ドウェイン・ジョンソンが「E!News」のインタビューで、「男性は、メンタルヘルスの問題を抱えていてもオープンに話すことができない傾向にある」と問題提起。自らの経験を語った。「私は一人っ子で、男として育った。男というのは、もともとそういうこと(メンタルヘルス)について語らないような性質がある。話すことで、傷つくような気がするからだ。誰だって傷つきたくない。メンタルヘルスについて話すことで、弱さを見せるような気になるんだ」と指摘した。ドウェインは1990年代から90年代半ばに、アメフトがらみのけがや不調で「うつ」を経験。初めて「うつ」を患ったときは「それがなんだかわからなかった。とにかく最悪な気分で、なにもしたくなかった」という。どん底から抜け出すために必要だったことは、人と話し、助けを求めることだった。この経験をもとに、自身の伝記ドラマ「Young Rock」で視聴者に「助けを求めるのは弱さを見せるんじゃない。助けを求めるのは、私たちのスーパーパワーなんだ」と呼びかけたことも。「最高に感動する視聴者からの感想は、メンタルヘルスについて語る開放性に関してのことなんだ」と話し、ドラマがメンタルヘルスについて考えるための手助けとなっていると、手ごたえ感じていることを明かした。(Hiromi Kaku)
2022年03月15日皆さんは周りの人たちと上手く付き合えていますか…?中には人間関係がややこしくなったり、いらぬ恨みを買うことも…!?。 今回は実際に募集した対人トラブル体験談エピソード「女性ファンが多いバンド仲間」「サウナを私物化する友人」をご紹介します!「女性ファンが多いバンド仲間」私は趣味で社会人バンドをしています。これは昔組んでいたバンドの話です。女性問題が絶えないバンドメンバーが…メンバーには、女性問題が常に絶えない妻子持ちの男性ギタリストがいました。女性ファンが多く、LIVEをする上では集客に繋がるので「こちらに害がなければまあいいか」ぐらいに思っていました。ネットに私の悪口が…私の誕生日とLIVEが被ったときのこと。そのギタリストの愛人の一人が私に誕生日プレゼントをくれました。そのときは有り難く受け取ったのですが…。後日、ネットのある掲示板に私の個人情報を含む根も葉もない悪口が書かれているのを見つけました。誕生日プレゼントをくれた女性が…!?個人情報は流石に困るので、書き込みの情報開示を依頼してみると、誕生日プレゼントをくれた女の子でした。それが分かってすぐ、プレゼントはすぐゴミ箱に捨て、そのギタリストにはバンドを脱退してもらうことにしました…。友は近くに、敵はより近くに…。そんな女性って想像より多いのかもしれませんね。「サウナを私物化する友人」私が通ってるジムにはサウナがあり、そのサウナを平均2時間前後使う友人がいます。それはいいのですが、その友人のサウナのマナーが悪すぎるのです…。マイルールを貫く友人は…?サウナを私物化してマイルールを貫く友人…。このご時世でしばらく前からサウナ内での会話が禁止になっていましたが、ルール無視でおしゃべり、物を置く場所じゃないところに水筒や私物を放置するなどなど…。自分勝手すぎる…!?友人として放っておけず注意をしたら「サウナは熱でウイルスが死ぬからいいの!」とトンデモ理論。いい年の大人が言うことではないですよね…。あまりに自分勝手で自分さえ良ければほかの人はどうでもいい、という態度に心底呆れました。その後…わたしは別のジムへ移り、今は快適に過ごしています。もちろん彼女とは縁を切りました。いかがでしたか?こんな友人たちとは距離を置きたいですよね…。人との接し方には注意したいと思える対人トラブル体験談でした。次回の「トラブル体験談エピソード」もお楽しみに♪※こちらは実際に募集したエピソードを記事化しています。"
2022年03月12日「社会復帰どーすんの?」第13話。子育てママたちを助けるため、本当に自分がいいと思うオールインワンのスキンケア商品を作ることを決意した芸子。夫は「自分の奥さんが楽しそうにやってるのは嬉しい」と言って快諾してくれました。そして今度は両親に報告します。すると、お父さんから意外な反応が返ってきて―?! 「社会復帰どーすんの?」第13話 スキンケア商品を作ることを両親に報告したら、なんとお父さんが、OEMに携わっていたという友達を紹介してくれた!! 化粧品の外箱に示される「製造販売元」「発売元」の意味を教えてもらったんだけど、「発売元」は今のままだと、私の名前、平野芸子になってしまうことがわかった。 そんな化粧品、誰も買ってくれないよ~(泣) さらにお父さんのお友達は、「製造元の会社からみても、個人より株式会社の方が重みがある。」と教えてくれた。 もう、こうなったら、私、株式会社を作るしかない!! 芸子は、株式会社を作ることを決意しました。次回、司法書士を訪れますが、ここで待っていたのはまさかの現実で……!? 著者:マンガ家・イラストレーター 芸子2017年、2019年生まれの姉妹ママ、芸子さん。Instagramでほっこり可愛い育児エピソードやあるあるネタを更新中!
2022年03月08日小学生のころ。陽斗さん(左)の学校の送迎は、姉である鈴乃さんが行っていた病気や障害を抱える家族のため、大人に代わって介護や世話を担う「ヤングケアラー」に今、注目が集まっている。自らの体験を発信する当事者が相次ぐほか、条例をつくり、支援に乗り出す自治体も現れ始めた。進学を断念したり、誰にも相談できなくて孤立したり……、それでも子どもたちが家族を支えてきた理由とは?調査でわかったクラスに1人が“ケアラー”親や祖父母、きょうだいのため、介護や身の回りの世話を担う「ヤングケアラー」。法的な定義はないが、厚生労働省は「本来、大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子ども」としている。「重度障害のある姉がいます。意思疎通ができないし、日常生活で移動するにも大変です」関東地方に住むヨシミさん(仮名=20代)は小学2年生のころから、姉の介護を手伝ってきた。年齢が上がるにつれ、食事や着替えのサポートなど身体介護も親に代わって徐々に担った。姉の介護について周囲に話したことも、相談したこともない。ケアの時間が増すと遊ぶ友達が減った。加えて、周囲の目が気がかりだった。「姉を見て、知っている人だけでなく見知らぬ人にまで笑われたり、侮辱されることがありました。姉が気づいているかわかりませんが、もし周囲の心ない発言が聞こえていたらと思うと、へこみます」幼いころからの介護は負担がかかる。心がすり減ることもあったと振り返る。「自分のことはどうでもいい、死にたいと思ったこともありました。でも、献身的に介護をする母親の姿を見て、思いとどまりました」姉のために、ヨシミさんを含め家族が協力し合うことで、介護を乗り切った。ただ、周囲に頼ることは躊躇する。「介護サービスを受けることは権利だとは思っています。それでも、家族ではない他人に介護を手伝ってもらうことには抵抗があります」* * *ヤングケアラーへの社会の関心が高まるにつれ、学校生活との両立の難しさや、進学や就職の選択肢が狭まるなど、困難な実態が浮き彫りになってきた。そうした中、埼玉県は2020年にいち早く「ケアラー支援条例」を制定、支援に乗り出した。実態調査では県内の高校2年生の約25人に1人がケアラーとわかった。条例提案の中心となった吉良英敏県議はこう話す。「調査の結果、クラスに1人はヤングケアラーがいることがわかりました。ただ、不登校の生徒は回答しておらず、正確な実態の把握は課題です。これまで家庭内の介護は女性が担ってきましたが、未婚や独居の世帯が増えるなど家族が変容しています。介護にあたっては、介護を受ける人だけでなく、ケアする人の幸せという視点も重要です」国も深刻さに気づき政策課題として浮上している。’21年4月、厚生労働省は全国の公立中学校と全日制高校を対象に、ヤングケアラーに関する初の実態調査を実施した。それによると、「世話をしている家族がいる」生徒は中学生が5・7%で約17人に1人、高校生が4・1%で約24人に1人の割合だった。また「世話をしている時間」は平日1日平均で、中学生が4時間、高校生が3・8時間。1日7時間以上世話をしている生徒は1割を超えた。ただ、時間だけではケアの負担を判断できず、さらには本人にヤングケアラーの自覚のない生徒も多い。『若年性認知症の親と向き合う子ども世代のつどい』を主催する田中悠美子・立教大学助教は、「ヤングケアラーという言葉のインパクトは大きく、メディアも取り上げたことで政策が発展しました。これまでは個別にサポートされていましたが、(理解者や支援者を見つけられた)運がいい人だけが支援されるのではなく、政策や条例に結びつけないといけません」と指摘する。15歳から始まった、17年間の介護生活ヤングケアラーの置かれた環境や抱える問題、心情はさまざまだ。冒頭のヨシミさんは多くの困難を抱えているが、家族をケアすることは、ただ「つらくて大変」な体験ばかりではない。都内に住む宮崎成悟さん(32)は、難病の『多系統萎縮症』を患う母親を、昨年8月に亡くなるまで約17年にわたって介護してきた。(宮崎さんの「崎」は、正しくは「立さき」)「よく笑い、鼻歌を歌いながら家事をしている母の姿を覚えています。もともと、めまいや立ちくらみがあったり、自律神経が弱かったんですが、異変に気がついたのは僕が15歳のとき。車の運転ができなくなったんです」(宮崎さん、以下同)このころから通院の付き添いが始まった。当初は自律神経失調症と言われていたが、宮崎さんが高校2年のとき、難病と診断された。「“治らない病気”と聞きショックでした。母も病名を知って呆然としていたので、どうにかしたいと思いました」父や姉、弟と一緒に、母親の介護をするのが日常となった。介護をしながらも、早朝から夜遅くまで部活のバスケットボールに打ち込んだ。昼食時の弁当も宮崎さんだけ、自分で作ったものだった。「母のためにと思って介護をしていたので、なぜ自分が? などとは思いませんでした。ケアとか介護という意識はなく、困っている母を助ける、母ができないから僕がやる、という感覚でした」自分の時間が欲しいとも思わなかった。ただ、高3の春、部活の合宿を休んだ。「家族に“合宿に行かないでほしい”と言われ、先生に相談し、休みました。厳しい部活だったので、周囲からサボっていると見られるのが嫌でした。それでも母の犠牲になった感覚はありませんでした」部活を引退する時期になると、母親の病状は悪化していた。夜中のトイレの付き添いが必要になり、宮崎さんは母親の隣で眠るようになった。「それまでは手すりにつかまってなんとか歩けましたが、できなくなりました。ただ、母のためになりたいと思っていたので、福祉系の大学を目指そうと思ったんです。そうすれば、(介護をしている)境遇を話せる環境もあるかなと思っていました」受験勉強と介護の両立は難しかった。何かあればすぐ呼べるように、母に在宅用のナースコールを持たせていたが、勉強しようと思ったらナースコールが鳴る。「勉強時間が減っただけでなく、精神的にもきつかった。母は“身体が痛い”“死にたい”と言っていましたが、僕にはどうにかしてあげることもできない。だんだん受験勉強をする気がなくなりました。友達との連絡も減っていった。高校卒業後の1年間がいちばんきつかったですね」一時は進学を断念した宮崎さん。2年遅れで大学へ進学したあとも困難はつきまとった。講義と介護の両立は簡単ではない。移動時間のときも母親のことが頭から離れない。サークルに入ったものの、数回のみの参加だった。「就職活動も大変でした。バイトができず、お金もなかったので、スーツ代や交通費を捻出するのもひと苦労で。面接にこぎつけても、介護と学業の両立は“学生時代に力を入れたこと”として見てもらえない。なかなか内定が決まらず、腹をくくり、転勤のある会社を受け地方に配属されました。そのため弟が母の介護をすることになりました」入社から3年後、母親の容体がさらに悪化した。そのため介護離職し、宮崎さんは東京の会社に転職する。「仕事の傍ら、難病支援のボランティアをする中でヤングケアラーという言葉を初めて知りました。介護を通して責任感や忍耐力が養われるという話を聞いて、それまで抱いていたコンプレックスが逆転したんです」’19年、ケアラーの就職支援などをする会社をつくり、のちに一般社団法人『ヤングケアラー協会』を設立。現在は代表を務めている。「僕は運よく“助かった”と思っています。姉や弟がいたので介護が分担可能で、大学進学も、就職もできました。しかし、そうではない当事者も少なくない」ヤングケアラーに必要な支援は年齢や環境によって違ってくる、と宮崎さんは言う。「例えば、介護のため学校へ行けなくなったなど支援の緊急度が高いヤングケアラーの場合、行政が支援し、福祉につなげる必要があります。さらにヤングケアラーが自立して歩んでいけるために、就職という選択肢が必要です。ただ、家族を介護している状況が企業や社会になかなか理解されていません」また、宮崎さんは、同じ境遇の人たちが体験を分かち合う「ピアコミュニティー」の必要性も感じている。「家族のためになりたい人を無理に介護から切り離すことはないと思います。家族に対する思いを尊重しながら、自分らしく生きられる社会を目指したい」“きょうだい児”の思い介護やケアの対象は親だけではない。大阪府で暮らす清崎鈴乃さん(22)は、障害のあるきょうだいがいる大学生らが語り合う場『かるがも〜学生きょうだい児の会』(以下、かるがも)を起ち上げた。障害のあるきょうだいがいる人は「きょうだい児」と呼ばれる。鈴乃さんはきょうだい児であり、ヤングケアラーでもある。かるがもでは、同じ境遇にある同世代との交流や意見交換をしているが、コロナ禍の現在はオンラインで集いを開いている。海外からアクセスをする人もいるという。「オンラインとはいえ、実家に住んでいると言いたいことが言えないこともあります。そのためチャット機能を利用するなど工夫しています」(以下、鈴乃さん)現在、大学4年生の鈴乃さんは、知的障害と自閉症のある弟の陽斗さん(19)を小学生のころから支えてきた。「障害があるとわかったのは弟が3歳のとき。ケアも私にとっては日常で、ごく自然なことでした。いつも弟と一緒にいるのが当たり前でした。母子家庭ということもあり、学校の送り迎えをするのも自分しかいない。学校での様子が心配になって、弟がいる支援学級に見に行ったりしていました」鈴乃さんが行ってきたのは、介護というより、情緒面のケアや気遣い、見守りといったことが中心だ。家族の世話に追われていると自分の時間がなくなり、大人でさえストレスを抱えやすくなってしまう。鈴乃さんはどうしていたのか。「親には、やりたいサッカーをさせてもらっていました。毎日練習があるわけではないし、近所に住んでいる祖父母が家に来て、弟を見てくれたこともありました。ただ試合中、集中していたのに、ふとした瞬間に“今、家の中は大丈夫かな”と心配することもありました」きょうだい児の家庭では親の目が障害のある子に集中しやすいため、ほかのきょうだいが疎外感を抱くことが珍しくない。「時々そう感じることはありました。しかし、そういう気持ちよりも、母親の接し方を通して、弟へのサポートが必要だと客観的に見ることができました。母親が頑張っている姿を見ていたので、自分も頑張りたい、母親を助けたいという気持ちのほうが強かったかもしれません」中学生になると、陽斗さんの入浴介助をするようにもなった。「身体を洗うときに弟が自分でやると、なでているみたいな感じで、清潔を保持するという意味では難しい。やはり(異性のため)抵抗を感じることもありましたよ。でも、母親だってそれは同じ。家族の中に入浴介助できる人は女性しかいません。“今日は鈴乃と入る”と言って、弟に指名されることもありました」今春、大学を卒業する鈴乃さんだが、陽斗さんの将来についてはどう考えているのだろうか。「自分はどう関わるんだろうかって勝手に考えています。弟がやってみたいこと、行きたい場所もあるでしょうし、私も何か一緒にできたらと思っています」* * *ヤングケアラーを取り巻く問題を解決するには、認知度を高めつつ、当事者の声を聞くことが重要となる。埼玉県では11月を「ケアラー月間」とし、認知度を16・3%(’20年度)から、’23年度までに70%にすることを目標として掲げている。「ハンドブックを作成、小学校4年生以上に配布し、いくつかの学校で『ケアラーサポートクラス』を設け、授業もしました。コロナ禍でもあり、オンラインサロンも行っています」(前出・吉良県議)当事者がヤングケアラーと自覚し、支援を求めている場合はどうすべきだろうか。前出の田中さんはこう話す。「ケアラー本人が安心して話せる拠点が求められています。しかし、身近な相談窓口や拠点が整備されているとは言いがたい状況です。神戸市や江戸川区では、ヤングケアラーの支援窓口を明確にしています。ケアラーが安心して話せる場や必要な支援につなげる場を地域社会の中でつくっていく必要があります」取材・文/渋井哲也 ジャーナリスト。長野日報を経てフリー。若者の生きづらさ、自殺、いじめ、虐待問題などを中心に取材を重ねている。『学校が子どもを殺すとき』(論創社)ほか著書多数
2022年03月03日夏休みに家庭教師を頼もう。子どものためを思ってした選択に、思わぬリスクが潜んでいるとは…。恐怖の事態を招いたコミック『家庭教師Aが全てを失った話』。このお話には、他人事ではない、社会問題を考えるヒントが詰まっていたのです。ダイジェストでご紹介します。■肩書が良くても素性は大丈夫? 家庭教師選び「母親が小学校教師、さらに息子も◯◯大学に通っている」という理由で、オタ彦に家庭教師を頼むことになった、どん子ファミリー。ご近所さん、名の知れた肩書…、とくに悪い噂がないのであれば、安心してしまうのも無理はありません。しかし、家庭教師は親の目がないところで子どもと関わる相手。どんな人物なのかをしっかり確認しないと、思わぬ事態を招くことに…。実際、オタ彦は初日から大学名を振りかざし、どん子たちを制しようとしました。そして…。子どもたちが問題を解いている間に、どん子のランドセルを勝手に物色。あまりにも失礼な行動に友達が抗議すると、バカにされたと感じたオタ彦は…。「低学歴が嫌い」「時間の無駄」とパワハラともとれる発言を連発! さらには…。チクッたら小学校教師である母親に言いつける。まるで小学生のようなオタ彦の言い分ですが、どん子たちはその言葉に囚われることになるのです。■子どものスマホ、どこまでチェックすべき?ある日、母親のスマホをもらってメッセージアプリのアカウントを作ったどん子。ここにも想定外のリスクが…。オタ彦は、どん子のいない間に勝手にスマホを操作してIDを交換。その日から、メッセージを送ってくるようになります。不安に思うどん子でしたが、余計なことを言えばお母さんにスマホを没収される。そんな思いから、親にも内緒にしてしまうのです。年頃の子どもを持つ家庭であれば、誰もが直面するであろう“子どものスマホをどこまで管理するか”という問題。我が子とはいえ、プライバシーはある。でも、まだ子どもは子どもだし…と答えはなかなか出ないものです。とはいえ、このコミックで重要なのはメッセージアプリの内容自体を把握しているかどうか、ではなさそうで…。■オタ彦の言動にドン引き…それでも我慢する理由その後も、偶然目の前に現れたり、なぜか旅行に出かけることを知っていたりと、どん子はオタ彦の行動に違和感を覚え始めます。旅行中も…。スマホのカメラが勝手に起動して、いきなりフラッシュが光ったり。以降も怪しい出来事が続き、さすがのどん子も母親に相談するのですが…。結局、オタ彦の「教師をしている母にチクる」という言葉が忘れられず、我慢してしまうのです。■トラブル続出…スマホが勝手に操作されてる!?そんなこんなで、夏休みは終了。オタ彦の家庭教師期間も終わったけれど、明らかにどん子を気に入っているオタ彦から、そう簡単に逃げられるはずもありません。一方で、どん子の周辺には“スマホ”をきっかけにしたトラブルが次々起こっていきます。どん子から、友達宛にヒドいメッセージが届いたり。クラスメートに“どん子の兄”と名乗る人物から電話があったり…。そのすべては、どん子の身に覚えがないことでした。そして…!スマホの壁紙が、どん子という決定打。さすがのどん子も、ついに母親に本気で相談をすることに! そこから、物語は事件解決へと一気に動き始めます。■親の知らないところにある子どもへのリスク、どうすればいい?物語全体を通して、オタ彦の考え方や言動がおかしいのは一目瞭然ですが、親の知らないところにある子どもへのリスクは、どのように気を付けたらいいのでしょうか。家庭教師の選び方や、スマホの管理はさることながら、一番の問題点は「どん子親子はふだんからコミュニケーションがしっかり取れていたのか」ということ。どん子は物語の中でたびたび母親にSOSのサインを出していますが、母親はなかなかそれに気づくことができません。過干渉になってしまうのは問題ですが、スマホをはじめ何もかもが便利になった世の中だからこそ、親子のコミュニケーションは意識的に大切にしたいもの。その上で、我が子が親から見えないところで“想像もできないようなトラブル”に巻き込まれることもあるのだと、心に留めておきたいものです。一見、オタ彦の言動ばかりに目が行きがちですが、スマホの危険性、インターネット社会におけるSNSトラブルや親子関係など、決して他人事ではない社会問題が詰まった本作品。オタ彦の思惑、スマホで起きた怪現象の謎、そして、オタ彦が迎える結末は…!?ウーマンエキサイトには本作品をはじめ、子どものトラブルや親子関係について描いたエピソードが多数掲載されています!▼漫画「家庭教師Aが全てを失った話」ゆっぺ田舎住みの二児の母。絵を描くこととお菓子作りが趣味。 インスタグラムでエッセイ漫画連載中です。blog: Instagram: @yuppe2
2022年02月18日狭いケージに閉じ込められたままの保護犬。普段からこのサイズのケージに入れられているという(関係者提供)動物愛護の機運が高まる一方、自称・動物保護団体によるトラブルが相次ぐ。中でもとある自称・保護団体の代表男性に批判が集まっている。愛護センターから引き取った保護犬や猫の様子をSNSで公開し、寄付金を募ったり、預かり先をあっせんしているというが……。元ボランティアらがその実態を訴える―。■複数のボランティアとトラブルに環境省によると2020年度、全国の保健所で殺処分された犬猫は過去最少の2万3764匹。動物を保護する動きが広まる一方で、自称動物保護団体がトラブルを起こすケースも……。そのひとつが鹿児島県で保護犬のシェルターを運営する団体『S』および責任者のH氏だ。同氏は以前より、動物愛護センターから犬猫を救助する『引き出し』を行っている。だが、引き取った犬たちの動画や写真をSNSで公開、寄付金集めのために利用している、などと指摘されていた。「私たちは支援金詐欺の疑いもあるとみています。団体はNPO法人ではないのにNPOや特定非営利“団体”と名乗るので、多くの人がこれに騙されます。そしてまじめに保護活動しているように見せかけ、関心を持った人に個別でメッセージを送って支援金を募っているようです。事情を知らない人は投稿をうのみにして寄付してしまう」そう憤るのは九州の動物保護団体の関係者。H氏とのトラブルをきっかけに活動方法やその姿勢に疑問を持ち、注意を呼びかけてきた。「H氏は数年前から動物保護活動と称し、接触した複数のボランティアとトラブルになってきました。被害者の多くは女性。志を持って活動に参加したのに騙され、警察にも相談できずに泣き寝入りしてきた人ばかりです。されたことや、取られた金額は小さいかもしれませんが、被害者は全国にいるとみられ、騙されていることに気づいていない人も多く、実数はわかっていません。こうした悪質な団体がいるとまじめに活動をする団体も同じように見られてしまう。それに犬猫を保護したい、何かしたいという人々の善意までもつぶしてしまうんです」(九州の保護団体)■ボランティアに押し付け特に大きな問題になっているのが動物愛護センターから犬や猫を引き出し、預かりボランティアに無理やり押しつけていたことだ。被害女性がそのときの様子を明かしてくれた。「H氏の活動はSNSを通して知っており、ちゃんと保護活動をしている人だと信じて、応援していました」ある日、女性にH氏からメッセージが届いた。「“すぐに里親を見つけるので愛護センターから引き出した犬を一時的に預かる活動をしませんか”という誘いでした。動物愛護の活動に興味があり、不幸な犬猫を助けるお手伝いができればと、参加しました」短期間なら、とボランティアを申し出た。小型犬の預かりを希望していたが、連れてこられたのは大型犬だった。だが、いつまでたっても里親は決まらず、H氏も探しているそぶりを見せなかったという。大型犬の世話に女性も家族も限界になり、引き取ってほしい、と相談したがH氏ははぐらかすばかりで話にならなかった。しばらくして、犬は引き取られたがH氏はSNSで女性が犬を虐待していたから引き取った、などと誹謗中傷をしたという。こうしたトラブルは後を絶たず、ケージの準備もないまま、突然、犬を引き出して預かることを要求された人や、里親が見つからず飼い続けることを決めたボランティアもいた。多頭飼育崩壊になりかけたケースもあったという。「H氏に言われるがまま20頭以上、預かることになりました」(A子さん、以下同)リビングは犬のケージでいっぱいに。エサ代、ペットシーツ代で月4万~5万円の出費。散歩もひと苦労だったが里親は決まらなかった。金銭的にもきつく、相談すると、「甘え」だと一蹴された。結局、H氏やほかの支援者に引き取ってもらった。「H氏はうちからの犬数頭だけは引き取り、“あとはおまえが処分しろ”とほかの支援者に押しつけたそう。みんな最初は信じて犬を預かったのに裏切られた」ボランティアらの献身的な世話や動物たちの様子は定期的にH氏自身のSNSで紹介されており、支援金の申し出も多かった。だが、その寄付金は保護犬やボランティアに使われなかったと被害者たちは明かす。さらに犬はお金になると言われた人もいた。「猫はお金にならないからと、ほとんど引き出していませんでした。でも犬は例えばブリーダー崩壊で保健所に収容される場合は犬種がわかるのでペットショップで数十万円かかる犬種でもH氏のところなら数万円で譲渡してもらえる。ただし“売れなかった子は山に捨ててこい”と言われている人もいましたね」(九州の保護団体関係者、以下同)■H氏にとって動物はお金そして現在、状況はエスカレートしているという。「今までは個人を対象に騙していましたが、H氏は鹿児島県内に大規模シェルターの計画を立ち上げたんです。その設立のための寄付も募っていました。シェルターがあればもっとたくさんの犬を収容できますし」当初は同県H市で地権者には無断でつくろうとしており、地元の保護団体関係者らも巻き込んだトラブルに発展。すると今度は隣のK市にある空き地に移転させることにしたのだという。空き地にはプレハブ3つと仮設トイレを設置。そこに茨城県、広島県、熊本県などの動物愛護センターより引き出した犬12匹を収容した。「犬たちは移動用のケージに入れられたまま。建物は当初、電気もなく、水道は今もありません。スタッフは朝少しだけ来て、ケージの掃除をして1日1回エサや水を上げたら引き揚げると見られています。夜は無人、犬たちは寒いプレハブに押し込められているんです」ケージの大きさは犬たちの体には合わない窮屈な状態。そこから出されるのは掃除の数時間だけ。散歩に連れていかれることもなく1日の大半を狭いケージの中で過ごしているのだ。「排泄もケージの中でし、ペットシーツもすぐには替えられないので糞尿まみれ。最近は建物の周辺のにおいがきつくなってきました」関係者によると犬たちは朝、世話をする人が行くと一斉に吠えだすという。「以前、夜中に近くに立ち寄ったときに鳴いていました。寒い日でした。寒くて助けてほしくて鳴いているんです。その声が切なくて、私も思わず泣いてしまいました……」こうした現状に危機感を覚えた元ボランティアや全国の動物保護団体らは警察や愛護センターに再三訴えているが重い腰が上がらないという。「行政は殺処分ゼロを掲げているので1匹でも引き出してくれるところには渡してしまう。それに余計な仕事も増やしたくないと、見て見ぬふり。ですが、引き出されても、押しつけられたり閉じ込められたり……。完全な悪循環です。ここで止めないとほかの市町村の愛護センターからも引き出されてしまう可能性はあります」悪質な団体であっても書類の不備がなければ実態を調べられることもなく犬猫の引き出し登録がされてしまう。「H氏の団体に限らず愛護センターで殺処分されなくても引き取られた先でエサも満足に与えられない状態だったり、ネグレクトされたりなどの虐待も横行しているんです」被害者は今後、集団訴訟を起こすことも検討している。「私たちが願うのは犬たちの幸せです。閉じ込められた犬たちを解放してやりたい。そして引き出した犬を押しつけられる人たちが増えないようにしていきたいです。押しつけられる頭数が増えれば多頭飼育崩壊にもつながる恐れがあります。里親は見つからないけど、愛護センターに戻したら殺されてしまう……と病んでしまう人もいます。H氏にとって動物はお金なんです」関係者らは「H氏にはもう動物には携わらないでほしい」と訴える。この状況についてH氏にメールで質問を送ったが期日までに回答はなかった。「危惧しているのは閉じ込められている犬たちの健康状態です。元気なまま里親の元に行けるのでしょうか……」
2022年02月03日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「新自由主義」です。国の成長には大事な過程。競争が進みすぎたことが問題。「新自由主義」とは、国がさまざまな規制を取り払い、市場に委ねて、自由に競争を促す社会のあり方、経済の思想です。ほかに「市場原理主義」「小さな政府」「民営化」「規制緩和」という言葉でも言い表されます。対になる「大きな政府」は、国が規制をかけて、国民生活を守りながら経済活動をコントロールします。究極の大きな政府は中国。高い税金を取るかわりに、国が社会保障政策をしっかり行う北欧も大きな政府です。日本もかつては大きな政府でした。鉄道や電力、石炭、通信などは国家が担ってきましたが、新しいビジネスやサービスを生み出す民間にまかせたほうがいいと、国鉄はJR、電電公社はNTTというふうに民営化が進みました。とくに小泉政権以降は規制緩和を大胆に進め、郵政民営化も実行されました。安倍政権でも新自由主義的な政策がとられました。規制緩和をし、国家戦略特区を作り、成長戦略を投入。しかし、それが一部の、政府に近い企業だけ優遇されているのではないかという批判も出ました。新自由主義では、企業は競争に勝ち抜くために徹底した合理化を求めます。やがて、人をコストとみなし、人件費は引き下げられ、稼げる人はいいけれど、稼げない人は徹底的に安く使われるようになってしまいました。企業は人を育てる余力を失い、正規雇用と非正規雇用の格差は広がる一方です。国が成長していく過程ではある時期、新自由主義は必要なのだと思います。ただ、競争が行きすぎた結果、一億総中流社会と言われた日本でも、中間層が分かれていなくなり、国の活力も奪われました。グローバル企業はますます成長し、国のコントロールとは程遠い場所に行ってしまいました。こうした問題は民主主義国家のどこでも起きており、2020年代は世界的に、行きすぎた格差をなくし中間層を取り戻そうと再分配政策に力を入れています。SDGsでは「働きがいも経済成長も」と、新自由主義的な経済の修正も目標に掲げています。実現には、私たち働き手も、問題ある労働環境には声を上げたり、同じ思いの人と連携することが大事になると思います。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2022年1月12日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年01月07日※画像はイメージです12月中に国へ承認申請される見通しの「飲む中絶薬」が今、注目を集めている。年間14万5000件の妊娠中絶が行われている日本では、70年以上前から変わらない手術や制度によって、女性だけに多くの負担が強いられてきたためだ。安全な中絶を求める当事者の訴えとは―。■大きな負担がかかる中絶手術「そうは法」「あのときのことを思い出すと今も悔しくて涙が出ます」出版社で働くMさん(36)は26歳のとき、望まない妊娠をした。「その日は排卵日前後だということはわかっていたので、ちゃんと避妊してねと頼んだのに、だまし討ちのように中出しされてしまったんです」当時の交際相手は結婚を望んでいたが、Mさんにはまだその意思はなかった。彼がこっそり避妊具をはずしたのは、「妊娠したら結婚する気になるだろう」という身勝手で浅はかな行動だった。予定日に生理が来なかったため、すぐに婦人科を受診。すでに妊娠5週目だった。産む意思はないとその場で告げると、年配の女性医師はやれやれ、という顔をして「中絶は女性の身体に負担をかけますよ」と冷たく言った。すぐにでも手術をしたかったが、指定された手術日は2週間後。仕事がいちばん忙しい時期だ。結果的に手術ができたのは、妊娠11週目にもかかろうとするころだった。術後の出血は2週間近く続き、腹部の鈍痛にも苦しんだ。「俺の子は産みたくなかったんだね」と、恨みがましさを隠さない交際相手は苦しむMさんに冷ややかだった。なぜこんな思いをしなければならないの?あのころを思い出すと当時の痛みがよみがえる。そうMさんは言う。Mさんが受けた中絶手術は「そうは法」といって、子宮内部に金属製の細長い器具を入れ、受精卵が成長した胚を子宮の中からかき出す手術だ。日本では戦後間もないころから現在に至るまで広く行われてきたが、欧米などでは1970年代ごろから「吸引法」が導入されている。軟らかいチューブを子宮に差し込み、胚を吸い取る手術で、女性の身体への負担も少ない。WHO(世界保健機関)が2012年に発表したガイドラインでは、そうは法は子宮を傷つけたり出血したりするリスクが吸引法の2~3倍は高く、痛みも伴うとして、中絶薬か吸引法に置き換えるよう勧告している。■日本の中絶手術は「時代遅れ」近年、日本でも吸引法が広がってきたとはいえ、そうは法、もしくはそうは法+吸引法による中絶が全体の6割を占めているのが現実だ。日本の中絶件数は20年時点で約14万5000件。今なお多くの女性たちが手術に伴うリスクにさらされている。「日本の中絶手術はWHOが指摘するとおり、世界から見ても時代遅れです」そう話すのは、中絶問題を研究する『RHRリテラシー研究所』の塚原久美さんだ。塚原さん自身、かつてのMさんと同様に、妊娠が判明した直後に手術できず「3週間待たされた」経験がある。「妊娠初期の場合、胚をかき出すには小さすぎるため、かき出せる大きさになるまで“育てて”手術をするのです。それを知ったときはショックでした」(塚原さん、以下同)1988年にはフランスで、より身体への負担が少なく安全な「飲む中絶薬」が承認された。現在は世界82か国で承認され、先進国の中絶は吸引法と中絶薬が主流になっている。なぜ日本では安全で安価な中絶が選択できないのか─。中絶薬を日本でも認可してほしいという声は高まるばかりだ。その影響もあってか、ついに英製薬企業・ラインファーマの日本法人が厚生労働省に対し、年内にも承認申請を行うと発表。順調に進めば1年程度で承認される見通しだ。今回申請される「飲む中絶薬」は、妊娠を維持する黄体ホルモンの働きを抑える「ミフェプリストン」と、子宮を収縮させる「ミソプロストール」を組み合わせた中絶法だ。ラインファーマによると、国内の治験でも有効性と安全性が確認されたという。「中絶薬を速やかに承認し、適正な価格で提供して、必要な人すべてが使える体制を整えるべきです。日本の中絶費用は他国と比べて高く、医療保険もきかないため妊娠初期でも10数万円はかかります。一方、イギリスやフランスなど約30か国では、公的保険や補助により中絶薬は実質無料です」WHOの調べでは、飲む中絶薬の世界平均価格は日本円で約780円。しかし、中絶薬に慎重な態度を示す日本産科婦人科医会は、中絶薬の処方や診察はこれまでどおり指定医師のみが行うべきとしている。薬の単価は安くても、母体の安全管理のため医療行為が必要となれば、従来の外科手術並みの金額になってしまいかねない。「経済的な理由で中絶できず、トイレで孤立出産して罪に問われる女性たちが日本では後を絶ちません。これは社会構造の問題です。必要とする誰もが安心かつ安価に中絶できる体制を整えるべきです」一方、海外ではオンラインで事前カウンセリングを受け自宅で薬を服用する、遠隔医療の中絶も増えてきている。イギリスではコロナ禍をきっかけに1年前からスタート。希望者は中絶ケアを行う団体にアクセスし、オンラインや電話で看護師や助産師のカウンセリングで情報を得て、吸引法にするか中絶薬にするかを自分で選ぶ。現状85%の女性が中絶薬を選ぶという。その後、前述した2種類の中絶薬が自宅へ郵送されてくる。説明書に従って服薬すると、やがて出血し、流産となる。現地で助産師として働く小澤淳子さんが言う。「妊娠判明の直後から内服できるので、望まない妊娠期間は短くなり、身体的、心理的負担を減らすことが可能になりました。遠隔処方で中絶をした女性は、おおむね自分の受けたケアに満足しているとの調査結果があり、安全性においても十分な確認がとれています」■安全な中絶を選ぶことができる制度をなぜ海外でこれだけ広がっている中絶薬が、日本では認められてこなかったのか。いちばん大きな要因は、中絶する女性への偏見を助長する時代遅れな法制度にある。例えば、日本の刑法では、中絶を罪とする堕胎罪が明治期の制定後未だ廃止されていない。戦後にできた優生保護法(現・母体保護法)のもと、経済的理由などによる中絶は可能になったが「配偶者の同意」が必要。夫の許可がなければ、女性が望んでも中絶できない現状があるのだ。今年9月、任意団体『#なんでないのプロジェクト』の梶谷風音さんは、「配偶者同意」の廃止を求める署名を厚労省に提出した。さらに今月から新たなキャンペーンを立ち上げた。中絶薬の速やかな認可と誰もが安全で経済的・身体的負担の少ない中絶が受けられる制度を求め、問題を周知し署名を集めている。「日本では産まない選択をする女性の人権が認められていません。世界で認められた安全な中絶薬が日本では使えないため、やむをえず中絶薬を輸入し飲む女性もいますが、今の日本の法律では堕胎罪に問われる可能性もある。自分の身体のことを選ぶのになぜこんな思いをしなければならないのか」(梶谷さん)安心、安全な中絶法を女性が主体的に選ぶことができる法律や制度を、一刻も早く実現してほしい。●人工妊娠中絶の方法・そうは法金属製の器具で子宮内の内容物をかき出す。合併症のリスクがあるため医師の高度な技術が必要。WHOは「安全性に劣る時代遅れの中絶法」と指摘。・吸引法子宮内に管を入れ内容物を吸い取る。金属性の筒状の器具を使い電動ポンプで吸引する「電動吸引法」と、軟らかいチューブを使って手動で吸引する「手動真空吸引法」がある。WHOが推奨。・中絶薬黄体ホルモンの働きを抑える「ミフェプリストン」、子宮の収縮を抑える「ミソプロストール」の2種類を飲む。世界80か国以上で使用。WHOが推奨。取材・文/岩崎眞美子……フリーランスライター。1966年生まれ。音楽雑誌の編集を経て現職。医療、教育、女性問題などを中心に雑誌や書籍の編集に携わる
2021年12月30日※写真はイメージですさまざまな理由から成人した娘や息子を介護する親たちがいる。だが、最愛の子の死を願うほどに追い詰められるケースは珍しくない。20年以上にわたり、そうした親子と数多く関わってきた株式会社『トキワ精神保健事務所』所長の押川剛さんに実態を聞いた。■「子どもを殺したい」11月17日早朝。千葉県旭市の住宅街で発生した放火事件。住宅の焼け跡からはこの家に住む大橋芳男さん(享年67)が遺体で発見された。「長男・芳人さん(享年32)は搬送先の病院で亡くなりました」(捜査関係者)「火をつけた」と認めたため千葉県警は翌日、現住建造物等放火と殺人の疑いで芳男さんの妻・大橋とし子容疑者(逮捕当時65)を逮捕した。「警察の取り調べに対し、介護に疲れたと供述しているそうです」(全国紙社会部記者)芳男さんは3人家族。芳人さんには重度の障がいがあり、芳男さんも病気で倒れ、2人は寝たきりだったという。足の悪いとし子容疑者が2人を介護していたとみられる。だが、この家族は社会から孤立していたわけではない。同市の福祉担当者は言う。「亡くなった芳人さんは福祉のサービスを受けていました。介護を担当する事業所からも見守りの不備などの報告はされていません」とし子容疑者のSOSは届かず、結果として最愛の夫と息子を手にかけた─。ドキュメンタリー漫画『「子供を殺してください」という親たち(漫画・鈴木マサカズ)』の原作者で株式会社『トキワ精神保健事務所』所長の押川剛さんは憤る。「そもそも高齢の女性が寝たきりの2人を在宅で介護することは不可能だと素人でもわかるでしょう」例えば夫か息子のどちらかを施設や病院で介護していたら、とし子容疑者の負担は軽くなり、こんな悲しい事件は起こらなかったのではないか。旭市の事件は氷山の一角にすぎない。子どもに病気や障がいがあり、高齢の両親が介護をせざるをえないケースは今後、増えていくという。「私たちに相談してくる親は子の長期ひきこもりや依存症、精神疾患に悩んでいます。子どもにお金を無心されたり、暴力に耐えられず追い詰められ、家族の将来を悲観する。結果、“子どもを殺したい”“心中したい”と考える。親たちは包丁を手に子どもの首筋を眺めたことがある、ロープや灯油を買った、そんな話を打ち明けてきます」(押川さん、以下同)追い詰められた親子と実際に関わったエピソードを取り上げた同作は現在10巻まで刊行されている。「漫画は相談から顛末まで一連の流れで取り上げています。医療などにつなげて終わりではなく、当事者や家族がどんな人生を歩んでいくかまで描いています」そこにはめでたしめでたしでは終わらない、いびつな結末が数多く紹介されている。殺害は免れても、親子関係が壊れることも珍しくない。「特に精神疾患は誰でも患う可能性があります。それに精神的な障がいや病気の症状や実態を知らない人は多く、家族が気づいていないことがあるんです」だが助けを求めてもすぐに適切な支援や医療につながるわけではない。むしろ行政は介入を躊躇するのが実態だ。「極端な例を言うと、相談に来た両親に“お子さんに1か所刺されたくらいじゃ行政は本格的に介入してくれない。5か所刺されてようやく動きます”などと伝えることがあります。そのくらいの事件が起きないと動かない」■事件と現実は“薄皮一枚”少子高齢化、社会保障費の増加、介護者不足。障がい者や高齢者の介護は民間団体の委託がほとんどを占め、在宅での支援を推進している。「これこそ多様性社会を望む国民が求めた結果です。個人の尊厳を大切にすることは素晴らしいこと。行政も個別にきめ細かなサービスをしようと心がけているのも事実だと思います。ですが各家庭と個人の人権を守りながら支援をするには、人員も予算も足りない。一方で今は、家庭や地域で見守ることこそが“善”であり、病院や施設に入れることは“悪”とされている。だから行政は自分たちが扱えないケースは最初から手をつけない」余計な仕事を増やさないように介護支援者は当事者と家族からのSOSは見て見ぬふりをせざるをえない。親は苦悩し、孤立化するのだが。「孤立した果ての事件ではなく、むしろ国の方針が、積極的に家族を孤立させ事件で解決させる。地域共生と言われても、行政も手を引く問題に地域住民が手を貸せるはずもない。結局、家族の問題は家庭で落とし前をつけてくれと押しつけるんです」押川さんはある当事者家族の事例を語った。「認知症の70代の両親と精神疾患のある40代次男を、同居する長男が面倒を見ることになったケースです」次男は受診をせず、自宅にこもり両親が介護していた。だが相次いで認知症を発症。長男が次男の面倒も見ることになったが入浴を拒否し悪臭を放つ彼を疎ましく思い、食事を満足に与えず、おまけに殴る蹴るの暴行。その家には両親の介護でヘルパーが出入りしていたが……。「“介護で入っているだけ。それ以上のことはやらない”と言っていました。だから私は“実態を知っているのだから役所に報告する義務があるだろう”と責めました。事業所の所長に連絡しようとしたらヘルパーから“私がクビになります、押川さんだけでとどめてくれないか”と泣きつかれました。これが行政から民間業者に支援を委託したことによる実態です」そして、こうした家族の共通点は子どもを何十年も放置。親が元気なうちに根本的な解決をしてこなかったこと。「身近な人が受診や公的機関への相談をすすめても“自分たちで何とかする”と拒否する。それで最悪になってから腰を上げても誰も助けません。結果として、殺す殺されるまで追い詰められる」そうなる前に助けを求められれば運命は変わる。「重要なのは病気の知識を持っておくことです。私の原作漫画は絵でわかりやすく事実を伝えているので“うちと一緒”だと気づき、この漫画を読んでぞっとした、という声も聞きます。事件と現実は薄皮一枚。越えるか越えないかは知識や想像力の差でしかない」押川さんは問題が家庭内にとどめられ、社会問題化されずに自己責任論ばかりが強調されることを懸念する─。同作中にはこんなセリフがある。《子供を殺してくれませんか……。子供が死んでくれたら……子供が事故にでも遭ってくれたら……》とし子容疑者は警察の調べに対し、「長男を殺すつもりはなかった」など容疑の一部を否認しているという。お話を聞いたのは株式会社『トキワ精神保健事務所』所長押川剛さん1992年前身のトキワ警備を創業。’96年より精神障がい者移送サービスに業務を集中。病識のない当事者らを対話と説得で医療につなげるスタイルをつくる。『「子どもを殺してください」という親たち』『子供の死を祈る親たち』(新潮文庫)ほか著書多数。
2021年12月21日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「親ガチャ」です。階層の固定化をどのように崩していくのか。「親ガチャ」とは、カプセル玩具やソーシャルゲームの“ガチャ”になぞらえて、親や生まれる境遇を選べない状況を表す言葉で、国会でも取り上げられました。かつては「一億総中流」といわれ、どの家庭に生まれても平準化された暮らしがありましたが、いまは大きく変わってしまいました。一般的に親の年収ごとに400万円以上ならN(ノーマル)。1000万円以上ならR(レア)。3000万円以上ならSR(スーパーレア)、400万円以下はB、C、D…と、ゲームのランキングのように、年収と職業を符号させることがネット上で流布されています。階層化をまざまざと認識させるような手法は、社会の分断を加速させてしまいます。一番の問題は、階層移動が不可能な格差が固定化されていることでしょう。これまでは、個人の努力によって、いかなる家庭に生まれようとも望む暮らしが手に入れられるチャンスがありました。ところが、いまは頑張ったところでどうにもならない状況に追い込まれています。この問題の解決には政治の力が求められます。少なくとも、「機会の均等」について対策をとるべきでしょう。日本は教育への投資がGDP比率で圧倒的に低い状況にあります。大学までは国が無償で面倒をみる、給食費は国や自治体が税金でまかなう、タブレットやパソコンなどのデジタル機器・通信環境は家庭によって差が出ないように補助していくなど、方法はいくつもあると思います。アメリカのシリコンバレーでは、難民や移民、貧困層の子供たちに民間の企業が寄付を呼びかけるなど、教育機会を与えて人材育成に力を注いでいます。日本では孫正義さんが率いる財団で、進学や留学、研究などを志す若者たちのサポートをしていますが、民間企業全体ではそういうサポートがまだ足りていません。自分たちの国を支える技能者を育てるという観点からも、必要なことなのではないかと思います。子供たちを国や社会で育成するという視点が重要なのではないでしょうか。読者のみなさんも、自分が親になったときに、子供の人生が自分の年収で決まってしまう社会でいいのか?考えていただけたらと思います。堀潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年12月8日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年12月04日ショウガラゴここ最近、エキゾチックアニマルを取り上げる番組が増えてきている。番組の内容はおおむねSNSやネットでかわいいと評判、というもの。しかし、このブームを動物の専門家たちは非常に危惧している。実は密輸された動物であったり、飼育環境が整っていなかったら……。かわいい、だけでは許されない。■専門家は次々と問題を指摘ラーメン、子どもと並び、視聴率が取れる3大要素の1つである動物。昨今は犬・猫、家畜などを除いた特殊な動物“エキゾチックアニマル”が取り上げられることが多い。内容は、そのかわいらしさによる、SNSのフォロワー数や“イイネ”、再生回数の多さを伝えるものだ。しかしそこでは伝えられていない問題が多々ある。まずは“密輸”だ。「種の保存の観点から、ワシントン条約によって輸入規制がとられている動物がいます。輸入に必要な書類が伴わず、日本の税関で差し止められた数は、’07年から’18年の間で1161頭。規制対象となる動物を輸入する際には、輸出国の政府が発行する許可などを取らなくてはいけません。その許可を取らずに輸入しようとするために差し止められます」そう話すのは、環境保全団体『WWFジャパン』野生生物グループの浅川陽子さん。1161頭は、あくまで税関が差し止めた数であり、“日本に入ってきた数”ではない。ここ最近、かわいいエキゾチックペットとして取り上げられる、手乗りサルとして紹介されることが多いショウガラゴなのだが……。「SNSでフォロワーの多い有名なアカウントの影響で、ショウガラゴが飛ぶように売れていると聞いています。しかし、霊長類は、感染症を防ぐ目的でペット輸入が禁止されているので、タイから多数入ってきているショウガラゴは密輸です。そうした密輸のショウガラゴを元手に繁殖させて売る業者がいるので、“国内繁殖”という言葉にだまされないでほしい。有名なアカウントのショウガラゴは、密輸でよく知られている関西の業者からの購入です」そう話すのは、動物保護団体『PEACE』の東さちこ代表。前出の浅川さんも、「事業者がペットを販売する際は、その個体の情報を掲示しなくてはなりません。そこに国内で繁殖されたと掲示されていたとしても、それが事実かどうかは確認することができません。消費者側は、その掲示が事実かどうか確かめることができません。国内繁殖と書かれていてもその実態はわかりません」京都市動物園の主席研究員で、ショウガラゴと同じく小型のサルであるスローロリスの研究を行っている山梨裕美さんは、「需要が高くなりますと、野生での捕獲が増えてしまうことにつながり、結果的に生息数が減少してしまう。それが希少種であれば大きなダメージを与えますし、希少種でなくても絶滅のおそれがある動物になってしまうことにもなりうるので、保全の観点からも大きな問題です」飼育面の問題も。「動物に合った環境をつくるのは、動物園でもすごく難しいことです。合った環境でないと動物のストレスにつながりうる。私たち動物園側でも常に最新の情報に合わせて、どうしたら快適なのかということを模索している部分もあります」(山梨さん)飼育の難しさからペットを遺棄するというケースはこれまで日本で幾度となく繰り返されてきた。今はショウガラゴがブームと言われているが、過去にあったブームには、悲しい結末が……。「アライグマがアニメの影響などでブームになりました。しかし飼いきれなくなり遺棄されるケースが増加。生態系への影響や農業被害もあり、結果的に今は外来生物法の“特定外来生物”に指定され、駆除される動物となってしまいました。飼育には責任が伴いますが、先のことまで考えて飼う人がどれだけいるのか。もちろん覚悟を持って飼育されている方もいると思いますが、テレビなどを見ていると、“野生動物も気軽に飼える”というような雰囲気がつくられている印象です」(浅川さん)■メディアからの誤ったメッセージ“かわいい”という人間のエゴで始まったブームが、人間のエゴにより“殺される”対象に……。かわいいは、多くがテレビなどのメディアとSNSで消費される。前出のショウガラゴは夜行性なのだが、明るいスタジオに連れてこられることも多々。山梨さんは、「スタジオにいたわけではないので一概には言いづらいですが、慣れていない場所に動物を連れていくと、それ自体が動物にとってストレスになります。例えば夜行性の動物にとって明るいところは活動しやすい環境ではない。そういう場所に連れていく、そういった姿を見せるということは動物のストレスだけでなく、見ているほうに誤解を生むことにもなりえます」気遣いのないメディア……。前出の浅川さんも、「かわいい、癒されるという発信をされると、受け手はその部分を強く印象として受けると思います。ただそれだけではない側面というものが動物にはあります。以前、テレビ番組の影響でカワウソがブームになりました。カワウソは、自然に生きる野生動物です。ペットとしての飼育が非常に難しい動物なのですが、かわいい、犬・猫のように飼えます。散歩もできますというような映像やメッセージが繰り返され、“ペットとして飼える”という認識が定着してしまったところがある。結果的にカワウソは、密輸が相次ぐことに」そしてテレビ局はこれらを“商売”にも……。「地方局を中心にエキゾチックアニマルの展示即売会や展示イベントを開催していることも問題だと思っています。本来、野生動物飼育の問題点を指摘しなければいけないマスメディアが、密輸でなければ手に入らないような動物までイベントで扱っています」(東さん、以下同)昨年ある地方局が開催した展示イベントがあった。「ムササビの一種である“オオアカムササビ”が展示されました。しかし、厚労省の輸入届出制度が始まった’03年以降、業者が仕入れたという’18年まで輸入実績がなく、繁殖例が世界的にもあまりない種のため、密輸の可能性が高いと思われます。ほかにも密輸に直接関わっているような店が、テレビ局が開催する動物の展示即売会に出店しているのは本当におかしい。局側に指摘したこともありますが、出展が続いている現状です」SNS投稿やテレビ露出によって“イイネ”が生まれ、需要が高まる。結果密輸が増加、必然的に購入者も増加、するとSNS投稿も増加……。そしてそれは最後に悲しい結末を迎えることも。
2021年12月03日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「中国TPP加盟申請」です。中国も台湾も加盟を申し出た。行く末に注目。TPP(環太平洋パートナーシップ)協定の始まりは、ASEAN(東南アジア諸国連合)や南米地域の経済連携でした。ところが、オバマ政権時にアメリカが加わることになり一気に色合いが変わりました。中国の台頭が目覚ましくなり、中国を牽制する連携が必要と、自由主義諸国の中国経済圏への対抗措置として交渉が進められるようになったのです。日本は最初は関心を示していませんでしたが、この巨大な貿易圏に入っておかなければ、将来孤立しかねませんし、最初からルール作りに参加しておいたほうがよいだろうと判断。反対意見もあるなか、民主党政権下で参加を決め、交渉を開始しました。ところが2017年、ようやく貿易交渉も合意したところに、トランプ政権が誕生し、アメリカはTPPを離脱。一気に、規模が縮小してしまいました。そこからは日本主導となり、2018年に11か国がTPPに署名しました。今年、バイデン政権になり、日本はアメリカのTPP復帰を求めていますが、バイデン大統領は静観しています。そんな折、中国がTPP加盟を申し出ました。習近平国家主席は当初からTPPに関心を持っていたらしく、米国が抜けたいまがチャンスだったんですね。中国は戦争という武力で圧力をかけることよりも、交渉のなかで自国に有利なルールを作り、中国の貿易圏に取り込むことで他国を経済的支配下におくことに注力してきました。TPPはその大きな入り口になるところでした。そこへTPP加盟を申し出て牽制に入ったのが台湾です。これには「中国は一つではなく、台湾は台湾」というメッセージが込められています。TPPの加盟には参加国全員の合意が必要です。中国を先に入れれば台湾やアメリカの加盟は不可能になるでしょう。また、台湾を先に入れれば中国を敵に回すことになり、アジア太平洋地域の緊張につながります。日本にとって頭の痛い問題なのです。TPPの先には、さらに国や地域を拡大した連携などの構想があります。政治と経済を切り離し、東アジア全体の安定につながるような交渉ができるといいのですが、そう簡単にはいかないでしょう。堀潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年12月1日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年11月26日法政大学大原社会問題研究所では、2021年11月26日(金)と12月10日(金)に「第13回 大原社研シネマ・フォーラム」オンライン連続上映会を開催します(参加費無料/要事前申込)。今回は、アメリカのNPOが制作した、生殖補助医療の問題を扱った二つの映画を上映します。日本で代理出産は90年代に始まり、途上国の代理母を利用する「生殖アウトソーシング」として拡大しています。卵子提供も90年代から普及し、日本人女性が業者の募集に応じて海外で採卵手術を受ける事例が生じています。こうした生殖補助医療の商業化がいったい何をもたらすのか、アメリカの事例を通じて考えてみたいと思います。二つの映画の日本語版を制作した「代理出産を問い直す会」代表の柳原 良江先生(東京電機大学准教授)による解説もあります。【作品紹介】●第1回 『卵子提供―美談の裏側』(2013年)……アメリカで不妊治療は巨大産業に成長しているが、そこで盛んに取引されるのが人間の卵子である。時に一千万円もの報酬を提示する広告に誘われて、世界中の若い女性たちが卵子を提供している。この映画は、卵子提供者へのインタビューを通じて彼女たちが背負わされる莫大なリスクを暴く、衝撃の作品である。●第2回 『代理出産―繁殖階級の女?』(2014年)……アメリカで増加する代理出産は、依頼者、代理母、子ども、その家族の間に複雑な問題を投げかけている。この映画は、代理母の経験者とその子どもへのインタビューを通じて、代理出産が生み出す数々のトラブルを紹介する。美しい自己犠牲とされる代理出産は、当事者たちに拭いがたい苦悩を与えているのである。【開催概要】■日時 :第1回 2021年11月26日(金) 17:30~19:20『卵子提供―美談の裏側』(45分間の上映と解説・質疑応答)第2回 2021年12月10日(金) 17:30~19:50『代理出産―繁殖階級の女?』(50分間の上映と解説・質疑応答)■形式 :Zoomによるオンライン■参加費:無料■申込 :事前申込が必要です。どなたでも参加できますが、学外者は200名限定です。■その他:申込フォームなどの詳細は、大原社会問題研究所ウェブサイト( )をご確認ください。【大原社会問題研究所】1919(大正8)年に大阪で創立。1949年に法政大学と合併、現在に至る。100年の歴史を誇る社会科学の分野ではわが国で最も古い歴史を持つ研究所。『大原社会問題研究所雑誌』(月刊)、『日本労働年鑑』、研究所叢書をはじめ、出版活動も積極的に展開。21世紀に生起する労働問題の解明を中心にしながら、同時にジェンダー、社会保障、環境、貧困などの諸問題の研究にも力を入れています。研究所所蔵の図書・資料は、社会・労働問題関係図書をはじめとする約20万冊。その他、貴重書、ビラ・チラシなどの原資料、ポスター・写真・バッジなどの社会運動関係の現物資料など多数を所蔵。インターネットを通じた情報公開と研究支援も積極的に展開しています。 詳細はこちら プレスリリース提供元:@Press
2021年11月05日この記事では、社会問題としても取り上げられている、子育てと介護を同時におこなうダブルケアラーをご紹介します。ダブルケアをおこなうことによる負担や、できるだけ負担を軽減しながら対処する方法を解説します。子育て中のすべての方に起こる可能性のある問題です。是非参考にしてください。介護と子育てが同時になる理由は?社会問題にもなっている、介護と子育てが同時になる「ダブルケア」をおこなう方が増えるのはなぜでしょうか。ここでは、ダブルケアが増える理由をご紹介します。晩婚化と高齢出産が増えているダブルケアラーが増えている背景には、晩婚化と高齢出産があります。子供を産む年齢が高くなっていることから、介護と子育てが同時になってしまうことが考えられます。それに加え、核家族が増えたこと、少子化によりきょうだいが少ないために、介護者一人に対しての負担が大きいことも問題です。ダブルケアラーが抱える大きな負担とは介護と子育てを両立するダブルケアラーは、負担がかなり大きいです。ここでは、ダブルケアラーにかかる負担をお伝えします。金銭的な負担が大きい介護も育児もそれぞれ出費が大きく、ダブルケアでなくても負担が大きいと感じる方も多いでしょう。しかし、ダブルケアはその負担が同時にくるため、あまりの出費の多さに頭を抱える方も少なくはありません。精神的な負担を感じる介護、育児には昼夜を問わず、お世話や授乳をしなければならないこともあります。そうなると、介護者でもあるママは睡眠時間の確保が難しくなり、精神的な負担が大きくなってしまいます。慣れないことが多い、自分の時間が確保できない、終わりが見えないなども精神面の負担が大きい原因となるでしょう。やむを得ず離職する方も多い介護と育児に加え仕事を両立できないと感じ、やむを得ず仕事を辞めてしまう方も少なくありません。ある調べてでは、ダブルケアをしながら仕事をしていた方で「女性、3人中1人」「男性、4人中1人」が離職しているというデータもあります。介護と育児どちらを優先させる?優先順位を付けること自体が難しい問題ですが、どうしても優先順位を付けなければ成立たない場面も出てくるでしょう。そんな時の対処法をご紹介します。家族で話し合い、臨機応変に事前に家族での話し合いはとても大切です。子供の行事や体調不良など、さまざまなケースを考慮し、臨機応変に対応できるように準備をしておきましょう。介護サービスなども上手に利用しよう子供が小さい場合、介護があるため子供たちに我慢させているのでは?と心配になる親も多いでしょう。そんなときには、介護サービスなどを上手に利用し、子供たちとの時間を確保するという選択肢もあります。自分一人で無理をしようとせず、周りにサポートを求めながら乗り切っていきましょう。一人で抱え込まず、周りに協力を求めよう介護や子育てをしている方は、困ったことや悩みごとを一人で抱え込んでしまう方も多いです。孤立してしまうと、どんどん負担が大きくなり、精神的にも苦しくなってしまいます。周りを頼ることは悪いことではありません。周りに相談し、協力を求め、負担を軽減していきましょう。
2021年10月25日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「児童労働」です。自分の生活に実は関わっているかも、という意識を持つ。今年は児童労働撤廃国際年。就労最低年齢は国際基準で15歳とされており、原則15歳未満、または18歳未満で危険で有害な仕事に就くことは国際条約や法律で禁止されています。精神や身体にかかる影響が大きく、教育の機会を阻害するというのが大きな理由です。6月にILO(国際労働機関)とユニセフが児童労働の推計を発表しました。それによると、5~17歳の児童労働者の数は1億6000万人、うち7900万人は危険有害労働に就いていました。これは世界の5~17歳の10人に1人が働いている計算になります。その多くはコーヒーやゴム、カカオなどの農園、コットン栽培などの農林水産業です。農薬を使ったり、遺伝子組み換え作業を手で行ったりすると皮膚がただれ、成長が止まるなどの薬害が出てしまいます。また、アパレル分野は繊維の生産から縫製までの工程で児童労働が介在しているケースが多く、鉱山での鉱物資源の採取にも児童が関わっていることは少なくありません。地域別にみれば、サハラ砂漠より南のアフリカ地域が8660万人。次に多いのはアジア・太平洋地域。バングラデシュの縫製工場やインドのマッチ製造工場、タイやミャンマーのえび加工工場などが挙げられます。インドやパキスタンでは、皮肉にも子供が遊ぶサッカーボールの縫製が児童労働で賄われていたことが明らかになりました。児童労働を生み出すことは、本をただせば先進国に行き着きます。先進国の企業が労働力を安く買い叩くため、開発途上国の子供たちを使わざるを得ない状況に追い込んでいるのです。日本で児童労働と指摘されるのはポルノの分野。小学生の水着グラビアや、アイドル活動が、大人たちの搾取ではないかと国際機関から非難の声が挙がっています。警察庁のデータによると、児童買春や淫行などの有害労働で、児童買春・児童ポルノ禁止法、児童福祉法の違反容疑で検挙された数が2020年に803件ありました。児童労働なんて他人事と聞き流さず、国内の状況にも目を向け、衣服やジュエリーなど、あなたの生活にも児童労働が関わっているのかもしれないという想像力を持っていただきたいです。堀 潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年10月13日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年10月08日社会問題を知って考えを深める、社会派ドキュメンタリー。ニュースだけでは浮かび上がらない社会問題をさまざまな角度から見つめる。ジャーナリストの佐々木俊尚さん、音楽エージェントの竹田ダニエルさん、ファッションの楽しさを発信するシトウレイさんが傑作をセレクト。複雑な世界を捉え、斬新な視点を与える。フリーのジャーナリストとして、現代社会に深く切り込む佐々木俊尚さんは社会派ドキュメンタリーの魅力をこう語る。「さまざまな犯罪や災害、歴史的な出来事など世界で起きている事象について、ステレオタイプではない斬新な視点を与え、世界の断面を見事に切り取ってくれる。世界はどんどん複雑になり、以前のように単純な視点ではもはや認識できなくなってきています。古い世界観から脱却し、新しい“目”で世界を展望できるようにするためには、秀逸なドキュメンタリーで自分の“目”を磨くことが大切なのではないでしょうか」そして、作品をより楽しむためのアドバイスも。「ロシアを描いたドキュメンタリーだったら、現代のロシアが抱えている諸問題や政治状況などを、1960年代の黒人公民権運動を描いた作品なら、当時の運動がどのようなものだったかを知っておく。事前に調べておけば、より深く作品を楽しめます。また、“客観中立報道”とは異なり、製作者や監督の視点で事象を切り取り、一人の個人の見解であることを忘れないように。そうしないと、映し出されたものすべてが事実であるかのように混同してしまう。独特すぎて決して事実とはいえない視点を持ち込んでいる作品もたくさんあります。とはいえ、そういう作品のほうが面白かったりもするんですけどね」新しい生活様式、これからの働き方を問う。『東京自転車節』緊急事態宣言下の2020年5月、人けのない街を疾走するのは自転車配達員たち。その様子を収めようとドキュメンタリー作家の青柳拓自身がスマートフォンとGoProで自転車配達員として送る日々を記録。友人の部屋やホテルを転々としながら、セルフドキュメンタリー形式で日常をスケッチする。コロナ禍で仕事をなくし、ウーバーイーツの配達員になった若い映画監督の一人称で描いた作品。疫病と格差とギグワークの21世紀の現在をただ声高に言うのではなく、乾いたユーモアを交えてここまでリアルかつ情感たっぷりに描いた作品は類を見ない。多くの人が共感できると思う」(佐々木さん)監督:青柳拓2021年/全国公開中©2021水口屋フィルム/ノンデライコ児童の性的搾取をテーマにしたチェコの衝撃作。『SNS-少女たちの10日間-』成人の女優が少女のふりをして、綿密に作り込まれた子ども部屋のセットを背景に知らない相手とチャットをする。少女(と思い込んだ相手)にコンタクトしてくるのは2458人もの成人男性。現代の子どもたちが直面する危険をありのままに映し出し、本国チェコでは異例の大ヒットを記録。「少女に扮した成人の女優がSNSを開設し、そこに寄ってくる男たちとやりとりする様子をカメラで観察するという設定から不快ではあるのだが、あまりの衝撃に瞬きもできないぐらいの集中力で最後まで見入ってしまう。見たら嫌な気持ちになるのは請け合いだが中毒性も」(佐々木さん)監督:バーラ・ハルポヴァー、ヴィート・クルサク2020年/各種デジタル配信中©2020 Hypermarket Film All Rights Reserved.強制労働施設の過酷な実態を収容者が暴露。『馬三家からの手紙』“助けて”。アメリカに暮らす女性はスーパーで買った中国製の商品にそう書かれた手紙が入っていることに気づく。実はその手紙は中国の馬三家の「労働教養所」と呼ばれる強制労働施設から送られていたものだった。手紙を忍び込ませた一人の男性に焦点を当て施設での過酷な日々が映像で綴られる。「ごく普通の中国人男性が国家と時代にもみくちゃにされ、運命に翻弄されていく。『過酷』という言葉以上にこの映画について語るものはありません。これを映画化できたことこそが奇跡」(佐々木さん)。看守たちによる拷問はアニメーションで再現されているがあまりの非道さに言葉を失う。監督:レオン・リー2018年/DVD発売中、各種レンタル配信中(詳細はHP)©2018 Flying Cloud Productions,Inc.正義感が権力に勝つ爽快さがたまらない!『レボリューション―米国議会に挑んだ女性たち―』巨額の富を持つ現職議員に対抗し、志高く2018年の下院議員選に出馬した女性新人候補者4人の戦いぶりを追う。史上最年少の女性下院議員となったアレクサンドリア・オカシオ=コルテスをはじめ、マイノリティであり反体制であり、女性である政治家たちが一般市民たちと向き合い、権力に対抗していく。「巨大で強権的な既存勢力に立ち向かっていく姿には、勇気以上に敬意を強く感じられます。『普通の人』がどうしたら変化を起こせるのか。そのムーブメントを支援するために政治家が努力し、正義を勝ち取っていく。爽快であり感動的であり、何より政治の重要性を突きつけられる作品」(竹田さん)監督:レイチェル・リアース2019年/Netflix映画『レボリューション―米国議会に挑んだ女性たち―』独占配信中内閣総理大臣って本当はどんな人?『パンケーキを毒見する』“好物はパンケーキ”と話す現・内閣総理大臣、菅義偉とは一体どんな人物なのか。現役の政治家や元官僚、ジャーナリスト、各界の専門家が語り尽くし、これまで表に出てこなかった証言や過去の答弁を徹底検証。“庶民派”“苦労人”“無派閥のたたき上げ”と称される菅首相の知られざる素顔に迫る。「権力への批判を厭わない作品で知られるプロデューサー、河村光庸さんの頭の中が全開で表現されている。ジャーナリズムとしても、ドキュメンタリーとしても、攻めた描写や構成に男気を感じた。人生を賭けてクリエイションする人の作品は見る者の心に強い爪痕を残すものだと改めて実感」(シトウさん)企画・製作・エグゼクティブプロデューサー:河村光庸監督:内山雄人2021年/全国公開中©2021『パンケーキを毒見する』製作委員会ささき・としなお新聞記者、雑誌編集者を経てフリージャーナリストに。IT、政治、経済、食など幅広いジャンルで綿密な取材を踏まえた執筆を行う。映画.comでドキュメンタリー作品を紹介する連載を持つ。著書に『時間とテクノロジー』(光文社)ほか多数。たけだ・だにえるカリフォルニア州出身・在住のZ世代。フリーランスの音楽エージェントとして活動する傍ら、アメリカ事情、カルチャー、アイデンティティ、社会をテーマにライターとして雑誌やウェブで執筆活動も。シトウレイフォトグラファー、ジャーナリスト。ストリートスナップからコレクション取材まで独自の観点でファッションの現在を映し出す。写真集『STYLE on the Street:from TOKYO and Beyond』(Rizzoli)ほか、YouTubeチャンネルも人気。※『anan』2021年9月15日号より。取材、文・浦本真梨子(by anan編集部)
2021年09月11日ホームレスが建てた小屋にはいろいろな物が置かれ、まるで秘密基地のよう「ホームレスの命はどうでもいい」「生活保護の人たちに食わせる金があるんだったら、猫を救ってほしいと僕は思う」メンタリストDaiGoによる差別的発言が物議を醸している。20年以上にわたってホームレスの取材を続けてきたライターの村田らむさんによる寄稿をお届けする。僕はDaiGo氏の発言以上に彼の意見に賛同し、褒めそやすコメントが多数投稿されているのを見て、ゾクリとした。カルト教団の信者たちを思い出したからだ。かつて、オウム真理教の後継団体に潜入取材をしていたことがあるのだが、潜入中にひとりの信者が病気で亡くなった。すると、指導者が、「彼が病気になったのは彼が修行を真面目にしなかったからだ。ああいう人は死んでも仕方がない。教団に入っただけでは救われないよ。もう2度と人間には生まれ変われない。よくて動物だね」と話し、亡くなった信者を蔑むように笑ったのだ。そして他の信者たちもそれに同調して、ゲラゲラと笑った。■DaiGo氏を擁護する声も指導者の言葉に同調し、仲間の死すら差別し笑う姿は痛切に恐ろしかった。DaiGo氏の言葉にただ乗っかり、ホームレスを同じ人間として見ていない“彼ら”の言葉に同じ空気を感じた。しかし、一般社会においてDaiGo氏が発言した内容はさほど珍しいものではない。例えば飲み屋でサラリーマンと話をすれば、「ホームレスとか一箇所に集めて無理やり労働させればいいんだよ」「生活保護受給者のほとんどは働く気のないクズ。そういうヤツの子どももクズ。排除したほうがいいよ」などなど、ホームレスを人とも思わない差別発言をする人はいくらでもいる。『2ちゃんねる』創設者のひろゆきこと西村博之氏も、「日本国内で人権軽視されていることがすごく多くあるのに、そのことに関して何もしていない人がDaiGoさんだけ責めてて。DaiGoさん何もしていないじゃないですか、口で言っただけで」とDaiGo氏を擁護する発言をしている。確かにサラリーマンが酒を飲み、ホームレス不要論を説いたとしても、現実にホームレスに危害が及ぶわけではない。だが、何万人という人に影響を与えるインフルエンサーの発言が、「何もしていない」と言えるのか?カルト教団の信者たちように、人を人とも思わない価値観を増殖させることに繋がってくるのではないだろうか。そもそも、彼らだって生きている人間であり、生計を立てる必要があるのだ。野宿生活をする人の多くは廃品回収で日銭を稼いで生活している。アルミ缶を集めて、業者に買い取ってもらうのだが、実はこれ過酷な肉体労働なのだ。何十キロもあるアルミ缶を抱えて10時間以上も動き回る。それでも稼ぎは3000円いくか、いかないか。でも、稼いだお金はすぐ食費に消えるし、毎日のように稼げるわけではない。■暴力を受け続けるホームレス炎天下では熱中症になるし、風が強い日は缶が飛ばされて仕事にならない。空き缶を集めていると「泥棒!!」とどやされ、警察を呼ばれることもある。DaiGo氏は、「自分はホームレスを愛さない」動画の中でそのような言葉を繰り返し発言していたが、わざわざ宣言する意味はあるのだろうか? だって、ホームレスが愛されていないことは、一目瞭然なのだから。高速道路の下にはホームレスが寝られないように突起状の石が敷かれ、ベンチの真ん中には横たわれないようにする肘かけが設置されている。これは建造物が本来の用途以外で使用されることを防ぐための『排除アート』と呼ばれるものだ。ホームレスを排除するのが主目的の『排除アート』も多く、今では街中のいたるところで見ることができる。テントを張ったり小屋を建てたりするのも難しい。警察などに強制的に撤去させられてしまうからだ。排除されるだけではない。多くのホームレスは理不尽な暴力を受けている。僕は20年以上ホームレスの取材をしているが、暴力を受けた話はなくならない。「河川敷で寝ていたら、子どもたちに花火を打ち込まれて大やけどを負った」「駅で寝ていたら卵をぶつけられた」「地下街に続く階段で寝ていたら、上から自転車を投げつけられて大怪我した」などの話を彼らから聞いた。大阪では、「知り合いのホームレスが、商店の前で寝ていたら頭を踏み割られて死んだ」と悲しそうに語るホームレスと会ったこともある。■『蜘蛛の糸』を思い出す謝罪動画暴力を受けた後、警察に相談しても無視されたという話も非常によく聞く。先の花火を打ち込まれた人は、多摩川の河川敷に住むホームレスだった。「結構なやけどをしたから川崎警察署に行ったんだ。そうしたら警察に“警察はホームレスに関わっている時間はないんだ、帰れ!!”って怒鳴られた。もう何があっても行くものかって思ったよ」と悔しさを滲ませた。実際、ホームレスへの暴力は、よっぽどな重症を負うか死亡しないと、ニュースにならない。たとえ命は助かっても、彼らには病院に行く金銭的余裕はない。エアコンもなく、熱がこもる小屋の中でひとり、うずくまって痛みに耐え、傷を癒やすしかないのだ。「はやく死にたい」そう話すホームレスも少なくない。彼らは社会からだけでなく、自分自身からも愛されてない。孤独でみじめだ。DaiGo氏は謝罪動画で自身のイジメられた経験を盾のように話したが、ホームレスが社会から排除され、理不尽に暴力を受けている現実があることを想像することはできなかったのだろうか?彼の想像力の欠如は、謝罪動画にも表れている。「“自分の責任でもないのに生活保護を受けることになった人”“必死に立ち直ろうとしている人”は救われてしかるべきなのに、そういう人を傷つける発言をしてしまった」この発言を聞いて、僕は芥川龍之介の『蜘蛛の糸』を思い出した。“悪事に手を染めていない”善なる人間にだけ生活保護という“蜘蛛の糸”を垂らしてやる。だが、行いが悪ければ、糸を切って地獄へ叩き返す。と言っているように聞こえるのだ。自分はお釈迦様として居心地のいい極楽で蓮池を眺めながら人の生死を決めるということなのか……。そんな“神様目線の差別発言”に、僕はこれまで会話をしてきた何百人ものホームレスのことを思い出した。■誰もがホームレスになる可能性がある「俺は昔、人殺したことある」と自慢する人もいれば、「スーパーの万引で食べている」「稼いだ金は全部、酒」「元暴力団員だった。今も覚せい剤をやっている」という言語道断な発言もよく聞いたし、包丁を振り回されたことや、無理やりキスされたこともあった。だが公的な福祉は、そういう人にも差別せず行わなければならない。中には、どう見ても“精神疾患”や“知的な障がい”を抱えていると思われる人もいる。そういう人は、本人の努力で解決できる状態ではない。福祉の網の目からこぼれ落ちてしまった人であり、積極的に保護する必要があるだろう。罪を犯して刑務所に入っている人間だって、食事は摂り、布団で寝ている。今の日本において、貧窮者が犯罪者と同じレベルの生活を、享受することすら許さないと言うのだろうか?「生活保護の人たちに食わせる金があるんだったら、猫を救ってほしい」そんなDaiGo氏の呼びかけに応えてみながそう望んだら、生活保護制度が打ち切られ、野宿生活をすると逮捕される時代がくるかもしれない。餓死者が増え、自殺者が増え、犯罪が増えて世の中が地獄になっても、別に自分は成功しているから関係ないと本当に言えるのだろうか。ほとんどのホームレスは、なりたくてホームレスになったわけではないのだ。誰もが同じ立場になる可能性があるのだから――。取材・文/村田らむ1972年、愛知県名古屋市生まれ。ライター兼イラストレーター、漫画家、カメラマン。ゴミ屋敷、新興宗教、樹海など、「いったらそこにいる・ある」をテーマとし、ホームレス取材は20年を超える。潜入・体験取材が得意で、著書に『ホームレス消滅』(幻冬舎)、『禁断の現場に行ってきた!!』(鹿砦社)、『ゴミ屋敷奮闘記』(有峰書店新社)、『樹海考』(晶文社)、丸山ゴンザレスとの共著に『危険地帯潜入調査報告書』(竹書房)がある。
2021年08月23日“トー横キッズ”とは、東京・歌舞伎町の映画館「TOHOシネマズ」横の通り、通称“トー横”に集まってきた若者たちのことを指す今年5月11日、18歳の専門学校生の男性と14歳の中学生の少女が新宿・歌舞伎町のホテルから飛び降りて、死亡した。少女のものと思われるバッグの中からは遺書らしきメモが見つかっていた。亡くなったのは“トー横キッズ”の2人だ。歌舞伎町の映画館「TOHOシネマズ」横の通り、通称“トー横”に集まってきた若者たちのことで、“トー横界隈”とも呼ばれている。■自殺・誘拐……問題浮き彫りに亡くなった男性のものと思われるTwitterには、飛び降りる数時間前に《(一緒に亡くなった中学生と)付き合ったカモ〜》との投稿がされている。最後の投稿は、約1時間前の《お幸せになるが〜!!》というものだ。自殺した理由の書き込みはなく、はっきりとはしないが、市販薬を映した動画が投稿されている。その市販薬を過量摂取(OD、オーバードーズ)し、意識を朦朧とさせることが一部で流行っているが、同じことが行われていた可能性がある。ちなみに、5月5日には、岩手県の男(20)がTwitterで知り合ったトー横の少女(13)をビジネスホテルに連れ込み、誘拐の疑いで逮捕される事件も起きた。今年の5月に、自殺と事件が相次いだことで“トー横”の問題が浮き彫りになったのである。“トー横キッズ”の実質的な“リーダー”は、バーテンダーの男性、あまみやさん(23・仮名)だ。2年ほど前から、若者たちが歌舞伎町周辺で飲んでいたのが始まりだという。「若い子が多い。昼は中学生もいますよ。多くの子たちは、ここで知り合って友達になって、『また会いたい』から来ているのではないでしょうか。メンツの入れ替わりは激しい。全体では200人くらいが来ていると思いますが、1度に集まっているのは最大で40人くらい。半年に1回しか来ない人もいますし」SNSで注目を浴びたのは、TwitterやTikTokに投稿している動画だ。トー横周辺で踊ったり、前転や側転を繰り返す内容だったりする。中でも“地雷メイク”はトレンドとなった。7月某日。トー横で座って、男友達と話していたチャッピーさん(20代・仮名)。「あまみやさんが投稿した動画を見て、“やばいやつがいる”と思って、凸(突撃)したんです」と話す。動画を見て、興味を持ち、トー横にやってきた。「今は月に2、3度くらい来ています」出会った友達と立ち話をしていた高校3年生のクズさん(18・仮名)は「Twitterで知り合った友達に会いたいから来ています。ここで友達が増えました。共通する話題がある」と楽しそう。来春には卒業だが、「就職も学校から紹介された会社に決まっていますし。きっと、卒業してもまたここに来ると思います」■親からの虐待の果てに辿り着いた“トー横”NPO法人若者メタルサポート協会の相談員、竹田淳子さんは歌舞伎町に集まっている若者について、「“トー横キッズ”をよく見ます。飲酒をしていたり、女の子同士が話していたり。そこに男の子が声をかけたりしていますね。以前の歌舞伎町なら、グループが集まることはなく、基本的には1人で徘徊したり、集まっても2、3人だったのではないでしょうか。最近はSNSでつながって集まってきている印象です」と話す。歌舞伎町で徘徊する若者たちはどんなタイプなのか。「普通の子に見えていても、家族や学校に居場所がなかったりします。例えば、親からの虐待を回避するために居場所を求めてたどり着いたという子たちもいます」“トー横キッズ”の中で自殺者が出たが、前出のあまみやさんは「警察の事情聴取で、自殺した人たちの原因を聞かれました。最初の2人は家のことでちょっと悩みを抱えていたようです。翌週、同じホテルから男性が飛び降り自殺をしている。3人目はよく知っている10代の子でびっくりしました。死ぬって感じじゃなかったので……」と驚きを隠せない。最初の2人が飛び降りる直前の様子を知る人がいる。サラさん(10代・仮名)だ。ホテルのエレベーターを待っているときの表情を見た。「そのとき、2人とは会話はしていないのですが、暗い様子でした。(市販薬の)ODの後だったらしくて、結構目がパキッた(キマった)後のような目をしていました。2人が亡くなったことを知ったときは、ショックで泣き叫びました」亡くなった男性と思われるアカウントには5月4日、ODをしたと思われる市販薬を映し出した動画がアップされ、《パキるが〜!!!!》と投稿されていた。ODを繰り返していたのだろうか。「(亡くなった2人は)今年の4月から来ており、そこで親しくなり、連絡を取り合っていました。トー横に集まる若者たちの中には、精神的に不安定な若者も多く。そこで、市販薬のODや飲酒をすすめられたりします」(サラさん)■未成年者の市販薬の乱用が増加国立精神・神経医療センター精神保健研究所の松本俊彦・薬物依存研究部部長(精神科医)は、全国の精神科医療施設で調査。10代の薬物乱用で、市販薬が多用されていることを明らかにした。「危険ドラッグ規制以来、10代では特に、市販薬の乱用は増えました。(亡くなった2人が)死のうと思って飲んだとすれば、さらにいつもよりも多くの量を飲んだ可能性もありますね」市販薬のODは、危険性を伴うことを指摘する。「非合法薬物の成分が微量ですが、入っています。また、ほかの成分によって、肝臓や腎臓の機能が悪くなることも。大麻のODでは死ぬことはないですが、市販薬のODで死ぬことはありえます。さらにエナジードリンクやストロング系のチューハイを飲むことで体調悪化が拍車をかけます」なんのために市販薬のODするのか。「臨床経験でいえば、性被害や被虐待経験者が多いです。患者さんたちは『消えたい』『いなくなりたい』『死にたい』を紛らわせるために飲んでいます。日ごろから居場所がない子たちなのです」家庭や学校に居場所がない若者たち。SNSで知り合った、悩みを抱える同年代の若者たちと友達になるために、トー横に集まっている。コロナ禍でもあり、さらに居場所がないと感じているのだろう。もちろん、市販薬ODは危険を伴うだろう。ただし、若者たちが、トー横に集まらなくなったとしても、別の場所を探し、市販薬のODをするだけ。ODをしてしまう背景の解決にはつながらない。こうした状況に、「警察の問題というよりも、福祉の問題です」と松本医師。前出の竹田さんも、「普通に見える子どもたちのSOSに気づいてほしい。大人は正論をかざすが、説教や経験を述べるのではなく、ただ、ひたすら若者たちの声に耳を傾けてほしいのです。悩みがあれば、一緒に解決策を探すことが大切」と、大人に忠告する。“トー横キッズ”に見られる現状は、大人たちがサインを見逃した結果ともいえるのではないだろうか。取材・文●渋井哲也(しぶい・てつや)●1969年生まれ。新聞記者を経てフリーに。若者のネット・コミュニケーションや学校問題、自殺などを取材。著書に『ルポ平成ネット犯罪』(筑摩書房)、『学校が子どもを殺すとき』(論創社)ほか
2021年08月08日ネットカフェの「鍵付き完全個室」は犯罪の温床なのか(写真はイメージです)埼玉県さいたま市のインターネットカフェ「マンボープラス大宮西口店」で客の男が女性従業員を監禁した事件が起きた。男が立てこもったのは「鍵付き個室」。インターホン越しに捜査員の説得が続き、女性が救出されたのは事件発生から30時間以上たった翌日深夜だった。■多様化するネットカフェの使われ方この事件であらためて注目されたのは「鍵付き完全個室」という形態。窓もなく、天井部も開いていない。インターホン越しでないと声も聞こえない完全個室がネットカフェに必要なのだろうか。「ここ数年は鍵付き個室はネットカフェの定番になっています。個室ブースに飲食の持ち込みをしなければ違法ではありません。’18年には《女性おひとり様も安心》とうたった全席鍵付き個室が売りの『ネットカフェDiCE(ダイス)』が登場。シャワールームやパウダールームを完備し、若い女性やカップルを中心に人気を集めています」(全国紙記者)コロナ禍でリモートワークをする人が増えて、ネットカフェは、ワーキングスペースとしての選択肢のひとつにもなっている。一方で、その完全個室を利用して、アダルト目的に使用する人が増えているというのが実態だ。「カップルがホテル代わりにするのはもちろん、パパ活に利用されたり、アダルトチャットの配信に使われたりとさまざまな用途で活用されているのです」(同)実際に使ってる人の話を聞いた。九州から就職活動のために上京した、大学4年生のさやかさん(仮名・22)。東京に何度も来る必要があるため、宿泊費を浮かせる一手段だ。「宿泊費を節約するために出会いカフェかネットカフェを使います。出会いカフェの場合、同じ空間にほかの人もいますが、女性の利用は無料です。男性客と話をしなければいけませんが、パパ活をして、一緒にホテルに泊まることもありますし、ネットカフェで行為に及ぶこともあります」だが、就活で上京しているため、休息したいときもある。「疲れてしまって、知らない人と話をしたくないときもあります。そんなときはネットカフェを利用します。防音の部屋もあり、女性専用のスペースやパウダールームがついているとより安心できます」“泊まる”目的の利用者も多いが、旅館業法上は、「宿泊」となると、届け出なければならない。店側は「寝具」を提供しないことで法に反しないようにしている。■「風俗店の待機場所」なんでもありの実態都内の会社員、あやさん(仮名・32)は、2人で横になることができるカップルシートを利用し、ホテル代わりに使う。「『完全個室』ではなく、天井の壁が開いていて隣のブースからのぞかれる可能性があったり、こちらの音が聞こえるようなスペースだったとしても、そこで彼氏やセフレと性行為することがありました。なるべく声を上げずに、周囲にバレないようにすることを楽しんでいました。でも声がもれてしまうので、隣の人は絶対気がついていたと思います。天井には防犯カメラが付いていたので、店員さんも知ってたんじゃないかな」最近では、一部のネットカフェにあるカラオケルームも使う。「カップルシートは上部が開いていますが、カラオケルームは防音です。ドアに“のぞき窓”があるんですが、服などで隠せます。カラオケルームが空いていない場合は、個室を2人分利用して、どちらかの部屋に行き、2人で過ごしたりしています」ちなつさん(仮名・28)はデリヘル嬢だ。特定のネットカフェが実は待機場所になっている。ホテルが近い場所にあり、仕事上、便利なのだ。「提携しているのかわからないですが、デリヘル店から指定されています。仕事が入ったら、店側からLINEで連絡があり、ホテルに向かいます。終わったら、また同じネットカフェで待機です。店内に設置されたシャワーを使えますし、好きな漫画を読み放題、オンラインゲームもし放題なので、なにかと時間をつぶせます。最近はお客さんがゼロのときもあるため、そのときはマッチングアプリを使って援助交際しています」■生活の“拠点”としてのネットカフェキャバクラ嬢のよしみさん(仮名・25)は、鍵付き完全個室のネットカフェに“住んでいる”という。女性専用エリアやパウダールームがあることで、ほかのネットカフェよりも安心だ。「働いているキャバクラの寮のような扱いです」以前は、別のキャバクラ店で働いていた。その店の寮はマンションタイプだったが、ほかのキャストと同居生活をしていた。しかし、同居人とトラブルがあり、1人で生活できる寮があるキャバクラを探した。「ネットカフェが寮と聞いて、最初は疑問でした。以前、家出をしていたときに、ネットカフェを使っていたことがあって、そのときの印象として落ち着かないだろうな、と思っていたんです。でも入ってみると、鍵付きだし、防音。以前よりも快適です。これなら古いアパートよりもいいかもしれないです」フリーターのしゅんさん(仮名・35)は、VR版のアダルトビデオ(AV)観賞のために完全個室を訪れる。以前からVRゴーグルを身につけてAV観賞を楽しんでいる。「最近、ハマっているのは、VRのAVを見ながら、援助交際やセフレと性行為することです。実家ということもあり、部屋には女性を呼べない。ネットカフェに一緒に入って、ゴーグルをつけながらするんです。女優としているような感覚になれますよ(笑)」***さまざまな用途で使われるネットカフェ。今後もニーズに合わせて、進化していくに違いない。一方で犯罪の温床になっているという指摘もある。実際に事件が起きたとなれば今後規制の強化はやむをえないだろう。取材・文/渋井哲也
2021年06月29日NPO法人『心に響く文集・編集局』理事長茂幸雄さん 撮影/齋藤周造日本有数の景勝地で、命を絶とうとしている人々に声をかけ続けて17年。ひたすら話を聞き、徹底して寄り添う茂幸雄さんは、自身の活動を「自殺防止ではなく人命救助」と言い切ってはばからない。生きていく勇気を取り戻すには、自殺を止めるだけでは足りないから。本当は助けてほしい──、そう切望する心の叫びを知っているから。■自殺の名所「東尋坊」「ここがいちばんの飛び込み場所です」平然とそう語る案内人に指さされた方向は、ゴツゴツとした岩肌がV字形に開けていた。そこから先は、ほとんど垂直に切り立った岸壁が両側に連なり、日本海へ向かって延びている。ここは海抜25メートル。ビルの高さでいうと7〜8階に相当する。両腕を伸ばし、筆者は一眼レフを落とさないよう気をつけながら撮影した。真下の海面に恐る恐る目をやると、黄色いサンダルが海草に乗って揺れているのが小さく見え、打ち寄せられる波音が聞こえてきた。「そこから飛び込むんです。若い人は脚力があるから海に落ちて助かることもありますが、高齢者は手前の岩に激突してしまいます」と案内人に言われ、その場面を想像すると、足がすくむような思いにとらわれた。近くにいた観光客の若者たちも、この断崖絶壁を前におののいていた。「マジで怖い。ヤバイよ」6月1日午後4時半。目の前に広がる日本海は凪いでいた。西日に照らされた水面はまばゆいばかりに輝き、間もなく夕暮れ時を迎えようとしていた。ここは福井県坂井市三国町にある「東尋坊」と呼ばれる景勝地だ。この荒々しい岩肌は、六角形の柱を形成する「柱状節理」と呼ばれる現象でできた地形で、空に向かって突き出ている。国の天然記念物にも指定され、「世界の3大柱状節理」と評されている。太陽が沈む直前、緑色の光が瞬く「グリーンフラッシュ」と呼ばれる自然現象が年に何回か見られ、「日本の夕陽百選」にも指定されている。岩場から徒歩数分の商店街には、土産物店や海の幸が自慢の飲食店が軒を連ね、人通りでにぎわっている。■17年間で720人を救出「命の番人」そんな風光明媚な観光地を案内してくれたのは、「命の番人」と呼ばれる元警察官、茂幸雄さん(77)だ。自殺防止活動に取り組むNPO法人「心に響く文集・編集局」の理事長を務める。日に焼けた顔に、笑うと白い歯が目立つ、一見すると普通のやさしいおじいちゃんだが、困った人を放っておけない熱血漢である。ひとたび岩場に入ると、これまでに自殺から救出した人たちの話が、次から次へと口を衝いて出てくる。「数年前、青森から来た女性が飛び込んで大けがをしました。ヘリを呼んで救出し、病院まで運んでもらいました」「中年男性がそこで『ワンカップ』の酒を飲んでいました。“酒を飲まないと勇気が出ない。放っておいてくれ”と言われましたが、説得して連れ出しました」「近くの電話ボックスで男性が話をしてたので、おかしいと思って声をかけたら自殺しにきたと」「巡礼衣装に着替えて飛び込もうとした女性もいました」茂さんたちの普段の活動は岩場のパトロールが中心だ。じっとうなだれている人を見つけたら近寄って声をかけ、事務所がある茶屋「心に響くおろしもち」まで連れていき、じっくり話を聞く。そうして救出された人は、2004年の設立以来、17年間で720人(6月13日現在)。ほぼ1週間に1人ずつのペースで、自殺を決意した人たちに遭遇する計算だ。その9割近くが県外からの来訪者。一方、東尋坊で自殺により死亡した人の数は、過去10年間で116人に上っている。特に新型コロナウイルスの感染拡大以降、茂さんのもとにはコロナ関連の相談が相次いだ。昨年7月からは、厚生労働省の助成を受け、コロナ禍による自殺防止のための「悩みごと相談所」(TEL:0776-81-7835)を茶屋に開設。今年3月末までの相談件数は訪問も含めて、のべ228人。このうち男性は約65%の149人で、年齢別では50代、40代が圧倒的に多く、この2世代だけで全体の約66%を占めている。相談内容は次のようなものだ。「家庭に閉じこもっているため夫婦間がぎくしゃくし、アルコール依存症になった」「外国人と結婚を前提に交際していたが、彼が入国できなくなり疎遠になった」「職場の仕事がなくなって退職に追い込まれ、眠れない日々を送っている」「休校が続いて友人と疎遠になった。再開したが、友人とうまく付き合うことができず、悪口を言われて死にたい」こうした訴えに耳を傾け、ひとり平均1時間近く話を聞く。茂さんが力説する。「一般の電話相談は15分ぐらいが平均です。でも私のところは無制限。長いと2時間ぐらい。だいたい自殺を考えている人の相談が15分で終わるわけがない」茂さんは問題が解決するまで、相手に寄り添う。その徹底した姿勢の原点は、福井県警時代に溯る。■助けられなかった老カップルへの思い茶屋のテーブルに広げられたよれよれの白い紙は、ところどころ黄ばみ、保管されていた年月を感じさせる。そこに青いボールペンで綴られた達筆な字は、こんな書き出しで始まっている。《前略先日は私達二人の生命を助けて下さって有難度うございました。助言いただいたとうり金沢市役所にて……》筆跡の乱れはなく、大きく伸びやかな字だ。これは茂さんが警察官として現役最後の年に、ある高齢の男女から届いた手紙だ。茂さんは、1962年に福井県警に採用されてから警察人生ひと筋。その大半を県警本部で過ごし、薬物や爆発物、マルチ商法などを取り締まる特別刑法にかかる事件の捜査を担当した。定年を間近に控え、東尋坊を管轄する三国署(現・坂井西署)の副署長に着任した。毎日1時間、岩場の遊歩道約1・5キロの道のりをパトロールした。ところが、それまでの現場とは様相が一変し、自殺が相次ぐ現実を目の当たりにする。保護された人々の話に耳を傾け、彼らが用意した遺書を読んでみると、意外な事実がわかった。「本当は死にたくありません」「助けてくれるのを待っていました」内に秘められていたのは、「やっぱり生き続けたい」という心の叫びで、それを誰かに聞いてほしかったのだ。そんなパトロールを続けるうちに出会ったのが、先の老カップル。2003年9月3日の夕暮れ時、遊歩道のそばにある東屋でのことだった。今も残るその現場で、茂さんが2人の様子を再現しながら説明する。「男性のほうはベンチにあおむけになっていて、女性はその隣のベンチで座ってうなだれていました。男性は手首にけがをし、タオルで止血していました。“どうしたんですか?”と声をかけると“あっち行け!”と追い払われたのですが、説得の末、渋々口を開いてくれました」2人は東京で居酒屋を経営していたが、借金が200万円に膨らみ、再起不能に陥って東尋坊に自殺をしにきたと打ち明けた。茂さんは2人を病院に搬送し、地元の役場に引き継いだ。数日後、1通の手紙が届いた。目を通すと、2人はその後、500円程度の交通費を渡され、金沢市役所から富山県魚津市、新潟県の直江津市と柏崎市の役所をたらい回しにされていたことがわかった。手紙の最後はこう締めくくられていた。《相談しようと三国署に行った際はもう一度東尋坊より自殺しようと決めていた二人が、皆様の励ましのお言葉に頑張り直そうと再出発致しましたが、─中略─疲れ果てた二人には戦っていく気力は有りません。─中略─この様な人間が三国に現れて同じ道のりを歩むことの無いように二人とも祈ってやみません》2人は便箋を買う金がなかったのか、チラシの裏に書いていた。封筒も同じチラシで作られ、バンドエイドで封がされていた。90円切手の未納を知らせる通知書も届いた。なけなしの状態でしたためられた手紙が、すでに手遅れであることを物語っていた。「最終の地」に記された新潟県長岡市の役所に茂さんが電話をかけ、2人の消息について尋ねると、こう告げられただけだった。「うちの役所の近くの神社で今朝、首をつっているのが発見されました」誰かが声を上げなければ、第2、第3の犠牲者が現れるのではないか──。茂さんの最後の職場での1年間、発見された自殺者の遺体は21人、保護された人は約80人に上った。茂さんが当時を振り返る。「自殺は犯罪ではないから警察も踏み込んで対応できない。保護すべき行政も対応が不十分でした。亡くなった彼らは何も悪いことはしていない。社会や周りの人に追い詰められた構造的犯罪なんです」無念の思いが、茂さんの心を揺さぶった。■「今日までつらかったんでしょ?」老カップルの悲報を機に、茂さんは自費で新聞広告を出し、自殺を思いとどまったり、家族が自殺で亡くなった遺族に作文を募った。その結果、約70人から届き、「心に響く文集」として自費出版した。このタイトルにちなんで、福井県警退官後の’04年4月、NPO法人を設立。メンバーは県警時代の同僚や知人に声をかけて集めた。この同僚の中のひとり、森岡憲次さん(70代)は茂さんと同期生で、警察学校時代の寮が同じ部屋だった。自殺防止活動への協力を求められた際、実はこうアドバイスをしていたと懐かしそうに語る。「県警時代にいろいろ苦労をして、これから第2の人生を歩むんだから、もう少しゆっくりしたほうがいいんじゃないかと伝えたんです。ところが頑とした態度で、決意が固かった。三国署で出会った老カップルのことが、やはり心残りなんです」やると決めたらとことん突っ走る行動力が茂さんの魅力だ。活動拠点となる場所を商店街の近くに設置し、保護した人から話を聞くため、そこを茶屋にした。黄色いビニール製のどでかい屋根看板には「心に響くおろしもち」と店名が大きく書かれ、商店街の中でもひときわ目立っている。地元名物「おろし餅」をモチーフにしているのだが、それには理由がある。茂さんが説明する。「自殺しようとした人の心に響く食べ物は何だろうか?と考えたんです。昔は正月になると、向こう三軒両隣が集まり、杵で餅をついておろし大根をつけて、みんなで食べました。それが子どものときのいちばんの思い出でした。だから餅を食べて両親や故郷を思い出し、生きる糧になってくれればと」つきたての餅を提供できるよう、餅つきの中古機械を60万円で購入した。店の営業時間は日没まで。それにも根拠がある。「副署長時代に、自殺して亡くなった方の死亡推定時刻は午後8時〜午前0時でした。東尋坊には午後4時ごろに到着し、飛び込む場所を決めてからしばらく座っている。そんなときに店の明かりがついていたらお茶でも飲みに来てくれるかもしれない」そうして自殺防止に向けた活動が本格化した。パトロールは原則、1人で行う。2人以上だと相手に警戒されるからだ。1日3人で交代して2時間ほど歩き、時間は正午から日没まで。休日は、遭遇率が最も低かった水曜日のみ。自殺企図者は岩場やベンチなどに座り、しょんぼり佇んでいることが多く、その雰囲気でわかるという。茂さんらスタッフが見つけると近づき、「こんなところにひとりで何をしてるの?」と声をかける。その次のアプローチが大事だと、茂さんが力を込めた。「相手の横に行き、“今日までつらかったんでしょ?”と声をかけ、肩を叩いてあげるんです。そうするとどんな大きな男でもしおれてしまいます。女性は泣き崩れて、しがみついてきますよ。これが現場なんです」これに続いてかける言葉も決まっている。「わしがなんとかしてやる!」茂さんがその意図を説明する。「“なんとかなるよ”ではダメなんです。なんとかならないからここまで来るんでしょ?だったらわしが身体を張ってでも、なんとかしてやると」■「死にたい病」に対する正当行為その言葉どおり、茂さんは身体を張っている。勤め先のパワハラに悩まされた男性を保護したときは、その会社に乗り込んで上司に掛け合った。妻との関係に疲れ果てた男性を保護したときは、その家まで電車で足を運び、家族と話し合いを持って離婚を成立させた。立会人は茂さんだ。そうして年に数回、北は北海道から南は岡山まで、全国各地を自費で駆けめぐるという。「自殺を決意する人たちは、自分のアパートや家を手放し、友人の関係も断って仕事もない。お金もない。ここへ来るのは片道切符。そんな人に“なんとかしてあげる”と大口を叩く以上、自腹を切るしかありません」そこまで相手の事情に踏み込む理由について、茂さんはこう訴える。「公務員には民事不介入の原則があります。だから家庭内の問題に立ち入ったらあかん。でも本当に自殺から保護するには、相手の悩みごとを取り除いてあげないといけないんですよ」もっとも、助けを求められたからといって、闇雲にトラブルの現場へ足を運ぶわけではない。当人の言い分だけに頼るのではなく、関係者の話も参考に、被害の確証が得られた段階で動き出すのだ。だが、ここまでやる支援の在り方については、「生かすことが正義?」「死にたい人は静かに死なせてあげれば?」といった声もSNSなどで寄せられる。これに対して茂さんはこう言い切る。「そうした批判は、現場を知らない人が同情で言っているだけです。自殺を考えている人の心理状態は、精神を病んでいる人ばかり。一時的な感情で自殺に追い込んでいる、一種の“死にたい病”なんです。それを放置したらいつか飛び込む。医者が病人の身体を手術するとき、傷つけても傷害罪に問われないのと同様に、わしが介入するのも正当な行為なんです」そんな茂さんの熱い思いに同調し、開設当初から一緒に活動しているのが事務局長の川越みさ子さん(68)だ。県警本部の喫茶店で店長をしていた縁で、茂さんに誘われた。「茂さんはぶれない人です。何事に対しても物怖じしない。どんな逆境が来ても“いい機会だ”と前向きにとらえるんです。相談相手からは確かに重たい話を聞くのですが、それで茂さんがまいっているのを見たことはありません。会社に乗り込んでいくときは、分厚い六法全書を持っていきますからね」現在までに救出した720人の中には、その後に命を断った人が数人いる。とりわけ「あれは可哀想やったなぁ」と振り返る母子3人の姿が、茂さんの脳裏に今も焼きついている。それはある夏の日の昼下がりのことだった。商店街の人から「ちょっと来てくれないか」と言われ、見に行くと、母親とおぼしき女性がビールを飲んでいた。隣には幼女と、生後間もない男児の姿。幼女は「かあかあ、お家に帰ろう」と泣いているので、茂さんが声をかけた。「これから岩場に行くんです。旅行に来ただけ」そう言い張る女性は男児を抱き、幼女を連れて岩場へと歩き始めた。茂さんが引き留めると、「なんで引き留めるんだ!」と引っ張り合いになったが、何とか茶屋に連れてきた。話をじっくり聞いてみると、女性は関西出身で、夫婦仲と産後うつに悩んでいるのがわかった。そこで女性の親に電話をかけ、警察に引き渡した。約束どおり迎えの親が到着し、帰宅の途に就いた。ところが後日、親から電話がかかってきた。「せっかく東尋坊で自殺を止めていただいたのに、助けることができませんでした。疲れて別々の部屋で寝ている間に……」女性はビルの10階から子ども2人を投げ、自分も後を追ったという。茂さんが回想する。「女の子が“おじちゃんありがとう!サンダーバード(特急)で帰るね”と手を振ってくれたんです。ものすごい可愛い子やったのに」■「自殺の名所」に冷ややかな地元の視線茂さんが活動を開始した’04年当時、日本の自殺者は毎年、3万人超えが続き、主要7か国(G7)の中では最も多かった。3万人を初めて超えたのは1998年。バブル崩壊の影響というのが有力な説だ。その前年には山一證券や北海道拓殖銀行の倒産が相次ぎ、日本の自殺問題は深刻化の一途をたどった。ところが、自殺対策に関して国の基本方針は策定されなかった。このため茂さんはNPO開設時に行政からの支援を受けられず、茶屋の家賃を含めた年間約100万円の経費はすべて手弁当だった。こうした政府の「無策状態」が続くなか、自殺者の遺族や自殺予防活動に取り組む民間団体から、「個人だけでなく社会を対象として自殺対策を実施すべき」といった声が強まり、国会でのシンポジウム開催や自殺対策の法制化を求める署名活動などの動きが広がり、’06年、自殺対策基本法が成立した。その3年後には、自殺対策のための基金が設立され、100億円の予算が各都道府県に配分された。茂さんのNPOも県から助成金が受けられたが、救済した人を保護するシェルターや当面の生活支援費などで経費は膨らみ、すべてを助成金でまかなえなかった。その穴埋めについては、年間数十回の講演活動でやり繰りしていたと、茂さんが笑いながら「秘策」を明かす。「講演料といっても1回数万円です。経費はまかなえないので、茶屋でついたおろし餅を講演会場に持ち込み、売っていました。8個入り1パックで1000円!」こうした茂さんの地道な活動は、『自殺したらあかん!東尋坊の“ちょっと待ておじさん”』(三省堂)をはじめとして7冊の著書にもなっている。日本のメディアだけでなく、海外からも注目され、米CNNや英BBCをはじめ、17か国の取材に対応した。『命の番人』というタイトルでドキュメンタリー映画にもなり、’16年、ロサンゼルス国際映画祭で短編ドキュメンタリー賞を受賞した。こうして世界中から脚光を浴びることになったわけだが、地元、特に観光業界からの視線は冷ややかだった。当初は反発も強かったと、茂さんが渋い表情で振り返る。「東尋坊のイメージが悪くなるから、こそっとやってくれと言われました。新聞やメディアの取材には応じるなと」東尋坊は前述のとおり、風光明媚な景勝地だから、報道によって「自殺の名所」というイメージが定着するのを避けたい、というのが地元側の総意だったようだ。だが、茂さんがNPO法人を立ち上げる前からすでに、東尋坊の年間自殺者数は多いときで30人を超え、その名はすでに知れ渡っていたはずだ。茂さんはこうも言う。「地元の観光業界の中には、“自殺の名所”との評判を逆手に取り、客寄せに使っているところもありました」当時を知る観光業界の関係者に聞いてみると、こんな反応が返ってきた。「助かった人たちに警察が事情聴取をしたところ、この地に縁のない人が多かったんです。“自殺の名所”という報道を目にしたので東尋坊に来たと。そういった宣伝による逆効果を防ぎたかった。観光業界が自殺者を防ごうという崇高な理念を妨害したなんてことは一切ないし、自殺者を防ぎたいという思いは茂さんと一致しています」茂さんが活動開始後は自殺者が減少、’14年には初めて一桁台に達し、7人まで減った。過去10年の年間平均自殺者数でも11・6人と、活動開始前に比べて圧倒的に少なくなった。「自殺の名所」報道によって確かに、自殺を決意した人々が東尋坊に集まった可能性はあるものの、逆に東尋坊の存在が知れ渡らなければ、彼らは「命の番人」の網の目に引っかかることもなく、ほかの場所で自殺していたかもしれない。そもそも彼らは「死にたい」のではなく、「生きたい」から話を聞いてほしいのだ。「自殺の名所」のイメージを逆手に取った客寄せについては、東尋坊観光交流センター内にある一般社団法人『DMOさかい観光局』の担当者がこう説明する。「その昔、平泉寺にいた『東尋坊』という悪僧が、断崖絶壁から突き落とされた伝説に由来しているのだと思います。確かに遊覧船ではその伝説が放送されていましたし、数年前までは観光パンフレットにも掲載されていました。それが“自殺の名所”としてのイメージにつながった可能性はあります」東尋坊を訪れる観光客数は右肩上がりだ。茂さんが活動を開始した’04年は98万3000人で、翌年に100万人の大台に乗り、以降は増え続けた。東日本大震災の発生後は一時的に減少したが、北陸新幹線が金沢まで延伸した’15年には、関東からの観光客増で過去最多の約148万人を記録。以降は横ばいが続く。新型コロナの感染が拡大した昨年は、大幅に減ったが、昔も今も東尋坊は県内有数の観光地の座をキープし続け、魅力のさらなる向上に向けた再整備計画も進められている。そうした時代の変遷もあってか、茂さんの活動にも理解が生まれているようだ。前出・DMOさかい観光局の担当者はこう続けた。「観光に携わる立場から言うと、『自殺』という言葉を使うのはやはりタブー。マイナスイメージがメディアを通じて露出されるのは避けたいです。それよりも明るいイメージを出したほうが、自殺のために訪れる人が減るかもしれません。とはいえ影の部分があるのも事実ですし、それに対してボランティア活動を続ける茂さんには感謝しています」■自殺現場のリアルを写真集で再現岩場に体育座りをし、顔をうつむけた男性が写真に収まっている。目元はモザイクがかかり、グレーのパーカに黒いズボン、白いスニーカーを履いている。隣には黒いリュックサック。写真の下にはこんな説明が添えられている。《新型コロナ禍の影響で仕事に就けず、蓄えも無くなりアパートの家賃も払えなくなったことからアパートを追い出され、頼るところが無いため自殺しに来た》別のページの写真は、西日が当たるベンチに座る男性の後ろ姿。ジャケットを羽織って野球帽をかぶり、すぐ目の前の波打ち際を眺めている。荷物は写っていない。《中学時代に受けたイジメがトラウマになっており人間恐怖症になり、就職しても友達ができず、いつも孤立の状態であり、将来が見えないため自殺しに来た》これは茂さんが今年3月に出版した写真集『蘇よみがえる』の一部だ。収録されたのは17人で、いずれも茂さんたちが昨年、パトロール中に遭遇し、声をかける前に撮影したリアルな現場の様子である。全員から同意を得たうえで掲載した。厚労省の助成を受けて500部を刷り、ボランティア団体や全都道府県と全政令指定都市の自殺防止対策を担当する部署に送った。そのまま放置したら自殺をするかもしれない直前の姿を写真集にするのは、やや過激ではないか。その意図について、茂さんはこう説明する。「私たちの活動に対し“なぜ自殺を考えて来た人だとわかるのか?”、“声をかけたときの相手の反応は?”という質問が多く寄せられています。その声に答えるべく、自殺をしにきた人々のオーラを写真集にしました」事務局長の川越さんが、「もうすぐ80歳に手が届きそうなのに茂さんのあのパワーは何だろうな?と思います。まだまだ挑戦したいことがいっぱいある」と語ったように、茂さんは自殺防止に向け、今後も活動の幅を広げる意気込みだ。日本の自殺者は’14年に3万人を下回り、10年連続で減少した。昨年は新型コロナの影響で前年から微増し、芸能人の自殺も相次いだ。とはいえ3万人超えが連続していた当時に比べれば、明らかな改善と言える。この背景には、民間団体による取り組みの力が大きいと、厚生労働省自殺対策推進室の担当者は認める。「行政にはパトロールの人員を配置するほどのマンパワーやノウハウがありません。自殺対策においてはその隙間部分を、民間に頼らざるをえないのが現状です」これだけ自殺が社会問題化しながら、その解決を民間の力に依存し続けてきたのは、日本政府の失策と言わざるをえない。そんな「自殺大国ニッポン」の姿は、折れた心に寄り添い続けた「命の番人」にとって、どう映るだろうか。茂さんが語る。「頑張り主義や競争社会によって精神的に追い込まれるのが、そもそもの原因だと思います。子どものときから英才教育を受けさせ、学業成績が落ちると叱る。そんな空気感が蔓延した社会構造に問題があるのではないでしょうか。いわゆる貧困からきているわけではないでしょう」競争社会は必ずしも人間の幸福につながるとは限らない。むしろ足の引っ張り合いをするだけだ。そう頭ではわかっていながらも、いまだに日本社会は「勝ち組」と「負け組」を分ける境界線が暗黙のうちに敷かれている。ゆえに自分と他人を比較し、劣等感や自信喪失、厭世観に苦しむ。そうして負のスパイラルから抜け出せない人々が、東尋坊を目指すのではなかろうか。そんな彼らに対し、茂さんはこう包み込む。「夢を持て、希望を抱けと言いますが、そういうことじゃない。食べるだけあればいいんです。無理したらあかん。自分の楽しみを探せ。楽しみがなければここ1週間、あるいは1年で楽しかったことは何だろうかと考えてみる。例えば正月や盆に、家族みんなが丸い心で過ごせる。そんな楽しみが、夢であり、希望であるべきなんです」東尋坊を案内してくれた日の夕暮れ時、1本の電話が茂さんにかかってきた。茶屋の椅子に座り、受話器を耳に当てながら茂さんが語る。その内容から、4年ほど前に東尋坊で茂さんに救われた男性が、今回は父親との関係に悩んで相談してきたようだった。ため口だが、どこか人情味を感じさせる茂さんの声が、店内に響き渡る。「そんなこと言ったらあかん。そしたらわしがあなたのお父さんと1回、談判するか?」「そんなブラック企業みたいなところ行くな。早くおさらばせなあかんって」「大丈夫や!生きる道はある。アホなこと考えるなよ!」川越さんらスタッフが店じまいをする中、茂さんの電話相談は40分ほど続いた。「わしがなんとかしてやる!」茂さんは今日もまた、双眼鏡を手に、岩場をパトロールしている。取材・文/水谷竹秀(みずたに・たけひで)日本とアジアを拠点に活動するノンフィクションライター。三重県生まれ。カメラマン、新聞記者を経てフリー。開高健ノンフィクション賞を受賞した『日本を捨てた男たち』(集英社)ほか、著書多数
2021年06月26日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「Z世代」です。世界中で抱える問題。解決の鍵となるZ世代。バブル世代と氷河期世代は「X世代」、‘80~‘90年代半ばに生まれたゆとり世代は「Y世代」、‘90年代半ば~2010年代初めに生まれた若者たちは「Z世代」と呼ばれています。Z世代に注目が集まるきっかけとなったのは、人権運動家のマララ・ユスフザイさんや環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんの登場でしょう。ティーンエイジャーが、人権や地球環境が脅かされている窮状をSNSを通じて訴え、それらを守ろうとするアクションは世界で同時多発的に起こりました。そうして、経済至上主義とは別の新しい幸福の価値観を広げていきました。日本のZ世代は、小学生~中高生の多感な時期に東日本大震災や原発事故を体験しています。義務教育課程で環境や人権、SDGsについて学び、働き方は会社員ベースから、フリーランスベースに移行しつつあります。国や集団に属さずに、強い個として生き抜く新自由主義者がフィーチャーされた時代を経て、人々は戦いに疲れてしまいました。さらに自然災害が頻繁に起こり、景気は回復せず、格差は広がるばかり。個人の力ではどうしようもない状況に陥っています。そんな背景のもと、多様な個が足りない部分を補填し合い、困難を共に乗り越えようとする「コミュニタリアニズム(共同体主義)」がZ世代に広がっていきました。社会環境は目まぐるしく変化しています。人権や環境部門に積極的でない企業は投資の対象にならなくなり、SDGsというゴールを目指さねばなりませんが、大人たちは策がなく困っています。以前、ベンチャー企業と大手企業をマッチングさせる取り組みを取材したとき、大企業の社員はZ世代の新しい感性や価値観をサービスに取り入れようと、熱心に若い起業家たちの意見を聞いていました。これまでは若者の意見といえば、流行物やギャル語など、トレンドとして取り上げられる程度でした。しかし、今後は、デジタルネイティブのZ世代から新しい知見を学び、大人は資本やマーケットを若者に提供するなど、ウィンウィンの関係を築く必要があると思います。互いに協力しなければ乗り越えられそうにない問題が世界に山積みなのです。堀潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。※『anan』2021年5月26日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年05月21日※画像はイメージです2010年半ばからブームとなった「丁寧なくらし」。だが、その言葉に抵抗を感じる人も少なくない。現状は多くの人が“生きるため”に必死に働いている。そもそも“健康で文化的な生活”すら送れていない人も。金銭的に余裕がないと、心に余裕は生まれない。貧困、格差問題を取材し続け、自らも“隠れ貧困”の家庭で育ったという『年収100万円で生きる―格差都市・東京の肉声―』の著者でフリージャーナリストの吉川ばんびさんが、自身の経験をもとに、その「現実」を訴えかける。■次第に心が病んでいった家族「丁寧な暮らし」という言葉がよく使われるようになったのはいつごろからだったろうか。不景気の時代、日々生活費を稼ぐためにあくせく働いている私にとってこの言葉は、あまりにも非現実的で、浮世離れしているように思えてならない。きっと金銭的に余裕があって、死ぬまで食うのに困らないほど上級の社会的ステータスに属している人々が言い出した幻みたいなものだろう。働きアリのように毎日せこせこ労働していると、ただただ目の前にあるもの以外、なにも見えなくなってしまう。一日のうちほとんどの時間を会社で過ごし、一人暮らしの賃貸アパートにはせいぜい寝に帰るくらいで、限界まで疲れ果てている身体では、睡眠時間を削って趣味に費やすことすらできない。生活の質も目に見えて落ちていき、社会人2年目になるころには自炊する時間も気力も失われてしまって、健康に悪いと分かっていながらもカップ麺やコンビニ弁当に頼ることが普通になってしまった。家事も疎かになり、毎週末必ず行なっていた掃除も、次第に手につかなくなった。使用済みの汚れた食器が、シンクの中で無造作に積み重ねられている。排水溝の掃除を少しでも怠ると、みるみるうちに家中にコバエが飛び回る。分かっているはずなのに、どうしても掃除をする気にはなれない。自分は、この光景をよく知っている。社会人になるまで暮らしていた実家での、あまり思い出したくない記憶だ。私が生まれ育った家庭は両親が揃っていて、夫婦共働きでもあったが、とにかく金がなかった。私が3歳のころ、阪神・淡路大震災で住んでいた家が倒壊。新しい住居で生活を立て直すのがやっとで、両親は貯金を使い果たした。父はアルコールに依存しがちで、頻繁に仕事を辞める癖があった。ローンの返済にくわえ、一家四人の生活は母の稼ぎだけでは到底まかなえず、親族から借金をすることも少なくない。父は家庭や子どもに一切の興味を示さず、母は精神的に不安定でよく「死にたい」とむせび泣いていて、兄は非行に走り、家庭内暴力が激化していった。幸い、食べるものがなくて飢えるようなことはなかったが、生活環境は最悪だった。貧困は心までも蝕むのだ。今思えば、あの家では全員の心が病んでいたのだと思う。風呂場やトイレ、洗面台、キッチンはいつも水垢やひどい汚れ、黒カビに覆われていて、コバエが大繁殖していた。風呂場で身体を洗っているとき、ボディタオルにくっついていた体長5ミリくらいの黒い幼虫が肌の上でくねくねと蠢くことがよくあって、気持ちが悪かったのを覚えている。黒い幼虫は風呂場のいたるところにいて、主に浴槽内やフタの上で繁殖しているようだった。洗った食器の水を切るためのトレーにも、同様に水垢と幼虫がびっしり付いていた。誰も掃除機をかけないので、家中ホコリや髪の毛、いろいろなゴミがたくさん落ちていて、絨毯や畳の下でも虫が繁殖し、茶色い幼虫や素早く走る成虫(紙魚という虫らしい)、謎の甲虫が大量発生している。その上に薄い布団を年中敷きっぱなしにしていたので、虫にとってはこれ以上ないほど住み心地がよかったと思う。高校生くらいになるころ、これまでの反動からか私はやや潔癖症のようになり、神経質に掃除機をかけたり風呂やトイレ、キッチンを掃除したり、布団を干したりするようになった。それでも掃除をする人間よりも汚す人間の方が圧倒的に多いので、家の中はいつも汚かった。実家には20年ほど住んでいたが、父や母、兄が布団を洗ったり干したりしているのを一度も見たことがない。だからうちはいつも、人間の脂の臭いと、カビの臭いがしていた。おまけに、兄は気に入らないことがあるとすぐに大暴れするので、壁にはいくつも穴が空いていて、私と母が使っている部屋のドアは蹴破られてプライバシーも何もない状態で、あらゆる家具家電が破壊されてそのままになっていた。そんな環境で暮らしていると、だんだん生きる気力が失われ、かといって死ぬきっかけもないので、ただただ今日明日を切り抜けることしか考えられなくなってくる。だからますます「家をきれいにする」とか「生活に手間をかける」「食事に気を遣う」「適度な運動をする」なんてことは、優先順位の最後の方に追いやられていく。「転職のために勉強をする」みたいに、長期的な視点も持ち合わせていない。未来の自分に投資できるだけの体力も精神力も残されていない。今日の仕事が終わったら、もう明日の仕事のことしか考えられないのだから。■ 誰かの力を借りるのは、「恥」じゃない「丁寧な暮らし」ができるのは、経済的な不安がなくて、心も身体も健康な人たちくらいだと心底思う。貧困や虐待、DVが行われているなど、劣悪な環境で生きていると、「健康で文化的な最低限度の生活」を実現することすら難しい。健康も、文化的な生活も、まずは心が休まる場所があって、生活に困らないだけの金がなくては成り立たないのだ。私の場合、成人して実家から逃れて、これまでの働き方を考え直し、うつ病とPTSDの治療を始めて3年か4年ほど経って、ようやく「健康で文化的な生活」を送れるまでになった。無茶な働き方をしていたころ、生活の質はどんどん落ちていき、身だしなみや身の回りのことにまったく気を遣えなかった。虫歯は10年間放置していたし、新しく作り直しにいくのが億劫で、度が合わないメガネを何年も使い続けていた。人間は、心の状態が落ち着いてからでないと、自分を客観的に見ることも、合理的な判断すらもできないことを知った。無理に「丁寧な暮らし」をしなくてもいい。でも、もしも「健康で文化的な生活」を送ることができていないなら、まずは今、自分に何が必要なのか、一度立ち止まって考える機会があってもいいかもしれない。時には誰かに話を聞いてもらいながら、客観的に見て自分をどう思うかを尋ねてみながら。私たちは一人では生きていけない。生活保護など、公助に頼ることを「恥」だと言う人がいるけれど、私はそうは思わない。まずは誰かの力を借りながら、心と身体のケアをすることは、誰にとっても当然必要なことだと思う。吉川ばんび(よしかわ・ばんび)’91年、兵庫県神戸市生まれ。自らの体験をもとに、貧困、格差問題、児童福祉やブラック企業など、数多くの社会問題について取材、執筆を行う。『文春オンライン』『東洋経済オンライン』『日刊SPA!』などでコラムも連載中。初の著者『年収100万円で生きる ー格差都市・東京の肉声ー』(扶桑社新書)が話題。
2021年04月12日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「孤独・孤立対策担当室」です。孤独は社会問題。官民協力体制で根本的解決を。長引くコロナ禍で、大学では休講やオンライン授業が続き、アルバイト先の休業や閉店で経済的に困窮。休学・退学する学生が多く出ているというニュースがありますが、実は前年同期比でいえば、中途退学者は2割減。休学者は1割減です。学校側が授業料の納付期限を猶予したり、困っている生徒の授業料の減額や免除を行ったため、この1年は持ちこたえました。ところが今後はどうなるかわかりません。注視しなければいけないのは、学生たちのメンタルヘルスです。日本では新型コロナウイルスによる死者数よりも自殺者数の増加率が高く、とくに若い世代や女性の自殺が増えています。2020年1月~11月の統計では、増減率では20代が最も高く17%増、19歳以下の未成年は14%増。小中高生は479人と1980年以降で最多となりました。人に会えないこと、将来の不安、経済的困窮などが要因になっていると考えられます。コロナ禍で、世代を超え孤立している人が増えている現実を踏まえ、政府は内閣官房に「孤独・孤立対策担当室」を新設。省庁横断で本格的な対策に動きだすことにしました。参考にしたのはイギリスです。イギリスでは、孤独が身体に及ぼす影響を科学的に証明。死亡リスクは26%、脳卒中を発症する率は32%アップ、認知症発症率にも影響があるという数字が。これを機に2018年、孤独担当大臣を設置。約28億円規模の予算を組み、どういう人が孤独を感じ、支援の対象になるかの指標を算出し、相談体制の強化、職の支援や低所得対策を行いました。以前より孤独担当相の創設を訴えていた国民民主党の昨年11月の資料によると、東京23区の単身高齢者の孤独死は10年間で1.7倍に。全国の単身世帯数は34.5%、生涯未婚率は男性23.37%、女性14.09%でどちらも増加中。高齢者の親と無職の子供の“8050”世帯は2013年時点で推計約60万世帯、引きこもりは推計約61万人、シングルマザーは約123万世帯、うち半数が相対的貧困というように、日本には孤独があふれています。これらに対処することが、経済、医療福祉、少子化対策の一助になると思います。堀潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~8:00)が4/1スタート。※『anan』2021年4月14日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年04月10日社会人と学生のカップルは、それほど珍しくないものです。学生は社会人の頼もしさに、社会人は学生のあどけなさに惹かれお付き合いするパターンもあれば、学生時代からお付き合いしていてどちらかが先に社会人になるパターンもあります。しかし社会人と学生のカップルは、学生同士や社会人同士のカップルに比べ、交際が続かないという声があります。それはなぜなのでしょうか。またどうしたら長く一緒にいられるのでしょうか。今回は社会人と学生のカップルが付き合う上で注意すべきことを3つご紹介します。■ 対等な関係を築く社会人と学生のカップルによくある悩みの一つが、上下関係ができてしまうこと。学生だからと小馬鹿にしたり、社会人だからと頼りっきりになってしまったり、そんな関係では不満がたまり、いずれ大きな溝が生まれてしまいます。社会人と学生という立場の違いにとらわれないよう、対等であることを心がけてくださいね。■ 金銭感覚をすり合わせる学生は社会人に比べ収入が少ないので、必然と二人の経済力に大きな差が生じます。だからといって、「社会人なら学生に奢るのは当たり前」と考えるのはNG。社会人は収入がある一方で、生活費や車の維持費、同僚との交際費など出費も多いです。お互いに無理のない範囲でデートをするようにしましょう。そのほかにも、経済力の違いから金銭感覚もずれてしまうことが多いです。デートやプレゼントは、お互いのお財布事情を踏まえて選ぶなど、感覚をすり合わせていくことが重要です。■ お互いの予定を尊重する学生と社会人では、お休みのタイミングや時間の使い方にズレが生じることがしばしば。とくに社会人は、休日や夜間に仕事をしたり、残業をしたり、会社や仕事の都合によって自由に時間が使えないことも多いです。しかし、会社に行ったことのない学生には理解が難しいもの。なかなか予定が合わず、会えない日々が続くうちに、心が離れてしまうことがあります。会えないことに不満をためるのではなく、私生活を充実させ、相手の予定を尊重できる余裕を持つことが大事です。■ 違いを受け入れ、歩み寄る姿勢が大事!社会人と学生では時間の使い方も金銭感覚も、大きく変わります。そんな違いを理解し、お互いに歩み寄ることが長続きの秘訣です。いずれ二人とも社会人になる日がきます。そうなればこれまで以上に共有できることが増えてくるはず。その日が来るまで違いを楽しみながら、お付き合いしていきましょう。(コンテンツハートKIE/ライター)(愛カツ編集部)presented by愛カツ ()
2021年04月01日※画像はイメージです貧困、格差問題を取材し続け、自らも「隠れ貧困」の家庭で育った経験を持つ、『年収100万円で生きる―格差都市・東京の肉声―』の著者でフリージャーナリストの吉川ばんびさん。彼女が経験した、そして取材で見てきた「貧困の世界」を、これからシリーズ化して届けていく。第1回は、コロナ禍で深刻化する貧困について。SOSを出せない人たち、出さない人たちーー。その背景には何があるのか。■路上に放り出された5000人新型コロナウイルスの拡大により、ただでさえ深刻だった貧困問題が、凄まじい勢いで拡大をつづけている。これまで衣食住に困っていなかった人々ですら「所持金が数十円で今日食べるものがない」というような困窮状態に陥るなど、いつ誰が貧困当事者になってもおかしくないほど、事態は混迷をきわめている。コロナ禍で特に打撃を受けているのは、やはり以前から低所得層だった人々だ。もともとネットカフェ、24時間営業のファストフード店などで寝泊まりしていた居住困難者の多くが、昨年の緊急事態宣言下の営業自粛で居場所を失い、東京都だけでも約5000人が路上に放り出されたと推測される。(平成30年 東京都福祉保健局生活福祉部生活支援課による『住居喪失不安定就労者等の実態に関する調査報告書』参照)東京都は緊急事態宣言下において、住居を喪失した人々に対する救済策として、ビジネスホテルの借り上げを行った。しかしながら、この救済策が実際に路頭に迷っている人々の耳に入ることはなかった。東京都が「ビジネスホテルに無料で宿泊できる」ことを、ほとんど広報しなかったためだ。当時ネットカフェ難民の多くは、ネットカフェの営業をしている他県に移動しているか、すでに路上生活者となっていた。さらに、行政の窓口へ相談に訪れた人たちですら、ホテルに空きがあるのに宿泊することができず、集団で同じ部屋に寝泊まりする無料低額宿泊所や、赤の他人と相部屋で生活するシェルターなど、住居としては劣悪な環境である場所を優先的に案内されたという。こうした背景からも嫌というほどわかるが、東京都が本当に住居喪失者を支援しようとしていたとは、私には到底思えない。■医療、福祉にアクセスできない人々困っている人の元に必要な情報が届かない、というのは、さまざまな社会問題を考える上で最も重要な問題のひとつだと思う。金銭的な困窮に陥ると、他者との経済格差が開くだけでなく、情報格差や、医療格差にも大きな影響が現れる。例えば、貧困層は貧困脱出に必要とされる知的資本や文化資本、社会資本を持たないために情報リテラシーが低く、マルチ商法に騙されやすかったり、生活習慣病にかかりやすい傾向にある。先日、全国の若手医師が参加するオンラインセミナーにゲストとして招いてもらう機会があった。医療の現場に立つ医師たち、貧困などの問題に携わるゲストたちが「健康格差」をテーマに意見を交換しあい、格差をいかになくしていくかを共に考える、非常に貴重な場だ。その場にいた多くの人が問題視していたのは、低所得者ほど生活習慣病リスクや依存症リスクが高いにもかかわらず病院に診察へ訪れることを避け、治療の継続が難しいことだった。彼ら彼女らを必要な福祉や支援につなげることができればいいのだが、そもそも日常生活を送るのですらギリギリの経済状況では、不調の治療にはなかなか意識が向かない。「貧困」とは単純に経済格差だけでなく、健康格差や情報格差をも生み出すことがわかる。■頑なに病院へ行かない貧困層私はもともと貧困家庭の出身で、今は主に貧困問題について取材や執筆を行っている。うちは両親がアルコール依存で、家庭内暴力、ネグレクトなどの問題も抱えた典型的な機能不全家族だった。毎月生きていくだけでも必死で、両親は身体を壊しても頑なに病院へ行かなかったし、私が不調を訴えるとあからさまに嫌な顔をしたり、「気の持ちようだ」と窘めたりした。そのため、中学生のころに学校の健康診断で見つかった虫歯は10年近く放置されていたし、高熱を出しても病院に行かせてもらえなかったため、飲食がまったくできなくなるまで悪化してようやく受診、緊急入院になったこともあった(入院費は、自分で奨学金から支払った)。父親が仕事を頻繁に辞めるので生活が成り立たず、健康保険料を滞納していたときには「医療費が3割負担ではなく自己負担になるので、絶対に病気をするな」と強く言われていた。私たちは自分の家庭が生活保護受給の対象になるなんて考えたこともなかったし、そもそも貧困などの問題を抱えているのは「恥」だと思っていたために、誰にも助けを求めることはできなかった。閉鎖的な環境で、家庭で暴力を受けていることも口止めされていたので、子どもの自分は「逃げ場などどこにもない」と考えていた。あのとき私たち家族にもう少し知識があれば、問題を誰かに相談できていれば、今ではもう崩壊してしまった家庭にも再建の余地はあったのかもしれない。■生活困難、DV被害は迷わず公的支援を新型コロナウイルスの影響で多くの人が職を失ったり収入が激減しているにも関わらず、この1年間での国からの一律給付金は一人当たりたったの10万円のみ。10万円では、人ひとりが1か月生き延びることすらできない。行政は生活困窮者に「小口資金貸付制度」の利用を呼びかけているが、そもそも貸付に審査があり、「償還の見込みが困難と判断した場合は貸付ができない」としている時点で支援としての意味はほとんどなしていないと考えられる(コロナ禍の緊急小口資金貸付においては、厚生労働省HPに「今回の特例措置では、償還時において、なお所得の減少が続く住民税非課税世帯の償還を免除することができる取扱いとし、生活に困窮された方にきめ細かく配慮します」という記述があるが、貸付を受けられたとしても最大20万円までであり、これでは1ヵ月生活できるかどうかもわからない)。今、あなたが金銭的に困窮している場合は、遠慮なく自治体へ生活保護の申請相談をしてほしい。もしも窓口で追い返されたり申請の書類すら提出できないような対応をされれば、それは水際作戦と呼ばれる【違法】な対応であるため、その旨を伝えるか、福祉活動を行っているNPO法人などに連絡して付き添ってもらうと非常に効果的だ。他にも、もしも家庭でDVなど暴力を受けている場合は、近くの福祉課や「男女共同参画センター」に連絡すれば公立のシェルターで保護を受けたり、弁護士から裁判所に申し立てを行ってもらい、接近禁止命令を出してもらったりすることができる。どれだけ困窮状態にあっても、「自分が公的な支援を受けるなんて……」と考えてしまう人は非常に多い。しかし生活する上での困りごとは、大抵が個人の力では解決が難しいものがほとんどだ。日本で生活している以上、誰もが公的な支援を受ける権利を当然に有している。「自分たちだけで困難に耐えなくてはならない」と思わずに、ぜひ積極的に公的な支援を受けながら、ケースワーカーやソーシャルワーカーに手助けしてもらって「生活を立て直すこと」を第一に優先してほしいと思う。吉川ばんび(よしかわ・ばんび)’91年、兵庫県神戸市生まれ。自らの体験をもとに、貧困、格差問題、児童福祉やブラック企業など、数多くの社会問題について取材、執筆を行う。『文春オンライン』『東洋経済オンライン』『日刊SPA!』などでコラムも連載中。初の著者『年収100万円で生きる ー格差都市・東京の肉声ー』(扶桑社新書)が話題。
2021年02月24日小島美羽さんが作ったゴミ屋敷のミニチュア3年前に取材し、反響を呼んだ遺品整理クリーンサービス所属・小島美羽さんによる「孤独死」「ゴミ屋敷」をテーマにしたミニチュア作品。『週刊女性PRIME』では改めて小島さんを取材し、そこに込められた思いを、作品ごとに分けて伝えてく。前回の記事『「孤独死現場」をミニチュアで再現する遺品整理人 “並べられたお金” が意味するもの』に続き、今回は「ゴミ屋敷」だ。「ゴミ屋敷って誰でもなり得るんです。みんな“私はキレイ好きだから大丈夫”って言うんですが、そんなことはありません。失恋、失業、いじめ、離婚……理由はさまざま。ちょっとした理由で気力がなくなってゴミを溜め込んでしまう人もいれば、看護師さんや新聞記者さんなど、単に仕事が忙しくてゴミ屋敷になる人もいます」「ゴミ屋敷」をイメージして作られた2つのミニチュア作品を前に話す小島さん。作品には、これまで訪れた現場で小島さんが実際に見てきた数々のエピソードが集約されている。どちらも大量のゴミが、床を埋め尽くしているが……。■ゴミ屋敷で孤独死ひとつ目は、40代女性が住んでいた部屋をイメージして作られたもの。「ゴミ屋敷で住人の方が亡くなっているケースもあります。この作品も、ゴミに埋もれるように亡くなっていた女性の部屋のエピソードを主に詰め込んでいます。ゴミの山の中からは男性の衣服も出てきて、壁には思い出の写真も飾ってありました。住みはじめたころは男の人と暮らして、部屋もキレイにしていたんだと思います。でも別れたのか、その喪失感で病んでしまって、結果ゴミ屋敷になったところで亡くなってしまったのかも。ここです、女性が亡くなっていた場所は」そう言って小島さんが指差す部屋の奥は、体液だろうか、身体が埋まっていた部分は茶色く汚れていた。「猫が好きだったんでしょうね。猫の雑誌もいっぱいありました」その言葉どおり、ゴミの中には猫の雑誌が見える。しかし、こんな場所で過ごしていたとは到底思えない。女性はどうやって暮らしていたのだろうか。「ゴミの上です。洋服もゴミに埋もれています。でもロフトだけはキレイにしていて、そこで生活している人もいます」散乱するゴミの中にはペットボトルもチラホラ。これにも意味があるという。「尿をペットボトルに入れていることも多いです。トイレにも行きたくないほどの精神状態なのかもしれません。男性の方が多いんですが、この部屋に住んでいた女性の部屋にも、ペットボトルにおしっこが入った状態で置かれていました。でも女性がペットボトルに入れるのって難しそうですよね?どうやらバケツに入れてからペットボトルに入れ替えているようなんです。尿だけでなく、コンビニの袋に入った大便が残されてるケースもあります」■残された“生きた証”一見、すべてゴミに見えるが、細かく見ていくと、その人が生きていた証がところどころに残されていた。それは、キッチンに放置されたあるモノにも表されている。「ゴミ屋敷でたまに見かける光景ですが、コンロ周りに卵の殻が捨てずに積み上げられているんです。それも、すごい数。それを再現するために、卵の殻をたくさん作りました。なぜ卵の殻なのかはわからない。卵って調理しやすいから、そういった理由もあるのかもしれませんね」続いて小島さんが指差したのは、冷蔵庫の上。「クレジットカードやポイントカード、宅配便の不在届や書類など、貴重品や大事なものが一箇所にまとめて置かれています。大切なものの置き場だけは、把握しておくためでしょう」これだけのゴミを片付けるのも大変そうだが、まだ壁が見えるだけでもいいとか。中には4tトラック2台分のゴミが出た家も。「天井までパンパンにゴミが部屋に入っていることもあります。ちょっとした隙間があれば、クロールするように入っていけますが、天井まで埋まってると入れないので、入り口から順番にゴミを出していくしかありません。本当に体力が必要なんです。私も入社してから6キロくらい太りました。いっぱい食べて体力つけないと倒れてしまうので。男女関係ないですし、体力面に加えて精神的にもつらい部分がありますから」■何よりもキツイ、ゴキブリの処理続いて見せてくれたのは、30代男性の「ゴミ屋敷」をイメージして作られたミニチュア。「ダンボールが多いのは、外に出ないでネット注文が多いことを表しています。若い人だと、宅配ピザの空箱やファーストフードの袋なんかも多いですね」部屋にはアマゾンなどの段ボールがあり、ドーナツの食べ残しやコーラの空き缶などが転がっている。だが、食べ残しも片づける側からしたら厄介という。「空のお弁当は乾燥しているからいいんですが、食べ残しや生ゴミなど乾燥せずにネッチャリとしているものは匂いもすごい。ゴキブリとか虫も湧いていてつらいですね。私、本当に黒ゴキブリがダメなんです。とあるおばあさんの家を片づけたときに、部屋中にうじゃうじゃいたのが、今でもトラウマです。よく孤独死の現場とかやってて病んだりしないの?なんて質問を受けますが、私は人間が相手ならば“家族”だと思ってるのでまったく嫌な気持ちはないんです。だけど唯一、ゴキブリだけはダメなんですよね」と本音もポロリ。さらに、「ゴミがかさばってふんわりしているといいんですが、ギュッと固まってしまうと、何年もかけて溜まったゴミが地層みたいになっていて大変。板みたいになってるから、ゴミ袋にも簡単にいれられなくて」その場合はクワの手のような専用の道具で掃除をする。だが、権利書や免許証、お金などゴミではないものが混じっていたりもして、一筋縄でもいかないそう。そしてひとつ、これらゴミ屋敷を見ていて気になることがあった。ゴミ屋敷とはいえ、ちゃんと掃除道具や「ゴキブリホイホイ」などが置いてあるのだ。「片づけてるとコロコロ(粘着カーペットクリーナー)とか、掃除道具が出てきたりするんですよね。それからわかるように、みんなはじめはキレイにしていたんですよ。最初にも言いましたが、誰でもゴミ屋敷になる可能性がある。ゴミ屋敷って聞くと、小汚い人が住んでるイメージかもしれませんが、実は全然そんなことない。逆に意外と外ではキレイにしている人が住んでいたりもして。ゴミ屋敷の住人が銀座のママさんだった、なんてこともありました。本当、見た目ではまったくわからないんですよ」実際、小島さんの元には誰が依頼してくる?「ご自分で連絡してくる方が多いです。でも自分の部屋だと正直に言わない人もいます。友人が汚くしたとか、ここは兄弟の部屋だとか。どう思われるかとか、恥ずかしいのかもしれません。だから周りにSOSを出せないままゴミ屋敷になってしまう。本人が亡くなっている場合は、ご家族……と言っても近しい人からではなく、親戚から依頼がくることが多いです。両親から連絡を受けた場合でも、家に行って初めてわが子の家がゴミ屋敷だったと知るケースも少なくなくて。コミュニケーションの重要性を感じるのは、孤独死と同じですね。“おはよう”“こんにちは”だけでもいい。家族、家族が難しければ近所の方でも、少しでもコミュニケーションがあるだけで、何かプラスの方に変わることができるのかもしれません。ゴミ屋敷のきっかけは些細なことだったりもする。決して他人ごとじゃない。見てくれた人にもそのようなメッセージを受け取ってもらえたらいいなと思っています」伝えたいメッセージを込め、作られていく小島さんの作品。遺品整理という本業にの傍ら、彼女は今日も事務所の空きスペースでミニチュア作品の製作に取りかかっている。
2021年02月15日(写真左から)たかまつなな、ウーマンラッシュアワー・村本大輔社会問題を風刺する漫才で注目されるお笑いコンビ『ウーマンラッシュアワー』の村本大輔(むらもと・だいすけ)さん(40)。お笑い番組『THE MANZAI』(フジテレビ系)では、ネタで原発問題に触れて大きな反響を呼んだ。村本さんはここ数年、日本のお笑い界やテレビ界とは距離をおいてきたが、最近では“アメリカで勝負したい”と思うようになったという。その狙いは、いったい何なのか。YouTube『たかまつななチャンネル』の生対談で、忖度(そんたく)なし・タブーなしの心境をたっぷり語ってもらった。■お笑いに救われてここまでこられた福井県のおおい町で生まれた村本さん。中学校での成績は学年ビリで、両親の仲も悪く、当時は自分の価値が見いだせなかったという。「いつも怒鳴り声が聞こえてくる家庭で。それに俺は勉強もスポーツもできないし、友達もいなかった。真っ暗な部屋のなかで、生きる意味がわからないというか、手ごたえがない日々を送っていたわけよ。そんなとき、テレビで(明石家)さんまさんとか、ダウンタウンさんとかがブワーッと(お笑いを)やっているのを見て、涙を流して思いっきり笑ったら救われたんです。いろいろ悩んでいることがどうでもよくなって、楽になれたのよね。そこで“お笑いの世界に入ろう、自分もあのなかに行きたい”と思いました」その後、水産高等学校に入学し、サッカー部に入部。上手だった村本さんが1年生でレギュラーになりかけると、それが鼻についたのか、先輩たちからいじめられた。「“お前は汗臭いからクサオだ”とか“カス、死ね”みたいな悪口を言われることがずっと続いて、サッカーボールも回ってこなくなりました。同級生も先輩のほうにつくし、学校に行くのがすごく嫌で。でも、そのころ中学生の弟が、修学旅行中に奈良で買ってきた木刀をベッドの下に置いていたのよ。ある朝、俺はそれをゴミ袋に隠して電車に持ち込み、例の先輩たちが使う駅の駐輪場に潜(ひそ)んで、彼らが来た瞬間に後ろから木刀で殴りかかった。それで“お前ら今まで、俺に嫌なことばっかり言って”、“次に同じようなことしたら、知らんからな”みたいなことを言ったら、先輩が“すみません”って。その翌日からは一切、嫌なことを言われなくなりましたね」だが、直接的ないじめがなくなったかわりに「あいつは暴力的だ」と言いふらされ、学校では孤立した。「つらかったけれど、“やられたら絶対に倍返ししてやる”という気持ちがどこかにあった。お笑い芸人になった今は、嫌なことがあったら全部、舞台の上でやってやる、という思いがあります。お笑いっていうのは、弱い人間にとって唯一の武器というか。だから、だいたい子どものときにいじめられたやつが、見返すためにやったりする」お笑いの世界に入ってから、芸人として芽が出るまでには時間がかかり、コンビを組んでは解散して、を繰り返した。結果、10人が村本さんのもとを去った。「28歳のときに父親から、“原発関係の人と知り合いだから、給料のいい発電所で働かせてやる”と電話がかかってきたんです。(現在の相方である)中川パラダイスが最後に組んでくれて、“3か月で『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)の準決勝まで進めなかったら解散しよう”って伝えて漫才をやったんだけど、期限までに準決勝にいけたのよ。それで、原発の仕事は断った。そのあと、漫才を見た島田紳助師匠が連絡をくれて、いろいろな番組でも名前を出してくれたので、世に出られる機会が増えた。『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系)に出演したときに、さんまさんから“村本どう?”って指し棒を向けられたのね。その瞬間に、“あれ、中学生のころに見ていた指し棒の先に、俺がいるぞ”と。あの喜びったら。感動したし、そのときに改めて“自分を救ってくれたのはお笑いだ”と気づいた。漫才とネタのおかげで世に出て生活ができて、親も安心させられて。自分というものが誰かに認められたような感覚があったの」2013年には『THE MANZAI』で優勝し、さらに売れっ子になった村本さん。しかし、次第に疑問を抱くようになる。「ふと考えたときに、よしもと(村本さんが所属する、吉本興業株式会社)は毎回、流れ星みたいなスターを作り出すのがうまいなって。でも、流れ星って石に戻るから、お客さんを集められなくなった石が、楽屋にまだゴロンゴロン転がっていたりするのよね。すると、また違う流れ星が作られる。その瞬間はバーっと光っても、自分の腕で売れているわけじゃなくて、よしもとがスターにしてくれているのよ。結局、自分はただの石。それと、漫才で救われたのに、いつの間にかネタがテレビ寄りになって、“売れるための手段”みたいになった。ネタがすごく寂しそうな顔をしている感じがしたんです。そんなときにアメリカのコメディーを見たら、舞台上で教育問題とか社会問題、貧困問題を、そして宗教や人種、政治についても、ばかばかと笑いにしていて。“世の中には、お笑いで気づかせてくれるものがこんなにあるんだ”と。それで(日本のお笑いよりも)、今はあっちのほうがカッコいいなと思って」■舞台は唯一の“呼吸する場所”最近、テレビではあまり見かけなくなった村本さん。政治的な発言を繰り返すうちに“干された”のか、上述の思いを抱き始めたからこその、ご自身の意思なのか。「ここでしか言えないんですけど、官邸からの圧力がね。安倍さんが直接、ルミネ新宿にある劇場の楽屋に来て“やめなさい”と。菅さんを引き連れて、当時ね。(笑)……本当の理由は、芸人同士でいじり合う関係が、あるときから幼稚に感じられたんですよ。例えば、とある番組では“私服がおしゃれな芸人”とか“モテる芸人”といった企画をやるじゃない。ああいうのを見て正直、小寒いというか、“いいおっさんたちが、高校生や女子大生ぐらいの層をいつまで狙い続けてるんだ”と。そもそも、番組に自分は“駒”として呼ばれているわけで、“こういう話をしてください”、“ここでケーキを食べてコメントください”って指示が入る。それに、テレビに出たら“この企画でどういうふうに笑いをとろうか”って考えるのにも時間がかかるし、打ち合わせもテレビ局やカフェに行ってやったりする。その時間を、面白くない企画には捧げたくなくて」企画ありきのテレビ番組を敬遠しつつも、舞台にこだわるのはなぜか。村本さんにとって、漫才とは何なのか。「舞台の上だけが、自分の言いたいことを言える場所というか。漫才とか独演会とかに置かれたマイクの前でだけは、思っていることを全部、出せるんで。1時間分の言いたいことがあるとしても、普通は1時間も一方的な話を聞いてもらえないわけですよ。でも、笑いがあってめちゃくちゃ面白かったら、1時間でも主張を聞いてもらえる。だから、俺にとって舞台は、本当に唯一の“呼吸する場所”なんです。めちゃくちゃ気持ちいいですよ、言いたいこと言えるっていうのは」一般的に、舞台はお金になりにくく、お笑い芸人は売れたら劇場を卒業するパターンが多い。だが、村本さんは違う。彼がネタを通してやりたいことは何か。誰かの声を届けたいのか、社会を変えることなのか。最終目的地はどこにあるのだろうか。「いろいろあるけれど、いちばんは自分がこの“考えすぎるとしんどくなる社会”を生き抜くための手段。あと、誰かが共感して笑ってくれたら、お互いラクになれるじゃない。俺も言ってラクになるし、笑って向こうもラクになるし。この前『THE MANZAI』で東日本大震災の被災者に関するネタをやったのね。というのも、震災から7年目に宮城県の気仙沼に行って被災者としゃべるなかで、いろんな声を聞いたわけよ。そこで、現地では“こんな救援物資は嫌だ”っていう大喜利をやっています、みたいなことを言っていて。例えば、古着の下着がバーっと届くのが嫌だとか、外国で買った薬は怖くて飲めないとか、ただでさえ体育館の中に人が住んでいて場所がないなかで、大量の千羽鶴をどこに置いたらいいんだ、とか。ただ、それは送ってくれる人には伝えられないと。自分たちの口から発してしまうと、被災者全員がワガママだと思われてしまうから。これを聞いたとき、個人的にめっちゃ面白かったんですよ。だから、いつかネタにするって約束したんです。それで今回、実際に披露したら、番組のプロデューサーを通して“地元の人みんな喜んでいます”って彼らからの声が届いたんですよ。自分がまず、面白いと思うからやった。その後に彼らが喜んでくれた。ということは、彼らと同じ状況に置かれている人たちもきっと喜ぶ。漫才にすると、そういうふうにして誰かがラクになるわけですよ」村本さんは、まるでジャーナリストかのように、あちこちを飛び回り、現場でたくさんの人と会っている。この活動には、自腹を切っているという。「例えば、福島に行ったらラーメンを食べて、そのついでに原発とかにも行って、原発のある町に友達ができて。そいつらから原発の話を聞くと面白いのよ。浪江や大熊、双葉とか原発事故のあったところでは、漁師さんたちは処理水を海に流すことに反対していると。でも、会津の奥のほうにある屋台村に行ってご飯を食べたら、“もう処理水を流してもいいんじゃない”って言っている人もいる。同じ福島でもいろいろな意見があるということを、その人たちから聞いて初めて感じるわけであって、それによって心が動いてネタができる。だから、ああだこうだと人としゃべるわけよ。一緒にお酒を飲んで、同じように泣いて、怒って。その帰りの電車のなかでガーッっと書いて作ったネタっていうのは、果てしなくお客さんの心をえぐる。頭じゃなくて、心で漫才をやりたいから、自分の心を揺さぶるために、人と会うことに時間を捧げる。そういうことだと思う」■アメリカの芸人と勝負して勝ちたい「アメリカのコメディーのほうがカッコいい」と感じたあと、スタンダップコメディーの動画を見て、アメリカに短期で留学し、コメディークラブでネタも披露した村本さん。アメリカと日本のお笑いとでは、何が違うのか。「日本の漫才って、ツッコミとボケとか、お互いにキャラを演じあっていて、ほぼコントなんですよ。本音や意見を出さないし、そのほうがいいとされている。社会問題を語るよりも芸能人をいじっているほうが、誰からも攻撃されないから。原発や沖縄の基地を叩いたら、すごくクレームがくるし、ネタにされて浮くから、みんな触れたがらない。でも、アメリカの知り合いに聞いたら、向こうでは“むしろ社会的な問題に触れない芸人のほうが、ネタにされるのが当たり前だよ”と。それと、日本では芸能ニュースのことを“時事ネタ”って言っている時点で、すごく頭が悪い感じがして。世の中にはもっと重要な問題があって、アメリカでは、社会に根づいたお笑いをやっている。日本だけらしいですよ、ネットのトップニュースが芸能ばかりなのは。あれがもうダメなの、俺は。アメリカと日本のお笑いを考えたときに、向こうの芸人は実体験をもとに話をして現実を突きつけるけれども、日本の芸人は現実から逃がすというか、何も考えずに楽しませるテーマパーク的な感じがある。でも本当は、テーマパークの外では爆弾が落ちてきたり、たくさんの人が死んだり、苦しい思いをしていたりするわけ。社会学者の宮台真司さんが言っていたけど、“ニュースを伝えるには、正しいだけじゃだめ。正しくて楽しくないとだめなんだ”って。だから、(アメリカのように)真実に面白さを加えることで人の心に入っていくっていうのが、お笑いのすごいところなのかなと」村本さんのことを“売れないからアメリカへ逃げるんだ”などと揶揄(やゆ)する人もいる。しかし、今もよしもとの劇場では出番がたくさんあって笑いをとっており、日本を離れる必要がないようにも見える。だが、彼にはどうしてもアメリカに行きたい理由があるという。「自分の周りの環境が芸人を作ると思うし、面白さって伝染するんですよ。面白いやつといるやつは面白いし、面白くない仲間といると、面白くないんですよね。アメリカに行って感じたのは、“地球温暖化に対してここまでバカバカしく語れるんだ”とか、黒人の芸人が“どうして黒いバンドエイドがないんだ、俺たちはケガしちゃいけねえのか”と怒っていたのが最高に面白くて。そういうパンチラインを連発していて、まじで“こいつら最高だな”と。さらに言うと、お笑い芸人はホワイトハウスの晩餐会に招待されて、そこでケネディやクリントン、トランプなど歴代の大統領のことを思いっきり“ディスる”んですよ。ブッシュ元大統領に対しても、イラク戦争についてボロカスに言うし。大統領が目の前にいるんですよ。それでも、招かれた芸人は真実を言ってブワーっと笑わせる。しかも、そこで芸人と自分の考えが違ったとしても、あきれ返ってみんな笑うわけ。ところが、日本では『桜を見る会』とかでお互いに利用し合ってるだけじゃないですか。政治家は“こんなに芸能人を呼べるんだぞ”、芸能人は“私たちはすごい場所に呼ばれてますよ”と、お互いブログに一生懸命書いて、宣伝活動。ブルジョワ気取りのばかどもが、ああいうふうにやってるわけですよ。俺はね、“お笑い芸人、何しにあそこに行ってるの。その場であいつらディスって笑い取ってくれよ。めちゃくちゃ面白いこと、いっぱいあるのに”って。だから、俺はお笑いの本場に行ってみたい」いつも“衝動で生きている”という村本さん。今の目標は「本場(アメリカ)の芸人とガチで勝負して勝ちたい」という。日本でまた村本さんの舞台を見られる日があるのか。渡米前に、ぜひ村本さんの生のお笑いを見て、本音を聞きたい。(取材・文/お笑いジャーナリスト・たかまつなな)●YouTube村本大輔×たかまつなな生対談【忖度なし、タブーなし】はこちらからURL→●村本大輔リアル独演会「Without me〜おれを排除してみな?お前たちおれなしじゃこの世界はとてもつまらないだろう」開催!・in東京2月16日(火)19時〜会場:LINE CUBE SHIBUYA(東京都)・in大阪2月22日(月)19時〜会場:大阪市中央公会堂 大集会室(大阪府)チケットぴあにてチケット発売中※予定枚数終了しだい発売終了URL→●ZOOM独演会も開催中。詳しい情報は下記TwitterでURL→
2021年02月10日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「パリ協定から5年」です。各国、目標値を上げているなか、日本は大丈夫?昨年12月、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」の採択から5年を記念し、首脳級の会合がオンラインで開催されました。ここで70か国以上の国と地域の首脳が気候変動への取り組みの強化を表明しました。COP(国連気候変動枠組条約締約国会議) 21でパリ協定が採択される前は、先進国と新興国の間で環境対策に溝がありました。それが両者を含めた70か国以上の首脳が「2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロに」「世界の平均気温の上昇を、産業革命前に比べて2度未満に抑える」という目標を掲げて合意したのです。気温は年々上昇し、目標まで残り30年となり待ったをかけられない状況となりました。早く目標を達成したほうが企業価値も上がりますから、各国で対策競争が始まっています。EUは、温室効果ガスの排出を1990年に比べて55%削減に合意したと表明。中国は2030年までに温室効果ガスの排出量のピークを迎え、それ以降は減らす努力を、二酸化炭素の排出量は2030年までに2005年に比べて65%以上削減する方針を明らかにしました。アメリカは、トランプ前大統領時代にパリ協定から離脱しましたが、バイデン大統領は復帰の文書に署名しました。そんななか、菅政権は脱炭素を謳い、2050年までに温室効果ガス排出を全体としてゼロにする方針を示しました。しかし、日本では2011年の福島第一原発事故以降、石炭火力に頼っています。原発を動かさないかぎり目標は達成できないのではないかと懸念されています。各自動車メーカーでは大急ぎで電気自動車化を進めており、トヨタでは電力に頼らない“からくり”で動く工場を導入。パナソニックは太陽光発電や風力、バイオマスを使った、CO2ゼロ工場を推進しています。全日空は食品廃棄物で作られた燃料で飛行機を飛ばす取り組みを行い、日本航空はアメリカの企業に出資し、家庭ゴミを原料とするバイオジェット燃料の調達を目指しています。原発の安全性の問題はまだ未解決です。地元が抱える課題がクリアにされないまま、再稼働を進めることはないようにしていただきたいと思います。堀潤ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。映画『わたしは分断を許さない』が、2/5までポレポレ東中野でアンコール上映中。※『anan』2021年2月10日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2021年02月09日チョコレートの原料、カカオの産地は社会問題と縁が深い。またギフトとして誰からも喜ばれるアイテムだけに社会貢献度も大きい。コロナ禍の今こそ、誰かの役に立つチョコレートを選ぼう。1.日本の観光地を支援。海外はもちろん国内の客も激減する昨今の観光地。そんな地域の観光産業を守りたいと立ち上がったチョコレートがある。ご当地キットカット(様々な地域商品あり)地元の名産品の味を使用したキットカット。1商品あたり10円を、日本観光振興協会を通じて全国の観光地域に寄付する。各500円(ネスレ 0120-00-5916)2.児童労働をなくすために。カカオ原産地の多くは貧困で、子供も労働力として幼い頃から働かされる場合が多い。その問題解決に役立つチョコレートが注目されている。明治ザ・チョコレート森永チョコレート【マイルドミルク】1.明治ザ・チョコレート技術や生活などの農家支援活動をすることで、地域のカカオ豆の生産が持続可能なものになるようサポートする。各220円(明治 0120-041-082)2.森永チョコレート【マイルドミルク】年間の寄付に加え、特別期間では商品1個につき1円を、カカオ産地の子供の教育支援や農家の持続的な経営のため寄付する。(森永製菓 0120-560-162)3.難民のためにできること。紛争や災害などで国を追われた人への支援は、遠い他国の出来事ではなく、巡り巡って日本にも大きな影響を与える待ったなしの問題。難民を助ける会のチャリティ・チョコレート北海道〈六花亭〉製造。純益をすべて世界中の難民支援に活用。4種600円(税込)(AARJapan[難民を助ける会]0120-786-746 )4.医療従事者に寄り添う。コロナ禍にあって最前線で働く医療従事者の方々へ、感謝の気持ちや寄り添う想いを届けられる。そんなハートフルなチョコレートも生まれている。メサージュ・ド・ローズペタル・リナブルー売り上げの一部が新型コロナウイルス感染対策をはじめとする日本赤十字社の活動に寄付される。Webでも販売。1,836円(税込)(日本橋髙島屋 03-3211-4111(代))5.森林環境を守りたい。地球温暖化やカカオの乱獲のため、現在カカオの生産は危機的状況に。それを持続可能な営みへと変換する動きが始まった。meiji アグロフォレストリーミルクチョコレートチョコレートセレクション m1.meiji アグロフォレストリーミルクチョコレート森をつくる農業と呼ばれる「アグロフォレストリー農法」により栽培されたブラジル・トメアスー産カカオ豆を使用。181円(税込)(明治 0120-041-082)2.チョコレートセレクション mコートジボワールで日陰樹の植林を実施しながらカカオを栽培。森林保全とカカオの品質向上、収穫量増加を目指す。3種入り2,500円(imperfect 03-6721-0766)誰かの役に立つチョコレート。チョコレートの主原料であるカカオの生産地は主に赤道付近。その界隈は政治情勢の不安や地球環境の変化による被害を受けている場所が多い。カカオ農家の貧困に始まり、森林破壊、カカオの栽培やそれを担う人材が今後も安定して継続・発展してゆけないなど問題が山積している。貧困が故に子供は幼い頃から一家の稼ぎ手として働かされるため、学校に行けない。だから文字が読めず、お金の計算もできないので、大人になっても貧困から抜け出すことができない。そんな悪循環を断ち切って、持続可能なチョコレートのある世界を目指そうと解決に乗り出したのが、日本のチョコレートメーカーだ。彼らはカカオの農業指導から森林の管理や灌漑(かんがい)設備、農具のリースや子供の修学へのサポートまで、持続可能なチョコレートの生産のため、様々な取り組みを始めている。こうした「誰かのため」という動きは、地球の裏側だけでなく、身近なところでも始まっている。チョコレートはどんな人にも喜ばれるギフトだからこそ、様々な問題解決にも一役買うアイテムだ。例えば、コロナ禍にあって売り上げが低迷する観光地支援や、医療従事者などエッセンシャルワーカーを勇気づける品として。世界中の人への支援は、チョコレートが身近なのに、ギフトとして気持ちを伝えやすい特別なアイテムだからこそ実現できたこと。現代におけるチョコレートは、もう単なるお菓子じゃない。これからは地球全体の平和へと繋がる、ひとつのきっかけになるツールだといえる時代が来たのかも。(Hanako1193号掲載/photo : MEGUMI illustration : Hiromi Chikai text & edit : Kimiko Yamada)
2021年02月08日まだあどけなさが残る16歳のA子さん「高校を中退することになりました。家も追い出され住むところもないので働きたいのですが、コロナの影響でバイトも決まらず、パパ活を……」16歳の少女A子さんは、つらそうな表情で過酷な現状を語りだした――。おさまることのないコロナ禍で職を失う人が多い中、“パパ活”を通じてお金を得る女性が急増している。パパ活とは、女性が食事やデートに付き合う見返りとして、「パパ」である男性から金銭を受け取ることだ。性交渉を伴う援助交際とは異なり、表向きは健全な関係が前提とされているが、実態は売春行為も横行している。18歳未満のパパ活は、パパ(男性)側が児童福祉法違反や未成年者略取の罪に問われる可能性があり、最近は事件化していることが多い。東京都内に住む高校生のA子さんも、やむをえない理由からパパ活にいそしんでいる。■コロナで仕事がなくなり、パパ活を始めた「実の母親はキャバ嬢でしたが、5歳のときに薬物中毒で亡くなりました。父親は元客で、顔も見たことがありません。それで、里親に引きとられて生きてきました。毎月、家に2万円入れなければならず、スマホ代や食費、洗剤なんかも必要なので、月に15万円は必要なんです」未成年の高校生がここまで困窮(こんきゅう)していることがそもそも問題だが、コロナ渦でさらに厳しい状況に。「以前は遊園地のバイトやガールズバーなどで働いていましたが、コロナで仕事がなくなった。それで、昨年の11月にパパ活を始めました」これまでツイッターを通じて7~8人の男性と会ってきたというA子さん。「もともと興味があったのと、ラクに楽しく稼げるかなと思って。ごはんと買い物だけで、総計で10万円くらいもらいました」会うときには1回あたり1時間で5000円、交通費として2000円。計7000円をパパから受け取るというが、危なくないのか。「今のところ危険な思いをしたことはありません。身体の関係を求めてくる人もいますが、年齢を理由に断っています。あまりに高額を提示してくる人も逆に信じられませんね。最近はスマホが止められているので、駅のWi-Fiなどを使わなければならず、会うときは大変です(笑)」里親との実家暮らしながら、食事は閉店前のスーパーで割引の惣菜を買うほどお金に困っているA子さん。ただでさえ生活が苦しい中、追い打ちとなったのが……。「1月中に家を出ることになったんです。夜の仕事で昼夜が逆転し通えなくなったこともあり、3月に高校を中退することになって。うちは厳しい家庭で“やめるなら自立しなさい”と言われたんです。親が自立用に貯めてくれたお金がありますが、これだけでは初期費用でなくなってしまいます」仕事のないA子さんは、パパ活の収入がなければ生きられない切迫した状況だ。■容赦なく求められる「身体の関係」東京近郊に暮らすB子さんもパパ活を収入源としている。大人びた雰囲気はあるが、まだ18歳の少女だ。「うちはシングルマザーの家庭で、家にお金も入れなければならず大変で……」高校に通いながらキャバクラや飲食店などで働き、月に10万円ほどを得ていたB子さん。「コロナでシフトが入れなくなり、12月に辞めました。それで、パパ活を始めたんです。1時間で8000円のお手当と、4000円の往復電車代をいただいています」これまで2人の男性と顔を合わせたが、危険な目にも……。「20代の男性と会ったのですが、相手に恋愛感情を抱かれてしまい、もめました。ツイッターでやりとりしているほかの男性に嫉妬(しっと)して連絡してきたり、ストーカーまがいのことまで。2回会いましたが結局、連絡を絶ちました」もう1人の男性はというと、「30代の方で、“僕はMだから尻を蹴ってほしい”と頼まれました。カラオケ店の個室で応じていたら途中で衣服を脱いで全裸になられてしまい、手は出されませんでしたがイヤでしたね」困惑した様子で語るB子さん。ほかにもツイッターのDM(ダイレクトメッセージ)で突然、陰部の画像を送りつけられたり、会う約束をドタキャンされて交通費が無駄になったりなどさんざんだ。2人に共通するのは、未成年にもかかわらず生活費のために酒を出す店で働き、コロナ禍でその仕事を辞めざるをえなくなったこと。そして、“パパ”たちから容赦なく「身体の関係」を求められることだ。B子さんはこの1か月で100人ほどの男性から性交渉を求めるメッセージを受け取っており、危険を見極めるのに苦労しているという。こうした状況について、パパ活プロデューサーのゆうと氏は次のように指摘する。「ツイッターの出会いは見ず知らずの人と会うので、トラブルになるケースが多いです。性行為をしたのにお金を支払わない“ヤリ逃げ”も多いですね」ゆうと氏は1000人以上の女性が在籍するパパ活女子のための情報交換サロンを運営しており、日々数多くの相談を受けている。過去の悪質な例を挙げてもらうと、「お金を渡すときに空の封筒でごまかしたり、“後で月払い30万円を渡すから”と言って逃げたり。ネットバンキングで振り込みの予約画面を見せて振り込んだと思わせ、後でキャンセルするといったケースも発生しています」不払い以外にも危険は多く……。「最近、ひどかったトラブルは、男性の部屋で身体の関係をもった女性が、こっそり盗撮をされていたこともありました。それが動画販売サイトで販売されていたんです」最近はコロナ禍でパパ活をする女性が増えたこともあり、ちゃんとした知識を持たずに被害に遭う女性も多い。前出のA子さんは、「ただでさえコロナで働き口が少ないのに、未成年の私は雇ってもらえません。今月中に家を出るので新しい家を探してますが、親に保証人になることを拒否されたので不動産会社に相手にもされず、最悪ホテル暮らしをすることになりそうです。空いた時間にパパ活をして稼がないと……」A子さんは保育士になるのが夢だったというが、高校を中退すれば資格も取れないとあきらめ顔だ。16歳の高校生らしいあどけなさが残っているが、その表情の裏には絶望と悲壮感が漂う。コロナが深刻化し、未成年の少女までもが危険に直面している。彼女らがパパ活をやめ、自立した生活を送れる見通しはまったく立たない……。
2021年01月16日