劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)が平成30年秋の叙勲にて紫綬褒章を受章することが発表された。【チケット情報はこちら】KERAは、ミュージシャン出身の劇作家、演出家、映画監督、音楽家。自身がリーダー・ボーカルを務めるニューウェイヴバンド「有頂天」を1982年に結成。自主レーベル「ナゴムレコード」も立ち上げ「筋肉少女帯」「たま」「電気グルーヴ」など人気アーティストを多数輩出。並行して1985年には「劇団健康」を旗揚げし演劇活動を開始。同劇団の解散後の1993年に劇団「ナイロン100℃」を始動させ、多種多様な作風で、精力的に作・演出作品を発表し、今年劇団結成25周年を迎えた。演劇、音楽活動のほかにも、映像監督として4本の映画とドラマの監督と脚本を手掛けるなど多方面に才能を発揮してきた。近年の受賞暦は、2015年第40回菊田一夫演劇賞受賞。2016年第23回読売演劇大賞 最優秀作品賞/優秀演出家賞受賞、芸術選奨文部科学大臣賞受賞。2017年第51回紀伊國屋演劇賞個人賞受賞、読売演劇大賞 最優秀演出家賞受賞、読売文学賞戯曲・シナリオ部門受賞など多数。今回の受章に際してKERAから以下のコメントが届いた。<ケラリーノ・サンドロヴィッチコメント>頂戴出来る物は拒まない主義の私とは言え、この度賜った章はひときわ大きな喜びです。「もっと好き勝手やれ」と背中を押された気分。これまで創作に関わってくれた全ての人と分かち合いたい。お客様も含めて。とりわけ、ずっと一緒にやってきた劇団員たち、昔自分の身勝手で迷惑かけまくったバンドメンバー、そして、舞台では女優、家では私設秘書にしてこの上なく信頼できるアドバイザーとして支えてきてくれた奥さんと。僕は舞台の脚本を、日々の稽古を見ながら書く方法を取っているので、俳優さんが実際に動いてくれない事には、作品一本書き上げることもままならない。スタッフさんとも「この芝居、この制約の中で、何が出来るのか」という事を話しながら創っています。そういう意味で私の脚本はどの作品も、皆との共同執筆だと思っています。もし、他の劇作家や演出家、音楽家と何か違う事があるとすれば、やりたいことしかやってこなかったこと。それから、これまで創ってきた作品の、“量×質”の総量。この点は自己評価としては大抵の同業者の3人分くらいはいくんじゃないかと。(笑)集中力も体力も落ち、なにかと挫けそうになる昨今の私ですが、まだまだやらねばと背筋が伸びました。やりたくないことはやりませんが。談ケラリーノ・サンドロヴィッチKERAが作・演出を手がけるKERA・MAP #008『修道女たち』は現在、東京・下北沢本多劇場にて上演中。公演は11月15日(木)まで。チケットぴあにて指定席券および当日引換券を発売中。東京公演の後は、兵庫と北九州をめぐる。
2018年11月02日ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)が作・演出を手がける新作舞台、KERA・MAP『修道女たち』が10月20日(土)に本多劇場で開幕した。これまでも女性たちのコメディを多く生み出してきたKERAが今回描くのは、タイトルのとおり“修道女たち”。おそらく今から100年ほど前の時代、雪に閉ざされた山荘を訪れる修道女一行に扮するのは、緒川たまきや高橋ひとみら6人。意外にもKERA作品初登場という大人計画の伊勢志摩はその中の修道院長を演じる。同じく初参加となる鈴木浩介の演技も楽しみな要素のひとつだ。聖職者の物語を描く理由のひとつを、不思議なことがいくら起こっても納得してもらいやすいことと語っていたKERA。修道女の存在そのものが、物語を豊かに、自由に膨らませ、飛躍させていく。チラシでは他のキャスト同様、修道女の衣装を身にまとっていた鈴木杏だが、演じるのは巡礼にやってきた修道女たちを受け入れる村の女、オーネジー。年齢に見合わないほどの幼さとまっすぐさを持った彼女と修道女たちはどのような物語を織り成すのか……。この作品がコメディであることは間違いないようだが、事前に得られる情報から伝わってくるのは、決して"陽”の空気ではない。不穏さの漂う中で、手練れの役者たちが交わす会話がどんな世界へと導いてくれるのか。冬の気配が少しずつしのびよってくるこの季節にぴったりの演目であろうことだけは間違いなさそうだ。11月15日(木)まで下北沢 本多劇場で上演、その後、兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール、北九州芸術劇場 中劇場でも上演される。文:釣木文恵
2018年10月21日筆がのっているとは、まさにいまのKERA(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)さんのことをいうのだと思う。ここ数年、発表する作品がことごとく面白い。しかもその作品ときたら、最高にくだらなくてバカバカしいコメディから、ラブストーリー、シニカルな不条理劇、そして翻訳劇の演出と、驚くほど多彩。そのうえ、演劇活動の合間を縫うようにミュージシャンとしても活動していたりするのだからすごい。――主宰されている劇団、ナイロン100℃(以下、ナイロン)が、今年結成25周年と銘打って公演をおこなっていますけれど、長く活動してきて、作家と劇団員の信頼関係が築かれているからこそ出せる面白さを実感しました。KERA:いつもギリギリですよ。いまに始まったことじゃないですけれど、ここまでギリギリで稽古しているのかっていうくらい(苦笑)。ただ、その時どきの自分や集団の調子があって、いまは互いに調子がいい状態ではある。あと、僕も周りも場数を踏んで、ナイロンとしてこだわる部分、さして重視しなくていい部分のさじ加減がわかってきたというのはあると思います。――犬山イヌコさん、峯村リエさん、三宅弘城さん、大倉孝二さんなど、劇団員の方々の多くが、いまや映像作品でも活躍されています。劇団を25年続けられた理由はなんだと思われますか?KERA:やめ損ねた(笑)。10周年の頃はもう解散も遠くないと感じていました。だけど劇団じゃないと作れないものがやっぱりあって、いざ創作に入っちゃうと楽しくて、その魅力に抗えなかったんでしょう。あと、僕らの場合、早くからへんに騒がれすぎなかったのがよかったんだと思います。スキルが伴わないうちに持ち上げられるとそこで終わってしまうから。…まあ、演劇とは違うところで嫌な騒がれ方はしましたけどね。その頃はたいてい、松尾スズキさんの大人計画とペアで、演劇界の異端児みたいなサブカルの括りで扱われた。おかげで演劇に興味のある方々からは敬遠され、新聞の劇評も出ないし、こうした取材だって一切来てくれませんでしたから。―――それがいまや、岸田國士戯曲賞の選考委員をされるなど、気づけば演劇界の中心に身を置いていることをどう思われますか。KERA:居心地は良くないですよ(笑)。隅っこにいた方がずっと楽ではあるけれど、やらせてもらえること、やれと背中を押してもらえてることには、素直にありがたいと思っています。やりたくてもやれない状態の人だっていっぱいいますからね。震災の時に、創作を続けられる環境を用意してもらえているのは当たり前じゃないってことを痛感しましたから。―――他の若い劇団の公演にも頻繁に足を運ばれていますよね。やはり今後の演劇界を担っていかなければ、という思いはありますか。KERA:演劇界の未来を考える余裕はまったくないのですが、ある部分は担わなきゃいけないのかなとは思っています。…でも、若い人は面白いですよ。というか、僕は基本的に“若い世代がつねに正しい”と思っています。僕が正しく彼らの意図を汲み取れているかはわからないけれど、すでに出来上がっちゃっているベテランたちより面白い若者はたくさんいます。技術が追いついていないためにいまひとつ表現できていないものが多いんですけど、やろうとしているビジョンを汲み取ることはできる。―――新しいものに出合った時の焦りみたいなものはありませんか?KERA:ないですね、もはや焦りは。ただ、ウチは代々早世の家系なこともあり、自分は50代までしか仕事ができないと思って、このままではいろんなことをやり残すぞと、そういう意味で焦った時期はありました。でもいま55歳…アラ還(還暦)にもなると、焦っても仕方ないという方向に気持ちも変わってきています。ケラリーノ・サンドロヴィッチ劇作家、演出家、映画監督、音楽家1963年1月3日生まれ、東京都出身。’80年代にニューウェイブバンド・有頂天として活躍すると同時に、インディーズレーベル・ナゴムレコードを運営。’85年に演劇活動を開始し、’93年にナイロン100℃を旗揚げ。’99年に岸田國士戯曲賞を受賞し、以降、さまざまな演劇賞を受賞。映像作品にはドラマ『怪奇恋愛作戦』などがある。作・演出を手掛ける新作、KERA・MAP#008『修道女たち』は、10月20日~11月15日まで下北沢・本多劇場にて上演。その後、兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール、北九州芸術劇場 中劇場でも公演。出演に、鈴木杏、緒川たまき、鈴木浩介、高橋ひとみほか。キューブTEL:03・5485・2252(月~金曜12:00~18:00)※『anan』2018年10月24日号より。写真・小笠原真紀インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2018年10月18日ナイロン100℃主宰のケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)が、劇団外における演劇活動の場として2001年にスタートしたKERA・MAP。その新作、#008『修道女たち』の東京公演初日を約1か月後に控えた稽古場を訪れた。【チケット情報はこちら】稽古9日目を迎えた取材日、鈴木杏らキャストが手にしていたのは作・演出を手がけるKERAが前日まで執筆していたという追加台本。本読みにあたって、KERAは「転調に次ぐ転調」とこのパートが担う目的や伏線を説明する。巡礼に訪れた“修道女たち”を迎え入れる村の女・オーネジー役を演じる鈴木杏は、子どものような幼さが残るキャラクターをあどけない声色で造形。台本から顔を上げ、緒川たまき演じる友人役のシスター・ニンニに笑いかける場面も見受けられた。無邪気なオーネジーに対する修道女たちは、トーンを抑えた静かな演技で応戦。しかし、禁欲的で制約の多い聖職者が集まる場に似つかわしくない刺激的なセリフがオーネジーから放り込まれると、修道女に扮する緒川、KERA演出を初めて受ける伊勢志摩、ナイロン100℃の松永玲子と犬山イヌコ、ともに彼の作品へ出演経験のある高橋ひとみと伊藤梨沙子の6人も読みながら思わず笑ってしまう和やかなひと幕が。KERA作品の持ち味であるコメディの中で、シュールでナンセンスな筋運びや言葉選びは今回も大いに炸裂。修道女たちが滞在する、雪深く静謐で厳かな山荘を舞台にした劇空間とのギャップが楽しめるだろう。見学して感じたのは、キャストによる提案力の高さだ。立ち稽古でKERAが「距離があるというか……サバサバしすぎている気がするんだよね」と指摘すると、すぐさま反応したのが鈴木杏。「オーネジーはどんな印象を持っていたんでしょうか?」と物語に直接描かれていない背景についてKERAに意見を求め、回答を参考にセリフの抑揚や表情、動きに反映させる。他のキャストも、ある小道具を置く場所について「窓辺は盗まれそう」「暖炉に置くのは?」と積極的に意見を出し合い、全員一丸となって作品づくりに取り組んでいる印象を受けた。公演は10月20日(土)から11月15日(木)まで東京・下北沢本多劇場にて。その後、11月23日(金・祝)・24日(土)に兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール、12月1日(土)・2日(日)に福岡・北九州芸術劇場 中劇場で上演される。チケット発売中。取材・文:岡山朋代
2018年10月09日今年、ナイロン100℃での『百年の秘密』、『睾丸』という2本の劇団公演に続いて、KERA・MAPでも新作を発表するケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)。しかも『修道女たち』というタイトルには、何とも言えない魅惑的な響きが…。そこで出演者のひとりである鈴木杏とともに、現段階での構想、作品への想いを聞いた。【チケット情報はこちら】前作『睾丸』における学生運動のように、KERAの頭の中には創作の題材になりそうなキーワードが、常にぼんやりとストックされているという。その中から今回“修道女”を選び出した理由を問うと、「毎度ながら直感なんですよね」とKERA。「リサーチしてここを目指す、というのではなく、知らない町に行って、何があるかわからないままうろうろしながら、どれだけ面白いものや心打つもの、美しいものを発見出来るのか、みたいな。とてもリスキーではありますけど、その方が思いもよらぬものを手に入れられたりするんです」と、これまでの評価の高さに裏打ちされた自信を覗かせる。秀作が続くKERAだが、前作から3か月での新作発表は近年まれに見るハイペース。「モチベーションはものすごく高いですよ。スタッフやキャスト、もちろん自分のためにも、絶対に納得のいくものをつくりたいと思っていて。いつにも増して頑張りたい気持ち」と語気を強めるも、すぐ「まぁ頑張りゃいいってわけでもないけどね」と照れ笑いを浮かべる。鈴木は、2014年のナイロン本公演『社長吸血記』以来、KERA作品への参加は今回が2度目。前作について「KERAさんとの最初のお仕事が劇団公演の客演だったというのは、ものすごく確かな入口で。劇団の内部に入れたことはとても興味深く、面白い日々でした」と振り返る。さらに今回のオファーについては、「また声をかけて頂けたのは、素直に嬉しいです。KERAさんのホンが出来上がりながら、稽古しながら、本番になるっていうのは、どことも違う、すごく特殊な時空。あの感覚をもう一度味わえると思うとワクワクします」と顔をほころばせる。「神を信じる者が神の不在に直面する、そうした局面を描くのが好き」とKERAが語るように、これまでのKERA作品にも聖職者は何度か登場している。とはいえ現在KERAの頭の中にあるのは、「豪雪によって山荘に閉じ込められた、巡礼に来た修道女たち」という設定くらい。内容についてはKERA自身、「僕もまだ知らない」と笑う。まさに神のみぞ知る『修道女たち』の全貌。それが明らかになる開幕を心待ちにしたい。公演は10月20日(土)より東京・本多劇場にて開幕。その後、兵庫、福岡と各地を巡る。東京・兵庫公演はチケット発売中。福岡公演は9月30日(日)より一般発売。取材・文:野上瑠美子
2018年09月26日キューブに所属する“Infinity(無限)”な可能性を秘めた若手たちのサポーターズクラブ「C.I.A.(Cube Infinity Artists)」。昨年12月に行われたキックオフイベント、今年3月の「春のファン祭り」は大盛況に終わり、今月開催される「MISSION IN SUMMER」は追加公演が決定、年末には「SUPER LIVE」も控える大注目の集団だ。メンバーの白洲迅、川原一馬、永田崇人に話を聞いた。C.I.A.のイベントを実際にやってみて白洲は「僕自身、ファンの皆さんに直接お会いする機会があまりなかったので単純に嬉しかったです。それに同じ事務所の仲間や後輩のことを知るいい機会になっていると思います」、川原は「普段、ステージには役として立っているので、素の自分を見ていただくのはけっこう恥ずかしかったですね(笑)」、永田は「発足イベントのときは僕らもお客さんも未知だったから“はじめまして”という感じがありましたが、春にはお客さんも一緒に盛り上がってくれて温かな雰囲気でした」と振り返る。「みんなが自由にアイデアを発して、それを毎回の色にしていきたいと思います。僕たちの新しいファンイベントのカタチができたらいいですよね」(川原)と、メンバーにとっても楽しむ“場”となっているC.I.A.。取材中も永田が「迅くんのラーメン好きはC.I.A.のイベントで知りました」と言えば、川原が「迅がプロデュースしたラーメンを作るとかいいんじゃない?」と提案し、白洲が「じゃあ小麦粉からこだわるよ!」と目を輝かせ…「だったらこれは?」「あれもやりたい!」と次々アイデアが飛び出していた。実際、川原は年末の「SUPER LIVE」の演出を務めるといい「こうやってリーダーとしてものごとを進めることは初めてですし、こうやって自分のやりたいことがやらせてもらえるのもC.I.A.ならではだと思います」(川原)と新たな挑戦の場になる。永田が「僕は前回やりすぎて怒られたんですよ(笑)」と明かすと白洲が「崇人はそれでいいよ。怒られるまでやれるヤツはなかなかいない!」と言うのもC.I.A.のチームワークの良さを感じるやりとり。白洲は、この活動がいつか「“キューブならでは”と言ってもらえたら一番ですよね」と語る。その“キューブならでは”とはどんなものかと聞いてみると、川原は「演劇のカタチをつくってきた先輩方(生瀬勝久や古田新太、ケラリーノ・サンドロヴィッチらが所属)が多いからかもしれないですが、キューブって熱量が高い人が多いんですよ。その空気は僕ら世代も受け継いでいると思うので。C.I.A.でも僕らのカタチをつくっていきたいです」。これから彼らの活動がどんな風に広がっていくのか楽しみにしたい。取材・文:中川實穗
2018年08月10日結成25周年を迎えた「ナイロン100℃」が、今年、2本の記念公演を上演している。その第2弾となる『睾丸』に客演している坂井真紀。これが4度目のナイロン100℃出演となる彼女が、改めて感じるこの劇団の力とは何なのか。そしてそのなかで演じる面白さはどこにあるのか。稽古が始まったばかりの坂井に聞いた。【チケット情報はこちら】ナイロン100℃の主宰、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)による新作『睾丸』は、かつて学生運動にかかわっていたふたりの男を巡る話だ。坂井が演じるのは、そのひとり健三(三宅弘城)の妻で、学生運動の仲間だった亜子。その夫婦のもとを、もうひとりの男・伸高(みのすけ)が、夜中に突然訪ねて来るところから物語はスタートする。「コメディにも気持ちの悪いイヤーな話にも(笑)、どんなふうにでもできちゃいそうな始まりなんですよね。お稽古も始まったばかりなのでいろいろ試せる。KERAさんの新作はわからない面白さがあるんです」さらには、その役者の試行錯誤を、「最終的にはKERAさんらしいところに着地させてくれる安心感がある」のだという。「私はそのKERAさん独自のセンスにも惹かれているんですけど、演出家や監督は傲慢に自分の作りたいものを作ってくれることが、女優としてはうれしいので。音楽や照明にこだわり、お芝居も、幕が開いてからも、台詞や関係性が常にぶれないよう細かく追求して作られるKERAさんのお芝居はとてもやりがいがあります」ただ、だからこそ、そのなかに入るのは緊張もする。ナイロンには演技巧者も多い。「KERAさんの作品には、今回もそうですけど、ちょっと変わった人がよく登場しますよね(笑)。でも、それもみんな、表面的な見え方じゃなく気持ちから作っていくんです。だから、ナンセンスと呼ばれる作品も、上辺だけじゃない地に足の着いたものになるんだなと。私もちゃんとそこに存在しなければと思いますね」。この『睾丸』も独特な世界になりそうだ。ナイロン未体験のお客様には、「今まで感じたことのない気持ちのいいところ、不思議なところに連れて行ってもらえると思うので、ちょっとドアを開けてみてほしい」とアピール。坂井自身にもきっと、ドラマや映画では見たことのない魅力が現れるはずだ。公演は7月6日(金)に東京・東京芸術劇場シアターウエストにて開幕。その後、新潟、宮城など各地を巡る。チケットは発売中。取材・文:大内弓子ヘアメイク:ナライユミスタイリスト:梅山弘子衣装:Setsuko Todoroki × THE FACTORY
2018年07月02日結成25周年の劇団・ナイロン100°Cの底力を感じる、近年の傑作『百年の秘密』が再演。いま演劇界で、もっとも高打率の作家といえば、ナイロン100°Cのケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)さんだろう。観客を煙に巻く不条理劇、不穏な空気漂うコメディ、シリアスな家族劇など、作品は多種多様。そのKERAさんが、自ら「近年の劇団公演で抜きん出た一作」と評する『百年の秘密』が、劇団25周年に際して再演。2人の女性の、少女時代の出会いから死後までを、結成メンバーの犬山イヌコさんと峯村リエさんが、年齢を行きつ戻りつしながら演じていく。峯村:KERAさんとはもう30年以上。犬さんは40年近いでしょ?犬山:…ある意味、気持ち悪い(笑)。峯村:私はここまで、何度か劇団を休んだりしてたけど、犬さんはじめ、核になってるメンバーの方々は全然揺るがない。結局私が辞めなかったのも、それが大きかった気がする。犬山:やっぱり、KERAさんの作品が面白いからなんだよね。ギリギリまで台本が上がらなくて、稽古場で苦しんでも、お客さんが楽しんでくれたら、また結局出たくなるの。峯村:面白いだけで25年ですよ。犬山:すごいよね~。峯村:最近のKERAさんは、劇団公演となると力が入ってる気がする。犬山:外部では制約があってできないことや突き詰められなかったことも、劇団公演ならできるから。峯村:KERAさんの書く、独特の間合いから生まれる笑いの部分って、やっぱりナイロンの劇団員とやってる時が一番「そうそう、これこれ」ってなるもんね。犬山:KERAさんの笑いの“あの感じ”は、感覚的で、言葉で説明するのがとても難しいからね…。峯村:その感覚の部分を、一番体現しているのが犬さんだと思う。犬山:今回の作品は珍しく、そういうKERAさんの笑いや、トリッキーな場面は少ないけどね。峯村:2人の女の大河ドラマだから。犬山:そのぶん、KERAさんの笑いが苦手な人や、作品を観たことがない人にも観やすいとは思う。峯村:女性同士の単なる友情で終わらない物語だけど…KERAさんは男性なのに、なんでこんなに女性のことをわかってるんだろう。犬山:会話の言葉のチョイスが絶妙で、すごくリアルなんだよね。峯村:「なんか見てた?」って思ってドキッとするくらい。犬山:恐ろしい(笑)。峯村:しかも、時代が行ったり来たりするから演るのも大変。犬さんなんて、間1分で4歳から78歳になってすぐ4歳に戻るシーンもあるし。犬山:それでも演んないと観てもらえないのが演劇。やっぱり面白いから、観てない人に観てもらいたいね。写真右/みねむら・りえ舞台を中心にドラマ、映画でも活躍。NHK大河ドラマ『真田丸』で演じた大蔵卿局では存在感を発揮。6月からは『アイアングランマ2』(NHK BSプレミアム)に出演。左/いぬやま・いぬこ舞台を中心に、ドラマ『時効警察』や『怪奇恋愛作戦』、映画『ラブ&ピース』など映像にも多数出演。また、アニメ『ポケットモンスター』のニャースの声優としてもお馴染み。真ん中に楡の木がそびえ立つお屋敷に住むティルダ(犬山)は、転校生のコナ(峯村)と仲良くなる。思春期、結婚、晩年…さまざまな時代を切り取り、2人の人生と友情を描く。4月7日(土)~30日(月)下北沢・本多劇場作・演出/ケラリーノ・サンドロヴィッチ出演/犬山イヌコ、峯村リエ、みのすけ、大倉孝二、松永玲子、村岡希美、萩原聖人、泉澤祐希、伊藤梨沙子、山西惇ほか全席指定6900円(税込み)キューブ TEL:03・5485・2252(月~金曜12時~18時)兵庫、豊橋、松本公演あり。※『anan』2018年4月11日号より。写真・内田紘倫(The VOICE)取材、文・望月リサ(by anan編集部)
2018年04月10日今年25周年を迎える人気劇団ナイロン100℃。その25周年記念公演の第1弾『百年の秘密』が4月7日、本多劇場で開幕した。本作は東日本大震災の翌年2012年に初演され、劇団主宰で作・演出のケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)が、人の生と死を見つめて描いた大河ドラマ。KERA自身が再演を熱望し、近年の自作の中でも渾身の出色作であると明言する本作が、25周年記念公演として満を持しての再演にいたった。【チケット情報はこちら】ベイカー家の娘・ティルダ(犬山イヌコ)と、生涯の親友となるコナ(峯村リエ)の友情と、彼女たちの親や兄弟、伴侶、子供たちの物語が紡がれ、ベイカー家の屋敷の庭にどっしりと立つ大きな楡の木に見守られながら、時は移ろい、人間模様が様々に展開してゆく。ティルダは銀行家の父・ウィリアム(廣川三憲)とやさしい母・パオラ(松永玲子)の裕福な家庭に生まれ、変わり者の転校生のコナと友情を結ぶ。同級生のリーザロッテ(村岡希美)やチャド(みのすけ)と違い、ティルダはコナを大事に思う。ティルダの兄・エース(大倉孝二)はバスケット選手として大学の推薦入学も決まり、父の大きな期待を受ける。その頃のベイカー家には明るい空気が満ちていた。エースの友人のカレル(萩原聖人)の来訪に、ほのかな思いを寄せるティルダは頬を赤らめる。隣人の弁護士のブラックウッド(山西惇)もベイカー家を訪れ、大きな屋敷には様々な人々が集う。女中のメアリー(長田奈麻)は、家事を取り仕切りベイカー家の様々な人間模様を見ている。穏やかな声の彼女の語りによって、この大きな物語は進行してゆく。未来をまだ知る由も無い10代のティルダとコナの人生は、その後、それぞれが思わぬ展開に。時代を前後に行き来しながら、ふたりの人生の狭間に起こる出来事をコラージュのように見せてゆく手法によって、彼女たちの人生に何があったのか、どんな秘密が生まれ、そこにどんな真実があったのかが次第に紐解かれていく。描かれる時代が変わる度、俳優陣が演じる年齢も変わっていくが、それを変幻自在に演じきる力も圧巻。初演から6年の時を経た今回、ドラマはさらに深まり熟成された。いまを懸命に生きる人々に寄り添う作品にきっとなるに違いない。本多劇場での東京公演は4月30日(月・休)まで。その後、兵庫、豊橋、松本と各地をめぐる。チケットは発売中。
2018年04月09日いま、映画やドラマの世界を飛ぶ鳥を落とす勢いで席巻しているのは菅田将暉、福士蒼汰、山崎賢人ら93年~94年あたりに生まれた世代です。先日、授賞式が行われた日本アカデミー賞では、菅田さんが25歳にして最優秀主演男優賞を受賞。人気のみならず、骨太な作品で映画ファンを唸らせる実力があることを改めて見せつけました。このイケイケの若者たちの台頭により、やや押され気味に見えてしまいがちですが、実は、確かな実力と個性で、数年前の20代前半の頃の“イケメン推し”とはまた違った形でセカンドブレイクとも言うべき流れを作りつつあるのが、1987年~90年代初頭生まれ、つまり現在20代後半~30代になろうかという世代です。この世代、少し上には圧倒的な存在感と人気を誇る小栗旬、山田孝之、綾野剛らの世代がいて、下からは、先述の20代前半の若手が突き上げてくるという状況であり、おまけに年齢的にも、若者向けの恋愛映画で学生をやる機会は減り、さりとて父親役にはまだ早く…という状況に置かれており、そんな中途半端さが、影が薄く見えがちな理由のひとつなのかもしれません。とはいえこの世代、決して知名度が低いわけでもなく、イケメンぞろいで実力もあり、なかなか見応えのある面々が多いのです。まず、この世代において別格の存在、“セカンドブレイク”などという言葉は全く当てはまらない、若い頃からコンスタントな活躍をしているのは、何と言っても佐藤健です。『仮面ライダー電王』主演後は、「ROOKIES」シリーズ、大河ドラマ「龍馬伝」の“人斬り”岡田以蔵役など、脇役ながらも確かな演技力で注目を浴び、その後『るろうに剣心』シリーズという絶対的な代表作を得て、ドラマ、映画に次々と主演。彼の凄いところは演技力もさることながら、作品選びのセンス!漫画実写化、オリジナル作品を問わず「佐藤健が出てるなら、面白いかも」と役者の名前で客を呼べる数少ない存在といえます。昨年末公開の『8年越しの花嫁 奇跡の実話』はいわゆる、実話感動ものであり、正直、タイトルで見る人を選ぶ作品。「佐藤健が実話感動ものに?」と驚きがありましたが、興行収入は25億円を超える大ヒット。また、エンタメ性の強い作品に数多く出ていることもあって、その人気と実力のわりに、意外にも日本アカデミー賞に縁がなかったのですが、同作で優秀主演男優賞を受賞しています。来年4月より始まるNHKの連続テレビ小説「半分、青い。」では永野芽郁が演じるヒロインの幼なじみ役で朝ドラ初出演。まもなく29歳を迎えますが、この世代で頭ひとつ抜けている存在といえます。佐藤さん以外で、主演・助演を問わず高い評価を得ている存在としては、今年30歳を迎える窪田正孝の名前が上がります。作品ごとに見た目や雰囲気がガラリと変わる、この世代で随一の“カメレオン俳優”です。デビューは2006年で決して遅いわけでもなく、『ガチバン』シリーズなどいくつも主演を張ってきてはいますが、多くの人が知るようなメジャーな存在になったのは、朝ドラ「花子とアン」(2014)の朝市役あたりですから、この世代の中ではやや遅咲きの部類に入ると言えます。さて、ずいぶん長い前置きとなって恐縮ですが、ここからがいよいよ本題。この記事で主に紹介したいのは、7~8年前、20代前半の段階で“イケメンブーム”の中で、若い層向けの少女漫画原作の映画やドラマに立て続けに出演していた、まごうことなきイケメン俳優ながらも、ここ数年、30代が近づく中で、意外な個性やコメディの才能を発揮し、以前とはまた違う形で人気と注目を集めている俳優たちの存在です。その代表格と言えるのが松坂桃李。「侍戦隊シンケンジャー」で“レッド”を務め、その後はドラマ「アスコーマーチ~明日香工業高校物語~」に映画『今日、恋をはじめます』でバリバリのイケメンを演じ、さらに朝ドラ「梅ちゃん先生」でお茶の間のハートを鷲づかみにしましたが、近年では、イケてない役や独特の役柄で存在感を発揮!宮藤官九郎脚本の「ゆとりですがなにか」では童貞教師役に。映画『ピース オブ ケイク』ではヒロインの親友“オカマの天ちゃん”を好演し、『劇場版MOZU』では狂気に満ちた殺人鬼役を演じました。また、昨年公開の『彼女がその名を知らない鳥たち』では、イケメンに見えて、実はなかなかのクズ!という役を見事に演じており、蒼井優演じるヒロインを相手に、まさかあんなところであんなことを…というシーンも!今年も話題作が目白押しで「梅ちゃん先生」に続く朝ドラ「わろてんか」、ダークヒーローを演じた『不能犯』、キャリア刑事を演じる『孤狼の血』など役柄も様々です。中でもひときわ高い注目を浴びているのが、石田衣良の小説を原作に、舞台版に続いて主演を務め、“娼夫”を演じる『娼年』です。既に特報映像段階でかなり話題を呼んでいます。下世話な言い方で恐縮ですが、松坂桃李があんな姿であんなことをしたり、こんなことをしたり…というのを見に行くだけでも、1800円を払う価値あり!この秋で30代に突入しますが、ますます活躍の場が増えそうな俳優です。先ほども紹介した「ゆとりですがなにか」で主演を務めたのが、今年で29歳になる岡田将生です。岡田さんといえば、2007年のドラマ「『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~」で10代ながらメインキャストのひとりを演じ、その後も『重力ピエロ』、『ハルフウェイ』、『ホノカアボーイ』、『僕の初恋をキミに捧ぐ』など、主演もしくはそれに次ぐ役柄で映画界を席巻。ただ、決して王子様的なイケメンばかりでなく、ちょっと頼りないけど母性本能をくすぐるようなタイプから、Sっ気のあるクールな役柄まで硬軟入り混じった役柄を若い頃から演じてきました。『告白』ではウザい熱血教師を、『悪人』では冷酷な笑みが印象的な大学生を演じ高い評価を得ています。そして最近では、「頼りないけどカワイイ」ではなくもっと振り切った「正直、見ててイタい」と思わせるような方向の役柄にも挑戦!『何者』、『伊藤くんAtoE』と立て続けに、「若者と言いつつも、そろそろいい年なのに意識高い系」という役柄で見事なまでにイタイ男を体現。この自信満々の意識高い系の男がガッチリと論破されて、そのプライドがへし折られる表情までしっかりと演じ、観客にカタルシスを味わわせてくれました。一方で、ドラマ「小さな巨人」では、エリートながらもあえてノンキャリの道を選んだ若き刑事役で、改めてそのイケメンぶりを見せつけるなど、30代を前にますます役者としての幅は広くなっています。もうひとり、「イケメンなのに…」という逆接で、この世代で欠かせないのが賀来賢人。既にムロツヨシや佐藤二朗と並ぶ、福田雄一監督作の常連であり、コメディセンスは同世代でもトップクラス。福田作品のみならず、劇団☆新感線にケラリーノ・サンドロヴィッチ、赤堀雅秋など、舞台界を代表する演出家からも引く手あまたの売れっ子です。福田組、そして舞台で経験を積んだ賜物と言えるのが、決して大げさに何かをしているわけでもないのに、不思議と彼に視線が行ってしまう、圧倒的な存在感。月9ドラマ「海月姫」では、一流ビジネスマンにしてファッショニスタのカイ・フィッシュ役で独特の“異物感”を絶妙なニュアンスで醸し出す。また、シリーズ最終章を迎える『ちはやふる -結び-』では、イケメンなのにどこか抜けている現役最強の名人・周防を演じているが、佇まいからポツリポツリと話す口調まで若手メインキャスト陣とはまた違った大人の男の色気と魅力を全開!20代前半のツヤツヤの若者たちも魅力的ですが、「若手以上オジサン未満」のイケメンたちが、顔ではなく、存在感と個性で魅せる姿にぜひご注目を!(text:cinemacafe.net)
2018年03月12日12月21日(木)から2018年1月10日(水)まで、渋谷ヒカリエなど渋谷の3か所で、現代演劇ポスターが展示される「現代演劇ポスター展 2017-演劇の記憶、時代の記憶、デザインの記憶、都市の記憶」が開催される。【チケット情報はこちら】主に演劇やイベントなどのポスター、チラシを劇場や飲食店、ギャラリーなどへ配布する業務を行っているポスターハリス・カンパニー。同展ではそのポスターハリス・カンパニーが所蔵する2万点にも上る現代演劇ポスターコレクションから厳選した約300点を展示する。1960年代後半に劇団の旗印として登場し時代を挑発したアングラ演劇のポスターから、小劇場ブーム、静かな演劇なども含め、時代の流れとともにポスターや劇団はどう変化したのか。同展で展示されるポスターは、有名な美術家やグラフィックデザイナーが手掛け現代美術として評価の高い作品も多く、当時の時代性や世相、演劇、デザインの歴史を感じる事ができる。なお、同展の開催にあわせ、本展覧会でしか聞く事が出来ないトークショーを実施。出演は麿赤兒、及川正通、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、長塚圭史など。詳細は公式サイトでご確認を。チケットは12月1日(金)より発売開始。■「現代演劇ポスター展2017-演劇の記憶、時代の記憶、デザインの記憶、都市の記憶」日程:2017年12月21日(木)~2018年1月10日(水)<※1月1日は休業日>時間:11:00~20:00(最終入場 19:30まで)会場:【1】ヒカリエホールホールB【2】渋谷キャスト スペース【3】アツコバルー arts drinks talk料金:【前売】一般1300円 / 大学生500円【セット割引券】ペア券(2枚セット)2500円 / トリプル券(3枚セット)3690円※セット割引券はチケットぴあのみ取扱い(サービス休止期間:2018年1月2日(火)23:00 ~ 1月5日(金)18:00(予定))※3会場フリーパス(初回入場時の会場でチケットの半券を回収)※前売にて一般チケットご購入の方には先着で初回入場時に特製缶バッジをプレゼント
2017年11月15日俳優の三宅弘城さんが、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)さんの舞台の裏側について明かしました。生来の明るさと軽妙さ、そして独特のトボけた妙味で、いまやドラマに映画にと活躍中の三宅弘城さん。「昔から、イケメンよりも面白い方がカッコいいと思っていたんですよね。ドリフが大好きで漫才ブームに熱狂して…。そもそもお芝居をやりたいと思ったことは一回もなく、たけし軍団に入りたかったくらいで」そんな時、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)さんが作・演出の劇団健康の舞台に出合う。「ここに入りたい、ここの世界に入ってみたいと思ったんですよね」劇団健康を前身に持つナイロン100℃は、いまや第44回公演を迎えるほどに。そして、三宅さんは劇団の看板のひとりに数えられる。「いまだに台本をもらうたびにワクワクするんですよ。稽古が進むうちに、徐々に台本が上がってきて、新しく作られたシーンがオープニングになったり、時にはセリフが差し替わることもあって、完成に近づいて、まさかこんな展開に?って、やってるこちら側が驚いたりすることも多いんです」次回作『ちょっと、まってください』は、KERAさんの3年ぶりとなる待望の書き下ろし。「今回、別役実さんの作品に近い不条理テイストになると聞いていたんですが、別役さんぽいシーンもあるんですけれど、やっぱりKERAさんなりの不条理なホンになってきててニヤニヤします」脚本もさることながら、またその演出にもエッジが利いている。「たとえば、テンポのいい芝居が続くと、急に、ここから空気を転調させたい、と言われるんです。その通りやると、不思議な間が生まれてクスッと笑えたりして。最近、KERAさんは他の作家さんの作品を演出することが増えてきて顕著になっていますけど、僕らが普通に読むだけじゃわからないような笑いどころを、演出でわかりやすく教えてくれるんです。“面白”を際立たせることのできる演出家なんだと思います」今回は乞食と金持ちの家族が、ちょっとずつ入れ替わる話なのだとか。「毎日稽古のたびに、こんな面白がり方もあるんだって驚かされます」みやけ・ひろき1968年1月14 日生まれ、神奈川県出身。グループ魂のドラマー・石鹸としても活躍中。放送中のドラマ『今からあなたを脅迫します』(NTV系)にも出演している。ナイロン100℃ 44th SESSION『ちょっと、まってください』劇団としては2年ぶりの本公演、3年ぶりの新作に。近年、劇作家としてはもちろん、チェーホフ作品など演出家としても高い評価を集めるKERAさんだけに期待が高まる。11月10日(金)~12月3日(日)下北沢・本多劇場作・演出/ケラリーノ・サンドロヴィッチ出演/三宅弘城、大倉孝二、みのすけ、犬山イヌコ、峯村リエ、水野美紀、遠藤雄弥、マギーほか全席指定6900円(税込み)キューブTEL:03・5485・2252三重、兵庫、広島、北九州、新潟公演あり。※『anan』2017年11月15日号より。写真・土佐麻理子インタビュー、文・望月リサ
2017年11月14日ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)が、チェーホフ四大戯曲を手がけるシリーズ【KERA meets CHEKHOV(ケラ・ミーツ・チェーホフ)】第3弾『ワーニャ伯父さん』が開幕した。舞台『ワーニャ伯父さん』チケット情報“最高のキャスティングとシチュエーションが揃ったときのみに実現”という不定期上演企画として、これまで2013年「かもめ」(生田斗真、蒼井優ほか)、15年「三人姉妹」(余貴美子、蒼井優ほか)を上演。真正面から100年以上前に書かれた戯曲に向き合いながらも、独自の言語感覚とリズムに彩られた“KERAワールド”が今回も展開される。演出家、キャスト陣の開幕直後のコメント。ケラリーノ・サンドロヴィッチ「3作目ともなると、付き合い方も自分なりに会得できたと思っています。前2作が“交響楽”の趣きとすると、ミニマムで閉塞感が強いワーニャは、いわば“室内楽”。今回は小さな空間で、ポップさを心掛け、細かい表現にもこだわりました。観客の皆さんが我を忘れて劇世界にのめり込める状況をつくることが自分に課した使命でした。今回が3作中、一番良い出来映えなのは間違いありません」段田安則「登場人物の皆がグチグチと不満ばかりを言っているので、最初は、“どこが面白いんだ?”と思っていたんです (笑)。でも、悲劇的な状況の中に喜劇的なニュアンスがある戯曲ですし、何よりも信頼する顔ぶれですからね、チェーホフ好きの方にも、初チェーホフの方にも、”おっ、いい感じのヒットを打ったんじゃない?”と思っていただけるものに仕上がったと思っています」宮沢りえ「チェーホフは、掘れば掘るほど底なしの深さがあって、演じていて楽しいですね。引き算も足し算もできる難しさがある分、役者として鍛えられます。私が演じるエレーナは多面的な要素をもつ女性。退廃的だけど魅惑的で、保守的だけど破滅的。劇中で「肉食獣」とも言われますし(笑)、自分の衝動に対して素直な、人間味あふれるエレーナにできればと思っています」黒木華「最初は暗い印象を受けた戯曲が、KERAさんの上演台本と演出、稽古場での先輩たちの魅力的な姿を通し、不平不満や不幸の裏側の滑稽な面が見えてきて、とても面白くなってきました。ソーニャは一番若いのですが、一番現実を見ているしっかりした人物。難しい役柄ですが、一番感情移入しやすい存在かもしれません。これは、チェーホフが苦手という方でも面白く見ていただける舞台です」とそれぞれに感じたところを来場者へ向けたメッセージとして語ってくれた。公演は9月26日(火)まで東京・新国立劇場 小劇場にて。
2017年08月29日宮沢りえさん、段田安則さんらとともにチェーホフ劇に挑む黒木華さん。豪華なメンバーとの共演や、舞台の裏側についてインタビューで聞きました。登場するのは愚痴っぽい人々ばかり。そこで大きな事件も起きないまま、淡々と会話で綴られていく。そんな表面だけをなぞると退屈にも思えるチェーホフ劇を、丹念に戯曲を読み解き、その演出により、セリフに潜む人間の滑稽さや愛嬌、そして悲哀を舞台上に描き出し、悲喜劇にしてみせたケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)さんによるチェーホフシリーズ。その第3弾『ワーニャ伯父さん』が上演される。「最初に台本を読んだ時には、閉鎖された空間のなか、皆がどうしたらいいのかわからずにいる…というようなイメージを受けたんです。でもそれが、稽古が始まってみると、悲劇的ではあるのに、皆が苦しめば苦しむほど滑稽で笑ってしまうんです。これまでチェーホフに縁がなかったんですが、自分のなかで作品の印象が変わってきているんですよね」これが初のKERA作品となる黒木華さん。稽古場では、KERAさんから「声のトーンや間合い、ミザンス(立ち位置)まで」、かなり細かな演出がつけられているという。「私の演じるソーニャに対しても、『ここのセリフは大人っぽく見える感じで』とおっしゃる場面もあれば、『ここはもっと子供っぽく』と言われたり。KERAさん自身が音楽もやられているからなのか、流れやリズムを大事にされていて、私からしたら音楽のように演出をつけているようにも感じます。細かなパーツを、まだ私はひとりのキャラクターに落とし込めていない状態なんですけれど、言われた通りにやってみると、こんなふうにも読めるんだって思うことが多くて、少しチェーホフがわかったような気がしています」ワーニャ役には段田安則さん。そして黒木さん演じるソーニャの継母で若く美しいエレーナ役には宮沢りえさんと、豪華な顔ぶれが揃う。「不器用な私は、KERAさんが求めているのはあっちの階段かなこっちの階段かなって悩んで、一段一段踏んで上っていかないと気づけないことばかり。でも、りえさんはどんどん自分の思う階段を駆け上がっていかれる。そこからKERAさんの意見を聞いて1段下がってみたり、別の階段に移ってみたりを軽々とやられていて、すごく自由なんです。他の方々もうまい方ばかりで『ヤバい!』ってなってます(笑)」確かに上り方は違うかもしれない。それでも、いま黒木さんが迷いながら上り始めた一段は、堅実で確実な一歩であることは間違いない。「もちろん私が考えるゴールに近づこうとはしていますけれど、それがはたして面白いのかどうかとも考えるんです。でも、私にはこれしかできないんですよね。だからいまは一歩ずつ上がるしかないのかな、と」そんななかでも、「今回の役は、新しくて面白い」とも。「どんな役をいただいても、たいてい悩んでいるんですけれど、今回に関しては、どう作っていいのか本当にわからないと思うことが多いんです。KERAさんはすごく切ないことをやろうとしているのに、それをどうしたら面白く伝えられるかを考えている。その“面白”に自分がついていけているのか…すごく怖いけれど楽しいです」そんな黒木さんの迷いのない口調が、可憐で控えめだけど芯の強いソーニャ像とぴったりと重なった。長年、大学教授のセレブリャコーフ(山崎)を尊敬し支援してきたワーニャ(段田)だったが、退職して田舎に戻ってきた彼の尊大な態度に失望。平穏だった日々が一変し…。8月27日(日)~9月26日(火)初台・新国立劇場 小劇場作/アントン・チェーホフ上演台本、演出/ケラリーノ・サンドロヴィッチ出演/段田安則、宮沢りえ、黒木華、山崎一、横田栄司、水野あや、遠山俊也、立石涼子、小野武彦S席8500円A席7000円B席5500円*全て税込み当日券ありシス・カンパニーTEL:03・5423・5906(月~金曜11:00~19:00)くろき・はる1990年生まれ、大阪府出身。在学中から舞台で活躍し、野田秀樹作品ではオーディションでヒロイン役に選ばれるなど注目を集める。近作にドラマ『みをつくし料理帖』。出演映画『散り椿』は来年公開。※『anan』2017年8月30日号より。写真・内田紘倫ヘア&メイク・新井克英(e.a.t…)インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2017年08月28日吉永小百合120本目の出演作となる映画“北の三部作”最終章『北の桜守』。この度、本作に参加するキャストとして、篠原涼子、佐藤浩市、阿部寛ら日本映画を代表する豪華俳優陣の参加が明らかになった。1945年、南樺太に一輪の桜が咲いた。やっと咲いたその花は、江蓮てつたち家族にとって希望の花のはずだった。その年の8月、ソ連軍の侵攻が起こる。てつは息子2人と共に樺太を脱出。決死の思いで北海道の網走へと辿り着く。そんな満身創痍の親子を待っていたのは、想像を絶する過酷な生活だった。意識を失うほどの厳しい寒さと飢餓、その中を親子は懸命に生き抜くのだった。1971年、成長した次男の修二郎は米国で成功し、日本初のホットドックストアの日本社長として帰国。15年ぶりに網走を訪れた。そこには長男の姿はなく、一人、夫を待ち続けながら慎ましい生活を送る年老いたてつの姿があった。修二郎はてつを札幌へと連れ帰り、面倒をみる決意をする。息子夫婦と暮らし始めたてつだったが、薪を使い米を炊き、近所から苦情を受けたり、金を払わず八百屋から葱を持ち去ろうとするなど、徐々に不可解な行動が目立つように。年老いたてつは、戦禍によるPTSDの後遺症に陥っていた。そして、てつ自身もその変化を自覚していく…。そんなある日、てつが突然姿を消す。立派になった修二郎に迷惑をかけたくないと思い、一人網走に戻ろうとしたのだ。だが網走の住宅はすでに取り壊されており、帰る場所を失ったてつ。てつのために一緒に寄り添いたいと思う修二郎。2人は北海道の大地を巡る過去への道行を始める。その旅は、親子の抱える禁断の記憶の扉を開けてしまうのだった――。北海道を舞台にそこで生きる人々を描いた、2005年公開の『北の零年』(行定勲監督)、2012年公開の『北のカナリアたち』(阪本順治監督)に続く“北の三部作”最終章である本作は、戦中・戦後の北海道の厳しい環境の中、懸命に生きた母・江蓮てつ(吉永小百合)と、息子・修二郎(堺雅人)の約30年にも渡る姿を描いた物語。『おくりびと』で米国アカデミー賞で日本初の外国語映画賞を受賞した名匠・滝田洋二郎監督が丁寧に切り取っていく。また、今回新たに発表されたキャストたちが演じる役柄も明らかに。堺さん演じる修二郎の妻・江蓮真理役を演じるのは篠原さん。吉永さんとは本作が初共演となり、義理の母と娘という間柄の役で挑む。同じく吉永さんとは初共演となる佐藤さんは、闇米屋として貧困に喘ぐ江蓮親子に仕事を与え、生活を手助けする菅原信治役。そして、吉永さんと共演した『ふしぎな岬の物語』では、甥っ子役を好演した阿部さんは、今回は吉永さん演じるてつの夫・徳次郎役を演じる。そのほか、かつて網走で江蓮家の隣人であった女性、島田光江役を高島礼子、真理の父親で修二郎の義父となる岡部大吉役を中村雅俊、てつと修二郎が思い出の地を2人で巡る道中、立ち寄る居酒屋「たぬき」の主人を笑福亭鶴瓶、樺太で生活していた頃からの友人で、長年てつたちを手助けしてくれる山岡和夫役を岸部一徳が扮する。さらに、悲惨な現実をファンタジックに昇華するケラリーノ・サンドロヴィッチが舞台演出を行い、主人公・てつの心象風景を象徴的に舞台で表現。また、音楽は小椋佳、星勝が担当し、美しい日本の情緒をメロディで表現し、本作の世界観にさらなる彩りを加えていく。『北の桜守』は2018年春、全国にて公開予定。(cinemacafe.net)
2017年03月22日第24回読売演劇大賞の贈賞式が2月27日、都内にて行われた。読売演劇大賞は1994年に演劇界の活性化を願って創設された賞。今回は2016年1月から12月までに国内で上演された、すべての演劇作品を対象に、最もすぐれた作品・人に贈賞される。作品賞、男優賞、女優賞、演出家賞、スタッフ賞の5部門と、全部門の中から新人を対象に贈られる「杉村春子賞」があり、その中からさらに「大賞」を選ぶ。今回の大賞はNODA・MAP『逆鱗』や『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参」』の美術を担当し、最優秀スタッフ賞を受賞した堀尾幸男。「私は(登山家の)三浦雄一郎さんに似てるんですが、舞台美術家やスタッフは“シェルパ”。山に登って三浦先生は歓喜の声を上げ写真に写りますが、シェルパは写真に出てこない。これはまさに舞台スタッフ。それが今回、大賞を頂いて表に出ることになりました」とユーモアたっぷりで受賞の喜びを語った。なお、最優秀スタッフ賞受賞者の大賞受賞は読売演劇大賞史上初。最優秀作品賞は『ジャージー・ボーイズ』が、こちらもミュージカル作品としては同賞史上初の受賞。また同作に主演した中川晃教は最優秀男優賞を受賞し、W受賞となった。実在のバンド「ザ・フォー・シーズンズ」の栄光と影を描いた作品で、中川は“天使の歌声”の持ち主フランキー・ヴァリ役をトワングという歌唱法を用い演じたが「自分でも聴いたことのない自分の声が必要だった」とその苦労を振り返りながらも、充足の表情。時折、感極まり涙で声を詰まらせながら「歌と芝居、そしてダンス、様々な手法でミュージカルはお客さまに感動を届けていく。なんて素晴らしい仕事なんでしょうか。今後もミュージカル、エンタテインメントを、最高のところまで持っていけるように僕も頑張っていきたい」と力強く語った。最優秀演出家賞はケラリーノ・サンドロヴィッチ。「出演者の方とワイワイやっているうちに出来ちゃったという感じ。こんな楽しいことをやって賞までいただいて、ありがたい」とコメント。最優秀女優賞の鈴木杏は「15歳から16歳になるときに『奇跡の人』で初めて舞台に立って、そのときから私はずっと演劇に恋をしっぱなし」と笑顔で語る。杉村春子賞を受賞した三浦春馬は「この賞をいただいたことによって、微力ですがもっともっと、ミュージカル、そして演劇を、日本の皆さまに身近に感じてもらえるように努力をしていきたい」と話した。ほか芸術栄誉賞は吉井澄雄、選考委員特別賞は三浦基が受賞。会見後には『ジャージー・ボーイズ』のメンバーによるパフォーマンス披露もあり、華やかで楽しい会となった。
2017年03月01日今年は、NHK連続テレビ小説『あさが来た』など話題のドラマに多数出演し、さらに注目が高まった瀬戸康史。舞台でも、『遠野物語・奇ッ怪其ノ参』で東北の青年を演じ、流暢な方言で観客を驚かせたばかりだ。その計り知れない力を、来年早々、また舞台で観ることができる。ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)作・演出の『陥没』がそれだ。KERAが手がける「昭和三部作」の完結編で、演劇界の才能たちと相まみえることになった瀬戸。その胸の内は、意欲であふれているようだ。舞台『陥没』チケット情報2009年の『東京月光魔曲』で昭和初期を、2010年の『黴菌』で昭和中期を描いたこのシリーズ。完結編は、昭和の東京オリンピックを控えた1962年頃が舞台となる。前2作を観ている瀬戸は、「僕もギリギリ昭和生まれの人間なんですけど(笑)」と前置きしながら、「KERAさんの描く昭和は面白かったです。最初はちょっと難しいのかなと思ったんですけど、複雑なドラマが描かれながら、でも、作品が投げかけているのはシンプルなメッセージなのかもしれないなってすごく感じるものがあって。だから今回も、昭和のオリンピックを描きながら今の時代と重なることも出てくるだろうし。オリンピックだって浮かれてはいられない人たちを描くらしいんですけど、長い目で見たら、むしろそちら側のほうにこそ幸せがあるんじゃないかなと僕は思ったりするので。そのなかでどんな役柄を演じることができるのか、楽しみしかないですね」KERAとの初タッグについては「KERAさんは芝居だけでなく音楽もやられていたり、表現者として尊敬できる人。刺激をもらいつつ、自分も表現者のひとりとして何ができるか、考えさせられる現場になりそう」と語る瀬戸。『遠野物語──』では実際に遠野まで足を運んで下準備をしたり、表現に取り組む姿勢は真摯だ。自身でも「真面目だとよく言われる」と苦笑しながら、「そこに面白さとか何かエッセンスが加えられればなと思うんです。とくに今回の出演者は、僕よりも舞台を踏んでる数が圧倒的に多い方ばかりですから。KERAさんやこの役者陣と一緒にやれることを自分自身が楽しみたい」と意気込む。確かに共演には、井上芳雄、小池栄子、生瀬勝久など手練れが揃う。「だからこそ、小細工はしないでいようと思います。変に芝居しようとすると僕は形だけになっちゃいそうな気がするので、毎回毎回その場でリアルに会話するしかない」ときっぱり。KERAにしか描けない昭和の世界でいかに生きるのか。役者・瀬戸康史の本領を期待したい。2017年2月4日(土)から26日(日)まで東京・Bunkamuraシアターコクーンでの公演の後、3月3日(金)から6日(月)まで大阪・森ノ宮ピロティホールでも上演。チケットぴあでは大阪公演のチケット先行抽選を実施中、12月12日(月)午前11時まで受付。東京公演はチケット一般発売中。取材・文:大内弓子
2016年12月08日ミュージカル界のプリンス・井上芳雄と、第23回読売演劇大賞最優秀女優賞を獲得したばかりの小池栄子が、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)作・演出『陥没』で初めて顔を合わせる。『東京月光魔曲』(2009年)、『黴菌』(2010年)に続くこの昭和三部作の完結編を、ふたりはどう捉え、どう見せるのか。舞台『陥没』チケット情報完結編の舞台となるのは、東京オリンピックを控えた1962年。高度経済成長期で日本中浮かれる中、時代の溝にはまってしまった婚約中のカップルと、ふたりを取り巻く人々が描かれる。井上と小池が演じるのは、そのカップルだが、小池曰く、「何となく最初から不穏な空気が流れていて、あまりハッピーっぽくない感じのふたりなんです(笑)。そこがKERAさんらしくていいなと思いますね」。井上も、「昭和の東京オリンピックの話っていうと、“高速道路ができた!わーい!”みたいな印象を持たれると思うんですけど、むしろ、そうじゃないところにいる人々を描くみたいで。それが面白いなと思いました」と、KERAが描く昭和のユニークさを語る。初共演で微妙な距離のカップルを演じることになるが、お互い心配はないようだ。「とにかく怪物的なくらい演技力のある女優さんっていう印象があります。あと、すごく聡明。自分で言うのは何ですが、僕もよく頭がいいって言われますけど(笑)、本当に頭がいいっていうのはこういう人のことを言うんだなと思ったので、一緒に芝居が作っていけるのが楽しみですね」と井上が言えば、小池も「役に距離があるからって、現場でも距離を置いてしゃべらないなんていうことは、する必要がない人だなと思いました。年齢も井上さんがひとつ上の同世代ですしね。歩んできた道は全然違いますけど、どういう考えを持って、どうやって芝居を作っていくのか、近くで見ることで絶対に刺激になると思います」と期待を募らせる。KERA作品に出演するのは初めてだが、観客としてはこれまで何作も観てきた井上。「KERAさんはいろんなジャンルの作品を作られるので、今回は、シアターコクーンでやるKERAさんの作品という楽しみ方もできると思います。たとえば僕も含めた出演者の多彩さとか。そのせめぎ合いは僕も楽しみです」。シアターコクーン初登場となる小池は、「コクーンに立っても演劇ファンの方達が許してくれるような姿、芝居をお見せしたい」と意気込む。いくつもの初めてがある。だが、実力派のふたりはきっと、それを武器にしていくことだろう。公演は2017年2月4日(土)より東京・Bunkamuraシアターコクーンにて開幕。チケットぴあでは11月19日(土)午前10時より先着先行プリセールの受付を開始する。取材・文:大内弓子
2016年11月18日“ミュージカル界のプリンス”も、デビューから16年。近年は、新たな分野にも挑戦し、貫禄や逞しさも身につけ、王子から大人の俳優へと成長を遂げている井上芳雄さん。そんな井上さんにインタビューを敢行しました。***井上芳雄さんのデビューは20歳の時。大作ミュージカル『エリザベート』で演じたのは、繊細な心を持った孤独な皇太子。美しい歌声と端正なルックスは、リアルプリンスの誕生と大きな話題になった。その井上さんも現在37歳。舞台のみならず、ドラマやバラエティ番組など活動の場を広げている。――ずっと舞台を中心に活動されてきましたが、最近はドラマや映画、バラエティ番組などにも積極的に出演されていますよね。井上さん:もちろんミュージカルが好きで始めたお仕事ですから、そこが自分の基盤だとは思っているんですが、それだけをやり続けるのって逆に難しいんですよね。僕としては、ミュージカルをやり続けるためにも、何でも挑戦させていただきたいと思っています。ここまでで、やらなきゃよかったって思うことはひとつもなかったんです。まあ二度と呼ばれないだろうと思うことはありますけど(笑)。――来年には、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)さんが作・演出する舞台『陥没』にも挑戦しますよね。ミュージカルの王道を歩いてこられた井上さんが、ナンセンスな笑いを描き続けているKERAさんの舞台に出演するのが意外でした。井上さん:接点がなさそうですしね(笑)。僕も最初は驚きましたから。以前に僕の舞台を観に来てくださり、その時に「今度一緒に」と直々に声をかけていただきました。同じ演劇でも、まったく違う分野の方から声をかけてもらえて、うれしかったですね。僕、演出家の方からしたら大変に使いやすい俳優だと思うんです。できるだけ演出家の色に染まりたいというか、要求に応えたい方なので。ただ、歌がある仕事の方が応えられる自信があるぶん、気は楽ですよね。新しいジャンルへの挑戦は、毎回やる度に不安というか…怖い。前日から本番直前までは、引き受けたことを後悔したりして(笑)。――トーク番組でミュージカル界の裏側をぶっちゃけたり、プリンスとしてのイメージが心配です。井上さん:期待に応えたいと思っちゃうタイプなんですね。できれば皆に好かれたいと思って20代を生きてきて、自分なりに努力はしてきたんですが、30代に入ってから全方位から好かれるのは無理なんだって気づいたんです。いまになってわかるのは、周りが僕にちやほやしてくれていたのは、僕の努力や才能だけじゃなく、若かったからなんですよね。若いっていうのは、それだけで存在価値があるんです。いまそれがなくなって、以前とは違う求められ方をされるわけです。トーク番組では、ミュージカルのことを知らない方々にも面白いと思ってもらいたいな、と。――求められていたのが才能よりも若さだったと自身で認めるのは、キツかったと思うのですが?井上さん:気づいた瞬間は唖然としました。ただ、若くない自分を認めることで、俳優としてできることも増えるんです。例えば、以前は実感できなかった老いの恐怖を、いまは芝居で表現できるかもしれない。人生経験があまりないまま20歳でお芝居を始めた頃は、役の深い心情が理解できない。演出家に「底が浅い」と怒られても、どうしていいかわからない。稽古場に行くのが辛くて、早く年をとって、世の中の真実を知りたくて仕方なかったです。――年をとるとできなくなる役がありますが、その怖さはなかった?井上さん:こう言うと驕っているように聞こえるかもしれませんが、30歳くらいまで、僕はミュージカル界で独占企業だったと思うんです。若くていい役って全部自分に来ているみたいな。でも、特別だと思っていた自分にも必ず「そろそろ…」って言われる時が来るはずで、できれば肩を叩かれる前に自分から「卒業します」って言える人でありたいです。僕はもともとミュージカルオタクなんで、以前は「年をとったら次はあの役を」って思っていましたが、最近それも考えなくなりましたね。ミュージカルの場合、どうしても既存の作品をやることが多いけれど、いまはゼロから舞台を立ち上げる作業に興味があるんです。例えば『レ・ミゼラブル』は名作ですが、僕がやるから何かが飛躍的に変わる、ということはない。でもきっと初演の時には、大成功か大失敗かわからないなかで皆で試行錯誤していたはず。本来演劇とはそういうものだと思うのですが、逆行してそれを経験している僕にとっては、どうなるかわからないなかで立ち上げていく作業が刺激的なんです。――いまの井上さんは、若い頃に抱いていた大人のイメージに自分が近づけていると思いますか?井上さん:初舞台の時に主演をされていた内野聖陽さんは当時32歳で、いまの僕より5歳も若かったけれど、もっと大人に見えていましたよね。でも気づいたら、僕も当時の内野さんと同じように車は持ってるし、若い俳優にご馳走くらいはできている。いま20歳くらいの俳優からは、僕もあんなふうに見えているのかもしれません。――やはり若い俳優を育てようというお気持ちもあるんですか?井上さん:偉そうな気持ちはないですけれど、目上の方に受けた親切や愛情は、循環させて下の人に返していきたいというのはありますね。そうしないと、この世界が回っていかないと思うので。ただ、芝居のダメ出しはしないようにしています。それは、僕がダメ出しされるのが嫌だったので。その代わり、できるだけ褒めるようにはしています。褒められて嫌な気持ちになる人はいませんから。◇いのうえ・よしお1979年生まれ、福岡県出身。KERAさん作・演出の舞台『陥没』は来年2月4日よりBunkamuraシアターコクーンで上演。‘64年東京オリンピックが舞台に。WOWOW『井上芳雄 シングス ディズニー~ドリーム・ゴーズ・オン!』は11/22、22:45~放送。◇ジャケット¥40,000シャツ¥12,000(共にMHL/アングローバルTEL:03・5467・7874)パンツ¥39,000(マーガレット・ハウエル/アングローバル)靴はスタイリスト私物※『anan』2016年11月16日号より。写真・藤原江理奈スタイリスト・宮崎智子ヘア&メイク・川端富生インタビュー、文・望月リサ
2016年11月11日日常に閉塞感を抱いていた女の前に、ある日、映画から美しい青年が抜け出してくる――。演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチさんがウディ・アレン監督の映画『カイロの紫のバラ』をモチーフに手掛ける舞台『キネマと恋人』。今作でヒロインを演じる緒川たまきさんに舞台のことをお聞きしました。***「この映画はファンタジックで、どなたにも楽しんでいただけるコメディですけれど、ウディ・アレンらしいほろ苦さのある物語なんですよね。私自身、ただおかしいという笑いよりも、これはもう笑うしかないっていうようなもの哀しい笑いに惹かれますし、この作品の芯に描かれている孤独や満たされなさには、共感する部分もありました」稽古の様子を伺うと、小さな声でぽつりと「難しいです…」と呟く。「KERAさんは、ちょっとした音の高低や、零コンマ1秒の間やリズム感にとてもこだわりがあって。ただ、時によっては感情のままのお芝居を要求されるシーンもあったり、そしてそれが10秒ごとに切り替わったりしますから、大変な反射神経が求められます。どちらかにしましょうよ、と思ったりもするんですけれど(笑)。しかもムードのあるシーンにスピード感を持ったやり取りを必要とされたりしますし、そうかと思うと、ふと時が止まる瞬間もあるんです。いまは目指す世界観が、一瞬立ち現れたと思うと消えていく…そんな状況です」作品を慈しむように丁寧に、ゆっくり言葉を選びながら語る緒川さん。「まったくの白紙の状態から、キャストとスタッフ全員の手が加えられて、少しずつ作品が出来上がる。今回もまたそこに立ち会えるんだと思うだけで、とても愛おしい気持ちになるんです」◇おがわ・たまき出演ドラマ『隠れ菊』(NHK BSプレミアム)が現在放送中。近年は、舞台にも積極的に出演。最近のおもな出演作にドラマ『怪奇恋愛作戦』、舞台『狂人なおもて往生をとぐ』『グッドバイ』など。◇満たされない日々を送る女(緒川たまき)の唯一の楽しみは、映画館でひとときの夢を味わうこと。そんなある日、映画のスクリーンから登場人物(妻夫木聡)が抜け出してくる。11月15日(火)~12月4日(日)三軒茶屋・シアタートラム台本・演出/ケラリーノ・サンドロヴィッチ出演/妻夫木聡、緒川たまき、ともさかりえほか一般7200円11月15日・16日プレビュー公演6700円世田谷パブリックシアターチケットセンター TEL:03・5432・1515(10:00~19:00)大阪、松本、名古屋公演あり。※『anan』2016年11月16日号より。写真・小笠原真紀インタビュー、文・望月リサ
2016年11月09日笑福亭鶴瓶と森川葵の2人が司会を務めゲストの友人や関係者へ徹底取材。その素顔に迫るトークバラエティー「A-Studio」の10月28日(金)の放送回に俳優の瀬戸康史がゲストで登場する。福岡県出身の瀬戸さんは2005年に「D-BOYS」のオーディションで準グランプリを受賞、「ミュージカル テニスの王子様」で注目されると2008年には「仮面ライダーキバ」の主人公に抜擢され、当時話題となっていた小説のドラマ化作品「恋空」でも主演を務めるなど一躍大ブレイクした。そんな瀬戸さんだが学生時代は成績優秀で「獣医になりたかった」そう。本人も「反抗期はなかった」と言うほど優等生だったそうだが、取材によれば実家の壁には謎の“穴”が。壁を殴った跡にも見えるのだが…果たして真相は?そして瀬戸さんが俳優の道を歩んだ理由とは…!? 鶴瓶さんの徹底取材が瀬戸さんの青春時代を解き明かす。この夏放送されたフジテレビ系連続ドラマ「HOPE~期待ゼロの新入社員」では主人公の同期でライバル的な存在の桐明真司を好演した瀬戸さんだが、2017年2月からの東京公演を皮切りに上演される舞台「陥没」に出演することが決定している。読売演劇大賞最優秀作品賞・優秀演出家賞、芸術選奨文部科学大臣賞と大きな受賞が続くケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)作・演出の“昭和3部作・完結編”となり、“ミュージカル界のプリンス”こと井上芳雄と、2016年の読売演劇大賞・最優秀女優賞を獲得し話題となった小池栄子をはじめ、瀬戸さんのほか松岡茉優、生瀬勝久ら豪華キャストが共演する。舞台は第1回東京オリンピックを目前に控えた1963年頃の東京。敗戦から復活を遂げたこの国が輝かしい成果を世界に示す晴れの舞台となった東京オリンピックでは道路の拡張と舗装、さまざまな向上心、野心、情熱、欲望が工事の音ともに東京に渦巻いたが、本作ではその時代、その場所に居合わせながら、なぜか時流に乗り遅れ、それでも捨て切れないオリンピックとの因縁に翻弄される人々の群像劇を描く。チケットは11月26日(土)から発売開始の予定。舞台「陥没」は2017年2月、Bunkamuraシアターコクーン(東京)、2017年3月、森ノ宮ピロティホール(大阪)にて上演予定。瀬戸さん出演の「A-Studio」は10月28日(金)今夜23時~TBS系で放送。(笠緒)
2016年10月28日古より人から人へ語り継がれる怪談や民話のような、土地に残る物語。それをモチーフに、演劇で異界を描く前川知大さんが脚本・演出を手がけるのが、『奇ッ怪』シリーズだ。このたび、舞台『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参』に出演する瀬戸康史さん。「僕自身、不思議な話が好きだったこともあり、ずっとイキウメ(前川さん主宰の劇団)の作品を好きで観ていたんです。前川さんの作り出す作品って、非現実を描いたファンタジーだと思って心を許していると、唐突に現実を突きつけてくるのが魅力的ですよね。『奇ッ怪』は、イキウメの公演とはまた違う形で異界が描かれているのが面白いです」第3弾の今回は、柳田国男の『遠野物語』がモチーフ。瀬戸康史さん演じるササキは、地元・岩手県遠野の民話や伝説を収集し、柳田に語った佐々木喜善がモデルになっている。「僕は語り部の役割で、聞き取れないくらい訛の強い方言を話す男。その遠野の言葉を聞きたくて、先日、個人的に遠野に行ったんです。地元の飲み屋に入っていろんな方と話をしたんですが、お年を召した方ほど聞き取るのが難しく(笑)、勉強になりました。自己満足といえばそうなんですけど、言葉のニュアンスや土地の空気を実際に感じることで、なんとなくわかるものがあるような気がするんですよね。ちょうどお祭りの最中だったんですが、天狗のお面をつけた人がいたりするんです。近くにはカッパ淵もありましたし。そういう奇怪なものたちが生活の身近にあるんですよね。実際、何かが潜んでいそうな妙な気配が感じられる土地だったんです」単なる空想と片付けるのは簡単だけど、長く残り続ける物語には、何か意味があるかもしれない、とも。「伝説や民話って、表沙汰にできず隠蔽されてきた真実が隠されていて、それを後世に伝えるために残ってきたのかもしれない。そんなことを考えさせられる作品になっています」◇せと・こうじ1988 年生まれ。福岡県出身。近作に、NHK連続テレビ小説『あさが来た』、『HOPE ~期待ゼロの新入社員~』など。来年2月にはケラリーノ・サンドロヴィッチ作・演出の舞台『陥没』への出演も。◇合理化を目指す政府の政策により世の中の標準化が進む時代、迷信や怪談は排斥されていた。そんななか東北弁の散文集を自費出版した作家のヤナギタ(仲村トオル)が警察に召喚され…。10月31日(月)~11月20日(日)三軒茶屋・世田谷パブリックシアター原作/柳田国男(『遠野物語』角川ソフィア文庫)脚本・演出/前川知大出演/仲村トオル、瀬戸康史、山内圭哉、池谷のぶえ、安井順平、浜田信也、安藤輪子、石山蓮華、銀粉蝶一般/S席7500円、A席5500円(すべて税込み)10月31日プレビュー公演/S席6500円、A席4500円世田谷パブリックシアターチケットセンター TEL:03・5432・1515新潟、兵庫、岩手、仙台公演あり。※『anan』2016年11月2日号より。写真・小笠原真紀ヘア&メイク・小林純子 インタビュー、文・望月リサ
2016年10月27日井上芳雄×ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)が初タッグを組み、ヒロインには小池栄子を迎える舞台「陥没」。この度、本作のビジュアルが到着した。本作は、読売演劇大賞最優秀作品賞・優秀演出家賞、芸術選奨文部科学大臣賞と大きな受賞が続くKERAが描く“昭和3部作”の完結編。2009年の第1弾「東京月光魔曲」は、経済的な発達が始まり、庶民の生活にもモダンと呼ばれる西洋趣味が入り込んで、独自の文化を生み出した昭和初期が舞台。その翌年発表された第2弾「黴菌」は、恐慌と戦争で価値観の転換を迫られる昭和中期を舞台に描いた。昭和のそれぞれの時代の東京をモチーフに作品を発表した昭和3部作。今回7年という時間を経て舞台とするのは、第1回東京オリンピックを目前に控えた1963年頃の東京だ。キャストには、ミュージカル界のプリンス・井上さんと、女優・小池さんの発表に続き、瀬戸康史、松岡茉優といったいま最も旬な若手俳優。そして、昭和3部作全作品に出演し、KERAの絶対的な信頼を得る山崎一、「黴菌」にも出演した高橋惠子、「黴菌」ほか、KERA作品には4作目の出演となる生瀬勝久らベテラン勢もキャスティングされている。今回到着したのは、クラシカルな装いのキャスト13名が写し出されたビジュアル。さらに、タイトルの“陥没”に寄りかかったり座ったりしているキャストたちが描かれ、下には当時を思い出させる東京タワーや車などが入ったビジュアルも公開された。またこのビジュアルには、KERAのコメントも入っており、「東京オリンピックを2年後に控えた昭和37年の新宿のはずれ。建設されたはよいが、オープンにこぎつけられそうにない、あるレクリエーション施設。高度成長期で日本中が浮かれる中、どういうわけか時代の溝にはまってしまった1組の婚約中のカップルと2人を取り巻く人々を描く群像劇になるでしょう」と本作について話し、「シリーズのラストを飾るに相応しい…と気持ちよくいい放てるような分かり易い派手さには欠ける舞台かもしれません。明示されないドラマにこそ豊かさがあると信じ 、この手練れ揃いのキャストでのみ実現可能な 、デリケートな会話劇を作るつもり」と意気込んでいる(チラシコメントより)。シアターコクーン・オンレパートリー2017+キューブ20th,2017「陥没」は2017年2月4日(土)~26日(日)Bunkamuraシアターコクーン(東京)、3月3日(金)~6日(月)森ノ宮ピロティホール(大阪)にて上演。(cinemacafe.net)
2016年10月03日ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)が世田谷パブリックシアターとタッグを組み、新作舞台『キネマと恋人』でシアタートラムの濃密な小空間に初挑戦する。ウディ・アレンの名画『カイロの紫のバラ』を大胆に翻案するロマンチック・コメディだ。舞台『キネマと恋人』チケット情報「僕にとっての映画は、ノスタルジーを求めてしまう存在。映画を題材にした舞台を作るとなると、自ずとロマンチックに収めていきたくなるんですよね。映画でミア・ファローが演じていた“映画を観ることしか楽しみのない女性”(緒川たまき)と、“映画から出てきた男”と“その男を演じている俳優”(妻夫木聡の二役)。この三人が展開するラブストーリーはそのままに、今回は物語の背景を1930年代の日本に置き変えて、ヒロインとその妹(ともさかりえ)との関係を膨らませるなど、もう少し複雑な話になっていくと思います」映画の登場人物が突然スクリーンから飛び出してくる…という映画の一番の妙味を、演劇で効果的に見せるためにKERAが頼った強力な助っ人が、振付の小野寺修二と映像監修の上田大樹だ。「小野寺くんはすでにプレ稽古を始めてくれていて、アイデアを見せてくれたんですね。それが素晴らしくて非常に刺激になりました。そこに映像効果――何と言っても映画を重要なモチーフにした作品ですから――もあいまって、勝算はありますね。今回、ふたりの仕事のボリュームは普段よりもかなり大きいです」そのシーンを体現するのが、満を持してKERA舞台に迎える妻夫木聡である。「彼はニュートラルでありながら、レッドゾーンに振り切るような芝居をリアルにできる。演劇に求められるリアリティを瞬時に把握して、表わすことのできる俳優さんだと思いますね。緒川さんは劇場とのプロダクション会議から参加してくれてます。ミア・ファローとはまた別の味わいでヒロインを演じてくれるでしょう。このふたりにともさかさんを始めとした手練7人が加わって、面白くならないはずがないでしょ?」ロマンスに心ときめかされるが、映画の終わりはホロリと苦い。KERAも「まだ結末は決まっていないけど、ビターなものにはなるでしょうね」と見据える。「僕自身つねに現実から逃げたくて作品を作っているようなところがあるけど、でも結局、作品の中で生きることはできても、作品の中で死ぬことはできない。やっぱり現実に立ち戻らなければいけない…という人たちの話です」豪華キャストによるKERAの新作を小劇場で味わう贅沢な機会。虚構と現実を行き交う人々の愛しくも哀しいドラマに浸りたい。「自分のキャリアの最高傑作にする意気込みです。こんなに前もって『最高傑作にする!』なんて吹聴するのは初めてのことなんですよ(笑)。何年かして振り返った時に、『あれは文句なしに良かった』と思える公演になると確信しています」公演は11月15日(火)から12月4日(日)まで東京・シアタートラムにて。取材・文上野紀子
2016年09月21日ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)が新作書下ろし、演出も手掛ける「昭和三部作・完結編」のタイトルが『陥没』に決定、2017年2月、3月に東京と大阪で上演される。あわせて、すでに出演が発表されていた井上芳雄と小池栄子以外の出演キャストも発表になった。今回の『陥没』は、2009年上演の『東京月光魔曲』、2010年上演の『黴菌』に続く昭和三部作の完結編。昭和のそれぞれの時代の東京をモチーフとした前2作に続いて、『陥没』では第1回東京オリンピックを目前に控えた1963年頃の東京が舞台となる。敗戦から、わずかな年月で復活を遂げた日本が、その輝かしい成果を世界に示す晴れの舞台となった東京オリンピック。その開催にむけて、さまざまな向上心、野心、情熱、欲望が工事の音とともに渦巻く中、一方で、その時代、その場所に居合わせながらも時流に乗り遅れた人々もいたであろう。本作は、オリンピックとの因縁に翻弄されるその時代に生きた人々の群像劇となる。出演はミュージカル界のプリンスこと井上芳雄、2016年の読売演劇大賞・最優秀女優賞を獲得した小池栄子のほか、テレビ・映画・舞台と様々なメディアで活躍する瀬戸康史や、現在放送中のドラマ『水族館ガール』の主演など今注目を集める松岡茉優の出演も決定。山西惇、犬山イヌコ、山内圭哉、近藤公園、趣里、緒川たまきといった、その実力と個性の共演が楽しみな顔あわせに加え、昭和三部作に全作品出演している山崎一、『黴菌』に続く昭和三部作の出演となる高橋惠子、『黴菌』他KERA作品は4作目となる生瀬勝久も出演する。公演は2017年2月に東京・シアターコクーン、3月に大阪・森ノ宮ピロティホールで上演。チケットは11月26日(土)より一般発売開始。
2016年07月25日2017年2月の東京公演を皮切りに上演される舞台、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)作・演出、“昭和3部作・完結編”のタイトルが「陥没」に決定。瀬戸康史、松岡茉優、生瀬勝久ら注目の豪華全キャストも明らかになった。本作は、読売演劇大賞最優秀作品賞・優秀演出家賞、芸術選奨文部科学大臣賞と大きな受賞が続く、KERAの待望の新作書き下ろし作品。「東京月光魔曲」(’09)、 「黴菌」(’10)と、昭和のそれぞれの時代の東京をモチーフとした前2作に続き、第1回東京オリンピックを目前に控えた1963年頃の東京を舞台とした“昭和3部作・完結編”。わずかな年月で敗戦から復活を遂げたこの国が、輝かしい成果を世界に示す晴れの舞台となった東京オリンピック。道路の拡張と舗装、さまざまな向上心、野心、情熱、欲望が、工事の音ともに東京に渦巻き、一方その時代、その場所に居合わせながら、なぜか時流に乗り遅れた人々もいただろう。本作は、それでも捨て切れないオリンピックとの因縁に翻弄される人々の群像劇。2020年には第2回東京オリンピックが開催される東京。「あったかもしれないオリンピックの物語」を通して、昭和と東京、さらには、平成の東京オリンピックまでも照らし出していくようだ。すでにキャストには、“ミュージカル界のプリンス”こと井上芳雄と、2016年の読売演劇大賞・最優秀女優賞を獲得し話題となった小池栄子が発表されていたが、今回この2人に加えて本作の全キャストが明らかに! 「私 結婚できないんじゃなくて、しないんです」や現在放送中の「HOPE~期待ゼロの新入社員~」など立て続けにドラマに出演する瀬戸さん、『ちはやふる』や現在放送中の「水族館ガール」では主演に抜擢され、いまノリに乗ってる松岡さんといったいま最も旬な若手俳優を始め、昭和3部作に全作品出演、KERAの絶対的な信頼を得る山崎一、「黴菌」に続く昭和3部作の出演となり、品のある佇まいと確かな演技で観客を魅了する高橋惠子、「黴菌」ほか、KERA作品には4作目の出演となる生瀬さんが出演する。そのほか、KERA主宰の劇団「ナイロン100度」の犬山イヌコや、山西惇、山内圭哉、近藤公園、趣里、緒川たまきらの出演も決定。なお、チケットは11月26日(土)から発売開始の予定だ。舞台「陥没」は2017年2月、Bunkamuraシアターコクーン(東京)、2017年3月、森ノ宮ピロティホール(大阪)にて上演予定。(cinemacafe.net)
2016年07月25日ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)と古田新太が3度目のタッグを組む新作舞台『ヒトラー、最後の20000年~ほとんど、何もない~』が7月24日、東京・本多劇場で開幕した。【チケット情報はこちら】同作は劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチが作・演出、俳優・古田新太が座長としてタッグを組み、2007年、2011年と上演した、通称"KERA古田企画”と言われるシリーズの第3弾。"大人たちが全力でバカバカしいことをやる企画"を標榜し、実力派俳優たちが、毎回ナンセンス・コメディに本気で挑む。今回の『ヒトラー、最後の20000年~ほとんど、何もない~』は2011年上演の前作『奥様お尻をどうぞ』に登場した古田演じるアラータ、犬山イヌコ演じる助手のアルジャーノンのふたりが起こす騒動が描かれる。公演にはシリーズ過去2作に出演したレギュラー陣に加えて、成海璃子と賀来賢人が参加。成海はアラータとアルジャーノンが出会う少女・アンネに扮し、ナンセンスなセリフを繰り出していく。劇団☆新感線『五右衛門vs轟天』で古田と共演し、これまでコメディ作品で鮮烈な印象を残してきた賀来が演じるのは、アンネに恋する青年・ガブリエル。その身に次々と降り掛かるあり得ない設定を生き生きと演じている。古田新太は開幕に際し、「今までの作品の中で最凶の作品に仕上がりました。がっかりしに、是非見に来て下さい」とコメントを寄せている。公演は8月21日(日)まで東京・本多劇場で上演。その後、福岡、大阪、新潟を周る。現在、東京公演の当日引換券を発売中。
2016年07月25日舞台や映画を観たとき、「この作品のテーマって?」とか「この作家のメッセージって?」と考える。そういう“知の好奇心”を刺激されるのもエンタメの面白さだけれど、成海璃子さんと賀来賢人さんが出演する舞台『ヒトラー、最後の20000年~ほとんど、何もない~』は、まんまサブタイトルの通り。小難しい解釈も深淵な主題もなし。劇作家で演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチさんと俳優の古田新太さんが仕掛ける、潔いほどくだらなくて、バカバカしさ満載のナンセンス企画。そこに参加するおふたりの心境とは。賀来:ナンセンスな笑い自体、僕らの世代には馴染みがないから、おふたりが前回やられた『奥様お尻をどうぞ』を観たときは衝撃でした。成海:15歳の頃にKERAさん監督の映画『罪とか罰とか』に出演してから、いつかまた一緒に、とは話していたんですよね。ただ、喜劇でももっと大人っぽいシニカルな作品もKERAさんはやられているなかで、まさか自分がこっち側に呼ばれるとは思いませんでした。賀来:読んでて面白いけれど、当たり前のように笑いが続いてくると、だんだん頭がおかしくなってくるんです。真面目にやると面白くないし、かといって狙っちゃっても面白くない。繊細な塩梅っていうのがあるんでしょうけど、難しくて。古田さんをはじめ共演の方々は、ちゃんと楽しみ方をわかっているというか…そこの感覚が本当にすごいんですよね。成海:本当に皆さん面白くて、自分の出番以外では、ずっと笑ってます。賀来くんも役柄からして面白いですよね。本読みの段階でセリフを聞きながらテンションが上がりましたから。私は逆に、あまりに自分が何もできてないんで毎日落ち込んでます。賀来:そうなの?そんなふうには見えなかった。KERAさんからのトンでもない要求にも普通に応えているし、おかしなセリフも淡々と言ってて、そこが面白かったけど。成海:そもそも舞台自体が2作目なうえに、これまで言われたことがないような演出ばっかりなんで…。賀来:でも、バカバカしい笑いを、じつはすごくシステマティックに構築しているよね。ワンシーンごとに、KERAさんがすごく丁寧に演出をつけてくださるからありがたくて。成海:いまはただただ、言われるがままやってる感じですけどね。賀来でも、くだらないことを、ベテランの俳優の皆さんが本当に真剣に覚悟を持ってやってるじゃない?そこはすごくかっこいいよね。成海:うん。この状況を私も早く楽しめるところまでいきたいです。◇なるみ・りこ1992年生まれ。'05年にドラマ『瑠璃の島』に主演し注目される。近作に映画『無伴奏』。出演映画『古都』は冬公開予定。舞台は'13年『鉈切り丸』以来2作目。◇かく・けんと1989年生まれ。近作にドラマ『グッドパートナー 無敵の弁護士』、舞台・劇団☆新感線『五右衛門vs轟天』。現在、出演映画『森山中教習所』が公開中。◇ヒトラー、最後の20000年~ほとんど、何もない~7月24日(日)~8月21日(日)下北沢 本多劇場作・演出/ケラリーノ・サンドロヴィッチ出演/古田新太、成海璃子、賀来賢人、大倉孝二、入江雅人、八十田勇一、犬山イヌコ、山西惇全席指定7400 円(税込み)キューブTEL:03・5485・2252www.cubeinc.co.jp北九州、大阪、新潟公演あり。※『anan』2016年7月27日号より。写真・小笠原真紀ヘア&メイク・SHUTARO(vitamins/賀来さん)インタビュー、文・望月リサ
2016年07月21日現在放送中のドラマ「グッドパートナー 無敵の弁護士」では、竹野内豊、松雪泰子、山崎育三郎ら個性豊かな面々の中で“新人弁護士”を好演する賀来賢人。この夏、2年ぶりの映画出演にして、2度目の主演映画となった『森山中教習所』で見せる、“俳優10年目の姿”に迫った。マイペースでテキトーな大学生・清高(野村周平)と、ポーカーフェイスでクールなヤクザの組員・轟木(賀来さん)は高校の同級生。ある日とんでもない再会をし、一風変わった教習所に通うことになる。境遇も性格も全く違う2人が、へんてこな教習所・森山中教習所で過ごすひと夏。清高は教官・サキ(麻生久美子)に恋心を抱き始め、楽しくて甘酸っぱい夏休みが平穏にすぎていくと思っていたが…。子どものようにフリーダムな清高と、諸事情から高校を中退し、ヤクザの道へ足を踏み入れた轟木。たった一度の短い夏休みは2人の人生を変えるのか!?変えないのか!?本作で、野村さん演じる清高とはまるで真逆の、銀髪&メガネ男子のクールなインテリヤクザ・轟木を演じた賀来さん。今回届いた最新場面写真では、銃を構え、狙いを定めた凛々しい姿、哀愁すら感じられそうな優しい眼差しを向ける姿と、まったく別の表情を捉えているのも印象的だ。2007年に俳優デビューし、そのキャリアはまもなく10年。女優の賀来千香子の甥っ子としても知られ、映画はもちろん、テレビドラマや演劇など幅広いフィールドで活躍を続けており、NHK連続テレビ小説「花子とアン」の“兄やん”役や、大河ドラマ「花燃ゆ」での沖田総司役などを通してファン層も確実に広がってきている。映画出演は『オー! ファーザー』(’14)以来、2年ぶりとなり、主演作としては初主演作『銀色の雨』(’09)以来2度目。本作の豊島圭介監督とは、『ソフトボーイ』(’10)以来のタッグとなる。「年を重ねるほどに良くなると思っていた」と言わしめた豊島監督との息の合った仕事ぶりは、本作の見どころとなるはずだ。7月からはケラリーノ・サンドロヴィッチ作・演出の舞台「ヒトラー、最後の20000年~ほとんど、なにもない~」への出演も控え、ますます活躍の場を広げる賀来さん。本作での変貌ぶりにも、ぜひ注目していて。『森山中教習所』は7月9日(土)より新宿バルト9ほか全国にて公開。(text:cinemacafe.net)
2016年06月04日深刻な状況下にも笑いが起こり、同時に内省的な気持ちにも誘われる。ブラック・コメディと銘打つ、ケラリーノ・サンドロヴィッチ上演台本・演出の舞台『8月の家族たち』は、原作者のトレイシー・レッツが祖父母の実体験を基に創作した、ユーモア溢れる家族の物語だ。「8月の家族たち August:Osage County」チケット情報猛暑のオクラホマ州にある片田舎の一軒家で、物語は展開する。父親失踪の報せを受け、次々と実家に帰省する三人姉妹たち。地元に暮らす40代独身の次女アイビー(常盤貴子)、次に夫ビル(生瀬勝久)と反抗期の娘を連れた長女バーバラ(秋山菜津子)、最後に自由奔放な三女カレン(音月桂)が婚約者のスティーブ(橋本さとし)を伴いやってくる。母方の叔母マティ・フェイ(犬山イヌコ)一家も到着するが、出迎えた母バイオレット(麻実れい)はショックとガン治療に伴う薬物の過剰摂取で半ば錯乱状態に。相変わらずの毒舌ぶりは、ディナーの席でも発揮され……。いつの間にか溜め込んだ妬み、そねみ、恨みにも似た感情が夏の暑さに膨張し、わずかな摩擦で暴発する。母娘の対立を軸に、ままならぬ家族間の問題が次々に暴かれていく。抑制のきかない女たち、その剣幕に成す術もない男たち。人生経験を積んだ人ほど、登場人物らの言動に思い当たる節があるだろう。時おり自らの家族や過去の記憶が、目の前の光景に重なる。人種や文化の違いこそあれ、家族という名の社会における、人間心理の普遍性を思う。諸悪の根源みたいな母バイオレットだが、麻実れいが演じれば不思議と品格を失わない。孤独を前におののき抗い、堪え忍ぶ様を、弱さと強さをさらけ出し果敢に演じる。三姉妹役の秋山菜津子、常盤貴子、音月桂も三者三様の個性を濃密に輝かせ、犬山イヌコ扮する叔母マティ・フェイには、「こんな親戚の叔母さんいる!」という既視感に何度も笑わせられた。迎え撃つ男優陣も実力派揃い。硬軟自在な生瀬勝久は佇まいや表情でも語り、橋本さとしは胡散臭さと色気のブレンド具合が絶妙。なかでも、マティ・フェイの夫チャーリーを演じた木場勝己は、役への理解が繊細に伝わり、終盤での激白には強く胸打たれた。約3時間をかけて、家族一人ひとりのドラマが丁寧かつテンポよく描かれる。その都度、登場人物らに対する印象は、様々に色を変えていく。最後の最後まで見終わって言えるのは、家族ですらその人間の一面しか知らないのではないか、という事実。観る人によっては実人生において、何かが解決するヒントのようなものが得られるかもしれない。公演は、5月29日(日)まで東京・シアターコクーン、6月2日(木)から5日(日)まで大阪・森ノ宮ピロティホールにて上演。チケットは発売中。取材・文:石橋法子
2016年05月25日