2020年7月現在、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催しています。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『夏の映画館』をご紹介します。夏の映画館夏休み、子供を連れて神奈川の実家へ遊びに行った時の事です。滞在最後の日に、従姉弟達と子供達だけで映画を観せようと、一番近い映画館でアニメ映画をネットで予約しました。夏休みのイベントに、子供達は、とても喜んで、楽しみにしていました。当日は、早めに映画館に着いて、「さあ子供達でいってらっしゃい!」と、映画館内の入り口で見送りました。子供達は嬉しそうに「いってきます!」と、中に入って行きました。ところが少しして、映画も始まらないうちに、子供達が残念そうに戻って来たのです。「すみません、お席にもう人が座っているという事で、チケットを確認したところ、お日にちが明日になっていまして、、。」連れて来て下さった女性のスタッフの方が、申し訳なさそうに子供達を見ると、みんながっかりとした顔をしていました。「そうでしたか、、キャンセル変更出来ない案内があったので、気を付けて入力したつもりでしたが、うっかりしてしまいました。」「もしこの後に、お時間あれば、次の回で空席があればご案内出来るのですが、今日はこの回が最後なので、、明日来て頂ければ、大丈夫ですよ。」スタッフの方が、そう言って下さったのですが、「この後は大丈夫なのですが。今、夏休みで実家へ来ていて、明日は千葉に帰る予定なんです。」と私が伝えると、子供達は残念そうな顔をしました。それを見たスタッフの方は、「では、少しお待ち下さい!」と、映画館の事務室の方へ行かれました。悲しそうな子供達を見て、「せっかく最後の日だったのに、ごめんね。」と、言うと、「大丈夫だよ、また来ようね!」と言ってくれる子供達に、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。スタッフの女性が戻られると、「お待たせ致しました!今確認して来ました。もしよろしければ、次に別のアニメではありますが、上映があり、空席もあったのでご案内出来ます。よろしければ、そちらをご覧になりますか?」と、提案して頂きました。その映画は、当初観る予定だったものと、迷っていた映画だったので、子供達も喜んで「大丈夫!そっちも観たかったよ!」と、言ってくれました。「ぜひお願いします、でも良いんですか?」と、私が聞くと、「私も、子供がいるのでお気持ち良く分かります。今上司に了承も得ました、上司もぜひにと申しております。せっかくの夏休み、映画で良い思い出を作って下さい。」と、言って下さいました。私のミスなのに、こちらの立場に立って、最後迄対応して下さったスタッフの方、了承して頂いた上司の方に感謝の気持ちでいっぱいでした。映画が終わり、スタッフの皆さんにお礼を伝えた、帰り道、「面白かったよ〜今日の事は、ずっと忘れないね!」「忘れられない夏休みになったね。」そんな事を話しながら、みんなで笑顔で帰りました。映画館の方の素晴らしい対応のおかげで、夏の失敗談が、素敵な夏休みの思い出が変わりました。また、映画館に行きたいと思いたくなるような、人の優しさの力、素晴らしさを感じた接客でした。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響いた接客』タイトル:『夏の映画館』作者名:あきひろきほエッセイコンテスト『grape Award 2020』開催中!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年は、例年通りの『心に響く』というテーマと、『心に響いた接客』という2つのテーマから自由に選べます。今回も、みなさんにとって「誰かに伝えたい」と思う素敵なエピソードをお待ちしております。[構成/grape編集部]
2020年07月17日こんにちは、フリーアナウンサーの押阪忍です。ご縁を頂きまして、『美しいことば』『残しておきたい日本語』をテーマに、連載をしております。宜しければ、シニアアナウンサーの『独言』にお付き合いください。会話による感染!?先日、28年間担当させていただいているFMラジオの当方のレギュラー『ワンポイント・フィットネス』の収録で、1か月ぶりにラジオ局に行きました。局の入口で消毒と体温の測定があり、OKが出てからの入局です。エレベーターもスタジオへの通路も すれ違う人は皆マスク姿、どこかの病院へ来た感じさえもします。さて、いつものスタジオは、マイクの前に透明のアクリルボードが置かれ、ディレクターとの軽い打合せも、お互いにマスクのままアクリル板越しです。テレビドラマの刑事物での拘置所の面会シーンにやや似ています。当方の番組はワンマントークですので、マスクをはずして収録しましたが、他のスタジオでの収録番組では、マスクをしたまま話しているゲストの顔も見えました。放送局といえども、病院と同じくらいの感染リスクがあるのかもしれませんね。ところで、アメリカの実験では「Stay healthy」(健康でいてね)を、大声で25秒間言わせた所、発声の『th』の時に、一番多くの『しぶき』が飛んだ事が判ったそうです。日本語ですと『サシスセソ』の『ス』の音でしょうか…。1分間の大声の会話では、少なくとも1000個のウイルスを含む微粒子が8分間以上、空気中を浮遊していると推定され、「密閉空間では、通常の会話が感染の原因になる」と発表されました。新型コロナウイルス感染のリスクは、何と『会話』にもあるのです。日頃の会話にもマスクと換気を心がけ、談笑の折には『フ』とか『ス』の吐く息の発音を時には気をつけるようにしたいものです。(カラオケでは特にですね)<2020年7月>フリーアナウンサー押阪 忍1958年に現テレビ朝日へ第一期生として入社。東京オリンピックでは、金メダルの女子バレーボール、東洋の魔女の実況を担当。1965年には民放TV初のフリーアナウンサーとなる。以降TVやラジオで活躍し、皇太子殿下のご成婚祝賀式典、東京都庁落成式典等の総合司会も行う。2020年現在、アナウンサー生活62年。日本に数多くある美しい言葉。それを若者に伝え、しっかりとした『ことば』を使える若者を育てていきたいと思っています。
2020年07月15日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。「犬は無償の愛を教えてくれる天使」「犬は無償の愛を教えてくれる天使よ」10年前、我が家のトイプードルのラニが肺炎で緊急入院をし、弱気になった私にジュディ・オングさんがかけてくださった言葉です。ジュディさんは大変な愛犬家で、当時、子どもようにホワイト・テリアのパールちゃんに愛を注いでいました。その姿を、誌面などを通して知っていたので、つい泣き言のメールを送ってしまったのです。無償の愛を教えてくれる天使…飼い主を信じて、何も疑わない、ただただ慕ってくれる。愛しかない…ということを、わんこたちは命いっぱいで表している…。ラニが私たち家族に何の疑いも持たず、100パーセントの信頼を寄せる姿そのものに無償の愛を感じます。愛するとは?信じるとは?人は一点のエゴもなく誰かを愛し、信頼することができるだろうか。親との関係ですらギクシャクすることが多いというのに。無償の愛だなんて大袈裟な…と思う人もいるかもしれません。私たちが学ぶのは、教師や本からだけではありません。私たちの心を育てるのは、偉い人の名言でも、最先端のテクノロジーでもありません。まわりにいるすべての人から、あらゆる出来事から、私たちは学ぶのです。世界のありよう、自分の感情の『感じ方』に、自分自身の心のありようが鏡のように映し出されます。そこで自分を振り返り、成長することができるのです。ラニはもうすぐ14歳になります。人間の年齢にすると75歳くらいでしょうか、老犬と呼ばれる年齢です。2.53の小さな愛らしい姿に、どうしても老犬という印象はありません。でも、この自粛期間のある時から、急に弱くなってしまいました。つい前日まで喜んで散歩に出ていたのに、行きたがらなくなり、喜んで食べていたごはんを食べなくなりました。検査してみると初期の心臓弁膜症と腎臓が弱っていることがわかりました。いつか弱る時が来ると思ってはいたものの、いざこのような状況になると不安で仕方がない私がいたのです。失いたくないという気持ち、少しの変化にぐらぐらとしてしまう…そんな私の不安をラニが受けてしまうことをわかっていても、覚悟のできない自分がいます。ラニは、そんな弱虫な私を鏡のように見せてくれているのです。犬は無償の愛を教えてくれる天使。老いて弱くなっても、犬が飼い主に寄せる信頼に変わりはありません。限られた時間を生きる。それは命あるものの宿命です。これからの時間がどれだけ尊いものになるか。愛することは不安や悲しみを超えていくことなのだと、これから私の大きな学びが始まります。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2020年07月12日2020年7月現在、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催しています。『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集。『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集!今年は2つのテーマから選べる今回は、応募作品の中から『母ちゃんと作業着』をご紹介します。母ちゃんと作業着私は山形で生まれた。実家は焼き鳥の店だった。幼い頃は、それでよくからかわれた。まだ周りにはそういった店はなく、街で初めての酒を提供する店だった。毎日お客さんがやってくる。学校の先生や警察官、農家、工場勤務のサラリーマン、いろいろな人がやってきた。隣のパーマ店の息子さんやその友人達もやってきた。息子さんの切ない恋模様なんかも店の中で繰り広げられた。夏は近所の方や業者さんを招待し、店の前の敷地でビアガーデンをやっていた。お店と住居が繋がっているため、お客さんのカラオケや会話が良く聞こえた。宿題をしながら聞こえてくる歌や話し声のおかげで、私は寂しくなかった。むしろ賑やかな毎日だった。店を切り盛りするのはママ、私の母だ。日中は店の仕込みで忙しく、夜は焼き鳥の店を開いているため、かまってはもらえなかった。家族で食卓を囲んだ記憶はなく、夕飯はお皿にラップがしてあり、各自が勝手に食べるルールだった。夜の12時前にのれんを下ろす。やっと母と話せる時間がきた。私はお店のカウンターに行く。帳簿とお金を数える母を見ながら、今日のお客さんのことや、学校のこと、たわいもない話しをするのが楽しみだった。唯一、母とゆっくり話せる時間だ。山形は雪が深く、冬は私服に長靴の方や、農家や工場の方は作業着でやってくる。都会の人のように洒落た服や洗練されたスーツなど見たことない。「ママやー、こんなカッコで飲みさ来てしまった。恥ずかしちゃー、悪いのー」仕事帰りの作業着で晩酌しにきたようだ。照れながら謝るお客さんに、母は微笑み、おしぼりを渡す。「どげだ立派だスーツや服よりもの、私は作業着が好きだー。なぁにも恥ずかしくね。その作業着で汗水流して稼いで、家族を養ってるんだがら、どげだ格好より最高にカッコイイ姿だ」母の生まれた家は、宴会場の舞台やお祭りの舞台でショーをする家業だった。高校を休んで泊まり込みで、一座を引き連れてどさ回りをしたこともあると話す。だから学も無ければ、なんの資格もない。お客さんに言った言葉は、きっと母自身にも言い聞かせていた言葉だったのかもしれない。どんな仕事でどんな格好であろうと、一生懸命働き家族を養うことに誇りを持っていたのだろう。子供三人を育てあげ、私は看護学校まで行かせてもらった。病気がちな父を看取り安心したのか、最近は母が旅立った。母と過ごせた時間は少なかったが、大切なことを教えてもらった。母の言葉は私の心に染みついて、思い出として輝いている。焼き鳥の匂いが染みついた母のエプロン、母の服、水仕事で荒れた手、最高にカッコイイ姿だと思う。ありがとう、母ちゃん。grape Award 2020 応募作品テーマ:『心に響いた接客エッセイ』タイトル:『母ちゃんと作業着』作者名:よもぎ特別協賛企業のご紹介株式会社タカラレーベン株式会社タカラレーベンは全国で展開する総合不動産デベロッパーです。「幸せを考える。幸せをつくる。」を企業ビジョンとして掲げ、幸せをかたちにする住まいづくり、街づくりを実現しています。本コンテストでは、『心に響く』をテーマとした全応募作品の中から特に「幸せ」が感じられる作品に、『タカラレーベン賞』が贈られます。皆さんのご応募をお待ちしています。『grape Award 2020』募集ページ[構成/grape編集部]
2020年07月07日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。『自分だけの応援歌』を!久しぶりにNHKの朝ドラ『エール』を観ています。昭和を代表する作曲家、古関裕而氏の物語。戦前から戦後へ、日本人を励まし続けた歌とともに辿る物語は、純粋に音楽を生み出していくことの大切さを教えてくれます。古関裕而氏は早稲田大学の応援歌『紺碧の空』、プロ野球の応援歌、高校野球の『栄冠は君に輝く』、そして1964年の東京オリンピックの『オリンピックマーチ』など、多くの応援歌を作曲されました。改めてこれらの応援歌を聴いてみると、雲ひとつない青空のような真摯なさわやかさを感じます。その当時の日本人の、希望を見出しながら生きていく澄んだ精神を感じるのです。そう、私たちの人生にも応援歌があるといいです。大好きで聴いている音楽が、その人の応援歌になるのでしょう。元気を出したいとき、背中を押してもらいたいときの歌、いろいろあると思いますが、「これ!」という歌を決めるのです。10年前、手術を受けました。命に別状のない手術でしたが、やはりお腹を開けるのには少し怖さもありました。看護師さんが迎えに来る直前までヘッドフォンをして、大音量で繰り返し聴いていた歌があります。チャカ・カーンの『I‘m Every Woman』。「私はすべてを持っている女よ!」と、自分に叩き込むように何度も何度も聴きました。胸の奥から、わあーっとやる気を起こさせるように。怖さを蹴散らすように。そして気持ちが整い、盛り上がったところで「よっしゃ!」という気合いで手術室に向かいました。もう一曲、「落ち込んでいる場合じゃないぞー」と引っ張り上げてくれる歌があります。アンドレア・ボッチェリの歌う『大いなる世界』です。前半のオリエンタルなコード進行のメロディーが胸に響き、それからサビの大きな展開で一気に視界が開けていくような感があるのです。音楽は空気の震えです。その震えは私たちの体に響きます。この音楽が好き、元気が出る、と感じるのは、私たちが発している何かとその音楽が発している何かが合致した瞬間なのではないかと思います。単に、好みだけの問題ではなく。自分の体と心にフィットした音楽、モチベーションを上げてくれる音楽、泣ける音楽など、『持ち歌』のように持っているのはどうでしょう?歌の力をもっと活用できたらと思うのです。最近では、ストリーミングで気軽に多くの音楽を手に入れることができます。これは著作権で生活をしている私たちからすると困った時代になったのですが、それでも多くの人が音楽を楽しめるようになるのは素晴らしいこと。一人ひとりの元気が社会全体の元気につながるのです。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2020年07月05日こんにちは、フリーアナウンサーの押阪忍です。ご縁を頂きまして、『美しいことば』『残しておきたい日本語』をテーマに、連載をしております。宜しければ、シニアアナウンサーの『独言』にお付き合いください。今年の梅雨に思うこと…日本には、春夏秋冬の素晴らしい四季がありますが、これに加えて春と夏の間に、『梅雨(つゆ)』というもう『一季』がある、と気象に詳しい方から教えて頂いたことを、覚えております。そんな季節がやって参りましたね。梅の実が熟す頃の長雨を『梅雨(つゆ)』と言われていますが、最近の梅雨は「しとしとぴっちゃん」ではなく、ゴ~ッと襲って来る集中豪雨となって、毎年のように甚大な被害の爪痕を残すことが多くなりました。ですから今年の梅雨は、農作物や日常生活用水に必要な雨量を残す程度の、穏やかな梅雨になって欲しいと心から願っています。ところで、暑い季節には『節水協力』が声高に呼びかけられます。節水は当然の『合言葉』ですよね。ところが今年の夏は、新型コロナウイルスの感染防止のために、手洗い、顔洗い、水洗いが日常生活の必要条件となっています。政府の専門者会議の『新しい生活様式』の中でも、帰宅すれば 手や顔を洗いシャワーを浴びる…などと積極的に水を使うことを要望しています。学校では、子供達のプールの水泳は中止して、先ず、手を洗う方針へ切り替えました。恐怖の新コロナウイルスから命を守る為の提言ですから、積極的に水を使わざるを得ません。となると、この夏場、空梅雨(からつゆ)の渇水状態が続き、私達の日常市民生活を守るダムや貯水池の水ガメが、底をつくようなことがあっては 絶対に困るのです。稲作や農作物のこともありますが、先ずは、新コロナウイルス感染から命を守る必要な水だけは、たっぷり降って欲しい。水は天からの貰い水 といいますが、今年の梅雨はしっかり降って欲しい と 今、神頼みの心境で この梅雨空を眺め、祈っております。<2020年6月>フリーアナウンサー押阪 忍1958年に現テレビ朝日へ第一期生として入社。東京オリンピックでは、金メダルの女子バレーボール、東洋の魔女の実況を担当。1965年には民放TV初のフリーアナウンサーとなる。以降TVやラジオで活躍し、皇太子殿下のご成婚祝賀式典、東京都庁落成式典等の総合司会も行う。2019年現在、アナウンサー生活61年。日本に数多くある美しい言葉。それを若者に伝え、しっかりとした『ことば』を使える若者を育てていきたいと思っています。
2020年06月29日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。ピンチが新しい日常を作る家にいる時間が長くなり、多くの人が家でできる楽しみを見出すようになりました。大掃除、『断捨離』に精を出し、お料理、レストランからのお取り寄せなどのお楽しみもありました。通常、テイクアウトなどしていないレストランが、お店と同じメニュー、また特別にお弁当などを提供しています。それも経営を存続させるひとつの方策、私たちにとっても楽しみなことです。食べることが唯一の楽しみになった3ヶ月、私も料理ばかりしていました。しまいこんでいた器を出しました。亡くなった母が集めた器、もったいなくて箱に入れたままにしていたのですが、使ってこそ器、楽しむのがいちばん。ぎゅうぎゅう詰めの食器棚を整理して、なんとか納めました。普通の焼き魚も、少しいいお皿にのせるだけで気持ちが上がります。若芽と胡瓜の酢の物も、古伊万里の小鉢にいれるだけでちょっと特別に見えました。インターネットでお料理屋さんの盛り付け方など参考にしながら、毎日の夕食がなんとなくごちそうに。いま、ここにあるものを使い、創意工夫次第で楽しみを見出せる。限られた中で、どれだけクリエイティブに日々を過ごせるかということが試されました。制限されたからこそ、知恵を出せたと言えるでしょう。家の中の楽しみということだけでなく、仕事の仕方、子どものこと、保育のことなど、これまでのやり方を変えなければならないとき、困った困ったと言っているだけではたち行かない現実があります。ピンチのときに活路を見出していく、ここは自身の底力が試されているところです。私も、大学の授業がオンラインになりました。まず、オンラインの仕組みを学び、クラスルームを作り、55人の学生の登録を手作業で。テキストを作り直し、パワーポイントでスライドを作るなど、通常の授業よりも何倍もの手間がかかりました。ところが実際にオンライン授業をしてみると、学生たちの学びが進んでいるような感じがします。少し考えさせる課題を出しているのですが、ほぼ全員がしっかりとした作品を書いてきます。クラス全体の雰囲気がどうなのかわからないのですが、少なくともひとりひとりのモチベーションは高くなっているのは確かです。これから、世の中がどのように変化していくかわからない中、この状況の中でどのように進化していくか考え、実践していくこと。創意工夫と、もっと楽しいことをできないかな、という気持ちが、新しい社会を作っていくきっかけになる。それはきっと、ひとりひとりの創造性と実行力という底力と、この日常から始まるのです。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2020年06月28日美味しそうな料理の描写が食欲を刺激するコミックエッセイ『しょうゆさしの食いしん本スペシャル』について、作者のスケラッコさんに話を聞きました。作る、食べる!食の喜び満載のお腹がすく一冊。自粛期間中の楽しかったことといえば、やっぱり“食”!そんな時期に発売されたこちらの本。ツイッターの食べ物&料理好きの間で、美味しそうな料理の描写、そして作ること、食べることの喜びが伝わる本として、とても話題になりました。「単行本の発売がコロナと重なったのはもちろん偶然で、書店が休業する中、私としては正直複雑な思いでした。でも、個人経営の書店の通販などを利用して読んでくださる方がいたのは、本当に嬉しかったです」と語るのは、作者のスケラッコさん。京都在住のマンガ家さんです。「子供のときから食べることが大好きで、高校生の頃、それを絵に描くようになりました。見た目と、美味しさと、ちょっとめずらしい食べ物に出合ったときに、“マンガにしたい!”と思うことが多いです」前半は好きな料理をレシピ込みで描いた作品が、後半は旅で訪れた広島や、地元・京都の食とお店を紹介する作品が収録されています。「今回は連載をまとめる形ではなく、自主的な執筆と描き下ろしを収録した本なので、構成なども自分で考えました。結果、思い入れのある一冊になったと思います。読んだ方が実際に作ってくださるのはとても嬉しいです。ただ、漫画にも描きましたが、私の料理は“なんとなく”なので、ご自分でレシピをアレンジしてくださったほうが、美味しいものができると思います。また、落ち着いたらぜひ、掲載されているお店にも行ってみてほしいです」豚肉のピカタをパスタにのせた料理のページ。調理中の興奮と勢いが溢れる描写に、思わずゴクリ…!!ライターKが実際に作り、心の底から感動したのがこの“チートー”。チーズはケチるな、を学びました。スケラッコ『しょうゆさしの食いしん本スペシャル』京都在住のマンガ家“しょうゆさし”と、同居人の“ビッグフットくん”が、作って食べて、飲んで旅をするコミックエッセイ。とにかくすべてが美味しそう!リイド社1500円スケラッコマンガ家、イラストレーター。餃子、シュウマイ、ピザ、春巻き、中華まんなど、“皮と具”が組み合わさった食べ物が好き。※『anan』2020年7月1日号より。写真・中島慶子取材、文・河野友紀(by anan編集部)
2020年06月26日村上Tって何のこと?と思うかもしれないが「村上」といえば村上春樹、「T」といえばTシャツ。『村上T僕の愛したTシャツたち』は作家、村上春樹さんのTシャツコレクションを綴ったエッセイだ。村上さんはジャズを中心としたレコードコレクターとして知られるが、レコードはある程度熱心に集めているのに対して、Tシャツは自然にたまったコレクション。旅先で目について買い込んだり、いろんなところからもらったり、マラソン大会でおなじみの完走Tシャツだったり……。段ボール箱に詰めていたものでも、引っ張り出してみるとこだわりや好みが徐々に見えてくるのが面白い。たとえばコレクターにはありがちなのかもしれないが、自分で買ったものでも必ず着るとは限らないこと。ロックバンドのツアーTシャツは記念の意味もあるのでなんとなくわかるが、動物柄はそのかわいさに“遠慮”して、なかなか着る機会を持てなかったり。もらいものはさらに勇気が必要で、その筆頭がいわゆる販促Tシャツ。海外では本の出版に合わせてノベルティを作ることがよくあるそうで、佐々木マキさんの表紙の絵が使われた『ダンス・ダンス・ダンス』のTシャツなんかはファン垂涎だが、たしかに本人はなかなか着にくいだろう。いわゆるメッセージTシャツも好みではなく、その代わり(というわけでもないだろうが)意味不明のアルファベットが並ぶレタリングTシャツは結構着るそう。ほかにもウィスキーTシャツ、大学のTシャツ、熊関係、ビール関係などさまざまなTシャツと、それらにまつわったり、まつわらなかったりするよもやま話が楽しめるのだが、印象深いのはやはり村上さんが一番大事にしているという「TONYTAKITANI」Tシャツ。映画化もされた短編小説「トニー滝谷」との関係はいかに?自然に集まったものだけれども愛情が感じられ、ゆるやかな語り口は着慣れたTシャツのような心地よさが。女子も欲しくなるデザインが意外と多く、村上さんのかわいいもの好きな一面を垣間見ることもできます!村上春樹『村上T僕の愛したTシャツたち』『POPEYE』の人気連載が一冊に。18編のエピソードと、108枚のお気に入りTシャツを収録。野村訓市さんによるインタビューも。マガジンハウス1800円※『anan』2020年7月1日号より。文・兵藤育子(by anan編集部)
2020年06月24日笑って泣いてお腹がすく、渡辺俊美さんのお弁当エッセイ『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』が文庫に!「本を出してミュージシャンというより“お弁当の人”と言われることが増えました。最初は違和感があったけど、今は普通に受け入れてます」渡辺俊美さんが、息子の登生さんのために高校3年間、毎日つくり続けた弁当の記録と、渡辺さんならではの弁当づくりのこだわりを綴ったこのエッセイが単行本化されたのは、6年ほど前のこと。彩り豊かで愛情のこもった数々の弁当だけでなく、当時シングルファーザーだった渡辺さんと登生さんの仲がいいけどベタベタしない、男同士の交流に温かな気持ちになった人も多いはず。「もともと食の小説やエッセイがとても好きだったので、レシピ本みたいな枠ではなく、読むとよだれが出るような本にしたいと思っていました。それと書きたかったのは息子のこと。親子関係には自信があるので」料理をするのも好きだった渡辺さんは、「パパの弁当がいい」というひと言で嬉々として弁当づくりを始めるが、張り切りすぎて1か月ほどで早くも疲れてしまう。そこで楽しく続けるために、調理時間は40分以内、1食にかける値段は300円以内、おかずは材料からつくる、という3つのルールを導入することに。「弁当をつくり始めたのは、東日本大震災発生から間もない2011年4月なのですが、ちょうど地震の影響で仕事がなくなってしまった時期であり、自分のなかで達成感が欲しかったんです。だからルールを設けてゲームにしようと思って。そうしたことで何がよかったって、『つくってあげたのに』という感覚が一切なくなったんです。達成できたら、とにかく僕が楽しいわけだから。これは本には書かなかったんだけど、ルールをクリアできた日は、350ではなく500ml缶のビールを飲んでもいいってことにしてました(笑)」息子の勧めで震災直後にツイッターを始め、日々の弁当の写真を投稿したのもモチベーションに。とはいえ一番大きな力になったのは、いつも完食してくれることだった。「震災の前後で変わったのは、人の役に立ちたいと思うようになったこと。それまで人のためってどこか偽善的と、反発する気持ちもあったんだけど、息子であれ、僕が生まれ育った福島の人であれ、喜ぶ姿を見るとやっぱり気持ちがいいんですよね。仕事でもそれが自分のエネルギーになっていることに気がつきました」今回、文庫化にあたって読み返したところ、弁当づくりに関しては「以前のほうが腕がある」と感じたそう。というのも文庫版には番外編として、幼稚園に通う5歳の娘との「お弁当物語」が収録されているのだが、同じ弁当づくりでも何もかも勝手が違うようなのだ。「音楽にたとえると、息子の弁当は『好きにアルバムつくってよ』と言われたノリなんだけど、娘のは『必ず売れるような、みんなの歌をつくりなさい』って言われた感じ。制約がとにかくたくさんあるんです。しかも娘には弁当の中身を前もって伝えて表情をうかがい、怪訝そうにしていたらちょっと直すんです。だって嫌われたくないですもん(笑)。お弁当って、相手によって物語が全然違ってくるのも楽しいですよね」これまでコミカライズ、そしてドラマ化もされてきたが、この秋には井ノ原快彦さんとなにわ男子/関西ジャニーズJr.の道枝駿佑さんが親子役の映画が公開される。「音楽の世界でもそうなのですが、今はバージョンアップとかブラッシュアップみたいに、もともとあるものに手を加えるとさらに新しさを感じたりもする。この作品もそうなったのが素直にうれしいですね。ほんと、何回でもいい出汁がとれる鰹節をつくっちゃった心境です(笑)」食べることは生きること。そんな根本的な思想に立ち返らせてくれる。「自分のためにつくったとしても、人の目は常に意識したほうがいい。お弁当も最終的には身だしなみだと思うんです。SNSにアップするのはそういう意味でおすすめだけど、いいところだけでなく、ダメな部分も見せたほうが人間らしくて好感が持てますよね。続ければきっといいことがありますよ、僕みたいにね」わたなべ・としみ1966年、福島県生まれ。’90年、TOKYO No.1 SOUL SETを結成。THE ZOOT16名義でも活動。2010年、同郷の山口隆、松田晋二、箭内道彦らと猪苗代湖ズを結成。本作を機に、料理関連の仕事も増量中。文庫『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』「高校3年間、毎日お弁当をつくる!」という目標を掲げて始まったシングルファーザーのお弁当ライフ。親子の交流をメインに、秘伝の調味料や徐々に増えた弁当箱コレクション、特製おかずのレシピも紹介する涙と笑いのお弁当エッセイ。マガジンハウス650円※『anan』2020年6月24日号より。写真・中島慶子(本)インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2020年06月23日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。『見えない友達』と夢の中にいるような時間と(いつか大人になるのだから、急いで大きくならなくてもいいよ)幼い子どもたちを見ているとき、ふっとそんな言葉をかけたくなります。子どもにとっても、大人にとっても、「大きくなる」ことは喜び。ひとつひとつ、階段を昇るような成長を見守る。それは子育ての醍醐味でもありました。娘が4歳くらいまで、見えないお友達がいました。『もったん』と『いっちゃん』です。言葉を発するようになった頃からか、誰もいない空間に向かっておしゃべりをしているので、「誰とお話ししてるの?」と聞いてみました。「もったんといっちゃんと遊んでるの。ママ、見えないの?」と不思議そうな顔をします。ママには見えないなあ、というと、驚いた顔をして、「そこにいるよ。ねー」と、部屋の一隅に向かって笑いかけました。ときどき、「もったんといっちゃん、いま遊びに来てる?」と聞いてみました。「うん、来てるよ」「いま、そこに座ってる」と、頻繁にいる様子。幼稚園に通い始めた4歳の頃から、もったんといっちゃんが遊びにくる回数が少なくなったようでした。そして6歳になった頃には、もう来なくなったのです。同じように、娘の幼なじみの男の子には、『おーばい』という見えない友達がいました。二人で遊ぶときには、それぞれの見えない友達も一緒だったようです。『見えない友達』を精神医学用語で『イマジナリーフレンド』というそうです。人間関係を作ることに慣れていない子どもが、気持ちを共有したいときに『空想の友達』に話しかけるようになるそうです。この体験は豊かな創造性を育む上で大切なプロセスで、親は受け入れて見守ることが大切です。創造性こそ、生きることを豊かにする源ですから。幼稚園や保育園、そして学校に通うようになり、子どもたちは現実の人間関係の中に入っていく。子どもにとっては大きなチャレンジの始まりです。人との関わりが心を育てていく。そしてそれは、子どもたちの夢のような心の空間が薄らいでいく始まりでもあるのです。思い出してみると、この頃の子育ては、娘の夢のような心や感性を通して私も豊かな時間を過ごしました。絵本の読み聞かせをしながら、私も物語を一緒に味わいました。子育ては、やはり大変です。体、そして時には心も疲弊します。でも、あの頃の時間は何ものにも変えがたい宝物です。(いつか大人になるのだから、急いで大きくならなくてもいいよ)ときどき、自分にもそう言いたくなる時があります。心のどこかに、夢の中のような場所を。それは、大人になった私たちにとっても、シェルターのような場所になるのです。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2020年06月21日grapeでは2019年にエッセイコンテスト『grape Award 2019』を開催。『心に響く』をテーマにした、多くのエッセイが集まりました。今回は作品の中から、特に反響の大きかった『あの日の若いパパ』をご紹介します。あの日の若いパパ電車や飛行機等の公共機関で、泣いている子供と困り顔の親を見かける度に思い出す場面がある。今から18年ほど前、私にはまだ子供はおらず、全国に出張で身軽に飛び回っていた。その日も名古屋から大阪に向かう新幹線に乗り、仕事の緊張感から解き放たれる束の間のひととき、車内販売のアイスクリームを楽しみにしていた。ところが、だ。乗った瞬間から遠くで子供の泣く声がする。「しまった」と思った。しかも泣き声はどんどん大きくなり、やがて車両中に響き渡った。新聞に目を向けながらも明らかに不快な顔をする中年サラリーマン、舌打ちしながら寝た振りする大学生風の男性、私もさすがに態度には出さないものの、今の言葉で表現するなら「激しく同意」な心境だった。見ると1歳前くらいの女の子の赤ちゃんと、若いパパの二人連れだ。近くには育児経験のありそうな救世主になってくれる女性の姿は見当たらず、父親は泣き止まない娘を抱えデッキと車両を行き来するだけで、どう対応して良いか分からない様子だった。迷惑にならないよう自分の胸に子供の顔をあて、なんとか寝かせ付けようとしているのか、少しでも泣き声のボリュームを小さくしようとしているのか、次第に赤ちゃんの声はかすれ、しゃっくりと嗚咽で心配になるほどだった。ようやく大阪に着くアナウンスが聞こえた時には、今までで一番長い名古屋⇒大阪間だったと感じた。きっと周囲も「やれやれ」と思ったに違いない。今ごろ泣き疲れて眠った子供と大きなバッグを抱えた若い父親が車両を出てゆく背中を、私は少し恨めしく見ていた。その瞬間、まるで父親は車掌のようにクルっと振り返った。そして、よく通る大きな声で「皆様!お疲れのところ、またお寛ぎのところ、お騒がせしてしまい、大変申し訳ありませんでした!」と、寝ている娘を抱えたまま頭を深々と下げたのだった。私は予想外な光景に鳥肌が立った。すると、一番強面なスーツ姿の男性が「みんな一緒だよ。気にするな」と慰め、次に他の男性が「このあとも頑張れよ」と励ました。そして車両内が拍手で包まれたのだった。その同志感にすっかり乗り遅れた私は戸惑ったが、ホームを歩く親子の後ろ姿が見えなくなるまで心の中で祈り続けた。「この先の道中は、無事に笑顔で目的地に辿り着けますように…」と。もしかしたら、奥さんが下の子の出産で里帰りをしているのかもしれない、祖父母に孫の顔を見せに行く途中だったかもしれない、そして…、訳あって父子での新しい生活がスタートしたばかりだったのかもしれない。どれも想像で答えはないが、人はどんなに迷惑をかけ失敗しても、その後の対処や誠意の見せ方で全く出来事の意味が変わるのを目の当たりにした。「小さい子は泣いて当たり前。何が悪いの?」と開き直られれば反感もかうが、何とか最善の努力をしているその姿勢に共感と理解を得られれば、怒りさえ許しや励ましに変わる。それは、もう顔も覚えていない若いパパから学んだ強烈な教訓だった。あれから母親になった今の私なら、容易に想像がつく。おむつが濡れてない?喉は渇いてない?お腹が空いてない?眠いんじゃない?熱っぽくない?等々…せめて子供の気を逸らすため微笑みかけるか、父親を経験談で安心させてあげるか、何らかの声掛けができた気がする。あの時のお嬢さんも20歳近くなり「あの時は大変だったなぁ」と父親からしみじみ言われても「そんなの覚えてるわけないじゃん!」と笑い飛ばしているかもしれない。そして父親は、昔の自分のような新米パパやママを見たら「大丈夫。みんなお互い様だよ」ときっと優しく微笑みかけている事だろう。grape Award 2019 佳作タイトル:『あの日の若いパパ』作者:鈴木 ユミコエッセイコンテスト『grape Award 2020』開催中!2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年は、例年通りの『心に響く』というテーマと、『心に響いた接客』という2つのテーマから自由に選べます。今回も、みなさんにとって「誰かに伝えたい」と思う素敵なエピソードをお待ちしております。『grape Award 2020』詳細はこちら特別協賛企業のご紹介株式会社タカラレーベン株式会社タカラレーベンは全国で展開する総合不動産デベロッパーです。「幸せを考える。幸せをつくる。」を企業ビジョンとして掲げ、幸せをかたちにする住まいづくり、街づくりを実現しています。本コンテストでは、『心に響く』をテーマとした全応募作品の中から特に「幸せ」が感じられる作品に、『タカラレーベン賞』が贈られます。皆さんのご応募をお待ちしています。『grape Award 2020』募集ページ[構成/grape編集部]
2020年06月18日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。ハードロックを歌って体を強くする!体を強くする三つの方法。1.フルーツ、野菜をたくさん食べる。2.お風呂に入る。バスタブに浸かる。3.歌を歌う。今朝の番組の中で、免疫学者が指摘していたポイントです。新型コロナウイルスの予防法として手洗い、うがい、マスク、三密を避ける…などが提唱されています。なぜか食生活については触れられないことが多いのですが、何よりの予防は「体を強くする」ことに尽きます。そのために、食生活を見直し、よりよくしていくことは必須です。フルーツ、野菜を食べる。なぜ野菜か。食物繊維、ビタミンを摂ることはもちろんのこと、もっとも大切な目的は「血液をサラサラにする」ということです。そのために、野菜の中でも特にレタス、クレソン、セロリ、生の人参を多く摂ること。そして造血に効果的なビーツも、最近注目されている野菜です。食生活を見直す目的は、栄養のバランスをとることだけではありません。これからの食事は、「血液をサラサラにする」ということを意識することが肝要です。血液は身体中の細胞に酸素、栄養を送るのですから、ここが健康を保つための要になるのです。血液の浄化を意識してみると…食べたいものと、食べるべきものが違うことに気づくのではないかと思います。ここは、本当につらいところですね。おいしいものは、heavyなものが多いですから。歌を歌う!これは呼吸器を鍛える効果、そして横隔膜を刺激することによって、腹部の血流がよくなるそうです。そしてなんとハードロックを歌うと、その効果がさらに上がるとのこと。おそらく、ただシャウトするだけではなく、ちゃんとした呼吸法をとりながらハードロックを歌うということでしょう。私が受けている声楽のレッスン、正しいポジションでの発声を15分するだけで、じんわりと汗をかきます。そして、歌曲のレッスンではさらに。確かに、歌っていると体全体を使っている感覚が、私のような初心者でもあります。ハードロックのハードルは高いですが、バラードでも丁寧に発声を意識しながら歌うと血流をよくする効果がありそうです。同時に歌も上達しそうですね。この数ヶ月、新型コロナウイルスについてのさまざまな報道にストレスを覚えている人も多いのではないでしょうか。そんな中、この三つの方法は、楽しみながらできそうなことばかりです。思いきりハードロックを歌ったら…ストレスも発散できますね。私は、『六本木心中』から始めたいと思います!※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2020年06月14日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。自分にとって『本当に大切なこと』を選択する時代に緊急事態宣言が段階的に解除となり、近くの小学校に子どもたちが戻ってきました。3月に入ってから、この小学校の入り口の花壇にはたくさんのチューリップが植えられ、また校舎に沿ってたくさんの種類の花が植えられていました。卒業生を見送り、そして新入生を迎えるはずだった花は、きれいに咲いて、大きく開いて、そして散って行きました。学校が再開された時には、すべてきれいに刈り取られていました。近所の私たちは散歩の途中でお花を楽しんだのですが、同時に目的を果たせないでいることのせつなさも感じました。農業、漁業、食品加工業者……。レストランやホテルが休業、催事やイベントが中止になったことで消費者の元に届かずに多くの食糧が廃棄処分になったことでしょう。Facebook上ではこのような生産者をサポートするグループが立ち上がり、多くの食品がリーズナブルな価格で販売されました。Facebookページの支援者の数は36万人。生産者を守り、経済を少しでも動かそうとボランティアで始まったプロジェクトが支えている生産者の数も大きなものになっています。私も無農薬の野菜や、魚などいくつか注文し、作った人の顔が見えることの安心感を知りました。緊急事態宣言が解かれ、夜の繁華街には人が戻ってきているようですが、さあ出かけよう!という気持ちにはなりにくいものです。6月末に研修のために10人ほどで地方へ行くことになっているのですが、ここで気持ちの揺れについて気づきがありました。いま、発表れている東京での感染者は減少している。行く先のエリアからも感染者は多く出ていない。行く場所は『密』にならない場所である。研修を秋にしてもいいのですが、そのときに状況がよくなっているという『保証』はない。行くのならば、落ち着きかけている『いま』がいいのではないか。このような判断をしているのですが、まだ怖い、仕事の職種の関係上、用心したい…という意見。そして、何か罪悪感のような思いがあることにも気づきました。なんの心配もなく行動できる時代ではなくなりました。不自由な時代なのかもしれません。その不自由さの中で、私たちは自分の本当の気持ち、本当にやりたいことを最優先するというフェーズに入ったのだと思います。たくさんの選択肢の中で、これまでもしかしたら自分にとっての『本当のもの』が後回しになっていたかもしれません。この数ヶ月、私たちは「身を守る」「自分を大切にする」ことを体験しました。そして、タイミングが重要であることも体験したのです。アフターコロナの日常は、決して悲観するものでなく、自分にとっての『本当のもの、本当のこと』を選択していく。ある意味、自分自身を生きる機会が与えられたのです。小学校の花壇のように、目的を果たせずに終わるということがないように。心して。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2020年06月07日こんにちは、フリーアナウンサーの押阪忍です。ご縁を頂きまして、『美しいことば』『残しておきたい日本語』をテーマに、連載をしております。宜しければ、シニアアナウンサーの『独言』にお付き合いください。懐かしの『しゃれことば・むだ口』今の東京ドームではなく、かつての後楽園球場時代です。巨人・大鵬・卵焼の頃だったでしょうか。プロ野球では当方は『長嶋ジャイアンツ』でした。立大で同級生だったこともあり、長嶋選手がチャンスにバッターボックスに入ると「来たか長(チョー)さん待ってたホイ!」てなことを投げると、隣の友人が「あたり前田のクラッカー!」などとまぜっ返し、楽しく応援したものです。(俳優の藤田まことさんがヒットさせたクラッカーのCMのことです)そんな『ことば遊び』は、PC、スマホ時代に入ると、もう聴かれなくなってしまいましたね。きょうは、映画『寅次郎シリーズ世代』が『しゃれことば』や『むだ口』をよく使って会話をより楽しんだことをご紹介したいと思います。『しゃれことば、まぜっ返し、へらず口』として覚えたことばです。おっと合点承知の助、驚き桃の木山椒の木、恐れ入谷(いりや)の鬼子母神…など聞き覚えがあると思いますが、今の時代ですと年輩の職人さんならまだお使いかも知れませんね。使い方のシーンとすれば、相手から「ありがとう…」と言われて、有難いなら「蟻が鯛なら 芋虫ゃ鯨」と、『まぜっ返し』や『へらず口』を叩く、いわば『ことば遊び』です。うちとけた仲間同志の会話の席では、そんなタイミングのいい『しゃれことばや、むだ口』は、その場をより楽しくしてくれるものです。いくつか挙げて置きますので、何かの折、お使い頂けると嬉しいですね。五月の鯉で口ばかり、痛み銀山、大有り名古屋の金の鯱(しゃちほこ)、 何か用か九日十日、だんだん良くなる法華の太鼓、なしの与一、敵もさるもの引っ掻くもの・・・でもこう書いてみるとみんなこれは "男ことば"のようですね。女性の方、ゴメンナサイです。「わたしまけましたわ」。(回文です)<2020年6月>フリーアナウンサー押阪 忍1958年に現テレビ朝日へ第一期生として入社。東京オリンピックでは、金メダルの女子バレーボール、東洋の魔女の実況を担当。1965年には民放TV初のフリーアナウンサーとなる。以降TVやラジオで活躍し、皇太子殿下のご成婚祝賀式典、東京都庁落成式典等の総合司会も行う。2019年現在、アナウンサー生活61年。日本に数多くある美しい言葉。それを若者に伝え、しっかりとした『ことば』を使える若者を育てていきたいと思っています。
2020年06月05日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。新しい日常をおいしく、爽やかに日常が日常でなくなったこの3ヶ月。その間に新しい日常を私たちは試行錯誤しながら過ごしています。マスクをする、手洗いうがい、除菌を徹底する。いくつかの方策の中で最も悩ましいのが、人と距離をとるということではないでしょうか。緊急事態宣言が解かれた後の日常について、多くの報道番組などで取り上げられています。例えば、レストランなどでは横並びに。人と人の間にシールドを張る。そしてモニターを通して会話をしながら食事をする。また、劇場はソーシャルディスタンスをとり、2席空けて座る。すると、劇場はガラガラです。このような方策を、番組ではシリアスに取り上げます。さて、これを観ている人たちはどんな気持ちになるでしょう?不安にならないですか?もし不安を覚えたら、そこで我にかえりましょう。情報をまともに受け取らない。よく考えてみましょう。不安にさせられるような情報には要注意です。これが本当にこれからの日常になるのでしょうか?シールド越しに友達と食事をする?それが現実的な日常なのでしょうか。ソーシャルディスタンスがそのまま人間関係の距離にならないか。コミュニケーション、ぬくもりを伝え合うことで得られた安心感を、もう得ることはないのか。真夏、気温35℃近い日にマスクをしなければならない?アフターコロナの日常で最も大切なことは、自身の体を強くすることです。免疫力を高めること。体が強ければ、少しくらいのウイルスには対抗できます。今回、お亡くなりになった人たちの多くには、持病があったと言われています。さまざまな情報の中で、留意すべきはこの点です。では体を強くするためにはどうしたらいいのか。それは、食生活の改善です。人は、食べたものでできています。新鮮な野菜を多く食べ、血液をきれいにする。これが基本です。食生活を見直し、改善する点があれば改善する。目が食べたいものばかり食べず、体が求めているものを食べる。食に関する情報もさまざまですから、自分で学ぶことが大切です。調べて、学んで、深く合点がいった方法をとる。また体質は人それぞれです。消化力が弱い人、アレルギー体質の人…自分の体質を把握する。そして、自分に合った食事法を選ぶことが大切です。アフターコロナの時代、政治や経済も変化を求められるでしょう。食品添加物、農薬問題など、人の口に入るものについて厳格な基準を設けていかないと、病気を引き起こす原因になります。この変革は、小手先のシールド作戦よりも、大きな成果を上げると思うのです。新しい日常は、決して悲観するものではないし、そういう日常にしないよう一人ひとりが考えていくのです。まずは不安にさせる報道に疑問を持つこと。そして、サラダを山盛り、おいしく食べること。今、ここからできることばかりです!※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2020年05月31日こんにちは、フリーアナウンサーの押阪忍です。ご縁を頂きまして、『美しいことば』『残しておきたい日本語』をテーマに、連載をしております。宜しければ、シニアアナウンサーの『独言』にお付き合いください。花ウンサーと呼ばれて…ツツジやサツキ、バラが咲く花の季節です。桜や桃や椿が終ってもすぐその後に、別の花の季節が続く日本は、ホントに素晴らしい国だと、つくづく思っています。私は花木や緑樹が大好きです。親しい知人からは『花ウンサー』と呼ばれています。今 咲いているのは、ツツジやサツキ、モッコーバラ、花ミズキ、そしてまもなく藤と続きます。モッコーバラはトゲのない弦(つる)バラです。目隠しにもなるので植えたのですが、毎年この時季、窓辺を黄色のカーテンのように咲いてくれます。『モッコーバラ』 撮影:押阪忍拙宅は高台ですが、階下の歩道を通りすがりの方が「キレイねぇ…」などと、つぶやかれている声を耳にすると、庭先でニッコリしている花ウンサーであります。ツツジ、サツキ、バラ、フジ、アジサイと続きますが、アジサイは、地植えが3個所、鉢植えも3鉢あるので、水遣(みずや)りがもうタイヘンで~す。『浜木綿』 撮影:押阪忍そのアジサイの季節に、白いユリ状の大きな美しい花をつける『浜木綿(はまゆう)』が、ほぼ1ヶ月、拙宅を飾ってくれます。高台玄関への階段を上りかけると、その右側に上品な『浜木綿』が咲き、お客様を迎える『迎賓花』となっております。きょうは『花ウンサーの自慢話』となってしまいましたが、今咲いている『モッコーバラ』と、これから咲くであろう『浜木綿』の写真です。植物学の大先達 牧野富太郎博士は「草花は足音で育つ」という名言を残されましたが、当方はアナウンサーですので、「草花はことばで育つ」と考え、咲いてくれる花達に毎日軽くことばをかけて、花との対話を楽しんでおります。<2020年5月>フリーアナウンサー押阪 忍1958年に現テレビ朝日へ第一期生として入社。東京オリンピックでは、金メダルの女子バレーボール、東洋の魔女の実況を担当。1965年には民放TV初のフリーアナウンサーとなる。以降TVやラジオで活躍し、皇太子殿下のご成婚祝賀式典、東京都庁落成式典等の総合司会も行う。2019年現在、アナウンサー生活61年。日本に数多くある美しい言葉。それを若者に伝え、しっかりとした『ことば』を使える若者を育てていきたいと思っています。
2020年05月26日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。今更ながら、ITの必要性を実感中久しぶりにスケジュール帳を開いてみました。4月、5月に予定していた会合、クラスはすべてキャンセル。週に一度の買い物、不要不急の用事で3回出かけた以外は家にこもっています。なんと57日間。単調な日々にもかかわらず、1日は瞬く間に過ぎていきます。特にどこかを片付けたとか、勉強がはかどったということはないのに、気づくと夕方になっている。これまでの日常よりも、この2ヶ月の時間の流れが速く感じるのは意外でした。音楽大学ではオンライン授業が始まりました。これまでインターネットといえばメールとSNSと調べもの、それとスライドを作るパワーポイント、音楽……このくらいはこなせていました。そこにオンラインでの授業、配信、それも学生がいるので失敗は避けなければなりません。サポートを受けながら何とかクラスルームを立ち上げましたが、自分のITリテラシーの低さを痛感しました。昨年だったか、小中学生にタブレット端末を配布するという話題が出ました。そのとき私は、子どもにタブレットを持たせてバーチャルの中で学ばせるのはどうなのかと、かなり疑問を持ちました。子どもは自然に多く触れ、人とのコミュニケーションの中からたくましく学びとる方がよいと。ところが、実際にこのような状態になったとき、学習を進めるためにはどうしてもインターネットの環境が必要になってくる。オンラインによる授業しか受けられないときに、パソコンもタブレットもスマホもありませんでは、どうしようもないのです。逆の言い方をすると、インターネット環境を整え、その使い方をしっかりと身につけたら、学ぶ機会が多くなり、多くの情報を得ることができるということです。新しい世界、可能性が広がります。もちろん、そのためにはインターネットの正しい使い方を学ぶことが前提となります。ネット上の情報は玉石混淆(ぎょくせきこんこう)ですから、見極める力も必要です。と同時に、インターネット上でのコミュニケーションの取り方、言葉の使い方、マナー……便利に使える反面、身につけることがたくさんあります。そしてそれは、子どもを指導する者にも求められることでもあります。顔が見えない、匿名性もある、クリック一つで大きなお金も動かせてしまえる世界。人と会わずに生きていこうと思えばできてしまう。このテクノロジーの進歩と、目に見えないウイルスで命を落とすこともある人間とどのように融合していけばいいのか。リモートワーク、オンライン授業のことを通して、今回のSTAY HOMEは考えさせられることが多くありました。この期間が終わった先に、これまでと同じ日常はないでしょう。経済も仕事も教育も、そして人とのコミュニケーション、心のあり方も、おそらく違ったものになっていくでしょう。その中で、私たちがより自分らしく、楽しく、世界をよりよい方向にしていくこと。これは、これからひとりひとりが担っていくことなのです。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2020年05月24日ウェブメディア『grape』では、メディアコンセプトである『心に響く』をテーマにエッセイを募集します。2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award(グレイプ アワード)』。第4回目となる2020年は、例年通りの『心に響く』というテーマと、『心に響いた接客』という2つのテーマから自由に選べます。2019年は、一般公募の開始から約5か月間で、13歳から83歳までの幅広い年齢層から、567本もの作品が寄せられました。また、そのエッセイを音声コンテンツ化し、ニッポン放送で年末に特別番組として放送しています。今回も、みなさんにとって「誰かに伝えたい」と思う素敵なエピソードをお待ちしております。特別協賛企業のご紹介株式会社タカラレーベン株式会社タカラレーベンは全国で展開する総合不動産デベロッパーです。「幸せを考える。幸せをつくる。」を企業ビジョンとして掲げ、幸せをかたちにする住まいづくり、街づくりを実現しています。本コンテストでは、『心に響く』をテーマとした全応募作品の中から特に「幸せ」が感じられる作品に、『タカラレーベン賞』が贈られます。応募規定テーマ『心に響く』をテーマに、以下の2テーマに分けてエッセイを募集します。1:『心に響く』をテーマに、身近で起きた感動的なエピソードや心が癒されるようなワンシーンなど、ユーザーが強く共感するようなエッセイ2:『心に響いた接客』をテーマに、日々の生活で体験した接客にまつわる感動エピソードなど、心の温まるエッセイ2テーマのうち、いずれかを選択してご応募ください。また、エッセイの内容に関連する画像がございましたら、応募フォームでアップロードしていただき、合わせての応募も可能です。文字数・形式1000文字以上~1500文字以下※タイトル全角38文字以内※自作未発表の作品に限ります。※商業利用について無契約の作品に限ります。※複数ご応募いただけますが、入賞の対象となるのは1人1作品です。※18歳未満のご応募は、保護者の同意を得てください。※受賞者には、12月中旬に都内で開催予定の、授賞式への参加をお願いしています。※応募作品内に特定の人物がいる場合、個人が特定されないように配慮してください。登場人物のプライバシーおよび個人情報に関して、弊社は一切の責任を負いません。※画像については必須ではございません。ご本人以外の特定の人物が写っている場合は、写っている方の了承を得てからご応募いただくようお願いいたします。応募方法ご応募はエントリーフォームよりお願いいたします。詳細は『grape Award 2020』募集ページでご確認ください。応募資格不問(プロ・アマ問わず)応募締切2020年8月18日(火) 23時59分まで選考方法grape編集部を中心に、厳正な選考を行います。賞最優秀賞1名副賞(賞金20万円、記念品等)タカラレーベン賞1名副賞(賞金10万円、記念品等)優秀賞各テーマより若干名副賞(賞金3万円、記念品等)※『心に響く』をテーマにしたエッセイ・『心に響いた接客』をテーマにしたエッセイのどちらにご応募いただいても、各賞の選考対象となります。結果発表2020年11月上旬最終候補作品の作者様へご連絡2020年11月中旬受賞作品決定、作者様へご連絡2020年12月中旬授賞式にて最優秀賞ほか受賞作品発表、『grape Award 2020』公式ページにて掲載注意事項応募作品の取り扱いについて応募者の方々には、応募作品の著作権は応募とともに主催者(株式会社グレイプ)および協賛企業に移転することをご了解ください。また、応募作品の著作者人格権は作品の応募者に帰属しますが、主催者(株式会社グレイプ)および協賛企業に対し、コンテストの報告などでの使用、ウェブサイトなどでの応募作品の公開、校正、2次利用を許諾いただくことを前提にご応募ください。結果に関わらず、ご応募いただいた作品は『grape』サイトにて掲載させていただく場合がございます。掲載時に、誤字・脱字の修正や文章の調整を行う場合がございますのでご了承ください。また、掲載時に本名の公開を希望しない場合には、ペンネームをご記入ください。応募者には、作品内において第三者の権利を侵害していないことを保証していただきます。作品に対し、第三者からの権利侵害の訴えや損害賠償請求等があった場合、弊社は一切の責任を負いません。受賞作品に権利侵害等が発覚した場合は、受賞を取り下げます。個人情報の取り扱いについて応募に際してご提供いただいた個人情報は、コンテストの審査、入賞者及び入賞作品の公表及びそれに係るご連絡のためにのみ使用致します。個人情報は、応募者ご本人、または応募者ご本人が18歳未満の場合は、その保護者の許可なく、第三者に開示致しません。その他の個人情報の取扱いについては、株式会社グレイプの「プライバシーポリシー」をご参照ください。皆さんのご応募をお待ちしています。『grape Award 2020』募集ページ[文・構成/grape編集部]
2020年05月18日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。シニアのペットが教えてくれること8月で14歳になる我が家のトイプードルのラニ。お腹が弱く、ときどき動物病院に駆け込むことはありましたが、シニアと言われる年になってからも元気で生きる気力にあふれている感がありました。2.33、片手でひょいと抱えられる大きさ。すばしっこく走り回るその姿は、パピーの頃と変わらないように思えていました。しかし、最近になり次のフェーズに入ったように見えます。耳が遠くなってきたこと、目がうっすらと白くなったこと。こほこほっと咳なのか、吐きそうになっているのか、そんな症状が時おり見えます。歩くのもゆっくりになってきました。それらが一時的な体調の崩れならいいのですが、どうもそんな感じではない。ラニ自身がこの自分の急激な変化に戸惑っているような感があるのです。もっと早く歩けたのに、どうしたのだろう。すぐに疲れてしまうのはどうして?そんな戸惑いが伝わってくるのです。(ママ、どうしよう)と言いたげな目で私をじーっと見ている姿に、せつなくなります。そして、戸惑うと同時に、自分の変化を受け入れようとしているようにも見えるのです。私もまた、そんなラニの変化に戸惑っています。受け入れたくないほど、悲しい。でも私自身がラニの変化、老化を受け入れることは、私自身が年を重ねていくことを覚悟することにつながることなのだ……。このことに気づいたとき、胸の奥からせつなくあたたかい思いがあふれて、泣きました。ラニが自分の体を通して私に伝えている……無償の愛のあり方を教えてくれているのです。体を持って「生きる」ということを伝える……4年前に亡くなった母は、自分の体を通して教えてくれました。脳梗塞で倒れ意識がなかったとき、何本もの管をつけた母が光に包まれているように見えたのを思い出しました。よく見なさい。これが生きるということよ。母の圧倒的な愛がそこにありました。強い覚悟がそこにありました。犬は、人間に無償の愛を与えてくれます。人間がかわいがる以上に、愛することの無垢を教えてくれます。ラニもまた、母のように生きることの意味を、体を通して伝えているのです。私もその愛を全身で受け止めたいと、もふもふの小さな背中をなでながら思うのです。※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2020年05月17日こんにちは、フリーアナウンサーの押阪忍です。ご縁を頂きまして、『美しいことば』『残しておきたい日本語』をテーマに、連載をしております。宜しければ、シニアアナウンサーの『独言』にお付き合いください。『新しい生活様式』とは今年のゴールデンウィークは、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う『緊急事態宣言』が、5月31日まで延長されたことにより、全国が『ステイホーム』で 故郷への里帰りもなく、毎年見慣れた空港の旅客や、新幹線帰省での、見送り、出迎えの微笑ましい光景は 全くありませんでした。新幹線は、乗客0人で出発した列車もあったそうです。昔風に言うと閉門(へいもん)蟄居(ちっきょ)に近い『ステイホーム』で、海辺や行楽地で子供達や家族連れが、笑顔で楽しんでいる映像など、何処にもありませんでした。ゲームやテレビに飽きたお子さんが、ストレスが溜って暴れ、父親が手を挙げる…というニュースが毎日のように聞かれました。正に過去、誰も体験したことの無い重圧感のある毎日でしたが、ようやくトンネルの出口が見え始めた感じでしょうか…?この程、政府の専門者会議から『新しい生活様式』が提示されたのです。それによりますと、「外出時は症状がなくてもマスクをし、帰宅したら先ず、手や顔を洗い、できるだけ早く着替えたり、シャワーを浴びたりする。毎朝、体温測定をし、食事は対面でなく横並び、娯楽やスポーツでの歌や応援は、十分な距離をとるか、オンラインを活用する。そしてトイレは、感染リスクが比較的高いために、清掃は通常でよいが、用を足した後は、蓋(ふた)を閉めて流すように」と求めています。毎日の家庭生活の中で、一番楽しく家族の団欒やコミュニケーションがはかれる食事の席が 横並び…。これでは寿司屋や居酒屋のカウンターになってしまうかもと…。でも専門家さえ体験したことのない 恐怖のウイルスとの戦いです。提示された『新しい生活様式』を理解し、それを励行することが「自分の命を守る」ことに繫がっていると思っております。<2020年5月>フリーアナウンサー押阪 忍1958年に現テレビ朝日へ第一期生として入社。東京オリンピックでは、金メダルの女子バレーボール、東洋の魔女の実況を担当。1965年には民放TV初のフリーアナウンサーとなる。以降TVやラジオで活躍し、皇太子殿下のご成婚祝賀式典、東京都庁落成式典等の総合司会も行う。2019年現在、アナウンサー生活61年。日本に数多くある美しい言葉。それを若者に伝え、しっかりとした『ことば』を使える若者を育てていきたいと思っています。
2020年05月14日みなさんは、怒りが湧くような酷いニュースを見た後、しばらくその話題ばかりが気になったことはありますか。その話題について検索し、より情報を集めていくとさらに腹が立ったり、気分が悪くなったりしますよね。そんな怒りについて、かん だんち(@dankoromochi)さんが漫画を描きました。【エッセイ漫画】怒りに依存しない(全2枚) pic.twitter.com/1yrfH8qicC — かん だんち (@dankoromochi) May 5, 2020 気になるニュースがあると、ネットを使って延々と調べ続けてしまう人もいるでしょう。しかし、そのニュースについて過剰に考えてしまい腹が立っている時は、この漫画の通り『怒りに依存』してしまっている状態かもしれません。漫画には、さまざまな声が寄せられました。・なるほど。これを継続しているとクレーマーになるのか…。・最初はただの怒りだったものが、途中から「攻撃したい」という欲求になってしまう。・以前の僕は、怒りに依存した状態でした、今は情報を深追いしないようにしています。理不尽な怒りを誰かにぶつけている人を見ると、「そんなことで怒らなくても…」と思うことがありますよね。しかし、行きすぎた怒りを持て余すと、さらに怒りを求めて理不尽に怒るようになってしまうのかもしれません。自分の中で過剰な怒りを感じたら、一度冷静になることを心がけたいものですね。[文・構成/grape編集部]
2020年05月11日こんにちは、フリーアナウンサーの押阪忍です。ご縁を頂きまして、『美しいことば』『残しておきたい日本語』をテーマに、連載をしております。宜しければ、シニアアナウンサーの『独言』にお付き合いください。山吹の花を見るたびに…。春は桜や桃のようにピンク系の花が多いように思いますが、黄色の花も結構ありますね。タンポポ、チューリップ、マリーゴールド、そして山吹…。山吹は拙宅にもありますが、この黄色の花が咲く度に、太田道灌の山吹の逸話を思い浮べています。太田道灌(おおたどうかん)は、江戸城を築城した武将であると知られていますが、七重八重の 山吹の花の方がもしかしてより知られているかもしれませんね。「太田道灌」の騎馬像太田道灌が 或る日、鷹狩りに出かけた所、激しい俄か雨に出会い、近くのみすぼらしい農家に立ち寄り、雨を凌ぐ蓑(みの)を貸してほしいと頼みました。出てきた少女が、黙って差し出したのが蓑ではなく、山吹の花一輪でした。道灌は 花ではなく蓑だと怒って帰ったのですが、少女が、蓑1つ無い悲しさを、山吹が実(蓑)をつけない花であることを、和歌に譬えて差し出したことを 道灌はあとで知り、己の不明を恥じて この日より歌道に精進し、武将でありながら歌道通になったと伝えられています。この黄金色の五弁の花、山吹は、八重と一重がありますが、一重には小さな実がつきます。でも一重より八重咲きの方が黄金色で見栄えがするので、花屋さんでは八重一色のようですね。ヤマブキ一重山吹の花のこの黄金色を江戸時代は、お金の小判のことを『山吹色』と例えて言っていたようです。時代劇で『山吹色』といえば小判のことです。取留めのないことをお話し致しましたが、七重八重のこの山吹の花は、私にとっては初夏の訪れを美しく告げてくれる『小判』のような花であります。元和歌「七重八重花は咲けども山吹の実(蓑)の一つだになきぞ悲しき」後拾遺和歌集より 中務卿 兼(かね)明親王(あきらしんのう) 作<2020年4月>フリーアナウンサー押阪 忍1958年に現テレビ朝日へ第一期生として入社。東京オリンピックでは、金メダルの女子バレーボール、東洋の魔女の実況を担当。1965年には民放TV初のフリーアナウンサーとなる。以降TVやラジオで活躍し、皇太子殿下のご成婚祝賀式典、東京都庁落成式典等の総合司会も行う。2019年現在、アナウンサー生活61年。日本に数多くある美しい言葉。それを若者に伝え、しっかりとした『ことば』を使える若者を育てていきたいと思っています。
2020年04月28日吉元由美の『ひと・もの・こと』作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。「意識の高さ」で乗り越える!肌寒かったり、暖かかったり。雨が降り、強い風が吹き。1日、2日ごとに変わるお天気に体調管理がしんどい時期です。3月から4月の天気の変化に、つくづく「冬から春になる大変さ」を思います。冬の間、植物たちは冷たい土の中で春への準備をし続けています。そしてほぼほぼ暦通りに芽を出し、花を咲かせ、新葉を芽吹かせます。私たち人間が知らない間に冬の厳しさに耐え、その厳しさを成長の糧として、自然は開花の春を迎えるのです。人生にも春夏秋冬があります。それを一生の流れとして見ることもあれば、そのときどきの状況を表すこともあります。人間関係や仕事などで落ち込む時期もあるし、何をしても順調に進む時期、人生にはそのようなリズムがあります。困難な中にあるとき、それはまさに冬の時期のようです。寒さをしのぐために厚着をし、コートを着る。暖房をつけて、お風呂で体を温める。言ってみれば、困難のときにできることを考えて対処する。具体的に行動します。それでも、本格的な『春』はなかなか来ない。油断をすれば寒さがぶり返す。雨風に晒される……。これまで、私にもそのような時期が何回もありました。30代の初めの頃の『冬のトンネル』を抜け出すのに4年ほどかかりました。その間に、自分を変えるためのありとあらゆることをしました。セミナーや講演会を聞き、本を読み、イルカと泳いだり、パワースポットをめぐったり。でも、心底、変わることはできなかった。言ってみれば、これは寒さをしのぐために厚着をしているようなもの。その場を楽になる対症療法でしかなかったのです。自然は、厳しい寒さの中で眠っているわけではありません。春を迎えるため、芽吹くために必要な養分を蓄えています。冷たい土の中での静かな営みが、春を迎えるためには必要なのです。人との接触を減らす、不要な外出はしない。手洗い、うがいを徹底する。マスクをする。ゴーグルをする……。具体的にできることをする。これは対症療法的ですね。と同時に、この厳しい状況の中、私たちはもっと強くならなければなりません。自然界のように、この状況の厳しさを養分、糧にする強さを持たなければ乗り越えられないのです。危機意識とともに必要なのは、意識の高さです。絶対に不要な外出をしないという心の強さです。私たちも自然の一部、その自然の法則に倣っていまは怺えましょう。本格的な春、そして晴れ晴れとした夏を迎えるために!※記事中の写真はすべてイメージ作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー[文・構成/吉元由美]吉元由美作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。⇒ 吉元由美オフィシャルサイト⇒ 吉元由美Facebookページ⇒ 単行本「大人の結婚」
2020年04月26日こんにちは、フリーアナウンサーの押阪忍です。ご縁を頂きまして、『美しいことば』『残しておきたい日本語』をテーマに、連載をしております。宜しければ、シニアアナウンサーの『独言』にお付き合いください。大相撲無観客春場所縁あって私は 学生時代、大相撲の出羽海部屋と出羽海親方のご邸宅に 居候(いそうろう)をしていた年がありました。この縁については、またいつか…。局アナになってからも、この体験を買われ、大相撲担当アナを務めました。そんな相撲ファンですから、前代未聞の無観客となった大阪場所も テレビ桟敷でしっかり観戦を致しました。荒れる春場所といわれ、初日から満員御礼の垂幕(たれまく)が下がり、大歓声に湧く大阪場所ですが、今場所は人っ子1人いない無観客場所です。館内は し~んと静まり返り、呼び出しと行司の声だけがハッキリ聴こえます。土俵上の力士が締め込み(回し)を叩く音や ふぅ~っと吐く息も しっかり聴こえます。将豊竜の弓取式の弓のしなる音が びゅんびゅん響きます。静寂の中での春場所。これは好取組でした。優勝にからんでいる碧山と炎鵬との対戦。191センチ193キロの超弩級(ちょうどきゅう)の碧山と 168センチ99キロの小兵の炎鵬が 土俵に上がっただけでその対比に大歓声が響く所ですが、無人の館内は物の音1つ聴こえず、静寂の中でこの勝負は いとも簡単に終わりました。大入り満員の中でこの取組が行われれば、名勝負になったかも…と思ったことでした。お客様の歓声、応援の声が名勝負を生む、と言われていますから…。無観客大相撲春場所、幸い力士にコロナウイルスの感染もなく、各力士は集中力を切らさず立派に15日間の土俵を務めたと思っております。侘しさも感じる場所ではありましたが、千秋楽は白鵬、鶴竜の横綱対決で土俵を盛り上げ、白鵬が44回目の優勝を飾りました。そして人気の関脇朝乃山が 大関を射止めた大阪場所でもありました。懸賞金は4割減、視聴率の下がった無観客場所ではありましたが、相撲ファンにとっては 開催できてよかったと思っております。何といっても大相撲は、日本の『国技』なのですから…。<2020年4月>フリーアナウンサー押阪 忍1958年に現テレビ朝日へ第一期生として入社。東京オリンピックでは、金メダルの女子バレーボール、東洋の魔女の実況を担当。1965年には民放TV初のフリーアナウンサーとなる。以降TVやラジオで活躍し、皇太子殿下のご成婚祝賀式典、東京都庁落成式典等の総合司会も行う。2019年現在、アナウンサー生活61年。日本に数多くある美しい言葉。それを若者に伝え、しっかりとした『ことば』を使える若者を育てていきたいと思っています。
2020年04月15日ライター、ブックカウンセラー・三浦天紗子さんに、文字、行間に色気が潜む、小説、エッセイ、そして短歌を教えていただきました。言葉で腑分けされた繊細な感情。そこに文章の色気は潜んでいる。「作家は、登場人物の感情やそのときの感覚にミクロのレベルまで近寄って、腑分けしてくれるんですよね。例えば“うれしい”という気持ちも、エピソードを積み上げ、喩えを駆使して文字で読者に伝えてくれる。だから私たちはそれを読めば、作中で右往左往する人たちの思いや感情に、行間も含めて乗っかるだけで、色気を味わえるんです」と言うのは、ライター、ブックカウンセラーの三浦天紗子さん。色気のある文章には、必ず以下の要素がある、と語ります。「文体が静謐というか、ささやかな声で語っていること。インテリジェンスともろさが共存していて、さらに心に孤独が棲んでいる。そんな要素がある文章は色っぽい。どちらかというと、恋にしろ運命にしろ、ままならない物語のほうが、色気は漂いますよね。加えて、今回選んだ6冊にはいずれも、どこか死の淵をのぞき込む危うさがある。それも、色気を感じさせる一つの要因かもしれません」空間に潜む幽霊が醸し出す、少し切ない官能性。『ここは夜の水のほとり』清水裕貴 著¥1,400/新潮社‘18年の「女による女のためのR-18文学賞」の大賞受賞作が収録された、5編の連作短編集。舞台は美大と美大予備校、玉川上水の鬱蒼とした緑の中で交錯する人間関係を描く。「どの物語にも、幽霊のような“影”がちらついていて、それが独特の色気に繋がっている気がします。受賞作は、〈あなた〉と語りかける存在が、かつてルームメイトだった男性をそっと見つめるストーリー。部屋に漂っている、意識の官能性というか、切ない色気が堪能できます」視線、ささやき声、筆談。静寂の世界に漂う色っぽさ。『ギリシャ語の時間』ハン・ガン 著、斎藤真理子 訳¥1,800/晶文社ある日突然言葉が話せなくなってしまった女性が、言葉を取り戻すために、ギリシャ語教室に通い始める。そこで出会ったのは、徐々に視力を失いつつある男性講師。「失われた言葉と、失われつつある視線を使ってのコミュニケーションは、とても静的で、その密やかさと削ぎ落とされた感じがとても色っぽい。お互い、不自由さを引き受けて、その上で寄り添い、交わし合う言葉や視線。端正な文章、特に終盤の詩のような繊細な世界観に、ため息が出ます」夢や秘密を打ち明ける。その密やかさが官能的。『囚われの島』谷崎由依 著¥1,600/河出書房新社バーで出会った盲目の調律師に魅入られ、主人公の女性新聞記者・由良は彼の部屋へ通う。二人は同じ島の夢を見ていることがわかるが、調律師はその夢に怯えており…。「調律師が語る夢の話を由良が聞くシーンが色っぽい。秘密や夢うつつの昔話、彼が恐れているイメージに二人が共鳴していく雰囲気にゾクゾクします。蚕をめぐる歴史や蚕の生殖の特殊性などが性的なメタファーにもなっていて、何かが起きそうな不穏な空気に酔うような読み心地です」死と隣り合わせの日記には繊細で危うい色気が宿る。『八本脚の蝶』二階堂奥歯 著¥1,200/河出文庫25歳の若さで命を絶った女性編集者が死の直前まで綴った日記と、生前親しかった13人の文章を収録した一冊。「悩んだり葛藤したり、日記の中の彼女は内省を深め自分を追い詰めていきます。完璧主義で繊細で、危うさに満ちた文章からは、自己のあり方に煩悶する、孤独で繊細なたましいの気高さを感じます。彼女は猛烈な読書家だったので、さまざまな本から引用がなされているのですが、特に死生観にまつわる抜き出しや執筆部分が、エロティックです」華やかさとつつましさ。削ぎ落としの美学を堪能。『対岸のヴェネツィア』内田洋子 著¥1,400/集英社長くミラノに住む作者が、イタリア人ですら“暮らしづらい”と言うヴェネツィアで暮らすことを決意。そこで出会った人々や街の様子を綴った12のエッセイ。「どこか人を拒むような雰囲気もある、不便な街・ヴェネツィア。でも内田さんのフィルターを通して見ると、その暮らしづらさまでもが官能的になるから不思議。秀逸なのが、住むことになった部屋との出合いのくだり。窓から見える風景の描写は、私も住んでみたいと思うほど魅力的」ほとばしる熱情をクールな言葉で詠む、抑制の色気。『メタリック』小佐野 彈 著¥2,000/短歌研究社LGBTであることをオープンにしている歌人のデビュー作。370もの短歌が収録されており、恋愛や、世の中の不条理、ままならないことなどへの思いが溢れている。「とにかく“愛を詠む”熱量がすごい。好きな人への気持ちをストレートに詠んでいる、恋文のような短歌がたくさん収録されています。自身のセクシュアリティへのとまどい、叶わない恋に飛び込むみずみずしさ…、抑制が利いたモダンな表現によって、逆に彼の繊細さや孤独感を強く感じます」みうら・あさこライター、ブックカウンセラー。書評やインタビューを中心に、弊誌をはじめ雑誌やウェブメディアで活躍中。※『anan』2020年4月1日号より。写真・中島慶子取材、文・河野友紀(by anan編集部)
2020年03月31日大容量オールカラーのセルフプロデュース本モデルやタレントなどとして活躍している益若つばささんのセルフプロデュースフォトエッセイ『TSUBASA REAL』が発売された。同書では「つばさファッション」を大公開しているほか、メイクのプロセスからヘアアレンジまでを詳細に紹介。鈴木奈々さんや、佐藤ノアさんなどとの対談も収録されている。オールカラー208ページでA5判。2,145円(税込)の価格にて、KADOKAWAより発売中である。SNSの自撮り 写真を撮るポイントも細かく解説益若つばささんは、「セルフプロデュースの天才」とされ、カリスマ読者モデルとして人気を博していた当時は使用や着用のものがヒット商品になるなど「経済効果100億円」などと言われていた。1児の母である現在も大人気であり、SNSで約180万人のフォロワーを持つインフルエンサーである。新刊では、ピンク&ミルクティーヘアのヘアメイク、全私服のファッションページ、「私流NGコーデ」を紹介。メイクのプロセスまでもが掲載されている。そのほか、基礎化粧品、料理、ネイル、生き方、仕事、恋愛などについても語られており、インタビューには6時間を要している。また、SNSでの自撮りの方法や写真を撮るポイントまで細かく解説されている。(画像はAmazon.co.jpより)【参考】※TSUBASA REAL 益若 つばさ:コミック - KADOKAWA
2020年03月28日『カキフライが無いなら来なかった』で組んだ名コンビ、せきしろさんと又吉直樹さんが、『まさかジープで来るとは』から10年ぶりに帰ってきた!シリーズ第3弾となる『蕎麦湯が来ない』は、連載に、自由律俳句とエッセイを書き下ろしで大量加筆。読み応えもたっぷりだ。「最初の『カキフライ~』が出たとき、僕は29歳で、もうまもなく四十になりますし、その間いろいろありました」(又吉直樹さん)「連載はずっと続いていたので、そんなに間が空いた感覚はなかったんですが…。僕より又吉くんは身辺が変わりましたよね」(せきしろさん)「なにせ相方がニューヨークに行きましたから。俳句の本を出した人間史上初めてじゃないですかね、それ」(又吉さん)と、インタビュー中も息の合ったやりとりが微笑ましい。本書は、ふたりの自由律俳句と、その句に呼応するようなエッセイで構成されている。先に句が浮かびエッセイになるときも、エッセイから句になるときもあるそうだ。決まりがあるようなないような、ゆるいルールが実はキモ。言葉とどう格闘するか、世界を切り取るか。個性的な才人ふたりの化学反応によって、面白さに磨きがかかる。おふたりから見た、自由律俳句の魅力とはなんなのだろう。「僕の場合は、説明したくない、言いたいことだけ言いたいというのがあって、自由律俳句ならそれができるんですよね。いま自分は蕎麦屋にいて、食べ終わってて…と説明なしに、ずばりと『蕎麦湯が来ない』で終われる。その感じは自分に合っているなと思います」(せきしろさん)「共感を引き出せるのが面白いというか。共感というと、みんなが思いつくあるあるネタのように捉えられがちなんですが、『10人いたら5~6人はそこ言うよね』というところは避ける。特にせきしろさんは、絶対詠まないですよね。むしろ、10人いて1人いるかいないかのポイントを突いて、『言われてみればそうだな』と納得させる。せきしろさんの句はご自身が俳句で笑わそうとしているわけではないのに、わかりすぎて笑ってしまいます」(又吉さん)数句取り出してみる。カツ丼喰える程度の憂鬱(又吉直樹)憂鬱を切り裂く保育園児の散歩(せきしろ)コーラを好む老人の過去(せきしろ)路上で卵の殻を剥いていた老人(又吉直樹)同じ言葉が出てきても、見えてくる情景はまるで違う。おふたりも、思いがけない相手の句に驚くこともしばしばらしい。ゆえに、互いが互いのいちばんのファンだと言う。「又吉さんは僕とはまったく違う視点で来るから、かぶることがない。こんなに広い視野を持っている人がいるんだと感心するし、悔しくなるほど虜です」(せきしろさん)「〈すまないがきつねの影絵しかできない〉というせきしろさんの句があるんです。一瞬でわかるというより、謝りながら影絵をやってる彼の状況を想像するとより面白い。噛めば噛むほどといいますが、せきしろさんのはそういう感じ」(又吉さん)ふたり合わせて404句が収録されているが、その3倍は詠み、絞りに絞ったものばかり。「最後の最後まで、差し替えたりしましたね。過去の句と似たものにならないようにするのがけっこう大変なんです」(せきしろさん)「居酒屋のメニューを詠んだ句なんていくつあるのか。砂漠とか行ったことのない場所にでも行かないと浮かばないとか思うけど、だからこそ新しいのがひらめくとうれしい」(又吉さん)ふたりの作風をくくるなら、見過ごせばいいかもしれないことを見過ごせない、そのこだわり。エッセイも然りで、どこかショートショートのような趣が読んでいて楽しい。連載は終わってしまったが、このふたりの無敵のタッグに、まためぐり合いたいと切に願う。『蕎麦湯が来ない』これまでのシリーズでは、写真も著者のふたりが撮影担当していたが、本書では本シリーズを手がけてきたデザイナーの小野英作氏によるもの。404句の自由律俳句と50編の散文を収録。マガジンハウス1400円写真左・せきしろ1970年、北海道生まれ。文筆家。ハガキ職人、構成作家を経て、2006年に初の単著『去年ルノアールで』(小社刊)を出版。『たとえる技術』(文響社)、小説『海辺の週刊大衆』(双葉文庫)ほか、単著、共著多数。写真右・またよし・なおきお笑い芸人、作家。2015年、小説デビュー作『火花』で芥川賞を受賞。小説のほか、随筆や自由律俳句の世界でも才能を発揮。『又吉直樹のヘウレーカ!』(NHK Eテレ)などテレビの冠番組も持つ。※『anan』2020年4月1日号より。写真・中島慶子取材、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2020年03月27日このたび「ハライチ」の岩井勇気さんの初めての連載エッセイがまとまり、『僕の人生には事件が起きない』という一冊に。「ネタとか書いてるからいけそうだなって雰囲気だけでオファーしてみたけど違ったな、とか編集さんに思われてるんじゃないですか」インタビューののっけから期待を裏切らない毒気。さすが岩井さん。だが、お笑いで独特の言語センスを披露してきた岩井さんの書いたモノなら読んでみたい、と思っていた人は多いはず。ありふれた人生も、角度を変えれば面白さが見えてくる。中身は主に身辺雑記。初めてのひとり暮らしで選んだメゾネットタイプのアパート回りのこと、コーヒーマシン購入までのエピソード、歯医者の予約を入れては忘れ続けた失敗談……。事件と呼ぶほどの出来事ではないのに、岩井さんのレンズで見ると、ちょっと風変わりな日常に早変わり。思わずニヤリとしてしまう。たとえば、組み立て式の棚についての回。自分で組み立てるのがちょっと面倒くさいな、までは誰もが思う。だが、岩井さんの筆にかかると、面倒さ加減は倍々に膨れあがり、そのボヤき文がまるで面白いラジオトークのように思えてくる。「だってみんな、何か組み立てたり配線つなげたりしていると、『ああっ!もう!』ってなるでしょう?そういうあるあるを書いたものは多いですね。当たり前すぎず、あるあるになってなくてぽかんとするようなものでもなく、『見落としてたけどあるね、それ』みたいなのを見つけるのが好きだし、得意です」ハライチのネタを見るかのような文章芸も披露している。趣味の麻雀で“上がったら死ぬ”と言われているほどのめずらしい手で勝ってしまったときのこと。岩井さんは帰り道から死ぬかもしれないという妄想に取り憑かれるのだが、〈窒息死〉はともかく、〈メゾネ死〉〈かぐわ死〉〈スースー死〉って何だ……。あんかけラーメンの汁を水筒に入れて外出したエピソードにも、意表を突かれる。交差点で水筒から飲んでいるのがお茶ではなくあんかけラーメンの汁という背徳感を綴り、「人の思い込みの裏をかくのは、ネタでも好きですね。ダイエットが続かないとかいう人に、『これ、すっごく体軽くなるし、すっとやせるし、オレの周りのミュージシャンとかみんなやってるんです』とヤバそうに引っ張ってきて、『玄米なんですけど』と落とすとか。そういうネタもわりとやります」融通の利かないファミレスのシステムや通販で届く段ボールとの格闘など、日常の不条理への抵抗も、岩井さん十八番のモチーフだ。「僕、あれこれその場で言いますけど、ケンカしているつもりはないんです。もやもやしたままだと疲れるから、解決しようと思っているだけで。感情として怒ってはいない。だから感情のままにしゃべるのではなく、理屈を組み立てて訴えようとする。ただ正義がこちらにあると思うと、どんなに強く出てもいいと思っているところはあるので、そこはまあ……(苦笑)」だが、それが正論だから、読んでいても胸がすく。「エッセイってフランス語のエセーからきていて、随想という意味らしいですね。明確なオチがなくてだらだらしてて。オレ、フランスが合っているのかも。フランス映画も“そして人生は続く”みたいなエンディングが多いし、この本のタイトルもフランス映画みたいだし、フランスでも売ってほしいなあ」ボケてるのかマジメなのか、とにかく楽しい岩井ワールド。ファンもそうでない人も、本書で触れてみて。『僕の人生には事件が起きない』各エッセイに添えられている挿絵は岩井さん作。「“上手い人がさらっと描いた風”に、めちゃくちゃ力入れて描きました」。新潮社1200円いわい・ゆうき1986年、埼玉県生まれ。幼稚園からの幼なじみ・澤部佑と2005年にお笑いコンビ「ハライチ」を結成。ボケとネタ作りを担当。好きなものはアニメと猫。『自慢したい人がいます~拝啓 ひねくれ3様~』(テレビ東京系)、『ハライチのターン!』(TBSラジオ)などで活躍。※『anan』2019年11月6日号より。写真・土佐麻理子(岩井さん)中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2019年11月05日家族の日常を綴ったコミックエッセイのなかでも、異彩を放つ本作。著者はミュージシャンとして活躍するケイタイモさん。音楽を広める手段のひとつとしてインスタグラムでマンガを発表し始めたところ、瞬く間に注目を集め、書籍化が実現した。かっこいいミュージシャンだって家に帰れば子煩悩なお父ちゃん。「いわゆるフリーでやってるミュージシャンなので、安定収入じゃない。そのぶん家族も安心できないところがあるだろうし、家庭での役立ち方っていうのが、自分のなかで大事だったりするんですよね」人を見かけで判断してはいけないのは重々承知だが、辮髪(べんぱつ)・ヒゲ・丸メガネという個性的なルックスで、甲斐甲斐しくオムツを替えたり、子どもたちにキョヒられてしょんぼりする姿が何ともいえず、お父ちゃんを応援せずにはいられないのだ。「外で笑い話にしているぶんには気づかないような嫁さんの視点が、マンガを描くことで見えるようになったのは、本当によかったこと。『あれやっておいて』って言われると面倒に思いがちだけど、マンガに生かせるって考えると、子育ても家事も能動的になれるんですよね」家族構成は、きれい好きなお母ちゃん、社交的な8歳の長女、独りが大好きな4歳の長男、よく笑う1歳の次男。それぞれキャラが立っていながら、子育ての“あるある”がちりばめられているのがいい。そんなケイタイモさんの子煩悩ぶりからは信じられないのだが、父親になる以前は子ども自体が苦手だったそう。「突然父性が目覚めるあの感覚は、理屈じゃないんですよね。最近、自分のことは二の次で、鏡すらあまり見ないようになって。音楽をやってる人間なんだから、自分のこともある程度かわいいと思っておかないとダメだなって反省しました(笑)」そしてもうひとつ、信じられないことが。ケイタイモさんはイラストレーターでもあるのだが、マンガを描くのは本作が初めてだそう。「作曲もするのですが、コマの構成やバランスはリズムを大事にしてます。そういう意味でマンガと音楽は、似てるところがあるのかも」マンガを描き始めて、期待以上に世界が広がっている実感もあり、子どもの成長とともに描けるところまで描き続けたい、と目標も大きい。「ネガティブなことはほとんど描いてこなかったのですが、子育てをしていればいろんな問題があるわけで。そういうリアリティも、いずれポップに提示できたらいいですね」ケイタイモ ミュージシャン。過去にBEATCRUSADERS、現在はWUJA BIN BIN、ikanimoなどのメンバー。イラストレーターとしても活躍。本作はInstagram(@k_e_i_t_a_i_m_o)で毎日更新中。『家も頑張れお父ちゃん!』しっかり者の長女に諭されたり、マイペースな長男&次男に振り回されたり。ときに子ども以上に無邪気なお父ちゃんによる、エッセイ。家族って楽しい!文藝春秋1200円©ケイタイモ/文藝春秋※『anan』2019年9月18日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2019年09月17日