怖いはずが、どこかユーモラス!?命や生の不思議を思う、藤野可織さんによる怪談実話『私は幽霊を見ない』。一般に、幽霊や怪奇現象に対する気持ちは明白だ。「信じている/見たことがある」ゆえに怖い派か、「信じていない/見たことがない」ゆえに怖くない派か。しかし、藤野可織さんは信じていないし見たこともないのに怖がる。それでいて、一度くらいは見てみたいと願う。アンビバレンツを抱えている。「子どもの頃は怪談を聞くとぎゃん泣きしたほどですし、いまも臆病で怖がり。なのに怖い話は好きなんです。ホラー映画やDVDも観ますし、キンドルで実話怪談も読みます」怖いから近寄らないではなく、好奇心が勝つというのが微笑ましい。かくて藤野さんは、怪談話の連載を快諾。ネタ探しのために編集者からタクシー運転手にまで怖い話を知らないかと聞きまくり、廃墟ホテルなどに幽霊ハントに出かけていく。「幽霊が出るというウワサがあるなしの前に、基本、家から出ないのでそういうところには行きません。逆に、誰かとご一緒させてもらうなら、喜んで出かけていきます。でも置き去りにされたり、こけたり踏み抜いて落ちるとかは怖いので、同行者の服をしっかり握っています(笑)」実際に幽霊や怪異に出くわしたわけではないが、その影は感じる。なのに、不思議と怖くない。むしろ忌み嫌われがちな幽霊や怪異に対して、新しい光を当てている。そのひとつが『ジェーン・ドウの解剖』という映画を俎上に載せ、語っていく章だ。「身元不明の若い女性の遺体を検死官父子が解剖し、彼女の死の謎を探るのですが、その父子が見舞われるオカルトな状況はホントに理不尽です。でも殺されたその女性だって、普通に生きていただけでああいう目に遭った。理不尽に何かを求められたり奪われるのは恐ろしいなと」それを踏まえ、幽霊とは何かをこう考察しているのがすばらしい。〈私たちは誰であれ今でも、上げられない声を抱えながら生きているから、それでこんなにも私たちは幽霊を追い求めるのだ〉「私が幽霊を好きという以上に、世の中の人がより幽霊を好きなんだなということを感じましたね。いくら科学が進み、解明できる怪異が増えようが、これからも人々は求めていく。目に見えない存在も、排除できないこの世界の一部なんだろうなと思います」『私は幽霊を見ない』〈三島由紀夫の霊が出るといいなあ〉と願ったり、セント・ルイス第一墓地ツアーに参加したりする、藤野さんのおちゃめな幽霊蒐集。KADOKAWA1500円ふじの・かおり1980年、京都府生まれ。作家。2006年、「いやしい鳥」で文學界新人賞を受賞。’13年、「爪と目」で芥川賞受賞。他の著作に「おはなしして子ちゃん」(フラウ文芸大賞受賞)など。※『anan』2019年10月9日号より。写真・土佐麻理子(藤野さん)中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2019年10月08日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「幼児教育・保育の無償化」です。無償化が先か全入化が先か。親が働ける環境を。10月より消費税が10%となり、増えた税収は、未来への投資として、「幼児教育・保育の無償化」が始まることになりました。対象になるのは、すべての3~5歳児と、住民税非課税世帯の0~2歳児。認可外の保育施設やベビーシッターもこれに含まれます。歓迎すべきことですが、いくつか問題もあります。まず、保育所などに入っていない子供たちは対象外。都市部ではまだ、待機児童問題が根強くあり、入園を諦めていた家庭が、無償になるのならと、新たに申請が増える可能性があります。そのため、無償化よりも、全員が入園できるように、待機児童問題を先に解決するべきではないかという声もあがっています。ただ、全入化のために保育所の数を増やす、というのも容易にはいきません。なぜなら、今後子供の数は減っていきます。保育所を新設したものの、利用者が減り、将来、保育所が余ってしまう心配もあるからです。保育所設置の規制を緩和して、会社のなかに保育所を置く、「企業主導型保育」を増やす案もあります。しかし、満員電車に小さな子供を連れて通勤できるものでしょうか?最も不安視されているのは保育の質です。保育士の数は慢性的に不足しており、待遇もよくありません。数が足りていないと、保育士1人当たりの面倒をみる子供の数が多くなり、安心して預けることができません。これだけ働き方改革、一億総活躍が謳われるのであれば、安心して子供を預けられるよう、保育士の待遇や保育環境の改善をしっかりやらないといけないのではと問題提起もされています。長期的な計画になりますが、雇用の流動性を高めて、在宅ワークやワークシェアリングをもっと進め、働きながら、家で子供も育てられるようにする、というのも一つの解決策になるのかもしれません。子育ては日本の将来に関わる問題です。自分に子供がいる、いないにかかわらず、社会全体で子供を育てるという姿勢は必要だと思います。無理して保育所などに預けなくても、必死に働かなくても、安心して子供を産める、子育てだけはできる、そんな国であってほしいと思います。堀潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げる。9月、3つ目の新会社「わたしをことばにする研究所」を設立。※『anan』2019年10月9日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年10月07日出会った女性がネタの源という横澤夏子さんが、街で見つけたいい女を実演。今回は、機械に優しいていねいな女性「スマホを大事にする女」になりきり。身近なパートナーのありがたみを再確認して。家にいる時、スマホをソファやベッドにポンと投げることがあるのですが、よくないなと反省しました。だって、暮らしの中で、こんなに大切なものって他にはありませんよね。いろんな役割を果たしてくれる素晴らしい機械。しかもいい値段なのに、使うにつれてどんどん大事にする気持ちが薄れていってしまう。メッセージなどを見てイライラした時にスマホに当たることもあり、すごく人の傲慢さが出ているなと反省しました。こんなにお世話になっているものを大事にできない人は、他のものも雑に扱っているはず。最近、アマゾンエコーを買ったのですが、音楽を止める時には「アレクサ、黙って!」、音量を小さくする時には「アレクサ、うるさいから音を小さくして~!」のような言い方をしていて。偉そうな上に、ひと言多いですよね(笑)。私は無意識にやっていたのですが、旦那に「その悪い言い方はやめなよ」と怒られてハッとしました。しかも旦那は、怖い私とのバランスをとろうとして、「アレクサ、曲を流してください」とていねいに話しかけるようになったり…(笑)。たしかに、最初は家の中だけでも、そういう態度が染み付いてしまうと外でも同じように振る舞うことがあると思うんです。たとえ機械が相手とはいえ、とげとげしないことが大事だなと考え直しました。まずは、スマホがなくなった時のことを想像して、存在のありがたみを感じたり、敬意を払ってみることが大事だと思います。なくなると必要な時に電話がかけられなかったり、メッセージのやり取りが不便ですよね。いかに助けられているか、見直してみましょう。あとは、画面やカバーが割れていたらそのままにせず、きれいなものに替える。身近なパートナーだからこそ、大切にしましょう~!よこさわ・なつこ芸人。『バイキング』(フジテレビ系)や『王様のブランチ』(TBS系)など、数多くのバラエティ番組にレギュラー出演している。著書『追い込み婚のすべて』(光文社)が発売中。※『anan』2019年10月9日号より。写真・中島慶子イラスト・別府麻衣文・重信 綾(by anan編集部)
2019年10月03日駆け出しの脚本家・甲斐千尋は気鋭の映画監督・長谷部香から脚本の題材の相談を受ける。それは、千尋の少女時代に故郷で起きた一家殺人事件についてだった――湊かなえさんの新作『落日』は、創作というテーマとミステリーが絡み合う、読み応え満点の長編だ。凄惨な事件を映画化しようとする監督と脚本家が見つける真実とは。「私はよく、編集者から一言投げてもらって、そこから話を作るんです。今回は、版元の社長から“裁判”、担当編集者から“映画”という言葉をいただき、なら裁判シーンのある映画を作る話にしようと思いました」(湊かなえさん)なんとも意外な出発点だが、「自分の小説が映像化された時、みんな同じ方向を見ているようで、ちょっとずつ違うんだなと気づいたことがあって。それで、監督は真実を知りたいという人物、千尋は自分の見たいものだけを見たいという人物にして、それぞれなぜその気持ちが強いのかを考えていきました」実は香は一時期、その街でのちに殺される一家の隣に住んでいたことがある。香が真相を知りたがる一方、千尋は事件にさほど思い入れがない。「自分の身近で事件が起きたといえば、いろんな情報を知っていると思われがち。でもそうとは限らない。田舎での事件の伝わり方やとらえ方の違いも書きたかったところです」少しずつ調べを進めていく千尋たちにも、実は複雑な過去がある。それが少しずつひもとかれ、二人の創作に対する姿勢や事件との関連も浮かび上がる。この有機的な繋げ方が、まさに手練れの技。また、本作のために、はじめて裁判を傍聴したとか。「ドラマのように真実がさらけだされるのかと思ったら、実際には報告会のよう。加害者の本当の気持ちは、本人が語らない限り誰も知りえない。そこを考える役割を果たすのが、映画や小説なのかなと思いました」事件の真相が見えてきた時、2人の女性の胸によぎるのは、絶望ではない。『落日』というタイトルは最初から頭にあったという。「私は舞台『屋根の上のヴァイオリン弾き』の劇中歌の<サンライズ・サンセット>が好きで。日が昇って日が沈む、人の営みはその繰り返しだという歌です。再生に繋がる一日の終わりもあるんじゃないかと思ってこのタイトルにしました」そう、本作は胸を熱くさせられる、再生の物語なのだ。湊かなえ『落日』かつて小さな町で起きた、兄が両親と妹を殺した事件。真相を知ろうと調べ始めた監督と脚本家は、やがて自分自身の人生と向き合う。角川春樹事務所1600円みなと・かなえ1973年生まれ。2007年「聖職者」で小説推理新人賞を受賞、同作収録の『告白』が話題に。以降ヒットメーカーとして活躍。‘16年には『ユートピア』で山本周五郎賞を受賞。※『anan』2019年10月2日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2019年10月01日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「リブラ」です。月間24億人が利用。世界最大の共通通貨誕生なるか?昨年のG7より、仮想通貨は暗号資産と呼び名を変えることになりました。値動きに激しい乱高下があるため、決済手段として一部の店舗でしか対応できず、安定して使える「通貨」と呼ぶには問題があるという判断からでした。暗号資産のメリットは、国境を超えるということです。これまでの海外送金は、その国の通貨に交換しなければいけなかったり、高い送金手数料が発生したり、テロ組織などに資金が渡らないように、国によっては送金自体がNGの銀行もありました。暗号資産ならば、インターネット上で瞬時に海外送金が可能になります。また、国が発行している通貨は、戦争が起きれば一気に下落しますし、経済政策を間違えればインフレが起きたりします。その点、暗号資産ならば、国のリスクに影響されずにすみます。経済が不安定な国の人は、暗号資産のほうが信頼できるというので、ギリシャショックのときも多くの暗号資産が購入されました。そんななか、Facebookを中心に世界の27の企業や団体が2020年に発行しようとしている暗号資産が「リブラ」です。’19年夏の時点でFBの利用者数は月間24億人超。1日平均15億人が利用しています。日本国内の月間アクティブユーザー数は2800万人。みずほ銀行の個人顧客数2400万人を超えているのです。リブラが発行されれば、世界共通の通貨として、銀行口座を持たない人でも利用できるようになります。メッセンジャーやSNSを使って、簡単に資金のやりとりも可能になるのです。また、リブラは米ドルの価格変動と紐づけて運用するため、値動きは比較的安定します。ただし、FBは過去に個人情報を流出させ、セキュリティに不安が残りますし、前回の米大統領選では、フェイクニュースが流れ、政治勢力により言論が作られているのではないかという疑念の声も。通貨を発行しお金の流通を管理する各国の金融当局も、マネーロンダリングやセキュリティ上の問題のほか、税金をとりこぼす恐れもあるため、リブラを歓迎していません。世界規模の金融システムが一気に広がる可能性もありますが、発行は計画より少し遅れるかもしれません。堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げる。9月、3つ目の新会社「わたしをことばにする研究所」を設立。※『anan』2019年10月2日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年09月28日編集さんからの「『貧窮問答歌』を描いてください」というむちゃ振りに端を発し、資料との格闘の果てに生まれた奈良時代の異文化交流コメディ『あをによし、それもよし』。その著者が石川ローズさん。「編集さんから送ってもらった資料に、当時の一般庶民の生活のイメージ図があったんです。家の中での生活の様子が“ミニマリストの家にそっくりだ!”と思ったのが、欲のない山上(やまがみ)誕生のきっかけですね」現代の物にあふれた暮らしに辟易している山上が、奈良時代にタイムスリップ。下級役人の小野老(おののおゆ)の家で居候しながら、当時なら当たり前のシンプルライフを堪能するというのが物語のベース。衣食住のギャップも面白いが、そこは奈良時代!歌と出世の関わりが興味深い。2巻では、大伴旅人(おおとものたびと)、藤原不比等(ふじわらのふひと)など実在の有名な貴族歌人も多数登場。意外な歌の才能を発揮していた山上は、ちょっとした誤解から山上憶良になって出世していったり、「小野妹子(おののいもこ)はおれのおじいちゃん」という老のつぶやきに驚いたり。異文化交流モノとしてだけでなく、人間関係ドラマとしての面白さも加速してきた。「歴史が苦手な人にも読んでいただきたいので、歴史上の出来事ではなく、人間を軸にストーリーを作っています。実際に日本の基礎が出来上がろうとしているカオティックな時代だと思っていますので、人間関係もかなりカオスになる予定です」それにしても、資料の読み込みや時代考証、建築物や衣装などを描く難しさ、さらに文脈にのっとったギャグも織り交ぜて…と、読む方は楽しくても、描くのはハードルが高そうな本作。「1話当たり平均3冊くらい新しい資料を読みます。なので書きたいネタが多すぎて、でもページ数的に使えないので泣く泣く捨てるはめになっています。しかし、私はミニマリスト。泣かずに捨てます。いや、むしろ喜んで捨てています。逆に!」そう、石川さんご自身も、ミニマルな生活を実践中なのだとか。「断捨離が趣味で財布に入っていたポイントカードをすべて捨てたこともあります。モノが減るほど、自分の時間が増えるのを実感しました。とはいえ山上ほどは極められないので、山上のセリフは自分の理想と願望の叫びですね(笑)」3巻では名前だけ有名な長屋王(ながやおう)との交流が深まる!?続きも楽しみ!『あをによし、それもよし』2ミニマルな生活を愛するあまり面倒くさい理屈をこねる山上。成り行きから、歌人・山上憶良になってしまう第2巻。増刊『グランドジャンプむちゃ』で連載中。集英社600円©石川ローズ/集英社いしかわ・ろーずマンガ家。長崎県出身。大学では美術史専攻。2012年、Web「やわらかスピリッツ」にて、「やわらかロック」でデビュー。世界史検定2級に落ちるほどの歴史好き。※『anan』2019年10月2日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2019年09月26日芸術を極めるとは、かくも苦しいものなのか。至高の芸術のためなら何をしても許されるのか。芦沢央さんの『カインは言わなかった』は、激情と慟哭の嵐の中を駆け巡るような読み心地の傑作長編。芸術の名の下に翻弄される、声なき声がこだまするミステリー。「その世界のカリスマ的な人物に認められることだけがすべてだと思い込み、食らいつき、歪んだ執着を燃やしていく。そういう師弟関係の確執を描きたいと考えていました。その場合、勝ち負けがはっきり見えるスポーツよりも、芸術のように何が正解かがわからない世界の方が物語の舞台としてふさわしい。そう考え、コンテンポラリーダンスや絵画などのモチーフを決めていきました」天才の誉れ高い芸術監督の誉田規一、彼のカンパニーのダンサー藤谷誠と尾上和馬、誠の異父弟で画家の藤谷豪。芸術に生きる者たちとその周辺で見守る者たちのドラマだ。「本作のテーマを突き詰める上で、聖書のカインとアベルの話は構図が似ていると思ったんです。弟のものは受け入れられ、兄のものは顧みられもしなかった神への捧げもの。何がいけないのかわからないから、兄の葛藤は深い。そのイメージを重ねました」芸術をめぐりもう一つ書きたかったのは、表現と当事者性について。「作中では誉田は震災で妻を亡くしていて、当事者としての経験が彼の代表作『オルフェウス』の高評価にもつながっています。しかし『こういう経験があるからリアリティがある』というのは、経験と作品とが安易に結びつけられているわけで。それが評価にも関わっていくことへの違和感。私も考え続けています」もちろん、ミステリー要素もたっぷりだ。冒頭には、誰が誰に刃を振るったのか特定できない血まみれのシーン。物語が動き出した直後から、出てくる人物にはみな「あの人ならやりかねない」動機がある。この悲劇の真相を追って、一気読み必至。「私はプロットよりも、人物造型にこだわります。日常の暮らしぶりなど小さなシーンは特に丁寧に書き、本当はどういう人間なのだろうと探っていく。本作には一線を越えた人と越えなかった人がいます。その線はとても太くくっきりとしていて、越えるまでが遠い。だからこそ越えた/越えなかった人の差はどこにあるのかをとても大切に書きました」芦沢央『カインは言わなかった』芸術監督の誉田が率いる「HHカンパニー」。新作公演の主役・藤谷誠が、公演3日前に突如連絡不通になる。裏側では何が起きているのか。文藝春秋1650円あしざわ・よう作家。東京都生まれ。2012年、『罪の余白』で野性時代フロンティア文学賞を受賞しデビュー。『許されようとは思いません』『火のないところに煙は』など、話題作を次々に発表。※『anan』2019年9月25日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2019年09月23日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「8050問題」です。100万人以上の人がひきこもりになっている時代。ひきこもり状態が長期化し、50代のひきこもりの子供を80代前後の親が養い続ける事態が起きています。子供だけでなく、高齢になり、精神的・経済的に限界を迎えた親も孤立。これを称したのが「8050問題」です。5月に起きた川崎市登戸通り魔事件や、元官僚がひきこもりの息子を刺殺した練馬の事件をきっかけに、世間で広く注目されるようになりました。ひきこもりの定義は「自宅にひきこもり、社会参加をしない状態が6か月以上持続し、精神障がいが、その第一の原因とは考えにくいもの」です。ひきこもりは、2000年代から継続的に調査されていたのですが、調査対象が15~34歳だったため、若年層の問題のように捉えられていました。しかし、近年の調査で、中高年層のひきこもりの実態が明るみになり、2019年3月時点で、40~64歳の中高年のひきこもり人口は61万3000人。若年層も合わせると日本には100万人以上のひきこもりがいる計算になります。親が健在なうちは、50代の子供も働かなくても、実家暮らしで生活は成り立ちますが、将来、親が他界したあとが問題です。ひきこもりの支援団体の中には、「精神の問題だ」と、恫喝して強制的に外に連れ出し、立ち直らせようとするところもあります。しかし、そのやり方は当人の尊厳を傷つけますし、間違った行為だと思います。いまの社会慣習の枠に無理やり当てはめることは正しい解決法とは思えません。もう一つ大きな問題は、5月の事件もそうですが、報道で「加害者はひきこもりでした」「8050問題です」と言われることで、ひきこもりが犯罪者の予備軍かのようなレッテルを貼られてしまうことです。そのことが余計に、ひきこもりやその家族を孤立化させ、問題を深刻化させてしまいます。家から出なくても、オンライン上で仕事をしたり、社会活動に参加できるかもしれません。また、定義からすれば、職場になじめず退職し、半年ほど実家で休養するうちに働く気力がなくなり家にこもった状態にある人も、「ひきこもり」になります。本人の自覚がなくても、多くの人がひきこもりになり得る時代になってきているんです。ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2019年9月25日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年09月20日マンガ家・野田彩子さんが役者の物語を描くにあたり、着目したのは「代役」という存在だった。『ダブル』では、天才役者と代役のただならぬ関係について描いている。執着、羨望、依存……。天才役者と代役のただならぬ関係。「もともと舞台裏に興味があって、映画のオーディオコメンタリーで監督の話を聞いたり、制作現場のドキュメンタリーを観たりして、どういう状況で作品ができあがったのか、想像するのが好きなんです。それであるとき、演出家が書いた本を読んで、稽古に来られない役者の代わりにそのときだけ演じる人がいることを知り、面白いなと思ったんです」主人公は同じ劇団に所属し、安アパートで共同生活をしている、鴨島友仁(かもしまゆうじん)と宝田多家良(たからだたから)という無名の俳優。友仁は多家良の才能を早くに見抜き、自身も世界一の俳優になりたいと切に思いながらも、多家良のことを何から何まで世話している。「天才キャラが好きなんですよね。天才だけど欠けている部分があって、生活があまりうまく回らないみたいな。多家良がそっちだとしたら、友仁は自分の能力に対してもっと自覚的なタイプ。器用貧乏っていったらあれですけど、多家良に憧れとも親心ともつかないような気持ちを持っているキャラクターですね」友仁は多家良の代役を務めているのだが、その場しのぎの代役ではないのがややこしいところ。彼らはふたりでなければ芝居を作ることができない、共依存的な関係なのだ。「私は友だちが多いほうではないのですが、同じものを好きな人とすごく仲良くなって。その人が家に泊まりに来てしゃべっているとき、部屋の中が自分たちふたりの脳みそみたいだねって話をしたことがあるんです。そういうふうに思える人と一緒にいられるのって、めちゃくちゃ幸せなことなんじゃないかなと思いながら、ふたりの関係を描いてます」しかしながら、互いに高みを目指す限り、その幸せがいつまでも続かないことを、多家良はともかく、友仁は薄々気づいている。俳優の道を突き詰めることの苦悩と喜びが、舞台やドラマなどさまざまな現場を通して描かれていくのだが、迫力のある絵も見どころのひとつ。「『ガラスの仮面』でもマヤや亜弓さんは、役ごとに顔つきが変わるじゃないですか。ああいう描写は本当にわくわくしたし、実際にお芝居を観ていてもそう。演技のシーンって描くのがすごく難しいんですけど、絵だけでも伝わるくらい説得力のあるものにしたいと思ってます」上質な舞台を観ているような臨場感を味わえる本作。熱い男たちに、必ずや心を持っていかれます……。『ダブル』1無名の天才役者・宝田多家良と、その才能に焦がれ彼を支える鴨島友仁。ふたりでひとつの俳優が「世界一の役者」を目指す。「ふらっとヒーローズ」で連載。ヒーローズ650円のだ・あやこマンガ家。第49回IKKI新人賞・イキマンを受賞しデビュー。主な著書に『わたしの宇宙』『いかづち遠く海が鳴る』『潜熱』など。「新井煮干し子」名義でBL作品も発表。©Ayako Noda/ヒーローズ※『anan』2019年9月25日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2019年09月19日出会った女性がネタの源という横澤夏子さんが、街で見つけたいい女を実演。今回は、会った瞬間に相手を喜ばせる女性「『会えて嬉しい』と言える女」になりきり。ポジティブな言葉が素敵な人間関係の始まりに。このあいだ、大好きな女優の石原さとみさんにお会いした時、顔を合わせるやいなや「お会いできて嬉しいです!」とおっしゃってくださったんです。その時は、“え!あの石原さとみさんが私と会えて嬉しいって言ってる。どういうこと!?”と驚いて「こちらこそです~!」と言うのが精一杯だったのですが、“私の存在自体が嬉しい”と言われたような気がして、ものすごく幸せな気持ちになれました。こんなふうに秒で相手を喜ばせられるなんて、本当に素敵な女性ですよね~。このフレーズには、“ここで終わりじゃない”という二人の関係が始まっていくスタート感があるし、“会えて嬉しいということは、いろいろ話していいんだ…”という安心感が芽生えました。そして、滝沢カレンさんは、会う度に「横澤さん、会えて嬉しい」と言ってくれて、いつもありがたいなと感じています。そんなふうに、相手をいい気持ちにさせるポジティブな言葉を、恥ずかしがらずに言える人はコミュニケーション上手だし、すごく大人だなと感じます。そうなるためには、ドリームズ・カム・トゥルーさんの曲じゃないですが、「嬉しい」「楽しい」「大好き」の3フレーズを口ぐせにすると、自然と言えるようになるのではないでしょうか。どれも言われて嫌な気持ちになる人はいないでしょうし、人間関係をいいものにする、おまじないみたいな存在になってくれるはず。SNSのコメントに書き込んでみるのもよさそうです。そう、このあいだ、英語で「はじめまして」を意味する「Nice to meet you」は、「あなたに会えて嬉しい」ってことだと気づいて、なるほどと関心しました。私も、初対面の人に恥ずかしがらず言えるよう、頑張ろうと思います!よこさわ・なつこ芸人。『バイキング』(フジテレビ系)や『王様のブランチ』(TBS系)など、数多くのバラエティ番組にレギュラー出演している。著書『追い込み婚のすべて』(光文社)が発売中。※『anan』2019年9月25日号より。写真・中島慶子イラスト・別府麻衣文・重信 綾(by anan編集部)
2019年09月18日「恋愛、結婚、出産ってセットのように思われているけれど、本当はバラですよね。なのにセットにするからややこしいことになる」と、川上未映子さん。新作『夏物語』は女性の生き方、そして生命について真摯に向き合った長編。芥川賞受賞作『乳と卵』の登場人物たちに再び会える一作でもある。「女の人って子どもの頃からいつかお母さんになると意識づけられる。でも今は昔のように何歳くらいで結婚して何歳で親になってというモデルもなくなっている。これまで当たり前とされてきたものでも自分で考え直さないといけない。選択と決断の連続ですよね」38歳の小説家、夏子は独身だが「自分の子どもに会いたい」という思いを抱く。しかし彼女は恋愛をしたいわけじゃない。「自分の子どもを持ちたいだけなのに、誰かのことを好きにならないといけないの?セックスしないといけないの?という問題がある。男の人のことを重要視していない女性や、女らしさに自分を預けていない人は母親になれないの?と思います。夏子なんて裕福でもないし、親になれる条件は一個もない。子どもを持ちたいという時に、何を足場に決断していいのか、というのはありますよね。そうしたなかで夏子は、望みをどうにか実現しようと、逡巡し、葛藤しながら成長していく」他に結婚して窮屈な思いをしている友人や結婚や出産に興味のなさそうな編集者、シングルマザーの作家などさまざまな立場の女性の声も響いてくる。さらに、精子提供で生まれた男女も登場、“生まれてくること”についても考えさせられる。「死は取り返しのつかないことだから、人は想像力を働かせる。同じように命が生まれることにも想像力を働かせたい気持ちがありました」川上さんならではの流麗な文章、軽妙な会話も楽しめる逸品。母になる/ならない立場か、あるいは子どもの立場か、あるいは…読む人によって、誰のどんな声が心に突き刺さるかは違ってくるはず。「年を重ねていくと、同じ本でも感じ方が変わってくる。いろんな人にずっと読んでもらえる本になるといいなという気持ちで、いろんなことを漫才ばりの面白い形にしました。読み倒してもらえたら嬉しいです」かわかみ・みえこ1976年生まれ。2008年『乳と卵』で芥川賞、’09年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で中原中也賞、’13年『愛の夢とか』で谷崎潤一郎賞など、多数の賞を受賞。『夏物語』第一部は『乳と卵』の舞台だった2008年、第二部は’16~’19年の物語。主人公の夏子はもちろん、姉の巻子や姪の緑子たちも再び登場。文藝春秋1800円※『anan』2019年9月18日号より。写真・土佐麻理子(川上さん)中島慶子(本)ヘア&メイク・吉岡未江子インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2019年09月17日家族の日常を綴ったコミックエッセイのなかでも、異彩を放つ本作。著者はミュージシャンとして活躍するケイタイモさん。音楽を広める手段のひとつとしてインスタグラムでマンガを発表し始めたところ、瞬く間に注目を集め、書籍化が実現した。かっこいいミュージシャンだって家に帰れば子煩悩なお父ちゃん。「いわゆるフリーでやってるミュージシャンなので、安定収入じゃない。そのぶん家族も安心できないところがあるだろうし、家庭での役立ち方っていうのが、自分のなかで大事だったりするんですよね」人を見かけで判断してはいけないのは重々承知だが、辮髪(べんぱつ)・ヒゲ・丸メガネという個性的なルックスで、甲斐甲斐しくオムツを替えたり、子どもたちにキョヒられてしょんぼりする姿が何ともいえず、お父ちゃんを応援せずにはいられないのだ。「外で笑い話にしているぶんには気づかないような嫁さんの視点が、マンガを描くことで見えるようになったのは、本当によかったこと。『あれやっておいて』って言われると面倒に思いがちだけど、マンガに生かせるって考えると、子育ても家事も能動的になれるんですよね」家族構成は、きれい好きなお母ちゃん、社交的な8歳の長女、独りが大好きな4歳の長男、よく笑う1歳の次男。それぞれキャラが立っていながら、子育ての“あるある”がちりばめられているのがいい。そんなケイタイモさんの子煩悩ぶりからは信じられないのだが、父親になる以前は子ども自体が苦手だったそう。「突然父性が目覚めるあの感覚は、理屈じゃないんですよね。最近、自分のことは二の次で、鏡すらあまり見ないようになって。音楽をやってる人間なんだから、自分のこともある程度かわいいと思っておかないとダメだなって反省しました(笑)」そしてもうひとつ、信じられないことが。ケイタイモさんはイラストレーターでもあるのだが、マンガを描くのは本作が初めてだそう。「作曲もするのですが、コマの構成やバランスはリズムを大事にしてます。そういう意味でマンガと音楽は、似てるところがあるのかも」マンガを描き始めて、期待以上に世界が広がっている実感もあり、子どもの成長とともに描けるところまで描き続けたい、と目標も大きい。「ネガティブなことはほとんど描いてこなかったのですが、子育てをしていればいろんな問題があるわけで。そういうリアリティも、いずれポップに提示できたらいいですね」ケイタイモ ミュージシャン。過去にBEATCRUSADERS、現在はWUJA BIN BIN、ikanimoなどのメンバー。イラストレーターとしても活躍。本作はInstagram(@k_e_i_t_a_i_m_o)で毎日更新中。『家も頑張れお父ちゃん!』しっかり者の長女に諭されたり、マイペースな長男&次男に振り回されたり。ときに子ども以上に無邪気なお父ちゃんによる、エッセイ。家族って楽しい!文藝春秋1200円©ケイタイモ/文藝春秋※『anan』2019年9月18日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2019年09月17日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「英国新首相就任」です。英国も強行態勢に?いまこそ日本にできる役割を。7月24日にイギリスの新首相に保守党のボリス・ジョンソンさんが就任しました。これまで、ロンドン市長や外務大臣を務めてきており、EUからの離脱に関して「ハード・ブレグジット(合意なき離脱)」も辞さない考えを掲げています。これまでEU圏内はひとつの大きな国のように、関税を設けず、移動や就学、就労も自由でした。EUとの条件が調わないまま10月末に離脱が決まると、それらに制限がかかり、流通が混乱し、イギリス国内の食料や医療品不足が予測されています。ジョンソンさんは、イギリスの経済や産業の停滞、移民問題など、国民の不満をうまく取り込み、「強いイギリスを!」と復古主義的なことを主張し、支持を集めてきました。「イギリスのトランプ」ともいわれており、トランプ大統領からも絶賛され、アメリカとも良好な関係を築いています。EUからの離脱がうまくいけばよいですが、合意なき離脱をむかえた場合、イギリス国内の現状を見るかぎり、経済はおそらく混乱に向かうでしょう。そうなると、その状況を打開するため、対外強硬策に出る可能性が高まります。いまは中東が不安定な状態。トランプ大統領は、中東・ホルムズ海峡の安全な航行のために、「有志連合」の結成を先進国に呼びかけています。結束して、軍事行動や平和維持活動を共にしようというもの。ホルムズ海峡は、日本にとっても大事なエネルギー源である石油の輸送に不可欠な場所。ここが紛争により封鎖されれば、日本国内の生活も混乱を来しますから、安全を確保することは必須。しかし、日本は友好国であるイランを刺激したくはありません。イギリスは8月に有志連合への参加を表明。オーストラリアもそれに続きました。この状況のなか、日本はどういう役割を演じられるのか?アメリカとイランの対立のもとは、イランの核開発を巡ってのトラブルです。日本は被爆国として、「私たちの使命は核廃絶です」という明確なメッセージを掲げて、対立する両国の間に入ることができればよいのですが。いまこそ平和憲法を掲げる日本にしかできない、戦争を回避する方法を考えるべきときなのではないでしょうか。堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2019年9月18日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年09月16日出会った女性がネタの源という横澤夏子さんが、街で見つけたいい女を実演。今回は、意識をしてご褒美デーを作る女性、「1か月に2回楽しみがある女」になりきり。生き甲斐があると仕事や嫌なことも頑張れる!やっぱり、生き甲斐や楽しみがないと毎日を頑張れないと思うんです。友だちにライブに行くのが好きな子がいるのですが、彼女はライブのために一生懸命働くし、お金を貯めています。このあいだ、「そのライブが終わったら燃え尽き症候群になるんじゃない?」と聞いてみると、「再来週またあるんだ!」と言われて、楽しみが一つ終わった後に次の楽しみがあるというのはすごく贅沢だし、日々の嫌なことも頑張って乗り越えられるからいいなと思いました。旅行から戻ってきて“働きたくない…”と思っても、また次の旅行があれば前向きな気持ちになれる。月に2回くらいのペースでご褒美があると、すごく働きやすいですよね。楽しみの種類や内容は、どんなものでもありだと思います。セールや友だちとの食事の約束、友だちの結婚式でもいいし、そもそも日本には季節ごとにイベントがあるので、ちゃんと意識して参加するだけでもだいぶ違うはず。イベントじゃなくても、“この日は家でダラダラして過ごす”というオフの日を作るのもよさそう。その日があることで、“友だちの誕生日プレゼントを買ったり、お歳暮のこともこの日にすればいいや”と、日々のやるべきことを堂々と後回しにできるので、楽な気持ちで過ごせるのもいいですよね。手帳やカレンダーに楽しみな日を書き込んでおくと、“もうすぐこの日がくる…!”としっかりと認識できるし、手帳を開く度に心がワクワクするはず。壁に貼ったカレンダーに書き込んで、一日が終わる度に×印をつけてカウントダウンをするのも、楽しそうですよね~。それに、イベントのために必要なものを事前に調べたり、準備できるのも便利です。仕事のことだけじゃなく、ご褒美スケジュールも手帳に書きましょう!よこさわ・なつこ芸人。『バイキング』(フジテレビ系)や『王様のブランチ』(TBS系)など、数多くのバラエティ番組にレギュラー出演している。著書『追い込み婚のすべて』(光文社)が発売中。※『anan』2019年9月18日号より。写真・中島慶子イラスト・別府麻衣文・重信 綾(by anan編集部)
2019年09月13日健康な体のために、少しでも睡眠の質を上げたい。でも何から始めたらいいのかもわからない…、と思っているそこのあなたに入眠改善ハーブティーをご紹介。いい香りのハーブが副交感神経を優位に。穏やかな眠りを導くには、リラックスすることが何よりも大切になる。そんな時に頼りになるのが、温かくて美味しいハーブティー。「私たちの体がリラックスするには、自律神経の副交感神経が優位になることが必要です。ハーブに多く含まれている芳香成分は鼻から脳へと伝わりますが、嗅覚が伝わる大脳辺縁系という場所は自律神経をつかさどる視床下部と連携しています。そのため、いい香りをかぐと反射的に副交感神経が優位になり、心身が落ち着くシステムになっているんです。ハーブティーは薬ではなくお茶なので即効性はありませんが、飲み続けることで、リラックス体質を目指すことができますよ」(美容茶スペシャリスト・愛葉香さん)また、体を温めるツールとしても重宝する。「ノンカフェインのお茶は体を温めるのに適しているので、安眠の大敵である冷え対策としても効果が期待できます。それに、温かいドリンクは飲むとホッとするし、立ち上る湯気を見るとそれだけで心が静まりますよね」とはいえ、ひと口にハーブティーといっても、その種類はさまざま。眠りにいいとされる効能を持っているものは?「ほんのり甘く穏やかな香りのカモミールや、爽快感のあるミント、エネルギッシュな印象のあるレモングラスなどが代表的です。また、うっとりするほど甘いリンデンや、スッキリとしているレモンバーベナなどもいいでしょう。ただ、それ以外でも、自分が好きな味や香りはリラックス効果に大きく作用するので、落ち着くものを飲むこともおすすめします。でも、いくら好みとはいえ、カフェインを含むものは脳を刺激して目覚めさせてしまうので、避けましょう」お茶に精通している愛葉さんのいちおしを聞いてみると。「おすすめしたいのは、オーガニックブランドのものです。『パッカ』はイギリスのハーブティーメーカーで、本国ではサプリメントも販売するほど、質のいいハーブを使っていることで知られています。また、フランスの『アラケル』は、薬局でも売っているくらい素晴らしいクオリティ。『GREK』はギリシャ産の最上級ハーブを使ったシングルハーブティーブランドで、すごく美味しいです。どのブランドにも、安眠にいいとされるハーブを使ったものがラインナップされています。眠りを研究されている『西川』が手がけるオリジナルブレンドティーなど、日本にも優秀品が存在しますよ」気になるものを試して、自分のお気に入りを見つけるのも楽しそう。ストレスや疲れがたまっていたり、緊張状態が解けずに上手く眠りにつけないという人は、入眠儀式のひとつとして、ハーブティーを取り入れてみよう。「ナイトタイム」Pukka Herbsカモミールやラベンダー、また“眠りのハーブ”として知られる個性的な香りのバレリアンを配合。甘く深みのある味わいが体の緊張を解いてくれる。20包。オープン価格(日仏貿易 TEL:0120・003・092)「プロヴァンスダンタンソメイユ CUBE」アラケルプロヴァンス産の有機バーベナやリンデン、オレンジなどをブレンドしている。まろやかな味と優しい香りが、ナイトティーにぴったり。24包¥3,500(メゾン・フィヤージュ青山 TEL:03・6873・4796)「レモンバーベナティー」GREKハーブの宝庫といわれるギリシャ生まれのハーブティー。繊細で香り高いレモンのフレーバーが、昂った気持ちを心地よく静める。モダンなデザインも素敵。20包¥3,000(メゾン・フィヤージュ青山)あいば・かおるイギリスで紅茶を学び、ティーインストラクターとして活躍。美容とお茶の関係に詳しく多くのメディアに出演。NHKカルチャースクール講師もつとめる。スーパーフードにも精通。※『anan』2019年9月11日号より。写真・中島慶子取材、文・重信 綾(by anan編集部)
2019年09月10日海岸線に沿って並ぶ白沢(はくたく)市と蝦蟇倉(がまくら)市。その架空の街で起きる事件が3つの章に織り込まれ、終章は全体をくくる大きな謎解きへとつながる。道尾秀介さんの『いけない』は、カタルシスに満ちた技巧ミステリーだ。架空の街で絡み合ういくつもの事件。二読、三読したくなる面白さ。「本書の第1章にあたる『弓投げの崖を見てはいけない』は、もともとは競作アンソロジーのために書いた中編でした。けれど、自殺の名所になっている崖や死亡事故が多発しているトンネルがある海沿いの土地、生まれ変わりを信じている新興宗教など、舞台設定や道具立てが、僕にとっても魅力的でした。いつかあの世界観を膨らませて書いてみたいと思っていたんです」第1章は、蝦蟇倉東トンネルの前で起きたある残忍な事件から始まる。その遺族であり悲しみに沈む安見(やすみ)弓子のもとに十王還命会(じゅうおうかんめいかい)の宮下志穂や、蝦蟇倉警察署の隈島(くまじま)刑事が訪ねてくる。いまだ犯人逮捕に至らない事件をめぐって、物語は二転三転。第1章最大の謎は、死んだのは誰かだ。「被害者は誰だったのかという点で、地図がすごく重要になってくる。今回は全面的に改稿し、街の地図も描き直し、さらに写真にして、最後のページをめくった後ろに入れるアイデアが浮かびました。各章の最後にそれぞれ違う写真が入っています。読み終わったあとに出てくる写真によって、それまで見えていた事件の顔ががらりと変わるというのは、僕にとっても初めての試みだったので、書いている間中、ずっとわくわくと緊張がありました」第2章では、5歳のときに家族で日本にやってきた中国人の少年・珂(カー)が語り手。不思議な〈あいつ〉の気配を感じる珂は、文房具店で、違和感を覚える光景を目撃してしまう…。各章とも独立した中編として楽しめるが、人物同士の関わりなどが見えてくるにつれ、どんなエンディングが待ち受けているのだろうと、ページを繰る手は否応なくはやる。ちなみに、各章の最後に置かれている写真はラフから道尾さんが自作。写真撮影にも立ち会い、ヒントのさじ加減にもこだわったそう。「各事件の謎解きの面白さと、消化不良にならない程度の真相の開示。それを両立させるのが難しかったですね。読了後に『まだ秘密がありそうだ』と、2度、3度と読んでもらえたら最高にうれしいです」みちお・しゅうすけ作家。『向日葵の咲かない夏』でブレイクを果たし、2010年、『龍神の雨』で大藪春彦賞、『光媒の花』で山本周五郎賞、’11年、『月と蟹』で直木賞を受賞。今年はデビュー15周年。『いけない』4つの各章題は、すべて「てはいけない」の6文字で終わっているだけでなく、文字数もすべて揃っている。細やかな技巧性にもはっとする。文藝春秋1500円※『anan』2019年9月11日号より。写真・土佐麻理子(道尾さん)中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2019年09月06日出会った女性がネタの源という横澤夏子さんが、街で見つけたいい女を実演。今回は、お花に合わせて花器を選べる女性、「花瓶を2つ以上持つ女」になりきり。美しい花は、心の栄養になってくれる!いろいろな花瓶が家にある人って、そこまで多くないと思うんです。私自身、1つしか持っていないし、それも、軽井沢に行った時に作ったガラスのコップを花瓶代わりにしている状態…。しかも1つしか持っていないから、花瓶と同系色の花じゃないと合わないこともあります。だから、一輪挿しや花束用など花瓶を2つ以上持っていて、花によって「これにしよう」と選べる人は、すごく素敵だなと思うんです。インスタグラムに、「お花をいただきました!」とアップしている人がいると花瓶ばかり見ちゃうし、一輪挿しを使っている人がいるとハイレベルだな~と感じます。そもそも、花を飾る生活をしていることもいいですよね。もらった時だけ飾るのではなく、わざわざお金を出して定期的に花を買うのは、ていねいな暮らしをしているな~と感心します。それに、美しい花は食べ物と違って自分の身にはならないけど、心の栄養になってくれる。以前、高いダイヤモンドをつけた女性の外見の変化をテレビで検証していたのですが、驚くほどあか抜けて、感動したことがありました。それは、宝石の価値に合う人になるよう、エステやジムに行って自分磨きを始めるからだそうです。私は、花にも同じ効果があると思っていて、“花を当たり前に飾る女性になろう”と意識をするだけでも、いい方向に変われるのではないでしょうか。花瓶は100円ショップにも売っているし、かわいいビンを花瓶代わりにするところから始めるのも手軽でよさそう。お花にお金をかけたくない人は、安いものを1輪買うのでもいいし、買う時間がない人は、定期宅配サービスを利用してみるのもひとつの手。自分に合う方法で花を身近な存在にしてみましょう~!よこさわ・なつこ芸人。『バイキング』(フジテレビ系)や『王様のブランチ』(TBS系)など、数多くのバラエティ番組にレギュラー出演している。著書『追い込み婚のすべて』(光文社)が発売中。※『anan』2019年9月11日号より。写真・中島慶子イラスト・別府麻衣文・重信 綾(by anan編集部)
2019年09月05日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「老後の資金問題」です。お金に関する教育が日本人には不足しています。年金以外に老後の資金が約2000万円は必要になるという金融庁金融審議会の報告書の発表があって以来、年金問題について不安が高まっています。「高齢化社会における資産形成・管理」の報告書は、金融庁のホームページで、誰でも見られます。ぜひ読んでみてください。金融庁は、資産運用を管轄する省庁。年金問題を、資産運用の観点からどう乗り越えるかをテーマに、学識経験者や実務関係者が約半年、会合を重ねて作りました。人生100年時代、働けなくなってからのことも考えないといけません。現状では、夫婦2人暮らしの場合、年金で足りない分の月5万円には、退職金や貯蓄を取り崩しながらあてており、その状態が30年続くと換算すると、約2000万円になるという計算です。いまの年金世代は資産や貯金がありますが、若い人たちの中には持ち家も貯金もない人も。働き方も多様になり、非正規雇用も増えています。高齢になってからの資産運用は認知症の問題も出てきて大変なので、若いうちから少額で始められるNISAやiDeCoなどを利用してみませんか、という提案でした。人口減少が進み、年金制度を支える働く層は減る一方なのですから、冷静に考えればこのままでは済まないことはみなさん、うすうす気づいていたと思います。消費税を増税するだけで解決できる問題ではありません。普段から投資をして、自分でお金を増やす力をつけようというのは真っ当な意見ではないかと思います。アメリカでは約6割の人が投資目的で株や不動産の売買の経験があり、学校教育のなかで株式や投資の仕組みを習います。イギリスでも2014年から、金融リテラシーを磨くための教育が強化されました。お金の使い方やリスク管理、クレジットと負債、貯蓄投資や年金、金融商品などを16歳までに教えています。これに対し、日本には昔から、「金儲けはよくないこと」「清貧こそ美しい」という道徳観があります。しかし、資本主義の国なのですから、これからは義務教育から、お金の教育を取り入れるべきではないでしょうか。私たちも現実に目を向け、お金の勉強を始める必要があると思います。ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2019年9月11日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年09月04日先の天気が分かる空読、病気に効く種をあてる草読、虫と通じ合える虫読…。森絵都さんの新作『カザアナ』は、ちょっぴり不思議な能力を持つ〈カザアナ〉一族が登場する、少し未来の日本の物語。異能の一族と過ごす日常と冒険。愉快&痛快な近未来エンタメ。「未来の話を書いてみたかったんです。今、みんな漠然と、オリンピック後の日本はどうなるんだろうと思っている。そこを舞台に新しい物語を展開できないかなと考えました」観光が政府主導の一大事業となり、古き文化と街並みを維持するために人々の生活は制限され、監視されている日本。母、中学生の娘、小学生の息子の入谷一家は、カザアナ一族と出会い交流を深めるなかで、様々な問題と対峙する。それは学校の理不尽な校則だったり、自治体の問題であったり…。ただし、「カザアナたちが正義のために能力を使う話にはしたくなくて。もっとくだらないことに使って(笑)、結果的に誰かの役に立つくらいがいいなと思いました。入谷家と彼らがアナログな力で、AI化が進んだ息苦しい社会に風穴をあけていく姿を書きたかったんです」決してシリアスな内容ではない。それどころかとぼけた会話で笑わせるし、コントのような場面も。「『みかづき』を書いた時に、知人に“ギャグが足りない”って言われたんです。ですから、今回は全力でギャグを入れました(笑)」とはいえ物語は少しずつスケールを広げ、謎のゲリラ組織と対峙した上、しまいには国家間の問題にも首を突っ込むことに…。入谷家の3人もそれぞれ奮闘するわけだが、「家族だから一緒に行動する、という流れにはしたくなかったですね。一人一人が自分の目的で動くようにしたかった。自分の意思で決めて行動することが大事ですから」カザアナ=風穴という言葉に、様々な意味が感じられる本作。「私の中に、いつも“抜け道”のイメージがあるんですよね。生きづらい世の中で萎縮することがあっても、抜け道はどこかにあるって思っている。今回はそれがカザアナという形になりました」ちなみに森さんは、もしカザアナだったらどの能力が欲しいですか?「うーん。草読かな。胃腸の調子が悪い時にどの薬草を飲めばいいか分かる程度の力がいいです(笑)」もり・えと1990年「リズム」で講談社児童文学新人賞を受賞しデビュー。児童文学の賞を多数受賞するなか一般文芸も執筆、2006年『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞受賞。『カザアナ』オリンピックが終わった後の日本。中学生の里宇は、ある日、造園業を営む女性と出会う。実は彼女、カザアナという一族の末裔で…。朝日新聞出版1700円※『anan』2019年9月4日号より。写真・水野昭子(森さん)中島慶子(本)インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2019年09月02日芸人の小峠英二さんが教官として、大学教授やジャーナリストなどの特別講師と共に、“好きになるとキスしたくなる理由”や“雲が白い理由”…といった地球にはびこる“難解現象”をVチューバーたちに教える『超人女子戦士ガリベンガーV』。戦士のひとり、電脳少女シロさんとの対談に、小峠さんが照れまくり!?――番組の見どころは?小峠:とにかく僕とVチューバー3人が会話をするという形が新感覚ですよね。それと、毎回テーマに沿った資料映像を特別講師の方々が用意してくれるんですが、その映像が面白いんですよ。すでにゴールデン番組で流れていてもおかしくないのに、上手いこと網に引っかからず漂流してきた映像が見られますよ(笑)。シロ:お肌にいい睡眠だとか、日常生活に活かせる知識が学べます。――小峠さんは、Vチューバーの存在をご存じでしたか?小峠:まったく知らない世界だったので、最初は理解できなかったです。シロちゃんは博学で賢いですね。シロ:英二がシロの好感度を上げてくれてる~!小峠:(スルーして)Vチューバーとはいえ、気遣いせず、普通のタレントさんと変わりなく接してます。――小峠さんから見て、シロさんのビジュアルはいかがですか?小峠:…かわいいっすよッ!!シロ:きゃ~!小峠:…43のおっさんなんでね、そりゃ多少の照れはありますけどね!シロ:ふふふ!教官は、私たちVチューバーをリスペクトして、プロとしてそれぞれに合ったイジリ方で育ててくれるんです。ふざけて「教官かわいい」とか言っちゃうんですけど、心から尊敬してます!小峠:もうこのくらいで…(苦笑)。ことうげ・えいじ1976年6月6日生まれ、福岡県出身。’96年、お笑いコンビ「バイきんぐ」を結成し、’12年、『キングオブコント』で優勝。『青春高校3年C組』ほかレギュラー出演中。でんのうしょうじょ・しろアイドルに憧れるバーチャルYouTuber。バーチャルな世界からゲーム実況や歌などの配信をYouTubeで行っている他、多数のイベントやTVにも出演している。『超人女子戦士ガリベンガーV』3人のVチューバーが、特別講師から超難問を学ぶ。9/5のテーマは「体液の謎を解明せよ!」(予定)。毎週木曜25:29~テレビ朝日ほかにて放送中(※他の地域では放送時間が異なります)。©Siro Channel※『anan』2019年9月4日号より。写真・中島慶子取材、文・小泉咲子(by anan編集部)
2019年08月29日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「参院選ふり返り」です。新たな政治のスタート。ふり返りは必須。7月に行われた参議院議員通常選挙は、人々の不平や不満を一手に引き受けた2つの政党が注目を集めました。一つは、「消費税廃止。税金は稼いでいる人から取る」と、反貧困をテーマにした、れいわ新選組。もう一つは、集金方法や報道体制などNHKに対する不満を訴えた、NHKから国民を守る党(N国)です。どちらの代表もこれまで、地道な政治活動を続けてきました。れいわ新選組代表の山本太郎さんは、当選はしませんでしたが、個人名票を99万票集め、賛同者から4億円の寄付を集めました。それだけ大勢支える人がいることは与党に対するプレッシャーにもなっています。今回の選挙では、立憲民主党や共産党が比例選挙区の票数を減らしており、れいわやN国に流れたといわれています。この状況について、「人々が飛びつきやすいテーマを掲げたポピュリズムだ」と言う人もいますが、そう捉えるのは早計でしょう。既存の政党が、漠然とした理想を掲げるにとどまり、市民のリアルな声を聞いてこなかった結果の表れではないかと思います。また、48.8%という、過去2番目の投票率の低さも問題になりました。僕は街に出て、20~30代の若者に取材をしましたが、投票に行かない理由は、政治に対する諦めや不信感からではなく、「国の政策と自分の生活につながりがあると思えない」という、接点のなさからだと気付きました。しかし、「日々の生活をするのに精一杯」のあなたの状況は、社会の制度を変えることで改善できるかもしれません。なにも発言しないまま選挙にも行かず、社会のルールづくりに参加しなければ、不利益な状況を打破できず、搾取され続けることになるかもしれません。また、世界に目を向け、他の国の暮らしや制度と比べて日本の現状を知ることも大事だと思います。いままでの日本は豊かでしたが、働く人口はますます減り、日本企業は、いつの間にか世界から後れをとっています。教育レベルも思うようには伸びていません。参院選が終わったいまこそ、当選した新しい議員がどんな働きをしてくれるのか、注目の2党は期待に応えてくれるのか、目を離してはいけません。堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2019年9月4日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年08月29日出会った女性がネタの源という横澤夏子さんが、街で見つけたいい女を実演。今回は、自分の意見を言いつつも、角を立てない女性、「“YESかNOか”を言える女」になりきり。いい女は、話の展開や約束の決断がスムーズ。以前、とある先輩から「話を振ったらYESかNOかで答えてほしい」と言われて、自分が「YES&NO」で答えていることに気がついたんです。たとえば、「旦那さんと仲いいの?」という質問に、「仲がいい時もあれば、違う時もある」と返していたり。そういうふんわりした答えでは、次の話をどう展開していいかわからないですよね。そうではなく、「仲いいですよ!」と答えることで、「どんなふうに仲がいいの?」とさらに質問がきて、話が進んでいく。これはテレビ番組に出演した時の話ですが、普段の会話でも、ハッキリ答えることは大事ですよね。たとえば友だちと食事に行くことになって、「何系のごはんがいい?」と聞かれた時。これまではよく「ゆっくりできるところがいいな」と答えていたけど、それだと何の解決にもなっていないですよね。「カレーとか辛いものを食べた後にカフェでゆっくりしたい」と答えると、お店をしぼりやすくなる。もし誘いを受けて行くかどうか悩んだ時は、「迷っているんだよね。22時には家に着いていたくて…」と、懸念しているポイントを伝えると、相手もムダに悩まずにすむので、スムーズですよね~。とはいえ、人に自分の意見を伝える時には、相手が嫌な気持ちにならない言い方をすることがポイントだと思うんです。このあいだ、「わがまま言ってもいいんだったら…」という枕詞をおいてから話す人を見て、上手だなと思いました。あとは、発言の後に、「でも、みんなに合わせるよ!」と加えてみたり、「こっちのお店、前に行ったら落ち着いた雰囲気でよかったよ~」と、自分が選んだ意見の利点を一緒に伝えるのもよさそう。角を立てずにYES・NOを伝えられてこそ、いい女!よこさわ・なつこ芸人。『バイキング』(フジテレビ系)や『王様のブランチ』(TBS系)など、数多くのバラエティ番組にレギュラー出演している。著書『追い込み婚のすべて』(光文社)が発売中。※『anan』2019年9月4日号より。写真・中島慶子イラスト・別府麻衣文・重信 綾(by anan編集部)
2019年08月28日出会った女性がネタの源という横澤夏子さんが、街で見つけたいい女を実演。今回は、注意深く生活し、人を気遣える女性「段差に気づく女」になりきり。足元に気を配れる人は、危険回避が得意です!ちょっとした段差で、見事なまでに転ぶことってありませんか?私は最近、注意力が散漫なせいか、新幹線を降りる時や、終わったと思った階段がもう一段あって、つまずいたり、転んだりすることがよくあるんです。だからこそ、飲食店の店員さんとかに、「段差、お気をつけくださいね」と言われると、“私の足元のことまで気を遣ってくれているんだ”と嬉しくなります。すごく優しいし、相手に対して配慮があって、ていねいな方だなと憧れます。もちろん、店員さん以外でも、そういう人は存在します。一緒に歩いていて、「水たまりがあるよ」と言ってくれる友だちもそうです。たまに、“え、ドッキリですか!?”と思うような、私のために作ったんじゃないかと感じる水たまりってあるじゃないですか。しかも、雨が降った後の気が抜けたタイミングは危険ですよね。自分の道は自分で照らして当たり前なのに、他の人の道もあえて照らしてくれるわけですから、本当にすごい。そういうふうに「そこ、危ないよ」と教えてくれる遠足の隊長のような人は、先のことがちゃんと見えている人。川を渡る時には、グラグラするものを避けて安定した石をちゃんと踏める、きちんと危険を回避できる人に違いありません。こういう人は普段から、道を歩く時に、“ここでつまずきそうだな”とか、“この道は夜になると暗くて危なそう”などと、チェックすることを欠かさないはず。それも、自分の視点だけではなく、子どもやお年寄りなど人のことを考えたうえでの危険な場所を把握し、他の人にも教えてくれます。そういう人は、部屋もつまずきそうなものをきちんと片付けて、きれいにしているのでは。床に物を置くのをやめるところから始めてみるのも、効果がありそうです!よこさわ・なつこ芸人。『バイキング』(フジテレビ系)や『王様のブランチ』(TBS系)など、数多くのバラエティ番組にレギュラー出演している。著書『追い込み婚のすべて』(光文社)が発売中。※『anan』2019年8月28日号より。写真・中島慶子イラスト・別府麻衣文・重信 綾(by anan編集部)
2019年08月26日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「骨太の方針」です。掲げられた案件はスピーディに実行されます。「骨太の方針」とは、政府が毎年発表している「経済財政運営と改革の基本方針」の通称です。これが始まったのは2001年、小泉政権のときです。当時、官僚たちに利権が集中し、汚職などが問題になっていました。また、官僚主導の仕組みでは、思い切った政策をとろうとしても時間がかかり、抜本的な改革が実現しづらかったのです。そこで、政治家主導の流れを作っていこうと、骨太の方針を掲げました。当時はバブルが崩壊し、長引く平成不況のど真ん中。社会保障や税制の一体改革を柱とし、スピーディに大胆に実行していく新しい仕組みづくりをしようとしました。総理を議長とし、各大臣、学者や民間企業のトップ、有識者などから構成された経済財政諮問会議で検討された、国の税財政や経済政策の基本方針がまとめられます。小泉政権下では、郵政民営化や、不良債権をなくし、地方分権をどう進めていくかなどが話し合われました。安倍政権になってからは、法人税率の引き下げ、働き方改革、外国人の労働者の受け入れ拡大、プライマリーバランス(国の基礎的財政収支)の黒字化などが進められました。6月に決定した最新の「骨太方針2019」は内閣府のホームページに公開されています。「第4次産業革命による高度な経済、便利で豊かな生活が送れる社会の実現」「人生100年時代の到来を見据え、誰もがいくつになっても活躍できる社会の構築」と、最低賃金の引き上げ、男性の育休取得、ロストジェネレーションや65歳以上の雇用など、多岐にわたる案件が掲げられています。骨太の方針に盛り込まれたことは、次の国会の大きな焦点になり、そこで決定されれば、着実に法制度化され、国の構造が変わっていきます。スピード感を持って進められるのは良いことですが、官邸にそこまでハンドルを任せて大丈夫なのだろうか?という意識も大事です。また、今年のような選挙イヤーでは、政治家は目先の成果を求められ、骨太の方針に盛り込んでいいはずの難しい問題は先送りにされる節もあります。年金問題や雇用の問題など、もっと切り込んでほしいところなのですが、悩ましいですね。ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2019年8月28日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年08月23日2017年、日本人初の「ベルリン国際映画祭テディ審査員特別賞」に輝いた『彼らが本気で編むときは、』をはじめ、『かもめ食堂』『めがね』など、ヒット映画を生み出してきた荻上直子さん。このたび、自らの脚本をもとに書き上げた小説が『川っぺりムコリッタ』だ。川沿いの風変わりなアパートに集う、優しくて不器用な人々の幸せ探し。誰とも関わらず、ひっそりと生きていくのだという虚無感を抱えたムショ帰りの山田。孤独な暮らしが始まるはずが、住まいを、昭和の匂いを漂わせた川沿いの「ハイツムコリッタ」に決めたことで、住人たちとの思いがけない出会いが生まれて…。「山田の人物像やストーリーのヒントは、いくつかのきっかけが重なったことでした。何年か前に見た、カフェ難民のドキュメンタリー。知人の孤独死を知ったことも大きかったですね。貧困、虐待、孤独死など、自分とは遠いものと思っていた事柄が、案外身近なことかもしれないと感じるようになったんです」「ムコリッタ」という風変わりな呼び名のアパートに住んでいるのはみなワケありな人々。大家の南さんはシングルマザー。場面緘黙(かんもく)症の子どもとふたり暮らしの溝口親子。なかでも、仕事らしい仕事もせず小さな畑で野菜を育てている隣人の島田は、厚かましいところはあるが、そのお節介ぶりが山田の救いになっていく。「いわゆる世間から落ちこぼれた状況にいると、互いによそよそしくて隣人が何をしているかもわからないという方が現実には多そうですが、私は『むしろこんな人情があったらいいな』と思ってしまう。私の映画がどこかファンタジックだと言われるのはそういうところかなと」また、山田は社会復帰早々、行政担当者から、ずっと会っていなかった父親の遺骨引き取りを打診される。死んだ父親に対する複雑な思いが、周囲とのつながりを経て少しずつ変わっていくのも読みどころだ。「脚本の場合は、登場人物の心理を多く語らず、むしろ彼らが何をするかで表現します。でも小説ではもっと彼らの心理を突き詰めねばならず、自分でもわかってなかった部分が発見できました。映画を撮るのはこれからなので、小説を書き上げたことで、撮る映画も何か変わった部分があるかもしれないです」涙腺をツンツン刺激してくるこの小説。映画でも絶対観たい!『川っぺりムコリッタ』 30歳の誕生日を刑務所で迎え出所してきた山田。就職先は、北陸の塩辛工場だ。崖っぷちにいる人々の温かな交流をユーモアを交えて描く。講談社1500円おぎがみ・なおこ映画監督。’94年に渡米し、南カリフォルニア大学大学院映画学科で映画制作を学ぶ。’04年、劇場デビュー作『バーバー吉野』でベルリン国際映画祭児童映画部門特別賞を受賞。※『anan』2019年8月28日号より。写真・土佐麻理子(荻上さん)中島慶子(本)インタビュー、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2019年08月23日マンガ『あした死ぬには、』について、作者の雁 須磨子さんにお話を聞きました。思いもしなかった自分と出会う40代女性の悲喜こもごも。40代の壁、という言葉をご存じだろうか。20代、30代は心も体もノリノリで、ある程度の無理もきく。ところが40代になると、疲れが取れにくくなったり、それまでかかったことのない病気に襲われたり。思わぬところに不調が現れ、見て見ぬふりをしていた老後やお金の不安が、突如実像として目の前に立ちはだかる。本作はそんな40代女性のリアルを描き、当事者はもちろん、未来の40代をざわつかせている。「40代になってから起こった変化に自分でも驚いたことがたくさんあったので、マンガにしたら面白いかな、と思いました。キャラクターに関しては、結婚や出産経験のあるなしなど、境遇が違っても気持ちが重なるところ、共有できるつらさや楽しさみたいなのを目安に描いています。でもまったくわかり合えないのも、それはそれで面白いですよね」主人公の本奈多子(ほんなさわこ)は42歳、独身。映画宣伝会社に勤めていて、ただでさえハードワークなのに、できない上司の“お守り”に苛立つ日々。ある晩、動悸が止まらなくなって、更年期障害を疑う。「『気持ちが年齢に追い越されるような気がするけど』の『けど』の先を考えたりしたいです。ついていく必要性があるのかなという疑問と、ついていく楽しさを混ぜつつ」対して、多子と中学の同級生だった小宮塔子は、23歳で結婚して大学生の娘がいる。子育てが一段落して、ファミレスでパートを始めるのだが、おばさん扱いされたり、されなかったりするたびに一喜一憂して、モヤモヤ……。しかしこの物語は、年を取ることをネガティブに捉えているわけでは決してない。多子や塔子が、今までと同じはずなのにどこか違う自分に戸惑いつつ、折り合いをつけようとする様は、世代や性別を問わず共感できるだろう。「年齢を重ねるプラス面は過去がちゃんとあることですかね。過ぎゆかないと過去はできませんもんね。時間は等分で、未来への不安は誰しも変わらないのかなと思います」40代女性の右往左往は、どこへ向かうのか。すこやかに明日を生きていくための必読書だ。雁 須磨子『あした死ぬには、』1バリバリ働いてきた独身の多子と、パートとして久々に働き始めた主婦の塔子。異なる人生を歩んできた40代女性の問題を、コミカルに描くオムニバス。太田出版1200円©雁須磨子/太田出版かり・すまこマンガ家。1994年デビュー。女性誌、青年誌、BLまで幅広く活躍。著書に『どいつもこいつも』『感覚・ソーダファウンテン』『胸にとげさすことばかり』など。※『anan』2019年8月28日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・兵藤育子(by anan編集部)
2019年08月22日惹かれ合う女性同士が味わう歓びと、試練の先にたどり着く決断とは。綿矢りささんによる、小説『生(き)のみ生(き)のままで』。最初に浮かんだのは、タイトルだったという。「“着のみ着のまま”という言葉の漢字を“生”にしたタイトルで、それが恋愛小説だったら読みたくなるし、書きたくなるなと思いました」綿矢りささんにとってこれまでの最長となる小説『生のみ生のままで』は、女性同士の恋愛を、長い時間が流れるなかで追っていく。「以前、男の人1人、女の人2人の三角関係を書いた時(『ひらいて』)、もっと深く女の人同士が向き合う話を書いてみたいなと思って。それやったら短いよりも長いほうが、話の尺に合うかなとも考えました」同い年の逢衣(あい)と彩夏(さいか)が出会ったのは25歳の夏。互いに彼氏もおり、友人として親しくなっていった二人。ある時、逢衣は彩夏に恋心を打ち明けられる。だが、折しも彩夏は女優として人気急上昇中で…。「逢衣はもともと自分が何をしたいか曖昧で人に影響されやすいんですが、彩夏に出会ったことで、どう生きていきたいかを見つけていく。大変な時でも考えすぎずに行動できる人で、そういう健やかさは私の理想でもありますね。彩夏はエネルギーがある人だけれど、全力投球するあまり燃え尽きそうになっていく」彩夏について頭にあったのは香港の俳優、故レスリー・チャン。「俳優として天才で、カミングアウトして、鬱病の噂もあって、2003年に飛び降り自殺をして。私は、精神的に演じてきた役の影響もあったかもしれないという気がしていて。カミングアウトした当時バッシングもあったそうですが、現代だったらどうなるのかなとも思いました」恋に落ちた二人が影響を与え合い、関係を育んでいく。互いが触れ合う場面が、どれも鮮烈。「自分をむき出しにしなくちゃいけない緊張感と、ロマンティックな感情という正反対なものを持ちながら裸で接していく。そうしたシーンは書いていて楽しかったですね」さまざまな困難に直面するなかで、二人の関係はどこにたどり着くのか。「今の時代のなかで、素直に生きたい気持ちを選択したらどうなるかを真剣に考えて、ああいう結末になりました。少し前だったら小説も“禁断の恋”などと言われそうですが、そうした触れ込みは見かけない。時代が変わっているなと感じます」わたや・りさ作家。1984年生まれ。2001年に『インストール』で文藝賞受賞。’04年『蹴りたい背中』で芥川賞、’12年『かわいそうだね?』で大江健三郎賞を受賞。『生のみ生のままで』25歳で知り合い、親友同士となった彩夏に突然恋愛感情を打ち明けられた逢衣。最初は戸惑うが、次第に心と体が揺れていく…。集英社上下巻各1300円※『anan』2019年8月14日‐21日合併号より。写真・土佐麻理子(綿矢さん)中島慶子(本)インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2019年08月19日出会った女性がネタの源という横澤夏子さんが、街で見つけたいい女を実演。今回は、人の心を掴むのが上手い絵の上手な女性、「絵心のある女」になりきり。子どもと遊ぶ時や婚活にも絵のスキルは役立ちます。絵が上手な人に憧れませんか?私の経験上、絵心がある人は、字も上手だし、何でも器用にこなすことができるイメージがあります。それに、たとえば、人が走っている姿などをサッと描けるのは、物事を客観的にシンプルに見て、分析できている証拠。そんなとらえ方ができる人は地図もうまく描けるし、説明も得意に違いありません。それに、アニメっぽい簡単な絵が描ける人は、子どもに好かれますよね。ベビーシッターをしている時に、子どもに喜んでもらおうと漫画のキャラクターの絵を描いたことがあるけど、「似てないよ!」とハッキリ言われて苦労しました…。絵心さえあれば人気者になれるし、羨ましいと思って練習したこともあります。ちなみに、婚活パーティでも絵心は大事。男性に“絵を描くキャラ”として顔を覚えてもらおうと、自己紹介カードに絵を描いていたんです。たとえば、“行きたいデートスポット”という項目のところに車を描いておくと、「これ、どういうこと?」と聞いてくれて会話がしやすくなる。それから、「どこに行きたいの?」と聞いてくる男性は、車を持っている可能性が大。そうして見極めていました(笑)。まずは、アンパンマンやドラえもんのように、誰もが知るキャラクターを練習するのがいいと思います。有名な作品だからこそ、ちゃんと描けることで絵心がある人だと思われやすい。バタコさんやジャムおじさんのような人間のキャラクターは難しいから、まずはアンパンマンやしょくぱんまんなどから挑戦するのがよさそうです。きっと、描いていると、「カレーパンマンの口ってどうなっていたっけ?」と、その難しさに気づくと思います(笑)。人を喜ばせることができる絵心、あるに越したことはありません!よこさわ・なつこ芸人。『バイキング』(フジテレビ系)や『王様のブランチ』(TBS系)など、数多くのバラエティ番組にレギュラー出演している。著書『追い込み婚のすべて』(光文社)が発売中。※『anan』2019年8月14日‐21日合併号より。写真・中島慶子イラスト・別府麻衣文・重信 綾(by anan編集部)
2019年08月16日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「戦争遺跡」です。戦争の恐ろしさを忘れず次世代に伝える努力を。8月15日に74回目の終戦記念日を迎えますが、戦争体験者が高齢となり年々減っていき、戦争を後世に伝えていくことが難しくなってきています。戦争遺跡をどうやって残していくかがいま、ひとつの焦点になっています。広島県の原爆ドームは、核兵器の脅威を伝えるものとして、1996年に世界文化遺産に登録されました。また、同県の大久野島には旧陸軍の毒ガス製造所がありました。自治体はその歴史を残そうとしています。鹿児島県奄美諸島にはトーチカや高射砲台の跡が残り、地元の人々が戦争の記憶を残すための観光資源として守ろうと、掘り起こし作業を進めています。しかし、東京には、戦争の歴史に触れられる施設がけっして多くはありません。ドイツのベルリンには、街の中心にナチスドイツの秘密警察「ゲシュタポ」の本部だった建物が残され、写真資料館になっています。また、ブランデンブルク門の隣には、ユダヤ人を虐殺した証に石棺をイメージしたモニュメントが建てられ、過去の過ちを忘れぬようにしています。それでも、ドイツ人の知人は「私たち30~40代は、まだ祖父母や両親から直接戦争の体験談を聞けたから伝えられます。でも、次の若い世代は聞く機会もないため実感が持てず、戦争はひとつの物語にすぎなくなるでしょう」と話していました。2012年にドイツで『帰ってきたヒトラー』という小説がベストセラーとなりました。’15年には映画化され大ヒット。ヒトラーが現代にタイムスリップするというコメディなのですが、街頭で民衆と接する場面は実はノンフィクション。まだドイツにシリア難民が流入する前ですが、そのときすでに移民に対する不満の声が上がっていました。この作品は、国民がまた英雄的な存在を望む状況に陥っていることに、警鐘を鳴らしたのです。イタリアでリメイクされ、日本では9月に『帰ってきたムッソリーニ』というタイトルで公開されます。生活に不満が募れば、排外主義やナショナリズムの台頭に火がつきかねません。戦争遺跡を残し、その惨禍を伝えない限り、あっという間に時代が後戻りしかねないことに、危機感を抱いたほうがよいと思います。堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2019年8月14日‐21日合併号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年08月13日水墨画家で小説家の砥上裕將さんに、デビュー作『線は、僕を描く』についてお話を聞きました。水墨画の世界へ足を踏み入れた青年。芸術×青春の鮮烈なデビュー作。墨の濃淡だけで鮮やかな森羅万象を描き出す。そんな芸術の魅力と奥深さに引き込まれるのが砥上裕將さんのメフィスト賞受賞作にしてデビュー作『線は、僕を描く』。王道の青春小説であり、極上の芸術小説でもある本作のモチーフは水墨画。実は砥上さん自身が水墨画家だ。「学生時代、大学で水墨画の揮毫(きごう)会があったんです。面白いなと思って質問したら、巻き込まれる形で自分でも始めていた流れですね」巻き込まれたというのが本作の主人公、霜介(そうすけ)と似ているかも?大学生の彼はひょんなことから水墨画の巨匠・篠田湖山(しのだこざん)に気に入られ、内弟子になることに。それに反発した湖山の孫、千瑛(ちあき)は霜介に勝負を申し出て…。水墨画のトリビアがちりばめられるなか、成長していく彼らの姿が活き活きと描かれる。水墨画といっても画風もさまざまであるところが興味深いが、「抽象と具象、どちらを心掛けたらいいのかというのは絵を描く人間が陥りやすい罠。答えはないですよね。ただ、水墨画はもともと禅の修行で、心を治めるために自分の内面を描くものだったんです。発達するにつれ技巧を重視する画風が生まれ、対立構造が生まれた。その対立を物語の中で書こうと思いました」霜介や千瑛以外の登場人物たちも魅力的。特に篠田門下の野性的な西濱と完璧な技術を持つ斉藤という青年は、女性に人気が高いのだそう。「実は彼らの外見については妹が考えたものなんです(笑)。特に斉藤は妙に人気があってびっくりです」そして魅せられるのが、描く過程や完成した絵の描写。「点をひとつ加えるだけで全体のバランスが変わってばっと景色が広がることがある。それは魔法のように見えることがあると思います」読めばきっと、水墨画に興味が湧くはず。それにしても、霜介に勝算はあるのか。巨匠に目をつけられた彼は、他の人と何が違うのだろう?「素直さですね。言われたことを素直に聞き入れて反応できることが大きな才能だというのは、あらゆる技芸に言えると思います」霜介と千瑛のライバル関係とその勝負の行方も気になるところ。最後まで読者を楽しませてくれる。「明るく温かい作品を書いていきたい」と語る砥上さん、今後も要注目です。砥上裕將『線は、僕を描く』交通事故で両親を亡くし孤独感を抱く霜介。ある日、アルバイト先の展覧会会場で水墨画の巨匠・篠田湖山に気に入られ、内弟子にされるが…。講談社1500円とがみ・ひろまさ1984年生まれ。福岡県出身。水墨画家。本作で第59回メフィスト賞を受賞して作家デビュー。ちなみに本作の登場人物で自分に一番近いのは、霜介の友人の古前君なのだとか。※『anan』2019年8月7日号より。写真・土佐麻理子(砥上さん)中島慶子(本)インタビュー、文・瀧井朝世(by anan編集部)
2019年08月12日