2022年8月9日 16:51
【『初恋の悪魔』感想4話】献身と暴力の螺旋を抜け出すために・ネタバレあり
物語の中で、事件は4人が自分の内面を見つめたり、開放したり、関係を結びなおすための『装置』である。
そして今回の事件は、どんなに本人が正しく思っても、相手を見ない一方的な感情の発露は暴力であるという現実を浮かび上がらせる。
一度は鈴之介の言葉に腹を立てて出て行った小鳥が、事件の結末を見届けて、やがて「しばらく頭を冷やす」とメールで詫びてきたのは、苦さの中での救いに見えた。
そんな小鳥の片思いをめぐるほろ苦い顛末の中で、悠日と星砂は次第に距離を縮めていく。
星砂は、自分の中にあるもう一つの人格の存在(彼女はその人格を『ヘビ女』と呼んでいる)で、常に不安に苛まれている。
覚えのないものを買っている、覚えのない誰かとトラブルになっている、覚えのない怪我をする。
しかし彼女の不安の本質は、そういう日常のトラブル以上に、より根源的な、自分の存在そのものに対する不安定さである。
実は追随者なのはヘビ女の方ではなくて、自分の方なのではないか。
その不安を彼女は荘子の説話『胡蝶の夢』になぞらえる。
蝶になる夢を見た。しかし蝶もまた確かに自分だった。逆に蝶の夢を見ている自分の存在が夢なのではないか(これは鈴之介が口にする『マーヤーのヴェール』と並列する概念だと思う)。