「語る価値のある物語ができるまで、私たちは待った」。アンジェリーナ・ジョリーが美しき最強のヴィランを演じ、いまや彼女の代表作となった『マレフィセント』に続編が誕生。冒頭のように語るアンジェリーナの言葉を裏づけるかのごとく、前作から5年の歳月を経た『マレフィセント2』は、時間の流れを感じさせる作品に仕上がった。シリーズを通して描かれる「オーロラの成長」「鍵になっているのは、オーロラ(エル・ファニング)の成長。前作のオーロラはまだ子どもで、子どもとの関係を築くマレフィセントの姿が描かれていた。続編では、若い女性になったオーロラとマレフィセントの関係が描かれる。結婚やその先の人生が絡む物語にもなっている。もし第3作ができるとしたら、オーロラは母親になっているかもしれない。そういった成長を描けるシリーズであるところも、私が『マレフィセント』を気に入っている理由なの」(ジョリー)。無垢なプリンセスだったオーロラは、いまや妖精の国の女王に。その傍らには、実の母親のように彼女を愛するマレフィセントの姿がある。続編では、そんな2人の絆が試される事態が発生し…。マレフィセントの心に平穏が訪れる日は来るのだろうか。「マレフィセントはエモーショナルなキャラクター。いろいろな意味で、自然の本質に近いのだと思う。花を咲かせたり、津波やハリケーンを起こしたり。美しくも厳しい自然と同じように、彼女にはいろいろな側面がある。気持ちを上手く抑えられず、かなり過激な形で表現することもある。それは前作で語られたように、傷つけられ、トラウマを背負ったからでもあるの。傷つけば、誰にでも変化は起こるもの。特に、女性は身体的な変化を経験する生き物。傷を受ければ、本来の柔らかさは失われていく」(ジョリー)。マレフィセントとディヴァルは「互いを理解し尽くしている」ただし、幸いなことに、マレフィセントには良き理解者がいる。それが、サム・ライリー演じるカラスのディアヴァルだ。マレフィセントの過激さが再び顔を出し得る続編でも、彼は彼女のそばに?少なくとも、日本公開を前に来日したアンジェリーナの隣には、サムがいる。これはいい兆候だ。「ディアヴァルには最初からマレフィセントの傷が見えていた。誰よりも早くね。と同時に、彼女の中にある温かさ、柔らかさにも彼は気づいていた。この作品を観る子どもたちも同じだと思う。子どもというものは実は洗練されていて、アンチヒーローを受け入れることができる。善悪は別々に存在しているのではなくグレーな領域があるのだと、彼らは完全に理解している」(ライリー)。「マレフィセントとディヴァルは完璧なペア。クレイジーでもあるけれど(笑)。ある作家が言っていた。『愛されるより大事なのは、理解されること』とね。彼らは互いを理解し尽くしているし、だからこそ遊び心をもって背中を押せるの」とアンジェリーナ。サムが同意する。「マレフィセントとディアヴァルには、台本に書かれている以上の関係性がある。今回の彼らは、長年結婚しているカップルのようでもある。口喧嘩したりしてね。個人的なことを言うと、僕は映画の中で死ぬことが多いから(笑)、同じ役を2度演じたことがない。でも、こうして2作目に戻り、役をさらに深められることになった。ディアヴァルがマレフィセントに向けるユーモアを深められることにワクワクしたんだ。続編には、彼が彼女に笑い方を指南するシーンがある。すごくチャーミングな場面なんだ。演じていても楽しかったよ」。メッセージは「自分の本質を受け入れること」マレフィセントを理解するのはディアヴァルだけなのか。試されるオーロラとの絆の行方は?「自分の本質を抱きしめ、受け入れること」。それが『マレフィセント2』のメッセージになっていると、アンジェリーナは言う。「家族というものは、血がつながっていなくてはならないわけじゃない。この世界で互いを見つけ合い、家族を作ることができる。私自身の家族も、1つの例になっていると思う。多様性が存在する世界には、互いを受け入れる強さがある。人と人を分断させることばかりに焦点を当てる人もいる世の中で、受け入れることの力を私は信じている」。メッセージを放ち続けることは、今後も必要とされるかもしれない。「オーロラが母親になっているかもしれない3作目」を、観客は目にする日が来るのだろうか。「マレフィセントには翼がある。なのに、2作を経てもまだ、特定の狭い場所でしか物語は展開していない。世界は広いのに…。翼を使えば、日本にだって来られるかもしれない。そうなったら、楽しいと思わない?」(ジョリー)。なんて素敵なアイデア。これには、初来日のサムも「“(日本語で)アンジーさん”がいいアイデアを出してくれたよ!」と感心するばかりだった。(text:Hikaru Watanabe/photo:You Ishii)■関連作品:マレフィセント2 2019年10月18日より全国にて公開©2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
2019年10月18日《取材・文:町山智浩》パリに住むベテラン女優ファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)のもとを、アメリカで脚本家をしている娘リュミール(ジュリエット・ビノシュ)が夫(イーサン・ホーク)と娘を連れて訪れる。是枝裕和監督の『真実』は、全編パリでロケ、セリフはフランス語と英語、ワイルドバンチ製作のフランス映画だ。しかし、是枝作品のファンなら、すぐに気づくだろう。これは『歩いても、歩いても』や『海よりもまだ深く』などで是枝監督が繰り返し描いてきた「中年夫婦が実家を訪れて母親の嫌味を聞かされる」ホーム・コメディの変奏曲だ。特にカトリーヌ・ドヌーヴの「食えない」母親ぶりは、是枝作品の樹木希林を思わせる(二人は共に1943年生まれ)。「そうですね。カトリーヌ・ドヌーヴさんに樹木希林さんを感じたという感想はあちこちから聞いて、なるほどと思いました。意識していたわけじゃないんですけども、できあがって観てみると自分でもなんとなく、意地悪な、辛辣なことを言って、でも、それがウェットにならない感じが共通するなと。だからドヌーヴさんが希林さんに見える瞬間があるんですよね」。ドヌーヴ扮するファビエンヌはフランス映画界に君臨していて、誰も逆らえない。若い監督の映画に出るのだが「あなた、監督さん?」と子ども扱い。それはドヌーヴも同じだ。何しろ、フランソワ・トリュフォー、ロマン・ポランスキー、ジャック・ドゥミー、ルイス・ブニュエル…と世界の映画史上の巨匠たちと仕事をしてきたのだから。「すごいですよね。そこにラース・フォン・トリアーとレオス・カラックスまで加わるんですから」ドヌーヴは自分でトリアーに手紙を書いて、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の役を得た。「あの年齢でもチャレンジ精神旺盛なんです。彼女は会うと必ず、『あなた、あの映画観た?』って新しい映画の話をするんですよ。去年から今年にかけては、イ・チャンドン監督の『バーニング』とか、『あなた、ジャ・ジャンクーの新作は観た? あれはすごかったわよ』って、必ず彼女のほうから振ってくるんですよ。ちゃんと劇場で観てるんですよ。そのくらい新しい映画作家との出逢いをいち映画ファンとしても非常に大事にしてて、決して老いないんですよ」。最初は『真実』というタイトルではなかったファビエンヌは自伝を発表するが、それを読んだ娘リュミールは「嘘ばっかりね」と指摘する。ファビエンヌが語る映画史的記憶も、どこまでが本当かわからない。この映画のファビエンヌはドヌーヴ自身と重なる部分が多く、どこまでが事実でどこからがフィクションか、虚実皮膜で面白い。「脚本を作る段階で何度かドヌーヴさんに長いインタビューをさせてもらいました。彼女が最初にお芝居をし始めた時の話とか、娘さん(マルチェロ・マストロヤンニとの間に生まれたキアラもまた女優)との関係とかをいろいろ聞いて、もちろん、そのままではないんですが、脚本に反映させていきました。たとえば『ドヌーヴさんの俳優としてのDNAを受け継いでいる俳優はいますか?』という質問をした時に、『うーん、フランスには一人もいないわ』と答えたのがカッコよくて、セリフにして使わせてもらったり」そもそも企画段階ではドヌーヴの役はファビエンヌではなくカトリーヌで、タイトルも『カトリーヌの真実』だった。「でも、ドヌーヴさんから『役名はカトリーヌじゃなくて、私のミドルネームのファビエンヌにして』と言われたんです。『そういうスタンスなのかな』と思いました」。つまりある程度は自分自身だと。「『この役は全然あたしとは違うわ』って最初から言ってましたけどね」。演技スタイルも役そのもの娘リュミールが「嘘ばかりね」と言うのは、自伝のなかではファビエンヌはいい母親ぶっているが、実際は仕事を優先して、ロクに子育てをしなかったからだ。そのため、娘との関係は今もよくない。また、真面目な娘と、勝手気ままな母親とは性格も合わない。それは娘を演じるジュリエット・ビノシュとカトリーヌ・ドヌーヴの演技スタイルとも重なる。「ジュリエット・ビノシュは、すごく役作りに時間をかけて、その役の気持ちを理解することにとても神経をつかうのが、彼女の持ち味だと思うんです。だから変更があることに慣れてない。僕が変更点のメモを渡すと『そういうのは、私は二週間前に渡されないと無理なのに』って言われましたよ」。「でも、ドヌーヴさんはもともと台本読まないで現場来るから(笑)。その日の朝に初めて台本読むから、変更したことすらわからない(笑)。だから、いくら変えても全然OKでした。それは助かりました。ドヌーヴさんはほとんどそのまま現場に来て、その場でセリフ覚えて、瞬間的に役をつかまえるんですよ。準備しないんですよ。ただ、それが非常に的確。役のつかみ方が本当に動物的だけど、ピンポイントでつかんで、一回OK出たら、『今のがベストよ』って自分で言っちゃう(笑)。『今の以上にはできないから、これで終わり』って。仕事してみて、非常に感覚的な人で、面白かった。大変だったけど(笑)」。ドヌーヴのアイデアを物語に反映『真実』の劇中劇、ファビエンヌはSF映画を撮影している。ヒロインは持病の関係により、地球外の惑星で過ごしているため、歳を取らず、ある日地球に帰ると娘は70代になっている。その娘を演じるのがファビエンヌだ。「ファビエンヌの亡くなったライバルが若くして亡くなったことで彼女のイメージのなかではいつまでも歳を取らない、それを重ねてみようかなと」。ファビエンヌのライバルだった女優サラは若くして亡くなった。娘リュミールは「サラおばさんのほうがママよりも私に優しかった」と言う。それを見ていて思い出すのは、ドヌーヴの姉フランソワーズ・ドルレアックである。ドルレアックは『リオの男』(64年)が世界的に大ヒットし、ドヌーヴとは『ロシュフォールの恋人たち』(67年)で共演したが、その直後に交通事故で亡くなった。「いや、サラとファビエンヌには血縁関係はないんです。あれはフランス語でマレーヌと言っています(代母と訳される、両親がいない時に世話をしてくれる後見人)。ドヌーヴさんが『フランスには血縁がない叔母のようなマレーヌという存在があるので、それにしたらどうか』とアイデアをくれたんです」ファビエンヌは演技ではサラに勝てなかった。70歳を過ぎた今でもサラの存在を感じている。それは微妙で絶妙の映像で表現される。「あれを思いついたのは撮影監督のエリック・ゴーティエで、僕の指示じゃないです。脚本には書いてない。いくつかのシーンで僕はエリックに『サラが見ていることを示すカットを撮りたい』と言ったんですが、それを意識的に、あのように映像にしたのはエリック。脚本はそこまで書いてない。エリックは読み込みが本当に深くて」。是枝流の“感動”は今回も健在『真実』の母と娘の葛藤は、意外な感動を迎える。それが真実だったのか、と観客が感動の涙を流そうとすると、その感動が観客に染み入る前に、さらにひっくり返される。そのへんがいかにも是枝タッチである。「現場で撮影を続けるうちに、ビノシュが『私が演じるリュミールがどこかで能動的に動いたほうがいいと思う』と言ったんです。それで彼女が脚本家であることを活かした最後の展開を思いつきました。あれで真実というものが揺らぐというか、より重層的になっていくから。いや、曖昧にしたいわけじゃないんですが。あのセリフはリュミエールが母親を感動させるために書いただけじゃなくて、リュミエール自身の本当の気持ちだったかもしれない。そういう見え方がするといいかなと」真実には嘘があり、嘘の中に真実がある。でも、観客はもっとストレートな感動を求めているのでは?「プロデューサーには『もっと感動を引き延ばせ』と言われましたが、『いや、違う。それはそうじゃないんだ』と説得したんですよ(笑)」。(text:町山智浩)■関連作品:真実 2019年10月11日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国にて公開©2019 3B-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA
2019年10月17日杉咲花、22歳。おいしそうに回鍋肉を食べていた姿が鮮烈だった少女は、いまや紛れもない演技派女優となった。納得の評価に関しては、2016年、『湯を沸かすほどの熱い愛』での最優秀助演女優賞ならびに新人俳優賞の受賞に代表されるだろう。当時の自身のことを「暗かったですよね(笑)。いまは明るくなったんです」とふり返る杉咲さんは、ここ1~2年で転機を迎えているという。「すごくふさぎ込んでいたというか、閉ざしている時間が長かったです。過去の授賞式の映像をたまに見ると、自分で“暗いな”と思うので、嫌です(笑)」とその頃を、しかしながら穏やかな表情で語り出した杉咲さん。「ひとりが楽だし、ひとりでいいとずっと思っていました。暗めの役が多かったのもあって、それでいいと思っていたんです」。転機となった「花晴れ」平野紫耀、中川大志、飯豊まりえら同世代と共演しての本音転機は前触れもなく訪れた。2018年4月から放送されたドラマ「花のち晴れ~花男 Next Season~」への出演だった。杉咲さんにとっては、民放連続ドラマ初主演、話題作となる本ドラマの共演者は、平野紫耀、中川大志、飯豊まりえ、今田美桜と強力な同世代が顔をそろえる現場だった。逡巡の色が浮かぶ。「コミュニケーションを取るのが苦手だと思っていたときに、『花晴れ』の出演が決まりました。同じ世代の共演者の皆さんと関わる環境になりました。でも、その環境をいただけたからこそ、みんなと仲良くなれて、すごく、すごく現場が楽しかったです。それからは自分自身も明るくなったと思いますし、友達も増えて本当によかったです」。さらに、「出会うべくタイミングで、出会えているなと思います。本当に恵まれています」と繰り返す杉咲さん。「初めてドラマの主演をやらせていただくようになってからは、さらに責任も感じるようになりましたし、自分がぶれていてはいけないんだなと実感しました。それまでは“何か違うかな?”と思っても何も言わずにいることが多かったのですが、それではダメだなと思うようになって、勇気を出して監督やスタッフさんに相談するようになりました。ここ1~2年くらいのことです。自然に、その環境に変えてもらったのかなとも思います」。ここまで話し切ると、「変われている気がして、うれしいんです」と晴れやかな笑みを広げた。変わることに臆さない姿が杉咲さんを、より明るく、日の当たるステージへと誘っているようにみえる。「いままでで一番難しい役」を通して知る、新たなステージへそんな“変われた”杉咲さんがチャレンジしたのが、『楽園』への出演だ。原作はベストセラー作家・吉田修一の短編集「犯罪小説集」で、『ヘヴンズ ストーリー』や『64-ロクヨン- 前編/後編』などを手掛けた瀬々敬久が監督を務める。犯罪をめぐる喪失と再生を描いた、何とも骨太な作品である。杉咲さんは、12年前、Y字路で行方不明となった少女と直前まで一緒にいた親友の湯川紡(つむぎ)を演じた。罪悪感を抱えたまま大人になり、いまなお心に深い傷を抱える、一筋縄ではいかぬ役。作品について尋ねると、杉咲さんは少し考えこんだ表情になる。「いままでで…一番難しい役でした。台本を読んで漠然と物語の雰囲気、役の心情を理解できるようでいて、なんだかすっきりはしていませんでした。完全にわかった、と最後まで思えなかったです」。それは初めての経験だった。だから、「現場に行ってからも、何となくイメージは湧くのですが、いざ“本番”となったときに、毎回、頭が真っ白になるんです。ここまで想像と違う感情に自分がなる経験が初めてだったので、すごく怖かったです」。不安な気持ちを抱えたまま、杉咲さんは、事件の容疑者として追い詰められていく中村豪士(たけし)を演じた主演の綾野剛、そしてY字路に続く集落で村八分になり壊れていく田中善次郎役の佐藤浩市、そして演出をつけた瀬々監督に必死でついていった。「余白の多い作品ですし、セリフも少なかったりするので、言葉で説明するのは難しくて…。いままで、自分の中でちゃんと理解できてわかった状態で現場に行かなければいけない、という考えがあったのですが、今回はわからないまま行ってみるという初めての試みをして、まさかの感情になるシーンもありました。だから、わからないことがダメなことではないんだ、ということが自分自身、勉強になりました」。わからない感情やこみあげてくる思い、剥き出しの状態が、役にシンクロするような形になった。媚びるような心、嫌われたくないという思いを捨てた、杉咲さんのいまさらには、瀬々監督とのこんなエピソードも飛び出した。「打ち上げの席で、瀬々監督に『私、どうでしたか?』と聞いたんです。そうしたら、『どうでしたか?とかじゃないんです。撮ってしまったものはしょうがないんです』と言われて、“私、ダメだったんだ…”と思って落ち込みました。ですがその後、よく考えたときに、確かに聞いたところでしょうがないな、と思ったんです。私の中では一度ご一緒した方ともう一回ご一緒できたらいいなという思いがあって、次に活かしたいという気持ちで聞いたつもりでしたけど、そう聞く自分の中にはどこか媚びるような心があったのかな、と感じたんです」。「気づいたら“嫌われたくない”と思っている自分がいたりする。それが嫌になる瞬間がすごくあります(苦笑)」と本音をのぞかせた後、「それからは、(撮影に)懸けなければ、という思いがより一層湧きました。“最初で最後なんだから”と思うようになって“嫌われてもいいから、恥ずかしがらずに思いっきりやってみよう”という気持ちになれました。自分の中で、すごく大きかった言葉です」。次へのステップ、気づきにもっていけることこそが、杉咲さんの女優力、人間力につながるところと感じずにはいられない。耐えず考え、もがき、悩みながら作品に入るから、杉咲さんならではのフィールドが広がり、観た者の心を離れなくなる演技ができるのだろう。「20歳も超えましたし、ちゃんと自分を信じないととか、責任を持たなければという思いはありながら、“本当にいいのかな”と迷うこともあるので、マネージャーさん、友達、母親に相談することもあります。もしいまのような環境ではなくて、自分が選んでいたら、ものすごく偏ったものばかりに出ていて、きっといまのような経験はできていなかったと思います。自分が変わってきたタイミングで、こうした作品に出会えていること、とても恵まれていると感じることが多いです」。(text:Kyoko Akayama/photo:You Ishii)■関連作品:楽園(2019) 2019年10月18日より全国にて公開© 2019「楽園」製作委員会
2019年10月15日「映画業界」と言っても、製作から配給、宣伝、劇場、さらにはメディアまでお仕事の中身はいろいろ。シネマカフェではそんな映画業界の“中の人”にインタビューを敢行し、この業界に入ったきっかけから詳しい仕事の内容まで紹介する新連載をスタート!第1回目に登場していただくのは映画のプロモーションを請け負う宣伝会社、特にその中でもWEB上のプロモーションを特化して行なっている株式会社フラッグの東香瑠さん。東さんは特にSNSを駆使したプロモーションに従事されており、洋画・邦画を問わず様々な作品を担当されています。「映画を仕事にしたい!」と札幌から上京! 初めて知った”WEB宣伝”の仕事――まず、映画業界および、現在の会社に入るきっかけについて教えてください。もともと映画が好きで、学生時代がちょうど邦画がすごく盛り上がっていた時期で、岩井俊二監督や行定勲監督の作品が好きでよく見ていました。北海道の札幌出身なんですが、映画を作りたくて「映画のことをやるなら東京だ!」と思って上京し、映画の専門学校に入りました。そこで脚本の書き方や編集を勉強したり、実際に短編を仲間と撮ったりし最初に学んだのは宣伝ではなく制作のことだったんです。――最初に希望されていたのは宣伝ではなく、作り手側だったんですね。卒業後も映画の仕事をしたいという気持ちは強かったんですが、「制作現場」は自分の目指す方向とはちょっと違うなという思いもあり、とはいえ当時は「宣伝」という仕事があることすら頭になかったんですね(笑)。昔からWEBが好きということもあって、WEBの勉強も少ししていて、例えば映画の公式サイトを作ったりする仕事はできないかと思って、いくつかの会社を受けたんですが、なかなか受からず、結局、女性向けのファッションなどを販売する、いわゆるECサイトを運営する会社にWEBデザイナーとして入社したんです。ただ、そこで仕事をしつつも「映画の仕事がしたいなぁ」という思いは持っていて、そんな中、映画の宣伝について学ぶことができる「ニューシネマワークショップ」の存在を知ったんです。そこで初めて「映画の宣伝って仕事があるんだ! なるほど」と(笑)。そこにいまの会社の代表である久保(浩章)が講師として来ていて、WEBの宣伝についての講義が行われたんです。先ほども言いましたが、もともとWEBが好きだったこともあって、すごく興味深いなと思ったら、ちょうど求人を出しているということで応募しました。――入社後、最初に担当されたお仕事は?当時はまだ、いま私が担当しているSNSに特化した宣伝チームというのはなくて、まずはWEBパブリシティのチームに配属となって、その中でも某大手配給会社の洋画作品を担当しました。――WEBパブリシティというのは、WEBメディアでのニュース配信や特集の展開などですね?そうです。最初は右も左もわからないアシスタントで、もう未知すぎて何をやったらいいのかもわからない状態でした…(笑)。担当する作品に関するニュースのURLをピックアップしてリスト化したり、とにかく必死にやってました。ただ、その次に担当した同じ洋画系の作品で、WEB媒体さんと組んで自分で特集を企画し、ニュースを出したりしまして、そこで自分が考えた企画が記事となって世の中に露出しているのを見て、すごくやりがいを感じました。その後は、別の大手配給会社のアニメーション作品などを担当しました。学生時代に足を運んだゆうばり映画祭を仕事で訪れ感慨!――東さん自身、以前からかなりのアニメ好きだそうですね?そうなんです。ただ、入社当初はあまりそのことを公言しておらず…。「仕事なのに好きなことを公言するってどうなんだろう?」とか勝手に思ってたフシがありまして(苦笑)。いまにして思うと、特にうちの会社はみんな「好きなことは言ってナンボ!」なんですけど、当時は変に緊張してたんですよね。でも、ある機会にみんなで食事をすることがあって、そこでたまたまアニメの話になったときに「実は私、アニメファンで、コスプレしたり、コミケに通ったりするくらい大好きで…」という話をしたら、代表の久保から「え? 早く言いなさいよ! じゃあアニメ作品を担当したらいいじゃん」と。――それでアニメ作品の担当に?はい、ちょうどチーム編成を変更する時期だったこともありまして。そうやってアニメを担当するようになると、社内だけでなく配給会社の方からも頼っていただけることが多くなり、自信になりました。ファンの目線を理解しないといけないのはテレビや紙媒体での宣伝でも同じですが、WEBは特にファンとの距離が近いというのが特徴なので。――入社されてから担当したWEBパブリシティの仕事の中で、印象深い仕事を教えてください。これはWEBだけに特化した仕事ではないんですが、うちの会社で毎年、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭のプロモーションを請け負っていまして、私も実際に何度か現地に足を運んだんですけど、すごく楽しかったですね。――現地ではオープニングセレモニーに始まって、毎日、様々なイベントや舞台挨拶などが行われます。東さんたちは、イベントの運営やゲストの俳優さんのアテンド、インタビューなどのスケジュール管理にマスコミ対応、ニュースの配信まで多岐にわたるお仕事をされるんですよね?大変なんですけど「現場だなぁ」と感じさせてもらえますね。この映画祭に限らず、普段から映画館での舞台挨拶や記者会見などのイベントの運営を行なうことは多いんですが、私、イベントの仕事って好きなんです。WEBの宣伝ってなかなかお客さんの前に出る機会がないんですけど、イベントだとその場で直にお客さんの顔を見ることができるので。ゆうばりはその連続ですからね。大変なことも多いし、会期中は忙しくて寝る間もないくらいですが(苦笑)。やっぱり普段のイベントと比べても、観客とゲストの距離も近いし、熱量が高いんですよね。あのお祭り感が何とも言えないですね。私自身、学生時代に札幌からひとりでゆうばり映画祭を見に行ってたんです。そんな映画祭に仕事ととして携われるってめちゃくちゃエモいなぁって(笑)。そういうのはこの仕事の面白い部分のひとつですよね。――ただ、取材する側から見て、舞台挨拶や会見などを取り仕切らなくてはいけないイベントの仕事は大変そうだなぁと…(苦笑)。たしかに大変ですね。まず、多くの人の目にニュースとして触れてもらうために行なうイベントですから、できる限りたくさんのマスコミのみなさんに来ていただかないといけないし、現場もいろんな予期せぬことが起きたりしますし…(苦笑)。完成披露舞台挨拶や記者会見が行われる場合、そのイベントだけでなく、前後の時間で俳優さんや監督の個別取材(インタビュー)も行なわれることがほとんどです。そのスケジュールの調整もありますし、イベント終了後には、その内容をニュースで配信してもらうためにリリースの作成をしたりもします。“拡散”とはファンの熱の広がりである――その後、東さんはWEBプロモーションの中でも、特にSNSでの発信に特化した現在のチームに配属となります。このチームの発足自体に東さんが関わられたそうですね? そうした経緯についても教えてください。私が入社した当初は、配給さんのSNSや映画の公式アカウントの運用をWEBパブリシティチームが兼任で担当していたんです。ただ、世の中でSNSの盛り上がりが大きくなっていくにつれて、映画のプロモーションでもSNSが欠かせない存在になっていき、これはパブリシティチームが兼任するのではなく、専任のチームを作った方がいいんじゃないか? と思いまして、会社に独立したチームを作ってはどうかと提案しました。――具体的なお仕事は?SNSの“何でも屋”なんですが、最初のうちは、映画の様々な解禁情報や新たな画像をSNS上に配信するという運用――いわゆるTwitterなどの“中の人”の仕事が中心でした。ただ、徐々にSNSが当たり前の存在になっていく中で、単に情報を更新するだけでなく、自分たちで企画を提案することが重要になってきました。Twitterキャンペーンで「RT&フォローで抽選でサイン入りのポスターをプレゼント」とかですね。劇場やテレビでかかる予告とは違う、SNS用の特別映像を作ったりもします。――もともとWEBが好きとのことでしたが、SNSも?mixi全盛の時代からSNSは大好きでやっていたので、そういう意味でこの仕事は、自分にとっては天職かもしれないです。特に当初は、配給さんの中にも、そこまでSNSに精通した人が多くなかったこともあって、自分の中では「普通」の感覚の意見や提案を「あ、そういうものなんだ!」と受け入れていただくことも多くありました。例えば「声優さんに参加いただく施策はSNS上で特に反響が大きいです」といった提案ですね。いまでは声優さんに積極的にパブリシティに参加していただくのは当たり前ですし、「あの洋画のナレーションをこの人気声優が担当する」といったニュースは、ネット上なら絶対に盛り上がりますが、当時はまだ“声優人気”が世の中に浸透していないこともあって、会議の場でも「?」という反応だったんですよね。ファン目線の文脈であったり、Twitterやネットの文脈をわかった上で運用できるというのも、自分自身がオタクでネット民であるがゆえの強みでした。――作品のジャンルやターゲット層などによっても、SNSとの相性というのはあると思います。SNSでのプロモーションをする上で気をつけていること、大事にしていることなどがあれば教えてください。やはり、何より大切にしないといけないのは、コアなファン層の熱量ですよね。「拡散」という言い方をしますけど、それは、ファンの熱が広がっていくということですから。そのファンの熱量を大事にした企画をきちんと出していかないといけません。当然ですが、どんなに面白い企画を考えても、SNSでそれを伝えてくれる人たちがいなければ、その施策は盛り上がりません。そこは掛け算なんですよね。以前、担当したある作品は、人気漫画の実写化で第1弾、第2弾とシリーズ化されたんですが、そこには原作ファン、実写化の『1』でこの作品が好きになった人たち、さらにはキャストのファンと多くのファンがいるわけです。そこで第2弾に向けてのSNSの施策の方針は「コアなファンの期待、気持ちを高めること」でした。“みんなで投稿キャンペーン”的なことをしたり、公式アカウントからファンにリプライを返したり、SNS特有のファンとの相互関係をうまく活用しつつ、お祭り感を出して、実際、公開前にはTwitterのトレンド欄でも上位に来ていました。コアなファンの方たちは、黙ってても勝手に盛り上がってくれるんじゃないかと思いがちなんですが、作品の一番の応援者だからこそ、その人たちのことを一番に考えて企画することが大事だと思います。――なるほど。“掛け算”という言い方をしましたが、逆に言うと、もともとそういう熱量を持ったコアなファンがいない作品に関しては、SNSの企画が必ずしも有効ではない場合もあります。まさに作品ごとの相性ですね。――ひとつの作品がSNSを活用して成功すると「じゃあこっちの作品も同じようなことをしよう!」となりがちですが…。何でもかんでもSNSで施策をやれば盛り上がるわけではないですし、作品ごとの魅力がどこにあるかを見極めることが大事です。場合によってはこちらから「この作品は、広告という形でターゲットを絞り込んで、映像を見せるようにした方がいいと思います」などと提案することもあります。ターゲットを絞って見てもらうというのは、TVではできない手法ですので、使い方によってはすごく有効なやり方だと思います。「好き」を仕事に! 宣伝プロデューサーの前で作品の魅力を熱くプレゼン――基本的に宣伝会社の仕事は、配給会社からの依頼・受注があって、その後、社内で担当チームが決まるという流れだそうですが、ある担当作品に関して、東さんが個人的にその作品の過去のシリーズが好きすぎて、その気持ちが高じて受注に至ったとか?そうですね。作品名は出せないのですが、ある人気シリーズが大好きで(笑)。きっかけは残業中に後輩から「疲れてますか? いい作品がありますよ」と勧められて動画を見て、ドハマりしちゃいまして…。それで、社内で過去の作品の上映会を開くことにしたんです。――社内上映会…? それは次回作の仕事を受注するために?ではなくて、単に好きだったので、会社のみんなにも勧めたくて、“社内応援上映会”を(笑)。で、せっかくだからとそこに、一緒に仕事をしている配給さんも招待したんです。全然、その作品とは関係ない配給会社の方たちとかなんですけど、そのつながりで、他にもいろんな方がいらして、巡り巡ってその作品を担当している配給さんの宣伝プロデューサーの方もいらっしゃいまして。その方もいる中で、私がみなさんの前でその作品の魅力をプレゼンしたんですけど…。――プレゼン…?それも仕事を受注するためではなく…。単に上映前に「このシリーズの魅力、見どころはこういうところですよ」と(笑)。うちの会社は、よくそういうことをやるんですよ。“推しプレゼン”と言ってるんですけど、やはりみんな“宣伝マン”ですから、自分が好きなものの魅力を「伝えたい」って思いが強いんですよね。自分の仕事と関係なく、好きなアイドルだったり、ドラマだったりを持ち時間を決めて、プレゼンするんです。――その後、その作品のWEB宣伝を担当することに?はい。その後、正式に依頼をいただきまして、やはりその作品もSNSの熱量の高い作品なので、その魅力をわかっている人間に担当してもらいたいということなのではないかと。そういう受注の経緯もあったので、普段はSNSもパブリシティも、複数の決まったチームがあって、そのチームごとに作品を担当するんですが、その作品に関しては、“有志連合”という形で、チームを横断してそのシリーズを好きな人間でチームを組んで担当しています。――「好き」を見事に仕事につなげていますね。すごくありがたいことですね。そもそもSNSの担当自体、SNSを好きでなかったら難しいと思うんです。そういうのって受け取る側はわかりますから。そのうえ、自分の好きな作品を担当できるというのは幸せですね。もちろん、コアなファン以外にも届けないといけませんから、そこはせめぎ合いでもあります。でもやはり、根底で作品を支えて、SNSで熱を発してくれるのはコアなファン層ですから、そこをきちんと見極めていくことが重要ですね。SNSは宣伝方法だけでなく映画作りそのものを根本から変えうる!――改めてSNSのパブリシティの仕事の魅力、やりがいについて教えてください。SNS上で施策を投入して、それがワーッと盛り上がるのは嬉しいですが、その盛り上がりがどこまで実際の映画館への動員につながったかというのが不透明で、なかなか達成感を得られないというのはあるんですよね。もちろん、フォロワーの増加やRTは数字として見える部分ではあるんですが…。そこに関して、ある作品の宣伝を担当したとき、公開後に劇場でアンケートをとって「何から情報を得て、この映画を見に来たか?」という項目があったんです。そこで「SNS」と答えた方々がある一定層あったという結果を聞いた時は、初めてに近い感慨がありましたね。そもそも、そういうアンケートの答えの中に「SNS」という項目があるってこと自体「そういう時代になったんだな…」という思いですし、実際に「SNS」と答える人たちがいるとは…。ひと昔前までは、ほとんどが「TV」でしたからね。自分がやってきたことに意味があったんだなという達成感を得ることができました。――今後も、WEBのプロモーションの在り方、SNSを使った施策の重要性は変化していくかと思います。それこそ、作品づくりを含めた動線が変わってくるんじゃないかと思います。今後さらに、WEB、SNSの重要性が映画宣伝の中で増していくと思うので、新しい施策をどんどん試していけたらと思います。(photo / text:Naoki Kurozu)
2019年10月11日ありのままの自分を受け入れることは、簡単なようで難しい。理想もありプライドもある。女優の夏帆は、最新作映画『ブルーアワーにぶっ飛ばす』の撮影を通して、少し自分のことを「認めてもいいのかな」と受け入れられるようになったという――。いままでで一番やりたいと思えた役本作で夏帆さんが演じた砂田は、自称・売れっ子CMディレクターで、理解ある優しい夫もおり、字面的には満ち足りた人生のように感じられるが、その実は、自らを偽り“大人”のふりをして負の感情を溜め込み、心は荒れすさんでいる。どうにかしたくても、日常は止まらない。ときばかり過ぎていく焦り、葛藤――「このままでいいのか」。「この映画は、時間に対する向き合い方を描いている作品でもあります。私自身、10代のころから仕事をしていて、時が過ぎていくなかで、周囲がどんどん変化していくのに、そこに気持ちが追いつけないと感じることもありました。それでも時間は流れていくし、生きていかなければならない。立ち止まることも必要ですが、立ち止まったままでいると、いつの間にか自分だけ置いてけぼりになってしまう。砂田にもそういう葛藤があり、演じていて共感する部分は多かったです」。いまの夏帆さんの気持ちにリンクするキャラクター、そして世界観。メガホンをとった女流監督・箱田優子は、脚本のほかに、どういうことを映画にしたいのか、なぜ夏帆さんにオファーをしたのかを手紙にしたためた。夏帆さんは「その手紙を読んで腑に落ちました」と語ると「いままで一番やりたいと思えた役に出会えた」と出演を熱望した。本作では、大きな出来事や事件が起こるわけではない。言ってみれば、砂田が地元に帰って、そして戻ってくる物語。狭い範囲で砂田は揺れ動き、ビフォアーアフターの心の動きも繊細だ。どのシーンも、しっかり砂田に向き合い、丁寧に感情を表現することが求められる。それだけに、些細なことでも常に箱田監督と共有し、一緒に役を作っていく感覚を味わえたことは夏帆さんにとって、かけがえのない現場体験だったという。「一緒に走ってゴールに向かっていく作業は、非常に心地よく楽しかった」と笑顔を見せる。シム・ウンギョンはすごい女優なかなか感情を開放できない砂田に、常にインパクトを与える存在が、シム・ウンギョンさん演じる清浦だ。ある意味で、砂田とは真逆の立ち位置で、物語を大きく動かす役割を演じる。「ウンギョンちゃんとはお芝居のことはあまり話をしなかったのですが、共演してすごい女優さんだなと思いました。感受性が豊かで、役への理解度も深い。自由で伸びやかなのですが、ただ自由にやっているわけでもなく、そこにはしっかりとした計算もあるんです」。母国語ではないセリフ回しであるにも関わらず、瞬発力のある演技も、夏帆さんを驚かせた。「アドリブもバンバン入れてくるんです。それが物語のなかでしっかり活きているので、私自身もウンギョンちゃんの立ち振る舞いに乗せられる部分がありました。繊細さと大胆さのバランスもすごい」と称賛の言葉が止まらない。ありのままの自分を受け入れるそんなウンギョンさん演じる清浦が、砂田の言動に「そういうのダサいっすよ」と発言するシーンがある。しかし、そのダサさを笑い飛ばし「最高!」と肯定できることが、人生を豊かにすることもある。「つい最近までどうしても理想を高く持ってしまい、そこにたどり着けない自分を受け入れられなかったのですが、どうやったってできないことはある。それをダサいと思わずに、受け入れられるようになることで、見えてくることはあると思います。ここ1年ぐらいでやっとそういう考え方になってきました」。こうした夏帆さん自身の考え方の変化に大きな影響を与えたのが本作との出会いだ。完成披露試写会で夏帆さんは「いまの等身大の自分が出ている」と話す一方で「いまの私がこれなんだ」と落ち込んでしまったというエピソードを話していた。しかし「この作品と出会ってから、うまくできない自分を受け入れようと思い始めたんです。もちろんグチグチと言ってしまうこともありますが、違う視点で物事を見れば見えてくるものも変わってくるし、意外と楽しめるのかなと」と考えが変わった。いままでは自分のことが「嫌いだった」というが、最近は「まあまあ、頑張っているんじゃないかな」と心を開放できているという。それもこれも、いままでやってきたことの積み重ねによって「心からやりたいと思える作品」に出会えたことで、夏帆さんが進んできた道が「間違っていなかったんだ」と思えたことが大きいようだ。「女優の仕事をするなかで、いろいろ悔しいことも辛い思いもしてきましたし、『果たしてこっちでいいのかな』と迷うことはいっぱいありました。でも諦めずに続けたからこそ、この作品に出合えた。この仕事を続けてよかったなと思えることは幸せなことです」。無駄な武装がなくなり、よりシンプルに…30代に入るのが楽しみ!「20代後半に差し掛かった私にしか演じられない役」と砂田というキャラクターを位置づけた夏帆さん。それだけに「この作品を終えて、次のステージにいかなければいけない」というプレッシャーもひしひしと感じている。積み重ねることでしか、次に続かないということは、10年以上の経験のなかで敏感に感じ取っている。「私は怠け癖があるので、日々怠らずに向き合っていかなければいけないですね」と苦笑いを浮かべていたが、30代、40代と“年齢を重ねる”ことは怖さもあるが「20代前半までは、無駄なもので武装をしていたのですが、いまはシンプルになってきました。自分で言うのはどうかと思いますが、肩の力が抜けてきた感じがして、30代に入るのが楽しみなんです。もっと自由になる気がして…」と未来に思いを馳せる。“年をとる”という言葉にはマイナスなイメージを持つ人が多いかもしれないが、夏帆さんを見ていると“年を重ねる”ことには、大いなる希望が感じられる。(text: Masakazu Isobe/photo:Jumpei Yamada)■関連作品:ブルーアワーにぶっ飛ばす 2019年10月11日よりテアトル新宿、ユーロスペースほか全国にて公開©2019「ブルーアワーにぶっ飛ばす」製作委員会
2019年10月10日ファッションやインテリアなど、その道のプロフェッショナルの5人組“ファブ5”が、悩める人たちを次々に変身させていくNetflixオリジナルシリーズ「クィア・アイ」。フード&ワイン担当:アントニ、インテリア担当:ボビー、美容担当:ジョナサン、カルチャー担当:カラモ、ファッション担当:タンが日本を舞台に活躍する「クィア・アイ:We’re in Japan!」が11月1日より、Netflixにて遂に配信スタートとなる。「クィア・アイ:We’re in Japan!」の撮影でファン待望の来日を果たしたファブ5。“自尊心を取り戻し、自分の人生と自分自身を愛すること”の大切さを伝える彼らは、日本に来て何を感じたのか。また、日本の“ヒーロー”たちにどのような変化を与えたのだろうか。日本の人々、日本食、すべてが大好きになった――日本が舞台のスペシャルシーズンの撮影でしたが、日本で撮影してみていかがですか。どんなシーズンになりそうでしょうか。ボビー:日本での撮影は素晴らしかったよ。言葉の壁のせいでうまく意思の疎通が取れないんじゃないかって少し心配していたんだけど、そんなことは全くなかった。カラモ:僕は、日本の文化を世界中の人たちに知ってもらえることがただただ嬉しい。と言うのも、ボビー以外、僕ら全員日本に今回来るまで日本の文化に触れたころがあまりなかったと思うんだ。実際に来てみて、日本の人々、日本食、すべてが大好きになった。ジョナサン:もう、とにかく日本に夢中で、どうなっちゃうか分からなかった。唯一ショックだったのは、日本にいる間に紀平梨花選手に会えなかったこと。東京と東京近郊にあるスケート・リンク全て行ったのに!今度の世界選手権、彼女絶対に優勝するから。どこよりも早く断言する。だって、ヤバいでしょ。あのトリプル・アクセル、トリプル・トーループ。あり得ないから!もう、出来過ぎ。しかも4回転も挑戦しているみたいだし。4回転トーループに4回転サルコー。ヤバいでしょ。世界共通の“愛”を届ける「クィア・アイ」――日本でも「クィア・アイ」が大人気なのですが、この作品が国や文化の壁を超えて多くの人に愛される理由はどこにあると思いますか。タン:特にメディアなんかを見ても分かるように、世界中で人々が切り離され地域社会が大きく分断されているけど、僕たちの番組を観て、人はいろんな風に繋がることができるんだってことに気づくからじゃないかな。お互いに心を開くだけで素晴らしいことが起きる可能性があって、明らかだと思っているそうした隔たりが実はそうじゃないんだってことにね。カラモ:世界の共通語は「愛」で、誰もが愛を求めている。誰もが愛されたいと思っているし、誰かに存在を認めてもらいたいと思っている。周りから否定的な目で見られているんじゃないか、愛されていないんじゃないか、嫌われているんじゃないかという思いを抱えながらみんな生きている。だからこそ、人に勇気を与える、「今のままで十分素敵だ」「みんな君を愛しているよ」と言ってくれる番組にみんな惹かれるんじゃないかな。ジョナサン:その通り!ボビー:それ以上の答えはないよ。褒めることの大切さ「生き方を変えることができる」――皆さんがどのように褒め上手になれたのかを簡単に教えてもらえますか。ジョナサン:誰がなんと言おうと、これまで出会った人たちは、少なくとも僕が知る限りテロリスト級の悪人はいないと思っているし、大抵の場合、何らかの形で気持ちが通じ合うことができる。僕はアメリカの田舎町の出身で、親戚の半分はトランプ支持者だ。(困ったもんだってのは)分かってる。それでも、ほとんどの話題で根本的に意見が合わない彼らのような人たちでも、「自信を持ちたい」「自分の思いを聞いて欲しい」という彼らの思いには共感できる。そういうことなんだと思う。自分と違う部分にばかり目を向けるよりも、どこか共感できる部分を見つけることの方が気持ちが満たされる。――ただしツイッターは別。負の感情は全てツイッターで吐き出すの。そうやって負の感情を全部吐き出すことで、現実世界で出会った人たちと共感できるんだと思う。ボビー:ゲイの男としてアメリカで育って、これまで嫌なことを散々言われてきた身としては、人を褒めてあげることだったり、その人の良い部分を見つけてあげることが如何に大事かということを身をもって学んできた。言葉によってどれだけ傷つけられるかが分かっているから。だからこそ、言葉が人に与えるプラスの効果も、褒めることの影響力もわかっていて、誰かをちょっと褒めてあげるだけで、その人の生き方を変えることができるのも分かっているんだ。――日本では結婚しないと幸せになれない、と言うような固定概念がまだ色濃く残っています。いつもハッピーな皆さんにとって、幸せの概念とは?ジョナサン:何よりもまず自分を愛せなければ駄目。それ以外のことはオマケのようなもの。番組の中でも、恋愛を成就させるお手伝いをしてきたし、見ていて楽しいのは確かだけど、一番重要なのは自分自身を愛することだって僕たち全員が思っている。近代的でも古き良き風情を残す日本の風景――今回日本で撮影をしてみて、予想していなかった、日本ならではの独特な違いがあれば教えて下さい。ボビー:僕は何度も来ているから日本がどんなところか分かっていた。世界で一番好きな国の一つでもあり、一番好きな街の一つでもある。秩序正しく、清潔で、全てのものが時間通りに動くのが大好きだ。日本のスタッフは絶対に優秀だろうと期待していたし、全てが順調に進むと思っていた。さっきも言ったけど、意思の疎通を図る上で言葉の壁という面で少し不安はあったけど、そんな心配も無用だった。なんの問題もなく気持ちが通じ合うことができた。だから予想外のことは特になかった。そこが日本のいいところでもある。期待を裏切らない。ジョナサン:僕は日本の美しさに驚いた。東京も日本も今回初めて来た。初めて来てみて、「ヤバい」って思った。古い伝統的な建造物が真新しい建物と隣り合わせで立ち並んでいて、至る所にちょっとした穴場のような味のある路地裏が存在する。街中を当てもなく歩いていても、迷子になるという感覚にならない。とにかくもう、最高。アントニ:僕からも一つある。僕にとっては今回初めてのアジアで初めての日本だったんだけど、日本の何が好きかって、例えばカナダやアメリカだと全てが近代的で、みんな真新しいものを求める。一方でヨーロッパに行くと古いものに対する敬意が重んじられていて、400年も500年前も前に建てられた建築物がある。で、ここ日本は、その両者が見事に共存している。しかも技術的に物凄く進歩している。これは前にも話したけど、自動お湯はりのお風呂には本当に救われた。ジョナサン:トイレも!もう少しだけ自分のことを愛してあげよう――日本では風邪予防だけではなく、自分に自信がないという理由で夏でもマスクをつけている人もいます。顔を隠すこと、自分に自信がないと言うことに対して、メッセージがあれば教えて下さい。ジョナサン:心地いい場所、つまりぬるま湯に浸かったままだと人間は成長しない。だからもし医学的な理由ではなく、落ち着いくという安心感が理由で毎日マスクをつけているのだとしたら、まず「何を一体そんなに怖がっているの?」「何から隠れているの?」と自分に聞いてみて、例えば試しに火曜日と木曜日だけはマスクを外してみる、というのはどうかな。いきなり毎日外すのは難しいと思うから、例えば「1日おきに外してみる」とか、ちょっとずつ試してみるところから始めてみたらいいと思う。そして自分に聞いてみるの。「なんでマスクをした方が落ち着くんだろう」って。こういうのも(手で顔の下半分を覆う)確かにお洒落だけど、それが本来の自分を隠すものだったとしたら何か対策を考えないとだね。カラモ:僕からも言わせて貰うと、今回日本の依頼人たちと接して気づいたのは、彼らの多くが人には見せたくない部分を抱えていることだった。それは傷ついたことが発端だったりする。誰かから自分のことを変だとか醜いと言われたりして。その傷が今度は恥に変わって、自分もそうだと思い込んでしまう。今回日本の依頼人たちで特に感じたのは、まずそう思い込んでしまったこと、そしてそれを隠さなきゃと思っていた自分を許してあげていいんだと伝えることが最初のステップだということ。「その思い込みから自分を解放してあげていいんだ」と自分で自覚する必要がある。そこから今度は、自分が抱えている「恥」だったり、「自己否定」を無くす為には別のメッセージで置き換えないといけない、ということを知ることが大事なんだ。ジョナサンが言うような、自分を肯定する小さなことから始めてみるのでもいい。ジョナサン:僕はこれを「学習棄却(いったん学習したことを意識的に忘れ、学び直すこと)」って呼んでるんだ。カラモ:学習棄却だ。自分が好きになれる自分の別の部分に目を向けるんだ。そして人に揶揄されるんじゃないかと自信が持てないものを抱えていたとしても、自分のことを「美しい」と言ってくれる、自分を支えてくれる人たちを周りにおくこと。自信が持てないのは誰だって同じ。人から「変だ」と言われた経験は誰にだってあって、みんな日々自分に「大丈夫だ」って言い聞かせているんだ。ありのままの自分こそが完璧な姿であって、そんな自分を愛するところからまず始まる。そうやって一歩一歩進むことによってマスクをつけて自分を隠している人たちでも、自信が持てるようになるんじゃないかな。ボビー:日本文化全般に言えることは、もう少しだけ自分のことを愛してあげてもいいんじゃないかということ。もっと自分を褒めてあげてもいいと思うし、自分を大事にしてあげていいと思う。これまで日本の人たちと接してきて感じたことは、みんな常に他の人がどう思うかを気にしている。何度も言うけど、それはそれで素晴らしいことなんだよ。調和のとれた社会を作ることができるんだから。でも同時に、個人の中に抱え込んでしまうものもたくさん産んでしまう。そのことにもっとみんな気づかないといけないと思う。『ル・ポールのドラァグ・レース』をみんな見てるかわからないけど、ママ・ルーの言葉を借りるなら、「自分を愛せなくて、どうやって他の誰かを愛せるって言うの?」ってこと。本当に本当にその通りだから。だって自分を愛せなくて、自分を美しいと思えない人が、結婚相手や家族に対して愛情を伝えられるわけないでしょ?自分にだってできないんだから。今回日本で出会った依頼人の中でも、どうしても自分を好きになれない依頼人が一人いてね。僕たちから見たら本当に素敵な人なのに、自分ではそう思えず、だから奥さんに対しても愛情を伝えることができなかった。でも今は自分の素晴らしさに気づくことができて、奥さんに対する態度も変わったのを目の当たりにして、本当に最高だった。だから、そこが唯一日本の文化に欠けている部分だと思う。もっと自分のことを愛していいと思う。そこは変わらなきゃ駄目な部分。まあ、アメリカ人は自分たちのことを愛し過ぎだけどね。ジョナサン:僕が気づいたのは、一般的に日本人が抱える問題とアメリカ人が抱える問題を区別してその文化的背景の違いばかりが取り上げられるけど、アメリカの田舎だってLGBTに対して抑圧的だ。だから抑圧的な伝統を重んじる文化で育つ人の気持ちは僕にはよくわかる。それに、自殺は日本が抱える大きな問題だけど、アメリカでも同じ。過重労働もアメリカで今大きな問題で、日本でも同様だ。男女の不平等や賃金差にしてもそう。日本が抱える問題はアメリカが抱える問題とさほど違いはない。例外なのは銃規制だ。つまり何が言いたいかというと、国が違っていても抱えている問題はそんなに差がないと言うこと。一見全然違うように見えて、一歩下がって社会学的観点から見てみると、日本文化もアメリカ文化も、南アフリカもロシアも、みんなそれぞれ抱えている問題はあるけれども、突き詰めてしまえば、みんな愛を求めているんだ。みんな受け入れられたいと思っている。他のことは単なるおまけでしかない。だから、例えば日本人はもっとこうした方がいいとか、アメリカ人はもっとこうしなきゃ駄目だって話になると、そういう漠然とした一般論にはうんざりしてしまうんだ。だって、みんなそれぞれ必死に悩んでいるんだから。Netflixオリジナルシリーズ「クィア・アイ in Japan!」は11月1日(金)より独占配信開始。(text:cinemacafe.net)■関連作品:【Netflix映画】ブライト 2017年12月22日よりNetflixにて全世界同時オンラインストリーミング【Netflix映画】マッドバウンド 哀しき友情 2017年11月17日よりNetflixにて全世界同時配信【Netflixオリジナルドラマ】オルタード・カーボン 2018年2月2日より全世界同時オンラインストリーミング2月2日(金)より全世界同時オンラインストリーミング
2019年10月09日『愛のむきだし』、『ヒミズ』、『冷たい熱帯魚』など、人間の裏表を強烈な映像で描き出し、国内外に熱狂的なファンを持つ園子温監督。そんな園監督の現場に、俳優の満島真之介が従事していたことは、広く知られたことだろう。園ワールドに魅せられ、映画の世界に飛び込み、助監督として作品に携わり続けた満島さん。やがて、彼の才能は演者としても花開き、今日の活躍に至る。ふたりが監督×役者としてタッグを組んだ3本目が、Netflixオリジナル映画『愛なき森で叫べ』である。実際の猟奇的殺人事件にインスパイアされ、大胆なオリジナルの物語として紡ぎ上げた戦慄のサスペンス・スリラーとなった『愛なき森で叫べ』。1995年、銃による連続殺人事件が世間を震撼させていた東京にて、田舎から上京したシン(満島さん)は、妙子(日南響子)と美津子(鎌滝えり)とともに、自主映画の撮影に参加する。その頃、美津子は村田(椎名桔平)という男に夢中になっていた。人当たりがよく紳士的に見える村田だが、実は天性の詐欺師で、美津子ならずシンたちまで支配していく。ふたりの関係性をなぞり、「師弟対談ですね」と水を向けると、園監督は「いやいや」と首を振ってみせたが、満島さんは大きな瞳を爛々と輝かせうなずいた。「園監督のもとで育った」という経験と誇りが満島さんの大きな軸となっていることに違いはなく、この後のインタビューでは、満島さん目線での園監督、園監督から見た満島さんの姿など、幾多もの貴重なエピソードや思いが語られることになった。久しぶりの再会で園監督が感じた満島さんの存在「姉貴以上に、吸収力がすごいのかな」――園監督と満島さんは、満島さんが10代のときからのお付き合いなんですよね。満島:そうです。18歳のときからなので。親元を離れてからの僕のことを知っているのは園さんぐらい。そんな人っていないだろうから、いわゆる「映画監督の園子温」という、皆さんとの距離感とは、ちょっと違うかもしれないですね。不思議なんですよ。お兄さんのような存在でもあるし、人生で切っても切り離せない関係なので。園さんと出会って「これだけ経ったんだな」と、いまになって感じることがたくさんあります。――本作で満島さんが演じたシンは、自主映画サークルの仲間たちと「ぴあフィルムフェスティバル」を目指すという、園監督の若いときを投影しているような役です。満島さんにオファーしたのは、これまでの関係性があったから、というのも大きいですか?園監督:やっぱり「もう1回やりたいな」って、そういう感じがあったんですよね。最初に満島真之介と出会ったのは、もちろん満島ひかりから紹介されて、なんですよ。高校卒業したての子で、何がしたいのかはよくわからないけど、毎日何かをしている感じで。雨になると、なぜか濡れるためだけに外に飛び出して「雨って最高!!」とか言っていて。満島:(笑)。園監督:俺が知っている真之介は、全然映画の知識もなくて、雨とか風とかに興味があって、電車でフラフラ旅に出たり、という人だった。とにかく、謎が多くて。けど、久しぶりに会ったら、映画もいっぱい観ているし、知識もすごいあって、同じ世代の役者と断然違う知識量と経験値を持っているから、もしかしたら姉貴以上に、吸収力がすごいのかなと思っちゃうときがあった。詳しくいろいろなことを知っているのは、日本の役者では稀有というか、珍しい存在だよね。とにかく視野が広いし、異様にワールドワイドに物事を考えられる人間だから。世界レベルで言えば当然なんだけど、その世界レベルに到達してる日本の役者はなかなかいないから、そういう意味では、彼は世界で戦える役者なんだなと思いますけどね。満島:でも、それは、俺がまだ何もない、何も知らないときに、園さんが調べていたこととか、観ていた映画だったり、読んでいた本、資料みたいなものがずっとそばにあったからです。社会や世界で起きていることにフォーカスを当てて、映画をどう作るかをずっと向き合っていた園さんが、楽しそうに調べている姿とか、映像を観ている姿を側で見ていたから、僕の中では当たり前だった。園さんが、18歳のときから見せてくれていた背中があったからこそ、自分が求めるものが、幅広いものになっちゃうんです。何も知らない自分に、スポンジが水を吸収するようにいろいろな情報や知識を伝えてくれたから、ひとりになっても、その先を求める自分がいるんですよね。同じ時間をまた共有できる喜び「園さんが作っている作品に常に関わっていたい」――園監督のもとで助監督をなさっていた満島さんですが、役者になると思っていましたか?園監督:思っていなかったし、そういう気配はなかった。けど、才能はあるだろうなと思っていました。しばらく全然会えない時期があって、それで、真之介が芝居をやり出したと聞いたんです。舞台とかを観に行ったりしたけど…最初のうちは自分とやらないで、どっかでやっているのを観て、「ちょっと歯がゆいな、俺もやってみたいな…」って。満島:(笑)。園監督:本当に最近になって、やっと会えるようになったんです。僕としては、まさかこういう形で真之介とちゃんと会うと思っていなかったところもあったから、あまりそういうことを思わないけど、当時、久しぶりに再会したときに「本当によかったな」と思って、それだけで十分幸福だった。幸せだったな。満島:最初、今回のお話がきたときはまだ準備稿だったんだけど、何も考えないで、すぐ「やります!」って返事をしました。やっぱり一緒に作品を作れる喜びは、本当に計り知れないんですよ。ありがたいことに、いろいろな人たちからオファーはいただきますけど、園さんはちょっと格別です。「役者として役をもらったからうれしい」とは違って、「同じ時間をまた共有できること」が、大きな喜びなんです。本当は、園さんが作っている作品全部に出たいんですよ、これから先も。常に関わっていたいという気持ちがあるのは、やっぱり特別です。――『愛なき森で叫べ』の現場も、特別でしたか?満島:現場も独特で楽しいんですよ!今回の役は、園さんの体験を追体験していると言ってもいいほど、園さんの昔のことが、このシンに詰まっているんです。メインの(村田の)お話がありつつ、シンという、園さんが若い頃に経験したことを盛り込んだ役をやれた。毎日現場で、「園さんと一緒に作っているんだな」という実感がありました。自分の人生、過去をちゃんと振り返って、「ああいうときもあったな」、「こうだったな」と、常に感じている毎日でした。そこに、新たなものがどんどん上乗せされていくから、全作品に関わりたくなるんです。もはや役者として出なくても制作側でもよくて、園さんが1から作品を作り上げるまで、ずっとそばで見ていたいんです。これからのふたり、これからはバトル――「東京ヴァンパイアホテル」、『ピアニストを撃つな!』に続き3作目ですが、これからもタッグを期待していていいですか?園監督:いまはまだ準備というか、『愛なき森で叫べ』は、ウォーミングアップ&ウェイクアップだよ。これから本気というか。満島:うん、それはわかる。これから先こそが本番です。園監督:「おう、久しぶりやな」って肩叩き合って、旧交を温めていたのがいままで。これから次にやるのは、一介の監督と一介の役者に戻って、もうちょっとバトルっつうか、『愛のむきだし』における、満島ひかりと俺の戦いのようなものを真之介と一回やらなきゃなと思ってる。いままでちょっと、あまりにも幸せで「フフフ」という感じでやっていたので、これじゃいかんなと。だから、これからのふたりも温かく見守ってくれれば。満島:ここから世界に向けて、園さんと新たな作品を作りたい気持ちがより強くなってきました。この作品は、ひとつのきっかけに過ぎないんじゃないかなと思っています。この間、僕はようやく30歳になったんですけど、やっと園さんとしっかり対峙できるような状態になり始めてきたな、と感じているんです。日本だけじゃなく、映画史に残る作品を一緒に戦って作りたい。そのときをいまかいまかと待ちわびています。(text:Kyoko Akayama/photo:You Ishii)■関連作品:【Netflix映画】ブライト 2017年12月22日よりNetflixにて全世界同時オンラインストリーミング【Netflix映画】マッドバウンド 哀しき友情 2017年11月17日よりNetflixにて全世界同時配信【Netflixオリジナルドラマ】オルタード・カーボン 2018年2月2日より全世界同時オンラインストリーミング2月2日(金)より全世界同時オンラインストリーミング
2019年10月08日申し訳なさ半分、微笑み半分の表情で、「ソーリー(笑)」と声を揃えてくれたのは、大ヒットドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」を手掛けたクリエイターコンビ、デイヴィッド・ベニオフ&D.B.ワイス。シリーズが惜しまれつつ幕を閉じてから3か月、企画責任者として作品のすべての鍵を握る2人が来日した。愛されるドラマになったのは「決して平坦ではない旅を描けたこと」広大なウェスタロス大陸の玉座を巡り、複数の名家が壮絶な覇権争いを繰り広げる「ゲーム・オブ・スローンズ」。その容赦ない展開はもはや誰もが知るところで、劇中では主要登場人物さえ命の保証はない。視聴者は放送開始以来、愛したキャラクターたちの死を目の当たりにし、心を打ち砕かれてきた。その恨み節(?)に応える形で返ってきたのが、冒頭の「ソーリー(笑)」。ベニオフが続ける。「殺したくなかった登場人物は大勢いる。それは、俳優に会えなくなるのが寂しいから。例えば、カール・ドロゴ役のジェイソン・モモアは一緒にいて本当に楽しい人だし、世界に2人といない存在。でも、カール・ドロゴの物語はあそこで終わるべきだった。ものすごく寂しかったし、撮影現場でもう一度会いたかったから、役の死後にも少しだけ登場させたけどね(笑)。キャトリン・スターク役のミシェル・フェアリーやロブ・スターク役のリチャード・マッデンもそう。彼らとずっと一緒に撮影したかった。この業界にいると、恐ろしい話もよく聞く。気分屋の俳優たちの話をね。でも、僕らの作品に集まったのは、ほんのちょっとの例外を除いて素晴らしい人ばかりだった」。スリリングな展開、迫力の映像など、作品の魅力は語り尽くせない。だが、「ゲーム・オブ・スローンズ」がここまで愛されるドラマになったのは、やはりキャストたちの作り上げた登場人物の魅力によるところが大きい。それが、先のベニオフの言葉からも分かる。「僕らのドラマはキャストと共に成長してきた。スターク家の子たちなんて、最初はみんな可愛い子供だったのに。先日、僕らは(サンサ・スターク役の)ソフィー・ターナーの結婚式に出席した。(ブラン・スターク役の)アイザック・ヘンプステッド=ライトは背が伸び過ぎた(笑)。(アリア・スターク役の)メイジー・ウィリアムズも立派なレディになった」と溜め息交じりに、けれども嬉しそうに話すワイスを見ながら、ベニオフが登場人物の重要性に触れる。「物語を綴るうえで、作り手が何に惹かれるか。視聴者を飽きさせないために必要なものは何か。愛されるドラマというものは、それら2つが一致しているのだと思う。僕らは登場人物たちに思い入れを抱いている。その思い入れを視聴者にも持たせることができれば、人物がどこに向かっても視聴者はついていく。だからこそ、つらい思いをさせることもあるけど(笑)。あるいは、大好きな登場人物がこんなにも酷いことをするなんて!と絶望することもあるだろう。僕らが恵まれていたのは、73時間をかけて登場人物たちの決して平坦ではない旅を描けたこと。大勢の登場人物たちの交わり合った旅をね」。“普通のやり方ではない”とは知らず最後まで貫いた“現場主義”計8シーズン全73話で物語は完結。このフォーマットも、2人にとっては意味がある。連続ドラマ化が決まる以前、原作者ジョージ・R・R・マーティンのもとには映画化のオファーも殺到していた。「僕らはどうしても映像化権を手に入れたかった。こんなにも興奮させられた物語はないからね。LAのステーキハウス、ザ・パームで初めてジョージに会ったのだけど、ステーキを食べた彼の髭にバターがちょっぴりついたのを覚えている。その席で、ジョージが言ったんだ。“ジョン・スノウの母親は誰だと思う?”とね。読者の間では話題にされてきたことだけど、作中では明かされていない。でも、僕らはその件について、偶然にも前日に議論していた。だから、ある人物の名前を即答したんだ。正解だったよ。ただし、映像化を許可されたのは正解したからではなく、熱意が伝わったからだと思いたいね(笑)。有名な映画プロデューサーからのオファーも舞い込んでいるという中、僕らは連続ドラマにすべきだと主張した。素晴らしい人物たちの物語をカットすることなど考えられなかったから」。「シーズンごとのストーリーラインを考える。それを長めのサマリー(概要)にまとめる。ここからは僕ら2人を含めた脚本家4人ほどでの共同作業で、エピソードごとのあらすじを分担して書く。誰がどの回を書くか、野球のドラフトみたいに希望を出し合ったりしてね。その後、それぞれが書き上げたものを共有し、リライトし合う。もともとは誰が書き始めたものか、分からなくなるほど推敲を重ねるのが理想」と、脚本執筆のプロセスを説明するワイス。「そうして、書き手のエゴを排除していくんだ」と言い、壮大で濃密な73時間が出来上がった秘訣を明かす。さらに、脚本が完成した後も、ベニオフ&ワイスの役目は続く。“現場主義”であり、フットワークの軽い彼らにとっては、「どの制作過程においても、常に“現場”にいる。それがこだわりだった」とワイスが語る。「『ゲーム・オブ・スローンズ』の現場には、多大な時間と労力をかけ、最高の衣装や最高のクリーチャーを作ってくれるプロたちが集まっている。そんな彼らの疑問にすぐ答え、全体像を指し示す人間が現場にいるべき。でも、2シーズンほど過ぎたころだったかな…。それが普通のやり方じゃないと知った。大多数のクリエイターは、来る日も来る日も撮影に立ち会うわけじゃないとね。もちろん、スタッフは全員それを知っていたけど、あえて黙っていたらしい(笑)。でも、だからと言って家でのんびりしていようとは思わなかったし、後悔もない。ベストな作品を作るためには、何度でもそうすると思う」。<「ゲーム・オブ・スローンズ 最終章」リリース情報>10月2日(水)ブルーレイ&DVDレンタル開始/12月4日(水) ブルーレイ&DVD発売■【初回限定生産】ブルーレイ コンプリート・ボックス ¥11,818 +税■【初回限定生産】 DVD コンプリート・ボックス ¥10,000 +税■レンタル ブルーレイ&DVDVol.1~5※Vol.1のみ2話収録「ゲーム・オブ・スローンズ」コンプリート・シリーズ 12月4日(水)ブルーレイ DVD 発売■【初回限定生産】ゲーム・オブ・スローンズ<第一章~最終章>ブルーレイコンプリート・シリーズ ¥ 42,727 税■【初回限定生産】ゲーム・オブ・スローンズ<第一章~最終章>DVDコンプリート・シリーズ ¥ 34,545 税発売・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメントGame of Thrones (C) 2019 Home Box Office, Inc. All rights reserved.HBO(C) and related service marks are the property of HomeBox Office, Inc.Distributed by Warner Bros. Entertainment Inc.(text:Hikaru Watanabe)■関連作品:ゲーム・オブ・スローンズ[海外TVドラマ]© 2012 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.
2019年10月06日圧巻という言葉では足りない。オスカー最有力の呼び声高き『ジョーカー』でホアキン・フェニックスは、何かにとりつかれたかのように、最強のヴィランに命を吹き込んだ。あえて言葉にすれば「悪魔的な神々しさ」。撮影中、ホアキンの中に何が宿っていたのだろうか?全く異なるアプローチで“新たなジョーカー”が誕生――アメコミ界きってのヴィランであるジョーカー誕生秘話をオリジナルストーリーで描いた本作。先日発表された第76回ヴェネチア国際映画祭で、最高賞にあたる金獅子賞に輝いた瞬間、あなた自身はどのように感じたのでしょうか?ただただ、僕の期待や想像を超えた出来事だったね。トッド(・フィリップス監督)とはいつも「自分のキャリアを終わらせるような映画は作りたくない」ってジョークで言っているんだけど(笑)、正直『ジョーカー』がこういう形で熱狂的に受け取られるとは思いもしなかった。映画にとってはいいことだけど…、何て言えばいいんだろう?もう「驚きと興奮」という言葉に尽きるね。――ジョーカー役のオファーを受けた際は、どのように思いましたか?即決だったのか、それとも迷いがありましたか?どんなオファーも簡単には引き受けられないが、今回ばかりは、ジョーカーを演じきれる自信がなかったから、大いに迷った。それくらい『ジョーカー』は大きな挑戦なんだ。演じるうえで、映画が示すメッセージ、そして自分自身を深く掘り下げる必要があったし、きっと観客にとってもチャレンジングなものになると思った。新しい何かとの出会い…と言えば、大げさに聞こえるけど、目の前に知らない世界が広がるのは、俳優冥利に尽きるね。映画を見る魅力もそこにあると思うから。そう考えれば、ジョーカーほど最高なキャラクターはいないよ。――ジョーカーは過去に何度も映像化されたキャラクターですよね。ジョーカーといえば、子どもの頃に見た『バットマン』(1989年製作)のジャック・ニコルソンがとても印象に残っているし、『ダークナイト』のヒース・レジャーがすばらしかったのは、言うまでもない。助演だから、決して出演シーンが多いわけじゃないのにね。どちらのジョーカーも、一瞬にして見る者を恐怖させ、同時に魅了したんだ。――そのうえで、改めてジョーカーを演じるあなたが、意識したことは何ですか?だからこそ、僕らはまったく異なるアプローチで、いま一度ジョーカーを掘り下げる必要があったし、それは大きな利点だった。映画そのものを理解することに役立ったからね。アイデアはたくさん持ち寄ったが、「このやり方がジョーカーにはぴったり」というわかりやすい道筋は見えなかった。だから、何かに影響を受けた…というのは、答えるのが難しいな。あっ、そうだ!実は撮影中、ふと「あっ、いまの自分はフランクン・フルターに影響されているな」って思う瞬間があったんだ。そう、『ロッキー・ホラー・ショー』に登場する奇妙な城主のフルター博士さ。子どもの頃から大好きで、いつか演じたいと思っていたほどだから、不思議な感覚に襲われたよ。内面・外面ともに徹底した役作り――映画を見れば、きっと観客はあなたの変ぼうに驚くと思います。具体的には、ずいぶんとお痩せになりましたよね?栄養士と一緒に取り組んだよ。幸運なことに、準備期間はあったから、最初の2ヶ月はカロリーを落としながら、自分でワークアウトした。撮影が始まる2ヶ月前には、栄養士と相談して、特殊なカロリー制限のダイエットに臨んだんだ。正直、とてもきつかった。でも、アーサーは人生に決して満足しておらず、常にもっと何かを渇望している。僕自身も減量を通して、その気持ちは共有できたね。徐々に目標体重に近づき、体つきにも変化が出てくると、筋肉の動きや感じ方にも影響が出てきた。欲望に打ち勝てたという、ある種の満足感で、力が漲ったんだ。そういった過程のすべてが、役作りの大きな要素となったよ。――衣装もジョーカーという人物を物語るうえで、非常に重要なエッセンスだと思います。衣装デザインを手がけるマーク・ブリッジスとは、『ザ・マスター』『インヒアレント・ヴァイス』(ともにポール・トーマス・アンダーソン監督)でもタッグを組んでいますね。彼は史上最高のデザイナーの1人だから、僕から何かを評価するとか、そういうものを超越した存在なんだ。もちろん、仕事ぶりはすばらしいけど、そのプロセスは謎に満ちている。ディテールへのこだわりもすごいよ。ポケットの中のハンカチとかね。そうだ、ジョーカーが着るスーツについては、秘密があるんだ。実は序盤のアーサーと、終盤のジョーカーは同じスーツを着ている。色は違うんだけど、それはマークが撮影中、段階的にスーツを染めてくれたんだ。まさにアーサーが、次第にジョーカーへと変ぼうするみたいにね。注意して見てみると、確かにだんだん赤色が鮮やかになっている。初見では見逃してしまうかもしれない繊細なこだわりだけど、キャラクターや作品全体への貢献は計り知れないよ。24時間ジョーカー「怒りもまた」――例えば「家に帰っても、ジョーカーをひきずってしまう」という弊害はなかったですか?映画を拝見し、本当に役柄に入り込んでいると感じたので、何というか…、心配になってしまって。うーん、どうかな。仮に撮影中、自分自身と演じるキャラクターが“分離”する瞬間があるとすれば、それは満足な演技ができていない証拠かもしれない。両者の距離がゼロになり、焦点がバッチリ重なってこそ、最高の状態だと思うから。僕が何かすれば、そのキャラクターの言動になる…それが理想だね。だから、スタジオに役柄を置いてきたり、家に帰って脱ぎ捨てたりはしないんだ。――24時間ジョーカーだったと?もちろん、自宅ですでに撮影した映像を見直し「じゃあ、明日はこうしよう」と演技プランを組み立てることはある。少し矛盾して聞こえるかな?でも、寝ている時間以外は、映画と演技について常に考え続けているのは確かだね。今回、苦労したことがあるとすれば、スケジュールの都合で順撮りできなかった点だな。「このタイミングで、ジョーカーにはなれないよ!」って、トッドに怒りをぶちまけたこともあった(笑)。でも、その怒りもまたジョーカーを演じるために必要だったのかしれないと、いまは思っているよ。(text:Ryo Uchida)■関連作品:ジョーカー 2019年10月4日より全国にて公開© 2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved” “TM & © DC Comics”
2019年10月04日松岡茉優の勢いが留まるところを知らない。2017年公開の初主演映画『勝手にふるえてろ』、そして昨年の是枝裕和監督によるカンヌのパルムドール受賞作『万引き家族』で、それぞれ第42回日本アカデミー賞優秀主演女優賞、優秀助演女優賞を獲得するなど高い評価を得た。とはいえ、まだまだ世間は松岡茉優という女優を過小評価しているのではないか――?そう思わせるほど、まもなく公開の主演映画『蜜蜂と遠雷』では、これまで見たことのない表情を見せ、“圧倒的”という言葉がぴったりの凄まじいまでの存在感を発揮している。傑作を2時間の枠におさめる難しさ史上初となる直木賞と本屋大賞のW受賞を果たした恩田陸のベストセラー小説を映画化した本作。4人の才能あふれる天才ピアニストを軸に、ある国際ピアノコンクールの始まりから終わりまでが描かれる。松岡さんが演じたのは、かつては天才少女と呼ばれ、将来を嘱望されるも、母の死が原因でピアノを離れ今回、7年ぶりに表舞台へと復帰した亜夜。全体を通じて、セリフは決して多くはなく、心情や私生活、復帰に至った経緯や背景などもハッキリとした言葉で説明されることもない。ピアノに向き合う姿勢やちょっとした表情でその内面が浮き彫りになっていくという難しい役柄だが、松岡さんは役作りについて、こともなげに「原作に全て答えがありました」と語る。「恩田先生の小説の中に亜夜が生きて存在していて、そういう意味で問題はなかったです。ただ、500ページ2段組の小説を2時間の映画にするという部分に関してはプレッシャーや難しさは感じました。どうしても原作から連れてくることができなかった登場人物、抜き出すことができなかった描写もあります。亜夜の気持ちをどう理解するか?という部分以上に、『ここは(原作にある描写が)映画にはないから、どうしたらいいか?』と足し算や引き算を考える部分は多かったですね」。“心に傷を負った元・天才少女”。そんな安易な言葉で集約されるような、薄っぺらい役にはしたくなかった。「石川(慶)監督に言われたのは『腫れ物に触るような人にはしないでほしい。周りが気を遣うような人じゃないと思う』ということで、私も同じ意見でした。7年前、なぜ彼女はピアノから逃げたのか?なぜそこから表舞台に戻ってこられなかったのか?そこにあるのは決して自分勝手な理由でもないし、彼女は決して“かわいそうな人”でもない。そのために彼女の強さと気高さ、才能をきちんと見せないといけないと思っていました」。自分とは違う周りの評価「すごく力をもらいました」間違いなく松岡さんに対して、大きな称賛の声が贈られることになるであろう本作だが、松岡さん自身は、最初に完成した映画を観たとき「自分ができると思っていた期待値をあまりに大きく下回っていて、『こんなにできないか…』と落ち込んだ」という。しかし、このリアクション自体は、本人にとっても周囲にとっても決して珍しいことではないようで「最初に完成した作品を観る初号試写は、いつも人生で一番落ち込む瞬間」であり「毎回、『やめよう』『やめちまえ!』って思います」とのこと。いつもと違ったのは一緒に映画を観たスタッフや共演者の反応、そして思わぬところから届いたある“言葉”だった。「観終わったら、石川監督やプロデューサー、スタッフのみなさんがすごく褒めてくださったんです。嬉しかったのは、試写室を出て、私自身は罪人みたいな気持ちで階段を下りて行ったんですが、その先で(共演の)斉藤由貴さん、臼田あさ美さん、片桐はいりさんが並んで待っていてくださって『本当によかったよ』とおっしゃってくださったんです。その言葉にすごく力をもらいました」。「とはいえ、自分の中では悶々とした気持ちを抱えて、その後の日々を過ごしていたんですが、ある日、予告編の映像が届いたんです。それを午前中の11時ごろに自宅のベッドの中で見たんですけど、途中で恩田先生の『映画化は無謀、そう思っていました。「参りました」を通り越して「やってくれました!」の一言です。』という言葉が目に入ってきて…、布団の中で泣いてしまいました」。いまの自分は才能が集結した世代のおかげ「同じ時期に集ってしまった天才たちの苦悩と葛藤の物語」――。松岡さんはこの物語をそんな言葉で捉えている。「同時代に生まれた天才たちがひとつのコンクールでぶつかってしまう。それは悲劇でもあり、大衆にとっては奇跡のようなことかもしれない。出会わなければ、それぞれが天才として生きていけたかもしれないと思いがちだけど、ただ、このコンクールでぶつかったことで、実は彼らは才能を伸ばしていくことができたんじゃないかと思うんです」。「亜夜もそうですが『ここまでかな…』と自分で思っていた天井を別の天才がぶち破ってくれて『まだ先があったのか!』と思わせられる。葛藤もあるけど、天才たちが出会ったことによる化学反応も確実にある」。「このあいだ、テレビで世界柔道を見ていたんですが、同じ階級に才能あふれる選手が何人もいるのに、オリンピックで代表になれるのは一人なんですよね。少し前のフィギュアスケートの浅田真央さんとキム・ヨナさんもそうですけど、なぜか天才たちって同じ時期に集ってしまうもので、でもそのことによって爆発的に成長していくものなんですね」。そういう意味では、松岡さんが生きる俳優の世界もまた、時に同じ世代の俳優とひとつの役を争い、時に同じ作品の中で切磋琢磨していく仕事である。松岡さんにとって、同世代の存在とは?「私たちの年は、ありがたいことに『充実している』と言っていただけることも多いですし、前後1~2年の同世代も入れたら、すごい人たちがそろっていると思います。もし、そういう存在が周りにいなかったら、いま私がこうしてこの作品で主演をすることもなかったと思うし、この原作の映像化自体、されなかったんじゃないかなと思いますね。いま、私がコンスタントに仕事をいただけているのは、同世代の層が厚かったからにほかならないです」。同世代のライバルがいない方が、自分に役が巡ってくる確率が上がってラッキーだとは思わないのだろうか?「10代の頃は、オーディションを受けては落ちての繰り返しで、もう思い出したくないくらいの嫉妬の塊だったし、自分と周りを比べることしかしていなくて、心が腐ってましたよ(苦笑)」と明かしつつ、こう続ける。「でも、そもそも、同世代の層が薄かったら、作品に恵まれなかったでしょうね。等身大の役ではなく、少し年上、もしくは年下の役を演じなくてはいけないことが多くて、苦しんだと思います。もちろん、周りがいい仕事をしていたら悔しいですよ。最近だと、親友の伊藤沙莉が『全裸監督』(NETFLIX)に出ていて、本当にいい役を演じていて、うらやましかったです」。「でも、それがあるから、私も同じように伊藤に『悔しい』って思わせるような演技をしたいなって思います。ライバルという言葉は色が着いていて、嫌なイメージもあるかもしれないけど、私にとってはありがたいものであり『これからも生き残りをかけて戦いましょうね(笑)』という存在です」。堂々と“素”の自分をさらす「イメージなんて問題ない」そんな中で、女優・松岡茉優がこれだけ多くの作品で求められるのはなぜか?彼女の武器は何なのか?“演技力の高さ”と言ってしまえば簡単だが、どんなタイプの役であっても、過去の作品のイメージを引きずることなく自然に演じ分けてしまうところではないか?本作や『ちはやふる』シリーズで演じたような天才タイプから、『勝手にふるえてろ』で演じたような初恋をこじらせた暴走気味の女子まで、ひとつのイメージに固定されることなく役柄ごとに見事に演じきる。「私はバラエティ番組の『おはスタ』への出演がほぼデビューだったんですが、それもあってかいまでも、バラエティ番組に出るのはすごく好きなんです。でもある時期、周りから『あんまりバラエティに出過ぎない方がいいよ』と言われたことがあって」。「それは女優の仕事で使うのとは違う筋肉を使わなくてはいけないので、心身の健康を心配してでもあったと思うんですが、一方で『バラエティに出過ぎてイメージが付いちゃうと、役に影響するよ』という指摘もありました。でも、その意見はちょっと受け入れられなくて、女優の仕事で、その役として超越した存在でいられれば、イメージなんて問題ないはずでしょと。そこは私の責任なのでチャレンジさせてほしい――すごくカッコつけた言い方ですが、切り拓いていきたいと思ったんです」。バラエティやトーク番組で“素”の自分をさらすことで、逆に作品ごとの役柄に対する責任を背負い込む。その覚悟が彼女を支えている。「パターンを背負う必要もないし、“誰か”っぽくなりたいわけでもないから『○○っぽいと思われるからやめた方がいいかも』なんて考える必要もない。心配してくださった方たちに納得していただいて、『全然大丈夫だね』と思ってもらいたいという思いは根底にあるかもしれませんね。『真面目だね』と『ストイックだね』なんて言われることもあるんですけど、全然そんなもんじゃなくて、そもそも怠け癖があるから、そうやって自分を律してないといけないんです(笑)」。女優としてやりたいことは「心が腐りかけてた10代の頃も含めて(笑)、変わってない」とも。「生きづらさを感じてる人が明日、生きるのがちょっと楽になる――そんな作品を届けたい。忙しさに追われて、目の前のことばかりに躍起になって空回りしていた時期もあったけど、いまは少し落ち着いて、女優として健康的に物事が進んでるなと感じています。自分のペースで変わらずにやっていけたらと思います」。(text:Naoki Kurozu/photo:You Ishii)■関連作品:蜜蜂と遠雷 2019年10月4日より全国にて公開(C)2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会
2019年10月03日今回の「やさしいママのヒミツ」は、今年6月に発売した著書『家事なんて適当でいい!』(KADOKAWA)が話題になっているボンベイさん。5歳と2歳の双子の、3人の女の子のママです。インスタグラムなどを通して発信する独自の育児メソッドが、多くのママたちから共感を得ているボンベイさん。ご自身も子育て真っ最中だからこそ、子育てを応援して一緒に頑張ろうと言ってくれているような気がします。ボンベイ さん娘さん:長女(5歳)、次女、三女(2歳の双子)沖縄出身、富山在住。3児の子育てに奮闘しながら、家業の飲食店で働くワーキングママ。「死なせない」を最重要ミッションとして掲げ、無理をしない、辛くない、ママも幸せになる家事育児の方法をSNSで発信。その投稿が共感を呼び、インスタグラムは2ヶ月でフォロワーが4万人増加。初の著書 『家事なんて適当でいい!』 (KADOKAWA)は4刷に。現在も精力的に、子どもとの暮らしについて情報発信を続けている。HUTACHAN—ふたごちゃんねる: Instagram: @bonbei_twinslife twitter: @HUTACHAN_twins ラジオトーク: ボンベイの聴くだけで子育てが「楽になる」ラジオ そんなボンベイさんが実践する育児メソッドと、そこに行き着くまで、そしてやさしいママでいるために大切にしていることとは? お話をたっぷりと伺いました。ほぼワンオペで3人の子育て早速、ボンベイさんのスケジュールを教えていただきました。 5:30 : 起床、洗濯機と食洗機を回す 6:00 : 部屋をリセット 7:00 : 子どもたち起床。身支度 8:00 : 掃除機をセット。子どもたちを保育園へ 9:00 : 仕事に出かける/夫起床 10:00 : 夫出社 17:00 : 退社。保育園にお迎え 18:00 : 帰宅。夕食を作って食べる 19:00 : 入浴/長女と二人の時間 20:00 : 子どもたちと遊ぶ/就寝 00:00 : 夫帰宅ご主人が帰宅するのはいつも0時すぎ。ほぼワンオペで家事と3人の子育てをこなしているというボンベイさん。「夫は私が仕事に出る時間に起きて、私たちが寝た後に帰宅するので、仕事の日はすれ違い。夫は平日がお休みなので私も平日に休みを取るようにして、2人で飲みに行ったりして、コミュニケーションを取っています。寝る前には子どもたちと絵本を読んだり、ゆっくり時間を取りたいので、夜は家事をしないと決めて、朝に家事をするようにしています。そうするとその間にテレビを見せていても罪悪感がないですね。だから家がきれいな状態なんて少ないですよ(笑)」3人の子どもを育てるだけでも大変なのに、ママたちのためにSNSで育児法を発信したり、自分の時間をしっかり作るようにしているというボンベイさん。最初から今のようにうまくいっていたわけではなかったと言います。「東京で夫と出会って富山に来たので、こちらには知り合いはいない状況でした。長女一人を育てているときは義理の両親と同居していたこともあって、大変でしたね。家事をしてくれたり、『お手伝いもするよ』と言ってくれたり、とてもいい方なのですが苦しかった。『なんでこんなに恵まれた状況なのに、幸せじゃないと感じるんだろう。自分は何が嫌なのかな?』と、紙に書きだして分析したら、自分のペースで家事や育児ができないことがストレスだったんですよね。プライベートの時間が少ないのが嫌なんだとわかって、夫に話をしました。最初は『お前の甘えじゃないか』と言われたのですが、考えれば考えるほどそういうことではないと。私と家族が合わないのであれば、絶対に家を出るべきだと思って、離婚覚悟で家を出たんです」同居から3年後に義理の両親と別居したことによって気持ちが安定し、関係も良くなったのだそう。「紙に書きだしたことで、客観視できたことがよかったです。イライラしたり、うまくいかないときに書くことによって、問題点がクリアに見えてくる。おかげで双子が生まれてからは、辛いと思ったことは1度もないですね。でも子育てルールを言語化できているのは、SNSをしていたおかげなんです」長女との時間は意識的に作るように。「夜寝る前の30分がとても大切です」小さな子どもを持つママの心に刺さるボンベイさんの言葉は、子育て中のママたちの心に刺さり、6月には書籍化もされました。そもそもSNSを始めたきっかけとは?「最初から発信しようとして始めたわけではないんです。育児のとても辛い時期をなんとか抜けることができて、自分の心に余裕ができたところで双子妊娠がわかり、次は自分の金銭面や立場的な不安を覚えたんです。夫に経済的に依存している状態だったのと、社会的にもキャリアがないことが不安で、何かスキルを身につけてお金を稼がなければいけないと思ったんですね。そこで手に職をつけたいと思って始めたのが、プログラミングの勉強。パソコンさえあれば、時間と場所に縛られずに、双子が生まれても並行して仕事ができるかなと考えたんです。そのプログラミングを使って作ったのが、双子ママ専用の掲示板『HUTACHAN—ふたごちゃんねる』で、宣伝するためにツイッターを始めたんです」情報の少ない双子育児に役立てるため、出産後2ヶ月で作った掲示板はすぐに話題に。「評価をしていただけただけでなく、『なんで長女がいて、双子が生まれた直後に自分の好きなことができているの?』という質問がすごく多くて。もしかしたら自分が試行錯誤してたどり着いた、今の育児や考え方が、昔の自分のように困っている方の役に立つのかもしれないと思い、双子育児のリアルをツイートしたらそれもまた話題になって。そこから発信が面白くなって、のめり込んでいった感じなんです」育児に悩むママたちの質問に答える形でスタートした、ボンベイさんのSNS。フォロワーはいまや9万人以上。「子どもが増えた分やることも増えたのに、考え方が変わるだけで楽になると自分で実感しました。考え方を完全に切り替えようと思ったのは、双子を妊娠したことがきっかけ。双子育児って、だいたい自分か義理の両親と同居されている方が多くて、ワンオペで双子育児をしているという情報は、見たことがないんですよね。同居が辛かったから家を出たのに、また同じことを繰り返したくないと思ったんです。しかも夫は出張続きで、全然家にいなかったので、ほぼワンオペの状態で3人を育てるのにはどうしたらいいか、改めて考えました」実体験から生み出した育児メソッドボンベイさんのメソッドの中で、大きかったと感じるのは「家事ができなくても死なない」と考えたこと。それが、ボンベイさんが最重要ミッションと掲げる「死なせない育児」の元になっているといいます。料理を作っている間にあげるおやつはフルーツ。気持ちに余裕を持ってご飯を作ることができるそう。「自分の時間は意識的に作りました。それから睡眠時間も大切なので、隙あらば寝る。子どもが小さいとき、寝ている間に家事をするお母さんが多すぎるなと思います。『家事なんて、切羽詰まったときに必要な分だけやればいい』くらいに気持ちを切り替えて、とにかく寝るか自分の時間にして、家事は子どもが起きているときにやるようにしました。少しずつ意識的に、自分のストレスがかからないような時間の使い方をしたのは大きかったかもしれないです」最初に洗濯乾燥機を導入し、誰かに頼らない代わりに、とにかく家事を減らそうと考えたというボンベイさん。家の中は3人のお子さんがいるご家庭とは思えないほど、すっきりとしています。「荷物は増えないようにしていますが、それでも多いと思うので整理しなきゃと常に思っています。荷物が少なくなると家事の負担も減るし、部屋も広く取れます。ものだらけになるのもストレスなんですよね。おもちゃも飽きたら定期的に捨てています。土日に行く児童館におもちゃが結構あったりするから、家にはあまりなくてもいいかなと。その代わり、絵本と知育玩具だけは買ってもいいとしています」また、心が軽くなったのは「子どもは泣いてもいい」という言葉だといいます。「長女が全然寝なくてめちゃくちゃ泣く子で、泣くことがいいものだとは思ってなかったんですよね。でも生活のリズムを整えてあげる『ねんねトレーニング』に出合い、解決してあげなきゃいけない泣く理由と、泣いてもいい泣く理由があるとわかったのが大きかったですね。気がすむまで泣いたらいいと思えたら心に余裕ができました。双子の睡眠のリズムを合わせるのも、『ねんねトレーニング』で学んだこと。たまたまかもしれないですが、一人が起きたらもう一人も起こして、ミルクも必ず同じ時間にあげるようにしたらだんだん整ってきました」このようにボンベイさんの心を支えてくれたのが、たくさんの育児書。ボンベイさんの育児メソッドはそこから裏付けされたものも多いといいます。ボンベイさんが影響を受けた本と、いつも持ち歩いているというノート。絵本の読み聞かせの大切さを教えてくれた『ザ・ギフティッド』(大川翔著/扶桑社)、「ねんねトレーニング」の『赤ちゃんにもママにも優しい安眠ガイド』(清水悦子著/かんき出版)、やさしい語り口で心に寄り添ってくれる『ママの心がふわりと軽くなる 子育てサプリ』(佐々木正美著/主婦の友社)、自分の強みを分析するのに役立った『さあ才能に目覚めよう』(トム・ラス著/日本経済新聞出版社)は、最も影響を受けた本。「たくさん本を読んで、心に響いたフレーズはすぐに忘れるので、ノートに書き留めています。自分も興味があるから、読んだらSNSでアウトプットしようというつもりで読んでいるところもあります」また辛いとき、義理の両親にヘルプは出すと決めたことも大きかったそう。「同居しているときよりも甘えるようになりました。長女のときは頑張ってやろうとしていたので、自分への負担がかかってきた。それを切り替えられたことも大きかったです。頑張りすぎているときは、自己犠牲の気持ちが強かったんですよね。『こんなに頑張っているのに報われない』とか、『私だけこんなにやって夫は何もしない』とか、不満が溜まっていた。子どもに求めるものも大きくなってしまって、『こんなに食事に気を使っているのに、なんでおっぱい飲まないの?』とか、理不尽な思いもぶつけていた。本にも書いたのですが、育児や夫婦生活で、自己犠牲の気持ちを持っていたら、何もうまくいかないなと思ったんです。相手に気持ちを押し付けるくらいなら、自分が楽になって幸せになれば、周りの人も幸せになれると考えたんです」それでももちろんイライラすることもある、と笑うボンベイさん。「それもあるから自戒を込めて、自分が忘れたくないことをSNSで発信をしています。頻繁に考えることで、自分の思考を整理する意味合いもある。自分のためにやっているところもあるんです。私は本当にただのいち母親なので、誰かに教えるなんて気はさらさらなく、自分の思いと経験で気づいたことを書いているだけというのは忘れないようにしています。私のフォロワーさんはうちの子たちと近い年齢のお子さんを持つ方が多いので、そのときどきに気がついたことを書いて、お互いに成長していけたらいいなと思います」「企業を応援したい」という想いからのモノ選び家事は朝にまとめてするというボンベイさん。「できるだけ家事を減らしたい」と考えているだけあって、驚くほどものが少ないキッチンです。「食器の量もすごく少ないですが、毎日の家族の食事だけなら、これだけで事足ります。必要最低限にすることによって家事を減らすことは意識しています。大量のタスクを効率的にいかに早くやるかというよりも、いかにタスクの量を減らすかを考えています。基本、要領がよくないのでやることを少なくするというシンプルな考えなんです。それに私はすごくズボラなので、食器用洗剤で手も洗っていて、いつも手が乾燥していました。それも特に気にしたりしたことはなかったんです(笑)」そんなボンベイさんに「サラヤ」の自然派食器用洗剤「ヤシノミ洗剤」を使っていただきました。ヤシの実由来のやさしい洗浄成分にこだわり。洗浄成分の濃度を16%にすることで、「手肌へのやさしさ」と「洗浄力」の両方を実現。「ヤシノミ洗剤」本体(ポンプ付き500l/400円)、詰め替え(480ml/270円)※すべて税別 楽天で買う | amazonで買う | ロハコで買う 「使ってみると洗い上がりが今まで使っていたものとは全然違って、良かったです。肌がつっぱった感じがしないことも気に入ったし、野菜や果物も安心して洗えるのもすごくいいなと思いました。総合的に見て、これからも使っていきたいなと思います」洗う前に、落ちにくい油汚れはキッチンペーパーなどで拭き取ってから洗う、汚れの軽いものから洗う、洗い桶に洗剤を入れてため洗いをすることで、洗剤と水の節水、排水への負担の軽減にもつながります。 楽天で買う | amazonで買う | ロハコで買う 「ヤシノミ洗たく洗剤」と「ヤシノミ柔軟剤」は今回初めて知ったというボンベイさん。「無香料というのがいいですね。いわゆる柔軟剤の香りが苦手なので、これまではその中でもまだいいと思える柔軟剤を使っていました。匂いがあることが当たり前だと思っていて、無香料の柔軟剤を探そうという考えがなかったんです。双子の一人が、肌が弱く乾燥肌なので、ちょうど洗剤を変えたいなと思っていたところでした。使ってみて良くなったかまではわからないですが、悪くなってもいないし、洗い心地も仕上がりも柔らかくて、何より安心して使えるのがいいなと思いました」左:肌への摩擦を提言し、静電気を防止。小さな子どもへの衣類にも安心して使える「ヤシノミ柔軟剤」(600ml/オープン価格)右:洗浄に不要な合成香料や着色料は一切無添加。高い洗浄力と肌へのやさしさを両立。「ヤシノミ洗たく洗剤」(600ml/オープン価格) 楽天で買う | amazonで買う | ロハコで買う 「お手伝いしなさい」とは言わないボンベイさん。「嫌な作業だと思われるのが嫌なので、自分がやりたいといったときだけでいいかなと思っています」何より「サラヤ」の製品の売上の1%が、ボルネオの環境保全に使われるという、会社としての取り組みに共感したというボンベイさん。「歳を重ねるにつれて、商品自体より商品を作っている企業の理念を見るようになり、“この企業を応援したいからこの商品を使いたい” と選ぶようになりました。それなのに『洗剤』については考えられていなかったと今回気付かされました。最近は私たち夫婦の間で、社会貢献がキーワードなんです。著書の初版の印税も全額寄付したのですが、子どもが生まれてから将来のことを考えるようになったのかなと思います。夫は焼肉店を営んでいますが、畜産もいろいろと問題になっていて、環境問題を意識した商品選びをしていきたいねと話したりしています。そんな社会問題への意識が高まっているところに、ヤシノミ洗剤に出合えたことがすごくよかったです。今後も使い続けて、応援したいなと思います」「サラヤ」のヤシノミシリーズ。左から「ヤシノミ柔軟剤」、「ヤシノミ洗たく洗剤」、食器用の「ヤシノミ洗剤」。「サラヤ」は2004年からボルネオ島の生物多様性の保全に取り組み、持続可能なパーム油の活用と活動を広げている。 楽天で買う | amazonで買う | ロハコで買う 子育てを「自分の人生のメイン」にしないボンベイさんは、お子さんたちに怒ったり何かをするように言ったりせず、いつもやさしい笑顔で見守っている姿が印象的です。「怒るとギャン泣きして、そちらの方が大変。あまり機嫌を損ねないようにご機嫌をとっているかもしれないです(笑)。自分の機嫌を保ちつつ、家族の機嫌も損ねない。それはみんなのためでもあるし、自分のためでもあります。だから怒るのを我慢するのではなく、怒らないで済む状況を増やすことを心がけています。もうひとつは褒めるポイントを見つける。嘘をついたり、本当に危ないとき以外は叱る必要もないかなと思っています」怒る状況になる前に、子どもたちを笑わせることを意識しているというボンベイさん。「特に愚図ったりしていないときに面白いことを言って笑わせて、機嫌を良くしておけば愚図りにくくなる。保育園から帰る車の中から、みんなで歌いながら笑いながら、何かしら機嫌のよくなるようなことをしながら帰ると、車からもスムーズに降りてくれる。愚図る前に機嫌をとることは意識しています」言われなくてもやる子になるよう、2歳半くらいから保育園から帰ってから眠るまでの流れをイラストにして貼るなど、子どもにもわかりやすい仕組みを作ってきたそう。「毎日『これをしなさい』と言わなきゃいけないのはストレスだけど、大人だって歳を重ねているからできているだけ。生まれて数年の子にちょっと教えたくらいで覚えるわけがないと思ったら、仕方がないなと思えます。言うことを聞いてもらうのは無理じゃないですか、だから聞いてくれたらラッキーくらいの気持ちで。でもわからなくても、こういう理由だからこうしようねとは話すようにしています。もちろんイライラすることもありますが、そのことに対しては自分を責めないようにしています。イライラの発散の仕方を間違えたときだけ反省して、イライラすること自体は許す。つい怒りすぎたときは、子どもにとって理不尽だし、私の都合でしかないので、あとで謝りますね。ママは完璧だと見せないようにしようと思っています。今は子どもだから親の言うことがすべてかもしれないけれど、親が言っていることは意見のひとつ。自分で考えて決めて、行動する子になってほしいので、子どもの意見を聞いて、選択させるようにしたいです。あと疲れていたり体調が悪いときには、『今日は疲れていて、一緒に遊ぶのは無理。DVDの日にします!』と宣言して、好きなDVDを見せています。うちは基本的に、テレビは朝だけ。夜は見せないようにしているので、自分が面倒を見られないときは見せるというように切り替えて、自分のイライラが子どもに当たらないようにしています」一番心がけているのは、自己犠牲という感覚を持って子育てをしないこと。それがいつも笑顔のママでいるための秘訣だと言います。「いろいろ考えれば考えるほど、子どもを育てるっておこがましいなと思うんです。子どもは育つように育つから、自分の理想に向けて育てるというよりは、どういう方向にもいけるように環境を整えるくらいの感覚で。あとは自分の人生を楽しんで、それを見せることが一番子どもにとっては学びになるかなと思うから、自分の人生を大切にしたいと思います。子育ては自分の生活のメインではあるのですが、あえて子育てをメインにしない生活をしようと試行錯誤しているところです。発信することは面白いので続けていきたいですが、もともと時間と場所に縛られない仕事や生き方をしたいなと思っていたので、将来的には家族で海外に住んでみたりしたいですね。夫もそこは同じ気持ちなので、今はその地盤作りだと思って、私の給料でも家族が養えるくらいにスキルを見つけて、夫は会社を安定させていこうと話をしています」子育て中心で生活が回っていると目の前のことしか見えませんが、先に大きな目標があってそのために今があると思うことでも、心に余裕が生まれそうです。「その通りですね。双子が生まれたときは会社が一番忙しい時期で、ほとんど夫がいなくても嫌ではなかったのは、今思うと、私たちの将来のためにも必要だと思っていたからかもしれない。だからこそ、ワンオペでどうしたらいいかと考えることができたのかもしれません。「子どもの幸せが自分の幸せで、自分のことは後回し」。それが子どもたちに対して押し付けがましくならない人ならいいと思いますが、私はなってしまう(笑)。だからそうならないように気をつけています。早く子離れしたいですね」ヤシノミ洗剤を上手に使う4つのコツ 「エコ洗剤って汚れが落ちにくい? どんなふうにやさしいの?」そんな疑問を解決。人気コミックライターまりげさんのほっこり描きおろしマンガとともにご紹介しています。 詳しくはこちら >> 子どもたちの未来のために“人と地球にやさしい”ヤシノミ生活をヤシノミシリーズはヤシの実由来の植物性。洗った後の排水もすべて微生物によって分解され、すばやく地球にかえります。洗っても、洗っても、安心。今日の汚れをあしたの未来に残さない。そんな “人と地球にやさしい” ヤシノミ生活をはじめてみませんか。 楽天でヤシノミシリーズを買う amazonでヤシノミシリーズを買う ロハコでヤシノミシリーズを買う 【売上1%で、ボルネオ環境保全を支援】ヤシノミシリーズの売上1%はマレーシア・サバ州政府公認の国際NGO「ボルネオ保全トラスト」を通じて野生動植物の保護と生息域の確保に使われています。また、ヤシノミシリーズをはじめとするサラヤ製品では、違法労働や違法伐採によって作られた植物油ではなく、環境と人権に配慮したRSPO認証油の生産を支援しています。 無香料、無添加のヤシノミシリーズとは 取材/文:赤木真弓 撮影:林ひろし[PR] サラヤ株式会社
2019年09月30日いつからだろう?『HiGH&LOW』シリーズのファンが、こんなにも“村山さん”を愛するようになったのは。1つ言えるのは、山田裕貴が演じてこその“村山さん”だということ。シリーズに登場する不良校・鬼邪高校に君臨する村山良樹を、山田さんは唯一無二の愛すべきキャラクターへと導いた。喧嘩に強く、タフだが、飄々としていておちゃめ。山田さんにとって村山は、「僕が思っていることを喋ってくれるキャラクター」だという。“子ども”と“大人”の狭間にいる役柄「きっと、僕が投影されている」「どの役を演じるときもスタンスは同じですし、村山だけが特別なわけではないんです。でも、僕自身の思いすらも発信できる役なのは確か。それは、脚本のノリさん(平沼紀久)が僕のことをよく知ったうえで、台詞を書いてくださっているからでもあります。(「HiGH&LOW ~THE STORY OF S.W.O.R.D.~」で言っていた)『てめえが変わらなきゃ、世界も変わんねえ』とか、僕が思っていることばかりだなって。だからこそ、自然に出てくる言葉が多いし、お芝居じゃない感覚になれる瞬間もあります」。そんな村山が、『HiGH&LOW THE WORST』では一歩引いた立場に。鬼邪高校・定時制のトップに立っているのは同じだが、熾烈な覇権争いを繰り広げる全日制のバトルを静観。彼の現状を、「後を任せられる人がいれば、鬼邪高が1つにまとまってくれれば、俺もいなくなれんのに。村山はこう思っているはず。彼なりに、大人になろうとしているんです」と山田さんは分析する。留年を繰り返して大人の世界から取り残された焦燥感を見せつつ、大人の世界へ足を踏み入れる躊躇も抱きつつ…。“子ども”と“大人”の狭間に、いまの村山は佇んでいる。「そこにもきっと、僕が投影されているのかもしれない。たぶん、ああ見えて村山は、すぐにでも大人になれると思います。その点、僕は大人になりたくない(笑)。大人ってなんだろう?とも思うし。“大人なんで”と1人で強がり、弱い部分をさらけ出さない人間にはなりたくない。甘えられるのなら、誰かに甘えたいし。大人だから、子どもだからではなく、みんなで一緒に歩きたい。仲間ってことですよね。そういった思いを村山に託しているというか。それがたぶん、僕の好きな人間のあり方なんだと思う」。「それって、お芝居にも言えることなんです」とも。「子どもみたいに無邪気にできたほうが、お芝居も自然になる気がして。“この作品はこうだから、ナチュラルにやるだけじゃなく、インパクトを残したほうがいいかな”なんて、変に考えちゃうのは大人の計算。そうすると、本当の意味でのお芝居というものができなくなる。だから僕、一生子どもでいようかなって(笑)。とは言え、当初の設定では“立っているだけでやべえ男”だった村山も、外見と中身、闘っているときと普段のギャップで異常な感じを出したかったし、恐怖を与えたかった。そういった意図はあって。計算せず、無邪気な子どもに徹するのも実はなかなか難しいんです(笑)」。褒め言葉を「簡単には信じない」理由ギャップで魅了する。ギャップを楽しむ。仮に「大人の計算」だとしても、それも役者業の大きな醍醐味。村山のキャラクター造形に完結する話ではなく、俳優・山田裕貴のフィルモグラフィーに目を向けても言えることだ。NHK朝の連続テレビ小説「なつぞら」の雪次郎を応援する人が、狂気を帯びた目で闘う村山さんを目にしたら?あるいは、その逆なら?「そういった状況を、めっちゃ楽しんでいますね」と顔を綻ばせる。「まあ、『なつぞら』と『HiGH&LOW』だと、視聴層が違いすぎるとは思いますけど。でも、だからこそ正直、めちゃめちゃ持ってきたいです。『HiGH&LOW』のファンを朝ドラに、朝ドラのファンを『HiGH&LOW』にと意識していました。けれど、自分の中の手応えはまだまだで。のぼせ上がらないよう、冷静にしている部分もありますけど。そこだけは僕、大人です(笑)。満足したら終わりですし」。村山さんのことが大好きで『HiGH&LOW THE WORST』に足を運ぶ人も大勢いるだろうに。こう指摘すると、「そこはね、ありがとうございます。ありがたく受け止めるべきなのは十分に自覚しています。でも、欲張りなんです」と真顔に。「もっともっと、みんなが俺のことを好きになれって。観終わった全員、好きな人が頭から離れないみたいに、“村山が頭から離れなくなれ!”と密かに念じています(笑)」。しかしながら悩ましいことに、念じて、願いが届いたとしても、「簡単には信じない」そうだ。「疑い深いんで」と笑う素敵な頑固者の目標は、「自分のいないところで、『山田裕貴っていいよね』と囁かれるようになること」だという。「共演者、応援してくれる人たち、僕のことをちょっとは知ってくれている人たち、うわさに聞く程度でほとんど知らない人たち。その全員が、陰で僕を褒めてくれること(笑)。面と向かって伝えていただけるなら、それはそれでめっちゃうれしいですけど。でも、その言葉を僕が信じるか信じないかは分からないし。信じない状態のままでいれば、目標にたどり着いたかどうかもずっと分からないでしょ?それでいいと思っています」。(text:Hikaru Watanabe/photo:Jumpei Yamada)■関連作品:HiGH&LOW THE WORST 2019年10月4日より全国にて公開Ⓒ2019「HiGH&LOW」製作委員会
2019年09月30日『レディ・プレイヤー1』のオリヴィア・クック、『スプリット』のアニャ・テイラー=ジョイの共演で話題を呼ぶ『サラブレッド』が9月27日(金)より公開。本作で映画デビューを飾り、新人監督の登竜門ともいえるサンダンス映画祭観客賞をはじめ、ゴッサム賞脚本賞やインディペンデント・スピリット賞新人脚本賞などに多数ノミネートされたコリー・フィンリーのインタビューがシネマカフェに到着した。ニューヨークで演出家・劇作家として活躍し、本作を脚本から手掛けて映画デビューしたコリー・フィンリー監督。「脚本を書き進めている間、これは舞台劇ではなく映画にするべきだという考えが常に浮かんでいました」と言う。セリフ、表情、何気ない廊下のショットにさえ「心理状態が映し出される作品にしたかった」「空想や雰囲気を描き出すのは映画の領分であり、映画は脳の灰白質に直接イメージを焼き付けるメディアです。その焼き付いたイメージのお陰で、(子ども時代)リビングから寝室までの三十歩の距離でさえ怖くて一人で歩けなくなった事もありました」と語り、「サイコ・スリラーを目指していたので、主人公二人のセリフの中だけではなく、彼女達の表情豊かな顔、あるいは何を考えているのか分からない顔のクローズアップや、彼女達の周りにぼんやりと現われる屋敷内の影や廊下のショットにも心理状態が映し出される作品にしたかったのです」と打ち明ける。撮影監督に、学校を舞台にしたゾンビコメディ『ゾンビスクール!』や女性監督アナ・リリー・アミールポアーの『ザ・ヴァンパイア残酷な牙を持つ少女』『マッドタウン』などを手掛けたライル・ヴィンセントを迎えたことも「幸運でした」とふり返る。「彼の想像力と優れた技術のお陰で、登場人物達の心理状態と同じぐらい堅苦しく歪んだ視覚世界を生み出す事が出来ました」。「複雑で力強い形で表現してくれた」俳優陣を絶賛また、「アマンダとリリーに大きな恐怖を感じつつ、同時に深い愛情も感じているんです」と監督。二人の少女たちは、「私が自分自身に抱いている疑念という最も暗い感情を体現したキャラクター」なのだという。「本作は倫理観に関する哲学的な会話劇になりました。そして、“もしも感情の配線がねじれていたとしたら、私は悪い人間という事になるのか?” “善悪の判断に感情的な直観は必要なのか?” “客観的な視点は倫理的な決断を下す際に本当に役立つのか?”といった、考えると夜も眠れなくなるような疑問に関わる会話劇でもあります」。さらに労働者階級のドラッグの売人ティムとの対比に象徴されるように、「私の抱く恐れには常に富と特権が大きく関わっています。だから、主人公の二人は誰にも共感されないような環境に置かれていて、自分の価値判断のシステムを構築し始めたばかりの若者であるという設定にしたのです」と明かす。「本作は娯楽作品であると同時にいつまでも脳にこびり付いて離れないような作品に出来たのではないかと思います」と自信を覗かせる監督。オリヴィア・クック、アニャ・テイラー=ジョイ、そして遺作の1つとなったアントン・イェルチンら作品の中に生きた俳優陣についても、「彼らは私の頭の中にある言葉を取り出して、驚く程に複雑で力強い形でそれを表現してくれました」と惜しみない賛辞を贈っている。『サラブレッド』は9月27日(金)よりシネクイント、シネマカリテほか全国にて公開。(text:cinemacafe.net)
2019年09月26日日本の映画づくりのシステム、エンターテインメント界の変革を志し、小泉今日子らと共に映像制作プロダクション「新世界合同会社」を設立し、映画『ソワレ』で初めてプロデュース業に挑戦している豊原功補。インタビュー【後編】では、クリエイティブ面からスケジュールの管理、資金調達に至るまで、プロデューサーとしての仕事について、さらに“黒船”と呼ばれるNetflixなどの配信事業が興隆する中で、日本映画のクオリティを世界に伍するものとするためには何が必要なのか? その可能性についても話を聞いた。村上虹郎、芋生悠(いもう・はるか)という若き2人を主演に据え、この夏に和歌山で撮影が行われた映画『ソワレ』。撮影自体は無事クランクアップしたものの、2020年秋の公開に向けて、やるべきことは多い。予算面でも、既に600万円を超える金額がクラウドファンディングサービス「Makuake」で集まってはいるが、劇場での上映や宣伝活動などに必要な費用も多く、現在もなおサポーター募集が行われている(締切は9月27日)。作品づくりの土台は「支援者ひとりひとりの気持ち」豊原さんはプロデューサー、そして小泉さんはアソシエイト・プロデューサーとして本作に携わっているが、プロデューサー・豊原功補の具体的な仕事は?「まず自分が知ってる範囲での『プロデューサーはこれをやるべき』ということをひとつずつやってる状況なんですが、やること多くて驚いてます(笑)。重圧もすごいです…」。「お金のことに関しても『こんな大変なのか!』と身をもって知っている最中で、そのことを考えると、恐ろしくなって夜、眠れないですよ(苦笑)。巻き込んでいる人も多いし、自分ひとりが借金を背負って何とかなるもんじゃないわけで」。「クラウドファンディングの利用に関しては、映画を作るにあたって、いろんな人と話をする中で、ごく自然に幾人もの方から『クラウドファンディングはどうでしょう?』という言葉が出てきました。いくつかある中で、どこがいいのか? ということを考える中で、Makuakeさんの名前が出てくることが一番多かったんですが、実際に見てみるとシステムが非常にちゃんとしているし、僕が当初、非常に原始的な“寄付”のようなものとして考えていたものよりも、ずっと顧客目線で作られていて、“支援”がしやすいんですよね」。「いい意味で“重み”を感じ過ぎずに、自分の生活の中で『あんな映画があったらいいな』『これくらいの金額でいいかな?』くらいの感覚で支援してもらえるんじゃないかなと」。「とはいえ、そうやっていろんな方からお金を出していただけることに、ありがたさと共にプロデューサーとして恐ろしさも感じています(苦笑)。制作費に宣伝、デジタルプリント…本当に流しそうめんのように、すごい勢いでお金が流れて消えていくんですよ。もちろん、作品づくりに関して、僕らは自分たちの“主観”で決断していくわけですけど、その決断を支える土台になっているのは、支援してくださったひとりひとりの気持ちであって、そういう方々のメッセージを読むと『絶対に侮っちゃいけないな』と思います」。大事なのは「作り続けること」資金面やスケジュールの管理などだけでなく、豊原さんは積極的に作品の中身そのものにも関わっているという。自らを「うるさい、古いタイプのプロデューサー(笑)」と語る。「自分が俳優として現場にいたら、確実に『うるさいヤツだなぁ』って思ってるでしょうね(笑)。もちろん、外山監督が自分で脚本を書かれていて、やりたいことのベースはあるので、それをどうやって形にするか? こちらにそれがどう伝わっているのか? 伝わっていないのか? 『こういうことをやりたいのかもしれないけど、そうなってないよ』といったことをどんどん口出ししていますね。そこはやはり、質のいいものを作っていかないと、自己満足になってしまうのでね」プロデューサーという立場として当然、具体的な「観客動員数」や「興行収入」といった数値が頭をよぎらないわけではない。だが、何より大事なのは「作り続けること」だと考えている。「単なるマスターベーションで終わらせないためにも、事業として見合うか? という考えは常について回っていて『これは善をなそうとして悪に組み込まれていく一歩なんじゃないか?』って思ったりもしてます(笑)。いまのは岩松了さんの戯曲のセリフなんですけど」。「やっぱりこの1作で何かを変えられるほど簡単じゃないですから、さっきも言いましたが、いくつもの『点』のひとつになれたらいい。それがいくつもつながって『波』を起こせたら…ホントにね、1回じゃ変わらないですから」。「今回、こうして新世界合同会社を作ったけど、『ソワレ』の公開は2020年の秋の予定だからまだまだ先です。じゃあこの1年、答えが出るまで黙って見ているかと言えば、それじゃきっと心が離れちゃう。この映画を見届けるためにも、“次”を始めないといけない。この場所に立ち続けるには、ここで遊び続けなきゃいけないと思っています。もちろん、この作品に関してやるべきこともまだまだ残ってるんですけど(笑)」。日本映画の質を高めるには?その1「技術」近年、日本映画の「ガラパゴス化」が指摘されている。一方、つい最近の話だが、ひとつの光明と言うべきか、“黒船”と呼ばれるNetflixの台頭の中で「全裸監督」のような作品がそこにラインナップされ、地上波ではできない作り方、表現方法なども含め、業界内でも注目を集めている。「僕もNetflixはよく見ますし『全裸監督』も見ました。面白かったです。日本の作品の質をどう上げていくか?という点に関しては、2つの方向性があって、ひとつは“技術”の部分、もうひとつは“マインド”の問題になってくると思います」。「技術に関して言うと、まだまだ日本に、世界で通用する技術を持ったスタッフはたくさんいますよ。ただ最近は便利な機材のおかげで、カメラ技術や編集ひとつとっても、楽にできることが多くなり過ぎちゃったと思います。撮影後に寄りや引きを調整できるようになったりして、現場での能力というのが落ちているのかなと」。「そこはもう少しアナログな感覚で『いまあるものが全てだ』という感覚でやっていかないと技術は下がっていってしまう。それは俳優も同じで、デジタル化によって、以前のような『いまあるロールの中のフィルムに収めなきゃ』という気合が以前と比べると全然違う。そういう細かい部分での技術力って日本の武器だったはずなのに、それを自分たちで手放してるところがある」。「でもそこは、ちゃんと頑張れば取り戻せると思います。それこそ、昔の怖い先輩を現場に呼び戻して、きちんと技術を継承していけば、まだ間に合うと思っています」。日本映画の質を高めるには?その2「マインド」「厄介なのはもうひとつの“マインド”の部分ですね。それは作り手や観る人の社会との距離感の問題と言えるかもしれませんが、例えばNetflixの欧米を見ると、やはり、日本の社会とは宗教や人種問、貧富といった問題が比較にならないほど大きくて、それが日常と混じり合っているからドラマが生まれるんですね。逆に日本は日常の非常に狭い部分を描くことになってしまって、だから四畳半の物語ばかりになっちゃう」。「『全裸監督』はその点、村西とおるという独特の人物を主人公にしていて、セックスが題材のひとつとして扱われているという点で特別といえるかもしれないし、すごく面白いなと思います」。「そういう社会との距離感を意識して作っていかないと、単に海外の作品のマネをしてもダメだし、そういう意味で今後もNetflixの欧米のオリジナル作品と肩を並べるって、大変だとは思います。ただ、先ほども言いましたが、日本の社会もいろんな問題がいま、露わになってきているわけで、そういう意味では描くべきドラマが増えていると言えると思います。そこで本当に恐れずに自由度の高い作品を作れるか?『日常の苦労を忘れられるようなドラマ、エンターテインメントが見られる』と思ってもらえる器(プラットフォーム)を作ることができれば、見てくださる方々の意識も変わってくると思います」。そしてもうひとつ、豊原さんが指摘するのは“俳優”のマインドである。「平成という時代、俳優が俳優としてあるべき“鍛錬”の時間から離れてしまった部分があって、それこそ演技というもの、俳優という立場がコマーシャルにたくさん出たりするためのものになっていたり、ドラマや映画にたくさん出演することがゴールになってしまっていたりする」。「どこかの時期からか、俳優の仕事が事務所に入って、車で送り迎えされて、終わりの時間を気にしながら演技して…という“形”になり過ぎて、イージーなものになってしまったというか。僕自身、そこには憤りを感じていたし、言ってしまえばいまやっている活動は全て、自分が俳優として現場で感じていたことから派生しているんです」。「演技をしていて時折、自分が志しているものと求められているものの“出口”が全く違うことが多くて。俳優の演技だって求められれば求められるほどよくなるはずなんです。ただ、最近は20代の若い俳優さんでも勉強している人は多いし、少しずつまた意識が変わってきていると思います」。「僕自身、こんな風にえらそうなことを語ってて、いま作ってる映画をその言葉や志とかけ離れた作品にするわけにはいかない。まだほんの第一歩であり、わかんないことだらけですが、もっと“嫌われる勇気” を持って、やっていきたいと思ってます」映画『ソワレ』Makuakeクラウドファンディングは9月27日(金)まで実施中。(text / photo:Naoki Kurozu)
2019年09月25日「もっと“嫌われる勇気”を持ってやっていかないといけないなと思ってます」――。豊原功補はそう言って笑みを浮かべる。ここ1年半ほど、何かと芸能界を騒がせている“渦中の人”である。ひとつ何かアクションを起こすたびに――それが純粋に映画や舞台の作品に関することであっても――よくわからない「関係者」のコメントや憶測を伴ったいわゆる“芸能ニュース”として世に拡散されていく。そんなウンザリするような状況にあっても、豊原功補は歩みを止めない。日本の映画界、エンターテインメントの世界を変えるために何ができるか?自らの“志”を実現すべく、何が必要かを考え続け、行動し続ける。現在、和歌山を舞台にした映画で村上虹郎、芋生悠(いもうはるか)をW主演に据えた『ソワレ』の制作にプロデューサーという立場で携わっており、クラウドファンディングサービス「Makuake(マクアケ)」にて、本作を支援してくれるサポーターを一般から募集している。そして、本作の制作にあたり、小泉今日子と共に新たに映像プロダクション「新世界合同会社」を設立。「より純度の高い映像作品を追求」(HPより)を目指し、具体的には特定の女優・俳優ありきではなく、作品に最適のキャスティング、コンプライアンスにとらわれ過ぎない自由な映画作りなどを掲げている。俳優としての十分に安定した地位を捨ててまで、多くの“敵”を作りながら、彼は何を変えようとしているのか?どうしたら日本のエンターテイメントのクオリティを上げることができるのか?たっぷりと話を聞いた。作品に携わった経緯「目の前のチャンスを放っておく余裕がない」まずそもそも、なぜ豊原さんと小泉さんが和歌山を舞台に制作される『ソワレ』に関わることになったのか?「きっかけは本当にシンプルです。和歌山を舞台に映画(『ボクはボク、クジラはクジラで、泳いでいる。』、『ちょき』など)を作ってきた前田和紀と『わさび』や『春なれや』といった短編映画を作ってきた外山文治監督が新たな映画を和歌山でつくることを考えていて、偶然なんですがウチのスタッフが外山監督と知り合いで、顔を合わせる機会があったんです。それから少しして『一緒にやってもらえませんか?』とお話をいただきまして」。「当時はまだ『新世界合同会社』も存在していませんでした。舞台制作に関しては別の会社(※小泉さんが立ち上げた『株式会社明後日』)でやってましたが、そろそろ映像作品も手掛けてみたいとか、いろんな思いがあった中でちょうどお話をいただいて、これもひとつのきっかけなのかなと、いっそ組織を作って映像制作会社をやってみようとなりました」。「いっそ組織を作って」とさらりと言うが「豊原功補と小泉今日子が映像制作会社をつくる」となると、世間は様々な受け止め方をする。もちろん、Makuakeで支援を募るにあたって、話題を呼ぶという点でポジティブに捉えることもできるが、会社という組織を作って、これまでの映画作りの常識を変えると宣言することは、相当な覚悟が要ったはずだ。「会社を作るということに限らず、何か一歩踏み出そうとすれば、いろんなネガティブなことが頭をよぎりますし、障害が目に見えたりする部分はあります。逆に後押しをいただける部分もあります。ただ、総じて鈍感になっていくといいますか(笑)、目的以外のことはどうでもよくなってくるんですよね」。「あとね、乱暴な言い方ですけど、自分の人生の残りの時間を考えた時に、目の前のチャンスを放っておく余裕がないんです。いまやらなきゃ、本当にやる時間がない。結局、何をやってもプラスとマイナスの側面はついて回るものだし、人間はどうしても自分の経験の中から『あんなことになったらどうしよう?』『こんなこと言われるんじゃないか?』って過去の嫌な思い出に自分を縛り付けちゃうんですよね。でも、実際にそうなるとは限らないし、映画なんて作ってみなくちゃわかんないですから。ネガティブな感情がつい付きまとうけど、それを上回るポジティブな思いを抱いてからこそ、踏み出せたのかなと思いますね」変わりゆく日本映画「景色が変わってきている」実際に足を踏み出してみた結果は「いろんな意味で予想通りでした」とのこと。「ポジティブなこともネガティブなことも思っていた通りに両方、やってきましたね。ただ、どんなことでもそうなんでしょうけど、ポジティブな面や喜びって見えづらいし、後からやって来るものなんですよ。まずはネガティブな面がどんどん押し寄せてくるものなので(苦笑)、そこでいかに挫けずに立っていられるか。感情面もそうですし、実際の制作プロダクションという仕事の大変さは本当に予想以上の大変さで、『これだけのことが押し寄せてくるのか!』と挫けそうになりましたが、もう走り出しているわけですから、逃げ出すわけにはいかないんでね。『しょうがない』という気持ちで(笑)、やってます!」繰り返しになるが、この1本の映画『ソワレ』を完成させ、世に送り出すことがゴールであるなら、わざわざ「会社」を作って、“敵”を増やす必要はない。この1本だけではない、“先”を見すえているからこそ、こういう形を選んだのだ。「こうやって取材を受けて、ご質問をいただくことで、改めて対峙すべきことが明確になった気がします。いや、“敵”という言葉をあんまり使うと叱られそうですけど(笑)、(会社組織にしたことで)そういう対象がよりハッキリ見えるようになったのかなと思います」。「映画というのは大きくて歴史の長い、世界的なマーケットです。現状、いま、日本の映画界が何か大問題を抱えて映画が作れないような状況かと言うとそうではないし、動員数だって伸びているという話もあるわけです」。「でも、『日本映画』に限って捉えると、僕が俳優を始めた10代の頃、もう30~40年前の時代にワクワクしながら背伸びして、大人の世界を覗き見ていた時代とは、ずいぶんと景色が変わってきているということは感じていました」。「(映画のターゲットとなる)対象が若いというか、1人よりも2人、2人よりも3人、4人、5人で見に来られるような内容を目指している作品が大部分で、そうなると最大公約数的な映画というか“簡単な映画”になってしまうのは必然ですよね。自分のような人間が楽しめるような映画が確実に減っているんです」。苦難の道を選んでも歩みを止めない理由観客の減少に伴い、かつて隆盛を誇ったミニシアターが次々と閉鎖されていく。映画が巨大なシネコンに集約されるようになり、そこでは初動の数字で「入らない」と判断された映画は容赦なく切られていく。数字の読めないオリジナル脚本の映画は敬遠され、数字の見込める人気原作の映画化、旬の人気俳優ありきのキャスティングの作品が幅を利かせるようになったのはまぎれもない事実。「そうなるともう、小さな映画はどこで上映されているかという情報すらままならなくなって、そんな映画は『存在しない』ものになってしまうんです。俳優のモチベーションも下がるし、作り手も夢が持てなくなってきている」。「そういう映画界の一面を目の当たりにしてきて、おこがましいんですが、僕だったり小泉だったりという、世間の耳目を集めるであろう人間が動くことで、何かが変わったらいいなと。なれるのであれば“人柱”でも いいので、何か少しでも変えていけたらという思いです」。「さっきも言いましたけど、この歳になると、そういうことができる時間って限られてるんですよ。若かったらまた違った方法があったかもしれない。 『あと何年、身体がバリバリ言うこと聞くのか? 脳が立派に働いてくれるのか?』って考えると、いましかない。ネガティブな部分を含めてでもいいから、(自分たちの行動が)何かしら気に留めてもらえたらいいなと。そりゃみんな、家族がいたり、上司や部下がいたら、簡単にはハミ出さないですよ。物事は簡単に変わらない――それは今回、本当に実感してます(苦笑)。でも、僕らの思いの10歩、20歩先、1年か2年先に『あんなこと、できるかも』という可能性を残すことができたらと思っています」。「昨今、芸能プロダクションと所属俳優の問題だったり、政治やスポーツの世界のいろんな問題の所在が露わになってきてますよね?YouTubeやSNSというツールが一般化されたことで、可視化されるような部分もある。ちょっと乱暴過ぎるきらいはありますけど。そうやって『あの業界も変わったらしいよ』というひとつひとつの『点』が結びついて、やがて大きな変革につながっていくかもしれない。そのひとつの『点』になれればと思います」。【後編に続く】映画『ソワレ』Makuakeクラウドファンディングは9月27日(金)まで実施中。(text / photo:Naoki Kurozu)
2019年09月24日表面の空気は静かで穏やかだが、内側から伝わってくるのは確かな熱。それがなければ、7年にもわたって1つの作品と向き合うことなど不可能だろう。22歳のときに原作漫画に出会い、連続ドラマの形を成したのは昨年4月。そして、まもなく映画の公開を迎える『宮本から君へ』を、池松壮亮はたっぷりの愛情を滲ませながら「非常に振り回された作品(笑)」と表現する。「(映画の)完成という形で、僕の中でも決着がついた気がしていて。正直に言って、ほっとしました。細かい経緯を語るつもりはこの先もありませんが、苦労しましたから。あらゆる人たちが映像化しようとして、何度も駄目だったのが『宮本から君へ』。きっと、人間が触れちゃいけない領域に触れた漫画だったからでしょうね」。作品は「新しい時代に向けての精一杯のギフト」作品タイトルにもなっている“宮本”は、文具メーカーで働く営業マン。不器用過ぎるほど不器用で愚直な彼を、池松さんは全身全霊などという言葉が空回りして聞こえるほどの熱で演じた。その宮本がサラリーマンとして這いつくばり、あがいていたのが連続ドラマ。映画では、生半可な気持ちであがくことすら許されない“壁”が彼に迫ってくる。「ドラマのときの宮本には挑むべきものが明確にあったし、自ら困難に向かう節すらあった。困難への体当たりを繰り返すたびに、自分自身の傲慢さや行き過ぎた気持ちと葛藤している部分もあったと思います。でも、映画ではそんなことを言っていられない。決して乗り越えられない大きな壁が、向こうからやって来るんです。自分がどうとか、“俺は何者なんだ?”なんて考えていられない状況になってしまう」。物語の中心には宮本と、ドラマにも登場した女性・靖子(蒼井優)がいる。仕事仲間を通して出会い、やがて惹かれ合い、人生を交錯させる2人の物語が展開していくのだが、映画の宮本を演じるうえでは「ざっくり言うと、覚悟みたいなもの」が必要だったという。その「覚悟」は劇中で精神的、肉体的痛みに晒されてなお立ち上がろうとする宮本の姿と重なり、「苦し紛れのギフト」となって観客に届けられた。「作品に携わった全員から、新しい時代に向けての精一杯のギフト。そんな気でいます。7年かかったからには、この時期に完成して世に出る必然を願う気持ちで。ただ、22歳のときも29歳のいまも、宮本に対する思いはあまり変わらない。当時のイケイケだった池松が彼をヒーローとして見ていたときより、振り回された分だけいまは愛憎が入り混じっていますけど(笑)」。「でも、22歳で演じられたとして、そのときにはないものが、いまの僕が演じた宮本にはあると信じたい。余計なことまで知ったうえでやったほうがよかったのか、知識量がない状態でやったほうがよかったのか。それは分からない。いまは宮本をやると体が痛いけど、当時なら平気だったかもしれない(笑)。それも分かりませんけど」。どんなにやり切っても達成感は同じ「そうやって進んでいく」「どうしたって、俳優は受け仕事」と言う池松さんは、“俳優・池松壮亮”を1本の線上で語ることを嫌うかもしれない。けれど、近年の主演作だけに目を向けても『夜空はいつでも最高密度の青色だ』があり、『君が君で君だ』があり、『斬、』があり、『宮本から君へ』があり…。太くて濃い線の先にあるものに目を向けたくもなる。「う~ん、月9ですかね(笑)?それは冗談として、“停滞してたまるか”という気持ちは常にあります。ただ、数年先に『宮本から君へ』があると思ってやってきたわけではなく、1つ1つやって来た先にあっただけで。それはどの作品も同じ。あえて語弊のある言い方をするなら、あまり期待されると困るかも(笑)」。燃え尽き症候群になることは?こう訊くと、「なりますよ」とあっさり。「なりますけど、そのままでいるわけにはいかない。宮本になぞらえて言うなら、どんなに頑張っても彼がすべての問題を解決できるわけではないのと同じように、どんなにやり切っても、僕がもらえるのはコップ1杯の達成感。本当に、そのレベルで。撮影が終わった直後ですら、疲弊しながらも“次はどうしようかな?”と考えていますからね。宮本に“勝ち”がないように、僕もそうやって進んでいくんだと思います」。進むには、「出会い」が重要だとも。では、出会いを引き寄せるためにすべきことは?「願うこと…かな?言葉にすると、超簡単ですけど。僕を含め、願わずして奇跡が起こるものだとみんなが思い過ぎているような。待っていても、何も始まらないですからね。長い人生で考えれば、その人にとっての喜びが向こうからやって来ることもあるかもしれないけど。苦労せずして、何かが始まるのを期待するのは間違っている気がする」。1つの作品と長い時間を共にした。何人もの名監督たちと組んだ。映画賞の授賞式で壇上に上がりもした。走り抜けた分だけ、出演本数が増えた。来年の7月で、30歳。30代を楽しみにしているか?と最後に訊ねると、少し考え込んでから表情を和らげた。「26~28歳のころは焦っていましたけど。令和にもなっちゃいましたしね。仕事だけでなく、いろいろ楽しみ。それに、宮本をやって熱さをふりまいた奴が、“いやあ、楽しみがなくて”なんて言っちゃいけない。うん、楽しみですよ」。(text:Hikaru Watanabe/photo:You Ishii)■関連作品:宮本から君へ 2019年9月27日より全国にて公開Ⓒ2019「宮本から君へ」製作委員会
2019年09月19日「俳優として大切にしていることが2つあるんだ。1つ目は役者自身が真に感じていれば、その感情は必ず観客にも伝わるということ。そして2つ目…、えーっと、何だっけ?すごくいい言葉なんだけどな。思い出すまで、時間をくれるかい?えっ、次の質問にいく?」こんなお茶目な素顔を見せてくれたのは、主演作『アド・アストラ』をひっさげ、通算12度目のプロモーション来日を果たしたブラッド・ピット。都内で取材に応じたブラッドは時折「まだ、ちょっと時差ボケでね。僕がいま言ったこと、ちゃんと君の質問の答えになっているかな?」と気づかいを披露する場面も。気さくでありながら、常にジェントルマンで居続ける姿も印象的だ。初めて挑んだ宇宙と繊細な役へのアプローチ先日閉幕した第76回ヴェネチア国際映画祭で世界初披露され、「『2001年宇宙の旅』と『地獄の黙示録』が出会った」と絶賛を浴びた本作(見れば、その意味はわかります!)。ブラッド演じる主人公の宇宙飛行士、ロイ・マグブライドが、知的生命体の探索に出かけたまま、宇宙の彼方で消息を絶った父(トミー・リー・ジョーンズ)の行方を追い求め、衝撃の救出ミッションを繰り広げる超大作だ。メガホンをとるのは、ジェームズ・グレイ監督。意外な気もするが、ブラッドが宇宙を舞台にしたSF大作に出演するのは、初めてのことだ。「映画史をふり返れば、すばらしいSF映画が星の数ほどもあるから、あえて自分が取り組むことに躊躇もあった。よほど斬新で意義があるアイデアでなければね」とSFへの敬意を示すブラッド。だからこそ、脚本も手がけるグレイ監督が提案した“自己探求の旅”という視点には、大きく魅了されたそうだ。「映画は主人公が壮大な宇宙空間で、父親を探すというストーリーだ。重要なのは、それがイコール、自分自身を探す旅路だという点。ロイは父親との関係性に、後悔や自戒の念を抱いている。それに年齢を重ね、父親の気持ちも理解できるから、より葛藤が深まっているんだ。ロイ自身も複雑で、欠点が多いけど、人間の本質はそういうものだから。壮大な宇宙と、ちっぽけな自分…。そのコントラストも効いているし、銀河の闇が孤独を詩的に表現している点も気に入っている」この言葉からも、『アド・アストラ』が単なる人命救助のSFアドベンチャーではないことがわかる。ブラッド自身も「後悔や自戒の念を抱える」「複雑で、欠点が多い」人物像を体現するため、「可能な限り、内面的な演技を心がけた」のだとか。「監督のジェームズには、『もしカメラに映る僕の演技が、あまりに平坦で退屈だったら、言ってくれ』って伝えたよ。それくらい(演技を)抑えたんだ」。結果的に、ブラッドが本作で見せるセンシティブな名演には、早くも「アカデミー賞ノミネートは確実」の声があがっている。俳優業も継続?「心惹かれる企画と出会えば、出演する」今年はレオナルド・ディカプリオと共演した『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』も好評を博し、世界的に大ヒットを記録。俳優ブラッド・ピットにとって、何度目かの“ピーク”が訪れた感がある一方、「俳優を休業するのでは?」という一部報道もあり、ファンをやきもきさせている。まさか、『アド・アストラ』で燃え尽きてしまったの?率直に質問をぶつけると、ブラッドはこう答えてくれた。「ニューヨークタイムズ紙の報道のこと?実はそれ、読んでいなくて(笑)。ただ、いまのハリウッドは若者が主人公になるケースが多いから、おのずと僕ら世代が主演を務める機会は減っている。だから“表舞台”とは違ったフィールドで、やりたいことが見つかるって自然なことだよね。もちろん、俳優として心惹かれる企画と出会えば、出演するよ!」この言葉を聞けただけでも、本人にインタビューできたかいがあるというもの。さらにブラッドからは興味深い著名人の名前も飛び出した。それがいまは亡き伝説のロックスター、デビッド・ボウイだ。「さっきの休業説とは別に、いまの自分が心の平穏を求めているのは確かだよ。ボウイみたいに(表舞台から)優雅に去るというのは、一種のあこがれなんだ」。ブラッドにとって“そのとき”が来るのは、ずっとずっと未来のお話であることは言うまでもない。さて、冒頭で紹介した「俳優として大切にしている」2つ目の信条だが、残念ながら、ブラッド自身が思い出せずまま、タイムアップ。本人も残念そうな表情だったので、ぜひ次回お会いした際に教えてください!(photo / text:Ryo Uchida)■関連作品:アド・アストラ 2019年9月20日より全国にて公開©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation
2019年09月18日小栗旬と成田凌。映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』での共演を経て、近しい仲になったそうだ。取材前、成田さんが小栗さんに礼儀正しく「おはようございます!」と挨拶をすれば、小栗さんが屈託のない笑みを向け、一言、二言添えて成田さんに返した。朗らかに会話をする様子はインタビューでも顕在だったが、親しいけれど、決して“ゆるく”はない空気が心地いい、そんな信頼関係を思わせる先輩、後輩の間柄が、ほの見えた。ふたりが初共演を果たし、蜷川実花が監督を務めた『人間失格 太宰治と3人の女たち』は、日本を代表する作家のひとり・太宰治の遺作となった「人間失格」の誕生秘話を、彼を取り巻く女性の視点を交えて事実をもとにしたフィクションとして描いたオリジナルストーリー。1946年、人気作家の太宰(小栗旬)は、彼の支持者である静子(沢尻エリカ)と「芸術のための恋」の名目で逢瀬を重ねる。そんな太宰の不貞を見て見ぬふりをしながら、支え続ける妻・美知子(宮沢りえ)だったが、ついには第三の女・富栄(二階堂ふみ)も現れ…。道ならぬ恋のうわさが絶えず、自殺未遂を繰り返しながらも、憎めない、惹かれずにはいられない魅力あふれる太宰を小栗さんが、そして、成田さんが太宰の行動に戸惑いながらも、才能にほれ込む編集者・佐倉を担当した。関係そのままとは言わないまでも、先輩俳優である小栗さんの魅力や立ち居振る舞いに、成田さんが心を寄せていることに違いはなく、インタビューでも嬉々として語られた。そして、現在俳優としても伸び盛り、本作でも未知の顔を見せ、さらには「MEN’S NON-NO」の専属モデルとしても活躍する成田さんの才能を、小栗さんも「作品への溶け込み方が優れている」という最上の表現で、さらりと語ったのだ。「ああ、ここに飛び込めばいいんだな」という安心感を持って臨んだ撮影――すごく仲睦まじいおふたりの雰囲気なのですが、本作の共演を機に、ですか?成田:はい、そうです!小栗:『人間失格』を撮ったのが去年の12月で…それからいま8か月くらい経ったのかな?成田とは結構会っているんですよ。連絡をくれますし、パッと呼び出しても、すぐ来てくれるから(笑)。成田:フットワーク、もちろん軽いです(笑)。旬さんに呼ばれたら、海外でも、どこへでもすぐ行きますよ!小栗:本当?成田:もともと学生のときから視聴者として観ていましたし、こうしてお話をしていても、「ずっと聞いていたい」と思うくらい、尊敬しています。旬さんは、甘えさせる隙を見せてくれる方でもあるんです。――小栗さんから見た成田さんの第一印象は、いかがでしたか?小栗:僕から見た成田は…。成田:「ゴールデンレトリバーだと思っている」って前、言われました。小栗:そうそう、ちょっと似ていませんか(笑)?――僭越ながら、はい(笑)。小栗:ね、ちょっと犬っぽい顔してるでしょ?成田:自分でも腑に落ちます…。小栗:キャラクターも、ちょっと犬っぽいかもしれないですね。明るく元気な、気持ちのいい青年です。――本作ではご一緒するシーンも多かったと思います。お芝居をしてみての感想も教えてください。成田:目と鼻くらいの距離、くっつくんじゃないかと思うくらいの距離でお芝居をさせてもらいました。旬さんの目を見ていると、「ああ、ここに飛び込めばいいんだな」というくらいの信頼や、「何をしても絶対に返してくれる、大丈夫」という安心感があったので、僕はとにかくやればいいと思っていました。小栗:成田は…何だろうなあ。不安定な感じがいいんじゃないかな。決まっていないところが、素敵なところじゃないかなと思います。成田が出ているほかの作品を観ても、作品への溶け込み方が優れているのかな、と感じますね。いろいろな顔を持っているんだろうな。太宰と佐倉、印象的なそれぞれのセリフは…――太宰は女性に対して懐の深い役ですが、こうした役は演じていて楽しいものでしたか?小栗:うん、楽しくはやっていたけど、楽しい半分、しんどい半分みたいな感じでした。太宰はいろいろな人をある意味、裏切っている生活だけど、それを感じていない人物ではないので、どんどん彼の中に蓄積していくんですよね。役を通してやりながら生活しているのは、なかなかしんどいところだったりします。――セリフでもまさに、太宰が佐倉に「何も感じていないと思っているのか」と詰め寄るシーンがありましたよね。小栗:ありましたね!成田:ああ、いいセリフですよね!――印象に残るセリフがほかにも数多く出てきますが、おふたりが好きなセリフは何でしたか?成田:好きとはちょっと違うけど、僕は「心の底から軽蔑します」というセリフです!小栗:「心の底から軽蔑する」って…なかなかだよね!?いいセリフだよね。成田:佐倉は太宰のことを本当に尊敬しているのに、そんな人に向かって言って、でもまだ愛し続けているんですよ。そんなこと、なかなかないし、いいですよね。結果、才能がすべてを上回ってしまっている、という。小栗:そうだね。僕は太宰の衝撃的なセリフで言うと、予告でも流れている「大丈夫、君は僕が好きだよ」かな。成田:タバコを吸いながら、キスして言うセリフですからね(笑)!――小栗さんが演じる太宰だから、色気に翻弄されて、説得力のある言葉になりました。小栗:いえいえ(笑)。なかなか言えるセリフじゃないですよね。結構乱暴な言葉だなと思いますけど、それが言えるあの人は、すごいですよね。成田:すごいと思います。結構なことをかなり言っていますよ!小栗旬「藤原竜也と自分が同じ年に実花さんの映画の主演をやることは、何だか運命的」――セリフ以外でも、演じる上で太宰の表情やしぐさなど、意識したことも多々ありましたか?小栗:例えば、富栄とのキスを妻の美知子と子どもに見られてしまうところ。あのシーンでの表情なんかは…自分が生きてきた中で振り返ると、人に見られたくないものを見られたとき、喧嘩をするときとかは、滑稽な顔をしていることが多いと思うんです。本当にきつい瞬間に出る顔は、うそのような顔を意外と本当にするんだよね、と思っていたりもして。太宰のキャラクターに出したところもあるので、そういう意味では意識したのかもしれないです。――太宰のおろかさや必死さには、試写室では笑いも沸き起こっていました。小栗:笑えますよね。これだけ一生懸命みんなが生きているから、逆に笑えてきちゃう、という。すごく喜劇だと思いますし。彼は自分のことを道化みたいな言い方をしていますけど、そういう部分がある人だなと思います。実際、いろいろ残っている資料からも、太宰は決して暗い人ではなく、明るくユーモアのある人なんだ、ということが見えてくるので、そう映ったらいいなと思ってやっていました。――蜷川監督との取り組みについてもお聞かせいただきたく。成田さん、今回初めての蜷川組でしたが、いかがでしたか?成田:写真の現場でお会いすることがあって、そのご縁で、映像で今回初めてご一緒しました。写真のときと変わらず、実花さんは現場を華やかにしてくださる印象です。すごくいい雰囲気でできたのは、とてもありがたいことでした。演出も、心にスッと入ってきてくださるというか、さらっと世間話風にしながらも「このシーンは…」というお話があったりして演出をされるんです。すごく聞きやすく、わかりやすく、本当に人の気持ちがわかる方なんだな、と思いました。――小栗さんは、蜷川監督のお父様である故・幸雄さんと非常にゆかりがあると思います。監督とは『Diner ダイナー』でもご一緒されていましたが、主演俳優として長い時間仕事をすることは、どのような経験になりましたか?小栗:そうだなあ…まだちょっとわからないんです。結局、作品というものは、作った後はお客さんたちに育ててもらうので、自分の作った太宰がどういうところに向かっていくのかには興味がありますけど、いまやり切った時点では、「やる前」「やった後」に大きな何かがあるわけではないです。ただ、蜷川(幸雄)さんに育ててもらった藤原竜也と自分が、同じ年に実花さんの映画の主演をお互いやることは、何だか運命的なものを非常に感じています。実花さんと仕事ができるのは、改めてすごく光栄なことだと思ってやっていました。全然違うんですけど、…それでもやっぱり場の作り方の部分では、(蜷川)イズムは感じましたし、僕にとっては物腰のやわらかい蜷川さん、という感じです(笑)。(text:Kyoko Akayama/photo:You Ishii)■関連作品:人間失格 太宰治と3人の女たち 2019年9月13日より全国にて公開© 2019「人間失格」製作委員会
2019年09月09日雰囲気づくりの達人。その場にいる誰もが気持ちよく仕事ができるように、友達のような気さくさで接し、空気を和ませる。ノーガードの佇まいで、草なぎ剛はこちらの余計な緊張をスッと解いてくれる。ついに公開される主演作『台風家族』で演じている鈴木小鉄とは正反対の、明るい表情だ。9月6日(金)から3週間の限定公開の実現について、「皆さんの応援の声が届いたおかげです。本当にありがたいと思っています」と言う。「新しい地図を広げて、慎吾ちゃんと吾郎さんも主演映画が今年公開されて。僕もそこに加われば、全部ラインナップが揃うという気持ちもあったので、うれしい。待ってくれている方々に早く観てもらいたいです」。あえて役づくりをしない、その理由草なぎさんが演じる小鉄は4きょうだいの長男。年老いた両親が銀行から2000万円を強盗、行方をくらましたまま時効を迎えたことから、子どもたちが10年ぶりに実家に集まり、形ばかりの葬儀と遺産相続の話し合いをするのだが、それぞれの思惑をぶつけ合ううちに、次々と意外な事実が浮かび上がってくる。今回の役にどう臨んだか問うと「もうノープランですね、この場合は」と言う。「それが面白いというか。今回はオリジナル脚本だったので、別に準備せず、自分の中に余白がある方が、監督の言っていることを受け入れられるんじゃないかと思って、本当に何も考えずにやらせてもらいました」。丸腰で戦いに挑むようなその状況は、逆に怖くないだろうか。「いや、怖いですよ。けど、何も準備するものがないからしょうがない(笑)。だからもう早く寝るだけ。とりあえず睡眠を取っておけばどうにかなる。睡眠が僕の一番の役づくりなんですよ」と言う。「自律神経が整ってないと活舌も悪くなるし、ちょっとしたことや音が気になったりする。だから僕はいつも10時に寝ようと思ってます。普段も。撮影が遅くなるときもあるんだけど。早く寝て、早く起きれるように。それが一番の役づくり」と言うと、わざと得意そうな表情を作ってみせて「真面目なんですよ、そういうところ。考えているわけですよ。8時とかに寝ますから、撮影に入ると」と冗談めかす。言うのは簡単だが、徹底させるのは難しい。「そう。でも夜中までいろいろ資料とか読んで考えてると、逆に翌日、眠くなっちゃう。それよりパッと寝て、クリアの状態で起きて、現場入ってその空気吸った方がいい。自分で決めつけていくと、監督に何か言われても変えるのが難しくなる。たぶん演技って、何も考えなくてもいいんですよ。こだわりを持っていると、むしろ僕はできなくなっちゃうんです。現場に行けば監督いるし、共演者もいる。セットや小道具があって、『こういう世界観だな』と思ってやるのが好きです」。アイデアやアドリブも「回っているときに生まれる」。そして「役者じゃないんで、もともと」と語る。「いろんなことをやってきました。コンサートもそうだし、ステージに立つこと、歌うことも、バラエティーもそうだし。役者1本で、子役からやってきているのであれば、ちゃんと作るようなお芝居になるかもしれないけど、そういう環境で育ってきてないので。それこそ『ユーたち、やっちゃいなよ』とステージに上げられる環境で育ってきて、そっちが当たり前なんです」。瞬間瞬間に反応、反射していくことで「予想だにしなかった自分に会えたり、本番中、相手に対してこんな感情を持っているんだという発見ある。もちろんリスクはありますよ。自分の中から出なければ、つまんないものになっちゃう。すごいリスクはあるけど、僕はその方が好きです」。歳を重ねたからこそ受け入れられたもの草なぎさんが現場で作り上げていった小鉄からは、子どもの気持ちと親の気持ち、両方が伝わってくる。親のようになりたくないと思いながらも似てしまうその有様がリアルだ。「若いときは自分の親に似てるのがすごく嫌だった。思春期過ぎて20代、中年になる前です。体の成長もいったん終わって、二十歳から人間って老いていくと言いますよね。でも、25って気持ちはまだ若い。そのとき親に似るのが嫌だった記憶があって。家族って血が濃いから、どうしたって顔も似ていくし、同じ遺伝子だから逃れられない運命なんだけど、そこから逃げたい感覚があって。でも、だんだん年とともに、それが『いいな』と感じてくる。でも、やっぱりちょっと照れくさい(笑)」。「恥ずかしさ混じりのむずがゆさの比重がどんどん変わって、“嫌”と“いいな”がひっくり返っていく。それが家族なのかなと思う。ちょっと年を取ってから許し合え、認めてくるのかな。不思議ですね、家族って。タイミングは皆さん違うと思うんだけど。小鉄も父親に似てると自分で分かってるんけど、それを絶対認めたくない。でも、血は争えないということは『台風家族』を見ても思う。だから僕はラストがすごい好き。あそこを見てほしいな」。小鉄は若い頃、夢を追いかけるために家業を継がず、家を飛び出す。その後の挫折を揶揄する弟妹に「俺はまだ夢の途中だ!」と叫ぶ場面がある。10代から活躍してきた草なぎさん自身、いまは夢の途中なのか、それとも夢はもう叶ったのだろうか。「こういう世界に入って、人前で歌ったりお芝居したりということをやりたかったので、その意味では叶っていると思うんです。だけど、その夢をどういう形に、もっともっとより良くつくり上げていくのかという意味では、やっぱり夢の途中っていうことかな」芝居の技術より大切なこと「常に自分と向き合う」小鉄と草なぎさんの一番の違いは機嫌だ。もちろん誰だって、内輪に見せる顔と他人に見せる顔は違う。それにしても草なぎさんはいつも笑顔で上機嫌。仕事柄、ストレスを感じるのは人一倍のはずなのに。本人は「ちょっとおかしい子なんじゃないですか?」と笑い出す。それはないでしょう、と言っても、「いやいや、そうかもしれないじゃない、マジで(笑)。それ一つあると思う。真面目にならないっていうか。たぶん、ネジがちょっと外れてるところあると思う(笑)」。ストレス発散は「そうだな、おいしいものを食べますね、まずね。で、お風呂に入ったり、汗をかいたり。ごく普通のことを意識してるかな」という答え。「どこか痛めたり、病気になると負担になってくる。だから、健康状態を気にしてることかな。まず健康でいること。例えば、スーパープロフェッショナルでどんな芝居もできる人がいたとしても、不健康だったら駄目じゃないですか。極端な話、芝居が下手でも、元気のある人が出られる。技術うんぬんじゃなくて、やっぱり健康だよね、この世界。だって、うまい人なんていくらでもいるんだから」と言う草なぎさん。「そこでうまいのを選ぶより健康を選ぶよね」と断言する。「心を蝕まれちゃうような役、そこまで追い込む役もあると思う。でも、やっぱり心も健康じゃないと次に進めないと思うんですよね」。深刻ぶらずに自分を笑い飛ばしながら、でも、とても自分を大切にしている。そしてそれは、現場で常にベストな状態の自分でいるため。しなやかなストイシズムは自然体という形に行き着く。ではいまは心も体も健やか?「そうですね。健康だし、心がけているところはある。常に、どうしたら健康な体と心でいられるのかなって。やっぱりそれは自分と向き合っているのかもしれません」。(text:Yuki Tominaga/photo:You Ishii)■関連作品:台風家族 2019年9月6日より3週間限定公開©2019「台風家族」フィルムパートナーズ
2019年09月06日音楽家としてはもちろん、俳優、文筆業もこなす星野源。その彼の、実に6年ぶりの主演映画が『引っ越し大名!』だ。実際に江戸時代に行われていた国替え=引っ越し。その理由は様々だが、ささいな出来事をきっかけに国替えを命じられた藩のドタバタを描いた本作。“引きこもり”で“コミュ障”という時代劇としてはちょっと特殊な主人公・片桐春之介を演じている。時代劇だけど“喜劇”だから「やりたい」そのタイトルからイメージする通り、コメディであり、時代劇でもある本作。星野さんの“時代劇”への出演は2016年のNHK大河ドラマ「真田丸」以来となる。「『真田丸』の徳川秀忠は身分が高いので、所作や衣装の着物などもしっかりしていました。頭も中剃りで甲冑を着たりもして。時代劇は“とにかく大変”という印象だったんです。だから時代劇はしばらくやらないように(笑)しようと思っていたら、このお話をいただいて。『きた!大変だ、時代劇だ』と思ったんですけど、まずは脚本を読ませていただきました」。「実際にはこのシーンはなくなったんですけど、僕が演じた片桐春之介が『見切ります!』って言いながら、モノを捨てていくときに、捨てられた人が悲鳴を上げるんですけど、そのときのセリフが『ギャー!』ってカタカナで書いてあったんです(笑)。脚本は原作者の土橋章宏さんなんですけど、原作者の方がこうやって書いてらっしゃるということは、江戸時代の当時の引っ越し、国替えがテーマになってはいるけれど、リアリティラインとしては、時代劇というよりは喜劇なんだと思って、“やりたい”と」。「それでお引き受けしたら、春之介は思っていた以上に、ちゃんとしてない(笑)。どちらかというと社会からドロップアウトしちゃっている人なので、所作や服装をちゃんとしすぎない方が良かったんです。だから衣装のシワも大事なので、休憩時間も横になっていても怒られませんでした。そういう意味ではすごく気が楽だったんです。時代劇だけど、普通の現代劇の人としていた方がいいだろうなという感覚でした。いわゆる、時代劇の形式美みたいなものは、僕以外のキャストのみなさんが担ってくださっていたと思います(笑)」。主役然としなくても、自然と周りがついてくるその人柄と魅力主人公とはいえど、星野さんが演じた春之介は“引きこもり”で“コミュ障”。そんなキャラクターの行動一つ一つが本作の“面白さ”を牽引している。「もう脚本の時点で面白かったので、そこに何かを付け加えることはしない方が良いだろうなとは思っていました。今回の共演者のみなさんも、急に変なことをする人がいなかったので良かったな、と(笑)。でも(濱田)岳ちゃんはプラスしてやっていたのがすごく素晴らしかったです」。「『引っ越し大名!』というタイトルがすでに、なんだか面白いですよね。でも脚本を読んで、最終的にすごく感動したので、そこをしっかり作っていきたいという気持ちが強かった。状況やキャラクターたちの性格から生まれる面白さ。だから目先の面白いことをやるよりも、一つ一つのシーンを真剣に作っていって、その中で自然に生まれる面白さを監督やみなさんに撮ってもらいたいと思っていたんです」。時代劇ならではの大変さはなかったとしても、その撮影現場自体はかなり過酷だったと言う。「京都で撮影していたんですが、気候的にも厳しい時期で、まだ寒さが残っている時期から一番暑いときにかけての撮影だったんです。しかも早朝から深夜まで必死に撮影していました」。「引っ越し唄のシーンも、しんどかったなぁ(笑)。歌いながら移動するだけなんですけど、山の中で全く日よけがないような場所だったので、太陽に照らされながら撮影する、という状況だったんです。丸一日かけて撮ったんですけど、もう、日が暮れたのに撮ってる、みたいな(笑)。昼間のシーンを夜になっても撮影していたので、“使われないだろうな”と思っていたら、案の定、使われてなかった(笑)」。そんな中でもカメラチェンジやポジションチェンジなどで待ち時間も少なくなかった。「そういうときは、ほかのキャストのみなさんと話しながら待っている、という状況でした。だからずっとくだらない話をしてましたよ。完成披露試写会のときのような、みんなが好き勝手なことを話しているような(笑)。誰が中心になってというよりも、みんなが自立している感じだったんです。誰かと誰かが話している隣で、また別の誰かと誰かが全然違う話をしている。それがいつの間にか全員で同じ話をしていたりして。自分も含めて“ここは俺が引っ張っていくぜ!”みたいな人がいなかったんですよ。だからすごく居心地が良かった」。“諦めの悪さ”がもたらすリーダーシップ最初は“引きこもり&コミュ障”の春之介だが、引っ越し奉行となったことで徐々にリーダーシップを発揮し始める。「春之介と似ている」と言う星野さんの“リーダーシップ”について聞いてみた。「うーん…。僕自身は、リーダーシップを取ろう、みたいなことはあまり思ったことがないので分からないですけど、こうしたら一番良いんじゃないの?ということはあるので、そういう意味では、春之介の『諦めない』ところが似ているのかもしれないです」。「何か困難に直面したときに、それを打開するアイデアがちゃんと出るまでずっと考える。こっちを立てたらあっちが立たず、みたいなことって、特にこういう仕事をしていると日常茶飯事なんですけど、それでも僕はどちらも立つまで考えたいと思うタイプです」。「問題が起きたら、何をどう解決して、どういうアイデアを持てばそれが良い形で実現するのか、そういうことをずっと考えちゃうんですよね。だから考えるのが好きなんだと思うんです。そういう諦めの悪さ、みたいなものはずっと持っているので、もしかしたらそこが、何かを引っ張っていくことに繋がったりすることもあるかしれないですね」。犬童監督に「いま、この役を演じられるのは星野源しかいない」と言わしめた星野さん。本作への出演が彼の俳優としての幅を広げたことは間違いない。(text:Ai Takatsuka/photo:Jumpei Yamada)■関連作品:引っ越し大名! 2019年8月30日より全国にて公開©2019映画「引っ越し大名!」製作委員会
2019年08月28日『劇場版 おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~』が大好評、公開中だ。2016年に放送された単発ドラマののち、2018年に放送された連続ドラマはキャスト、スタッフの高い熱量がお茶の間にあれよあれよと広がり、視聴者の興奮の渦を生み出した。最終回の翌週は、「(幻の)第8話」の妄想実況ツイートが広がる、という異例のロスを引き起こしたほどである。満を持しての劇場版となった本作においても、シリーズを0から作り上げてきた徳尾浩司が脚本を担当した。連続ドラマより徳尾さんを追ってきたシネマカフェでは、劇場版でもインタビューを独占敢行。『おっさんずラブ』Tシャツを着込み、変わらぬ穏やかな表情の徳尾さんに、有終の美を飾り「潔く終わった」と語っていた連続ドラマ以降、今日(こんにち)まで、ヴェールに包まれた製作過程を根掘り葉掘り聞いた。「天空不動産東京第二営業所が大好き」…だからこその劇場版――連続ドラマ当時、「潔く終わった」とおっしゃっていました。劇場版となると、新たな生みの苦しみがありましたか?はい。ありがたいことに、連ドラが終わってから、そんなに間を置かずに映画化のお話をいただいたんです。僕もプロデューサーもすごくうれしいけど…完全に終わったつもりだったので、「どうしようか?」と(笑)。「実はあのプロポーズはうそで…」というのは嫌だったので、「その先をやろう」と、話し合いました。――ほかの候補案もあったんですか?連ドラの最後、春田が上海に転勤になったので「上海編」みたいなこともできるな、というのは自分の中でありました。とても映画っぽいし、「どうかな?」と会議で言ってみたりもしたんです。けど、僕は天空不動産東京第二営業所が大好きなんですよね。上海編にしてしまうと、営業所があまり出てこなくなってしまうので、武川さんやマロ(栗林歌麻呂)たちも活躍できるように、東京を舞台にした今作の形になりました。――舞台はそのまま天空不動産、内容は「プロポーズのその先」と固まったんですね。そうですね。恋愛ドラマでは駆け引きが面白かったりするから、両想いの後の話は、ややスピードダウンする懸念もあったんです。でも、結局、僕ら20~30代は結婚する相手が決まってから、いざ結婚するまでにも、いろいろ問題があったりするじゃないですか。結婚式までに何かが起こったり、結婚後の仕事はどうするの、とか。いまの若い人たちも同じような問題を抱えていると思ったんです。個の人生もすごく大事だし、家族になることも大事だから、どちらもうまくいかせるために、悩みながら乗り越えていく話にしよう、となりました。テーマで言えば、「家族になること、夢を持つこと」という2軸ですね。夢と言っても、「サッカー選手になる」とかではなく、大人の夢のことです。会社には属しているけど、会社員として40~50代をどうしていくか、どんな自分になっていくか、という自己実現の話。夢と家族が両立して、その葛藤が描けたら、と思いました。次のページ:みんながプロ意識を持ち寄り作り上げるのが『おっさんずラブ』みんながプロ意識を持ち寄り作り上げるのが『おっさんずラブ』――テーマはぶれていないのに説教くさくなく、コメディ要素で包んでいて見やすいところが、徳尾さんの脚本やキャストの力を感じるところです。『おっさんずラブ』チームのいいところですよね!僕は脚本をやっていますけど、自分ひとりで全部を考えているわけではなく、プロデューサー陣と監督、みんなのアイデアが集まった結果なんです。現場では役者さんが脚本を読んだときに「俺ならこうやる」とひとりひとりが考えて、キャラクターを作ってくれる感じがしますし。誰かひとりがサボってしまうと、その分、穴が空くし、逆に言えば誰も助けてくれないので、みんながプロ意識を持ち寄っている感じが、スクリーンからひしひしと伝わります。――具体的にコメディシーン、リアルに響かせるシーンのコントラスト、メリハリは意識して執筆されましたか?僕や監督は、考えがちょっとコメディ寄りで、爆発とかをキャッキャ喜ぶタイプ。コメディや思いっきりおバカなところは考えるから任せて、というか(笑)。一方、女性プロデューサー陣らはとても冷静で、「爆発、意味あるの?」とか「家族のところが弱くない?」とか「ここは真面目に締めよう」と、脚本ができていく段階で、すごくバランスを見てくれたんです。『おっさんずラブ』はチームとして絶妙なバランスで成り立っているんですよね。――中でも「ここだけは絶対に落としたくない」と脚本に入れ込んだシーン、要素はどこでしたか?今回、営業所のみんなが一つのテーブルを囲んでワーワー議論する、とある場面が出てくるんですね。映画としては非常に地味だし、実はなくても話は成立するんだけど(笑)、僕は好きで。ところが尺の関係上、あのシーンを「丸ごとカットしようか」という議論になったんです。僕の中では『おっさんずラブ』っぽいシーンだと思っていたので、「何とか残したい!」と言った記憶があります。…まあ、よく生き残ってくれたなと(笑)。あとは、部長が炎の上を通過するシーンも「必要なのか?」と言われたら口ごもってしまいますけど、あれは熱意のメタファーなので、必要なんです(笑)!次のページ:思い出に残る作品になるため大事にしたこととは思い出に残る作品になるため大事にしたこととは――本作より参戦する沢村一樹さん、志尊淳さんもおいしいキャラクター設定です。どうやって思いついたんですか?最初に、プロデューサーが「ライバルをふたり登場させたい」と言っていました。入れるなら、ただ豪華にするのではなく、いままでのキャラクターたちの背中を押してあげるような、「このふたりがいてよかった」と思えるキャラクターにしたい思いがありました。だから、ひとりは部長より年下だけど、大人の魅力が溢れて危険な香りがする狸穴迅(沢村さん)で、もうひとりは春田が「かわいいな」と弟分として面倒を見たくなるような山田正義(ジャスティス)(志尊さん)。狸穴は、さらに牧の本社でバリバリ仕事をする、仕事の理解者としての立ち位置でもある。テーマの「家族と夢」という両方のテーマを支えるキャラクターを入れたつもりです。――脚本家によってはセリフを変えることを好まない方もいらっしゃるかもしれないんですが、徳尾さんはどう見ていますか?僕、自分がどう書いたか一言一句覚えているわけではないので、映像を見て「ここ、違うな」とは、思わないんです。シリアスとコメディの2パートあったら、シリアスなところは脚本通りやらないと意味が通らないですし、心情がずれてしまうのでほとんど変わらないと思いますが、コメディ部分は脚本通りやっても面白くならないこともあるというか、ひとりが違うことをしたときに、空気で合わせてやっていくことが大事だと思うんですね。脚本にある文字を一言一句違わず追うことが一番大事なことではなくて、そのシーンの意味をみんなが脚本から汲み取り、理解してやることが大事なので。そこを瑠東監督が、うまくさばいてれていますよね。笑いの部分は特に、瑠東監督じゃないとできない。だから、たとえ書いたセリフと違っていても、ちゃんと面白くなっているのでいいのです。――総じて「劇場版をやってよかった」というお気持ちでしょうか。最後に一言、お願いします。劇場版なので、テレビドラマと違い、お客さんがチケットを買ってご覧になるわけなので、「映画を観た!」と思い出に残るものにしたい気持ちがありました。連ドラの「おっさんずラブ」で、皆さんが「よかった」と言ってくれたのは、人と人との関係性を今一度見つめ直すところ、向き合い方の部分だったはずなので、そこは大事にしたつもりです。彼らがどうなっていくかが重要なので、例えば、春田と牧なら、ふたりの愛が深まっていく要素をきっちり描くことも決めていました。…花火や爆発も起きていますけど、想いが溢れて爆発しちゃった、というくらいのものです(笑)。(cinamacafe.net)■関連作品:劇場版 おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~ 2019年8月23日より全国東宝系にて公開©2019「劇場版おっさんずラブ」製作委員会
2019年08月26日人気シリーズの途中参戦は、ハードルが高いと言われる。2018年、社会現象を巻き起こしたドラマ「おっさんずラブ」の劇場版となれば、プレッシャーを感じないわけがないだろう。しかし、不安要素を期待値の高さにさえ変え、新規組の沢村一樹と志尊淳は『劇場版 おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~』で既存のキャストたちの世界観に溶け込み切った。…どころか、新しい風を吹かせ、物語のスパイスとなり、作品の魅力をより強固にした最強のふたりである。『劇場版おっさんずラブ』は、天空不動産に勤める春田創一(田中圭)が主人公の物語。後輩の牧凌太(林遣都)と永遠の愛を誓った春田は、上海・香港の転勤を経て帰国する。久々に戻ってきた東京第二営業所には、黒澤武蔵(吉田鋼太郎)をはじめ、お馴染みのメンバーのほか、新入社員・山田正義(ジャスティス)(志尊淳)も加わり賑やかだった。だが、狸穴迅(沢村一樹)がリーダーを務める本社のプロジェクトチーム「Genius7」が突如として現れ、暗雲が立ち込める。そこには本社に異動し、チームの一員となった牧の姿もあった…。劇場版では、春田と牧、黒澤部長の3人にジャスティス、狸穴ががっぷりと絡み合い、爆笑必至、感涙必至の出来となっている。俳優として踏んだ現場は数知れず、百戦錬磨の沢村さん、若くして数々の作品で芯を食った演技を披露してきた志尊さんをもってしても、覚悟と挑戦が必要な現場だった。『おっさんずラブ』に触れて、ものづくりへの高い意識や楽しさ、「なれ合いではなく、妥協がない」現場に臨む気持ちについて、洗いざらいしゃべってもらった。せっかくの『おっさんずラブ』だから…――大反響ドラマ、劇場版への出演です。それぞれの役のオファーがきたときの想いはいかがでしたか?沢村:天空不動産のみんなは、決してふざけてやっていないんですよね。真剣にコメディをやっているのがわかったので、そこを壊してはいけないと強く意識していました。僕の役はなかなか底が見えないキャラクターという部分もあり…加減が難しかったです。例えば、牧を見る目も、普通に見ているのか?じっとりと見ているのか?という感じで。志尊:すでに完成されているチーム、天空不動産で一丸となっているところに途中から参加させていただくという点で、最初、少し遠慮していたところがあったんです。初日に圭くんに見抜かれて、ごはんに誘われて、芝居どうこうという話ではなく、「何をやっても受け入れるから、志尊の好きなようにやってね」と言ってくれたんです。それからは自分からアプローチしたりして、いろいろ試みました。皆さん、本当に寛大に受け入れてくださいましたし、絡みの多かった圭さん、鋼太郎さんが引き出してくださったことが一番大きかったです。――劇中、関わり合いの深い田中さん、吉田さん、林さんとのお芝居について、引き続き伺いたいです。沢村:僕は本社側の人間なので、林遣都くんと一緒の時間が多かったんです。林遣都くんは…本当に憑依型の芝居なんです。「本番」となった瞬間に、目がクルンと変わった、と思うくらい。連ドラで作った役が体に染みついているんでしょうね。「よーい、スタート」となったら、もう牧なんですよ。圭くんは自分が普段やっていることをそのまま役にぶつけていて、感情をぶつけないとわからないような、すごい芝居をするし。鋼太郎さんは初共演だったんですけど、全部を包み込むようなジェントルさがあるのに、芝居になると変化球を投げてきたりして(笑)、面白かったです。いいバランスでできていますよね、すごく刺激になりました。志尊:僕は圭さんとの芝居が多かったのですが、テイクによって違うことが起こるんです。その場で感じたことを大事にやられていて、圭さんだからこそ、自分の感情も高まったと思います。特に花火のシーンは、どう作っていくか、リハーサルから監督とディベートを重ねましたが、その中でも感情に没頭できたのは、確実に春田さんと会話をしていたからだと思います。湧き立つものがどんどん出てきました。アドリブ全開! サウナシーンでの強烈な裏話披露――5名が一堂に会するのはサウナのシーンかと思いますが、『おっさんずラブ』を象徴するシーンともいえそうです。最終日に撮られたとか?沢村:そうなんですよ。もう…アドリブだらけでしたよ(笑)。志尊:サウナシーンに挑む前、色々と話し合ったのに、結果「台本って何だっけ?」という感じでしたよね(笑)。沢村:全然反映されていないよね!林遣都くんが…鋼太郎さんに負けじと挑んでいくところが、すごくて(笑)。部長は本当に牧のことを敵視しているし、互いがライバルとして見ていて、めっちゃ面白かったなあ!ネタバレなしでお話できることと言えば…、何テイク撮るかわからないのもあって、メイク直しが大変になるから「顔に水をかけるのは止めよう」という話になったんですよ。いざ本番になって、いざこざが始まったら、林遣都くんがバッシャーッと鋼太郎さんの顔に勢いよく水をかけていた(笑)。志尊:一瞬ヒヤッとなりましたよね!?何が起きているか、わかりませんでしたもん。沢村:ね!本当に牧を気持ちで演じているから「頭にきているときに、顔に水かけないって何だよ!かけるに決まってるだろ!!」ということだと思うんですよね。あれはすごかった。志尊:アドレナリンが出まくっていましたよね。深く携わった沢村さん&志尊さんが語る『おっさんずラブ』の魅力――深く携わった『おっさんずラブ』について、改めて今どう感じていますか?沢村:ほかの現場であまり感じない熱量、ただ高いだけではなく、役者同士だけでなく、スタッフにも伝染してできていったのが『おっさんずラブ』だと感じました。ひとりひとりのキャラクターがちゃんと生きているのも、強いところだと思うんです。田中くん圭、吉田鋼太郎さん、林遣都くん以外の皆さんも、すごい輝いているんですよね。本当の温かさみたいなものが、これだけ多くの人に愛されているゆえんかなと、改めてすごく感じました。志尊:すべてのキャスト、スタッフさんたちの作品へのこだわり、愛が格段に違います。「作品をよくするため」とベクトルがきちんと同じ方向に向いている雰囲気がありました。僕、初めて天空不動産に行くとき、皆さんと「初めまして」でしたし、すごく緊張していたんです。ただ、行く前からグループLINEがあって、その中で最年少組の僕と(金子)大地に圭くんが、「頑張れ」という気持ちで「ジャスティスめっちゃよかったぞ~」とか「大地大丈夫か~?」などと言って煽るというネタがあって。…ということもあって、天空不動産の撮影初日、みんなの前で圭くんが大地に「志尊に言いたいことあるんだろう?」と促したら、大地がに「お前に絶対負けねえから!!」と急に言われたんです(笑)。沢村:え、ホントに!?志尊:はい(笑)。もちろん、ふざけて言っているんですけど、「そうだよな」とも思ったんです。僕が新メンバーとして入ることに対して、「軽い覚悟じゃないだろうな?」ことだろうなと、すごく引き締まりました。だから、新しく入ったからにはプラスできる何かを見出さなきゃいけないと感じましたし、このチームのなれ合いではなく、妥協がないところを垣間見れて、すごく素敵な現場だなと思いました。(text:Kyoko Akayama/photo:You Ishii)■関連作品:劇場版 おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~ 2019年8月23日より全国東宝系にて公開©2019「劇場版おっさんずラブ」製作委員会
2019年08月23日ベビーカレンダーは、8月22日(木)、公式YouTubeチャンネルに、第2弾「出産ドキュメンタリー動画」(計画無痛分娩)を公開しました。 4月10日(水)に公開した第1弾「出産ドキュメンタリー動画」(通常分娩)は100万回再生を超え、大きな反響を呼んでいます。動画には「出産って素晴らしい。誕生の瞬間、涙が出ました」「子どもを産んだときのことを思い出して泣けました」など、命が生まれることの尊さを改めて感じたといった内容のコメントが多く寄せられました。 第2弾の動画は、神奈川県大和市の産婦人科「医療法人 愛育会 愛育病院」協力のもと、「計画無痛分娩」に臨んだご夫婦に密着したドキュメンタリー映像となっています。 「計画無痛分娩」を選択した夫婦に密着!気になる全貌が明らかに 麻酔薬を用いて出産時の痛みを和らげる「無痛分娩」。近年、日本でも無痛分娩を選択する方が徐々に増えてきています。関心が高まっている一方で、「本当に痛くないのか」「デメリットはないのか」と不安を感じる方や、実際にどのような流れでお産が進むのか知らない、気になっている、という方も多いのではないでしょうか。 今回の動画では、出産前日に入院したところから密着し、無痛分娩に向けてどういった準備をするのか、当日はいつ、どのようにして麻酔薬が用いられるのか、麻酔によってどの程度痛みが和らぐのかといった無痛分娩の具体的な状況、そしてママと赤ちゃんが退院する日の様子を記録しました。 出産の形は人それぞれであり、分娩方法の選択肢もさまざま。安全なお産のために、「無痛分娩」を一つの選択肢として考える妊婦さんにとって、この映像が無痛分娩へのより詳しい理解に繋がることを願って、第2弾「出産ドキュメンタリー」(計画無痛分娩)をお届けします。 出産ドキュメンタリー(計画無痛分娩)〜まだ見ぬ君との待ち合わせ〜▲腰にカテーテルを挿入し麻酔薬が注入される ▲出産直後、ママは元気な様子で赤ちゃんと対面 ▲出産から4日後、母子ともに元気に退院 今回密着したママは、初産で「計画無痛分娩」を選択しました。妊娠が判明した当初から、つわりがひどく、入院することになったと言います。自分は痛みに弱く、我慢強いほうではないと感じており、パパもそのことをよく理解してくれたので、無痛分娩に決めたそうです。産後、体の回復が早いという点にも魅力を感じたほか、パパを産んだお義母さんも無痛分娩を選択していたということも、無痛分娩を選ぶきっかけになったと語っています。 実際に無痛分娩を終えたお二人は、「無痛分娩にして良かった」と声を揃えました。「出産の瞬間や、生まれた直後もあまり痛みがなく、赤ちゃんを抱っこしたり、話したりする余裕があった」と、出産後のインタビューに元気な様子で答えるママ。パパは「計画分娩だから出産に立ち会いやすく、サポートができて良かった」とコメントしています。映像では、前日入院から出産当日の状況、無痛分娩の流れを詳しくまとめました。 院長先生&ベビーカレンダー編集長のコメント<医療法人 愛育会 愛育病院 岡田院長> お産にはいろいろな形式があり、無痛分娩だけがすべてではありません。麻酔の効き方も千差万別ですし、途中経過によっては帝王切開に切り替えざるを得ないケースもあります。より安全なお産をするために、さまざまなツールがある中の一つの選択肢が無痛分娩です。 無痛分娩によるお産は、痛くない代わりに、いきむ力をなかなか出せないというデメリットもあります。今回のお産も、少し上から圧迫してお産を助けてあげる形となりました。無痛分娩においても、いきむ力は大切なので、足腰を鍛えておくと良いですね。 そして無痛分娩といえども、出産から2〜3時間経つと麻酔が切れて傷の痛みが出てきますが、それが意外と痛いと感じる方もいます。やはりお母さんになるということは、傷を負うことなんですね。これからお母さんになる方たちは、「傷を負って母親になるんだ。だから母親は偉大なんだ」ということを、出産を通して感じていただきたいです。そして、気持ちを強く持って、お産を主体的におこなってほしい。これは、医師も助産師も切に願っていると思います。 <ベビーカレンダー編集長 二階堂美和> 昨今、無痛分娩について関心を持つ妊婦さんが増えてきました。お産の痛みを約10分の1に抑えることができ、産後の体力を温存できるというメリットが無痛分娩の選ばれる主な理由のようです。 妊婦さんのお産への恐怖や体への負担を軽減でき、安心して赤ちゃんを迎えられる無痛分娩は、今後、出産の選択肢の主軸ともなり得るものであると考えています。けれど、麻酔はどのように投与するのか、痛みは本当にないのか、デメリットはあるのかなど、無痛分娩とはどんなものなのか、知っておくべき知識が十分でなく、理解が得られていないのが現状です。きちんと理解した上で、自分なりのお産を選択してほしい、そんな願いから無痛分娩のドキュメンタリー動画を制作いたしました。 今回も前回(第1弾撮影時)同様、出産の前日から出産に至るまで立ち会わせていただきました。通常分娩、無痛分娩、出産の形は違えども、どちらもひとつの命がこの世に生まれ、家族が生まれる瞬間は尊く、素敵なものだと感じました。ぜひ、命の重さについて、家族の絆についても感じていただけたらと思っています。第1弾と併せてご視聴いただけますと幸いです。 今後もベビーカレンダーでは、ママをはじめ、これからママになる女性たち、そしてそのご家族が不安に感じることを解消し、安心して出産に臨めること、育児を楽しめることを目指して、さまざまな情報を発信していきます。 ▼第1弾 出産ドキュメンタリー(通常分娩)「名前のない誕生日」
2019年08月22日文字通り、全力で駆け抜けた10代だったろう。9月で20歳になる永野芽郁は、10代後半から主演映画にドラマ、朝ドラヒロインを経て、いまや国民的女優として老若男女に広く認識され、そして愛されている。メディアを通して感じる永野さんの屈託のなさ、みずみずしさ、掛け値なしのキュートさは取材時も顕在なのだが、ほかの誰にも似ていない確かなキャリアを積んできた実績が、彼女を年齢よりわずかに大人びて見せた。等身大な素顔をさらけ出すこともいとわないが、ヴェールに包まれたところもあり肝も据わっている。女優という職業が似合う存在だ。「すごく悩んだ」作品への参加、10代ラストの挑戦記念すべき10代最後となった作品は、実写ではなく、アニメーション映画『二ノ国』での声の仕事だった。人気ファンタジーRPG「二ノ国」シリーズの設定をもとに、完全オリジナルストーリーで製作された本作は、現実世界「一ノ国」と、命のつながりを持つもうひとつの世界「二ノ国」の両方が舞台。高校生のユウ(山崎賢人)と親友ハル(新田真剣佑)は、幼なじみのコトナ(永野芽郁)をめぐる事件をきっかけに、ふたつの世界を行き来することになる。永野さんはコトナのほか、「二ノ国」でのアーシャ姫も担当し、ひとり二役という難題に応えた。アニメーションの吹き替えは初めて。鈴のような心地よさを思わせ、明るく朗らかな声のトーンは、吹き替えに打ってつけかと思いきや、実のところ本人はおよび腰だったと言う。「お話をいただいたとき、新しいことに挑戦することは不安なので、すごく悩んだんです。けど、やらないことには何も始まらないですし“ずっと苦手意識を持っていたら一生できない!”と思って、私でよければとお引き受けしました。やっている最中は…苦手なので苦痛でしたけど(笑)、アドバイスをいただいて必死にやらせてもらいました。終わったいまは、“やってよかった!”と思っています」。アフレコ自体にも、ふたりのキャラクターを行き来することも、身振り手振りを交えて難しさを表現する永野さん。やり終えることができた理由を聞けば、真っ先に「自分ではわからないことも、周りの方たちに作っていただけたからです」と、監督や周囲のスタッフへの感謝をいの一番に挙げる。「周りの方と一緒に作る環境が、すごく好きなんです。皆さんと一緒にできたことで、自分のできていないところもわかったし、逆に自分がやれることがあるところもわかりました」。次のページ:“自分らしくいられる”と思うものを、ブレずに持ち続けたい“これだけは自分らしくいられることだ”と思うものを、ブレずに持ち続けたい改めて、10代最後の作品となったことについて尋ねると、「10代ラストだからこそ、10代のうちにできるだけ苦手を克服しようと思ってやりました。これからも、チャンスがあるならチャレンジはどんどんしていきたいです。以前のアフレコは実写なので違いますけど、当時挑戦したときよりは…、自分の声にも、自分の存在自体にも、少しだけ自信はついたんじゃないかな、と思います」と返ってきた。初めて彼女の口から出た「自信」という言葉。さらに「チャレンジしていきたい」という気持ち。ふたつの気持ちを持ち合わせて、さらなる拡がりを見せる20代へと躍進していく姿が想像できる。20代の抱負も、実に永野さんらしく誠実なものだった。「10代と20代では、きっと見える景色や自分の頭の中も全然変わると思うんです。その中でも“これだけは自分らしくいられることだ”と思うものを、ブレずに持ち続けていきたいです。明確に何というものではないんですけど、例えば、人とは絶対に目を合わせてお話しする、とかをいまは意識しています」。「本当に普通のことなんですけど…、ちょっとしたことを大事に過ごしていけたら、女優さんとしても、女性としても、自分が思う理想の人になれたりするのかな、と思ったりします。“こうなりたい”と思える素敵な先輩たちが、自分のすぐそばにいてくださるので、そうなれるように、自分も磨いていかないと」。10代から20代へ。めまぐるしく過ぎていく日々の中でも自分を見失うことなく、永野さんが自分の足でしっかり立ち続けられている理由がわかるような、信念の言葉。この先見ることができるであろう、大人の顔にも期待したい。(text:Kyoko Akayama/photo:You Ishii)■関連作品:二ノ国 2019年8月23日より全国にて公開©2019 映画「二ノ国」製作委員会
2019年08月22日彼なくして、ここまで胸に迫る作品になったか?答えは「ノー」だ。『ロケットマン』を観た誰もが、タロン・エジャトンとエルトン・ジョン役の幸せな出会いを実感すると思う。それを真っ先に予期したのは、監督のデクスター・フレッチャーだ。この素敵な主演俳優と監督がタッグを組むのは、『イーグル・ジャンプ』に続いて2度目。「あのときのタロンは全く使い物にならなかったけどね(笑)」とジョークを飛ばすフレッチャー監督だが、その目には、隣にいるタロンへの愛が溢れている。“エルトン・ジョン”に繋がる幼少期の経験「スキー選手の役なのに、スキーができなくてね。それは冗談として(笑)、あのころから僕は、タロンの歌声が素晴らしいと知っていた。だから、彼がエルトン・ジョンを演じるのが最高のアイデアに思えたんだ。実際、僕の考えは正しかったね。『ロケットマン』はミュージカルであり、キャストは歌声を通して役の心情を伝える。それには、演技も歌も素晴らしいものでなくてはならない。それができるのは、タロンだけだったと思う」。音楽界のスーパースター、エルトン・ジョンの人生をたどる『ロケットマン』で、タロンは圧巻のパフォーマンスを見せた。名曲にのせて心情を吐露する場面においても、観客を魅了するライブシーンにおいても。愛すべきアニメーション映画『SING/シング』や王立演劇学校出身の経歴に触れるまでもなく、いまや世界中が彼のスキルを知ることになったが、どんな道のりを経て「演技も歌も素晴らしい」青年に?「褒めていただいて、ありがとう」と照れながら、タロンが10代を振り返る。「大抵のティーンエイジャーがそうであるように、僕も音楽と映画に興味があった。それに、物作りも大好きだったんだ。クリエイティブな子供ってやつだね(笑)」。「絵を描いたり、粘土で何かを作ったり。合唱やミュージカルにも積極的に参加した。その中でも演技は僕にとってすごく重要で、家族で引っ越しをした12歳のとき、新しい町で友達を作ろうと演劇グループに参加したんだ。おかげで大勢の仲間ができたよ。お芝居が、僕の世界を広げてくれた。みんなで物を作る楽しさを知ったんだ」。次のページ:「僕の考える彼になりきった」エルトンを真似る必要はない「僕の考える彼になりきった」製作総指揮にも名を連ねるエルトン・ジョンは、物作りの楽しさをいまも探求し続けるタロンを終始サポートした。「自分のことを包み隠さず語ってくれたりしてね。僕には、彼の惜しみないサポートがあった。それでいて、自由もあった。エルトン・ジョンという人にはエゴがない。彼の人生を描いた作品ではあるけど、僕らの作品であることを尊重してくれたんだ」とタロン。フレッチャー監督が続ける。「エルトンはタロンにこう言っていた。“僕を真似る必要はない”とね。エルトンも僕らも、薄っぺらい物真似映画など目指していなかった。僕らが語りたい物語を、彼は誰よりも理解してくれていたんだ」。「だからね、僕の考える彼になりきったんだ。“エルトン・ジョンだ!”と自分に言い聞かせて」(タロン)、「エルトン・ジョンじゃないのにね」(フレッチャー)、「エルトンだってば。大きな意味では」(タロン)とじゃれ合う2人だが、大勢の心をつかむ作品になったのは、「薄っぺらい物真似映画」をよしとしない彼らの姿勢によるのだろう。大スターの極めてパーソナルな物語でありながら、どうしようもなく普遍的。世界的アーティストでさえ、自分自身を愛するのがどんなに難しいかを『ロケットマン』は教えてくれる。「自分を愛するにはどうすればいいか。難しい問題だよね。生きるうえでの信念にもつながることだから。僕にはよく分からないし、結局はそれぞれが自分なりの答えを見つけていかなきゃいけないのだと思う」。「ただ、僕に言えるのは、人生は一度きりだし、体も1つで、置かれた状況もこれしかない。その中で選択するのが人生なのだから、いくら苦しくても、自分を愛するという選択をしたほうが生きやすいということかな」(タロン)。次のページ:作品も自分も愛することから始まる作品も自分も愛することから始まるちなみに、俳優の立場から“愛される作品の作り方”にも言及してもらったところ、「そっちはますます分からない。永遠に解けない謎だよ」と苦笑。「でも、少なくとも僕たちは映画作りを楽しんでいるし、作品にたくさんの愛を注いでいる」。「美術担当、撮影担当、音楽担当など、すべてのスタッフが愛情を持って、家族のように、同じ目標に向かうんだ。そうすれば、僕たちが愛するように、観客も作品を愛してくれる…はず(笑)。経験から言えば、撮影がつまらないと、いい作品にならないことが多いし」。タロンの言葉を受け、「万人に愛される作品を作る方法があれば、僕らはいまごろもっと稼いでいるし、天才だと思われている(笑)。でも、残念ながら、そんな方法は決して見当たらない」と頭を抱えるフレッチャー監督。一方、「自分自身を愛すること」に関して語る口調は確かだ。「自分を愛せなければ、人からの愛を受け入れることもできない。愛されていい存在だと自分を説得できない人間は、たとえ誰かに“愛している”と言われても、“自分を愛してくれる人なんているわけない”と壁を作ってしまうからね。堂々巡りの悲劇だ。それによって、深い関係を築けなくなるのだから」。「結局は、自分を愛さないと、人を愛することもできない。それが『ロケットマン』の大きなメッセージになっているし、僕自身も自分を愛せる人間でありたいと願っている」。数ある“お気に入りのエルトン・ジョン楽曲”の中の1曲として、映画用に書き下ろされた新曲「(I’M GONNA)LOVE ME AGAIN」を挙げ、歌い出す2人。 タロンとエルトンがエンドロールで共に歌うこの曲には、“自分を愛する”というテーマが込められている。(text:Hikaru Watanabe/photo:You Ishii)■関連作品:ロケットマン 2019年8月23日より全国にて公開©2018 Paramount Pictures. All rights reserved.
2019年08月20日『ヴァイブレータ』(’03年)や『さよなら歌舞伎町』(’15年)などの脚本家としても知られている荒井晴彦がメガホンを撮った『火口のふたり』。男と女の、ある種の業を見せつける本作で“身体”の欲望に身を任せ続ける男・賢治を演じたのが柄本佑だ。「俳優」としての夢の一つが叶った作品この作品に対しての第一印象を聞くと、「脚本家・荒井晴彦の作品に出ることが、この仕事を始めてからの一つの夢だった」と開口一番に答えてくれた柄本佑。小規模なミニシアター作品からメジャー作品までありとあらゆるジャンルの作品、媒体(映画やドラマ、舞台など)で「俳優」として活躍する彼の夢の一つを叶えた映画が『火口のふたり』だ。「最初に荒井さんからこの脚本をいただいて読んだとき、非常にソリッドで良い作品、そして単純に面白いと思いました。この作品じゃなかったとしても、たぶん、二つ返事で『やります』って言っていたと思うんですよね。だって荒井作品だから。初号が終わって荒井晴彦監督作品っていう座組の中に自分の名前が入っているっていうことがまず嬉しかった。やっぱり欲が出て、また呼んでくれないかなと思ってます(笑)」『火口のふたり』は秋田県を舞台に、かつて東京で恋人同士として暮らしていた賢治(柄本さん)と直子(瀧内公美)が、直子の結婚を機に再び出会い、衝動の赴くままに過ごす5日間と、その驚きの終わりを描く。賢治という男は一言で言ってしまえばダメ男だ。「この賢治って、あまりにも自分のことを大事にせず、鬱病になったり治ったり、ふらふらしているから女房に逃げられて子どもも連れて行かれちゃって。いい年なのにフリーターで、暇さえあれば釣りなんかして、とにかく生活に覇気がない男」。「そんな男が衝撃の事実を知るんですが、それまでさんざん自分を傷つけてきたから、こんな状況になったなら、せめて最後だけでは“身体の言い分”に正直にいてやろうとする。そう思える賢治って、実は優しい男なんじゃないかなって思ったし、最後の最後に、そういう行動ができる賢治が面白いなと思ったんです」次のページ:エロティシズムと青春が共存する世界観”エロティシズムと青春が共存する世界観“身体の言い分”とは、本作でも原作でも作品のテーマの一つとして描かれていることだ。人間という動物の本性とも言える行為を背徳感なく素直に受け入れ、己の欲望のままに行為を重ねていく。その姿はエロティックというよりも、徐々に食事や睡眠といった、より動物的本能に近い行動のように見えてくる。「原作の小説だと賢治が40歳くらいで直子が30代半ばくらい。明らかに僕らが演じるには若いんですよね。ただ原作通りの年代で映像にしたらもっとディープでどろどろした感じになっていたと思うんです。原作は男と女がある一つの何かを超えて、一周回って子供に戻って素直になるというイメージでした。原作よりも若い僕らがやることで、ある種の抜けの良さみたいな、青春性みたいなものが増したのかな、という気がします」そう話す柄本さんが最も「賢治らしい」と思ったというのが冒頭、賢治と直子の再会直後のシーンだ。「最初に直子が『ピアスどうしたの?』と言うと『なんとなく』、『その頭は?』『なんとなく』って。『何か悪さでもしたんじゃないの?』と言われて、『自分の自由にできるのが髪の毛だけってのも悲しいよな』って。このセリフが印象に残っているんですよね。賢治という人間を表しているなと思ったんです。“ああ、コイツは髪の毛しか自由にできないと思ってるんだ”って(笑)。それくらい覇気がないのか、って。このときの賢治の精神状態が分かるなぁと思ったんですよね」そんなダメ男・賢治を丸ごと包み込み、グイッと引っ張る直子。本作には最初から最後まで賢治と直子の2人しか登場しない。「撮影前は本読みで一回、劇中にある西馬音内(にしもない)盆踊りの実景撮影で一回、次に写真の撮影で会って。2日かけて写真撮影した後、1か月くらい空いてから映画の撮影が始まったんです。いま考えるとそのスケジュールが良かったなと思います。恋人だった二人が別れて再会するという賢治と直子の関係性に近い感じがして。写真撮影のときも、映画の撮影のときも、瀧内さんがドーンと男前にいてくださって、その男前さに助けていただいた部分は大きいですよね。もうやらなきゃしょうがない、終わらないからって(笑)」次のページ:柄本家の映画鑑賞ルール映画好きならではのこだわり柄本さんと言えば、映画好きで有名だ。その彼に敢えて「映画とは?」という質問をぶつけてみた。「僕の場合は小さいころから映画を観て育ってきているので、いろいろな言い方があるし、いろいろな角度からの言い方があると思いますが、“一番身近にあって、一番憧れているもの”でしょうか。やっぱり、ずっと憧れ続けているんですよね、映画に。だから映画の現場に行けるっていうだけでもう嬉しい」そして映画を観るときのこだわりといえば、“映画館で観る”。「家で映画を観ることは、ほとんどないですね。役作りなどの資料的に観ることは、たまにありますけど、“映画は映画館で観るようにできているんだな”って思ってからは映画館で観ることにこだわっています。他人と観るっていうことが大事なんじゃないかと思うんですよね。中にはその映画を面白いと思う人もいて、つまらないと思っている人もいるだろうし。そういういろいろな人たちがいる中で、しかも知り合いじゃない他人同士が一つの場所にあつまって一つの人生を垣間見る。その怪しさみたいなものが映画の魅力なのかなと思うんです」「昔からそうなんですけど、それでも実家で映画を観るとき、家で観なきゃいけないとか、親父が観たいっていう時には“親父のルール”がありました。映画を観るときは絶対に電気を消して、トイレの時も一時停止とかしちゃダメ、っていう。家で観てるのに。それが面白かったりするとトイレの間近まで行って、サッとトイレに行って急いで戻ってきたりする(笑)」。「そうやって育ってきたから、やっぱり映画館なんですよ。見えてくる情報量も違うし、環境も違う。僕にとって映画は、生活空間の中で観るものではないんです。映画館という場所に行って1800円払う。その映画に1800円の価値があったのかどうかも含めて。10000円の価値がある映画を1800円で観れた、こんなもん50円だ、それを1800円も払って観ちゃった。そういうことも含めての“映画館で観る”なんですよね」まさに生粋の“映画好き”ならではのコメントではないだろうか。そんな柄本さんのオールタイムベストは『フレンチカンカン』(1954年製作のフランス映画。ジャン・ルノワール監督・脚本)なのだとか。「好きな映画はその時や気分によっても違うんですけど、改めて観て、これが一番好きだなって思うのは、やっぱり『フレンチカンカン』です。劇場でやる度に観に行って、“あの映画は本当に面白いのかな”って毎回疑いながら行くんですけど、やっぱり毎回“傑作だな”って思う。この映画の持つ大きさ、大らかさ。圧倒的な嘘を見せてくれるところ。やっぱり映画ってでっかいですよね」その大きな“映画”という世界を変幻自在に泳ぎ続ける柄本佑。これからも、俳優として硬軟自在な姿を見せてほしい。(text:Ai Takatsuka/photo:You Ishii)■関連作品:火口のふたり 2019年8月23日より新宿武蔵野館ほかにて公開©2019「火口のふたり」製作委員会
2019年08月19日『君の名前で僕を呼んで』で一躍その名を世界に轟かせ、さらにグレタ・ガーウィグ監督の『レディ・バード』や、同じく『若草物語』(原題:Little Women)への出演などで今年も大きな注目を集めているティモシー・シャラメ。その大ブレイク以前の初々しさが残るティモシーに出会える『HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ』が、いよいよ8月16日(金)より公開となる。「この映画は“ロマンス”と“大人へ成長していく過程”という二つのティーンエイジャーの感覚を描いたストーリーなんだ。作品を通じてティーンエイジャーたちのこういった世界をリアルにみせられていたら嬉しいよ」とティモシー。本作でのキャラクターをひと言で表すとしたら、「“ティーンエイジャー”かな!(笑)」と笑顔を見せる彼が、今作について語ってくれた。ティーンエイジャーの悩みごとは「とても普遍的なこと」舞台となるのは1991年の夏、美しい海辺の町ケープコッド。この設定も「重要なものの一つ」とティモシーは言う。「大々的な取り締まりをしていなかったドラッグという大きな罪をこの作品では描いている。僕が演じたダニエルは、親友や親しい人たちとの関係性と、ドラッグの世界との狭間でばらばらに崩れていってしまうという役なんだけれど、1991年のケープコッド、特に東海岸という場所がこのテーマを描きやすくしていると思うよ」と語る。4月に日本公開された『ビューティフル・ボーイ』でも深刻な薬物依存の若者を演じていたティモシーは、今回、愛する父親を亡くした悲嘆を抱えながら、ドラッグに手を染めていく役どころとなる。その麗しさと演技力で瞬く間に世界的人気を獲得したティモシーだが、本作のダニエルのように悩みを抱えたことがあったとか。「自分の肌が気に入らなかったり、ロマンティックな相手や人生の相談相手が必要になったり…ティーンエイジャーの頃に抱えるいろいろな悩みは、自分の経験でもそうだけどとても普遍的なことだと思う」とティモシー。「今回はそういったロマンティックな相手をマイカ(・モンロー)演じるマッケイラが、そして人生の相談相手をアレックス(・ロー)演じるハンターが担っているけれど、こうした若いころの悩みがこの作品にも大きく関係しているから、自分の中からその感覚を拾いだしたり、周囲の似たような年齢の人たちを観察したりしてダニエルというキャラクターにも活かしていったよ」。また、そのマイカについては、「素晴らしい女優。彼女とのストーリーは、映画の主軸ではないのかもしれないけれど、彼女との共演は化学反応をおこせたと思う。とても頭のいい人で共演できてうれしかった」とふり返っている。新世代監督のもと「これまでの現場とは違うやり方で作品をつくりあげた」そのほかのキャスト陣とも年齢が近く、さらに大きな化学反応を巻き起こしていることが伺える本作。中でも、「一番の中心人物はもちろんイライジャさ!」と、ティモシーは本作で脚本と監督を務めた新鋭イライジャ・バイナムを挙げる。「彼は28歳であんなにすごい脚本を書き上げて、当時自分はまだ幼かった頃の1991年という世界観を見事に再現しているんだ。彼がいたからこのチームはひとつにまとまることができたよ」と明かす。「若い役者にとって複雑な役柄を演じられるチャンスはそう多くはないけれど、脚本家兼監督のイライジャ・バイナムは、この作品でティーンエイジャーのもつ複雑さを見事に描いてくれた。素晴らしい脚本家だよ。彼と一緒に仕事ができて本当にうれしい。彼の素晴らしい映画がクルーみんなをひとつにしてくれたんだ。同世代と一緒に、これまでの現場とはまた違うやり方で作品をつくりあげることができたよ」。世界的ブレイク前だからこそ輝くティーンエイジャー役さらに、この作品を通じて伝えたいメッセージについても、流れるように言葉が続く。「ティーンエイジャーのころは、周囲のいろいろな出来事や経験すべてに影響され、自分は一体何者なんだろう、周りからどう思われてどんな風に見られているんだろうといったことに悩んだり、それぞれに他の家族とは違う自分の両親との関係に悩んだりしている。いろいろな感情や体験が混ざり、清算され、一人の人を作り上げていく過程なのだと思う」。「大人になるちょっとまえのこの世代特有の、こういった体験、経験、感覚を、作品を通して感じてもらえたら嬉しい」と語るティモシー。まだ世界が知る前の未完成な輝きを放ちながら演じたティーンエイジャーに、注目だ。(text:cinemacafe.net)■関連作品:HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ 2019年8月16日より新宿ピカデリーほか全国にて公開© 2017 IMPERATIVE DISTRIBUTION, LLC. All rights reserved. hot-summer-nights.jp
2019年08月15日動画マーケティングに力を入れる企業や団体が「サービス、活動、ブランディング」を広く顧客に伝えるコミュニケーション・ツールとして、ブランデッドムービー(BRANDED MOVIE)を製作するケースが増えている。と言っても、発展途上のメディアであることは確かで、「ブランディングを目的としたショートフィルム」という以外、定義もあいまい。一般的なCMのように、単純に商品やサービスを宣伝するのではなく、その形式はストーリー仕立てから、ドキュメンタリータッチまで多種多様だ。同時に、映画や短編作品とは異なり、映像の随所に“ブランド”としてのメッセージが込められている。つまり、映画なの?CMなの?誰か教えてください!そこで、アジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」(SSFF & ASIA)に、独自の基準でブランデッドムービーを審査する公式部門「BRANDED SHORTS」を設立した同映画祭の代表で、俳優の別所哲也、そして「ネスレ ウェルネス アンバサダー」をテーマにした、全5話のオリジナルブランデッドムービー『上田家の食卓』を手がけた平林勇監督に話を聞いた。実は2人とも静岡県島田市出身で、同じ中学、高校を卒業しているのだとか!「不思議なご縁を感じます」(別所さん)――ブランデッドムービーの需要が高まっている理由や背景を、どのように分析していますか?別所:現在、数多くの企業が、課題解決に向き合っている状況だと思うんですね。具体的には、何かを誰かに届けるという意味で、「この商品はこんなにすごいんだ!」ってスペックを語っても伝わらなくなってしまった。ツールの発達によって、「そもそも、どう伝えたらいいの?」という問題もある。そこで顧客が「自分にとって、親近感がある」「自分には遠い存在だけど、あこがれる」と思えるような、人とサービスを結びつける“ストーリー”が求められているんです。いまはSNSを中心にしたクチコミの時代。「あれ、知ってる?」「これ、どう思う?」というコミュニケーションの出発点として、ブランデッドムービーがとても有効なんです。もちろん、タブレットやスマートフォンなど、ブランデッドムービーを含めたショートフィルムを視聴するデバイスが普及したことも大きい。映画祭を始めた1999年からの積み重ねで、これは強く感じますね。――まだ、生まれて間もないブランデッドムービーですが、その分、さまざまな可能性を秘めていると言えますよね。別所:その通りだと思います。動画マーケティングという点では、以前はCMの延長だったり、それこそ「続きはウェブで」という世界観でしたが、いまは非常に短いスパンで、多面的になっていて、例えば、企業の理念や哲学を映し出す作品や、逆に商品やサービスの“トリセツ”的なムービーも増えている。これは映画の歴史をふり返って、さまざまな(映画の)スタイルが、いろんな答えを提示してきたように、ブランデッドムービーもまた、いままさにその地平を開拓している段階なんです。僕はよく「シネマと広告のハイブリッドコンテンツだ」って言うんですけど、本当に「これぞ王道」という答えがまだない。製作される本数が増えているし、トレンドも多様なので、とてもワクワクさせられますね。ネスレ日本が手がけるWEB映画館「ネスレシアター」での配信がスタートした『上田家の食卓』。個性豊かな上田家の面々が、朝の食卓で「この前こんな事があってさ」のひと言から会話を始め、やがて軽妙なボケ&ツッコミ合戦が繰り広げていく。1話は約5分で、全5話構成。MEGUMI、堀部圭亮、筒井真理子らキャストには、実力派が勢ぞろいした。次のページ:家族をテーマに選んだ理由――数々のCM、短編作品を手がけ、海外でも高い評価を得る平林監督にとって、『上田家の食卓』は初めてのブランデッドムービーとなりました。平林:そうですね。先ほどの別所さんのお話にもありましたけど、いまは企業が個々の商品を売り込む、というよりは、消費者側が「このブランドだから買いたい、利用したい」という意識が強くなっていると思います。ですから『上田家の食卓』に関しても、企業の姿勢を打ち出すことを意識しています。純粋に“自分の作品”とは違う緊張感がありましたね。一方、お題(今回はネスレ日本の健康支援ビジネス「ネスレ ウェルネス アンバサダー)があるので、いままで経験のない作品づくりの面白さも感じましたね。――“家族”をテーマに選んだ理由を教えてください。平林:逆に今回のテーマで考えると、家族ドラマしかないなと(笑)。自分にとっては経験のないジャンルですが、これはもう強制的に(笑)。ただ、おかげで自分の新しい面を引き出してもらえたと思いますね。(クリエイターとして)新しい発見があるのも、ブランデッドムービーの醍醐味。出演者の皆さんも、カメラが回っているとき、そうでないときも、同じようにワイワイ盛り上げってくれて、いい雰囲気でした。その楽しさが自然と伝わるような計算もありましたし。――1話およそ5分という時間も、いい意味で気楽に楽しめますし、それに最後には“気づき”もある。平林:5分前後で、ご覧になる皆さんの興味を引き付けつつ、伝えるべきことを伝えるというのは難しいこと。参考というよりは、いつもスゴイなと思うんですけど「人志松本のすべらない話」ってありますよね。あの番組は人の顔だけを映して、それこそトークだけで5分以上(画面を)持たせるじゃないですか。あの感覚を上田家の面々でできたらいいなと思って。よくよく考えると、原始時代から人類は焚火を囲んでストーリーを語ってきたわけですし、それがいまの時代は“食卓”になるのかなと。――当事者である、お2人はブランデッドムービーの未来にどのような期待を寄せていますか?別所:ショートフィルムがこの20年で、ごく当たり前の存在になったように、ブランデッドムービーにもそうなってほしいですよね。映像作家の皆さんが、表現技法に対する試行錯誤を楽しんでくれているように見えるし、例えば、映画業界とCM業界がタッグを組んで、異業種格闘みたいに、それぞれの答えを見つけてくれるのも楽しみ。エンターテインメント、カルチャー、そしてコミュニケーション。それらが変化し“ワクワク”が渦巻く状況で、ブランデッドムービーを楽しんでもらえる環境が生まれることに期待しています。僕らの映画祭も、それを恒常的に支える“場”でありたいと思っています。平林:ブランデッドムービーが広がることで、ショートフィルム全体への興味が広がるとうれしいですね。企業が製作する映像に加えて、作家性が高い作品が、日本はもちろん、世界中にたくさんありますからね。そして、これまで短編映画を作って来た僕のことも注目してもらえれば(笑)、これほどうれしいことはありません。『上田家の食卓』は、無料のWEB映画館「ネスレシアター」で、全5話を順次配信。「上田家の食卓」第5話<声優篇>【ネスレシアター】(text/photo:Ryo Uchida)
2019年08月09日例えばドラマ「今日から俺は!!」。例えば映画『斉木楠雄のψ難』。コメディが似合う実力派俳優と言えば、賀来賢人を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。俳優・賀来賢人が拓いた新たな境地コメディ作品で重要になってくるのは、表情や仕草、オーバーアクションだ。身体全体で見せる芝居とも言える。そうしたコメディでも俳優として高い評価を得ている賀来さんだが、そうした“身体表現”を封印しなければならなかったのが、“超実写版”『ライオン・キング』の主人公・シンバの吹き替えだ。「声だけの表現って、技術がすごく必要なんですよね。だからこそ勉強になりました。難しさももちろんありましたけど、すごく楽しかったですし、不思議な体験でもありました。普段は自分で動いて芝居をしているけど、声優は声だけでキャラクターに息を吹き込んでいく作業。だから、普段と同じように話すと伝えたいことが薄くなるんです。それを強くするために、伝えたいところを強く、落とすべきところは落とすという作業の繰り返しでした。それに慣れてくると乗ってくるというか。どんどん、シンバと波長が合ってくるんですよね。少しずつ、考えすぎずにできるようになって、すごく気持ち良かったです」中でも特に難しかったのが息の使い方。「お芝居そのものについては、ドラマや映画の演出と変わりなかったんですけど、吐息とか『はあっ』とか『うっ』とか。映画やドラマで芝居をしているときはあまり意識していない部分ですが、吹替では声をONにしてやらなきゃならかったのは難しかったですね。初めての経験でしたし、収録の時も分からないところは監督に正直に話して、何回かやらせていただきました。『いまのがいいね』って感じでチョイスしていただきながら進めていったんです。それをプンバァの吹替をする佐藤二朗さんに話したら、全く同じことをおっしゃっていて(笑)。『あれは難しいよねぇ』って」。次のページ:ほかの人とはちょっと違う“『ライオン・キング』の思い出”ほかの人とはちょっと違う“『ライオン・キング』の思い出”実は今回のシンバ役にはオーディションで選ばれたという賀来さん。「元々『ライオン・キング』が好きで、絶対に関わりたいと思っていたんです。実はこの声優のお仕事はオーディションだったので、まさか自分が受かるとは思ってなくて。決まったときはすごく嬉しかったです」そうして、『ライオン・キング』が声優・賀来賢人のデビュー作となった。本作のために準備したことは特にないというが、やはりアニメーション版の『ライオン・キング』は何度も観たそうだ。「どんな吹替をしているのかな、とか、いろいろ観たんですけど、声優のテクニックはないので、だったらもう『ライオン・キング』を観ようと思って。最初に観たのは小学生のときだったのかな。すごく好きになって、何度も観ていたのを覚えています。実は友人が『ライオン・キング』のミュージカルに出演していたんですよ。卒業公演を観に行った後、打ち上げに行って、そこで一緒に『ハクナ・マタタ』とか『愛を感じて』とか歌ってました(笑)。だから勝手に『ライオン・キング』に近いと思ってるんです(笑)」今回の吹替版『ライオン・キング』では賀来さんが楽曲の部分も吹替を担当している。「先日、完成した音楽を聴いたんですけど、すごく良かったです。壮大な雰囲気で、これは自信を持って送り出せると思います」と笑顔を見せてくれた。最近、俳優が歌手としてデビューを果たしているので、賀来さんも歌手デビューかと思いきや「いやいや、それは大丈夫(笑)」と残念な答えが。あの歌声を聴くチャンスは今後あまりないかもしれないので、ぜひ、劇場でその歌声もチェックしてほしい。次のページ:妄想が広がりそうな“ディズニー作品と賀来賢人”妄想が広がりそうな“ディズニー作品と賀来賢人”誰しもが一度は観たことがあるであろうディズニー・アニメーション。もちろん賀来さんも例外ではない。「ディズニー・アニメーションって小さい頃に観ているっていうのもあって、誰しもが何かしらの思い入れがあると思うんですよね。『リトル・マーメイド』の魔女のアースラいますよね。僕の親戚にアースラに似ている人がいて(笑)。小さい頃、『あの人は、本当は魔女かも知れない』って思い込んでいたりとか(笑)。でも何より印象に残っているのは『美女と野獣』ですね。実はディズニープリンセスの中で、ベルが一番好きなんです。だから、実写版でベルをエマ・ワトソンが演じたときは『よーし、よし!』って(笑)。『アラジン』もピクサーの『トイ・ストーリー』も好き」では今後、ディズニー作品で声優をやるとしたら、どんな役に挑戦してみたいだろうか。「『アラジン』もやってみたかったですね。あとは、なんだろうなぁ」「『トイ・ストーリー』をやるなら、ウッディかレックスかな。レックス良いですよね、ギャンギャン言ってて楽しそう(笑)。でも次に声優をやるとしたら、もう少しキャラが強い、個性的な役もやってみたいですね。今回は、サバンナの王へと成長する、まっすぐな主人公だったので」そして“声優”という仕事についてこう続ける。「声の表現ってすごく大事。芝居の中でも、声でしか伝えられないことって結構あると思うんです。これまで、そういうことをあまり意識したことがなかったというか、ここまでちゃんと自分の声と向き合ったことがなかったんです。いままでは動きだったり表情だったり、その総合で芝居をしてきたので。でも、よく考えてみたら、声だけに頼るシチュエーションもいままでいろいろあったな、と。例えば、“がなる(大きな声を出すこと、怒鳴ること)”ことにしても、いろいろなやり方がありますよね。単調だったり抑揚を付けてみたり。そういうことをこれからもっと意識しようと思いました。テクニック的な部分ではありますけど、すごく勉強になりました」俳優として貪欲に技術を取り入れ成長を続けてきた賀来さん。これからどんな新しい姿を見せてくれるのか、もはや期待しかない。(text:Ai Takatsuka/photo:You Ishii)■関連作品:ライオン・キング(2019) 2019年8月9日より全国にて公開© 2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
2019年08月08日老若男女を虜にしている「ONE PIECE」待望の劇場版『ONE PIECE STAMPEDE』が公開される。TVアニメ放送20周年記念作品となる本作では、ルフィ率いる麦わらの一味が集結するほか、原作者・尾田栄一郎デザインによる映画オリジナルキャラクター、「あのときに出てきた、あの…!」という懐かしのキャラクターまで一堂に会するから、永年のファンにとっては垂涎ものとなりそうだ。前作の、劇場版『ONE PIECE FILM GOLD』から3年ぶりとなる最新作、劇場版『ONE PIECE STAMPEDE』では、海賊のための世界一の祭典・海賊万博が描かれる。「祭り屋」と呼ばれる万博の主催者ブエナ・フェスタからの招待状を手にしたルフィたち麦わらの一味が会場に着くと、そこには“最悪の世代”キッドやベッジ、ホーキンスにボニー、バルトロメオ、キャベンディッシュの姿があった。全員の目的は万博の目玉「海賊王(ロジャー)の遺した宝探し」で、予測不能の大混乱へと陥っていく。本作のゲスト声優には、芸能界の中でも「ONE PIECE」好きで知られるユースケ・サンタマリア、指原莉乃、山里亮太が名を連ねた。今回インタビューを敢行する指原さんは絶世の歌姫アン役、山里さんは海賊万博の司会者ドナルド・モデラート役として、実力を存分に発揮。大好きな「ONE PIECE」の世界に入り込めるのは当然「夢のよう」ではあるが、同時に大きなプレッシャーも感じていたとインタビューで話したふたり。そこには「してほしいことをするのが仕事なので、ただ一生懸命やるだけ」という求められたことに応える、プロ意識以外の何物でもない仕事観が刻まれている。「ONE PIECE」愛とともに、現在の引く手あまたのふたりのキャリアについてまで、多いに語ってもらった。――おふたりとも「ONE PIECE」の大ファンですよね。オファーを受けて、いかがでしたか?山里:もちろんすごくうれしい気持ちはあるんですけど、大好きなぶん、その世界を自分の声が壊してしまったらどうしよう…という怖さを最初、感じました。「いいんだろうか、僕が世界に入って」と、とにかくプレッシャーでしたね。指原:本当にそうですね…!一番最初は「やったあ!」とは、なれなかったです。もちろん声をかけていただいたことは本当にうれしいですし、完成作を観るのも楽しみ(※取材日時点で未完成)ですけど、そんなことより…という感じでした。山里:声優さんは、すごいお仕事じゃないですか。声だけで命を与えていく人たちのすごさをわかっているからこそ、そこに自分が入ることは、プレッシャーでしかないんです。――となると、初日に声を出すときはかなり緊張されました?山里:初日、第一声、怖かったです!指原:本当に(笑)!しゃべり出すのがめっちゃ怖かったです。山里:「あ~、それじゃないんですよね…」と言われたらどうしよう…って。ただ、今回事前準備のために、『ONE PIECE』のアフレコに望む上での心得を説明された紙をいただいたんです。収録の日までに「このように過ごしてくれ」ということまで、事細かにびっしり書いてあったので。指原:はい、ゲスト声優に共通でありましたね!何から何までわからなかったので、そうやって紙でいただいたことがありがたかったし、うれしかったです。次のページ:緊張と興奮が混ざった初めての経験――紙には具体的に何が書いてあるんですか?山里:「前日は声をできるだけ使わないで臨んでください」とか、「何パターンか声のバリエーションを探してみてください」とか、でした。声は高いのか、低いのか、抑揚があるのか、平坦なのか、とか。いろいろと自分で探して練習してきて当日見せてください、という内容でした。――実際、何パターンくらい用意された?山里:声だけでパターンは…難しかったんですけど、ありがたいことに、さっしーはアイドル、僕は司会者という役どころなので、現実の仕事からそんなにかけ離れていないものだったんです。意外と自分の(持ち味)を誇張すれば大丈夫かな、という思いでキャラクター作りをしていきました。指原:まったく同じです。けど、私は地声が低いんですよ。アンは高い声を出さなきゃいけないかなと思っていたので、家でめちゃめちゃ高い声を練習しました。…私の声に、うちの猫がしばらく引いていました。山里:(笑)。――実際に声入れ中、ブースの向こうでスタッフさんたちが話していると、気になったりしませんでしたか?山里:それ、本当にそうです!「はい、OKです」となった後に、しばらく何も声がけがないと、「あいつを起用したの失敗したな…」とか言われていたら…と思うんですよね…。「なんか違うんだけど、もう1回やっても変わらないから仕方ないか。じゃあ、はい、OKで~す」とかなってたら…って、「OK」と言われる前の間の台詞を考えちゃうんですよ(笑)。指原:めちゃめちゃわかります!表情とかも見ちゃいます。自分としては本当に精いっぱいだし、一生懸命だし、ちゃんとやっているつもり…ですけど、「合っています…?」みたいな感じでした。山里:最後に、「自分の声を聞いてみてどうですか?僕たちはOKですけど、もし録り直したいところがあったら全然言ってください」と言われるんです。でも「録り直したい」と言えるほどわからないし、「大丈夫です」と言うのも調子に乗ってると思われるんじゃないか…って。――すごく気を遣われるおふたりの性格が出ていますね(笑)。声入れ終了後は、どんな思いでしたか?山里:クッタクタでした…。終わった後は、もう1文字も出ないってくらい。かなりハイテンションな役なこともあり、ぐったりでした。監督たちが、自分の意思では搾り出せないくらいの精魂を出せる空気を作ってくださったからこそ、できたと思います。指原:そうですね。私も終わった後、酸欠のようになったというか、唇がしびれるような感じさえして。緊張と興奮と、全部が混ざって、初めての経験でした。――ここまで愛される『ONE PIECE』について、特にどこに魅力を感じていますか?山里:喜怒哀楽の感情がすべてマックスになる瞬間があるところだと思います。本当に喜ぶし、悲しくて泣けるときもある。こんなに凝縮しているのに押し付けがましくなく、感情が動かされまくることってないと思うんですよね。尾田さんがキャラクターに「何ていい台詞を言わせているんだろう」というほど、すごく刺さる台詞があったりしますし、「確かに、いま努力できていないな…」と自分に照らし合わせて思うときもあります。シンプルにエンターテインメントとしてめちゃくちゃ面白いというベースの上に、その要素が乗っかってくるところが魅力です。指原:私は年齢層の幅広いグループにいたので、小学生や中学生の子ともしゃべる機会があったんですけど、自分の世代のものの話をすると「それ、何ですか?」と言われちゃうんです。けど、ONE PIECE」は常に全員の最先端で、古い部分が一瞬もないのがすごいと思っています。「全員と同じ話ができることなんて、ないと思うので。山里:そうだよね。そういえば、僕、「ONE PIECE」が好きすぎて、ジャンプの連載が開始されて単行本が発売されるまで、ジャンプの誌面を切り取って自分で単行本を作っていたんですよ。次のページ:準備の量が多いと、緊張も減る…2人の仕事論――それくらい大好きなんですね!「ONE PIECE」はアニメーションでは20年、コミックでは22年と長く愛されていますが、この先の20年で言うと、おふたりはどうなっていきたいですか?指原:20年!?山里さん、何歳ですか?山里:俺、60だ…(笑)。いまみたいなことをずっとやれていたら幸せだな、と思います。ライブをやって、テレビやラジオのお仕事をさせてもらって、皆さんに「面白いな」と言ってもらえているのが20年ずっとできたら、こんな幸せな人生はないと思います。指原:そうですよね。20年後、私は46歳。私は楽しいことが好きなので、芸能のお仕事ではなくても、そのときに楽しく生きていられたらいいかなと思います。…20年って、想像できないですね。考えられないことを、尾田先生はやっているので改めてすごいです!――ちなみに、現在引っ張りだこのおふたりですが、普段、MCをされたりゲストで番組に出演される際、どんなことに気をつけてお仕事をしているんですか?指原:ああ、山里さんの、聞きたいです!山里:何だろう!?一生懸命頑張ること…しかないんですよね。呼んでもらったんだから頑張るというスタンスです。たくさん(タレントが)いる中で、自分をわざわざ呼んでくれているんだから、感謝の気持ちでやっていれば台本だってしっかり丁寧に読み込めますし、してほしいことをするのが仕事なので、ただ一生懸命やるだけです。僕は天才型で臨機応変に何でもできるタイプではないので、準備をしていくんですよね。準備の量が多いと、緊張も減りますし。指原:私は、でも…そうだな。もちろんその場に応じてちゃんとやるのもあるんですけど、一時期、考えすぎて何もできなくなっちゃったとき時があったんです。なので、「収録を面白いと思えればいい」という風に考え方を変えました。あまり考えすぎちゃうと何もできなくなってしまうので、もしもその番組で自分が何もできなかったとしても、番組が「面白かった」と思えるようにしようと思ってからは、めっちゃ楽で、何でもしゃべれるようになりました。「何かしなきゃ」と焦っている時期、アイドルオタクっぽい言葉で言うと「爪跡を残す」と思っていたときは何もできなかったんですけど、そうなってからは楽しく自分もしゃべれるようになりましたね。――「楽しむ」というのは共通するワードになってきそうですね。山里:「楽しい」というのは、やっぱりありますね。指原:私は笑い過ぎるといつも泣いちゃうんですけど(笑)、それが仕事ってすごいなと思うんです。山里:最高だよね。指原:特に私はボケたりとかもあまりなく、芸人さんたちに面白くしていただいて、笑って泣いて仕事が終わっているので、毎日がすごく楽しいです。(text:Kyoko Akayama/photo:You Ishii)■関連作品:ONE PIECE STAMPEDE 2019年8月9日より全国にて公開©尾田栄一郎/2019「ワンピース」製作委員会
2019年08月05日