2022年8月9日 16:51
【『初恋の悪魔』感想4話】献身と暴力の螺旋を抜け出すために・ネタバレあり
二重人格といえばひどく特殊な状況に感じるけれども、半歩引いて、例えばSNSで見せている自分と実生活の自分の乖離や、自分でコントロールできないほどに傷ついたメンタルの話だと考えたら、星砂のそれは私たちにとっても身近な感情に思える。
そんな不安におびえる星砂を抱きしめて、悠日は語りかける。
「僕が好きなのは、トマトが嫌いでエビフライが好きな人です。僕が、あなたを知っています。僕が知っている限り、あなたはいなくなりません。困ったら僕を見て下さい。僕が『あなたはあなた』だって言います。大丈夫。
絶対いなくなりません。僕が知ってますから」
相手に何かを『する』、あるいは『してあげたい』ではなく、「ちゃんと覚えています」と誓う悠日の言葉は、少し離れた距離から背中だけで、悠日が兄に語りかける電話を聞いていた星砂の姿にも重なる。
この2人は、人に対する誠実さや優しさが似ているのだと思う。
今ここで一つ一つ覚えていく自分の記憶の中の、大切な人の姿は何にも左右されないし、誰からも奪われない。
それは片思いの一方的なベクトルが、暴力的でない何か、きっと愛と呼べるものに転化する瞬間なのだろう。
嵐の夜、荒波をゆく船を導くコンパスのような言葉だと思った。