「自分は本番に強い」と断言できる人もいるにはいるのでしょうが、しかし現実的には「ついつい緊張してしまう」というタイプのほうが圧倒的に多いはず。『緊張しても乗り切る!「あせらない自分」のつくり方』(森川陽太郎著、大和書房)の著者も、それは決して特別なことではないのだといい切ります。どれだけ焦らないように準備をしたとしても、本番になれば少なからず緊張してしまうものなのだと。現在はメンタルトレーナーでありながら、「元サッカー選手」という変わった経歴を持つ人物。26歳での引退後に心理学やメンタルトレーニングを学び、これまでに多くのビジネスマンやトップアスリートのメンタルトレーニングを受け持ってきたのだといいます。興味深いのは、「自分の力を正しく把握する」ことこそが大切なのだという考え方。まずは「焦りがあって当然なのだ」と自覚し、そのうえで「焦らない人」ではなく「焦ってもできる人」を目指す。そうするにあたっては、「自分の力」と向き合うことが大切だと主張するのです。そしてその際、意識しておくべき大切なことがあるといいます。■「0か100か」の完璧主義は危険著者によれば、自分の力を発揮することが苦手な人の多くは、完璧主義の傾向があるのだそうです。そしてこのことを考えるにあたって無視すべきでないのは、完璧主義の人は「0か100か」という尺度で自分を評価してしまいがちだということ。そういうタイプは、すべてが完璧であれば満足できるものの、少しでも間違ったりミスがあったりすると、自分を「0点評価」してしまうというのです。たとえば、会議の時刻までに間に合わせようと思って資料をつくったところ、図表のデータを間違ってしまったとします。そんなとき完璧主義の人は、「やっぱり焦るとダメだな」「焦って失敗してしまった」という具合で落ち込み、自分の能力そのものを否定してしまうということ。しかし、この考え方に問題があることを著者は指摘しています。■間違えても現実的に評価してもよいそもそも、物事はすべて完璧にいくとは限らないもの。データを間違うくらいのことは、誰にでも起こりうることであるわけです。なのに、そういうところでいちいち自分を0点評価していたら、いつまでたっても自分に満足できなくて当然。もちろんミスはないに越したことはありませんし、資料のデータは正しいほうがいいに決まっています。しかし図表のデータをひとつやふたつ間違えたとしても、会議自体は成立するはず。間違った箇所については、「すみません。間違えました」と告げ、正しい数字を口頭で伝えれば支障なく乗り越えられます。つまり、「焦ってちょっとデータを間違ってしまったけれど、それ以外の部分で伝えたいことはひととおり話せたから、70パーセントの出来かな」と現実的に評価してもよいということです。■細かく数値化した自己評価が大切!では、焦った状況において、自分がどれだけのパフォーマンスを発揮できたのかについては、どのように判断すればいいのでしょうか?そのためには、その時々の自分の出来を、具体的な数字で表してみることが大切なのだと著者はいいます。「焦っても60パーセントはできた」「75パーセントはできていたと思う」というように、細かく数値化して自己評価してみることが大切だというのです。著者は「焦った自分」を受け入れるための手段として、一週間に一度、10分程度でもいいので、自分が焦っているときのことを考える時間をつくってみることを勧めています。そして「今週の焦ったことベスト5」をノートに書き出してみると、自分の焦りのパターンや傾向がつかめるようになるというのです。それに加え、同じノートに、「焦っても何パーセントできたのか」も記入しておくのもひとつの方法だといいます。■実際どれだけできたのかを把握する失敗したとき、「ダメだった」のひとことで片づけるのは、もしかしたらいちばん簡単なことなのかもしれません。ただし簡単であったとしても、そこから前向きななにかが生まれる可能性は著しく低いと考えるべきでしょう。つまり大切なのは、たとえ失敗したとしても、「実際にはどれだけできたのか」を把握しておくこと。それこそが次のステップへとつながり、ひいては「あせらない自分」を形成していくということです。*他にも本書では、さまざまな角度から「あせらない自分」をつくるためのメソッドを公開しています。緊張しがちだという方は、ぜひ参考にしてみてください。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※森川陽太郎(2016)『緊張しても乗り切る!「あせらない自分」のつくり方』大和書房
2016年04月03日「なかなか英語が話せない」「リーディングはできるけれど、リスニングがダメ」「ネイティブと話すとき、コミュニケーションが不安」英会話についてこのような思いを抱いている方も多いと思いますが、そこには大きな理由があると説くのは、『60万人が結果を出した「ネイティブ思考」英会話トレーニング』(ダン上野Jr.著、あさ出版)の著者。こうした悩みを持つ人が一向に減らないのは、大半の日本人が「間違った方法で英語を勉強している」からだというのです。いいかたを変えれば、思考回路に違いがあるということ。具体的に考えてみましょう。■日本人が英語で文を作ると「返り読み」が問題に日本人の場合は、(1)まず頭のなかで英語を日本語に訳し、(2)理解し、(3)伝えたいことを英作するという順序を踏むはず。いっぽうネイティブは、(1)英語を理解し、(2)そのまま英語で伝える。このように違うわけで、そこを理解したうえでトレーニングをしないのなら、英語は上達しなくて当然だということです。最大の問題は、日本語の語順になおした読み方である「返り読み」。これがクセとして染みついてしまっているため、いざ英語を話そう、聞こうというときになって、いろいろ無理が生じてくるのです。だとすれば当然ながら、そこには日本語と英語の「語順の問題」が絡んでいることになるでしょう。■センスグループごとに話す「SIM方式」が便利しかし、それなら語順の問題さえクリアすれば、「返り読み」をすることもなくなるはず。そこで重要なのが、英語と日本語の「語順の違い」を認識したうえで「英語の語順」で考えるトレーニングだといいます。次のように「センスグループ」(意味のまとまり)ごとに英語を区切り、そのつど内容を理解していくトレーニングをすればいいということ。(例)We are delighted(我々はとても喜んでいます)to have found(見つけて)a perfect partner(最高のパートナーを)in SK Foods.(SKフーズという)(38ページより)つまりセンスグループごとの情報を、返り読みせずにどんどん脳にインプットしていくのです。これが、著者のおすすめする「SIM方式」。この方法で英語を読むと、「英語の語順」で文頭から文末まで一直線に「返り読み」することなく理解することが可能。最後のセンスグループを読み終えると同時に、文章全体の意味も取れているので、スピーディに、正確に英語が理解できるようになるわけです。日本人がしゃべり出すまでに時間がかかってしまうのは、頭のなかで英作文してから「一気に」話さなければならないと誤解しているから。しかし「センスグループごと」に「英語の語順」で「少しずつ」話せば、会話のレベルはぐっと上がるのです。■「ニュース英語」が英語学習に最適な5つの理由しかし英語学習で大切なのは、やはり継続することです。そこで著者がオススメしているのが「ニュース英語」を活用すること。なぜニュース英語が最適なのかについては、次の5つの理由があげられるといいます。(1)「発音」が正しくクリアニュース英語は高い公共性を目指しているため、発音が正しくクリア。だからこそ、「ニュース英語は英語学習に最適である」といえるのだそうです。(2)癖や訛りのない「標準語」であるこれも(1)に通じますが、「ニュース英語」は当然ながら、癖や訛りのない標準語によってつくられているもの。ですから安心して学習でき、自信を持って話せるようになるわけです。(3)「文法」がしっかりしている。ニュースの公共性という観点から、正しくしっかりした「文法」が使われています。そこで、意味や内容を正確に把握できるようになるということ。(4)現在の社会を反映した「時事英語」が使用されているこれはとても重要かもしれません。ニュース英語を学ぶことにより、時代の先端をいく英語が身につくのですから。また生活に身近な話題が多いので、学習意欲も自然と高まっていくことに。(5)多種多様で広範多岐にわたる内容知識が豊富になり、世界情勢に詳しくなることも可能。だから、実際のビジネスでもすぐに役立つわけです。*英語のニュースを見る習慣をつけるだけで英会話力が高まるなら、それはぜひ試してみたいところ。そうすれば「SIM方式」も、無理なく身につけられそうです。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※ダン上野Jr.(2016)『60万人が結果を出した「ネイティブ思考」英会話トレーニング』あさ出版
2016年04月02日集中のコツは、心の強さに頼るのではなく、「集中力を引き出すワザ」を知り、使いこなすこと。そう主張するのは、『机に向かってすぐに集中する技術』(森健次朗著、フォレスト出版)の著者。現在の肩書きは「集中力プロデューサー」ですが、それ以前はミズノ株式会社に勤務していたという人物。10年間のべ15万人の人々に対し、「どうすれば集中力を高められるのか?」を指導してきたのだそうです。その当時には、シドニーオリンピックで12個の世界新記録を生んで注目を浴びた、「サメ肌水着」を開発した実績をお持ちです。本書ではそのような実績をベースとして、集中力を自由自在に引き出すためのメソッドを紹介しているのです。ところで著者は、本書のなかで興味深い主張をしています。リラックスした状態で集中力を持続させるためには、深呼吸が欠かせないというのです。しかも、ひとことで深呼吸といっても、ただ深く気を吸って、履けばいいというものではないのだとか。深呼吸にも、きちんとしたやり方があるということです。リラックスするためにいちばん効果的な深呼吸として、著者は“5、3、8深呼吸”を勧めています。あまり聞きなれない名称ですが、いったいこれはどんな深呼吸なのでしょうか?■息を吐き出す作業を意識するまずは、イスに腰掛けます。そして座った状態で方をギュッとあげ、ストンと脱力。その後、膝の上に両手を置き、手のひらを上に向けます。次に軽く目を閉じ、鼻で5秒間、大きく息を吸い込みます。このとき、キレイな空気を全身の細胞の隅々まで届けるイメージで、息を吸い込むといいのだとか。鼻で5秒間、息を吸い込んだら、次は3秒間、息を止めます。これは、息を吸い込む作業、息を吐き出す作業を、それぞれ明確に意識させるためなのだそうです。「吸って、吐いて」「吸って、吐いて」という作業を単純に繰り返しているだけだと、その境界線が曖昧になってしまいがち。しかし一度息を止めれば、そこに境界線が生まれることになります。だから、息を吸う作業も白作業も、しっかりと意識的に行うことが可能になるというわけです。■気が散ることを解消できる!息を3秒間止めたあとは、イヤな気持ちや体のなかの汚れた空気を吐き出すイメージで、ゆっくり吐き出します。なお、口から息を吐く時間は、8秒間。5秒吸い、3秒止めて、8秒吐く。この作業を、3回ほど繰り返すというのです。これが、著者が奨励する深呼吸の正しいやり方。5+3=8だから、5、3、8深呼吸だというわけです。たったそれだけで、「ああ、リラックスできているな」と実感できると著者。そればかりか、「気が散る」ということを解消できるのだともいいます。■呼吸に集中すると効果を発揮「5秒、3秒、8秒」という深呼吸は、3回やるだけで大丈夫。しかし、目を閉じて、この作業を5~10分間行うと、それは「瞑想」になるのだそうです。シリコンバレーでブームになっていることからもわかるとおり、瞑想にはリラックス効果があるといわれています。目を閉じて深呼吸を繰り返すわけなので、リラックスできるのはむしろ当然だといえます。頭を空っぽにしようとすればするほど余計なことを考えてしまいがちですが、そんなときに効果を発揮するのが、呼吸に集中すること。「5秒、3秒、8秒」という呼吸のタイミングだけに、とにかく集中するということです。呼吸に集中することさえできれば、雑念がわきにくくなり、瞑想のリラックス効果を得やすくなるのだといいます。深呼吸と違って、瞑想には5~10分程度の時間を要するわけですから、忙しい人は実践がなかなか困難かもしれません。だからこそ瞑想は必須ではないものの、もし時間がとれるのでれば試してみてほしいと著者はいいます。*呼吸に集中すると、雑念がわきにくくなり、瞑想によってかなり高いリラックス効果が得られるそうです。ちょっとした空き時間を利用するだけで、気分が変わるかもしれません。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※森健次朗(2016)『机に向かってすぐに集中する技術』フォレスト出版
2016年04月01日物事を習慣化するのは、現実的にとても難しいこと。何度もチャレンジするも、そのたびに失敗してしまうという方もいらっしゃるのではないでしょうか?しかし、習慣化がうまくいかないことには理由があるのだと説くのは、『自分を変える習慣力』(三浦将著、クロスメディア・パブリッシング)の著者。人材開発コンサルタント・エグゼクティブコーチであり、「コミュニケーションの質が企業を変える」という観点から、アドラー心理学やコーチングコミュニケーションに基づいた手法によって企業の人材育成や組織開発をサポートしているのだそうです。そんな著者によれば、習慣化がうまくくいかないのは、自分自身が意識していない心の奥底の深いレベルで、潜在意識の強烈な抵抗を受けているから。気持ちは前に進もうとしているのに、心の奥では気づかないうちにブレーキがかかっている状態だというのです。そこで潜在意識の特性を理解して抵抗を受けない状態にし、潜在意識を味方につける。それこそが、習慣化を進めるために大切だということ。ただ理屈ではわかっていても、ついつい三日坊主になってしまいがち。だとすれば私たちは、どのように三日坊主を回避すればよいのでしょうか?■自分を観察してやり方を見つける取り組むべき習慣が見つかり、その習慣化の具体的な目標が決まったら、次は「自分に合ったやり方を見つける」段階。その際に大切なのは、「自分を知る」ことだと著者。そのためには、自分のクセや行動パターンを観察することが肝心。自分を観察しながら、もっとも快適な状態で習慣化に取り組める環境をつくることが大切だというわけです。たとえばダイエットを例に挙げるなら、「運動で何割、食事コントロールで何割減らすか?」というような詳細を考えてみるべきだということ。■行動と快の感情と毎日結びつける習慣化の行動をすることと、快の感情を結びつけることも大切なポイント。たとえば誰にとっても、よい思い出と結びついた曲があるもの。そんな曲を、習慣化の行動をしているときに聴くことが効果的なのだそうです。朝のジョギング中に聴くなど、「その行動の最中に聴く」ことによって、快の感情が高まっていくことに。そしてそれを毎日繰り返すことで、潜在意識が「習慣化の行動をしていること=快」と認識しはじめるというわけです。すると潜在意識が安心し、深い結びつきができてくる。そして、行動の持続のために潜在意識が力を貸してくれるようになるというのです。また、そのお気に入りの曲を、習慣化の行動をしているときだけ聴くというルールをつくっておくと、さらに効果的だそうです。■行動しやすいパターンを見つけるもうひとつ重要なのは、「行動しやすいパターンを見つける」こと。たとえば、「その日にあった“よかったこと”を、毎晩寝る前に1行以上日記につけておく」ということを習慣化したいとします。しかし寝る前といっても、お風呂から上がったあと、歯磨きをしたあと、床に着く直前などさまざま。そのなかから、どの行動をする前や、どの行動をしたあとが自分にとっていちばん行動しやすい時間なのか、パターンを試してみるべきだということ。■目標が同じパートナーを見つけるそして、習慣化の種類によってはもっとも強力な方法が、「一緒に習慣化に取り組むパートナーを見つける」ことなのだといいます。なぜならダイエットや運動、英語の上達など、同じ目標を持つパートナーと一緒に進めていくことによって、やる気が高まり、中だるみを防ぐこともできるから。さらにもうひとつのメリットは、習慣化のやり方について、お互いの意見や実体験からのアイデアを交換できること。それにパートナーがいると、お互いに刺激し合うことができたり、楽しく進めたりすることが可能になるわけです。なお経営者やグループリーダーの方は、会社ぐるみやグループ全体で習慣化に取り組むのもよいそうです。昼休みの20分程度のジョギングや、有志だけの朝食ミーティングなど、ダイエットや早起きの習慣をみんなで促進していけるアイデアは数多いので、やってみる価値はあるということです。*習慣化にとって大切なのは、「がんばらない」「無理をしない」ということだと著者はいいます。習慣化に関するひとつひとつの活動が負荷のかかりすぎるものだと、長続きしないわけです。だからこそ、最初は成果が出ることを期待せず、定着に重きを置く姿勢が大切。それが、習慣化の成功につながるということです。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※三浦将(2016)『自分を変える習慣力』クロスメディア・パブリッシング
2016年04月01日好むと好まざるとにかかわらず、現実的に離婚の話し合いの真っ最中だという方もいらっしゃるでしょう。あるいは、これから頭の痛い展開になることを予感しているところかもしれません。いずれにしても、離婚に際して泥沼にハマるようなことはさけたいものです。そこで、離婚問題に直面している方におすすめしたいのが、『こじらせない離婚―――「この結婚もうムリ」と思ったら読む本』(原口未緒著、ダイヤモンド社)。離婚の問題を専門とし、これまで約400人の離婚相談を受けてきた弁護士である著者が、タイトルどおり離婚を「こじらせない」ための策を説いた書籍。ところで離婚に際し、よく話題に上がるのが「慰謝料」です。しかし現実的に、「慰謝料のリアル」について語られる機会は意外に少ないもの。そこできょうは本書から、慰謝料についての大切なポイントをピックアップしてみたいと思います。■慰謝料をぶん取って復讐したい!「夫に浮気をされた。しかも不倫相手は妊娠している。だから復讐のために、慰謝料をぶん取りたい。離婚についてはどっちでもいいけれど、あの2人がいちばん困ることをしてやりたい」よくあるこんな相談を、著者も受けたことがあるそうです。でも、そのときにはこう答えたのだとか。「率直に申し上げるんですが、相手を懲らしめてやりたいと考えるのは、たぶんやめたほうがいいです。なぜなら、うまくいかないから」たしかにこのようなケースの場合、浮気された妻が慰謝料を請求できるのは明白。しかし、そのまま2人を心から恨んだまま慰謝料請求の手続きをしても、離婚を拒否して調停や裁判をしたとしても、その結果として多額の慰謝料をもらったとしても、きっと浮かばれない。幸せにはなれない。そういうイメージが、はっきりと思い浮かぶというのです。■被害者意識がドロ沼の原因になるご夫婦がどのような結婚生活を送っていたのか、おふたりがどのようなことを考えて毎日を過ごしていたのか、それは不明。ましてや、長い結婚生活の間に一度や二度の浮気があっても仕方がないなどというつもりもない。それを前提としたうえで、著者にはひとつだけ言えることがあるといいます。どちらかに不貞行為があった場合、その原因が100%相手にあると「考えない」ほうが、その後の離婚交渉がうまくいくことが多いということ。苦しさをお金に変えて、その後の生活の糧にするのは間違いではないでしょう。ただし、その場合でも被害者意識を持っていると、なぜかうまくいかないのだそうです。その理由について著者は、「相手が100%悪いと思っているときは、その怨念に引きずられ、客観的な判断ができなくなるからではないか」と考えているそうです。■慰謝料の「相場」はどのくらい?しかしそれでも、慰謝料を請求したいという気持ちを抑えられないことだってあるかもしれません。だとすれば次に考えるべきは、「いくら請求するか」ということになるはず。でも、不貞の慰謝料の相場とはどのくらいなのでしょうか?この問いに対しての前提は、「結婚していた期間、不倫していた期間、頻度、同棲までしていたのかなどの不貞の内容、相手に子どもがいるかどうかなど、さまざまな要素が考慮されるので一概にはいえない」ということ。それを踏まえたうえで、著者は「子どもができたら200万円はくだらない」といわれていると答えています。ただし、それは裁判までいった場合の話。示談する場合は、もっと高い金額が払われることはよくあるといいます。とはいえ慰謝料を「心の隙間を癒すための金額」と考えると、値段をつけにくくもあります。■慰謝料は「支度金」と考えるべしそこで著者はよく、慰謝料はあたらしい生活をはじめるための「支度金」だと考えるのがいちばんいいと伝えているのだとか。離婚するということは、新しい生活をはじめるということ。引越し費用のみならず、家具や家電までも含め、さまざまな資金がかかります。また、専業主婦の場合は新しい仕事を見つけるための時間や、仕事が軌道に乗るまでの生活費もかかることになります。これらを「支度金」と考えると、前向きに考えやすくなることに。数字に根拠ができるので、相手へのプレゼンもしやすくなるというわけです。また払う側も、次の人生を踏み出してもらうためのお金だと思えれば、財布を開きやすくなるもの。著者によれば、離婚を機に、資格を取るために学校へ通ったり、海外に留学したり、転職したりする人も多いのだとか。新しい環境に身を置くことで、離婚によって生じる喪失感も、比較的早く癒されるというわけです。慰謝料に関しては、感情に流されることなく、冷静な視点を持つことが大切なのでしょう。*著者によれば、離婚をこじらせてドロ沼化する人と、そうならない人との差は「心の整理の仕方」にあるのだとか。だからこそ、整理方法を身につけるためにも、ぜひ目を通しておきたい一冊だといえるでしょう。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※原口未緒(2016)『こじらせない離婚―――「この結婚もうムリ」と思ったら読む本』ダイヤモンド社
2016年03月30日『「やさしさ」という技術――賢い利己主義者になるための7講』(ステファン・アインホルン著、池上明子訳、飛鳥新社)の著者は、スウェーデン・ストックホルムのカロリンスカ医科大学の分子腫瘍学教授、がん専門医。またその一方、スウェーデンにおいては「倫理」についての講義・講演も高い評価を得ているのだとか。著作も多く、特に、倫理的に生きることの意義と効用に焦点をあてた本書はベストセラーとなり、北欧を中心に話題となったのだといいます。きょうは「成功」に焦点を当てた第6講「成功とは何か?」のなかから、興味深い項目をピックアップしてみたいと思います。意外なことに、「高収入」「名声」と求める人ほど幸福度が下がるというのです。■目標達成=幸せではない!なにを成功とみなすかについては、人それぞれ異なる考え方があります。そして「自分が目標とする高みに達するにはどうすればいいのか」について、ひとりひとりが日々考えを巡らせています。とはいえ、自分が設定した成功目標を達成したら、私たちは必ず満足できるものなのでしょうか?この問いに対して著者は、「残念ながらそうではない」と断言しています。にもかかわらず私たちはしばしば、「目標を達成すれば幸せになり、満足する」と信じ込んでしまう。たとえば大金を稼いだり、豪邸に住んだり、責任ある仕事を任されたり、理想の恋人を見つけたりすれば、自分の人生に満足できるだろうと思い込んでしまうわけです。■お金があっても低い満足度アメリカの大学で行われた調査によると、新入生の70%以上が「財力」こそ重要な人生の目標だと考えているのだとか(対して、人生哲学を深めることが重要だと考えている学生は、わずか40%)。では、実際にお金持ちになったらどうなるのかといえば、ある調査によると、高額の宝くじに当選した人の「人生の満足度」は、当選してから1年後には、当選しなかった人とほぼ同じになるというのです。同様に、なんらかの理由で収入が急増した人を対象に調査を行ったところ、彼らは一様に「満足度が高まったとは思えない」と答えたのだといいます。また、平均的なアメリカ人の購買力は、過去45年間で2倍以上になったそうです。でも、これを大成功といえるのでしょうか?1957年には、アメリカ人の35%が「自分はとても成功したと思う」と答えたのに、2002年には、同じ回答をした人は30%にまで減少。他の先進国でも、同じような傾向が見られたそうです。つまり、ここ50年間で経済は著しく発展したにもかかわらず、人々の満足度は上がっていないのです。一方、発展途上国での調査では、アメリカ人と同程度の満足度を感じているという結果が。ある経済レベルを下回ると満足度は下がるという結果も出ているものの、年収が約150万円に達すると、それ以上給料が上がっても満足度は上昇しないのだそうです。■高収入が目標だと不幸に!幸福度の関係を調べたデータによれば、「高い収入」や「仕事上の成功」、「有名になること」を目標にしている人は、「友人に恵まれること」や「いい結婚」を人生の重要な目標にしている人にくらべ、自分を「やや不幸」もしくは「とても不幸」だとみなす傾向が2倍になるというのです。そして41もの国を対象とした調査においても、成功と愛には大きな相関関係があることがわかっているといいます。愛を重視すればするほど、人は幸せになれる。しかしお金に高い価値を置いている人の場合は、正反対の相関関係が成り立つということ。端的にいえば、お金を重視すればするほど不幸になるというわけです。■真の成功目標を考えるべしなにかを達成したとしても、「成功した」と感じられない場合はよくあるものです。そんななかで重要なのは、真の成功目標と偽りの成功目標とを区別することだと著者はいいます。数々の研究が示すように、物質的なものを手に入れても幸せになることはめったにないもの。しかし、いい関係を手に入れると、満足と成功を実感できるようになるということです。*本書の説得力のひとつは、著者が医師であるということ。日常的に死と向き合う立場においての経験が生かされているからこそ、共感を呼ぶことにも納得できるのです。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※ステファン・アインホルン(2016)『「やさしさ」という技術――賢い利己主義者になるための7講』飛鳥新社
2016年03月29日マインドフルネスに関連した書籍は、過去にも取り上げたことがあります。簡単にいえばそれは、自分の意識や気持ちと向き合うことにより、ストレスを解消していく方法。『不安、ストレスが消える心の鍛え方 マインドフルネス入門』(大田健次郎著、清流出版)は、そんなマインドフルネスについて詳しく、そしてわかりやすく解説した書籍です。そのなかから、「7つの生きがい領域」と「4種の人生価値」を見てみましょう。■「7つの生きがい領域」とはまず著者が読者に対して問いかけるのは、次の7つの領域の、どれを生きがい、価値とするかということ。たいていの方は、優先順位の違うもので2つ以上あるといいます。(1)【家族・子育て】「現在の家族の平和を維持したい」「家族と平和に暮らせるようになりたい」「家族を破壊したくない」「家族の不和を解決したい」「子どもをうまく育てたい」「虐待しそうであるがしたくない」(2)【結婚・恋愛】「現在の結婚生活を維持したい」「結婚したい」「離婚したい」(3)【対人関係】「いまの友人関係を続けたい」「友人が欲しい」(4)【仕事・家事】「いまの仕事を続けたい」「職場に復帰したい」「仕事に復帰できなくても、家事ができ、買いものにいけるようになりたい」(5)【教育】「不登校を解消したい」「進学したい」「勉強を続けたい」(6)【趣味・社会活動】「引きこもりを解消したい」「社会に出られるようになりたい」「他者の苦悩解決を支援する活動に従事したい」「ボランティア活動、社会貢献活動をしたい」(7)【精神面の成長】「自分をよく知りたい」「自己評価を高めたい」「苦悩解決のために自身をつけたい」「生死観を確立したい」「病気(がんなど)がありながらも強く生きていきたい」「自己存在の意味について知りたい」■「4種の人生価値」はどれか7つの領域を確認したら、次にすべきは、それらが次の4種の価値のうちのどれに該当するかを知ること。(1)創造価値:社会のためになにかを提供することで生きがい、喜びを感じること。(2)体験価値:社会からなにかを提供されることで生きがい、喜びを感じること。(3)態度価値:創造価値や会見価値を遂行する時々刻々の対人関係や日常生活の行為において、ある態度を取ることに喜びを得る。それ以外に、深刻な出来事、たとえば自己の死や不治の病、障害、愛する人の死など避けることのできない運命に対して、それを受け入れる際に、苦難にあっても、どんな態度をとるかという人間の尊厳の価値。これに生きる意味を見出す。(4)存在価値:かけがえのない人格として自己、家族のために生きることに生きがいを見出す。この生を享けたことの喜び、7つの生きがい領域の(1)、(2)、(7)に関係する。■優先順位をつけることが大切これらの価値をリストアップし、優先順位をつけることが大切なのだそうです。なお、ほとんどの人に価値は複数あるのだとか。そして仕事の場合も、契約・勤務先が2つ以上あるなら、それは別の価値になるのだといいます。状況によって捨ててもいいのならば、優先順位が低いということ。ただし価値や優先順位は固定したものではなく、年月の経過や家庭環境の変化によって変化していくものなのだそうです。家族に関連した領域は、たいていの人にとって存在価値の優先順位が高いはずなのだそうです。そして家族との関係で体験・創造価値のギャップが小さくなり、課題として優先順位が低くなった場合には、態度価値の優先順位が高くなるといいます。■価値を考えれば不幸は防げるたとえば成功していたかに見えていた人がうつ病になってしまったり、自殺したり、犯罪を犯したり、家族を心の病気に追い込んだり、家庭を崩壊させたりなど、不幸な状況になってしまうことはあるものです。それは、優先順位の高い価値をおろそかにしたり、優先順位の低い価値なのにそれに執着してしまい、態度価値を考慮せず、適切な行動をしなかったためであるといえるのだそうです。優先順位の低いもので不本意な状況になっても、執着せずに、「失っても構わない」と覚悟すること。それが不幸になることを防ぐと著者はいいます。もっとも大切なのは存在価値。家族や自分の存在価値を守ることを大切にして生きていくということ。だからこそ、ここで確認した価値はときどき見なおしてみることが大切だといいます。*仏教を起源とするマインドフルネスは、すべての人に対してとまではいえないにしても、ある種の人にとってはよい影響を与えてくれる可能性があるでしょう。だからこそ、読んでみれば気持ちが楽になるかもしれません。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※大田健次郎(2016)『不安、ストレスが消える心の鍛え方 マインドフルネス入門』清流出版
2016年03月28日『いい子に育てると犯罪者になります』(岡本茂樹著、新潮社)とは、なんとも刺激的なタイトル。著者は、元立命館大学産業社会学部教授であり、臨床教育学博士。大学での研究・教育活動と並行して、刑務所での受刑者の更生支援にも携わってきたという人物です(2015年6月にお亡くなりになったそうで、本書は遺稿を書籍化したもの)。発行の目的は、幼少期に子どもが育つなかで、私たち大人が見過ごしている問題行動の原点を明らかにすることなのだとか。だからこそ、子どもの問題に頭を悩ませている人、子育てに格闘中の人、結構的にいきたいと願うすべての人に読んでほしいのだそうです。しかし子どもに対してだけでなく、自分自身(とその周囲にあるストレスや悩み、あるいはコンプレックス)の本質を見極めるという意味でも、きわめて重要な意味を持つ内容だといえます。そこできょうは、さまざまな角度から私たちを苦しめる「ストレス」についての記述に焦点を当ててみたいと思います。ストレスには、それを生み出す「価値観」が存在するもの。だから、それを認めること、そして、なぜ自分がそれを取り込んで行ったのかを知ることこそが重要だというのです。■ストレスを生み出す「20の価値観」私たちはそれぞれ、さまざまな価値観を持って日々の生活を送っているもの。当たり前のことではありますが、そんな価値観が自分たちの日常生活にストレスを与える原因になっている場合があるのだそうです。そこで紹介されているのが、以下の「ストレスを生み出す20の価値観」。当てはまる項目が多いほど、ストレスをためやすくなるのだといいます。1.「しっかりしなければいけない」という気持ちが強い。2.(親や周りの人に)迷惑をかけてはいけないと思う気持ちが強い。3.「(親や周りの人の)期待に応えないといけない」と思う気持ちが強い。4.「我慢することが大切である」と思っている。5.自分の素直な気持ち(「うれしい」とか「悲しい」とか「つらい」とか)をなかなか出さないほうである。6.嫌なことがあったりつらいことがあったりしても、そのことを人にはなかなか見せないほうである。7.人前では「暗い面を見せてはいけない」と思い、明るく振舞ってしまうことが多い。8.「弱いことは情けない」とか「弱いことはいけない」と思っている。9.泣くことは恥ずかしいことだと思っている。10.人にはなかなか甘えないほうである。11.「わがままやジコチュウであることはいけない」と思っている。12.子どもっぽい面は出してはいけないと思っている。13.「男(女)は男(女)らしくしなければいけない」という気持ちが強い。14.お金の面で裕福になることが人生で成功することだと思っている。15.完璧さを求めてしまうところがある。16.ミスや失敗をしてはいけないという気持ちが強い。17.「白」か「黒」かをはっきりさせないと気がすまない。18.「勝つこと」に対してのこだわりや執着心が強い。19.他の人から自分に対してなにかされたときに「自分のことを拒否された」とか「自分を悪く思われた」と受け止めてしまいやすい面がある。20.「悪いことは許さない」という気持ちが強い。■刷り込まれている価値観を自覚しようこれらは私たちが生まれながらに持っている価値観ではなく、誰か(特に親)から「もらったもの」か、周囲の環境に影響されるなかで形成されたものだそう。そして原点が幼少期にあるからこそ、幼少期まで振り返らないと、このような価値観を持った理由はわからないもの。そして問題行動を起こしたり生き辛さを抱えていたりする人は、刷り込まれている価値観を自覚することが大切。そうでないと、根本的な解決にはならないというわけです。また子育てをする人なら、いつかは自分自身と向き合わなければならないといいます。一方、子育てをしない人も、自分自身を本当に理解しようと思うのであれば、「いま」を大切にすべきだと著者。*上記の20項目をチェックすることにより、いまの自分についての問題点や、その根底にあるファクターをある程度は見極めることができるはず。そして本書では以後も、さらに深く自分自身の幼少期に目を向けられるよう、「ストレスをためやすくなる価値観をどうして取り込んでいったのか」がわかる質問が、さらに20項目用意されています。それらを確認してみれば、さらに奥深く、自分自身の本質的な部分にまで入り込むことができるかもしれません。興味のある方は、本書を手に取りチェックしてみてはいかがでしょうか?(文/書評家・印南敦史) 【参考】※岡本茂樹(2016)『いい子に育てると犯罪者になります』新潮社
2016年03月27日『人見知りだった千秋が付き合い上手になった 魔法の法則16』(千秋著、中央公論新社)は、タレント、声優、歌手として、そして子ども服ブランド『Ribbon Casket』、『Love Stone』のデザイナーとしても活躍する著者による著作。シングルマザーとしての立場から、目の前にある「ママ友」の世界、そして職場、ご近所など、さまざまな人間関係についての思いを記しています。考え方の根底にあるのは、自身の子ども時代の記憶。意外なことに幼少時から、とても人見知りだったというのです。ただしクラスのなかでも弱く、背が低く、体も小さく、運動神経もゼロだったため、自分の身を守る必要に迫られたということ。その結果、「どんなグループに所属して、どんな人間関係をつくっておけば安全か」と考えるようになり、結果的にはそんな体験が人づきあいの基礎を固めることになったというわけです。そしてそれが過酷な芸能界を生き抜くためにも、またママ友たちとのつきあいにおいても、大きく役立っているのだとか。そのような経験に基づく本書の第2章「千秋が答えます!ママ友お悩みQ&A」のなかから、「ママ友とお金」についての話を抜き出してみたいと思います。■1:ママ友がお金を返してくれませんQ.「あるママと一緒にランチに行きました。お会計は2人で2,400円。相手のママは“1万円札しかない。あとで崩したら払うから”ということで、とりあえずその場は私が2人分の支払いをしました。ですが、それから何日たってもお金を返してくれません。(中略)上手な催促の仕方を教えてください」細かいお金の貸し借りに関するトラブルは、ママ友づきあいにはつきもの。そして著者は基本的に、誰ともお金の貸し借りをすべきではないと考えているそうです。そしてジュース代やアイス代程度だったら「返さなくていいよ」とおごってしまうのだとか。そのほうが気分的にも楽だし、あとあとトラブルにもならないから。しかしこの質問のような場合は、可能な限り別会計にしてもらうべき。どうしても相手にお金を貸さなければならない場合は、その場で自分のスマホに「◯月◯日、××さんに1,200円貸した」とメモしておくことが大切。そしてそのとき相手にも、「メモしておくね」ときちんと伝えておくことがポイントだといいます。そうすれば相手にも「借りた」という自覚が生まれ、次にあったときにはスマホを見ながら「この前の◯◯円、返してもらっていい?」といいやすいわけです。■2:お金の話を聞きたがるママ友が迷惑Q.「下の子が通っていた幼稚園で仲よくなったママ友がいます。よくお互いの家に遊びに行くんですが、我が家の経済状況について頻繁にたずねられるのが苦痛です。(中略)私はお金に関することはあまり詳しくいいたくないんですが、聞かれたら正直に話すべきですか?」著者も、お金のことは他人にしゃべらなくていいと思っているそうです。ちなみにお金の話をするのは下品なので、芸能界でもタブーなのだとか。そもそも家族でも親友でもないママ友がお金のことを聞いてくること自体がおかしいのですから、正直に返事をする必要は一切ないわけです。そこで、今度相手がたずねてきたら、「お金のことは他人にあからさまに話すことじゃないって、子どものころから親にいわれてる」と返事をしてみてはどうかと著者。常識ある相手なら、それで気づくはずだということ。それに、自分がいわれて嫌なこと、聞かれていやなことは、きちんと相手に伝えることが大切だといいます。ひとくちにママ友といっても、年齢も育った環境も価値観もまったく違う人たちの集まり。黙っていたら自分の意思は伝わらないわけです。■3:ママ友とのつきあいにお金がかかるQ.「息子が通っている幼稚園のママたちと仲よくなり、6人のママ友グループができました。私以外の5人は経済的に裕福な家庭のようで、子どもを園に送っていったあと、毎日のようにそれなりの値段のランチやお茶に誘われます。(中略)ひとりでランチに行かないと仲間外れになりそうで断れません。みんなと親しくするための必要経費と割り切って、毎回ランチにつきあうべきでしょうか?」これは難しい問題。しかし自分がその立場だったら、もしその人たちとランチするのが楽しいなら、やりくりしてでも参加すると著者はいいます。でも、お金がもったいないと思うのであれば、それ以上のおつきあいはやめるだろうといいます。しかしその一方、著者はこうも指摘します。「そもそも、自分の家とは経済的に差のあるこのママ友グループを選んだ時点で、ちょっと失敗だったかも」と。仲よしづきあいをする前に、服装や持ち物を見ればだいたいその人の経済力は想像がつくもの。いつも流行りの服を着ているおしゃれなママだったら、当然、それなりのレストランにもよく行くことでしょう。あるいはランチだけで終わらず、やがてエステや旅行にも誘われるかもしれません。そうなったとき、このグループの人たちと一緒にいてつらくないかということです。つまりママ友とつきあうときは、あまり背伸びせず自分の身の丈にあった人を選ぶべきだということ。そうすれば、無理せずに息の長いつきあいができるといいます。*母親としての自身の体験がベースになっているため、全体的に見ても共感できる部分が多いと思います。ママ友とのつきあいに悩んでいる人は、手にとってみるといいかもしれません。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※千秋(2016)『人見知りだった千秋が付き合い上手になった 魔法の法則16』中央公論新社
2016年03月26日『週1断食で万病が治る』(三浦直樹著、マキノ出版)の著者は、薬に頼らずに自然治癒力を引き出す「統合医療」を実践しているという医師。2007年には臨済宗の僧・野口法蔵氏のもとで「坐禅断食」を学び、断食指導も行っているのだそうです。本書ではそのような経験に基づいて、「週1断食」の方法を紹介しているわけです。「断食には興味があるけど経験がない」という断食初心者は少なくないと思いますが、著者によれば「週1断食」はそんな人に最適なのだとか。事実、著者自身が断食の効能を実感しているのだそうです。最初に試してみたのは、動物性食品をやめ、一口につき50回噛むこと。すると、それだけでも食事の量はかなり減ったというのです。そして半年で15Kg、10ヶ月後にはさらに5Kgも体重が落ちることに。動物性食品をとらないせいか性格はどんどん穏やかになり、肌もきれいに。さらに思考がクリアになるなど、血行状態が断然よくなったというのです。そんな話を聞くと、試してみたくもなるもの。そこで、ビギナー向けの「週1断食」がオススメだということでます。しかし、週1日、2食抜くだけの「週1断食」、いったいどのように行えばいいのでしょうか?■24時間なにも食べない週1断食とは、週に1回、24時間、体に食べものを入れないということ。たとえば断食前日の夜7時に夕食をとったら、断食当日は朝食と昼食を抜き、夜7時までなにも食べないようにするわけです。朝食をとって、昼食と夕食を抜くのでもOKで、つまりは食事と食事の間を24時間空ければよいということ。ここでは、朝食と昼食を抜くやり方が説明されています。■朝食と昼食を抜くやり方(1)準備食はあっさりしたものを3日以上断食をする本断食では、断食に入る前に数日間の減食期間を設け、徐々に食事の量を減らしてから断食を開始するのだそうです。とはいえ断食前の食事(朝食と昼食を抜く場合は前日の夕食)は、なるべく体にやさしい内容を心がけたいといいます。朝食と昼食を抜く場合、前日の夕食は寝る2時間前までにとること。できれば和食中心のメニューにし、動物性のものや脂っこいものは控えたほうがいいそうです。たとえば、ご飯と味噌汁に野菜中心のおかずなど。おかずは野菜炒めなど油を使って調理したものより、おひたしや煮物などあっさりしたものがいいとか。もしくは、そばやうどんなどで軽くすませるのもOK。量は腹八分目にして、アルコールはNG。こうして、翌朝からの断食に備えるわけです。(2)断食中は水分だけとるように前日の夜7時に夕食をとったら、断食当日は朝食と昼食を抜き、夜7時までなにも食べないようにします。とってよいのは、ゼロカロリーでカフェインを含まない水分だけ。水であれば軟水でも硬水でもかまわないそうですが、水道水の場合は家庭用の浄水器を通したほうがいいようです。水以外のものが飲みたければ、おすすめは三年番茶か柿の葉茶だとか。断食中、水分はいつとっても大丈夫。ただし、注意すべきは量。断食中は口寂しさからたくさん飲みすぎてしまいがちですが、水分をとりすぎると体が冷えてしまうわけです。また、一気飲みも胃腸を冷やすのでよくないそうです。水分をとるときはよく噛んで飲むようにすると、体が冷えるのを防ぐことができ、空腹感を抑えるのにも役立つといいます。なお、断食中に吐き気などが出た場合は、塩をなめても大丈夫。また、健康維持機が目的なのであれば、酵素ジュースを飲みながら断食したり、おなかがすいて困るときは野菜ジュースや甘酒、くず湯などを飲んだりするのもひとつの方法。(3)回復食にはおもゆやお粥を断食でもっとも大きなポイントになるのは、断食後の食事だといわれているそうです。事実、本断食でも断食を終えたあとの食事を「回復食」と呼び、おもゆやお粥などからはじめ、準備食と同じように数日かけて徐々に通常の食事に戻していくのだといいます。ただし週1断食の場合は、回復食も基本的には準備食と同じと考えればいいというので、さほど難しくはないと思います。ポイントは、アルコール、動物性のものや脂っこいものは避け、野菜を中心とした和食の献立にすること。断食後1~2日はそのような食事を心がけ、それ以降は通常の食事に戻してかまわないそうです。なお、ときどき、断食を終えても食欲がない、体がだるい、和食中心のメニューでも胃が荒れるという人がいるとか。そのような人は、甘酒やお粥など胃にやさしいものからはじめ、徐々に通常の食事に戻すようにしましょう。もちろんドカ食いは言語道断ですが、断食明けの1~2日間を少食にセーブすることができれば、それ以降もうまく少食の習慣がついていくのだといいます。もちろん準備食と同様に、回復食も腹八分目にしておくべき。*こうして確認してみると、「週1断食」は意外に簡単そうです。本書ではさらに詳しく解説されていますので、気になる人は参考にしてみるといいかもしれません。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※三浦直樹(2016)『週1断食で万病が治る』マキノ出版
2016年03月25日たとえば、「親のコネで入学した」とか、「コネ入社だった」とか。「コネ」という言葉は「縁故」という意味合いが強く、そして、どこか「アンフェアな反則行為」なイメージがあることも否定できません。しかし、アメリカをはじめとする諸外国では「コネも実力のうち」と考えられており、むしろコネづくりが奨励されるのだとか。しかも「コネ」という言葉は本来、英語の「コネクション(connection)」の略語。「縁故」よりも広く、「関係、つながり」という意味があるもの。だから決して否定的にとらえる必要はないと唱えるのは、『コネ持ち父さん コネなし父さん 仕事で成果を出す人間関係の築き方』(川下和彦著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者です。本書では、「コネ持ち父さん」と「コネなし父さん」を比較しながら、コネを持つことの重要性を解説しています。■コネは先天的と後天的の2種類著者は、コネは2種類あるのだと主張します。まずひとつは、生まれ持った「先天的なコネ」。そしてもうひとつは、「後天的なコネ」。そう聞くと先天的なコネを持っている人が有利であるように思えますが、そうではなく、「後天的なコネ」を開拓すればよいだけの話。つまり、コネのある人を嫉妬するのではなく、「コネはつくれる」のだということに気づいて、それを手に入れることこそが大切だというわけです。ところでコネ持ち父さんとコネなし父さんは、それぞれ「利益」についてどう考えるものなのでしょうか?■目先の利益に惑わされてはダメたとえばダイエットをしているとき、将来のスリムな自分よりも、つい目先の甘いものを選んでしまうことがあります。同じように「将来の利益よりも目先の利益を選ぶこと」を、行動経済学では「現在バイアス」と呼ぶのだそうです。では、将来的にお金持ちになる人は、「将来10万円になるかもしれない1万円」と「目先の1万円」のどちらを選ぶのでしょうか?当然のことながら、将来お金持ちになる人が選ぶのは「将来10万円になるかもしれない1万円」。目先のことに惑わされないわけです。そして考え方は、「コネ」も「カネ」も同じ。つまり、コネなし父さんは現在バイアスに支配されるため「目先の浅いコネクション」を得ようとする。しかしコネ持ち父さんは、現在バイアスに支配されることなく、「将来の深いコネクション」を得ようとするものだということです。■一人ひとりの関係を大切にする「功」と「徳」を合わせた「功徳」という言葉があります。いうまでもなく、世のため人のためになる「よい行い」のことですが、コネ持ち父さんは目先の利益に目を奪われないように、いつも次の言葉を心に刻んでいるのだそうです。「功は今を照らし、徳は晩節を照らす。功に溺れて、徳を見失うことなかれ」目先のコネクションを使って「功」を成せば、一時的には一筋のスポットライトが当たるかもしれません。ただし忘れてはならないのは、長い人生においてそれは一瞬にすぎないのだということ。一方、一人ひとりの関係を大切にすることによって「徳」を成せば、応援してくれている仲間たちが、それぞれのライトで人生の道を照らしてくれるようになるということ。■コネなし父さんは「数」を重視ちなみにコネなし父さんは、コネクションの「数」を重視するのだそうです。たくさんの人とつながること自体を目的にし、積極的に異業種交流会などに出ては四方八方に名刺を配り歩くわけです。そしてソーシャルメディアでも、お互いによくわかっていない段階からどんどん繋がろうとする。ただし数を増やすことばかりに集中するあまり、せっかくできたつながりを生かすこともできずじまい。そんな調子なので、つながっている人に協力をお願いしても、思うように動いてもらえないのだといいます。■コネ持ち父さんは「質」を重視対してコネ持ち父さんは、コネクションの「質」を重視するもの。つながる目的を明確にし、ターゲットをしぼってコネクションをつくるということ。だから、名刺の枚数やツイッターのフォロワー数、フェイスブックの友だちの数なども特に気にしません。しかし、波長が合った人とは親睦を深める機会をつくるので、ひとりの先に多くの人がつながっている「奥行きのあるネットワーク」を構築できるのです。そして強固なコネクションができたら、人のために役立てる。すると、やがて思わぬところでその相手からコネクションのリターンをもらうようになるということ。こうして「コネコネ交換」を繰り返すうちに、コネ持ち父さんはどんどん「おコネ持ちスパイラル」を起こすというわけです。*コネに対する著者の考え方は、このようにとてもユニーク。しかもユルいスタンスで書かれているので、肩の力を抜いてコネに対する本質を理解することができることでしょう。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※川下和彦(2016)『コネ持ち父さん コネなし父さん 仕事で成果を出す人間関係の築き方』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年03月24日『一流の人はなぜ姿勢が美しいのか』(小笠原清忠著、プレジデント社)の著者は、小笠原流三十一世宗家。室町時代から800年以上にわたり、一子相伝で受け継がれてきた「実用・省略・美」を旨とする小笠原流礼法の継承者です。つまり本書ではそのようなバックグラウンドを軸に、日本人としてぜひとも知っておきたい、そして世界に通用する「礼法の真髄」を紹介しているのです。きょうはそのなかから、一流店を訪れた際に役立ちそうな、和食の作法に関する記述に焦点を当ててみたいと思います。そしてそのなかから、数字に絡んだいくつかのポイントを引き出してみましょう。■着席したらまず「一礼」が正解!食事の席についたら、最初に「いただきます」の気持ちを表す一礼をするのが正しいのだそうです。この時点ですでに、ほとんど知られていないことだといえるのではないでしょうか?ちなみに食膳の前で手を合わせる仕草をよく見ますが、これは宗教に由来するものなのだとか。つまり、本来の作法にはないのだそうです。次に、「箸構え」を。これは、感謝を表す本来の所作。正座の姿勢から、右手を伏せ、膳に置かれた箸のなかほどをとり、腿の上に引き寄せます。左手を受けるかたちで箸に添え、姿勢を正したら箸構えの完了。続いて右手を箸に沿って下に回し、箸を持ちなおして膳に運びます。箸は、中ほどを持つのが正しいそうです。上のほうを持つと粗相をしやすくなるので、深く握らず、鉛筆を持つように軽く持つのだということ。ところで和食は、右手に持った箸でいただくように配膳されているものなのだといいます。たとえ左利きだったとしても、左手に箸を持っていただくことはしないのだというのです。つまり左利きの人は、右手で箸が使えるように練習しなければならないということで、これは大変そうです。■食事の「腹八分目」も作法のうち昔から、「腹八分目」といわれているのはご存知のとおり。もう少し食べたいと思うくらいが適度な食事量だということで、これも作法のひとつだと思うほうがよいと著者は説明しています。食べすぎが体によくないということは、誰もが知っていること。とはいっても、これほど食料が潤沢で多彩な料理を楽しめる現代においては、人は自制を失ってしまいがち。毎日三食、満腹になるまで食べていれば、食事のたびにお腹が満たされないと満足できなくなってしまうわけです。しかし、姿勢を正すことも、正しく歩くことも、食べる作法も、多少なりとも自制心を働かせなければできないこと。常に自分の体を意識するとは、そういうことなのだと著者はいいます。■礼節とは「ほどよき自制」のこと食べすぎとは逆に、食べないこともまた問題。たとえばそのいい例が、女性のダイエットです。無理なダイエットは、やせすぎや体の変調を招くもの。また、朝食を食べない人が増えているのも困りものだと著者。なぜなら朝食を抜くと、そのぶん昼食や夕食を食べ過ぎることになってしまい、それもまた体の変調につながるから。「腹八分目」は、「ほどよき」をよしとする教え。また礼節とは、いいかえれば「ほどよき自制を知る」ことでもあるといいます。食べることは人の生存に関わることですから、自制することなく欲望に従ってしまえば際限がなくなってしまいます。いわば、江戸時代の本草学者、儒学者である貝原益軒のいう「禽獣の行いに近し」(けだものの行いのようなものだという意)。しかし、礼は飲食にはじまるものだと著者はいいます。正しい作法で食事をすれば、ほどよく自制の利いた生活を送ることができるという考え方です。*当然のことながら、ここでご紹介したのは和食の作法のほんの一部。しかも和食の作法のみならず、本書内においては、驚くほど緻密にさまざまな作法が紹介されています。それを「面倒だ。細かいことは気にしないほうが楽だよ」と切り捨ててしまうのはいちばん簡単なこと。しかし、否定することなく受け入れてみれば、そこから見えてくるものがあるはずです。忘れていた、あるいは知らなかった作法を学び直すことはやはり大切。そういう意味において、ぜひとも読んでおきたい書籍だといえます。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※小笠原清忠(2016)『一流の人はなぜ姿勢が美しいのか』プレジデント社
2016年03月23日ご存知のとおり『論語』とは、2,500年前に活躍した中国の思想家・孔子の言行録。高校生のとき、誰しも授業で習ったことがあるはずです。とはいえ、その成り立ちや内容について詳しく知っている方は、意外に少ないかもしれません。魯(ろ)という国に生まれた孔子は、故郷で政治の仕事をしたのちに、弟子たちと放浪の旅に出ました。ところが、自分を雇ってくれる人はいないかと諸国を巡るも、なかなか職が得られず、13年もの歳月を経て魯の国に戻ることになるのです。しかし、孔子がなくなったあと、その言葉は弟子や孫弟子によって一冊の書物にまとめられることになりました。つまり、それが『論語』。■『論語』は中国古典『四書』のひとつ!『論語』をはじめ『大学(だいがく)』『中庸(ちゅうよう)』『孟子(もうし)』の4冊は「四書」と呼ばれ、儒教の基本経典として重用されてきたもの。一般的には「論理」や「道徳」を学ぶために古典として紹介されることが多いと思います。しかしそれだけでなく、学び方や考え方、コミュニケーション、人間関係などさまざまなことがらに対し、広く深い知恵が得られるという側面も。だからこそ、ここに書かれていることは、現代にも活かせるのだといいます。前置きが少し長くなりましたが、そこでご紹介したいのが、『まんがでわかる論語』(齋藤孝著、備前やすのり・まんが、あさ出版)。表紙からもわかるとおり、どこから見てもまんがです。しかし、これはれっきとした『論語』本。音楽コンクールを目指す高校生を主人公にしたまんがを通じ、『論語』の言葉をわかりやすく解説したユニークな書籍なのです。『論語』には難しそうなイメージがあるかもしれませんが、なにしろメインはまんがなのですから、肩肘を張ることなく柔軟に受け入れることができるはず。とはいえ、まんがの内容をここで紹介することはできません。そこで『論語』に詳しい著者による解説部分から、年齢に関連した有名なフレーズを引き出してみたいと思います。■孔子は15歳で学問を究めることを決意「吾れ十有五にして学に志す。(為政第二—四)」いまさらいうまでもないことかもしれませんが、これは「私は15歳で学に志した」という意味。ちなみに「学に志す」とは、「これをしっかり勉強して、世の中に貢献しよう」と思って志を立てるということ。15歳で学問を究めることを決めたとは、ずいぶん早い決心のようにも思えます。が、それはともかく、「志す」、すなわち、なにかをやろうと思い立つということは非常に大事だと著者もいいます。なお、この言葉にはさらに有名な続きがあります。「三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳順(みみしたが)う。七十にして心の欲する所に従って、矩(のり)を踰(こ)えず」これは、「30歳になり自分の考えをしっかりとさせ、世に訴えることができるようになった。40歳になり迷うことがなくなった。50歳になり天命を知った。60歳になり他の人のいうことにも耳を傾けて、素直でいられるようになった。70歳にして心の欲するままに行動するようになったけれども、ルールを踏み外すようなことはしない」ということ。■「学問を志して迷わない」という気持ち15歳から70歳まで一気に、しかも、これほどシンプルな言葉で自分の人生を要約してしまう。その要約力自体が素晴らしいと評する著者の意見には、大きく共感できます。しかし、それ以上に重要なのは、「学問を志して迷わない」という強い気持ちがその中心にあること。いまの日本においても40歳を「不惑」といいますが、それも『論語』からきているもの。たとえば「不惑の歳になったのに、まだ迷っている」などと使ったりします。昔は『論語』が常識だったので、「不惑」といえば『論語』に基づいていると誰もが知っていたわけです。そこで、その言葉を日常生活に活かし、適切な場面で引用していたのです。*そう考えれば、いま『論語』を確認する場は学校の漢文の授業くらいしかないかもしれません。しかし、そこにある言葉に時代を超えた普遍性があることが事実。だからこそ本書を通じて、いまふたたび『論語』のメッセージを再確認してみるのもいいかもしれません。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※齋藤孝(2016)『まんがでわかる論語』あさ出版
2016年03月22日職場のエースといわれていた人が、課長になったら部下をマネジメントしきれなくなり、結果を出せずモチベーションを落としていくというようなことはよくある話。『部下が絶対、目標達成する「任せ方」』(中尾ゆうすけ著、PHP研究所)の著者も、できるはずの人が力を生かし切れずに終わってしまう現実をいくつも目にしてきたのだそうです。でも、本来はできる人であるはずなのに、なぜそのようなことが起きるのでしょうか?この問いについて著者は、課長職に2つのタイプがあることの影響を指摘しています。まずは、部下をマネジメントし、組織の成果を最大化することで会社に貢献していく「マネージャー」タイプ。そしてもう一方は、管理職の権限を持ち、高い専門能力を発揮しながら実務を中心に活躍し、個人の成果を最大化していく「プレーヤー」タイプ。個人として活動していくのなら、プレーヤーで十分。しかし上に立って人を動かしていくのであれば、課長ひとりでがんばってもあまり意味がありません。部下に適切な業務を与え、目標を持たせ、「絶対部下に目標達成してもらう」ためのマネジメントを行うことが必要になるということ。それができるかできないかで、課長としての資質が問われるわけです。ただ、理屈でわかっていたとしても、現実的に人を使うこと、もっと具体的にいえば、部下になにかを頼むことはなかなか難しくもあります。仕事を任せるためには、部下に快く引き受けてもらえるようにうまく頼むことが重要。そのコツはたったひとつで、「部下の立場になって頼む」ということだと著者はいいます。なぜなら自分の都合で頼むのは、マネージャーではなくプレーヤーのやり方だから。具体的には、以下の9つのステップをしっかり押さえておくことが大切だとか。■1:部下の状況を確認する部下に仕事を受ける時間的・能力的余裕があるか?その状況を見極めることが大切だ。なぜなら無理にやらせると、かえって反発を生むことになってしまうから。しかし仕事に納期はつきものなので、優先順位をつけることで調整すべき。■2:仕事を任せたい意思を伝えるなにかを頼むとき、前置きが長いと部下をイライラさせてしまうもの。そこで単刀直入に、頼みたい旨を伝えるのがいいそうです。場合によっては「ノー」といわれる可能性もありますが、そんなときは納得いくまで話し合うことが大切。■3:あらかじめ覚悟を決めてもらう難易度が高いことや、手間がかかることなどは先にいうのが鉄則。あとから「こんなはずじゃなかった!」といわれないためにも、正直に伝えることが大切なのです。難易度が高すぎて不満が出ることもあるでしょうが、そんなときはOJTのチャンスだと思って指導するのがベスト。■4:なぜ任せたいかを伝える人は理由のないことにモチベーションを持てないものなので、「なぜ頼むのか?」「なぜ君なのか?」、部下が納得するように伝えるべき。それでも反発されるなら育成計画を示し、部下の成長のためだと理解させ、将来的なメリットを伝えるといいそうです。■5:具体的な内容を伝えるアウトプットイメージ、納期、注意事項などを、5W1Hを意識して伝えること。人はゴールと道筋が見えると、自ら歩みはじめることができるものだから。しかし細かく指示しすぎて、「指示待ち人間」を育てないように気をつける必要も。■6:仕事を進めるための問題点がないか確認する仕事の進め方からアウトプットまでをイメージさせ、支障がないか確認するということ。人はやれる見込みが立つと、自信を持って取り組むことができるからです。でも、問題点が想像できないことも考えられるので、そんなときは上司として中止すべきポイントを指導することが必要になるとか。■7:了解を得るやるか、やらないか、部下自身のやる気を確認するということ。人は、自分で決めたことには責任を持つようになるからだといいます。「ノー」といわれる可能性もありますが、そんなときは理由を十分に確認して問題を解決していくべきだそうです。■8:必要な支援を約束する困ったときや迷ったときは、いつでも相談に乗るという約束をする。困ったときの支援があると、安心して仕事に取り組めるからです。ただ、それがあまえにならないよう、注意をする必要はあるでしょう。■9:感謝を伝える仕事の成果が出たときだけではなく、頼むときにも「引き受けてくれてありがとう」と感謝の意を伝えることも大切。もちろん、成果が出たときにも感謝の気持ちを伝えることをお忘れなく。*こうして見てみると、上司は部下に対してずいぶん気を使う必要がありそうです。しかし、「絶対部下に目標を達成してもらう」ことが上司のミッションである以上、それもまた必要なのでしょう。このような考え方も含め、上に立つ人に役立つ情報満載。部下とのコミュニケーションで悩んでいる方には、ぜひ読んでみていただきたい内容だといえます。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※中尾ゆうすけ(2016)『部下が絶対、目標達成する「任せ方」』PHP研究所
2016年03月21日『ハーバード×MBA×医師 目標を次々に達成する人の最強の勉強法』(猪俣武範著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は、異例のキャリアの持ち主です。まず、医師として働きつつ、「語学力ゼロ」の状態からハーバード大学に留学したというのですから驚き。しかもそればかりか、ビジネススクールでエグゼクティブMBAを取得したというのです。制限の多い環境のなか、限られた時間内でこれほどの実績を打ち立てることは、そうそう簡単ではないでしょう。しかしそれでも、必ずしも特別なことをしたわけではないと著者はいうのです。効率よい目標達成のポイントは、「勉強に対する考え方や姿勢」「勉強のスキルやプロセス」「勉強以外のネットワーキング」などを良循環させること。そしてそのなかで著者は、「人生で達成したいことを見据えて目標を立てる」ことと、「なにをやらないかをはっきりと決める」ことにもっとも気をつけているのだそうです。つまり最大限のパフォーマンスを発揮するためには、その2つが重要な意味を持つということです。そんな基本をもとに、限られた時間内で最大の成果をあげる術を紹介した本書から、時間を有効に使うための「スキマ時間」の活用法をご紹介したいと思います。■時間管理を適切に行う1日24時間のなかで、人より多くのことを達成できる人がいるものです。でも、そんなことがなぜ可能なのでしょうか?著者は、その答えは時間管理の意識と方法にあると断言しています。時間管理とは、忙しく予定を詰め込めばいいというものではなく、目標に対する時間をどれだけ捻出できるかを指すものだといいます。たとえば通勤時間中にスマホでだらだらネットを眺めたり、好きな音楽ばかりを聴いたりしていたのなら、有効な時間管理をしているとはいえません。しかし目標に対して時間を管理することができていて、通勤時間中に英語やオーディオブックなどを聴いたり、勉強のための読書をしたりするようになれば、それは自身の成長につながるということ。時間管理をマスターすることは、決して難しいことではないと著者。もっとも大切なのは、時間管理が自分自身にとってどのくらい大切な規則であり、テクニックであるかを、自分の心に理解させることだといいます。時間管理を適切に行うことは、目標達成や成長に必要不可欠。だからこそ、時間管理の基礎を学ぶべきだと著者はいいます。■スキマ時間を有効活用効率的に勉強するためには、当然のことながら多くの時間を確保する必要があります。ポイントは、「長い」時間ではなく、「多く」の時間だということ。集中力は長く続くものではないので、勉強は必ずしも長くやればいいということではないという考え方です。一方、多く勉強するということは、細切れでもいいのでたくさんの時間を捻出し、それを勉強やタスクに振り分けること。忙しいビジネスマンも、子育てに忙しい人も、細切れの時間なら確保できるはず。つまり、そうした「スキマ時間」を有効に使うことが、いくつもの目標を同時に達成するためにもっとも有効な時間術だということです。会議を待つ10分間だったり、顧客との面談の待ち時間だったり、スキマ時間は日常のなかでたくさん見つかるもの。もし仕事が驚異的に忙しかったとしても、スキマ時間は必ず生じるものだと著者は断言しています。なぜなら社会で働いている限り、業務の継ぎ目をなくすことは不可能だから。■すぐツールを取り出すそして私たちは、このスキマ時間を有効に使うことが可能。たとえその時間が、わずか3分間であっても。たとえば著者は、いつも本や簡単な書類を持ち歩くようにしているそうです。電車やエレベーターの待ち時間も、読書やメールの返信作業などのために利用しているわけです。また、スマートフォンはスキマ時間を有効利用するのに必要不可欠。メールの返信や簡単な仕事は、スマホでスキマ時間に終わらせてしまえばいいのです。なお、iTunesなどのクラウドサービスに英語のポッドキャストを入れておけば、リスニングの練習も可能になります。これらのアイデアからも推測できるとおり、重要なのは、スキマ時間ができたら「すぐに」ツールを取り出せるようにしておくこと。1日のTO DOリストの確認をしたり、机の上の整理や書類のサイン、メールの返信をしたりするなど、オフィスで仕事中のときも、スキマ時間が5分あればさまざまなことができるはず。もし20分以上あれば、レポート、発表に使うパワーポイントの骨組みの作成なども可能。少しでも手をつけておくことで、その後の仕事の効率が大きく変わるわけです。そしてスキマ時間は、仕事場だけでなく家でも応用可能。たとえば5分あれば、今日やることを書き出したり、買いものリストをつくったりすることができます。10分あれば洗濯物をたためますし、20分あれば掃除機をかけられるでしょう。そうすれば、余った時間を仕事や勉強にあてることができるということです。*このように、1日のスキマ時間を合計すれば、相当の時間を捻出できるということがわかります。大切なのは、この時間を重要なことに投資し、自己投資と目標達成の良循環を生み出すことだというわけです。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※猪俣武範(2016)『ハーバード×MBA×医師 目標を次々に達成する人の最強の勉強法』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年03月20日『ビジネスマンのお腹が凹むのはどっち?』(秋津壽男著、あさ出版)の帯には「できる男のスマートな食事と習慣」と書かれていますが、太らないための生活習慣は男女を問わず気になるところ。その証拠に、世間にはさまざまなダイエット情報があふれています。しかし問題は、そのすべてが正しいわけではないという事実。「短期間で劇的にやせる!」というように、極端なダイエット方を勧めるものも少なくありませんが、短期的な効果にあまり意味がないことは誰にでもわかるはず。むしろ目指すべきは、長期的な健康なのです。そこで本書では、リバウンドすることなく体重と体脂肪をゆっくりと減らし、適正な体重をキープしつつ、体型もよく見せるための方法を紹介しているということ。第2章「『糖質制限』のどっち?」から、いくつかをご紹介したいと思います。■糖質を過剰に摂取すると太る理由当然のことながら、食事量の目安になるのは「カロリー」。カロリーを制限し、過食を適正な食事量に戻せば、体重は必ず落ちていくといいます。一方、ここ数年ブームになっているのが、炭水化物抜きダイエットなどで知られる「糖質制限」。糖質が多いことで有名な白米やパン、野菜、果物などは、体の主要なエネルギー源で、素早くエネルギーに変わるのが特徴。しかし、そもそもなぜ糖質を過剰に摂取すると太るのでしょうか?糖質は、人間の体内に入るとブドウ糖に変化します。その後、小腸で吸収されて血管に移り、血糖値が上昇。すると血糖値を下げるインスリンというホルモンが分泌されるのだそうです。インスリンはブドウ糖を細胞内に送ってエネルギーとして使用させる一方、充分なブドウ糖を中性脂肪に変え、必要以上の中性脂肪を脂肪細胞に変える働きもあるのだとか。そのため、糖質を過剰に摂取してしまうと脂肪が増え、太りやすくなるということ。つまり食事で中性脂肪を増やさないためには、白米やパンなどの糖質、スイーツなどの糖分が多く含まれるものを食べ過ぎないことが重要だというのです。■3食中「1食」炭水化物を抜こうだとすれば気になるのは、どのように糖質を制限すればいいのかということ。糖質の摂りすぎが脂肪の増える要因になるとはいえ、炭水化物を一切食べないなど、糖質の減らしすぎは体に悪く危険だといいます。つまり正しい糖質制限とは、過剰摂取している糖質量を是正すること。では、1日にどのくらいの糖質を摂取するとよいのでしょうか?厚生労働省の「日本人の食事摂取基準2015年版」によれば、1日に必要な炭水化物は、総エネルギー必要量の50~65%を目標としているのだとか。また、ブドウ糖は少なくとも1日100gと推定しているのだそうです(実際は肝臓が必要に応じて血中にブドウ糖を供給するため、あくまでも推定量)。とはいっても、糖質をどれくらい減らせばよいのかはわかりにくいもの。そこで、おぼえておきたいことがあります。ダイエットのために正しく糖質制限をするなら、いまの時代であれば「1日3食のうち1食だけ炭水化物を抜く」と目安にするとちょうどよいのだそうです。もしくは毎食、ご飯の量を3割減らすのもいいとか。また、糖質制限と合わせて、中性脂肪値を下げる働きのある食品を意識して食べるのも効果的。青魚に含まれるEPAや、クルミやアマニ油に含まれるαリノレン酸、海藻に含まれるアルギン酸などを意識して摂るといいといいます。■玄米が「ダイエットにいい」理由白米は太る、玄米はやせる。そんなイメージを持っている人も多いと思いますが、白米も玄米も、お茶碗1杯分のカロリーはほとんど変わらないのだといいます。しかも、糖質の量も大差がないのだとか。だとすれば、なぜ玄米のほうがダイエットによいといわれるのかといえば、それは玄米は「GI値」が低いから。太らないためには、カロリーや糖質の低いものを選択するのはもちろんのこと、もうひとつ目安になるのがGI値なのだそうです。GI値とは、食品が体内で糖に変わり、血糖値が上がる速度を数値化したもの。GI値が低ければ検討値の上昇は緩やかになり、高ければ急上昇しやすいといえるのだというのです。また「GI値が低い=消化・吸収のスピードも遅い」ということなので、ヨーグルトやナッツ類、りんご、いちごなどGI値が低い食べものは腹持ちがよく、ダイエットに最適なのだそうです。なおダイエットに玄米が向いているのは、食物繊維が豊富に含まれているから。食物繊維は小腸で吸収されにくく、摂取カロリーを抑える働きがあるのです。さらに、白米より固いこともダイエットに向いている理由のひとつ。固いものを食べると噛む回数が増えますが、すると満腹中枢が刺激され、早く満腹感を得られるので食欲がストップ。食べすぎを防げるというわけです。*これらからも推測できるとおり、二択の質問を通して「肥満解消」に関する正しい知識を得られるのが本書の特徴。読んでみれば、きっとノウハウを得ることができるでしょう。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※秋津壽男(2016)『ビジネスマンのお腹が凹むのはどっち?』あさ出版
2016年03月19日『半熟アナ』(狩野恵里著、KADOKAWA)の著者は、テレビ東京の人気女性アナウンサー。前任の大江麻理子アナに代わり、2013年4月からバラエティ番組『モヤモヤさまぁ~ず2』(モヤさま)に出演していることで知られています。そればかりではなく、他にも『ネオスポ』『SUPER GT+』『競輪中継』などにも出演し、さまざまな分野で活躍中。本書は、そんな人気女子アナによる初のエッセイ。生い立ちから、『モヤさま』に初めて出演した時のエピソードや失敗談、さらには将来に対する思いなどを、素直につづった内容です。■1:「振られたら全力で」著者は『モーニングサテライト』や『ワールドビジネスサテライト』の現場で約3年を過ごしたのち、2013年の春から『モヤさま』に携わることになったのだそうです。もちろん、初のバラエティ番組。見たことのある方ならおわかりかと思いますが、出演者がしばらくしゃべらない場面など、独特の“間”があるのがこの番組の特徴。しかし著者は「しゃべりたいときにしゃべり、“間”を埋めて20数年を生きてきた」タイプなので、そこに戸惑いを感じたのだとか。具体的にいえば、“間”を埋めすぎてしまったり、さまぁ~ずのふたりの言葉で場が盛り上がったところに言葉をかぶせてしまい、おもしろさを半減させてしまったりするようなことが何度もあったということ。しかしそんなときにも、さまぁ~ずのふたりは、「振られたら全力でいけよ!トライ精神をなくしたら人生終わりだぞ」と励ましてくれたのだとか。その言葉に助けられ、「番組をよくするためにはどうしたらいいのか」について、より深く考えるようになったのだといいます。■2:「三歩進んで、二歩下がる」そこで著者は、さまぁ~ずやスタッフからの助言を受け、「我慢」をしてみることにしたのだそうです。話し出すタイミングを3秒ほど「我慢」して待ち、そして、思いついたことをすぐに口に出すことを「我慢」する。“間”が開くと必要以上に焦り、なんとかそこを埋めようと話をしまくる人がいます。著者がまさにそのタイプだったわけですが、そこを改善しようとしたわけです。“間”があっても慌てず焦らず、さまぁ~ずのふたりの呼吸をよくチェックして、間合いをはかってみるようにしたということ。とはいえ当然のことながら、一流芸人の呼吸に合わせて場の空気を読むということは、そうそう簡単ではないでしょう。実際ふたりからは、「最初の半年ぐらいは本気でヒヤヒヤしたよ(笑)」といわれたといいますが、実際そのとおりだと自分でも認めています。オンエアを見て、自分でも自分にヒヤヒヤすることがあるということ。しかし、だからこそ、大切なことがあるのだと著者はいいます。三歩進んで、二歩下がる。いけるかなと試してみて、行きすぎたと感じて、戻る。それが重要で、毎回、その繰り返しだというのです。そしてその根底には、なにも攻めないで縮こまるより、「攻めすぎて戻る」やり方でいくしかないという思いがあるようです。■3:「3人で、ひとつ」そんな調子で、周囲からいろいろなアドバイスを受けながら、あっという間に3年が経過。それでもいまだに、「モヤさまメンバーの一員」だとはなかなか胸を張っていえない状態。しかしそんなある日、「きょうは朝からテンションが高いな」とふたりにいわれたことがあったのだとか。また出すぎてしまったと思って「すみません! 静かにします」と誤ったところ、三村さんから「いいんだよ。俺ら3人でバランスとれば。その方が楽だし」といわれたのだといいます。このとき、「3人で、ひとつ」という考え方に感動し、そして救われた思いがしたのだそうです。「新参者として入ってきた人間がどんな気持ちでいるか、きっと考えてくださったに違いない!」と思ったといいますが、そのとおりだったとしても、勘違いだったとしても、そう捉えることはとても大切。そういう意味で著者は、「ポジティブ思考」の意義を無意識のうちに活用しているといえるかもしれません。*柔らかな文章からは、誠実に書こうとする姿勢がはっきりと感じられます。だからこそ読みやすく、苦悩しながらもあきらめない前向きさに共感できるはず。特に働く女性には、ぜひ手にとっていただきたい一冊です。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※狩野恵里(2016)『半熟アナ』KADOKAWA
2016年03月18日『大好きなことをやって生きよう! 【ポケット版】』(本田健著、フォレスト出版)は、2013年1月に刊行されてベストセラーのポケットサイズ版。新たに【実践ワーク】が加わり、さらに実用的な内容になっています。著者によれば本書は、「失われた記憶を取り戻すサポートを目的として」書かれたものなのだとか。「ワクワク」する感覚を思い出し、少しずつ試し、自分らしい人生への一歩を踏み出せるようにサポートしようということ。きょうは第5章「お金と大好きなことを両立させる生き方」から、「才能をお金に変えていく7つのステージ」をご紹介したいと思います。■好きなことをやって生きる人の共通項世の中には、大好きなことをやって、しかも経済的にも成功している人が存在しています。著者はそんな人たちのことを、20年以上前から研究対象にしてきたのだそうです。その過程で彼らに共通する法則を発見し、ワクワクしたといいますが、成功するまでには7つのステージがあるというのです。ひとつずつチェックしていきましょう。■好きなことで成功する7つのステージ(1)才能発見ステージまずは、自分がなにをやりたいのかが、おぼろげながらもわかるという程度のステージ。このときはまだ自分の才能がなんなのかわからず、「なんとなくこっち方面かな」というぼんやりしたことが多いのだといいます。しかし、悟りのように「私の才能はこれだ!」とわからなかったとしてもスタートできるもの。それを意識しておくことが大切だといいます。実際、いま成功している人の大半が、最初は方向性もぼんやりしていたそうです。それよりも、「とにかくスタートを切る」ことが大事だということ。(2)才能開発ステージこの段階は、自分の才能らしきものを大事に育てるステージ。しかしたいていの人は、この段階で才能の芽を摘み取ってしまうのだそうです。「どうせ、こんなことで生活できるわけがない」と、トライする前からあきらめてしまうから。でも、いきなりすべてを変える必要があるわけではありません。たとえば仕事が終わってから試したり、週末にやってみたりすればいいのだと著者はいいます。(3)修行ステージ自分が発見した才能をベースに、人生を組み立てなおすステージ。このステージは、どこかの組織に属するか、メンターに弟子入りすることになる段階。その組織やメンターが一流であれば、自分自身も一流の道に進むことができるわけです。ただしそうでない場合は、それなりの結果しか得られなくなるといいます。だからこそ、どこで修行するかがとても重要な意味を持つということ。(4)独立ステージこの段階までくると、いよいよ自分の足で立つことに。たとえば組織のなかで活躍する人も、自分の生で仕事するようになるということ。そして独立する人は、この段階で組織からでることになるわけです。人によっては、数年苦労するかもしれないとか。(5)独自性を発揮するステージこの段階は、独立して自分なりのポジションを築き上げようとしてがんばっているところ。ラーメン屋さんにたとえれば、独自のタレを考案したり、一風変わったサービスをつくり出す段階だといいます。つまり、ここをクリアできるかどうかで、本物になれるかどうかが決まるということ。(6)ブランドを築いて活躍するステージここまでくると、業界でも注目されるようになるといいます。お店だったら行列ができたり、雑誌やテレビで絶えず紹介されるような有名店になるということ。会計事務所や設計事務所などの堅い仕事の場合は、クライアントが列をなす状態。(7)業界のトップとして、リードするステージブランドを築いて活躍して数年から10年以上になると、その業界では第一人者として認められることに。その業界で最も有名なトップ10のひとりくらいになると、業界に対する責任が出てくるそうです。その業界の団体の理事になったり、業界全体を盛り上げるような仕事をするようになるわけです。絶えず自分の仕事もバージョンアップさせ、ワンアンドオンリーの世界をつくり上げ、次の世代を育成することに情熱を注ぐようになっていくのです。*こうして階段を登るようにステージを上がっていけば、どんどんライフワークをきわめていけるようになり、生活の心配もなくなっていくということ。また、毎日を充実感とともに過ごすことができるようになるわけです。たしかにこれなら、モチベーションをも確実に高めていけそうです。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※本田健(2016)『大好きなことをやって生きよう! 【ポケット版】』フォレスト出版
2016年03月17日『熱狂しやがれ – 転職せずに100倍楽しく働く方法』(小杉俊哉著、ワニブックス)の著者は、NEC、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク、ユニデン株式会社人事総務部長を経て、アップルコンピュータ株式会社(現アップルジャパン)人事総務本部長に。そして、そののち独立したという人物。3万人にキャリア研修を行ってきた実績もあり、つまりは誰よりも、「人が成長していくさま」を見てきた人物だということです。そんなキャリアを軸として、本書ではビジネスパーソンとしておもしろく生きる方法を伝授しているわけです。きょうはそのなかから、会社員にとってのお金、すなわち「給料」についての記述を引き出してみたいと思います。■同じ給料なら難しい仕事を選べ仕事に熱狂している人たちは、仕事を選べる立場になったとき(上司から選択肢を与えられたとき)、難易度の高い仕事を自然と選んでいるのだそうです。もっといえば、「同じ給料なら、楽な仕事の方がいいに決まっているだろう」と思っている人がいたとしたなら、それは明らかに仕事に対する熱狂が足りていない証拠だと著者は指摘します。そもそも難易度が高い仕事にチャレンジするとき、人は自分の実力以上のものを出さなければならないといいます。いわば、それは背伸び。なぜなら、人は背伸びをする過程を経ないと成長しないものだから。いまの仕事に甘んじることなく、少しずつ背伸びをすることによって可能性が開けていくというわけです。しかも、そうやってチャレンジした結果が成果につながれば、周囲から賞賛され、自尊心も満たされるもの。それこそがビジネスパーソンにとっての至福の瞬間であり、それが最高の養分となるのだといいます。つまり、「やり甲斐」が生まれる瞬間。また、それだけではありません。一時の幸せを噛み締めたら、そこに安住することなく、さらなる幸せを求めて新しいチャレンジを指向するべきだということ。そうなると怖いのはゴールとしての「成果」ですが、仮に成果につながらなかったとしても、気にする必要はないと著者はいい切ります。なぜなら仕事に熱狂している人は、成果を出せなかったとしても「ベストを尽くしたのだから仕方がない」と、気持ちをすぐに切り替えることができるものだから。いっぽう、中途半端な気持ちで仕事に取り組んでいる人は、失敗を経験してもその原因がわからないもの。だから結果的に、失敗したという「結果」だけを引きずってしまう傾向があるのだそうです。しかし、著者はこう断言します。本来、仕事の醍醐味とは「プロセス」にあるのだと。プロセスで全力を尽くすことで、はじめて失敗からなにかを学び取ることができるというわけです。「今回はこうやって失敗したから、次はもう少し工夫をして絶対に成果を出そう」と、再挑戦に向けて自分を鼓舞できるということ。■簡単な仕事を選ぶとどうなる?では逆に、難易度が低い仕事ばかりをしているとしたら、結果的にどんなことになるのでしょうか?この問いに対して著者は、それだと「普通にやっていれば成果は出せるだろう」と甘えの感情が肥大化していくものだと断言しています。いいかたを変えれば、マンネリ化、ルーチン化。だから、必死でやろうとは思わないわけです。だから、日に日に仕事に対する熱量が低下していってしまうということ。だいいち、簡単な仕事で成果を出したとしても、それは「やって当然」だと思われるだけ。当然のことながら、周囲から評価されることもないわけです。もし、自分では真面目にやっているのだとしても。だとすれば、自尊心が満たされることもないということになります。それどころか、難易度の低い仕事でミスを犯してしまったとしたら、それこそ目も当てられないことになるでしょう。周囲の評価も著しく落ちることとなり、それによって自信を失ってしまうことも十分に考えられます。だからこそ、「どうせ同じ給料なら、難しい仕事を選べ」と著者は断言するのです。それは緊張感を生み、精度の高い仕事につながり、ひいてはさらに高い給料へとつながっていくものだから。*著者の主張は(文体も含め)とても熱く、だからこそ不思議な説得力があります。なにかしたいことがあって、でも一歩が踏み出せないという人にとっては、格好の一冊であるといえます。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※小杉俊哉(2016)『熱狂しやがれ – 転職せずに100倍楽しく働く方法』ワニブックス
2016年03月16日タイトルからもわかるとおり、『万病が治る! 20歳若返る! かんたん「1日1食」!!』(船瀬俊介著、講談社)の著者が勧めているのは「1日1食ファスティング」(少食、断食)。タモリさん、ビートたけしさんを筆頭に、芸能界、音楽業界、スポーツ界などさまざまな分野の著名人がこれを取り入れているのだそうです。プロローグで紹介されたその記述を読むだけでも、なんだか効果がありそうだなと思えてきます。しかし大切なのは、具体的に、どのような効能があるのかということであるはず。そこで第1章「ファスティング、『奇跡』の十五連発」から、ぜひ知りたいファスティングの15大効能を引き出してみたいと思います。■1:持病が消えていく新陳代謝能力を超えるほどに食べると、代謝しきれなかった老廃物は、万病のもとである“体毒”として蓄えられるのだそうです。それらは感染症や炎症、発ガンなどにつながるといいますが、ファスティングをしてインプットをストップさせれば、身体は自己浄化されてクリーンな状態に。そこで、持病も消えていくというのです。■2:病気にかかりにくくなる1日1食にすると“体毒”を速やかに排出できるので、免疫力、自然治癒力がアップして、病気にかかりにくい体質になるのだといいます。■3:身体が軽くなるまずファスティングで体重が減るので、文字どおり軽い状態に。そして1日1食により血液が末梢血管をよく廻るようになるため、身体の隅々まで血液が行き届き、新陳代謝も活発に。体内に老廃物(体毒)が残らないから筋肉や神経もスムースに働き、身体が軽くなるというわけです。■4:疲れにくくなる1日1食で身体が軽くなり、当然のことながら作業がはかどる。食べ過ぎていないから、疲れもたまらないということです。■5:睡眠時間が短くなる食後に眠くなるのは、消化吸収でエネルギーがとられ、睡魔が襲ってくるから。なので、少食者(スモール・イーター)は短眠者(ショート・スリーパー)になるということ。■6:肌が若返るファスティングすると“体毒”のデトックス(解毒)が進むため、肌が驚くほどみずみずしく若返るのだとか。ちなみに皮膚がきれいになったということは、内臓の排毒も進んだことを意味するのだそうです。■7:頭が冴えてくる頭が冴えてくるのも、脳の神経細胞のデトックス効果。ファスティングをする神経細胞からも排毒が進み、電気信号がスムースに流れるようになり、記憶力から直感力までが格段に冴えるようになるというのです。■8:生き方が前向きになる脳内デトックスされると頭も軽くなり、ものごとをポジティブに考えるようになるそうです。■9:身体が引き締まる1日1食でダイエットは確実に成功すると著者は断言します。理由は、ファスティングで余分な体脂肪などが落ちていくから。■10:不妊症が改善する粗食、少食こそ子宝に恵まれる秘訣で、空腹感は生殖能力もアップさせるのだといいます。■11:寿命が延びる1日1食ファスティングをすると摂取カロリーが少なくなるため、空腹感により長寿遺伝子にスイッチが入るのだとか。■12:食費が三分の一ですむ食べる量が減るのですから、当然のことながら食日も減ることに。また、1日1食でいやでも健康になるので、薬代や医者通いの費用もかからなくなるといいます。■13:仕事がはかどる頭が冴え、睡眠が短くてすみ、料理も三分の一ですむのだから、仕事がはかどるのも当然の話。■14:趣味を楽しめる仕事がはかどると、時間とお金を浮かせることが可能に。その分を趣味に回せば、人生をさらに豊かに楽しむことができるというわけ。■15:感性が豊かになるファスティングで脳から、さまざまな神経毒がデトックスされるといいます。だから頭が冴え、感受性や直感力が研ぎ澄まされるということ。*「持病が消えていく」「不妊症が改善する」「寿命が延びる」などは決して断定できるようなことではなく、そういう意味では、すべてを過信するのは危険だと思います。しかし客観的な視点を持って読み、リスクを回避しながらファスティングに挑戦してみれば、少なくともいくつかのメリットは実感できるかもしれません。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※船瀬俊介(2015)『万病が治る! 20歳若返る! かんたん「1日1食」!!』講談社
2016年03月15日『プレゼンの勝つテクニック 図解 書く・伝える・フォローする』(天野暢子著、実業之日本社)の著者は、「プレゼン・コンシェルジュ」という一風変わった肩書きの持ち主。いってみればプレゼンテーションに関わることならなんでも相談に乗り、最適なアドバイスをする仕事だということ。広告代理店、新聞社、広告主などのマスコミ畑で働いてきた実績を持ち、プレゼンテーションのスキルは実務を通じて積み上げてきたそうですが、そんななか「上手に」とか「格好よく」と依頼されることはなかったのだそうです。では、なんといわれたのかといえば、「勝てるものをつくってくれ」。だから常に、「勝つためにはなにをすべきか?」しか考えてこなかったのだといいます。いうまでもなく、プレゼンは「勝つ」ことに意味があるから。そこで本書でも、意識しているのはとことん「勝つ」こと。そこを軸として、プロが当たり前のようにやっていること、けれども簡単に実践でき、すぐに効果が出るテクニックを公開しているわけです。きょうはSTEP1「資料作り」のなかから、数字と時間に関する項目に焦点を合わせてみたいと思います。■数字は右揃え・小数点揃えで売り上げや伸び率、人数、提案額など、プレゼンにおいては数字を使って説明することがよくあります。それは、相手を納得させるための有効な武器であるともいえるでしょう。とはいっても、それは便利な反面、理解するのにいちばん時間のかかるものでもあります。必ずしも、数字に強い人ばかりではないからですが、仮に数字を読み間違えさせてしまったとしたら、自分にも相手にも損害が生じることになります。そこで読み間違えられないようにするために重要なのが、「数字は右揃え、小数点揃えで見せる」こと。数字は「一」の位で揃えて見せるのが原則なので、必ず右揃えに。そして小数点を含む数字は小数点で揃えて表示。3ケタごとにカンマを振れば、さらに認識しやすくなるといいます。単に「千人」「百万円」などを使わず、ストレートに把握できる表記で見せるべきだということ。瞬時に数字が把握されれば、提案数字を正しく評価、検討してもらうことが可能に。その結果、「選ばれる資料」になるというわけです。■意味の区切りにはスペースをひと続きの名称や用語は、「どこが意味の区切りなのか」がわかりにくく、相手を誤解させてしまうことがあります。しかし、一瞬で意味がわからず考え込ませてしまうとしたら、それは相手の時間を奪うことにもなってしまいます。そればかりか、意味を取り間違えられたり、誤解されたままになったりする可能性も否定できません。だとしたら、そんなプレゼンが成功するとは考えにくいはず。そこで重要なのが、スペースで区切って意味を伝えること。的確に文章の内容を把握してもらうために、まずは段落を分け、次に適宜、句読点で文を切るのです。そして意味の区切りでは、スペースをはさんで字と字を分けて見せるといいのだとか。たとえば・北大学食ランキング・加賀美香(氏名)・東京都営業能力開発協会・国立府中間高速料金・関内科外科これらはどれも、どこで区切ったらいいのかが判断しづらいのではないでしょうか?そこで、・北 大学食ランキング・加 賀 美香(氏名) ← 姓と名の間を空けることで区別がつく・東京都 営業能力開発協会・国立府中 間高速料金 ← 句読点や「・」を入れるべきではない言葉も、スペースを加えれば区切りが伝わる・関 内科外科というように、半角スペースと全角スペースを駆使すれば見やすくなるのです。つまり相手を考え込ませることなく、ストレートに理解できる文章に変えてみれば、それは相手に無駄な時間をかけさせない資料になるということ。その結果、素早く「決定」へと誘導できるわけです。*このように著者のプレゼン資料に対する考え方は、「勝つ」ことだけを目的としているだけあって実に具体的。応用できるポイントも多いので、プレゼンで悩んでいる人はぜひ参考にしてみてください。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※天野暢子(2016)『プレゼンの勝つテクニック 図解 書く・伝える・フォローする』実業之日本社
2016年03月14日『お金を整える』(市居愛著、サンマーク出版)の著者は、マネーコンサルタントとして活躍する人物。しかし過去には、リーマンショックの影響でご主人の会社が倒産したことから、「お金がない恐怖」をリアルに体験したことがあるのだそうです。その恐怖感は相当なものだったでしょうが、そんななかでも得たものがあり、それが未来につながっていったのだといいます。それは、「お金の通り道」を整えることの重要性。お金の通り道を整えることによってムダな出費が減り、お金が貯まることに気づいたのだというのです。逆にお金の通り道が片づいていないと、新鮮なお金が入ってこなくなり、ムダなお金がどんどん出ていくことになるのだとか。また、散らかりすぎているあまり、本来あるはずのお金の存在に気づかないということも考えられるでしょう。その感覚を著者は、部屋の状態にあてはめています。部屋が散らかっていると「気が散る」のと同じように、お金の通り道が散らかっていると「お金が散る」ということ。そんな経験に基づいて書かれた本書のなかから、きょうはカードについておぼえておきたいことをご紹介しましょう。■カードは1枚に集中させるべし「クレジットカードを1枚にしましょう」と著者が提案すると、たいていの場合は「えー、無理ですよー」というリアクションが返ってくるのだそうです。たしかに最近はサービスが充実しているだけに、「ポイントほしさに」次々とクレジットカードをつくってしまうことも考えられます。ところが何気なくつくってしまうクレジットカードは、枚数が増えれば増えるほどリスクが高まるのだとか。しかも、もらえるご褒美も減っていくのだそうです。まず「ポイント」という観点から考えると、クレジットカードは使う頻度が高い企業で、もっとも効率よくポイントが貯まるものを選ぶべきだといいます。たとえばネットショッピングが多い人は、楽天やアマゾンなどのネット系カードを、食料品や日用品の買い物が多い人は、イオンカードやセブンカードなどの食料系カードを、といった具合。なぜならクレジットカードのポイントは、カードによって異なるものの、基本的にはそのカードのお店で使えば使うほど貯まる仕組みになっているから。そして当然のことながら、貯めたポイントはその企業の商品やサービスに換えることができるわけです。貯まっていくポイントは決して少なくないだけに、カードを1枚に集中させるだけで、お金(ポイント)が自動的に貯まるということ。■カード1枚だと信用も得られるまた、クレジットカードを1枚にすべきもうひとつの理由が「信用」。クレジットカードの支払い期限までに入金できなかった場合、その情報は「信用情報機関」というところに記録されるのだそうです。すると、住宅ローンなどで銀行からお金を借りたいとき、車などをローンで買いたいときなどに不利が生じてしまうということ。クレジットカードが複数枚あると、それぞれの請求額を把握しづらく、つい支払いを忘れてしまいがち。しかし1枚だけにしておけば、そんなリスクを減らすことができるわけです。■ポイントカードは3枚にしぼる最近はどんなお店にもポイントカードがありますが、いわれるままにいろんなポイントカードをつくるのも考えもの。なぜならポイントカードが多いほど、行く店が多くなるものだから。しかし、それぞれのお店でのポイントはたいして貯まらず、結果的にはムダづかいが多くなってしまうというのです。そこで悪循環を断ち切るために、著者はポイントカードの枚数を3枚にしぼり、お財布を整えることを勧めています。まずはお財布からすべてのカードを出し、過去「1年以内」にポイントを換金、あるいは商品に換えたことのあるカードだけをチョイス。そしてそのなかから、理容頻度の高い3枚を選ぶといいそうです。「1年以内」である理由は、お店のポイントカードは1年で有効期限が切れることが多いため。つまり1年以内にポイントを使ったおぼえがない場合には、必要のないカードだということになるわけです。そして「3枚」である理由は、1枚や2枚では、さまざまなシーンに対応できない可能性があるから。そして4枚以上持つとポイントが分散してしまい、得にならないからだといいます。*主婦としての感覚がベースになっているだけあり、考え方やメソッドはこのように具体的かつ実践的。つまりはすぐに役立てることができるわけなので、目を通しておきたい一冊だといえます。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※市居愛(2016)『お金を整える』サンマーク出版
2016年03月13日たとえば、毎日遅くまで残業続きなのに、そのわりには成果をなかなか出せないとか。あるいは、忙しすぎて自分の時間がつくれないとか。時間をうまく使いこなすことができず、密かに悩んでいるという方も多いのではないでしょうか?そこでご紹介したいのが、『仕事の速い人が絶対やらない時間の使い方』(理央周著、日本実業出版社)。著者は、トヨタ系列の日系企業に就職し、入社3年目にして外資系企業のフィリップモリスに転職。以後もアマゾンやマスターカードなど、10社を経験してきたという人物。つまり本書では、そんなプロセスのなかで身につけた独自の時間管理術を明かしているわけです。ところでそんな著者は、複数の職場でたくさんの優秀な人たちと働くことによって、大切なことを学んだのだといいます。それは、「仕事には、こなすことが目的の『作業』と、価値を生み出すことが目的の『価業』のふたつがある」ということ。当然のことながら、「価値」を大切にする必要があるということです。事実、仕事の速い人は「作業」をどんどん効率化して時間を短縮し、成果につながる「価業」を充実させる時間の使い方をしているもの。ところが仕事の遅い人は常に「作業」に追われ、結果的にはそれで仕事をしたつもりになってしまうということに……。■まずやるべきことを明確にするでは、そんな状況から抜け出して「仕事の速い人」になるためには、いったいどうしたらいいのでしょうか?この点について著者は、「時間の使い方」次第で成果が大きく変化し、より有意義な人生を過ごせるようになると主張しています。その際の重要ポイントは、不要なものをきっぱりと「捨てる」こと、「なにをやめて、なにをやるか」を決め、「やるべきことを明確にする」ことからはじめる必要があるということです。たとえばそれは、メールについてもいえるとか。メールに時間をかけすぎないように、考えるべきことがあるというのです。理由は明白で、「成果」を出すことが求められるのが仕事だから。それを前提に考えると、メールは仕事の目的ではなく、手段にすぎないということになるわけです。だからこそ、メールの送受信に必要以上の時間をかけてはいけないと著者はいいます。メールをしただけで仕事をした気分になっている人は、メールだけではなんの成果も生んでいないことを自覚すべきだというのです。■集中力を途切れないようにするいっぽう、仕事が早い人はメールを手段と割り切り、できるだけ効率よく処理しているもの。具体的にいえば、わざわざメールチェックをする時間をとらず、5分、10分の隙間時間を使っているのだといいます。たしかに、メールが届くたびに仕事を中断するのは非効率的。そんなことになるのを防ぐためにも、メールボックスを開くのは1日数回だけにして、「価業」(成果につながる仕事)に使うための時間の途中で集中力が途切れないようにすることが大切だといいます。著者の場合は、朝に仕事(価業)をはじめる前に、脳のウォーミングアップとしてメールチェックをするのだそうです。件名をざっと見て、「今日中に返事をしなくてはいけないもの」だけを受信ボックスに残し、メルマガや迷惑メールなどの残りは別フォルダに移動。そしてそのとき、すぐに返信したほうがよいものはその場で返信するのだといいます。なぜなら、あとで返信するために、またメールを開くのは二度手間になるから。そしてそのあとは、夜までメールソフトをシャットダウン。■メールチェックは1日3回のみ一般的に、ビジネスメールは24時間以内に返信するのがいいとされているのだそうです。なぜなら2日、3日も返信がないと、「仕事が遅い人」とみなされてしまうから。しかし逆にいえば、ふだんは1日に3回メールをチェックしておけば、相手に失礼になることはないわけです。朝に一度メールチェックをしたら、その後は午後の隙間時間に一度チェックし、最後に終業前に再チェックをすれば十分だということ。そして、メールは開いたと同時に返信するのが効率的。もちろん確認事項があり、少し考えてからでないと返信できないものもあるでしょう。しかしそういう場合でも、仕事が速い人はメールを受け取りっぱなしにせず、「メールを受信したこと」を伝えるメールを送ることが大切。とはいえ、長々と書く必要はなし。「メールを拝受しました。ご指定の期日までには返信いたします。まずは拝受のお知らせまでで失礼します」と返信するだけでいいのだそうです。*このように、著者の時間の使い方はきわめて効率的。すぐに応用できることも多いので、本書の内容を活かせば時間の有効利用が可能になるかもしれません。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※理央周(2016)『仕事の速い人が絶対やらない時間の使い方』日本実業出版社
2016年03月12日いま、読書に苦手意識を持っている人が少なくありません。平成25年の文化庁調査では、1カ月の読書量が「0冊」という人が47.5%とほぼ2人に1人。「読書に興味はあるけど、時間がなくて……」「もっとスラスラ本が読めればなぁ」なんて思っている人も少なくないのでは?「僕も、本を読むのが遅いんですよ、本当に。気づくと同じ行を何回も読んでいたり、放っておくと1ページ読むのに5分くらいかかっちゃう“遅読家”なんです」そう話すのは、月60冊の本を読み、『Suzie』など4つの媒体で書評を発表している書評家の印南敦史さん。“遅読家”なのに1日2冊も本を読める、その秘密はどこにあるのでしょう?『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)を出版した印南さんに、本がスラスラ読める”とっておきの方法”を伺ってきました!■10日間のダラダラ読みより60分のパラパラ読み印南さんがすすめる基本の読書スタイルは、このひとことに集約されています。パラパラ読み、つまり本の内容が自分のなかを”流れていく(flow)”ように読む。それは”読書”という言葉から受けがちな、じっくり熟読するイメージとは対照的なスタイルです。「そもそも、時間をかけて熟読しても、内容の多くは忘れてしまうものです。じっくり読んでも流すように読んでも、印象に残る部分は案外同じだったりしますし、むしろ、さらっと流し読みすることで、自分にとって重要な部分が浮かび上がるんです」と印南さん。「毎日本を読んで書評を書く」という仕事を始めてからそのことに気づいた印南さんは、読書への考え方を180度転換します。そして生まれたのがこの「フロー・リーディング」という発想。”流れるように”さらっと目を通し、気になった言葉や引っかかったところに重点を置く読書法です。■読書リズムをつくる秘策「寝起き10分読書習慣」読書に対する思い込みを取り払ったら、身につけたいのが「読書リズムをつくる」こと。そのためのとっておきの方法が“寝起き10分読書”です。「まず1日10分でいいから、決まった時間帯に本を開く習慣をつけること。本を開くことが”普通”になれば、電車に乗ったり時間がちょっとあいた時にもスマートフォンではなく本を開くようになったり、読書がどんどん身近に、楽しくなっていくんです」10分では短い気がしますが、じつはそれもポイント。とにかく時間がないという人も1日10分なら確保でき、時間に制限があることで集中力が高まってフロー・リーディングがしやすくなるといいます。そして“寝起き”の真意は?「起きたときって頭が冴えていて、情報がすぐに頭に入ってきます。それに、読書のリズムをつくるには、毎日同じ時間帯に習慣づけするのがいちばん。目が覚めてから布団を出るまでの時間って、ムダに費やしちゃうことが多いですよね。毎日10分くらいの時間を確保するのもわりと楽なので、習慣づけしやすいんです。その上、スッキリ起きられるメリットもあります」■10分読書をするだけで1日中アイドリング状態にさっそく読書の習慣づけにトライしてみたくなったという人のために、『遅読家のための読書術―』から、印南さんがおすすめする「iPhoneのアラーム機能を使った”寝起き10分読書”の具体例」をご紹介しましょう。たとえば朝7時に起きて活動する場合――・6時49分 目覚まし時計の音 → 読書開始・6時50分 好きな音楽(読書用BGM) → 音楽を聴きながら読書・7時00分 目覚まし時計の音 → 読書をやめて起きる「1日10分の習慣がつけば、それがエンジンになるんです。たとえば朝10分読書して『もっと読みたいな』と思えたなら、そこで一旦やめても続きが気になるから、昼休みにまた読める。そうやって1日ずっと“アイドリング状態”でいられるんです。エンジンをかければすぐにワッと発進できる、そんな状態をキープできるんですね。それを積み重ねていくと、本を開くこと自体が習慣になるんです」*『遅読家のための読書術―』は発売数日で増刷が決まるなど、大きな反響を呼んでいます。「本をもっと速く読みたい、たくさん読みたいと思っている人がけっこういるということだと思っています。出版不況ともいわれるけれど、みんなそれほど読書嫌いではない気がする。たとえばスマホを開いているとき、名作文学が読める“青空文庫”を読んでいる可能性もある。そうでなくとも、なんらかの文字情報に触れている人は少なくないはず。本かどうかは別として”読んでいる”ことが、スタートラインとして重要じゃないかなと思うんです。スマホでなにかを読んで興味を持ったことがきっかけで、本を買ってみるということもあるでしょうし。だから、『本が売れない』『みんな本を読まない』と悲観するよりも、もっと『本って楽しいよね』っていうことをいい続けていきたいですね」と印南さん。その言葉には、本を愛する気持ちがこもっています。本書では、ほかにも本をスラスラ読める「フロー・リーディング」のアイデアがたくさん紹介されています。どれも”遅読家”の印南さんが編み出した、誰にでも可能な方法。本を開けば別世界が広がったり、知らなかったことに出会えたり、それが読書の魅力です。本書をきっかけに、月20冊があたり前になる読書生活を楽しんでみませんか?(文/よりみちこ) 【取材協力】※印南敦史・・・作家、フリーランスライター、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、音楽雑誌の編集長を経て独立。ウェブ媒体『LifeHacker[日本版]』『NewsWeek日本版』『Suzie』『WANI BOOKOUT』などで年間700本以上の書評を発表している。著書に『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)のほか、音楽関連著作が多数。 【参考】※印南敦史(2016)『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』ダイヤモンド社※本を年間700冊も読む書評家が教える「3つの読書習慣構築術」―Suzie
2016年03月11日きょうは3月11日。いうまでもなく、多くの人々に衝撃を与えた東日本大震災から5年目にあたる日です。5年前の現在と同じ時刻に、なにをしていたか、どんな不安を心に抱えていたかなどを鮮明におぼえている方も少なくないと思います。あの日を境にいろんなことが変化しました。なかには思い出したくないこともあるはずですが、いいことがあったとすれば、人の心の温かさを共有できたことではないだろうかと感じています。多くの人が「当たり前のこと」として、困った人がいれば手を差し伸べ、助けられた人は素直に「ありがとう」と口に出し、感謝の気持ちを表すことができた。そんな気持ちを共有できたということには、とても大きな意味があるように思えるのです。そこできょうはひとつの区切りという意味も込め、『ありがとう ~Thank you~』(寺井広樹著、世界中に笑顔を広げるアーティストRIEイラスト、あさ出版)という書籍をご紹介したいと思います。■「ありがとう」の気持ちを伝える39の言葉著者は、能動的に涙を流す時間を設けることによって心のデトックスを図ろうということを目的とした「涙活プロデューサー」。直木賞作家、志茂田景樹氏との「天国ポスト」、川嶋あいを筆頭とするアーティストへの詩の提供など、幅広く活動している人物です。イラストを手がけるRIEさんは、ボルネオ島のある村で、貧しくとも笑顔を忘れない少女と出会ったことから「人の心の豊かさ、温かさを世界中に広げたい」と感じるようになり、絵を描き続けているという人物。つまり本書は「涙活」のコンセプトに基づき、「ありがとう」の気持ちを伝える39のメッセージを集め、それらを日本語と英語で表記。ソフトでやさしい質感をもつイラストとともに紹介しているというわけです。このなかから、6つのメッセージをご紹介しましょう。■6つのシンプルな「ありがとう」メッセージ(1)生きること、生きていくこと今日、こんな言葉に出会いました“生きるというのは、人に何かをもらうこと。生きていくというのは、それを返していくこと”Today, according to a quote;“Life is getting something from others.To live means giving it back to others.”(2)雨の匂いも風の音も雨の匂いも風の音もあの頃と違っているけれど……星たちは今日も変わらず輝いているThe smell of the rain and the sound of the wind do change,But the stars brightness will always stay the same.(3)「ごめんね」よりも「ごめんね」と言われるよりも「ありがとう」と言われたほうが何倍もうれしいSaying “Thank you” makes me happierThan saying “I’m sorry”.(4)今日があるから今日があるから明日がある許し許されて現在(いま)があるToday makes tomorrow.To forgive and being forgiven makes the present.(5)どんな日も晴れの日も、曇りの日も、雨の日も、雪の日も、嵐の日も、流れ星がたくさん降る日も、あなたが大切であることは変わらない。On sunny days, cloudy days, rainy days, snowy days,Stormy days, and nights with many shooting stars,You are always important.(6)本当に大事なこと本当に大事なことはいつだってあとから気づきますPeople only realize what is importantwhen it is too late.*このようにメッセージはどれもシンプルなので、絵本のように気軽にページをめくることができるはず。感謝の気持ちを再確認するためにも、手にとってみてはいかがでしょうか?(文/書評家・印南敦史) 【参考】※寺井広樹(2016)『ありがとう ~Thank you~』あさ出版
2016年03月11日マインドフルネスとは、自分の気持ちや体の状態を把握するための行為もしくは精神状態のこと。瞑想に似ており、効果的なストレス対処法として欧米でその効果が高く評価されています。そんなマインドフルネスの観点から「怖れ」との対峙法を説いているのが、きょうご紹介する『怖れ~心の嵐を乗り越える深い智慧~』(ティク・ナット・ハン著、島田啓介訳、サンガ)。著者は、ベトナム出身の禅僧、人権運動家、学者、詩人。また、ダライ・ラマ14世と並んで20世紀から平和活動に従事する代表的な仏教者で、マインドフルネスについて多くの著作を持つ作家でもあります。■人は「怖れの種」をまっすぐ見つめると変わる私たちは、過去に起こった出来事に心を縛られ、これから先のことに不安を抱いてしまうもの。しかし、怖れから逃避したりせずに「怖れの種」をまっすぐに見つめれば、そこから変容がはじまると著者は主張しています。そして変容をうながす強力な方法のひとつが、「5つの確認」の実践。息をゆっくりと吸って吐きながら、それぞれのフレーズを心のなかで唱えてみると、自分のなかにある怖れの性質とその根源を深く見つめるための味方になってくれるというのです。ではまず、その5つの確認を見てみましょう。(1)私は歳をとる。老いからは逃れられない。(2)私は病気になる。病気からは逃れられない。(3)私はやがて死ぬ。死からは逃れられない。(4)いま大切にしているものや愛する人々はすべて変わりゆく。別離からは逃れられない。(5)私は体、言葉、心による行為の結果を受け継ぐ。私の行為だけが継続していく。ひとつひとつの項目を深く見つめつつ、気づきを向けつつ息を吸い、息を吐く。そうして自分を力づけながら、怖れに取り組んでいくというのがその手法。各項目を見ていきましょう。■心のなかで唱えると怖れが減る5つのフレーズ(1)私は歳をとる。老いからは逃れられない。私たちが確実に歳をとっていくのは、普遍的で避けようのない事実。しかしほとんどの人はそれを認めずに、なんらかのかたちでその事実を否定して生きているもの。しかし心の奥底では、それが本当だとわけってもいます。ところが、不安に満ちた考えを抑圧したところで、それは闇のなかでくすぶり続けるだけ。だからこそ、私たちはこれを単なる理屈ではなく、現実に起こっていることとして、真実として受け入れなければならないと著者はいいます。5つの確認は表面的な描写ではなく、自ら直接体験しなければならない真実を理解するためのよい機会だということ。(2)私は病気になる。病気からは逃れられない。たとえいま健康であったとしても、いつかやがて自分も病気にかかるときがやってきます。いますぐにその真実を見つめようとしない限り、あるとき突然それが降りかかったとき、対処のしようがなくなるもの。そこで、いまこの時点で、「体がある限り、必ずいつかは病気になる」ということを自覚しなければならないという考え方。それを知れば健康ゆえの傲慢さから抜け出すことができ、そこから正しい行動(正業)の道が開ける。すると自らの時間とエネルギーを最大限に生かして必要なことを行い、身心を傷めるような無意味な行動にうつつを抜かすことはなくなるというのです。いわば、すべきことがはっきりするということです。(3)私はやがて死ぬ。死からは逃れられない。死は私たちが向き合うべきリアリティであるだけに、潜在意識は常にそれを忘れようとするもの。しかし、自分がいつかは死ぬというリアリティに本当に向き合ったとき、人は馬鹿げた行動で自分を苦しめたり、永遠に生きるという幻想にしがみついたりはしなくなるといいます。自分の死という事実を深く見つめれば、自らのエネルギーを、自分自身と世界を変容させ癒すための実践に注ぐことができるようになるのです。(4)いま大切にしているものや愛する人々はすべて変わりゆく。別離からは逃れられない。死ぬときに携えていけるものはなく、いま大切にしているものはすべて、明日にはなくなるかもしれません。ブッダは「いつでも手放せる心構えを持つべきだ」と説いているそうですが、それは別離からは離れられないものだという考えがあるから。私たちはいつでも、手放すための準備ができていなければならないということです。(5)私は体、言葉、心による行為の結果を受け継ぐ。私の行為だけが継続していく。第5の確認が教えるのは、私たちの死後にも続いていく唯一のことは、カルマ(業)と呼ばれる、思い、言葉、行動だけであるということ。カルマは私たちが依って立つ基盤で、むしろ唯一の基盤こそがカルマなのだとか。健全なものであれ不健全なものであれ、どんな行為からも私たちはその事実を受け取るべきだということ。*マインドフルネスに詳しくなかったとしても、無理なく取り入れるアイデア満載。怖れを少なくしていくためにも、目を通してみる価値はあるかもしれません。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※ティク・ナット・ハン(2015)『怖れ~心の嵐を乗り越える深い智慧~』サンガ
2016年03月10日『世界NO.1執事が教える“信頼の法則”「信じていい人」「いけない人」の見分け方』(新井直之著、KADOKAWA)の著者は、日本バトラー&コンシェルジュ株式会社代表取締役社長。同社は、執事によるフルオーダーメイドサービスを提供しているという珍しい会社で、著者自身も執事として大富豪のお客様を担当。また、それに加え、企業向けに富裕層ビジネス、顧客満足度向上に関するコンサルティング、講演、研修なども行っているのだそうです。そんな実績を持つ著者の新刊である本書は、お客様をトラブルから守るために蓄積してきた「信頼できるかどうか」を見極めるテクニックを公開した書籍。切り口自体が、とてもユニークです。■日本人が大好きな数字の3と8に要注意ところで著者は本書のなかで数字の話題に触れており、「3と8は適当な数を表すときに人が好んで使う数字」だと指摘しています。たとえば、こんな感じ。「こちらの商品ですが、すでに3社からオファーをいただいております」「朝から営業に回っていて、こちらで8件目なんですよね」前者の「3社」は、本当は1社からしかオファーがないのに、「それでは少なすぎる」「かといって5社と大ボラを吹くのは後ろめたい」というときなどに、「ほどよい数字」として使われることが多いといいます。ただし無意識のうちに使っている人がほとんどで、自分がそれを多用していることに気づく人は少ないのだとか。また無意識である以上、本人に罪悪感はないものの、聞く人が聞くと「あれ? おかしいな」と感じることも。一方の「8」は、「想像以上に数が多い」ことをアピールしたいときによく使われる数字。昔から「嘘八百」などといいますが、80%、800件、8,000人などは要注意。10のようにキリがいい数字ではわざとらしいので、それに近いところで、8なら「そこそこ多い」というイメージをアピールできるのではないかという心理がそこにはあるのだそうです。日本人が3を好んで使ってきたことは、歴史的にも明らか。その証拠に、「石の上にも三年」「三日坊主」「三日天下」「仏の顔も三度まで」など、さまざまな言葉があります。また3は、「満」「充」を連想させる縁起のよい数字と考えられることも。対する8も、「八雲」「八重桜」「八百万」など、「たくさん」という意味を込めて使われてきました。そればかりか「八」には「末広がり」の意味があるため、運のよい数字としてお祝い事などにも使われています。■根拠のない「大げさな表現」にも要注意また、数字ではありませんが、映画のCMに多い「全米が涙した新作」「絶賛上映中」などの根拠のない大げさな表現、あるいは通販番組の「他にはない切れ味」「限定100名のみ先着順」「全国から感謝の声が届いています」など、調べる音ができない「あおり文句」にも、3と8に通じる曖昧さがあると著者は指摘しています。とはいえ映画や通販番組の場合、多少は誇大な表現を使ったとしても、エンタテインメントの暗黙の了解として楽しめるので問題はないといいますが。ただし、ビジネスの世界では話が別。大富豪のように常に数字に神経をとがらせている人は、8が多用されていることに気づくと、すぐに「うさんくさいな」と警戒するというのです。つまり、そうした人との商談において、こうした表現を多用すると信用を失いかねないということ。もちろん、3と8を使ってはいけないというわけではありません。しかし、そもそも3と8は10のうちの2つの数字でしかないわけです。本来、話に出てくる確率は5分の1程度なので、それが2回に1回出てきたら、確率的にもおかしいということ。だからこそ、「この商品は、ご紹介したほとんどの方がご購入なさっています」「こちらの商品は人気が高く、あと残りわずかです」というようなあおり文句も含め、あいまいで無責任な言葉が口癖になっていないか、一度、周囲の人とチェックし合うことを著者は勧めています。いわれてみれば、無意識に多用していたかもしれませんね。*プロの執事が書いているだけあって、語り口は上品でソフト。気持ちよく読み進めながら、「信頼」についての大切なことを無理なく身につけることができるでしょう。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※新井直之(2015)『世界NO.1執事が教える“信頼の法則”「信じていい人」「いけない人」の見分け方』KADOKAWA
2016年03月09日「あがりや緊張を克服したい」「ここぞという場面で力を発揮できるようになりたい」「大勢の前でも堂々と話せるようになりたい」というような望みは、誰の心のなかにもあるものなのではないでしょうか?しかし、わかってはいても、なかなかうまくいかないものでもあります。そこで手にとってみたいのが、上記のように願っている「人たちに向けて書かれたという『本番に強い人は、ヤバいときほど力を抜く 人前で話すのが劇的にラクになる7つの技法』(森下裕道著、清流出版)。接客、営業、人材育成、人間関係のコミュニケーション問題の観点から幅広く活動する著者が、円滑なコミュニケーションを実現するための術を明かした書籍です。本書において著者は、いま感じている緊張は、3つに分けられると主張しています。はたして、どういうことなのでしょうか?■著者が教える「緊張の公式」とはどんなにあがり症の人でも、ちょっとのことで緊張してしまう人でも、その緊張度合いを1/3以下に減らすことができるのだと著者はいいます。なぜなら緊張は、次のような公式で表すことができるから。「自分が感じている緊張度合い」=「自分の過去の体験やトラウマからくる緊張」+「自分のいまの実際の緊張」+「自分が勝手に想像してつくった未来の緊張」「自分が感じている緊張度合い」は、3つの要素の複合体だということ。本来は「現実問題の緊張」だけでいいにもかかわらず、そこに「過去の体験からくる勝手な思い込みによる緊張」と「勝手につくった未来の不安や被害妄想からくる緊張」とを合わせ、3倍以上にふくれあがらせてしまっているということ。だとすれば、たとえ緊張したとしても、本来感じるべき緊張は、いま感じている緊張の1/3以下にはなるという考え方です。犬が苦手で、犬を怖がる人の例で考えてみましょう。■緊張度合いを構成する3つの緊張(例)「自分が感じている緊張度合い」……友人の家に遊びに行ったら、部屋のなかに苦手な犬がいた。その犬が近くにいる緊張度合い。たとえばこの緊張度合いは、次の3つの緊張によって構成されているということです。「自分の過去の体験やトラウマからくる緊張」……幼いころ、親戚の犬にしつこくちょっかいを出していたら、いきなりガブッと手を噛まれた。そのときの「いきなり噛みつかれた恐怖」と「痛かった体験」からくる緊張。「また噛まれるに違いない」という勝手な思い込みからくる緊張など。+「自分のいまの実際の緊張」……犬が近くにいる、その実際の緊張。+「自分が勝手に想像してつくった未来の緊張」……幼いころの犬に噛まれた経験から、「また噛まれたらどうしよう」「また急に襲ってきたらどうしよう」「こっちに向かってきたらどうしよう」など、自分で勝手につくった未来の不安や恐れからくる緊張、自分で勝手につくった妄想からくる緊張など。■過去に起きた悪いことは続かない当たり前の話ですが、幼いころ犬に噛まれたからといって、今度もまた噛まれるとは限りません。それに目の前にいる犬は、幼いころに出会った犬とは違う犬です。だからこそ、そこまで怖がる必要はないということ。「こうなったらどうしよう」という「未来の緊張」など、他人からすれば理解不可能なことでしかないでしょう。それに、ある人が恐怖心を感じる犬も、犬好きな人にととてもかわいく映る可能性があります。そんなとき「犬を怖がっている」と伝えたりしたら、「大の大人なのに」と驚かれるかもしれません。緊張や不安、恐れなどを感じたら、次のように考えるべきだと著者は提案しています。「ちょっと待てよ。これって、本当にそこまで怖いものなのだろうか?」たしかに、自分の過去の嫌な体験やトラウマから緊張してしまうことは十分に考えられることではあります。しかし問題は、「過去の悪いこと」がずっと続くものだと思い込んでいるということ。そして、なぜかそういう人は、悪いことは続くのに、よいことは続かないと思っているものだと著者は指摘します。でも、そんなことがあるはずもありません。なぜなら、未来は“現在”の延長線上にあって、よいことは続くものだから。*当たり前のことなのですが、そこに立ち戻ると、たしかに緊張を緩和することができそうでもあります。本来あるべき原点に立ち戻るためにも、目を通してみる価値はあるのではないかと思います。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※森下裕道(2015)『本番に強い人は、ヤバいときほど力を抜く 人前で話すのが劇的にラクになる7つの技法』清流出版
2016年03月08日ビジネスの現場では、人に「教える」機会は少なくないもの。また、面倒だからといって、それを避けるわけにもいかないでしょう。とはいえ現実的に、それはなかなか困難なことでもあります。そこでぜひ読んでおきたいのが、『たった1日でできる人が育つ! 「教え方」の技術』(齋藤孝著、PHP研究所)。大学教授として若い人と20年以上つきあってきた著者が、新入社員もできない人も「戦力」に変えるためのメソッドを公開した書籍。本書で著者は、誰もが「教師」になる必要性のある時代において、上司・先輩は必要なことをより短時間で部下や後輩に伝えなければ、仕事が回らなくなってきていると指摘しています。■最低限のことは教えよう大きな要因として考えられるのは、職場にパソコンが普及したこと。その結果として生産性が大きく向上したわけですが、そのぶん個人の仕事量は大きく増えることにもなりました。しかもいまは時代の流れが速いので、新しい仕事もどんどん増える一方です。ではそんな状況下、職場に新しい人が入ってきたとしたらどうなるでしょうか? それは新卒の場合もあるでしょうし、異動で他部署から移ってくる場合も考えられるはずです。しかしどうであれ、たとえその人がどれだけ優秀だったとしても、経験知がなければ力を発揮することは不可能。そこで、最低限のことは部署で教える必要性が生まれます。■見て覚える時代ではないそうはいってもインストラクターがいるわけではありませんから、誰かが自分の仕事と並行して教えなければなりません。ただでさえ忙しいのに仕事が上乗せされるわけですから、かかるエネルギーもプレッシャーもかなりのものであるはず。そしてもうひとつの問題は、いまはもう新人が「見て覚える」時代ではないことだといいます。職人や芸の世界ならともかく、一般的な職場においては、上司や先輩の言動を見て主体的に判断・行動できるタイプは減っているわけです。だから、「見ていれば覚えるだろう」では、新人にとってはストレスになるだけ。「なんも教えてもらえない」と上司や先輩への不満を募らせるばかりだということです。重要なのは、「まずは基本的なことをていねいに教えてほしい。そうすれば、ちゃんとできるようになる」というタイプが多いこと。この点について著者は、「最近の若い人は真面目なので、うまく教えれば順調に成長するものだ」と断言しています。つまり仕事の種類が増えたうえに、「ていねいに教えてほしい」という若者が増えた。そんな状況下では、この2つの要素をクリアする必要があるということ。上司や先輩は、効率よく、細やかに教えることが求められるというわけです。■2つの基本的な「心構え」そしてそんな観点に立った場合、職場で「教える」ということについては、持つべき2つの基本的な“心構え”があると著者はいいます。まずひとつ目は、「教える」ことは「業務の一環」であると覚悟を決めること。部下や後輩が入ってきたり、その指導係を任されたりすることを「面倒だ」と感じる人は少なくないでしょう。たしかにそれは時間を必要としますし、大きなストレスの原因にもなります。まして上の世代は、「自分が新人のころはそんなに教えてもらわなかった」と、ていねいに教えることを「不必要」と考えがちでもあります。(1)伝承し続けることしかし、その根底にあるのは「教えることは業務外のサービスである」という意識なのではないかと著者は指摘します。そして、「だとすれは、明らかに時代を読み違えている」とも。以前がどうであれ、いまはかなり変わってきているのです。会社組織のなかで重要なのは、毎年のように人が入れ替わるなかで、ノウハウや技術などを伝承し続けることにほかなりません。そうでなければ組織の意味がないわけなので、そこに費やすエネルギーを惜しんではいけないわけです。(2)教える循環をつくることただし、特定の誰かが教育の全責任を負う必要はなく、大切なのは全員が役割を分担し、「教える循環をつくる」ことだといいます。つまり、これがふたつ目の“心構え”。たとえば学校の部活には、3年生が2年生に教え、2年生が1年生に教えるという循環があるものです。会社でも同じように、入社2年目の時点で新入社員の教育係を務められるようになれば、3年目以上の社員の負担はかなり軽減されるはず。このように「教える」という行為を血液のように循環させることが、組織にとっての生命線になるという考え方です。*経験に基づく著者の言葉には、強い説得力があります。そんなこともあり、教え方で悩んでいる人にとっては、大きく役立つ内容だといえそうです。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※齋藤孝(2015)『たった1日でできる人が育つ! 「教え方」の技術』PHP研究所
2016年03月08日『ブームをつくる人がみずから動く仕組み』(殿村美樹著、集英社)の著者は、「PRプロデューサー」。これまでに「ひこにゃん」「うどん県」「佐世保バーガー」「今年の漢字」など、世間を騒がせたさまざまなムーブメントのPRを手がけてきたのだそうです。「PRプランナー」や「PRコンサルタント」ならまだしも、PRプロデューサーとはあまり聞いたことのない職種ですが、そう名乗ることには理由があるのだといいます。つまり著者が理想とするPRは、従来型の「企業PR」とは本質的に異なるものだということ。すでにでき上がった商品や理念を既存のレールに沿って告知するのではなく、PR活動を通じ、ひとつの文化をつくり上げていくことを目指しているというのです。根底にあるのは、「文化と歴史は“つくるもの”」だという考え方。だからこそ、PRはプロデュースしなければはじまらないものだというのです。つまり本書では、そのような考え方を軸として、ブームづくりについての持論を展開しているわけです。■ダイレクトメールはPRではなく広告!ブームをつくるということは、社会を動かすということ。社会を動かすために避けて通れないのは、クライアントを動かすこと。そして同じように重要なのは、「メディアを動かす」こと。PR業務には、メディアとの連携が必要不可欠なのです。ところで製品やサービスの情報を、人々に対して直接発信する方法として思いつくものに、ダイレクトメールがあります。しかしダイレクトメールはPRではなく、広告に分類されるもの。またダイレクトメールは大量に印刷し、さらにポスティングも行わなければならないため、コストも発生することになります。いっぽう、PRの場合はまずメディアに向けて「プレスリリース」という形で情報を発信します。そしてその情報をメディアによって、ニュースとして人々に伝えてもらうということ。いわば、メディアが持つ情報発信力を「てこ」のように利用するのがPRによる情報発信の手法。著者は、そう解説しています。■すべての文字情報の基本は「5W1H」だとすれば大きな意味を持つのは、「効果的なプレスリリースを、どうやって書くか?」ということであるはず。そして著者によれば、特に重要なのはタイトルなのだそうです。基本として大切なのは、「5W1H」を的確に伝えること。いうまでもなく「5W1H」とは、「いつ(When)」「どこで(Where)」「誰が(Who)」「なにを(What)」「なぜ(Why)」「どのように(How)」という6要素。これを踏まえることは、プレスリリースに「限らず、すべての文字情報の基本だといえます。文章を書くということは、誰にとっても「すでに頭のなかにあることを文字化する」ことだと著者。いいかえれば書いている本人にとっては、すでにわかっていることだというわけです。だから、その情報をまだ知らない人に向けて発信する際には、必要なことがらをつい書き漏らしてしまうことがよくあるのだそうです。いってみれば「5W1Hを正確に伝えていない」という基本的なミス、誰もが犯してしまう危険を持つもの。しかし、そのミスを防ぐための心構えがあるのだといいます。それは、「この情報を知ってもらいたい!」という根本的な目的意識を強く持ち続けること。プレスリリースとは、メディアに向けての提案書。だから著者も、「この情報が記事に役立ち、読者や視聴者のためにもなると思う」と強く思いながらプレスリリースを作成しているそうです。■プレスリリースで重要なのは「YTT」また、プレスリリースという特定の目的を持つ文章を書くにあたっては、5W1Hに加えて「YTT」という要素も重要なのだとか。Y(Yesterday)、T(Today)、T(Tomorrow)という時間軸に沿って、情報の価値を表現する必要があるということ。つまり、「情報の物語」を簡潔に伝えなければならないのです。たとえば「間違いなく人類に利便性を提供する新商品の発売」という情報を発信するのなら、伝えるべきはその商品の性能という現在的な価値だけではないといいます。それに「加え、「それが存在しなかった過去はいかに不便だったか」、さらに「その商品が普及した未来が、どれほど快適になるか」を表現するということ。だからこそ、社会にとっての商品の価値は、このYTTを抜きには決して決められないのだと著者は断言しています。*この考え方にも明らかなとおり、著者が提唱するPRに関する手法は、さまざまな業種に応用することもできるはず。そういう意味でも、ぜひ読んでおきたい内容だといえます。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※殿村美樹(2016)『ブームをつくる人がみずから動く仕組み』集英社
2016年03月06日