今の生活に、とくに不満はないけれど、幸せとも言いきれない。過去の問題が自分の中で消化しきれず、もやもやしている…など、心の澱を、なにかしら抱えている人は少なくないはず。そんな時に取り入れたいのが占い師・しいたけ.さん&精神科医・名越康文さん流の自問自答メソッド。N(名越さん):僕はこれまで、精神科医という仕事をしてきた経験から、不安や悩みを“根本から解決すること”は、本当にそこまで必要なのかって思うところがあるんです。S(しいたけ.さん):といいますと?N:もちろん、とても深刻で、しっかり解決したほうがいい場合もありますよ。でもそれは100人に1人くらいの話で、そういう人は専門家のカウンセリングを受けたほうがいいでしょう。ただ、そのほかの大多数の人の不安や悩みっていうのはね、根本からの解決というより、朝から機嫌をよくするとか、毎日を少しずつ底上げしていくほうが大切なんじゃないかな、と思うんです。S:それはとても興味深いお話ですね。N:とりあえず僕ね、心理的にしんどい状態の人には、鏡に向かって口角を上げて笑顔にして、映っている自分に「大丈夫」とか「素敵だよ」って言ってくださいって言うんです。でも、これをやるにはその前に条件があって、“絶対に毎日やる”と誰かに誓いを立ててからでないと意味がない。僕の心理講座などにも真っ暗な表情をして来る子がいるでしょ。そうするとその子に「誰にでもできることだけど、絶対にやると言うまで教えないよ」って言うんです。その時に焦って「やります!」と答えても、「きちんと考えて、またおいで」って。そうしないと、聞いたところで「バカげている」って思って、真剣にやらなくなってしまいますからね。「大丈夫」という役柄を自分の人格に取り入れる。S:実際、「大丈夫」って言っているうちに、大丈夫だと思えるようになるのでしょうか?N:思えるというか、“役になりきる”ということ。演劇をイメージするとわかると思いますが、シチュエーションに応じた役柄に徹すると、それが人格の中に取り入れられるという。S:なるほど。「大丈夫」という役柄が自分のものになるんですね。ただ、これを絶対にやりたくても、名越先生が身近にいない読者は誰に誓いを?N:その相手は、学生時代の恩師とか、先輩とか、親友とか、自分の人生の羅針盤になっているような人がいいでしょう。S:僕は昔、まったく友達がいなかったんですけど、そんな以前の自分のように言える相手がいない場合は…。N:それなら架空の“師”に誓うという方法もありますよ。椅子を2脚、向かい合わせに置いて、一方に自分が座り、誰も座っていないもう一方の椅子に、自分の話したい相手がいると想定するんです。心理療法の世界では「エンプティ・チェア」といいますが、これもおすすめです。この誓いさえしっかり立てたら、あとは朝、起きた時にでも、会社でやっかいな会議の前にでも、トイレに駆け込んで鏡に向かって「大丈夫」って。名越さん流自問自答メソッド約束型「大丈夫」法実践する前に、必ず「やる」と誓いを立てて。鏡の中の自分を見つめて、口角を上げ気味で「大丈夫」と声をかけ、前向きな気持ちを養う方法。訝しんだり、面倒くさがったりしているようでは、もちろん意味なし。そうならないために、実在の人にでも架空の人にでもいいので、「絶対やる」と誓いを立てること。最低でも1日1回、1か月は行って。なこし・やすふみ精神科医。相愛大学、高野山大学客員教授。NTV系『シューイチ』ほか、さまざまなメディアでコメンテーターとしても活躍。著書多数しいたけ.さん占い師。早稲田大学大学院政治学研究科修了。哲学を研究するかたわら占いを学問として勉強。著書に『しいたけ占い 12星座でわかるどんな人ともうまくいく方法』(小社刊)ほか。最新刊『しいたけ.の部屋ドアの外から幸せな予感を呼び込もう』(KADOKAWA)が12月15日に発売予定。名越先生から「体癖」について学ぶなど師弟関係にある。ツイッターでのふたりのやりとりに注目者多数※『anan』2018年11月28日号より。写真・大嶋千尋イラスト・100%ORANGE文・保手濱奈美(by anan編集部)
2018年11月25日ドラマも映画もイケメンなしには楽しめない!今回、ご紹介する作品は、『母さんがどんなに僕を嫌いでも』。母親から拒絶され、友達からも愛されることなく育った青年・タイジが起こした奇跡を描く感動作です。本作で、タイジの心の機微を繊細に表現した太賀さんにお話をうかがいました。写真・大嶋千尋 文・田嶋真理 スタイリスト・山田陵太 ヘアメイク・高橋将氣【イケメンで観る海外ドラマ&映画】vol. 22コメディもシリアスもハマる、若手きっての実力派俳優原作は、漫画家、小説家、エッセイストとして活動する歌川たいじが2013年に出版した、同名のコミックエッセイ。母親から暴力を受け、児童保護施設に入れられながらもひたむきに母を愛する姿は、観る者の心を震わせます。太賀さんは、自分の殻に閉じこもっていたタイジが次第に心を開いていくさまを熱演。福田雄一監督作『今日から俺は!!』や『50回目のファーストキス』のコメディ演技とは全く違った、新たな魅力を披露しています。ーータイジを演じるうえで、大切にしたことは?太賀さん 誰かに認めてもらいたいという気持ちの底にある強烈な寂しさは、タイジの原動力。僕が最初に、タイジを肯定してあげたいと思いました。タイジは、自分の気持ちに寄り添ってくれる友だちを得たことで、母と向き合えるようになります。個人的に、役と自分との境界線は作るものではないと思っていて。自分自身が感じる喜びや悲しみを繊細にすくっていくことを心掛けながら演じました。ーータイジの心を深く傷つける母・光子を演じた吉田羊さんと太賀さんとの演技のぶつかり合いが素晴らしかったです。太賀さん 僕と吉田さんが撮影現場でお話をすることはほとんどありませんでした。吉田さんは母・光子として、ずっと緊張感をキープされていて。近くにいるけれど遠くに感じるというタイジと母の距離を体現されていました。その雰囲気は、映画にも反映されていると思います。母を演じた吉田さんのイメージは、僕の心にずっと残っていて。一緒の撮影がない日でも、吉田さんの顔を思い浮かべながら演じていました。ーー演じていて難しかったシーンは?太賀さん すべてのシーンにおいて、難しかったです。これまで僕はリアリティを持って演じていくことを大切にしてきましたが、御法川監督はリアリティよりも地上から10センチ浮いたポップな世界観を目指していました。僕も、その10センチがより多くの共感を生むために重要だと理解できたので、どのように表現すれば良いのか、悩みました。脚本の後に原作を読んだとき、歌川さんの絵のタッチにぬくもりを感じて。壮絶な人生ですが、悲しいだけのドラマではない。そこには生きていくうえでの力強さや希望がある。そういったところを演技で表現したいと思いました。ーー幼少期のタイジを演じた子役・小山春朋さんのつくり笑いを見ていると、切ない気持ちになります。太賀さん 顔合わせで小山くんと初めて会ったとき、“イケる!”と思いました。こういう雰囲気の子がつらい目にあったら、とても悲しく見えますし、小山くん持ち前の愛らしさもある。すごく良い形でバトンをもらえそうだなと。大人になったタイジのつくり笑いも、彼の演技が僕に良い影響を与えてくれたと思っています。ーータイジが友だちと一緒に過ごすシーンがとても自然でした。タイジを支える友だちを演じた森崎ウィンさん、白石隼也さん、秋月三佳さんの印象は?太賀さん 森崎ウィンくんとは、僕が中学生のころからの知り合いで。同じ事務所ですから、一緒にレッスンを受けたこともあります。タイジ役に決まった後、キミツを誰が演じるのか、ずっと気になっていました。愛嬌ある毒舌家という現実にいそうでいない役を堂々と演じることができるのは彼ならではの魅力。彼がキミツ役で良かったと思っています。僕はタイジが所属する社会人劇団のミュージカル・シーンに備え、ダンスのレッスンを受けたのですが、ウィンくんはそれに付き合ってくれました。白石さんと秋月さんはとても温かい方たちで、現場では自然とタイジを支える雰囲気になっていきました。ーー印象に残っているセリフやシーンは?太賀さん 友だち3人と温泉に行ったタイジが、海辺で身の上話をするシーンです。秋月さん演じるカナのセリフ、“タイちゃん、うちの子になりなよ” が強く心に残っています。彼女の愛情深さが、どれだけタイジの助けになっただろうと。演じていて心が震えました。ーータイジを演じて、ご自身の母親との関係を思い起こしたことは?太賀さん 僕には、甘えたくても甘えられない時期はありませんでした。甘えん坊の超マザコンです(笑)。といっても、「ママ、お金貸して、ご飯作って」みたいなことは決して言いません。言葉や態度では甘えず、仕事に対するアドバイスを求めることもありません。母は自分の中にある精神的な支え。言葉を交わさなくてもお互いに何かを感じ取れる。僕にとって、揺るぎない存在なんです。インタビューのこぼれ話太賀さんは、雑誌の企画でカメラマンデビューを果たし、フィルムとデジタルを使い分けるほどのカメラの達人。撮影時はカメラマンの機材に興味津々でした!Information『母さんがどんなに僕を嫌いでも』11 月16 日(金)より 新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、イオンシネマほか全国公開出演:太賀、吉田羊ほか配給:REGENTS©2018 「母さんがどんなに僕を嫌いでも」製作委員会
2018年11月15日2016~’17年に、立て続けにエリート大学生らによる性暴力事件が報道されたのを覚えているだろうか。姫野カオルコさんの『彼女は頭が悪いから』は、そんな暴行事件のひとつ、東大生による集団わいせつ事件に着想を得て書かれた。読者自身の倫理観や価値観を映し出す、恐るべきミラー小説。「最初にラジオのニュースで聞いたときから、直感的にこれまで見聞きしてきた事件とはどこか違うと違和感を覚えました」姫野さんは、自分なりに報道等で事件を調べるとともに、裁判の傍聴にも出向いた。同じくこの事件について取材を重ねていたフリーライターの高橋ユキさんから話を聞いたりもしたという。結局、取材開始から出版まで、2年近くを要した。「事件そのものは、すでに法廷で裁かれており、細かい事情まで知らない私があれこれ言うことではありません。性衝動では説明できないような事件が起きたという結果の報道から、こうであったかもしれないという、自分にも多くの人の中にもある醜さを考えたいと思いました」のちに被害者となる神立美咲は、横浜の平凡な家庭で育ち、普通の女子大に進学した。加害者となる竹内つばさは、東京の一等地の公務員宿舎に住まいがあるような家庭で何不自由なく成長し、東大生となった。「私なりの調査から推測した女性像、男性像です。美咲は『ま、いっか』とその場の空気に流されてしまう女性で、つばさは東大ブランドを万能だと勘違いしているような男性」物語のほとんどは、美咲やつばさがどうやって育ってきたかに割かれており、それがわいせつ事件の背後に潜む、現代社会や市井の人々の歪んだ倫理観や価値観を際立たせる。「この作品に出てくるのは、加害者もその家族もSNSユーザーもイヤな人たちばかり。その中の誰に、どんな物言いに嫌悪感を覚えるかで、自分がどういう人間かが見えてきます。見たくないのに、できてしまったおできは鏡で見ずにはいられないですよね。そんなミラー小説と呼べるような作品になりました」問題作にふさわしいエンディングは、最初から決めていたのだろうか。「展開も含め、作者の意図が介在する余地がなかったですね。登場人物たちがみな自分で語りだし、行動し……、私はそれをただ書き留めていただけのような気がします」姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』カバー絵に、身分格差のある悲劇的な恋愛を描いたといわれるジョン・エヴァレット・ミレイの「木こりの娘」が使われているのも印象的。文藝春秋1750円ひめの・かおるこ1958年、滋賀県生まれ。2014年、『昭和の犬』で直木賞受賞。エッセイにも卓抜した才能を発揮。著作に『近所の犬』『純喫茶』ほか。※『anan』2018年10月3日号より。写真・大嶋千尋インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2018年09月27日直木賞作家の桜木紫乃さんが新作『ふたりぐらし』を上梓。夫婦の“裏切り”がテーマだという同作について、桜木さんに聞きました。「イメージとしては、水色を塗り重ねて暮らす二人のところに誰かが突然藍色を差しはさんでくる感じ」一組の男女の日常を、そんなふうに表現する桜木紫乃さん。新作『ふたりぐらし』に登場する、北海道で静かに暮らす夫婦の話だ。「直木賞をいただいた後の連載依頼で、“裏切り”というテーマを打診されたんです。たぶん、私が原稿で一回も使ったことのない言葉だと思う。“裏切り”は難しいけれど、日常の中で小さな嘘を重ねる話なら書けるかもしれない、と考えた時に、夫婦の話だなと思いました」映写技師だったが映画のデジタル化が進み仕事にあぶれてしまった夫・信好と、看護師の紗弓。子どもはおらず、生活は倹しいが仲の良い夫婦だ。たまに外出先を偽るくらいの嘘はあるが、「夫婦の間にはこれくらいの嘘はある。それは相手を傷つけない嘘、自分のためじゃない嘘でもある。二人ともそうしたことは話さず静かに暮らし、一日が無事に終わったらああよかったと思う。私もこんな満足を手に入れたい」そこに、互いの家族や隣人らが関わり、彼らの日常を少しだけ揺らす。全10話の本作は、1編が原稿用紙30枚の短編。比較的短いなかに、「一編ずつ、夫婦のやりとりを証明問題を解くように書いていき、全体を見た時に二人の間に流れている時間が分かればいいなと思いました」ささやかな波乱はあっても、二人の生活は続く。こうして人と人は一緒に暮らしていくのだという事実に、豊かさすら感じさせる。互いに支えあっている彼らについて、「責任って取るものでなく、持つものだと思う。この二人は、同じだけ二人で責任を持っている。それは継続から生まれたものでしょうね。ただ、夫婦って、毎日ちゃんと出会って、ちゃんと別れないとうまく時間が流れないから難しいですよね」それは“おはよう”“おやすみ”をちゃんと言う、なんてことではない。「毎日上手に別れるというのは上手に忘れる、流す、ということ。毎日出がけにハグする習慣の夫婦もいますが、そうやってリセットできるといいでしょうね。水色を塗り重ねて、同じ景色を見続ける経験が、もし気まずい状況が訪れた時に、救いになるのではないかなと思います」『ふたりぐらし』北海道に暮らす信好と紗弓の夫婦。札幌に住んでいた彼らだが、信好の母が亡くなったことから、実家の江別に移り住むことにして…。新潮社1450円さくらぎ・しの作家。1965年、北海道生まれ。2002年に「雪虫」でオール讀物新人賞を受賞。’13年『ラブレス』で島清恋愛文学賞、『ホテルローヤル』で直木賞受賞。※『anan』2018年9月26日号より。写真・土佐麻理子(桜木さん)大嶋千尋(本)インタビュー、文・瀧井朝世
2018年09月20日若いというのは、必ずしもいいことばかりなんかじゃない。自分がその“季節”を生きている最中は、わかりきっていたはずのことなのに…。紀伊カンナさんのマンガ『魔法が使えなくても』は連作形式の群像劇なのだが、そこに出てくる若者はかつての、あるいは今の私たちの姿だったりもする。たとえば「辞めたい」が口癖で、なおかつ失踪癖のあるアニメーターの岸くん。仕事はクールにこなすものの、心ここにあらずといった感じの千代ちゃん。バンドマンとして夢を叶えつつあるように見える、たまき。地下アイドルに魅せられるキキちゃん。社会に漕ぎ出した彼らは、オールの使い方もわからず、夢と現実の折り合いを思案している。「仕事も恋も元気にバリバリやる!的なものも楽しいけど、自分が描くならもっと違うアプローチをしてみよう、そのほうが今を生きてる人に沿っているような気がしたんです。ハツラツと過ごす人の一方で、こんなはずじゃあ…と日々をしょんぼり過ごしてしまうような、そんな人たちに向けて描こうとしているところはあります」別物だと思っていた物語が思いがけずつながったり、登場人物がニアミスしたりするのが連作短編の面白さといえるが、そういう意味で本作はさりげない部分から、「こうきたか!」と唸ってしまうものまで、しかけがたっぷり。ときに物語の見え方がガラリと変わったりもするのだが、これもまさに周到に練られた短編を読む醍醐味といえるだろう。「私はマンガで特に何かを伝えたいとは思っていなくて、基本的に読む人が何かを感じて考えてもらえたらのスタンスでやっています。ただ、筆が遅くて作品ごとの間が空いてしまうタイプなので、そのぶん一冊を繰り返しじっくり読んでもらえるような構成や画面を目指せればと思っています」やりたいこととできること、そしてやるべきことの間でもがき、かけがえのない日々を生きる若者たち。カッコ悪さも眩しく見えてしまうのは、やっぱり若さのなせるワザかも。『魔法が使えなくても』ガツガツせず自然体で生きようとする若者を、仕事や夢を軸に切り取った6つの連作短編。今にも音楽が鳴りだしそうな、ポップで躍動感のある絵柄も注目。祥伝社1000円©紀伊カンナ/祥伝社フィールコミックスきい・かんなマンガ家。沖縄の離島を舞台にした、心が洗われるようなBL『海辺のエトランゼ』でデビュー。続編『春風のエトランゼ』(既刊3巻)も人気。本作は初の一般誌での作品。※『anan』2018年9月19日号より。写真・大嶋千尋(本)インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2018年09月18日2016年、各国の作家が集まるアイオワ大学のプログラムで、3か月ほど米国に滞在した柴崎友香さん。その体験を短編集にしたのが『公園へ行かないか?火曜日に』。「もちろん初めての体験です。よく状況をつかめないままいろんな出来事が起きるのが面白くて。それを読む人にも体感してもらうために、エッセイではなく小説で書きました」年齢もバックグラウンドも異なる作家たちと、公園まで散歩のつもりが予想外の遠出になったり、住居棟で非常ベルが鳴って避難したり…。「英語ができなくても大丈夫と言われていたんですが、初日に37人の参加者中、私が格段にできないと判明して、どうしようかと思いました(笑)。でも、せっかくの機会だしいろいろ聞きたい気持ちもあって、一緒に行動していました。少しずつ聞き取れるようになったかと思えば、翌日は全然分からなかったりと、波がありましたが、最後のほうの発表で“英語うまくなったね”と言われた時は嬉しかった」自身で撮ったカバーの写真はどれも素敵な環境だと分かるが、「部屋のカードキーが何度も使えなくなるし、自動販売機は壊れっぱなしで。そんな雑な感じが面白かったし、気楽でもありました」と、なんでも楽しめる柴崎さんのおおらかさもたっぷり味わえる。一方、後半ではニューヨークで大統領選挙という大きなイベントに遭遇するが、冷静に見ているのが印象的。「劇的な瞬間に居合わせたとは思いませんでした。私は選挙に参加したわけでもないし、本当に重要なのは、劇的な結果が起こる前の積み重ねだと思うから。むしろ、私はあの場所にいたけれど何も分かっていなかったなということを実感しますね。いい体験ができたとは思っています」ほかにはニューオーリンズの第2次世界大戦博物館で感じたことなどが、真摯に綴られ心に残る。「面白いことはまだまだあって、あと2~3冊は書けます(笑)。プログラムを経て、言葉にしても、生活や空間のスケール感にしても、自分の中の基準がちょっと変わった気がしますね。さんざん英語ができないことなどを晒していますが(笑)、自分も何か新しいことをやろうとか、めげずに頑張ろうと思ってもらえたら嬉しいです」『公園へ行かないか?火曜日に』33か国から作家たちが集まってきた、アイオワ大学のインターナショナル・ライティング・プログラムに参加した体験をつづる11編の小説集。新潮社1700円しばさき・ともか作家。1973年生まれ。著書に芥川賞受賞作『春の庭』(文春文庫)など。2010年に野間文芸新人賞を受賞した『寝ても覚めても』原作の映画が公開に。※『anan』2018年9月19日号より。写真・土佐麻理子(柴崎さん)大嶋千尋(本)インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2018年09月13日昨今注目度を高めている作家、古谷田奈月さん。最新刊は『無限の玄/風下の朱』。三島賞受賞作の「無限の玄」は、ブルーグラスバンドを組んだ男家族の話で、父・玄は死んでは生き返ることを繰り返す。この男性しか登場しない話は『早稲田文学増刊 女性号』に掲載された。「もともと男がどう、女がどう、ということでないところを目指したいと思っていて。私という女性が、“女性だけの書き手を集めた雑誌”で女性について書くことに窮屈さを感じ、男性を書こう、と自然とそう考えました」本作では、日ごろ男性を見て感じていたことを反映させた。「男性だけのマチズモ的な社会の中で上下関係が形成され、受け継がれていっているように見えるので、その終わりのなさを書きたかった。ブルーグラスという弦楽器のバンドにしたのは、弦というものが締め付けや抑圧のイメージに繋げやすかったからです」女嫌いで威圧的だった父親の元で生きてきた息子たちの関係にも少しずつ変化が訪れるが、「自分も相手も共同体の一部であったと思っていても、実は“個”なんですよね。ずっと生きてきたコミュニティの中で自分が個であることに気づきながら生きていくのは、すごく大変だと思う。でも、今いる場所を疑う視点は持っていたい」一方、芥川賞候補作「風下の朱」は、大学の女子の野球部の話だ。「『無限の玄』は自分から見た男性を書きましたが、女性である自分が客観的に女性を書くのはずるい気がして。ですから自分のことを書きました。ここに出てくるポリティカルコレクトネスを気にする立場の人も、自分の欲求に正直な人も、何も考えていない人も、みんな自分ですね。それに今回は、生理のことを書きたかった。明らかに生活に支障をきたすものが結構なスパンでやってくる悔しさもあって」一連のジェンダーを主題とした小説を書いてみて思ったのは、「性というものから解放された状態を求めていましたが、自分が女性であることからは逃れられないと気づきました。自分の性を引き受けたうえで自由を求めることは可能だと、そう思えるものを今後は書いていきたいです」『無限の玄/風下の朱』父親と叔父、息子たちで組んだ旅回りのブルーグラスバンドで、ある日、父親が死亡するが…。男社会、女社会、それぞれを投影した2編。筑摩書房1400円こやた・なつき作家。1981年生まれ。2013年に「今年の贈り物」で第25回ファンタジーノベル大賞受賞。’17年『リリース』で織田作之助賞、’18年「無限の玄」で三島由紀夫賞受賞。※『anan』2018年9月12日号より。写真・土佐麻理子(古谷田さん)大嶋千尋(本)インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2018年09月10日初老に差しかかった個性派俳優・海馬五郎は、フランスの一風変わった文化賞の授賞式に出席するため、パリ行きを決意。それがトホホな道行きになっていく松尾スズキさんの『もう「はい」としか言えない』。同じく海馬五郎の語りで、幼少時より自意識でがんじがらめになっていた自らの生い立ちをたどる「神様ノイローゼ」。松尾ワールドにどっぷり浸る快感!“本人成分たっぷり”の2編を収録。読み進めるうちに、じわじわ気づくはずだ。「これ、かなり私小説的なんじゃ?」。松尾スズキさんも「僕の分身みたいな存在」と認める海馬五郎を主人公に据えた2編をカップリング。最新刊『もう「はい」としか言えない』が面白いのなんの。「『少年水死体事件』と名づけて新聞連載していた随筆にフィクションを加味して書き直したのが『神様ノイローゼ』。自意識と妄想でこんがらがっていた子ども時代の自分の話です。いままでインタビューなどでもしゃべってきたことなんですが、一度体系づけてまとめておこうと思ったんですね。もうこれを読んで、わかってくれと。僕という人間のマニュアルです」末恐ろしいほどシニカルで、冷めた思考の五郎少年。子どもが苦手だという松尾さんだが、作中に見る、あんな記憶があればさもありなん。「あいつらは自由にやってるくせに、いざ攻撃されると子どもという鎧に逃げ込むんですよ。僕もそういうガキでした(笑)」表題作もまた、松尾さんに起きた実際のエピソードや、周囲から聞いたリアルな悩みを投入してできた作品だという。道に迷いやすいという五郎のキャラもご本人と同じらしい。「でも迷ってる時間って自由だなと思うんですね。自分がどこにいるのかもわからずさまよえば、誰にも捕まえられない。究極の自由でしょう。僕が表現をやっているのも、結局は自由になりたいからだと思います。現実に対して感じている違和感を笑いに変えて、既成の価値観から逃れたい。僕の小説はドタバタしていると評されることが多いけれど、僕の中ではそれがリアルなので、そう言われるのは心外なんですよ」息苦しいルールを押し付けられていた五郎は逡巡の末、自由欲しさに、通訳を同行させるならと苦手な外国行きを承諾。しかし通訳となる斎藤聖の紹介者が、彼を〈少し新しいタイプの人間〉と説明していたわけを、五郎は行く先々で味わうことになる。「日仏ハーフの聖君が出てきた途端に、五郎がこの子によってもっと混乱に陥れられることがわかって、話に弾みがついてしまいました(笑)」自由に焦がれに焦がれた先で五郎を待っていた事態を見届けてほしい。『もう「はい」としか言えない』 妻に浮気がバレた海馬五郎。離婚回避のための誓約に汲々としていた彼は、わらにもすがる気持ちで「エドゥアール・クレスト賞」の授賞式へ旅立つ。表題作が3度めの芥川賞ノミネートとなる。文藝春秋1450円まつお・すずき1962年生まれ、福岡県出身。今年、旗揚げから30周年を迎えた「大人計画」主宰。12/18~SPIRALで「30祭」開催。作家、演出家、俳優、映画監督とマルチに活躍。※『anan』2018年9月5日号より。写真・土佐麻理子(松尾さん)大嶋千尋(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2018年09月02日友だちのリア充アピールを鬱陶しく感じてしまったり、匿名をいいことに平気で他者を“口撃”したり、過去の恥ずかしい発言を後悔したり、嫌いな人からフォローされてしまったり…。ネットでモヤモヤした感情を抱いた経験は、大なり小なりあるはず。そんな複雑化しすぎたコミュニケーションに疲れてしまった人のために存在するのが、「もしもし堂」という携帯電話会社だ。マンガ『もしもし、てるみです。』について作者の水沢悦子さんに話を聞いた。ネットに疲れた人に贈る、つながりの物語。「アンチネットというつもりではないのですが、人と人の距離感についていろいろ思うところがあり、時代にも合っているので、この設定がちょうどいいと思いました」もしもし堂の営業所で働く販売員のてるみさんは、ネットを毛嫌いしている古風でおっとりした大人の女性。そんな彼女に恋心を抱いているのが、過去にスマホでいろんな失敗をやらかしてしまった、中学2年生の鈴太郎だ。「ミライフォン」が普及し、SNS「トモッター」や「ニャイン」を駆使する同級生を尻目に、ネットから遠ざかる人生を選んだ鈴太郎は、「もしメカ6号」という時代遅れ感たっぷりの携帯電話(ただし、通話相手の心拍数を計測するセンサー付き!)に乗り換えて、てるみさんの元へ足繁く通うように。「もしもし堂周辺のスマホのない空間は、どうしても昭和っぽくなってしまいますよね。自分もある程度昭和を生きましたので」と、著者が言う通り、クロスワードパズルや電話相談、間違い電話など思わず懐かしさを覚えてしまうようなアイテムや出来事がたくさん。「自分が電話で商売するならこんな感じがいいっていうのが、もしもし堂なんだと思います。女子たちが電話でお客様の相談に乗ったり、話し相手になったりする、もしもし堂サポートセンターの存在は、今の時代に絶対に必要だと思っていて、国が運営してほしいくらいです。大きな雇用も生まれるし、おしゃべりをするだけで楽しく働けて、人も癒せるなんて、素晴らしいですよね」1話2ページで展開していく物語は、笑いはもちろん、エロや癒しの要素が満載なのだけど、知らず知らずのうちにネットに振り回されている現代人に対するメッセージが、さりげなく潜んでいたりもいる。今の時代、てるみさんのようにネットを完全に遮断することは難しいかもしれないが、もしもし堂で繰り広げられる血の通った温かいやり取りには、ストレスを軽減するためのヒントがたくさんあるはずだ。「いまやネットは、どうしようもなく存在するもの。上手に使えば素晴らしいツールですし、共存していくしかないので、批判だけにならないようにして、功罪の功の部分もちゃんと描いているつもりです。もしもし堂の社訓『君子の交わりは淡きこと水の如し』が伝わればいいですね」『もしもし、てるみです。』2 『花のズボラ飯』の著者がネット全盛の時代に放つ、超アナログな世界観。個性的なデザイン&機能のもしメカ1~6号にも注目!アニメBeansでも配信中。小学館972円©水沢悦子/小学館みずさわ・えつこマンガ家。デビュー作『花のズボラ飯』(原作:久住昌之)が大ヒット。近未来を描いた「ヤコとポコ」を『エレガンスイブ』(秋田書店)で不定期連載中。※『anan』2018年9月5日号より。写真・大嶋千尋インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2018年08月29日身悶えするほど面白い、キャラクター愛炸裂コミック『おじさんはカワイイものがお好き。』。その著者が、ツトムさんだ。小路課長こと小路三貴(おじみつたか)は、会社では、頼りになると評判のデキる上司。子どものころからカワイイものに目がないのに、素直に公言できない40歳のイケメンバツイチである。大好きな犬のキャラクター<パグ太郎>を心置きなく愛でたい!でも誰にも知られたくない!かくして、秘密死守のため、小路課長のドタバタな日常が展開する。「“おじさん”と呼ばれる年齢だけれどスーツが似合って気配り上手。小路課長には、周りにいそうでいない、理想を詰め込みました」萌えポイントは、シュッとしている大人の渋さと、パグ太郎を愛でる時の可愛らしさとのギャップ。「なので、スーツの着こなしや、自然なたたずまいはステキに描きたいですね。個人的には、袖をまくった時に見える手首や、スラックスのすそから見える靴下足首とかも好きなので、そういうディテールには特に神経を使います。また、私のような絵柄で、白目やトホホ顔などの変顔を描く作家さんは少ないように思うので、あえて多く入れています」小路課長がそれほどまでに入れ込む、パグ太郎の可愛らしさをどう表現するかも重要だ。「ボストンテリアとパグを飼っています。マスコットを描くならどちらかをモデルに!と決めていたので、さほど迷わずああいうフォルムができあがりました。考えてみると、昔から、バーバパパやムーミンが好き。彼らのしもぶくれ感といいますか、もったりした感じ……、たまりません(笑)。なのでパグ太郎の土台はそのあたりが影響してるのかな、と」小路課長の目下の悩みは、ひとり暮らしの部屋が見つかるまで同居することになった大学生の甥っ子・真純くんや、会社で一方的に小路課長をライバル視し、くってかかってくる同僚・鳴戸課長の存在。彼らによって、しばしばカワイイもの好きがバレそうになる窮地に陥るが、それを切り抜ける機転の利いたアイデアとコメディとのバランスに思わず噴き出し、つい小路課長のピンチを期待してしまう。1巻の終わりには、小路課長と同じビルで働いているという河合ケンタが意味深に登場。彼は小路課長とどんなふうに関わっていくのか、ますますこの先が楽しみだ。「自分が犬グッズをつい買ってしまうようになるなんて、ペットを飼うまでは思っていませんでした。なので、そういう熱愛対象に出合っていない方も、これからそういうものに出合ったらきっと……と思って描いています。疲れている時も、読んだらくすくす笑って息抜きができる、そんな作品にしていきたいですね」『おじさんはカワイイものがお好き。』コラボカフェに出かけたり、ガチャを引いたり。推しキャラのいる小路課長は毎日が充実。カバーをめくると、おまけの4コマまんがとあとがきが。フレックスコミックス600円©ツトム/COMICポラリス©フレックスコミックスツトム大阪府出身のマンガ家。2008年にデビューし、現在はwebコミック「COMICポラリス」で「おじさんはカワイイものがお好き。」を連載中。9月15日に待望の2巻が発売予定。※『anan』2018年8月29日号より。写真・大嶋千尋インタビュー、文・三浦天紗子
2018年08月23日いまの時期は、話題の夏休み映画が大集結しているだけに、どの作品を観たらいいか悩んでしまうところ。そんなときは、子ども時代を思い出すようなアニメを楽しんでみるのもオススメ。そこで、幅広い世代の心に響く最新作『ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―』をご紹介します。本作は、異なる短編3作品を一度に堪能できることでも注目を集めていますが、今回はエンディングテーマを務めたこちらの方にお話を聞いてきました。それは……。写真・大嶋千尋(木村カエラ)歌手の木村カエラさん!【映画、ときどき私】 vol. 181子ども時代からアニメーション作品に親しんでいたという木村さんにとっては、念願の楽曲提供となった本作。そこで、曲が生まれるまでの苦労や悩める女子たちのために元気になる秘訣などを教えてもらいました。―まずはこの作品のエンディングテーマを依頼されたときのお気持ちは?木村さんこれまでドラマの主題歌などを作る際には、台本を読み込んでそこから自分でテーマを見つけていくということはありましたが、今回は3つのまったく違うテーマの短編ということで、最初は「大丈夫かな」という不安も正直ありました。―そんななか、どのようなことを意識して曲作りを始めたのですか?木村さんまず制作サイドから言われていたのは、映画を観終わったあとに観客のみなさんが曲を聞いて「楽しかったね」ってその歌を口ずさみながら映画館を後にして欲しいということ。そして、子どもが楽しんで歌えるものにしたいという要望もありました。今回のオファーを受けた際には、プロデューサーの西村(義明)さんからお手紙をいただいたんですが、そのなかに、私の歌声には明るくて元気でまっすぐさがあり、太陽と一緒にいる人みたいな感じがあるというとてもステキなお言葉をいただいたんです。なので、私のなかにある楽しさや明るさの部分を聴いた人が感じられるように、私が出せる力を精一杯出したいと思って集中して作りました。インスピレーションとなったのは、まさかのドリフ!?―とはいえ、今回はカニの兄弟が繰り広げる冒険から母と少年の感動ドラマ、そしてある男の孤独な闘いを描いた物語までの異なる3つのテーマをまとめる曲にするという難しい作業。そのなかで参考にしたものはありましたか?木村さんその手紙にも書いてあったことで一番のヒントとなったのは、実はドリフだったんです(笑)。というのも、ドリフってコントのなかにエロティックなものがあったり、ふざけたものがあったり、いろいろありますけど、結局「8時だョ! 全員集合」のテーマ曲が流れると全部持っていかれますよね?そういうまとめ方みたいなのを例としていただいたんですが、それがめちゃくちゃわかりやすいなと思って(笑)。だから、そこを意識しつつ、みんなが楽しかったと思えるようにすべてをかけてできあがったのが今回の曲なんです。―そんななかで、できあがるまでには、やはりプレッシャーもありましたか?木村さん私がひとりよがりで作っている曲ではなくて、スタジオポノックのみなさんが一生懸命作っている作品のなかのひとつとして入り込むというのは私のなかでは大きかったと思います。なので、今回はいままでにない以上にたくさん打ち合わせをして、何度も意見交換をしながら最終的な形にしていきました。期限がなければどこまでも突き詰めていけるんですけど、今回のように期限があるなかで作っていくと「これが正解でいいのかな」ということをどうしても考えちゃうんですよね。曲を聴いてひとりで泣いてしまったワケとは?―完成したときは思わず泣いてしまったということですが、そのときの心境を教えてください。木村さん特に、私が好きな作品を生み出してきている方々とのお仕事ということで、すごくうれしくて思い入れもあったので、不安と楽しみの両方がありました。それもあって、最後のほうは緊張しすぎてレコーディングの前にある程度できあがったものを家で聴きながら、ひとりで泣いちゃったんです(笑)。というのも、自分ではすごくいいと思ったんですけど、そう思ったからこそ「ダメって言われたらどうしよう」と、よくわからない感情になって涙が出てきたんですよね。―裏でそんな思いをされていたとは思えないほど、誰もが口ずさみたくなる元気があふれる曲に仕上がっていますが、歌詞でこだわったところは?木村さんまずは、子どもならではの目線で考えましたが、子どもって同じことをずっと言っていたりするので、その感覚や無邪気な部分は大事にしました。そうやって繰り返していると、どんな言葉でもゲラゲラ笑い始めちゃうような魔法があると思うんですよね。なので、サビの「あそぼあそぼ」の繰り返しでは、そういう状態の楽しさを出しています。実際、私も歌っている時は5歳児みたいなテンションで歌うことを意識しているんですよ(笑)。日常生活では、本当は誰もが英雄!―今回、映画と曲のタイトルになっているのは「ちいさな英雄」という言葉ですが、木村さんがそこから想像した英雄とはどのような姿ですか?木村さん私がこの言葉から感じたのは、「誰もがみんな英雄だ」ということ。それぞれの物語のなかに登場する子どもたちもそうですが、何でもない日常生活のなかで誰しもが英雄になる瞬間があって、みんながんばって生きているんだという印象を受けたんです。だから、いわゆる表に出ている英雄というのではなくて「みんなもそうなんだよ」みたいなイメージですね。―スタジオポノックでは、以前スタジオジブリで活躍されていたアニメーターの方々が中心となっていますが、木村さんがこれまでに影響を受けた作品はありますか?木村さん私はもともと動物が好きだったんですけど、「本当は動物もしゃべれるんじゃないか」とか「秘密基地の奥に実は宇宙人が住んでいるんじゃないか」とかそういうことを考えるのが子どもの頃からすごく好きだったんです。なので、たとえば『となりのトトロ』や『魔女の宅急便』が映像としてそういう世界を見せてくれたこともあって、より想像力が豊かになったというのはあったと思います。特に、ひとりっ子だったので、「キキのような力が私にもあるんじゃないか」みたいな遊びはよくしていましたね(笑)。そういうことを信じていたという部分では影響を受けていたと思います。原動力は、自分らしさを知りたいという欲求!―今年はご自身で絵本の制作もされるなど、幅広い創作活動をされていますが、その源になっているものがあれば教えてください。木村さん日々変わっていくものではあるんですけど、根本には「自分自身を確かめていたい」という思いですね。つまり、自分がどういうものを出したいか、どのように成長しているのかということ。おそらく、“私らしさ” みたいなものを知るために自分の中身を出していかないと落ち着かないんだと思います。そういう感覚がつねにどこかにあるので、いかに自分を吐き出して、楽しくやるかみたいなところで作品を作っていることが多いかもしれないです。あとは、絵本でも曲作りでも同じですけど、まず自分が楽しくないと、ほかの人を元気にできないですよね。それには自分がつまらないと思うことをやっていてもダメなので、そういうテンションや自分を大切にしたうえで作品が出せるようにというのは意識しています。―とはいえ、やはり生みの苦しみを感じることもありますか?木村さんもちろんありますよ!特に歌詞を書くときはずっとアドレナリンが出ているような感じで一番大変なので、1曲でも作るのはすごく苦しい作業ではありますね。それだけに、書き終えたあとは、そのことに関する記憶や思い出がすぽんと抜けてなくなってしまうんです(笑)。それは、おもしろくもあり不思議なことですが。まさに身を削って作っている感じですね。カエラ流リラックス方法を伝授!―それだけ忙しいなかで、実践している息抜き方法などはありますか?木村さんみなさんも、相性の合わない人と会ったら頭が痛くなったり、疲れたりすることって日々ありますよね?私はそういうふうに自分がマイナスに向かっていると感じた瞬間に、自分にとっていいことをたくさんするようにしています。たとえば、私は海の塩を瓶に入れたものをお風呂場に置いているんですけど、そういうときは湯船に塩をドバーッと入れるんです。そうすると発汗もよくなるし、塩で清められた感じもするので、そうやって気分を変えることはけっこう大事にしていますよ。あとは自分が好きなものを身に着けたり、朝一番にお香をたいたりとかもしていますね。とにかく、「今日はヤバいかも」とちょっとでも思ったら、そんな感じで自分にとっていいと思うことをするように心がけています。無駄なことに悩むより笑うことが大切!―最後に、ananweb読者に向けて木村さんのように前向きになれる方法を教えてください!木村さん私には悩んだときに、自分に言い聞かせる言葉があるんですけど、それは「他人に振り回されるな。自分を幸せにしなさい」というもの。たとえば彼氏とかに傷つけられたりとか、友だちとうまくいかなかったりとか、自分が悪くないことが原因で悩むときもあると思います。そういうときには、「この時間って無駄だな」と思うようにして、自分を取り戻すようにしているんです。だからみなさんにも「そういう時間はもったいないし、そのぶん笑ってたほうが楽しいよ」ということは伝えたいですね。インタビューを終えてみて……。とにかく明るいオーラ全開で、笑顔が素敵な木村カエラさん。同じ空間にいるだけで、幸せな気分に包まれてしまうほどでした。そんな木村さんが歌うエンディングテーマは、誰もが元気になれる一曲。事前に予習してから鑑賞すれば、一緒に楽しめること違いなしです。小さな奇跡が大きな感動を巻き起こす!短編という表現方法にチャレンジしたスタジオポノックから届いたのは、愛と優しさに包まれる3つの物語。この夏、新たな映画体験を期待するなら、見逃せない話題作のひとつです。ちいさな英雄たちとの出会いを求めて劇場に足を運んでみては?作品概要昨夏、『メアリと魔女の花』で一躍注目を集めたスタジオポノックが、新たに立ち上げたプロジェクト「ポノック短編劇場」。記念すべき第一弾では、「ちいさな英雄」をテーマに作られ、声優陣には木村文乃や尾野真千子、オダギリジョー、坂口健太郎、田中泯といった豪華なキャスティングが実現している。今回公開されるのは、川に消えた父を探すために旅に出るカニの兄弟の大冒険を描いた『カニーニとカニーノ』をはじめ、たまごアレルギーを抱えながらもたくましく生きる少年と母との絆を映し出した感動作『サムライエッグ』、そして誰からも姿が見えない男の孤独な闘いに迫ったスペクタクルアクション『透明人間』の3作品。世界観に引き込まれる予告編はこちら!作品情報『ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―』8月24日(金)全国公開配給:東宝レーベル名:ポノック短編劇場©2018 STUDIO PONOC楽曲情報2018.08.22 releaseDigital single「ちいさな英雄」映画『ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―』エンディングテーマ
2018年08月22日朝吹真理子さん7年ぶりの新刊だ。「『きことわ』を書き終わって、次回作の打ち合わせをするときには、『TIMELESS』という言葉はもう浮かんでいました。同時に、酒井抱一の『秋草鶉図』の中に不思議な距離感で並んでいる男女のイメージもあったのですが。そこがどこなのか、いつのことなのかがわからない。自分で紡いだ言葉を何度も読むことにより、次の1行が押し出されていく感覚で小説を書いているので、3~4行書いては戻って書き直すの繰り返し。6年そんな感じでした」誰かを愛しいと思ったことのない女性〈うみ〉は、高校の元同級生で被爆者の子孫であることを恐れている〈アミ〉と、恋愛感情も性的な関係もないままに結婚する。やがてふたりは交配し、生まれてきた子どもをアオと名付けた。その後アミは姿を消す。アオは、うみや祖母の芽衣子、血のつながらない姉のこよみ、うみや芽衣子の仕事関係の知り合いで奈良に住む桃さんや初子さんらと交流しながら17歳になっていた。江戸時代に江姫が火葬された場所から、南海トラフ地震が起きた2035年まで、浮かび上がっては沈んでいく、たくさんの人生と記憶と出来事。その物語構造は、朝吹さんが好きだという俵屋宗達の水墨画「蓮池水禽図」のイメージと重なる。「蓮の花が咲いて枯れるまでの時間の流れ、つまり違う時間に起きた場面を、同じ絵の空間の中に配置する“異時同図法”という手法で描かれているんです」2部構成をとる本書は、前半はうみの、後半はアオの語りで進む。風変わりな家族のサーガのようでいて、むしろ実に人間的な、温かな寄り添い合いにも見えるのだ。「うみは現代社会のルールでは薄情に映るかもしれませんが、人間の縁を血縁だとかでは縛らない人。生まれ変わるならクラゲになりたいと言ううみの心情を私なりに察すると(笑)、こんな家族のかたちも自然な流れだったように思うんです。クラゲは自分の力で泳ぐのではなく大きい海流に乗って漂うだけ。なんとなく吹き寄せられて集まり、また離れてもいい。その流れの中で交配の時期なら生殖し、個体としてはいずれ死ぬ。それはクラゲに限らず、やわらかな肉体をもった生き物の“ほがらかな宿命”という気がするんです」『TIMELESS』小説は、自分の中から湧き上がる感情やテーマを探すというより「これまで作られてきた芸術作品への応答のような気持ち」で書く、と朝吹さん。新潮社1500円あさぶき・まりこ作家。2011年「きことわ」で芥川賞受賞。エルメスの展覧会と連動し、物語「彼女と」を書き下ろす。ご希望の方は全国のエルメスブティックへ。なくなり次第終了。※『anan』2018年8月15・22日号より。写真・土佐麻理子(朝吹さん)大嶋千尋(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2018年08月17日マンガの目利きも、BL好きも、巷のマンガファンも、口々に絶賛。それが、鶴谷香央理さんの『メタモルフォーゼの縁側』だ。老婦人と女子高生が織りなす、何かに夢中になれる幸せな時間。「BLで何か描きたいと提案したら、担当さんが、じゃあ主人公は老婦人と高校生とか年齢差のあるふたりでどうですか、というアイデアを出してくれました」かくて決まった主人公が、75歳の寡婦・市野井雪と、17歳の隠れ腐女子の高校生・佐山うらら。ふたりがBLコミックを介して育む、年の差を超えた友情は……。アウトラインを説明すればこうなるが、もっとも心を射抜かれるのは、好きなものを素直に好きと言い合える幸福感や高揚感が、清々しく温かく繊細に描かれているところ。「ひとりぼっちの者同士が出会い、変わっていくさまをテーマにしようと思ったんです。雪さんにもうららちゃんにも一応、家族や友人知人はいるわけですが、心情的には『何となく自分はひとりぼっちだ』と思っている。そういう人って案外多い気がするんですね。だからこそ、好きなものを存分に語り合うちょっとした会話の中で、本当に心が通ったような気持ちになれたらすごく満たされますよね。そんな空気感をマンガで描けたらいいなと思ったんです」ご自身も、うららのように、好きなものに、内向きだったころが。「高校時代、BLにしても、私は好きなんだけれど、自分の趣味をどういうふうにさらけ出していいかわからなくて、素直に表現することにはためらいがありました。友達もちゃんといたんですが、同時に、同世代とうまくつき合うのって難しいなと感じてもいました」そんなモヤモヤ感描写がリアル。ちなみに、雪がうららをお茶に誘うところから、ふたりの交流は深まっていくのだが、「あれは私のひとつの憧れのようなものかもしれません。雪さんまではいかずとも、もう少し大人になったら、好きという思いにいろいろ素直になれるのかもしれないなと(笑)」うららのイマドキな家庭環境や、「うらっち」「つむっち」と呼び合う幼なじみ・紡や、彼の彼女との関係も、気になるところ。「BLもそうですが、恋愛も考えだすと何が何やらな感じで(笑)。模索しながら描いています」『メタモルフォーゼの縁側』タイトルは「けもの」(シンガーソングライター青羊(あめ)のソロプロジェクト)の楽曲「めたもるセブン」から着想。変化を自然に受け止める心を表現。KADOKAWA780円つるたに・かおり1982年生まれ。マンガ家。本書が初めてのコミックス。web「LIKE THIS」にて「don’t like this」を連載。なお、今秋にはコミックス第2巻を発行の予定。※『anan』2018年8月15・22日号より。写真・大嶋千尋(本)インタビュー、文・三浦天紗子©鶴谷香央理/KADOKAWA(by anan編集部)
2018年08月14日TVドラマも映画もイケメンなしには楽しめない!今回、ご紹介するのは、海外ドラマ『MACGYVER/マクガイバー シーズン2』日本語吹替版で主人公のマクガイバーを演じる宮野真守さんと、その相棒ジャックを演じる土田大さん。劇中そのままの相性の良さを感じさせるおふたりにお話をうかがいました。写真・大嶋千尋 文・田嶋真理 ヘアメイク・NAKATANI(C+)(宮野真守)、HORIE(C+)(土田大) スタイリスト・横田勝広(YKP)【イケメンで観る海外ドラマ&映画】vol. 9声もルックスもイケメン! 宮野真守&土田大身の周りにあるものを使って即席の武器や装置を作り上げる“理系ニューヒーロー”の活躍を描くDIYアクション『MACGYVER/マクガイバー』。豊富な科学知識と驚くべき機転で極秘任務を遂行していくマクガイバーの活躍のほか、頭脳派マクガイバーと肉体派ジャックというタイプの違うイケメン・バディの息の合ったやり取りが人気を集めています。ーー宮野さんと土田さんは、かつて2002年のアニメ『真・女神転生Dチルドレン ライト&ダーク』でバディを演じたことがあったそうですね。土田 最初に組んだ作品は、バディというより、しもべ(笑)。主従関係みたいなものがあったんです。宮野 しかも今回はアニメではなくドラマ。いろいろと違いはありますが、土田さんと再び共演が決まって嬉しかったです。土田 やっぱり、縁があるのかな。こうして、シーズン2もできたし。ーーおふたりが初めて出会ったときのことを覚えていますか?宮野 初めて土田さんとお会いしたとき、僕は19歳でした。『真・女神転生Dチルドレン ライト&ダーク』の共演者の方々から誕生日に東京ディズニーランドのチケットをいただいて喜んだことを覚えています。土田 当時、何をあげたら良いかわからなくて。「欲しいものは?」と聞いたら、「ありません」と答えたんだよね? そのことが印象に残っています(笑)。宮野 言いました……(笑)。当時は趣味がなくて、あまり物欲もなかったんです。ーー「誕生日のプレゼントは必要ないですよ」と諸先輩方に気を遣ったのではなく……(笑)。宮野 遠慮したのではなくて(笑)。土田 遠慮するタイプじゃないですよ(笑)。ーー『MACGYVER/マクガイバー』のバディものとしての魅力は?宮野 マクガイバーは頭脳派、ジャックは肉体派。年齢差もあって、全くタイプの違うふたりなんです。それでもお互い信頼し合い、冗談を言いながら難しい任務をこなしていくところが魅力ですね。僕自身も土田さんと共演できることが嬉しくて。毎回、現場が楽しくて仕方ないです。僕らが実際に楽しんでいる様子は、声にも出ていると思います。土田 バディものは関係性がシンプルで、観ていて爽快感があります。僕もマモ(※宮野さんの愛称)と一緒に仕事をするときは、小難しいことは抜きでシンプルにやろうと。僕がピンチになったら助けてもらう、逆にマモがピンチになったら僕が助けるという気持ちでやっています。宮野 このバディの関係はとても心地良いです。ーー理想の男性やヒーローを演じることが多いおふたりですが、イケボ(イケメン・ボイス)で得したことは?宮野 特にないですね。自分の声をイケメン・ボイスだとは思っていなくて。土田 自宅に勧誘の電話がかかってきたときに役立ったことがあります。(コワモテな声で)「この番号はどこで知ったんですか」って。宮野 怖い芝居をするってことですか?(笑)。土田 それはよくやります。マモはやらないの?宮野 僕の声は迫力がないので、やったことがないですね。あ、でも自分でもビックリするくらいテンションの低い声で話しているとき、予想外に母親から「あら、良い声ね」と言われたことはあります。労力を使わずに出していた声だったのに、そう思うんだなって(笑)。土田 おもしろいお母さんだね(笑)。ーーバディとして、お互いの尊敬できるところを教えてください。土田 仕事ぶりもさることながら、彼の佇まいで現場があたたかくなるんです。本人は気づいていないと思いますが、彼の雰囲気で過酷な現場が緩和される。誰であっても彼のふわっとした空間に入れてしまうんです。自然にすごくよく笑うしね。そこはほかの人にはまねできないなと思っています。宮野 ジャックの声を初めて聞いたとき、ビックリしたんです。これまでの土田さんからは聞いたことのない声でしたから。ジャックは土田さん以外ありえないと感動しました。『MACGYVER/マクガイバー』は叫ぶシーンが多いんですが、土田さんは1個も手を抜かない。役に命を懸けていらっしゃる。こうでなくちゃいけないなって。若い世代の方にもそう思っていただきたいなと思います。インタビューのこぼれ話『MACGYVER/マクガイバー』のマクガイバーとジャックが抜け出してきたような、固い絆を感じさせてくれた宮野真守さんと土田大さん。しかもおふたりとも声だけでなく、スタイルも抜群で男前! 笑い声が途切れることのない、楽しい取材現場でした。Information『MACGYVER/マクガイバー シーズン2』出演/ルーカス・ティル、ジョージ・イーズ、トリスティン・メイズほか日本語吹き替え版/宮野真守、土田大、永宝千晶、安田裕、小宮和枝ほかスーパー!ドラマTVにて、8月8日(水)22:00より独占日本初放送©MMXVIII CBS Broadcasting, Inc. All Rights Reserved.衣裳協力:DEAL DESIGN(ディールデザイン)新宿マルイメン店
2018年08月07日手にするだけで熱が伝わってきそうなパワーを秘めた本。沖縄を舞台にした真藤順丈さんの『宝島』は、そんな圧倒的大作だ。あの時代の沖縄で夢を追いかけた若者たちの運命を描く熱い一冊。「7年前、戦後の琉球警察の話を書こうと取材に行ったんです。当時は戦果アギヤーという、米軍施設から物資を強奪していた人たちがいて、その事件を調べるうちに、警察より彼らに興味が移って。自分の書きたいものが表現できる気がしました」(真藤順丈さん)書きたいもの、とは?「路上のサバイバルだったり、市井の言葉や風景だったり、挫折も失敗もするけど生きていくバイタリティだったり……恰好よく言うと、我々が忘れている魂というところでしょうか」1952年。盗んだ物資を市民に配る戦果アギヤーの義賊だったオンちゃんが、キャンプ・カデナで米兵に見つかり失踪。英雄を失った混乱の島で、オンちゃんと繋がりのあった3人の少年少女は生き抜く。「3人それぞれに自分を投影していますね。お調子者で怠け者だけどやるときはやるというグスクはその後警官になり、血の気の多いレイは危険人物になっていく。教師になるヤマコはこの頃の沖縄を受け止める象徴的な女性。僕が書く女性キャラは、ファム・ファタルな謎の美女か、男どもを率いるジャンヌ・ダルク的な存在になりがちなので、もっと等身大の人物を描くためにNHKの朝ドラをたくさん見ました」オンちゃんが消えた謎を遠景に、殺人事件やコザ暴動など実際の出来事や実在の人物を登場させつつ、彼らの波瀾万丈な20年が語られていく。「虚実の“虚”の部分をどう盛り上げるか、史実に配慮しつつ面白い物語をつむぐのにはすごく苦労しましたが、あの時代を生き抜いた人たちの力強さやしなやかさに筆を動かされ、僕にできるかぎりの努力と工夫を重ねました」工夫のひとつが文体。誰かが彼らのことを語り聞かせてくれているような、時にユーモラスに、時にひょうひょうとした口調で物語は進む。「タイトルは担当編集者の提案で、最初はストレートすぎないかとも思ったけど、沖縄の宝とは何か、あの島の恵み深さにもふれている題名なので、今は気に入っています」最後にぐっと心をつかまれる事実も明かされる。壮大で強靭な世界だ。『宝島』1952年、戦果アギヤーの英雄・オンちゃんが嘉手納基地で米兵に見つかり、逃亡中に失踪。残された3人の幼馴染みが、やがて知る事実とは。講談社1850円しんどう・じゅんじょう1977年、東京都生まれ。2008年『地図男』でダ・ヴィンチ文学賞大賞、『庵堂三兄弟の聖職』で日本ホラー小説大賞、ほか2賞を受賞し、作家デビューして話題に。※『anan』2018年8月8日号より。写真・土佐麻理子(真藤さん)大嶋千尋(本) インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2018年08月05日漫画『愛と呪い』の著者・ふみふみこさんにお話を伺いました。「ここではないどこか」がなかった‘90年代、少女と世界に起きたこと。「本当はもっと明るくて人を幸せにするようなマンガが好きなのですが、私の場合、良くも悪くも怒りがマンガを描くエネルギーになっていて。自己救済のためにマンガを描くのは、これで最後にするつもりなので、すべて出し切ろうと思います」『愛と呪い』は、ふみふみこさんの半自伝的物語とされている。主人公の山田愛子は、物心ついた頃から父親に性的虐待を受けていて、新興宗教にのめり込んでいる母親や祖母たちは、それを見て見ぬふりどころか笑って受け流している。宗教系の学校でも、周りの生徒たちのように教祖に対して妄信的になれない。「家庭や学校のように当たり前にいる環境って、外に出てみないと異常なところに気づけなかったりするじゃないですか。その感じを表現したくて、何が正義で何が嘘なのかがわからなかった子ども時代は、水彩っぽくぼんやりと描いているんです」逃げ場のない苦しみを味わい、この世界と自分自身を誰かに終わらせてほしいと思っているさなかに、阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件が立て続けに勃発。そして愛子と同い年で酒鬼薔薇聖斗と名乗る少年Aによる、あの事件が起こる。「自分の鬱屈した話を描きたいだけだったので、最初は時代性みたいなものを入れるつもりはなかったんです。だけど自分の人生もしんどかったけど、世の中もしんどかったんだなと改めて気がつきました」現時点で救いがあるとすれば、20年後の愛子が「今となってはもう笑い話」と振り返っていること。当初の願い通り、著者は本作を描くという行為によって、自身を救うことはできているのだろうか。「ずっと引きずってきた中二病みたいなものが、薄まった気がします。意外とみなさん、普通にマンガとして読んでくれているのも楽になったというか。今はまだしんどい場面が多いのですが、最終的にはいろいろあったけどなんとか生きてこられたよっていう姿を描きたいと思っているので、生きづらさを感じている人は最後まで読んでほしいですね」『愛と呪い』1 性的虐待、カルト宗教、世間を震撼させた事件…。終末の予感に満ちていた‘90年代に思春期を送った著者による渾身の物語。浅野いにおさんとの対談も収録。新潮社640円©ふみふみこ/新潮社ふみふみこマンガ家。‘06年『ふんだりけったり』で「Kiss」ショートマンガ大賞・佳作を受賞してデビュー。主な作品に『女の穴』『ぼくらのへんたい』など。LINEマンガで「qtμt」を連載中。※『anan』2018年8月8日号より。写真・大嶋千尋インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2018年08月02日コミックエッセイ『離婚してもいいですか?翔子の場合』を描いたイラストレーター、野原広子さんにお話を伺いました。「離婚」の2文字を胸に秘めて結婚を続けている妻は、きっと多い。夫への不満は募るばかり。でも子どものことを思えば、離婚も簡単ではない。結婚生活の堂々巡りを描いて反響を呼んだ、野原広子さんの『離婚してもいいですか?』。その続編に当たる本書もまた、「結婚って、幸福って、何だろう」と考えさせる、共感必至のコミックエッセイだ。シリーズの始まりは、雑誌『レタスクラブ』の編集長からの「離婚をテーマにした、モヤモヤと答えのないものを描いてみませんか」という提案だったそう。「周囲を見渡しても、話を聞いてみても、多くの奥さんたちが『離婚したい』と思っていることを知りました。けれど、踏み出しているかといえばそうでもない。『3組に1組が離婚する』といわれる時代ですが、実際には翔子のように、離婚を考えても踏み出さない、踏み出せない人は、離婚した人よりずっと多いのではないかと思ったんですね」妻に作ってもらったごはんに、能天気に点数を付け、家では何もしない夫。専業主婦の翔子に対し、「翔子さんなんてラクしてるじゃない」と言う共働きの義姉。無神経な物言いで翔子を追い詰めていく、そんな無自覚さがリアルだ。「『聞いて聞いて』という人が本当に多くて、ネタには困りませんでしたね。むしろ、翔子に使ったネタはもっと闇が深くて、少し柔らかくしたくらいです」離婚に後ろ向きだった翔子だが、心療内科の医師の言葉で力を得たことが、その後の翔子を変えていく。「翔子のパート先の同僚が、『怒っていいんですよ』という弁護士さんの言葉に背中を押されたエピソードは実話。同僚は怒ることすらしなくなってしまっている状態で、その自覚さえ失ってました。第三者からの冷静な言葉に背中を押されるのは、大きな意味があると感じました」翔子の最後の選択。このラストには賛否両論あるかもしれないが、「結果として翔子が自分自身で決めたことなので、不幸な選択ではないと思っているんです。この本を読んでくれた読者が、自分の心を見つめて『あれっ、もしや私も?』と気づいてくれたらうれしいです」『離婚してもいいですか?翔子の場合』 専業主婦の翔子は、夫が大嫌い。けれど毎日夫の好物を献立に入れる。不満を押し込め続ける結婚生活の行方は?雑誌連載に描き下ろしを加え書籍化。KADOKAWA1000円©野原広子/KADOKAWAのはら・ひろこイラストレーター。神奈川県生まれ。出産を機にフリーのイラストレーターになり、『娘が学校に行きません』(KADOKAWA)で、コミックエッセイデビューを飾る。※『anan』2018年8月1日号より。写真・大嶋千尋インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2018年07月28日『40歳までにオシャレになりたい!』を発売したトミヤマユキコさんにお話を伺いました。いまよりちょっとおしゃれな私。センスよく変身できるコツが満載。<おもしろい服なら得意なのだ>おしゃれかどうか判断しづらい、個性的な<圏外ファッション>で通してきたトミヤマユキコさん。しかし、ある気づきを得る体験があった。「グレーのパーカを着て、ニコ生の放送に出ていたんです。すると『トミヤマさん、テレビ局のADみたい』と視聴者からのテロップが。私の着こなしがどうというより、好きな服を好きなように着ていてもダメな年齢なのではないかと悟ったんです。けれど、一日中、気の張るファッションでいるとか、ヒールを履いてるとかはつらいなぁという年齢でもあります。そのちょうどいい塩梅の参考書が何もなかった。となれば、自分を実験台にしてやるしかないのかな。それを必要としてくれる人のところに届けばいいな、と。おもしろく読んでくれる人がいたら実験台になった甲斐があります」かつて無難すぎてつまらないと敬遠していたコンサバ服<圏内ファッション>を取り入れながら、自分らしい大人の装いができる自分になれないものか。そう考えたトミヤマさん自身が、おしゃれの大改革に取り組み、導き出した法則をまとめたのが本書だ。ベースにあるのは、おしゃれになりたいけれど、いまひとつ自信のない女性たちが普段から抱いている切実な悩み。雑誌に出てくるモデル並みのおしゃれ感を目標にしているわけではないので、ちょっと背伸びするだけというのが好もしい。扱うトピックは、トップスからアウター、アクセサリーやメイクなど、上から下まで網羅。骨格レベルで体型が変化していき、若いときから好きだった服が似合わなくなるのが40歳前後だろう。「それを自覚するといま着るべき服も見えてくるのですが、実はその年齢までに『こういう色は似合わない。こういう服は着ない』というヘンな自分ルールができている人も多いと思う。そういう思い込みは外したほうがいい。私の場合はカラー診断に行ったのがとても良かったです」好きな服を否定したいわけではない。ただ、おしゃれのチャンネルをもう一つ増やそうというような気持ち、とトミヤマさん。「私が体を張って試行錯誤をしておきましたので、読者のみなさんは、その迷路をショートカットしていただければ幸いです(笑)」『40歳までにオシャレになりたい!』 グラビアやイラストも多数。また、何がおしゃれなのか似合うのかがなかなかわからないメガネや腕時計などにまで踏み込んでいて重宝する。扶桑社1200円ライター、早稲田大学文化構想学部助教。著書に『パンケーキ・ノート』(リトルモア)、『大学1年生の歩き方先輩たちが教える転ばぬ先の12のステップ』(左右社、清田隆之氏との共著)がある。※『anan』2018年8月1日号より。写真・土佐麻理子(トミヤマさん)大嶋千尋(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2018年07月26日辻村深月さんが新作の短編集『噛みあわない会話と、ある過去について』を上梓。作品について辻村さんに聞きました。「人って怖い!でも分かる!」と唸らずにはいられないのが、辻村深月さんの新作『噛みあわない会話と、ある過去について』。4編を収録した作品集だ。「以前“いじめをめぐる短編”を依頼された時、いじめられた側の気持ちなら分かるという読者は多いだろうけれど、いじめた側に共感したという人はなかなかいないと思ったんです。それは隠したいというより、自覚がないからかもしれない。悪意というより、“あの子は分かってないから分からせなきゃ”という気持ちが集団で起きた結果だったりする。でもそれは傍から見たらいじめに近いものに見えると思うんです」そんな思いから書いた短編「早穂とゆかり」は、小学校の同級生同士が塾経営者と彼女を取材するライターという形で再会する話だ。しかし会話にはかなりの温度差が生じ、話は過去の出来事に遡り…。この一編を書き上げた時、「全部の短編を、共感できない側から書いて短編集にまとめよう」と思い立った。「自分に都合の悪いことは忘れていたり、思い違いをしていたり。現実には回避できるような、言いにくい内容を、あえて正面切って会話させてみました。それを共感できない側から書くと、噛み合わない感じがより出るみたい(笑)。会話がどちらの方向に流れていくのか分からない緊迫感を楽しんでもらえたら」と言う通り、過去に実は何があり、その時相手はどう思ったのかが明晰に語られていく部分が非常にスリリング。これでもかというくらい相手を追い込む話もあれば、ちょっぴり不思議なテイストの短編もあり、読み応えはさまざまだ。ただ、「読者の方たちが、“自分もこういう怒りを感じたことがある”という気持ちとセットで“自分も誰かにこんな思いをさせたかもしれない”と感じた、と言う方が多いんですよ。自分を省みる視点で読んでくれるなんて、みんなすごい!(笑)」痛感するのは、過去と現在は明確に違う、ということ。「過去に何があったとしても、その後も時間は進んで、関係性は変わっている。家族でも友達でも、思い出に寄りかかって今の相手と向き合うのは甘えではないかと。この4編は、そうした甘えが通用しないと分かる話かもしれませんね」つじむら・みづき1980年生まれ。『ツナグ』で吉川英治文学新人賞、『鍵のない夢を見る』で直木賞を受賞、『かがみの孤城』で本屋大賞第1位を獲得。近著に『青空と逃げる』など。『噛みあわない会話と、ある過去について』小学校の同級生に取材するライター、人気アイドルになった生徒と再会する教師―スリリングな会話から真実を浮かび上がらせる作品集。講談社1500円※『anan』2018年7月25日号より。写真・土佐麻理子(辻村さん)大嶋千尋(本)インタビュー、文・瀧井朝世
2018年07月24日4人の女性たちの苦悩と葛藤を掬いあげた『誰かが見ている』で、デビュー直後から話題をさらった宮西真冬さん。期待の第2作『首の鎖』は、母の介護や妻の束縛で家庭に縛りつけられた男女の、声なき悲鳴のようなサスペンスだ。家庭に閉じ込められていた男女の、息が詰まるような心理サスペンス。執筆のきっかけは、介護殺人のドキュメンタリーだという。家族を思えば思うほど追い詰められてしまう状況を、主人公の勝村瞳子に重ねた。「介護の苦労などを打ち明けているサイトなどはよく見ました。なかには『毒親でも簡単に見捨てられない』とか『愛をくれなかった親に対して、愛をもって介護できるのか』という複雑な思いを綴るケースも多かった。『親を捨ててもよいのか』は、本書のテーマを決めるときに、私自身も迷いに迷ったことでした」40歳目前の瞳子は10代のころから祖母と母の介護を背負わされ、自分の幸せをすべて家族の犠牲にしてきた。母は自分の体の不自由さに苛立ち、瞳子にキツく当たる。重苦しい心が少しでも楽になればと通い始めた心療内科で、丹羽顕と出会い、心を通わせていく。ある日、顕から〈あなたを侮辱されて〉突発的に妻を殺してしまった、と打ち明けられた瞳子。遺体を埋めることを提案するが、妻の長い不在に、顕の妹や母が疑問を持ち始め…。果たして、この犯罪は隠し通せるのか。「家族の絆というのは、ときに鎖になるのではないでしょうか。切ろうと思っても、簡単には切れない。もし現実のニュースで、殺人の隠蔽の片棒を担ぐ瞳子のような女性が現れても、その背景にあった苛酷な人生が見えてくると、安易に非難できない気がしたんです」瞳子や顕のみならず、瞳子の家族や顕の妻ら、各登場人物のどろどろした部分まであぶり出す心理描写には容赦がない。読んでいて息苦しくなるほどだ。ゆえに、イヤミスと受け取られることもあるが、「1冊目も2冊目も人の嫌なところを書いたわけではなく弱いところを書いたつもりでした。イヤミスと言われるのはちょっと驚きです(笑)」事実、ラストには希望が見える。「自分で決めることのできなかった瞳子が、自ら道を選び取る。そんな変化も書きたかったのです」瞳子の大いなる決意を、ぜひ見届けてほしい。『首の鎖』男のずるさを描くのもうまい。「現実と照らし合わせてみれば、瞳子の前に突如、完璧な王子様が現れるのも変だから、顕くらいかなと(笑)」講談社1400円みやにし・まふゆ作家。1984年、山口県生まれ。2017年に第52回メフィスト賞受賞作『誰かが見ている』でデビュー。全寮制の女子校を舞台にした3作目は、年内刊行を目指して準備中。※『anan』2018年7月11日号より。写真・大嶋千尋インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2018年07月07日読み終えた時、きっとあなたの中で何かが変わっている。そう断言したくなるのは、蛭田亜紗子さんの新作長編『エンディングドレス』。「3~4年前から自分で洋服を作るようになったので、洋裁の話を書きたいなと思っていました」夫を病で亡くし、後を追うつもりの麻緒(あさお)は偶然見つけた「終末の洋裁教室」に通いはじめる。最終的に死に装束の製作を目的とした教室だ。「夫と二人だけで完結していた世界が壊れてしまったことにより、もう一度周囲と関わり直していく、という面もあるのかなと思いました」そこにいたのは寡黙な先生と、3人の年配のご婦人の生徒たち。「実際に手芸店で布を選んでいる年配の方たちをよく見かけていて、素敵だなと思って。登場する3人はそれぞれ違う印象になるよう、おっとりした人、ちゃきちゃきした人、ミステリアスな人と書き分けました」麻緒たちは〈はたちのときにいちばん気に入っていた服〉〈十五歳のころに憧れていた服〉といった課題に臨む。きっと読者も、自分ならどんな服を作るか考えるはず。「服によって過去が想起される課題を考えました。他の生徒のおばあさんたちも、90代、80代とそれぞれ年齢が違うので、作る服もまったく異なってくるだろうと思いました」課題をこなし完成品を披露しあうたび、それぞれの人生が浮かび上がる。麻緒も夫との過去を振り返ることになるが、そこには後悔や罪悪感も含め、複雑な心情が含まれる。「後悔なども抱えて人は生きていくものだから、清廉潔白な主人公にはしたくなかった。きれいなおとぎ話にはせず、あえて厳しい面も書きたいと思いました」教室での人生模様だけでなく、家族や旧友との関わりも描かれ、さらにはファストファッションのあり方など現代的な問題も垣間見える。丁寧に針を運んで縫ったかのような繊細な細部の設定、巧みな仕上げ方。エンディングドレスの製作についても、思わぬ展開が待っている。「洋裁は手順通りやればいつかは出来上がるし、作れば作るほど上手くなる。それは服作り以外にも影響する部分があると思いました」何かを作ること、着ること、人と関わること。かけがえのないものがいくつも見えてくる一冊だ。ひるた・あさこ1979年、北海道生まれ。2008年「女による女のためのR‐18文学賞」大賞を受賞、’10年『自縄自縛の私』でデビュー。著作に『凜』など。写真の洋服はご自身で製作したもの。病気で夫を亡くし後を追うことにした麻緒は、死に装束を作る洋裁教室に通いはじめる。だが、課題をこなすうちに心に変化が……。ポプラ社1500円※『anan』2018年7月4日号より。写真・水野昭子(蛭田さん)大嶋千尋(本)インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2018年07月02日『違国日記』を描くにあたって、マンガ家・ヤマシタトモコさんがイメージしたのは、ポール・フェイグ監督による女たちの『ゴーストバスターズ』。「どこが?って言われそうだけど、ただただハッピーでポジティブになれるこの映画が大好きなんです」女同士の面倒くささと心地よさ。わかってくれる人がいる幸せ。物語としてのとっつきやすさを大事にしつつ、その先に残るものを描いてみたかったというヤマシタトモコさん。少女小説家の高代槙生(こうだいまきお)が、まったく反りが合わなかった姉の遺児である中学生の田汲朝(たくみあさ)を勢いで引き取ることに。人見知りが激しくて不器用な槙生は、朝にとって大人の枠から外れている不思議な女性であり、オープンマインドで素直な朝を槙生は子犬のようだと思う。「大人って子どもに対して、実は大人ぶっているだけだったりしますよね。一方で自分は変わっていないつもりでも年とともに忘れてしまい、ふとしたきっかけで生々しく思い出すことも。両方の視点からそういったことを描いていきたいんです」大人になったらわがままを言ったり、バカ笑いをしたり、些細なことでケンカをしないかというと、当然そんなことはない。子どもじみた自分を見せる相手を選ぶことができるのが、大人のずるさなのだろうか。槙生と朝、さらにそれぞれの友人との関係性は、第三者との理想的な距離感について考えさせられる。「たとえば女の人に、自分の服とか行いなんかを褒めてもらったときのほうが、男の人に同じことを褒められるよりも嬉しかったりするじゃないですか。恋愛的な意味ではなく、この人に好かれたいと素直に思える女性がいることや、女性同士で気持ちを交換できることって、かけがえがないと思うのです」いまだ反抗期が終わっていないような大人と、反抗するチャンスがなかったものわかりのいい子ども。“違国”の人だからこそ感じるカルチャーギャップや憧れから、さまざまな感情がかき立てられる作品だ。人と暮らすことが不向きな少女小説家と、両親を事故で失った素直な姪っ子。ギクシャクしているけれども思いやりが垣間見える日常を著者独特の感性で描く。祥伝社680円©ヤマシタトモコ/祥伝社フィールコミックスマンガ家。2005年デビュー。『HER 』『ドントクライ、ガール』で「このマンガがすごい!2011」オンナ編1位、2位を独占して話題に。近作に『WHITENOTE PAD』(全2巻)など。※『anan』2018年6月27日号より。写真・大嶋千尋インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2018年06月23日悲劇の予感に満ちた母子の関係を描く押見修造さんの『血の轍』の待ちに待った第3集が刊行。一見、普通。でも何かがおかしい。鬼才の描く母というファムファタル。母・静子と一人息子・静一の“毒母もの”といわれてもいるが、簡単にそうとくくれない不穏さに満ちている。「静一の母をモンスターとして描くだけで終わらせず、母性の不可思議さに迫っていきたいと思っています。一方で、家族の和は取りもつが肝心なところは見落としている父親や、しょっちゅう家に来るいとこなど父方の親戚たちの様子も異様ですよね。『あれではお母さんがおかしくなるのも不思議はない』という、静子への同情の声も聞こえてきます」普通そうに見えて普通ではない長部家の様子を、もっとも端的に表しているのは食事の風景だ。「ごはんには、親子関係が表れると思います。静子が用意する朝ごはんが肉まんとあんまんの2択という設定にたどりつくまで、熟考しました。あからさまにおかしいわけではないですが、違和感がある。母親が息子をくすぐって起こすというのも、母子の関係性や母親のキャラクターによるでしょうが、静子と静一の場合はどう映るか。母は息子に対して彼氏を求め、息子は無自覚にそれを受け入れています。ふたりの間で、言語化されないまま関係性ができあがっているところが不気味だし、その空気感が出せていたらいいなと」静子の過剰な母性に、じわじわと搦めとられていく静一。そうとは知らず、クラスメイトの吹石さんは静一に好意を寄せる。「静一にとっては、違う世界への扉ですが、正義のヒロインというだけの存在にせず、彼女が抱えているものの正体も探っていきたいです」押見さんの圧倒的な画力に惹かれるファンも多い。母や静一のうつろな表情をどう読み取るかで、物語の印象が変わってくるのも面白さだ。「画では光もテーマです。顔にかかる影や逆光のときの表情、夏空などから、光を感じてもらえれば。斜線の塗り残しだけで輪郭線を出すなど、小さな実験を繰り返しています」トーンを使わずにすべて手描きにしているという本作は、押見作品の魅力を堪能できること間違いなし。押見修造『血の轍』3「思春期には親に気を遣うあまり、ちゃんとした反抗ができなかった」と語る押見さん。私小説的な要素も入っているとか。待望の第4集は、9月末ごろ発売予定。小学館552円。©押見修造/小学館ビッグコミックスペリオールおしみ・しゅうぞうマンガ家。1981年、群馬県生まれ。2002年にデビュー。映像化された作品が多く、『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』は7/14 公開。「血の轍」も現在好評連載中。※『anan』2018年6月20日号より。写真・大嶋千尋インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2018年06月19日古内一絵さんの小説『キネマトグラフィカ』には、古内さん自身が見てきた、映画業界の変遷が描かれている。平成元年、老舗映画会社に入社した男女6人。彼らは仕事に対して、あるいは映画に対してさまざまな思いを抱いていた。小説『キネマトグラフィカ』の著者・古内一絵さん自身も平成元年に映画会社に入社、業界の変遷を見てきた方だ。「たぶん、デジタルではなくフィルムの映画を扱った最後の世代なんですよね。それを編集者に話したら“面白い!”と言われて。それまでは自分のやってきたことが小説になるとは思っていませんでしたが、ちょっと書いてみる気になったんです」女性初の営業職の咲子、結婚願望の強い留美、帰国子女の麗羅、映画オタクだけど営業が苦手な栄太郎やお調子者の学、体育会系の和也たち。入社4年目の年、学のブッキングミスのため、彼らは協力しあい、一本のフィルムを全国にリレー形式で順番に届けることに…。「登場人物にモデルはいませんが、私も同期たちと今でも仲がいいです。ひとつの作品を成功させるために協力しあっていたからでしょうね」全国リレーはしなかったがフィルムを地方に届ける業務は実体験で、「今は少なくなった地方の独立系の劇場のことを書いておきたいという気持ちがありました。作中に出てくる、フィルムを違う缶に収めてしまう“缶違い”やスクリーンを切られる事件はほぼ実話です(笑)」また、咲子が体験する女性総合職に対する偏見や嫌みも、現実にあったことなのだとか。「当時の働く女性のなかには“男性社会にお邪魔させてもらっている”という感覚の人がいました。今は女性の働く環境も改善されましたが、根底は変わらないとも感じます」また、女性の先輩はふたつに分かれていたという。「後輩女性を叩いて押しつぶそうとする人か、引っ張ってくれる人か。今思うと、それは余裕があるかないかの違いでしたね。私も岩波ホール総支配人だった高野悦子さんに大変お世話になったんですが、そうした実績のある方は厳しく優しく教えてくれたというか。今気づいたのですが、麗羅には高野さんのような人が投影されているかもしれません」その後、50代となった咲子らそれぞれの人生模様は?人間ドラマとして、さらに映画や人の働き方を振り返る平成史として読ませる一作。ふるうち・かずえ作家。1966年、東京都生まれ。映画会社勤務ののち、「快晴フライング」で第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞、’11年に同作でデビュー。著作に『マカン・マラン』など。『キネマトグラフィカ』久々に開かれた映画会社の同期会。集まった6人は、あの頃何を思い、50代の今どんな人生を歩むのか。映画愛も詰まった長編。東京創元社1600円※『anan』2018年6月13日号より。写真・土佐麻理子(古内さん)大嶋千尋(本)インタビュー、文・瀧井朝世
2018年06月10日実在の日本の文豪や彼らの作品を、キャラクター化したマンガやゲームが巷で人気。そんな文豪たちの人となりや、作品の魅力を、友情というフィルターを介して浮かび上がらせた『文豪たちの友情』の著者が、石井千湖さんだ。取り上げた文豪たちの個人全集を、索引や月報にまで目を通し、自伝、随筆、書簡、日記、評伝などあまたの関連書籍も参考に。そこから掘り起こした文豪たちの友情のまぶしいこと。わくわくするような文学エッセイであり、日本の近代文学へのよきガイドにもなっている。「文豪たちの生涯について、あるいは、文学史的には有名な、谷崎潤一郎と佐藤春夫の細君譲渡事件、太宰治が芥川賞に執着した話など、入門書に載っているくらいの情報は知っていましたが、もとになった文献に当たると、実はもっと複雑で…。一行情報ではわからないことがあるなと、あらためて思いましたね」芥川龍之介と菊池寛、太宰治と坂口安吾など、13組の文豪たちの出会いから別れまでがまとめられている。「彼らの関係を履歴書的に整理しつつ、バカバカしくも人間味がある小さなエピソードが好きなので、それは入れるように意識しました」たとえば、文豪の中でも抜きんでて交友関係の広かった佐藤春夫が、芥川龍之介に脱ぎたての猿又(パンツ)を借りた話や、借金魔の石川啄木が、世話を焼いてくれた金田一京助の毛生え薬の秘密を小説に書いてしまい、ケンカした話。微笑ましい、文豪たちの知られざる一面だ。「書いていると、ダメ人間と思っていた作家も、みな好きになりましたね(笑)。とにかく一生懸命生きていたんだなとわかりました」それにしても、文豪たちの友情はなぜこんなに面白いのか。「距離感がおかしいんですよ。ライバルでもあるから互いに意識もするけれど、スポーツのライバル関係とも違う。一般的な友人関係よりずっとぶっちゃけ合っている。仲良くなるきっかけが、だいたい、“互いの作品を認め合った”ことなんですね。自分が好きで書いたものに共感して、『いいね!』と言ってくれた人はやっぱり特別なんだな、と。互いの文学の趣味も似ていることが多く、彼らにとって友と語り合うことはとても幸せだったでしょうね」いしい・ちこ1973年、佐賀県生まれ。早稲田大学卒業後、書店員を経て、書評家、ライターとして活躍。共著に『世界の8大文学賞』『きっとあなたは、あの本が好き。』(共に立東舎)がある。文豪たちの仲睦まじい姿をイラストにしたのは鈴木次郎さんとミキワカコさん。各章に付いているミニ人物相関図も関係性を理解する一助に。立東舎1500円※『anan』2018年6月6日号より。写真・土佐麻理子(石井さん)大嶋千尋(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2018年05月30日仙台市出身の作家・渡辺優さんの著書『地下にうごめく星』は、自身の体験も盛り込まれた一冊。仙台在住の会社員・夏美は同僚の誘いで地下アイドルのライブに行き、一人の女の子に魅了される―『地下にうごめく星』の第一章の主人公の体験は、著者の渡辺優さん自身の身に起きたことだという。「それまでも女性アイドルは好きでしたが、地下アイドルのライブに行ったのは大人になってからでした。芸能人というより身近な女の子というイメージだったのが、本格的にやっている姿を見て驚いて。それに特別タレント性があるわけではなくても、自分は応援したいなと思わせる子っているんですよね。この楽しさを小説に書いてみたくなりました」夏美は楓という少女に惹かれ、彼女のグループが解散すると知り、今後は自らプロデュースして楓を含む新しいグループを作ろうと決意。「私もライブを観ていて、“私のほうがこの子を輝かせられる!”などと、面倒くさいオタク目線が湧いてきて(笑)。夏美さんはド素人ですが、実際に副業でプロデュースをしている人もいると知り、絶対にありえない話ではないと思ったんです」第二章以降は彼女のオーディションに参加する子たちや楓へと視点が変わり、それぞれの物語が展開する。「グループというと4~5人いるので、そこから一人一人の個性を考えていきました。地下アイドルというと悪徳プロデューサーがいたりとネガティブな話も聞きますが、今回はポジティブな面を書きたかったんです。家にも学校にも居場所がなくても、地下アイドルを目指すことが救いになる子もいるだろうし、容姿に自信はないけどアイドル活動が好きでやりたい、という子にしっかりファンがついたりもしますし」女装した男子高校生の応募者もいて、個性豊かな面々が登場。みな何に悩みつつアイドルを目指すが、「仙台にいると、芸能人になるルートなんてなかなかない。そんななかで10代のうちにアイドルになろうと決断するのは大変。かといって20代からアイドルを目指すのはちょっと遅いですよね。地方で自分のやりたいことをやる、という側面も書きたくて、舞台を仙台にしたというのもありますね」意外な方向へ進んだ末の結末にも、納得するものがある。自分も自分の「好き」を追求したくなってくる、そんな一冊だ。わたなべ・ゆう作家。1987年、仙台市生まれ。2015年「ラメルノエリキサ」で第28回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。他の著作に’17年に出た『自由なサメと人間たちの夢』がある。『地下にうごめく星』仙台の会社員・夏美は同僚に誘われ、40代にしてはじめて地下アイドルのライブに行く。そこには彼女の人生を変える出会いがあった……。集英社1400円※『anan』2018年5月30日号より。写真・土佐麻理子(渡辺さん)大嶋千尋(本)インタビュー、文・瀧井朝世
2018年05月28日読み手をたちまち虜にする、奇抜で可笑しくて冴えたアイデア。その土台に新人離れした筆力と巧みな比喩を積み重ねて、壮大な“うそばなし”の城を作り上げる。石川宗生さんの『半分世界』は、度肝を抜かれること間違いなしの傑作短編集だ。収録されているのは4編。「吉田同名」は、吉田大輔という人物が突如、大量発生してしまい、そこから派生する奇妙な情景が描かれる。「この作品の着想について、解説のところでは、〈『開門神事福男選び』という正月に大勢の男性が神社を走って一番を競う行事をテレビで目にしたとき〉とさらっと嘘をつきました。本当はなんでも大量発生すると話題になるなと思ったことでした。プランクトンでもエチゼンクラゲでもいいんですけれど、いちばん面白そうなのは人間だなという話です」表題作では、家の道路側が消失し、ドールハウスのように中が見える家があり、そこに住む藤原家4人の暮らしと、それをウォッチングする人々の様子が描かれている。「手の内を明かすようで少し恥ずかしいんですが、イタロ・カルヴィーノの『まっぷたつの子爵』という小説が好きで、頭の中でいろんなものを縦にまっぷたつにするというブームがあったころに思いつきました」「白黒ダービー小史」では、サッカーを彷彿させる「白黒ダービー」という競技に取り憑かれた町を舞台に、ロミオとジュリエットのような恋物語が繰り広げられる。「バス停夜想曲、あるいはロッタリー999」は、999の路線がある巨大なバス停で、いつ来るかわからない自分のバスが来るのを延々待ち続ける人々のサバイバルが描かれる。諧謔ずくめのものすごい大ボラの中に、大真面目に、哲学や歴史考察、文明批評などを滑り込ませてくる。「書いていて行き詰まると憑依芸ではないですが、この作家さんの気持ちになったつもりで…と頭を切り替えてみるとうまくいったりします。ひとりの作家だけではなく、何人もが入り交じっています」筒井康隆や円城塔の作風と比較されることもあるが、著者によれば、エンリーケ・ビラ=マタス、カート・ヴォネガット、リチャード・ブローティガン等々、石川さんの小説の土壌は主に海外文学にあるようだ。本当に本当に、次回作が待ち遠しい。いしかわ・むねお1984年、千葉県生まれ。米大学卒業後、イベント営業、世界一周旅行、スペイン語学留学などを経て、作家、フリーの翻訳家に。収録作「吉田同名」で創元SF短編賞を受賞。帰宅途中の吉田大輔氏は、1万9329人に増殖してしまい…。巻末に著者インタビューを含む作品解題付き解説あり。作品世界がより身近に。東京創元社1900円※『anan』2018年5月23日号より。写真・土佐麻理子(石川さん)大嶋千尋(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2018年05月22日いまや多くの人の日常生活に浸透している動画配信サービス。映画顔負けのクオリティで各社がオリジナル作品を発表し、しのぎを削っていますが、昨年アメリカで社会現象にもなったドラマといえば、Netflixの『13の理由』。待望のシーズン2がついに5月18日よりスタートしますが、配信直前でテンションが高まるなか、あの主要キャストに直撃してきました。それは……。写真・大嶋千尋(ディラン・ミネット、アリーシャ・ボー)ディラン・ミネット&アリーシャ・ボー!【映画、ときどき私】 vol. 163本作は、女子高生ハンナが自らの命を絶ってしまうという衝撃の幕開けから始まる話題のドラマ。2017年には世界でもっともツイートされた作品になるほど、大きな物議を醸しています。現代の若者が抱える人間関係における苦悩やSNSの恐怖などが赤裸々に描かれており、「一度見だしたら止まらない」とイッキ見する中毒者が続出中!そんななか今回お話を聞いたのは、ハンナに想いを寄せ、死の真相を追い求めようとする主人公のクレイを演じたディラン(写真・左)とハンナのかつての親友でジェシカ役のアリーシャ(写真・右)。物語には欠かすことのできない重要な役割をそれぞれが担っています。そこで、さらなる話題となること間違いなしのシーズン2を目前に控え、気になる舞台裏や本シリーズの見どころについて語ってもらいました。世界中で記録的な大ヒットとなり、いろいろな反響を感じたと思いますが、本作に出演したことで変わったことは?アリーシャ個人的には仕事のうえでも大きく私を変えてくれたシリーズだし、インスピレーションを与えてくれるような人ともたくさん会うこともできたわ。だから、そういう意味でも、人間として成熟していく助けにもなった作品といえるわね。特にこの2年は、ジェシカという役を通して、女性の権利についてもたくさんのことを学んだわ。ディラン僕もこんな素晴らしい作品に関わることができて、本当にうれしく思っているんだ。多くのことを学ぶこともできたし、この作品に込められている社会的なテーマに対して、自分の意見がより研ぎ澄まされてきたようにも感じているよ。あと、役者というのは、世界をよりよくしたりとか、誰かの命を救ったりとか、そういう仕事ではないというのがそれまでの認識だったんだ。でも、この作品を通して、少しでも世界をよくできたり、人の命さえも救えるようなプロジェクトもあるんだということを初めて知ったよ。本当にまれな経験ではあると思うけど、エンターテインメントの持つ力というものを再認識することができたんだ。作品を観ていると、誰もがクレイと同じ気持ちで心を揺さぶられ、いつの間にか隣にいるかのような感覚にさえ陥ってしまうはず。そんなふうにこの世界観にどんどんと引き込まれていってしまうのは、ディランの高い演技力があってこそ。クレイとして繊細な表現が求められるなか、役作りで意識していたことは?ディランまずは、観客にリアルなひとりの人物であると感じてもらえるように演じること。そして、大切にしていた人を失ったという痛みが伝わるように心がけたよ。特にシーズン1では、視聴者がクレイを通してストーリーを経験していくところがあるから、みなさんが自分自身を投影でき、さらに共感できるようなキャラクターであることを大事にしていたんだ。いっぽうのジェシカは、ある出来事をきっかけに大きく変わってしまうキャラクター。エピソードが進んでいくにつれて、内面も外見も徐々に変化していく様子をアリーシャが見事に体現しているのも見どころ。同じ女性としては、かなりつらい役どころだったと思いますが、演じるうえで難しかったことは?アリーシャ多くの女性、特に若い女性たちがジェシカの物語に自分を反映して見るところがあると思うから、私もとにかくリアルであることは一番気をつけたわ。そこは難しかったというよりは、一番の挑戦だったという方が近いかな。だから、毎日ナーバスになってしまって、重要だからこそ失敗したくないとずっと言い続けていたの。それから、ジェシカは自分が受けたトラウマといろいろな形で向き合って、葛藤するんだけど、そのあたりを演じるのはやっぱりすごくつらかった。でも、彼女とともにその道のりを進まないといけなかったのは、気持ちのうえではまるでジェットコースターに乗っているみたいだったわ。今回、この作品でもっとも重要なアイテムといえば、やはりカセットテープ。ハンナが死を選んだ理由がそれぞれのカセットに吹き込まれており、それを基にストーリーが進んでいくのが、本作の大きな特徴となっています。これだけデジタル化が進むなか、アナログなカセットテープを使うことで、生々しく感じられるのはハンナが残した最後の息遣い。そして、目に見えない録音データに比べてみても、受け取ったときの重みはハンナが抱えていていた苦悩の重みとかぶって見えるところでもあります。劇中でのカセットの使い方はどのように感じましたか?ディランまず、カセットテープという “物” であるという部分がデジタルな音源とは違うと思うし、それを人から人へ渡すというのは、物だからこそより難しくなるんじゃないかな。そこには、ハンナの「そんなに簡単にはさせないわよ」という思いもあったのかもしれないよね。あと、製作のブライアンが言っていたのは、タイムレスな資質をこの作品にもたらしたいということ。つまり、現代の物語なんだけど、80年代の懐かしいような感じも入れたかったということなんだ。そうすることで、いろいろな年齢層の方に見てもらえるようにもなっているから、そういう意味でのカセットでもあったと思っているよ。とはいえ、おふたりの世代だとカセットテープにはなじみはないですよね?ディランそんなことないよ、僕はカセットを聴いて育ったよ!アリーシャ私もよ!ディランというのも、お母さんの車でカセットテープをよく聴いていたからね。でも、さすがにクレイみたいにウォークマンを使ったことはないけど(笑)。本作ではそのカセットをめぐって、キャラクターたちの心がざわめき、新たな騒動へと発展していくため、キャスト間にもつねに緊張感が走っていたはず。とはいえ、インスタなどを見ると、とにかく仲の良さそうなキャストたち。信頼関係はどのようにして築いていきましたか?アリーシャどういうふうに仲良くなっていったかというと、キャスティングが決まったとき、信頼関係を築くために出演者全員が部屋のなかで円になって、倒れるのをお互いに受け止め合うみたいなことを……やってません(笑)!というのは冗談で、最初にキャスト全員でディナーに行ったりしたし、撮影が始まってからは昼も夜も一緒にご飯を食べるようにしていたわ。題材がタフだからこそ、お互いに自分のもろさをさらけ出さなければいけなかったし、そのおかげで信頼関係を作っていけたんだと思う。それにみんなオープンで正直で誠実なメンバーばっかりだから、自然に絆が出来て仲良くなったのよ。でも、世間の人たちは「本当に仲がいいの?」って信じてくれなかったりもしたんだけどね(笑)。本当にすばらしい仲間なのよ!そのなかでも、役柄とイメージが一番違うと思う人がいれば教えてください。ディラン・アリーシャそれはもちろん、ブライス役のジャスティン!ディラン演じているときは、ものすごく悪役として信じられるんだけど、カットの声がかかると「これほど優しくてステキな人はいない!」ってくらいの人物なんだよ。では、最後にこの作品を観るべき理由を13個でなくてもいいので、教えてください!アリーシャ実は前に一度、観るべき理由を13個挙げるように頼まれてすごく大変だったことがあったわ(笑)。ディランじゃあ今回は僕が挙げるとして、まず主人公たちはヤングアダルトと呼ばれている年齢層だけど、彼ら世代の物語だけではないので、年齢に限らずに観てもらえるシリーズだということ。決して上から目線ではなくて、同じ目線に立って共感できるそういうシリーズであること。あと、扱われているトピックにはすごく重要なものがあるのでそこを見て欲しいということ。そして、同時にエンタメ性もちゃんとあり、ミステリーやスリラーとしてのバランスも素晴らしいので、そういった理由も含めて、ぜひ観てもらいたいと思っているよ!インタビューを終えてみて……。役柄としてはお互いに難しい立場にあるディランとアリーシャですが、実際のおふたりはとってもチャーミングで仲良し!つらいテーマを描いている題材だけに、戦友のようなところもあるのかもしれませんが、そんな彼らが体当たりで演じている姿には思わず釘づけになってしまいます。シーズン2は、さらなるカギを握るキャラクターとなっているようなので必見です!他人事では済まされない衝撃に打ちのめされる!10代の若者だけでなく、大人の社会においても同じような問題を抱えている人は多いもの。ミステリーとして見事な展開を見せつつも、いじめや自殺、性的暴行、LGBTなどさまざまな社会の闇にまっすぐと向き合っている本作。いまの時代に観るべき理由、そして多くの支持を得ている理由に、誰もがたどり着けるはずです。そして、まもなくスタートするシーズン2は、さらなる波乱の予感!まだシーズン1を観ていないという人は、いまのうちにチェックを忘れずに。ストーリー女子高生のハンナが自ら命を絶った2週間後、同級生だったクレイのもとにある謎の箱が届く。なかに入っていたのは、ハンナの肉声が録音されたカセットテープが7本。そこには、ハンナが自殺するに至った “13の理由” が吹き込まれていたのだった。カセットを聞き始めたクレイは、ハンナが経験した衝撃の事実を知ることになる。いったい、なぜハンナは死を選ばなければならなかったのか。知られざる真実が次々と明らかにされることに……。息をのむシーズン1の予告編はこちら!シーズン2を待ちきれない人はこちら!作品情報Netflixオリジナルシリーズ『13の理由』シーズン1:独占配信中シーズン2:5月18日より全世界配信開始
2018年05月17日「担当編集者にアイドル好きの女性がいて、一緒に出掛けたり情報を交換したりしているんです」そんな関係から生まれたのが、柚木麻子さんの新作『デートクレンジング』。ただし主人公は義母が切り盛りする喫茶店で働く35歳の佐知子。アイドルグループ「デートクレンジング」の解散が決まり、長年彼女たちのマネージャーをつとめてきた親友の実花が突然、婚活を開始。仕事に打ち込んできた彼女に憧れていた佐知子は戸惑いを隠せず…。社会の呪縛にとらわれた親友のため、奔走するヒロインを描く痛快小説。「アイドルに興味のない人でも、誰かしら憧れの存在はいるはず。アイドルって自分の知らない世界を見せてくれる人、抑圧から自由にしてくれる人。佐知子にとっては、それが好きなことを仕事にして打ち込む実花だったんです」ではなぜ、実花は婚活を言いだしたのか。「もともとデートクレンズという言葉があるんですが、これは“女の人はデートしなきゃ”という呪いを解いて、他のことを楽しむ時間を作ろう、という意味。自分が育ててきた『デートクレンジング』も、男ウケを狙わずにきたグループ。それが解散となり、実花は自分のやり方が間違っていたと思い、世の中に従って男性に献身するためにしたくもない婚活をしようとしているんです」彼女の無理をやめさせたい佐知子だが、自身は既婚者。しかも妊娠が分かり…。「最近、女の人が分断されていると感じるんですよね。女の人は似た者同士でないと仲良くできない、結婚している人といない人同士、子どもがいる人いない人同士では仲良くできない、などと社会が決めつけている気がします。でもそんなことで友情を失わなくていいって言いたかったんです」主人公を妊婦にしたのにも意味が。「ドラマでも妊婦が登場するとたいてい脇役で常識担当で、ヒロインは恋に仕事に奮闘しますよね。そのお決まりの描かれ方が嫌で。妊婦だって悩んだり頑張ったりしていいはず。だから、ドタバタコメディの主人公を妊婦でやりたかったんです」『デートクレンジング』嫁ぎ先の喫茶店で働く佐知子にとって、親友の実花は憧れの存在。仕事一筋だった彼女が婚活すると言いだし、驚く佐知子だったが…。祥伝社1400円佐知子の奮闘の結果は?実花の選ぶ道は?アイドルたちや婚活マスターら個性的な登場人物を盛り込みつつ、意外な、でも腑に落ちる結末が待っている痛快な一作だ。※『anan』2018年5月16日号より。写真・土佐麻理子(柚木さん)大嶋千尋(本)インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2018年05月13日誰にでも一度は経験のある初恋。大人になってもその気持ちは心の奥に秘めているものですが、そんな胸キュンな思い出をよみがえらせてくれる映画といえば、まもなく公開の『ミッドナイト・サン 〜タイヨウのうた〜』。2006年に日本で大ヒットした映画『タイヨウのうた』をハリウッドでリメイクした作品としても、話題となっています。そこで、本作で初主演を務めた噂のイケメンにお話を聞いてきました。それは……。写真・大嶋千尋(パトリック・シュワルツェネッガー)若手の有望株パトリック・シュワルツェネッガー!【映画、ときどき私】 vol. 160凛々しい顔立ちと鍛え上げられた肉体が印象的なパトリックですが、どことなく見覚えのある顔と名前でおわかりのように、お父さんはあのアーノルド・ シュワルツェネッガー。さらに、お母さんもジョン・F・ケネディ元大統領の姪ということもあり、まさにセレブ中のセレブと言ってもいいほどの存在です。そんなパトリックは、かねてより甘いルックスで注目を集めていましたが、近年は俳優としても頭角を現してきているところ。そんななか、今回は役づくりのこだわりから将来についてまで、語ってもらいました。本作で描かれているのは、太陽の光にあたることができない「色素性乾皮症」という難病を患っている17歳の少女ケイティと、ケガによって夢をあきらめていた高校生のチャーリーとの運命の恋。病を抱える少女を好きになる難しい役どころでしたが、チャーリーを演じるうえで意識したことは?パトリック映画の中盤くらいまでチャーリーは、ケイティが病気であることに気がつかないんだけど、だからこそ、徐々にお互いを知って、支えていくことができるんだ。そんなふうに、彼女と親しくなる過程を経ていくことで、感情が高ぶる最後のシーンまで持っていけたんじゃないかな。「自分の愛する人を失うというのはどういうものか」ということについては、「もし、自分がチャーリーだったらどうだろう」と考え、その立場になって演じるようにしていたよ。大人でも恋のドキドキ感を思い出させてくれる作品ですが、ご自分の初恋も思い出しましたか?パトリック初恋って誰にとっても、一生抱えている大事なものなんじゃないかな。つまり、「愛とは何か」ということや、「人と付き合うというのはどういうことなのか」という人間関係を学ぶ場でもあると思うんだ。だから、みんな何かあると初恋を思い出して、そこに戻ってしまうんだよね。幸いなことに、僕は高校時代にそういう経験があったけど、ケイティを演じたベラ・ソーンは子どもの頃からショービズの世界にいたから高校に行ってないんだ。ということもあって、今回は僕の経験を2人で共有することもあったよ。劇中のデートはすべて夜でしたが、もし自分も夜しか外出できない女性とデートするならどう過ごしたい?パトリック多分、一緒に映画を観たり、何かおいしいものを食べたり、ほかの友だちを交えて遊んだりとか、逆に普通のことをやると思うよ。だって、一瞬一瞬がすごく貴重で、本当に時間が限られてるでしょ?だからこそ、その瞬間を活かしていきたいと思うし、たとえ先が見えていたとしても、そこであきらめるのではなくて、「この夏を最高の夏にしよう!」と努力するんじゃないかな。この役は父・アーノルドさんは演じたことのないタイプの役柄ですが、演技についてアドバイスはありましたか?パトリックこの映画に限らず、人生におけるアドバイスとして、父が僕に言ってくれたのは、「自分の夢を追いかけること」。つまり、演技であっても、学業であっても、ゴールを明確に描いて、ちゃんとそこに向かっていくということなんだ。その過程で、「そんなことは無理だよ」と言う人がいたとしても、それには耳を貸さずに自分の道に目標を持っていくということだね。だから、「人から何か言われてもあきらめてはいけない」ということは父によく言われたよ。この作品は純粋なラブストーリーではあるものの、もうひとつの見どころは、ケイティとの出会いによって、チャーリーが成長していく姿。ご自身にも人生に影響を与えてくれるような人との出会いなどはありますか?パトリック僕にとっては、やっぱり両親が自分を触発してくれる存在だと思うよ。父と母から学んだことは多いし、いまもまだ学んでいるところだからね。アドバイスをくれるメンターでもあり、家族でもあり、友人でもあり、そんなふうに僕をサポートもしてくれる存在だよ。では、いまご自身がしている活動には、ご両親の影響が一番大きいということですか?パトリックそうだね。でも、僕は演技だけではなくてビジネスにも興味があるし、チャリティのような社会的な貢献もしていきたいという気持ちがあるんだ。だから、俳優業は好きなことだけど、ひとつに限りたくないとも思っているんだよ。たとえば、父はボディビルダーであって、俳優でもあって、政治家でもあって、ビジネスも手がけていたよね。だから、僕もまさにそんな父の姿を同じように追って行きたいんだ。その言葉通り、24歳の若さにしてすでにピザ屋やファッションブランドを経営し、映画の製作の勉強もしているというパトリック。忙しいなか、どのように両立させているのですか?パトリックいくつかのことを掛け持ちしながら、同時進行でやっていくというのは、決してできないことではないと思うんだ。そのために必要なのは、どうやって自分の時間を管理してやりくりするかということ。でも、まず大切なのは、自分にとって何をしているのが楽しいのかということを考えることだよ。今後、役者としてどんな作品に挑戦したいと思いますか?パトリック僕は事前にリサーチをして、ち密に準備をしてから役に挑むタイプなんだけど、アクションやコメディなど、ジャンルに縛られずにいろんな作品をやってみたいと思っているよ!日本のファンに向けてのメッセージをお願いします!パトリックこの作品は、泣いたり笑ったりできるし、観終わったあとには希望を持って劇場を出られると思うよ。僕が観たときは、最後のボートのシーンで一番感情が高ぶってしまったけど、みなさんもティッシュを忘れずにね(笑)!僕は日本食が大好きだし、日本に来るのもいつも楽しみにしているから、次の作品でもぜひまた日本に戻ってきたいと思っているよ。インタビューを終えてみて……。まるで少女マンガから出てきた王子様のようなたたずまいと、太陽のようなまぶしい笑顔をみせるパトリック。お父さん譲りの幅広い才能をすでに発揮しており、今後もいろいろな分野での活躍を期待せずにはいられません。本作では、一途にケイティを思うピュアさをみせるチャーリーにハマり役のパトリックですが、女子たちをとろけさせるような優しさと思わずドキッとする肉体美を存分に味わってください。恋こそが人を強くしてくれる!どんな暗闇にいても、光を与えてくれるのは、いつだって恋の力。いくつになっても、あの胸のときめきは感じていたいと思うはず。「この夏こそは本気の恋に出会いたい!」と思っているなら、まずは命懸けで恋する2人が放つ輝きを目に焼きつけてみては?ストーリー少しの紫外線でも致命的となる「色素性乾皮症」という病に侵されているケイティ。太陽の光を避ける生活を余儀なくされていたため、幼い頃から昼間に外出することは許されず、話し相手は父と親友だけだった。そんななか、家の前を行き来するチャーリーに恋をしたケイティは、何年もその姿を窓越しに追いかけることに。いつしか17歳となったケイティにとって、唯一の楽しみは毎夜駅前でギターを片手に歌うこと。そしてある日、ケイティの歌声に導かれるようにチャーリーが現れ、運命が動き始める。ケイティは自分の病気のことを言えないまま、2人はどんどん惹かれ合っていくことに……。鼓動が高鳴る予告編はこちら!作品情報『ミッドナイト・サン 〜タイヨウのうた〜』5月11日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー配給:パルコ© 2017 MIDNIGHT SUN LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
2018年05月09日