意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「大阪都構想」です。大阪をきっかけに、都市のあり方の再検討が進めば。11月1日、大阪都構想についての住民投票が行われ、反対多数で否決されました。大阪都構想とは、大阪府が「都」になることではありません。大阪市を廃止して、4つの特別区として再編。東京23区のように地域ごとに行政区を割って、地域特性を生かし細やかな地域サービスを実現。広域的な行政は大阪府が行うという提案でした。これまで大阪府も大阪市も同じように権限を持ち、財源もあるため、「二重行政」となって税金の無駄遣いになっていると問題視されていました。たとえば、大阪府で高層商業ビルを建てたのに、同じようなビルを大阪市でも建てたり。あるいは、府がやろうとすることに市が反対し、プロジェクトが進まないというような事例も重なり、大阪の産業の衰退を招いたといわれてきました。それを解消しようと当時、府知事だった橋下徹さんと松井一郎さん(現在の大阪市長)が中心となり、2010年に「大阪維新の会」が立ち上がり、大阪都構想を掲げたのです。2015年に住民投票をしましたが否決。今年2度目の住民投票も再否決され、廃案になりました。大阪維新の会は新自由主義的な政党なので、競争させて無駄は省くという考え方。コストカットの側面から、行政サービスが悪くなるんじゃないか、というのが反対派の見立てでした。廃案になったものの、菅総理は「大都市制度の議論に一石を投じた」と提案については一定の評価を示しました。実際、平成の大合併により、多くの市町村の再編が行われ、同じ市のなかでも中心部は潤うが山間部は廃れるといった格差も生まれてしまいました。逆に、合併を選ばなかった村が地域特性を生かして発展していったケースも。社会的ニーズが多様化し、生活環境が変化に富むいま、暮らしや財政の基盤となる行政はもう少しミニマムにしていったほうが、隅々にまで目が届くのではないかと思います。松井市長は、その後、大阪市を残したまま区の権限を強くする8つの「総合区」を設置する条例案を来年2月に市議会に提案すると表明。大阪に限らず、これを機に地方行政のあり方を再検討する動きが進むことを望みます。堀潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開中。※『anan』2020年12月9日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年12月08日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「日本学術会議」です。さまざまな論点が浮き彫りに。透明性が重要です。日本学術会議の新会員候補者のうち6名の任命を菅総理が拒否。その理由がなかなか明らかにされていないことから、さまざまな憶測が飛び交い、日本学術会議のあり方が問われるまで、大きな問題になりました。日本学術会議は、昭和23年に日本学術会議法という法律で定められた内閣府直轄の政府機関。日本の科学技術が戦争に利用されていった歴史を踏まえ、科学が文化国家の基礎という考え方に立ち、国の施策や生活に科学を反映させ、平和的な復興、人類社会の福祉への貢献、世界の学会と提携して学術の進歩に寄与するという目的で設立されました。また、技術の発達とともに、たとえばAIやゲノム編集など、倫理的な問題や高度な政治判断が求められるようになり、6月に科学技術基本法が見直され、科学技術に人文科学系の分野も含まれるようになりました。「科学者を養成するためにこういう施策を」「この分野に科学技術の浸透を」など、科学界から政府に対して提言・勧告するのも役割なのですが、最近では、見解を問われていない事柄については意見の発表を行わないなど、「ちゃんと機能しているの?」という批判もあがりました。日本学術会議は、独立した機関と説明をしていますが、内閣府の直轄で税金が投入されているため、本当に独立していると言えるのか?という声もあります。今回の任命拒否が、候補者の反政府的な発言や行動が理由だった場合、議論は2つに分かれます。ひとつは、国の機関なのだから、自分たちの政策に反対する人をわざわざ任命する必要はないだろうという意見。もう一つは、科学が間違った使われ方をしないためには国の方針に物言いをつけられる独立した存在としての役割を期待したい。だからこそ、反対意見を持つ人も必要という考えです。科学者の意図しない形で、技術が政治に使われてしまった最たる例は原子爆弾です。政治と科学のつながりは一歩間違えば恐ろしいことに。あらゆる観点から検証する慎重さが求められます。安全保障上の問題で、理由を説明できない事情があるのかもしれませんが、政府は情報の透明性を大事にしてほしいと思います。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開中。※『anan』2020年12月2日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年11月26日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「新疆ウイグル問題」です。企業のSDGsの意識を強めるきっかけになった。中国の新疆ウイグル自治区では、中国政府がウイグル族の人々を弾圧したり、100万人以上を収容所で強制労働させているなど、非人道的な行為が長年、世界的に問題になっていました。ウイグル族はイスラム教を信仰しており、中国共産党は実質的に宗教の自由を認めていません。特定の宗教は弾圧し、言葉や文化も漢民族への同化政策をとっています。そのことに反発し、一部のイスラム原理主義への回帰思想の人たちがテロを起こすようになり、中国共産党はそれらの過激派をテロ組織と認定し、取り締まりを強化するという悪循環も生まれているのです。今年、新疆ウイグル問題がさらに注目を浴びたのは、3月にオーストラリアの政府系シンクタンクが、世界の82社のサプライチェーン(部品や原材料の調達から製造、販売、消費までの一連の流れ)に、ウイグル族の強制労働が含まれていると発表したからです。そのなかにはアパレル、自動車、電化製品、携帯端末、ITなどの世界の有名多国籍企業や日本の企業も数多く含まれていました。これまでは人権や環境に配慮していると宣言していた企業でも、ウイグルの人たちから搾取するような強制労働に加担していることが明らかになり、各社対応に追われました。いまやESG投資が広まっており、人権や環境に感度が高い企業が投資の対象になり、それらに問題を抱えているとただちに企業価値を損ねます。しかし、サプライチェーンは多岐にわたっているため、メーカー側にしてみれば、まさか自分たちの会社が!と寝耳に水の出来事でもあったのです。トランプ政権は6月にウイグル人権法案を施行。ウイグル族弾圧に関与していることがわかった中国当局の担当者に、制裁を科せるようにする法律です。9月にはウイグル自治区で生産されている綿製品の輸入の禁止を宣言し、対中政策を強化しました。もしかしたら、私たちが普段着ている服や使っているスマホが、ウイグルの人々の強制労働につながっているかもしれません。そういう想像力を欠かさないようにしたいですね。こういう動きをきっかけに、SDGsの取り組みが世界的に進むことを願います。堀潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開中。※『anan』2020年11月25日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年11月19日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「ベラルーシ情勢」です。自由主義諸国vsロシア&独裁国家の対立が如実に。8月の大統領選挙で6期目の当選を果たしたベラルーシのルカシェンコ大統領。ネットの世論調査では支持率が3%だったにもかかわらず、80%の票を得たため、不正選挙だと市民が抗議。暴力的な制圧がなされ、直後には6000人の市民が拘束され、拷問を受けた人もいました。デモは最大時には10万人以上が参加、2か月以上たった今も、辞任を求めるデモは続いています。ベラルーシはロシアとEU諸国双方に隣接する旧ソビエト連邦の国で、「欧州最後の独裁国家」と呼ばれています。ソ連崩壊に伴う独立後、1994年にルカシェンコ政権が発足。民主的な国の誕生と、国民の期待を背負って生まれたのですが、長期政権のうちに腐敗し独裁化が進行。不正選挙が繰り返されました。経済成長に問題があり、市民の政治参加に制約がかかっていたところに、今年、大統領が「ウォッカやサウナが効く」などと新型コロナを軽視したため感染者が増え、国民の不信感はさらに募りました。そこでルカシェンコ大統領が支援を求めたのがロシア。プーチン大統領はルカシェンコを支持し、15億ドルの融資と軍事的協力の継続を約束。ベラルーシの貿易相手の80%はロシアで、文化的にも地理的にも近い存在です。ソ連から独立した国々が次々とEUに加盟し、自国と緊張関係を持つようになってしまったため、ロシアにしてみればベラルーシをEU側に引き抜かれたくない。ただでさえプーチン大統領の支持率が落ちている今、市民が蜂起して政権が倒れる事態が隣国で起きて、ロシアに飛び火することを恐れています。ベラルーシの抗議運動は音楽を流したり、民族衣装を着たり花束を持つなど徹底して平和的に行われています。暴力に訴えれば、それを理由に軍や警察に即刻制圧されてしまうからです。34年前、チェルノブイリの原発事故で飛散した放射性物質の7割がベラルーシに降り注いだといわれ、復興のために広島の原爆研究を共有するなど、核の被災国としても日本とはつながりのある国。独裁政権の横暴を止めるには「国際社会が見ている」ということが力になります。ベラルーシの現状をぜひ知っていただきたいです。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開中。※『anan』2020年11月18日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年11月12日お笑いトリオ『ネプチューン』の名倉潤さんが、2020年11月4日にInstagramを更新。52歳の誕生日を迎えたことを明かしました。名倉潤「本当に楽しく幸せな時間でした」同日、京都で大切な友人や家族に囲まれて、誕生日を祝ってもらったという名倉さん。今日で52歳になりました今年も京都にて大好きな家族のような友人家族たちに囲まれ誕生日をしてもらいました本当に楽しく幸せな時間でした感謝ですnagrat1968ーより引用「本当に楽しく幸せな時間でした」と感想をつづり、妻でありタレントの渡辺満里奈さんとのツーショット写真を公開しました。※画像は複数あります。左右にスライドしてご確認ください。 この投稿をInstagramで見る Jun Nagura(@nagrat1968)がシェアした投稿 - 2020年11月月3日午後4時13分PSTぴったりと身体を寄せ合って、笑顔を浮かべる2人の姿からは、幸せな様子が伝わってきますね。名倉さんは、『#東京にいるスタッフ友人メッセージやプレゼントありがとうございます』『#応援してくれてる皆様にも感謝です』とハッシュタグで、周囲の人への感謝の言葉もつづりました。また、妻の渡辺さんもInstagramで夫と京都を観光する様子を公開しています。 この投稿をInstagramで見る 渡辺満里奈 marina watanabe(@funnyfacefunny)がシェアした投稿 - 2020年11月月4日午後7時16分PST夫の誕生日もお祝いしてもらったり、子どもたちもたくさんの経験ができで感謝しかない同じ空間にいることの大切さを噛み締めて。funnyfacefunnyーより引用それぞれの投稿に対し、ネット上では祝福のコメントが寄せられています。・お誕生日おめでとうございます!素敵な1年になりますように。・素敵なツーショット写真ですね。仲のよさが伝わってきます。・夫婦そろっての幸せそうな笑顔を見て、こちらまで嬉しくなりました。名倉さん夫婦の仲睦まじい姿は、多くの人の心を和ませました。[文・構成/grape編集部]
2020年11月05日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「アメリカ大統領選挙2020」です。対中国関係、経済政策が勝敗を分けるポイントに。共和党のドナルド・トランプ候補vs民主党のジョー・バイデン候補で繰り広げられているアメリカ大統領選挙。選挙活動中にトランプ氏が新型コロナウイルに感染するなど、混乱もありましたが最後まで接戦が続いています。選挙戦のポイントの一つは対中国。トランプ氏は中国に対して強い姿勢を示し、内政を固めようとしました。WeChatの禁止やファーウェイへの制裁、香港や新疆ウイグル自治区問題への抗議などです。一方、民主党は中国に対して親和的な立場。バイデン氏の次男がビジネスで中国と太いパイプを築いており、「国を中国に売るのか」とトランプ氏は激しく突いてきました。この4年の間に経済が悪化していれば、現職の大統領は支持されないでしょうが、新型コロナにより少し落ち込んだとはいえ、アメリカの経済は堅調。「アメリカファースト」と、国内に工場を呼び戻し雇用を作り、国内で消費する政策が功を奏したため、経済界はトランプ氏の再選を願っています。これに対してバイデン氏が主に掲げているのは気候変動への対応や、人種差別への対抗などの大きなテーマ。大切な問題なのですが、明日の暮らしに直結するものではないため、有権者がそれを重要視するのかどうか。日本にとっては、民主党政権下では貿易交渉が厳しくなると言われており、日本の財界は代々共和党政府を歓迎してきました。自民党政権ではアメリカと二人三脚で日米同盟を深化させ、米軍の負担を日本がサポートし、中国や朝鮮半島をともに牽制するという流れが続いていました。トランプ氏は、フェイクニュースを流したり、人種・性差別など問題発言が多いですが、実はトランプ政権下ではアメリカはほとんど戦争に加担していません。アフガンから撤退し、北朝鮮の金正恩委員長と会談、中東でイスラエルとUAEの国交を実現させたり。「安定した社会でなければ、商売も安心して行えない」と、極めてビジネスマンらしい発想で動いています。結果はいずれにしても、共和党か民主党かではなく、人権や環境、SDGsに関わる価値観が“豊かさ”と考える大統領であってほしいなと思います。堀潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開中。※『anan』2020年11月11日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年11月04日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「小選挙区制」です。時局により、すぐ体制が変わりやすい選挙制度。安倍前総理の退陣により発足した菅内閣の任期は2021年の9月末までです。支持率の高いうちに衆議院を解散、総選挙を行って、盤石な体制を整えようという声も自民党内から強く上がっています。いま衆議院選挙で取り入れているのは小選挙区比例代表並立制。小選挙区制では、1つの選挙区から1人を選出します。この場合、与党かそれ以外か、ほぼ一騎討ちになるため、時の風によって体制が一気にひっくり返りやすい。民主党政権も、原発や消費税問題で対応を間違い、あっという間に政権が自民党に戻ってしまいました。小選挙区制では少数派の意見を拾いにくいという問題もあります。実は1993年までは中選挙区制でした。同じ選挙区内から3~5人を選べたので、多様な議員を国会に送ることができたのです。ただ、選挙区が広いと選挙運動に金がかかり、地元の有力者や代々政治家家系の候補者が有利になり、汚職も広がりやすい。それを改善しようと小選挙区制になりました。選挙で「支持する候補者はいるが、所属する政党は支持していない。どうしたらいい」という悩みをよく聞きます。僕は、小選挙区制では政治家個人の資質を見て選び、比例代表制の政党は、普段から自分の考え方に近い政党に投票するようにしています。ただ、比例代表制も、党の判断で名簿上位に並んだ候補者が私たちが選んだわけではないのに当選し、その後、汚職にまみれていく問題などが起きています。自民党の青年局が73歳定年制を打ち出したときには、党内でも相当の抵抗がありました。73歳を越えた候補者が比例代表の名簿の上位におり、本当にこの人たちは必要かと切り込んだのです。国民にとっていい政策を実現するには、与党と野党が緊張関係を持ち、多様な意見が飛び交い、慎重に議論できるようにしておくことが必須です。現在、女性議員や女性閣僚の比率はOECD加盟国でも日本は最低レベル。時代にマッチした、新しい感覚を持った議員が活躍できる国会や政府であってほしいですね。そのためにこの選挙制度は最適なのか、あらためてチェックする必要があるのかもしれません。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開中。※『anan』2020年11月4日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年11月03日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「菅内閣誕生」です。なぜ改革が必要か、目的と理由の情報公開も求む。安倍総理が病気を理由に退陣。9月16日、自民党の菅義偉総裁が、第99代内閣総理大臣に指名され、菅内閣が発足しました。就任の記者会見ではデジタル化強化のために新しくデジタル庁を創設することや、少子化対策として不妊治療の保険適用を実施したいと発言しました。安倍政権の流れを汲み、継承していくのは安全保障政策や自衛隊のあり方、憲法改正など。菅さんは外交経験は少ないため、ロシアのプーチン大統領など、前総理がこれまでに積み上げてきた信頼関係を生かし、体調が回復し次第、安倍さんが外交特使として派遣されるのではないかと注目が集まっています。特にいまは、アメリカと中国が牽制し合っている最中なので、前任者に託すというのは、いい対策なのではないかと思います。一方、内政に関して菅内閣は、積極的に改革を行おうとしています。安倍さんとの大きな違いは、菅さんは世襲政治家ではなく無派閥ということ。会見でも「行政の縦割り、既得権益、悪しき前例主義を打ち破り、規制改革を全力で進める」と断言していました。前政権では、成長戦略が道半ばで終わってしまったので、これからは民間の参入を積極的に打ち出すことになりそうです。政府内でもベンチャー企業が活躍できるかもしれないという期待は、企業家の間に高まっています。また、官邸人事は強化されるでしょう。内閣の方針に沿う人は重用するけれど、抵抗する人は容赦なく切るという傾向は今後も続きそうです。9月には「日本学術会議」が推薦した候補者のうち6名の任命を見送りました。その理由が不明だという声が上がりましたが、明確な説明はなされていません。パンケーキ好きなど、柔らかいイメージのメディアプロパガンダも効いて、就任時には74%と高い支持率を集めました。しかし、改革により、特定の産業や企業、一部の富裕層や企業家にのみ利益がもたらされ、弱者が切り捨てられることになってはいけません。「誰にとっての改革なのか」ということは見失わないでほしいと思います。また、なぜ改革が必要なのか、目的と理由に関するしっかりとした情報公開はぜひ求めたいところです。ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開中。※『anan』2020年10月28日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年10月21日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「優生思想」です。弱者を切り捨てる、効率主義に基づく恐ろしい思想。優秀な人間を増やし、劣った人を排除しようとするのが「優生思想」です。象徴的なのはナチスドイツ。「アーリア人は世界一優秀で、最も卑劣なのはユダヤ人だ」と根拠もなしに決めつけ、大量のユダヤ人を強制収容所に送り虐殺しました。ナチスはそれ以前に、障害のある人々を排除していました。第一次世界大戦に負け、民族の誇りを傷つけられたドイツ。世界恐慌に襲われ、強い国として復活を遂げねばならなくなったときに、「効率の悪い人間はいらない」と、障害のある人やLGBTの迫害を始めたのです。ドイツ国民はこれに対して否定的な声をあげませんでした。国の成長のためには仕方がないと段階的に優生思想に染まり、ユダヤ人虐殺も容認してしまったのです。ナチスの崩壊により、この思想の根本的な間違いにドイツは気づきましたが、戦後も優生思想を続けていたのが日本です。1948年に「優生保護法」を制定。「不良な子孫の出生の防止」「母性の生命健康を保護する」ことを目的に定められ、本人の同意なしに中絶、避妊、断種(手術により生殖能力を失わせること)をさせていました。この法律は1996年、「母体保護法」に改定されるまで続きました。優秀か否かを国が選別し、劣っている人を、国を挙げて差別するというのはとても恐ろしいことです。これは産業構造に支配された考え方といえます。学校教育でも科学の発展につながる理数系は尊重され、国語や音楽など、生産性に直結しないものは役に立たないというような価値基準が広がってはいないでしょうか。7月、有名ミュージシャンが、優れた遺伝子を持つスポーツ選手や芸能人の配偶者は、国家プロジェクトとして政府が選定するべきじゃないかとツイートし、大きな波紋を呼びました。これは、優秀でなければ社会に必要ないという考えに結びついてしまいます。「効率の悪い人は社会のお荷物」という感覚は、私たちのなかに、拭えず残っているのかもしれません。優生思想的なものがあるかもしれないという自覚は持っておきましょう。社会の効率主義が変わらないかぎり、優生思想は生き続けてしまう恐れがあります。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開中。※『anan』2020年10月21日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年10月16日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「政府事業の民間委託」です。問題点は行政側に。新規民間の参入と育成が課題です。新型コロナウイルス対策の「持続化給付金」の支給において、経済産業省がサービスデザイン推進協議会に事業委託。そのほとんどを電通に再委託していたことが発覚し、中抜き疑惑が湧き起こり問題になりました。こういう大きな行政事業は、お金の管理、宣伝文句やデザイン、業者への発注など、仕事が多岐にわたります。しかも迅速に実行しなければいけないとなると、ノウハウを持ち安心して任せられるのは大手広告代理店しかないというのも事実です。東日本大震災で、計画停電を急にしなければいけなくなったときも広告代理店がいろいろなプロジェクトを組んで進めていました。前述の問題の決定的なミスは、説明がきちんとなされなかったことでしょう。不透明な関係で、本当は発注に偏りがあるのに、あたかも公平にやっているかのように見せかけた手法が問題。最初から、こういった大事業を頼める業者は限られていることを正直に公表すればよかったのだと思います。ただ、発注先が限られるということは、市場競争が起こらないため、価格が適正なのかどうかも判断がつきません。この状況を変えるためには、日頃から、様々な業界が行政事業に参入しやすくすることではないでしょうか。アメリカではオバマ政権以降、「オープンガバメント政策」を打ち出しており、政府の透明性、国民参加、官民協業を謳っています。地方行政では福岡市がITやデジタル技術を積極的に使った、新たな行政サービスを次々と打ち出しています。交通では配車サービスの「Uber」のライドシェアをいちはやく実験的にスタート。ベンチャー企業の誘致も進め、育成に力を入れてきました。LINEやYahoo!などのテック系、デジタル系新興企業と連携してプロジェクトを動かすなどしており、他県から視察も多く来ているようです。大手広告代理店が悪いという話ではなく、政府はきちんと情報公開をして、民間参入者を増やし、新たな産業を起こしたり企業育成をすること。本当の意味での効率を高めて、先鋭的、前衛的な新陳代謝のいい国になる必要があるのではないかと僕は思います。ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開中。※『anan』2020年10月14日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年10月12日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「TikTok買収」です。モバイル向け動画のプラットフォーム、TikTokが急成長。ダウンロード数は世界で20億件を超えました。TikTokの親会社は中国企業のバイトダンス。個人情報が中国政府に流出するのではという懸念から、インドは6月に国内でのTikTokの使用を禁止。トランプ大統領も「安全保障上の理由から、閉鎖されるか売却されるかだ」と述べ、TikTokのアメリカ事業の買収に、マイクロソフトほか数々の企業が興味を示しました。最終的には、オラクルとの提携が決定。TikTokやWeiboなど、中国のSNSを運営する企業の真の目的は、利用者のスマホのなかに、どれだけ自分たちのビジネスインフラを入れ込めるかということです。利用者のモバイルに入り込み、利用者の情報をコントロールし、嗜好にぴったりのモノを売るインフラを世界に広げていこうとしています。中国は5月に「デジタル人民元」の試験運用を開始。中国当局が発行するデジタル通貨がアプリを介して世界に流通する日も遠くないでしょう。すると、中国系のアプリサービスや通貨を使用しなければ、世界の商売に参画できなくなる可能性も出てきます。アメリカやEU諸国は、そうして世界の貿易地図が中国に塗り替えられることを最も恐れています。日本や欧米諸国からすればそんな中国は脅威ですが、世界に照らしてみれば、中国に親和性のある国のほうが多数。一帯一路構想が広がり、東南アジアやアフリカ、東欧、中欧諸国などは、経済的に強く結びついている中国との共存共栄を望んでいるのです。独自のITインフラを持っていない日本は、すでにアメリカ系のインフラを使用しています。EUも独自のインフラはありませんが、自衛のために、個人情報を企業に握らせないルールづくりを徹底し、制裁金を課すなどのプレッシャーをかけています。日本政府は国民に何のリスクも知らせないまま、行政までもが海外のプラットフォームを使っています。これは、危機感が少し足りないのではないでしょうか。自国の商売や国民の情報を守るのが国の役割。それができないのなら、自衛の策を直ちに打つべきだと思います。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開中。※『anan』2020年10月7日号より。写真・中島慶子題字&イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年10月02日2020年9月27日、俳優の竹内結子さんが自宅で亡くなったことが分かりました。華やかな美貌と演技力の高さで、数多くの作品に出演していた俳優の突然の訃報は、世間に衝撃を与えています。要潤が「自己肯定感を高めましょう」と呼びかけ同日、俳優の要潤さんがTwitterを更新。「自己肯定感を高めましょう」と周囲に呼びかけました。自己肯定感を高めましょう。自分だけの価値、周りからの必要性を感じる。今はぼんやりとしか見えないかもしれませんが、その輪郭を捉えられるだけで充分です。すでに自分の価値がそこにあります。大丈夫、今僕ともこうして繋がってる瞬間があります。— 要潤 (@kanamescafe) September 27, 2020 要さんは、自分の価値をぼんやりとでもとらえられるだけで十分だとし、「大丈夫、今僕ともこうしてつながっている瞬間があります」と訴えかけます。さらに、次のような投稿をしました。地位や名誉が無くても、お金が無くても、身体一つあれば何者にでもなれる。自己破産や、犯罪歴が例えあったとしても、そこから這い上がることだって可能である。今は暗黒の中でも必ず目線を上げれば光があります。それは歴史が証明しています。— 要潤 (@kanamescafe) September 27, 2020 2020年は、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナウイルス)の流行や、芸能人の訃報といった暗いニュースが相次ぎ、心が晴れない日々が続く人もいるでしょう。要さんは、不安になりやすい時を過ごす人々に向けて、前を向けば必ず光があることを伝えたのです。【ネットの声】・要さん、前向きなメッセージをありがとうございます。救われる人がたくさんいると思います。・涙が出て、気持ちがすうっと軽くなりました。自分のペースで、ゆっくり生きていきたいです。・自己肯定感を持つことは本当に大切です。暗いニュースが続く今こそ、明るさを忘れないようにします。コロナウイルスのまん延により、私たちの生活は一変しました。先の見えない状況に不安や悩みを抱く一方で、他者との交流が減り、知らず知らずのうちにストレスをためこんでしまうことも。自分の大切にしている人やものを改めて振り返り、周囲の人と想いを伝え合う時間を作っていきたいですね。[文・構成/grape編集部]
2020年09月28日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「日本の防衛」です。攻撃力を高めるより外交、経済政策でリスク回避を。日本の防衛における今年の大きなトピックは、河野防衛大臣が陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の秋田・山口への配備を撤回したことでしょう。撤回の理由は、想定されていた安全が確保できないこと。改修に費用がかかりすぎることなどでした。イージス・アショアは、飛んできたミサイルを撃ち落とすシステムです。いま計画を撤廃することで、防衛のためには敵基地に攻撃する能力のあるミサイルシステムが必要なんじゃないかと、話は思わぬほうに進んでいます。そうなると新しい兵器を買わなくてはいけませんし、攻撃能力を持てば、当然攻撃されるリスクも高まります。こうして、際限なく防衛力の拡張にひきずりこまれてしまうことを「安全保障のジレンマ」といいます。2020年度の防衛予算は5兆3130億円と過去最大になりました。2010年くらいまでは5兆円程度でしたが、近年一気に跳ね上がっています。理由の一つは、アメリカが防衛費を見直したこと。自国の経済も疲弊しているアメリカは、日本や韓国から軍を撤退し、自分の身は自分で守ってくれという姿勢でいます。これを受け、これまで空母を持たなかった日本も、空母の機能を持たせるために護衛艦いずもを改修したり、母艦に離発着できるオスプレイを配備したり、宇宙やサイバー関連にも防衛費を投入しました。ただ、安全保障は、軍事力増強だけが方法ではありません。外交政策も大きな歯止めになります。経済的な結びつきを強め、相手国を攻撃すれば自分たちも不利益を被る、という関係を作っておくことはとても有効です。EUが誕生したのも同じ理由です。2つの世界大戦の反省を受け、経済的関係を強めることでEU圏内は戦争を回避してきました。日本も、TPPやRCEPなど、アジア太平洋地域で大きな貿易圏を作り、互いを攻撃しにくくする方法を構築しようとしています。いま新型コロナで、人もモノも行き来しづらくなり、自国第一主義に走りがちです。しかし、各国の連携が薄れれば、リスクも高まります。このなかでどういう防衛協調策があるのか、今後もウォッチしていきたいと思います。ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開中。※『anan』2020年9月30日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年09月23日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「コロナ禍の災害支援」です。被災地と離れていながらできる、新しい支援に注目。今年も豪雨災害が続いています。7月には熊本を中心に、九州やその他の地域が大きな被害に見舞われました。しかし、このコロナ禍では感染リスクもあり、自由に移動ができません。現地ではやはり人手が足りていないとのこと。とはいえ、県外の方が来ると地元から一斉に不安の声があがり、疑心暗鬼も招いてしまうそうです。そんななか、新しい支援の形が2つ見られました。一つは、被災した当事者がAmazonの「ほしい物リスト」で必要物資を公開し、支援を募るというもの。八代市の水没した保育園では、園児の帽子からフェルトペン、シーツに至るまで具体的に必要なモノと数をリストアップしました。これまでは、被災地で何が必要なのかの情報をリアルタイムに得るのが難しく、物資を送っても自治体の倉庫で管理されて適切に届かないというような問題がありました。その点、この方法は明快で合理的です。もう一つは、熊本地震をきっかけに結成された支援団体「BRIDGE KUMAMOTO」の働きです。広告を手掛けるデザイナーや映像クリエイターらが中心メンバーで、7月の豪雨災害を受け、いち早く基金を創設。これはクラウドファンディングで支援金を募り、被災地支援を行う組織や団体はBRIDGE KUMAMOTOに申請して、助成金を受け取れるというシステムです。全国のクリエイターたちに呼びかけて動画メッセージ集を作るなど、お金以外の支援も行っており、僕もナレーターとして参加しました。このように中間支援団体がSNSを展開して支援に入るというのは新しい動きです。行政では手の回りにくいところを細やかにサポートしています。豪雨や台風災害は今後も起きるでしょう。地震や富士山の噴火の危険もはらんでいます。コロナ禍の複合災害では、外に出られない、外からの支援が得られない状況が続く恐れがありますから、食糧や水、常備薬に加え、マスクや消毒液も適量、備蓄しておいたほうがよいでしょう。これまで避難所ではたびたび、食中毒や感染症の問題が起きていました。コロナにより、衛生面の危機意識が一般的に高まったのは、良かったことかもしれません。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。3月に監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開された。※『anan』2020年8月26日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年08月19日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「スーパーシティ構想」です。遅れている日本。地域の課題解決に活用を期待したい。「スーパーシティ」構想を盛り込んだ、国家戦略特別区域法(特区法)の一部を改正する法案が成立し、6月に公布されました。特区法とは、「世界一ビジネスをしやすい環境をつくること」を目的に、地域や分野を限定して、規制や制度を緩和したり、税の優遇などを行ったりする法律です。AIやビッグデータを活用し、社会のあり方を根本から変える街づくり「スマートシティ」化は世界中で計画が進んでおり、日本はだいぶ遅れています。スーパーシティとは日本独自の言葉で、スマートシティに防災や社会福祉の要素を加え、地域住民のデータを連携して管理することで、効率のいい都市計画を2030年頃までに実現しようとしています。スーパーシティ構想では、自動運転、ドローンによる配送、テレワークやオンライン教育、オンライン診療、キャッシュレス決済、エネルギーや水の無駄のない管理など、生活全般を網羅しようとしています。スマートシティ計画が最も進んでいるのは中国。医療分野はテンセント、人の動きはアリババというふうに、いくつもの大企業が牽引しており、各企業の持つデータベースを統合して一体運用。杭州市や雄案新区などで進められています。カナダのトロント郊外でもGoogleが中心になり、計画を進めていましたが、個人情報の扱いに不安があると住民から反対の声があがり、計画は中止してしまいました。今法案でも懸念されたのは、個人情報が自治体に管理されるのではないかということでした。内閣府の国家戦略特区担当の審議官は、データ管理は一企業や一行政が一元的に管理するのではなく、必要ないときは遮断されるため、過度に心配する必要はないと話していました。ただ、現在の個人情報保護法は弱いので、個人が嫌だと思えば、すぐに自分のデータを切り離すことができるよう、法律を強化すればよいのではないかと思います。内閣府は現在、スーパーシティのアイデアを各自治体から募集しています。技術主体の実験的なものではなく、高齢化や過疎、災害対策など、地域の課題解決を目的にした街づくりであることが大前提であってほしいと思います。ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。3月に監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開された。※『anan』2020年8月12日-19日合併号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年08月11日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「ネット中傷」です。当人にとっては気にするなでは済まされません。『テラスハウス』に出演していた女子プロレスラーの木村花さんが5月に亡くなりました。インターネット上で誹謗中傷を受けていたことが原因による自死といわれており、ネット上の誹謗中傷に対し、新たな法律や厳罰化を求める声が強くなりました。でも、僕は新たな法律を設ける必要はないと思います。侮辱罪や名誉毀損罪など、既存の法律で十分裁くことができるからです。ただ問題なのは、訴えようにも、発信した相手の特定がとても難しいということ。弁護士を立て、SNS事業者や掲示板管理者などに情報開示請求を行い、発信者のIPアドレスをもとに、電話会社などに開示を求めて、住所や氏名、本人特定ができます。そこから損害賠償の請求になるので、お金も時間もかかるのです。アクセスログの保存期間は決まっているため、特定が間に合わないケースもあり、政府からは事業者に対し、情報の速やかな開示や保存期間の延長を求める動きが出ています。ほかにも、過度に人を傷つける文言は書き込めなくするなど、民間事業者にできることはあると思います。ニコニコ生放送やABEMAでは、NGワードを指定して、本人が受け付けたくない言葉をはじく機能を備えています。SNSも、ミュート機能で自分のコメント欄を表示させないようにするなど、改善はされつつあります。木村花さんには、悪質な投稿を上回る大量の励ましや応援の声があったそうです。ただ、僕も経験がありますが、1000人に1人の悪口でも、言われた本人は一日中それを引きずります。「知らないやつの他愛もない悪口だから、気にしないだろう」と思ったら大間違い。受け取り手は、実は知人が匿名で本音を漏らしているのかもしれないと、疑心暗鬼に陥ってしまうのです。木村花さんのほかにも、伊藤詩織さんやきゃりーぱみゅぱみゅさんらに対するネット中傷を見ても、女性の発言に対して、大量の批判がことさら集中する傾向があるようです。メディア・リテラシーも大事ですが、女性差別・女性蔑視など、古い価値観に基づいた社会のありようも変えていかなければいけないと思います。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。3月に監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開された。※『anan』2020年8月5日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年08月01日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「香港国家安全維持法」です。中国の強権を示す法律。一国二制度崩壊の危機に。6月30日、中国の国会・全国人民代表大会(全人代)にて香港国家安全維持法(国安法)が全会一致で可決。香港政府は同日23時頃に公布し即日施行しました。翌1日は、23年前に香港がイギリスから返還された記念日でした。この法律は、国の分裂、政権転覆、テロ活動、外国勢力と結託して国家安全に危害を加える行為を犯罪とみなすもので、最高刑は無期懲役。香港人だけでなく外国人にも適用され、国外在住の人も含まれます。これまで香港は言論の自由が守られ、司法の独立性も認められた民主的な都市でした。しかし2014年頃から少しずつ中国共産党が香港行政、司法に介入する姿勢を見せ始め、民主化を求めるデモ活動が続いていました。昨年は香港警察の市民への取り締まりが強くなり、SNSや防犯カメラによる監視、カード情報などから抗議運動関係者が特定されていきました。国安法により、中国本国による直接の取り締まりが合法化されます。この法律に対する抗議デモが起き、1日で370人が逮捕され、そのうち10人が国安法に抵触。「香港独立」の旗を持っていただけで捕らえられた人もいました。返還から50年は一国二制度を変えない約束でしたが、実質反故にされた形です。アメリカは、これまで香港に対して認めてきた貿易や渡航の優遇措置を、一部を除き停止しました。イギリスは、返還前に発行していた許可証を持つ香港市民には、将来的にイギリス市民権の申請を可能にすると発表。日本にとって中国はビジネスでも安全保障上でも良好な関係を保っておきたい相手です。日本政府はこれまで強い批判を示していませんでしたが、自民党内から習近平国家主席を国賓として迎える予定を中止するべきという声も上がり、判断に注目が集まりました。貿易相手国だからこそ、自由や人権、公平であることに対する価値観を共有する必要があると思います。そうでなければ、安心して連携をとれません。日本や欧米から抗議が上がる中、ロシアや、中国と経済的な結びつきの強い東南アジアや中南米の国々からは、国安法を支持する声が上がっており、分断が深まっています。ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。3月に監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開された。※『anan』2020年7月29日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年07月28日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「検察」です。権力を持つからこそ、独立した存在であるべき。著名人も含め多くの反対の声がTwitter上にあがった「検察庁法改正案」は、今国会では廃案となりました。定年延長が問題になっていた黒川弘務東京高等検察庁検事長は、緊急事態宣言のさなかに新聞社記者らと賭け麻雀をしていたことが発覚し、5月に辞職しました。検察官とは、検事と副検事を指します。法律違反を犯した人を逮捕するのが警察官。逮捕された人が、本当に罪を犯したのか、裁判にかけるに値するかを調べるのが検察官。法律に照らし合わせて刑を定めるのが裁判官です。日本では、犯人を起訴できるのは検察官のみ。日本の裁判は無罪率が低いといわれますが、それは、検察が裁判に勝てると踏んだものしか起訴しないからです。性犯罪のように、密室で行われて証拠をそろえるのが難しいものは起訴されないことが多い。伊藤詩織さんの例がまさにそうです。刑事訴訟で争うことができず、民事訴訟を起こし、ようやく一審で勝訴できました。かつて、郵便不正事件で厚生労働省の元局長の村木厚子さんが無実の罪に問われ、長期間拘留された事件もありました。検察が事前に用意したストーリーに沿って裁かれていくというのは、とても怖いことですよね。それくらい検察官の権限はすごく大きいんです。その検察庁の人事を、時の政府が強く握るというのはやはり危険です。そうなれば検察官は自分の生活や出世のために、政権に擦り寄る可能性があります。また政府が敵とみなした人を、検察が簡単に起訴することもできるようになってしまいます。それらを憂慮し、多くの人が反対を述べ、改正案は見送られました。一方で、国家権力にも相対してメスを入れることもできる存在なので、検察はやはり独立した存在でなければいけません。正義の検察が暴走しないよう、私たち国民は常に監視しておく必要があります。実際の監視役はメディアが担うべきでしょう。それなのに、雀卓を囲み、検察と新聞記者がずぶずぶの関係だったというのは残念でなりません。一緒に食事をしようが麻雀をしようが、正義に反することが起きたときには、ペンの力で刺してほしかったと思います。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。3月に監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開された。※『anan』2020年7月22日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年07月16日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「9月入学」です。コロナ禍では無理。じっくりと時間をかけて再考を求む。学校の入学・始業時期を4月から9月にする案は「今年度・来年度のような直近の導入は困難」と、見送られることになりました。9月入学制度はこれまでにも何度も議題にのぼっています。世界ではアメリカ、カナダ、イギリス、フランス、ベルギー、トルコ、モンゴル、ロシア、中国などの国が9月入学制度を導入しています。日本も明治維新後、西洋の教育を導入した当初は9月始業でした。ところが、国の会計を4月~3月を一年とする年度制を採用したこと、徴兵制の始まりなどから4月始業に変わり、今に至ります。今年、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために学校の休校が続き、授業の遅れが問題になりました。そんななか、高校生のツイートをきっかけに、全国知事会から国へ9月入学の検討要請があり、安倍首相も「有力な選択肢の一つ」とコメント。いったん検討し始めたのですが、実際に導入するとなると、初年度の入学生徒数が半年分増加し、大量の教員不足が生じてしまうこと、また、保育所の入学待機児童数が増大すること、システムやカリュキュラムの再編など、拙速な対応は無理と判断されたのです。このコロナ禍で、ただでさえ問題が山積するなか、大きな改変をしようとしたのは現場の声を無視した行動だったと思います。授業の遅れを取り戻すことが目的なら、感染者数は地域によって差がありますし、全国一律にすること自体がナンセンスなのではないでしょうか。4月でも9月でも、いつ学校が始まっても継続してきちんと教育を提供できる仕組み作りを議論するべきなのではないかと思います。日本は会社も年度ベースなので、学校の始業時期をずらせば就職にも影響が及びます。会社を通年採用に変え、大学も途中入学を許すなど、個々のスタイルに合わせた社会設計が必要になるでしょう。世界の学校制度はもっと柔軟です。イギリスは年に3回、入学の機会がありますし、フランスでは家庭での義務教育の就学も可能になっています。また、海外は飛び級制度も広く採用されていますね。日本もこれを機に時間をかけて議論し、右に倣えではない、多様な学校制度へと見直してみてはいかがでしょうか。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。3月に監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開された。※『anan』2020年7月15日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年07月09日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「新型コロナ支援策」です。官民ともに、多岐にわたる支援。有効利用して。外出自粛要請により、仕事が減り、経済的に厳しい状況に追い込まれた方が大勢います。1人10万円の特別定額給付金制度や、中小企業やフリーランス向けの持続化給付金のほかにも、新型コロナウイルス感染症の支援策はたくさん発表されています。内閣官房のHPには、それらをまとめたリストが見られます。「収入減により住宅を失うおそれがある」「アルバイト収入減で学業継続が困難」など、それぞれの問題に対して相談窓口を記しています。事業者向けには、経済産業省がLINEアプリを使用して支援メニューを紹介しています。「経済産業省新型コロナ事業者サポート」(ID:@meti_chusho)を友だち登録すると、「給付金」や「資金繰り支援」などの項目が出てきて、詳細がわかるようになっています。民間では「マネーフォワード」という、会計アプリサービスを提供している会社が、事業者、個人向けの支援情報をサイトにまとめました。「失業した」「生活が苦しい」「家賃が払えない」「子育て世帯」など、フローチャートで自分に合う支援を探せるので便利です。支援策の具体例は、たとえば社会福祉協議会では、コロナの影響で休業し、一時的に生計維持にお金が必要になった事業主に対し、「緊急小口資金」として、無利子で20万円以内の貸し付けを行っています。緊急融資なので申請受理から10日以内に振り込まれます。また、失業するなど収入減少で生活費に困った人には、「総合支援資金」として、2人以上の家庭には月20万円以内、単身者には月15万円以内の貸し付けが可能に。コロナ禍の深刻な状況ですから、「返済の見込みが立たない」と臆さずに、とりあえず相談してほしいとのことです。電気、ガス、水道料金も、支払期限の延長をそれぞれの事業者が受け付けています。携帯電話の大手3社は2月末までの支払期限を6月末まで延ばしていました。困っているという声に対して、国も自治体も柔軟な対応に努めています。支援情報は日々更新されますので、頼れるところは頼って、身を守ってください。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。3月に監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開された。※『anan』2020年7月8日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年07月03日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「内閣総理大臣」です。独裁を避けるため日本が選んだ内閣という組織。新型コロナウイルス感染症の対策をめぐり、世界各国のリーダーの違いを目の当たりにする機会が増えました。政治のシステムは大きくわけて議院内閣制と大統領制があります。前者のトップは首相、後者のトップが大統領。日本は議院内閣制をとっており、安倍首相は内閣総理大臣。内閣という行政府の長です。大統領制にはアメリカ型とフランス型があり、アメリカは大統領個人が行政を担いますが、フランスは大統領が国家元首として外交や儀礼を担い、国内の政治は首相に任せます。ドイツも政治は国内外とも首相が担い、大統領は外交儀礼を行います。日本の元首は憲法で明文化されていませんが、儀礼や国会の召集などの元首的な役割は、ほとんど天皇が担っています。イメージでは、大統領のほうが総理大臣よりも強い権限を持っているように感じるかもしれません。しかし、アメリカの場合、大統領に議席はなく、議会と大統領個人は拮抗する関係を保っています。大統領がいくら「こうしたい!」と言っても、議会がつっぱねて「予算を通さない」と揺さぶりをかけることができる。オバマ前大統領もトランプ大統領もそれで思うように政策を進められず苦労しました。そうやって大統領の独裁にならないようにバランスをとっているのです。日本は太平洋戦争の過ちを繰り返さないため、総理大臣一人に権限を持たせず、内閣という国務大臣の集団で行政を進めるようにしました。問題がおきた場合は、「責任をとります」と内閣が総辞職をしますよね?内閣総理大臣一人が辞めることはありません。ただ、内閣=ほぼ与党ですから、総理の意向が通りやすいという意味では、大統領よりも総理のほうが権限を持っていると言えるかもしれません。誤った道を進まないためには、与党のなかにさまざまな意見を持つ人がいることが大事になってくるのです。大統領選挙のように、国民が直接総理を選ぶシステムではありませんが、私たちは選挙で「与党」を選べます。内閣総理大臣は与党の党首が任命されることがほとんど。議員選挙が私たちの暮らしや将来に直接関係し、どれだけ重要か、自覚していただけたらと思います。堀潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。3月に監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開された。※『anan』2020年7月1日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年06月26日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「新しい生活様式」です。withコロナの生活。新しい未来を築くチャンス。日本政府は5月25日に、緊急事態宣言を全国で解除しました。しかし、新型コロナウイルスの感染リスクがなくなったわけではありません。専門家会議の提言を踏まえて厚生労働省が掲げた「新しい生活様式」が、引き続き推奨されることになります。具体的には、人との距離をできるだけ2m(最低1m)空けること、マスクの着用、手洗い。感染の多い地域からの移動を避けること。レストランでは対面に座らず、料理のシェアはしない。仕事はテレワークに移行…などです。これからは暮らしも働き方も事業のあり方も大きく変化していくことになるでしょう。まず飲食店は、店内の密接度を減らさなければなりません。自粛期間中、多くの店がテイクアウトを始めました。今後も宅配がメインになったり、キッチンのみで飲食スペースを持たない店も増えていきそうです。人々の移動は世界的に制限され、観光業は大打撃を受けています。タイ国際航空など経営破綻した会社も出てきました。日本はこれまでインバウンド需要拡大に力をいれていましたが、国内旅行に焦点を当てるようになるでしょう。海外セレブ向けの高級ホテルを展開していた星野リゾートも、ワクチンができるまでの1年~1年半は、通常モードには戻らないことを想定し、近場の旅に対応する方針を掲げました。働き方では、都内で62.7%の企業がテレワーク・在宅勤務に対応できるようになりました。高い家賃の都心のオフィスは不要と、郊外または地方に拠点を置く企業も出始めています。感染を防ぐためには、人の移動を抑えることが必須で、物流も制限されています。これまでは東京一極集中で、仕事も消費も行われてきました。これからは地元で作ったものを地元で消費する、地産地消が推進されますし、地方移住者が増えれば、なかなか実現できなかった地方創生も現実味を帯びてきそうです。毎日の通勤ラッシュと決別し、家族と過ごす時間を持てるワークライフバランスがとれるようになるでしょう。まだ手探り状態ですが、ここでいち早く新しい未来を描いた人の社会になっていく、そういう岐路に私たちは立っているのだと思います。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。3月に監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開された。※『anan』2020年6月24日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年06月19日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「緊急事態条項」です。迅速な判断を求め自分の権利を放棄しないで。5月3日の憲法記念日に安倍総理は、支持層の主催する憲法フォーラムにあてた動画メッセージで、改憲への意欲を示すとともに、「緊急事態条項」の必要性を強く訴えました。憲法改正は、自民党が結成当時から掲げている党是です。改憲したい主な理由について、これまでは憲法9条の自衛隊の明記や、環境保全条項の追加などを主張してきましたが、4月から繰り返し焦点を当てているのが緊急事態条項の創設です。新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、政府は4月に緊急事態宣言を発出。国民に外出の自粛や休業の要請をしました。しかし、あくまでも要請レベルで、日本は海外のようなロックダウンはできません。憲法に緊急事態条項を加えることで、大災害や武力攻撃など国家の秩序が脅かされる状況に陥ったとき、政府などの一部機関に大きな権限を与え、個人の権限を抑制できるようにしたいという考えです。これに対し憲法学者や野党などは、「緊急事態宣言」と「緊急事態条項」は別もので、いま改憲を主張するのは火事場泥棒だと非難しました。民主主義は多くの人が意見を交わし、ひとつひとつを審議・検証するシステムですから、どうしてもことの決定には時間がかかります。その点、指導者に強い権限を預ければ、物事は迅速に進むでしょう。しかし、その指導者がもしも間違った選択をしてしまったらどうなるか?ナチスドイツや太平洋戦争下の日本政府の悲しい歴史を思い出してみてください。内閣が力を持ち、内閣主導で議会をコントロールできるようになれば、いくら支持する議員を選挙で選んでも、私たちの声は届かなくなる可能性があります。ですから、ここは慎重にならなければなりません。緊急事態条項を加えるならば、たとえば国民が不適切と判断した総理大臣はリコールできる仕組みを作っておくなど、暴走した場合に歯止めをきかせることができる対策を、あらかじめ用意しておくことが大事なのではないでしょうか。憲法は、私たちが国家をしばるためにあります。「よくわからないから、誰か決めて」と、自分から権利を差し出すようなことは、どうかしないでください。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。3月に監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開された。※『anan』2020年6月17日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年06月16日俳優の要潤が25日、公式YouTubeチャンネル「要 潤【Jun Kaname】」に投稿した動画で、トム・クルーズ主演、渡辺謙出演の大ヒット映画『ラストサムライ』(03)のオーディションを受けていたことを明かした。要はその冒頭で、「今日は、僕がどうしても出演したかった作品の話をしようと思います」と切り出し、「僕も役者を20年やっていますので、いろいろな作品に参加してきました。でも、スケジュールとかのタイミングでどうしても参加できなかった作品も同じように多々あります」と俳優人生を回顧。「実はあるハリウッド映画のオーディションを受けていたんです」「そのハリウッド映画は『ラストサムライ』です」と告白した。そのオーディションは、『仮面ライダーアギト』(01~02/テレビ朝日系)を終え、昼ドラ『新・愛の嵐』(02/東海テレビ・フジテレビ系)の準備に入っていた頃。ハリウッド作品の侍役であることや「殺陣ができる人を探しているらしい」という事前情報をマネージャーから告げられ、「『仮面ライダー』で1年間ずっと殺陣の練習をやってきましたし、武士の役のために道場にも通っていました」と要にとっては絶好の機会だった。気合十分でオーディションに挑んだ要だったが、ある不運に見舞われる。動画ではその真相やオーディションの詳しい内容も赤裸々に語っている。コメント欄には「すごいお話」「まじすか」「初めて聞くお話で、びっくり」など、驚きの声も寄せられている。
2020年05月27日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「がんゲノム医療」です。莫大ながん組織のゲノムを解析。今後の治療に期待。「ゲノム」とはDNAをはじめとする、遺伝子情報の全体のことを指します。遺伝子情報を個別に検証し、その特徴を明らかにすることで、体質や病状に合わせた、より効果的、効率的な治療や診断を行うのが「ゲノム医療」です。がんは、遺伝子の変異や異常が蓄積することによって起こる病気。日本で最も多い死亡原因であり、日本人の2人に1人は生涯のうちにがんにかかるといわれています。国際的な共同研究グループ「国際がんゲノムコンソーシアム」の調べによると、がん患者の数は世界的に増え続けており、2012年には800万人の方ががんで亡くなり、1400万人が新たにがん患者として診断を受けていました。このままいくと2050年には年間で1750万人ががんで死亡し、2700万人が新しい患者となると推定されており、がんに対する対策は急務なのです。日本からは国立がん研究センターや理化学研究所、東京大学などが参加している国際がんゲノムコンソーシアム。このたび37か国1300人を超えるがん研究者が協力し、38種類約2800例のがん組織のゲノム解析に成功しました。スーパーコンピューターを使い、4600万個以上のゲノムの変異や異常を調べ、特徴を明らかにしたのです。解析されたデータは公開され、世界中のがん研究者が活用できるようになります。日本では全国に、がんゲノム医療中核拠点病院、がんゲノム医療拠点病院、がんゲノム医療連携病院を指定し、全国どこでもがんゲノム医療を受けられる体制づくりを進めています。一般にがん治療では、標準治療という科学的根拠に基づいて推奨される治療がなされます。具体的には手術、化学療法(抗がん剤治療)、放射線治療です。がん遺伝子検査によって、その人の特徴的な異常を調べることで、治療法の選択に役立つ場合があります。たとえば、抗がん剤の投与の検討や、標準治療のないがん、標準治療が終わった患者さんに対して、合う薬物療法を調べるために有効とされています。症例の少ない希少がんに関しては、まだデータが不足していますが、がんゲノム医療の発展は、将来のがん治療に期待が持てそうです。ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)公開中。※『anan』2020年5月13日号より。写真・中島慶子題字&イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年05月09日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「WHO」です。世界的な協力がなければ、健康と平和は保たれない。WHO(World Health Organization)は、日本語で「世界保健機関」。ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)や、IMF(国際通貨基金)と同じ、国連の専門機関の一つで、保健衛生分野を受け持っています。WHOの歴史は、1946年にニューヨークで開かれた国際保健会議にて、「世界保健機関憲章」が採択されて1948年からスタートしました。世界保健機関憲章には、「健康とは、病気ではないだけでなく、肉体的、精神的、社会的に満たされた状態」で、「最高水準の健康に恵まれることは、あらゆる人々にとっての基本的人権のひとつ」。世界中すべての人々が健康であるためには、「個人と国家の全面的な協力が得られるかどうかにかかっている」と書かれています。現在、WHOの加盟国は194か国。本部はスイスのジュネーブにあり、日本は1951年に正式加盟をしました。WHOの主な役割は、「流行病の制圧」や「疾病の認定や分類」のほかに、医薬品をはじめ保健に関わる分野の国際的な基準を決めることです。どこかの国で新型の疾病が発生していると聞きつけると、WHOの職員が現地に入り、徹底的な調査をし、処置および対応をしていきます。各国で研究のバラつきがある医学情報は整理し、医療の弱っている国や地域に対しては支援や指導も行って、対策も講じています。WHOのこれまでの大きな功績といえば、天然痘を撲滅したことです。1958年に天然痘根絶計画を掲げ、徹底的な調査、治療、ワクチン開発を行い、封じ込め作戦により1977年には世界中から消え去り、1980年に根絶宣言をしました。いま世界的な混乱をきたしている、新型コロナウイルス感染症について、WHOは1月末に緊急事態宣言をし、3月中旬にパンデミックとみなすと発表しました。WHOがイニシアティブをとって、現状調査、対応、認定、支援を行うことで、そこで集めた情報がワクチンの開発に生かされています。国を超えて、人とモノの移動が激しくなっている現代だからこそ、深刻な事態に陥っており、国際協調が必須になっているんですね。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)公開中。※『anan』2020年4月29日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年05月01日アイドルグループ・嵐の松本潤が24日、グループ公式インスタグラムのストーリーズを更新し、作業部屋で撮影した自撮り写真を公開した。松本は、中村勘九郎と中村七之助からプレゼントされた押し隈が写り込んでいる、作業部屋での自撮り写真を公開。「最近はもっぱらここで作業しています好きな絵と素敵な友達からもらった」と説明を添えた。嵐の公式インスタグラムでは、20日よりメンバーが日替わりでストーリーズを更新していく企画を展開中。初日は相葉雅紀がヘルメットコレクションを紹介する動画を、21日は二宮和也が過去のトレーニング中の写真を公開し、22日は大野智がタケノコを使った手料理と自撮り写真をアップしている。
2020年04月24日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「通常国会」です。テレビ中継が審議のすべてではありません。国会には、通常国会(常会)、臨時国会、特別国会、参議院の緊急集会があります。常会は毎年1月に召集され、150日間開催。審議が長引けば、会期を延長します。国会では翌年度の予算を決めたあとに、様々な法案を審議します。令和2年の常会は約50本の法案が提出されました。夏に東京五輪を控えていたため、会期延長は難しいだろうと法案の数が過去最少に抑えられました。多い年は100近い法案があがることもあります。国会というと、テレビで中継されるものがすべてと思われるかもしれませんが、そうではありません。テーマごとに少人数の「委員会」で議論を交わし、そのあとに「本会議」で採決をとります。内閣委員会、総務委員会などの「常任委員会」と、会期ごとに編成される「特別委員会」があり、国会議員は各々専門分野の委員会に割り振られます。委員会ではしっかり内容を揉み、法案の8割以上が与野党全会一致で可決しています。テレビで取り上げられる本会議は、派手な動きがあったり、政府の疑惑や不祥事を追及する場面が多いので、揉めてばかりいる印象ですが、その他の場所で建設的な議論が着々と進められているのです。新型コロナウイルス対策以外に現常会で注目されているのは「年金制度改革関連法案」。定年の延長も推進されることになりました。その他「デジタル・プラットフォーマー取引透明化法案」。巨大IT企業に、運営状況の報告や企業内情報の提出を求めることができる法律です。たとえばアマゾンなどが突然大きな規約変更を行い、取引業者や消費者が不利益を被ったときに、メスを入れられる体制をとるためのものです。また、高齢ドライバーの交通事故対策を盛り込んだ「道路交通法改正案」も審議されています。近年、高齢者ドライバーによる交通事故が多発していることを受けて提案されました。運転技能検査の基準に達しない場合には75歳以上の免許更新を認めないという法案です。私たちの暮らしにかかわる法律が日々作られているのが国会。衆議院、参議院のHPでは、審議中継をインターネットで見ることができるので注目してみてください。ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)公開中。※『anan』2020年4月22日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年04月20日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「インフォデミック」です。伝染力は脅威に。報道の仕方にも注意が必要です。「インフォデミック」とは、information(情報)とepidemic(伝染、流行)を組み合わせた造語で、誤った情報が拡散されることにより、正しい情報を得にくくなり、社会が混乱する様を指します。新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)の流行を受け、WHOがこう呼んだのをきっかけに、日本でも使われるようになりました。海外では2009年の新型インフルエンザの流行のときに、「パンデミック(pandemic世界的大流行)」とともにSNSなどで使われていました。新型コロナウイルスに関しては、「お湯を飲めば感染予防になる」「ニンニクを食べるとよい」などの誤情報が広まりました。また、欧米や中東では、「アジア人は新型コロナウイルスを持っている」という間違った思い込みが広がってしまい、アジア人差別が起き、大きな問題になっています。インフォデミックをみなさんが実感したのはトイレットペーパーではないでしょうか。「トイレットペーパーがなくなる」というのは根拠のないデマでしたが、「なくなるかもしれない」という情報が拡散されたことにより、不安から人々はトイレットペーパーを買い占め、本当に市場に出回らなくなってしまいました。これをアメリカの社会学者マートンの言葉で「予言の自己成就」と言います。嘘や思い込みでも、その予言を人々が信じて行動することにより、現実になってしまうのです。ニュースでは、店の空になった棚を映し、「トイレットペーパーが売り切れました」と報道されましたが、それでは不安を助長し、買い占めをさらに加速させます。「デマです」と伝えたところで、デマは収まりません。それよりも、受け手の行動を先回りして、次の入荷予定や出荷量を具体的に示すことのほうが効果的でしょう。情報発信側も、デマが社会を動かしてしまう危険を自覚するべきです。報道機関には、ファクトチェックの普及活動を行う団体を応援してほしいですね。また、個々人の軽い気持ちのリツイートが、デマに加担してしまう場合も。シェアする前にいったん立ち止まり、不確定なものは拡散しないようにしましょう。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)公開中。※『anan』2020年4月15日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年04月09日自分には関係ない?…いえ、あるんです!知ってますか?未来を変える目標。SDGs(エスディージーズ)について、ジャーナリスト・堀 潤さんが解説してくれました。2030年実現に向けて掲げた17の目標貧困や環境、人権などのテーマに関わるが、世の中のほぼすべての課題を網羅している。注目すべきは12の「つくる責任 つかう責任」など、企業だけでなく、消費者にも自分の問題として考えることを促していることだ。1、貧困をなくそう2、飢餓をゼロに3、すべての人に健康と福祉を4、質の高い教育をみんなに5、ジェンダー平等を実現しよう6、安全な水とトイレを世界中に7、エネルギーをみんなに そしてクリーンに8、働きがいも経済成長も9、産業と技術革新の基盤をつくろう10、人や国の不平等をなくそう11、住み続けられるまちづくりを12、つくる責任 つかう責任13、気候変動に具体的な対策を14、海の豊かさを守ろう15、陸の豊かさも守ろう16、平和と公正をすべての人に17、パートナーシップで目標を達成しよう17の目標のうち、日本が抱える課題は…。SDGsは、17の目標が掲げられていますが、それぞれさらに細かく169のターゲットが設定されています。たとえば目標1の「貧困をなくそう」には、「1日1.25ドル未満で生活する人々、極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる」、目標4の「質の高い教育をみんなに」には「全ての若者が、読み書き能力および基本的計算能力を身に付けられるようにする」というようなことが盛り込まれているのです。全項目を数値化し、毎年、世界のSDGs達成度ランキングが発表されています。2019年時点で日本は162か国中15位。ちなみに2017年は11位、’18・’19年は15位に落ちてしまいました。上位3位はデンマーク、スウェーデン、フィンランドなどの、北欧の国々が占め、フランスやドイツが10位以内にランクインしており、アメリカは35位です。日本は、ペットボトルのリサイクル率はとても高いですし、経団連をはじめ、企業がSDGsの目標を掲げていることはとても評価されています。また、「技術革新を進めようとしている姿勢は好ましい」とも言われています。一方、日本の課題と指摘されているのは、5の「ジェンダー平等」、12の「つくる責任つかう責任」、13の「気候変動への具体的な対策」、17の「パートナーシップでの目標達成」などです。ジェンダー問題はなかなか深刻です。まず女性の国会議員が少なく、男女の賃金格差も広がっています。家事やサービス残業など、無償労働も女性に多く負荷がかかっているのが現状です。高等教育を受けた女性の数はOECD先進各国のなかでも、ダントツに多いのに、学んだ専門を仕事に生かしていない率が高い。「女の子なんだから、勉強しなくてもいい」という古い考え方がまだ残っているところがあるからです。これは制度だけの問題ではなく、個々の意識にも大きく関わること。ジェンダー教育そのものを根本から考える必要がありそうです。気候に関する問題としては、日本では近年、大型台風や豪雨災害に見舞われていますね。これらもCO2による気候変動の影響だろうといわれています。川が氾濫し、被害が甚大化したのは、昔のように山を手入れしていないせい。木々の根が細っていたところに、雨によって地盤が崩れて木が倒れる。土砂崩れにより、木々は流され、やがて川をせきとめ、川の水があふれて堤防が決壊してしまったのです。これは11の「住み続けられるまちづくり」や15の「陸の豊かさを守る」にも関わる事柄ですね。また、近年とりざたされている働き方改革問題。不名誉なことに、過労死は英語の名詞(karoshi)にまでなってしまいました。働きすぎを抑え、ワークライフバランスをとろうと努力していますが、日本はこの対策を安易な方法で解決しようとしているので警戒が必要です。不足する働き手を、外国からやってきた人たちでまかなおうとしており、特定技能制度を設けました。しかし、労働条件は悪いまま。日本人だけのための「働き方改革」になっていないか、不平等になっていないか。日本は難民認定率も極めて低く、申請者の1%未満です。難民申請が認められず、強制退去処分になった人たちが、まるで拘置所のような東京出入国在留管理局に何年も収容されています。この扱いは非人道的ではないかと、国連から注意もされているのです。SDGsの17の目標すべてを考えようとしても無理ですから、それぞれが自分にできることをしていけばよいと思います。ただ、自分の行動が、誰かに負荷をかけていないか、何をするときにも想像してみることは大事だと思います。食品ロスに加担していないか、資源の無駄遣いをしていないか。たとえば難民問題など、自分には関係ないと無関心でいることは、間接的にSDGsに反した行為かもしれません。自分で行動を起こすのは大変ですが、SDGsのアクションを起こしている現場はたくさんあります。NPOやNGOの現場はたいてい資金不足に悩んでいますから、賛同するアクションをしている人たちを応援することも立派なSDGs。支えてあげてほしいなと思います。堀 潤さんジャーナリスト。1977年生まれ。兵庫県出身。元NHKアナウンサー。自ら立ち上げた投稿型ニュースサイト「8bitNews」ほか、テレビ、ラジオ、SNS等で情報を発信。監督した映画『わたしは分断を許さない』が上映中。※『anan』2020年4月8日号より。写真・小笠原真紀イラスト・サヲリブラウン取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年04月05日