同じ作品を、同じ演出家の同じ演出プランで、イギリスと日本それぞれの俳優やスタッフとともに、それぞれの国で上演する。そんなふたつの国が手を組み立ち上げられた企画により、昨年、演劇の本場・ロンドンで制作・上演されたミュージカル『VIOLET』。現地の演劇賞に6部門ノミネートされるなど高い評価を受けた舞台が、ついに日本に上陸する。このチャレンジングな企画を担う演出家として抜擢されたのが藤田俊太郎さん。人種も文化も宗教観も違う国での現地スタッフとの創作活動は容易なものではなく、「計り知れない涙の量と、互いの価値観をぶつけ合う議論があった」そう。好評を博したロンドン公演を経て、待望の日本版が上演。「ロンドンでは何度も打ちのめされました。自分の知らない感性とも出合いましたし、僕の希望が叶わなかったこともありました。それでも、ロンドンでの経験は自分にとって財産でしかないし、総じていい作品になったと思います」今作は、幼い頃に負った顔の傷により人目を避けて生きてきた主人公・ヴァイオレットが、傷を癒すといわれる男に会うために長距離バスに乗って旅に出る物語。「バスを世界や人生のメタファーとして、自分で次の一歩を踏み出していく物語です。違う人種や価値観を持った人たちが同じバスに乗って旅をするというのは、まさにこのカンパニーも、この作品も同じ。違う人間同士が集まれば、どうしたってわからない感性や価値観は出てくるし、そのなかには受け入れ難いことも出てくる。それでも、相手を理解しようと努力することはできるし、その可能性を探っていくことが演劇なんじゃないかと思うんです」ロンドン公演の成功を踏まえつつ、現在、日本版の稽古が進行中。「いま現場では、毎日テキレジ(上演台本の細かな修正)がおこなわれています。キャリアや年齢は関係なく俳優たち全員が、同じ土壌で自分の価値観を持ってディスカッションに参加し、この戯曲の神髄に近づくために意見をぶつけ合っています。ロンドンとはまた違う、日本版キャストならではの舞台をお届けできるんじゃないかと思っています」ふじた・しゅんたろう1980年4月24日生まれ。秋田県出身。東京藝術大学を経てニナガワ・スタジオに入った後、蜷川幸雄の演出助手に。近作に祝祭音楽劇『天保十二年のシェイクスピア』など。ミュージカル『VIOLET』1964年、アメリカ南部の片田舎に暮らすヴァイオレット(唯月・優河/Wキャスト)は、幼い時に受けた顔の大きな傷を治したいと、長距離バスの旅に出た。そこで彼女はさまざまな人々の多様な価値観に触れ…。4月7日(火)~26日(日)池袋・東京芸術劇場 プレイハウス音楽/ジニーン・テソーリ脚本・歌詞/ブライアン・クロウリー原作/ドリス・ベッツ『The Ugliest Pilgrim』出演/唯月ふうか・優河(Wキャスト)、成河、吉原光夫ほか全席指定1万2000円ほか(税込み)梅田芸術劇場 TEL:0570・077・039ロンドン公演は、客席が対面式、回り舞台でバスの旅の臨場感を演出。日本公演では舞台上に仮設客席を組み4方向から囲むスタイル。2019年のロンドン公演より。Photo by Scott Rylander※『anan』2020年4月8日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2020年04月07日朝井リョウさんの新作『発注いただきました!』は作家生活10周年記念のお祭り本。企業等から依頼を受けて書いた小説やエッセイ20編と、書き下ろし短編を収録。受注作は依頼内容実際に書いた作品感想戦の順に掲載。感想戦では工夫した箇所等がユーモアたっぷりに語られる。企業からの依頼にどう応えた?工夫が楽しいタイアップ作品集。「発注の内容をオープンにしていいと言ってくださった企業の方々に感謝しています。感想戦は、ここを頑張りました、褒めてください、と自分から言っていくスタイルです」たとえばゾンビ漫画『アイアムアヒーロー』の映画化記念のアンソロジーに書いた青春短編は、注文されてないのに原作のキャラクターや台詞を登場させ、かなり苦労したのだとか。「でも、私の短編に対しては驚くくらい読者の感想がなくて。もとからの私の読者に届けたら面白がってくれるのではと思い、そのためにこの本の企画が始まったんです」難しかったのはキャラメルの箱に載せた、文字数の少ない掌編。「数百字のなかに登場人物の情報を入れなくちゃいけない。文字数が極限まで削られている俳句のすごさを思い知りながら書きました」一方、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』と『チア男子!!』のコラボ小説では、思わぬ初体験が。「両さんを登場させたら、もう勝手に行動して事件を解決してくれるんですよ。作家がよく言う“登場人物が勝手に動く”というのを初めて体験しました。しかも自分じゃない人が作り出したキャラクターで」思わぬ仕掛けとしては、「基本的には、登場人物の名前にその会社の会長や社長の名前を使っています。社内ウケが欲しくて」と、読者、商品、クライアント全方向にサービス精神を発揮。「タイアップは“やりまっせ!”という意識に変わって、つい“全力下僕”をやっちゃうんですよね」ただし最後の書き下ろし「贋作」は、まったく異なる読み心地。「頭にあったけれど出しどころがなかった話を書きました。自戒を込めて書いています」昔から「怒り」が執筆の原動力と語っていた朝井さんらしい一編だ。「今後は“怒り”がマイルドな名前に変わりそうな気がします。でも“読んで幸せな気持ちになれた~”という小説を書けるようになるまではまだ時間がかかりそうです」あさい・りょう1989年生まれ。2009年に『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。’13年に『何者』で直木賞、翌年『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞受賞。『発注いただきました!』キャラメルが登場する掌編、aikoの楽曲を題材にした小説、“20”にまつわる短編…さまざまな発注にどう応えたのか?タイアップ作品集。集英社1600円※『anan』2020年4月8日号より。写真・土佐麻理子(朝井さん)中島慶子(本)インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2020年04月02日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「ジェンダー・ギャップ指数」です。極端に低い日本。男女格差をなくすには意識変革を。3月8日は国際女性デーでした。この日に注目されるのが「ジェンダー・ギャップ指数」。ダボス会議主宰で知られる世界経済フォーラムが、政治、経済、教育、健康の4分野で男女格差を指数化し、毎年発表しています。2019年12月の最新報告書で、日本は153か国中121位。‘18年は110位でした。順位が下がった理由は、女性の政治参加度の低さ。今年2月の時点で、日本の衆議院の女性比率は9.9%。これは193か国のうち167位と著しく低い。他国では女性の首相が誕生していますが、日本は知事止まり。選挙候補者の数を男女50%ずつにすることを努力目標に掲げていますが、当選して閣僚になる女性は少数です。企業のなかでも女性管理職の割合は低い状態が続いています。女性の社長の比率は上昇していますが、創業者や同族継承がほとんどで、内部昇格の割合は8%にすぎません。これほど女性のリーダーが極端に少ないというのは、日本の経済発展を阻んでいると思います。子育て政策でも、近年ようやくお母さん方を中心に声があがり、女性議員が先導する形で待機児童問題に目が向くようになりました。「子供は家庭で育てるもの」という古い考えのまま、男性社会と切り離して捉えていたため、問題に気づけなかったのです。つまり政府や企業経営者など、制度を作る側、決める側に女性が参加していなければ、考え方の多様性が担保されず、女性の働きやすい環境実現は遅れる一方です。もうひとつ、ジェンダー・ギャップを生む背景に「マンスプレイニング」が指摘されています。「man(男)」と「explain(説明)」を掛け合わせた言葉で、男性が女性を見下して解説、助言するさまを指します。無意識の男性のそうした態度が、女性の発言する機会を失わせます。昨年は、職場でヒールやパンプスを履くことを強要しないでほしいという#KuToo運動が始まりました。女性性を否定するものではなく、履くのも脱ぐのも自由意思を尊重してほしいという主張です。「オフィスでは女性はヒール」というのも固定観念にすぎません。慣習を疑うことが、ジェンダー・ギャップをなくす第一歩なのかもしれません。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)公開中。※『anan』2020年4月8日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年04月02日ライター、ブックカウンセラー・三浦天紗子さんに、文字、行間に色気が潜む、小説、エッセイ、そして短歌を教えていただきました。言葉で腑分けされた繊細な感情。そこに文章の色気は潜んでいる。「作家は、登場人物の感情やそのときの感覚にミクロのレベルまで近寄って、腑分けしてくれるんですよね。例えば“うれしい”という気持ちも、エピソードを積み上げ、喩えを駆使して文字で読者に伝えてくれる。だから私たちはそれを読めば、作中で右往左往する人たちの思いや感情に、行間も含めて乗っかるだけで、色気を味わえるんです」と言うのは、ライター、ブックカウンセラーの三浦天紗子さん。色気のある文章には、必ず以下の要素がある、と語ります。「文体が静謐というか、ささやかな声で語っていること。インテリジェンスともろさが共存していて、さらに心に孤独が棲んでいる。そんな要素がある文章は色っぽい。どちらかというと、恋にしろ運命にしろ、ままならない物語のほうが、色気は漂いますよね。加えて、今回選んだ6冊にはいずれも、どこか死の淵をのぞき込む危うさがある。それも、色気を感じさせる一つの要因かもしれません」空間に潜む幽霊が醸し出す、少し切ない官能性。『ここは夜の水のほとり』清水裕貴 著¥1,400/新潮社‘18年の「女による女のためのR-18文学賞」の大賞受賞作が収録された、5編の連作短編集。舞台は美大と美大予備校、玉川上水の鬱蒼とした緑の中で交錯する人間関係を描く。「どの物語にも、幽霊のような“影”がちらついていて、それが独特の色気に繋がっている気がします。受賞作は、〈あなた〉と語りかける存在が、かつてルームメイトだった男性をそっと見つめるストーリー。部屋に漂っている、意識の官能性というか、切ない色気が堪能できます」視線、ささやき声、筆談。静寂の世界に漂う色っぽさ。『ギリシャ語の時間』ハン・ガン 著、斎藤真理子 訳¥1,800/晶文社ある日突然言葉が話せなくなってしまった女性が、言葉を取り戻すために、ギリシャ語教室に通い始める。そこで出会ったのは、徐々に視力を失いつつある男性講師。「失われた言葉と、失われつつある視線を使ってのコミュニケーションは、とても静的で、その密やかさと削ぎ落とされた感じがとても色っぽい。お互い、不自由さを引き受けて、その上で寄り添い、交わし合う言葉や視線。端正な文章、特に終盤の詩のような繊細な世界観に、ため息が出ます」夢や秘密を打ち明ける。その密やかさが官能的。『囚われの島』谷崎由依 著¥1,600/河出書房新社バーで出会った盲目の調律師に魅入られ、主人公の女性新聞記者・由良は彼の部屋へ通う。二人は同じ島の夢を見ていることがわかるが、調律師はその夢に怯えており…。「調律師が語る夢の話を由良が聞くシーンが色っぽい。秘密や夢うつつの昔話、彼が恐れているイメージに二人が共鳴していく雰囲気にゾクゾクします。蚕をめぐる歴史や蚕の生殖の特殊性などが性的なメタファーにもなっていて、何かが起きそうな不穏な空気に酔うような読み心地です」死と隣り合わせの日記には繊細で危うい色気が宿る。『八本脚の蝶』二階堂奥歯 著¥1,200/河出文庫25歳の若さで命を絶った女性編集者が死の直前まで綴った日記と、生前親しかった13人の文章を収録した一冊。「悩んだり葛藤したり、日記の中の彼女は内省を深め自分を追い詰めていきます。完璧主義で繊細で、危うさに満ちた文章からは、自己のあり方に煩悶する、孤独で繊細なたましいの気高さを感じます。彼女は猛烈な読書家だったので、さまざまな本から引用がなされているのですが、特に死生観にまつわる抜き出しや執筆部分が、エロティックです」華やかさとつつましさ。削ぎ落としの美学を堪能。『対岸のヴェネツィア』内田洋子 著¥1,400/集英社長くミラノに住む作者が、イタリア人ですら“暮らしづらい”と言うヴェネツィアで暮らすことを決意。そこで出会った人々や街の様子を綴った12のエッセイ。「どこか人を拒むような雰囲気もある、不便な街・ヴェネツィア。でも内田さんのフィルターを通して見ると、その暮らしづらさまでもが官能的になるから不思議。秀逸なのが、住むことになった部屋との出合いのくだり。窓から見える風景の描写は、私も住んでみたいと思うほど魅力的」ほとばしる熱情をクールな言葉で詠む、抑制の色気。『メタリック』小佐野 彈 著¥2,000/短歌研究社LGBTであることをオープンにしている歌人のデビュー作。370もの短歌が収録されており、恋愛や、世の中の不条理、ままならないことなどへの思いが溢れている。「とにかく“愛を詠む”熱量がすごい。好きな人への気持ちをストレートに詠んでいる、恋文のような短歌がたくさん収録されています。自身のセクシュアリティへのとまどい、叶わない恋に飛び込むみずみずしさ…、抑制が利いたモダンな表現によって、逆に彼の繊細さや孤独感を強く感じます」みうら・あさこライター、ブックカウンセラー。書評やインタビューを中心に、弊誌をはじめ雑誌やウェブメディアで活躍中。※『anan』2020年4月1日号より。写真・中島慶子取材、文・河野友紀(by anan編集部)
2020年03月31日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「年金制度改革」です。年金制度存続のために様々な案が出ています。令和2年の通常国会では、「年金制度改革関連法案」が閣議決定されました。少子高齢化により、このままの状態では、年金制度の存続が危ぶまれています。昨年も老後のお金の問題が大きくニュースになりましたよね。そこで、年金制度の様々な改正案がいま審議されていますが、その一つは、定年を延長して高齢者の働く期間を延ばし、老齢年金の受給開始を60~75歳まで幅をもたせるという案です。受給を先に延ばした人には、そのぶん受給額を増額するというもの。実際、いまの60代はとても若い。60歳以上の働く方々のうち8割が65歳以降も働きたいと答えています。また、働く高齢者の年金を減らすという案も出ています。もう一つ注目されているのは、厚生年金に加入できる人のハードルを下げるというもの。現状では、パート従業員やアルバイトは厚生年金ではなく、国民年金です。しかし、年金の加入と納付は国民の義務にもかかわらず、国民年金は未納者も多くいるので、厚生年金に一本化していこうという改革です。現在は、従業員501人以上の会社が加入要件でしたが、それを段階的に引き下げて、2024年には51人以上の規模の会社であれば厚生年金の対象にしようとしています。これにより新たに65万人、加入者が増えると試算されています。また、自分で掛け金や運用を決められる個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」に加入できる年齢も、20歳以上60歳未満から、65歳未満に変更します。昔は60歳定年で、定年後も年金だけで十分生活ができていました。しかし、高齢者は増えますし、寿命も延びますから、これからは自分でなんとかしなければいけない割合は増えていくと思います。100年時代の人生設計のプランを教えてもらいたいですよね。とくにお金に関する教育は、アメリカやヨーロッパのように、国が積極的にやってほしいと思います。何も知らないままでは、資産運用には怖くて手が出せませんし、失敗しても自己責任と突き放すのは問題なのではないでしょうか。これから何歳まで働くことになるのか。みなさんの将来に関わる問題なので、注目していてください。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)公開中。※『anan』2020年4月1日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年03月30日中島健人(Sexy Zone)と平野紫耀(King & Prince)がW主演、警察学校の学生として最強バディを結成する「未満警察 ミッドナイトランナー」。この度、中島さん、平野さん、それぞれのキャラクター性が色濃く出たポスタービジュアルが完成した。現場経験ゼロ、“警察未満”の本間快と一ノ瀬次郎。理論派と体力派の個性が真逆の2人が、お互いの足りない部分を補いながら、息もつかせぬアクションと推理力で、時にコミカル、時にシリアスに巻き込まれる事件を次々と解決し、最高のバディになっていく本作。今回解禁されたビジュアルは、体を拘束され口元をテープでふさがれながらも、何かに立ち向かうかのような凛々しい表情でこちら側を見つめる、迫力のあるもの。今回公開されたビジュアル以外にも、警察手帳を掲げる2人や、必死に走る2人など、本ポスターのカットを含めた2ショットのカットは8種類。今後、随時公開されていくという。第1話ストーリー新卒で入社した会社を1か月で辞めてしまった本間快(中島健人)は、警察官を目指すべく警察学校に入校する。そこで本間は自分とは正反対の性格の同期・一ノ瀬次郎(平野紫耀)と出会い、2人は男子寮の同じ部屋で新たな生活をスタートさせる。警察学校での過酷な訓練を共に乗り越えていく中で、少しずつ仲を深めていく本間と一ノ瀬。そんなある日、2人は寮の向かいのアクアショップの1階で、謎の美女・楓(真木よう子)が男に暴力をふるわれている姿を目撃。楓を助けるべく、すぐさま寮を抜け出して現場に向かう一ノ瀬。本間は窓から見る光景から、あることに気づくが、すでに一ノ瀬の身には危機が迫っていて……!「未満警察 ミッドナイトランナー」は4月11日より毎週土曜22時~日本テレビ系にて放送。(text:cinemacafe.net)
2020年03月30日『カキフライが無いなら来なかった』で組んだ名コンビ、せきしろさんと又吉直樹さんが、『まさかジープで来るとは』から10年ぶりに帰ってきた!シリーズ第3弾となる『蕎麦湯が来ない』は、連載に、自由律俳句とエッセイを書き下ろしで大量加筆。読み応えもたっぷりだ。「最初の『カキフライ~』が出たとき、僕は29歳で、もうまもなく四十になりますし、その間いろいろありました」(又吉直樹さん)「連載はずっと続いていたので、そんなに間が空いた感覚はなかったんですが…。僕より又吉くんは身辺が変わりましたよね」(せきしろさん)「なにせ相方がニューヨークに行きましたから。俳句の本を出した人間史上初めてじゃないですかね、それ」(又吉さん)と、インタビュー中も息の合ったやりとりが微笑ましい。本書は、ふたりの自由律俳句と、その句に呼応するようなエッセイで構成されている。先に句が浮かびエッセイになるときも、エッセイから句になるときもあるそうだ。決まりがあるようなないような、ゆるいルールが実はキモ。言葉とどう格闘するか、世界を切り取るか。個性的な才人ふたりの化学反応によって、面白さに磨きがかかる。おふたりから見た、自由律俳句の魅力とはなんなのだろう。「僕の場合は、説明したくない、言いたいことだけ言いたいというのがあって、自由律俳句ならそれができるんですよね。いま自分は蕎麦屋にいて、食べ終わってて…と説明なしに、ずばりと『蕎麦湯が来ない』で終われる。その感じは自分に合っているなと思います」(せきしろさん)「共感を引き出せるのが面白いというか。共感というと、みんなが思いつくあるあるネタのように捉えられがちなんですが、『10人いたら5~6人はそこ言うよね』というところは避ける。特にせきしろさんは、絶対詠まないですよね。むしろ、10人いて1人いるかいないかのポイントを突いて、『言われてみればそうだな』と納得させる。せきしろさんの句はご自身が俳句で笑わそうとしているわけではないのに、わかりすぎて笑ってしまいます」(又吉さん)数句取り出してみる。カツ丼喰える程度の憂鬱(又吉直樹)憂鬱を切り裂く保育園児の散歩(せきしろ)コーラを好む老人の過去(せきしろ)路上で卵の殻を剥いていた老人(又吉直樹)同じ言葉が出てきても、見えてくる情景はまるで違う。おふたりも、思いがけない相手の句に驚くこともしばしばらしい。ゆえに、互いが互いのいちばんのファンだと言う。「又吉さんは僕とはまったく違う視点で来るから、かぶることがない。こんなに広い視野を持っている人がいるんだと感心するし、悔しくなるほど虜です」(せきしろさん)「〈すまないがきつねの影絵しかできない〉というせきしろさんの句があるんです。一瞬でわかるというより、謝りながら影絵をやってる彼の状況を想像するとより面白い。噛めば噛むほどといいますが、せきしろさんのはそういう感じ」(又吉さん)ふたり合わせて404句が収録されているが、その3倍は詠み、絞りに絞ったものばかり。「最後の最後まで、差し替えたりしましたね。過去の句と似たものにならないようにするのがけっこう大変なんです」(せきしろさん)「居酒屋のメニューを詠んだ句なんていくつあるのか。砂漠とか行ったことのない場所にでも行かないと浮かばないとか思うけど、だからこそ新しいのがひらめくとうれしい」(又吉さん)ふたりの作風をくくるなら、見過ごせばいいかもしれないことを見過ごせない、そのこだわり。エッセイも然りで、どこかショートショートのような趣が読んでいて楽しい。連載は終わってしまったが、このふたりの無敵のタッグに、まためぐり合いたいと切に願う。『蕎麦湯が来ない』これまでのシリーズでは、写真も著者のふたりが撮影担当していたが、本書では本シリーズを手がけてきたデザイナーの小野英作氏によるもの。404句の自由律俳句と50編の散文を収録。マガジンハウス1400円写真左・せきしろ1970年、北海道生まれ。文筆家。ハガキ職人、構成作家を経て、2006年に初の単著『去年ルノアールで』(小社刊)を出版。『たとえる技術』(文響社)、小説『海辺の週刊大衆』(双葉文庫)ほか、単著、共著多数。写真右・またよし・なおきお笑い芸人、作家。2015年、小説デビュー作『火花』で芥川賞を受賞。小説のほか、随筆や自由律俳句の世界でも才能を発揮。『又吉直樹のヘウレーカ!』(NHK Eテレ)などテレビの冠番組も持つ。※『anan』2020年4月1日号より。写真・中島慶子取材、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2020年03月27日AV女優や作家として活躍している紗倉まなさんが、新作小説『春、死なん』を発売しました。老人、母親、妻、娘…。役割から解放されていく人々を描く純文学。「もともと話し下手なんです。お仕事を始めて書く機会が増えて、文章のほうが推敲して言葉を選べるので好きだな、と思いました」AV女優として人気を博す一方、近年は作家として注目が集まる紗倉まなさん。新作小説『春、死なん』の表題作は70歳の富雄が主人公だ。「私のイベントには年齢が上の方もいらっしゃるので、身近に感じていました。デジタル化が進んでアナログが排除されるなかで、そういう方たちはどう寂しさの補填をするんだろうとも気になっていました」夫婦で田舎に隠居しようとしたが、息子の提案で建てた分離型の2世帯住宅に暮らす富雄。今は妻の喜美代を亡くし、家でアダルト雑誌を眺める日々。親は子供のそばにいるのが嬉しいはず、おじいちゃんには性欲なんてないはず…ありがちなイメージとは違う生身の人間がそこにいる。「おじいちゃんだからこうあるべきとか、母親だからこうすべきといった役割に縛られて可動域が狭まっている人は多いと思うんです」富雄の息子、賢治がリアルだ。孝行息子を演じ、周囲にも役割のイメージを押し付けている印象。ただ、たとえば善良な喜美代が生前、賢治の妻の里香に子作りについて心ない言葉を発し場を凍りつかせたことも。「喜美代に悪気はなく、感覚の世代間ギャップだと思うんです。ただ、懸け橋になるべき賢治が橋を壊すデストロイヤーになっている(苦笑)。この家は一見幸せそうだけど、実は賢治の自己満足が詰まった、寂しい家ですよね」終盤には富雄と里香が思いをぶつける場面があり、そこに一筋の光が。「お互いに役割から解放されて、歩み寄る部分があればいいなと思って書いていきました」併録の「ははばなれ」は、還暦を迎える一人暮らしの母に、恋人がいると知った娘が主人公。「10代からずっと考えてきた女性性について書こうと思いました。母と娘は姉妹のように仲のいい部分もあれば近すぎて反発し合う部分もある。その場合、娘のほうが思うことが多い気がするので、娘視点で書くことに。タイトルは娘が母から自立することと、母親が母親の役割から離れることの二重の意味があります」誠実で切実な描写を堪能したい。紗倉まな『春、死なん』妻を亡くして一人暮らす70歳の富雄は、2世帯住宅に住む息子とも疎遠。ある日、思わぬ再会があって……。表題作と「ははばなれ」を収録。講談社1400円さくら・まな作家、AV女優。1993年生まれ。初小説『最低。』は映画化もされた。他の小説に『凹凸』、エッセイ集に『高専生だった私が出会った世界でたった一つの天職』『働くおっぱい』など。※『anan』2020年3月25日号より。写真・土佐麻理子(紗倉さん)中島慶子(本)インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2020年03月20日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「指定感染症」です。過度に怖がらず、みんなで、変わらぬ日常を送る訓練を。昨年12月に中国の武漢から発生した、新型コロナウイルスによる感染症。日本政府は1月28日に政令を出し、「指定感染症」に定めました。感染症は、感染症法により、危険度によって5つに分類されています。風しんやインフルエンザは五類。マラリア、デング熱は四類、コレラ、細菌性赤痢は三類、SARS、MERS、結核が二類。深刻な被害をもたらすエボラ出血熱、ペストは一類です。新しい感染症に関しては、検証するまでに時間がかかります。そのため、国が患者に対して入院勧告などができるよう、暫定的に「指定感染症」に定めるのです。今回の新型肺炎は、最初にリスクはそれほど高くないといった情報が流れ、WHOも緊急事態宣言を一度見送ってしまい対応が遅れました。実際には、潜伏期間が予想以上に長く、保菌者でも症状が出ない場合があり、そこから感染が広がることがわかりました。感染者はいま(3月6日現在)南極を除く全大陸で見つかっています。中国は強硬策をとり、武漢を封じ込めました。僕は2月末に、元医療ジャーナリストの武漢市民に、ネットを通じて直接話を聞きました。武漢では隔離生活が続いており、粉ミルクなどのモノの調達が厳しくなってきているとのこと。その方の親戚は5人が感染。そのうちガンの持病があった50代の女性1人が死亡しましたが、健康だった30代のいとこ2人は、入院もせず、薬の投与もなく回復しているそうです。WHOと中国の専門家は、2月20日までに感染した患者5万5924人を対象に共同で調査を行いました。それによると、死亡した患者は2114人で致死率は3.8%。ただし、重症化するのは60代以上の持病のある人で、約8割の人の症状は比較的軽く、肺炎の症状が出ない場合もあると報告されました。手洗いをしっかり行い、よく食べよく寝て、免疫をつけておけば必要以上に怖がることはないと思います。今回、多くの企業がテレワークなどを実施しました。これを機に普段から、家にいながら仕事ができる訓練をしておくとよいと思います。日本は災害国ですから、何が起きても日常を過ごせる強い社会を作りましょう。ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)公開中。※『anan』2020年3月25日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年03月18日昨年話題になった、日本の近代図書館の歴史を物語に融合させた『夢見る帝国図書館』など、過去を題材にすることが多かった中島京子さん。新作『キッドの運命』は珍しく、近未来を描く作品集だ。奇妙だけど、どこか羨ましいかも。身近な未来を描くユニークな小説集。「以前、おじいさんがニッポンジンというロボットを作る掌編を書いたことがあって。古き良き日本に幻想を持っている人のイメージですね。その後『小説すばる』の特集で“30年後”というテーマに短編の依頼がきた時にその話を膨らませて書き、そこから近未来の話をいくつか書きました」表題作は旧式ロボットを作る老人と暮らす青年の日常が描かれ、最後に意外な事実が明かされる内容。「SFを書いているつもりはなくて、今の現実がこのまま発展した未来を想像して書いた、という感覚です」と言うように、たとえば人口減でスラム化した高層マンションで老人が失踪する話などは、「最近孤独死という言葉をよく耳にしますが、自分ももしそうなったら、人に迷惑かけない死に方はあるかなと考えて、この話になりました(笑)」どんな死に方なのかはぜひ、作品でお確かめを。また、自然の中で老婦人たちが運動補助機能ロボットを駆使して自給自足の生活を送っている話などは、なんだか羨ましくなる。「近未来小説というとディストピア系が多いですが、これはユートピア小説になりましたね。自分もこんな老後だったら生きていけるだろうな、という方向で書きました(笑)」また、男性が人工子宮で子供を産もうと奮闘する話も微笑ましい展開。「以前、新聞記事にそのうち男性も妊娠するようになるとあって、衝撃を受けたんです。生命倫理の問題は置いといて、男性同士や高齢者同士などいろんなカップルが子供を産めるようになると思ったら、こういう短編を書きたくなりました」他に、人が働く必要性が低下し、「ヒキコモリ」もひとつの生き方として認められるようになった世界の話なども。切なくなる結末もあるが、全体的に、未来の可能性を感じさせる内容になっているのが印象的。「このままだと悲惨な未来になる、とばかり言うのでなく、こうなったら幸せだな、という未来を考えるべきだと思います。未来って、自分たちが考える方向にいくものだから」『キッドの運命』さびれた集落で旧式ロボットを作り続ける老人と一緒に暮らすキッド。ある日、海の向こうから一人の女性がやってきて…。表題作ほか5編。集英社1500円なかじま・きょうこ1964年、東京都生まれ。2003年に『FUTON』で小説家デビュー。’10年に『小さいおうち』で直木賞、’15年に『かたづの!』で柴田錬三郎賞などの三冠を達成するなど、受賞多数。※『anan』2020年3月18日号より。写真・土佐麻理子(中島さん)中島慶子(本)インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2020年03月16日理屈くさい男子大学生に、恋人ができて振られ、事実を受け入れがたいまま妄想が暴走する、森見登美彦さんのデビュー作『太陽の塔』(新潮文庫刊)。森見文学の出発点として今なお根強い人気を誇る一冊だが、そのコミカライズを手がけたのが、本作が連載デビューとなるかしのこおりさん。担当編集者も原作の大ファンで「かしのさんはかわいい女の子を描くのが得意なのですが、男性の多い『モーニング』編集部員を紹介するマンガを描いてもらったところ、デフォルメが上手でこれならいけると思いました」とのこと。たしかに「才能と知性の無駄遣いっぷりは余人の追随を許さない」という主人公の盟友・飾磨(しかま)や、生きている女性に告白されて動揺しまくる山男のような高藪など、中身も見た目もアクの強い男が勢ぞろい。「森見さんの作品に登場するキャラクターはみんな個性的で、とても愛嬌がありますよね。だけど主人公と飾磨の外見は、小説のなかであまり触れられていなかったので、悩みながらも読んで受けた印象を、そのまま素直に絵にしてみました」意外に難しかったというのが、かしのさんが得意なはずの希少な女性キャラ、元恋人の水尾さん。「小説で水尾さんは、主人公の思い出や妄想として出てくるのですが、何を考えているのか見えてこなくて。あるシーンで悩みすぎて森見さんにお聞きしたら、主人公目線でわからないことはわからないままでいい、と言われて納得しました」独特の文体が大きな魅力といえるので、原作に愛着がある人ほどマンガ化を無謀だと思うかもしれない。しかし失恋中の貧乏学生の目に映る京都の景色や、夢と現(うつつ)を行き来する脳内など、文字で記されていることだけでなく、行間からも空気やにおいをすくい取るように、マンガならではの表現にこだわっている。「最初に読んで好きだと思った気持ちのまま、最後まで突っ走った感じです。いい言葉がたくさんありすぎて、泣く泣くカットしたのですが、そのぶん絵でうまく置き換えられたらいいなと思いながら描きました」原作ファンの期待を裏切らず、マンガから入った人も置いてけぼりを食らわない。森見&かしのワールドにどっぷりハマれる、幸せな出会いが生んだコミカライズといえる。『太陽の塔』3終わらない失恋の行方はいかに。クライマックスの「クリスマスええじゃないか騒動」は必見。森見さんのあとがきも収録。原作は新潮文庫(490円)より発売。講談社650円©森見登美彦/新潮社 2003©かしのこおり/講談社かしのこおりマンガ家。「夏の種」(Webコミック「モアイ」で公開中)にて月例賞「モーニングゼロ」2016年8月期佳作受賞。『太陽の塔』が連載デビュー作となる。※『anan』2020年3月18日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2020年03月13日4月期新土曜ドラマ「未満警察 ミッドナイトランナー」の主演・中島健人(Sexy Zone)の収録現場で、3月13日(金)に26歳の誕生日を迎えた中島さんのバースデーサプライズが行われ、W主演の平野紫耀(King & Prince)らが祝福した。本作は、“警察未満”の警察学校の学生、本間快と一ノ瀬次郎がなぜか難事件に巻き込まれ、仲間と刑事の力を借りながらも解決していく本格警察ドラマ。この日、1話クライマックスシーンのリハーサルが終わったタイミングでスタッフから声がかかると、中島さんは驚きながらも「嬉しい!」と大感激。ドラマの中では中島さん演じる本間快を厳しく指導する教官役の伊勢谷友介、助教役の吉瀬美智子も優しい笑顔で見守る中、本間の姿が描かれたバースデーケーキを、本間のバディ・一ノ瀬次郎役の平野さんが運び込み、スタジオは大きな拍手に包まれた。ドラマチームを代表し、平野さんから中島さんに手渡されたプレゼントは、ミッドナイトブルーのバスローブ!受け取った中島さんは「これを着て毎朝現場に入ります」とその場で着てみせた。ろうそくの火を一気に吹き消した中島さんは、「このドラマがみなさんにとっての元気の源になれたらと思います。何より、次郎という人生最高のバディと思える人間に出会えたので、このバディと、みなさんと一緒に、日本を元気づけたいです!」と熱く語っていた。新土曜ドラマ「未満警察 ミッドナイトランナー」は4月11日より毎週土曜22時~日本テレビ系にて放送。(text:cinemacafe.net)
2020年03月13日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「災害関連死」です。直接死を上回る死。明日の我が身の自衛を心がけよう。3月11日で東日本大震災から丸9年経ちます。震災を機に注目されるようになったのが「災害関連死」でした。地震や津波で命を落とすのは「直接死」ですが、その後の長引く避難生活や生活環境の変化により、持病を悪化させたり、孤独死してしまったケースを「災害関連死」「震災関連死」と呼びます。これには自殺も含まれます。自宅で安定した生活をしていれば、たとえば、血圧もコントロールできますが、避難生活を強いられ、おにぎりとお菓子しかない食事が続けば、たちまちコントロールがきかなくなります。避難所から復興住宅や仮設住宅に移り、地域の仲間もバラバラ、家族もなく、隣近所も知らない人ばかりのプレハブ小屋の生活が長引けば、寂しさが募り、お菓子を食べ続けてしまうなどして症状を悪くさせることもあるでしょう。福島で原発作業に携わっていた人のなかには、過酷な労働環境のなか、限られた食生活で長期の作業を強いられ、体調を悪化させた人が大勢いました。震災後、東京大学から志願して相馬中央病院に出向した坪倉正治医師は、「原発事故以降の健康被害といえば、放射線の影響ばかりクローズアップされるが、実際に亡くなった方の原因の多くは、持病の生活習慣病の悪化である」と語っています。令和元年9月現在、福島県では直接死の1613人に対して、災害関連死は2286人と、大きく上回りました。災害関連死で亡くなった方は、地域のコミュニティをまるごと移管して街づくりをするとか、お年寄りを孤立させないよう積極的に声がけをするなど、きめ細かな支援をすれば救えたかもしれません。災害に遭い、幸い生き延びたとしてもその後の環境により死者が生まれていることはぜひ覚えておいてください。災害が起きれば、普段当たり前にできていることがすべて崩れます。水が手に入らず、毎日炭酸飲料を飲むことになるかもしれません。いつもの化粧品や薬、嗜好品が手に入らなくなるかもしれません。家族が孤立をしてしまうかもしれません。普段から近隣の方と挨拶しておくなど、日常を維持できなくなったときのことをイメージして自衛しておくことをお勧めします。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)公開中。※『anan』2020年3月18日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年03月11日4月期の田中圭主演ドラマ「らせんの迷宮~DNA科学捜査~」のヒロインとして倉科カナと松坂慶子の出演が決定。さらに渡辺いっけい、中田圭祐の出演も明らかになった。「DNAは嘘をつかない」が口癖で、32億桁の遺伝子配列を記憶するという天才遺伝子科学者が、熱血刑事や科捜研の美女と共に難事件や未解決事件を解き明かし、遺伝子捜査の裏にある人間の業に迫るミステリー漫画「らせんの迷宮―遺伝子捜査―」(作:夏緑、画:菊田洋之)をドラマ化する本作。すでに、その天才遺伝子科学者・神保仁を田中さんが、彼と事件解決のためタッグを組む熱血刑事・安堂源次を安田顕が演じることが決定している。そんな中今回、2人を取り巻く個性豊かなキャラクターを演じるレギュラーキャストが発表された。まず、倉科さんが演じるのは、警視庁科学捜査研究所の美女・乱原流奈。優秀で明るい性格の彼女は、研究所にいるだけでなく、源次たち刑事と共に現場にも臨場する行動派。神保と源次の捜査に進んで協力する人物だ。「原作のキャラクターとは色合いが少し違いますが」と明かす倉科さんは、「新しい乱原流奈を作り、生きていけたらなと思います」と意気込み、「脚本以上に新しいものが次々と生まれていくのではないかと思えるキャストのみなさんとご一緒させていただけることが、今から楽しみでなりません」と期待を寄せている。また、松坂さんが演じるのは、スナック「ゲ呑ム」のママ・馬場ゆかり。神保に「ゲ呑ム」の上の階にある部屋を間借りさせ、食事などを作ってあげたり何かと面倒をみており、「ゲ呑ム」をたまり場とするようになった源次たちにとっても、良き相談相手となっていく。また何らかの過去を抱えているようで、大人の謎めいた女性でもある。「脚本がとても面白く、引き込まれました」と話す松坂さんは、「田中圭さんとご一緒にお仕事ができる事も楽しみです。役のイメージをふくらませているところです」と撮影が楽しみだと話している。さらに、原作にはないドラマオリジナルキャラクターとして、警視庁捜査一課・課長で安堂の上司・栗原四郎役を渡辺さん。警視庁捜査一課・巡査で安堂班の若手刑事・瓜生夏樹役を、「花のち晴れ~花男 Next Season~」や現在放送中の「シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う。」にも出演する中田さんが演じることも決定。源次の勝手な行動にいつも頭を悩ませている課長・栗原四郎。今回この人物について渡辺さんは「僕はヤスケン演じる安堂の上司役。叩き上げで熱い安堂の長所と短所を知り尽くしている設定なので、その空気感をうまく出せたらなと。きっとヤスケンはググッと役に入り込みますからね、なるべく現場では話しかけないようにしようと思います。久しぶりの共演だから積もる話もあるし話しかけたいけどね、我慢しますっ!」とコメント。「自身初の実年齢より年上の役なのと、なんと警視庁捜査一課の一員。正直、期待と不安でいっぱいです」と心境を明かした中田さんは、「瓜生は、事件の詳細や、現場の状況など大事な情報を伝える大切な役だと思いました。そして、主任(安堂刑事)の右腕としての関係性をしっかりと築いていきたいです。僕は、プライベートでも主任みたいなアツイ人が大好きなので勢いに負けずしっかりと食らいついていきたいです」と力強く意気込んでいる。金曜8時のドラマ「らせんの迷宮~DNA科学捜査~」は4月24日より毎週金曜日20時~テレビ東京ほかにて放送(初回2時間SP)。(cinemacafe.net)
2020年03月10日リアルに流行っているモノやコトを、乃木坂46メンバーが等身大のリアクションでレポートする大人気シリーズ。女子的トレンド3年の歩みを4期生の筒井あやめさん、賀喜遥香さん、遠藤さくらさんと一緒に振り返ります。すべてはここから始まった。食と美の最前線、全部盛り。美人姉妹のポートレートのような表紙が麗しすぎる2017年刊行の第1号。フードから美容、ファッション、健康まで。女子の旺盛な好奇心をそのまま反映した幅広いジャンルから厳選したトレンドを乃木坂46メンバーが女子代表として体験&レポート。リアルトレンドを女子目線でさらにリアルに!という独自スタイルが完成した。食レポにモード撮影に豪華メンバーが集結!メンバーがお店で誌上食レポに挑戦するフードページを中心に美容、ファッションまで幅広いジャンルを詰め込んだシリーズ第1号。フードは「ビジュアルサラダ」や社会現象にもなったパクチーなど、ヘルシーで色鮮やかなメニューが続き、翌年の“映え系”旋風を予感させる内容に。一方、日本茶などの永久定番を女子好みにアップデートした進化系グルメも流行った。熟成肉&赤身肉人気を反映した「もりもり女子肉」は焼き肉を頬張る西野七瀬さんのかわいさも話題に!当時としては珍しかった“乃木坂46×ファッション”では白石麻衣さんと齋藤飛鳥さんが秋の注目ルックを紹介。さらに連載のロングインタビューは永遠のカリスマ・生駒里奈さん!…と、果てしなく豪華な顔ぶれが並ぶ。「日頃、生駒さんの映像を拝見して表情を学んでいますが、やっぱり生駒さんはかっこいい方…!同じ舞台に立ちたかったです」(遠藤さん)一方、デビューして日の浅い3期生の初々しい姿も。「みなさん加入後まもないとは思えない美しさ…尊敬しかありません!」(賀喜さん)全ページ全力で楽しむメンバーの姿とリアルな感想が流行モノを一層いきいきと見せてくれた一冊でした。より幅広いジャンルで内容もページも一層厚く。前年の大反響に応えるように、大幅増ページで帰ってきた2018年秋の第2弾!食、健康、ファッション、さらにゲームなどのカルチャーコーナーも加わって、より幅広いジャンルの流行モノを網羅。仲良し女子の温泉旅行を思わせる表紙グラビアでは、レアな温泉浴衣姿も話題に。ビジュアルも内容も充実の一冊を振り返ります。温もりグルメに温泉浴衣。身も心も温まる秋冬号。第2弾は9月末の発売。体を温めるスパイス料理や当時大行列ができた飲茶、芋栗スイーツなど、寒い季節に食べたいあったか系や秋の旬食材が揃った。さらにSNS時代を反映して、とろ〜りチーズや塊肉などのフォトジェニックグルメも。目にもおいしい料理の数々に「食べるの大好き!」な遠藤さんも目移り。「特にお肉が好きなので、いつか東京で流行りのお肉の店を取材したいです!でも私から先輩をお誘いするのはおそれ多いので一人で…」と、一人肉レポ宣言!?全国区のトレンドだけでなく、メンバーのマイブームも徹底追求。孤高のゲーマー・西野七瀬さんのゲームレポ、伊藤かりんさんが将棋を語り、佐々木琴子さんがロシア愛を告白するマニアックな偏愛ページも。個性派揃いの乃木坂46メンバーだからこその企画がてんこ盛り。グラビアはオフの旅を思わせる、ゆるやかな世界。「女子の流行モノ」はこの号がラストとなる西野さんをはじめとした“お泊まり選抜”7人。その美しさは未加入だった4期生3人にも鮮烈だったよう。「白石さん、西野さん、齋藤さんのスリーショットを拝見した時、乃木坂46は本当にすごいグループなんだと痛感しました」(賀喜さん)1期生から4期生まで43名が総力戦で挑んだ最新号。昨年秋発売の3号目。4期生も交えた乃木坂46全メンバーが食レポからファッション撮影、残暑の外ロケまで東京中をパワフルにかけめぐり、最新の流行モノを体当たり取材。4期生の遠藤さん、賀喜さん、筒井さんも緊張の面持ちでお姉さんメンバーと共に表紙を飾り、シリーズに新風を吹き込んでくれました。ノスタルジックな味が一周回って新鮮に!3号目は4期生の初登場号。表紙で4期生3人組が憧れの先輩とドキドキの共演!「とにかく先輩方が美しくて。特に白石さんのお姫さまのようなふんわりスカート姿が忘れられません!」と筒井さん。遠藤さんも「飛鳥さんと堀さんの撮影を、隅っこから見学してました」と、あの日の緊張を振り返る。食では台湾フードやチーズティーなどのアジア勢が台頭。恒例の肉企画は焼き肉の基本「タレ焼肉」、さらに昭和な洋菓子「かたいプリン」も登場。懐かしの味が一周回って新鮮に?筒井さんは遠藤さんとかたいプリンを体験。「おいしかったし、雰囲気も素敵でした。最近も一人で喫茶店めぐりをしています」と“喫茶沼”にハマったことを告白。カルチャー方面ではお姉さんメンバーが後輩と趣味を堪能。「海外NEOコスメ」ではトレンドセッター・堀さんが岩本さんと最新コスメを語り、「フィルムカメラ」では渡辺みり愛さんが伊藤理々杏さんに撮影の手ほどき。趣味を推すその言葉に熱がこもった。熱いといえば全員アンケートによる「『マイブーム』名鑑」。イラストを交えた直筆で、意外な画伯っぷりも判明…!と進化し続ける『女子の流行モノ』。さて、4号目の展開は…?つつい・あやめ2004年6 月8 日生まれ、愛知県出身。しっかり者の4期生最年少、15歳。特技は編み物でマイブームは一人雑貨屋さん&喫茶店めぐり。愛称あやめん。かき・はるか2001年8月8日生まれ、栃木県出身。大きな瞳の清楚美人。特技はイラスト、マイブームは休日に集中作製する手作りドールハウス。愛称かっきー。えんどう・さくら2001年10月3日生まれ、愛知県出身。小顔と長い手足の次世代エース。マイブームは名湯シリーズの入浴剤を入れてのバスタイム。愛称さくちゃん。※『anan』2020年3月11日号より。写真・中島慶子取材、文・大澤千穂(by anan編集部)
2020年03月09日ふいに聞こえてきたセリフから妄想を展開する、劇作家の根本宗子さん。今回の妄想主役は「今まで登場した、全ての妄想主役たち、と根本宗子」です。行きつけの中華料理屋の看板店員おばちゃんから、会話が気になりすぎるカップル、テーマパークで見つけた謎おじさん、などなど、日常の中でふと出会った人々の言動から、時に鋭く、時に優しく、時に斜めの方向に妄想を広げる根本宗子さんの連載「妄想スイッチ」。今回は、過去の連載を振り返るインタビューをお届けします。まずは、根本さんにとって“妄想が広がってしまう可愛い人”とは?「私が可愛いと思ってしまうのは、どこか抜けている人。昔から、食べている途中で食べ物がお箸やスプーンからこぼれてしまう人を見るのが好きなんです。“かわいそう”と“可愛い”が入り交じった感情を抱くというか。あと、ケーキを知り合いと食べに行って切り分けた時、お皿の上のケーキが倒れちゃってる人、好きですね!わりと私も倒れがちで、自分だと悲しいんですが…。不幸までいかない、ちょっとしたアクシデントに遭遇しがちな人は、つい見てしまいます」“妄想主役”で特に印象に残っているのは?「すぐ思い浮かぶのは、マキ・コニクソンさんですね(第30回に登場した高橋みなみさんと朝井リョウさんのラジオで知ったハワイ在住のコーディネーターさん)。掲載直後に朝井さんから“イジりすぎ!”と注意を受けました(笑)。(過去の連載ファイルを見ながら)あ、この行きつけのマッサージ店ののざきさん、やめちゃったんですよね…。このベローチェのピンクのおじさん4人組は、映画が撮れそうなくらいのインパクトがありました。広いベローチェって、ソファ席があって大体年配の方で埋まっているのですが、そこに逸材がいるんですよ。でも、ロンドン滞在時期が、一番この連載向けのネタがあったかもしれない。言葉がわからないから妄想せざるを得なくて」そんな根本さんの妄想主役を見つける力は、生まれながらに持つ、ある能力が関係しているとか。「子供の頃から、人が喋ってる内容がすごく耳に入ってきちゃうんですよ。ファミレスにいる時も、どの席の人が何を話していたか、けっこう覚えています。小学生の時のあだ名は『聖徳太子』。授業中友達とベラベラ話していても、先生に今何を言っていたか質問されると全部答えられるという。先生からするとイヤな子ですよね(笑)」連載を始めた当初は、ちょっと斜めから人を見て、“こういうイヤなところがあるんじゃないか”という視点で妄想を広げていたと話す根本さん。でも、ある時から書き方が変わったという。「いろんな雑誌などを読んでいて、他人のことをバカにして笑いをとる人が多いなと感じて。それを自分でやるのはイヤだなと。そこから、書き方が変わったかもしれないですね」最後に、可愛らしく生きていきたいと思っているanan読者にメッセージを送るなら?「『“行きたい!”とか、“いいなー!”を素直に言えたほうがいいと思います』ということでしょうか。私は言えないんです…。きっとそういう人のほうが友達も多くて、楽しく毎日を過ごせるんじゃないかな(妄想)。私は、ほんとに“いい!”とか“面白い!”とか思っている時ほど、相手に“こいつ、ほんとは思っていないのに言ってるんじゃないか?”と思われているんじゃないかと妄想しちゃって、結局何も言えない…。楽屋挨拶でも、感想をボソボソ喋ってコソコソして見えるのか、『楽屋泥棒』ってあだ名をつけられました(笑)。友達の持ち物を可愛いと思って同じものを買っても、“真似したな”と思われるのがイヤで一度も使えなかったり。でも、その性格が、この連載に役立っているのかもしれないですね。50周年以降も、どうぞよろしくお願いいたします!」ねもと・しゅうこ1989年、東京都生まれの劇作家。2009年に劇団、月刊「根本宗子」を旗揚げし、すべての公演の作・演出を手がける。女優としても活躍。※『anan』2020年3月11日号より。写真・中島慶子スタイリスト・東 佳苗ヘア&メイク・Masayo衣装協力・rurumu:(by anan編集部)
2020年03月05日マンガ『レッド・ベルベット』の著者・多田由美さんに、作品に込めた思いを聞きました。絵を読み、物語の世界に浸る映画のようなマンガ体験。‘86年にデビューし、現在活躍しているマンガ家にも一目置かれている多田由美さん。現在は大学でマンガを教える側にも回っているのだが、待望の連載である『レッド・ベルベット』は、以前からのファンはもちろん、多田さんのマンガを初めて手に取る人にも、独特の体験を与えてくれるような作品となっている。「古いファンが読んで、作風が全然違うとびっくりするかなと思い、昔と差が出ないようにしたら、暗い話になってしまいました(笑)」登場するのは、アールとランディというふたりの少年。物語は映画の回想シーンのように、ケーキ店を営む幼いアールの母親が急死する場面から始まる。時が過ぎ、高校生になったアールは、母が残したケーキのレシピを集めることに執着し、幼なじみのランディは母の入院費を稼ぐべく、窃盗団と関わりを持つようになり、どんどん深みにハマっていく。「問題を抱えている人を描くのが好きなんです。一生懸命生きようとしているけど困難に立ち向かえず、言い訳をして逃げちゃうような弱い人が、なぜか放っておけないんですよね。アールとランディは、ふたりでようやくひとりの真人間になれるような関係性。どちらも自分のほうが強くて、しっかりしていると思っているのかもしれないですね」お互いのことを思いやるあまり、自分の弱さを見せられないふたりの成長が描かれていくのだが、ぜひとも注目してほしいのが、独特のマンガ体験を可能にしている、その表現力。ナレーションや擬音のような状況説明を極力排し、絵で見せることに重きを置いているのだが、ロサンゼルスという舞台設定も相まって、ノスタルジックなアメリカ映画を観ているような気分に浸ることが。「まず頭に映像が浮かぶので、カメラをコントロールする感覚でカットを考えながら、見たままを描いていくんです。構図はかなり気にしていますね。言葉に関しても語りすぎるとぼやけてしまう気がして、大事なところを目立たせるために、前後をあえて省いたりしています。伝わるかどうかギリギリだなと思いつつ、画力頼みというか、絵で頑張ったらいけるかなと必死に描いてます」物事が思うようにいかないふたりの姿は、見ていて苦しくなってしまうが、やはりそれも物語の醍醐味。「暗い始まりで、暗い途中で、暗い終わりだったら描く意味がないですよ!ただ暗いだけなのは、作品ではないような気がするんですよね」その言葉を信じて、彼らの選択を見守っていこう。多田由美『レッド・ベルベット』2犯行計画に巻き込まれるランディと、母のケーキ店を再開すべく動きだすアールの行く末は……。約15年ぶり、かつ多田さん史上最長の連載作としても話題。講談社1150円©多田由美/講談社ただ・ゆみ1986年『月刊ASUKA』でデビュー。以後短編集を多く手がけ、イラストレーターとしても活躍。現在は神戸芸術工科大学で教鞭をとる。※『anan』2020年3月4日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2020年02月27日小説『最高の任務』について、著者・乗代雄介さんに話を聞きました。叔母との記憶、家族との小旅行。注目作家が描く、優しい“任務”。芥川賞ノミネート作を表題作に置く乗代雄介さんの『最高の任務』。収録の2作とも、語り手が書いている文章、という体裁だ。「主人公がなぜ語っているのか、ということに必然性を持たせたいので、自然とそういう形式になります」「最高の任務」の語り手は、大好きな叔母を亡くし休学するほどダメージを受けた阿佐美景子。大学の卒業式の後、家族に誘われ北関東への列車の旅に出るのだが、どうも家族には生前の叔母に託された“任務”がある様子…。景子はデビュー作『十七八より』や中編「未熟な同感者」(『本物の読書家』収録)と同じ語り手だが、今回の作品は、「北関東に出かけては自然描写の練習をしていた頃、アーティストのミヤギフトシさんからグループ展に誘われ、その小旅行のことを短文で書いたんです。それと、その頃モームやランサムなどスパイ活動をしていた作家の本を読んでいたので、その影響も反映されていますね」旅の道中、景子の過去の日記もひもとかれ、叔母との北関東への小旅行の思い出も重なっていく構造だ。「同じ場所に向かう時、はじめて行く時と2回目に行く時とはまた違う。そういう記憶を連動させたかった」作中、実在の本の題名も多数登場。「その時考えていることを全部入れこむ枠組みを考えるので、実際に読んで影響を受けたものは書きます」景子はもちろん、教養あふれる叔母や言動が可愛い弟が魅力的。「周囲の人物はエピソードの集合で作りあげている感覚ですが、主人公は登場人物というより、自分と影響を与え合う存在というか。書いていると日頃自分が考えている言葉が出てきたり、逆に自分には思いもよらない言葉が出てきたりするので」心がざわつくのは列車の中で景子が痴漢に遭遇する場面。前2作でも性的にゾワリとする場面があるが、「毎回、書き手の自分と語り手が影響し合うなかで、そうした部分が出てくる。いつも(景子の大きな話の流れの中の)一部分を区切って書いている感覚なので、今回もそこを無視するわけにはいきませんでした」そして最後に明かされる、叔母を含めた家族の思いに目頭が熱くなる。併録の「生き方の問題」は、ある男から従姉に宛てた手紙という形式で、こちらも最後にぐっとくる。ぜひ。乗代雄介『最高の任務』大学卒業式の後で両親、弟に連れられて北関東への日帰り旅行に出た阿佐美景子。亡き叔母の記憶も重なり、やがてある事実が明かされて…。講談社1550円のりしろ・ゆうすけ1986年、北海道生まれ。2015年、「十七八より」で群像新人文学賞を受賞しデビュー。‘18年、『本物の読書家』で野間文芸新人賞を受賞。今年本作の表題作「最高の任務」が芥川賞の候補に。※『anan』2020年3月4日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2020年02月26日WOWOWプライムでは3月1日(日)、アカデミー賞授賞式のWOWOWスペシャルゲストを務めた「Sexy Zone」中島健人が出演する特番「中島健人 ハリウッドの風を探して」を放送。授賞式当日、中島さんがレッドカーペット上に立つ写真も到着した。『パラサイト 半地下の家族』がアジア作品・外国語映画として初めて作品賞を受賞したことや、松たか子が日本人として初の歌唱パフォーマンスを披露したことなど、日本でも賑わいをみせた「第92回アカデミー賞授賞式」。WOWOWでは、そんな授賞式の様子を現地から生中継、中島さんがスペシャルゲストを務めた。今回、現地レッドカーペットよりリポートを行った中島さんと共に熱狂のオスカーナイトをふり返る特番では、授賞式直後、興奮冷めやらぬ中島さんへのインタビューを中心に、授賞式前日から当日にかけての中島さんの取材裏側の模様も放送される。「(スペシャルゲストに)決まってからの2ヶ月間は、緊張と嬉しさ半々で、この日をめがけて生きてきたみたいな感じです」と大役への思いを明かしていた中島さん。事前に質問内容を英語で準備し、主演女優賞を獲得した『ジュディ 虹の彼方に』のレネー・ゼルウィガーをはじめ豪華ハリウッドスターにインタビューを実施。「授賞式までのストロークを見られたというのも感動ですし、これがアカデミー賞なのかとひしひしと感じられました」とレッドカーペットでのインタビューをふり返っている。「中島健人 ハリウッドの風を探して」は3月1日(日)21時30分~WOWOWプライムにて放送。「第92回アカデミー賞授賞式ダイジェスト」は3月1日(日)22時~[字幕版]はWOWOWプライムにて放送。(cinemacafe.net)
2020年02月26日共に劇団東京乾電池に所属し、付き合いは40年以上。そんな綾田俊樹さんとベンガルさんによるユニットが綾ベン企画。今回の『川のほとりで3賢人』では、ゲストに広岡由里子さんを迎え、多摩川河川敷に暮らすホームレスと謎の女との、切なくもおかしな物語を繰り広げる。ベンガル:もともとは、劇団主宰の柄本(明)が難しい芝居ばっかりやりたがるから、じゃあ僕と綾田で違う芝居をやろうと20年くらい前に始めたのが、このユニットなんだよね。綾田:僕らは馬鹿馬鹿しい芝居をしようってことで。ベンガル:ただ、ここしばらくユニットの活動をしてなかったんだけど、周りからの要望が大きくて。そしたら映画監督の平山(秀幸)さんが「俺が演出やるよ」って言ってくださったんですよ。綾田:平山さん自身、演劇が好きで東京乾電池の舞台もすごく昔から観てくれているんだよね。ベンガル:うん。綾ベン企画も観てくれてたし。僕、平山監督の映画の長回しの撮影が好きで。やる側にしたら、すごい緊張感なんだけど。綾田:しかも平山さんって、あまり細かい指示は出さずに、役者のやる芝居を大事にしてくださるんだよね。そういう人だから、僕らの芝居をちゃんと見てくださるだろうと思って、今回の演出をお願いしました。ベンガル:脚本を書いているのもうちの劇団員なんですが、それも平山監督の案。彼のやってる劇団の芝居を観て「書いてもらおう」って。綾田:結構面白いと思うよ。僕は前からホームレスの人たちのドキュメンタリーとかも見たりするくらい興味がある題材だったし。ベンガル:今回、こういう題材をやるってなって、みんなで多摩川の河川敷に行って話を聞いたりもしたんだけど、緊張感ありましたね。綾田:最初は話してくれるか心配したけど、結構してくれたよね。ベンガル:でも、シリアスな状況ほど何か笑いがこみ上げてくることってあるでしょ。そういう得体の知れない怖さも含めて、深刻なのに面白おかしいものになったらいいかなと。あと注目してほしいのは客演の広岡。うちの劇団の元最優等生。綾田:なかなか根性据わってる面白い女優。ベンガル:ここに入ったら絶対に面白くなるよ。だって、アイツ変だから(笑)。綾田:この舞台が、世の中にこんな人たちもいるんだっていう視野を広げるきっかけになればと思ってます。あと、イケメンが出てない芝居も楽しいし、カッコ悪いオッサンも面白いですよ、ってことですかね。『川のほとりで3賢人』多摩川の河川敷に住むふたりのホームレス(綾田、ベンガル)の元に、額に絆創膏を貼った福祉課の馬場マチコ(広岡)が訪ねてきた。その日から、徐々にふたりの生活が乱されていき…。2月21日(金)~3月1日(日)下北沢 駅前劇場作/てっかんマスター演出/平山秀幸出演/綾田俊樹、ベンガル、広岡由里子全席指定4500円(税込み)ほかサンライズプロモーション東京 TEL:0570・00・3337(月~金曜12:00~18:00)あやた・としき(写真・左)1950年生まれ。奈良県出身。自由劇場を経て、’76年に柄本明らと劇団東京乾電池を結成。俳優の傍ら、舞台の演出も手がけている。近作に映画『閉鎖病棟』、ドラマ『トップナイフ』などがある。ベンガル(写真・右)1951年生まれ。東京都出身。自由劇場を経て、’76年に柄本明らと劇団東京乾電池を結成。ドラマ『あぶない刑事』などで知られ、近作にはドラマ『3年A組』など。2月28日には出演映画『初恋』が公開。※『anan』2020年2月26日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2020年02月25日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「民主主義の歪(ひず)み」です。歪みが生まれたもとにあるのは、果てなき欲望。香港をはじめ、世界中で政府に抗議をするデモが行われています。フランスの黄色いベスト運動は1年以上続いていますし、南米チリでは地下鉄の値上げを発端に、抗議運動が暴徒化しました。昨年、ベルリンの壁崩壊から30年がたちましたが、せっかく自由を得たというのに、旧東欧諸国には民主主義を否定する声も上がっています。なぜ、民主主義にこのような歪みが生じてしまったのか。理由のひとつには、グローバル化により、世界における経済の回る速度がものすごく速くなったことが挙げられるでしょう。ベルリンの壁崩壊のころに比べ、金融の仕組みも変わり、インターネットを使ったサービス、流通網が世界に広がりました。人も情報もお金もスピードを増して行き交います。そんななか、多くの民の意見をぶつけあいながら物事を地道に進めていく民主主義は、決定までに時間がかかる。それよりも強い決断力を持つ国家元首の存在が、国民生活の向上には必要だという空気を生み、アメリカンファーストのトランプ大統領や、EUからの離脱を目指す英国のボリス・ジョンソン首相が生まれ、中国の習近平国家主席やロシアのプーチン大統領が盤石の体制を築きました。しかし、それはあくまで経済発展を基準にした価値観です。独裁的なトップのスピーディな決定により、開発のために個人の土地が強制的に奪われるようなことが、カンボジアやアフリカや南米で起きています。個人の尊厳に価値を置いて世界を見渡せば、個人が国家に弾圧されている状態。それは、民主主義が欲望に耐えられなかった結果なのだと思います。賃金格差が広がり、教育格差が固定されてしまうと、階層社会の下層に追いやられてしまった人は、這い上がることができなくなります。生活の安定を求めて共産主義的なものを求める貧困層と、資本を持ち、大きな力で帝国を築こうとする国家主義がぶつかりあう。これは、第一次世界大戦、第二次世界大戦の始まるころの構図とよく似ているのです。いま個人に最も必要なのは、自分の尊厳を維持できるかどうか。「仕方がない」と魂を売らずに、誇りを持って自分を大切にしてほしいなと思います。ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。映画『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)が3月7日公開。※『anan』2020年1月22日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年01月15日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「反緊縮」です。先に借金を減らすか雇用をまず生むか日本は揺れている。現在、世界で「反緊縮(財政)」を支持する声が広がっています。緊縮財政とは、増税や公共投資の削減により、国の支出を減らして財政を縮小することです。経済危機に陥ったギリシャは、EUから緊縮財政を促され、公共工事や公務員の数を減らしました。そうして赤字国債の発行を抑え、国の借金を減らそうとしたのです。しかし、緊縮財政にすると失業者が増え、国民の消費は冷え込み、経済がよいほうに転じません。それよりも、まず先に国はお金を投入して公共工事をガンガン増やす。そうすれば、労働力、資材、業者が必要になり、新たな雇用が生まれます。長期工事になれば、ホテルや食堂の需要も喚起されます。緊縮財政よりも「反緊縮」財政策をと、いま、アメリカやフランスなどでも反緊縮ムードが高まっているのです。日本では、2013年のアベノミクス第1第2の矢で、大胆な金融緩和と大規模な公共投資を掲げていました。雇用をまず生んでから消費の活性化を狙う、いわば反緊縮策でした。ところが、日本の慢性的な財政赤字に、国際社会から「そんなに負債を抱えて大丈夫?」という指摘がなされました。IMF(国際通貨基金)によると、日本の債務残高は、GDP比で237.7%。ドイツの58.6%やアメリカの106.2%に比べてダントツの多さ。財政健全度ランキングでは最下位の188位でした。そこで、安倍政権は、2020年度までにプライマリーバランス(基礎的財政収支)を黒字にすると約束。緊縮財政に転じ、「だから、安心して日本に投資してください」とアピールしました。しかし、目標達成は難しく、期日は延期されました。日本の借金は、国債を発行してまかなわれています。国債を購入しているのは日本銀行や民間の銀行。ほぼ日本人なので、国全体でみれば、借金を増やしても同等の資産が日本に貯まるため、財政破綻はしないと考えられています。しかし、国債を買う日本人は減少傾向。一方、高齢化により医療費や社会保障費は嵩み、国の借金は膨らむばかり。借金を返したいのなら、増税ではなく反緊縮に舵を切れと、れいわ新選組などが主張しているのです。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。映画『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)が3月7日公開。※『anan』2020年1月15日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年01月09日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「日本人の英語力」です。国費を投じても、グローバルな人材を育成すべきです。2020年度から始まる大学入学共通テストで活用される予定だった、英語民間試験の導入が延期になりました。従来の試験では「読む・聞く」能力を問いますが、実践的な英語を身につけるには、「読む・聞く・話す・書く」が必須。この4技能を測るテストを一から作るには技術もコストもかかるため、7種類の民間試験の導入が提案されていました。しかし、受験生の家庭の経済力や、都市部と地方でも受験機会に差が出て、公平性に欠けると問題になり、延期が決まりました。スイスの国際語学教育機関の調べによると、日本の英語力は非英語圏の中では100か国中53位。中国や韓国を大きく下回り、‘18年より4位順位を下げています。日本の英語教育が遅れたのは、日本語だけで事足りる、非グローバル社会だったからだと思います。かつて日本が一流の消費国だった時代は、貿易が盛んでした。しかし、経済が下降し日本は世界から、商売相手として認められなくなりました。かつての日本は長い間、人件費の高い国でしたが、今は円安政策を行っており、人件費も物価も安くなっています。今後、世界の労働産業で、日本は使う側から、使われる側に回らざるを得なくなるでしょう。今、日本人にとって英語教育はとても重要なのに、英語民間試験の問題が起きました。国策にグローバル感覚がないことが明らかになったと思います。国力の低下を正面から受け止められず、格差の現状から目をそらし、一部の業界への利益誘導に終始した結果です。本来ならば、海外で勉強したい学生は、国費を投入してでもどんどん送り出していくべきなのだと思います。そうして、海外との競争力をつけ、日本市場以外でも生きていける日本人を育てることが、多くの問題を抱える日本の打開策でもあり、国の役割なんじゃないかと思います。英語はあくまでコミュニケーションツール。日本人は発音や文法の正確さにこだわりますが、移民の多いアメリカなどでは、訛りや誤りなど気にせず自由に話しています。語学力以上に問われるのが自分の意見です。考えを言語化して伝える習慣を、まずは日本語でつける教育改革が必要でしょう。堀潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。映画『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)が’20年3月7日公開。※『anan』2019年1月1日-8日合併号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2020年01月06日宮崎あおい、永山瑛太、松坂慶子、松重豊らが共演する「渡る世間は鬼ばかり」の石井ふく子プロデューサーによる新春ドラマ特別企画「あしたの家族」が1月5日(日)、TBS系で放送される。昨年、宮崎さんと大泉洋が共演した「あにいもうと」に続く石井プロデューサーの特別企画となる本作。小野寺理紗は、4年前の結婚式当日に新郎に逃げられたという過去を持つが、今は立ち直っている。理紗の父・俊作と母・真知子は、娘夫婦と同居するために大きな二世帯住宅を建てるも思惑が外れ、広い家に両親と理紗の3人で暮らす毎日を送っていた。製菓会社の営業部長だった俊作だが人事異動で別の部に配属されることに。そこに兵頭幸太郎が新部長として着任する。かつての俊作の部下だった幸太郎が上司になったことに俊作の心境は複雑だ。ある日理紗がプロポーズされたと言って恋人の兵頭幸太郎を連れてきた。なんと、幸太郎は俊作の職場の元部下で、しかも現在は自分の上司だった…というのが本作のストーリー。理紗役には大河ドラマ「篤姫」で主演を務め、『舟を編む』や『怒り』では日本アカデミー賞に輝いた宮崎さん。幸太郎役には『余命1ヶ月の花嫁』『ディア・ドクター』などの映画から「ハロー張りネズミ」「anone」といったドラマまで幅広く活躍する永山さん。理紗の父・俊作には大人気の「孤独のグルメ」シリーズや大河ドラマ「いだてん」、映画『引っ越し大名!』などの松重さん。母の真知子に『蒲田行進曲』から『人魚の眠る家』まで数えきれないほどの作品に出演してきた名女優、松坂さん。この4人を取り巻く登場人物として一路真輝、六平直政、渋谷飛鳥、近藤芳正、田村健太郎らも共演する。新春ドラマ特別企画「あしたの家族」は2020年1月5日(日)21時~TBS系で放送。(笠緒)
2020年01月05日冬目 景さんの『空電の姫君』は、いわゆるガール・ミーツ・ガールの物語なのだが、最初に断っておくと本作は『空電ノイズの姫君』(全3巻)の続編。連載媒体の移籍で、タイトルを変えてリスタートした。音楽を拠りどころにするギター少女と訳ありの親友。「描きたいイメージとして最初にあったのは、ふたりの女の子の友情というか関係性。なのでバンドマンガのつもりはあまりなく、音楽はあくまでも舞台装置なんです」本作から読む人のために、これまでの流れを簡単に説明しておこう。ミュージシャンの父を持ち、幼い頃からギターを弾いてきた女子高生の磨音(まお)は、転校生で天性の歌声を持つ夜祈子(よきこ)と出会う。一方で、磨音はプロデビューを目指してギタリストを探していた、2人の男子大学生が組むバンドに加入。作者の冬目景さん自身も音楽好きで、主人公にはぜひギターを弾かせたかったそう。「ロックをやっている女の子って、どちらかというとキツめなイメージがありますけど、磨音はふんわりした雰囲気で、ギターを弾くと豹変するような子にしたくて。対照的に夜祈子のほうは、ストレートの黒髪でクールにしようと思いました」普段は内向的で、人前で演奏することなど考えたこともなかった磨音が、バンドという仲間を得たことで音楽の新たな扉を開く。その一方で、夜祈子も音楽が心の支えになっているようなのだが、なぜか人前では積極的に歌いたがらず、磨音のバンド活動に関しても、今のところ応援するだけの立場にとどまっている。「夜祈子はやや面倒くさいタイプ。ミステリアスな彼女の過去がこれから明らかになっていくのですが、夜祈子のことを描きたくて、このマンガを描いているのかもしれません」冬目さんの作品は、作画も大きな魅力のひとつ。今作は「楽器をたくさん描かなければいけないことが、とにかく大変!」と苦笑するが、躍動感のあるライブシーンなどは必見。先述の通り、連載先を変えてまでこだわりたかったのは、減りつつある紙媒体で発表することだった。「もともと私は美大で油絵を専攻していて、マンガを始めて間もない頃はカラーの絵をキャンバスに描いて、編集さんにそのまま渡したりしていたんです(笑)。いまだデジタルをほぼ使わないアナログな描き方なのですが、紙媒体を選べるうちはそこで描き続けたいと思っています」美しい絵柄とともに、バンドのゆくえと彼女たちの選択を見届けたい。『空電の姫君』アマチュアバンドで、少々頼りない男子大学生とともに練習やライブに励む磨音。夜祈子はそこにどう絡んでくるのか。『イブニング』で連載中、1巻は重版が決定。講談社630円©冬目景/講談社とうめ・けい1992年デビュー。代表作は『羊のうた』『イエスタデイをうたって』など。『グランドジャンプ』で「黒鉄・改KUROGANE-KAI」連載中。※『anan』2020年1月1日-8日合併号より。写真・中島慶子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2019年12月30日年に1度のマンガの祭典、ananマンガ大賞。(1)イケメンが出てくること、(2)ラブストーリーであること、(3)現在連載中であること、(4)読んだ後“楽しかった~”とハッピーな気持ちになれることという4つの審査基準のもと、担当編集&ライターが多数のマンガをじっくり読み、今年も大賞を選出。浜谷みおさんのを大賞に選ばせていただきました!スマホマンガアプリの〈LINEマンガ〉で連載中の、ぽっちゃり系“古墳女子”の淡い恋物語です。『やまとは恋のまほろば』4つの見どころ1、主人公・穂乃香が似ているのは、大学近くの“前方後円墳”。メガネ&ぽっちゃりな穂乃香は、いわゆる“今どき女子”的なかわいさは皆無。合コンの席で出会った男子には、「何がマシュマロ系だ」「あれはナシ、チェンジ」とまで言われてしまう。傷ついた心を隠しつつ、表向き平穏に暮らしている、そんな女子大生。2、舞台は大学の古墳研究会。部員の男子2人は超イケメン!そんな穂乃香にとっての“まほろば=オアシス”が、古墳研究会。彼女を拒絶せず、人として温かく交流してくれる2人の男子部員が在籍。これが外も中もイケメンな男子!とはいえ、その優しさ&近い距離感ゆえ、穂乃香は翻弄されるわけですが…。3、恋に合コンに夢中な女友達とのなんともいえないリアルな距離感…。大学デビューをした、中学からの友人・友葉の価値観の変化に悩みつつ、でも古墳研究会のイケメンを狙い、穂乃香に妙に優しくしてくる美女友達の丹菜ちゃんのことは、疑わない穂乃香。友情に恋が絡み始めるときのこの複雑な感じ、共感しかない!!4、塩対応なのに思わせぶり!!飯田くんとの関係は恋なの!?常に低体温ぽい雰囲気の古墳研究会の男子2人組ですが、同じ学年の飯田くん(コケ好き)の穂乃香への態度は、「古墳キャラに似ててかわいい」と言ったり、プリンを食べさせようとしてくれたり、もうそれ、絶対“好き”でしょ?!うらやまけしから~ん!浜谷みお先生に受賞特別インタビュー――まずは受賞の感想をいただいてもいいですか?ネームがまったくうまくいかず落ち込みまくっていた夜中に、担当編集者さんから連絡をいただきました。最初は、「そういう賞を目指して頑張りましょう」という励ましかと思ったのですが、どうやらそうではなく…。しばらくしてからやっとじわじわ喜びがやってきました。――それにしても、“古墳”がテーマというのは前代未聞。そこにまず心を掴まれました。もともと自分の身近に古墳があるので、以前マンガを描いていたときから、何か古墳を絡められないか…とは思っていたんです。今回、キャラクターを考えるとき、形として古墳を絡めたら、穂乃香の性格が見えてきて、話にも広がりが。ちなみにモデルにさせてもらっているのは大阪府八尾市の心合寺山古墳。モチーフがみんなかわいくて、グッズの展開が熱いところも魅力です(笑)。――古墳研究会に所属する飯田くんと可児江さん、この2人のまったくオラついていない男性像や恋愛観が、とても令和的だと思いました。そこに何かメッセージは込めていますか?私自身は、年齢や性別における価値観の変化をそんなに感じているほうではないのですが、女子も男子も、やりづらい世間的な物差しではなく、個人の価値観を主に据えることで、生きやすさや楽しみが増しているなら、何よりだと思います。この2人のように恋愛に重きをおいていないタイプの人たちが、急にそちらに舵を切るようなことがあったとき、いったいどうなるのか、そこには興味が惹かれますね(笑)。――一方で、穂乃香の女友達との距離感がとてもリアルで、こういう経験、女子ならきっとあるな…と胸が痛くなります。彼女の場合は大学に入って新しい世界に出たわけで、人間関係が変わることで、いろんな経験をしますよね。正直、そこに強いメッセージを込めているわけではないですけれど、“みんな一緒じゃなくてもいいんだよ”という気持ちはあるかもしれません。――連載メディアが雑誌ではなく、スマホアプリで配信というのも新しい挑戦ですよね。そのあたりはいかがですか?配信後、すぐに感想が反映されるというスピード感にはまだまだ慣れません(笑)。喜んだり落ち込んだり、いろいろありますが、でも8年ぶりにマンガを描けている今、読者の方から反応をいただけることが一番嬉しいです。実は今まで読みきりしか描いたことがなく、連載は初なんです。穂乃香や飯田くん、可児江さんなど、自分が作ったキャラクターに長く寄り添えることが新鮮でとても楽しい。彼らをちゃんと育てたいし、同時に自分もマンガ家として成長したいと思っています。――やはり気になるのは、穂乃香の恋の行方です。何かヒントをいただけると…!!3人以外の他者との関わりの中で、恋がどうなっていくのか、見守っていただけると嬉しいです。3人の関係性も徐々に変わってきますので、ぜひ続きを楽しみにしていてください!『やまとは恋のまほろば』関西にある“おたけやま古墳”。その近隣大学に通う穂乃香は、ぽっちゃりな自分を「前方後円墳に似ている」と自嘲する女子大生。大学デビューした中学時代からの友人を横目に、〈古墳研究会〉に所属、マイペースに青春を謳歌しようとするのだが…。1巻580円/LINE Digital Frontier©浜谷みお/LINEはまたに・みお’07年、集英社主催新人マンガ賞「金のティアラ大賞」で銅賞を受賞しマンガ家デビュー。一度は筆を置いたものの、この作品で再デビュー。※『anan』2020年1月1日‐8日合併号より。写真・中島慶子取材、文・河野友紀(by anan編集部)
2019年12月29日「家は『私の』とか『彼女の』とか、絶対に所有格で語られるもので、逆に誰も住んでいない家屋は『家』とは呼べないような…。考えてみたら不思議なものだなぁと」ある一族の暮らしや秘密、言わなかった思いなどを、3世代の視点で描き出す青山七恵さんの『私の家』。同棲を解消し、実家に戻っている27歳の鏑木梓の祖母・照の四十九日の法要に、親族が集まるところから物語は幕を開ける。「ああいう場では、普段は全然会わない人も集まります。親戚という以外の何の接点もなかったりするのに、妙な一体感があって面白いですよね。3つの点をつないだときにできる切断面の面積を求めよ、みたいな算数の問題がありますが、この小説でも、外から見ただけではわからない図形が、いろいろな世代や家という場を点として描くことであれこれ見えてくるのではないかと思ったんです」作中でも、語り手に見えている家や家族は、別の語り手から見ればまた違った形をしていたりする。たとえば、照には照の親心があったわけだが、幼い頃に叔母・道世の家に預けられた祥子には人知れぬ寂しさがあり、兄・博和が長く音信不通だった理由も博和なりにある。そうした思いのズレにリアリティがあり、同時にそれは、共感を誘う美点だ。家は、目に見えたり直に触れられたりする場所というだけでなく、思いや記憶が積み重なった宙にもあるものなのかなとも思う、と青山さん。「私が作家になっていろいろ描いていることも、実は祖先の誰かから渡されたものなのかなと。たとえば会ったことのない曽祖母も、いま会って話したら意外と気が合うのでは。もしかしたらその人が生きている間に考えきれなかったことを代わりに考えているのかなと思ったり(笑)」ちなみに青山さん自身の「家」観をうかがってみると、「一人暮らしをしているいまの部屋にはものすごく愛着があるんですが、作家のための長期滞在のプログラムでフランスのサン・ナゼールに滞在したとき、その家は私の所有物でもないのにどこかに出かけて戻ってくると『家に帰ってきた』とほっとしていました。人と家とは案外緩やかなつながりで結ばれているもので、『私の家』と呼べる場所は人生にいくつもあるのかもしれません」あおやま・ななえ作家。1983年、埼玉県生まれ。’05年「窓の灯」で文藝賞を受賞しデビュー。’07年「ひとり日和」で芥川賞、’09年「かけら」で川端康成文学賞を受賞。『踊る星座』ほか著書多数。『私の家』鏑木家の次女の梓、母の祥子、父の滋彦、大叔母の道世、伯父の博和、亡くなった祖母の照らがそれぞれに抱えていた内緒の思いが交錯する。集英社1750円※『anan』2019年12月25日号より。写真・土佐麻理子(青山さん)中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2019年12月23日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「2019年を振り返る」です。グローバル化が進む一方で、分断は避けられず。今年、最も印象的だった出来事は令和への改元ではないでしょうか。生前退位により、これまでと違い、お祝いムードでしたし、これほど多くの式典に国民が参加できた改元はほかにありません。また、今年はラグビーのワールドカップや、野球の「WBSCプレミア12」など、国際的なスポーツイベントが日本で開催され、外国人サポーターの方が大勢訪れました。これまではグローバル化というと、日本人が海外に出て活躍することが主でしたが、日本にいながら様々な国の方々と交流が深まる「内なるグローバル化」がようやく進んだ印象です。これは、インバウンド政策により、ビザ要件を緩和し、外国人観光客を増やしたこと。そして、少子高齢化により労働者が不足し、コンビニでも居酒屋でも外国人の方が働くことが当たり前になってきたという背景があります。今年の4月には、改正出入国管理法が施行され、農業や建設、介護などの分野で、「特定技能」の在留資格を得ることもできるようになりました。外国人労働者の数はこれからますます増えていくでしょう。ただその一方で、台風や大雨が昨年に続いて多発し、外国人の方に災害報道が的確に伝わらないという問題も浮き彫りになりました。来年の東京オリンピックを控え、駅や電車などのアナウンス同様、報道でも多言語対応の必要性を強く感じます。政治に関することでは、安倍晋三総理の通算在任期間が、憲政史上最長になりました。しかし、豊かになったのはある特定の層のみで、不満や貧困、格差は広がりました。7月の参議院選挙で、「N国(NHKから国民を守る党)」や消費税廃止を謳った「れいわ新選組」のような、極論を主張する政党が想像以上に多くの支持を集めたのも、印象深い出来事でした。人々の不満が政治に直結していることが顕在化した一例だと思います。外交面では、北方領土や、北朝鮮問題は棚上げ状態。日韓関係は悪化したままで、日米貿易交渉も核心部分は先送りになっています。世界的に分断が進みつつあり、残念ながら、先行きは明るいとは言い難い状況なんですね。堀 潤ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。映画『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション)が来年3月7日公開。※『anan』2019年12月25日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年12月20日こじれた恋愛関係を、繊細で切ない心理を掬い上げつつユーモラスに描く志村貴子さん。月刊誌『Kiss』で連載中の『おとなになっても』は、大人の百合ロマンスだ。小学校教諭の綾乃は、行きつけのバーで、朱里という女性と初対面で意気投合。熱いキスまでする仲に。しかし、実は綾乃が既婚者であるなど、いわゆる大人の事情が混み入っている。「『恋人や配偶者がいるなら諦めろよ。そっちを解消してから次行きなよ』って話になっちゃうと、それで終わってしまう話なのですが…(笑)。それを解消しないままいきなり恋が始まってしまったことに対する、驚きや戸惑い、狡(ずる)さなどを、綾乃自身もたぶん感じているんですよね。1話めの時点では、綾乃はちっとも誠実じゃないのでそれを修正するためにもがいたりはしているんですが」ヘテロなのに自分の気持ちに戸惑う綾乃と、レズビアンで女性との恋で傷ついたことがある朱里。共に自分の気持ちを持て余しつつ、それでも好きな気持ちが膨れ上がっていく。そんな切なさが、綾乃や朱里の目ヂカラや物言わぬときの唇のニュアンスからひしひしと伝わって、キュンとせずにはいられない。「豊かな表情の作り方は難しくて、毎回悩みどころですね。はっきりとした喜怒哀楽よりも、それぞれの間に存在する“少し悲しい”とか“少し嫌な気分”のような、表向きはあまり表情には出さないけれど、胸の内には渦巻く複雑な感情があって…というのを、ただの真顔や無表情になってしまわないよう、うまく表せたらなと思っています」綾乃の夫は、妻からどストレートに「気になる人がいる」と言われて困惑。また、姑も、アポなしで訪ねてくるような人で、夫や姑の存在が、ふたりの関係にどんな影響を与えていくのかも気になるところ。「夫にしてみたら、妻の告白は青天の霹靂すぎてなかなか感情が追いつかない事態でしょう。彼の内面の変化を、段階を経てじっくり描いていきたいです。お姑さんもただのチクチクばあさんというより、この人はこの人で家族の問題に頭を悩ませている。根は悪い人じゃないと思うので、そういう人間的な部分も描けたらいいなぁと思っています」続きが楽しみすぎる!『おとなになっても』1小学校教諭の綾乃と、ダイニングバーで働く朱里の一目惚れラブストーリー。女子高生同士の心の揺れを描いた名作『青い花』の著者が、30代女性の愛に挑む。講談社440円しむら・たかこマンガ家。1973年、神奈川県生まれ。本作のほか、2015年に、第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞した『淡島百景』(既刊3巻)など連載多数。※『anan』2019年12月25日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2019年12月19日ゆりあ先生こと伊沢ゆりあは、手芸教室を開く主婦。物書きの夫・吾良と義母との平穏だった3人暮らしは、吾良が外出先で倒れたことで一変!次々に発覚する夫の秘密も、自宅での介護も、どーんと受け止めるゆりあだが…。入江喜和さんの『ゆりあ先生の赤い糸』は、ヒロインの肝の据わったキャラや彼女を取り巻く人間関係など、まったく目が離せない予想外の展開が魅力だ。異色のヒロイン誕生のきっかけは、担当さんとの世間話からだという。「夫に愛人発覚、となったらどうするか?」という話になったとき、家に連れてきて、面倒見てしまいそうな気がする、と答えた入江さん。ゆりあはそれを地で行くヒロインだ。物語は、ゆりあの少女時代から始まる。姉の蘭とは性格も対照的で、姉妹で始めたバレエも、ゆりあだけが真面目に向き合い、ゆえにつらい思いもする。父親からも強い影響が。だが、こうした少女時代のエピソードがのちに、辛抱強く、何でも背負いすぎるゆりあの性格に生きてくる。「前作の『たそがれたかこ』にしても、前々作の『おかめ日和』にしても、言いたいこともいったん引っ込めて考えるようなおとなしめな主人公が続いたので、弱きを助け強きをくじくような男気あふれるヒロインが描きたくなったんだと思います。バレエも出てくるので、大好きなシルヴィ・ギエムみたいな男前な人がいいなーと(笑)」4巻に入り、ゆりあは、懇意にしている便利屋さんを営むシングルファーザー伴ちゃんと急接近。「年齢は50歳、おっさんのようなゆりあさんですが、少女マンガとして描いてるので、恋はしていてほしいと思っています。今後ますます、ゆりあさんの心の支えになっていくかもしれませんね」明るいタッチで描かれてはいるが、ゆりあさんひとりにのしかかる経済的な問題や、リク君こと箭内青年、シングルマザーのみちると幼い子どもたちといった、新たな同居人たちとのこの先の関係の行方など、状況はますますハードに。「私くらいの年齢になると、出会いはどうあれ、仲良くなる人とは仲良くなるし、思わぬ人に助けてもらえることもあるなと感じます。そんなふうに3人の関係がその時によって変わっていけばいいなと思います」『ゆりあ先生の赤い糸』4夫がくも膜下出血で昏睡状態になったとの知らせを受け、病院に駆けつけたゆりあ。夫に付き添っていた美青年と夫との関係は…。2020年1月に5巻が刊行予定。講談社440円©入江喜和/講談社いりえ・きわマンガ家。東京都出身。夫でマンガ家の新井英樹氏とともに、今年画業30周年を迎えた。「描くのが年々楽しくなってきています。この先も続けていけたら最高です」※『anan』2019年12月25日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2019年12月18日