【音楽通信】第84回目に登場するのは、とびきりの笑顔や元気とともに歌やダンス、圧倒的なライブパフォーマンスを届け絶大な人気を誇る、ももいろクローバーZの高城れにさん!アイドルを目指したのはテレビアニメの影響【音楽通信】vol.84歌はもちろん、アクロバティックなダンスも披露するライブパフォーマンスが絶大な人気を誇るガールズユニット「ももいろクローバーZ」、通称“ももクロ”のメンバー、高城れにさん。高城さんは、2015年から毎年ソロコンサートを開催し、2020年にはドラマで初主演を果たすなど、ももクロとともにアイドルシーンにおいて、トップを走り続けています。そんな高城さんが、2021年8月18日に1stソロアルバム『れにちゃんWORLD』をリリースされたということで、お話をうかがいました。ーーまずは、高城さんが幼少期に憧れていたアイドルや聴いていた音楽からお聞かせください。小さい頃から、いろいろな音楽を聴くことが大好きで、モーニング娘。さんに憧れていました。「アイドルになりたい」と思ったきっかけは、テレビアニメ『きらりんレボリューション』(テレビ東京系 2006〜2009年放送)です。アイドルを目指す主人公の月島きらりちゃんが大好きで、このアニメでアイドルという職業を知ったんです。でも、もともと歌がすごく得意だったわけでもなく、どちらかといえば苦手だったんですが、自分ひとりで歌うことは好きでした。そこから私自身もアイドルを目指すようになって、中学2年生のときにスカウトされて、その頃「月島きらりちゃんのようなアイドルになれたらいいな」と思っていたタイミングで、ももクロをやらせていただくことになりました。いまも音楽はジャンルにこだわらずに、アイドルソングやロック、洋楽も邦楽も聴いています。もともとソロコンサートを始めるにあたって新曲を作ったり、歌詞を作ったりする機会もあって、これまでに聴いてきたいろいろな音楽や歌詞から、影響を受けていると思います。ーーでは、ももクロとしての活動状況は現在、いかがでしょうか。2019年にリリースした5thアルバム『MOMOIRO CLOVER Z』以来、2年ぶりになるオリジナルアルバムを今年の冬にリリースすることが決まっていて、いまはそのアルバムの制作も始まっています。ソロ作は“心の味方”としてそばにおいてほしいーー2021年8月18日に、1stソロアルバム『れにちゃんWORLD』をリリースされましたね。実は今年、ソロアルバムが出せるとは思っていなかったんです(笑)。でも、ありがたいことに、ソロコンサートもたくさんやらせていただいていて、ソロ曲もアルバムが1枚できるぐらい作っていただいていて。昨年、うちのグループの佐々木彩夏がソロアルバムを出させていただいたんですが、ファンの方からちらほら「次はそろそろ、れにちゃんのソロアルバム出さないかな?」というお声をいだだいていました。「いつかみなさんのお声にお応えしたいな」とはずっと思っていて、自分でもアルバムを出せたらいいな、そしてソロ楽曲も増やしたいなと思っていたんです。ちょうど今年のソロコンサートが終わったタイミングで、今回のソロアルバムのお話をいただいて、本当に夢のようでしたね。普段はグループで活動しているので、ソロでアルバムを出すというのはまた違った感動があって、それこそアルバムは形として一生残るもの。ジャケットや楽曲など、いろいろなことにこだわって作りたいなと思い、制作しました。ーー今回、新曲が3曲あります。リード曲で1曲目となる「SKY HIGH」は爽快な夏曲ですね。自分自身で聴く曲はポジティブな歌詞と曲調のものが多くて、元気がないときはそういう曲に元気づけられてきたので、やっぱり自分で曲を出すときも明るい雰囲気にしたいと思って作ったものです。いまはとくにコロナ禍でみなさん元気がないときでもあるので、この曲で少しでも元気になってもらいたいということと、発売が8月で夏なので、夏らしい前向きな曲にしたくて。そしてイメージとしては、飲料系のCMソングに使われているような爽やかなものがいいなと、曲を作る段階でスタッフの方に相談しました。ーー新曲の7曲目「Voyage!」はシティポップ風な印象もあります。この曲は、「SKY HIGH」に比べたら、大人っぽい感じのかっこいい曲にしたかったんです。ポジティブな印象の曲というところは変えたくなくて、でもそれだとテイストが似てしまうので、ポジティブのなかにもみんなが少し持っているであろうネガティブな気持ちも入れてみました。歌詞でいうと、元気が出ない日もあるよねと落ち込む気持ちを肯定しつつも、どんなときも笑顔でいたいというニュアンスも入っています。みなさんにもきっと共感してもらえるような歌詞になったのではないかと思います。未来へ舵を切ろうという、人生を船旅にたとえたような感じで、この曲のミュージックビデオも航海風なものになっています。ーー新曲の11曲目「何度でもセレナーデ」は、アニメ『鬼滅の刃』主題歌「紅蓮花」を作曲した草野華余子さんが作詞作曲したミディアムバラードですね。そうなんです。他の新曲2曲がけっこうアップテンポな楽曲なので、この曲はしんみりしすぎない程度のバラードがいいなとお伝えして、いただいた曲です。恋人や友達、家族といった大切な人へ向けた、さまざまな状況の方に共感してもらえるような歌詞になっていて、それぞれの立場で受け取っていただければといいなと。そして歌詞の1番には、いまのコロナ禍で私が思ったことも入っていて。あまり会えないみなさんへ向けて、何度でも歌にのせて想いを奏でるよ、というメッセージや気持ちがこもっています。ーー過去のももクロのアルバムに収録されていた高城さんのソロ曲や、配信既発曲などもソロアルバムに収録されていますね。3曲目「恋は暴れ鬼太鼓」と4曲目「津軽半島龍飛崎」は、「-NEW RENI ver.-」となっていますが、以前との違いはどのあたりでしょうか。ニューバージョンになっている2曲は演歌なのですが、正直、そこまで変わってないんです。でも、もう10年以上前に録ったものですから、自分の中では声が変わっていたり、表現の仕方が変わっているんじゃないかなという意味で、新しく録り直したいと相談しました。自分自身でも未知なる挑戦でしたが、どんなふうに変わっているか、その成長過程の聴き比べも、みなさんに楽しんでいただきたいですね。ーージャケ写はどのようなコンセプトなのでしょうか。実は私のソロコンサートにしても“その年の等身大の私を見せる”ということが、しいて言えばコンセプトなので、ソロアルバムについても、いまの私をお見せする感じです。ポップな歌やかっこいい歌、演歌とジャンル問わずなので、そういう楽曲たちをおもちゃに例えて、おもちゃ箱をひっくり返したようなイメージ。夢の国があるとして、行けるとしたら、大人も子どもも関係なく、ワクワクした気持ちになるじゃないですか。そのおもちゃ箱とワクワク感をこのアルバムで表現したいと思っているんです。ーーボーナストラックに、お笑い芸人の永野さんと歌詞を共作され、ヒャダイン(前山田健一)さんが作曲された「ユーアノッアロン」も収録されています。以前、千鳥さんの番組で、永野さんと高城さんがコントをしている場面も観させていただきましたが、おふたりで組んだきっかけはなんですか。私がお笑い好きなことはもちろん、もともと永野さんが私たちの初期からやっているレギュラー番組『ももクロChan~Momoiro Clover Z Channel~』(テレビ朝日の動画サイトのオリジナル番組)に、ゲストとして来ていただいたことがきっかけですね。実はあまり覚えていないんですが、番組で永野さんがネタを失敗して凹んでいたときに、私が「元気出して、笑顔だよ」と話しかけたことで永野さんも私のことを気にかけてくれるようになって。永野さんからお誘いいただいて、アイドルと芸人さんのコントライブはいままでないですし、面白いんじゃないかと思ってコントをすることになりました。年に1回、永野さんとふたりでコントライブをさせていただいて、もう、4、5回になりまね。ーーお忙しいなかでコントに挑戦というのは、なかなかハードルが高そうな印象もありますが。でもすごく、普段とは違うことをやっていて新鮮ですし、もとをたどれば見せ方や表現の仕方の追求にもなって、永野さんとのライブは勉強になることばっかりなので、毎年私楽しみにしています。ーー―『れにちゃんWORLD』は、どのように聴き手に届いてほしいですか。いまはこういう時期なので、私自身もそうですが、凹むことやうまくいかないことが、例年よりあると思うんですね。そんなときに“心の味方”として、このアルバムがそばにあってほしいなって思いますね。「いろいろなお仕事に挑戦してお芝居もやりたい」ーーお話は変わりますが、普段、プロポーションをキープするためにしていることはありますか。スタイルキープは私自身、あんまりできていないところがあるんです。やっぱり食欲には勝てないじゃないですか(笑)。疲れちゃった、失敗したというような日はめちゃくちゃ食べちゃいますし、スタイルキープできているかいなかというと、ちょっとアヤシイところ。でも、一応気にしているのは、食生活です。カロリーをとりすぎないように、家では0カロリーのお砂糖を使っていたり、お米には「マンナンごはん」という、コンニャクのお米をとりいれていたり。お米を炊くときに、白米とマンナンごはんを半分ずついれて、カロリーハーフのごはんを食べていますね。ーー美容面ではいかがですか。私、美容が大好きで、情報を共有するのも好きなんです。いろいろなものを自分で試してみて、よかったもの、ちょっと合わなかったものと、確かめてみたり。私が合うものでも他の人には合わないことやその逆もあって人それぞれだと思うので、お友だちと美容情報を交換しています。でも、まわりから私に一番多い質問というと、髪の毛なんですよね。このロングヘアをどうやってキープしているのかという。本当に、髪だけは恵まれているなって感じるので、髪のケアにはこだわっています。ーーどのようにケアをされているのですか。自分に合うこだわりのシャンプーをずっと使っています。そのシャンプーをした後に、シャンプーとトリートメントの間にやるトリートメントがあるのでそれをやって、5分おいて。さらにそこからトリートメントをして、その後はさらにヘアパックをします。ーーそれを毎日?毎日やっています(笑)。お風呂から出たら、洗い流さないトリートメントを髪全部につけて、乾かしたあとに、さらにオイルをつけています。ーーすごいです、アイドルの鑑ですね。ちなみに、今回のアルバムは夏の発売ですが、高城さんが“夏に必ずすること”があったら教えてください。季節もの、王道なものは、必ずやっています。夏だと、花火や、おうちで家族でバーベキューしたり。昨年は、おうちで夏祭りごっこをするために、屋台みたいな雰囲気を出して、打ち上げ花火の音だけかけてみたり。外出自粛中でも楽しめますよ。もしコロナ禍じゃなければ、夏は海へ行ったり、それこそ小学校の頃は毎年、キャンプに行っていたり。でもキャンプに行く前は、必ず、熱を出すんですが(笑)。ーーかわいいです(笑)。高城さんはけっこうアクティブなんですね。わりとそうですね。小さい頃は、夏に登山もしていました。最近はYouTubeで、海の定点カメラを観ることにハマっています。おすすめですよ。ーーでは最近ハマっているものといえば、定点カメラの映像ですか?定点カメラと、映画やアニメ鑑賞ですね。映画は、おしゃれな『キューティ・ブロンド』とか『ココ・シャネル』、アクションスリラー映画の『イコライザー』とか『デンジャラス・ラン』とか、いろいろなジャンルを観ますね。観た作品はほぼ全部、ストーリーがどうだったか、一番印象的だったセリフは何かなど、メモをとっています。ーーそして、6月21日で28歳、おめでとうございます。この1年で今後、プライベートでやってみたいことはありますか。いっぱいありますが、美容について極めたい、勉強したいですね。あと介護福祉にも興味があるので、その勉強もしたい。これはプライベートになるのかどうかわかりませんが、モノノフ(ももクロのファンの方の呼称)さんの女の子たちと、ゆるっと美容のことについて、配信だったりチャットだったりしてみたいです。あとは御朱印帳を集めているので、緊急事態宣言があけたら、歩ける範囲のお寺や神社を全制覇して、御朱印を集めたいですね。ーーこれまでに参拝して印象深かった神社仏閣はありますか。私がずっとお世話になっている神社があって、神奈川県の江の島にある、芸能の神さまがいらっしゃる、江島(えのしま)神社です。地元が横浜で神奈川県なんですが、小さいときから江ノ島方面に行くことも多くて、いまの事務所に入る2、3年前から江島神社に行き始めたんです。そこからことあるごとに、例えば大きなライブの前などは、必ず江島神社に「成功しますように」とお参りに行っていて。ライブが終わったら、お礼参りに行くということを毎年恒例でやっています。ーーいろいろなお話をありがとうございました。では最後に、高城さん個人として、ももいろクローバーZとして、今後の抱負をお聞かせください。個人としては、いろいろなお仕事に挑戦したいですし、まずはこのソロアルバムをたくさんの方に聴いていただきたいなと思います。そして個人的には、お芝居のほうもやってみたいなという願望があります。グループとしては、私たちの売りでもあるライブが昨年はあまりできなかったぶん、今年はもっとやりたいなと。ももクロとして冬にアルバムもリリースする予定なので、いろいろな方に、私たちの想いを届けたいですね。取材後記国民的アイドルグループ、ももいろクローバーZのメンバーであり、初めてのソロアルバムをリリースされた、高城れにさん。今回はリモートインタビューをさせていただきましたが、その際につけていたマスクが高城さんのイメージカラーの紫色だったのでそのことをたずねると、「今日たまたま紫色なんですよ」と、(見えている瞳が)ニッコリ笑顔ではにかむ姿がとってもキュートで素敵でした。そんな高城さんの1stソロアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。取材、文・かわむらあみり高城れにPROFILE1993年6月21日、神奈川県生まれ。百田夏菜子、玉井詩織、佐々木彩夏、高城れにの4人によるガールズユニット「ももいろクローバーZ」、通称“ももクロ”の最年長メンバー。イメージカラーは、紫色。2015年から、毎年3月9日に高城のソロコンサートを開催。2016年より、文化放送のラジオ番組「高城れにの週末ももクロパンチ!!」(毎週土曜17:00)をレギュラー担当中。2020年、よるドラ『彼女が成仏できない理由』(NHK総合)で初主演(森崎ウィンとともにW主演)。2021年8月18日、高城の1stソロアルバム『れにちゃんWORLD』をリリース。ももいろクローバーZは、次世代の新人プロジェクトとして2008年春に結成。ストリートライブを出発点に活動を開始し、2009年8月にシングル「ももいろパンチ」でインディーズデビュー。2010年5月にシングル「行くぜっ!怪盗少女」でメジャーデビュー。以降もコンスタントに作品を発表し、メンバーの身体能力を活かしたアクロバティックなダンスやバラエティタレント顔負けのトークによってライブ会場を盛り上げ、次第に個性的なグループとして頭角を現す。2021年冬、6thアルバムのリリースを予定している。InformationNew Release『れにちゃんWORLD』(収録曲)01.SKY HIGH02.じれったいな03.恋は暴れ鬼太鼓-NEW RENI ver.-04.津軽半島龍飛崎-NEW RENI ver.-05.Dancing れにちゃん06.Tail wind07.Voyage!08.しょこららいおん09.まるごとれにちゃん10.『3文字』の宝物11.何度でもセレナーデ12.spart!13.everyday れにちゃん14.一緒に<ボーナストラック>15.ユーアノッアロン*以下、初回限定盤のみ収録。[Blu-ray]新曲MUSIC VIDEO「SKY HIGH」「Voyage!」2曲「CongratuRenichan~The 02 season 2020~」-LIVE VIDEO-01.Dancing れにちゃん02.Ride on time03.キューティーハニー04.ダンシング・ヒーロー(Eat You Up)05.VALENTI06.タマシイレボリューション07.everyday れにちゃん「まるごとれにちゃん0202スプリングツアー2021」-LIVE VIDEO (Edit ver.)-01.一緒に02.まるごとれにちゃん03.春夏秋冬04.spart!05.しょこららいおん06.笑―笑 ~シャオイーシャオ!~07.GODSPEED08.全力少女09.未来へススメ!10.everyday れにちゃん11.Tail wind[れにちゃんWORLD SPECIAL BOOKLET(44P)]Special Photo100 Questions!!-Fromモノノフ-What’s in Renichan’s bag?DiscographyInterviewRenichan Playlist2021年8月18日発売*収録曲は全形態共通。(通常盤)KICS-4016(CD)¥3,080(税込)(初回限定盤)KICS-94016(CD+Blu-ray)¥9,000(税込)取材、文・かわむらあみり
2021年08月19日ABEMA新作オリジナルドラマ「酒癖50」が7月15日(木)より放送開始となった。小出恵介主演、全6話構成で酒によってあぶり出される人間の本当の弱さや醜さをリアルに描く。本作の脚本を担当したのは、これまでもABEMAとタッグを組み話題作を世に放ち続けている鈴木おさむ。直接、本作に込めた想いを聞いた。「他がやってないもの、ドス黒く輝くものを作りたい」――なぜ今回「お酒によってあぶり出される人間の本当の弱さや醜さ」をテーマに作品を作ろうと思われたのでしょうか?最初のABEAMとの会議で、「酒癖が悪い人ってどの会社にもいるよね」って話から「そんな人たちが観た時にとんでもなく後悔したり、ハッとしたりするような教習ビデオみたいなものが作れないかな」という話から始まりました。――なかなかエッジの効いたテーマで、“さすがABEMA”という内容に仕上がっていますもんね。ABEMAの方からの“他がやってないものを作りたい、ABEMAの中でドス黒く輝くものを作りたい”という気概を感じて、僕も振り切って作ろうと決めました。――今回、初めて小林勇貴監督と組まれてみていかがでしたか?『全員死刑』とか観ているとクレイジーだったり、寡黙で面倒くさい人なのかなと思ったんですけど(笑)、会ってみるとめちゃくちゃ社交的な人で。僕が1話ごとにプロットを出すと、物語の「背骨」になる部分を掲げてくれるので、対話しながら作っていくのが楽しかったです。小出恵介はじめ各話キャスティングの理由とは――鈴木おさむ作品と言えば、キャスティングも見どころの一つかと思いますが、今回特にどんな点を意識されてキャスティングに当られたのでしょうか?元々、主人公の酒野役を小出恵介さんにというのはABEMAの制作サイドから出てきたアイディアで、彼が演るからこその説得力が作品に宿ると思いました。ビートたけしさんが昔、昭和の実在する殺人者シリーズを演じていて、すごい怖さや説得力があったんですね。今回の『酒癖50』は小出くんが演ることに意味があると思いました。各回のキャストでは、お芝居が上手い人に演じてもらってドラマの質を高めていくことを意識しました。浅香航大さんは『見えない目撃者』のお芝居が半端なくて大好きなので、1話では彼に主演を演ってもらいたいと思っていました。――第3話では般若さんも出演されていてビックリしました。上司役で怖いイメージがありながらも、最後の展開を踏まえて一番ギャップがある人って誰だろうと考えた時に般若さんが思い浮かびました。僕も「フリースタイルダンジョン」からのお付き合いだったので、色々と無理を聞いて下さり愛を持って演じて下さったなぁと感謝しています。――キャスティングが一番難しかったのはどの回ですか?第4話は特に女性が観た時に胸糞が悪い内容になっているので、かなり気をつけて作りました。しずるの村上くんは芸人なので、胸糞の悪さよりもバカバカしさが出て、キャラクターにフィクション感が出るかなと思って決めました。結末も相まってざまあみろ感も出て、彼に演じてもらったことで生々しさは軽減されたと思います。――第5話からは小池徹平さんもゲスト出演されるようですね。小池徹平さんの役の名前が「武山」なんですけど、小出くんと小池くんが「ごくせん」(第2シリーズ)で共演していてその時の小池くんの役が「タケ」(武田啓太)と呼ばれていたので。それで「タケ」がつく名前にしました。作品がすごくバッドテイストなので相当キャスティングにも苦労したんですが、小池くんが心意気で引き受けてくれました。きっと小出くんの背中を押したいという気持ちもあったんだろうなと思います。“物語のうねり部分”を見せて物語に仕上げる――全6話いうことですが、鈴木さんとして一番思い入れが強いのは第何話でしょうか。全部思い入れは強いですね。第1話が方向性を示すという意味では手探りで作っていったので思い入れは強いです。第5・6話は、小出くんの人生と重なるところがあるからこそ、彼自身もすごい力を発揮してくれるんじゃないかと思いますし、見応えはあると思います。今回、第1話~第4話まで毎話バッドエンドが続いて、第5・6話で主人公の過去などドラマの主軸となるような物語のうねり部分を見せて作品全体の物語に仕上げるという構成上も新しい実験を試みることができました。――鈴木さんは飲酒を交えたコミュニケーション=“飲みニケーション”でないと成立しない関係性ってあると思いますか?人が気を抜いてリラックスしている関係性だからこそ生まれるものはあると思います。ただ、それは相手もお酒が好きでそれを望んでいる場合には、ですね。酒の力を利用して口説こうとしたり、付け込んだりするのはいけないよねっていうのが今回の作品のテーマですね。ゴルフや麻雀、旅行なんかの趣味で、自分の素が出るものであれば、何も飲み二ケーションに限った話でもないかなと思います。――最後に本作をどんな方に観て欲しいか、見どころと一緒に教えて下さい。仕事していてちょっと悩んでいたりムカつくことって誰にでもあるじゃないですか。入り口は酒なんですけど、酒を外したところでも会社でよくある辛いことや理不尽なことをここまで露わに表現した作品ってあんまりないんじゃないのかなと思うんです。そこがリアルで、皆さんに観てもらえるとスカッとすると思います。(佳香(かこ))
2021年08月19日「映画と人を繋ぐ」――。昨年公開され、インディーズ作品ながらも大きな話題を呼んだ青春映画『佐々木、イン、マイマイン』のプロデュースを行なったShake,Tokyo(シェイクトーキョー株式会社)代表の汐田海平。彼が仲間と共に昨年、結成した「uni(ユニ)」の活動内容について尋ねると、そんな簡潔な答えが返ってきた。「映画業界の同業者の方たちにもよく聞かれますよ。『uniって何やってるの?』って(笑)。謎の集団みたいに思われがちなんですけど、決して難しいことをしようとしているわけじゃなく、最終的に映画館に足を運ぶ人たちを増やすのが目的なんです」映画業界に携わる人々にその仕事内容について話を伺う【映画お仕事図鑑】。連載10回目となる今回は、映画の製作から宣伝、さらには「uni」を通じた映画にまつわる発信まで、多岐にわたって活躍する汐田さんに話を聞いた。母に勧められた黒沢清監督『CURE』の衝撃! 評論を学ぶため大学へ――まずは汐田さんご自身についてお話を伺ってまいります。ご出身は鳥取県だと伺いましたが、子どもの頃から映画がお好きだったんですか?鳥取県って映画館が少ないんですよ。いまは県内に3軒かな? 僕は米子市の出身なんですが、市内にあった映画館が子どもの頃につぶれてしまって、隣の日吉津村(ひえづそん)という村のイオンの中にあるMOVIX日吉津村が近くにあった唯一の映画館で、映画を観るなら自転車で30分くらいかけてそこに行くしかなかったんですね。だから映画館で映画をたくさん見るという体験はあまりしていなくて。ただ祖父と母が映画好きだったので、毎週のようにVHSやDVDを借りて、映画を観るというのはしていました。とはいえ“映画好きの少年”というよりは、同世代のみんなが好きなTVやゲーム、漫画といったエンタメ全般が好きな子どもでした。――その当時の忘れられない映画体験、衝撃を受けた作品などはありますか?映画に“捕まった”瞬間ということで言うと、黒沢清監督の『CURE(キュア)』を母の勧めでレンタルで観たことです。「怖いから観てごらん」と母に言われて観て、食らいましたね(笑)。当時は、映画専門雑誌というよりも「BRUTUS(ブルータス)」といったカルチャー雑誌の「泣ける映画特集」とかを読んで、そこに出てくる映画を借りて観ていたんですが、『CURE』はそういった雑誌では見つけられなかったんです。いままで観たどの映画とも違いました。それを解釈する言葉がないんです。なぜ面白いか? 理由はわからないけど、メチャクチャ面白いというのを初めて経験して、それをきっかけに、より映画が好きになりましたね。当時高校生だったと思いますが「映画ってすごい」と初めて体感として知りました。――お母さまの世代で、黒沢監督の『CURE』を息子に勧めるというセンスが素晴らしいですね!地元に「米子シネクラブ」という自主上映団体があって、東京で話題のミニシアター系に作品などを数か月遅れて公民館などで上映していて、母はそこにもよく行っていました。いまでも、西日本であればどこでも遠征するくらい、映画が好きみたいです。そうやって母に勧められてなかったら、仕事にするほど映画を好きになっていなかったと思います。――当時はいまのような配信サービスもなく、地方に住んでいて、映画は好きだけど、映画館が地元にない、レンタルすらままならない! という人間は多かったと思います。上京して、映画館が当たり前にある環境に感激したり、中学・高校時代から普通にミニシアターに行っていたという東京出身の同世代との“差”を感じたり…。あぁ、それはすごくよくわかります(笑)。僕も高校を卒業して上京して、ミニシアターとかに行くようになったけど、その時に思ったのは、周りにいる東京出身の人とは持ってる「文化資本」が全然違うってことでした。大学では映画評論をやっていましたが、映画評論家の梅本洋一先生のゼミだったんです。梅本先生自身が、横浜出身で原宿で育って、フランスに留学していたという人で、圧倒的に文化的な前提が違うってひしひしと感じていましたね。でも映画が好きは好きだし、他に何か負けない方法があるんじゃないか?みたいなことを思いながら、大学生活を送ってましたね。ただ、梅本先生に映画評論を教えていただいたことは、いまでもすごくよかったなと思ってて。同級生や先輩含めて都会の人に差を見せつけられ、早い段階で鼻っ柱をへし折られたのが、結果的に、いまやっている仕事にもつながっているんじゃないかなと感じています。――ご両親は医者だそうですが、ご自身も医者になろうという思いはなかったんですか?親が医者をしている人間がみんなそう思うのかはわかりませんが、将来のことを深く考えずに、なんとなく「医者になるんだろうな」と思って育った部分はありましたね。「医者になりたい」と強く思ったことは一度もなかったんですけど、何もなければ自分は医者になるんだろうと。昔からエンタメが好きで放送作家や文章を書く仕事をしたいと思っていた時期もあったんですが、それでも「医者になる」というのが勝って、現役では医学部を受けました。そこでも結局落ちて、浪人することになったんですが、予備校に通うために東京に出てきてしまったんですね(苦笑)。そこでいろいろと考えることがあり…。寮のある予備校だったんですが、市ヶ谷にあって、ミニシアターにも行けるようになり(笑)、田舎からでてくると楽しくて。そんな環境の中で「自分がやりたいのが映画なんだ」と思うようになりました。医者になるために上京して、医学部専門の予備校に入って、周りは全員、医者を目指している環境でどんどん「そうじゃない」という思いが強くなっていったんですね。――親御さんの反応は…?最初は反対されましたね。いや、そもそも反対されるのをわかっていたので、直前まで「医者にならない」とも言っていなくて…。結局、医学部を受けて、私立大の補欠合格までもらったんですが、国立大の受験は、映画評論が学べる横浜国立大を選びました。でも、そもそも横浜国立大にそういう学科があると教えてくれたのは、母なんですよ(笑)。――またしてもお母さまが(笑)!そうなんです。母も医者でしたが、昔からわりと自由な選択をさせてくれたんですね。――大学在学中から卒業後にかけてはどのようなことをされていたんでしょうか?大学在学中は、映画を作っていました。映画評論がしたくて大学に入ったんですが、同時に映画研究部にも入って、映画制作もするようになりました。ただ、どちらもやっていく中で、わりと早い段階で評論のほうは“壁”にぶつかったんですね。すごくズルい言い方ですが、評論の世界にはすごい人たちがたくさんいて「これは勝てないんじゃないか?」って。さきほどの文化資本、文化的な素養みたいな話なんですが、梅本先生をはじめ、大学の先輩や評論の世界で活躍されている方々の文章を読む中で「この差はどうにもならないんじゃないのか?」と思ってしまったんですね。それで、作るほうに力を割くようになって、それが楽しくなってきたんです。卒業後の進路に関しては、いわゆる就職活動はしていなくて、在学中から生意気にも忙しくなって、映像制作の現場の下っ端仕事だったり、業務委託を受けて映像を制作するといったことをやっていました。一応、大学院にも進んだのですが、僕が修士1年生の時に梅本先生がお亡くなりになって、そのまま大学院もやめて、フリーランスで働くようになったんです。20歳で見定めた“プロデューサー”という道――映画の自主制作というよりも、“仕事”として制作を請け負っていたんですか?最初はもちろん、学生の自主制作でした。当初は監督をやってたんですが、同級生に平田くん(平田大輔)という人がいて、彼の映画を観た時に「これは勝てないかも…」と思ったんです、また(笑)。――早い段階で(笑)。それで、平田くんの映画のプロデュースをしたいと思ったんです。だから1本だけ監督をして、その後は「プロデューサー」を名乗っていました。学生映画でプロデューサーを名乗る人間なんてあんまりいないんですけど(笑)、映画に関するいろんな役割を観たとき、いまから自分が始めて、将来成功するならこの道だなと。20歳くらいで決めたんです。――その年齢で、映画業界における自分の仕事をプロデューサーだと見定めるってすごいですね(笑)。あきらめは早いんですけど、昔から「これ」と決めたら徹底的にやり通す性格なんです。ちなみに平田くんは、いまは売れっ子のCMディレクターになっていて、その勘は正しかったなと思います(笑)。そうやって6年ほど、フリーランスで映像制作にまつわる仕事をやっていました。――その当時の“プロデューサー”という立場の仕事は、具体的にはどんなことをされていたんですか?いわゆるラインプロデューサーという、現場の制作進行管理を統括する仕事を主にしていましたね。ただ、小さな作品だと、自分でお金をどこかから引っ張ってくることも必要になったりして、そういう仕事もしていました。クラウドファンディングが出てきたのも10年ほど前ですし、YouTubeが注目され始めたのもその頃ですよね。いまは当時よりもさらにその傾向は強いと思いますが、“個人の時代”になっていく中で、個人でできることって実はたくさんあって、それこそ自分が初めて制作した作品ではクラウドファンディングでお金を集めたりもしましたし、やり方にとらわれず、作品を前に進め、公開まで持っていくという仕事ですね。その後、2017年に映像制作会社を共同で立ち上げて、そこでは広告系、企業系の映像の仕事を多くやっていました。CMであったり、企業の採用ページのWEB動画などですね。ただ、共同経営だと会社の代表者の名の下で動かなきゃいけないことが多くなります。映画を作るとなったら、自分以外の人にリスクや責任を負わせることになってしまう。それを僕自身が背負えるようにならなきゃダメだなと思いまして、昨年、自分で代表を務める「Shake,Tokyo(シェイクトーキョー株式会社)」を始めたんです。「uni」が導く映画と観客の出会い映画を伝えるための“オーディエンス・デザイン”――「Shake,Tokyo」でやられているお仕事について、詳しく教えてください。まず映画『佐々木、イン、マイマイン』が最初の製作作品となりました。映画製作に関しては、既存の枠組みでは作りづらいテーマの作品であったり、新人監督や若い才能を最大化したいという思いでやってます。そうするにはやはり、誰かリスクを強く背負う人間がいないとダメなんですよね。それなら自分でもできるかもなって思ったんです。リスクを負うだけならできるぞと思ってしまいました(笑)。それ以外には、広告などの映像制作の受託業務をやっていて、これが売り上げの大きな部分を占めています。会社が潰れないのはこれのおかげです。もうひとつ、「オーディエンス・デザイン」と僕は呼んでいるのですが、映画を伝えるためにお客さんと積極的に関わっていくような活動をやっています。――それが昨年、結成された「uni」と深く関わってくる活動ですね? 詳しく教えてください。『佐々木、イン、マイマイン』以前にもいろんな作品に関わらせてもらってきて、宣伝業務のお手伝いなどもさせていただいてきたんですが、その中で、映画の観客(オーディエンス)と作品の関係性をちゃんと考えたいなって思うことが増えてきたんですね。そのなかで始めたのが、松竹さんと共同で運営する、映画ファンのコミュニティ「SHAKE(シェイク)」で、コミュニティを中心に、もっと映画を楽しんでもらう仕掛けをしようという活動で、いまは100名ちょっとのメンバーがいます。そしてもうひとつ、「映画との出会いを作る」というコンセプトで仲間たちと始めたのが「uni」というチームです。――先ほど「オーディエンスと作品の関係性をちゃんと考えたい」とおっしゃっていましたが、具体的に何がきっかけで、どのような思いを抱かれたんでしょうか?きっかけはいろいろあったんですけど、いろんな作品に関わらせていただいたときに、いろんな手応えやリアクションを感じることもあった一方、映画祭の場ではものすごく受け入れてもらえても、劇場公開となると全然人が来なくて…みたいな経験もありました。そういうときは作品を届ける方法について考えてしまいます。加えて昨年、経産省のプロジェクトでロッテルダムやベルリンの映画祭に若手プロデューサーを派遣するというプログラムがあって、行かせてもらったのですが、そこで海外のクリエイターと話をする中で「全然、日本とは考え方が違うな」とすごくショックを受けたんですね。よく言われていますが、日本の映画ビジネスって特殊な部分が多くて、映画人口が約1億人いて、内需で全て完結できてしまうので、その1億人のパイをどう分け合って活用していくか?というビジネスモデルなんですね。そうすると何が起こるか――? 例えば『佐々木、イン、マイマイン』という作品を盛り上げようという時、そこに誰が宣伝のためのお金を出すかというと、もちろん作品側が出すことになる。つまり宣伝が作品に寄り過ぎてるんですね。そこは本来、メディア、劇場、映画ファンなど、それぞれの利益のためにもみんなで盛り上げていく必要があるはずなんですけど、疑問に感じている人が少ない。作品が自分で自分の宣伝をする以外の方法があまりに少ないんです。そうした状況が進むと、基本的に原作の知名度の高さか出演者の人気でしか、映画を広めるためのフックを作れなくなってしまうんです。そうなると映画を作る前から原作とキャストが決まった状態で企画がスタートして、監督の手に渡る頃には企画の概要が固まっていて、監督のクリエイティブの幅が狭くなってしまう。これは既に起こっている、ものづくりにとってよくない悪循環だと思います。本来は映画会社や映画館、クリエイター、レーベル、コミュニティなど、それぞれにファンがつくような状態で、彼らに「この映画なら観たいな」って思ってもらうような流れ、構造を育てていかないといけなかったのに、僕たちはそれをやってこなかった。そんな状況で、「とはいえみんな生活をしていかないといけないから…」と次から次へと新しい作品を回していかないといけない――。それって映画のコミュニケーションとしては速すぎるんですよね。そのコミュニケーションをもっとゆっくりにすることはできないか? と考えます。もちろん、映画をたくさん見てくれる人たちの存在はすごくありがたいんですけど、その一方で、日本は公開される作品の数はものすごく多いのに、映画を観る人の数は多くないというミスマッチが業界的な構造として発生してるんです。1本1本の作品を丁寧に選ぶカルチャーを作りたい――。そんな問題意識でこの活動を始めました。マス広告ではないやり方で映画を届けるために――人々に映画を届けるコミュニケーションの速度や形を変えて、届くべき人たちにきちんと作品を届けていこうと?言い方が悪いですが、いまってインディーズであっても、多くの作品がやっているのは“しょぼいマス広告”であって、やっていることのベースは、大衆に向けたマス広告なんです。でもそれでは大作と比べて予算も人も少ないので、露出量で負けて、興行収入でも勝てない…。一方でここ数年、小規模ながらに成功したと言える作品を考えた時、『カメラを止めるな!』も『愛がなんだ』もそうですが、これらの作品がマスに向けた広告を先立って打ったかといえば、そんなことはしていないんです。そうした前例も踏まえて、小規模な映画なりの“伝え方”がきちんと確立されるべきだと思っていて、プッシュ型ではない、プル型の形を作っていけたらと思っています。「PR」という言葉は「パブリック・リレーションズ」の略ですが、作品と観客の“関係性”をちゃんと作りたいし、それをやらないと、規模の大きな、宣伝費のある作品順にヒットするだけになってしまうと思います。先ほども言いましたが、いま現在のような公開本数とスピード感で回し続けていかないといけないというやり方って、自分たちの首を絞めることになっていると思います。それは僕自身、映画を“届ける”立場であると同時に、“作る”側の立場としても感じていることで、果たして本当にこれだけの作品数が必要なのか?と思います。日本が世界有数の公開本数を誇る、それ自体は素晴らしいことだと思いますし、多くの人に作品を作るチャンスがあるっていうのも大事なことです。一方、劇場、配給も含め「本当にこれだけの本数を掛ける必要はあるのか?」「そうでないと劇場が回らないというのは本当か?」ということは問い続けていきたいなと。映画館を人でいっぱいにするために――失われつつある“評論”の役割を別の形で果たしたい――特に「uni」の活動について、どのようなことをしているのか教えてください。「uni」は、基本的には僕を含めて映画関係者と映画インフルエンサーのチームで構成されていまして、デザイナーやWEBに強いメンバーもいるので、その気になれば宣伝含めても全部を自分たちでできるチームです。具体的な活動としては、決してWEBに特化しているというわけではなく、もともとはリアルなイベントをやるチームを作りたかったんです。でも昨年、それを始めようかという時期にコロナ禍が直撃してしまい…、そこでまずはオンラインでできることをやろうということになりました。いまは、SNS上でキャンペーンを行なったり、受託した仕事だけとしてではなく、自分たち発信でいろんな活動をしてるんですけど、全ての活動に共通するコンセプトは「同じような映画が好きな人同士を繋げる」ということです。人が繋がれば、そこにコミュニケーションが生まれるし、ひとつひとつの映画に対しての言葉も増える。そこでのやり取りを通じて、映画をより深く楽しんでもらえる状況になると思います。映画を観て、そして話すということが、映画をより立体的に楽しむことに繋がっていくと思うので、まずは、ある作品を「好き」だと言う人がいたとき、その人たち同士を繋げるためのキャンペーンや企画をやっていきたいなと思っています。基本的にはTwitterとLINEをメインで活用していて「ハッシュタグキャンペーン」というのをやってます。このハッシュタグを使っている人は、ある程度、同じような映画が好きだということで、映画好きの仲間を探せるようになっています。それ以外ではオンラインでのトークイベントなどをZoomやYouTubeなどでやっています。――宣伝活動というよりは、インフルエンサーによる自主的な発信をベースに繋がっているということでしょうか?自主的な発信も多いですが、宣伝会社、映画会社からの依頼を受けて、試写会をやることもあります。試写会って、宣伝さんからしたら、すごく重要な宣伝ツールで、そこで映画を観る人たちは、劇場公開前に最初に作品を観るお客さんなので、より多くの人に作品が広がるようないい口コミがほしいし、良いお客さんに観てほしいんです。「uni」は、Twitterや約8,500人が登録している公式LINE(7月26日現在)を通じて、その映画に合う観客、その映画にハマりそうな人を試写にお呼びするお手伝いをしたり、試写会でトークイベントなどを行ない、「uni」のメンバーとお客さんのコミュニケーションを生み出すこともできます。――ニュースなどを通じて、広く作品の情報を広めるのではなく、インフルエンサーらを通じて、その作品に合うファンに作品を“届ける”という、まさに従来のWEBメディアとは違う形でのコミュニケーションですね。あくまでも個人の集団なんです。それぞれのメンバーが思っている課題への取り組みやこういうイベントがあったらいいんじゃない?ということを実際にやっています。――昨年、結成されてさらにこの6月に新たなメンバーが加わりました。メンバーについては汐田さんが勧誘を?もともと、映画アクティビストのDIZさんと「やりたいね」と話してたのがきっかけです。それ以前からイベントに出演していただいたりしてて、DIZさんが「映画好きの人を繋げたい」というピュアな思いを強く持っていることも知っていたので、実現できることがないかなと思っていたんです。当初、僕自身は、映画ファンが作るWEBメディアみたいなものをイメージしていたんですが、状況や過程を想定しながら話し合う中でイベントをやりながら人々を繋げていく方がいいという結論に至りました。DIZさんは既に映画のイベントをやっていて、そのメンバーにタカヒロさん(コネクター)、アリサちゃん(マーケター、プランナー)もいて、でも彼らだけではできないこともできるようにしたいということで、そこに映画宣伝のプロである琴美さん(PRコーディネーター)を誘って5人でスタートしました。そこに今回、新たにもっちゃん(プランナー)、harucaさん(デザイナー)、しんのすけさん(サポートプランナー)、キミシマユウキさん(パーティーメイカー)という、インフルエンス力もあって、クリエイティブも強いメンバーに加わってもらって、より大きなものを動かせるチームになったと思います。今回の新たなメンバーはひとりひとり「uniに入りませんか?」と勧誘しました。――インフルエンサーを通じて作品と人をつなげるとなると、ターゲットはやはり若者層となるのでしょうか?現在の「uni」のフォロワーさん、LINE登録者の75%は女性で、年齢層は20代前半が一番多く、その次が20代後半、10代後半ですね。おそらく既存の映画メディアだともう少し年齢層は高めなので、若い映画ファンとコミュニケーションを取れることは強みかなと感じています。ただターゲティングはそこまで重要視していなくて、あくまでもミッションは「映画が好きな人を増やす」ということだと考えているので、最初から「この層を狙って当てていく」ということを決めてはいないです。純粋に映画ファンを増やしていくとなると、新しく映画を好きになるのは若い人たちが多いのは当然ですけど、最初からターゲットを決めて、その層が喜ぶことをやっていこうとは考えていません。「uni」のメンバーが好きなこと、やりたいことをやって、それによって結果的に好きな人が増えていくということが大事だと思ってます。フォロワーや登録者を見ていると、年間に数百本も映画を観るような、かなり映画好きの人もいれば、地方に在住の方で、シネコンで年に数本観ているという方もいるし、本当にいろんな方がいますが、ポジティブに映画を楽しもうとするひとが多い気がしますね。――最初に大学での評論から映画の世界に入られて、その後、作品の制作なども手がけられてきて、いま現在、「uni」でやろうとしていることは、映画の仕事の中でもかなりタイプの異なることですね?評論から始まっているということで言うと、そもそもいま「評論」というジャンルそのものが、成立しにくくなっている現状があります。もともと、僕は評論が持っている機能ってすごく尊いもので、大事なことだと思っていて、お客さんに声を届けるだけでなく、作り手を育てていくという、両方に向けた言葉を紡いでいく仕事だと思っています。ただ、その評論がいまほとんどなくなってしまっている。これだけSNSなど、情報の出口が多様化し、点在化したことで、ひとつの強い言葉が短くなってしまって、まとまった長い言葉でインフルエンスするというのが難しい状況になってしまったんですよね。僕自身、大学の頃からそうなっていくのを感じていて、評論をあきらめたのはそれも理由のひとつです。この先、評論家をやっていくとなると、相当の頭の良さ、特殊な能力がないと無理だぞって。とはいえ、評論が持つ機能を果たすことは、いまやっているプロジェクトや事業を通してできるかもと思い、やっています。作品を作るということもそうだし、「uni」や「SHAKE」といったプロジェクト、事業など、いくつかのことをやっていく中で、結果的に評論しているのと近い役割を果たせる可能性があるのではないかなと。いろんな思いがあって、評論の道をあきらめて、いまこうした活動をやっていますが、改めて考えると、自分の中にやりたいことのある種の一貫性は存在していて、いくつもの「点を打つ」ということなんだなと感じています。「汐田ってヤツは、なんで映画を作ったり、uniをやったり、SHAKEをやったりしてるんだ?」って一見、バラバラなことをやっているように思えるかもしれませんが、実は僕の中で「映画業界がこう進んでいけばいいな…」と思っているものがあって、その流れを作るための僕なりの評論的な活動をしているつもりです。僕自身「評論の力」を信じていて、その役割はすごく大きいものだと思っているので、評論の持つ「お客さんを育て、作り手を育て、業界の流れを作る」という機能を別のやり方で挑戦しています。――新体制の「uni」として、今後どのような活動を行なっていく予定なのか教えてください。メンバーにSNSや新しいメディアに強い人が多いので、オンライン活動に重きを置いているように見えますが、僕らは「映画館で出会う」ということにすごく強い思いを持っていて、むしろそれができるならSNSも要らないと思っているんです。あくまでもツールとしてインターネット、SNSを活用してます。僕自身、同業のいろんな人に「で、uniって何やってんの?」ってよく聞かれます。謎の集団みたいに思われがちなんですけど、決して難しいことをしようとしているわけじゃなくて、映画ファンを増やし、映画館に来る人を増やす試みだと。いまはまだ、コロナ禍もあってなかなか難しいですが、自分たち発信のリアルなイベントも考えています。とはいえ、既に映画が好きな人に喜んでもらうことだけを考えてたら、全体数は増えてはいけないんですよね。素敵な文化やカルチャー、コミュニティが日本にはたくさんあって、そのうちの何割かが映画を好きになってくれたら、映画ファンが増えるかもしれません。もともと「あんまり映画は見ないけど本や音楽が好きな人」の何%かに映画館に来てもらえたらと考えて、コラボレーションで何かをやる。いままで映画業界に関わってこなかった人を巻き込む、映画をもっとソーシャルなものにしていくというコンセプトを突き詰めたいと思っています。映画業界に限らず、どの業界も内に内にと閉じてしまいがちです。それによってジャンルが強固になる部分もあるけど、いまは外に外にが必要な局面と思っていて、映画をソーシャルにつなげていく動き、きっかけを生み出せたらと思います。その一環として「uni」でやろうと考えているのが「子どもたちと映画を観る」ということ。映画好きを増やすコンセプトの一環でワークショップもやろうと思っています。子どもと映画を作るというワークショップはあっても、子どもと一緒に映画を観て、感想を言うというワークショップって実は多くないんですよね。「uni」のメンバーで言うと、しんのすけさんは、若い人に向けて映画を発信していて、専門学校の先生もやっているので、そうした素養もある人です。子どもたちに映画の楽しさを知ってもらうというのは、新体制になった「uni」でやりたいことです。――この記事で「uni」の活動について初めて知ったという読者も多いかと思います。最後に改めてメッセージをお願いします。何よりもみなさんに楽しんでほしいと思っています。映画館に来たら絶対に楽しいよ!という活動をやっているので、ぜひそれを知っていただければと思います。映画業界の同業者のみなさんには「よくわかんない存在」に見えているかもしれないですが(笑)、ちゃんと考えた上で、いろいろやりたいと思ってるので、どんどんコラボしていきましょうとお伝えしたいです。僕らはとにかくオープンに、ソーシャルでいたいと思っているので、一緒にやれそうなこと、お手伝いできそうなことがあればぜひお声がけください!――『佐々木、イン、マイマイン』に続き、「Shake,Tokyo」として新しい作品を作る予定はあるんですか?やります! 新作、動いています! ぜひお楽しみに!(text:Naoki Kurozu)■関連作品:佐々木、イン、マイマイン 2020年11月27日より新宿武蔵野館、渋谷シネクイント、池袋シネマ・ロサの3館にて同日公開©「佐々木、イン、マイマイン」
2021年08月02日小出恵介主演、全6話構成のオムニバス形式で酒によってあぶり出される人間の本当の弱さや愚かさをリアルに描くABEMA新作オリジナルドラマ「酒癖50」が、7月15日夜10時より放送中。本作の第3話で主人公の口山憲治役を演じた犬飼貴丈に、撮影中の印象深いエピソードなどについて話を聞いた。新たな面が引き出されたラップシーン――本作の台本を初めて読んでみた感想はいかがでしたか?こんなにも攻めた内容で大丈夫なのかなと不安になりましたが、これをそのまま表現できたら面白くなりそうだなと思いました。鈴木おさむさんの脚本、小林監督の演出、そしてABEMAが掛け合わさったからこそ出来たことだと思います。――本作の出演を通して、自分の新たな面が引き出されたところはありましたか?初挑戦のラップシーンですね。しかも今だから言えるんですけど、前日に監督から「ここは変えよう」という指示が入ったりしてかなり大変でした(笑)。般若さんの前でそんな付け焼き刃のラップを披露して怒られないかなぁ~と緊張しましたし怖かったですね(笑)。――ラップはどうやって練習されたんですか?ラッパーのSAMさんが指導に入って下さりました。台本のラップを音に乗せて音源として送って下さって、それを聴きながら練習しました。――今回演じられた口山はお酒を飲む前後でかなり人格が変わる役柄だったと思いますが、その変化感はどう表現されましたか?お酒を飲むと別人格になる役柄なので、飲酒前の内向的な元のキャラクターと完全に切り離して飲酒後は“全くの別人”として見えるように演じました。――犬飼さん自身と今回演じられた口山は何か共通点はありましたか?自分も元々はお酒が弱かったので、そこは似ていますね。ただ、自分はお酒を飲んでもあまり変わらないので取り乱したりすることはないです。――ラップシーン以外で撮影中印象深いエピソードはありましたか?「アルハラは辞めましょう」というメッセージも込められた作品ながら、現場ではノンアルコールビールは結構飲みましたね(笑)。――特にここが見どころというシーンはありますか?最後に般若さんと一対一でラップバトルのような展開になるんですが、般若さんは敢えて“ラップっぽくなく”やられていて。そのハズし感が物語の中でスパイスになっていてエッジが効いているなぁと思います。本業ラッパーの方がラップをしない贅沢さと、それなのに俳優がラップをやっているっていう歪さが作風にも合っているかなと感じます。“職業:表現者”として「王道・正統派な役柄も」――今回の攻めた役柄もとても魅力的でしたが、今後演じられたいのはどんな役柄でしょうか?恋愛ドラマでキラキラした役をやったことがなくて。ジュノンボーイなんですけどね(笑)。こういう攻めた役柄だけじゃなくて、「王道・正統派」な役柄もやっておかないと、エッジが効いた役柄ばかり極めすぎたらもう戻れない気がしてちょっと心配しています(笑)。YouTubeなど発信する場所が増えたので、 「職業:表現者犬飼貴丈」としてもっと活動していきたいです。――最後に、本作をどんな方に観ていただきたいか、作品の見どころと一緒に教えてください。自分がラップという新たなことに挑戦しているのでそこを観てもらいたいのはもちろんですが、作品に携わった全員の前のめりさが作品のテーマや狂気度とマッチしていて、「人間の業」が露わになるところも見どころだと思います。まだお酒を飲んだことがない10代の方には“お酒って飲み方を間違えるとこんな風になってしまうんだ”ってことと“こんな環境もあるんだなぁ”っていう怖さを知ってもらえると思います。実際に飲酒をする方にとってはお酒との付き合い方についての啓発にも繋がるかと思います。ただ恐怖を与えるだけでなくエンターテインメントとして昇華されていることにこの作品の意義があると思うので、そこは楽しんでもらいたいです。(text:佳香(かこ)/photo:Jumpei Yamada)
2021年07月30日2003年に「どこ見てんのよ!」の決めゼリフで全国区の人気を博し、以後、バラエティー番組やドラマ、映画、舞台などで活躍中の青木さやかさん。今年5月に、実母との軋轢やがん、ギャンブル依存症、ブレイク当時の秘話、結婚、出産、離婚といった経験を赤裸々に綴った著書『母』を刊行し、話題を呼んでいます。 なかでも注目されたのが、本書で告白された肺腺がんの体験記です。肺腺がんの手術を経て、生活やお気持ちにはどのような変化が生まれたのでしょうか。インタビュー2回目の今回は、肺腺がんをきっかけに変わった事柄をうかがいました。1回目の手術から2年弱で2回目の手術を受けたー術後2週間でドラマの撮影、2カ月後には舞台に立っていたそうですが、体力に不安はなかったのでしょうか? 青木さん:あまりなかったですが、ドラマの撮影などは大変な面はありました。私は舞台の仕事もしているので、体力作りをしている方なのかもしれません。といっても、ストレッチや軽い筋トレ程度のことなのですが……。でも、病気になって知ったのは、体力があって、健康で、手術ができるくらいの肉のつき方じゃないと手術を受けられないということ。私の場合、手術に向けて体を鍛えたわけではないのですが、日ごろの生活の中で体力が養われていたのかもしれないです。 ー1回目の手術から2年弱で2回目の手術を受けたそうですが、肺腺がんの再発ということでしょうか? 青木さん:主治医の先生いわく、私が患ったがんは女性に多くてできやすく、でも、できるたびに取っていけば命に関わることはないとのことでした。それに、結局のところは手術で取ってみないと、がんかどうかはわからないんです。2回目の手術はがんだと思って受けたのですが、病理検査の結果、がんではないことがわかりました。 ー2回目の術後もやはりつらかったのでしょうか? 青木さん:最初のときに比べると、熱や吐き気が多少はラクに感じられました。一度手術を経験しているので、まったくわからないことへの恐怖はなかったですし、慣れたということなのかもしれないです。 安心して購入できる食材で和食中心の食事を心がける日々ーがんを患ってから、生活の中で心がけるようになったことを教えてください。 青木さん:家での食事は比較的、気を付けるようにしています。近所のお友だちのすすめで酵素玄米炊飯器を買ったので、ご飯は酵素玄米です。それに味噌汁、ぬか漬け、梅干し、納豆といった程度のものが多いです。 ー厳選された食材を使っているのでしょうか? 青木さん:外で食べるときには気にしませんが、家で使うものは食材や調味料に気を配るようになったと思います。 ー以前は食生活にそれほどこだわっていなかったのでしょうか? 青木さん:こだわっていなかったと思います。例えば、調味料でも野菜でもお肉でも、それぞれに金額の差がありますよね。以前はその金額を安くしようと思っていましたけれど、今はそこにお金をかけようと思っています。決して高いものがいいというわけではないのですが、食材費を抑える生活はやめました。今は食材や調味料などに一番、お金を使っているかもしれません。 ーご自身で納得のいく食材を買う、ということでしょうか? 青木さん:それもあるのですが、大切に育てられた野菜やお肉を、機嫌の良い方たちから買い、気分の良い状態で料理をして、楽しく会話しながら食べることを心がけています。食材を買うスーパーは決まっていて、そこのスタッフの方と仲がいいですし、生産者さんとお話ができることもあるんです。作っている人や売っている人の顔が見えるので、安心して買うことができるという感じですね。 ストレスをためないように自分を変えることを意識しているーほかにはどんな変化があったのでしょうか? 青木さん:意識的に規則正しい生活をするようにして、夜は11時には寝て、朝は6時には起きるようにしています。それから、ストレスをためないこと。私の場合、ストレスのほとんどは人間関係でたまっていくんです。それを改善しようとするとき、相手に変わってもらうことは無理ですから、自分が変わるしかないと思っているんです。 ー自分を変えるのは簡単そうで難しいことだと思いますが、例えばどんなことを意識しているのでしょうか? 青木さん:誰かの発言に対して「でも」という言葉は言わず、「はい」、「わかりました」と同意するようにしています。相手の言うことに同意していたら、それ以上はもめることはありませんから。自分自身、すごく素直になったところもあります。 ウーマンカレンダー編集室ではアンチエイジングやダイエットなどオトナ女子の心と体の不調を解決する記事を配信中。ぜひチェックしてハッピーな毎日になりますように! PROFILE:青木さやかさん1973年愛知県生まれ。大学卒業後、フリーアナウンサーを経てタレントの道へ。「どこ見てんのよ!」のネタでバラエティー番組で大ブレイク。そのほかドラマ、映画、舞台、エッセイの執筆など幅広く活躍中。著書に9割実話のエッセイ小説『母』(中央公論新社)など。
2021年07月25日2003年に「どこ見てんのよ!」の決めゼリフで全国区の人気を博し、以後、バラエティー番組やドラマ、映画、舞台などで活躍中の青木さやかさん。今年5月に、実母との軋轢やがん、ギャンブル依存症、ブレイク当時の秘話、結婚、出産、離婚といった経験を赤裸々に綴った著書『母』を刊行し、話題を呼んでいます。 なかでも注目されたのが、本書で告白された肺腺がんの体験記です。インタビュー1回目の今回は、肺腺がんが見つかったきっかけや治療までの経緯、当時のお気持ちなどをうかがいました。 肺腺がんの治療法は自分自身で判断したー青木さんの肺腺がんはどのようなきっかけで見つかったのでしょうか? 青木さん:2011年から人間ドックを受けているのですが、一番最初の検査のときに「肺に影のようなものがあります」と言われたんです。ただ、それががんなのかどうか、お医者さんにもわからないらしいんですね。その影が大きくなったりするとがんの可能性が高いとのことで、定期的に検査を受けることになりました。数年たって“肺の影のようなもの”が大きくなり、がんの可能性が高いと言われました。 ー“がん”という言葉を聞いたときには、どのようなお気持ちだったのでしょう? 青木さん:両親と母方の祖父ががんで亡くなっているので、自分ががん家系だという意識はありました。ただ、私自身は元気ですし、自分ががんと言われることが不思議でしたね。 ーお医者様に「がんの可能性が高い」と言われ、すぐに手術となったのでしょうか? 青木さん:いえ、どのような選択をするかは私自身が判断するんですね。私の場合は3人のお医者さんに診断してもらい、そのうちの2人は「手術をしたほうがいい」とおっしゃいました。でも、もう1人の先生は「ねずみを鉄砲で撃つようなもので、手術をするほうがリスクが高い」というご意見でした。私のがんは初期のもので、命を脅かすような状態ではなかったんです。ですから、定期的に観察をして大きくなったら手術をするという選択肢もありました。 悩んだ末に手術という治療法を選んだーそれでも手術を選んだのはなぜなのでしょうか。 青木さん:理由はいくつかあって、ひとつは主治医の先生に「がんは急に大きくなるわけではないですから、今のうちに取ったほうがいいんじゃないですか」と言われて納得したからです。また、将来、「すぐに手術しましょう」となったときに、仕事に差し障りが出てしまうかもしれません。そう考えると、スケジュールに余裕があるときに手術をしたほうがいいのではないかとも思いました。それに、自分の中に不安材料の残しておくことは、私にとってはストレスでしたから。2017年8月に手術を受けることになりました。 ー手術を受けるかどうか、誰かに相談はしたのでしょうか。 青木さん:私が入院している間の娘の行き先を相談する、いつごろ仕事に復帰できるかを先生に相談する、会社に仕事の相談をするといったことはしました。私は3社の保険に加入していたので、保険会社に話を聞いたりもしましたね。ただ、先生には「保険がおりる可能性は低い」と言われました。 ーそれはどうしてなのでしょうか? 青木さん:浸潤がん(※)じゃないと保険はおりないらしいんです。ただ、アフラックさんは保険がおりて、100万円をいただきました。とても助かりました。※がん細胞が直接に周囲の組織や臓器に広がって増殖するがん。 手術の翌々週にはドラマ、翌々月には舞台に出演ーがんという病気や治療に対する不安もあったのではないかと思います。 青木さん:ものすごく不安でした。単純に「怖いなぁ」って、よくわからないことへの恐怖や、想像がつかない世界への不安がありました。ほかにも「復帰できるのかな?」、「今までどおりに声は出るのかな?」、「傷はできるのかな?」といった術後の不安もありましたし、お金や生活に対する不安もありました。 ーそうした不安は克服することができたのでしょうか? 青木さん:いえ、治療や体調がひと段落するまでは不安だったような気がします。実は私、手術前にある俳優さんの舞台を見に行っているんですね。彼も私と同じ肺腺がんを患って手術を受けているんです。術後に舞台に立つ彼はしっかりと声を出していたので、「お元気そうでよかった」って思いながら見ていました。本人に言わずに勝手に応援させてもらっていたんです(笑)。 ー実際の治療はいかがでしたでしょうか? 青木さん:1週間弱の入院をし、腹腔鏡手術で右肺結節という部分を切除しました。術後は熱と痛みと吐き気が続き、とにかくつらかったです。2日くらいでなんとか症状が落ち着いたので、退院することができました。 ー退院後はいつごろからお仕事に復帰されたのでしょうか? 青木さん:翌々週にはドラマの撮影に入りました。そのドラマは結構動きのある役だったので、すごく大変だった記憶があります。手術前の体力とまったく同じというわけではなかったのですが、気力で乗り切った部分はあると思います。手術の翌々月には舞台の仕事もしていました。 ウーマンカレンダー編集室ではアンチエイジングやダイエットなどオトナ女子の心と体の不調を解決する記事を配信中。ぜひチェックしてハッピーな毎日になりますように! PROFILE:青木さやかさん1973年愛知県生まれ。大学卒業後、フリーアナウンサーを経てタレントの道へ。「どこ見てんのよ!」のネタでバラエティー番組で大ブレイク。そのほかドラマ、映画、舞台、エッセイの執筆など幅広く活躍中。著書に9割実話のエッセイ小説『母』(中央公論新社)など。
2021年07月22日ABEMA新作オリジナルドラマ「酒癖50」が7月15日(木)夜10時より放送される。小出恵介主演、全6話構成のオムニバス形式で酒によってあぶり出される人間の本当の弱さや醜さをリアルに描く。本作の監督を務めるのは、映画『Super Tandem』、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭グランプリに輝いた『孤高の遠吠』、間宮祥太朗と組んだ商業映画デビュー作『全員死刑』などで知られる小林勇貴監督。直接、本作に込めた想いなどを聞いた。批判したいのは個人ではなく“社会”の方――脚本担当の鈴木おさむさんと初めて組まれてみて、いかがでしたか?大胆な展開や構成が魅力で、自分の演出したいこととも共通するところがあって共感しました。――本作のキャスティングにも小林監督は関わってらっしゃるのでしょうか?一部関わっています。第2話では、これまで一緒に演ってもらった前野朋哉さんや山中崇さん、濱正悟さんなどに出演してもらっています。また、最終話でも一部関わっている部分があるので、それは配信を観てからのお楽しみということで。――本作は「お酒によってあぶり出される人間の本当の弱さや愚かさ」がテーマになっているかと思いますが、監督はどんな想いを込めて本作を作られたのでしょうか?作ったエンターテインメントが裁きになってはいけないと思いました。物語の構造自体が一見したところ人のことを論っている(あげつらっている)かのような部分もあるので、それが“裁き”に見えないようにと意識しました。お酒にまつわるトラブルって日々類似のニュースが報道されていると思うんですが、実際のニュースを想起させようとか、飲酒トラブルの時事ネタを放り込んで話題にしたいという意図は演出する私には全くなく、それより人が人に対して犯してしまうこと自体を描きたいなと思いました。ただ、それも個人を批判したいのではなく、私がいつも批判したいのは“社会”の方なんです。第1話で主役の酒野が過ちを犯した人に対して「でもあなたのような方が優れているとされる社会ですよね」という指摘をしていて、人を生きづらくさせている社会について描きたかったです。――確かに登場人物はみんな積極的に自分の意思で飲んでいるというよりは、仕事のために、場を盛り上げるために、仕方なく飲んでいるケースが多いように見えました。はい、それを美徳とする社会がその背景にあると思います。――お酒を強要されるような「アルハラ」は、小林監督自身の世代からするとあまりイメージが湧かないのかなと思いますが、いかがでしょうか?私自身は、お酒を強要されるというようなことは全く受けたことがありませんね。「お酒」というのはあくまでテーマを抽象化したものであって、「お酒を強要する」という行為自体は減っていたり、私のように世代によっては全くなかったりするかもしれませんが、「人が人に何かを強要する」という行為自体は必ず今もずっと起こり続けていることだと思うので、お酒に限ったこととしてではなく観てもらえると良いなと思います。――仰る通り、どの登場人物も“お酒”というツールを通して、その裏にあるもっと別の真意を強要させられているように見えました。ちなみに小林監督自身はお酒は飲まれますか?一人で飲むことはないんですが、皆とお酒を飲むような場では楽しく飲みます。誠実な人物ばかりの作品に危機感「ダメな人がいてもいい」――小林監督作品と言えば、嘘がない生々しい描写が特徴の一つかと思いますが、本作では酒癖が悪く醜態を晒してしまうキャラクターたちをどんな風に描くことを意識されましたか?私は、よく耳にする「作品に罪はない」という言葉が苦手です。それって“過ちを犯さないものものだけがこの世に存在していい”ってことにも聞こえるじゃないですか。罪を犯さないに越したことはないし、もちろん人を傷つけないに越したことはないですけど、どんどん誠実な人物ばかりが描かれるようになっている気がして。不誠実な社会や人間関係に対抗するために誠実な人物が登場するのはわかるし尊敬もするんです。でも、そんなことばかりを続けていると、今度は“正しい人だけが居てもいい”みたいな選民思想に繋がっていく気がして、それって娯楽の中では一番起きてはいけないことだと危惧しています。“ダメな人がいてもいい、登場してもいい”というのは私の中にずっとある思いで、許されない行為は許されないこととして向き合って描くものの、“でも何でだろう、君はいなくなってはいけない”ということを伝えたいんです。罪について反省したり向き合った上で、“罪を犯した者がいなくなってしまえ”とは絶対に思わないので、そんな思いを込めました。――撮影中、印象深いエピソードなどがあれば教えて下さい。第4話は、モラル面で時代遅れなことがどれだけ減らせるか、悩みに悩んで演出も考えました。あの中に「寄り添うくせに無理解な男」が出てくるんですが、自分に向けての戒めの意味もあります。寄り添ったり理解があるキャラクターはここ最近描かれるようになったと思うんですが、まだ描かれていないのは「寄り添おうとしても尚かつどこかに無理解がある不気味さ、心細さ」で、これは当事者側ではない人間、男性である自分だから入れられる演出なのかなと思って敢えて盛り込んでいます。第4話は撮影しては反省し、撮影しては反省しの繰り返しでしたが、今は撮れて良かったと思っています。“過激に作ってポイ”が一番嫌なので、少しでも何か問題提起が出来ていればいいなと思います。――全6話のオムニバス形式ということですが、小林監督として第4話以外に思い入れが強いのは何話でしょうか。第2話に道路を完全封鎖したカーチェイスを取り入れたんですが、自分の5、6年前のインタビューをたまたま読んでみたら「カーチェイスをやりたいです」って答えていたので念願が叶った作品になりました。実際に役者さんが運転してくれていて臨場感あるシーンになったと思います。あとは全体を通して言えることですが、お酒に酔っ払っている姿を描こうと思えば酒瓶片手に楽しく盛り上がっている姿がイメージしやすいですが、それ以外でどうやってお酒を楽しく飲んでいる姿を見せられるか考え、いろんな要素を取り入れました。むしろ飲酒以外のシーンで演出やカメラワークを工夫していくことで飲酒シーンに繋がり、引き立つようにしました。――本作を作ってみてお酒との付き合い方や、お酒に飲まれてしまう人への見方に変化はありましたか?役者さんたちが魅力的だからか、危険の淵にどんどん立っていく姿もまた魅力的で、落下していく直前の人間が持つ独特の色気をみなさん出していて、魔性の力というか、謎の誘惑を感じてしまいました。もちろんトラブルを起こしたいというようなことは全くないんですが。「社会にある嫌な面や問題を“面白く”取り上げる作品を“ちゃんと”作りたい」――小林監督と言えば“映画監督”のイメージが強いですが、ドラマ作りと映画作りの違いはなんだと思われますか?演出上テレビドラマになるとCMが入ることを見越してカットの構成も少し意識する部分があるんですが、ABEMAは尺の長さの自由度も高かったので、そうなってくるともう概念の問題かなと思います。ただ、本作は視聴者が若者になるのでわずかながらですがカット数が多くなり、自分が普段は撮らないような映像構成になっているかと思います。自分の間口が広がったかなと思います。――今後どんなテーマを取り上げていかれたいでしょうか?「寄り添おうとしても尚かつどこかにある無理解」については引き続き考えています。日本のエンタメ作品のモラル面での時代錯誤なところやモラルの低さが海外からも問われていると思うのですが、その現状は認めざるを得ない部分もある一方で非常に悔しくも思っています。人を傷つけるような作品ではなく、心細い思いをしている人に寄り添える作品でありたいといつも思っています。同じ志を持った人たちと不信感を解いた上で、社会にある嫌な面や問題を“面白く”取り上げる作品を“ちゃんと”作りたいです。――最後に、本作をどんな方に観ていただきたいか、作品の見どころと一緒に教えてください。若い人たちに向けて“こんな風になっちゃうぞ”というよりは“あなたもきっとこうなるので、どうするか一緒に考えましょう”というメッセージを込めています。お酒を飲む・飲まないにかかわらず、この中の過ちのうちのどれかはきっと経験すると思うので。あとはまだお酒を飲めない年齢の方にこそ、未知の世界を探求するような気持ちで観ていただき楽しんでいただきたいと思います。(佳香(かこ))
2021年07月16日突如、仕事を辞めて単身ニューヨークへと渡り、大学での勉強を経て、エンターテインメント業界に飛び込んだ増田沙智さん。撮影現場で俳優が着用する衣装に関する全てを統括する「ワードローブ・スーパーバイザー」として活躍中の彼女に話を聞くインタビュー後編!ユニオンへの加入のメリット、英語力や給与事情まで、ニューヨークのエンタメ業界について、たっぷりと話を伺いました。食事の時間が遅れればペナルティも… ルールが厳格なアメリカの撮影現場――インタビュー<前編>では、ワードローブ・スーパーバイザーの具体的な仕事内容、増田さんが渡米してスーパーバイザーになるまでを伺いました。仕事に関する説明で、衣装に関する部門が、デザイナーらが属する「衣装」チームと、撮影現場で衣装の管理などを行なう「ワードローブ」チームにわかれるという話でしたが、部門全体の責任者となるのは…?部門全体の責任者は「デザイナー」ですね。現場の責任者は「ワードローブ・スーパーバイザー」ですが。ただ、これはあくまでもニューヨークの話で、ロサンゼルスになるとまた事情が異なるそうで、スーパーバイザーが部門全体を統括することもあるそうです。ロスとニューヨークではユニオン(組合)も異なるし、いろんな部分で違いはありますね。――映画やドラマの「衣装」の仕事というと、デザイナーやスタイリストを思い浮かべる人が多いと思いますし、そちらのほうがスポットライトを浴びる華やかなイメージはあるかもしれませんが、お話を伺っていると、現場で衣装にまつわる全てを統括し、撮影を滞りなく進めているのは「ワードローブ」チームのおかげなんですね。そう言っていただけると嬉しいです。やっていること自体は本当に地味なのですが…(笑)。例えば、撮影現場で俳優さんが衣装を着るタイミングについて、AD(アシスタント・ディレクター)と話し合わないといけないこともあります。スーツなどは長時間着ているとシワになってしまうので、先にメイクをしてもらって、こちらとしては撮影の直前に着てもらいたいと思っていても、ADさんから「後になると時間が取れないので、いまのタイミングで着せてほしい」と言われることもあります。必要であれば、こちらの意見を押し通さなくてはいけませんし、どんどん精神的にタフになっていきますね(笑)。加えて最近では、コロナの感染予防対策などもあります。コロナとは関係なく、普段から仕事の時間外で連絡が来て、対応しないといけないことも多いです。基本的に私も含めてこの仕事は時給なんですが、翌日の撮影のことなので、どうしても必要ということで時間外に電話やメールが来ることは多々ありますね。――話せる範囲で拘束時間やお給料事情など、現場の環境についてもお話しいただければと思います。基本的に「ワードローブ」のメンバーの就業時間に関しては、私が全部決めています。たまに、ものすごい遅刻をするスタッフもいます。最初のうちは、なるべく何も言いませんが、あまりに続くようなら、ちゃんと時給から引くようにしています。公平でなくてはいけないので。最近はタイムカードをオンラインで打刻するところも出てきましたが、基本的にはまだ紙に書くのが多いですね。――増田さんご自身(スーパーバイザー)も、作品ごとにいくらではなく、時給制なんですね?そうですね。デザイナー以外はみんな時給ですね。スーパーバイザーが最も高給ではあるんですけど、とはいえ(部下である)コスチューマーと比べても時給で5ドル多いくらいですから、割に合わないなぁ…って思いますけど(苦笑)。――お休みの日は決まっているんですか?ユニオンの仕事に関しては、基本的に土日休みです。ただ、映画の場合、あらかじめ全体の撮影期間が決まっていて、その間に全てを終わらせなくてはいけません。そうした場合に、週に6日、もしくは7日間出勤ということもありますね。テレビドラマでもそういうことはあるのですが、多くのプロダクションはちゃんと週末2日間を休みにしたいと考えています。というのも、人件費は先ほども言ったように時給ではあるのですが、時間外の労働となると、そもそもの時給の額が変わってしまい、膨れ上がってしまうんです。簡単に説明しますと、私たちの仕事は1日8時間が基本のギャランティとなっており、もしそれより早く現場が終わったとしても、8時間分の給料は保証されています。8時間を超える労働に関しては12時間までは時給が1.5倍に、それ以降は2倍になります。また土日休みの週休2日が基本の現場の場合、もし6日目も出勤となると、その日は最初から時給は1.5倍になるんです。以前、週7日間、働きづめだったことがあるんですが、それだけで当時の1か月分の給料に近い金額になりました。そのあたりの契約はきちんとしていますね。――増田さんの場合、スーパーバイザーなので管理職として、スタッフの出勤の管理も行なわなくてはならないんですよね?そうです。そのあたりも契約がかなりきちんとしていて、例えば「朝、入りの時間から1時間以内に朝食を摂らせないといけない」とか「ランチは始業から2時間以上が経ってから」とかそれぞれの契約でルールがあって、決まった時間を超えてしまうとペナルティが発生します。基本的に、食事に関するルールとして、6時間以上の仕事の場合、それを超えると“ミールペナルティ”が発生するんです。それも3回目までは5ドルずつの加算だけど、4回目になると1時間分の時給が支払われたり、そういうのも細かく決まっています。なので、指示を出す側はペナルティ分も計算しながら「このスタッフには何時までにランチを摂らせないといけないか?」と考えなくてはいけないし、ランチに行かせるか? それともディナーまで待つか? どっちのほうが安くつくかを考えたりもします。――お金に関して、増田さんがこの業界に入って、衣装の仕事で「食べていける」ようになるまでどれくらいかかりましたか?最初の頃、インディーズの映画で仕事をしていたことをお話ししましたが、当時でも、私が知る限りで日本のいわゆるスタイリストさんの平均的な給料よりは多くもらっていたのではないかと思います。大学を出てから2年くらいで「この仕事で食べていける」という状況にはなっていましたね。ただやはりフリーランスですから「次に仕事が来なかったらどうしよう?」という不安はありました。さすがにいまは、何とかなるだろうと思えますが…。とくにいま、ニューヨークは業界全体が年々、忙しくなっている状況です。実際、いま現在で50ほどの作品が既に決まっています。仕事の差配から健康保険まで ユニオンに加入することのメリット――ちなみにユニオンに加入しているか否かというのは大きいのでしょうか?契約で守られているという意味ではだいぶ大きいと思いますし、大きい仕事になると全てユニオンなので、加入していないとそもそもそういった仕事には就けません。ユニオンについて説明しますと、そもそもデザイナーたちの「衣装」チームと私たち「ワードローブ」チームでユニオンが異なるんですね。「衣装」のユニオンのほうが加入の際のイニシエーション・フィー(加入料)も高く35万円くらいですかね。場合によっては試験もあるし、推薦状やポートフォリオも必要だし、面接もあったりします。一方、私たちのワードローブ・ユニオンは、それと比べると信じられないくらい簡単で、3名からの推薦状、書類作成の手数料100ドルに履歴書だけでOKで仮加入ができて、その後30日間、ユニオンのプロダクションで仕事をすれば正規のメンバーとして認められて、健康保険などにも入れるようになります。正規の会員になる際には1000ドル必要となりますが。――ユニオンに入ってからのメリットはどのようなことが?やはり大きいのは健康保険ですね。とにかくアメリカは医療費が信じられないくらい高いです。ユニオン加入後の健康保険料もかなり高いんですけどね…。3か月ごとに払うシステムで、いくつかのプランから選べるんですが、私の場合は上から2番目のグレードのプランで、1か月あたりで換算すると10万円くらい、払ってます。そのあたりは、ニューヨークは物価も高いですし、日本の感覚とはかけ離れているというか、ちょっと金銭感覚が狂っちゃいますね(苦笑)。税金もメチャクチャ高くて、給料の半分くらい持って行かれる感じです…。独身だと特に高くつくので、それを理由に結婚を決める人も多いんですよ。ただ、やはりいざという時に保険でカバーされるというのはすごく大きいです。知り合いで、月に一家で3000ドル保険料を払っているという人がいるんですけど、彼女が出産時に感染症にかかってしまい、しばらく入院したら、医療費が1億円近くになったらしいです。保険でカバーされたので、10万円ちょっとで済んだけど、もし保険がなかったら…。――そういう意味で、ユニオンの存在はすごくありがたいですね。そうなんです。とはいえ、私もそうでしたけど、この仕事って「勉強して」なれるというものではないんですよね。じゃあ、アシスタントとして誰かの下に付いて、いろいろ経験すればいいかというとそういうものでもなくて、非ユニオンのアシスタントの立場だと、学べることって少ないんです。というのも、ユニオンのルールとして「アシスタントにさせてはいけない仕事」というのがリスト化されていて、アシスタントの立場だとできることが限られてしまうんです。自分で手を動かして、経験しないとできるようにならないことも多いので、最近は正直、仕事のできない若い子が増えていて、それはユニオンでも問題になっているんです。手縫いすら知らなかったり、ボタンのつけ方、アイロンのかけ方、洗濯の仕方から教えないといけなかったり。そういう講義の時間をユニオンで設けるべきだという議論もあります。ちょっと話がそれますが、時代に合わせたユニオンの動きとして、人種差別の問題に関連して、積極的に有色人種の人を雇おうという動きもあるし、プロダクションからそれを言われることもあります。皮肉だなと思うのは、そういう動き・変化がある中でも、各部門のトップが集う会議に出ると、私以外はみんな白人で、アジア系どころかアフリカ系の人さえいなかったりもするんです。――増田さん以外にアジア系のスーパーバイザーはいないんですか?スーパーバイザーではいないと思いますね。アメリカ育ちでアメリカの市民権を持っているアジアン・アメリカンは数人いるとは思います。他にテイラーさんで、10代の頃に日本から来たという人はいますし、コスチューマーで中国・韓国系の人たちはいますね。――ニューヨークのエンタメ業界全体で増田さんと同じようにスーパーバイザーをしている人間はどれくらいいるんでしょうか?おそらく多くても50~60人くらいじゃないかと思います。ただ、先ほども言いましたが、いまは仕事の量がどんどん増えている状況で、人が足りないんです。なので、経験が浅いけど「スーパーバイザー」の肩書になっているという人も多くて…。いまの状況や若い人たちを見ていると、私はインディーズでしっかりと経験を積んできてよかったなと思いますね。いろんな立場のことを知って、状況を把握できないとスーパーバイザーをするのは難しいと思います。――ちなみにスーパーバイザーとして仕事をする上で、英語力はどれくらいのレベルが必要になるんでしょうか?やはりそこは、指示を出す立場なので、仕事できちんとコミュニケーションを取るのに困らないレベルの英語力は必要です。とはいえ、いつも思うんですが、私自身、英語がすごくしゃべれているというわけではないんですよね。それでも自信を持って話すしかないんです。相手と対等に交渉しないといけないことも多いし、脚本を読んで考えなくてはいけないことも多いです。相手にお願いする上で「伝え方」も大事で、日本的に遠回しに言ってもわかってくれないし、かといって直接的に言い過ぎても動かない(苦笑)。また“最近の若い子”の話になってしまうんですが(笑)、日本でも「ゆとり」とか「さとり」とか言いますよね? こちらでも同じようなことはありますよ。「ミレニアル世代」という言い方をしますが「なんでこうなった…?」ということが時々、起きますよ。30分遅れてきて「先に朝食食べていい?」とか聞いてくる子とか…。――それは日本人の感覚だから「え?」と思うのではなく、アメリカ人の感覚としても「おかしいだろ、それ!」と思うんですか?少し年上の人と「こういうことがあったんだけど、私としては信じられないんですけど」という話をして「うん、同感だよ。おかしいよね」と言われることは多々ありますから、アメリカ人の上の世代から見ても「それはおかしい」と思うことは多いみたいです。自分自身、昔は色々とやらかしたこともあったでしょうし、いろいろと言われていたとは思いますけどね(笑)。――英語力の話に戻りますが、増田さんはどのようにして英語力を上げていったのでしょうか?日本にいた頃から英会話には少し通っていて、もともと読み書きは得意なほうでした。日常会話に苦労しなくなったのは、こちらに来て1年くらい経ってかな…? 当初は「完璧でなきゃ」と思ったり、間違えたら恥ずかしいという思いもあって、なかなか話せなかったです。それでも、現地の人の会話の中に積極的に入って行く環境を自分から作るようにしていたし、映画を観たり、テキストを聞いたり、あとはオンラインで語学勉強のために会話をする相手を見つけて話したりもしていましたね。とはいえ、ストレスを溜めすぎてもいけないので、こちらである程度、日本人と付き合う時間も作っていました。私の場合は、こちらで大学に通ったことが大きかったと思います。大学で相当、鍛えられましたね(笑)。ディスカッションをしないといけないし、プレゼンする機会も多いし、論文のために読まなきゃいけない課題の本も多かったです。あとは、専攻が「演劇」だったので、アクティング(演技)のクラスもあったり、とにかく話さないといけないという環境があったんですよね。大変な仕事だけど、多くの女性が活躍中! ニューヨークのエンタメ業界――この先、増田さんが仕事でやってみたいことは何ですか?これまで、テレビの仕事をやりつつ、たまに映画にも携わらせてもらってきましたが、もうちょっと映画の仕事をやりたいですね。映画は、やはりテレビドラマと比べると、準備期間がしっかりとあって、それが作品に反映されるし、デザイナーさんの決定権も強いんですね。テレビはどうしてもプロデューサーの力が大きいんですが、映画はディレクターをはじめとしたスタッフ、俳優、みんなで作り上げていく感じがより強いと思います。できればハリウッドの大きな作品、ビリオンバジェットの作品でワードローブ・スーパーバイザーをやってみたいですね。いまだに自分が何者で、ここで何をしてるんだろう? って悩むこともありますが、スーパーバイザーとして、常に作品を経験するごとに成長させてもらっているし、学ぶことが多いです。自分でこの仕事を「天職」と思ったことはないんですけど(笑)、声をかけ続けていただけるということは、やっぱり向いてるんだろうなと思います。とはいえ、どんな仕事でも自分の代わりっているんですよ。だからこそ、与えられた環境で、自分に何ができるのか? そこでできる限りのことをしたいなと思っています。ニューヨークのエンタメの世界で数少ないアジア系ということも含めて、私なりのスーパーバイザーの在り方を作ることができたらと思います。やっぱり、日本人がこんなにいないというのもおかしい! 拘束時間が長くて、一度現場に入れば12時間は拘束されますし、出産や子育てをしたい・している女性は特に大変です(苦笑)。それでもたくさんの女性が活躍している業界ですし、ニューヨークのエンタメの世界で、もっともっと日本人のコミュニティが広がってほしいです。コスチューマーでもヘアメイクでもいいし、照明、音響…いろんなポジションがあるので、ぜひ興味のある人にはこちらのエンターテインメントの世界にどんどん挑戦してほしいですね。(text:Naoki Kurozu)
2021年07月10日神奈川県にある、横浜市立金沢動物園。世界の希少草食動物をはじめとする、さまざまな動物たちに会える場所として人気を集めています。横浜市立金沢動物園で撮影された、2枚の写真がネット上で話題になっているのをご存じですか。写真を撮影したのは、Twitterで動物の写真を公開している、おーあ(@kanazawakitecho)さんです。多くの人の心を和ませた光景がこちら!お口のチェック中……されるがままの信頼関係…かわいい… #金沢動物園 #オオカンガルー pic.twitter.com/OQAgI5iLoL — おーあ (@kanazawakitecho) May 29, 2021 オオカンガルーの口元を、優しい手付きで触りながらのぞきこむ、1人の飼育員。飼育員に対し、オオカンガルーは安心したような表情で、されるがままになっています。写真はネット上で拡散され、10万件を超える『いいね』を集め、「かわいすぎる」「信頼関係がないとできない」「飼育員さん、さすが!」といった声が相次ぎました。金沢動物園にインタビュー!カンガルーとは、普段からこういった表情を見せる動物なのでしょうか。金沢動物園の広報担当者にお話をうかがいました!――飼育員が、カンガルーの口の中を見ているのはなぜか。口のチェックは健康管理の一環です。口やアゴが腫れていないか、歯は欠けていないか、口臭はないかなどをチェックして、病気やケガの早期発見・治療に役立てます。――一般的に、カンガルーとは口の中を見られる時に、大人しくしているか。カンガルーは、草食動物なので凶暴な動物ではありません。繁殖期のメスがいると、オスたちがメスを巡って闘争をするので、そのイメージが先行しているのではないでしょうか。メス同士も争うことがありますが、小競り合い程度で致命傷を負うような闘争はしません。細かく健康確認できるように、日頃から体のあちこちを触り、飼育員に触られることに慣れてもらうようにしています。また、カンガルーの嫌がることはなるべく行わないよう心掛けているので、嫌なことをしない人という認識はあるかもしれません。個体の性格によって人慣れの程度は異なり、この個体は普段はあまり大人しく触らせてくれません。この時は晴天でいつも以上に落ち着いていたので、大人しく口のチェックをさせてくれました。写真に写るオオカンガルーは、普段はあまり大人しく触らせてくれないのだとか。そう考えると、この光景はいっそう貴重なものだったと思えますね。また、写っている飼育員は、このオオカンガルーの担当者です。「動物園の動物はペットではないため必要以上に触れたりしませんが、ケガや病気を早く発見し治療できるように、触られることに慣れてもらっている」といいます。オオカンガルーの表情について聞いてみると…。――カンガルーはこういった表情をよくするか。するとしたら、どういった時?この時は天候もよく、お客さまが少ない日だったため、特に落ち着いていました。人の多さが、動物の心身に影響を及ぼすのはイメージがわきますが、天候にもよるとは意外な発見です!普段から、担当者である飼育員をはじめとした、多くのスタッフが真摯に向き合い、適切な世話をしているからこそ、動物たちとの信頼関係は築かれるのでしょう。飼育員さんとオオカンガルーのやり取りは、多くの人の心を和ませました。[文・構成/grape編集部]
2021年07月08日“ワードローブ・スーパーバイザー”と聞いて、それがどんな仕事か想像できますか?「これまで、幾度となく家族や友人に説明してきたんですけど、なかなかわかってもらえないんですよ…(苦笑)」そう語るのはアメリカ・ニューヨークのテレビドラマや映画の現場で、この“ワードローブ・スーパーバイザー”として活躍する増田沙智さん。2007年に渡米し、現地の学校、大学を経て、ニューヨークのエンターテインメントの世界に飛び込み、自らの力で道を切り拓いてきた。映画にまつわるお仕事を紹介する【映画お仕事図鑑】。今回はこの増田さんのインタビューを2回にわたってお届け! ワードローブ・スーパーバイザーとは何をする仕事なのか?ということから、ニューヨークのエンタメ業界におけるスタッフワークの需要の高まりについてまでたっぷりと話を聞きました。俳優が休憩中に履くスリッパの素材リクエストにも対応! 撮影現場の衣装に関わる“何でも屋”――まずは“ワードローブ・スーパーバイザー”とはどんな仕事なのか? ということをお聞きします。“衣装”の分野に属する仕事であることは見当がつきますが、具体的にどんなことをする仕事なのでしょうか?まず、ニューヨークの映画やテレビドラマのプロダクションにおいて、衣装に関する「デザイン部門」(Costumes)には2つのグループがあります。ひとつは「衣装」(Costume)チームで、作品の中で俳優さんが着用する衣装を選び、調達するチームですね。デザイナーをはじめ、テーラー、それから染物やダメージ加工などを行なうエイジャー・ダイヤーといった人たちが属しています。もうひとつが、私が属している「ワードローブ」(Wardrobe)チームで、現場を円滑に回すためのチームであり、現場の俳優さんの衣装まわりのお世話や、トレーラーにある衣装の管理などを行います。衣装の製作や選定などには一切関わりません。「ワードローブ」チームの責任者がワードローブ・スーパーバイザーです。スーパーバイザーとしての具体的な仕事は、まず経費の管理ですね。例えば、現場で使用される靴下や下着、ワードローブ内で使うハンガーや衣装を運ぶガーメントバッグなどの総額を計算し、事前にプロダクションに必要な予算を提出しますし、人件費の管理もそこに含まれます。部下であるコスチューマー(※仕事の詳細は後述)、場合によっては現場で縫い子さんが必要になることもありますが、そうした経費もワードローブに含まれます。そうしたお金の管理に加えて、スタッフの管理も私の仕事です。現場に何人くらいのスタッフが必要で、拘束時間はどれくらいになるのか? 作品によってはユニット(撮影チーム)がメインとサブで2つにわかれることもあるので、それぞれの撮影スケジュールを見つつ、人員の配置を考えます。そして、衣装の手配と管理ですね。俳優さんが着る衣装は、衣装チームのデザイナーさんから渡され、細かい説明を受けます。「これとこれを上下で組み合わせて」とか、時には「これはオプションで、着けるかどうかは現場で俳優さんに決めてもらってください」ということもあります。「スクリプト・ブレイクダウン(script breakdown)」といって、台本を見ながら、どのシーンでどの衣装が必要かを把握し、詳細を部下に指示することも私の仕事です。テレビドラマでは直前に撮影のスケジュールや脚本の内容が変更されることも多いですし、それをきちんと把握し、必要な衣装を手配・管理しなくてはいけません。――撮影現場における衣装の管理をするのが「ワードローブ」チーム。そのチームを統括するのが「スーパーバイザー」ということですね?言ってみれば、現場の「何でも屋」です(笑)。例えば、俳優さんが現場で撮影以外の時に履くコンフォートスリッパを用意するのも仕事ですが、俳優さんによっては「UGGじゃなきゃ嫌だ」という人もいれば「オープントウのスリッパがいい」という人もいるし、「厚めの素材で」という人もいる。冬場の撮影だとウォーミングジャケットも用意しますが「カナダグースで」という人もいるし、靴下ひとつでさえ「コットン100%で」「このメーカーじゃなきゃ履かない」とかいろいろです(笑)。そういう要望にひとつひとつ、応えていかなくてはいけません。突然、仕事を辞めてアメリカへ!「とりあえず、いま行ってみよう!」――ここから、少し時間をさかのぼって、どのようにして増田さんがアメリカでこの仕事に就くようになったのかという経緯をお聞きしていきたいと思います。もともと、エンターテインメントやファッションがお好きだったんでしょうか?両親が洋画が好きで、私が子どもの頃、映画館に連れて行ってくれても、見るのが洋画ばかりだったんですよね。子ども向けのアニメに連れて行ってもらったのは1回か2回くらいで、字幕の漢字もろくに読めない頃から洋画ばかりで…(苦笑)。5歳くらいの頃かな? 『コーラスライン』の劇場版を観たんですけど、それが非常に印象に残ってます。キラキラの煌びやかな衣装を着たダンサーさんたちが楽しそうに踊っている姿に子どもながらに衝撃を受けたんです。「私もこの中に入りたい!」と思いました。実際、学生時代にダンスやチアリーディングをやったりもしたんですが、ダンサーになれるかというとそれはないな、と(笑)。でも衣装のことなら何かできるかもしれないと思い、大学時代もチアの学園祭やイベントの衣装を選んだりとか、作ったりしていましたね。――大学卒業後の進路は?大学はファッションとは関係ない学部だったんです。3年時に同時にファッションの専門学校にも通い始め、デザインやスタイリングを勉強しました。卒業後は、普通に国内で就職しました。ハンドバッグや企業が出すノベルティや雑誌の付録のデザインをしていたのですが、2年半ほどでその会社でできることはひと通りやれたかなという思いもありました。学生時代からずっと留学したいという気持ちも漠然とあって、当時は20代の半ばでしたが「行くならいましかないかな?」という思いもあり、会社を辞めて、アメリカに行くことにしました。少しずつ変化はしていますが、日本にいると、いまだに年齢ってずっとついて回るんですよね、女性は特に。アメリカに来てみると、こちらは実力社会で若い人もいれば、お年を召した方もいて、年齢に関係なく働いたり、学んだりしています。ただ、日本だと「20代でこれをして、30代は…」みたいなのってあるじゃないですか? そんなことを感じつつ「とりあえず、いま行ってみよう!」くらいの気持ちで、あまり深く考えずに留学を決めました。――留学のつもりでアメリカに渡って、その後、ずっと住み続けることになるとは…。思ってなかったですね(笑)。本当になんとなく…という流れだったので。2007年にこちらに来たのでもう14年になりますね。――当初、予定されていた留学期間は?2年ですね。語学とファッションの勉強ができる専門学校でした。卒業したら1年間だけ就労することができる「OPT(Optional Practical Training)」という資格を得ることができるということで、その学校に通い始めたんですが、こっちにいると、ビザに関する条件が突然変わることがあるんです。それで、その学校ではOPTを取得できないということになってしまいまして結局、こちらで大学に入り直すことにしたんです。日本の大学で獲得した単位を移行する形で2年ほどで卒業できるということだったんですが、そもそも入学するにはTOEFLを受けなくてはならず、そのために英語を勉強して、その後、無事に入学して2年ほど通って卒業してOPTを取得しました。ちなみに大学での専攻は「演劇(Theater)」で、照明、舞台装置、デザイン、衣装、ヘアメイクアップから演劇の歴史についてなど、演劇に関することをひと通り学びました。低予算インディーズ映画のスタッフから積み重ねたキャリア――その後、どういう経緯で現在のワードローブ・スーパーバイザーのお仕事をするようになったんでしょうか?大学在籍中も学内の「衣装部」でインターンのようなことをしたり、教授に付いて、学外で行われる舞台公演やファッションショーの手伝いなどをさせてもらっていました。ただ、舞台はなかなかお金にならないということ――好きではあるんですが、仕事にするとなるとちょっと難しいなということを思い始めて、それなら映像系のお仕事はできないか? ということを考えるようになりました。でもどうしたら映像の世界で衣装の仕事をできるのか? コネクションもないし、教授も舞台関係の人間は知っていても映像の関係者は知らないということで…。そこで、卒業の少し前の時期から、とにかくいろんな人にメールをしました。インターネットで映像関連の会社などを検索して、連絡先があった場合は「インターンでいいのでお仕事をさせてください」と。200通くらいはメールしたと思います。中には返信をくださる方もいたんですが、タイミング、それから何よりもビザの問題がすごく大きくて、なかなか仕事にはたどり着けなかったんですよね。いまにして思うと、先方からしたら、雇いにくい存在だったんだろうなと思います(笑)。先ほども話に出たOPTがあったので卒業後も一応、仕事をすることはできて、大学を出て1~2か月が経った頃かな? ほぼ無給なんですが、インターンのような形でインディーズ系のある映画の衣装デザイナーさんからたまたま声をかけていただいて、仕事をさせてもらったんです。ただ、その作品が急にバジェット(予算)がなくなって、シャットダウンしてしまい…(苦笑)。また仕事を探さなきゃと思ってたら、1か月後にその作品の撮影続行が決まりました。とはいえ、デザイナーやアシスタントは辞めることになったので、私の役割も終わりかなと思っていたら、その作品のプロダクション・デザイナーの方から「あなた、こないだまでよくやってくれていたから、引き続き衣装の仕事を、スーパーバイザーとしてやってくれないか?」とお話をいただいたんです。正直、私は実際の衣装の仕事について、まだほとんど何も知らない状態だったんですが、やる人が誰もいない状況で「あなたしか頼める人がいないから」と言われまして「引き受けますけど、現場でのアドバイスが必要です」と伝えました。彼女が「私も現場で指導するから大丈夫!」と言ってくれたこともあり、引き受けたんですが、現場に行くと彼女はいなくて…(苦笑)。もうどうしようかと毎日、半泣き状態の中で仕事をしてましたね。――いきなり映画の現場で仕事を任されて…。当然なんですが、映像作品の場合、シーンごとのつながりを理解しておかないといけないんですけど、そんな基本的なことすらちゃんとできなくて「どこまで撮影したの?」「今日はどこから?」みたいな感じで…。半ば、投げ出された状態で、資料を見つつ「間違ってたらどうしよう? いや、誰か何か言うだろう」という気持ちで手探りで進めていきました。最初の現場がそんな感じで、その後はまたアルバイトをしながら、次の仕事を探しました。この業界、コネクションが大事で、人の紹介で仕事を得ることが多いんです。衣装の仕事でいうと、事務所に所属してるのはデザイナーだけで、それ以外はほぼフリーランスなんですね。最初の2~3年は、インディペンデント系の映画やTV作品の「衣装」の仕事をやっていました。そこで自分なりにコネクションを増やしてやっていく中で、ユニオン(組合)に入ることができて、その後も徐々にコネクションを広げていきました。――当時は「衣装」として、具体的にどういったお仕事をされていたのでしょうか?インディペンデントの映画の現場では「スーパーバイザー」もしくは「デザイナー」という肩書でした。その方がビザが取得しやすいんですね。それでビザを取得し、ユニオンにも加入したんですが、ユニオンから請け負う仕事はまず「コスチューマー」というポジションから始めないといけないんですね。――「コスチューマー」という仕事は、最初に説明いただいた「衣装」チームと「ワードローブ」チームかという区分けで言うと…。衣装の管理をする「ワードローブ」チームに属している仕事ですね。「ワードローブ」を統括するスーパーバイザーの下で働いています。基本的にセットにいて、俳優さんの衣装に関するお手伝いをするというポジションですね。細かいんですが、あるシーンが終わって休憩に入って、役者さんが衣装のボタンを外したとして、次のシーンを撮る際にはちゃんとボタンを締めないといけない。そういう、シーンごとのつながりの管理・チェックもします。つながりに間違いがないように、衣装やモニターに映っている写真も撮ります。規模にもよりますが、大きなスタジオ、メジャープロダクションだとフルタイムで働いているコスチューマーは3人ほどいまして、1人がメインの俳優さんの担当をし、あとの2人がほかの俳優さんたちの衣装まわりを担当するといった感じで振り分けられるんですね。具体的な仕事としては朝、担当の俳優さんが着用する衣装を準備すること。たまに洗濯をすることもありますね。あとは現場で俳優さんが寒かったら、コートを持っていく。ヒールを履いている女優さんに休憩中に履くスリッパを渡したり…基本的に、衣装に関する身の回りのお世話をする仕事ですね。――増田さんも、ユニオンに加入してからは、まずは「コスチューマー」としてキャリアをスタートさせたということですね。そこからなぜスーパーバイザーを務めることに?あるシリーズ作品の現場にコスチューマーとして入っていたんですが、たまたまスーパーバイザーが解雇されるということが立て続けに起きたんですね。そこで「スーパーバイザーをやってくれ」と言われまして、仕方なくやることになったんです。そのときは現場でコスチューマーの仕事をこなしつつ、スーパーバイザーの仕事もしなくてはならず、セットにパソコンを持ち込んであれこれ仕事をしつつ、役者さんのケアもするという感じでした。――現場で俳優さんのお世話をしつつ、衣装、人、お金、スケジュールなどの管理・統括も行なうという…かなり大変そうですね!大変でしたね(笑)。そのまま2回ほどスーパーバイザーをやったんですが、私としては決してやりたくてやっているというわけでもなかったんです。ただ、デザイナーさんから「あなた、向いてる。やるべきよ」と言われまして…。自分としては「いや、私なんて全然です」と思ってたんですよね。もうちょっとユニオンの仕事でコスチューマーとして経験を積みたいなと。そうして、また新しいスーパーバイザーが来たんですが、その方もいろいろあって解雇となりまして…。――また解雇(苦笑)!?こっちはわりとすぐに人が入れ替わるんですよね。きちんとルールがあって「第一段階は口頭注意をしてそれをプロデューサーに文書で報告」みたいに手順を踏んでいくんですが、段階が進むと、容赦なく解雇となってしまうんです。結局、そのスーパーバイザーも辞めることになり、また私に「やってくれ」と声がかかったんです。ただ、その時はコスチューマーとして現場で役者さんとも密な関係性ができていて、役者さんの指名で仕事をしていたので、現場から「いま、サチを引き抜くのは無理だ」という声が出て、現場に残ることになり、結局、スーパーバイザーの下でアシスタント的な仕事をしていたトラック・コスチューマーというポジションの人間が、スーパーバイザーに昇格することになりました。ただ、それもなかなかうまくいかず…。それはあるドラマのシーズン2の撮影だったんですが、デザイナーから「お願いだからシーズン3はあなたがスーパーバイザーをやってくれ」と言われまして。そこで「もう逃げられないな…。そういう運命なのかな?」と思い始めましたね(笑)。これはきっと私に「やれ」ということなんだろうと引き受けまして、それが4年ほど前の話です。それから現在まで、スーパーバイザーとして仕事をしてきました。現場を止めるな! 次々と起こるトラブルにも臨機応変の対応!――これまで、どういった作品に携わられてきたのか? また思い出深い現場やエピソードなどがあれば教えて下さい。過去5年ほどでいうと、マーベル・コミックのテレビシリーズ、Netflixで公開されている「ジェシカ・ジョーンズ」のシーズン2&シーズン3、「デアデビル」のシーズン3、こちらもNetflixで公開されている、「POSE/ポーズ」シーズン2&シーズン3、映画だと今夏公開になる『Respect』という作品に携わりました。現在はアカデミー賞脚色賞を受賞した『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノ監督とチームと共に、オハイオ州シンシナティーで映画を撮影しています。どの現場でも、必ず何かしら忘れられないエピソードはあるのですが…だいぶ前になりますが、インディー映画の作品で、衣装トラックを運転するはずのPA(プロダクション・アシスタント)がトラックをピックアップしなければいけない時間になって突然「今日は疲れているから、運転したくない」と連絡をしてきたことがありました。私の家から衣装トラックまでは少なくとも車で30分、そこから必要な衣装を持ち出して現場まで行くとなると、少なくとも私の現場入り時間から1時間は遅れるなと思い、だいぶ焦りました。何とか時間を短縮して、現場には30分遅れて入り、ギリギリ衣装待ちという状況にもならずに済んだので結果オーライではありますが、自分たちのせいで全体を遅らせることになると思ったら、生きた心地がしませんでしたね。また別の現場では、当日の撮影1時間前になって、役者さんの代役(ドライビングダブル)を立てて運転をさせることになったから、その方の衣装を用意してほしいと要望を受けました。遠目からだし一瞬しか映らないということではありましたが、持ち合わせの衣装に似ているものが全くなかったので、代わりにその場にあった厚紙で作ったこともありました。何事もなく済んだので良かったですが、内心はだいぶ焦りました。今思えば、よくそんなこと許されたなと思いますけど(笑)、何があっても臨機応変に対応して、現場を止めてはいけないというのを肝に銘じています。この仕事は、大変なことのほうが多いように感じますが、それでも役者さんや自分のチームやスタッフさんたちに、「あなたがいてくれたから、この作品を完成させることができたよ。本当にありがとう」と言われた時には、やってきて良かったなと思います。インタビュー【後編】では、ニューヨークで仕事をする上での金銭事情や語学力の問題、ユニオンへの加入などについても語ってもらっています。(text:Naoki Kurozu)
2021年07月08日ABEMA新作オリジナルドラマ「箱庭のレミング」が6月17日(木)より配信される。磯村勇斗、見上愛、岡山天音、須賀健太がそれぞれ主演を務め、全4話構成のオムニバス形式でSNSから生まれる若者の社会問題をリアルに描く。過剰な承認欲求、間違った正義感、ネットストーキングなどSNSの魅力に囚われた若者たちの“心の闇”や“恐怖”を、圧倒的緊張感で描き出すミステリードラマ。本作の総監督を務める、『新聞記者』や『ヤクザと家族 The Family』を手掛けたことでもお馴染みの藤井道人監督と、第4話の「Not Famous」でフォロワー数を増やすために過激な行動に走るライブ配信者の主人公を演じる磯村勇斗さんに本作に込めた想いなどを聞いた。SNSを取り巻く問題に「もう一度付き合い方を考え直す時」――まず、藤井監督にお伺いしたいのですが今回の磯村さんのキャスティング理由を教えていただけますでしょうか。藤井道人(以後、藤井):磯村くんのマネージャーに直電したんですけど、今回のテーマであるSNSというものを「若者代表」として誰に委ねて描きたいかと考えた時に、『ヤクザと家族 The Family』ですごく良い信頼関係が築けた磯村くんに演ってもらいたいと考えました。――磯村さんは今のお話を受けていかがですか。磯村勇斗(以後、磯村):藤井さんとまたご一緒できるのが嬉しかったですし、今回の題材であるSNSに自分も興味があって向き合い方について考えていたタイミングだったのもあり、演らせていただきたいなと思いました。――本作では、現代のSNSを取り巻く問題が描かれていますが、おふたりがSNSとの付き合い方について気をつけていることなどあれば教えて下さい。磯村:こういう職業柄、SNSを使って発信することは多いんですが、自分自身はあまりSNSに依存はしていなくて。SNSを使いすぎてその世界だけで生きていくとなると視野が狭くなるし、自分をいつか滅ぼしてしまうんじゃないかという恐怖があって“発信するだけ”にしています。自己承認欲求を持て余している人が増えているからか、SNSが社会的にプラスよりもマイナスの方に作用しているケースを目にすることが多いので、もう一度付き合い方を考え直す時に来ていると思っています。藤井:僕自体は全然SNSを使わないんですけど、酒飲んで呟いたりしない、とかですかね(笑)。便利な側面も多いと思いますが、まだ成熟し切っていないものだから、使い方の「ガイドブック」が人それぞれだと思うんですね。これから切っても切れない存在にはなっていくだろうし、人間同士がアナログだけじゃなくデジタルでもどう向き合っていくのかということはAIやテクノロジーの進化にも関連して今後ますます無視できないテーマになってくると思います。――ちなみにこの「箱庭のレミング」というタイトルにはどのような想いが込められているのでしょうか。藤井:このタイトルは別の方が付けてくれたものなんですが、SNSってまだ成熟し切っていない「スマホの中だけの空間=箱庭」で、その中に皆が喜怒哀楽や人生などいろんなものを入れているけれども、そこには明確なルールブックがなくて。「レミング」と言うとどこかで「ラット=ネズミ」、つまり「実験台」を連想させるので、ソーシャルの世界で生きる我々を「箱庭のレミング」と比喩しました。観客のことを考えての作品づくり「手を抜かない」――「自分の表現を追求していくこと」と「有名になる」ことは相反する部分があり両立が難しいこともあるのかなと思うのですが、どんどんキャリアを積まれて注目度も年々高まっているおふたりはこの両立をどう捉えてらっしゃるのでしょうか。藤井:20代の頃は「原作ものはダサい、オリジナルで自分が表現したいことをやるんだ」って尖っていた時期はあったと思うんですが、今はそれが洗練されたと言うか、売れるものが100%正しい訳じゃないってことは正直みんながわかっていることなんですが、でも自分がやりたいことだけが100%正しいかと言うとそうでもなくて、その全ては観る方が決めることであって。自分たちはちゃんと観客のことを考えて作品にどう向き合ってどう作るのかってことに誠実であれば、それは作品の大小は関係ないと思っています。だから「手を抜かない」ってことかなと思います。その結果、舞台に立って観客の皆さんの表情を観た時に“作って良かったな”と思えることが1つのゴールなのかなと思っています。磯村:もちろん僕も芸能界でデビューする前は「有名になりたい、人気者になりたい」という思いはあったんですけど、やっぱりそれだけではこの世界では通用しないと思って、「俳優」というものをやりたいって考えた時に「芝居ができないとダメだ」と原点回帰しました。そこからは単純に売れてやるってことではなく、ちゃんと自分でお芝居に向き合って一つ一つの舞台を積み上げていきたいなという方向に意識が変わったんですね。「有名になりたい、人気者になりたい」という気持ちはなくなって、向き合う作品一つ一つにどれだけ愛情を持って臨めるか、その時は苦しいかもしれないですが、その先に沢山の人に届くということがあれば良いなと思うようになりました。――磯村さんと言えば、台本を深く読み込み自分の中に人物像を落とし込んだ上で、現場ではそれをリセットしてセリフだけが入っている状態で臨むという“内面的なアプローチ”と、役柄にビジュアルも近づけることを意識される“外見的なアプローチ”をされているかと思いますが、本作での役どころではそれぞれどんなことを意識されましたか?磯村:外見については原作ものではないので、メイクさん、スタイリストさん、監督たちとイメージを擦り合わせて作っていきました。内面的には、ライブ配信者としての素人感や、ライブ配信で有名になりたいとただただ浅はかに思うちょっと危険な匂いもするキャラクターを演じられれば良いなと思います。――藤井監督は “総監督”という普段とは違った立ち位置で本作に携わられたかと思いますが、何か意識されたことはありますか?藤井:現場に「監督」と呼ばれる人は1人しかいらないと思っているので、それぞれの撮影現場には行かないようにしました。コンセプト決めや企画の打ち合わせはもちろんやりましたが、こちらの意見を押し付けたりはせず、それぞれの監督にSNSについて考えていること「SNSへのラブレター」を自由に表現してもらうようにしました。ドラマを通じて世代間を超えてのコミュニケーションに――藤井監督と言えばやはり映画監督のイメージが強いですが、映画とドラマ作りの違いはどんなところでしょうか?藤井:人間を描くということは一緒なんですが、それに対してのアプローチが、ある種ドラマの方が速い。映画だと企画してから公開するまで4年間かかってしまうようなものが3、4か月という短期間で出来るので、瞬発的に“今”の時代を映すことに長けているのがドラマだと思います。あとは観客のリアルな反応を、それこそSNSを通じてタイムリーに知れたりするのは映画とは違いますよね。映画はもう“作ってしまったもの”だから、どんな感想をいただいてもそれを受け止めるしかないけれど、ドラマはもっと生き物に近いと思います。面白そうだなと思うものはドラマや映画というジャンルに関わらず食わず嫌いせずに受けるようにしているのですが、ABEMA TVはさらに自由度高いのでありがたいですね。――演じられる磯村さんは映画とドラマの違いをどうお考えですか?磯村: 確かに「瞬発的」という意味では、ドラマは撮影スケジュールがタイトなこともあって、俳優に求められるスキルとして感情をすぐに出し、タイトな中でも高パフォーマンスをすることが大事になるのかなと思います。映画でももちろんそれは大切ですけど、芝居に向き合う時間がよりタイトな気がします。ドラマは短距離走、映画は長距離走って感じです。――本作、どんな方に観ていただきたいか、作品の見どころと一緒に教えてください。藤井: ABEMA TVを視聴してくれている若い人たちにも、本気の映画人たちがSNSをテーマに作品を作ったらこんな風になります、ということを観てもらいたいです。それを観た若い人たちが「SNSを題材にこんな短編映画みたいな作品を作ってるんだ。私たちも撮りたいな。私たちの方がもっと面白い情報持ってるよ」と思ってくれて、この企画が広がっていってくれたら嬉しいなと思います。僕らが使う“SNS”と若い子たちが使う“SNS”はまた違うと思うので、ドラマを通じて世代間を超えてのコミュニケーションになって、こういう機会が続いていけば良いなと思っています。あとは磯村さんら俳優陣のお芝居に注目してもらえればと思います。磯村:今、SNSが日常生活の一部として当たり前になりかなり身近なものになってきていると思うんですが、SNSとの向き合い方・付き合い方を考えるきっかけになってもらえれば嬉しいなと思います。僕が演じる虹生みたいなライブ配信者もいるでしょうし、表現方法も広がっていて誰でも発信出来るという良い部分もあると思いますが、一歩間違えると自分の首を絞めてしまいかねない危険も持ち合わせているので、その辺をハラハラ楽しんでもらえたらと思います。(佳香(かこ))
2021年07月07日妻に先立たれた男が幼い息子を連れて日本を発ち、韓国に暮らす兄のもとへ。そんな彼らが出会ったのは、両親を早くに亡くした兄、姉、妹の三きょうだい。意思疎通にも少しの奮闘が必要な日本人3人と韓国人3人が、ひょんな巡り合わせから旅を共にすることになるが…。オール韓国ロケで作られた『アジアの天使』に、池松壮亮とオダギリジョーが兄弟役で出演。日本映画界を牽引する実力派2人が、韓国の撮影現場で感じたこととは…?オダギリジョー、池松壮亮の姿勢に「作品に対する誠意や本気度が見える」──兄弟役での共演はいかがでしたか?池松:実年齢からすると、ワケあり兄弟に見えないかなと心配で…。というのは冗談ですが(笑)、オダギリさんがリードしてくれるからこその高いレベルでのやりとりや駆け引き、画面に映らない部分も含め、瞬間ごとのセッションができました。兄弟のシーンはものすごく気に入っていますし、楽しかったです。オダギリ:印象的だったのは、池松くん、撮影現場では絶対携帯を見ないんですよ。池松:アハハハ!オダギリ:色んなところでこの話してるから、池松くんは今後、携帯を現場に持ち込めない事になっちゃうかも知れないけど(笑)。池松:大丈夫ですよ(笑)。オダギリ:池松くんと同世代の俳優の中には、待ち時間にゲームをしていたりする人もいるんですよ。それは時代の変化として受け入れてるつもりだけど、やっぱり正直なところどこかでイラッとするわけです(笑)。作品に真摯に向き合って無いように見えちゃって。でも池松くんは携帯すら見ないし、現場に台本も持って来ない。それって小さな事だけど、作品に対する誠意や本気度が見えますよね?そういう姿勢を見ると、僕も本気で向き合わないとヤバいという気持ちになりますよ(笑)。池松:(笑)。まだギリギリ若者の立場ではっきりと言うと、この国に、表に出てくる人に、真に格好いい大人ってどんどんいなくなっていると思うんです。そんな中、オダギリさんの品性と大切なものを見抜く力、思想とそれを表現し続けるセンスは圧倒的です。こういう方がいることの幸運に、もっとみんな気づくべきだと思います。「他の国の人たちと力を合わせてものを作るって、やっぱり素晴らしい」──そんなお二人で、95%以上が韓国のスタッフ・キャストという現場に臨まれました。池松:今の韓国を見られる機会は貴重でした。同時代を生きる隣の国の人たちが人生をどう生き、どう喜び、どんな痛みを負っているか。そして映画をどう捉えているか。ただし、撮影が大変だったのは確かです。意思を伝えるのにも、文化、言葉、ルール、歴史的な背景など、様々な違いに直面します。その分普段の何倍もの時間とエネルギーが必要でした。オダギリ:今回の場合、韓国映画のシステムとは言っても、韓国の常識的なシステムではなかったと思うんです。日本の方法論をお願いした形だったと思います。そんな中、心意気を持ったスタッフが集まり、作品をいいものにしようと心を1つにした事実はとても尊いもの。普段よりつらい現場だったとしても、この作品の為に身を削ってくれる姿は感動的でした。他の国の人たちと力を合わせてものを作るって、やっぱり素晴らしいですよね。何が起こるかも分からないけど、とにかく楽しい。池松:同じ物語を共有し、それを信じて、ご飯を一緒に食べて、ビールを飲んで、笑い合えていた。かけがえのない経験でした。──オダギリさんには韓国語の台詞、池松さんには英語の台詞もありました。オダギリ:母国語でない芝居だと、逆にシンプルにできたりもするんです。言葉のニュアンスにとらわれる必要がなく、気持ちを伝えるという原点に戻れるので。相手に感情が伝わるか伝わらないか、それだけの事です。海外の俳優を相手にするときのほうがむしろ純粋に芝居ができると僕は思っていて。だから、楽しめてはいます。その分、試されている気もしますし。──日本語、韓国語、英語が飛び交う台詞の中、ソル(韓国人きょうだいの長女)に英語で話すときの剛(池松さん)は声を張っていますよね。兄(オダギリさん)と日本語で話すときの声はゆるいのに。池松:それが人間ですよね(笑)。マスクをするようになってから声が随分と大きくなりました。相手に届けようとするからです。──まさに、剛の中にはソルに“伝えたい”という気持ちがあり、オダギリさんのおっしゃった「純粋な芝居」にもなっている気がしました。池松:あとは言葉自体の変な浮つきと浮遊しているような感覚。いくら日本語で喋っていても伝わっていないわけですから。そこが、この映画の圧倒的な面白さの一つだと思っています。言葉の意味や本来の価値を超越すること、縛られた概念を飛び越え、生き延びるために手を組んで本来あったはずの大きな心の自由に触れること。いつの間にか真実を見失っていたもの達が出会い、こびりついた価値を捨て、再生していく物語ですから。血のつながりだけではない「家族」──兄はビールと「サランヘヨ」で大抵のことは乗り切れるとも言っていますしね。池松:真理を突いていると思います。ビールとサランヘヨと天使は、この映画において奇跡を目撃するための魔法のようなものです。僕たちも今回の撮影中、物凄い数のビールを消費しました(笑)。オダギリ:海外の撮影では特に、お酒が大事なツールになりがちですね。撮影が終わった後の夕飯も、結局はどこかに食べに行かないといけないし。誰かを誘い、飲みながら喋ることで仲間意識が高まる。それに、韓国のビールってちょっと軽いからどんどん飲めちゃうんです(笑)。あの軽さが韓国特有のビール文化を作っているのかも知れないですね(笑)。──お酒を含め、食事のシーンからも登場人物たちの空気が伝わってきました。池松:この映画を観れば、韓国料理を食べたくなるはずです。食卓は直接的にその文化が映るものだと思います。美味しかったですし、とても心があたたかくなりました。最初は辛くてお尻が痛かったけど、慣れてくると平気でした(笑)。オダギリ:韓国映画の現場には「あったかい料理を食べよう」という意識があるみたいで、その点は本当に羨ましいですね。日本の現場だと当たり前に冷たい弁当ですから。撮影のときに利用した食堂がなんだか恋しくなってきて、いつかまた行きたいなと思っているくらいです。──本編では、池松さんのおっしゃった「概念を飛び越えた自由」が、家族のような関係を織りなす登場人物たちに託されています。お二人も芝居を通し、“兄弟”になったと言えますね。池松:劇中の兄貴にはどうしようもないところと、誇らしいところがあります。そういうキャラクターに懐の深さと目の奥の愛情深さと、韓国ビールを超えるような軽やかさをオダギリさんが反映してくれたと思っています。さらに映っているところ以外でも沢山助けられました。おかげで忘れられない疑似体験になりましたね。天使な兄貴でした。オダギリ:僕の場合、現実に兄弟はいないし、血のつながりを感じてきた相手は母親だけ。いま言っていても「血のつながり」って自分からは程遠いワードだなと思ったんですが、池松くんが弟であることで、何かを信じることができました。それって、家族に近づくということなんでしょうね。「信じる」ということが。家族や血のつながりをそんなに強く感じてこなかった自分が埋められる1つのピースが、「信頼」ということなのかもしれないです。(text:Hikaru Watanabe/photo:Maho Korogi)■関連作品:アジアの天使 2021年7月2日よりテアトル新宿ほか全国にて公開
2021年06月28日6月25日(金)より公開される映画『Arc アーク』にて、夫婦役となった芳根京子&岡田将生。『蜜蜂と遠雷』、『愚行録』などで知られる石川慶監督が手掛けた初のSF作品は、人類初・永遠の命を得た芳根さん演じる、リナが主人公の物語。ストップエイジングの研究を完成させ、リナと共に終わりのない人生を選んだ黒田天音(岡田さん)。若い身体のままふたりで年を重ね、永遠の幸せを手に入れたかのように見えたが、残酷な運命が顔を出す。「不老不死」は、やはり禁断の果実なのか、それとも…。静かに迫る死生観、すべてを受け止めてくれるような壮大な画、豊かな映画体験が約束される本作では、浮かび上がったテーマや、身近な人を愛するということに、改めて思いを馳せることができる。出演した芳根さん&岡田さんは、本作をどう受け止めたのか?テーマから派生して、今思う様々なことをインタビューで聞いた。一筋縄ではいかぬ役に身を投じた芳根京子を岡田将生が絶賛「映画に覚悟が刻まれている」――非常に余韻が残る映画『Arc アーク』、ご出演の芳根さん、岡田さんは、完成作をご覧になって、どのように感じられましたか?撮影時に想像していた仕上がりとのギャップなどもあれば、教えていただきたいです。芳根:石川さんがどんな風に編集されるのかが楽しみだったので、撮影のときは何の予想も立てていませんでした!石川さんが撮る画を、「ああ、こういうのが必要なんだな」と受け止めながら、ずっと臨んでいたんです。完成作を観たときは、なんだか、すごくすっきりした気持ちになりました。新しいジャンルの映画が誕生したんだな、と思えたんです。そんな作品に参加させてもらえていることを、すごく嬉しく感じました。――「すっきりした」とは、とても面白い表現ですね。芳根:ほんとですか!岡田:芳根ちゃん、やりきったからね。完成作を観て、石川監督ならではの温かみのある画と、象徴的なラストシーンで「すごく包まれて終わったなあ」と思いました。生と死という壮大なテーマと、親と子の壮大な物語でもあるので、両方つきつけられて…なんか席を立てなくなりますよね。「うおお、すごいものを観せられた!」と。僕も参加できて、本当によかったです。この映画を観て、何より思うのは、芳根ちゃんのこの役をやる覚悟というか。おそらくどの俳優さんが見ても、「これは一筋縄じゃいかないよ」と感じられる台本だったので、やるにあたっての覚悟と、石川監督に身を任せ信じて戦っている姿が、この映画に刻まれていると思います。――もしも岡田さんがリナ役でオファーされることがあったら、やっていましたか?俳優としては惹かれる役どころでしょうか。岡田:絶対に行っていたと思います。でも、捧ぐにはものすごく覚悟がいるので、お返事の期限ぎりぎりまで「んー、どうしよう、どうしよう!」と、悩んでいるかも…。だからこそ、やっぱり芳根さんは本当に素晴らしいと思いました。芳根:そんな、ありがとうございます。――撮影現場では、お互いどのようにコミュニケーションを取っていらしたんですか?岡田:前も一緒にドラマをやっていたので、そのときと変わらなかったよね?芳根:そうですね!撮影中は、ずっと「まーさん」と呼んでいたんです。私、人と距離を近づけるのが下手なので、「呼び方から近づいていきます!」と言っていたんですが…現場で誰ひとり呼んでいませんでしたね(笑)。一向に浸透せず、今も「岡田さん」という気持ちです(笑)。岡田:石川監督だけ、低いいい声で、たまに呼んでくれてました(笑)。――香川でのロケと伺っていますが、おふたりならではの思い出も、ありますか?芳根:一緒にそうめんを買いに行きました。「どうしても、最後にそうめんだけは買って帰りたい!」と言って、開いているお店を調べて、慌てて買いに行った思い出があります。岡田:あと、小豆島で1回、石川監督と、寺島しのぶさんと一緒にごはんも食べたよね。今回、土地に助けられている部分もすごくあったなと思います。香川県庁の建造物も素晴らしかったし…あと、うどんもおいしいし(笑)。芳根:私、お昼休みや移動のときに抜け出して、うどんを食べてました(笑)。「せっかく香川にいるんだから、絶対に食べたい!」と思って、こっそり食べに行って何喰わぬ顔で現場に帰っていました、いい思い出です(笑)。もし永遠の命を授かったら…享受したい喜びとは?――本作において「不老不死」は、ユートピアでもディストピアでもないことが描かれています。永遠の命について、もしおふたりが授かったとしたら、享受したい喜びは何でしょう?芳根:わあ!その質問、新しいですね!でも、何だろう…どうしよう(悩)。岡田:ありきたりなことになっちゃいますが、生きていく中で限られたところにしか行けないから、せっかく不老不死なら、自分がまだ見ていない景色、行っていない土地とか、世界中全部回れたら面白いんだろうなって思います。その土地の人にお会いして知っていくことによって、自分の人生観も変わっていくだろうし、いいなあって。――ちなみに、岡田さんがこれまで行かれた国で印象的だった場所、もう一度行きたいところはどこですか?岡田:そんなにいろんな国に行っていないですが…スペインかな!街にアートが溢れているから、面白かったです。活気もあって、料理もおいしくて、美術館もいっぱいあるし。芳根ちゃんは、どこかある?芳根:ニセコ(北海道)です!実は、ニセコの近くに両親の実家があるので、しょっちゅう行っていたんです。本当に車も通らない、家もない、街灯もないような場所で、道にレジャーシートを敷いて、母とふたりで寝っ転がって、流れ星をずっと見ていたことがあって。岡田:いいね!芳根:「今、見た!?」、「見た!」みたいなのが、すっごく楽しくて。今、自由に外に出たりできなくなってしまったから、より一層、ああいうことをしたい!という願望が強いかもしれません。――すごく素敵なエピソードですね。芳根さんは、永遠の命を得たバージョンの喜び、ほかに何かありますか?芳根:えっと…皺ができない、とかは嬉しいかもしれない!と思います。言っても私は24歳なので、身体が老いていくことに、むしろまだちょっと喜びを感じているんですが。けど、もちろん、これから年齢があがったら、「うわー、年齢を止めたらこの皺がなかったのに!」とか、ポンポン出てくるんだろうなと思います。――そうですよね。ちなみに、岡田さんは老いを感じること、ありますか?岡田:やっぱりね…30超えると、ありますよ。芳根:え、あるんですか!?何が一番変わります?岡田:傷の治りが遅くなる(苦笑)。一同:(笑)。芳根京子&岡田将生の日々の幸せと喜び「最近、お芝居がすごく楽しい」――永遠の命とは逆に、限りある命だからこそ得られる喜びや幸せも、本作からは感じられます。おふたりの日々の中での喜び、俳優としての喜びを感じるときなどを、教えてください。芳根:私はこの作品に参加してというのもありますし、このご時世というのもあって、小さな幸せが、すごく大きな幸せに感じるようになりました。友達と会えるだけで、嬉しさが今までと違うんです。割と身近な、いろいろなところに幸せって落ちているんだなと気づけて、人生が豊かになった気がしました。だから、すごく得した気持ちになっています。美味しくご飯を食べられることも幸せだし、いろいろなことが大きな幸せに感じます。岡田:僕は、去年ぐらいから改めてお芝居が楽しくなりました。作品のめぐり合わせというか、素敵な監督や共演者の方々に恵まれたこともあるとは思うんですけど、最近、お芝居が以前に増してすごく楽しいんです。何だろうな。前よりテンション高くで現場に行くようになって(笑)。芳根:へぇー!岡田:仕事が充実していることもあるんでしょうけど、緊急事態宣言もあったので、より一層現場に行って、お芝居ができることのありがたみを感じているのかなと思います。例えば、「芳根さんとお芝居します」となって、芳根ちゃんとお芝居の呼吸が合ったりすると、「なんか今、良かったよね」みたいな。その空気は、その一瞬しか感じることが出来ないものなので、監督と一緒にカメラに収めていく作業や、そういう積み重ねで楽しく感じます。(text:赤山恭子/photo:Jumpei Yamada)■関連作品:Arc アーク 2021年6月25日より全国にて公開©2021映画『Arc』製作委員会
2021年06月23日2013年秋、全米ネットワークNBCにて放送スタートし、高視聴率を獲得し続けているアクション・サスペンス超大作「ブラックリスト」。その日本上陸最新シーズンとなるシーズン8では、“レッド”・レディントンの真の正体を探るべく、エリザベスは母カタリーナと共に祖父・ドムらを巻き込み、レディントンを追い詰めていく。この度、今シーズンで究極の状態に陥るエリザベスを演じるメーガン・ブーンのインタビューがシネマカフェに到着した。ジェームズ・スペイダーが演じる、犯罪コンシェルジュと呼ばれる最重要指名手配犯レイモンド・“レッド”・レディントン。彼はFBI捜査官エリザベス・“リズ”・キーンを指名し、自分の持つ“ブラックリスト”からFBIも存在を知らない犯罪者“ブラックリスター”の情報提供を申し出る。シーズン8では、ついに“ブラックリスター”のNo.1が明らかになり、序盤から波乱と驚愕の展開が待ち受ける。自身でも、これだけ長く続くシリーズになるとは予測していなかったというメーガン。「パイロット版の脚本が素晴らしいということはわかっていましたが、契約時にはジェームズ・スペイダーがレイモンド・“レッド”・レディントンを演じることも知りませんでしたし、作品の流れを変えた他の多くの重要な要素もまだ謎のままでした。当時の私はリズを演じることがどのような意味をもつことになるのか予測できませんでした」とふり返る。「その年に読んだパイロット版の脚本の中では最高の出来だったので、勢いがついて、熱狂的なファンが増えるかもしれないと思いました」と、自身でもある程度の“予感”があったことを明かす。シーズン7の展開により、視聴者は再びレディントンの正体に関して様々な憶測を繰り広げているが、エリザベスは「まだ真実を知りませんが、ロシアのスパイであるN13に関する説を解明しようとしていて、それが今シーズンの波乱を生むことになるんです」と明かす。これまでのシーズンでも大変な状況が何度もあったエリザベス。演じるメーガンは現在の状況にも照らしながら、「この1年で学んだことは、人間は多くの苦しみに耐え忍ぶことができるということです。私たちは乗り越えないといけないことを乗り越えられる力があると思います」と話す。「リズが特に逆境に強いというわけではなく、選択肢がなかったり、良い選択肢が見つからないから、他の人よりも多くのことに耐えなければいけないだけなんだと思います。私は彼女の強さを軽視しているわけではなく、彼女だけが特別だというわけではないと言いたいんです。私たちのほとんどがそのような強さを持っているんです」と言葉に思いを込める。そんなエリザベスの性格や価値観と、自分が似ている部分や共感できるところがあるかを尋ねてみると、「そのような質問をされた時、私はいつも『彼女は私と同じ目をしている』と言っています。それはこの質問を避けるためのずるい言い方だとわかっているんですけどね。でも、この8年間、一日の大半を費やして演じてきたキャラクターと自分を比較するのは、とても難しいんです」と吐露。8年間という長い間エリザベスを演じてきたメーガンだが、「とても多くのことが変わりました。この役を得たとき、仕事を始めてまだ数年しか経っていなかったので、映画やテレビの仕事に全然慣れていませんでした。でも8年間撮影現場で過ごす中で、現場で心地よくいることができるかどうかで、自分の演技や今作に対するアプローチに大きな違いが出てきたんです。変わっていない事を特定するほうが難しいですね」と言う。また、2017年に日本で衣装や小道具を展示した展覧会が開催された際には、ファンから大好評となった。「シリーズが進むにつれ、私はエリザベスの衣装について少しずつ意見を言うようになりました。シリーズの後半では、彼女はローブーツ、ジーンズ、Tシャツなどの黒の衣装を着ることが多くなりましたが、これは私と衣装担当のクリスティン・ビーンの判断なんです」と言い、「私たちは決断が早く、常に同じことを考えています。私たちは詳細を伝えなくてもお互いの言いたい事が分かるんです」と話す。最後にメーガンは、「日本の皆さん、この作品をご覧いただきありがとうございます」とメッセージを送りつつ、シーズン8の見どころについて「これまでのどのシーズンよりも変化が起こるんです。本当に驚愕の展開になります」と言うものの、「でもネタバレにならない程度に言えることは、あまりないんです」と言葉を濁しており、ますます展開が気になりそうだ。「ブラックリスト シーズン8」は【二カ国語版】毎週火曜22時~【字幕版】毎週火曜24時~ほかスーパー!ドラマTV#海外ドラマ☆エンタメにて放送。(text:cinemacafe.net)
2021年06月21日いよいよ15日に最終話を迎える注目作「大豆田とわ子と三人の元夫」(カンテレ・フジテレビ系)。本作は坂元裕二オリジナル脚本にプロデューサー・佐野亜裕美という「カルテット」コンビが再度タッグを組んでいることでも話題だ。佐野亜裕美氏に本作でのこだわりや最終話の見どころ、ドラマ作りへの想いなどについて話を聞いた。「観てもらう価値をちゃんと考えながら作っていきたい」――SNSでの盛り上がりや色んな考察記事、深堀記事などの反響をどう受け止めていらっしゃいますか?番組を愛してくださることはとてもありがたいことだと思っています。色々な考察記事も拝見していますが、そんな風に読み解くのかとこちら側が意図していないことももちろんあります。ただ、観ている人を無理やり誘導したくはない、あまり感情を規定したくないという思いがプロデューサーとしてはずっとあるので、その“余白”を大事にしてきたからなのかなと思います。観る人によって印象が違ったり響く部分が違ったりするのは、狙い通りという訳ではなく、自分がポリシーとしてやっていることがそういう結果を生んでいるんだなと思ってます。――ここ数年、インターネットの普及によって作り手に“よりわかりやすいもの”や“より反応しやすいもの”が求められやすくなっているように思うんですが、どのようにお考えでしょうか?テレビはどうしても“ながら見”が前提ということもあって、耳だけで聞いてもわかりやすいとか途中から観てもわかるというわかりやすさからは逃れられない宿命みたいなものがあると思っています。ただ一方で、集中して1時間番組を観てくださる視聴者の方もいるので、私は後者の集中して観てくださる方が楽しめるようなドラマにしたいなと思っています。それでも今回は、いろんな伏線を張ったり長い会話劇の中で読み解いていくようなことはあまりせず、1話完結型で観てもらえるようにしようと坂元さんとも話し合っていました。わからないものが素敵なものだとも思わないし、わざとわかりにくくするというようなこともないですが、情報の密度というか“1時間の密度”みたいなものは個人的には意識しています。「1時間あっという間だったし、1時間濃かったなぁ~」と思ってもらえるように、1時間、人の時間を使って観てもらう価値をちゃんと考えながら作っていきたいと思っています。――佐野さんは最近のドラマの特徴をどうお考えですか?ドラマ評論家ではないので俯瞰して語れる立場ではないですが、深夜帯や配信ドラマも含めて連続ドラマってかなり数が増えていて選択肢が多い分、早々に“すごく求心力の強いもの”と“ダメの烙印を押されてしまったもの”の二極化が進んでいると思います。連続ドラマって最終話まで観てもらうからこその連続ドラマなので、そこはジレンマを感じます。ただ、見逃し配信のプラットフォームが増えた分、リアルタイム視聴できなかった人にも観てもらえて、かつその指標が作品の評価の一助となるような空気感になってきているのは、作り手としてはありがたいなと思います。どうしてもリアルタイムの視聴率だけで判断されてきた過去に比べていろんな指標ができるようになるといろんなドラマがあって良いという自分のポリシーにも繋がってくるので。海外ドラマも参考に「もっともっと自由で良いんだな」――作品を制作する過程で、国外の作品を参考にされた部分はあるんでしょうか。海外ドラマは大好きで、毎日1本は観てから寝るようにしているんですが、テンポ感や音楽は参考になりました。例えば、泣けるシーンに泣かせるような音楽をかけない、笑いのシーンにいかにも笑って下さいっていうような音楽をつけなかったり。例えば韓国ドラマってオリジナルサウンドトラックがあって毎回曲が違ったりするじゃないですか。それも良いなと思って。今回エンディングを変えたのには色んな経緯があるんですが、多少なりとも影響は受けていますね。もっともっと自由で良いんだな、決まりみたいなことをもっと破っていけば良いんだなと思わせてくれた気がします。――その他にも、何か日本ドラマとの違いを感じられることはありますか?海外ドラマは衣装についてもキャラクターの年収設定や生活水準を気にせず割と自由だなと思います。「梨泰院クラス」でも、パク・セロイはお金を全部店に費やして這い上がっていく話のはずなのに、ダウンだけで何着持ってるんだろう?と思ったり。「サイコだけど大丈夫」でもコ・ムニョンはいつも寝るときにメイクを落としていなくて大丈夫かな?って思ったりするんですが、そういう細かい設定やリアリティーよりもキャラクターとしていかに魅力的に見えるか、素敵に見えることの方が大事っていう精神が特に韓国ドラマには強く見られるなと思います。繋がりやリアリティーよりも“エンターテイメントとして素敵に見える”ってことの方が大事なんだなと思って勉強になっています。印象的な食事シーン&話題のナレーション――本作では、食事のシーンもとても印象的です。フードスタイリスト飯島奈美さんとはどのようにイメージのすり合わせをされているのでしょうか。基本的には台本に詳細が書かれているので、そこから逆算してどんな形状の料理なのか話し合っています。おいしいご飯が並んでいるではなく、どんなご飯が並んでいるかイメージしやすいように坂元さんが書いて下さっています。奈美さんに対しては絶対的な信頼があるので、こちらから特に事細かに指定はしていないですし、奈美さんが台本をしっかり読んで下さり、とわ子像について考えて下さっています。第1話で脚本に “赤ワインを飲むとわ子”と書かれていて、演出陣がその後もずっと“赤ワインを飲む人”という設定で進めようとしてしまっていたのですが、奈美さんが「それは違いますよね。だんだん季節も変わるし、とわ子はキリっとした白ワインとかロゼが飲みたくなるときもあるだろうし」と提案して下さり、軌道修正して下さったこともあります。――本作では、伊藤沙莉さんによるナレーションも話題になっていますが、オファーされた理由を教えていただけますでしょうか。最初から坂元さんから「ナレーションを入れたい」という希望があって「ちびまる子ちゃん」のキートン山田さんのような“ツッコむ”ナレーションが良いというお話まで出ていました。ドラマのテイスト的に“女性の声が良いな”と話し合い、アニメ「映像研には手を出すな!」が坂元さんも私も好きで、浅草みどり役の伊藤沙莉さんの声がイメージしやすいですねとなり、彼女一択でした。「1人じゃないと思えるドラマにしたい」――本作は“1人で生きていく人を応援するようなドラマにしたい”という思いから作られたと伺いました。本作も終盤に差し掛かったところで佐野さんは“1人で生きていく”ということを改めてどのように捉えていらっしゃいますか?“1人で生きていく”と聞くと、どうしても独身男性、独身女性など、戸籍上、家族構成など物理的に捉えられがちだと思うんですが、特定のステータスや婚姻関係をイメージしての“1人”という意味に限定した話ではないですね。コロナ禍で家族がいても最期は誰とも会えず亡くなられたおじいさんの映像を観て、1人だけれども1人じゃないし、1人じゃなくても1人というような状況って誰しもに起こり得ることで誰でも最期は1人だし、人は1人で生きていて1人で死んでいくけれど、でも1人じゃないと思えるドラマにしたいと思っていました。1人で生きているようで、実は色んな繋がりの中で生きているということが伝わればと思っています。――最終話の見どころを教えて下さい。ドラマ放送初期の頃は「モテるとわ子が羨ましい」という感想の方が多かったんですが、今は「とわ子の4人目の夫になりたい」という声も聞かれるようになって良かったなぁと思っています。それくらい言語化できない魅力がある、ただただ魅力的、というのがとわ子だなと思います。松たか子さんが作って下さったとわ子の、とわ子なりの答えが見つかる回を見守っていただければ嬉しいです。(佳香(かこ))
2021年06月15日映画『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』の公開を記念して行なってきたリレーインタビューもいよいよ最終回です。連載第1回に登場してくれた佐藤健に『るろうに剣心 最終章 The Beginning』の公開初日に再びインタビューを敢行! 「佐藤健にいまだから聞きたいこと、言いたいこと」として武井咲、青木崇高、新田真剣佑、江口洋介、有村架純からの質問に全て答えてもらった。佐藤健の弱点、そして真夜中のストレス解消法とは…?ハードな仕事「なくなると追いかけたくなる」――ついに本日(6月4日)、『るろうに剣心 最終章 The Beginning』が公開を迎えました。今朝のお目覚めはいかがでしたか?穏やかでしたね。「また雨か…」と思いつつ、穏やかに目覚めました。若干、まだ眠いです(笑)。――早速、ここまでのリレーインタビューで共演陣から寄せられた質問にお答えいただきます。武井咲さんからは佐藤健の“弱み”について「何かできないことはないの?」という質問が寄せられています。荷造りですね。あれが本当に苦手です…。整理整頓ができないんですよね。(旅行や出張に)何を持って行ったらいいのか? 苦手なくせに、完璧じゃないといけない! みたいな気持ちがあって、終わらないんですよ、テキトーにできないので。それで、なかなか手を付けられないし、終わらないという…(苦笑)。――ということは、部屋は散らかっているんですか?部屋は散らからないように、最初からとにかく物を置かないようにする戦法でやっています。逆に散らかったら、しばらくはキレイにならないですね(苦笑)。――武井さんからもうひとつ「10年経って、これだけビジュアルが変わらないのもすごいことだと思うんですよね。太ったりも痩せたりもないですし。なので、何か続けてやっている事とかあるのか?そのへんのコツも知りたいです(笑)」と。基本的に(継続的にやっていることは)なくて、次の作品の役作りに向けての身体づくりしかしたことないです。何かを維持したり、若い頃のままの肉体を保つために何かしているというのはないです。結果的に食事制限をしたり、ジムに通ったりというのはありますけど、あくまでも次の役に向けてですね。――昨年、コロナ禍でエンタメ業界全体がしばらくストップするという、普段は起こりえない事態もありましたが、もしも、次のスケジュールがない状態がずっと続いたら…。(昨年の緊急事態宣言の期間中)全く何もしてなかったんですよ。だから、それが続いていたらどうなっていたんだろう? って思いますね。まあ、そんなに太りやすい体質でもないんですけど、あのまま続いたらどうなったのか? 興味深くはありますね。――有村架純さんからは、肉体面ではなく精神体な面での質問です。今回『The Final』の撮影があり、続いて『The Beginning』を撮り、また『The Final』に戻るというスケジュールだったそうですが「気持ちをキープする方法、メンタルとか集中力、持続力はどこからわき出てくるものなのか知りたい、聞いてみたいです」とのことです。まず第一に「気合い」なんですけど(笑)、つらいときは楽しみに待ってくれている人たちの顔を思い浮かべることがモチベーションになりますね。――「もうダメだ」という気持ちになったり、メンタルが堕ちてしまう瞬間はないんですか?たぶん、これまでもあったんでしょうけど、そんなに深く記憶に残ってないんですよね。結局、終わったら忘れちゃうんです(笑)。だから、またやっちゃって「やんなきゃよかった…」ってなるんですけど…。――以前、佐藤さんは「ほとんどの問題は自分の考え方ひとつで解決できる」という意味のことをおっしゃっていました。実際、そう思います。変な例ですけど、どんなに「つらい」といっても、コンビニのご飯だっておいしいですし、食べるものがあって、好きなこと――僕だったら謎解きとかができていれば、人生幸せだなぁって思えるんですよね。――そこで十分に満足できるのに、なんでこんなにハードな仕事を…?本当ですよね(笑)。ただ、それ(=仕事)がなくなっても、僕は絶対に幸せに生きていける自信はありますね。僕の場合、「千鳥」を見て、謎解きができて、NETFLIXでも見ながら静かに暮らせたら幸せなんです。でもだからといって、この仕事をやらなくなったら、どこかで後悔する未来も見えるんですよ。「あぁ、やっぱりきつくても続けていればよかったな」って。人間ってそうやって突然やりたくなるものだから。なくなると追いかけたくなるものなんでね。その未来が見えているから続けている感じですね。『るろうに剣心』以上の作品に出会いたいという想い――青木崇高さんからも同様にメンタリティについての質問です。「いろんな現場を主演として背負ってると思うんですけど、ずっとクールに佇んでいるんですよ。それはとても大変なことだし、ストレスやプレッシャーも感じると思います。『ちゃんとバカやってる?』って聞きたいです」という質問です。…(笑)。そういう意味では最近は減りましたね、バカやる機会が。20代前半から半ばくらいまでは、しょっちゅう友達と遊びに行ったりしてましたけどね。とくにコロナ禍もあってこの1年ちょっと、みなさんも同じだと思いますけど、ずっと家にいますね。――ストレス発散という意味では、家で枕に顔を押し付けて叫んだり、甘いものを一気に食べたりとか、何か決まってやる行動はありますか?あるとすれば深夜のペヤング&ビールですね。――意外とコストがかからない方法で…(笑)安いですけど最強ですからね(笑)。甘いものよりは炭水化物ですね。いまでもたまにやりますよ。深夜のペヤング&ビールが一番ですね。あぁ、言ってると食べたくなってきたな…(笑)。本当に最高ですね。――新田真剣佑さんからはひと言「続編やりませんか?」と。やりません(笑)。いや、百歩ゆずって続編があっても、マッケン(雪代縁) は出ませんからね。――真剣佑さんは『The Final』だけの出演でしたが、メチャクチャ楽しかったんでしょうね?そうでしょうね(笑)。彼はこういうジャンルの作品が一番興味のある、好きな作品でしょうからね。――原作の漫画は現在「北海道編」の連載が続いています。左之助や斎藤はもちろん、過去のエピソードに出てきたキャラクター、さらには新選組の元隊士なども新たに登場するなどしていますが、佐藤さん自身はさらなる続編に興味は…?あのへんは熱いですよね。僕も漫画は楽しんで読んでます。でも、実写化は全く考えてないですね。もう、やることはないんじゃないかな…。もしやるなら、マッケンを主演にしたスピンオフで(笑)。――江口洋介さんからは「(役者として)ここからどっち側に振っていくのか? どっち側の役をやっていくのか? 同じことをずっとやり続けるのか、真逆なこと、例えばコメディなんかをやりたいって思うのか…今度はこれ(『るろうに剣心』のヒットのイメージ)を壊していく作業になっていくと思うので、そこで出てくる彼の表現は、とてつもないエネルギーを持っていると思うから、とても楽しみに、影響されながら見ていきたいなと思いますね」という質問、熱いエールが届いています。「いままでと同じで」とか「変えていこう」とかは考えたことはないんですよね。ただ『るろうに剣心』という作品が、ひとつ誇れるものであると同時に自分にとって“枷”にもなるであろうことは間違いなくて、今後、剣心以上の役、『るろうに剣心』以上の作品に出会いたいという想いはありますね。やっぱりみなさんにとって、(剣心という役の)印象は大きいでしょうし、「佐藤健の代表作と言えば…?」と聞かれて『るろうに剣心』と言う人が多いと思います。それは非常にありがたいことなんですが、同時にそれをぶち壊してやりたいなと思っています。剣心は「ずっと好きだし、切り離せない存在」――ここから改めて『The Beginning』について、お話をお伺いします。いまの質問をいただいた江口さんとは第1作からずっと共演されていますが、本作では時代をさかのぼって、幕末の人斬りと新選組隊士という、過去の作品とは異なる立場でした。実際に対峙されて、どんなことを感じましたか?やっぱりそこはシリーズ作品の醍醐味を感じましたね。同じ人物なんだけど、全然違う。そういう状況で対峙することができて、普通のひとつの作品では絶対に味わえない感覚があり、これが長く何作もシリーズを重ねてきた特別なものなんだなという思いを抱きながら芝居をしていました。――剣心と巴が一緒に暮らすことを決めるシーンは、原作でも印象的なシーンですが、映画の中で、殺伐とした幕末の空気を一瞬忘れ、温かさと愛情にあふれた現代のラブストーリーのようにも感じられました。あのシーンはどのように臨まれたんでしょうか?そういう感じになったのは、監督の演出の仕方がそういう方向だったのだと思います。僕もアニメを見たときから、あのシーンの剣心の申し出がすごく印象に残ってたんですよね。プロポーズというか、女性にそういうことを言うのって、照れくさいし勇気が要るし、できることなら逃げたいし、相手に言わせたいけど、それはズルいなと自分から言う――それは剣心らしい魅力的な部分だなと。だからこの『The Beginning』をやると決まったときから、あのセリフは絶対に言いたいセリフとして自分の中で決まっていましたね。すごくいいセリフですよね。――このリレーインタビューの1回目、『The Final』の公開前に佐藤さんにお話を伺った際、前回の『京都大火編』『伝説の最期編』から最終章までの数年の間の、剣心との距離感について「仲は良いけど会わない親友という感じですかね。そのくらいの距離感」とおっしゃっていました。今後、佐藤さんの中で剣心はどのような形で存在していくと思いますか?どうなんでしょうねぇ…?わかんないけど、変わんないと思いますよ。どこかにずっといて、ずっと好きだし、切り離せない存在ですよね。大人になるにつれて仲のいい友人と会う回数って減るじゃないですか? 若い時はいつも一緒だったのに。でも親友であることはずっと変わらない。そういう存在だと思いますね。(text:Naoki Kurozu)■関連作品:るろうに剣心最終章 The Final 2021年4月23日より全国にて公開© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final」製作委員会るろうに剣心最終章 The Beginning 2021年6月4日より全国にて公開© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会
2021年06月12日実写版『るろうに剣心』シリーズが『るろうに剣心 最終章 The Final』『るろうに剣心 最終章 The Beginning』をもってついに完結する。これを記念してシネマカフェではキャスト陣のリレーインタビューを敢行! 今回、登場するのは、“人斬り抜刀斎”の人生を大きく変えることになる女性・巴を演じた有村架純。主演の佐藤健に言いたいor聞きたいこと、さらにアンケートで寄せられた読者からの質問にも回答してもらった。※以下ネタバレを含む表現があります。ご注意ください。出演の理由「一緒に挑戦させていただきたい」――本作からの参加となりましたが、映画『るろうに剣心』シリーズ、もしくは原作について、どのようなイメージを抱いていましたか?私は『るろうに剣心』は映画で初めて拝見させていただいて、アクションといえば『るろうに剣心』が一番という印象を持っていました。(1作目の)公開当時は既にこの業界には入ってましたが、まだ技術的なところに関しては知らないことがいっぱいあって、とにかく圧倒されました――技術的なことなんて考えることもなく、ただ圧倒された思い出があります。それぞれの役者さんが演じられているキャラクター像、インパクトも本当にすごかったですね。作風も作品自体もキャラクターも。みなさんの熱量というか、インパクトや勢いがすごく強いというイメージでした。――ファンの間でも人気の高い幕末のエピソードで、しかも剣心の愛する存在である巴を演じることに決まった時の心境を教えてください。最初にマネージャーさんから話を聞いて、「はい、やります」とはすぐには言えませんでした。土足で足を踏み入れていいのか? などいろんなことを考えたんですけども、大友(啓史)さんと再びお仕事ができるという喜びのほうが自分の中で勝りました。健さんも共演したことのある方でしたので、一緒に挑戦させていただきたいなと思い、その覚悟の上でお受けしました。――巴を演じる上で大切にされたこと、意識されたことはどんなことですか?巴が清里(窪田正孝)と出会う前、出会ってからどういうふうに生きてきたのかなということを自分なりに想像して、清里のことを思いながらも、ただただ剣心に対する復讐心だったり、憎しみだったり、そういった微妙な気持ちの動きなどを常に思いながら撮影をしていましたね。あんまり余計なことは考えていなかったかもしれないです。巴は剣心に対する復讐心で生きているみたいな感じだったので、余計なことはあんまり考えず、剣心と過ごす日々を大事に生きていましたね。演じた巴役を回顧「苦しかったんじゃないかな」――有村さんから見て、巴という女性の魅力はどのようなところにあると感じますか?巴は決して強い人ではないと思うんです。けれども一輪の花のような美しさもあって、凛とした、凛々しい女性でもあって、すごく本当に言葉にするのが難しいんですよね。わかりやすいキャラクターでもないし、多面的な部分があるので。でも人としての危うさだったり、ツンっとつつけば崩れ落ちてしまうような脆さだったり、そういったところが、魅力なのかなって思ったりしましたね。――特に剣心と巴が一緒に暮らす日々の2人の様子がかわいらしくて印象的でした。あのシーンはどのような心境で臨んだのか? 撮影のエピソードなど教えてください。剣心と一緒に過ごせば過ごすほど、巴の中で自分を憎みそうになるというか、もともとはやっぱり清里を思って始めたことだったはずが、それが思いもよらぬ方向に行ってしまい、たぶん自分でも驚いていた日々だったのかなと思って…。剣心に対して想いを寄せても、清里への想いが消えるわけでもないし、かといってそれを美化することはできないし、常にずっと揺れ動いている日々だけど、人間ってずっとそういった嫌なことを考えて生きていないと思うんですよね。とある瞬間に忘れることってあって、それが2人で暮らす中でいっぱいあったんでしょうね、きっと。巴を演じながらも「あ、居心地がだんだん良くなってきたな」とか思う瞬間もいっぱいあって、だけど、ひとりになった時とか、ふとした瞬間にきっと清里のことが頭をよぎったりして、そういう葛藤の日々だったから、巴としては本当に剣心と一緒に過ごせば過ごすほど苦しかったんじゃないかなと思います。――クライマックスの剣心の頬に刃を立てるシーンは佐藤さんと打ち合わせなどはしたんですか?たしか前日にリハーサルだけやって、アクションを含めて2~3日かけて撮ったんですよね、場当たりをしただけで、全然打ち合わせとかは何もせずでした。――アニメとか原作漫画とかに近づけようとかそういう意識でもなく、2人でその場のやり取りの中で生まれたという感じでしょうか?そうですね。原作とはまたちょっと違いますもんね。そこは自然とそうなったっていう感じでしたね。佐藤健の意外な一面とは?――読者からの質問です。「巴の役は難しかったと思いますが、 撮影の合間、他のキャストの方と何をして過ごしていましたか?」とのことですが、基本的に佐藤さんとのシーンが多かったかと思います。現場でどんなことをお話されたんですか?夜遅くや、朝まで撮影することもあったので、お互いに眠気を誤魔化すように、合間に喋りながら過ごしていました…。でも、そんなに口数多くしゃべってはないですね。ぽつぽつお互い喋って…みたいな感じで。作品の雰囲気もありましたし、あんまりキャッキャッできるような感じでもなかったので、喋りたいときに喋っていた感じです(笑)。あと、お互いに食事制限をしていたのでお腹が空くんですよ。なんか嚙みたいなっていう時に、節分の豆、乾燥した大豆をジップロックに入れて持っていたので、それを2人でもぐもぐ食べてました。――もうひとつ、読者からの質問で、「『るろうに剣心』の共演者の方の意外な一面を見つけていたら教えてください!」とのことですが、これも佐藤さんになりますよね。そうですね。意外でもないかもしれないですけど、食事制限をしていたので、健さんは1日に1粒、2粒食べるチョコを楽しみに現場を過ごしていらっしゃったので、意外と甘いものというか、そういうものを食べるんだなって。あんまり甘いものを食べてるイメージが『何者』の時はなかったので、「あ、チョコレート好きなんだ」って思いましたね。その時だけかもしれないですけど。――「座長・佐藤健に今だから言えること、聞きたいこと」を教えてください。今作の撮影で健さんは、『The Final』を撮影してて、『The Beginning』を撮影した後て、また『The Final』の撮影に戻られてたんですよ。『The Final』の時の容姿と『The Beginning』では当然容姿も違いますし、そういう気持ちをキープする方法、メンタルとか集中力、持続力はどこからわき出てくるものなのか知りたいですし、聞いてみたいですね。(text:Naoki Kurozu)■関連作品:るろうに剣心最終章 The Final 2021年4月23日より全国にて公開© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final」製作委員会るろうに剣心最終章 The Beginning 2021年6月4日より全国にて公開© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会
2021年06月04日なかなか“映画館に行けない“コロナ禍。数ある動画配信サービスが勝負を賭け、それぞれの特徴を前面に打ち出してしのぎを削る中、この3月に映画館主導の配信サービス「おうちでCinem@rt」が誕生した。シネマートといえば、アジア映画、とりわけ韓国映画の紹介においては最も信頼のおける映画館の1つ。最新韓国ドラマやオリジナル映画ならNetflix、最近ではAmazon Prime Videoも力を入れ始め、U-NEXTでも独占配信作品を楽しめるが、シネマートが選んだ日本劇場未公開の映画や人気俳優の過去作品ならばお墨付き。そこで、「おうちでCinem@rt」の担当者に、サービスの魅力をたっぷりと語ってもらった。アジア映画に特化した動画配信サービス――「おうちでCinem@rt」はどんなサービスになりますか?おうちでCinem@rtは、アジア映画(韓国・中国・台湾 etc)に特化した動画配信サービスです。特に韓国映画をメインに、シネマート新宿・心斎橋に次ぐ第3の映画館としてオープンしました。また、劇場未公開作品をおうちでCinem@rt限定の先行プレミアム配信(毎月2本)としてお届けしております。検索機能としましては、タイトル・俳優名の他に国別表示、ジャンル(アクション・サスペンス・ラブストーリー・ホラー・ドラマ・コメディ etc)別に表示することも可能ですので、見たい作品がすぐに見つかるのも、他の動画配信サービスにない特徴の一つかと思います。料金は都度課金制、TVODのレンタル方式になります。先行配信1,200円(税込)※視聴可能時間、料金は作品によって異なります。新作550円(税込)(視聴可能時間:48時間)旧作440円(税込)(視聴可能時間:48時間)――「おうちでCinem@rt」を始めたきっかけを教えてください。シネマート新宿/心斎橋を営業する中、皆さまからのメール、Twitterなどのコメントで「なかなか映画館に行けなくなってしまった、行きたいんだけど…」というお言葉を頂戴する機会が増えました。「いつもあんなに通っていたのに…」「今はなかなかいけないんですよね」と…。そして同時にそのような状況の中、2021年でシネマート六本木(現在は閉館)、シネマート心斎橋とシネマート新宿の営業開始をしてから、15年が経ちました。この3館で上映されたアジア映画は、約3,000本以上。また昨今では、シネマート新宿/心斎橋のみで上映している作品が増えております。お客様の中には、遠方からわざわざお越し頂く方もいらっしゃいます。ですがやはり、このコロナの影響で劇場にお越し頂くことが困難な状況になり、どうすれば映像コンテンツを皆さまのもとへお届けができるのか?と考え、(株)エスピーオーは動画配信サービス「おうちでCinem@rt -いつでも・どこでも- 」を新たに運営開始することとなりました。ずばり、コンセプトは「第三の劇場」です。今後は、シネマート新宿/心斎橋のみで上映している作品をできるだけ早くにこの「第三の劇場」でも同時に配信をさせて頂く予定です。新宿や心斎橋には遠くてお越し頂けない皆さまや、おうちでの時間を楽しむ皆さまへ、「過去15年間で上映したアジア映画」や「もっと昔の作品たち」を、今後は少しずつ配信してまいりますのでお楽しみいただければと思っております。また、この動画配信サービスは日本で公開されていないアジア映画もご覧いただけます。配信と劇場運営は「相互で補っていく」――「おうちでCinem@rt」を開始して、どんな変化が起きましたか。サービス開始(3月12日オープン)して2か月が経ち、難しい状況が続く中、劇場にお越し下さるお客様がいる一方で、おうちでCinem@rtをご利用になるお客様もある一定数いらっしゃいます。数多く動画配信サービスがある中、おうちでCinem@rtは特定のジャンル(アジア映画)に絞ることでより身近にアジア映画を感じて頂けるのではないかと思います。もちろんご覧頂ける環境はお客様の自由ですので、昼下がりのカフェ、お風呂、トイレ、勉強の小休憩、電車の移動中など場所は問いません。お好きな時間、場所でご鑑賞いただけます。ただこのサービスを利用するにはミレールアプリをスマートフォンにダウンロードし、新規登録(無料)する必要があり、日頃から動画配信サービスを利用する方でしたら問題ないのですが、初めての方には難しいと思う方もいるようです。対策としてはTwitterにてご利用案内をお知らせ、ご利用ガイドチラシを劇場に設置、劇場でマンツーマンでご説明、ご案内するなどできる限りの方法で少しずつ解消できればと考えます。また劇場未公開作品を先行プレミア配信として行っております。劇場公開を迎えるまでに先行配信し、劇場にお越しになることが難しいお客様にご利用頂くことで、より多くのお客様にご覧頂けます。3月は『愛の終わり、私のはじまり』、4月『ガラスの庭園』『鬼』、5月は『消えた時間』『あなたの頼み』が先行配信に該当します。6月以降も続々配信予定です。――配信と劇場運営の両立について、お考えをお聞かせください。おうちでCinem@rtオープンから2か月が経ち、少しずつですが認知されご利用頂くお客様も増えてきております。最近では劇場が休館中に作品同時視聴会を実施し、お客様と一緒に作品の感想や実況を行ったところ、「休館中だからシネマートで観ている感覚を味わえた」という声も頂き、動画配信サイトからおうちでCinem@rtで一歩映画館に近づく感じになるかと思います。また配信で作品を鑑賞し、同時に作品の関連商品(パンフレット、DVD、その他オフィシャルグッズ)をオンラインショップCINEM@RT STOREでご購入頂くことで、実際に映画館に来ているかの様な感覚を体感して頂くことができます。劇場が存在することで、おうちでCinem@rtの告知が行えるという利点もあり、相互で補っていく存在で進めていければと考えます。おすすめ作品の見どころ――「おうちでCinem@rt」で視聴可能な作品で、ご担当者様の「これは必見!」というおすすめ作品があれば教えてください。『消えた時間』です。ベテラン俳優チョ・ジヌン初監督作品として、2020年に韓国で公開されました。田舎の村で謎の火災事件が発生し、刑事ヒョング(チョ・ジヌン)が捜査を行うにつれ、村人のある違和感に気付き始める…。ある日目が覚めると一瞬にして、家族、家、仕事が消え、自分の人生が全く別の人生に入れ替わっていた。ヒョングは自分の人生を取り戻せるのか。自分の存在、生きることの意味とは――。いままでにない韓国映画を是非体験してみてください。おうちでCinem@rtでは現在、609本のアジア映画を絶賛配信中。今後も定期的に、新作・旧作を配信予定。(text:cinemacafe.net)■関連作品:愛の終わり、私のはじまり 2021年4月23日よりシネマート新宿、シネマート心斎橋にて公開© 2013 SOO FILM, DAISY ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVEDガラスの庭園 2021年4月9日より「おうちで Cinem@rt -いつでも・どこでも-」にて配信©2017 LITTLEBIG PICTURES. All Rights Reserved鬼 2021年4月30日より「おうちで Cinem@rt -いつでも・どこでも-」にて配信© 2010 Generation Blue Films. All Rights Reserved.
2021年05月28日70年代ロンドンのパンクムーブメントを背景に描かれる、エマ・ストーン主演『クルエラ』。その予告編が公開されると「エマ・ストーンのクルエラがかっこよすぎ」「エマだと分からなかった」と、ディズニー史上最悪といわれるヴィランへと見事な変貌を遂げたエマに注目と称賛の声が集まった。そんな彼女のヘアメイクを手掛けたのは、エマも出演した『女王陛下のお気に入り』(ヨルゴス・ランティモス監督)で英国アカデミー賞(BAFTA賞)やヨーロッパ映画賞のヘア&メイクアップ部門を制したナディア・ステイシー。本作で、エマ演じるエステラを白と黒が象徴的なヴィラン・クルエラに大変身させた彼女は、ヴィヴィアン・ウエストウッドやアレキサンダー・マックイーン、ジョン・ガリアーノなど独自の感性を持つデザイナーたちに加え、ドラァグ・アーティストやドラァグ・クイーンたちからもインスピレーションを受けたことを語ってくれた。エステラからクルエラへ…同じジャーニーを辿るかつてグレン・クローズが『101』(1996)で演じたクルエラ・デ・ビル。ナディアは彼女について、「敬意を払う必要がありました。私も愛していますし。アニメーションや同作が、私たちの知るクルエラを作ったのです。けれど、それらのルックにこだわる必要はありませんでした。反抗的でルールを破るという雰囲気をとらえればよかったんです」と語る。「最初に出てくるときのクルエラは、かなりクラシックなクルエラと言えます。髪型はボブだし、グレン・クローズの全体像に近い。ネイルもグレン・クローズのネイルを真似しています」と言う。とはいえ、本作はクルエラ誕生までを描く“オリジンストーリー”。「クルエラが自分を見つけていく話で、グレン・クローズのルックに到達するときには、彼女は自分を完成させているのです」。また、変貌を遂げる前のエステラに関しては、「エマと話し合って、できるかぎりリアルなルックにすることにしました」と言う。「エステラは1970年のロンドンに育った若い女性。どこにでもいる、普通の女性だと、私たちは決めました。彼女には個性もあるけれども、ヘアとメイクアップはあの時代に則していて、ちょっとパンクっぽさを感じさせる程度。クルエラに変革していく時に、変革がはっきりとわかるようにするためです。私たちもクルエラと一緒にそのジャーニーを辿れるようにするため」と語る。「実際、私も、エステラと同じジャーニーを辿っているように感じました。エステラは自分自身を見つけようとしています。自分の中にいるクルエラを。彼女はレッドカーペットのイベントに行って大胆なルックスを披露してみせますが、私も同時に新しいルックス、肌触り、ジュエリー、ヘアスタイルなどを試して、クルエラというキャラクターのパーソナリティを見つけようとしていたんです」と続け、「私は、映画のクルエラと同じジャーニーを辿っていました」と明かす。また、ヘアとメイクが人を変身させるという意味で「すばらしい例」と名前を挙げたのが、デヴィッド・ボウイだ。「彼はヘアとメイクでデヴィッド・ボウイからジギー・スターダストになりました。クルエラも同じことをやっています」。ドラァグから「多くのことを学びました」さらにナディアは、「ドラァグのメイクも参考にしました。ドラァグのアーティストも。彼らも特定のパーソナリティ、違うバージョンの自分を創造していますから。あるシーンで彼女はエステラで、周囲に溶け込んでいて誰も注意を払わないのに、夜になると全然違うルックになってクルエラとして現れるというコンセプトが、私は好きでした」と語る。彼女は、エマと組んだ『女王陛下のお気に入り』ほか、アンソニー・ホプキンスが本年度アカデミー賞を受賞した『ファーザー』、80年代中頃の英サッチャー政権下を舞台にした『パレードへようこそ』、ソノヤ・ミズノ主演×アレックス・ガーランドのSFミニシリーズ「Devs」(原題)など数多くの作品を手掛けてきたが、ドラァグ・クイーンに憧れる高校生を描いたミュージカル映画『ジェイミー!』(原題:Everybody’s Talking About Jamie)でもヘアメイクを担当している。『ジェイミー!』舞台版の主演で、本作『クルエラ』ではアーティを演じているジョン・マクリーと仕事をしながら「『クルエラ』をやる直前に、ドラァグについて多くのことを学びました」とナディア。「イギリス人のドラァグ・アーティストでデヴィッド・ホイルという人がいますが、彼のドラァグにはパンクっぽい要素があって、大好きなんです。また、アクエリアというドラァグ・クイーンが大好きなんです。メイクが本当にすごく美しいんですよ」とも語る。アクエリアといえば、「ル・ポールのドラァグ・レース」シーズン10のウィナーで、いまやファッション界の新たなアイコン的存在となっている。「私は撮影中に、『ル・ポールのドラァグ・レース』をよく見ていました。彼らが、完璧なヘアとメイクで登場する素晴らしい瞬間があるんです。その後で彼らは部屋に戻って、すべてのメイクを取ります。そうすると、メイクの下の彼らがどれほど違うかということにいつも驚かされます。カリスマ・ファッションデザイナーのバロネスに、(クルエラが)エステラだと気づかれないよう、違ったキャラクターを見せるためにメイクを使うのは、とても合っていると思いました」。「勇敢になって、記憶に残るものを作りたかった」そうして完成していったクルエラ像。ナディアは撮影を「ものすごく大変でした」と振り返る。「(出てくる度に)まったく違うルックなんです。完全に違うヘアで、完全に違うメイク。だからチャレンジは、どこまで押すか、ということでした。どこまで大きくやるのか?そして、いつ止めるかをいつ知るのか?(笑)。なぜなら、あまりにたくさんの自由がありましたから。確実に信ぴょう性があるものにするのが大変でした。そして、いつもインパクトがあるものを作ることが大変でしたね。私は、勇敢になって、記憶に残るものを作りたかったんです」と明かす。シーンごとのルックによって違いはあるが、「ヘアとメイク全体で、多分1時間半くらいかかったと思います。ブラック・アンド・ホワイトの舞踏会のときの赤いドレスとマスクとフェザー、ジュエリーをつけているルックには、多分もう少し長くかかった」という。だが、ナディアを奮い立たせたのもまた、クルエラというキャラクターだったようだ。撮影中、「もっとも印象に残っているのは、私が初めて彼女をクリエイトした瞬間でした。私たちが、初めてクルエラのメイクをして、ウィッグをつけたとき。エマ(・ストーン)はイスに座っていました。そして、彼女の(クルエラの)声を試すために、違う話し方で話し始めたのです。あれは、本当にとても特別な瞬間でした。なぜなら、すべてはそこに向けて積み上げてきましたから。すべてのリサーチや、すべての準備とか、すべてをね」。何週間にわたり準備を綿密に重ねても「目の前にいる女優のヘアやメイクを実際に見るまでは、それが本当にうまくいくかどうかはっきりわかりません。だから、エマが突然クルエラに命を吹き込むのを見ることができて、とても素晴らしかった」と、記憶が蘇るかのように振り返る。そんなエマが命を吹き込んだクルエラについて、「彼女は勇敢だと思います。彼女は多分、自分の少し悪いところを積極的に受け入れるように努めていると思います。少し規則破りの側面をね。そういった強さやエンパワーメントがあると思います」とナディア。「トレイラーがリリースされたとき、人々の反応がそういうものでした。『ワオ。これはディズニー映画にしてはクレイジーだ』っていうものでしたから。彼らは、こういう作品だと予想していなかったんですよ。私はその点が大好きです。それが(クルエラの)魅力だろうと思います。人々は、(映画で)見るものに驚くことになると思いますよ」と、言葉に期待を込めて続けた。「誰にでもなりたい人になれるという自由があれば」特にお気に入りのルックを聞いてみると、「それはいつも変わります(笑)」と言いながら、「大きなレッドカーペットのシーンは大好きです。彼女がやって来て、レッドカーペット上でとても大きな注目を集めるところ。また、顔中にジュエリーをつけて、ゴミ収集車に乗っているところも」と応じる。「彼女がアニータのオフィスに助けてくれるように頼みに行くときのルックも大好きですね。あのルックは、衣装と共にとても簡潔だと感じます。あのルックのすべてが。彼女は、黒のチェックの衣装を着ていて、ヘアもメイクもすべてが…彼女は本当に素晴らしく見えると思います」と自ら太鼓判を押す。そして最後に、本作がコロナ禍に公開されることにも意味があるとナディアは語る。「私たちは、いろんな規則によってすごく抑えられてきました。だから、私たちが(コロナ禍から)抜け出し始めるとき、誰にでもなりたい人になれるという自由があればいいなと思いますし、それはクルエラにもうまく合っていると思いますね」。「私はすでに、インスタグラムで(クルエラを)再現したルックを見ています。人々がそういうことをしているのを見るのはとても楽しい。そうやって人々がメイクで遊んでいるのを見られるのはね。なぜって、私たちはノーメイクで、家にずっと閉じこもっていたから。この映画が、人々が外に出かけ始めるようになったとき、もっと勇敢なルックに挑戦してみることをインスパイアするといいなと願っています」と語り、日本の観客にも「何か勇敢なことをやりましょう」とアドバイスを送る。「勇気を出して、ルックに挑戦してみて。ルールブックは捨てて、何か違うことをやってみるんです。そして、アイメイクが濃すぎないかとか気にしないで。強烈なアイメイクでも、強烈なリップと合わせることができます。勇敢になって、実験してみて」と、“勇敢になることを恐れないで”というメッセージを伝えてくれた。(text:cinemacafe.net)■関連作品:クルエラ 2021年5月27日より劇場にて公開、2021年5月28日よりディズニープラスプレミア アクセスにて配信© 2021 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
2021年05月28日実写版『るろうに剣心』シリーズが『るろうに剣心 最終章 The Final』『るろうに剣心 最終章 The Beginning』をもってついに完結する。これを記念してシネマカフェではキャスト陣のリレーインタビューを敢行! シリーズ完結への思い、いまだから言える“あの”話、主演の佐藤健に言いたいor聞きたいことなどについて語ってもらい、さらにアンケートで寄せられた読者からの質問にも回答してもらう。今回、ご登場いただくのは斎藤一を演じる江口洋介。『The Beginning』で新選組時代の斎藤を演じての感想や、斎藤のトレードマークとなっているタバコへの熱い思いなど、たっぷりと語ってもらった。斎藤一は「死神のようなイメージ」――今回、これまでのシリーズから時間をさかのぼって、幕末の「新選組三番隊組長・斎藤一」を演じましたが、維新後ではなく、この時代の斎藤を演じるにあたって意識したことを教えてください。『The Final』までの4作は斎藤一ではあるんですけど、(維新後に)藤田五郎と名前を変えて、警察に身を置いているというスタンスで、そこで斎藤なりの「悪・即・斬」を貫いてやってきたんですが、今回の『The Beginning』では新選組というところに身を置いていた時代でして。新選組といってもいろいろ表現がありますけど、『The Beginning』では武士に憧れ刀を持ち、腕っぷしに自信のある人間がある思想の下で相手を斬りつけていくわけですからね。ものすごく残虐であり「悪」と「正義」というひと言では表せない、死への恐怖を感じさせない部分をリアルに考えてやっている部分はありました。斎藤は(維新後と)髪型も違いますし、衣装も新選組の(一般によく知られている)誠と書いてある水色に白みたいなものとはまた違ったデザインになったんですよね。「死」を覚悟してるというか、死神のようなイメージで自分ではやらせてもらいましたけどね。見たことがない新選組っていうのを意識していました。よくよく掘り下げていくとそっちがリアルじゃないかなと僕は思っていたんで、ちょっと全然違った気分で演じていましたね。いままでのシリーズはアクション映画っていう感じだったんだけど、これはもうちょっと“気配”の映画というかね、役作りも全然違う考え方をしましたね。同じシリーズとは思えない別の作品をやっている感じでした。――今回、新選組隊士として、敵同士の関係で佐藤健さん演じる剣心と対峙された感想を教えてください。ずっと一緒にやってきてるんですけど、今回の『The Beginning』での立ち位置がまた全然違うので、こっちは新選組、向こうは長州の用心棒みたいな感じで、お互いの思想が全く違う敵役ですよね。2人ともある種、その時代の最も底辺にいる人間だと思うんですね、戦という部分では。そういう意味では似た者同士という感じもあり、斎藤はそこで“同じ匂い”のする人間を確認してしまったんだろうなという感覚。それからは、剣心をずっと追い続けていくような人生で、斎藤は斎藤で新選組の時代が終わって、(維新後は)警察に身を置いていて、ちょっとスパイ的な要素もこの人間は持っていて、新選組時代もそういうエピソードがあるらしいですけど…。剣心も、ある意味で(かつての人斬りという姿を)カモフラージュしたような存在でもあって、そこから始まる2人の関係っていうのを噛みしめながらやってましたね。(維新後を描くシリーズ)4本が、ここから続くんだなっていうスタートとして。「タバコと刀」は「斎藤には切っても切れないもの」――2012年から10年近くにわたって(数年を間に挟みながら)ひとつの役を演じ続けてみていかがでしたか? シリーズを通じて、最も印象深い出来事、エピソードなどを教えてください。漫画原作の実写化ということで、最初はどういう世界観になるのかまったくわからずにスタートしてるわけです。立ち回りもこんなスピーディな映像になるとは知らずに。でもアクションのトレーニングをしてて、普通の時代劇にはならないなっていう、アクションをメインにした漫画原作なんだけれども、ある種リアリズムを持って、そこに存在するかのように俺たちがやらないと、これはうまくいかないんだろうなと思いながらやっていました。最初にやった剣心との立ち回りのシーンは覚えていますね、まだ。雨の中でね、(維新後に初めて剣心と斎藤が)出会った後なんですけども、剣心は「もう斬らない」という意思で、斎藤は「悪は斬る」という。一度、人斬りとして生きた人間は不殺には行けないはずだという、斎藤の思想があって。シリーズ冒頭ですれ違うシーンですね。そこは印象深く覚えてます。あとは、毎回強力な敵が出てきて、日本を揺るがすという。そういう意味では立場は違っても同じ正義という、立ちはだかるものを潰していくっていう意味では一緒だったんですけど。まあ“同志”のような感じでね、やってくんだけど。あとは『The Beginning』ですかね。最初に出会って剣を合わせなかったところのシーンが上手くつながっていれば、後は大丈夫だろうというような思いでしたね。そこは大事にやったつもりですし、いまでもやはり印象深いですね。――「るろうに剣心」シリーズがこれで終わってしまう、斎藤を演じるのが最後になってしまうことへの寂しさはありますか?そうですね、しばらくはタバコ吸わなくていいんだろうなっていう…(笑)。でも、もともと、ヘビースモーカーで、昔は自分のところに来たあらゆる役をタバコ吸う設定にしてもらって、ドラマでも映画でもバンバン吸ってましたね。タバコを吸う芝居に慣れてるっていうか、喋りながらタバコを吸うことはよくやってきてるんですよね。ある時期から(武士にとっての)刀じゃないけど、タバコを劇中で吸う事が難しい時代になって、(このシリーズで)また得意なタバコを吸えたんでね、俺としてはこの役はどんどん広げられたつもりではいるんですけど、「タバコと刀」というのは斎藤には切っても切れないものですね。そういう意味で芝居をするにしてもすごく印象的だったし、ここまで深く関わった作品も初めてだったんで、寂しさはありますよね。終わってしまった寂しさっていうのはありますけど、やり切った感もあります。――読者からの質問で「タバコを吸いながら戦っているところがカッコいいです。実際に吸いながらアクションをしてるのですか?」、「タバコを落とさずに演技する上で難しかったこと、困ったことなどがあれば教えて下さい」など、タバコに関する質問が多かったんです。あれは実際に本物の巻きタバコを使っていて、本当においしいタバコを自分で選んで、それを現場に持って行って巻いてもらって吸ってるんですけど。(普通、撮影では)ネオシーダー(※タバコと同じ形状で微量のニコチン・タールを含んだ、咳止めの医薬品)とか偽物のタバコとかをよく使うんだけど、煙の出方が全然違うし呼吸も変わっちゃうんだよね、火薬部分が多すぎて。ちゃんとゆっくりブレスして、本物のタバコを味わいながら芝居をするという、その味わい深さが斎藤の人を煙に巻くようなムードを出しているんじゃないかなと思って。本当に一本一本味わって吸いながら撮影していました。さっきも言いましたけど、自分でもタバコを吸いながらいろんなことをやっていたしね。タバコをくわえながら何か作業していたり、車とかバイクが好きだったんでバラしたり、掃除したり、料理したりとか。時代もあると思うんだけど、タバコ吸いながら何かをするっていうのが何の抵抗も難しさもなかったんですね。ただ「ここで捨てよう」とか「ここであれしよう」とか、そういう間はなんとなく自分で決めてやってはいましたけどね。『るろ剣』チームは“戦友”のような存在――「座長・佐藤健に今だから言えること、聞きたいこと」を教えてください。そうですね。デビューしてすぐの頃は、『仮面ライダー』をやってた男の子という、まだ色が付いていない俳優さんだったと思うけど、やっていくうちにどんどん主役として、座長としてね、成長する姿を見てきて…。俺なんかもそうだったけど、作品がヒットすると、それが自分にとってずっと枷となってしまって、それとの戦いになってくると思うんです。シリーズがヒットしたプレッシャーを感じながらずっとやってきていると思うし、たぶん、これから先も重圧となるし、また逆に彼の俳優としてのパワーにもなると思います。ヒット作があるっていうことはすごく怖いことでもあって、それをこれから噛みしめてやっていくんだろうなっていうような感じはすごくしますよね。本当に現場では、剣心と斎藤のような寡黙な2人なんで、そんなに雑談もせず、撮影の打ち合わせはしますけど、そういったようなことは撮影中に話すことはなかったですけど、彼を見ていてそういうふうに思いますね。聞いてみたいことは、(役者として)ここからどっち側に振っていくのか? どっち側の役をやっていくのか? 同じことをずっとやり続けるのか、真逆なこと、例えばコメディなんかをやりたいって思うのか…今度はこれ(『るろうに剣心』のヒットのイメージ)を壊していく作業になっていくと思うので、そこで出てくる彼の表現は、とてつもないエネルギーを持っていると思うから、とても楽しみに、影響されながら見ていきたいなと思いますね。――最後に改めてご自身にとって、映画『るろうに剣心』シリーズ、そして制作チームはどういう存在ですか?このシリーズを通じて江口さんが得たものを教えてください。10年、ほぼ一緒のスタッフで、『1』がヒットしたら次『2』、『3』とよりハードルを上げていかなきゃならない、もう追っかけっこみたいなことで、さっきの健くんの話じゃないけど、支持されればされるほど、その次はそれを超えていく事への戦いになるわけで…。毎回、全力でやってるんだけど、もっと全力でやらなきゃいけない、っていうことで最後までやってきた仲間なので、どの現場で会っても、そのときのモードになるというか、もう同じ映画作りの戦場を共にした、“戦友”的な感覚ですよね。そういう意味では、他の作品とはちょっとレベルが違うっていうか、大変さ、時間、制作費、能力、俺たちの熱量っていうものが、普通の作品づくりとはあまりにもかけ離れている『るろうに剣心』独特の熱があるんですよね。でも結局、みんなこの物語が好きなんでしょうね。この物語が好きで、この物語をどうリアルに現実化させて、どう届けるかっていう。映画を観た人が興奮して、夢にまで出てきちゃったっていう話を聞いたりするんだけど、ただのエンターテイメント、活劇で楽しいよっていうだけじゃなく、こんなふうに生きていた人間が昔はわんさかいたんだよっていうような、武士に対しての憧れみたいなものをもたらした作品なんだなと思います。でも『求める』ということは、そういうことであって、それは若い子たちにも通じていると思うんですよね。そんなふうに感じてね、楽しんでもらえたらいいなって思います。特にこういう時代ですからね。(text:Naoki Kurozu)■関連作品:るろうに剣心最終章 The Final 2021年4月23日より全国にて公開© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final」製作委員会るろうに剣心最終章 The Beginning 2021年6月4日より全国にて公開© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会
2021年05月28日世界で一番有名な日本人アーティスト、葛飾北斎の生涯を映画化した『HOKUSAI』。青年期を柳楽優弥が、老年期を田中泯が担当し、W主演を果たした本作では、北斎がその才能を開花させるまでのもがきと、人気絵師になってからがダイナミックに、肉厚に描かれている。北斎について、青年期についての資料はほぼ残されておらず、柳楽さんが演じる時代は、史実と照らし合わせながらも、オリジナル色の強い脚本に仕上がった。ゆえに、映画を観て「えっ」、「へ~」と多少の驚きと新鮮さを持って楽しめる。柳楽さんが演じたならではのスパイスも、たぶんに効いているのだが。「演じるにあたっては、監督と話し合って僕たちの北斎像を作り上げていきました。北斎は世界中にファンがいる日本を代表するアーティストなので、正直怖いという気持ちもありました(苦笑)。これまで過去に作らた葛飾北斎に関する映像作品を観た印象では、北斎は割と骨太で無骨な印象だったり、ワイルドなイメージが強かったんです。今回、演じさせていただくことが決まって、役柄を通して調べていくと、実は、知的で、情熱的な一面もあった人だったのではないかと思いました。“彼を突き動かしたその原動力は何なんだろう、すさまじいパワーを持つ人だな”と感じていました」。パワフルさは、柳楽さんが憑依したとも言いたくなる、北斎が一心不乱に筆を取る姿に現れている。実のところ、北斎は、当時人気を誇っていた歌麿(玉木宏)や写楽(浦上晟周)に追いつけず、嫉妬と自信喪失でさまよい、たどり着いた海で自らの才能と五感を呼び覚ましたのだ。柳楽さんの演技と北斎のアイデンティティが合体するような、強いインパクトを残す海のシーンは、必見だ。演じた海での出来事を、柳楽さんは北斎目線でやさしく言葉にした。「北斎は“今、すごくいい絵が描けるぞ” というモチベーションで、海に向かったわけではないのか、と僕は思ったんです。納得いかないとか、悔しいとか、ある意味、絶望的だったと思いますし、そこには、アーティストならではの感情がありそうな気がしたんです。監督と僕たちとで、“これだ”という気持ちを持って撮影しました」。「オリジナリティを大切にする」ことへの思い、と葛藤北斎を演じ切り、完成作を観て、ふと感じたこともあったと柳楽さんは話した。「以前、番組でアメリカの『アクターズ・スタジオ』に行かせていただいたのですが、演じる上で、自分自身が経験した哀しかったことや、少しネガティブな感情を引き起こして表現するという、メソッドアクティング(演技法)を勉強したことがあったんです。映画は、哀しい、淋しいという感情が共有されて、少しホッとする様なところがあって、それが良さでもあるのだと思うんです。アーティストや表現者たちは、一見ネガティブとも思える感情から、美しいものを生み出すことができるエネルギーを持っているんだなと、感じたんです」。そして、青年期の北斎は、「ただ描きてぇと思ったもんを、好きに描いただけだ」と言い、美人画が全盛の時代に、波と富士を主題にした「江島春望」で勝負に出て、結果、江戸を席巻していく。今の時代に望まれる、オリジナリティを大切にする、自分らしく、というワードとも通じている印象を受ける。「ニュースなどで“自分らしく生きるとは何か”という問いかけを見て、僕自身は、“自分らしく生きられている方なのかな…?”と思えることもありますが、俳優をやっていると、台本があって、セリフを読んで、そのキャラクターについて考えていく作業なので…日々、葛藤しています(笑)」。監督の望みに寄り添いながら、自分のオリジナリティを出すような演技も披露していく。一朝一夕にはいかない、高度な技術の話だ。「言われたことに応えるのは大事なことだと思っているので、僕は、 “演出されたい”と思うんです。その大切さを理解しながらも“AIのようにはなりたくない”と思うところもあって。2020年を機に、僕個人としての考え方をより明確にさせて、普段のインプットを充実させたいなと考えるようになりました」。そんな柳楽さんが今インプット、というよりも、気分転換にしていることといえば「ピアノ」だと即答した。「今月(※取材日、2021年4月)から始めたばかり。ピアノ教室に通っているんです。先生から“ここはもっと繊細に弾きなさい”と、指導していただいていますね(笑)」と、照れくさそうに微笑んだ。しかし、役者としての感覚を忘れないのも柳楽さんの特色。「俳優でよかったなと思うのは、(役として)いろいろ習う機会があることです。自分がどうステップアップしていくのかが、何となくわかるというか。“あ、できない…”という感じになると、“はいはい、きたきた、コレね!”と実感する瞬間があるんです!」、課題を課題とも思わず楽しそうに超えていく柳楽さんの話を聞くと、どことなく天才肌の北斎に通ずるところがあるような気がしてしまう。「褒められたらうれしい!」けど…引き締める気持ち、柳楽優弥の本音誰もが知る、実力派俳優と世間にも認識されている柳楽さんだが、20代の頃には、「どんな役であってもいただいた役を一生懸命やりきることで認められて、主演を勝ち取っていきたい。主演として呼ばれるようになりたい」という、強い意志も秘めていた。30代に入った今、有言実行を体現している。「10代のときは、ある程度の経験値と、想像力の引き出しを増やすことが必要だと思っていたので、“脇役をやりたい”と思う時期もありました」。「けど」と、柳楽さんは紡ぐ。「いざ、こうしてまた主演をやらせていただくようになってからも、怖いと思うことはあるので、あまり変わらないのだと思います」。演じるということに対して貪欲で、役や作品に対しての理解を突き詰めている、慣れないことへのプライドを持っていると、柳楽さんの言葉を聞いているとわかる。「もちろん、褒められたらうれしいです(笑)。でも、褒められて“ああよかった”と満足してしまうと、人って、怠けてしまうものじゃないですか?例えば、柔術の世界で帯の色が上がったとしても、改めて気を引き締めていきたいというか。自分の経験から常に気を引き締めないとていけないなと思っています」。(text:赤山恭子/photo:Jumpei Yamada)■関連作品:HOKUSAI 2021年5月28日より全国にて公開©2020 HOKUSAI MOVIE
2021年05月24日「階段というものは、人が落ちるために作られている」――。映画に携わる様々な人たちに話を伺う「映画お仕事図鑑」。今回、登場いただくのは、冒頭の言葉に代表される凄まじいまでのアクションへの愛(※本人は著作にて“アクション脳“と表現。ちなみに本のタイトルは「アクション映画バカ一代」!)を持ち、日本を代表するアクション監督として世界をまたにかけて活躍する谷垣健治。谷垣さんといえば、スピードと迫力に満ちあふれたアクションを生み出し『るろうに剣心』シリーズを成功へと導いた立役者のひとり。大学卒業後に単身、香港へと渡り、現地でキャリアを積み、その実力を認められていったという谷垣さん。日本中、いや世界を熱狂させたあのアクションはどのようにして生まれたのか?『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』の公開を機に話を聞いた。スタントマンに憧れ香港へ――そもそも谷垣さんがアクション監督を志すようになったきっかけ、経緯について教えてください。もともと、小学生の頃からジャッキー・チェンや新日本プロレスで活躍したタイガーマスクといったフィジカルな人たちが大好きだったんですね。ジャッキー・チェンをきっかけにいろんなアクション映画を見るようになって、それでスタントマンに憧れて香港に行って…。かいつまんで言うと、そんなことがきっかけですね。ただ“スタントマン”と言っても香港映画の場合、単にアクションをやるだけでなく、作品作りにコミットすることがすごく多いんですね。スタントマンでも編集室に連れて行かれて意見を求められたり、「カメラやれ」とか「この役をやれ」と言われたりするお国柄なんです。僕は、スタントですごいことをやって「おぉっ!」と言われるのも好きだったんですが、やっていくうちに自然と「(アクションそのものを)作る」ほうが面白いなと思うようになったんですね。ロールモデルとなる存在もたくさんいました。ジャッキー・チェンはもちろん、サモ・ハン、ユエン・ウーピン、それからドニー・イェンもそうですね。名前を見ただけで、撮る画が想像できるくらいの“色”を持っている人たちがいました。映画監督でそれぞれに色やスタイルを持っている人はたくさんいますが、それと同じくらいの“濃さ”を持っていて、彼らを見ながら僕はキャリアを築いていくことができて、アクション監督というものに面白さを感じることができたんですよね。――著書「アクション映画バカ一代」では突然、香港に渡ってジャッキー・チェンの撮影現場に行った時の様子もつづられています。何のツテもないままに言葉も通じない外国でスタントマンを目指すという谷垣さんの行動力に驚かされますが、不安や恐怖はなかったんでしょうか?香港にはスタントマンやアクション監督になるための養成学校みたいな、そういうシステマチックなものが存在していなかったんでね。なかったからこそできたのかな(笑)。行くしかない、みたいな。日本では大学に行きながら大阪で「倉田アクションクラブ」(※俳優・倉田保昭が主宰するアクションの養成所)に3年半ほど通っていて、アクションにはそれなりに自信はあったんですね。当時、京都の撮影所の時代劇の撮影にも参加したりもしてたんですけど、やっぱり香港のアクション映画のアクションとはタイプが違うわけです。じゃあ、自分が(倉田アクションクラブで)やってきたことをどう活かしたらいいか? という話です。ちょうど大学3回生の頃、周りはみんな就職活動をしてたんですけど、僕はそこじゃなくて、やっぱり一度、香港でやってみたいって気持ちが強かったんですね。それで1991年の9月に勝手に香港に行ったんです。それ以前に1989年にも一度、香港には行ってたんですが、ただのファンとして行って、撮影現場を見て「すげぇっ!」って言って、帰ってきた感じでした。日本でアクションクラブに入るのはその直後の話です。二度目の時は、ここに住んで働くにはどうしたらいいのか? ということをリサーチしに行ったんですね。現地のイエローページを見て「こんな仕事があるのか」と「映画の制作会社ってこんなにあるのか!」とか、実際に家の賃貸物件を見て「こんなに高いのか」と驚いたり。そこで、たまたまジャッキー・チェンに会う機会があって、自分の技を見てもらったりもしたんですけど…(苦笑)。結局、93年になって本格的に現地に渡って住みはじめるんですけど、道筋がないので、やってみないとわからないというのはありましたよね。まあ、客観的に見たらおかしな人ですよ。アクションをやりたいってだけで、何のツテもないのにいきなり香港行くって(笑)。ただ、ちょうどその当時、サッカーではカズさん(三浦知良)が活躍してて、あの人は自分でブラジルに渡って現地でプロになって、日本に戻って来たんですよね。それから野茂(英雄)さんもアメリカに渡ってメジャーリーガーになって活躍していました。おそらくみなさん、そういう人たちの気持ちは理解できるんじゃないですか? 野球選手がメジャーリーグに憧れたり、サッカー選手がプロを志したりするという。僕からしたら、香港行くということは彼らと同じベクトル、目線だったんですよね。自分がやってきたアクションというのは香港が本場だったので、そこで自分を試してみたいという。とはいえ、(働くための)システムみたいなものは何もないし、言葉も広東語という中国語の中ではローカルな言語で、日本では学ぶところもなくて、そこは現地に行ってからの部分だったので、とりあえず行ってみたという感じですね。そしていまに至る(笑)。――本場に渡って、そこで現地の人々に実力を認めさせるというのは本当に凄いことだと思います。それだけ追い詰められていたというところもあったと思いますね。そのまま国内でスタントマンをすることもできたかもしれないけど、周りの同級生たちが就職活動をしている中で、ちょっと河岸を変えるじゃないけど「環境を変えて挑戦する」というのを、自分の中の就職しないエクスキューズにしていたところもあったのかな…といま振り返ると思いますね。当時の日本の映画の状況を見ていて正直、このまま国内でやってもスタントマンという職業に未来はないなという思いもありました。それならまだ22歳なので、香港で挑戦してみて、ダメだったとしても、現地の言葉くらいは覚えたら、なにかしら生きてはいけるんじゃないかなと(笑)。『るろ剣』は転機となった作品――その後、香港の名だたるアクション監督、スターたちの現場で研鑽を積まれて、スタントマン、アクションコーディネーター、そしてアクション監督、監督として活躍されるようになります。ご自身の中でアクション監督として“一人前”になったという手応えをつかんだのはいつ頃ですか?単に「生活していける」ということなら2000年代初期でしょうが、アクション監督として「自信」が持てたという意味では『るろうに剣心』ですよね、やっぱり。――大学卒業後に本格的に香港に渡ったのが1993年で、『るろうに剣心』の公開が2012年ですから、約20年を経てですね。それまでにも数々の作品に携わられてきたかと思いますが…。自分でどんなによくできたと思っても、世間の反応や評価がないとなかなか自信にはつながらないですよね。おっしゃるように、それまでもたくさんの作品に関わってきて、その都度、いろんな形で満足を感じることはあったんですけど、第三者から認めてもらうという部分も含めて言うとやっぱり『るろ剣』なのかな?「生活できる」というのとはまた違って自分の中で満足するものができて、それを周りからも認めてもらえたという意味でね。もちろん、満足というのも、あくまでもその時点での満足に過ぎないんですけど。――『るろうに剣心』というのはそれだけ特別な作品なんですね。自分にとっての良い“名刺”になったというのかな?自分の中で「イケてる」と思えるものを作り、それを見た人たちにも「イケてる」と感じてもらえたという幸福な交わりがあって、それは自信につながりましたね。実際、『るろ剣』があったからこそ、その後、いろんな国からオファーがあり、たくさんの大きな作品に関わらせてもらえるようになりました。それ以前にも中国やアメリカで仕事をしたことはありましたが、それは誰かの下についての仕事でしたから。香港映画でドニー・イェンの主演作を監督するようになるなんていうのは、93年当時の自分にとっては考えられなかったことです。この間気づいたんですけど僕は、『るろ剣』以降のこの10年間で、邦画の仕事は『るろ剣』シリーズ以外では『新宿スワン2』しかやってないんです。それは、日本以外のいろんな国から呼んでもらえたということ。なぜかというと、みんなきっかけは『るろ剣』を見てくれたからなんですよね。それくらい転機となった作品なんです。――谷垣さんがやられてきたのは、香港のアクション映画の系譜のアクションですが、『るろうに剣心』で主に描かれるのは、日本の剣術ですよね? そこにズレや難しさはなかったんでしょうか?それはあまり感じなかったですね。大友啓史監督がもともと香港映画を面白がって見てくれていたというのもありましたしね。日本の映画界においての僕の印象って一般的に「香港でアクションをやっていたカンフーの人でしょ?」という感じだったんですよ。ちょっとバカにするというか、ニヤニヤしながら亜流のものに対する目線というか。日本の映画人はそういう時にすごく意地悪になりますから。そんな中で、大友監督は僕のことをすごく理解してサポートしてくれたんですよね。おかげでやりやすかったし、香港でも中国でも時代劇はあるので、あまりそこでアクションそのものに差を感じることもなかったですね。アクションに対する“理屈”さえ合っていれば全然、問題ないんですよ。僕の言うアクションの理屈というのは、単純です。・ちゃんと相手を狙う・相手の攻撃を待たない・“パワー”をしっかりと表現するこの3つです。シンプルですけど、これができてるアクション映画はそんなに多くないです。これがしっかりとできているなら、日本映画でも香港映画でもハリウッド映画でも変わりません。最初に大友監督に言ったのは、日本のチャンバラでよくある“つばぜり合い”っておかしいよねっていうこと。相手の頭を狙って剣を振り下ろすんじゃなくて、2人の間の空間で剣と剣を合わせるだけのつばぜり合いはおかしい。そもそも当たらないとこ狙いに行ってるんだから避けなくてもいいじゃん、って(笑)。(自身のスマホを手に取り)携帯が鳴ったら、自分の耳元に持ってくるのが自然でしょ? わざわざ(顔の前にスマホを突き出して)こうやって、額に携帯を持ってくるなんて動きはしないでしょ? それくらい不自然なことが日本のアクション映画では行なわれていて、「何だこりゃ?」って思ってました。そうじゃなくて、常識的な動きで剣を振り下ろし、相手を攻撃しに行く――僕がやったのは、そういうことをちゃんとするということ。それだけです。その意味では日本映画だろうと香港映画だろうと変わりません。――2014年の『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』を見た子どもたちが、剣心の壁走りをマネするようになったという話もありました。主演の佐藤健さんが舞台挨拶で「練習すればできるようになります」と壁走りの練習のコツを熱く語っていて、子どもたちがマネしたくなるアクションというのは、この映画の持つ大きな魅力だなと改めて感じました。そこなんですよね。見た後に思わずやりたくなるという。その要素がないといけないと思うし、そのために剣心のトレードマークとも言える動きだったり、ちょっとしたクセ、大人が見てもその気になるようなことをアクションでも入れたかったんです。壁走りやドリフトもそうです。そう感じてもらえるのはありがたいですね。「アクション部のスタッフって、トレーナーというよりはカウンセラーに近い」――ここから、具体的に映画のアクションシーンの作り方についてお聞きしていきたいと思います。制作側から谷垣さんにアクション監督としてオファーが来たら、その後、どのようにしてアクションシーンを作り上げていくのでしょうか?『るろ剣』を例に説明すると、アクション練習にも2種類あるんです。いわゆる“アクション練習”と“リハーサル”なんですが、前者は俳優たちとコラボレーションをする上で、その人がどういうことが得意でどんなことが苦手かを見させてもらうための時間ですね。俳優の個性を理解し、同時にこちらの考え方を理解してもらうための時間でもあります。演技における“本読み”に近いものかもしれません。まずは基本的な動きを練習しつつ、そのキャラクターの特徴的な動きを再現してみます。僕らの言葉で“おかず”という言い方をするんですが、そのキャラクターに合ったちょっと派手な動きを探ってみたりするんですね。もちろん、そこでフィジカル能力を上げてもらうことも大事ですが、とはいえ、フィジカルの能力なんてそう簡単には上がりませんから、むしろその人を理解し、得意な部分をすごく伸ばしてもらうというのがここでの主な目的ですね。「身体がやわらかい」「ジャンプ力がある」「以前、こんなスポーツをやっていた」――そういったことを踏まえて、剣を持ってもらっていろんな動きをしてもらい、それをカメラに収めます。1日で2時間くらいやったとして、それを1分か2分くらいの動画に編集して監督や俳優本人に見てもらいます。僕らがあれこれ言うより映像に写ってるもの、それが全てですから。そうすると、それを見て自分がイケてるかイケてないか? もっと言うと、自分がそのキャラになれているか否かがわかるわけです。それを受けて、本人も次の練習の機会までにいろいろ考えて、練習してきて、そうすると次の練習の機会が発表の場になるんですね。そこでまた新たなことを試して、考えて…というのを繰り返していきます。監督からも「この動き、いいね」「カッコいい」「すげー!」とかダイレクトな反応が返ってきます(笑)。それを受けて、こちらも「じゃあ、この動きを取り入れよう」「この動きをもっと伸ばしてみよう」となるわけです。そうやって、徐々に立ち回りも長くなっていくんですけど、そうすると当然、ミスも出てきます。そのミスをした瞬間に本人のクセや個性が見えてきて、それがまた面白いんですね。こっちで全てを決めてしまうと、決め事にしかならないけど、その人から何気なく出てくるものがキャラクターに活きてきたりするんです。例えば左之助(青木崇高)であれば、楽しくなると舌を出すんですけど、そういうクセや個性を見つけて取り入れるようにしています。そうしているうちに、そろそろロケハンも終わって、セットの図面もできてきて、徐々に立ち回りも固まってきます。それを役者さんに移していく作業がリハーサルですね。アクション練習からやっている動きではあるんですけど、それをきちんとした立ち回りとして前後を作り上げていく。微調整しながらしっかりと形にしていきます。よくある勘違いで、アクション練習というと、役者さんたちが一列に並んで素振りをして…という図を想像する人が多いんですが、そういうことじゃないんです。別に剣道の大会に出場するわけじゃないんでね。大友監督がよく言ってたのが「アクション部のスタッフって、トレーナーというよりはカウンセラーに近いよね」ということ。俳優がキャラクターに近づくための相談を受けつつ「じゃあ、ここまでできたので、次回はこんなことをしてみましょうか?」と処方せんを渡すという感じですよね。もちろん、本読みであったり、衣装合わせであったり、役者が役に近づいていく機会はいくつもあるんですけど、『るろ剣』に関してはまずアクション練習を通じて、役者それぞれがキャラクターにアプローチしていきます。――『るろうに剣心』の場合、原作の漫画があり、剣心であれば「飛天御剣流(ひてんみつるぎりゅう)」という流派の剣術を使い、龍槌閃(りゅうついせん)、九頭龍閃(くずりゅうせん)などの必殺技が登場します。リアリティとの兼ね合いなども含めて、そうした必殺技の存在はどれくらい意識されてアクションを作っていったんでしょうか?意識しつつ、意識しなくなることもあったりします。ひと通りは試してみるんですよね。ただ漫画なので、実際にやってみると、ほとんどは“言葉負け”してしまうんですよね。――原作では文字で「飛天御剣流 龍槌閃」と情報が出てきます。技としては、大きく飛んで斬るという感じですよね。動き自体は「龍槌閃!」と言わなきゃ、立ち回りの中で普段から普通に使われてしまってる要素なので、そこは少し見せ方を変えるようにしました。龍槌閃であれば、必ず「POV(=Point of View)」――つまり、相手側の目線で撮るようにしました。画としては、剣心がこちら側(=カメラ)に向かって高いところから飛び降りて斬り伏せてくるイメージですね。そうすることで、映画を観るお客さんは、そのアングルも含めて「龍槌閃」として認識してくれるんですよね。子ども向けの番組で毎回、必殺技のシーンは同じ画が使い回されるのと同じです。そうやって“見せ方”で工夫していかないといけない部分は多かったですね。実際にアクションで素で再現できるのはこの「龍追閃(りゅうついせん)」と「龍巻閃(りゅうかんせん)」くらいじゃないですかね? あれは相手の攻撃をかわして打ち込む技なのでできますけど。「九頭龍閃」は大変でしたね(苦笑)。漫画では「一、二、三、四、五…」って漢字で出ますけど、そういう漫画やアニメからのアダプテーション(脚色)、落としどころを探るというのはひとつ、大きなテーマでした。漫画、アニメ、小説、映画…それぞれのメディアの特性によって、同じシーンでも描き方は当然、変わってくるわけです。漫画では「一、二、三、四、五、六、七、八、九」と描かれていますけど、もしかしたら漫画というメディアで伝えられる“動き”の限界があったのかもしれないし、それは原作者の和月伸宏先生が実写化したとしても、漫画とは違う表現になっているかもしれない。最終的には「九頭龍閃」は実直に九方向に打ち込むのをやってますが、実写ではそれが力を持つんですね。実写版『るろうに剣心』で大切にしたのは、原作に敬意を払うと同時に、原作のコマとコマの間に存在するであろう細かな動きをこちら側で補い、作っていくということでした。原作と実写が補完し合うのが、一番幸せな関係なんじゃないかと思いますね。原作を大切にしつつ、とはいえ原作に引っ張られ過ぎないで、きちんとフィジカルで見せる。そうすることで、原作を読んでいる人も「これは九頭龍閃かな?」とか感じてもらえるんじゃないかと。――『るろうに剣心』シリーズを見て、アクションに関わりたいと考える若い人たちも多いと思います。今後、日本の若い人材に期待することなどはありますか? 谷垣さん自身、今後、やってみたいことなどがあれば教えてください。アクションというのは、どこの国の人が見ても伝わるという強みがあります。もちろん、日本映画でもいろんな人材が出てきてくれたらいいなと思いますし、僕が出会ったような個性豊かなアクション監督――それぞれがカラーを持って、観客が「このアクション監督の映画なら観たい!」「このアクション監督なら信用できるから観よう」と思ってくれるような存在が育ってきたらいいなと思います。ただ、映画界全体の話で言うなら、“日本映画”という枠にとらわれずに、どこにでも行ってほしいなって思います。僕自身、ちょっとカッコつけて言うと「お金とカメラがあるので撮ってください」というところに身ひとつで行けたらいいなと思っています。実際、この10年、身ひとつでいろんなところでやってきて、そうするといろんなところにネットワークができるんですね。互いの交流が深い分、意外とスタント、アクションの世界なんて狭いんですよ。実際、今回の映画でやってたチームはいま、別の作品のためにベルリンに行ってるし、僕もこれから中国、バンクーバーでの撮影が控えてます。日本映画はもちろん大切ですけど、そういうボーダーにとらわれずに、どこにでも行ってできたらと思っています。【プロフィール】谷垣健治(たにがき けんじ)1970年生まれ。奈良県出身。倉田アクションクラブでアクションを学び、1993年に香港に渡る。ドニー・イェンら現地のアクション監督の下で学び、アクション監督となる。「香港動作特技演員公會Hong Kong Stuntman Association」に所属する唯一の日本人。主な参加作品に『るろうに剣心』シリーズ、『モンスター・ハント王の末裔』、『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』(2021年7月全米公開)など。2020年には監督作『燃えよデブゴン TOKYO MISSION』が公開された。(text:Naoki Kurozu)■関連作品:るろうに剣心最終章 The Final 2021年4月23日より全国にて公開© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final」製作委員会るろうに剣心最終章 The Beginning 2021年6月4日より全国にて公開© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会
2021年05月21日取材現場にて、無造作に配置された椅子を眺め、松坂桃李は「おっ、椅子がたくさんですね~」と微笑んだ。そっと腰をかけた後、カメラマンから「ひとりの時間を感じてください」とリクエストされる。すると松坂さんは了承したような笑みを向けた後、すっと表情を抜いた。表現者の顔になるスイッチの切り替えはごく自然で、ひとりだからこそのけだるいムードが瞬時にあたりに漂った。やがて、どことなく色気も宿した松坂さんが、ファインダー越しに切り取られていく。ごくわずかな時間でも仄見える、「相手の望むことに応えたい」という思いは、スチール撮影であろうと、インタビュー取材であろうと、変わらない。だからこそ、作品に出演する際、その姿勢はより顕著になり、全身全霊を懸けた演技が、私たちの心を感動と衝撃でいつも揺さぶり離さないのだろう。松坂桃李が再会したい俳優は、役所広司、樹木希林、菅田将暉…「挙げるとキリがない!」本人が望むか、望まないかは別として、松坂さんは今や賞レース常連の俳優だ。20代で「がむしゃらに」積み重ねた作品群は、実となり、32歳の自身の背中を押すものとなった。第44回日本アカデミー賞授賞式では新人俳優賞のプレゼンターを務め、「ひとつひとつを積み重ねていくことで、再会も増えてくる仕事。現場での再会を望みます」と、実感がにじむメッセージを伝えていた。そんな松坂さんこそ、今、作品で再会したい人は誰なのか、聞いてみた。「いやあ、いっっっぱいいます!まず、役所(広司)さん。あと、(樹木)希林さんとは、もう1回ご一緒したかったですね。年齢は違いますけど、ほぼ同じ時期に事務所に入った菅田(将暉)とも、『キセキーあの日のソビトー』以来、映画をやってないからまたやりたいですし。同世代で言えば、岡田将生、濱田岳ともやりたいですし、本当にいっぱいいますねえ。もちろん、『いのちの停車場』で関わった俳優部の皆さん、吉永小百合さんをはじめ、またご一緒したいです」ここまで一気にしゃべると、「挙げるとキリがないですよね(笑)」と頭をかく。中でも、最初に名前が挙がった役所さんは、『孤狼の血』におけるバディが記憶に新しい。劇中の継承よろしく、プライベートでもつながっているのかと思いきや、「実は連絡先は知らないんですよ」と松坂さん。「『孤狼の血 LEVEL2』の方言指導の沖原一生さんが、役所さんのお付きをやられている方なので。沖原さんが役所さんとやりとりをしているので、経由で写真を撮って送ったりしまして。“楽しみにしとるけぇ!!”みたいな感じのやりとりは、ありましたね」と、何とも幸せそうに交流を伝えてくれた。充実のキャリアのあとは、こうした何気ない会話の端々からも、うかがえるものだ。30代からのキャリアプラン「役や作品に対しての深掘り、もっとしっかりしてみたい」かつて自身がそうだったように、若い世代の波や勢いといったものを、松坂さんも感じているのだろうか?「いや~、もう、めちゃめちゃ感じます。それこそ、新人賞を受賞された皆さんも、本当に魅力的だし、エネルギッシュだし、透明感もあれば鮮度もあるし、素敵だなあって」と目を細める。「だからこそ、自分も本当にそうした素敵な方々に負けないように…というか、同じ作品で出会ったときに、しっかりとその作品を一緒に作られるだけの実力を、ちゃんと自分も備えていかないといけないと思いましたね」。奢る姿勢が0なのも、まったくもって松坂さんらしい。とりわけ20代後半はチャレンジングな役と作品を選び取っていた松坂さんだが、30代に入った今は、どのような備えをしているのか、していくつもりなのか。未来のプランが気になるところだ。「自分の中で、役や作品に対しての深掘りを、もっとしっかりとして作品に入っていくのを少しずつ増やしていきたいと思っています。だから、時間がかかったりするので、たぶん…本数としては少なくしていくと思うんですね。でも、それは30代のうちにやっておくべきことだと思って。ひとつ、ひとつの作品に対してじっくりと向き合っていくのが、30代の10年の過ごし方ですかね」。これまでも正面から作品に向き合ってきた松坂さんだが、時間をかければ、何かが変わる?もっと、もっと見えるものがある?「どうなんですかねぇ。時間をかけたからいいお芝居につながるかと言うと、100%そうでないかもしれませんけど、試す時期でもあるというか。やってみたら、また違う何かが見えてくるかもしれないですし。向き合う期間があればあるほど、どういう風に自分はこの役に対してアプローチを仕掛けるかとか、物理的な時間を費やしてみたら、選択肢が増えるのかなと思っています」。「何が一番自分にとっての核なのかを見つめ直す瞬間が、大事なんだなと思います」松坂さんの最新出演映画は、吉永さん主演のヒューマン医療巨編『いのちの停車場』。在宅医療を行う「まほろば診療所」に勤める、元大学病院の救命救急医・白石咲和子(吉永さん)を追って、同じ診療所で運転手として働き始める野呂聖二を演じた。「野呂は、咲和子先生がいた病院で迷惑をかけてしまったので、どこかでやっぱり恩を返したい思いもあり、背中を追いかけていくんです。咲和子先生を通して在宅医療を見て、物事に向き合っていきたいと変わっていく…そのグラデーションを丁寧に積み重ねていければいいなぁ、と思いながらやっていました」。大学病院の状況とは異なる在宅医療の現場に、四苦八苦しながらもくらいついていき、患者との心の距離を縮めていく。責任感が芽生えていくその姿は、野呂の成長物語にも映る。中でも、トレーラーでも流れる、末期の膵臓がんを患う元高級官僚の宮嶋一義(柳葉敏郎)とのシーンは印象的だ。松坂さん自身も、感慨深いものがあったと話す。「柳葉さんが僕の手を握るんですけど、急に強く握ったり、弱く握ったり、だんだんだんだん力強く握ったりして…言葉ではないやりとりが、なされていました。そこから、いろいろなプレゼントをもらえた気がしたんです。だから、自分が想像していた以上の、野呂の中で何か感情が沸き上がったのかもしれません。本当に、お芝居ってひとりじゃできないことがたくさんあるし、想像“外”のところで成り立っていく面白さがあるといいますか。対人(たい・ひと)とやることによって、心のやりとりとか、言葉だけじゃないものが人をつなげていく感じが、あのシーンでは起こった気がしましたね」。このように、本作では様々な患者の人生が描かれており、「いのちのしまい方」について思いを馳せるきっかけにもなる。イコール、どうやって生きていきたいか、自身の生き方を今一度考えたくなる映画でもある。本作に携わったことで、松坂さん自身がどのような生き方をしていきたいか、感じたりもしただろうか?「日々当たり前の日常、小さな幸せの積み重ねが、いのちをしまうときに、どれだけたくさんしまえるかどうかを、改めて自分の中で向き合うきっかけになった作品でした。自分が今までしていた当たり前の小さな日常が、やっぱり幸せなことだってちゃんと思える作品ですね。僕にとっての小さな幸せは、本当に、毎日朝を迎えることができる、ごはんを作って食べることができる、眠ることができる、ドライブすることができる、とかですかね(笑)」。健やかな表情で、松坂さんは続けた。「本当に、人間は、ほかの生き物と違っていろいろな感情が芽生えるし、考えることができるし、立ち止まることも、進むこともできる。生きやすいように頑張ってみたものの、結果、生きづらい世の中にしているのも人間だったりしますしね。だから、何が一番自分にとっての核なのかを見つめ直す瞬間が、大事なんだなと思いますね」。(text:赤山恭子/photo:You Ishii)■関連作品:いのちの停車場 2021年5月21日より全国にて公開©2021「いのちの停車場」製作委員会
2021年05月17日実写版『るろうに剣心』シリーズが『るろうに剣心 最終章 The Final』『るろうに剣心 最終章 The Beginning』をもってついに完結する。これを記念してシネマカフェではキャスト陣のリレーインタビューを敢行! シリーズ完結への思い、いまだから言える“あの”話、主演の佐藤健に言いたいor聞きたいことなどについて語ってもらい、さらにアンケートで寄せられた読者からの質問にも回答してもらう。第4回は、本作からの出演となる、剣心の前に立ちはだかる最強の敵・雪代縁を演じた新田真剣佑!今作のアクションは「ひとつひとつが挑戦的」――今回、雪代縁を演じることが決まった時の気持ちを教えてください。最初にお話をいただいたのは撮影の2年前でした。当時は、本当に続編があるのか半信半疑でしたが、2年後、本当に話が進み始めたので「いよいよか」と思い、身が引き締まる思いでした。――演じる上で、縁の内面に関して、どういう部分を大切に演じられましたか? 特に大切なセリフ、やり取りなどがあれば教えてください。縁はもともとすごく心優しく、お姉さん思いで正義感の強い青年でした。角度を変えて見てみると、剣心と縁、どちらが悪なのか、決めつけることができないです。とにかく自分の信念を貫き「これが正義だ」と信じて生きてきた男を演じようと思いました。――佐藤健さん演じる剣心と剣を合わせてみて、どんなことを感じましたか? これまでもいろんな作品でアクションは披露されていますが、今回、アクション監督を務めた谷垣健治さんによるアクション演出はいかがでしたか?とにかくアクションシーンは楽しかったです。日本映画の最高レベルのアクションができて幸せでした。撮影中、谷垣さんのアイディアにはいつも驚かされました。迫力のある数々の動き、そしてひとつひとつのかっこよさ。できなかったことはなかったですが、ひとつひとつが挑戦的で、いつもワクワクしながら演じていました。座長・佐藤健に「続編やりませんか?」――現場で共演者のみなさんとどんな話をされたんでしょうか? 現場でのエピソードや思い出深い出来事などを教えてください。アクションシーンを撮影中、元号が平成から令和に変わる瞬間を、みなさんと一緒に見ていたのを覚えています。そしてその後、アクションシーンを撮影しているうちに疲労が溜まり、みなさんがだんだんと無口になっていったという思い出があります。――「座長・佐藤健さんに今だから言えること」を教えてください。続編やりませんか?――読者から寄せられた質問です。縁は、剣心の住む平和な世界を破壊しようとしますが、いま真剣佑さんが良い意味で壊してみたいなと思うものはありますか?毛根(笑) 「AMサロン」というサロンを始めたので通って美肌になりたいです。(text:Naoki Kurozu)■関連作品:るろうに剣心最終章 The Final 2021年4月23日より全国にて公開© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final」製作委員会るろうに剣心最終章 The Beginning 2021年6月4日より全国にて公開© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会
2021年05月14日実写版『るろうに剣心』シリーズが『るろうに剣心 最終章 The Final』『るろうに剣心 最終章 The Beginning』をもってついに完結する。これを記念してシネマカフェではキャスト陣のリレーインタビューを敢行! シリーズ完結への思い、いまだから言える“あの”話、主演の佐藤健に言いたいor聞きたいこと、さらにアンケートで寄せられた読者からの質問にも回答してもらう。第3回は、剣心の頼れる相棒・相楽左之助役の青木崇高!役作りのスタートは肉体からのアプローチ――足掛け10年にわたって左之助という役と向き合ってきました。ここまで長く役と付き合うことはなかなかない経験だと思いますが、映画『るろうに剣心』シリーズ、そして左之助という役柄は青木さんにとってどういう経験であり存在だったのでしょう?本当に特別だと思いますね。こんな凄いものが詰まったとんでもないプロジェクトに出会えるっていうのは、どんな仕事のジャンルにおいても、幸せだと思うんですよね。自分のキャリアにおいて、とんでもなく大きな意味を成すと思いますし、喜びですよね。幸せだと思っています。もちろん、結果として“10年”になっている訳であって、パート1の時はここまで見据えている訳ではなかったです。ここまでの作品が続いたのは、現場はもちろんですが、関係者のおかげであったり、公開された後も、多くの人に支えられたからだと思います。本当にそう感じますね。――左之助役は基本的にテンションが高めで、フィジカルで勝負するキャラクターですが、毎回、役に入る際のスイッチとなるルーティンであったり、続けてきたことなどはありましたか?パート1の撮影前は、パンチの出し方からアクションの練習を始めました。そこから少しずつキャラクターをつかんでいったんです。僕のそれまでの作品では、資料を集めたり、分析したりと、“心”から作ることが多かったんですけど、左之助に関しては、自分で動いて、動いて、動いて…その中でキャラクターを作っていく、肉体からのアプローチでキャラクターを作っていきました。だから、何年経ってもその動きを繰り返せば、キャラクターや精神が蘇ってくるというのを感じました。もちろん衣装や髪型もそうですし、スタッフの顔や神谷道場のセットを見てもそうです。だからキャラクターに戻れるかどうかという不安はなかったですね。――パート1のアクションの対戦相手は、元格闘家の須藤元気さんでしたが、パンチを習うところから始めたんですね?そうです。大丈夫かなって不安もありましたけど、いろんなアクションシーンで助けてもらって、なんとかキャラクターを成り立たせることができたかなと思います。大友(啓史)監督とパート1を携えてロスに行った時の現地のお客さんの反応がすごく面白くて。各キャラクターが出るたびに拍手したり口笛を吹いたりしてくれて、左之助のキャラクターもすごくウケていたので、もし続編やるなら、海外の人ももっと楽しめるようにと意識もしていました。“陽”のキャラクターで明るく照らす――過去作で左之助が「お前の傷を治すのは俺の役目じゃない」というセリフを言った際、海外の観客が「よく言った!」という感じでメチャクチャ盛り上がったという話を大友監督がおっしゃっていました。原作も含め、国内・海外を問わず人気の高いキャラクターですね。(登場人物たちは)暗い過去を背負っているじゃないですか。“陰”のキャラクターが多い中で、左之助は数少ない“陽”のキャラクターなので、そこは明るく照らさないといけないなと思っていました。もちろん彼は単純なヤツじゃない。思いやりのある明るさを持っているっていうのは物語の中でも必要なんじゃないかなと思います。保育園の先生から手紙をもらったことがあるんですが、不登校だった子どもが大好きな左之助を見たことによって、学校に来るようになったというのを知りました。自分自身、こういう声をもらえるっていうことに感動しましたし、左之助やこの映画にはそんなパワーがあるんだなってとても嬉しくなりました。老若男女、国内外を問わず通じるような、憎めない気持ちのいいキャラクターがあるとするなら、それを探っていたと思いますね。――読者からの質問ですが、佐之助以外に演じてみたかったキャラクターはいますか? オーディションの時点に立ち戻って「好きな役を選んでいいですよ」と言われたら…?自分的にはやっぱり左之助しか考えられないですけど…僕、切れ味のいい刀は振ってないんですよ(※左之助が拳以外で使う刀は巨大な“斬馬刀”)。だから真剣の殺陣ができるなら誰でもいいからやりたいなっていうのはありますね。吉川晃司さんが演じた刃衛は、しびれるほどかっこよかったなと思います。「俺がやっても…」っていうのはありますけど(笑)、剣心を相手に一度ちゃんと切れる刀抜いてみたいですね。――シリーズを通して一番大変だったシーンは、どの作品のどのシーンでしたか?結構どれも大変でしたので一番を挙げるのはなかなか難しいんですけど「(撮影を)朝までやった」とか「昼までやった」とかありましたね。本当にどの戦いも大変だったんですけど、毎回アドレナリンがドバドバ出てるって感じですね。脳内のアドレナリンがなかったら、撮影が成り立たなかったんじゃないかというくらいアドレナリンに助けられてました。アクション撮影後は、自分の体をさすりながら「お前、よう頑張った」「ようもった!」と労っていました。アクションにおいて、心にブレーキをかけてる映像って本人が一番わかっちゃうんでやりたくないんですよ。だから多少のケガなら仕方ないと覚悟を決めてやっていました。しかしどれもハードでしたね…。全てのアクションが終わって、メイクさんたちに体中の血のりを落としてもらっている時は涙が止まらなかったですね。全部終わったんだっていうのを体と心で感じましたね。左之助にひと言「お前も相当強いぞ!」――そんな左之助の、今回の最終章における魅力、見どころについて、ネタばれがない範囲でお願いします!喧嘩屋という彼のキャラクターだと思うんですけど、拳にこだわっている以上、(刀での戦いに)ついていけないところがあるのかもしれない。けど、だからこそ見える彼の精神性というか…。剣心が「ただいま」と戻ってくる場所はやっぱり神谷道場だし、剣心だけでなく、薫、弥彦、恵にとってそういう場所が大切だと思いました。そこを守ろうとするキャラクターの強さが見どころじゃないかなと思いますね。「つれねぇこと言うんじゃねーよ」とか「水臭いじゃねーか」といった言葉は、左之助のキャラクターをよく表しているんじゃないかなと思いますね。――作品としては今回で最終章となりますが、左之助に対して青木さんから何かひと言いただけますか?本当に素敵な人だと思います。やっぱり剣心と出会ったことで、攻める強さだけでなく、守る強さも知ることができたんじゃないかなと思いますね。その強さに関しては、お前も相当強いぞ!っていう思いはありますね。けど少しは防御も学べと(笑)。いつまでも恵(蒼井優)に治してもらってるだけじゃなくて。――シリーズが終了してしまうこと、左之助にさよならすることに対しての寂しさみたいなのはありますか?他の作品で感じるような寂しさはないですね。それより続いたことが奇跡に近いと思うので、その感謝や喜びとかが勝ってますね。10年も経ったわけで、個人的な感覚では当時のアルバムみたいなのものになってる部分もあるんですよ。ロケやキャストやスタッフさんとの思い出とかもありますし。作品を観たら、何度でも反芻できて個人的に楽しめるところはあると思います。「また続編を…」と話が来ても、同じことを思うんじゃないですかね。「こんな作品に出会えるなんてお前、幸せだぞ」「やるしかねーだろ!」って。そう言い聞かせると思います。それだけ自分にとって特別な作品だっていうことです。――改めて『るろうに剣心』チームというのはどういう存在でしょうか?クレイジーでファンキーで、本当に楽しい最高な仲間たちの集団だと思います。いろんなものが逸脱した…(笑)。ぶつかり合える喜びがある、本気な人たちっていう感じですね。――座長・佐藤健に今だから言いたいこと、聞きたいことがあればお願いします。いろんな現場を主演として背負ってると思うんですけど、ずっとクールに佇んでいるんですよ。それはとても大変なことだし、ストレスやプレッシャーも感じると思います。「ちゃんとバカやってる?」って聞きたいです。(text:Naoki Kurozu)■関連作品:るろうに剣心最終章 The Final 2021年4月23日より全国にて公開© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final」製作委員会るろうに剣心最終章 The Beginning 2021年6月4日より全国にて公開© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会
2021年05月07日「お芝居への挑み方が、『完璧にやりたい』から『完璧だとつまらない』に変わってきているんです。最初から正解を決めてそう“見せかける”のは絶対嫌で、ごまかしなしで、本気でその感情になりたい」日本中の誰もが知る俳優・安達祐実は、穏やかながらもはっきりと自身の変化を語り、ほほ笑んだ。4月23日からHuluで一挙独占配信されたオリジナルオムニバスドラマ「息をひそめて」での取材時のことだ。『四月の永い夢』(18)や『わたしは光をにぎっている』(19)など、国際的に評価される俊英・中川龍太郎監督が、『そこのみにて光輝く』(14)や『まともじゃないのは君も一緒』(21)の脚本家・高田亮と組んだ本作。2020年の春、多摩川沿いを舞台に、コロナ禍の“いま”を8つの物語で紡いでいく。夏帆、三浦貴大、瀧内公美、光石研、斎藤工といった実力派が集結し、変わりゆく時代の中で、懸命に生きる市井の人々を演じた。その中の1エピソード「君が去って、世界は様変わりした」で安達さんが扮したのは、マッチングアプリで知り合った若者・宮下心平(村上虹郎)とひと時の時間を共有する女性・松崎妃美。お互いにほとんど素性を明かすことなく、ただ孤独を埋め合うふたり。コロナ禍でよりいっそう痛切に響く「ぬくもりの尊さ」を、繊細に描いた美しくも切実な作品だ。日常が一変してしまった世界で、役者としての生きざまを貫き続ける安達さん。そんな彼女に、作品の舞台裏と共に「役者としてのいま」を聞いた。村上虹郎との“心地よいぎこちなさ”初めて台本を読んだ際「すごくいいお話だと思いましたし、説明しすぎないところに演じる余地を感じました。言葉で語られずとも、そこに流れる空気が伝わってくる」と、“物語への愛着”と“役者としてのやりがい”の両面で惹かれたという安達さん。配信作品だから、という意識はなかったというが「配信作品に、自由で上質なものがどんどん増えてきましたよね。俳優が活躍できるフィールドが広がった感覚はあります」と「時代に合っている」表現を歓迎する。彼女が出演した「君が去って、世界は様変わりした」は約30分の作品で、撮影期間は3日間。決して潤沢に時間を使って撮影されたわけではないのだが、作品の中に流れる豊かな空気感は、我々が生きている日常と地続きにつながっている。どのようにして、作り上げていったのだろう?「私は監督とお会いしてお話ししたり、相手役の方と合わせてみたりして決める、くらいのゆるさで臨んでいるんです。ただ今回は、もう少し役の背景を知りたいなとも思っていて、そうしたら中川監督が衣装合わせでお会いした際に『恋愛事情』『どんな仕事をしているか』『いまどんな状態か』をきちんと説明してくださいました。実際の映像では描かれないけど、私たちの間では共有して持っていましたね」そのうえで安達さんは、「作品の空気感は、中川監督の現場の雰囲気から生まれたものかもしれません」と語る。「中川監督は静かに演出してくださる方で、同じ空気感をスタッフの皆さんも持っている感じがしました。ただ、本番中に『いまのテイクがしっくり来たな』と思うと、中川監督も『よかったですね』と言って下さって、同じ感覚を持てていたことが嬉しかったです。しっかりと芝居を観てくれるし、気になったときには『ここではどういう感情を持っていますか?』とまず聞いてくれる。とてもありがたかったです」。また、「(村上)虹郎くんも中川監督と似た空気感があった」とも。「夕方からの撮影の時『今日は何していたんですか?』とぽつぽつ質問してくれて。『子どもの幼稚園の行事に参加した』と伝えたら、中川監督と2人で『そうか、安達さんの中にはそういう世界もあるんですね』と語っていたのが新鮮でした。あと、私はそんなにたくさん映画やドラマを観ていないんですが、彼は『語る以上は中途半端は嫌だから、ちゃんと知っておきたい』とものすごくたくさん観ていて詳しくて、その辺りの話も聞きました。少し距離はあるんだけど、お互いにちょっとずつコミュニケーションをとろうとするぎこちなさと心地よさが、作品にちょうど良かったように思います」自分が抱いた感情を覚えておいて、演技の際に引っ張り出すここまでの話で、ひとつ気になる部分があった。それは、安達さんが役に挑むうえで「ゆるさ」を大切にしているということ。個人的には、俳優・安達祐実といえば生粋の技巧派であり、憑依型の名優であるイメージが強い。いわば、「ゆるさ」とは対極にあるように思う。そうした考え方は、昔から持っていたものなのだろうか?「途中から変わっていきました。最初の頃は、不安もあって『完璧に決めていきたい』と思っていたんですが、そうするとそれしか出来なくなってしまうんです。ある程度余白があるほうが、現場で面白いものが生まれやすいと気づいてから、自分自身もすごく楽に仕事をできるようになりました。人って、一つの人格だけじゃないじゃないですか。色々な感情があって、見えているのはあくまで一面。それもあって、決め込まないようにしたんです。その都度その都度、監督から求められるものにも対応できるようにいたいですしね」なるほど、とはいえ気になるのは、その“表出”の源だ。余白をあえて作った状態で現場に行き、臨機応変に「そこで生まれた感情」を演技として出していく。相手役との化学反応や、監督の演出によって柔軟に変化させていく秘訣とは何だろう?「昔から、自分が実際に抱いた感情を覚えているようにしています。それを引っ張り出して演技をしていますね。たとえば『昔観たあの映画のあのシーンのあのカットの顔をしよう』と思ってやるときもたまにありますが、それはちょっとイタズラ的な感じです(笑)。あとはやっぱり、これまでの現場で共演者の皆さんが演技をされる瞬間を実際に目の前で見てきているので、それが大きいのかもしれません」自らが抱いた感情と、他者の表情。安達さんの“インプット”は、あくまで人由来なのだ。本作においては、第1回目の緊急事態宣言中の「人と会わず、24時間子どもと向き合うことで抱いた孤独感や、『みんなはどうしているんだろう?』という不安」が、役を演じるうえで感情の増幅につながったという。役の感情になれていたら、泣いても泣かなくてもいい安達さんが「君が去って、世界は様変わりした」に惹かれた理由のひとつである「余白」。これは単に「自由度が高いほうが、演じがいがある」という話ではなく、長年役者業を続けている彼女ならではの責任感が起因していた。「細かく指定があると、その通りにやろうとしてしまうんです(苦笑)。例えばト書きで『ここで笑う』『涙を流す』と書いてあると、忠実になぞろうとしてしまって、それ以上のものはなかなか出てこない。もちろんそれが正解なのかもしれませんが、本当の感情からはズレていく感じがしてしまって。その感情にちゃんとなれていたら、泣いても泣かなくてもいいと思うんです。そうしたら、もっともっと“本質”が見いだせる気がするんですよね」この発言が、冒頭に紹介した「いま現在の、俳優・安達祐実」へとつながっていくわけだ。求められるものを忠実にこなすフェーズを過ぎ、「役を生きる」演技の深奥へと突き進んでいこうとする彼女。この先、まだまだ途方もない進化を見せてくれるに違いない。「私は、よく言えば“感覚派”なんだと思います。あまり理論武装しないというか、できない。だから、監督に『どういう気持ちですか?』と聞かれても説明できないときもあるし、全然しっくりこなくて気持ち悪いなと思うことがあっても、『なんでかわからないけど気持ち悪い』としか言えなくて…(苦笑)。ただ、そういった『自分がこう思うから、役もこう思う』をもっともっと突き詰めて、役に近づけていけたらいいなと思っています」。(text:SYO/photo:You Ishii)
2021年05月01日『ゴーストワールド』主人公・イーニドの黒縁眼鏡、『アニー・ホール』のマニッシュなファッション…映画のキャラクターからインスピレーションを受け、コーディネートを決めた経験はないだろうか。名作映画にはファッションのヒントもたくさん詰まっている。自身も大の映画好きで、ファッションブランド「Dear Sisterhood」を手掛ける瀬戸あゆみさんに、瀬戸さんにとってのファッション・アイコンとなるキャラクターや、好きな映画について話を聞いた。ー映画作品などからインスピレーションを受けて、ファッションコーディネートを決めることはありますか? また、ご自身にとってファッション・アイコンとなる映画作品のキャラクターがいれば教えてください。『ルビー・スパークス』のルビーのような赤髪ロング。『あの頃ペニー・レインと』のペニーのようなボヘミアンルック。『ベティ・ブルー』のベティのようなデニムのオーバーオールルック。『パリ、テキサス』のジェーンのような赤のモヘアニット。ー自分を形成する1本だと思える映画作品を教えてください、またその理由も教えてください。『プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角』主人公の、貧しい家に生まれた環境や意地悪な学校のみんななど、逆境に負けずに自分のおしゃれを貫く姿が最高にかっこいい。お金をかけずにヴィンテージや自作のドレス、インパクトのあるアクセサリーなどを使って個性的に、オリジナルなファッションを楽しむ。彼女の花柄オン花柄だけどガーリーすぎないバランスやトムボーイなスタイルなど、80’sのファッションもわたしの永遠にすきなマイ・ルーツ。ー世界観やファッションがおすすめの映画作品はありますか。『あの頃ペニー・レインと』インテリアやファッション、全てに注目して目を見張って観てしまうくらいわたしにとっては胸キュンな映画。1970年代の時代背景の中、主人公を含めグルーピーの女の子のレトロなボヘミアンファッションが本当にかわいい。バスの中でバンドメンバー含めみんなで歌うシーンが大すき。『クルーレス』90年代を代表するファッションムービー。様々なブランドやアーティストがこの映画のオマージュで作品を作り続けるほど、とても有名な作品でわたしも例外なくおすすめします。ファッションのパワーで元気になれるような作品。『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』洋服自体はシンプルなんだけど、おしゃれなバランスと雰囲気で着こなす登場人物たち。肩の力が抜けたファッションがなんだかおしゃれで、つい真似したくなります。街やお家やインテリアもかわいい。―最近のご自身の活動について教えてください。4月17日から22日まで、新宿ルミネエストで初のpop-up storeを開催しました。アーティストのとんだ林蘭さんとコラボレーションをしたり、アクセサリーライン“A Girl In The Mirror by DSH”を立ち上げたり、忙しい日々を過ごしています。―映画作品などがご自身の創作活動に活かされていると感じることはありますか。毎シーズンのコンセプトを考えて、それに合うようアイテムひとつ1つにも物語をつけているのですが、映画を観てきたからこそ生まれるストーリーもたくさん。あの映画のあのキャラクターが着ている服、など、デザインにも直接的に影響を受けることが多いです。―ここ最近見た作品の中でシネマカフェ読者におすすめの映画作品があれば教えてください。『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』卒業パーティーにいって楽しみたいフェミニストで優等生な親友ふたりの一夜の大冒険の話。LAの高校生のキャラクター性の強い個性的なファッションは観ていて楽しい。主人公のふたりのテンポのいい会話が面白く、音楽も最高。最後にはスカッとした気分になって、女友達に会いたくなる一本。(text:cinemacafe.net)
2021年04月30日実写版『るろうに剣心』シリーズが『るろうに剣心 最終章 The Final』『るろうに剣心 最終章 The Beginning』をもってついに完結する。これを記念してシネマカフェではキャスト陣のリレーインタビューを敢行! 最終章を迎える心境、いまだから言える“あの”話、主演の佐藤健に言いたいor聞きたいことなどなど、赤裸々に(?)語ってもらう。さらにはアンケートで寄せられた読者からの質問も!第2回に登場するのは、剣心との“これから”も気になる神谷薫役の武井咲。シリーズを通して「演じるということの根本的な意味を教わった」――第1作から10年近くにわたってひとつのシリーズに参加するという経験はいかがでしたか?前作の時にフィリピンに行ったときもそうでしたが、海外の人が当たり前にこの作品を知ってくれていて、なおかつファンでいてくれたことの衝撃がありました。日本の剣術を扱ったこういう作品を海外の方に好んでいただけて、実写化に対する大きなハードルも受け入れてもらえたということが大きく今作も楽しみに待っててくださって大変嬉しく思っています。そんなグローバルな作品に出演できたことはすごく光栄なことだったなと思います。大友組の撮影方法って、他の現場ではあまりないんですよね。一部分だけを演じるのではなくて、きちんとキャラクターとして生きられる現場で、演じるということの根本的な意味を教わったと思っています。「その一瞬だけ演じていればいい」ではなくて、役者に自由にできる環境を与えてくれて、自由に演じて良い部分を切り取られているというやり方なので、「役を生きる」ってこういうことなんだと教えてもらえた現場だったと思っています。――シリーズを通じて、薫を演じる上で大切にしていたこと、気をつけていたことはどんなことですか?役に入る際にルーティンとしてやってきたことなどがあれば教えてください。何度もテイクを重ねてくださるので、それでだんだん自分も慣れていきますし、今回は前作から5年ぶりということで、同じキャラクターをまた演じるということはそんなにあることではないので、空白の部分どうやって過ごしてきたのかなって想像したりして世界観を思い出すように心がけました。あとは衣装の澤田石(和寛)さん(※シリーズを通じて衣装デザイン、キャラクターデザインを担当)がパンチのある衣装を作られるので(笑)、それをまとうと「戻ってきたな!」って思いましたし、現場に行ったら巨大なセットが用意されていて(笑)、そこには『るろ剣』ワールドが広がっていました。完璧なシチュエーションを用意していただいた中でどう感じるかという、本当に質の高い現場だったので、行けばその世界に入れるような感じでしたね。役作りはあえて“変化”を意識しないこと――特に今回の「The Final」における薫のこれまでのシリーズとの変化や成長について、ご自身でどのように受け止められて、作品に臨まれましたか?今回(剣心の過去を)『The Final』で初めて知るので、それまでは何も変わらない薫ちゃんです。剣心たちと変わらない日常を過ごしていたんだけれども突然、衝撃的なことを知りどうやって受け止めていくのか? この時代背景の中で薫ちゃんという女性がどんな心情でいるのか? 考えました。なので、あまり“変化”というのは意識しないでいたかなと思います。その時、剣心が話してくれることをリアルに感じようと思っていたので、特に準備というのはしていなかったですね。――『るろうに剣心』シリーズがこれで終わってしまうこと、薫を演じるのが最後になってしまうことへの寂しさはありますか?日に日に寂しく感じますね。「早くみなさんにお届けしなければ」とか「無事に公開できるのかな?」と、世の中の不安な状況もあってそのことばかり考えていて、今回みたいにインタビューしていただくうちに、本当に終わりに向かっているんだって改めて思うようになりましたね(笑)。――薫に対し、この映画の「先」の人生について、エール、アドバイスなどがあれば一言お願いします!(原作では)剣心との子どもが生まれているので、単純に会ってみたいですね。プライベートのこととか、子育てのこととか聞きたいですね(笑)。剣心メンバーは色んなことを共有できる特別な仲間――改めて武井さんにとって、映画『るろうに剣心』シリーズ、このチームはどういう存在ですか?私は10代の時に第1作に参加させていただいているんですが、10代の頃を知ってる人ってほぼ親戚のような感じなんです(笑)。緊張して右も左も分からないような私に大友(啓史)監督は寛大な心で「そのままでいいんだよ」って言ってくださったり、「演じるっていうのはこういうことじゃないかな?」と、そっと教えてくださったりしました。(演技の)ベースを作ってくれた、それを学ばせていただいた現場でもあるので、私にとっては(スタッフのひとたちは)家族のように思っている方たちです。(キャスト陣の)剣心メンバーには特別な思いもあって、10年同じキャラクターを演じてきた仲間として色んなことを共有できるし、久しぶりに会ったらやはり嬉しくて。また会いたいと思える方たちです。――「座長・佐藤健にいまだから言いたいこと、聞きたいこと」はありますか?なんだろうな…。いまの自分の弱み(笑)?全部できるし、知的だし、運動神経もいいし、ユーモアもあって。何かないの?って(笑)。何かできないことはないの?って、素朴な疑問です(笑)。あと、10年経ってこれだけビジュアルが変わらないのもすごいことだと思うんですよね。太ったりも痩せたりもないですし。なので、何か続けてやっている事とかあるのか?そのへんのコツも知りたいです(笑)。――読者から寄せられた質問です。「薫として緋村剣心のどこに一番惹かれましたか?一番チャーミングだと思うところは? グッとくるところをぜひ教えて下さい!」えぇ~どこだろう。言えないなぁ…。(笑)きっと今作を含めて今まで見て下さる方々が、それぞれの剣心に対する想いがあるし今作でまたその想いが芽生えてくるだろうから…。それが一番大事だと思うんですよね。そうですね…私個人的には、今作で薫が初めて剣心から明かされる過去を知るのですが、その過去をきちんと伝えるべき時に剣心は伝えてくれて、そして、いつでもどんな時でも自分の命を危険にさらしても、大切な人を守り抜く強い思いのある剣心のその姿勢に「愛」がある人だなと個人的には思っていますね。(text:Naoki Kurozu)■関連作品:るろうに剣心最終章 The Final 2021年4月23日より全国にて公開© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final」製作委員会るろうに剣心最終章 The Beginning 2021年6月4日より全国にて公開© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会
2021年04月30日「恋愛ドラマは難しい」と言われる昨今の風潮をものともせず、話題のラブストーリーを次々と世に送り出している脚本家・吉田恵里香。映画『ヒロイン失格』にアニメ「思い、思われ、ふり、ふられ」、そして“チェリまほ”こと「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」など映画、アニメ、ドラマとメディアを問わず幅広い活躍を見せている。そんな彼女のオリジナル脚本による新ドラマ「ブラックシンデレラ」がABEMAにて配信中。この作品、ド平凡なヒロインと2人のタイプの異なるイケメンが…という、シンプルなラブストーリーのように見えて、いわゆる“ルッキズム(=外見至上主義)”をテーマにするなど、非常に挑戦的な作品となっている。「映画お仕事図鑑」第7回では吉田さんにロングインタビューを敢行! なぜABEMA配信の若者向けのラブストーリーであえてルッキズムをテーマにしたのか?といったことから、現代のラブストーリーの在り方、魅力的なヒロインの描き方までたっぷりと話を聞いた。様々な経験が今の仕事に繋がった――まず、吉田さんが脚本家になろうと思ったきっかけについて教えてください。もともとは小説を書きたくて、いまも小説の仕事もしているんですが、そんな中で大学時代から西田征史(※「とと姉ちゃん」などで知られる脚本家)さんのアシスタントをしていたんです。そこでいろんな作品のプロット協力であったり、ラジオドラマをやらせていただくようになり、「脚本の仕事ってすごく面白いな」と思うようになりました。西田さんとの出会いで沢山素敵な経験をさせていただき、人生が変わったと言いますか……それで以前から映像作品も好きだったこともあり、だんだんそちらが主軸になっていった感じですね。なので明確に「脚本家になろう!」と思ったことはないというか、いま自分が脚本家なのかというのも正直、曖昧で…(苦笑)。大きな意味で物語を書く“作家”というイメージで仕事をさせてもらっています。――実際、映画やドラマの脚本だけでなく小説、漫画原作など幅広くお仕事をされていますね?そうなんです。とにかくお話が書ければ何でもいい…と言うと言葉が悪いですが(笑)、実際に絵本や漫画もやりたいなと思ってますし、“お話”に携わる仕事がしたいんですね。――そもそも、そうやって「お話をつくる仕事をしたい」というのは小さい頃から?そうですね。幼稚園の頃から絵本を描いてましたね。両親が映画や本が好きで、小さい頃から読み聞かせをしてもらっていて、絵を描くのも好きで、自分で“連載”していました。「バイオハザード」だったり、ジブリだったり、『フック』、『ジュマンジ』など、いろんな作品の要素を混ぜてパクッて(笑)、200話以上の物語にしてました。読者は親と数人の友達なのに、キャラクターの人気投票をしたり、手塚治虫先生に憧れて、手塚漫画みたいに作者を作中に登場させたり(笑)。お話の世界に生きていたい子でした。そういう意味ではずっとその頃の延長線上で生きている感じですね。――大学時代から西田さんのアシスタントをされていたとはいえ、大学卒業にあたり普通に就職しようという気持ちはなかったんですか? ご両親に反対されたりは?ありましたね。実際、大学で教員免許も取ってまして、子どもの教育に興味があったので、もし(脚本家の道が)ダメでも…と言うと教師の方に失礼ですが、先生をやりながら小説を書いたりしてもいいかなと考えてました。一番大きかったのは父から「3年やってみて、何かしらの手応えが得られなかったなら、それを主流にするのはやめなさい」と言われたことですね。当時は実家に住んでいたんですが、3年は何も言わないから好きなことをやればいいと。――この世界でやっていけるかどうかを試すための3年の時間を与えられて…。“手応え”ということに関しては(アシスタントではなく)私個人のお仕事をもらえるようになればいいんじゃないかということで、結果的に3年の間に一応、自分の仕事をもらえるようになったんですね。具体的には「シャキーン!」というNHKの教育番組の構成の仕事、西田さんが書いたドラマ「実験刑事トトリ」のノベライズ、それから学生時代から西田さんと共同で脚本を書いていた「TIGER & BUNNY」もオンエアが始まりました。その後、日本テレビの「恋するイヴ」というSPドラマのオファーもいただけて、ポツポツとですが、未来のスケジュールが埋まるようになってきて、それで私自身「もうちょっと頑張ってみよう」となりましたし、親も「頑張れ」と言ってくれました。ちなみにそれまでは「誰かに報告しないと人は怠ける」ということで毎月、両親に「こういう仕事をいまやっています」「こういう仕事でいくらもらいました」「こんな企画をつくったけど通りませんでした」とか報告書を提出することを義務付けられていたんです(笑)。いま考えるとありがたいですが、当時は「大学も卒業したのに何でこんなことを…」と思ってましたね。報告をしないといけないので、通らなくてもドラマの企画書をとにかくいっぱい書いてみたり。――アシスタント時代も含めて、初期の頃から脚本だけでなく、ノベライズから番組の構成まで様々な分野の仕事をされていたんですね。そうですね。最初から希望通りに小説を書かせてもらえてたら、そうなってなかったと思いますが、事務所の社長からも「小説を書きたいなら、賞を獲るか、仕事を積み重ねていくしかない」と言われていましたし、そうやって何でもやっていくうちにいろんなお仕事をもらえるようになった感じですね。――そうやっていろんな仕事をされる中で、作家として鍛えられ、成長につながったのはどういう業務ですか?まず「最初から最後まで書く」という作業ですかね? 当たり前ですけど仕事なので必ず最後まで終わらせないといけないので。学生時代は途中で放置している作品が沢山あり、物語を作るアプローチの仕方は明確に変わりました。終わりまで書き切らないとそれが面白いのか? 駄作なのかもわからないですから、それはどの仕事でも言えることだと思います。“鍛えられた”という意味では、自分が素人の時はドラマを見ても安易に「つまらない」「私には合わない」とかで終わってたんですが、そこで終わらず「なんでつまらないのか?」「自分ならどうしてたか?」ということを考えることは、この仕事を始めてからやるようになったことですね。そうやって自分で考えてみると「こうやればいいんじゃない?」と思いついても「いや、それじゃ主人公が全然輝かないな」といったことが見えてくるんですね。それで「そう考えるとこの作品、あまり面白くはないけど、やろうとしてるテーマは間違ってないな」とかわかるようになってくるんです。そうやって見ていくと、実は世の中、そこまでつまらない作品ってないんだなと思いますね。もうひとつ、具体的に鍛えられた仕事は「TIGER & BUNNY」のコミカライズの脚本ですね。これがすごく大変で毎月短編を1本書かないといけなかったんです。どうやって切り口を変えながら、いろんな話を書いていくかという勉強をさせてもらいました。この3つが、いまの自分を作ってくれたのかもしれないですね。――ちなみに、吉田さんがアシスタントをされていた西田さんは、あまり恋愛作品を書くイメージがないのですが、吉田さんは映画やドラマでラブストーリー、少女漫画の実写化の脚本を書かれることが多いですね。吉田さん自身、もともとラブストーリーを書きたいという思いはあったんですか?結果として得意になったというところはありますね。私、もともと向田邦子さんの作品が好きで、いまでも向田さんみたいになりたいんです。ファミリードラマも恋愛ドラマも書きたいし、エッセイも書きたいなぁと。事務所に所属した時は年齢が若かったこと、恋愛作品を観るのが好きだったこと、そして西田さんが恋愛ものをあまり書かないことから、私はそっちの分野を仕事を頼まれる脚本家になろうというのもありました。自分の転機となった作品で『ヒロイン失格」という映画があったんですが、あの作品を評価していただいたことで、そこから恋愛作品のオファーをいただくことがグッと増えましたね。「ルッキズム」の問題をいかに説教臭くなく伝えるか――ここから具体的に、ドラマの脚本の作り方、書き方についてお話を伺ってまいります。例えば今回の「ブラックシンデレラ」は、どういう経緯で企画され、どの段階から吉田さんは参加されたのでしょうか?「ブラックシンデレラ」はABEMAの池田克彦プロデューサーと一緒に作った作品なんですが、前作の「フォローされたら終わり」というドラマも池田さんとやらせていただいてまして。そもそも前作の段階で「ラブコメやりたいね」という話をしてたのが、紆余曲折あって「フォロー…」はサスペンスドラマになったんです(笑)。なので「次こそは恋愛ものをやろう!」と決めていて「フォロー」が終わった直後から、何をやろうかと話はしていたんです。若い世代、特にティーンにどんなメッセージを伝えられるか? それをラブストーリーでどう表現できるか? というのを考えたとき、どうしても“外見”というものに囚われて傷つき傷つけてしまう世の中で、いわゆる「ルッキズム」の問題をいかに説教臭くなく伝えることができるかというのを私がやりたかったんですね。テーマとして難しいと分かっていたんですが、どうしても挑戦したかったんです。それを池田さんとブラッシュアップしていくという作業でした。――目立たないヒロインが、なりゆきで高校のミスコンに出場することになるというところから物語は始まります。ただ単にヒロインがミスコンのために頑張る…という物語ではなく、第1話でヒロインは事故により、顔に一生消えない傷を負ってしまうという衝撃的な展開が描かれます。私がもともとミスコンという、おそらく今後なくなっていくであろう「これぞルッキズム!」ともいうべきイベントを題材にしてみたいと考えていたんですね。最初は大学を舞台にしたミスコンで、自分の美に自信を持っていて信念のある女性の話を考えていたんですが、そうするとティーンよりもちょっと年齢層が上がってしまうかなというのがあって、やっぱり高校を舞台にしようとなりました。分かりやすく外見でクラス分けや学校での地位も決まってしまうようなぶっ飛んだ設定も一度は考えましたが、ネタに走りすぎる危険性があるので、このアイディアもやめました。何度も企画を練り直して、ルッキズムというのは凄く難しいテーマなんだと改めて痛感しました。どうすれば説教臭くなく、単純にラブコメを楽しみたい若い子にも、このテーマが伝わるか? ということを池田さんといろいろ考えていく中で、現実と地続きの世界観で、現実に同じような悩みを抱えている女子高生を主役にしようということで、いまの「ブラックシンデレラ」に落ち着きました。――企画およびストーリーを執筆される上で、特に気をつけたことや大切にしたのはどういったことですか?繰り返しになりますが、説教臭くならないこと、暗くなり過ぎないこと、正解を決め付けないことです。企画段階で池田さんが中心となり、ミスコンに実際に参加された方にも沢山取材を行いました。自分自身のミスコンへの偏見にも気づかされ、反省もしました。やっぱり私は手放しに「ミスコン」というものを賛成はできないけれど、でもコンテストに出場する為に頑張る子たちを一刀両断したり、その頑張りを否定するようなこともしたくないなと。それに、いまの世の中、私たち大人がルッキズムに囚われているのに「ルッキズムNO!」「絶対ダメ!」みたいな描き方をして、若い子に響くわけがないんですよね。大人が現状を変えられていないわけですから。そういう意味で、いろんな価値観がある中で、「やってはいけないこと」を見極めることができるようなお話にしたいなと思いました。――ちなみに今回はゼロから企画に携わられたとのことですが、作品によっては携わる段階や深さなどは変わってくるのでしょうか?それは作品ごとに全て異なりますね。既に原作が決まっていたり、主演の俳優さんが決まった段階でオファーをいただく場合もあります。ただ私の場合、ここ数年はオファーをいただいた段階で、原作があろうとなかろうと「どういうテーマで何を軸に作品を作るのか?」ということはきちんと企画としてまとめさせていただいて、それにGOサインをいただいてからストーリーを書き進めるというやり方をしています。例えば、原作に明確なテーマがなかったとしてもドラマでは「自己肯定」だったり、「嘘をついてはいけない。嘘をつくと自分がしんどくなるよね」ということだったり、必ずテーマを決めて書くようにしています。そうしないと、単なる原作のダイジェスト版になってしまったり、何を書いているのか一貫しない物語になってしまうので。――今回の「ブラックシンデレラ」に関しては、キャスティングに関しても吉田さんが意見を出されたりしたのでしょうか?企画の段階から「イメージとしてはこういうひと」といった意見は出していました。コロナ禍ということでオーディションなどには立ち会っていないのですが、結果的に理想的なキャストがそろったと思っています。主演の莉子ちゃんとは以前、Y!mobileの放課後ドラマシリーズ「パラレルスクールDAYS」という作品で仕事はしてたんですが、すごく魅力的で、他の現場でも「莉子ちゃん、いいよね」という話はよくしてたんです。正直、こういうテーマの作品の主演を引き受けてもらえると思ってなかったのですごく嬉しいです。――連ドラの場合、企画会議の段階で、物語の最後の結末まである程度、決めてしまうものなのでしょうか?基本的には最後までだいたい固めてからスタートするものですが、とはいえ書いているうちに変わることもありますし、ラストで伝えたかったメッセージが、既にきちんと作中で十分に伝えられているので、その上でラストをどうするか? という具合に変わることはあります。ただ大きなメッセージは変わらないですね。――先ほど「ルッキズムというテーマは難しい」という話がありましたが、このテーマをドラマにするということに関して、企画自体はすんなり通ったんですか?思いが強かったということもあって、最終的に「やってみようか」とはなったんですが、最初に企画を伝えた段階では「話を聞けば面白いってわかるけど、それを1~2行で伝えられるの?」といったことはよく言われましたね。“外見”や“本当の美しさ”って人によって価値観が異なるので、それをどう伝えるかというのは最後の最後まで悩みましたね。――ルッキズムという非常に現代的なテーマをABEMAのドラマで描くというのが驚きでした。ABEMAさんは、実際はいろんなジャンルを扱っているんですが、どうしても恋愛番組などのポップなイメージが強いので「そのテーマどうなの?」「見てもらえるの? 重すぎない?」ということはよく言われました。ただ、だからこそABEMAを見ている子たちにこの作品を見てほしいなと思います。それこそNETFLIXで海外の作品や「クィアアイ」を見ている人たちがこの作品を見ても「うん、そりゃそうよ」って思うだろうと思います。自分で「外見至上主義ってどうなの?」とか「本当の美しさとは何か?」と考えられる人、「他人に何を言われても自分が好きなことを変える必要はないし、『痩せろ』とか『化粧しろ・そんな化粧をやめろ』なんて声は気にしなくていいんだよ」と思える人が、自分で選択して見られるドラマは既にたくさんあると思います。そうじゃなくてただ「カッコいい俳優さんが出るキラキラした恋愛ドラマが見たい!」という人、「ポップな作品が見たい」という人が、このドラマを見てちょっとでも「あぁ、そうか。私が抱えていた息苦しさって、こういうことだったんだ! 気にしなくてもいいんだ!」と思ってもらえたらいいなと。むしろ「ルッキズムって何?」「そりゃかっこいい・可愛いほうがいいに決まってるじゃん!」という子に見てほしいなと。決して外見にこだわったり、他人からよく見られたいと思うこと自体を全否定するつもりはないんです。それはティーンには酷だと思うし、私自身も他人によく思われたいという気持ちはあります。ただ外見で他人を評価したり、差別したり、外見の美しさがないと魅力的じゃないと考えたりするのは間違っているんだという、本当にルッキズムの問題の初歩の初歩の初歩の部分だけでも伝えられたらいいなと。ちょっとでも生きやすくなる子が一人でもいてくれたらいいなという気持ちで作っています。説教臭く「人間は見た目じゃなく中身だ!」と訴えるんじゃなく、ゆるく段階的に伝えつつ、そこで興味を持った子がネットで「ルッキズム」とか「ボディ・ポジティブ」といった情報に行き着いたり、別の作品も見てみようとなったりしてくれればいいかなと思っています。――ちなみに、劇中に「ルッキズム」という言葉は登場するんでしょうか?少なくとも脚本の段階で私は書いてないですね。もちろん、ワードを使うことでカテゴライズされて、可視化されて安心できることって世の中にたくさんあると思うんです。例えば自分のセクシャルに揺れを感じる人が“Xジェンダー”とか“セクシャルフルイド”という言葉を知ることで自分を説明できるようになったり安心することができたり。ただ、このドラマで“ルッキズム”という言葉を使って説明してしまうと「あ、お勉強だ」と感じて、途端に見たくなくなってしまう人がいるんじゃないかなと思って、あえて使わないようにしました。恋愛ドラマのヒロインをどう描くか――続いて、この作品のもうひとつの重要な要素である“恋愛ドラマ”の部分に焦点を当てて、お話を伺ってまいります。まず、魅力的なキャラクター、ヒロインはどのように生まれるのか? ということを教えてください。そうですね、まず作品のテーマにいかに沿った人物にするかということですが、前提として、私自身が嫌いじゃないということが一番大事かなと思いますね。「こいつ、嫌いだな」「このひと、いやだな」と思うような人物は、書いてても愛情を持てないんですよね。嫌なヤツであってもいいんですけど、そうである理由や背景というのはきちんと考えますね。今回で言うと、恋愛ものなのでヒロインですけど、ヒロインを嫌いになるような作品だと見ていてしんどくなってしまうんですよね。もちろん欠点や完璧ではない部分はあります。「応援したくなる」と言うと平たくなってしまうんですが「この子が頑張っている姿を見ていたいな」と思える“熱量”とか根っこの部分の良さ、信念みたいなものは大事にしていますね。その人が絶対に守っている信念みたいなものを決めると、「動き出す」とまでいかなくとも「あぁ、こういう行動はしないな」と言うことは見えてきますね。――恋愛作品だと、ヒロインを巡る三角関係、ライバル関係みたいなものも重要になってくるかと思いますが、そういう関係性を作る上で大事にしていること、意識していることなどはありますか?いまの時代性なのかもしれないですが、“恵まれすぎているヒロイン”に対して見る側はすごく厳しくなるところがあるんですよね。あまりにヒロインがいろんな男の子から言い寄られると「モテモテじゃん!」みたいになってしまうので、その塩梅は意識しますね。理想は“一方通行”ですけど、それができない場合は「でも、この子はこんなつらい問題を抱えている」とか「こういうことがあるから上手くいかない」といった設定は作るようにしますね。それがリアルだとも思うんです。どんなにモテている人でも実は自信がなかったり、周りの目を気にしてうまく動けなかったりするのが現実だと思うので。――まさにいまおっしゃった“現実”との兼ね合いで言うと、恋愛ものはちょっと浮世離れした設定やありえないシチュエーションを求め、楽しんでいる視聴者もいるかと思います。そうですね。やはり視聴者が見たいもの、恋愛ものに求めるものは、見せたいという思いは常にあります。男性キャストにキュンとしたり、ヒロインの健気さとか頑張りを応援したくなったり。王道から外れて、テーマ性を声高に叫んでも、見てもらえなきゃ意味がないですから。そういう意味で、自分が恋愛ドラマを見る上で何を求めるか? という部分での王道感は外さないようにしています。ただ、いまの時代、相手からもらってばかりの受け身のヒロインなんてみんな、そこまで見たいのかな? と思いますし、男性側にしても「男性だから完璧じゃなきゃ」とか「男性だからリードしなきゃ」という“マチズモ”的な男性観に男女共に縛られるのも違うんじゃないかなと思うんです。それをしないからといって“草食”という言い方をするのもまた違うと思いますし、女性の方から積極的に行くからってそれを“肉食”と言うのもそうじゃないよねと思います。そもそも恋愛を食性に例えるのはどうなの?とずっと思っています。自分がどうしたいか? 自分がいかに不快じゃないか? 自分がいかにハッピーになるか? というのが大事だと思ってて、第1話のきっかけとして、相手からもらうばかりになってしまったとしても、それを今後の展開でどう返していくか? どう見せていくか? ということ――いま私が見せたいこと、いまの時代にやるべきことというのは、すごく意識していますね。やっぱり塩梅ですよね。偏ったらお客さんは離れていってしまうので。――若い視聴者、登場人物を意識して、いわゆるイマドキの若者の流行や文化をリサーチされたりはするんでしょうか?SNS上のやり取りを見たり、マクドナルドに行って若い子たちの言葉遣いを研究するというのは以前はやっていましたね。ただ、会話を盗み読み・盗み聞きするというのも失礼じゃないですか。なのでいまは、時代に乗り遅れないようにトレンドを見たり、実際に若い子たちとLINEでやり取りをさせてもらったり話を聞いたり、その子たちが熱中しているものをフラットに見るようにしたりということですかね…?流行を追いかけようと思っても、オンエア時期ともズレるし、「これが若者に流行っているだろう」みたいなことしてもどうしてもダサくなっちゃうんですよ。一番駄目なのは見下す・媚びることなので。基本的には「普遍的なものを“いま”の感性でやる」ということを大事にしていますね。「これ流行ってるからやるぞ」なんてやり方したら絶対に失敗するので。流行を取り入れるなら、自分もまずやってみるようにしてます。言葉遣いにしても、変に若者に寄せすぎないようにしています。言葉のブラッシュアップはしますけど、感覚に関してはそこまで意識してないですね。特に恋愛ものは、誠意さえ持っていれば伝わるのかなと思っています。恋愛ドラマは「いまの時代に合ったものを」――最近では「いま恋愛ドラマヒットさせるのは難しい」という声もあったり、フィクションよりもリアリティショーに魅力を感じるという人が増えているとも言われています。吉田さん自身は、恋愛ドラマの変化、現代の恋愛ドラマについて、どんなことを感じていますか?「恋愛ドラマは難しい」という声に関して言えば、これだけスマホが普及してしまえば、昔のトレンディドラマみたいな、待ち合わせをしていたのにすれ違って…みたいな展開は無理ですよ(笑)。でもその時代ごとにやれることはあるし、恋愛ものの難しさみたいなものを私はそこまで感じないですね。どちらかというと、自分が昔好きだったドラマも含めて、そこで描かれている女性像が、リアルというよりも男性から見た「女ってこうだろ?」みたいなイメージだったり、「ちょっと自虐しすぎじゃない?」と感じるものだったりする部分はあるので、そういう違和感を持つ部分を変えていくだけかなと思いますね。私自身が嫌なんですよ。まだ付き合ってもない相手に頭をポンポンとかされたくないし、「お前」とか言われたくないし、急に無理やりキスされたくもないし、知らない人に抱きしめられたくないし(笑)。そういうルール(=恋愛ドラマの文法)が変わってきているだけだと思います。もちろん(そういう行為の中にも)ドキッとしたりキュンとしたりするものもあるし、私自身が好きだったものもあるので、全部を否定する気はないんですけど、単純に自分がやられたら不快なことはやめていきたいなと思っています。10代の子で「全然、そんなの気にしないよ」という子もいるとは思います。けれど今は平気でも年を重ねて色々経験すると気づきや変化がある。例えば、急にキスしてきて「気持ちを抑えられなかった」みたいなシチュエーション(笑)。私自身も昔は好きだったし、好きな役者さんがやっていると当然ドキッとする。でも「あれ? よく考えたらそれって相手側の勝手な都合じゃない?」と段々気づいていくんです。自分の作品でそういうことはなるべく起きてほしくない。だから私は特にここ数年、メッセージとして「嫌なものは嫌」「無理やりなことはしない」というのは気をつけていますね。それが「つまんない」と言われたら、終わりだと思いますけど、いまのところそうはなってないので、やはり工夫次第じゃないですかね? それを作る側が放棄したら、ラブストーリーも何もできないなと思います。私はラブストーリーが好きなので、書いていきたいし、いつか自分の感覚がニブくなって「吉田の描くものはもう時代遅れだ」と言われるかもしれませんが、いまのところそうなってはないと思うので、いまの時代に合ったものをどう描いていくかということをやっていきたいですね。――お話を伺っていると「ラブストーリーが変わった」のではなく、社会の中での女性(そして男性)の在り方が変わってきて、そうした変化をごく当たり前のこととして、作品に反映させようとされているのかなと感じます。そうですね。「社会が変わった」とか「時代が変わった」じゃなく、ずっとみんなが抑えていたことを声に出してもよくなったし、正しいことと認められるようになったんです。それは素晴らしことだとクリエイターはポジティブに受け止めて、いまの時代に何ができるのか、知恵を絞って考えていけばいいのかなと思います。それは決して、みんなお利口な優等生ばかりの作品を作るということじゃなく、もちろん誰しも欠点はあるし、完璧ではないことも受け入れていかないといけないと思います。「相手が嫌なことをしない」というのは前提ですが、仮に嫌なことをしてしまった/されてしまった時にどうするか? もちろん「好きだからOK」というのは絶対にダメで、この人はちゃんと謝ったね、反省したねというのをきちんと作品の中で見せていくというのも必要だと思います。――脚本家を目指している人に向けて、吉田さんからアドバイスやメッセージがあればお願いします。テクニカルな部分に関しては仕事をしていけばついてくるものだと思います。まずは書きたいものを、粗くてもいいので最後まで書いてみると、その中にある“パッション”みたいなものは必ず伝わります。自分が審査員の立場で脚本を読んでても、支離滅裂だったり、意味がわからなかったり、物語として破綻してる作品でも「セリフが面白い」とか「ものすごい熱量だ」とか伝わってくるんです。とりあえず書いてみて、それから他人の意見を聞く――その意見は怒らずにきちんと聞くということですかね? 4コマでもペラ2でもいいからまずは書いてみるのがいいと思います。2分のお話でいいんです。もし、他人に見せるのが恥ずかしければ、10日くらい置いて、冷静な頭で読んでみて、いいところ3つとダメなところ3つを書いてみてください。とにかく書いてみて、その作品を自分でちゃんと「好き」と思えることが大事だと思います。これは「ブラックシンデレラ」のお話にもつながることですけど、自分のことを簡単に嫌いになれてしまう世の中、時代ですが、自分のことを「好き」と思える心をどう作っていくかということが、すごく大事だと思います。――最後に第2話以降、本作がどうなっていくのか? 見どころをお願いします!1話で「え? これからどうなっていくの?」と思った人への“答え”が2話以降で転がってきます。恋愛面はもちろんですが、ヒロインの愛波が、自分の意思とは関係なくやってきた悲劇、苦しみとどう向き合い、成長していくのか?愛波だけでなく、それぞれの登場人物たちの悩みや価値観も見えてくるので「この人、こういう人なのね」とか「こういう人にそばにいてほしいな」とか感情移入しながら楽しんでもらえたらいいなと思っています。愛波がミスコンでの事故をきっかけに傷を負ってしまったように、人によっていろんな“傷”やコンプレックスを持っていると思います。そういう不条理にできてしまったものにどう向き合っていくのか? を描いたドラマです。これが絶対的な「正解」だと言うつもりはないけど、そこに誠実に向き合った作品です。恋愛も盛り上がっていきますし、神尾楓珠さんも板垣瑞生さんも本当にお芝居が素晴らしいです!恋愛ドラマが好きな人を満足させられる自信はあるので、2話以降もぜひ楽しんで見てください。(text:Naoki Kurozu)
2021年04月29日スタジオに3つの子ども部屋を用意し、幼く見える顔立ちの3人の18歳以上の女優が「12歳・女子」という設定でSNSのアカウントを開設し「友達募集」をしたところ何が起こるか――。チェコで行われたそんな“実験”の様子をカメラに収めた衝撃のドキュメンタリー『SNS-少女たちの10日間-』が公開を迎えた。10日の間に、3人にコンタクトを取り、裸の写真を送らせようとしたり、直接会おうとするなど、卑劣な誘いをかけてきた成人男性は2,458名――。子どもを持つ多くの親たちを戦慄させ、チェコ警察、さらには国家までをも動かすことになった問題作が日本に上陸する! 公開を前に共同監督のひとりであるヴィート・クルサークがリモートインタビューで本作への思いを語ってくれた。社会を動かした衝撃のドキュメンタリー本作の製作にあたり、クルサーク監督と共同監督であるバーラ・ハルポヴァーの2人が、「12歳・女子」を演じる3人の女優と事前に約束したのが以下のルール。1:自分から連絡しない2:12歳であることをハッキリと告げる3:誘惑や挑発をしない4:(チャット相手からの)露骨な性的指示は断る5:何度も頼まれた時のみ裸の写真(※映画スタッフが作成した偽の合成写真)を送る6:こちらから会う約束を持ち掛けない7:撮影中は現場にいる精神科医や弁護士などに相談する撮影はカウンセラーや性科学者が同席する中で進められていった。映画はチェコで公開されるやセンセーションを巻き起こした。「ある種の社会現象とも言える事態を引き起こしました」と語るクルサーク監督。実際、チェコ警察からは映画の内容を児童への性的搾取の犯罪の証拠とするための協力を求められ「いま取材を受けている時点で(※3月下旬)、52人の男性と1人の女性が捜査をウケており、既に8人が裁判で有罪判決を受けました」。動いたのは警察だけではない。「映画を見た政治家たちは、サイバー環境における犯罪に対する取り締まりを強化することを決めました。また映画公開後に3つの省庁から連絡があったのですが、そのうちのひとつ、文部省は子どもたちへの性教育のカリキュラムを改正し、小学3年生から性教育を取り入れることを考えているとのことでした」。少女たちを陥れる卑屈な手口とは映画を見ると、男たちが画面を通して時に言葉巧みに女性の容姿を称えたり、理解者であるように振る舞いながら、性的に搾取しようとするおぞましい姿が映し出される。映画はチェコで撮影されたが、もちろん同じことは日本でも既に起きている。時にニュースとして報じられることもあるが、それは氷山の一角に過ぎないだろう。とはいえ、大人たちの多くは、こうした「未成年の少女がチャット相手に裸の写真を送らされた」といった事件の報に接して、こんな疑問を抱くのではないだろうか? なぜ少女たちは、ネットで(大人たちから見て)安易に会ったこともない相手に裸の写真を送ってしまうのか――?クルサーク監督は本作のための取材を重ねた経験から、少女たちの心理をこう説明する。「12歳の少女たちは、いわば大人と子どもの“境目”と言える非常にデリケートな時期を生きています。親をはじめ、周りの大人たちは彼女たちに厳しいことを言う存在であり、なかなか対等と言える関係を築くことはできません。そんな時、ネットには親や教師たちと同じような年齢で、自分と対等に接してくれる存在、自分のことを理解してくれているようにふるまう存在がいるわけです。少女たちは、自分を大人として接してくれる存在、優しくしてくれる存在を求めてしまいます。そうした状況でネットでコンタクトを取ってくる男たちは、まず彼女たちと友達になろうとしてきます。彼女たちのプロフィールはオープンにされていて、それを見れば趣味やペット、好きなものが全てわかります。そうした情報をミラーリングして、彼女たちに話を合わせてくるのです。そうすることで少女たちは徐々に、彼らを“信頼できる存在”と認識していきます。ある時点で彼らがこうした関係を「終わりにしたい」と告げると、少女たちは『関係を維持したい』と願います。そうした少女たちの心理に付け込んで『じゃあ裸の写真を送ってくれるなら…』と要求し、彼女たちもそれに応じてしまうのです」。子どもたちを大人の歪んだ欲求から守るために改めていま、クルサーク監督は、子どもたちを大人の歪んだ欲求から守るために必要なこととして「正しい知識を教えること」と「親子の信頼関係を築くこと」の重要性を説く。「こんな例えがあります。“満員の地下鉄で、スリと遭遇するのを避けることはできないかもしれないが、リュックを開けっ放しにしないことで被害を防ぐことはできる”というものです。ネット環境も同じことが言えます。悪質な行為を行なう者たちを根絶やしにすることよりも、子どもたちが被害者にならないためにネットの正しい使い方を教育すること、家庭で信頼関係を築くことが重要です。専門家が指摘していますが、13~14歳の思春期の子どもたちは(チャットの)相手のプレッシャーに怯えてしまうものですが、それ以上に彼ら、彼女たちが怯えるのは『もし親にバレてしまったらどうしようか?』ということだと言います。実際、チェコでは昨年、こうしたネット上のやり取りのプレッシャーの末に14人の子どもたちが自殺しています。もし、彼らが親に相談することができていたら、こんな悲劇は起こらなかったのです。『何があっても相談しろ』と言える関係性を築くことが大切なのです」。(text:Naoki Kurozu)■関連作品:SNS少女たちの10日間 2021年4月23日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて公開@2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.
2021年04月24日