ロックバンドASIAN KUNG-FU GENERATIONのCDジャケットや、『夜は短し歩けよ乙女』『謎解きはディナーのあとで』の書籍カバーなどでお馴染みのイラストレーター中村佑介さんの20年の活動を振り返る展覧会『中村佑介20周年展』が始まった。ボリューム満点、いわばすき家的な展覧会です。「今回は僕が20年間携わってきた仕事のほぼ全てが一堂に会する大規模な試みです。CDジャケット、本の表紙などイラスト作品と原画をカテゴリーごとに紹介します。とにかくボリューム満点にして美術ファンや僕を知らない人でも、これだけ見れば十分お腹いっぱいになる。すき家的な発想なんです(笑)」会場で驚くのはその仕事の幅広さ。「イラストレーターになってずっと幅広い世代に向けて描きたいと思ってきました。例えば教科書。僕自身、何年も教科書を使っていたはずなのに、いま表紙を思い出せるものは一冊もない。当時は学生よりも学校向けに、きっと無難な表紙が重視されたのでしょう。でもそれじゃ学んだことも記憶に残りにくいはず」そう考える彼の教科書は、学生の記憶に強烈なインパクトを残す。他にもさだまさしや浅田飴など、年配ファンが中心だったアーティストや企業からも注目されている。なぜこれほど多くの人の心に響くのだろう。「子どもの頃から従来の広告やパッケージ写真にずっと違和感があったんです。例えば有名人が商品を手に満面の笑みでこっちを見ている。それって、“私のこと知っているならこの商品買ってよね”と言わんばかりの威圧感で、引いていた」匿名性を重視し、あえてセーラー服や目線のない横向きの女の子の構図を採用。不自然な笑顔も必要としないフラットな絵は、都会的なのにどこか懐かしい。その根底に流れるのは観る人を想う気持ちだ。「例えば、男性が描く女性キャラクターは、体のラインや露出度を強調したものも多い。デフォルメだとしても不快に思う人もいますよね。僕も女の子のモチーフを多用しているからこそ、誰が見ても心地よく感じられる作品を作りたいんです」2004年リリースの『ソルファ2004ver.』の再編集ジャケット。「芯が太くなった彼らの演奏をそのまま表現するように描きました」ASIAN KUNG-FU GENERATION『ソルファ(2016)』©Ki/oon Music2010年放送のTVアニメ『四畳半神話大系』から進化させた本作は「以前と同じ印象を大切にしながら、さらに進化したデザインに」。©2022 森見登美彦・上田誠・KADOKAWA/「四畳半タイムマシンブルース」制作委員会2013年から高校音楽教科書の表紙画を担当。「この教科書を使っていた学生は、いま僕の作品を見て懐かしさを感じるそうです」「高校生の音楽1(平成29年~)」(教育芸術社)明治20年創業「浅田飴」から2020年に登場したのど飴。これまでのイメージを払拭したポップな缶で、販売先には問い合わせが殺到した。浅田飴糖衣P(白桃)〈指定医薬部外品〉『中村佑介20周年展』東京ドームシティ Gallery AaMo東京都文京区後楽1‐3‐61東京ドームシティ クリスタルアベニュー沿い開催中~2023年1月9日(月)11時~19時(金曜は20時まで。入場は閉場の30分前まで)月曜(12/26・1/2・1/9は開館)休一般1200円ほかTEL:03・5800・9999なかむら・ゆうすけ1978年、兵庫県生まれ。大阪芸術大学卒業。アニメのキャラクターデザイン、ラジオ制作、エッセイ執筆など多方面で活躍。CDジャケット全集『PLAY』(飛鳥新社)発売中。※『anan』2022年11月23日号より。取材、文・山田貴美子(by anan編集部)
2022年11月21日現代日本を代表するアーティストとして国内外で活躍している大竹伸朗さん。彼の作品およそ500点を集めた大規模な回顧展が、現在、東京国立近代美術館で開かれています。プレス内覧会に登壇した大竹さんのコメントとともに、展覧会の様子をレポートします!美術館が宇和島駅に…?!【女子的アートナビ】vol. 269『大竹伸朗展』では、1980年代初めにデビューして以来、絵画や彫刻、映像、インスタレーション、巨大な建造物など幅広いジャンルで多くの作品を手がけてきたアーティスト、大竹伸朗さんの作品約500点を展示。16年ぶりの大回顧展となります。大竹さんは、1955年東京生まれ。武蔵野美術大学を卒業後、1982年に初個展を開催。その後、ドイツ・カッセルで開かれている世界最大級の国際美術展・ドクメンタ(2012年)や、120年以上の歴史を持つヴェネチア・ビエンナーレ(2013年)など、さまざまな国際展に参加。アートの島として有名な直島に多くの作品が展示されているほか、「東京2020 公式アートポスター展」にも参加するなど、半世紀近くもの長い間、多方面で活躍されています。プレス内覧会に登壇した大竹さんは、次のように述べました。大竹さん本展は挑戦要素が多い展覧会で、今までにないものになっていると思います。世界は破壊が続いていますけど、モノをつくる力、つくりだすパワーを少しでも感じていただければとてもうれしく思います。5回ぐらい来て、見てください(笑)。大竹伸朗展2022年11月1日(火)~2023年2月5日(日)東京国立近代美術館展示風景より《宇和島駅》(1997年)また、大竹さんは、美術館のテラスに設置された作品《宇和島駅》についてもコメントしました。大竹さん宇和島は、僕が制作拠点にしている場所です。宇和島駅が新しくなるとき、駅名の文字を廃棄するというので、納得がいかなくて入手しました。駅舎に乗って、ひとつずつ焼き切ったのです。東京国立近代美術館と宇和島駅が交差するのは、ある種のコラージュ。赤い色は僕が創造したもので、夜はライトアップされて見え方が変わります。圧が強すぎ…!7つのテーマで体感大竹伸朗展2022年11月1日(火)~2023年2月5日(日)東京国立近代美術館展示風景より手前:《男》(1974-75年)富山県美術館では、展示の様子をご紹介。会場では、テーマに合わせて7つのセクションに分けられています。ただ、テーマに沿って作品をつくっているのではなく、また、制作時代順にも並んでいないので、自分の好きなところから自由に見ていけばいいようです。最初の展示室から、けっこう圧が強め。ちょっと怖い感じの人形のような作品が立っていたり、天井からぶら下がっていたりして、もし照明が暗いとお化け屋敷と思ってしまいそうな雰囲気です。大竹伸朗展2022年11月1日(火)~2023年2月5日(日)東京国立近代美術館展示風景より手前:《スクラップブック #71/宇和島》(2018-2021年)本展を担当された東京国立近代美術館の主任研究員、成相肇さんによると、大竹作品の特徴は「貼り付けること。貼ってからはがして、重ねて量を増やして密度を増していき、ほとんどの作品がコラージュ作品になっている」とのこと。その密度の濃さを体験してほしいそうです。もっとも密度を感じられるのは、スクラップブックと題された作品たち。もはやスクラップブックの面影もないような、大きな塊です。展示室に巨大な小屋が…!大竹伸朗展2022年11月1日(火)~2023年2月5日(日)東京国立近代美術館展示風景より《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》(2012年)本展でもっとも目を引く作品は、ドイツの国際展にも展示された《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》。ネオンサインやトレーラー、ギター、巨大なスクラップブックなどが凝縮されたパワフルなインスタレーションです。展示室の空間に巨大な小屋が置かれ、かなり迫力があります。小屋の中をのぞくと、いろいろなものが詰まっていて、こちらも圧が強め。音も鳴る作品で、大竹さんの集大成のひとつといわれています。人気のニューシャネルも…!また、本展はグッズも充実。大竹さんは、文字の作品も多く手がけていて、本展の「大竹伸朗展」という文字も今回の新作です。そんな「大竹文字」のひとつが《ニューシャネル》(1998年)。スナックの看板をモチーフにしてつくられたもので、Tシャツなどのグッズが大人気です。今回のためにつくられた新作グッズもあるので、ぜひ特設ショップものぞいてみてください。本展は2023年2月5日(日)まで開催。その後、愛媛県美術館と富山県美術館に巡回予定です。Information会期:~2023年2月5日(日)休館日:月曜日(ただし1月2日、9日は開館)、年末年始(12月28日~1月1日)、1月10日(火)会場:東京国立近代美術館開館時間:10:00-17:00(金曜・土曜は10:00-20:00)(入館は各閉館時間の30分前まで)※最新情報などの詳細は展覧会公式HPをご覧ください観覧料:一般 ¥1,500、大学生¥1,000、高校生以下および18歳未満は無料お問合せ: 050-5541-8600(ハローダイヤル 9:00~20:00)
2022年11月19日芸術の都・パリが最も華やぎ、芸術家を惹きつけてやまなかった19世紀末。その彩り豊かな街でただ一人、黒と白の境地を突き詰めた作家がいる。名はフェリックス・ヴァロットン(1865~1925)。この秋、生涯にわたる彼の作品のうち、三菱一号館美術館所蔵の約180点が「ヴァロットン―黒と白」展で一挙に初公開される。黒と白で描く光と闇、理性と本能の狭間のドラマ。画家として教育を受けたヴァロットンが、初めて木版画の手ほどきを受けたのは25歳のとき。翌年にはすぐに雑誌で紹介され、木版画家として活動が本格化したというから、その才能は最初から際立っていた。木版画は15世紀に活版印刷が発明された当初に多用された技法で、ヴァロットンの時代には多色刷りができるリトグラフ(石版画)を手掛ける作家の方が多かったという。古くシンプルな技法をあえて選んだのはなぜだろう?作品を見ると、黒の領域の存在感、含蓄するものに圧倒される。連作〈アンティミテ〉では、白いドレスをまとった主人公に闇が迫り、今にも飲み込もうとしているかのよう。別の作品で描かれる人殺しの場面では、真っ白に彫り抜いた室内で、被害者に襲いかかる下手人(げしゅにん)の背中だけが不気味に黒く残る。こうした「黒」の表現について、「黒い染みが生む悲痛な激しさ」(芸術評論家タデ・ナタンソンの言葉 1899年)という評も。墨だけで描かれた水墨画がその濃淡で豊かな表情を見せる一方、ヴァロットンの色のない世界は、時に一途なまでの思いを秘めているように見えてくる。第一次世界大戦が勃発すると、52歳にして従軍画家として前線に赴く。その前年に制作された連作〈これが戦争だ!〉では、触手のような鉄条網に搦めとられた人間の体(死体)が描かれる。若かりし頃、辛辣さやブラックユーモアと解されてきた精神は、年齢を重ね、達観した表現へと至ったようにも。愛しくも哀しい人間界のドラマは、黒と白で描くからこそ美しいのかもしれない。フェリックス・ヴァロットン《お金(アンティミテV)》1898年木版、紙三菱一号館美術館フェリックス・ヴァロットン《フルート(楽器II)》1896年木版、紙三菱一号館美術館フェリックス・ヴァロットン《怠惰》1896年木版、紙三菱一号館美術館フェリックス・ヴァロットン《有刺鉄線(これが戦争だ!III)》1916年木版、紙三菱一号館美術館ヴァロットン―黒と白三菱一号館美術館東京都千代田区丸の内2‐6‐2開催中~2023年1月29日(日)10時~18時(金曜と会期最終週の平日、第2水曜は21時まで。入館は閉館の30分前まで)月曜(11/28、12/26、1/2、1/9、1/23は開館)、12/31、1/1休一般1900円ほかTEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)※『anan』2022年11月16日号より。取材、文・松本あかね(by anan編集部)
2022年11月15日その物の魅力をさらにアップさせる、組み合わせやコラボレーション。世の中にはさまざまな物と物が組み合わさっていますが、今注目したいのが建物とアートの融合です。ビル×アートでつくる、新しい街の価値2022年11月、渋谷区神宮前に開業した「1/1 32117」もそのひとつ。“建物から地域の付加価値を高めバリューアップする”ことをコンセプトに掲げるサンフロンティア不動産株式会社が立ち上げた、新ビルブランド「1/1(ONE)」の記念すべき第1号ビルとして誕生しました。「1/1」は、前述のコンセプトのもと、街づくりという視点で建物とアートを融合させる新たな試み。そこにしかない唯一無二のアート作品を設置し、その街で働く人、訪れる人、住まう人すべてに刺激を与え、街をさらに活性させていくことを目指しています。渋谷から世界へ!人と街を笑顔にするアートビルトークセッションでは同社代表取締役社長の齋藤清一氏と、リプランニング事業部長の小田修平氏が登壇しました。第1号ビルの場所として渋谷を選んだ理由について、「最先端で流行発信地である渋谷神南エリアは多くの人が行き交う場所。必然的に活気があることから新ブランドの発信拠点に選びました」と話す齋藤社長。また、印象的なビルの名前「32117」について小田氏は「◯◯ビルという名前はよくあるので、住所をそのまま名前にしてしまいました」と説明。ユニークさに加えて覚えやすさもある一方で、世界共通の数字を使用することで「世界基準の東京にしていきたい」という思いも込められていると言います。そして、新ビルブランド「1/1(ONE)」の今後については「2号、3号ビルの建築を予定している」と話す齋藤社長。また、同プロジェクトへの思いについて「事業を通して人々を笑顔にしたい。アートの魅力をビルに融合させることで人を、街を笑顔にし、元気を与えていきたい。人と街の共創を目指している」と語りました。世界的グラフィックアーティスト初来日、日本初個展イベントには、「1/1 32117」を象徴するアート作品を手掛けたフランス人現代アーティストCyril Kongo(シリル・コンゴ)氏が初来日。コンゴ氏はブランドや企業とのコラボレーションも多く、2011年のエルメス、2018年のCHANELは大きな話題を呼びました。デモンストレーションにて、会場の壁にスプレーでメッセージを描くCyril Kongo氏。したたるペンキもアートの一部となり、ビルの内装に華をそえました。また、ビル1階にはこの他にもCyril Kongo氏の作品がずらり。2022年11月5日(土)〜27日(日)の期間、日本初個展となる「CYRIL KONGO’s POP-UP STUDIO "FROM PARIS TO TOKYO”」が開催中。同ビル開業を記念した特別展なのでこちらも要チェックです。【参考】※サンフロンティア不動産株式会社※CYRIL KONGO’s POP-UP STUDIO "FROM PARIS TO TOKYO”
2022年11月15日上野の国立科学博物館で、「毒」をテーマにした特別展が開かれています。オフィシャルサポーターは、クイズ王の伊沢拓司さん。内覧会に登壇した伊沢さんのトークとあわせて、展示の様子をレポートします!伊沢拓司さんがオフィシャルサポーター!伊沢拓司さん【女子的アートナビ】vol. 268特別展『毒』では、自然界に存在するあらゆる毒について、国立科学博物館(通称:科博)のスペシャリストたちが徹底的に掘り下げ、わかりやすく解説。動物、植物、菌類、鉱物、人工毒などあらゆる毒について、標本や模型、資料など約250点の展示物を見ながら、毒の奥深い世界を楽しめます。本展のオフィシャルサポーターは、東大クイズ王としておなじみの伊沢拓司さん。子どものころから科博に通っていたという伊沢さんは、「大好きな科博のサポーターになれて子ども時代の自分に自慢したい」とうれしそうな様子。さらに、展覧会の魅力を次のように語りました。伊沢さん毒のイメージは、子どものころから図鑑で見て、怖いし危ないと思いながらも、知りたくなる要素もある。刺激的で、興味をそそられ魅かれてしまう存在です。会場の展示は非常に重厚で、幅広いジャンルの先生方が集まり、毒についてありとあらゆるものが語られています。たくさんの標本やモデルもあって、子どもから大人まで楽しめるギミック(仕掛け)がある。僕は展示を見るのに3~4時間はかかると思う(笑)。毒クイズも楽しめる!また、会場では、伊沢さんが率いる東大発の知識集団QuizKnock【クイズノック】が作成した毒クイズも楽しめます。クイズについて、伊沢さんは次のようにコメントしました。伊沢さん毒クイズは、展示を見ながら解けるので、答えを探してみようという目線で見ていくと興味がわくと思います。毒展は、もしかしたら、子どもに見せたくないと思う方がいるかもしれませんが、大事なのは正しく知って正しく恐れること。展示の中では、毒も薬になるという要素だとか、毒の利用、人間と生物の毒の付き合い方の話もあります。ただ何となく知らずに恐れるのではなく、毒について魅力的な要素から入り、正しく知る。毒から逃れられないからこそ、うまく付き合う知識を入れていただきたいです。かなり役立つ!毒知識特別展『毒』展示風景では、展示のなかから、いくつかピックアップして見てみます。前半の第2章「毒の博物館」で個人的に一番興味を引いたのは、身近な植物の毒。ふつうに食べるインゲンマメやビワなどが並び、それらの持つ毒について説明が書いてあります。例えば、インゲンマメの果実については、「熟した豆は十分に火を通さないと中毒する」と記載。また、ウメやビワなどの果実は未熟だと毒性があり、いっぽうモロヘイヤの種子は熟すと有毒になるそうです。毒知識、役に立ちます。特別展『毒』展示風景菌類のコーナーでは、もちろん毒キノコも登場。「派手な色のキノコは毒キノコ」、「虫食いのあるキノコは食べられる」などの迷信はすべてウソ、とのこと。地球上には推定10万種以上のキノコが存在し、そのうち大半は食毒不明で、食毒があるか見分ける方法もないそうです。気をつけましょう。人間が作った「毒」…特別展『毒』展示風景さらにショッキングだったのが、人間が作った毒のコーナー。海洋中に漂う殺虫剤やダイオキシンなどの汚染物質が、自然界で分解されないプラスチックの小さな粒「マイクロプラスチック」に吸着し、それらを海洋生物が誤食。食物連鎖の過程で毒が濃くなり、最終的に化学物質が体内に蓄積された魚を人間が食べるという結果になっています。レジ袋などのプラスチックゴミも、殺虫剤もすべて人間が作ったもの。レジ袋は環境によくない、とわかっていたつもりでも、科学の視点できっちり解説されると改めて恐ろしいことだと実感します。正しく知ってうまく付き合う、という伊沢さんのコメントが身に沁みました。役に立つ毒も!特別展『毒』展示風景最終章では、役に立つ毒も紹介されています。例えば、アオカビの一種から発見されたペニシリンは、バクテリアの生育を抑える物質。人間にとっては薬でも、バクテリアにとっては「毒」になります。本展の監修者で国立科学博物館の植物研究部長、細矢剛さんは「毒と向き合う姿勢は科学そのもの。毒とうまく付き合うのが我々に求められるもの」と語っていました。迷信やウソにだまされず、科学的な視点できちんと理解することの大切さを本展で体感できました。特別展『毒』は2023年2月19日まで開催。Information会期:~2023年2月19日(日)休館日:月曜日、12/28~1/1、1/10(ただし、1/2、1/9、2/13は開館)会場:国立科学博物館開館時間:9:00-17:00(入館は16:30まで)※最新情報などの詳細は展覧会公式HPをご覧ください観覧料:一般・大学生 ¥2,000、小・中・高校生¥600※日時指定予約制
2022年11月13日アートアクアリウム美術館 GINZAは、秋イベント「生命の宿る金魚アート」を開催。「アートアクアリウム美術館 GINZA」で金魚アートを鑑賞「アートアクアリウム美術館 GINZA」は、“百華繚乱~進化するアート~”をテーマにした、金魚アートの常設施設だ。色とりどりの金魚とともに、光や音、香りの演出を施した、幻想的な空間を楽しめる。館内では、様々な色合いで輝く個性豊かな水槽作品を多数展示。光と色が交錯する水槽のなかで、金魚たちが優雅に泳ぐ、非現実的な美しい景色を堪能することができる。金魚×デジタルのアート作品秋イベント「生命の宿る金魚アート」では、芸術の秋に向けて、金魚をテーマにしたアートや伝統工芸作品を複数展示する。中でも注目なのは、「女性と金魚/鯉」をモチーフにしたデジタルアートだ。新進気鋭の様々なアーティストとコラボレーションした、幻想的なアート作品を間近で鑑賞できる。チョークで描いた金魚作品また、チョークアーティスト・Moecoによるチョークで描かれた金魚作品や、歌川国芳による金魚や鯉を描いた作品20点余りを集めた「歌川国芳コレクション」なども取り揃えている。日本の伝統を感じらえる作品そのほか、日本の伝統工芸である江戸切子の中で金魚が優雅に泳ぐ「金魚の飾り棚」や、京都の伝統的な織物・西陣織、日本の伝統芸能である能のお面、盆栽など、日本の伝統美に触れることのできる作品も用意している。とらやとのコラボ羊羹もさらに、アートアクアリウム美術館 GINZAのミュージアムショップでは、とらや(TORAYA)とコラボレーションした「小形羊羹」を販売。とらやを代表する小倉羊羹「夜の梅」を含む5種類の羊羹を、アートアクアリウムオリジナルのパッケージで提供する。【詳細】アートアクアリウム美術館 GINZA「生命の宿る金魚アート」開催日程:2022年11月1日(火)~場所:銀座三越 新館8階住所:東京都中央区銀座4-6-16営業時間:10:00~19:00(変更になる場合あり)休館日:銀座三越の休館日に準ずる ※不定期で休館の場合あり料金:WEBチケット 2,300円、当日券 2,400円【問い合わせ先】銀座三越TEL:03-3562-1111(代表番号)
2022年11月05日10月1日、東京の丸の内に静嘉堂文庫美術館が移転・開館しました。現在、開館記念展Ⅰ『響きあう名宝―曜変・琳派の輝き―』が開催中です。この新しい美術館は、なんと建物も重要文化財!内装も展示物もステキで、見どころがいっぱいの展覧会をレポートします。名建築の中にオープン!【女子的アートナビ】vol. 267これまで東京都世田谷区にあった静嘉堂文庫美術館が、東京・丸の内にある重要文化財「明治生命館」の1階にギャラリーを移転。そのオープニングを飾る展覧会では、国宝《曜変天目(稲葉天目)》をはじめ、所蔵するすべての国宝7件を前・後期に分けて公開しています。美術館が入る明治生命館は、1934年に竣工した古典主義様式の最高傑作。日本を代表する近代洋風建築といわれています。戦時中、東京大空襲による被害は免れましたが、戦後はGHQが接収。1945年から1956年までは、アメリカ極東空軍司令部として使用されていました。1枚目の画像は、静嘉堂文庫美術館の中央部にある吹き抜けの広い空間「ホワイエ」です。大理石が多く使われた大変美しい場所で、そこを取り囲むように4つの展示室が配置されています。日本の宝を守った…!静嘉堂の感動ストーリー『響きあう名宝―曜変・琳派の輝き―』展示風景まずは、静嘉堂の歴史をざっくりご紹介。130年もの歴史をもつ静嘉堂は、岩﨑彌之助 (三菱第二代社長)が創設。その息子、岩﨑小彌太 (三菱第四代社長)がコレクションを拡充し、現在では国宝7件、重要文化財84件を含む多くの古典籍と美術品を所蔵しています。岩﨑父子は、廃仏毀釈により文化財が海外に流出していくなかで、日本の宝を守るために美術品や古典籍の収集を開始。さらに彌之助は、静嘉堂の創設当初からビジネス街に美術館を建て、作品を多くの国民に見てもらいたいと考えていました。130年ぶりに創設者の夢が実現した新しい美術館は、まさにビジネス街の中心部にあり、東京駅からも徒歩5分で行くことが可能。丸の内にお勤めの人なら、ランチタイムに立ち寄ることもできそうです。前期の必見作は、国宝の屛風!国宝 俵屋宗達 《源氏物語関屋澪標図屛風》澪標図江戸時代・寛永8年(1631)(展示期間10月1日~11月6日)本展は4章で構成。静嘉堂が誇る名品を見ながら、コレクションの歴史やストーリーも楽しめるようになっています。前期展示の必見作は、俵屋宗達の国宝《源氏物語関屋澪標図屛風》。光源氏と女性たちが偶然出会う場面を描いたきらびやかな作品です。デフォルメされた橋などの各モチーフもユニーク。近くでじっくりと鑑賞したい名宝です。ちなみに、ギャラリーに入ったら内装もぜひチェックしてみてください。例えば、ギャラリー2の入口にはレトロなエレベーターがあります。米国オーチス社製のもので、扉には銅板に木目模様が手描きされ、シックな雰囲気。現在は動いていませんが、当時は1階と地下階の連絡用として使われていました。国宝が意外なグッズに…!国宝 《曜変天目 (稲葉天目)》南宋時代(12〜13世紀)最後の展示室では、静嘉堂の至宝、国宝《曜変天目 (稲葉天目)》が登場。現存するのは世界で3つしかないといわれている曜変天目は、深い瑠璃色が大変美しいお茶碗です。まるで満天の星のようで、永遠に見ていたくなります。曜変天目は偶然に焼きあがったもので、再現も不可能といわれる名宝ですが、ミュージアムショップで見事に再現(?)したグッズを発見。まさかの「ぬいぐるみ」です!すでにSNSでも話題沸騰の人気商品。国宝のぬいぐるみをモフモフすると癒されそうですね。(※11月3日現在、生産が追いつかないため、予約販売受付を中止しています。詳細はミュージアムショップへお問い合わせください)開館記念展Ⅰ『響きあう名宝―曜変・琳派の輝き―』は12月18日まで開催。(※国宝7件が揃うのは前期展示11月6日まで。後期は国宝4件を展示)Information会期:~12/18(日)途中展示替えがあります休館日:月曜日、11/8(火)、11/9(水)会場:静嘉堂文庫美術館開館時間:10:00 – 17:00 (入館は16:30まで)金曜日は18:00 (入館は17:30)まで※最新情報などの詳細は展覧会公式HPをご覧ください観覧料:一般 ¥1,500、大学生、高校生¥1,000※日時指定予約制(空き枠がある場合のみ当日券も販売)
2022年11月03日東京・上野の国立西洋美術館で『ピカソとその時代ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』が開催中です。ベルリン出身のコレクターが選び抜いた究極の20世紀美術コレクションがドイツから来日。そのうち、半数以上が日本初公開作品という今秋必見の展覧会をご紹介します!超豪華!世界遺産でピカソを満喫!【女子的アートナビ】vol. 266『ピカソとその時代ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』では、ピカソやクレー、マティス、ジャコメッティという4巨匠の作品を中心に、ベルクグリューン美術館が所蔵する20世紀美術の作品群を展示。同館コレクション97点に、日本の国立美術館が所蔵する作品を加えた合計108点が紹介されます。特にピカソは、有名な「青の時代」をはじめ、各時代を代表する名作が集結。なんと40点以上ものピカソ作品をひとつの展覧会で見ることができます。この展覧会は、ベルクグリューン美術館が大規模改修を行うなかで企画された世界巡回展。その最初の地として、日本が選ばれました。プレス内覧会に登壇した本展キュレーターのヨアヒム・イェーガー博士は、「ヨーロッパの近代芸術は、日本から大きな影響を受けている」とコメント。さらに、「世界遺産にも認定されている国立西洋美術館で、最初の世界巡回展をスタートできることをうれしく思う」と語っていました。ベルクグリューンって?『ピカソとその時代ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』展示風景作品を見る前に、コレクターのベルクグリューンをご紹介。ベルリンのユダヤ人家庭に生まれたハインツ・ベルクグリューン(1914-2007)は、ナチス政権時代に政治的事情でドイツを追われてアメリカへ移住。そこで美術館勤務などをしていましたが、戦後はパリに渡り画廊を経営。ピカソやマティスなどの芸術家や作家、詩人と交流を深め、自らのコレクションを築き上げました。ベルクグリューンが集めた作品は、1996年に故郷ベルリンのシャルロッテンブルク宮殿に面した由緒ある建物「シュテーラー館」で公開され、その後ドイツが彼の所蔵品をまとめて購入。2004年、コレクターの90歳の誕生日を記念して、彼のコレクションを展示していたシュテーラー館が「ベルクグリューン美術館」と改名されました。見たことないピカソがいっぱい!『ピカソとその時代ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』展示風景本展の見どころは、何といってもピカソ。コレクターのベルクグリューンがピカソに心酔し、また画家本人と親交も深かったので、かなり質の高い作品が揃っています。しかも、展示されているピカソ作品のうち35点が日本初公開です。特に圧巻なのは、女性をモデルにした作品が集まる展示室。展覧会のメインヴィジュアルに使われている《緑色のマニキュアをつけたドラ・マール》をはじめ、ベルクグリューン美術館の顔ともいえる作品《黄色のセーター》、2メートル近くある大作《大きな横たわる裸婦》など、素晴らしい作品が並んでいます。著作権の関係でアップの写真は載せられませんが、名コレクターが厳選して購入したピカソの絵はどれも見ごたえ抜群。しかも、ベルクグリューンは絵を入れる「額」にもこだわり、自分で絵に合った額を選んでいました。あえて、アンティークの額をピカソの斬新な絵に合わせており、例えば《黄色のセーター》には、17世紀前半につくられた金塗りのスペイン製額が使われています。会場では、作品と一緒にぜひ額もご覧になってみてください。クレーやマティスも充実!『ピカソとその時代ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』展示風景ベルクグリューンは、画商としてさまざまな画家の作品を扱っていましたが、コレクターとして自分のために購入したのは敬愛する少数のアーティストたちの作品でした。ピカソのほか、クレー、マティス、ジャコメッティの作品を多く収集。本展でも、彼らの作品が多数展示されています。『ピカソとその時代ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』展示風景ピカソやマティスらは、伝統的な表現形式を壊してから作品を創造する革新的なアーティストでした。そのため、古典的な美術様式を好むヒトラーから嫌われ、ナチス政権時代、彼らの作品は「退廃芸術」として迫害されていました。特に、占領下のパリにいたピカソは要注意人物としてゲシュタポ(ナチスドイツの秘密国家警察)から監視を受け、当時は作品発表も禁じられていました。そんな芸術家たちの作品が、過酷な時代を乗り越えたユダヤ人の名コレクターによって集められ、今ではドイツを代表する20世紀美術コレクションのひとつになっています。ベルクグリューンや芸術家たちの軌跡に思いをはせながら作品を見ると、また違う味わいを感じられるかもしれません。本展は、2023年1月22日まで開催。その後、大阪に巡回します。Information会期:~2023年1月22日(日)休館日:月曜日、12月30日(金)~2023年1月1日(日)、1月10日(火)※ただし、2023年1月2日(月・休)、1月9日(月・祝)は開館会場:国立西洋美術館開館時間:午前9時30分~午後5時30分(金・土曜日は午後8時まで)※入館は閉館の30分前まで※最新情報などの詳細は展覧会公式HPをご覧ください観覧料:一般 ¥2,100、大学生 ¥1,500、高校生¥1,100※日時指定予約制
2022年10月26日《太陽の塔》や《明日の神話》などで知られる芸術家・岡本太郎。彼は海外で前衛表現に影響を受け、芸術家としてのアイデンティティを確立。帰国後は前衛芸術運動を開始し、戦後には「芸術は爆発だ!」のCMが流行語にもなり、TV番組でも人気者だったことを知る人も多いだろう。破天荒、革命児などと語られる岡本太郎の生き方に、いま注目が集まっている。そんな彼の全貌を紹介する過去最大規模の展覧会『展覧会 岡本太郎』が始まった。最高傑作は岡本太郎自身。その生涯に迫る展覧会。展覧会は川崎市岡本太郎美術館と岡本太郎記念館、海外の美術館からの全面協力のもと、代表作や重要作が集合。太郎が中学2年のときに描いた水彩画から、晩年に描いた絵画まで約300点が一堂に集められた。また、残っていないと思われていた若き日の太郎がパリで描いたとみられる3点が展示されるのも朗報だ。全6章で構成された展示からは、太郎の表現領域が驚くほど広いことに気づかされる。絵画はもちろん、日用品、スカーフからこいのぼり、お寺の鐘、時計、飛行船、近鉄バファローズのシンボルマークまで!こうした作品を太郎が手掛けたのは「芸術は大衆のもの」という信念から。芸術とは生活の中にあり、金持ちやエリートのものでなく、民衆のもの、社会のものだと考える太郎は、絵画を売らない生涯を貫いた。「今日の芸術は、うまくあってはいけない。きれいであってはならない。ここちよくあってはならない」という彼の名言通り、作品から感じられるのは不気味な熱。すべてを生命体として描いた彼の表現は、猛烈なその生き様をも伝えてくれるはずだ。芸術家・岡本太郎の誕生19歳の冬に家族とヨーロッパに渡った太郎は、ピカソの作品に衝撃を受け、前衛芸術家や思想家たちと深く交わり、自身も最先端の芸術運動に邁進するようになる。パリ大学では民族学を学び、自身の土台となる思想を深めていった。岡本太郎《傷ましき腕》1936/49年川崎市岡本太郎美術館蔵力を入れた前衛美術芸術運動日本美術界の変革を目指し、太郎は「夜の会」を結成。また抽象と具象など対立要素が生み出す「対極主義」を掲げ前衛運動を開始する。さらに著書『今日の芸術』がベストセラーとなり文化人としても注目される。左・岡本太郎《森の掟》1950年川崎市岡本太郎美術館蔵右・岡本太郎《夜》1947年川崎市岡本太郎美術館蔵魅了されてきた呪術的な世界観前衛芸術を推す一方、日本文化にも目を向けた太郎。1951年に出合った縄文式土器をはじめ、日本各地に残る神事など現地調査を実施し洞察。民族学から日本文化の新しい価値を提唱。この見聞が《太陽の塔》へと繋がってゆく。左・岡本太郎《イザイホー》(沖縄県久高島)1966年12月26‐27日撮影川崎市岡本太郎美術館蔵右・岡本太郎《縄文土器》1956年3月5日撮影(東京国立博物館)川崎市岡本太郎美術館蔵大衆芸術への眼差し芸術とは生活そのもの。そう考える太郎の表現は画廊や美術館を飛び出し、壁画や屋外彫刻などパブリックアートから、時計や植木鉢、生活用品にまで広がった。左・岡本太郎《光る彫刻》1967年川崎市岡本太郎美術館蔵右・岡本太郎《犬の植木鉢》1955年川崎市岡本太郎美術館蔵ふたつの太陽1970年の大阪万博。そのテーマ館として太郎が手掛けた《太陽の塔》は、生命の根源的エネルギーの象徴。これと並行して描かれたのが現在、渋谷駅に設置されている巨大壁画《明日の神話》。太郎が残したドローイングや資料とともにこの2作品の意味を紹介する。上・【参考図版】岡本太郎《太陽の塔》1970年(万博記念公園)下・岡本太郎《明日の神話》1968年川崎市岡本太郎美術館蔵『展覧会 岡本太郎』東京都美術館東京都台東区上野公園8‐36開催中~12月28日(水)9:30~17:30(金曜~20:00、入室は閉館の30分前まで)月曜休一般1900円ほか日時指定予約制TEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)画像はすべて、©岡本太郎記念現代芸術振興財団おかもと・たろう1911年、神奈川県生まれ。人気漫画家の岡本一平、歌人で小説家のかの子の長男。東京藝大を半年で中退し、10年間渡仏。現地の画廊で出合ったピカソの作品に衝撃を受け、抽象画を志す。『今日の芸術』ほか、著書も多数。※『anan』2022年10月22日号より。文・山田貴美子(by anan編集部)
2022年10月25日東京国立博物館で、特別展『国宝東京国立博物館のすべて』が開催中です。本展は、日本で一番多く国宝を所蔵する東京国立博物館(通称:トーハク)が2022年に「創立150年」を迎えたことを記念して開催。全89件の国宝を公開する“トーハク史上初”の展覧会です。プレス内覧会で取材した見どころや会場風景をご紹介します!トーハクのすべてが見られる!国宝《松林図屏風》長谷川等伯筆安土桃山時代16世紀(展示期間:10月18日~10月30日)【女子的アートナビ】vol. 265特別展『国宝東京国立博物館のすべて』では、約12万件もの文化財を所蔵するトーハクのコレクションから、全国宝89件と重要文化財27件、さらに関連資料をあわせた150件を展示。日本で一番歴史の長い博物館として、これまで多くの文化財を保存・公開してきた東京国立博物館の「すべて」を見ることができます。今回のように全国宝89件をひとつの展覧会で見せるのは、トーハク史上初。でも、なぜ今まで実現できなかったのでしょう?本展を担当した東京国立博物館研究員の佐藤寛介さんは、次のように述べました。佐藤さん文化財は、保存と公開を両立させるため、展示期間に制限を設けて数年間のサイクルで少しずつ公開しています。一度にまとめて出すには、数年前から数年先まで調整する必要があるのですが、今回は150年という節目だから実現できました。ただ、絵画と書跡分野を中心に展示替えがあり、作品によっては展示期間が2週間のものもあります。国宝は、常時60件程度は一定して出しており、「いつ来たら損」というのはないのでご安心ください。奇跡の空間!オール国宝の展示室特別展『国宝東京国立博物館のすべて』展示風景では、展示室の様子をご紹介。第1部の空間にあるのは、すべて国宝です!一般的な展覧会では、多くの作品が並ぶなかで1点でも国宝が見られればラッキーという感じなのですが、本展第1部に展示されているのは全部国宝。絵画や書跡、漆工、考古など8つのジャンルから国宝に指定された作品が並び、展示室によっては360度国宝に囲まれる部屋も。まさに奇跡の空間を体験できます。この展覧会の最初の展示室でトップを飾るのが、長谷川等伯の《松林図屏風》。毎年お正月の時期に短期間公開されている国宝で、トーハク所蔵品のなかで一番人気ともいわれる作品です。湿った空気の中に浮かび上がる松林が美しく描かれた本作品は、日本における水墨画の最高傑作のひとつ。10月30日までの限定公開なので、お好きな方はお急ぎください。絵画のジャンルでは、今後も展示替えで狩野永徳や岩佐又兵衛の有名な屛風が登場します。奇跡の書跡と刀剣も…!国宝《古今和歌集(元永本)上帖》平安時代12世紀また、書跡のコーナーも見逃せません。平安時代の優れた能書家の小野道風や藤原行成の美しい書が展示されています。現存最古の《古今和歌集(元永本)上帖》も必見作。当時の装幀のまま完本として残っているのは本作品のみで、これまで尾張徳川家や加賀前田家などの錚々たる方々が所有し、最後は三井家からトーハクに寄贈されました。本作品は、文字だけでなく紙もすごいです。料紙の表には、雲母摺り(きらずり)と呼ばれる技法で美しい文様が施され、裏面には金や銀の箔が散り、とにかく豪華。平安時代から令和の現代まで、これだけの美しい状態で残っていることも奇跡だと思います。特別展『国宝東京国立博物館のすべて』展示風景さらに、「国宝刀剣の間」も見どころのひとつ。トーハクが所蔵する19件の刀剣が集結するというのも史上初の試み。しかも通期展示なので、本展開催中にいつ訪れても貴重な刀剣を見ることができます。「より美しく見せるために展示ケースや照明にもこだわりました。日本刀の美しさをじっくりと見てください」と佐藤研究員も力説していた刀剣ルーム。こちらも、ぜひ現地で実物をご覧ください。なぜかキリンが…!《キリン剝製標本》明治41年(1908)国宝を楽しんだあとは、第2部でトーハクの歴史を体感できます。こちらの展示室に国宝はありませんが、明治から令和までの150年を3期にわけ、各時代に収蔵された重要文化財指定の作品などが展示されています。皇室にゆかりのある品や写楽の浮世絵版画などいろいろありますが、異色なのがキリンの剥製標本。トーハクは、誕生した当時、博物館だけでなく植物園、動物園、図書館の機能も備えた総合博物館を目指し、美術工芸品だけでなく、動植物の標本や剥製も集めて公開していました。展示されているキリンは、1907年、日本にはじめて生きたままやってきて、上野動物園で飼育されていたオスの「ファンジ」。死後、剥製標本にされてトーハクの自然史資料として展示されていました。このキリンなどの自然史資料は、関東大震災後、今の国立科学博物館に譲渡され、やがてトーハクは歴史と美術工芸品をメインとした博物館となりました。国宝をコンプリート!貴重な美術工芸品と、日本初の博物館150年の歴史を体感できる展覧会は12月11日まで開催しています。ぜひ何度か足を運んで、89件の国宝すべてをコンプリートしてみてください!Information会期:~12月11日(日)休館日:月曜日会場:東京国立博物館平成館開館時間:9時30分~17時00分※金曜・土曜日は20時00分まで開館(総合文化展は17時00分閉館)※最新情報などの詳細は展覧会公式HPをご覧ください観覧料:一般 ¥2,000、大学生 ¥1,200、高校生¥900※日時指定予約制
2022年10月23日多種多様な植物が生い茂る大阪のオアシス、長居植物園に今夏、チームラボが手がける屋外型の夜間常設展がオープン。日没後は、幻想的な光が彩るアート空間へと変貌する。夜の植物園に現れる自然と人と光が織りなすアート。大きな光のOvoid(卵形体)が高密度に立つ「自立しつつも呼応する生命の森‐ユーカリ」。訪れた人はOvoidに触れ、分け入り、遊ぶ。自然とアートが交差する異次元の空間へ。未来に向けて、植物が生き生きと生育できる環境を整え、5か月の休園期間を経て今春に再オープンした「長居植物園」。約24万平方メートルの広大な敷地には、1200種類もの植物が茂り、季節ごとにさまざまな表情を見せる。7月末からスタートした夜間の常設展「チームラボ ボタニカルガーデン 大阪」は、のどかな昼間の雰囲気から一転。闇に包まれた植物園には、チームラボの美しくファンタジックな光のアートが浮かび上がる。ラクウショウの並木道から、サルスベリの広場、ツバキ園…。夜空の下で園内を散策すると、エリアごとに配された作品は、風や雨、空を飛ぶ鳥、そして訪れる人たちなどの動きに呼応し、周りに波及しながら、その色や輝き、音色をどんどん変えていく。自然や人間と相互的、かつ連続的に影響を受けて、永遠に変容する姿は、まるで生命を宿しているかのよう。そんなアート空間にいると、時間や場所の感覚がボーダーレスになって、異世界へ迷い込んだような気分に。「ツバキ園の呼応する小宇宙‐固形化された光の色」。ツバキ園に密集するOvoidは、太陽の下では世界を映し出し、陽が沈むと自ら光り輝き出す。Ovoidは、傾くと立ち上がりながら光を変え、色特有の音色を響かせて、周りにも波及していく。「具象と抽象‐二次林の入口」。人が作品の中に入り、立ち止まると、線の集合が新たに生まれ、広がりながら重なり、森は平面の層に。「森に描かれる空書‐ワンストローク、二次林」。森の中に現れる連続した一筆の「空書」は、幾層にも重なり、交差し、回転しながら、やがては消える。「大池に浮遊する呼応するランプ」。池に浮かぶランプは、人が立ち止まったり、風に吹かれて傾くと、強く輝き、音色を響かせる。入り口からすぐの「生命は連続する光‐ラクウショウ」。チームラボ ボタニカルガーデン 大阪デジタルアートが世界的に大人気のチームラボが手がける、国内では最新となる常設展示。コンセプトは“Digitized Nature”。デジタルテクノロジーによって自然を破壊することなく、「自然そのものが自然のままアートになる」プロジェクトを提案。大阪府大阪市東住吉区長居公園1‐23TEL:06・6699・5120日没~21:45(最終入場20:45)※季節によって変わる。第2・4月曜休※『anan』2022年10月26日号より。写真・原 祥子構成、文・野尻和代(by anan編集部)
2022年10月22日お休みの日には一人でふらりと美術館へ出かけるという上白石萌音さん。今回は、大好きな印象派の世界観にたっぷり浸れる最新の没入型展示を初体験。上白石萌音、めくるめく印象派の世界へダイブ。真っ暗闇のホールに、ぼんやりと浮かび上がる19世紀のフランスのル・アーブル港の映像。クロード・モネの「印象・日の出」に描かれた風景をCGで再現し、見渡す限りのパノラマで映し出した序章は、写真から絵画へ少しずつ姿を変えていく…。上白石萌音さんが今回訪れたのは、「イマーシブ ミュージアム」。最新の映像技術により、モネをはじめ、ピサロ、ドガ、カサットなど印象派の名画が動き出し、画家たちが見た世界へと没入体験できる新感覚のスポットだ。時空を超えた35分ほどのアートトリップを体感した上白石さんは、「長年の夢が叶ったようなひとときでした」と興奮した様子。「印象派が大好きで、いつも絵の風景の中へ入ることができたらなと思いながら鑑賞していたんです。だから、モネのジヴェルニーの庭の池に浮かんだり、ドガの踊り子たちに交ざってみたり…名画の世界へ飛び込んでいくような感覚が味わえて本当に嬉しいです。そして、モネの『積みわら』の連作も、積みわらに焦点を当てながら次々と絵が変わったり、『ルーアン大聖堂』の時間や季節の移ろいによる変化を連続的に見られるのも、デジタルらしいエンタメ性のある演出ですごく面白かったですね。もし、これをモネが見ることができたなら、きっと喜ぶ気がします」そう語る上白石さんにとって、自身の名前の由来にもなっているというモネは、少し特別な存在。「やっぱりシンパシーを感じますね(笑)。でも、何より、自分が描きたいものに対して、納得いくまで懲りずに、傲慢にならずに、ストイックに向き合い続けた生き方は、表現者として尊敬します」そんなモネの企画展では、7年ほど前に東京都美術館で見た、「モネ展」の感動が今でも忘れられないそうだ。「『睡蓮』など有名な絵画がたくさんあったのですが、その時、最も心を揺さぶられたのは晩年の作品。白内障で視力が低下してから描かれた絵は、よく知る淡く優しい雰囲気ではなく、赤や黒、緑など鮮やかな色で筆致も荒々しく、怒りや悲しみがぶつけられている気がして。圧倒されて、初めて絵を見て泣いてしまったんです」最先端技術を駆使したデジタル作品も、作家たちの人間性や生き様が滲み出る絵画も、心静かにアートを感じるひとときは、上白石さんにとってチャージ&デトックスとなる大切な時間に。「テクノロジーが進化する中で、人間にしかできないことはますます貴重になっていると思うんです。まさに役者は人間くさい仕事で、アウトプットし続けていると、インプットも必要で。美術館を訪れることは私にとって栄養を吸収する何よりの時間になっています。と同時に、一人で絵の前に立ち、想像力を広げていると、なんとなく溜めていたマイナスの感情や塵みたいなものが、すっと洗い流されていくような気がするんです」クロード・モネが描いた「印象・日の出」の世界の中に溶け込むように佇む上白石さん。「写真から絵画へ変わる瞬間がとてもドラマティックで、夢のようでした」クッションにちょこんと腰掛けて、印象派の色彩のシャワーを浴びる上白石さん。「リラックスしながら、自由なスタイルで印象派を楽しむのもなんだか新鮮ですね」ギュスターヴ・カイユボットの代表作「ボート漕ぎ」。絵画から目を逸らすと、ボートを漕ぐ男性がストレッチをし始め、上白石さんも「あ!」とびっくり。イマーシブ ミュージアム数十台のプロジェクターを制御する最新の映像技術により、印象派の絵画に没入体験する空間。モネやルノワール、ピサロ、ドガなどの名画に時間を与え、鑑賞者との距離や大きさを変え、編集や音楽を加えることで、画家の視点に立って作品の世界に入り込むことができる。企画展にちなんだスイーツなどが楽しめるカフェコーナーも併設。10月29日までの開催なので、急いでチェックを。日本橋三井ホール東京都中央区日本橋室町2‐2‐1COREDO室町1~4F10:00~21:00(土・日・祝日9:00~)※10/29は8:00~22:00、入場は閉場の40分前までかみしらいし・もね1998年1月27日生まれ、鹿児島県出身。11月4日より放送のドラマ『記憶捜査3』(テレビ東京系)に遠山咲役で出演。歌手活動も精力的に行い、来年1月25日(水)には自身初の日本武道館でのライブも決定。ドレス¥23,100(journal standard luxe/ジャーナル スタンダード ラックス 表参道店 TEL:03・6418・0900)リング¥11,000(MAM/ビームス ウィメン 原宿 TEL:03・5413・6415)イヤーカフ¥19,800(Lemme.)タイツ、シューズはスタイリスト私物※『anan』2022年10月26日号より。写真・永禮 賢スタイリスト・伊藤信子ヘア&メイク・高村三花子構成、文・野尻和代(by anan編集部)
2022年10月22日11月から上野の森美術館で『日中国交正常化50周年記念兵馬俑と古代中国 ~秦漢文明の遺産~』がはじまります。この展覧会のナビゲーターに、俳優の谷原章介さんが就任。音声ガイドのナレーションも担当された谷原さんに、展示の見どころやお好きなアートについてうかがいました。谷原章介さんがナビゲーター!谷原章介さん【女子的アートナビ】vol. 264『兵馬俑と古代中国 ~秦漢文明の遺産~』では、秦漢両王朝の中心地域であった陝西省の出土品を中心に、中国における国宝レベルの貴重な文物など約200点が集結。日本初公開となる文物も多数含まれています。特に注目したいのが、兵馬俑の展示。兵馬俑とは、陵墓(皇帝の墓所)に収められていた兵士や馬をかたどった像のこと。始皇帝陵には、およそ8000体もの兵馬俑があったと推定され、その像は一つひとつ顔や服装が異なるといわれています。本展では、戦国、漢時代を含めた総計36体もの兵馬俑が来日。日本初公開の希少な将軍俑も展示され、過去最大級のスケールでの展示を楽しめます。そんな注目の本展・東京版でナビゲーターを務めるのは、谷原章介さん。俳優だけでなく司会者としても活躍され、声も“イケボ”な谷原さんに展覧会の見どころなどを語っていただきました!憧れの世界…――本展のオファーを受けて、どのように思われましたか。谷原さん古代の中国は、幼いころから三国志のマンガやゲームで親しんできたので憧れの世界です。しかも兵馬俑はまだ見たことがないので、とても楽しみです。――古代中国、どんな点に憧れていたのですか。谷原さん秦の始皇帝は、はじめて中国を統一しました。やはり、その権力を勝ち取っていくところに僕は惹かれるのだと思います。兵馬俑も、何千体もつくり、一緒に葬られていますよね。それをつくることができるのが権力の証。莫大な財があり、自分の偉大さを後世に喧伝したかったのだと思います。こんなすごい人がこの世にいたのだと思うのと同時に、畏怖の念も抱きます。――兵馬俑もたくさん展示されるそうですね。谷原さん発掘された兵馬俑の写真を見て、この国の人たちは、なんてすごいことをやっているのだろうと思いました。展覧会で、中国の大きなスケールを感じていただきたいですね。当時、彼らは馬車で戦争をして、函谷関のような大きな城壁もあり、世界において間違いなく国力は強かった。その一端を見ていただければうれしいです。ボソボソっと収録…――私は歴史や古代中国にあまり詳しくないのですが、そんな人間でも展覧会を楽しめますか。イケメン兵馬俑とか、いるといいのですが…。谷原さん切り口は、なんでもいいと思いますよ。例えば、その時代の歴史ドラマでイケメン俳優が出ているものとかを見たりすると興味が持てるようになるかもしれないですし、あるいは、まず展覧会に来てみて、それで後からアニメやドラマを見てもいいですよね。――さらに谷原さんの音声ガイドを聞くと、初心者でも理解が深まりそうですね。谷原さん僕は、今回のガイドでは作品を見ている方の耳元で「ボソボソっ」と話すイメージで、あまり声を張らずに収録をさせていただきました。声を張らないと、のどを使うので疲れるのですけど、がんばってやりましたので、ぜひガイドを聞いてください。――なぜボソボソっと話されたのですか?谷原さん展示されているのは昔の文物で、一級の美術品でもあります。長い時を経て、ここまで生き残ってきたものですし、作品自体が強い存在ですから、声を張るよりは、僕は抑えていきたいな、と。ご覧になる方自身も、スポーツ観戦みたいに高揚するのではなく、静ひつな気持ちになると思うので、僕も静かに落ち着いたトーンにしました。――ちなみに、古代中国に限らず、何か歴史ドラマでご自身が演じてみたい時代とかありますか?谷原さん僕が興味を持っているのは、坂上田村麻呂が征夷大将軍になるときの蝦夷(えみし)。族長のアテルイとか。奥州藤原氏にしても、東北の人たちが、中央から離れていたときの時代をやってみたいですね。ロマンを感じます。思い出に残るアート体験は…――谷原さんは、以前デザインの番組で司会をされていたこともあり、アートやデザインなどのジャンルにもお詳しいと思います。ご自身で何か思い出に残るアート体験はありますか?谷原さんもう30年近く前になりますが、世田谷美術館でアウトサイダーの方々の作品を集めた展覧会がありました。そこではじめて、ヘンリー・ダーガーの作品を見ました。彼は精神疾患があり、自分の妹とは生き別れている方で、その妹をモチーフにしたと思われるような少女たちが悪と戦う物語を創造し、絵にした作品です。すごく長い壮大な物語で、大きな紙に描いてあるのですが、多くの子どもたちが殺されてしまうのです。ヘンリー・ダーガーは、病院の掃除夫として働き、稼ぎをすべて作品制作に使っていたらしいのです。その展覧会で僕が見た西洋の方々の作品には、やはり宗教的なキリストの救いのようなものが埋め込まれていたように思えました。作らずにはいられない衝動や、救われたいという思いもあるのかなと感じて、見ていて切なくなりました。生のスゴさを感じて!――最後に、読者の方にメッセージをいただけますか。谷原さん兵馬俑は、何度か日本に来ていて、毎回ご好評をいただいているとうかがっています。そのなかでも、今回は日本初公開の将軍俑が来日するので、それは過去にはなかったものです。ぜひスマホの画面ではなく、生のスゴさを展覧会で感じていただけたらうれしいです。インタビューを終えて…歴史からアートのジャンルまで、本当に博識な谷原さん。特に、30年前の展覧会を鮮明に覚えていらっしゃったのが印象的でした。谷原さんの話されていたヘンリー・ダーガーの作品を見てみたくなり、世田谷美術館で開催された『パラレル・ヴィジョン―20世紀美術とアウトサイダー・アート』展の図録を入手。ダーガー作品はかなり衝撃的で、当時の若き谷原さんが受けた驚きや感動が伝わってくるようでした。そんな博学な谷原さんが、わかりやすく語りかけてくれる音声ガイドを聞きながら、ぜひ展覧会で古代中国の世界を楽しんでみてください。Information「日中国交正常化50周年記念兵馬俑と古代中国~秦漢文明の遺産~」会期: 2022年11月22日(火)~2023年2月5日(日)会場: 上野の森美術館開館時間:9:30~18:00※入館は閉館の30分前まで休館日:2022年12月31日(土)、2023年1月1日(日)観覧料(税込):一般¥2,100、高校・専門・大学生¥1300、小・中学生¥900※2022年11月2日(水)10時よりチケット発売開始予定※本展は日時指定予約制です。※最新情報などの詳細は展覧会公式HPをご覧ください問合せ:ハローダイヤル 050-5541-8600
2022年10月20日淡く、やわらかな光を帯びたワンシーンを切り取り、世界がかけがえのない一瞬の連なりであることを見せてくれる写真家・川内倫子さん。美術館では6年ぶりに開催される写真展『川内倫子:M/E球体の上 無限の連なり』は、この10年ほどの間に制作した作品シリーズから、新作を中心に編んだ構成になる。展覧会のタイトル「M/E」の元となった「Mother Earth」という言葉は、撮影のために訪れたアイスランドで、ある特別な体験の最中に浮かんだもの。「休火山の中に入るというツアーに参加したのですが、火口から100m以上ゴンドラで降りていき、底から上を見上げたら、火口が女性器の形のようだった。まるで地球の胎内に入ったような感覚で、そのとき『Mother Earth』という言葉が自然に浮かびました」文字に書き出してみると、もう一つ、気づきがあった。「頭文字をつなげたら、“ME”。小さな“個人”という意味になるんだなと」“Mother Earth”の中に小さな“ME”がある。そのとき、「大きなものに包まれて、その一部になったような」、火山の中で感じた思いとつながり、しっくりきたのと同時に、小さな“個”である自分を一層強く感じることができたという。今回の展示は、この体験を見る人とシェアしたいという川内さんの思いが一つの出発点となっている。〈M/E〉では、アイスランドの氷山や風景、厳寒期の北海道の冬景色、パンデミック下で過ごした自宅やその周辺で撮影した写真を1つのシリーズにまとめた。一見、関連のない被写体を並べて、連なりで見せる手法は、第一作『うたたね』以来、ずっと用いているものだ。〈M/E〉シリーズの中でも、壮大な景色の中に身を置いて撮影した写真と、身近なできごとを丁寧にすくいとった写真が隣り合う。フォーカスの異なる2つの視点は、川内さんの中でどのように同居しているのだろう?「極小のものから広大なものへつながっていく視点には、すごくダイナミックな宇宙観があると思います。自分がそういうものの間で生かされているのだと思うと、広大な宇宙の中にいるんだという実感がわいてくる。ミクロからマクロへの振り幅が大きければ大きいほど、この世の中の不思議というか、謎みたいなところに迫れる気がするんですよね」宇宙から俯瞰すれば、人間もアリ同様、小さな存在。そうした存在がお互いに影響し合って生きている。「作品を作ることを通して、自分がそれを実感したいんだと思います。自分が生かされていて、いろんなものとつながりがあるということを」こうした眼差しを持つ川内さんにとって、地球環境や社会情勢に対する不安は大きい。「今、自分なりに危機感を覚えているのかもしれません。ついこの間も豪雨でパキスタンに大きな洪水が起こったというニュースを見ました。温暖化やCO2問題は1つの国だけの問題ではないし、今もどこかの国の工場から排出されているものが影響し合っている。そういう『つながり』の意識がなおざりになると、戦争になってしまったりもする」そうした気持ちが、無意識のうちに大自然の中へと川内さんを向かわせたのかもしれない。アイスランドの大自然や、北海道のハードな寒さの中に身を置いて、圧倒的な景色の中で、自分の小ささをひしひしと感じながらシャッターを切る。ある種の極限状態の中で、体が反応するまま、反射神経で撮っていったものを1つの作品として並べたとき、初めて自分が無意識の部分で何を考え、何を求めているのかがわかるという。「結局、そこで何に反応したかということが、作品をまとめるときに見えてくるんです。答え合わせみたいに、ああやっぱりそうだったんだという最後のピースは、展示にしたときにわかるんだろうな」会場では発表のたびに映像を追加していくことをコンセプトとした映像作品〈Illuminance〉、2018年に出版した写真絵本『はじまりのひ』を朗読したサウンドが流れるなど、写真にとどまらない表現も。会場デザインは建築家の中山英之さんが手がけ、展示空間が1つのインスタレーションのように体験できる点も注目。白色の柔らかな布地で空間をつくり、川内さんがアイスランドの休火山の中で感じた「包み込まれるような感覚」の再現を試みている。私たちもきっと、この星とのつながりを、展示の連なりとともに体験できるはず。M/E本展のタイトルにもなった新作シリーズ。アイスランドと厳寒期の北海道で撮影した氷河や冬景色、パンデミック下に撮影された身の回りの日常風景をまとめている。「母なる大地(Mother Earth)」から小さな「私(Me)」へと行き来する、写真家の視点に注目を。《無題》2020(シリーズ〈M/E〉より)《無題》2019(シリーズ〈M/E〉より)4%日本初公開のシリーズ。アーティスト・イン・レジデンス(アーティストが現地に一定期間滞在し、創作活動等を行う制度)により、2011年にサンフランシスコ、’12年にロサンゼルスにて制作。球体や水平線など、地球・宇宙への広がりをイメージさせるモチーフが登場。《無題》2013(シリーズ〈4%〉より)《無題》2013(シリーズ〈4%〉より)かわうち・りんこ1972年、滋賀県生まれ。2002年、写真集『うたたね』『花火』(共にリトルモア)の2冊で第27回木村伊兵衛写真賞を受賞。近刊に『やまなみ』(信陽堂編集室)などがある。『川内倫子:M/E球体の上 無限の連なり』東京オペラシティ アートギャラリー東京都新宿区西新宿3‐20‐2‐3F開催中~12月18日(日)11時~19時(11/3~11/6は10時~。入場は18時半まで)月曜休一般1200円ほかTEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)※『anan』2022年10月19日号より。写真・土佐麻理子取材、文・松本あかね(by anan編集部)
2022年10月16日東京・日本橋にある三井記念美術館で、特別展『大蒔絵展―漆と金の千年物語』が開催中です。平安時代に完成した純日本的なデザインの蒔絵。日本人が生み出した優雅で美しい工芸には、どのような歴史があるのでしょう。学芸員さんの話もまじえて、見どころなどをレポートします!どんな展覧会?国宝《桐蒔絵手箱》南北朝時代(14世紀)和歌山・熊野速玉大社所蔵展示期間10月1日~10月30日【女子的アートナビ】vol. 263特別展『大蒔絵展―漆と金の千年物語』では、平安時代から現代の人間国宝にいたるまでの蒔絵作品を中心に、物語絵巻や屛風、書跡資料などもあわせて展示。蒔絵が日本文化に広がり、楽しまれてきた時代背景も知ることができます。本展は、MOA美術館と三井記念美術館、徳川美術館の3館による合同企画。東京会場となっている三井記念美術館では、国宝7件、重要文化財32件を含む計127件が紹介されています。そもそも蒔絵って?展示作品を見る前に、蒔絵についておさらいします。そもそも蒔絵とは、漆工芸のなかの技法のひとつ。漆で絵や文様などを描き、それが乾かないうちに金や銀などの金属粉を蒔(ま)きつけて固めていく手法です。三井記念美術館の学芸員で本展を担当した小林祐子さんは、蒔絵の歴史について、次のように教えてくれました。小林さん漆の木からとれる樹液を利用する工芸品は、漆が自生する日本や中国、朝鮮半島、東南アジアなどでつくられていますが、蒔絵は日本だけで発展した技術。日本に現存する最古の蒔絵は、正倉院宝物「金銀鈿荘唐大刀(きんぎんでんかざりのからたち)」の鞘(さや)にある動物の模様です。もともと蒔絵の技術は、奈良時代に中国大陸から伝わったと考えられていますが、中国で蒔絵の伝世品は見つかっていません。中国では失われた技術ですが、日本では発達していきました。少なくとも、日本で1200年以上も受け継がれている技術です。国宝・重要文化財がいっぱい!《石山切》藤原定信筆平安時代(12世紀)静岡・MOA美術館所蔵本展は8章で構成。そのなかから、特に国宝や重要文化財が多く集まる1~3章を中心にピックアップしていきます。まず注目したいのが、大変美しい書の作品《石山切》(藤原定信筆)。平安時代につくられたものです。平安時代には宮廷を中心とした貴族文化が発達し、日本ならではの美の規範が生まれました。また、かな文字が生まれたのもこの時代。書をしたためる和紙である「料紙(りょうし)」にも、金銀を用いた華麗な装飾が施されていきます。でも、巻物や冊子は読むものなのに、なぜこれほど豪華な装飾がつけられたのでしょう。小林さんは次のように解説しています。小林さんこれらの書は「調度手本」と呼ばれています。貴族の邸宅の棚などに飾られるもので、生活を彩るための調度品なのです。《石山切》では、銀泥で松や鳥などの下絵が施されています。このような料紙装飾は、蒔絵の模様にも通じるものです。素材を超えた和様の美をご覧になってみてください。6日間だけ見られます!国宝《源氏物語絵巻宿木一》平安時代(12世紀)愛知・徳川美術館所蔵展示期間10月1日~10月9日また、本展では貴重な国宝《源氏物語絵巻》も展示されています。平安時代に成立した『源氏物語』や『伊勢物語』は、のちに長く蒔絵のデザインとして使われていきます。例えば、本展の後半で見ることができる尾形光琳の国宝《八橋蒔絵螺鈿硯箱》に描かれているデザインも『伊勢物語』由来。物語絵巻は、江戸時代まで受け継がれている日本文化のベースになっています。今回展示されている《源氏物語絵巻》は現存最古の物語絵巻で、所蔵館以外で展示されるのは極めて珍しいそうです。前期の展示期間はすでに終了し、後期は10月25日から30日までの限定展示となっています。必見! 国宝の蒔絵たち国宝《片輪車蒔絵螺鈿手箱》平安時代(12世紀)東京国立博物館所蔵展示期間10月1日~10月23日ここからは、本展メインの蒔絵作品をご紹介。まずは、国宝《片輪車蒔絵螺鈿手箱》(かたわぐるままきえらでんてばこ)。東京国立博物館が所蔵する名品です。牛車(ぎっしゃ)の車輪が描かれている手箱で、波の部分には「研出(とぎだし)蒔絵」という技法が使われています。この技法は、漆で模様を描いて金粉を蒔きつけたあと、さらに全面を漆で塗りこめてから木炭で研ぎ、模様をもう一度出すという手順。正倉院宝物にも使われた最初期の技法です。ちなみに、手箱というのは、本来化粧道具などを入れておくための箱を指しますが、本作品は仏教の経典を収めるための箱と考えられています。国宝《澤千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃》平安時代(12世紀)和歌山・金剛峯寺所蔵また、高野山に伝わる名宝で国宝の《澤千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃》(さわちどりらでんまきえこからびつ)も見どころのひとつ。こちらも、もとは経典や仏具を収めるための箱としてつくられたもので、水辺の情景が描かれています。カキツバタやオモダカなどが咲く水辺で、たくさんの千鳥が自由に舞っている様子が表され、とても幻想的な雰囲気です。さらに、和歌山の熊野速玉大社に伝わる国宝《桐蒔絵手箱》(きりまきえてばこ)も必見作。本記事一枚目の画像です。こちらは南北朝時代の作品で、金粉が一面に蒔きつけられています。鎌倉時代になると、蒔絵の粉をつくる技術が向上し、小さな粉も使われるようになりました。本作品には金が浴びせかけられ、かなりゴージャスな雰囲気。この手箱の中に収められていたおしろいやお歯黒などの化粧道具も展示されています。なお、展示作品の説明部分に、QRコードがついているものもあります。スマホで読み取ると、蒔絵作品の箱の中や蓋の裏など、展示では見えない部分の画像が見られるので、ぜひ利用してみてください。本展は、展示替えを行う作品も多く、また展覧会の会期もあまり長くありません。ぜひお早めに、お出かけください。Information会期: ~11/13(日)※会期中、展示替えを行います。会場: 三井記念美術館開館時間:10:00〜17:00(入館は16:30まで)休館日:10月24日(月)観覧料:一般¥1,300、高校・大学生¥800、中学生以下無料※最新情報などの詳細は展覧会公式HPをご覧ください
2022年10月16日本誌連載「社会のじかん」で、堀潤さんのニュース解説に、読者目線の素直なコメントと、ひねりの利いたイラストでページを盛り上げている五月女ケイ子さん。現在、2年ぶりの個展が開催されている。タイトルはずばり「野望」!「野望」を夢想していると、毎日がきっと楽しくなってくる。「『天下取りたい!』というような大きな野望もあるけれど、ケーキをお腹いっぱい食べたいとか、小さな野望もたくさんあるなと思って。身の回りにあふれている野望を絵におとしこめたら、と考えたんです」メディアで大活躍の五月女さんだが、キュートでクスリと笑っちゃう、一目で“五月女ケイ子作品”とわかる独自の世界観がある。「私の描く絵は、どれも野望が隠れているなと思ったんですね。夢を見ていたり、希望を目指したり。目のなかの星や、膨らみ気味の鼻の穴に表れているなって(笑)」コロナ禍によりいろいろと日常が制限されている、いまの時代性も反映されているよう。「コロナ禍前に普通にしていたことも、やり方を忘れてしまったというか、うまく元に戻れないところがある気がします。『屋外ではマスクを外していい』と言われても、なかなかできなかったり。人通りの少ない夜に、自転車で帰る途中、マスクをパッと外したときに『野望達成!』と勇ましい気持ちになりました」五月女さんは、自分のできないことを絵にしていることが多いと感じている。「フットワークの軽いタイプではないので、家にこもって描きながら、私の代わりに私の絵が外に出て、みんなとコミュニケーションをとってくれているような感じです」個展の絵はデジタルを使わずアナログな手法で描く。印刷物と違い、重ね塗りや筆遣いがすべて残るので、いつも以上に緊張するらしい。「眉毛1本の違いでも、表情が変わっちゃうんです。描きかけのものをしばらく寝かせて、悩みながら描いてます。ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』が未完成だったというのがすごくわかる。ずっと手を入れたくなっちゃうんですよね」アイデアを考えるときがいちばんの至福。ノートにはたくさんの野望スケッチが鉛筆で描かれていた。「夢というと真面目に語らなきゃいけない感じがするけれど、野望は無責任に言える気がします。汗だくで家に帰って『冷たい麦茶を飲み干すぞ!』と思うのも野望。いまや夜ふかしすら野望(笑)。野望を妄想していると楽しい気持ちになります。絵は私にとって夢を叶える道具。まずは自分を元気にさせているのかな」メインカットは、決意に満ちた女の子のアップ。頭には松!天下統一を目指して、みんなでGO!大好きなものを手に、ソファに埋もれて。髭は、野望の象徴なり。楽しい妄想が満載、気持ちアップ間違いなし!五月女ケイ子個展「野望」ギャラリーハウスMAYA東京都港区北青山2‐10‐26開催中~10月15日(土)11:30~19:00(土曜、最終日は~17:00)日曜休無料TEL:03・3402・9849 個展では2023年のカレンダーも発売される。そおとめ・けいこイラストレーター。山口県生まれ。雑誌、テレビ、広告で大活躍。近著に『乙女のサバイバル手帖』(平凡社)。「淑女のご挨拶スタンプ」「わりと動く!五月女ケイ子スタンプ」などLINEスタンプも人気。※『anan』2022年10月12日号より。写真・土佐麻理子インタビュー、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2022年10月09日京都市京セラ美術館で開催中の『アンディ・ウォーホル・キョウト / ANDY WARHOL KYOTO』。本記事では、ウォーホルの全盛期から最晩年までの展示作品にフォーカスします。生け花文化からの影響…『アンディ・ウォーホル・キョウト』展示風景【女子的アートナビ】vol. 262本展覧会の1章では商業デザイナーとして活躍したウォーホルの初期作品、2章では京都旅行についての資料やスケッチなどが展示されています。この2章の最後に登場するのが「花」のシリーズ。本展前半のハイライトといわれている作品群です。アンディ・ウォーホル美術館の主任学芸員で、本展キュレーターをつとめるホセ・カルロス・ディアズ氏は、「花」シリーズについて次のように解説しています。ディアズ氏ウォーホルは1956年に初めて日本を訪れたとき、生け花の文化から大きく影響を受けました。帰国してからも生け花に関する本を買い集め、学んでいたのです。本作品も、生け花の本にあった図版が元ネタになっています。1974年の作品ですが、当時使っていたシルクスクリーン手法ではなく、手彩色で描かれている点も特徴です。会場では、ウォーホルが制作の参考にした生け花の本も展示してあります。有名作が続々登場!『アンディ・ウォーホル・キョウト』展示風景続く3章「『ポップ・アーティスト』ウォーホルの誕生」では、彼の超有名な代表作、キャンベル・スープ缶や花の作品などが登場します!展示会場の雰囲気もがらりと変わり、明るくポップな雰囲気。気分もワクワクしてきます。1960年代以降、ウォーホルは商業デザインから芸術的なファインアートの世界へと入っていきます。彼は「日常にありふれたものを芸術にする」とマスメディアに発表。シルクスクリーンの手法を使い、新聞記事や広告のイメージを取り入れた作品を次々と生み出していきます。『アンディ・ウォーホル・キョウト』展示風景また、彼は自分の制作スタジオを「ファクトリー」と命名。スタジオで華やかなパーティやイベントを開き、俳優や作家、ミュージシャンやパトロンと交流を重ね、アート界のスターになっていきます。さらにアートだけでなく映画や音楽、ファッションの分野でも活躍。セルフプロデュースにもたけており、ウィッグをつけてジーンズをはくウォーホルの独特なスタイルは人気となり、ファッションアイコンにもなりました。会場では、愛用のウィッグやジーンズ、ブーツなども見ることができます。珍しいマリリンが…!《三つのマリリン》について語るディアズ氏子どものころからハリウッドスターやセレブに憧れていたウォーホルは、華やかなスターの肖像画を描きはじめます。4章「儚さと永遠」では、当時話題になっていた有名人の肖像画が展示されています。なかでも注目したいのは、本展のメインビジュアルにもなっている《三つのマリリン》。ウォーホルはマリリン・モンローの絵を50点ほど制作していますが、ポップな雰囲気のものがほとんどです。でも、本展の作品は顔がピンク色で、黒い影のようなものも描かれ、ややグロテスク。なぜ、こんな色彩にしたのでしょう?ディアズ氏は次のように述べています。ディアズ氏本作品は、ウォーホルが最も脂の乗っていた時期に描いたもので、ほかのマリリン作品にはない過激な色の組み合わせになっています。また、この絵はマリリン・モンローが自ら命を絶ったすぐ後に描かれた作品です。彼女の存在をただ懐かしむだけでなく、ウォーホルが感じたものが作品に投影されているのだと思います。《三つのマリリン》は展覧会で展示される機会が少ない珍しい作品です。ぜひじっくりとご覧ください。ウォーホルの光と影…『アンディ・ウォーホル・キョウト』展示風景作品が売れて有名になり、自分自身もセレブになったウォーホルですが、プライベートな部分は謎に包まれていました。最終章「光と影」では、今まであまり知られていなかったウォーホルの素顔に迫る作品が展示されています。彼が亡くなる前年、1986年に描かれた《最後の晩餐》は、横幅が10メートル近くもある大きな作品です。キリストの顔やバイク、数字、アルファベットなどが白い画面に散りばめられ、一見しただけではどんな意味があるのか、まったくわかりません。この絵について、ディアズ氏は次のように述べています。ディアズ氏画商から依頼を受けて制作した《最後の晩餐》では、ウォーホル自身が敬虔なクリスチャンであったという生い立ちを示しています。また、アルファベットで書かれている『THE BIG C』のCはキリスト(Christ)のCであるとともに、当時流行していたエイズが、当時の新聞などで「ゲイの癌 Gay Cancer」と表現されていたことからくるCancer(癌)のCであるとも考えられています。彼が敬虔なカトリック教徒でゲイだったことについては、あまり知られていませんでした。本作品は、ウォーホルのプライベートな部分を示した濃厚な作品です。死の作品…『アンディ・ウォーホル・キョウト』展示風景最後の部屋では、先述の《最後の晩餐》と向かい合わせて、「電気椅子」や「病院」をテーマにした作品を展示。ポップな絵のイメージが強いウォーホルですが、1960年代から「死」をテーマにした作品も制作していました。「死と惨事」シリーズや「頭蓋骨」の絵など、闇を感じる作品も多く手がけています。特に、ニューヨーク郊外のシンシン刑務所にある電気椅子の写真をもとに描いた作品《小さな電気椅子》は、彼の代表作のひとつになっています。1987年2月、ウォーホルはニューヨークで胆嚢炎の手術をした後、合併症で他界。58歳でした。京都×ウォーホル最後に、ミュージアムショップから京都老舗店とのコラボ商品をご紹介!祇園の和菓子屋「鍵善良房」は、ウォーホルの花作品をモチーフにした干菓子を販売。ケースのデザインもおしゃれです。ほかにも、お酒や手提げ袋、さらに漆器などの高価なものもあり、見ているだけでも楽しいです。また、京都を訪れた彼の足跡を辿る企画「ウォーホル・ウォーキング」も開催中。例えば、京都駅前烏丸口に設置されている「ウォーホル・ウォーキング」BOXのQRコードにアクセスすると、「ウォーホルと京都」のストーリーを楽しむことができます。京都だけでしか開かれない見どころ満載の展覧会『アンディ・ウォーホル・キョウト』。関西エリアの人はもちろん、それ以外の地域にお住いの方も、ぜひぜひ足を運んでみてくださいね!Information会期:~2023年2月12日(日)休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館)、12月28日~1月2日会場:京都市京セラ美術館 新館「東山キューブ」開館時間:10:00〜18:00(入館は閉館の30分前まで)※最新情報などの詳細は展覧会公式ウェブサイトをご覧ください観覧料:土日祝一般¥2,200、平日一般 ¥2,000、大学・高校生 ¥1,400、中学・小学生¥800
2022年10月09日京都市京セラ美術館で、ポップ・アート界の巨匠、アンディ・ウォーホルの大回顧展が開催中です。京都だけでしか開かれない今回の展覧会では、200点以上の作品を展示するだけでなく、日本とウォーホルの深い関係も紹介。現地の内覧会やトークイベントを取材してきました。どんな展覧会?【女子的アートナビ】vol. 261『アンディ・ウォーホル・キョウト / ANDY WARHOL KYOTO』では、ポップ・アートの巨匠として人気を博したアメリカの芸術家、アンディ・ウォーホル(1928-1987)の初期から晩年までの絵画や立体作品など約200点と映像作品15作を展示。そのうち100点以上が日本初公開となっています。今回展示されているものは、すべてアンディ・ウォーホル美術館の所蔵作品。同美術館は、ウォーホルの故郷であるアメリカ・ピッツバーグにあり、世界で最も多くのウォーホル作品と関連資料を所蔵しています。『アンディ・ウォーホル・キョウト』トークイベントの様子本展の開幕に合わせて、同館の館長パトリック・ムーア氏と本展のキュレーターで主任学芸員のホセ・カルロス・ディアズ氏がアメリカから来日。お二人がトークイベントなどで語った解説もご紹介しながら、展覧会の様子をレポートします。大きな自画像からスタート!『アンディ・ウォーホル・キョウト』展示風景会場に入ると、まずは大きな自画像がお出迎え。メガネをかけた無表情なウォーホルの顔が大きく描かれています。逆立った髪の毛の部分は光っていますが、顔半分が暗くなり、やや陰うつな雰囲気です。本作品は、ウォーホルが早すぎる死を迎える9か月前に制作されたもの。彼の人生は、これから詳しく紹介していきますが、名声と悪評、光と影に包まれていました。展覧会のイントロダクションで、まず彼の人生を象徴するような自画像と向き合ってから、本格的に作品世界へと入っていきます。ウォーホラからウォーホルに…『アンディ・ウォーホル・キョウト』展示風景1章「ピッツバーグからポップ前夜へのニューヨークへ」では、1950年代から60年代にかけて、商業イラストレーターとして活躍した時期の作品を展示。アメリカ・ペンシルベニア州ピッツバーグで生まれ育ったウォーホルは、1949年にカーネギー工科大学(現カーネギーメロン大学)の絵画デザイン学科を卒業。その後ニューヨークに移住し、商業デザインの世界でキャリアをスタートさせます。彼の両親は、東欧の現スロバキア出身。敬虔な東方カトリック教徒の移民家庭で育ったウォーホルは、名前も「アンドリュー・ウォーホラ」でした。館長のムーア氏は、「貧しい家庭で育ったウォーホルには野心があり、何が何でも成功して貧困から抜け出し、金持ちになって有名になりたいと思っていた」と解説。家族の中で唯一大学に行かせてもらえた彼は、母親からも期待をかけられていたそうです。『アンディ・ウォーホル・キョウト』展示風景展示されている初期作品のうち、赤い靴が描かれたドローイング作品《ハイヒール》には、ウォーホルのサインが英語名で記入されています。ウォーホラからウォーホルへと名前を変えた彼は、その後商業イラストから本格的なアートの世界へと入っていきます。初の世界旅行へ!『アンディ・ウォーホル・キョウト』展示風景続く2章「ウォーホルと日本そして京都」では、初の世界一周旅行で立ち寄った日本で描いたスケッチや、写真、資料などを展示。ウォーホルにインスピレーションを与えた日本の文化や日本との関わりについて、詳しく紹介されています。1956年、ウォーホルは友人のチャールズ・リザンビーと一緒に初めての海外旅行に出かけます。京都、東京、香港などアジアから、ニューデリー、カイロ、ルクソール、ローマなど世界各地を訪問。日本には6月21日から7月3日までの約2週間滞在しました。展示作品のなかには、京都の都ホテルから母親に宛てて出したハガキや旅程表、地図などもあり、ウォーホルの京都旅を追体験できます。本展キュレーターのディアズ氏は、ウォーホルの世界旅行について次のように述べています。ディアズ氏旅でウォーホルが最も印象に残った国は、日本だったとされています。当時アメリカでは日本旅行が人気で、万博や展覧会などで日本文化がたびたび紹介されていました。彼は日本を旅しながら清水寺や舞妓の姿などをスケッチに残し、また旅先で入手した地図やチラシなどの資料もすべて残しています。さらに着物や骨とう品、食器、川端康成の小説など、日本のお土産もたくさん買いました。日本的なものは何でも好き!『アンディ・ウォーホル・キョウト』展示風景会場には、ウォーホルが残した言葉も掲示されています。特に日本への愛を感じられる一文をご紹介。「いま私は日本の花を描き、日本食を食べ、ケンゾーの服を着ている。そして日本製の写真やビデオやハイファイ、その他の電子機器も使っている。日本的なものはなんでも好きだ」また、葛飾北斎の作品からインスピレーションを受けて描いた作品なども見ることができ、ウォーホルの日本愛をたっぷり感じられます。ちなみに、初の海外旅行以降、74年に自身の個展開催のため日本を訪れたウォーホルは、日本のテレビコマーシャルやテレビ番組『徹子の部屋』にも出演。当時の写真も展示されています。Information会期:~2023年2月12日(日)休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館)、12月28日~1月2日会場:京都市京セラ美術館 新館「東山キューブ」開館時間:10:00〜18:00(入館は閉館の30分前まで)※最新情報などの詳細は展覧会公式ウェブサイトをご覧ください観覧料:土日祝一般¥2,200、平日一般 ¥2,000、大学・高校生 ¥1,400、中学・小学生¥800
2022年10月09日上野の森美術館で、『長坂真護展 Still A “BLACK” STAR Supported by なんぼや』が開催中です。廃棄物を使ってアートをつくる美術家、長坂真護(ながさかまご)さん。アートの力で世界を変えていこうとしている彼の力強い作品と、本人のコメントをご紹介!長坂真護さん、登場!長坂真護さん【女子的アートナビ】vol. 260『長坂真護展 Still A “BLACK” STAR Supported by なんぼや』の開幕前日、プレス内覧会が実施され、作家本人が出席。作品解説やフォトセッションが行われました。1984年福井県生まれの長坂さんは、2007年にアパレル会社を起業しますが1年で倒産。その後、路上アーティストとなり、世界を回りながら作品を描いていきます。2017年、ガーナの首都近くにあるスラム街・アグボグブロシーを初訪問。“世界最大級の電子機器の墓場”といわれるその場所で、彼は先進国が捨てた電子機器を燃やすことで生計を立てている人たちと出会います。電子ゴミを燃やすとき大量に発生する有毒ガスにより、30代の若さで亡くなっていく現地の人々の惨状を知り衝撃を受けた長坂さんは、アートの力で現実を変えていこうと決意。スラム街の子どもを描いたり、投棄された廃棄物を使ったりしてアートをつくりはじめます。作品が売れるとガスマスクを現地に届け、さらにその後も作品の売上をもとに完全無料の私立学校や文化施設をスラム街に設立。長坂さんの活動は、エミー賞受賞歴のある監督率いるクルーが撮影し、ドキュメンタリー作品『Still A “BLACK” STAR』も製作されました。自身の活動について、長坂さんは次のように述べています。長坂さん僕らだけで文化芸術を楽しんでいてはダメなんです。先進国の僕らだけが幸福でいいわけがない。2018年にはじめて展覧会をしたとき、僕は「スラムを変える」と言いました。そのときのメンバーは、僕だけでした。声を上げたとき、正直、自信はなかったです。でも声を上げてチャレンジすることと、声を上げずに後悔する生き方、後者だけはしたくないと思い、毎日一生懸命描いてきました。僕は100億円集めて、ガーナに最先端のリサイクル工場をプレゼントします。ここで得たものをガーナに返しに行きます。僕は絶対にやります。僕らは先進国の人間なので、みんなで集めれば100億だって集まると思うのです。経済大国の人間である僕らが、世界のスラムをはじめて撲滅したメンバーになる。それを僕が必ずやるので、どうか応援してください。美しい湿地帯に廃棄物が…《真実の湖Ⅱ》について解説する長坂さんまずは、本展のメインビジュアルにもなっている《真実の湖Ⅱ》について、長坂さんの解説をご紹介。長坂さんスラムを知るきっかけとなったアグボグブロシーの大地、そこをはじめて訪れたときの思いを表現した作品です。真ん中にいるのはアビドゥーという男の子。実際、このスラム街はもともと美しい湿地帯で、湖があり野鳥がいるような場所でした。そこに16年間、毎年のように60万トンの違法廃棄物が置かれるようになった。ゲーム機のコントローラーやテープ、パソコンなど、もしかしたら僕やみなさんが使ったものがスラムにあるかもしれない。先進国のゴミが堆積しているのに、それでもなお、この純真無垢な男の子はスラムの中で笑顔を咲かせている。この笑顔を表現したかった。ここから僕の画家としての人生が大きく変わったのです。コロナ前につくられた“ワクチン”作品《世界平和のワクチン》について解説する長坂さん続いてご紹介するのは、《世界平和のワクチン》。2018年に生み出された作品です。本作について、長坂さんは次のように述べています。長坂さん国の首相や大統領がテーブルに集まっていますが、よく見るとテーブルは3脚。脚が1本ないのです。テーブルの上に描かれているのは、もともと湖だったアグボグブロシー。この首脳たちが手を離すと、テーブルが傾きすべてが流れ落ちる。無理矢理、今の社会を保っている様子を表しています。地球を脅かす何者かが現れると、僕らは一致団結するんじゃないかなと考えてタイトルを「世界平和のワクチン」にしたら、コロナがきた。僕らは今、一致団結して社会を変えようとしている。まさに過渡期に僕らは立たされているのです。小豆島にもゴミが…長坂真護《向日葵》2022年2021年、長坂さんはスラム街の人たちに仕事を提供する必要性を感じ、農業事業を展開するため瀬戸内海の小豆島でオリーブ栽培の勉強をはじめます。そこで彼が遭遇したのは、島に流れ着いたマイクロプラスチックやシーグラスのゴミでした。長坂さん現地でビーチクリーニングを行い、そのときの廃材やシーグラスを使って、ひまわりをモチーフにした作品をつくりました。今回の新作です。ほぼゴミだったものが芸術品になりました。持続可能でパワフルなアート『長坂真護展』展示風景ちなみに、今回ご紹介した長坂さんの《向日葵》や《世界平和のワクチン》など、さまざまな作品原画(1点もの)は、展覧会のオンラインショップで購入可能です。作品の売上や入場料の収益の一部が、ガーナのリサイクル工場建設や、開拓農地の取得などの支援につながるシステムになっています。先進国が出した電子ゴミがもたらす惨状に衝撃を受けたことからスタートした長坂さんのアート活動は、わずか数年で億単位の売上を記録。デジタルなNFTアートの分野でも、300点出品したものが即日完売するという人気ぶりで、彼の創作活動は世界が注目しています。展示室で作品解説する長坂さん産業廃棄物や環境問題などの社会課題をアートの力で解決するという彼の活動もすばらしいですが、作品が発するエネルギーも半端ではありません。絵画だけでなく、立体作品や貯金箱のようにお金を投入できる作品もあり、単純に見ていて楽しいですし、パワーや元気をもらえます。「アートの力で世界を変える」なんて、文字だけで見たら胡散臭く、キレイごとのように思えるかもしれません。でも、本当に実行した人の軌跡を本展で体感できます。ぜひ一度、足を運んでみてください。Information会期:~11月6日(日)※会期中無休会場:上野の森美術館開館時間:10:00〜17:00(入館は閉館の30分前まで)※最新情報などの詳細は展覧会公式HPをご覧ください観覧料:一般 ¥1,400、大学・高校生・専門学校生 ¥1,000、中学・小学生¥600
2022年10月01日1881年にフィンランド南部のイッタラ村に設立されたガラス工場からスタートし、今や国を代表するライフスタイルブランドとなったイッタラ。過去にはアルヴァ・アアルトやカイ・フランクら偉大な建築家やデザイナーを輩出。今や世界のデザイン通が注目する存在だ。140年の歴史からデザインの美学に迫る。本展『イッタラ展 フィンランドガラスのきらめき』はイッタラ創立140周年を記念し、フィンランド・デザイン・ミュージアムが2021年に開催した展覧会を再構成したもの。展示は大きく分けて4章あり、「イッタラ140年の歴史」「イッタラの哲学」「イッタラのデザイナーたち」に加え、日本展ならではの「イッタラと日本」という章が新設されている。会場にはイッタラの歴史を語るのには欠かせない20世紀半ばのクラシックデザインのガラスを中心に、磁器など選び抜かれた約450点の作品が集合。さらに映像やインスタレーションを交えて、140年間で培われたその美学に迫る。デザインからカラーバリエーション、優れた職人技の継承など、誰もが知りたかった魅力に加え、イッタラの作品制作を担ったデザイナーたちのプロダクトが多数楽しめるのも見どころ。また’50~’60年代に来日し、日本の文化に影響を受けたカイ・フランクの作品、イッタラ表参道店の内装を手がけた隈研吾の作品やインタビュー映像、さらにイッセイ ミヤケやミナペルホネンなど日本ブランドとコラボした作品も登場する。ブランドの営みそのものが国の発展にも大きく貢献してきたイッタラ。本展ではその文化的背景や哲学など、ブランドの神髄まで学べるはずだ。【デザイン】シンプルで機能的。使い手を第一に考えたデザインは、シンプルかつ効率よく収納できるよう重ねられることが大前提。自然から着想を得たデザインはタイムレスに美しく多用途。2019年からは100%リサイクルガラスでできたコレクションも登場し、サステナビリティに対する取り組みでも世界をリードし続ける。《マルセル》ティモ・サルパネヴァ、1993年©Design Museum Finland, Photo:Johnny Korkman《フォレスト》タピオ・ヴィルカラ、1963年©Design Museum Finland, Photo:Ounamo【職人技】継承される匠の技。イッタラではガラスによる表現を可能にする様々な技術が開発され、受け継がれていく。例えばオイバ・トイッカのバードシリーズには吹きガラス、アアルト・ベースには型を使うなどの技術が用いられる。会場では制作に使う型や、制作過程を紹介する映像を公開。アアルト・ベースの制作風景©Iittala【色彩】豊かなカラーバリエーション。色ガラスの製造技術は世界屈指のイッタラ。カラーバリエーションは200種以上で、そのうち毎年平均20種ほどの色が製品化される。本展ではその美しさを、鳥をモチーフにしたオイバ・トイッカによるバードシリーズなど様々な作品で紹介している。イッタラの色ガラスのサンプル、2020年©Design Museum Finland, Photo:Johnny Korkmanイッタラ展 フィンランドガラスのきらめきBunkamura ザ・ミュージアム東京都渋谷区道玄坂2‐24‐1‐B19月17日(土)~11月10日(木)10時~18時(金・土曜は~21時。入館は閉館の30分前まで)9/27休一般1700円ほかTEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)※『anan』2022年9月21日号より。文・山田貴美子(by anan編集部)
2022年09月18日俳優の小関裕太さんが、『イッタラ展フィンランドガラスのきらめき』の展覧会ナビゲーター&音声ガイドに就任。フィンランドの旅をきっかけに、イッタラと出会ったという小関さん。今回、音声ガイドの収録を終えた小関さんに、イッタラやアートの魅力などについて語っていただきました!小関裕太さんがナビゲーター!小関裕太さん【女子的アートナビ】vol. 257渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで9月17日からはじまる『イッタラ展フィンランドガラスのきらめき』では、フィンランドを代表するブランド「イッタラ」のガラス作品を中心に、陶器、磁器、映像やインスタレーション作品など約450点を展示。140年の歴史をもつイッタラの美しい作品を通して、フィンランドのデザインや文化、ライフスタイルに触れることができる展覧会です。本展のナビゲーターと音声ガイドを務めるのは、俳優の小関裕太さん。イッタラにお詳しい小関さんに、作品やアートの魅力について語っていただきました。小関さんにインタビュー!――音声ガイドの収録、いかがでしたか。収録で意識されたことがあれば教えてください。小関さん僕自身がイッタラのガラス製品やデザインに元気をもらったり、日常的にすぐそばで使っていたりするものなので、イッタラ好きの方や、今回はじめてイッタラをご覧になる方にも、より好きになってもらえるようにと意識して収録しました。――特に聴いてほしいポイントありますか。小関さんボーナストラックのような形で、本筋とは別に僕自身が体験したフィンランドのエピソードや好きな部分を語っているところがあります。音声ガイドの専用番号もイッタラにちなんだものになり、遊び心も含まれていますので、楽しみながら聴いていただきたいです。《カンタレリ(アンズタケ)》タピオ・ヴィルカラ、1947年©Design Museum Finland, Photo: Ounamo――実際に見てみたい作品があれば教えてください。小関さん僕は現地に行ったときにけっこう見ているのですけど、今回の展覧会に出される《カンタレリ(アンズタケ)》はまだ見たことがないので、楽しみにしています。このアンズタケというのは、フィンランドで秋の味覚として食されているキノコで、それをガラスで表現しているそうです。イッタラとの出会いは…《アアルト ベース》アルヴァ・アアルト、1936-1937年©Design Museum Finland, Photo: Johnny Korkman――小関さんは、2019年にフィンランドを訪れたときにイッタラと出会い、作品に魅了されたそうですね。具体的に、どんな場面でご覧になったのですか。小関さん現地を訪れたときです。デザイナーさんたちがいて、制作しているアトリエがあったのですが、そこでイッタラのガラスを見ました。カラーガラスがたくさんショーケースに詰まっていたのが印象的で、そのきれいさに目を奪われました。――イッタラに出会われたときの感動をひと言でいうと、どんな感じですか。小関さん豊かだな、という感じです。いろいろな色があるなかで、寒色でも温かみを感じたり、インテリアとして生活に溶け込みながらもフォトジェニックな一面があったり。そのときは、まだ実際にイッタラを使ったことがないタイミングでしたので、果たして今買ったところで家に合うのかな、僕に合うのかな、と思いました。その後、日本に帰ってきて、イッタラのグラスを現地でお世話になったコーディネーターの方からいただき、そこからイッタラ製品との関わりが増えていきました。手元にイッタラがあるからには、これに見合った部屋づくりをしたいなと思って、そこからどんどん心が豊かになり、生活が変わっていきました。例えば、クランクアップなど区切りのタイミングでお花をいただく機会が多く、それを飾る花瓶がなかったので安いのを買って使っていたのですけど、花瓶もイッタラを使うようになりました。すると、お花をいただかないときでも自分でお花を買って飾ってみたくなったのです。生活の彩りが増え、同時に心の余裕も増えていくのが実感できました。いい空気を吸いに表参道へ…オイバ・トイッカによる《バード バイ トイッカ》コレクション©Iittala――ご自身でイッタラ製品を少しずつ買い足されているのですか。小関さんはい。少しずつ増えていきました。仕事のなかでいただくものもありますが、息抜きに、いい空気を吸いにイッタラの表参道店に行き、カフェに行ったりグラスを買ったりもします。気づいたら、イッタラが周りにたくさんありました(笑)。――小関さんが持っているなかで、一番のお気に入りの製品は?小関さん先ほどお話した、フィンランドでお世話になった方からいただいた「カルティオ」のグラスです。一色として同じ色がないというコンセプトで、僕のマネージャーさんなど含めて何人かに買ってくださったものです。僕は青と緑が混ざった色のグラスをいただき、色合いがしっくりときました。その方が僕をイメージして買ってくださったのもうれしいですし、感覚的に自分もその色が好きで、これがナンバーワンです。呼吸する間もなく集中したことは…――小関さんは何度かイッタラとコラボして、ご自身が撮影したグラスなどの写真作品を公式インスタ(@Kotobanoamarinaitokoro)にアップされています。物語風の作品もあり、特に鳥の絵が描かれたマグカップが他のカップに恋する場面は本当にステキで、写真なのに短編映画を見ているような気分になりました。小関さんわーうれしいな。ありがとうございます!――あの写真を撮影されているとき、どんなお気持ちだったのですか。小関さん呼吸する間もなく、ずっと集中して撮っていました。スタジオで撮っていたので、そのスタジオの終了時間も迫ってくるような時間との闘いのなか、アイデアもどんどん浮かんでくるので、汗かきながら呼吸止めながらの撮影でした。ほかの写真を撮影するときもそうなのですが、頭をフル回転させているので、めちゃくちゃお腹がすくんです(笑)。体の中が空っぽになり、エネルギーがすっからかんになる。集中しようと思わなくても、勝手に集中してしまうくらい大変だったのですけど、すごく楽しかったですね。――あの写真はやばいです。絶対、イッタラ製品を買いたくなります。小関さんあはは。ありがとうございます。マグカップを手に取ってみたいと思ってもらえたら、うれしいですね。カップを使ったとき、僕のつくったエピソードや物語を思い出すタイミングがあるような写真作品をつくりたいと考えていました。イッタラのお店に行ったとき、「あ、あれだ」と思ってもらえたらうれしいです。アートとは…《ルーツ》コレクション、ロナン&エルワン・ブルレック、2015年©Ronan and Erwan Bouroullec――小関さんは、最近アートの番組にも何度か出られています。昔からアートがお好きとのことですが、小関さんにとってアートとはどんな存在ですか。小関さん豊かにしてくれるものです。最終的には「人によって違う捉え方でいい」というのがアートでステキだなと思うポイントです。自分で思っていたことが合っているのかな、とネガティブになる必要はないと思います。また、年齢によってアートの捉え方は違うし、これから出会うものでまた捉え方も変わっていき、進化があるものだと思います。例えば、ゴッホのひまわりの絵でも、小さいころは自宅に飾ってあったプリントの絵を見ても「母親が好きなんだな」と思った程度でした。でも今、実際に美術館で本物を見ると「パワーあるな」とか「この凹凸感がすごいな」とか発見がどんどんあります。この先も新しい発見があると思いますし、そんなところがアートの魅力です。ぜひ、きらめきの世界へ!――最後に、展覧会を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。小関さんイッタラを今回はじめて知った方には、こんな豊かなバリエーションの作品があるんだと知っていただきたいです。触れ合うと欲しくなりますし、自分の家にあったらどんな生活になるのだろうとイメージしていただけると思います。また、すでに知っていた方も、イッタラの140年の軌跡に触れることで、一歩踏み込んだところに行ける展覧会だと思います。ガラスの不思議さや、さまざまな色合いを出すのも実はすごく大変なんだということが音声ガイドを聴いていただけるとわかります。その世界に触れたあと、家に戻ってイッタラ製品を使うと、また味わいがひとつ変わると思います。作品を見る味わいもそうですし、イッタラで飲む水の味わいもちょっと変わるのではないかなと思うので、ぜひガラスのきらめきの世界に踏み込んでいただけたらと思います。――ありがとうございました!インタビューを終えて…イッタラ愛にあふれていた小関さん。写真やアートにもお詳しく、ステキなお話を聞かせてくれました。インタビューの最後に「好きな絵」をお聞きしてみたところ、マグリットの絵が好きで、すでに小学生のときに彼の作品を部屋に飾っていたとのこと。奇妙で不思議でちょっとグロテスクな世界に魅かれる子どもだったそうで、そんな一面もまた魅力的でした。小関さんの愛が詰まった音声ガイドを聴きながら、ぜひイッタラの世界を楽しんでみてください。Information会期:2022年9月17日(土)~11月10日(木)※9月27日(火)休館会場:Bunkamura ザ・ミュージアム開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)※状況により、会期・開館時間等が変更となる場合がございます。※本展は会期中すべての日程で【オンラインによる事前予約】が可能です。※最新情報などの詳細は展覧会HPをご覧ください。入館料:当日券一般 ¥1,700、大学・高校生 ¥1,000、中学生・小学生¥700【衣装協力】ATTACHMENT(Sakas PR)/ ZUCCa(A-net Inc.)撮影 : 山本倫子(小関裕太)
2022年09月14日上野の東京藝術大学大学美術館で、特別展『日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱』が開催中です。皇室に伝わる美術品類と東京藝術大学のコレクションが展示されている本展では、貴重な文化財の魅力がわかりやすく紹介されています。おもな見どころなどをレポートします!どんな展覧会?特別展『日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱』展示風景【女子的アートナビ】vol. 258特別展『日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱』では、宮内庁三の丸尚蔵館が収蔵する皇室の名品に、東京藝術大学のコレクションを加えた82件の日本美術を展示。代々日本の文化を育て、保護してきた皇室に伝わるお宝をまとめて見ることができる大変貴重な機会です。三の丸尚蔵館とは、宮内庁が管理する博物館。もともとは皇室に受け継がれてきた美術品を天皇家が国にご寄贈されたことがきっかけとなって設立された博物館で、現在約9,800点の作品を収蔵しています。また、会場となっている東京藝術大学大学美術館も、美術教育に関する「参考品」として集めたコレクションを収蔵。現在約3万件のコレクションを持つ美術館です。日本美術の世界へ…特別展『日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱』展示風景では、実際に展示の様子をご紹介していきます。「序章美の玉手箱を開けましょう」では、まず明治時代に皇居内でつくられた《菊蒔絵螺鈿棚》(宮内庁三の丸尚蔵館蔵、通期展示)がお出迎え。当時の宮内省と東京美術学校(現・東京藝術大学)が共同で制作した作品から、本展の展示がはじまります。また、東京美術学校の創立にもかかわった岡倉天心が教えた日本美術史の講義ノート(東京藝術大学蔵、通期展示)も展示。東京藝術大学で日本美術史の講義を受けるような気持ちで鑑賞をはじめられます。ミニ解説がありがたい…!「1章文字からはじまる日本の美」では、国宝の《絵因果経(えいんがきょう)》(東京藝術大学蔵、通期展示〈場面替えあり〉)をはじめ、数々の貴重な文書が登場。《絵因果経》とは、上半分に絵、下半分にお経が書かれている絵巻で、内容はお釈迦様の伝記のようなものです。展示されているのは奈良時代のものですが、絵の色彩が鮮やかで、楷書の文字も大変美しいです。また、平安時代の優れた書家である藤原佐理や小野道風、藤原行成の「三跡」による書も見ることができます。ちなみに、「三跡」ってなんだっけ?と思った人でも大丈夫です。本展では、ところどころに「ミニ解説」が提示されているので、歴史や日本美術が苦手な方でも安心して楽しめます。有名な《鮭》もあります!特別展『日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱』展示風景「2章人と物語の共演」では、源氏物語や伊勢物語が描かれた屏風や、国宝の《蒙古襲来絵詞》(宮内庁三の丸尚蔵館蔵、通期展示〈巻替えあり〉)など見ごたえある作品が登場。日本の四季や貴族たちの華やかな装い、武士たちの甲冑など、当時の人々の様子が絵師たちによって見事に描き出されています。右:高橋由一《鮭》(重要文化財)明治10年頃東京藝術大学蔵通期展示、左:葛飾北斎《西瓜図》江戸時代天保10年宮内庁三の丸尚蔵館蔵(※《西瓜図》は8月28日まで展示。現在は展示されていません)続く「3章生き物わくわく」も見どころ満載。8月30日からはじまっている後期展示では、江戸時代の絵師・伊藤若冲の代表作で国宝の《動植綵絵》(宮内庁三の丸尚蔵館蔵)が10幅同時に展示されています。また、教科書で一度は見たことのある重要文化財《鮭》もこの章にあります。画家の高橋由一は、日本における油絵の基礎をつくった人。それまでの日本画にはなかったリアルで生々しい鮭の描写は、当時の人々を大変驚かせたそうです。高橋由一は、日常にありふれている身近なものを描き、洋画の普及を目指しました。特別展『日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱』展示風景最後の「4章風景に心を寄せる」では、明治期の洋画や工芸品などを展示。1900年のパリ万博に出品するために制作された並河靖之の《七宝四季花鳥図花瓶》(宮内庁三の丸尚蔵館蔵、通期展示)など、豊かな自然や風景をテーマにした作品を堪能できます。奈良から昭和時代までの「日本の美」を一気に見られる眼福の展覧会は、9月25日まで開催されています。皇室に受け継がれてきた名品や優品を、ぜひ味わってみてください。Information会期:~9月25日(日)休館日:月曜日(ただし、9月19 日は開館)※会期中、作品の展示替えおよび巻替えがあります会場:東京藝術大学大学美術館開館時間:午前10時~午後5時、9月の金・土曜日は午後7時30分まで開館※入館は閉館の30分前まで※最新情報などの詳細は展覧会公式HPをご覧ください観覧料:一般 ¥2,000、大学・高校生 ¥1,200、中学生以下無料
2022年09月04日上野の東京都美術館で、企画展『フィン・ユールとデンマークの椅子』が開催中です。本展では、デザイン大国として知られる北欧デンマークのデザイナー、フィン・ユール(1912-89)の作品を中心に、モダンでおしゃれなデンマーク家具を展示。見どころや展示風景とあわせて、アートな椅子に座れる体験コーナーもご紹介します!どんな展覧会?『フィン・ユールとデンマークの椅子』展示風景【女子的アートナビ】vol. 256『フィン・ユールとデンマークの椅子』では、「彫刻のような椅子」とも評されるアートな椅子をデザインしたフィン・ユールの作品を中心に、デンマーク家具デザインの歴史やデザインが生み出された背景などを紹介。展示されている作品の多くは、椅子研究者の織田憲嗣氏が研究資料として集めてきた20世紀家具コレクションです。会場の東京都美術館は、数年前にできた休憩スペースにフィン・ユールなどがデザインした家具をとり入れ、「北欧家具に触れられる美術館」としても注目されている場所。本展のように見るだけでなく、最後に座れる体験ができるのも、この美術館ならではの企画です。おしゃれな椅子がずらり…!『フィン・ユールとデンマークの椅子』展示風景本展の内容は、3章で構成されています。第1章は、「デンマークの椅子――そのデザインがはぐくまれた背景」。世界幸福度ランキングで毎回上位に入っているデンマークの人々は、「心地よさ」を大切にしたライフスタイルを実践。居心地のよい空間や楽しい時間を意味するデンマーク語の「ヒュッゲ」という言葉も、日本で知られるようになってきています。生活の質を大事にしているデンマークでは、日常で使う家具にも心地よさを求め、人々が使って幸せになれるようなデザインを追求。会場には、見るからに座り心地のよさそうな椅子が展示されています。『フィン・ユールとデンマークの椅子』展示風景第1章で特に圧巻なのは、独創的な椅子がずらりと並んだコーナー。デンマークでは、1940年から60年代にかけて優れたデザイナーたちが活躍し、「モダン家具の黄金期」と呼ばれています。「椅子」という同じジャンルなのに、形や材質、色もさまざま。見ているだけでも楽しいです。「彫刻のような椅子」が登場!『フィン・ユールとデンマークの椅子』展示風景――第2章「フィン・ユールの世界」では、彼がデザインした椅子とさまざまな仕事が紹介されています。本展の主人公でもあるフィン・ユールとは、どんな人なのでしょう。展覧会監修者の多田羅景太さんは、次のように語っています。多田羅さんフィン・ユールは、建築やインテリアデザインに軸を置いた教育を受けた人です。自分が家で使うための椅子をデザインしたことがきっかけとなり、椅子のデザインを手がけるようになりました。ただ、家具デザインについての専門教育は受けていないため、自身で家具はつくれませんでした。ニールス・ヴォッダーという家具職人と二人三脚で、見て美しいと人間が感じられるような「彫刻的な椅子」を生み出していったのです。――また、第2章の見どころについて、本展を担当された東京都美術館学芸員の小林明子さんは次のように教えてくれました。小林さんフィン・ユールのデザインは、繊細な構造と曲線、有機的フォルムが特徴です。その着想点になったハンス・アルプの彫刻作品も会場に展示しています。椅子と一緒に見て、その響き合いを感じてみてください。アートな椅子に座ろう!『フィン・ユールとデンマークの椅子』展示風景最後の第3章「デンマーク・デザインを体験する」では、デザイナーたちが手がけたアートな椅子が30脚以上も展示されています。こちら、実際に座れる椅子ばかりです!1940年代にフィン・ユールが手がけた代表作や「モダン家具の黄金期」の作品などさまざまなタイプの椅子があり、全部座ってみたくなります。『フィン・ユールとデンマークの椅子』展示風景小林さんは「椅子は座ってはじめて、デザインや特徴を理解できます。ご自身のカラダを通して実感してください」と仰っていました。実際に、第1章からデンマークのデザインを見てくると、何度も「座ってみたいな…」という衝動に駆られます。その望みが最後でかなうのですから、かなりうれしいです。ぜひ会場で、座り心地の良さも体験してみてください。展覧会は10月9日まで。Information会期:~10月9日(日)※休室日:月曜日、9月20日(火)※ただし、8月22日(月)、29日(月)、9月12日(月)、19日(月・祝)、26日(月)は開室会場:東京都美術館ギャラリーA・B・C開館時間:9:30~17:30※入室は閉室の30分前まで※夜間開室金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)※最新情報などの詳細は展覧会HPをご覧ください入館料:一般 ¥1,100、大学・専門学校生 ¥700、65歳以上 ¥800
2022年08月26日一般社団法人 TOKYO INSTITUTE of PHOTOGRAPHYは、屋外型国際フォトフェスティバル『T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO 2022』の開催が決定しました事をお知らせします。当イベントは、東京駅東側エリアを1つの「展示会場」として行う世界的にも珍しい、“都市空間”で行われるフォトフェスティバルです。当フェスティバルは、展示作品に世界的にも高い評価を受ける写真家の作品を起用、このエリアを世界的に知られるエリアへと変革する事で「日本の写真文化の活性化」と「文化観光」の実現を目指し企画されました。開催4回目となる今年度は、会期を過去最高の30日間に延長。展示エリアを12箇所以上に拡大。「アート写真」の楽しみ方をもっと幅広い方々に知って欲しいという想いのもと、展示方法にも工夫を凝らし、「観て、学んで、遊んで、考える」企画を多数ご用意しております。是非、今後の更新情報にご注目ください。「橋」がつくエリアで「異なるものをつないでみる」がテーマ◆2022年度の「開催テーマ」|「Bridging Differences~異なるものをつないでみる~」多様性や寛容性が重要視される時代となった現在。今年度は、京橋、日本橋、常盤橋と、「橋」がつくこのエリアにて「異なるものをつないでみる」をテーマに各展示企画を展開します。「写真を楽しむ」ことをもっとたくさんの方に知っていただくために様々な企画をご用意しております。是非ご期待ください。※詳細は9月上旬頃発表予定◆開催概要会期:2022年10月1日(土)~30日(日)場所:東京駅東側エリア(日本橋・八重洲・京橋)全12会場(予定)東京駅八重洲口グランルーフ1F、東京駅八重洲口グランルーフB1、大丸東京店、東京スクエアガーデン、京橋通郵便局、72Gallery、新TODAビル計画仮囲い、東京建物八重洲ビル、にのに八重洲仲通りビルほか入場:無料◆展示概要今年度は、2つの「企画展」を用意しております。[1]『The Everyday -魚が水について学ぶ方法-』2020年代はスマートフォンが広く普及し、「インターネット」や「写真の共有」は日常に浸透しきっています。多くの人が膨大な写真を「撮影/投稿する側」となり、「写真」を読み解く力はこれまでになく高まっているはず。しかしその一方で、私たちの生活の一部に完全に入り込んだ「写真」は一体なにを映しうるのでしょうか?魚が自分たちをとりまく水を意識しないように、私たちの生活において写真は不可分ゆえに見えにくいものになっているかもしれません。本年のT3 PHOTO FESTIVAL TOKYOでは、「知っているようで知らないこと」「近いようで遠くにあるもの」「気付いたら隣にあるもの」に眼差しを向けます。作品が投げかける問いを通じて、様々に現れる“写真”あるいは“日常”について考える場が生まれたらと思っています。キュレーター:きりとりめでる/速水 惟広出展作家:臼井 達也、かんの さゆり、ディアナ・テンプルトン、長沢 慎一郎、新居 上実、ニューシナリオ、ヨアキム・コーティス&エイドリアン・ゾンダーレッガー会場:東京スクエアガーデン、東京建物八重洲ビル、京橋通郵便局、72Gallery、にのに八重洲仲通りビル[2]『TOKYO DIALOGUE 2022-2024(仮)』T3 PHOTO FESTIVAL TOKYOが、東京・京橋に120年余り本社を構える戸田建設株式会社と共同で、2022-24年の3年間にかけて実施するプロジェクトです。このプロジェクトでは、毎年写真家と書き手がペアとなり、京橋を舞台に「写真」と「言葉」を用いた対話を通して、都市の姿を描き出す作品を制作します。※出展作家名、会場等の詳細は9月上旬頃発表(画像はプレスリリースより)【参考】※公式サイト
2022年08月24日町田市立国際版画美術館で、展覧会『長谷川潔 1891-1980展 ― 日常にひそむ神秘 ―』が開催中です。本展では、フランスで創作活動を続けて高い評価を得た銅版画家、長谷川潔(1891-1980)の作品を展示。今回、展覧会を担当された学芸員さんにお話を聞いてきましたので、展示の様子とあわせてご紹介します!フランスで高評価!長谷川潔のスゴすぎる経歴『長谷川潔 1891-1980展』展示風景【女子的アートナビ】vol. 255『長谷川潔 1891-1980展 ― 日常にひそむ神秘 ―』では、パリを拠点に活躍した銅版画家、長谷川潔の最初期の作品から1970年代の銅版画までを年代順に展示。さらに、彼が影響を受けたルドンをはじめ、関連画家の作品もあわせた約165点を見ることができます。長谷川潔画伯、日本ではあまり知られていないかもしれませんが、実はかなりスゴい方なのです。まずは、輝かしい受賞歴からご紹介します。1918年に日本を離れ、パリを拠点に活動を続けていた長谷川は、1935年、44歳でフランスのレジオン・ドヌール勲章を受章。さらに1966年にはフランスの文化勲章、1967年にはパリ市金賞牌を受賞し、日本からも勲章をもらっています。極めつきは、1972年にフランス国立貨幣賞牌鋳造局が長谷川潔の肖像メダルを発行したこと。日本人画家としては、葛飾北斎と藤田嗣治に続いて3人目という快挙です。そんな長谷川の創作活動や展覧会の見どころについて、本展を企画担当された町田市立国際版画美術館 学芸員の滝沢恭司さんにお話をうかがってきました。学芸員さんにインタビュー!『長谷川潔 1891-1980展』展示風景より『竹取物語』の挿絵本など――まずは、なぜこの展覧会を開催されることになったのか、教えていただけますか。滝沢さん版画美術館には、まとまった長谷川潔のコレクションがあり、120点以上所蔵しています。2019年に開催した長谷川の展覧会でも多くの方にご来場いただき、彼の作品に関心のある方が多くいらっしゃることがわかりました。前回は会期が短めでしたが、今回は9月まで開催しています。長い会期のなかで、長谷川作品にある深遠な世界観をじっくり自分の目で見ていただきたいと思っています。――本展の見どころについて、教えてください。滝沢さん長谷川が手がけた挿絵本『竹取物語』は見どころのひとつです。この美術館では挿絵本を2冊収蔵し、1冊は普通版、もう1冊は特別版になっています。その2冊を使ったボリューム感のある展示になっているので、刷りを比較しながら文字と挿絵の関係などご覧になっていただける機会になっています。『長谷川潔 1891-1980展』展示風景滝沢さんさらに、長谷川が影響を受けた画家や、パリで交友していた画家たちの作品も展示しています。関連作家の版画を並べることにより、長谷川の仕事の周辺から制作の背景を理解しながら鑑賞できます。また、代表的な版画制作の技法である「メゾチント」と「エングレーヴィング」について理解していただけるようコラムで解説し、道具もあわせて展示しました。なぜフランスで高評価?長谷川潔《コップに挿した枯れた野花》1950年、エングレーヴィング、282×228㎜ 町田市立国際版画美術館――長谷川はフランスで勲章をもらうなど、高く評価されています。どんな点が評価されたのですか?滝沢さんとにかく良い作品をつくっていましたし、技法的な観点からも評価されていました。パリで活動するなかで、長谷川は日本人として東洋と西洋を融合させた独自の作品をつくりました。まずは、その点が評価されたのだと思います。もうひとつは、メゾチントやエングレーヴィングという西洋の古典技法を現代の版画表現として復活させたことです。特に、メゾチントは古典的な作品を研究し、道具を手に入れて試行錯誤しながら長谷川独自の作風にすることができました。彼のメゾチントは、現代版画の新しい表現として評価されたのです。長谷川潔《アレキサンドル三世橋とフランスの飛行船》1930年、メゾチント、137×307㎜ 町田市立国際版画美術館――長谷川独自の画風というのは、例えばどんな特徴があるのですか。滝沢さんメゾチントの作品をつくるとき、長谷川は斜めの線できずを入れて下地をつくり、それらの線のマチエール(絵肌の質感)をあえて見せているのです。その点が、西洋の古典的な作品とは違います。そこから、だんだん漆黒の世界に近づき、1960年代の「マニエール・ノワール(黒の技法)」と呼べる表現にたどりつきます。マニエール・ノワールはメゾチントのフランス語の呼び名ですが、長谷川はその呼び名にこだわり、細かな点で下地をつくり、漆黒のなかからモチーフを浮かび上がらせることに成功しました。長谷川潔《時 静物画》1969年、メゾチント、269×360㎜ 町田市立国際版画美術館――マニエール・ノワール作品、すごく深い黒色に魅了されます。滝沢さん長谷川は、深い精神性をもった自分独自の表現を目指していました。自分の欲する表現ができるよう多様な技法を駆使し、彼独自のメゾチントを確立していったのです。黒を際立たせるには、白との関係も大事で、白い部分をどうやって浮き上がらせるかもポイントになります。描画はもちろん、表現も技術も含めてすべての能力が高い方でした。――シンプルな風景画もありますが、神秘的な雰囲気の静物画もあります。作品のテーマも深いのですか。滝沢さんかなり深いです。長谷川は、自然の成り立ちの法則を考え、物理や数学にも興味をもち、さまざまな文献を読み、哲学的な思想のなかで作品を制作していました。黒を使っていますが夜の絵ではなく、白昼のなかにモチーフを置き、その日常のなかに神秘を感じて独特な作風をつくり出していました。また、構図も数学的・物理的な視点で考え、安定感のあるものになっています。長谷川は、まじめで几帳面で、完全主義的なところもあります。すべての作品は、考え抜かれた構図で仕上げられているのです。戦争中は収容所に…長谷川潔《アカリョムの前の草花》1969年、メゾチント 269×360mm 町田市立国際版画美術館――長谷川は、戦前からフランスで評価されていましたが、戦争中は敵国となりました。なぜ、フランスに残り続けたのでしょうか。滝沢さん彼はもともと裕福な家に生まれ、パリ滞在中も仕送りがあったので、戦前までは自分で稼ぐ必要はありませんでした。でも、戦争で仕送りが途絶えたこともあり、帰国したかったようです。ただ、日本に家族を連れて帰るとフランス人の奥さまが敵国人になってしまいます。また、信頼できる専属の刷り師がパリにはいました。そういった事情があってフランスに残り、結局長谷川は在留邦人としてフランスの収容所に収監されました。精神的につらい毎日を送るなかで実感したのが、万物はみな同じだということです。そうした考え方が深まって、60年代のマニエール・ノワール作品にたどりついたのです。それらの作品は、彼自身の人生、生き方、モノの見方を描いている感じがします。――フランスで高く評価されていますが、日本ではまだあまり知られていないような気がします。滝沢さん特に戦後の日本には、ポップアートやコンセプチュアル・アートなど、アメリカを中心とした斬新な美術がどんどん入り、それらが注目されていました。そんな時代のなかで、残念ながら長谷川の版画作品は大きく取り上げられる機会が少なかったのです。また、美術ジャンルのヒエラルキーにおいて、版画は低く見られる傾向にあります。絵画や彫刻、建築が上で、版画は複製もできるし間接的なものなので、評価がされにくいところがあります。でも、ジャンルを超えて良い作品は讃えられ、記憶に残り、作家の没後でも今回のように展覧会が開かれていきます。今のような不安定な時代、深い精神性が感じられる長谷川の作品を見ると、自分や社会を見直す気づきのようなものが得られるのではないかと思います。ぜひ、じっくりご覧いただきたいです。――詳しく教えていただき、ありがとうございました。ゾクゾクします!滝沢さんのお話、いかがでしたか。これまで長谷川画伯について詳しく知らなかった方も、彼の作品について興味が持てるようになったのではないかと思います。筆者は、20年以上前に京都の美術館ではじめて長谷川のマニエール・ノワール作品を見て、深い宇宙のような黒の世界に吸い込まれそうになり、ゾクゾクしました。あのときの衝撃が、今でもずっと残り続けています。今回の展覧会では、かなり多くの長谷川作品を見ることができます。黒と白の版画世界は、地味に見えるかもしれませんが、一つひとつの作品は本当に美しく見ごたえがあります。ぜひ一度、リアルな作品をご覧になってみてください。Information会期:~9月25日(日)※休館日は月曜日*9月19日(月)の祝日は開館、9月20日(火)は休館会場:町田市立国際版画美術館開館時間:10:00~17:30※入館は閉館の30分前まで※最新情報などの詳細は展覧会HPをご覧ください入館料:一般 ¥800、大学・高校生 ¥400、中学生以下無料
2022年08月20日六本木のサントリー美術館で、『歌枕あなたの知らない心の風景』が開催中です。本展では、日本人が繰り返し詠んできた和歌の「歌枕」にフォーカス。和歌が記された美術作品をはじめ、名所絵や器など日本人が伝えてきた美しい文化に出会える展覧会です。どんな展覧会?「歌枕あなたの知らない心の風景」展示風景 ©田山達之【女子的アートナビ】vol. 254『歌枕あなたの知らない心の風景』では、日本美術のさまざまな作品をとおして歌枕の世界を紹介。平安時代の貴重な古筆や江戸時代の屏風絵、陶磁器や茶道具、工芸品など多彩な美術品を見ることができます。そもそも「歌枕」とは、なんでしょう。あまりなじみのない言葉ですよね。辞書を見ると「和歌に詠み込まれる名所や旧跡」と載っています。古くから、日本人は自然の美しさやさまざまな物事について感動したとき、自らの思いを和歌に詠んで表してきました。とりわけ美しい風景に出会うと和歌に詠まずにはいられなかったようで、繰り返し詠まれた土地には特定のイメージが定着。しだいにその土地は日本の名所として知られるようになり、実際にはその場所に行ったことがなくてもイメージを共有できるようになりました。歌枕には千年以上の歴史があり、おもに平安時代に成立したといわれています。歌枕で共有された土地のイメージは、和歌に詠まれるだけでなく絵画や工芸デザインにもなり、時代を超えて伝わっていきました。歌枕の例として、一番わかりやすいのは「吉野」。今も桜の名所である吉野は、桜のイメージと結びつく歌枕です。では、実際に作品を見ながら歌枕が描かれた世界に入ってみます。美しすぎる…!歌枕の絵画たち《吉野龍田図》(右隻)六曲一双江戸時代17世紀根津美術館展示期間:8/3~8/28第一章「歌枕の世界」では、見ごたえのある大きな屛風絵で歌枕のイメージを体感できます。《吉野龍田図》の右隻には画面いっぱいに桜が描かれ、吉野の春を表現。作品のところどころに短冊の絵が見えますが、そこには吉野を詠んだ和歌が書かれています。《吉野龍田図》(左隻)六曲一双江戸時代17世紀根津美術館展示期間:8/3~8/28いっぽう左隻では、秋の龍田川(=紅葉)を表現。この「龍田川」も歌枕のひとつで、和歌でたびたび詠まれている場所です。有名なのは、百人一首の「ちはやぶる神代もきかず龍田川からくれないに水くぐるとは」(在原業平)。この作品を見るだけで、昔の人は紅葉の名所・龍田川に行った気分になれたようです。ほかにも、歌枕をモチーフにした美術作品が日本にはたくさんあります。例えば、「武蔵野」という歌枕を題材にした作品にはススキが茂る原野に月が沈む様子が描かれ、「宇治」では川にかかる橋や柳・水車など、「住吉」や「因幡山」では松の名所などが描かれます。和歌や歌枕を知っていれば、日本美術をさらに深く楽しむことができそうです。歌枕でバーチャル旅行!?《西行物語絵巻著色本》(部分)三巻のうち中巻室町時代15世紀サントリー美術館全期間展示(ただし場面替えあり)和歌が生活のなかに根づいていた昔の人たちは、実際に旅ができなくても、歌枕によって日本各地の美しい風景を思い浮かべることができました。例えば第四章「旅と歌枕」の展示室にある《西行物語絵巻》では、日本の名所や風景が描かれ、絵巻を見るだけで西行法師の旅を追体験できます。昔の人たちは、歌枕を題材にした名所絵や絵巻で想像をふくらませ、バーチャル旅行を楽しんでいたのかもしれません。おしゃれ!歌枕ファッション「歌枕あなたの知らない心の風景」展示風景©田山達之最後の第五章「暮らしに息づく歌枕」では、歌枕がデザインされた工芸品が勢揃い。家具や調度品、硯箱などの工芸品や、着物、女性の髪を飾る櫛など身につけるものにまで歌枕のモチーフがデザインされています。身の回りに歌枕デザインがある生活、ステキですよね。桜の着物を着て「吉野」を思い浮かべたり、紅葉デザインの皿を使いながら「龍田川」をイメージしたり。昔の人たちは想像力が豊かで、洗練された生活をしていたことがわかります。すごいよ昔の日本人…!《色絵龍田川文向付》尾形乾山六口江戸時代18世紀公益財団法人阪急文化財団逸翁美術館全期間展示「歌枕」のような短い単語だけで美しい景色をイメージできるなんて、考えてみたらすごいこと。「宇治」という言葉だけで「柳や水車」を思い浮かべることができるのですから、歌枕そのものがアートのようです。しかも、平安時代に生まれた歌枕が時代を超えて伝わり、江戸時代の人たちでも歌枕デザインの工芸品を使い、歌枕をモチーフにした浮世絵などを楽しんでいたのです。現代では、和歌や歌枕を身近に感じている人は少なくなり、恥ずかしながら私は「宇治」という文字を見てもカキ氷の宇治金時しかイメージできませんでした……。昔の人たちが残してくれた美しい日本の文化に気づくことができる展覧会、ぜひ夏休みに訪れてみてください。8月28日まで開催しています。Information会期:~8月28日(日)※休館日は火曜日(8月23日は開館)会場:サントリー美術館開館時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)※8月10日(水)は20時まで開館※いずれも入館は閉館の30分前まで※開館時間は変更の場合があります※最新情報などの詳細は展覧会HPをご覧ください入館料:一般 ¥1,500、大学・高校生 ¥1,000、中学生以下無料
2022年08月09日動物が登場する浮世絵を集めた人気の展覧会『浮世絵動物園』が、5年ぶりに始まった。「浮世絵のあらゆるジャンルには、動物の姿が描かれています」と学芸員の赤木美智さん。例えば美人画は猫との組み合わせが多い。「着替えの途中に猫にじゃれつかれて『困ったな』という顔をしていたり、猫が女性の仕草、表情を引き出すパートナーとして描かれることが多かったようです」ペットだけでなく、街中に動物がいることが日常だった江戸の町。名勝を描いた風景画には、雨上がりに遊ぶ子犬、宿場町で荷車を引く牛や馬がごく自然に描き込まれている。一方で擬人画を見ると、鋭い風刺に筆の冴えを見せる個性派絵師たちも。「遊女を浮世絵に描いてはいけないという禁令が出たときには、雀を遊女になぞらえ吉原の様子が描かれましたし、明治の初めに空前のうさぎブームが起こると、その狂乱ぶりを揶揄する風刺絵も描かれました」擬人画が得意だった歌川芳藤(よしふじ)、ずば抜けたユーモアセンスを持つ歌川芳員(よしかず)など、魅力的な絵師に出会えるのも本展ならでは。「そのほかにもミミズクを描いた『疱瘡(ほうそう)絵』と呼ばれる疫病よけに用いられた浮世絵を見ると、動物が祈りの対象でもあったことがわかります。浮世絵はただ鑑賞するだけでなく暮らしのあらゆるシーンに活用するものだったからこそ、そこに描かれる人間と動物とのディープな関係が見えてくるのだと思います」歌川国芳「木菟と春駒」(前期)流行り病の疱瘡にかかった子どもを慰めた「疱瘡絵」。当時は失明の危険もあり、ミミズクの丸い目に回復を託した。月岡芳年「風俗三十二相うるささう寛政年間処女之風俗」(後期)かまう飼い主にそっけない猫の今も変わらない関係。「うるささう(うるさそう)」というタイトルも秀逸。歌川芳員「東海道五十三次内大磯をだハらへ四リ」(前期)恋人を思う虎御前という遊女が姿を変えた「虎子石」。本来は石なのだがキャラ造形に漫画的センスが。葛飾北斎「狆」(後期)武家や遊郭の女性に人気だった日本固有種の狆(ちん)。歌川芳藤「兎の相撲」(前期)力士や行司、観客もすべてうさぎの「うさぎ相撲」の図。うさぎの表情がちょっと怖い?『浮世絵動物園』太田記念美術館東京都渋谷区神宮前1‐10‐10前期:開催中~8月28日(日)後期:9月2日(金)~9月25日(日)※前後期で全点展示替え10時30分~17時30分(入館は17時まで)月曜(9/19は開館)、8/30~9/1、9/20休一般1200円ほかTEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)※『anan』2022年8月10日号より。取材、文・松本あかね(by anan編集部)
2022年08月08日「六本木アートナイト2022」が、2022年9月17日(土)から9月19日(月・祝)までの3日間、開催される。「六本木アートナイト」約100のアートプログラム「六本木アートナイト」は、六本木の街を舞台に開催される、アートの饗宴だ。「六本木アートナイト2022」では、「マジカル大冒険 この街で、アートの不思議を探せ!」をテーマに、美術館をはじめとする文化施設、大型複合施設、商店街が集積する六本木の街全域を会場として、ペインティングやインスタレーション、音楽、パフォーマンス、映像、トークなど、約100もの多様なアートプログラムを展開。メインプログラム・アーティストとして、現代アーティスト村上隆を迎える他、約70組に及ぶアーティストが参加する。村上隆ら現代アーティストによる「ドラえもん」注目のメインプログラムでは、「ドラえもん」をモチーフにした賑やかなアートが登場。村上隆が手がけた「ドラえもん」を六本木ヒルズアリーナ、東京ミッドタウンに展示するのに加え、村上隆がキュレーションした12組のアーティスト達による「ドラえもん」も展示される。六本木ヒルズアリーナには、細川雄太、くらやえみ、ob(オビ)、村田森、青島千穂、T9G(タクジ)&ナカザワショーコの「ドラえもん」を展示。また、国立新美術館にはMr. / ミスター、大谷工作室、TENGAone(テンガワン)、Kasing Lung、タカノ綾、ラピロス六本木にはMADSAKI(マサキ)がそれぞれ手がけた「ドラえもん」が登場する。各アーティストの個性やタッチを反映した、ユニークな「ドラえもん」アートが勢揃いしている。六本木ヒルズでインタラクティブなインスタレーション六本木ヒルズでは、インタラクティブなインスタレーションを展開。風に揺れる稲穂にインスピレーションを受けたTANGENTの《INAHO》は、人が近づくと穂が揺れLEDが点灯し、人が離れると光と揺れが消える。過去にミラノ、ニューヨーク、パリなど世界各都市で展示されてきたが、今回日本で初めての一般公開となる。また、スポーツ観戦の応援などで使用されているスティック型バルーンを用いたデイジーバルーンのインスタレーション《Wave》や、自転車のペダルを漕ぐことで万華鏡のように目の前の風景を変化させていくことのできる、井口雄介が手がけた“鑑賞者参加型”作品《KALEIDOSCAPE》などを楽しめる。この他、邦楽ライブやダンスパフォーマンス、タップアーティストの足音と“氷の溶ける音”のセッションなどライブパフォーマンスも開催される。東京ミッドタウンにもアートを展示東京ミッドタウンにも目を引く作品の数々が集結する。宇宙のはじまりをイメージしたキムスージャの《演繹的なもの》は、全ての始まりの“無”や異次元にぽっかり開いた穴を思わせる漆黒のオブジェ。様々な角度から見ることで不思議な感覚を味わえる。また、松田将英による、攻殻機動隊で知られる「笑い男」と、ネット上の絵文字「笑い泣き」をマッシュアップしたシリーズ作品「THE LAUGHING MAN CLUB」、第六感をテーマにしたmagmaのコラージュ作品 《ROCK’N》なども登場。イセタン サローネでは、アーティスト・SKYをメインに「アート&キャラクター」をテーマにした展示を実施する。六本木エリアの美術館で展覧会もまた、森美術館や国立新美術館、サントリー美術館、21_21 デザインサイトなど、六本木エリアの各美術館にて開催される展覧会もあわせて要チェック。六本木エリアを周遊しながら、アートに浸ってみては。〈六本木アートナイト会期中の主な展覧会〉■東京シティビュー「誕生50周年記念 ベルサイユのばら展-ベルばらは永遠に-」■森アーツセンターギャラリー「特別展アリス ―へんてこりん、へんてこりんな世界―」■森美術館「地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング」■サントリー美術館「美をつくし―大阪市立美術館コレクション」■21_21 デザインサイト「クリストとジャンヌ=クロード "包まれた凱旋門"」■国立新美術館「ルートヴィヒ美術館展 20世紀美術の軌跡―市民が創った珠玉のコレクション」■国立新美術館「国立新美術館開館15周年記念 李禹煥」【詳細】六本木アートナイト2022開催期間:2022年9月17日(土)~9月19日(月・祝)10:00~22:00 ※19日のみ18:00まで※9月3日(土)~ 一部作品は先行展示開催場所:六本木ヒルズ、森美術館、東京ミッドタウン、サントリー美術館、21_21 デザインサイト、国立新美術館、 六本木商店街、その他 六本木地区の協力施設や公共スペース、デジタル(公式ウェブサイト、公式YouTubeチャンネル RAN TV)入場料/視聴料:無料(但し、一部のプログラム及び美術館企画展は有料)※開催詳細、参加アーティスト情報などは今後随時発表予定。※実施内容などは、予告なく変更または中止する場合あり。【問い合わせ先】六本木アートナイト実行委員会ハローダイヤル TEL:050-5541-8600(9:00~20:00)
2022年08月07日公益財団法人品川文化振興事業団は、イベント「品川アーティスト展2022」を2022年9月10日(土)~11日(日)に東京都品川区・スクエア荏原にて開催いたします。品川区民芸術祭の中核イベント当イベントは、2009年に品川にゆかりのあるアーティストを紹介するためのアートイベントとして始まり、毎年9月~11月に品川区が行っている品川区民芸術祭の中核をなす事業です。アート作品、パフォーミングアーツなどの鑑賞に加え、子どもたちが参加できるワークショップや大人も楽しめるアート体験も多数開催。区民が身近にアートに触れ、体験する機会として実施しています。また、リアルだけではなく、オンラインで繋がるすべての人へ品川のアートを届けるためYouTubeでアーカイブ配信もしています。2021年にクラウドファンディングで制作された、品川アート活動応援マスコット「しなーと」の着ぐるみも初登場の予定です。今年は会場をスクエア荏原に移し、同じ区民芸術祭事業の“区民とプロの共演する舞台「ドリームステージ」”と同日同会場で開催し、アートで地域を盛り上げます。■開催概要日時: 2022年9月10日(土)~11日(日)11時00分~17時30分会場: スクエア荏原イベントホールほかアクセス: 東京都品川区荏原4-5-28 スクエア荏原URL : 入場料: 無料(一部有料体験あり)、入場自由■イベント詳細<展示参加アーティスト>・kabutotea :イラストレーター・toco:クリエイター・石田ゆり:ガラスアーティスト・遠藤比登美:ペーパークラフト作家・神子風太郎:紙コップ切り絵作家・亀島利子:人形作家・桑原里恵:パステル画家・小泉純司:キャンドルアーティスト・小林シガル:エコファーバッグデザイナー・田中良平:切り絵アーティスト・橋爪かおり:イラストレーターそのほか、<品川アート活動応援マスコットしなーとコーナー>、<出展アーティストによるアート体験>、<子ども向けワークショップ>など複数の企画があります。詳細は公式サイトを確認してください。(画像はプレスリリースより)【参考】※公式サイト
2022年08月06日2023年夏、現代アートをテーマにした国際アートフェア「Tokyo Gendai」が日本ではじめて開かれます。世界各地から一流のアートが集まる注目のイベントですが、そもそもアートフェアとは何でしょうか。誰でも入れるのでしょうか。「Tokyo Gendai」でフェアディレクターを務めるEri Takaneさんに、お話を聞いてきました!アートのプロ、Eri Takaneさんにインタビュー!Eri Takaneさん @ Yusuke Abe【女子的アートナビ】vol. 253Eri Takaneさんは、「Tokyo Gendai」のフェアディレクター。アメリカに約13年間滞在し、世界的なアーティストやコレクターのアートコンサルタントとして活動しながら、Google Arts & Cultureの日本部門を4年間担当。また、Tokyo FMのラジオ番組で司会をされていたこともあり、幅広い分野で活躍されています。――まず、アートフェアとはどういうものか、教えていただけますか?Takaneさん各ギャラリーが小さい展覧会をブース内で行う、という感じで、展示会のアートバージョンです。ギャラリーが個々にテーマを決め、作品を展示して販売します。いわゆる見本市とは違い、個人のお客さまが作品を買える場所です。――これまでもアートフェアは国内で開かれてきたと思いますが、「Tokyo Gendai」の特徴は何ですか?Takaneさんここ数十年間は、国内的なアートフェアを多く開催してきたと思います。今回は日本で初めて世界規模で行われる世界基準のアートフェアとなります。参加するギャラリーのうち、約80パーセントが海外のギャラリーというのは珍しいと思います。「Tokyo Gendai」の開催期間は4日間で、1日目はVIPのご招待日、2日目から4日目まで一般のお客さまをお迎えします。作品を販売するだけでなく、作品と連動してアーティストやキュレーターの方のトークプログラムがあったり、文化施設を回るツアーがあったりして、大きなアートの祭典となります。――Takaneさんは、ディレクターとして具体的にどんなお仕事をされているのですか。Takaneさんインフラを整えています。アートフェアは、販売なども含め、国として大きなイベントをやるということ。もちろん、海外のギャラリーさんを誘致する仕事は優先すべきことですが、それ以外にもトークプログラムでは誰をお招きするか、VIPツアーはどのようにするか、政府や省庁との関係はどうするか、なども大切なことで、そのようなインフラを整えています。――すごく大変そうなお仕事ですね。Takaneさんもともと、前職ではGoogle Arts & Cultureを担当していましたが、それもインフラの整備でした。こうしたほうがいい、とか、これとこれを合わせるとおもしろい、ということを自分で作り出していく感じです。ある意味、自由度があるのでおもしろいですね。アートフェアって楽しいの…?Taipei Dangdai 2019 Courtsey of The Art Assembly――アートフェアは、富裕層がアートを買う場所というイメージがあるのですが、anan読者のような若い女性が行っても楽しめる場所なのですか?Takaneさん楽しいですよ!行かれたことがないと想像できないと思うのですが、世界のトップレベルのギャラリーが一堂に集まり作品が展示されているので、それを見るだけでも本当に圧倒されます。通路にインスタレーションが配置され、ギャラリーさんがつくる各展示ブースもすばらしく、すごく刺激を受けると思います。きっと、会場に入った瞬間に「オーッ」という感じになると思います(笑)。――見るだけの目的で行っても大丈夫でしょうか。Takaneさん見るだけでも大丈夫です。十年後、二十年後に作品を買いたいと思ってくれればうれしいですね。私自身、20代のときは作品を全然買えませんでしたが、ギャラリーやアートフェアに行くのが大好きで、見るだけでワクワクしました。――では、アートフェアに行って、もしも欲しい作品に出会った場合、初心者はどうすればよいですか?Takaneさん一番いいのはギャラリーの方に話を聞いてみることです。プロなので、アーティストのこともよく知っていますし、説明もしてもらえます。ギャラリーの方は、みなさん気さくに話してくれますので、勇気をもって聞いてみてください。それで、本当に納得されたら、それから買うかどうか決められたらいいと思います。――アートの相場はわかりづらく、失敗するのではないかと心配になります。失敗しない買い方はありますか?Takaneさん例えば今回の「Tokyo Gendai」は、申し込んできたギャラリーすべてが出展できるわけではありません。選考委員会があり、基準を超えた国際レベルのギャラリーしか参加できませんので、安心してご購入いただけます。あとは、自分次第。自分が作品をすごく好きになって買ったのであれば、失敗したと思わなければ失敗しません。値段だけを考えてしまうと、もしかしたら後々下がるということがあるかもしれませんが、自分にとって本当に意味のあるものであれば、その人にとってはずっと価値がありますよね。そこがアートのおもしろいところ。一点しかないものですから。――購入したい作品が自分の予算を超えていた場合、値切ることもできるのでしょうか。Takaneさん値段交渉もできますよ。ギャラリーさんも各国の方々の買い方などに慣れていますから、値切るなど値段についてお話しすることも可能です。衝撃を受けたアートは…Taipei Dangdai 2019 Courtsey of The Art Assembly――なぜTakaneさんはアートのお仕事をされるようになったのですか?Takaneさん私は18歳のときニューヨークに渡ったのですが、そのときは英語を話したいなという気持ちぐらいで、大学でも心理学を学んでいました。それまで、自分で絵を描くのは好きでしたが、ギャラリーや美術館の仕事については全然知らない状態でした。アメリカ、特にニューヨークではギャラリーがあちこちにあり、生活のなかにアートが溶け込んでいる感じなのです。それで、単純にギャラリーやアートフェアに行くのが大好きになりました。アートの仕事をするきっかけとしては、ダイチプロジェクトというギャラリーがあり、そこに見に行ったときに衝撃を受けたのです。ギャラリーは作品を売る場所というイメージでしたが、そこにはトラックがひっくり返った作品があり、これは売り物?とすごく驚きました。エンタメの要素がとても強いのです。そんな世界を知り、大学院でアートビジネスも学び、15年ほどアートの仕事をしています。――ジャンルとしては、現代アートがお好きなのですか?Takaneさん昔の作品もリスペクトしています。でも、私は今一緒に生きている作家さんの作品が好きです。アートを見ると、そのときの社会状況、政情がわかります。特に現代アートは、作品に時代が反映されているので、いろいろ考えさせられます。アートはクエスチョンを投げかけるものですが、その答えはありません。自分のなかでストンと納得できればそれでいいし、わからないと思ったままでもいい。そこがおもしろいところですし、それだから夢中になれるのだと思います。アート中毒!?――Takaneさんにとって、アートとはどんな存在ですか?Takaneさん中毒になるもの(笑)。犬はボールを投げたらボールに向かって走り出しますが、それと同じでアートがあるところに向かってしまうし、行かずにはいられないのです(笑)。中毒性がありますね。――なぜ、そこまで夢中になれるのですか?Takaneさんアートは、わからないから駆り立てられるのです。ゴールがないのです。次から次へと新しいアーティストが出てくるし、次々とおもしろいギャラリーが出てきて、アートを通して出会う人たちもさまざまな方がいらっしゃいます。コレクターさん、アーティストさん、政府や美術館の方々などともお会いでき、とてもおもしろい世界です。――今回お話をうかがい、私もアートフェアに行ってみたくなりました。Takaneさんアートフェアは本当に楽しい場所ですし、「Tokyo Gendai」は世界規模のギャラリーの展示を日本でまとめて見られるまたとない機会です。私が20代のときにアートを見て感じたワクワクを、若い方々にも体験していただきたいですね。――興味深いお話を聞かせていただき、ありがとうございました!インタビューを終えて…10代で単身アメリカに渡り、Googleや国際交流基金でもお仕事をされていたというTakaneさん。すごいご経歴の方ですが、笑顔がとてもステキなフレンドリーな女性で、大好きなアートのお話をされるときは目がキラキラと輝いていました。「Tokyo Gendai」の開催は、約一年後。これから情報がどんどんアップされていくと思いますので、ぜひ公式サイトをチェックしてみてくださいね。Information日時:2023年7月7日(金)~7月9日(日)*7月6日(木)はVIPプレビュー会場:横浜国際平和会議場(パシフィコ横浜)〒220-0012神奈川県横浜市西区みなとみらい1-1-1主催:The Art Assembly(ジ・アート・アセンブリー)
2022年08月04日