2022年1月8日(日)に上演される東京芸術劇場の「コンサートオペラ」第8弾は、プーランク《人間の声》とビゼー《アルルの女》の2本立て。指揮者の佐藤正治が取材陣を前に抱負を語った(11月16日・東京芸術劇場)。リヨン国立歌劇場の首席コレペティトールを務めるなど、フランスの劇場で10年のキャリアを持つ佐藤。5回目の登場となるこのシリーズではターゲットを「フランスもの」に絞って取り組んできた。佐藤「プーランクは大好き。ハーモニーの使い方、人間の内面を描く音の引き出し方が実にうまい」《人間の声》は登場人物がソプラノ一人だけのモノオペラで、3曲しかないプーランクのオペラの最後の作品。別れた恋人と電話しながら徐々に精神が錯乱し、自ら命を絶つ女。客席の私たちは、彼女の歌だけで電話相手の声や姿、二人の過去の関係までも想像する。演じるのは近年引く手あまたの森谷真里。あっという間に日本を代表するプリマドンナに駆け上ったライジング・スターだ。佐藤「複雑な役をどう演じてくれるか。とても楽しみ」そしてさらなる目玉が《アルルの女》。この劇音楽の本来の姿である芝居付き全曲上演という試みなのだ。日本ではおそらく上演例がないという。クラシック・ファンなら誰もが知っている名曲だけれど、ほとんどの場合、それはオーケストラ組曲として抜粋された一部の曲にすぎない。フルートとハープで有名な〈メヌエット〉に至っては他のオペラから引用された音楽で、劇音楽の原曲には含まれていない。佐藤「有名な音楽が戯曲のストーリーと結び付くことで、あ、こういう効果のある音楽だったのか!と感じていただけるはず。芝居付きの上演は、フランスでも目にしたことがない。向こうの友人に今度日本でやるよと話したら、それは面白い、何語でやるんだ?と興味津々だった」今回は動きのない朗読劇としての上演だが、主演に名優・松重豊を起用しているのが大きな話題を呼んでいる。音楽は全27曲・約45分。フルサイズだと2時間以上になる台本を、佐藤自身の構成と日本語訳で約90分に縮小して上演する。組曲版よりもサイズの小さな、オリジナル・スコアに近い編成で聴けるのも貴重な機会になりそう。管弦楽は佐藤が2005年に創設した手兵のザ・オペラ・バンド。「初めての試みで、発見も挑戦もある」と期待を口にする佐藤。新年早々、未体験の新しい刺激いっぱいの舞台になりそうだ。(取材・文:宮本明)
2021年11月19日「100mを全力で2本走るようなもの」1公演で2曲の協奏曲を弾くイメージを、そんなふうに喩えてくれた。2002年チャイコフスキー国際コンクールで、女性として、また日本人として初優勝という快挙をとげた上原彩子。そのデビューから20年の記念リサイタルを、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番とラフマニノフのピアノ協奏曲第2番という超ど級プログラムで飾る[2022年2月27日(日)サントリーホール]。協奏曲を2曲続けて弾くのは、そのチャイコフスキー・コンクール以来20年ぶり。「コンクールでは1曲目がラフマニノフの《パガニーニ狂詩曲》でしたが、2~3分ですぐチャイコフスキーを弾かなければならなくて。時間がなく、栄養補給のために舞台袖に用意しておいたバナナを途中までしか食べられなかったのをよく覚えています(笑)」ロシアの2大ピアノ協奏曲。どちらも、弾き終わったあとに壮大な物語を読んだような感覚になる作品だという。「ラフマニノフは、とても暗いところから始まって最後に祝祭的に昇り詰めていく。チャイコフスキーは明るい色の中に淡い色や悲しい色が散りばめられている。どちらも、感情や呼吸が深いところで動いているような感じがあるのは、すごく似ているところです。一方で、チャイコフスキーの方がオペラ的・演劇的で、人に見せる要素を感じますね。ラフマニノフはもっと純粋にピアノで音楽を紡いでいく。だからチャイコフスキーには表に出ていくような音色が必要ですし、ラフマニノフはもう一段暗く、内側に詰まった音が大事。和音も内声がより大事です」ロシア人ピアニスト、ヴェラ・ゴルノスタエヴァのもとで、小学生の頃からロシア音楽に取り組んできた。「あまり型にはまらなくていいところが大好きでした。特に幼い頃は、バッハやベートーベンと比べて断然自由に弾けるのが楽しくて。もちろん作曲家それぞれのスタイルの中で弾かなければならないけれど、でもその中ですごくいろんな自由が私には感じられるので」共演は原田慶太楼指揮の日本フィル。「原田さんはすごく前向きでエネルギッシュ。救われる気がします。日本フィルは、たぶん一番多く共演している日本のオーケストラ。私は『ソリスト対オケ』でなく、メンバー一人一人との繋がりが見えるような協奏曲の演奏が好きだし、今回は直前まで九州ツアーでご一緒しているので、いっそうそんな演奏にしたいなと思います」(取材・文:宮本明)
2021年11月17日「東儀秀樹×N響メンバーによる弦楽アンサンブル」が、12月3日(金)に愛知・三井住友海上しらかわホール、12月6日(月)に東京・紀尾井ホールで開催されることが決定した。本公演は雅楽師・東儀秀樹のデビュー25周年記念の一環となる。東儀と共に出演するのは、N響メンバーによる弦楽アンサンブル(コンサートマスター降旗貴雄)、Keiko(ピアノ)、スペシャルゲストにはヴァイオリニスト・川井郁子(東京公演)、和楽器バンド・神永大輔(名古屋公演)を迎える。東儀家は、奈良時代から1300年間、雅楽を世襲してきた楽家。幼少期から海外で暮らしていた東儀秀樹は19歳の時に雅楽を始め、天賦の音楽的才能を発揮。宮内庁楽部で活躍していた、あふれる個性で楽団外での活動も活発化させ、独立することになる。古典だけでなく現代音楽も奏で、雅楽を身近なものにしたことや、篳篥(ひちりき)や笙の存在を知らしめ、天上から降りてくるような神々しい音色を教えた東儀は今年デビュー25周年を迎えた。12月6日(月)に行われる、N響メンバーによる弦楽アンサンブルと、ヴァイオリニストの川井郁子との共演は、東儀にとって初の組み合わせ。東儀は川井のヴァイオリンを「スカッとする力強さと優美さを兼ね備えていて、とても表現の幅が広い」と評する。クラシックの枠を超えて、ラテンやタンゴも得意とする川井。演奏曲に「リベルタンゴ」も予定されていることから、情熱的なヴァイオリンが聴けそうだ。さらに今回のセットリストは多岐に渡り、『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』の主題歌「炎」(LiSA)をはじめ、幅広い世代が耳にしている楽曲も披露される予定だ。■名古屋公演日時:2021年12月3日(金) 開場18:00/開演18:45会場:三井住友海上しらかわホール (愛知)出演:東儀秀樹(雅楽師) / N響メンバーによる弦楽アンサンブル/Keiko(ピアノ)[ゲスト]神永大輔(尺八奏者/和楽器バンド)■東京公演日時:2021年12月6日(月) 開場12:30/開演13:30会場:紀尾井ホール (東京)出演:東儀秀樹(雅楽師) / N響メンバーによる弦楽アンサンブル/Keiko(ピアノ)[ゲスト]川井郁子(ヴァイオリン)
2021年11月17日11月18日(木)初日の新国立劇場のワーグナー《ニュルンベルクのマイスタージンガー》(新制作)でソプラノ林正子が演じるエーファは、男たちを夢中にさせる魅力的なヒロインだ。「ワーグナーには珍しく、リリックなソプラノの声で歌える可愛いイメージの役。でもイェンス=ダニエル・ヘルツォークさんの演出と大野和士さんの音楽が引き出すのは、可愛いだけでない、彼女の根底にあるものです。私は、ワーグナーはエーファの中にヴェーゼンドンク夫人の姿を描いていると思うんです。恋人ではなく、永遠に自分のものにできないマドンナ。だからきれいに歌うだけでなく、所々ドスの利いた声を入れたり、勇気を持って冒険していいのではないかと思っています。あまりクセの強いエーファはよくないですが、人間くささは、ありだと思うので」ヴェーゼンドンク夫人はワーグナーの不倫の恋人。彼女の詩による《ヴェーゼンドンク歌曲集》の旋律が《トリスタンとイゾルデ》に転用されているのは有名だ。《マイスタージンガー》第3幕には、その《トリスタン》の断片が登場する。若いエーファに心惹かれる男やもめザックスが、《トリスタン》の登場人物マルケ王を引き合いに、彼女に諦めを語る場面。「お稽古で、ザックス役のトーマス・ヨハネス・マイヤーさんが本当に泣いていて。それを見たら、彼の気持ちに応えないエーファが申し訳なくて、私も何度歌っても心が痛みます。この場面は見どころにしていただけるとうれしいです」ワーグナーを歌う時はいつも、圧倒的なオーケストラの力を感じて、まずその流れを邪魔せず歌うことに腐心するという。しかし。「《マイスタージンガー》では、あまりそれを考えないのです。歌がオケを凌駕するように書かれた作品だと思います」聴衆はもちろん、出演者たちにとっても待望の上演だ。ザルツブルク・イースター音楽祭とザクセン州立歌劇場、そして東京文化会館との国際共同制作。昨年、及び今年8月の上演予定もコロナ禍で中止となった。「今回、夏と完全に同じキャストではないので、乗れなかった人たちの気持ちも全部胸に抱いて歌いたいと思います。4時間半の長丁場ですが、私自身、自分が出ていないシーンにもこんなに感情移入できるのかと驚くぐらい楽しいプロダクション。今までにない《マイスタージンガー》現代演出の決定版だと思います。絶対に損はさせませんのでぜひ!」新国立劇場オペラ「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の公演情報はこちら(文:宮本明)■新国立劇場オペラ「ニュルンベルクのマイスタージンガー」日程:2021年11月18(木) ~ 12月1日(水)会場:新国立劇場 オペラパレス (東京)
2021年11月11日2015年、弱冠15歳でチャイコフスキー国際コンクール第3位に輝いたロシア音楽界の新星、ダニエル・ハリトーノフのピアノ・リサイタルが11月27日(土)SAYAKAホールを皮切りに開催される。ハリトーノフが、コンサートの殿堂カーネギーホールにて華々しいデビューを飾ったのは、わずか14歳の時。あどけなさが残る少年ピアニストが世界の注目を集めてから早数年が経ち、凛とした青年へと成長した今冬、ドイツ・ピアニズムの名曲を詰め込んだプログラムをお届けする。2015年から日本で開催してきたソロコンサートでは、東京文化会館や東京オペラシティコンサートホールなどで演奏し、日本の音楽の殿堂においても好評を得てきたハリトーノフ。学生でありながらプロの音楽家としての経験を順調に重ね、ピアノに対する誠実で真面目な姿勢は見るものの心をつかんで離さない。爽やかなルックスに、190cmを超えるすらっと高い身長、そしてラフマニノフ作品をものともしない大きな手は、フランツ・リストに伝わる逸話をどこか彷彿とさせるように思える。「テンペスト」の愛称で知られるベートーヴェンのピアノ・ソナタ第17番は知る人ぞ知る名曲。3楽章全てがソナタ形式で作曲されており、ベートーヴェンの革新的な一面を垣間見ることが出来る。ブラームスの「2つのラプソディ」は、彼のピアニストとしての成熟期に生み出された作品であり、ラプソディという名の通り、彼の好んだ民族的要素を音に描いている。そしてコンサートの最後を飾るのは、若きブラームスの情熱と個性、才能が遺憾なく発揮された「ピアノ・ソナタ第1番」。ベートーヴェンの影響を受けつつも、表題的な要素を持つロマン派的作品だ。ロマン派の先駆けベートーヴェンと古典派への原点回帰と民族主義を取り入れたブラームス。ロマン派を代表する3つのソナタを堪能できる至極のコンサート。お聞き逃しなく。公演チケットはチケットぴあで発売中。■ダニエル・ハリトーノフ ピアノ・リサイタル202111/27(土)14:00開演SAYAKAホール(大阪狭山市文化会館) 小ホール (大阪)11/28(日)15:00開演長久手市文化の家 森のホール (愛知)12/1(水)19:00開演豊洲シビックセンターホール (東京)12/2(木)13:30開演神奈川県立音楽堂(木のホール) (神奈川)12/3(金)18:30開演志木市民会館パルシティ ホール (埼玉)12/4(土)14:00開演ノバホール 大ホール (茨城)12/5(日)13:00開演 東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル (東京)
2021年11月09日日本を代表する唯一無二のヴァイオリニスト‘古澤巖’。1979年、日本音楽コンクール第1位。カーチス音楽院、モーツァルテウム音楽院等で20世紀の巨匠ミルシティン、ヴェーグ、ギトリス、チェリビダッケ、バーンスタイン等に師事。今までにヨーヨー・マ、グラッペリを始め、世界的なアーティストとの共演多数。そんな古澤が今年12月には、名門オーケストラ、ベルリン・フィルの選抜メンバーと共演し、全国6会場でクリスマス・コンサートを開催。今回、イケメンヴァイオリニストを中心に新たなメンバーを迎え、全国を駆け巡る。演奏するのは、独奏ヴァイオリンが活躍する『スコットランド幻想曲』(マックス・ブルッフ)、トータルで5楽章からなるフルオーケストラのための大曲だが、抒情的な民謡のモチーフがちりばめられ、誰もが気持ちよく聴ける旋律である。巨匠ハイフェッツによる名盤も残されているこの美しい曲を紹介する。そして、昨年亡くなったエンニオ・モリコーネへの追悼を込めて『The Ecstasy of Gold』(エンニオ・モリコーネ、2021年5月リリースの最新アルバムにも収録)など。中でも、イタリアの現代作曲家ロベルト・ディ・マリーノが書き上げる新作コンチェルトは必聴だ。古澤は「ベルリン・フィルとの親交が厚いマリーノさんが毎年愛を込めて書いてくださるコンチェルトも今回で第6番目。これまでのコンチェルトとは一味違った作風で練習するときに幸せを感じる。力が抜けたおおらか美しさと映像が浮かんで来るような楽しさがある。日本発の企画で、世界に向けてマリーノ作品を発信していきたい。」と語る。古澤の使用楽器は1718年製のストラディヴァリウス「サン・ロレンツォ」。フランス王妃マリー・アントワネットの専属ヴァイオリニストも所有していたとされ、作者の直筆で「栄光と富は、その家にあり」と記された世界的にも貴重な一挺。至福の音色で極上のクリスマスを演出する。この機会をお見逃しなく!【日程】2021年12月11日(土)13:30開演三井住友海上しらかわホール(名古屋)2021年12月12日(日)13:30開演東京オペラシティ・コンサートホール(東京)2021年12月15日(水)14:00開演、18:00開演(1日2公演)観世能楽堂(銀座SIX)(東京)2021年12月16日(木)14:00開演横浜・関内ホール大ホール(横浜)2021年12月17日(金)14:00開演ザ・シンフォニーホール(大阪)2021年12月18日(土)15:00開演北九州ソレイユホール(福岡)
2021年10月28日作曲家・ピアニストの林晶彦が自作によるコンサートを開く[11月8日(月)東京オペラシティ リサイタルホール]。メインは画家・松井守男の作品『光の森』に触発されて作曲した、同名のピアノ・ソロ曲の初演だ。「今年、フランスから帰国中の松井さんにお目にかかりました。神田明神に奉納された『光の森』を見て圧倒されると同時に、それが鎮守の森を描いていると聞いてびっくりしました。じつは最近、茨城の鹿島神宮を訪れて鎮守の森を歩き、これを音にしたいと思っていたのです。偶然のシンクロ。驚きました」松井守男(79)はフランスを拠点に活躍する画家。独特の繊細な抽象画が高く評価され、2003年にはフランス最高位のレジオン・ドヌール勲章を受けている。「『光の森』は遠目には森の青や緑なのですが、近づいて見ると、紫やオレンジや赤、いろんな色が入っているんです。これを音にしたらどうなるのだろう。絵画は全体を見渡すことができますが、音楽は時間の芸術なので、ひとつのストーリーのようなものを想像しています。古代に戻って、そこから歩んでいき、最終的に光の森に入っていくような音楽の構造です。沈黙があって、生態系のように多様な。まだわからないところがいっぱいあるのですが、ひとことで言ったら神秘ですね」ピアノ曲《光の森》は、単一楽章の20分ほどの作品になる構想。「いま苦しんでいる人がいっぱいいて、絶望とか闇を感じていると思います。そこに心の中の光とか平安とか、聴く人が、そして僕自身もそういうものを感じられるような音楽になったらいいなと思っています。自分では新しいものを手探りしているような感じですが、それは昔からあったものなのかもしれません。雷の音とか、風の音とか、自然の中に。僕はずっと、論理ではなく、音の中に本当のものを探してきた。それが松井さんの作品の中にもあるのを感じるのです」林はかねてから、絵画にインスピレーションを得た音楽を、シャガールを中心に作曲してきた。今回も他に、即興や声楽曲(ソプラノ:中川詩歩)も含めた8曲のシャガール関連の作品を演奏する。コンサートの開演前には松井守男と林のプレトークも予定されており、二人の芸術観の一端も伺い知ることもできそう。なお、同時刻にインターネットによるライブ配信(1週間のアーカイブ配信付)があり、そちらでは『光の森』の絵を見ながら音楽を聴くことができる。文:宮本明
2021年10月27日若い優れた才能が次から次に頭角を現して、まさに群雄割拠の日本のチェロ界。2019年に日本人チェロ奏者として初めてミュンヘン国際音楽コンクールで優勝した佐藤晴真(23)は、その活気に満ちたチェロ界を牽引する若きトップランナーだ。11月に東京・大阪・名古屋の3都市で開くリサイタルについて聞いた。プログラムのメインはドビュッシーとフランク。近代フランスの2曲のソナタを選んだ。直前に発売される2ndアルバムもドビュッシー&フランク集。実はリサイタルの曲目のほうが先に決まっていて、CDのテーマをそれに合わせた。案外珍しいパターンだ。「ドビュッシーは自然からすごくインスピレーションを受けたと思います。このソナタからも、自然の神秘といったものを強く感じます」「フランクのソナタは神に近い音楽。原曲がヴァイオリンなので、普段チェロが使わないような高音域でいかにメロディを聴かせられるかが課題です。また、チェロとヴァイオリンでは弦の長さがまったく違うので、指の動く距離も何倍も違います。それをヴァイオリンと同じような動きで、できるだけ作曲家が想定していた姿に近づけたいんです。もちろんチェロならではの深みも存分に出しながら」前半はドビュッシーにポーランドの現代作曲家ルトスワフスキを、後半はフランクにチェコのヤナーチェクを組み合わせる構成。「ルトスワフスキは、ケージらの実験的な音楽が盛んな時代に、感情を伴った、自分のスタイルの音楽を書いたことに惹かれます。ちょっと鋭い感じの和声など、ドビュッシーとのつながりも強く感じられ、特に《グラーヴェ》は、ドビュッシーのオペラ《ペレアスとメリザンド》冒頭の音形がそのまま使われている作品です」「ヤナーチェクの《おとぎ話》は、現実ではない世界の、人が触れられない場所にある音楽。そんな空気感がフランクにつながると思います」アルバム収録で初共演したピアノの高木竜馬が今回もサポート。「三浦文彰さんの演奏会で聴いた高木さんのモーツァルトの明るい粒立ちのくっきりした音が印象深くて。ドビュッシーやフランクを弾いてもらえたら、パリッとエスプリが効いて、すごくいいだろうと想像できたのですぐにお願いしました。乾いたはっきりした音が、僕のフランス音楽のピアノのイメージなんです。そして実際にその通りのピアノです!」「とても楽しい室内楽になった」と語る二人の共演を今度はステージで!佐藤晴真の出演情報はこちら(文・宮本明)■公演日程2021/11/13(土) 宗次ホール(愛知県)2021/11/14(日) 住友生命いずみホール(大阪府)2021/11/20(土) 紀尾井ホール(東京都)
2021年10月26日「Classic Bar ~in Blue Rose」が2年ぶりに開催。「サントリー・ウイスキーアンバサダー」の肩書きを持つ元バレーボール選手の佐々木太一がプレミアム・ブレンデッド・ウイスキー「碧Ao」を語り、フルートの上野星矢(10/29)、バリトンの宮本益光(10/30)がハーフリサイタルを担う。ともにサントリーホール ブルーローズ(小ホール)で午後1時、7時の昼夜2公演だ。上野星矢の今後の出演情報はこちら今回のクラシック・バーのテーマはウイスキーであり、佐々木が語る銘柄は「碧Ao」という。ウイスキー好きの上野に音楽との関わり、演奏への展開手法を聞いた。「“バー”で奏でるフランス音楽、“あお”というウイスキーに想を得てプログラムを構想する場面で注目したのは『碧』がシングルではなく、ブレンデッド・ウイスキーだという部分でした。碧は真っ青というより、割と深く複雑な青が混ざり合ったイメージ。もし、深い青をフランス音楽で表現するとしたら断然ドビュッシー、フルートの鉄板レパートリーです。わずか2‐3分にドビュッシーのエッセンスすべてがつまった《シランクス》を吹きます。よく『印象派の音楽』と言われますが、本人は嫌がっていたし、どちらかといえば象徴主義に近いでしょう。細部まで緻密なパーツをそろえた構成物の内側から独自の響きが立ち上がるドビュッシーと、幻想的なブレンデッド・ウイスキーの味わいにはどこか、共通点があります」演奏以外のゲストにバレエダンサーの川島麻実子(元東京バレエ団プリンシパル)が加わる。上野の父、陽一はパントマイムをこなす俳優&プロデューサーあり、音楽とのクロスオーバーも手がけてきた。上野もダンスとのコラボレーションに意欲をみせる。「日本でダンスと一緒に演奏するのは初めてです。フランス時代にはリヨン国立歌劇場でダンサー&振付家のバンジャマン・ミルピエが制作した新作でヴァイオリン、フルートが交互に《サラバンド》の舞曲を演奏し、ダンサーが踊る企画に参加、自分の中で今までのベスト5に入るほど興奮を覚えました。小編成、ダンサーの足音まで聴こえる空間でお互い壊れそうなものを集め、繊細極まりない作品を創造する行為には、巨大な名曲コンサートにない楽しみもあるはずです。今回、『日本でもやってみたい』と願ってきた試みの一端が実現し、嬉しく思います」。二人は、「The Sixth Sense ~Music in Wonderland~」でも共演する。★Classic Bar ~in Blue Rose vol.8~10/29(金) 13:00開演/19:00開演、10/30(土) 13:00開演/19:00開演会場:サントリーホール ブルーローズ(小ホール)★The Sixth Sense ~Music in Wonderland~11/21(日) 14:00開演会場:サントリーホール 大ホール取材:池田卓夫=音楽ジャーナリスト@いけたく本舗(R)
2021年10月20日音楽家・青島広志と落語家・春風亭小朝がタッグを組んだ「青島広志のミュージックワンダーランド with 春風亭小朝」が、11月14日(日)にサントリーホールで開催されることが決定した。青島広志のミュージックワンダーランド with 春風亭小朝」の公演情報はこちらそれぞれのフィールドで人気・実力とも日本最高峰の青島と春風亭は幼稚園からの同級生で、子供ながらにお互いの才能の片鱗を感じたという。青島はその後東京藝大へと進み大音楽家に。春風亭も言わずと知れた落語界きっての才能で高座にテレビに人気を博した。ふたりに共通するのは、気取らない人柄、世の中を楽しませたいという「芸」本来の在り方を示している点。そんなふたりがサントリーホール大ホールで共演。どんな化学反応を巻き起こすのか、必聴だ。サントリーホールでの開催となるが、正装は不要。第一部で春風亭の語りとともに「動物の謝肉祭」を披露する。第二部のニューイヤーコンサートも、青島・小朝両氏の絶妙なトークで進行。初心者でも楽しめる公演となっている。演奏はオーケストラエクセラン、ソプラノは横山美奈が担当。ぜひ、同級生コンビによるミュージック・ワンダーランドに足を運んでほしい。■概要「青島広志のミュージックワンダーランド with 春風亭小朝」2021年11月14日(日) 開場:18:20 開演:19:00会場:サントリーホール 大ホール[出演]青島広志(指揮・ピアノ・MC)春風亭小朝(語り・MC)横山美奈(ソプラノ)オーケストラエクセラン(演奏)
2021年10月19日「全国共同制作オペラ」の一環として新制作上演される日本オペラの名作、團伊玖磨《夕鶴》[10月30日(土)東京芸術劇場コンサートホールほか]。主役つうでロール・デビューを果たすのがソプラノ小林沙羅だ。いつかは演じたいと願っていた待望の初役。清楚な容姿と可憐な歌声は役のイメージにぴったりだけれど、今回はそのイメージ、つまり白い雪景色の中の美しいつう像自体を捉え直すことになりそう。「演出の岡田さんが目指しているのは、それを打ち崩すようなイメージ。白いつうではない。鶴でさえない。先入観を一度消さないと先に進めないなと思っています」演劇界の鬼才・岡田利規が初めてオペラ演出を手がける舞台。もともと演劇少女だった小林は、小学生ながらに坂東玉三郎主宰の大人向けの演劇塾に参加して直接指導も受けたという経歴の持ち主。演劇への関心はオペラ歌手の中でも人一倍だ。しかしその彼女をしても岡田の舞台作りには新鮮な驚きがいっぱいだという。「ドキッとしたのは、『そこは僕にとってはどうでもいい』という言葉です。たとえば、つうが本当に与ひょうを愛しているのかどうか。演じる私にとってはとても大事なのですが、岡田さんはどちらでもいいと。大事なのはお客さんに本質を伝えることであって、その本質を語るための周りの部分はどうでもいい。もちろん役を演じるうえでは大事なことだけれども、そこから出発するのではなく、お客さんに何かを届けるために最後に必要になる部分。役の心理を深く読み込んで、自分自身とリンクさせるやり方とはまったく逆の方向からの役作りを求められているんだなと強く感じました」そうやって取り組む中で、彼女自身の楽譜の捉え方や音楽の表現も少し変わったという。感情を無にして歌うことで新しいものが見えてきた。「私は表現イコール感情だと思っていたところがあったのですが、じつは表現はもう楽譜に書かれていて、楽譜をきちんと歌っていけば、そこに表現が生まれてくる。それが音楽の本質なんじゃないか。感情はあとから乗ってくればいい。これも今までのやり方とは逆の、私にとって新しいことであり、必要なことだと思っています」つう役は声楽技術的にはけっしてハードルが高くはないが、表現は難しく、師の高橋大海からも「歌い手として熟してから歌わないとダメ」と釘を刺されていたという。それがまさに今。岡田とともに、新しいつう像を生み出してくれそうだ。(文・宮本明)
2021年10月18日ヴァイオリニスト川井郁子が、デビュー20周年を記念して『川井郁子デビュー20周年音楽舞台&コンサート』を12月10日(金)~12日(日)に東京・新国立劇場 中劇場、28日(火)に大阪・梅田芸術劇場メインホールにて開催することが決定した。「川井郁子デビュー20周年音楽舞台&コンサート」のチケット情報はこちら本公演は、音楽家・川井郁子ならではの視点から、波乱万丈の人生を歩んだガラシャの心理に迫る音楽舞台と、20周年スペシャルコンサートという2部構成でお届けする。明智光秀の娘として、激動の時代を生きたガラシャ。歴史の転換期に誇り高く散った彼女の物語は、宣教師により17世紀ヨーロッパに伝えられ、オペラ化されたその作品は壮絶な最期を遂げたマリー・アントワネットも鑑賞し、ハフスブルク家の人々にも大きな影響を与えたという。時代の終焉を象徴するガラシャとアントワネットの生き様を、立体ホログラムやDCを駆使した最先端の映像技術でドラマチックな音楽劇として届ける。第2部では、日替わりで小西真奈美、咲妃みゆ、紫吹淳、中川晃教、秋川雅史といったそれぞれのジャンルで活躍するゲストを迎え、楽曲や歌、舞踊など多種多様なコンサートを行う。川井は、「歴史、文化、様々なジャンルを越境し、音楽との一体感と無限性を感じていただける音楽舞台を目指します。新しい可能性の扉を開く作品となりますように!」と力強いコメントを寄せている。チケットは東京・大阪公演ともに11月13日(土) 10:00より一般発売される。■公演情報■川井郁子デビュー20周年音楽舞台&コンサート第1部音楽舞台『月に抱かれた日・序章』~ガラシャとマリー・アントワネット~第2部川井郁子 with 5 STARs コンサート【日程・会場】<東京>2021年12月10日(金) ~ 12日(日) 新国立劇場中劇場<大阪>2021年12月28日(火) 梅田芸術劇場メインホール【出演】第1部:川井郁子、川井花音、三井高聡(Wキャスト)、小林玲雄(Wキャスト)、藤舎推峰、津村禮次郎、tea 他第2部:川井郁子 with【日替わりゲスト】5人の素敵なスターたちと毎回違ったプログラムによるドラマチックでUnframedなコンサートをお届けします!<各回ゲスト>東京1st:12/10 19時小西真奈美2nd:12/11 13時咲妃みゆ、3rd:12/11 17時 紫吹淳4th:12/12 13時中川晃教、5th:12/12 17時 秋川雅史大阪12/28 18時30分:秋川雅史、紫吹淳
2021年10月15日スラリとした美人。控えめな言葉の端々に、意志の強い武骨な真面目さも見える。表現者には大事な気質だ。ヴァイオリンの小林美樹がユニークな構成のコンサートを開く[10月29日(金)紀尾井ホール]。題して「八季~エイト・シーズンズ」。ヴィヴァルディの《四季》と、生誕100年のピアソラの《プエノスアイレスの四季》。2つの《四季》を彼女の独奏で一気に弾く。「四季+四季で八季。いつか絶対にやりたいと思っていました。コロナ禍もすでに8シーズン。次のシーズンが幸せに始まりますようにという気持ちも込めて。私は昨年、音楽をやる意味を考え込んで、1か月間ヴァイオリンを弾かない時期もありました。舞台に立ち、弾き終えて拍手をいただくこと。仲間と演奏すること。当たり前だったことがじつはとても幸せなことで、そのために頑張ることが自分の原動力になっていたのだと、あらためて確認できたのはよかったです」ピアソラ の《四季》を、ヴィヴァルディと同じヴァイオリン独奏と弦楽合奏版に編曲したのはロシアの作曲家デシャトニコフ。大胆にも曲中にヴィヴァルディを引用しているため、〝八季〟が有機的につながる。編曲の域を超えた独創的な作品だ。「ピアソラもすごいですが、このアレンジもすごいんです。同じモティーフを使っても、まったく違うイメージになるのは驚きです。たとえば〈冬〉の最後にヴィヴァルディの〈冬〉の第2楽章がちょっと出てくるだけで、こんなにも沁みるものかと。私のお気に入りポイントです。〈秋〉に、チェロの長いソロがあるのも聴きどころで、絶対に素敵に弾いてくれるであろう上村文乃さんにお願いしました」その上村は大学の同級生。もう一人、やはり同級生の会田莉凡(ヴァイオリン)ら、弦楽合奏の豪華メンバーはほぼ同世代の仲間たちだ。小林自身が一人ひとりに直接声をかけて集めた。「学生の頃から私を知ってくれている方ばかり。気兼ねなく、思ったことをストレートに言いあえる皆さんにお願いしました。だからリハーサルも楽しみですし、本番で私が瞬間的に感じたことを即興的に仕掛けても、それを受け止めてくれるはず。とても心強いです」ヴィヴァルディの《四季》は自然の美しさや恐ろしさを、ピアソラは人間の日々の小さな幸せや悲哀を訴えてくるという。「客席の皆さまに、私たちは生きているということを感じてもらえる一夜になると思います。ぜひ聴いてください」(文・宮本明)
2021年10月08日2021年4月に1年2カ月ぶりに再会したラザレフ[日本フィル桂冠指揮者兼芸術顧問]は、2週間の隔離の後ようやくステージに立ち、「皆さんのことをずっと想っていました。会いたかった!」とスピーチ。涙をふく間もなくいつもの厳しいリハーサルに突入し、みるみるうちにあの重厚でまばゆいラザレフサウンドがよみがえった。サントリーホールでの2公演は忘れられない名演となった―それから半年、“緻密なる猛将”ラザレフが再び帰ってくる!!10月16日(土)カルッツかわさきへ場所を移しての横浜定期演奏会、17日(日)相模原定期演奏会は、ラザレフが敬愛するブラームスと、その盟友ドヴォルジャークの作品を取り上げる。素朴で内省的な響きが共通する2人の作曲家の作品に、豪快な指揮で新たな息吹が注ぎ込まれるだろう。ソリストは、若き巨匠の風格をまとうチェリスト・宮田大。名演誕生の予感がしてならない。カルッツかわさきは2017年に誕生した川崎市の新しい複合施設。ホールは2000席あり、ダイレクトに届く良い音響を備えている。ラザレフとの相性も楽しみだ。10月22日(金)、23日(土)サントリーホールでの東京定期演奏会は、大好評の日本フィル&ラザレフによるショスタコーヴィチ。今回はお客様からの要望も多かった交響曲第10番を満を持して取り上げる。かのカラヤンがレパートリーとした唯一のショスタコーヴィチ作品であり、純粋なオーケストラ作品としての評価は非常に高く、20世紀が産んだ傑作中の傑作といってよいだろう。ラザレフ自身もこの10番を演奏できるなら、また苦難の来日となろうとも必ず来る、と約束するほど熱が入っている。前半にはショスタコーヴィチの師(グラズノフ)の師であるリムスキー=コルサコフの音楽を取り上げる。《金鶏》はオーケストレーションの大家ならではの極彩色の絢爛豪華な音楽が特徴で、15分あまりのピアノ協奏曲は、少し「和」のテイストすら感じられる独特な雰囲気を纏った佳作。卓越したテクニックと音色の豊かさが魅力のピアニスト福間洸太朗にまさにうってつけの秘曲だ。これを聴き逃すわけにはいかないだろう。
2021年10月08日クリオロ(CRIOLLO)の“幻のチョコレートケーキ”「クラシック・ヌーボー」が、2021年11月12日(金)よりクリオロ本店、中目黒店にて発売される。クリオロの新作チョコレートケーキクリオロは、フランス人パティシエのサントス・アントワーヌが手掛けるパティスリーだ。フランスのチョコレートメーカー「ヴァローナ・ジャポン」などでレシピ開発などを経験を持つサントスシェフは「世界のベスト・オブ・ベスト ショコラティエ100」に選出されるほどのチョコレートの達人だ。“幻のチョコレートケーキ”「クラシック・ヌーボー」誕生今回、サントスシェフが作り上げたのは、第2のヒット商品を予感させる“確かな”味わいのチョコレートケーキ「クラシック・ヌーボー」。使用したのは、フランスの高級チョコレートメーカー・ヴァローナ社のチョコレート。こだわりのチョコレートを贅沢に使用して、甘すぎない大人の味わいを仕上げた。ユニークなのは、口の中で溶けてなくなってしまうほど、軽くてふわふわなのに、後味はしっかり濃厚なこと。温めると“とろっと”さらに美味しく電子レンジで10秒ほど温めると、チョコレートがとろっととろけて、一味違った味わいに。チョコレート本来の味をよりダイレクトに楽しめ、これまでのチョコレートケーキとは違った新しい食感に出会えるはずだ。サイズは、長さ16.5cmの長方形サイズと、実店舗では一人でも楽しめるプチガトーも用意する。【詳細】クリオロ「クラシック・ヌーボー」価格:1本(幅約5.5cm×長さ約16.5cm×高さ約4.0cm)1,650円取扱い店舗:クリオロ本店(東京都板橋区向原3-9-2)、中目黒店(東京都目黒区上目黒1-23-1 中目黒アリーナ103)、公式オンラインショップ※公式オンラインショップの送料は別途必要。
2021年10月07日10月12日に東京芸術劇場コンサートホールにて開催される「オリンピックコンサート 2021」に出演する日本代表選手が発表された。本公演は、日本オリンピック委員会(JOC)が、オリンピック・ムーブメントの推進を目的に、オリンピズムに掲げられたスポーツと文化の融合をかたちにした、オリンピック映像とフルオーケストラが競演するコンサート。今年は東京2020大会に出場した日本代表選手たちを迎えて開催する。来場メダリストは、柔道から同日金メダルを獲得した阿部一二三、阿部詩兄妹や髙藤直寿、陸上競技の競歩で銀メダルを獲得した池田向希、レスリングのフリースタイルで金メダルを獲得した向田真優や乙黒拓斗、フェンシング男子団体エペで日本初の金メダルを獲得した山田優、見延和靖、加納虹輝、宇山賢ら。さらに、パラリンピックで金メダルを獲得した陸上競技の佐藤友祈、水泳男子平泳ぎの山口尚秀らも参加する。今年のコンサートのテーマは、“勇気をありがとう、感動をありがとう”。来場メダリストを代表して、数名のメダリストたちが、ステージに登壇し、改めてオリンピック、パラリンピックへの想いを語り、日本中から寄せられた声援に、感謝の気持ちを伝える。またコンサートで演奏されるのは、クラシック音楽の名曲のみならず、東京2020大会の表彰式楽曲、オリンピック開会式選手入場に使用された人気ゲーム音楽といった東京2020大会ゆかりの曲や、ポップスの珠玉の名曲など、ジャンルを超えた多彩なプログラム。オリンピアンで俳優として活躍する藤本隆宏がナビゲーターとして、コンサートの案内役を務め、声楽の名門・二期会に所属するソリストたちや、NHK東京児童合唱団の歌声が華を添える。大スクリーンに鮮やかに蘇る東京2020大会迫力の映像と、オーケストラの壮大な響きのコラボレーション楽しめる、一夜限りの貴重なコンサートをお見逃しなく。「オリンピックコンサート 2021」日時:10月12日(火) 18:00開演会場:東京芸術劇場 コンサートホール
2021年10月04日ピアニスト舘野泉が、恒例の秋のリサイタルを今年も10月22日(金)東京文化会館小ホールで開く。初演曲2曲を含む、彼のために作曲された左手ピアノの作品が並ぶ意欲的なプログラム。舘野に聞いた。2002年に脳溢血で右手の自由を失って以降、早い時期から舘野のために作品を書いてきた一人が吉松隆だ。今回はその代表作でもあるピアノ曲集《アイノラ抒情曲集》(2006)と《タピオラ幻景》(2004)から、舘野が独自に抜粋再構成した組曲を弾く。彼らの共通のキーワード「シベリウス」「フィンランド」が二人を結ぶ。「森と湖。澄んだ空気。静かに過ぎゆくものを慈しみながら。流れゆく時を大事にした曲です」フィンランドの作曲家カレヴィ・アホの《静寂の渦》は、本当は来年のコンサートのために委嘱した作品だった。「興が乗ったらしく、今年の3月に出来上がっちゃった(笑)。シンプルな主題が大きなエネルギーの渦となって広がって、最後はまた、ブラックホールに吸い込まれるように消えていきます」舘野が長く暮らすフィンランドでは多くの現代作曲家が活躍する。舘野は、彼らの国民気質が、孤独に自分と向き合う仕事に向いているのだと教えてくれた。林光の《花の図鑑・前奏曲集》(2005)は、花の名前のついた8楽章すべてに、古今の詩人たちのテキストが添えられている。「中野重治、すずきみちこ、与謝野晶子……。多くは反戦の詩です。左手の作品なのに、高音域(右手側)ばかり、身体をねじって弾かなければならなくて(笑)。難しいですが音楽のメッセージがはっきりしていて興味深いです」京都出身の平野一郎の《鬼の生活》も委嘱初演。「すごくアイディアがある面白い作曲家。全国の伝承文学にも詳しい人です。鬼の〝生活〟って変わってますよね。鬼が大暴れしたり恋をしたり。弾くほうも七転八倒する、でもとても綿密にできている作品です。彼も予定よりずっと早く書いてくれて、鬼シリーズの続編の構想まで出来上がった。次作はシューベルト《ます》の編成の五重奏。来年弾く予定です」11月で85歳。「若い頃に比べたら長時間はできない」というものの、毎日、ときには4時間も集中したままピアノに向かう。「一年一年、自分を見つめながら、できることだけを一生懸命。進んでいくと、またその先が見えてくる。音楽をすることは生きていることの証ですから」音楽への愛と情熱はいささかも衰えることはない。(文・宮本明)
2021年10月04日2022年4月から沼尻竜典が第4代音楽監督に就任する神奈川フィルハーモニー管弦楽団。9月30日、横浜市内で就任会見があり、併せて2022-23シーズンのプログラムを発表した。2022年3月まで川瀬賢太郎が常任指揮者として率いる神奈川フィルだが、50年超の歴史の中で山田一雄、外山雄三、ハンス=マルティン・シュナイトだけしか務めていない「音楽監督」の座を用意したのは、日本の指揮者界を牽引する沼尻への期待と信頼、そして誠意の証だろう。「重い名前のポストをいただいた。自分としてはまだ若手で、自転車で坂道を必死に上っているようなつもりだったが、いつのまにかそういう年齢になったと改めて認識した。今まで栄養として貯めたことを少しずつ還元するような立場になってきたのだという思いでいる」(沼尻=以下発言はすべて)就任までの神奈川フィルとの関係を振り返って、とくに絆を深めたのはオペラの仕事だったと話す。「びわ湖ホールの芸術監督を務めて15年。そのうち9年間を神奈川と共同でオペラを制作した。オペラは稽古期間が長いので、互いをさらけ出して付き合うしかない。喧嘩をしたり飲みに行ったり、交流を深めて、いつのまにか絆ができた。神奈川フィルを振る時は、自分の場所に帰ってきたような感覚がある」「地域に密着した音楽文化の創造」という神奈川フィルの理念にもしっかり寄り添う。「オーケストラが地域のものであるということが明快。人口1,400万人を複数のオーケストラが分け合う東京に対して、人口900万人の神奈川県で唯一のプロ・オーケストラ。やりようによってはものすごいことになる。県内巡回コンサートを開催する各市も人口10数万人以上の自治体ばかり。ヨーロッパならそれぞれにオーケストラがあってもおかしくない。あちこちに宝が埋まっているように思う」そしてもちろん音楽性にも期待を寄せた。「ベテラン・メンバーが多く、その経験を生かすのはもちろん、それを伝えながら世代交代が進めば、さらに化けていく可能性があるオーケストラだと思う」2022年4月からの新シーズン・プログラムは、定期演奏会9回、神奈川県立音楽堂での「音楽堂シリーズ」3回、「県民名曲シリーズ」3回。沼尻新音楽監督は4月定期の就任披露公演を皮切りに定期3公演、音楽堂シリーズ1公演、特別演奏会2公演を指揮する。新たなシェフがどんなケミストリーをもたらすか注目だ。(文:宮本明)
2021年10月01日日本オペラの金字塔、團伊玖磨《夕鶴》を劇作家・岡田利規が演出、主役つうにソプラノの小林沙羅が初挑戦する話題の舞台の上演まで1か月。「全国共同制作オペラ」の記者会見が開かれた(9月28日・東京芸術劇場)。岡田利規は海外でも評価の高い、現代の日本を代表する演劇人。これがオペラ初演出だ。岡田「オペラの演出とは何をすることなのかを見つけたいと思っている。音楽は抽象的な表現形式と思っていたが、じつはオペラは、物語や意味、登場人物の心理など、ほぼすべてを音楽が寄り添って描写していて、そこに演出が関わる必要がない。僕はそこに関わるのが演出だと思っていたので、では代わりに何をするのか。それを見つけられたら楽しい。片鱗は見つけつつある」《夕鶴》は1952年の初演以来、800回以上(2011年の集計)という破格の上演回数を誇る国民的オペラだ。「鶴の恩返し」や「鶴女房」として親しまれている民話をもとにした物語。岡田はそれを現代の私たちの物語として描く。岡田「資本主義に絡め取られてずぶずぶになっていく人間たちに問いかける。そういう物語」そのために、つうの亭主である〝普通の人間〟の与ひょうをキーパーソンとして、われわれ観客を彼に投影する。これは音楽的にも理にかなっているはず。オペラは管弦楽の前奏に出る「与ひょうの主題」で始まり、最後も同じ主題で幕を閉じる。《夕鶴》は与ひょうの物語でもあるのだ。舞台装置も衣裳も現代的。台本にはないダンサーも出演して表現の幅を広げる。つう役の小林沙羅は、中学生の頃からいつか演じたいと憧れていた念願の役だと語る。しかし、ずっとふくらませてきたこの役のイメージを、岡田との稽古のなかでいったんリセットして、ゼロから作り上げているのだそう。小林「今まで感情で歌ってきたのを、感情を一度無にして、そこからどう作っていこうかと歌い出すと、歌も変わってくるし、今まで見えなかった《夕鶴》の面白さがたくさん見えてきている」与ひょう役には美声のテノール与儀巧。与ひょうをそそのかす運ず役と惣ど役に寺田功治(バリトン)と三戸大久(バス・バリトン)。ダンスに岡本優と工藤響子。《夕鶴》は、10月30日(土)の東京芸術劇場コンサートホールを皮切りに、愛知県刈谷市(2022年1月)、熊本市(同2月)と全国3都市を巡演する。指揮は辻博之(東京)と鈴木優人(刈谷、熊本)。(文:宮本明)
2021年09月29日東京芸術劇場でリサイタル・シリーズ「VS」(ヴァーサス)が開催される。ふたりの異なる個性を持つピアニストが出演し、ピアノ・デュオ演奏により互いの表現力や感性、技術をぶつけ合う本シリーズ。ライブでしか味わえない熱狂的な空間を創造する、新しい形のリサイタルとなる。“衝突”や“戦い”という意味を持つ「VS」という挑戦的なシリーズ・タイトルは、初顔合わせとなるふたりのピアニスト、ジャンルの違うふたりのピアニストなど、表現の交歓の中で即興的に生まれていく、予想することのできない“衝突”を観客にも一緒に体感してほしいという思いから生まれた。また東京芸術劇場コンサートホールの空間にも負けない、多彩なレパートリーや表現の可能性を秘めた2台のピアノにこだわっている。第1回目に登場するのは、反田恭平と小林愛実。2016年デビュー・リサイタルでサントリーホールを満席にし、圧倒的な演奏で観客を惹きつけた反田。そしてわずか14歳でデビューし、同じくサントリーホールで日本人最年少の発売記念リサイタルを開催し話題となった小林。ふたりはショパンコンクールで共に第一次予選を勝ち抜き、10月の本大会に駒を進めている。本大会での結果が注目されるふたりのピアニストが闘いを終えて挑む「VS」の舞台。旬を迎えた若手ピアニストが互いの才能をぶつけ合う、記念すべき第1回の公演は12月8日(水)に開催される。東京芸術劇場 リサイタルシリーズ 「VS」 Vol.1Aimi Kobayashi × Kyohei Sorita公演日時:2021年12月8日(水)会場:東京芸術劇場 コンサートホール
2021年09月17日10月の「アジア オーケストラ ウィーク」でセントラル愛知交響楽団を振るのは常任指揮者・角田鋼亮。東洋と西洋を複眼的に対照するプログラムだ。[7日(木)東京オペラシティ]取り上げるのは、山田耕筰の《序曲》、貴志康一の《ヴァイオリン協奏曲》、アルヴォ・ペルトの《東洋と西洋》、そしてドビュッシーの《海》。「山田耕筰の《序曲》は、どのフレーズも上行型で始まり、ポジティブな雰囲気があります。日本人初の管弦楽曲という事で、ニ長調の明るい響きに祝祭性を込めたのだと思います。貴志康一の《ヴァイオリン協奏曲》は、当初は和楽器を入れた編成だったらしいのですが、最終的には西洋の楽器だけで和の響きを追求、再現した作品です。独奏は辻彩奈さん。旋律を完全にご自身の言葉や歌として、叙情的に演奏して下さる素晴らしいヴァイオリニストです。」日本の洋楽黎明期と普及期、2世代ほど年齢の違う二人の作曲家。西洋音楽と対峙するスタンスも異なるのが興味深いという。「二人ともベルリンで、その前の時代の音楽に影響を受けているんですけれども、山田耕筰はとにかくそれらの音楽に近付こうとしていた。ベートーヴェン、シューベルトやR.シュトラウスなどの書法を真似る事で、一度自分の言語として、そこからどう自分の個性を出していくか考えた。貴志康一は、日本の感情を西洋の人の心に寄せていく事が大事だと言ってはいるのですが、むしろ西洋音楽を自分の慣れ親しんだ音楽に引き寄せている感じがあります。私もベルリンに留学していましたが、彼らの両方の面を大事にしたいと思いながら、過ごしていました。ヨーロッパの文化を学ぶと同時に、そこにないものはなんだろうとも考えていました。」プログラム後半のペルトやドビュッシーは、西洋音楽から離れようとしていたのではないかと語る。「それまでの西洋音楽の流れの中で作曲していても新しい表現は生まれないと考えて、伝統的な音楽表現に則るのとは別の方向を探した。ドビュッシーの場合は東洋的な五音音階が入ってきたり、ペルトの場合は西洋音楽が形作られる前の時代に戻って、もっと人の心の深いところに入っていったり。ペルトの楽譜には西方教会、東方教会でも用いられているニカイア信条(クレド)のテキストが書き込まれています。東も西もなく、ひとつに融合できるというマインドが背景にあったのではないでしょうか。今回の4つの作品は、西洋音楽に対するアプローチがそれぞれ異なるという事が感じられる、興味深いプログラムかと思います。」(宮本明)
2021年09月17日帝国ホテル 東京は、秋限定「モンブラン ネオ・クラシック」を2021年11月30日(火)まで本館1階「ランデブーラウンジ」にて提供する。「モンブラン ネオ・クラシック」は、帝国ホテル 東京 料理長・杉本雄が、旬の果物で贈るデザートシリーズの6作目。“秋の味覚”の代表格である栗のおいしさを存分に堪能できるスイーツに仕上げた。洋栗と和栗を使ったモンブランは、栗のムースの中にカシスのムースと栗のフォンダンソースを閉じ込めた、“軽さ”を追求した新感覚の味わい。秋を感じさせるビジュアルにも注目だ。なお、帝国ホテルで受け継がれる和栗のモンブランとの食べ比べもおすすめだ。【詳細】本館1階「ランデブーラウンジ・バー」期間:2021年9月1日(水)~11月30日(火)時間:11:00~20:00(19:30ラストオーダー) ※9月9日現在料金:3,200円※コーヒーまたは紅茶付。※サービス料別。
2021年09月12日番組は終了したがコンサートは好評継続中だ。8月31日(火)にサントリーホールで開催された「ららら♪クラシックコンサート」Vol.11。残念ながら公演には足を運べなかったのだけれど、インターネット配信を自宅で鑑賞した。「ソリストたちのカルテット~大御所ズ☆室内楽」の公演タイトルどおり、千住真理子(ヴァイオリン)、石田泰尚(ヴァイオリン)、飛澤浩人(ヴィオラ)、長谷川陽子(チェロ)という大御所メンバーによる、一日限りのスペシャル・カルテットのコンサート。ピアノに佐藤卓史。司会はいつものとおり、俳優の高橋克典とアナウンサーの金子奈緒。冒頭、見どころを問われた千住の答えが、「この4人がはたして(アンサンブルとして)まとまって弾けるか?」たしかに!かなり珍しい一期一会の顔合わせだし、そもそも、そう答えた千住自身、カルテットを弾くなんて激レアだ(ソロの時は暗譜で弾くので、めったにお目にかかれないメガネ姿の千住も一見の価値)。しかし1曲目のモーツァルトのディヴェルティメントから、4人の本気度がありありと伝わってくる。おざなりの〝お仕事〟だったら、たぶんこんなに穏やかに調和したモーツァルトは出てこないはず。一方で、ベートーヴェンの大フーガなどでは、それぞれの個性が激しくぶつかり合いながらひとつになるという、室内楽の醍醐味が聴けるのも、卓越した4人のソリストたちの演奏ならでは。演奏曲目も本気度が高い。1楽章ずつ〝いいとこ取り〟した名曲の数々を一気に楽しめるプログラム。けれども選んだのは上述のモーツァルト、ベートーヴェンに加えて、シューマンのピアノ五重奏、チャイコフスキーの《アンダンテ・カンタービレ》とショスタコーヴィチの弦楽四重奏第8番と、まったくありがちではない。フィナーレは一転、井上陽水《少年時代》。ピアノの前奏の「夏の思い出」から〝晩夏つながり〟の「♪夏が過ぎ 風あざみ」。うまい!(編曲:松岡あさひ)インターネット配信は、緊急事態宣言による入場制限を受けてのフォロー策。コロナ禍の一日も早い終息は全世界の願いだが、こういう便利でうれしい副産物は大歓迎だ。きちんと凝ったカメラワークで音質も十分。映像だと演奏中の表情まで細かくはっきり見えるのもうれしい。会場で配布されたプログラムもPDFをダウンロードでちゃんと手に入る。かなり満足。アーカイブ配信は9月6日(月)23:59まで。なお、次回のららら♪クラシックコンサート Vol.12は12月1日(水)にサントリーホールにて上演。(宮本明)
2021年09月02日ステージで見るよりも小柄な印象。でもその小さな身体からつねにエネルギーが奔り出る、溌剌と明るい人だ。船舶免許を所持して海を愛するアクティブな指揮者でもある。指揮者・三ツ橋敬子に聞いた。10月の「アジア オーケストラ ウィーク」では東京フィルを指揮する[6日(水)東京オペラシティ]。没後5年の作曲家・冨田勲へのトリビュートという独創的なプログラムだ。「冨田先生には生前に一度だけお目にかかったことがあります。物静かに、でもとても熱心に音楽を語られる方で、その情熱に引き込まれる感覚でした」冨田勲(1932~2016)は1974年にシンセサイザーによる『月の光』を発表して日本人として初めてグラミー賞にノミネート。シンセ作品の世界的巨匠として活躍する一方、TV・映画の音楽から純音楽まで夥しい数の作品を残した。「音色、つまり空気感を音にするアプローチに長けた作曲家だと思います。どんな音色・質感で描くのかというロジックが、ものすごくしっかりしている。奏法の効果や音の組み立て方の操作にフォーカスする現代の音楽とは一線を画しているというイメージがあります」曲目は以下のとおり。冨田勲:交響詩《ジャングル大帝》(2009年版)ドビュッシー:《月の光》ストラヴィンスキー:《火の鳥》(1919版版)冨田勲:《ドクター・コッペリウス》第7楽章「日の出」Rise of The Planet 9より《ジャングル大帝》は手塚治虫のアニメ(1965)の音楽による管弦楽作品。《コッペリウス》は生前の冨田の構想に基づき補完された遺作で、終楽章「日の出」は先の東京オリンピック開会式の聖火点灯シーンでも流れた。「火の鳥が象徴する不死鳥=蘇るというテーマが、演奏会全体の核になっています。《ジャングル大帝》の陽が昇る情景から始まり、月の光を挟んで、闇から始まる《火の鳥》。そして最後に「日の出」で、本当に感動的なクレッシェンドから、また陽が昇ります。ひとつの大きな波を作って希望に向かうストーリーです」映像的なイメージを軸に構成されているから、誰もが音楽の世界に入り込みやすいはず。とくに《ジャングル大帝》では名バリトン大山大輔の歌と語りが入る。「物語の温度や空気感をさらに具体的に感じていただけます」。「冨田先生の音楽が、日本の遺産として受け継がれるべきものであることを、みなさんと一緒に認識していけたらいいなと思っています」(宮本明)
2021年08月31日ピアニスト及川浩治のオール・ショパン・リサイタル「ショパンの旅」[9月26日(日)サントリーホール・10月31日(日)シンフォニーホール]は、及川自身が書いた台本による語りを交え、よく知られた名曲を中心に作曲家の人生を辿る興味深い企画。実はこれ、1999年のショパン没後150年に全国で3万5千人を動員した伝説のコンサートの初めての再演だ。「まだデビュー5年目。その頃は協奏曲を中心に活動していて、ソロ・リサイタルの機会があまりなかったんです。あるホールに打診したら、『新人で大ホールを埋めるのは難しい。何か企画を考えて』と言われてしまって。必死にプランを練って持っていったのがこれでした。すると、あっという間に完売で追加公演。全国に展開していただけることになり、自分でもびっくりしました。しっかり考えたことは結果に出るのだと初めて気づかされた、初心、原点のコンサートです」語り部分は、ショパン自身を始めとする、当時の人々の〝証言〟で構成されている。及川自身のショパンへの思いなどの主観はあえて排した。「何冊も本を読んで。大変でした(笑)。でも専門の作家の方にお願いするよりも、ピアニストとして、曲の感覚に直結するような言葉を選ぶことができたと思います。もちろん、知ることで演奏に反映された要素も。そういう意味でもショパンについて一番勉強した年でした」22年を経ての再演。当時よりも自然体でショパンと向き合えると語る。「歳を取って、多少なりともショパンの音楽への共感度が深まっているはず。つい先日、10数年ぶりにピアノ協奏曲第1番を弾かせていただいたんですけれども、やっぱりめちゃくちゃいいなと思って。自分のアプローチが自然体になっているのを感じました。僕はよく、〝情熱のピアニスト〟とかって書いていただいて、理論的でないピアニストだと思われているところがあるんです(笑)。でも実はめちゃくちゃ考えるタイプなんですよ。理屈っぽいんです。でも、あまり理屈にとらわれすぎないように。特に今回のプログラムはみなさんがご存知の有名な曲が大部分ですし、考えすぎずに、いまの自分の感性で、現代のピアノの響き、現代のコンサートホールに合ったショパンの世界を皆さんと共有できればうれしいですね。再演は自分にとっても新鮮。22年前とはちょっと違う表現になるだろうと思います。語りも、前回は芝居っ気がありすぎたかもしれないので、今度はもっと自然体で(笑)」(宮本明)
2021年08月31日5月のエリザベート王妃国際音楽コンクールでは第4位入賞という好成績に輝いたピアニスト阪田知樹。今秋、デビュー10周年の節目のリサイタルに挑む[10月14日(木)サントリーホール]。「今の自分が取り組みたいと思っているテーマを形にしたリサイタルになると思います」このシーズン、阪田がプログラムのテーマに掲げるのは「ファンタジー=幻想曲」にまつわる作品だ。当公演の演奏曲目は次のとおり。ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番《月光》シューマン:幻想曲リスト:ピアノ・ソナタリスト:《リゴレット》パラフレーズ「《月光》のもともとのタイトルは《幻想曲風ソナタ》。スローな第1楽章で始まり、第3楽章でようやくソナタ形式が出てくる、特殊な形のソナタです。調性の並びも非常に有機的で、全体が一筆書きのように書かれているのも、非常に幻想曲的です。シューマンの幻想曲は逆に、もともとソナタとして計画されていた作品。構築が非常に独創的な幻想曲ですが、全体をよく見通して構成されているという意味で、ソナタの要素を十分に内包しています。リストのソナタは、スコアを見て楽曲をしっかり知っている人間から見れば、どんなコンセプトのソナタなのか一目瞭然なのですが、普通に聴けば、まさにファンタジー的な要素が強い楽曲だと思います。ヘタに弾いてしまえば支離滅裂にもなりかねない。向き合うたびに新しい発見のある作品です。作曲技法、リストの意図やインスピレーションの背景など、毎回違うことに気づきます。《リゴレット》パラフレーズは、ロマン派のヴィルトゥオーゾたちが好んで作った、オペラのテーマを借りて書いた『ファンタジー』のひとつとして取り上げました」音楽用語としての「ファンタジー」はかなり多様な意味で用いられていて、説明も難しいが、その諸相をたっぷり味わうことができるプログラムだ。デビューは2011年4月。名ピアニストのニコライ・ペトロフに招待されて出演したモスクワ・クレムリン音楽祭でのオール・リスト・リサイタルだった。そこから10年。自分が奏でたいと思う音楽、自分が信じる音楽が、ようやくはっきり見えてきた気がすると語る。「今回は、音楽家として、そこからさらに歩む方向をお見せする場になると思っています。サントリーホールという特別な会場での初めてのリサイタル。ぜひ一人でも多くの方に、その思いの丈を聴き取っていただきたいです」(宮本明)
2021年08月26日才気あふれる若きピアニストたちが出演する「第39回 横浜市招待国際ピアノ演奏会」が11月6日(土)、神奈川県立音楽堂にて開催される。世界中から将来を嘱望される才能を発掘し、広く紹介することを目的に1982年より開催されている「横浜市招待国際ピアノ演奏会」。今年も世界の名だたるコンクールで優勝・入賞を果たした4人のピアニストを紹介する。登場するのは、桑原志織、ケイト・リウ、ダニエル・チョバヌ、ジャン・チャクムル。難関として知られるルービンシュタイン国際ピアノコンクールで今年5月に第2位を受賞した桑原は、ブゾーニ編曲によるバッハの〈シャコンヌ〉を披露する。また、ショパン・コンクール第3位のリウはショパン《バラード第1番》と、定評のある選曲を。チョバヌは《展覧会の絵》、チャクムルは《クライスレリアーナ》と、様々な楽想を持つ大曲を選曲。それぞれの持ち味を生かしたプログラムを披露する。なおチョバヌはヤマハ独自の高精度デジタル制御システムによって繊細な鍵盤タッチやペダルの動きを極めて正確に再現できる自動演奏機能を搭載したハイブリッドピアノ「Disklavier™」を使用し、リモートで出演するとのことだ。横浜みなとみらいホールは大規模改修工事による休館中のため、1982年から1997年まで主会場だった県立音楽堂で今年は開催される。24年ぶりに古巣での開催となる「横浜市招待国際ピアノ演奏会」で世界から注目されるピアニストたちの演奏に酔いしれよう。第39回 横浜市招待国際ピアノ演奏会日時:2021年11月6日(土) 開場 15:30 開演 16:00会場:神奈川県立音楽堂出演:桑原志織(日本)、ケイト・リウ(アメリカ)、ダニエル・チョバヌ*(ルーマニア)、ジャン・チャクムル(トルコ)*DisklavierTMによるリモート出演
2021年08月16日10月1日(金)~10月31日(日)の期間、横浜を舞台としたオルガン・フェスティバルが開催。「パイプオルガンと横浜の街 2021」と題して、市内のコンサートホールや教会などでイベントやコンサートが行われる。1871年に日本で初めてパイプオルガンが建造された横浜。19世紀末には国産のオルガン製作所(西川風琴製造所)が創業するなど、横浜はオルガンに深いゆかりがあり、今も市内のコンサートホールやミッションスクール、教会などの施設で、製作された国も大きさも音色もそれぞれに違う個性あふれるパイプオルガンに出会うことができる。こうした歴史的背景を持つ横浜で今秋、3回目となるオルガン・フェスティバルを開催。イベントの幕開けとなる横浜開港記念会館で開催のオープニング・レクチャーでは、フェリス女学院大学名誉教授の秋岡陽氏がパイプオルガンと横浜の歴史を紐解く。その後は、神奈川県民ホールにて、今年4月に神奈川県民ホールオルガンアドバイザーに就任した中田恵子のオルガン・リサイタルを皮切りに、日本の名だたるホール・オルガニスト経験者のジャン=フィリップ・メルカールト、近藤岳、梅干野安未といったオルガンの名手たちが登場し、ソロ演奏を披露。また、昨年12月まで横浜みなとみらいホールのホール・オルガニストを務めた三浦はつみが移動可能な小型パイプオルガン、“ポジティフオルガン”と声楽や古楽器とのアンサンブル公演に出演する。個性豊かなオルガンと彼らのコラボレーションを楽しんでほしい。各公演によって受付開始日・申込先・料金が異なるので、詳細は横浜みなとみらいホール公式サイトの公演情報をチェックしよう。パイプオルガンと横浜の街 2021会場:横浜開港記念会館、神奈川県民ホール(小ホール)、紅葉坂教会横浜ユニオン教会、カトリック山手教会、関東学院小学校(礼拝堂)期間2021年10月1日(金)~10月31日(日)
2021年08月16日柔軟な表現力と、それを可能にする巧みな技術。彼女の歌を聴くといつも幸福な気持ちになる。ソプラノの森麻季がライフワークとして取り組むリサイタル・シリーズ「愛と平和への祈りを込めて」が今年も9月に行われる[9月12日(日)東京オペラシティコンサートホール]。2001年9月、ワシントン・ナショナル・オペラ《ホフマン物語》にオランピア役で出演しているとき、米国同時多発テロに遭遇した。数年後、広島の原爆記念公演で歌った舞台上で、抑えきれずにさまざまな思いが込み上げてくるのを経験して、節目ごとに祈りの気持ちと向き合うこの企画を準備。スタートしたのは、はからずも2011年、東日本大震災の半年後の9月だった。「今年で11回目。その間も毎年のように、どこかで災害があったり、海外では戦争が起こったり。それなのに私たちは忙しい毎日の中で、それに向き合う機会がなかなかありません。音楽を通して、つらい体験をされた方々に思いを馳せ、一緒に前を向いて生きる気持ちになれるような、一人ひとりが平和に感謝する2時間にしていただければと願っています」今回はアニヴァーサリー・イヤーの作曲家を軸に据え、ロシア音楽も初めて集中的に取り上げる。「このリサイタルは毎回、新しいことに挑戦する緊張感もあって、私自身の1年の節目になっています。今回もほとんどが初めて取り組む作品ばかり。ツェムリンスキー(生誕100年)の《トスカーナ地方の民謡によるワルツの歌》は、コンサートではあまり演奏されないけれど、とても素敵な歌です。ロシアの音楽は憂いや悲しみがあって、日本人の琴線に触れる魅力があります。あえてヴォカリーズを2曲。有名なラフマニノフの《ヴォカリーズ》とグリエールの《コロラトゥーラ・ソプラノのための協奏曲》。グリエールは一度聴いてすっかり惚れ込んでしまいました。旋律だけで聴く方それぞれの情景を浮かべながら、ロシアの音楽の魅力を楽しんでもらえたらと思います。でもこのプログラム、聴いているぶんには素敵なのですが、全部を歌い切るのはかなり大変なんです(笑)」コンサートには「虹の彼方に」という副題が付けられている。「虹は幸運の印。アメイジング・グレイスからストラヴィンスキーまで、虹のように色とりどりのキャラクターの曲を楽しんでいただけると思います」雨が降るから虹が出る。彼女の歌が美しい祈りの虹を架けてくれるはずだ。(宮本明)
2021年08月13日みためはそれほどでもないけれど、内容は充実、いや、濃厚と言ってもいいかもしれない。ショーソンと水野修孝、どちらも交響曲。どういうつながりか、山田和樹さんがどう考えているのかわからない。わたしは、といえば、19世紀と20世紀、それぞれの世紀を俯瞰し総括するような作品がならべられている、とみている。正確には、1890年と2003年の完成だが、100年ほどの差。ショーソンはヴァーグナーに心酔したフランス・ヴァグネリアン。おなじシンフォニストでも、たとえば1824年、1860年の生まれのブルックナー、マーラーと対比すると、ショーソンは1855年生まれ、後者にちかい。強引な言いかたになるが、フランスに翻訳されたヴァーグナーの一例として、ブルックナーやマーラーに親しんでいるひとにこそ、たのしんでいただけるのではないか。ショーソンがドイツ系のシンフォニーをフランスへ翻訳したとすれば、水野修孝は、ヨーロッパ/アメリカ由来のさまざまな音楽を、この列島で消化=昇華した作曲家。無調と調性、ヴァイタリティと叙情、リズムとメロディ、さまざまなコントラストが文字どおり「交響」し、コンサートホールという公共の場にひびく。初演されてからほぼ20年。20世紀の「現代音楽」とはまたべつのフェイズにある《第4番》は、ロゴスとパトス、みごとに釣りあい、綜合され、どこに耳をかたむけたらいいのか迷わせない。第1楽章の緩急のコントラスト、第2楽章の緻密な線のからみ、第3楽章のおもわず口ずさんでしまうようなメロディー、第4楽章のクラブ・ミュージックのような4つ打ち−−−−異なった楽章が、モティーフの共通性から導きだされ、また、シンフォニー=複数の声を綜合する、の理念が、ショーソンと世紀をこえて、つながる。とくに、第3楽章のメロディーの叙情性は特記すべきもの。一度耳にされたら、水野修孝《交響曲第4番》として記憶されよう。第4楽章のグルーヴは、安直なオーケストラ版クラブ・ミュージックをせせら笑う。それに、だ。昨今のオーケストラ曲が、ともすれば、どれも映画やTVの劇伴みたいにひびいてしまうのとは一線を劃した構築性、いや、硬派なものを持っているのはいくら強調してもしすぎることはない。現在、音楽は、サブスクやDLで、気にいったところだけ聴くのがあたりまえになりつつある。好きなように聴けばいい、と聴き手の自由が強調される。まとまって聴く、とか、この順番で、というようなのは押しつけだと言うことさえある。だが、複数の異なったものがひとつになって、語られることがある。順番にたどることで浮かびあがってくるものがある。つくりての身勝手さのおしつけではなく作法がある。シンフォニー=交響曲は作法に則っている。そうしたひとつのながれ、構成によって聴かれて、じぶんのなかにコスモロジーが生まれる。19世紀末と21世紀初頭の2つの「交響曲」は、こうしたことも伝えてくれるはずだ。文:小沼純一
2021年08月12日