新型コロナウイルス感染症の拡大による緊急事態宣言を受け、日本全国ほとんどの映画館が休館していた時期があった2020年。公開延期などが相次ぎ、平年に比べ、劇場公開作品数が少ない年となりました。そんな中でも、シネマカフェでは映像に関わる方々に取材を敢行。時にはリモート取材となったインタビューもありますが、今年掲載した記事の中から、多くの方に読まれた人気記事をランキングにして発表します!10位:千葉雄大×鈴木拡樹『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』主演に抜擢されたのは、前作で成田凌演じる浦野善治との激しい対決シーンが話題になった刑事・加賀谷学役の千葉雄大。今作では、新たな殺人事件を捜査するにあたり、自分が逮捕した浦野と奇妙な“共闘”関係のような間柄となり、物語の軸を担う。そして、『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』からは、白石麻衣、鈴木拡樹、音尾琢真、江口のりこ、奈緒、井浦新など強力かつ豪華な共演者が顔をそろえた。シネマカフェでは、千葉さん&鈴木さんにインタビューを実施。「撮影以来の再会」とは思えぬほど、話が尽きない様子のふたりは、ときに真剣に、ときに冗談も交えつつ、戯れ合ってくれた。9位:長澤まさみ『MOTHER マザー』気高く・強く・美しい楊端和(『キングダム』)から一変、最新主演映画『MOTHER マザー』で、長澤まさみは瞳を濁らせ、気性の激しい、息子への歪んだ愛を心に宿したシングルマザー・秋子になった。本作で演じた母親という立場について、秋子を通して長澤さんの持つ母親像に変化があったかを尋ねた。「“こういう母親になりたいな”と思う明確なものができたというわけではなく、親もやっぱり初めて親になるわけだから、迷いながらでいいんだろうし、失敗しないのが親ではない、と感じました。お互い一緒に学んでいくのが親子だと思うというか。子どもが初めてすることは、親も初めてだと思うから」。8位:井浦新『朝が来る』役に真摯に向き合う。井浦新ほど、その言葉にぴったりハマる役者はいないだろう。作品ごとに監督と対話をし、役への理解を深めると同時に、どのようにその役に染まっていくかを組み立てていく。ときに感情的に、ときに身体的に。「役や作品・監督によって当然、求められるものは違ってきますが、毎回、同じ熱量でぶつかっていく構えでいます。“てにをは”含め、すべて台本通りにやってほしいと、テクニカルなものを求められるときもあるし、台本より心をそのまま表現してほしいと言われるときもある。僕はどれでも完全燃焼ですし、毎回、同じではないから楽しいんです」。7位:野木亜紀子『罪の声』社会現象とも言える盛り上がりを見せた「逃げ恥」こと「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)や原作ファンから絶大な支持を集めた映画『図書館戦争』シリーズ、「アンナチュラル」「MIU404」(TBS系)など、原作もの、オリジナル脚本を問わず、 次々と話題作を生み出す脚本家・野木亜紀子。人気のマンガや小説の映像化の企画が多くを占める昨今のエンタメ業界ですが、原作のイメージを損なうとたちまち炎上しかねない状況で、野木さんの作品が称賛を集めるのはなぜなのか? オリジナルの作品が多くの視聴者の心を鷲掴みにするのはどうしてなのか――?2016年の「週刊文春」ミステリーベスト10で第1位を獲得するなど高い評価を得た塩田武士の同名小説を原作とした映画『罪の声』の脚本執筆について、創作の裏側に迫る。6位:ポン・ジュノ監督&ソン・ガンホ『パラサイト 半地下の家族』昨年、第72回カンヌ国際映画祭で韓国映画として初めてパルムドール(最高賞)に輝いて以来、数多くの映画賞で快進撃を続け、国内外の興行記録を更新。アメリカでは外国語映画の歴代興収トップ10入りを果たした。いまや、第92回アカデミー賞でも作品賞の有力候補と目されるほどの一大旋風だが、当のポン・ジュノ監督は「まったく予測していなかった事態。いつも通り、淡々と撮った作品ですが、公開後に予期せぬことが次々と起こった。胸躍るアクシデントとでも言うべきでしょう」と笑みを浮かべる。5位:浜辺美波×北村匠海『思い、思われ、ふり、ふられ』浜辺美波・北村匠海といえば、2017年、月川翔監督作『君の膵臓をたべたい』のW主演で第41回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した、ゴールデン・コンビ。実写映画では『君の膵臓をたべたい』以来3年ぶりの共演、さらに、『思い、思われ、ふり、ふられ』は月川監督の師匠にあたる三木孝浩監督が手掛けていることも踏まえると、集まるべくして集まったという言葉が浮かぶ。ふたり揃ってのインタビューは2017年以来となったが、当時、やや固く感じられたような彼らの空気感は、2020年、開放的で明るいムードへと変化していた。浜辺さんが10代半ばから10代終わりへ、北村さんが10代後半から20代へと、年を重ねたことも関係するだろうが、それ以上に、この3年間、多くの現場で培った得難い経験が、うら若きふたりのほのかな自信として、たたずまいを変えたのだろう。浜辺さんと北村さんに、今の心境をインタビューした。4位:宮沢氷魚『his』冷静に自身を分析する宮沢氷魚は、常に穏やかなトーンで話し続ける。身長184cm、「MEN’S NON-NO」専属モデルという人目を引くプロポーション、透明感にあふれるたたずまいも彼の大きな持ち味だ。しかし、それ以上に、自分を過小評価も過大評価もしない真っすぐに生きているスタイルが、多くのライバルがいる若手俳優群の中でも注目を集める存在となっているのだろう。独特の魅力を放つ源泉を探りたくなる。「自分ひとりだけの考え方、生き方、物の感じ方だと、たぶん限界があると思うんです。僕は周りの人たちからいろいろ刺激を受けています。けど、それに流されてはいけないと思っていて、自分という人間を持ったまま、刺激を受けてどんどん自分に着せていくことが大事だと考えています。流されてしまうと自分ではなくなっちゃうし、その人の分身になってしまうから。けど、人から受ける影響は、いいことも悪いことも、すごく素敵だと思います」。3位:綾野剛『影裏』綾野剛にとって演じることは、「生活をするためのものではなく、生活なんです。呼吸するのと変わらないんです」と定義する。そして、過去を見つめ、「自分を救ってくれたのは、唯一、映画、役者であることだった気がします」と希望を見出したことを吐露。「救ってもらったから何かをするわけではなく、応えたいという気持ちは、とっくに超えちゃっている感覚があります。救ってもらうために、最早、映画をやっていないんです」と。1月に38歳を迎えたばかりだが、40代に向けて、綾野さんはどんな進化をしていくのか。2位:岡田健史『望み』デビュー以降、休む間もなく駆け抜けてきた岡田健史。主演作5本に加え、数々の映画やドラマ、CMなどに出演し続け、コツコツ俳優としての研鑽を積んだ。「ひとつ、ひとつの仕事に惜しみなく、すべてを投じています。どんな作品においても、誰よりも語れる自信があるんです。語れることこそが、全力投球してきた証拠だと思っていて。2年前と今で、仕事の熱量はまったく変わっていませんし、むしろ高まっています」。1位:佐藤浩市×西島秀俊×勝地涼×中村倫也×井之脇海『サイレント・トーキョー』「アンフェア」の原作者・秦建日子による小説を、「SP」シリーズの波多野貴文監督が映画化した『サイレント・トーキョー』が、全国の劇場で絶賛公開中だ。「クリスマスイブの渋谷で、爆破テロが起こったら?」という衝撃的なストーリーを軸に、刑事やテロ事件の容疑者、一般市民の物語が交錯していく。シネマカフェでは、テロの容疑者・朝比奈を演じた佐藤浩市、事件を追う刑事・世田とその相棒・泉を演じた西島秀俊と勝地涼、事件の裏で不可解な行動をとるIT起業家の須永を演じた中村倫也、犯人に仕立て上げられるテレビ局の契約社員・来栖を演じた井之脇海の5人に単独インタビュー。1位は12月公開の『サイレント・トーキョー』から豪華キャスト陣が揃った5ショットのインタビューでした。2位は今年数々の作品に出演し活躍をした岡田健史。3位は演じることへの強い責任とこだわりや自分への“甘やかし”について語った綾野剛。そのほか、小栗旬&星野源が初共演した『罪の声』や「逃げ恥」「MIU404」などの脚本を手掛けた野木亜紀子氏のインタビューなどがランクインしました。来年は作り手たちのどんなエピソードが聞けるのか…乞うご期待!(text:cinemacafe.net)
2020年12月31日旬の食材にまっすぐな心で向き合うピュアで美しい料理古屋聖良シェフが料理の道を目指すきっかけになったのは、なんと就職活動の失敗から。「銀行に就職希望でしたが面接にすべて落ちてしまって。それなら“食べることが好きだから”と、料理の道へ進みました」と笑う。しかし、これは料理の神様の導きだったのだろう。彼女の料理に惚れ込んだ大人たちが集う【クラージュ】就職したレストランで、持ち前の真面目さとセンスに目を留めた師の勧めもあり、「サンペレグリノヤングシェフ」コンクールへ出場する。「無理だと思うけれど、世界大会のイタリアに行けたらいいな」と出場した日本大会で見事に優勝。そこから世界大会で上位入賞を狙うべく、メンターの【ナリサワ】成澤由浩シェフとの“血の滲むような”特訓の日々を過ごし、大会に出場。しかし結果は入賞ならず。「心から悔しかったです」。この経験が料理人としての転機となった。まだまだ足りない。もっと世界が見たい。そう思い、オーストラリア・メルボルン郊外の名店【Brac】へ働きに行く。そこでは、採れたての食材を使う素晴らしさ、盛り付けの美しさなど様々なことを吸収して帰国した。『タイとほおずきのタルタル』。魚とフルーツは古屋シェフが好きな組み合わせ。「今の季節のほおずきの香りと酸味がタイとよく合うと思いました」シェフとして考えることは、「とにかく、おいしいものをつくり、来ていただくお客さまに喜んでもらうこと」。謙虚で口数が少ない古屋シェフだが、丁寧につくる料理からは、彼女の食材や料理への愛が冗舌に溢れている。スペシャリテ『鴨と黒トリュフのサンド』。自家製パンに鴨の旨みと黒トリュフの香りが染み込みワインがすすむ。鴨は古屋シェフがコンクールで優勝したときのテーマ食材。コース15,000円~国内外の経験を生かし、旬の食材にまっすぐな心で向き合うピュアで美しい料理は、遊び慣れた大人が集う【クラージュ】の常連ゲストの心を、早くもつかんでいる。courage【エリア】麻布十番【ジャンル】フレンチ【ランチ平均予算】5000円【ディナー平均予算】30000円【アクセス】麻布十番駅 徒歩7分
2020年12月20日「アンフェア」の原作者・秦建日子による小説を、「SP」シリーズの波多野貴文監督が映画化した『サイレント・トーキョー』が、全国の劇場で絶賛公開中だ。「クリスマスイブの渋谷で、爆破テロが起こったら?」という衝撃的なストーリーを軸に、刑事やテロ事件の容疑者、一般市民の物語が交錯していく。シネマカフェでは、テロの容疑者・朝比奈を演じた佐藤浩市、事件を追う刑事・世田とその相棒・泉を演じた西島秀俊と勝地涼、事件の裏で不可解な行動をとるIT起業家の須永を演じた中村倫也、犯人に仕立て上げられるテレビ局の契約社員・来栖を演じた井之脇海の5人に単独インタビュー。「ネタバレあり」で繰り広げられる、濃密かつ大ボリュームの座談会をお楽しみいただきたい。見えないパートを想像すること――それは映画の“嘘”でもあり面白い部分――『サイレント・トーキョー』には、各々の独立したパートが徐々に1本に収斂していく快感がありますが、演じ手としては出ずっぱりではないぶん、難しさもあったのではないかと思います。佐藤:ぶっちゃけてしまうと、僕の役はその中でも“フック”だったんですよね。本作に関しては、それぞれが観客に対して、ある種のミスリードを誘う役割を担っていました。そして、これはなかなか難しい。観客をうまく誘導していくとなると、役に対する整合性というか、真摯な向き合い方を1回外さなければならないわけです。――役としての思考と、俯瞰して物語全体を見る思考の2つが生まれてきますね。佐藤:そう。さらに本作では、全体の長さを99分にするために、役の色々な背景を敢えて外している。そうすると、背景が見えないことが、いい意味で「ミスリード」を成立させていくことにもなるんです。西島:台本を読んでいても、「実際どういう作品になるか」は、他の作品に比べてはるかに見えなかったですね。それぞれのパートで作品に関わってはいますが、僕は自分のパートという一部分しか見られないため、そういった意味では完成品を観て「ああ、こういう映画だったのか!」と改めて知る、新鮮な驚きがありました。勝地:西島さんと僕が演じた刑事は、自分たちが「こいつが怪しい」と思った人を追っていくポジションなので、どちらかといえばお客さんに近い目線だったかもしれません。だから僕の中では、容疑者を追い詰めていくことを大事にしていました。真っ当に刑事として向かっていくことを意識して演じました。中村:僕が演じた須永は、前半と後半で印象がねじれていく役でした。(佐藤)浩市さんがおっしゃったようなミスリード的な部分でいうと、観る人の「この人は何なんだろう?」という心をずっと引き付けていくミステリアスさが、まず必要なものとしてありましたね。それに須永の探求している一本の軸があり、その役割も全うしつつ、順を追って観ていくと「実際はどうだったのか」や「どういう欲を持って行動していたのか」と符合がいき、そこから推進力で引っ張れるような…そんな役割を意識しながら、役作りを行いました。井之脇:僕は来栖という役を演じることでいっぱいいっぱいになっちゃっている部分もあったのですが、波多野貴文監督が「来栖としてはこうだけど、映画としてはお客さんはこういうことを経験しているから、来栖もこういう在り方でいてほしい」と伝えてくださったのが大きかったですね。見えないパートを想像すること――それは映画の“嘘”でもあり面白い部分だと思うのですが、お客さんのことや、他のパートをどこか感じながら作っていくのがすごく面白かったです。――波多野監督は「本作は、それぞれの人物に二面性がある」とおっしゃっていました。どの人物に感情移入するかで見え方が変化する作品でもあるかと思いますが、その点について、佐藤さんはどうお考えでしょう?佐藤:お客さんというのは二通りいて、自分に近しい人間に感情移入をすることによって物語に寄っていくタイプと、あくまで俯瞰視して、自分自身は物語の外に置いておいて観るというパターンがありますからね。特にサスペンスだと、俯瞰視して観たくなるのが人情じゃないですか(笑)。それ以外だと、自分を映画の中に置いて、「自分がどう思うか」という風に観たほうがわかりやすいところはありますね。そういう意味では、今回はお客さんのスタンスによって見方が変わる気はしています。それぞれの共演を振り返る――非常に興味深いお話です。本作は演技対決も魅力ですが、佐藤さんと中村さんはかなり重要なシーンで共演されています。お互いに、どのような感想を持ちましたか?佐藤:電話での受け答えのシーンが印象的でしたね。中村くんの芝居が、いい意味で乾いていて。ここをウェットな感じでやってしまうと、いままで積み上げてきたものがなくなってしまうなか、「そうだよな、それしか言えないよな」という絶妙な具合でした。本当はお互いもうちょっと踏み込みたいんだけど、それができない不思議な距離感があって、面白かったですね。中村:須永が抱えているのは「家族」の遠い記憶なんですよね。いくつか思い出もあるけれど、きっとそこから塗り替えられている部分もあるんじゃないかなと思います。記憶って、劣化したり美化したりするものじゃないですか。とはいえ鮮明なポイントはあるだろうなと思いながら、「さてどうするか」と一生懸命考えていきました。なんだか不思議な感覚でしたね。台本に書かれていないシーンが、浩市さんと対峙した瞬間にふわっと頭の中によぎったんです。それは、自分のリアルな経験から来ている部分もあるでしょうし、よぎったといってもおぼろげで具体性がなく……何とも言い難い体験でした。須永にも、様々な事情や想いがあって、演じているこちらとしても「これがこうでこうなる」という理論立てたものとはまた違った、それでいて妙な実感があったシーンでした。――西島さんと勝地さんは、刑事役でバディを組んでみて、いかがでしたか?西島:勝地くんが演じた泉は、一見すると本人がもともと持っている明るさや、前向きなエネルギーが出ていたと感じるかと思うのですが、それだけではないんです。「爆破テロに巻き込まれる」というすさまじい体験をすることで、それを境にすっかり人間が変わってしまう。劇中でははっきり描写はされていないのですが、勝地くんと芝居をする中で、泉のそれ以前とそれ以後を目の当たりにし、「こいつは変わってしまった」とはっきり感じられました。タフな人間であっても、人生や人格が変わってしまう。それを提示して見せた勝地くんの陰と陽の両方を持っている部分が、すごく魅力的でしたね。もっと共演したいです。勝地:僕は「バディ感」を出すのがすごく大事だと思っていて、初日からリハーサルをやりながら、2人にとっての「いつも」を作り出せるようにしました。たとえば、泉が世田を探しているシーンで「またここか…しょうがないなぁこの人は」という感じを出してみて、「2人の関係性っていつもこうなんだろうな」と見せる。そして、「俺が喋ってるのにこの人、まだタバコ吸ってるぞ…」と思いながら(笑)、空気感を作っていきました。西島:(笑)。勝地:自分の中では、泉が明るいキャラクターだから世田とバディを組んでいてきっと世田に対して「俺が面倒見てやるか」と思っている感じがしたので、そういった解釈を表現したつもりです。――映るシーンが限られているからこそ、しっかりと関係性を伝えられるように努力されていたんですね。勝地:そうですね。現場ではずうっと西島さんを見ていました。一同:(爆笑)。勝地:いやでも、それくらいしないと駄目だと思っていたんです(笑)!撮影も飛び飛びだったから、僕も必死でした。ちょっと気持ち悪いですけど……(笑)。――(笑)。井之脇さんは、石田ゆり子さんと共演されたご感想をぜひ、教えてください。井之脇:僕自身が演じた来栖に関しては、「自分も爆発に巻き込まれたらこう変化するだろうな」というリアルを追求しつつ、そこにフィクションの要素も入れて、変化にグラデーションをつけられるように、とは考えていました。石田さんが演じる山口アイコとは一緒に事件に巻き込まれるから、どこか心のよりどころにしていた部分はあったんです。でも芝居をしている中で、山口アイコとしての“熱”がふっとなくなる瞬間があって、ちょっと驚いたんです。現場にいるときは僕も来栖として「どうしたんだろう?」と不安になったのですが、完成した映画を観たら「そういうことか」と合点がいきました。アイコにも様々なことが降りかかって、その都度変化していく。観客として観たときに、そんな彼女の“道筋”を感じられたんですよね。「そうか、だからあのとき熱が消えたり、距離が遠くなったりしていたのか」と発見がありました。石田さんに引っ張られて自分の演技に変化が起こった部分もたくさんあったので、改めて、石田さんのすごさを感じましたね。本当に助けていただきました。“日本国民”が大事な登場人物――皆さんのお話を伺っていると、「自分が演じる役」という主観と、「作品全体の動き」という客観を常に意識されながら演じていたことが伝わってきます。そんな皆さんが“集結”する瞬間が渋谷のスクランブル交差点における爆破シーンかと思いますが、参加された感想を教えてください。足利に原寸大のセットを作って撮影したそうですね。西島:足利のセットはもちろん原寸大で地面はあるんですが、グリーンバックの部分もあるんですね。だからこそすごいと思ったのは、毎日千人以上のエキストラの皆さんが、渋谷のスクランブル交差点をイメージして演技をされていたこと。ここで爆破があって、衝撃がこっちからこう向かってきて…ということを想像しながら、大量の人間が一斉に動く。もちろんその前から、渋谷のクリスマスイブの楽しい雰囲気を作っておいて、それが一気にとんでもない世界になる、という落差を見せる。この規模でよくできたな…というのが、正直なところですね。CGでいくら作りこんだとしても、そこにいる千人以上の人々が「渋谷の空気」をイメージできていなければ、絶対そうは見えなかったわけですから。撮影は何日もかかって本当に大変でしたが(苦笑)、参加してくださった皆さんに「ありがとうございます。本当に楽しかったです」という思いがありますね。勝地:爆破があった後のシーンでは、エキストラの皆さんがそれぞれ「どういうけがをしたのか」「何を感じているのか」を想像しながら芝居されていましたよね。僕自身も爆破に巻き込まれてしまって…という状況で演じているなか、目の前で多数の人々がそれぞれ違った芝居をしているのを見て「いま、すごい現場にいるんだ」と思いました。西島:セリフも、皆さんがご自身で考えていたよね。勝地:すごかったですよね。這いずりまわる人がいたり、立とうとする人や動かない人がいたり…。これまでにない経験をさせていただきました。中村:出来上がったものを観たときに、渋谷でこんな大規模なシーンをたくさんの人を動員して撮っている“光景”を今まで観たことがなかったから、驚きが大きかったですね。「これ本当に渋谷で全部撮ったんだろうな」と思っていて、あとから「足利で撮った」と聞いてびっくりするんじゃないかと感じるほど、説得力のある仕上がりでした。あと、スクランブル交差点に集まっている人たち…つまり“日本国民”というものが、大事な登場人物の一つである気がしています。それぞれは一人ひとりの個人ですが、集まった際のマジョリティというか群像というか、それがこの映画のテーマを象徴する大切な存在だと思っています。西島さんがおっしゃる通り、それを成立させるのは並大抵のことじゃないですよね。グリーンバックに囲まれて、役者ひとりが想像力を働かせて芝居する×何千をやっているわけじゃないですか。このシーンを撮られたことが、作品にとってすごく大きかったんじゃないかと思います。――西島さん・勝地さん・中村さんは実際にスクランブル交差点の“中”にいましたが、井之脇さんはその光景を別の場所から見ているポジションです。井之脇:はい。僕はビルの屋上から眺めている設定でした。あのシーンも実はセットを作って、グリーンバックで撮っています。中村:『バットマン』みたいでカッコよかったよね。ゴッサムシティだ!と思った(笑)。西島:あのシーンは僕も参加しましたが、撮っているときはあんなに高いビルの屋上になっているとは思わなかったですね。井之脇:本当にそうですよね。僕もなかなか想像がつかなかったのですが、先に足利ロケが終わっていたため、撮り終えた映像を波多野監督が見せてくれたんです。まだエフェクトを付ける前で、爆破もないしグリーンバックなのに、参加されていた皆さんが「良い作品を作ろう」という共通意識を持っていたからこそ、渋谷の街や爆発が見えてきて、とても助けられました。「役を引きずる」かは時代やシステムによる?――佐藤さんにぜひお伺いしたいのは、本作における娯楽性と社会性のバランスについてです。本作はノンストップサスペンスかつアクション大作でありつつ、「渋谷で爆破テロが起こったら?」というリアルな恐怖がありますよね。佐藤:やはり大きいのは、「何が起きても不思議じゃない」というリアリズムを、昨今誰もが思うようになったということですよね。僕らはフィクションとして、「こういうことがあったら怖いよね」という思いの中でこの映画を作ってはいるけれど、ただ「あるかもしれないよ」といくら声高に言ったとしても、これが観た方で現実的に感じられるかは、別問題ではあると思います。しかし、いまの世の中の感覚だと、本作で描かれることが「あっても不思議じゃない」と思えてしまう。それこそが恐ろしいし、どこか気味の悪さを感じてしまいますね。――なるほど…ありがとうございます。本作では皆さんが鬼気迫る演技を見せられていますが、これまでに「役を引きずる」経験はありましたか?佐藤:若いときはありましたね。やっぱりどこか持って帰らないと、次の朝現場に来たときに切り替えるスイッチングがまだ、自分の中でうまくできない時期がありました。それが、何がきっかけというわけではないけれど、経験則の中で変わってきた。スイッチングできないとメンタルがもたないから、「できるように」というより「するように」なりましたね。逆に言うと、いまはカットとカットの間でスイッチングするから、周りの役者が迷惑そうな顔をする時があります(笑)。西島:僕は昨日の夜に広島から帰ってきたんですが、絶賛引きずり中です…。また数日後に現場に戻ります。久々に引きずっていて、困っています(苦笑)。――なんと!佐藤:きつい役なんだ。西島:そうなんです。毎日、涙がこぼれそうです…。勝地:そんな話をされた後に言いづらいんですが、僕は役を引きずったことがないです(苦笑)。一同:(笑)。勝地:もしかしたら引きずっているのかもしれないけど、勝手に「スイッチングできてる」と思っているタイプだから(笑)。そのほうが楽なのかもしれないですね。なんかすみません…。西島:いやいや、いいことだよ。中村:僕も引きずることはないですね。たぶん、僕と勝地はバカなんだと思います(笑)。勝地:(笑)。中村:僕らには繊細さがあまりないんじゃないかな…。――それぞれの役者さんのスタンスや、作品によっても変わりますよね、きっと。中村:そうですね。あえて日常生活に役を入れてみることはあります。それでどうなるか見てみたくて。でも、引きずるということはないかな。井之脇:僕はどちらかというと引きずらないようにしています。いまはどうしても複数の作品を縫わなければならないので、引きずるとつぶれてしまうんですよね。お風呂に入って寝て、日常に戻ってリフレッシュするようにしています。佐藤:時代もあるんじゃないかな。その時々の撮影のシステムで、変わってくる部分もある。僕が若いときは、ワンカット撮るのにアップで30分、引き画で長回しだと、モニターもないから準備に1時間かかるんですよ。その間に役者が何をやっているかというと、とにかくずっと稽古をしている。そうやって役が刷り込まれていくんですよね。すると、引きずる度合いも増えてくる。今はテストは1回2回ですぐ本番に行く、というシステムですよね。役者にとって「行ける」なのか「行かせる」なのかはわからないけど、どっちが悪いかではなくて、そういった違いに依存する向きはあるように思います。(SYO)■関連作品:サイレント・トーキョー 2020年12月4日より全国にて公開Ⓒ2020 Silent Tokyo Film Partners
2020年12月17日SNSでは埋められない孤独や、仕事に対する不安を抱える男女が、葛藤しながらも過去を受け入れ前進する姿を描く映画『パリのどこかで、あなたと』が、12月11日(金)より日本公開。この度、公開に先駆けて、本作の監督セドリック・クラピッシュと主演のアナ・ジラルドが、舞台となるパリや演じた役柄についてインタビューで明かした。本作は、パリの隣り合うアパートメントでひとり暮らしをしている30歳のメラニーとレミー、不器用な男女の出会いを描くフレンチ・ラブストーリー。メラニーは元恋人との恋愛を引きずりながらも仕事に追われる日々を過ごし、一方、レミーは同僚が解雇されるも自分だけ昇進することへの罪悪感とストレスを抱えていた。その影響からメラニーは過眠症に、レミーは不眠症に苦しむ日々が続き、それぞれセラピーに通い始める。都会の喧騒の中で、同じ電車に乗り、同じ店で買い物をして、同じように孤独を埋められない2人は、道ですれ違うことはあっても知り合うことはない。そんな2人の人生が交わることはあるのか、その出会いは2人の人生を変えるものとなるのか…というのが本作のあらすじ。『おかえり、ブルゴーニュへ』以来のタッグとなった2人。“都会に暮らす大人”たちが抱える悩みや寂しさを、丁寧に映し出していく本作でアナが演じているのは、がんの免疫治療の研究者として働く傍ら、プライベートではマッチングアプリで一夜限りの恋を繰り返し、ありのままの自分をさらけ出すことができずに悩む女性メラニーだ。またレミーは、日本でも注目度上昇中のフランソワ・シヴィルが演じている。――メラニーに共感できたところはありますか?自分とは違うと感じたところはありますか?アナ:最初は自分とは全然違うと思っていました。人生に対する態度が私とは真逆だったので。ただ、次第に好きになってきて、なんというか、劇中のように彼女を許せるようになったとでも言うのでしょうか、弱点を強みに転じることを学びました。撮影中に友人たちと役についてストーリーについて話したんですが、彼らの中でもメラニーと同じような態度や反応、自分で自分を苦しめるような悩みを抱えている人が多かったんです。セリフが自分の中に少しずつ染み入って、作品が公開された1年ほど後になって、やっと映画で語られていたこと、起こったこと全てを分かった気がします。友人たちにも「この映画を観て欲しい。もしその時メッセージがわからなくても、とばさずに観て欲しい。あなたの中に残って、そのうち意味に気づくから」と言いました。作品の中で選ばれている言葉はとても強いパワーを持っているから。――『おかえり、ブルゴーニュへ』以来のタッグ。また一緒に仕事をされてみて、どうでしたか?クラピッシュ監督:また一緒に仕事ができて嬉しかったです。映画を一緒に作ったメンバーは、バカンスを共に過ごしたグループや小さなファミリーみたいなものなので、離れると寂しいですよね。アナとは家も近いし、友達だから、その後もプライベートで会っていますけど、仕事で会うのはまた違う喜びですよね。フランソワとアナとまた働きたいと思ったのは、職業に対しての構え方、考え方が似ているからだと思います。アナ:私たちは自分の仕事、映画への強い愛を持っていて、その愛をスクリーンに映し出そうとベストを尽くします。芸術的で、クリエイティブな仕事だということを意識していますし、仕事を遂行するには真面目にやらないといけませんが、そもそも映画は人生、人々、人間について語っているので、そんなに上から物事を見る必要はなくて、一緒に笑うこと、よい雰囲気で仕事することがとても重要なんです。「セドリック・クラピッシュ監督との仕事はどう?」とよく訊かれます。映画業界の人はみんな、セドリックの作品はそういうユーモアのある、家族みたいな雰囲気で作っているという噂を聞いていて、フランス映画界のレジェンドみたいになっています(笑)――撮影中の印象的だったエピソード、撮影現場の雰囲気について教えてください。アナ:たくさんありますが、アパート全部が大きなスタジオの中にあったことですね。アパートのインテリアも細部まですごくよくできていて、ペンキや質感も本当のアパートのようで。思わず窓を開けてバルコニーで外の空気を吸いたくなるような。実際は開けてもスタジオの中なんですけど(笑)あとは『おかえり、ブルゴーニュへ』でもしらふと酔っ払いの間を演じましたが、今回は泥酔したメラニーを演じて、ああいう状態の演技を追求するのはとても面白かったです。クラピッシュ監督:スタジオに関しては色々ありますね。パリの典型的なアパートをスタジオに再現しましたが、メラニーのアパートは、インスタグラムで見つけたブロガーの写真を沢山ミックスしたインテリアで、若い女性の理想のアパートを作り上げたんです。あまりに理想的すぎて、アパートの部屋に入ると皆出たがらず、もう出てくださいと言わないといけなくて、ベッドルームはみんな本当に気に入ってしまって(笑)。なので現場の雰囲気はとても良かったです。スタジオでの撮影ならではのおかしな点もあって。例えばメラニーが妹に手を振るシーンは、妹の乗った列車がアパートの前を通過して行くんですが、スタジオなので列車の代わりにスタッフが前を歩いて横切っていて、それを見ながらアナが手を振るんです。シリアスな演技をしないといけないシーンなのに、みんな大笑いしそうになってました(笑)――本作の舞台、パリとはどんな街ですか?クラピッシュ監督:パリは変化し続ける街で、そこが好きです。パリの「変化」には2つあります。パリは色んなカルティエ、地区がある都市で、東京も似たところがありますが、銀座、表参道、渋谷、みんな違いますよね。パリも、サン=ジェルマン、モンパルナス、モンマルトル、アナや私が住んでいる11区も、それぞれ別の都市かというくらい、全く異なります。そういうパリの中での変化が好きです。私が16区やシャンゼリゼに行けば、うちの近所とは別の国に行くくらい違って、旅しているような気分です。もう一つの変化は時間によるものです。変わらない部分は心地よいですが、それでも街は変わっていきます。ルーブル美術館やオスマン様式の建物などずっとそこにある建築物とは裏腹に、人々の生活は変化していきます。日本もそうですが、パリには優れた伝統や長い歴史があり、同時に力強い現代性もあります。多くの人はその2つは相対するものだと思っていますが、実は共存します。例えばファッションウィークのようなモードの世界では、優れた過去、長い歴史がありますが、同時に今を表現するクリエイティビティもあり、著名デザイナーも常に日常に変化をもたらしています。シャネルやディオールなどの老舗ブランド、フランスの若手のクリエイターも、モードの歴史をリバイバルさせることもあれば、現代性のあるものを創り出すこともあります。私はパリのこういうところが好きなんです。力強い歴史があり、力強い現代がある、矛盾するようにも思える反対のものが共存する街なんです。アナ:セドリックの後に話すのは難しいですね(笑)。私はパリで生まれて、8回引っ越したので、右岸にも左岸にも、色んな区に住みました。この間、街を歩いていたら、ちょうど陽が落ちるところで、セーヌ川がオレンジ色に染まっていて。ポンデザール橋を渡っていた人々も橋の途中で足を止めていました。見ごとな空の色に、心地良い気温、カモメが空を飛んでいて。今は通りも人が少ないので、街は芸術品のようで、荘厳でした。長い歴史で多くの出来事を見てきた永遠の街、世界一美しい街に住んでいるんだと、ふと思い出した瞬間でした。多くのパリジャンはその素晴らしさを忘れてしまっているんですけど。――マッチングアプリで出会い、デートをするシーンが登場しますが、コロナ禍で人との関わり方はさらに変化していくと考えますか?また、監督自身の作品にも、コロナ禍の変化は影響を与えると考えますか?クラピッシュ監督:もちろん影響はあると思います。世の中の全ての出来事が影響します。私たちは今、全世界的に危機に直面していて、それはもちろん私たちの行動を変えると思います。怖いし、奇妙ですよね。例えば、フランスで6か月前に生まれた子どもは、マスクをしている人しか目にしていないんです。人の顔の半分しか見えなくて、そもそも人ともあまり会いもしないし、みんな人に触ることを避けるんですから。子どもたちにどんな影響を及ぼすのかわからないですよね。今となっては十人くらいがハグしあっているシーンなんて、「なんだこれ、変なの!」と思いますよね。カップルがキスするシーンだって、意味が違ってきます。そもそも人間にとって他者との接触は怖いものなのに、この病気でその恐怖は更に増大したわけです。不安ですよね。そういうわけで、私はむしろみんながハグする映画を作りたいんです。マスクなしで!(笑)1月に次作の撮影を開始しますが、通りのシーンでみんなにマスクをさせるかどうか考えて、マスクなしにしました。なので、エキストラも含めて通りの人たち全員、マスクなしです。ある意味、時代物みたいですよね、コロナの前と同じようにするので。これは演出において、とても重要な選択でした。コロナの話をしないし見せない、ということですから。私にとって、マスクをして人を遠ざけるということは、映像の概念を邪魔する、非人間的なものだと思ったのです。――公開を楽しみにしている日本のファンへメッセージをお願いします。クラピッシュ監督:この映画は、パリを旅行するのにちょうどよい方法です。今、なかなか本当の旅行は大変ですからね(笑)よくこれはロマンチックコメディかと訊かれるんですが、普通とは違ったタイプのロマンチックコメディだと思います。ロマンチックコメディというと、最初は仲の悪い2人が最後はくっついたりしますが、この映画ではラブストーリーをいつもとは全く違う方法で描いています。なので、日本の方には、パリが舞台、普通と違うラブストーリー、という点で気に入ってもらえるのではと思います。アナ:パリの物語ですが、東京も大都会なのでこういう関係はありうると思います。「近所の人が自分の探している男性じゃないかしら?」と。(cinemacafe.net)■関連作品:パリのどこかで、あなたと 2020年12月11日より全国にて公開© 2019 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURE - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA
2020年12月10日吉田羊、永山絢斗、滝藤賢一、光石研、三浦友和が豪華共演する大ヒットクライムサスペンスシリーズ待望の第3弾、「連続ドラマW コールドケース3 ~真実の扉~」の放送がスタートした。<シーズン3>となる今作では、石川百合(吉田)率いる神奈川県警捜査一課チームの結束力はさらに高まり、闇に葬られた悲劇的な事件の真実が続々と明らかになり、今まで語られることがなかった<個々の物語>も展開していく。その放送を記念して、映画『サイレント・トーキョー』も公開中の波多野貴文監督にインタビュー。シリーズ史上最大のスケールとなった<シーズン3>について、そして本シリーズの魅力について語ってもらった。刑事たち5人がメインキャスト――いよいよシーズン3 の放送ですが、今の心境はいかがですか?まさにいよいよという感じですけど、コロナがあったのでものすごく長い期間携わっていた感じがしますね。2か月ほど中断しましたので。そのせいか、より愛おしい感じです。細かい仕掛けに気づいてくださるかなあというわくわくとどきどきも(笑)。冒頭のダーツのシーンも別の話に繋がってます(笑)。――今回、そういう小ネタや伏線は意図的に増やしたのでしょうか?そうですね。でも撮りながら工夫して増やした感じですね。シリーズが続いてるので、安心してできる仕掛けではあります。マンネリ化しないようにと。――その意味で、今回の演出で一番こだわったところはどこでしょうか?難しいですね(笑)。全部で10本で、僕は5本分ですけれど、過去の事件を掘り起こした際に、当時の社会環境とは適度な距離を保っている刑事たち5人がメインキャストなわけです。その入り込み具体と仕事として距離を取っている姿勢については、いつも気にかけています。もともとはサラリーマン刑事を目指していたので、事件バカになりすぎないようにしたかったんです。刑事であることが人生の全てではなく、普段の生活もありつつ捜査もしているところもあるはずで、しかも5人いれば5人の人生がある。そこはこだわったところです。あとは視聴者の方々の目線を大切にしていますね。こちらの独りよがりにならないことを心がけています。――そのニュアンスは、5人のみなさんとどう共有したのですか?何をもって正解かは本当に難しい作業なので、撮影の時のディスカッションでお話をするしかないんですよね。みなさんの心のひだの奥にあるものが表情に出て、それを上手く画におさめて伝えられればと思っていました。ただ、WOWOWさんのいいところは、視聴者のみなさんが観ようと思って観てくださっていますよね。なので、ただ流しているのではなく、しっかりと受け止めていただける視聴者の方々が多いので、彼らの表情やセリフの端々とうとうで、事件に対する距離感や、この想いは伝わるのではないかって、勝手に思ってはいます(笑)。――最終話まで、丁寧な演出がどう映像になっているのか楽しみです!いえいえ、監督ってね、何の技術もないんですよ(笑)。カメラマンは画を切れる、編集マンはカッティングできるし、プロデューサーはキャスティングできるし脚本も作れますが、監督はメイクもヘアセットも美術のデザインも演技もできない。何にもできないわけですよ。なので、みんなの持っているモノをよりよく引き出す事が自分の出来る事なんです。みんなにより気持ちよく仕事をしてもらうことを考えますよね。なので、現場ではなるべく笑顔でいる事につとめてます(笑)。初めての人も楽しめる、おすすめのポイントは?――今回シーズン3まで来ましたが、初めての人にはどうおすすめしますか?ありがちな説明でいいですか?(笑)。当時の自分を思い出しながら、あの時期にこんな事件があったのかもと楽しめる作品だと思います。過去の未解決事件を扱う作品なので、現代パートは最新のカメラで撮影していますが、過去は白黒フィルムということで当時の民生機を使って、その時代を回想させる撮影しています。それと当時流行った時代曲を使っているので、そういうところも特色だと思います。時代が異なるので同じキャラクターを別々の俳優さんが演じることが多くて、入れ替わるシーンもコールドケースならではのカットです。なにより豪華キャストが次から次へ出てきまし、謎解きも楽しめます。泣ける回もあればサスペンスが楽しめる回もあり、バラエティー豊かですよね。コールドケースはレギュラー5人がいながらも、各話の主人公は事件を起こした人や加害者、または被害者なんです。ですから、毎回違う話を観ているような面白さはあると思います。長く観ていただいている人には、5人の関係性が見えてきたり、それぞれ5人が抱えているものが何かあるということも見えてくる面白さもあると思いますので、初めての人もそうじゃない人も、ぜひ注目してください!「連続ドラマWコールドケース3 ~真実の扉~」12月5日(土)より、 WOWOWプライムにて放送スタート毎週土曜22時~全10話(第1話無料放送)(C) WOWOW/Warner Bros. Intl TV Production(Text:cinemacafe.net/Photo:Maho Korogi)
2020年12月08日映画、ドラマ、舞台と幅広いジャンルで活躍し、出演作も多い女優・吉田羊。コミカルからシリアスまで、演じるキャラクターにしっかり感情移入できる芝居は、制作陣からも高い評価を受けている。そんな吉田さんが「私にとってのホーム」と特別な作品と位置づける「連続ドラマWコールドケース」シリーズ。最新作「連続ドラマWコールドケース3 ~真実の扉~」では「もしかしたら最後かもしれない」と複雑な思いで現場に臨んだ。しかし、だからこそ見えてきたものも非常に多かったようだ。今回が最後かもしれない……という思い吉田さん演じる神奈川県警捜査一課の刑事・石川百合をはじめ、同じ課に属する同僚を演じた永山絢斗、滝藤賢一、光石研、三浦友和の痛快なチームワークと、そんなメンバーたちがスリリングに事件を解決していく描写が魅力の本作。2016年にシーズン1が放送されると、大きな反響を呼び、シーズン2が2018年に、そしてシーズン3が今年放送されるなど、人気シリーズとなった。吉田さんは「台本を読んだとき、これまでのシーズンとは違う感覚がありました」と語り出すと「いままでは次があるような終わり方だったのですが、今回はなんとなく最後かもということを意識するような感じだったんです」と率直な感想を述べる。「もしかしたら今回で『コールドケース』が終わるかもしれない」という思いでクランクインした吉田さん。そのため、各シーン一つ一つが「とても愛おしくて、終わるたびに泣きそうになってしまいました」と撮影を振り返る。役と自分の境目が分からなくなるほどのめり込んだ吉田さんにとって百合という役は「私の一部になっていて、撮影が終わっても自分のなかに内包されている感じ」というほどで、役と自分の境目が分からなくなるほどのめり込んだキャラクターだったという。ただですら思い入れが強い役。さらに今回は「最後かも」という思いが心の片隅にあった。「それを意識していたからかどうかは分かりませんが、いままで百合さんだったら抑えていただろうなという感情に対して、しっかり弱さや怒りを出せたような気がします」と百合自身の変化を述べる。そこには、捜査一課のメンバーたちへの信頼感も大きかった。「本当に5人のバランスがいい。このドラマって、ゲストの方たちが主役であり、彼らの思いをすくい取っていくのが、私たちの役目。皆さん暗黙の了解でそれがわかっている。誰一人『俺が、俺が』という人がいないんです」。作品はみんなで作るもの作品のために――。キャスト、スタッフ皆が持つ共通認識。互いを信頼し尊重し合う関係。吉田さん自身も「お仕事をいただくことが困難だった時期は、作品に出演するだけで嬉しかったし、出たからには爪痕を残さなければいけないという思いが強かった」と語ると「でもやっぱりモノを作ることって一人ではできない。作品を重ねるごとに、その思いは強く感じられるようになりました。当たり前のことなのですが、その当たり前を、皆さんが普通にやっている現場は素敵ですよね」と笑顔を見せる。吉田さんにとって、捜査一課の同僚たちはマスト。絶対に欠かせない存在だという。「第2シーズンのお話があったとき、私はプロデューサーさんに『もしこの先シリーズ化することになっても、新鮮さを求めてメンバーを入れ替えたり、追加したりすることはやめてほしい』とお願いしたんです」。百合さんは一生演じていきたい役本作は、新型コロナウイルス感染拡大の余波を受け、約2か月間撮影が中断した。再開後も、感染症対策を徹底することをはじめ、以前とは現場も大きく変わった。「どうなってしまうんだろうという思いはありましたが、現場に戻ると自粛前と変わらない皆さんがいました。逆に『絶対撮り切るんだ』という強い熱意がすごく、そういう空気を感じていると、いい意味でこだわりの強いプロ集団であるこのチームで撮影がしたい、絶対終わらせたくないという気持ちが湧いてきました」。いまや作品が途切れることない売れっ子女優であるが、自粛期間を経ての現場では「これが最後になるかもしれない」という危機感を意識するようになったという。一方で、大泉洋さんとリモートで芝居をした「2020年 五月の恋」など、こんな時期だからこそという発想でできあがったドラマも誕生した。「どんな状況でも発想の種は転がっているなと。作品を観て『面白かった』と言っていただけた方もいて、改めてエンターテインメントの力を再認識させられた時間でした」。知恵とアイデア、チームワークで、高いクオリティを保ったまま完成した「コールドケース3 ~真実の扉~」。これまで数々の作品で印象に残る演技を披露してきた吉田さんにして「『コールドケース』は私にとってのホーム。戻るべき場所なんです」と断言する。ほかの作品を撮影していても、「コールドケース」に戻ってくればホッとする。続編が決まれば、それがモチベーションとなり、別の仕事も頑張れる――。「百合さんは私がやった役のなかで、その後の人生が観たいと思える数少ない役柄なんです」と特別な存在であることを明かすと「できるなら一生百合さんを演じていきたいという気持ちがあります。それと同時に今シリーズのラストの百合さんで終わった方が美しいのかなという思いもあります。いずれにしても百合さんはずっと私の中で生き続けます」。最高のメンバー!それぞれの魅力とは吉田さんの“コールドケース愛”が伝わるインタビュー。最後に「最高」というメンバーについて話を伺うと、吉田さんの口からは称賛のコメントが止まらない。「永山絢斗さんについては、今シリーズでやっとバディになれたなと感じました。劇中ではシーズン1から軽口を叩き合っていましたが、そこに信頼がプラスされた感じです。これまで私が年上ということもあり、どうしても彼の遠慮を感じていたのですが、今回はそれが払しょくされました。彼は、予測不能な台本の読み方をする。だからこそ現場でなにが出てくるのか分からない。あまり決め込まず、相手のリアクションを最上としている。そんな彼の姿勢をすごく尊敬しています」。「滝藤さん演じる立川は、俳優・滝藤賢一史上最高に格好いいです。視聴者が観たい滝藤さんが詰まってキュン死してしまいます。光石さんは現場のムードメーカー。光石さんがいれば、どんな状況でも現場は平和(笑)。光石さんの説明セリフの安定感があるから、物語が明瞭になるんです。(三浦)友和さんは、以前にも増して捜査一課のなかにドンといてくださいました。大先輩なので、恐れ多い部分もあるのですが、ご自身がそれを意識して取っ払ってくださったので、今回は皆で友和さんの懐に入っていくことができました」。吉田さんをはじめ、固い絆で結ばれた捜査一課のメンバーたちの活躍を、思い切り堪能したい。「連続ドラマWコールドケース3 ~真実の扉~」12月5日(土)より、 WOWOWプライムにて放送スタート毎週土曜22時~全10話(第1話無料放送)(C) WOWOW/Warner Bros. Intl TV Productionスタイリスト:梅山弘子(KiKi inc.)ヘアメイク:paku☆chan(Three Peace)(text:Masakazu Isobe/photo:You Ishii)
2020年11月30日昨年の第72回カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィア・パルム賞をW受賞した『燃ゆる女の肖像』。クィア・パルム賞とは同映画祭上映作品の中からLGBTQ+をテーマにした作品に与えられる賞で、過去には『わたしはロランス』や『キャロル』『Girl/ガール』といった傑作が受賞してきた。本作で描かれるのは、18世紀のフランス、望まぬ結婚を控える貴族の娘エロイーズと彼女の肖像を描く女性画家マリアンヌが織りなすラブストーリー。エロイーズを演じるのは、近年のフランス映画界には欠かせない存在で、フランスにおける#MeToo運動の象徴的存在としても熱い称賛を贈られるアデル・エネルだ。監督を務めたセリーヌ・シアマは、自身が世界的に注目されるきっかけとなった『水の中のつぼみ』(07)でタッグを組み、元パートナーでもあるエネルを念頭に本作の脚本を執筆。18世紀のブルターニュの孤島という閉ざされた場所を舞台にしながら、いまを生きる女性にもつながる数々の問題を鮮やかに革新的に描き出し、女性監督として初めてクィア・パルム賞を手にした。シアマ監督は、撮影現場では特にエネルの意見を重視していたことを明かし、「私は“ミューズ”という概念に終止符を打ちました。お互いの創造性で新たな描き方をしています。私たちの現場にはミューズはいないのです」とまで語る。そんな監督と“共闘関係”のもとで本作に参加したエネルの貴重なインタビューがシネマカフェに到着した。「最初はまるで能の面を被っているかのよう」貴族の娘の感情の旅路規律や伝統を重んじる教育を受けてきたエロイーズは、母親の決めた見合いを控えて修道院から出てきたばかり。“散歩相手”として自分の前に現れた画家のマリアンヌ(ノエミ・メルラン)とともに島を散策し、文学や音楽をはじめ様々なことを語り合う中でそれまで自分の知らなかった自分を知るように。やがて、そのマリアンヌと、生涯忘れ得ぬ痛みと喜びを身に刻む恋に落ちる。エロイーズを演じる上での役作りのプロセスについてエネルは、「平等性から生まれる新たな愛の物語という、全く新しい映画体験となる作品が実現したと確信しています。この映画を1つの旅路だと捉え、観客がこれまでに体験したことのなかった感情をいかに作っていくかについて、自分なりのリサーチに基づいて役作りしました。少し溜めを持たせ、もどかしさを感じるような特定のリズムで展開していくことによって、映画の最後で感情のクライマックスを迎えるという、じわじわくる演技を目指したんです」と打ち明ける。感情の変化を意識しつつも、撮影は時系列に沿って順撮りされた訳ではなかった。エネルは続ける。「正確さが必要になってくるのですが、各シーンが物語のどの段階なのかを正確に把握する必要がありました。(マリアンヌと出会った)最初は控えめで冷たい印象なのですが、物語の流れに従って、より晴れやかな表情へと徐々に変化させていきました。お互いのリズムに合わせ、息を合わせていかなければなりません。本作は女性のまなざしというコンセプトに基づいた作品です。見られる対象だった者が、やがて見る者になっていくという旅路を辿るキャラクターを創っていこうという考えは当初からありました」と明かす。その旅路に沿って、エロイーズの感情を段階ごとに変化させていったというエネル。「3段階に分け、最初はまるで日本の伝統芸能、能の面を被っているかのように、心の内を明かさない。自分の置かれた状況に反抗するのは、それに逆らおうと戦うことではなく、まるで自分がその場にいないかのように振る舞うことだと考えたからです。しかしその後、能面に徐々にひびが入っていき、やがて割れるのは、マリアンヌと親密になっていくに連れ、知的好奇心を刺激され、芸術に目を向けるようになっていくからです。そして最終的には解放され、生き生きとしていく」と語る。ノエミ・メルランとは「毎回新しいものが生まれた」マリアンヌを演じたノエミ・メルランとは本作で初共演となった。初めて顔を合わせたときの印象から、撮影を通じてどう変化していったのだろうか。「私達はスポーツのチーム仲間のようなものでした。ノエミならきっと、私が提案したことに対し、彼女なりのリズムで反応してくれるはずだと思ったのです。そして思った通り、毎回新しいものが生まれました。私のことを信じて、一緒に試してみることができる相手に恵まれたのは嬉しかったです」と語るエネル。さらに、「ノエミは芸術の支持者なのです。芸術には完璧な枠組みなど存在しませんし、真実というのは枠組みを超越したところにあると思っています。リズムというのは、相手との確固たる絆があれば、演技という枠組みを超越したところで正確に刻まれるものなのです」と最大限の賛辞を贈る。そんなメルランとシアマ監督との共同作業について、「セリーヌとは12年前、『水の中のつぼみ』でも一緒に仕事をしたことがあるので、お互いのことはよく知っています。私たち3人は真剣に取り組んだのですが、楽しみながらやっていた側面もありました。役に対していつも真摯に向き合いつつ、遊び心も大切にしているのです」と明かした。「#MeToo運動以前に作られることはなかった映画」本作を観る者は、これまでの映画で観てきた同時代の女性たちとは全く異なり、自由で、解放された姿に驚くことだろう。18世紀の女性の物語を“いま”描くことについてエネルは、「これは、世界中で巻き起こる#MeToo運動以前に作られることはなかった映画だと思います」と断言する。「これまでは、私達の歴史の一部が抹消されているという意識すらなかったわけですが、映画史において取り上げられることのなかった女性の歴史に焦点を当てた物語となっています。本作のような新しい視点から女性を描いた作品がいま作られたというのは、意味のあることです」と、当時は“存在しないもの”とされた女性画家を描いた本作が持つ大きな意義を語る。さらに、「メインストリームの映画では、幸せとは結婚して子供や家を手に入れることだとして描かれがちですが、それらを手に入れようと躍起になってばかりだと、“自分は本当に幸せなのだろうか? 心の底から信じられる何かがあるのだろうか?” といった問いかけから目を背けることになっているのかもしれません。そういったことも、人生を構築していく上で、基盤とするべき大切なことではないかと改めて考えさせられる作品なのです」と問題提起する。そして最後にエネルは、「観客のためにそんな風に想像の世界の扉を開けることは、アーティストが担うべき責任だと信じています。単に美しいラブストーリーだというだけでなく、私自身もこの物語が描かれることを心から望んでいたので、そんな作品に参加出来て光栄に思います」と満足気に語った。出演作の日本公開も多く、いまのフランス映画を語る上では欠かせない存在だが、本作を最後にしばらく映画出演は控えて舞台出演に専念することを明かしているエネル。その意味でも、観る者の心を震わせる彼女が演じたエロイーズの生きざまをスクリーンで見届けてほしい。『燃ゆる女の肖像』は12月4日(金)よりTOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国にて順次公開。(text:cinemacafe.net)■関連作品:燃ゆる女の肖像 2020年12月4日よりTOHO シネマズシャンテ、Bunkamura ル・シネマほか全国にて公開©Lilies Films.
2020年11月25日楽しく、おいしく、ワクワクしながら料理を通じて社会を、未来を変えていく。そこに先陣を切って、挑戦し、実行していきたい。新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が発令された4月上旬。医療従事者へお弁当を届ける団体『Smile Food Project』の活動の報道が大きくされたことを覚えている人も多いだろう。活動の中心となったのが人気店【シンシア】シェフ石井真介氏だ。緊急事態宣言中、営業ができずに、どの店も苦難を強いられ、売上が激減。しかしそれ以上に“料理が好き”で料理人となった彼らにとって、料理ができないことは、想像を絶する苦しみだった。【シンシア】の石井真介シェフそんななかで、たまらず石井氏が胸の内をfacebookに投稿。「フランスで現地の日本人シェフたちが医療機関に差し入れをしたとのこと。僕たちも、命がけで働いてくれる人たちに何かしたい」その声に賛同した人々が集まり、なんと1週間後にはプロジェクトが発動。その活動は大きく報道され、料理人の社会活動に注目が集まった。北参道にある【シンシア】のオープンキッチンそんな石井氏が9月、海の未来に人々の意識を向ける新しい店【シンシア・ブルー】をオープン。漁獲量が年々減っている海の資源を守るため、サステナブル・シーフードを扱い料理する、画期的な店だ。料理を通じて、社会を変える――。そんな新しいシェフのスタイルを自らの背中で見せていく石井氏。その辿ってきた道、そして誰も通ったことのない道への挑戦に迫る。2軒目の出店に込めた思いは“水産資源の明るい未来”――【シンシア・ブルー】開店おめでとうございます。サステナブルさ・シーフードに光をあてたレストランは以前から考えていたのですか?今回の出店のお話があったのが、2年前。ちょうどカジュアルな店をやってもいいなと思っていたときで、お受けしました。けれど初めは、具体的な内容は決めていませんでした。サステナブル・シーフードを使おうと思ったのは、『シェフス・フォー・ザ・ブルー』(水産資源を守るシェフが中心となった一般社団法人)の活動から。2020年8月、原宿の「ジングウマエ コミチ(JINGUMAE COMICHI)」にオープンした【シンシア・ブルー】と、そのチームメンバー乱獲や大量消費による魚の減少などを学ぶなかで、国際認証を取得した持続可能な漁業・養殖業の魚「サステナブル・シーフード」を知りました。「水産資源や環境に配慮し適切に管理されたMSC認証を取得した漁業で獲った水産物」や「環境と社会への影響を最小限に抑えたASC認証を取得した養殖場の水産物」などです。新しい店でそれを使えれば、海の状況を広く知ってもらえると考えました。【シンシア・ブルー】の『FIP鱸のパイ包み焼き』。「漁業改善プロジェクト(FIP)」を推進中の漁業者による東京湾のすずきを使った一皿――【シンシア】ではサステナブル・シーフードを使わないのですか?日本に流通しているサステナブル・シーフードは輸入冷凍魚がほとんどです。【シンシア】はゲストが特別な日に来てくださるようなコースメインの店なので、冷凍の魚は使えません。でもカジュアルな店なら、冷凍のものを上手に使っておいしく提供できるのではと思いました。―― バイキングスタイルにしたのは、なぜですか?【シンシア】では、フードロスへの取り組みとして、営業中に出た食材の端っこや余った野菜を使って、週末に【シンシア+】というランチブッフェを開催していたのですが、これが好評で。その延長線のイメージもありました。どんな素材でもおいしく料理することが料理人の腕の見せ所。認証の魚以外にも、マイナーで売れにくい、鮮度落ちが速いなどの理由から市場に回らない新鮮な未利用魚も、信頼のおける魚屋さんから仕入れて使っています。新型コロナウイルスの影響もあり、今はテーブルオーダーで一品ずつ運ぶスタイルをとっています。思った以上に好評で、みなさんすごく召し上がるので儲けはギリギリかな(笑)。【シンシア・ブルー】では、信頼性の高い国際認証を取得したサステナブル・シーフード、そして未利用魚を使った料理をバイキングスタイルで提供――バイキングなのに、料理ができたて。そして美しくておいしいですね!こうした、環境問題や社会に対してのメッセージって声高に伝えようとすると伝わらない。みんな勉強しにレストランに来ているわけじゃないですから。おいしくて、ワクワクして、楽しくてまた来たい!と思ってもらうことが大切。そのなかで少しでも、そういう問題があるんだ、って興味を持ってもらえればいいと思っています。――【シンシア】も、前身の【バカール】も予約困難の理由は“楽しいから”ですね。そうだと嬉しいです。【バカール】は、当時、ソムリエの金山幸治と、みんなが来れるギリギリの値段にしてフランス料理の面倒臭いところ全部とっぱらって、楽しさとおいしさが同居する店にしたいね、とつくった店でした。手書きの台帳で顧客データをまとめて、顧客ごとのおもてなしを心がけました。――そのおもてなしは、【シンシア】にもつながっていますね。はい。【ラ・ブランシュ】で修業していたとき、田代シェフは厨房でゲストをテーブル番号でなく名前で呼んでいました。その方の状況を常に聞き、微調整していた。そこに愛情を感じました。料理は自己満足でつくるものではないです。料理で人を喜ばせたい。その原点は常に忘れません。コロナ禍においてゲストがみんな応援してくれた。そのことも嬉しく、また自信にもなりました。テーブルに置かれるメッセージカード。ゲストごとに内容が違う新しい世界が開いた、医療従事者へのお弁当支援――医療従事者へお弁当を届ける『Smile Food Project』は大きく報道されましたね。ちょうど、フランスの日本人シェフたちが、医療従事者にお弁当を差し入れているニュースを見て、自分たちも何か役に立ちたいとSNSで発信したことがきっかけです。僕は料理はできるけれど、仕組みはつくれない。そんなどうしようもない気持ちをそのまま載せたら、ケータリング会社『サイタブリア』の石田社長、広告代理店の方などが次々と連絡をくれて1週間でチームが決まり、企業の協賛金も得て、実行できた。あれには驚きました。「いろんな人が集まれば大きなことができる。新しく実感できた成功事例です」と石井シェフ――この成功事例は大きな出来事だったのですね。正直、【シンシア・ブルー】はコロナ禍においてオープンをどうするか悩み、手付金を捨てて辞めようと思ったこともありました。けれど、このお弁当プロジェクトがきっかけで、クラウドファンディングという形をとり、開業しようと決意しました。サステナブル・シーフードを使ったレストランが増えないのは、そこにいろんな壁があるから。『サステナブル・シーフードを使うレストラン』とうたえる認証をとるのもお金がかかるし、該当食材を冷蔵庫内で別に管理しなければならないなど労力もいる。けれどやってみなきゃ誰にも伝えられない。自分がまず先陣を切ってやってみる。その背中を見て誰かがついてきてくれたら嬉しいですね。Sincère【エリア】千駄ヶ谷【ジャンル】フレンチ【ランチ平均予算】-【ディナー平均予算】25000円【アクセス】北参道駅 徒歩4分あわせて読みたい記事
2020年11月18日土屋太鳳、桜庭ななみ、仲野太賀、森川葵、佐久間由衣、武田玲奈など、多くの人気俳優を輩出し、「若手俳優の登竜門」とも称される映画『人狼ゲーム』シリーズ。今回で実写化第8弾となる『人狼ゲームデスゲームの運営人』にも、映画初主演の小越勇輝をはじめネクストブレイク候補俳優が勢ぞろい。その中で、興味本位で「人狼ゲーム」に参加するも情緒不安定に陥っていく末吉萌々香役を演じているのが、2019年にABEMA「白雪とオオカミくんには騙されない」で人気急上昇し、SNS総フォロワー数は88万人以上、10代のトレンドを発信する「十代特化型キュレーション番組」でも活躍する山之内すず。今回、女優としても活動の幅を広げつつある山之内さんのインタビューが到着した。「衣装合わせや読み合わせから少しずつ見えてきた」オーディションで掴んだ役「これまで受けたオーディションの中でも一番緊張感がありました」とふり返る山之内さん。もともと演技に興味はあったものの、本格的な映画出演は本作が初めて。同世代の参加者たちと共に、鬼気迫る心理戦にほん弄される少女・萌々香を熱演する。――演じた萌々香は、普段のすずさんのイメージとは全然違いますね。山之内:普段見せている自分とは真逆ですね。萌々香は良くも悪くも女の子らしいタイプなので、最初はどうしようかなと思いましたが、セリフの無い部分でも、いろいろ頭の中で考えている子で、そうした部分も考えていけたらと思いました。監督さんともたくさんお話をしました。川上監督は原作者でもありますし、一番萌々香のことを分かっていると思うのですが、私の思う萌々香も「そういうところもあるかもしれないね」と汲み取ってくださって。考えていくことが本当に楽しかったです。――川上監督と話し合う前に、萌々香像をしっかり組み立ててから現場に入れた?山之内:台本だけでイメージしていくというのは、まだ場数も踏めていない私にははやり難しいことでした。でも衣装合わせや台本の読み合わせなどをしていくうちに、少しずつ見えてきたものがあって、どういう子なんだろうと考えていけたんです。それに監督さんもですが、キャストのみなさんも、本当に話しやすい環境で、みんながいろいろ聞いてくれるし話してくれるし、すごく優しくしていただいて救われました。――実際の撮影でよく覚えているシーンはありますか?山之内:みんなで(ゲームの)施設を見回るシーンで、萌々香が意見を言う場面があるんです。それまで話すより聞くタイプだった萌々香が、ちゃんと話をして入っていこうとするところが好きでした。あと疑いをかけられるところがあって、そこで表情も演技だなと思えました。萌々香は弱いけど強い、強いけど弱い子で、そうしたところがよく出ていたかなと思います。撮影現場にいる「自分が好き」に「SNSの数字とか、メディアに出ていることとかじゃなく、オーディションでの演技を見て選んだ」と、本作の原作者でもある川上亮監督やプロデューサーに言われていたという。山之内:「SNSの数とかはノイズでしかなくて、演技を見て選んでいるのだから、自信を持っていいんだよ」と言ってくださって。「演技をしたい」と口にしてもいいんだと思えましたし、演技を楽しむことができました。泊まり込みの現場も初めてでしたし、撮影漬けというのも初めての経験でハードでしたが、達成感もありましたし、そうした場にいる自分が好きだと思えました。演技をしている自分、萌々香である自分を好きだと思えて、終わってほしくないと心から思いました。――では実際に挑戦して、もっとやりたいと思えるようになりましたか?山之内:そうですね。どれだけのスタッフさんがどれだけ動いて、どんな風に撮影して、どんな緊張感でといったことも経験させていただいて、もっといろんな作品に出たいし、またこうした気持ちになれる作品に出会いたいと思いました。それにこれだけの思いがあるのだから、観てくださる方にも何かが伝わるんじゃないかとも思えました。「ビックリするぐらいのスピード」デビューからの大躍進とこれから最近では情報番組「ヒルナンデス」や「サンデージャポン」、コントバラエティ「LIFE!~人生に捧げるコント~」など、様々な番組出演でも先輩たちに揉まれてきている。「いろいろと言っていただけることが本当に有難くて。みなさんに言われたことを受け止めて、ちゃんと活かしていきたい」と明かす山之内さん。デビューわずか2年ほど、目まぐるしい環境の変化をいま体験しているところだ。山之内:2年前まで普通に地元(兵庫県)に住んでいたのに、本当に全部が変わりました。上京するタイミングで、この仕事をして生きていくんだと、覚悟はしてきたつもりでしたが、思っていた以上に、ビックリするぐらいのスピードでいろいろとお仕事をさせていただけるようになったので、自分自身が一番付いていけていない感じです(苦笑)。やっと最近、だいぶ慣れてきたというか、適応できるようにはなってきましたが、以前は、「なんでテレビに自分が出てるんだろう」とか、「なんで街に自分のポスターが貼ってあるんだろう」とか、そんな感じでした。――本当にすごい勢いで変わっていったんですね。山之内:はい。でも意外と変わらない部分もあって。自分の根本的な部分はそんなに変わらないというか。芸能のお仕事をするようになったからといって、キラキラした人生というわけでもないですし、価値観なんかは地元といるときとあまり変わらないです。――『人狼ゲーム』は生き残りをかけたゲームですが、芸能界で生き残っていくためのビジョンはありますか?山之内:頑張り過ぎずに頑張っていきたいです。今って、昔よりは芸能界に入りやすくなっていると思うのですが、中でも私は新しい入り方をしたと思っているので、そこで先陣を切ってというか、こうした入り方での道を作っていきたいです。ただ、私は必死になりすぎると空回るタイプなので、純粋に楽しみながら、自分が求められることと向き合っていきたいです。その結果、何かいい影響を誰かに与えられられるような人になれれば、長く生き残っていけるんじゃないかと思います。でも、どんな形になってもそれが人生なので、ひとつのことに固執しすぎないように。まだ自分なりの生き方を模索している最中なので、今は、楽しく進んでいけたら、それでいいのかなと思っています。『人狼ゲーム デスゲームの運営人』は全国にて公開中。(text:cinemacafe.net)■関連作品:人狼ゲーム デスゲームの運営人 2020年11月13日より公開©2020「人狼ゲーム デスゲームの運営人」製作委員会
2020年11月14日『はちどり』『82年生まれ、キム・ジヨン』など、韓国の女性監督作品が相次いで公開された今年。満を持してまもなく公開されるのが、キム・ヤンヒ監督の『詩人の恋』だ。監督が2007年の短編デビューから10年の時を経て手掛けた初長編は、2017年・第30回東京国際映画祭ワールドフォーカス部門で上映されていたが、今回、待望の劇場公開が実現。そこで、主人公のさえない詩人を演じたヤン・イクチュンについて、また、彼が恋することになる青年を演じたチョン・ガラムや物語の舞台となる済州島について語ってもらった。『息もできない』以前のヤン・イクチュンを知る監督『息もできない』(08)の粗暴な借金取りや『かぞくのくに』(12)の不穏な北朝鮮監視員、『あゝ、荒野』(17)の吃音症のボクサー役などで知られるヤン・イクチュンが、本作ではドーナツを愛するぽっこりお腹の売れない詩人に。しかも、自作の詩を情緒たっぷりに朗読するシーンもある。「詩は本編にたくさん登場しますが、詩を読むナレーション箇所はいっきにまとめて録音しました。感情を入れて詩を読むことは大変難しいことですよね」と監督。ヤン・イクチュンとともに試行錯誤していったそうだが、「だんだん読んでいくうちに、イクチュンさんのなかでも感情が出来上がってきて、彼自身の感情に浸りながら読むようになりました。感情に浸る瞬間ができてきたので、いっきにスイッチが入ると、すーっと滑らかに詩を朗読できるようになりましたね」とふり返る。「聞いているこちらも、耳に心地いいくらいの読み方になっていました。途中からは私もイクチュンさんにはとくに注文はせず、『気になるところがあればもう1回撮ってもいいですよ』と言うくらいで、それほどまでに彼自身のレベルが上がっていたので、録音を聞きながら私自身も本当に感動しました」。“これまでのイメージを打ち破る”べく、ヤン・イクチュンに詩人テッキ役を任せた監督の試みは大成功といえるだろう。10年以上前の短編映画以来の再タッグとなった彼について、「私がいままで出会ってきた人の中でも5本の指に入るくらいのシャイな方」と監督は評する。「ナイーブなところがあって、それでいて心が美しい方、また一方では自由奔放なところもあります。純粋なところも自由なところもあって、アンバランスなところがとても魅力的だと思っています」と、共演者や映画ファンからも愛される彼の魅力に触れた。「たくさんインスピレーションを受けた」チョン・ガラムの魅力とは?そんなイクチュン演じる詩人が淡くも激しい感情を抱くようになるドーナツ店で働く青年セユンを演じたのは、注目の若手俳優チョン・ガラム。「オーディションでドアを開けた瞬間から、『セユン役は自分がやる』という眼差しで入ってきたので、私も彼を射るように見ていました(笑)その姿にまず圧倒されてしまいました」と監督はふり返る。「彼自身、『詩人の恋』の撮影前に少し仕事をセーブしていた時期があったので、休んでいた分、本作に打ち込みたいという気持ちが強かったんですね」。その圧倒的な眼差しに加え、「誠実さもあって、ルックスも素晴らしいですし、とにかく作品に臨む姿勢も素晴らしかったので私も彼からたくさんインスピレーションを受けました」と言い、「ガラムのような青年がいればセユンのキャラクターも観客に説得力を持たせることができる」と監督が考えるキャラクター像に大きな影響を与えたようだ。詩人の妻ガンスンの愛は包み込む愛情熱的な恋とはいえなくとも、お互いの存在がどうしても必要という、どこか切実さを感じさせるテッキとセユン。だが、テッキには妻ガンスン(チョン・ヘジン)がいる。売れない詩人の夫を支えながら働き、切実な思いで妊活を始める済州島の女性だ。「韓国で公開した時に、『この映画はフェミニズムな部分が多い』と問題視する人がいました。私は意味を持ってシナリオを描くというよりも、あくまでも物語を展開させるためにシナリオを描き上げました」と監督は明かす。「その中で私が考えていたのは、もともとガンスンという人物はこの時点で人として“成熟した大人”で、かたや、詩人の夫(テッキ)は“未成熟な人物”。映画の中では未成熟の夫が人として成熟していく過程を描いているんですね。成熟している人は未成熟な人を包み込んであげることができるので、“犠牲”の意味とは違ったものなのかなと思っています」。「私個人的には、成熟した人が未成熟な人を包み込むことは当然のことだと思っていて、なのでガンスンは未成熟のテッキを包み込み、テッキは(未成熟な)セユンのために自分を犠牲にしたりしていく、という構図を描いています」と、3人の関係性を説明する。済州島自体が悲しく寂しく思えるときがあるまた、3人の物語の舞台・済州島は監督自身もかつて実際に暮らしていた場所。本作では“韓国のハワイ”と呼ばれるような、世界遺産の火山やキラキラと輝くビーチといったイメージとは全く別の場所のように映し出されていく。「済州島で生まれ育った人が主人公なので、あえて観光地として映す必要もないですし、どこで生活をしている人なのかと考えながらシナリオを完成させました。『済州島で生まれ育った人ならこういうところがいいのではないか』と思いながら、ロケハンもしていきました」と監督は明かす。「私も済州島に住む前までは観光客の立場でした。実際に島に移り住んで生活、仕事をしていく上で、私のなかでも観光地としての概念がなくなっていったんです。現地の人として生活の基盤を済州島に据えていたので、観光地という気持ちがどんどん薄れていきました」と言い、「その立場になって済州島を見ていると、悲しく寂しく思えるときがあるんですね。観光客がいなくなる冬場は本当に閑散としていて、なおさら、寂しいと思わせるときが実はあります」。だからこそ、港や深緑の森を静かに歩くテッキとセユンの姿がいっそう際立つ。監督自身が思い入れのあるシーンとして挙げた、閑散とした夜のリゾートプールで「テッキとセユンが心を通わせるシーン」もまさにそうだ。「韓国公開時にスクリーンで観たときも、やっぱりここのシーンで2人の心の触れ合いが感じられるなぁと、雰囲気もあって、改めて好きなシーンだと思いました。編集のスタッフは、実はこのシーンの前に苦労していた作業があったのですが、それが終わったあとにプールシーンを編集したので『癒しになったね』と話していたくらいです」と監督。恋をしたときの温かさと切なさを同時に感じさせるこのシーンには、本作の空気感が凝縮されている。(text:cinemacafe.net)■関連作品:詩人の恋 2020年11月13日より新宿武蔵野館ほか全国にて公開© 2017 CJ CGV Co., Ltd., JIN PICTURES, MIIN PICTURES All Rights Reserved
2020年11月13日一度、その名前を覚えたら、スクリーンのどこに映っていても無意識に探してしまう、病みつきになってしまう女優がいる。彼女の名前は伊藤沙莉。2020年、ブレイクしたと言われる俳優のひとりだが、伊藤さんはいまの場所を運で掴んだわけではない、実力で手繰り寄せた。周りの目を気にしていた過去、今は「賛否あるほうがむしろありがたい」ドラマ、映画、アニメーション作品などを合わせ、本年だけで12本もの作品に出演。数だけを見てもうなるほどだが、すべてにおいてまったく異なる顔を見せているのが伊藤さんの真価だろう。「自分の中で、やっていることは、ずーっと変わらないんです。きっと、この先も変わらないだろうなとも思います。今は、皆さんに知ってもらえている現状が、うれしくて仕方なくって。名前を言ってわかる、顔を見てわかる存在に少しでもなれたことは、ありがたいなと思います。…でも、何がきっかけで、そんなに思ってくれたんだろうとも感じちゃう(笑)」。「この作品で伊藤沙莉を知った」ともはや選べないことも、伊藤さんならではの特徴。伊藤さんは、何年も前からコツコツと着実に作品を積み重ねていたのだ。さかのぼれば、2019年に配信されたNetflixのシリーズ「全裸監督」ではチーム村西の紅一点として、2018年『寝ても覚めても』ではヒロインの親友を、そして2017年『獣道』では家庭に事情を抱える不良少女役で、映画初主演を飾った。こうして挙げていくと、年次でも追い切れないほど、光る名演揃いだ。その経歴に対する評価が、現在のブレイクにつながったことは一目瞭然。強烈な時代のうねり、急激な注目度の上昇について、本人は、どう受け止めているのだろうか。「すごく恵まれた毎日というか、すごい幸せだなって、常に感じています。ただ、周りの目は、逆に昔のほうが気にしていました。今は、賛否あるほうがむしろありがたいと思うようになってきたので…もちろん賛が多いほうがうれしいですね。若干のとまどいとか、ちょっとしたプレッシャーは、なくはないんです。だから、自分について考える時間が増えました」。朋友・松岡茉優と「たまーに、する」未来の話は…伊藤さんの「自分について考える時間」は、いつしか9歳から芝居を始めた過去の自分、少し先の未来の自分について、思いを馳せることになった。「20歳くらいのときかな。事務所の社長に、“来年どうなりたい、再来年どうなりたいは、もう捨てなさい。君は10年単位で考えなさい”と言われたんです。“30歳になったときに、そこにいられるかどうかだから”って」と、伊藤さんは懐かしそうな表情で語り出す。「私は、どちらかと言うと、ふつふつとしたハングリー精神の持ち主ではなくて。だから、社長にそう言われたとき、すごくホッとしたんです。“すぐ結果を出さなくていいんだ”と思ったら、“じゃあ、もうちょっとのんびりするかな”って(笑)。それで肩の力が結構抜けて、たぶん自分のペースで今までこられたんだと思います」。「私、シンプルにお芝居が好きなんです。とりあえず、30になったときに、“伊藤にやってほしい”と思える役があるような人ではいたい、という気持ちはあります」。今のような話は、朋友・松岡茉優とも「たまーに、する(笑)」と言う。「松岡とは、ちょいちょい、本当に、たまーに、ちょっと弱ってるときに、こういうことをしゃべったりします。お互いに、“いるよね。うちら、(30になっても)いるよね?”みたいな感じで、なぐさめ合っています(笑)」。30になっても、40になっても、80になろうと“いる”であろう、トップ女優ふたりの健気なやり取りを想像するだけで、何とも微笑ましい。15回観た主演作、「ここ最近で変わった人生観」と照らし合わせて伊藤さんが長編2本目の主演となった映画『タイトル、拒絶』が、11月13日より公開される。セックスワーカーとして生きる女性たちをオムニバス的に綴った、山田佳奈監督によるオリジナル作品。伊藤さんは、体験入店で店に来たものの、怖気づいて客前から逃げ出し、結果、デリヘル嬢たちの世話係をするカノウを演じた。「実はこの映画、すでに15回観ました。こんなに観ることは特殊ですが、観れば観るほど好きになるんです!」と、伊藤さんが目の中に入れても痛くない『タイトル、拒絶』は、トレーラーでも流れるカノウによる独白から始まる。「私の人生なんてクソみたいなもんだと思うんですよね」と、少し怒りを含んだ口調の独白シーン。何ページあるかわからない、長いひとりしゃべりは、カノウの心の内や人生観をさらすと同時に、世界観に引き込む重要な幕開けとしての役割を果たした。「これがファースト・カットでした。台本を読んだ時点から、この独白をやりたい気持ちが大きかったので、自分の中でもすごく気合いが入っていましたし、良い意味でのこわばりもあって。でも、独白は感情を込めすぎると、ちょっと胃もたれしてしまうので、気持ちが入っちゃうところは入っちゃうで放っておきつつ、基本はフラットでしゃべろうと心がけていました」。その後、物語はデリヘルの事務所を軸に展開していく。人気トップのマヒル、文句ばかりのアツコ、トウの立ったシホ、こっそり事務所内恋愛をするキョウコなど、様々な嬢に振り回されながら、カノウは裏方業をこなしていく。カノウはそこでの縮図を日本の昔話の「カチカチ山」になぞらえ、自分はタヌキ、マヒルをウサギとする。賢くてかわいいウサギはみんなに愛され、性悪で嫌われ者のタヌキには誰も目もくれない、と。伊藤さんは、タヌキの気持ちこそ痛いほどわかると、熱弁した。「実際カノウにとって、マヌケ役を買って出るステージに選んだのが、デリヘルの職場だっただけで、私としては芸能界は“カチカチ山”だと思っています。最初の頃はマヌケ役を買って出ていましたし。不器用で、万人受けする何かを求められないなら、“もうこれでいくしかない”、“タヌキは、タヌキの人生の主役ってことに変わりはないから”って」。「私もきっと、ここ最近で変わった人生観なんです」と、伊藤さんは言う。「まだ、今ほどお仕事がいただけていないときなんて、脇役人生と思うしかなかった部分がありました。そこに関しては、カノウがもがいている様もすごく理解できますし、ひねくれて“どうでもいい”と言いつつ、どこかでちゃんと傷ついている。“どこかで何か覆したい、でもどうにもならない“という葛藤は、めちゃくちゃわかると思いましたね」。「だから、カノウ役は絶対にやりたいと思ったんです」と、伊藤さんはインタビューを締めた。伊藤さんがカノウに込めた想いは作品内で荒々しく息づき、傷みをともなって観客にぶつけられる。そしてまたこの98分、伊藤沙莉という女優の凄みを肌で感じるのだ。(text:赤山恭子/photo:Jumpei Yamada)■関連作品:タイトル、拒絶 2020年11月13日より新宿シネマカリテほか全国にて順次公開©DirectorsBox
2020年11月09日社会現象とも言える盛り上がりを見せた「逃げ恥」こと「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)や原作ファンから絶大な支持を集めた映画『図書館戦争』シリーズ、「アンナチュラル」「MIU404」(TBS系)など、原作もの、オリジナル脚本を問わず、 次々と話題作を生み出す脚本家・野木亜紀子。人気のマンガや小説の映像化の企画が多くを占める昨今のエンタメ業界ですが、原作のイメージを損なうとたちまち炎上しかねない状況で、野木さんの作品が称賛を集めるのはなぜなのか? オリジナルの作品が多くの視聴者の心を鷲掴みにするのはどうしてなのか――?「映画お仕事図鑑」第5回目は、2016年の「週刊文春」ミステリーベスト10で第1位を獲得するなど高い評価を得た塩田武士の同名小説を原作とした映画『罪の声』の脚本執筆についてお話を伺いつつ、野木さんの創作の裏側に迫ります!本作は、誘拐、脅迫、そして毒物混入などで世間を震撼させるも、犯人逮捕に至らぬまま幕を閉じた昭和の未解決事件の真相を描くサスペンス。脅迫に使われたテープの声の主が子どもの頃の自分だと気づいた曽根俊也(星野源)と時効となった同事件を追う大日新聞の記者・阿久津英士(小栗旬)という2人の男性が事件の真実を追いかける。作品の“密度”を高めるために大事なこととは?――塩田武士さんが、実際に起きた昭和の未解決事件を題材に書いた小説「罪の声」ですが、最初に同作の映画化の脚本執筆というオファーが届いて、原作 を読んだ際の印象をお聞かせください。事件の脅迫テープの声に使われた子どもの存在というのは盲点で、よくそこに気づいて小説を書かれたなと思いました。未解決事件――例えば「三億円事件」などは、これまでも手を変え品を変え何度も映像化されていますが、この事件の脅迫テープで使われた子どもの声というのは、三十数年、誰も着目してこなかったわけで、それはすごいなと。――原作は事件の真相についてはもちろん、阿久津と俊也という2人の主人公が背負っているものや家族の存在、俊也と同様に事件に関わった人々の人生など、ものすごい情報量を持った小説です。映画用の脚本を執筆する上で軸とした部分、大切にされた部分は?実際の事件をモチーフにしているので、事実として判明している部分は変えない方がいいなと思いました。その部分を変えず、いかに映画の枠に収まるように尺を削っていくか。原作には「そんなことがあったのか!」という事実や、警察内部の動きで「こうなっていたから、こんなことが起きたのか」となるほどと思わされる部分も多かったのですが、それを描いていると警察ドラマになってしまうので、面白さを感じつつも断腸の思いで、削るべき部分は割り切って落としていきました。映画としてはとにかく、脅迫テープの声に使われた子どもたちの存在――そこに焦点を当てることに専念しました。――小栗さん演じる阿久津と星野さんが演じる俊也。2人の主人公の人物像については、どのように?新聞記者である阿久津英士とテーラーである曽根俊也。2人の男を短い尺の中でどう表現するか。映画の中で、彼らを表すのにそこまで時間を使えない中で、それぞれの個性や違い、彼らの気持ちが近づいていく部分――この作品はバディムービーでもあるので、事件に関する描写と並行して彼らの想いをどう描いていくかに心を砕きました。――俊也と阿久津が初めて顔を合わせるシーン。原作では2人だけのシーンですが、映画ではそこに俊也の妻・亜美(市川実日子)と娘の詩織が来る。そして阿久津が詩織に言葉をかける。わざわざこのやりとりを入れた意図は?阿久津というのは社会部で事件記者をやっている自分に嫌気がさして、文化部に行った人間で、つまり“優しい”人間なんですよね。そういう人がああいう状況でどうするか?また、俊也がその後、事件のことを阿久津に話す気になったのはなぜなのか? かつての社会部の阿久津であれば、話さなかったかもしれないし、あそこでああいうことができる阿久津だからこそ話したという“必然”がほしかったんです。たまたまそこにいたからではなく、この2人が出会ったから生まれる“何か”が必要だなと。もうひとつ、妻の亜美が(事件の真相究明にのめりこんでいく夫を)どう思っているのか?というのが気になったんです。夫の異変を感じるとっかかりとして、あのシーンでバッティングさせるといいのかなと。映画でもドラマでも、作品の“密度”を高めるためには、ひとつのシーンにいろんな機能、意味を持たせることが大事になってくるんです。あのシーンは、阿久津の性格を表すシーンであり、俊也が阿久津を信頼するきっかけになるシーンでもあり、亜美が夫の異変に気付くシーンでもあるという、3つの意味をもたせています。「奇をてらわない、普通の言葉こそが強い」――この映画は、フィクションとはいえ、本当にそうだったのではないかと思わせる圧巻のリアリティでオリジナルな真相へと迫っていきます。今回、原作小説を脚本にしていく過程で最も苦労されたのはどういった部分でしょうか?事実は事実として、映画サイズにしても矛盾なく、ストレスなく物語として見てもらいつつ、何か“見応え”を持って帰ってもらえるといいなあと。この作品は、ヘタをすると事件をなぞるだけになってしまうんです。そうじゃなく、彼らのドラマをどれだけ伝えられるか。そこがちゃんとしていないと、映画を見たという満足感を得られないんじゃないかなと。単に事件を伝えるだけなら、NHKのドキュメンタリーだけで十分ですから。そうならないようにというのは大事にしました。とはいえ、語るべき物語がすごく多いんですよね(苦笑)。主人公2人の話、事件に関わった子どもたちの話、第三者の回想…物語のレイヤーがものすごく多い中で、全部を合わせてひとつの物語が浮かび上がってくるようにするにはどう見せればいいのか。それを決められた尺の中でミニマムな形で描かなくてはいけないのは大変でした。――キャスティングに関して、野木さんが参加された時点ではどの程度、決定していたのですか? それは脚本の執筆においても影響はあったのでしょうか?最初の段階で2人(小栗さんと星野さん)は決まっていましたね。なので、原作はありますけど、そこはある種、“あて書き”のような感じでした。たとえば阿久津の設定ですが、小栗さんは東京の匂いがする人で、でも「大阪出身」という部分は崩したくないので、長く東京にいたということにしたり、星野さんのシーンに関しても、夫婦の会話など、ちょっとした遊びの部分も含めて(人物像を星野さんに)寄せていったところはありますね。――星野さんとは「逃げ恥」や「MIU404」(TBS系)でもご一緒されていますが、脚本家から見ての俳優・星野源の魅力や個性はどういった部分でしょうか?何気ないシーンがすごくうまいですよね。何気ないシーンが、本当に何気ないんですよ。日常がちゃんと日常に見えるんです。大袈裟なところがなくて、そういうところは本当にうまいなと思います。あとは今回、テーラーという設定が合ってましたね。職人という感じが出ていました。――野木さんの作品を拝見すると、どの作品でも会話が比較的平坦な普遍的な言葉で紡がれています。だからなのか、特定のセリフではなく、登場人物の人間性や心情が強く心に残るような印象があります。そういう意味で、いまおっしゃられた星野さんの持つ個性は、野木さんの作品と非常にマッチしているのかもしれませんね?それはあるかもしれませんね。私、大仰なセリフってイヤなんですよ、決めゼリフ的な。ドラマではどうしてもキーになるセリフがあった方がいい場合もあるので、必要であれば書きますが、必要以上に詩的だったり、持って回ったような言い方はかゆくなっちゃう(笑)。普段そんなこと言わないじゃないですか。私は「普通」の会話で呼び起こされる感情が一番強いと思ってます。よく例えに出すのが北野武監督の『HANA-BI』なんですけど、それまでひと言もしゃべらなかった岸本加世子さんが、最後の最後に「ありがとう。ごめんね」って言う。あれだけで胸に迫るものがある。「ありがとう」と「ごめんね」なんて、100万回以上聞いてる言葉だし、その言葉だけを書いても、何が泣けるかわからないだろうけど、見ればわかる。その重さ――映像作品ってそういうことだと思っていて、構成とか、そこまでの積み重ねの上にその言葉が発せられると、なんでもない言葉がすごい意味を持つんです。それが至高である気がしていて、奇をてらわない、普通の言葉こそが強いんじゃないかって思います。“原作あり”と“オリジナル”作品の創作スタイル――ここからさらに、野木さんの創作のスタイルについて、お聞きできればと思います。「逃げ恥」や今回の『罪の声』のような原作がある作品と、完全オリジナル脚本の作品では、執筆の過程は大きく変わってくるんでしょうか?いえ、結局は同じなんですよね。原作があったとしても、結局は一度、解体して、プロットを作り直さないといけないんですよ、映画やドラマの“枠”にハマるように。作業としてはどちらも一からなので、作業量自体は変わらないですね。ですが私は原作のある作品の方が疲れますね。オリジナルの方が楽です。「アンナチュラル」や「MIU404」もそうですが、オリジナルの場合、最初からドラマに合った話にすればいいだけなんですよ。もし「これ、ドラマ向きの内容じゃないよね?」となったら「じゃあ別の題材にしましょう」と方向転換してドラマ向きの作品にすればいい。でもマンガや小説の原作がある場合、それはもともとマンガや小説向けに作られているものですから、それをドラマ向きにしないといけないわけで、そこに手間と無理が生じるわけです。この映画の原作も、何ページにもわたる語りで判明していく物語があったりするんですけど、映像作品でそのままやるわけにはいかない。小説ならいくらでもページを費やして語れるけど、映画の尺では無理だし、マンガならこの表現ができるけど、それを実写でやったら醒めるよね…という場合もある。更に、作者の方がいらっしゃるわけですから、手をつけていい部分といけない部分もあるわけです。映像にそぐう形で作りつつ、それでも作者の意図や作品の根幹は変えちゃいけないという風に作っていくので、なかなか疲れるし、気をつかうわけです。オリジナルなら好きにすればいいので楽です。――人気の原作の場合、「映画化決定!」の一報の瞬間から、原作ファンの厳しい批評の目にさらされます。特に、約2時間という映画の枠に収めるためのエピソードの取捨選択などは、どうやって決断されるのでしょうか?枠に収まるように落としていかなくてはいけないので、「ここ入らないな」となったらバッサリと切っていきますね。プロデューサーや監督から「いや、それはいいんだろうか…?」みたいに言われることもあるんですけど「いいと思います」って(笑)。映画なので、映像に起こしようがないところは切るか、それに代わる表現に変えていくしかない。原作をなぞって再現することよりも、映像作品として成立するかどうかを優先する。それが脚色という仕事だと思っています。――ただ映画を見ると、そこまで大きく「変わった」という印象はなく、きちんと小説のエッセンスをくみ取った『罪の声』だという印象でした。何を落としても、作者の塩田先生が訴えたいことが伝わればいいのかなと。事件に巻き込まれた子どもたちの「声」の物語であったり、新聞記者の矜持という部分であったり、おそらく塩田先生はこう思っているだろうという部分を大事にして、そこに関しては落とすのではなく強化する。違いはあくまで、小説の表現方法と、映画の表現方法の違いということです。――逆に原作のないオリジナル脚本を執筆されるときに、常にご自身の中で大切にしているテーマや根底にある共通する思いなどはあるんでしょうか?作品によって、枠によって、その時の心持ちによってそれぞれ違いますね。ただ書いている人間は同じであり、価値観は同じなので、根底の部分は通じているとは思います。心持ちというのがどういうことかというと、たとえば「アンナチュラル」では、いわゆる“推理モノ”でよくある、犯人が崖の上で延々と動機を語る…みたいなことはやりたくなくて。だからクライマックスの前までに謎のほとんどを解決するようにつくったし、被害者は死んでいるのに、犯人にグダグダと殺しの理由を語らせたところで「何を言ったって殺してるわけじゃん?」となるので、そこは語らせないようにしようと決めていました。だけど「MIU404」では、逆に加害者の話を結構しているんですよ。それはなぜかというと、私の中での批評として「アンナチュラル」で切り捨てたものは、本当に切り捨ててよかったのか?という思いがあったからなんです。「アンナチュラル」の場合、主人公が法医学者なので、彼女は死者(=被害者)に寄り添うしかないし、あれはあれで正解だった。でも「MIU404」は犯人と非常に近い位置にいる、もしかしたら最初に犯人とコンタクトをとるかもしれない機動捜査隊の人たちが主人公なので、そこで加害者の声を拾わないのは嘘だろうと。そんな風に、毎回「私はこれなのだ!」という感じでやっているわけではなく、「アンナチュラル」があったからこそ、それに対する批評として「MIU404」があったという感じだったり、その時その時で自分が書きたいものを見出しながらやってます。「脚本家としては新人という感覚」――日々、脚本のアイディアのために心がけていることや取り入れているルーティンなどはありますか?何もないですね(笑)。後生大事に温めてる企画なんて、どうせ古くなっちゃう。世の中の動きって日進月歩ですごく早いので。とはいえ、世の中の問題で3年経っても何も解決してないし変わってないってことも多いので、「古い」と切り捨てられないことも多いんですが…。普段から、ニュースを見たり“日常”を大事にするようにはしています。常にアンテナは張ってないといけないし、業界以外の人を大事にしないとなとも思ってます。どうしてもこの業界の人って偏ってるというか、狭い世界なので、一般の友達や20代の子たちからちゃんと話を聞くようにしないといけないなと。そういうところを怠ると、気づかないうちに古くなっていっちゃうと思います。――これまでに影響を受けた作品や脚本家の存在を教えてください。よく聞かれるんですけど、意外とこれというのがないんですよね…(笑)。でもドラマを見るのは好きで、宮藤官九郎さんの「池袋ウエストゲートパーク」や堤幸彦さん演出の「ケイゾク」(※脚本は西荻弓絵)を見て衝撃を受けたし、君塚良一さんの作品も好きでしたね。「コーチ」みたいなオーソドックスな作品から、「ラブコンプレックス」っていう、ぶっとんだドラマもありましたけど、どっちも好きでした。そのへんの作品は、ドキュメンタリー番組を作る仕事をしていた20代のころ、純粋に日々の楽しみとして見てました。それ以前、映画学校にいた頃は、変わったものが好きで、ピーター・グリーナウェイの映画にハマったりしてました。当時は「本数を見なきゃ」って気持ちが強かったんです。というのも、周りは映画オタクの年上の人たちばかりだったんで。当時、映画学校に入ってくる人には、一度、社会人を経験してからの人も多くて、知識量が全然違うんですよ。そういう人たちに追いつかないと話もできないから、変わったものから名画までいろんな映画を見て、映画の日に5本ハシゴしたり、特集上映、オールナイト上映にも毎週のように行ってて、いまじゃどこにも掛からないATGとかカサヴェテスとかゴダールの特集上映とか行ってましたね。入学当初はゴダールすら知らなかったんですけど(笑)。そんな感じで片っ端から見てたので、バイト代は全部映画に消えていくし、いかに多く見られるかってスケジュールを組んでたので、普段は同じ映画を何度も見るようなことはなかったんですけど、橋口亮輔さんの『渚のシンドバッド』にハマって3回見に行きました。ほかにはウォン・カーウァイの『天使の涙』、ジャック・リヴェットの『セリーヌとジュリーは舟でゆく』も3回見に行ったのを覚えてます。――フジテレビのヤングシナリオ大賞を受賞され、デビューしたのが2010年。それから10年で、傍から見れば押しも押されもせぬ人気脚本家になられたように見えますが、ご本人はいま置かれている状況をどのように捉えていらっしゃいますか?いや、私はいまだに自分なんてぺーぺーだと思ってるんで(笑)。だって大先輩方がまだまだ最前線でお仕事されていますからね。そうしたすごいみなさんと比べたら、私なんてたかだか10年ですよ? 周りを見渡せば20年、30年と続けてらっしゃる方たちばかりですから。宮藤さんだって20年以上やってるし、岡田恵和さんももっとですよね? 森下佳子さんは年齢は私と3歳くらいしか違わないけど、キャリアは私なんかより全然長いし。私はデビューが35歳と遅かったので、本当にたかだかですよ、10年なんて。まだまだ脚本家としては新人という感覚ですね。【プロフィール】野木亜紀子(のぎ あきこ)1974年生まれ。日本映画学校卒業。ドキュメンタリー番組の制作会社勤務を経て、『さよならロビンソンクルーソー』で2010年の第22回フジテレビヤングシナリオ大賞を受賞し同作で脚本家デビュー。2016年に「重版出来!」(TBS系)で高い評価を得て、「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)が大ヒット。「アンナチュラル」、「MIU404」(ともにTBS系)などオリジナル脚本作品でも高い評価を得ている。2021年には初めてアニメーション映画の脚本に挑戦した『犬王』(湯浅政明監督)の公開が控える。(text:Naoki Kurozu)■関連作品:罪の声 2020年10月30日より全国東宝系にて公開©2020「罪の声」製作委員会
2020年11月06日ネット業界を舞台にしたお仕事ドラマと大人の等身大ラブストーリーを楽しめる「恋愛ワードを入力してください~Search WWW~」で主人公の年下の恋人を演じ、「即、検索した」といわれるほど日本でも注目度上昇中の若手次世代俳優チャン・ギヨン。業界NO.1を競う女性たちの仕事と恋愛、双方の成長を描いていく本作で演じたゲーム会社社長パク・モゴンについて、人気を呼んだセリフや印象的なシーンなどについて語った。ポータルサイト業界1位の“ユニコーン”でサービス戦略本部長を務めていたペ・タミ(イム・スジョン)は、急上昇ワードを意図的に操作したとして会社を解雇され、その後、業界2位のライバル会社“バロ”に転職、業界1位の座を奪うべく仕事に奮闘していく。そんなときに、ひょんなことから一夜を共にしてしまう10歳年下の男性がパク・モゴン。「このドラマは大手ポータルサイトで働く女性たちとのリアルなロマンスが描かれています。僕が演じたパク・モゴンは、音楽監督でもあり、『ミルリム・サウンド』というゲーム音楽会社の社長でもあります。主人公のペ・タミに対しては、愛情表現が積極的で、かわいくて愛らしい人物です」と解説するギヨン。自身が考えるモゴンの魅力について尋ねると、「恋愛に対してとても積極的なキャラクターですよね。自分の感情に正直な人間なので、胸に秘めてしまうよりも『自分の気持ちはこうなんだ』『お前のことが好きなんだ』と正直に話すところが彼の魅力だと思いました」と語る。「それに僕は慶尚道の蔚山(ウルサン)出身の男なので…、最初は正直ちょっと(都会的な)モゴンにそれほど親近感を感じなかったんです。でも現場で監督とイム・スジョン先輩がすごく助けてくれたおかげで、徐々にモゴンに慣れてきてリラックスしながら演じられた気がします。お二人のおかげで、最後まで演じきれたと思います」と先輩たちに感謝を示した。「できるだけ素の自分を出そうと努力しました」ポータルサイトの会社を舞台にした本作について「テーマ自体がすごく新鮮に感じました。一番重要だったのは、台本が面白かったことです。それにパク・モゴンというキャラクターを演じるのは、僕にとっては挑戦の意味がありました。カメラの前で、僕自身が本当に泣くように泣いてみたり、僕の素の話し方で話してみたり…、チャン・ギヨンらしさをありのままに自由に表現したらどんな感じになるだろう、という気持ちもありました。それに、俳優として挑戦するという課題の意味もありました」と出演を決めた理由を明かす。「ここに来て抱きしめて」「ゴー・バック夫婦」などの作品で頭角を現してきたギヨンだが、本作ではペ・タミ同様、多くの年上の女性たちを魅了した。「日常生活の素のままの自分のように見せたいと思いました。笑うときも本当の自分が笑うように、話すときも飾らずに普段の自分のように話そうとしました。その点にフォーカスを合わせて演じようとしたので、最初はモゴンの性格が自分とは違うので慣れないなと感じた部分はありましたが、できるだけ素の自分を出そうと努力しました」と語る。「難しかった部分は愛情表現をするときに、モゴンは積極的かつ正直なキャラクターなので…、そこで悩むことは多かったです。元々の自分は少し無愛想ですし、表現が豊かなほうではない性格なので最初は悩みました。でも現場で監督とたくさん対話をしながらアドバイスをいただきましたし、イム・スジョン先輩にもいろんなことを質問しました。現場では、僕は“赤ちゃん”でした(笑)」。「でも皆さんのおかげで無事に撮影を終えることができて幸せな気分です」と続ける。「本作のようなロマンス的な“ジャンルもの”は初めてでしたし、僕にとっては挑戦だったので、第1話から最終話までを思い返すと、『恋愛ワードを入力してください~』はこれまでの作品とは違う意味で記憶に残る作品になりそうです」と語った。「モゴンの気持ちをリアルに感じた」別れのシーン特に記憶に残るセリフやシーンについて尋ねてみると、「僕だけじゃなく、他のキャラクターもそれぞれのカラーがしっかりと描かれていたので、全部が記憶に残っていますね。センスのある、面白いセリフが多かったです」とギヨン。「その中でもファンの方々が気に入ってくれたセリフは…、今言うのは少し照れくさいですが…、手から汗が出てきました(笑)。『行くのやめようか?』とか、『未成年じゃない』とか、『俺で消毒』とか…。ファンの方々が覚えてくれているのは、こういったセリフです。撮影が終わって1年近く経ちますが、それ以外にもモゴンのセリフや話し方やしぐさを作家さんがとても素敵に書いてくださったので、すべて気に入っています」と言う。「特にイム・スジョンさん演じるペ・タミとの、別れのシーンやラブラブなシーン、そして愛し合っていた時期のシーンはどの瞬間もとても好きなシーン」と明かし、個人的に気に入っているシーンは「第8話のエレベーターでの別れのシーン」だそう。「大好きで一緒にいたいのに、現実的にそうできなくなってしまう状況になるのですが、そのシーンで大好きなのに別れないといけないというモゴンの気持ちをリアルに感じて、そのモゴンの気持ちをどう表現するべきか考えるのが面白かったです」。さらに「エレベーターの狭い空間の中でスタッフの方々もたくさんいて汗の匂いもするほどだったのですが、モゴンの情熱に火がついている状態なので…、現場のスタッフもすごく集中していたし、力がこもっていたシーンなので個人的にそのシーンが気に入っています」と、情熱を込めたシーンをふり返った。「モゴンにとってタミは愛おしく、かわいい人」では、お気に入りの“シムクン(胸キュン)”シーンはというと…「う~ん。シムクンとは違いますが、モゴンのシャツにペ・タミのキスマークが残っていたときにクリーニング代金のことを話したりするシーンなのですが、そのシーンはシムクンっぽくもあり、パク・モゴンらしさ、ペ・タミらしさがうまく溶け合っているシーンだと思いました。個人的にそのシーンの撮影は楽しかったですし、シムクンと言えば、シムクンと言えるのではないでしょうか」と語る。また、ひとりの男性チャン・ギヨンとしても、主人公のペ・タミの魅力は「かわいいところです(笑)」と言う。「年齢はだいぶ上ですが、自分の仕事に対してはプロフェッショナルな姿を見せてくれるし、モゴンと一緒にいるときに恥ずかしがる姿もかわいいです。そのせいでモゴンはタミにイタズラしたくなっちゃうのですが(笑)。最初は単純に“関心”を持っただけなのに徐々に好きなっていく…。モゴンにとってタミは愛おしく、かわいい人なんです」。劇中にはペ・タミ、チャ・ヒョン(イ・ダヒ)、ソン・ガギョン(チョン・ヘジン)の3人の女性が登場し、それぞれに三者三様のラブストーリーを繰り広げていくが、「僕は幸福を重視する人間なので、全員を応援していますよ」と言い、「その中であえて選ぶなら、僕たちのカップルかと思います(笑)。ペ・タミ&パク・モゴンのカップルが一番美しく、一番かわいらしく、人間らしいカップルではないかと…(笑)」とアピール。最後に日本のファンに向け、「これまでの韓国ドラマでは見られなかったようなテーマを扱っていますし、出演者も演技力のある素晴らしい方々ばかりです。それに僕のこれまでとは違う姿を見ることができるはずです。とても楽しめるドラマですので、周りの方々にもオススメしていただけるとうれしいです。それでは楽しんでくださいね!」とメッセージを贈ってくれた。(text:cinemacafe.net)
2020年11月02日フランス史上初、ミシュラン1つ星を獲得した日本人女性シェフ2019年は神﨑千帆さんにとって忘れられない年だ。ミシュラン仏版で、シェフを務める【ヴィルチュス】が初の1つ星を獲得。師マウロ・コラグレコさん率いる地中海沿いの【ミラズール】は3つ星に輝いたからだ。常連も多く45席が毎日ほぼ満席。「彼は私を認めてくれた初めてのシェフ。応えたいという思いで必死でした」と振り返る。2度目の渡仏で1つ星として頭をもたげたばかりの【ミラズール】へ。アルゼンチン人のコラグレコさんは、国籍も性も関係なく仕事そのものを認めてくれた。千帆さんの父親は精肉店で、子どもの頃から料理人になることが夢。離婚して4人の子どもを女手一つで育て上げた母親の姿を見て備わった生き抜く根性は厨房でも伝わっただろう。全部門を経験し、スーシェフにまで上り詰めた。公私ともにパートナーの、製菓専門のディ・ジャコモさんともこの店で出会った。『ホタテとハヤトウリのサラダ風』。ハヤトウリはタリアッテレ状に切りそろえ、マンダリンオレンジ、アイスプラントとあえる。オレンジとオリーブオイルのシンプルなドレッシング、からすみを振りかけて。「マウロに学んだのは、素材を生かす哲学。例えば、塩はゲランド産粗塩を乾かしたものを使いますが、旨みが凝縮していて、これに勝るものはありません」。【ヴィルチュス】では、率直に言い合えるディ・ジャコモさんとの二人三脚。地中海の太陽を感じさせる、鮮烈さと優しさ溢れる料理で、素材の表情を浮かび上がらせる腕には定評がある。常連も多く45席が毎日ほぼ満席だ。一匹から切り出したアンコウのフィレ。エシャロットで炒めてクリームを絡めたフダンソウと芽キャベツを添えて。パセリと魚のフュメのエマルジョンと。将来的な出産との両立にも悩み、「男性も出産できたら、男女差はないのに」とも。その素直な語り口には、女性としてのステージにもまい進する強さが満ちている。
2020年10月24日役に真摯に向き合う。井浦新ほど、その言葉にぴったりハマる役者はいないだろう。作品ごとに監督と対話をし、役への理解を深めると同時に、どのようにその役に染まっていくかを組み立てていく。ときに感情的に、ときに身体的に。「役や作品・監督によって当然、求められるものは違ってきますが、毎回、同じ熱量でぶつかっていく構えでいます。“てにをは”含め、すべて台本通りにやってほしいと、テクニカルなものを求められるときもあるし、台本より心をそのまま表現してほしいと言われるときもある。僕はどれでも完全燃焼ですし、毎回、同じではないから楽しいんです」。観客と作品を共有することは「奥行きを知れる機会で、僕にとっても喜び」自身の引き出しをフル活用して、役に捧げる。井浦さんの出演作の多彩さは、フィルモグラフィーを見れば一目瞭然だが、思いの深さこそ胸を打つ。作品公開前の精力的なプロモーション活動はもとより、公開後の活動にも熱心だ。様々な地域への舞台挨拶およびティーチインに出席したり、コロナ禍ではSNSでのライブやオンラインイベントに参加するなど、作品の盛り上げに一役買っている。例えば、こんなことも。2018年に出演し、好評を博したドラマ「アンナチュラル」で演じた法医解剖医・中堂系になりきった、9月10日のツイートも話題を呼び、ファンを喜ばせた。そんな小粋な演出も、井浦さんならではの計らい。本人は「時間があるときにやってるだけなんですけどね(笑)」と照れ笑いだったが、プロモーション活動への信念は強固だ。「本来、映画やドラマは観てもらうだけで完結しますけど、味わい方や楽しみ方って、いろいろな形があると思っているんです。参加した作品については、役の大小問わず、あまり厚かましくならなければ、とことん関わらせていただきたいんです。演じるだけでなく、観客の方たちに伝えていく作業も、俳優の仕事のひとつだと僕は思っているので。観る環境をさらに楽しめたり、喜んでいただけるのであれば、別に、それは労力でもないですし」。作品公開後も行うプロモーション活動は、「作品への感謝の表し方」という表現をする一方で、「自分自身が知りえなかった奥行きを知れる機会であり、一体感を共有できることは、僕にとっても喜びなんです」と、井浦さんは目を細めた。「嘘や虚構が本当になる」初の河瀬組/理想的な撮影現場を体験して井浦さんの最新出演作『朝が来る』は、『殯の森』や『あん』などで知られる河瀬直美監督が脚本・撮影を務めた。「特別養子縁組」という制度のもと、実の子を持てなかった夫婦と、実の子を育てることができなかった14歳の少女、それぞれの視点で命と家族を描き出している。井浦さんの役どころは、一度は子どもを持つことを諦めた栗原清和。清和は特別養子縁組制度を知り、妻の佐都子(永作博美)と、男の子を迎え入れることを決意する。「作品に入る前、監督からは“あれをやっといて”“これを知っといて”と指示がきましたし、実際、永作さんとふたりで特別養子縁組のご夫婦に面会させていただいて、お話も伺いました。朝斗(息子)役のオーディションには、僕らも参加して3人でセッションをしたり。映画作りというものに、河瀬監督が巻き込んでくれたんです。役を積んでいくという“役積み”をしてから初日を迎えるのは、本当にありがたいことでした」。撮影はすべて順撮り。シーン1から始まり、「嘘のない」状態で挑んでいった。「この映画を観ていると、誰かの生活をちょっとのぞき見しているかのような生々しさを感じるんです。河瀬組の撮影現場では、演じる俳優たちに嘘がなくなってしまう。嘘が、虚構が、本当になるんです。それがちゃんと画に映っているんだなと、完成したものを観て思いました。僕にとっては一番理想で、目指している映画の作り方なんですね。きっと、どの監督もスタッフさんたちも、できるならばそうしたいと思っているでしょう。そのことをやってのける、本当にたくましい監督だなと思いました」。贅沢な、理想的な現場に身を置いて、全力を注ぎ込んだ撮影期間。初の河瀬組でのオールアップは、抜け殻のようになったのかと問うと、「うーん…」と思案した後、「言葉では言い表せないんですけど、」と切り出した。井浦さんの作品愛がこだまする。「撮影は生命そのものを作品にぶつけていくから、本当に魂をすり減らすので、すごくきついんです。なので“早く終わって楽になりたい”気持ちもどこかにはありながら、真逆で“終わりたくない”気持ちも、もっと大きくありました。こんな純粋な現場にずーっといられたら、なんて幸せなんだろうと思いながらも、早くうちに帰って自分の家族と過ごしたい気持ちもありましたし(苦笑)、様々でした。…打ち上げのときが一番きつかったかな。“ここにいると本当に終わっちゃうんだ”と思って、ひとりで外に出て呆然としていたり。いろいろな感情がありました」。井浦新の思い「夢中になれるものがひとつでもあると、命が救われる」物語内、「特別養子縁組」で朝斗を授かった栗原夫婦は、家族3人で幸せな日々を送っていた。しかし、6年後のある日、朝斗の産みの母親を名乗る女性から、「子どもを返してほしい。それが駄目ならお金をください」という1本の電話がかかってくる。血のつながりと魂のつながり、異なる立場からの強い感情が絡み合い、子どもをめぐる葛藤に胸をえぐられる。それでも、『朝が来る』のタイトルの通り、やがて来る朝が微かな希望を照らし、力をもたらしてくれる。今現在、「生きる」ことに活力が見出せないと感じる人にとっても、何らかのメッセージを受け取れる作品かもしれない。「みんなが強いわけじゃないですからね。僕は…好きなもの、夢中になれるものがひとつでもあると、命が救われるんだなと思うんです。自分にとって夢中になれるものって、やっぱり俳優の仕事で。撮影現場で本当に一瞬記憶がなくなってしまう、もしくは、この芝居をしながら気絶するぐらい、ギリギリのせめぎ合いをした日の帰り道とか、疲弊して動けなくなってはいるけれど、確かに“生きている”実感があるんです」。だから、井浦新は今日も現場に立ち続ける。(text:赤山恭子/photo:You Ishii)■関連作品:朝が来る 2020年10月23日より全国にて公開©2020『朝が来る』Film Partners
2020年10月19日「中学聖日記」の黒岩役で、俳優デビューを果たした岡田健史。同作で、担任教師の聖(ひじり)に恋をした黒岩の純粋さ、彼が「聖ちゃん…」と呼ぶ切ない声、熱を帯びた眼差しに、視聴者は強烈なノックダウンをくらったものだ。あれから2年――イノセントな雰囲気と色っぽさが入り混じった顔つきは、年月を経て、凛々しく精悍な印象へと変化した。現場から現場へと渡り歩いた俳優としての経験が、岡田さんを一回りも二回りも大きくしたのだろう。走り続けた2年間「どんな作品においても、誰よりも語れる自信がある」デビュー以降、休む間もなく駆け抜けてきた岡田さん。主演作5本に加え、数々の映画やドラマ、CMなどに出演し続け、コツコツ俳優としての研鑽を積んだ。「ひとつ、ひとつの仕事に惜しみなく、すべてを投じています。どんな作品においても、誰よりも語れる自信があるんです。語れることこそが、全力投球してきた証拠だと思っていて。2年前と今で、仕事の熱量はまったく変わっていませんし、むしろ高まっています」。熱量が高まってきた背景には、ある変化があったと、岡田さんは続ける。「2年前と大きく違うのは、“作り手側の意図を理解し始めた”こと、ですかね。僕ができている、できていないは別にして、やるべきことが明確に見えてきたというのがあります。デビュー当時は、ただひたすら役の心情ばかりを考えていたんですけど、今はそれよりもやりたいこと、やるべきことが限りなく広がってきました」。インタビューにおいても、一言、一言、気持ちを込めながら言葉をしっかりと伝える。意志の強い瞳の輝きは、どんな小さな物事も捉えて離さない、何でも吸収する、そんな鋭さまで放っている。「去年の夏に、自我と自分の意識を切り離す作業を、役作りでやってみたんです。伝えたいこと・やるべきことは何だろうと考えて、それに自分をちゃんと持っていくようにし始めてから、意図してやることの強さと重要さ、偉大さを感じました。それは、どんな作品においても」。堤幸彦監督との初タッグ『望み』でキーマンを熱演万全を期し、岡田さんが新たに挑戦した役どころは、『SPEC』シリーズや『十二人の死にたい子どもたち』などを手掛けた人気映画監督・堤幸彦による最新作『望み』の石川規士役だ。規士は、ケガによりサッカー選手になる夢を諦めた高校生。両親に対して斜に構えた態度をとり、夜遊びをするようになったある晩、規士の友人が殺害され、彼は被害者疑惑から加害者へと、嫌疑をかけられるようになる。生きていたら殺人犯、被害者であれば帰らぬ人の可能性、家族の“望み”が物語の中で揺れ動き続ける。作品における最重要人物を任された岡田さん。オファーを受けたときは、「原作を読んで、読者をこんなにも翻弄する作品があったのかと衝撃を受けました。規士役のオファーはすごくうれしかったですし“ぜひやりたいです”と返答させていただきました」と興奮気味に話す。タッグを組んだ堤監督とは初顔合わせ。衣装合わせの段階から、お互いに規士のイメージは合っており、本番中もほとんど演出を受けなかったと、岡田さんは説明する。堤監督から受けた唯一のオーダーは、「反抗期を存分に出してほしい」だった。岡田さんは、戸惑った。「僕、反抗期がなかったんですよ。最初、本を読んだときに反抗期という単語も出てこなくて、監督に言われて初めて“ああ、反抗期なのか…!”と理解しました。具体的に反抗期をどう演じたかは…、冒頭、家族4人が食卓を囲んでいるシーンがありますよね。父親(堤真一)に話しかけられているけど、僕は反応しない。そうすると、父親は反抗をしていると捉えるだろうな、と。反応をなくすこと=人として生きていないと、僕は思うんです」。「人として生きていない」というフレーズについて、かみ砕いて説明しようと、「例えば…」と岡田さんはニコッとこちらを見つめた。「今日、インタビューをしてくださっているのに、僕が目も合わさずに、ずっと下を向きながら話していたら“こいつ、大丈夫か?”と思いますよね(笑)?生命はちゃんと保てているけど、人間として生きられていない。そういう規士を僕は作りたかったんです」。尊敬する両親の教えを受けて「いつか、自分の子どもたちにも…」それにしても「反抗期がない」とは、岡田さん自身は、どんな青春時代を過ごしていたのだろうか?「両親が素敵なふたりだったんです。たとえ怒られても“ふざけんな、このやろう”とはまったく思わず、“僕が悪いです、ごめんなさい”と謝っていました。けど、僕の家は、周りに比べると厳格なほうだったので、みんなは携帯を持っているのに僕だけ持てなかったり、お小遣いも少なかったりして、当時は嫌でした。でも、携帯を持っている人間がいいとか、お金がなければダメかと言われたら、違うじゃないですか。“21になった僕が気づくために、そうしたんだよ”って、今、そう言われているような気がするんです」。「本当に、この両親のもとに生まれてよかったな、と心の底から思っています。僕を子ども扱いせず、人間として見てくれて、自分で考えるという力を大切にしてくれたから」と、よどみなく両親への深い感謝と愛情の言葉を繰り返す岡田さん。あふれ出る思いは前へ、先へと送られる。「僕も両親以上のことを、いつか、自分の子どもたちにやってあげたい。…実は、親父からも“俺たちがした以上のことを、お前の子どもたちにやってあげろ。それが最大の、俺たちへの恩返しだぞ”とも言われていて。親父、かっこいいなあって(笑)」。両親からの教えは、岡田さんのベースとしてしっかりと根を生やし、冒頭の「どんな作品にも全力」というエピソードにもつながる。「“無理はしていいけど無茶はするな、絶対手を抜くな。全力であれ”と言われていました。やることをやって失敗するならそうだし、成功すればラッキーじゃん、と。子どもの頃から運動にしても、勉強にしても、努力して得た成功体験があるから、努力することを惜しまないでいられるのかもしれません」と、躍進の裏にある確固たる思いを明かした。最後は、「また2年後に、成長したと思われるように頑張ります!」と言い残し、爽やかに去って行った岡田さん。健やかに、真っすぐに進む姿が眩しい。(text:赤山恭子/photo:Jumpei Yamada)■関連作品:望み 2020年10月9日より全国にて公開© 2020「望み」製作委員会
2020年10月08日「映画と最新テクノロジー」と聞くと、スティーヴン・スピルバーグやクリストファー・ノーランといったトップクリエイターたちの手による、巨額の制作費が投じられた大作の驚くべき映像世界をイメージしてしまうかもしれませんが、それだけではありません。ソニー株式会社(以下ソニー)は、米国アカデミー賞公認のアジア最大級の短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」(SSFF & ASIA)とのコラボレーションで、「オフィシャルコンペティション supported by Sony」と来年度から新設される「スマートフォン映画作品部門 supported by Sony」を支援。才能あるクリエイターがスマートフォンひとつで世界を切り取り、アカデミー賞までたどり着くための道筋をサポートしています。今回、連載に登場いただいたのはソニーでこれらの活動を担当している中臺孝樹さん(ブランドコミュニケーション部門ブランド戦略部)。実は中臺さんは、自身もカメラマンとして活動し、さらにショートショート作家の田丸雅智さんの原作を基に又吉直樹主演の映画『海酒』をプロデュースし、SSFF & ASIAに出品したこともあるなど、映画作りにおいて、制作、撮影からプロモーションに至るまでに深く関わってきた経歴の持ち主。そんな中臺さんのこれまでの歩み、そして現在のお仕事についてお話を伺いました。「人の思いを伝えるというストーリーに興味がある」――高校卒業後、アメリカの大学に進学されて、現地で就職されたそうですね?そうです。もともと、ジャーナリズムをやりたくてアメリカの大学に行ったのですが、「読み書き」という点でネイティブレベルにまで達するというのは難しかったんですね。ただ「撮影する」ということに関しては小学生の頃から一眼レフで撮影をしていて、得意だったんです。それもあって、大学内の新聞や番組の撮影をし、卒業後は主にスポーツ中継を行う放送局で撮影班の一員として働いていました。――スポーツの試合の中継などに関わっていたのですか?厳密にいうとPRを担当する部門で、どのようなストーリーを作るか?という仕事をしていて、その撮影班だったんですね。対メディア、一般の視聴者に向けた映像をどのように出すか? そこに向けたストーリーを作り、撮影を行うという仕事をやっていました。そのために必要となる写真や映像を自分で撮影し、記事や映像を作っていました。――ストーリーを考え、撮影し…という映像制作を行っていたわけですね。そうですね。コミュニケーションありきで映像を作るということをやらせていただいておりましたので、シネマとはまた違いますが、カメラマンという立場で、背景にあるものを理解してストーリーを作るということをやっていました。――その後、日本に帰国されて…。帰国して通常の企業で営業マンのような仕事をしていたのですが、東日本大震災が起こったことで、何か日本を盛り上げることはできないか?ということを同世代の人たちと話す機会がありまして。自分はカメラを扱うことができるので、何かストーリーを作ったらどうか? ということで、ちょうど2011年の3月いっぱいで当時の会社を退職することも決まっていたので、それを機に映画制作を始めました。――自分が作りたい映画作品を作るというだけでなく、映像の制作を“仕事”として請け負うことも?そうです。当初はフリーランスで写真撮影や映像制作を手掛けることもあり、その後は映像制作会社という形で、制作の仕事を請け負っていました。国際交流基金さんの映像を制作したり、ミュージックビデオを制作したり、車のメーカーさんのPRのためのCG映像などを手掛けたりしていまして、主に企業の映像を作る機会がありました。映画制作では、ひとつ、中野裕太さん主演の長編映画『もうしません!』をプロデュースし、ゆうばりファンタスティック国際映画祭に出品させていただき、さらに又吉直樹さん主演の短編映画『海酒』はSSFF & ASIA 2016で上映させていただきました。――アメリカではスポーツというノンフィクションのものに携わっていらして、映画というフィクションの“物語”を制作するという点で、違いもあったかと思います。根本にあるのは「人」だと思っていまして、人の思いを伝えるというストーリーに興味があるんですね。僕自身、過去に見たいくつもの映画が「あの映画のあのシーン…」という感じでずっと心に残っていて、元気もらったり、人生に影響を受けたりしてきました。そういうひとつひとつのストーリーに目を向けて、自分もそれを作りたいと思ったんですね。「映画はテクノロジーや新たな手法を用いて進化」――プロデューサーという仕事の面白さや大変さについて教えてください。これはあくまでもソニーに入社する前の個人の活動の話ですが、プロデューサーとしてまず予算をどう集めるか?プロジェクトをどう管理するか?という部分とクリエイティブの対立があると思っていまして、監督がクリエイティブに責任を負うとすると、プロジェクトそのものに責任を持っているのがプロデューサーなんですね。予算とスケジュールとクリエイティブのバランスを学ばせてもらい、面白くもあり難しい仕事でした。「本当はこうしたいけど、予算が…」ということもあるし、そこで「この予算でもこうしたらうまくいくんじゃないか」と考えるのは面白かったですね。――ソニーに入社される前には、人気漫画を原作とした全国劇場公開映画のPRキャンペーンディレクターを務められたそうですね?日本全国の劇場を回ってPRを行うという業務でした。映画を作っても、なかなか見る人たちに触れ合う機会ってないんですけど、この時は地に足の着いた活動といいますか、まさにお客様に直に触れ合いながら全国の約100劇場を回らせていただきました。多くの劇場で配信してもらうことの大切さを学びました。――その後、ソニーグループに入社されて、映画『バイオハザード:ザ・ファイナル』などのプロモーションに関わることになったと伺いました。ソニーの最新技術を用いつつ、それと『バイオハザード』というIP(知的財産)を掛け合わせるような企画ができないかということで関わらせてもらいました。ハプティクスベストという身体に振動を与える技術を用いて、映画の体験をよりよくしようというプロモーションで日本だけでなくアメリカ、インド、スペイン、香港などを回らせてもらいました。――映画『スパイダーマン:ホームカミング』ではムービングプロジェクター、高速ビジョンセンサーを用いて、スパイダーマンとボルダリングを体験できるというプロモーションをハリウッドのレッドカーペットで行ったそうですね?テクノロジーを映画のプロモーションに活用するという活動ですね。そうですね。映画で、テクノロジーをどう用いるか? というのは非常に重要だと思っています。例えば多視点でアングルを変えることができるバレットタイム、ドリーとズームを合わせたバーティゴエフェクト、ドローンやCGはもちろん、レイトレーシングなど、映画はテクノロジーや新たな手法を用いて進化を遂げてきたとも言えます。そういう意味で、ソニーは撮影するカメラや録音のマイク、映像を見せるテレビやヘッドフォンまで、まさに入口からエンドまでの技術を持っていますので、ありとあらゆる技術を用いてプロモーションも行うというのは、非常に面白かったですね。スマートフォンで撮影した作品がアカデミー賞へ?――映画だけでなく、SEKAI NO OWARI×リアル脱出ゲーム「INSOMNIA TRAINからの脱出」にソニーの触覚提示技術を導入するという仕事もされたそうですが、主に最新技術を活かしてプロモーションを行うという仕事を?この脱出ゲームの中で、参加者に対してゲームのストーリーを動画にて紹介する演出がありました。ここにソニーの触覚提示技術を導入し、動画の映像と音声に合わせて床が振動するなど、触覚に訴える演出を行うことによって、全身で楽しめる臨場感と没入感のある体験を実現しました。ここはプロモーションというよりも、ソニーの技術やIPをどのように活用できるか? というのを模索する部署に2年ほど前までおりまして、その活動の一部でした。現在は、ブランド戦略部という部署で、ソニーの魅力を広く伝える活動を行わせていただいています。――そうした活動の一環として今回、SSFF&ASIAとのコラボレーションを?ソニーは存在意義として「クリエイティビティとテクノロジーで世界を感動に満たす」ということを掲げています。その感動を作るためにはクリエイターの存在は欠かせません。SSFF & ASIAで「オフィシャルコンペティションsupported by Sony」という形で支援させていただいていますが、米国のアカデミー賞公認の映画祭であるということも含め、ハリウッドを本気で目指す人たちを支援したいという思いがあります。また来年度より新設される「スマートフォン映画作品部門supported by Sony」を支援することで入口を広くしたいなと思っています。多くの人たちが気軽に作品を作ることができて、またその作品がアカデミー賞までたどり着くことができるようになったらうれしいですね。スマートフォンで撮影した作品がアカデミー賞に届くかもしれないということで、SSFF & ASIAさんと一緒にやっていけたらと考えています。――実際にこれまでご自身で映画を作ってきた中臺さんから見て、Xperia™の機能性はいかがでしょうか?例えば、私の過去作品『海酒』で主演の又吉直樹さんが走り、それをカメラマンがカメラを担いで追いかけながら撮影するシーンがあったんですけど、ちょうど芥川賞受賞が発表された直後で季節は夏で、暑い日だったので、又吉さんの後をカメラマン、監督、フォーカスマン、音声が追いかけていくというかなり大変なシーンになりました(苦笑)。あの時に大きなシネマカメラで撮影したレベルの映像とそん色のない映像を、いまはスマートフォンひとつで撮影することができるんですね。それは非常に魅力的なことだと思います。――重いカメラを担いでカメラマン、フォーカスマンらスタッフが役者を追いかけていくというのは、映画の撮影では日常的ともいえる光景ですが、それが1台のスマートフォンでできてしまうというのは、ものすごいイノベーションですね。単に軽いというだけでなく、Xperiaを使えば狭い場所――たとえばカメラを担いで入っていくのが難しかった細い路地で撮影するなどといったこともできるんですね。しかもそれがシネマクオリティ。僕自身、カメラマンとして時には地面に這いつくばって撮影することもあったのですが、Xperiaを使うことで大きなカメラでは難しかった撮影もできるようになると思います。――ただ軽い、コストが安いというだけでなく、シネマカメラ以上の臨場感のある映像を撮ることもできるかもしれないということですね。そう思います。より人に近く、より人の感情を表現できるデバイスになりえると思いますし、よりダイナミックな映像という点も、スマートフォンだからこそできることがあるんじゃないかと思っています。――ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社の取り組みとして、これから映画を作りたいという学生を支援する「Xperia Cinema Pro Students Challenge」も行っていますが、ご自身もプロデューサー、クリエイターとして映画作りをして、その苦労も知っているからこそ、こうした活動に強い思いをお持ちなのでは?そうですね。私自身、プロデューサーとして予算集めに苦労したこともありますし、天候不良で撮影日が1日増えただけで、クルーを集め、ロケバスを手配し…と予算が一気に増えるんですね。それこそシネマカメラも1日借りるだけで10万円以上かかりますし、当然ですがカメラだけを借りても仕方ないわけで、カメラマン、フォーカスマンが必要で、モニタも用意して…と非常に大きな金額が必要となってしまうわけです。そこをスマートフォンで補うことができるというのは非常に魅力的なことだと思っています。そういう部分を含めて、最新のテクノロジーによってクリエイターの“今後”を支援していくのは非常に楽しく、素晴らしいことだなと思っています。一方で、それだけでなくクリエイターが活躍できる“機会”を作ることにも大きな意味があると思っていまして、Xperia Cinema Pro Students Challengeの活動やSSFF & ASIAとのコラボレーションにより、チャンスを支援していくことができればと考えております。誰もが持っているストーリー「形にするということを恐れずに」――これまでの経験や現在のお仕事を通じて、これからの日本の映画界にいま、何が必要だと感じてらっしゃいますか?やはり日本ではクリエイターが限られているという現状があると思います。国が映画制作を助成するという仕組みはありますが、いつお金が支払われるのか? というタイミングやシステムとして、現状ではすでに実績のあるクリエイターの方々が映画を作って、それに対してその後、助成金が支払われるという運用の仕方になっていることが多いんですね。僕自身の経験を踏まえて、映画制作のつらい部分は2つあると思っていて、それは「作る」過程と「見せる」過程だと思っています。たとえ映画を苦労して作ったとしても、どのようにしてお客さんに届けるか? という部分が非常に難しくて、単館系の小劇場と交渉して何とかそこで上映して…ということが多いと思いますが、一方でインターネットの技術などを介することで、多くの人に見せられるチャンスは増えてきたのかなと思います。それによって、短編映画が長編映画の登竜門、いわゆるデモテープのような存在としてではなく、短編映画そのものがコンテンツになりうる時代になってきたのかなと個人的に思っています。どんな機材、レベルであれ、作ったものを世に出して評価を受け、時には批判もされながら、より良いものを作っていく――そうした流れが日本中で広まればいいなと思っています。――今後、中臺さん自身は映画業界でどのようなことを実現したいと考えていらっしゃいますか?いま、映画は2つの方向に進んでいると個人的に感じています。ひとつは、より深い体験ができるということ――画質や音響がよりよくなっていき、よりイマーシブ(没入体験的)になっていくと思います。一方で、映画自体がコンテンツの一部になっている動きがあると感じていて、ヒーロー映画をコスプレをして観に行ったり、映画そのものの前後にあるいろんなものを含めて、体験として楽しめるようになっているなと思います。そのどちらの方向性も素晴らしいものだと思っているので、もし個人で作品を作れる機会があれば、イマーシブな映像を作ってみたいという思いもありますし、一方で映画を含めた様々な体験を含めて「映画を楽しむ」ということを提供できるものを作れたらと思っています。――最後に映画業界を志す人たちにメッセージをお願いします。映画って切り口はいろいろあると思いますが、でも根本にあるのはストーリーテリングにあると思っています。そして、そのストーリーテリングを支えるのが技術やテクノロジーなのではないかと。社会問題にせよ、自分が伝えたいことにせよ、もしかしたら日常の些細な幸せにせよ、その人しか持っていないストーリーを必ず誰もが持っていると思うので、それを形にするということを恐れずに続けてほしいと思います。その人しか持っていないストーリーは、その人が自信を持って発信しない限り、一生外に出てこないので、そういうものを表現するということを続けてほしいと思います。また、SSFF & ASIAとソニーモバイルが企画したCreators’ Junction partnered with Xperia™でも冒頭少しお話させて頂きました。河瀬直美監督と常田大希さんのトップクリエイターのトークセッションをお楽しみいただければと思います。「Creators’ Junction partnered with XperiaTM」は9月28日(月)20時スタート予定。(photo / text:Naoki Kurozu)
2020年09月27日歌舞伎俳優・尾上松也が、ABEMAにて記念すべき初MCを務めるオーディション番組「主役の椅子はオレの椅子」が9月16日(水)22時より配信スタートとなる。19人の若手俳優たちが、舞台の「主役の椅子」を勝ち取るため、毎日オーディションに挑み、さらには共同生活も送るという内容で、熾烈なバトルが繰り広げられることが想像できる。「もしこの話が来ても…受けません(笑)」と笑顔を交えて話す松也さんだが、彼らと同じ年端の頃は歯を食いしばり、自分の生きる道を必死に模索していたという。歌舞伎はもとより、映像作品やミュージカル、バラエティー番組と躍進が続く裏には、知られざる努力もあった。松也さんの語ってくれた経験は、若手俳優たちの奮起のひとさじになるに違いない。俳優同士の熾烈なサバイバル・オーディション番組「話が来ても、受けない(笑)」――主役の座をかけてサバイバル生活をするというオーディション番組が始まります。内容を聞いたとき、どう感じましたか?松也:19人の俳優がともに生活をして、オーディションを受けて、舞台の主演から何かをつかもうとする、という内容なんですよね。自分は、歌舞伎をはじめ舞台が中心なものですから、最初「舞台の主演を競い合う」ことに、すごく魅力を感じました。少なからず、同じ演劇というものを志す人間として、どのような感じで挑戦するのかを見てみたいな、と思ったんです。――松也さんは、もはやオーディションを受けることはないと思いますが、演劇人として、俳優の先輩として、MCとして、いろいろな気持ちでご覧になりそうですか?松也:そうですね。僕も若い頃には、歌舞伎以外の分野で、オーディションを何度も受けていましたから。この番組に出る方たちは、10代ないし20代前半が中心ですけれど、板の上に立ったときの燃えたぎる情熱は、たぶんどんな立場になっても変わらないですし、逆に言うと忘れてはいけないこと。ですので、単純にドキュメンタリー番組として面白いところもありますが、僕自身は、この番組を通じて、かつて自分がオーディションを受けたときのことを思い返しながら、自分自身のこれまでの役者人生とこれからの考え方が変わるのかななど、照らし合わせながら見ていきたい気持ちです。――実際、その年の頃にこのお話がきていたら、受けていたと思います?松也:いや…これはきついです(笑)。僕なら絶対心が折れるから、もしこのお話しが来ても、僕は受けません(笑)。オーディションは受けに行きましたけど、この「一緒に生活する」ことが過酷だと思う。ただ生活するだけではなく、毎日誰かが落とされていくのでね…。偏見かもしれませんが、芸能活動をする人方、特に第一線で活躍されている方の多くは我が強いですし、そういう方が生き抜いていかれる世界だと思うんです。それで言うと、団体行動に向いている人は早々いないと思いますし、僕自身も決して向いていない(笑)。だから、19人の皆さんは参加を決めただけで本当にリスペクトですよ。歌舞伎界で“主役の椅子”を取るため、松也さんが取った行動とは――松也さんの俳優としてのこだわりや信条など、教えていただけますか?松也:僕の大きなひとつの指針となっている言葉は、「継続は力なり」です。何でも諦めたらそこで終わりなので、自分の夢や理想があり本当につかみたいなら、どんなことがあってもその気持ちを絶やしてはいけないと思っています。…ですけど、続けるって大変に難しいことですよね。僕自身、折れそうになることは何度もありますが、何とかやってこられたのは、周りの人の助けと、やはり死ぬまでチャレンジ精神や向上心を持っていることで。実体験として、まだ何か花開くような兆しもないときから、そう信じてやってきて、結果的には花開いてつながったものが多いので、すごく大事なことかなと思っています。――本番組のMCしかり、歌舞伎以外にも、様々な活動をされていらっしゃいます。どうしてそこまでチャレンジ精神を持ち続けていられるんですか?バイタリティの秘訣は?松也:僕の中では…大きなコンプレックスが作用していると思います。歌舞伎界は世襲制が強いのですが、僕はもともと家柄のない人間なので、恵まれていたわけではなく、フィーチャーされづらい位置にいたんです。父は僕が二十歳のときに亡くなりましたので、なおさら「これは自分でなんとかしなくてはならない」と思いを強くしましたし、父がせっかく作ってくれたレールの上をただ歩くのでは、それこそ“主役の椅子”は取れません。歌舞伎界で“主役の椅子”を与えてもらうためには、歌舞伎以外の活動を通じて、多くの方に見ていただけるようになって、必要とされる存在にならなきゃいけない、という気持ちがあったんです。――歌舞伎以外の選択をする際、前例がなかったのもありますし、怖くはありませんでしたか?松也:おっしゃる通り、今の僕のような立ち位置でやっている人って、いないんですよね。今でも心細いです。それでも、失敗しようがしまいが、そこで動かないことには何も未来が拓けない状況でしたので、周りに何を言われようが「やるだけのことはやってみよう」と決意して始めました。「大丈夫、絶対に俺はこうなるんだ」というイメージを忘れずに継続させていたことが、自分の中では大きな力になったと思います。「穏やかな夜を欲してる」松也さんの意外な今の“推し”は…――情報解禁時のコメントでは「“推し”を探して見て頂ければ」とありました。今、松也さんが“推し”ている人、もしくはモノなど、ありますか?松也:モノになるんですが…この自粛期間中に、キャンドルにどハマりしました。今も絶賛ハマっています。緊急事態宣言のとき、断捨離をしたんですね。その中に、たまにいただくキャンドルがあって、普段はあまり使わないので捨てようかなと思ったんですけど、捨てる前に「せっかくだから1回つけてみようか」と。試しにつけたら、炎から目が離せなくなりました。そこから集め出して、今は毎晩20個近くのキャンドルを焚いて、夜を過ごしています。――一時的なブームで終わりそうですか?続きそうですか?松也:キャンドルに関しては、続きそうなんですよ。全メーカーを網羅したいと思っていますし、それが終わったら自分でも作ってみたくて(笑)。もともと、明るい蛍光灯みたいな色は好きじゃなくて、家の灯りはオレンジっぽい淡い色にしていたんです。だからか、キャンドルの炎は、すごくリラックスできる感じなんですよね。ホッとするんです。――自粛中も今も、1日の終わりに一息つける時間のおともとして役立っているんですね。松也:あまりそういう人間じゃないと思っていたんですけど、自粛期間中は、自分もいろいろストレスを感じていたようでして。「このままだとヤバいな」という感じもあったんです。家の中で、自分の癒やしになるようなこと、ストレス発散になるようなことはないかなと思ったときの出会いだったので、キャンドルは本当に落ち着きますね。…さらに言えば、リビングのテーブルの上にキャンドルを20個ほど載せて、焚いて、その前のテレビには焚火のYouTubeを流しています(笑)。ライトを全部消して、それだけで過ごすという。コロナ渦以前は、自分がそういうことで夜を落ち着いて過ごすなんて想像もしていなかったんですけど、「こんな穏やかな夜を欲してるのか」と思いますよ(笑)。これが今の僕の“推し”です。(text:赤山恭子)
2020年09月16日「全世界待望」という言葉がこれほど似合う映画は、ほかにないだろう。世界的ヒットメイカーであり、観る者を熱狂させる作家性を有した超一流クリエイターでもある、クリストファー・ノーラン監督の新作『TENET テネット』(9月18日公開)。8月26日から41の国と地域で公開された本作は、世界興行収入5,300万ドルのオープニングを記録。コロナ禍にあっても、他の追随を許さない圧倒的な強さを見せつけ、各国で初登場No.1を獲得した。本作の大枠は「世界の破滅を回避すべく、スパイが奔走する」物語なのだが、そこに「時間の魔術師」なノーラン監督らしい「時間の逆行」という要素を入れ込み、映像的にも物語としても、これまで観たことがない内容に。歴史的な傑作と呼ぶにふさわしい、驚異的な作品に仕上がっている。今回は、ノーラン監督と主演を務めたジョン・デイビット・ワシントンの2人にインタビュー。予定時間を超過しても、作品の魅力や舞台裏を饒舌に語りつくしてくれたノーラン監督とワシントンの言葉を、余すことなくお届けする。“時間”は「世界の見方を変える」――『TENET テネット』、読解力を総動員しなければ太刀打ちできない傑作かと思います。同時に、監督の「観客の理解力を信じる」姿勢を強く感じました。ノーラン:常々、映画は誠実に作っていきたいと思っています。ではその誠実さとは何なのか?それは「自分が観たいものじゃないと作りたくない」なんです(笑)。そして、「きっと、私が観たいと思う映画を楽しんでくれる人がいるに違いない」という信念はありますね。自分だったら何を期待するのか?ワクワクしたいし、現実逃避がしたい。今までに見たことのない世界を見たいし、やっぱりエンターテイメントがいい。プラス、世界に対する見方がちょっと変わるかもしれないもの、あれこれ考えたくなるものが観たいんです。――今回は、ノーラン監督がこれまで描いてきた「時間」というテーマがより複雑化していますが、『TENET テネット』における時間の意味合いとは?ノーラン:「時間」はこれまではメタファーであったり、話を円滑に進めるデバイス的な役割を果たすものとして、使ってきました。『TENET テネット』では、「世界の見方を変える」意味合いとして用いています。――「逆行」は、まさに観たことがないものでした。ノーラン:映画の中ではいろんな物理学の法則が出てきて、「すべてはシンメトリーだけれど、エントロピー(熱力学における、複雑さを表す概念の1つ)だけは例外である」と描いていますが、「逆行」の部分に代表されるように、「時間」というものを物理的な次元に落とし込んで、リアルに画面の中で見せていかなければいけませんでした。逆行をどうCGを使わずに表現するか……役者にも不自然な動きをしてもらわなければならないわけですし、演出的にも技術的にも工夫を凝らしましたね。例えばカーチェイスのシーンなどは、1つのショットを作り上げるのに6通りの撮り方を試しました。その6パターンの映像を編集でつなぎ合わせて、作り上げているんです。毎シーン毎シーン、計算して組み立てて、試行錯誤の連続でしたね。役者とのやり取りや演出「監督はすごく楽しそう」――ジョン・デイビット・ワシントンさんは、こういった非常に難易度の高い作品に出演するにあたり、どんな準備をされたのでしょう?劇中では、ほとんど主人公の過去が明かされませんが…。デイビット・ワシントン:おっしゃる通り、色々と解釈の余地のあるキャラクターなので「この人はどういう歴史を背負っているのか?」は、あれこれ考えましたね。役作りにおいては、海軍やネイビーシールズ(アメリカ海軍の特殊部隊)、武器の使い方などについてリサーチを行いました。もう1つ考えたのは、あのクリストファー・ノーランの作品だから、ものすごいスケール感があって、ジャンルもストーリーも、撮影技術的にも、ひとひねり加えた素晴らしいものになるだろう…という前提。ただ僕としては、そういう超大作の中に、ある1人の“人間”をしっかりと据えるんだ、という意識がありました。脚本を読んで、下調べをしていく中で、この主人公は実に人間らしい人物だと感じられたんです。人によっては、彼の行動を“落ち度”と見るかもしれないけれど、その脆弱性こそが彼の力だと解釈しました。――なるほど、人間らしさがキーワードだったんですね。デイビット・ワシントン:他には…トレーニングが大変でした(笑)。2か月半ほど体作りに費やしましたね。ただ、形から入ったことで、「この人はこういう男で、こういうことができる」というのが体で分かってくるようになったんです。トレーニングの中で「なぜこの人は戦うのか?」という部分の理解が深まり、役作りに追加していきました。あと、もう1つ。ノーラン監督は、僕をパートナーとして見てくれて、一緒にものづくりをしよう、と接してくれるんです。監督がいつも「直感を信じて、やりたいようにやったらいいから」と言ってくれたおかげで、安心して感じるままに演じられました。――「逆行」するアクションも、すさまじかったです。デイビット・ワシントン:今回は、体に染みついた動きを“脱・学習”して、今までに体験したことがない身のこなしを新たに習得する必要がありました。まばたきや呼吸、喋り方ひとつにしても、全部学び直さないといけない難しさがありましたね。リハーサルも相当数を重ねました。まるでダンスの振り付けを覚えるような感覚でした。今まで映画ではなされなかったことが初めて行われた現場でしたし、スタントコーディネーターのジョージ・コトルの力なしにはできなかったと思います。――そのほか、ノーラン組に参加して印象的だった思い出はありますか?デイビット・ワシントン:びっくりしたのは、監督は悪天候だとテンションが上がるんですよ。雨がザーザー降っていてもやる気満々だし、逆にデンマークの風力発電所での撮影で快晴だった時には全然喜んでいなくて…。次の日大荒れになったら、「やったぞ」という感じでした(笑)。ノーラン:(笑)。デイビット・ワシントン:あとやっぱり、役者とのやり取りや演出をつけるとき、すごく楽しそうですね。例えば会話の中で、「ブルース・ウェイン風にやってみよう」とか、色々遊んでくれるんです。共演者のお話をすると、ケネス・ブラナーの姿を見て、自分は俳優としてはまだまだだな…と思いました。彼は本作でロシアなまりの英語を話しているんですが、それに加えてこの映画特有の話し方もこなしていて、しかもシェイクスピア劇みたいに朗々と語っている。僕はなまりなしのアメリカ英語で精一杯だったので、さすが名優中の名優だ!と感嘆させられました。斬新なアイデアは「あれこれ考えてきたことが収れんした形」――ジョン・デイビット・ワシントンさんの役作りについて伺ってきましたが、ノーラン監督はどういったものから、『TENET テネット』のアイデアを思いつかれたのですか?ノーラン:これは『インセプション』もそうなんですが、あれこれ考えてきたことが収れんして形になっていった感じですね。自分が送っている日々の生活や、その中で見聞きしていること、私自身がどんどん年を取ってきているという事実などが積み重なって、「そろそろこのコンセプトを映像に落とし込んでもいいかな」という時期がやってくるんです。そういう意味では、何か一つがヒントになるというよりも、長年抱えている思いだったり、温めて続けてきたコンセプトなんですよね。――ありがとうございます。『インターステラー』に続く、物理学者キップ・ソーンさんとのコラボレーションはいかがでしたか?ノーラン:彼の話を聞いていていると、「世の中は、いま目に見えている可能性よりもさらに“何か”を提供してくれるものなんだ、もっともっと様々なことがありうるんだ」ということに気づくんです。フィクションよりも気になる真実を、教えてくれる。『TENET テネット』に関して言うと、先ほど申しあげた物理の法則について相談に乗ってもらいました。「世の中のあまねく物理の法則はシンメトリーだけど、唯一の例外がエントロピーの法則だ」という部分です。キップ・ソーンは、「時間が逆行するとなると、人は普通に呼吸できない」とか、事細かに説明してくれました。彼にもらったアイデアは、実際の脚本にも盛り込んであります。もう1つキップ・ソーンの素晴らしい点を挙げると、私たちよりも遥かに頭脳明晰なのにも関わらず、我々の「どういうことを映画でやりたいのか」をちゃんと聞いてくれて、落とし込んでくれるところ。だからこそ彼は、偉大な学者なんだと思います。(SYO)■関連作品:TENET テネット 2020年9月18日より全国にて公開© 2020 W arner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved
2020年09月15日じゃがいも一つでも、料理人の腕で一流の皿にできる。そんなフランス料理の力に魅了されました「美術の教師だった母は帰りが遅く、おなかがすいてもつくってくれる人は誰もいない。自分で料理するしかなかったんです。 物心ついた頃にはもう台所に立っていました」。あっけらかんとそう語るのは田中いずみさん。赤坂のフランス料理店【タンモア】のオーナーシェフだ。住宅街の地下1階にある秘密の空間小学生の頃から料理番組を見ては献立を考え、キャべツ一個をどう使い切るかなどを算段するのが楽しかったという田中シェフ。それも食いしん坊なればこそ。「今も、鴨一羽を胸、モモ、内臓など、各部位を違う料理法で提供するのが好き」だそうだから、そのスピリットは既に幼い頃から芽生えていたようだ。『ハモのバリグール風』テーブルに置かれた瞬間、鼻先をくすぐるハーブの香りが素晴らしい。南仏の定番料理に今が旬のハモを、軽く炙って合わせた一皿。卒業時に調理師免許が取れる高校を出た後、調理師学校に進み20歳で就職と同時に結婚。横浜や鎌倉のレストランで修業後、彼女曰く「旦那をほったらかして」渡仏。一つ星レストランやパリ郊外のビストロなどで3年半腕を磨いた。結婚生活を続けながらのフランス修業はご主人の理解あってこそだろう。『エゾ鹿内もも肉2種仕立て』は、ローストしたモモ肉にかぶ・すももを添えた一品と、同じ鹿肉を生ハムにし、かぶ・すももと共にサラダ仕立てにしたもの。コースは8,000円~。「フランス料理は、料理人の腕1つでただのじゃがいもも一流のお皿に昇華できる。そこに魅力を感じました」。帰国後、2年前にオープンした同店では、好きなジビエや海と山の幸を共に盛り込んだ一皿をスペシャリテとして提供。仔鹿や仔山羊なら一頭仕入れて自ら解体することも厭わないガッツな精神の持ち主だ。が、仕事を続けていく中でさまざまな壁にぶつかったことは想像に難くない。「人間、コンプレックスを持っていた方が頑張れる」。この一言がすべてを物語っている。タンモア【エリア】赤坂【ジャンル】フレンチ【ランチ平均予算】5000円【ディナー平均予算】10000円【アクセス】乃木坂駅 徒歩6分
2020年09月13日「もっと不器用になりたい」。ふと、成田凌の口からこんな言葉が漏れた。現在、26歳。俳優デビューは、まだ数年ほど前のこと。劣等感を抱く新米医師から夢見る活動弁士、厄介な殺人鬼まで、様々な人間と化してきた成田さんだけに、おそらく「不器用」か「器用」かと問えば後者なのだろう。しかしながら、作品ごとに見せる自在な変化は、“役になりきる”という、ある種の「不器用さ」の賜物のようにも見えていた。役に没頭しすぎない「冷静でいなきゃできない」「役に引っ張られるとか、そういうの全然ないんです(笑)。撮影中も、役と自分を分けている…はずですし。とは言え、分かれきってはいないと思いますけど。ただ、(役に)没頭しすぎるほうが危険な気はして。演じるって、冷静でいなきゃできないことだとも思う。抑えたり、出したり。頭で考えながらしなきゃいけないことは絶対にあって。感情のままドバッと行くほうが気持ちいいかもしれないけど。素直に生きちゃいけない場だと、僕は思っています」。「そんなふうに考える自分が嫌いですけどね」と呟いてからの、冒頭の一言。「言わなきゃよかった(笑)」と茶目っ気まじりの後悔を見せるが、作品を重ね、キャリアを充実させていく中、その“冷静な器用さ”は見抜かれ始めているよう。「監督など作り手の方々からは、『映画を撮りたい人でしょ?』と言われます。実際、そういう気持ちもありますし。全体を見て、『ここはこうだから』と理論的に考えたくなる。だから、共演者の方々と、それぞれの考えを持ち寄り、互いに意見を交換し合いながら作り上げていく時間が楽しい。面白いですよね、作品づくりって」。そんな成田さんの出演作『窮鼠はチーズの夢を見る』で演じた今ヶ瀬渉は、「僕自身とは距離がある人」。大学時代の先輩・大伴恭一(大倉忠義)に再会した今ヶ瀬は、ずっと溜め込んできた彼への恋心をぶつけ始める。優柔不断で流されやすい恭一を、ぐいぐいとねじ伏せるかのように。役は周りが作ってくれるもの「どう演じるかではなく、どう見えているのか」「大抵の人は気持ちを抑えながら恋をしていくものだと思いますが、今ヶ瀬は抑えない。それどころか、傷つくこと前提で進んで行く。素直と言えば素直だけど、わがままと言えばわがままですよね。無理なのに、理想を持っている。分かっているのに、傷つく。ちょっと先の未来が見えているのに、そこへ向かう。これまでも、これからも、僕にそんなことはできません(笑)」と笑う成田さん。思いのまま突き進む今ヶ瀬を、「感情のまま」演じることはやはりなかった。「恭一がどう思うか。そんな芝居の仕方でした。僕個人として今ヶ瀬をどう演じるかではなく、今ヶ瀬は恭一にどう見えているのか。そんなことばかり考えていましたね。どの作品もそうですけど、僕の役は周りが作ってくれるもの。人って、自分が何をしたいかじゃなく、ある意味自分以外が決めるものですし。演じる感覚としては、いないものというか。結局は、周りから見たらどんな存在なのか。それが中心にあります」。やはり“冷静な器用さ”を滲ませるが、そのスタンスが最も功を奏したシーンの1つに、ベッドシーンが挙げられるのではないか。恭一と今ヶ瀬の間を行き来する満たされる気持ちも、満たされない気持ちも伝わってくる大事な場面だが、撮影には技術的な調整も伴う。「綺麗ですよね。自分で言うのもなんだけど、すごく綺麗でよかった。でも、恥ずかしかった…。あれして、これしてって、見せ方とか考えなきゃいけないことが山ほどあるし、心が疲れます(笑)。撮影していて心が一番疲れるのが、ベッドシーンかもしれない。しかも、さらにアフレコで音を録るわけで…。恥ずかしい…。人を演じるって、恥ずかしいものなんだなと思いました(笑)」。恋愛映画は誰かの「振り返る時間になればいいな」作品のことを考え、相手や周りを考える人が明かした「恥ずかしい」という感情。ほっこりさせられる半面、自身の恥じらいなど微塵も感じさせない仕上がりに俳優魂を感じるが、「演じるときは、ですよね。これが自分の人生となると、もっと“自分”です」と笑う。「『俺、どう見られてるの?』って。気にもなりますし。でも、自分のことを誰がどう思うか、一番分かり得ないのは自分かもしれない。昨日、映画館に行ったんです。僕も出演している『糸』が上映されていて。カップルの方たちが来ていたんですが、『ああ、彼らの目に俺の芝居はどう映るのかな』って。でも、それは彼らにしか分からないし、不思議な感覚でした。もちろん、特定の誰かのために芝居しているわけじゃなく、誰かしらに伝わればいいなと思ってやっているんですけど」。ちなみに、成田さんが映画館で観たのは『映画ドラえもん のび太の新恐竜』。「ドラマの撮影終わりに、友人に誘われて。『でも、観なさそうだよね』と言われ、『いや、観るよ』と。観るんですよ、『ドラえもん』!」と、意外な一面(?)を見せる。一方、演じる側としては『窮鼠はチーズの夢を見る』しかり、「やっぱりラブストーリーは多くなる」そうだ。「みんなすることだし、どこかに絶対持っている小さなものを、でかでかと発表する感じが面白い。なんてことなければないほど考えなきゃいけないことも多くて、その時間が楽しいです。『窮鼠』もそうなんですけど、そうしてできたものが、誰かにとっての振り返る時間になればいいなと思っていて。観てどうこうしてほしい、じゃなく、ちょっと振り返ってみてほしい。人のことを見ているほうが、意外と自分のことも見られるから。『あ、ちょっと待てよ。自分』って。そうなるんですよね、恋愛映画って」。(text:Hikaru Watanabe/photo:Maho Korogi)■関連作品:窮鼠はチーズの夢を見る 2020年9月11日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国にて公開©水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会
2020年09月09日「飾らない女優」。水川あさみは、そんな言葉がよく似合う。『金田一少年の事件簿 上海魚人伝説』でデビュー以来、十代のころから映画やドラマで活躍してきたベテランながら、等身大の“生きた演技”を披露し続ける人物だ。看護師に占い師、雑誌編集者。ラブストーリーにホラー、サスペンス…。役柄もジャンルも、なんでもござれの水川さんが、新たに選んだ役どころは、なんと鬼嫁。うだつの上がらない夫に罵詈雑言を浴びせ、尻を叩き続ける妻を人間味たっぷりに演じた映画『喜劇 愛妻物語』が、9月11日に劇場公開を迎える。『百円の恋』の脚本家・足立紳が、自伝的小説を自ら映画化した本作。濱田岳が、足立監督がモデルとなった主人公・豪太を演じ、水川さんがその妻のチカに扮した。年収50万円の売れない脚本家・豪太は、結婚して10年になる妻・チカとのセックスを望むも、連日拒否されてばかり。そんななか、久方ぶりに脚本の仕事が舞い込む。豪太はチカと娘のアキ(新津ちせ)を連れ、四国への取材旅行に繰り出すのだが…。出会うべくして出会った「取り繕ったものじゃない面白い役」「『喜劇 愛妻物語』みたいな作品を、ずっとやりたかったんですよね」と語る水川さん。「チカはある意味、自分自身もあけっぴろげにならないとできない役だったなと思うし、そういう役を求めていたところもありました。30代も後半に入ってきて、『カッコイイ』とか『キレイ』とか取り繕ったものじゃない面白い役をやりたいな、と思っていたときに、出会うべくして出会わせてくれた。すぐ『やります』って伝えましたね」。確かに、常にキレ気味で眉にしわを寄せ、「あ?(怒)」と当たり散らす水川さんの姿は、非常に新鮮。そしてまた、口から飛び出すセリフも、衝撃的だ。あの手この手でセックスに持ち込もうとする豪太に、チカがぶつける暴言の数々は、聞いているだけで吹き出してしまうレベル。予告編にも登場する「うぜー」「うるさい」「消えろ」は、ほんの序の口だ。その詳細は映画を観てのお楽しみだが、よくもまあこんなワードが飛び出してくるものだと驚嘆させられる。水川さんは、「なかなか普段は使わない罵詈雑言でしたが、躊躇しないくらい、腹立たしかった」と笑う。「(濱田)岳くんを前にすると、自然に出てきましたね(笑)。隣に監督もいますし、2人の顔を見ていると、チカの気持ち的には『うん、これはそうなるわ。こんなにだらしない夫と10年も一緒にいたら、仕方ない』という感じでした。演じているときは、暴言が滝のようにあふれてくるように見えればと思っていました」。ちなみに、「映画の中のセリフは、ほとんどが台本通り」とのこと。足立監督の人生経験がにじみ出たワードの数々も面白ければ、10年連れ添った夫婦にしか見えない水川さんと濱田さんの空気感も、実に見事だ。「実は、撮影中に岳くんと『次のシーンはこうしようね』っていう話は、一切しませんでした。話さなくてもできるというか、お互いを信頼しあっていたんですよね。むしろ作ろうとしなかったからこそ、自然な空気感が生まれたんだと思います。監督が『この人たちならできる』と思ってキャスティングしてくれたとしか思えない(笑)」。演じる上で大切にしたのは「愛情」演じるうえでは、“場の力”も大きかったという。というのも本作は、足立監督の自宅を豪太とチカ、アキの家に見立てて撮影しているのだ。「美術さんが置いてくださったものもありますが、足立さんの家にあるものがそのまま映ってるんです。あの生活感はなかなか出せない。演じるうえで、助けになりましたね」。「あと、足立さんの家で岳くんと、あるノートを見つけたんです。監督が書いたプロットに、奥さんが赤ペン先生のように大量にダメだしを入れていて。その上に、監督が『クソ野郎!』って書いていたのを見て(笑)、岳くんと『このページだけで夫婦のすべてがわかるね』と話したことを覚えています」。こういったアイテムのサポートもあり、倦怠期の夫婦になりきっていったふたり。また、水川さんがチカを演じる際、大切にしたのは「愛情」だという。「長い間一緒にいると、生きることにいっぱいいっぱいになって埋もれてしまうけど、チカも豪太も、根本的にお互いへの愛情がありますよね。そこはすごく、素敵だなと感じた部分です」。愛しているから、憎まれ口も叩いてしまう。信じているがゆえに、きつく当たったりもする。夫婦というのは、実に不思議ないきものだ。『喜劇 愛妻物語』を観ていると、そのことを改めて痛感させられる。象徴的なのは、堪忍袋の緒が切れたチカが泣き出してしまうシーン。愛情や怒り、悲しみが混然一体となった水川さんの最大の見せ場は、意外にも「ぶっつけ本番だった」そうだ。「長回しで撮るって監督は最初から決めていたみたいで、大体の立ち位置を決めたらすぐ本番でした。あのシーンは、泣いてるのに笑ってて、でもものすごく腹が立ってもいて…全部の感情がぐちゃぐちゃに入り混じって、演じていてもすごく面白かったです。自分も好きなシーンですね」。「それまでのチカって、口ではきつく言ってても、豪太への愛情が歯止めをかけてたんだと思います。でも、それがぷつんと切れてしまう。それなのに豪太はピンと来ていなくて、情けないやら腹が立つやら。でもそういう“人間っぽい”瞬間って、とても魅力的であり、素敵ですよね」。自身の“夫婦観”は「目指す先が一緒」2019年に結婚した水川さん。豪太とチカの夫婦を、どう見ているのだろうか?「撮影当時は結婚前でしたが、いま観たら客観的にグッとくる部分もあって、発見でした。改めて、こんな夫婦になれたらいいな、と思いましたね。どんなにつらいことや悲しいことがあっても、泣いて笑って、次の日には一緒にご飯を食べる。夫婦ってそういうものですよね」。ちなみに、水川さんのお気に入りの“夫婦映画”は「男女で感情移入の仕方が変わる『ブルーバレンタイン』」だそう。最後に、自身の“夫婦観”を聞いてみた。「私たちは夫婦で同じ仕事をしているからこそ、目指す先が一緒。同業だからいいことも悪いこともわかる。だから、『1番褒められたい人』かもしれない」。プロとしてのプライドと、夫婦としての愛情。どちらにも通ずる、信頼――。実に奥深い答えに、うならされた。最高の伴侶を得て、女優としても女性としても、新たなスタートを切った水川さん。彼女自身がこれから紡いでいく「夫婦の物語」もまた、味わい深いものになっていくことだろう。(text:SYO/photo:You Ishii)■関連作品:喜劇 愛妻物語 2020年9月11日より新宿ピカデリーほか全国にて公開©2019『喜劇 愛妻物語』製作委員会
2020年09月07日映画制作・配給会社の中でも異彩を放っているスタジオ「A24」。設立約8年という若い会社ではあるが、これまで手掛けてきた作品は良質で斬新、アカデミー賞をはじめとする映画賞で話題となるものばかりだ。日本でもA24の新作となればSNSで拡散され作品への期待度が高まり、公開を心待ちにするファンが多い。そこで『スプリング・ブレイカーズ』『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』などを担当してきた日本の映画配給会社トランスフォーマーの國宗陽子さんにA24作品の特徴や、映画好きから注目される理由、宣伝するにあたってどのような戦略があるのか、さらに9月に公開を控える俳優ジョナ・ヒルの初監督作『mid90s ミッドナインティーズ』について訊いた。A24作品の魅力「観客を引っ張っていこうとする姿勢とパワー」――貴社ではA24作品『スプリング・ブレイカーズ』『魂のゆくえ』『暁に祈れ』『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』『mid90s ミッドナインティーズ』を配給されていますが、A24作品のどんなところが魅力だと思いますか。世界的にも映画館に通う人々の年齢層が上がり、配信などのプラットフォームが多様化するにつれ、映画館で収益を上げることが年々難しくなっています。しかし、この苦境の中でも、A24という映画スタジオが世に送り出す映画は作家性のあるインディーズ作品が多いにも関わらず、映画ファンの間で話題性と高い評価を得ています。彼らの魅力は、人々に受けるものを作るのではなく、クリエイターの想像力やアートによって観客を引っ張っていこうとする姿勢とパワーにあると思います。――貴社から配給されているA24作品のクリエイティブ制作の際に意識されていることはありますか?『エイス・グレード』『mid90s ミッドナインティーズ』等を例にご教示いただけますと幸いです。A24作品だけではないのですが、宣材制作に関しては、私は常にターゲット層を意識しています。ですから「より多くの人に作品を見てもらう」ことが、ポスターやチラシの役割なのだと考えています(かっこよければ良いのか、というとそういう訳ではないのが歯がゆいところです。例えば、「本年度アカデミー賞受賞!」などの受賞歴がたくさん入ったポスターとシンプルなヴィジュアルだけの場合、当然、後者の方が美しく見えるでしょうが、ポスターとしてどちらが機能するのかという問題もあります)そういう訳でターゲットの皆さんの気持ちを惹くために日本版の絵柄やコピーなどを考えていくのですが、A24作品については日本公開前からファンも多く、SNSなどで日本の宣伝チームが立ちあがる前にイメージがシェアされています。ですから、余計な惹句などはなるべくヴィジュアルに載せずに、出来るだけミニマムに作品そのものを提供できるように努めています。急成長の理由「A24自体がブランドのアイテムに」――A24が短期間で優れた作品を続けて、リリースできているのはなぜだと思いますか。斬新なコンセプトと的確なターゲティング、洗練されたクリエイティブでしっかりと若い層の支持を得ている。例えば、A24オフィシャルサイトのショップでは様々なグッズが売られていますが、例えば『mid90s』では気鋭のデザイナー集団「Actual Source」が手掛けたアパレルグッズを売っていますし、数か月ごとに作品に紐づいたZINEを発行しています。それらのデザインやコンセプトは洗練されていて、思わず買い求めたくなるものが多いです。映画だけで完結させずに、ファッション、雑誌、様々な方向から作品を楽しむことができるようになっている。A24自体がブランドのアイテムになっていることも特徴の一つだと思います。さらに彼らが製作、配給する映画は常にアクチュアルな題材を取り上げ、人種、ジェンダー、階級…マイノリティの視点を尊重し、しっかりと個人の物語に向き合っていく作品が多いです。『ムーンライト』でアカデミー賞作品賞を獲得したことからも分かる通り、彼らのセンスの良さと未来を見通す視線は、数ある映画スタジオの中でも抜きん出ていると思います。――貴社配給作品を宣伝される中で、A24の知名度は上がってきていると実感しますか。はい。最近は「A24作品だから観る!」と仰って下さる映画ファンの方は増えていると思います。「ディズニー映画だから観る!」と言われるのと同義の現象が、インディーズ・スタジオであるA24に起こっているということは素晴らしいですよね。A24最新作は「“タイムカプセル”のように純粋で愛しい物語」――9月4日(金)に公開となる『mid90s ミッドナインティーズ』はどんな作品ですか。『mid90s ミッドナインティーズ』は『ウルフ・オブ・ウォールストリート』『マネーボール』で二度のアカデミー賞ノミネーションを受け、『21ジャンプストリート』などの出演でも人気の俳優ジョナ・ヒルの初監督作で、全米ではわずか4館から1200スクリーンまで拡大する大ヒットを記録しました。ジョナ・ヒル自身が少年時代を過ごし、愛してやまない90年代の様々なLAカルチャーを背景に、13歳の少年スティーヴィー(サニー・スリッチ)がスケートボードを通して大事な仲間に出会い、大人への扉を開いていく珠玉の青春ストーリーで、ニルヴァーナ、ピクシーズ、モリッシー、ファーサイド、ア・トライブ・コールド・クエストなど当時のヒット曲やファッションやアイテムが随所にちりばめられています。90年青春映画の雰囲気をそのまま2020年に持ってきたような、まるで「タイムカプセル」のように純粋で愛しい物語です。――『mid90s ミッドナインティーズ』を鑑賞する際、どこに注目するのが良いでしょうか。おすすめポイント・作品のみどころについて教えてください。90年代といえば、ライフスタイルがデジタル化される最後の時代です。SNSもスマホもなく、友達に会うには街に出るか、公園やコンビニ前などの“溜まれる場所”に行くしかなかった。若者たちは街にあふれる音楽やファッション、スポーツ、映画などのカルチャーから人生を学び、自分のアイデンティティを発見・獲得していった。情報の広がり方は今よりも遅く、2000年代への漠然とした期待と不安が頭上をぐるぐる回っていた…そんな“あの頃”がスクリーンに、それこそゴミの一片に至るまで完璧に再現されています。90年代LAのクールなカルチャーと共に描かれる本作ですが、同時に“青春”という誰にでもある魔法の季節を瑞々しく描いた普遍的な青春物語でもあります。子ども時代から、大人への扉を開ける瞬間。少年たちが体験する90年代半ばの一瞬を、ぜひスクリーンで体感してください。(text:cinemacafe.net)■関連作品:mid90s ミッドナインティーズ 2020年9月4日より新宿ピカデリー、渋谷ホワイト シネクイントほか全国にて公開© 2018 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.
2020年08月28日レストランを通し「幸せの分母を増やす」料理はそのための一つのツール。迷ったらそこに立ち返り、いろんなカタチで人を、社会を、幸せにしていきたいJリーグの練習生を辞めて教員になり、32歳で料理人の世界へ飛び込んだという、異色の経歴を持つ鳥羽周作シェフ。【DIRITTO】や【Florilege】などで修行を積み、2016年【Gris】のシェフに就任。その2年後、店を買い取る形で、【sio】をオープン。オーナーシェフを務めるかたわら、自社を立ち上げ、料理人を取り巻く環境を良くし、可能性を広げたいと動き出した。【sio】のオーナーシェフ、鳥羽周作さんそのためにまず力を入れたのはチームづくり。料理は自分がつくらなくても調理場にいるメンバーがきっちりつくれるよう指導し、現場の外から俯瞰した目線で、自身が“食を通して人を幸せにできているか”を考え続けてきた。さまざまなクリエイターとつくった楽しさ、おいしさ、心地よさがリピーターを呼び、2019年にはミシュラン一つ星を獲得。2019年10月には「理想の食堂」をカタチにした【o/sio】を、12月には「純洋食とスイーツ」をテーマにした【パーラー大箸】を監修。代々木上原にある【sio】料理は若手に任せ、チームをまとめる鳥羽シェフ順風満帆に見えたその時に襲ってきた新型コロナウイルス。新店舗のための借金もあり目の前が真っ暗になったという。「でも、僕らができることはこの状況下でも食で幸せにすること」。滾たぎるエネルギーでピンチをチャンスにした鳥羽シェフに話を聞いた。オープン当初からのスペシャリテ『馬肉/ビーツ/プラム』コロナ禍でチーム一丸となり、乗り切ることで開けた視界――コロナ禍においてさまざまな取り組みをし、結果、売り上げが前年比増になったそうですね。鳥羽周作さん(以下、鳥羽):最終的に前年より良い数字で着地できましたが、4月はお客さまも激減し、実はかなり厳しかったんです。――そうなんですか?鳥羽:はい。でもこうした状況でも、会社の経営方針「幸せの分母を増やす」に従い、「店が潰れてもいいから料理人としてできることをする」と宣言した僕に、チームがついてきてくれた。結果、スピード感を持っていろいろ挑戦できたことが、コロナ禍でも増収増益につながりました。――その一つが、Twitterでのレシピ公開ですね。鳥羽:レストランにお客さまが来られないなら「幸せの分母を増やす」ために家でもできる僕らの料理のレシピを伝え、家で【sio】を感じてもらおう。そう思って3月30日、2号店の【o/sio】の唐揚のレシピをTwitterで公開しました。Twitterで拡散後、その反響の大きさからnoteでもより詳細な情報を発信鳥羽:「#おうちでsio」と名付けたレシピ投稿は、誰もが好きな料理に絞って、アップし続けました。レシピは嫁さんに試作してもらい、上手にできたものだけを公開。家で簡単においしくできる再現性にはこだわりました。Twitterでは書ききれないポイントはレシピと合わせてnoteにまとめました。SNSを通じてお客さまが求めることに応えていたら、6000人のTwitterフォロワーが1カ月で4万人になったんです。――でも、無料でのレシピ提供は直接ビジネスにつながらないのでは?鳥羽:コロナ前後では、料理人のあり方は確実に変わりました。前は対面で喜ばせることが主流でした。でも、コロナ後は、お店に来てくれる人だけがお客さまではないことに僕らは気がついた。僕たちが店以外で発信する“体験”を受け取った人が感じてくれた幸せは、実店舗に行ってみたいという原動力になる。目先のお金にはならないけれど、未来のお金につながるんです。だからレストラン体験をいろんなカタチで‟広げる”、‟伝える”ことは大事にしています。フォカッチャは【ル・ルソール】に特注店名を冠したスペシャリテのデザート『sio』――Twitter、インスタグラム、noteとSNSもうまく連携して運営していますね。鳥羽:周りに、経営者やクリエイターの友人も多いので時代に合わせたSNSの使い方は意識しています。若手も自主的に動画制作や、noteの記事を担当していますよ。うちで働く子は料理人の技術と初歩的なITの知識、両方が必要です。SNSはマーケティングというより、‟おいしい料理”を伝える技術。以前は対面で伝えていたことが、今はSNSが加わり幅が広がったのだと思います。――テイクアウトの『バインミー』もヒットしました。鳥羽:僕たちは1,000円のバインミーにレストランの凄さを詰めた。すると生産が追い付かないほど売れる日が続いたのです。これはマーケティングではなく、‟おいしいから”ヒットしたと自負しています。やはり料理人として‟おいしい”はすべての基本。それが実現したのは、若手に店を任せられたことが大きかったですね。テイクアウト用に生み出された『バインミー』は大ヒット――テイクアウトの商品開発に専念できたことがヒットの理由だと。鳥羽:レストランの料理をそのままテイクアウトにしてもおいしくない。だからテイクアウトに合う料理を研究しました。途中から発売した【sio】の世界を自宅で楽しんでもらう『sio贅沢弁当』は研究の集大成です。時間がたってもおいしさをいかにキープするか。水分を出さない、味うつりしない、持続する彩りの美しさ。3週間家にこもって追求しました。日頃から若手に現場を任せ、自分がいなくても営業できる状況をつくっていたので実現したことです。『sio贅沢弁当』。14種類の小さな料理に鳥羽シェフの技術を結集――レシピで【sio】を知り、バインミーを買いに来て、贅沢弁当を知って食べ、今度はお店に行きたい!と新規顧客の循環ができた。鳥羽:まさにそうです。「幸せの分母を増やす」ことを広げた結果、新たな循環が生まれ、予約がいつも以上に入るようになりました。目指すのは、料理界のキング・オブ・ポップ――「幸せの分母を増やす」がやはり基本なんですね。グラフィックデザイナーの水野学さんから「くまモン」は版権フリーだと聞き、料理で幸せの分母を増やせば利益は自然とついてくると気がついた。もう一つ、水野さんから「かっこいいデザインは誰でもできる。でも、みんなが好きな〝ポップ0が最高なんだ」と聞いた時、ピンときた。僕は、料理界のキング・オブ・ポップになる!と、その時に思いました。――丸の内の【o/sio】は、〝ポップな店0の具現化ですか?鳥羽:そうですね。ナポリタンや唐揚げといった誰もが好きなメニューをポップに料理しています。将来的には全国展開もしたい。「幸せの分母を増やす」最終形はファミレスです。「丸の内ブリックスクエア」内にある【osio(オシオ)】誰もが気軽に楽しめるナポリタンや、ランチにはカレーも提供――ファミレス!楽しそうです。鳥羽:ファミレスをやるためには、来年仲間のシェフ3人とやる店で二つ星を取り、その後N.Y.に行って、世界で評価されるガストロノミーをやり、帰国してファミレス経営という青写真があります。来年1月オープン予定の店は新しい日本料理=〝民芸0がテーマ。ジャンルを超えた〝おいしい0今の時代の日本料理を提案する予定です。sio【エリア】代々木上原【ジャンル】フレンチ【ランチ平均予算】9000円【ディナー平均予算】20000円【アクセス】代々木上原駅 徒歩2分
2020年08月11日青春時代特有の切なさが胸に蘇る映画『思い、思われ、ふり、ふられ』は、同じマンションに住む高校1年生の男女4人の、文字通り、片思いが交錯する物語。主演の4人を務めたのは、浜辺美波、北村匠海、福本莉子、赤楚衛二というキャスト勢で、どこかノスタルジックなルックを漂わせる4人にぴったりの、ビタースイートな1本となった。浜辺さん・北村さんといえば、2017年、月川翔監督作『君の膵臓をたべたい』のW主演で第41回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した、ゴールデン・コンビ。実写映画では『君の膵臓をたべたい』以来3年ぶりの共演、さらに、『思い、思われ、ふり、ふられ』は月川監督の師匠にあたる三木孝浩監督が手掛けていることも踏まえると、集まるべくして集まったという言葉が浮かぶ。ふたり揃ってのインタビューは2017年以来となったが、当時、やや固く感じられたような彼らの空気感は、2020年、開放的で明るいムードへと変化していた。浜辺さんが10代半ばから10代終わりへ、北村さんが10代後半から20代へと、年を重ねたことも関係するだろうが、それ以上に、この3年間、多くの現場で培った得難い経験が、うら若きふたりのほのかな自信として、たたずまいを変えたのだろう。浜辺さんと北村さんに、今の心境をインタビューした。外への壁が厚かった3年前、ゴールデン・コンビの今の心境は――?――シネマカフェでのおふたりのインタビューは3年ぶりです。当時、少し固かったような印象もありましたが、雰囲気が変わったように見えます。変化は感じていますか?北村:確かに、あのときはお互い、外への壁が厚かったですね(笑)。僕は、そこで自分を守っていた気もしますし。僕がいまの美波ちゃんの年齢で、美波ちゃんはもっと若かったという時期的なこともあると思うんですけど。浜辺:当時、年上の人とあんなに一緒にいることもなかったですし、「何を話したらいいんだろう?」みたいな気持ちもあったんです。私は、もともとしゃべるのも得意じゃないし、「これが自分なんだから」と思ってやっていたところもあったんですけど…、それだといいことが全然なかったから(笑)、変わりました。北村:そっか。美波ちゃん、すごく変わったというか、なんか楽しそうだよね。浜辺:「人の感情は移るんだな」と思ったときがあったんです。誰かが暗いと周りも暗くなるけど、明るい人がいると逆に明るくなる。だから、自分のことも変えようと思って、いつからか、1本ネジが外れたように明るくなりました。北村:そんな美波ちゃんを見ていると、「楽しそうで本当によかった」と、僕はちょっとお兄ちゃん目線になりますよ(笑)。今回びっくりしたのが、これまで僕らは連絡先すら知らなかったけど、美波ちゃんのほうから、「SNSのグループを作りましょう」と、僕ら3人に提案してくれたこと!浜辺:SNSでは、すごいシュールな会話をみんなでしていましたよね(笑)。今回、三木さんが「みんな、設定が同い年なんだから、ため口でいきましょう」と提案してくださって、初めてため口になれたんです。匠海くんもですけど、それで、一気に4人の距離が近くなった印象があります。――ゴールデン・コンビの再タッグということについて、プレッシャーはありましたか?北村:僕は全然なかったですね。美波ちゃんと一緒にやれて、僕たちが義理の姉弟という設定も楽しみでした。しかも、三木監督は『君の膵臓をたべたい』の月川監督のお師匠さんですし、面白いなと思っていました。浜辺:私も、そういう意味での緊張はありませんでした。「北村さんだから頑張らなきゃ」とかもなく、心強い方とご一緒できるから本当に安心していましたし、いい作品になりそうだなと思っていました。求められた繊細な演技は「得意な土俵」、「全然無理をしていない」――三木監督の持ち味であるファンタジックな映像も楽しめつつ、4者4様の想い合いが切ない、おっしゃる通り「いい作品」でした。気持ちのうつろいの部分では、非常に繊細な演技が求められたと思うんですが、苦労もありましたか?北村:まさに、そういった繊細なお芝居を意識していました。観ている人に、「うん?」と思わせなきゃいけないのが課題だったので。表情とは裏腹の感情だったり、台詞で言っている言葉とは逆の思いもあって、感情を表に出すだけじゃなくて、引いていく芝居も大事にしていました。ただ、僕としては、わりと得意な土俵だったので楽しかったです。――北村さんは秘めている役が多い印象ですし、おふたりとも、言葉にならない感情を表現することが達者ですよね。北村:ありがとうございます。『君の膵臓をたべたい』以降もそういう役が多かったんですよね。1回そこから脱した自分がいて、で、また帰ってきた感じがしているんです。僕は、やっぱり理央みたいな、無理していない役を演じるたびに、「お芝居って楽しいな」と思うんです。あとは、僕も学生時代は理央のように、親に対しても、友達に対しても、仕事においても、何かを伝えたりするのが苦手でした。逆に、伝えずに抱えている己にうぬぼれている感じもあったりして…(苦笑)。長らくそういうタイプだったので、そこはすごく似ているかなと思ってやっていました。浜辺:私も、今回、全然無理をしていないというか、不自然に感じるような部分がまったくなかったので、すごくやりやすかったです。本心を言うわけではないけど、伝えないといけないことはあって…という感じだったので、そこは丁寧に演じていました。女の子同士の友情のところでは、共感してもらえるように、リアルにできたらと思ってやっていました。それに私自身は、朱里として成長しながら青春を送ったという感じが強かったです。実際の生活ではあまり青春っぽいことをやってこなかったからこそ、この作品が青春だったのかなという気がしています。俳優の醍醐味「僕らしか味わえない感覚や感動があると思うので、やめられない」――おふたりとも、「お芝居が楽しい」という思いは共通かと思いますが、特に俳優として楽しさを感じるのは、どんな瞬間ですか?北村:いわば自分ではない自分をやるので、台詞があって、段取りがあって、テストがあって、本番となるわけですけど。たまに、台詞や芝居じゃない次元にいってしまうときがあるんです。本当にぽんぽん口から会話が出てくる感覚があって。子役のときから、ガッと入りこむとき、仕事ではない感覚になれるような瞬間は、本当に楽しいと思っています。浜辺:準備期間では悩むことも多いですし、つらいと思うことも同じくらい多いんですけど…それでも続けられるのは、本当にお芝居が楽しいからに尽きます。向いている、いないは別として、「私にはこの仕事しかないのかな」という気持ちで、いつもいるんです。北村:あと、映画が完成する場合だと、僕らしか味わえない感覚や感動があると思うので、やめられないですね。試写会が嫌いな人も多いんですけど、…美波ちゃん、苦手だよね?浜辺:はい(笑)。北村:僕は全然好きなんですよ。むしろ撮影中から「早く完成を観たい」と思うほうで。映画館という特別な空間で、自分たちをすごく俯瞰で観られると、新しい感覚になれるんです。すごく好きです。――浜辺さんは、試写でご覧になるのが苦手なんですか?浜辺:自分の演技どうこうより、感想をすぐに求められてしまうところが、ちょっと緊張してしまって苦手なんです(笑)。自分のツボなシーンだと笑ってしまいそうになるんですけど、笑うと目立ってしまうし、自分の作品なのに泣くのも恥ずかしいし…とかいろいろ思ってしまって。観ていて一番好きなのは、自分の名前が流れてくる瞬間です。「こんな風にできあがっていたんだ」と思うんですよね、好きですね。(text:赤山恭子/photo:Jumpei Yamada)■関連作品:思い、思われ、ふり、ふられ 2020年8月14日より全国にて公開Ⓒ2020映画「思い、思われ、ふり、ふられ」製作委員会©咲坂伊緒/集英社
2020年08月10日記憶を失くした脱衣状態の男が、キャンパスのど真ん中で目覚める――。これから始まるのは謎深きサスペンス?それとも奇天烈なSF?と思いきや、やがて浮かび上がってきたのは、妙に弾けた熱量たっぷりの青春ストーリー。作品の世界に足を踏み入れたときから、映画『ぐらんぶる』は観る者を翻弄してくる。それは観客だけでなく、物語の中心にいる主人公たちも同様。キャンパスのほぼ裸な男、もとい大学生活に期待を膨らませていた新入生・北原伊織を演じた竜星涼も、「最初はこんな作品だと思っていなくて」と苦笑いを浮かべる。監督の指示なしでも「テンション高く、ああなりました」「ダイビングのバディ映画と聞いて、『ぜひ参加したいです!』というところから始まりました。そのときの僕は、原作をまだ知らなかったんです。脚本を読んだときも、想像していたのとは違ったけど、楽しそうだなと思いました(笑)」。竜星さんの言葉通り、『ぐらんぶる』は大人気コミックの実写化であり、ダイビング映画でもある。伊織がほぼ裸だったのも、入部した(させられた!?)ダイビングサークルが関係しているようで…。そんな彼と同様の運命をたどり、同じサークルの仲間となる「バディ」、今村耕平を演じたのが犬飼貴丈だ。ただし、「入学した途端、事態に巻き込まれていくのは伊織も耕平も同じなんですけど…」と、犬飼さんは少々申し訳なさそう。「耕平は耕平で、ちょっと変わっていて。伊織が普通に喋ってる横で、変なことをしていたりもするんです。なので、そこで自由に遊ばせてもらったというか。竜星さん、僕がどんなお芝居をしても受け止めてくださるので」。となると、“巻き込まれ型主人公”の立場は伊織=竜星さんが一手に引き受けていた?「でも、犬飼くんも、サークルメンバー役の皆さんも、熱量高く仕掛けてきてくださったので。僕はリアクションを取るだけ。自然に反応したら僕もテンション高く、ああなりました(笑)。『もっとオーバーに反応して』なんて監督からの指示は一切なかったです」。キャンパスライフを疑似体験「お手本にはしてほしくないですけど」「変なこと」「リアクション」「テンション高く」…。青春ダイビング映画と思えないワードが続くが、伊織&耕平の“受難”はサークルに入会させられ、ほぼ裸のキャンパスライフを送ることに留まらず。サークルメンバーの古手川千紗(与田祐希)ら、個性も腕力も強めな女性キャラクターたちが2人を取り巻く。「踏まれたり、罵倒されたりね。ただ、撮影中の僕らメンズは基本ほぼ裸なわけで。その異様な光景が心をオープンにしてくれたのか、女性たちからの棘のある言葉も快感に思えて。麻痺していたのか…。伊織としても竜星としても、いい刺激でした(笑)」。(竜星)「カメラの前以外でも、女性キャストの皆さんが僕をバンバンいじってくれましたから、いいコミュニケーションになりました」「男湯に女性たちが入ってきたような空間でしたよね?」と笑う犬飼さんに対し、「確かに!しかも、彼女たちがいないと、僕らの裸は死んでしまいます」と竜星さん。ますます青春ダイビング映画から遠ざかっている気がするものの、作品のキャッチコピーには「世界よ、これが日本のキャンパスライフだッ!」の一文も。「僕らはそう思っていますよ」と涼しい顔で竜星さん。「大学に行っていないので、『ああ、そうなんだな』って」と、犬飼さんも真顔でボケる。さておき、撮影を通し、キャンパスライフを疑似体験することはできたそう。「みんなでわちゃわちゃと騒ぐ。そういうのが僕自身も楽しかったし、みんなで楽しんで作れた気がしていて。去年の夏(撮影時期)を超える夏は、そうそう来ないかなって。いい夏を過ごさせてもらったなと思っています。ご覧いただく方にも、『なんだか分からないけど楽しそう』と思ってもらえるはずです。こんな青春、いいなあって」。(竜星)「撮影なんですけど、撮影じゃないというか。学生の熱量で騒げたと思っていて。そういった熱量は、年齢を重ねて低くなっていくもの。だから、騒がなくなった大人たちに観てもらいたいし、学生時代真っ只中の人には『これくらい楽しいものだよ』と示したい。決してお手本にはしてほしくないですけど(笑)。でも、僕自身の学生時代の思い出の中に『ぐらんぶる』を入れたいくらいです」。(犬飼)“やりたいかやりたくないか”を「逃してしまうのはもったいない」『ぐらんぶる』には青春のメッセージもきちんと込められている。大事なのは“やれるかやれないかではなく、やりたいかやりたくないか”。やがてダイビングの世界に本気で飛び込む伊織&耕平に、その問いを投げ掛けてくるのだ。「この映画からメッセージを読み取ってくださるとは!」(竜星)と笑いながらも、問いに向き合う2人の表情は真剣。「仕事をしていてもそうですよね。僕らの仕事は、求められて初めて成立するものなので、その中でどう楽しむか、自分らしくいるかが問題になってくることもあります。だから逆に言えば、やりたいかやりたくないかで決められる瞬間があるのなら、それを逃してしまうのはもったいない」。(竜星)「僕はまさしく、その問いにこの映画で直面して。実は、ダイビングができなかったんです。というか、かなづちで。なので、出演なんてとんでもないと思い込んでいたんですが、僕は『ぐらんぶる』に出たかったし、耕平になりたかった。まさに、『やりたいから、やる』ですよね。気持ちをそうシフトチェンジしたことで結果的にダイビングのシーンも楽しくできましたし、できないと思っていたことができたのもうれしかった。そういう意味では、僕自身が『ぐらんぶる』を体現できたのかもしれません」。(犬飼)(text:Hikaru Watanabe/photo:You Ishii)■関連作品:ぐらんぶる 2020年8月7日より全国にて公開©井上堅二・吉岡公威/講談社 ©2020映画「ぐらんぶる」製作委員会
2020年08月03日2018年2月生まれの男の子を育児中のみーすけです。 2歳児が遊具を見て我慢できるはずもなく…お散歩してても遊具のない方に誘導しなきゃいけない今日この頃! もうそろそろ遊具解禁してくれよって感じですよ。なんか禁止テープ破れてきてるしねぇ…。 ※当記事は2020年5月20日公開記事の転載です著者:イラストレーター 絵日記ブロガー みーすけ2018年生まれの男の子を育児中の絵日記ブロガー。日常をマンガにしてブログを更新中! ネットで子育て情報を検索するのが趣味。最近の悩みは赤ちゃんのおもちゃを買いすぎてしまうこと。
2020年08月02日伸びきった髪の毛に無精ひげ、憂いを帯びた、沸き立つような色気――映画『劇場』の予告編や場面写真が公開されたとき「いままで観たことがないような山崎賢人」(正しくは、「崎」は「たつさき」)を目撃したと思った人は多かったのではないだろうか。今年26歳を迎え、より存在感を増しつつある山崎さんは、どんな思いで作品と向き合っているのだろうか。監督と共に役を作り上げる楽しさ芥川賞作家・又吉直樹による恋愛小説を、『GO』『世界の中心で、愛をさけぶ』『ピンクとグレー』などの行定勲監督が実写化した本作。山崎さんは、中学生時代の友人と劇団「おろか」を立ち上げ、脚本家兼演出家を務める演劇青年・永田を演じている。この永田という男は、演劇に身も心も捧げる一途な表現者だが、その自意識とうまく折り合いをつけることができず、周囲ともうまくやっていけない。特に自分の才能を信じてついてきてくれる松岡茉優さん演じる恋人の沙希に対しては、客観的にみてかなりダメな男である。そんな困った人物だが、山崎さんは「台本を読ませてもらって、人間の弱い部分に共感できました。俳優も劇作家も、表現者としては共通する部分が感じられたので、ぜひやりたいという気持ちでした」と前のめりでオファーを受けたという。もともと行定監督の作品が好きだったという山崎さん。現場では行定監督が若手俳優たちと同じ目線になり、永田という人物像を一緒になって立体化していってくれた。その作業はかけがえのない時間だった。「行定監督も舞台の演出をされているので、永田というキャラクターに思い入れが強かったということもあると思うのですが、いろいろなアイデア、例えば永田がどんな種類の人間なのか、どんなアイデンティティを確立しているのか…そういったことを鑑みると、髪型はこうなるかなとか、髭もはやした方がいいか…なんてことを相談しながら作っていく作業はとても楽しかったです」。作品が途切れることなく続く現状も「満足できた」と思えたことはない追い求める表現に自信を持ちつつも、世間の評価との乖離に悩み続ける永田に共感しながらの役作りだったというが、山崎さんはデビュー後、作品が途切れることなく続き、順風満帆というイメージがある。「ありがたいことにいろいろなお仕事をさせてもらえています」とはにかむが「でも、“完璧にできた”とか“満足できた”と思えたことはないです」と胸の内を明かす。また永田は人の才能に嫉妬しているが、そのことは絶対に認めないプライドの高さがある。山崎さん自身も「そういう気持ちは絶対あると思う」と否定はしないが「でも自分は“俺は俺だから”とどこかでシャットアウトしてしまっていると思う。(原作者の)又吉さんもシャットアウトしていると話していましたが、やっぱり同世代の他の人の作品とかは、どこかであまり観ないようにしている部分があったと思います。それではダメだと一度全部ドラマを観ようと思ったのですが、やっぱりできませんでした(笑)」。不器用な恋愛に「ひどい」と思いつつも共感できる部分もある永田という男の不器用な人生が描かれる本作。それは恋愛においても同じ。恋人である沙希への接し方も、苦笑いを浮かべたくなるほど不器用だ。「ひどいですよね」と山崎さんは苦笑いを浮かべるが「でもレベルの違いはあれ、自分でもやりそうだなと思う部分はある」とやや肯定する。「あそこまで露骨に出すことはないでしょうが、特に嫉妬とか分かりやすいですよね」と共感できる部分は多かったようだ。永田と沙希の関係性は、共演の松岡さんとじっくり話し合いながら作り上げていった。話のなかで、一見、永田が沙希に対して負荷をかけているように見えるけれど、「お互いが依存し合っているよね」という共通の認識があったという。そこを意識しながら互いの距離感を測っていった。山崎賢人の考え方「自分が生きやすいように生きよう」アイデンティティを確立することは、人生を送るなかで自身のよりどころとなる一方で、人間関係においては障壁となることがある。思春期真っ只中のときには、“アイデンティティの確立”に憧れた時期もあったというが、いまは「自分が生きやすいように生きよう」というのが山崎さんの生活信条になっている。「無理してなにかを取り繕うと疲れちゃう。無理していて素に戻ったとき、なんか萎えちゃうじゃないですか(笑)。もちろん高校生ぐらいのときは、信念を主張したり、格好つけたりすることもいいのかなと思っていましたが、いまは肩の力を抜いて生きることが大切だと思っています」。その意味で、人との付き合いも“危うい関係”は「いらない」と断言する。「もちろん、自分にないものを持っている人に惹かれる気持ちはありますし、影響を受けることもあります。でもそういう人と必ずしも仲良くなるかはわかりません。基本は“いい人”。それが人間関係を築いていくうえで、一番大切な要素です」。本作に挑むとき「いまでしか出せない表現ができると思った」と感じたという山崎さん。この言葉通り、劇中にはこれまで観たことがないような山崎さんの表情がちりばめられている。“ラブストーリー”と銘打たれているが、本人は「脚本を最初に読ませていただいたとき、恋愛の話だと思わなかった」と語る。「恋愛映画ではなく、永田をやりたかった」という言葉を頭に浮かべると、彼が本作で表現したかったことがよりクリアになってくるのかもしれない。(text:Masakazu Isobe/photo:Jumpei Yamada)■関連作品:劇場 2020年7月17日(金)より全国にて公開、Amazon Prime Videoにて全世界独占配信。©2020「劇場」製作委員会
2020年07月13日大人も子どもも楽しめる謎解き問題を数多く編み出し、今や謎解き王子として、「今夜はナゾトレ」(フジテレビ)や「おはスタ」(テレビ東京系列)などで大活躍中の松丸亮吾さん。現在は都内で一人暮らしをしていますが、大学3年生までは千葉県の実家で暮らしていたそう。そんな松丸さんに、思い出深い実家での数々のエピソードについてお話を伺いました。■ 4人兄弟の末っ子は、損な役回り!?実は4人兄弟の末っ子という松丸さん(抱っこされているのが松丸さん)。男の子4人兄弟だと遊びはもっぱらゲームだったそう。末っ子なだけあって、いつも兄たちに負かされてばかりの日々が続きます。「昔『スマッシュブラザーズ』っていうゲームがあって、敵を場外に追い出す格闘ゲームなんですけど、100戦中99戦くらいは僕が最初に追い出されて、そこからずっとゲームが終わるまで待つ、みたいな。そんなのが続いたら全然楽しくないんで、ポンって兄弟に手を出しちゃうじゃないですか。そうすると親が来て、殴るのはよくないって僕が注意されるっていう。超いじめられて、損な役回りですよ(笑)」■ 大学受験の時もLDKのダイニングテーブルで勉強東京大学で謎解きサークルの代表をつとめていた松丸さん。日本最難関の大学に入学するために、どのような環境で勉強していたのでしょうか?「家のスペース的に子ども1人にひと部屋は難しくて、自分だけの部屋はなかったです。次兄と僕でひとつの部屋を使っていました。でもその部屋では勉強せず、大学受験の時もLDKのダイニングテーブルで勉強してましたね」キッチンからリビングが見渡せる間取りだったため、両親も安心して家事が行えるよう、自然とリビング学習が定着したそうです。兄弟の誕生日にみんなでケーキを囲んで。6人家族の食卓はいつも大賑わい。食事や勉強はいつもこのテーブルで。■ リビングの壁には、けんかの際に開けてしまった穴が!写真は松丸さんの実家リビングの一角。「今思うとリビングで過ごす時間がかなり長かったですね。家族と話す時間も長かったし、ひとりになるってことが小さいときからあまりなかったです」リビングはテレビ番組の取り合いや、ゲームの勝敗にまつわるいざこざなどでいつもけんかの発生地に。そのため、テレビが置かれているリビングの一角の壁には、けんかの際に開けてしまった穴がいまだにそのまま残っているとか。■ 念願の子ども部屋を手に入れた頃には必要なくなっていたこちらは松丸さんの実家の間取り図。子どものころは自分だけの子ども部屋が欲しくてたまらなかったという松丸さん。兄弟の成長とともに、独立して一人暮らしをする兄弟もでてきたため、やっと松丸さんの自由に使える部屋が手に入るときがきました。「そのころにはもう必要なくなってしまっていて(笑)。大学のサークルで使った備品などの保存室みたいになっちゃいました」。実家を離れ一人暮らしを始めた現在でも、子ども部屋には荷物が山積みされて物置と化しているそうです。松丸亮吾さん謎解きクリエイター。東京大学に入学後、謎解き制作サークルの代表をつとめ、現在は自身が設立した謎解き制作会社RIDDLERの代表取締役を務める。謎解きブームの仕掛け人で、多くのメディアで活躍。シリーズ累計135万部の「東大ナゾトレ」の最新刊『東大ナゾトレSEASONⅡ 第3巻』(扶桑社刊)が好評発売中。※情報は「リライフプラス vol.37」掲載時のものです。
2020年07月12日「シグナル」や映画『金子文子と朴烈』『狩りの時間』などのイ・ジェフンと「ロボットじゃない~君に夢中!~」や「雲が描いた月明り」のチェ・スビンで、仁川国際空港を舞台に描くラブストーリー「輝く星のターミナル」。この度、DVDリリースを記念して2人のインタビューが到着した。イ・ジェフン「彼の持つ秘密に注目して」まず、ジェフンは2人の役柄について、「僕たちが所属するのは旅客サービスチームです。僕は新入りの役で、スビンさんは入社1年目の先輩の役です。2人は空港で出会い、様々な出来事やアクシデントに直面することになります。僕はイ・スヨンというキャラクターを演じています。スビンさんはハン・ヨルム役を演じました。スヨンとヨルムはお互いに心の傷を癒し、その後恋に発展していきます」と解説する。イ・スヨンは、ある事故がきっかけでパイロットになる夢を諦めた、感情を表に表さないクールなエリートだ。「仁川空港の職員の間では注目の的ですが、スヨンは身体的な秘密を抱えていて、ヨルムはその秘密に対して疑問を抱きます。次々に騒動が起こって、スヨンの秘密が少しずつ明らかになります。彼の持つ秘密に注目してもらえたら、ドラマをより一層楽しめると思います」と語る。「僕自身、台本を読むたびにこの先どうなるのか、物語の展開がとても気になった」と明かし、「スヨンは、冷静沈着で口数の少ない人物です。ヨルムと出会ってから彼女にだんだんと心を開き、変化していきます。スヨンが変わっていく過程にもご注目ください」とアピールした。一方、スビンは「私が演じるハン・ヨルムは、職場で認められたいのにミスばかりする、入社1年目の空港職員です。実は、最初に台本を読んだときは心配になりました。トラブルメーカーのキャラになるのではないかとちょっと不安だったんです」と言いながら、「ですが、ヨルムは失敗から学び成長するんです。そして愛情で包み込むことのできる懐の深い人物です。ヨルムを演じるのは楽しかったです。台本を読みながら泣いたり笑ったりしました」と振り返った。チェ・スビン「ジェフンさんと共演できて、光栄ですし楽しかった」そんな本作に出演を決めた理由について、ジェフンは「たくさんありますが」と前置きしながら、「まず1つ目はこのドラマのシン・ウチョル監督とカン・ウンギョン脚本家です。以前お2人が手掛けた作品が面白かったので、今作でもタッグを組まれると聞き、安心感がありました。何のためらいもなく、出演しようと決めました」と、「シークレット・ガーデン」の演出家と「浪漫ドクター キム・サブ」の脚本家による制作陣が決め手だったよう。そして、「2つ目の理由は隣にいるチェ・スビンさんです。以前から共演したいと思っていたんです。『輝く星のターミナル』で共演すれば、自信をもって楽しみながら撮影できると思いました」と続けると、スビンも「私も同じ理由です(笑)。監督と脚本家が素晴らしいだけではなく、テレビや映画で見ていたジェフンさんと共演できて、光栄ですし楽しかったです。断る理由なんてありませんでした」と語った。では、待望の共演はどうだったかというと、スビンが笑いながら指ハートのジャスチャーをし「ジェフンさんは役者のキャリアも長く、テレビや映画などで見るイメージはまじめな印象ですよね。でも実はおちゃめな方です。撮影現場ではスタッフに向かって指でハートを作ったり…」と暴露。「失礼、電話が…」とごまかしながらジェフンも指ハートのジェスチャーをすると、「こんな姿が意外でした(笑)」とスビン。ジェフンは、「(演じた)スヨンは冷静沈着なキャラクターで、感情を表に出しません。現場で皆さんと過ごすときはすごく楽しいのですが、カメラが回っている間は感情を抑えなければなりません。カットがかかると突然元気になる」と言い、だからこそ「スビンさんにもカメラにもハートを(笑)」とコメント。「連発してました」(スビン)、「愛のハートを飛ばしました」(ジェフン)と2人で笑い合った。「現場が楽しかったんです。相手役のスビンさんは今まで共演した女優さんの中で一番リラックスできました。演技についてもたくさん話し合いました。彼女との芝居は本当にやりやすかったので、お礼を言いたいです」とジェフン。そしてスビンも「ジェフンさんが気さくに接してくれて現場の雰囲気を盛り上げてくれたんです。私もリラックスできました。おかげで緊張もほぐれたし。私からもお礼を…」と言うと、「いえいえ」とジェフン。劇中さながらに息の合ったところを見せた。「これがラブストーリーか」と、思い切り実感したそんな2人にそれぞれが演じた役との共通点を聞くと、「過去に僕が演じた役の中で最も温度差のある役です。イ・スヨンとの共通点もあるのですが…撮影現場では明るく振る舞いたいし、冗談を言ったりして笑いたいんです」と打ち明け、「みんなと笑っていた直後、キューがかかると急に静かになるので、自分でもなんだかおかしくて笑えました」と振り返る一方、スビンは「ヨルムを演じているのは私ですし、自分自身との共通点はもちろんあると思います。ですがヨルムの生き方や何といえばいいか…感情的になったり、ハングリー精神で物事に取り組んだり…そんな性格は私とは違いますね」と話した。さらに、スヨンのように“愛情表現はストレートにするほうか”との質問には、「20代前半の頃は好きな人ができると、直球で告白する方でした」とジェフン。「今は自分の気持ちを伝えることに慎重になり悩むようになりました。好きな人に気持ちを伝えた時相手はどう思うかはわかりませんよね。もし告白したら気まずくなるかもしれないとかいろいろ考えてしまって。なんだか…若い頃のようにストレートには言えません」という。スビンも、「私は昔から好きな人とは話をできません。声もかけられないし。恥ずかしくてお話しできないんです」と素顔をのぞかせた。「これまでに出演した作品にラブロマンスの物語はあまり多くありませんでした」というジェフン。「今作ではスビンさんとラブロマンスを演じて『なるほどこれがラブストーリーか』と、思い切り実感したのは初めてです。誰かに恋をしてどんどん好きになる過程を今作では経験できました。ラブストーリーの情緒を実感できた作品だと言えますね」としみじみ。そしてスビンは、「とても切ないラブストーリーで、ずっと忘れないと思います。それから、芝居でも現場でも新しく学んだ点がたくさんありました」と続けた。本作の見どころはラブストーリーだけではなく、「たくさんありますよ」というジェフンは、「仁川空港を舞台に繰り広げられるさまざまな人間模様です。それは一つの小さな社会です。空港で起きる様々なアクシデントやそこで働く人々がどうやって協力し合い、どのように前へ進むのか、その点が見どころです」とコメント。スビンも「空港を舞台にして描かれるドラマは珍しいと思います。新鮮で興味深い作品と言えます。そして心に傷を負った登場人物たちが共に過ごして仕事をしていく中で、お互いに癒されていきます。視聴者の皆さんも癒されるドラマです」と語る。最後に日本のファンに、「楽しくご覧いただき、ドラマを応援してください」(ジェフン)、「一生懸命撮影した作品なので、皆さんと温かい気持ちを分かち合いたいです」(スビン)とメッセージを贈ってくれた。「輝く星のターミナル」はTSUTAYA先行でDVDレンタル中&発売中、TSUTAYA TVで先行配信中。(text:cinemacafe.net)
2020年07月05日