ASD(自閉症スペクトラム)のある人の理解と支援を広げるために毎夏、よこはま発達クリニックとよこはま発達相談室は、一般の方向けに、ASD(自閉症スペクトラム)に関するセミナーを行っています。どうして、セミナーを始めこれまで続けてきたのでしょうか?私たちは1997年に当時としては珍しい発達障害を専門にする「仲町台発達障害診療所」を立ち上げ、2000年に現在のよこはま発達クリニックに改称し、以来20年以上にわたってASD(自閉症スペクトラム)を中心に発達障害の医療と支援を行なってきました。初代の院長は故佐々木正美先生にお願いしました。私たちはTEACCHプログラムの創始者であるエリック・ショプラー先生、アスペルガー症候群と自閉症スペクトラムの概念を提唱したローナ・ウイング先生を始めとして多くの先生から自閉症について学んできました。参考:『本当のTEACCH―自分が自分であるために』私たちがクリニックを受診される方々を支援するときに常に大事にしてきたのは「自閉症でok」、「親子で穏やかな生活を目指す」、「家族と協力して子どもを支援する」、「一人ひとりの特性や興味・関心に合わせた無理のない設定をする」、「環境を整える」ということです。そのためには、より多くの人たちの理解が必要となります。仲町台発達障害診療所を開設以来、私たちは毎年「夏のセミナー」を行ってきました。そしてセミナーでは、ASD(自閉症スペクトラム)についての基本的な知識や支援の方法を紹介してきたのです。ASD(自閉症スペクトラム)がある人の生活を支援するには出典 : 「構造化」という言葉をお聞きになられたことのある方は多いのではないでしょうか?私たちは、無理に“普通”に近づけようとしたり、周囲にあわせるのではない。環境を整えて、本来持っている能力を発揮しやすくすることを目指してきました。そのためには、自閉症スペクトラムの特性を理解することが大切だと考えました。そして、支援を考える際には「構造化」を大切にしてきました。クリニックを立ち上げた頃には「構造化」の考えを取り入れる学校や福祉機関は少なかったのですが、徐々に日本でも浸透してきました。しかしながら、ASD(自閉症スペクトラム)の方の支援を考える際には大切で、有益な考え方ですが、誤解や誤用も多いのが現状だと思います。「構造化」する背景には自閉症の特性が深く関係しています。その理解をせずに、とりあえず「やってみる」ではうまくいかないことも多いのです。「なぜやるのか」を支援者一人ひとりが考えることが大切です。そこで、「構造化」についての正しい理解と、その理解に裏打ちされた「支援」の実現の一助となるよう、毎年セミナーを開催しているのです。2019年夏のセミナーでは、具体的なアイディアを紹介しつつも、「なぜやるのか」「どうして必要なのか」に焦点をあてながら、支援のエッセンスについて共有していこうと思っています。ASDについて、基本的な知識や支援の方法を紹介するセミナーを開催出典 : 「令和」最初の『夏のセミナー自閉症スペクトラムの理解と支援』は、東京駅前で開催することになりました。セミナーの内容について、簡単に紹介したいと思います。セミナー1日目となる8月2日には、児童精神科医の蜂矢と公認心理師の北沢が自閉症スペクトラムの基本特性について解説します。自閉症特性は年齢や認知水準によってさまざまな表れ方をします。発達特性に基づいた正しい評価とは、子ども一人ひとりの発達特性や認知特性、興味や関心のあり方を把握することから始まります。心理検査データのパターンだけで支援方法が決まるわけではありません。発達特性の理解に基づいた適切な評価を通じて、一人ひとりの支援プランと具体的な対応を考えましょう。2日目は公認心理師の佐々木と言語聴覚士の飯塚が担当します。自閉症スペクトラムの方々への支援は、一律の方法があるわけではなく、それぞれの方に合わせた支援・関わり方が大切だと考えています。今回はそのためのアイディアの一つとして、「構造化」と「コミュニケーション支援」についてお話をさせていただきます。午前中は、なぜ構造化をするのか、構造化の意味を共有させていただいた上で、さまざまな知的レベルや年齢の方への具体的な方法を紹介いたします。午後は、穏やかに、そして充足感をもって暮らすためのコミュニケーション支援について、さまざまな発達段階の幼児〜大人の事例のビデオをお見せしながら解説いたします。3日目は児童精神科医の宇野と内山が問題行動について背景や対策を考えます。ASDの問題行動は、かんしゃく・自傷・他害行為、多動や不注意などの衝動的行動、ひきこもりや昼夜逆転などに加え、いわゆる触法行為、さらには自殺企図やうつ・不安などの精神科的問題など多岐にわたります。その多くが、自閉症特性への配慮不足から生じていると考えられます。この講座では、ASDにみられやすい問題行動を解説し、その対応の方法を、海外での研究動向なども含めて紹介します。3日間のセミナーで、さまざまなことをお伝えしたいと思っています。ぜひ日々の支援に生かしてもらえたらと願っています。日時:2019年8月2日(金)~4日(日)場所:AP東京 八重洲通り(東京都中央区京橋1-10-7 KPP八重洲ビル8/2(金)7階 / 8/3(土)8/4(日)13階)プログラム:◇8月2日10:00~16:45 『改めて基本特性から考える:理解と評価』◇8月3日10:00~16:45『支援の原則と実際:構造化とコミュニケーション支援』◇8月4日10:00~16:45 『問題行動とそれへの対応』講師:蜂矢百合子(児童精神科医、よこはま発達クリニック/相談室)北沢香織(公認心理師・臨床心理士、よこはま発達クリニック/相談室)佐々木康栄(公認心理師・臨床心理士・精神保健福祉士、よこはま発達相談室/クリニック)飯塚直美(言語聴覚士、よこはま発達相談室/クリニック)宇野洋太(児童精神科医、国立精神・神経医療研究センター)内山登紀夫(児童精神科医、よこはま発達クリニック院長/よこはま発達相談室代表、大正大学 教授)対象:保護者、実際に療育・支援に携わっている方、学生など(中学生以下の参加はできません)料金:各日10,000円(税込)定員:120名(先着順)事務局:よこはま発達相談室(www.ydc-r.com)seminar@ypdc.netよこはま発達相談室よこはま発達クリニック
2019年04月25日こだわりが強いのぼる…。ADHDとASDがある長男の「好きなもの」の幅を広げたい長男・のぼるにはADHD(注意欠陥・多動性障害)と軽度のASD(自閉症スペクトラム)があります。4歳の頃は、いまよりこだわりも強く、特に踏切が大好きでした。でも、踏切のまわりで遊ぶのは危険が多すぎる…。私は、のぼるの「好き」の幅を広げられないかと、いろいろなところに出かけてみることにしました。Upload By ちちゃこUpload By ちちゃこUpload By ちちゃこ砂浜に行ってみようかな?ふと思い立ち、週末に家族で海に出かけてみたのですが…Upload By ちちゃこ海は、のぼるだけでなく、ひとしも楽しく遊べる場所でした。それ以来、海遊びは、わが家の定番になりました。Upload By ちちゃこ最後に、わが家の「海に遊びに行く時の必需品」をご紹介します。海水浴シーズン以外の静かな海での砂遊び、磯遊びもおすすめですよ。Upload By ちちゃこ
2019年04月19日アイルランド出身の人気グループ・ウエストライフが、約9年ぶりとなるニューアルバム「スペクトラム(SPECTRUM)」を、2019年9月6日(木)にリリースする。21世紀でイギリスで最も多くのアルバムを売り上げてきたウエストライフ。2012年に電撃解散後、姿を消していた彼らだが、2018年末に再結成を宣言。2019年1月には、イギリスの人気アーティースト エド・シーランがソングライターに名を連ねるニューシングル「ハロー・マイ・ラヴ」をリリースし、ファン待望のグループ復活を遂げた。今回のニューアルバム「スペクトラム」は、そんな彼らの最新シングル「ハロー・マイ・ラヴ」や「ベター・マン」を含む新曲を収録。曲のラインナップや価格などは2019年4月の現段階で未公表のため、今後のアップデート情報を随時チェックしてほしい。【詳細】ウエストライフのニューアルバム「スペクトラム」発売日:2019年9月6日(木)
2019年04月15日大きなお兄ちゃんと小さな妹の発達凸凹ライフ!Upload By 寺島ヒロUpload By 寺島ヒロUpload By 寺島ヒロUpload By 寺島ヒロUpload By 寺島ヒロ発達障害の特性ってこんなに幅がある!検査結果はほぼ一緒の兄妹を育てる中で、感じていること「発達障害があるとどうなるの?」「発達障害がある子ってどんな行動をとるものなの?」発達凸凹兄妹を育てていると、こんな風に聞かれることもよくあります。でも、同じ診断名だったとしても、わが家の子ども達のように検査結果が似ていたとしても、一人ひとり違う人間。似ている部分ももちろんあるけれど、それ以上に、困りごとも、やることも、好きなことも、それぞれ違うのです…。だから「症状も行動もいろいろです」としか言えなかったりします。特性があっても、日々の生活の中で困りごとが出てくれば障害になるけれど、困らなければ障害ではなくなります。同じような特性を持って生まれてきても、行動への現れ方はそれぞれ。幅がある。発達ナビでの連載コラムでは、そんなわが家の兄妹の生活ぶりをつづっていく予定です。「(診断名も検査結果も)おんなじなのに、こんなに違うの!?」という実例として、見てもらえたらうれしいです。Upload By 寺島ヒロ子どもたちは発達凸凹、得意なことも苦手なことも振れ幅大きすぎ!でも、どこかほのぼの明るい寺島家の毎日がつづられています。発達が気になる子どもと暮らすヒントがぎゅっと詰まった一冊!
2019年04月15日自閉症の長男と、定型発達の次男。わが家の「翌日の準備」風景わが家の双子の息子たちは、4月から小学5年生になります。今思うと、これまで本当にあっという間でした。子どもたちが低学年のころ、私は毎晩2人のかばんの中身を点検していました。Upload By シュウママ定型発達の次男の場合、低学年のうちは先生が翌日の予定を細かく板書してくれていたようで、連絡帳を見れば次の日の必要なものがすぐわかりました。私は、連絡帳を確認して「あれを持っていって」「これを忘れないで」と次男に指示していました。そして自閉症の長男の場合は、連絡帳を見ながら私が必要なものを準備していました。中学年になってくると、次男は「習字の墨汁がないから補充してほしい。それから明日は4時間授業で、給食はないよ」というように、必要なことや予定など自分から私に伝えてくれるようになりました。しかし長男の方はまったく変わらず、今日あった出来事も明日の予定も、自分から教えてくれることはなかったのです。Upload By シュウママ明日は6年生の卒業式。連絡帳をチェックしていたら...。つい先日、6年生が卒業式を迎える日の前夜のこと。私は、いつものように長男の連絡帳を確認していました。「明日は、在校生はモノトーンの服で登校してください」という先生からのコメントを読み、それに合った洋服を出していたところ、長男が横から連絡帳を覗き込んできました。そして何を思ったか、私の服の袖をぐいぐい引っ張るのです。Upload By シュウママ母の袖をつかみ、長男が何度も繰り返した言葉「どうしたの?」と聞くと、長男は切羽詰った表情で繰り返しこう言いました。Upload By シュウママ「何のこと?」と思った私が首をかしげていると、長男はいら立ったように再び「あした、おべんとう!あした、おべんとう!」と大きな声で言いました。その瞬間「あっ!」と思い、私はあわてて学校から配布されている1週間の行事予定表を確認しました。すると…そこには、こう書かれていたのです。Upload By シュウママ前日の連絡帳には書かれていなかったけれど、1週間の行事予定にははっきり「お弁当が必要」だと書いてある!きちんと確認していなかった!私は大慌てで炊飯器のタイマーを設定し、冷蔵庫の中身を確認しました。大丈夫、お弁当の材料はある...。ほっとして振り返ると、長男がにんまり笑っていました。ゆっくりかもしれない。でも、確実に成長しているんだね「明日、お弁当の日だったんだね。教えてくれてありがとうね。ママ、忘れてたよ。」そう言うと、長男はうれしそうにどや顔をしていました。Upload By シュウママおそらく先生から、「明日はお弁当ですよ。おうちの人に伝えてね」などと言われていたのでしょう。それを長男は覚えていて、きちんと伝えてくれたのです。長男が学校からの連絡事項を教えてくれたのは、初めてのことでした。長男も、もうすぐ5年生。小さな成長が見えて、なんだかとてもうれしい1日でした。
2019年03月29日ASD(自閉スペクトラム症)とは?withnews編集部の記者である筆者は、障害のある人の就労支援や学習支援などに取り組む「LITALICO」(東京都目黒区)を訪れました。 ASDのある人に多くみられるという、「視覚過敏」の症状について、VRで体験できると知り、取材をしたいと考えたためです。編集部注:このコラムは、withnewsの記者がLITALICOでASD視覚体験VRを体験し、そのルポをLITALICO発達ナビに寄稿したものです。参考:withnewsそもそもASDとはどんな症状なのでしょうか?LITALICO発達ナビによると、先天的な脳機能の凸凹により、以下のような特性があるといわれているそうです。・言葉のコミュニケーションが苦手言葉の裏にある意味をくみとるのが難しいなど・人と関わるのが苦手(対人関係や社会性の障害)目を合わせない、空気を読むのが苦手など・こだわりや興味に偏りがある予定が変わるとパニックになってしまう、同じ動きを繰り返すなどまた、ASDのある人のなかには、視覚や聴覚といった五感の一部が極端に過敏であったり鈍麻であったりといった、感覚の特異性(偏り)を伴う人も多いといわれています。ただ、過敏・鈍麻といった感覚の偏りには個人差があります。こうした感覚の特異性によって日常生活に困りごとがある方も少なくありませんが、目には見えにくい症状のため、周囲の人からの理解や共感を得にくいという問題があります。VRで自閉スペクトラム症の視覚世界を疑似体験「視覚過敏」の症状をVRで疑似体験できる機器「ASD視覚体験シミュレータ」は、情報通信研究機構と東京大学、国立精神・神経医療研究センター、LITALICOの四つの拠点が連携して研究を進めています。開発者は、工学が専門の情報通信研究機構主任研究員・長井志江(ながいゆきえ)さんです。参考:認知ミラーリング | CREST PROJECT体験できる世界は3つ。「コントラストが強くまぶしい世界」「色が消えてぼやけて見える世界」「たくさんの点が見える世界」です。映像はそれぞれ約3分間で、前半は視覚症状がない人の見え方、後半は視覚が敏感な人の見え方で構成されています。Upload By withnewsいざ、ゴーグルとヘッドフォンを装着です。早くも視界にはVR空間が広がります。3つの映像があり、体験したいものに頭を動かしてカーソルを合わせました。選んだのは、視覚症状が出る人の多くが経験するという「コントラストが強い世界」です。スタートボタンを押すと、目の前に広がったのはマンションの玄関でした。まずは症状がない人の見え方が映ります。少しだけ光が差し込む薄暗い玄関。晴れの日に照明をつけていない状況のようでした。ゆっくり外に通じるドアに近づき、ドアノブを押します。薄暗い部屋から明るい外に出たので少しまぶしさを感じましたが、2、3秒もすると明るさに慣れてきました。周辺の家の屋根や街路樹、車が通っている様子が見えます。頭を動かして周囲を見渡しましたが、違和感はありませんでした。Upload By withnews続いて、ASDのある人の見え方に変わります。場面は同じ玄関です。しかし、さきほど薄暗く見えていた影は完全に真っ黒。光は入っていますが、陰影がはっきりしています。ドアを開けると、辺りは真っ白。雪景色に光が反射するようでした。さらに、丸い光がちかちかして見えたあとに消えていきました。あまりにも視界が白すぎて、あるはずの街路樹も屋根も見えません。かろうじて影になっている部分が黒く見え、そこに何かがある、くらいは認識できました。車が通っている様子も、黒い線が動いている程度で、形まではわかりませんでした。コントラストが強く映る症状は、瞳孔の調整能力が弱いためと推察されるそうです。瞳孔が暗いところで拡大、明るいところでは収縮するという機能自体は同じで、決定的に機能が違うことはないといいます。Upload By withnewsUpload By withnewsその他のシチュエーションは、駅のホーム(色が消えてぼやけて見える世界)と学生食堂(たくさんの点が見える世界)でした。駅のホームでは、電車が入ってくる場面が映ります。症状がある人の世界では、電車が大きな音をたてながら高速でホームに入ってくるにつれ、周りの風景が全体的にモノクロでぼやけて見えました。電車が走ってくる音は聞こえるのですが、形が認識できたのは直前です。これは、「動きによる、無彩色化・不鮮明化」のためだそうです。Upload By withnewsUpload By withnews学生食堂では、人がいない状況から人がたくさんいる状況へ移ったとき、カラフルな丸い点がちかちかして見えました。これは、「動き・音の強さの変化による、砂嵐状のノイズ」が起こるためといいます。脳の特異的な活動によるもので、幻覚などではなく、片頭痛の患者さんにも同様の症状が見られる人がいるそうです。短時間でも視界に動くものが入ると気が散ってしまいました。Upload By withnewsUpload By withnews400人以上がVRで疑似体験。ワークショップ参加者が感じたことは?LITALICOでは、情報通信研究機構や東京大学と協力し、2017年から10回以上VR体験ができるワークショップを開いています。ASD当事者の家族や支援者、教育者や企業の人事担当を中心に、400人以上が体験したそうです。体験した方の感想・当事者の保護者「子どもは普段すごく刺激に溢れた世界にいて、それに伴う疲労感が強いんじゃないかなと思いました。今後は、安定できるところに過ごさせてあげたいと思いました」・児童・障害福祉分野の支援者の方「放課後デイサービスで子どもたちとの関わり方をより細かく考え、声のトーンや動き方など行動できるようにしたい。公園や特定の遊びを嫌がる子どもの原因と思われることが体験でき良かった。ASDの子どもと一緒に良い支援員になりたい」・企業の方「社内でASDの社員がより安心して働くことができるように生かしていきたい」「コミュニケーション以前の問題がある」 開発者・長井志江先生に取材シミュレータの開発者で情報通信研究機構主任研究員の長井志江さんに開発のきっかけを聞きました。Upload By withnews「8年ほど前、ロボットや人工知能の研究をしていく中で、アスペルガー症候群(※)の診断を受けている東京大学の女性研究者・綾屋紗月さんと会い議論をしたのがきっかけです。それまでASDはコミュニケーションの問題だと思っていました。綾屋さんの著書やお話から、コミュニケーション以前の問題が大きいことを知りました。著書では、綾屋さんが見ているコントラストの強い世界の写真があり、見え方が違うことに目からうろこが落ちました」(長井先生)「当時、見え方や聞こえ方が違うこと自体知られていない状況でした。エンジニアの立場から、知覚の世界でしたら映像技術を使っていろんな人に分かりやすく伝えられるのではないかと考え、綾屋さんたちと共同研究を始めました」(長井先生)VRの映像は、ASDの当事者22人の見え方をデータ化し、解析した平均値だといいます。22人のほぼ全員が、元々明るい場所がさらに明るく見え、約3分の1がちかちかした点が見えるという結果が出たそうです。VR体験をした当事者からは、「自分自身の経験を再確認できた」「周りに説明しても理解してもらえなかったが、共有できるようにしてくれた」という反応があったといいます。※診断当時の名称見える世界が違うことで、ASDがない人に「自分とは違う」「怖い」という印象を持たせてしまう可能性もあります。そのため、長井さんはワークショップなどで強調することがあるそうです。「ASDでない方もASDの方も、基本的に脳の中では同じ事が起こっていると伝えています。どのくらい敏感で、状態が長く続くかが分かれ目ではないかと思います」(長井先生)今後はさらに「教育機関と企業」に働きかけていく予定です。「教育機関では早い段階から発達障害を理解してほしいと思います。話し方一つにしても、抑揚をきれいに話されると聞き取りやすくなることがあります。どう接するか、環境を整えるかでコミュニケーションを取りやすくなります。授業の一環にワークショップを組み入れるような制度を作っていきたいです」(長井先生)「企業では、発達障害の方を雇用したいけど、その人たちのために何を用意したらいいかわからないという方もいます。人事課や周りの方に、ASDの人がどんな困難さを抱えているのかをきちんと理解してもらうように進めていきたいと思います」(長井先生)Upload By withnews取材を終えて感じた「思い込み」これまでも、視覚過敏のある人は見え方が違うという知識はありました。ですが、今回VR体験をしてみて、「自分が見ている景色は隣の人にも同じように見えている」という思い込みが強かったことに気づきました。コントラストが強い世界も、ちかちかが見える世界も、とてもストレスを感じました。電車が直前まで認識できないことは、恐怖でもありました。視覚症状は疲労度合いなどにも左右されるそうです。目に見えないことなので、周りの人が気づけないことも多いと思います。ただ、視覚症状がある人たちの世界を体験していると、違和感に気づけるようになるかもしれません。暗い空間から明るい空間へ移動したとき、一瞬まぶしくなるという体験は多くの人が共感できると思います。でも、感じ方は人それぞれです。隣にいる人が長時間まぶしさを引きずっているかもしれません。しんどそうにしていたら、室内で過ごすように声をかけたり、まぶしさを和らげる対策を取れたり、サポートできることはあります。多くの人が、体験を通して視覚症状のある人との距離が縮まることを期待しています。取材・文/withnews編集部隣の人が見ている景色は自分と同じ?ASDの人が見る世界を体験 | withnews
2019年03月29日『発達障害の人の「片づけスキル」を伸ばす本』 の著者・村上由美さんは、実はASD(自閉症スペクトラム障害)を持つ発達障害当事者。発達障害の特性としてよくあげられるように、以前は、本当に片づけが苦手だったそうです。本書では、そんな発達障害当事者ならではの工夫によって編み出された片づけのコツがつまっています。第3回インタビューでは、「片づけが苦手な夫や子どもへの対処法」についてうかがっていきます。お話をうかがったのは…村上由美(むらかみ・ゆみ)さん言語聴覚士。上智大学文学部心理学科、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院(現・国立障害者リハビリテーションセンター学院)聴能言語専門職員養成課卒業。重症心身障害児施設や自治体などで発達障害児、肢体不自由児の言語聴覚療法や発達相談業務に従事。著書に『アスペルガーの館』(講談社)、『声と話し方のトレーニング』(平凡社新書)、『ことばの発達が気になる子どもの相談室』(明石書店)、『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に暮らすための本』(翔泳社)などがある。■「片づけなさい!」子どもに通じないのは、どうして?――今までは、自分の片づけについてでしたが、今回は「片づけが苦手な家族(夫や子ども)についての対処法」をうかがいます。人の片づけに口をはさむのは、非常に難しいことだと思うのですが、まず何から手をつけたら良いのでしょうか…?村上由美さん(今、村上さん):まず、片づけが苦手な夫や子どもが、片づけのどのステップでつまずいているのかを見極めることが大切です。例えば、モノを大量に買ってきて貯め込んでしまうタイプなのか、捨てられないタイプなのか、使ったモノを戻さないタイプなのか…などですね。――子どもの場合は「使ったモノを戻さない」タイプなんかが多そうです。村上さん:子どもの片づけには、まずは、親が環境設定してあげる必要があります。具体的な方法としては、引き出しや棚に何が入っているか、一目でわかるような写真や絵のラベルを貼ったり、所有者がはっきりするように、きょうだい別にマークや色で分けたりですね。ちなみに、片づいている状態を写真に撮り、子どもに「これと同じにしてね」と伝えるようにしたら片づけられるようになった、という方もいましたよ。――確かに、「これと同じにしてね」と写真で教えてあげれば一目瞭然ですね。村上さん:しまう「場所」のサイズにも工夫しましょう。子どもが小さいうちは、おもちゃのサイズも大きいので、何でも大きい箱に片づけがちですが、成長にともなって小さなおもちゃが増えてからも大きな箱にまとめてしまっていたら、モノが埋もれて探せなくなってしまいますよね。子どもが使っているモノのサイズによって、大きいモノは大きい箱に、小さいモノは小さい箱にしまえるよう、親が見極めて「場所」を設定してあげることが大事です。――子どもの使っているモノに合わせて、随時、しまう「場所」の見直しすることが大事なのですね。村上さん:今までと同様で、子どもの片づけのコツもやはり、最初に「場所」を決めることです。子どもの生活パターンを観察していると、だいたいどこで何をしているかがわかってくると思います。例えば、おやつを食べる場所はこのあたり、おもちゃで遊ぶ場所はあのあたり、勉強するのはこのあたり…というふうに。それがわかったら、遊んでいる場所のすぐそばにおもちゃを入れる箱を置いたり、勉強をする場所のすぐそばに文房具など勉強道具をしまうトレーを置いたり、モノをしまいやすいように「場所」を決めます。そして、 連載第1回 でもご紹介したように、「場所」が決まったら、次に「量」、そして「入れ方」の順で決めるのです。――「使う場所のすぐそばに」というのがポイントなのですね?村上さん:そうです。なぜなら、子どもは使い終わった瞬間、モノが意識の中から消えてしまうから(笑)。なので、子どもが作業していて、「〇〇がない」と言ったら、まずは近くにある箱やトレーなどの中を探させる習慣をつけましょう。そうすると、だんだんそこに自分の必要なモノが入っていることがわかってきて、使い終わったら元に戻すようになると思います。 ――「使い終わった瞬間、モノが意識から消える」は、まさにあるあるですね(笑)。村上さん:伝え方にもポイントがあります。子どもに「片づけなさい」という言葉は通じにくいのです。なぜなら、「片づける」という言葉には、「集める、分ける、捨てる、しまう」など、いろいろな意味がまとまって入っているから。そのときの状況や前後の文脈によって、「片づけなさい」の意味が変化するので、子どもはどうしたらいいかわからなくなるんですね。つい便利だから、まとめて「片づけなさい」と言ってしまいがちですが、いかに漠然とした言葉を使っているかということを、親が自覚することも大事だと思います。■「誰かが片づけてくれる」丸投げ夫にはどう対処する?――片づけが苦手な夫の場合は、どう対処したら良いでしょう?村上さん:ウチの夫も片づけがやや苦手で…(笑)。夫は、ASDに加えてADHD(注意欠如・多動性障害)やLD(読み書きの学習障害)の傾向があり、しまった場所も忘れてしまうし、どこに片づけるというルールも忘れてしまうのです。だから、わが家では、先ほどお話しした写真ラベルを貼って対応しています。こうすると、中には「子ども扱いするな」と機嫌をそこねる夫もいるかもしれませんが、「あなたじゃなくて、子どものためよ」と、しらんぷりしておけばいいのです(笑)。――そもそも、夫が片づけの意味を感じていなかったり、結局、最後は誰か(妻)がやってくれると甘えている場合もありそうです。村上さん:以前の私ですね(笑)。片づけって、少し先の未来ですから。少し先の未来と今とを天秤にかけて「どっちを選びます?」という話で、片づいた状態の心地良さが少し先の未来にあることがわかっているからこそ、目の前の面倒臭い片づけを乗り越えていくことができるのです。そこがつながっていないと、目先の楽しさを優先してしまいますよね。特に、子どもは基本、快楽主義者ですし、ADHD傾向が強い子などは、特にそうでしょう。これは、勉強でも同じですよね。「今ちょっとがんばって勉強する」と「そうすれば成績が上がる」ということがつながっていればがんばれますが、そこがつながらない限り、目先の快楽に流されてしまうのではないでしょうか。それは、子どもに限りません。――では、どうしたら、頭の中でそこが「つながる」のでしょう?村上さん:まず、スモールステップで、少し先の未来の状態を体験させてあげることです。例えば、財布や引き出しなどの小さなスペースで、「片づくとこんなに快適なんだ!」という成功体験を少しずつ積み重ねてあげる。そのために、最初の一歩は本人に合わせたハードル設定が必要です。そこからスモールステップで少しずつ引き上げる…まさに、子育てと一緒ですよね。村上さんの片づけメソッドは、ASD当事者ならではの視点と工夫で、同じように片づけが苦手な人のために、片づけのステップを非常に具体的な行動に落とし込んでいました。これだけ具体的に提示された方法なら、さまざまな片づけ術で挫折してきた方でも、片づけができるようになるでしょう。また、片づけができない原因を本人に求めるのではなく、環境設定を見直したり、本人に合わせたハードル設定をしたり、スモールステップで対応する…。そんなやり方に、村上さんの本業である、発達支援でご活躍される様子も透けて見えるのでした。参考図書: 『発達障害の人の「片づけスキル」を伸ばす本』 (講談社)片づけや整理整頓についての本を読んでその通りにやってみたけれど、どうもうまくいかなかったという人、現状を変えたいけれど、どこから手をつければいいのかわからないという人へ。アスペルガー症候群の当事者である著者ならではの工夫によってできあがった、挫折しない「片づけのしくみ」を作るコツがつまった一冊。取材・文/まちとこ出版社N
2019年03月02日『発達障害の人の「片づけスキル」を伸ばす本』 の著者・村上由美さんは、実はASD(自閉症スペクトラム障害)を持つ発達障害当事者。発達障害の特性としてよくあげられるように、以前は、本当に片づけが苦手だったそうです。本書では、そんな発達障害当事者ならではの工夫によって編み出された片づけのコツがつまっています。第2回インタビューでは、「片づけが苦手な人は、どこから手をつけたら良いのか?」をテーマに、具体的な片づけ方法についてうかがっていきます。お話をうかがったのは…村上由美(むらかみ・ゆみ)さん言語聴覚士。上智大学文学部心理学科、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院(現・国立障害者リハビリテーションセンター学院)聴能言語専門職員養成課卒業。重症心身障害児施設や自治体などで発達障害児、肢体不自由児の言語聴覚療法や発達相談業務に従事。著書に『アスペルガーの館』(講談社)、『声と話し方のトレーニング』(平凡社新書)、『ことばの発達が気になる子どもの相談室』(明石書店)、『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に暮らすための本』(翔泳社)などがある。■片づけ下手「一番最初に手をつけるのは“財布の中身”から」――片づけが苦手な人は、まず、どこから手をつけたら良いのでしょうか?村上由美さん(以下、村上さん):最初に手をつけるべきところは、財布です。なぜなら財布は、お札やカードなど、入れるモノのサイズがだいたい決まっていて整理しやすいから。ほかにも、スペースが小さいので早く整理が終わって達成感が得やすいというメリットや、毎日使うモノだからこそ、片づけの効果を感じやすいというメリットもあります。――財布って、意外と私の中ではブラックボックスで…。領収書やスタンプなどがどんどんたまってしまい、すぐ散らかってしまうのですが(苦笑)。村上さん:財布の中身は、定期的に見直す必要があります。レシート類などは、最低でも週2回見直したいですね。買い物に行く曜日は、たいていの方がだいたい決まっているものなので、「○曜日と△曜日にやる」というふうに、あらかじめスケジュールに組み込んでしまうと良いですよ。――財布の中身を整理する時のポイントは何でしょう?村上さん:使用頻度を見極めることです。一度、財布の中身を全部出してみて、使用頻度ごとに分けてみましょう。「毎日から週に数回」「週1回~月数回」「1~2カ月に1回」「それ以下」というふうに。そして、使用頻度の高いモノは財布にしまい、それほど使用頻度の高くないモノは財布とは別管理にします。ちなみに、私の財布は、現金と最低限のカード類のみでコンパクトに。保険証や診察券といった、それほど頻繁には使わないカード類は、財布とは違うカード入れで管理しています。カード入れは、1枚ずつ入れられる仕切りがついているものが、探しやすく便利ですよ。――なるほど。使用頻度によって、別管理にしているのですね。村上さん:中身を整理すると、自分にとって選ぶべき財布は、次の3つのどれかになると思います。1. 現金と必要最低限のカード類だけが入るコンパクトな財布。2.現金とカード類のほか、一時的に保管するレシートやクーポン券を入れるポケットがついている財布。3.1.のコンパクトな財布と、頻繁には使わないカード類を入れるカード入れの組み合わせ。ちなみに、私は3.なのですが、どれが正解というのではなく、大切なのは、どれが自分にとって心地良いかを見つけることです。■「財布が終わったら次は?」片づけステップの順番を知る――財布が整理できたら、次はどこでしょうか?村上さん:財布の次は、ポーチです。ポーチは財布と違って、入れるモノのバリエーションが幅広いので、まずは、中に何を入れるかを見極めることから始めます。ポイントは、ポーチの用途を明確にすることです。化粧品だけ入れるのか、化粧品+よく使う小物を入れたいのか、というふうに。ポーチの用途が明確になりにくい場合は、ポーチをバッグから取り出すのはどんな時で、その時何を使っているかを具体的に思い返すと良いでしょう。――モノが決まったら、しまうワケですが、しまい方のポイントは?村上さん:縦に入れることがポイントです。原則的に、モノは立てて入れたほうが中身が見えやすく、出し入れしやすくなります。ですから、内側に仕切りがついているモノがおすすめです。そして、ポーチの次はバッグというふうに、小さなステップアップの積み重ねで、だんだんと片づけの範囲を広げていきましょう。――ちなみに、私はよくバッグの中をごちゃごちゃにしてしまい、すぐに必要なモノが取り出せずに焦ってしまうことが多いのですが…。村上さん:それは、モノの定位置(入れる「場所」)が決まっていないからです。これを解決するために、バッグの中身はまず大きいモノから入れて、モノの定位置を決めましょう。例えば、ノートPCやタブレットを入れれば、自然とバッグの中が2つのゾーンに仕切れますよね? また、小さいモノは、バッグインバッグのような小分けの仕切りを利用して、モノが動かないように入れることがポイント。こうすることで、バッグの中でモノが行方不明になることを防げます。また、入れ方はポーチの時と同様に、立てて入れること。モノが見やすくなり、出し入れもしやすくなります。■家の片づけ「引き出し、棚、箱など小スペース」からスタート――これらの片づけを、家の片づけに応用するにはどうしたらいいのでしょう?村上さん:家に応用する時も、すぐ完結できるような小さなスペースから始めましょう。例えば、引き出しや棚、小さな箱の中、などがおすすめ。「できた!」の達成感を積み上げることが大切です。――引き出し以外に、片づけやすい場所はありますか?村上さん:人にもよりますが…例えば、食品は賞味期限があり捨てる基準が明確なので、片づけやすいかもしれません。でも、食品庫や冷蔵庫全体とするとハードルが高すぎるので、「まずは食品庫のこの棚だけ」とか「冷蔵庫のドアポケットだけ」というふうに、範囲を限定しましょう。そして、だんだんと広げていきます。――小スペースから広げること以外に、片づけにおいて気をつけるべきことはありますか?村上さん:片づけは1回で終わることではない、ということです。よく、片づけが苦手な人は1回片づければそれで全部終わる、と思いがちですが、片づけはずっと続くことなので、むしろ片づいた状態を維持する方が大変です。最初にお話しした財布の整理のように、「場所、量、入れ方」の3つの片づけステップを、いかに日々の生活のルーチンに組み込めるか。片づけ成功の秘訣は、そこにかかっているのだと思います。確かに、どんなにキレイに片づけても、家は片づいたそばから、どんどんと散らかっていくもの。まずは、無理ない小さなスペースから始め、それを日々のルーチンに組み込んで、片づいた状態を維持してみる。そして、少しずつ範囲を広げていくことが大切なのだと教えていただきました。次回は、「片づけが苦手な家族の対処法」ついておうかがいします。参考図書: 『発達障害の人の「片づけスキル」を伸ばす本』 (講談社)片づけや整理整頓についての本を読んでその通りにやってみたけれど、どうもうまくいかなかったという人、現状を変えたいけれど、どこから手をつければいいのかわからないという人へ。アスペルガー症候群の当事者である著者ならではの工夫によってできあがった、挫折しない「片づけのしくみ」を作るコツがつまった一冊。取材・文/まちとこ出版社N
2019年03月01日最近、さまざまな片づけのメソッドが巷にあふれています。「断捨離」に「ときめき」、「ミニマリスト」など…日本の片づけメソッドは、アメリカで一大ブームを引き起こすほどにもなっています。しかし一方で、いろいろなメソッドを試してみたものの、うまくいかなかったという人も多いのではないでしょうか?そんな方におすすめしたいのが、 『発達障害の人の「片づけスキル」を伸ばす本』 。実は、著者の村上由美さんは片づけの専門家ではありません。本業は言語聴覚士で、主として発達障害や知的障害を持つ子どもたちやその家族を対象に、発達支援の仕事に20年近く従事しています。そんな村上さんもASD(自閉症スペクトラム障害)を持つ発達障害当事者で、発達障害の特性としてよくあげられるように、以前は、本当に片づけが苦手だったそうです。本書には、そんな発達障害当事者ならではの工夫によって編み出された片づけのコツがつまっています。一体どんな方法なのでしょうか? お話をうかがってきました。お話をうかがったのは…村上由美(むらかみ・ゆみ)さん言語聴覚士。上智大学文学部心理学科、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院(現・国立障害者リハビリテーションセンター学院)聴能言語専門職員養成課卒業。重症心身障害児施設や自治体などで発達障害児、肢体不自由児の言語聴覚療法や発達相談業務に従事。著書に『アスペルガーの館』(講談社)、『声と話し方のトレーニング』(平凡社新書)、『ことばの発達が気になる子どもの相談室』(明石書店)、『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に暮らすための本』(翔泳社)などがある。■「片付けはしないとダメ?」片付けるメリット、片付けないデメリット――以前の村上さんは、本当に片づけが苦手だったそうですが、どんなことがきっかけで片づけに目覚めたのでしょう?村上由美さん(以下、村上さん): 私は30歳くらいまでは、片づけが大嫌いでした。実家で暮らしていた頃は、床一面にモノを散らかしていて、母によく「片づけなさい!」と怒られましたね(苦笑)。なぜ片づけなかったかと聞かれれば、そもそも、私自身が片づけの必要性を感じていなかったのです。――散らかっている状態でも、村上さん自身には、特に支障はなかったのですね?村上さん:「片づけなさい」と怒られて、嫌な気持ちになることばかりに気をとられてしまって…。でも、さすがに自分自身も薄々わかっているのです。いつかは片づけなくてはならないということは。それで部屋がどうにもならない状況になってから、年に2回くらい重い腰をあげて片づけるワケですが、そういう状況になってからの片づけはものすごく大変で…。とにかく、片づけに対して、ネガティブなイメージしか持てなかったのです。――でも、「このままではマズイ」と、ある時気づいたのですよね?村上さん:私の場合、私が片づけないことで、職場のほかの人が困る事態が発生して…。上司から注意を受けたことがきっかけでした。自分ひとりの問題ならともかく、他人の迷惑になるとわかった時点で、「こりゃ、片づけないとまずいぞ!」となったワケです。――以前の村上さんのように、片づけが苦手な人には、「そもそも、その必要性を感じていない」という人も意外と多いように思います。村上さん:そういう場合は、本人が我に返らないとなかなか難しいと思います。私もそれまで、「片づけ」は自分の好きなことができる時間を犠牲にしてやらなければならないこと、と思っていましたから。まるで、良いことと嫌なことをトレードオフするようなイメージ。で、片づけで得られるメリットと、片づけないままのメリットを比べた時、片づけないままでいるメリットの方が、私の中では大きかったのです。でも、それが一気に逆転して、デメリットが増えてしまったワケ(苦笑)。また、最近よく思うのは、片づけって結局、他人との円滑なコミュニケーションのためでもあると思うのです。――どういう意味でしょうか?村上さん:きちんと片づけていれば、他人に用事を頼めるんですよ。例えば将来、私に介護が必要になった時、ヘルパーさんに「〇〇は△△に入っているからお願いします」と頼めます。ですが、もし家の中が、自分でも何がどこにあるのかわからない状態だったら伝えられませんよね?よく「なんで片づけしなくちゃいけないの?」と嘆く人もいるのですが、片づけって、ゆくゆくは自分のためになるのです。結局、コミュニケーションのためのインフラなのです。■片づけ下手はまず最初に「しまい場所決め」から手をつける――村上さんは片づけの必要性に目覚めたわけですが、30年ほど片づけをしていなかった(?)状態から、どうやって一気に巻き返したのでしょう? 村上さん:いったんスイッチが入ると、ASDならではのモノごとをとことん突き詰める特性が発揮されたのだと思います。まず、「片づけとはどういうことか?」を考え、次に片づけに必要な行動を分析し、「自分がどこでつまずいているからうまくいかないのか?」を洗い出しました。――そこで洗い出された、つまずきとは?村上さん:私がつまずいていたのは、次の3つでした。1.モノの出し入れを面倒に感じていること。2.片づけが苦手なのに「その気になればすぐできる」と自分の能力を過大評価していたこと。3.「そもそも何のために片づけをするのか」をよく理解していなかったこと。いろいろ調べるうちに、自分が片づけをする目的は「仕事と家庭の両立のために、家の中を使いやすくすること」と明確になりました。理由がわかったので、次は具体的な行動に落とし込むスキルを研究しました。――そこで、この本で紹介されている3つのステップを編み出したワケですね?村上さん:片づけに必要なのは、次の3つのステップです。1.場所:目的にあったしまい「場所」を決める。2.量:しまい場所に入りきる「量」を決める。3.しまい方:しまい場所に合った「入れ方」を決める。まず、一番最初に決めるべきは、モノのしまい「場所」です。すぐ出せる場所、簡単にしまえる場所を決めることで、使いやすく散らかりにくくなるからです。次に、「量」を決めます。すでに「場所」が決まっているので、そこに入るだけの量に減らします。最後は、「入れ方」。どう入れると出し入れしやすいか考えます。――まず、はじめに「場所」を決めるのですね? よく言われる「量」の方ではなく?村上さん:まず量を減らそうとすると、モノの「要・不要」を決めることになり、片づけが苦手な人にとっては、なかなかむずかしいのです。判断に迷うばかりで、挫折してしまいがちです。例えば、量を決めるにしても、決められた場所に入りきる量、というような目に見える尺度に沿って進めていく方が、片づけが苦手な人にはわかりやすいのです。ですから、最初に場所を決めることが大事。――村上さんは、この3つのステップで、長年苦手だった片づけが得意になっていったのですね?村上さん:片づけができるようになってから、モノが思った通りの場所にあり、やりたいことがすぐできる生活はなんて快適なんだろう! と感動したくらいです。逆に、「今までの私はどんだけ損していたんだ!? と後悔しきりでしたね(笑)。もちろん、どちらの生活を選ぶかは個人の自由ですが、どちらも経験している私からすると、もう以前の生活には戻りたくない、というのが素直な実感ですね。村上さんに、「片づけはコミュニケーションのためのインフラ」と言われて、妙に納得してしまいました。確かに、介護までは想像できなくても、例えば、自分が病気で寝込んだ時、家の中が片づいていれば親やヘルパーさんに手伝ってもらいやすいですね。さらに、わかりやすくラベリングされていれば、熱に浮かされながら、いちいち人にモノの場所を説明せずにすみそうです。次回は、「片づけが苦手な人はまず何からはじめるべきか?」をテーマに、具体的な片づけ方法をうかがっていきます。参考図書: 『発達障害の人の「片づけスキル」を伸ばす本』 (講談社)片づけや整理整頓についての本を読んでその通りにやってみたけれど、どうもうまくいかなかったという人、現状を変えたいけれど、どこから手をつければいいのかわからないという人へ。アスペルガー症候群の当事者である著者ならではの工夫によってできあがった、挫折しない「片づけのしくみ」を作るコツがつまった一冊。取材・文/まちとこ出版社N
2019年02月28日ご飯が熱い!癇癪をおこした長男ある日、夕飯を食べていたときのことです。炊きたてのご飯をほおばった長男は、思いのほか熱かったのでしょうか。私が目を離したすきに、あろうことかご飯の入った茶碗をテーブルにひっくり返しました。Upload By シュウママ振り返ると、長男は怒ったような顔をしながら固まっていました。長男は、癇癪をおこすとよく物に当たります。やってしまった直後はだいたい硬直しています。衝動的に動いてしまって、後で反省するというのがパターンですが、そもそもひっくり返しちゃダメです。私は長男に向き合って叱ろうとしました。叱ろうとした瞬間、長男が発したひとことすると長男は大きな声で言いました。Upload By シュウママ私は一瞬耳を疑いました。先に食べ終わって本を読んでいた次男も一瞬意味がわからず、ぽかんとしていましたが「いや、オイラやってないし」と抗議しました。ところが長男はさらに「おとうとくん、やったねえ」と言うではありませんか。一度ならず二度までも…。バレバレではあるものの長男が初めて嘘をついたのです。初めての嘘に感心…している場合じゃなかった!そのとき、私が一瞬思ったのは、「嘘をつけるようになるなんて、成長したな…!」でした。ついこの間まで、単語もろくに言えなかった長男が、自分の行為について考えを巡らせ、自分を守ろうと言葉を選んで話したということが、なにか感慨深かったのです。イヤイヤ!もちろん、自分を守るためとはいえ、他の人がやったことにするのは、ついてはいけない嘘です。ここはきちんと説明して叱らなければいけません。けれど説明して長男に伝わるだろうか…?どうやったらわかってもらえるだろうか…。そう考えたとき、ふとある考えを思いつきました。どうやって「それはダメ」を伝える?私は次男にこっそり耳打ちしました。Upload By シュウママ私が作戦を説明すると次男もノリノリで参加してくれました。そして、私は次男に向かって「ご飯をひっくり返すなんて、なんてことするんだ!」と言って次男を叱っているふりをしました。「えーん。オイラやってないよ」と次男が泣き真似をしても「嘘だ。認めてちゃんと謝るんだ!」と、続けて怒りながら横目で長男の反応をうかがいました。Upload By シュウママ効果てきめん!反省した長男すると長男は自分がついた嘘で弟が理不尽に怒られている…という状況を理解できたのでしょうか。口を開けてすくみあがっています。Upload By シュウママ私は長男の方に向き直り「茶碗ひっくり返した人は誰?」と聞きました。すると長男は泣きながら手を挙げました。Upload By シュウママ十分反省しているように見えました。「嘘をついたらいけないよ」と私が言うと、長男はこくりと頷きました。その日以来、長男が自分でやったことを次男のせいにしたことはありません。子どもの心や言葉の表現力が成長していくことはとても幸せなことです。けれど、発達障害であってもそうでなくても、悪知恵も同時に育っていくので、気をつけていかないとな…と思った出来事でした。
2019年02月28日次男の三歳児健診。周りは心配しすぎというけれど…初めまして、ちちゃこです。ADHDと軽度の自閉症スペクトラムと診断されたのぼる(7)と、自閉症スペクトラム中度と診断されたひとし(4)を育てています。2018年の春頃からTwitterやnoteなどで、子どもたちの漫画を描いて載せています。長男ののぼるの3歳児健診の時、発達障害の疑いがあると言われて、家族や周囲にいろいろ相談していました。ですがのぼるは周りと順応し、幼稚園ではいろんな大役を務めるまで成長しました。そして次男のひとしにも3歳児健診の時期がきました。ちょっとした失敗や痛みに敏感で、すぐにカエルさんのようにうずくまってしまったり、遊びにも自主性があまり見られなかったり…そんなひとしの様子に私は少し違和感を感じていました。Upload By ちちゃこUpload By ちちゃこでも…今度も気にしすぎだと家族や周囲は真剣にとりあってくれませんでした。発達障害をしつこく相談しても迷惑になるので、結局誰にも相談できなくなっていきました。「気にしすぎ、大丈夫」と言われ続けて、気にしすぎじゃないんです、大丈夫じゃないんです、と理解してもらうために当初は漫画を描き始めたのです。誰かとせめてこの思いを共感できたらと思って漫画をTwitterにあげていくと、次第にいろんな方とつながることができ、そして共感していただき、家族の理解へと更に繋がっていきました。まだまだ勉強中の身ですが、今はいろんな方とつながることで、そこから勉強になったことを漫画で描いて、ささやかですが情報を共有できればと思うようになりました。これから、ひとしの3歳児健診でのエピソードを3回にわたってご紹介します。健診当日、大泣きするひとしの姿に戸惑い3歳児健診前のひとしは言葉をほとんど話さず、必ず大人の手をひいて物を取らせたり、まったく自分のことを何もしない子どもでした。一方で信じ込む力の強さは、かなり強いとずっと感じていました。Upload By ちちゃこUpload By ちちゃこUpload By ちちゃこ不安はあったけれど、もっとスムーズだと思ってた思い返せば長男ののぼるの3歳児健診は、あまり泣かずに興味のあるおもちゃにすぐ食いついて、ウロチョロしながらも遊んでいました。ひとしも家の中では大人しくテレビを観たり、癇癪なども滅多にださない静かな子どもだったので、3歳児健診もスムーズに終わるかと思っていました。でも、健診中ひとしはずっと大泣きで意思の疎通が全くできませんでした。初めて見るひとしの姿に、私は戸惑うばかり…。そして、そのことがきっかけで、話しながら、改めて私はひとしの特性に気づいたのでした。次回に続きます。
2019年02月08日スパルタ特訓時代『発達障害に生まれて』(松永正訓著/中央公論新社)ノンフィクションのモデルとなった立石美津子です。わが子がしゃべらない…、言葉が少ない…、変な言葉遣いをすると、周りの子が上手にしゃべっているのを見て焦ったり、比べてしまったり。つい「言葉」だけにスポットを当ててしまい、「わが子の言葉を増やそう!」と必死になってしまうのではないでしょうか?かつての私もそうでした。でも、言葉を増やそうとすればするほど、やたら“オウム返し”が増えるだけでした。母「これは葉っぱよ、葉っぱ」子「これは葉っぱよ。葉っぱ」母(怖い顔になり)「そうじゃなくて、葉っぱ!」子「そうじゃなくて、葉っぱ」母(更に怖い顔になり)「葉っぱ!」子「葉っぱ」母は「やっとできるようになった」とホッとします。しかし!この訓練により、オウム返しが定着してしまい…。母「お名前はなんですか」子「お名前はなんですか」母「お名前はなんですか。立石勇太でしょ!」子「お名前はなんですか。立石勇太」(質問者の言葉までセットで言ってしまう)となってしまい、ガッカリ。そんな経験ありませんか?母「お名前を教えてください」子「…(無言)」という風に、質問の仕方を少し変えるだけで、途端に固まってこともあります。以前、息子とタクシーに乗ったときのことです。運転手さんに、「僕のお名前は?」と聞かれた息子は、「山田太郎※」とタクシーの運転手のネームプレートを読み上げました。オウム返しが減ってからも、会話がなかなか噛み合いません。※ここでは仮名にしています言葉を話す意味よく考えてみると、言葉って単語が増えるだけではダメで、「相手と関わりたい」という強い動機があって発達していくもの。電車の型番、国の名称、リンゴの銘柄を「王林、ジョナゴール、シナノスイート、世界一、富士…」と唱えていても…「ママ、今日は電車に乗ってお出かけしたい」とか「「お母さん、このリンゴ美味しそうだね。買って~買って~」とはなかなか言ってくれないものです。英語だって英単語を山ほど知っていても、「外国人と話したい」という動機がなければ、英会話は上達はしません。これと少し似ているのではないかと思います。息子がしゃべりはじめたきっかけUpload By 立石美津子息子が5歳、うどん屋に行ったときのことです。私と息子は、うどん屋さんで昼食をとっていました。そのとき、あと一本、うどんの切れ端が残っている器を、店員さんが下げようとしました。息子は”まだ、この一本を食べたいのだ!器を下げないでくれ!”という状況に追い込まれました。そして「まだ、食べる!」と叫んだのです。店員さんは慌てて器を戻しました。この経験をきっかけに「要求を叶えるためには言葉という便利なものがあるんだ」と理解したのか、徐々に、例えば「カレーライス食べたい」としゃべるようになってきました。オウム返しでも、心がこもっているUpload By 立石美津子オウムに「おはよう」と声をかけると「おはよう」と答えてくれます。でも、そこに心はこもっていないでしょう。人間が「おはよう」と言っても、オウムは「おはよう。今日の予定は?」「昨晩は良く眠れた?」と言う風には反応はしてくれないので、会話が続きません。息子は現在、18歳。今でもオウム返しをします。母「行ってらっしゃい」と見送ると息子「行ってらっしゃい」と元気に手を振りながら玄関から出ていきます。でもオウムとの決定的な違いは、言葉はオウム返しでも心がこもっていることです。オウム返しの「行ってらっしゃい」でも、ちゃんと意思表明してくれます。そこに心があるのが感じられます。こんな息子を毎朝、笑顔で「行ってらっしゃい~」と見送っている、親バカな私です。親が望む言葉に囚われないで私の身近に18歳になっても言葉がない子がいます。その子は自閉症ではありません。でも、その身振り手振り、表情でしっかりコミュニケーションが取れる子です。「これも言葉の一つなんだな」と感じています。ある自閉症のお子さんは、いつもは“要求語”しか発しないのに、先日はじめて、美しい満月を見あげながら「つき…」と言ったそうです。満月をきれいだと思った感性や、それを伝えようとしたこと(共感)を感じて、お母さんはすごくうれしかったそうです。息子は、要求があるときはたくさんしゃべりますが、会話のやりとりを続けることはまだなかなか難しい状況です。でも、あまり「言葉!言葉!」と焦らないで、その人にとってのそれぞれの言葉、親として見守ってやりたいと思っています。日本語って、難しい?息子のオウム返しがのり移ってしまい、息子が帰宅した時、つい私のほうから母「ただいま」と声をかけてしまい…息子「ただいま」オウム返しを予測して、息子が言うべき言葉を私が先回りして言ってしまうことも多く、なかなか学習できない息子です。でも、よく考えると「おはよう」「おはよう」「こんにちは」「こんにちは」「おやすみなさい」「おやすみなさい」なのに、「行ってらっしゃい」と言われたときは「行ってきます」、「おかえり」と言われたときは「ただいま」と、置かれた状況により言い回しを変えなくてはならない日本語って、実はすごーーーーーーーく難しいのかもしれませんね。2018年9月10日、医師・松永正訓氏が立石親子を取材、書き上げた新刊が発売に。発達障害がある子と母の、幼児期から今までに渡る育児について綴られています。
2019年02月07日毎日の宿題がつらすぎる。ひょっとして「学習障害」もあるの?自閉症スペクトラム障害のある小学3年生の長男は、自分の興味のない事にはなかなかとりくめず、小学校入学当初はよく癇癪をおこしていました。とくに漢字の宿題が苦手で、ドリルからノートに写すことをやりたがらず、漢字をマスにおさめるのも難しい…。文字の誤りを指摘すると机をたたきはじめ、冷静ではいられませんでした。でも、やる気になれば、ノートを写すことはできます。おちついていれば、文字をマスにおさめて書くこともできます。だから私には、怠けているようにも見えて、イライラと怒ってしまう。そんな毎日が耐えられないと感じていました。「でもどうして、低学年の宿題で毎回こんなに怒らなきゃいけないんだろう?」「どうして、こんな大きなマスに字をおさめられないんだろう?」「宿題をやっているのに、単元テストで漢字の点が全然とれないのはなぜなんだろう?」「鏡文字がなかなか無くならないのは、なんでだろう?」毎日の宿題のあまりの大変さに、「ひょっとして学習障害があるの?」と、学習障害という言葉が頭をよぎりました。そこで、専門家に相談してみました。すると「癇癪を起こすのは子どもが苦しんでいることを表しているんですよ。癇癪をおこさずにできるところまで、手助けをしてあげた方がいい」とアドバイスされました。あまりに癇癪がひとく、漢字の勉強も難しかったため、2学期からは通級で漢字学習に取り組んでもらうようになりました。また、「長男は怠けているのでなく、苦しんでいるのかもしれない…」そう気づいたところから、長男の特性に合った家庭での支援も始めました。今回のコラムでは、現在わが家で行っている「国語の漢字の支援方法」を紹介します。診断をまたず、すぐに対応をはじめた医療機関での診断がついてから、支援を始めるご家庭も多いかもしれません。でも診断がついたころには、子どもは努力しても報われないことを経験し、怠けていると勘違いされて傷つき、学習そのものへの意欲を失っている状態になってしまうかもしれません。ある療育病院でひらかれた勉強会に参加したとき、「診断をまたずに考えられる支援を始める事が大切」だと言う臨床心理士さんの言葉に出あいました。その言葉を聞いて、改めて「診断を待たずにすぐ動く」のは間違っていなかったと思いました。長男もまだ診断はついていません。でも、宿題や授業中に困り感があると感じたので、診断を待たずに学校の先生と相談して支援を始めることにしたからです。どこに相談したらいい?わが家の場合、まず、担任と通級指導教室に相談しました。小学校1年生の2学期のことです。漢字学習につまづきがあることを認めてもらえたので、1年生の時は通級の個別学習の授業数を増やし、通級で漢字学習に取り組める環境を用意してもらえました。スクールカウンセラーの先生にも「所属している通常学級でも、通級で受けているような学習支援をお願いしたい」と相談できたことで、通級の先生と連携いただき、学級でも通級での支援を踏まえた学習環境が整いました。学内・学外の第三者から、担任の先生に支援の方法を伝えてもらえる方が、どのように支援すればいいかも伝わりやすく、連携した対応をとっていただけるように感じました。家庭でできること先生に配慮をお願いするばかりでなく、保護者も自宅での取り組みを工夫したり、その様子を伝えるなどすることが、先生の協力を得るためには大切だと考え、わが家では、次のような工夫・支援を行いました。Upload By しろくま母さん漢字の宿題は、みんなと同じ漢字ノートを使いながら、以下のような補助をしました。・漢字ドリルからノートへ親が色鉛筆で下書きする→ドリルから転記する辛さをなくし、なぞるだけでいいようにする・漢字の部品を赤と青で色分けする→部品を理解しやすくする・漢字を部品に分解して示す→部品を理解しやすくする・単純な繰り返しは3回まで→繰り返しの苦痛を軽減する・漢字のはらい、とめ、はねなど細かい部分の指摘をしないよう先生に依頼→できているところだけ〇をしてもらうことで学習意欲をそがない部品に分けたり、繰り返し書くのを減らしたのは、小学校2年生の2学期頃からです。この頃からは、だいぶ落ち着いて漢字学習に取り組めるようになってきました。Upload By しろくま母さん学年があがるにつれて、漢字テストの内容も難しく問題数も多くなり、間違えることへの拒否感が強く、登校しぶりをしたり、テストをうけなくなったりしたので、小学校2年生の3学期以降、担任の先生に合理的配慮をお願いし、読みだけのテストに切りかえてもらいました。事前に漢字テストをもらい、答えを記入し、読みがなを()に記入できるようにつくり変えて、当日はそれを解かせるように先生にお願いしました。どんな工夫をしても、仕方なく取り組む雰囲気はかわりませんが、週末、このドリルを使って勉強するときが一番楽しめています。このドリルには、小学校2年生の3学期から取り入れ始めました。全例文に「うんこ」が掲載されており、小学生低学年の男子受けは抜群です。このドリルを使うことで、子どもが例文を外で連呼したらどうしよう、という不安がちょっとありましたが、息子は連呼することなく、その場で楽しんで終わりました。ここでも部品を赤と青で色分けして記入したり、頑張りをみとめるコメントを赤字で書き込みました。息子もコメントは嬉しいようで、書いていない時は「ひとことは?」と聞かれました。Upload By しろくま母さん子どもの成長につながる学習とは?毎日の憂鬱とイライラの原因となっていた漢字の宿題。「学校の授業についていけなくなることが不安。せめて宿題だけはどうしてもしてほしい」。長男が小学校へ入学したばかりの頃は、なかなか宿題が進まない長男の様子を見てさぼっていると思い、クラスメートから遅れないためにもと、叱ってでも、出された宿題は必ずさせていました。でも、「分からない、できない、さぼってみられる、叱られる」の連続の先に、子どもの成長は見えてきませんでした。勉強がよく分からないことを理解してもらえずに傷ついて、息子は意欲も自信も失っていってしまったのです。難しく分からない宿題の前にすわり続けている状態より、本人のペースに合わせて「分かる、理解できる」ような環境を整えて取り組むことが子どもの成長につながるのではないか。療育病院での勉強会で、臨床心理士さんもそう言っていました。それを聞いて、本人が分かる・できるように、難易度や取り組む課題の量を調節することが、家庭でできることだと思い、苦手な漢字学習への取り組み方を工夫してきました。もし、お子さんが宿題で癇癪をおこしているなら、それは「難しい、助けてほしい」とサインなのかもしれません。そんなときは、その子に合った支援を見つけて、環境を整えてほしい。そして、「分からない事も自分で調べたい、学びたい」と子ども達に感じてほしい。わが家での取り組みが、少しでもそんなご家庭の役にたったら、とてもうれしいです。
2019年02月04日次男のランドセルから出てきた、1枚の人権作文ある日、双子の次男が学校から帰ってきたときのこと。ランドセルを放り出して遊びに行く次男を見送った後、私は「学校からのお便りはないかな〜」とランドセルを開けて連絡帳ケースを取り出しました。すると中には連絡帳と一緒に1枚の原稿用紙が。Upload By シュウママ開いてみるとそれは学校で書いたと思われる次男の人権作文でした。「ぼくのお兄ちゃんは自へいしょうという病気です」「いつも見ている」というタイトルで書かれたそれは「ぼくのお兄ちゃんは自へいしょうという病気です」という書き出しで始まっていました。原文をそのまま全て載せることはできませんが、それは人権作文というより、長男に対する自分の感情を綴ったものでした。「見たいテレビをやっていないと怒ってテレビを叩くお兄ちゃん」「そんな姿を見るとぼくはとても腹が立つ」…Upload By シュウママなかなか普段本人から聞くことがない素直な思いがずばりと書かれていました。けれど次男はこうも書いています。「でも本当はお兄ちゃんはとても苦しいのかもしれない」人の気持ちを受け止めるレーダー自分でわかっていて、わざと人に意地悪したり叩いたりする人は、いつかバチがあたる。「でもお兄ちゃんには悪気がない」Upload By シュウママそう書いてあったのです。怒りをうまくコントロールできない兄への理解、行動の裏にある感情や理由を考えて寄り添う力が、私が思っていたよりもずっと育っていたことに驚きました。兄の自閉症のことを自分で考えられるようになっていた次男私は学年が上がるにつれて、なんでも話してくれるわけではなくなった次男が今、発達障害の兄をどう受け止めているのか、本心がわかりませんでした。次男の置かれている環境が本人を苦しめていないだろうかとも思っていました。長男は気に入らない音楽が流れると耳をふさいで叫んだり、手当たり次第に物を投げたりします。日常的にそんな兄の姿を見るのは、やはり特殊な環境だと思うからです。発達障害のある子どもがいると、どうしても身近にいる家族は戸惑ったり、苦しい思いをすることもあります。けれど、次男の作文を見て、長男のことを対等に見ている部分があったり、気持ちを想像して思いやったりしていることもわかりました。小さいころと変わらず、まっすぐに兄を受け止めていました。そして、きょうだい児として障害のある兄の心の声に気づき、その気持ちを汲み取り、寄り添う力が育まれているのではないか、そう思ったのです。偶然見つけた1枚の人権作文が次男の成長を教えてくれ、心にほっと温かい明かりを灯してくれました。Upload By シュウママ
2018年11月23日記憶にある最初のこだわり。お気に入りのまくらとタオルケットがないと落ち着かない出典 : 私は子どものころから、気に入っている枕とタオルケットがなければ寝られませんでした。当時のお気に入りの枕は、私が好きだったキャラクターがデザインされていました。物心ついたころからずっと使っていたうえに、親が洗おうとすると私がぐずってしまうため洗うこともできず、よだれや汗で汚れきってしまっていました。洗うことを諦めた両親が枕を捨てようとしたこともありました。しかし、私が泣き叫んで抵抗したため、結局捨てることができないまま。すると、小学校に入るくらいのころに親戚が集まって私の枕を捨てるという事態にまで発展しました。この枕を捨てられるときのことは今でもよく覚えています。身体の一部を失うような強烈に嫌な気持ちで、泣き叫びながら引き離された枕を見詰めていた記憶があります。それから、同じころに使っていたピンク色のタオルケットもお気に入りでした。自分のにおいや好きな肌触りにくるまれていると安心することができたので、タオルケットはとても好きな寝具でした。このタオルケットは捨てられることなく、私が高専に入学して寮生活を始めるまで10年以上は使っていたと思います。とはいえ寮生活するころには擦り切れたり糸がほつれたりしてボロボロになっていましたが…。その後、ひとり暮らしを始めるときに両親が新しいタオルケットを買ってくれたのですが、選んでくれたのはピンク色のものでした。たぶん私がピンク色のタオルケットが好きなのだと勘違いして買ってくれたのだと思います。私としては色よりも肌触りのほうが大切だったのですが、せっかく買ってもらったものだし肌触りもよかったので特に何も言わずに10年以上たった今でも使い続けています。今でも自分のにおいがするタオルケットは安心感があって好きなんだなあ、と思います。食器のルールは、無地のものだけを必要最低限に出典 : 寝具と同じように、食器も基本的に柄のないものでそろえるなど、自分の気に入ったものしか使いませんでした。ひとり暮らしを始めたときに買ったのは、箸1膳、フォーク・スプーンそれぞれ1本、マグカップ・茶碗・どんぶりをそれぞれ1つずつ。超ミニマムなラインナップで満足している自分がいました。それから不便を感じてちょっとした皿を買ったりはしましたが、基本的に不必要な食器を増やすつもりはありませんでした。しかし、あるときから、食事の際に使う"あるもの"に対し、新たなこだわりが生まれました。それはたまたま百貨店に行ったときのこと。なんとなく立ち寄った箸コーナーで目に留まった1本を持った瞬間でした。重量バランスが軽すぎず重すぎず直感で「これだ!」と思い、つい衝動買いをしてしまったのです。普段、衝動買いをすることなんてほとんどなかったので自分でもかなり驚きました。早速、家に帰って購入した箸を使ってみたところ、とても気持ちよく食事をすることができ、箸への思いはさらに高まりました。Upload By 凸庵(とつあん)その日から箸売り場を見かけると、自然とそちらに向かって歩いて行ってしまうようになりました。先日、友人たちと出かけたときのこと。私が苦手とする人混みにいたこともあり、全然楽しくないというのが表情に出てしまっていたのが、箸売り場を見つけた途端に嬉々として箸を眺め始めたので、友人たちに呆れられてしまいました。わが家では、ほかの食器に比べて明らかに多い箸ですが、全体的に重めの箸や持ち手が重くて物をつまむところが軽いものなどさまざまなものがあります。食べるものや気分に合わせて使い分けています。友人に呆れられたとしても、豊かな食事の時間にはかえられません。「こだわり」は好きなものを大切に長く使うこととの相性が抜群!?Upload By 凸庵(とつあん)大人になってからも10年以上使っているものとして、私が社会人になって初のボーナスで買った財布があります。それまで使っていた財布は学生時代に親が買ってくれたナイロン製のもので、このころにはかなりくたびれてきていました。なので今度はしっかり長く使えるよう革の財布を購入。当時、個人的にあこがれていた長財布でした。使い心地にもすごく満足したので、数か月に一度は中身を全部出して自分でメンテナンスを続けています。たまに雑談で使っている財布の話になったときにこの財布を見せて「実は10年以上使っているんだ!」と言っても、ほとんどの人が信じてくれません。それくらい、いい状態のまま使い続けることができています。メンテナンスさえちゃんとすれば長く使える革製品と私は、もしかしたら相性がいいのかもしれないなと思っています。歳をとるにつれて変わってきたところ・変わらないところ出典 : 今振り返ってみると、子どものころは「これじゃなきゃダメ!」という感覚がとても強かったのかもしれないなと思います。つまり、身の回りのすべてのものが自分の「これじゃなきゃダメ!」に合致していないと不安になっていたのだと思います。自分でも不合理なことはよくわかっていたが、どうにも抗いようがありませんでした。しかし、年齢を重ねるにつれて、自分にとって「まあいいか」と思えることがどんどん増えていると感じています。それに伴ってどんどん生きていくのが楽になっています。私にとっての箸のように、新しいこだわりが生まれることもあるかもしれません。例え、それで周りのひとにあきれられてしまっても、私自身は、いろいろな箸を試すのは楽しいし、食事の時間がより楽しくなりました。大人になっても私の中にあるこだわりは、生活を豊かにしたり、安心を得たりするためにとても大切なものなのだと感じます。ASDの当事者が身近にいるという人の中には、こだわりが不合理に感じられることもあると思います。私のように年齢を重ねても「これじゃなきゃダメ!」と感じるところが残ることもあると思いますが、それは当事者にとってとても大切なものだと思うので、無理にやめさせようとしたりせず長い目で見て、ゆるやかに見守ってもらえたらと考えています。
2018年11月20日わが家の息子、「ロボットが相手だと安心する」?出典 : わが家の8歳の息子が療育に行くとき、いつもとても楽しみにしていたことがあります。それは、病院の受付のところに「Pepper」くんというロボットがいてくれたことです。息子は療育に慣れるまで、「今日は何をやるのだろう」「先生に叱られないかな」と予測できないことへの恐怖で、落ち着きがなくなっていました。けれども、「Pepper」くんと話をすると、心なしか少し気持ちが落ち着いているように見えました。その後、息子の希望で犬のロボットを買いました。息子はこの犬のロボットのことも好きで、その後本物の犬を飼ったあとも、「僕はロボット犬のほうが好き」と言っていたほどでした。それは、本物の犬はどういう反応をするのか、どういう動きをするのか読めないから、怖かったのだそうです。(今はもう慣れました)また、一時期、私のスマートフォンの「Siri」に話しかけることにハマっていました。「Siri」が相手だと、何時間でも話ができるようで、なかなかスマートフォンを返してくれないこともありました。そのときに私は思ったのです。人間と違い、感情や態度がいつも一定のAIが相手だと、人間と話すときのような緊張感がなく、いくらでも話ができるのだな、と。心理的な負荷なくコミュニケーションが取れるのであれば、AIロボットが療育をしてくれたり、AIロボットが友達だったりしてもいいのかもしれない…とも。漠然とそんなことを考えていた私に、なんと「発達障害児の療育を行うAIロボットが開発された!」というニュースが飛び込んできたのです。開発者に聞く!QTrobot開発の背景は?発達障害児の療育は人間がするもの、だって人間との関わり方を学んでいかなければならないのだから…そんな固定概念が私たちの中にあるかもしれません。その考えを覆す「QTrobot」というロボットがルクセンブルクの企業で開発され、注目を集めているのです。オランダのアムステルダムで開催された「欧州CES 2019」(International Electronics Commercial Show/国際家電見本市)では、”Tech for Better World”部門でイノベーション・アワードを受賞しました。 récompensée par le CES pour son robot (LuxAI社のロボット CESで入賞(フランス語))Upload By 林真紀私は居ても立ってもいられなくなり、開発した企業の共同設立者のアイダ・ナザリー(Aida Nazarikhorram)さんに連絡を取ってみました。アイダさんによると、療育用ロボットの開発は2016年にルクセンブルク国立研究基金の助成対象となり、そこからLuxAIという会社を設立したとのことです。増加している発達障害児の療育ニーズに対して、療育を担当できる専門家が不足しており、これを解決するためにAIロボットの開発が進められました。ロボットが発達障害児の支援に高いポテンシャルを持つということは、これまでも多くの研究でいわれてきたそうです。QTrobotはこんなことができる !では、具体的にQTrobotはどのような形で療育を行うのでしょうか。こちらの紹介動画を見ると、QTrobotを使った療育で以下のことを教えることができるといいます。・表情・コミュニケーション・好ましい行動・日常的生活スキル人間が話すときには、たくさんの表情とボディランゲージを同時に発信します。それが発達障害の子どもにとって、習得が非常に難しいものであるとアイダさんは言います。しかし、QTrobotは人間のボディランゲージを上半身だけのシンプルな動きで表現するため、発達障害児が簡単に模倣できるそうです。またQTrobotの表情は36種類もあり、多様な表現が可能です。その他にも、相手の言葉と顔と表情を認識する機能がついているので、発達障害児との相互コミュニケーションが可能です。実際に使用する際には、療育の担当者や学校の先生などが操作をすることになります。そこで、ITやプログラミングの知識がない人でも、戸惑うことなく簡単にロボットの動作を組み込むことができるようになっています。担当者が自由に、その日の療育プログラムをつくることができるのです。アイダさんは、QTrobotについて「発達障害児が安全でコントロールされた環境の中で、ソーシャルスキルを学ぶことができる」と話していました。つまり、ロボットが相手だと、発達障害児にとっての「想定外」のコミュニケーションが起きづらいのだと思います。ロボットは、決して相手を否定したり、叱ったりもしません。様々なことができるけれども、決してパターン以上のことはしません。それが、発達障害児にとっては「安全でコントロールされた環境」なのかもしれません。社のホームページ(英語)実際に使っている子どもたちの反応は?Upload By 林真紀QTrobotは現在、英語、フランス語、ドイツ語、ルクセンブルク語に対応していて、既にアメリカやヨーロッパの発達障害児の療育に用いられているそうです。そこで療育を受けている子どもたちの反応は驚くべきものでした。例えば、数分もセラピーを受けることができなかった子どもが、40分も集中して受けることができたとか、セラピーをどうしても受けたがらなかった子どもが、自分から熱心にセラピーに参加するようになったそうです。また、親御さんからもとてもポジティブなフィードバックが沢山きているようです。例えば、子どもが落ち着いてきた、社交的になった、人に対して共感的になった…など。実際にルクセンブルク大学の研究で実証実験が行われたそうですが、ロボットのほうが発達障害児の注意を引きつけることができ、さらに破壊的な行動や自閉症児特有の自己刺激行動が軽減するという研究結果が出たとのこと。 Field Test Report: Case Study - EIPA, Luxembourg (QTrobot実地試験ー欧州行政研究所)言葉や地域を越えて、発達障害のある子への支援をUpload By 林真紀さて、QTrobotが日本の療育現場にやってきてくれる可能性はあるのでしょうか?アイダさんにお聞きしたところ、日本からも問い合わせが相次いでいるそうです。現段階では専門家向けの販売がメインですが、実際に問い合わせをしている方の多くは一般の親御さんなのだとか。今後は、さらにグローバル展開ができるよう生産能力を上げ、輸出入を請け負ってくれる商社を探している最中とのことでした。日本でQTrobotが療育を担当してくれる日も、遠くはないのかもしれません!「住んでいる場所や言葉は関係なく、発達障害の子どもたちを支援していきたいのです」このアイダさんの言葉がとても印象的でした。療育のみならず、発達障害児の大切な友達として、AIロボットが気持ちを癒してくれるような未来がくるかもしれませんね。販売に関する問い合わせフォーム | LuxAI (英語)
2018年10月26日Q. 自閉症スペクトラム障害(ASD)とは?A. 自閉症の特徴のある障害概念のグループです。それまで自閉症やアスペルガー症候群など様々な名称で呼ばれていたものが、「DSM-5」という診断基準で「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害」として統合されました。Upload By 井上 雅彦アメリカ精神医学会が策定した最新の診断基準「DSM-5」で、それまで、アスペルガー症候群、高機能自閉症、早期幼児自閉症、小児自閉症、カナー型自閉症などさまざまな名称で呼ばれていたものが、この診断名に集約されました。診断や支援において、これらには明確な線引きがないことから、それぞれの障害に明確な境界線を設けない考え方が、医療の現場で使われることが多い「DSM-5」で採用されたことが経緯としてあります。そして、「連続体」という意味の「スペクトラム」という言葉が使われることになりました。これからこの概念が一般化していくと考えられています。「DSM-5」では、自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害について、主に以下が特徴として挙げられます。■アメリカ精神医学会の診断基準の「DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)」A. 社会的コミュニケーションの障害B. 限定された反復的な行動様式C. 症状は発達早期に存在している診断ではA、Bの2つの症状を3段階の重症度で評価していきます。(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)について詳しく知るもっと詳しく知る自閉症スペクトラム障害(ASD)とは?年代別の特徴や診断方法は?治療・療育方法はあるの?広汎性発達障害(PDD)とは?年齢別に症状の特徴を解説!アスペルガー症候群(AS)とは?症状と年齢別の特徴を詳しく解説します。カナー症候群(カナー型自閉症)とは?アスペルガーとの違い、症状、年齢別の特徴、子育て・療育法を紹介!自閉症 | 文部科学省
2018年10月25日自閉スペクトラム症(ASD)の人の感じ方を体感するワークショップへこのワークショップは、自閉スペクトラム症(以下、ASD)の特徴の一つである視覚過敏症状を「ASD視覚体験シミュレータ」を通して疑似体験したり、第一線で研究する専門家の講義を聞けたりするというもの。ワークショップが行われたのは、東京大学先端科学技術研究センターです。会場では、ひとつのテーブルに5~6人がグループとなって着席。最初に、認知ミラーリングシステムを用いたシミュレータ開発を行う、情報通信研究機構の長井志江(ながいゆきえ)先生による講義がありました。自閉スペクトラム症(ASD)ってなに?どんな特徴があるの?Upload By ひらたともみUpload By ひらたともみASDのある人がどのような世界を見ているかを研究されてきた長井先生。視覚や聴覚など「感じ方」について分かりやすくお話してくださいました。Upload By ひらたともみUpload By ひらたともみASDがある方は、瞳孔サイズの調整能力が弱い傾向にあることが分かっているそう。収縮率が低く、収縮のスピードも遅く、また瞳孔サイズが大きい。明るいところに行っても、瞳孔が小さくなりづらいので、まぶしさが強く長く続きつらく感じる人が多いんだとか。また、情報を統合する力にも特徴があり、人の顔をなかなか記憶できないというケースがあるとのこと。「顔」という複数のパーツが統合されたものを認識するより、目、鼻、口と、ひとつひとつのパーツに目が行ってしまい、パーツごとにバラバラにしか認識できないので、「顔」を認識しづらいし、表情の変化も分かりにくい。そのために、「人の気持ちを表情から読む」ことが難しいんですって!文字も、ひとつの塊としてではなく、一本一本の線としてとらえてしまい、うまく読めなかったり書けなかったりすることがあるので、板書ひとつとっても、困難になるのだそう。いざ体験!ASDのある人が見ている世界とは!?Upload By ひらたともみヘッドマウントディスプレイ型ASD視覚体験シミュレータに映し出されるのは、3本の動画。まずは通常の視覚で見る周囲の様子が流れ、次に同じシチュエーションでのASDの見え方が映し出されます。1本目のマンションの室内編では、屋内から一歩外に出たときの真っ白な世界を体験。2本目の駅のホーム編では、ホームを通過する電車がカラーからモノクロに変化する様子を体験。そして3本目の学食編は、想像を超えて、恐怖すら感じるほどでした…。Upload By ひらたともみUpload By ひらたともみUpload By ひらたともみ同じグループの中学生は、「にぎやかな場所はつらいかもしれない。遊びに行く場所も、相手のことを考えて決めないといけないと思った」と、具体的に自分のやるべき行動レベルにまで落とし込んで考えられていました!私は今まで、駅や街中で大声で叫んでいる子や、何もない場所でおびえて耳をふさいでいる子を見かけても、対応方法どころか、理解すらしていませんでした。視覚や聴覚に特性があると、天気のいい日、一歩外に出ると一面真っ白に見えたり、カラフルな色の食材はコントラストが強すぎて、とてもおいしそうに見えなかったり。屋外やにぎやかな場所では、人の顔に暗い影がかかってしまい、真っ白な歯だけがぼんやり見えたりする…。シミュレータで体感した世界は、私には「恐怖」としか言いようがありませんでした。そして当事者がそんなふうに「感じている」なんて想像もしていませんでした。グループワークで参加者のみなさんとお話しさせてもらったのですが、みんな「学校でこういう授業をしてほしい!」と言っていたことがとても印象的でした。ワークショップでは、ASDがある人に多い「感じ方」を科学的に研究して分かったことを教えてくれます。そして、シミュレータで「疑似体験」ができます。だから、理解しやすい!こうした学び・体験の機会はとても大切だと痛感しました。他の人を理解するためには「知ること」がまず第一歩だと思います。まして、「感じ方」に特性がある人の場合、ただ想像するだけでは難しい…。貴重な体験の機会に恵まれた私ですが、今後は自分が「体験」したことを、言い広めてゆくのが私の役目だと思っています!
2018年10月24日辛い恋愛経験が多い、自閉スペクトラム症(ASD)の私自閉スペクトラム症(ASD)がある女性(アスピーガール)は、相手の言葉を文字通りに捉えてしまう特性のために騙されやすく、人間関係、ことに恋愛でのトラブルに巻き込まれやすいという話を読み聞きする。かくいう私も散々な目にあってきた。もちろん、誠実な人間関係を築き、話し合いの末に袂を分かった男性もいるが…。少ない恋愛経験の中でも、DV、モラハラ、二股、ストーカー、独身のふりをした既婚者、私のカードを無断で使ってキャッシング(順不同)…ざっと書いただけで、自分で自分が心配になってきた。その詳細を全て書くと、うんざりするほどの長編になってしまうし、ご高覧の皆様がどんよりした気持ちになってしまうことは間違いなく、そこは私の望むところではない。とにかく、「鈴木は恋愛で嫌な思いをたくさんしてきたのだな」とご理解いただければありがたい。私はアレキシサイミア(失感情症)であるため、自分の感情を即時に判断できないことがある。不快や恐怖のドキドキを、ときめきのドキドキと勘違いしてしまい、そのままお付き合いして…ということもあった。吊り橋効果(強い不安や恐怖を感じているときに出会った相手に対し、恋愛感情を抱きやすくなる効果)が日常で起こっている状態だ。とはいえ、全員がそうした心理現象による錯覚だったわけではなく、ほとんどの恋愛は好意から始まっていた。「ダメ男好き」ではないのに、どうして!?こうしたことから私は、「ダメ男好き」という称号を授かることがある。だが、これが実に不本意極まりない。そもそも私は「ダメ男好き」なんかではない。では、「ダメ男好き」とはどういう人のことを指すのだろうか。友人に、「ダメ男好き」を自認する女性がいる。「例えば月収1000万円とか、とにかくとんでもなく高額な収入を得られたら、ヒモを何人か養いたい」と言うのだ。これぞ正真正銘のダメ男好きである。しかし分別のある彼女は「でもそれを実行したら、いくら稼いでいたとしても人生が終わる」とも理解しているので、ヒモを養いたい欲求は、漫画やアニメのヒモキャラクターに愛を注ぐことで満たしている。そして現実では決してダメ男ではない配偶者と、可愛らしい子どもに恵まれている。対する私には、そうした願望は微塵もない。むしろ経済的にも精神的にも自立していて、対等に話ができ、他者を利用したり見下したりもせず、もちろん暴力など振るわない、健全な人と交際をしたいと願っている。いわゆるダメ男と付き合うことが多いからって、ダメ男としてその人を好きになっているわけではない。つまり「ダメ男好き」というのは大きな間違いだ。ならばどうして、いわゆるダメ男を選んでしまうのか。ASDの私は言葉をそのままの意味で捉えてしまうため、悪意に気づきにくいのだ。例えば男性には、交際相手に暴力をふるった過去や、女癖の悪かった過去などがあったとする。「でも、今は心を入れ替えたんだ」と言われたら、「そうか、心を入れ替えたんだ」と信じてしまう。ASDでない人からしたら「どう見てもその場しのぎ、上っ面の言い訳だろう」と感じられるような口ぶりでも、気づかないことが多いのだ。そして依存と好意の見分けをつけるのも不得手。これは恋愛に限ったことではなく、われながら本当に危なっかしい。人を見る目がないわけじゃない!欠点である「ザル」は長所と表裏一体そんなこんなで、私は「人を見る目がない」との前置きと共に、諫言や進言をいただくことが少なくない。ぐうの音も出ないほどの正論だが、実のところは面白くない。なぜなら、「人を見る目がない」だなんて、私に好かれた人は老若男女問わず、もれなくろくでなしであるかのような言い草ではないか。言葉の真意はわかっているのだが、できるだけ正確な意味の言葉を使いたいというこだわりのある私は、どうしても受け入れられない。それどころか反発心まで芽生えてしまい、アドバイスを受け入れる気すら薄れてしまう場合さえある。そこで、「人を見る目がない」と言われたとき、自分の頭の中で変換させられる、うまい言葉はないものかと考えていた。私は確かに騙されやすく、悪意やごまかしに対して鈍感だ。しかし、本当に素晴らしい人の存在を尊ぶこともできる。「そうか、ザルか」私は気づいた。付き合う相手を選別する基準、言うなればふるいにかけるザルの網目がひときわ粗いのだ。そのため、より多くの人が「大切な存在」として、自分の世界に入ってきてしまう。脳内変換のための言葉が見つかり、腹が立たなくはなったものの、どう対策したら良いものか。持って生まれた特性、矯正可能とは思えないが、直せるものなら直したい。そこで「ザル」の話を含め、前述の友人に相談したところ、「博愛主義とも言い換えられるし、そういう性質があるからこそ、のんちゃん(私の呼び名)は、接する相手のよい点に、より多く気づけているんだと私は思うよ。だから広告ライターの仕事も向いているんじゃないかな。欠点と長所は表裏一体だからね」と返ってきた。私の「ザル」は役に立たないとばかり思っていたから驚いた。「男女問わず、のんちゃんが交流する人に何か思うところがあれば、私は意見をすると思う。でも、最終的に判断するのはのんちゃん自身だから、私はそれを尊重するよ」じんわりと嬉しくなった。ここまで思ってくれる人の言葉なら、しっかり受け止めたい。そして、もし「やっぱりこの人は大切な人だ」と感じたとしても、立ち止まって考え、慎重に行動しようと決めた。以後、浮いた話は特別なく平和に過ごしているが、上記の心がけは決して忘れずに暮らしたい。アスピーガールのあなたと、寄り添う周りの方へASDの診断がある・ないに関わらず、「ザル」の網目が粗すぎる人は少なくないだろう。何しろ、その特性から恋愛や性のトラブルにあいやすいASDの女性(アスピーガール)向けの書籍が出版されているほどだ。もしそうした方が周りにいたら、「人を見る目がない」という言葉を「相手の良いところの方がたくさん見えてしまうから」と、リフレーミングして伝えることを是非におすすめしたい。私のような頑固者ばかりではないが、素直さゆえに信じていた相手に裏切られて傷つき、自己肯定感が低下している可能性がある。だからその性分を否定するような言葉を投げかけられると、「そういう自分が悪い」とただ自分を責めるばかりで解決策を考えるまでに至らず、悪手ではないかと私は思う。それを回避するためにも、長所でもあると表明してから、ご意見をお伝えしてはいかがだろうか。そして、ご自身以外、他の誰か、できるだけ多くの人の意見を仰ぐべきことをアドバイスしていただきたい。例えあなたがまっとうなアドバイスをしていたとしても、1人だけの意見では納得ができないかもしれないから。そして、アスピーガール及び、それに準ずる性質のある方へ。あなたはあなたが思う以上に魅力的な存在で、だからこそ多くのことに気をつけなければならない。魅力的なあなたを服従させることに喜びを感じたり、利用して搾取しようとする人は、残念ながら少なくないから。愛情深くて素直なあなたは、そうした企みを見抜けないかもしれない。どうか、どうか気をつけて。だから、もしあなたが恋する人に出会えたら、信頼のできる誰かに紹介したり相談して、どういう印象であるか聞いてほしい、できるだけ多く、複数の人に。もし悪く言われたら、あなたは腹を立てるかもしれないけれど、どうか落ち着いて。あなたが恋した誰かを大切に思うように、信頼できるその人も、同じくあなたを大切に思っているのだから。そして行動はどうか慎重に。自己犠牲の精神は、決して出さないで。これは私の経験則によるもので、すべての方に有用な対策ではないかもしれない。でも、ただひとつ断言できるのは「慎重に越したことはない」ということ。私は、悪意に晒されて心を痛めつけられる人が存在しない世の中になってほしいと、切に願っている。
2018年10月10日自閉症の息子が5歳のとき――初めて意味のある言葉を発した!Upload By 立石美津子『子どもも親も幸せになる発達障害の子の育て方』著者の立石美津子です。あれは、息子が5歳のときでした。デパートの讃岐うどんのお店に連れて行ったときのこと。息子が食べていたうどんの器には、あと1本だけ、うどんが残っていました。その器を、店員が「お下げいたします」と持って行こうとした瞬間、大きな声で「まだ食べる!」と叫んだのです。そのころの息子は、まともな単語すら出ていませんでした。それなのに、いきなりの2語文!しかも自閉症らしからぬ、自分の意思をはっきりと示し、まっすぐと相手に届く言葉でした。言葉は単独では発達しないと、主治医に諭されて出典 : 息子は2歳から国立の子ども病院の心の発達科に通っていました。この病院ではソーシャルスキルトレーニングのほか、さまざまな訓練があったので「言葉が話せるようになるトレーニングをさせたい」と申し出ました。ところが担当医は、「お母さん、いくら言葉を教えても、それは単に単語を覚えるだけに終わります。言葉を操ってコミュニケーションをとれるようにはなりませんよ!」ときついことを言うのです。「ソーシャルスキルトレーニングを受けさせたい」と申し出ても、「周りに関心を持つことができてはじめて、社会のルールを学べるのです。○○君(息子の名前)は、排泄・着替えなど自分の身のまわりのことも全くできていないじゃないですか!何を考えているの?」と厳しく言われました。更に、診察室の床に落ちているゴミを口に入れている息子を見て、「ほら、ごらんなさい。ゴミを口に入れているじゃないですか、この段階では“社会性を育てる”なんてずっと先の話ですよ。まだ早い、まだ早い」と言いました。5歳過ぎてもオムツが外れない息子を心配し、「なんど教えてもトイレでおしっこができない。どうしてもオムツを取りたい」と訴えた時も…「オムツだけをとっても、オムツとれた赤ちゃんのままです」と言われる始末。「言葉も、オムツがはずれることも、全部発達の中でできるようになっていくものです」と厳しく諭されました。自閉症の息子、リンゴの銘柄は言えても「買って」とは言わない…出典 : 幼いころ、息子はリンゴの銘柄にこだわりがあり、スーパーに行くと、リンゴの棚の前で「ジョナゴールド・津軽・紅玉・シナノゴールド・秋映・王林…」と覚えている銘柄を順に言っていました。けれども、「ママ、このリンゴ美味しそうだね。買って~買って~」と言うことはありませんでした。息子は、スーパーの中だけでリンゴの銘柄を唱えていたのではありませんでした。動物園など、リンゴなんて目の前にない場所でも、銘柄名をお経のように唱え続けるのでした。これは言葉を使ったコミュニケーションとは言えません。「伝えたい気持ち」があるかどうかUpload By 立石美津子言葉だけのトレーニングをしても単語を単に覚えるだけ。言葉を使ってしゃべるようには、なかなかなりません。息子が意思のある言葉を発したきっかけは、「うどんを最後の1本まで食べたい、器を下げようとしている店員に何がなんでも伝えたい」という強い動機があったからです。「どうしても言葉を使って伝えたい」という動機。この動機づけこそが、言葉を話すようになるための第一歩です。本人が「そうしたい」という気持ちになるまで待つしかないのです。おもちゃで遊んでいるときに、友達に奪われそうになって「嫌だ」と言う。カレーライスが食べたいとき「カレーライス」と叫ぶ。結果、自分の希望が通る。こうして「自分の気持ちを伝えるためには便利な“言葉”というものが、存在するんだ」ということを体験させるしかないのです。それまでは、周りの人たちは、ただ単語をインプットさせようとするのではなく、「思いを伝えるための言葉」で語りかけ続け、ときが来るのを焦らず辛抱強く待つしかないのだと思います。5歳ではじめて意味のある言葉を発した息子。その後、少しずつ、伝えたい気持ちも言葉も発達していきました。今、18歳になった息子は悪い言葉も覚えて、私があまり構い過ぎると「まじ、しつこい」と連発します。母として眉をひそめながらも「友達の真似をして、母親に言葉で感情をぶつけられるようになったなんて、昔に比べたら成長したなあ」と心ではひそかに喜んでいます。2018年9月10日、医師・松永正訓氏が立石親子を取材、書き上げた新刊が発売に。発達障害がある子と母の、幼児期から今までに渡る育児について綴られています。
2018年09月11日ADHDのH(Hyperactivity)=多動・衝動なんて、私にはないと思ってた!出典 : 私は「自閉スペクトラム症(ASD)」と診断されている。でも、ASDであっても、注意欠如多動障害(ADHD)のような衝動性を持っていたり、ADHDと診断されていても、ASDのようなこだわりがあったりする例も少なくない。かくいう私も、注意力が著しく欠如している。「とはいえあれだ、診断はASDだし、私には不注意はあるけど、多動や衝動性(Hyperactivity)はないから…」なんてことを雑談の中でつぶやいたら、「何言ってんの!? あんた、昔から衝動の塊じゃん!!」と、旧友から盛大な反論をされてしまった。彼女から指摘されたのは、20年前の出来事だ。東京で一人暮らしをしていた22歳の私は、失恋に失業、おまけに信頼していた人からの裏切りに遭うというトリプルコンボの不運に見舞われていた。今だったら屁でもない話なのだが、人生経験の少ない若い娘が喰らうには、ちょっとヘビーな出来事であったと言える。たまたま電話をくれた新潟在住の幼馴染が、私の置かれている状況を知り、「今すぐ帰って来な!」と言ってくれた。「わかった、帰る!」そう決めると、私はまず冷蔵庫を確認、日持ちのしないものは食べるなり処分して整理。洗濯物は幸い少なかったので、実家の洗濯機を借りようと、着替えなどと共に鞄に詰め、ブレイカーを落とし、戸締りをしっかりして新潟へと向かった。それから1ヶ月程度、実家で休養した私は生気を取り戻し、再び東京で生活を始めるのだが…。東京の友人たちの間で「希望が失踪した!」と騒ぎになっていた。そう、私は新潟に帰ることを、彼らに伝えるのをうっかり忘れていたのだ。携帯電話が今ほど普及していない時代、皆さぞかし焦ったことだろう。連絡し忘れたのは私の落ち度だ。しかし、れっきとした理由もあるし、これは衝動とはいえないのではないか?と訴えたのだが、「“今すぐ”と言われて、本当に今すぐ帰ろうとして支度を始めるのは衝動の成せる業でしょうよ。ほかのADHDさんだって、衝動なりの理由があるのだろうし」と返されて、私はぐうの音も出なかった。思い返せば「暇だし臨時収入もあったしなぁ」と、思いつきで新幹線に乗って出かけたり、自転車で近所のスーパーに行く途中、「確か今面白そうな展示をしていたはず」と、やはり思いつきで10km先の美術館へと向かうなど、突発的に行動することはしばしばあった。しかし、困りごととして、自分の中で上位に来るのはASDの特性と不注意だったので、ハイパーアクティブさがあるとは考えもしなかったのだ。思い起こせば…あったあった! ハイパーアクティブならではの失敗談出典 : 「私に多動と衝動性が?まっさかぁ~!!」などと笑っていた私だが、困ったことがなかったわけではなかった。時に、私はかなりの感激屋である。映画やテレビドラマ、小説に漫画に音楽に舞台、そして日常のあらゆることに感激し、毎日が大層忙しい。ただ感激して小躍りしたり、泣いているだけなら何の問題もないのだが、私は「この感激を誰かに伝えたい!」という衝動に駆られてしまう。伝えるにしても、SNSか何かに書き散らかしておけばいいものを、誰かに直接メッセージとして長文を送りつけてしまうのだ、しかも「そんな間柄じゃないだろ」という相手に。「冷静になれ」とたしなめられるのだが、そのときは冷静なつもりでいるのだから困りもの。冷静に考え、冷静に文章をつづっているつもりで、翌日辺りに「私は一体何をやっているのだ…!」と顔面蒼白。壁に頭を打ちつけたくなる。とりあえず謝罪のメールを送るが、「迷惑でしたよね?」なんて確認することもできないので、数日の間は不意に思い出しては大量の汗を書くはめになる。この悪癖は気をつけても直らない。加えて、不注意による失くし物、予定の失念なども日常生活に支障をきたすレベルなので、ストラテラ(ADHD用の内服薬)の力を借りている。意外にも? 困ったことばかりではない多動と衝動出典 : 困ることがある一方、ハイパーアクティブさに助けられる面がある。以前、「ASDゆえ、イレギュラーは苦手だが、仕事に関してはある程度対応できるようになった」とコラムで書いた。「急な仕事」が得意というか、好きになったのだ。ルーティンになると強みを発揮するASD特性で磨いてきたライタースキルの土台があったことが前提だが、ADHDの特性も合わせ持っていたことで火事場の馬鹿力が発揮できるようになったのかもしれない。とにかく、「急なんだけど、手伝って!」というような連絡を受け、手元の仕事との兼ね合いを見ながら進行、納期までに仕上げる達成感にドーパミンがドバドバ溢れ出ているのを感じるのだ。そうした依頼の場合、普段自分が手がけない分野のライティングであることも多く、楽しいというのもある。また、過集中のおかげで早く仕上げることができるので、先方にも重宝いただいている。もちろん、出張だって嫌じゃない。むしろ大好きだ。普段自宅にこもって仕事をしていることが多いため、県をまたいだ移動がリフレッシュになるのもある。どんどんお呼びいただきたい。私そっくり、ASDっぽいあの人の、ハイパーアクティブなエピソード出典 : さて、以前やはりコラムに書いた、「私そっくり、ASDっぽい」父には、多動や衝動性があるのだろうか。家族で出かけたとき、目を離すとすぐ父の姿が見えなくなり、母が困っていたことを思い出す。さほど遠くに行くことはないのだが、勝手に単独行動を始めるのだ。立派な多動おじさんである。また、実家で一緒に暮らしていたころは、「おい!お前に食わせたい蕎麦屋が山形の山奥にあるのを思い出したから、今から行くぞ!起きて支度しろ!」と、休日の朝4時半に起こされることがあった。かねてからの予定ではなく、完全にその日の朝に思いついての行動、衝動以外のなにものでもない(お蕎麦、おいしかったです)。そして、父に関する大好きな話がある。6人兄弟の4男として生まれた父の服は、兄たちのお下がりであることが多かった。そのため、自ら働くようになってシャツを仕立てたときは、大いに感激したらしい。嬉しくなってテンションが上がった若き日の父は、なぜか自転車を飛ばして海へ向かい、上半身裸になって、夜の日本海を泳ぎまくったそうだ。少し疲れて岩浜に上がると、風で飛んだのか誰かが持ち去ったのか、新品のシャツはなくなっていたのだった…。「なぜ海?」「どうして泳ぐ?」「シャツをわざわざ紛失の危険に晒した理由は?」など、突っ込みどころ満載ではあるが、ADHD傾向のある若者の、チャーミングなエピソードとして、私の心に残っている。発達障害が遺伝であるかどうか、また、かつての父のように私が可愛いADHD特性のある人間かは別の話として、私が父に似ているという説は、やはり納得の感がある。そして「ADHD、悪くないよなぁ」と笑ってしまうのであった。
2018年08月06日シュウのやまない大声は家族の悩みの種9歳になる自閉症の長男は、幼いころから癇癪のひどい子どもでした。言葉も少なかったため、気持ちを伝える方法がわからず、自分の思い通りにならないと「あ~」と叫んで怒りをあらわにするのです。Upload By シュウママけれども7歳を過ぎて言葉数が増え、ある程度、意思疎通ができるようになると大声は徐々に減っていきました。やっと落ち着いた…と思っていたのですが、ここ2ヶ月ほど前から再び頻繁に大声を出すようになりました。ただ以前とは少し様子が違い、シュウの顔を覗きこむと笑顔だったのです。恐竜が出てくる番組だったり、アニメの戦闘シーンなどを見ているときにこの傾向はよく見られました。機嫌がいいのにどうして大きな声を出すの?興奮と連動しているのでしょうか。まるでやまびこのように、自分の出す声が反響するのが楽しいーそんな風に見えました。Upload By シュウママ「やめて」も「小さな声で」も通じない…どうしたらいい?そんなある日、またシュウが大声を出し始めました。あまりにも大きな声量に、私は「やめて!」と叫びました。けれどもシュウはいっこうにやめようとしません。私自身が感情的になってはいけないのかと思い、今度は「大きな声を出さないでね」と冷静に言ってみました。しかし、それでも大声がやむことはありません。Upload By シュウママそこで、声を出すことそのものは禁止せず私が小さな声を出して真似させてみました。するとシュウも「あ~」と小さな声を出してくれました。ところが安心したのも束の間、しばらくするとまた大声に戻ってしまいました。結局、対処だけでは根本的な解決にはならず、ほとほと困り果てて、何かいい方法はないか考える日々が続きました。息子が一番興味を持っているものそれから1週間ほど経った時のことでしょうか。シュウがテレビを指差して「あかちゃん!」「あかちゃん!」と連呼するのです。見るとそこには録画したアニメ番組の赤ちゃんが映っていました。Upload By シュウママ長男はその時々でマイブームが起きるのですが、おそらくその時は動物や人間の赤ちゃんが可愛くてたまらなかったんだと思います。ふとひらめきました。そうだ声の大きさを赤ちゃんになぞらえてみたらどうだろう?声の大きさを視覚で伝えるため、興味のあるものに置き換えてみたら…Upload By シュウママ私はホワイトボードを出して、左側から順に赤ちゃんと子ども、大人の絵を描きました。そしてシュウが大声を出すと、ホワイトボードを見せながら「今、大人の声になってるよ。小さい赤ちゃんの声を出すんだよ」と何度も説明しました。するとシュウは「あかちゃんのこえ、あ~」と小さな声を出すようになったのです。完全に大声が治まったわけではないですが、この方法を使うと、「大人の声=大声」「赤ちゃんの声=小さな声」と素早く脳内変換できるようで、少しずつ声の調整ができるようになってきました。自閉症児への伝え方はひとつじゃない自閉症の子どもの大声に悩まされているお母さんは多いと思います。シュウの場合、言葉の習得が進んだことでイライラするような大声はなくなりましたが、ご機嫌だとしても、音量が大きいのは悩ましいものです。声の大きさをどうやって使い分けてもらうか、対処法はそれぞれあると思います。例えば、声の大きさを赤青に色分けして教える、という方法もよく聞きます。わが家のように今お子さんが興味があるものになぞらえて教えるというやり方も有効かもしれません。どうかお試しください。Upload By シュウママ
2018年08月01日VRで自閉スペクトラム症のある人の視覚を体験「ASD知覚体験ワークショップ」が開催発達障害のひとつである、自閉スペクトラム症(ASD)。これまで、「コミュニケーションや対人関係の障害」などとその特徴が説明されることの多かった障害ですが、その背景に、自閉スペクトラム症のある人に特有の「世の中のとらえ方・感じ方」が影響しているかもしれないということは、今まであまり語られてきませんでした。そうした、自閉スペクトラム症のある当事者の立場からコミュニケーションの困難さを解き明かし、より良い相互理解・発達障害支援につなげていこうとする学際融合研究プロジェクトがあります。「CREST認知ミラーリング」プロジェクトと呼ばれるその研究プロジェクトでは、”コミュニケーション”というアウトプットの部分での困難さのみに注目するのではなく、自閉スペクトラム症のある人の”世の中のとらえ方・感じ方”というインプットの部分での特性について着目した研究を行い、当事者の知覚を疑似体験できる技術を開発しました。そして、自閉スペクトラム症のある人たちが世の中をどのように見ているかをVR映像を通して疑似体験する「ASD知覚体験ワークショップ」を開催しています。この記事では、そのワークショップの様子をご紹介します。Upload By 発達ナビ編集部認知ミラーリング自閉スペクトラム症の人たちが見ている世界を知ることの目的とは?Upload By 発達ナビ編集部「ASD知覚体験ワークショップ」では、VR機器を用いて、自閉スペクトラム症(ASD)のある人たちの「視覚」を体験したり、専門家による講義、当事者の体験談映像上映、参加者による座談会など、さまざまなプログラムを通して、自閉スペクトラム症当事者の見ている世界を知り、理解することができます。自閉スペクトラム症がある人たちの中には、知覚過敏や知覚鈍麻といった「感じ方」の特異性がある人が多いと言われています。それが、自閉スペクトラム症のある人たちに特徴的な行動や、コミュニケーションの難しさの原因の一つになっていると考えられています。ワークショップでは、疑似体験を通して、特有の見え方となるメカニズムやASD当事者が生活の場面で実際に感じる困難さを理解し、参加者同士で感想や気づいたことを共有します。当事者や家族だけでなく、支援者をはじめ多くの人たちが、感じ方の特性のために起こる生きにくさや暮らしにくさを理解することで、何が必要なのか・できるのかを考えられるようになるのではないか?と考え、実施されています。どんな研究がされているの?専門家が解説Upload By 発達ナビ編集部ワークショップでは、認知ミラーリングシステムを用いたシミュレータ開発を行う情報通信研究機構の長井志江先生から、自閉スペクトラム症のある人たちはどのように世界をみているのか?脳のメカニズムや、感じ方の特性について科学的な知見に基づいた研究結果について解説講義が行われました。Upload By 発達ナビ編集部また、実際にどのように世界が見えているのか、映像を見ながら知ることができます。例えば、暗いところから明るいところに出てきたとき、普通の人よりも瞳孔が狭まるのが遅い、そのために一面真っ白な世界になってしまうという例。「ずっと家にいたい」という理由は、実は外が眩しすぎるせいかもしれません。眩しさへの対策なしに、無理やり連れだされることは、視覚過敏のある当事者にとって苦痛でしかないのです。また、たくさんの人がいる場所では、コントラストが強くなってしまい、人の顔の印影がとても濃く見えてしまう人の場合、相手の表情の変化をとらえにくくなります。相手の表情の微妙な変化から気持ちを読み取る力は、子どもの頃から経験を重ねて獲得していくものです。見え方の特性からこの経験の機会が少なくなってしまうことで、気持ちの読み取りがうまくできず、コミュニケーションに影響していることもあります。また、目に映るさまざまなものの情報がすべて入ってきてしまう人の場合、相手との会話に集中するために視線を斜めに外すことで脳に入ってくる情報を制限し、会話に集中しようとすることがあります。ですが、その様子を見て「人の目を見て話せない、自信のない人だ」と思われることで、見え方が原因であるにも関わらず”人の目を見られるような訓練が必要だ”とか”自信をつけられるような支援が必要だ”など、誤解をされてしまうこともあります。このように、具体的にさまざまな見え方・とらえ方のパターンを知ることでコミュニケーションの障害と考えられているものの多くに、特有の感じ方・とらえ方が関係していること、その特性を考慮しないで支援をしても解決はされることは少ないだろうという理解につながります。VR機器を使って、自閉スペクトラム症のある人の「見え方」を疑似体験!Upload By 発達ナビ編集部専門家による話のあと、参加者は実際にASD当事者の立場になり、VR機器を用いて、見え方を体験することができます。体験した後は、参加者みんなで、感じたことをシェアします。どんな風に感じたか、どうしたらいいのかなど、さまざまな意見をグループワークで出し合います。Upload By 発達ナビ編集部「自分はよく視線をそらして話を聞くことがあるが、それは直接見ると入ってくる情報量が多いからであって、話を聞いていないということではない」「(当事者が見ている世界は)コントラストが強く、顔が黒くなるので表情が分かりにくいことが分かり驚き。人の顔をあまり見ない理由の一つなのか」「ASDのある人とそうでない人との、根本にある身体的な違いを理解することで、定型発達の人に合わせるのではなく、その違いをサポートするものや配慮の必要性を感じた」など、疑似体験を通して、相手の目を見て会話をすることが難しい背景に「見え方・とらえ方」の特性があることが分かれば、どのようなコミュニケーションをとるとよいのか考えるきっかけになる、という声が挙げられました。脳に入ってくる情報の取捨選択が難しいことで、見え方にノイズが起きてしまう。それならば、掲示物や雑音などの刺激を減らした、静かで落ち着いた屋内で支援をすることで、学びやすくなったり生活しやすくなるということが、疑似体験を通してよりリアルに理解できます。また、支援者からは「他の子どもに説明するときのヒントになった」「どのような環境で支援すればいいのかが分かった」という意見もありました。参加者から寄せられた「障害のある人が、社会の一員として活躍できるよう配慮や理解のあるインクルーシブな世の中にしたい」という言葉にもあるように、感覚の特性を理解することで、どのような支援やコミュニケーションをとればよいかを考え、さまざまな人たちが生きやすく活躍できる世の中にしていくきっかけとして、このワークショップを活用していく必要を、参加者の多くが感じたようです。「CREST認知ミラーリング」プロジェクトのこれからUpload By 発達ナビ編集部「CREST認知ミラーリング」のプロジェクトは、今後数年かけて、さまざまな研究を進めていくそうです。視覚過敏についてのアプリ開発などをはじめ、大学など大きな研究機関でしかできないことを、当事者や家族、学校や企業などに届けていこうとしています。ワークショップは今後も開催予定。最新のスケジュールは下記のページからご確認ください。※クリックすると、「CREST認知ミラーリング」のページに遷移します。
2018年07月24日自閉スペクトラム症の人が見ている世界を研究自閉スペクトラム症のある人が見ている世界を、工学技術とのタッグで解析し、支援に役立てていく「CREST認知ミラーリング」プロジェクト。VRを使って、自閉スペクトラム症の特徴の一つである、視覚過敏症状を疑似体験できる、「ASD知覚体験シミュレータ」や、それを活用したワークショップなど、さまざまな研究を行っています。参考:CREST認知ミラーリングUpload By K2U関川香織この研究プロジェクトでは、4つの拠点が連携しています。発達障害の当事者視点の提案を東京大学の熊谷晋一郎先生から、多様な認知過程についての神経回路の計算モデルの提案を国立精神・神経医療研究センターの山下祐一先生から。そして、認知ミラーリングシステムを用いたシミュレータ開発を情報通信研究機構の長井志江先生が、実際の社会実装として障害者支援の立場からLITALICOが。さまざまな立場から、自閉スペクトラム症のある人たちの世界を研究し、伝え、社会の中にある障害をなくそうというプロジェクトです。では、自閉スペクトラム症のある人が見ている世界を体験できるシミュレータとは、どういう役割を果たす技術なのでしょうか。長井志江先生とLITALICO発達ナビの鈴木悠平編集長との対談で、紐解いていきましょう。自閉スペクトラム症の世界を体験するシステムを開発するきっかけは、ロボット開発にあったUpload By K2U関川香織LITALICO発達ナビ編集長・鈴木(以下、鈴木) 長井先生、今日はよろしくお願いします。CRESTプロジェクトで研究をご一緒していますが、今回は、CRESTが始まる以前のことからお話を聞かせてください。そもそも、長井先生が自閉スペクトラム症に関わるシステムの開発をしようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。長井志江先生(以下、長井) ロボットの開発をしていたときに、人工知能を賢く発達させていくために、人間の脳から学ぶことが多くありました。入力したことから引き出す結果である出力が、うまくいくときといかないときがあり、エラーが出てしまうのはどういうケースなのかを探る中で、自閉スペクトラム症についても研究することになったのです。そこで、東京大学で自閉スペクトラム症のある方々と「当事者研究」を実施している熊谷晋一郎先生ともつながることになりました。鈴木 なるほど、より賢いロボットをつくるために人間を理解する過程で、定型発達ではない人の脳についても研究することになったんですね。コミュニケーションについて研究するときに、行動の面ではなく、知覚に注目した理由はなぜでしたか?長井 以前から、自閉スペクトラム症は「コミュニケーションの障害である」という説明は聞いたことがありました。ですが、実は当事者は、「出力」としてのコミュニケーションの方法・行動に問題がある以前に、情報が脳に入ってくる「入力」の時点で、定型発達の人とは違う感じ方をしているのです。この視点をもって、CRESTプロジェクトを展開しています。コミュニケーション障害の問題点が、情報を受け取る知覚の違いにある、と気づいたのは、自閉スペクトラム症当事者である綾屋紗月さんとの出会いが大きく影響していました。ヒントとなったのは、綾屋さんの著書にあった写真です。ある景色を普通に撮ったものと、綾屋さん自身にはこう見えるという、コントラストを非常に強くしたものが比較されていました。このコントラストを強くしたものが自閉スペクトラム症の人が見ている世界なら、工学技術で再現ができると思いました。この「自分が何をどう見ているのかを客観的・理論的に分析したい」というニーズに、工学技術がマッチしたと言えます。人間は、自分が何をどう見ているかを自分では気にしていない、隣の人も同じだと思っているUpload By K2U関川香織鈴木 綾屋さんに出会う前から、今回の「ASD知覚体験シミュレータ」開発の基盤となる、技術自体はあったということなんですね。長井 そうですね。ロボット開発をするときは、「入力」と「出力」をセットで開発していきますから。でも、ロボットではない私たち人間は、ふだん自分が何をどう感じているかという「入力」について気にすることは、あまりないんですね。鈴木 たしかに、人から「何がどう見えているの?」と聞かれることはないし、聞かれても客観的に答えることは難しいかもしれませんね。そこに気づいてから、シミュレータのアルゴリズムが完成するまでにはどんな研究があったのでしょうか?長井 知覚の中でも、工学技術的に取り組みやすかった視覚から研究が始まったわけですが、この自閉スペクトラム症のある人の見え方には、個人差が非常に大きくあります。さらに、ノイズなどの特別な見え方は、いつでも見えるわけではなく、ある一定の条件下で起こるということも分かってきました。そこで、データをとって背後にあるメカニズムを探ることになりました。どういう刺激が入るとどう見えるのか、という自分でもよく分からないことを、たくさんのデータを積み重ねることで、分析できるのでは、と。鈴木 なるほど。長井 ここに、自閉スペクトラム症当事者22名(平均年齢38歳)を対象にした認知心理実験の結果があります。29種類の動画を見てもらい、どのように見えることがあるか、というフィルタを6種類用意して、見え方が近いものを自閉スペクトラム症当事者に答えてもらう、という実験をしました。動画は、それぞれのシーンごとに、輝度(まぶしさ)、エッジ量、動き、音の強度などについて調整されているので、自閉スペクトラム症の人たちが選んだ見え方と合わせて分析すると、どういうシーンでどう見えるかが分かる、ということになります。その結果を解析したところ、3つの共通したパターンが分かってきました。Upload By K2U関川香織長井 広いスキー場の映像を見てもらった結果、「画面が白く飛んで見える」と答えた人が非常に多くいました。これは、瞳孔の調節機能にも関係している現象です。定型発達の場合でも、暗い室内から急に明るい屋外に出たときに「まぶしい」と感じますね。自閉スペクトラム症のある人は、「まぶしい」と感じたときに起こる瞳孔の収縮率が低く、ゆっくりなので、「まぶしい」状況がもっと長く・強く続くことから、この現象が起こるようです。Upload By K2U関川香織長井 ホームに入ってくる電車の映像です。電車の車体の緑色のラインが、ときどき白黒に見える、色が消えるという現象を訴えた人が多くいました。色覚異常がないにもかかわらず、です。定型発達でも自閉スペクトラム症でも、視野の中心部分では色や形がはっきりと見え、周辺に行くほど色も形もはっきりしないことが分かっています。また、動くものをとらえるのは基本的に周辺視野です。動く電車の色が消えるという現象は、自閉スペクトラム症の人たちは、周辺視野でものを見やすいという傾向と関係があると考えられます。Upload By K2U関川香織長井 スクランブル交差点で信号が変わり、たくさんの人が渡るときの映像では、砂嵐のようなノイズが見えるということがある、という結果が得られました。これは個人差が大きく、出る場合の条件もさまざまでした。ただ、動きや音強度の変化が大きいときに砂嵐状のノイズは起きやすく、変化が小さい場所ではノイズが起こりにくい、ということが共通していました。この現象は、片頭痛がある人にも見られる現象で、脳の特異的な活動に関係があるらしいということまで分かっています。こうしたノイズは幻覚ではなく、脳の働きによって現れるものなのです。情報のインプットのされ方への理解が、コミュニケーションの足掛かりになるUpload By K2U関川香織鈴木 アウトプットの問題だと言われていたことが、実は刺激=インプットの情報によるものだと分かったわけですね。自閉スペクトラム症のある人は、相手の表情を「見ない、見ようとしない」と言われてきたけれど、「見ない」のではなく、刺激への過敏性があることによって、相手の表情がよく見えない、という場合も少なくないのでは、と思います。このシミュレータを使って、経験することによって、「こう見えているのか」と分かることがたくさんありますね。本人が感じているしんどさの部分への想像を働かせやすくなりそうです。長井 自閉スペクトラム症のある子どもの保護者や、当事者もですが、「なんでそういう行動をするのか」という理由が分かるようになった、ということが大きいですね。「バーチャルだとしても、本人の困難さを体験できる」ことが重要です。鈴木 これまでのワークショップを通じて、いろいろな声を聞かれたと思います。当事者以外の方からの声で、印象深いエピソードがあれば、教えてもらえますか?長井 あるお母さんが、ワークショップ中に「子どもがいつもやっていることをやっていいですか?」と、天井を見ながら、手をひらひらと振って見せてくださったことがあります。「こうやりながら、子どもがいつも『キラキラして楽しいね』と言うんです。天井には何もないのに、と思っていたんですが、シミュレータをつけたら、たしかにキラキラしたものが見えました。楽しいといえば楽しい。これまでは『キラキラなんてないよ』と言っていたけど、あるんだ、ということが分かりました」と。このようにして、行動にまつわる「なんで?」の論理的な背景を、シミュレータの体験によって、理解することができると思っています。親も支援者も、当事者も、「なんで?」「どうして?」の理由が1個ずつ分かって、スッとするのだと思います。「安心しました、肩の荷が下りました」とおっしゃる方もいます。鈴木 なるほど。長井 現象そのものは「ある」だけで、それ自体にはいいも悪いもありません。キラキラが見える子は、困ってはいない場合もあるので、「そんなの見えないでしょ、落ち着いて」とか言わなくてもいい、ということになるんです。支援を考えるときのステップがスムーズになるというか。鈴木 支援以前に、まず知ること・理解することができるギアとして、シミュレータが役に立ってくれそうですね。長井 自閉スペクトラム症の人には視覚の過敏性がある、と漠然とは言われていたものが、もっとはっきり分かるようになります。どういうときにどう見えるか、が客観的に分かることによって、周りも本人も、自分の状況を整理できると思うんです。自閉スペクトラム症の人に参加していただいた実験やワークショップのときには、見え方のパターンを教えるだけで、生活上のアドバイスはしていませんが、後日、「実験に参加してからからサングラスをかけたり、こまかく調光できるLEDの照明に変えたりしました」と話してくれた当事者の方もいました。自分の見え方・感じ方に対して理解を深めることで、自分で解を探り当てたんですね。鈴木 すばらしいですね。自分の体験を客観的に見るという体験を通じて、ホワイトアウトやノイズが当たり前だった人が、そうならないための工夫を理解する、ということですね。長井 自分の中で起こっていることは、外在化されないと、自分でも納得できないでしょう。現象をデータ化することで、自分でも認めて、周りにも認めてもらうことになるんです。鈴木 キラキラして見える、と言うと周りからは「疲れてるだけでは?」と言われたりするけど、一定のロジックで説明されると、言う方も言われた方も両方納得する。説得力のあるシステムですよね。長井 こういうことを、周りが聞いてあげるといいんですよね、どう見えるの?って。そうすると、当事者としては、共有できた!と思える体験になるんです。「そんなのは気のせい」と片づけられるのではなく、コミュニケーションのきっかけになるんですよ。鈴木 この体験を足場にしてコミュニケーションが始まるんですね。見え方の個人差による違いはあるけど、代表的にはこういうものがある、と分かれば、それを足場にしていくことができる。より解像度の高い理解ができると思います。これからの課題は、学術的な知見を社会実装につなげることUpload By K2U関川香織鈴木 今後の展望を教えてください。家庭や支援者だけでなく、企業や教育現場へと広げていくことで、どんな課題がありますか?長井 これまでは、「ASD知覚体験ワークショップ」の対象は、保護者や支援者など、自閉スペクトラム症当事者への理解がある人たちでした。これからは企業や教育現場へ広げて、自閉スペクトラム症とかかわりが今までなかった人にも体験してもらいたいと思っています。鈴木 そうですね。今後は、もっと広く社会に向けて、このシミュレータやワークショップを広げていきたいですね。実際に企業や学校の現場に導入する際、このシミュレーションシステムは、どういう役割を担っていくことになるでしょうか。長井 ものの見え方の「翻訳機」なんだと思います。たとえば言語の違う人たちの間で、同じ思いがあったときに、言葉の通訳や翻訳があれば、相互理解する一歩となりますよね。それと同じように、「こう見えている」ということを翻訳するのが、このシミュレータの役割だと思っています。相互理解に、科学的根拠を加えるのが技術の力です。今、CRESTのシミュレータの研究は、学術的なところにとどまっているけれど、これを社会に役立てていこうとするときに、熊谷先生やLITALICOさんの力が、より必要となるはずなんです。大学の研究と当事者の間をつなげる役割を、LITALICOさんにぜひ担っていただきたいと思っています。鈴木 対話や試行錯誤が、ここから始まっていくんだと思います。これからのワークショップも、一緒につくっていきましょう。どうぞよろしくお願いします。撮影:鈴木江実子
2018年07月21日『グッド・ドクター』(フジテレビ系)第1話が7月12日に放送された。山崎賢人が、自閉症スペクトラム障がいでコミュニケーションに障がいがある一方、サヴァン症候群で驚異的な暗記力を持つ小児外科医・新堂湊を演じる本作。湊は子どもを助けるために一生懸命だが、人の気持ちを推し量ることができない。「僕は人と違います」。胸が締め付けられるようなセリフは、たくさんのことを私たちに問いかけた。■サヴァン症候群で小児科を目指すことができるか幼いころから小児科医になることを夢見てきた新堂湊(山崎)は、レジデントとして小児外科の世界に飛び込むことになる。期待に胸を弾ませて迎えた初出勤。湊は途中で事故に遭遇するが、暗記している膨大な医療データから最良の方法でケガをした子どもに応急処置を施し、なんとか東郷記念病院にたどり着く。救出した子どもの母親からは深く感謝される湊だったが、指導医の瀬戸夏美(上野樹里)とともに小学1年生の将輝の病室を訪れた際、ある問題を起こしてしまう。横紋筋肉腫が再発した将輝に対し、両親の意に反して真実を打ち明けてしまい、母親から「二度と近づかないで」と非難されてしまったのだ。夏美からの「カルテには書かれていないそれぞれの事情がある。ご両親の気持ちがわからないの?」という問いに、「わかりません」と即答する湊。事故現場での正確な対応といった医師としての優れた能力が明かされた一方で、コミュニケーションが苦手である湊に立ちはだかる壁が、早くも浮き彫りになったかのようにみえたのだが…。■湊と子どものピュアな心に、あふれる涙その後、将輝の容体が急変。居合わせた湊は「早くオペしないと死んでしまいます」と、一刻も早い手術を望むが、「触らないでください。ほかの先生を呼んでください」と声を上げる母親。しかし湊は苦しむ将輝を前に居ても立っても居られない。結果として看護師・橋口(浜野謙太)の協力もあり無事に高山(藤木直人)が手術することとなり、将輝は一命を取り留めた。手術を終え、湊に対して「先生が気づいてくださらなかったら、今頃あの子は。それなのに私、大変失礼なことを。本当にごめんなさい」と頭を下げる母親。だが湊はそんな母親に「僕は人と違います。慣れています」とほほえむ。さらに息子がかわいそうだと話す母親に「かわいそうじゃありません。かわいそうなのは、病気であることです」とまっすぐに伝えるのだった。ドラマの最後に明かされたのは、将輝が退院を待ち望んでいた理由。それは早く小学校に行くことではなく、ママの誕生日をおうちで祝ってあげたいということ。つらい状況でも、母親のことを思う子ども。そして、そんな子どもの本音に寄り添う湊のピュアな思いに心が温まるが、同時にさまざまな感情が交錯し、溢れる涙を抑えることができなかった。■自分の子どもが病気だったら…親に突き付けられる難題終始、胸が苦しくなるようなセリフの連続だった第1話。なかでも印象的だったのは「先生たち、自分の子どもを“ああいう人”に任せられますか?」というセリフ。これは、湊が将輝に再発を勝手に告知してしまったことに激怒した母親が、担当医に発した言葉だ。辛辣(しんらつ)な言葉だが、親であれば気持ちがまったく理解できないわけではないから、心苦しい。子どもが命に関わる大きな病にかかったとき、どんな医師に診てもらえたらが安心かといえば、腕もよく、親の気持ちを理解してくれる医師なのかもしれない。けれども、もしも逆の立場だったら? 自分が湊の母親だったら? そう考えると、より一層胸が痛む。そして、そんな行き場のない切なさを癒やしてくれるのもまた、湊の優しさにほかならない。患者より接待ゴルフを優先する医師、規則に縛られ担当医の指示だけに従う医師、障がいがあるというだけで切り捨てようとする医師、はたまた「大人になれない子どもをなくしたい」と切に願う医師。一体、名医=グッド・ドクターとは何だろうか。視聴者は多くのことを自問自答しながら、ドラマと向き合っていくことになりそうだ。■役者・山崎賢人が語る大きな使命とは山崎が自閉症スペクトラム障がいの医師を演じるということで、放送前から注目を集めていた本作。第1話が放送されるやいなや、演技を絶賛する声がSNSに上がった。山崎は、特徴的な手や視線の動き、こわばった表情などを細やかに表現。一方で、子どもに頬をつねられたり、子どもと一緒に絵を描いたりするシーンで見せる、柔らかな表情も絶妙だった。小児外科医は医師全体の0.3%しかいないというセリフがドラマ内であった。山崎は番組の公式インタビューで「このドラマで小児外科の現状を知っていただいて少しでも良い方向に向かえば…小児外科医を目指す方が少しでも増えたらうれしい」と話すなど、大きな使命を持ってこの作品に挑んでおり、その決意が伺える幕開けとなった。次回描かれるのは、未受診妊婦の女子高校生。破水からの緊急出産となるが、生まれてきた赤ちゃんは大きな問題を抱えていて…。『グッド・ドクター』第2話は、7月19日よる10時から放送。木曜劇場『グッド・ドクター』木曜よる10時から※山崎賢人の「崎」は、正しくは「たつさき」
2018年07月19日山崎賢人が自閉症スペクトラムの天才的小児科医を演じるフジテレビ系「グッド・ドクター」の第1話が放送。自閉症の一種“サヴァン”の青年を見事に演じきった山崎さんの演技力に「すごい」と絶賛の声が続々と寄せられている。本作は自閉症スペクトラムの一種で驚異的な記憶力を持つサヴァン症候群の青年・新堂湊が主人公。山崎さんが演じる湊は幼少期のある事件がきっかけで小児外科医を目指し大学も主席で卒業。そしてレジデントとして小児外科の世界に飛び込み、周囲の偏見や反発を受けながらも同じ小児外科医の瀬戸夏美や高山誠司らとともに、子どもたちの命のために闘い、その心に寄り添い、ともに成長していく姿を情感豊かに描いていく作品。山崎さんの他、レジデントとして入ってきた湊の面倒を見ることになる夏美には上野樹里、小児外科医を束ねる科のエースで自分にも他人にも厳しい高山には藤木直人、湊の受け入れに反対する東郷記念病院の理事長・東郷美智には中村ゆり、幼少期から湊を知りレジデントとして受け入れる院長・司賀明には柄本明、出世と保身が第一の小児外科長・間宮啓介に戸次重幸、赤字の小児科解体を狙う副院長・猪口隆之介に板尾創路、湊を陰ながら支える存在になっていく看護師の橋口太郎に浜野謙太といったキャストが顔を揃えた。※以下ネタバレを含む表現があります。ご注意ください。注目の第1話では東郷記念病院に初出勤する途中で子どもが巻き込まれた事故に出くわした湊が、過去の例から最適な応急処置法を見つけ出し手当てすることで、無事一命を取り留めるものの、出勤した病院で親が隠していた手術の日程を患者である子供に言ってしまい、親や周囲から疎まれる存在となってしまう…。しかし、その後急変した容体の原因を見抜き、結果的に患者の子どもを救うきっかけとなる様子が描かれた。今回自閉症スペクトラム障がいの青年という役柄を演じた山崎さんだが、「絶妙なバランス…推しひき…心の見え方やこだわりの表し方などなど…とても素晴らしい」「山崎さんめっちゃ演技うまい!」「山崎賢人くんの演技ヤバイね」などの声が殺到。「半年前まではホストだったのに(笑)」とその演じる役柄の振り幅に驚いたという声も寄せられていた。ラストでは回想シーンとともに湊が幼い頃兄とともに事故に遭ったことが明かされ「兄は大人になれなかった」「みんなが大人になれるようにしたい」と、その兄が亡くなったことを強く示唆するセリフも。また湊に強く厳しく接する高山がその一件に接点があることを匂わせる場面など、今後への伏線も多数視聴者に提示された。2話以降も目が離せない木曜劇場「グッド・ドクター」は毎週木曜日22時~フジテレビにて放送中。(笠緒)
2018年07月13日双子を可愛がってくれた、ひいおじいちゃん今年の桜は例年より早く咲き、本来ならまだ満開であろう時期に散っていきました。時を同じくして4月の初め、わが家の双子を可愛がってくれたひいおじいちゃんが亡くなりました。双子とひいおじいちゃんの関わりは深く、以前、コラムにもその様子を書いていました。連絡を受けた時、私はしばらく呆然としていました。頭の中には長男の頭を撫でてくれていたひいおじいちゃんの姿が駆け巡ります。知らぬ間に涙があふれ、私の隣りでは次男が悲しそうな顔をして膝を抱えていました。楽しそうにテレビを見ている長男に「ひいおじいちゃん、死んでしまったよ。もう二度と会えないんだよ」と告げました。けれど長男はぽかんとして私の顔を見つめ、またテレビへと視線を戻しました。長男は死というものがどういうものか分かっていなかったのです。Upload By シュウママ不安もある中、子どもたちと葬儀へ参列することに葬儀には、子どもたちも一緒に参列しようと思いました。2人を大切に思ってくれたひいおじいちゃんのもとへ、どうしても連れて行きたかったのです。そうは言っても、本当に大丈夫だろうか、長男は騒いだりしないだろうかーー。乗り込んだ新幹線の中で不安が募ったことを覚えています。Upload By シュウママパニックになってもおかしくない中、意外だった長男の姿初めて入る葬儀場、そして大勢の人。長男にとってはパニックを起こす要素だらけの状況です。Upload By シュウママ通夜がしめやかに営まれている間、私は多動の長男が騒ぎ出したりしないかと気が気ではありませんでした。ところが予想に反して、長男は握り締めた手を膝の上に置いて、きちんと座っていました。ひいおじいちゃんの遺影を見ながら、感じるものがあったのでしょうか。長男はじっと写真へと視線を注いでいたのです。Upload By シュウママなぜひいおじいちゃんはこの場にいないんだろうという寂しさがあったのかもしれません。周囲に漂う重い空気を察したのかもしれません。どちらにせよあの瞬間、長男はひいおじいちゃんの不在を心の底から哀しんでいたのです。長男にとって、ひいおじいちゃんはやはり特別な人だったんだと改めて感じました。ふっと2年前、最後にひいおじいちゃんと会ったときのことが蘇りました。長男を丸ごと可愛がってくれた長男が言葉を話せなかった7歳ごろは、頻繁に癇癪を起こしていました。それは夏休みに私の実家に帰省した時も同じでした。些細なことで泣き出す長男に対し、ひいおじいちゃんは「シュウの頭の中には言葉があふれているよ」と優しく言い続けてくれました。そして冬休みに再び帰省した時のことです。皆と楽しい時間を過ごし、いよいよ家に帰る日。「また会おうな」と言って頭を撫でてくれたひいおじいちゃんに向かって、長男は「バイバイ」と言って手を振ったのです。その瞬間、ひいおじいちゃんは驚いた顔をしてぼろぼろと涙をこぼしました。これが初めて長男がひいおじいちゃんに向かってしゃべった言葉だったのです。言葉があふれているよーーそう励ましてくれたひいおじいちゃんは、誰よりも長男の力を信じてくれていました。でも本当は話さない長男のことを誰よりも心配していたのだと思います。人前で決して泣くことのなかったひいおじいちゃんが、長男のために流した涙。その優しさは長男の心に届いていたのでしょう。Upload By シュウママ長男が葬儀の席で静かに見送ることができたのは、ありったけの愛情で包んでくれたひいおじいちゃんに必死で応えたからだと思います。愛された記憶は、長男の心の中に宝物のようにしまわれているのかもしれません。葬儀に参列できたことで、改めてひいおじいちゃんの残してくれた優しさが心に沁みていきました。そしてそれは長男も同じだったんだということに気づかされて、悲しみが少しだけ癒されていくのを感じたのです。
2018年06月20日父親として自閉症がある息子の子育てに向き合う出典 : もうすぐ父の日ということで、父親としての自分の思いや考えを振り返ってみました。母親の立場からは考え方や悩みの観点が違うこともあるかもしれません。父親なりのお話をできればと思います。私は自閉症児の父親として、心に決めていることがあります。息子の障害が分かった当時から想定していたこともあれば、日々の生活を過ごす中で見出した部分もあります。家族を持つ男性として「当たり前」のようなことも、障害という現実によって「当たり前」と思えなくなるケースもあるだろうと考えてお伝えします。自閉症児の父親として心に決めている3つのこと出典 : つ目は、自分から情報収集して自閉症をより理解することです。私の主な手段はテレビや本、WEBサイトやSNSです。本は図書館などで借りれば無料ですので、気兼ねなく情報収集ができます。WEBサイトでは、個人ブログの場合、療育の実体験や症状について知ることができます。また、発達障害などの専門サイトは日本の制度や社会情勢、新しい動向や特徴的な事例などもよくチェックしています。子どものために参考になることが多く、定期的に見るようにしています。情報を得ることがなく、「何も知らない状態」というのは、余計な不安を感じたり希望を見出せなくなったりしてしまうと考えています。私自身が、そうだったからです。3歳頃に自閉症と言われた当時の息子は、話すことはもちろん、目を合わせることもできない状態でした。そのまま容姿だけが年を重ねていくものだと考えてたため、将来の不安や成長しない(と思っている)ショックはとても大きなものでした。でも、情報を集めたことで少しずつ自閉症の全体像が見え、息子が成長することが分かって前向きになることができました。特に大きかった「発見」は、重度の自閉症でありながら小説家として活動をしている東田直樹さんを知ったことでした。東田さんは息子と同じように手をかざす、ジャンプする、急に動く、歌うなどの症状がありました。しかし、自らパソコンをタイピングして小説の執筆をするだけでなく、文字盤を利用してリアルタイムで人と会話をしていました。特徴的なケースかもしれませんが、当時の私には大きな希望でした。東田さんの姿を通して、わが子の自閉症という障害を理解し、受け入れることができたのだと思います。今後も年齢など息子のステージが変わるにつれて、初めての経験や知らないことが増えていくでしょう。意識的に自閉症やその周辺のことを知ろうとする努力を続けていきたいです。2つ目は、妻のことを意識して気に掛けることです。「夫なら当たり前だ」と思われるかもしれませんが、息子に障害があることが分かり、より意識が高くなりました。ただでさえ大変と言われる子育てです。障害があり、生きにくさを感じることがある子どもを育てていくのは、とても困難が多いだろうと診断された時に覚悟しました。特に考えたのは、精神的な負担です。私は仕事で外に出ていることが多いため、ずっと妻が中心となって子どもを見てくれています。息子と街中を移動する時の周りの視線、保育園や学校に行った時の先生の反応のほか、さまざまな場面で健常児との違いを感じて、落ち込んだり悲しくなることがあり得ると想定しました。そして、それらは実際に全て起こりました。そんな時は、仕事が立て込んでいたり、疲れていたとしても、妻の気持ちが落ち着けるようにできる限り話を聴く時間を取るようにしてきました。妻から話かけてくれることもありますし、明らかに気分が落ちている時はこちらから聞くようにしています。アドバイスや無理に共感するというよりはとにかく話を聴くことが大切。ひと通り話を聴いた後に、短期的に考えるのではなく少し長いスパンで考えてみる、今後(未来)の話をすることで良い形に転換できているのかなと思います。結果的に早く前向きになって、次のことを考えて行動することに繋がっています。また、息子の進学について悩んだ時などは、妻以上に妻のことを考えて発言をしました。息子の当時の状況(発達度合い)を考えた際、特別支援学校ではないところに進学すると、何かが「できない」状況が増えてしまうと考えていました。それにより息子が自尊心を失う可能性もありましたし、何より妻が「自分の教育が悪い」などと自己否定をして落ち込んでしまうことが一番の心配でした。妻が自信を無くしてしまったり、傷ついたりしてしまうと本人も辛いですし、息子もそれを感じ取って悲しい気持ちになるでしょう。もちろん、私も辛くなります。だから、できる限り元気にいて欲しいのが夫としての願いです。3つ目は息子の成長の可能性を探り、伸ばしてあげることです。息子は言葉を話すことが困難なタイプですので、発話がほとんどありません。診断された当時は、息子にこちらの話は通じておらず、コミュニケーションはできないものだと考えていました。しかし、息子と一緒に過ごす中で、彼には意思があり、状況や話を理解していることが分かってきました。教えたことを覚えたり、話したことを行動することが少しずつできるようになったからです。少しずつ自閉症を理解をしていく中で、「できるようになるためには、どうすればよいか?」と思うようになっていた私は、「『声』というアウトプット手段が難しいのであれば、他の手段を習得すればよい」と考えました。それから紙と鉛筆で文字を書く練習を始め、今ではパソコンのタイピングの練習をしています。文字にすれば1文で済んでしまう簡単な話ですが、実際は苦節2年程の時を経て今があります。そもそも鉛筆を握れないところから始まり、線をなぞれない、なぞれるようになっても時には完全に無視することがありました。息子の集中力が切れて1枚のプリントを終わらせるのに2時間かかる日も…。でも、諦めずに可能性を頼りに継続して進めてきたことにより、確実に前進しています。実際に息子がタイピングの練習をしている動画がこちらです。私も「タッチパネルの製品を使おう」と言ったり「好きな数字のタイピングから始めてみよう」「文字のタイピングの前にローマ字を覚えよう」という提案をしながら一緒に進めてきましたが、この練習を全面的に支えてくれたのは妻です。妻のひたむきさと息子自身の努力の成果なので、2人に本当に感謝しています。妻と息子が幸せであるために出典 : 私は、父親として妻や息子に幸せであって欲しいと願っています。そして、そのように導くことが使命だと思っています。これらは自閉症とは何ら関係はありません。今は私たち家族に自閉症という要素が入りましたが、それによって妻や息子が不幸になるものではなく、私たち家族がどのように行動するか?ということが少し変わっただけです。どのような状況下にあっても、まずは父親である私自身が自ら心に決めたことを、継続していくことが全てだと感じています。とはいえ実際には自分一人ではやり切れないことばかりです。妻や息子自身、周りの方の協力があって成り立つものですが、まずは紹介した3つのことを大切にしながら、父親としての使命を果たしていきたいと思います。
2018年06月14日「みんなが当たり前にできていることが自分にはできない」「ママ友とよく原因不明のトラブルになってしまう」…。発達障害が広く世間に認知されるようになり、これまでの経験から「もしかして自分も?」などと感じている方も少なくないのではないでしょうか?そんな大人の発達障害(グレーゾーン含む)に悩む人のために、日常生活を上手に過ごすための具体的なノウハウを紹介したのが「ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に暮らすための本」。前回は、片づけやスケジュール管理が苦手なママのための“上手に暮らすコツやツール”をご紹介しました。著書の村上由美さんは、現在は言語聴覚士として活躍されていますが、実は4歳まで音声言語を話さなかったASD(自閉症スペクトラム)当事者です。そして、村上さんの旦那さんも、ASDに加えてADHD(注意欠陥・多動性障害)やLD(学習障害)の傾向もあり、大人になってからようやくそのことに気づいたそうです。そんな、当事者でもあり、家族でもあり、支援者でもあるという村上さんが、三つの視点から編み出した、発達障害の人が日々の暮らしがラクになるためのアイデアをおうかがいしました。お話をうかがったのは… 村上由美さん上智大学文学部心理学科、国立身体障害者リハビリテーションセンター(現・国立障害者リハビリテーションセンター)学院聴能言語専門職員養成課程卒業。重症心身障害児施設や自治体などで発達障害児、肢体不自由児の言語聴覚療法や発達相談業務に従事。現在は、自治体の発育・発達相談業務のほか、音訳研修や発達障害関係の原稿執筆、講演などを行う。著者に「声と話し方のトレーニング」(平凡社新書)、「アスペルガーの館」(講談社)、「ことばの発達が気になる子どもの相談室」(明石書店)、「仕事がしたい!発達障害がある人の就労相談」(明石書店、共著)、「発達障害の人が活躍するためのヒント」(弘文堂、共著)がある。■ママ友の世界は“究極の調整能力”が必要――今回は、ママの世界のコミュニケーションについておうかがいします。というのも、 前回 の片づけのお悩みと同様に、発達障害グレーなママからは、「ママ友とのおつき合いが苦手」という声もとても多かったのです。村上由美さん(以下、村上さん):ママ友の世界は、まさに究極の調整能力が求められますからね。そもそもおつき合いが得意でない人は、ママ友に関しては、自分ができる範囲の境界線を引くことが大切だと思います。ここまでは一生懸命やるけどこれ以上はやりません、などというふうに。もちろん断り方も大事です。「私には関係ないから」みたいな言い方をしたら、当然反感を買ってしまうので、誠意をもって対応すること。でも、それでも相手に伝わらなかったとしたら、それは仕方ないですね。相手によっては難癖をつけるのが目的な場合もありますから。自分には及ばない、できないことは、必要以上に悩んでも仕方ないので、ある程度のあきらめも必要だと思います。――ママ友の世界は、子ども同士が仲が良い、同じ園や学校といった“縛り”があるため、断りにくく感じてしまうお母さんも多いかもしれませんね。村上さん:子どものことを考えると、うまくつき合わざるを得ないのもよくわかりますよ。でも、自分の精神を病んだり、家族に悪影響を及ぼしてまでつき合う必要はないはず。「自分はどれくらいこの人たちと関わりたいのか?」ということを、きちんと見極めることが大切です。また、ママ友の世界しか頭に入らなくなってしまっていると、つい自分の居場所はそこしかないような気がしてしまいがちですが、一歩引いてみれば全然違う世界があるのです。実際、ママ友のことで悩んでいる方は、たいていほかのコミュニティーに入ったり、別の世界を見ることで、解決するケースが多いようです。物事に対する別の尺度が出てくると、気が楽になるんですね。――確かに。ただ、地域によっては、保育園・幼稚園から小学校、中学校まで1つしか選択肢がなくて逃げ場がないなんてケースもあるそうですが…。村上さん:そういう場合は、気が合えばものすごく心地良いんでしょうけど、何かあったら途端にいづらくなってしまいますよね。そうならないためにも、リスクは分散して、いろいろな逃げ場を作っておきましょう。趣味が合う友人や、独身時代の友だちなど、ママの世界とは違う世界のコミュニティーを意識して確保し、自分を一つの世界に閉じ込めないように心がけましょう。今は、SNSなども上手に利用して、自分の趣味や好きなことで仲間とつながって息抜きしているお母さんも多いようですよ。SNSはトラブルになるリスクを懸念する人もいるでしょうが、最初は特定メンバーだけフォローしたり、アプリ設定で制限を設けたりして段階的な導入でリスクを抑えられます。 ■「ほどよいおしゃべり」って、実はとっても難しい――男の人と比べて、「女の人は雑談が得意」などとよく言われますが、おしゃべりがすぎて「つい余計なことを言って相手を不快にさせてしまう」とお悩みのママもいました。村上さん:こういう方は、相手が会話の中で何を求めているのか、上手に察知できないのでしょう。例えば、食事中など第三者がいる場で、人が悩みや愚痴を打ち明ける時は、相手に共感を求めていることが多く、そういった場合に現実的なアドバイスや意見をするのはあまり歓迎されません。でも、ASD(自閉症スペクトラム)の傾向が強い人は、相手が聞き入れる体制にあるかどうかをほとんど考えずに話してしまいがちですし、ADHD(注意欠陥・多動性障害)傾向が強い人の場合は、思いついたことをその場の状況を無視して口に出してしまうことが多いので、相手の感情を害してしまうことが多いです。その場の雰囲気を感覚的につかむことが苦手な場合、まず相手は自分から意見を聞きたいのか、それとも愚痴って気分転換したいのかを観察してから発言するようにしましょう。――具体的な方法としては?村上さん:まず、相手がこの会話で何を重視しているのかを観察しましょう。例えば、ちょっと愚痴りたいだけなのか、何かアドバイスを求めているのかなど。次に、相手の話を黙って聞いてみましょう。今まで見えてこなかった相手の悩みや感情が出てくることがあります。そして、相手が伝えたいことは何か? に焦点を絞って話を聞きましょう。最後に、相手がひと息ついたり、話に区切りをつけるような言葉(例えば「まあ、仕方ないんだけどね」など)が出てきてから、自分の意見を言うようにしましょう。そして、相手が知りたくない、聞きたくないことは極力言わないように心がけることが大切です。――お話をうかがっていると、上手なおしゃべりって、かなり頭をフル回転させねばならない感じですね(汗)。村上さん:言語聴覚士として、言語リハビリや療育支援の仕事をしていると、ご家族から「せめておしゃべりでもできるようになれば」と希望されることが多いのですが、でも、雑談するためには、実はとても高度な情報のやりとりをするスキルが必要なのです。なかでも特に、非言語のコミュニケーション情報を操作するスキルがとても重要になります。会話は突然、主語や時系列、話題が変わるため、文脈から状況を推測する力が必要となり、発達障害の人にとっては難しいことが多いのです。――たわいもないおしゃべりは、誰でも簡単にできると思われがちですが、必ずしもそうではないのですね…。村上さん:最近では、発達障害は広く世間に知られるようになりましたが、言葉がひとり歩きして、「困った人たち」というレッテルばかりが増えている印象もあります。でも、実は一番困っているのは本人ですし、周囲の人も「本人が何に困っているのかよくわからないから困る」という発想の転換が必要なのだと思います。発達障害の人たちが、このようなライフスキルを身につけるためには、幼少期からのトレーニングが必要で、大人になった今はもう手遅れではないか? と思われる方もいるかもしれません。でも、村上さんのお話によると、「本人がその気になった時こそが、実は一番良いタイミング」とのこと。「大人だからこそ、言葉だけで解釈したり、達成度を数字などの尺度で確認できる強みもある」そうです。実際、村上さんは当事者でもあり、発達障害を抱える旦那さまと一緒に試行錯誤を繰り返すなかで、言葉で確認し合える大人同士だからこそ話がわかる面も多かったといいます。何を始めるのにも、遅すぎることはないのかもしれません。参考図書: 「ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に暮らすための本」 (翔泳社)大人になってから発達障害の症状に悩む人が増加しています。ここ10年で「発達障害」の知名度が飛躍的に上がったことで、「もしかして自分も…」と成人になってから気づく人が増えたのが最大の要因と思われます。発達障害の人には、「同時並行作業力が弱い」「段取りが取れない」「ケアレスミスをする」「コミュニケーションが苦手」といった特徴があり、そうした症状に悩む人のために、上手に日常生活を過ごす方法を解説。イラスト/高村あゆみ取材/文:まちとこ出版社N
2018年05月31日行き先の確認は念入りに…「用意周到」を求められるレジャー出典 : 発達障害の息子と一緒に旅行やレジャー施設などに行くとき、私たち家族は常に先回りして施設の特徴を調べ、息子にとって苦痛な刺激がないかどうかを確認します。大きな音や明るすぎる照明がないか。疲れたときに休ませる場所はどこにするか。混み具合はどうか。泊まりにしたほうが良いか日帰りにしたほうが良いか。息子は刺激に弱く、すぐに「疲れた」と言って座り込んでしまいます。そんな息子が無理をすることなく、「楽しかった」と言って終わってくれるようなラインを探ります。こんなとき、「このレジャー施設は発達障害のある子どもにやさしいよ」「このホテルは発達障害の特性に理解があるよ」というようなことが体系的にまとめられている情報があったら、とても助かりますよね。今回、諸外国の事情を調べていたときに、アメリカでは発達障害のある子どもにやさしい施設に認定を与えていることを知ったのです。認定された施設をまとめてくれている「Autism Travel」というページを見れば、ホテルやレジャー施設などの一覧を見ることができます。 Travel - 自閉症者向け旅行サイト(英語)アミューズメントパークとしては初めて!「セサミプレイス」とは出典 : 「発達障害のある子どもにやさしい施設」の認定は、アメリカのIBCCES(International Board of Credentialing and Continuing Education Standards 資格認定・継続教育基準国際委員会:筆者訳)という団体が行います。同団体の定める条件をクリアすると、「認定自閉症センター(Certified Autism Center)」として認められ、レジャー施設やホテルであればAutism Travelのページに掲載されます。この「認定自閉症センター」に初めて認められたアミューズメントパークが、アメリカ・ペンシルバニア州にある「セサミプレイス」です。ここは、アメリカの子ども教育番組「セサミストリート」のキャラクターのテーマパーク。「セサミストリート」といえば自閉症の女の子のキャラクターが登場したことも話題になりましたね。セサミストリートに自閉症の新マペット登場!番組制作の背景は?日本では視聴できるの?アメリカで「認定自閉症センター」として認められるには、働いているスタッフが発達障害についてしっかりと教育を受けている必要があるそうです。では、「セサミプレイス」のスタッフは、実際にどのような訓練を受けたのでしょうか。公式ホームページに記載されている内容によると、スタッフは発達障害の特性にかかわる以下の点について特別なトレーニングを受けているそうです。・感覚刺激に関する認識・運動能力・自閉症に関する基本的知識・各種プログラムの作成・ソーシャルスキル・コミュニケーション・環境設定・感情についての認識また、スタッフがその人の特性に配慮して、乗ることのできる乗り物をピックアップしてくれたり、刺激で疲れてしまった人のためのコームダウンの部屋を準備してくれていたりします。聴覚過敏の人のためにヘッドフォン貸出が行われているほか、パレードでは、身体を触れられることが苦手な人は、キャラクターが直接ハグしたりすることのない列に案内されるのです。セサミプレイスホームページ ー 世界で初めて「認定自閉症センター」に認定される(英語)「分かっている人がいる」という安心感出典 : 今でこそわが家の息子は感覚刺激が不快になると、自分から休憩するようになりました。成長するに従って、自分の限界を認識することができるようになってきたからです。けれども、幼いころはそうはいきませんでした。水族館に行けば、ボヤボヤとした光と、館内から響く独特の音にやられて、床に這いつくばって動かなくなりました。動物園では、動物の臭いにめまいがしてきてしまい、ずっとおんぶで移動したこともあります。顔は真っ青でした。お祭りに足を運べば、太鼓の音と人混みに吐き気がしてしまい、泣きながら帰りました。心配して「どうしました?」と声をかけてくださるスタッフの方もいましたが、「すみません、発達障害で…」と答えても「?」という顔をされることが多かったのです。そうすると、なんだか申し訳ないことを言ってしまったような気分になり、「大丈夫です。ちょっと疲れたみたいで」と、そそくさとその場を去ったものです。そんな時、具体的に何かをしてくれるわけではなくとも、「セサミプレイス」のようにいまパニックを起こしている人が何に苦しんでいるのか「分かっている人がいる」ということ、それがどんなに心強いことか想像に難くありません。私たち親も、特に何かを配慮をしてもらいたいわけではなく、「知っておいてもらえると、それだけで気持ちが楽」なのです。日本にも、このような認定制度があったら、旅行計画をするときに、もっと気楽に楽しい気持ちでできるかもしれませんね。
2018年05月28日