『年収500万円で20年働く人 年収1000万円で10年働く人 損しないのはどっち?』(平林亮子著、幻冬舎)の著者は、経営コンサルタントとして活動しながら、大学やセミナー、企業研修等での講師も務めているという公認会計士。「お金について考えなければいけないと思っていても、なんとなく抵抗があってついつい後回しにしてしまう」「興味はあるけれど、なにを勉強すればいいのかわからない」「いろいろ勉強してみたけれど、結局よくわからなかった」このような声を耳にするたび、「お金に関する基本的な知識を楽しく届けたい」という思いが強くなっていったのだそうです。そこで本書が生まれたというわけ。とかく難しくなりがちなお金の知識を、ゲーム感覚で身につけられるような構成になっています。きょうはそのなかから、身近な経済についての2つのトピックスを引き出してみたいと思います。■1:お得なクオカードはどっち?コンビニエンスストアをはじめ、店舗によってはドラッグストアや書店などでも利用できるクオカード。300円、500円、700円、1,000円、2,000円、3,000円、5,000円、1万円と種類も豊富なプリペイドカードです。コンビニエンスストアで販売されているクオカードは、5,000円のカードに70円分、1万円のカードに180円分のプレミアムがつきます。逆に1,000円以下のカードの場合、カードの額面よりも少し高い金額で売られています。1,000円のカードは、特殊な絵柄のものでなければ1,040円。そのため1,000円のクオカードを10枚購入すると、1万400円になります。もちろん、買いものできる額は1万円。それに対して1万円のカードは、1万円で売られていて、買いものできる額は1万180円になります。1万円のクオカードを購入すると、1.8%の上乗せがあるということ。つまり、上乗せ分を考えると、プリペイドカードはなかなかお得なのです。そして上乗せといえば、同じく無視できないのがデパートの積立てサービス。たとえば毎月1万円を積み立てると、12ヶ月後に13万円分の商品券を受け取れるのだそうです。デパートによって積立金額や上乗せ分は変わるものの、よくデパートを利用するのであれば、積み立てておくとお得。またデパートの他に、旅行会社でも積立制度を用意しているのだというので、旅行の機会が多い方はチェックしてみるべき。ところで、すっかり使用頻度が少なくなったテレホンカードにも、意外な利用価値が。NTT東日本の通信料を、テレホンカードで支払うこともできるというのです。未使用のカードに限るなどの条件があるとはいえ、ただテレホンカードを眠らせているだけなのであれば使ってしまってもいいかも。必要のない積立やプリペイドカードの購入をするとしたら本末転倒ですが、普段からコンビニでたくさん買いものをしているのなら、上乗せ分のあるクオカードを活用すればおトクでしょう。■2:預金残高がゼロでも使えるカードはどっち?キャッシュカード、クレジットカード、デビットカードとさまざまなカードがありますが、それらの違いはおわかりでしょうか?キャッシュカードは、ATMを使って預金口座からお金を引き出すためのカード。クレジットカードは、ショッピング代金の支払いに利用できるカードで、一定期間の利用額をあとから決済する仕組み。指定した銀行口座から引き落とされるかたちで決済されます。また、ATMでお金を引き出すことも可能。一般的にキャッシングと呼ばれるものですが、これは預金口座からお金を引き出すわけではありません。いわば借金であり、あとから引き落としによって決済されるということ。つまりクレジットカードは、決済のときまでに必要な額が用意さえていれば問題なし。預金口座の残高が一時的にゼロであっても、利用することができます。そして、キャッシュカードとクレジットカードの中間に位置するのがデビットカード。クレジットカードのように、ショッピングの際の支払いに利用できますが、使ったときに使った分だけ預金口座から引き落とされることに。そのため、預金残高以上の利用はできないわけです。一時的な残高不足に対応してくれるものや、利用した店舗によって後日決済を行うケースもありますが、基本的には即時に引き落とされますし、分割払いもできないので、クレジットカードのようなローン地獄に陥ることがないわけです。おもなデビットカードは、銀行とクレジットカード会社が提携して発行しています。たとえば三菱東京UFJ銀行が発行するVISAデビットなら、VISAカードの使えるお店で利用可能。そして使った分は、その場で三菱東京UFJ銀行の口座から引き落とされます。なお「J-Debit」とは、日本の銀行のキャッシュカードをそのままデビットカードとして利用できる仕組み。この場合、J-Debit加盟店では、J-Debit機能を持つキャッシュカードをデビットカードとして支払いに利用することが可能。使った分はその場で、預金口座から引き落とされるのです。またデビットカードによっては、ポイントやマイルが貯まるものもあるのでお得。なにより、「クレジットカードを持っていると、つい使いすぎてしまう」という方にはいいのではないでしょうか?*このような「身近な経済」に関する話から、住宅ローンや社会保険などの疑問までを幅広く解消できる内容。「いつか知っておかなければならない」ことをクリアにするためには格好です。(文/書評家・印南敦史)【参考】※平林亮子(2015)『年収500万円で20年働く人 年収1000万円で10年働く人 損しないのはどっち?』幻冬舎
2015年12月06日モンテッソーリ教育は、シュタイナー法と並び「世界2大幼児教育法」と称される教育法です。根底にあるのは、子どもの「敏感期」がどういうものかを知り(→知る)、子どもをきちんと観察し(→見守る)、子どもに適切に声がけ、働きかけをする(→ときどき助ける)という子育てメソッド。欧米で実績のある手段なのだそうです。『知る、見守る、ときどき助けるモンテッソーリ流「自分でできる子」の育て方』(神成美輝著、百枝義雄監修)は、そんなモンテッソーリ教育を子育てに取り入れるためのコツを紹介した書籍。3章「『観察→発見→見守る』から始まる、今すぐできる10のこと」から、要点を引き出してみましょう。■1:観察する観察の目的は、子どもの「興味の中心」を見つけること。たとえば電車の名前をおぼえるのが好きだった子は、そこから、駅、地図、そこで働く人など、興味を広げていくもの。つまり子どもの興味の中心さえ見つけることができれば、そこから広がりを得ることができるということです。そこで、まずは子どもがなにに本当に興味があるのか、じっくり観察してみることが大切だと著者はいいます。■2:自由に選択させる「~しなさい」と親が決めたことをさせるだけでは、子どももやる気を失うもの。そうではなく、大切なのは「選択肢」を与え、判断力を育むこと。具体的には、小さいうちは「2択」。大きくなるにつれ、選択肢の数を増やしていくといいそうです。選択するという行動は、考える力につながるもの。なにかの困難にぶつかったときにも、「どうすればいいのだろう」と考えることができるようになるわけです。■3:見守り、挑戦させる子どもの方から「手伝って」「助けて」というサインを見せるまでは、大人はじっと待った方がいいのだと著者はいいます。なぜなら失敗をして、新たなやり方を見つける、もう一回最初からやってみるというようなことを繰り返すことによって、子どもは自分でいちばんいい方法を見つけ出すことができるから。「教えない教え」によって、やる気と自信、気づきの機会を与えるべきだということです。だからこそ、子どもの方から「手伝って」「助けて」のサインを見せるまでは、大人はじっと待った方がいいのだと著者はいいます。■4:ゆっくり見せる子どもにとって、大人の動きは早送りのDVDを見ているようなもの。普通のスピードでなにかを教えたとしても、まったくついていくことができないのだそうです。また子どもは、手と耳を同時に働かせることが苦手。口で説明をしながらなにかを教えても、混乱するばかりだといいます。子どもの動き方を教えるときには、(1)子どもがわかるように、ゆっくり見せる。(2)見せるときと聴かせるときを区別する。言葉での説明を同時にしない。ということを意識すべき。■5:子どもを待つ大人から見て、子どものペースが「のんびり」に見えたとしても、子どもは大人が思っている以上に考えているもの。順番を守ったり、習慣にこだわったりするなど、子どものなかには「厳しい秩序」があるので、そう簡単には進められないということです。そこで待ち時間は、「考える力」が伸びる時間であると心得ることが大切。■6:察するのをやめるお茶がほしいと目で訴えれば、なにもいわなくても用意してあげるなど、子どもの気持ちを察して先回りして動くことが多いのが大人。でも「察してしまう」ことが、意思を自分で伝える訓練の妨げになっているとか。知らんぷりをすることも、「伝える力」を伸ばすものであるということ。■7:ルールを設ける自由のなかに、ルールを持たせることも大切。きちんとルールがあり、それを破ると楽しめなかったり、トラブルになったりするということが学べるわけです。大切なのは、ルールをきちんと伝え、あとは見守ること。■8:オーバーにほめない子どもがなにかを「できた」と伝えてきたとき、大人は「やった~。すごいね~」とオーバーにほめてしまいがち。しかし子どもは何度も失敗してようやくできるようになったので、「これだけ練習したんだから、できて当たり前」「そんなにすごくはない」と思っているのだとか。しかし子どもは、「ほめられる」より「認められたい」もの。そこで、オーバーにほめずに、認めてあげることが大切だといいます。■9:共感する1歳半~3歳くらいまでの子どもは、なんでも「イヤイヤ」というイヤイヤ期。そんなときの対処法のひとつは、「イヤなのね。でも、いまから○○するからお片づけしよう」というように、“やりたくない気持ち”を受け入れることが大切。うれしいことも、イヤなことも共感することで、子どもとの心の距離がぐっと近くなり、「チャレンジ精神」が向上するそうです。■10:失敗させる子どもは失敗しながら多くのことを学ぶもの。だからこそ、間違っているときに教えてしまうのではなく、あえて失敗を「見せる」勇気が学力向上につながるのだと著者はいいます。*これらはほんの一例で、他にも「知る、見守る、ときどき助ける」ためにおぼえておきたいことが満載。子育てに四苦八苦している方は必読です。(文/書評家・印南敦史)【参考】※神成美輝(2015)『知る、見守る、ときどき助けるモンテッソーリ流「自分でできる子」の育て方』日本実業出版社
2015年12月05日『世界的な大富豪が人生で大切にしてきたこと60』(ジム・ロジャーズ著、プレジデント社)の著者名を見て、ピンときた方もいらっしゃるのではないでしょうか?それもそのはず、彼は世界的に大きな影響力を持つ投資家であり、同時に、多くのベストセラーを生み出してきた作家でもあるからです。米アラバマ州の貧しい家庭に生まれ育った彼は、奨学金でイェール大学を卒業し、オックスフォード大学ベリオールカレッジ修了。そののち投資会社クォンタム・ファンドを設立して巨額の富を得た実績を持っています。なんと、彼の投資は10年間で4000%を超える驚異のリターンを実現しているのだとか。それだけでもすごいのに、37歳で引退してからは世界を旅し、現在はシンガポールへ移住。なんともうらやましい生き方を実践しているわけです。本書は、そんな人だからこそ書けたといえる投資哲学集。しかし決して難解ではなく、もっと広い意味での人生哲学としても読むことができます。ここではそのなかから、お金に関する話題をピックアップしてみたいと思います。■人やモノなどはお金の流れについていくアメリカ経済に目を向けてみればわかるとおり、現在、アングロ・サクソンを中心とした「西洋モデル」が行き詰まりを見せています。その結果、世界の債権国は中国、日本、シンガポールとアジアに集中。こうした情勢について著者は、人、モノ、芸術、すべてがお金の流れについていくものだと記しています。先に触れたとおり著者はアメリカからシンガポールに引っ越しましたが、それもこのような世界の動きから判断したものだということ。■著者は「バブルは必ず崩壊する」と予測リーマンショック前の住宅ブームについては著者も、「明らかに異常」だったという印象を持っているそうです。「アメリカで過去にあんな事態が起きたためしはなかった」とも書いているので、皮膚感覚としてかなりの衝撃をおぼえたのでしょう。頭金もなく、仕事にも就いていない人が何軒も家を買えたわけですから、当然といえば当然です。そんなおかしな光景を目の当たりにしてきたからこそ、著者は「バブルは必ず崩壊する」と断言しています。過去の歴史を振り返れば、容易にわかることだとも。■ひたすらお金を刷っても問題解決しない大昔から、経済的に行き詰まると、政治家たちは「お金を刷る」という手段に走ってきたものです。しかし歴史を紐解くと、こういった政策がよい結果をもたらしたことはないとか。単純な話で、自国通貨の価値を下げるということは、結局のところ不健全なインフレを引き起こし、自国民を苦しめることになるからです。また、著者は増税には大反対だそうです。ここで、日本の話題を出しています。もしも著者が日本の政治家だったとしたら、お金を刷るのをやめて債務を減らす努力をし、減税して大幅に支出を減らし、関税も減らす。そして、移民を受け入れると。「まあこのようなことをいっていたら、日本の選挙で絶対に当選はしないでしょうけどね」とオチをつけていますが、少し残念な気もします。そして著者はリーマンショックあと、遠からず世界で通貨危機が起こると予言したのだそうです。事実、中東ではすでに起こっています。「アラブの春」と呼ばれる革命が起こった真の理由は、人々が政府の思想に反対したからではなく、自国通貨が弱くなってインフレが起こり、日用品が高騰して生活が苦しくなったからだということ。■アメリカは弾丸を全て撃ち尽くしている国際の債務不履行ということになれば、アメリカは未曾有のインフレに見舞われるだろうと著者。そうなると政府は、もはや国の借金を膨張させることも、紙幣の増刷もできなくなるといいます。そのときに直面する問題は、2008年の金融危機よりもさらに深刻で、過去最悪なものになるだろうと考えているそうです。アメリカはすでに、すべての弾丸を撃ち尽くしているということです。■大惨事のあとに新たなチャンスが芽吹く著者はふたたび、日本のことを話題にしています。たとえ、第二次世界大戦よりひどい状況になったとしても、過去の歴史や哲学から学び、自分の目で現実を確かめ、準備しておけば生き延びることはできるはずだと。事実、世界大恐慌のあとの1930年にも、多くの人が新たなビジネスを立ち上げましたし、日本も例外ではなかったといいます。もちろん戦争のおかげで一度はだめになってしまったけれども、戦後は見事に立ちなおったのですから。*1テーマが1見開きで、本文は左ページにまとめられているシンプルな構成。空いた時間を利用してさっと読めるので、忙しい人のも最適な一冊だといえるでしょう。ぜひ手にとってみてください。(文/書評家・印南敦史)【参考】※ジム・ロジャーズ(2015)『世界的な大富豪が人生で大切にしてきたこと60』プレジデント社
2015年12月04日きちんと勉強しなければと思ってはいても、なかなか手をつけられないのが現代思想。そこでぜひお勧めしたいのが、『フシギなくらい見えてくる! 本当にわかる現代思想』(岡本裕一朗著、日本実業出版社)です。フランス系のポスト構造主義、ドイツ思想、社会学の思想、アメリカの正義論、メディア論や倫理学、ブラグマティズムなど、現代を読み解くために役立つ思想をわかりやすく紹介した入門書。きょうはそのなかから、経済を考えるうえで重要な意味を持つカール・マルクスの考え方を解説した「資本主義崩壊が必然である理由」に焦点を当ててみます。■マルクスの亡霊がふたたび出現!著者によればカール・マルクスはいままで、何度も埋葬されてきたのだとか。もちろん「埋葬」というのは比喩ですが、たとえば最近では、1980年代末期から旧ソ連と東欧の社会主義国が崩壊し、マルクスは永遠に復活しないと考えられていたそうなのです。ところが2008年のリーマン・ショックを皮切りに、世界の資本主義が大きく動揺して「マルクスの亡霊」がふたたびさまよい出てきたということ。しかし、そもそもなぜ、マルクスは「現代思想の開拓者」なのでしょうか?■2つの視点から見た「資本主義」それは、マルクスが近代社会を資本主義社会として理解し、そこにある矛盾を暴き、崩壊する必然性を主張したから。事実、マルクスが批判した近代資本主義社会は、現代でもまだ乗り越えられていません。そしてマルクスは、資本主義を2つの視点から捉えているといいます。ひとつは、資本主義を完結したシステムと考え、それがどのように動いているかを分析したもの。これが『資本論』のテーマ。そしてもうひとつは、資本主義を大きな歴史的展開のうちに位置づけ、資本主義の由来と未来への展望を明らかにするスタンス。これは「唯物史観」と呼ばれるもの。マルクスの唯物史観によれば、社会的な変化は「アジア的、古典古代的、封建的および近代市民的な生産様式」というかたちで展開し、近代市民的な資本主義によって「人間社会の前史」が終わることになるのだそうです。つまりマルクスは近代の資本主義が崩壊することを確信し、新たな社会への移行を構想したということ。では「人間社会の前史」が終わったあとの社会を、マルクスはどう捉えていたのでしょうか?資本主義社会を批判したマルクスが、その到来を期待したのは「共産主義社会」。資本主義が経済活動の自由な競争を原理としているのに対し、共産主義は経済的な平等の観点から私的所有を制限するもの。とはいえ資本主義と共産主義の違いを、「自由か平等か」という説明で単純化するのは危険だとも著者は主張しています。共産主義は「自由を抑圧する社会」とイメージされがちですが、マルクスの考えでは、共産主義は「自由人の連合」だから。■マルクスの指す「イデオロギー」ところで現代思想につながる「イデオロギー」の意味を開拓したのはマルクスであるため、次に著者は、マルクスの「イデオロギー」に焦点を当てています。マルクスによると、「イデオロギー」は「法的・政治的・宗教的および哲学的形態」を指しているのだとか。だとすればイデオロギーは、人間の意識全体にまで及んでいるということになるでしょう。そしてマルクスの根本的な洞察によれば、人間の意識のあり方は、その社会の経済構造によって規定されるのだそうです。そのため社会の経済構造は「土台」と呼ばれ、そのうえに人間の意識形態である「イデオロギー」が「上部構造」としてそびえ立っているということ。これは、とてもわかりやすい表現だといえるでしょう。ともあれマルクスが近代社会を批判し、その崩壊を予言したのだとすれば、それにともなって近代的なイデオロギーも終わることになります。つまり現代思想は、近代的なイデオロギーが終わった地点からはじまるということ。そう考えると、いまふたたびマルクスが注目されていることも理解しやすいのではないでしょうか?*このように、現代思想とその開拓者についてわかりやすく解説されているため、知りたかったことを理解できるはず。読んでみれば、さまざまな疑問を解消できるはずです。(文/書評家・印南敦史)【参考】※岡本裕一朗(2015)『フシギなくらい見えてくる! 本当にわかる現代思想』日本実業出版社
2015年12月03日『ずるい暗記術―――偏差値30から司法試験に一発合格できた勉強法』(佐藤大和著、ダイヤモンド社)の著者は、TBS「あさチャン! 」のコメンテーター、フジテレビ「リーガルハイ」「ゴーストライター」など、数多くのメディアでも活躍している“マルチ弁護士”。いかにもエリートという感じですが、実際には勉強とはほど遠い環境に生まれ育ったのだといいます。なにしろ子どものころからなにをやってもダメで、高校時代は偏差値30の落ちこぼれヤンキー。模試の成績も最悪で、二浪の末にギリギリで地方の国立大学に滑り込めたのだというのです。でも「時間をかけずにラクして合格したい」という思いから、初めて法科大学院の試験を受ける2ヶ月前に独自の勉強法を編み出したところ、約8倍の倍率だという法科大学院試験に合格。さらに2年後には、司法試験にも一発合格したというのです。しかも、その勉強法はあまりにもユニークです。なにしろその勉強法は、「参考書を読む→問題を解く→答えを確認する」ではなく、「答えを見る→問題を見る→参考書を読む」ことだというのですから。■問題は解かずに答えだけを見る一般的に勉強法といえば、教科書や参考書を読み、おぼえるべきことをノートに書き、問題集の問題を解き、過去問に挑戦するというようなことになるでしょう。しかし著者は、時間は有限だからこそ、短い時間で早くおぼえたいなら、そうしたやり方を捨てるべきだと主張しています。そればかりではありません。問題を解く必要はなく、答えだけを暗記すればよいというのです。ずいぶん突飛な方法ですが、これには理由があるといいます。■勉強で特に重要なのは過去問!問題を解こうとすると、まず「できない」という壁にぶつかってしまうもの。しかしそれが挫折感につながり、結果的には「やらなく」なってしまいがちだというのです。でも問題集には、その解けなかった「答え」が明記されているもの。テストは答えさえ合っていれば合格できるものなので、答えを暗記する。そこからはじめるのが、いちばんの近道だというのです。そして、特に重要なのは過去問。なぜなら試験対策にうってつけなだけではなく、問題をつくる人も過去問を参考にしているからだとか。この方法においては答えを暗記することが大切なので、問題と答えを理解しようとする必要はないとすら著者はいいます。いうまでもなく、ゴールは「理解すること」ではなく、「合格すること」だから。理解していようがいまいが、受かってしまえばいいという合理的な発想。もちろん理解しているに越したことはないけれど、きちんと理解しようとすると膨大な時間がかかってしまうもの。だから「理解する順序を変える」わけです。頼りないような気もしますが、とんでもない。この勉強法には、最初方無理して理解しようとしなくても、継続して勉強するうちに「自然と」わかってくるという利点があるといいます。しかも暗記なら独学でできるわけですから、独学で誰にでもできるというわけです。■忘れることを前提にした暗記術とはいえ、「記憶力に自信がなく、暗記してもすぐに忘れてしまう」という方もいらっしゃるでしょう。しかし人間とは、そもそも忘れる生きもの。だから、忘れることを恐れる必要はないといいます。有名な「エビングハウスの忘却曲線」によれば、勉強した20分後に42%忘れ、1時間後には56%、さらに1日後には74%忘れるのだとか。しかし暗記は、忘れないためにするのではなく、忘れるから必要なのだという考え方。気にせず、忘れることを前提にした暗記術にシフトしていけばよいということです。■記憶を定着させる「絶対公式」ちなみに著者にも、教科書を1ページずつていねいに読んでおぼえる勉強法を実践していた時期があったそうですが、なかなかおぼえられなかったのだとか。しかし教科書や参考書を読む際には、時間をかけず、全ページをパラパラとめくるようにしたところ、その方が効果的に記憶できたのだそうです。そして、もうひとつ効果的だったのが、朝と夜の「記憶出し入れ術」。その日やったことを夜、短い時間で復習し、翌朝、それをもう一度思い出すだけ。シンプルな方法ですが、これを日々繰り返すことで記憶が定着し、勉強の効率も上がったといいます。つまり、「長い時間×勉強量=記憶力」ではなく、「短い時間×回数×勉強量=記憶力」だということ。これこそ、記憶を定着させる絶対の公式だと著者は記しています。繰り返すことによって、忘れる量を上回る情報を頭に入れておけばよいということです。*なお、この方法論は資格試験、英語、大学受験、入社試験など、あらゆる試験に応用できるといいます。つまり試験を乗り越えたい人にとっては、重要な一冊といえそうです。(文/書評家・印南敦史)【参考】※佐藤大和(2015)『ずるい暗記術―――偏差値30から司法試験に一発合格できた勉強法』ダイヤモンド社
2015年12月02日『コミック版 たった1分で人生が変わる片づけの習慣』(小松易著、KADOKAWA)の著者は、日本初の「かたづけ士」。2005年に、片づけの個人カウンセリング&コーチングを提供する「スッキリ・ラボ」を開業。現在は、個人から企業までを対象として「かたづけ」のコンサルティング、セミナー活動を行なっているのだそうです。本書は、話題となった同名書籍のコミック版。片づけについての大切なポイントを、コミックを主体とした構成によってわかりやすく解説しています。とはいえ、ここでコミックをご紹介することはできないので、要点を文章でお伝えしたいと思います。■まずは小さな「成功体験」から!著者はまず、過去の片づけや整理の仕方を「リセット」してしまおうと提案しています。大切なのは、テーブルまわりなど身近なところから整理しはじめること。たとえば押入れからはじめたりすると、たくさんモノがあるゾーンなので難しく、すぐにあきらめてしまうというわけです。つまり、身近なところから小さな「成功体験」を積むことが大事だということ。■キレイに整理する4つのステップ[ステップ1]出す次に大切なのは、気軽に片づけをはじめられるように、「整理」をさらに4つのステップに分けること。ステップ1は「出す」。なにも考えず、そこにあるモノをすべて「エリアの外」に出してしまおうということです。そして次は、出したモノを15秒以内で「使う」「使わない」の箱に分類。15秒で分けられなかったモノは「保留」の箱に入れるそうです。分ける際に重要なのは、「使える」「使えない」ではなく、「使う」「使わない」で判断すること。たとえば印刷できる書類、ネットでも見つかる情報しか載っていない雑誌などは、必要になったときに「入手可能」。再び「入手可能」なモノは、いったん捨てても問題ないわけです。また、古くなってモノとしての「賞味期限」が切れてしまったり、まだ「使える」けど「使う」機会がなさそうだというような、現実的に「使わない」モノも勇気を持って捨てることが大切。[ステップ2]分ける(分別する)人は捨てることを躊躇しがちですが、「減らす」ために必要なのは減らす「勇気」。モノは「使って」こそ「活きる」わけですが、使わないモノは当然のことながら活きません。だから、分けることが大切なのです。そして次は、「使わない」と決めたモノを「減らす」段階。「使わないモノは捨てる」という考え方が一般的ですが、現実的に「捨てる」のに抵抗がある人は少なくありません。また、捨てることでストレスを感じてしまったとしたら、それ以上片づけを続けることは不可能。そこで、リサイクルショップに出したり友人にあげたりして、「捨てずに減らす」わけです。結果的にそのモノはなくなるわけですから同じなのですが、そうすれば精神的に安定した状態をキープできるということかもしれません。[ステップ3]減らす分けて減らしたら、あとに残るのは「保留」と「使う」の2つだけ。「保留」の箱は、目立つところに置いておけばいいそうです。でも、置いておくだけで部屋の風景になってしまわないよう、期限を決めることが大切。期限が訪れたら、また分別するということです。[ステップ4]戻す(しまう)そして「使う」モノは、もとあった場所にすべて「戻す」。せっかく出したのですから、しまう場所を変えてみようと考えがち。ですが、新しくしまう場所を考えているとかえってゴチャゴチャにしてしまったり、時間を浪費したりすることになるのだそうです。「戻す」ことに徹するのも、基本をおぼえる段階においては大切だということ。■4ステップはたった15分でOK片づけは大変そうに感じられるモノですが、これら「整理の4ステップ」は、たった15分でできてしまうそうです。そして重要なのは、「楽しい」と思えるうちに終わらせてしまうこと。そのかわり、片づけを21日間続けるべきだといいます。なぜなら脳は21日間同じ行動を繰り返すと、それを当たり前の行動として認識してくれるものだから。つまり結果的に、それが「習慣化」するということだというわけです。一気に片づけようとしたら「リバウンド」しやすくなります。しかし片づけるエリアを狭くさえすれば、「整理の4ステップ」は1分でもやり切れるもの。「リセット」と「習慣化」、この2つを行うことが、片づけで人生を変えるための大事なポイントだということです。*このように考え方はとてもシンプル。しかも実際にはコミック形式になっているので、無理なく片づけのコツを身につけることができるわけです。乱雑な部屋をなんとかしたいと考えている方は、手にとってみるといいかもしれません。(文/書評家・印南敦史)【参考】※小松易(2015)『コミック版 たった1分で人生が変わる片づけの習慣』KADOKAWA
2015年12月01日「21世紀スキルシリーズ」は、「21世紀を生き抜くビジネススキルを提供する」というコンセプトに基づいた“ビジネスパーソンのための教科書”。きょうご紹介する『ここからはじめる実践マーケティング入門』(グロービス著、武井 涼子執筆、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、その第6弾にあたります。タイトルからもわかるとおり、テーマは「マーケティング」。電通、マッキンゼー、ディズニー・ジャパンなど国内外の企業でマーケッターとしてキャリアを積み、現在はグロービス経営大学院で教鞭をとる執筆者が、その基本から最新の考え方までを幅広く解説しているのです。しかも実際に授業を行い、その様子を収録したものなので、講義を聴くような感覚で読み進めるところが魅力。肩肘を張らず、たしかな知識を身につけることができます。■マーケティングの一般的な定義とは?ところでマーケティングとは、一般的にどのように定義されているのでしょうか?マーケティング研究がさかんに行われているアメリカの「アメリカ・マーケティング協会」の定義は、次のとおりだそうです。「マーケティングとは、顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである」難しい表現ですが、つまりマーケティングとはプロセスであるということ。そして経営戦略で有名なピーター・ドラッカーは次のような言葉を残しているそうです。「マーケティングの究極の目標は、セリング(売り込み)を不要にすることだ」商品があったとき、それを押し売りする必要がなく、買い手が「これほしいな」と思ったときにふっと買えること。ちなみに著者が教えているグロービスでは、マーケティングをこのように定義しているのだとか。「買ってもらえる仕組みをつくること」これは非常にわかりやすいですね。つまり、売れる仕組みに関わることであれば、すべてがマーケティングだというわけです。■マーケティングの「3C分析」とは?さて、マーケティングプランの構成要素のひとつとして、著者は「3C分析」というフレームワークを紹介しています。3Cとは、自社(Company)、顧客または市場(Customer)、競合(Competitor)を指すもの。ある商品を売り出そうという場合、数環境を分析し、市場機会を特定することになります。たとえば、「自社は老舗企業で、せんべいしかつくったことがない。でも、果物商だった専務がいて、実は果物に強い」、これが、自社分析。「どうやら我々の主要顧客である40代では、せんべいよりも飴の需要が上がっているみたいだ。PM2.5の影響でみんなのどが痛くて、最近は飴をなめるらしいぞ。しかも、のど飴には飽きていて、味のバラエティが求められているらしい」、これが顧客分析。そして、「老舗の飴のメーカーがこぞって新製品を発売してきた。でも果実味はない」、これが競合分析。■分析からどのように戦略をまとめる?では、これらの分析から導き出される新製品の特徴とは、どのようなものでしょうか?「自社は果物に強い。ターゲットの市場は伸びている。新しい味も受け入れられそうだ。ライバルの商品に果物味の飴はない。じゃあ、果物味の商品をつくろう!きっと売れるし、もうかるに違いない」となるということ。もちろんこれは一例であり、実際にはもっと細かく数字で特定していく必要があるでしょう。「40代は市場で唯一伸びている。伸び率は年10%だから、ここに参入しない手はない。かつ、40代で、フルーツ味の飴が好きな人が半分くらいいるということがわかった。この層の飴の消費の10%をとれれば収益が上がりそうだ。卸せる店舗数やとれる棚を考慮してもいけそうだぞ」というように、顧客分析から市場機会の特定を進めていくというわけです。そしてマーケットを特定するうちに、ターゲットもおおよそ決まってくるもの。そこから、より細かくセグメントとターゲットを絞り込み、ポジショニングが決まれば、マーケティング戦略が完成するという流れです。*もちろんこれはほんの一例ですが、マーケティングの基礎段階から、かなりわかりやすく噛み砕いて説明されていることがわかるのではないでしょうか?マーケティングという言葉はすっかり浸透していますが、その本質を学ぶ機会は意外に少なくないもの。だからこそ、本書を利用して学びなおすのも悪くないと思います。(文/書評家・印南敦史)【参考】※グロービス(2015)『ここからはじめる実践マーケティング入門』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2015年11月30日『口ベタでも上手くいく人は、コレをやっている』(サチン・チョードリー著、フォレスト出版)の著者は、ニューデリー生まれの「国際コンサルタント」。聞きなれない職種ではありますが、パナソニックやアクセンチュアなど、大企業のインド事業開発支援、M&Aアドバイザリーを行っているのだそうです。驚くべきことに、そのコンサルタントフィーは時給70万円。時給が会社員の2ヶ月分の月給と同じぐらいということからも、優秀な人物であることが伺えます。本書ではそんな企業コンサルのキャリアを軸に、コミュニケーションスキルの高め方を紹介しているわけです。そのなかから、第3章「必ずYESをもらえる『魔法の5ステップ』」を見てみたいと思います。■第1ステップ:印象をよくする(「雰囲気づくり」ステップ)いい雰囲気を生む雰囲気づくりのポイントは、大きく分けて3つあるそうです。ひとつひとつを見ていきましょう。(1)「見た目」の印象をよくする心も大切だけれど、同じくらい「見た目」も大切。著者はそういい切ります。ここでいう見た目とは、自分が努力すれば変えられる身だしなみや洋服のこと。見た目によって相手の受ける印象は大きく変わり、相手の行動にも影響するからだそうです。とはいっても、高価な服を買ったり、ブランドもののバッグを持ったりすべきだということではありません。安くてもいいから、自分に似合う、清潔感のある服装を心がけるということ。(2)会話の内容に応じて「空間」を選ぶ人は空間によって気持ちが変わるもの。広々とした清潔な空間ではリラックスでき、打ち解けた会話がしやすくなることに。たとえば会社の会議室よりも、ホテルのスイートルームでミーティングをした方が、新しいアイデアが生まれる確率が高いということです。空間を選ぶことで、会話の質が格段に変わっていくというわけです。(3)「場の雰囲気」を和ませるコミュニケーションは、相手との最初の出会いと会話からはじまります。だからこそ、第一印象は非常に大切。なかでも言葉による場の雰囲気づくりが、その後のコミュニケーションがうまくいくかどうかを決定づけるといいます。なお、場を和ませるときに重宝するのがユーモア。ユーモアから会話をはじめるように心がけると効果的だということです。■第2ステップ:信頼を得られる話し方をする(「信頼を得る」ステップ)このステップで大切なのは、目上の人に対して細やかな心配りをすること。相手が目上だったり、役職が上だったりするとおどおどしてしまいがちですが、それでは信頼を得られなくても当然。変に虚勢を張る必要はないにせよ、礼儀正しく、胸を張って接するようにすることが重要だということ。■第3ステップ:相手の興味・関心を探る(「関心を引き出す」ステップ)会話の場において「自分の思いどおりに話を進めたい」「相手を動かしたい」というときは、自分の話したいことを話すのではなく、相手が関心のあることを「聞く(=引き出す)」ことがとても重要になってくると著者。もしも「自分ばかり話していて、相手が話していない」と感じたら、すこしおしゃべりをやめ、聞き出す側に回るべきだといいます。事実、優秀な経営者や成功者たちの多くは、とても上手な聞き手だとか。■第4ステップ:自分のいいたいことを伝える(「伝える」ステップ)相手の関心を十分に引き出したら、次は、それに対して自分の伝えたいことをいう段階。会話のゴールに向かっていくということです。ここで著者は、商談を成功させようとする際に「やってはいけないこと」を取り上げています。それは、最初からものを「売りつけよう」と意識すること。そうではなく、相手が悩んでいる問題を探り出し、それを解決するというスタンスに立つことが大切だというのです。いいかえれば、相手の困っている部分、相手が興味を持ちそうな部分をまず引き出し、それに対するソリューションを提供していくということ。このことについて著者は部下に、“Be a doctor of a product.”(自分の商品の医者になれ)と伝えているそうです。その商品を買うことで悩みが解決するお客様のためのドクターになれば、結果的に商品も売れるという考え方。■第5ステップ:次の約束をする(「つなぐ」ステップ)ゴールがあるコミュニケーションの場合、次のアポイントが取れればまずは成功。そこでミーティングが終わる前に必ず、「次はいつお目にかかれますか?」と、次に会う日程を決めてしまうことが重要だといいます。帰社してからでは次の約束が取りにくくなるので、気持ちが盛り上がっているときに、次のアポイントを決めてしまうのがベター。雰囲気によってそこまで切りさせない場合でも、「ぜひ、またお目にかかりたいです」と次につなぐ言葉を伝えることが大切だといいます。*なお特筆すべきは、著者のたどってきた道のりです。約20年前に父親の仕事の関係でインドから来日し、お金も人脈もないところから「コミュニケーション力」を武器に人脈を築いてきたというのです。そんな裏づけがあるからこそ、本書の内容には強い説得力があるのかもしれません。(文/書評家・印南敦史)【参考】※サチン・チョードリー(2015)『口ベタでも上手くいく人は、コレをやっている』フォレスト出版
2015年11月29日「ポーター(PORTER)」「ラゲッジレーベル(LUGGAGE LABEL)などのブランドでおなじみの吉田カバンは、その機能性とデザイン性の高さからビジネスパーソンにもすっかりおなじみ。国内の協力業者の職人さんによる「メイドインジャパン」が特徴であり、年間180万本のカバンを生産しているそうです。そんな吉田カバンのビジネススタイルを明かしているのが、その名も『吉田基準 価値を高め続ける吉田カバンの仕事術』(吉田輝幸著、日本実業出版社)。現在も増収増益を続けているという、同社の成功の秘密が明かされているのです。■基本的に「値引き」をしない理由ところで吉田カバンは、原則として値引きをしないことで知られています。もし、小売店舗が承諾を得ずに値引きをしていた場合は、「商品引き上げ」という措置をとることもあるというのですから徹底しています。しかし、なぜそこまで値引きを拒むのでしょうか?著者によれば、そこにはいくつかの理由があるそうです。まず第一は、あとから値引きしたとしたら、定価で買ってくださったお客さまに対して失礼にあたるため。また値引きをするとブランドイメージも崩れ、当然のことながら利駅も減ってしまいます。もともと吉田カバンの商品は、手間ひまをかけて制作する職人さんの工賃と、材料費や運送費などの諸経費、そして一定の利益を乗せて「販売価格」を設定したもの。余分な上乗せは一切していないのだそうです。つまり値引きをしたとしたら、つくり手側は誰も幸せになれないというわけです。■百貨店との取引を減らした理由かつて、吉田カバンの主要販路は百貨店だったそうですが、2000年代に入ってから、百貨店との取引を徐々に減らしていったことがあったのだといいます。普通に考えれば、百貨店はきわめて重要な顧客であるはず。なのになぜ、そんなことをしたのでしょうか?著者によればその理由は、売り場の方との「考え方の違い」だったのだとか。というのも、いつのころからか百貨店からの要求がどんどん強くなっていったそうなのです。「吉田カバンの販売担当をする店員を2人雇ってくれ」といわれるときもあれば、「売り場のディスプレーは全部負担してほしい」「小品を置くための什器は持ち込んでくれ」というように、吉田カバン側の負担が大きくなっていったということ。そして、値引きをしない吉田カバンの商品はそれまで「セール除外品」となっていたのに、クリアランスセールの時期になると例外が許されなくなり、「今後、バーゲンを行うから必ず商品を何本か出してほしい」といわれるようになっていったのだとか。立場的に断ることができなかったため、やむなく対応した時期もあったとはいいます。しかしそれが何度も続いたので、「とてもこれ以上はおつきあいできない」との判断を下し、結果的に取引を減らしていったのだということ。メーカーと店舗との間で、ありそうな話ではあります。しかし近年は、取引を再開するケースが増えているのだそうです。吉田カバンのそうしたスタンスを理解してもらえるようになり、ブランドイメージが崩れないよう、「セレクトショップ的な商品構成の売り場で扱いたい」といったような依頼が多くなってきたから。方向性や考え方が認知されたということになりますから、時間がかかったとはいえ、これは理想的な展開だといえるのではないでしょうか?■あまり商品の値上げもしない理由ちなみに吉田カバンでは、値引きをしないかわりに、頻繁な値上げも行わないのだそうです。同社のカバンの主要顧客層は社会人男性。だからこそ多くのカバンは、1万円台から4万円台の価格帯に抑えるようにしているということ。いわば、「手の届く範囲での高品質」を目指すことが、吉田カバンのモノづくりの基本姿勢だというわけです。*他にも「広告を打たない理由」「バーコードを使わない理由」、果ては修理に対する考え方など、吉田カバンならではの考え方がぎっしりと詰まっています。なお余談になりますが、タイトルにもなっている「吉田基準」の語源についてもご説明しておきましょう。これは、決して妥協しない社員の姿勢に対して、職人さんや取引先の人々の間で使われはじめた言葉。だとすればそれは、本書に書かれている戦略があったからこそ生まれたといえるのではないでしょうか。(文/書評家・印南敦史)【参考】※吉田輝幸(2015)『吉田基準 価値を高め続ける吉田カバンの仕事術』日本実業出版社
2015年11月29日『銀行員が顧客には勧めないけど家族に勧める資産運用術』(高橋忠寛著、日本実業出版社)の著者は、金融教育ビジネスや資産コンサルティング事業を展開しているというファイナンシャル・プランナー。大学卒業後は東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)で法人営業や富裕層向け相談ビジネスを経験し、シティバンク銀行転職後は個人顧客に対する資産運用アドバイス業務に従事してきたという経歴の持ち主です。つまり本書ではそんなバックグラウンドを軸として、銀行員にしかわからない資産運用の方法や、お金についてのさまざまなエピソードが明かされているのです。きょうはそのなかから、資産運用に関する誤解と改善策に焦点を当ててみましょう。■1:「投資はギャンブルと同じ」という誤解「投資」という言葉に対し、「ギャンブルみたい」「槽場を当てにくいもの」などネガティブなイメージを持っている人は少なくないでしょう。しかし、そうしたイメージに支配されると、投資することのハードルは一段と高くなり、本来の投資とはかけ離れたことをやってしまいがちだと著者は指摘しています。ギャンブルは、短期で結果が必要。なぜならその方が、スリルと快感を次々と味わうことができるから。そして短期の売買は「相場を当てにくいもの」になり、そのリターンは他の投資家の損失を源泉とするものになります。つまり、儲かったお金の元手は誰かが損したお金だということ。しかし本来の投資のリターンは、そのようにして得るものではないと著者。たとえば企業の利益成長は、研究開発によって生み出された新技術や新製品、新サービスが、世間に受け入れられることで実現するもの。そのような「世の中に役立つ活動」を続けることによって企業価値を高め、その結果として株価が上昇し、投資家はそこからリターンを得ることができるわけです。当然ながら、企業の利益成長が株価に反映されるまでには長い時間が必要。いわば資産運用における投資とは、長期的な経済成長の流れにゆったり乗っていくことだというわけです。だからこそ、短期の値動きに惑わされることなく経済の成長を見守ることが大切だといいます。■2:「おいしい投資話がある」という誤解「お客様だけ特別ですよ」「いまだけですよ」そんな甘い言葉を使って、いかにも特別に儲かる話であるようなセールストークを持ちかけてくる人がいるもの。これは自尊心をくすぐるための常套手段で、意外なほど多くの人が引っかかってしまうのだそうです。しかし重要なのは、「おそらく、まともな金融機関の営業担当者で、このようなセールストークを使う人はほとんどいないでしょう」という著者の指摘です。預金の場合、ごく一部の大口預金者に対して優遇金利をつけるケースはあるものの、投資信託の場合であれば、「お客様だけ特別ですよ」などということはできないこと。つまり、絶対に成り立たないセールストークだということです。ところが残念なことに、世の中にはそういうことをぬけぬけと口にし、お金をなんとか引っぱり出そうとする輩がいます。詐欺的な金融商品を、なんとかして売りつけようとする人たちです。しかし冷静に考えれば、彼らのいうことはおかしな話だということがわかるはずだといいます。理由はいたってシンプルです。本当に「非常に有利な話」なら、人に紹介する前に、借金してでも自分で投資しようと考えるはずだから。結果こそ人によってさまざまだとはいえ、そもそもマーケットとは、機会が平等に与えられているもの。誰でも参加でき、かつ同じ条件の下で競争するものなのです。ということは、マーケットで運用する限り、「あなただけに特別、有利な条件を提供します」などという投資商品は成り立つわけがないということ。もし間違ってこのような詐欺的な金融商品に投資してしまったら、その元金が返済される可能性は絶望的に低くなると著者はいいます。その証拠に、これまでの歴史のなかでも、さまざまな詐欺商品が登場しては摘発を受けてきたのだそうです。仮に事件化してから詐欺会社の資産を差し押さえ、被害者に分配したとしても、おそらく1割も戻ってこないだろうとのこと。少なくとも過去に事件化したものでは、被害者への分配率は数パーセントしかなかったそうです。数年前、米国の診療報酬債権に投資するとうたって、円建ての元本商品であるにもかかわらず高利回りを約束する投資詐欺があり、摘発されたのだそうです。著者が外資系の銀行で仕事をしているとき、この投資話を信じ込んで投資してしまった人が何人もいたのだといいます。明らかにおかしな話だったため、著者は「確証はないが詐欺の可能性もあるのでやめるべきです」と伝えたといいますが、彼らは一様に、「とれは特別な仕組みで新しい投資商品だから」といいはり、騙されているとは認めなかったのだそうです。しかしその結果、騙されてしまったということ。一見すると人のよさそうな営業担当者の甘言に騙され、退職金の半分をこのような詐欺商品につぎ込んでしまったら、悲惨な老後を送らなくてはならないことになります。資産運用や投資以前の問題として、「世の中においしい投資話はない」と心得ておかなければならないと著者は主張しています。*このように、銀行員だからわかる話が本書にはぎっしり詰まっています。お金の知識を身につけたい人にとっては、きっと役立つ一冊です。(文/書評家・印南敦史)【参考】※高橋忠寛(2015)『銀行員が顧客には勧めないけど家族に勧める資産運用術』日本実業出版社
2015年11月29日『負の感情を捨てる方法 「最悪」は0.1秒で最高に変わる』(中島輝著、朝日新聞出版)の著者の半生は、なかなかに強烈です。5歳で里親の夜逃げを体験し、小学4年から分裂症、躁鬱症、パニック障害、統合失調症、強迫性障害、不安神経症などに悩まされることに。さらに25 歳から実家に引きこもるも、家業が約20億円の借金を抱えたため自殺未遂を繰り返したというのです。そして困難な精神状態のなか、独学で心理学やセラピーを学んで実践し、克服したのが35 歳のとき。その結果、目の前の世界が「最悪」から「最高」に180度変わったといいます。つまり本書では、そんな壮絶な体験を経た結果として身につけた、「生き方」のコツを明かしているわけです。キーポイントは、「とらわれ」からの離脱。■人は「とらわれ」から離脱することが大切!たとえどんなに成功を収めた人であっても、人は生きている限り、自分にないものを求め、それにとらわれてしまうもの。しかしその一方で負の感情を捨て、「とらわれ」からさよならすることも可能。感情には「快」と「不快」しかないので、「とらわれ」を排除して「快」の感情を積極的に受け入れられれば、見える世界も変わってくるという考え方です。だとすれば、まず「とらわれ」について知っておくことが重要であるはず。そこで、CHAPTER2で紹介されている、「『とらわれ』7つのパターン」を確認してみましょう。■負の感情を生む「とらわれ」7つのパターン「とらわれ」の原因は、周囲の環境に対する感情の作用ともいえるそうです。不快な状況、嫌なタイプの他人など、マイナスの状況や人と自分が対峙したとき、それに執着することで自分が「とらわれ」の状況に陥ってしまうということ。そんなとき、頭のなかでは、自分を取り巻く状況を認知(思考、イメージ)し、分析しているはず。この認知が焦りや不安などの感情を呼び出し、からだをすくませて行動しにくくしてしまうこともあるというのです。問題は、マイナスの思考やイメージという認知が、マイナスの感情を増幅させていくこと。一度そこに執着すると、次のような思考パターンにとらわれてしまいがちだといいます。(1)「0か100か」思考完璧主義の人に多いのが、白黒や良し悪しなど、ものごとを0か100かの両極端でとらえる思考。少しのミスも許せないので、自分が完全な状態でないと常に不満を抱くことになってしまうわけです。(2)超極端思考ものごとをネガティブに考えてしまいがちな人に多いのがこれ。ひとつの失敗や問題が起きると、すべて同じように失敗や問題が起きると考えてしまう。悪いことは拡大解釈するのに、よいことは過小評価するという思考だといいます。自分はなにをやっても同じだという考え方に傾き、チャレンジができない状態に。自ら不幸を底上げし、幸福を遠ざけていくわけです。(3)絶対◯◯すべき思考根拠や理由がないのに、「~すべきだ」「~しなければならない」という考えにとらわれる思考。さらに悪いことだけが目に入るような色眼鏡を通し、世のなかを見てしまう。一度考えたことはなにがなんでもやりとおさなければいけないと考えるので、できなかった自分に罪悪感を持ち、自分を次第に追い込んでいくことに。(4)感情的決めつけ思考自分の気持ちや感情によって、状況や周囲の人間を判断すること。特に不安や焦りなど、マイナスの感情の焦点を当てて、その後の行動を決めることに。感情に頼ってしまうため客観的な判断ができず、短絡的に決めつけるわけです。(5)マイナス化思考すべてのことを否定的に解釈する思考。この思考にとらわれていると、日常生活のすべてがマイナスに思えてくるとか。仕事にも前向きに打ち込めず、「自分はどうせなにをやってもダメなんだ」と、新しいことにチャレンジできなくなってしまうそうです。(6)結論思い込み思考いくつかのネガティブな出来事から、悲観的な結論を導き出すような思考。「きっと~に違いない」「また~だ」が口癖で、悲観的な結論どおりに自分を追い込んでしまうといいます。(7)悲劇の主人公思考マイナスな出来事を、なんでも自分の責任にしてしまう思考。周囲で起こったこともすべて自分のせいにしてしまうので、なにもやる気が起きなくなるというわけです。*毎日生活していると、いろいろなことがあるもの。そんななかでもし、もやもやした気持ちになったら、このような感情パターンのどれかに当てはまらないか考えて、見るといいそうです。どのパターンにあてはまるのかを客観的に把握するだけでも、相応の効果があるとか。そのうえで、自分の周囲の環境への意識を変え、感情に惑わされないようにすることが大切だというわけです。(文/書評家・印南敦史)【参考】※中島輝(2015)『負の感情を捨てる方法 「最悪」は0.1秒で最高に変わる』朝日新聞出版
2015年11月26日ちょっとした英文を翻訳したいとき、インターネット上の翻訳ツールを利用する方も多いのではないでしょうか。ところが問題は、「翻訳がひどすぎて使いものにならない」ということ。でも『英文“秒速”ライティング Yahoo!翻訳でミスのない文章を書くルール』(平田周著、日本実業出版社)の著者は、「あるひとつの工夫」をすれば問題は解決できると主張しています。■英語と文章構造がよく似ている「中間日本語」とは?大切なのは、英語にしたい日本語を「中間日本語」になおしておくこと。聞きなれない言葉ですが、中間日本語とは「英語的な構造をした日本語」。日本語と英語の文章構造が違いすぎるからコンピュータが誤訳してしまうわけで、だったら直訳してもきちんとした英語になるように、日本語の方を変えてしまおうという発想です。たとえば「彼は北京駐在になった」という日本語をコンピュータに訳させた場合、表示されるのはAs for him, Beijing become to it.という意味不明の英語。しかし日本語を「彼は北京勤務の任命を受けた」にするだけで、He received appointment of the Beijing duty.と正しく訳してくれるのです。自動翻訳が使いものにならないのなら、使えるようにこちらが細工をすればいいという考え方です。しかし、そうだとしたら、コンピュータがよく間違えやすい点をおぼえておいた方がより効率的です。いくつかのポイントをチェックしてみましょう。■修飾句が2つ以上の名詞にかかっている文は要注意!コンピュータがうまく訳せない文章の一例が、修飾句が2つ以上の名詞にかかっているもの。【原文】新幹線や自動車、自転車のヘルメットのような物体の流線型は、すべて水中の魚の研究に由来している。×The Shinkansen and a car, the streamline of the object such as the helmet of the bicycle come all from the study of the underwater fish.流線型(たとえば新幹線、自動車、そして自転車のヘルメット)。×Streamline(For example, it is the helmet of the Shinkansen, a car and the bicycle)↓【中間日本語】私たちは、流線型について魚から学んだ。それは、新幹線、自動車、自転車用ヘルメット、そしてその他に応用された。We learned from a fish about a streamline. It was applied to the Shinkansen, cars, a helmet for the bicycle and others.コンピュータは、すぐ隣にあるものだけを修飾していると勘違いすることがあるのだそうです。たしかに、ひとつ目の翻訳では、自転車のヘルメットだけが流線型となり、2つ目の翻訳では、新幹線、自動車、自転車のすべてがヘルメットになってしまっています。つまりこの場合は、「流線型を魚から学んだ」ことと、「流線型が新幹線、自動車、自転車用ヘルメットなどに応用されている」ことを分ければいいわけです。コンピュータは、ひとつの文のなかに項目が3つ以上並んでいる場合、なぜか翻訳に苦労するのだといいます。【原文】その家族は、父と母と、彼らの子どもで構成されていることを私たちは発見しました。×We found that the family consisted of the child of father and mother and them.(Yahoo!)×Their families, and the father and mother, we have discovered that it is composed of their children.(Google)■Google翻訳はうまく訳すのにYahoo!翻訳ではイマイチな日本語ところが「その家族は、父と母と、彼らの子どもで構成されている」にすると、GoogleはThe family is consisted of father and mother and their children.とうまく訳せたそうです。しかしYahoo!はそれでも、The family consists of the child of father and mother and them.となってしまうのだとか。そこで、「彼らの子ども」の「彼らの」を取ると、Yahoo!も次のように正しく訳せるのだそうです。We found that the family consisted of father and mother and the child.(Yahoo!)このように、3つ以上の項目が並んでいる文を英訳するときは、それらにかかる修飾が邪魔になるというわけです。*翻訳ツールを利用して文章を翻訳しないなら、「2」「3」を意識しておぼえておくとよさそうです。(文/書評家・印南敦史)【参考】※平田周(2015)『英文“秒速”ライティング Yahoo!翻訳でミスのない文章を書くルール』日本実業出版社
2015年11月25日『20代の君たちへ これだけはやっておきなさい』(川北義則著、KADOKAWA)というタイトルからもわかるとおり、本書のメインターゲットは20代のビジネスパーソンです。しかしその内容の多くは、20代だけではなく30代にも響くものではないかという気がします。ご存知の方も多いと思いますが、著者は『悪人のススメ』『遊びの品格』『大人の「男と女」のつきあい方』『半径3メートルの幸福論』など多くの著作を持つ人物。サラリーマンとして15年を経て独立した経験を軸に、ここでは人生設計についてのアドバイスを行っているわけです。第3章「20代の『学び』が人生を決める!」から、数字に関係する項目を引き出してみましょう。■数字の意味を把握して数字に強くなる!著者は社会に出たばかりのころ、先輩から数字に関するアドバイスを受けたことがあるのだそうです。それは、「数字はうろ覚えでもいい。だがケタは間違えるな」というもの。いろいろな人から忠告してもらったなか、「役に立った」という点において、このひとことは大きかったのだといいます。たとえばテレビのアナウンサーが、細かい数字を正確に末尾までおぼえていたとしたら、「すごい」と感心してしまうかもしれません。しかし現実的に、こういうことに大した価値はないのだと著者はいい切ります。具体的にいえば、「日経平均が『2万210円』と正確におぼえるよりも、「15年ぶり、2万円超え」と理解した方が役に立つという考え方です。「数字に強くなる」とは、数字そのものを正確におぼえることではなく、「数字がなにを伝えるか」を正確に把握できることが大切なのだということ。たとえば商売をしている人が、数字の意味を把握できていないためにケタで間違えたとしたら、大変なことになります。そしてもちろん、ビジネスパーソンでも同じことがいます。では、どうしたら数字に強くなれるのでしょうか?答えは勘案で、「基本数字」、つまりスタンダードをおぼえればいいのだと著者は記しています。■基本数字を覚えることで数字に強くなる例を挙げましょう。近年、外国人観光客が急増しており、2014年は1,341万人になったのだそうです。日本の人口比で見れば、1割に達する数字。とはいえ、これを「すごい」というのは単純すぎると著者はいいます。なぜなら、たとえばフランスへの観光客は8,300万人と、日本訪問客よりはるかに多いから。もちろん、先ごろのテロの影響が今後どのようなかたちで出てくるのかは定かではありません。が、少なくとも以前から、フランスは観光大国として認知されていたのです。では、日本への外国人観光客が増えたことに意味がないのかといえば、そうでもないのだとか。長い間、日本へ来る観光客は1千万人の大台を超えたことなかったというのがその理由です。ずっと800万人台で停滞していたというのですから、そういう意味では1千万人を超えたことは大きな出来事だったというわけです。「数字のどこに注目するか」が大切だということかもしれません。■ビジネス数字に関する2つのアドバイスこうしたことから、数字に関して著者が若い人たちにできるアドバイスは、「スタンダードを知れ」「ケタを間違えるな」の2つだとか。いまはなんでも、数字で説明することが多いはず。そんななか、数字を聞いて正しい判断ができる人は強いということ。なぜなら数字とは、事実の一面を可視化したものだから。だからこそ数字による判断が苦手な人は、これからのビジネス世界についていけないだろうと著者は予測しているわけです。ただし数字が万能かというと、必ずしもそうではないともいいます。よくいわれるように数字は嘘をつきませんが、スタンダードを知らなかったり、ケタを間違えたりすればいとも簡単に騙されてしまいます。しかし、数字で騙せるのは、ものを知らない人たちだけ。数字を正確に判断できる人の前では、どう取り繕っても嘘はつけないと著者。だからこそ重要なのは、「数字で嘘をつく者は、数字によって復讐される」という考え方。数字の怖さをきちんと理解し、数字をきちんと理解することがなにより大切だということです。*個性の強い作家ではあるので、その主張の強さに抵抗を感じる方もいるかもしれません。しかし先輩の言葉を冷静に受け止めることは、少なくとも無駄にはならないはずです。ビジネスパーソンとしての基礎体力を強化するという意味でも、素直な気持ちで読んでみる価値はありそうです。(文/書評家・印南敦史)【参考】※川北義則(2015)『20代の君たちへ これだけはやっておきなさい』KADOKAWA
2015年11月24日『お金持ちになった人が貧乏な頃からやっていること』(田口智隆著、フォレスト出版)の著者は、株式会社ファイナンシャルインディペンデンス代表取締役。マネー・カウンセリングの専門家として活躍している人物です。特徴的なのは、28歳のときのこと。自己破産寸前まで膨らんだ借金を、節約と資産運用によって2年で完済したという実績を持っているのだというのです。しかもその後は、「収入の複線化」「コア・サテライト投資」によって資産を拡大。34歳のときには、お金に不自由しない状態である「お金のストレスフリー」を実現し、起業したのだそうです。つまり本書ではそのような実績をもとに、お金持ちになるために心がけたい習慣を紹介しているわけです。■完璧主義にこだわるのはデメリットところでそんな著者は、自己投資の成果をアウトプットできない人の特徴として、「完璧主義」を挙げています。そしてそういうタイプは、不完全なまま走り出すのが気に入らないのだろうとも分析しています。しかし、「せっかく勉強したのだから無駄なく活用したい。完璧にやりたい。失敗しないように熟慮してから取り入れたい」というような考え方にはリスクがあるともいいます。なぜなら理由はともかく、なんでもやろうとすると逆になにもできなくなってしまうから。■学んだことの9割は捨てるのがいい一度に2つのことを考えるのが難しいのと同じで、同時に2つの行動ができる器用な人は少ないもの。基本は、1回の勉強の行動でひとつの行動だといいます。もっといえば、学んだことの“9割は捨てる”つもりでちょうどいいのだとか。大切なのは、まず、ひとつをやりはじめること。行動は変化なので、動けば必ずなにかが展開するもの。すると結果として、次にやることが見つかるのだといいます。逆に、あれもこれもやろうと「やりたいこと」だけをいくつも羅列すると、つい優先順位を考えはじめてしまう。すると優先順位の決め方に興味が移ってしまい、「お金につながらない自己投資」のための自己投資がはじまってしまうというわけです。しかし、優先順位を考えているひまがあったら、いちばん実行しやすいことからはじめるべきだと著者はいいます。事実、お金持ちになった人は一度にあれこれと手を出さず、「これ」と決めたひとつをかたちにするまでがんばるもの。とはいっても「これ」の選択は、特に理路整然とロジカルにやっているわけではないそうです。できることから順番に、「いま、できること」を最優先してやっていくということ。たとえばAとBの選択があるとします。そのとき、世の中的にはAを選ぶ人が大半だったとしても、もし自分のできることがBなのであれば、堂々と自信を持ってBをやればいいということです。■行動する理由を探す人であり続けるそれどころか、もっといえば、いまの自分にできることからはじめる以外に方法はない。著者はそうも断言しています。だからこそ、いま自分が置かれている状況でなにもやろうとしない人は、たとえどれだけお金をかけ、どれだけ素晴らしい勉強をしたとしても行動に移すことはないということ。いつまでも貧乏な人は、「もっと勉強したら」「もっとお金が貯まったら」「もっと時間の余裕ができたら」などといろいろ条件をつけ、常に「行動しない理由」を探して一向に動き出そうとはしないもの。しかし大切なのは、「行動する理由」を探す人であり続けることだといいます。■やらないことを決めてしまうといい「いまできること」をいまやらないなら、それは一生やらないに等しいと著者は指摘しています。でも逆説的に考えれば、「これはやらない」と決めてしまうことは逆によいアイデアだともいいます。なぜならそうすることで、すべきことが見えてくるから。投資の回収にしても同じですが、複雑に考える必要はない。著者はそういいます。判断基準は、「いまできるか」だけだから。そうはいっても、その判断ができるかどうかが非常に重要なのだといいます。しかし、どんな状況であっても、「やれるところからはじめよう」という感覚を常に持っている人は、なにごともうまくいく。それが著者の主張です。*大切なのは無理をすることではなく、「できることをする」こと。そんなシンプルな、しかし大切なことを、本書を実感させてくれます。(文/書評家・印南敦史)【参考】※田口智隆(2015)『お金持ちになった人が貧乏な頃からやっていること』フォレスト出版
2015年11月23日2016年1月から、マイナンバー制度がスタートします。ご存知の方も多いと思いますが、これは国民一人ひとりにID(個人番号)が割り振られるシステム。たとえば社会保険や税制度などの手続きを行う際、これからは個人番号が必要になるわけです。ところで『士業・コンサルタントのためのマイナンバーで稼ぐ技術』(横須賀輝尚、馬塲亮治著、飛鳥新社)は、この制度がスタートすることを「一発当てる絶好機」だと表現しています。■士業がマイナンバーで稼ぐ技術今後、国内企業はマイナンバー制度について担当者を置き社内周知を行い、情報管理規定をつくらなければならないことになります。しかしマイナンバー制度自体が初めての試みである以上、社内だけでどうすることができるはずもありません。だからこそ、対応するのは行政書士、社会保険労務士、税理士などの士業、そしてコンサルタント。つまり法律や税金、労務管理、経営に携わる士業やコンサルタントにとって、この制度の運用開始はビジネスチャンスになるということ。そこで本書では、マイナンバーで稼ぐための術が紹介されているわけです。■マイナンバーは国民全員の問題ただし、本書の価値はそこだけにあるわけではありません。士業にとってのメリットを説くための大前提として、「マイナンバーとはなにか」という根本的な部分にも焦点を当てているのです。マイナンバーが国民全員にとっての問題である以上、むしろ注目すべきはその点ではないでしょうか?どんな仕事に就いていようが、日本人である以上はこの制度を避けることは不可能だからです。そこで今回は、「マイナンバーとはなにか」という本質的な部分に焦点を当ててみたいと思います。■マイナンバーで情報統一されるマイナンバーとは、住民票を持つすべての人に対して、それぞれ12桁の番号をつける制度。社会保障、税制度、災害対策の3分野において、効率的に情報を管理しようというのがその目的です。正確には「社会保障・税番号制度」というそうですが、いずれにしてもこの制度の施行によってすべての国民に固有の番号を割り当て、税務署や年金事務所など、複数の期間に存在する個人情報を紐づけし、各機関の情報連携を可能にするというわけです。日本ではこれまで、基礎年金番号、健康保険被保険者番号、パスポート番号、納税者番号、運転免許証番号、住民票コード、雇用保険被保険者番号など、各機関が個人に対してそれぞれ別個に番号をつけていました。それがこの機会に統一され、ひとまとめに管理されるようになるのです。つまりは複数の期間に分かれて存在する個人情報が、同一人物のものであることが確認できるようになるということ。マイナンバーさえ照合すれば、個人の氏名や性別、住所、電話番号、出生地、生年月日はもちろん、社会保険関係の納付、納税、各種免許、口座番号、犯罪歴などの詳しい個人情報もわかるようになるというのですから、これは大きな変化です。そしてマイナンバー制度を導入する目的は、大きく分けると3つあるといえるそうです。■マイナンバー導入の3つの目的(1)行政の効率化先に触れたとおり、日本はこれまで基礎年金制度や健康保険被保険者番号などがそれぞれバラバラにつけられていました。「縦割り行政」と揶揄されたのはそのためです。つまり同一の個人情報が各機関に分散し、「重複していながら照合されない」という、非効率的な管理がなされていたわけです。しかしマイナンバー制度を導入すると、個人情報が番号ひとつで管理できるようになるため、無駄を省くことができるようになるのです。(2)国民の利便性の向上マイナンバー制度が導入されることにより、私たち国民もマイナンバーを使用し、社会保険や税関係などの行政手続きを簡単にできるようになります。たとえば引越しの手続きの際には、面倒な手続きが不要に。前の居住地の役所から所得証明書を取って送付するといった手間がいらなくなるのです。また、自分の年金や税金の振込記録、個人情報が役所でどのように使われたかなどのチェックも、インターネット上で確認できるようになるそうです。(3)公平・公正な社会の実現マイナンバーの導入により、個人の収入や、行政サービスの受給状況を国が細かく把握できるようになります。納税負担を不当に免れることや、年金や医療給付金などを不正に受け取ることを防止し、本当に困っている人にきめ細かな支援が行えるようになるわけです。一人ひとりの所得が正確にわかるので、その所得に対して税制控除や社会保険給付を組み合わせ、不公平をなくすための対策がとれるということ。いわばマイナンバーは、効率と公平の実現を目指す制度なのです。*しかしその一方、情報漏洩の危険性など、数々の問題点があることも事実。だとすれば必要なのは、正確な情報を入手することであるはず。つまり基本的な知識をつけるという意味でも、本書には多くの人にとって大きな価値あるわけです。(文/書評家・印南敦史)【参考】※横須賀輝尚、馬塲亮治(2015)『士業・コンサルタントのためのマイナンバーで稼ぐ技術』飛鳥新社
2015年11月22日きょうご紹介したいのは、『恋に嘘、仕事にルブタンは必要か? 心が楽になる57の賢人の言葉』(レベッカ・ラインハルト著、小嶋有里訳、CCCメディアハウス)。不思議なタイトルですが、内容もまたユニーク。「女の生き方」「教訓」「人間関係」「仕事」「男と女」「家族」「健康」の7カテゴリーについての考え方が解説されているのですが、そのベースになっているのは先人たちの考え方なのです。そう、カント、デカルト、プラトン、アリストテレス、孔子などなどの思想を、私たちの生活のなかに落とし込んでいるということ。つまり、日常生活のさまざまな場面で役に立つ、哲学的な考え方を伝授してくれる一冊。■哲学は世間一般のイメージより難しくない!ただ、哲学というとそれだけで難しそうなイメージがあるのも事実だと思います。しかしこのことについて、著者は次のように述べています。「秘密をこっそり教えると、哲学は決して消化不良を起こさせるようなものではありません。時に楽しく、そして時にちょっぴり魅惑的なものでもあります」だから気負う必要はなく、前から読み始めても、1日1ページでも、好きなように読み進めることが可能。Chapter01「女の生き方」から、数字にまつわるキーワード「時間」を引き出してみたいと思います。ここでモチーフになっているのは、初期ロマン派の有名な詩人であるノヴァーリスの思想です。■製塩所で働いていた病弱な詩人ノヴァーリス最初に、ノヴァーリスことフリードリヒ・フォン・ハルデンベルクについての解説を見てみましょう。フリードリヒ・ヴィルヘルム・シェリング、ルートヴィヒ・ティーク、シュレーゲル兄弟らと並び、初期ロマン派を代表する詩人のひとり。病弱だった彼は、製塩所での仕事と並行して個性的かつ哲学的な作品を書き続けたことで知られています。特に『花粉』(邦訳『ノヴァーリス作品集第1巻』に収録、ちくま文庫)は評価の高い作品。ちなみに、ドイツの偉大な詩人であるフリードリヒ・シラーの看病をした際に感染したと思われる肺結核で世を去っています。そんなノヴァーリスは、実体のない「時間」についてどのような考え方をしていたのでしょうか?■時間は思考を吸い取る恐ろしいモンスター!スケジュールはきっちりと守るべきものですが、それはなぜでしょう?1秒たりとも無駄にはしたくないから?それとも30分ものんびりすることに耐えられないくらいせっかちだからでしょうか?いずれにせよ、時間はどんなに節約したとしてもまったく手元には残ってくれないもの。でもそれは自分のせいではなく、「時間がモンスターだから」だと著者は表現しています。たとえば、「睡眠時間が短い」とか、「食べる時間がないほど忙しい」という人がいます。彼らは、自ら嬉々としてモンスター、つまり時間の格好の餌食になっているということ。同じように、飛行機を乗り継いではホテルからホテルへと渡り歩き、休暇も取れないビジネスパーソンの脳内にも、やはりモンスターが棲みついているもの。モンスターを前にしては、ビジネスクラスのゆったりとした席に座っていてもまったく無意味。ノートパソコンもスマートフォンも、モンスターを退治することはできないといいます。つまりモンスターは、人の夢を食べて生きていくバクのように、あらゆる思考を吸い取ってしまうということ。しかし、反対に「時間の効率はまったく気にしない」とか、スマホをちらっと見ることさえ耐えられないというのんびりした方もまた、モンスターからは逃れられないのだと著者。夏休みなどを待ち焦がれ、身もだえするような終わりのない時間を経験することは誰にでもあるもの。問題は、待てば待つほど、その永遠がさらに永遠になるような、終わりのなさです。それもまた、モンスターが、来るべき未来を遠くへ遠くへと追いやってしまっているということだというのです。■ノヴァーリスが残した時間についての言葉さて、ここでようやくノヴァーリスの言葉が登場します。彼は時間について、どのような表現を残しているのでしょうか?「人生は長くあってほしいところで短く、短くあってほしいところで長い」これはまさに、時間のことを的確にいい表した言葉だとはいえないでしょうか?少なくとも、時間が持つこのような性格を理解しておけば、「時間がない」、あるいは「休みまではまだ遠い」などと嘆くことは少なくなりそうです。*装丁もおしゃれで、しかもコンパクトなので持ち運びにもストレスなし。バッグのなかに入れておき、空いた時間に好きなページを読んでみるのもいいと思います。(文/書評家・印南敦史)【参考】※レベッカ・ラインハルト(2015)『恋に嘘、仕事にルブタンは必要か? 心が楽になる57の賢人の言葉』CCCメディアハウス
2015年11月21日中学1年の1学期の段階で英語学習につまずいて以来、英語アレルギーになってしまったという人も決して少なくないはず。とはいえ、いまから基本的なことを学びなおすのは決して楽なことではありません。そもそも「中1英語がわかりません!」だなんて、なかなかいいづらいですし。そこで利用したいのが、『マンガでおさらい中学英語』(フクチマミ、高橋基治著、KADOKAWA)。英語音痴のイラストレーターが、共著者である東洋英和女学院大学教授から教わったことをマンガにしたもの。だから、気楽に読みながら英語の基礎を学べるわけです。とはいえ、そのマンガをここに載せることはできませんので、今回は数字にまつわる話題を文章にしてお伝えしたいと思います。■まずは英語独特の「ものの見方を学ぶこと」が重要ここで扱われているのは「名詞」。基本中の基本ですが、英語は名詞に対して、日本語にはない「感覚」を持っているのだと著者は説明しています。それは、「数えられる・数えられない」という感覚。中学生になったばかりのころ、教わった記憶があるのではないでしょうか?でも、1つ2つと数えられるものは「数えられる名詞」、形のないものは「数えられない名詞」だといわれても、ピンとこなかった人もいるはず。しかし、ここで重要なのは「英語独特のものの見方を学ぶ」ことなのだと著者。■英語ではお金や情報、ニュースも数えられない名詞たとえばパンは物質名詞、つまり「気体や球体・個体で決まった形がないもの」に分類されます。でも、パンだって形はあるのに……と感じても不思議はないはず。ところが、それこそまさに日本語の感覚だというのです。なぜなら英語では、「素材」の方に注目する名詞があるから。パンだったら、「小麦粉でつくった生地」というイメージです。もっというと、比較的均質で、切ったりちぎったりするものは数えられない。英語は、そういう感覚を持っているというのです。同じように数えられない抽象名詞(形がなく、見たり触ったりできないもの)には、money(お金)、information(情報)、news(ニュース)も。どれも目に見えるのにおかしいと思われがちですが、つまりmoneyは紙幣などではなく、「量、価値」のイメージ。そしてinformationやnewsは雑誌やテレビではなく「電波」のイメージだということ。ちなみに抽象名詞はそんなに数がないので、おぼえてしまった方が楽だそうです。そして大切なのは、英語は「数」にとてもこだわる言語だという点。数えられる名詞が1つだけの場合は、a cup、an appleなど、前にaやanをつける。2つ以上のものには、two cupsなど最後にsをつける。いわゆる複数形です。■英語はaやsがとれると「加工された状態」になるでも、数えられる名詞なのに、aやsがつかないケースもあるのだといいます。たとえばオレンジが1個あった場合はan orange、5個あったとしたらfive orangesとなります。しかしオレンジジュースやカットオレンジなど、果実そのものではなく加工された状態になるとorangeに。aやsがとれると「加工された状態」のものになるということ。ニワトリならa chickenだけれど、鶏肉はchicken。桃はa peachでも、桃のジュースはpeachになるというわけです。また、逆に数えられない名詞にaやsがつくこともあるのだとか。たとえばexperience(経験・体験)は数えられない名詞ですが、「どういう経験なのか」を話してが具体的にわかっている場合は、an experienceとかmany experiencesなどといってもOKだということ。■冠詞は「みんなが連想できるかどうか」で決まる!ところで、数えられる名詞の前につく冠詞はaだけではなく、theもあります。でも、どちらをつければいいのかはわかりにくいことも……。でも、これはイメージがつかめれば簡単にわかるのだと著者。a(an)は、たくさんあるなかから、どれかひとつを取り上げるイメージ。そしてtheは、一般常識や、みんなが連想できるものとして「アレだよアレ。君の知ってるアレ」というイメージ。オレンジが5つあるなか、4つがデコポンで1つがいよかんだったとして、そのいよかんについて話しあったとします。その場合、いよかんがthe orangeになるというわけ。それから、この世にひとつしかないものや、「これ」とわかりきっているものにもtheを使うそうです。たとえば太陽はthe sun、月はthe moon。たくさんある星のなかのひとつを指す場合はa starだけれど、特定の星を指すならthe star。方角もthe eastとなり、the violinなど、楽器の姿も一般的な共通認識としてtheがつくのだといいます。*このようなことをマンガで解説しているため、とてもわかりすいはず。聞くに聞けなかった疑問を解消できるかもしれません。(文/印南敦史)【参考】※フクチマミ、高橋基治(2015)『マンガでおさらい中学英語』KADOKAWA
2015年11月20日いろいろなお店を見ていると、「こんな価格でお店は儲かるの?」と感じてしまうことはあるもの。しかしその一方では、価格は高めだし、でも絶対に値下げしない商品が売れていたりもします。そこには、どんなカラクリがあるのでしょうか?『なぜ、スーツは2着目半額のほうがお店は儲かるのか? 価格で見抜く“高くても売れる戦略 安くても儲かる戦略”』(千賀秀信著、SBクリエイティブ)は、「価格」についてのそんな疑問に焦点を当てた書籍。価格から儲かる戦略やビジネスモデルを会計的に分析し、強みや弱みなど、それぞれの特徴を明かしているわけです。きょうはそのなかから、「なぜスタバは値下げをしないのか?」に焦点を当ててみたいと思います。■アメリカでは270円なのに中国では「430円」2013年の秋に、中国の国営放送局が「中国のスタバは暴利をむさぼっている」と、価格の高さを批判したことがあったそうです。事実、アメリカでは約270円で売られているラテのショートサイズが、中国では約430円。たしかに、批判される理由はわからないでもありません。批判をかわすことができたのは、「スタバは快適な空間を提供している」「スタバに行けば、自分好みのコーヒーを知ることができる」などの意見が広がったから。これは、スタバの根本的なスタンスでもあります。■スタバはブランド化のために高価格戦略を有名な話ですが、つまりスタバでは、「スターバックス」のブランド化のために高価格戦略をとっているのです。価格を高く設定することで、スタバに行く顧客にはステータスが生まれ、他の人との差別化につながるという効果があるわけです。そんな高価格戦略は中国においても、高付加価値戦略のひとつの方法として受け入れられたということ。価格ではなく、おしゃれ感の演出(店内の雰囲気からリッチまで)の結果、「自分がステータスのある場にいる」という高揚感が生まれるわけです。すると結果的に、高付加価値戦略が実現できるという流れ。では、ブランドづくりにはどんなことが必要なのでしょうか?(1)ミッションを徹底するスタバには、「人々の心を豊かで活力のあるものにするためにーーひとりのお客様、1杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」というミッションがあるそうです。これらを徹底することが、社員には求められているということ。a. 1杯のコーヒーを心を込めてつくり、いつもおいしいコーヒーを出すこと。b. お客様には笑顔で接し(コミュニケーション)、安らぎを持っていただくこと。また行きたくなる雰囲気をつくること。c. そんなサービスを、おしゃれな店舗で提供していこう。つまり、どれが欠けてもスターバックスというブランドはできあがらないというわけです。(2)顧客の信頼を得るミッションに込められたメッセージは、「顧客との信頼関係を構築する」ということ。人と人との信頼関係は、約束を守ることからはじまるのです。そしてスタバが値下げをしないのは、「価格も顧客との約束」だと考えるから。値下げすれば「値下げ前の価格はなんだったんだ?」という不信感が生まれるので、それは避けなければならないということです。5万円したコートがバーゲンで半額になるということは、「5万円は高すぎました」と弁解しているのと同じ。それは、ブランド構築にはつながらない行動だというわけです。(3)サービスでこたえる価格で商品(コーヒー)を売るのではなく、サービスを売っているのがスタバ。そして、そのサービスこそ第3の場所(サードプレイス=家と職場の中間地点)の提供。自宅でもなく、オフィスや学校でもない場所としての機能性です。さらにはフードメニューがあまり豊富ではないのも、食事を積極的に提供するコーヒー店との差別化を図るための策。大切なのは、食事をする場所ではなく、家庭、職場、学校などを離れ、気分転換するための第3の場所という経営戦略を実現すること。そのためには、コーヒーに絞った専門性が必要だということです。■一般的な飲食店より長いスタバの研修期間提供している商品やサービスについて専門性があることは、とても重要。そうでなければ、サービスでこたえることも、顧客の信頼を得ることもできないからです。だからスタバでは専門性を重視し、社員をしっかり教育する仕組みができているのだとか。一般的な飲食店の場合、研修期間は長くても2~3日ですが、スタバではアルバイトも正社員も区別せず、80時間の研修を2ヶ月かけて行うのだといいます。この研修を受けて初めて、バリスタとして店で働けるということ。そしてバリスタとして働くと、さらに目標が設けられているといいます。バリスタトレーナー、ブラックエプロン、シフトスーパーバイザー(時間帯責任者)という役割に挑戦し、自己の成長をはかることができるのです。このような人材育成の仕組みは、スタバの離職率の低さを実現する原動力になっているといいます。つまり、スタバの成功の裏側には、このように緻密な戦略が隠されているということです。*これはひとつの例ですが、本書では他にもさまざまな「売れる戦略」「もうかる戦略」が紹介されています。そしてそれらはビジネスに役立つだけではなく、読み物としても楽しめるはずです。(文/書評家・印南敦史)【参考】※千賀秀信(2015)『なぜ、スーツは2着目半額のほうがお店は儲かるのか? 価格で見抜く“高くても売れる戦略 安くても儲かる戦略”』SBクリエイティブ
2015年11月19日イライラや緊張、不安や落ち込みなど、イヤな気持ちはついつい引きずってしまいがちなもの。なんとかしたいと思っている方も多いのではないでしょうか?そこで役立てたいのが、『イヤな気持ちは3秒で消せる!』(西田一見著、現代書林)。夢や目標達成をサポートする「目標達成ナビゲーター」として、講演・講習など28万人以上の指導実績を持つという著者が、イヤな気持ちを消し去る術を解いた書籍です。■イヤな気持ちが消える「3秒ルール」とは?ここで大きな意味を持っているのは、イメージ、言葉、動作の3つが脳のソフトをつくっているという考え方。人間の脳にとっては「入力」情報が「イメージ」であり、「出力」情報が「言葉」「動作」であるということ。そして、記憶のデータベースである脳の役割は、さらに細かく分けると次の3つになるといいます。(1)「どの情報を受け取るか?」=「入力」をコントロールする役割(2)「どのような意味合い・位置づけで受け取るか?」=判断する役割(3)「どのような情報を発するか?」=「出力」をコントロールする役割つまり脳は、情報を入力し、情報を出力し、また情報を入力し……ということを繰り返しているというわけです。■3つのプラスを脳に流し込む「3秒ルール」そして著者のいう「3秒ルール」とは、これら「イメージの力、言葉の力、動作の力」を次のように掛け合わせたものなのだそうです。「強烈なイメージの力」×「強烈な言葉の力」×「強烈な動作の力」だとすれば気になるのは、どんなリズムで「3秒ルール」を行うのかということ。しかし著者によれば、それはとても簡単。カウント1で「プラスイメージ」カウント2で「プラス言葉」カウント3で「プラス動作」この3つのプラスを、ぐるっと一気にひと回りさせ、脳に流し込むイメージだといいます。わかりにくい気もしますが、プロレスラーのアントニオ猪木さんの「1、2、3、ダーッ!」という雄叫びのリズムなのだとか。重要なのは、1秒で「いい!」と感じるイメージ、言葉、動作をつくること。紹介されているその方法を見ていきましょう。なにかイヤな気持ちになったら、イメージ、言葉、動作によって次の(1)か(2)を選び、「1、2、3、ダーッ!」と同じリズムで掛け合わせるのだそうです。【プラスイメージ】(1)1秒で、好きな食べもの、好きな動物など、自分の好きなものにひもづけるあるいは、(2)1秒で「イヤだと感じた、だけど、いまはがんばりどころだな」など、「だけど接続」のイメージを使うなお(2)は強力ですが、慣れないうちは(1)からはじめてみてもいいそうです。【プラス言葉】(1)1秒で、「できる!」「いい!」「好き」などのプラス言葉を使うあるいは、(2)「プラスイメージ漢字」+「だから必ずうまくいく!」と発声するこの(2)はハイレベルなので、まずは(1)からやってみることを著者はおすすめしています。【プラス動作】(1)1秒で、ニコッと笑うあるいは、(2)1秒で自分の決めた「お約束ポーズ」を取るこれも(2)は強力なので、まずは(1)からはじめてみてもいいとか。■すぐできる「3秒ルール」初心者バージョン上記を頭に入れたら、次は「実践ワーク」。本書では「初心者バージョン」と「応用バージョン」が紹介されていますが、きょうは初心者バージョンを見てみましょう。初心者バージョンは、言葉、動作、イメージとも、やりやすい(1)を選んで掛け合わせるのだといいます。これを使いこなすだけでも、イヤな気持ちをたった3秒で消し去ることができるようになるのだと著者。やり方はとてもシンプルです。なにかイヤな気持ちになったとしたら、3秒ルールで(1)大好物を思い浮かべる(2)「できる!」とつぶやく(3)笑顔になる(4)笑顔になるその「出力」を、リズミカルに脳へ送り込む。たったこれだけだそうです。*つまり著者の主張する「3秒ルール」とは、自己暗示のひとつなのかもしれません。だとすれば、(現実的に、慣れるまでには時間がかかりそうですが)ものにさえしてしまえれば活用する価値はありそうです。(文/印南敦史)【参考】※西田一見(2015)『イヤな気持ちは3秒で消せる!』現代書林
2015年11月18日『「ありがとう」と言われる接客・販売の教科書』(川﨑真衣著、あさ出版)は、接客を筆頭としたコミュニケーションについての大切なことを解説した書籍。著者は、学生時代のテーマパークでのアルバイトをスタートラインとして、さまざまなサービス業に携わってきたという人物。高いプロ意識が要求される東京ディズニーランドのツアーガイドキャスト経験もあるのだといいますから、まさにサービスのプロフェッショナルといえそうです。そんなキャリアを生かし、現在はさまざまな企業に向けた研修、講演、コンサルティングを通じ「仕事を楽しめる人材育成」をサポートしているのだそうです。■「ありがとう」といわれる努力をするそんな著者は本書の冒頭で、「お客様から『ありがとう』の言葉をいただくために仕事をしましょう」と提案しています。意識しておくべきは、「ありがとう」とは、お客様から自然発生的に出てくるのを待つものではないということ。はじめから「ありがとう」といわれるための努力をすることによって、意図的に生み出すものだというわけです。そして結果的には、自分自身が最高に気持ちよくなれる。だからこそ、そうなるために仕事をしましょうというのです。■「ありがとう」といわれるためには?では、「ありがとう」といわれるためには、どのような人になればいいのでしょうか?たとえば、「気持ちのよい挨拶ができる人」「どんなお客様の要望にも笑顔で応えられる人」「いろんなことに気のつく人」こういう単純なことでいいのだとか。しかし、そこにもうひとつ、次の要素を付け加えるべきだともいいます。それは、「ナンバーワンになる」ということ。■職場の人から必要とされる存在になる「ナンバーワンになる」というと、マイナスの印象を持つ人もいるかもしれません。一番になるために周囲を蹴落としていく、ガツガツしたイメージ。しかしそうではなく、この場合のナンバーワンとは、職場で上司に、部下に、仲間に、認められて必要とされる存在になるということ。あるいは、お客様に選ばれる人になること。そうなって初めて、「オンリーワン」になれるという考え方です。けれど、どうすれば認められ、必要とされ、選ばれるのでしょうか?■「ありがとう」といわれる環境つくりそれは、どんなに小さなこと、狭い世界でもいいから、そのなかでナンバーワンになること。そうなれてこそ、上司に、部下に、仲間に、お客様に認められ必要とされる唯一の存在、「オンリーワン」になるというわけです。ナンバーワンになる努力をすることで、「あなただから頼みたい」「あなただからできる」と思われる可能性が生まれる。つまり、「ありがとう」といってもらえる環境を自分から積極的につくることができる、最良の目標設定だということです。次にすべきは、自分にとっての「ナンバーワンの目標」を立てること。職場などで自分がナンバーワンになりたいこと、なれそうなことを見つけ、それを実現していく。難しいことのようにも思えますが、ナンバーワンになり努力をし、誰にも負けない部分を磨いていくことによって、やがて「本当のオンリーワン」になれるといいます。ひとついえるのは、ナンバーワンといっても、ものすごく小さくて狭い世界だということ。でも、それでいいのだと著者は主張します。逆にいえば、小さな世界だからこそ、一番になれる。それが大切だということ。■「できないかも」と消極的にならないしかしナンバーワンを目指す過程においては、目の前に大きな壁が立ちはだかるもの。その壁を越えるか壊すかしないと先には進めないので、「無理だ」と消極的になりがちです。でも、ここで忘れるべきでないのは、その壁が「越えられるから」そこにあるのだという考え方。そして、ナンバーワンになるために、最初からうまくやろうとしないことが大切。「できないかもしれない」と思って、消極的になってはいけないということです。もっと単純化するなら、「自分が無理だと思わなければいい」だけの話。「ありがとう」といわれるために、ナンバーワンになる覚悟を自分自身が決めること。それが、なによりも重要だというわけです。*すっきりとして読みやすいので、要点をすぐにつかめるはず。もしも接客やコミュニケーションのことで悩んでいるなら、読んでみるといいかもしれません。(文/書評家・印南敦史)【参考】※川﨑真衣(2015)『「ありがとう」と言われる接客・販売の教科書』あさ出版
2015年11月17日日本一の料理レシピ検索サイトである「クックパッド」のトレンド調査ラボ、「たべみる」をご存知でしょうか?クックパッドの検索データをもとに、料理をする人が「なにを求めているか?」というニーズの変化をタイムリーに、しかも地域別に捉えるデータサービス。たとえば大手スーパーのバイヤーが、「たべみる」の検索人気ワードにランクインしている商品を積極的に展開した結果、売り上げが大幅に増加したというようなことが現実的に起こっているのだそうです。クックパッドの検索データに基づいているだけに、タイムリーに検索されているワードを地域別に把握し、売り上げ向上に活用できるというわけです。そんな「たべみる」の事業責任者による著作が、きょうご紹介したい『「少し先の未来」を予測する クックパッドのデータ分析力』(中村耕史著、日本実業出版社)。「たべみる」リニューアルの経緯を通じて著者が実感した、データ事業の可能性についての考え方を記した書籍です。でも実際のところ、「たべみる」に蓄積されたデータからは具体的にどのようなニーズがわかるのでしょうか?そのことについて著者は、「すき焼き」についての興味深いエピソードを紹介しています。■実はすき焼きは日常的に作られているすき焼きは一般的に、お祝いごとなどの「ハレの日」に食べるもの。そして、すき焼きといえば牛肉を思い浮かべる人は多いはずです。事実、すき焼きの検索ピークは年末年始なのだそうで、そんなところからもすき焼きがハレの日のメニューであることがわかります。ところがデータを分析していくと、年末(12月末の週)以外でも、すき焼きの検索頻度は常に一定なのだとか。つまり、すき焼きは日常的につくられているということがわかるわけです。しかも「すき焼き=牛肉」というイメージに反し、組み合わせ語を見てみると、「豚(肉)」と合わせて検索される頻度が牛肉との組み合わせよりも多いのだといいます。また、「フライパン」との組み合わせも多いのだとか。つまりはこういったことから、すき焼きは日常的なメニューとして食べられており、さらに「豚肉を使い、フライパンで簡単につくれるすき焼き」であることが推測できるわけです。ちなみに12月最終週は、「すき焼き×豚肉」「すき焼き×フライパン」のマッチ度は低下する傾向にあるのだとか。一般的なイメージと現実との間には、大きな差があるということです。■大雪の日にはすき焼きを食べる傾向がさらに、「これは今後さらなる検証が必要かもしれない」と前置きしたうえで、著者はもうひとつおもしろい現象を紹介しています。2014年2月に東北地方から関東、東海地方一帯が大雪になったことがありましたが、そのとき、すき焼きの検索数が他のメニューにくらべて上昇する現象が見られたというのです。つまり、大雪の日にはすき焼きを食べようと考えた人が多かったということ。さて、ここにはどのような意味があるのでしょうか?■すき焼きは豚肉があれば簡単に作れる前述したように、すき焼きは「ハレの日」のごちそうであるだけではなく、日常的に食卓に登場するメニュー。そして、「豚肉を使って、フライパンで簡単につくれるすき焼き」が定番化している。だとすれば、次のように解釈できるのではないだろうかと著者は分析しているのです。家庭の冷凍庫には特売の日に購入した豚バラなどの肉がストックされていて、同じように豆腐も常備されている。そして大雪の日は買いものに行きづらいので、ストックしてある食材を使ってつくれるものを検索する。しかも、あるもので満足できるメニューをつくりたい。そのような発想が、すき焼きの検索結果につながったということです。ならば、たとえば大雪の予報が出たら「買いものに来られないときには、おうちですき焼きがおすすめ!」などという店頭POPをつくり、牛肉や豚肉、すき焼きのたれなどをまとめた棚をつくれば商機が生まれるということになります。このように「小さな変化」を発見し、仮説を立てやすいのも大規模な検索データならではの特徴だと著者はいいます。*仮説をもとにデータを多くつくり、それを素早く実行して検証する。それは、生活者に支持される魅力的な売り場づくりにつながるということ。でもスーパーに限らず、こうした方法論は、さまざまなビジネスに応用することもできそうです。(文/書評家・印南敦史)【参考】※中村耕史(2015)『「少し先の未来」を予測する クックパッドのデータ分析力』日本実業出版社
2015年11月16日相応の人生経験を経て社会人となった大人は、当然のことながらそれぞれの価値観や考え方を持っているもの。だから意見がぶつかることがあっても当然で、ときにはプライドの高さがコミュニケーションを阻害する場合もあるでしょう。プライドが盾になり、なにを伝えても「真剣に聞いてもらえない」という状況は往々にしてあるわけです。ましてや相手が年上の部下だったりしたら、話はさらに厄介なものになって当然。だからこそ、“大人”に対してどう伝え、どう教えるべきかで悩んでいる方も多いのではないでしょうか?そこで、ぜひ読んでいただきたいのが、『オトナ相手の教え方』(関根雅泰著、クロスメディア・パブリッシング)です。著者は、企業研修で大人相手に「現場での仕事の教え方」を教えているという人物。つまり、そんなキャリアを軸に、「教え方」の本質を明らかにしたのが本書だということ。■教えることは学習の手助けそんな著者は基本的な考え方として、教えることを「学習」の手助けだと表現しています。「教える」のは、大人が学ぶことを横からそっと手助けするという考え方。「こうしろ」と強制的に詰め込もうとするようなやり方とは、正反対の手法だといえるかもしれません。また本書で注目すべきは、大人を相手に教える場合、学習を「獲得」「参加」「変化」と定義している点です。「学習=獲得」は、成長や経験が得られるという意味。さらには「参加」することで経験が積まれ、その過程においては苦痛という「変化」を乗り越えて学習するということ。ひとつひとつを見ていきましょう。■学習における3つの手助け(1)獲得の手助けをすることまず「学習=獲得」とは、教える相手が知識、技術、態度などを「獲得」できれば、それは「学んだ」と評価されるということ。知識が少ない、技術が足りない、望ましい態度が不足している相手に対し、教えることによって「不足分の獲得」の手助けをするということです。当然、この場合の目的は「獲得」することにあります。だから、なにかしらを獲得しているのであれば、教える方法は問わないのだそうです。実際のところ英語圏では、知識の不足を補うため、手元にマニュアルを置いて作業させることをJob aids(ジョブ・エイド)と読んで解決策としているのだとか。仕事(job)を手助けする、促進する(aid)という意味があるそれは、不足部分を獲得するための行為だという考え方です。(2)会社になじむように参加を手助けすること「学習=参加」については、著者はひとつのイメージを提示しています。それは、中途採用者が別の会社に入ったときの状況。中途採用者は、前職との違いなどの戸惑いを感じながらも、新しい会社でもがいているうちに、だんだんその会社になじんでいくもの。この「なじむ」が、「参加」のイメージに近いというのです。周囲から、「あいつも、やっとうりのやり方を学んだな」と評価されるような状態。「新しい会社になじんでいく=参加していく」のであれば、たしかにそれは学習だということになります。ただし現実的に、新しいやり方を受け入れようとせず、なかなかなじめない人もいます。でも、いつまでも参加できずに周囲から浮いていると、会社の雰囲気を乱すだけではなく、仕事もなかなかできるようにならないでしょう。そういう人たちも含め、職場や会社に参加できるように手助けすることも、「教える」ことだというわけです。(3)変化は相手の言動が変わること3つ目の「学習=変化」は、心理学の観点から見た学習の定義だそうです。教わった人がなんらかの変化を見せれば、その人は「学んだ」と評価されるということ。なお、「知識の量が増える」「いままでと違う技術が使える」「気持ちや態度に変化が見られる」など、変化のかたちはさまざまです。ポイントは、変化したかどうかが外から「見られる」こと。外から観察できる「行動」が変化したなら、それが「学習した」状態。だとすれば気になるのは、相手の行動の変化が見られるというのは、どういう状態なのかということ。著者はそのことについて、相手の「言動」が変わることだと記しています。私たちが教えたことで、相手の「言葉」や「表情」が変わる、「態度」が変わるということでもあり、その結果、「仕事のやり方」が変わるということ。たとえば態度の悪かった新人が、指導したあとに態度が変わり、挨拶の声が大きくなったり、積極的に周囲に話しかけるようになったりしたとしたら、それはその新人が「学んだ」ことになるわけです。*このように本書では、「教える」ことを理路整然と解説してくれます。そしてそこを出発点として、以後の章では「教える」ための手段が具体的に解説されます。そこに示されたわかりやすいメソッドは、きっと多くのビジネスパーソンにとって有効であるはず。大人への教え方で悩んでいる人は、ぜひ読んでおきたい一冊です。(文/書評家・印南敦史)【参考】※関根雅泰(2015)『オトナ相手の教え方』クロスメディア・パブリッシング
2015年11月15日『なにがあっても、ありがとう』(鮫島純子著、あさ出版)の著者は、日本の資本主義の礎を築いた人物として知られる渋沢栄一を祖父に持つ人物。大正11年(1922年)生まれということなので、今年で93歳ということになります。つまり本書では、90年以上もの長きにわたって人生経験を積み上げてきた結果、見えてきたこと、わかってきたことを綴っているわけです。ちなみにそんな著者は、なんとか聖者の教えを乞いたいと思って近所のキリスト協会に通い続けて答えを探し求めたことがあるそうです。しかし「聖書の御言葉は崇高すぎて」疑問は解けないままだったのだとか。そして、仏教のお説教を聞いたり、インドの聖者の本を読んだりしても、なかなか納得のいく答えにはたどりつけなかったのだといいます。しかしその後、たまたま出会った一冊の本によって、人生の心理といえる考え方を知ったのだとか。その本についての詳しいことには触れられていませんが、どうあれ紆余曲折を経て、現在の考え方に思い至ったということのようです。だとすれば、ぜひ人生の先輩に聞いてみたいのは、「つらいときの対処法」ではないでしょうか?そこできょうは第二章「つらいことにありがとう」から、役に立ちそうな考え方を引き出してみたいと思います。■つらいときこそ誠実に向き合うと乗り越えられるつらく苦しいときは、なかなかそれを受け止めることができず、他者を責めたりしてしまいがち。しかし著者は、そんな状況に陥ったときに大切なのは、「自分に縁のないことは起こらない」という人生の仕組みを信じることだと説いています。そうした考え方を信じることによって「乗り越える力」が身についてくると、ただ悲しみに打ちのめされることもなく、「これは自己責任」だと覚悟のうえで乗り越えられるようになるから。■つらさを感謝の気持ちに切り替える努力をするそして、人間に生まれたということは、前世で成し得なかったクリアすべき問題が残っているとうことだとも主張しています。ネガティブな想いではなく、「前世から抱えている問題が、解消されるために現れたのだ」と固く信じ、それを感謝の気持ちに切り替え、「これでよくなる」と思う努力をすべきだというのです。そして著者はここで、永遠のベストセラーといわれている聖書のフレーズを引用しています。それは、「神は耐えられないほどの試練は与えない」というもの。しかし、そういうものを「与えられる」と、人は逃げたくなるものだということは著者自身も認めています。ちなみに個人的には、こういう話題を出しながらも、特定の宗教の考え方に偏りすぎないところに著者の魅力があると感じました。それはともかく、著者はここでひとつの提案をしています。そんなときには、「身近に起こるマイナスの事象は、自らが決めたレベルアップの手段で、すべて自分で解決できるはず」と解釈してはどうだろうかというもの。そうすれば、どんなにつらくて悲しいことでも、感謝の気持ちに変わっていくのではないかと記しているわけです。■つらさは「必要な学習」と思えば乗り越えられるとはいえ著者自身も、このように認識できるようになるまでには時間がかかったのだそうです。けれど、うまくいかなくても繰り返し、次のように思っていたのだといいます。「どんなことにも逃げず、誠実に取り組むことにこそ意味がある。もしも自分の期待どおりにいかなかったとしても、自分に必要な学習」たしかにこう考えてみれば、つらさを乗り越えられそうな気がします。事実、著者も次第に、そのように受け止められるようになっていったのだといいます。「なぜいま、自分はこういう事態を引き起こし、自分になにを学ばせようとしているのか?」そう考えて向き合うと、失敗もありがたく感じ、自然と事態も好転していくもの。自分に縁のないものは決して起こらない。そういった人生の仕組みを知れば、つらく苦しい時間も、魂を磨く大切な一時として、ありがたく思えてくる。著者はそう記しています。もちろんそれは、悩みの渦中にいる人にとっては簡単に共感できるものではないかもしれません。しかし、だからこそ、あえて受け入れる強さを持つ。結局のところ、そういう姿勢が大切だということなのではないでしょうか?*キリスト教の考えをベースにしながらも、広い視野でものごとを見ている。そんな著者の姿勢は、多くの人の共感を呼ぶはずです。悩んでいる人、つらい人は、手にとってみるといいかもしれません。(文/書評家・印南敦史)【参考】※鮫島純子(2015)『なにがあっても、ありがとう』あさ出版
2015年11月14日『お金持ちになった人が貧乏な頃からやっていること』(田口智隆著、フォレスト出版)はタイトルどおり、お金に不自由しない人生を実現した人が、お金がなかったころからやっている小さな習慣を紹介した書籍。ここに記された小さな習慣こそ、もっともローリスク・ハイリターンでお金を生み出す秘訣なのだとか。■学びをお金に変える技術を習得しようポイントは「お金を増やすリスクを、自分でコントロールできること」に使うこと。小額でいいのだそうです。たとえば月収が15万円の人なら7,500円、20万円の人なら1万円、30万円の人なら1万5,000円を「お金を回収できる学び(勉強)」に使う。つまり自己投資、いいかえれば「学びをお金に変える技術」を習得すればいいという考え方です。でも、なぜ自己投資が必要なのでしょうか?この問いに対して著者は、「お金の自由を手にするチャンスを見つけ、確実なものにするためには、ある道で学んで自分の稼ぐ力を伸ばすほかにないから」だと答えています。簡略化すれば、お金をかけて勉強するからこそ本気度が上がるということ。人は少し負荷がかかっているくらいの方ががんばれるし、お金をかけると「本を取ろう」と思うもの。だから学びをお金に変えることで、お金に不自由しない人生が手に入るということです。■いまのお金の使い方を見直してみようそんな著者は、自己投資の習慣がない人に対して聞きたいことがあるそうです。・いつまでにお金を貯める予定ですか?・いくら貯める予定ですか?・どうやって貯めますか?「いつまでに」「いくら」「どう貯めるか」が明確で、着実に行動できているなら、それは自己管理がしっかりできている証拠。自己管理ができるとは、自分で自分をコントロールできるということ。だから、すぐにお金持ちになってもおかしくないというわけです。しかし、そうなると、いかに自己投資のためのお金を捻出するかが問題になってくるはず。そこで著者は、まずはいまのお金の使い方を見なおしてみることが大切だと解いています。そして、お金の使い方は、大きく分けて「消費」「投資」「浪費」の3つに分類されるのだとも。それぞれについて見ていきましょう。(1)消費消費は、生きていくために必要なお金。住居費、光熱費、交通費、スマホなどの通信料、食費など「衣食住」にかかる費用全般のことで、いわば人生の必要経費。(2)投資投資とは、自分の将来の目標のために使うお金のこと。「お金」の自由を手に入れるためのお金といってもいいと、著者は表現しています。たとえば株などへの投資、セミナー参加費、資格取得のための学習費用や必要経費、勉強や仕事のための書籍代、他にも大人の勉強にかかる費用。また、貯金も勉強するための資金になるので、投資に分類されるといいます。(3)浪費そして浪費は、ずばりムダな出費。健康にも懐にもダメージを与えるタバコ代、通っていないジムの会費、読んでいない新聞代、払いすぎている保険料、グチばかりの飲み会費。他にもパチンコや競馬などのギャンブル代、つい熱くなって課金してしまうネットゲームなど、遊興費や嗜好品のたぐいはすべて浪費だということ。つまり支出を減らすためには、「浪費」をなくし、「消費」を見なおすことが大切。そして、そのために著者がおすすめしているのが「お金のノート」をつくること。体重管理の方法として流行した「レコーディングダイエット」のマネー版です。小さなノートにボールペンで、60日間、なににお金を使ったかをひたすら記録していくだけ。書き方のちょっとしたコツで、無理なくお金が貯まるのだといいます。■無理なくお金が貯まる「お金のノート」の書き方[ステップ1]ステップ1の目的は、最初の30日間の自分の消費行動を把握すること。期間中毎日、消費活動の「日付」「買ったもの」「金額」「1日の合計金額」をもれなくノートに記録するわけです。例えば、10月1日缶コーヒー120円、水100円、ランチ1000円、居酒屋2,580円、雑誌980円合計4,780円という感じ。お金を使った理由や仕分けは不要で、1円単位まで細かく記入する必要もないといいます。下1ケタは四捨五入で大丈夫。ただし、とにかく支出を忘れず必ずメモすることが大切。[ステップ1]31日目からは、お金を貯める戦略を立てる段階。記入内容はステップ1と同じですが、「買ったもの」と「金額」を「消費」「投資」「浪費」に分類して書いていくのだそうです。11月1日消費:弁当480円、お茶130円、水100円、ランチ700円投資:ビジネス書1,510円浪費:雑誌980円合計:3,900円という具合。こうすれば、投資以外の部分を削ることで、自己投資へのお金を捻出できるわけです。お金の使い方を分類して記録し絵いくだけですが、知らないうちに浪費を減らそうと気をつけるようになり、逆に「投資を増やしたい」と考えるようになるのだとか。これを続けていくことにより、「マネー感覚」が身についていくというわけです。*これらの基本を軸に、以後も経済的自由を手にするための方法が幅広く紹介されています。そんな本書は、自分に投資し、お金を増やすことを真剣に考えてみるきっかけになるかもしれません。(文/書評家・印南敦史)【参考】※田口智隆(2015)『お金持ちになった人が貧乏な頃からやっていること』フォレスト出版
2015年11月13日『幸せなことしか起こらなくなる48の魔法』(大木ゆきの著、ワニブックス)の著者は、各種ランキングで1位を記録したブログ『幸せって意外にカンタン!』でおなじみの人物。本書では苦しんでいる人に対し、「不幸なのではなく、ただ単に、幸せを見逃しているだけ」だという考え方を軸として、幸せと自分自身とをつなぐ方法を説いています。きょうは第三章「壁にぶち当たったあなたへ」から、数字に関連したトピック「0から1を着実に進もう!」を引き出してみたいと思います。■0から10ではなく「0から1」を着実に進もう特に自分の人生に新たな展開がある場合、人はなにかと不安になるもの。しかし、不安になる大きな理由のひとつが、「一足飛びに結果を出そうとする焦り」だといいます。いきなり0から10をつかもうとするのは、地上から山頂まで駆け上がるようなもの。しかしそれだと、しんどくなってしまっても当然です。そして、ただでさえ不安なのに、「そんなことできるかなぁ……」「相当がんばらないといけないだろうなぁ……」と、ますますストレスがかかってしまう。本当なら0から1進んだだけでも大きな進歩であるはずなのに、1進んでも「たいして進歩がない」と判断してしまうわけです。それどころか、「もたもたしてるなあ!いったいなにをやってるんだろう」と、自分を攻め立ててしまうことになることも……。■自分を追い込む思い込みは悪循環を生むしかし問題は、「早く結果を出さなければいけない」「自分は全然努力が足りない」という思い込みを強烈に持っている人のまわりには、似たような人が集まってくるということ。「いつまでそんなことをやっているつもりだ!」と怒る人や、「全然進歩がないわね」という人ばかりになってしまうというわけです。するとますます焦ってきて、それがまた新たなストレスになり、なにもやる気が起こらなくなってしまう。その結果、そこのことをまた責めはじめ、どうにも立ち行かなくなることに。いわば、悪循環に陥るわけです。著者も、昔はそういうタイプだったのだそうです。そして、それは一種の完璧主義であり、まじめな日本人に多いとも指摘しています。親や学校から「早くやれ」「ちゃんとやれ」「休むな!サボるな!」とさんざんいわれてきた人も少なくないと思いますが、つまりはそういうタイプが危険だということ。■「0から1」に進めたら祝うと悪循環を防げるでは、どうすればいいのでしょうか?この問いに対し、著者はこう回答しています。0からいきなり10を目指さずに、まず1を目指す。1なら簡単です。そして1進んだら、ちゃんとお祝いをすべきだといいます。少なくとも大切なのは、自分を褒めること。なにか自分にご褒美をあげると、もっといいそうです。そうやって一歩一歩進んでいくと、だんだんその道のりが楽しくなるもの。そして、徐々に輪が広がっていくもの。少しずつであろうとも、確実に進歩しているという感覚は、とても感動的だといいます。逆に無理して一足飛びに10を目指すと、もとも子もなくなってしまう場合もあるもの。しかし着実に進んでいると、力も着実についてくるので安定し、なにかあったとしても簡単にくずれるようなことはないというわけです。そして、ここで重要なのは、一歩一歩を大切にしていれば、途中から、急速に加速していくチャンスがやってくるということだとか。チャンスには段階があり、たくさんの人と分かち合おうという気持ちがあれば、次のチャンスもやってくるもの。■プロセスを楽しむ人にはチャンスがやってくるつまり、段階を追って進み、一段進むごとにお祝いすることが大切なのだということ。そして目の前のことを、一生懸命心を込めてやる。その結果として自分自身が楽しそうに見えれば、人が集まってくるというわけです。幸せになるためのいい方法がわかったら、それをまわりの人たちにも分かち合う。そして、幸せな人が増えていくことを応援する。それが大切。プロセスを楽しんでいる人のもとには、必ず大きなチャンスがやってくるもの。そしてチャンスが訪れたら、喜んでそれを受け取る。そして、あとから来る人たちのために。道をならしておくことが大切だといいます。*著者の考え方は、とてもポジティブで前向き。だからこそ、読んでみれば、それをパワーにつなげることができるかもしれません。(文/書評家・印南敦史)【参考】※大木ゆきの(2015)『幸せなことしか起こらなくなる48の魔法』ワニブックス
2015年11月12日日本経済史についてきちんと学びなおしたいと思っても、充分な時間はなかなかとれないもの。そこで活用したいのが、きょうご紹介する『400年の流れが2時間でざっとつかめる 教養としての日本経済史』(竹中平蔵著、KADOKAWA)です。いうまでもなく著者は、2001年の小泉内閣における経済財政政策担当大臣を皮切りに、金融担当大臣、郵政民営化担当大臣兼務、総務大臣を歴任してきた人物。本書においては明治維新、1920年代、戦後復興、高度成長、石油危機、バブル、小泉改革、アベノミクスと、7つの転換点を軸に、日本経済史をわかりやすく解説しています。きょうは「これから」に焦点を当てた終章から、「経済は変わる。日本企業は成功体験を忘れ去れ」に焦点をあててみたいと思います。■日本はオーバークオリティー気味ご存じのとおり、日本の緻密さは群を抜いています。たとえば日本家屋で、タイルなどを正確に貼るのも日本人らしいやり方だとか。しかしそれを認めたうえで著者は、「そこまで緻密さが求められるのか」という問題もあるともいいます。なぜなら、少し離れた場所からだと、多少の歪みは気にならないものだから。ニューヨークのコン・エジソンという電力会社があり、同社が供給している戸数は東京電力の供給戸数とほぼ同じなのだそうです。ところがバブル期における東京電力の設備投資額は、コン・エジソンの約10倍。そのおかげで電圧が低下することのない快適な暮らしが実現できているわけですが、そのために10倍も設備投資をして、高い電気料金をとるのがいいことなのか。たまには電圧が少し低下してもいいのではないか、ということも忘れてはならないと著者。日本はオーバークオリティー気味だということです。■日本は深める力や極める力が強い外国人観光角が感激するウォシュレットの原理を発明したのは、実はアメリカ。しかし実用化するためのものづくりのうまさは、間違いなく日本に分があります。そこで、「日本のウォシュレット」としてクローズアップされることになったのです。つまり、発想する力というよりは、深める力、極める力が日本は強いということ。逆にいえば、物事を深めていくことを好み、横に広げることを好まない傾向が異本にはあるといいます。たとえば電子機器など、ハードを極めるのは得意でも、ソフトを横断的に開発していくという発想はないのだとか。だから、規制緩和が嫌いなのだそうです。■日本人の所得が高くならない理由そして、ここで著者はいささかショッキングな発言もしています。日本には技術も資本もあり、みんな一生懸命働いている。にもかかわらずひとり当たりの所得が高くないことには明確な理由があるというのです。最初の理由は、なくてもいい会議に出席させられるなど、無駄な働き方をしているから。そしてもうひとつは、天下りなどで仕事をせずに給料をもらっている人がいるから。これは、由々しき問題であるはずです。■日本もいつか海外に追い越される日本が経済成長した1970年代に、「NIES」(ニーズ)という言葉が聞かれるようになったことをおぼえている方もいらっしゃるでしょう。“Newly Industrializing Economies”の略で、韓国、台湾、香港、シンガポールが、日本を追いかける「4匹の虎」といわれたのです。当時の日本は、世界のナンバーワンに近いと有頂天になっていました。「韓国も台湾の力をつけているけれど、しかし日本にはおよばない。日本が占領していた国である、日本が植えつけた制度の上で伸びているにすぎない」というような傲慢ないい方、見方をした人も少なくなかったわけです。しかし著者は、「違う」と思っていたのだとか。理由は、私たちにできることは隣人にもできる」はずだから。経済を支えるのは人ですから、教育制度を変えれば技術力も身につくことになる。事実、サムスンやLGは、あっという間にソニーやパナソニックを追い越しました。■日本は進化を意識する必要があるここで著者は、「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉を取り上げています。また、ユニクロの柳井正氏の、「成功するのはいい。しかし、その日のうちに忘れてしまえ」という発言も引き合いに出しています。理由はなにか?つまり、成功体験にとらわれてはいけないということを主張しているわけです。歴史を振り返れば、1960年代以降のイギリスは「英国病」と揶揄され、世界から見捨てられていました。そこにサッチャーが登場し、大きな改革を進めたわけです。現在、世界最大の金融センターはロンドンで、製造業の世界トップ100に入っている企業の数は、日本よりイギリスの方が多いのだそうです。つまり、経済は変わるということ。だからこそ、経験を鼻にかけて同じところにとどまっていたら、国の力は維持できるはずがないということ。歴史は繰り返す面もありますが、ただ繰り返されているだけではなく、部分的に繰り返しながら進化していくもの。日本は、そのことを意識する必要があるというわけです。*解説は平易でわかりやすいので、過去から現在までの経済の歴史を、無理なくなぞることができるはず。不安な時代だからこそ、足元を確認するという意味でも読んでおきたい一冊です。(文/書評家・印南敦史)【参考】※竹中平蔵(2015)『400年の流れが2時間でざっとつかめる 教養としての日本経済史』KADOKAWA
2015年11月11日『年収の伸びしろは、休日の過ごし方で決まる ズバ抜けて稼ぐ力をつける戦略的オフタイムのコツ34』(池本克之著、朝日新聞出版)は、経営コンサルタントとして300社以上を指導してきた実績を持つ著者が、オンとオフの使い方についての考え方を明らかにした書籍。まず、その冒頭の段階で、とても興味深い考え方が提示されます。経験に基づいてビジネスパーソンを観察すると、「オンとオフについて『切り替え』や『メリハリ』といった認識を持っていない人が多い」と感じるということ。つまり彼らは「オンとオフは表裏一体で、意識的に切り離すものではない」と考えているように見えるというわけで、それは著者自身の考え方でもあるのだといいます。たとえば一流のアスリートは、試合で最高のパフォーマンスを出すために、日常生活でも自己管理を徹底しているもの。同じように一流のマーケッターも、常に世の中の流れをキャッチしておくため、オフの時間にも情報のアンテナを張り巡らせ続けているのだとか。では彼ら、つまり「できる人」はなにが違うのでしょうか?それは、ずばり「時間の価値」を重要視するということ。いかに効率よく仕事を進めるか、いかに無駄な時間、なにも生まない時間をなくすかについて、神経を張り巡らせているのです。なぜなら彼らは、「時間価値を高めることが成果につながる」という大切なことを熟知しているから。きょうはそのなかから、食べものについてのユニークな考え方をご紹介したいと思います。■生涯収入は日々の食べもので決まる!「無事之名馬(ぶじこれめいば)」という格言は、どんなに強い競走馬でも、ケガで走れなくなったら勝てないという意味。著者は、同じことがビジネスパーソンにもいえると主張しています。いわば、「無事之一流」。どんなに仕事ができて優秀でも、健康を損ねやすく休みがちな人は本来のパフォーマンスを発揮できないということ。まず健康であること、自分の体調をしっかり管理すること=フィジカル・マネジメントは、一流のビジネスパーソンに不可欠な条件であるという考え方。■体は食べるもの次第でどうにでもなるそこで、第一に考えなければならないのは、体に取り入れるものの選択。なぜなら私たちの体は、当然のことながら毎日食べるものによってつくられているからです。言い換えれば、体は食べるもの次第でどうにでもなってしまうということ。おかしなものを口にしていると、体もおかしくなってしまうわけです。だとすれば、「体に害のあるものは食べない」ことは、フィジカル・マネジメントの「基本中の基本」であるということになります。事実、著者はそれを「もはやいうまでもない常識」だとすら言い切っています。事実、著者も次のような「食のマイルール」を自分自身に課しているそうです。・水を大量に飲む・カフェイン、アルコールを飲まない・添加物をさける・たんぱく質を摂る・糖質をさける・夜8時以降は食べないとはいえ食品添加物、農薬、遺伝子組み換え、さらには偽装表示から期限切れ原料の使用や異物混入など、現代社会においては“常識”どおりに暮らしていくことが困難になっているのも事実。だからこそ、自己管理の意識が大切になってくるということです。■できるだけ「食へのこだわり」を持つ安全食材を宅配するネットスーパー「オイシックス」のアドバイザーをしていたこともあるという著者は、自宅では有機野菜やオーガニックフーズ、無添加物食品などを購入しているそうです。ただし仕事の関係で、家でゆっくり食事をする機会は少ないのだとか。だから外で食事をするなら、(1)自然食材にこだわっているレストランを選ぶ(2)オーガニック料理を選ぶ(3)コンビニ食品やファストフードは極力口にしないなど、いまの生活スタイルで可能な範囲の「食へのこだわり」を持つよう、常に心がけているのだといいます。■長生きのために変な食べ物を排除する著者はこう記しています。「私はできるだけ長生きしたい。少しでも長く“生きている時間”を楽しみたいと思っています。その長生きも健康でなければ意味がありません」だからこそ、自分の健康を阻害するもの、邪魔するものを排除するというシンプルだけれど、とても大切な考え方。そうであれば当然のことながら、“変な食べもの”は排除項目の筆頭になるというわけです。そこで、出張時の朝食にすら神経を使うのだとか。たとえば朝食はフルーツだけにしているそうなのですが、ホテルの朝食にフルーツがふんだんに用意されていないことが事前にわかっている場合は、前の晩に翌朝食べるためのフルーツを調達しておくのだそうです。たかが朝食といえども、大事な食事。5年後、10年後の自分の健康のために、目の前の食を考えるということです。*これはほんの一部ですが、ビジネスパーソンとしてのベストパフォーマンスを実現するために、著者自身がとても気を使っていることがわかります。そのストイックさには驚かされますが、徹底した姿勢を持つことは、たしかに優秀なビジネスパーソンにとって不可欠なことかもしれません。(文/書評家・印南敦史)【参考】※池本克之(2015)『年収の伸びしろは、休日の過ごし方で決まる ズバ抜けて稼ぐ力をつける戦略的オフタイムのコツ34』朝日新聞出版
2015年11月10日『タイプがわかればうまくいく! コミュニケーションスキル』(谷益美、枝川義邦著、総合法令出版)著者は、ビジネスコーチ&ファシリテーター。肩書きはわかりにくいかもしれませんが、具体的にはセミナー・研修・会議などを通じて「対話の場づくり」をサポートしているのだそうです。そんな著者が、脳科学者である共著者の協力を得ながら本書で説いているのは、コミュニケーションスキル向上のためのコツ。■人間には4つのタイプがある!最大のポイントは、人間には4つのタイプがあり、相手と自分がどのタイプに属するのかを知ることが重要だという考え方を基本にしている点。自分と合う人から合わない人まで、世の中にはいろいろなタイプの人がいます。そこで、多様な相手とのコミュニケーションを楽しみたいなら、まずは相手と自分のタイプについて理解しておく必要があるということ。人間を4つのタイプに分類する考え方は、「Social Style(ソーシャル・スタイル)」。1970年代に、社会学者のデイビッド・メリル氏が提唱した、相手と自分を知るための理論なのだそうです。「自己主張」と「感情表出」の二軸を使い、人のタイプを4つに分類したもの。それぞれの特徴と対処法を知ることによって、使えるヒントが得られるわけです。では、4つのタイプとはどのようなものなのでしょうか?それぞれを見ていきましょう。■理解しておきたい4つのタイプ【1】「指示されるのは大嫌い。思いどおりにやらせてよ」タイプ(現実派)名づけてDriving(ドライビング)タイプ。(自己主張:強/感情表出:弱)生まれつきのリーダー気質。戦略や菖蒲が大好きで、指示されるのが大嫌い。自分の道は自分で決めるタイプで、褒められなくても平気。強み:判断、決断が速い/打たれ強い/自己主張できる/ドライ弱み:褒めること、相手に合わせることが苦手/怖いといわれるドライビングタイプの人と出会ったときは、「相手の記憶に残すこと」を意識するのが重要。彼らは誰かに支持されず、自分で判断したいので、「こうしませんか」「やりましょう」という提案も、他者主導だと嫌がる場合もあるとか。ドライビングタイプがほしがる情報を提供し、最終的には「自分が判断した」と感じさせることがポイントだということです。【2】「楽しくなければ意味がない。盛り上がっていこう!」タイプ(感覚派)Expressive(エクスプレッシブ)タイプ。(自己主張:強/感情表出:強)仕事も勉強も楽しくしなくちゃ! サプライズが大好きで、なんとかなるさと楽観的。細かいことは気にしない。やってみてから考えます。強み:アイデア豊富/行動力/まわりを巻き込む/社交性/ノリと勢い弱み:忘れっぽい/飽きっぽい/ルーティンが苦手/地道な努力エクスプレッシブタイプはノリと流れでテンポよく、楽しく物事が決まっていくことを好みますが、縛られるのは大嫌い。そこで、「変更ありで、仮で決めておこう」と自由度を感じさせることも大事。また、盛り上がるのも早いものの、忘れるのも早いのがこのタイプ。そこで「今度飲みに行こうよ!」「いいね!」となったら、「いつにする?」とついでに予定を決めてしまうといいそうです。【3】「みんなのためならがんばれる。きちんとお役に立ちたい」タイプ(協調派)Amiable(エミアブル)タイプ。(自己主張:弱/感情表出:強)人間関係に波風を立てず、常に穏やか。「困っている人はいないかな、期待されていることはなんだろう」「みんなのためならがんばれます」というタイプ。強み:親切/やさしい/気配り/サポート/思いやり/癒し弱み:決断できない/プレッシャーに弱い/人前で話すこと人と仲よくするのが大好きで、しかし少々及び腰なエミアブルタイプに、どんどん押すのは逆効果。「はじめまして」のシーンでは、SNSや共通の話題など、接点を持つことを目指すべきだといいます。どちらかというと受け身な彼らは、聞くのは得意でも話すのが苦手。自分の話をニコニコ笑顔で聞いてくれると安心して、おしゃべりも弾んでリラックスするとか。相手のペースに合わせたうなずき、相づち、反応によって、「この人なんだか話しやすい」と思ってもらえる聞き上手を目指すといいそうです。【4】「やるべきことは正確に、計画どおりに進めましょう」タイプ(思考派)Analytical(アナリティカル)タイプ。(自己主張:弱/感情表出:弱)まずは計画、事前準備。自分の専門を大切に、ミスは少なく確実に。いつもどおりにきちんとやろう。コツコツ継続してこそ価値があると考えている。強み:正確/コツコツ/継続/分析/調査/マイペース/計画/現実主義弱み:行動が遅め/話が長い/人づきあい/雑談/アイデア出しアナリティカルタイプとの出会いのゴールは、相手の専門性や、興味の範囲を見極めること。基本的に自分から働きかけるタイプではないので、こちらが相手を知ることで、必要になったら連絡できる状態を目指すといいそうです。人づきあいがどちらかといえば苦手な彼らに、いきなり近づいても敬遠されがち。誰か知り合いがいたら、紹介してもらうのがベストだとか。■どれもあてはまらない場合は?「どれもピンとこない」「どれもあてはまる」という場合は、「バランス型」。このタイプについて著者は、自分の感情に関係なく、相手や場面に合わせつつ、その場で態度を変えていく傾向があるからかもしれないと分析しています。著者がここで強調しているのは、「どのタイプがよい、悪い」ということではないということ。また占いではないので、分類して終わりというわけでもないともいいます。ソーシャル・スタイルは、人それぞれのコミュニケーションの傾向=クセを知り、自己流コミュニケーションの幅を広げて状況をあげるためのヒントとなる理論。自分の傾向がわかったら、あとは相手を分析し、個別対応していくことが大切。自分の身のまわりの人を思い浮かべながら、「あの人の傾向はどうだろう?」と想像することが大切だということです。*著者自身が「バランス型」も存在すると認めているとおり、すべての人が4つのタイプに分けられるとは限らないでしょう。しかし少なくとも、基準にはなるはず。コミュニケーションを円滑にするために、本書を活用してみるのもいいかもしれません。(文/書評家・印南敦史)【参考】※谷益美、枝川義邦(2015)『タイプがわかればうまくいく! コミュニケーションスキル』総合法令出版
2015年11月09日『心理学的に正しいプレゼン』(スーザン・ワインチェンク著、壁谷さくら訳、イースト・プレス)の著者は、心理学の最先端研究をデザインに応用する方法を30年以上にわたって研究し続けているという人物。これまで数え切れないほどのプレゼンテーションを行い、成功させてきたそうです。そんな著者は、「プレゼンテーションがうまくできない」というタイプの人に対して、次のようなメッセージを投げかけています。「偉大な芸術家と同じように、一流のプレゼンターは、技術を磨き、いっそう成果を上げるため、常に努力しています」そこで本書では、心理学を活用してすぐれたプレゼンターになるための「努力の方法」を説いているわけです。紹介されている99種のアプローチのなかから、数字に関連した項目を引き出してみましょう。■人が一度に記憶できることは4つまでアメリカの心理学者であるジョージ・A・ミラーが1956年に提唱した「マジカルナンバー7±2」とは、人は一度に5から8(7±2)個のことを記憶でき、その情報を処理できるという考え方。しかし、下の世代に当たる心理学者、ネルソン・カウアンが2001年に行った研究によれば、真のマジカルナンバーは4なのだそうです。気を散らさず、情報の処理を妨げられない限り、人はワーキングメモリに3つか4つのものごとを留めることが可能。そして失われやすい記憶を支えるために、情報をグループに「まとめる」手法があるといいます。ここで例として引き合いに出されているのが電話番号。アメリカの電話番号は「712-569-4532」というように、それぞれ4個以下の数字からなる、3つのまとまりに分かれています。だから、10個の数字を個別におぼえることはないわけです。初めの3つの数字のエリアコード(712と569)を記憶していれば(長期記憶にとどめておけば)、その番号をおぼえる必要はないので、ひとつのまとまりをまるごと無視できるということ。そして「4個の原則」はワーキングメモリだけでなく、長期記憶にも当てはまるのだそうです。認知心理学者のジョージ・マンドラーによる1969年の研究によると、ひとつのカテゴリーの項目が1から3個であれば、人はカテゴリー内の情報を記憶し、完璧に記憶から呼び起こせるのだとか。逆にいえば、項目が3個以上に増えていくにつれ、思い出せる項目の数もだんだん減っていくということ。■プレゼンでは「まとまり」を活かそう大多数のプレゼンテーションでは、3~4個を上回るアイデアやコンセプトが用意されているもの。でも、ここでマンドラーの研究を思い出すべき。それは、12~15個のさまざまなテーマを並べた長いリストをつくるのではなく、項目をまとめ、3~4個の大まかなテーマにした方が効果的だということです。そのことについて説明するため、ここでは「成功する中小企業経営」というテーマのプレゼンテーションのために用意された、項目のリストが例として用いられています。1. 提供する製品とサービスの内容を決める2. 製品とサービスの値段を決める3. 自社にとってどんなオンラインマーケティングが重要か4. どんな対面マーケティングが重要か5. 株式会社にする日強はあるか6. 税金について知らなくてはならないことはなにか7. 従業員を雇うか、請負業者を使うか8. 送り状作成にはどんなソフトウェアを使うか9. 連絡用とマーケティング用の電子メールにはどんなソフトウェアを使うか10. 中小企業にとって効果的な販売方法とは11. ターゲット層を確認する12. ウェブサイトのデザインと実装これらの項目を最初に見せて話を始めるとしたら、聴衆は項目の多さに躊躇してしまう可能性があります。プレゼンターにとっても、精神的負担は大きくなることでしょう。しかし、それらを次のように3つのカテゴリーにまとめるとどうでしょうか?1. 製品とサービスの販売(a, b, j, k)2. マーケティング計画の促進(c, d, I, l)3. 経営の形式(e, f, g, h)これらの大きなカテゴリーは、それぞれ4つの項目を含んでいます。さらに各項目は、3~4個のポイントに細分化することができます。こうしてスッキリさせれば、聴衆をひるませることなくプレゼンテーションを進め、消化しやすくまとめた内容をすべて提供できるというわけです。*この項目がそうであるように、紹介されているアプローチはどれも実践的。しかも著者の実体験によって導き出されたものなので、強い説得力があります。そういう意味で、プレゼンテーション能力を高めたい人には必読の内容だといえるでしょう。(文/書評家・印南敦史)【参考】※スーザン・ワインチェンク(2015)『心理学的に正しいプレゼン』イースト・プレス
2015年11月08日遺伝子検査、ウェアラブル端末、ライフログ(行動履歴データ)、IoT(Internet of Things)、AI(人工知能)などなど、これまでになかった新しいテクノロジーが日常生活に浸透しつつあります。ただし、いまいちピンときていない人も多いのではないか?そう指摘するのは、『自分のデータは自分で使う マイビッグデータの衝撃』(酒井崇匡著、星海社)の著者。つまり、それらによって「できること」はなんとなくわかっていても、それが「自分の日常生活にどんな影響をもたらすのか」、そして「私たちの意識や価値観がどのように変わりうるのか」を、具体的に思い浮かべることは容易ではないということです。■いまは自分情報が爆発するマイビッグデータの時代しかも、重要なことがあるといいます。いま遺伝子情報、ウェアラブル端末によって計測される脈拍などのバイタルデータ、スマートフォンに蓄積されるライフログ、そして、それらを解析する新しいテクノロジーが暴こうとしているのは、私たち自身に関する大量の情報だということ。それは住所・氏名・年齢などの個人を識別するための「個人情報」よりもずっと多様で、可変的で、自分の姿をあからさまに映し出す情報。つまり私たちは、そういった大量の「自分情報」が爆発する「マイビッグデータ」の時代を迎えようとしているわけです。■これからは自分と自分による自己対話が日常になるマイビッグデータ時代には、いままで知らなかった自分と向き合い、対話していくことが日常になっていくと著者は指摘しています。人と人との間(C to C)、あるいは国、企業など集団と人との間(B to C)で行われてきたコミュニケーションに、自分と自分による自己対話(Me to Me)という新たな側面が加わるということ。だとすれば大切なのは「テクノロジーでどんなことができるようになるか」ではなく、「そもそも私たちはどう生きていきたいのか」ということになるはず。いわば「できること(=技術)」発想ではなく、「やりたいこと(=生活者の欲求・価値観)」発想で未来を予測できないだろうかということです。それは、本書の根底にある考え方でもあるといいます。■新テクノロジーは「自分の内面を見つめるための鏡」ところで著者は、マイビッグデータを計測し、可視化してくれるテクノロジーは私たちにとっての“第二の鏡”であると指摘しています。ウェアラブル端末や遺伝子検査、スマホのアプリなど、マイビッグデータを可視化するさまざまなツールを日常的に使っていると、鏡を見るように自分の睡眠の質や脈拍などをチェックするようになるのは当然の話。鏡は自分の外見を確認し、身だしなみを整えるためのものですが、このような新しいテクノロジーは、自分の内面を見つめるための鏡であるという考え方です。しかもその鏡は、“いま”の姿を映し出すだけではなく、使われていないときでも私たちの姿をずっと記録し続け、その変化を教えてくれる“魔法の鏡”だというわけです。ちなみに、そのような新テクノロジーの代表的なものは次の4つ。(1)ウェアラブル端末体のどこかに装着することで、体の動きや脈拍など生命活動の状態、いわゆるバイタルデータを計測してくれるウェアラブル端末。腕時計型が一般的ですが、他にもメガネ型や服型などさまざまな形状が開発されています。バイタルデータを計測することのポイントのひとつは、計測して記録したひとつひとつのデータを複合的に組み合わせれば、活動や体調、感情といったさまざまな推計をすることができるということ。さらにウェアラブル端末を職場の全員が持てば、誰がいつ、どこで誰と会い、どんな行動をしていたのかを解析し、組織の活性化やパフォーマンス、従業員満足度の向上に活用することもできます(活用のされ方次第では問題もありそうですが)。今後どの程度浸透していくのかはまだ未知数ながら、スマートフォンのように浸透していくポテンシャルは高いと著者は分析しています。(2)スマートフォン計測機器としてのスマートフォンの圧倒的な強みは、なんといってもその普及率。それに現状においては、ほとんどのウェアラブル端末はスマートフォンと連携してデータの蓄積や解析を行っているため、マイビッグデータ時代はスマートフォン抜きには語れないということになります。(3)遺伝子検査遺伝子検査では病気リスク以外にも、能力や体質、家系などさまざまな情報を調べることが可能。研究も日進月歩で進んでいるため、今後も分析できる項目は増えていくといいます。ただし「その遺伝子がどの程度、影響するのか」をきちんと理解していないと、検査結果を過大評価してしまうことにもなりかねないので注意が必要。(4)IoTIoT(Internet of Things、モノのインターネット)は、パソコンやスマホなどのIT技術だけではなく、家や家電、車、インフラ、工場など、私たちを取り巻くあらゆるモノをインターネットで接続することにより、暮らしや産業をより豊かに、効率的にしていこうとする技術。究極的には人間や動植物の活動すべてをデータ化していくことになる可能性があるので、IoL(Internet of Live)でもあるといっていいほど広がりを持っているそうです。たとえばドアとライト、冷蔵庫がネットに接続され、データを計測するだけでも、自分がいつ帰宅して電気をつけたか、何時に電気を消して眠りについたか、などが明らかになるということ。私たちの行動がより詳細に、多面的にデータ化されていくわけです。*こうして上辺をさらってみただけでも、私たちが生きる時代のスピード感を実感できるのではないでしょうか?そして、そんな時代だからこそ、自分のデータに翻弄されるのではなく、それを使いこなすことが大切だということです。ビッグデータ時代について深く考察すべきタイミングは、すでに訪れているといえるでしょう。そういう意味でも、本書には読むべき価値があると思います。(文/書評家・印南敦史)【参考】※酒井崇匡(2015)『自分のデータは自分で使う マイビッグデータの衝撃』星海社
2015年11月07日