意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「WHO」です。世界的な協力がなければ、健康と平和は保たれない。WHO(World Health Organization)は、日本語で「世界保健機関」。ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)や、IMF(国際通貨基金)と同じ、国連の専門機関の一つで、保健衛生分野を受け持っています。WHOの歴史は、1946年にニューヨークで開かれた国際保健会議にて、「世界保健機関憲章」が採択されて1948年からスタートしました。世界保健機関憲章には、「健康とは、病気ではないだけでなく、肉体的、精神的、社会的に満たされた状態」で、「最高水準の健康に恵まれることは、あらゆる人々にとっての基本的人権のひとつ」。世界中すべての人々が健康であるためには、「個人と国家の全面的な協力が得られるかどうかにかかっている」と書かれています。現在、WHOの加盟国は194か国。本部はスイスのジュネーブにあり、日本は1951年に正式加盟をしました。WHOの主な役割は、「流行病の制圧」や「疾病の認定や分類」のほかに、医薬品をはじめ保健に関わる分野の国際的な基準を決めることです。どこかの国で新型の疾病が発生していると聞きつけると、WHOの職員が現地に入り、徹底的な調査をし、処置および対応をしていきます。各国で研究のバラつきがある医学情報は整理し、医療の弱っている国や地域に対しては支援や指導も行って、対策も講じています。WHOのこれまでの大きな功績といえば、天然痘を撲滅したことです。1958年に天然痘根絶計画を掲げ、徹底的な調査、治療、ワクチン開発を行い、封じ込め作戦により1977年には世界中から消え去り、1980年に根絶宣言をしました。いま世界的な混乱をきたしている、新型コロナウイルス感染症について、WHOは1月末に緊急事態宣言をし、3月中旬にパンデミックとみなすと発表しました。WHOがイニシアティブをとって、現状調査、対応、認定、支援を行うことで、そこで集めた情報がワクチンの開発に生かされています。国を超えて、人とモノの移動が激しくなっている現代だからこそ、深刻な事態に陥っており、国際協調が必須になっているんですね。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)公開中。※『anan』2020年4月29日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年05月01日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「通常国会」です。テレビ中継が審議のすべてではありません。国会には、通常国会(常会)、臨時国会、特別国会、参議院の緊急集会があります。常会は毎年1月に召集され、150日間開催。審議が長引けば、会期を延長します。国会では翌年度の予算を決めたあとに、様々な法案を審議します。令和2年の常会は約50本の法案が提出されました。夏に東京五輪を控えていたため、会期延長は難しいだろうと法案の数が過去最少に抑えられました。多い年は100近い法案があがることもあります。国会というと、テレビで中継されるものがすべてと思われるかもしれませんが、そうではありません。テーマごとに少人数の「委員会」で議論を交わし、そのあとに「本会議」で採決をとります。内閣委員会、総務委員会などの「常任委員会」と、会期ごとに編成される「特別委員会」があり、国会議員は各々専門分野の委員会に割り振られます。委員会ではしっかり内容を揉み、法案の8割以上が与野党全会一致で可決しています。テレビで取り上げられる本会議は、派手な動きがあったり、政府の疑惑や不祥事を追及する場面が多いので、揉めてばかりいる印象ですが、その他の場所で建設的な議論が着々と進められているのです。新型コロナウイルス対策以外に現常会で注目されているのは「年金制度改革関連法案」。定年の延長も推進されることになりました。その他「デジタル・プラットフォーマー取引透明化法案」。巨大IT企業に、運営状況の報告や企業内情報の提出を求めることができる法律です。たとえばアマゾンなどが突然大きな規約変更を行い、取引業者や消費者が不利益を被ったときに、メスを入れられる体制をとるためのものです。また、高齢ドライバーの交通事故対策を盛り込んだ「道路交通法改正案」も審議されています。近年、高齢者ドライバーによる交通事故が多発していることを受けて提案されました。運転技能検査の基準に達しない場合には75歳以上の免許更新を認めないという法案です。私たちの暮らしにかかわる法律が日々作られているのが国会。衆議院、参議院のHPでは、審議中継をインターネットで見ることができるので注目してみてください。ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)公開中。※『anan』2020年4月22日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年04月20日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「インフォデミック」です。伝染力は脅威に。報道の仕方にも注意が必要です。「インフォデミック」とは、information(情報)とepidemic(伝染、流行)を組み合わせた造語で、誤った情報が拡散されることにより、正しい情報を得にくくなり、社会が混乱する様を指します。新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)の流行を受け、WHOがこう呼んだのをきっかけに、日本でも使われるようになりました。海外では2009年の新型インフルエンザの流行のときに、「パンデミック(pandemic世界的大流行)」とともにSNSなどで使われていました。新型コロナウイルスに関しては、「お湯を飲めば感染予防になる」「ニンニクを食べるとよい」などの誤情報が広まりました。また、欧米や中東では、「アジア人は新型コロナウイルスを持っている」という間違った思い込みが広がってしまい、アジア人差別が起き、大きな問題になっています。インフォデミックをみなさんが実感したのはトイレットペーパーではないでしょうか。「トイレットペーパーがなくなる」というのは根拠のないデマでしたが、「なくなるかもしれない」という情報が拡散されたことにより、不安から人々はトイレットペーパーを買い占め、本当に市場に出回らなくなってしまいました。これをアメリカの社会学者マートンの言葉で「予言の自己成就」と言います。嘘や思い込みでも、その予言を人々が信じて行動することにより、現実になってしまうのです。ニュースでは、店の空になった棚を映し、「トイレットペーパーが売り切れました」と報道されましたが、それでは不安を助長し、買い占めをさらに加速させます。「デマです」と伝えたところで、デマは収まりません。それよりも、受け手の行動を先回りして、次の入荷予定や出荷量を具体的に示すことのほうが効果的でしょう。情報発信側も、デマが社会を動かしてしまう危険を自覚するべきです。報道機関には、ファクトチェックの普及活動を行う団体を応援してほしいですね。また、個々人の軽い気持ちのリツイートが、デマに加担してしまう場合も。シェアする前にいったん立ち止まり、不確定なものは拡散しないようにしましょう。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)公開中。※『anan』2020年4月15日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年04月09日自分には関係ない?…いえ、あるんです!知ってますか?未来を変える目標。SDGs(エスディージーズ)について、ジャーナリスト・堀 潤さんが解説してくれました。2030年実現に向けて掲げた17の目標貧困や環境、人権などのテーマに関わるが、世の中のほぼすべての課題を網羅している。注目すべきは12の「つくる責任 つかう責任」など、企業だけでなく、消費者にも自分の問題として考えることを促していることだ。1、貧困をなくそう2、飢餓をゼロに3、すべての人に健康と福祉を4、質の高い教育をみんなに5、ジェンダー平等を実現しよう6、安全な水とトイレを世界中に7、エネルギーをみんなに そしてクリーンに8、働きがいも経済成長も9、産業と技術革新の基盤をつくろう10、人や国の不平等をなくそう11、住み続けられるまちづくりを12、つくる責任 つかう責任13、気候変動に具体的な対策を14、海の豊かさを守ろう15、陸の豊かさも守ろう16、平和と公正をすべての人に17、パートナーシップで目標を達成しよう17の目標のうち、日本が抱える課題は…。SDGsは、17の目標が掲げられていますが、それぞれさらに細かく169のターゲットが設定されています。たとえば目標1の「貧困をなくそう」には、「1日1.25ドル未満で生活する人々、極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる」、目標4の「質の高い教育をみんなに」には「全ての若者が、読み書き能力および基本的計算能力を身に付けられるようにする」というようなことが盛り込まれているのです。全項目を数値化し、毎年、世界のSDGs達成度ランキングが発表されています。2019年時点で日本は162か国中15位。ちなみに2017年は11位、’18・’19年は15位に落ちてしまいました。上位3位はデンマーク、スウェーデン、フィンランドなどの、北欧の国々が占め、フランスやドイツが10位以内にランクインしており、アメリカは35位です。日本は、ペットボトルのリサイクル率はとても高いですし、経団連をはじめ、企業がSDGsの目標を掲げていることはとても評価されています。また、「技術革新を進めようとしている姿勢は好ましい」とも言われています。一方、日本の課題と指摘されているのは、5の「ジェンダー平等」、12の「つくる責任つかう責任」、13の「気候変動への具体的な対策」、17の「パートナーシップでの目標達成」などです。ジェンダー問題はなかなか深刻です。まず女性の国会議員が少なく、男女の賃金格差も広がっています。家事やサービス残業など、無償労働も女性に多く負荷がかかっているのが現状です。高等教育を受けた女性の数はOECD先進各国のなかでも、ダントツに多いのに、学んだ専門を仕事に生かしていない率が高い。「女の子なんだから、勉強しなくてもいい」という古い考え方がまだ残っているところがあるからです。これは制度だけの問題ではなく、個々の意識にも大きく関わること。ジェンダー教育そのものを根本から考える必要がありそうです。気候に関する問題としては、日本では近年、大型台風や豪雨災害に見舞われていますね。これらもCO2による気候変動の影響だろうといわれています。川が氾濫し、被害が甚大化したのは、昔のように山を手入れしていないせい。木々の根が細っていたところに、雨によって地盤が崩れて木が倒れる。土砂崩れにより、木々は流され、やがて川をせきとめ、川の水があふれて堤防が決壊してしまったのです。これは11の「住み続けられるまちづくり」や15の「陸の豊かさを守る」にも関わる事柄ですね。また、近年とりざたされている働き方改革問題。不名誉なことに、過労死は英語の名詞(karoshi)にまでなってしまいました。働きすぎを抑え、ワークライフバランスをとろうと努力していますが、日本はこの対策を安易な方法で解決しようとしているので警戒が必要です。不足する働き手を、外国からやってきた人たちでまかなおうとしており、特定技能制度を設けました。しかし、労働条件は悪いまま。日本人だけのための「働き方改革」になっていないか、不平等になっていないか。日本は難民認定率も極めて低く、申請者の1%未満です。難民申請が認められず、強制退去処分になった人たちが、まるで拘置所のような東京出入国在留管理局に何年も収容されています。この扱いは非人道的ではないかと、国連から注意もされているのです。SDGsの17の目標すべてを考えようとしても無理ですから、それぞれが自分にできることをしていけばよいと思います。ただ、自分の行動が、誰かに負荷をかけていないか、何をするときにも想像してみることは大事だと思います。食品ロスに加担していないか、資源の無駄遣いをしていないか。たとえば難民問題など、自分には関係ないと無関心でいることは、間接的にSDGsに反した行為かもしれません。自分で行動を起こすのは大変ですが、SDGsのアクションを起こしている現場はたくさんあります。NPOやNGOの現場はたいてい資金不足に悩んでいますから、賛同するアクションをしている人たちを応援することも立派なSDGs。支えてあげてほしいなと思います。堀 潤さんジャーナリスト。1977年生まれ。兵庫県出身。元NHKアナウンサー。自ら立ち上げた投稿型ニュースサイト「8bitNews」ほか、テレビ、ラジオ、SNS等で情報を発信。監督した映画『わたしは分断を許さない』が上映中。※『anan』2020年4月8日号より。写真・小笠原真紀イラスト・サヲリブラウン取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年04月05日世界中の人々が、未来へより良く暮らし続けていくために必須な目標、SDGs(エスディージーズ)。…って、そもそも何のこと?成り立ちや内容、私たちの普段の生活との関わりまで、anan目線で楽しく学びます。教えてくれたのは、ジャーナリスト・堀 潤さんです。先進国も途上国も皆が豊かな社会にするために。SDGsとは「Sustainable Development Goals」の略で、「持続可能な開発目標」と訳されます。いま世界では環境破壊、紛争、格差など、様々な問題が起きています。このまま放っておけば、経済が立ちゆかなくなり、格差はますます広がり、生きづらくなる一方です。事態を改善するために、政治経済、環境、教育など多岐にわたる17の目標を設定して、2030年までに加盟国の193か国が協力し合い、達成を目指しましょうと、2015年9月に国連サミットで採択されました。実はSDGsには前身となる「MDGs(Millennium Development Goals)=ミレニアム開発目標」があります。2000年に開かれた国連サミットで、8つの目標を掲げ、2015年のゴールを目指しました。これが成果を示し、10億人以上の人が極度の貧困から脱することができ、子供の死亡率も半分以下に。エイズ感染件数は約40%減らすことができました。ただ、一部の地域で置き去りにされる人たちが出てきてしまい、根本解決には、開発途上国と先進国の両方が協力し、「持続可能」であることが必須だろうとSDGsが生まれたのです。これを後押しするように、2015年の12月には気候変動に関する歴史的合意がなされました。パリ協定です。環境のために、温室効果ガスを減らそうとする先進国と、「さんざん排出しておいて、これから成長しようとする俺たちの開発を止めるのか」という途上国の間で対立していたのですが、ここで削減に向け、合意が叶ったのです(残念ながら後年、アメリカは脱退)。SDGsの必要性を世界が実感した、象徴的な出来事は2013年にバングラデシュで起きた縫製工場の入ったビルの倒壊事故でしょう。低賃金、劣悪な環境で働かされていた労働者が、ビル倒壊により1000人以上が死亡、2500人以上が負傷したにもかかわらず補償もありませんでした。世界のファストファッションが、このように虐げられた労働者たちに支えられていたことが明らかになり、業界の意識を変えるきっかけになりました。SDGsの大事なポイントは、単なる社会貢献ではないということです。豊かになることを我慢する、ミニマリストを目指すものではありません。それでは長続きしません。ちゃんと利益をあげ、環境にも人にも優しく、途上国も先進国もwin‐winの仕組みを知恵を働かせて実現させようというもの。金融業界は、環境や社会、企業管理に配慮した企業経営や投資をすすめる「ESG投資」を謳い始めました。これにより産業界も積極的にSDGsに取り組んでいるのです。堀 潤さんジャーナリスト。1977年生まれ。兵庫県出身。元NHKアナウンサー。自ら立ち上げた投稿型ニュースサイト「8bitNews」ほか、テレビ、ラジオ、SNS等で情報を発信。監督した映画『わたしは分断を許さない』が上映中。※『anan』2020年4月8日号より。写真・小笠原真紀イラスト・サヲリブラウン取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年04月04日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「ジェンダー・ギャップ指数」です。極端に低い日本。男女格差をなくすには意識変革を。3月8日は国際女性デーでした。この日に注目されるのが「ジェンダー・ギャップ指数」。ダボス会議主宰で知られる世界経済フォーラムが、政治、経済、教育、健康の4分野で男女格差を指数化し、毎年発表しています。2019年12月の最新報告書で、日本は153か国中121位。‘18年は110位でした。順位が下がった理由は、女性の政治参加度の低さ。今年2月の時点で、日本の衆議院の女性比率は9.9%。これは193か国のうち167位と著しく低い。他国では女性の首相が誕生していますが、日本は知事止まり。選挙候補者の数を男女50%ずつにすることを努力目標に掲げていますが、当選して閣僚になる女性は少数です。企業のなかでも女性管理職の割合は低い状態が続いています。女性の社長の比率は上昇していますが、創業者や同族継承がほとんどで、内部昇格の割合は8%にすぎません。これほど女性のリーダーが極端に少ないというのは、日本の経済発展を阻んでいると思います。子育て政策でも、近年ようやくお母さん方を中心に声があがり、女性議員が先導する形で待機児童問題に目が向くようになりました。「子供は家庭で育てるもの」という古い考えのまま、男性社会と切り離して捉えていたため、問題に気づけなかったのです。つまり政府や企業経営者など、制度を作る側、決める側に女性が参加していなければ、考え方の多様性が担保されず、女性の働きやすい環境実現は遅れる一方です。もうひとつ、ジェンダー・ギャップを生む背景に「マンスプレイニング」が指摘されています。「man(男)」と「explain(説明)」を掛け合わせた言葉で、男性が女性を見下して解説、助言するさまを指します。無意識の男性のそうした態度が、女性の発言する機会を失わせます。昨年は、職場でヒールやパンプスを履くことを強要しないでほしいという#KuToo運動が始まりました。女性性を否定するものではなく、履くのも脱ぐのも自由意思を尊重してほしいという主張です。「オフィスでは女性はヒール」というのも固定観念にすぎません。慣習を疑うことが、ジェンダー・ギャップをなくす第一歩なのかもしれません。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)公開中。※『anan』2020年4月8日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年04月02日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「年金制度改革」です。年金制度存続のために様々な案が出ています。令和2年の通常国会では、「年金制度改革関連法案」が閣議決定されました。少子高齢化により、このままの状態では、年金制度の存続が危ぶまれています。昨年も老後のお金の問題が大きくニュースになりましたよね。そこで、年金制度の様々な改正案がいま審議されていますが、その一つは、定年を延長して高齢者の働く期間を延ばし、老齢年金の受給開始を60~75歳まで幅をもたせるという案です。受給を先に延ばした人には、そのぶん受給額を増額するというもの。実際、いまの60代はとても若い。60歳以上の働く方々のうち8割が65歳以降も働きたいと答えています。また、働く高齢者の年金を減らすという案も出ています。もう一つ注目されているのは、厚生年金に加入できる人のハードルを下げるというもの。現状では、パート従業員やアルバイトは厚生年金ではなく、国民年金です。しかし、年金の加入と納付は国民の義務にもかかわらず、国民年金は未納者も多くいるので、厚生年金に一本化していこうという改革です。現在は、従業員501人以上の会社が加入要件でしたが、それを段階的に引き下げて、2024年には51人以上の規模の会社であれば厚生年金の対象にしようとしています。これにより新たに65万人、加入者が増えると試算されています。また、自分で掛け金や運用を決められる個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」に加入できる年齢も、20歳以上60歳未満から、65歳未満に変更します。昔は60歳定年で、定年後も年金だけで十分生活ができていました。しかし、高齢者は増えますし、寿命も延びますから、これからは自分でなんとかしなければいけない割合は増えていくと思います。100年時代の人生設計のプランを教えてもらいたいですよね。とくにお金に関する教育は、アメリカやヨーロッパのように、国が積極的にやってほしいと思います。何も知らないままでは、資産運用には怖くて手が出せませんし、失敗しても自己責任と突き放すのは問題なのではないでしょうか。これから何歳まで働くことになるのか。みなさんの将来に関わる問題なので、注目していてください。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)公開中。※『anan』2020年4月1日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年03月30日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「指定感染症」です。過度に怖がらず、みんなで、変わらぬ日常を送る訓練を。昨年12月に中国の武漢から発生した、新型コロナウイルスによる感染症。日本政府は1月28日に政令を出し、「指定感染症」に定めました。感染症は、感染症法により、危険度によって5つに分類されています。風しんやインフルエンザは五類。マラリア、デング熱は四類、コレラ、細菌性赤痢は三類、SARS、MERS、結核が二類。深刻な被害をもたらすエボラ出血熱、ペストは一類です。新しい感染症に関しては、検証するまでに時間がかかります。そのため、国が患者に対して入院勧告などができるよう、暫定的に「指定感染症」に定めるのです。今回の新型肺炎は、最初にリスクはそれほど高くないといった情報が流れ、WHOも緊急事態宣言を一度見送ってしまい対応が遅れました。実際には、潜伏期間が予想以上に長く、保菌者でも症状が出ない場合があり、そこから感染が広がることがわかりました。感染者はいま(3月6日現在)南極を除く全大陸で見つかっています。中国は強硬策をとり、武漢を封じ込めました。僕は2月末に、元医療ジャーナリストの武漢市民に、ネットを通じて直接話を聞きました。武漢では隔離生活が続いており、粉ミルクなどのモノの調達が厳しくなってきているとのこと。その方の親戚は5人が感染。そのうちガンの持病があった50代の女性1人が死亡しましたが、健康だった30代のいとこ2人は、入院もせず、薬の投与もなく回復しているそうです。WHOと中国の専門家は、2月20日までに感染した患者5万5924人を対象に共同で調査を行いました。それによると、死亡した患者は2114人で致死率は3.8%。ただし、重症化するのは60代以上の持病のある人で、約8割の人の症状は比較的軽く、肺炎の症状が出ない場合もあると報告されました。手洗いをしっかり行い、よく食べよく寝て、免疫をつけておけば必要以上に怖がることはないと思います。今回、多くの企業がテレワークなどを実施しました。これを機に普段から、家にいながら仕事ができる訓練をしておくとよいと思います。日本は災害国ですから、何が起きても日常を過ごせる強い社会を作りましょう。ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)公開中。※『anan』2020年3月25日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年03月18日本誌連載「社会のじかん」でもお馴染み。NHKを退局後、フリージャーナリストとして、世界を飛び回りニュースを届けている堀潤さん。素顔は現場が大好きな生粋のテレビマンでした。朝の報道番組の放送直後に即刻成田に向かい、香港日帰り取材なんていうのもお手のもの。市民投稿型ニュースサイト「8bitNews」をベースに、あらゆるメディアを使い、独自のニュースを発信し続けているジャーナリストの堀潤さん。このたび、2本目の映画『わたしは分断を許さない』が公開された。シリア、パレスチナ、朝鮮半島、香港、福島、沖縄を5年かけて追ったドキュメンタリーである。――進行中の社会問題を映画にしようと思ったのはなぜですか?いま起きている社会課題の根本には「分断」があると気づいたんです。映画ならば、尺も潤沢に使えますし、刹那的なわかりやすさを追求しなくてもいい。また、映画をもとに観客のみなさんと対話をしたいと思ったんですね。――堀さんは、去年から全国のギャラリーで、取材してきた写真や映像を公開して、観客と積極的に交流の場を作っておられますね。みなさん、「本当のことが知りたい」と思っていらっしゃるようで、とくに若い方がたくさん来てくださいました。これまでのニュースは、誰がどういう意図で出しているのかわからないのが当たり前でした。でも、いまはどういう思考を持った人が切り取ったニュースなのか、そういうトレーサビリティ(追跡可能性)のあるものが求められているのではないか。誰もがどこでも発信できる時代だからこそ、ものすごく泥くさいリアルな現場を、目の前で握るお寿司のように直接手渡す方法に価値があるんじゃないかと思いました。――『わたしは分断を許さない』は、香港の民主化デモ、沖縄の基地問題、ガザ地区の難民、原発後の福島など、それぞれでも一本の映画が撮れるくらい濃い内容が、ランダムに構成されているのが斬新でした。たいていのドキュメンタリーはひとつの現場に迫りますが、そうでなければいけない理由はありませんよね?ニュースも、日本のものと海外ニュースを分けがちですが、どちらも同時代に起きている。個人にフォーカスしてみれば、異なる環境の出来事も共感できます。「別のもの」という思い込みが分断を生み、そこから差別や排斥が生まれて、自分には関係のない問題と放置されてしまいます。映画をきっかけに、そういうことに気づける場を作りたいと思いました。時間も場所もバラバラな事柄が並ぶSNSのタイムラインのような感覚で編集したんです。――堀さんはNHKの採用試験でも、これからはメディア発信のニュースと個人発信の双方向が大事になると提案なさったそうですね。20年前ですね(笑)。デジタル放送時代は、放送局と個人が双方向にやりとりすれば、プロパガンダに加担することなく、誠実な報道ができると主張しました。僕はいま、『モーニングCROSS』(TOKYO MX)や『JAM THE WORLD』(J‐WAVE)などの自分の番組では、スタジオに対して異を唱えるような意見がSNSに上がれば、積極的に紹介するようにしています。――否定されることに怖さはないのですか?ないですね。メディアのなかに個人の意見が流れたら楽しいじゃないですか。小さいころに漫画誌やラジオ番組に投稿した原体験もベースになっています。誰かに何か言われて心がざわつくのは、その意見に核心を突かれているからなんですよね(笑)。被害者側にいることには敏感でいられるけれど、加害者側にいる感覚は自分では気づくことが難しい。自分も誰かの脅威になっているかもしれないという目線がない限り、分断は生まれ続けるだろうと、世界各地を訪ね歩いて気づきました。何事も、両極端の意見を比べてみないと真実は認識できないと思います。――堀さんはジャーナリストとして活躍される一方で、ワークショップや著書を通して、発信者の育成も積極的になさっています。それは単純に、僕一人ですべての現場をカバーするのが無理だからです。仲間を増やしたいんです。災害取材などは顕著ですが、写真1枚、たった一言でもいいので、SOSの出し方を知っておけば、きっと誰かが助けに来てくれます。そういう信頼感を作ることが現代の報道の役割なんじゃないかと考えています。――堀さんは、「使命」を感じて、活動をなさっているのですか?使命感はないですね(笑)。ただ、受信料で育てていただいたので、世に還元したいという思いはあります。NHKは視聴率や営業利益を気にせず必要な現場に駆けつけることができました。いまでも自分のことを「フリーの公共放送人」と言っています。僕の取材スタンスは何も変わっていません。――災害や貧困、弾圧など、目を覆いたくなるような現場にたくさん行かれています。しかも、「(国や地域など)大きな主語ではなく、小さな主語で真実を捉えよう」と、堀さんは渦中の個人に迫った取材をしています。悲惨な現実にしんどくなることはないのでしょうか。もちろん、なりますよ。映画も泣きながら編集していました。辛いから、「もっと何かいい解決法があるんじゃないか」と、次の現場に出かけているのだと思います。でも、どこの現場でも、課題解決を模索し奮闘している人がいらっしゃいます。映画に出てくる、北朝鮮やパレスチナも地域に根ざしたNGOの方々と一緒だったから入ることができました。ジャーナリストでは入れてもらえなかったと思います。僕は「GARDEN」という会社でNGOの発信を支援する活動を行っているので、一緒に行くことができました。――なるほど!テレビマンとして、まだ誰も見たことのない、最前線の映像を見せたいという思いもあります。内戦の映像や、アフリカの開発途上国で起きていることなどは日本のニュース番組では、なかなか取り上げられません。でも、それは作り手がそこに価値を見出していないだけ。それならば僕が腕まくりして、みんなが関心ないと思われている映像をクローズアップしてやろう!と思いました。実際に訪ねて回ると、ニュースの宝庫なんですよ。――ニュースのネタを見つけたときが一番高揚しますか?はい。「オレの現場、キター!」と思いながらやっています(笑)。月~金曜は朝7時から『モーニングCROSS』のMCを務めながら、映画『わたしは分断を許さない』の編集直前まで、激化する香港の民主化デモの取材に日帰りで出かけていた。「日帰りで行けるとわかったら行かないわけにはいかないですよね。魚がいると知っているのに漁に出かけない漁師さんと同じですから」。映画はポレポレ東中野にて公開中。3月14日以降、全国順次公開。公開を支援するクラウドファンディングは3月25日まで受付中。最新刊『わたしは分断を許さない 香港、朝鮮半島、シリア、パレスチナ、福島、沖縄。「ファクトなき固定観念」は何を奪うのか?』(実業之日本社)では、映画に出てくる分断問題にも触れている。ほり・じゅん1977年生まれ、兵庫県出身。2001年にNHKに入局。’12年にドキュメンタリー映画『変身 Metamorphosis』を製作したのち、’13年に独立。自ら立ち上げた市民投稿型ニュースサイト「8bitNews」を拠点に報道活動を行う。’17年に株式会社「GARDEN」を設立。著書に『SNSで一目置かれる 堀潤の伝える人になろう講座』など。※『anan』2020年3月18日号より。写真・小笠原真紀インタビュー、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年03月16日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「災害関連死」です。直接死を上回る死。明日の我が身の自衛を心がけよう。3月11日で東日本大震災から丸9年経ちます。震災を機に注目されるようになったのが「災害関連死」でした。地震や津波で命を落とすのは「直接死」ですが、その後の長引く避難生活や生活環境の変化により、持病を悪化させたり、孤独死してしまったケースを「災害関連死」「震災関連死」と呼びます。これには自殺も含まれます。自宅で安定した生活をしていれば、たとえば、血圧もコントロールできますが、避難生活を強いられ、おにぎりとお菓子しかない食事が続けば、たちまちコントロールがきかなくなります。避難所から復興住宅や仮設住宅に移り、地域の仲間もバラバラ、家族もなく、隣近所も知らない人ばかりのプレハブ小屋の生活が長引けば、寂しさが募り、お菓子を食べ続けてしまうなどして症状を悪くさせることもあるでしょう。福島で原発作業に携わっていた人のなかには、過酷な労働環境のなか、限られた食生活で長期の作業を強いられ、体調を悪化させた人が大勢いました。震災後、東京大学から志願して相馬中央病院に出向した坪倉正治医師は、「原発事故以降の健康被害といえば、放射線の影響ばかりクローズアップされるが、実際に亡くなった方の原因の多くは、持病の生活習慣病の悪化である」と語っています。令和元年9月現在、福島県では直接死の1613人に対して、災害関連死は2286人と、大きく上回りました。災害関連死で亡くなった方は、地域のコミュニティをまるごと移管して街づくりをするとか、お年寄りを孤立させないよう積極的に声がけをするなど、きめ細かな支援をすれば救えたかもしれません。災害に遭い、幸い生き延びたとしてもその後の環境により死者が生まれていることはぜひ覚えておいてください。災害が起きれば、普段当たり前にできていることがすべて崩れます。水が手に入らず、毎日炭酸飲料を飲むことになるかもしれません。いつもの化粧品や薬、嗜好品が手に入らなくなるかもしれません。家族が孤立をしてしまうかもしれません。普段から近隣の方と挨拶しておくなど、日常を維持できなくなったときのことをイメージして自衛しておくことをお勧めします。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)公開中。※『anan』2020年3月18日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年03月11日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「ニュースとアンアン」。『anan』50周年を記念して、連載でイラストを担当してくださっている五月女ケイ子さんと一緒に国会議事堂見学へ行ってきました。国会議事堂見学に行ってきました!五月女:生きているうちに、国会議事堂に来られてよかったです(笑)。堀:ここで様々なことが決まります。でも、本当に物事が動くのは控室や廊下のほう(笑)。議場は、事前に提出した議案に対して用意していた答弁を読み上げる、いわば「セレモニー」のようなものですからね。五月女:そうなんですか!?それはちょっと悲しい。その場で思いついたことは話しちゃいけないんですか?堀:無責任な発言はできないので、仕方ないですよね。大臣の読む答弁書を作るために、各省庁の官僚は国会が始まると毎日深夜まで働いています。五月女:事前に用意しているはずなのに失言が出るのはなぜ?政治家ってよく失言するイメージがあります(笑)。堀:(笑)。失言は、国会よりも、オフレコの会見や、支持者向けの講演会場で起きることが多いですね。五月女:普段、国会で我慢をしているぶん、支持者の前では気が緩んじゃうんですかね(笑)。「社会のじかん」で毎号イラストを描くようになって、政治の世界って意外に人間的なんだなと思うようになりました。堀:そうですよ!五月女:最初はTPPかPPTかもわからないくらい、時事に興味なかったけれど、堀さんのおかげで面白いと思うようになりました。国同士のいざこざも、家族や身近な社会と同じ、人間関係の縮図なんだなって。喧嘩したり仲直りしたり。喧嘩しているように見えて、世界に向けたアピールだったり。堀:外交は交渉術ですからね。五月女:前は、ニュースを聞くたびに、いちいち怖がっていたけれど…。堀:何もわからない暗闇にいると不安になりますが、全体の構造がわかると、不安も軽減しますよね。僕は『anan』では、普段のニュースでは届かないところに言葉を届けられている感触があります。報道の狭い世界にいると、どうしてもニュース好きの人にだけ向けてしまうところもあるので。五月女:わかります。ニュース番組はよくわからない単語の羅列で、「私には向けられてないんだな」と寂しい気持ちになることも(笑)。堀さんは、どのテーマでも中立で、良い面/悪い面、賛成派/反対派の両方を教えてくださるのがすごくいいなと思います。社会の出来事って、批判的な意見ばかりが聞こえてきて、私はそういうところが好きじゃなかったんです。堀:敵味方に分かれて撃ち合い、それに飽きたら、内輪で叩き合って何も成し遂げられないということは多々ありますね。本気で解決しようとすると、どちらの言い分もあるので簡単にはいきません。でも、僕は両方の意見を知りたいというのが、取材のモチベーションになっています。時代の変化に柔軟に。楽しいをモットーに50年。堀:『anan』は50周年だそうですが、時代ごとに若者もカルチャーも次々入れ替わるのに、先を読み変化し続けているところがすごいですね。五月女:50年って相当な重みですよね。堀:雑誌も年数を重ねると、作り手も一緒に年を取るので、意識していないと若い読者とのギャップに気づけなくなると思います。「社会のじかん」も、上から目線ではなく、僕の経験から知ることを参考までにシェアします、くらいのスタンスでいたいですね。五月女:『anan』は「こうしなさい!」という、高圧的なところがない。そこが、私には居心地がいいです。堀:権威にならないようにしているのでしょうね。国際貢献などの記事をさらりと取り上げてみたり、ニュース解説も、「効率良く生きるための武器としての教養」ではなく、「役に立つかはわからないけど、考えてみると面白いんじゃない?」という軽やかな印象。五月女:根本に、「楽しいこと、面白いことをいちばん最初に見つけて伝えたい!」という姿勢がある気がします。私は、「たかが一票で社会なんか変わらない」と思っていたタイプなんですけど、この連載に関わるようになって、自分のできることをやってみたり、考えたりすることが、社会につながっていくんだなあと思うようになりました。堀:どんな問題も、たどっていくと自分の生活につながります。この連載が、少しでも何かを考えるきっかけになる、楽しい場でいられたらと思います。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。映画『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)が3/7公開に。五月女ケイ子イラストレーター。楽しいグッズが買える「五月女百貨店」が評判。エッセイ『親バカ本』、作品集『五月女ケイ子ランド』も発売中。LINEスタンプも好評!※『anan』2020年3月11日号より。写真・大澤千尋題字&イラスト・五月女ケイ子取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年03月05日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「イランVSアメリカ」です。イランは日本と関係の深い国。現状に目を向けて。今年に入り、イランとアメリカの緊張関係が急速に高まりました。イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官が、イラクを訪問中の1月3日に、アメリカのドローンを使った空爆により殺害されました。イランは報復措置として、8日にイラクの米軍基地をミサイル攻撃しましたが、それ以上の戦いは望まないと、双方手打ちとなりました。ところが、同日、ウクライナ旅客機がテヘラン近郊で墜落。最初は事故と発表されていましたが、のちにイラン軍による誤射だったことが明らかに。これにより外国人を含む176人の民間人の命が奪われました。イランとアメリカの関係は、オバマ政権時代に改善しかけていました。2009年から8年かけた粘り強い交渉の末、イランの核開発を平和裡に制限させることに成功。代わりに経済制裁を解除する予定でした。歴史的に意味のある合意だったのですが、トランプ政権はそれを白紙に戻してしまいました。前大統領の功績をすべて覆そうとするトランプ大統領。イランに強硬な態勢をとっているのも、秋の大統領選を意識しての行動といわれています。一方、日本とイランは親密な関係にあります。事件後、安倍首相はすぐさまイランに飛び、アメリカと中東の仲介役になろうと働きかけています。日本はイランから、石油や天然ガスを多く輸入していますから、有事にそれらが入らなくなれば、日本の社会は回りません。アメリカに気を使い、中東地域に海上自衛隊を派遣しましたが、目的はあくまで情報取集で、攻撃のためではないことを強調しました。しかし、自衛隊は専守防衛、武器の使用を禁じられています。そんな状態で隊員の安全は守られるのでしょうか?もう一つ注目すべきは、イラン国内で起きている反政府デモです。発端は昨年11月の石油価格の高騰。政府の制圧で300人以上の人が亡くなったとの報道も。そして、ウクライナ旅客機墜落で真実を隠蔽しようとしたことから、国民の不満は再燃。言論統制されているイランで政府に反発を示すのは命がけの行為です。それほど不満が溜まっている状態であることを、みなさんにも知っていただけたらと思います。ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。映画『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)が3月7日公開。※『anan』2020年3月4日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年02月27日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「民主主義の歪(ひず)み」です。歪みが生まれたもとにあるのは、果てなき欲望。香港をはじめ、世界中で政府に抗議をするデモが行われています。フランスの黄色いベスト運動は1年以上続いていますし、南米チリでは地下鉄の値上げを発端に、抗議運動が暴徒化しました。昨年、ベルリンの壁崩壊から30年がたちましたが、せっかく自由を得たというのに、旧東欧諸国には民主主義を否定する声も上がっています。なぜ、民主主義にこのような歪みが生じてしまったのか。理由のひとつには、グローバル化により、世界における経済の回る速度がものすごく速くなったことが挙げられるでしょう。ベルリンの壁崩壊のころに比べ、金融の仕組みも変わり、インターネットを使ったサービス、流通網が世界に広がりました。人も情報もお金もスピードを増して行き交います。そんななか、多くの民の意見をぶつけあいながら物事を地道に進めていく民主主義は、決定までに時間がかかる。それよりも強い決断力を持つ国家元首の存在が、国民生活の向上には必要だという空気を生み、アメリカンファーストのトランプ大統領や、EUからの離脱を目指す英国のボリス・ジョンソン首相が生まれ、中国の習近平国家主席やロシアのプーチン大統領が盤石の体制を築きました。しかし、それはあくまで経済発展を基準にした価値観です。独裁的なトップのスピーディな決定により、開発のために個人の土地が強制的に奪われるようなことが、カンボジアやアフリカや南米で起きています。個人の尊厳に価値を置いて世界を見渡せば、個人が国家に弾圧されている状態。それは、民主主義が欲望に耐えられなかった結果なのだと思います。賃金格差が広がり、教育格差が固定されてしまうと、階層社会の下層に追いやられてしまった人は、這い上がることができなくなります。生活の安定を求めて共産主義的なものを求める貧困層と、資本を持ち、大きな力で帝国を築こうとする国家主義がぶつかりあう。これは、第一次世界大戦、第二次世界大戦の始まるころの構図とよく似ているのです。いま個人に最も必要なのは、自分の尊厳を維持できるかどうか。「仕方がない」と魂を売らずに、誇りを持って自分を大切にしてほしいなと思います。ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。映画『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)が3月7日公開。※『anan』2020年1月22日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年01月15日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「反緊縮」です。先に借金を減らすか雇用をまず生むか日本は揺れている。現在、世界で「反緊縮(財政)」を支持する声が広がっています。緊縮財政とは、増税や公共投資の削減により、国の支出を減らして財政を縮小することです。経済危機に陥ったギリシャは、EUから緊縮財政を促され、公共工事や公務員の数を減らしました。そうして赤字国債の発行を抑え、国の借金を減らそうとしたのです。しかし、緊縮財政にすると失業者が増え、国民の消費は冷え込み、経済がよいほうに転じません。それよりも、まず先に国はお金を投入して公共工事をガンガン増やす。そうすれば、労働力、資材、業者が必要になり、新たな雇用が生まれます。長期工事になれば、ホテルや食堂の需要も喚起されます。緊縮財政よりも「反緊縮」財政策をと、いま、アメリカやフランスなどでも反緊縮ムードが高まっているのです。日本では、2013年のアベノミクス第1第2の矢で、大胆な金融緩和と大規模な公共投資を掲げていました。雇用をまず生んでから消費の活性化を狙う、いわば反緊縮策でした。ところが、日本の慢性的な財政赤字に、国際社会から「そんなに負債を抱えて大丈夫?」という指摘がなされました。IMF(国際通貨基金)によると、日本の債務残高は、GDP比で237.7%。ドイツの58.6%やアメリカの106.2%に比べてダントツの多さ。財政健全度ランキングでは最下位の188位でした。そこで、安倍政権は、2020年度までにプライマリーバランス(基礎的財政収支)を黒字にすると約束。緊縮財政に転じ、「だから、安心して日本に投資してください」とアピールしました。しかし、目標達成は難しく、期日は延期されました。日本の借金は、国債を発行してまかなわれています。国債を購入しているのは日本銀行や民間の銀行。ほぼ日本人なので、国全体でみれば、借金を増やしても同等の資産が日本に貯まるため、財政破綻はしないと考えられています。しかし、国債を買う日本人は減少傾向。一方、高齢化により医療費や社会保障費は嵩み、国の借金は膨らむばかり。借金を返したいのなら、増税ではなく反緊縮に舵を切れと、れいわ新選組などが主張しているのです。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。映画『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)が3月7日公開。※『anan』2020年1月15日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年01月09日タレントの堀ちえみ(52)が1月7日、「徹子の部屋」(テレビ朝日系)に登場した。昨年2月に舌がんの手術を受けた堀にとって、復帰後初となるテレビ出演。その奇跡の復活に司会・黒柳徹子(86)も思わず涙ぐんでいた。黒柳は冒頭で「お帰りなさい!」と堀を迎え入れると、涙を堪えながら「よかったね、元気でね」と口にした。「大変でしたけど、無事戻ってきました」と話した堀は、舌の6割以上を切除したため話し方がたどたどしくなっていた。しかし、黒柳は「これは堀さんの個性」と言葉をかけていた。また番組では闘病のさなか、黒柳から手紙をもらったという堀が涙を流しながら「素敵なお手紙を頂きまして、すごく心の支えになって……」と感謝するシーンも。さらに今後の目標について訊ねられると「2年後にデビュー40周年になるんで、そのときにはライブができるようになれば」と意気込んでいた。手術から1年も経たないうちに復帰し、「病気に負けないということをお伝えしたくて」とも話した堀。その姿は大きな話題となり、Twitterでは「堀ちえみ」「徹子の部屋」といった関連ワードがトレンド入りを果たした。さらに、過酷な試練を乗り越えた堀の姿に感動したという声が上がっている。《ステージ4のがんだからボロボロになると思ってたら、がんになる前と変わらない顔立ちで嬉しかった。堀さんも、医療の進歩は進んでるって言ってたし、完全復活してほしい》《舌がんから復帰した堀ちえみさんの肉声を聞いて涙が出た。ここまでくるのにどれだけの苦難があったろうか。想像を絶する。並大抵なことではないと思う》《また歌が歌いたいという強い決意。涙が止まりません》番組で「お聞き苦しい点もたくさんあったと思いますけれども……」と申し訳なさそうにしていた堀。しかし、30分弱の番組でトークできるようになるまでには大変な努力があったようだ。昨年3月、静岡県立静岡がんセンターリハビリテーション科の言語聴覚士・神田亨さんは本誌で堀のように舌を6割ほど切除し再建手術後も行った後の患者のリハビリについて「『食事』と『発音』の訓練が必要」とコメント。続けて、こう明かしていた。「『食事』は、食べること自体がリハビリです。たとえ歯が全部あっても、舌がないと咀嚼できません。まず、とろみのついた水やどろどろとしたミキサー食をのみ込む訓練を行います。そこから徐々に粒のあるものへと移行していきます。『発音』は、構音訓練というリハビリを行います。舌は再建しても自由に動かせないので、『た』や『か』などの音が発音しづらくなる場合があります。まずはそうした出にくい音が入った文章を音読したりすることになります」以前は普通にできていたことを、こうした訓練によって地道に取り戻していかなければならないという。そんな自身のことだけでも手一杯であるはずの堀だが手術の1ヵ月後から、82歳になる義母の介護に奔走する“病老介護”の日々も送っていた。「堀さんは“おおまま”と呼ぶほどお義母さんのことを慕っており、連日診察に付き添っていました。お義母さんは『1人で大丈夫だから』と断ったそうですが、『心配だから』と堀さんは自ら率先して介護を行なっていたようです。お義母さんの自宅の近くに住んでいるとはいえ、頻繁に行き来もしていました。お義母さんは堀さんの最も尊敬する女性であり、さらに堀さんが手術を受ける際にも付き添ってくれた。その感謝の気持ちが介護の原動力だったようです」(堀の知人)ときに共倒れにもなりかねない病老介護を経験しながらも、見事復活した堀。番組の終盤では「ガンは素晴らしいことを教えてくれた。生きててよかったって心から思います」と語り、その笑顔は輝いていた――。
2020年01月07日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「日本人の英語力」です。国費を投じても、グローバルな人材を育成すべきです。2020年度から始まる大学入学共通テストで活用される予定だった、英語民間試験の導入が延期になりました。従来の試験では「読む・聞く」能力を問いますが、実践的な英語を身につけるには、「読む・聞く・話す・書く」が必須。この4技能を測るテストを一から作るには技術もコストもかかるため、7種類の民間試験の導入が提案されていました。しかし、受験生の家庭の経済力や、都市部と地方でも受験機会に差が出て、公平性に欠けると問題になり、延期が決まりました。スイスの国際語学教育機関の調べによると、日本の英語力は非英語圏の中では100か国中53位。中国や韓国を大きく下回り、‘18年より4位順位を下げています。日本の英語教育が遅れたのは、日本語だけで事足りる、非グローバル社会だったからだと思います。かつて日本が一流の消費国だった時代は、貿易が盛んでした。しかし、経済が下降し日本は世界から、商売相手として認められなくなりました。かつての日本は長い間、人件費の高い国でしたが、今は円安政策を行っており、人件費も物価も安くなっています。今後、世界の労働産業で、日本は使う側から、使われる側に回らざるを得なくなるでしょう。今、日本人にとって英語教育はとても重要なのに、英語民間試験の問題が起きました。国策にグローバル感覚がないことが明らかになったと思います。国力の低下を正面から受け止められず、格差の現状から目をそらし、一部の業界への利益誘導に終始した結果です。本来ならば、海外で勉強したい学生は、国費を投入してでもどんどん送り出していくべきなのだと思います。そうして、海外との競争力をつけ、日本市場以外でも生きていける日本人を育てることが、多くの問題を抱える日本の打開策でもあり、国の役割なんじゃないかと思います。英語はあくまでコミュニケーションツール。日本人は発音や文法の正確さにこだわりますが、移民の多いアメリカなどでは、訛りや誤りなど気にせず自由に話しています。語学力以上に問われるのが自分の意見です。考えを言語化して伝える習慣を、まずは日本語でつける教育改革が必要でしょう。堀潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。映画『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)が’20年3月7日公開。※『anan』2019年1月1日-8日合併号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年01月06日日々のニュースや暮らしのなかで、ふと気になることをジャーナリストの堀潤さんにあれこれ聞いてみました!Q. 「結婚=幸せ」とは限りませんが、未婚者が増えることで、社会はどのように変わっていくのでしょうか?(30歳・ライター)A. 基本的には変わらない。少子化対策のために制度変更は必要でしょう。未婚者の増加により社会が変わるということはないと思います。統計によると、結婚しない主な理由は、結婚に興味がないというより、経済面など、結婚後の生活不安からメリットが感じられないためのようですね。ただ、本気で少子化対策を打つのであれば、里親制度を充実させて、同性婚カップルや未婚であっても子供が育てられる社会にしたほうがいいのではないでしょうか。これだけ子供の虐待件数が減らないのは、既存の家族制度に何か無理があるのだと思います。「未(いま)(だ)」婚と書くくらい、結婚することを前提にした家族構成の社会づくりは少々寂しい気がします。Q. 東京五輪が始まっても、都内の交通網はパンクしないのでしょうか?いままで通り通勤できるか不安です。(28歳・会社員)A. 大混雑します。国は休暇取得かテレワークを推奨しています。2020年、国は五輪開会式の前後を4連休、閉会式の前後を3連休にしました。また、五輪期間中は会社を休みにするようにも推進しています。予想来訪者は、選手1万1000人、観客780万人、メディア関係者2万5000人。選手やメディア関係者が1日5万~6万台の車を利用。780万人(パラリンピックと合わせて、約1000万人)の観客が鉄道を利用すると予想されています。ラグビーW杯のときが180万人なので、桁違いですね。交通量を減らすために、企業には、休暇の取得と従業員の50%をテレワークにするよう推奨。普通の通勤はできなそうですし、物流にも影響が出そうです。Q. ネットで見かける情報について正しい情報なのか判断がつきません。堀さんはどういうふうにデータを読み解きますか?(32歳・主婦)A. 自分で見聞きしたもの以外の情報は、すべて疑ってかかりましょう。基本的に、すべての情報を「本当かな?」と疑ってかかったほうがよいと思います。どのような意図、仕掛けで発信しているかはわかりません。参考までに僕も読みますが、真実とは限らないと思っています。先日「若い世代でテレビ離れ進む約1割『見ていない』」という時事通信の世論調査の記事を読みました。テレビ離れが進むと言いつつ、9割は見ているんです。このようにタイトルのつけ方次第でバイアスがかかり、違う印象を受けます。アンケートなども、設問の仕方で結果は異なる。インターネットでは出どころ不明な情報がいくらでも仕掛けられますから、注意が必要です。Q. ふるさと納税をしたいのですが、こんなに災害が多いと自分の自治体に納税しないのは被災時に困りませんか?(29歳・PR)A. 災害で大被害を受けるのは地方。自分の住む地域と同じように考えたいですね。世田谷区や杉並区はふるさと納税の制度により、税収が減って困っていると声かけをしています。ただ、もともと東京に税収が集中しているのを分散させようと始まった制度なので、それは東京目線の意見かなと思います。災害が起きて、圧倒的な被害を被るのは地方です。地方は日本の生命線。農業にしても水源にしても、首都圏の暮らしは地方に支えられています。また、自治体同士で災害時応援協定を結んでいますから、災害被害に遭えば、遭わなかった地域が助けてくれます。困ったときにはお互いさま。自分の地域だけでなく、広い視野で考えていただけたらなと思います。堀 潤さんジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」主宰。シリア、朝鮮半島、香港、沖縄などを取材した映画『わたしは分断を許さない』が3月7日に全国公開。※『anan』2020年1月1日‐8日合併号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年01月05日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回はスペシャル版として、堀潤さんが“異常気象”についてイラストレーター・五月女ケイ子さんにレクチャー!想定外の異常気象は今後も起こるでしょう。10年後の気象変動を抑える行動を。五月女:2019年は台風15号や19号があり、大きな被害も出て怖かったです。台風の進路が昔と変わったんですか?堀:そうなんです。気温や海水温の上昇で、最近の台風は勢いを失わないまま本州を直撃するようになりました。千葉など、被害を受けた地域の停電があれほど長引くとは想像していませんでしたよね。五月女:今後、住むところも考えないといけないなと思いました。あの時期、たまたま小学生の娘の学校の授業の一環で、1970年代に起きた多摩川の狛江水害のことを調べていたんです。また、私は2005年の集中豪雨で事務所のマンションの1階が浸水した経験もしていたので、少し覚悟ができていたのかな?と思います。堀:知識や経験を持っていると対処しやすいというのはありますね。どの災害現場に行っても、みなさん「まさか自分が被災者になるとは」とおっしゃいます。避難指示が出ていても、なかなか避難所に行こうとしない。それは災害を経験していないからなんです。正常性バイアスがかかり、大丈夫だと思い込んでしまう。強度のストレスから脳が情報をシャットダウンして、サイレンの音が聞こえなくなってしまうこともあるそうです。五月女:それは怖い…。堀:渦中にいると、正しい判断ができなくなる可能性があることは知っておいたほうがいいですね。五月女:警報も、あまり頻繁に鳴ると、慣れてしまいそうです。堀:今年は「数十年に一度」といわれる大雨警報が毎日のように出ました。気象庁にとっても想定外の出来事。今後も未体験の異常気象が起き得るでしょうから、お役所の言うことに従っていれば大丈夫、とは限らないと思います。五月女:100年単位くらい、長い目で対策を考えることもきっと必要なんでしょうね?堀:はい。都市に人が集中しすぎなのも問題だと思います。都市に人が集まるほど、地方が犠牲になってしまう。2019年の台風も、多摩川は氾濫しましたが、利根川や荒川はギリギリのところで止まりました。それだけ自治体が東京23区を守ろうと事前に投資していたからです。ところが、インフラ投資がなされていない東北や北関東は毎回水害被害が出てしまう。消費者の価値観が変われば、企業も環境対策を積極的に。堀:気候変動は、10~20年前といまを比較すると実感できます。異常気象の原因は諸説ありますが、地球温暖化も大きな要因の一つ。しかし、グレタ・トゥーンベリさんが国連で泣きながら温暖化対策を訴えても、トランプ大統領は冷ややかなコメントをするなど、産業の敵のように捉えています。でも、放置していたら、本当に手遅れになってしまいます。五月女:私たちはどうしたらいいんですか?堀:環境を破壊しているのは圧倒的に企業活動。ビジネスの世界では、環境や人権を脅かす企業には出資しないというESG投資が出てきています。個人では、フェアトレード商品や、生産から消費までの物流の流通経路が追跡できるものを選ぶといいでしょう。五月女:「さんが作った××」と顔写真入りで売られているお米や野菜みたいなものですか?堀:はい。すると自然と近くで生産されているものになり、配送にかかるCO2排出も減らせるかもしれません。いままでは環境よりも安さが優先されていました。でも、私たち消費者が、環境を考えた生産者のものを積極的に選ぶようになれば、企業も環境を考えざるを得なくなります。それと脱プラスチックですね。マイバッグやマイタンブラー、マイストローを持ち歩くとか。五月女:マイストロー?堀:シリコン製でハサミで切れるので、好きな長さに調節できます。洗うのが面倒くさいという意見はありますが、そもそも「面倒」という思いが、効率・合理主義を加速させるすべての元凶でしょう?五月女:そうだ!その通りです。堀:これからは「手間のかかることにこそ価値がある」と思えるようになるといいですね。その価値観が多数派になれば社会は一気に変わると思います。堀 潤さんジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」主宰。シリア、朝鮮半島、香港、沖縄などを取材した映画『わたしは分断を許さない』が3月7日に全国公開。五月女ケイ子さんイラストレーター。オンラインストア「五月女百貨店」では、新年にふさわしいおめでたいアイテムを多数とりそろえ。作品集『五月女ケイ子 ランド』が好評発売中。※『anan』2020年1月1日‐8日合併号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年01月03日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。そのスペシャル版として今回は、堀潤さんが“多様化する社会”について解説!イラストレーター・五月女ケイ子さんの疑問に答えます!「みんな仲良く一緒に」というのは夢物語。違いを尊重し、分断しないあり方を。堀:多様性やダイバーシティという言葉が浸透して、いまは次の段階にきている気がします。当初は「国籍やジェンダーなど違う者同士、手を取り合おう」という、キラキラした共存体制を思い描いていたと思うんです。しかし、お互いの違いが明確になるにつれ、摩擦が積み重なり、「よくわからないから距離を置こう」「私とは違うから関わるのはやめておこう」と、表面的には秩序を保っていても、内実は分断が起き始めているように思います。五月女:え!そうなんですか。堀:SNSなどでも、「賛成」「反対」と二極化して、価値観の多様性は受け入れられにくいですよね。五月女:出来事に対して、みんな感情的になりすぎなのでは?とちょっと思いますね。堀:問題は、違う考えの人とどう付き合っていくか。五月女:距離感なのかな。ママ友は距離感が大事です!(笑)堀:そうなんですね(笑)。ただ、「理解できない人とは関わらない」というふうになってしまうと、多様性が進むにつれ無関心が増えてしまいます。五月女:身近な人だったら、関心を持って考えられるんですけど。堀:いいポイントです。大きな主語より、小さな主語を使うことが大事なんですよね。分断や排斥には必ず大きな主語がつきまとう。「日本人は~」「女性は~」と大きく括るから衝突します。実際にはいろんな人がいるので、一括りにはできません。五月女:相手を知る、というのも大事ですよね?先日近所で、パラリンピック関連のイベントがあって、スポーツ義足を装着する体験をさせてもらったんです。想像していたよりずっと重くて立ち上がれない。義足を操るのにすごい筋力が必要なのだとわかりました。パラアスリートの方ともお話ができて、娘にもいい体験でした。マジョリティというだけで脅威になるという自覚を。堀:一般に、新しいもの、知らないものに対しては恐怖が先立って、保守的な選択をしがちなのだそうです。違いを知るには勇気がいる。五月女:私はお酒があんまり飲めないのですが、飲む人たちからの「飲まないの?」という声にいつも圧を感じています(笑)。みんながビールを頼むなか、勇気を出してノンアルコールを頼みます。堀:マジョリティの意見は本人の気づかないところで脅威になりやすいんですよね。この数か月、僕は香港を取材していますが、これまでの香港区議会では民主派は2割と少数派でした。ところが11月の選挙で8割以上に。すると、それまでデモ隊を強く弾圧していた警官が、自分たちがマイノリティに変わったとわかった途端におびえ始めたんです。五月女:立場が逆転したんですね。堀:多様性といっても、何もせずに「対等」はありえない。そのことは自覚しておいたほうがいいでしょう。日本では、これまでは会社員がマジョリティでしたが、2020年以降、雇用の流動が進めば、フリーランスが多数派に変わるかもしれません。家族の形も変化して、いまは夫婦別姓に反対する保守派がマジョリティですが、選択的夫婦別姓の議案が再び持ち上がるかもしれません。五月女:フリーランスの私は、常にマイノリティの意識でいました。でも、マジョリティに変わったら威張ってしまうんでしょうか?堀:マジョリティがマイノリティにすり替わったとき、マジョリティだった人たちは防衛本能から「(立場を)奪われた」という意識になり、嫌悪や暴力につながることはよく起きます。欧米で移民政策に反対する人たちにもそういう意識があったと思いますね。五月女:複雑なんですね…。堀:だから、「みんな違うんだから仲良くしよう」という多様性の声かけは失敗します。そんな簡単じゃない。知らない者同士、恐る恐る近づいて、ストレスのかからない付き合い方を模索するしかない。いつも一緒でなくていいと思います。多様性のある社会とは、全員が手をにぎり合う状態ではなく、普段はそれぞれの世界があり、何かのときに協力し合うというのが理想じゃないでしょうか。堀 潤さんジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」主宰。シリア、朝鮮半島、香港、沖縄などを取材した映画『わたしは分断を許さない』が3月7日に全国公開。五月女ケイ子さんイラストレーター。オンラインストア「五月女百貨店」では、新年にふさわしいおめでたいアイテムを多数とりそろえ。作品集『五月女ケイ子 ランド』が好評発売中。※『anan』2020年1月1日‐8日合併号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年01月01日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回はスペシャル版として、イラストレーター・五月女ケイ子さんが堀潤さんに“経済・お金”についてレクチャーを受けました!東京五輪景気に期待!その後の落ち込みに警戒を。堀:お金に関することでは、老後の資金問題が大きなニュースになりました。金融庁の報告書にあった、「年金だけでは約2000万円不足する」という話だけが先行してしまい、年金制度に批判が殺到してしまったのですが…。五月女:老後にどれくらいお金が必要かわからなかったので、そういう話が聞けて私はよかったなーと思っていました。堀:あの報告書は実はよくできていて、将来お金が必要になるから、若いときから投資をするなど、お金を賢く増やそう、そのために金融教育にも力を入れようという提言がなされていたんです。投資と貯金の違いなど、ちゃんと教えてほしかったですよね(笑)。五月女:教えてほしかったです!投資とか全くわからなくて。儲かるんですか?堀:投資は、例えば証券会社にお金を預け、彼らが今後成長しそうな企業や国に投資をして運用利益を得るシステムです。途中、多少の上がり下がりがあっても、長期的には世界経済は成長し続けますから、ある程度は増えていきます。五月女:ちょっと博打みたいなイメージもある気が…。堀:「投資」という、お金を投げるみたいな言葉が良くないのでは、という意見も(笑)。日本は資本主義の国。投資、運用するという仕組みのなかで私たちは生きているのに、そういうことを教えてもらえる機会がなかった。「お金儲けは悪いこと」という思い込みがまだ残っているので、意識を変える必要があると思います。五月女:投資について勉強するには、どこへ行けばいいんですか?堀:基本的には証券会社や銀行の窓口です。いまは少額で始められるNISAやiDeCoなどの制度もできています。大手証券会社やメガバンク系であれば、ポートフォリオといって、いっぺんに全額失うような損をしないように、様々な商品を組み合わせて運用しているので安心です。いまは株取引にも人工知能が入ってますから、素人がFXを始めようとしても太刀打ちできないと思います。消費するだけではなく、生産する側にもなってみる。五月女:投資以外にしておくべきことは何かありますか?堀:「自分の手で何かを生み出してみる」ことじゃないでしょうか。そうすれば、消費するだけの側ではなくなります。絵を描く、文章を書く、歌を歌う、雑貨を作る、何でも構いません。自分の趣味や得意なことをお金に換えてみる。いまはインターネットで個人のショッピングモールを開くことができますし、シェアリングエコノミーのインフラも整っています。五月女:私の若いときは、やりたいことがお金につながらなくて表現の世界から離れた人が大勢いました。でも、いまはいろんなところにチャンスがありそうですね。どこからがプロなのか、境界線がわからなくなったけど。堀:必ずしも生業にしなくていいと思います。月に1万でも、「ランチ代10日分、ちょっとしたアイデアで賄う」くらいの感覚でいいんじゃないでしょうか。市場に素人が増えるほど、プロの価値も高まり、再評価されています。五月女:2020年には東京五輪がありますが、オリンピックによって経済って変わるんですか?堀:オリンピックの経済効果は大きいですから、景気は良くなるでしょうね。ただ、五輪後は東京も人口減少が進みますし、景気には陰りが出てくると思います。五月女:わーそれは心配ですね。堀:でも、2025年には大阪・関西万博がありますし、2027年には東京(品川)―名古屋間のリニアモーターカーが開業。IR事業も積極的に計画を進めています。五月女:カジノですね!堀:いま大阪と横浜に開設の審議がなされています。ただ、いずれにせよ、「ハコ頼み」「イベント頼み」の景気刺激策にすぎません。自分の手でお金を作り出すことをしていかないと、いつか行き詰まると思います。例えばパラリンピックに向けて、各メーカーが選手の器具の技術開発を進めてきました。そういうものづくり精神を、2020年の東京オリパラから学んでいけたらいいですね。堀 潤さんジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」主宰。シリア、朝鮮半島、香港、沖縄などを取材した映画『わたしは分断を許さない』が3月7日に全国公開。五月女ケイ子さんイラストレーター。オンラインストア「五月女百貨店」では、新年にふさわしいおめでたいアイテムを多数とりそろえ。作品集『五月女ケイ子 ランド』が好評発売中。※『anan』2020年1月1日‐8日合併号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年12月31日12月24日に公開された俳優・要潤(38)の動画が注目を集めている。11月20日に『要潤の楽屋ばなし』とのタイトルでYouTubeチャンネルを開設した要。動画では、俳優になったきっかけをインタビュー形式で語っている。香川県から上京し、スカウトがきっかけで俳優になった要。だが当時、要はアルバイトをしながら芸能事務所に飛び込み営業していたという。そんななか、飲食店で働いているときに現在のマネージャーにスカウトされたと明かした。また要の働いていた飲食店は、芸能人や業界人も来るようなお店だったという。警備や工場作業も経験したが、「自分が入りたい世界の人と出会う」という意味でもアルバイト選びの大切さを語った。さらにスカウトされた事務所が小規模だったため、入所を迷ったというエピソードも披露。同じ飲食店で働く板長の「大きいところで歯車になるより、小さいところで看板になったほうが良い」という言葉に後押しされたという。「行動すればきっと誰かの目に留まる」と締めくくった要。ネットでは視聴者から反響が上がっている。《本当に深イイお話。 すべての出会いに感謝ですね私は役者さんになってくれた要さんに感謝です!》《要さん。 いろいろ考えて動く人なんだなー。 成功してる人はやっぱり。 ちゃんと考えてるのね》《めっちゃいいです。 素敵》「要さんは香川県の高校を卒業後、すぐに夜行バスで上京しました。年間20種類ものアルバイトをしながら、オーディションを受ける日々でした。アルバイトが重なったこともありましたが、職場の人たちが送り出してくれたそうです。要さんは『応援してくれた人たちのおかげで今の自分がある』と語っていました。各方面で活躍し続けているのは、人望によるところも大きいでしょう」(テレビ局関係者)NHK連続テレビ小説『まんぷく』や、映画『キングダム』といった話題作にも引っ張りだこ。現在は『悪魔の弁護人・御子柴礼司 ~贖罪の奏鳴曲~』(フジテレビ系)で主演を熱演している。来年でデビュー20年目となる要。今後の活躍ぶりに注目が集まりそうだ――。
2019年12月26日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「2019年を振り返る」です。グローバル化が進む一方で、分断は避けられず。今年、最も印象的だった出来事は令和への改元ではないでしょうか。生前退位により、これまでと違い、お祝いムードでしたし、これほど多くの式典に国民が参加できた改元はほかにありません。また、今年はラグビーのワールドカップや、野球の「WBSCプレミア12」など、国際的なスポーツイベントが日本で開催され、外国人サポーターの方が大勢訪れました。これまではグローバル化というと、日本人が海外に出て活躍することが主でしたが、日本にいながら様々な国の方々と交流が深まる「内なるグローバル化」がようやく進んだ印象です。これは、インバウンド政策により、ビザ要件を緩和し、外国人観光客を増やしたこと。そして、少子高齢化により労働者が不足し、コンビニでも居酒屋でも外国人の方が働くことが当たり前になってきたという背景があります。今年の4月には、改正出入国管理法が施行され、農業や建設、介護などの分野で、「特定技能」の在留資格を得ることもできるようになりました。外国人労働者の数はこれからますます増えていくでしょう。ただその一方で、台風や大雨が昨年に続いて多発し、外国人の方に災害報道が的確に伝わらないという問題も浮き彫りになりました。来年の東京オリンピックを控え、駅や電車などのアナウンス同様、報道でも多言語対応の必要性を強く感じます。政治に関することでは、安倍晋三総理の通算在任期間が、憲政史上最長になりました。しかし、豊かになったのはある特定の層のみで、不満や貧困、格差は広がりました。7月の参議院選挙で、「N国(NHKから国民を守る党)」や消費税廃止を謳った「れいわ新選組」のような、極論を主張する政党が想像以上に多くの支持を集めたのも、印象深い出来事でした。人々の不満が政治に直結していることが顕在化した一例だと思います。外交面では、北方領土や、北朝鮮問題は棚上げ状態。日韓関係は悪化したままで、日米貿易交渉も核心部分は先送りになっています。世界的に分断が進みつつあり、残念ながら、先行きは明るいとは言い難い状況なんですね。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。映画『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)が来年3月7日公開。※『anan』2019年12月25日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年12月20日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「ハラスメント」です。知らぬ間に自分が加害者になるかも、という意識を持つ。今年9月、奈良県の小学校で起きた教員同士のいじめ、パワーハラスメント(パワハラ)が大きく報道されました。また、10月にはJリーグの監督がパワハラ認定を受け、1年間の指導者資格停止処分に。11月にはプロフィギュアスケーターの織田信成さんが、関西大学アイススケート部の監督時代にモラルハラスメント(モラハラ)を受けたと、損害賠償を求めて提訴しました。ほかにも、セクシュアルハラスメントやカスタマーハラスメント(カスハラ)など、様々なハラスメントが最近、社会問題になっています。ハラスメントは、本人が嫌だというものに対して、無理やり、同意を得ずに、圧倒的な力関係を利用して起きるものです。加害者はたいていハラスメントの自覚がありません。モラハラなどは、その最たる例。よかれと思ってしていることが、実は相手を傷つけ、追い込んでいる場合があります。こういう報道に対して、「大変だね」で済まさずに、「自分も知らないうちに誰かの脅威になっているかもしれない」と想像してみてください。後輩に対して、親しみを込めて呼んだつもりの呼び捨てが、相手にとっては威圧的だったかもしれません。不機嫌に告げた、行き先の伝え方が、タクシー運転手にとってはカスハラになっていたかもしれません。ハラスメントを回避するには、それが不快になっていないか、相手の同意を得ることが必須になります。ヨーロッパでは10か国で、同意のない性行為は犯罪になると、法律で定めています。しかし、どう同意を得るかは難しい問題です。空気を壊してしまうかもしれませんし、かえって信頼を損ねることもあるでしょう。性交渉に限らず、同意の方法は試行錯誤していくしかないと思います。企業にパワハラ防止対策を義務付ける法律が、来年から施行されるのを踏まえ、厚労省は先月、パワハラの具体例の指針案をまとめました。受けた当人がパワハラと捉えればパワハラになるので、単純な基準で判断はできません。しかし、これを軸に皆が意識をし、積極的に対話を行うことで、状況が改善され、ハラスメントが減ることを願うばかりです。ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げる。9月、3つ目の新会社「わたしをことばにする研究所」を設立。※『anan』2019年12月18日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年12月11日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「オーバーツーリズム」です。観光客にも住民にも心地よい土地にするために。「オーバーツーリズム」とは、観光地が受け入れられないほど多くの観光客がその土地を訪れ、地域住民の生活に影響を及ぼしたり、自然環境や景観を損ねたり、観光客の満足度を低下させてしまう状況をさします。具体的には、渋滞や混雑。大量のゴミやポイ捨て、落書きや器物破損、騒音などのマナー違反。さらには治安の悪化につながることもあります。ホテル代や家賃の高騰、環境悪化により地域住民が住めなくなるケースも起きており、世界中の人気観光地で問題になっています。これらの対策に、ベネチアやバルセロナでは観光名所で入場規制や高額な入場料を設定し、モルディブでは船や飛行機の便数を減らしてアクセス手段そのものを制限。パラオでは、観光保護制度の誓約書への署名を観光客に義務付けることにしました。日本でも、すでに京都などはオーバーツーリズムが深刻な問題になっています。2018年に国内外から京都市を訪れた観光客数は約5000万人でした。ホテルは不足しており、中心地では人が歩道からあふれ、混雑により地元住民がバスに乗れない事態も起きています。京都市観光協会は、人を分散させるために、春や秋以外の季節をアピールしたり、ハイシーズンにはAIを使い、エリアごとに時間帯別観光快適度の予測を知らせるサービスを開始。また、「飲食禁止」や「立ち入り禁止」をピクトグラムで示したステッカーを作成し、外国人にもわかりやすいマナー啓発を促しています。国は、有名な観光都市から少し足を延ばした地方へ観光客を誘い、集中を分散させようとしています。来年は東京オリンピックが開催され、観光客はさらに増えるでしょう。東京都では空きオフィスや空き家を民泊施設にする取り組みをしたり、開催時期の時差通勤、会社を休みにすることを提唱したりするなど、トラブル回避の準備を進めています。オーバーツーリズムの最たる害は、「観光客は来るな」という排斥につながることです。異文化対応に慣れておらず、シャイな日本人。「おもてなしの国のはずなのに冷たかった」と思われないよう、注意したいですね。堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げる。9月、3つ目の新会社「わたしをことばにする研究所」を設立。※『anan』2019年12月11日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年12月06日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する連載「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「内閣改造」です。目的は様々あるが適材適所、柔軟な対応を望みたい。内閣改造とは、複数の国務大臣を一度に替えることを指し、内閣総理大臣が任命します。今年の9月に第4次安倍内閣の第2次改造が行われました。改造する理由はいくつかありますが、まず、政策をスムーズに実行するため。「国難突破内閣」では、少子高齢化対策と、核実験やミサイル発射を頻繁に行っていた北朝鮮対策に特化した人事を行い、「女性活躍推進内閣」のときには、女性活躍担当大臣を置いたり、女性閣僚を増やしたりしました。内閣改造の目的には、リフレッシュもあります。不祥事が続いたときにイメージを一新させる、政権の支持率が停滞したころに人気を回復させたいなど。長期政権が続けば内閣も膠着しますから、新しい風を吹き込むことは大事です。今回、環境大臣に小泉進次郎氏が任命されたのは、人気獲得も大きな目的の一つだったといわれています。官僚は優秀ですから、誰が大臣になっても省内の仕事は回ります。しかし、「これから勉強します」という姿勢で大臣職に就くなど専門外の方もときどきおり、適材適所の人事なのか疑問視されることもあります。第2次改造内閣では、情報通信技術(IT)政策担当に当時78歳の竹本直一氏が任命されたことが注目を集めました。印鑑を守る業界のトップでもある竹本大臣が、デジタル認証と印鑑の共存・共栄を目指すと話したためです。このように、内閣改造には、ベテラン議員に大臣職を経験させて、選挙での票獲得に役立てたいという側面も実際にはあります。自民党には大勢の入閣待機組がおり、第2次内閣改造では14人が初入閣を果たしました(10月に2人が辞任)。一方、河野太郎外務大臣は防衛大臣に、茂木敏充経済再生担当大臣は外務大臣にスライドしました。外交・防衛と経済政策はほぼ一体化しているので、配置の入れ替えは問題ありません。河野氏が防衛大臣になったことで、台風災害の対応は瞬時に実行され、自衛隊の派遣スピードが早まりました。SNSを使って活動の様子がリアルタイムで伝えられたので、被災者の方々の安心につながりました。国内外の刻一刻と変わる情勢に対して、柔軟に対応できる内閣であってほしいと願います。ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げる。9月、3つ目の新会社「わたしをことばにする研究所」を設立。※『anan』2019年12月4日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年11月28日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「温暖化対策」です。一刻を争う状況。積極的な取り組み必須の時代へ。日本でも近年、災害を及ぼすほどの大量の雨が降るなど、以前とは気候が確実に変わってきたことを実感します。9月にNYで開かれた国連気候行動サミットは、スウェーデンの16歳の環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんの演説でも非常に注目を集めました。日本の温暖化対策は、民主党鳩山政権時に、「2020年までにCO2の排出量を1990年比で25%削減」と発表。そんな高い数値は実現不可能と、財界から強い反発を受けました。鳩山政権はそのために原発政策を進めようとしていたのですが、東日本大震災が起こり、立ち消えに。しかし、あれから世界は大きく変化しました。一番大きかったのは、2015年に国連がSDGs(持続可能な開発目標)を掲げたことです。かつては、短時間に効率よく利益を上げて、株主に還元することが企業価値とみなされていました。しかし、いまは環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮する企業に優先的に投資をするESG投資も進み、人権や環境への意識の高いクリーンな企業でなければ、人もお金も集まらない時代になったのです。業界をリードするトヨタ自動車では、2050年までに製造工程に関わるCO2の排出ゼロを目標に、さまざまな改革を行っています。環境対応車の開発、車のリサイクル、製造には風力発電や「からくり」を動力の一つとして使うなどの工夫を凝らしています。私たちにできることは、まずプラスチックゴミを減らすことでしょう。マイタンブラーやエコバッグを持ち歩く習慣が広がるといいと思います。また、消費者と生産者の距離を縮めれば、流通にかかるCO2を抑えられます。都会でとれた野菜を購入する、都市型農業を始める動きも加速しています。これまでは消費も生産も過剰でした。大量のゴミを出し、作るのにも捨てるのにも無駄なエネルギーを使い、CO2を大量に排出していました。消費者の意識が変わらなければ企業は変わりません。スマート化により、自分のCO2排出量を知るのもいい方法かもしれません。環境問題は、待ったなしの状況。できることから始めましょう。堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げる。9月、3つ目の新会社「わたしをことばにする研究所」を設立。※『anan』2019年11月27日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年11月20日ムロツヨシ(43)が10月12日放送の「嵐にしやがれ」(日本テレビ系)で、「松本潤のTHIS IS MJ」のコーナーに登場。松本潤(36)や綾野剛(37)と「ボトルキャップチャレンジ」「人間テーブルクロス引き」、ARを使った次世代スポーツ「HADO」で勝負した。3人は熱い勝負を繰り広げたものの、ムロが最下位という結果に。罰ゲームとして、松本が撮影したムロの写真を宣材写真として1週間限定で公式HPに掲載することとなった。だが、その写真はほとんど顔が見えないもの。にもかかわらず、ムロの公式HPは一時的にサーバーダウンするほどネットで話題となっている。《ムロツヨシさんの宣材写真…なんだこれ(笑)滲み出る陽気な人柄、MJナイス撮影です!》《ムロさんの宣材写真www 顔、分からんやんw》《ムロツヨシの新宣材写真が顔すらちゃんと見えないの、宣材の意味を成してなくて最高でしかない》ムロの宣材写真が変更されたのは今回が初めてではない。さかのぼると、松本がムロの宣材写真を「イケメンすぎる」と指摘したことが発端だった。まず16年5月、ムロが松本との勝負で負けた際に初めて写真を変更。また同年9月にも、ムロは松本に敗北。そして松本が撮影した写真を一週間限定で掲載した。その苦い経験から、ムロはリベンジすべく「2回負けてるけど3回目勝つ姿が見たいのよ、日本人は」と大きく意気込んでいた。だが、今回も結果は敗北。三度目の正直とはならなかったが、そんな彼に再び挑戦して欲しいという声も上がっている。《やっぱMJ対決はムロさんだよね! 最高だわ。毎週5分でいいからやってくれ!笑》《MJ対決には、やっぱムロさんが必要!いつか勝ってほしい!》ムロが松本に勝利する日はやってくるのだろうか!?
2019年10月13日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「表現の自由」です。実は制限を加えているのは私たちなのかもしれない。現在開催されている「あいちトリエンナーレ2019 情の時代」(10月14日まで)。そのなかの企画展「表現の不自由展・その後」の、慰安婦問題や昭和天皇などを題材にした作品に対し、抗議や脅迫が多数届き、運営側は安全管理上の理由で、開幕3日で企画の中止を決定しました。この騒動をきっかけに、日本における“表現の自由”について、改めて考えることになったのは、とても良かったと思います。表現の自由が脅かされるのは、公権力が介入する場合と、自分たちで自主規制をしたり、忖度して引き下がる場合の2通りあります。僕は、101歳で亡くなった、むのたけじさんにインタビューをしたことがあります。むのさんは戦時中に国民に真実を伝えられなかった責任を感じ、終戦とともに朝日新聞社を辞め、故郷で週刊新聞『たいまつ』を発行し、反戦を訴え続けたジャーナリストです。朝日新聞が大本営発表に加担してしまったのは、軍部の圧力だったのかと問うたところ、「軍はなにもせずにただ笑って見ているだけ。自分たちの生業、会社を守るために、会社が自ら検閲機関を作ったのだ」とおっしゃいました。つまり、表現の自由を阻んだのは権力ではなく、大衆の側。それは今回の「不自由展」にも通じることではないでしょうか。表現の振り幅を窮屈にするのは私たち自身かもしれないと、自覚しておかなければなりません。現在の香港のように、政府に対して市民が徹底的に闘うケースもあります。日本は民主主義で治安も良く、公権力が介入して、表現の自由が脅かされるケースは多くはありません。ただ過去には、わいせつをめぐり逮捕者が出たり、社会秩序を乱すからと、警察から横やりが入ったことはありました。表現の自由は、憲法で保障されています。“公共の福祉”を鑑みて、すべての国民に認められている権利です。公共の福祉とは、互いの人権を侵害し合わない関係を指します。しかし、もしも国が“秩序のために”と表現に制限を加えるようになったら、それは公権力の乱用になります。自由が脅かされていないか?私たちが、注意深く見ておく必要があるのです。堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げる。9月、3つ目の新会社「わたしをことばにする研究所」を設立。※『anan』2019年10月16日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年10月09日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「幼児教育・保育の無償化」です。無償化が先か全入化が先か。親が働ける環境を。10月より消費税が10%となり、増えた税収は、未来への投資として、「幼児教育・保育の無償化」が始まることになりました。対象になるのは、すべての3~5歳児と、住民税非課税世帯の0~2歳児。認可外の保育施設やベビーシッターもこれに含まれます。歓迎すべきことですが、いくつか問題もあります。まず、保育所などに入っていない子供たちは対象外。都市部ではまだ、待機児童問題が根強くあり、入園を諦めていた家庭が、無償になるのならと、新たに申請が増える可能性があります。そのため、無償化よりも、全員が入園できるように、待機児童問題を先に解決するべきではないかという声もあがっています。ただ、全入化のために保育所の数を増やす、というのも容易にはいきません。なぜなら、今後子供の数は減っていきます。保育所を新設したものの、利用者が減り、将来、保育所が余ってしまう心配もあるからです。保育所設置の規制を緩和して、会社のなかに保育所を置く、「企業主導型保育」を増やす案もあります。しかし、満員電車に小さな子供を連れて通勤できるものでしょうか?最も不安視されているのは保育の質です。保育士の数は慢性的に不足しており、待遇もよくありません。数が足りていないと、保育士1人当たりの面倒をみる子供の数が多くなり、安心して預けることができません。これだけ働き方改革、一億総活躍が謳われるのであれば、安心して子供を預けられるよう、保育士の待遇や保育環境の改善をしっかりやらないといけないのではと問題提起もされています。長期的な計画になりますが、雇用の流動性を高めて、在宅ワークやワークシェアリングをもっと進め、働きながら、家で子供も育てられるようにする、というのも一つの解決策になるのかもしれません。子育ては日本の将来に関わる問題です。自分に子供がいる、いないにかかわらず、社会全体で子供を育てるという姿勢は必要だと思います。無理して保育所などに預けなくても、必死に働かなくても、安心して子供を産める、子育てだけはできる、そんな国であってほしいと思います。堀潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げる。9月、3つ目の新会社「わたしをことばにする研究所」を設立。※『anan』2019年10月9日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年10月07日「松潤からカレーと飲み物2本を手渡され、握手してもらいました。つらかった気持ちが一挙に吹き飛びました!」(参加した高校生)9月22日、嵐の松本潤(36)、KAT-TUNの亀梨和也(33)、関ジャニ∞の丸山隆平(35)、NEWSの小山慶一郎(35)らジャニーズ事務所のタレント8人が、台風15号で被災した千葉県館山市をサプライズ訪問。キッチンカーでカレーの炊き出しを行った。「亀梨くんからトレイを、小山くんからスプーンを、カレーライスを松潤から受け取りました。ふだんはダメらしいんですが、この日は気軽に記念写真にも応じてくれました」(参加学生)招待された園児や小中学生のなかには感激のあまり泣き出す子も。「温かいものはありがたいです」とお礼を口にする保護者もいた。「9月27日にジャニーズ事務所副社長に就任した滝沢秀明さんは今回の炊き出し前から自ら館山に出向き、ガレキ撤去に連日精を出していました。これらは昨年7月に同事務所が立ち上げた『Johnny’s Smile Up! Project』の活動の一環として行われているもの。本業のエンタテインメント活動とともに“みんなが笑顔になるための社会貢献活動を継続的に続ける”というプロジェクトなのです」(イベント関係者)今回は松潤が参加していたが、嵐は東日本大震災の復興支援の一環として11年から「嵐のワクワク学校」を開催していた。「同イベントは、電力不足が社会問題となった中で、被災地の役に立てることはないかと考え、通常よりも“省エネ”で実施できるイベントとして始まりました。収益金の一部を東日本大震災の被災地へ寄付するとともに、 実際に被災地にも出向き、翌12年には、宮城県と福島県において無料招待を実施。また、17年には熊本地震で被災した小中学生とその保護者を無料招待しています。炊き出し翌々日の24日に相葉雅紀さんが千葉県庁を訪問し、義援金6千万円の目録を贈呈しました」(前出・イベント関係者)昨年7月にも、大雨に見舞われた広島と愛媛の避難所を松潤、岡山を二宮和也(36)がそれぞれ激励訪問。松本は感激する被災者へ「(嵐の)メンバーも本当に気にしてますし、何か皆さんの力になれることがあったら、ぜひ力になりたい」と呼び掛けていた。「今後『嵐のワクワク学校』は後輩に引き継がれますが、11~18年までの寄付総額は約20億円にも達しています」(前出・イベント関係者)松本は“一区切り”にあたり、こんな心境を明かしていた。「まだまだ大変な思いをされている方はいらっしゃると思います。今後も僕らが寄り添えることは続けていけたらと思っています。そしてこの『ワクワク学校』は後輩たちが意志を継いでもらえたらうれしいです。これまで関わってくださった全ての人たちに感謝しています」嵐の“愛の精神”は、後輩たちへと受け継がれる。
2019年10月03日