吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。8月15日の玉子丼8月15日。朝、靖国神社を参拝しようと思い立ちました。「思い立つ」なんて不敬な表現ですが、なぜか今日行かなくては、と直感的に思ったのです。靖国神社をお参りしたのはずいぶん前のこと。心を寄せてはいても、足を運んではいませんでした。日本が日本でなくなる……そんな危惧があるからなのかもしれません。台風が過ぎ、さらに暑さが戻ってきました。立っているだけでも汗が噴き出てきます。終戦の日だけにまわりの道路は物々しい雰囲気で、多くの警察官が警備にあたっていました。すぐ隣の武道館では、全国戦没者追悼式が行われていることもあり、この日が『日常』ではないことを示していました。神社の塀沿いに歩いていると、私の前をアオスジアゲハがひらりと横切っていきました。蝶は亡くなった人の化身とも言われています。来たことを喜んでくれているのかなあと思いつつ、参拝の長い列に並びました。終戦後77年目を迎えた日本はどこへ向かうのか。亡くなったあまりにも多くの命に報いるような日本になっているのか。それを思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになります。戦争を美化するつもりも神格化するつもりもまったくありませんが、私たちは「大切にする」「大切に思う」という気持ちを忘れてしまったような気がしてなりません。大切なものを大切にする、大切に思うという『覚悟』です。神社内にある靖國八千代食堂で玉子丼をいただきました。鹿児島県知覧の富屋食堂で『特攻の母』と呼ばれた島濱トメさんの玉子丼です。特攻隊員たちの最後のごはん。隊員たちは最後のごはんにもかかわらず、「母や妹、弟たちに食べさせたい」と話したそうです。知覧特攻平和会館には、隊員たちが残した手紙が展示されています。家族への、美しい字で綴られた手紙には、泣き言も恨み言などなく、ただただ国のために飛び立つこと、家族が健やかであることを祈る思いが綴られています。二十歳前後の若者たち、その心の奥を知ることはできませんが清々しくさえ思える手紙は、涙無くして読めません。そんな若者たちのためにトメさんが作り続けた玉子丼。熱々で、ほの甘く、やさしい味で、散蓮華でひと口食べるたびに涙がこぼれ、最後のご飯一粒までいただきました。胸の中を去来した思いを、今もまだ言葉にできずにいます。ただ、「覚悟する」ということを忘れてしまったような自分を情けなく思うばかりでした。食堂を出て、化粧室へ行っている間に隣のお土産屋さんで『Jupiter』がかかったそうです。アオスジアゲハに迎えてもらい、『Jupiter』で送ってもらった参拝。大切なことを大切にしようと、改めて思ったのでした。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年08月21日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。『知ること』は扉を開くこと書店へ行くと、いつも軽い絶望感を味わいます。大型の書店へ行けばなおさらのこと、どれだけの数の書籍があるのか想像もつきません。もちろん、それは恥ずかしいことではないし、書店に足を踏み入れたときの一瞬の『めまい』のようなものです。この世界には一生かかっても辿り着かない『知』があり、知ることのない『物語』がある。そしてそれは、いまこの瞬間にもどんどん生み出され、その領域を広げ続けている。果てしない……宇宙のようでもあります。そんな軽い絶望感を味わいつつも、書店は興味を掻き立てられる場所です。散歩をするように書棚から書棚を見て回る。好きな作家の新刊は迷わず手に取る。まだ知らない知の扉が並んでいるのですから、圧倒されながらも好奇心が湧き出てきます。タイトルや表紙に惹かれて手に取り、ぱらぱらと見てみる。字が小さかったり(ずいぶん目が怪しくなってきたので、ここがハードル…)、目次ですでに難解そうなら書棚に戻す。興味をそそられても、「読み越えられない」本が増えてきました。根気が薄れてきたのかもしれません。東京の六本木ヒルズがある場所に、以前カルチャーの発進地とも言える『六本木WAVE』というビルがありました。1階から4階があらゆるジャンルの音楽を集めたCDショップ、セディックというレコーディングスタジオ、シネヴィヴァン六本木というミニシアターも入っていました。当時、歩いて15分ほどのところに住んでいたので、散歩がてらよく新しい音楽を探しに行ったものでした。それこそ大型レコード店、新しい音楽を探しているうちに1時間、2時間経っていることもありました。このビルの数軒隣りには、アート系の本が多く集められている青山ブックセンターがあり、WAVE散歩の後に必ず立ち寄ったものです。このような文化的な刺激は、作詞をする上でも感性を磨く研磨剤となりました。すでにここにある文化。そしてこれから生まれるアート、そして形成されていく文化。鑑賞者でありながら、私たちが作り手であることを意識すると、また新しいものの見方、感性が開いていくかもしれません。『知ること』は、新しい扉を開く最初の一歩。書店に行くたびに軽くでも絶望している場合ではありません……。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年08月15日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。「癒される」ということ母が亡くなった年のお盆のこと。迎え火の炎が小さくなり、おがらが残り火の中で静かに炭になっていったとき、父がポツリと言いました。「ママ、帰ってきたな」父の中にいろいろな物語があり、心の中のつぶやきがふっとこぼれたような。私も妹たちも胸の中で、それぞれの想いを噛み締めていた、そんな初盆の入りでした。いなくなる、ってすごいことだなあと思うのです。いま、ここで生きていた人が、いなくなる。朝、「行ってらっしゃい」「行ってきます」と言葉を交わし、そのまま会えなくなることもある。脳梗塞で言葉が出なくなった母に「明日、また来るね」と声をかけると、母は弱々しくなった手でぎゅっと私の手を握り返しました。そして置き去りにされる子どもみたいな顔をして、病室を出る私を見ていました。翌日会ったときには、もう手を握り返してくれることはありませんでした。亡くなった人を思うとき、なぜか空を見上げるものです。天に昇る。天国は空の上にある。そんなイメージがあるからでしょうか。「肉体を離れた人の魂は素粒子となり、空気中に溶け込んでいるのではないか」そんな解釈を聞いたことがあります。(もちろん『エビデンス』などありませんが)『千の風になって』の歌のように、風になって愛する人の元へ吹き渡っているのかもしれません。喪失の悲しみを、人はさまざまな『物語』を心に描いて乗り越えていきます。「乗り越える」というのは違うでしょうか。悲しみを小脇に抱えながら、癒していくための『物語』という方が言い得ているかもしれません。その中で私たちが見出していくのは愛なのではないか。その愛によって、私たちは癒され、悲しみではない涙を流すことができるのではないか、と思うのです。母が亡くなった後、あらゆるものに母の愛が宿っていることに気づきました。写真の中に、私という存在そのものの中に。そして、6月に15歳のわんこを見送り、これ以上ないのではないかと思う喪失感の中で、『ただただ愛すること』『いつも一緒にいると感じること、信じること』『エゴを手放していくこと』……多くのことを学んでいます。ぽっかりと空いた心の穴を愛と感謝で満たしていく。『喪の仕事』は自身の心の死と再生の道程であり、『癒し』のプロセスでもあるのです。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年08月07日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。心から「ありがとう」を言えるとき「ありがとう」という言葉が、運を好転させるための魔法の呪文のように言われた時期がありました。いいことがあればありがとう。好ましくないことがあってもありがとう。「ありがとう」とは「有ることが難しいこと」、「めったにない貴重である」ということを表しています。この語源を心に留めてみると、見えてくるものがあります。何かをしてもらったり、頂き物をしたり、親切にしてもらったときに、私たちは「ありがとう」という言葉を自然に口にします。それは目に見えるモノ、コトに対する感謝であることが多いのではないでしょうか。その幅を少し広げ、生活のあらゆる交流の場面で「ありがとう」と伝えてみる。言葉には『言霊』が宿っていると言われます。「有り難い」という感謝の思いが広がります。先日、100歳になられるエッセイストの鮫島純子さんのお話を聞く機会がありました。鮫島純子さんは、渋沢栄一のお孫さんです。人生には良いことばかりでなく、つらく苦しいことが多々ある。そんなときこそ誠実に向き合い、これは心を成長させるありがたい機会を与えられたのだと解釈する。鮫島さんは、「人生とは何か、生きる意味とは?100年生きて、どうやらその答えが見つかったように思えます」とお話しされました。また先日、仕事で加山雄三さんとお会いしました。脳梗塞、脳出血を乗り越え、また若い頃から多くの困難を乗り越えていらした加山さんは「人生、すべて与えられたもの、ありがとうしかないぜ」と明るく言われます。85歳の加山さんの言葉に外連味などまったくありません。人生を登山に例えるなら、遠くの山々も美しく見渡せる峰に到達されたような、そんな印象を受けました。91歳になった父は、「ありがとう」とよく口にします。大丈夫かしら、と様子を聞きたくて電話すると、「ありがとう、大丈夫」と。「ありがとう、楽しかった」「ありがとう、助かった」若い頃の父から、こんなに「ありがとう」と言う言葉を聞いた記憶はありません。「ありがとう」が魔法の言葉でもいいのだと思います。口に出した感謝の言葉は空気を震わせて伝わっていきます。もしかしたら「ありがとう」の心が空気の震えとなって世の中に伝わっていけば、世の中は少し優しくなるのかもしれません。私たちが心の底から生きていること、生かされていることのありがたさに気づくには、さまざまな経験を乗り越える時間が必要なのかもしれません。若いということ。歳を重ねたということ。それぞれが、それぞれの人生の道程のある一点にいる、ということ。若さはすばらしい。人生未踏のチャレンジはこれからですから。そして、多くの経験を重ねたからこそ到達できる境地があるのです。そのとき、心から「ありがとう」という言葉と共に人生の醍醐味を味わえるのでしょう。まだまだだなあ、と自分を振り返り、つくづく思います。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年07月31日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。言葉と心との隙間に気づいてみると「幸せを祈っているよ」こう言った人は、本当にこの言葉の通りに相手の幸せを祈っているのだろうか。かつてティーンネイジャーのバイブルとも言われたJ.D.サリンジャーの小説『ライ麦畑でつかまえて』の主人公ホールデンは、行く先々で言われるこの言葉に悩みます。挨拶のような、単なる常套句のような言葉に、彼は嘘、インチキの匂いを感じとります。彼は純粋であろうとするあまり、『善意の衣を纏った嘘くささ』に落胆するのです。ここがこの小説の肝となる部分。私も10代の頃、本音と実際に口にするそんな言葉の不一致にインチキ臭さを感じたものでした。他人に言われた言葉に対してではなく、自分の言葉と本音との隙間もどうしていいかわからなかった。この年齢になればそんな隙間と折り合いをつけられるようになりましたが、10代の頃はきつかったことを憶えています。「退屈な大人になるなら、馬鹿なままの子どもでいい」そんなことも思ったものでした。流されるように社会の歯車の一つになり、本当の気持ちから離れていくような大人のなり方を拒否したかったのです。誰かが亡くなるとSNS上にはお悔やみの言葉が溢れます。それが犬であろうと猫であろうと人であろうと、「心からお悔やみ申し上げます」「ご冥福をお祈りします」という弔意の言葉が並びます。誰かの訃報を、お悔やみの言葉の常套句、定型文で済ます。そこでふと思うのです。本当に祈っているだろうか。心からのお悔やみの気持ちを感じているのだろうか。親友が亡くなったとき、Facebook上に多くの人が弔意の言葉を寄せました。でも私は、とても「ご冥福を……」とは言えませんでした。悲しいとか悔しいという言葉では表せない、心に空いた喪失感という穴をうまく表すことができませんでした。大きな悲しみに遭遇したとき、私たちは言葉を失うのです。そして悲しみの中にいる人にかける言葉も見つからない。そこを埋めるような言葉には、『嘘』や『体裁』はいらない、と思うのです。6月に15歳の愛犬を亡くした夜、受講生がお花を持って来てくれました。そして、「私は由美先生が心配」と、そっと抱きしめてくれました。どんな弔意を表す言葉よりも、心にしみ、慰められました。『ライ麦畑でつかまえて』を初めて読んだ時から半世紀近くなります。「言葉に心をこめる」というテーマは、生き方の美しさにつながっているのだとわかるようになりました。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年07月24日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。残しているもの、残ったもの玄関のドアノブに古い鎖のリード。もう10年近くなるでしょうか。鎖のリードがずっとかかったままの家があります。玄関ポーチでゆったりと寝ているゴールデン・レトリバーのロンロンの姿を見かけなくなったのがいつだったか。古い鎖のリードからするりと消えてしまったように、いなくなっていたのでした。そして今でもそのリードだけが、ロンロンがそこにいたことを示しています。彼を知っている人たちだけが、玄関ポーチで道ゆく人を眺めていた姿をそこに思い出すことができるのです。高齢の飼い主のご夫婦は、今もロンロンと共にいるのでしょう。その家の隣には、いつもほがらかで、ちょっとユニークなおばさまが住んでいました。門を開けて、飼っているインコやウサギのケージを表に出し、玄関先にはたくさんの花々。間口が広かったので、まるでお店のようでした。そしていつもうれしそうに花の手入れをしながら道ゆく人に挨拶をしたり、立ち話をしたり。人を喜ばせたいという気持ちが感じられました。たまに自作の絵が展示してありました。見る人によっては変わり者に映っていたかもしれません。私もそんな印象を持っておばさまを見ていました。ある日、その家の前を通ると、家はすっかり解体され、更地になっていました。動物たちのケージもたくさんの花々もなく、300坪はありそうな空間が広がっていました。建物がなくなると、かつてそこに何があったのか忘れてしまうものです。冬を迎え、寒々としたその場所からあのほがらかなおばさまのイメージも消えていきました。ところが翌年の春、その空き地一面にカモミールの花、レンゲ、シロツメクサが咲いたのです。住宅地の真ん中、300坪に一面に。春になるのを待ち兼ねて、草花たちが一斉に命を賛美するように。絵本に描かれていそうな、可憐な空間が広がっていました。ロンロンの飼い主は、ロンロンが存在していたという証を鎖のリードに託しました。どうしても鎖を外せないのかもしれません。それを見るたびに、反対にここにいないことを確認してしまうのに。せつないですが、それも愛なのでしょう。そしてユニークでほがらかなおばさまの人に喜んでもらいたいという思いは、引っ越した後にも残りました。前に地植えしたカモミールが思いがけず増えていったのでしょう。おばさまの思いが、また道ゆく人に可憐な花畑で楽しませたのです。自分は何を手元に残し、そして自分が去った後何が残るのか。手放すものは手放し、自分らしく生きる。人生の学びのきっかけは、自分のすぐ近くにあるかもしれません。ロンロンの鎖のリードと空き地の花畑に、そんなことを考えさせられました。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年07月10日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。言葉のちからを手渡すように言葉には、その言葉通りの現実を起こす不思議な力、言霊があると信じられてきました。言霊と聞くと、何やら呪術的なイメージを持つ人もいるかもしれませんが、その言葉にちゃんと意味がこもっている……と捉えてみてください。しきしまの大和の国は言霊の幸はふ国ぞ真幸くありこそ(大和の国は言霊によって幸いがもたらされる国です。どうぞご無事で行ってらっしゃい)これは柿本人麻呂が船出をする友人を見送ったときに詠んだ歌で、万葉集に収録されています。「どうぞご無事で」という言葉に、その旅が無事であるよう言霊の力をこめたのです。このようにいにしえの人々は言葉の力というものを大切にしてきました。その精神は、多くの美しい日本語の表現にもつながっているように思います。「いただきます」「ごちそうさま」「行ってきます」「おかえりなさい」「ありがとう」「おかげさま」という挨拶や感謝の言葉には、祈りや感謝がこもっています。ですから私たちがこのような言葉を日常的に交わすことによって、祈りや感謝のエネルギーが発せられているということなのです。『挨拶』には礼儀だけではなく、もっと深い働きがあるのだと思います。そして心をこめて挨拶をする。挨拶の言葉にこめられた思いを感じると、言葉の力がさらに深まるのではないでしょうか。「言葉はコミュニケーションツールだから、伝わればいい」と、ある人から言われたことがあります。その人は単に言葉をツールだと思っているので、使い方を間違ったり、時に礼を逸した表現をするのです。人から誤解されることも多かったようで、そのたびに「そういう意味じゃないんですよ。それはこうでああで……」と説明していました。一度発した言葉を取り戻すことはできません。削除することもリセットすることもできない。「そんなつもりでなかった」にせよ、相手の印象にはその言葉が刻まれてしまうのです。カジュアルな会話であっても、そこに『心』があればいいのです。言葉は投げるものではなく、手渡すように。親しみがあり、相手を思いやる気持ちを持って、あたたかくつながっていきたいものです。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年07月03日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。「信じる」という言葉に思う歌詞を書くとき、どうしても多く使う言葉があります。書くときには、もちろんその言葉がふさわしいと思うから使います。「愛してる」「信じてる」、そう書くときは心からその言葉を思います。音楽大学の授業で作詞について教えていく中で、その言葉の重みに気づき考え込んでしまうことがありました。「信じてる」「信じる」とは、実はとんでもないことなのではないか。人は、そう簡単に何かを「信じる」ことは出来ないのではないか。「明日を信じる」「未来を信じて」「自分を信じる」「あなたを信じてる」1時間後に死んでいるかもしれないのに、なぜ明日を信じられるのか。自分を信じる?思わぬ出来事に感情が翻弄されてしまい、不安定になる自分を信じられるのか。「信じる」というのは、実はとても凄まじいことなのではないか。耳障りのいいこの言葉をはまりのいいところに多用するのは、ちゃんと言葉を語っていないのではないか。「愛してる」も同じことです。本当に愛してる?愛してるってどういうこと?情愛と愛は違うのではないか。こう考え始めると迷路に入ってしまったようで、自分の中で問答が繰り広げられるのです。例えば歌詞の中で「いつか」「いつの日か」という言葉が出てきます。日常的にも使う言葉ですが、「いつか」ということは「いまはない」ということです。「いつか」という言葉には希望と、「いまはない」淋しさのようなものも含まれているのです。たった3文字の「いつか」にこもっている物語を短い歌詞の中でどう語るかが作詞家の仕事なのだと、改めて思うのです。日常の中で交わされる「いつか」という言葉が希望であり、この手にできる確かなものであるように意識して口にしたいと思うのです。このような言葉の重みは、一方で実践することで実現していくことがあります。自分を信じることができたら生きやすくなる。夢は叶うと心から信じられるからこそ、それは現実になっていく。最初から「信じてる」のではなく「信じよう」「信じる!」と強く思うからこそ、道が開けるのでしょう。「誰か」を信じる。それは「信じたい」という思いから始まっています。「信じる」ではなく「信頼する」という言葉を使うと、根を下ろすような安定感があります。「信じる」ということは、「信じてみる」「信頼する」ことから始まる。とても細かいことですが、言葉と心のつながりを大切にすると、心に映る風景が変わっていくのです。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年06月26日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。言葉のふくらみ1年9か月ぶりに留学先から娘が一時帰国。スケジュール満載の2週間を過ごし、また大学に戻っていきました。羽田空港は少し人が多くなった感はありますが、多くのフライトが欠航しています。今は検査票などの確認がありいつもよりもチェックインに時間がかかるので、私は先にカフェでコーヒーを飲んで待つことにしました。チェックインカウンターを見下ろせる席に座り、旅立つ人たちを眺めていました。隣のテーブルに座ったアラブ系の男性は、FaceTimeなのかLINEなのか誰かとうれしそうに話していました。これから国に帰るのかな。お土産が入っているのか、紙袋を時々覗いては微笑んで。空港はさまざまなドラマが行き交う場所。出会いと別れ、それぞれのドラマがあります。チェックインを済ませた娘と日常のたわいもない話をしながら、ああ、またしばらく会えなくなる……と胸の奥がきゅっとします。「もう、入ろうかな」「もう?」「ボーディングまで、あと30分」検査場に入るとき、ぎゅっとハグをして娘が言いました。「元気でね」私も伝えたいことがたくさんあるのですが、思いは胸の中をぐるぐると回り、言葉にしたら泣いてしまいそうで、ただ抱き締めていました。私も「元気でね」と言うのが精一杯。検査場の入口には、私と同じように子どもを見送った親たちが、姿が見えなくなってもずっと佇んでいました。「元気でね」わずか5文字の中にどれだけの想いがこもっているでしょう。言葉のふくらみ。『言葉の含み』という言い方がありますが、私には『ふくらみ』という表現が優しく響きます。言葉にできない想い。伝えたいのにうまく伝えられない想い。そんな想いが心からあふれるとき、想いは言葉のふくらみとなって現れる。「元気でね」という言葉には祈りがあります。「大丈夫」という言葉にも祈りがあります。「ありがとう」には有ることが難しいことがあることへの深い感謝がこもっています。「おかげさま」には、森羅万象への感謝。そんな5文字の言葉を口にする時には、それぞれの貴い気持ちがこもっているのです。言葉のふくらみ。5文字の中にこもっている想いの深淵さは、愛すること、生きることの貴さとなって心にしみます。それもまた言葉のちからなのでしょう。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年06月19日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。生きる力〜食べて、笑って、どんなときも失恋をしてもお腹が空く。こんな自分に気づいたとき、生命力とはこういうことなのだと思ったことがあります。儀式のように泣くだけ泣いて泣くのに疲れて、(なんか食べよう。お腹が空いて死んじゃう)とお米を研ぎ始める。ごはんの友は何があるかな、と冷蔵庫を開ける。そして、そんな自分の滑稽さを笑う。すると生命力はさらに強まります。上智大学の名誉教授で死生学を日本に広めたアルフォンス・デーケン先生は、「にもかかわらず笑う」ことが大切だと説いています。悲しいにもかかわらず笑う。苦労をしているにもかかわらず笑う。笑い、ユーモアは生きる力になる、と。私はそれに加えて「にもかかわらず食べる」ことも大切だと思うのです。母が亡くなった日、私は大鍋いっぱいのカレーを作り、ごはんを5合炊きました。まずみんな食べることなど考えなくなる。親戚が弔問に訪ねてくる。もちろん手をかけたものなど作れない。そう考えると、カレーがいちばん適当なのです。マーケットに行き食材をたくさん買い、黙々と野菜を刻み、鶏肉を切り、大鍋でぐつぐつと煮込む。淡々と、黙々と料理をする。このような日にもお腹が空くだろうと考えて作っているのですが、同時に自分の気持ちを落ち着かせるために料理をしていたのです。母が亡くなったという非日常の中に、食事という日常が紛れ込む。カレーを食べている間、非日常という緊張が解けて何気ない日常の会話が交わされ、時には笑いが起こる。つい数分前までは涙ぐみ、悲嘆にくれていたというのに。そして食事が済むと重い空気がそれぞれの胸に流れ込み、非日常へと戻っていくのでした。生命力、生きる力はいろいろな場面に現れます。失恋してもお腹が空く。にもかかわらず笑える。生命力、生きる力とは体力や気力、精神力だけではないのですね。本能というのか、野性というのか、その時々の「思うがまま」「感じるがまま」に抗わないことも、生きる力となるのです。空腹なまま苦難は乗り越えられない。乗り越える力にも栄養が必要なのです。そしておいしく食べられること。空腹を満たすだけでなく、おいしいと思えたとき、生きている小さな喜びを受け取れるのです。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年06月05日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。『大丈夫』の魔法〜高齢のペットたちに高齢犬の1週間は、人の1ヶ月に相当すると言います。1ヶ月で4ヶ月。3ヶ月で1年という計算になります。それが病気を抱えていたら尚更のこと、目に見えて弱っていくのがわかります。そして、あるときを境にガタッと機能が落ちるのです。15歳9ヶ月になる我が家のトイプードルのラニは1年半ほど前に腎臓の数値が高くなりました。週に一度点滴をするようになったのですが、いつもと変わらず元気に走り回ることができていました。ところが半年前に膵炎を起こしたことをきっかけに体重が減少し始め、2.4kgが1.6kgに。背骨がくっきりと出て、お尻の骨の形が見えるほど痩せてしまいました。ドイツの植物療法を取り入れた治療を始め、腎臓の数値も少し改善し、活力も出てきました。散歩に行きたがること。ごはんを食べることが、ラニの生命力の表れです。そこに望みをつなぐように、過ごしてきました。ところが、あるとき食べなくなり、外を歩くこともままならなくなりました。外に出たがるのですが、10メートルも歩くと止まってしまいます。その後はキャリーカートに乗せて散歩をします。風に吹かれながら気持ちよさそうにしている背中を見ていると、この地球の美しさを楽しんでいるような、目に焼き付けようとしているような……そんな感じがします。我が子のように慈しんできたペットたちは、いつか飼い主の年齢を超えていきます。それはいずれ私たちも辿る道です。彼らは生きるということを、身をもって示してくれている。高齢になったペットたちはおそらく、食べたいのに食べられなくなること、歩きたいのに歩けなくなること、目が見えなくなることなど、多くのことに不安を感じているでしょう。それは、飼い主たちが彼らを失う不安よりも大きいはずです。それを受け入れて命のままに生きる。私は改めて生きることの尊さを思うのです。言葉で何も伝えることができない動物たちの言葉に耳を傾ける。(ただそばにいてほしい)私はそんな言葉を丸まって寝ているラニを見ていて伝わってくる思いがありました。そして、大切なラニを失うことの怖れを『大丈夫』という言葉に変えて伝えていこうと思うのです。何があっても大丈夫、大丈夫。思いを込めたことの言葉が、ラニの不安の慰めになりますよう祈ります。大丈夫は魔法の言葉のようです。この言葉は、何よりも私の怖れを慈しむ気持ちに導いてくれるのです。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年05月29日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。優しいまなざしという癒しを目は心の鏡。目は心の窓。目は口ほどにものを言う。表情は、無意識のうちに心を表す言葉です。マスクをすることが『日常』になってからというもの、街から『表情』が消えてしまったかのようです。やはり笑顔の口元や、ムッとしてへの字になった口元は、そのまま心を表す表情です。マスクをしていても唯一見えている目。少し口角を上げると、たとえ口元は見えていなくても目元は柔らかくなります。努めて口角を上げ目の表情が柔らかくなるように意識すると、不思議と気持ちも穏やかになります。我が家にはもうすぐ16歳になるトイプードルがいます。昨年から腎不全を患い、その数値はかなり高く、毎日の養生に気を抜けない日が続いています。筋肉が落ち、よろよろとしながらも散歩に行きたがりますが、100メートルも歩くと歩みがさらに遅くなり、キャリーカートに乗せてしばらく散歩します。気持ちよさそうに目を細め、風を感じたり日差しを感じている様子に、時々せつなくなるのです。先日、近くのカフェまで散歩に行きました。お天気も良く、テラス席で本でも読もうかと。テーブルを拭きにきたウェトレスさんがわんこを見て、「わあ、かわいいですね。何歳ですか?」と話しかけて来ました。思いきり笑顔になったであろうそのまなざしが、とても優しかった。そのウェトレスさんが飼っている犬も高齢で、すっかりおとなしくなってしまったとか。愛しさで包み込むようなそのまなざしに癒され、心が震えました。そして私は大切なことを教えられた気がしたのです。サングラスをかけると世界は違って見えます。カメラのレンズのフィルターを替えると光景は違った色合いになります。私たちの目、まなざしも同じように、どのような気持ちで見るかによって、世界は違って映るのではないでしょうか。批判的な気持ちで見れば、世界はそのように見える。優しさを持って世界を見れば、人に対しても優しい気持ちを抱けるというふうに。時には批判も必要です。何が起きているのか冷静な目が必要です。それはそれとして、今の混沌とした世界に優しいまなざしという癒しを。自分の心の平穏のためにも、家族、友人たちのためにも。街ですれ違う知らない人たちのためにも。世界のためにも。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年05月22日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。丁寧さは心の表れSNSの広がりで、人と人とのつながりの垣根が低くなりました。とても知り合うことはないような有名人とも運が良ければつながり、コメントをすれば返事をもらえることもあれば、場合によってはお誕生日のメッセージをもらえることもあるでしょう。自分の呟きや近況報告を投稿しながら、人とのつながりが広がっていく。便利で興味深いツールです。「言葉は伝わればいいのだから、深く考えすぎないほうがいい」以前、仕事関係の人からこう言われたことがありました。言葉を単にコミュニケーション、伝達のツールだと思っているその人の言葉は、しばしば誤解や行き違いを生むものでした。一度発した言葉は削除することはできません。「そんなつもりで言ったのではない」と言って誤解は解けたとしても、言われた人のインパクトをなかったことにはできないのです。SNSの中での気軽なやり取り。気軽で手軽なだけに、言葉のほころびがあちらこちらに見られます。言葉が足りなかったり、失礼な物言いであったり。面識のない目上の人に対して、例えば「先生すごい!」「上手!!」とコメントする。悪気がないだけに残念。「先生、素晴らしいです!」と丁寧に伝えたら、不躾ではなく、より気持ちが伝わるのではないでしょうか。人と人との垣根が低くなった分、丁寧なコミュニケーションが求められる。垣根が低いというのは、ずかずかと相手に近づいていくことではないのです。片岡鶴太郎さんと仕事をしたとき、ご自宅に伺ったことがありました。鶴太郎さんは誰に対しても丁寧な言葉で話し、マネージャーさんにも丁寧に用事をお願いされるのです。「〇〇さん、お客さまに果物もお出ししていただけますか?」言葉が丁寧なだけで、その場の空気が和らぎます。それは、相手を大切に思う気持ちの表れです。丁寧な言葉でのコミュニケーションには美しさがあるのです。SNSという顔を合わせない場だからこそ、言葉のほころびに気をつけたいものです。丁寧に、よく考えて、そして気軽に楽しむ。低くても、垣根は越えないように。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年05月15日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。紙とインクとスマートフォン紙の匂い。新しいノートを開いたとき、紙の乾いた匂いがふっと空気に触れて消えていく。その瞬間が好きです。紙質がよくなったからなのか最近ではあまり感じることはありませんが、それはインクを吸い込む前のまっさらな紙の息遣いのようです。小学生のとき、本の匂いについて作文を書いたことを思い出しました。『小さな目』という小学生が書いた詩集が好きで、机の上に置いて何度も読み返したものです。自分と同じ年頃の小学生の詩は、教科書に載っている詩よりも心に入って来たのです。「本を開くと、ぷーんと卵色の紙の匂い……」半世紀以上も前の作文の、こんな出だしも思い出しました。週に一コマ担当している音楽大学の授業は、この4月から対面授業になりました。大学で教えるようになって4年目、そのうち2年がオンラインでの授業です。テキストはweb上にアップし、スライドを使っての授業でした。対面授業になり、テキストをどうするか。70名のコピーをとり、配るのは労力がかかりすぎる。また大学がペーパーレスを推奨しているということで、引き続きweb上にアップすることになりました。時代は変わりました。デジタルの社会に生まれた若い人たちは、紙がなくても学べるのです。メモもスマホなりPCに打ち込む。スマホを使ってレポートを書くことに、何の抵抗もない。不自由も感じないのでしょう。むしろいつでもどこでも楽にできるので、それが彼らの普通のやり方になりつつあります。A4のコピー用紙に3Bの鉛筆で、書いては消し、思い浮かんだことを走り書きし、ごちゃごちゃと書いた下書きの中から歌詞を完成させていくのとは、もう思考回路そのものが違うのかもしれません。「紙に書いて考えなければいけないのですか?」そんな質問に驚きつつ、「試しにアナログな方法を試してみたら?新しい発見があるかもしれないですよ」と答えるのが精一杯でした。大切なことは、言葉の温度や手触りを伝えていくこと。物語を綴る言葉が生きていること。ごちゃごちゃ書かれた下書きには、作品への思考の道すじが残っている。そこにもいろいろなヒントがあるのです。デジタルの恩恵を受けつつも、何が自分にとって心地よく、自分を幸せにしてくれるのか。仕事場には新しいノートや走り書きの紙、本でいっぱいです。アナログなアプローチで綴る言葉。デジタルを使いこなす若い人たちが紡ぐ言葉。互いに発見が生まれたとき、進化し合えるのではないか。私にとっての紙の匂いは、彼らのスマホのスクロールの感覚なのかもしれません。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年05月01日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。『美』はあなたの心が生みだすもの世界は、美しいと思うものであふれている。それぞれの季節の良さはあれど、4月は一年のうちでも取り分け美しい時期です。色のない冬の終わり、ぽっと咲いた梅の花が春を予感させ、沈丁花の香りが春の訪れを告げる。そして早咲きの河津桜や寒緋桜からソメイヨシノ、八重桜、その頃にはハナミズキの葉がすっかり出ている。離れて見ると、それはたくさんの蝶々が舞っているようで、美しい。桜の花が終わると新葉が一斉に芽吹き、新緑の季節を迎えます。風が葉を揺らし、木洩れ日ゆれている。そんなささやかな光景も、美しいものです。季節だけでなく、息を呑むような自然があり、見入ってしまうような芸術作品がある。生き方が美しい人がいる。美しく微笑む人も。心の窓を大きく開いて眺めてみると、世界は美しいものであふれています。でも、本当はこの世界に美しいものはひとつもありません。これは、事実です。もしもこの地球上に人類が存在せず、そこに大自然だけがあり、四季折々の花が咲いたとしても、それは美しいものではないのです。なぜか。美とは、美しいと心を震わす人がいて初めて美になるのです。美しいと思う人がいなければ、ただそこに存在しているものに過ぎません。美は、美しいと思う感性から生まれるものなのです。ということは、『美しいもの』を生み出しているのは、私たち自身、私たちの感性、心ということになります。それをもう少し広げて言うと、『感動』です。ささやかなことも素直にうれしいと思い、素敵だなと思う。喜ぶこと。素直に受け取り、その感度を高めていく。これは、美しいものに出会っていく一つの秘訣です。私たちの日常生活は、決して平坦なものではありません。時には、人生を揺るがすような困難に遭遇します。人間関係も、時に軋んで心をすり減らすこともあるでしょう。そのとき、世界はどう見えるでしょう?何も感じなくなっているのではないでしょうか。日常の中でネガティブなことを拾い上げるのではなく、努めてよかったこと、うれしかったこと、感動を拾い上げていく。それをできるだけたくさん、スケジュール帳や日記の片隅などに記す習慣をつける。すると、感動の感度が上がっていきます。ネガティブに思えることをオセロのチップをひっくり返すように、ポジティブな方向に考えられるようになります。私たちは二つの目で世界を見ていますが、実際は心の目でも見ているのです。心というフィルターをクリアに、感度を高めて美しいものと出会い、人生の豊かさを味わっていきましょう。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年04月24日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。駆け引きのさじ加減おまけしてもらうのが苦手です。値段交渉というのでしょうか、海外のお土産屋さんなどで値切るのは旅の楽しみの一つですが、大概そのまま買ってしまいます。真夏にエジプトを旅したとき、あまりの暑さに遺跡の前の露天商でストールを買いました。1枚500円くらいだったと思います。色違いで3枚、少しおまけしてくれて1000円くらいだったと思います。一緒に行った友人は値切って値切って3枚500円に。後からその値段を聞いて驚きました。バリ島にダイビングをしに行ったときのことです。マイクロバスが休憩で停まるたびに、物売りたちが寄ってきます。たいていが子どもたちで、手作りのアクセサリーや絵葉書などを売りにきます。お金も持ってきていなかったし、買うつもりもないので「ごめんね、お金ないの」と断っていると、ひとりの少女がニコニコ笑いながら、私の首に木の実で作ったネックレスをかけました。私が外そうとすると、“No,no,gift,gift”と笑っています。え?物売りの女の子からもらうの?と半分戸惑っていると、“Friend,friend”と。そんなこともありました。娘がメキシコへ行ったときのこと。メキシコの装飾品はとても手がこんでいて素敵で、観光地の露店で売っているビーズのアクセサリーも丁寧に作られたものが多いそうです。それをアメリカ人観光客が一つ2ドルの指輪を値切って半額にし、一つ買っていたのを見て、唖然としたと言います。娘は2ドルの指輪を10個、他のものもそのままの値段で友達のお土産に。メキシコに旅行に来るほど裕福なアメリカ人が、地元の人が丁寧に作ったものを買い叩く。その姿も心も醜かったと話してくれました。値段の駆け引きを、売り手も買い手も織り込み済みで楽しむこともあります。お互いに恩恵を受ける頃合いを見定める。さじ加減を考える。高額なものならともかく、楽しむ程度、ほどほどにした方がいいように思うのです。年に一度、花市場に行く機会があり、市場に並んでいる花の安さに毎回驚きます。市場ですから安くて当然なのですが、この花の向こうにいる生産者が、商品になる花を育てるのにどれだけの労力がいるか。それを考えると、店頭に並んでいる花の値段は決して高くはないと思うのです。リーズナブルであることに越したことはないのかもしれません。でもときどき、その『もの』の向こう側に思いを馳せることは、世の中が少し優しくなることにつながるかもしれません。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年04月17日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。『引き寄せられの法則』にご注意をネット詐欺なるものに二件、引っかかってしまいました。銀行から確認の電話がかかってくるまで詐欺だと気づかず、ただ振り返ってみると、(なんか妙だなあ)と心をよぎった点がいくつかあったことを思い出しました。ひとつ目は、なかなか手に入らない作家の器です。どこか販売しているサイトはないか、いろいろ探していたところ、多種多様の商品を扱っているサイトになんとその作家の器があったのです。ネットで買い物をするときは、会社案内、特定商取引法に基づく表示を確認します。また、商品説明などの日本語がちゃんとしているかどうかもチェックします。そのサイトを運営する会社は地方にあり、一応、クリアしていました。中古の品だったのですが、それでも欲しかったので購入手続きをしました。割安だったことと、決済方法が銀行振込みのみだったこと。そして写真があまりきれいに撮れていないこと。そんな妙な点も、地方の個人経営の会社が運営しているからなのかな、くらいにしか考えていませんでした。そしてもうひとつ。我が家の15歳のわんこは腎不全を患っていて、ごはんもあまり食べたがらなくなっていました。ムース状の腎臓食であれば何とか口に入れてくれたのですが、なんとウェットの腎臓用のフードがどのメーカーのものも品切れ状態だったのです。でも、それしか食べるものがない……。この同じサイトに、2ダース出品されているのを見つけ、すぐに購入手続きをしました。「愛犬のために買ったのですが亡くなったのでお譲りします」と、飼い主の女性が二つの箱を持っている写真。亡くなった愛犬のために買ったもの……縁起が悪くないだろうか……いや、そんなことより命をつなぐことが先決……などと逡巡しつつ購入手続きをしました。二件の振込先は別々の地方の信用金庫でした。サイトの責任者と、口座名義が違ったのも、考えるとおかしな点です。数日後、銀行から電話があり、この口座に詐欺の疑いがあると。一件は返金手続きをしてもらえたのですが、腎臓フードを振り込んだ口座はすでに解約済み。取り戻す術はありませんでした。初めての詐欺被害。そのどちらも、人の気持ちを揺さぶるようなところをついてきます。なかなか手に入らない作家の器。よくこれをリサーチしたものです。そして、手に入りにくくなった腎臓フード。まるで私のために用意されたような詐欺サイトですが、こちらの強い思いが引き寄せられていったという方が正しいかもしれません。『引き寄せられの法則』にご注意を。そして、何事にも(変だな)という野性の勘も大切に。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年04月10日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。祖母と私と桜の頃私が育った家は、駅から続く桜並木の先にありました。今から数十年前は、桜が咲き始めるのは3月の下旬くらいからで、満開になるのはちょうど入学式が行われる頃だったと記憶しています。一年のうちで最も美しい2週間、桜のトンネル、落ちた桜を拾ったり、花びらを集めたり、子どもなりに楽しい季節でした。小学生の頃、母方の祖母を九州から呼び寄せ、一緒に暮らしていました。リウマチを患っていた祖母は足も弱く腰も少し曲がり、そろりそろりと歩いていました。まだ60代の後半でしたが、昔話に出てくる『おばあさん』のようでした。ほとんど家から出ることなく、時々庭で日向ぼっこをするくらい。祖母は何を楽しみにしていたのか。ソファに座ってテレビを観ている姿ばかり思い出します。祖母は特別の信仰を持っていませんでしたが、ある宗教関係の小冊子を購読したいと言いました。編集部に連絡し、購読の手続きをしました。その小冊子には子ども向けのコラムもあり、私も毎月それを読むのが楽しみでした。祖母はこのことをずっと感謝してくれました。祖母が話してくれたことでひとつだけ、今でも覚えていることがあります。「由美ちゃんが好きじゃないなと思う人も、由美ちゃんのことを好きじゃないと思っているのよ」祖母は穏やかに話していましたが、私はどきっとしました。自分も好きじゃない友達からでも嫌われているというのはちょっとショックなものです。今も苦手な人に会うと祖母の言葉を思い出します。相手は自分を映す鏡。思いはエネルギーなので、伝わってしまう。祖母はそういうことを伝えたかったのでしょう。祖母は私が中学校に上がった秋に亡くなりました。当時、栄養ドリンクのCMで『頑張らなくっちゃ』という歌が流れていました。心臓の手術を受けることになった祖母は、手術室に入る前に「頑張らなくっちゃ」と微笑みながら歌っていたそうです。いたずらっぽい目をして歌っていたんだろうなあ。病室の祖母に歌って歌ってとせがんだことも、こうして書きながら思い出しました。桜の季節です。昔の家へ続く桜並木も満開でしょう。祖母はこの桜を一度も見たことはありません。どうして車椅子を借りて、外に連れ出すという知恵が出なかったのか。祖母が亡くなって桜の季節がめぐってきたとき、私は激しく悔やみ泣きました。今年も桜の下を、心の中で祖母と一緒に歩きます。一年に一度の穏やかで優しい時間は、少しせつなくもあるのです。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年04月03日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。花を飾る〜人生を彩る贈りもの二十代の半ばにひとり暮らしを始めたとき、自分に二つの決め事をしました。できるだけ食事を作ること。ひとりだからと言って食事を疎かにしないように。二つ目はいつも花を飾ること。生活に季節の彩りを取り入れるために。小さな1LDKのリビングの隅に黒の脚付膳を置き、花を生ける場所を作りました。高さのある花器にカサブランカやカラーを投げ入れ、春には桜も。花を選ぶ楽しみ、生ける楽しみ、そして愛でる楽しみ。そればかりでなく、『命あるもの』と共にいる喜びは、慈しむことを教えてくれました。真紅のバラの花びらはビロードのようで、その手触りは小さい頃のお出かけ着を思い出させました。そして、こんな真紅のビロードのドレスが似合う女性になれるか……などと、一瞬そんなことを思ったり。黄色いバラが出ると、一輪だけ求めます。黄色いバラには、小学生の頃に習っていた英語の先生との思い出があります。レッスンの中で、「何の花が好きですか?」と英語で質問したところ、先生は黄色のバラが好きと。先生は1930年代にアメリカの大学に留学され、とてもモダンな方でした。外国に憧れていた小学生の私は、先生のエレガントであたたかく、そしてハイカラな雰囲気をとても素敵に思ったものです。通い始めて1年ほど経った頃、先生は体調を崩され、そのまま帰らぬ人となってしまいました。告別式に向かう道すがら、母に亡くなった人が生き返ることはあるのか尋ねました。母は少し考えてから「2万人にひとりくらいかしら」と、細い糸のような光を見せてくれました。根拠のない、母の絶妙な答えです。どうか先生がその2万のひとりに入りますように。教会へ向かう電車の中で祈ったことを覚えています。それから何年か、先生の命日にお小遣いで黄色いバラを一輪求め、お参りに伺いました。先生が旅立った年齢をとうに越しましたが、黄色いバラに先生を思い出し、あの頃の自分を思うのです。2月過ぎると、お花屋さんにアネモネが出始めます。まさに春が来たことを告げるように。アネモネは、誕生日が私と同じ、友人のママを思い出させます。小学生の頃、誕生日に、アネモネの小さなブーケをいただきました。そのママもハイカラで、お洒落で、大好きでした。お話もとてもおもしろかった。素敵な大人の女性のモデルでした。そのママは私の妊娠がわかった頃に亡くなりました。母は私がショックを受けるからと、しばらく私にそのことを告げませんでした。アネモネもまたあたたかい思い出の花になりました。花は、それぞれの人の心に物語をもたらします。花を飾る。それは日常を彩り、心の世界を彩り、人生を彩るのでしょう。一輪の花からの贈りものです。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年03月27日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。風の時代〜一人一人が時代の担い手に風の時代。200年に一度起きる木星と土星の大接近『グレートコンジャンクション』が、これまでの土の星座から風の星座に移行しました。それが2021年、12月21日頃からと言われています。土の星座(牡羊座、乙女座、山羊座)は、目に見えるもの、形あるものを重んじ、物質的なことに価値を見出す時代と言われます。忍耐と根性を発揮して、物質的な豊かさを目指した時代です。そしてこれから始まる風の時代は、形のないもの、情報や伝達、教育など、知ること、覚醒していく時代。自分の好きなこと、想像力、コミュニケーション。心や感性、自由さが大切になってくる時代です。物質的な価値を求める苦しさに疲れた多くの人たちは、風の時代の到来を待ち望んでいたでしょう。わくわくと共に、なんとなく、重い荷物を下ろしたような気がしたのではないでしょうか。この『宇宙的な大変化』のいま、世界は混乱の真っ只中にあります。コロナ禍、そして戦争。他にも人類はあまりにも多くの問題を抱えながら、これらがどのように解決していくのか、まったくわからない状態です。まさに時代の変革期。でも、いったい何を目標にしているのか。それぞれの国、立場の人間たちの思惑が交錯し、多くの情報によって何が『事実』で、何が『真実』なのかわかりません。私も、何を信じていいのか、何も信じられないのか、わかりません。時代が変わっていくには、大きな痛みを伴うのかもしれない。こんな動乱期に生きていることに、自分の問題として大きな意味があるのではないかと考えるようになりました。風のように軽やかにしなやかに生きる。そうできるようになるには、自分の中に沈み込んでいるわだかまりや執着を手放していくこと。まずは自分自身が軽くなること。これがなかなか難しいのですが、先の見えない不安定な情勢の中、ある意味、腹を括ることではないかと思うのです。この時代を選んで生まれてきた。この時代の変革を体験するために選んできた。だからとことん味わい尽くす。本気でそう思えると、世界情勢の先は見えなくても、自分のこれからが見えてくるのではないでしょうか。いいことも、つらいことも、最善を尽くし、味わい尽くす。中途半端でいることが、ストレスとなるのだと最近思うようになりました。風の時代。風は外から吹いてくるのではなく、自分の中に吹かせていく。自分から風を吹かせる。それこそ、形のない、想像力や伝えていく力を発揮していくことではないでしょうか。まずは、大好きなことを楽しむ!趣味でも仕事でも、自分の中に風を吹かせる。そういう意味で、一人ひとりが持てる才能を発揮しながら担い手となっていく時代の到来なのです。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年03月20日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。旅立つ日の『走馬灯』人は死ぬときに、これまでの人生の走馬灯を見ると言われます。瀕死の状態から生還した人の体験からしか窺い知ることはできませんが、カナダの研究チームが死の間際の脳波の変化から『走馬灯』の可能性があるのでは、という論文を発表しました。80代のてんかん患者の男性の脳波を測定している際、患者が心臓発作を起こして死亡しました。死へ移行するまでの30秒間、脳波は夢を見たり、記憶を呼び覚ますための高度な認識作業をしているときと同じパターンになり、それは心停止後も30秒間続いたそうです。この『高度な認識作業』が夢なのか、フラッシュバックのようなものなのかは判別できません。夢のようなヴィジョンが、好ましいものなのか悪夢なのか。生きている私たちが体験していない『死』について、医学的、科学的に説明することには限界がありそうです。それでも、死に及んだときに自分たちに何が起きるのか、その後はどうなるのか。これは生きている私たちの最も関心のあることだと思います。誰も体験したことのない死は哲学、宗教の中で語られ、それを受け入れるかどうかは人それぞれです。そこで『物語』が必要になります。親しい人たちの旅立ちを見送ること。それは、ひとつの死の体験です。7年前のクリスマスイブの朝、母が脳梗塞で倒れました。病院に駆けつけ、意識のない母を見たとき、こんなシナリオになっていたのか……と呆然としました。でも、しばらくすると母が光っているように見えてきたのです。(最後まで生ききるのを見なさいね)と言っているような。その姿は、愛そのものでした。これは私の心に浮かんできた『物語』です。本当に光っているように見えたのですから私にとっての『本当のこと』なのですが、こう思うことによって私は自分を納得させ、受け入れ、母の人生の物語を見守る心の準備をしたのです。『物語』は妄想などではなく、挫けそうな心を守るための、心の作用なのです。急性期病院から療養病院へ。そして、もう手を尽くしたとの判断で老人病院に転院した翌日、母は旅立ちました。その病院にだけは入りたくないと強く思っていた病院に移ったとき、何も言えなくなった母は心の中で(もういいわ)と旅立つことを決めたのだと思います。無理やり連れて行かれたのではない。自分で決めて逝ったのでしょう。最後に母はどんな走馬灯を見たのでしょうか。幸せな光景であったらいいなと思います。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年03月13日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。『人生ベスト10』の勧め思いがけないうれしいこと。頑張って達成したこと。人生の中の、日常の中の、忘れられないこと。そんな出来事、思い出は宝物のようです。思い出すたびにあたたかい気持ちになり、感動がよみがえる。それは、宝石箱を開けて宝物を手にとってみることに似ています。そんな出来事を『人生ベスト10』として記憶する。ベスト10だけでなく、20でも30でもいいのですが、あまり多いと特別感が薄まるので、まずはベスト10から数えてみるのがいいでしょう。数え上げるのは、特別大きな出来事でなくもいいのです。大切なことは「感動」、「心が震える」出来事という点です。大切なものは、一カ所にまとめて保管するものです。家中に散らかってはいないでしょう。『ベスト10』を考えてみるのはそれと同じこと。これまで生きてきた中で、最もうれしかったことを心の中でまとめてみることで、自分が歩んできた年月を彩ることができます。そして何よりも幸せ感が高まります。大変なことも多くあったけれど、うれしかったこともたくさんあった。そう考えると、幸せを感じる感性が高まってきます。すると、ささやかなこともうれしいと思えるようになるのです。私が『人生ベスト10』を意識したのは、ハワイでの挙式でのこと。指輪の交換や宣誓の儀式が終わり退場するとき、ふと見ると最前列に座っている母の隣に杏里が座っていたのです。友人たちのサプライズでした。あまりの驚きに泣いてしまいました。当時、杏里はロサンジェルスに住んでいて、なかなか連絡が取りづらい時期でもあったのです。このとき、このサプライズは人生ベスト10に入るなあ、と思ったことがきっかけでした。遡って考えてみると、作詞家になれたこともベスト10に入ります。結婚したことも子どもを授かったことも宝物です。ミュージカル『RENT』の日本語詞の制作に関われたことも、『Jupiter』という大きな作品に出会えたことも、ベスト10に入ります。17歳のときに船の上で見た満天の星空も、授業をさぼって見に行った、最高にきれいだった5月の海も、生き方に示唆を与えてくれた思い出です。インパクトは大きさではなく、心への響き方でもあります。ベスト10を考え始めると、10個では足りないことに気づくでしょう。それは、これからランクインする感動を予感させるのです。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年03月06日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。本気になると道が開ける(最近、本気になったことがあるだろうか)音楽大学のミュージカル科の卒業公演『RENT』のサポートしながら、ふと思いました。指導、演出している大人たちはプロ中のプロフェッショナル。バンドのメンバーも、普段はアーティストのステージで演奏する人たちです。指導陣が目指すところに学生たちのパフォーマンスをどこまで持っていけるか。学生たちはどこまで進化できるのか、進化したいのか。発表会でなく公演として成立させるハードルは、お互いにとって高い高いものです。「大人が本気にならなくて、どうして学生たちが本気になれるのか。学生たちの本気度が甘いのは、大人の本気度が甘いからだ。本気になることがかっこいい!と、示していこう」演出家のこの言葉に、ハッとしました。私は、最近本気になって何かをしただろうか。熱いくらいの本気度……。それは情熱という言葉に置き換えられるかもしれません。日々の中で手応えを感じているか。ああ、何だか本気から遠ざかっている気がする。これには焦りを感じます。仕事をするとき、学生に教えるとき、コンテンツを考えているとき、もちろん本気で取り組みます。適当に何かができるほど、器用ではありません。でも、何かが足りない。それは、今感じている本気度を超えていこうとする気概です。東宝ミュージカル『RENT』の日本語詞を書くのは難儀しました。自分の不甲斐なさに、作詞家になって初めて涙が出ました。英語の楽曲に日本語を載せる。ミュージカルの歌詞は台詞なので、情報を入れ込まなければなりません。例えば、I love you.という歌詞は3つの音にのります。日本語で正確に伝えようとすると「わたしはあなたがすきです」と、8つの音が必要になります。もちろん「すきよ」と3つの音でも伝えられますが、あくまで一例として。言葉を凝縮し、意味を保ち、なおかつ歌詞として成立させていく。今思い出しても厳しい仕事でしたが、多くのことを学び、多くのインスパイアを受けました。時間は限られている。その中でどれだけ本気になれることと出会っていくか。本気になると、道が開ける。それは、人生の宝物になります。そして、日々の仕事にも、ごはんを作ることにも、掃除をすることにも本気をこめる。本気になったときに見えてくる風景を楽しみながら、進化していきましょう。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年02月27日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。スープの魔法寒い日が続きます。体が縮こまっているせいか、朝からだるくて元気が出ない。マッサージに行こうか、熱いお風呂に入ろうか……。(そうだ、スープを作ろう)そう思い立った途端、なぜか身体がスッと動き始めます。冷蔵庫にあった南瓜と玉ねぎ半分、そして人参で、ポタージュスープを作ることにしました。玉ねぎを炒めて、南瓜と人参を加えて炒め、ひたひたの水を張りくつくつと煮ます。十分に柔らかくなったところで火を止めて、冷めたところでブレンダーにかけます。そしてお鍋に戻し、牛乳を入れ、味を整えて出来上がり。そして熱々のスープをひと口、ふた口、すると体の内側から暖かくなるのがわかります。なんともほっとします。スープには味や栄養や温かさだけでなく、何か心まで満たしてくれる魔法があるようです。童話の『三匹のくま』に、お父さんくま、お母さんくま、こぐまの三つのスープが出てきます。お父さんの大きなお皿に入っていて熱々。お母さんのスープは中くらいのお皿に入っていて冷めている。こぐまのスープは女の子にちょうどいい大きさで、ちょうどいい温かさ。女の子はこぐまのスープを飲んでしまいます。小さい頃にこのお話を読んだときも、娘に読み聞かせをしたときも、『スープ』という響きに命を守るというイメージが広がりました。日頃食べているにもかかわらず、何か特別大切なもののように思えたものでした。料理研究家の辰巳芳子さんは、命に向けられた『スープ』を提唱されます。良い素材を使い、丁寧に丁寧に仕上げていく。手間を惜しまない。丁寧さや手間をかけるのは自分の心を整え、心を込めることなのです。「愛する者のために、トマトを買ったり、煮たり、そんな日々は、思うより短いのです」父親のためにガスパチョを作ったときのことについて、インタビューの中でこう話されています。手軽に、手短に、簡単に、時短で……と、料理も合理性が求められている中、辰巳芳子さんの言葉は大切なことを思い起こさせてくれます。とんとんとんと野菜を切る音、ことことと煮込んでいる香り。そしてひと口食べたときに身体中に広がる温かさ。作り始めたときから癒しが始まっているのかもしれません。もちろん誰かが作ったスープにも、ほっこりの癒しの魔法がこもっているのです。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年02月20日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。母の強さが教えてくれたこと母の遺品を整理していて、30年前の母の動画を見つけました。クリスマスの家族での食事会の光景を撮ったもので、クリスマスプレゼントのパジャマを開けている場面です。母はとても優しく穏やかな表情で、ちょっとはにかみながらリボンをほどいています。そしてスモーキーピンクのパジャマを胸に当て、「似合う?」と。今の私よりも若い母がそこにいました。当然のことながら母はずいぶんと大人に思えたものです。30歳の私には57歳というのは遠い未来で、その年齢になった自分は想像できませんでした。それが若さの特権なのかもしれません。だからこそ、恐れることなく無茶なこともやれたのかなあと思います。母の荷物の中には育児日記もありました。私の夜泣きがひどいのは自分のせいではないか。「未熟なママでごめんなさいね」「どうしたら泣きやむのか。どこか痛いの?わかってあげられなくて悲しい」自分を責めるような言葉に、母のさまざまな思いがこもっているようで胸がいっぱいになります。初めての子育てに戸惑っている様子が綴られていますが、母は実に強い人でした。母が大学2年生の時、癌の手術、治療をするために九州から東京に出てきた祖父をひとりで看病しました。そして余命幾ばくもない祖父はどうしても九州に帰ることを希望し、寝台列車でつれて帰ることになったのです。母は医師に同行をお願いし、停車駅ごとに交代の医師に待機してもらいました。どうしてこんなことを思いついたのでしょうか。20歳だった母の機転に感服するばかりです。そしていよいよ祖父の状態は悪くなり、大阪で降りることになります。そのときも駅に救急車に待機してもらい、受け入れ先の病院を手配したのです。携帯電話もない時代に、どうしてそんなことができたのか。おそらく車掌さんに頼んで連絡をとってもらったのだと思います。祖父は大阪で亡くなりました。荼毘に付し、遺骨を抱いて祖父が観たがっていた歌舞伎を観て、九州に連れ帰ったのです。動画の中で穏やかな笑顔を見せていた母は、晩年までさまざまな困難に見舞われました。最後は大病をし身体が不自由になっても、堂々とした母でした。「生き抜くとはこういうことよ」意識のなくなった母は光に包まれて、こう全身で伝えているように私には思えました。強さというのは外に対して発するものではなく、自分の内に向けるもの。それが生きる強さになる。その言葉を超えたメッセージは、言葉以上に心に響いたのです。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年02月13日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。人生が変わる瞬間をつかまえよう生きていると、人生が変わる瞬間を何度か体験します。自分で舵をきる場合もあれば、思いがけず遭遇することもあります。24歳のとき、サンミュージックのプロデューサーを紹介してもらい会いにいきました。その場でアイドルのアルバムの歌詞を2曲書くことが決まったとき、(ああ、人生はこんなふうに瞬間的に変わるのだ)と思いました。広告代理店に勤めていた私が、作詞家へ一歩踏み出した瞬間でした。人生は決して平坦ではなく、ひと色でもありません。常に変化をしているものです。そしてすべて自分の望むようになるわけでもありません。波乗りをしているような、ジェットコースターに乗っているような。時には思いもかけない出来事に遭遇します。そんな人生の流れの中で、どんなことがあっても自由意志を発揮することが大切です。ただ流されるのではなく、ただ運を嘆くのではなく、その時々に自分にとって最善、最高を選びとっていくこと。困難なことの中に、自分を成長させる何かを見つけていくこと。そこを意識していくと、意味のないことは起こらない、という境地に至るのです。受験、就職、転職、転勤、結婚、出産、離婚……大きな節目になるような変化もあれば、日々の中での大きな気づきも変化をもたらすものです。たとえば、多くの人に支えられていたことに気づき感謝があふれてくる瞬間、胸が震えるような感動を覚えた瞬間。そんな価値観が変わるような体験があるものです。ただ、気づかずに通り過ぎてしまうことも多い。それではもったいないので、心を柔らかく、自分の感覚に意識を向けることが大切です。片岡鶴太郎さんは今や画家としての活動にシフトされているように見受けられます。数年前に、絵を描くようになったきっかけについて伺いました。絵を描いたこともなかった鶴太郎さんは、ある日隣の家の椿の花の美しさに衝撃を受けたそうです。車を降りたとき、目の前に椿が咲いていてあまりの美しさに動けなくなり、絵に描いてみたい、と思ったと。まさに、この椿の花との出会いが鶴太郎さんの人生を変えたのです。正確に言えば、「絵に描いてみたい」という強い思いを行動に移したところから、画家としての人生が始まったと言えるのでしょう。人生が変わる瞬間をつかまえる。そして、その瞬間、目の前に現れた扉を開ける。日々の中にある小さな瞬間にも心を向けると、新しい自分に出会う可能性が広がっていくのです。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年02月06日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。『思い込み』と『うっかり』は老化の始まりか4歳になる姪の息子くんが、誰も教えていないのに指を使って足し算をしていました。親も気づかなかったそうで、どうしてそんな知恵が湧いたのか、子どもの成長していく過程は驚くことばかりです。いろいろなことができるようになり、理解できるようになるのを成長と言うなら、できなくなっていくのは何と呼ぶのか。これからそんな年代に入っていくのですが、これを衰退と言うのは悲しいので、私は「新しいフェーズ(段階)に入る」と表現します。新たな段階ですから、注意深く自分を観察しつつ、驚きながらもできるだけキープできるように努めようと思っています。……が、自分でも意味がわからないことをしてしまうと、さすがに考えてしまいます。先日、ご近所の洋食レストランでランチのお弁当を買ったときのこと。『チキン』のお弁当(のはず)なのですが、いつもと違って固いのです。焼き過ぎなのか、チキンの種類が今回は違うのか。固いと思いつつ、あまり深く考えずに、おいしくいただきました。二日後、お財布を整理したとき、お弁当のレシートを見てみると、そこに『ポークジンジャー』と印刷されています。え?ポーク?あれはポークだったの??固かったのは、ポークだったからか……。新しいフェーズに入ったのか。ソースがかかっていたので間違えて買ったのは仕方がないとしても、食べたときに気づかなかったのはかなりまずい気がします。最初からこれは『チキン』だと思い込み、思い込みの間違いに気づかなかった。こうだと思い込んだら疑うことなく突き進む。命に関わるようなことや、問題を引き起こすことにつながるかもしれません。うっすらとした不安を覚えながら、この件で私は新しい自分に出会った気がしました。よくある『うっかり』かもしれません。しかしこの『うっかり』に甘えてはなりません。思い込みは視野が狭くなっているのかもしれません。頑固さという言葉にも置き換えられるかもしれない。思考の柔軟性を意識して、余裕を大切にして。焦らず、落ち着いて……。子どもが成長していくように、新しいフェーズの歩み方も進化しながらいきたいものです。例えそれが老化や減退ということであっても、精神的には成長していきたい。チキンだと思ってポークを食べていた一件は、思いの外大きな決意に発展したのでした。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年01月30日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。ふと目にした光景の中に学ぶこと古びたビニールのバッグを簡易カートにくくりつけ、肩にも重そうなバッグをかけ、ぶつぶつと何か怒っているおじさんとすれ違いました。そんな人と行き交うとき、できるだけ近くにならないように、目を合わせないようにしてしまいます。このときも何気なく避けるようにすれ違いました。きっと多くの人が関わりをもたないように、このおじさんを避けて来たのかもしれません。推測の域を出ませんが、孤独に生きてきた人なのかもしれません。社会の理不尽さに怒りがこみ上げている……のかもしれません。おじさんの怒りは悲しみにも似ているような。あくまで私の想像です。買い物を済ませた帰り道。あのビニールバッグをくくりつけた簡易カートが道端に。そこにこんな紙が貼り付けてありました。「ただいま仕事中です。荷物が重いのでこちらに一時的に置かせていただいています。すぐに戻りますのでご容赦ください」大きく丁寧な文字。あたりを見回すと、あのおじさんがチラシの束を抱えてポスティングをしているのでした。「荷物が重いので……」ぶつぶつと怒りを口にしながら歩いていたおじさんの、丁寧な断りのメッセージを見たときに、生きていくということの大変さと、生きるということへの誠実さを見た気がして、外見だけで判断していた自分の狭量を恥ずかしく思ったのです。あらゆる場面で、私たちは多くの判断、ジャッジすることを求められます。いい、悪い。美しい、美しくない。自分の中の、無意識に形成された価値観や判断基準によって、私たちは日々、必要なものを選びとり、仕分けていきます。それぞれの価値観は尊重されるものですが、時に思い込みや偏見だけでジャッジしてしまうことがあります。もちろん、それもひとつの価値観のあり方ですから、よい悪い、で判断できるものではありません。ただ、私はこのおじさんの姿を通して、丁寧であるという誠実な在り方を受け取りました。何か、大切なこと。ついなおざりにしてしまうことが自分の言動、考えの中にあるのではないか。生きるということへの敬意を持つこと。ふと目にした光景が教えてくれました。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年01月23日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。地震の夢が教えてくれたこと世界各地で地震が起きている夢を見ました。初夢ではありませんでしたがまだ松の内。初夢と同じくらい、一年の指針となるメッセージがこめられている夢だと捉えました。一富士二鷹三茄子。日本人は昔から初夢を神仏のお告げとして大切にしてきました。そういう意味で日本人と初夢は親和性が高いのです。私たちの深い意識から発せられる夢は、現状を伝えているもの、健康に関すること、その内容から問題の解決方法が導き出されます。奇妙キテレツな夢のストーリーに戸惑いますが、絡んだ糸を吟味しながら解くように解釈していくと、腑に落ちるメッセージが見えてくるものです。さて、松の内に見た地震の夢。実際、世界各地で地震が起きていることからとても気になります。夢のストーリーはこうです。ヨーロッパ、アメリカ、南アメリカの各地で地震が頻発していると、誰かが話している。その話を聞いて私はほっとして、「環太平洋ではないね」と言っている。ここでポイントとなるのはもちろん『地震』、そして私が「環太平洋ではないね」と言ったところです。『地震』が私の現状の何を指しているか、ということが問題です。地震とは地殻変動が起こすものです。では、私の身体の中で地殻変動が起きているのだろうか。今のところ体調は悪くありません。では次に、私の心の在り方、行動、現状に関係しているのではないか。ここに考えが至ったとき、この夢が伝えようとしていることが手にとるようにわかりました。この2年、仕事について積極的になれない感がありました。コロナ禍のせいにしてはいけないのですが、意欲的になれない自分がいました。ゆるゆるとしすぎていることをわかっていても、動きたくない理由を見つけていたような。夢はそんな私に、地殻変動を起こせ!動け!と言っています。「環太平洋ではないね」というのは、他人事のようにまだ覚悟のできていない今の私を示しています。ほっとしている場合じゃないでしょ!夢はそうして私に警告しているというわけです。夢は意識の深い領域から発せられるもの。それを顕在意識でしっかりと受け止めて行動すると、自分自身の在り方が進化していくのです。怖い夢、ハラハラする夢、夢に感情が揺さぶられますが、夢のストーリーと現状を重ね合わせてみると、腑に落ちる何かがあるのです。なぜなら、夢は夢主だけのものですから。さて、今年は地殻変動を起こさねば。何から始めようか、新年のto doリスト作りから始めます。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2022年01月16日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。言葉に命を吹き込むことを冬の夕方、くっと冷え込み街に明かりが灯ると、なんとも言えない心細さが胸に広がります。その感じは、冬に一人旅をして異国を歩き回っていたときの感覚によく似ていて、家には家族がいることがわかっていても「ひとりぼっち」であることが胸に迫るのです。冬の黄昏時は、自分が帰る場所を恋しく思う時でもあるのです。と同時に、この寒空の下で本当にひとりぼっちでいる人たちのことをふと思います。クリスマス、お正月を家族や友人が集まる時期、ひとりでも多くの人が温かい明かりの下に集まることができたらいいのに、と。何もできずにこんなことを思う自分を、偽善的だと感じることもあります。毎年、我が家の近くの教会に無洗米を献品します。今年もクリスマス前に持って行ったところ、教会の玄関には鍵がかかっていて中に入れませんでした。仕方なく、玄関横の傘立てに二袋を置き帰ろうとしたときです。通りの向こうからマーケットの袋を下げた女性が歩いてきて、「何か御用ですか?」と声をかけられました。その方は教会の牧師先生で、献品を届けに来たことを伝えると、とても喜んでくださいました。毎年、年末に3カ所で炊き出しとお弁当を配るために、お米はとてもありがたいと。年に一度だけの罪滅ぼしのようで心が苦しくもあることを伝えると、牧師先生はこう言われました。「お心を寄せてくださり、ありがとうございます」美しい言葉だなあと思いました。心から発せられる言葉のぬくもりに、許されているような感じがしました。そうか、言葉を伝えるとはこういうこと。伝えるのは言葉の持つ意味だけでなく、言葉の手触り、発する人の心の温度なのですね。「『ありがとう』は魔法の言葉」という文言が流行ったことがありました。ただ「ありがとう」と言うだけでなく、そこに心をこめる。すると、「ありがとう」に命が吹き込まれる……そのエネルギーは目には見えませんが、受け取った人の心につながっていくのではないでしょうか。「心を寄せてくださり、ありがとうございます」「お支えをありがとうございます」……「ありがとう」に一言を添える。それだけで、心のぬくもりを伝えることができるのです。教会の帰り道、必要としている人に何ができるのか考えました。できることはきっとたくさんある。でも、何かすることを必要としているのは、もしかしたら私自身なのかもしれない。心をただただ慈しむということに明け渡す。そのときに、私の言葉に命が吹き込まれるのかもしれません。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2021年12月26日