2022年7月10日 06:00
高田馬場名物立ち食いそば屋が閉店に 女性店主供する天玉そばの味染みて
それなのに釣りに凝ると、幻の魚・イトウを探して北海道へ行ったきり1カ月も音信不通というありさまで、生活の負担は全部私にかかっていました」
彩華さんは、女の子3人、男の子1人の子供4人を抱えて、父の寿司屋を手伝いながら、なんとか生計を立てていたが、あるときその父が言った。
「うちの前を、朝も昼も学生やサラリーマンなど大勢の人が通り過ぎていくだろう。うちの寿司屋は昼間は場所が空いているんだから、立ち食いそばでもやってみるというのはどうだい」
東京オリンピック後、都内の駅前を中心に、あちこちに立ち食いそば屋が出現し始めていた。
彩華さんは、すぐに神田の立ち食いそば屋へ修業に出た。背中には、まだ生まれたばかりの赤ん坊を背負ってねぎを刻み、どんぶりを洗い続ける。
流れる汗を拭いながら、自分に言い聞かせていた。
「この子たちは、私が立ち食いそば屋をして、立派に育ててみせる。絶対に負けない」
■夫の胃がんの治療費などで貯金が残高700円に。
「立ち食いそばで頑張るぞ」が店主の矜持
負けず嫌いな彩華さんは、味にも徹底してこだわった。
「天ぷらは横浜の仕出屋さんから仕入れ、麺も大手製麺所に特注して。