ベビーカレンダーは全国450院以上の産婦人科とのコネクションを持ち、妊娠・出産・育児の正しい情報を発信するため、医師やその他専門家監修によるコンテンツを制作しています。 なかでも、すべての方に出産をより身近に感じていただくため、そして正しい情報を知っていただくために産婦人科医とタッグを組み制作している「出産ドキュメンタリー動画」シリーズは、第1弾「通常分娩」、第2弾「計画無痛分娩」共に大変好評で多くの方々に視聴されています。 このたび2月27日(木)、公式YouTubeチャンネルにて、第3弾「出産ドキュメンタリー動画」(予定帝王切開編)を公開しました。出産ドキュメンタリー動画シリーズに寄せられた「帝王切開の動画も見てみたい」という声にお答えし、新たに「予定帝王切開」の様子を収録。 群馬県高崎市の「産科婦人科 舘出張 佐藤病院」協力のもと、予定帝王切開で出産に臨んだご夫婦に密着したドキュメンタリー動画です。医師が監修する帝王切開による出産ドキュメンタリー動画の公開は、YouTube上において日本初となります。 すべての妊婦さんに起こり得る、手術による出産「帝王切開」の実録映像 近年、約5人に1人の妊婦さんが帝王切開で赤ちゃんを出産しています(※)。帝王切開の手術は、「予定帝王切開」のように計画的におこなわれるだけではなく、経腟分娩を予定していたものの何らかのトラブルによって急きょ「緊急帝王切開」としておこなわれることもあります。そのため、出産を控えている女性なら誰もが帝王切開となる可能性があるのです。 緊急帝王切開となる場合は特に、詳しい手術の流れを知らないまま帝王切開をおこなうことになるため、大きな不安や恐怖心を抱くママも多いのではないでしょうか。実際に帝王切開によって出産したママからは「帝王切開の流れを事前に知っておくことができたら、もう少し安心してお産に臨めたと思う」という声もありました。 今回の動画では、手術前日の検査入院から密着し、手術までの過ごし方、実際に帝王切開手術がおこなわれる様子、産後の経過までを記録。産婦さんが帝王切開の手術中に体に受けた感覚や、産後の体の様子なども細かく紹介しています。 これから出産を控えている方は心の準備として、ぜひご覧ください。また、この動画を通して、「出産」という奇跡をより身近に感じていただければ幸いです。 (※)厚生労働省「平成29年(2017)医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」調査データより算出 出産ドキュメンタリー(予定帝王切開編)〜私たちが選んだキセキ〜▲帝王切開手術により赤ちゃんが誕生 ▲出産直後、赤ちゃんとママが対面 ▲手術室の外で待っていたパパとの対面 今回密着したママは経産婦さんです。過去に子宮筋腫の手術をした経験があるため、1人目のお子さんを予定帝王切開によって出産。2人目の分娩方法を決断するにあたり、1人目を帝王切開で出産して後悔はなかったことや、「ママの体と赤ちゃんの安全が第一だよ」という家族の言葉に後押しされたこともあり、再び予定帝王切開で出産に臨むことを決めたそう。 2度目の予定帝王切開とはいえ、1度目と変わらず、おなかを切ることへの恐怖はあったといいます。無事に予定帝王切開による出産を終えたご夫婦は、お互いに「元気で健康に育ってくれれば…それだけだね」「こうやって笑顔で赤ちゃんと会えたからよかった」と赤ちゃんへの思いを語ってくださいました。 院長先生&ベビーカレンダー編集長のコメント<産科婦人科 舘出張 佐藤病院 佐藤院長> 今回の帝王切開手術は、順調に進みました。2回目以降の帝王切開手術となると、おなかの中で臓器同士が癒着してしまって手術をおこないづらい場合もあるのですが、今回は癒着もほとんどなく、予定通りの帝王切開でした。帝王切開は下半身のみの麻酔で、産婦さんは手術中に意識があるため、当院では産婦さんの負担が少ないように、できるだけ短い時間で終わる術式にしています。 近年では、約5人に1人の産婦さんが予定帝王切開または緊急帝王切開で出産しています。日本においては、帝王切開に対してネガティブに思われる方が多い印象です。どうしても「おなかを痛めて産んだ」「経膣分娩で頑張って産んだ」ということに美徳を感じる文化が強い気がしますが、帝王切開も十分素晴らしい分娩方法です。 どのような分娩方法で生むかということよりも、どのような気持ちで妊娠・出産に臨むか、生まれた赤ちゃんをどのように育てていくか、といったことに力を入れていけば良いのではないかと思います。 <ベビーカレンダー編集長 二階堂美和> 昨今、出産の高齢化といった理由等から帝王切開での分娩が増えていると言われています。通常分娩を予定していても急な帝王切開での分娩になる可能性も高いようです。 この動画を撮影するにあたって事前に帝王切開で出産したママたちに話を聞く機会をいただきました。「何をされるのかわからず怖かった」「事前に流れを知っておけばよかった」との声が多く聞かれました。予定帝王切開のママも「医師から事前に説明されていたけれど、想像がつきにくく、当日は怖くて緊張したと」いった声が多くありました。出産はいつ、何が起こるかわからないもの。だからこそ初めての出産で不安を抱えているママたちの不安を払拭することができたら、いざという時の心づもりとしてお役に立てたら、そんな思いで、帝王切開での出産動画を制作いたしました。 このたび公開しました「予定帝王切開」の出産動画は、「通常分娩」「計画無痛分娩」に続く第3弾です。これから出産を控えているママ、妊娠を考えている方には、これら3つのシリーズをすべて見ていただきたいと思っています。そして、安心して自分なりの出産に臨んでもらいたいと願っています。 撮影では前日の検査から、出産、退院まで立ち会わせていただき、帝王切開、通常分娩、無痛分娩、それぞれ違う形ではありましたが、命がこの世に生まれることはとても奇跡的なことで、大変なことなのだと改めて痛感しました。今回の出産動画、ママが小さな命を守るために選んだ「予定帝王切開」編も、家族が誕生する瞬間の尊さや家族の絆について感じることができると思います。ぜひ、ご視聴ください。 今後もベビーカレンダーでは、ママをはじめ、これからママになる女性たち、そしてそのご家族が不安に感じることを解消し、安心して出産に臨めること、育児を楽しめることを目指して、さまざまな情報を発信していきます。 ▼第1弾 出産ドキュメンタリー(通常分娩)「名前のない誕生日」 ▼第2弾 出産ドキュメンタリー(計画無痛分娩)「まだ見ぬ君との待ち合わせ」
2020年02月27日2018年に公開された北川景子主演の映画『スマホを落としただけなのに』は、「スマホ」という身近なアイテムが引き金となり恐怖を呼び寄せる展開、あっと驚く犯人との心理戦が評判を呼び、興行収入19.6億円というヒットを飛ばした。そして2020年冬、満を持して続編『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』が公開される。主演に抜擢されたのは、前作で成田凌演じる浦野善治との激しい対決シーンが話題になった刑事・加賀谷学役の千葉雄大。今作では、新たな殺人事件を捜査するにあたり、自分が逮捕した浦野と奇妙な“共闘”関係のような間柄となり、物語の軸を担う。そして、『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』からは、白石麻衣、鈴木拡樹、音尾琢真、江口のりこ、奈緒、井浦新など強力かつ豪華な共演者が顔をそろえた。シネマカフェでは、千葉さん&鈴木さんにインタビューを実施。「撮影以来の再会」とは思えぬほど、話が尽きない様子のふたりは、ときに真剣に、ときに冗談も交えつつ、戯れ合ってくれた。初共演の千葉雄大&鈴木拡樹、お互いの印象は…――初共演ですが、お互いの印象はいかがでしたか?(見合って微笑むふたり)千葉:人見知りですか?鈴木:人見知りです!お互い…なんか、わかりますよね。千葉:察しちゃいますよね(笑)。鈴木さんはすごく優しいし、本当に穏やかで、ひとつ、ひとつの行動が全部ジェントルマンなんですよ。さっきも取材場に入ってくるときに、「どうぞ」と僕に譲ってくださったり。鈴木:作品の顔なのでね!先に行ってもらいました!千葉:…作品の顔、でした(笑)。鈴木:(笑)。僕もありますよ。体育館を借りて撮影していたとき、現場の空気感がわからなかったので、立っていろいろと見ていたんです。すかさず、千葉さんが「椅子があるので、座ってください」と声をかけてくれて、めちゃくちゃジェントルだなと思いました。僕も含め、毎日いろいろな役者さんが来るじゃないですか。そういう人たちにも「いやすい環境を」と考えてくださっているんだろうなと、すごく感じました。――違うフィールドの第一線で活躍されているおふたりですが、お互いに「ここ、いいなあ」と思う部分はありますか?千葉:えっと…苦手な人とかって、いますか?鈴木:苦手な人…思い当たらないですね!「えっ」と驚くことはあっても、一周考えると受け入れられたりするんです。千葉:なんか、そういうことなんじゃないかな、と思っています。僕は苦手な人に対して、「何で苦手なのかな」と好きなところを見つけるようにするんです。すると「いい人だったな」と思う瞬間もあるので、鈴木さんに共感するところもあるけど、基本、僕は「本当に苦手だな」と思っちゃうんです(笑)。鈴木:(笑)。千葉:僕は結構波があるけど、鈴木さんはニュートラルな感じがして、そこが本当に素敵ですし、リスペクトです。鈴木:いやあ、ありがとうございます。千葉さんに関しては、もう圧倒的な癒しの力じゃないですか?千葉:へえ~!鈴木:千葉さんのいないところで、「千葉さんって」という話をしたとき、一番最初に頭に思い浮かぶイメージが、笑っている顔なんですよ。これって強いなと思うんです。笑顔が印象的なのもありますけど、好印象を抱いている人だからこそ、笑顔が頭の中に再現されるんだろうなと思って。すごい力ですよ。共感できる人、多いと思います。千葉:初めて言われました、ありがとうございます(照)。映像から舞台、舞台から映像へ「垣根みたいなものって、ないほうがいいと思う」――加賀谷と笹岡のシーンについては、話せることもあったり、なかったり…という感じですよね。千葉:そうなんですよね。割と、こうした取材でお話できないようなシーンでご一緒することが多くて(笑)。鈴木:確か僕たちが一緒の初日が、WEBセキュリティ会社を起業する前の写真を撮るシーンだったんです。1時間くらい前に千葉さんと「はじめまして」と言い合っていたのに、「いきなりここ!?」という(笑)。千葉:本当ですよね!「スキンシップ多めで」とか言われましたよね。鈴木:でも千葉さんは構えない状態でいてくれたので、何だか自然とやれました。――鈴木さんは本作から参戦なわけですが、周囲の反応など、いかがでしたか?鈴木:今日にいたるまで、周りの反応としては「えっ、出るんだ!?」という驚きが強かったと思います。あとは、皆さん、口をそろえて「犯人なんでしょ!?」と(笑)。千葉:(笑)。鈴木:こうした作品において、「答えると一番面白くないじゃん!」…っていうのをずっとやってきました(笑)。なので、公開されたらいよいよ解放されるというか、ホッとする自分もいますね。それに「それだけ気になるなら観てください」という感じで、いい宣伝です!千葉:鈴木さんの出ているシーンって、後から観直すと、その演技にハッとさせられるような、絶妙な、曖昧な表情があって。いち観客として、すごくグッときました。鈴木:うれしいです。――千葉さんは、鈴木さんの出演を知ったとき、どう感じていたんですか?千葉:僕、垣根みたいなものって、ないほうがいいと思っているんです。舞台をやっているとか、声優さんであるとか。逆もしかりで、映像をやっている人が舞台に出る、とかは「新しい試み」と大きなものとして捉えられがちだと思うんです。けど、いち表現者としては、そうやって行き交うのはすごく素敵なことだと考えているので。――凝り固まらずにジャンルを決めなくていいんじゃないか、というお話ですよね。千葉:そうです。だから…すごくおこがましいけど、僕は鈴木さんも鈴木さんとして(見ている)というか、「よろしくお願いします!」という感じでした。逆に、僕が舞台をご一緒させていただくとなったら、めちゃくちゃ「ついていきます!!」という感じになっちゃうと思うんですけど(笑)。舞台でも、ぜひご一緒したいです。鈴木:もちろんウエルカムです!僕もいまのお話、すごく共感します。垣根なくいきたいですよね。――鈴木さんは、今後、映像作品に出演するとしたら「こんな役をやりたい」など、ありますか?鈴木:普段、舞台が多いのと、エンタメ性が強いテイストの作品が多いので、なかなか普通のサラリーマン、IT企業の社長、ましてや父親なんて、演じたことがないんです。映像に出られるなら、そういった今までやっていない役柄を演じてみたいな、と思いますね。「今までの千葉くんとは少し違った一面」北川景子からのメールに感激――千葉さんは、本作にて単独初主演(※全国規模)となりました。うれしさ、プレッシャーなど含め、どんな気持ちでしたか?千葉:プレッシャーがまったくなかったと言えば、うそになってしまうかもしれません。こうしたミステリーや重厚感のある作品は、僕の悪い癖で、結構ひとりで考え込んでしまうところがあったんです。けど、例えば、成田(凌)くんはフランクなスタイルでどんどん崩してくれたり、ひとりひとりが「こうしたほうがいいんじゃない」という意見を出し合って作っていった現場だったので、僕もその一端として、みんなで作っていく心構えで臨めました。僕は手放しに「楽しい」のがすべていいかと言われると、そうじゃないと思っていて。難しいところでも、作品はみんなで作るものだと思うので、そうやって作っていけば、いい意味で肩の力が抜けて、好きなことができると思っています。――前作の主演だった北川景子さんと、本作についてお話したりもしましたか?千葉:お会いしたのは撮影でご一緒するときだったんですけど、クランクインする前に「明日からだね、頑張ってね!」という激励のメールをいただいて、すごく励みになりました。完成したものをご覧になった後も、すごく長い文章で感想をいただいたんです。細かく「あのシーンが~」みたいなことも書いてありましたし、「いままでの千葉くんとは少し違った一面が、この作品に出ていると思う」とおっしゃっていただいて…。自分では「新境地」とかの気負いはなく作品に臨んだんですけど、そうおっしゃっていただいたのは、素直にすごくうれしかったです。作品をやる上でも励ましていただきましたし、こうやって宣伝をさせていただく前にも力をくれて、本当に大尊敬です。(text:赤山恭子/photo:Jumpei Yamada)■関連作品:スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼 2020年2月21日より全国東宝系にて公開©2020映画「スマホを落としただけなのに2」製作委員会
2020年02月21日『ヘレディタリー/継承』で全世界に衝撃を与えたアリ・アスター監督が、最新作『ミッドサマー』を引っさげて来日。スウェーデンの奥地の村で行われる「90年に一度の祝祭」を舞台に繰り広げられる妄想やトラウマ、不安、恐怖に満ちた出来事…。前作に続き、独特の世界を作り上げたアスター監督が作品に込めた思いを語った。作品には自分の分身となるようなキャラクターが登場する不慮の事故により家族を失ったダニー(フローレンス・ピュー)が、微妙な関係になった恋人・クリスチャン(ジャック・レイナー)に誘われてやってきたスウェーデンの奥地の村で開催される「90年に一度の祝祭」。陽気に歌い踊る村人たちの立ち振る舞いから、幸福に満ち溢れた楽園のような雰囲気を見せるものの、どこか不穏な空気も流れる…。やがてある出来事をきっかけに衝撃の事実が次々に明らかになっていく。『ヘレディタリー/継承』とは、纏う雰囲気はまったく違うが、登場人物が抱える心の奥底に流れるものは共通点を感じる。アスター監督は「自分が作品の脚本を手掛けるとき、危機に瀕している方がいいものが書けるんです」と笑顔を見せると「両作品とも、自分にとってはパーソナルな内容で、自分の分身となるようなキャラクターがいます。『ミッドサマー』ではダニー、『ヘレディタリー/継承』では何人かに分けています。自分の持つ希望がない感じや、悲しみ、孤独、恐怖心を、キャラクターを通じて表現し、お客さんが何らかのカタルシスを得られるように物語を構成しています」と作品へのアプローチ方法を述べる。劇中には前作同様、戦慄のシーンがいくつもあるが、アスター監督はイベント等で何度も「ホラー映画ではないんです」と強調する。その真意について「ホラー映画というラベルをつけてしまうと、それだけで『観ない』という方が一定数います。それはとても残念なことだと思うし、この映画はホラーが好きではない人にも楽しんでもらえる作品なんです」と持論を展開すると「確かに映画のなかには恐ろしいことが起きますが、ほとんどの映画にも恐怖はあります。そもそもこの映画にはホラーというラベルが適していないと思うし、ダークコメディという表現がしっくりくる作品です」と力説する。色彩へのこだわり“死”の象徴は黄色と青とは言いつつ、やはり暴力的なシーンや、ややグロテスクな描写は劇中登場する。この点について「そこにはただ恐ろしいという感情を植え付けようとしているのではなく、必然があります。『ミッドサマー』で言えば、ダニーという主人公と同じ経験を観客にも味わってほしいという思いがあるので、そういうシーンが必要不可欠なのです。暴力表現も『ホラー映画だからここまでの描写が必要だ』という考えではなく、あくまでストーリーラインのなかで必然だと思ったものを描いているのです」と説明した。本作では、白夜という設定もあるが、非常に開放感溢れる草原のなか、色彩豊かな映像描写も特徴だ。一般的なホラー作品とは大きく異なるような“色味”が存在する。「色彩設計は美術さんや撮影監督と共に決めていきますが、僕の映画作りのなかでは非常に重要な部分です。製作費の関係もあり、すべてイメージ通りに実現できない部分もありました。例えば村の人たちの衣装は、最初白ですが、徐々にカラフルになっていく構想があったのですが、そこは叶いませんでした。でも細部までこだわっており、一つ具体例を挙げれば、今回の作品で“死”を意味する色は青と黄色というモチーフがあります。スウェーデンの国旗と一緒です。映画のなかのいろいろな場所で青と黄色が使われています」。「またダニーとクリスチャンの衣装にも注目してほしいです。話が進行するにしたがって、ダニーの衣装は明るく、クリスチャンは色彩がなくなっていきます。ただあまりにも分かりやすいとサブリミナル効果がなくなるので、そのバランスはいつも非常に難しいんです」。3作目はダークコメディ、4作目はSF「自分のパーソナルな部分が色濃く作品に反映され、危機に瀕していた方がいいものが書ける」と述べていたアスター監督。本作も自身の失恋が発想のスタートとなっている。なぜ辛い経験を形として残しておきたいと思うのだろうか――。「いま書くべきと思えないものを、執筆することほど辛いことはない。その意味で、自分が痛みや辛いことに対して向き合い、答えを見つけ出そうと格闘しているものこそ、創作意欲がわくのです。作品を作るうえで、明確なメッセージや答えはもちろんですが、問いかけも残ることが僕のなかでの理想なんです。『ミッドサマー』もそういう作品であってほしいと願っています」とメッセージを伝える。『ヘレディタリー/継承』は世界中から称賛され、アスター監督の名は広く轟いた。「すごく嬉しいことです」と笑顔を見せるが、実は『ヘレディタリー/継承』と『ミッドサマー』は並行して制作に入っていたため、多くの評価をしっかりとかみしめる時間がなかったという。「いまようやく2つの作品が完成して、皆さんの意見を受け止めているところなのです。すごくいろいろな意見をいただき光栄に思っています」としみじみ語る。「結果を残すことで次の作品に進むことができる」と語ったアスター監督。すでに次回作の執筆にとりかかっているようで「次はダークコメディを書いています。順調にいけば、3作目はいま執筆している作品になります。さらに4作目はSFをやりたいと思っています。すでに脚本に着手しており、映画化のめどがたったら書き進めていければと思っています」と構想を明かしてくれた。(text/photo:Masakazu Isobe)■関連作品:ミッドサマー 2020年2月21日よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国にて公開© 2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.
2020年02月17日俳優・綾野剛にとって、肉体、心、持ちうるものすべてを投じて作品に臨むことは「当たり前」なのだろう。アスリートのごとく、堅実に役に打ち込む姿を現場で目にする機会が観客にはなくとも、物語内の一挙手一投足で「綾野剛」ではなく「その人物」がさも存在しているかのように受け止められる。ゆえに、役を生きるための途方もない努力も想像に難くない。多くの俳優賞を受賞してきた綾野剛「こういうときこそ自分を褒めなきゃいけない」綾野さんが役者を始めたのは21歳の頃。2013年、『横道世之介』、『夏の終り』で、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞したのを皮切りに、翌年から続けざまに様々な映画賞、ドラマ賞において、その名が散見されるようになった。まもなく行われる第43回日本アカデミー賞においても、『閉鎖病棟 ―それぞれの朝―』で優秀助演男優賞を受賞し、最優秀賞受賞の期待もかかる。綾野さんにとって、賞はうれしい?取るに足らない?それとも――。「賞は、どこまでも他力で決まるんです。だから、アスリートみたいに自力で勝ち取る一等賞ではない。どれほど自分じゃない誰かに、その人物が焼きつき共鳴したか、でしかないのかなと思っています。評価をされることは素直に喜ぶべきことだし、つべこべ言って自分を過小評価するのではなく、ちゃんと、こういうときこそ自分を褒めなきゃいけないし、肯定しなきゃいけないですよね。今日までやってきたことは、ある一片では正しかったし、その姿勢が現場を越えてたくさんの人に届いたんだ、と。言い方を変えれば“日本映画を盛り上げてください”というエールだと思っているので」。「日本映画を盛り上げ」という言葉をひときわはっきりと発した綾野さんは、一言、一言、言葉を置くように丁寧に続ける。「あくまで僕の主観ですけれど、世の中、自分自身を肯定するということさえも潔癖になっていないかな、と。もっともっと自分を褒めてあげようよ。そして、自分で自分を褒められなくても、周りがあなたのことをちゃんと評価してくれている、褒めてくれていることも素直に受け止めようよ、って」。自分に向けていた言葉が、いつしかいまを生きる人たちへの優しいメッセージに変わっていた。「もっと自分たちを称えていいと思うんです。もっと自分に優しく。そうじゃないと、自分じゃない誰かを優しくすることなんて…」と綾野さんは話し、ふと目線を上げ「そうですよね」と穏健に反芻した。“綾野剛”が自分を甘やかしてあげるときはある?40代に向けて…綾野さんにとって演じることは、「生活をするためのものではなく、生活なんです。呼吸するのと変わらないんです」と定義する。そして、過去を見つめ、「自分を救ってくれたのは、唯一、映画、役者であることだった気がします」と希望を見出したことを吐露。「救ってもらったから何かをするわけではなく、応えたいという気持ちは、とっくに超えちゃっている感覚があります。救ってもらうために、最早、映画をやっていないんです」と。1月に38歳を迎えたばかりだが、40代に向けて、綾野さんはどんな進化をしていくのか。意外なリアクションが返ってきた。「…どんどん腰が重くなっていくじゃないですか(苦笑)。人並みに重さはあるんですよね。いまは芝居は40(歳)と、自分の中でなんとなく見据えています。のらりくらりやっていたらバレるから、絶対にやりたくないんです。バレたときには、作品にひどいダメージを自分は与えてしまう。それこそ、本末転倒だから」。「だから、まずは40までに何ができるか。ずっと役者を続けていくためには、鮮度がいい状態でいたい。鮮度を高めるためには、自分の鍛錬ももっと必要だし、新しいもの、美しいものをもっと見て、知らない世界に飛び込む勇気も持たなきゃいけない。40になったときに“役者を続けよう”と思える自分が、21で役者を始めたときのように、もう1回始め直したいんです。30になったときも始め直した。厳しいかもしれないですけど、そう向き合っていますね」。演じることへの強い責任とこだわり、最上の作品を届けるために惜しみなく捧げてきた覚悟が、いくつもの高いハードルを超えてきた。おしなべてストイックな綾野さんだからこそ、ふと疑問が浮かぶ。「自分を甘やかしてあげるときは、あるんですか?」。綾野さんは小さく「おっ」と口をすぼめた後、予想もつかないチャーミングな返答を。「ありますよ!昨日は、ジャイアントカプリコ、ふたつ食べました。甘やかしたね~(笑)。ずいぶん食べていなかったんですけど、イチゴ味がダントツに好きなんですよ。もはや1個で収まらないところが甘やかしですよね。大人は、そこで止まりますからね。2個いっちゃった、っていう。最後は、惰性で押し込みました(笑)」。真面目なトーンのインタビューが続く中、サービス精神にあふれた綾野さんによる究極の「甘やかし」回答で、一気に取材場のムードもほどけていった。子どものように無邪気にはしゃげる姿も、綾野剛の魅力の一片、と記したい。渾身作『影裏』を2020年に投下するのは「とても意義のあること」綾野さんの最新主演作は、松田龍平さんと初共演を果たした映画『影裏』。『ハゲタカ』や『3月のライオン』で知られる大友啓史監督が、熱いラブコールを寄せ、『るろうに剣心』以来のタッグが実現した。第157回芥川賞を受賞した沼田真佑氏の小説をもとに映画化された本作では、綾野さん演じる主人公・今野秋一が、転勤で移り住んだ盛岡にて、日浅(松田さん)と出会い、心を通わせ、やがて彼の光と影に直面する日常が描かれる。松田さんとの共演について、「僕が役者を始めた頃には、龍平はとっくに始めていて、ずっと観てきていました。理屈のない安心感があったというか。彼とだったら、むしろ今(の共演)で本当によかったと思います」と、振り返った綾野さん。松田さんの存在は「稀人だなと思う」と、つぶやいた。「彼の表情には情報過多が一切なく、サービスもなく、どんなことを考えているのかを、こちらがどんどん知りたくなる。その先を何も推測できない果てしなさが、やっぱりある。表情で訴えかけてくるというより、こう…佇まいや機微みたいなものが僕たちの琴線に触れてくるわけで。日本でも本当に、そういった表現をできる数少ない役者のひとりだと思います」。物語では日浅にリードされるよう、今野が少しずつ心をほどいていく。職場でのたわいもないやり取り、何度も酌み交わす家での酒、ときに川釣りへ、喫茶店へ、薄暗い映画館へと繰り出しては、ふたりの蜜月が紡がれる。観客は、今野が日浅に対して募らせる想いに気づかされ、他方で日浅の瞳の奥が捉えられないほど深いことにヒヤリとする。やがて、ある一夜が訪れる。「日浅に踏み込んで、今野のマイノリティーな部分がグッと出るシーン、ありますよね。今野は、心のひだの数がすごく多かった。そのひだを楯に日浅に飛び込んだ姿勢は、もちろん求めたい思いもあるけども、彼の存在が確かであることを証明したかったように思えるんです。今までにない圧倒的な距離の近さに、瞬間的に心を奪われてしまう感覚っていうか。彼は、確かにそこに存在しているんだという自負を持ちたかった。龍平が持つムードや資質が、あの急な行動を成立させたのかなと思っています」。『影裏』とともに、2019年に出演した『楽園』、『閉鎖病棟 ―それぞれの朝―』の3作品を、それまでの5年間で取り組んできた方法論を全て捨てて、大変化を遂げた「3部作」であると、綾野さん自身が表現している。『影裏』については、格別、「渾身の一作」と言い切った。「僕は『影裏』を国際映画だと思って向き合っていました。フィクションではありますが、起こっていることはノンフィクションなわけで、現実にあったことも描いています。だからこそ、…その何百万、何千万というたくさんの人たちのひだの一片に過ぎないけど、その一片の人が感じたあの事実を、世界に届けなきゃいけない、という思いでした。今、龍平と渾身の『影裏』を、大友啓史監督という圧倒的な強者と共に投下する。それが2020年、オリンピックイヤーであることは、とても意義のあることだと思います」。「我々はいつだって裸足で走っている」とも綾野さんは言った。痛みを伴いながら、ボロボロになりながら、素足で走った果てに完成した作品が、輝かないわけがない。気づけば、私たちはスクリーンの彼にくぎ付けになり、その魅力に何度だって心地よく堕ちていくのだ。(text:赤山恭子/photo:You Ishii)■関連作品:影裏 2020年2月14日より全国にて公開©2020「影裏」製作委員会
2020年02月14日日本時間2月10日(現地時間2月9日)に開催される世界最高峰の映画の祭典「第92回アカデミー賞授賞式」を、WOWOWではアメリカ・ロサンゼルスのドルビー・シアターより独占生中継。案内役を務めるのは、いまや名コンビと言っても過言ではないジョン・カビラと高島彩だ。助演男優賞はブラッド・ピットで決まり?俳優として初受賞かカビラさんは2007年(第79回)から案内役を務めており、今回がなんと14回目。高島さんとのコンビは8回目となり「もうね、盤石ですから。プロ中のプロでいらっしゃるから、なんの不安もございません」(カビラさん)、「年に1回、この季節だけ、椅子を引いてくださる男性とお会いできるので(笑)。あうんの呼吸でご一緒させていただいている」(高島さん)と全幅の信頼を寄せている。そんなお二人に、今年のアカデミー賞の行方を大胆予想してもらった。――まず、助演男優賞と助演女優賞からお話をうかがえれば。前哨戦と呼ばれる各映画賞で受賞を果たしている『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のブラッド・ピット、そして『マリッジ・ストーリー』のローラ・ダーンが本命視されています。カビラ:ローラ・ダーンがすごいのは、あんな辣腕弁護士を演じているのに、嫌味が一切ないというところ。離婚裁判ですから、相手をいかに論破し、打ち負かせるかが勝負ですけど、そのセリフ回しが本当に魅力的ですよね。予想するという視点では、確かにローラ・ダーンが本命ですが、僕が推したいのは『リチャード・ジュエル』のキャシー・ベイツ。息子の無実を信じる姿に、無条件の愛を感じさせるし、何というか…、もはや聖母ですよ。高島:助演男優賞はやはりブラッド・ピットでしょうね。今年の候補者の中では、唯一、俳優としてアカデミー賞を手にしていませんし、今度は本業でと応援しています。受賞したら、自虐を交えたスピーチを披露することになるのでしょうか。色んな意味で楽しみです。本命はホアキン!見事な復活遂げたレネー・ゼルウィガーの受賞は?主演男優賞は、日本でも興収50億円突破の社会現象を巻き起こした『ジョーカー』のホアキン・フェニックスが最有力。そして主演女優賞の本命は、往年の大スターであるジュディ・ガーランドの半生を描いた『ジュディ 虹の彼方に』のレネー・ゼルウィガー。厳しいレッスンを経て、劇中の全曲を自ら歌いあげたパフォーマンスが高く評価されている。――やはり、主演男優賞はホアキン・フェニックスが決まりでしょうか?高島:これは硬いと思います。まるで悪魔の羽が生えるんじゃないかと思わせる後ろ姿…。狂気と悲しみがギュッと凝縮されていて、すごかったですよね。悪の存在ではあるんですが、思わず観客を共感させ、引きずり込む凄みが伝わってきました。カビラ:僕も本命はホアキンだと思いますね。もう1人は『マリッジ・ストーリー』のアダム・ドライバー。離婚を突き付けられた男の苦悩を演じるんですけど、演じ切ると同時に、重い絶望とは違う何かを残してくれる。妻を演じるスカーレット・ヨハンソンとの丁々発止のやり取り、そこから生まれるズレにも共感しましたね。――レネー・ゼルウィガーにとっては、近年の低迷を見事打破する“復活作”での受賞に期待がかかりますね。高島:そうですよね。スターとして再起にかける思いというのが、ジュディと彼女自身に重なる部分がありますよね。仕事がうまくいかず、心や体がついていかないというジュディの苦悩は、きっとレネー本人も体験しているでしょうし。演技のすばらしさはもちろんですが、歌唱も圧倒的で、実力を改めて見せてもらいました。どんな受賞スピーチを披露してくれるかも楽しみですよ。カビラ:もはや『ブリジット・ジョーンズ』のコミカルな印象はなくて、自分の弱さと向き合えない“もどかしさ”を鬼気迫る演技で表現しきっていますよね。彼女が演じる晩年のジュディ・ガーランドを通して、ショービジネスの光と闇も見え隠れしますし。うーん、やっぱり主演女優賞の本命は『ジュディ 虹の彼方に』だと思いますね。作品賞にひた走る『1917 命をかけた伝令』、はたまた『パラサイト 半地下の家族』が歴史を動かす?9作品がノミネートされた今年の作品賞で、本命と目されているのが、全編ワンカット撮影も話題を集める戦争ドラマ『1917 命をかけた伝令』。さらに『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』や『ジョーカー』、韓国映画初の候補となった『パラサイト 半地下の家族』など例年以上にバラエティに富んだラインナップとなった。――いよいよ作品賞の予想をお願いしたいのですが…。予想とは別に、応援している作品もあると思いますが。高島:そうですね。本命を予想すると、やはり『1917 命をかけた伝令』になりますね。本当に、あの臨場感はすごいの一言。戦場に引き込まれる感覚でしたし、兵士たちが味わう渇きまでも、体感できたというか。映画として新しい試みですし、撮影に至るまでの努力も、確かに高く評価されるんじゃないかと思いますね。カビラ:うーん、確かに『1917 命をかけた伝令』がフロントランナーではありますけど、僕は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を推したいですね。ちょうど映画の舞台になる1969年って、僕はホームステイで叔父が暮らすカンザスにいたので、シャロン・テートの事件は強烈に記憶に残っていて。映画としてもハリウッド最後の黄金期の息吹を伝えつつ、残照というか哀愁を描き切っている。同時に歴史を変えちゃう(笑)遊び心もあって、クエンティン・タランティーノに何かしらの功労賞を与えたいと考えるアカデミー賞会員は少なくないと思います。次回作で引退するとも言われていますし。――アメコミが原案となった『ジョーカー』、カンヌ映画祭でパルム・ドールに輝いたブラックコメディ『パラサイト 半地下の家族』といった、作品賞の歴史では“異色”といえる秀作も名を連ねています。カビラ:生中継の案内役としては、『パラサイト 半地下の家族』が歴史を動かす瞬間を視聴者の皆さんと共有したいという気持ちがありますね。それにしても、今年は作品賞候補の振れ幅がすごいですよね。戦記物もあれば、古き良き時代へのオマージュも。『ジョーカー』や『パラサイト 半地下の家族』は格差社会の断絶を描いていますし、誰もがどれかを推したくなるチョイスになっている。もしかすると、投票者も驚く結果が待っているかもしれないし、アカデミー賞は「語り継がれること」にこそ価値があると思いますから。高島:カビラさんがおっしゃるように『パラサイト 半地下の家族』が作品賞に輝いたら、まさに新しい時代の到来ですよね。アジア作品初という点も含めて、応援しています。個人的にも大好きな作品で、コメディ色も強いので最初は大笑いしているんですけど、気づいたら転がるように、引きずり込まれる…。その恐怖というか、奇妙さは『ジョーカー』にも通じるものがありますね。笑いと恐怖は表裏一体なんだなと。「生中継!第92回アカデミー賞授賞式」は2月10日(月)午前8時30分~ [二] [同時通訳]/21時~[字幕版]WOWOWプライムにて放送。(text:Ryo Uchida/photo:Jumpei Yamada)
2020年02月06日日本時間2月10日(現地時間2月9日)に開催される世界最高峰の映画の祭典「第92回アカデミー賞授賞式」を、WOWOWではアメリカ・ロサンゼルスのドルビー・シアターより独占生中継。モデルや女優として活躍する河北麻友子が、レッドカーペットリポーターに決定した。アンテナを張りながら、皆さんの“素”を引き出せれば「初めてレッドカーペットリポーターを務めることになり、とても興奮しています」と声を弾ませる河北さん。「お家で生中継をご覧になる皆さんに、少しでもその場の熱気を楽しんでいただければ」と抱負を語る一方で、「もちろん、ドキドキもしている」と本音を明かす。――河北さんといえば英語も堪能でいらっしゃるし、何より「どんな相手にも物怖じしない」という印象もありますが…。「いえいえ。正直、プレッシャーはめちゃくちゃ感じています。感じまくりですよ!なんと言っても、当日はどなたが取材に応じてくださるか、まったく確約がないじゃないですか。現地にいる取材陣は仲間であり、ライバルなので、気持ちで負けてしまうと、スターの皆さんもどんどん別の取材に向かってしまうでしょうし、いかに堂々としていられるか。少しでも多くの方々にインタビューしたいので、現場の状況にアンテナを張りながら、俳優さんやスタッフの皆さんの“素”を引き出せればと思っています。とにかく、私たちの前に立ち止まっていただく。それが一番ですよね」――当日、河北さんが待機する取材エリアは、有名司会者であるライアン・シークレストの隣だそうですね。セクハラ騒動の影響で、一時期はほとんどのスターが素通りしてしまったそうですが、いまは信頼も復活し、ライアンの前には多くの候補者が立ち止まるみたいですよ。「ハリウッドでとても顔が広い方なので、わたしも横取りじゃないですけど(笑)、あやかって、取材に応じてもらえるようアピールしたいですね。当日着るドレスは、いま考えているところで…。現地でお会いする皆さんに失礼がないように、華やかさを意識したいですね」最多11部門候補の『ジョーカー』に「人生観が変わった」先日発表されたノミネーションで、最も注目を集めているのが作品賞、監督賞をはじめ、最多11部門で候補にあがる『ジョーカー』だ。主演男優賞にノミネートされたホアキン・フェニックスも授賞式当日、レッドカーペットに現れるのは確実で、河北さんも「正直、インタビューさせていただきたい“大本命”です」と意欲を燃やしている。――ホアキン・フェニックスはこれまで、ほとんどプロモーションで来日したことがない大物ですよね。調べてみると、どうやら2002年の来日が最後みたいで…。今回、日本のファンにメッセージをもらえる大チャンスだと思います。「そうなんですよ!大チャンスではあるんですけど…、そもそもインタビューに応えるのが、お好きじゃないイメージも強くて。取材に応じる映像も、ほとんど見たことないですもんね。この先、お会いできる機会もそうそうないでしょうし、どうにか足を止めていただき、日本のファンに何かひと言、言葉をいただければと思っています。『ジョーカー』でのお芝居は、本当にすごすぎて、怖さを感じるほどでした!」――ホアキンの演技以外に、『ジョーカー』に対してどんな感想をお持ちですか?「私にとっては人生観が変わったと言えるほど、刺激と衝撃を受けた映画で、映画館に2回足を運びました。いままで、『いい人はいい、悪い人は悪い』っていう善悪がハッキリした考え方が自分の中でも強かったんですが、そうじゃないんだと…。正義って、ひとつじゃ割り切れないんだと(ホアキン演じる)ジョーカーに突き付けられた気がするんです。善とは言い切れない彼の感情に共感できたというか。そういう感覚は初めてでした」過去の授賞式で印象的に残るのは、アフリカ系アメリカ人として初の主演女優賞を手にしたハル・ベリー、そして5度目のノミネートにして悲願の主演男優賞に輝いたレオナルド・ディカプリオなのだとか。「あれだけの大スターが、オスカー像を手に感激する姿を見ると、アカデミー賞の偉大さを改めて感じますよね」。そのディカプリオは今年『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で主演男優賞候補に。同作の共演者で、助演男優賞にノミネートされているブラッド・ピットとレッドカーペット上で2ショットを披露する可能性もあり、河北さんも「それ、やばくないですか!?」と期待に胸を膨らませていた。「生中継!第92回アカデミー賞授賞式」は2月10日(月)午前8時30分~ [二] [同時通訳]/21時~[字幕版]WOWOWプライムにて放送。◆ヘアメイク:北一騎◆スタイリスト:池田直美◆衣装クレジット:PINKO JAPAN/クリスチャン ルブタン ジャパン/スタージュエリー表参道店(text:Ryo Uchida/photo:You Ishii)
2020年01月28日たとえAIが命の選別を始めたとしても、この笑顔を消すことなどできないはず。岩田剛典が見せる柔らかい笑顔には、それほどのパワーがある。ただし、役のためなら持ち前の笑顔を封印することも。『AI崩壊』で岩田さんが演じた警察庁の天才理事官・桜庭誠は、頭脳派ゆえにクールで、シビアで、笑顔を見せはするものの、そこには計算がある。演じた役は「自分には全くない要素」「ここまで頭脳派の役をやったことがなくて。ちょっと優秀なくらいではなく、MITで博士号を取得し、警察庁の理事官にまで上り詰めた超エリートの天才。『どんな人?』と思いました(笑)。想像がつかなかったんですが、その人間性の中に冷たさみたいなものがあるんじゃないかと思って。目はギョロッとしているけど動かず、低温な感じ。と同時に社交性もあって、人たらし的な部分を持ち合わせている。すべて計算なんですけどね」。「海外生活が長く、いろんなものを見てきたからこその社交術を持っている」ともいう桜庭は、国民の生活を支える医療AIの開発者・桐生浩介(大沢たかお)に対しても社交性を発揮。しかし、医療AIの突然の暴走を受け、桐生こそがテロリストだと断定する。「監視用のAIを駆使し、逃亡した桐生を追い詰めていくんです。でも、監視モニターのスクリーンに映し出される映像は別撮りで。何も映っていないグリーンバックを前に芝居をしていました。『この位置に大沢さんが映っている予定です』なんて指示は受けるけど、実際は…無(む)。新境地でしたね(笑)。微妙なニュアンスが問われることもあれば、瞬き1つが意味を持ってしまうこともあって。眼球の位置にも気をつかいました」。桐生を迅速に追い詰める捜査術はスマートで、容赦ない。「ここまでクールになれないし、実際の僕は結構ヌケているし…。自分には全くない要素だったので、桜庭を演じるのは難しかったです」と言いながら見せる笑顔は、やはり桜庭のそれと異なる。自身と役の距離は、「遠くもなく、近くもなく、ほどほどがいい…かも?」だそうだ。「日常の延長にある役のほうが想像はしやすい…。いや、かえって難しいか…。難しい問題ですね。ただ、遠いほうが新鮮ではあるかもしれない。僕自身は人との距離感があまり近くないので、桜庭の近さは新鮮でした。はじめましての相手なのに、『ぐいっ』って。でも、新鮮であればあるほど、説得力を持たせられるかどうかは不安になります。ちゃんと、天才捜査官に見えていました?だとしたら、よかったです(笑)」。難しい役や求められることには「集中力が必要」2019年は、人気者だがヒネくれた高校生になったり、探偵助手を務める元精神科医になったり。そして2020年の始まりは、天才捜査官。そういえば昨年、三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEの仲間であり、短編映画で演技に初挑戦した今市隆二がこんなことを言っていた。「いろんな役をやっていて、岩ちゃんはすごい」と。「あの映画の隆二さん、素敵でしたよね」と顔を綻ばせつつ、メンバーからの称賛の言葉と向き合う。「いろいろ演じさせていただける年齢になってきたのかなとも思います。それって、僕にとってはすごく嬉しいこと。役というよりは、作品の幅かもしれないですね。『AI崩壊』なんて、まさにそう。大きなプロジェクトで、僕好みの題材で、最高に魅力的でした。だからこそ、どんな役を演じるかより、どんな作品の中にいるかが大事にもなってきていて。ここ3年くらいかな?そう考えるようになったのは」「『どんな役を演じたいですか?』とよく聞かれるんですが、あんまりないかも。『どんな監督と組みたいですか?』なら無限に出てくるんですけど。もちろん、作品の幅が広がる分だけ、役のハードルも年々上がっています。難しい役が多いし、求められることも増えてくる。そこに対してクオリティを落とさず、しっかり打ち返していく。集中力が必要だなと思っています」。「集中力」という言葉に重みがあるのは、このインタビューを行ったのが「シャーロック」のクランクアップ翌日だから。「夜中まで撮影していて。ラストシーンはワンカットの長回しで…って、別の作品の話になっちゃった(笑)。失礼しました」と軽やかに話すが、「しっかり打ち返し」、この場にいるのだろう。今後の作品で組みたい監督は?「ハードでしたけど、体力があるうちに無理はしないと。本当は、もっともっとやりたいくらいなんです。EXILEと三代目の活動がありますから、お話をいただいたのにスケジュールが合わない作品もあって。こればっかりは出会いですね。でも、隆二さんもそうだし、仲間が年々増えている感覚はあって。僕の場合、お芝居の話を共有できる相手は、パフォーマーの先輩で言うと(EXILE)AKIRAさんであることが多かったです。最近はEXILE TRIBEのみんなもお芝居の世界に触れている人がだいぶ増えたから、会話ができますよね。先輩としても、後輩としても。『みんな、もっとやって』と密かに思っています(笑)」。いろいろな作品、いろいろな役に望まれる年齢になり、「もっともっとやりたい気持ち」もある。あとは、1日が24時間以上、1年が365日以上になるのを願うだけ?最後に、先程の発言を受けての問いを投げてみた。どんな監督と組みたいですか?「是枝裕和さん。白石和彌さん。蜷川実花さんには写真を撮っていただいたことはありますけれど、映画でご一緒したことはないのでぜひにと思います。(大ファンを公言している)クリストファー・ノーランが日本で何か撮ってくれないかなあとも思うし。まだまだ続きますよ(笑)」。(text:Hikaru Watanabe/photo:You Ishii)■関連作品:AI崩壊 2020年1月31日より全国にて公開©2020「AI 崩壊」製作委員会
2020年01月27日高橋一生と蒼井優、意外なようで、何だかしっくりくる取り合わせだったりもする。ともに10代から俳優としての道を歩き、多くの作品で経験を積み、30代の今、磨き上げた演技力が彼らの強い脚力になっている。ふたりは男と女であるし、築いてきたキャリアの彩りも異なる。けれど、誰にも似つかない存在感で柔らかな光を放ち、気づけば魅力の渦に落とされるような面こそ、共通するところかもしれない。高橋さんと蒼井さんが19年ぶりに本格的な映画共演となった『ロマンスドール』は、タナダユキの小説を、タナダ自身が脚本・監督として作り上げた1作で、ふたりは初の夫婦役となった。一目惚れをして結婚した園子(蒼井優)と幸せな日常を過ごしながらも、後ろめたい気持ちから、自分がラブドール職人であることを隠し続けている哲雄(高橋一生)。哲雄が仕事にのめり込むにつれ、園子とはセックスレスになっていく。いよいよ夫婦の危機が訪れそうになったとき、園子から、ある秘密を打ち明けられるのだが…。痺れるような会話劇、一転、会話のない肉体を通してのやり取りが、作品の色となり薄いヴェールに包まれたような世界観を染め上げていく。まるで「玄人技」とも呼びたくなる見事な演技のハーモニーについて告げれば、高橋さんと蒼井さんは、「ありがたいですね」、「うれしいですね」と小鳥のように囁き合って微笑んだ。互いだからこそ引き出し合い、預け合えたと語る、胸に迫る芝居について聞いた。『ロマンスドール』はファンタジー要素もあり、ものすごく残酷な部分もある――即決に近い形で出演を決められたそうですが、タナダ監督の作品の魅力について、どう感じていますか?高橋:ファンタジーであっても結構肉薄というか、タナダさんの冷静な目線みたいなものが、映画そのものにすごく効いているところが魅力だと感じています。人生って、急にファンタジーっぽくなったりもする。そんなファンタジー要素もありつつ、非常にシニカルだったり、ものすごく残酷な部分もあったりして。そのバランスが、僕らが生きていて何かを感じてしまうときに、限りなく近いんじゃないかなと思っています。蒼井:私は、仕事をやっている上で、タナダさんという存在がすごく大きくて。もし、タナダさんの名前を伏せていたとしてもわかるぐらい、安心できる台本だと思っています。勝手にですけど…、感性が似ていると思っているので「タナダさんといつかお仕事できるかもしれない」という希望が自分の中にあったりしました。自分の地元があるみたいな感じ、とでもいうのかな(笑)。高橋:地元ね(笑)。蒼井:地元ほど、いつでも帰れるわけではないですし、緊張はしますけど、タナダさんと組むと、後天的ではなく、先天的な感覚でお仕事ができるんです。「そうそう、私はこういうことで照れるんだ」とか、「こういうことに、はにかむんだ」とかを思い出させてくれる場所で、「ここは頑張らなきゃ」とか、「ここはこれでいいんだ、この世界は」みたいなことではなく、居させてくれる現場なんです。だから、すごく大きな存在です。タナダさんの作品は心強いんですよね。「やっぱり優ちゃんとでないと出せない」「すごくいい体験、いい時間」――信頼感のある台本の上、さらにおふたりが真ん中に立っていると、鬼に金棒感もあります。お互いだからこそ到達できたようなシーン、演技の瞬間はありましたか?高橋:園子と哲雄が会話する食卓のシーンです。よく芝居はキャッチボールと言いますが、ジャグリングだと思いました。会話という球をテーブルの上で投げ合うと同時に、テーブルの下で違う球を何個も投げ合っているような。「この感じは、やっぱり優ちゃんとでないと出せないな」と思いました。お芝居という会話の中で、台詞を言ったから相手が台詞を返す、という次元ではないんです。優ちゃんとだと、いくつもの球が同時に飛んでいる。そういうことは、今こうやって僕らが会話をしていてもあることだと思います。作品によっては、わかりやすくするために、ひとつの球を受けて返すということも必要になると思います。けれど、この作品では多くの球を同時に渡していくことを許してもらえる感覚でしたし、それはかなり高度なことだと僕は思っていて。本当に、優ちゃんとでないと成立しなかったんじゃないかと思います。蒼井:ありがとうございます。私から言えば、台詞を覚えてさえいれば、何かを自分でやらなくても、自然とその台詞に行き着く安心感がありました。「この台詞の後は、私はこう言うんだ」とかがないから、カメラの前で、本当に呼吸をさせてもらっていた感じでした。息を詰めたり、鼓動が速くなったりが映らないことをきちんと体感しながら、ワンカット、ワンカット積み重ねることができたからこそ、すごくいい映画『ロマンスドール』ができたのかな…、うれしい、というのが正直な気持ちです。もちろん自分の芝居に関しては、反省点もいっぱいありますけど、すごくいい体験、いい時間を過ごさせてもらったなと思っているんです。――「いくつもの球」が飛び交い、呼吸しながら演技ができたという本作なので、台本に載っている言葉や物語以上のものが、完成作には詰まっていると言えそうですね。高橋:実は僕、台本は完璧には覚えていないんです。蒼井:そうそう。台本にしがみつかなかったです。高橋:たとえ台詞が一行が抜けてしまっていても会話できたんです。なんだか不思議でした。後でタナダさんに、「台詞2個抜けてた。もしかしたら、これいらないかもね」と言われたりもして。そんなことが何回かあったでしょうか。言われた僕も「あっ、そう言えばそうだ」と思うぐらい。結局、合間が抜けても成立してしまうほどの空気感だったんです。普通だったら構築していかなくてはいけないものがあるし、順番もあるけれど、お互いに会話を受け取っているから、そうなれたのかもしれないです。蒼井:そう、受け取っているからですね。お互いが違和感を覚えて、「一生くん、セリフ抜けてたよ」みたいなことじゃなく、お互い気づかずに普通に会話を積み重ねたりして。高橋:そう。そのような会話や呼吸が、どれだけ現場で重要視されていて、どれだけそれが自然にできたか、ということだったと思います。高橋一生&蒼井優が思う「理想の現場」――キャリアの長いおふたりに、ご自身が思う「いい現場」について伺いたく。特に『ロマンスドール』はそういう現場だったのかもしれなませんが、いい演技ができたりする環境について、理想を教えていただきたいです。高橋:僕は「俳優部」として捉えてくれているスタッフの方々がいる現場って、結構好きかもしれません。「俳優さん」というふうに捉えられると、柔らかいんですけど、意外と気持ち悪くなってしまうというか。俳優部は俳優部、演出部は演出部という部でちゃんと分けられていて、それが合致して作品を作っていくことを感じられる方々がいる現場は、すごく素敵な現場だなと、常々思っています。蒼井:私も同じです。演出部、美術部、とかと同じように俳優部、と。映画は、監督がいて、その周りの全員がスタッフみたいな形で、監督が撮りたいものをみんなでどう作っていくかというものだと思うんです。私が一番好きな形は、だからこそ、部の壁がなくなって、手伝えるところは手伝い合えるのがすごく好きで。塚本(晋也)監督の現場とかが、そうで。高橋:そうなんだ。――『斬、』では蒼井さんや池松壮亮さんら俳優部の皆さんが、ほかの部と一緒に動いていたと聞きました。蒼井:本当に、そうでした。ものづくりの美しさを全部見せられた、と思いました。撮影の確認とかをやっている間にダラダラ休憩したり、コーヒーを飲んだりしているわけじゃなくて、この現場にとって誰かが楽になることをずっとみんなが考えて動いている、素敵な現場だったんです。高橋:思いやりがある現場がいいですね。蒼井:そうですよね。気遣うとか、気を遣うとかじゃなくて、思いやりのある現場が理想です。(text:赤山恭子/photo:Madoka Shibazaki)■関連作品:ロマンスドール 2020年1月24日より全国にて公開©2019「ロマンスドール」製作委員会
2020年01月24日インタビューが行われたのは2019年の年の瀬。その年は、宮沢氷魚にとって間違いなく駆け抜けた、そして飛躍した1年だった。「コウノドリ」第2シリーズで俳優の門をたたいてまだ3年弱というのに、2019年はドラマ3本、映画1本、舞台1本と切れ目なく出演を続け、実績を積み上げたのだから。変化の2019年「この場にいていいのかな」から「今なら自信を持ってその場にいられる」「2018年の夏くらいから、ずっと何かが入っている状態で、振り返る余裕もないまま次が始まって、終わって、また次が、となっています。正直、2019年の一番最初の頃と、今とでは全然違うと思うんですけど、どこがどう変わったかとかは、いまいちまだわからないんです。何か大きく“ひとつの出来事があったから変わった”とかではないので。ひとつ、ひとつ、作品が終わっていくと自信がつくというか。ちょっとずつ、無意識なんですけどね」。一息で言い終えた後、宮沢さんは、「うまく説明できなくて申し訳ないんですけど」と前置きしてから、こう続けた。「こうして取材を受けたりして、スチールのときに特に感じたりもします。その場にズシッと自分の体があって、100%でいる感じがするというか。今までもそのつもりでいたんですけど、思い返してみると、どこかフワフワしていたような、“この場にいていいのかな”みたいな感覚が、どこかにあったみたいで。今なら自信を持ってその場にいられるから、そう思うのかもしれません」。冷静に自身を分析する宮沢さんは、常に穏やかなトーンで話し続ける。身長184cm、「MEN’S NON-NO」専属モデルという人目を引くプロポーション、透明感にあふれるたたずまいも彼の大きな持ち味だ。しかし、それ以上に、自分を過小評価も過大評価もしない真っすぐに生きているスタイルが、多くのライバルがいる若手俳優群の中でも注目を集める存在となっているのだろう。独特の魅力を放つ源泉を探りたくなる。「自分ひとりだけの考え方、生き方、物の感じ方だと、たぶん限界があると思うんです。僕は周りの人たちからいろいろ刺激を受けています。けど、それに流されてはいけないと思っていて、自分という人間を持ったまま、刺激を受けてどんどん自分に着せていくことが大事だと考えています。流されてしまうと自分ではなくなっちゃうし、その人の分身になってしまうから。けど、人から受ける影響は、いいことも悪いことも、すごく素敵だと思います」。「誰かのコピーにはなりたくないんですね」と確認すると、「そうですね、はい。それはよくないですよね」と、変わらず穏やかな口ぶりながら、はっきりとうなずいた。「偏見・差別を受けたこともあります」宮沢さんが語る『his』の役作り宮沢さんが映画初主演を飾った『his』が間もなく公開を迎える。宮沢さんは、8年たっても忘れられない初恋相手・日比野渚(藤原季節)の想いを胸に、周囲にゲイだと知られることを恐れ、東京から離れて、ひとり田舎に住まう井川迅を演じた。「同性愛の美しいところも描いていれば、そうではない醜いところ、苦しいところ、つらいところもすべて見せている作品です。実際の現代社会がLGBTQをどう見ているのか、偏見・差別もきちんと描いているので」と宮沢さんが説明する通り、男性同士の純愛を軸に置いている本作だが、「POPなBL」系統とは一味も二味も違う仕上がりだ。現代のLGBTQについて、田舎で生活することについて、夫婦間の価値観のズレのもの悲しさなどを通して、生きること、人と関わることという根底のテーマが照らし出される。華やかな世界に身を置く宮沢さんと、差別を恐れる迅は、一見まったく共通点がないように見える。伝えると、彼は小さく首を振った。「僕はアメリカ生まれで、向こうの血が4分の1入っているので、小さい頃偏見・差別を受けたこともあります。日本にいても、日本人扱いをされないときもあるから、いまいち居場所が見つからなかった。“向こうに行けば居場所があるかな”と思ってアメリカ留学したときも、ローカルの人とはまた別の“日本人”という見られ方をしましたし。そうなると、“自分の居場所ってどこにあるんだろう”と考える時期もあったので、当時の経験を思い出しつつ迅をやっていました」。さらには、「あまり周りに相談せず、自分ひとりで考えこむ」という宮沢さんの性格も、迅に重なるところがあり、寄り添いながら役を自分色にしていったという。けれど、「よほどのことがない限り、そういうことはないんですけど、結果、最後の最後まで役のことをあまりつかめなかったというか…。ずっと悩んでいたんです。撮影中もわからなくて、クランクアップしてからも“果たしてこれでよかったのかな”と残っているところがありました」。そうした宮沢さんの迷う気持ちは、ある種、今泉監督の「理想通り」だったようだ。「この間、取材で今泉監督とご一緒したときに“なるべく役者がその役のことをつかまないようにしていた”とおっしゃっていたんです。僕は“つかんだ”と思った瞬間はないんですけど、きっとあえてそうしていたのかな、と思いました。今泉さんが難題をどんどん与えてくれて、毎日悩んで、正解って何なんだろう、とずっと考えていました」。2020年は「自分の実力でどんどん仕事をしていきたいし、決めていきたい」宮沢さんと二人三脚でふんばり、10日間の共同生活をともにした藤原さんの存在なくして、本作はなしえなかったと、宮沢さんは感謝を忘れず口にする。「季節くんの存在は本当に大きかったです。とにかく傍にいてもらったことは、僕が季節くんにやってもらって一番うれしかったことでしたし、僕も同じことをしました。役もですけど、テーマもテーマで、自分ひとりで考え始めちゃうと、本当に孤立して孤独になっていくんです。僕も季節くんも、どちらかと言うと、自分の中にあるもので必死に答えを見つけ出そうとしてしまうので、どうしてもしんどくなってくる。そこで近くにいてくれて、僕がすごい悩んでるときにスッと一言かけてくれたりとかが救いでした。終わっていろいろ考えてみたら、ああいう瞬間ってすごく大事だったな、と思うんですよね」。全身全霊をかけた当然の結果か、撮影終了後はとてつもない疲労感に襲われたとも話す。「よかったなと思ったのは、終わった後、精神的にも体力的にも疲れた…ってグッタリしたこと。それだけ、エネルギーをこの作品に注ぎ込んでいた証拠だと感じられたので、やっぱり自分がやってきたことは間違っていなかったかな、と思っています」。そして、2020年に突入。『his』の公開後も様々な作品が宮沢さんを待ち受けている。先のことを尋ねると、「どうなりたいだろう~!」と口角をキュッと上げて、期待に満ちた微笑みをひとつ残した。「2018年の終わりから2019年いっぱいは、タイミング、作品、人にすごく恵まれた1年でした。役者を始めて間もないこともありますし、まだ謎が多いだろうから、“宮沢氷魚を使ってみたら面白いかな”“宮沢氷魚ってどんな人だろう”と、面白そうという興味本位(の起用)もゼロではないと思うんです。でも、これからは、それだけではダメだと感じるので、自分のスキルも気持ちももっと高めていき“役者としてどんどん使っていきたい”と思ってもらえる1年にしなきゃいけない。2020年以降、自分の実力でどんどん仕事をしていきたいし、決めていきたいというのがあります」。(text:赤山恭子/photo:You Ishii)■関連作品:his 2020年1月24日より新宿武蔵野館ほか全国にて公開©2020映画「his」製作委員会
2020年01月20日言葉に表すことができない感覚を共有できる、現実以上に「生っぽい」感覚を届けてくれる映画がある。『愛がなんだ』、『アイネクライネナハトムジーク』、『サッドティー』など、たわいもない、どこにでもありそうなストーリーのようであり、すっぽりと心の隙間を埋めてくれる繊細な恋愛映画を手掛けてきた今泉力哉監督。最新作『mellow』は、今泉監督が『パンとバスと2度目のハツコイ』以来、脚本も執筆、日常の延長線上に見え隠れする恋模様が交錯する物語だ。街一番のオシャレな花屋「mellow」を営む夏目誠一(田中圭)は独身・彼女なしだが、好きな花に囲まれ、毎日幸せに仕事をしていた。店で販売する以外に、配達も自ら行う夏目は、ラーメン屋で切り盛りする若い女主・木帆(岡崎紗絵)や、常連客の人妻・麻里子(ともさかりえ)のもとに、笑顔とともに花をお届けする。そんなある日、麻里子から突然、恋心を打ち明けられてしまう。麻里子からの告白を皮切りに、夏目や彼の周りで、様々な恋が花開き散っていく。温かい片想いに苦しい両想い、甘やかだけでない恋愛のコミュニケーションは、映画の世界と私たちの距離をグッと近づけていく。手腕を惜しみなく発揮した今泉監督に、こだわりを聞いた。田中圭の芝居に感じた人間くささ「田中さんがキャラクターを広げてくれた」――『mellow』は「振られているのに、なぜか温かい」とでも言いますか、とても新しい恋愛映画でした。何に気をつけて脚本を書き進めたんですか?今泉監督:僕には、世の中の「これがいい」、「これが成功」みたいなことを、疑いたかったりする意識があるんです。劇中、中学生の女の子同士の恋愛もあったり、不登校の小学生の女の子がいたり、結婚しているけど告白する人がいたりして、世の中的には「よくない」とされていることが出ています。この作品では、そういう人たちをとがめるわけではなく、当たり前に受け入れて生活する。「ダメ」と言われていることを「ダメって言わない」みたいなことは、書いているときに意識していた部分ではありました。主人公が何かに悩み、解決して成長するのが一番王道で、話としてカタルシスもあるし、観やすい映画だと思うんです。だけど、俺はそれにはどんどん興味がなくなっていて。主人公の夏目は大きな悩みもないし、いまの人生に別に満足しているから「そんな主人公、大丈夫か!?」みたいな感じじゃないですか。物語で言うと、岡崎さんが演じた木帆のほうが、物語の主人公として置くキャラクターですよね。――ひとりのキャラクターに担わせないこと、登場人物の散りばめ方のバランスは、意識されているところでしたか?今泉監督:まさに。群像劇をたくさんやっている理由のひとつが、主人公が真ん中にいて、周りの人が主人公のために存在するのではなく、その人、その人の人生をなるべくちゃんと描きたいから、というのもあるんです。「主人公のために人を置かない」ことは意識していて。僕、エキストラとかが苦手で。いっぱい居てもらったほうが画になることもあるけど、「その人の人生もあるのにな…」って思っちゃうから。――田中さんが夏目を演じることで、より魅力を増したようなところはありましたか?今泉監督:はい。オリジナルで書いたのもあって、田中さんが広げてくれたところがありました。具体のシーンで言うと、麻里子(ともさかさん)とかと揉めた後に、車で夏目が姪の前でタバコを吸うシーンがありますよね。たぶん、俺が芝居の温度をコントロールしたら、もうちょっと子どもに罪悪感を持って、「かっこ悪いところ見せてごめんね」と優しくしたと思うんです。けど、田中さんは意外とイライラしている感じでやっていたし、タバコを吸っても簡単に落ち着かず、まだイライラしている感じを出していた。「そうかぁ、まだイライラするんだ」と、そっちのほうが人間っぽいと思ったので、そのままやってもらいました。――まさにキャラクターが広がった瞬間ですね。今泉監督:やっぱり広がっていくから面白いんですよね。映画は、スタッフもキャストもいろいろな人のアイデアや、偶然起きることとかハプニングも含めて取り込んでいったほうが面白くなると思っているので、ああいう何かが生まれた瞬間に立ち会えると嬉しいです。芝居を見て初めてわかることは、たくさんありますね。「してほしい芝居」はないけど、「してほしくない芝居」はめちゃくちゃある――本作も含め、今泉監督の作品に出演する俳優にはキャスティングの妙みたいなものを感じます。なぜぴったりの人を見初められるんでしょうか?もしくはそう寄せている?今泉監督:キャスティングは、いや~…、基本的に役者さんがやりにくいとか、役者さんに違和感があるのは潰したいんです。「やりにくくないですか?」とか「どうですか?」って現場でよく聞きます。ちょっとやりにくそうっていうのを感じたら、芝居を変えて、「やりたくないこと、やらなくていいですよ」と言いますし、なるべく全員が無理しないほうがいいと思っているので、そうやって役とその役者さんを馴染ませたりします。…話していて思ったんですけど、「してほしい芝居」はないんですけど、「してほしくない芝居」は、めちゃくちゃ具体であるんですよ。例えば、「安易に触らない」とか。例えば、ちょっと揉めるシーンも、胸ぐらをつかんだりもできると思うけど、顔を近づけるだけのほうが緊張感が出るとか。触ると簡単になっちゃうし、どんどんウソになるので。そういう自分ルールがいろいろありますね。――「してほしくない芝居」をされた経験はあります?今泉監督:まあありますけど(笑)、でも基本的には、まずそういう芝居をする人をキャスティングしないですね(笑)。あんまり言うとあれですけど、第一線で活躍している人たちでも、自分の作品に合う・合わないはめっちゃあると思う。昔、ある役者さんがすごく出たがってくれたんですけど、「でも、自分はたぶん今泉さんの作品には合わないですもんね」と言われたときに、「めちゃくちゃ俺の作品をわかってくれてる!」と思って。理解はあるけど相容れないという…すごい切なくなったことがありました(苦笑)。――「謎片想い」ですね(笑)。今泉監督:そうそう。もっと言えば、俺は、「自分が、自分が」になっちゃう人が一番苦手で。役者、監督、スタッフの全員が作品のためを思って動いてりゃいいと思うんですけど、「自分が」となった瞬間に、いろいろ壊れるというか。だから、今回田中さんとご一緒して一番思ったのは、本当に「かっこよく映ろう」とか「こうしよう」という意識がまったくなく、普通に自然にいてくれたんです。田中さんが真ん中にいることで、みんなも芝居しやすかったんだろうなって思いましたね。最終的に出来上がったものがベストな形、幸せな形で世に出ることが大事――今泉監督の作風は「リアル」「生っぽさ」がキーワードであり、時折激しくドキリとさせられます。そのあたりは得意とするところでしょうか?今泉監督:日常劇なので、台詞を書くときにも、普段言わない言葉はあまり書かないとかは意識しています。映画はフィクションだから、かっこいい台詞とか、いい言葉を書いてもいいんですけど、そうするとどんどん作り物になっていくから。あと、逆に決め台詞っぽい言葉は、なるべくかっこいい画で撮らないように意識してます。決め台詞って、ほかの台詞よりも「決め」なだけで1個乗るんです。それを「寄り」で撮るとふたつ乗っちゃう。オンオンだと、押しつけになっちゃうと思うから。観終わったときに、やっぱり「本当に隣にいそう」とか「近くに住んでそう」みたいになったほうが、自分たちの話になる気がしています。――今後、さらにバジェットの大きな作品のオファーを受ける可能性も高そうです。今泉監督ならではの切り口で、新しい世界に挑戦されるような未来もあり得ますか?今泉監督:ありがたいことに、いろいろ仕事もいただいています。でも、例えば、「お願いしたい!」と言っていただけて、めちゃくちゃ面白い原作があったとしても、俺より面白くできる人がいると思ったら、やらないと思いますね。それは別に俺が「作品を選びたい」とかじゃなくて、最終的に出来上がったものがベストな形、幸せな形で世に出ることが大事だと思っているからです。でも、やっぱりまだ描かれていない日常の恋愛の感情について描き続けたいですね。もし、「ドラマにならないようなことが、ドラマにできる」みたいなことが自分の強みなんだとしたら、それはやり続けていきたいな、と思っています。(text/photo:赤山恭子)■関連作品:mellow 2020年1月17日より新宿バルト9、イオンシネマ シアタス調布ほか全国にて公開©2020「mellow」製作委員会
2020年01月14日人間とロボットという垣根を超えて惹かれ合った2人の運命を描く、ファンタジックでコミカル、かつ感動的な胸キュン必至の韓国ドラマ「キミはロボット」。この度、“人間とAIロボット”の2役に挑戦したソ・ガンジュンにキャラクターの魅力や注目ポイントなど、本作についてたっぷり語ってもらった。5人組の俳優グループ「5urprise」(サプライズ)のメンバーで、「華政<ファジョン>」「恋はチーズ・イン・ザ・トラップ」『ビューティー・インサイド』などジャンルを問わず活躍し、日本でも人気急上昇中のソ・ガンジュン。そんないま注目の彼が今作で演じているのは、“人間”のナム・シンと“AIロボット”のナム・シンIII。人間のシンは、PKグループのナム会長を祖父に持つ財閥三世で、幼い頃に父を失い、母ローラとも引き離され、祖父の元でワガママに育った愛を知らない性格最悪の財閥御曹司。あるとき、母を探すために向かったチェコで事故に遭い、意識不明になってしまう。一方、ナム・シンIIIは人工知能分野の世界権威であるローラが、奪われた息子をモデルに作ったロボットで、優れた頭脳とパワー、学習能力、そして思いやりまでを兼ね備えている、人間よりも人間らしい存在。泣いたら抱きしめてくれたり、辛いときには慰めてくれたりと優しさいっぱいだ。そんな正反対の2人のナム・シンを演じ分けたソ・ガンジュンは、2018KBS演技大賞で優秀賞を受賞している。――まず、本作への出演を決めた理由、そして2人のナム・シンというキャラクターに感じた魅力を教えて下さい。韓国ドラマでロボットを扱ったテーマが珍しく、ロボットという無生物を演じることに魅力を感じました。それから、一人二役を演じるのもおもしろそうだったので、オファーを受けました。人間ナム・シンは、とてもシニカルな性格なんです。心に深い傷を抱えていて、他人に対して心を閉ざしている人物です。愛情を与えてもらえず、自分の居場所を奪われるかもしれない不安によって性格が歪んでしまいます。最後に、ロボットの愛情により改心する姿に胸を打たれました。AIロボットのナム・シンIIIはとても純粋です。それから、人間に対してはっきりとした主観を持って行動をします。それを見た人間が、本当の人間とは何かについて考えさせられたりします。とても魅力的なキャラクターだと思いました。――人間とロボットの一人二役ということで、役作りにあたって何か心がけたポイントはありますか?全く違う二つのキャラクターを演じてほしいという意見をたくさんもらいました。そう見えるように、内面からキャラクターを作っていくことにしたんです。二つのキャラクターを理解しようと努力しました。理解が難しいところは、監督に質問して説明してもらうようにしました。納得して演じられたと思います。――演じたからこそ分かる2人の違い、見分けるポイントは?ヘアスタイルが違っていて…見た目も少しずつ違うんです。ロボットのナム・シンIIIは純粋さに合ったスタイル、人間のナム・シンはクールで洗練されたスタイルでした。劇中、ロボットと人間がお互いに成りすますシーンがあるのですが、内面の違いで見分けがつくようにしました。いくらお互いの「ふり」をしても、僕が人間ナム・シンを演じる時は、人間ナム・シンの内面を意識して演じているので、それが感じられると褒めてもらえました。――それぞれ、ご自身との似ている点はありますか?ロボットのナム・シンIIIはとても純粋な人物ですが、学んで感じることによって自分の考えがしっかり固まっているんです。思考が独り善がりなわけでなく、自分の主張をしっかり持っている人物なんですよね。そういう点が、僕に似ていると思いました。人間のナム・シンは、似ているところがあってはいけないんじゃないですか?(笑)――ロボットと甘く切ない恋をするカン・ソボンを演じたコン・スンヨンとは、2018KBS演技大賞でベストカップル賞を受賞。そんなコン・スンヨンとの共演はいかがでしたか?とても一生懸命な役者です。ロボットの気持ちに応えるなんてとても難しいことなのに、真剣に受け止めてくれて感謝しています。そういうところが、僕たちの息がピッタリだった理由だと思います。――そんなソボンの魅力はどこだと思いますか?人間的で暖かい面だと思います。足りない部分もあるかもしれないけど、人間ナム・シンの立場から言えば、一番心を許していた人物だったと思います。だから、ソボンに惹かれたんじゃないでしょうか。ロボットのナム・シンIIIの立場では、真剣に接してくれる気持ちに魅力を感じたんだと思います。ドラマの中で僕に本気で接してくれるのは、ソボンとソボンの家族しかいません。他の人たちは、自分の野望や欲望があって、僕のことを無視する人もいました。でもソボンは、僕をロボットという存在として認めてくれる、唯一の存在だった気がします。――台本を見て演じるのが楽しみに思った、またはドキドキしたシーンはありましたか?アクションシーンが多かったんですよ。災難モードが発動して、火災現場で救助したりとか。海外のブロックバスター映画を見て「このシーンはどうやって撮影したんだろう」とわくわくしたことがあったので、今作でアクションシーンが多いと知って「どう撮影して、僕はどう演技したらいいんだろう」と楽しみにしていました。実際に撮影してみて、セットを爆破させたりCGを使ったりした過程がとても新鮮でしたね。――居酒屋の前の傘シーン、公園の自転車デートなどなど、ナム・シンIIIとカン・ソボンのドキドキするシーンがたくさん散りばめられている本作。演じながら自身がドキドキしたシーンはありますか?ソボンが僕にキスをしてくれるシーンです。もちろん、愛情のこもったキスではなく、確認するために無理やりキスしたんですけど、それがとても新鮮でした。普通は男性キャラクターから先にするのに、女性キャラクターのほうからだったので、ドキドキしました。――最後には、感動的なシーンが待ち構えている本作。これを演じるにあたって、どのような気持ちで臨んだのですか?また、この後2人はどのように過ごすと思いますか?デービッド博士が涙を流せる機能を設定したと言えるシーンですが、僕は象徴的なシーンだったと思っています。そのシーンは、人間として演じました。おとぎ話のように、人間になりたがっているロボットが本当の人間になって、人間対人間としてソボンに再会するシーン。結末は、二人で離れた場所で暮らすんじゃないでしょうか。みんなにはロボットという事実が知れ渡ってしまったし、遠くの島へ行って二人で幸せに暮らすと思います。いつかはナム・シンIIIがひとり残されるんでしょうね。サッドエンディングかもしれないですけど。それから、ソボンが旅立った後、自分で動作を停止させるんじゃないかな。こんな結末を想像してみました。――物語を見進めていくと、人間ナム・シンも実はそんなに悪い人間ではない、ということが分かる気がします。そんな人間ナム・シンの魅力についてはどう思われますか?人間ナム・シンは愛情に飢えた人物です。誰か味方がいたわけでもなく、愛されたこともなく。人間ナム・シンの居場所をナム・シンIIIが奪ったと思っているので、そういったことから性格が歪んでしまったんだと思います。外から見たらシニカルだけど、実はとても心が温かい人物なんですよ。可哀想で、抱きしめてあげたい人物。たくさんの関心と愛情が必要なんです。――ずばり、本作の見どころは!この作品は、ロマンス、アクション、スリラー、AI、ヒューマン、ラブコメ、政治など様々なジャンルが入っています。見所もたくさんありますし、AIロボットと、人間ソボンとのラブストーリーも個性的だと思います。楽しんでくださいね。――今後、挑戦したい役はありますか?今の年齢に合った役を演じたいです。年を取ったらできない役ってあると思うんです。今の年齢だからこそ演じられるキャラクター、そういう役を思う存分に演じたいです。20代だから演じられる、20代の役を演じたいですね。青春に関するストーリーや、学園ものとか。制服は着なくても、大学生や、20代が抱える人間関係、人生、青春の痛みとか…そういったジャンルです。それから、一人二役も難しかったですが、一人二十役にも挑戦してみたいです。『スプリット』という映画があるのですが、俳優だったらチャレンジしてみたいキャラクターだと思います。すごく面白そうだなって。――日本に来たら必ず食べたくなる日本食はありますか?ラーメンは必ず食べて帰ります。お気に入りのお店があるんです。行けないときもありますが、ほぼ行っていますね。僕は味噌ラーメンが好きなんです。辛くなくてコッテリした濃いスープが好きです。――最期に、日本のファンへメッセージをお願いします。見所がたくさんありますし、ソボンとナム・シンIIIの風変わりなラブストーリーも楽しんでいただけると思いますので、楽しみにしていてくださいね。肌寒くなってきましたが、お体にお気をつけて、またすぐに皆さんにお会いできるように、これからの作品も応援お願いします。ありがとうございます。(cinemacafe.net)
2020年01月13日今年90歳を迎えるクリント・イーストウッド監督の、実に第40作となる最新作『リチャード・ジュエル』は、1996年のアトランタ爆破事件を描く実話サスペンス。『アメリカン・スナイパー』『ハドソン川の奇跡』など実在人物をめぐる“真実”を描き続けてきた巨匠が、「この物語は、今、我々の周りで起きていることとすごく似ている」と語るのは、同事件の第一発見者として数多くの人々を救ったはずのリチャード・ジュエルの物語。警備員として献身的な働きが讃えられ一躍ヒーローとなるが、数日後にはFBIの捜査情報が漏洩し、地元メディアが「リチャードを捜査中」と実名報道したことで状況は一転。爆弾犯扱いされたリチャードは、名誉もプライバシーも奪われてしまう。今回、その主人公リチャードを演じたポール・ウォルター・ハウザーの特別インタビューが届いた。イーストウッドからの特別なオファーを受け初主演本作の映画化に向けて、イーストウッド監督は「リチャード役にはポール・ウォルター・ハウザー以外考えていなかった」という。実話を基にしたマーゴット・ロビー主演の傑作『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』を観ていたイーストウッドは、迷うことなくキーパーソンを演じていたハウザーに出演オファーを送った。「映画の撮影でタイに滞在していたとき、クリント・イーストウッド監督が次の映画の主役のひとりに僕を考えているという電話をもらった。信じられなかった」とハウザーは言う。「キャスティングのジェフ・ミクラットと製作のティム・ムーアから『ほかの仕事は保留しておいてほしい。どうしても君に出演してほしい』と依頼された」と、そのオファーに驚いたそう。「3週間後タイから帰国した後、ワーナー・ブラザースの撮影所でクリント・イーストウッド監督に初めて会った。僕を見た監督は、少しニヤリと笑った。まるで僕に会った瞬間、彼の予想が完璧だったと証明されたかのように」と、初対面は「監督から自分がリチャード・ジュエルと思ってもらえたことは、僕にとっても安心する出来事」となった。そのミーティングの後で脚本を渡された。「もともと僕は、脚本を書いたビリー・レイの大ファンなんだ。僕が大好きな映画、ピーター・サースガード(&ヘイデン・クリステンセン)の『ニュースの天才』を書いている。だから彼が書いたセリフを演じられることは光栄だった。この脚本の強みは、重い物語のなかに可愛らしい瞬間や面白いシーンが描かれていることだ」とユーモアも交えた人物描写に惹かれ、「さらに映画のなかでは現実とは違い、リチャードが英雄として描かれているところが気に入った」とも言う。リチャードを等身大の人間として体現するやがてハウザーは役作りを進めた。「監督は、リチャードの声質や喋り方、また動き方や仕草をマスターするために、たくさんの映像を観てほしいと言った。『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』での僕の演技を観て、現実の男を演じられると思ってくれていたようだ。でも僕は有名なスポーツ選手や政治家などセレブリティを演じたわけではなく、すべてを完璧に真似する必要はなかった」と明かす。「僕なりの演技であっていいと思ったし、重要なのは脚本に敬意を払って演じることだった。でもたくさんの映像を観て学び、体重も増やしたよ」と、彼なりにアプローチを進めていったという。最も意識したことが、等身大の人間としてのリチャードを体現することだった。「僕が避けたかったのは、リチャードをアメリカ南部の典型的な田舎者として描くことだった。彼をただひとりの人間として演じたいと思っていた。南部なまりがあるのは、たまたま生まれた場所で身につけた副産物のようなものだ」。そして、リチャードの潔白を信じる弁護士ワトソン役のサム・ロックウェルを始め、「この映画に関わった人は全員、登場人物をリアルで地に足が着いた人間として描くことを目指していた」と、キャストもスタッフも等身大のリアリティを追求したとふり返る。実母ボビ、弁護士ワトソン氏との面会で得たものさらに、リチャードを演じる上でハウザーにとって欠かせないミーティングもあった。「リチャード・ジュエルを知る人、母ボビ・ジュエルと弁護士のワトソン・ブライアント氏に会った。僕らは数時間に及ぶ長いミーティングをして、リチャードについていろいろと教えてもらった」と、親密な会話を通して役作りを進めた。最も重要だったことが「この物語について彼ら自身がどう感じたかを尋ねること」だった。「何が真実なのか、何がねじ曲げられたのか」ハウザーは当事者の言葉に耳を傾けて空白を埋めていった。「僕らがわからなかったところを彼らに埋めてもらうことができた。しかもイーストウッド監督が僕のキャスティングに自信を持っているからこそ、ふたりは僕を信頼すると言ってくれた」といい、そうして現場に臨む準備が整っていった。サム・ロックウェルと初めて会った夜、ふたりで『レインマン』を観た!「サム・ロックウェルは僕にとって演技の英雄だ。共演は興味深い経験だった」というハウザーは、彼に対してさらにリスペクトを深めたようだ。「サム自身がロバート・デュバルやジーン・ハックマンに対して感じるものを、僕は彼に感じている」と敬意を込める。「彼に会えてとても嬉しかったし、僕が憧れとともに感じていた壁を壊してくれた。ただひとり人間や仲間として話すことができた」と、共に俳優として現場に臨む準備を進めていった。「サムに初めて会った夜、チョコレートとウイスキーを楽しみながら、彼のソファでダスティン・ホフマンとトム・クルーズの『レインマン』を観た。僕の人生のなかで最も不思議で最高の瞬間のひとつ」だったと告白する。「でもその瞬間がすばらしかったのは僕らが打ち解けるチャンスになったからだと思う」とハウザー。互いに異なるふたりの旅路を描く『レインマン』から、2人の関係性を確認していったという。「リチャードとワトソンのようにお互いの理解を深めていく。脚本の演技を考えていないときにただ一緒に過ごす瞬間が大きな影響を与え、スクリーン上の相性の良さを作り上げていってくれた」と、撮影前にサムと過ごした3日間は特別な時間となった様子だ。「人に対して温かい」俳優に最大の敬意を表するイーストウッドの演出ハウザーにとって、クリント・イーストウッドは雲の上の存在だ。ひとりの映画ファンとして、「僕が初めて観たクリント・イーストウッド映画は、ケビン・コスナーとともに主演を務めた『パーフェクト ワールド』だったと思う」とふり返る。成長した彼のお気に入りは、「アンジェリーナ・ジョリー主演の『チェンジリング』だ。ドラマ映画のお気に入りの一作だ。『ミスティック・リバー』や『ミリオンダラー・ベイビー』も忘れられないすばらしい映画だ。いろんな映画を観てきたけど、クリント・イーストウッド監督の映画は常にどこかで観てきている」という。そんな巨匠の現場に入ったハウザーは、監督の人柄について「監督はやさしく、自信があり、人に対しては温かい人だ」と、俳優たちを包み込むかのような人柄に魅了されたという。「だから彼を恐れる気持ちがあるなら、それは彼が映画製作のビッグネームで、物語を綴るマスターだからだ。彼はカウボーイにも見えるし、恋人にも見える。またファイターでもあり、映画を象徴する存在だ。そういう意味では圧倒されたよ」と、撮影現場のイーストウッドと、映画人なら誰もが敬愛する偉大なる存在であるイーストウッド、ふたつの顔を間近に体験することになった。「この映画における僕らの監督と俳優としての関係は、とてもオープンで率直なものだった。何か気に入らないことがあれば正直に伝えられたし、もう一度テイクをやらせてほしいとも言えた。監督も決して僕の意見をさえぎることはなく、僕が必要だと言うテイクを撮らせてくれた」と、俳優として最高のパフォーマンスを引き出されたと実感している。イーストウッド監督も「私が君を選んだのは、君を信頼していて、自分なりの選択をしてほしいからだ。自分を信じて、君なりの考えでこの役を演じてほしい」とハウザーに演技を委ねた。リチャード・ジュエルの1枚の写真に心を震わせた撮影が終わり、「リチャードが泣いている写真を見た」ハウザーは大きく心を動かされたという。「大人の男性が泣いている様子に感情を揺さぶられた。彼はただ泣いているだけではなかった」。「意志が強く、強い男であるイメージを保つことを大切にしている男が、公共の場で泣き崩れている」姿を目の当たりにして、「この事件が彼をどれほど傷つけたのかということに気がついた。彼は壊れてしまった。悪夢のような状況下で、彼ほどに壊れた男性をどう扱えばいいのか、またこのおぞましいほどの窮地から彼を救うためには何が必要なのか」を深く考えさせられたのだ。イーストウッド監督が24年前に起こった事件を描く本作で主役に抜擢されたハウザーは、SNSが定着し、情報の真偽が確認されぬままに世界に伝播していくいまだからこそ、この映画が重要だと指摘する。「この映画から感じ取ることができることがひとつあるなら、それは見た目で物事を判断してはいけないということだ。誰かに対して、勝手に予想を立てて壁を作り、決めてかかってはいけないということだ。その人についての事実を知るべきだし、誰と対するときも適正で万全の注意を払ってその人を知っていく必要がある」と、いまを生きる我々自身が情報に対して意識的に生きる必要があると力を込める。「さらに正義が明らかになるのはときに自分が思うよりも時間がかかると理解することも必要だ。この映画が描くリチャード・ジュエルの物語で、人々は正義になんか興味がなかった。彼らが気にしていたのは、謎を解明して事件を終わらせることだけだった」と締めくくる。ハウザーが体現したリチャード・ジュエルの姿は、いまを生きる全ての人に響くに違いない。『リチャード・ジュエル』は1月17日(金)より全国にて公開。(text:cinemacafe.net)■関連作品:リチャード・ジュエル 2020年1月17日より全国にて公開© 2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
2020年01月11日音楽をこよなく愛する、ライター・エディター・コラムニストのかわむらあみりです。【音楽通信】第22回目に登場するのは、日本のヴォーカルグループのパイオニアとして第一線を走り続け、メジャーデビュー25周年を迎えた、ゴスペラーズ!写真・大内香織25年で多彩な切り口のあるグループに育つ写真左から、村上てつや、黒沢 薫。【音楽通信】vol. 22北山陽一さん、村上てつやさん、黒沢 薫さん、酒井雄二さん、安岡 優さんの5人からなるヴォーカルグループ「ゴスペラーズ」は、1994年にシングル「Promise」でメジャーデビュー。2000年発表のシングル「永遠(とわ)に」が43週にわたってロングヒット、翌年発表の「ひとり」はアカペラ作品としては日本音楽史上初のベスト3入りを果たしています。さらに同年発表のラブソングコレクションアルバム『Love Notes』もロングヒット、オリコン1位と初のミリオンセラーを記録し、「第16回日本ゴールドディスク大賞」ほかも受賞するなどの輝かしい実績の持ち主。以降も第一線で活躍し、他アーティストへの楽曲提供、プロデュースをはじめ、ソロ活動も展開し、アジア各国でも作品がリリースされています。シングル総数は全52枚、両A面シングルも合わせるとなんと全58曲。今回は、メジャーデビュー25周年を迎え、2019年12月18日に、25周年記念シングルコレクション『G25 -Beautiful Harmony-』をリリースされたゴスペラーズから、村上さんと黒沢さんのおふたりにお話をうかがいました。ーーもとは村上さんと黒沢さんが同じ高校で、3年生のときに初めてご一緒に歌われたのですよね。その当時は25年間もこうして第一線で続くことを想像できていましたか。黒沢当時はまったく考えていなかったですね。そもそも高校のときの学園祭で、「何か目立つことがしたい」ということで組んだアカペラグループで、そのときはまだゴスペラーズにもなっていませんでした。その後、大学に入学した際、うちのリーダー(村上さん)が早稲田大学に一浪して入っていて「アカペラのサークルがあるぞ」と教えてくれたのが、ゴスペラーズ結成のきっかけです。そのときはサークルにおもしろい人がたくさんいたんですよね。アカペラサークルなので、歌い上げることが好きな人、ハーモニーを構築してハーモニーの響きを突き詰めたい人などがいました。アマチュアなので両方いてもいいんですが、たまたま我々の代に、何人かすごく歌を歌いたい人がいて、その人たちで組んだのがゴスペラーズです。プロになるにあたって、進路のこともあって、就職するメンバーが抜けて、そこで後輩を入れたのがデビューのときのかたちなんですよ。黒沢 薫。1971年4月3日生まれ。カレー本の出版やプロデュースしたカレーを発売するほどのカレー好き。ーー当時はとくにデビューを目標にしていたわけでもなかったのですか。村上最初はもう、デビューする、しないという考え方もなかったですね。ただ、当時はアカペラグループがほとんどいなかったから、ちょっと歌うと、まわりからのリアクションがすごくよかったんです。だから、良い意味でも悪い意味でも調子にのったところがあって、バブルが弾けたか弾けていないかぐらいのときに、アルバイト感覚で営業をやらせてもらったらお金をはずんでもらえたことも。そんな、学生がつけあがるにはすごくいい条件だったんです。人から「お前らやってみるか」と言ってくれているんだったら、その話にのってみるかという感じでしたね。黒沢デビューしたとき、一番若いメンバーは20歳です。若いから、自分の年齢を超えた25年も続けることの重みなんて、わかっていなくて当たり前ですよね。でも、デビューするときにすぐ解散しようと思って始めることはないわけで、セールス的な結果が出るまでちょっと時間がかかったこともあって、もがいた時期もありました。みんな共通で興味を持つところもあるんですが、それ以外は意外とばらばらな趣向の5人なので、例えば楽曲ごとに方向性を決めるリーダーが変わったりして、その都度少しずつ意識が変わることであまり中だるみもしませんでした。常に目標や行きたいところを見ながら、みんなで走ってこれた25年だったということは大きいと思いますね。これが村上てつやの才能ひとつでやろうとなっていたら、ひとりでアイデアをひねり出し続けるのがすごく大変で難しかったかもしれませんが、いろいろなメンバーがいますから、5人でやってこれてよかったと思います。村上てつや。1971年4月24日生まれ。ゴスペラーズのリーダー。スポーツが好き。村上5人で一緒に続けてこれたというのは、チームワークの良さだとも思うので、トップダウンかボトムアップかというそんな単純なものではないと思うんですよね。瞬間、瞬間のイメージというのは、作る人間がいるほど、時には難しいこともあるかもしれないですが、最終的にはそっちのほうが面白いものになると思うんです。そういう意識が抜けてしまったら、ただのハモる人になってしまうから。アカペラをやることはたいして難しいことではないんですが、それを飽きずに聴かせ続けていくというのは、そんな簡単なものじゃないんです。ファンの人が何に魅力を感じるかだと思いますが、結果として、切り口がいろいろあるというグループに育っていったから、25年もったのかなというところはありますね。意図してこうしてきたというよりは、みんながんばっているうちにそうなったということだと思います。いまがシングルコレクションを出すベストタイミングーー2019年12月18日にシングルコレクション「G25 -Beautiful Harmony-」をリリースされました。25周年のタイミングでのリリースは、どのようなきっかけだったのですか。黒沢だいぶん楽曲がまとまってきたのと、フィジカルで出せるタイミングとしては、いまが最適かつフィジカルというものにあまり意味がなくなっていくのではないかという音楽業界の話もあったことがきっかけですね。村上実際、アメリカはほとんどCDよりも配信なわけですから。黒沢楽曲をまとめておくというのは今ぐらいがちょうどいいと、「シングルコレクションだ」と喜んでもらえるギリギリのタイミングではないかと、レコード会社の方にいわれて確かにそうだなと思ったんです。実際に作業してみて、最初の頃の音源は我々テープで録っているんですが、テープの対応年数がもうギリギリだったんですよ。一度動かなくなって、いろいろな行程をして、なんとか動くようになって録音してマスタリングしてというのは、たぶん今回が最後の作業だったので、危ないところだったんです。今回、マスター音源もデジタルになおすこともできました。最初の頃の楽曲は音量が全然違うので、ただ並べるプレイリストにしても、今回のアルバムのようにならないんですよね。でこぼこしちゃうんですよ。そういう意味でも、でこぼこしないものを今回出せたのはよかったと思っています。あとは25年経って、ダメな自分たちもやっと面白がれるようになったというか。それはそれで良さを見つけられるようになったということもありますね。10周年、15周年のときは「あれはもっとうまく歌えたのに」と後悔が勝っていたのが、25年経って、「あの頃はあの頃で頑張ってたよね」と思えるようになった。そういう意味でも、シングルコレクションを出すのならいまだと思いました。村上本当にベストタイミングです。黒沢これが30周年だったら、もう出さなくてもいいかなと思ったかもしれません。ーータイトルは、新元号「令和」の意味「Beautiful Harmony」もあるのですか。村上はい。昨年、夏フェスなど我々のことをそんなに知らない人がいる現場で歌うときは、全部この話から入ったんですよ。「今年は追い風が吹いていますよ、みなさん5月の菅さんの会見を見たでしょう」と。僕は本当に、あの会見をテレビで見ていて、膝を打つような気持ちになって(笑)。黒沢「ビューティフルハーモ二ー」なんて、僕たちの時代が来た! という感じ(笑)。ーーそうなのですね(笑)。今回、ディスクが5枚あってそれぞれに、リミックス音源がボーナストラックとして収録されています。ヒプノシスマイクなどを手がけるmaeshima soshiさん、yonkeyさん、空音さん、Momさん、長谷川白紙さんらのリミックスはいかがでしたか。黒沢25周年だから、25歳以下のアーティストがリミックスしていますね。そういう人たちが我々の楽曲をどういうふうに料理するのか、レコード会社の人から提案されて、それはおもしろいなと思いました。でもこれが20周年だったら「おもしろそうだね」って言えなかったと思うんですよ。「いやちょっと待って」と。でも、今回はそこもやってみようと言えるようになったのは、25周年だから。実際におもしろいものが上がってきたので、「我々は絶対こういうことはしないよね」というのも含めて、おもしろいです。村上ファッションなどでもそうだと思うんですが、ある程度年齢が離れると、前提としているものが違う。つまりリバイバルのときも知っていて乗る人と、新しいところから入ってくる人ということ。インプットが違う人たちのアウトプットの仕方を見てみるのは、すごくおもしろい。今回ちょっと度肝を抜かれるものもありました。黒沢こんな感じになるんだと思ったり、逆に我々が昔聴いてきた曲に近い感じにもなったり。すごく新しいけれど聴いたことがあるという感じもおもしろいですね。村上いまはアーティストというあり方も、25年前とはまた全然違って、どういうふうに楽しむのかも違っています。僕たちは無理して若い人たちに気に入られようとしていく必要はないんですが、知っていたら楽しまないと損だなとは思いますよね。黒沢若い人の音楽をいまからやってどうだではなく、我々は我々としてやっているときに、若い世代からも「おもしろいじゃん」と言ってもらえたらいいなと。ずっと長くやっている人は、そういう人が多い印象がありますね。ーーゴスペラーズさんも25年経って、遊び心や余裕を感じられるようになったということですか。黒沢やっとそういうところに来れたのかなと思います。村上制約の多い音楽ではあるので、ハーモニーって。基本的にはひとり1パートであったり、それぞれが自由にやったりすると、ハーモニーとして成立しないんです。そのなかでも遊びをちゃんと入れられてきたとは思うんですが、そこが心の余裕にもなってきたのかもしれません。25年間の出来事は前に進む力になっているーー25周年記念シングルコレクションのCMで、ゴールデンボンバーさんが、ゴスペラーズさんの代表曲「ひとり」を“エアーアカペラ”で歌う姿を拝見しましたが、爆笑しました(笑)。村上けっこう笑っちゃいますよね(笑)。黒沢ゴールデンボンバーのみんなは動きが多いですよね(笑)。以前、鈴木雅之さんのモノマネ芸人の方が、鈴木さんのモノマネをされていたときのことを思い出しました。本人よりも、モノマネするときのほうが動きが多くなるんですよね。ゴールデンボンバーの樽美酒研二さんは、「俺は口パクなのに声が枯れた」と言っています(笑)。村上それぐらい気合が入っていたんでしょうね(笑)。彼らに初めて会ったときも、「若いときはけっこう聴いてたんですよ」なんて言ってくれました。このCMも話題になってほしいですね。黒沢そうだね。CM出演も快諾してくれてうれしいね。ーー先日放送されていた阿佐ヶ谷姉妹さんの日本テレビ系の番組『阿佐ヶ谷姉妹のおばさんだってできるわよ』では、阿佐ヶ谷姉妹のおふたりにゴスペラーズさんが指導したり、コーラスをしたりする場面も拝見しました。村上阿佐ヶ谷姉妹さんはお笑い芸人という立場にいますが、ものすごく音楽を神聖なものとして自分たちのなかに持っている感じがありましたね。いろいろな企画のなかで、もちろん芸人的な笑いもとるものの、「今日ゴスペラーズと私たち歌えるんだ」という感情をすごく発してくれたのでそれはうれしかったですし、彼女たちは歌がうまかったですよ。黒沢僕たちあまり指導することもなかったです(笑)。村上そうなんですよ(笑)。テレビでは指導しているふうな映像が少し流れていましたが、あれは段取りを話していただけで、合わせたのも1回だけですし、実時間的にも全然時間がかかっていないんです。番組内のスタジオにいたゴスペラーズファンで、シングルコレクションの告知をしてくれた人もよかったですね(笑)。ーー阿佐ヶ谷姉妹さんやゴールデンボンバーさんなど、いろいろなジャンルにファンの方がいらっしゃいますね。村上最初の頃、僕らのこういうスタイルを面白がってもらってフジテレビ系のバラエティー番組『笑っていいとも!』にレギュラーで出させてもらったときもありました。そのときは大変だったんですが、当時のゴスペラーズのようにヒット曲を持っているアーティスト像が世の中に確立されていないときに、一種のネタのようなものをテレビでやるというのは、ある意味危険でもあるわけですよね。面白くない芸人だと思われる可能性もあるわけだから。でも、そうやって面白がってくれる人や場所に対して、もちろん25年間の中で拒絶したことやものもあるんですが、できるだけ5人全員がポジティブになって前に進んでいこうというスタンスできました。こうしてポジティブにチャレンジしてこれたのも、結果としていろいろな人とさまざまな絡みを25年間できたからだと思います。それはやっぱりグループとしての適応力が磨かれたのではないかなと。「僕たちはこういう音楽家だから」と殻に閉じこもっていたときに、果たしてこのスタイルがそんなに面白いものとして世の中に映っていたかというとわからない。もちろんからんでしまって失敗したこともあるんですが、トータルとしては、25年間の出来事は全部前に進める力になっています。危険なものもいっぱいあったと思いますが(笑)。黒沢危険なものもなんとかしのぎきったり、しのぎきれなかったり、いろいろあった25年だったと思います。たっぷり歌う大切な部分が見える全国ロングツアーーーお休みの日などはどのように過ごしていますか。黒沢休みがないんです。ありがたいことにこのプロモーションで忙しくさせていただいていて、休みの日は本当に休んでいます(笑)。前は映画に行ったり、ライブを観に行くこともありましたが、最近は外出することで風邪をひくといけないので、前ほどは外出していませんね。村上僕も同じですね。インタビューで言っちゃいけないけど、疲れは本当に早くなっていますからね(笑)。夜の8時でこんな辛いのか、目がしばしばするぞと。25周年を迎えて、僕も働き方改革です(笑)。ーーそうなんですか(笑)。ではまったく違う切り口のお話ですが、おふたりが魅力的だと思う女性像はどんな人でしょうか。黒沢いまは、女性像自体が変わってきている最中で、女性も変わっていく過渡期ではないかと思うんです。少し前までは「女子力」という言葉がありましたし、男性を立てる女性が男性にとってはラクではありますよね。でも、これからは主体的にバンバン行動していく女性がより活躍するでしょうし、僕としてもこちらからいくよりも、女性からグイグイ来られるほうがいいという感じになっています(笑)。村上それこそもう「男性」「女性」で語る時代でもなくなってきていますよね。少し話がそれますが、悩んでいるのは、コンサートで「男性—!」「女性ー!」という呼びかけをするのはもう封印だなと思っています。いままでなら、大多数のことを指しているんだからという話で済んだことが、済まなくなっていくから、いまの時代は「レディースアンドジェントルマン」という言葉じゃないなと。実際に、その言葉を使ってはいけないというわけではないですが、僕らのような立場の人が鈍感であるといけないじゃないですか。でもそんなことに忖度せずに言うと、黒沢と同じになりますが、女性はどんどん突っ走ればいいと思っています。だから、自分らしく進む女性がいいのではないでしょうか。ーーわかりました。ゴスペラーズさんは、7月5日まで25周年を記念した全都道府県ツアー「ゴスペラーズ坂ツアー2019~2020 “G25”」を開催中ですが、どのようなステージですか。黒沢たっぷり歌います。シングルコレクションからの曲を中心にしているんですが、かなり楽曲的には満足していただけるんじゃないかと思っています。さすがにシングル曲の58曲すべてはできないですが、かなりボリュームのしっかりした全都道府県ツアーです。村上すべてを見せるのは難しいのですが、いろいろな曲を演奏していくなかで、自分たちのやってきたことをシンプルに届けるというのもあるし、いままでツアーや制作の中でやってきたものを少し加えるというのもあるし。僕らが積み重ねてきたものの大きな部分、大切な部分ができるだけたくさん見えるようなツアーになっています。黒沢ロングツアーだから、体調管理だけは気をつけていきたいですね。楽しみにしていてください。取材後記インタビューの際も美声でこたえてくださったゴスペラーズの村上てつやさんと黒沢 薫さん。グレーのスーツ姿で大人の魅力を見せながらも、インタビューでは場を和ませるユーモアも見せていただき、楽しい現場となりました。25年間走り続けているゴスペラーズさんは、これからもビューティフルハーモニーをわたしたちに聴かせてくれることでしょう。まずは、シングルコレクションボックスをチェックしてみてくださいね。ゴスペラーズ PROFILE1991年、早稲田大学のアカペラ・サークルで結成。メンバーチェンジを経て、1994年12月21日、シングル「Promise」でメジャーデビュー。2000年にリリースしたシングル「永遠(とわ)に」、アルバム『Soul Serenade』がロングセールスを記録しブレイク。2001年リリースのシングル「ひとり」は、アカペラ作品としては日本音楽史上初のベスト3入り、ラブソングコレクション・アルバム『Love Notes』が大ヒットし、ミリオン・セールスを記録する。以降、「星屑の街」「ミモザ」など多数のヒット曲を送り出す。2014 年にデビュー20 周年記念のベストアルバム『G20』をリリース。オリコン初登場2 位を獲得。全66公演ゴスペラーズ史上最多公演数の全都道府県ツアーは大成功。2017年、アルバム『Soul Renaissance』をリリース。2018年はシングル「ヒカリ」「In This Room」をリリース。10月、アルバム『What The World Needs Now』リリース。2019年10月30日に25周年記念シングル「VOXers」を、12月18日に25周年シングルコレクションボックス『G25 -Beautiful Harmony-』をリリース。デビュー記念日の12月21日から2020年7月5日まで、全都道府県ツアー『ゴスペラーズ坂ツアー2019~2020“G25”』を開催中。InformationNew Release『G25 -Beautiful Harmony-』(DISC 1)1. Promise2. U’ll Be Mine3. Winter Cheers!~winter special4. Higher5. Two-way Street6. カレンダー7. 待ちきれない8. ウルフ9. 終わらない世界10. Vol.11. 夕焼けシャッフル12. BOO~おなかが空くほど笑ってみたい~13. あたらしい世界(DISC 2)1. 熱帯夜2. パスワード3. 永遠(とわ)に4. 告白5. ひとり6. 約束の季節7. 誓い8. Get me on9. エスコート10. 星屑の街11. Right on, Babe(DISC 3)1. 新大阪2. 街角 -on the corner-3. ミモザ4. 一筋の軌跡5. 風をつかまえて6. Platinum Kiss7. 陽のあたる坂道8. It Still Matters~愛は眠らない9. 言葉にすれば10. 青い鳥11. ローレライ(DISC 4)1. Sky High2. セプテノーヴァ3. 1, 2, 3 for 54. 宇宙(そら)へ ~Reach for the sky~5. ラヴ・ノーツ6. 愛のシューティング・スター7. 冬響8. NEVER STOP9. BRIDGE10. It’s Alright ~君といるだけで~11. STEP!(DISC 5)1. 氷の花2. ロビンソン3. 太陽の5人4. SING!!!!!5. クリスマス・クワイア6. Dream Girl7. GOSWING8. Recycle Love9. Fly me to the disco ball10. ヒカリ11. In This Room12. VOXers2019年12月18日発売KSCL-3217 ~ KSCL-3221(通常盤)6,000円(税別)KSCL-3210 ~ KSCL-3215(初回限定盤)8,000円(税別)※初回生産限定盤は5CD+1BD(特典Blu-ray)ほか豪華仕様あり。
2020年01月09日先日発表された第77回ゴールデングローブ賞で、見事、外国語映画賞に輝いた『パラサイト 半地下の家族』。共同脚本も手がけたポン・ジュノ監督、主演を務めるソン・ガンホが昨年末、そろって来日を果たし、インタビューに応じた。面白い映画を撮りたいという一心だった昨年、第72回カンヌ国際映画祭で韓国映画として初めてパルムドール(最高賞)に輝いて以来、数多くの映画賞で快進撃を続け、国内外の興行記録を更新。アメリカでは外国語映画の歴代興収トップ10入りを果たした。いまや、第92回アカデミー賞でも作品賞の有力候補と目されるほどの一大旋風だが、当のポン・ジュノ監督は「まったく予測していなかった事態。いつも通り、淡々と撮った作品ですが、公開後に予期せぬことが次々と起こった。胸躍るアクシデントとでも言うべきでしょう」と笑みを浮かべる。――セレブ一家の豪邸に、家庭教師として潜り込み“寄生(パラサイト)”を試みた貧しいキム一家が、そこで想像を絶する悲喜劇に巻き込まれてしまう本作。監督も大学時代、家庭教師の経験があるそうですね。ポン・ジュノ監督:そうです。映画同様、ある知り合いの紹介でした。その知り合いとは、今の私の奥さんなんですが(笑)。紹介された家庭が偶然、とても裕福だったんです。豪邸の2階にサウナがあったことを覚えています。幸い、2か月で解雇されましたが(笑)、他人の私生活を覗き見る奇妙な感覚…。それが映画のアイデアの源泉になっています。――貧富の格差が生み出す社会、そして人々の分断が重要なテーマになっています。ポン・ジュノ監督:その上で貧しいキム一家が暮らす半地下の家、彼らが足を踏み入れるIT企業社長の大豪邸という2つの“宇宙”を生み出しました。実際、映画のおよそ9割はどちらかの家で物語が展開していますから。ただ、私は経済学者や社会学者のように、世界の二極化を強く訴えたり、分析する意図はありませんでした。――それ以前に、学生時代の経験がベースになっていると。ポン・ジュノ監督:ただただ、オリジナリティあふれる面白い映画を撮りたいという一心だったので。映画のアイデアは、とても些細であり、日常にあふれていると思います。ですから、それらを的確にキャッチするため、日頃からアンテナは鋭敏に張っているつもりです。あえて『パラサイト 半地下の家族』の特徴を挙げるとすれば、善悪の境界がとてもあいまいだという点です。だからこそ、ご覧になる皆さんは展開が予測できないと思うし、おぞましい悲喜劇が起こったとしても、そこに“悪魔”は存在しないのです。進化の先を想像すると、誇らしくもあり、怖い気さえします韓国映画界のトップに君臨し続けるソン・ガンホ。ポン・ジュノ監督と4度目のタッグを組んだ『パラサイト 半地下の家族』では、貧しい4人家族の大黒柱キム・ギテクを演じている。「監督から映画の構想を聞き、私はてっきり富豪の役を演じるんだと思ったんです。年齢を重ねて、それなりに品位も身に着けたつもりだったので(笑)。ところが、監督は私を半地下に連れて行った」と笑いを誘う名優が取材中、絶えず口にしたのは、ポン・ジュノ監督への敬意と誇りだった。――ずばり『パラサイト 半地下の家族』が国際的な支持を集めている理由は何だと思いますか?ソン・ガンホ:この物語が韓国に限らず、欧米諸国や日本も含めた、地球上すべての人々にあてはまるからだと思います。何より、ポン・ジュノ監督らしい、鋭くも温かな視点で描かれている。そこが支持される理由ではないでしょうか。――ポン・ジュノ監督とは『殺人の追憶』『グエムル-漢江の怪物-』『スノーピアサー』でタッグを組んでいます。『殺人の追憶』は2003年の作品ですから、15年以上の歳月が経っています。ソン・ガンホ:私は長編デビュー作『ほえる犬は噛まない』から、ポン・ジュノ監督に注目してきました。ですから“ファン歴”20年なんです。その間、期待をこめて監督の動向を見守り続けましたが、『パラサイト 半地下の家族』はポン・ジュノという映画作家の進化を示した1つの到達点といって間違いないでしょう。常に新作が心待ちですが、いまは進化の先を想像すると、誇らしくもあり、怖い気さえします。それほど、私たちをドキドキさせてくれる存在なんです。――逆にポン・ジュノ監督の「ここは変わらない」という部分はありますか?ソン・ガンホ:俳優のクリエイティブを最大限に信頼してくれる点ですね。撮影を前に、何か相談や打ち合わせ、リハーサルを重ねることはほぼありません。だからこそ、私たちも役柄を自分なりに解釈し、表現できる。それが豊かなイマジネーションの源泉になっているのではないでしょうか。今回演じたキム・ギテクに関しては、タコのような軟体動物を意識しました(笑)。一見、みすぼらしい彼ですが、隠し持った吸盤で社会に食らいついているのです。今という時代を、いかに生きるべきと問いかけている豪邸という閉鎖空間で、相反する2つの家族が繰り広げる駆け引きがスリリングに、ときに毒気あふれる笑いも振りまきながら展開する『パラサイト 半地下の家族』。サスペンス、コメディ、社会派ドラマ、果てはホラー(?)と表情を変えながら、映画は誰も予測できないクライマックスへとたどり着く。阿鼻叫喚という言葉がふさわしい結末について、もちろん詳細は記さないが、2人の証言から「シナリオとは違う結末になった」ことが明らかに!――あのクライマックスには、言葉を失いました。ポン・ジュノ監督:ある登場人物の行動について、シナリオでは意図をあいまいにしたままでした。「意志を持ってあえてそうしたのか、それとも偶発的な出来事なのか」その中間を漂っていたんです。ただ、シナリオに基づき、絵コンテを描き進めるうち(※ポン・ジュノ監督は自ら絵コンテも描く)、より瞬間的な感情の高ぶりを重んじようと決断しました。ソン・ガンホ:事前にシナリオは読んでいましたが、監督から相談を受けて、私もぜひそうしようと同意しました。これぞ、正解だと。なぜなら、私たちが生きる現実世界は、映画のクライマックスをも上回るほど、残酷で冷酷だからです。ポン・ジュノ監督:先輩であるソン・ガンホさんに背中を押されたこともあり、非常に複雑なシーンでありながら、撮影そのものはとてもスムーズで、驚くほどとんとん拍子でした。議論を巻き起こすかもしれないと躊躇もありましたが、「あっ、これを演じるのはソン・ガンホさんなんだ」と気づいた瞬間、観客の皆さんを納得させられると確信し、安心できた。ソン・ガンホさんとは、そんな存在なのです。ソン・ガンホ:私は『パラサイト 半地下の家族』での“水”の表現を大変気に入っています。人々が抱える悲しみや哀れみが、水を通して描かれているんです。そしてこの映画は決して格差や分断、それらの対立を描くだけの映画ではありません。私たちが今という時代を、いかに生きるべきと問いかけているのです。(text:Ryo Uchida/photo:You Ishii)■関連作品:パラサイト 半地下の家族 2020年1月10日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国にて公開© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
2020年01月07日1年をふり返ると口コミからのロングランヒットを記録した『愛がなんだ』や、「おっさんずラブ」、「コンフィデンスマンJP」といった人気ドラマの映画化、1969年に公開されてから今も愛され続けている“国民的人気コメディ映画”『男はつらいよ』のシリーズ50作目公開、さらに動画配信サービス周りではNetflixの「全裸監督」が映像業界含め大きな話題を呼びました。そんな2019年、シネマカフェでは今年も映像に関わる方々に取材をしてきました。2019年に掲載したインタビュー記事の中から、多くの方に読まれた人気記事をランキングにして発表します!10位:安達祐実『ゾンビランド:ダブルタップ』年端もいかない子どもの頃から、演じる世界に身を置いた安達さんの言葉は、経験に裏打ちされながらも、実に軽やかだ。出演作はドラマ、映画、舞台と枚挙にいとまがないが、 その数と同じだけ、演じる責任も負ってきた。プレッシャーに押しつぶされる夜はなかったのか?「もう女優なんて嫌だ」と思うことはなかったのか?人目や作品の評価が気になって仕方がないときだってあるのでは?――次々に浮かぶ質問を一蹴するかのように、安達さんは「本当に“強い”とはよく言わるんです」と、さらりと話す。9位:小栗旬×成田凌『人間失格 太宰治と3人の女たち』道ならぬ恋のうわさが絶えず、自殺未遂を繰り返しながらも、憎めない、惹かれずにはいられない魅力あふれる太宰を小栗さんが、そして、成田さんが太宰の行動に戸惑いながらも、才能にほれ込む編集者・佐倉を担当した。関係そのままとは言わないまでも、先輩俳優である小栗さんの魅力や立ち居振る舞いに、成田さんが心を寄せていることに違いはなく、インタビューでも嬉々として語られた。そして、現在俳優としても伸び盛り、本作でも未知の顔を見せ、さらには「MEN’S NON-NO」の専属モデルとしても活躍する成田さんの才能を、小栗さんも「作品への溶け込み方が優れている」という最上の表現で、さらりと語ったのだ。8位:香取慎吾×白石和彌監督『凪待ち』白石和彌監督の『凪待ち』は、ファーストショットからガツンと来る。「荒んでる」。昼日中の街を行く主人公・郁男を演じる香取慎吾を見て、まず頭に浮かんだ言葉だ。6月28日(金)より公開される『凪待ち』の中で生きる彼の淀んだ表情を目の当たりにすると、いままでずっと見ていた“慎吾ちゃん”という竜宮城が一瞬にして消え去り、ギャンブルにはまる自堕落な男のリアリティが現れる。だからといって、それが40代を迎えた香取慎吾という人の真実かといえば、目の前にいるその人は当然ながら、郁男ともまた違うのだ。7位:杉咲花『楽園』杉咲花、22歳。おいしそうに回鍋肉を食べていた姿が鮮烈だった少女は、いまや紛れもない演技派女優となった。納得の評価に関しては、2016年、『湯を沸かすほどの熱い愛』での最優秀助演女優賞ならびに新人俳優賞の受賞に代表されるだろう。当時の自身のことを「暗かったですよね(笑)。いまは明るくなったんです」とふり返る杉咲さんは、ここ1~2年で転機を迎えているという。6位:窪田正孝『東京喰種 トーキョーグール【S】』物腰や空気感はやわらかいが、自分の意思はきちんと告げる。誰もができそうでできないことを、窪田正孝はさらりとやってのける。演技にも通じるその佇まいは、主演作はもちろん、助演、脇に回ったときにも光り、心のひだに触れる存在感で魅了する。多くの作品に出演し、様々な監督から信頼を寄せられ、リクエストに応え続けている窪田さんは、インタビューにて「もっと貪欲になるべきかな、と思う」と胸中を吐露した。5位:池田エライザ『貞子』撮影期間中はお腹を壊すくらい自分を追い詰め、金縛りにもあった。泣きのシーンでは床が涙でぬれてしまうくらい涙を流したという。演技という範疇を超えた取り組みは「不器用だから。力加減の調整ができないタイプ」と謙遜するが「学生時代に、チケット代高いなぁと思いながら映画の料金を払っていた体験もあるからこそ、中途半端なものを見せてお金を取ってはいけないと思う。中途半端な気持ちでやっているとお客さんに必ずバレます。私の生活もかかっていますから、いただいた仕事にすべてをかけるのは当たり前」。4位:杉咲花×新田真剣佑×北村匠海×高杉真宙×黒島結菜×橋本環奈『十二人の死にたい子どもたち』映画『十二人の死にたい子どもたち』では、本件が最後のそろってのインタビューになるらしいと告げると、出演する杉咲花、新田真剣佑、北村匠海、高杉真宙、黒島結菜、橋本環奈は、即座に名残惜しそうなムードを漂わせた。一緒にいることの心地よさと、慣れ合いではない、ほどよい緊張感が彼らを前にすると伝わってくる。それはそれは、実り多く刺激的な撮影現場だったのだろう。キャリアも性格も容姿も性別もバラバラの彼らだが、同世代ということ、こと芝居にかける熱量がほとばしっている点こそ共通項。インタビューでは、互いへの想いを解放してもらい、存分に本音を語ってもらった。3位:中村倫也×木下晴香『アラジン』実写版『アラジン』“プレミアム吹替版”で主人公アラジン&ヒロインのジャスミンを担当したのが、中村倫也と木下晴香。通常、日本語版ではあまり吹き替えられることのない楽曲についても、本作においては本人たちがしっかり歌っているのも大きなポイント。この日、アラジン、ジャスミンを連想させるエレガントな装いで登場してくれたふたりに、喜びに打ち震えたという『アラジン』日本語版声の出演への想いについて、歌唱について、語り合ってもらった。2位:星野源『引っ越し大名!』音楽家としてはもちろん、俳優、文筆業もこなす星野源。その彼の、実に6年ぶりの主演映画が『引っ越し大名!』だ。実際に江戸時代に行われていた国替え=引っ越し。その理由は様々だが、ささいな出来事をきっかけに国替えを命じられた藩のドタバタを描いた本作。“引きこもり”で“コミュ障”という時代劇としてはちょっと特殊な主人公・片桐春之介を演じている。1位:横浜流星『チア男子!!』横浜流星の存在を広く世に知らしめた、まばゆいばかりのピンクの髪色は、この日、透き通るようなアッシュカラーに変わっていた。聞けば、取材日の前日に色を変えてきたばかりだという。スッと伸びた鼻筋、引き締まった口元、物怖じしない瞳によく似合った。伝えると、横浜さんは屈託のない笑みを広げ、「うれしいです!自分でもお気に入りなんですよ!」とサラサラの髪の毛に手をやり、こう付け加えた。「髪色を変えただけでも、ガラッと雰囲気が変わると言われます。毎回“印象が違う”と言われる俳優になりたいんです」と。1位は2019年大活躍となった横浜流星。2位は『引っ越し大名!』で主演をつとめた星野源。3位は実写版『アラジン』のプレミアム吹替版で見事な歌声を披露した中村倫也&木下晴香。そのほか、若手俳優が集結した『十二人の死にたい子どもたち』キャストや『凪待ち』で主人公を好演した香取慎吾と白石監督の2ショットインタビューなどがランクインしました。来年は作り手たちのどんなエピソードが聞けるのか…乞うご期待!(text:cinemacafe.net)
2019年12月31日平成から令和を迎えた2019年は、みなさんにとってどんな年になりましたか?世界最大の映画の祭典「第91回アカデミー賞」作品賞にはヴィゴ・モーテンセン&マハーシャラ・アリの『グリーンブック』が輝き、ハリウッドで実写化された『名探偵ピカチュウ』の“しわくちゃピカチュウ”が日本でも注目を集めました。さらに「東京コミコン」にはクリス・ヘムズワースやジュード・ロウら豪華ゲストが来日、そしてホアキン・フェニックスの演技に感銘しリピーターが続出した『ジョーカー』の大ヒット、42年間永きに渡り紡がれてきた伝説と呼べる『スター・ウォーズ』シリーズがついに“完結”を迎えるなど、ふり返ると今年も多くの作品が公開されました。作品が持つ力や俳優の演技に心を動かされた人もいることでしょう。シネマカフェでは今年も映像に関わる方々に取材をしてきました。2019年に掲載したインタビューの中から、たくさんの方に読まれた人気記事をランキング形式で発表します!10位:フェリシティ・ジョーンズ『ビリーブ未来への大逆転』『博士と彼女のセオリー』ではアカデミー賞主演女優賞にノミネート。『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』は自身最大のヒット作となり、『ビリーブ未来への大逆転』を通してメッセージを語る。フェリシティ・ジョーンズの近年のフィルモグラフィーは、30代女優にとって理想的なものと言えるのではないか。「エンターテインメント性とクオリティの高さを求めていて、それが叶っている感覚もある」と自らも言い切る。9位:サム・ライリー『マレフィセント2』サム・ライリーはディズニー映画『マレフィセント』に出演。さらに5年後、その続編に出演して初来日を果たしたわけだが、こうなる現在を予期していた?と訊くと、「完全に“ノー”(笑)」。以前は「俳優が生涯の仕事になることすら想像していなかった」という。8位:デイジーリドリー『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』2015年に公開された『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』以来、壮大なサーガの中心に身を置いてきたデイジーは「いまは満足した気持ち。すばらしい完結になったと自負している」と誇らしげだ。「そう思えることに、純粋に感謝したい。アイコニックな役柄だから、イメージの定着を心配してくれる声も聞くけど、レイを愛しているから気にならない。ただ、この5~6年は訓練、撮影、プロモーションとすべてが『スター・ウォーズ』を基準に動いていたから、それがなくなるのは奇妙だし、ほろ苦い気持ちもある」。7位:コリン・ファレル『ダンボ』「出演作を選ぶうえで最も大事なのは脚本。脚本がよくなければ、物語に共感を呼ぶ力がなければ、俳優としての好奇心は生まれない。どんなに監督が素晴らしくても」。こう率直に語る姿は、俳優生活約20年のほとんどを映画界の第一線で過ごしてきたコリン・ファレルらしいもの。ただし、「この作品にも、素晴らしい物語があった」の「この作品」が『ダンボ』となると、彼のイメージから少しそれるかもしれない。6位:ジョン・ボイエガ&オスカー・アイザック『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』のプロモーションで、3人そろっての来日が初めて実現。ひと足先に取材部屋に入ったジョンは、遅れてやって来たオスカーに「おい、1分遅刻だよ。みんな待ってるんだから」と早速ツッコミ。ソファに並んで座る2人の距離も近い…というより、ほぼ密着!というわけで取材が始まる前から、仲の良さがダダ漏れです(笑)。5位:アンバー・ハード『アクアマン』マニッシュなファッションがとてつもなく格好よく、それでいて笑顔がとてつもなくキュート。『アクアマン』で演じた女性ヒーロー、メラの強さ、思慮深さに触れ、「彼女が物語を動かしているようなもの!(笑)」と茶目っ気たっぷりに言い放つ姿もまたとんでもなくチャーミングだが、実のところ、その言い分は正しい。アンバー・ハード演じるメラなくして、海底最強の男・アクアマンのヒーロー誕生譚は成り立たないのだから。「美しいだけで、騎士、ヒーロー、王子様に助けられるのがプリンセス。子どものころから、そんな物語にばかり触れてきた。すっごくつまらなかった(笑)。だから、私はずっと王子様になりたかった。男の子になりたかったわけじゃなくて。ただ、王子様の方が面白いことができそうだと思っていた」とも語るアンバー。だからこそ、「憧れの女性ヒーローも、物語の世界にはいなかった」と言い切る。4位:タロン・エジャトン&デクスター・フレッチャー監督『ロケットマン』彼なくして、ここまで胸に迫る作品になったか?答えは「ノー」だ。『ロケットマン』を観た誰もが、タロン・エジャトンとエルトン・ジョン役の幸せな出会いを実感すると思う。それを真っ先に予期したのは、監督のデクスター・フレッチャーだ。この素敵な主演俳優と監督がタッグを組むのは、『イーグル・ジャンプ』に続いて2度目。「あのときのタロンは全く使い物にならなかったけど(笑)」とジョークを飛ばすフレッチャー監督だが、その目には、隣にいるタロンへの愛が溢れている。3位:ウィル・スミス『アラジン』ディズニーが名作アニメを実写化した『アラジン』で、ランプの魔人ジーニーを演じるウィル・スミスが約1年半ぶりに来日。取材に応じ「青すぎるウィル・スミス」だと話題を呼ぶ“実写版ジーニー”について「あれは100%CG」と舞台裏を明かしてくれた。「アイコン的な役を演じるのは、ナーバスな気持ち。長年愛されるキャラクターを、誰かがぶち壊しにしてしまったら、僕だって怒りたくなるから。新しいジーニー像を生み出すのと同時に、ロビンへの敬意とオマージュを捧げたかった。その両立を目指した」。2位:ウィレム・デフォー『永遠の門 ゴッホの見た未来』ゴッホと絵画、ウィレム・デフォーと芝居。どちらも、美しい関係で結ばれている。「その通りだと言いたいところだけど。ただ、少し複雑なのは、そう言ってしまうと自分を評価することになりかねない。それは決して、健全ではないように思う」「とは言え、いまの僕は64歳で、かれこれ45年ほど芝居を続けてきた。なのに、芝居と美しい関係を結べていなかったら悲劇!こんなにも時間をかけてやってきたのに、間違った道だったとしたら最悪(笑)」。1位:ホアキン・フェニックス『ジョーカー』オスカー最有力の呼び声高き『ジョーカー』でホアキン・フェニックスは、何かにとりつかれたかのように、最強のヴィランに命を吹き込んだ。あえて言葉にすれば「悪魔的な神々しさ」。撮影中、ホアキンの中に宿っていたモノとは…?「仮に撮影中、自分自身と演じるキャラクターが“分離”する瞬間があるとすれば、それは満足な演技ができていない証拠かもしれない。両者の距離がゼロになり、焦点がバッチリ重なってこそ、最高の状態だと思うから。僕が何かすれば、そのキャラクターの言動になる…それが理想だね。だから、スタジオに役柄を置いてきたり、家に帰って脱ぎ捨てたりはしないんだ」「寝ている時間以外は、映画と演技について常に考え続けているのは確かだね」。1位はコメディアンを夢見るひとりの男・アーサーが映画史上最凶の悪役といわれる“ジョーカー”になるまでを見事演じきったホアキン・フェニックス。惜しくも来日は叶いませんでしたが、シネマカフェの電話インタビューに答えてくれました。2位は『永遠の門 ゴッホの見た未来』の演技により第91回アカデミー賞主演男優賞に初ノミネートされたウィレム・デフォー。3位は実写版『アラジン』でランプの魔人ジーニーを演じたウィル・スミスという結果。2020年も引き続き、シネマカフェではインタビューを通して作り手たちの作品への愛や自身の活動ついてのエピソード・撮影秘話などをお届けしていきます!(text:cinemacafe.net)
2019年12月29日果たして、わたしたちはどんな“完結”を目撃することになるのか?壮大な銀河のサーガが40数年の時を経て、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』をもって幕を閉じようとしている。来日したJ.J.エイブラムス監督は慎重に言葉を選びながら、取材に応じた。なぜC-3POの目は赤く染まっているのか?――お話をうかがえるのは光栄なんですが、現時点で映画本編は拝見しておりません。『スター・ウォーズ』新3部作のインタビューはいつもそうですが…。そうだよね。その点はいつも申し訳ないなと思ってはいるよ(笑)。――なので、すでに公開されている予告編映像をヒントに、可能な限りお話を聞かせてください。ファンが最も衝撃を受けたのは、赤い目をしたC-3POの姿でした。赤といえば『スター・ウォーズ』の世界では、いわゆる“闇落ち”を象徴する色。それに最新の予告編では「最後にもう一度だけ、友人たちに」という明らかに別れを示唆するセリフもあります。いま言えるのは、今回C-3POが大活躍するのは間違いないということ。過去には不遇を味わったこともあるけど、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』以上に彼が活躍する作品はないんじゃないかな。――C-3POはシリーズ全9作品に登場する数少ないキャラクターであり、そのすべてをアンソニー・ダニエルズさんが演じています。つまり、伝説の目撃者であり、歴史の生き証人といえる存在ですね。1977年に公開された『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』で最初に登場するのもC-3POだからね。僕らにとっては、彼こそが『スター・ウォーズ』の世界への入り口なんだ。アンソニー自身が劇中で素顔を見せたことはないけれど、その声とパフォーマンスで映画のトーンを決定づけてくれたんだ。今回もすばらしい演技を披露してくれたよ。カイロ・レン率いるレン騎士団、ついに大暴れ?――もう1つ、注目を集めているのが、カイロ・レンが前作『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』で破壊したマスクを修復している場面です。新品を用意するのではなく、わざわざ修復するんだなと。あのシーンは、金継ぎと呼ばれる日本の伝統的な修復技法にインスピレーションを受けている。修復という行為そのものに、負った傷を隠すのではなく、再生を祝福するというドラマチックな意味があるんだ。新品を用意するんじゃなくてね。――カイロ・レンといえば、彼が率いるレン騎士団ですが、いまだ全ぼうは明らかになっていません。いよいよ『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』に登場するのでしょうか?レン騎士団は黒澤明監督の映画に強く影響を受けているよ。――ということは、彼らのアクションシーンを期待しても良いということですか?(笑)。最終章には『スター・ウォーズ』のすべてが詰まっている!――そもそも『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』が描く結末、つまり3つの3部作を締めくくる結末はいつ頃、構想が固まったんですか?結末に関しては、かなり早い段階で決まっていたんだ。むしろ大変だったのは、新たな伝説の1ページとなる『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』をどのような展開でスタートさせるかだったね。――さまざまな物議をかもした『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』は、結末に影響を与えましたか?ノー。もちろん、結末に関しては、作品を重ねるたびにより良いアイデアを議論しながら微調整し、ブラッシュアップは続けていたけどね。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の撮影前から、続編はライアン・ジョンソン監督がメガホンをとるって決まっていたし、彼が書いた脚本も読んでいた。驚きに満ちていたよ。――それを踏まえて、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』はどんな完結をファンに提示するのでしょうか?スカイウォーカー家、そして彼らを結びつけるフォース――それが光であれ、闇であれ――が物語の中心になる。つまり、本作も含めた9つのエピソードを結びつけるという意味合いをもつはずだ。『スター・ウォーズ』のすべてが詰まっている、と言っていいんじゃないかな。映画作りは試行錯誤の連続。常に心残りはあるけれど、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』には揺るぎない誇りを持っているよ。(text:Ryo Uchida/photo:You Ishii)■関連作品:スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け 2019年12月20日より日米同時公開©2019 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.
2019年12月21日伝説の完結を描いた『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』を引っさげ、約4年ぶりの来日を果たした女優デイジー・リドリーが取材に応じ、「奇妙だし、ほろ苦い」とシリーズに別れを告げる心境を語った。“家族”との出会いで、試練に向き合えた2015年に公開された『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』以来、壮大なサーガの中心に身を置いてきたデイジーは「いまは満足した気持ち。すばらしい完結になったと自負している」と誇らしげだ。「そう思えることに、純粋に感謝したい。アイコニックな役柄だから、イメージの定着を心配してくれる声も聞くけど、レイを愛しているから気にならない。ただ、この5~6年は訓練、撮影、プロモーションとすべてが『スター・ウォーズ』を基準に動いていたから、それがなくなるのは奇妙だし、ほろ苦い気持ちもある」レイとの別れ以上に、「仲間たち…、いえ家族たちとの別れが悲しい」とも。「レイは砂漠の惑星ジャクーで孤独に生きていた。それが信じがたい冒険を通して、フィンやポー・ダメロン、ルーク・スカイウォーカーにハン・ソロ、それにレイアといった家族のような存在と出会った。だからこそ、自分を探すという試練に向き合えたんだと思う。その点は、私自身も同じだった。『スター・ウォーズ』の主人公を演じる重圧も、彼らのおかげで乗り越えることができたんだから」レイの出生にまつわる真実が「もちろん、明かされる」その上で「レイの成長が私に、そして私の変化がレイに影響を与え合った」と明かす。「レイを演じていて、すばらしいのは喜怒哀楽、すべての感情を表現できること。非常に立体的で、演じがいがあった。最終章では、より自分の内面からあふれ出る“何か”に突き動かされ、長年探し求めていた答えに歩みだす。強烈でエモーショナルな旅路だった」答えとはもちろん、レイの出生にまつわる真実であり、デイジー本人も「もちろん、明かされる」と断言する。「前作『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』が提示した答えに、私自身は納得していたけど、レイはフラストレーションを感じているの。演じるうえでも、その点はとても意識した」ヒロインの台頭も「戦いは続いていく」デイジーが演じたレイの存在によって、近年、女性が活躍するアクション映画が増え、クオリティも向上しているのは紛れもない事実だろう。「すべての女性を代弁することはできない」と前置きし、デイジーは「映画業界では以前から、たくさんの女性たちが働きながら、戦ってきた。私はいいタイミングで、レイというポジションに立てたんだと思う」と真摯に語る。同時に、こうしたヒロイン台頭の時代を「まだ理想的な状況ではない」と指摘。「この戦いは続いていく。新たな『スター・ウォーズ』3部作では、前作から出演しているケリー・マリー・トラン、そして今回初出演するナオミ・アッキーらの存在が、多様性の象徴している。誰もが誰かの“ヒーロー”…性別は問わずね、ヒーローになれるのは、すばらしいことだと思う」と力強く語った。銀河を駆け抜け、家族と出会い、自分自身を探求したレイ=デイジー・リドリーのまなざしは、早くも新たな未来を見つめている。(text:Ryo Uchida)■関連作品:スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け 2019年12月20日より日米同時公開©2019 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.
2019年12月20日『スター・ウォーズ』新3部作といえば、主人公のレイ(デイジー・リドリー)に加えて、ジョン・ボイエガ演じる脱走兵のフィン、オスカー・アイザック扮するレジスタンスの凄腕パイロットであるポー・ダメロンという3人の中心人物が織りなす熱い絆が見どころとなった。そして、ついに完結を迎えた『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』のプロモーションで、3人そろっての来日が初めて実現(つまり最初で最後なのだ)。本稿では、ジョン&オスカーのインタビューをお届けする。ひと足先に取材部屋に入ったジョンは、遅れてやって来たオスカーに「おい、1分遅刻だぞ。みんな待ってるんだからさ」と早速ツッコミ。ソファに並んで座る2人の距離も近い…というより、ほぼ密着!というわけで取材が始まる前から、仲の良さがダダ漏れです(笑)。導き合いながら、強い絆を結んでいく「スター・ウォーズの魅力は、友情の物語なんだ」と熱弁するジョンは、かつてルーク・スカイウォーカーやハン・ソロ、レイアがそうだったように「新3部作でも、銀河の世界に押し出された3人の若者が、互いに助け合い、導き合いながら、そして、ときにすれ違いながら、強い絆を結んでいくんだ」と彼らの関係性を語る。この発言に、オスカーも大いにうなずき『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の序盤で、フィンとポーが協力しながら、スター・デストロイヤーから脱出するシーンをふり返る。「2人とも『スター・ウォーズ』の世界に入ったばかりの“新入生”だったから、演じながら、どんなキャラクターにすべきか模索したんだ。同時に、過酷な現場を乗り越える仲間として、自然と絆を深めていった」としみじみ語ってくれた。祝福の意味をこめて、さようならって言うべきだねジョンいわく「僕が演じるフィンが、3部作すべてに出演できるとは思っていなかった」のだとか。それだけに「いまは最終章が公開される興奮と同時に、自分たちの手を離れてしまう悲しさも覚えるよ。『スター・ウォーズ』のいちファンとして、伝説の舞台裏を体験できた幸せもあるし」と心境は複雑だ。オスカーにいたっては「正直言うと、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』は公開されないでほしい。つまり、それって仲間たちとの別れを意味するからね」と惜別の心苦しさを隠さない。「“新入生”が卒業ですもんね」と言葉をかけると、「まさに卒業という言葉がぴったりだよ。僕らの時代が幕を閉じるんだ。ほろ苦い気持ちもあるけど、やはり祝福の意味をこめて、さようならって言うべきだね。楽しい思い出ばかりだし、世界中のファンと触れ合う機会がもてるのも『スター・ウォーズ』のおかげなんだから」と笑顔で語ってくれた。(text:Ryo Uchida/photo:You Ishii)■関連作品:スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け 2019年12月20日より日米同時公開©2019 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.
2019年12月19日映画業界で働く人にとっても、実は知らないことだらけの映画業界のお仕事。そんな映画界の“中の人”の姿を紹介する「映画お仕事図鑑」。連載第2回にご登場いただくのは、映画館で、TVで、スマホで、交通広告で…いまや誰もが日常的に目にする映画の予告編を制作する会社「バカ・ザ・バッカ」でディレクターとして活躍する土子智美さんです。みなさん、普段、何気なく見ている予告編を「どうせ映画の本編映像をつなぎ合わせただけでしょ?」と思っていませんか? 予告編、そこには映画監督やスタッフ、宣伝チームの作品への熱い思いを背負い、それを数十秒の映像に凝縮するディレクターの職人技と映画への愛情が!専門学校時代のインターン体験で知った予告編の奥深さ!――そもそも土子さんが映画業界に足を踏み入れたきっかけから教えてください。地元の茨城大学の教育学部に通っていたんですが、一方でずっと映画の仕事をしたくて悩んでたんです。それでも教師になって地元で就職するんだろうなぁと思ってたんですが、どっちもやりたくなって悩んで…悩むくらいなら一度、やってみようと2年間、専門学校に行くことにしたんです。とはいえ、それをなかなか親に言えなかったんですが(苦笑)、運よく、おじの一家が東京に住んでいて「それならうちに住んで通えばいいよ」と言ってもらえて、学費は自分の貯金を崩して、大学卒業後に2年間の映画専門学校に通ったんです。――映画業界の中で特にどんな仕事に携わりたいと思っていたんですか?最初は「これ」というものもなく、本当に漠然と「映画がやりたい」って気持ちだけだったんですよね。専門学校で映画を撮ったり、いろんなことを楽しんでいて、もともと国語科だったこともあって、書いたりするのは得意で、なんとなく「作る側」になりたいなとは思っていたんですが…。実は、弊社の池ノ辺(直子/代表取締役社長)と地元が同じで、私が通っていた大学に、地元出身の人間の著書ということで、池ノ辺が書いた本が山積みになっていて、それを読んで「こんな仕事があるんだ!」と予告編制作の仕事を初めて知ったんですよね。専門学校に通い始めて1年半ぐらいした時に、ちょうどこの会社がインターンを募集していまして、それですぐに募集して、面接をしてもらい、半年ほどインターンとして採用してもらったんです。働いてみたら、この仕事が面白くてたまらなかったんですよね。自分に合っていたんでしょうね。予告編の制作って「作ること」+「宣伝」の要素が入っている特殊な業界なので、それが楽しくて。そのままこの会社に入社して、もう13年ほどになります。デザインからキャッチコピーの創作まで! 予告編づくりには映画制作と宣伝の全てが詰まっている――「バカ・ザ・バッカ」さんは基本的に映画の予告編制作会社ということですが、他にも映像に関わる仕事をされていると伺いました。私は会社の中でもわりと特殊な方で、もともと趣味が多くて、ミュージカルや音楽、ドラマも大好きなんですけど、それを口に出して言ってたら仕事をいただけるようになったんですよね。ミュージカルやドラマのプロモーション映像や制作会見の映像の編集、ミュージシャンの事務所さんやレコード会社さんから、ライブ映画の予告編のお話をいただいたりして、映画以外の仕事もさせていただいてます。そんなことまでこの会社でできるとは思ってもなかったのでありがたいですね。――具体的に入社されてからここまでのお仕事について教えてください。最初はアシスタントでした。基本、うちの会社はディレクターがそれぞれ作品を担当するのですが、そのディレクターの下にアシスタントがついて、仕事を学んでいくという体制で、1から仕事を覚えていくという感じでした。予告編の仕事って映像を編集してつなぎ合わせたものというイメージがあるかもしれませんが(笑)、もちろんそれだけじゃないんですよね。私自身、この会社に入ってから知って驚いたんですが、予告編のタイトルワークのデザインなどもこちらがやらないといけないんですよ。――ディレクターさんのクリエイティビティが求められるんですね。カット編集だけだと思ってたら、1本の作品を作るくらいの感覚で、PhotoshopからAfter Effectsまでできないといけないし、デザインもキレイにできないといけないし、音楽の構成もこちらで考えるので、もともとBGMがない映画の場合、こちらで合うものを考えて、つけていかないといけないんです。宣伝チーム、宣伝プロデューサーから「こういうふうに見せたい」といった方向性は伺うんですが、それを形にしないといけないわけです。最初はどうやって先輩たちがやっているのかもわからず、レイアウトで「文字間が悪い」と言われても「文字間って何?」という感じで(苦笑)。最初の2~3年は会社にいながら勉強の日々でした。デザインの部分は本当に苦労しましたね、それまで全くやったことがない分野でしたから。――そもそも映画の予告編を、本編の制作スタッフとは別の会社の方が作っているということも知らない人も多いと思います。言ってしまえばひとりで監督、脚本、プロデュースまでをやって、90秒の映像を作るという感じで、私も驚きました。でも、だからこそ自分の中にあった「作りたい」という欲求と、映画が大好きで「宣伝したい」という気持ちが重なる仕事だったんだなと思います。――アシスタントを卒業し、ディレクターとして中心的に進めるようになった時期は?入社して3年目くらいからですかね。アシスタントについていた先輩が忙しくなってきて、ちょうど私と仕事をしてみたいとおっしゃってくださるクライアントさんがいたこともあって、ある作品をひとりで担当することになったんです。そういう機会がだんだん増えていき、その間もアシスタント業務は並行して行なっていたんですけど、ある程度、仕事の量が増えていくと、アシスタントの仕事ができない状態になってきて、そうなったら独り立ちということになります。そうなると今度は、自分がディレクターとしてアシスタントを育てる側になるんです。――体制としては、何人ものスタッフでチームを組んで仕事をするのではなく、ひとりのディレクターがいて、その下にアシスタントがつくという形式なんですか?いまの弊社の体制はそうですね。基本的にはディレクターひとりにアシスタントひとりという体制で、ある作品の始まりから最終的な納品まで作品単位で担当するという形です。――ひとりのディレクターが同時並行で複数の作品を抱えるということも?それはごく普通にありますね。ジャンルの違ういろんな作品を同時に抱えて、切り替えが大変な時もあります(笑)。――ひとつの作品を請け負ってから終わりまでの流れをご説明していただけますか?作品の規模によっても違いますが、全国で公開されるような大きめの作品では、まず「特報」と呼ばれる30秒ほどの映像を作ります。最初に作品を見て、宣伝プロデューサーとの打ち合わせがあって「こういう感じにしたい」といった話し合いがあり、その意図をくみつつ2週間ほどの時間をいただいて形にします。そこから、いろんな修正のやりとりがあるんですけど、邦画の場合、宣伝チームだけでなく本編チームの確認であったり、俳優さんの所属事務所のチェックなどもあって、修正作業を含めてさらに1か月くらいはかかるかな…? 洋画の場合も海外のチームに確認をとりますので、平均して2か月くらいで特報映像が完成します。それが終わるとすぐに、今度は「予告編」の制作に取りかかります。特報の時と同じように制作と確認・修正などがあるんですが、その間にWEBやSNS関連のプロモーション映像の制作や試写会告知などの映像制作もあります。その作品が小説原作の場合、書店で流すための作品紹介の映像を作ることもあります。そこでまた2~3か月がかかるんですが、それが終わると今度は公開直前にCMとしてTVで流れる「TVスポット」の制作に移ります。他にもラジオCMもありますし、最近では初日舞台挨拶の映像を組み込んだ「大ヒット公開中」の映像を作ったりすることもあるので、映画公開のギリギリまで…なんだったら公開後も仕事をしています。昔よりも作るものの数は圧倒的に増えてますね。トータルで見ると、ひとつの作品に半年から1年弱くらいの時間、関わっていますね。親や友達は「たかが30秒くらいの映像を切ってくっつけて作るのに、なんでそんなに忙しいの?」と思ってると思うんですが(笑)。よい予告編とは――? 盛らず、ウソなく正攻法で観客の心に火をつけるべし!――担当する作品の本編は合計して何回くらい見るんですか?人それぞれだと思いますが、私はかなり見る方で、合計10回以上は見ると思います。作業のプロセスの中で「抜き」という作業があって、要は映画の全てのカットとセリフをひとつずつ取り出していくんです。「このカットは使えそう」「これは使わないな」という感じでひとつひとつ選り分けていく時間のかかる細かい作業なんですけど。その作業をやっているので、全てのシーンが手元にあり、本編全体を見直す必要はないんですけど、長くその作品に携わっていると、感覚が慣れちゃうんですよね。そういう時に「いや、もっと違う方向性、角度があるんじゃないか?」ともう一度、最初から作品を見直すんです。できる限り、一般のお客さんに自分の感覚を近づけて、初めてその映像を見ているかのような新鮮な気持ちで見るというのを心がけています。慣れちゃうと、こっちで勝手に思い込んで「これでわかるよね?」という心理でシーンを選んじゃったりするんですけど、何も知らずに初めて見る人にしてみたら「え?いまのカットって何の意味があるの?」と思ったりするものなんです。なるべくフラットな気持ちで見るようにしています。仕事してると「どうにかして記憶をリセットできないかな?」って思いますね(苦笑)。――予告編づくりの具体的な作業としては、先ほど「抜き」というプロセスが出てきましたが、他にどんな作業があり、どのようなプロセスで作っていくのでしょうか?これもディレクターごとに全く変わってくるとは思いますが、私はまず文字で予告編全体の「構成」を書きます。漠然と頭の中にある「こういう感じ」というのをきちんと整理して、枠を作るんです。――いわば「設計図」ですね?そうです。実際に予告編を作り始めてみると、なかなか設計図の通りにはいかないことも多いんですが、その“枠”を作っておくと、その後、修正が入った場合でも、何がダメだったのかが理解しやすくなるんです。――予告編の中だけで使われるようなキャッチコピーやナレーションのセリフなどもありますが、そうした文言もご自分で考えるんですか?宣伝プロデューサーさんからいただくこともありますが、必要に応じて自分で考えますね。「作ってください」と言われる場合もあるし、こちらから「試しに入れてみましたが、これでいかがですか?」と提案することもあります。だから、言葉を考える能力も必要なんです。同僚の中には「名コピーライター」と呼ばれている者もいますよ(笑)。――話を伺えば伺うほど、1から10まで自分でこなさなくてはいけない、ものすごく奥の深い仕事ですね。この会社に入って初めて知って、私も衝撃を受けました。やればやるほど終わりがないですね。私たちは決してアーティストではなく、あくまでも宣伝チームの意見を聞いて、それを具現化するという職人的な部分を求められる仕事でもあるので、それを度外視してはいけないんですけど、とはいえ、やはりクリエイティブな部分を磨いて、出していかないといけない要素もあるので、本当に不思議な職業だなと感じていますね。――土子さんは1年間で約何本の映画の予告編を担当されているんですか?1年だと40~50本くらいになりますかね…?――この仕事でいちばん難しいのはどういった部分ですか?「この映画はここがいい」「この映画のよさはここ!」と私が感じた部分を予告編で出せない場合も時にあるんですよね。それは宣伝プロデューサーの狙いや宣伝の方針、監督の意図などにもよります。そういう場合、当然ですがこちらが先方の要望に合わせていくことになるんですけど、私が感じているこの作品のよさや面白さと、宣伝チームの方針のズレ、ギャップを埋めていく、寄せていく作業というのがいちばん難しいところですね。もちろん、ウソをつくというわけではないんですが、時にあえてミスリードをしたり、作品本編とは異なるテイストの予告編にしなくてはならない場合もあります。ただ、それがあまりに度を超えてしまうと、こちらも苦戦しますね。過剰に盛ったり、ウソをついたら絶対にバレるし、ましてやいまの時代、悪い評判なんてあっという間に広まってしまいます。ウソをついたってしょうがないから、本編の中にきちんと描かれているものを見つけて、伝えていかないといけないんですけど、それが実は難しいことなんですよね。予告編で煽ったり、盛ったり、ウソついたりして、お客さんが本編を見たら「全然違うじゃねーか。金返せ!」なんて時代は終わったのかなと思います。お客さんはちゃんと見る目を持ってますから、しっかりと本編に描かれていること、本編の魅力を選び出して、そこに“売れる要素”というのをしっかりと絡めてやっていけばいいんですけど、その兼ね合いがなかなか難しいところですね。「ウソついちゃダメ」だけど「売れないといけない」。いつもこの瀬戸際でやっています(苦笑)。宣伝プロデューサーは、より多くの人に興味をもってもらうために宣伝の方向性を考えなくてはいけないですし、一方で、苦労して作品を作り上げた監督やスタッフの思いというのもあって、そのどちらの気持ちも痛いほどわかるんです…(苦笑)。それをまとめつつ、形にするのが私の仕事なので、いつもせめぎ合いながら作っています。――ディレクターごとに得意な分野の作品、苦手なジャンルの作品などはあるんですか?うちの会社に十数名のディレクターがいるんですが、コメディが得意な者もいれば、「恋愛ものはこの人!」というディレクターもいます。私はわりと好き嫌いなく何でもやりたいタイプですね。ただ、ヘビだけは苦手で(苦笑)、ネイチャー系のドキュメンタリー作品を担当したときに、他の動物は好きなんですけど、ヘビが出てきた時だけは……。ヘビって画的に強いので(予告編に)使わないといけないんですけど(笑)。ネタバレありの予告編が登場する日も近い? スマホ時代の予告編のあり方とは?――先ほど、WEBやSNS向けの映像を制作するという話も出ましたが、WEBが興隆してきたのは入社されてからですか入社した頃はまだ全然でしたね。当時はフィルムが最期のときを迎えている時期で、予告編もフィルムでした。私はできませんでしたけど、同期に入社した人間の中には、専門学校で学んでネガ編集をできる人もまだいましたね。「あと1~2年でそういうのもなくなるかもね」と言ってたら、本当になくなってしまって、私が入社して5年くらいでもう全てデジタルかDCP(デジタルシネマパッケージ)になってました。(移行が)早かったですね。それまでは大きなフィルムを抱えて運んでたんですけど、いまはほとんどデータでのやり取りです。――作業工程も大きく変わったんですね。昔はDVDもまだ普及してなくてVHSに映像を取り込んで、編集して、最終的にフィルムに焼いて映写機にかけていました。そういう意味で、ちょうどいい時代を過ごせたのかなとも思いますね。フィルムの最期の時期を見つつ、デジタルでの作業に初期から携わることもできました。いまは「現像って何ですか?」という人も多いかもしれませんね(笑)。――デジタルへ移行し、WEBの興隆によって、予告編やプロモーション映像を、人々が目にする回数も増えて、その存在価値も大きく変わったと思います。そうですね。何と言ってもスピード感が違いますね。フィルムの時代は現像にも時間がかかりましたけど、いまは作ってすぐ見れるようになりましたし、こちらが求められるスピードも変わりました。――以前は映画館かTVスポットくらいでしか目にしなかった予告編をいまではスマホや電車の広告などでいつでも見られるわけですしね。そういう意味で、レイアウトやデザインも大きく変わったと思います。以前は、劇場などの大きなスクリーンで見ることを前提で作られていて、そうすると文字などが大きすぎるとちょっとバカっぽく見えちゃったものなんですけど(笑)、それがスマホで見るとちょうどいいサイズだったりするんです。考えることが増えましたね。WEBやスマホサイズで見せる上で、どうするのが一番いいか? 特にWEBでしか使用しないプロモーション映像の場合、アップのカットを多めに入れるようになったり。今後、新しい世代の人たちがどんどん出てきたら、私たちの世代が想像もつかないようなカッティングや編集をするようになると思います。――スマホネイティブの世代が今後、増えていく中で「この映画、面白そうだな」と興味を持たせる予告編がさらに求められるようになりますね。普段から映画を見る人は、黙っていても映画館に足を運んでくれるけど、そうじゃない人たちをも巻き込んでいかないといまの時代、「大ヒット」とはならないですよね。より広い層に興味を持ってもらうためのプロモーションが大事になってくると思います。先ほどの予告編づくりの難しさの話と重なるんですが、予告編でターゲットの“間口”を狭めることはたやすいんですよ。「あの監督の作品です」とか「あの脚本家」「あのキャスト」と強く押し出していけばいいので。でも、そこだけに収まってたら、ヒットには繋がらないので、間口をより広げていくというのが宣伝プロデューサーさんの考えであり、それを私たちは予告編で形にしないといけないんです。――いずれ、認証付きで“ネタバレ”を含む予告編が登場する時代になるかもしれませんね?あり得ると思います。私が入社してからこの十数年だけでも「こんなにも予告編がわかりやすくなっていくのか!」と驚くくらい、予告編は大きく変化しました。以前はもうちょっと意味深で、想像を膨らませるようなものが多かったけど、ここ数年で、見て安心して映画館に行けるタイプの予告編が増えたと思います。肌で時代の変化を感じますし、そこは私も年齢を重ねながら仕事をしていく中で、意識して時代に付いていかないといけないなと思っています。うちの池ノ辺が以前から「常にアンテナを張ってなさい」ということを言っていて、昔はその意味がわかってなかったんですけど、今になって「そういうことか…」としみじみと感じます(笑)。若い子たちのことを「わかりません」なんて言ってられないですよ。音楽にせよ俳優にせよ「いま、若い子たちが好きなのは何か?」ということは、意識して追いかけるようにしています。もともと、多趣味なのでそれが苦ではないんですけど。結局、自分がろくに理解もせず、キライなままでは納得して仕事ができないですよね。自分が携わる映画だって、もちろん私自身の好みはありますけど、それをキライなままではいい仕事にならないので、まずはいいところを見つけるところから始めます。――これまで携わった作品の中で、印象深い経験、忘れられない思い出などがあれば教えてください。河瀨直美監督の『あん』で、ナレーション録りが必要で、主演の樹木希林さんとお会いすることができたんですね。撮影現場にお邪魔させていただいて、ナレーションのセリフで「どのシーンも『これが最後なのかな?』なんて思いながら頑張っています」という言葉もあったりしたんですけど、樹木さんは笑顔で「やるわよ」と引き受けてくださって。佇まいがすごくて…忘れられない経験ですね。専門学校時代に下宿させてもらってお世話になったおじとおばが住んでいたのが東村山だったんですけど、撮影現場もちょうど東村山だったんです。「東村山で撮影があって、樹木希林さんとお会いできたんだよ」という話をしたら、すごく喜んでくれたんです。チケットをあげて、映画も見てもらえて…。もう、おじとおばは亡くなってしまったんですけど、あの時は少しは恩返しができたかなということで、私情も交じりつつ忘れられない作品になりました。この仕事をやっていてよかったなと思いましたね。――仕事でやりがいを感じる瞬間について教えてください。自分が担当している作品について、周りに話せないことが多いんですが、何も知らない友人が、私の作った予告編を見て「あの映画、すごく面白そうだよね」と言うのを聞くと嬉しいですね。あとはやはり、宣伝プロデューサーが喜んでくれた時も本当に嬉しいですし、その作品がヒットにつながるともっと嬉しいです(笑)。――今後、お仕事でやってみたいこと、実現したいことなどはありますか?作品のヒットにつながる予告編を作っていくことが仕事ですが、いまやっていることの延長線上で、私に頼んでよかったと思ってもらえるディレクターになっていかないといけないなと思います。新しいことをやりたいというよりも、いまできることを着実にやっていくしかないのかなと。その上で先ほども言いましたが、常にアンテナを張り続けて、新しいものをどんどん吸収していかないといけないなと思います。ただ、基本的な人間の感動するポイントや「この映画、見たい」と思わせる要素というのは変わらないと思うんです。新しい時代に取り残されないようにしつつ(笑)、変わらずに地道にいい予告編を作っていけたらと思いますね。――最後に映画業界を志す人たちへメッセージをお願いします。この仕事、宣伝にも携わりつつ、作品づくりにも深く関係する総合的な仕事だなと思います。いろんなことができる仕事だと言えると思うので、狭い世界だと思わずに、興味を持ってもらえたらと思います。(text:Naoki Kurozu)
2019年12月18日「やりたいことはとことんやる!」というポリシーのもと表現活動に突き進む“のん”。女優・ライブ・アート・映画監督……とジャンルは問わない。2016年公開された劇場版アニメ『この世界の片隅に』で演じたヒロイン・すずさんの声の演技も、彼女にとっては「大切なものをたくさん与えてくれた」と強く印象に残る出会いだったという。そんな思い出深い作品が“さらにいくつもの”気づきをのんさんに与えてくれたようだ。やりたいことに力を注げない…焦りを感じる主人公に共感できます2016年11月、全国63館で公開された『この世界の片隅に』は、製作陣の真摯な原作への向き合い方、作品の持つメッセージ性、のんさんら声優たちの魂を込めた思いが相まって大きな反響を呼んだ。そして2019年12月、前作から250カットを超える新エピソードが追加され『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』として生まれ変わった。第32回東京国際映画祭では、特別招待作品としてレッドカーペットを闊歩した。「まさか東京国際映画祭に呼ばれるとは思っていなかったので…」とのんさんは一報を聞いたとき驚いたというが、片渕須直監督が「映画祭で選んでいただけたということは、新作として扱ってもらえたということなんだ」とコメントしていたのを聞き、大きな喜びとと共に「この映画が多くのお客さんにメチャクチャ愛されているんだな」と強く実感したという。新たに追加されたシーンを演じることで、のんさんは前作時には気づけなかったすずさんの思いを感じた。「すずさんがここまで“自分の居場所がないんだ”ということに危機感を抱いていたとは思わなかったんです。すずさんは絵を描くことが好きですが、慣れない奥さんとしての仕事に追われ、日常的に描いていた絵を描く時間はなくなる。だからリンさんに求められたのが心の救いになるのはとても共感できました」。生まれて初めて「リミッター」という言葉を意識した初舞台好きなこと、やりたいことに力を注げない――。のんさんにとっても、それは大きなストレスになる。だからこそ、思ったこと、やりたいことは存分に表現する。これまでのんさんは「リミッター」を意識したことがなかった。とにかく突っ走る。そしてふと「疲れた!」と気づくというのだ。そんな彼女も、今年8月に出演した女優の渡辺えりさんが脚本・演出を手掛ける舞台「私の恋人」に出演した際、「リミッター」という言葉を初めて意識した。「私は自分の健康状態にうぬぼれているところがあって、どこまでもタフだと思っていたんです。でも疲れで蕁麻疹が出てしまって…。私が蕁麻疹!?と思ったのですが、やっぱり体力的な部分では、しっかりリミッターを意識していかないといけないんだなと思ったんです」とはにかむ。一方で“ものづくり”という点では、片渕監督の良いものを作ろうという執念にも近いこだわりには、度肝を抜かれたという。前述した東京国際映画祭初日のレッドカーペットイベントで片渕監督は、映画が「未完成」であることを報告していたが、その後も完璧を求めるために、ギリギリまでこだわりを見せている。のんさんもYouTubeにて配信されている『おちをつけなんせ』で映画監督デビューを果たしているが「ものづくりをしている人ってリミッターがないんだなと思いました」と語ると「純粋にすごいなと思うし、尊敬できる部分だし、多くのことを学ばせていただいています。とにかく片渕監督は、私が疑問に感じたことに対してとことん向き合ってくださる方。こういう作品作りっていいなと純粋に思いましたし、自分が生み出す側でも、俳優としてでも大事な感覚だと改めて実感しました」と脱帽する。こなれていくことは一生したくない片渕監督の映画作りにほだされたのんさん。体調面では「蕁麻疹になったらしっかり体調を整えるようにしなければいけない」とリミッターを意識するようになったと言うが、それでも自身の好奇心にはふたをすることはできないようだ。「やりたいと思ったことにはブレーキをかけないようにしています。今日も朝から取材だったのですが、昨晩お布団に入ったあと、衝動的に曲が作りたくなってしまい、ギターを弾きながら歌詞を書いて、一曲作ってしまったんです」と笑う。“体調面”がやや心配になる発言だが、楽しそうな語る彼女の表情は明るい。瞬間に生まれた感情を表現すること――。こうした行動をとることで、のんさんは「常に新鮮でいること」ができるという。「こなれていくことは一生したくない」と強い視線で語る。その意味で、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』は、新たな発見がたくさんあった。象徴的だったのが、すずさんがラストに子どもを連れて帰るシーンだ。前作でのんさんは片渕監督から「ここですずさんは母親になるから、お母さんの役もやってください」と言われたという。そのときのんさんは「子どもを連れて帰るからお母さんなんだな」と納得したが、今回、新たなシーンが追加されたことで、「母親という気持ちに到達するまでの積み重ねた感情が重なり合った」と役へのアプローチ方法がまったく変わった。「余白がたくさんあるからこそ、解釈によって180度キャラクターが変わってしまうことがある」と作品の特徴について語ったのんさん。だからこそ、何気ない会話や行動には、さまざまな感情が隠されている。「やればやるほど奥が深い。改めてすごい映画だと感じました。長い期間携われたことは大きな財産です」と目を輝かせながら、作品に参加できたことへの感謝を述べていた。(text:Masakazu Isobe/photo:Madoka Shibazaki)■関連作品:この世界の(さらにいくつもの)片隅に 2019年12月20日より全国にて公開© 2018こうの史代・双葉社 /「この世界の片隅に」製作委員会
2019年12月17日「テメエの気持ちだけで芝居するんじゃねえよ、この大根が!」インパクト大の、この発言。自分が俳優で向けられたらたまったものではないが、ひとりよがりな芝居をしている俳優に向けて吐いた言葉であれば、どれだけ胸がすくことか。この“台詞”を言った当人・成海璃子も、「言いながら“ああ、もうなんていい台詞…!”って思いましたよ(笑)。すっきりしました!」と破顔した。10代から20代へ、芽生えた責任感「自分のパフォーマンスで評価をされるから」俳優にもいろいろなタイプがいますよね、と話を振れば、成海さんは「“俳優だから何でもやりますよ”という気持ちがいい人が好きです。きっと自信があるから何でもできるというのがあると思いますし。…現場で急にゴネたりする人は嫌(笑)」と、きっぱりと答えた。かくいう成海さん自身も、「基本的には何でもやれなきゃいけないな、と思っています」と俳優としてのスタンスを示す。子役時代から芸能の世界に身を置き、いろいろな大人と仕事をして、場数を踏んだ。「10代のときとかは…ちょっと面倒くさいことを言っていたかもしれない(苦笑)。でも、やっぱり、それは変化したのかなと思いますね。昔…小学生、中学生の頃は、カメラの前に立つことに関して、緊張したことがほぼなかったんです。20代に入ってからかな、どんどん緊張するようになっています。いつもすごく緊張しているんです」。緊張の理由は、聞くまでもない。「責任感」が芽生えたからだ。「芸で仕事をしているわけなので、自分のパフォーマンスで評価をされるわけだから、無責任なことはできないです。それが一番、自分を動かしていると思いますし、原動力ではありますね」。きちんと言葉を選びながら、心情を明かしていく。「正直…いろいろな時期がありました。“自分の納得したものしかやりたくない”と言っている時期も、すごく長かったんです。けど、大人になったいまは、ほかの人の意見もわかるようになったというか、周囲の声に耳を傾けるようになりました」。納得した作品に出るという成海さんの意思は、かつて映画誌で連載を持っていたほど、自身が無類の映画好きなことにも関係するだろう。磨かれた審美眼から、自己に向ける評価にも甘えはなく、「どんな作品に成海璃子が出るか」について、こだわるのは当たり前といえる。「基本的には、すごくシンプルなんですけど、やっぱり脚本を読んで”面白いな“と思った作品に参加したいんです。優先順位は、バジェットよりも面白さ。一方で、ちゃんと人の目に届かないと意味がないとは思いますし、まずは観てもらえないとしょうがないから、偏りたくないのでバランスは見ます」。心から面白いと思い、巡り合えた『ゴーストマスター』出演作に妥協することのない成海さんが、「本当に心から“面白い!やりましょうよ!”と思った」と即断したのが、最新主演映画『ゴーストマスター』だった。「究極の映画愛」というコピーが躍る本作は、名前だけは一流の助監督・黒沢明(三浦貴大)が、いつか自分が監督として撮ることを夢見ている大事な脚本「ゴーストマスター」に悪霊を宿し、キラキラ恋愛青春映画『僕に今日、天使の君が舞い降りた』の撮影現場を阿鼻叫喚の地獄絵図へと変えていく物語。予測不能、衝撃的な展開の連続だ。成海さんは、黒沢が憧れている女優の渡良瀬真菜を演じ、モンスター化したキラキラ映画『僕に今日、天使の君が舞い降りた』の主人公・勇也(板垣瑞生)と死闘を繰り広げる。強いて言うならホラー要素が強めだが、スプラッター、コメディとごった煮ジャンルがスリリングで、大きな持ち味の作品だ。出演の決め手について改めて聞くと、成海さんは「もう楽しそう、楽しそう! と思いました。できあがりがどんな風になるか、まったく想像はつかなかったんですけど、とにかく脚本から熱い想い、熱量だけはすごく感じて。乗ってみよう! っていう気持ちでした」と笑顔で語る。劇中では、成海さんがカチコチに固まった特大アイスバーらしき“あずきのバー”で戦うという、シュールかつ見ごたえのあるアクションシーンもふんだんに盛り込まれている。お相手は、いけ好かないイケメン俳優・勇也を演じている板垣さんだ。アクションについて話が及ぶと、成海さんはさらにパッと顔を輝かせ、自分のことはさておき、板垣さんを絶賛する。「板垣くんのポテンシャル、すごく高いですよね!?イケメンなのに、特殊メイクをずっとしていても全然大丈夫だし、普段ダンスをやっていることが活きているのか、すごく動けるし。それに、なんて頭のいい子なんだろうと思いました。本当に素敵…と思ったので、“板垣くん、いいよ”って周りにすっごく言っています(笑)」。しかし。「板垣くんが演じた勇也みたいな役者は、嫌いです(笑)。台本にあることを“これってどういう意味ですか?”とか聞くでしょう? “意味なんてないよ、書いてある通りに言えばいいんだよ”って私は思っちゃう」と、思わず本音をポロリ。そう、冒頭の台詞「テメエの気持ちだけで芝居するんじゃねえよ、この大根が!」は、真菜が勇也に対して放ったものなのだ。「あの台詞には、本当に気持ちがこもってますよ」とフフフと微笑む成海さん、気合いの入ったその姿はスクリーンでぜひ確認してほしい。「死ぬまでやっていきたい」俳優という仕事の面白さとは極限まで映画を愛し、映画に人生を狂わされた映画人の顛末が描かれる本作。形は異なるものの、成海さんも映画に魂を捧げたひとりと言っていいだろう。そして、映画に寄り添い、作品のメッセージを伝える根幹の「俳優」という職業は、彼女の天職にほかならない。「女優の面白さは、制限がないところだと思います。年齢を重ねてもできますし、もしかしたら、死ぬまでできるかもしれないじゃないですか。ずっと続けていける仕事だと思います。例えば、これから先、私が家庭を持てば自分自身も変化するでしょうし、そうなると、どんどん表現できることも変わっていくのかなという気がするんです。仕事以外でも、いろいろなことを経験することが大事だなって、最近思っているんです」。第一線で俳優を続けることは、たやすくはない。それでも成海さんは、「撮影現場がやっぱり面白いし、好き」という気持ちを胸に、引き受けた役に責任を持ち、今日も現場に向かい、心血を注ぐ。最後に、やっぱり聞いてしまった。「俳優は、死ぬまでやっていきたい職業、やりたい職業ですか?」と。答えはもちろん、気持ちよく「はい」だった。(text:Kyoko Akayama/photo:You Ishii)■関連作品:ゴーストマスター 2019年12月6日より新宿シネマカリテほか全国にて順次公開©2019『ゴーストマスター』製作委員会
2019年12月03日『シャイニング』から40年後、雪に囲まれた展望ホテルの惨劇で生き残ったダニーのその後を、ユアン・マクレガー主演で描く『ドクター・スリープ』。鬼才スタンリー・キューブリックが手掛け、現在でも語り継がれるホラー映画の金字塔の要素と、ホラーの帝王スティーヴン・キングによる原作の要素を見事なまでに融合させたのは、キング原作のNetflixオリジナル映画『ジェラルドのゲーム』でも注目されたホラー界の俊英 マイク・フラナガン。キングの著作を初めて手にしたのは小学5年生のときという、根っからのキングファンが、監督&脚本を務めた本作についてたっぷりと語ってくれた。「キューブリック版を積極的に無視し、まったく別の方向へ読者を導く」原作小説「ものすごく怖かったし、僕の世の中への見方を完全に変えてしまった」とフラナガン監督は、初めてキングの小説に触れたときのことをふり返る。「(理解するには)幼すぎたけれど、キングの作品をどんどん読み始めたんだ」と言い、「彼の小説をたくさん読むことが人生におけるひとつの指針につながった。というのは、とても怖がりの子供だった僕は、彼の小説から一瞬で勇気を奮い起こす方法を学んだからだ」。もちろん、2013年に発表された「ドクター・スリープ」の原作小説が発売された日のことも鮮明に覚えている。「キングは、キューブリックがトランス一家の背景について映画で変更した点を投げ捨て、自分の視点からだけに限ってストーリーを続けていて…。愛読者にとっては、その綱引きはじつに刺激的だった。キューブリックがあの題材から創りだしたものは、彼の作品として象徴的であり、ポップカルチャーの中、そして映画ファンとしての僕の頭の中にしっかり入りこんでいた。そのキューブリック版を積極的に無視し、まったく別の方向へ読者を導くこの小説を読んで、すごくワクワクしたよ」。そこには、映画『シャイニング』には盛り込まれなかった多くのテーマが蘇っていた。「特筆すべきは、キング自身と同じレベルの依存症に焦点を当てたことと、贖罪についても触れている点だ。僕が最初に感じたのは、『このストーリーはすごくいい』ということだった。僕は、ダニー、アブラ、ローズ・ザ・ハットという3人のキャラクターたちも大好きだ」。また、「『シャイニング』と『ドクター・スリープ』の間にある矛盾もとても気に入った」と監督は続ける。「それは、依存症と回復、迫りくる氷と炎。キングは1作目の小説から数多くのすばらしい要素を採り、それらを何かまったく新しいものの中で輝かせたんだ」。最大の挑戦――キングとキューブリックが描いた世界を融合させる「僕の中には、キングの小説を忠実なかたちで映画化すべきだという強い思いがある。それと同時に、キューブリックの映画版を崇拝する気持ちもある」と監督は力説する。「当初、自分の中のそのふたつの思いがぶつかり合っていた。でも、その両方を満足させようとするなかで、自分のためにそれをうまくやれたら、観客にも満足してもらえる作品になるんじゃないかと考えたんだ。キューブリックとキングの間の細い綱をいかに渡るかを学ぶプロセスだった。両者に敬意を払いつつ、単独の映画として成り立つ作品を作ること。僕はそれを最初から優先させた」と、絶賛を受けている本作の成功の“秘密”を打ち明ける。「共感できる俳優」ユアン・マクレガーが演じるダニー「ダニーは父ジャックと同じ問題――深刻なアルコール依存症に薬物摂取、そして暴力的な傾向――に苦しんでいる。ジャックはその特質により、呪われたホテルにとってあれほどたやすい標的にされてしまったのだが、ダニーはそれを受け継ぎ、それが彼の人生を決めてしまったんだ」と監督。ダニーは「自分自身の悪魔、強さ、弱さに対処しなければならない欠点だらけの人物であり、自分自身よりもずっと大きいストーリーの中に引き込まれてしまう人物」であり、「彼を演じるには本質的に人が共感できる俳優が必要」だったと明かす。「ユアンは、ダニーに傷ついた人間らしさをすごくもたらしてくれた。彼の演技のなかで、彼がホスピスで患者と一緒にいるシーンが僕はとても気に入っている。美しく、謙虚なんだ。僕がユアンから連想するのはそういうところだね」と語り、「しかも彼は映画史上最大級の作品に出演してきた、まさに“映画スター”なんだよ」と絶賛を惜しまない。加えて、ダニーが抱えるトラウマについても、「ダニーはずっと自分の特別な力=シャイニングに苦しめられてきた。血の海や殺人が見えたりするんだからね。シャイニングのせいで、ダニーはもろくなり、恐ろしいモノの標的にされてきた。だが今、彼はその力のおかげで、まさに命が尽きようとしている人を見て、彼らが心安らかになるために何が必要かがはっきり分かる。それは彼を苦しませてきたこの能力を完全に再解釈させるものであり、彼の人生とシャイニングに初めて目的が生まれる」と語り、「小説においてそのときが、ダニー・トランスがストーリーのヒーローとしてほんとうの意味で登場するときだった」という。キングが生んだ最強のヴィラン、ローズ・ザ・ハットその一方で、レベッカ・ファーガソンが演じたローズ・ザ・ハットは、「スティーヴン・キング小説のかたき役としては長年の中でも最高傑作のひとつ」と断言する。「彼女の体験――非常に長い年月を生きてきたこと、その間にやってきた恐ろしいこと――のどれをとっても、僕たちが心を寄せるようなものは何もない。彼女はあらゆる意味で人間離れしている」。そして、「スティーヴン・キング小説にこれまで登場した多くの悪役と比べ物にならないほどの怪物なんだが、そんな彼女にもどこか、惹きつけられるような、自信に満ちた、とてもチャーミングな側面がある」と続ける。「レベッカ・ファーガソンは僕がこれまでに会った人の中でもとりわけチャーミングな人だ。そして彼女はすばらしい悪役に何が必要かを理解していた。それは、“好かれなければならない”ということだ。恐れられたいけれど、同時に好かれないといけない」と言い、「美しく、色っぽく、人を惹きつける。それこそ彼女の狙いなんだ。彼女はその魅力を利用して人を誘い込むんだよ」というローズ役は、まさしくレベッカにぴったりだろう。また、“3つの異なるストーリーがまとまって1つの点になる”本作のもう1つの物語は、カイリー・カラン演じるアブラ。「アブラは自分のシャイニングを“不思議なパワー”と表現するんだが、彼女はそれが何かふつうではないものだとは考えてもいない。彼女とダニーは、そんなことよりももっと大きな問題のひとつを共有している。それは、それぞれの家族への愛情から、自分たちのとても大きな部分を占めているこの能力を隠す必要があると感じているということだ」。キューブリックの音を求めて、原点『シャイニング』に立ち戻るキングの原作とキューブリックの世界観を結ぶため、ときには『シャイニング』という原点に立ち戻ることも必要だったという。「キューブリックの天才ぶりが垣間見えることは『シャイニング』に多くあるが、そのひとつが音楽やサウンドデザインだった。彼は音を使って、シーンに不可解な恐怖感をもたらしていた」。その点は『ドクター・スリープ』にも、確かに受け継がれているようだ。「音の使い方のせいで観る者はどこか不安を感じる。『ドクター・スリープ』には独自のアイデンティティをもたせることが重要だったが、同時にキューブリックが作り出した感覚にも少し立ち戻りたいと考えていたんだ」。生粋のファン、監督が語るキング作品の魅力とは?さらにキングについて、「周りと違う人間、そしてその違いのせいで孤独を感じている人間の物語を綴るのが非常にうまい。彼らの究極の願いは理解され、認められること。そしてその願いこそ、自らを定義することにつながる」というフラナガン監督。「世の中に自分をさらすことには常に恐怖が伴うものだ。その恐怖は誰もが若くして学ぶことだが、キングは心の底にあるその恐怖を巧みに利用して物語を綴るんだ」と、さすが長年のファンらしい分析。本作では大人になったダニーも、その違いゆえの孤独と恐怖に立ち向かうことになる。彼は自分の人生を取り戻すことができるのか。フラナガン監督が導き出した“答え”を、スクリーンで確かめてみてほしい。(text:cinemacafe.net)■関連作品:ドクター・スリープ 2019年11月29日より全国にて公開©2019 Warner Bros. Ent. All Right Reserved
2019年11月28日『リトル・ダンサー』『フル・モンティ』『ブラス!』など、常にワーキングクラスに寄り添ってきた英国産ヒューマンドラマと、ショービジネスを知り尽くしたハリウッド映画のいいとこ取りが実現したような『ファイティング・ファミリー』。英国ノーウィッチ出身の女性ファイター、ペイジとその家族の愛と絆に魅せられ、映画化を決意したドウェイン・“ザ・ロック”・ジョンソンがメガホンを託したのは、俳優であり、監督・脚本家でもあるスティーヴン・マーチャントだ。意外にも「レスリングのことは全く知らなかった」というマーチャント監督が、撮影秘話や人気英国俳優たちのキャスティング秘話にも触れながら本作について語ってくれた。何だか変テコな家族…でも「彼らとその夢を精一杯応援したくなった」ドウェインから原案となったドキュメンタリーが送られてきたとき、「僕はレスリングもことは何も知らなかった。何だか変テコな家族とそのケッタイな家業についての話みたいだから『笑ってしまおう』くらいの気持ちだったんだ。ところが僕はまるで恋をするように、すぐにこの一家の虜になった。ワーキングクラスの荒々しい家族なんだけれど、お互いに深い愛で結ばれている上、レスリングにも同じくらい愛を注いでいる。彼らとその夢を精一杯応援したくなったんだ」。また、知るほどに「リスペクトが膨らんでいった」というナイト一家にも、直接会いに行った。「彼らが住むノーウィッチの公営住宅に行ってきた。彼らと時間を過ごして、試合を見に行った。一家がどんな風にお互い接して、話すのか、僕はつぶさに観察してノートを取った。もちろん、家の内装とか、一家の着ている服やメークも全て忠実に再現しようとした」という。「重要なシーンは全て事実に即している。ペイジが髪の色を変えたり『レッスルマニア』の楽屋で“ザ・ロック”に会ったことも全部実際にあったことだ」。注目女優フローレンス・ピューのガッツは「スーパー・クール」主人公のペイジ役を務めたのは、2020年『ミッドサマー』『ブラック・ウィドウ』などの日本公開が控え、ブレイク必至の若手女優として熱い視線を送られているフローレンス・ピューだ。「ペイジ役のキャスティングには苦労した」と監督は告白する。「本物のペイジは13歳の頃から家族と一緒にレスリングを続けてきた女性。だから彼女を演じる女優もそんな人生を感じさせてくれなければならない。同時に、イギリスのワーキング・クラス出身ながらカリスマ性もあって、この作品を背負って立って、尚且つWWEのスーパースターとしての素質を併せ持つ人材が必要だった。そんな女性を探し出すため、イギリス中の若い女優に会ったような気がしたよ」。そして、ようやく出会えたフローレンスについては、「完璧なチョイスだった。ユーモアもあるし、タフで皮肉っぽくもあるし、感動もさせてくれる」と自信たっぷり。「フローレンスはスタントを使うギリギリのところまで自分で身体を張ってレスリングしてくれた」と言い、なんと「撮影4日目に、L.A.のステープルズ・センターで試合のシーンを撮ったのだけれど彼女は2万人のWWEファンの前で闘ったんだ。僕自身は危険なシーンだから気が気じゃなかったけれどフローレンスはスーパー・クールに仕事をしてくれた。驚いたよ」。ジャック・ロウデン演じるザックを「応援せずにはいられない」また、ペイジの兄ザックを演じたジャック・ロウデンについても「キャスティングが難しかった」と言う。ジャックは今年の公開作『ふたりの女王メアリーとエリザベス』『イングランド・イズ・マインモリッシー,はじまりの物語』で実在の人物を演じてきたが、本作では「子どもの頃からレスリングのスーパースターになるよう、父親から英才教育を受けてきた」生粋のファイターになりきった。ところが、「ザックは自分がWWEで這い上がっていくものだと信じていたのに、妹の方が選ばれて自分は置いてけぼりをくらってしまった。だから、彼は映画の前半では優しくて面白い兄貴だけれど後半では妹に嫉妬して意地悪をする、そんな役どころなんだ。でもザックを応援せずにはいられない。なぜなら彼を演じるジャックが本物の温かさと優しさを持っている、とても優れた俳優だからだ」。さらに、子どもたちにレスリングの英才教育を施したリッキー&ジュリアのナイト夫妻も英国映画ファン、海外ドラマファンにはたまらないキャスティングとなった。一家の父リッキー・ナイトを演じたニック・フロストとは初タッグだったが、「ずっと尊敬していたし、本当に面白いなと思っていた。キャストの中で彼が唯一の、長年のレスリング・ファンだった。だからキャスティングの打診をした時、既にペイジとその家族についてもよく知っていた」と監督。「彼は体当たりで役に臨んでくれた。父親としての優しさを表現できると同時に、必要とあればちょっと怖い存在にもなってくれた」と太鼓判。そして、母ジュリアを演じたレナ・ヘディについては、「『ゲーム・オブ・スローンズ』のサーセイ役でしか知らない人はこの映画を見て驚くと思う。彼女の役どころは図太くて口が悪くて、時に悪辣でめちゃくちゃワイルドなワーキング・クラスのママさんレスラーなんだ。あの赤い髪の毛も強烈だしね。でもニック同様、温かい人柄や機転の早さもある、とてもチャーミングな女性なんだ」。観客の心を掴んで離さない“ザ・ロック”にヤキモキ!?もちろん「ドウェイン・“ザ・ロック”・ジョンソンの存在も大きい」と監督は言う。「ドウェインは最高だ。あんなに有名なスターなのに一緒に仕事をしやすいし、決してセレブ風を吹かせない」と語り、「彼のおかげでいいレスリングの試合には映画同様、ちゃんと構図があって起承転結があるということを知った。ドウェインは『ファイティング・ファミリー』の試合を一緒に形にしてくれたんだ。主演女優のフローレンス(・ピュー)にも、どうやって観客にアピールするか、試合を運んでいくか、などアドバイスをしてくれた」と明かす。本編のクライマックスとなるペイジの試合のシーンでも、直前のイベントの司会をドウェインが務め、「そのままこっちの映画の撮影に入った」のだとか。「ファンは大喜びだった。まるでエルヴィス・プレスリーが生き返ったかのように、ステージは凄まじい熱気と興奮に包まれた。そしてドウェインの誘導で観客に拍手してもらったり、ブーイングしてもらったりでシーンの撮影はバッチリだった。ただ、あまりに司会が上手いものだから観客が彼を全く離さなくてね」と吐露。「遂に僕は『ドウェイン、黙れよ!』って叫んでしまった。レスリングのイベントでザ・ロックにリングを出るように怒鳴ったのは僕だけだと思う」。楽しげにそう語るマーチャント監督もまた俳優で、『ジョジョ・ラビット』や『LOGAN/ローガン』などに出演し、本作にもザックの彼女の父親役で出演している。「僕自身、大好きなシーン」と挙げるのは、まさに「ナイト一家がザックの彼女の両親を夕食に招く」場面だ。「すごくぎこちなくて、思わず爆笑しちゃうやりとりがあるんだけれど、これは全部一家が僕に教えてくれた実際の出来事だった。このシーンではカメオ出演はあるわ、アドリブはあるわで笑いが絶えなかった。みんなお互いを笑わせようとするから、なかなかいいテイクが取れず、撮影が終わるまですごく時間がかかったんだ」と明かしてくれた。若い女性にこそ見てほしい、その訳とは…撮影中も「リラックスした楽しい雰囲気のセットを心がけた」という監督。「皆が緊張したり、萎縮する居丈高な態度をとる監督にはなりたくないからね。そんなことをしてもベストな仕事はできない。皆で協力しあいながら作品を創るのが好きだし、キャストにもどんどんアイディアを出して欲しい。特に(WWEトレーナー役)ヴィンス・ヴォーンは素晴らしかった。いつも色々提案してくれたりアドリブやジョークも入れていたしね。同様にニック・フロストも賑やかだった」と語る姿からも、監督の人となりが見えてくる。そんな監督に、“人を笑わせる”コメディ映画のコツを聞いてみると、「観客をストーリーに引き込むにはユーモアがとても効く。まずはウォーミングアップとして登場人物たちを可笑しく、チャーミングな人々として描き、物語が進むにつれて彼らは段々深く、感情的になっていく。コメディは観客を安心させて『この映画はこんな感じなのか』という印象を抱かせておけるけれど、あとで全然違う展開に持っていって驚かせることができる」と持論を打ち明ける。「だから、この映画では笑いを取ったあとで感情的な展開になる。終わる頃には笑って泣いて、満足できる体験ができたな、と感じて欲しい。僕自身、映画にはそういった要素を求めるからね」。最後に、監督は「僕にとって『ファイティング・ファミリー』はレスリングの話じゃないんだ。『リトル・ダンサー』がバレエの話じゃないのと同様に、これはある若者が叶わない夢を追いかけて何とか自分の居場所を見つけようとするストーリーなんだ」と、日本のファンに向けて語る。「ペイジはいつも自分がアウトサイダーだと感じてどうにか周囲に馴染もうとする。同じような体験を持っている、たくさんの人の共感を得ると思う。誰も彼女が勝ったり、成功するとは思っていなかった。それでも自分に嘘をつかず、周囲の圧力に屈しないで、才能と粘り強さで成功を掴み取ったんだ。特に若い女性にとってはとてもインスパイアされる、背筋がゾクゾクするようなストーリーだと思うよ」。(text:cinemacafe.net)■関連作品:ファイティング・ファミリー 2019年11月29日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国にて公開© 2019 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC., WWE STUDIOS FINANCE CORP. AND FILM4, A DIVISION OF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED.
2019年11月25日2018年に芸能事務所に所属し、2019年に俳優/モデルデビューした鈴鹿央士。あどけなさを残す顔と、のんびりとしたしゃべり方は、自然とあたりの空気を和ませる。「売れたい」、「多くの人に知ってほしい」、「爪痕を…」群雄割拠の若手俳優がしのぎを削る中、まったくと言っていいほどガツガツした様子を見せず、力まない。それは、すべての意識が懸命に目の前の作品、役柄のみに注がれているから、なのかもしれない。鈴鹿さんの2019年は「物事が始まって終わることも学んでいった年」俳優デビューとなった本年、「なつぞら」、『蜜蜂と遠雷』、「おっさんずラブ-in the sky-」、『決算!忠臣蔵』と、4本もの作品に立て続けに出演した鈴鹿さん。2019年の手触りを問うと、「物事が始まって終わることも学んでいった年」と、感慨深そうに答えた。「2019年は、『決算!忠臣蔵』の撮影で始まりました。公開は11月22日ですけど、ロングランしてほしい…という願いも込めて、年末まで上映するとしたら、始まりと終わりが『決算!忠臣蔵』になります。作品は、全部クランクインして、クランクアップして、宣伝活動が始まって、公開して、終わっていくんだなと感じて。丸々1年かかった『決算!忠臣蔵』に関わったことは、一番大きな出来事でした」。鈴鹿さんが出演する『決算!忠臣蔵』は、赤穂浪士による討ち入り計画の実情を、お金の面から描いた新たな時代劇。『忍びの国』、『殿、利息でござる!』など、これまでもキャッチ―な切り口で時代劇をみせてきた中村義洋が監督、脚本を務めた。物語の主役である赤穂藩の筆頭家老・大石内蔵助を堤真一が、勘定方の矢頭長助を岡村隆史が担当し、コメディからシリアスまで緩急つけて演じ分けているのが大きな見どころのひとつ。鈴鹿さんはと言うと、矢頭長助の息子・矢頭右衛門七を演じた。岡村隆史と“親子”役で共演して「似ているところもあるような気がする」岡村さんの息子を演じることになった鈴鹿さんは、オーディションで抜擢された。決まっていない頃には、「岡村隆史さんの息子役は自分しかいない!」と意気込んでいたという。「自分のテンションを上げるようにというか、“自分しか”と思う(鼓舞する)ことが一番だったんです」と照れながら、意気込みの理由を明かした。岡村さん本人からは、撮影現場で「わしの息子がこんなに背が高くて、かっこいいわけないがな!」という突っ込みもあったそうだが、「僕は意外と似ているところもあるような気がするんですけど…」と首をひねり、岡村さんの話が止まらない。「岡村さん、初日は“高倉健さんスタイルだ”ってずっと立っていらしたそうなんですけど、ほかの皆さんが気づかないから2日目にやめたそうなんです(笑)」と朗らかな様子も伝えながら、「僕がテレビで見ていた岡村さんというよりも“ああ、お父さんだ”と感じる気持ちのほうが大きかったです。すごく優しくて、真面目な方で…、一方的にお父さんだと感じていました」と、肉親という間柄を演じた鈴鹿さんならではの岡村さん像について教えてくれた。本作は、堤さん、岡村さんのW主演以外にも、濱田岳、横山裕、妻夫木聡、荒川良々、竹内結子、西川きよし、石原さとみ、阿部サダヲと豪華キャストがそろい踏み。一堂に会する場面も少なくなく、鈴鹿さんは「毎日がすごかったです。現場にいるだけで幸せで、本当に参加できてよかったです」と、かけがえのない経験だったと目を輝かせた。繰り返し見た「オレンジデイズ」&『素晴らしき哉、人生!』特に、鈴鹿さんがパッケージを借りて、何度も何度も繰り返して見ていたというドラマ「オレンジデイズ」に出演していた妻夫木聡との共演、交流は忘れ難かったという。「あの妻夫木さんが目の前でお芝居していて、“ああ、すごい、すごい!”とずっと思っていました。休憩中も、『ウォーターボーイズ』時代のお話を聞かせてもらったりもしていて」と、1トーン高い声色で興奮を語る。ほかならぬ影響を受けた妻夫木さんが『ウォーターボーイズ』に出演していたのは、21歳くらいの頃。年明けには20歳を迎える鈴鹿さんと、年端的にも近い。学生から社会人まで、様々な役どころに挑戦できるいま、鈴鹿さんが興味を惹かれるのは、どのようなジャンルの作品なのだろうか?「いろいろな作品に出てみたいですけど、青春系はちょっと恥ずかしいかな…(笑)。悪い役や、サイコパス的な役をやってみたいです」と願望を口にする。かと思うと、ふと考える表情になり、「漫画の製作進行、ピアニスト、整備士、侍…といまやってきているので、普通の人というか、リアルな家族の物語、みたいな作品もやってみたいです」と、さらなる意欲を示した。「好んで観るのは人間ドラマだったりします。『素晴らしき哉、人生!』は時間ができれば、何回も観ています。ああいう作品にも出てみたいんです」天性の人を惹きつけるムード、真っ白なキャンバスのような鈴鹿さんの素地に魅せられ、これから多くの作品が彼を彩っていくのだろう。2020年には、予想もつかないような鈴鹿さんの出演作に期待したい。(text:Kyoko Akayama/photo:You Ishii)■関連作品:決算!忠臣蔵 2019年11月22日より全国にて公開(C)2019「決算!忠臣蔵」製作委員会
2019年11月21日「エイジレス」の意味を辞書で引くと、「年齢にこだわらないこと年齢を感じないこといつまでも年をとらないこと」と教えてくれる。エイジレスどころか、1年、1年、若返りさえしている印象の女優・安達祐実は、インタビュー中、透き通った大きな瞳を細めては、楽しそうに声をたててよく笑った。2歳から始めた芸能生活は今年で36年目、「ほとんどのことを気にしなくなったんです」という大らかなマインド、笑顔を絶やさない健やかさが、彼女を輝かせる武器になっている。エイジレスな安達祐実、「本当に“強い”とはよく言われる」「私、こだわりも、ルーティンも、ゲン担ぎも本当に、ほぼないんです。仕事に関しても、“楽しく”。人によっては“現場で和気あいあいとやるものじゃない”という考えもあるかもしれないですけど、せっかくやるなら私は楽しくやりたい、というくらい…がこだわりですかね?みんなで楽しく、気持ちよく仕事できるように」。「小さいときは、もちろん自分で雰囲気作りをする立場になかったというか、できなかったというか。けど段々大人になると、年齢的にも下の人たちばかり、ということになってきて。自分がその場の空気を作れるような場面もちょこちょこ出てきて、うまく回っていけばいいなと思います。“そんな年になったんだなあ”と思いつつ(笑)」。年端もいかない子どもの頃から、演じる世界に身を置いた安達さんの言葉は、経験に裏打ちされながらも、実に軽やかだ。出演作はドラマ、映画、舞台と枚挙にいとまがないが、 その数と同じだけ、演じる責任も負ってきた。プレッシャーに押しつぶされる夜はなかったのか?「もう女優なんて嫌だ」と思うことはなかったのか?人目や作品の評価が気になって仕方がないときだってあるのでは?――次々に浮かぶ質問を一蹴するかのように、安達さんは「本当に“強い”とはよく言わるんです」と、さらりと話す。「こうやってインタビューをしてもらう機会があるので、昔を思い返すことはあります。私…、どんどん気楽な人間になっていっているのかも、と思いますね(笑)。例えば、作品をやったら“どう見てくれているんだろう?”と気になりますから、エゴサーチもするんです。よくないことも書いてあるんですけど、それを受け入れる準備は全然できているというか。指摘されても“そうか!あ、次からはこうしてみようかな”って思うんです。落ち込むとかではなく、“じゃあどうしようか”と考え方が建設的になっています」。「すれ違うだけの人から悪口を言われたり、頭をはたかれたりすることもあった」かつて、安達さんが主演したドラマ「家なき子」が一世を風靡した。本放送時の1994年には、SNSはもちろん、インターネットが流通していない時代。だからこそ、過去に起こった、こんなエピソードも聞かせてくれた。「『家なき子』をやっていたときは、まったく知らない、本当にすれ違うだけの人から悪口を言われたり、頭をはたかれたりすることなんかもありました(苦笑)。…だから “大体の人がこう思っているのかな”とわからなかった時代のほうが、私にとっては怖かったです。自分の置かれた立場を確認していたいタイプなので、いま(SNSなど)は便利だし、すごくありがたいなと思って使っています。けど、それに翻弄されちゃうと怖いと思いますけど」。自分のことを見つめ直す目、他人から見られる俯瞰の目、両方の目をバランスよく養っているからこそ、受け入れながら進んでいくことができるのだろう。自己分析の通り、「強い」人だし、「強くなった」人でもある。「俳優業は待つ仕事というか、オファーをいただいて、やれるかどうかなので“どっちに転がっていくかな?”くらいの感じで、これからの明確な目標はありません。できるだけ続けられる限り、俳優をやっていられたらな、は思っています。ともうだいぶ長くやってきたので、本当に自分がそそられるものをやっていくのでいいんじゃないかな、といまは思っています」。そして、プライベートでは、「東京出身ですし、自分のことをものすごく都会育ちだと思っていたんですけど、ここ1~2年は地に足のつけた“老後に向けて…”みたいな気持ちが実はすごく強くて(笑)。穏やかに年を取っていけたらいいなと思っているから、ものを大切にしたり、おうちのことをきちんとやって、お掃除して、ごはんを作れるときは作って、子どもとの時間を楽しんで、草花を愛でる、みたいな生活をしていきたいです(笑)」。「家無し子でーす」の台詞には「いいのかな?と思いながら(笑)」安達さんの2019年劇場映画ラストを飾るのが、日本語版の吹き替えを務めた『ゾンビランド:ダブルタップ』だ。2009年に公開され、スマッシュヒットを放った『ゾンビランド』の10年ぶりの続編となった本作では、人食いゾンビで埋め尽くされた地球で唯一生き残ったタラハシー(ウディ・ハレルソン/小山力也)ら4人組の、その後が描かれる。近年、流行りの「ゾンビもの」について、安達さんは「何回か観たことはあるんですけど、グロテスクな描写がそんなに得意ではなくて、“怖い、どうしよう!”と思っちゃう(笑)。でも、『ゾンビランド:ダブルタップ』は、ちょっと違いますよね。ドキドキ感もありながら、楽しく観られるので私の中では“ゾンビもこんな風に楽しめるんだ!”と、新たな発見でした。相当面白かったです!」と嬉々とした表情になり、身を乗り出した。安達さんが担当した人物はと言うと、本作より登場したブロンドの明るい、ちょっぴりおバカキャラの生き残り・マディソン(ゾーイ・ドゥイッチ)だ。「最初、台本を家で読みながら練習しているときは、ストーリーに没頭するのではなく、“…できない、難しすぎる役!”と思いました。私自身にまったくない要素がたくさんあるので、テンションの持っていき方が難しかったですね」と安達さんは苦労を口にする。しかし、実のところアテレコはスムーズに進み、「さすが」という空気になったという裏話も。「いえいえ!日本語で吹き替えるのは、普通のお芝居と全然違うので本当に難しかったです。ただ、声をあてていくと、ちょっとずつ一体化してきて親近感が湧いてくるんです。全然自分じゃないのに、自分みたいに思えてくる感じがあって、すごく不思議でした」。通常、字幕版と日本語吹替版では英訳が異なるもので、本作でも安達さんが「家無し子でーす」という、まるで「家なき子」オマージュのセリフと思わしき箇所が吹替版のみで楽しめる。「このセリフ、いいのかな?と思いながら発しました(笑)。改めて聞くと、ちょっと私の声の戸惑いが見えると思います」とのこと、安達さんの声のほんのわずかな変化も、お楽しみポイントだ。(text:Kyoko Akayama/photo:You Ishii)■関連作品:ゾンビランド:ダブルタップ 2019年11月22日より全国にて公開
2019年11月18日ある人は、コワモテの犯罪捜査官や殺し屋を思い浮かべるかもしれない。ある人は、お茶目な挙動を見せる彼を思い浮かべるかもしれない。はたまた、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』の中で優しさと無力を行き交う姿が記憶に新しい人も?ウィレム・デフォーは長いキャリアにおいて、様々な役と化してきた。目の前にいる彼は、透き通った瞳を持つ朗らかな人。『永遠の門ゴッホの見た未来』のジュリアン・シュナーベル監督が、フィンセント・ファン・ゴッホの純粋な魂を彼に託そうとしたのも頷ける。画家でもある監督から1対1でのレッスンとは言え、あまりにも有名な画家ゴッホは謎めいた人物でもあり、彼に関する逸話それぞれに諸説がある。そんな人物を演じるうえで大切にしたものは何か。「やはり、彼と絵画の関係性だね。人生の中心に、なぜ絵画があったのか。ゴッホは自分こそが絵画であると捉え、絵を描く行為に共感しきっていた。絵を描いている瞬間の彼は幸せで、完全だったんだ。気持ちが乱れたときは、自然の中で絵を描いた。様々な不安を抱えてはいたけれど、そうすることで解き放たれていたんだ」。「演じる以上、僕自身もそうなる必要があった」と述懐。「役に取り組むプロセスは作品によって異なる。けれど、共通点もあるんだ。それは、行動しなくてはならないということ。インスピレーションは待っていても来ない。役の原動力が何かを考え、見つけ出そうとしなければ、何も得られないだろうね」とも語る彼にとって、ゴッホになるための「行動」は、シュナーベル監督の絵画レッスンだったという。画家でもある監督から、1対1でのレッスンを受けた。「最も重要な時間だった。それにより、物の見方が変わったんだ。すると、いままでは気づかなかったことに気づけるし、書簡などでゴッホが遺した言葉の意味が見えてきたりもする。滑稽な言い方をするなら、僕の一部がゴッホになることで、彼との対話を始められたんだ。そうなれば、あとは自分の中の彼が前に出るよう、残りの僕が背中を押せばいい。もちろん、衣装やセットなど、周りの助けも必要だ。『君こそがフィンセントだ!』というおだてもね(笑)。自分自身を置き、役になる。それこそが、僕には美しい瞬間なんだ」。惹かれやってきた結果「役者と言ってもらえるように」ゴッホと絵画、ウィレム・デフォーと芝居。どちらも、美しい関係で結ばれている。「その通りだと言いたいところだけどね。ただ、少し複雑なのは、そう言ってしまうと自分を評価することになりかねない。それは決して、健全ではないように思うんだ」。「僕は演劇学校に通い詰めて役者になったわけじゃなく、ダンサー、アーティスト、建築家らが集うグループに所属し、プロとしての道を歩み始めた。人が夢を語るとき、それがモチベーションになるのは理解できる。でも、僕の場合は『役者になりたい!』と口にするよりも、人に惹かれ、状況に惹かれてここまで来た。その結果、役者と言ってもらえるようになった」。「とは言え、いまの僕は64歳で、かれこれ45年ほど芝居を続けてきた。なのに、芝居と美しい関係を結べていなかったら悲劇だね!こんなにも時間をかけてやってきたのに、間違った道だったとしたら最悪だ(笑)」。失敗を恐れず「行動すること」が後の評価に繋がる生前のゴッホは評価を得られなかった。一方、ウィレム・デフォーは愛され、尊敬されている。本作ではヴェネチア映画祭男優賞を受賞。アカデミー賞主演男優賞候補にもなった。「いい役者になるには、いい人間にならなくてはならない。皮肉なことにね。芝居をすることは、行動すること。そして、学び、思いやり、自分の感覚に挑戦を突きつけること。それがすべてだ」と語る彼の俳優人生は、ゴッホすら羨むものかもしれない。「生活のために役を選ぶこともあるけどね(笑)。でも、そこもやはり、“人”と“状況”。興味を持てる相手となら、挑戦を突きつけてくる相手となら飛び込む価値はあるし、それを求める俳優人生だとも思う」。「僕は冒険が好きだ。冒険には情熱的な人、聡明な人、謎めいた人と出掛けたい。それさえ叶えば、たとえ作品が失敗しても大丈夫。興味深い体験はできたのだから。糧となるものは、進みたい道とは逆の方向にあったりもするしね。キャリアは後からついてくるものだと思う」。映画鑑賞は「思うほど受け身の行為ではない」もちろん、そこには大前提として映画への愛がある。「ノスタルジックな人間だと思われたくはないけど、知らない人たちと暗い映画館で体験を分かち合うのが好きだ。映画は、スクリーンに光が当たっているだけのもの。よくよく考えると、クレイジーだと思わないかい?でも、そのクレイジーなもののために人は集まる。すごく人間的なことだ。一緒に並んで座り、3人だけかもしれないけど(笑)、考えもしなかったことに驚かされ、心を深く動かされ、忘れていたものを思い出す。それが映画の力であり、観客は体験を共有することでつながる。ただし、力の恩恵を受ける努力は観客がしなくてはならない。映画館での鑑賞は、思うほど受け身の行為ではないと思う」。出演作にまつわるとっておきのエピソードもお気に入りの映画を挙げてもらおうとすると、「1本に絞るのは得意じゃなくて」と申し訳なさそうな顔に。「その代わり、とっておきの話をしよう」と言い、こんなエピソードを聞かせてくれた。「新作の『ザ・ライトハウス(原題)』が来月から全米で公開されるのだけど(※インタビュー実施は9月)、出演した理由は、映画館で上映されていた1本の作品にどうしようもなく惹かれたから。映画館の前を歩いているとき、全く知らない作品になぜか興味が湧き、翌日に戻ってきて観たんだ。それがロバート・エガースの『ウィッチ』。観終わった後、僕は『監督に会わなくては!』と思い、連絡を取り、意気投合し、一緒に作品を撮ることになった。これぞ、映画の力だね。ちょっといい話だろう?(笑)」。(text:Hikaru Watanabe/photo:You Ishii)■関連作品:永遠の門ゴッホの見た未来 2019年11月8日より新宿ピカデリーほか全国にて順次公開© Walk Home Productions LLC 2018
2019年11月06日スクリーンに映っていれば、目で追わずにはいられない。そんな人が、「とにかく注目を浴びたくない。自分を見ないでほしいと思っている人」になりきり、心の叫びを伝えてくる。やはり、役者はすごい。『ひとよ』の鈴木亮平を目にし、そう感じる人は多いだろう。演じる役は「とても愛おしく」『ひとよ』で鈴木さんが演じた稲村大樹は、父、母、三兄妹から成る稲村家の長男。母親は幼い子どもたちの幸せを守るためと信じ、愛する夫を手にかけてしまう。そのショッキングな家庭事情が、15年を経て大人になった現在も三兄妹にのしかかっている。大樹が「自分を見ないでほしいと思っている人」なのは、その事情ゆえか。「加害者の子であり、被害者の子でもありますから。それに加え、吃音でもある。でも、残念ながら大きな体に育っちゃったんです、大樹は。だから、背中も丸くなるし、吃音を聞かれたくなくて声も小さくなっていった。顔を見られたくないから、前髪を下ろしたりもして。思春期って、男子も女子もただでさえそういうところがあるじゃないですか。とにかく自分を見ないでくれって」。そんな大樹と弟の雄二(佐藤健)、妹の園子(松岡茉優)の前に、音信不通になっていた母親(田中裕子)が現れる。だが、母親に再会した三兄妹の表情は複雑だ。「台本を何度も読み込むうちに、彼が過ごしてきた15年の生きづらさを想像することができて。母親を愛してはいるけど、愛情を与えられなかった思春期からの15年は大きい。愛の裏に、ちょっとした憎しみがあるんです。そんな中、崩壊した家庭で育った大樹がなぜ早くに結婚し、子どもを作ったのか。きっと、自分は父親とは違うと示すことで、父親に復讐する気持ちがあったはず。そんなことを考えていたら、大樹がとても愛おしくなりました」。親の気持ちと子どもの気持ちがきちんと描かれている鈴木さんの話に出てきた通り、三兄妹で唯一、大樹は自分の家庭を持っている。けれど、家庭はすでに崩壊気味。彼が最も望んでいなかった事態になりつつある。「結局は、父親と同じ道を歩みそうで。怯えているんです。僕自身もそうですが、息子は父親に似ているところを発見したとき、“うわっ”となる(笑)。それと同じ気持ちの、レベルのもっと違うところ。一番なりたくなかった父親に近づくことで、どうしようもない自己嫌悪を感じているんです。ただでさえ、自分を嫌っているのに。でも、別れたら負けを認めることになるから、絶対に別れようとしない。そんな結婚生活、奥さんも嫌ですよね」。ちなみに、鈴木父子の似ているところは、「知ったかぶりをするところ(笑)」だそう。「父にも僕にも、その癖(へき)があって。『世界遺産って全部でいくつあるんですか?』と聞かれたら、『うん、○○個だよ』と自信たっぷりに答えちゃう。後でちゃんと調べて“わっ、増えてた!”となるんですけど、とりあえず言っちゃうんです。得意分野だから、“知らない”と言うのは負けな気がして。親父はもっと自信たっぷりに何かを語る人なので、嫌な共通点。いつも反省しています(笑)」。「親の気持ち、子どもの気持ち。それぞれがきちんと描かれていて、誰かしらに共感できる。けれど、すべての気持ちが分かるわけでもない。それでいいと思うんです」と、作品の軸に迫る鈴木さん。また、『ひとよ』は「家族の物語であり、時間の物語でもある」という。「“ひとよ(一夜)”ですからね。大樹たちも、15年前の“ひとよ”に翻弄されるわけで。自分にとっては重大な夜でも、人にとってはただの夜。そういうのって、ありますよね。自分がどう思っているか、人には分からないのだし。でも、人生はそういった“ひとよ”の連続。そのモーメントをいくつ重ねていけるかで豊かさが決まると思っています」。俳優人生の第二章がスタート俳優・鈴木亮平にとっての“ひとよ”を聞くと、「いっぱいありますけど、やっぱり最初に決まった映画のオーディションかな」と述懐。2007年、森田芳光監督の『椿三十郎』が映画デビュー作だ。「若侍7人ほどを選ぶオーディションで。何百人と集まった中から、だんだん落とされていくんです。『コーラスライン』方式ですよね。ドキドキするし、いつ終わるかも分からないし。開始から5時間半後、“君たちに決定しました”と言われた瞬間のことはずっと忘れられません。嬉しかったです」。そして、“ひとよ”を積み重ねた現在、「いままでやってきたものを一旦忘れ、また一からいろんなものを積み上げたい」と明かす。「舞台も映像も関係なく、なんでもやっていきたい気持ち。大河ドラマが終わって、その後に映画を2本ほど撮って。ふと感じたのが、『西郷どん』は俳優人生の第一章を締めくくる作品だったということ。それくらい、強烈だったんです。そう気づいたとき、“第二章はもう始まってる!”となって。がむしゃらに、リスタートする気持ちで、恐れずにやっていく時期が来たなと思いました」。第二章はどんなテーマで?と聞くと、「それを決めちゃうとね。がむしゃらじゃなくなるので」。では、「第二章はどうでしたか?」といつごろ聞けばいい?と確認してみると、「なるほど!そうきましたか」と笑顔を見せる。「う~ん、50歳くらい…かな?14年後になりますね。先は長いなあ…。でも、お芝居を始めてからで数えると、第一章もそれくらいの長さでしたし。本当に、聞きに来てくださいね(笑)」。(text:Hikaru Watanabe/photo:You Ishii)■関連作品:ひとよ 2019年11月8日より全国にて公開(c)2019「ひとよ」製作委員会
2019年11月05日楽しみにしていた新作映画のポスターやチラシのビジュアルが解禁となれば、映画ファンのテンションはがぜん上がるもの。とはいえ、日本では、できるだけ幅広い層の関心を引きたいという配給側の意向もあってか、大胆なキャッチコピーで煽ったり、場面写真やイラストをふんだんに(ありったけ)使ったりするパターンが主流。ときには“ゴチャゴチャしすぎ”、“説明しすぎ”ともいわれてしまいがちだ。そんな中、SNSを中心に「センスが光る」「かっこいい」と注目を集めているのが、韓国のデザイン会社「propaganda」(プロパガンダ)が手掛けるポスター。『お嬢さん』『新感染 ファイナル・エクスプレス』をはじめとする自国映画はもちろん、ハリウッドの大作映画、アート系・独立系映画ほか、最近では是枝裕和監督『真実』の韓国版ポスターなどを担当、GAGA配給の『溺れるナイフ』では海外版ポスターの制作も手掛けている。今回、この「propaganda」のデザイナーから映画ポスターの存在意義と製作のプロセスについて、日本のポスターとの違いなどについて興味深い話を聞いた。ポスターとは“映画が永遠にもつことになるイメージ”2008年、大規模の商業映画のポスターを手掛けてきたチェ・ジウン、パク・ドンウが立ち上げ、のちにイ・ドンヒョンが参加して現在の3人体制となった「propaganda」。この社名にはそもそも「宣伝」、商品などの価値や主張について理解や共鳴を広めていく、という意味がある。「一般的に共産主義国家で“大衆を扇動する宣伝/広告”といった否定的な意味でよく使われていますが、我々が手がける映画や公演、ミュージカルなどのポスターを通じて、劇場、あるいは公演会場に“観客を誘惑する”、“肯定的な煽動”といった意味を込めて名を付けるようになりました」。そんな彼らにとって、映画ポスターとは「“観客が初めて接する映画のイメージ”、そして、その映画が永遠にもつことになるイメージ」なのだと言う。「100年前に作られた映画もウェブで検索すると、その映画のポスターが一番先に出てきますし、ポスターは最も伝統的な映画PRの手段であり、その映画に対する第一印象を提供し、伝えていく手段でもありますからね」。だからこそ、「映画を一番格好よくみせるために包装すること、そして、このポスターをみて『この映画、観たい!』と感じさせること」を「最大の目標であり、目的」にしているという。「こんな写真がほしい」とリクエストをすることもでは、韓国ではどのように映画のポスターを制作していくのだろうか?「日本の場合、映画の場面写真を活用する場合が多いようですが、韓国では広告のビジュアルのように、映画の現場で撮影した場面写真とは別途、ポスター撮影を進めることが多かった」という。とはいえ「スタジオでがっつりとセットして、広告撮影のように撮る」のが主流だったのは、2000年代初めころまで。「最近では撮影現場で撮影された場面写真を活用することが多くなり、撮影現場のスチール担当カメラマンがいる場合は、『こんな写真がほしい』とリクエストをかけたり、試案を組んで送ったりもします。企画を立ててポスター撮影を行うようなことは、最近、減った気がしますね」。「場合によっては、映画本編の一場面をキャプチャーして使う場合もあります。それでも活用する素材がなかったら、小道具を買って撮影をしたり、絵を描いて進行したり、有料イメージを購入して進行したりもしました。映画『あん』の場合は、どら焼きを買ってきて撮影し、その素材を活用して制作しました」という。さらに、映画のジャンルによっても進め方は異なる。「<恋愛>のようなジャンルは、登場人物(俳優)が多く、演出しないといい感じの写真が撮れないし、俳優たちが現場に集まっていることも多くないので、あらかじめ、ポスター撮影日を設け、事前準備を行ってからポスター撮映に挑んで制作します。また、<アクション>や<ホラー>のようなジャンルは、なるべく現場で撮影を行い、ポスター制作に活用します。これらのジャンルは、現場にしかいない“ルック(Look)”がありますし、もっと、ダイナミックにみせる場面に出会えるし、現場の雰囲気をスタジオで企画して撮影しても現場の世界観が出てこないですから」。文字は最小限に、余白を多めにしたビジュアルを意図こうした“現場感”を大切にしながらも、「propaganda」によるポスターは、シンプルかつ独特の美意識が貫かれている点が特徴的。できる限り文字情報などをそぎ落とした“余白”が生むのは、それこそ作品そのものから湧き上がるイメージだ。「もちろん、それは意図した試みです。それが、『propaganda』のスタイルです。文字は最大限に少なくし、余白を多めにしたビジュアルですね」。では、そのこだわりは、どんなところから生まれるのだろう?「すごく難しい質問ですね(笑)まずは、その映画が持っている全てのことを入れたいです。出演俳優の顔を大きく強調するような単純な目的のデザインよりも、50年後でも、一生残るデザイン、です」。そう語りつつも、「有名監督や俳優の場合、様々な諸事情があり、デザイン進行において考慮しなければならない部分が多くて大変な印象があります」と、おそらく万国共通の悩みも。「それに比べて、独立映画やアート系の映画の場合は、壁になるハードルが低いため、デザイン的な欲求を多く解消することができます(笑)」と明かし、「俳優の後頭部だけ見せるデザインや、映画のスチール写真を全く使わずにイラストのような絵だけにして表現するデザイン、または、活字を用いたタイポグラフィだけのデザインにするユニークなビジュアル、実験的なデザインを試みたりしています」。日本の独立映画やアート系映画のポスターが好みそんな「propaganda」流スタイルには、なんと日本発のポスターも大きな影響を与えているらしい。「2000年代の半ば頃に制作された日本の映画ポスターが好きで、なかでも、映画『アメリ』の日本版ポスターは、全世界で制作された『アメリ』ポスターのなかで一番良かったと思います」という。「余白が多く、人物も小さい、といったデザインに影響を受けました。最近の日本のポスターをみると、タイポグラフィといったテキストが多くなった感じがしますね。それを考えますと、日本の映画ポスターも流行があるんだなと思いました」。このほかにも、「好きなアートディレクターの大島依提亜さん(『万引き家族』『アメリカン・アニマルズ』など多数)が手がけたポスターは全部好きです。それこそ、荻上直子監督の映画ポスターや、台湾映画『愛情萬歳』の日本版ポスターもデザインがユニークで好きです。ポン・ジュノ監督の『ほえる犬は噛まない』日本版ポスターも好きです」と、次々に飛び出してくる。実は「propaganda」で初めて担当したのが、日本映画『ハチミツとクローバー』(2006)だったそう。「その後、『嫌われ松子の一生』や『黄色い涙』、『東京タワー』など、立ち上げ当初は日本の作品が多かったので印象に残っています」。「大きな商業映画の日本版ポスターで、登場人物を切り取って背景を白くし、文字をいっぱい入れ込むようなデザインになっていることをみたことありますが、韓国では受けないデザインだなと思ったことはありました。それに対し、日本の独立映画やアート系の映画のポスターは好きで、『propaganda』の感性にあうデザインも多いなと思っています」。<取材協力:KIM RANHEE>(text:cinemacafe.net)
2019年10月30日10月上旬、空港で日本のファンに囲まれるサム・ライリーを見て、感動と興奮を覚えた人も多いはず。なぜなら、彼が着ていたTシャツの絵柄は、伝説のロックバンド、ジョイ・ディヴィジョンのアルバムジャケットに使用されたもの。「お気に入りなんだ」と笑うサムは2007年、映画『コントロール』でジョイ・ディヴィジョンのボーカルだったイアン・カーティスを演じ、たちまち注目を集めた。出演の決め手は「自分に訴えかけてくるものがあるかどうか」それから7年後、サム・ライリーはディズニー映画『マレフィセント』に出演。さらに5年後、その続編に出演して初来日を果たしたわけだが、こうなる現在を予期していた?と訊くと、「完全に“ノー”だね(笑)」。以前は「俳優が生涯の仕事になることすら想像していなかった」という。「夢に見てはいたけどね。反省すべきか悩むところだけど、学校の先生の忠告をまるで聞かない子どもだったんだ(笑)。だから、ずっとハリウッドスターに憧れ続けてきたし、実際、19歳のときに俳優を目指した。けれどもうまくいかず、ロックスターとしての成功を望んだ。それも思うようにいかなかった僕が何年かして、映画でロックスターを演じることになった。ちょっと不思議な旅路だよね」。すでにドラマティックだが、それでもやはり“ハリウッドスター”とは縁遠かった様子。「『コントロール』が僕の人生を一変させたのは確か。でも、実際は目の前のことで精一杯だったんだ」と振り返る。「役を生きることに必死だったし、妻となる女性と恋に落ちるのにも忙しかった(笑)。(※共演のアレクサンドラ・マリア・ララと2009年に結婚)でも、完成した作品をカンヌ映画祭で披露したとき、観客の反応がすごくよかったんだ。のちの妻も…その時点で彼女は僕よりよっぽどキャリアを積んでいたのだけど、『これほど祝福されるなんて、滅多にないことよ』と言っていた」。「ただし、だからと言って将来についてよく考えるようになったかというとそうでもなく(笑)、僕は出演作を決めるとき、自分に訴えかけてくるものがあるかどうかを指針にする。だから、いままでの作品には僕自身の倫理観が反映されているものが多い。エージェントはそんな僕にイラついているけどね」。尊敬するアンジェリーナ・ジョリーとの共演では、『マレフィセント』の何が彼に訴えかけてきたのか。ずばり、マレフィセント役のアンジェリーナ・ジョリーだったという。「それまで大きなスタジオの作品に出たことはなかった。俳優を始めたころ、そんな機会もあったけど実現しなかった。だから、あまり期待はしていなかったのだけど、脚本を読んでみたら、ほとんどのシーンがアンジェリーナと一緒(笑)。彼女のことは『ジーア/悲劇のスーパーモデル』を観て以来、ずっと尊敬していた。だから、ぜひ共演したかったんだ」。尊敬する相手と芝居を交えるのに、マレフィセントとディアヴァルは理想的な役柄と言えるかもしれない。最強のヴィラン、マレフィセントと彼女に仕えるカラスのディアヴァルについて、「演じがいがあるのは確かだよ。ギャアギャアと熟年夫婦みたいに言い合うところもね(笑)。マレフィセントは彼をいろいろな姿に変身させて楽しむ。そんな状況から逃れ、ディアヴァルはどこかで巣を作って心穏やかに暮らせばいいのに。けれど、そうはしないところに2人の関係性がよく表れていると思う」と指摘する。マレフィセントとディアヴァルの関係は、幼い息子を持つサムの“助け”にもなったそうだ。「ディアヴァルの変身シーンを見た5歳の息子が、僕に尊敬の眼差しを向けてくれたんだ。やっとね(笑)。これだから、僕はディズニー映画が好きだ。実際、子どものころからいろいろなディズニー映画を観てきたよ。僕は四人兄弟の一番上だから、DVDを弟や妹に譲り渡すこともあった。『ライオン・キング』や『美女と野獣』をね。いまは息子と一緒に映画館へ行くことが多いかな。『モアナと伝説の海』や『リメンバー・ミー』を観たよ。僕と息子は同じくらいとっても繊細だから、一緒に泣くんだ(笑)」。作品に込められた現代社会へのメッセージ「いろいろなジャンルの映画が好きで、最新作よりはクラシック。クリストファー・リーヴの『スーパーマン』を何度も観るタイプで、『007』も『スター・ウォーズ』も昔のシリーズが好き。オーソン・ウェルズ、ヒッチコック、クロサワも愛している。“クロサワ”ってちゃんと発音できてた?きっと酷い発音だよね」と心配するが、発音は完璧。さらに、出演作の指針として挙げた「僕自身の倫理観が反映されているものが多い」。これは、一観客としても同じのようだ。「作品の中にポジティブなメッセージを込めることに、ディズニー映画は昔から成功してきた。『マレフィセント』もそう。真実のキスをするのは王子だけじゃない。愛は複雑なものだと、物語を通して示してくれるんだ」。「それに、いまの世の中は分断されている。EU離脱やアメリカの現状が示しているようにね。国のリーダーたちが特定の人々を、国が抱える問題のスケープゴートにしている。問題を単純化するために。それはすごく危険なことだ。そんな中、マレフィセントという存在は、同調するのではなく、違いを受け入れることの大切さを教えてくれる。気候の変動も深刻化し、人類が力を合わせて問題を解決しなくてはならなくなったいま、僕らはそれに気づくべきだ」。(text:Hikaru Watanabe/photo:You Ishii)■関連作品:マレフィセント2 2019年10月18日より全国にて公開©2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
2019年10月24日