが、観る方にはぜひニヤッとしていただきたいですね(笑)」『銀河鉄道の父』唯一無二の世界観で、今では世界中から愛されている作家の宮沢賢治。しかし実は賢治は生前、家業を継ぐのを拒否し、謎の商売を始めようとしたり、家出をして宗教にハマったりと、両親を振り回すダメ息子だった…!!厳しくも息子を優しく愛した父親・政次郎の視点で描かれる、宮沢家の愛ある家族の物語。出演は役所広司、菅田将暉、森七菜ほか。監督は成島出、脚本は坂口理子。5月5日より全国公開。やくしょ・こうじ1956年生まれ、長崎県出身。代表作は多数あり、最近では『すばらしき世界』(’21)でシカゴ国際映画祭最優秀演技賞などを受賞。成島監督作は『ファミリア』(’22)などに続き4作目の出演。ジャケット¥143,000シャツ¥51,700(以上エンポリオ アルマーニ/ジョルジオ アルマーニ ジャパン TEL:03・6274・7070)※『anan』2023年4月19日号より。写真・野呂知功(TRIVAL)スタイリスト・安野ともこヘア&メイク・勇見勝彦(THYMON Inc.)(by anan編集部)
2023年04月16日ドラマ『TOKYO MER~走る緊急救命室~』が、劇場版でカムバック。主要キャストの鈴木亮平さんと賀来賢人さんに、撮影エピソードや映画の見どころをインタビュー!――劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~』では、TOKYO MER(以下、MER)チームの正義感や人柄に改めて感動しながら、アクションや映像のスケールアップ、疾走感に驚かされました。映画化の話を聞いた時のお気持ちを聞かせてください。鈴木亮平:実はドラマ撮影の後半から、映画化あるかも…みたいな噂があったんです。ぬか喜びすると傷つくから、信じちゃダメだ、と思っていましたけど(笑)。賀来賢人:実際に映画の台本を読んだら、これはMERじゃなきゃできない規模だと思いました。――中条あやみさん、菜々緒さん、小手伸也さん、佐野勇斗さん、フォンチーさんのMERメンバーと再会した時は、いかがでしたか?賀来:クランクインの時から「よろしくお願いしまーす。さあやろう!」って感じ(笑)。鈴木:気負いとかなくて、あっさりしてるんです(笑)。夏梅(菜々緒)さんが手術器具を渡してくれる時も、相変わらず僕の手にバシッとしてきて、そうそうこれこれ、って懐かしく思いながら。賀来:ただの共演者というより、戦友に近いというか、本当に気を使わない仲間。体力尽きてぐったりしながら、はい本番!みたいな時もあったし、そんな姿を見せ合ってるから、隠すこともない。鈴木:ドラマの現場が、かなりタフだったからね。でも経験上、ハードな現場ほど絆が深まっていくんですよね。僕が演じた喜多見幸太はドラマの中で命を助けてもらったし、妹の涼香(佐藤栞里)の死を乗り越えて、みんなでまた集まって、新しい日々が始まるぞって感じがしました。女性陣の仲のよさにも、すごく助けられて。賀来:そうそう、大変なシーンでも、合間はずっとふざけているんですよ(笑)。でもそういうのって、スタッフもキャストもすごくホッとするというか。――チーム感や絆は、作品を通しても伝わってきました。完成作を観て、いかがでしたか?鈴木:ここまでするかってぐらい追い込まれる、パニック・ディザスター映画としてお手本のような作品。スケールも壮大で素晴らしい。ずっとドキドキしながら観ていたし、内容をわかっていても感動して泣いてしまいました。賀来:今回僕が演じる音羽尚は、チームには参加しなかったので初めて見るシーンが多くて。いち視聴者としてワクワクしながら観ていました。みんなのヒーロー感がカッコよくて。子供から大人まで楽しめる、エンタメ作品です。――今回のエンタメ特集にちなんで、お二人に欠かせないエンタメジャンルや作品を教えてください。鈴木:高校時代のアメリカ留学時に、毎日のように聴いていたHIP HOP。今でも筋トレ中に、気分をあげるために聴いています。MER関連でいえば、配信のドラマ『クリティカル 緊急救命チーム』。イギリスの作品で、救急救命の現場で手術シーンに全振りしていて。動いている臓器も全部見せたりするから、すごくリアルなんです。僕も手術シーンの参考にしましたし、他のメンバーに見せたりもしました。賀来:お寿司を食べている時に、亮平くんから「明日のシーンの予習です」って手術動画が送られてきた時はビックリしました(笑)。僕がハマっているのは、韓国のアイドル“NewJeans”。14~18歳の5人組で、デビューの時点で自分の見せ方が完璧で。僕も、役者としてどれだけ自分を客観視できるのかとか、刺激になります。あと、ずっとバスケをやっていたので、元NBAプレーヤーの、コービー・ブライアントが大好き。昔、コービーが来日した時に、彼が前に着ていたオールスターゲームのジャージを着てトークショーを観に行ったことがあって。それを見たコービーが「レアなジャージを着ているファンがいるから、常に気を抜けない。僕は常にベストを尽くす」と言ってくれて、大興奮。彼は素晴らしい人格者。生き方がカッコよすぎて、コービーみたいな大人になりたい!って思って生きてきました。鈴木:彼は誰よりも練習しているから、説得力があるんだよね。エンタメっていろいろあるけど、僕はなぜ役者をやっているかというと、映画が一番好きだから。映画には、自分の人生だけでは経験できない生活や文化、感動を他人のストーリーによって擬似体験できる素晴らしさがあるんです。賀来:僕は、エンタメを通してワクワクしたい。だから僕自身も、作品に参加する時には、何か一つでも新しいワクワクを感じたいんです。そういう意味では、このMERという作品は最高のエンタメ。鈴木:“喜多見の成長物語”ですが“音羽推し”としては“音羽のキュンキュン物語”(笑)。賀来:いやいや、亮平くんこそ“ザ・MER”。存在感が大きくて、自分もスーパーヒーローになっている錯覚を起こすような親近感があります。だから僕にとっては“鈴木亮平ショー”です(笑)。鈴木:あはは。でも、音羽の学生時代の、うどんを食べるシーンのパーカ姿とかたまらなかったよ。賀来:あれは監督のフェティシズムがすべて入ったものだと思う。衣装合わせに時間がかかりました。鈴木:そういうこだわりがある監督はいいよね。僕たち、褒め合うスタイルでいきましょうか(笑)。劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~』事故や災害現場に駆けつけて患者のために戦う、救命医療チーム““TOKYO MER”。使命はただ一つ“死者を一人も出さないこと”。ある日、横浜・ランドマークタワーで爆発事故が発生し、喜多見(鈴木亮平)と再婚した千晶(仲里依紗)もそこに取り残されていることが判明した…。前代未聞の緊急事態に、MERチームはどう立ち向かうのか。4月28日より全国公開。すずき・りょうへい1983年3月29日生まれ、兵庫県出身。主演ドラマ『レンアイ漫画家』や、『エルピス ―希望、あるいは災い―』など、多くの話題作に出演。また、主演映画『エゴイスト』が現在公開中。2024年公開予定のNetflix映画『シティーハンター』では、主人公の冴羽獠を演じている。衣装協力・ブリオーニ/ブリオーニ クライアントサービス TEL:0120・200・185かく・けんと1989年7月3日生まれ、東京都出身。ドラマと劇場版に出演した『今日から俺は!!』ほか、主演作多数。劇場アニメ『金の国 水の国』では、主人公の声を担当するなど、幅広く活躍中。主演を務めたNetflixオリジナルドラマ『忍びの家 House of Ninjas』は、2024年配信予定。スーツ¥198,000シャツ¥26,400(共にポール・スミスコレクション/ポール・スミス リミテッド TEL:03・3478・5600)その他はスタイリスト私物※『anan』2023年4月19日号より。写真・岩澤高雄(The VOICE)スタイリスト・徳永貴士(SOT/鈴木さん)小林 新(UM/賀来さん)ヘア&メイク・Kaco(ADDICT_CASE/鈴木さん)西岡達也(Leinwand/賀来さん)取材、文・若山あや(by anan編集部)
2023年04月13日カンヌ国際映画祭パルム・ドール賞、米アカデミー賞作品賞を受賞するなど、世界的に高い評価を受けた映画『パラサイト 半地下の家族』が舞台化される。裕福な家庭に寄生してゆく親子を演じる古田新太さんと宮沢氷魚さんが、作品への期待を語る。――世界中で大ヒットした映画の舞台化となりますね。古田新太:映画は面白かったですけど、なんてせせこましい話なんだ、と(笑)。じつはその時から、狭い世界で展開される話だから舞台に向いてるなって思ってたんです。そしたら鄭(義信)さん演出で舞台化の話があって、「古田さん、ソン・ガンホの役やらないかな」と言ってると。鄭さんの舞台『焼肉ドラゴン』が大好きで、以前から一緒にやりたいと思いながらタイミングが合わずにいたんで、今回こそは何としても合わせようと。宮沢氷魚:映画が公開された当時、僕が世間的に盛り上がっているものに乗っかりたくないっていう時期で…(笑)。あえて観なかったんですよ、映画館で。でもちょっと時間が経ってから観たら面白かったです。衝撃的だし韓国の話ではあるけれど、なんかすごく近いものを感じて共感したんです。それはなぜなんだろうって考えたら、僕が生まれたアメリカ西海岸が似たような環境だったんですよね。サンフランシスコはシリコンバレーで儲けた裕福な方々が住んでいる地域なのに、そこから橋を渡ってすぐのオークランドは貧しい地域だったんです。たぶん映画が世界的にヒットしたのは、国は違えど、誰もが見てきた世界が、作品の中に描かれていたからだと思うんですよね。古田:韓国ではそれが半地下という場所に象徴されているんだけど、今回、物語の舞台を関西に移すにあたって、日本でこの半地下をどう表現するんだろうと思ったら、鄭さんがいい作戦を考えていて…。宮沢:あれは面白いですよね。古田:あと悲惨な話ではあるんだけど、ユーモアもある。鄭さんが笑いを大事にする演出家だし、キャストも、よくぞ集めたってくらい“オモシロ小劇場”が集まってるんで期待してる。宮沢:僕も楽しみで仕方がないです。僕はこれまで稽古前にしっかり準備して稽古初日に臨んでいたんですが、それが若干苦しくなってきていたところで…。今回のキャストのみなさんは、たぶんすごく自由に演じられるだろうから、そこに僕もうまくのっかって自由にやれたらと思っているんです。古田:今回、鄭さんが演出だし、(山内)圭哉とかみのすけみたいな意地の悪い(笑)先輩たちがいっぱいいるから面白いと思うよ。宮沢:(笑)。楽しみです。周りから「古田さんとの共演は楽しい」っていう話を聞いてましたから。古田:みんなオイラをピッチャータイプだと思ってるけど、じつはポジション的にはキャッチャーなんだよ。どんな球も全部拾うし、その作業が好き。だから安心して投げてください、と。宮沢:すごく心強いです。みなさん、どんな球でも応えてくださる方だろうから、僕はその時の感情に則った言葉を伝えられればと思うし、その逆もあるだろうから、そこを純粋に楽しみたいです。――演出の鄭さんは、映画化もされた『焼肉ドラゴン』を筆頭に、在日コリアン3世という出自をルーツにした作品を多く手がけています。おふたりは鄭作品の魅力をどこに感じていますか?古田:人間くさいんですよね。偏った人間のどうしようもなさをちゃんと見せてくれるっていうか。そこの作り方がうまいし、かっこいいなと思っています。宮沢:作品の中に、貧困問題のような社会的なテーマを織り交ぜながらも、鄭さんは重たくせずに、それすら笑いに変えていく。敢えて真逆な演出で見せることで、その問題なりテーマと真正面から向き合えるし、観劇後、「悲しい」じゃなく「面白かった」って、前向きに考えられる。今回の『パラサイト』もそうなると思います。古田:あと、鄭さんって“オモシロ”に対してしつこい演出家だって聞いていて。自分が信用している演出家たちは、幕が開いてからもつねにもっと面白くすることを考えていて、毎日のようにダメ出ししてくるような人たちばっかりだから、そこは信用できるな、と。宮沢:本番をやっていくうちにわかってくるものもありますしね。千秋楽に向けて、どんどん面白くしていけるのも楽しみです。――おふたりは堤防の下にある集落に住む貧困家庭の父親と長男という役柄。裕福な家族の娘の家庭教師になった長男が、家人の信頼を巧みに利用して、自分の家族をその家の使用人に送り込み、徐々に寄生してゆく物語です。ご自身の役はどう思われていますか?古田:うちの家族は、お兄ちゃんにしろ妹くん(伊藤沙莉)にしろお母さん(江口のりこ)にしろ、全員が我が強いというか、前に前にってタイプ。お父さん的には、みんなに振り回されて、ついていったらとんでもないことになっちゃったみたいな感じ。基本的にオイラは、周りの芝居に合わせるし、演出家の言うことにも素直に従うタイプなんで、そのスタンスでやります。周りに振り回されて流されて、悲惨な目に遭えば面白いんじゃないかと。宮沢:僕が演じる役は、とにかく戦略的で頭が良くて先が読めてる青年です。ただ、そこを意識しすぎると、僕自身も真面目に考えすぎてしまう可能性もあるんで、稽古場ではフラットでいたいです。THEATER MIRANO-Zaオープニングシリーズ COCOON PRODUCTION 2023『パラサイト』さまざまな映画賞を受賞し、世界を席巻した映画『パラサイト 半地下の家族』を、’90年代の関西に置き換えて舞台化。裕福な一家に入り込み、いつしか寄生していく家族の物語。6月5日(月)~7月2日(日)新宿・THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6F)原作/映画『パラサイト 半地下の家族』台本・演出/鄭義信出演/古田新太、宮沢氷魚、伊藤沙莉、江口のりこ、キムラ緑子、みのすけ、山内圭哉、恒松祐里、真木よう子ほかS席1万2000円A席9500円Bunkamuraチケットセンター TEL:03・3477・9999(10:00~17:00)大阪公演あり。ふるた・あらた1965年12月3日生まれ、兵庫県出身。所属する劇団新感線のほか、野田秀樹などさまざまな演出家の舞台や映像作品で活躍。ドラマ『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』(テレビ朝日系)に出演。シャツ¥16,280(VANSON LEATHERS)キャップ¥5,170(BETTY BOOP) 共にネバーマインド TEL:03・3829・2130Tシャツ¥4,400(ハードコアチョコレート TEL:03・3360・2020)その他はスタイリスト私物みやざわ・ひお1994年4月24日生まれ、アメリカ出身。モデルとして活動をスタートし2017年俳優デビュー。ドラマ『ドラフトキング』(WOWOW)に出演中。主演映画『はざまに生きる、春』は5月26日公開。シャツ¥35,200(ウィーウィル TEL:03・6264・4445)Tシャツ(2枚入り)¥19,800(A.P.C./A.P.C. CUSTOMER SERVICE TEL:0120・500・990)パンツはスタイリスト私物台本、演出・鄭 義信さんチョン・ウィシン兵庫県出身。舞台『ザ・寺山』の脚本で岸田國士戯曲賞、映画『愛を乞うひと』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。近作に舞台『てなもんや三文オペラ』などがある。※『anan』2023年4月19日号より。写真・森山将人(TRIVAL)スタイリスト・渡邉圭祐(古田さん)庄 将司(宮沢さん)ヘア&メイク・NATSUKI TANAKA(古田さん)Taro Yoshida(W/宮沢さん)インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2023年04月13日言葉、芝居、ダンス…境界線が融けた、ひとつづきの身体表現で魅せる『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』。シディ・ラルビ・シェルカウイさんが構成・演出・振付を手がける本作品に挑む、窪田正孝さん、石橋静河さんのインタビューをお届けします。窪田正孝:僕はお芝居は4年ぶりなんですけど、舞台って、常に丸裸で人前に立たされている感じがしていたんですね。役者は物語のなかで、「ここで悲しみを表す」など、流れがあらかじめ決められていたほうがラクなんだと思います。でも、舞台ではそれが通用しない。そこに一番の魅力を感じましたね。石橋さんは何作も舞台に出ていらして、ずっとご一緒したいなと思ってました。石橋静河:嬉しいです。私もです。窪田:『未練の幽霊と怪物―「挫波/敦賀」』(’21年)を観せていただいたんだけど、舞台での居方が独特でした。ダンスをされていたこともあって、軽やかさもありながら、立ったときには地面に根っこが生えているような印象。うまくセリフを言おうとかいうのとは、別のアプローチをされている。だから唯一無二な感じがするんでしょうね。石橋:ありがとうございます。褒められすぎてちょっと恥ずかしいです(笑)。私は舞台が好きで、自分の居場所のように思っています。映像は、画面によって観る人の視点が定められます。演じながら、カメラと演出が迫ってくる気がして、ちょっと怖く感じるんです。窪田:それ、よくわかるなあ!石橋:だけど、舞台はお客さんがフォーカスを自由にあてられます。私は、舞台上で完結する物語より、観た人に解釈を委ねるような作品を割とやらせていただいていて、それが楽しいですね。『~ビヨンド』もその匂いがプンプンしています。窪田:そうだよね。ストーリーはもちろんあるけれど、一冊の台本から肉付けして具現化していく作り方ではなく、みんなが動いて、アイデアを出し合い、ラルビさんがやりたいと思っているたくさんのことからチョイスしていく、外側から作っていく舞台になるんじゃないかなという気がしています。石橋:そんな感じがしますね。窪田:僕はいま、物語を伝えることよりも心情を伝えるほうに興味が向いているんです。そうしたら、コロナ禍以降、そういう作品に縁がつながっていきました。『~ビヨンド』もその一つ。情報で埋めすぎない、想像の余白を大事にした舞台にしたいです。作る過程のセッションが面白いエンタメにつながる。石橋:私は2020年のロックダウンのときに『未練の幽霊と怪物』が上演中止になってしまって。でも、作・演出の岡田利規さんのお声がけで、発表の目処もないままリモートで1か月ぐらい稽古を続けて、最後にはワーク・イン・プログレスとして配信で発表しました。その経験が私のなかで衝撃だったんです。窪田:どんなふうに?石橋:知らないうちに、作品がどう世の中に受け入れられるかや、興行・評価が一番大事なことと思い込んでいたと気づいたんです。発表予定もないのに稽古することに「意味あるの?」と言う人もいるかもしれないけど、その創作時間がものすごく楽しくて尊くて。試行錯誤しながらものを作る、過程の楽しさ、面白さは効率重視のなかで削られてしまいがちだけど、そこを楽しむことが結果、面白いエンタメを生むような気がして、大切にできたらと思います。窪田:その通りだと思います。今回の作品なんて未知の領域、どうなるかわからないけれど、みんなでセッションし合って、エヴァンゲリオンというひとつのクラウドができればやる価値があるのかなと思います。いまは情報化社会になりすぎて、「知る」ことに重きを置かれがちだけど、知識よりも自分がどう感じて何を思うのかのほうが価値はあると思います。自分の感覚に蓋をするのはもったいない。余白のある演劇やエンタメには想像力を注ぎ込めます。そこを思い切り楽しんでいただけたらと思いますね。THEATER MILANO-Zaこけら落とし公演 COCOON PRODUCTION 2023『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』人生にかけられた重い枷。そこから目を逸らし生きてきた渡守ソウシ(窪田正孝)。贖罪、そして再生のため、彼は世界の秘密を解き放つ――。日程/東京公演・5月6日(土)~28日(日)THEATER MILANO-Za、長野公演・6月3日(土)・4日(日)まつもと市民芸術館、大阪公演・6月10日(土)~19日(月)森ノ宮ピロティホール構成・演出・振付/シディ・ラルビ・シェルカウイ上演台本/ノゾエ征爾出演/窪田正孝、石橋静河、板垣瑞生、永田崇人、田中哲司ほかチケット/S席1万3000円A席9500円(全席指定)Bunkamura TEL:03・3477・3244くぼた・まさたか1988年生まれ、神奈川県出身。『ある男』(’22)にて毎日映画コンクール男優助演賞、日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。公開待機作に『スイート・マイホーム』『春に散る』がある。シャツ¥60,500Tシャツ¥40,700パンツ¥70,400シューズ¥80,300(以上エムエム6 メゾン マルジェラ/マルジェラ ジャパン クライアントサービス TEL:0120・934・779)いしばし・しずか1994年生まれ、東京都出身。初主演作『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(’17)にてブルーリボン賞新人賞ほか多数受賞。主な出演作に大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)など。ワンピース¥253,000ブーツ¥94,600(共にsacai TEL:03・6418・5977)ピアス¥17,600(JUSTINE CLENQUET/THE WALL SHOWROOM TEL:03・5774・4001)Sidi Larbi Cherkaoui演劇やコンテンポラリーダンス、バレエ、オペラ、映画など多ジャンルで、独創的な演出・振付をし、世界中から注目を集める。受賞多数。’17年にはビヨンセのグラミー賞パフォーマンスの振付も担当した。日本では、『テ ヅカ TeZukA』にて、手塚治虫の漫画の世界、思想、「描く」という行為自体もモチーフに、森山未來らの圧倒的肉体表現と映像で、手塚を浴びるような劇場空間を創出。ワールドツアーも成功させ、3年後に『プルートゥ PLUTO』でも日本発の舞台を作り上げた。※『anan』2023年4月19日号より。写真・森山将人(TRIVAL)スタイリスト・菊池陽之介(窪田さん)ヤマモトヒロコ(石橋さん) ヘア&メイク・菅谷征起(GARA/窪田さん)秋鹿裕子(W/石橋さん)取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2023年04月12日全く新たな物語として世に放たれる『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』。新劇場のこけら落としとなる作品で正解のないまっさらなところから、窪田正孝さん、石橋静河さんがその大きな壁に挑もうとしている。窪田正孝:エヴァを舞台化するなんて、最初に聞いたときには、正直無謀な挑戦だなと思いました。ただ、『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』は完全なオリジナルストーリーだから、なぞるものがない。そこに、逆にやる価値がある気がしたんです。石橋静河:私は、エヴァンゲリオンを観て育ってきていなくて。もし詳しく知っていたら、怖くて飛び込めなかったかもしれません。窪田:わかる気がします(笑)。デジタル技術が進むなかで、演劇は唯一残るアナログなもの。身体表現の可能性を担うのはあくまで人なんですよね。今回構成・演出・振付をされる、シディ・ラルビ・シェルカウイさんの『プルートゥ PLUTO』を観たときに、表現の境界線をなくしているように感じたんです。言葉とアクションとダンスが並行世界でつながっているような、表現の余白のようなものを感じて、そこに飛び込んでみたいと参加させていただくことにしました。石橋:ラルビさんの手がける作品はどれもカオスというか、残酷な世界のなかに尊さや神聖なものを見つけようとしているのを感じます。モロッコ人とベルギー人という文化の異なる両親のもとで育ち、葛藤があったと話すインタビューを読んだことがありました。属性や価値観の違いなどの境界を超えた、共生を模索するようなテーマを訴えられるものを選ばれている気がします。私はお芝居を始める前から、いつかラルビさんとお仕事をしたいと思っていたんです。窪田:そうなんだ?何をきっかけに?石橋:少林寺武僧と踊られた『sutra(スートラ)』の映像を観たのが最初でした。窪田:あれは衝撃的だよね!石橋:19歳くらいのとき、バレエ留学から帰ってきて、コンテンポラリーダンスをしていたころに観て、踊りにはこんな可能性もあるんだ!とワクワクしました。それからずっと憧れていたので、こんなに早くご一緒できるなんて感激しています。エヴァンゲリオンの舞台化はとんでもない挑戦かもしれないけれど、ラルビさんが真ん中に立って、みんなを率いてくださるのなら、絶対に面白くなるに違いない、ぜひやりたいと思いました。窪田:でも、数日後の本稽古を前に、台本もまだできてないし、セリフを一つも覚えていないというのは初めての経験(笑)。石橋:私たち、さっき、プレ稽古で初めてラルビさんとお会いしたんです。ダンサーの方に教えていただいた振りに合わせて動いて。窪田:顔合わせの代わりというか、まずは体で舞台とセットと場の空気を感じてみようという時間だった気がします。でも、「あなた、どこまでできますか?」と見定められているようなところもあって、毛穴からこれまでかいたことのない汗が噴き出しました(笑)。石橋:たしかに、試されている感はすごくありましたね。窪田:僕はボクシングをやっているんですけど、ボクシングの練習よりもハードでした。八百屋舞台(ステージの奥から手前にかけて傾斜をつけた舞台)もすごかったよね?石橋:とんでもない傾斜でした。窪田:ちゃんと体をケアしないと本番ももたないなと覚悟しました。ラルビさんがだいぶSだということがよくわかった(笑)。石橋:ニコニコされていますけどね(笑)。窪田:優しい笑顔なんだけどね。ご自身がダンサーでもあるでしょう?体の技術の共有を目指そうとされているのを感じたし、表現に対するプロフェッショナルさを垣間見た気がしましたね。THEATER MILANO-Zaこけら落とし公演 COCOON PRODUCTION 2023『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』人生にかけられた重い枷。そこから目を逸らし生きてきた渡守ソウシ(窪田正孝)。贖罪、そして再生のため、彼は世界の秘密を解き放つ――。日程/東京公演・5月6日(土)~28日(日)THEATER MILANO-Za、長野公演・6月3日(土)・4日(日)まつもと市民芸術館、大阪公演・6月10日(土)~19日(月)森ノ宮ピロティホール構成・演出・振付/シディ・ラルビ・シェルカウイ上演台本/ノゾエ征爾出演/窪田正孝、石橋静河、板垣瑞生、永田崇人、田中哲司ほかチケット/S席1万3000円A席9500円(全席指定)Bunkamura TEL:03・3477・3244くぼた・まさたか1988年生まれ、神奈川県出身。『ある男』(’22)にて毎日映画コンクール男優助演賞、日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。公開待機作に『スイート・マイホーム』『春に散る』がある。シャツ¥60,500Tシャツ¥40,700パンツ¥70,400(以上エムエム6 メゾン マルジェラ/マルジェラ ジャパン クライアントサービス TEL:0120・934・779)いしばし・しずか1994年生まれ、東京都出身。初主演作『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(’17)にてブルーリボン賞新人賞ほか多数受賞。主な出演作に大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)など。ワンピース¥253,000(sacai TEL:03・6418・5977)ピアス¥17,600(JUSTINE CLENQUET/THE WALL SHOWROOM TEL:03・5774・4001)Sidi Larbi Cherkaoui演劇やコンテンポラリーダンス、バレエ、オペラ、映画など多ジャンルで、独創的な演出・振付をし、世界中から注目を集める。受賞多数。’17年にはビヨンセのグラミー賞パフォーマンスの振付も担当した。日本では、『テ ヅカ TeZukA』にて、手塚治虫の漫画の世界、思想、「描く」という行為自体もモチーフに、森山未來らの圧倒的肉体表現と映像で、手塚を浴びるような劇場空間を創出。ワールドツアーも成功させ、3年後に『プルートゥ PLUTO』でも日本発の舞台を作り上げた。※『anan』2023年4月19日号より。写真・森山将人(TRIVAL)スタイリスト・菊池陽之介(窪田さん)ヤマモトヒロコ(石橋さん) ヘア&メイク・菅谷征起(GARA/窪田さん)秋鹿裕子(W/石橋さん)取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2023年04月12日昨年話題を呼んだ大河ドラマ『鎌倉殿の13人』。なかでも注目を集めたのが、主人公・北条義時の妹・実衣を好演した宮澤エマさん。’20年の連続テレビ小説『おちょやん』ではヒロインの義母・栗子を演じ、こちらも強烈な存在感を放っていた。人間の醜さと美しさをリアルに描く、絶望的な悲しみの先にある希望とは。「『おちょやん』の時は、ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』でマリアを演じていた真っ最中でした。恋を知らない可憐な16歳を演じながら、かたや芸者崩れの継母(笑)。ドラマ終盤におばあさんとして再登場した頃には、ミュージカル『ウェイトレス』で恋愛に疎い金髪メガネの女の子をやっていて、役者って本当に面白い仕事だなと」しかしその振り幅の広さは、誰もがこなせるものじゃないはずだ。「一般的に、ひとつ印象的な役をやると、近い設定の役が続いたりしますよね。引き出しを多く持とうとしても同じ人間だから限界はある。そういう中で、時代も作風も全然違う役をやらせていただけるのはありがたいです。ただ、どんな悪人でも変わった役だったとしても、その人なりの真実や信念を持って演じたいなと思っているかもしれません」そうやってひとつひとつの役に愛情を注ぎながら経験と実績を積み重ね、このたび満を持して舞台『ラビット・ホール』で初主演を務める。演じるのは、4歳のひとり息子を交通事故で亡くした若き母・ベッカ。「これまで演じたどの役よりも自分の人間性が透けて見える気がしています。幼い子供を亡くすという残酷さに応えるには、私たち役者も自分をさらけ出す必要があるし、それくらいリアルで生々しく、人間の醜さと美しさが描かれているんです。これまで舞台や映像でやらせていただいたこと、私生活で感じたり体験したことの全部を持って臨まないといけないくらいの大きな挑戦になるだろうと感じています」喪失感と向き合い悲しみから立ち直ろうとするベッカは、加害者の青年と会うことを決めるが、悲しみに浸る夫はそんな彼女を理解できず、夫婦の溝は深まっていく。「想像もしていなかった悲劇が起きて、異常な状況の中で一生懸命日常を生きようとするとこうなっちゃうんだっていうリアルな葛藤がたくさん詰め込まれています。傍目からは、どうしたらこんな暗いトンネルを抜け出すことができるんだろうと思うけれど、人間は案外しぶといんですよね。加害者や夫、家族との闘いを経たその先に希望を見出す瞬間はあって、きっと大丈夫だと思えるはず。私たちがお客様をそこに連れていかなきゃ、ですけどね(笑)」PARCO劇場開場50周年記念シリーズ『ラビット・ホール』交通事故で4歳のひとり息子を亡くして以来、夫婦の仲もギクシャクしてしまったベッカ(宮澤)とハウイー(成河)。そんなある日、事故の加害者である青年(阿部/山﨑・Wキャスト)から手紙が届く。4月9日(日)~25日(火)渋谷・PARCO劇場作/デヴィッド・リンゼイ=アベアー翻訳/小田島創志演出/藤田俊太郎出演/宮澤エマ、成河、土井ケイト、阿部顕嵐・山﨑光(Wキャスト)、シルビア・グラブ全席指定1万1000円ほかパルコステージ TEL:03・3477・5858秋田、福岡、大阪公演あり。みやざわ・えま東京都出身。ミュージカル『メリリー・ウィー・ロール・アロング』『シスター・アクト』などで注目される。近年は映像作品にも多数出演しており、近作にドラマ『罠の戦争』などがある。ピアス¥92,500(Kalevala)その他はスタイリスト私物※『anan』2023年4月5日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・長谷川みのりヘア&メイク・髙取篤史(SPEC)インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2023年04月04日舞台出演は、今回の『帰ってきたマイ・ブラザー』がなんと23年ぶり、3回目という水谷豊さん。今ここにきて出演を決意したのには、一体どんな理由があるのだろう。「3年くらい前なんですが、ふと、自分はもう舞台というものをやらないんだろうかと思ったんです。役者として、テレビや映画、そして表現としての歌も経験してきたけれど、舞台は過去の2回ですからね。でもそこで考えているくらいなら、一度やってから決めようと思い至りました。それで僕の中で、もし舞台をやることがあるならばこの方の下で、と以前から思っていた北村(明子・プロデューサー)さんにこちらから連絡させていただきました。これまで(伊藤)蘭さんや娘(趣里さん)もお世話になっていて、手がけられた作品は拝見していますし、今回のキャストを見てもわかる通り、安心して任せられると思ったんです」水谷さんが演じるのは、かつてヴォーカルグループで活躍した4兄弟の長男。弟役には段田安則さん、高橋克実さん、堤真一さん、そして彼らのマネージャー役は、まさに相棒である寺脇康文さんと、いずれも舞台経験豊富で、硬軟どちらもお手のモノな俳優たちが名を連ねている。「みなさんの舞台は僕も拝見していますけれど、間違いない方ばかり。僕が長男の役ですが、長男らしいところを発揮するのは、名前を呼び捨てにするくらい(笑)。これほど頼もしい弟たちはいませんよ。稽古をしながら、自然と役が僕らを兄弟にしてくれている気がします」かつて大ヒット曲を出しながらも、表舞台から姿を消した4人。しかし、なぜか令和の現代に再び脚光を浴び、再結成することになる。「兄弟とはいえ性格は違うわけで、ぶつかるわけですよ。これが他人同士ならわだかまりが残りそうなものが、この兄弟にはそれがない。血の繋がりって、こういうことなのかなと思います。今回、役もそれぞれにあて書きされているのですが僕の役は、いつも『どうにかなる』と言って、先々を考えるよりまずはやってみるというタイプ。そこは自分とまったく同じですね(笑)」稽古の様子を語る水谷さんは終始笑顔で、現場を楽しんでいるよう。「小林(顕作)さんは、いろいろな方法を試しながら、一番いいやり方を探そうとしてくださる演出家です。共演のみなさんも、お芝居中も、つねに何かもっと面白いことができるんじゃないかと考え、それを探しながら稽古している感じがあって、すごくいい時間です」ドラマ『相棒』の右京さんを筆頭に、水谷さんは、どんな役にも人間的なチャーミングさやユーモラスな一面を加え魅せてくれる俳優だ。「僕からしたら、ユーモアのない人生って考えられないくらい、欠かせないものなんです。シリアスな作品の場合でも、ユーモアをどこに置くか意識します。逆にコメディ作品では、シリアスをどこに置くかを考えるんですけどね。この作品はコメディですので、いろんなことを忘れて笑っていただければと思います」シス・カンパニー公演『帰ってきたマイ・ブラザー』かつて大ヒット曲を放った兄弟グループ・ブラザー4。現在は違う道を歩む4人だったが、当時を知らない若者たちを中心にその存在に注目が集まり、その勢いで再結成が決まるが…。4月1日(土)~23日(日)三軒茶屋・世田谷パブリックシアター作/マギー演出/小林顕作出演/水谷豊、段田安則、高橋克実、堤真一、池谷のぶえ、峯村リエ、寺脇康文S席1万1000円A席8000円B席5000円シス・カンパニー TEL:03・5423・5906(平日11:00~19:00)5~6月に名古屋、大阪、福岡、西宮、新潟、札幌、仙台、京都公演あり。みずたに・ゆたか1952年7月14日生まれ、北海道出身。人気ドラマ『相棒』のほか、数多くの当たり役を持つ一方、昨年公開の『太陽とボレロ』など映画監督としても活躍する。※『anan』2023年4月5日号より。写真・的場 亮スタイリスト・髙橋正史(OTL)ヘア&メイク・山北真佐美(WEST FURIE)インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2023年04月02日名だたる刀剣が戦士へと姿を変えた“刀剣男士”の活躍を描き、原案のゲームや舞台など幅広いジャンルで絶大な人気を誇っている『刀剣乱舞』シリーズ。大ヒットを記録した初の実写映画『映画刀剣乱舞-継承-』から4年、『映画刀剣乱舞-黎明-』として再びスクリーンに帰ってきます。そこで、主演を務めたこちらの方々にお話をうかがってきました。鈴木拡樹さん & 荒牧慶彦さん【映画、ときどき私】 vol. 566長年にわたって、2.5次元界をけん引している鈴木さん(写真・左)と荒牧さん(右)。前作に引き続き、三日月宗近役を鈴木さん、山姥切国広役を荒牧さんが演じています。今回はおふたりに、撮影秘話やお互いの好きなところ、そして自身の運命が変わった瞬間などについて語っていただきました。―まずは、最初に脚本を読んだときに受けた印象から教えてください。荒牧さん僕は、「現代に出陣することもあるんだ!」という驚きが一番でした。いままでは戦国時代のように僕たちからするといわゆる“歴史上の場所”にしか出陣していませんでしたからね。なので、こんな僕たちにとって身近なところにも行くんだなと思いました。鈴木さん確かに、そうだよね。これまでは“時代劇”というコンテンツだと思っていたので、僕も「現代に出陣したらどう見えるのかな?」と不思議な気分でした。でも、妄想したことある世界観ではあったので、それが実現できたことはうれしかったです。映画では最初から作れる楽しさもあった―そのなかで、前作の経験が生かされたこともありましたか?荒牧さん前回とスタッフさんが同じだったこともあり、キャラクターの言葉づかいや刀さばきを理解している僕らからの提案を取り入れてくださったのは大きかったと思います。鈴木さん第1弾でチームワークが作れていたからこそ、第2弾につながったところもあったのではないかなと。実際、お互いの認識は前回に比べると断然早かったので、すごく円滑に進みました。設定的に、キャストもスタッフも迷うことはあったかもしれませんが、このチームでやれてよかったです。―舞台と映画で、意識を変えている部分はあるのでしょうか。荒牧さんそれぞれの性格などは一緒ですが、映画ではどうやってフラットにできるかを考えました。この作品では、山姥切国広がどういう成長を遂げるのか、ということを自分なりに考えて落とし込んでいます。鈴木さん僕たちからすると、いままで演じてきたなかで関係性が出来上がっていますが、映画ではそれを一度ゼロにしました。でも、同じことをまた最初から作れる楽しさは、映画ならではかなと思っています。憧れの人と一緒に歩けていることが幸せ―これまで長年にわたって共演されていますが、お互いにどんな存在ですか?荒牧さん僕は拡樹くんのことが大好きですし、すごく尊敬している先輩。『刀剣乱舞』シリーズだけでなく別の作品でもお仕事をさせていただいていますが、憧れの人の隣に立つことができてそれだけでもうれしいです。並んでいると言うのはおこがましいですけど、一緒に歩けていることが僕にとっては本当に幸せなことですね。鈴木さんずっと一緒にやってきた仲ですし、そのなかで積み上げてきた関係性もあるので、僕もその気持ちに近いところはあります。まっきーがいろんな分野で成長していく姿も見ているので、刺激し合えるというか、“良き共演者”ってこういうことなんでしょうね。友達の視点とはまた違いますが、そういうところも含めていい関係だと感じています。―そんななかでも、自分だけが知っている相手の意外な素顔や好きなところを教えてください。荒牧さん拡樹くんはいつもニコニコしているのが素敵だし、そこが好きなところです。撮影中は、時間がタイトになってきたりするとどうしても現場がピリピリする瞬間もありますが、そんなときでも拡樹くんはニコニコしていますから。それを見ると気持ちが落ち着くので、僕にとっては癒しの存在でもあります。鈴木さんみなさんにとって、まっきーの意外なところって何でしょうか…。「意外と見たことなさそう」という意味では、iPadに向かっている姿とかですかね(笑)。荒牧さん確かに、見せたことないと思います。今回、撮影中にどうしてもやらないといけないことがあって、現場では山姥切国広の格好のままiPadで作業していたことありました(笑)。鈴木さんそのときに、僕はまっきーがiPadに向かっているときの姿勢の良さがいいなと思ったんです。もし、会社員の役を演じることがあったら、ぜひ姿勢の良さに注目してみてください(笑)。現実離れしているような空気感があった―それは新しい視点ですね。また、本作ではアクションシーンも素晴らしかったですが、苦労したことや印象的だったことは?荒牧さん現代の街並みは、狭くて戦いづらかったです…。今回はそれをめちゃくちゃ感じました。特に刀は長いので、アパートの通路とかでは戦いにくくて仕方がなかったです。鈴木さん確かに、東京は戦いに向いていないよね。あと、エキストラの方々が大勢いる状況のなかで戦うことが舞台ではあり得ないことなので、それも映画の現場ならではだと思いました。実際、渋谷のスクランブル交差点のシーンでは、ワンカット撮るたびには拍手が起きてすごかったです。「僕たちは一体何をしているんだ?」と思うくらい(笑)。現実離れしているような空気感でしたね。でも、みなさんが楽しんでくれたのなら、映画化してよかったなと思える1つの要素です。荒牧さんもはやイベントですよね。―かなり盛り上がった現場だったんですね。ちなみに、キャスト同士は撮影の合間をどのように過ごされていたのでしょうか。荒牧さんコロナ禍の撮影だったこともあり、フェイスシールドを付けていましたし、お互いにどのくらい積極的に話していいのかわからない状況でしたよね…。鈴木さんそうだね。話すにしても、食事をするにもかなり距離を取っていましたから。荒牧さんなので、キャスト間で何かが流行っていたとか、共通の話題で盛り上がったとかもなかったような。撮影の前に、監督と芝居についてちょっと話をするくらいだった気がします。それくらい感染対策に気をつけながらの撮影でした。このシリーズは、本当に“モンスター”だと思う―では、前回の現場とはかなり様子も違ったんですね。鈴木さん第1弾のときはみんなでロケバスに乗って移動していたので、一緒にお菓子を食べたりしていました。荒牧さんあと、前回はみんなで火を囲んだりもしてましたよね。でも、そういうことも今回はできませんでした。鈴木さんただ、僕たちの場合は関係性のベースがある程度出来上がっているので、そこは救いだったかもしれません。これまで一緒に作ってきた信頼関係はもちろん、相手が何をしてくるのかも想像できましたから。特別な何かはなかったですが、その代わりにそういう部分を感じられた現場だったかなと改めて思います。―なるほど。『刀剣乱舞』シリーズは、多岐にわたってどんどん広がりを見せていますが、改めてこれまでを振り返ってみていかがですか?荒牧さんこれだけ長く愛される作品になったことは、感慨深いですね。僕たちもこの作品に携わって7年になりますが、いまなお勢いがとどまることを知らないコンテンツというのもすごいなと。鈴木さん僕たちは原案のゲーム開始から約1年後のときから関わっていますが、その時点ですでに“モンスターコンテンツ”と言ってもいいくらいでした。だからこそ、「どれくらい上まで行けるのか」とか「これを何年続けられるのか」といったことが当初の課題でしたが、そんな予想も遥かに超えていますからね。更新が早いゲームの世界でもこれだけ強く生き残っているのは相当なことですし、「本当にモンスターだったんだな」という言葉に尽きると思います。人生の岐路は、俳優に興味を持ったとき―また、本作ではそれぞれのキャラクターが自分の運命と向き合っている姿も描かれており、そのあたりも見どころですが、おふたりの運命が変わった瞬間といえば?荒牧さんそれは、俳優を目指したときです。そこで人生が大きく変わったので、人生の岐路だったなと思います。僕は大学生のときに俳優の世界へと飛び込みましたが、もし俳優業に興味を持たなかったら、いま頃は銀行員になっていたのかもしれません(笑)。鈴木さんそれはそれですごいことだけどね。荒牧さんとはいえ、銀行員になりたかったわけではなく、自分が通っていた大学では銀行に進む人が多かったので、なんとなく自分もそっちに行くのかなとぼんやり思っていたくらいです。いまは、あのときにこの決断をしてよかったなと思っています。鈴木さん僕の運命が変わったのは、俳優を始める前に初めて舞台を観に行ったときです。それまでは芝居とかも全然わかっていなかったんですが、毛利亘宏さん演出の舞台を観たときに「現実離れしているのになんて楽しい時間なんだろう」と衝撃を受けました。それが僕の原点でもあります。ただ、まさか自分も芝居を始めるとは思っていなかったので、何があるかわからないですね。推しの作品を通して、人生の幅を広げてほしい―それでは最後に、ananweb読者に向けてメッセージをお願いします。荒牧さん僕たちから言ってもいいのかわかりませんが、最近よく言われていることでもあるので、「推しができると楽しいよ」ということは伝えたいですね。自分が応援している人がうまくいっているだけでもうれしいものですが、映画でも舞台でも小説でも漫画でも、僕はすべて“人生の疑似体験”だと思っているので、推しの作品を通して人生の幅をもっと広げていただけたらいいかなと。それによって、人生は華やかになると僕は考えています。まだ『刀剣乱舞』シリーズに触れたことがない方もいらっしゃるかもしれませんが、ぜひ一度ご賞味ください。鈴木さんもし日常生活に充実感を得られないと感じている方がいれば、そこまで大げさではなくてもいいので、まず自分の発言を少し変えてみるというのは1つの方法だと思っています。実は、これは僕がインタビューを受けているときに感じていることです。たとえば、そこまで自信がないことでも、いつもの自分よりも少し強気な発言をすると、それが支えになることがあります。なので、普段の自分をちょっと超えてみるという作業を徐々にしてみるのはオススメです。それによって、自分だけでなく、周りからの見られ方も変わっていくので、それが人生に変化をもたらしてくれると思います。インタビューを終えてみて…。言葉や態度から、お互いのことを信頼し合っていることが伝わってくる鈴木さんと荒牧さん。撮影でポーズを取る際にも息の合った様子を見せており、そういうところにも長年積み上げてきた関係性を垣間見ることができました。本作でも、そんなおふたりのやりとりに注目してください。壮大な世界へと観る者を誘う!『アベンジャーズ/エンドゲーム』など数々の大ヒット作を手掛けてきたVFXチームを加えるなど、ハリウッド・クオリティの映像でさらなるスケールアップを見せている最新作。その世界観のなかで繰り広げられる刀剣男士たちの華麗でありながら圧倒的な迫力を誇る殺陣のパフォーマンスも、ぜひお見逃しなく!写真・幸喜ひかり(鈴木拡樹、荒牧慶彦)取材、文・志村昌美ストーリー西暦995年 京都。藤原道長と安倍晴明の密談によって、源頼光たちは大江山に住まう鬼・酒呑童子の討伐を命じられるが、歴史改変を目論む歴史修正主義者が放った時間遡行軍に道を阻まれる。そんな窮地を救ったのは、三日月宗近ら歴史を守るべく戦う刀剣男士たちであった。しかし、先に鬼の根城へと踏み込んだ山姥切国広は、酒呑童子の最期の呪いによって、光とともに姿を消してしまう。西暦2012年 東京。下校途中の高校生・琴音の耳に聞き慣れない音が届き、引き寄せられるように向かった先で禍々しい影と戦う一振りの太刀を目にする。その頃、日本各都市では市民が突如意識を失う事件が多発。この不可解な事態を解決すべく、山姥切長義が内閣官房国家安全保障局に出現する。事態との関与が疑われる山姥切国広の確保を始めとする “特命任務”の要請に応じ、各本丸より続々と刀剣男士が集結することに…。目が離せない予告編はこちら!作品情報『映画刀剣乱舞-黎明-』3月31日(金)全国ロードショー配給:東宝(C)2023 「映画刀剣乱舞」製作委員会/NITRO PLUS・EXNOA LLC写真・幸喜ひかり(鈴木拡樹、荒牧慶彦)
2023年03月30日いまやスマホやパソコンで映画を楽しむ人は増えていますが、それでも最高の映画体験に欠かせない場所といえば映画館。そこで、ミニシアターを舞台にした映画愛が詰まった注目作『銀平町シネマブルース』をご紹介します。今回は、現在公開中の本作に出演しているこちらの方にお話をうかがってきました。藤原さくらさん【映画、ときどき私】 vol. 564シンガーソングライターとして精力的に活動し、高い人気を誇っている藤原さん。劇中では、時代遅れの映画館「銀平スカラ座」でバイトとして働く足立エリカを演じています。映画初挑戦となった本作で感じたことや現場での思い出、そして自身を支えてくれている存在などについて語っていただきました。―まずは、オファーがきたときのお気持ちからお聞かせください。藤原さんいままで映画には出演させてもらう機会がなかったので、お話をいただいたときはとってもうれしかったです。主演の小出恵介さんはじめキャストのみなさんもスタッフのみなさんも、個性豊かな素敵な方たちばかりで楽しみでした。―今回が初めての映画出演となりましたが、これまで経験されていたドラマの現場と比べてみていかがでしたか?藤原さん監督によるかもしれませんが、時間が押したりすることもなく、すごくサクサクと撮影が進んでいった印象です。特に城定秀夫監督は、長回しで撮ることが多かったので、最初に何度かリハーサルをして、本番が決まったら1発で終わりというシーンもありましたね。自分のなかにある映画好きな部分を自然に出したかった―最初に脚本を読んだとき、ご自身の役どころはギャルだと思われたとか。役作りはどのようにして現場に挑まれましたか?藤原さんまず脚本からは、イマドキの女の子なのかなという印象を受けました。あとは、純粋にすごく映画が好きな子なんだと。私自身も映画が好きなので、今回は自分のなかにもあるそういう部分を自然に出せたらいいなと考えました。「事前にがっつり役作りしなきゃ」というよりは、演じやすい役どころでしたね。―本作には個性豊かなキャストの方々が集まっていますが、現場の様子はどんな感じだったのでしょうか。藤原さん最初は誰も知り合いがいなくて緊張していましたが、みなさん本当に気さくに話してくださる方ばっかりだったので、すごく居心地のいい現場でした。キネマ座では、常連メンバーが並んでおしゃべりしていましたね。なかでも、ミュージシャンの黒田卓也さんはすごくおもしろい方でした。ちなみに、実は黒田さんに関しては、最初に顔と名前が頭のなかでつながっていなくて、俳優さんかと思っていたんです。そしたら劇中で演奏しているトランペットがすごすぎて、「え!?どういうこと!?」って衝撃を受けました。日本人として初めてブルーノートと契約した方ですから、うまいに決まっていますよね(笑)。その後、音楽の仕事でもご一緒できて、すごくうれしかったです。現場では、ハプニングが起きたこともあった―ほかにも、印象的だったエピソードといえば?藤原さんハプニングと言ったら、撮影中に監督が骨折してしまったことでしょうか。あれはびっくりしましたね。ある日、監督が現場にいらっしゃらなくて、みんなで「どうしたんだろう?」と話しながら待っていたところに報告が入ったんですけど、吹越満さんとか宇野祥平さんとかが「やっぱり……。不吉なことが起こると思っていたんだ」と。聞いてみると、前日にホテルでお湯が出なかったとか、変な音がしたとか、そういったことがあったらしく、嫌な予感がしていたみたいです(笑)。―ある意味、映画みたいな出来事ですね。また、日高七海さんとは本作での共演がきっかけで、Podcastの番組も始められました。そういう意味でも、思い出深い作品になったのでは?藤原さんそうですね。七海ちゃんとは地元が同じ九州というのもありますし、波長やスピリットが合うんです。「学校でクラスが一緒だったら友達になっていただろうな」という空気感があったので、Podcastに誘いました。七海ちゃんと出会えて良かったです。出会った人や映画が蓄積されて、新しい言葉が生まれる―俳優としての経験が、音楽活動にも影響を与えていると感じることはありますか?藤原さんやっていることは違うものの、表現としては近いところもある気がしています。出会った人たちや役が与えてくれた気持ちが自分のなかに蓄積されて、新しい言葉が出てくることもあるのかなと思っています。そういう意味でも、『銀平町シネマブルース』は自分の創作活動にも影響を与えてくれた作品になりました。今後も、音楽活動と相談しつつ、ご縁があったらまた映画に出られたらいいなと思います。―実際、完成した作品をご覧になったときは、いかがでしたか?藤原さんはじめは客観的に観れなくて緊張しましたが、何回も観ていくうちに、映画愛に溢れた本当にいい作品だなと思いました。私の家族も地元の素敵な映画館へ観に行ってくれたのですが、泣いて笑ったと感想をくれたほどです。映画好きな人にとっては思わず合掌したくなるようなたまらない仕上がりになっているので、こういう映画に参加できてよかったなと改めて感じました。それから、撮影していたのは2021年でコロナ禍だったこともあり、ミュージシャンとしても時間が止まってしまったような時期を過ごしていたなと振り返った部分もあったかもしれません。無気力になってしまったり、どうしたらいいかわからなくなってしまったりしても、前に進めるのが人生だし、誰でもリスタートできるんだという気持ちになりました。映画館での体験は何ものにも代えがたい―劇中の登場人物たちにとっては映画館が心のよりどころにもなっていますが、藤原さんにとって心のよりどころは何ですか?藤原さん私にとっては、犬ですね。自分が実家に帰ってきただけで喜んでくれる姿を見ると愛を感じます。私は動物が好きなこともあって、牧場や水族館などで生き物と一緒にライブをすることもありますが、動物がいるとすごく気持ちが穏やかになるんですよね。無になれるというか、「かわいい」という感情しかなくなります(笑)。あとは、映画館もよりどころではあるかもしれませんね。映画館で映画を観ると、すごくリフレッシュできるので。いまはスマホでも映画が観れてしまう時代ですが、わざわざ映画館に行き、自分の五感を映画に捧げて作品の一部になるという体験は何ものにも代えがたいことですよね。―そうですね。もし映画館にまつわる思い出などもあれば、教えてください。藤原さん10代の頃には、時間がたくさんあったこともあって、ポイントカードを作るくらい映画を見に行っていました。―そのなかでも、ご自身の人生に影響を与えたような作品もありましたか?藤原さん昔の映画も観るほうではありますが、すごく好きな作品は『ブルース・ブラザース』(80)。やっぱり音楽が関わっている映画は好きですね。ほかにも、ザ・ビートルズとか、自分が好きなアーティストのドキュメンタリー映画はよく観ます。あとは、ミュージカル映画もいいですよね。ファンの方がいるだけで、大丈夫だと思える―本作では、人生に迷っている主人公の姿が描かれていますが、ご自身もどうしていいかわからなくなるような経験をされたことは?藤原さんもちろんあります。いまはツアーで各地を回れていますが、コロナ禍のときはライブができなかったり、曲を作っても聞いてもらう場所がなかったりして、私だけでなく多くのミュージシャンがそういうことを感じていたのではないでしょうか。でも、そのときに物事のとらえ方次第で気持ちが変わることを改めて実感しました。コロナ禍をただの悲しい出来事にするのではなく、そんななかでも自分に成長を与えてくれたいい機会にもなったと受け止めたほうがいいのかなとか。すごくいろんなことを考えさせられた時期で、私にとっては転機になったと思います。―つらい思いをしていたとき、藤原さんにとって支えとなっていたのは何ですか?藤原さんやっぱりそれは、ファンの方々の存在です。自分が落ち込んでいるときには一緒になって悲しんでくれますし、「大丈夫だよ」と声を掛けたりしてくれますので。すごく支えてもらっています。―それでは最後に、ananweb読者に向けてメッセージをお願いします。藤原さん自分に余裕がなくなってしまうと、落ち込んでしまうこともあるかもしれません。そういうときこそ映画を観に行ったり、好きな音楽を聴いたりして息抜きをしてください。これからも、一緒にがんばりましょう!インタビューを終えてみて……。透明感のある肌と柔らかい笑顔が印象的な藤原さん。そして、心地よい声はいつまでも聞いていたいと思ってしまったほどです。撮影中にはチャーミングな表情も見せていただき、現場では「かわいい」の声がわき上がりました。本作では、音楽活動のときとはまた違う藤原さんの魅力に注目してください。物語は、まだ始まったばかり!映画の素晴らしさと、どん底にいてもやり直せるチャンスは誰にでもあることを改めて思い出させてくれる本作。“人生”という名の映画は、自分次第でどんな物語にでも書き換えられると感じるはずです。写真・幸喜ひかり(藤原さくら)取材、文・志村昌美ヘアメイク・筒井リカスタイリスト・岡本さなみストーリーかつて青春時代を過ごした銀平町に帰ってきたのは、一文無しの青年・近藤。行く当てもないまま町で過ごしていると、ひょんなことから映画好きのホームレスの佐藤と映画館「銀平スカラ座」の支配人・梶原と知り合う。映画館でバイトを始めることになった近藤は、同僚のスタッフや老練な映写技師、個性豊かな映画館の常連客との出会いを経て、かつての自分と向き合い始めるのだった。温かい気持ちになる予告編はこちら!作品情報『銀平町シネマブルース』3月31日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次公開中配給:SPOTTED PRODUCTIONS(C)2022「銀平町シネマブルース」製作委員会写真・幸喜ひかり(藤原さくら)
2023年03月29日一昨年、コロナ禍の中、渋谷・シアターコクーンの芸術監督である松尾スズキさんの総合演出により開催された『シブヤデアイマショウ』。“大人の歌謡祭”と称し、演劇のみならず、歌に踊り、笑いと、さまざまな企画を詰め込んだエンターテインメントショーの第2弾が、長期休館を目前にした同劇場で開催される。歌にダンスに笑いと盛りだくさん。渋谷の劇場で松尾式レビューが開催。「そもそも芸術監督を引き受けるにあたってやりたいと思っていた柱のひとつに、ストーリーを排して純粋に楽しむためのショーができないかというのがありました。以前、公演でパリに行った時に向こうでいくつかのショーを観たんですが、既成の曲にダンスやプロジェクションマッピングと演出だけで魅せていて、こういうものって日本にないなと思ったんですね。すごく洗練されていて、ゴージャス感もあるし。舞台上につねに音楽が鳴っていて、ダンスがあってっていうのは、もともと僕の好みの世界観ではあるんです。今より小さい劇場でやっていた頃から僕の芝居には、急に歌とダンスが始まってレビューみたいになるところがなぜかあって。それは赤塚不二夫さんの漫画を読んで育った、というのがあるのかもしれないんですが。そういう好きな部分だけを抽出して、全部並べてみたらどうか、という実験的な意味合いもあったと思います」「バラエティに富んだものに」とコーナー演出には、歌舞伎を題材とした現代劇の演出を手がけている杉原邦生さんの名前も。また、日替わりゲストには、新妻聖子さんのような本格ミュージカルで活躍する俳優陣がこぞって参加。普段の松尾作品からは異色とも思える顔ぶれが並ぶ。「要素のひとつに“和”を取り入れようと思ったのが杉原くんにお願いした理由です。ミュージカルの方々とはあまりお付き合いがなかったのですが、歌やダンスのスキルというか、クオリティの高さは認めざるをえないんです。これまで、そういうものにわりと反逆的というか、素人の肉体をぶつけることであえて違和感を作り出してきた劇団なわけです。でも続けていると、結局俳優にスキルがないと、100%こちらが思い描いたようにはやれないということが、30年くらいかけてじんわりわかり始めてきた感じです」2年前の公演を経て、アンサンブルと呼ばれるキャストへの信頼が増し、役割の比重が大きくなったとも。「アンサンブルもそれぞれに個性があって、得意分野が違う。今回は、それを生かしたものを作りたいというか、アンサンブルが結構前面に立って頑張っていますから、彼らの公演でもあるといえますね」ただ、詳しい内容は「言いたくても言えない部分が多い」とのこと。「なんで言えないかも言えないんですが(笑)、日頃めったに見られない生のダンスや歌で綴る、面白いショーになるはず。この公演後、劇場が長期休館に入ることもあり、最後を飾るお祭り騒ぎにしたいと思っています。地方出身で30年以上東京に住んでも都会の祭りへの参加の仕方がわからない。なら自分で祭りを作る、みたいなところもあります」ところで、休館中の芸術監督は?「芸術監督を受ける際、演劇の場で活躍できる新人を育てたいという要望も出していました。つまり養成所です。最近、演劇で演出家の名前が入ってくることはあっても、『面白い俳優が出てきた』という話をあまり聞かなくて。それが僕は本当に悔しいんです。今から僕がやってできるかわからないけれど、育てる努力はしたい。なので、その活動をやっていこうと思っています」いまや映像でも活躍し、映画監督も務めたり、作家としても評価されているが、「演劇で認められて演劇に育てられましたから、恩返しのひとつもしたくなります」と話す。「どんな舞台に出ても、作品の世界観や演出を自分の体や声と融合させながら、この人だってわかる痕跡を残せる人。そういう身体性への美学が自分の中にはあるし、結局、そういう俳優が好きなんですよね」第二の阿部サダヲさんや荒川良々さんが見つかる日も近いかも!?COCOON PRODUCTION 2023『シブヤデマタアイマショウ』3月30日(木)~4月9日(日)渋谷・Bunkamuraシアターコクーン総合演出/松尾スズキ構成台本/松尾スズキ、天久聖一コーナー演出/杉原邦生、康本雅子、天久聖一出演/松尾スズキ、多部未華子、猫背椿、村杉蝉之介、近藤公園、後東ようこ、康本雅子、秋山菜津子ほか(日替わりゲストあり)S席1万2500円A席9000円コクーンシート5500円Bunkamura TEL:03・3477・3244(10:00~18:00)まつお・すずき1962年12月15日生まれ、福岡県出身。WOWOWにて3月25日放送・配信のオリジナルコントドラマ『松尾スズキと30分強の女優』では脚本、演出、出演を務めるほか、出演映画『シン・仮面ライダー』が公開中。スーツ¥127,600(BEAMS F)シャツ¥26,400(GUY ROVER)ネクタイ¥18,700(Holliday&Brown)チーフ¥7,480(PAOLO ALBIZZATI)シューズ¥143,000(Enzo Bonafe) 以上BEAMS TEL:03・3470・9393※『anan』2023年3月29日号より。写真・土佐麻理子スタイリスト・安野ともこヘア&メイク・趙 英インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2023年03月23日どんなドラマや映画でも、重要な役割を果たしている役どころの1人と言えば死体役。物語においては欠かせない人物にもかかわらずあまり注目されないことが多いですが、現在公開中の最新作『死体の人』では、死体役を演じ続ける男を主人公に描き、話題となっています。そこで、主演を務めたこちらの方にお話をうかがってきました。奥野瑛太さん【映画、ときどき私】 vol. 562ドラマ『最愛』や映画『グッバイ・クルエル・ワールド』など、数々の作品で圧倒的な存在感を放つ名バイプレイヤーとして注目の奥野さん。本作では、演じることへの思いは人一倍強いものの、死体役ばかりをあてがわれる吉田広志を好演しています。今回は、死体役を演じるときのこだわりや現場への思い、そして自身の死生観について語っていただきました。―最初に本作のオファーがあったとき、草苅勲監督に「僕はミスキャストです」と伝えたとか。なぜそう思われたのですか?奥野さん脚本を読ませていただいたとき、「草苅さんにとって一生に1本書けるかどうかの作品だな」と思いました。ご自身のパーソナルな部分を包み隠さずさらけだしている気概のようなものを感じたのと同時に、主人公の吉田広志は草苅さんなんだなと思いました。草苅さんは終始優しくて温かい視点で物事を眺めている方ですが、どちらかというと僕は撮影現場で何クソ根性みたいなエネルギーを燃やしてきてしまった。草苅さんの前で草苅さんを演じるには、いまの自分は下手に現場を重ねてきたことでホコリが付いているんじゃないかなと思ったんです。そういう意味でも「ミスキャストじゃないですか?」というお話をしました。―とはいえ、同じ役者という立場のキャラクターに通ずるところもあったのではないかなと。奥野さんもちろんそれはありました。僕も小劇場の出身ですし、画面のはじっこに映りながらもずっと俳優業を続けているという意味では、同じ状況ですから。現場のあるあるも含めて、シンパシーを感じながら演じていました。ただ、僕は草苅さんや吉田のように笑って過ごせるネアカな部分が少し弱いなと思いました。死に方によって、作品との関わり方を変えている―そんなふうに苦しさを感じるときは、どのようにして乗り越えていますか?奥野さんいや、苦しいといいますか、僕の場合はそれを楽しんでる節があるかもしれません。それは作品に対する向き合い方であり、エネルギーを湧かせる方法の違いなので、どんな向き合い方でも結局はそれでお芝居を楽しめて作品に良い作用になればいいと思います。これに関しては百人百様のやり方があるのではないでしょうか。―ちなみに、ご自身はこれまで死体役を演じられてきましたか?奥野さんたくさんあります(笑)。僕自身も、作品に関われば必ず死ぬみたいな時期がありました。画面に出てきた瞬間に「この人どうせ死ぬだろうフラグ」が立ち始めてしまったこともあったくらいです(笑)。その作品内ではできるだけ予定調和を消したいとは思ってましたけど、全く関係ない作品と照らし合わされてメタ的についた死体役のイメージまではなかなか払拭できないものですね(笑)。―実際、死体役は難しい役どころでもあると思いますが、奥野さんなりのこだわりなどがあれば、教えてください。奥野さん「台本に書いてあるように死ぬ」くらいしかないですね。特にこれといった自分のこだわりはありませんが、手癖が出ないようにその場に生きて、その場で死ぬっていうことは本当に難しいことだと思います。技術的に見ても死ぬシーンは、難しくておもしろいことが多いです。例えば、発砲によって死ぬときは現場に一発勝負の雰囲気が漂うことがあってとても緊張感が高まります。以前経験したなかでいうと、1発目の発砲で頭を撃ち抜かれて即死した後に、追い討ちで身体に数発撃たれるという死に方です。目を開けたまま頭から流れてくる血のりを受け止め、次の身体への着弾に反射しないように反応しなきゃいけないので…。考えるだけでもこんがらがりますね(笑)。ともかく、死ぬことで役柄を生かす瞬間にもなるので、生きるために死ぬことに必死になっています。どこでも練習してしまうので、やりすぎてしまうことも―劇中では、吉田が日常生活のなかで死ぬ練習をしている姿もおもしろかったですが、これは役者あるあるですか?奥野さんそうですね。僕もよく道を歩きながら人目も気にせずずっとセリフをブツブツしゃべっています。ふとした瞬間に「あそこをやっておこう!」と思ったら、ところかまわず練習してしまうことがありまして…。前にたまたま閑静な住宅街を歩いていたときにそのスイッチが入ってしまい、電信柱に向かって1時間くらいセリフの壁打ちをしてたんです。そしたら、近所の方が通報されたんでしょうね、警察の方に「何しているんですか?」と声をかけられてしまって(笑)。セリフの内容が怪しい雰囲気のある役どころだったので、妙に状況とマッチしてしまっていたのかもしれません。「迷惑をかけてごめんなさい」と反省しているつもりではいるんですが、未だに職質をよく受けます。―(笑)。そんなふうに、日常と役の線引きがあいまいになってしまうことはよくあることなのでしょうか。奥野さんあいまいと言いますか…、みなさんと同じですよ(笑)。たとえば、仕事の内容を覚えるために電車のなかで資料を読んだりされると思いますが、それと一緒です。ただ、僕の場合はセリフなので声に出てしまったり、テンションもその空間にあるものではないので突拍子もないものだったり、空気を読まずにやると大変なことになりがちではありますね。―それだけリアルな演技ということでもありますよね。いままで本当に幅広い役を演じられていますが、そのなかでも変わった役だったなと思ったものは?奥野さんこれまでに右翼、左翼、殺し屋、学生、兵士、ラッパー、チャラ男などいろんな役をやらせていただきましたが、僕としてはみんな“普通の人”だと思っています。現場では、どうしたらおもしろいかをつねに考えている―なるほど。奥野さんは作品ごとに別人かと思うほど印象が変わりますが、役作りで大事にしていることがあれば、教えてください。奥野さん当たり前のことですが、まずは台本に書かれていることを一生懸命覚えて、それをちゃんとできるように準備をしっかりしていきます。でも、現場はなまものですからね。そこで変わっていくことに対してどう能動的に動けるかが問われるので、準備してきたことも1回全部忘れてその場に立つことに集中しています。―以前共演された西島秀俊さんは、現場での奥野さんの姿に「これが自分の求めている俳優像だ」と感じたそうですが、ご自分でも意識されていることはあるのでしょうか。奥野さんいやぁ、僕は癖として意識した時点で、変な意図が働いてしまうので、なるべく意識しないように心がけています。ただ、周りの方からするとどう見えているかはわかりませんが、僕的にはひどく客観的な感覚はあるように思います。「あ、いま見られてるな」とか(笑)。そんなふうに遊んでいるというか、現場ではどうしたらおもしろいか、みたいなことばかりを考えています。―現場を楽しむことに重きを置いていらっしゃるんですね。奥野さんそうですね。現場では「どう楽しむ?」「やっぱり緊張する」みたいなことを自分のなかでずっと繰り返している感じです。それこそ、1つ息をするタイミングだけでも緊張するときがありますが、そういう小さなことから大きなことまでを楽しむようにしています。―今回の現場では、個性豊かなキャストの方も多かったですが、印象に残っていることはありますか?奥野さんみなさん本当に素晴らしかったです。なかでも父親役のきたろうさんがおもしろくて(笑)。現場でもおもしろく変容していくことに誰よりも能動的で「これぐらいのほうが笑える」ということにとても繊細に向き合ってる姿勢がめちゃくちゃ格好良かったです。きたろうさんが草苅監督にセリフの変更を提案された箇所があったんですが、断然そっちのほうがおもしろくてみな笑うのを必死に堪えていました(笑)。喜劇とその裏側の悲劇をちゃんと認識されているからなのか、その瞬間瞬間に軽くエネルギーをポンと出すだけで、周りはたちまち大爆発を起こしてしまう。いやぁ、本当に格好良かったです。あえて格言は持たずに、考え続けるようにしている―そのほかで、苦労されたシーンなどはありましたか?たとえば、今回は演技が下手な役者のキャラクターを演じられていたので、いつもとは真逆の作業で違和感もあったのではないかなと思うのですが。奥野さん確かに、あれは感覚的には変でしたね。今回はイマイチなお芝居をすることが良しとされていたので、カットのあと監督に「ちゃんとイマイチにできてました?」と確認したほどです(笑)。―また、劇中では吉田が母親とのやりとりのなかで、壁を1つ乗り越える姿も描かれていますが、ご自身も転機になった出来事はありましたか?奥野さんいまでもずっと悩んでいますよ。ただ、作品に出会うたびにそれが転機にはなっていると思いますが、毎回悩んでばっかりです。僕は主観的な感覚だけでするのはダメだと考えているので、客観的な視点も持つようにしていますが、自分の演技を見返すときは「ひどい芝居してるな」とものすごいダメ出しをすることが多いかもしれません。―今回、作品のなかで生と死に関する格言がいくつか紹介されますが、ご自身にも響いた格言はありましたか?奥野さん僕は考え続けることのほうが好きなので、正直これと言い切れる格言は思い浮かびません。というのも、格言は言葉としてそこに置いておけば自分の助けになるかもしれませんが、僕はどうしても言葉になってしまった時点でラクしようとしてしまうので。言葉の上澄みを覚えているだけで、そこに行きつくまでの過程やらその瞬間の感情を全部すっぽり忘れてしまうことが多くてがっかりするんです。それよりも言葉にはせずにずっと向き合っていたり、肌に感じていたりするほうが覚えていられる気がします。もちろん、衝撃的な言葉に出会ってその都度右往左往しますが、僕のなかでは格言という感覚ではないんじゃないかと思います。ちなみに、ラストシーンで吉田の格言も出てくるのですが、実はいまだに僕はあの言葉にピンときてないんです(笑)。それは僕のなかにない感覚。だからこそ「どういうことだろう?」といまでも考えています。僕はそういうほうが好きかもしれないですね。死体役を演じることで、どう生きるかと向き合えた―非常に深いですね。死ぬ役ばかりを演じたことで、ご自身の死生観に影響を与えた部分はあったのでしょうか。奥野さんおそらく草苅監督も吉田もネアカだから死について考えられるんだろうなと思いました。それに比べて、僕はネクラなので死への向き合い方が根本的に違う。そういうことにも、気づかせてもらったように感じています。あと、変な言い方になりますが、エロスとタナトスがあって、エロスが生きるエネルギーで、タナトスが死に向かうエネルギーだとしたら、僕にとって生きる力となっているのはタナトスが強い気がします。わかりやすく言うと、「死ね死ね!」と自らに言い聞かせて生を実感するタイプというか。なので逆にネアカな人たちへの憧れやうらやましさみたいなものはある気がしています。そういう意味でも今回は、人としても俳優としても死生観というものに改めて触れられるいい機会でしたし、死体役を演じることでどう生きるかと向き合えました。―そのうえで、この作品の見どころについても教えてください。奥野さん死体役ばかりをあてがわれる主人公を通して、死生観や明るく生きるエネルギーを感じていただけたら幸いです。何者でもない人の強さとおもしろさも観ていただけたらと思います。―今後の奥野さんにも注目ですが、ananweb読者に向けてもメッセージをお願いします。奥野さんもし少しでも興味を持っていただけましたら、映画館に足を運んでいただき、スクリーンで『死体の人」を観ていただけましたら、これ幸いです。僕というより、草苅監督と主人公の吉田広志に注目して、ぜひキュンとして下さい(笑)インタビューを終えてみて……。少しシャイな雰囲気もありますが、ひと言ひと言からまっすぐな思いが伝わってくる奥野さん。ずっと取材したかった俳優さんの1人だったのでようやく念願が叶いましたが、興味深い話が多く、もっと掘り下げていきたいという思いになりました。これからもどのような役どころで楽しませてくれるのか、ますます期待が高まるところです。生きることが下手でも、自分らしくあればいい思わず声を上げて笑ってしまうユーモアセンスと、胸がギュッとするような人間ドラマとが絶秒に織り交ぜられている本作。ときには空回りしてしまうこともあるけれど、不器用なりにも一生懸命な人たちの姿から必死に生きることも悪くないと感じるはずです。写真・園山友基(奥野瑛太)取材、文・志村昌美ヘアメイク・光野ひとみスタイリスト・ 清水奈緒美シャツ ¥41,800(AURALEE 03-6427-7141)他、スタイリスト私物ストーリー劇団を主宰して役者を志していたものの、要領よく振る舞えず、気がつくと“死体役”ばかりを演じるようになっていた吉田広志。開いたスケジュール帳は、さまざまな方法で“死ぬ予定”で埋まっていた。つねに死に方を探求する日々を送っていた吉田だったが、自宅に招いたデリヘル嬢の加奈と人生を変えるような運命的な出会いを果たす。そんななか、母が入院するという知らせに加え、新たな問題が発生。偶然見つけた妊娠検査薬を自分で試してみたところ、なんと陽性反応が出てしまう。一体これはどういうことなのか。そして、吉田は一世一代の大芝居を撃つことに……。釘付けになる予告編はこちら!作品情報『死体の人』渋谷シネクイント他、全国順次公開中配給:ラビットハウス(C)2022オフィスクレッシェンド写真・園山友基(奥野瑛太)
2023年03月22日長年にわたってさまざまな問題点が取り上げられている、少年法。加害者の更生を重んじる理念を掲げていることなどから、事件が起こるたびに賛否両論が巻き起こっています。そんななか、注目を集めている最新作は、未成年が引き起こした殺人事件を題材にした『赦し』。そこで、本作に出演しているこちらの方にお話をうかがってきました。松浦りょうさん【映画、ときどき私】 vol. 560『渇き。』で映画デビューを果たしたのち、大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」に出演するなど、唯一無二の存在感で今後が期待されている新進女優の松浦さん。劇中では、ある理由から17歳でクラスメートを殺害してしまう福田夏奈を演じています。今回は、現場での様子やこの役を演じたいと思った理由、そして理想としている方などについて語っていただきました。―出演にあたっては、本作を手掛けたアンシュル・チョウハン監督からオーディションを受けるように声を掛けられたそうですが、どんなお気持ちでしたか?松浦さんもともと監督の作品の大ファンだったので本当にうれしかったですし、「絶対にこの役をやりたい!」と思いました。特に、福田夏奈のバックボーンやどんなキャラクターなのかを聞いたときに、これは私が演じるべきだという気持ちになったのを覚えています。―実際、オーディションに参加されてみていかがでしたか?松浦さんセリフが飛んでしまうくらいものすごく緊張してしまって、本当にボロボロでした。でも、2回目に呼んでいただいたときに、私の過去の話をしてほしいと言われて、普段だったら強がって言わないことも、「この人になら話したい」と思って監督に赤裸々に話をしたんです。彼女のような強い感情ではないですが、私も少なからず、負の感情を持っていたので。後から聞いたら、「その話をしてくれたから君に決めたんだよ」と言っていただきました。最初は、ダメでもしょうがないという気持ちになるほど手ごたえがなかったですが、選んでいただけてありがたかったです。役作りが大変で、プレッシャーを感じる余裕がなかった―とはいえ、作品の出来を左右すると言っても過言ではないくらい重要な役どころで、しかも非常に難しいキャラクターでもあるので、そこに対するプレッシャーもあったのではないかなと。松浦さん実は、こんなにも福田夏奈にフィーチャーしていただけるとは考えてもいなかったんです。もしそれを最初に知っていたら、もっとプレッシャーになっていたかもしれません。でも、そもそも役作りが大変でそれを感じる余裕がなかったので、そういう意味ではほかのことに必死でよかったです。―ご自身の顔が大きく映し出されたビジュアルをご覧になったときは、どうでしたか?松浦さん最初は、「マジですか!?」となりました(笑)。それくらい本当に驚きましたが、すっごくうれしかったです。ただ、実はこのシーンは何度撮ってもオッケーが出なくて、何回もテイクを重ねました。みなさんに迷惑をかけてしまっていることに涙が止まらなくなり、正直に言うと最後のほうは覚えてもいないくらい。でも、泣き後の1発目でオッケーをもらったのが、このビジュアルのときです。―それだけ苦労されたこともあって、非常に素晴らしいシーンでした。そのほかにも、大変なシーンは多かったのではないかと思うのですが。松浦さんあとは、独房のなかで寝ながら泣くところやうずくまっているシーンでは本当に過呼吸になってしまいそうなくらいつらかったです。ただ、完成した映画を観たら、効果的な場面になっていたので、がんばったかいがあったなと思いました(笑)。―そこも監督の厳しい演出のもとで演じられていたのでしょうか。松浦さん監督からは「もっともっと感情を出して!りょういけるよ!」という感じでずっと言われていたので、スポーツのコーチみたいでしたね(笑)。監督の演出方法に運命を感じた―すごいですね。アンシュル・チョウハン監督は10年以上日本にいらっしゃる方ではありますが、インドのご出身なので、普段の日本の現場と違うところもあったのではないかなと。松浦さんそうですね。今回は、「法廷内のシーン以外のセリフは基本、覚えなくていい。台本は捨てろ」くらいの感じで言われましたが、そういう方はあまり日本にはいらっしゃらないと思うので最初はびっくりしました。でも、海外ではよくある方法だと聞いたことがあり、以前からそういう演出をしてほしいとずっと思っていたので、そう言われたとき「これは運命だ」と。なので、今回は監督にすべて身をゆだねようと思いましたた。―実際、ご自身が望む演出法を体験されてみてどうでしたか?松浦さんすごくハマりました。でも、そういう演出をしていただく場合、自分がしっかりと役作りをしていないと成り立たないので、そこは徹底していないとダメだなと。監督からも事前に「役作りだけはとにかくやり込むように」と言われていたので、自分なりにがんばりましたが、自分には合っていると感じました。今後もまたこういう演出のもとでぜひやりたいと思ったほどです。―役作りをするうえでは、どういったことに一番力を入れていたのでしょうか。松浦さんいくら福田夏奈の境遇を理解しようと思っても、もちろん、人を殺したり刑務所に入ったりするという経験はできないので、まずは殺人犯のインタビューを徹底的に読みました。そうすることで、どういう感情から事件を起こしてしまったのかを考えました。あとは、なるべく刑務所の生活に近い状況に身を置いてみたこともあります。刑務所の食べ物を再現してみたり、電子機器に触れないようにしたり、刑務所のタイムスケジュールで動いてみたりということですが、そうやって役を作り上げていきました。いろんなことを抱えている子は世の中にいっぱいいる―そこまでされていたとは驚きですが、この役を通してご自身の考え方や人生観などにも影響を与えた部分はありませんでしたか?松浦さん殺人をしてしまうほどではなくても、世の中にはいろいろなことを抱えている子はいっぱいいるんだろうなと思いました。私自身も社会性を少しずつ学ぶなかで人と同調できるようになりましたが、昔はそれが一切できず、人付き合いがとても苦手だったのでよくわかります。そういったこともあって、これは目を背けてはいけない問題だと改めて感じているところです。―確かにそうですね。そして、この作品では観客も「人は人を赦せるのか」という問いと向き合うことになりますが、松浦さんもご自分なりの答えは出ましたか?松浦さんまだそこにはたどり着けていないように思います。ただ、私は反抗期が激しかったほうで、人を傷つけてしまったこともあったので、まず周りの人たちに対して反省の気持ちが一番強いです。とはいえ、そういう経験があったからこそ、この役を演じられたと思いますし、誰にでも失敗はあると思うので、できるだけ人を赦してあげたいという気持ちにはなっているのかなと。でも、これは本当に難しい問題だと感じています。役作りをしすぎて、日常に支障が出てしまったことも―また、被害者の父親役である主演の尚玄さんと対峙するシーンも思わず息を飲むような緊迫感が素晴らしかったです。現場ではどのようなやりとりをされていたのかを教えてください。松浦さん今回の現場で、尚玄さんは私とまったく口を利いてくれませんでした。なので、最初は「ひどい」と内心思っていたんです(笑)。でも、実はそれもすべて役のためで、2人のシーンが終わった瞬間に「ごめんね!」といってハグをしてくれました。尚玄さんがそうしてくださったからこそ、私も心から反省して申し訳ない思いになりましたし、そのおかげでしっかりと向き合うこともできたかなと。演じやすくしていただいて、感謝の気持ちでいっぱいです。いまではとても優しく、仲良くしていただいています(笑)。―本作の現場では、精神的にきつかった部分も多かったと思いますが、そのときはどのようにして切り替えていましたか?松浦さん今回の撮影期間中は、まったくオンオフがない状態にしていました。というのも、一度オフにしてしまったら、オンにできなくなるのが怖かったからです。ただ、役作りとして刑務所の様子がわかる動画や記事ばかりを見て、同じような生活をしていたので、夢にまで出てきたり、眠れなくなったりしてしまったことも…。そんなふうに、いろんなところに支障が出るようになっていたので、最後のほうは夜だけでも自分の生活を取り戻そうと思い、松浦りょうとして見たいものを見る、食べたいものを食べる、という感じにしました。―そんななか、撮影が終わって最初にしたうれしかったことは?松浦さん撮影の間は好きなお酒を飲まないようにしていました。不健康な感じに痩せる必要もありましたし、刑務所ではもちろんお酒は飲めないので。撮影を終えて、ビールを飲めたときは幸せを感じたというか、いままでにないくらい本当に最高でしたね(笑)。苦しくても、好きなことができて幸せを感じている―劇中では寡黙でミステリアスな印象が強かっただけに、実際にお会いして真逆の印象を受けて驚いていますが、普段の松浦さんはどんな方ですか?松浦さんめちゃくちゃ笑い上戸ですし、すごくおしゃべりです!あとは、性格的にも幼いほうだと思います。なので、いつもの私を知っている友達は、本作のビジュアルを見たときに私じゃないみたいと言っていたほどです。―今後、ご自身が目指してる理想像などがあれば、教えてください。松浦さん先日まで放送されていた『ブラッシュアップライフ』というドラマが大好きなのですが、安藤サクラさんは本当に素敵な俳優さんだなと思います。あとは、共演されている木南晴夏さんのお芝居も大好きです。そして、染谷将太さんのお芝居の振り幅には本当に驚かされました。あのドラマに出演している俳優のみなさん、本当に素晴らしいお芝居をされるので毎週末の楽しみでした。私もいつかああいうドラマに出てみたいなと思います。―海外にもご興味あるのではないかなと思うのですが、いかがですか?松浦さんもちろんそれもあるので、いま英語を勉強しています。ただ、まだ全然上達してはいないのですが(笑)。私はシム・ウンギョンさんのお芝居がとても大好きですが、日本語でも本当に素晴らしいお芝居をされるので、とても憧れます。大変おこがましいですが、私もいつかあんなふうになれたらいいなと思っています。いろんな海外の作品にも出てみたいです。―期待しています!それでは最後に、ananweb読者にメッセージをお願いします。松浦さん苦しい役作りと向き合うこともありますが、私はいま好きなことをさせていただいているので、トータルですごく幸せを感じています。なので、もしみなさんも本当にやりたいことがあるのであれば、後悔をする前にぜひやっていただきたいです。インタビューを終えてみて…。柔らかい癒し系のオーラと優しい笑顔が印象的な松浦さん。作品を観たときのインパクトが強すぎて、実は取材前に少し身構えていたのですが、別人のような明るさとかわいらしさにすっかり魅了されました。これからも松浦さんにしか演じられないような役どころで、幅広く活躍される姿が見れるのを楽しみにしています。全身全霊の演技に、魂まで揺さぶられる!「正義とは何か」「人はどんな人も赦すことができるのか」といったさまざまな問いを突き付けられる本作。正解がないからこそ、問題について考え続けること、そして人の痛みや葛藤を知ることの意味を痛感するはず。多くの議論が渦巻くいまの時代に、観るべき1本です。写真・幸喜ひかり(松浦りょう)取材、文・志村昌美ストーリー7年前に愛する娘をクラスメートに殺害されて以来、酒に依存して現実逃避を重ねていた樋口克。ある日、懲役20年の刑に服している加害者の福田夏奈に再審の機会が与えられたという通知が裁判所から届く。ひとり娘の命を奪った夏奈を憎み続けている克は、元妻の澄子とともに法廷へと向かう。しかし夏奈の釈放を阻止するために証言台に立つ克と、つらい過去に見切りをつけたい澄子の感情は徐々にすれ違っていくのだった。そして、法廷ではついに彼女が殺人に至った動機が明かされていくことに……。胸に突き刺さる予告編はこちら!作品情報『赦し』3月18日(土)よりユーロスペース、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開配給:彩プロ(C)2022 December Production Committee. All rights reserved写真・幸喜ひかり(松浦りょう)
2023年03月17日昨年放送されたドラマ『やんごとなき一族』をきっかけに、一気に注目度が増した松本若菜さん。どん底期を乗り越えられた、最大の理由とは?――松本さんは、ご自身で運がいいほうだと思いますか?悪いほうだと思います(笑)。子供の頃から、くじ引きで当たったことがなく、じゃんけんで一番になったこともないし…。――そうなんですね。でも今は役者としてご活躍をされています。運が向いてきたとか、風向きが変わったなどの実感は?ありがたいことに、昨年放送されたドラマ『やんごとなき一族』に出演してから、いろんな方に見ていただく機会は増えました。それを踏まえて振り返ってみると、くじ引きみたいな勝負運はないけれど、私はずっと人に恵まれているし、“出会いの運”はあるのかなと思っています。――確かに、運にもいろいろありますね。出会いの運はどんなところで実感されますか?そもそも高校時代に、地元のショッピングモールでたまたま芸能事務所の方に出会ったことが、この道に入るきっかけでしたから。また、以前に作品でご一緒したスタッフさんが次の作品にも呼んでくださると、いい出会いだったのかな、と実感しますね。“遅咲き”の私と、一緒に困難を乗り越えてくれた今の事務所のスタッフたちとの出会いもそうです。22歳で上京し、初めてのオーディションで『仮面ライダー電王』の役をいただいたり、25歳の時には映画『腐女子彼女。』で主演を務めさせていただいたりと、順調のように見えますけど、それ以降は“死んでしまう役”ばかりで、特に30歳前後は仕事も少なくどん底。最悪な状況でした。「いま関わっている仕事が終わったら辞める」とまで母に言ったぐらいですから。それでもなんとか続けてこられたのは、周りにいる人たちがいつも私を助けてくれて、支えてくれたからだと心から思っています。――いま低迷期にいて辛い人に、運気を上げるためのアドバイスをするとしたら?聞いた話なんですが、宝くじがよく当たる人って、当たるといいな、とは思わず、1等を当てる!って自信満々で宝くじを買っているそうなんです。万が一ハズれても、じゃあ次回また買おうって。そうやって、マインドの切り替えがうまい人って、運をもぎ取る力が強いような気がします。それから、そもそも、宝くじだって買わないと当たらないように、何かいいことを呼び寄せるのにも、自分自身が行動しなければ叶いません。私で言えば、運以前に、自分がそれまでお芝居の経験を積み重ねてきたことが、自信にもなっていて。今、こうやっていろんな作品に出演させていただけるのも、ただのラッキーではなく、デビューから16年の道のりがあったからだとも思うんです。そう考えると、辛い時期も耐えて乗り越えたことが、報われた気がします。ちなみに、どん底期の33歳の時に、出演した映画『愚行録』で助演女優賞をいただいたのですが、それがその当時の唯一の救いにもなりました。それも、自分自身が行動してきたからだと思っています。――説得力がありますね。運気を上げるために、何かしていることはありますか?叶えたい夢を口にすること。例えば、プライベートよりも今は仕事優先に生きている私の場合は、マネージャーさんに「どんな作品に出たい」「あの役者さんと共演してみたい」「あの監督の映画に出てみたい」と、しょっちゅう言っていて。それがマネージャーさんから他の誰かに伝わることで、そういえば若菜ちゃんがこんな作品に出たがってたな…と覚えてくれていて、叶うこともあるんです。――すごくわかります。ポジティブな行動ですね。でも、実は私は、根暗なんですよ(笑)。自分自身で「ハッピーになる!」なんて、堂々と言えなくて。だから冗談めかして「来年にはカンヌ行っちゃってるかもね」なんて、話しているんですが。――根暗だなんて、意外です(笑)。あははは(笑)。逆にネガティブな言葉こそ口にしないようにしているので、根暗は本当なんです。でも、口にしたことが実現した時に“運がいい”と言えるのではないでしょうか。そうやって良い運を重ねていくことで、プラス思考にもなれそうですね。――なるほど。運はあとからついてくるものというか…。そうそう、自分の努力があってこその運だとも思います。もうダメかも…と道を諦めかけたどん底期を経て、一昨年ぐらいからいい作品との出合いが続いていて。人生は何が起こるかわからないということを、身をもって体感したので、何かがうまくいかない時にも“今は運が悪い”と自分で決めつけないほうがいいと思います。――運だけに生かされているわけではないですもんね。そう思います。だから私は、うまくいかない時は、運のせいにせずに行動するのですが、その時必ず逃げ場を作ることも大事。失敗するかもしれないけど、いま出せる力を出して、精一杯やろう。それでダメなら、しょうがないと思えるし、諦められるから、って。松本さんの開運3か条1、やり続けることできっと報われる。2、冗談でもいいからやりたいことは口に出す。3、「今は運が悪い」と自分で決めつけない。まつもと・わかな1984年2月25日生まれ、鳥取県出身。現在放送中のドラマ『夕暮れに、手をつなぐ』(TBS系)に出演。松本さん自らが筆を執り、想いを綴った初のフォトエッセイ『松の素』(KADOKAWA)も好評発売中。シャツドレス¥38,500ベスト¥27,500パンツ¥41,800(以上HYKE/BOWLS TEL:03・3719・1239)ピアス¥51,700リング、中指¥96,800人差し指¥148,500(以上PRMALsupport@prmal.com)その他はスタイリスト私物※『anan』2023年3月22日号より。写真・瀬津貴裕(biswa.)スタイリスト・豊島今日子ヘア&メイク・永野あゆみ取材、文・若山あや(by anan編集部)
2023年03月15日人生初の告白に撃沈し落ち込んでいたら、その一部始終を学校イチのイケメンに目撃されてもう最悪。さらにはその男子から「好きな人、無理に探すくらいなら、俺に片想いすれば?」と提案をされて…。『なのに、千輝(ちぎら)くんが甘すぎる。』でそんな“片想いごっこ”に巻き込まれていくヒロイン・真綾を演じる畑 芽育さんは、胸キュンなラブストーリーを駆け抜ける。実際、走るシーンもかなり多い。「高校生が主人公の元気なストーリーなので、階段を駆け上がったり校庭を走ったりすることが多かったです。撮影は6月のじめじめした時期だったので、ドライもカメリハも本番も走ったら汗だく(笑)。でもそのぶん真綾に近づけた気がします」「絶対に好きにならないこと」「周りにバレないこと」という条件をつきつけた陸上部のエース、千輝くん(なにわ男子・高橋恭平さん)は常にモテモテ。女子には塩対応なのに真綾にだけは優しく、次々と胸キュンな展開が迫る。くるくると表情を変えるキュートな真綾にも注目だ。「リハーサルではよく『もっとときめいて』と言われました。自分では100%ドキドキしてるつもりだったのに、表情に表れていなかったみたいで。リアルなお芝居と原作マンガのキャラクターの活かし方の絶妙な線引きが難しかったです。監督と何度も話し合って、いい塩梅を探しました」恋には臆病な真綾だけれど、畑さんの恋愛観はもう少しアクティブだ。「一途なところは似ていますけど、私はアプローチを待つより自分から告白するタイプ。いや、本当は言われたいですよ?(笑)でも、アタックするほうが手っ取り早いと思っちゃう」そんな畑さんが好きなシーンは?「千輝くんの汚れたブレザーを洗おうとして水がかかり、真綾のワイシャツが透けてしまうシーン。千輝くんが『着ないなら無理やり着せるけど』ってブレザーをかけてくれるんですけど、台本を読んでるときから胸キュンでした。ノールックで渡すのもカッコいい!基本的にSっ気のある千輝くんですけど、やがてどうして真綾に片想いごっこを提案したのか、その謎がわかってくる。それを踏まえてもう一度最初から観ると、また違った面白さがあると思います」『なのに、千輝くんが甘すぎる。』『月刊デザート』連載中の亜南くじらのマンガを実写映画化。失恋した高校2年生の真綾(畑芽育)に、陸上部のエース・千輝(高橋恭平)は“片想いごっこ”を提案。秘密の関係に真綾の気持ちは揺れ動く。3月3日全国公開。©2023「なのに、千輝くんが甘すぎる。」製作委員会©亜南くじら/講談社はた・めい俳優。2002年生まれ、東京都出身。『99.9‐刑事専門弁護士‐』シリーズ、大河ドラマ『青天を衝け』、ドラマ『純愛ディソナンス』など話題作に出演。映画『森の中のレストラン』ではヒロインを熱演した。ワンピース¥71,500(MIDDLA TEL:03・6280・8563)ジャケット¥92,000(MiyukiKitaharainfo@miyukikitahara.com)※『anan』2023年3月8日号より。写真・澤田健太スタイリスト・武久真理恵ヘア&メイク・室橋佑紀インタビュー、文・飯田ネオ(by anan編集部)
2023年03月05日3月7日から放送がスタートするTVドラマ『往生際の意味を知れ!』で主演をつとめる見上愛さん。もともと原作マンガのファンだったという見上さんに、個性的なキャラクターの分析や、本作が描く恋愛観についての考えを伺いました。「見た目はそっくりと言われるけど、共感するところがないからこそ演じられた役」『往生際の意味を知れ!』は、見上さん演じる謎多き美女・日下部日和と、元カノ・日和を忘れられない真面目なサラリーマンの市松海路(青木柚さん)のラブストーリー。別れて7年経っても「元カノと結婚したい」と公言し、日和との写真や映像を眺めることで自我を保っていた市松海路。そんな海路の自宅がある日、落雷により全焼。すべてを失った海路は自殺を試みるが、まさにそのときに日和から電話が…!念願の再会を果たした海路が日和から告げられたのは「市松くんの精子が欲しい」という衝撃の一言だった。――見上さんはこの役を演じる前から原作を読んでいるということですが、実際に日和を演じてみていかがでしたか。見上さん原作はまだ完結していなくて、今でも毎回楽しみに読んでいるんですが、「次はきっとこうなるだろう」という予想をいつも裏切られるんです。この先もどうなるのかわからなくて楽しみ。日和は一見、突飛な行動をする女の子に見えるけど、演じているうちに、意外とただまっすぐに自分の大切なものを守ろうとしているだけなのかも、と気づいて、そこもおもしろいなと思いました。――原作者の米代恭さんは、ドラマ化の話があったときから日和役は見上さんしかいないと思っていたそうですね。特に意識したことは?見上さん日和は生きてる感じがしないほうがおもしろいと思ったんです。原作を読んだときの「え、何?」っていう裏切られ感をドラマでも感じてほしかった。だから同じ世界に生きてると思えないような温度感が出せるように、話し方や声の出し方、動作などを意識しました。逆に後半では、日和があることを隠さなくてはいけないのにどうしても表面に出てしまう、というようなことがあるんですが、そこでは素直に人間味を出して演じるように心がけました。――口元に微笑みを湛える「アルカイックスマイル」は、まさに原作の日和そのものでした。見上さん実は「アルカイックスマイル」ってこの作品で初めて知ったんですが、脚本に当たり前のように書いてあるので、「何、それ!私が知らないだけ?」と思って、検索しました(笑)。仏像のような神秘的な微笑みだと知って、なるほど、と思いましたね。アルカイックスマイルもそうですけど、迫力が必要だと思うシーンの表情は原作をお手本にしたりしました。――実際、自分が日和と似ているな、と思うところは?見上さんそれが、最後まであまり共感するところがなくて…。まず、私はあんなに人を振り回せないです(笑)。でも客観的に見て、そういう状況だったらそうなるよな、って理解できるところはたくさんあるんです。子どもの自分を抱えたまま大人になっちゃって、「愛されたかった」という気持ちが複雑化しているけど、そのことに気づけていないんだろうな、と思って。今回は共感というよりも、客観的に日和を見られたからこそ演じられたんだと思います。――ドラマのキーワードが“狂気のラブストーリー”ということですが、そんな恋愛についてはどう思いますか?見上さんこの作品の中では、日和も海路もお互いに振り回し合っているんですよね。海路も「振り回されてます」って感じを出していますけど(笑)、実際はめちゃくちゃ自分勝手だし。私はどうしても相手のことを考えちゃうからできないし、やられたらイヤだなと思います(笑)。疲れちゃうとは思うけど、スポーツみたいにその疲れが快感に感じたりすることもあるのかな。でもそんな状況にはまだ出合えてないです。――見上さんが実際、日和のように元カレからずっと想い続けられる立場だったらどうですか?見上さん恋愛に限らず、時間が経って思い出が美化されるということはあると思うんですけど…。海路のように想い続けられるのは、自分も元カレのことが好きでない限り、本当にホラーですよね(笑)。でも、見返りを求めずファンのような感じで相手を応援して、そんなふうに応援してる自分が好きで、結果的に自己肯定感が上がる、という感じならわかります。海路もどちらかというと、そちらなんじゃないかな。好きなものがある自分が最強!みたいな。−―見上さんにとって理想の恋愛とは?見上さん自立し合っている人間同士が一緒にいるのが素敵だな、と思います。だから日和と海路みたいにもたれ掛かり合う、共依存の恋愛は大変だろうなと(笑)。お互いの生活を大事にできるのが理想かな。――ほかに作品中、特に見てほしいところはどこですか?見上さんネタバレしてしまうのであまり言えないんですが、日和のお母さん(山本未來さん)が怖いんです!(笑) そこが一つ、見どころな気がします。――これからこのドラマを見るanan読者の皆さんにひと言お願いします!見上さんanan読者の皆さんには日和や海路と同世代の方もいると思いますが、こんな同世代もどこかにはいるのかもしれない、と思って見ていただけたらうれしいです。共感できる人は恥ずかしがらずにそれを教えてほしいし(笑)、共感できない人はその気持ちを楽しんでもらえたらと思います。でもまず、第一話を見た人は、本当に訳がわからないと思うんです(笑)。でもその気持ちで「?」を10個くらい抱えたまま第二話以降見ていくうちに、とってもとっても引き込まれていっちゃうと思うので、ぜひ続けて見てほしいです。©「往生際の意味を知れ!」製作委員会·MBS©米代恭/小学館InformationMBS/TBSドラマイズム『往生際の意味を知れ!』3月7日(火)25:04〜(MBS)、25:33~(TBS)初回放送スタート。※一部地域を除く出演:見上愛、青木柚、樋口日奈、三山凌輝、山本未來ほか公式サイト写真・小笠原真紀スタイリスト・下山さつき(クジラ)ヘア&メイク・豊田健治 (資生堂)取材、文・古屋美枝イヤーカフ¥29,700(プリュイ/プリュイ トウキョウTEL:03·6450·5777)その他はスタイリスト私物写真・小笠原真紀 スタイリスト・下山さつき(クジラ) ヘア&メイク・豊田健治 (資生堂) 取材、文・古屋美枝
2023年03月04日シェイクスピアの『マクベス』を、日本の戦国時代に置き換えた黒澤明監督の映画『蜘蛛巣城(くものすじょう)』が舞台化される。演出を担うのは、社会からはみ出しながら、もがき生きる人々を描いてきた赤堀雅秋さん。今作で主人公の鷲津武時を演じる早乙女太一さんは、この企画を聞いて台本を開くより先に出演を決めたという。「これまでの赤堀作品とは真逆のような舞台なだけに、赤堀さんの色がどう入り込んでくるのか興味がありましたし、僕自身としても挑戦になるだろうなというのもありました。『マクベス』には“きれいは汚い”というセリフがありますけれど、赤堀さんの作品も人間の醜さと美しい部分が描かれている。生々しさがあって、すごく繊細で静かだけれど、そこにすごく激しい狂気もあって…。演出家として、役者の芝居の表面的な部分だけでなく、その奥にある精神的なところまで見てくれる方なので、その人のもとでやれることは本当にありがたいです」映画では鷲津武時を三船敏郎さんが演じているが、あえて意識せず「役と直(じか)に向き合いたい」と話す。「お城勤めの立場って、今でいえば会社員と同じだと思うんですよね。自分が築いてきた立場やプライド、信念とかがあって、それぞれが守らなきゃいけないもののためにもがいていく。武時や妻の浅茅(あさじ)だけではなく、他の人物もそこが垣間見えるよう描かれていて、それぞれの細かい心の動きを赤堀さんが丁寧に紡いでくれる。台本に書かれている点と点を、線で繋ぐだけでなく、その線自体も細かな点でできている感じ。たとえば、しゃべりながら気を遣っているときもあれば、顔を繕っている瞬間もある。そういう感情を丁寧にたどっていくのが楽しいです」ただ、今回は時代劇。「やっぱり身近に死がある時代だけに、登場する人たちの生へのエネルギーってとんでもない。そこは頭で考えてもわかるものではないから、とにかく稽古場でみんなで本気でぶつかっていくしかないんです。だから自然と点と点からなる線もすごく太くなる。その感情的になる熱い感じは、普段の赤堀作品にはなかなかない。でも、武士がなぜ大きい声を出すのかという意味までしっかり作ってくれているんですよ。それでもやっぱり時代劇的な表現の中では、赤堀さんの描こうとする繊細さが伝わりにくいんです。しかも時代劇って、侍言葉も含めて今のお客さんにとっては距離があるファンタジーのような世界。それをいかに身近な物語としてお客さんに伝えられるか、ちゃんとそこに生きている人間として見せられるかが課題ですね」一昨年のドラマ『カムカムエヴリバディ』や昨年の『六本木クラス』など、近年は映像でも個性的な役柄を次々と好演。作品について語る口調からも、今、芝居を楽しんでいるように感じるけれど…。「そうかもしれないですね。最初は女形として注目されましたが、それが嫌だった僕は、別のもので頑張りたいと殺陣を追求するようになって。でもそのうち今度は“殺陣の人”と言われるようになって、それを覆したくて芝居を頑張ってきたんです。だから10代、20代の頃は自分を否定しながらやってきたような気がします。でも最近、そういうこだわりがなくなって、チャレンジできることならなんでもやりたいと思えるようになりました。今は芝居に限らず、自分が新鮮に楽しめることならなんでもやってみたいなと思っています」KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『蜘蛛巣城(くものすじょう)』群雄割拠する戦国時代。蜘蛛巣城の城主・都築国春に仕える鷲津武時(早乙女)は、隣国との戦いを制した帰国の途で、謎の老婆から城主になるとの予言を告げられる。それを聞いた妻・浅茅(倉科)は…。2月25日(土)~3月12日(日)横浜・KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉原脚本/黒澤明、小國英雄、橋本忍、菊島隆三脚本/齋藤雅文上演台本/齋藤雅文、赤堀雅秋演出/赤堀雅秋出演/早乙女太一、倉科カナ、長塚圭史、中島歩、佐藤直子、山本浩司、水澤紳吾、久保酎吉、赤堀雅秋、銀粉蝶ほかS席8500円A席6500円ほかチケットかながわ TEL:0570・015・415(10:00~18:00)兵庫、大阪、山形公演あり。さおとめ・たいち1991年9月24日生まれ。劇団朱雀2代目座長を務めるかたわら、自身の劇団公演のほか、数々の舞台や映像作品に出演。近作にドラマ『親愛なる僕へ殺意をこめて』。出演映画『仕掛人・藤枝梅安』公開中。※『anan』2023年3月1日号より。写真・的場 亮スタイリスト・八尾崇文ヘア&メイク・奥山信次(B・SUN)インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2023年02月26日惹かれる気持ちの根源に迫った映画『エゴイスト』に出演した鈴木亮平さんと宮沢氷魚さんが登場。“愛”という感情の本質について語ります。――お二人はこの作品に参加されたことで、“惹かれる”、あるいは“愛”といった感情に対して、何か気づきはありましたか?鈴木亮平:実は僕は「純粋な愛ってあるのかな」とかねがね思っていて。「好き」とか「愛している」とか、「大事にしたい」といった気持ちは、相手を思ってのことではあるけれど、実はただの自分の欲望であり、欲求なのではないかと…。この物語は、そういった僕の気持ちを具現化したような物語です。宮沢氷魚:確かに、亮平さんが演じた浩輔も、僕が演じた龍太も、どちらも行動原理が「好きな人のために」的な人でしたね。鈴木:そう。浩輔は愛ゆえに、龍太はもちろん、龍太の母親のためにもいろんなことをするよね。宮沢:龍太も、母親をはじめ自分の周りにいる人たちを幸せにする、喜ばせるために頑張る人。僕は、誰かを好きになることは素晴らしいことで、相手のために自分を犠牲にするのも愛だ、と思っていたんです。でもこの作品に参加してからは、時として愛はエゴであり、結局自分の行動は、“僕がそうしたいから”しているんだ、ということに強く気づかされたというか…。なので、自分自身の愛や、恋愛に対する考え方が大きく揺さぶられました。「愛ってなんだろう…」と、頻繁に考えています(笑)。鈴木:でも、愛はエゴだからこそ美しいとも思うんですよ。相手を慈しむ気持ちが生まれて、願わくばその行動で相手も喜んでくれたら…と思う気持ち。身勝手かもしれないけれど、それはある種の美なのかもしれない、と。――この作品はゲイの恋愛を描いています。同性に惹かれるという、ご自分とは異なるセクシュアリティを持つ役を演じるために、何を意識されましたか?鈴木:世間が考える男らしさ・女らしさのように、〈ゲイらしさ〉というのがありますが、でも現実のゲイの人たちはもっと多様なので、どんな表現もあり得るわけですよね。それを踏まえた上で、今の日本の社会に発表する映画として、どういうバランスをもって演じることがこの作品として妥当なのか、そこをすごく考えました。過度にいわゆる“オネエ”的なゲイを演じてしまうと、偏見を助長することにも繋がってしまうかもしれない。かといって異性愛者と全く同じように演じるのは、同性愛をウォッシュアウトすることになる。いろんなことを調べ、いろんな方に相談をし、浩輔のキャラクターや表現に落ち着いたという感じです。宮沢:本を読むことでも知識は吸収できますが、どんな役でも、当事者の方にお会いして初めて分かることがたくさんある。僕の親友がゲイで、以前、映画でゲイの役を演じたときにも彼にすごく助けてもらったんですが、今回も彼にたくさんサポートをしてもらいました。とても感謝しています。――作品の中で描かれる“愛し合う浩輔と龍太”が、とても幸せそうだったのが印象的でした。鈴木:ですよね。僕が勝手に思っているだけかもしれませんが、僕と氷魚くんは、とても相性が良かったと思ってます。宮沢:ふふふ(笑)。鈴木:自然と心が惹かれました。振り返ると僕にとって氷魚くんは、欠けているものを埋めてくれる人だったと思う。宮沢:僕もまったく同じで、あの作品を撮っていたときは、『エゴイスト』という世界を生きていた感覚でした。毎朝起きれば亮平さんに会いたいと思っていたし、カメラの前ではありましたが、二人の時間がリアルなものとして刻まれた感じがあった。僕にとって、今までにない経験でした。鈴木:撮影の手法もとても珍しくて、その場で起きたことをそのまま切り取っていくというか、ドキュメンタリーのような撮り方だった。台本もあってないようなもの。宮沢:確かに、台本に書いていないセリフだらけですよね。鈴木:ああいう撮影は、お互いに本当に役になりきれていたからこそ可能だったんだと思う。宮沢:自然に言葉が出てきたり、動きがついてきたりするのが、自分でも本当に不思議でした。でもたぶんそれは、僕が亮平さんとの間に信頼感を構築させてもらえたからだと思っています。鈴木:僕にとっても僕らの関係性は、スリリングであり、そしてとても理想的なものだったよ。――次はどんな役で向き合いたいですか?鈴木:氷魚くんに殺されたい(笑)。なんか殺し屋とか似合いそう。宮沢:僕が連続殺人犯で、亮平さんが刑事で、逃げ続けているんだけれど実は近いところにいて…。鈴木:最後に俺が殺される(笑)。でもそれも、恋愛とは違う意味で、惹かれ合う二人なのかもね。宮沢:かもしれないです。ぜひまたご一緒したいです(笑)。すずき・りょうへい1983年3月29日生まれ、兵庫県出身。代表作に大河ドラマ『西郷どん』、ドラマ『TOKYO MER~走る緊急救命室~』、映画『孤狼の血 LEVEL2』など。昨年のドラマ『エルピス―希望、あるいは災い―』での演技も話題に。衣装協力・ジョルジオ アルマーニジャパン TEL:03・6274・7070みやざわ・ひお1994年4月24日生まれ、サンフランシスコ出身。ドラマ『偽装不倫』、映画『his』などに出演し、2021年映画『騙し絵の牙』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。昨年は連続テレビ小説『ちむどんどん』にも出演。コート¥338,800ニット¥105,600パンツ¥151,800スニーカー 参考価格¥125,400(以上ジル サンダー バイ ルーシー アンド ルーク・メイヤー/ジルサンダージャパン TEL:0120・919・256)映画『エゴイスト』東京で自由に生きている浩輔だが、14歳で母を亡くし、ゲイであることを押し殺し生きてきた過去が。一方、龍太は病気の母を支えるために高校を中退し、今は自分の夢のために母と二人で健気に生きている。そんな龍太のピュアさに惹かれた浩輔は、「お母さんに」と高級寿司を買ってあげる。龍太も心を開き、二人は体を重ね、恋人に。「浩輔が龍太に惹かれたのは事実だと思いますが、でもたぶん、龍太の母親や、龍太が母親を大事にする姿に、自分の亡くした母への愛を重ねていたんだと思います。“龍太のために”してあげたことは、母を失ったことなどで生まれた“自分の欠けた部分”を満たすエゴイスティックな行為だったのかも。ただ、惹かれる気持ちがエゴイズムだとしても、僕はそこに美しさを見出してもいいと思います」(鈴木さん)。2月10日より、全国公開。©2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会※『anan』2023年2月15日号より。写真・小川久志スタイリスト・臼井 崇(THYMON Inc./鈴木さん)庄 将司(宮沢さん)ヘア&メイク・宮田靖士(THYMON Inc./鈴木さん)Taro Yoshida(W/宮沢さん)セットデザイン・MIKI YOSHIKO(by anan編集部)
2023年02月12日元人気漫画家と風俗嬢の哀しくも美しい愛を描いた映画『零落』。本作で共演した斎藤工さんと趣里さんが、作品を通して感じた“惹かれる”気持ちを掻き立てる、カタチのないものの正体とは?斎藤工×趣里が考える、引き寄せられる偶然と必然。浅野いにおさんの漫画が原作の映画『零落』で、初共演を果たした斎藤工さんと趣里さん。落ちぶれてゆく人生や人間を描いた、重苦しい世界観に、強く惹かれてしまうのはなぜだろう。――原作ファンが多い作品ですが、おふたりが感じるこの作品の魅力とは?趣里:誰しも人間は、表には出さない部分でいろいろ抱えていると思います。その“触れてはいけないもの”が見えてしまった時に、自分と重ね合わせたり、そこから何かを思い出して衝動的に惹きつけられ、他人事ではなくなって目が離せなくなってしまう。私もいにおさんを通して、いろんな感情になったし、そして、その感情に寄り添ってもらえるような不思議な感覚も覚えました。斎藤工(以下、斎藤):すごくわかります。いにおさんの作品ってそれまでも、人間の赤裸々な部分を表現されてきたと思うし、それって苦しいことでもある。『零落』ではさらに描き手の本性を晒し、内臓まですべて見せられるような感覚でした。そこに読み手の僕の、内側にある何かが反応し、同期してしまう瞬間があって。だからこの作品には、どうしても人に見せたくない自分が宿ってしまっていて、“好きだけどすごく嫌い”でもあるんです。コンディション次第では向き合いたくない日もあるというか…。――辛いけど目が離せない、そんな感覚は映画でも感じました。斎藤さん演じる深澤は、虚無感に包まれた毎日の中で趣里さん演じるちふゆと出会い、惹かれていきますが、それぞれの役を演じてみた感想をお願いします。趣里:ちふゆが実在する人物だとすれば、いにおさんにとって思い入れのあるキャラクターだと思ったので、演じるにあたりプレッシャーはありました。喋り方や言葉に特徴がある女性ですが、それは自分を武装するためなのかな、なんて、想像させられたりもして。斎藤:趣里さんが初めてちふゆとして現場に現れた時、漫画のキャラに生き写しだと思ったし、ちふゆに会った感じがしました。完成した作品を観たら、ゆるぎない世界観を表現してくれていて、とても贅沢な気持ちでした。趣里:ありがとうございます。ちふゆを理解するために、いろいろ悩み考えて臨んだのですが、現場に行ったら全部手放せた感じでした。作品の空気感がすでに漂い、照明なども素敵に作られていた中で、深澤を感じて。工さんや監督の竹中(直人)さんはじめ、たくさんのことが助けになったと思います。斎藤:準備をして現場でそれを表現することでは、太刀打ちできないものがありました。何かを用意するのではなく、もっと踏み込んで、内側に寄り添わなければいけない、と。深澤には、自分という概念がないような気もしていて…フィギュアっぽいというか。もしかしたら、ちふゆも彼が作り出した幻影なんじゃないかという気すらします。そして、ちふゆを媒介とすることで、やっと呼吸ができるような関係性なのかもしれません。異性としてちふゆに惹かれた部分もありますが、取り巻く空虚感みたいなものの周波数が心地よかったんだろうなって。趣里:私も、ちふゆって本当に存在しているのかな?と思う瞬間がありました。もしかしたら深澤が勝手に作り出したものなんじゃないかって。だからいつ現れて、消えるかわからない。斎藤:漫画のキャラクターって、それが魅力ですよね。例えばSNSを含め、知らなくていいことまで必要以上に情報を得てしまうと、それ以上の想像はしないけれど、小説や漫画のキャラクターのように、情報のかけらを拾い集めて想像することで、その人の存在がどんどん強まっていくというか。だから、ちふゆが深澤に断片的に見せるものが、ことごとく神秘的で美しいんだと思います。趣里:正体を知ることが正解ではないと感じたことが、この作品や登場人物の魅力かもしれません。嘘かもしれないと思うと、より惹かれてしまう…。今こうして話していて、深澤が受けたダメージを思い出してしまい、また辛くなりました。それでも工さんは現場ですごく軽やかにいてくださったんです。斎藤:いや、すごく辛かったですよ。でもその辛さが、クリエイティブにつながっているのかもしれない。正負の法則で言えば、負があるから正が生まれる。それが観る側の“心当たり”につながる作品だと思います。Q、男女問わず、惹かれるのはどんな人?内側から滲み出るもの(斎藤さん)答えは…模索中(趣里さん)「役者は見た目の印象も大事ですが、中身がないと演じられません。そして、内面が顔や表情に滲み出るもの。外側が目立つ時代ですが、肝心なのは中身であり魂」(斎藤さん)。「友達に言わせると、私が惹かれる要素やジャッジは間違っているらしい(笑)。だから自分の物差しを一回折って…現在模索中です」(趣里さん)Q、最近、強く惹かれたものは?スタミナラーメン(斎藤さん)お餅(趣里さん)「最近はヘルシーな食生活を送っていたんですが、先日グルテンたっぷりのスタミナラーメンを食べたらめちゃくちゃ美味しくて(笑)。チートデーはちゃんと設けるべき」(斎藤さん)。「お餅が大好きで正月に食べるお雑煮が毎年楽しみなのに、今年は全然食べられず。“餅”の字を見るたびに反応してます(笑)」(趣里さん)自分の“思い当たる部分”が見えて、目が離せなくなる。映画『零落』8年間の連載が終了した漫画家・深澤薫は、鬱屈とした生活を送っていた。SNSに書き込まれた読者の酷評、アシスタントからの覚えのないパワハラの訴え、そして漫画編集者の妻とはすれ違う日々。こうして行き詰まった主人公の前に現れるのが、ミステリアスな女性・ちふゆ。本作で注目すべきは、特殊な出会い方をしたふたりが、不思議な力で引き寄せられるように惹かれ合う関係性。相手をよく知らないからこそ、“本音”で向き合うことができ、互いが強い影響力を持つ様が描かれる。そんな深澤の苦悩から目が離せないのは、きっと観ている自分にも思い当たる部分があるからだと、斎藤さんと趣里さんは語る。自分の本性をえぐり出されそうな怖さにこそ、“惹きつけられる”理由があるのかもしれない。3月17日より、全国ロードショー。©2023 浅野いにお・小学館/「零落」製作委員会さいとう・たくみ1981年8月22日生まれ、東京都出身。出演映画『イチケイのカラス』『THELEGEND & BUTTERFLY』が現在全国映画館にて公開中。また、出演ドラマ『超人間要塞ヒロシ戦記』(NHK総合)が2月13日より放送スタート。ジャケット¥74,800シャツ¥35,200(共にGraphpaper TEL:03・6418・9402)その他はスタイリスト私物しゅり1990年9月21日生まれ、東京都出身。近年の出演作品に映画『流浪の月』、ドラマ『サワコ~それは、果てなき復讐』、舞台『温暖化の秋』などがある。2023年後期放送予定の連続テレビ小説『ブギウギ』でヒロインを務める。ドレス¥79,200中に着たボディスーツ¥30,800(共にCFCLsupport@cfcl.jp)ピアス¥651,200(TASAKI TEL:0120・111・446)※『anan』2023年2月15日号より。写真・倉本侑磨(PygmyCompany)スタイリスト・三田真一(KiKi inc./斎藤さん)中井綾子(趣里さん)ヘア&メイク・赤塚修二(斎藤さん)カワムラノゾミ(趣里さん)インタビュー、文・若山あや(by anan編集部)
2023年02月08日自分より下に見ていた相手が、気づけば自分が欲した幸せを手に入れていた。そんな経験は、誰しも一度や二度あるんじゃないだろうか。映画『生きててごめんなさい』は、まさにそれを描いた作品だ。小説家を志しながら、出版社で実用書の編集に携わる主人公・修一と、何をやってもうまくいかず彼に依存気味の恋人・莉奈。しかしある日、売れっ子コメンテーターの目に留まり、莉奈の人生が好転し始めると、修一は彼女に冷たく当たるようになる。「自分より弱い人をそばに置くことで安心を得たい気持ちって、なんかわかるんですよね。僕も現場で、自分より後輩の俳優がいたりするとちょっとホッとしたりするので。そういう近い感情から、少しずつ役を理解していった感じです」そう話すのは修一を演じた黒羽麻璃央さん。ダメな莉奈を受け入れ優しく接していた修一が、徐々に彼女を疎ましく思い始める過程は、生々しくリアルで息苦しいほど。「台本を読んだ時点から、どこか他人の生活を覗き見しているような感覚がありました。あと撮影前に、家での二人でのシーンのリハーサルを何日間かかけてやったことも大きかったと思います。山口(健人)監督は、すごく丁寧に演出をつけてくださる方で、感情の出し方をパーセンテージで言ってくださるんですね。もう少し抑えてとか、ここは怒りの感情を強くとか。そうやって微調整に次ぐ微調整をしながら、何度もリハを重ねました。ただ、役としてはあまり固めていかなかったですね。穂志(もえか)さんが莉奈ちゃんとしてそこにいてくれたので、その場で修一として出てきたものを大事にしようと思ってやりました」それゆえ、修一が精神的にじわじわと追い詰められていく過程は、「とくにしんどかった」と漏らす。「ひとつずつは小さなことなんですよね。でも、四方八方から小石が飛んでくるみたいな感じで、チクチク小さな痛みが続いて、気づいたら足元に大きな岩があった、みたいな。撮影後半はぐったりして口数が少なくなっていました。監督に『マジでしんどいです』と話したくらい。ただ、観た方の背中をポンと叩いてあげられるような映画になっていると思うんです。映画のコピーに『きっと大丈夫。多分。』とありますが、行き詰まったときに、背中を押すんじゃなく寄り添ってくれる感じがいいなと思うんですよね」修一は、自分を特別な存在だと思っている人間。しかし、黒羽さん自身は、「できるだけ自分の色を強く持たないようにしている」らしい。「普通に思われたいというか、あまり自分を主張したくないというか…。そういうものを作ってしまうと、逆に面倒だからなのかもしれないです。自分には何もないです、ってスタンスでいた方が、風が吹いたらそっちの方向に行けるし、色を塗られたら、その色にちゃんとなれる。お仕事で目立つのはいいんですけれど、何も演じていないときの素の自分は目立ちたくない。それは年々余計に(笑)。もともと名前が目立つので、強制的にそういう立場になることが多かったから、その反動じゃないかと思うんですが」現在放送中のドラマ『夕暮れに、手をつなぐ』では、広瀬すずさんのブレインとなる役で出演している。「北川悦吏子さんという恋愛ドラマの大家みたいな方の作品ですし、この映画も、『余命10年』の藤井(道人)さんのプロデュース。すごい方々の中で、いい刺激をいただいていますので、役者としてもっとステップアップしていかなきゃ、ですよね」『生きててごめんなさい』出版社に勤める修一(黒羽)。同棲中の恋人・莉奈(穂志)はアルバイトが長続きせず、家にこもりがちだが、そんな彼女を優しく見守っていた。しかし…。2月3日(金)よりシネ・リーブル池袋、ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開。©2023 ikigome Film Partners.くろば・まりお1993年7月6日生まれ、宮城県出身。ミュージカル『刀剣乱舞』で注目され、近年はミュージカル『エリザベート』などでも活躍。現在放送中のドラマ『夕暮れに、手をつなぐ』(TBS系)に出演。※『anan』2023年2月8日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・ホカリキュウヘア&メイク・泉脇 崇(Lomalia)インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2023年02月07日東京地方裁判所第3支部第1刑事部を舞台に、自由奔放なクセ者裁判官・入間みちおと、彼に振り回されながら真実を求め奮闘するメンバーを描いたドラマ『イチケイのカラス』が映画になってカムバック!出演する竹野内豊さん、斎藤工さん、向井理さんに、作品のことからお互いの関係まで深く伺いました。竹野内さんと入間みちおの共通点も明らかに?――竹野内豊さん演じる主人公の入間みちおは、法廷一のクセ者裁判官で、人気のキャラです。改めて感じる魅力を教えてください。竹野内豊(以下、竹野内):一見すると、常に周囲を振り回しているように見える人ではありますが、実はただ振り回しているのではなく、それによって周りにいる人が頑張って手にした成果を、必ず何倍もの結果としてお返しする。しかし、そうあるためには、リスクを覚悟のうえで、強い信念を貫き通さなければならず。それってそう簡単にできることではない。飄々としていて、楽観的な印象がある一方で、とても冷静に、常に俯瞰から物事を見ているところが魅力だと思います。――ドラマのレギュラー陣に加え、劇場版では、新たに参加した顔ぶれが豪華でした。なかでも、人権派弁護士・月本を演じた斎藤工さんと、最年少の防衛大臣・鵜城を演じた向井理さんは、強いキャラクターで物語を引っ張っていく重要人物ですが、お二人の印象は?竹野内:斎藤さんとは、これまで何度もご一緒していて「また会えたね」ってホッとする感じ。お会いするたびに、役によってなのか、いつも印象が違うんですけどね。斎藤工(以下、斎藤):僕がこのドラマを見たきっかけは、竹野内さんが出ているからでした。ありがたいことに、これまでバディのような距離感でとか、逆に火花を散らすような関係性だったりと、いろんな形で共演させていただきましたから。竹野内:付き合いはもう長いもんね。逆に向井さんとは、なかなかお会いするチャンスがなくて、今回が初。寡黙でありながら、ものすごく熱いものを内に秘めた人だと思いました、そこがまた、鵜城の役柄に合っていたし、彼が演じた鵜城にまた何年後かに会いたくなるぐらい、頼もしかったですね。向井理(以下、向井):こちらこそ、竹野内さんはまさに僕の“世代”ですから(笑)。ご一緒できて嬉しかったです。斎藤:竹野内さんは、パブリックイメージとはまた違った、ユーモラスでチャーミングな部分を持っていて、実は入間みちおとイコールになる瞬間があったりするんですよ。だからみちおは、大好きなキャラクターでもあって。向井:みちおって、単なるスーパーヒーローではなく、どこか欠落した部分があるけれどそれがまた憎めなかったり、ユーモアも併せ持つ、人間くさいキャラクターですよね。ニターッと笑うところとか、僕の中でも勝手に、みちおと竹野内さんはリンクしていました。竹野内:みなさんそういうふうにおっしゃってくれるけど、似てませんからね。似てないよ~!斎藤・向井:あははは(笑)。向井:こういうところです(笑)。――確かに、今みちおが見えました(笑)。斎藤さんと向井さんは、この“イチケイチーム”に、参加してみていかがでしたか?斎藤:月本も弁護士としてみちおや坂間千鶴(黒木華)と新たに関わっていくので、僕と月本はそういう意味では近かった。それがこの作品を映画から初めて観る方の、一つの目線になるといいですね。向井:ゼロから組み立てるよりはむしろ円滑だと思います。なんなら、ちょっとひっくり返してやりたい、という願望があったぐらい(笑)。だから、この映画が観ている人を裏切っていくように、鵜城の人物像でも裏切りたかった。どんな作品でも、政治家ってわかりやすく悪い人物像であることが多いけど、それを逆手に取るようなキャラにしたいなって。それで、最後はちょっと粒立てて演じることを意識しました。とはいえ、鵜城の登場シーンは少ないので、他の強いキャラに埋もれないように、短時間で鵜城をどう描いて、物語の中にどうインパクトを残すかは、すごく難しかったですね。斎藤:僕も、新参者の強みみたいなものはある気がしていて、ドラマにあまり引っ張られずに、ここからまたこの作品がスタートするという意識で参加しました。ヒゲ弁護士なんで(笑)、みちおに似せたわけではないですが、坂間さんが見る景観の中に映ったらいいなとか、鵜城とは逆に、その辺にいるような親しみやすい方向に差別化できるように見せましたね。――この映画の楽しみ方を、ぜひ。向井:シリアスな部分や謎解きなど、伏線が見事に繋がる瞬間は、本当によくできたエンターテインメント。一つの音楽を聴いているような流れで、緩急があって心地よいリズムで観られると思います。竹野内:撮影監督は『ドライブ・マイ・カー』を撮った四宮(秀俊)さんで、映像がとても綺麗。また監督の田中(亮)さんは、役者一人一人の個性を引き出すのがすごくお上手でした。スケール感がアップして、ドラマファンの期待を裏切らない内容になっています。斎藤:四宮さんの映像と、田中さんの作風って相反するようですが、空間の奥行きや湿度みたいなものが見事に捉えられていた。スクリーンの向こう側で繰り広げられる、司法の華やかな世界というよりローカルエリアで起こっている事情をテーマに、地続きでしっかり見られるはず。劇場で観ることに、意味と価値があると思います。映画『イチケイのカラス』2021年に放送され、多くのファンが生まれたドラマが待望の映画化。――主婦が、史上最年少防衛大臣・鵜城英二に包丁を突きつけた傷害事件を担当することになったみちおだが、いつものように「職権発動!」ができない!?その裏には、国家が絡むある大きな事件が潜んでいた…。2つの事件に隠された、衝撃の真実とは。全国公開中。たけのうち・ゆたか1971年1月2日生まれ、東京都出身。近作に、『連続ドラマW 東野圭吾「さまよう刃」』、映画『シン・ウルトラマン』などがある。2022年「京都国際映画祭」で三船敏郎賞を受賞。’23年、待機作として映画『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』『唄う六人の女』が公開予定。スーツ、シャツ、ネクタイ、チーフ すべて参考商品(ブリオーニ/ブリオーニクライアントサービス TEL:0120・200・185)さいとう・たくみ1981年8月22日生まれ、東京都出身。2月13日スタートのドラマ『超人間要塞ヒロシ戦記』(NHK 総合)に出演。主演を務める映画『零落』は3月17日から全国ロードショー。最新長編監督映画『スイート・マイホーム』が2023年公開予定。むかい・おさむ1982年2月7日生まれ、神奈川県出身。2006年、デビュー。Netflixで配信中のドラマ『First Love 初恋』に行人役で出演。上演中の舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』では主演としてハリー・ポッター役を務める。スーツ、シャツ、ネクタイ すべて参考商品(ゼニア/ゼニア カスタマーサービス TEL:03・5114・5300)シューズ 参考価格¥216,700(ジョンロブ/ジョンロブジャパン TEL:03・6267・6010)※『anan』2023年2月8日号より。写真・安保涼平スタイリスト・下田梨来(竹野内さん)三田真一(KiKi inc./斎藤さん)外山由香里(向井さん)ヘア&メイク・須田理恵(竹野内さん)くどうあき(斎藤さん)晋一朗(IKEDAYA TOKYO /向井さん)取材、文・若山あや(by anan編集部)
2023年02月06日日々さまざまなニュースが飛び交っていますが、まもなく公開される話題作『茶飲友達』で取り上げられているのは、高齢者の売春クラブを巡る事件。今回は、センセーショナルな題材としても注目を集めている本作で、主演を務めたこちらの方にお話を伺ってきました。岡本玲さん【映画、ときどき私】 vol. 552高齢者専用の売春クラブで、リーダーを務めるマナを演じている岡本さん。今年でデビューから20年を迎えるなか、映画のみならずテレビや舞台でも幅広い活躍をみせています。そこで、現場の様子や自身を支えてくれる存在、そして30代に入って感じる心境の変化などについて語っていただきました。―今回はワークショップオーディションから始まったということですが、参加しようと思ったのはなぜですか?岡本さん監督である外山(文治)さんの前作『ソワレ』がとても好きだったので、「外山さんが開かれるのであればぜひ」というのがきっかけです。もし、作品とご縁がなかったとしても、ワークショップでいい時間を過ごせたらいいなという思いで受けました。―実際に体験されてみていかがでしたか?岡本さんシニアも若者もごちゃまぜのグループで行われましたが、演技経験者も未経験者も関係なく、ぶつかり合うときは全員本気でした。ただ、2日目に行くのが嫌になるくらい、初日で自分自身とは何かを問われるようなワークショップだったと思います。―行きたくなくなった理由は、自分自身と向き合うのがつらくなったからでしょうか。岡本さんそうですね。私だけではなく、みなさんも実はうまく隠して生きている部分ってあると思うんです。でも、「作られたものではなくて、あなた自身を見たい」と言って諦めずに向き合おうとするのが外山さんですから。しかも、つねにニコニコしていて、相手をえぐってくる瞬間も楽しそう(笑)。ただ、そんな外山さんだからこそ「どんな自分を出しても面白がってくれるんじゃないか」と思えた部分はありました。その後、この役を演じると決まってから、家族に対する私自身の価値観やいままでどう生きてきたかといったことを外山さんに話し、それを台本にも反映していただいています。なので、ワークショップから撮影までの1年間で、いまの自分を受け入れられるようにもなりました。うがった見方をせずに、誠実に向き合おうと思った―なるほど。本作で描かれている高齢者向け売春クラブは、実際にあった事件がもとになっていますが、この題材に関してはどのように感じましたか?岡本さん私はまったく知らなかったので、びっくりしました。特に、私はおじいちゃんとおばあちゃんと暮らして育ったので、その年代の方々に対しては「清廉潔白」というイメージを勝手に作り上げてしまっていたところがありましたから。それだけに、高齢者の方々の性や孤独に関する事実を知って、打ちのめされました。―しかも、日本の映画では“高齢者の性はタブー”のようなところがあるので、そういう意味でも本作への出演は挑戦だったところもあったのではないかなと。岡本さん怖さとかよりも、この出来事とちゃんと向き合おうと思いました。うがった見方をしたり、ショッキングなものだからと面白がったりするのではなく、誠実に台本に取り組みたいという気持ちが強かったです。―過去のインタビューでは、「どんな役でも自分とかけ離れてると思うことはなく、共感しないと演じられない」とお話されていますが、マナにも共感されましたか?岡本さん今回は、逆に近すぎてどう演じたらいいんだろうと感じたほどです。マナは多面性のある女性ですが、わざと作っているわけではなく、彼女なりの愛情や相手にハッピーになってほしいという思いで過ごしているうちにそうなってしまっただけ。隠してはいましたが、私にもそういう部分があるので、そこは似ているのかもしれません。だからこそ、マナを演じることで救われたというか、そういう自分も怖くなくなりました。―つまり、そのままの自分でいいんだと。岡本さんはい、自分で自分を認めるという感覚ですね。人に心を開くことも面白いと思えるようになったので、この役に出会えてよかったです。孤独も悪くないと感じているところもある―この役に限らず、岡本さんは「寂しい」という感情がつねに役作りの根本にあるとか。子どもの頃から抱いているという寂しさの原因はこの作品で追求できましたか?岡本さんそうですね。やっぱり誰もが愛されたいですし、離れていても誰かの記憶の一部になっていたいという気持ちがあると思いますが、そういうものが子ども時代からずっと残っていたんだなと感じました。いまは、そういう自分を受け入れたうえで、どうやって周りの人たちを愛する方向に気持ちを変えていけるか。それによって、自分が成長できるんじゃないかなと考えています。―そして、本作では若者にも高齢者にも共通するテーマとして描かれているのが孤独について。岡本さんも孤独を感じて悩んだり、落ち込んだりした経験はありますか?岡本さんそれもありますね。というか、孤独を感じたことない人なんていないんじゃないですか?仕事でもプライベートでも、切っても切れないものだと思っています。でも、だからこそいま言えるのは、逃げずに向き合ってきてよかったなということです。孤独って得体の知れないもので、そのときによって色も温度も違いますが、それを自分がどうやって手のひらで転がしていけるかというのが大きいのかなと。そういう楽しみ方ができるようになれば、人としても役者としても豊かになれるんじゃないかなと最近思えるようになりました。孤独も悪くないかもしれないと感じているところもあります。―そう思えるようになったのは、どうしてですか?岡本さん年齢を重ねてきたこともありますが、もしかしたらこの職業特有なものかもしれません。というのも、孤独ではない役というのがあまりないので、お芝居を通していろんな孤独を味わっているんですよね。だから、「このタイプの孤独は経験したことがある」と感じて戸惑わなくなったのかなと。しかも、私の場合は自分の孤独もお芝居として消化できるので、それが孤独を楽しめるようになった要因だと思います。今回演じたマナも、自分のコンプレックスや孤独と向き合うきっかけをくれたので、そういう意味でも出会えてよかったです。昔は疑ったり、不安になったりすることも多かった―本作の現場ではシニアの方々がたくさん参加されていますが、人生の先輩から学んだこともありましたか?岡本さんみなさんリハーサルでも本番でも同じお芝居をされないんですけど、それをすごく楽しんでいらっしゃるところがいいなと。すごくキラキラしていましたし、「楽しいというエネルギーに勝るものはない」と感じました。というか、みなさん信じられないくらい本当に元気なんです!でも、たくさんつらい経験をされている方もいらっしゃって、それもエネルギーに変えて乗り越えてきた方たちなのでかっこいいと思いました。佇まいにも表れるものなので、そういうところが素敵ですよね。―確かにそうですね。本作に登場する人たちを見ていて、「正しいことだけが幸せではないのではないか」とも考えさせられましたが、いまの岡本さんにとって幸せな瞬間といえば?岡本さんえー、何だろう。おいしいものを食べている瞬間とか、飼っている2匹の猫たちとベッドで寝ているときですかね(笑)。あとは、『茶飲友達』で出会った役者さんやスタッフさんたちと会っているときです。実は、いまでもすごく仲がよくて、しょっちゅうみんなで集まるんですけど、シーンとする瞬間があっても苦痛じゃない関係になれたのがいいなと思います。―まさに劇中でも描かれている“ファミリー”のような絆が生まれているんですね。岡本さんそう思えるような人たちと出会えたので、若いときの自分に「大丈夫だよ。そのままのあなたでいていいんだよ」と言いたいくらい幸せを感じています。―昔はそう思えない時期もあったということですか?岡本さん若い頃って疑い深かったり、他人と意見が違うだけで怖くなったり、自分から孤独になりがちだったり、みたいなことがあってよく不安に陥っていました。―そういう経験を乗り越えてきたからこそ、いまの喜びをより強く感じられているのですね。岡本さんそうですね。コロナ禍を経たこともありますけど、友達と笑い合ったり、お酒を飲みに行ったりできることとかも、当たり前じゃないんだなと思うようになりました。20年続けてこれた秘訣は、自分のしぶとさ―では、そんな岡本さんのモチベーションを支えているものは何ですか?岡本さんそれは、やっぱり猫ですね。猫バカなので(笑)。小学6年生からお仕事を始めて、高校で上京してきたのですが、真面目すぎたので、東京はずっと戦いの場だと考えて自分を追い詰めていました。でも、一人暮らしを10年したあとに猫を飼い始めてから、オンオフの切り替えができるようになりましたし、もっと気楽でいいんだと思えるようになったんです。おかげで最近は「表情が柔らかくなったね」と言われますし、仕事でもいい意味で肩の力を抜けているような気がしています。「大好きだよ」とか「かわいいね」と口に出して言うことが恥ずかしくなくなったのもあって、素直な感情を出せるようにもなったのかなと。昔はもっとつっぱっていたんだと思いますが、無償の愛を注ぐことができる存在がいるってすごいですね。―いろんな思いを抱えながらやって来たとは思いますが、ついに今年で仕事を始めて20年です。ここまで続けてこれた秘訣について、ご自身ではどう思われていますか?岡本さん私の場合は、「しぶとさ」ですかね。子どものときから、わからないものに対しての探求心がすごく強くて、できないならなぜできないのかというのを突き詰めるのが大好きでした。構造を理解すると飽きちゃうこともあったんですが、お芝居は深すぎてまだまだ理解不能。それがいまでも続けている理由の一つだと思います。あとは、こんな無茶苦茶な私でも、ずっと応援してくださる方がいること。そういう方々がいてくれるというのは、本当にありがたいことだなと改めて感じています。私もみなさんと同じように結婚や仕事に悩んでいる―岡本さんは10代のときから早く30歳になりたかったそうですが、実際になってみて?岡本さん超楽しいです!理想通りではないですし、波もありますけど、「本当に楽しい」と即答できるくらい自分らしくいられています。そう思えるのは多様性の時代になってきたのもあるかもしれませんが、10代や20代の頃は自分をカテゴライズして安心させようとしていたのがいまはカテゴライズしなくていいやと考えるようになったからですね。たとえ認められなくても、「私は私でいいんだな」と。おかげですごく自由だと感じています。―ちなみに、30代にしたいことやいますでにハマっていることはありますか?岡本さんハンドメイドやDIYが好きなので、携帯から離れて趣味の時間をちゃんと楽しみたいなと考えるようになりました。昔だったら、趣味さえも仕事につながるかどうか、ということに重きを置きがちでしたが、いまは自分が楽しんでさえいれば、それが違う形で実を結ぶような気がしています。最近はYouTubeを見ながらテーブルの板を作りましたが、今後は1年くらいかけて本格的な引き出し付きのデスクとかを作れたらいいなと。いまは余計なことは考えずに、自分の時間を純粋に楽しみたいです。―大事なことですね。それでは最後に、岡本さんと同世代のananweb読者にメッセージをお願いします。岡本さん結婚の適齢期だとか、仕事がどうだとか、周りから何だかんだ言われるので、私もみなさんと同じことに悩んでいるところです。実際、30代の女性が読むような記事を読んでは泣いたり、元気や勇気をもらったりして過ごしていますから。なので、「みなさんも1人じゃないよ」というのは伝えたいですね。もし街で私を見かけたら、ぜひ声かけてください。相談にも乗りますので(笑)。みんなで一緒に悩んで、乗り越えていきましょう。インタビューを終えてみて……。子どもの頃から見ていたこともあり、もう30歳というのに驚かされましたが、かわいらしい笑顔は昔のままに、内面は芯のある素敵な大人の女性になっている岡本さん。劇中では、さまざまな表情を繊細に表現し、観る者を釘付けにするような素晴らしい演技を見せているので、ぜひ注目してください。厳しい現実でどう生きるかを考える現代社会が抱える闇をあぶり出すだけでなく、閉塞感が蔓延する時代に誰もが感じている孤独に切り込んでいる本作。幸せとは何か、正義とは何なのか、正解のない問いと向き合うなかで、自分の生き方や未来について考えずにはいられない必見作です。写真・山本嵩(岡本玲)取材、文・志村昌美スタイリスト・森宗大輔ヘアメイク・SHIZUEトップス¥38,000、ロングジレ¥77,000、スカート¥38,500/EZUMi(Ri Design.Ltd 03-6447-1264)、ネックレス(上)¥63,000、ネックレス(中)¥45,000、ネックレス(下)¥27,000、リング(右手)¥21,000、リング(左手)¥23,000、イヤカフ(右耳)¥13,000/ReFaire、イヤカフ(左耳)¥9,000/warmth (全てwarmthルミネ新宿店 03-6304-5994)ストーリーある日、妻に先立たれて孤独に暮らす男がふと目にしたのは、新聞の三行広告に小さく書かれた「茶飲友達、募集」の文字。その正体は、佐々木マナをリーダーとする若者たちが運営している高齢者専門の売春クラブ「茶飲友達(ティー・フレンド)」だった。彼らのもとに在籍しているのは、「ティー・ガールズ」と名付けられた65歳以上の女性たち。海千山千のティー・ガールたちをさまざまな事情を抱えた男性たちが買い、マナたちはホテルへの送迎と集金を繰り返していた。孤独を抱える若者と高齢者たちはお互いを“ファミリー”と呼び、大事な存在となっていく。そんななか、高齢者施設に住む老人から救いを求める電話が入るのだった……。胸がざわつく予告編はこちら!作品情報『茶飲友達』2月4日(金)より、渋谷ユーロスペースほか全国順次公開配給:EACHTIME©2022茶飲友達フィルムパートナーズ写真・山本嵩(岡本玲)
2023年02月03日歌舞伎の演目を、主宰の木ノ下裕一さんの古典芸能や歴史に関する豊富な知識をもとに現代的に読み解いたうえで、現代演劇の演出家を迎えて上演している木ノ下歌舞伎。従来とは違うアプローチから古典を眺めることで、作品そのものの面白さや奥深さに気づくなど新しい発見が多く、近年注目を浴びている。歌舞伎でも屈指のアナーキーな物語が、現代の才能によって新たな進化を遂げる。今回手がける『桜姫東文章』は、暗闇で自分を襲った男に焦がれる桜姫の、運命に翻弄され転落していく人生を軸に展開する男女の愛憎渦巻くドラマ。成河さん、石橋静河さんを迎え、国内外で注目される岡田利規さんの脚本・演出によって上演される。石橋静河(以下、石橋):初めて木ノ下歌舞伎を観たのは’15年の『三人吉三』だったんですが、これまで観たことのないような舞台に「なんだこれは?」ってなって、すごく衝撃的でした。成河:僕は’13年の『黒塚』。当時から「ヤバい劇団がある」って話題だったんだけど、観に行ったら本当にヤバくて面白かった(笑)。いつか出させていただければと思っていたけど、まさかこんなことになるなんて思ってもなかったなと…。石橋:私たち、完コピ(木ノ下歌舞伎では通常の稽古前に、出演者が上演作品の歌舞伎の舞台を振りやセリフまで完全にコピーして演じる、完コピ稽古が行われる)の洗礼を受けましたからね…。成河:まさに洗礼だったよ。顔合わせで台本と歌舞伎の映像を渡されて、「2週間後に全編完コピの発表会をやります」…ですからね。木ノ下さんがニコニコおっしゃるから、最初は冗談かと思って信じてなかったよ。石橋:しかも、このセリフのときにこの手がちょっと動く、みたいな細かさでコピーするんですから。成河:発表会目前の石橋さんの追い込みは、すごいものがあった(笑)。石橋:やってわかったのは、歌舞伎役者さんたちのすごさ。レベルが違う。でも…めちゃくちゃ面白かったです。歌舞伎って大胆で大袈裟な芝居という印象だったけれど、木ノ下さんの解説をもとに細かく観ると、すべての動きが緻密に計算されているんだってことがわかって。成河:あと、音や音程ひとつにもちゃんと意味があることを教わって、あれは贅沢な時間だった。石橋:あれがないまま岡田さんの稽古が始まっていたら、歌舞伎作品だという実感が結局ないままだったと思うんです。歌舞伎が自分にインストールされて、全員で共有するものがあったうえでどう作っていくかを考えられるってすごく助かると思う。成河:要するに、アップデートするにはインストールが必要だって話。すごい原理主義なんだよね。ただ、普通はそこまでやれないよねって諦めるのに、木ノ下歌舞伎は本当にやっちゃうところが尊敬できる。それは石橋さんも同じで、こんな売れっ子さんで、ここまでやってくれる方、他にいないと思うし。岡田さんは岡田さんで、完コピ稽古を楽しそうにご覧になって、これを見たらあれをやりたくなった、これをやりたくなったと、毎日毎日新しい台本が出てくる。その純粋な好奇心と知性が、本当に素晴らしいなと。石橋:岡田さんって、事前に最低限のものだけ用意して、じゃあどうしようかって俳優に問いかけながら作っていく方で、去年ご一緒したときにすごく勉強になったんです。成河:俳優をすごく信頼してくださっているなと感じる。あと、歌舞伎の骨格は一切いじらないとおっしゃっていて、その徹底ぶりがちょっと常軌を逸してる(笑)。そのうえで、骨格にかぶせる素材はすべて変えるという…岡田さんもやっぱり原理主義なんだよね。でもそれは言い換えれば、ものづくりにとても誠実な二人ということでもあって、そういう方々と一緒にやれるのは幸せだよね。石橋:お二人とも作品を絶対に私物化しない方たちですしね。成河:すごいことだと思うよ。その二人が『桜姫東文章』をやるっていうのも…。鶴屋南北のわりと初期の作品で、設定とか筆が荒いぶんエネルギーがあって、情念みたいなものをひしひしと感じるホンだから。石橋:いろんな話が入り組んだカオスな物語だし、桜姫は演じたことのない役柄だし。最初は少年で、生まれ変わって姫になって、そこから遊女になって、最後に夫と子供を殺すって、女性の業が詰め込まれている気がして。でもめちゃくちゃ面白い。成河:しかも今回、歌舞伎では200年以上上演されなかった幕を復活するんですよね。非常に批評性の高いシーンだし、そこもぜひ楽しみに来ていただきたいなと思います。石橋:私、コロナ禍になってから、現実がフィクションすぎて物語が見られなくなっていたんですよ。そういう状況の中でホッとするのは、歌とか踊りとか、人間の生き物としてあるべき姿を原始的な形で見せてくれるものなんですけど、今回の作品は、そういう人間の原始的な部分に繋がっている気がしていて。物語を“観る”というより“体験する”気持ちで楽しめる気がします。成河:そうね。演劇だと構えずに、体験しに来たら絶対面白いから。木ノ下歌舞伎『桜姫東文章』ひょんなことから僧侶の清玄(成河)は、かつての恋人・白菊丸(石橋)の生まれ変わりが桜姫(石橋2役)だと知り、彼女への想いを募らせる。一方、桜姫は、暗闇の中で自分を襲った盗賊・権助(成河2役)を忘れられず…。2月2日(木)~12日(日)池袋・あうるすぽっと作/鶴屋南北監修・補綴/木ノ下裕一脚本・演出/岡田利規出演/成河、石橋静河、武谷公雄、足立智充、谷山知宏、森田真和、板橋優里、安部萌、石倉来輝一般7000円ほか木ノ下歌舞伎 TEL:050・6873・6681豊橋、京都、新潟、久留米公演あり。ソンハ1981年生まれ、東京都出身。野田秀樹、サイモン・マクバーニー、小川絵梨子などさまざまな演出家の舞台で活躍。大河ドラマ『鎌倉殿の13人』には義円役で出演した。シャツ¥33,000パンツ 参考商品(共にPHABLIC×KAZUIinfo@phablickazui.jp)その他はスタイリスト私物いしばし・しずか1994年生まれ、東京都出身。2015年に俳優デビュー。近作では大河ドラマ『鎌倉殿の13人』などで注目を集める。現在、出演ドラマ『探偵ロマンス』放送中。ニット¥28,600シャツ¥37,400パンツ¥39,600(以上ニアー ニッポン/ニアー TEL:0422・72・2279)ピアス¥57,500ネックレス 価格未定(共にカレワラ)スニーカー¥25,300(スプリングコート TEL:03・6868・5224)※『anan』2023年2月1日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・藤谷香子(成河さん) ヤマモトヒロコ(石橋さん)ヘア&メイク・山口恵理子取材、文・望月リサ(by anan編集部)
2023年01月29日デビュー約1年半。わずかなあどけなさを残しつつ、新世代ならではのスピード感で映画の主演を掴み取った、當真あみさん。その魅力に迫ります。真っすぐな眼差しが印象的な當真あみさんは、沖縄県出身の16歳。カルピスウォーターのCMなどで見せた透明感溢れるキャラクターが話題を呼び、一躍注目の存在に。現在は沖縄を離れ、本格的に俳優としての活動を開始している。「東京で暮らし始めて、沖縄にないものがたくさんあることに驚きました。建物の高さや人の数が全然違うし、お洋服もすごく種類があるからいろいろ見たりするのも楽しい。なので、今のところホームシックにはなっていないです」基本的にポジティブで、落ち込んだりすることも少ないという。「嫌なことがあっても、寝たら忘れちゃいます(笑)。お母さんや沖縄の友達に電話をすることも回復法のひとつ。相談するというより、話しているうちにだんだん元気になっていく感じですね」芸能界入りのきっかけは、地元でのスカウト。仕事を始めるまでは理学療法士を目指していたといい、スクリーンの向こう側に行くことは想像もしていなかったそう。「全てが初めてで、知らないことばかり。たくさんのスタッフの方がいて一つの作品ができていることも、このお仕事をするようになって知りました。俳優さんたちがその日の夜ごはんの話をしているのを聞いて、“普通の会話もするんだ!”という発見もあったりして(笑)、毎日がすごく楽しいです」現在公開中の映画『かがみの孤城』では、声優に初挑戦。主人公・こころを熱演している。「昔からアニメが大好きなので、アフレコの時に制作途中の映像を見ることができて幸せでした(笑)。ただ、実写の作品と違って声だけで表現しないといけないからすごく難しくて…。今までは意識したことがなかった息の使い方を考えるようになったので、実写のお芝居にも取り入れてみたいです」勉強熱心で意欲的な當真さん。休みの日は、演技を学ぶために映画を観に行くことが多いのだとか。「大きいスクリーンや立体的な音で楽しみたいから、映画館で観るのが好きなんです。最近は『母性』という映画を観て、戸田恵梨香さんが演じられていた役柄が深く印象に残りました。私自身は今まで自分と共通点のある役を頂くことが多かったので、自分にはない要素を演じられるようになることが今後の目標。ミステリアスな役や、ハジけた明るい役にも挑戦してみたいなって思っています」とうま・あみ2006年11月2日生まれ、沖縄県出身。’21年にCMデビューし、俳優として活動中。公開中の映画『かがみの孤城』では、鏡の中にある城に招かれた引っ込み思案な中学生・こころ役で声優に初挑戦。※『anan』2022年12月28日‐2023年1月4日合併号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・大村淳子ヘア&メイク・SAKURA(まきうらオフィス)取材、文・真島絵麻里(by anan編集部)
2022年12月27日年末にかけてさまざまなジャンルの映画がひしめき合っている時期だけに、どの作品を観ようか悩んでいる人も多いのでは?そんななかご紹介するのは、日常から離れて異世界へと迷い込みたい気分の人にオススメの注目作『餓鬼が笑う』です。今回は、こちらの方にお話をうかがってきました。田中俊介さん & 山谷花純さん【映画、ときどき私】 vol. 545自分を見失い、あの世とこの世を行き来する「骨董屋」志望の青年・大を演じたのは、映画『ミッドナイトスワン』をはじめ、話題作への出演が続いている田中さん。そして、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』など、幅広い活躍で注目を集めている山谷さんがヒロイン役の佳奈を演じています。そこで、共演を熱望していた2人が出会ったきっかけやお互いの印象、そして同世代の人たちに伝えたい思いなどについて語っていただきました。―田中さんはオファーをもらった際、企画書と台本を読んで本作の不思議な世界観に興味を持ったそうですが、どのあたりに惹かれましたか?田中さんこんなにもできあがりが想像できない作品はないんじゃないかな、というのが最初の印象でした。でも、異世界や骨董を扱っているところも含めて、なかなか見ない作品でもあると感じたので、そのあたりに関心を持つようになっていったんだと思います。あとは、平波亘監督をはじめ、顔見知りのスタッフやいままで共演したことがある方と一緒に映画を作れる喜びも大きかったです。―山谷さんも「この作品の終着点はどこなのかわからない」と感じたこともあったそうですが、演じるうえで悩むようなこともありましたか?山谷さん私は特に悩むことはなかったですが、観客の一人として、この作品がどういうふうにできあがるんだろうというほうに興味がありました。そういった部分を現場で直接見ることができたので、すごく贅沢な時間を過ごすことができたと思います。いつか一緒にと思っていたので、楽しみだった―以前から、お互いに「いつかきっと」という言葉を交わしていたとか。どういったきっかけで、そういう話になったのでしょうか。山谷さん最初に顔を合わせたのは、共通でお世話になっている内田英治監督のご飯会。田中さんのお話は内田監督からよく聞いていましたし、素敵な役者さんだなと思って見ていました。でも、まさかこのタイミングで共演できるとは。思っていたよりも早く実現できたと感じています。田中さんそうですね。僕もいつかご一緒したいと考えていたので、今回はすごく楽しみでした。―実際に、現場で会われてみて、印象が変わった部分はありましたか?山谷さんこれまでは、田中さんのお芝居は出来上がった作品のなかで見てきました。なので、過程を見るのは初めてでしたが、本読みのときにセッションをしてみて、「こういうふうに役を作っていく方なんだな」と。すごく正確で、いろんなことを自分のなかでしっかりと解釈し、カラダと一体化させてお芝居をされるので、そういう部分を知ることができておもしろかったです。田中さんありがとうございます。田中さんは、情熱や誠実さを言葉にして伝えられる人―ちなみに、素はどのような感じですか?山谷さん基本的にローテンションなイメージです(笑)。田中さんあはははは!山谷さんというのも、いままで私の前ではしゃいでいる姿を見たことがないので。ただ、お芝居や映画に対する、情熱とか誠実さというのをちゃんと言葉にして人に伝えることができる方だと感じました。それは、相手が受け取りやすい言葉を選び、思っていることを嘘偽りなく言うことができる心を持っているからだと思っています。田中さんそう言ってもらえて、うれしいです。僕は、出会う前から「演じることや役者としての熱量が高い人」という印象を持っていました。こんなに熱い人っているのかなと思うくらいほとばしるものがある方なので、共鳴できるのではないかなと。普段の僕のテンションはローですが、そういう部分での熱は自分にもあるつもりなので(笑)。ずっと抱いていた念願が叶ったからこそ、今回はものすごく楽しかったです。山谷さんのお芝居に、ゾクゾクする感覚を味わった―そんななか、お互いが相手役だったからできたといった瞬間もあったのではないでしょうか。田中さん僕が印象的だったのは、佳奈からあることを告げられる神社のシーン。山谷さんの気持ちがダイレクトに届いたので、実は自分でも予期せぬ返し方をしてしまったんです。でも、山谷さんのお芝居を受けたからこそ、イメージしていたものとは違うお芝居ができたんだと思います。そういう部分を引っ張り出してもらえたので、ゾクゾクするような感覚を味わえたシーンでした。山谷さんあの場面はすごく難しかったので、そう言ってもらえるとうれしいです。私は、最初と最後に出てくる古書店のシーンですね。あそこは背中同士で会話をするという感じでしたが、それがすごく心地よかった覚えがあります。「懐かしい香りがした」というナレーション通りだったなと。田中さんあれが「はじめまして」のお芝居でしたけどね。山谷さんそうですね。でも、本当に懐かしい香りがしたんですよ。たった数歩進んで本を読むというだけのシーンですが、田中さんのように背中から何かを感じさせてくれる役者さんはそんなに多くはないと思いました。田中さんに対して信頼があったというのもありますが、そんなふうにつながれた瞬間みたいなものがあったので、あのシーンが好きです。田中さんありがとうございます。山谷さん久しぶりに会って、お互いに褒め合うという……。田中さん照れ臭いですね(笑)。現実世界では、みんな同じようにさまよっている―タイトルにある「餓鬼」には、物質的に豊かであっても心が満たされない様子や欲深さなど、さまざまな意味がありますが、おふたりのなかにもそういう部分はあると感じていますか?田中さん僕はつねにありますね。劇中の大は異世界に行ったり、散々な目に遭ったり、いろんな経験をしていますが、現実世界でもみんな同じようにさまよっているんじゃないかなと。実際、僕自身も大みたいに心にぽっかりと穴が開いてしまったり、人とのつながりを拒絶してしまったりという経験が過去にありましたから。でも、周りの方から刺激と愛情をたくさん受けて虚無感を埋めていくことができ、そのおかげで生きていることを実感し、もう一度自分を信じてやって行こうと前向きになれました。誰でもいろんな悩みがあったり、そういう感覚に陥ったりするものですが、僕も同じような経験があったからこそ、その感覚や感情をストレートに表現できたんだと思います。―この役を演じたことで、ご自身に与えた影響などもありましたか?田中さん大もいろんな感情に苦しみますが、人との出会いがあったからこそ、もう一歩前に踏み出してみようと思えたのではないかなと。そこは僕も改めて気づかされましたし、やっぱり人とのつながりがないと生きていけないんだなと感じました。ただ、いまはSNSとかコミュニケーションの手段は増えているものの、そのぶん生きづらくなっているというか、芯の部分でつながれなくなっているようなところがある気はしています。山谷さん私にも餓鬼の部分はあると思いますが、それを表に出しても周りにいい影響を与えないだろうなとわかっているので、見て見ぬふりしているところはあるかもしれません。なので、「あるのはわかっているけど、自分のなかだけにしておいたほうがいいんじゃないかな」みたいな感じです。心の片隅に置きつつ、どこかで封印しているのかもしれませんね。基本的には、無理をしないように心がけている―つらくなったり、悩んだりしたときは、どのようにして気持ちを切り替えていますか?山谷さん普段、人に会うことが多いので、逆に人に会わなくなるというか、とにかく1人になりたいと思うことはあります。そういうときは部屋のなかを無音にしたり、クラシックだけを流してみたり、いつもとは違う音や環境に身を置くことが多いです。そんなふうに一回リセットするんですけど、そうするとまた人に会いたくなるんですよね。私も根本的には人とつながっていたいほうなので、その気持ちを取り戻すためにこういう方法を取りますが、基本的には無理はしないように心がけています。―それでは最後に、ananweb読者に向けてメッセージをお願いします。田中さん何が幸せなのかは人それぞれですが、やっぱり人は周りから何かをもらって生きているんじゃないかなと思っています。なかには「絶対に1人で生きていける」という強い人もまれにいますが、誰にでも弱いところがあって、何かに支えられているのではないかなと。実際、僕自身もそうですから。僕の場合は、映画に救われたところもあるので、そういう支えを見つけられたのは大きかったですね。まだそれが見つからないという人でも、さまよっているとふいに“救い”みたいなものがみなさんの前にも現れると思います。これは少し違うかもしれませんが、最近の僕は観葉植物の成長を見て癒されているところです(笑)。前はそんなことなかったんですけど、芽が出て広がっていくのを見るだけで幸せを感じています。山谷さん本作の現場で、田中泯さんも同じこと言っていましたよ!お百姓さんもされている方なので、畑を見るとそう思うみたいです。この作品を通して「1人じゃないよ」と伝えたい田中さんもしかして、僕も泯さんの境地に近づいたのかな(笑)。でも、そんなふうに生きて行くうえでの小さな幸せみたいなものは、あちこちに転がっているのではないかなと。もしかしたら、この映画も「いままでこういう作品には触れてこなかったけど、意外と好きかも」と感じてもらえることもあるかもしれません。これも何かの縁だと思うので、今回のインタビューを読んでくださった方のなかで、この映画によって何かが変わったり、活力になってくださったりしたら、そんなにうれしいことはないです。山谷さん生きていれば、苦しいことも悩むこともありますよね。でも、落ち込んだり、壁にぶつかったりしたときに「私なんか……」と自分を卑下すると、その傷をより一層深め、次に進む一歩がなかなか出せなくなってしまいます。そんなときは、まず視点を少し変えてみてください。そうすると、自分と同じような思いをしている人がたくさんいることに気づけますし、それによって勇気が湧いてきたり、悩みが小さく感じられたりするはずです。本作の大もまっすぐ歩けば簡単に着く道を右往左往して苦しみますが、だからこそ人とのつながりや愛を見つけることができたのかなと。佳奈もみなさんが共感できる役どころなので、女性たちには本作を通して「1人じゃないよ」というのを伝えたいです。そして、自分を守るうえでは、大切にしていた過去もスパッと切り捨てて、次に進む心意気もときには必要であるということも合わせて感じてほしいと思っています。インタビューを終えてみて……。作品からも取材中の様子からも、俳優としてお互いに絶大な信頼感を寄せていることが伝わってくる田中さんと山谷さん。演じることに対して真摯な姿勢と熱量は、同じものを感じずにはいられませんでした。次回また共演する際には、おふたりがどのようなセッションを見せるのか楽しみなところです。地獄と天国が入り乱れた幻想の世界へようこそ!生と死、そして夢と現実が交錯し、見たこともない世界観へと迷い込んでしまう本作。“餓鬼”がはびこる現代社会に生きているからこそ、観る者はもがきなからも愛にたどり着く主人公たちの姿に懐かしさとともに共感を覚えるはずです。写真・山本嵩(田中俊介、 山谷花純)取材、文・志村昌美田中俊介 ヘアメイク・奥山信次(barrel)スタイリスト・中川原有(CaNN)ジャケット¥121,000、ニット¥39,600、Tシャツ¥26,950、パンツ¥44,000(以上アクネ ストゥディオズ/アクネ ストゥディオズ アオヤマ 03-6418-9923)、その他はスタイリスト私物山谷花純 ヘアメイク・杏奈スタイリスト・高橋美咲ストーリー「骨董屋」を目指していた大貫大は、四畳半のアパートに住みながら路上で古物を売って暮らしていた。ある日、古書店で看護師をしながら夜学に通っている佳奈とすれ違い、一目で恋に落ちる。大は人生に新たな意味を見出したかと思ったが、広場で警察の取り締まりに遭い、警棒でひどく殴られて意識を失う。その後、大の人生の“何か”が狂い始め、先輩商人に誘われて行った山奥の骨董競り市場に参加した帰り道に、この世の境目を抜けて黄泉の国に迷い込んでしまう。人の膵臓を笑いながら喰らう異形の餓鬼や絶世の美貌で黄泉と常世の関所を司る如意輪(にょいりん)の女と出会い、大はあの世とこの世を行ったり戻ったりすることに。そして、自身の人生を生き直し始めるのだった。引き込まれる予告編はこちら!作品情報『餓鬼が笑う』12月24日(土)よりK’s cinemaほか全国順次公開配給:ブライトホース・フィルム、コギトワークス️©OOEDO FILMS写真・山本嵩(田中俊介、 山谷花純)
2022年12月23日アミューズに所属する若手俳優たちが一堂に会し、毎年おこなわれているファン感謝祭「ハンサムライブ」が今年も開催。今回は「応援してくれているファンに感謝の気持ちをぶつけたい」という想いを込め、「ROCK YOU! ROCK ME!!」と題し、歌とダンスを中心にしたお祭り感溢れる公演になるそう。小関裕太×甲斐翔真×兵頭功海小関裕太:やっぱりアミューズの仲間と年1回会えるっていうのは大きいですね。楽しかったり悔しかったりという積もり積もった想いを発散する場って意味合いもあるし。あとはやっぱり感謝を伝えたいってこと。兵頭功海:僕は去年が初参加だったんですけど、アットホームな場所だなと思ったんです。僕のことを知らないお客さんがほとんどだったのに、受け入れてもらえている感じがして。甲斐翔真:僕にとっては、感謝を伝える場っていうのはもちろんだけど、それ以上に、いろんなことを経験させてもらえる場所って感じですね。100の稽古より1の現場ってよく言うけど、人前でパフォーマンスすることで得られるものって大きいから。兵頭:確かに。練習では絶対に味わえないものがありますよね。普段、何千人の前で何かを披露するってほとんどないし、物理的にもダンスとか歌とかもさせてもらって、新しいことをたくさん経験できました。小関:本番、緊張した?兵頭:みんなと一緒に練習を重ねたので、本番で緊張はなかったです。甲斐:それは恵まれてるよ。僕の1年目は最後まで探り探りだったから。小関:僕は最初の年、錚々たる先輩たちの中で自分が残せるものってなんだろうって考えてたな。幸い歌もダンスも好きだったから、先輩たちを喰ってやる、くらいの殴り込みの気持ちで参加したのを覚えてる。甲斐:こわっ!いまの裕太くんからは想像がつかない。兵頭:稽古場に「ちーっす!」とか言って入ってく感じですか?小関:穏やかに、だよ(笑)。甲斐:「勉強させてもらいます」とか穏やかな笑顔で言いながら…。一番怖いタイプじゃないですか。――すでに気の置けない雰囲気ですが、お互いの印象を伺えますか?兵頭:裕太くんはあまり練習には来られてなかったのに、本番でステージに立っている姿がすごく大きくて。でも高圧的じゃなく、サラッと僕らに背中を見せてくれる感じで…。甲斐:かっけー!兵頭:翔真くんはデカい!あと歌がもう圧倒的で。稽古場でご一緒しても存在感が唯一無二なんですよ。甲斐:去年の功海は本当に楽しそうで、お祭りに来た少年みたいだなって思ったな。裕太くんはレジェンド。小関:ヤバッ。レジェンドなの?甲斐:だって10年間出てるんでしょ。レジェンドオブハンサムですよ。歌も踊りもトークも、コメディも。もう何をさせてもすべて勝ちです。小関:あ、ありがとうございます。確かに功海は楽しそうだったね。もともと真面目な印象が強かったから、現場で打ち解けていく様子が嬉しかったし、本番で素の自分をさらけ出せていたのがいいなって。翔真はね…やっぱ大きいから、歌っても迫力があるし、ダンスをスマートにキメたときがパワフルでかっこいい。甲斐:未だにダンスへの苦手意識が拭えないんですけどね。僕の体にダンスは適してないと思うんですよ。兵頭:大きすぎて収まらない。甲斐:そう。だから人より時間がかかるんです。だんだんダンスも楽しくはなってきているんですけど…。小関:だんだんダンス、ぜん全然!甲斐:急に何ですか!?(笑)――今回はどんな公演になりそうですか?希望などは伝えました?甲斐:ROCKがタイトルにある通り、僕らもお客さんも、感謝だったりいろんな気持ちをぶつけ合える場になれば…って書いてありました。兵頭:最後急に、どうしました?小関:途中まで説得力あったのに。去年はコロナだったり、いろんな悲しいこともあったうえで、前を向こうっていうのがテーマだったんだよね。今年はまたあらためてポジティブな気持ちで未来に向かっていけるような場になったら、と。甲斐:…って書いてありました。兵頭:(笑)。僕は今年は歌に挑戦してみたいというのは伝えてあって…。甲斐:僕は希望はとくに出さず、来たものは受け止める精神で。小関:今年のオリジナル曲もあるし。甲斐:楽しみですよね。小関:具体的な内容というよりも、この先の20周年を見据えたライブのあり方について話をさせてもらいました。歌とかダンスをしない人たちがいてもいいと思うんだよね。それぞれの得意分野で個性が光る場っていうのが理想なので。甲斐:あっ…僕、とにかく歌わせてくださいって希望を言ったんだった。――今回は、一度ハンサムライブを卒業した先輩たちも参加しますね。甲斐:稽古期間中に松島庄汰くんの誕生日があるらしいんですけど…。小関:そうなんだよね。甲斐:なので、どれだけ祝わずに過ごすかを目標にしたいと思います。小関・兵頭:(大爆笑)小関:功海が突然、庄汰さんに「おい松島!」って言う、とかね。甲斐:それ、台本に組み込んでほしいな。誕生日のくだりも全部。小関:庄汰さんの台本には誕生日のくだりが書かれてるのに、みんながスルーするっていう…(笑)。甲斐:盛大にね(笑)。庄汰くんなら、たぶん楽しんでくれると思うな。小関:あと今回、先輩たちのファンの方たちもいらっしゃるだろうから、会場の雰囲気がよりカラフルになる気がして、それも楽しみなんだよね。甲斐:お客さんには、ぜひ受け身じゃなく自分のロックをぶつけ合うくらいのつもりで参加してほしいよね。兵頭:僕ら新人も、先輩たちと一緒にやることで、自分たちにはなかった発想や新しい視点をいただける気がして、それも楽しみです。「Amuse Presents SUPER HANDSOME LIVE 2022“ROCK YOU! ROCK ME!!”」12月29日(木)・30日(金)LINE CUBE SHIBUYA座席指定席引換券9500円出演/青柳塁斗(30日のみ)、青山凌大、石賀和輝、猪塚健太、岩崎友泰、植原卓也、太田将熙、甲斐翔真(30日のみ)、小関裕太、桜田通(29日のみ)、富田健太郎、新原泰佑、東島京、兵頭功海、平間壮一(30日のみ)、福崎那由他、細田佳央太、松島庄汰、水田航生(30日のみ)、溝口琢矢、山﨑光(五十音順)30日には全国映画館でライブビューイング(無発声応援上映)あり。こせき・ゆうた(写真・中央)1995年6月8日生まれ、東京都出身。2023年1月4日より出演ドラマ『来世ではちゃんとします3』がスタート。また2月に帝国劇場で開幕し、大阪、福岡、札幌の4都市で上演される舞台『キングダム』では、えい政と漂の2役を演じる。ジャケット¥341,000シャツ¥132,000パンツ¥143,000靴¥128,700(以上MARNI/マルニ ジャパン TEL:0800・080・4502)かい・しょうま(写真・左)1997年11月14日生まれ、東京都出身。現在上演中のミュージカル『エリザベート』にルドルフ役で出演。2023年1月30・31日の千秋楽公演はライブ配信も。また3月に開幕のミュージカル『RENT』への出演も決定している。ジャケット¥308,000シャツ¥104,500靴¥123,200(以上dunhill TEL:0800・000・0835)パンツはスタイリスト私物ひょうどう・かつみ(写真・右)1998年4月15日生まれ、福岡県出身。2018年の映画『五億円のじんせい』で俳優デビューし、『騎士竜戦隊リュウソウジャー』で注目を集める。モントリオール・ヌーヴォー・シネマ映画祭などにて上映の短編映画『モジャ』に出演。コート¥96,000靴¥43,000(共にAPOCRYPHA./Sakas PR TEL:03・6447・2762)その他はスタイリスト私物※『anan』2022年12月21日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・岡本健太郎ヘア&メイク・Emiy菅野綾香インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2022年12月20日映画やドラマにおいて人気の高いキャラクターのひとつと言えば、私立探偵。裏社会で躍動する姿には惚れ惚れしてしまうところですが、まもなく公開の注目作『終末の探偵』でも、誰もが魅了されること間違いなしの新たな主人公が登場しています。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。北村有起哉さん【映画、ときどき私】 vol. 541本作で主演を務めているのは、幅広い役どころで数多くの話題作に出演している北村さん。劇中では、ギャンブルとお酒が好きで、女に弱くて情にもろい型破りな探偵・連城新次郎を演じています。今回は、役に込めた思いや男の色気とは何か、そして目標を達成するための秘訣について語っていただきました。―まずは、出演が決まった際のお気持ちと役作りで意識したことを教えてください。北村さんいままでいろんな役をやらせていただきましたが、探偵は初めてだったので、それだけでうれしかったです。ただ、どの時代にもいろんな国で探偵が主人公の作品はたくさんあるので、それをなぞることなく、令和の時代の探偵とはどんな人かを考えました。というのも、探偵というのは、その時代を映す鏡のような職業だと僕は思っているので。だから、探偵モノって滅びないというか、人気があって自由なんでしょうね。―具体的に、いまの時代ならではの部分を表現するためにしたこともあったのでしょうか。北村さん男臭さみたいなものだけを先行するのではなく、仕方ないなとため息をついているような感じも出せたらいいなと考えました。そこで提案したのは、「もういいよ、こういうのは」という口癖です。憂いながらも期待を持っているイメージで役を作った―そのフレーズを選んだのはなぜですか?北村さんいわゆる決めゼリフみたいなものですが、こういうぼんやりとした言葉のほうがいまの時代ではみんなに当てはまるんじゃないかなと思ったからです。それと、この言葉は憂いから思わず発してしまうものですが、その裏にはまだ願いが残っているんじゃないかなとも感じました。というのも、人は諦めたら「もういいよ」という言葉すら言わなくなるものですから。そういったこともあって、連城は仕方ないなと思いながらも人とつながっていき、憂いながらも「もしかしたら光が差し込んで来るかも」と期待しているようなイメージにしました。―なるほど。物語が進むにつれて傷だらけになっていきますが、それによって逆に色気が増していく様子はさすがだなと思いました。北村さんケガをして血が出て、痛みを伴うことでアドレナリンが出てくるので、それがそう見えるのかもしれないですね。連城というのは、決してケンカは強くないのに、「俺が悪かった」と相手が言うまで諦めないタイプ。ボロボロになりながらも相手のことを絶対に離さない厄介な人なので、一番嫌なタイプですよ(笑)。ただ、僕としては、鮮やかでキレキレな動きをするよりも、そんなふうにしぶとくて、ずるい人物像のほうがやりやすいというのはありました。どんどんダメージを負いながらも、それでも目標に向かっていくほうがリアルな気がしています。厳しさと優しさを同居させている人に色気を感じる―北村さんが思う“男の色気”とは何ですか?北村さんベールに包まれているというか、私生活が見えなくて、何を考えているかわからないような人が持っているものじゃないかな。そういう人は、怒るのか泣くのか笑うのか、次にどういう表情をするのかわからないですからね。昔、ある現場にいたのが、「まさに顔面凶器」というようなものすごい怖い顔をした小道具のおじさん。でも、一緒に飲みに行ったら仕事中はつり目だった目が一気にたれ目になってて、「何なんだ、この人!」と驚いたことがありました。でも、そんなふうに厳しい部分と優しい部分という2つを同居させている人は色気や深みがあるなと。あとは、何かを我慢しているような人も独特な雰囲気がありますよね。男の色気というのは女性だけが感じるものじゃなくて、同性からも慕われるような人にあるもの。俳優のなかでわかりやすい例を挙げると、佐藤浩市さんが圧倒的にそういうタイプですよね。同業者の後輩が憧れるような色気がありますが、本人はそんなことは意識していないですし、だからこそ素敵なんだと思います。―確かにそうですね。とはいえ、北村さんもミステリアスな印象があり、普段の様子が見えないと思っている方は多いのではないかなと。北村さんみなさんと一緒で、家ではいつも掃除機をかけたり、洗濯したりしていますし、子どもの幼稚園の送り迎えもしています。でも、洋服の畳み方が違うといつも怒られていますが(笑)。大事なのは、遠くの目標と近くの目標を立てること―それは意外な一面ですね。来年で俳優デビューから25年となりますが、キャリアを続けていくなかで、貫いてきたことはありますか?北村さん僕は、なるべく遠くの目標と近くの目標の両方を立てるようにしてきました。たとえば、10年後の自分と半年後の自分とそれぞれ2つの目標と立てたら、いまの自分を含めた3点を結びつけておく。そうすると、まず少し先の目標をクリアするために具体的に何をすればいいのかがわかってきます。もちろん、ビジョンを打ち出すのは非常に面倒なことですが、それがあるかないかで分かれるので、これはどんな職業でも年齢や性別を問わずやってみたほうがいいことかなと。ビジョンなんてわからないと感じるかもしれないですけど、「かっこいい車に乗りたい」とか「結婚したい」とか「バリバリ仕事したい」とか、本当に何でもいいんですよ。―まずは、自分のしたいことを明確にするということですね。北村さん夢みたいな目標でも、そのためにどうしようかと考えることが大事ですから。僕の場合は、「やりたいじゃなくてやる」「なりたいじゃなくてなる」と思ってやってきました。もちろん、そこに向かうのはしんどいですし、難しいです。でも、思うのは自分の自由というか、自分をどう追い込んで、どこまで解放できるかは、すべて自分の判断ですから。そんな感じで、いちいち立ち止まってやってきた気がしています。転機を迎えるときというのは、だいたい自分のビジョン通りに行ったときなので、それができたらまた次を打ち出す、その繰り返しです。これから先はどんどんサバイバルになるので、息の長い役者になるために、「60歳でも現役でいる」とか「健康に気をつける」とか、そういうことを意識していこうかなと考えています。時間というのは意外とないものなので、20代のうちにどこまで自己投資できるかも大切なことかもしれません。妻に笑顔でいてもらうための努力をしている―ちなみに、ご自身が20代のときにしておいてよかったことは?北村さん仲間とのつながりはもちろんですが、人の意見を聞くなかで、ケンカもして、仲直りもするというのがあればあるほど素敵なことだと思います。最近はそれも面倒くさいとなっているかもしれませんが、やっぱりそういうのがあると面白い。いろんな出会いや別れを経験して、影響を受けたほうがいいんじゃないかな。「絶対にコイツとは無理だ」と感じるくらいむかつくヤツがいてもいいんですよ。それによって、逆に自分のことがわかる場合もありますから。―では、仕事がオフのときの楽しみ方についてもお聞かせください。北村さん好きなお酒を飲むことが多いですが、いまは子どもといる時間が一番ありがたいですね。こういう職業をしているせいか、昔から死生観について意識しているというのも大きいかもしれません。まだカウントダウンするには早いですが、「あとどのくらい時間が残っているのかな?」と考えると、子どもたちとの時間は限られているんだなと感じます。僕は家庭を顧みないで飲み歩いたり、役者バカみたいなことをしたりするのかなと自分のことを思っていましたが、全然そんなことはなくて、意外と普通のお父さん。コロナ禍になる前から、仕事が終わったらまっすぐ家に帰っています。僕の父が忙しい人だったこともあり、父親との思い出がほとんどないので、僕はなるべく一緒にいてあげたいなと。あとは、少しでも妻には笑顔でいてほしいので、そのために努力してサポートしているつもりです。いくつになっても必要なのは、ときめくこと―素敵ですね。それでは最後に、ananwebを読む女性たちに向けてメッセージをお願いします。北村さん最近、ある女優さんとの雑談のなかで、「いい男の見分け方はありますか?」と聞かれたので、「いいなと思う人の友人関係を見てみたら?」とアドバイスをしました。どんな人とつるんでいるかで、その人がわかることもありますからね。それが読者のみなさんにも役立つかわかりませんが、とにかく臆することなくいろんな人と積極的に出会うことは大切だと思っています。あとは、「ときめいていきましょう!」ということでしょうか。ときめきというのは、いくつになってもできることですし、真剣な恋だけじゃなくて、誰かのファンになるのでもいいですよね。そういう気持ちになるだけで健康にもなると言われているので、目がキラキラするようなことをたくさんしてほしいです。インタビューを終えてみて……。劇中ではアウトローな魅力全開でしたが、とても穏やかで優しい笑顔が印象的な北村さん。撮影時には20年以上前にこれからブレイクする俳優としてananで取材を受けた際、うれしくてがんばろうと思ったというエピソードまで聞かせてくださいました。本作では、ぜひ泥臭くて色気に溢れる北村さんのかっこよさにしびれてください。型破りな魅力に、惚れずにはいられない!昭和の匂いを漂わせながら、令和ならではの要素も加え、新たな探偵映画として誕生した本作。多くの人が生きづらさを抱え、閉塞感に包まれている現代だからこそ、見事なまでの暴れっぷりには誰もが虜となり、爽快感と共感を覚えるはずです。写真・安田光優(北村有起哉)取材、文・志村昌美ヘアメイク・石邑麻由スタイリスト:吉田幸弘ジャケット¥31,900、パンツ¥15,400/ともにクラウデッド クローゼット(クラウデッド クローゼット 越谷レイクタウン店 048-930-7224)、インナー¥17,600/ディスティンクション メンズビギ(メンズビギ リミテッド 有楽町マルイ店 03-6738-3801)、その他スタイリスト私物ストーリーとある街に流れ着き、しがない探偵業を営んでいる一匹狼の中年男・連城新次郎。闇の賭博場で起こしたトラブルの代償として、顔なじみのヤクザである笠原組の幹部から事務所でボヤ騒ぎを起こした犯人を突き止めるように言われる。そんななか、新たな依頼人として連城のもとを訪ねてきたのは、若い女性ガルシア・ミチコ。突然消息不明になった親友のクルド人女性を捜しているという。こうしてふたつの厄介な依頼を背負い込むことになった連城だが、行く先で次々と緊迫の事態が巻き起こることに……。胸が高鳴る予告編はこちら!作品情報『終末の探偵』12月16日(金)より、シネマート新宿ほかにて公開配給:マグネタイズ©2022「終末の探偵」製作委員会写真・安田光優(北村有起哉)
2022年12月14日映画『夜、鳥たちが啼く』で、鬱々ともがきながら幸せを見つけていく小説家の慎一とシングルマザーの裕子を演じた山田裕貴さんと松本まりかさん。傷ついた男女が結びつきを体感し、ささやかな幸せを見つける物語。――演じたのはどんな役ですか?山田裕貴:慎一は、自分の苛立ちを人にぶつけてしまうところがある人です。そういうシーンの撮影では、カメラの位置や動きを冷静に考えている一方、気持ちは10割相手に向かってるんで、すごく不思議な感覚でした。松本まりか:裕子は、どうにもならないモヤモヤを抱えているけど、理解されず孤独で、かつての自分を見ているようでした。「自分みたい」というのは、山田さんにも感じていて。お仕事の量やスピードが変化する中で、イメージと本当の自分とが乖離して、叫びたくても叫べないような…。山田:確かに。“熱い、明るい、まっすぐ”が僕のイメージとしてあるけど、実はそうでもなくて…。でも、もう引くに引けなくなってます(笑)。松本:素質としては合ってるんだけど、みんなに喜んでほしくて、強く出しすぎちゃうんじゃない?山田:そう!つい頑張っちゃう。松本さんは僕を理解してくれてるから、とても安心できます。松本:私も山田さんの精神性を信用しているし、細胞レベルの相性みたいなものもいいのかな。――濃厚なラブシーンもありますね。松本:単なる性愛ではなく、慎一と裕子が本質的な意味で結びつく、崇高なシーンです。山田:言葉にできない愛情を描く上で、絶対に必要なシーンでした。松本:そう。脚本を読んだだけでは掴めなかったんですけど、触れ合ってみると、そこには二人だけの幸せという真実があって。本番前に、一回映像を確認させてもらったら、生々しくて美しくて。これはもう監督にお任せすれば、すべてを映画にしてくださるなって思いました。山田:ほぼ長回しでの撮影で、慎一として生きる時間を長くしてもらえたことはすごく助かりました。――二人の関係において、裕子の息子で小学生のアキラも重要ですね。山田:僕は、“常識的に”とか“世間的に”とかって言葉が嫌いなんですけど、彼ら3人は他人にどう見られようと、自分たちが幸せであればいいんだと気づけた人たちです。松本:裕子と慎一は体を交えても、外で手は繋げないような二人。そんなぎこちない二人の手をアキラが繋がせようとするんです。作中の空気感を自然と感じ取っていく(アキラ役の森)優理斗は天才だなと。ちなみに、現場で3人でいる時の山田さんは、無邪気にはしゃいでて、まるで大人優理斗(笑)。山田:ごはんがカレーってだけで一緒に踊ったり(笑)。松本:私も二人につられて踊ってるうちに、ついふざけちゃう、こういう無邪気な気持ちを思い出せたような気がします。『夜、鳥たちが啼く』佐藤泰志の同名小説を映画化。若くしてデビューしたが、今はくすぶっている小説家の慎一のもとに、友人の元妻・裕子が息子のアキラを連れ引っ越してきた。一定の距離を保っていた二人だったが、ある夜を境に関係性が変わっていく。12月9日より公開。©2022クロックワークスやまだ・ゆうき1990年9月18日生まれ、愛知県出身。2011年デビュー。今年、エランドール賞新人賞を受賞。来年、大河ドラマ『どうする家康』に出演。ドラマ『女神の教室~リーガル青春白書~』(フジテレビ系)もスタート。ジャケット¥81,000(ユウキハシモト)ブーツ¥43,000(アポクリファ) 共にサカス ピーアー TEL:03・6447・2762カットソー¥23,100(ダイリクd.dairiku@gmail.com)パンツ¥69,300ベルト¥26,400(共にシュープ/ワンダーラスト・ディストリビューション TEL:03・3797・0997)ネックレスはスタイリスト私物まつもと・まりか1984年9月12日生まれ、東京都出身。2000年、『六番目の小夜子』でデビュー。近年の出演作に『最高のオバハン中島ハルコ』など多数。また来年スタートの大河ドラマ『どうする家康』にも出演する。ドレス¥51,700(フェティコ)ブーツ¥33,000(センソ) 共にザ・ウォール ショールーム TEL:03・5774・4001イヤカフ¥62,000ゴールドパールリング¥129,000シルバーリング¥95,000(以上シャルロット シェネ/エドストローム オフィス TEL:03・6427・5901)※『anan』2022年12月7日号より。写真・岩澤高雄(The VOICE)スタイリスト・森田晃嘉(山田さん)中野ゆりか(松本さん)ヘア&メイク・小林純子(山田さん)福岡玲衣(TRON/松本さん)インタビュー、文・小泉咲子(by anan編集部)
2022年12月04日