2020年度末には障害者の法定雇用率が2.3パーセントに出典 : 厚生労働省は、2017年5月30日、民間企業に義務付けている障害者の法定雇用率を段階的に引き上げていくことに決めました。現在の障害者法定雇用率は2.0%ですが、2018年4月には2.2%に、2021年3月末までには2.3%にまで引き上げていく計画とのことです。また国や地方自治体、独立行政法人の障害者法定雇用率は2018年4月までに2.5%、2018年4月までには2.6%に引き上げられ、各都道府県の教育委員会の障害者法定雇用率は、まずは2.4%に、その後、2.5%にまで引き上げられます。民間企業の障害者雇用率を段階的に2.3%に引き上げることを了承(平成30年4月1日から2.2%、3年を経過する日より前に2.3%)障害者の法定雇用率が引き上げられることになった背景は?Upload By 発達ナビニュースこれまでも、障害者の雇用の促進等に関する法律(以下、障害者雇用促進法)に基づき、障害者雇用率制度として、事業主は一定数以上の障害者を雇用しなければならないということが厚生労働省によって義務付けられていました。(対象障害者の雇用に関する事業主の責務)第三七条全て事業主は、対象障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、適当な雇用の場を与える共同の責務を有するものであつて、進んで対象障害者の雇入れに努めなければならない。(一般事業主の雇用義務等)第四三条事業主(常時雇用する労働者(以下単に「労働者」という。)を雇用する事業主をいい、国及び地方公共団体を除く。以下同じ。)は、厚生労働省令で定める雇用関係の変動がある場合には、その雇用する対象障害者である労働者の数が、その雇用する労働者の数に障害者雇用率を乗じて得た数(その数に一人未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる。第四十六条第一項において「法定雇用障害者数」という。)以上であるようにしなければならない。しかし、この法定雇用率に基づき雇用義務が課せられる障害者は、これまで身体障害者または知的障害者のみでした。精神障害者については、2006年以降は雇用義務の対象ではないものの、雇用した場合は雇用している障害者の数に入れることができる、という位置付けだったのです。障害者雇用率制度の概要しかし2013年の障害者雇用促進法改正に伴い、2018年4月からこの法定雇用率の対象となる対象障害者に、身体障害者と知的障害者に加え精神障害者も含めることとなりました。ここでの精神障害者とは、精神障害者保健福祉手帳を持っている方です。第三十七条2 この章、第八十六条第二号及び附則第三条から第六条までにおいて「対象障害者」とは、身体障害者、知的障害者又は精神障害者(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年法律第百二十三号)第四十五条第二項の規定により精神障害者保健福祉手帳の交付を受けているものに限る。第三節及び第七十九条を除き、以下同じ。)をいう。どういうことかというと、これまで労働市場にいる障害者の数は、身体障害者と知的障害者の数によって定められていたのです。上の図の分子の部分に当たります。しかしこの度、精神障害者が法定雇用率算出の対象になることによって、分子の部分の障害者とされる人の全体数が多くなります。結果、この度の障害者法定雇用率の引き上げにつながり、障害者の雇用が増えるということです。2018年4月以降、各企業において精神障害者の雇用が義務化されるわけではないですが、法定雇用率自体が引き上げられることにより、社会全体として、精神障害のある方の雇用機会も広がっていくことが期待されます。発達障害者の雇用はどうなる?出典 : 障害者雇用促進法において、発達障害は、精神障害の一部として定義付けられています。(用語の定義)第二条障害者身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。第六号において同じ。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者をいうしかし一方で、障害者雇用の対象となる「対象障害者」である精神障害者とは、精神障害者保健福祉手帳を公布されている方とされています。もちろん、手帳を取得せず、通常の雇用枠での就職を目指すことも可能ですが、発達障害のある方が障害者雇用枠での就職を目指す場合は、精神障害者保健福祉手帳の取得が必要になります。発達障害に関しては、世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)において精神疾患のカテゴリーに含まれていることもあり、精神障害者保健福祉手帳の交付対象となっています。しかし、二次障害による精神症状の有無など、交付判定に細かい基準が設けられているため、詳しいことはお住まいの市区町村に相談することをおすすめします。企業は法定雇用率を満たさないとどうなるの?出典 : 現在の企業の障害者法定雇用率は2.0%ですが、この法定雇用率を達成している企業は2016年6月時点で48.8%にとどまっており、過半数の企業は法定雇用率が未達成となっています。平成28年障害者雇用状況の集計結果法定雇用率が未達成であり、常時雇用している労働者数が100人を超える企業は、障害者雇用納付金制度に基づき、法定雇用障害者数に不足する障害者数に応じて、1人につき月額50,000円の障害者雇用納付金を納付しなければならないこととされています。逆に、法定雇用率を達成しており、常時雇用している労働者数が100人を超える企業は、障害者雇用調整金として、法定雇用障害者数を超えて雇用している障害者数に応じて、1人につき月額27,000円が支給されます。また、常時雇用している労働者数が100人以下の事業主で、各月の雇用障害者数の年度間合計数が一定数(各月の常時雇用している労働者数の4%の年度間合計数又は72人のいずれか多い数)を超えて障害者を雇用している場合は、障害者雇用報奨金として、その一定数を超えて雇用している障害者の人数に21,000円を乗じて得た額が支給されます。今後、法定雇用率の引き上げを見越して、障害者雇用をより積極的に行っていく企業も増えていくのではないかと予想されます。しかし、障害者雇用枠であろうとなかろうと、働く上での障害や困難がある方には、その方が力を発揮できるような業務上の配慮や調整ー「合理的配慮」を各企業で推進していくことが重要です。法定雇用率の変更を契機に、障害のある方も含めた多様な人々が働ける環境作りに積極的になる企業が増えていくことを願います。障害者雇用納付金制度の概要
2017年06月13日視覚障害とは出典 : 現在、視覚障害はメガネやコンタクトを使った状態での両目あわせた視力と、視野の広さの二つの観点から法律で定義されています。視覚障害は、大きく分けると、「弱視」と「盲」になります。まったく目が見えないわけではないが、メガネやコンタクトで視力を矯正することができず、見えにくい困難を抱えている場合を「弱視」と言います。しかし、「弱視」には注意する点があります。医学的な意味での「弱視」と教育や福祉の面での「弱視」の意味が微妙に異なる点です。医学では、「弱視」は視覚が発達する過程で、眼に適切な刺激が与えられないことで視力が十分に発達していない状態をあらわしています。片目のみに発症することも多く、視覚障害ではないことも多いです。そのため、医学では見えにくいという困難を抱えていることを意味する言葉として「ロービジョン(low vision)」が用いられるようになりました。福祉教育の場面では、このロービジョンの意味で弱視ということがあります。法律上で視覚障害が視力と視野の観点から定義されているために、視覚的な困難があっても障害者手帳を取得することのできない色覚障害と光覚障害というものがあります。◇色覚障害色覚障害は、視力や視野には問題がありませんが、特定の色の区別が苦手な症状です。ほかにも、特定の色が別の色に見えることもあります。◇光覚障害光覚障害は、明るさを区別することが苦手な症状です。そのため、暗い所から明るい所に移動したときに適応するまでにかかる時間が長くなったりします。また、視覚障害の原因は先天的な場合と、後天的な場合があります。後天性の場合は、緑内障や糖尿病網膜症などの疾患が主な要因になります。しかし、いまだに視覚障害の50%近くは原因がはっきりとわかっていません。出典:平成18年身体障害児・者実態調査結果p17|厚生労働省参考:視覚障害(視力障害・視野障害・色覚障害・光覚障害)|広島市障害者支援情報提供サイト参考:身体障害者手帳 Q&A 障害内容と程度編|長野県視覚障害者の等級って?出典 : 視覚障害のある人が社会福祉で、どのようなサービスや支援を受けられるのかを決める基準が身体障害者福祉法によって定められています。この基準に該当する人に、「身体障害者手帳」が交付されます。この基準は、障害の程度によって1級から6級まで分けられていて、それによって受けられる支援が異なります。「身体障害者手帳」の交付の流れについては、後ほど詳しく触れるので、この章ではどのような基準なのかを紹介します。1級両眼の視力(万国式試視力表によって測ったものをいい、屈折異常がある者については、きょう正視力について測ったものをいう。以下同じ。)の和が0.01以下のもの2級(1)両眼の視力の和が0.02以上0.04以下のもの(2)両眼の視野がそれぞれ10度以内でかつ両眼による視野についての視能率による損失率が95パーセント以上のもの3級(1)両眼の視力の和が0.05以上0.08以下のもの(2)両眼の視野がそれぞれ10度以内でかつ両眼による視野について視能率による損失率が90パーセント以上のもの4級(1)両眼の視力の和が0.09以上0.12以下のもの(2)両眼の視野がそれぞれ10度以内のもの5級(1)両眼の視力の和が0.13以上0.2以下のもの(2)両眼による視野の2分の1以上が欠けているもの6級一眼の視力が0.02以下、他眼の視力が0.6以下のもので、両眼の視力の和が0.2を超えるものこのように、視覚障害の等級も、視力と視野の広さを基準に決められています。小学校や中学校で行われることの多い視力検査に、5メートル離れた地点から、ランドルト環の穴があいたほうを答えるというものがあります。視力がだいたい0.1前後だと、一番大きいランドルト環でさえぼやけて正解を答えることができなくなります。5メートル先がぼやけると、日常生活の中で信号機の色もぼやけてしまい見にくかったり、歩道を歩くだけでも神経を使うため疲れてしまったりします。また、ヒトは視線をまっすぐ見た状態で固定して、上方60度、鼻側60度、下方70度、耳側100度の範囲を片目で見ることができるとされています。出典:青柳まゆみ鳥山由子/編著『視覚障害教育入門』(ジアース教育新社,2015)ここで注意が必要なのは、ヒトの両目は比較的近い所に位置しているため、両目で重なって見ている部分が広く、単に片目を失ったからといって視野が半分にはならないことです。視覚障害のある人が障害者手帳を取得するまでの流れ出典 : 「身体障害者手帳」を取得することのできる基準を先ほど紹介しました。そもそも、「身体障害者手帳」は身体障害者福祉法に基づき、身体障害のある方の自立や社会活動の参加を促し、支援することを目的として作られました。ここでの身体障害というのは、一時的なものではなく一定期間以上続く場合に限られます。身体障害者手帳は都道府県知事、指定都市市長、中核都市市長によって交付されます。交付に至るまでには、3つのステップがあります。Upload By 発達障害のキホン市区町村の障害福祉担当窓口の方に申請したい旨を伝え、身体障害者診断書・意見書の書式をもらいます。この書式は、身体障害者福祉法第15条の指定を受けている医師しか作成することができないので、窓口やかかりつけの医師に相談しましょう。Upload By 発達障害のキホン身体障害者診断書・意見書を作成してもらいう必要があり、視覚障害の場合は視力と視野の検査を行います。一般的な視力検査で測定できないと、指を何本か立ててその数がいくつかわかるかや、目の前で手を振ったり、ペンライトで眼に光を入れたりしてそれを認識できるかということを調べたりすることもあります。また、視野の広さを調べるために行われる精密な機器を用いる検査では、病院で専門の測定技術を持った検査者によって実施されます。Upload By 発達障害のキホン役所の相談窓口で、必要な書類と、ステップ2で受け取った診断書・意見書を揃えて提出します。ここで、いくつか注意することがあります。・身体障害者診断書・意見書は発行から1年以内のものである必要があります。・交付申請書は区市町村の障害福祉担当窓口で入手します。・申請する方の写真は縦4cm×横3cm、上半身で脱帽で撮影してください。・15歳未満の場合は保護者、15歳以上は本人が申請します。・個人番号(マイナンバー)や身元確認のできる書類が必要です。また、医療の進歩や治療などの結果で、障害の程度が変化することがあります。そのような人のために、東京都では障害再認定制度を平成14年度から実施しています。障害再認定制度では、期日までに身体障害者診断書・意見書を提出することで障害程度を改めて審査します。そのときに、重大な変化があると判断される場合にはすでに持っている手帳と引き換えに、新しい手帳を交付します。この制度に該当しない場合でも、障害の程度が変わったり、新たに他の障害が加わったりしたときには等級変更を行わなくてはなりません。参考:身体障害者手帳について|東京都福祉保健局視覚障害のある人が障害者手帳によって受けられるサービス出典 : 「身体障害者手帳」によって受けられるサービスには、次のようなものがあります。・盲導犬や白杖などを借りられる場合があります。・国税や地方税が控除されたり、減免されたりします。・公共施設の利用料や交通機関の運賃が割引されることがあります。・公営住宅に優先的に入居できます。これはあくまで一例です。障害者手帳の等級やお住まいの地域によって受けられるサービスが異なるので、各自治体に確認することが必要です。参考:よくあるご質問|独立行政法人福祉医療機構視覚障害者向けサービス・道具出典 : 近年、ユニバーサルデザインやバリアフリーなどが一般的になりつつあり、障害のあるなしにかかわらず生活できるような社会の実現に向けて進んでいます。視覚障害のある人が生活しやすくなるためのサービスや道具も多くあります。このような道具は大きく3種類に分けることができます。・目から情報を受けとりやすくする・目の代わりに耳から情報をいれる・手触りで判断できるようにする全盲の方の場合は、目から情報を受け取ることは難しいですが、弱視や視野が狭い方の場合は工夫することで目から情報を受け取ることができます。例えば、拡大読書機というものがあります。拡大読書機には、虫眼鏡のように新聞の上におくと文字が拡大されるようなものや、特定の台の上に本を置くと、文章が拡大されてディスプレイに表示されるものがあります。目の代わりに耳から情報を入れるような方法は、身の回りのさまざまなところで確認することができます。例えば、信号機ではカッコーやピヨピヨと鳴ることで青であることを視覚障害者に伝えています。他にも、パソコンやスマートフォンを利用するときに、画面上に表示されている文字やエラーを音声で伝える機能があります。この機能を用いることで、画面を見ることなく操作することができます。点字や白杖など、手触りや足触りで周囲の状況を判断できるようにする道具もあります。最近では、点字も紙面上だけでなく、ディスプレイや視覚障害者向けのスマートウォッチの開発も行われています。「手触りで判断できるようにする」という考えは多くのユニバーサルデザインにも活用されています。シャンプーの容器にギザギザがついていたり、牛乳パックの開け口でないほうに扇形の小さな切り口があったりします。視覚障害のある人への教育の場出典 : 視覚に障害のある子どもが小学生以上の年齢になったときに、どのような教育の場で学ぶのかは非常に大切な問題です。現在、視覚障害のある子どもの教育の場としては、特別支援学校、特別支援学級、通級による指導、通常学級の4種類があります。それぞれについて詳しく見ていきます。2007年4月1日から、盲学校は聾学校、養護学校とまとめて、「特別支援学校」という名称になりましたが、呼び名が変わっただけで障害種類別に運営されています。特別支援学校では、特別支援教育の教員免許状を持っている教員によって視覚障害に対応した教育を行います。各教科の指導要領には、通常の学級と同じレベルの教育を行うことと記されています。しかし、視覚障害の特性に合わせた教育を行うため、目標は同じでも指導法は異なります。具体的には、そろばんを用いた指導が例として挙げられます。視覚障害のある子どもは、筆算をつかって複雑な計算をすることができませんが、視覚情報がなくてもそろばんを用いることで計算できるようになります。特別支援学級は、小中学校に設けられている障害のある子どもが学ぶ学級です。視覚障害を対象とした学級を弱視学級と呼んでいます。弱視学級では、視覚障害の特性に合わせた教育を行います。また、他の子どもと一緒に受けられる授業があれば、通常の学級で授業を受けることもあり、子ども同士ふれあう機会が多くなります。通級に通っている子どもは、普段は通常学級で教育を受けています。しかし、小中学校の教育課程のほかに、視覚障害の特性に合わせた指導を受けることができます。視覚障害があったとしても、特別支援学校・学級に通ったほうがいいと判断されなければ、通常学校に通うことになります。この場合は、先生から授業で使う教科書や資料を事前に拡大してもらっておくなどの合理的配慮を受けながら学習していくことになります。これらの教育の場のどこに通うのか決める目安として、次のようなものがあります。特別支援学校に通う基準両眼の視力がおおむね〇・三未満のもの又は視力以外の視機能障害が高度のもののうち、拡大鏡等の使用によっても通常の文字、図形等の視覚による認識が不可能又は著しく困難な程度のもの特別支援学級に通う基準拡大鏡等の使用によっても通常の文字、図形等の視覚による認識が困難な程度のもの通級に通う基準拡大鏡等の使用によっても通常の文字、図形等の視覚による認識が困難な程度のもので、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とするものしかし、これらはあくまで目安であり、市町村教育委員会と相談しながら決めていきます。そのときには、障害の様子や保護者と子どもの希望、各専門家の意見、学校や地域の状態が判断材料になります。もし時間があれば、通う可能性のある学校の見学に行ってみると雰囲気がよくわかるかもしれません。視覚障害のある人の職業出典 : この章では、視覚障害者がどのようなところで働いているのかを紹介します。視覚障害のある人の仕事として、昔から有名な職に「三療」があります。三療とは、あん摩マッサージ指圧、鍼、灸のことを指します。これらの職で働いていくには、法律で定められた教育を受けて、試験に合格し、免許証を得なくてはいけません。免許証をとったあとは、医療機関等で働くことができます。また、近年では企業の障害者雇用の拡大を目指して「ヘルスキーパー制度」が導入されつつあります。ヘルスキーパーとは、企業に就職して、従業員にマッサージを行ったり、セルフケアについて指導したりするあん摩マッサージ指圧、鍼、灸師のことです。そのためこれらの職業に従事する方の活躍するフィールドと雇用形態は、以前より広がりを持っています。さらに最近特に増えているのが、コンピュータ・プログラマーとして活躍する方です。音声読み上げソフトや画面表示拡大ソフトなどの発展によって、さまざまな職業への就職も可能になりつつあります。上記はあくまで、視覚障害のある方の職業の例にすぎません。他にも、一人ひとりのスキルや希望、受けられるサポートに応じて、様々な職業での活躍事例があります。参考書籍:青柳まゆみ鳥山由子/編著『視覚障害教育入門』(ジアース教育新社,2015)参考:視覚障害者のあはきによる就労参考:障害者雇用の拡大を目指して「ヘルスキーパー制度」視覚障害のある人に対して、周囲の人が気をつけることは出典 : 視覚障害のある子どもを育てたり、視覚障害のある人とともに生活をしたり仕事をしたりするときに周囲の人はどのようなことに気をつければいいのでしょうか。視覚障害のある乳幼児を育てるときには、注意しなくてはいけないことがあります。視覚障害のある場合、ハイハイや歩くといった基本的な運動機能の発達に遅れがでやすいと指摘する研究があります。これらの運動機能は、乳児が興味関心のあるおもちゃのもとに行くために獲得していきます。通常、聴覚による情報は視覚によるそれに比べて、かなり限定的になってしまいます。そのため、音の出るおもちゃや触って楽しめるおもちゃを使ったり、少し離れた場所から声掛けをして後追いを促したり、子どもが安心して動き回れる環境を整備したりする工夫をするといいでしょう。運動機能のほかに、言語機能でも注意が必要です。視覚障害児は一見すると、言語に遅れがないように見えます。しかし、絵本や大人の会話から覚えた表現が、現実世界と結びついていないことは珍しくありません。現実世界と結びついた言語を習得するためには、からだ全体を使ってさまざまな経験を積むことが重要です。例えば、「米」を理解するために必要な経験を考えてみます。子どもにとって、食卓に並ぶごはんしか知らないなら「米」を全体的に理解しているとはいえません。自分自身で、稲を植えて、育てて、稲刈りをして、ごはんを炊くという一連の流れを行うことで、はじめて理解できます。一度「米」について理解すれば、他の農作物について理解しやすくなります。このような基本になる経験を積むことが必要です。視覚障害のある人と生活するときには、周囲が配慮をすることで日常生活での負荷をできるだけ小さくすることが大切です。具体的には次のようなことに気をつけるといいでしょう。・視覚障害の方が歩くときには、手引きをしたほうがいいか聞くようにする。・自分の名前を伝えてから、会話に加わるようにする。・モノの位置を伝えるときは、「あそこ」や「すぐそこ」などではなく、「左に2歩進んだところ」などより具体的な数字を使って伝える。・日常用品や仕事用具は、できるだけ同じ場所に置き続ける。場所を変えないといけないときは、そのことをしっかりと伝える。・本来、通路であるところに荷物を置くことを避ける。現在、さまざまな道具が発達しており、視覚障害があっても社会進出している方は多くいますが、このような配慮をするかしないかで、視覚障害の方の生活のしやすさがずいぶん変わります。また、本人の希望に沿って配慮することが重要です。例えば、普段ひとりで歩くことが多い人は手引きがあるとかえって歩きにくく感じることもあります。そのため本人にどのような配慮が必要か確かめる必要があります。参考書籍:青柳まゆみ鳥山由子/編著『視覚障害教育入門』(ジアース教育新社,2015)まとめ出典 : ここでは、視覚障害の等級や障害者手帳の制度、乳幼児の育て方、小中学校の種類、職業、周囲の人が気をつけることをご紹介しました。音声読み上げソフトなどの技術が発達している現代では、視覚障害のある人も自分に合った道具を利用することで自分なりの働き方ができるようになってきています。実際、学校の先生や一般企業で周囲と同じように働いている方も少なくありません。視覚障害のある人が活躍するためには、周囲の理解や配慮が必要不可欠だといえますが、必要とされる支援や配慮は一人ひとり異なるので、しっかりコミュニケーションをとっていくといいでしょう。また子育てをしていくなかで、子どもの見えかたに少しでも違和感を感じたら、専門家に相談して検査をすることをおすすめします。視覚障害のある子どもは、目が見える子どもに比べて発達が遅れることがあります。親が焦って無理に発達を促すのではなく、子ども一人ひとりにその子にあった発達スピードがあると信じて、子どもの成長を待つといいでしょう。子どもが成長していくと、どの学校に通うかやどのような仕事に就くかなどさまざまな選択に迫られます。特に子どもが小さいうちは保護者が考える機会が増えます。悩んだときには市町村の相談所で相談するなど、一人で抱え込まないようにすることが大切です。
2017年05月30日言語障害とは出典 : 言語障害とは、広義には、言葉によるコミュニケーションに何かしらの困難さがある障害を指し、精神医学上の狭義の定義では、特に言語の習得と使用に困難さのある障害を指す言葉です。言葉を使ったコミュニケーションに困難さが生じる障害・疾患にはさまざまな種類がありますが、「言語障害」という言葉がなにを指すかや、どんな疾患名が含まれるかは、その用語が使われるシーンによって少しずつ定義や使われ方が違ってきます。先に述べたように、精神医学における言語障害では、言語能力の発達の段階で、言葉を理解する能力と話す言葉を考える能力に困難さがあることを「言語障害」と定義しています。一方、一方、教育における言語障害は、より広い意味合いで捉えられています。すなわち、話す能力や聞く能力そのものというよりは、本人の発音や話し言葉によって、他人との一連のコミュニケーションに困難や不都合が生じている状態を「言語障害」と位置付けているのです。以下は、文部科学省における言語障害の定義です。言語障害とは、発音が不明瞭であったり、話し言葉のリズムがスムーズでなかったりするため、話し言葉によるコミュニケーションが円滑に進まない状況であること、また、そのため本人が引け目を感じるなど社会生活上不都合な状態であることをいいます。この他にも、介護の世界では、言語能力の発達には問題がないものの、脳卒中や認知症により後天的に話すことができなくなってしまったり、言葉を理解できなくなってしまったりする疾患を「言語障害」と呼ぶことが多いようです。このように、一口に言語障害と言ってもさまざまな定義が存在しますが、このコラムでは精神医学上の定義に則り、発達期の子どもが発症する言語障害について、人のコミュニケーションの仕組みを踏まえながら説明していきます。音声言語コミュニケーションの仕組み言語障害について詳しく解説する前に、まずは人がどのように言葉を操り、他者とコミュニケーションをとっているのか、その仕組みを確認しましょう。下の図は「スピーチチェーン」といい、人が音声言語コミュニケーションをとる仕組みについて説明するものです。Upload By 発達障害のキホンスピーチチェーンに則って考えると、人間が音声を受け取り、理解し、他者に言葉を発するまでのプロセスは、大きく三段階に分けることができます。■第一段階音響学的レベル誰かが発した音声が、空気を振動して耳へと伝わります。■第二段階言語学的レベル耳を通して伝わった音声を、脳で意味のある言葉として理解し、それについての受け答え(自分が話したい内容など)を考えます。そして、受け答えのための音声を出すために脳から発声器官(口や舌、肺など)の筋肉に信号を出します。■第三段階生理学的レベル脳の信号を頼りに声帯や舌、肺などを運動させ、音を発声します。また、口や舌の動きを使い、人が理解できる言葉にします。参考書籍:内須川 洸 /著『言語臨床入門』(風間書房,2000年/刊)スピーチチェーンの第三段階目で生成された音声に対して、相手側もまた、耳を通して聞き取り、脳で処理し、受け答えを考え、発生をする…このようなサイクルを通して、人は言葉を発し、他者とコミュニケーションをとっています。精神医学における言語障害出典 : アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)における言語障害(言語症)は、言語の習得と使用に困難さのある疾患として定義されています。主に、上の図におけるスピーチチェーンの第二段階目にあたる、脳内の言語処理に困難さがある疾患です。その困難さにより具体的には次の3つのような症状があります。1. 少ない語彙その年齢の子どもが知っているであろうレベルより単語の知識より少なく、語彙に多様性が欠けている状態です。例えば、言葉の定義(理解)があやふやであったり、類義語や多義語が理解できなかったりなどが挙げられます。2. 限定された構文文を形成するために、文法規則に基づいて単語や語を配置することに困難さがあります。言語障害のある子どもが話す文章は、文法上の誤りを伴い、より短く単純であることが多く、特に過去時制が適切に使うことが難しい場合が多くなります。こうした言葉や文法理解の困難さから、新しい単語や文章を記憶することにも困難さが生じます。例えば電話番号を覚えたり、買い物リストを覚えたりすることです。3. 話法における障害一つの話題や一連の出来事を順序をたてて説明・表現したり、会話をしたりすることに困難さがあります。このような症状は、言語の理解と産出する能力に困難さがあるために起こります。専門用語では、言語の受容性の能力、表出性の能力と言います。言語の受容性の能力とは、言語によるコミュニケーション(主に音声による)の意味のあるものとして理解することを指し、言語の表出性の能力とは、声、身振り、言葉の合図などを生み出すことを指します。言語障害は、言語がある程度発達し、個人差が少なくなってくる4歳以降で診断されることが多いです。幼稚園、保育園、小学校などに入ることで、さまざまなコミュニケーションの機会に触れる中で、他の子どもと比べてその困難さが際立つようになり、言語障害が明らかになる場合が多いと言えます。 精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版言語障害と似たような言葉として、「言語発達遅滞」という言葉を聞きますが、その違いはなんなのでしょうか。言語発達遅滞とは、言語障害があるかどうかによらず、言語の発達が年齢に想定されるよりも遅いという状況を指す言葉です。言語発達遅滞には2つのパターンがあります。一つ目は、乳児期の時点では言葉が遅れていても、育ちの過程において、遅れが目立たなくなるような場合です。この場合は、「ただ言葉の習得が遅いだけ」、「育ちのスピードの個人差の範囲」と言えます。もう一つは、発達や聴覚に障害のある可能性があり、その兆しとして言葉の遅れが生じる場合です。言葉の発達の遅れは、発達の早期である乳幼児期において生じやすく、その子どもの育ちは個人差が大きいです。また性格や環境など様々な要因が関わっています。そのため乳幼児期に語彙が少なかったり、文や文章の組み立てが苦手であったりといった、言語発達遅滞状態にあっても、その子どもがただちに言語障害であるとは限りません。言語障害とその他の言語に関わる疾患の違い出典 : これまで説明してきた通り、『DSM-5』における言語障害は、言葉の理解と産出に困難さがあるため、言葉をうまく話すことができない障害として定義されています。しかし、言語障害以外でも、同じく「言語がうまく話せない」という症状が生じる疾患・障害は存在します。ここでは、上記で説明したスピーチチェーンのどこに問題が生じているかに触れながら、言語障害と、それ以外の言語に関わる障害・疾患の違いについて説明していきます。音が聞こえない、または音が聞こえにくいため、音声言語を正しく認識できず言葉に困難さが生じます。スピーチチェーンでは、第一段階目の「音響的レベル」に当たる、耳で音を拾う過程に困難さがある障害です。聴覚障害があるため言葉に困難さがある場合は、聴覚障害という診断になることがほとんどです。知的障害のある子どもの多くは、運動機能や言語発達に遅れがある場合があります。知的発達の遅れがベースとなって、言葉が遅れていたり、コミュニケーションに困難さがあったりする場合は、言語障害ではなく知的障害という診断が下ります。構音障害とは、声が鼻にかかったり、鼻に抜けてしまうため、発音が不鮮明になったり、間違った発音になってしまう症状を特徴とする障害です。スピーチチェーンの三段階目である「生理学的レベル」での困難さがある障害と言えます。例えば、さかな”の発音が”たかな”になってしまうようにサ行やカ行がうまく発音できない場合です。これは、唇の断裂(口蓋裂)や、音を発声させる器官(構音器官)のまひなどによる機能的問題が原因となって言葉の困難さを引き起こしています。構音障害は、精神科だけでなく耳鼻咽喉科や小児科の領域の疾患でもあります。そのため必ずしも精神科で診断がくだされるわけではありません。小児科、リハビリテーション科、耳鼻咽喉科、脳神経外科、神経内科、形成外科、言語外来を設置している各科などでも診てもらうことができます。吃音とは吃音などの話し言葉におけるリズム流暢でないために、言葉に詰まってしまったり、同じ音を繰り返してしまうことです。上の図では、三段階目の生理学的レベルに困難さがあります。そのため、吃音は精神科だけでなく耳鼻咽喉科や小児科、児童神経科の領域の疾患でもあります。例えば、”きんぎょ”を”き、ききんぎょ”と言葉を繰り返してしまったり、”き...んぎょ”など言葉が詰まってしまうなどです。このような言語に関する困難さを吃音といい、言語障害とは区別されます。言語障害と発達障害の関連は?出典 : 言語障害は、学習障害、ADHD(注意欠如・多動性障害)、自閉症スペクトラム障害などの発達障害との併存も珍しくないと言われています。発達障害について、詳しくは以下の関連記事をご覧ください。言語障害が気になる場合の相談先出典 : 歳から未就学児までの子育てに関する、不安や悩みがある親子に対する相談、援助を実施しています。子育て支援センターでは、病院と違い診断や治療を受けることはできませんが、相談・診察の状態によっては、医療機関を紹介してもらうこともあるようです。乳幼児健診(1歳半健診や、3歳健診など)では、乳幼児の健康について診てもらうだけでなく、子育てに関する相談もすることができます。場合によっては臨床心理士さんなどに相談できるよい機会です。教育相談とは、就学児(小学校入学以後の児童)の発達と教育にかかわる問題についての心理的・教育的援助です。教育相談センター・教育センターで行われる教育相談では、来所、電話、メール、さまざまな形での相談を受け付けています。児童相談所でも、幼児~高校生までの教育に関する相談を行うことができます。子どもの言語障害や言葉の遅れに関する診察や治療は、小児科や、神経科、小児神経科が主な受診先となります。言語障害のある子どもへの支援・治療法出典 : 言語障害はその症状によってさまざまな治療法があります。言語障害にはこの方法が必ずいいというわけではなく、子どもの特性や困難さに合わせた、個別の支援、治療を考えていく必要があります。言語聴覚療法とは、言葉を話したり聞いたりする機能に障害がある人に対して、日常生活を円滑に送るために行う、発音・発声に関するリハビリテーションです。言語聴覚療法では、専門知識を持った言語聴覚士がリハビリテーションにあたります。一般的に、発音・発声の機能獲得と、言語をつかさどる脳機能の獲得の二つのトレーニングを受けることができます。子どもの場合も、聞く、読む、話す、書くことという言葉全般の働きについて、その子どもの症状や課題に応じたトレーニングが行われます。また、子ども本人だけでなく、家族や生活環境にも焦点を当てたリハビリテーションが行われる場合もあります。ことばの教室とは、言葉に関する困りごとのある児童を対象とした、小学校、中学校で行われている特別支援教育の場です。一般的に、通級指導教室と特別支援学級に設置されています。ことばの教室に通うことを希望している場合は、就学前に就学相談を行う必要があります。そこで、教育委員会や学校と相談をしながら、就学先としてことばの教室に通うかどうかを決定します。また、すでに通常学級へ通っている場合でも、学校との相談の結果、必要に応じて通級指導教室に通ったり、特別支援学級に転籍することができる場合があります。まとめ言葉に関する疾患は数多くあり、広義にはそのような言葉に関する困難さ全般を言語障害と呼ぶこともあります。この記事では、医学的な診断名として定義された、発達期における、言葉の習得と使用に困難さを感じる疾患としての「言語障害」に焦点を当てて開設しました。言語障害は、コミュニケーションの中でも、特に言葉の理解と産出がうまくいかないために起こる障害です。子どもの言語の発達に不安がある場合は、上記のような相談場所へ行ってみましょう。
2017年05月30日自己愛性パーソナリティ障害とは出典 : 自己愛性パーソナリティ障害とは、自分に対して誇大なイメージを抱き、注目や称賛を求める一方で、他者からのマイナスな評価に対して過敏に傷つきやすく、他者に対する共感性が薄いことを特徴とする障害です。◇自己愛って?自己愛とは自分を大切にできる能力のことをいいます。自己愛は少なからず誰にでもあるものです。自己愛は年齢を重ねるごとに成熟していくといわれています。この「自己愛の成熟」とは精神医学では自分を肯定して愛することができる状態といわれていて、さらに、成熟すると自分以外の他者にも愛情を注げるようになるといわれています。◇自己愛性パーソナリティ障害は自己愛が未成熟な状態自己愛性パーソナリティ障害の人は、自己愛が未成熟な状態にあると言えます。自己愛が未成熟な状態とは、ありのままの自分を受け入れ愛することができていない状態をいいます。その未成熟さの現れが「自己の誇大化」、「他者からの評価に対する過敏さ」、「共感性の薄さ」になります。例えば自分自身が掲げる理想の姿が高く、「自分は特別」「自分はできる人間だ」という思い込みが強い傾向があります。そのために誇大な言動が表出します。「自分はできる人間だ」と思い込んでいるために他者からの評価を受け入れることができず、怒り出したり、過敏に傷つき、引きこもりやうつ病になったりすることもあります。さらに共感性の薄さによって、相手の立場に立って物事を考えることができず、その場にふさわしくない言動をしていたり、自分の目的達成のために友人を利用したりするような対人関係がみられることをいいます。以上の傾向に柔軟性がなく、持続的で、社会生活が困難になるほどの苦痛を引き起こしている場合に自己愛の歪みや未成熟さがあり、自己愛性パーソナリティ障害と判断されます。参考:狩野力八郎/著『自己愛性パーソナリティ障害のことがよくわかる本』|(講談社,2007)自己愛性パーソナリティ障害の特徴と2つのタイプ出典 : 自己愛性パーソナリティ障害には大きく分けて3つの特徴と、表出する2つのタイプがあります。以下にそれぞれを紹介します。◇誇大な言動・自分は才能がある特別な人間だと思い込み、それに伴った言動が目立つ・有名人や権威のある人と知り合いであることを自慢する(知り合いである自分は特別という裏打ち)◇他者からの評価に過敏・恥をかいたり、屈辱感を抱いたりするとカッとなって激しく怒り出す・ときにはその憤り(いきどおり)を超えて、ひどく落ち込み、自殺を考えだすこともある◇他者への共感性の薄さ・病気で入院している人のところへお見舞いに行って、自分の健康自慢をするなど相手の状況を考えない言動をする・自らの成果や目標達成のために、友人を利用したり裏切ったりという行為をする・わがままかつ傲慢な性格のため、あまり自分の意見を言えない友達を従えてあたかも自分が一番偉いかのように振る舞う自己愛性パーソナリティ障害の人は「3つの自己」を持っているといわれています。・誇大化させて形成された尊大で傲慢な自己・自分は欠陥がある人間だというイメージを持った自己・奥底に隠れている本当の自己この「3つの自己」がどれか一方に偏っていると、「自分は特別な人間だ!」と思い込んだり、「自分は誰よりもダメな人間だ・・・」と思い込んだりしてしまいます。「3つの自己」の偏り具合によって表出する人物像が異なってきます。根本にある自己愛の未成熟さや原因は共通ですが、その表出の仕方によって、自己愛性パーソナリティ障害は次の2つのタイプに分類されます。誇大的・自己顕示的で他者の反応に鈍感な「無自覚型」と他者の反応に敏感で注目されるのを避ける「過敏型」です。◇周囲を気にしない「無自覚型」タイプこのタイプの人は、自分はできる・自分は特別だと思い込み、社交的に振る舞いつつも他人のことには興味はなく自分の利益だけを考えています。このタイプの人が他者と親しく付き合うのは、自分に何かしらの利益があるからだと考えているためですが、自分の意向に沿わないときや責められると激怒することがあります。このような言動は本来の弱い自分を守るための防衛本能だといわれています。その他にも次のような特徴がみられます。・わがまま・傲慢な態度をとる・自分に夢中で他人のことは全く考えない・注目の的でないと気に入らない・他者に対する言葉づかいは常に攻撃的・他者の反応を気にしない/怒りに表わすことで気にしないことにしている・他者の気持ちを傷つけても平気◇周囲を過剰に気にする「過敏型」タイプこのタイプは身の丈に合わない理想化した自分自身を掲げますが、現実の自分との間にあるギャップに悩みます。他者からの評価に過敏ですぐに傷つきますが、自分には本当は才能があるという思いを持ち続けています。それゆえに自分自身を責めて落ち込んでいくサイクルが続きます。他にも次のような特徴がみられます。・内気で恥ずかしがり屋・自分の意見や感情を出さない・傷つけられたと感じやすい・注目の的になるのを避ける・他者の反応に対して敏感に落ち込む・他者からの評価を気にするこの障害がある人が自分を誇大化する理由は、本当の自分に自信が持てないなどの理由があります。本当の意味で自分自身を受け入れることができていない状態なのです。参考:『コフートの自己心理学に基づく自己愛的脆弱性尺度の作成』|パーソナリティ研究 2005 第14巻 第1号80–91 上地雄一郎宮下一博参考:狩野力八郎/著『自己愛性パーソナリティ障害のことがよくわかる本』|(講談社,2007)参考:『パーソナリティ障害いかに接し、どう克服するか』|(岡田尊司,2004)自己愛性パーソナリティ障害の原因はなに?出典 : 自己愛性パーソナリティ障害の原因を「これだ」とはっきり断定することは難しいといわれていますが、現時点では2つの仮説が提唱されています。自己愛性パーソナリティ障害は、生まれながらに持っている気質的要因に環境的要因が影響し、パーソナリティ(人格)が形成されていくという精神分析学者のカーンバーグの説と、環境的要因が最も作用しパーソナリティが形成されているという国際精神分析学会のコフートの説があります。気質的要因とは、人にもともと備わっているものの見方、感情の動きのことを言います。気質は先天的な特性と、あるいは後天的な経験が組み合わさりながら成り立っていると考えられています。例えばある物事をどのくらい細かくみられるか、どのくらい面白がれるか・関心を持てるか、没入できるかなどは人それぞれで、その度合いも異なります。物事に細かい神経質な人もいますし、その反対に大ざっぱな人もいますよね。気質として自己愛が低い人がいることがあってもおかしくありません。その感覚は人それぞれですが、家族でその気質は似ることもあります。参考:『意志気質検査の要因分析的研究』|久芳忠俊 山口大学ここで述べる環境的要因とは親と子どもの関係性や家族環境のことを指しています。環境的要因に関してはコフートとカーンバーグの考え方をそれぞれ紹介します。◇コフートが考える環境的要因コフートは例えば、幼少期の子どもの「お母さん(お父さん)見て!」という承認欲求に対して、親が肯定的に応えて「共感」の態度をとることは、自己愛の形成に大きな影響を与えているといいます。幼い子どもはみな誇大な自己を持っていて、なんでもできる気になっています。そして親に褒められたいと思うようになり、顕示し承認されることで自己愛を育みます。そして成長に伴ってその理想像が変化し、親から褒められることがそれほど重要なことと思えなくなっていきます。それがまさに自己愛の成熟の過程の一部です。しかし親が子どもへの「共感」の態度を示さないと共感不全の状態に陥り、自己愛が育ちにくいといわれています。自己愛が未成熟のまま成長すると親だけではなく他人からの称賛や注目を集めて自己愛を満たそうとしますが、それで自己愛が成熟することはありません。コフートは必要な精神療法を用いて自己愛を成熟させる治療は可能だと考えています。◇カーンバーグが考える環境的要因カーンバーグは本人の気質的要因と家族がつくりだす環境的要因の2つが作用していると考えています。気質的要因はこれまで述べた通りです。環境的要因として過剰な期待をのせて、才能を褒め立てて「特別な子ども」と言い聞かせて育てたり、体の弱い子に対して過保護になったりすることが挙げられます。良かれと思っていても過度にそういった行動をすると自己愛が成熟せず、未成熟の状態が続いてしまいます。以上のことから先天的な気質要因と後天的な環境要因の影響が加わって、人格および自己愛が形成されていくといわれています。参考:『パーソナリティ障害いかに接し、どう克服するか』|(岡田尊司,2004)参考:狩野力八郎/著『自己愛性パーソナリティ障害のことがよくわかる本』|(講談社,2007)自己愛性パーソナリティ障害は見つかりにくい障害出典 : 自己愛性パーソナリティ障害は本人が気づきにくい障害です。もともとの気質や慣れてしまった環境の中で、自らの生きにくさに気づくことはほとんどありません。自己愛性パーソナリティ障害は、その障害によって引き起こされた二次障害が表出することによって後から発覚することがほとんどです。自己愛性パーソナリティ障害が引き起こす二次障害とは、例えば自傷行為、うつ、パニック障害、摂食障害、不眠症、心身症、不安障害などが含まれます。これらの症状が表出することで医療機関を受診し、原因を探っていくと自己愛性パーソナリティ障害があった、ということが多いようです。特に自己愛性パーソナリティ障害がもつ誇大性や他者からの評価へ過敏などの症状は、少なからず誰にでもありそうなことです。しかしその考え方が原因で二次障害や社会生活に困難が生じている場合は「障害」になります。それゆえに、これまでは「そういう性格の人」として周囲からも認識されていることから、家族や周りの人も気づきにくいのです。参考:狩野力八郎/著『自己愛性パーソナリティ障害のことがよくわかる本』|(講談社,2007)自己愛性パーソナリティ障害の診断基準出典 : 自己愛性パーソナリティ障害の診断基準について説明していきます。診断基準は医療機関によって異なりますが、主に世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)やアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)に基づいて臨床的に診断が下されます。ここでは『ICD-10』による診断基準を説明していきます。『ICD-10』では以下から5項目以上が認められれば自己愛性パーソナリティ障害である可能性が高いという基準になっています。次のうち,5項目以上が存在すること.(1)誇大な自尊心をもっていること(すなわり,業績や才能を実際よりも過大視し,相応の実績がないのに自分が優れていると認められているはずだと思う).(2)際限のない成功・能力・才気・美貌,あるいは理想の恋愛について,非現実的な考えにふけること.(3)自分は「特別」で比類がなく,他の特別な,あるいは地位の高い人々(または組織)だけが自分を理解でき,それらの人たちと付き合うべきだと信じている.(4)称賛を必要以上に要求する.(5)権利意識が強い.ありえないのに,自分に好都合な特別待遇を期待したり,または自分の要望がそのまま受け入れられることを期待する.(6)自分の目的を達成するために他人を利用する.(7)共感性の欠如.他人の感情や要求に気づいたり理解したりしようとしない.(8)よく他人をねたむ,あるいは他人が自分をねたんでいると確信する.(9)横柄で傲慢なふるまいや態度.『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版 p494)自己愛性パーソナリティ障害と境界性パーソナリティ障害は見分けるのが難しい出典 : 専門医でも見分けるのが難しいといわれている自己愛性パーソナリティ障害と境界性パーソナリティ障害について紹介していきます。境界性パーソナリティ障害とは対人関係、自己像などの広い範囲において、激しく考え方や感情が変化してしまう障害です。他人から見捨てられてしまうのでないかという不安と、自分が何者でどうふるまえばよいのか分からない自己イメージの不安定さが発症の背景にあるといわれています。「見捨てられる不安」とはどういうことかというと、自身が信頼をおいている相手には依存する症状がある一方で、常に根底では「自分が見捨てられてしまうのではないか」という不安を感じているということです。「自己イメージの不安定さ」とは、自己同一性(アイデンティティ)が確立していないことから、例えば一面的な評価を自分の全人格に対する評価として過剰に受け取ってしまいます。その度にひどく落ち込んでしまったり、同じ人からの評価にも関わらず、褒められたときはその人のことを好意的に思う一方で、問題などを軽く指摘されただけでその人に敵意を示し激しい怒りを感じたりします。境界性パーソナリティ障害は自己中心的で対人関係の問題から情緒不安定をまねくことなどから自己愛性パーソナリティ障害と共通点が多くあります。また原因も自己愛の未成熟が関わってくることから診療の現場では、この2つの障害の区別は難しいとされています。この2つの障害の違いは、境界性パーソナリティ障害は、自己否定を繰り返し考え続けることで情緒不安定を生みます。それに対して自己愛性パーソナリティ障害は、理想と現実のギャップを受け止められず、自己防衛のために誇大化した言動を繰り返し、自信があるようにうかがえるという点です。そもそもパーソナリティ障害はそれぞれ独立して存在するのではなく、重複している共通の症状があるため、複数のパーソナリティ障害が併存しやすくなっています。ですので境界性パーソナリティ障害に限らず、他のパーソナリティ障害が合併していることがあったり、判断が難しかったりする場合があります。参考:『パーソナリティ障害いかに接し、どう克服するか』|(岡田尊司,2004)自己愛性パーソナリティ障害は発達障害と合併している可能性もある出典 : 自己愛性パーソナリティ障害は、必要な親からの共感が得られなかったことが原因のひとつではないかという仮説があります。自閉症スペクトラム障害やADHDをはじめとする発達障害がある人は、その特性から、社会関係や対人コミュニケーションに困難さが生じる場合があるほか、親が育てづらさを感じて親子の関係がうまくいかなかったり、体の感覚が過敏で子どもがだっこを嫌がったりして、必要なコミュニケーションをとる機会を持ちにくかったりする場合があります。こうした、親子や対人関係上の困難さが積み重なることによって、子どもの自己愛が十分に成熟することができず、自己愛性パーソナリティ障害へと発展する可能性もあると考えられています。参考:狩野力八郎/著『自己愛性パーソナリティ障害のことがよくわかる本』|(講談社,2007)自己愛性パーソナリティ障害かも・・・相談先や医療機関、保険は効くの?出典 : パーソナリティ障害の診断は、専門医にも難しいものです。もしご自身やご家族に自己愛性パーソナリティ障害の疑いを感じた場合は、一人で悩む前にまずは専門機関に相談することをおすすめします。医療機関での受診先は精神科、神経科、心療内科などになります。「相談」のつもりであっても、形式は「受診」になるため、できるだけ本人を連れていくようにしましょう。「もしかして自己愛性パーソナリティ障害かも・・・?でも、医療機関を受けるほどのことでもないような気がする・・・」そのような場合は、各都道府県や政令指定都市に設置されている精神保健福祉センター、または各市区町村に設置されている保健所・保健センターの相談窓口へ相談してみてください。もちろん、本人だけではなく家族が電話などで相談することもできます。次のリンクは全国の精神保健福祉センターの一覧になりますので、参考にしてみてください。参考:全国の保健福祉センター一覧また、本人が会社勤めの場合や高校や大学に通っている場合、学校や企業専属のカウンセラーに相談することもおすすめです。企業や学校のカウンセラーは、その人が所属している組織の内情にも通じているため、より適切なアドバイスをもらうことができる可能性が高いです。また、連携している医療機関を紹介してもらえる場合もあります。自己愛性パーソナリティ障害で医療機関を受診する場合は保険診療となります。ですが自己愛性パーソナリティ障害と診断されて治療を開始することは少なく、二次障害として現れるうつ病や摂食障害などの治療から始めることが多いです。この場合でも保険診療となります。参考:狩野力八郎/著『自己愛性パーソナリティ障害のことがよくわかる本』|(講談社,2007)自己愛性パーソナリティ障害の治療法はある?出典 : 自己愛性パーソナリティ障害は、その人の気質・家族環境によって表出する症状なども変わってきます。そのため治療も人によって異なり、さまざまな方法を組み合わせて治療が進められます。医師や心理技術者が患者さんの心理面に様々な働きかけを行い、患者さんの認知や思考、行動パターンなどの偏りを改善して少しずつ社会に適応できるようにしていく治療法です。1週間に1~2回、30分から1時間程度、治療者が患者さんと面接する形で行うのが一般的です。内容に関しては個々の治療者の判断によるところが多く、統一のガイドラインはありません。この治療法においては、以下の3点を患者さんと周囲の人々が理解する必要があります。・効果が表れるのに時間がかかる治療法であり、一般的には数年かかる・誰にでも効果が期待できるものではない・治療者との信頼関係がなければ効果は得られない個人精神療法は、精神科医が行うもっとも基本的な治療法の一つではありますが、「絶対的な治療法」であるという過度の期待を持つと、すぐに効果が出ないと治療を投げ出してしまったり、治療者を疑ったりと逆に治療が困難になってしまうことがあります。その場しのぎではなく問題を根本から改善しようとするものであるため、時間はかかりますが、本人が治療の意思を持って、治療者と信頼関係をしっかり結んで治療を継続していくことが必要です。集団精神療法とは、同じパーソナリティ障害を持つ人が複数人集まり、グループで話し合いをしたり、共同で作業をしたりする活動を通して、社会にうまく適応できない原因を見つけて解決する方法です。他の患者さんとコミュニケーションをとりながら、自分と同じ障害を持っている人を見つめることで問題に気付き、それを自分にあてはめて考えることができるようになります。集団精神療法での仲間体験は、患者さん自身の自己肯定感を持たせることにつながり、他人とコミュニケーションの取り方を練習する機会にもなります。また患者さん本人だけでなく、家族にも治療を行う場合があります。パーソナリティ障害がある患者は、その家族にも認知や思考のパターンに偏りがあることが多いためです。この偏りのために、家族の努力が患者さんの症状を逆に悪化させていることもあります。具体的には、治療者が家族全員と面接を行ったり、患者さんの付き添いで来院した際に話を聞いたりします。患者さんに思いをうまく伝える言葉のかけ方や、患者さんの気持ちを安定させるための振舞い方など、適切な対応法を治療者から指導します。なお家族療法は、患者さんが未成年のときに行われることが多いです。患者さんがある程度の年齢に達している場合は、患者さん自身が家族から自立する方向で治療が行われる傾向にあります。薬物療法は、強い不安や緊張、抑うつなど、程度の強い精神症状を一時的に和らげる目的で使われます。しかし、あくまで対症療法にすぎず、障害を根本から治すことはできません。治療の中心は精神療法で、薬物療法はその潤滑油としての役割を果たします。使われることのある薬の種類と働きは以下の通りです。■抗精神病薬主にドパミン系の神経に作用し鎮静させます。自傷行為などの衝動性が強くみられる場合に使われることがあります。リスぺリドンなどリスペリドン■抗うつ薬気分の落ち込みが続くときなどに用いられます。主にセロトニンなどの神経伝達物質を調整するSSRIやSNRIなどを使用します。・SSRI:フルボキサミンマレイン酸塩(デプロメール)、パロキセチン塩酸塩水和物(パキシル)など・SNRI:ミルナシプラン塩酸デプロメールパキシルトレドミン■抗不安薬不安や焦り、イライラ感が強い場合に使われるが、依存や乱用、衝動的な行動を増すおそれなどがあるのでSSRIのパロキセチン塩酸塩水和物に切り替えていくこともあります。ベンゾジアゼピン系抗不安薬(レキソタン)参考:狩野力八郎/著『自己愛性パーソナリティ障害のことがよくわかる本』|(講談社,2007)自己愛性パーソナリティ障害克服のヒント出典 : 自己愛性パーソナリティ障害の克服に向けては本人だけでなく、家族の協力も必要になってきます。克服していくためには障害と向き合う本人の意欲と家族が何ができるかを考えて実践していくことが重要です。ここでは家族が本人に向けてできること、家族ができることのヒントを紹介していきたいと思います。■家族が本人に向けてできることまずは本人が自分の障害になっていることを突き詰めて考えていくよう促します。その時に自分に障害があることを家族や誰かのせいにする、医師が何とかしてくれるという考え方を捨てて、自分自身の問題だと自覚し、自分で向き合っていくというスタンスをつくっていきます。これはとても時間が必要ですので、何度も何度も繰り返しながら新しい考え方をつくっていくように心がけることが大切です。■家族自身ができることこれまでの育て方や障害になったのは自分のせいだ、と思い悩まずに、障害がある本人のために何ができるかということを考えていきましょう。家族の在り方を見直し、本人だけをみるのではなく家族全体の「関係性」に視点を変えていきます。どのような関係性が出来上がっているのか、それをどのように調整していったら良いのかなど、改善できそうな点を挙げて実践していくことをおすすめします。参考:狩野力八郎/著『自己愛性パーソナリティ障害のことがよくわかる本』|(講談社,2007)まとめ出典 : 自己愛性パーソナリティ障害の原因にはさまざまな説がありますが、どの説にもほぼ共通しているのは自己愛が形成されていく過程には親との関係性が大きな割合を占めているということです。共感が感じられなかったり、逆に過度な子どもへの干渉から自己愛の形成がスムーズに進まないことなどによって自己愛性パーソナリティ障害は発症するといわれています。「自己愛」は自己愛性パーソナリティ障害だけでなく、他のパーソナリティ障害の根本的な原因にもなりうるといわれています。人間がより幸福に生きていくためには心と体の健康を意識しなくてはなりません。幼少期に十分にコミュニケーションをとることやスキンシップをとることは、心の健康を育てていくことと繋がります。とはいえ、完璧な自己愛をもっていると言い切れる人は少ないとも言えるでしょう。どこかに何かしらの欠如があるからこそ、その人らしさが現れることもあります。自己愛性パーソナリティ障害に関しては、自己愛の未成熟さは治療によって成熟に向かうこともあるといわれています。治療はある意味でこれまでの生き方やその人らしい考え方の変化とも言えます。そのため、治療には長い時間がかかりますし、本人がより生きやすくなるためには家族の協力も必要になってきます。家族だけでは難しい場合は周囲の人と協力して環境を調整していく努力も重要です。今まで築いてきた本人や家族のスタイルを見直すことは容易なことではありません。しかしより良い環境へ変化させていくチャンスだと思って積極的に取り組んでいくことで、それぞれにとって生きにくさを解決するきっかけになることもあるのです。
2017年05月29日全般性不安障害とは?出典 : 全般性不安障害とは、時間や予定のずれ、仕事、学校、家族、健康などに対して、自分自身で不安の感情をコントロールできないほど過剰に心配をし、普段の活動に支障をきたす状態が続いている状態を指す疾患です。身の回りに起こるかもしれない出来事の発生可能性、発生した際にどういう影響が起こるかという本人の予測は、感じる不安や心配の強度、持続期間、発生頻度と必ずしも一致するものではありません。通常の場合、人はいま行っていることに対しての集中を妨げないために、一旦、不安や心配は抑制されている状態を保ちながら活動に集中できるようコントロールすることができています。全般性不安障害は、こうした不安や心配のコントロールにトラブルが生じ、日常生活に支障が出るほどの症状となって現れた状態であり、一般的な「心配性」とは区別されています。・自分の身の回りに起こる様々な出来事に対して大きい苦痛を感じ、それが長続きする傾向がある。・不安や心配の感情が前触れなくいきなり生じる。・不安や心配の感情がからだの不調になって現れる。以上の症状を顕著に感じ、長期化しているとき、全般性不安障害を発症している恐れがあります。全般性不安障害の主な症状出典 : ■共通して現れる症状....すべての人に共通して現れる症状は以下の2つです。・過剰な不安と心配をする日が、しない日よりも多い状態が少なくとも6ヶ月以上続く。・自分自身で心配を抑制することを、むずかしいと感じる。■個人差がある症状....不安と心配の感情と共に、以下のうち3つ以上(子どもの場合は1つ以上)の症状が現れます。・落ち着きのなさ、緊張感、神経の高ぶり・疲労しやすい・集中困難、心がからっぽに感じる・挑発されたと感じると、すぐに頭に血がのぼってしまう・筋肉が震えたり、筋肉痛になったり、収縮感を感じたりするなどして緊張する・寝付きの悪さ、途中で起きてしまうなどの睡眠障害・発汗、吐き気、下痢などの身体症状・突発的に起こった出来事に対して、顔面蒼白、冷や汗、動機、不眠、脱力感などの精神的、身体的反応を生じる極度の驚愕症状日本精神神経学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院,2014年刊)p.221全般性不安障害を発症しやすい人の特性出典 : 全般性不安障害は、生活の全ての要素に対して不安を感じ、その不安が慢性化していくことによって発症します。そのため、時間の経過によって不安の出現がクセになっていく可能性が増え、30歳くらいで発症する人が多いです。そして、年齢を重ねるごとに症状は比較的小さくなると言われています。また、女性の方が男性より2倍経験しやすいとされています。加えて、以下の性格をもつ人は全般性不安障害を発症しやすいといわれています。・周囲の環境を敏感に感じ取ってしまう人・コンプレックスを抱えており、自信がない人・完璧主義者、完璧以外に極端な不満を持つ人・過度の保障を必要とする人しかし、これらの特徴がある人が必ず発症するとは限りません。日本精神神経学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院,2014年刊)p.222全般性不安障害は年齢とともに発展していくの?その経過は?出典 : 全般性不安障害による症状は、生涯を通じて慢性化し、よくなったり、悪くなったりを繰り返します。また、心配したり、不安になったりする対象は、年代や自身の置かれているライフステージなどによってその都度変化していきます。子どもは特に、学校の成績や友人関係、スポーツなどにおいて、自分は優秀なのか、できる子なのかと、過剰に心配する傾向があります。自身ができる子なのかという判断は、他人と比べる相対評価からくる判断ではありません。大人は、仕事への責任の重さ、自身・家族の健康、家計、身の周りの人たちに起こりうる災難、日常的におこるささいな時間・予定のずれなどにおいて、毎日定期的に心配します。Upload By 発達障害のキホン全般性不安障害の原因出典 : 原因として、性格からくる要因、環境からくる要因、生物学的要因の3つがあります。性格からくる要因として、我慢強い性格、ネガティヴ思考、リスクをとらない性格などが挙げられます。我慢強い性格が全般性不安障害の原因になってしまうのは、我慢という行動は、他人に嫌われるのが怖いなどといった不安や心配する感情が伴っているからです。また、ネガティヴ思考が原因になってしまうのは、常にネガティヴな気持ちに伴って不安や心配の感情がおこっている場合が多いからです。そして、リスクを取らない性格が原因になってしまうのは、常にリスクに伴う不安や心配が念頭にあり、行動することによって危険にあう可能性をネガティヴに捉えてしまう傾向があるからです。環境的要因として、子どもの頃の逆境や親の過保護を受けた経験が当てはまります。しかし、これらは完全に証明されたわけではなく、必ずしも十分な要因ではありません。生物学的要因として、脳内の神経伝達物質であるセロトニンが関与している場合があるという説があります。セロトニンの分泌量を調節するセロトニントランスポーター(日本では不安遺伝子と呼ばれている)が作用し、これらは遺伝性が認められています。そのため全般性不安障害は遺伝的要因により発症する場合もあると考えられているのです。しかし、全般性不安障害の原因のすべてについては、まだはっきりとはわかっていない部分も多いため、更なる研究が必要な段階です。参考:非定型 抗精神病薬の効果と脳内レセプター遺伝子に関する神経薬理学的研究全般性不安障害と併存しやすい症状出典 : 全般性不安障害と併存しやすい症状として、不安分離障害、広場恐怖症、パニック障害などの他の不安症や、単極性抑うつ障害(うつ病)が挙げられます。これらが併存症と診断されていない場合であっても、過去~現在にかけて、診断基準を満たしている場合が多く見られます。また、感じている不安や心配を打ち消すためにアルコールを継続して摂取し、アルコール依存症になってしまうケースも多いと言われています。全般性不安障害の診断基準出典 : 年に出版されたアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神障害のための診断と統計のマニュアル』第5版)によると、全般不安症/全般性不安障害として以下の診断基準があります。A.(仕事や学業などの)多数の出来事または活動について過剰な不安と心配(予期憂慮)が起こる日のほうが起こらない日より多い状態が少なくとも6ヶ月間にわたる。B.その人は、その心配を抑制することが難しいと感じている。C.その不安および心配は、以下の6つの症状のうち3つ(またはそれ以上)を伴っている(過去6ヶ月間、少なくとも数個の症状が、起こる日のほうが起こらない日より多い)。注:子どもの場合は1項目だけが必要。ⅰ落ち着きのなさ、緊張感、または神経の高ぶりⅱ疲労しやすいことⅲ集中困難、または心が空白になることⅳ易怒性Ⅴ筋肉の緊張Ⅵ睡眠障害(入眠または睡眠維持の困難、または落ち着かず、熟眠感のない睡眠)D.その不安、心配、または身体症状が、臨床的に意味のある苦痛、または、社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。E.その障害は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患(例:甲状腺機能亢進症)の生理学的作用によるものではない。F.その障害は、他の精神疾患ではうまく説明できない(例:パニック障害におけるパニック発作が起こることの不安又は心配、社交不安症における否定的評価、強迫症における汚染、または他の強迫観念、分離不安症における愛着の対象からの分離、心的外傷後ストレス障害における身体的訴え、醜形恐怖症における想像上の外見上の欠点の知覚、病気不安症における深刻な病気をもつこと、または、統合失調症または妄想性障害における妄想的信念の内容、に関する不安または心配)。日本精神神経学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院,2014年刊)p.220より引用全般性不安障害かも?と気になったときは専門機関に相談を出典 : 全般性不安障害は通常、身体の不調の症状を強く感じて内科に診察を受けに行く人が多いです。しかし、検査をした際に異常なし、と診断されることがあり、精神疾患について言及するお医者さんは必ずしも多いとは言えません。他の科で異常がないと診断されたが、身体的、精神的不調が半年以上続いており常に不安なことがある。もしくは、周囲の人に相談したり、打ち明けたりすることに抵抗感を感じたりする場合は、以下の相談先に相談するか受診をおすすめします。■全国精神保健福祉センター....都道府県・政令市には、ほぼ一か所ずつ設置されている、保健・精神保健に関する公的な窓口です。精神保健福祉に関する相談をすることができます。精神科医、臨床心理技術者、作業療法士、保健師、看護師などの専門職が配置されています。相談については、予約制、健康保険の適応があるところがあります。詳細は、それぞれのセンターにお問い合わせください。全国の精神保健福祉センター一覧l厚生労働省■精神科....心の症状、心の病気を扱う科です。心の症状とは具体的に不安、抑うつ、不眠、イライラ、幻覚、幻聴、妄想などのことです。心の症状に対して治療を行います。■心療内科....心と身体、それだけでなく、その人をとりまく環境等も考慮して扱う科です。精神科で扱う心の症状だけでなく、ほてり、動悸などの身体的症状とその人の社会的背景、家庭環境なども考慮して治療を行います。精神科、心療内科どちらに行ったらいいか迷う方もいらっしゃるかもしれませんが、全般性不安障害の場合、身体にも心にも症状がでるため、精神科を受診しても心療内科を受診してもどちらでも大丈夫です。全般性不安障害の治療法出典 : 全般性不安障害の治療法として主に薬物療法と精神療法があります。■薬物療法即効性があるといわれている抗不安薬を用いる場合があります。代表例はベンゾジアゼピン誘導体、タンドスピロンなどです。ベンゾジアゼピンは不安や緊張を和らげる効果がありますが、連用すると依存症になりやすいといわれており、アルコールとの併用は厳禁です。また、連鎖的に表れる不安には抗うつ薬であるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)や、5-HT1A受容体部分作動薬などが用いられます。全般性不安障害は精神を安定させる働きのある脳内伝達物質、セロトニンの調節安定性も大きく関わっています。そのため、セロトニンに直接作用する抗不安薬が即効性があるといわれているのです。しかし、薬には副作用もありますし、人によって合う合わないがあります。低年齢の子どもの場合はより慎重に進めるべきという専門家もいます。主治医の先生と信頼関係を築き、よく相談した上で納得して治療を進めるとよいでしょう。精神療法は、即効性はありませんが薬物療法に比べて副作用が少なく、再発率も低くなっています。全般性不安障害に有効な精神療法の2つの代表例は以下の通りです。■認知行動療法(CBT)認知療法・認知行動療法は、何か困ったことにぶつかったときに、本来持っていた心の力を取り戻し、さらに強くすることで困難を乗り越えていけるような心の力を育てる方法として、いまもっとも注目を集めている精神療法です。具体的には、自身がどのタイミングで不安や心配を感じるのかを客観的に観察し、“自動思考”という考えのクセを把握します。そして、そういった状況に直面した際に、どのように考え、対処していけばいいかを考え、考え方をコントロールしていく治療法です。参考:全般性不安障害の治療方法 l 前田クリニック参考:認知療法・認知行動療法マニュアル l 日本認知療法学会■森田療法森田正馬が1910年代に自身の体験から考案した精神療法です。森田療法は全般性不安障害の治療として有効であると言われています。不安や恐怖という感情を、自然な感情と受け入れ、不安や恐怖はダメな感情であるという、とらわれた考えから脱出することを主な目的としています。また、不安や恐怖という感情は、よりよく生きたいという考えと表裏一体という認識をとっています。そこで、自身のあるがままの不安や恐怖を受け入れることにより、自身の中の健康な力や豊かな感情に気づくことができるとされています。全般性不安障害に対して、日常生活でできること出典 : 全般性不安障害に対して、日常生活で行えること。それは生活習慣を整えていくことです。なぜなら、生活習慣が乱れた日々が続くと、いつもよりネガティブになったり、イライラしたりし、精神状態が不安定になってしまうからです。そのため、以下の基本的なことから意識して行っていきましょう。・十分な睡眠をとる・栄養バランスのとれた食事を摂取する・適度な運動をする・アルコール摂取量を控えるまた、生活習慣を整える以外にも有効な対処法があります。・環境を整えるための対人関係の整理・筋肉の弛緩、深呼吸などの個人でできるリラックス法の確立家族や周りの人が全般性不安障害だったとき、どう対応すべき?出典 : 全般性不安障害がある人は、自身の抱えている不安や心配を、周囲の人に相談したり、訴えたりすることが多いです。その際に、不安や心配に伴って、こころだけではなくからだにも不調が長く続いていることを理解してあげることが重要です。では、具体的にどう接することが適切なのでしょうか?・気持ちの問題や、性格だと決めつけない。・否定的なことを言わない、できないことがあっても責めない。・不安を訴えているときは、その対象に対してアドバイスをするより、まずはどんな時も側にいてあげるという意思表示をする。・辛い時は休める環境を整え、安心感を与える。・本人が意識を変えようと努力しているときは積極的に褒める、賛同する。これらを意識して温かい気持ちで支えてあげることをおすすめします。まとめ出典 : 全般性不安障害は、多数の出来事や活動に対して過剰な不安と心配をする症状を発症し、それと同時にからだの不調も現れる疾患です。しかし、 不安という感情は全ての人がもつ感情であり、疾患かどうかを自己判断するのは難しいです。また、慢性化することで治りにくくなるため、早期から治療することが重要です。そこで、周囲の人もただの「心配しすぎ」だと思わず、優しく見守り、場合によっては専門家に相談するよう促すことをおすすめします。
2017年05月29日パーソナリティ障害とは出典 : パーソナリティ障害とは、一般の人と比べて著しく偏った考え方や行動パターンのために家庭生活や社会生活、職業生活に支障をきたした状態を指します。どんな人にでも性格の偏りはあるものですが、その偏りによって二次障害が現れたり、日常生活に支障が生じることではじめて「障害」と判断されます。米国精神医学会によって作成される『精神障害の診断と統計マニュアル第5版(DSM-5)』では、パーソナリティ障害は以下のように説明されています。パーソナリティ障害とは、その人が属する文化から期待されるものから著しく偏り、広範でかつ柔軟性がなく、青年期または成人期早期に始まり、長期にわたり変わることなく、苦痛または障害を引き起こす内的経験および行動の持続的様式である。出典:DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル(医学書院.2014)以上のように「苦痛または障害を引き起こす」という特徴により定義されるパーソナリティ障害ですが、周囲から見てパーソナリティ障害であるかどうかを見分けることは極めて困難であるとされており、パーソナリティ障害は理解のされにくい病気と言われています。パーソナリティ障害に対する理解を深める前に、「そもそもパーソナリティって何?」という疑問を持つ人もいるのではないでしょうか。人間は誰でも、考え方や行動のパターンに何かしらの特徴・偏りを持っていて、そうした「その人らしさ」といえるような特徴を“パーソナリティ”と呼びます。「人付き合いの好きな人」「自己中心的な人」「神経質な人」「怒りっぽい人」などさまざまなパーソナリティがあります。今日の精神医学・心理学の分野では、パーソナリティは「性格」と「気質」という2つの要素が合わさったものと考えられています。「性格」はパーソナリティの心理社会的側面を、「気質」は遺伝的・器質的素因といった生物学的な側面を意味します。アメリカの精神科医ロバート・クロニンジャーは、性格を形作るものとして「自己思考」「強調」「自己超越」という3つの要素を、気質を形作るものとして「新奇性探求」「損害回避」「報酬依存」「固執」という4つの要素があると考え、合計7つの要素からなるパーソナリティ理論を提唱しました。この理論は、前者の3つの要素は体験からの学習として得られ、後者の4つは生まれつき備わっている要素なのではないかということを示唆しています。参考:岡田 尊司『パーソナリティ障害がわかる本』ちくま文庫(2014)p.22, 23以前は、パーソナリティ障害は英語名である“Personality Disorder”を直訳する形で「人格障害」と呼ばれていました。しかし、日本語の「人格」という言葉は人としての道徳観や良心の有無といった意味合いを含むため、「人格障害」という呼び名を用いることは当事者に対する否定的なイメージや偏見につながりかねない、と考えられるようになりました。現在は使われる頻度も減少しているようです。本記事では、それぞれ異なった特徴を持つパーソナリティ障害のタイプ別分類、各種パーソナリティ障害の概要やパーソナリティ障害の原因といった基本情報に加えて、パーソナリティ障害と発達障害との関連、具体的な治療法、周囲の接し方などについて、わかりやすく解説します。参考:パーソナリティ障害|厚生労働省参考:パーソナリティ障害(境界性/自己愛性)について|すぎうらメンタルクリニックパーソナリティ障害の分類出典 : 現在、精神科医療の現場で広く用いられている診断基準である『DSM-5』では、パーソナリティ障害は10のタイプに分類され、それぞれの特徴・傾向をもとにA・B・C群という3つのグループに分けられています。Upload By 発達障害のキホンそれぞれのタイプの詳しい症状などについては、関連記事を参照してください。A群:奇妙で風変わりに見えるA群は「オッド・タイプ」という別名を持ち、非現実的な考え方にとらわれやすいという特徴があります。統合失調症や妄想性障害といった精神疾患とのつながりが指摘されています。A群には以下の3タイプがあてはまります。・猜疑性パーソナリティ障害/妄想性パーソナリティ障害・シゾイドパーソナリティ障害/スキゾイドパーソナリティ障害・統合失調型パーソナリティ障害B群:演技的で情緒的に見えるB群は「ドラマチック・タイプ」とも呼ばれ、感情的かつ衝動的なのが特徴です。そのため、周囲を巻き込んで迷惑をかけることが多いタイプであるといえます。B群には以下の4タイプがあてはまります。・反社会性パーソナリティ障害・境界性パーソナリティ障害・演技性パーソナリティ障害・自己愛性パーソナリティ障害C群:不安または恐怖を感じるC群は「アンクシャス・タイプ」と呼ばれることもあります。不安・恐怖心などが強く、自己主張は控えめなのが特徴です。自己本位というより他社本位なタイプといえるでしょう。A群には以下の3タイプがあてはまります。・回避性パーソナリティ障害・依存性パーソナリティ障害・強迫性パーソナリティ障害新たな種類のパーソナリティ障害上で挙げた10種類のパーソナリティ障害に加え、近年では「循環病質」という病前性格、すなわち疾患を発症する以前の性格をベースとしたパーソナリティ障害も増えていると言われています。この種類のパーソナリティ障害には、普段は社交的・活動的だが激しい気分変動が起きるという特徴があります。この種類には以下の2つのタイプが当てはまります。・サイクロイド・パーソナリティ障害・サイクロタイパル・パーソナリティ障害以上、DSM-5に従ってパーソナリティ障害の3つのグループと10の下位分類、そしてDSM-5にはない、新たな種類のパーソナリティ障害について紹介しましたが、世界保健機関(WHO)により作成される疾病分類であるICD-10など、他の診断マニュアルにおいては分類のしかたや下位分類の名称が違うこともあります。参考:DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル(医学書院.2014)パーソナリティ障害(人格障害)|慶應義塾大学病院複数のパーソナリティ障害が重なり合うこともある出典 : パーソナリティ障害は10のタイプに分類されていますが、実際のところ、パーソナリティの特徴が明確に見られる「典型例」といえるような患者さんばかりではなく、複数のパーソナリティの傾向を同時に持ち合わせている人もいるため、どのパーソナリティ障害なのかを見極めることが困難な場合もあります。もともと何らかのパーソナリティの偏りを持っていた人が、その偏りが原因で問題を抱えるようになった結果、二次的に新たなパーソナリティ障害の傾向を示すようになることもあります。なかには3~4つのパーソナリティ障害を併発する人もおり、そのようなケースではその人がもともと持っていたパーソナリティを特定することが重要となります。パーソナリティ障害のなかには、重複しやすいタイプがあると言われています。例えば、・境界性パーソナリティ障害・演技性パーソナリティ障害・自己愛性パーソナリティ障害・反社会性パーソナリティ障害といったパーソナリティ障害は「対人関係に支障をきたす」「自己中心的な考え方をする」「反社会的な行動をとる」など共通した特徴を持っており、相互に重複の可能性が指摘されています。さらに、自己愛性パーソナリティ障害と強迫性パーソナリティ障害が重なるケースも指摘されているようです。参考:牛島定信『図解 やさしくわかるパーソナリティ障害 正しい理解と付き合い方』ナツメ社 (2011)参考:パーソナリティ障害|厚生労働省パーソナリティ障害の原因出典 : パーソナリティ障害は、誰でもなる可能性があるといわれています。しかし、パーソナリティ障害の原因に関して、現時点では十分なことは明らかになっていません。それでも、さまざまな研究が進められていて、生物学的な特性や発達期の経験がパーソナリティ障害の発症に関与することなどが指摘されています。例えば、衝動的な行動パターンには脳内の神経物質の関与が認められること、幼少期の辛い経験が発症に影響を及ぼすといった研究結果が報告されています。パーソナリティ障害の原因に関する研究でしばしば用いられるのが遺伝的要因と環境的要因という分類です。遺伝的要因とは遺伝子による影響だけを指し、それ以外の要因はすべて環境的要因として捉える考え方です。すなわち、環境要因のなかには生まれ育った環境、親との関係、病気やケガ、社会的影響などすべてが含まれます。遺伝的要因が関与する割合については、双生児による研究を通して推定されることが多いです。ある疾患の遺伝率を求める場合、一卵性双生児と二卵性双生児で、一人がその疾患にかかっているとき、もう一人の兄弟がその疾患にかかる割合(一致率)を調べます。遺伝性が高い疾患では、二卵性に比べて一卵性双生児での一致率がとても高くなります。一方で、遺伝率が低い疾患だと、一卵性双生児と二卵性双生児との間で一致率にあまり差は見られません。このような方法を用いた研究によれば、パーソナリティ障害の遺伝率は50~60%ほどという結果もあるようです。このことから、程度遺伝的要因はパーソナリティ障害に関連するが、それだけではない環境要因も影響すると言われています。参考・出典:岡田 尊司『パーソナリティ障害がわかる本』ちくま文庫(2014)p.82子どもの性格の形成に関して、親との関係は大きな影響を与えるといわれています。そのため親子関係の変化する各段階におけるなんらかのつまづきによって偏ったパーソナリティが形成されて行く可能性も少なくないと考えられます。例えば、乳児期に適切な世話や愛情を受けることができないと、安定した愛着が構築されず、外界や他者に対して不安や恐怖を抱くなるようになってしまう可能性があることが専門家によって指摘されています。しかし、その可能性は様々にあるパーソナリティ障害の要因の一つにすぎません。また、どのような要因があるにせよ、原因探しが必ずしも治療の手助けになるわけではありません。時をさかのぼって過去をやり直すことができない以上、原因は原因として客観的に受け止め、「現実の問題に対して対応していく方法」について考えていくことが大切なのではないでしょうか。参考:パーソナリティ障害|厚生労働省参考:牛島定信『図解 やさしくわかるパーソナリティ障害』ナツメ社 (2011)参考:岡田 尊司『パーソナリティ障害がわかる本』ちくま文庫(2014)パーソナリティ障害と関連するその他の障害出典 : パーソナリティ障害には、合併しやすい障害や疾患があると言われています。また、その他にも症状が似ている障害の存在も指摘されています。本章では、前半で合併しやすい障害・疾患について、後半で症状の似たものについて紹介します。それぞれの障害・疾患について詳しく知りたい方は、関連記事をご参照ください。■うつ病気分障害の一つであるうつ病は、パーソナリティ障害と合併しやすいといわれています。■双極性障害双極性障害はうつ病と同じく気分障害の一つであり、気分が高まる「躁(そう)状態」と気分が落ち込む「うつ状態」を繰り返す精神疾患です。サイクロイド・パーソナリティ障害、サイクロタイパル・パーソナリティ障害の場合、双極性障害へと進展するケースが指摘されています。■統合失調症幻覚や幻聴、気分の落ち込みがある統合失調症。妄想性パーソナリティ障害、スキゾイド・パーソナリティ障害、統合失調型パーソナリティ障害から進展することがあるといわれています。■不安障害不安が異常に高まってしまう疾患である不安障害はパーソナリティ障害と合併することがあります。不安障害とはどのような疾患なのか|せせらぎメンタルクリニック■強迫性障害自己愛性パーソナリティ障害に合併しやすいといわれています。■摂食障害摂食障害の症状の中でも、「過食」は境界性パーソナリティ障害、統合失調型パーソナリティ障害に合併しやすいようです。摂食障害|厚生労働省■アルコール依存・薬物依存アルコールや薬物への依存症状は、反社会性パーソナリティ障害と合併しやすいといわれています。参考・出典:岡田 尊司『パーソナリティ障害がわかる本』ちくま文庫(2014)p.82■妄想性障害妄想性障害は、妄想性パーソナリティ障害や妄想型統合失調症と症状が似ています。妄想性障害(パラノイア)とはどういう病気なのか|せせらぎメンタルクリニック妄想性障害のほかにも、発達障害はパーソナリティ障害と似た特徴・傾向がみられることがあります。パーソナリティ障害と発達障害との関係については、次章で解説します。パーソナリティ障害と発達障害の関係は?出典 : 発達障害とは脳機能に先天性の障害があるために、幼児期から発達に何らかの遅れや困難が生じることを指します。その症状は、通常低年齢の発達期において発現することが多いといわれています。他者と考え方や感じ方か違う、自己中心的になりやすい、衝動的な言動がみられるといった特徴・傾向は、パーソナリティ障害・発達障害の両方でみられることがあるため、見分けるのは容易ではありません。また、発達障害のある子どもは、学校でいじめを受けたり、勉強についていけなくて周囲に叱責されたりと、自尊感情が損なわれやすい傾向があります。そのために自我がうまく育たず、他者と友好関係を築くのが苦手になり、しだいにパーソナリティに偏りが生まれてしまう場合もあるようです。上記のように、発達障害をベースとして二次的にパーソナリティ障害と同様の症状が現れている場合には、発達障害の治療と並行してパーソナリティ障害への対応に準じた対応策が必要とされます。パーソナリティ障害かもと思ったら?相談先は?出典 : パーソナリティ障害であるかどうかを、当事者本人が自覚したり、周囲の家族や友人が判断することはきわめて難しいといわれています。身近な人に抑うつ症状や衝動行為をしていて、それが心配になるレベルである場合には、精神科か心療内科に受診して専門医の診断を仰ぐことが好ましいでしょう。すぐには診断は出ませんが、それでも相談したり、強い症状をある程度治療によって抑えることができる場合もあります。精神的に安定した状況を取り戻し、ほかの障害の併発を防ぐためにも、できるだけ早期の受診が望まれます。はじめから医療機関に行くことに対して抵抗を感じる場合は、精神保健福祉センター・保健センター・地域活動支援センターなどといった地域の相談窓口を利用してもよいでしょう(名称は地域によって異なることがあります)。地域にある相談先|厚生労働省全国の保健福祉センター一覧|厚生労働省パーソナリティ障害の診断の流れと診断基準出典 : 前章でも述べた通り、パーソナリティ障害の疑いがある場合は精神科もしくは心療内科を受診するとよいでしょう。基本的に、初診でパーソナリティ障害の判断がつくことはあまりありません。初診時の面接では現在困っていること・悩んでいること・気分の状態などについて聞かれることが多いようです。医師は、面接を繰り返す中で、気持ちや考え方に変化がないかなどを確認しながら診断を進めていきます。また、患者さんは過去の出来事や幼少期の親子関係などについて聞かれることもあります。患者さんの話だけでは性格や気質を捉えきれないと医師が判断した場合には、心理テストを行い、その結果を判断材料とすることもあります。問診や心理テストの結果を分析し、DSM-5、あるいはWHO(世界保健機関)が作成する疾患の分類であるICD-10の診断基準に照らし合わせながら最終的な診断が下されます。DSM-5では、パーソナリティ障害の全般的基準は以下のようにまとめられています。A. その人の属する文化から期待されるものから著しく偏った、内的体験および行動の持続的様式。この様式は以下の領域の2つ(またはそれ以上)の領域に現れる。(1)認知(すなわち、自己、他者、および出来事を知覚し解釈する仕方)(2)感情性(すなわち、情動反応の範囲、強さ、不安定性、および適切さ)(3)対人関係機能(4)衝動の制御B. その持続的様式は柔軟性がなく、個人的および社会的状況の幅広い範囲に広がっている。C. その持続的様式が、臨床的に意味のある著しい苦痛または、社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。D. その様式は安定し、長時間続いており、その始まりは少なくとも青年期または成人期早期にまでさかのぼることができる。E. その持続的様式は、他の精神疾患の表れ、またはその結果ではうまく説明されない。F. その様式は安定し、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患(例:頭部外傷)の直接的な生理的作用によるものではない。引用:DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル(医学書院.2014)この診断基準に当てはまる場合、さらに10タイプある下位カテゴリーそれぞれの診断基準に照らして、慎重に診断されます。パーソナリティ障害の経過と治療法出典 : パーソナリティ障害は自然に治るものではありませんが、症状や困難性は、適切な治療を受けることで改善させることができます。しかしながら、すべての人に有効な決定的な療法は見つかっておらず、同じ治療法でも人によって効果は異なります。根本的な治療法は精神療法、対症療法としては薬物療法が用いられるのが基本ですが、さまざまな治療法を組み合わせながら、その人に合った方法で治療が進められます。より具体的には、以下のような治療法が代表的といわれています。■個人精神療法医師や心理技術者といった治療者が患者さんとの面接を通して患者さんのパーソナリティ障害に対する理解を促したり、認知や思考・行動パターンの偏りや問題点の改善を目指していく根本的な治療です。面接は、治療者と患者さんの1対1で1週間に1~2回、30分~1時間程度行われるのが一般的なようです。この治療法では、患者さんと治療者の間に信頼関係があることが前提条件になります。■集団精神療法その名の通り、集団で行うことが特徴の治療法です。患者さん、治療者に加え、ほかの患者さんも交えたグループで話し合いをしたり、共同作業を行ったりという活動の中で生まれる患者さん同士の相互効果を治療に生かします。同様の障害を持つ人と交流することで、障害を客観的に理解したり、「人の振り見て我が振り直せ」効果を期待することができます。■家族療法家族療法では、患者さん本人のみならず、家族に対しても治療を行います。患者さんと家族との関係性を捉え、そこに存在する問題の解決を目指す治療法です。家庭における家族一人ひとりの役割を見直し、正常化することで、患者さんの精神的な安定をはかります。具体的には、治療者が家族と面接を行ったり、家族内での問題への対処法に関する助言や指導を行ったりします。パーソナリティ障害を根本から治す薬は現在のところありません。薬による治療はあくまで対症療法になりますが、強い不安や緊張、抑うつなどといった精神症状を一時的に和らげる目的で投薬治療を行うことがあります。認知行動療法とは、患者さんの認知のしかたの「ゆがみ」の改善をはかる治療法です。患者さんに自分を客観的に観察してもらい、認知のゆがみがいつ、何をきっかけに起きたのかを記録し、そのゆがみについて自覚してもらいます。そのうえで、そうしたゆがみを改善するための認知のしかたや行動の取り方を、ロールプレイングなどを通して実践的に身につけていきます。参考:牛島定信『図解 やさしくわかるパーソナリティ障害』ナツメ社 (2011)パーソナリティ障害のある人に対する、周囲の接し方は?出典 : パーソナリティ障害は、本人にとっても周囲にとっても理解しにくい障害であり、本人に対する接し方においてもさまざまな配慮が求められます。家族が医師の話を聞きながら適切な対応をとっていくことが大切です。家族がパーソナリティ障害の患者さんと向き合い、支えていくうえで最初のステップとなるのが、パーソナリティ障害について正しく理解することです。程度に差はあれど誰もが持っている「考え方の偏り」によって社会活動に支障が生じるパーソナリティ障害は、誰にでも起こりうる障害であるといえます。「治療には時間がかかる」「本人には自覚が乏しいこともある」「治療においては周囲のサポートが重要」といった特徴について理解しておくことで、治療が進みやすくなります。本人が医療機関の受診を拒むケースも少なくありません。患者さんが、自分が抱えるトラブルの原因は自分ではなく周囲にあると捉えていることも多いです。そうした状況下で周囲によって受診を強くすすめられると、「どうして自分が病院に行かないといけないんだ!」とますますかたくなになってしまう可能性もあります。家族は、本人が医療機関を受診する前から「病気」や「障害」と決めつけるようなことはせず、「あなたの悩みを軽減・解消するために行ってみない?」といった促し方をしてみましょう。受診について切り出すタイミングに関しては、患者さんの気持ちが安定していて、落ち着いて会話ができる状態が好ましいでしょう。パーソナリティ障害の人のなかには、家の中にひきこもり、社会活動に参加を拒む人もいます。患者さんがひきこもるのには、さまざまな理由が考えられます。例としては、自分が他者に受け入れてもらえるか・どう評価されるのかということを過剰に心配してそとの社会との関わりを避けるケースや、もともと人付き合いが嫌いもしくは苦手で、対人関係のストレスを避けるケース、仕事上の失敗などが原因で自信を失い社会に戻ることを拒むケース、外の世界に興味・関心が持てなくて外に出る気持ちが起こらないケースなどが挙げられます。患者さんがひきこもっているとき、家族が無理に外へ連れ出すのは好ましくないとされています。その人がひきこもっているのにはそれなりの理由があるはずなので、その気持ちを尊重し、理解しようとする姿勢を示すほうが解決につながりやすいでしょう。社会での対人関係やコミュニケーションをとることに対する不安からひきこもり状態になっているときには、ソーシャル・スキル・トレーニング(SST)を受けることが状況の改善につながることもあります。パーソナリティ障害の人のなかには、激しい怒りなどの感情とともに、暴力を振ったり暴言を吐いたりする人がいます。こうした暴力や暴言も衝動行為の一つで、自分の感情をうまくコントロールできないために直接的な行動によって発散している状態です。親や交際相手、自分の子どもなど、身近な人ほど対象になりやすいです。パーソナリティ障害の人が粗暴な言動をしたとき、周囲の人は極力冷静に対応することが求められます。家族まで感情的になって同じように暴力や暴言で対抗してしまうと、患者さんはさらに動揺し、不安を強め、精神が不安定になり、さらに衝動的になるという悪循環に陥ってしまう可能性があります。解決を目指すうえでは、容易なことではないとは思いますが、専門家との連携をとりながら、患者さんをつねにあたたかく見守っていく姿勢をくずさないようにすることが重要です。患者さんを安心させることで衝動行為の抑制をはかりましょう。まとめ出典 : 人はみなそれぞれ異なる性格を持っています。それぞれ異なる考え方を持っています。ただ、同じような傾向の性格を持っていたとしても、その性格の偏りによって家庭生活や社会生活、職業生活に支障をきたしてしまう場合は、パーソナリティ障害と判断されます。治療に際しても、一人ひとりの症状や考え方の違いに応じて、異なった対応が必要になります。専門の医師による治療やアドバイスを受けながら、患者さん本人や周囲の人たちもその症状を理解し、焦らずじっくりと対応していくことが大切です。
2017年05月28日成長障害とは?出典 : 成長障害とは、各年齢の標準身長と比べて、極端に身長が低かったり高かったりすることを指します。子どもが大きくなることを、「成長」「発達」などとさまざまな表現で表わします。広義では、子どもが大きくなるという意味合いはどちらにもあてはまりますが、正確には違いがあります。「成長」は、見た目からわかるような、身体のサイズが大きくなることを指します。一方、言葉が上手に話すことができるようになったり、友達とうまく付き合うことができるようになったりするなど、身体の機能や精神面が育つことは「発達」と言われています。林泰史、長田久雄/編『最新 介護福祉全書 9発達と老化の理解』2013年/メヂカルフレンド社つまり、成長障害の「成長」が指すのは、身体の、主に身長の伸びのことです。それゆえ、成長障害は身長の伸びに対する何らかの障害を指します。成長障害についての本やウェブサイトには、低身長を中心に取り上げられていることが多いですが、成長障害には平均身長から極端に外れるような高身長も含まれます。成長障害の判断は、子どもの身長と年齢をグラフ化した「成長曲線」をもとに行われます。成長曲線を通して、その子どもの身長がどんなペースで伸びているのか、平均とどのくらい違いがあるのかを明らかにし、成長障害といえるのかどうか判断します。つまり、自分の子どもが他の子どもと比べて身長があまりに低い・高いからといってそれが必ずしも成長障害であるとは限りません。あくまでも子ども1人の成長の記録を見ることで、身長の伸びに異変がないかどうかを見ていくことが大切です。成長曲線を活用した小児成長障害の診かた成長障害の理解のために押さえたい!成長曲線・SDとは?出典 : 子どもの身長の伸びを正確に理解したり、成長障害であるのかどうかを判断したりするためには「成長曲線」と「SD」についての理解が重要となってきます。一見わかりにくい「成長曲線」と「SD」について、詳しく説明します。成長曲線とは、子どもが生まれてから身長の伸びが止まるまでの間、身長と体重の伸び方や増え方をグラフ上に記録したもののことです。通常、身長の伸びが止まるとは、思春期を過ぎ、子どもの身長の成長速度が1年間で1cm程度になった年齢を目安としています。大半の成長曲線の年齢軸には0歳から18~20歳までの目盛がふられているため、おおよそこの年齢の間、身長を記録していきます。よく使われる成長曲線は、横軸に年齢、縦軸に身長が記入できるようになっています。成長曲線から、子どもの年齢が増えるにつれて、どのくらいのペースで成長しているのかを客観的に確認することができます。成長曲線に子どもの身長を記録することで、平均の身長と比べて身長が低すぎるのか、高すぎるのか、などが明らかになります。このように子どもの成長を目に見える形で記録すると、身長の伸びに異変が起きた時、早めに気づくことができます。もし、成長障害が何らかの病気が原因でもたらされている場合、その病気の早期治療にもつながります。そのため、子どもの身長を計測した時に、ただ数値を記録するだけでなく、成長曲線というグラフで記録することが重要です。公益財団法人日本学校保健会特集第1回「成長曲線」~学校での成長曲線の活用~SDとは、標準偏差(StandardDeviation)の略称を指します。成長障害や子どもの身長に関してSDは、子どもの身長が、平均身長と比べるとどの程度低いのか、高いのか、客観的に判断するための基準という役割を果たします。先ほどもご紹介したように、成長障害には大きく分けて低身長と高身長という2つのパターンがあります。医学的に診療の対象になる低身長は、-2SD以下、高身長は+2SD以上と言われています。医学的に基準が設けられた低身長や高身長はそれぞれ、同い年の子どもの中で2%程度いると言われています。野瀬 宰/著『子どもの身長が気になったら読む本 親がわが子にしてあげられること』2012年/幻冬舎成長障害の原因とは?出典 : 成長障害になる原因には、何が考えられるのでしょうか。低身長と高身長に分けて、それぞれの原因や隠れている可能性のある病気に関して説明します。低身長とは、その年齢の子どもの平均身長に対して極端に身長が低い状態を指します。医学的には、-2SD以下の身長の伸びを記録していると、低身長と認められます。低身長は、原因別に考えると以下の3つが挙げられます。・特発性低身長(原因不明)・家族性低身長・病気が原因で起こる低身長低身長は、特発性低身長と呼ばれる、これといった原因がない・体質的なものである、という場合が大半です。また、身長の伸びはある程度親の影響を受けるものなので、両親が小柄な場合、子どもも小柄になることがあります。一方、病気が原因で低身長になっている場合は、以下のような病気が考えられます。■成長ホルモンや甲状腺ホルモンの病気出産の時に仮死状態になったり、事故など何らかの原因で脳が傷ついてしまったり、脳腫瘍など脳の機能障害になったりすることにより、成長ホルモンが分泌される脳下垂体という部分に障害が残ることがあります。そうなると、成長ホルモンの分泌が十分に行われず、低身長につながります。低身長の原因に病気が関わっている場合、成長ホルモンや甲状腺ホルモンの分泌が低下することで発症する、成長ホルモン分泌不全性低身長症と甲状腺機能低下症が一番多いと言われています。このようなホルモンの分泌不足が原因で低身長になっている場合、成長ホルモンや甲状腺ホルモンを治療で補うことで、身長の伸びを促進することができます。成長ホルモンなどにまつわる詳しい治療方法はこの後解説します。■染色体の病気(ターナー症候群、プラダー・ウィリ症候群)ターナー症候群とは、染色体の全体または一部が欠けることによって、低身長や女性ホルモンの不足といった特徴を引き起こす疾患です。女性だけに発症するという特徴があります。ターナー症候群が原因で低身長を引き起こした場合も、成長ホルモン治療や女性ホルモン治療など、足りないホルモンを外から補う方法が効果的な治療法とされています。プラダー・ウィリ症候群とは、15番染色体という染色体の異常により発症する症候群です。症状は、低緊張、また、お乳を吸うための筋肉が弱い哺乳障害、幼児期からの過食と肥満、発達の遅れ、低身長などが特徴とされています。プラダー・ウィリ症候群によって低身長になっている場合も、成長ホルモン治療が有効とされています。他にも、食事や運動療法を通じて症状の改善が見られる場合もあるようです。難病情報センタープラダー・ウィリ症候群■子宮内発育不全(SGA性低身長症)母親のお腹の中でゆっくりと成長したため、お腹の中にいた期間の割に小さく生まれてきた赤ちゃんがいます。このような赤ちゃんは、8割以上が2,3歳までに急速に成長し、標準身長に追い付く一方、2,3歳になっても標準身長に追い付くことができない場合もあります。この、標準身長に一定の年齢になっても追い付くことができず低身長になることを、SGA性低身長症と言います。SGA性低身長症は何も治療をしないと低身長のまま大人になる可能性が高いだけでなく、肥満や思春期が早く来る、糖尿病になりやすいなどの傾向があります。SGA性低身長症に関しても、成長ホルモン治療が平成21年度から認められたため、医師からの診断を得次第、成長ホルモン治療をすることができます。■骨や軟骨の病気(軟骨異栄養症、軟骨無形成症)骨や軟骨そのものに何かしらの異常があることが原因で、低身長になることがあります。骨や軟骨の病気で低身長になっている場合、胴体にくらべて手足が短いなど、体のバランスに気になる点が見られることが特徴です。このような骨や軟骨の病気に関しても、成長ホルモン治療が有効とされているほか、整形外科での治療を施すこともあります。■心臓・肝臓・腎臓などの臓器の異常心臓や肝臓などの重要な臓器に病気があると、体に十分な栄養を取り込むことができないために身長の伸びが悪くなり、低身長になることがあります。このような場合、何よりもまず臓器の病気への治療を行います。治療をし、病気の回復に伴って身長の伸びも良くなることが考えられます。一般社団法人日本小児内分泌学会低身長高身長とは、低身長の反対でその年齢の子どもの平均身長に対して極端に身長が高い状態のことです。医学的に+2SD以上の身長記録があると、高身長であると認められます。高身長も低身長と同様に、原因ごとに以下の3つのパターンがあります。・特発性高身長(原因不明)・家族性高身長・病気が原因で起こる高身長特に高身長の場合は、低身長の時よりも不安を感じることが少なく、「すくすくと大きく育っている!」とむしろ喜ばしく思うことが大半だと思います。もちろん、高身長の多くの場合は病気と関係なく起こりますが、高身長にも病気が影響していることがあります。考えられる病気には、以下のようなものが挙げられます。■ホルモン分泌に関する病気成長ホルモンの分泌過剰による下垂体性巨人症や、甲状腺ホルモンの分泌過剰による甲状腺機能亢進症(バセドウ病)が考えられます。低身長の場合とは反対で、成長に関するホルモンが必要以上に分泌される病気が影響し、高身長になります。また、高身長の原因として、思春期早発症ということも考えられます。思春期早発症とは、性ホルモンが突然過剰に分泌されることで、思春期に見られる身体の変化が早期に起こることです。思春期の身体の変化の一つとして身長の伸びが目立って見られる、ということがありますが、思春期早発症の場合、この目立つ身長の伸びも早く見られるため、極端な高身長につながる可能性があります。■染色体・遺伝子に関する病気染色体や遺伝子など、いわゆる先天的な病気が原因で、高身長になっていることもあります。高身長につながる先天的な病気には以下のようなものがあります。・マルファン症候群・ホモシスチン尿症・ソトス症候群・ベックウィズ・ヴィーデマン(Beckwith-Wiedemann)症候群・クラインフェルター症候群いずれも難病指定をされていたり、小児特定慢性疾患であったりする、発症率から見ると比較的まれな病気であると言えます。いずれも専門的な治療を必要とするため、もしこのような病気への不安がある場合、難病や小児特定慢性疾患に関する専門的な診断・治療を行っている病院へ相談に行くことをおすすめします。難病情報センターマルファン症候群小児特定慢性疾患情報センターホモシスチン尿症難病情報センターソトス症候群小児特定慢性疾患情報センターベックウィズ・ヴィーデマン(Beckwith-Wiedemann)症候群子どもの身長が伸びるメカニズム出典 : 子どもの身長はいつ、どのように伸びていくのでしょうか。ここでは乳幼児期・前思春期・思春期の3つの時期ごとに、それぞれ成長にどのような特徴があるのか見ていきましょう。新生児期、そして乳幼児期は、一生のうちで最も成長スピードが速い時期と言われています。赤ちゃんは平均して約50cmで生まれてきますが、1歳時の平均身長は約75cmと、1年間で25cmも身長が伸びるとされています。そして、1歳から2歳、2歳から3歳と、成長につれて身長の伸びはゆるやかになります。乳幼児期を過ぎた後から思春期に入るまでは、男女ともほぼ一定のスピードで比較的ゆるやかに身長が伸びていきます。この時期の成長には成長ホルモンの分泌が大きな影響を与えると言われています。成長ホルモンを安定的に分泌させ、健やかな成長を促すためには、睡眠や食生活など日々の生活習慣が大切です。それゆえ、この時期の子どもには、正しい生活習慣が身に着くよう親としてもはたらきかけていくことが子どもの成長にとって大切な要素であると言えます。思春期になると、だんだんと男性・女性らしい身体つきになっていきます。思春期には男女ともに身体の変化が見られますが、身長に関しても例外ではありません。思春期では、急にスパートがかかったように身長が伸びていきます。思春期は女の子が10歳~14歳、男の子が11歳~16歳ごろを指します。思春期が始まってから終わるまで、女の子は約25cm、男の子は約30cm伸びると言われています。このような身長の急激な伸びとともに骨が大人の骨になっていき、やがて成人身長に達するのです。野瀬 宰/著『子どもの身長が気になったら読む本 親がわが子にしてあげられること』2012年/幻冬舎成長科学協会子どもの成長・発達一人ひとりの子どものために成長曲線を描こう成長障害の治療・費用・保険ってどうなっているの?出典 : 成長障害の疑いで初めて診察を受ける場合、まず子どもの体型や顔つきを診ることで、成長障害の原因が先天的なものによるのかどうかを確認します。また、生まれてから現在に至るまでの身体成長の様子を調べるとともに尿・血液検査、X線検査などを行い、病気が隠れていないかを調べます。成長障害が起こる背景に何らかの病気が関連していない場合は治療不要と見なし、経過観察という措置が取られます。成長障害に治療が必要とされる場合、多くの場合はホルモン治療という方法が用いられます。低身長の場合、成長ホルモンや甲状腺ホルモン、性ホルモンなど足りないホルモンを補うことで身長が伸びるようにしていきます。低身長のホルモン治療で最も多いとされる成長ホルモン治療は、決まった量の成長ホルモン剤を1日1回、お尻や太もも、お腹などに自己注射するという治療方法です。ただ、成長ホルモン治療を始めたからといって、すぐに効果が出るわけではありません。身長の伸び方には個人差があり、伸び率も一定とは限らないため、数年を見越して根気強く治療をしていく必要があります。高身長の場合は、その原因の病気によって治療方法は異なってきます。中でも投薬治療が多く、ホルモンの分泌を抑える薬を飲むことで過剰な身長の伸びを防ぐことが期待されています。野瀬 宰/著『子どもの身長が気になったら読む本 親がわが子にしてあげられること』2012年/幻冬舎成長障害の治療にかかる費用や保険は、原因の病気によって変わってきます。病気が原因の成長障害の治療によく利用される成長ホルモン治療は、長期的な治療になることが多いため自然と治療費用も高くなると考えられます。また、病気によっては基準を満たせば小児慢性特定疾患として公費負担が認められることもあります。成長障害を引き起こしている病気にどのような支援が受けられるのか、専門家に詳しく聞いてみることをおすすめします。また、小児慢性特定疾患として認められない場合でも、健康保険を利用した治療が可能なこともあるので、合わせて聞いてみましょう。額田 成/著『子どもの身長を伸ばすためにできること―小児科専門医が教える食事と生活習慣』2004年/PHP研究所子どもの成長を見守るうえで気をつけたいこと出典 : 親にとって、子どもの身長が伸びるということは、「大きくなったなあ」と実感できる、嬉しいことだと思います。一方で、子どもの身長がなかなか伸びず不安に思ったり、周りの子どもと比べて心配になったりする親御さんも少なくないと思います。親が子どもの成長を見守るうえで大切なことは、子どもは一人ひとり成長のスピードが違うこと、子どもの身長を周りの同い年の子どもと比べて心配しすぎる必要はないということです。背の順で並ぶといつも1番前・後ろになるなど、周りの子どもより身長が低い・高い、といっても必ずしも成長障害であるわけではありません。また、小学生や中学生ごろになると、学校で身長順に並ぶことも増え、子ども自身が自分の身長にコンプレックスを抱くこともあるかもしれません。そんな時、親として子どもの身長に関して正しく理解したうえで、良いアドバイスと励ましをしてあげたいですね。例えば、「男の子は高校生くらいまで身長が伸び続けるらしいよ。」「身長がぐんぐん伸びる時期は人それぞれ。あなたは少し早めに背が伸びたけど、これからあなたを追い越すほど身長が高くなる人だっているんだよ。」など、身長が伸びる可能性を具体的に教えてあげたり、身長の伸び方には個性があることを伝えてあげたりするなど、アドバイスをするのも良いでしょう。まとめ出典 : 成長障害とは、子どもの身長が、平均と比べて極端に低かったり高かったりすることです。自分の子どもが他の子どもと一緒にいるところを見ると、「自分の子どもは小さいのでは?大きすぎる?何か病気かもしれないの?」などと不安に思う親御さんもいらっしゃるかもしれません。子どもの身長の伸びを見る時には、他の子どもと比べることで判断するのではなく、成長曲線への記録から、成長に異常はないか見てみることが大切です。成長障害の多くは原因不明とされていて、何かしらの病気が関係している可能性は低いと言えます。ですが、子どもの身長を見てみた時に、平均からあまりに離れている場合や急に伸び率が高くなったり悪くなったりしていたら、不安に思うのも無理はありません。子どもの身長記録を客観的に見た結果、心配だなと感じたら小児科など専門機関へ相談してみることをおすすめします。子どもの成長には個人差があります。ぐんぐん育つ子どももいれば、ゆっくりと育っていく子どももいます。我が子の成長を温かく、丁寧に見守っていきましょう。
2017年05月25日境界性パーソナリティ障害とは?出典 : 境界性パーソナリティ障害(Borderline Personality Disorder:BPD)は、対人関係や自己に対するイメージなどの広い範囲において、激しく考え方や感情が変化していく特性がある障害です。境界性パーソナリティ障害の多くは思春期から青年期・成人早期に起こる感情と行動の失調状態です。時間はかかりますが適切な治療を行うことによって自分自身を取り戻していくことができるといわれています。現在さまざまなパーソナリティ障害が確認されており、境界性パーソナリティ障害はその中の一つとして存在しています。パーソナリティ障害とは、思考、感情、人とのかかわり方、衝動の制御の4つのうちの少なくとも2つにおいて、柔軟性がない状態をいいます。このようなパーソナリティ障害がある人は、考え方や行動パターンに著しい偏りがあるため他者と摩擦が生じ、日常生活や仕事・学校の場面でトラブルをおこしてしまうことがあります。境界性パーソナリティ障害は他人から見捨てられてしまうのでないかという不安と、自分が何者でどう振る舞えば良いのか分からない自己イメージの不安定さがトラブルの背景にあるといわれています。境界性という名前は、“強いイライラ感”が症状として現れる神経症と、“現実が冷静に認識できない”認知障害をもつ統合失調症、2つの精神疾患の境界にあると、かつて考えられていたことに由来し命名されています。現代社会の中では境界線がはっきりしないことは数多く存在しています。例えば自分と他人との境界や男と女の境界、子どもと大人との境界など、あらゆるボーダーラインがあります。境界性パーソナリティ障害がある方はその境界が分かりにくく、社会にうまく適応できないという生きづらさを抱えています。境界性パーソナリティ障害を発症している方々の中での男女割合は女性が75%と多く、主に女性が発症しやすい傾向があることが分かっています。出典:日本精神医学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル第5版』(医学書院,2014)参考:岡田尊司/著『境界性パーソナリティ障害』(幻冬舎新書,2009)境界性パーソナリティ障害の主な特性とは?出典 : 境界性パーソナリティ障害の主な特性として代表的なものは、自己イメージの混乱と見捨てられるかもしれないという強迫観念があることです。この3つの特性からくる不安と恐怖の感情がもととなり、さまざまな症状に発展していきます。境界性パーソナリティ障害がある人は、「自分がどんな人か分からない…」というように自己イメージがはっきりしない状態であるため、他人の影響を受けやすかったり、他人と自分を区別できなかったりすることがあります。自己イメージは自己同一性(アイデンティティ)とも言われ、自分・他人から見ても一貫している自己を持っていることをいいます。自己イメージが安定していると、自分が社会にとって意味があり、自分の中に生きているという実感が生まれます。それによって過剰に不安になることや人に流されることが減ってきます。しかし境界性パーソナリティ障害がある人は自己イメージが混乱しているため、例えば一面的な評価を自分の全人格に対する評価として過剰に受け取ってしまうことが多くなります。その度にひどく落ち込んでしまったり、同じ人からの評価にも関わらず、褒められたときはその人のことを好意的に思う一方で、問題などを軽く指摘されただけでその人に敵意を示し激しい怒りを感じたりします。このような対人関係を続けることで過度なストレスを感じるようになり混乱や落ち込んだ状態が慢性化し、さらに自分を見失うという悪循環に陥ってしまいます。境界性パーソナリティ障害がある人は、自身が信頼をおいている相手に依存する特性がみられます。常に根底には自分が見捨てられてしまうのではないかという「見捨てられ不安」というものを感じています。幼い頃に両親の離婚によって家族や愛着のある場所などから離れることに強い不安を抱いたり、虐待などにより愛情を失う体験をしたことが背景になっている場合もあります。「また同じ思いはしたくない」という潜在的な意識によって見捨てられ不安は招かれ、信頼できる相手に対して疑い、見捨てられるのではないかという不安を抱いています。その見捨てられ不安から例えばメールを送ってもすぐに返ってこなかったり、自分が期待している反応が返ってこなかったりする場合、「嫌われたのではないか?」、「見放されたのではないか?」と強い恐怖を感じ相手から離れまいとしがみつこうします。そして見捨てられ不安から逃れたり、相手の興味を自分に引きつけたりするためにギャンブルや過食、過量の飲酒・服薬、自傷行為や自殺をほのめかす行動を起こしてしまうのです。境界性パーソナリティ障害がある人は自己イメージの混乱や見捨てられることに不安や恐怖を常に感じていることから、感情の波が激しく変動し、自分でコントロールすることができなくなります。激しい怒りやひどい落ち込みや空虚感を感じることから、それを解消しようと暴力や暴言を吐いたり、リストカットなどの自傷行為や大量の薬物摂取、大量の飲酒、過食などに走りやすくなります。これらを繰り返すことで日常化していくと、薬物依存やアルコール依存などに発展していくこともあります。さらに強いストレスにさらされ続けると一時的な記憶喪失になる解離性症状が表出する場合もあります。境界性パーソナリティ障害が発症する原因ときっかけって?出典 : 境界性パーソナリティ障害の原因はさまざまな説があり、定まっていません。原因は本人の生物学的な気質要因と環境的要因の相互作用によって生じるという考え方が有力です。脳の機能の中には衝動を抑えたり、怒りや不安をコントロールしたり、ストレスに対する感情をコントロールしたりする部位があります。境界性パーソナリティ障害がある人は、何らかの原因によってそれらの部位に特徴があるために、衝動性、怒り、不安、ストレスなどを感じやすくなっているのだと考えられています。・前頭前皮質:行動をコントロールし、合理的判断に関係する部位です。なんらかのストレスによりこの部分の活動が低下すると、扁桃体の活動を抑えることができず、感情や行動をコントロールできなくなると考えられています。・扁桃体(へんとうたい):怒りや不安といった感情をつかさどっている部位です。境界性パーソナリティ障害がある人は扁桃体が平均より小さいという研究があります。扁桃体の特定の部位が、感情的な刺激に対して過剰に反応するという研究があります。・視床下部/下垂体:ストレスに対する反応に関係する部位です。ちょっとしたトラブルにもイライラや落ち込みを感じる人とあまり動じない人がいますが、それはこの部位の反応の個人差が一因と考えられています。境界性パーソナリティ障害がある人は過剰にストレスを感じ、精神的なショックを受けて落ち込んでしまったり、心が傷ついたりするのは、この部位に関連があると考えられます。・セロトニン系:脳内にある神経細胞間の神経細胞伝達物質のひとつです。セロトニンがうまくはたらかないと、不安やうつの気分が強くなったり、衝動性が抑えられなかったりすることがわかっています。環境的要因には養育環境が大きく関係しているという説があります。過去に心的外傷体験(心が傷ついた体験)や不認証体験(自分を認めてもらえなかった体験)があり、数年後に似たような体験が再現されることによって、境界性パーソナリティ障害の症状が表出するということがあります。心的外傷体験や不認証体験とは、極端な例だと親が子どもに対する虐待やネグレクト(育児放棄)などが挙げられます。または親の離婚や死別によるショックなどもあります。これはあくまで極端な例ですが、他にも、子どもへの愛情不足や褒める・認めるといった共感の不足、過保護や過干渉によるストレスなども子どもにとっては負担になっていることがあります。そのような体験がベースにあり、ちょっとした友人関係や恋人関係の出来事がきっかけで、見捨てられ不安などの症状が発生します。参考:林直樹/監修『よくわかる境界性パーソナリティ障害』|(主婦の友社,2011)参考:岡田尊司/著『境界性パーソナリティ障害』|(幻冬舎新書,2009)境界性パーソナリティ障害の診断基準出典 : 境界性パーソナリティ障害の診断基準について説明していきます。診断基準は医療機関によって異なりますが、主に世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)やアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)に基づいて臨床的に診断が下されます。ここでは『DSM-5』による診断基準を説明していきます。『DSM-5』では以下から5項目以上が認められれば境界性パーソナリティ障害である可能性が高いという基準になっています。対人関係、自己像、感情などの不安定性及び著しい衝動性の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる、以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される。(1) 現実に、または想像の中で、見捨てられることを避けようとするなりふり構わない努力(注:基準5で取り上げられる自殺行為または、自傷行為は含めないこと)(2) 理想化とこき下ろしとの両極端を揺れ動くことによって特徴づけられる、不安定で激しい対人関係の様式(3) 同一性の混乱:著明で持続的に不安定な自己像または自己意識(4) 自己を傷つける可能性のある衝動性で、少なくとも2つの領域にわたるもの(例:浪費、性行為、物質乱用、無謀な運転、過食)(注:基準5で取り上げられる自殺行為または自傷行為は含めないこと)(5) 自殺の行動、そぶり、脅し、または自傷行為の繰り返し(6) 顕著な気分反応性による感情の不安定性(例:通常は2~3時間持続し、2~3日以上持続することはまれな、エピソード的に起こる強い不快気分、いらただしさ、または不安)(7) 慢性的な空虚感(8) 不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難(例:しばしばかんしゃくを起こす、いつも怒っている、取っ組み合いのけんかを繰り返す)(9) 一過性のストレス関連性の妄想様観念または重篤な解離症状日本精神医学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル第5版』(医学書院,2014)p.654より引用境界性パーソナリティ障害と併発する合併症出典 : 境界性パーソナリティ障害はその障害の特性上、うつ病などと合併しやすく、発達障害などと併発している場合もあります。また境界性パーソナリティ障害と似ている自己愛性パーソナリティ障害についても紹介していきます。■うつ病などと合併することがある境界性パーソナリティ障害がある人がうつ病を経験する割合は90%に近いという報告もあるくらい、最も合併することが多い病気です。うつ病は抑うつ気分が続き、何もやる気がしなかったり、すべて自分が悪いと責めてしまい、死にたい気持ちになったりする症状があります。境界性パーソナリティ障害の症状と共通点も多く、対人関係のトラブルが頻繁に起こることで抑うつな感情をもたらします。境界性パーソナリティ障害とうつ病が合併すると自己破壊への衝動が増し、死にたい気持ち(希死念慮)が増すと言われています。自己破壊的な行為はたとえば、過剰な自己非難や絶望感から自傷行為を行ったり自殺を考えたりすることです。またうつ病に限らず、境界性パーソナリティ障害の自己破壊的行動への衝動が高まることによって、アルコール依存症、薬物依存症や気分障害、不安障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、パニック障害などを引き起こすこともあります。■ADHDとの合併の可能性がある境界性パーソナリティ障害がある人はADHDを小児期または同時に発症している可能性があると、近年の研究によりいわれるようになりました。イギリスのある研究では、境界性パーソナリティ障害がある人でADHDの発症率は小児41.5%、成人16.1%と高いことが分かりました。境界性パーソナリティ障害の発症は、必要な親からの共感が得られなかったことが原因の一つではないかという仮説があります。ADHDがある人は、その特性から、社会関係や対人コミュニケーションに困難さが生じる場合があるほか、親が育てづらさを感じて親子の関係がうまくいかなかったり、体の感覚が過敏で子どもがだっこを嫌がったりして必要なコミュニケーションをとる機会を持ちにくかったりする場合があります。こうした、親子や対人関係上の困難さが積み重なることによって、子どもが十分に共感を受け取ったと感じられないなどが原因で境界性パーソナリティ障害へと発展することもあり得ます。また発達障害の中には境界性パーソナリティ障害と似た症状が現れるものもあるため、臨床現場では障害同士の鑑別が難しいとも言われています。■自己愛性パーソナリティ障害との合併が混在することがある自己愛性パーソナリティ障害とは、自分に対して誇大なイメージを抱き、注目や称賛を求める一方で、他者からのマイナスな評価に対して過敏に傷つきやすく、他者に対する共感性の薄さが特徴的な障害です。境界性パーソナリティ障害は、自己中心的で対人関係の問題から情緒不安定をまねくことなどから自己愛性パーソナリティ障害と共通点が多くあります。また原因も自己愛の未成熟が関わってくることから診療の現場では、この2つの障害の区別は難しいとされています。この2つの障害の違いはどこにあるのでしょうか。境界性パーソナリティ障害が自己否定を繰り返し、考え続けることで情緒不安定が生じる傾向にあります。それに対して自己愛性パーソナリティ障害は、理想と現実のギャップを受け止められず、自己防衛のために誇大化した言動を繰り返し、自信があるようにうかがえるという点に特徴があります。そもそもパーソナリティ障害はそれぞれ独立して存在するのではなく、重複している共通の症状があるため、複数のパーソナリティ障害が併存しやすくなっています。ですので境界性パーソナリティ障害に限らず、他のパーソナリティ障害が合併していることがあったり、判断が難しかったりする場合があります。参考:『Attention-deficit hyperactivity disorder as a potentially aggravating factor in borderline personality disorder』|BJPsych参考:林直樹/監修『よくわかる境界性パーソナリティ障害』|(主婦の友社,2011)境界性パーソナリティ障害かも?と思った時の相談先と医療機関出典 : パーソナリティ障害の診断は難しいものです。もしご自身やご家族に境界性パーソナリティ障害の疑いを感じた場合は、一人で悩む前にまずは専門機関に相談することをおすすめします。医療機関での受診先は精神科、心療内科などになります。「もしかして境界性パーソナリティ障害かも・・・?でも、医療機関を受けるほどのことでもないような気がする・・・」そのような場合は、各都道府県や政令指定都市に設置されている精神保健福祉センター、または各市区町村に設置されている保健所・保健センターの相談窓口へ相談してみてください。もちろん、本人だけではなく家族が電話などで相談することもできます。次のリンクは全国の精神保健福祉センターの一覧になりますので、参考にしてみてください。参考:全国の精神保健福祉センター一覧l厚生労働省また、本人が会社勤めの場合や高校や大学に通っている場合、学校や企業専属のカウンセラーに相談することもおすすめです。企業や学校のカウンセラーは、その人が所属している組織の内情にも通じているため、より適切なアドバイスをもらうことができる可能性が高いです。また、連携している医療機関を紹介してもらえる場合もあります。境界性パーソナリティ障害の治療ってどんなものがあるの?出典 : 境界性パーソナリティ障害の治療法は、主に精神療法と薬物療法があります。精神療法は即効性はありませんが、医師や専門家と一緒に本人の物事に対する考え方や感じ方などを見直していく治療法になります。これから紹介するのは境界性パーソナリティ障害に有効といわれている精神療法の2つの代表例です。■認知行動療法(CBT):認知行動療法とは、何か困ったことにぶつかったときに、本来持っていた心の力を取り戻し、さらに強くすることで困難を乗り越えていけるような心の力を育てる方法として、いまもっとも注目を集めている精神療法です。具体的には、自身がどのタイミングで不安や心配を感じるのかを客観的に観察し、自動思考という考えのクセを把握します。そして、そういった状況に直面した際に、どのように考え、対処していけばいいかを考え、考え方をコントロールしていく治療法です。参考:認知療法・認知行動療法マニュアルl日本認知療法学会■弁証法的行動療法(DBT):弁証法的行動療法とは、マーシャ・M・リネハンによって開発された、境界性パーソナリティ障害に効果的といわれている、行動療法を中心とした心理療法です。以下の4つの治療法を組み合わせることで、考え方のクセに気付かせ、バランスの良い考え方や反応ができるようにすることが目的です。・苦悩耐性スキル....自身の感情の波が激しくなっているときに、問題がさらに悪化しないように、状況を改善するタイミングを待つためのスキルを身につけます。・マインドフルネススキル....ありのままの自分を受け入れるスキルを身につけます。・感情調整スキル....自身の感情を理解し、調節することのできるスキルを身につけます。・対人関係スキル....感情調整を行いながら、適切な対人関係を築くスキルを身につけます。しかし、欧米を中心に発達した治療法であり、日本で受けられる場所はまだ限られています。また、薬物療法と心理療法以外にも、重度の境界性パーソナリティ障害と診断されたときに入院療法が適応される場合があります。・薬物乱用、自殺、自傷行為を繰り返すとき・重度の妄想により日常生活を送ることが難しいとき・社会から離れた場所で本人に休息が必要と判断されたとき・家族などの周囲の人が疲れてしまったときこれらの場合は入院をし、カウンセリングなど様々な治療法を組み合わせて治療していきます。参考:林直樹/監修『よくわかる境界性パーソナリティ障害』|(主婦の友社,2011)境界性パーソナリティ障害に根本的に作用する薬は残念ながらありません。そのため衝動性や感情の不安定さといった症状を改善するために薬が処方されます。主に気分の落ち込み、不安、現実認識の低下に対する薬が処方されます。BPDの薬物療法の第一選択は,中等量の非定型抗精神薬であり,抑うつ, 不安に対してはセロトニン選択性再取り込み阻害薬SSRIぐらいに抑えるべきであるというのがガイドラインにおける薬物療法の基本である。牛島定信『境界性パーソナリティ障害の治療ガイドライン』(2010)抗うつ薬は抑うつ症状を改善するほか、衝動性や感情の不安定、激しい怒りの抑制のために処方されます。薬には副作用もありますし、人によって薬が合わないこともあります。低年齢の子どもの場合はより慎重に進めるべきという専門家もいます。主治医の先生と信頼関係を築き、よく相談した上で納得して治療を進めることをおすすめします。境界性パーソナリティ障害がある人にどう接したらいい?出典 : 境界性パーソナリティ障害がある方は身近な人に見捨てられることへの不安を強く抱いています。治療を行っていくにあたって、本人のなかでは葛藤や変化が訪れます。また治療も長期にわたって行われるために、効果がなかなか現れないことに対する苛立ちや不安感を抱くかもしれません。そんなときに寄り添うことができるのは医師ではなく、本人の家族や周囲の人たちです。その人たちが安全基地としての役割を担うことによって本人が治療に挑みやすい環境をつくることができます。あなたの居場所はここにある、いつもそばにいると安心させる協力的な姿勢と環境づくりが大切です。境界性パーソナリティ障害がある方は、感情や言動の変化が激しいために家族や周囲の人が振り回されてしまったり、本人からの強い物言いによって責任を感じてしまったりすることがあります。本人に対してどう接していいかわからず悩み、周囲の人がうつ病などになってしまうケースもあります。そのようにならないためには、本人に振り回されすぎないことが大切です。拒絶せず、過保護にもせず、程よい距離感をもって本人の言動を観察してみてください。境界性パーソナリティ障害がある人を支えることは難しく共倒れしてしまう危険性がありますので、本人に振り回されないように意識してみてください。また本人の言動の一つひとつは、本人に責任がある姿勢を貫いてください。境界性パーソナリティ障害の原因のうちの環境要因として家族の環境がありますが、たとえこれまでの関わりに何らかの問題があったとしても、その結果何を感じて、何を行うかは本人次第です。家族や周囲の人が責任を感じすぎてしまうと、本人は自分の問題の責任を家族に押しつけてしまい兼ねません。そうではなく「それはあなたの問題です。」と一線を引いたり、家族で抱えこまずに専門家に相談し支援を受けたりすることが重要です。上記と矛盾してしまうかもしれませんが、家族・周囲の人などとのかかわりの積み重ねによって、本人が負担を感じていることがあります。しかし具体的にどのようなかかわりが負担になっていたのかは、関係性の当事者たちには分からないことがあります。そのようなときには家族なども一緒に治療を受ける方が良い場合もあります。治療を受ける程ではなくても、本人とのかかわり方や自分を見直すよい機会になります。長年築いてきた関係を改善するには時間がかかります。一気に問題を解決しようとは考えずに、焦らず少しずつでも変わっていくことを意識してみてください。しかし本人の回復に貢献するために、家族や周囲の人自身が無理矢理変わらなければならないということではありません。「できないことはできない」と言うことも、現実的な一人の人として本人とかかわっていくためには大切なことです。本人にとって身近な家族などは、激しい感情をぶつけやすい人でもあります。そのために本人に対して怒りや嫌悪感を感じ、ときには拒絶してしまうこともあります。しかし拒絶してしまっては本人にとっての安全基地であることも、かかわり方をお互いに変えていくこともできず、根本的な治療を行うことはできなくなります。ですので、定期的に他の人に相談して助言をもらうことは重要です。周囲に安心して相談できる相手がいない場合は、心理カウンセラーなど専門家のサポートを求めることも考えましょう。参考:林直樹/監修『よくわかる境界性パーソナリティ障害』|(主婦の友社,2011)まとめ出典 : 境界性パーソナリティ障害の症状は多岐にわたって存在し、本人をはじめ周囲の人たちも悩まされます。しかし決して個人の性格の問題ではありません。本人が過去の体験を自分の糧となるように消化できていなかったり、現在またこれまでの環境が合わなかったりといったことが積み重なっています。その積み重なっている経験が考え方をつくり、そこから言動が生まれています。これらは適切な治療を受けることによって、少しずつではありますが変えていくことができます。境界性パーソナリティ障害がある人を支えることは大変なことだと思います。ですが、本人も自身の言動や思考をコントロールできず苦しんでいます。本人や家族だけで解決しようとするのではなく、専門家の支援も受けながら、お互いに適切な距離を取りつつ、また一方で支え合いながら付き合っていくことが大切です。
2017年05月23日晴れて2人きょうだい!娘の成長を振り返ると…私には、広汎性発達障害の6歳の娘と、7ヶ月になる息子がいます。娘が5歳の時、息子を妊娠しました。結婚当初、「子どもは2人欲しい」と思っていた私。しかし、娘が2歳半で発育遅れを指摘され…。「しばらくは娘の療育に集中しよう」と決めました。その後、娘が4歳の時に『広汎性発達障害』と診断されました。療育を続けておかげで、娘の問題は少しずつ落ち着いていき…。そんな時、私の妊娠がわかりました。Upload By SAKURAオメデタは嬉しい。だけど…2人目の妊娠を知った時は、家族が増えることが本当に嬉しくて、浮かれていました。しかし、下の子は妊娠期特有のトラブルも結構多かったのです。具体的には、妊娠初期に出血を繰り返して入院したり…妊娠後期に『赤ちゃんが大きい』と言われたりしました。一児を育てる母であっても、子どもにはそれぞれ悩むものです。段々と「この子にも障害があったら…」と不安に思う日が増えてきました。Upload By SAKURA成長した娘の姿は私の心を映す鏡でした不安を感じていた時、娘を見て、私は自分に問いかけました。この子が広汎性発達障害で『ダメ』だった…?答えは『NO』です。私は、娘が我が子で、本当に良かったと思っています。とても可愛くて…優しくて、面白くて。もちろん、大変なこともたくさんありました。しかし、それ以上に娘に教えられたことが多いのです。Upload By SAKURA娘はきっと…私たち夫婦を選んで、ここに来てくれたと私は思っています。だから…きっとお腹の子も、私たちを選んでくれた。何があっても、愛おしい我が子には変わりない。不安はなかなか消えるものじゃないけれど、『生まれた子を愛する』という結論は変わらない。そう思って妊娠中過ごしてきました。Upload By SAKURAゼロではない親の不安…。でもそれ以上に育っている想いもありますそして、無事元気に産まれた息子。今も正直、時々不安を感じることもあります。でもその時は、自分に問いかけます。「もし障害があったら…?どうするの?」と。障害があったとしても、育てる。愛する。そこは変わらないのです。だから不安に思う必要はないと…。この先何があるかは誰にもわかりませんが、私たち夫婦を選んでくれた2人を、大切にしていこうと思っています。2人とも、生まれてきてくれてありがとう。Upload By SAKURA
2017年05月17日人口の9割が「定型発達症候群」!?NHKが発達障害プロジェクトをスタート「およそ20年前に、アメリカの研究所が残した報告から、全人口の9割以上がある深刻な症状にあることが判明しました。」Upload By 発達ナビニュースとあるニュース番組で、キャスターが紹介した「衝撃のレポート」以下のチェック項目に一つでも当てはまったら、人間関係に深刻な問題を引き起こしかねない、「定型発達症候群」の可能性があるというのです。・暇な時はなるべく誰かと一緒に過ごしたい・集団の和を乱す人を許せない・社会の慣習にはまず従うべきだ・はっきりと本音を言うことが苦手・必要なら平気でウソをつけるUpload By 発達ナビニュース…実はこれは、NHKが制作した架空のニュース動画なんです。NHKが2017年5月から1年をかけて展開する、「発達障害プロジェクト」のページ上で公開されています。Upload By 発達ナビニュース「発達障害プロジェクト」「定型発達症候群」という言葉にびっくりした人もいるかもしれませんが、これは、医学上の病名でも、公式に定められた障害の名前でもありません。1998年、発達障害のひとつASD(自閉スペクトラム症)と診断された海外の一般女性が、ASDに関するさまざまな報道への皮肉の意味で「創作」した言葉が発端であると言われています(諸説あり)。「定型発達」とは、発達障害と対比して、心身の発達が「定型(平均的)」という意味で、「発達障害ではない人」をさす言葉として用いられます。つまり「定型発達症候群」とは、発達障害の人から、いわゆる「普通の人」を見た視点です。でも、「普通」ってそもそもなんでしょうか?全人口の大半の人が定型的(平均的)に感じているから「フツウ」?それじゃあ、違った感じ方をしている人は「フツウ」ではないの?そんな問題提起の意味も込めて、冒頭の架空のニュース動画はつくられました。NHKの発達障害プロジェクトでは、これまで当たり前に考えられてきた「普通」の概念にとらわれず、発達障害のある人々の感じ方・考え方を様々な角度から紹介していくことで、発達障害のあるなしに関わらず、一人ひとりの多様な感じ方や生き方への理解の促進をめざしていきます。NHKスペシャル、あさイチ、ハートネットTVをはじめ、番組横断で、継続的に発達障害を取り上げていくことが今回のプロジェクトの特徴です。知ってるようで知らない発達障害のこと、みんなの投稿で“トリセツ”をつくろうUpload By 発達ナビニュース生まれつきの脳機能の発達のアンバランスさ・凸凹(でこぼこ)によって、社会生活に困難が発生する発達障害。「なんとなくは知っているけど、結局どういうことかわからない」「漠然としたイメージはあるけど、何に困っているのかわからない」という方も少なくないのではないでしょうか。プロジェクトページでは、「この際、はっきり知っておきませんか?」という呼びかけと共に、発達障害の定義や特徴、困りごとなどが、イラスト付きでわかりやすく紹介されています。コンテンツ監修は、LITALICO発達ナビの監修も務める、鳥取大学大学院の井上雅彦教授です。また、「みんなで作る発達障害の“トリセツ”」と題したコーナーでは、日常生活の様々な場面での困りごとや対応策を、発達障害の当事者やその家族、学校や職場などの周囲の人々の投稿を通して集め、公開していく企画もスタート。「生活・暮らし」「対人関係」「学校・職場」と、大きく3つのカテゴリーの中で、様々なテーマに対するみなさんの投稿を募集しています。サイトオープン時の2017年5月16日現在では、事前に集めた投稿の中から「聴覚過敏」に関するエピソードを18件公開しています。以下のリンクの投稿フォームから、それぞれのテーマに対する体験談を随時投稿することができます。Upload By 発達ナビニュースみんなで作る発達障害の"トリセツ"投稿フォーム5/21(日)21:00から「NHKスペシャル」で生放送特集!Upload By 発達ナビニューススペシャル, 「発達障害 ~解明される未知の世界~ (仮)」ウェブ上のプロジェクトページと連動して、NHKの様々な番組で、継続的・多角的に発達障害について取り上げていくのが、今回のプロジェクトの特徴。テレビ特集の第1弾は、NHKスペシャル「発達障害 ~解明される未知の世界~ (仮)」。初回放送は、2017年5月21日(日) 午後9時00分~9時59分です。これまで、主に社会性やコミュニケーションに問題がある障害として知られてきた発達障害ですが、最新の脳科学研究や当事者への聞き取りにより、生まれつき、独特の「世界の見え方・聞こえ方」をしているケースが多いことがわかってきました。多くの人にとっては何でもない日常空間が、耐えられないほどまぶしく見えたり、小さな物音が大音量に聞こえてパニックになったり…NHKスペシャルでは、こうした発達障害当事者の方々の独特の感覚・認知や、それによって生じる生きづらさを映像を通して再現し、「目に見えにくい」障害の実態を伝えることに挑戦します。番組中では、大阪大学と東京大学が共同研究・開発した「自閉症知覚シミュレータ」も登場。発達ナビでは、当事者やご家族の方をお招きしての体験会兼取材・撮影に協力しました。今回のNHKスペシャルの最大の特徴は、生放送・リアルタイムで視聴者からのコメントを紹介しながら展開していくこと。たとえ同じ診断名でも、一人一人の特性や感じ方は、本当に様々です。十把一絡げに「発達障害」をまとめてしまうのではなく、一人一人の多様な暮らしぶりや思いを紹介していくことこそが、発達障害への理解・関心を広げていく上で大切だという趣旨からの企画だそうです。ご自分の経験について伝えたい思いやご経験、発達障害に対する疑問や悩みがある方は、ぜひ以下のメールフォームからご投稿ください。スペシャル, 発達障害特集メール投稿フォームUpload By 発達ナビニュース 「発達障害プロジェクト」また、NHKスペシャルの生放送終了直後から、「発達障害プロジェクト」ページ上でライブストリーミングが始まり、番組のアフタートークが催されるようです。ここでは、生放送中に紹介し切れなかった視聴者からの投稿を追加で紹介していくとのこと。あなたの投稿も紹介されるかも…!?発達ナビTwitterでNHKスペシャル&アフタートークを実況中継!発達ナビ編集部では、5/21(日)21:00からのNHKスペシャル及びアフタートークを実況中継予定!Twitterをご利用の方は、ハッシュタグ #NHKスペシャル #発達障害 でぜひ感想をご投稿ください。番組前の予習に、発達ナビの関連記事はこちら!プレスルーム: 5月21日(日)放送 NHKスペシャル「発達障害~解明される未知の世界~」の制作にLITALICOが協力しました。
2017年05月17日5月5日、都内でライブを行った泰葉(56)。いま何かと話題を呼んでいる彼女。その発端は、彼女のブログだ。4月24日、彼女はこう切り出していた。 《私、泰葉事 海老名泰葉は元夫、春風亭小朝事花岡宏行を20年にわたる (中略)全てを網羅した虐待をここに告発します》 春風亭小朝(62)を“恐怖の金髪SM豚野郎”と呼び、元夫による暴行・いじめ・異常性行為などの虐待に苦しんできたと明かしたのだ。29日には小林麻央(34)と同じブログを汚したくないとして撤退を示唆。30日には恐喝容疑で逮捕された坂口杏里(26)を養子にする計画があったと明かすなど、仰天発言を連発していた。 そんななか行われたライブ、久しぶりに登場した彼女は金髪ショートカット姿だった。10分遅れで会場に登場すると、曲の合間には騒動についてのトークを展開し始めた。 小朝については「名前言うのも面倒くさいんで豚野郎にします」と発言。小朝の公演でエレベーターを使うなと言われたため会場を階段で昇り降りしていたとも暴露。「パワハラだよね。全部階段を使って持って行って、おかげで私は3キロくらい痩せましたよ。本当につらかった」と振り返った。泰葉はそうした経験もノリノリで話していた。しかし――。 「家族がいなかったら、私は生きていなかった」と彼女は、女性自身16年11月8日号で告白。芸能活動再開を発表した会見から約1カ月、病に苦しんだ日々を明かしていた。07年に離婚後、ブログで小朝を“金髪豚野郎”と批判した泰葉。だが徐々に「なぜあんなことを書いてしまったのか」と自分を責めるようになったという。彼女はこう続けている。 《そうしたら最終的に、死にたくなってしまいました。当時の記憶は割とぼんやりとしているんですけど、このときに「このままじゃ死ぬ。何か治療をしないとダメだ」と、気づいたことは確かです》 6年後の13年、泰葉は実家の家族に助けを求めた。連れて行かれた病院で告げられたのは“双極性障害によるうつ状態”という診断だった。 《この死にたいという思いを、誰か消し去って!という叫びで心の中はいっぱいでした。うつ病のいちばんのつらさは、生きる自信がなくなることですね。頭痛がするなら痛み止めを飲めばいいかもしれませんが、心の痛みはどうやっても取れないんです。これは経験した人にしかわからない。本当に“地獄”でした》 それから抗うつ剤の服用とカウンセリングによる治療を始めた泰葉。支えとなったのは母・海老名香葉子さん(83)をはじめ、家族らの温かいサポートだったという。当時、泰葉はそうした経験を振り返り《うつ病を克服した》とも語っていた。だが現在の彼女は、自身が語っていた“苦しい過去の状態”と同じようにもみえる。 泰葉の現状について、精神科医の香山リカさん(56)はこう語る。 「泰葉さんは、比較的軽いII型の双極性障害といえるでしょう。双極性障害とは、躁うつ病と言われていたもの。躁の重いものがI型、軽いものがII型と分類されています。よく躁状態を“楽しい状態”とか“愉快な状態”と誤解している方がいますが、違います。いわば、行動のコントロールができない状態なのです。そして症状が進行すると攻撃的になり、気持ちが爆発したような状態になります」 治療は薬やカウンセリングで躁とうつの状態をコントロールしていくもの。そのため“完治”や“再発”を判断するのは難しいのだ。それでも香山さんは本誌にこう続けた。 「今回の泰葉さんの発言を見て思うのは、とても“完治した”とは言えないような状態だということ。それにご家族は彼女に助言をしていると思いますが、人の意見を聞く状態でないようにも見えます。とすれば、彼女の行動に歯止めをかけるのはかなり難しいかもしれませんね……」
2017年05月11日私って発達障害?気づいたのは42歳の時でした。出典 : 子どもの発達障害の場合、まず親や周りが気づいて、子ども自身は何の検査をされているのかわからないまま、診断を受けることが多いと思います。診断を聞くのも受け入れるのもまず親で、そこからタイミングを図って告知するというのがよく見られる流れではないでしょうか。それに比べて大人の場合は、仕事や日常生活で「なんだか変だな。どうしてうまくいかないのだろう?ひょっとして『私って発達障害?』」と疑ったうえで、自分の意志で検査を受けることが多いと思います。私は娘がアスペルガー症候群と診断されてから2年後、42歳の時にコンビニでのバイト中にパニックを起こしたのがきっかけで、発達診断を受けることになりました。しかし、その結果を受け止め、自身のことを理解するまでの道のりは、決して平坦なものではありませんでした。9年の付き合いの主治医の診断は・・・出典 : 当時の主治医は、それまで9年にわたって私を診察してきてくれた精神科の先生でした。でも、その主治医は発達検査の結果を見て「うーん、ヨーコさんが発達障害とは思えないんだけどなぁ」と言うだけでした。このままじゃらちが明かないと思った私は、同じ病院内にいる娘の主治医に事情を話して、検査結果を見てもらいました。ざっと目を通した先生は「ああ、アスペルガー症候群ですね」と言いました。その後、私の特性も説明してくれてとても納得したのですが、それを主治医に伝えても「そうかなぁ?」とまだ納得できない様子。私の主治医の先生は発達障害には詳しくない様子で、長い付き合いの間でも先生の口から「発達障害」という言葉を聞いたことがありませんでした。だから、今まで長い間見てきて私の様子から「発達障害とは思えない」と言ったのではないかと思っています。私はあきらめずに先生やカウンセラーに「こんな困りごとがあってずっと苦しかった」、「娘が診断を受けたときの説明がそのまま私に当てはまる」と訴え続けました。そして「精神障害者手帳を取りたい」と先生にお願いしたのです。その時出してもらった診断書を見ると「広汎性発達障害」という診断名が記載されていました。こうして私は診断書を得るところまでこぎ着けることができました。しかし私は、ちゃんとした診断の上で広汎性発達障害と言われたのか疑問を抱くことになりました。それは診断が出たとはいえ、発達障害に詳しくない先生からの診断であることと、半ば無理やり勝ち取った診断のように感じられたからです。私が「ちゃんとした診断」を求めたわけ出典 : ひとまず診断を受けた私は、仕事を辞め、障害者福祉を受けながら暮らしていく道を選ぶことにしました。そんなときに、相談支援員から気になる話を聞きました。ある病院に発達障害に詳しい医師がいて、その病院で発達検査を受けたら、ものすごく詳細な所見をもらえて、説明の時も自分の特性や向いている職業まで教えてくれるらしいというのです。私はその"完璧"とも言える診断にひどく心惹かれました。「広汎性発達障害」の診断は出ていたものの、改めて発達障害に詳しい医師にきちんと診てほしいと思っていたからです。それは、「あなたはこういう人ですよ」という自分に関する説明書が欲しかったからでもあります。それまでの人生は謎だらけでした。どうしてみんなのように友達と打ち解けて遊ぶことができるのか、どうして他の人は分からないことは適当にしておいたまま勉強していい成績をとれるのか。社会に出てからは、なぜ他の人は会社の方針に溶け込んで洗脳されたようにふるまえるのか、なぜ自分はみんなと同じように仕事ができないのか、なぜミスばかり繰り返してしまうのか…。私はなぜ、他の人と同じようにできないのかと何度何度も悩んだのです。ずっと苦しかった。ずっとさみしかった。その診断があれば、今までの謎が解けてこれからの人生が開けるかもしれないと思ったのです。そして、期待に満ちあふれてその病院に転院することしたのです。「こんなことまで聞かれるの!?」驚きながらも、その専門性に感動!出典 : その病院は今までとは違うところばかりでした。事前に渡される問診票では、ハイハイした月齢や喋りだした月齢など乳幼児期の様子も事細かく聞いてきます。「人の臭いや物の臭い、ものの見え方や感触や音に極端な興味を持つことが、これまでにありましたか?」など、0歳から5歳くらいまでの成育歴の質問が多いので、親に見せて聞きながら回答を書きこみました。病院に問診票を持っていくと、それを見ながら「何か好きな素材や逆にこれは受け付けないというものはありましたか?」「学校では得意・苦手な教科は何でしたか?」「忘れ物は多かったですか?」「臭いや光、味に敏感ですか?」「仲の良い友達はいますか」など次々と追加の質問を受けました。その答えを聞いた先生は納得したように頷き「今ついている診断で間違いないでしょう。それに加えて注意欠陥障害もあるでしょうね」と言われました。この診察に私は感銘を受けました。というのは、質問は自閉症の子どもに特有の症状について的確に尋ねられており、追加の質問でも問診の答えを確かめるように進めてゆくことが分かり、先生の専門性の高さに感心したからです。ただ正式な発達検査を受けることはできませんでした。これは発達検査に使われるWAIS-Ⅲは、一度受けたら次は2年間は空けなければいけない決まりがあるためです。療育手帳取得挑戦の際にすでにWAIS-Ⅲを受けたことがあった私は、この2年間のインターバルが経過していなかったのです。それでもなお、憧れの診断にこだわる私に、ソーシャルワーカーはこう言いました。「とことん気になる、知りたがるというのは、生きづらさにつながるアスペルガーの特性からきてると思う。憧れの診断書が手に入らなかったら次に何が欲しいの?」その問いは、私が医療に何を求めているのかを問うものでした。自分の説明書はやっぱり欲しいけれど、2年待たなければならないのはどうしようもない。その現実をこの問いで突きつけられたのです。このとき初めて前を向いて、いま困っていることを何とかしてもらうことが大事だと思うことができました。その上で私の答えは「今の心のしんどさをやわらげてほしい。発達障害であるという視点から二次障害の精神症状やうつの治療もしっかりしてほしい」でした。こうして、先生の専門性を信じてその病院に通い続けることを決めました。自分の特徴を知ることで、今までの謎が解けてゆくように出典 : 今は二次障害である精神症状やうつの治療を受けつつ、自分の困りごとの原因は何なのか、先生の解説で謎が解けていっている感じです。そして生きづらさの解消のため、それまで飲んでいた薬は大幅に見直され、ADHDの治療薬のストラテラを服用することに。新しい主治医を始め、ソーシャルワーカーなど理解ある人に関わってもらっているおかげで、自分の特性が生活や仕事のどんなところに影響を与えているのが理解することができるようになってきたのです。自身の弱点や、疲れ切ってキレてしまう前の予兆なども分かるようになり、意識して自分をコントロールすることできるようになったと感じています。診断を生かしていくために出典 : 発達障害の診断を受けたら、具体的な自分の特性をじっくりと説明してもらうことをお勧めします。そうすることで、今までの生きづらさの理由が氷解し、自分の特徴をしっかりと理解することができるはずです。その上で、医療や福祉の支援を受けて理解者・支援者を増やし、困っているときは助けてもらうことができれば、自分の直面した困難にくじけてしまうことも防げるはずです。繰り返しになりますが大切なのは、診断を受けっぱなしで終りではなく、自分の特徴を知り、より自分をコントロールできるようになることです。診断を受け、なにが自分の生きづらさを作っているのか。自分で工夫できるところはあるのか。どんなサポートを受けたらいいのか。それを知ることが、生きづらさの解消につながるのではないでしょうか。
2017年04月28日解離性健忘とは?出典 : 「解離性健忘」とは、強いストレスの原因となった過去のできごとや感情などの一部やすべてを忘れ、思い出そうとしても思い出せなくなってしまうことです。思い出せないことで、日常生活や社会生活で支障をきたし、本人が精神的につらい思いを抱えている場合には治療が必要となります。アメリカ精神医学会が監修している『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)では、解離性健忘を定義する特徴として以下の2つを挙げています。1.確かに記憶されているはずで2.通常なら簡単に思い出せるような、体験など自分にまつわる大切な情報が思い出せないなお、DSM-5のほかにも、精神障害の診断基準には世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)が用いられています。いずれの診断基準でも、解離性健忘は「解離性障害」という大きなカテゴリのなかのひとつの種類として分類され、解離性障害の中で中心的な障害であると考えられています。解離性障害のほかの障害でも、ほとんどの場合で解離性健忘の症状がみられます。言い換えると、解離性健忘は健忘以外の症状がみられません。解離性障害については、発達ナビの記事で詳しい解説をしていますので、ぜひお読みいただければと思います。なお、解離性健忘は、女性や若い人に多いと言われています。(出典)岡田尊司/著『子どもの「心の病」を知る: 児童期・青年期とどう向き合うか』(PHP研究所、2005年)解離性健忘の原因出典 : 解離性健忘は、極度のストレスや心の傷などといった、精神的な原因がきっかけとなって生じます。解離性健忘の原因となるものには、以下のような体験がふくまれます。・事故・事件・戦闘・災害のような急激なもの・虐待やDV、いじめ、家族間の葛藤など、精神的苦痛や葛藤が慢性的なもの本人の心が耐えきれないつらい体験を受けているときは、いつもの記憶の仕方とは異なる方法で、脳の別の場所に記憶されます。そのため、他の記憶のようによみがえらず、思い出すことができないのです。一方、解離性健忘によってつらい体験を忘れることができると言い換えることもでき、解離性健忘は本人の心を守ってくれる側面もあると考えられています。自閉症スペクトラム(特にアスペルガー症候群)と、解離性障害との関連が指摘されています。自閉症スペクトラム(特にアスペルガー症候群)のある人・子どもは、解離性障害をおこしやすいのではないかと考えられています。一般的に、自閉症スペクトラムのある人や子どもは、日常生活で困りごとが多い傾向にあります。さらに、コミュニケーションをうまくとることができないために、対人関係を構築することが難しく、つらい思いを抱えている人も少なくありません。したがって、生活上の困りごとや生きづらさ自体が、解離性障害を引き起こす大きなストレスとなってしまっている可能性が指摘されています。なお、解離性障害の記事でも自閉症スペクトラムの関係性について解説していますので、お読みいただければと思います。解離性健忘はどんな症状があらわれるの?出典 : 解離性健忘では、「自分は誰か」「どこへ行ったか」「何をしたか」「そのときどう感じたか」など、自分が関わったできごとについての情報を思い出せなくなってしまいます。解離性健忘のために思い出せなくなっている期間は、人によってさまざまです。数分から数時間のことを忘れてしまうこともあれば、数日間から数年間にわたることを忘れてしまう場合もあり、なかにはこれまでに経験したことをすべて忘れてしまう例も報告されています。解離性健忘の患者さんでは、日常生活を送っているさなかにも、その時々の自分の行動や発言について忘れてしまうことがあります。【例】・メールの送信履歴を確認してみると、見覚えのないメールを送っていた・クローゼットの中に、買った覚えのない服が入っていた日常生活でこのような身に覚えのないことが続くと、不安に感じてしまい、抑うつ症状を示す人も多いようです。一方で、解離性健忘に自覚のない人も少なくありません。これは、体験したできごと自体を忘れているために、忘れていることに気づかないためです。◇限局性健忘・・・ある限定的な間に起こったできごとを思い出せない症状です。解離性健忘のなかで、もっとも一般的であると考えられています。◇選択的健忘・・・限定された間におこったできごとの一部が思い出せるだけで、他の部分は覚えていないのが選択的健忘です。戦争に赴いた兵士が、連日の激しい戦闘の一部分しか思い出せずそれ以外のできごとを思い出せないといった例があげられます。◇全般性健忘・・・自分が今まで体験してきたことすべてを忘れてしまう症状です。自分が誰であるのかさえも忘れてしまう場合もあります。ただ、これまでのすべてを忘れてはいるものの、現在からの新しい記憶を追加することは可能です。日本では、1950年に全般性健忘が初めて報告されて以来、これまで130例以上の報告があります。ちなみに、限局性あるいは選択的健忘の報告は20例未満ですが、忘れていることの自覚がないために報告されないのではないかと考えられています。岡野憲一郎/責任編集『専門医のための精神科臨床リュミエール20解離性障害』(中山書店、2009年)97ページ◇系統的健忘・・・ある特定の領域についての情報を思い出せなくなってしまう症状です。たとえば「家族」「恋人」など「ある特定の人物」などについての記憶が思い出せなくなってしまうことなどがあります。◇持続性健忘・・・新しいできごとが起こるたびに、そのできごとを忘れてしまう症状です。日本精神神経学会/監修『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版(医学書院、2014年)296-297ページ解離性のフラッシュバックと呼ばれる症状が起こることもあります。フラッシュバックとは、映像や音、においなどがよみがえり、過去に心の傷を負ったできごとを再体験してしまうことです。突然、止まっている画像で思い出すことが一般的であるものの、動画であったり、声を伴ったりする場合もあります。フラッシュバックは、本人にとってとても恐ろしい体験です。過去に引き戻されたように感じる、もしくは同じできごとが目の前でまた繰り返されているように感じてしまうようです。フラッシュバックに引き続いて、限局性健忘があらわれることもあります。何がフラッシュバックの引き金となってしまったのか、本人が自覚できないことも多いために、恐怖感がさらに高まってしまうこともあるそうです。恐怖を感じる以外にも、体にも症状があらわれることが分かっています。頭痛・動悸・吐き気などのほかにも、性機能障害もしばしばみとめられます。高橋三郎/監訳『DSM-5鑑別診断ハンドブック』(医学書院、2015年)203ページ解離性とん走は、解離性健忘のひとつです。とん走とは逃げ走ることを意味しており、家庭や職場から突然いなくって、どこかへ行ってしまうのが解離性とん走の特徴です。また、いなくなってしまっている間、「自分は誰であるのか」「どんな人生を送ってきたのか」などの記憶を失ってしまっています。これまでの記憶を失ってはいるものの、電車に乗るための切符を買ったり、歯を磨いたりといった日常生活で必要な動作の記憶は失われていません。また、それまでに習得した技術も覚えています。たとえば、ピアノを弾ける人が解離性とん走で、自分のことをすべて忘れてしまっていたとしても、ピアノを上手に弾くことはできるそうです。小学生以下では稀ですが、中学生以上の若い人にも多くみられるようになるようです。身元不明の少年として保護される子どものうち一定割合を占めるとも言われています。(出典)岡田尊司/著『子どもの「心の病」を知る: 児童期・青年期とどう向き合うか』(PHP研究所、2005年)器質的なことを原因とする健忘との違いは?出典 : 器質的なことが原因で生じる健忘もあります。例えば、認知症、事故が原因で脳の損傷を受けた場合、アルコール依存症などによって脳の機能が失われることによっても健忘が起きることがあります。それでは、解離性健忘との違いは何でしょうか。解離性健忘では通常、解離のきっかけになったできごと以降のことを思い出せなくなります。一方、脳の損傷など器質的なことが原因で生じる健忘では、損傷が起きた時点より前のことも一緒に思い出せなくなることが多いようです。心理療法研究会/著、岡野憲一郎/編『わかりやすい「解離性障害」入門』(星和書店、2010年)59-61ページ、102-103ページ解離性健忘と器質的な健忘は、コンピュータにたとえられる場合もあるので、以下にご紹介します。「解離性健忘」・・・開くにはあまりにも危険なファイルであるため、記憶の記載されたファイルにアクセスできないようになっています。この場合の「危険」とは、本人の心に傷を与える危険があることを意味します。「器質的な健忘」・・・ハードウェア自体が壊れてしまっているために、記憶ファイルがなくなってしまったり、容量が低下して記憶の書き込みができなくなったりしている状況です。なお、解離性健忘は、自分にまつわる体験や自分が誰であるかを忘れてしまうことが中心的です。しかし、認知症の場合では、自分が誰だか分からなくなってしまうのは、認知機能がかなり低下してから生じると考えられています。岡野憲一郎、柴山雅俊、奥田ちえ/編『こころのりんしょうa・la・carte 第28巻2号〈特集〉解離性障害』(星和書店、2009年)242ページ解離性健忘の診断基準出典 : 米国精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)での診断基準は、以下の通りです。A.重要な自伝的情報で,通常,心的外傷的またはストレスの強い性質をもつものの想起が不可能であり,通常の物忘れでは説明ができない.注:解離性健忘のほとんどが,特定の1つまたは複数の出来事についての局限的または選択的健忘,または同一性および生活史についての全般性健忘である.B.その症状は,臨床的に意味のある苦痛,または社会的,職業的,または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている.C.その障害は,物質(例:アルコールまたは他の乱用薬物,医薬品),または神経疾患または他の医学的疾患(例:複雑部分発作,一過性全健忘,閉鎖性頭部外傷・外傷性能損傷の後遺症,他の神経疾患)の生理学的作用によるものではない.D.その障害は,解離性同一症,心的外傷後ストレス障害,急性ストレス障害,身体症状症,または認知症または軽度認知障害によってうまく説明できない.【出典】日本精神神経学会/監修『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版(医学書院、2014年)296ページ診断にあたっては、器質的な原因による健忘でないかも含め、専門医による診断の上で解離性健忘かどうかを判断します。解離性健忘かなと思ったら出典 : 解離性健忘かなと不安に感じることがあれば、精神科や心療内科を専門とする医療機関で相談しましょう。どの医療機関で相談したら良いか分からない場合には、保健所、精神保健福祉センターの相談窓口などで聞いてみると良いかもしれません。近年、かかりつけ医と精神科専門医との連携が進められているので、かかりつけ医に相談して専門医を紹介してもらえる場合もあります。なお、以下のリンクからお住まいの精神保健福祉センターの相談窓口を探せますので、参考にしてみてください。全国の精神保健福祉センター一覧|厚生労働省おもに精神療法での治療が行われます出典 : 解離性健忘の治療には、医師や臨床心理士などによる精神療法が有効だと考えられています。精神療法の目的は、思い出せないことを思い出すことではありません。本人が日常生活で支障をきたさず、安定的な生活を送るようになることです。思い出せないできごとは、そのほとんどが本人の大きなストレスの原因であるため、思い出したからといって、本人の抱える問題が解決するわけではないからです。もちろん、患者さんと治療する側との安心、かつ信頼できる関係性の中で、健忘の原因への理解が進み、思い出せるようになることもあります。しかし、思い出さないことで本人の心が安定する場合には、無理して思い出させるようなことはしないようです。小学校からの記憶をすべて失ってしまった患者さんで、治療をすすめていくなかで夫のもとで情緒が安定しているために、記憶の回復がないままで治療を終了したという例もあります。岡野憲一郎/責任編集『専門医のための精神科臨床リュミエール20解離性障害』(中山書店、2009年)家族や周りの人の正しい理解とサポートが解離性健忘の患者さんの支えになります出典 : 治療以外で多くの時間をともに過ごしている周囲の人々とのかかわりは、解離性障害の治療に向けてとても重要です。解離性障害の子どもであればその両親、成人であれば恋人や配偶者など、患者さんのキーバーソンとなる人は症状について正しく理解し、できる限りの患者さんの気持ちにより添った協力体制を整えることが望ましいとされています。ある患者さんの例では、解離性健忘の症状でパニックに陥ってしまったときには以下のような仕組みを作り、パニックから解放される対処法を身につけるようにしたそうです。1.恋人に携帯電話で電話をする2.決まったセリフを口にしてもらう解離性健忘の患者さんでは、抑うつ気分と自殺を考えてしまうことが特徴的にみられることも知られています。治療をすすめるなかで、健忘のために忘れていたできごとを思い出し、そのたびに気分が不安定になってしまう患者さんもいるようです。したがって、解離性健忘はストレスの元となることを「忘れてしまう」ことで、患者さんの心の負担を軽くし、心を守っているという側面もあることを忘れないようにしましょう。健忘やそれに伴う離人症状は、破局的な体験や孤立した抑うつ状態に対する防衛(defense)であるので、催眠や麻酔面接などを用いて無理に崩すことは治療的ではない.なによりも健忘を認めるあいだは、患者が心身の消耗を回復して、現実に再び直面して受容するための猶予期間であるという視点が必要である。症状の背景にある持続的で緊迫した孤立状況とそれに伴う抑うつ気分や自殺念慮などに焦点を合わせ,休養と環境調整を第一とする.次いで行き詰まった状況になっても誰にも助言や援助を求められないことを問題として取り扱っていくこと,さらには対人関係における適切な自己表現を可能とすることが課題となろう.治療の原則は,このような段階的プロセスを支持的に援助することである.【出典】岡野憲一郎/責任編集『専門医のための精神科臨床リュミエール20解離性障害』(中山書店、2009年)102ページ一方、患者さんの家庭環境が、解離性健忘の引き金となっている場合には、家族の関係性を見つめ直す必要があります。もしかしたら、家族のことが原因かもしれない、など悩むことがあれば精神科医と家族相談という形の受診をしてみるのも良いかもしれませんね。岡野憲一郎/責任編集『専門医のための精神科臨床リュミエール20解離性障害』(中山書店、2009年)まとめ出典 : この記事では、解離性障害のひとつである「解離性健忘」をご紹介しました。解離性健忘の人は、不安や抑うつ気分を感じていることが多いようです。そこで、周りの人は本人のストレスができるだけ減らせるような環境を整えてあげることが大切です。ただ、サポートすることが周りの人にとって過度の負担となってしまっては、本人だけでなく周りの人もつらい思いを抱えてしまうことになります。そこで、「できる範囲内のサポートをする」と心がけるようにしましょう。
2017年04月27日解離性障害とは出典 : 解離性障害は、記憶の一部分もしくは全部をなくしてしまう記憶喪失や、自分が自分である感覚がなくなる、勝手に体が動いてしまう、幻聴・幻視など様々な「解離」症状のために、日常生活や社会生活に支障をきたしてしまう精神疾患のことです。それでは、精神医学における「解離」とはなんなのでしょうか。「解離」とは、自分の体験した出来事の記憶や考え、感情、行動などの一部を脳が自分の意識から勝手に切り離してしまう現象のことです。実は、解離性障害の人でなくとも「解離」現象は起きており、日常的に「解離」を駆使して生活をしていることがわかっています。そのため、正常な解離と治療の必要な解離を分けて考えなくてはなりません。そこで、まずは日常生活で起きている正常な「解離」を具体的な例をあげてご紹介します。たとえばこんなことを経験したことはないでしょうか。以下にあげる例は、いずれも正常な解離と考えられています。〇遊びに夢中になって、保護者が名前を呼んでも聞こえていない→遊びに没頭しているために、自分の意識から遊び以外のことが切り離されている〇授業中に空想にふけっていて、授業の内容をまったく覚えていない→空想に没頭していたために、授業参加するという思考や行動が自分の意識から切り離されている〇会議が退屈で、ぼんやりととりとめもないことを考えていて、気づくと会議が終わっていた→考えごとに没頭し、会議に集中するべきという考えや行動が自分の意識から切り離されている〇漫画やスマホに夢中で、友だちに話しかけられても気づかなかった→漫画やスマホに没頭して、まわりへの意識が切り離されている〇本を読んでいて、電車を乗り過ごした→本に没頭して、電車を降りなければならないという思考や行動が自分の意識から切り離されている〇車の運転をすると、いつもは穏やかな人が汚い言葉遣いをするなど性格が変わる→穏やかな気持ちや普段とっている行動が自分の意識から切り離されている〇どうやってペダルをこぐか注意を払わずに自転車に乗れる→ペダルをこぐという行動が自分の意識から切り離されている〇ある悲しい出来事を一時的に忘れて、楽しい時間を過ごすことができた→悲しい出来事についての記憶や気持ちが自分の意識から切り離されているまた、発達過程にある子どもに特有の解離現象「想像上の友だち(イマジナリーコンパニオン)」があることも知られています。実際には見えない誰か(想像上の友だち)と遊んでいたり、会話をしたりする現象で、おもに4歳~10歳頃までの子どもの20~30%にみられます。心理療法研究会/著、岡野憲一郎/編『わかりやすい「解離性障害」入門』(星和書店、2010年)「想像上の友だち」にはたいてい名前がついており、子どもたちのそばにいて励ましたり、慰めたり、時には相談相手となったりしているようです。「想像上の友だち」の存在は子どもたちの心を支え、発達や環境適応を促す役割を担っていると考えられています。この「想像上の友だち」は、子どもの抱えるストレスから心を守るためにあらわれるほか、人とのつながりを求めている時や、対人関係をつくる準備をしている時にもあらわれるようです。成長とともに「想像上の友だち」は消えていくとされていますが、成人となって大きなストレスを抱えた場合などには「想像上の友だち」が復活して、心のバランスを保つこともあるようです。なお、このような場合には、治療が必要となることもあります。岡野憲一郎、柴山雅俊、奥田ちえ/編『こころのりんしょうa・la・carte 第28巻2号〈特集〉解離性障害』(星和書店、2009年)平島奈津子先生に「解離性障害」を訊く|日本精神神経学会一方、解離性障害では「解離」によってあらわれる症状のために日常・生活社会生活に支障をきたし、本人や周りが辛い思いを抱えていることから、治療が必要となります。解離性障害はまれな疾患と考えられてきましたが、研究によって比較的多くの人がかかる疾患であることが明らかとなっています。アメリカの全米精神障害者家族会連合会の報告では、アメリカ人の2%が解離性障害を経験しているのではないかと予測しています。 Disorders(解離性障害)|nami(全米精神障害者家族会連合会)解離性障害は、15歳くらいの思春期の年齢で起こりやすいとする意見もあるものの、一般的にはどの年齢でも起こる可能性があります。なお、女性の方が発症しやすいとされ、18歳以下で見てみると男女比は1:3で女性での割合が高くなっています。女性の占める割合は年齢が高くなるにつれて、さらに大きくなるようです。また、近年では自閉症スペクトラム(おもにアスペルガー障害)と解離の関係が注目されるようになりました。自閉症スペクトラムのある人や子どもは、解離性障害になりやすいのではないかと考えられています。自閉症スペクトラムと解離性障害との関連については、のちほど詳しくご紹介します。一般精神科医のための子どもの心の診療テキスト(P.72)|精神神経学会岡野憲一郎、柴山雅俊、奥田ちえ/編『こころのりんしょうa・la・carte 第28巻2号〈特集〉解離性障害』243ページ(星和書店、2009年)解離性障害でみられる解離症状出典 : 解離性障害は、その症状によってさまざまな種類に分類されています。「DSM-5」や「ICD-10」など、どの診断基準や分類に従うかによっても概念や名称が変わる場合もありますが、以下に代表的な症状を紹介します。〇「解離性健忘」とは、ストレスの原因となるできごとの記憶や感情の一部分、もしくはすべてを忘れ、思い出すことができなくなる症状があらわれます。〇「離人症」とは、自分を見下ろす自分がいるように感じたり、自分が体験していることなのに、まるで映画を観ているように感じたり、現実感が失われます。〇「解離性とん走」とは、突然普通の生活から離れて放浪し、放浪している間の記憶がありません。放浪中は、名前や住所などについての記憶がないにもかかわらず、着替えや電車に乗るなどといった日常生活には支障がありません。〇「トランス」とは、意識が一時的に平常感覚を失ってしまうものです。催眠状態や宗教儀礼で祈祷師などがトランス状態になるのも解離状態と考えられています。解離性障害では、強いストレス下に置かれたときに、視線がうつろとなり、呼びかけても反応せず、椅子に座ったまま上半身を揺らし続けるようなトランス状態に陥るようです。さらに、このトランス状態が頻繁に繰り返され長期化する場合に解離性障害のトランスと判断されます。〇多重人格障害ともいわれる「解離性同一性障害」とは、一人の人間の中に複数の人格が存在する障害です。それぞれの人格は名前や年齢、性格、趣味嗜好なども異なり、まったく別の人格が現れるようです。解離性障害のなかでも最も深刻な症状であるといわれています。〇「解離性運動障害」では、運動機能に異常があらわれることも多く、手足の麻痺など、体の感覚を失ってしまうことや、体の一部が勝手に動いてしまう症状があらわれます。〇このほかの症状には、解離によっててんかんに非常に似た症状があらわれる「解離性けいれん」、内容はわかっているのに、わざと間違った答えをする「ガンザー症候群」などがあります。また、解離性障害では誰かの声が聞こえる「幻聴」、見えないものが見える「幻視」の症状があらわれることもわかっています。2003年に東京女子大学の柴山医師が解離性障害の43例を調査したところ、38例(88%)に幻聴の症状があったことを報告しました。この幻聴や幻視は、統合失調症でもあらわれる症状のために、解離性障害は統合失調症と間違えられやすい疾患です。統合失調症の幻聴では、声が外から聞こえるものの、意味は不明確であり聞こえも不明瞭です。一方、解離性障害では、声は内部から聞こえることが多く、意味を持った言葉がはっきりと聞こえるという違いがあります。岡野憲一郎、柴山雅俊、奥田ちえ/編『こころのりんしょうa・la・carte 第28巻2号〈特集〉解離性障害』(星和書店、2009年)柴山雅俊/著『解離の構造―私の変容と〈むすび〉の治療論―』(岩崎学術出版社、2010年)柴山 雅俊著『解離性障害にみられた幻聴』精神医学.200547(7), p709-716岡野憲一郎/責任編集『専門医のための精神科臨床リュミエール20解離性障害』142ページ(中山書店、2009年)解離性障害の原因出典 : 解離性障害の原因は、強いストレスや心の傷を受けるようなできごとから自分を守るための防衛本能であると考えられています。人は誰でもつらい感情をさけようとします。つらい体験を思い起こさせる場所や人や考えを回避することで、自分の心を守ろうとします。しかし、つらい体験が日常的に続くような状況では、どんなに頑張っても回避することができないため、「これ以上心が耐えられない」と脳が判断することがあります。そのとき、脳はそのつらさや感情などを自分の意識から切り離すのです。これが解離のメカニズムです。つらさを切り離した結果、本人はつらい体験を覚えていなかったり、思い出せなくなってしまったりといった解離症状があらわれます。解離性障害の治療初期では、とてもつらい体験をあたかも他人事のように淡々と話す場合があるそうです。この場合は、つらい体験をうけたときの感情が自分の意識から切り離されている状態といえます。また、自分の中に別の人格があらわれる場合には、本人にかわって別の人格がつらい体験を引き受けてくれていることになります。ただ、別人格がつらさを引き受けているからといって、本人がつらい思いをしていることには変わりありません。つらさを解離によって一時的に麻痺させているといえます。平島奈津子先生に「解離性障害」を訊く|日本精神神経学会岡野憲一郎、柴山雅俊、奥田ちえ/編『こころのりんしょうa・la・carte 第28巻2号〈特集〉解離性障害』(星和書店、2009年)解離性障害の引き金となるストレスの要因には、以下の3つのタイプがあります。1.強いストレスや心の傷となる要因2.子どもの場合の要因3.自閉症スペクトラムの場合の要因それぞれを詳しく説明していきます。かつては、性的虐待をうけることで解離性障害が発症すると考えられてきました。しかし近年では、性的虐待だけでなく強いストレスの原因となるものはすべて解離性障害を引き起こす可能性があると分かっています。解離のストレスや心の傷をうける具体的な要因は、以下の4つです。・いじめ(学校だけでなく、きょうだい間でも)・人間関係のストレス(親子関係や恋人関係など)・虐待(性的・身体的虐待、ネグレクト、徹底した無視)・事件・事故(災害や戦争、暴行などのほか、交通事故を見てしまうなどの出来事も含まれます)虐待は、子どもの解離性障害の大きな原因のひとつです。あいち小児保健医療総合センターに勤める杉山登志郎医師の調査では、あいち小児センターを受診した虐待を受けた子ども575名のうち、解離性障害がみとめられた割合は59%と6割近くを占めていることが明らかとなりました。杉山 登志郎/著『子ども虐待という第四の発達障害 』(株式会社学研プラス、2007年)なお、海外と比べて日本では性的虐待を原因とする解離性障害は少ないことが指摘されています。このほかにも、子どもの解離性障害では家庭環境が「過干渉」または「放任」の傾向にあると指摘されています。解離性障害の研究論文を横断的に調査した報告では、解離性障害の子どもの46%の家庭で「過干渉もしくは放任」だったことが明らかとなっています。緒川和代/著『子どもの解離性障害に関する研究展望 ―事例論文を中心に―』(Bulletin of the Graduate School of Education and Human Development, Nagoya University 、 2014)この対極する2つの傾向に共通するのは、本来安心して過ごせる場所であるはずの家の中に「落ち着ける居場所がない」ことです。どちらの場合でも、子どもの気持ちを伝えて理解してもらえる環境ではないため、子どもは強いストレスを感じることになります。その結果、解離性障害となってしまうことが考えられています。また、同じ調査では性格的に「いい子」と呼ばれる子どもに多いという報告もされています。これは「いい子」であるために、親や周囲の期待などに過剰に応えようとするあまり、ストレスを感じて解離を起こしてしまうのではないかと考えられています。岡野憲一郎、柴山雅俊、奥田ちえ/編『こころのりんしょうa・la・carte 第28巻2号〈特集〉解離性障害』(星和書店、2009年)ジュディス・A・コーエン他/著『子どものトラウマと悲嘆の治療トラウマ・フォーカスト認知行動療法マニュアル』(金剛出版、2014年)自閉症スペクトラムや広汎性発達障害(特にアスペルガー症候群)では、解離症状との関連が指摘されています。アスペルガー症候群には「興味のあることに熱中する」という特徴があります。このため、アスペルガー症候群の人・子どもは、解離をしやすい素質を持っているのではないかと考えられるようになりました。一般的に、アスペルガー症候群のある人や子どもは感覚過敏や、日常生活でも多くの困りごとを抱えています。コミュニケーションをうまくとることができず、対人関係を構築することに障害があるため、周囲に理解してもらえずにつらい思いをしている人も少なくありません。解離しやすい傾向にくわえて、生活する上での困りごとや生きづらさが大きなストレスとなり、解離症状があらわれてしまう可能性が指摘されています。アスペルガー症候群のある解離性障害の患者さんも「居場所がない」と訴えることが多いそうです。定型発達の子どもでは、家族の関係性などのために、家の中に安心できる居場所がなくストレスを抱える場合があります。一方、アスペルガー症候群の人ではその特性のために、社会の中で安心できる居場所がないと感じているようです。なお、発達障害の程度が軽かったり、保護者や周りの人が発達障害に気づかなかったりして、その子に合わない声がけや育児方法を選択すると、二次障害として解離性障害を引き起こす可能性があるとも考えられます。柴山雅俊/編『解離の病理ー自己・世界・時代ー』(株式会社岩崎学術出版社、2012年)杉山 登志郎/著『子ども虐待という第四の発達障害』(株式会社学研プラス、2007年)野邑健二/著『アスペルガー障害と解離』精神科治療学、22巻、381~386ページ、2007年杉山登志郎/著『高機能広汎性発達障害にみられる解離性障害の臨床的検討』小児の精神と神経、43(2);113-120ページ,2003解離性障害かなと思ったら出典 : 解離性障害は早期治療が重要であることから、おかしいかな?あてはまるかな?と思ったら精神科や心療内科を専門とする医療機関で相談しましょう。どこに行けばいいかわからない時は、かかりつけの医師や、地元の保健所、精神保健福祉センターの相談窓口を利用するなどしましょう。全国の精神保健福祉センター一覧下記のような症状は、解離性障害かなと周りの人が気づくためのサインです。ぼーっとして無表情、話しかけても応答がない⇒混迷特定の出来事をどうしても思い出せない、特定の人との約束や会話を何気なく忘れてしまう⇒健忘突然失踪のように行方をくらます。気が付いたら別の場所にいたという。⇒遁走現実感がなくなり世の中が芝居のセットのように思え、「自分が自分でない」「ロボットのようだ」と感じてしまい、それに苦しむ。⇒離人症本人の様子が突然変わるが、その間の記憶がない。⇒多重人格心の病気ミニ時典解離性障害|都立松沢病院解離性障害の診断出典 : 『ICD-10 精神科診断ガイドブック』での解離性障害の診断のポイントは、3つあります。1.記憶・同一性の創出(解離)や運動・感覚のコントロールの喪失(転換)が存在2.心理的ストレスとの関連を有しており3.それを説明するような身体疾患がないこれらのポイントに基づき、まずはあらわれている症状が他の病気が原因で起きていないかを確認します。例えば、てんかん発作があらわれた場合には、脳波検査やMRI検査などが行われます。解離性障害であらわれる症状はさまざまです。似ている疾患もあることから、診断にあたっては専門医が詳しく診察を行ったうえで判断します。なお、解離性障害の診断には質問票が利用されることがあります。大人の質問票には、解離性同一性障害をおもに判断するための解離体験尺度(DES)や、子どもでは子ども版解離評価表(CDC)などの質問票があります。西澤 哲他/著『研究1:被虐待児のトラウマ反応と解離症状に関する研究』(「厚生科学研究子ども家庭総合研究」報告書平成11年度)解離性障害の治療はどんなことをするの?出典 : 解離性障害の治療は、精神療法が特に重要となります。その際に大切なことは、主治医との信頼関係を構築することです。患者さんは、対人関係などで心に深い傷を負っていることが多いため、対人恐怖や不信感に悩んでいることもあるからです。一方、患者さんが強いストレスにあるような環境にいる場合には、精神療法とともに安心できる環境に整えることも行われます。そのうえで、患者さんの精神的つらさが軽くなるように症状の自然経過を見守ることが重要です。なお、精神療法のほかに、必要に応じて薬物治療を併用することもあります。さらに、症状によっては入院治療を選択することもあるようです。治療の目的は、患者さんが安定した毎日を暮らせるようになることです。治療中に、解離性障害で記憶を失ったつらい体験を思い出す機会も出てくるかもしれません。もし、つらい体験を忘れたままの方が患者さんにとって暮らしやすく安定した毎日を過ごせるのであれば、思い出させるような治療をしないこともあるようです。ひとりの心の中に2人以上の人格が存在する解離性同一性障害の治療を例にとりご紹介します。解離性同一性障害は、かつては人格を統合することが治療の最終目標とされていました。しかし、交代人格は患者さんがなんとか生き抜くために生じたものであるため、無理やり人格を統合させる治療をおこなうと、患者さんが動揺してしまうことがあります。このため、近年では複数の人格をまとめてひとつのシステムと捉え、存在する人格が複数であってもシステム全体が安定していればよいという考え方に変わりました。患者さんのストレスを改善させて安定をはかりながら、それぞれの人格がどのような役割をになっているのかを理解する治療が行われます。分かれている人格の記憶や体験をつなげていく作業を続けて、人格同士の関係をよくすることで、患者さんが生きやすいように治療していくのです。その結果として、心が安定して人格をまとめていくイメージをもてるようになると考えられています。心の病気ミニ事典解離性障害|都立松沢病院知ることからはじめようみんなのメンタルヘルス解離性障害|厚生労働省岡野憲一郎/責任編集『専門医のための精神科臨床リュミエール20解離性障害』(中山書店、2009年)岡野憲一郎、柴山雅俊、奥田ちえ/編『こころのりんしょうa・la・carte 第28巻2号〈特集〉解離性障害』(星和書店、2009年)心理療法研究会/著、岡野憲一郎/編『わかりやすい「解離性障害」入門』(星和書店、2010年子どもの精神療法で中心的なものは、遊戯療法(プレイセラピー)とよばれるものです。遊びを通じて、子どもが抱える苦しみを克服し、心の成長を促すものです。遊戯療法では、遊戯室のなかに「安全」と「自由」が確保されます。治療する側は、子どもと同じ目線で遊び心と中立性を保ちながら遊びを見守ります。また、遊びは子どもが主導し、治療する側は子どもに受け入れられる方法で遊びに反応することも大切にしています。また、家族との関係性で解離性障害を引き起こしている場合もあるため、本人だけではなく両親とも面談を行うこともあります。臨床心理士の面接療法遊戯療法|一般社団法人日本臨床心理士会プレイセラピー|愛育病院西澤 哲他/著『研究1:被虐待児のトラウマ反応と解離症状に関する研究』(「厚生科学研究子ども家庭総合研究」報告書平成11年度)解離性障害って治るもの?出典 : 子どもの解離性障害は、身体にあらわれる症状が少ないことが知られています。家庭環境に大きな問題がない場合には、数週間から数ヶ月ほどの短期間で治ることが多いと報告されています。緒川和代/著『子どもの解離性障害に関する研究展望 ―事例論文を中心に―』(Bulletin of the Graduate School of Education and Human Development, Nagoya University 、 2014)大人では、症状などに個人差が大きいため、数か月で改善がみられる場合もあれば数年かかる場合もあります。一般的に大人の解離性障害は、強いストレス下におかれている場合が多いことから、治療期間が長くなりがちのようです。例えば、解離性同一性障害では、3~5年の比較的長い期間での治療が必要であるとされています。平島奈津子先生に「解離性障害」を訊く|日本精神神経学会解離性障害の人に周りができるサポート出典 : 解離性障害では周囲の人のみならず、本人も大きな戸惑いとつらさを感じています。だんだんと、自分も他人も信じられなくなってしまうことも珍しくありません。また、解離性同一性障害の場合などでは、家族と同じように過ごしていた別人格が治療で消えてしまうことに抵抗を感じたり、障害を受け入れられない人もいます。大切なのは、患者さんの解離症状の特徴について理解することです。患者さんにとって、自分の症状を分かってくれる、つらさを理解してくれる人が周りにいることは、治療への大きな力となります。また、解離性障害はストレスとの関連が強いので、日常生活でストレスをできるだけ少なくするような工夫も必要です。患者さんと周りとの人間関係にストレスの原因があるのであれば、その関係性を見直すことも考えてみましょう。病気について分からないことがある、もしくは患者さんとの関係性に悩みを抱えている際には、専門医に家族相談という形で面談をするのも有効な手段です。どんな小さなことでも相談できる窓口があります出典 : 解離性障害の原因に虐待が疑われる場合には、子ども本人の環境を改善する必要があります。解離性障害を治療したとしても、その子の環境が変わらないと原因となるストレスがなくならないためです。この記事を読んでくださっている方のなかで、子どもをつい叩いてしまう、感情のままに怒鳴ってしまう…本当はやめたいけれど、知っている人には相談できないと思い悩んでいる方はいませんか。そんな場合には、電話窓口やインターネットなど、顔の見えない相手に相談することを考えてみてください。虐待してしまって悩んでいる人の相談を聞いてくれる窓口があります。すべての相談窓口は匿名で話を聞いてくれます。個人情報を知られることなく相談できますので、もし悩んでいる方がいらしたらためらわずに電話してみてください。虐待を通告する制度として知られている番号ですが、虐待してしまっていることを相談する窓口としても機能しています。「189」番を押すと、固定電話であればお近くの児童相談所に転送してくれます。携帯電話の場合はガイダンスに従って、お住まいの地域の児童相談所に転送されますが、どちらの場合であっても、個人が特定されることはありません。189(いちはやく):児童相談所全国共通ダイヤル|厚生労働省メールで相談できるサイトです。こちらも匿名で相談でき、秘密は守られます。虐待でなくても、育児の不安やご自身が過去に受けた虐待についても相談することができます。日本子どもの虐待防止民間ネットワーク18歳までの子どもが相談する電話窓口です。電話で名前や学校を言う必要はありませんし、相談した内容の秘密は守られます。最初は相談できなくても、「誰かと話したい」といった場合にでも気軽に電話をかけられます。チャイルドライン|NPO法人チャイルドライン支援センターまとめ出典 : 解離の原因にはさまざまなものがあるものの、共通するのは強いストレスです。解離性障害の人は、対人関係に悩む人も多く自分の気持ちが理解されずに「居場所がない」とストレスを感じています。周りの人は解離のことを理解し、つらい気持ちに寄り添うことがとても大切です。また、自閉症スペクトラム(アスペルガー障害)のある人や子どもでは、日常生活そのものがストレスの原因となって解離が起きやすいとも考えられています。そのため、本人の負担ができるだけ減るような環境をつくっていきましょう。また、子育て中に不安なことや心配なことで友人や周囲の人にも言えないことは、抱え込まずに、紹介した相談窓口などで相談してみましょう。悩みを聞いて、あなたの悩みを一緒に考えてくれる人がきっといるはずです。
2017年04月25日生まれた時から、「障害」は私の特徴のひとつだったUpload By 和田 恵利菜「障害者」という言葉に私はこれまで親しみを感じながら生きてきました。他ならぬ自分自身が障害者と呼ばれる立場にあるからです。私は先天性の障害で、3歳の時から電動車いすを使用しています。歩くことはできませんし、握力も弱く、自分の腕を持ち上げることも出来ません。できないことは多くありますが、現在、私は障害を自分の特徴の一つだと思っています。私は小中高と地元の学校に通い、現在は大学で心理学を専攻しています。大学では比較的バリアフリーが進んでおり、友人や先生、ヘルパーの方の手を借りながらも、快適に生活ができています。しかし、小中学校、高校での生活は、物理的にも制度的にも困難に感じることが多くありました。9年間ずーっと1階の教室で過ごした、私の同級生電動車いすを使用する私にとって、最も大きな問題はやはり「移動」です。学校には多くの段差が存在し、当然、階段も使用しなければ学校生活を満足に送ることはできません。小学校、中学校では、小さな段差や階段に対しては、スロープをつけるなどの工事を行い、問題を解消してもらえました。しかし、私の地元にはエレベーターの設置がある公立学校は少なかったため、私の通っていた小中学校でもエレベーターを設置してもらうことはできませんでした。そこで対策として、私の学年の教室は常に1階に設置してもらうこととなりました。小学生から中学生までの9年間、私はずっと1階の教室で勉強をし、日々の学校生活を楽しんでいました。Upload By 和田 恵利菜私の在籍していた学校は小中一貫校で、周囲の友人も9年間ほとんど変わることがありませんでしたので、当然、私の同級生も9年間、1階の教室で過ごすことになったのです。そんな中、ある日私は「僕だって1階じゃなくて上の階の教室がよかった」という同級生の声を耳にしました。自分のために周りの人たちに我慢を強いているのではないか。はじめてそう気が付いた私は悲しく思い、同時にどうしたらよいのか分からなくなりました。そんなとき、私を救ってくれたのは「私は1階の教室も好きだし、気にならないよ」という友人の言葉でした。彼女にとっては何気ない言葉だったのだろうと思いますが、当時の私にとっては「私に合わせて変えた環境を、受け入れてくれる人もいるんだ」と感じることができた大切な言葉でした。私は、環境を工夫すれば「障害者は障害者でなくなる」と思っています。それは私のような身体障害だけではなく、全ての障害に当てはまることだと思います。Upload By 和田 恵利菜できないことは環境の工夫次第で、できるようになります。幼少期、児童期の私にとって、歩けないこと、腕がうまく動かないことは、劣等感を感じさせるものでした。自分が思うように行動できないもどかしさにイライラしたり、周囲の人に迷惑をかけてしまっていると罪悪感を感じたりすることもありました。しかし、小中学校、高校、大学と進学し、その都度、環境を工夫し、支援をしてもらう中で、私が学校で「できないこと」は減らせることを知りました。つまり、それぞれに適した工夫によって、身の回りの「障害」がなくなった瞬間に、障害者は障害者でなくなるのです。特にそれが顕著なのは、発達障害なのではないかと思います。「環境を整える」−かつて私が受けた支援は、発達障害の子どもたちにも必要なものだったUpload By 和田 恵利菜私は現在、放課後等デイサービスでアルバイトをしています。そこでは発達障害やその傾向のある小学生の勉強を見たり、一緒に遊んだりしています。子どもたちの中には、周囲に人がたくさんいる状況で集中して勉強することが難しかったり、自分の思いや考えを言葉で表現することが難しかったりする子もいます。どうやったら子どもたちが快適に過ごせるようになるのか、どうするのが子どもたちにとって最も良いのか、私も試行錯誤の毎日です。ですが、そんな中で気が付いたのは、環境を整えることができれば、彼らの可能性はぐんと広がるということです。集中が続かない子どもに対して、時間を細かく区切って活動する、仕切りを立てるなど一人で落ち着いて勉強に取り組める環境を作る、一度にすべての指示をせずにひとつずつ図示して伝える。全て本に載っていたり、講義で学習したりした、発達障害のある子どもたちに対する対応策の一例です。Upload By 和田 恵利菜これら全てを実践してみることはまだできていませんが、一部を実際に試してみると、一見できないと思っていたことが、簡単にできるようになる子どもたちがいました。特に指示をひとつずつ伝えるということは意識を持つだけで簡単に実践できるので、私は常に気を付けるようにしています。これらの対応策は、多くが「環境を整える」というものです。そして、私が学校で受けた支援も同じ「環境を整える」というものなのです。合理的配慮の広がりに向けて、当事者として声をあげたい困難の内容は、障害によってそれぞれだと思いますが、案外、解決方法は似ているのではないか。私はそう思います。個人の特性に合わせて環境を変えていくのに、個人の力だけでは限界があります。そこで私が注目したいのは「合理的配慮」です。合理的配慮とは、2016年4月に施行された障害者差別解消法において、障害の有無にかかわらず、全ての国民が互いを尊重し合いながら共生する社会の実現を目指して定められたもので、私は障害者一人ひとりの特性を踏まえた支援を行える可能性が広がったのではないかと考えています。Upload By 和田 恵利菜行政機関と民間事業者との義務の違いがあったり、配慮を実施する側の負担が大きすぎる場合など、全ての要望が実現するわけではありませんが、法律で障害者への配慮について定められたのは、大きな一歩だと思います。実際に、私は現在通っている大学に配慮の提供を申し出て、何度も話し合いを重ねてきました。また、自分が高校で受けた支援内容を行政機関に紹介したこともあります。私は、合理的配慮による可能性の広がりに期待を持っていますが、多くの人が快適に過ごせるようになるには、まだまだたくさんの課題があるようにも感じています。Upload By 和田 恵利菜例えば、要望通りの配慮が行われない場合や、配慮を申請し、実施するまでの手続きに長い時間がかかってしまう場合などは課題として挙げられるかもしれません。これら全ての課題を解決するには長い時間がかかるとは思いますが、私たち当事者ができることは、まず声をあげる、そして伝えることだと私は考えます。配慮を提供してくれる側に、何か伝える前から「私たちのことを分かって」「こちらの要望を察して」というのには無理があります。こちらの要望や状況を理解してもらうには、自分はどういう状況にあって、どういう配慮をしてほしいのか、適切に伝える必要があるのではないかと思います。目に見えない、言葉にならない障害に、周りの人たちはどんな”通訳”ができるだろう出典 : ここで、私がもうひとつの課題だと考えるのは、当事者本人が言葉を介して、自分の現状や意見を伝えることが難しい場合もあるということです。私の場合は、電動車いすを使用していて、段差や階段などの物理的障壁を解消する、トイレや移動の介助をするなど、要望は比較的目に見えやすく、想像のしやすい配慮だと思います。しかし、私はアルバイトで発達障害を持つ子どもたちを見ていて、言葉で適切にコミュニケーションをとるのが難しいと思える場合を目にし、代わりにそれを伝える役割の存在が必要なのではないかと感じました。それは保護者や友人、先生や同僚など、様々な可能性が考えられます。一人でも本人のことを理解し、それを周囲に伝えることができる人がいれば、当事者の生活はぐっと快適になり、社会に出ていくことができるようになるのではないでしょうか。障害者を取り巻く課題は、まだまだたくさんあります。環境の工夫だけではなくて、心のバリアフリーも進めていくことももちろん大切です。人はみんなそれぞれ異なった特徴を持っています。その特徴を生かして社会で暮らしていったり、反対にその特徴によって社会で生きにくくなったりします。それは障害を持っている人も持っていない人も同じです。それぞれの特徴や個性を、みんなが認め合い、障害者もそうでない人も互いに支え合いながら、共生できる。そんな社会になってほしいと私は願っています。私も自分の身近なところから、行動を起こしていきたいと思います。Upload By 和田 恵利菜
2017年04月07日「できること」を増やしたい!発達障害のある子どもを持つ親心出典 : 自分の子どもが発達障害だと診断を受けたならば…。「発達障害児でもできること」「発達障害児の発達を促すこと」を血眼になって探すのが、親心なのかもしれません。私もその1人でした。発達障害児を育てていると、どうしても出来ない部分ばかりが目についてしまいます。「協調運動ができない」「手先が不器用」「跳び箱やマット運動ができない」「字をマスの中におさまるように書けない」「きちんとした姿勢を維持できない」…他の子どもと並べては、「うちの子だけこんなこともできない…」と落ち込む日々が続いていました。「出来ることを褒めてあげて」と育児本には当たり前のように書いてあります。けれども、保育参観やちょっとした行事で「できない息子」を目の当たりにするたびに、「一体どこを褒めればいいんだろう…」という気持ちにすらなります。そんなとき、インターネットには心ひかれる文言が出典 : そんなどん底の気分になりながらも、「なんとか息子のできることを増やしたい」と思いネットを検索してみます。すると、キラキラときらめく言葉たちが並んでいるのです。「発達障害児向け○○!」「○○は発達障害児の発達を促してくれます!」「○○をすれば、発達障害は治る!!」こんな煌めくような魅力的な言葉たちが、私の親心をがっちり掴んでしまいました。「発達障害向け」の文言をみると居ても立っても居られなくなり、私はすぐに申し込みのメールを書き始めていました。それがどんな内容の習い事や塾であっても、息子に意思を確認することはありませんでした。これが原因で、私がしてしまった失敗を2つ、ご紹介します。出典 : ネットでの検索に取りつかれていたころ…私が一番に心惹かれてしまったのは、「発達障害を治す能力開発塾」でした。この「発達障害を治す」という触れ込みに惹かれてしまうのは私だけではなかったようで、中には新幹線や飛行機に乗って相談に訪れる人も後を絶たないそうです。ところが相談に伺ってみると、その塾の目標は「子どもを支援級に入れないこと」でした。私は当時、まだ小学校就学後のことまで考えてはいませんでした。その目標が果たして本当に適切かどうか、まだ分かっていなかったのです。その塾が何を目指しているのか、発達障害児がどう育っていくことを望んでいるのかという点について意見が合致しない場合は、私は入塾はやめたほうがいいと思いました。結果的に、入塾はお断りしました。「発達障害児向け」「発達障害が治る」という文言だけに飛びついてしまい、実態をきちんと把握していなかった失敗例です。出典 : 他にも、「これは発達障害児の発達に良い」「前頭前野の発達を促す」という言葉に、私は飛びついてしまいました。そんな私を突き動かしたのが、「乗馬は発達障害の発達に良い」「カヌーは発達障害児の発達に良い」という情報でした。私は息子を連れて、発達障害児を対象とした乗馬教室とカヌー教室に出かけました。その教室では他に参加する子どもたちもみんな同じように特性がある子どもたちだったため、息子だけが浮いてしまうこともないだろう…という期待もありました。ところが…。感覚が過敏な息子は、馬の臭いと大きさと肌触りにパニックです。泣いて泣いて暴れて暴れて、止まらなくなってしまいました。そんな息子を横目に、他のお子さんたちは悠々と馬に乗っています。カヌーはカヌーで、救命胴衣の感触にパニックになり大泣き。さらに、前日雨が降って川岸がぬかるんでいたのが嫌だったようで、足に泥がつくたびに大泣き。ここまで来て、こんなに息子を泣かせて、自分はいったい何がやりたかったんだろう…。私は帰りの車でため息しか出ませんでした。この教室以後、息子は馬が怖くなってしまい、今でも馬に近づけません。大切なのは、「発達障害児向け」ではなく「息子向け」だった出典 : 数え切れないほどの失敗を繰り返して、私が学んだのは、大切なのは「発達障害児向け」ではなく「息子向け」のものを選ぶことだということでした。いくら「発達障害児向け」と銘打ってあっても、息子に合った環境整備がされているとは限りません。いくらそのアクティビティ自体が発達障害児の発達に良いとしても、息子は盛大なパニックを起こし、それが失敗体験になってしまいました。逆に、発達障害児対象のアクティビティでなかったとしても、息子に合った環境整備がきちんとできていれば、息子は楽しくこなすことができます。成功体験につながることもあるでしょう。「発達障害児向け」「発達障害児の発達に良い」というのは、あくまでも理論的な話です。脳回路の話などが出てくると、どうしても飛びついてしまうのが親心。でも、理論と実践は違うのです。適切な環境整備と子どもに「やりたい」という気持ちが少しでもあれば、それが一番「その子の発達に良い」ことなのだということを忘れてはいけないのだと思います。
2017年03月30日構音障害とは?出典 : 人は、下顎(したあご)・舌・唇・軟口蓋(なんこうがい)などを動かし、声の通る道の形を変えることで話しことばを生み出します。この、話しことばを生み出す過程を「構音」と言います。「構音」は、一般的には「発音」と呼ばれています。ことばの発達は、一定の決まった順序でおおむね進んでいきます。同様に、構音の発達にも順序性があり、年齢に応じた発達段階があります。以下、発音を獲得する年齢のおおまかな目安です。2~3歳代:ア・イ・ウ・エ・オ、タ・テ・ト、パ行、マ行、ヤ行、ン3~4歳代:カ行、ガ行、ナ行、チ、チャ行、ダ・デ・ド、ハ行、ワ4~6歳代:サ行、ザ行、ツ、バ行、ラ行出典 : 「構音障害」とは、同じ発達年齢の人が正しく発音できる音を習慣的に誤って発音している状態を指します。もちろん、幼い子どもたちはうまく発音できないことばがあります。周囲のお子さんと比べて多少不明瞭な発音があっても、身近な人とであればコミュニケーションを図ることができている場合「問題はない」と思われることもあるでしょう。ですが、その発音がうまくいかない背景に、発音に関わる器官や発達を支えるものに何らかの課題が隠れている可能性があります。また、成長するとともに、発音がうまくいかないことで地域や集団におけるコミュニケーションや学習に支障をきたしてしまったり、自信を無くしてしまったりすることがあります。発音の誤りや不明瞭さの原因は一人ひとり異なるため、背景を丁寧に探る必要があります。そして、適切なアドバイスや治療、指導を受けることで改善する可能性が広がります。そのため、早期に専門機関に相談し、専門家のサポートを受けることが大切になってくるのです。「構音障害」は発達障害や知的発達の遅れなどを合併している場合もありますが、本記事では合併の場合を除いた純粋な構音障害について述べていきます。構音障害の原因による分類出典 : 構音障害には、原因が特定できる場合と、そうでない場合があります。特に子どもの構音障害の場合、様々な要因が重なり合っていることが多くあります。◇器質性構音障害生まれつき、あるいは事故や病気など後天的な理由により、唇・舌・口蓋(こうがい)・顔面などの形に問題があり、うまく発音ができない場合をいいます。・口蓋裂・口唇裂・口唇口蓋裂先天性異常のひとつで、日本では500人~600人に1人の頻度で発現します。口蓋とは口腔内の上の部分、口唇とはくちびるをさします。乳幼児から就学時までの期間中に何度か手術を施し、同時にことばの指導を行うことで、現在では80%以上が正常構音を獲得できると言われています。・舌小帯(ぜっしょうたい)短縮症先天性異常のひとつで、口腔底から舌の下面へ走っている小帯(舌の裏側のスジ)が舌の先に近く付着していて、舌の動かしづらさがある状態です。保険適応で手術や訓練をすることができ、多くの場合、正常構音を確立できると言われています。出典:「口蓋裂・構音障害」日本聴能言語士協会講習会実行委員会(共同医書出版社)・その他の器質性構音障害器質性構音障害には、鼻咽腔閉鎖不全症や口腔腫瘍等による発語器官の切除後に生じるものなどもあります。◇運動性構音障害脳卒中や頭部外傷、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ジストニアなど、神経や筋に病変が生じることにより、話すことに必要な運動機能が障害される場合をいいます。構音障害だけではなく、声やリズム・速さ・アクセント・イントネーションの異常を併発することもあります。◇聴覚性構音障害聴覚の障害により、正しい構音を獲得することが難しい場合を、聴覚性構音障害という場合があります。器質性構音障害には、鼻咽腔閉鎖不全症や口腔腫瘍等による発語器官の切除後に生じるものなどもあります。参考:「口蓋裂・構音障害」日本聴能言語士協会講習会実行委員会(共同医書出版社)◇機能性構音障害構音にかかわる器官の形態、神経や筋、聴力に問題が見出されない、また、その他の疾患や障害が無いにもかかわらず構音に問題がある場合、機能性構音障害に分類されます。主に幼児期にみられます。自然治癒が望めない場合も、早期に指導・訓練を受けることで改善する可能性が広がります構音障害なのかな?と思ったら専門家に相談を出典 : 構音障害は、成長とともに自然に治る場合もありますが、気になる場合は園や学校の先生、子育て支援センターや児童発達支援センターなどの専門機関に相談してみましょう。言語聴覚士(ST)などの専門家に相談できる場合があります。また、言語聴覚士協会のホームページから言語聴覚士のいる施設を検索することができるので参考にしてください。参考:こども発達支援センター杉並区参考:(社)日本言語聴覚士協会ホームページ全国の施設検索医師などに、ことばの問題を相談することもできます。受診できる病院の科は以下の通りです。・小児科・耳鼻咽喉科・脳神経外科・神経内科・形成外科・リハビリテーション科・言語外来を設置している各科構音障害の原因は様々であり、医師や言語療法士などが相談や検査などを行い一人ひとりの背景を探り、それに応じた対処法がみつかることもあります。参考:国立特別支援教育総合研究所「子どものことばについて相談すると、一体どんなことを聞かれるんだろう」と不安に思う親御さんが多いと思います。気がかりなことやお子さんの様子をメモに書いておくなど、事前に準備しておくと良いかもしれません。ここでは例として、耳鼻科の言語外来で言語聴覚士が行う聞き取りや検査項目をあげます。1.生育歴などの聞き取りこれまでの育ちや現在の様子についてお聞きします。大きな病気やけがなどの有無、身体やことば・発音の発達はどのようであったか、現在のお喋りやコミュニケーションの様子、本人の自覚などと合わせて、親御さんが心配していること・気がかりなこともお聞きします。2.構音検査お子さんの構音の状態を捉えるために、検査を行います。3.その他の検査・聴力検査:聴力に問題はないか・構音にかかわる器官の形態や運動をみる検査:鼻・唇・舌・歯・顎・喉などの形や動きをみる・言語発達の検査:ことば・コミュニケーション発達の検査、発達検査や知能検査の言語性課題など上記のような、構音検査以外の検査も行われます。4.鑑別診断構音障害といえるのかどうか、また、他の疾患や障害(知的障害・ことばの遅れ・聴覚障害など)の有無を判断します。以上のような聞き取りや検査を行うことで背景や原因を探り、その後の対応を見極めます。参考:「新版構音検査」参考:「子どもの発音とことばのハンドブック」山崎祥子/著(芽ばえ社)構音障害かなと思ったら、アドバイスはどこでもらえるの?言語聴覚士とは?出典 : ことばや構音については、診断の有無にかかわらず、言語聴覚士(ST)と呼ばれる専門家からアドバイスや指導を受けることができます。言語聴覚士は、一人ひとりに合わせたやり方で、ことばや構音の育ちをサポートしてくれます。家庭での接し方や、本人の気持ちを尊重しながら楽しくできる練習方法へのアドバイスも期待できます。発達ナビの以下のリンクを参考になさってください。言語聴覚士がいる施設出典 : ◇公的機関のサービス・教育・療育施設子どもの場合、「ことばの教室」などと呼ばれる小学校などの通級指導教室や特別支援学級、特別支援学校、児童発達支援などの療育機関などで言語療法を受けられる場合もあります。園や学校に相談するか、自治体に問い合わせましょう。健診や就学前健診で個別に相談できる場合もあるようです。その後、面談や審査など、所定の手続きに従います。地域によっても制度が異なりますので、お住まいの自治体に問い合わせましょう。・医療機関主治医の指示により言語聴覚士のアドバイスや指導を受ける際、健康保険が適用される場合があります。医療機関に問い合わせてみましょう。・福祉施設施設・地域によって異なりますので、各施設や自治体の定める手続きをとります。大人の構音障害の場合、訪問リハビリテーションなど介護保険の適用になる場合もありますので、福祉窓口、ケースワーカーや民生委員に相談してもよいでしょう。◇民間の教室などことばに関する指導を行う民間の教室です。利用する場合は、施設に直接申し込みを行います。発音を育てるために家庭でできること出典 : 家庭での生活や遊びのなかで、お子さんの様子を観察し、楽しく練習する機会を作りましょう。◇構音器官をどのように使っているか構音に関わる器官は、ことばを話す以外にも使われています。例えば・息を吸う、吐く・息を吹きかける・口を開ける、閉じる・噛む・なめる・のみこむなどがあげられます。これらの様子を観察してみましょう。周囲のお子さんと比べてうまくいかない、力が入らない、あるいはどこかに力が入りすぎる場合は、その様子を記録しておくと良いでしょう。口を閉じる練習・いろいろなものを噛む練習・息を長く吹く練習などが有効な場合と、余計な力を取り除くためまずはリラクゼーションの練習が必要な場合とがあります。お子さんによって取り組むと良い動作が違うため、これまでの記録とともに専門家に相談し、アドバイスをもらいましょう。◇音への意識を高める、聴く力を育てる遊びを通じて、音に注目する力、音に耳を傾ける力を育てましょう。・しりとりしりとりは効果的なあそびです。ルールの理解が難しい場合は、絵や写真、ひらがなやマス目などを手がかりとして見せながら、無理ない範囲で一緒にやってみましょう。「さかな」「なす」「すいか」「からす」などの絵カードや文字カードを用意します。カードを指しながら「さかな」と言った後、「な・な・な…」と言いながら次に続くカードを探すのも良い方法です。・かるたかるたも、音への意識を高める遊びです。正しい札を選んだあとに、1文字ずつ指をさしながら一緒にゆっくりと文章を読んでみるのも良いかもしれません。・じゃんけんすごろくサイコロの代わりにじゃんけんを使ってすごろくをします。グーで勝ったなら「ぐ・り・こ」、チョキなら「ち・よ・こ・れ・い・と」、パーなら「ぱ・い・な・つ・ぷ・る」と言いながら1文字ずつ進みます。大きな紙にスタートとゴールを描き、その間をマス目でつないだすごろくを親子でするのも良いでしょう。階段を使って、勝った人が出した手に応じて1段ずつ進むゲームもあります。◇コミュニケーション手段の確保構音の獲得や改善に効果的な方法を探る一方で、「自分の思いを伝える」という機会を確保することも大切です。話しことばに限らず、表情や視線、ジェスチャーや指さし、写真や絵、文字や記号などあらゆる手段を使って伝えたい思いを相手に伝える経験を積み重ねることは、コミュニケーションの力を育むうえで不可欠です。まとめ出典 : 構音を獲得するまでには、様々なステップがあります。お子さんの構音の育ちにつまずきがあると感じられる場合、言語聴覚士など専門家にアドバイスや支援を得ることが近道といえます。周囲よりも構音の育ちが遅いと、親御さんもお子さんも焦りや苛立ちを感じるかもしれません。「それは違うでしょ!○○って言いなさい」と指摘し言い直させてしまうこともあるかもしれませんが、それだけでは喋ることそのものを嫌いにさせてしまう可能性があります。上手に発音することだけではなく、様々な人と関わりコミュニケーションすることが楽しいと感じられるような工夫も取り入れながら、成長を応援する姿勢も大切かもしれません。専門家と相談しながら、実践できる方法を探り、取り組んでみましょう。参考:「子どもの発音とことばのハンドブック」山崎祥子/著(芽ばえ社)参考:井出歯科医院
2017年03月24日ある晴れた日…娘が教えてくれたことUpload By SAKURAそう…晴れだって、当たり前じゃない!娘にこのことを教わった私は、晴れた日には太陽に感謝するようになりました。そんな娘に、感謝!Upload By SAKURA
2017年03月22日いつでもマイワールド全開の娘(5歳)、ある日の天気の話題でも…Upload By SAKURAUpload By SAKURAUpload By SAKURAUpload By SAKURAUpload By SAKURAま、眩しすぎる!!私は、こんな素敵なことを言う娘が大好きです(笑)
2017年03月08日クラインフェルター症候群って?出典 : クラインフェルター症候群は、性染色体の異常が原因で精巣の発育不全などを発症する、男性だけに見られる疾患です。1942年にクラインフェルター医師が発見したことから、名付けられました。クラインフェルター症候群の男性は、身長は高く、手足が長いという身体的特徴を持っているほか、言語障害をともなったり、成人になると無精子症となったりすることが特徴としてあげられます。デンマークのリトルベルト病院に勤めるボイスン医師は、クラインフェルター症候群の発症率などを調査したところ、500人~1,000人に1人の割合でクラインフェルター症候群が発症すると2003年に報告しています。日本でクラインフェルター症候群の患者は約62,000人いると推定されています。しかし、症状が軽く診断を受けていない人も多くいるとも考えられて、詳しい発症率はまだよく分かっていないようです。 A. et al. Prenatal and postnatal prevalence of Klinefelter syndrome: a national registry study.J Clin Endocrinol Metab. 2003 Feb;88(2):622-6.クラインフェルター症候群の症状は?出典 : 精巣が小さく硬いことは、クラインフェルター症候群で必ずみられる症状です。第二次性徴期に他の特徴が正常にみられるようになっても、精巣だけは未発達となるようです。精巣が未発達だと、精巣でつくられる男性ホルモンが欠乏してしまいます。そのため、身体的には以下のような特徴が多くみられるようになります。・高身長、特に長い脚・細い体・乳房が女性のように膨らむ・体毛が少ない・不妊症・筋肉や骨密度の減少このほか、乳がんと糖尿病になるリスクも通常に比べて高いことがわかっています。 M. et al. Klinefelter syndrome (KS): genetics, clinical phenotype and hypogonadism. Journal of Endocrinological Investigation.2017 Feb, 40(2), p123–134. R. Colledge, Brian R. Walker, Stuart H. Ralston/編、福井次矢/監訳『デビッドソン内科学原著第21版』(医歯薬出版株式会社、2014年)クラインフェルター症候群(KS)(平成21年度)|公益財団法人難病医学研究財団/難病情報センタークラインフェルター症候群は、先ほど説明したとおり性染色体の異常が原因で引き起こされるものです。人の性染色体はX染色体とY染色体の2種類があり、XYの組み合わせであれば男性が生まれ、XXの組み合わせでは女性が生まれます。しかし、クラインフェルター症候群の男性では、この組み合わせがXXYやXXXYなど、X染色体の数がひとつ以上多くなっています。この性染色体のXの数は、認知機能の発達や言語に影響を与えていると考えられています。そのため、上記のような身体的特徴のほかにも、精神的な症状もみられます。クラインフェルター症候群でいちばん多くみられる合併症は、言語障害です。オランダのユトレヒト大学病院のBruining医師が、アメリカ精神医学会の『DSM-4』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第4版)での診断基準を用いて、6歳~9歳までのクラインフェルター症候群の男の子51人を調査したところ、65%の患児が言語障害を合併していることを報告しています。とくに、言葉を上手に表現することに困難がともなう言葉のおくれが多いとされており、理解はできているのに気持ちを表現できないためにフラストレーションがたまる原因ともなっています。また、クラインフェルター症候群の人はストレスのかかる環境に、非常に繊細であるともいわれています。したがって、うまく表現できずにいる状況で、ストレスの強い環境に置かれる場合などでは、怒りを衝動的に爆発させたり、気分をコントロールできないことにもつながっていると考えられています。 H. et al. Psychiatric Characteristics in a Self-Selected Sample of Boys With Klinefelter Syndrome. Pediatrics. May 2009, 123(5)クラインフェルター症候群は、精神障害や発達障害がある人も多いことで知られています。スウェーデンで、クラインフェルター症候群の患者860人を調査したところ、クラインフェルター症候群の場合にそうでない場合と比べて、統合失調症と双極性障害の発症リスクが約4倍、自閉症スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害とADHDの発症リスクは約6倍高いことが報告されました。öf, M. et al. Klinefelter syndrome and risk of psychosis, autism and ADHD.Journal of Psychiatric Research. 2014;48. p128-130.また、先ほどのBruining医師が、クラインフェルター症候群の子ども51人を調査したところ、ADHDである割合は63%、自閉症スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害は27%、精神病性障害は12%(特定不能の精神病性障害8%、統合失調感情障害2%、統合失調症2%)であったことを明らかにしています。 H. et al. Psychiatric Characteristics in a Self-Selected Sample of Boys With Klinefelter Syndrome. Pediatrics. May 2009, 123(5)知的能力にも染色体のX数が関係しているといわれています。クラインフェルター症候群の患者を個別に診断して得られている結果からは、性染色体のXがひとつ増えるごとにIQが15~16低下するのではないかと推測されています。ただ、クラインフェルター症候群だからといって、必ずしも知的能力が低いというわけではありません。 C. et al. Sex Chromosome Tetrasomy and Pentasomy. Pediatrics October 1995, 96(4) M. et al. Klinefelter syndrome (KS): genetics, clinical phenotype and hypogonadism. Journal of Endocrinological Investigation.2017 Feb, 40(2), p123–134. R. Colledge, Brian R. Walker, Stuart H. Ralston/編、福井次矢/監訳『デビッドソン内科学原著第21版』(医歯薬出版株式会社、2014年) Greenwood、Kent Pryor、Richard Allan/著、後藤太一郎 /翻訳『ワークブックで学ぶ生物学の基礎第2版』(オーム社、2011年)クラインフェルター症候群の原因は?出典 : 人間の性別は、性染色体によって決定されます。性染色体はX染色体とY染色体の2種類があり、XとYの組み合わせで性別が決まるのです。卵子のもととなる卵母細胞はXX染色体をもっています。一方、精子のもととなる精祖細胞はXY染色体をもっていてどちらも「減数分裂」を行います。この減数分裂によって、女性はX染色体のみをもつ卵子を、男性はX染色体をもつ精子と、Y染色体をもつ精子の2種類がつくられるのです。Y染色体をもつ精子と卵子が受精するとXY染色体の組み合わせで男性が生まれ、X染色体をもつ精子と卵子が受精するとXX染色体となり女性が生まれます。しかし、クラインフェルター症候群の男性では、何らかの原因で減数分裂がうまくいかず、性染色体がXXYやXXXYなど、X染色体が通常よりひとつ以上多くなってしまっています。Upload By 発達障害のキホンなぜ性染色体の異常が起きてしまうのか、詳しい原因はまだ分かっていませんが、妊娠年齢はクラインフェルター症候群を発症するリスクのひとつに考えられています。デンマークで妊婦の年齢でクラインフェルター症候群の発症を比べた調査では、40歳以上の妊婦では24歳以下の妊婦と比べて、クラインフェルター症候群の子どもは4倍多かったことを報告しています。 A. et al. Prenatal and postnatal prevalence of Klinefelter syndrome: a national registry study.J Clin Endocrinol Metab. 2003 Feb;88(2):622-6.クラインフェルター症候群の診断・検査出典 : クラインフェルター症候群であるかどうかは、染色体検査をすることで診断を確定します。クラインフェルター症候群を発症していると、第二次性徴以降に男性ホルモンの欠乏が原因で筋肉や骨密度の低下が進んでしまいます。その結果、将来骨粗しょう症になってしまう可能性もあるため、早期発見が重要とされています。しかし、第二次性徴以前には症状が現れにくいことから幼少時に診断することは難しいようです。実際にデンマークの調査では、第二次性徴以前にクラインフェルター症候群と診断されるのは10%未満にとどまるとされています。ただ、第二次性徴以前にも精巣が小さくて硬い症状にくわえて、長い手足や言葉のおくれなどもあることがきっかけとなって診断されることもあるようです。もしこのような症状がある場合には、医療機関を受診してみましょう。他にも、口蓋裂、ヘルニアなどの先天性の異常が認められた場合にも、詳しい検査が行われます。 A. et al. Prenatal and postnatal prevalence of Klinefelter syndrome: a national registry study.J Clin Endocrinol Metab. 2003 Feb;88(2):622-6. M. et al. Klinefelter syndrome (KS): genetics, clinical phenotype and hypogonadism. Journal of Endocrinological Investigation.2017 Feb, 40(2), p123–134.クラインフェルター症候群は、染色体異常が原因で発症することから出生前診断が可能となっています。同じように染色体異常が原因で発症するダウン症の解説記事に、出生前診断について詳しい説明がありますので、参考にしてみてください。参考リンク:出生前診断|順天堂大学医学部付属浦安病院産婦人科第二次性徴以前の場合であれば、まずはかかりつけの小児科で相談することをおすすめします。第二次性徴以降の場合には、内分泌を専門とした内分泌内科、内分泌代謝内科などで受診するとよいでしょう。また、出生前診断でクラインフェルター症候群と診断された場合には、産婦人科にまずは相談をしてみましょう。そのほか、遺伝診療科などで遺伝カウンセリングも含めて相談することが可能です。なお、一般に遺伝診療科は大学病院など紹介状が必要な医療機関にあることが多いことから、まずはかかりつけの医療機関で相談してみてください。クラインフェルター症候群の治療出典 : クラインフェルター症候群の原因である性染色体を治す治療はありません。そこで、対症療法として、減少している男性ホルモンを補って筋肉や骨密度を正常範囲に戻す治療が行われます。テストステロンと呼ばれる、男性ホルモンのひとつを注射するテストステロン補充療法が一般的に行われています。言語障害を合併している場合には、言語療法が行われます。言葉のおくれが分かった段階で、言語療法士などの専門家とともに早期に療育を開始すると、言葉のおくれに大きな改善がみられることがわかっています。言語療法や言葉のおくれについては、発達ナビの記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考になさってください。 M. et al. Klinefelter syndrome (KS): genetics, clinical phenotype and hypogonadism. Journal of Endocrinological Investigation.2017 Feb, 40(2), p123–134.ADHDや自閉症スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害を合併している場合には、その子どもにあった療育や環境の整備を進めることが重要です。クラインフェルター症候群の人は、ストレス環境にも繊細であることを考慮し、専門家に助けてもらいながら本人の困りごとをできるだけ少なくするような環境を整えていきましょう。不妊症を治す根本的な治療は現在のところないとされていますが、妊娠を希望される方は医療機関にて相談してください。クラインフェルター症候群(KS)(平成21年度)|公益財団法人難病医学研究財団/難病情報センター受けられる支援制度出典 : クラインフェルター症候群は指定難病ではあるものの、難病医療費助成制度の対象ではありません。残念ながら難病医療費助成は受けられませんが、治療費がかさんだ場合には高額療養費制度などを活用することができます。そのほかにも、あらわれた症状によっては療育手帳の取得など受けられる支援がありますので、記事を参考にしてみてください。高額の医療費を支払った場合には、払い戻しを受けることができます。療育センターでは子育てについての相談ができるほか、必要が認められれば、低い自己負担額で児童発達支援を受けることができます。療育手帳は知的障害のある人が受けられる障害者手帳です。取得によって様々なサービスが受けられたり、支援を受ける際の手続きがスムーズになったりします。体外受精及び顕微授精といった不妊治療に対してかかった費用も助成が行われています。治療内容や女性の年齢によっても助成内容が変わるので、以下のリンクを参考にして下さい。参考:不妊に悩む方への特定治療支援事業|厚生労働省まとめ出典 : 男性だけにみられる、クラインフェルター症候群についてご紹介しました。第二次性徴以前には発見しづらいといわれていますが、すべての年代にある症状は、小さくて硬い精巣です。長い手足や言葉のおくれもあるような場合には、医療機関に相談してみてください。
2017年02月28日知的障害者向けの療育手帳、発達障害の私は取得できないの?出典 : 現在、発達障害者のためだけの独自の手帳制度はありません。発達障害者のための法律は、2005年にやっと「発達障害者支援法」が施行されました。ですが手帳制度は定められていません。そのため、知的障害者に発行される療育手帳か、精神障害者保健福祉手帳がその代わりになっているというのが実情です。少し、療育手帳と精神障害者保健福祉手帳の制度について調べてみました。療育手帳は、1960年に施行された「知的障害者福祉法」には記述がなかったのです。1973年9月に当時の厚生省が出した通知「療育手帳制度について」に基づいて、各都道府県知事(政令指定都市の長)が知的障害と判定した人に発行するようになりました。それ以前にも独自に療育手帳を発行していた自治体もあったそうですが、1973年までは国の法律に基づいた制度ではなかったのですね。精神障害者保健福祉手帳は、1995年(平成7年)に改正された精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)に基づいて、各都道府県知事(政令指定都市の長)が発行しています。私は、「発達障害で、実際にかなり生活や仕事で困難を感じているのになぜ療育手帳を取ることができないのか?」という疑問を抱いていました。療育手帳では受けられても、精神障害者保健福祉手帳では受けられないサービスもありますし(特に交通関係のサービスは療育手帳の方が手厚いです)。そして「それなら実際に取得のチャレンジをしてみよう」と決心したのです。大人になってから療育手帳を取るには、どんな手続きが必要?出典 : 大人になってから療育手帳を取るためには、まず市役所等の障害福祉課に申し込む必要があります。申し込んでからしばらくして日時を指定されて、市役所の職員から成育歴や現在の生活の状況などの聞き取りが 約1時間ありました。そして、「取れてB2(一番軽度)ですね。また都道府県の指定機関で検査を受けてもらうので、日時が決まったら連絡します」と言われました。役所での聞き取りから約1カ月後、都道府県の指定機関から連絡がありました。そのときに「子どもの頃のことを聞かせてほしいのでご両親に同行してもらってください」と言われました。父はもう亡くなっているので母にお願いしました。けっこうな歳なので申し訳なかったですが。しかも「そんな昔のこと覚えてない」って言われますし。けっこう不安な気持ちになりました。ちなみに親が高齢で足を運べない場合は、電話での聞き取りになるそうです。親がいない場合はどうなるんでしょうね…?検査を受けた結果は、手帳の取得は…出典 : 検査の流れは、午前中に2時間かけて私はWAIS-Ⅲを受け、その間に母は別の部屋でチェックシートに回答し、それを心理士さんが見ながら追加で質問をいろいろと受けるというものでした。WAIS-Ⅲは途中で休憩をはさみながらも2時間少々で終わりました。心理士さんはとても手慣れていて、検査のベテランという印象でしたね。お昼過ぎに母と合流し、20分間待って母と私を担当した心理士さんたちによる結果の見通しと所見の説明がありました。結果から言うと、「療育手帳の支給はできません」でした。理由はわたしのIQが100を超えていたこと、成育歴に特に問題もなく、大学に進学したことがトドメになったようです。療育手帳の審査ではふたつのことを見るそうです。1.検査でIQを計る2.成育歴で、18歳までに知的障害の状態であったかどうかどちらでもダメだったわけですね。心理士さんにズバリと聞いてみました。「私みたいな知的に問題のない発達障害の人が検査に来ることってよくあるんですか?」すると「はい、けっこう多いケースです。やはり手帳を取っていただくことはできませんが」と答えてくれました。この日も何組もの親子が検査を受けに来ていました。検査を受けに来る人はとても多く、忙しい状態が続いているそうです。WAIS-Ⅲの所見も簡単ではありましたが、説明してくれました。もう少し詳しい所見がきけるのかと思っていましたが、分析する時間もほとんどなかったでしょうし仕方がないのかなと感じました。最後に、精神障害者保健福祉手帳で受けられるサービスについての案内がありました。発達障害に関する啓発パンフレットも、親子に1セットずつくれました。WAIS-Ⅲの結果レポートは、頼めば切手代だけで自宅まで郵送してもらえました。私は医師に提出するためにお願いしました。判定基準は都道府県によって異なります出典 : 療育手帳の判定基準は都道府県によってかなり異なります。甥が発達障がいのため、療育手帳の交付申請をしたが、知能指数が基準の75より1高い76であるという理由で却下された。社会生活に適応できないのに、手帳が交付されないことに納得できない。知能指数が高い発達障がい者も療育手帳の交付を受けられるようにしてほしい。私が住む県では、知能指数が高い自閉症などの発達障がい者には、交付基準に該当しないとして交付されないが、他の県や政令市では交付されている例があると聞いた。療育手帳の交付に当たっては、全国の発達障がい者が平等に手帳の交付が受けられるよう、交付基準を統一してほしい。どこに住んでいるのかによって、判定基準が大きく異なるというのは制度として大きな問題があると思いました。必要な人が手帳を取れる世の中に出典 : 今回の経験で感じたのは、「発達障害の生きづらさはIQで測れるものではないのに、どうして『実生活でどれだけ困難を感じているか』ということを考慮してくれないのだろう」というむなしさでした。そして、療育手帳の基準の地域差が公的文書で問題になっているのに、事務的に振り分けられることの理不尽さを感じました。大人の発達障害は今までほとんど理解されることはありませんでした。少しずつ社会も変わろうとはしていますが、現実としては「努力してもできない」「なまけているのではない」ということも理解されず、SOSを出したくてもうまく福祉につながれない人が多いと思うのです。発達障害が社会的に認知されるためにも、そして発達障害のために生きづらい人が顔をあげてイキイキと生きていくためにも、手帳を必要とする人には公正にスムーズに手帳が手に入る世の中になってほしいと思います。そして、発達障害者のための手帳ができることを心より願っています。
2017年02月24日発達障害があると「生きづらい」?出典 : 歳の発達障害の息子を育てていると、ごく当たり前のように「この子が生きづらくないように」と考えている自分がいます。「生きづらさ」という言葉は、発達障害児を育てていると頻繁に見聞きするものではないでしょうか。大人になっても「生きづらさ」を感じている人は沢山います。発達障害でなくても「生きづらさ」を感じている人は沢山います。でもやはり、発達障害の息子を見ていると、私はいつも「この子は生きづらいだろう」と感じてしまうのです。そして、「どうやったらこの子の生きづらさが取り除けるだろう」とそればかり考えています。では一体、発達障害児の「生きづらさ」って何なのでしょうか。発達障害特有の困難さは、支援で克服できることも増えてきた出典 : 息子には発達障害児特有の様々な困難があります。言葉の使い方が変わっているのでお友達に不思議がられたり、お友達の輪に入るのが好きではなかったり、聴覚や触覚が過敏だったり、運動が苦手だったり、手が不器用だったり…。これらの困難のために、息子は集団の中で様々な苦労をしているようですが、それは息子が自己肯定感を落とす直接的な原因になっていないようなのです。今は、支援方法がかなり確立されています。運動が苦手だったり、手先が不器用だったりしても、先生方や私たち親の工夫次第で結構頑張れてしまうようです。例えば息子は運動会で足が遅いことをずっと気に病んでいましたが、今は発達障害児専門のスポーツ支援の本などが結構出ています。先生方はそれに基づいて、息子に走り方の指導をしてくださいました。おかげで、運動が苦手なことで息子がひどく落ち込むようなことはありません。また、気にして見ていると、発達障害児向けの学習支援グッズなども沢山発売されています。私はそのようなグッズを探して購入したり、自分で作ってみたりしました。ですから、息子が手先の不器用さでひどく生きづらさを感じているようなことはありませんでした。また、私も幼稚園の先生も決して息子に友達の輪に入ることを強制しませんでした。周りが「この子はこういう子だ」と淡々としていれば、本人はそれほど気に病まないのです。運動や手先の不器用さなどについては支援で克服できることは結構多く、それが即息子の「生きづらさ」に繋がるわけではないように思いました。では何が「生きづらさ」につながっているのだろう。私が息子を見ていて気付いたこと出典 : けれども、どんなに支援をして息子の困難を取り除いても、私はやっぱり「この子は生きづらいだろうなあ」と感じてしまう瞬間があるのです。それは何かといえば、息子の「認知のズレ」です。例えば、息子とのやり取りで以下のようなことが毎日のように起こります。・誰かが息子の言ったことが可愛くて笑った。→「僕のことをバカにして笑っただろう」と激怒orパニック。・何かについて「ダメだよ」と注意された。→ 「この人は僕を嫌っている」と激怒。・何かの問題が難しくて解くことができなかった。→「僕はどうしようもないバカなんだ」と落ち込んで立ち直れない。・先生に「これはいけないよ」と注意される→「僕はいつも先生に叱られているダメな奴だ」と思う。・誰かが息子をからかう。→「みんなが自分を嫌っている」と落ち込む。このように、息子には認知のズレがあり、物事を過度に一般化したり、そうかと思えば突然自責の念にかられたりするところがあります。また、物事を白黒極端に捉える傾向もあり、「え?どうしてそんな風に考えちゃうの??」ということが頻繁にあります。その思考を助長するのが、相手に否定語で何か言われたり、ちょっと笑われたりということなのです。「認知のズレ」は支援することが難しい。私が息子に接するときに心がけていること出典 : 息子の生きづらさの根本的な原因について考えたとき、この「認知のズレ」が大きいのではないかと思うのです。そして、こういった認知のズレは、支援することがとても難しいです。手の不器用さや学習上の困難などは、支援グッズを使いながらなんとか解決の糸口を見つけ出すことができました。けれども、「認知のズレ」だけは、長い時間かけて手探りで修正していくしかないのです。支援グッズを使うでもなく、支援方法が確立しているでもない。私たち親ができることは、ただただ失敗したり落ち込んだりしている子どもに辛抱強く語りかけていくことだけです。だからこそ、認知のズレは親にとっても子ども本人にとっても「生きづらさ」へとつながっていくのかもしれません。けれども、だからこそ、発達障害の子には、なるべく大きな失敗をしないように環境調整をすることに意味があるのだと思います。私は息子の生きづらさを知ったうえで、人間関係や学習などで大きな失敗をさせない、挫折をさせない、本人が乗り越えられるハードルをうまく設定しながら成功体験を増やすことに集中しています。なかには、それは過保護だという人もいます。けれども、認知にズレがあるからこそ、ひとたび大きな挫折でボッキリと折れてしまうと、それを立て直すのに大変な労力がいるのです。また息子の場合、大きな失敗をすることで、他者への不要な憎しみや恨みが長いこと心に残ります。大きな失敗や挫折の体験は、発達障害の子どもの生きる糧にはなりづらいと私は思います。私は失敗を乗り越えさせることに力を振り絞ることよりも、成功体験を積ませることに力を使っていきたいです。発達障害の子どもにとって、小さな成功体験の積み重ねが心の体力になっていきます。心の体力があれば、多少の認知のズレがあっても、自分で態勢を立て直すことができるはずです。認知のズレそのものを修正するために躍起になるよりも、小さな成功体験を増やしていくことに重点を置いていくほうが、親も前向きに取り組むことができるのではないでしょうか。生きづらさは、心の体力で克服できるものだと私は信じています。
2017年02月23日こんにちは、親子でADHD(注意欠陥・多動性障害)をやっています、ママライターの木村華子です。息子の発達障害を疑ったのは、小学校へ入学してすぐのこと。夏休み前に行われた担任と保護者の二者面談で、私は息子の発達障害を疑っていること、 そして受けることのできる支援や相談窓口があれば教えてほしい旨を伝えました。ところが担任の口から発せられたのは、「発達障害だなんて!お母さん、そんなに思いつめなくても大丈夫ですよ」という慰め(?)の言葉。結局その後一年間、何のアプローチもないまま息子の不得意は放置 されてしまいました。当時の私は、「どんな支援があるのか分からない」「どこに相談すれば良いのか分からない」「そういう機関を利用する際には、学校を介さなければいけない気がする」などの疑問や思い込みから、「担任が気付いてくれなければ何もできない……」と動き出せずにいたのです。今考えると、その時点で親としてしてあげられることがあったのだと分かります。今回は、早期療育の大切さと、発達障害の相談窓口についてをお話しします。「うちの子もしかして……」と思い始めたパパ・ママへ、いち早くお子様へのアクションを起こすヒントにお役立てください。●早期療育の大切さ〜放置は二次障害の原因に!〜2年生になったばかりのころ、新しい担任から療育センターへ行くことを勧められ、ようやく息子への支援が行われるようになりました。発達障害を受け入れ支援に踏み切ることは、多くの親にとって勇気のいる決断ですが、息子の凹凸を考慮したアドバイスや指導により、私たち親子がこれまでの育児で乗り越えられなかった課題や問題が日々改善されていく様子 には、「もっと早く相談すれば良かった!」と思わせるだけのメリットがありました。と同時に、カウンセリング・検査・相談等の過程で相談員の方や支援学級の先生から何度も聞かされた「早期療育が大切」という言葉に、親としての反省と後悔も感じています。発達障害を放置し、適切な対応をせず過ごしていると、・できないことを友人になじられたり・先生や両親から怒られたり・いくら頑張っても成功しなかったり……という失敗経験を重ねて自己評価が低くなり、高い確率で別の障害(不安障害やうつ病、統合失調症など)を引き起こす原因になってしまう のだそうです。これを“二次障害”と言い、思春期の引きこもりや不登校、家庭内暴力、犯罪行為などにもつながると言われています。カウンセリングで「“もう手遅れ”ということはないけれど、療育をはじめるのは早いに越したことはありませんよ」というアドバイスを受け、私は子どもが1年生の段階で気が付いていたのに……と少し後悔しました。きっと、担任の動きを待つあいだにできることがあったはずです。発達障害の特性でつらい思いをするのは本人。二次障害を予防するためにも、ぜひ「うちの子もしかして……」と気が付いた段階で適切なアクションを起こしてあげたいものですね。●「うちの子もしかして……」と感じたときに相談できる窓口4つ「発達障害の支援を受けるには学校との連携が不可欠なのだから、相談も学校を介さなければいけない気がする……」と、特に行動をしないまま息子の1年生を過ごしてしまった私。しかし後になって、ダイレクトに相談できる機関がいくつも存在していることを知りました。もちろん、普段の様子を知っている学校や幼稚園、保育園の担任に相談することも大切です。しかし、私のように不安がうまく伝わらなかった場合や、「どこに相談すべきか……」とお悩みであれば、ぜひ以下の窓口で支援や相談の第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。●(1)発達障害者支援センター発達障害を持つ大人や子どもへの支援を総合的に行う専門機関。“発達障害”と名が付いていますが、「まだ診断されたわけじゃないんだけど……」という方でも相談や支援を受けることができます。●(2)児童相談所虐待児保護の印象が強い児童相談所ですが、業務には“児童に関するさまざまな問題について、家庭や学校などからの相談に応じる”という項目があり、0〜17歳の児童 を対象に発達障害の心身障害相談も行われています。●(3)市町村保険センター地域の母子保健・老人保健の拠点を担う施設。未就学児や小学生だけでなく、高校生や大人の発達障害にまつわる相談 も行われています。相談は予約制となるケースが多いので、利用の際は前もって問い合わせを。●(4)子育支援センター乳幼児(0歳〜就学前)のいる親子の交流や育児相談、情報提供などを行う子育支援センターでは、教育不安などの相談・指導を受けることもできます。発達障害児のサークル活動が行われているケースも。●早期発見で、二次障害を食い止めて!お子様の様子を誰よりも見ているパパ・ママが感じる「もしかして……」には、わが子からのSOSが隠れているのかもしれません。もしそうなら、一刻も早く最適な対応を施してあげたいものですよね。お子様を取り巻く環境をより良いものにするためには、周囲の大人が動きだすこと が必須です。ぜひ早期発見・早期養育をして、二次障害の予防につなげてあげてください。【参考リンク】・相談窓口の情報 | 発達障害情報・支援センター()・平成28年度全国児童相談所一覧 | 厚生労働省()●ライター/木村華子(ママライター)
2017年02月22日・ 【第1回】発達障害の子育てに「療育」よりも大切なこと ・ 【第2回】発達障害の子どもが、充実した人生を送るために必要なこと ・ 【第3回】発達障害の子育てを「辛い、苦しい」と感じたら のつづきです。「発達障害」をもっと理解するために必要なことを、『療育なんかいらない!』の著者であり、独自の理論で放課後デイサービスを展開する「アイム」の佐藤典雅さんにインタビュー。今回は、「発達障害の子育てを楽しむコツ」についてお話を伺った。佐藤典雅(さとう・のりまさ)さん川崎市で発達障害の子どもをサポートする放課後デイサービス「アインシュタイン放課後」「エジソン放課後」を運営している、(株)アイムの代表。自身の自閉症の息子さんの療育のために、息子さんが4歳の時に渡米して、ロサンゼルスで9年間過ごす。前職は、ヤフー・ジャパンのマーケティング、東京ガールズコレクションとキットソンのプロデューサーという異色の経歴の持ち主。福祉という範囲を超えた目線で、自身の息子さんの成長を見守りながら、発達障害児が社会で幸せに生きるための道を広げる挑戦をしている。著書: 『療育なんかいらない!』 (佐藤典雅・著/小学館 ¥1,296 税込)※放課後デイサービス(= 放課後デイ):6~18歳までの障害のある子どもが放課後や学校休業日に利用できる、就学時向けの福祉サービスのこと。■子どもの障害は親のせいではありません―― この連載もいよいよ最終回。いろいろ伺ってきましたが、ずばり、佐藤さんが思う発達障害の子育てを楽しむコツって何でしょうか?佐藤典雅さん(以下、佐藤さん): まず、親自身がハッピーであること、充実した楽しい人生を送ることです。人が他人を幸せにするのは無理。幸せって自分が作り出す状態だから。状態である以上、自分で作り出すしかないんですよ。―― 子どもの障害に対して、親は自分の人生すべてを捧げるべきという風潮がありますよね。そういう中、親は自分のことを優先しにくいのかもしれませんね。佐藤さん: でも、親が療育に必死になって、「子どもには充実した人生を送ってほしい」ってボロボロな状態になっていたら、それを見た子どもがうれしいわけがないよね? こんなの、子どもにとっては重荷でしかない。―― 自分を犠牲にしてまでがんばってしまうのは、もしかしたらお母さんは「自分に責任があったのでは?」と感じてしまうからかもしれません。「妊娠中に無理したのが良くなかったのかな?」とか「早くから預けて働いたのがいけなかったのかな?」とか、いろいろ考えて自分を責めてしまうのかもしれません(※)。※もちろん発達障害の原因にそんな根拠はありません。佐藤さん: 子どもの障害は親のせいではありませんよ。僕は、それぞれの人にはそれぞれの生まれ持った宿命と人生があるのだと思っています。そして、その子どもが自分の人生の使命をまっとうできるようにサポートするのが親の役割。後は、親自身が自分の人生を楽しむのが、親の仕事だと思っています。―― 障害者の親って他の保護者より制限があるように思えるのですが、人生を楽しむことってできるのでしょうか?佐藤さん: 大切なのは、子どもに障害があろうがなかろうが、いかに、自分が今の状態を楽しめるか? なんですよ。お母さんが自分の人生を謳歌していれば、子どももその姿を見ていて楽しくなるでしょう。もちろん、普通の子育てより大変なことは多いですよ。でも、地獄で幸せになれない人は、天国にいっても絶対幸せになれませんから!―― どういう意味でしょうか?佐藤さん: 地獄で「暑い、暑い」って言ってる人は、天国に行けったら、絶対「暇だ~、なんかつまんない~」とか言い出すから。―― おもしろい考えですね(笑)。また、お母さんが生き生きとするためには、お父さんの存在も欠かせませんよね?佐藤さん: もちろんです。でも、残念ながら、うちの放課後デイに親子が面談にやってくる時、夫婦そろって来られるのは一割以下。平日の昼間、お父さんは仕事だから仕方がないにしても、お母さんの話からお父さんの存在が見えない家庭が多いのです。―― 療育センターなんかでも、付き添いはお母さんばっかりですものね。佐藤さん: 父親がちゃんと関わってくれないと、母親のストレスは2倍になります。日々の小さいことまでフォローする必要はないのかもしれないけど、重要なことには決断を下し、時々、お母さんの頭の中を整理してあげてほしいと思います。それに、話を聞いていると、お父さんの意見は結構合理的で的を得ているんですよ。なので、お母さんたちも、もう少し素直にお父さんの意見を聞いてあげてほしいと思います。■先輩お母さんとつながろう。人脈をどんどん広げよう―― 旦那が一緒になって考えてくれる、それだけでお母さんは十分心強いと思います。あと、私が心強かったのは、同じ悩みを持つお母さん仲間とのつながりです。佐藤さん: ただ、療育センターでは同じ年頃の子どもを持つ親同士でしか接点がないよね? 特に、就学前は一番不安な時期だし、子どもの先の姿が想像できない。だから、同世代だけで集まると不安を交換しあって、不安だけが増幅してしまうという難点もあります。―― 確かに。いつも同じメンバーで、ぐるぐると同じ話になってしまいがちなところもありましたね。佐藤さん: 一番有効なのは、発達障害をもつ未就学児のお母さんは、同じ発達障害を持つ中学生の親から話を聞くこと。すでにいろいろ経験してきたお母さんたちは、いろいろな情報を持っているので役立つアドバイスをくれます。わが子の将来のイメージもつかみやすいので、お母さんもあんまりパニックにならないですむ。違う世代とつながりを持つことをおすすめします。―― でも、なかなか違う世代とつながる機会がないのですが……。佐藤さん: うちの放課後デイに遊びにいらっしゃい! いろんな先輩お母さんがいるから。みんな仲が良くて、よくバーベキューやクリスマスパーティーしたり、頻繁に交流会をしていますよ!ただ、おもしろいんだけど、うちのお母さんたちが集まっても、みんな誰も子どもの話をしないんですよ。子どもそっちのけで、爆笑トークで盛り上がってるの(笑)。でも、これこそが健全な姿だと思うわけ。―― みなさん、佐藤さん同様、笑い飛ばす力を持っているんですね!佐藤さん: 発達障害の子育てをする親は、特に、開かれた視点で物事をみつめなおす必要があります。療育に通うのに夢中になっていると、気づいたら、接するのは療育センターの先生か学校の先生かママ友だけになってしまいますよ。意識的に努力して、開かれたマインドをもっておかないと。―― 人脈もどんどん広げるべきなんですね。佐藤さん: 例えば、子どもが興味のある業種に人脈を作って、その企業にインターンできるようにするとか、どうでしょう? うちの長女は将来ゲームクリエイターになりたいと言っているので、僕はプロが使うAdobeのフォトショップを覚えさせたり、夏休みは友達の会社でインターンさせたりしています。もちろん、中学生だからたいしたことはできないんだけど、興味ある業界で普段接することのない大人と過ごすことができるのは刺激的でしょう。それができたのは、僕に人脈があったから。―― なるほど! 子どもの興味があることにつながる人脈力か……。佐藤さん: 世の中にはいろんな人います。いろんな人と会って話して、どんどん外の世界に出て行ってほしい。自分の親とか同じ学校とか、同じマンションとか、同じ世帯年収とか、そういう狭い世界だけでみて、こうあるべきだと決めつけないでほしい。臨機応変に考えられるように、いろいろな情報収集をしてほしいと思います。 ■運命を受け入れることも、大切―― ところで、ここの子どもたちはとても自由に寛いでいますね(取材中の様子を見ながら)。図鑑に没頭している子もいれば、ボール遊びをしている子もいるし、寝ている子もいれば、カラオケで熱唱している子もいる(笑)。佐藤さん: 僕は、自分の放課後デイを「川崎のNASA」と呼んでいます。なぜなら、発達障害の子は宇宙人みたいなものだから。僕の役割は地球側の外交官みたいなもので、彼らの地球滞在が充実したものとなるように努めること。そして、いつか彼らが宇宙船に乗って地上に降りてきた時に、「あの時はありがとう」と言ってくれればいいな、と妄想しています(笑)。―― その妄想、素敵です(笑)。佐藤さん: 発達障害はガンダムのニュータイプみたいなもんで、既成概念の外にいる子どもたちなのだから、親の方も子どもに常識を求めるのはナンセンス。期待すればするほどドツボにはまるだけ。そしてもっというと、親自身も「こうあるべき」「こう育つべき」っていう規制概念の呪縛から出る必要があります。―― そう考えると、発達障害の子どもたちは、親に、子育てで忘れがちな、とても大切なことを教えてくれているのかもしれませんね……。佐藤さん: ちょっと話それるけど、みんなよく「結婚して幸せになりたい」とか言うじゃない? でも、結婚したって離婚する人もいるし、結婚は幸せを保証するものじゃない。「結婚すれば老後がさみしくない」っていう人もいるけど、うちのお祖母ちゃんはお祖父ちゃんが早く死んじゃったから、30年間ひとりだったわけ。結婚はさみしくない老後も保証しない。つまり、人生は何が起こるかわからない。だから、一生懸命人生の方程式を作ったって無駄なんですよ。―― では、どこを目指したらいいのでしょうか?佐藤さん: 死ぬときに本人が充実した人生だったと納得して死ねるか、そこしかないと思うんです。だから、子どもに障害があっても、お母さんは自分の人生を思いっきり生きるべきなんですよ! ―― 「やりたいことがあったなら、とりあえずやっておけ!」と?佐藤さん:そう。そして、運命というのか宿命というのかわからないけど、ある程度、受け入れることも重要だと思っています。自分にそういうカードがまわってきたということは、巡り合わせだと。―― 佐藤さんがまったくの異業種から福祉の世界に入ったのも、運命なのですね。佐藤さん: 福祉が大嫌いだった僕が、今福祉の世界で仕事をしているのも、きっと何か理由があるから(笑)。だとしたら、グダグダ文句言ってないでしっかりやりきろう、と。今目の前のことをやりきらないと、次のステージは見えてきません。それに、僕は一生福祉の世界で生きていくつもりはないので、せめて「他の福祉施設よりも結果を出してから辞めてやる!」と思っています(笑)。長時間にわたり、自身の熱い思いをしゃべり倒してくれた、佐藤さん。時に、厳しい指摘もあったが、ユーモアたっぷりの話しぶりで、発達障害の子育ての凝り固まった偏見や閉塞感を気持ちよくブチ壊し、勇気を与えてくれた。そして、著者は何より、佐藤さんのポジティブな姿勢と、常に息子さんの幸せな人生を考え、全力で取り組んでいる行動力に深い感銘を受けた。「この子なりの楽しい生き方ってなんだろう?」「この子が充実した人生を送るために、親として何ができるだろうか?」発達障害の子育てで、本当に親が悩むべきところは、そこにあるはずだ(もちろん、普通の子育てだって変わらない)。そして、大切なことは「子育てを楽しむ」ということを、常に忘れないでいたい。取材・文・撮影/まちとこ出版社 【大変だけど、不幸じゃない。発達障害の豊かな世界】 全4回・ 【第1回】発達障害の子育てに「療育」よりも大切なこと ・ 【第2回】発達障害の子どもが、充実した人生を送るために必要なこと ・ 【第3回】発達障害の子育てを「辛い、苦しい」と感じたら ・ 【第4回】発達障害の子育てを楽しむコツ
2017年02月18日発達障害のある娘は会話がとても苦手。3歳のころは、話しかけられても返事の仕方が分からず…広汎性発達障害がある娘は、会話がとても苦手です。3歳ごろになると、簡単な内容なら、相手の言っていることを少しずつ聞き取ることや理解することが出来るようにはなりました。ですが、相手が言ってきたことに対して、まだどういう返事をしたらいいのかが分からないようでした。Upload By SAKURA会話に合った返事や言葉は、繰り返し教えていくことで、少しずつ覚えてくれました。しかしそのせいか、決まりきった返事しかできなくなってしまい、娘との会話はほとんど定型文のように…Upload By SAKURA5歳になって、自分で返事を考えられるように!すると娘との会話にユーモアがあふれだした「いつになったら、娘とたくさん会話が出来るんだろう…」そう心配していた私でしたが、娘は5歳を過ぎたころから、自分で考えた返事ができるようになりました。すると娘との会話は、以前では考えられないようなユーモアなものになったのです!Upload By SAKURAUpload By SAKURA他の子に比べればゆっくりだけど…確実に成長していた少しずつしゃべるようになった3歳ごろから、5歳ごろまでは決まりきった会話の引き出ししか持っていなかった娘。でも今、もうすぐ6歳になる娘と、私は会話を楽しめています!他の子に比べればゆっくりだったけど、娘は少しずつ成長してくれました。改めて『療育は、焦らずゆっくり』だな…、と実感しています。Upload By SAKURA
2017年02月15日発達障害とはUpload By 発達障害のキホン発達障害とは、先天的な脳機能の障害で、学習面や行動面などで年齢相応の発達が見られない、または年齢相応のスキルの獲得が難しいことで起きる障害を指します。その症状は、通常低年齢の発達期において発現します。発達障害の定義は日本では平成16年に制定された発達障害者支援法によって定められており、世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)の基準に準拠しています。発達障害者支援法における発達障害の定義は以下になります。この法律において「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。これらの規定により想定される、法の対象となる障害は、脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもののうち、ICD-10(疾病及び関連保健問題の国際統計分類)における「心理的発達の障害(F80-F89)」及び「小児<児童>期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害(F90-F98)」に含まれる障害であること。なお、てんかんなどの中枢神経系の疾患、脳外傷や脳血管障害の後遺症が、上記の障害を伴うものである場合においても、法の対象とするものである。発達障害はいくつかのカテゴリーに分類され、診断基準によって多少異なりますが、大きく分けて「広汎性発達障害(PDD)」「ADHD(注意欠陥・多動性障害)」「学習障害(LD)」の3つに分類されます。広汎性発達障害には自閉症やアスペルガー症候群などのコミュニケーションの障害が含まれますが、アメリカ精神医学会の診断基準である『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)では自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)という障害名に統合されています。また『DSM-5』ではADHDは注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害、学習障害は限局性学習症/限局性学習障害という診断名となります。自閉症やADHDなどの発達障害の中には知的障害が併存する場合もあります。発達障害の原因は?出典 : 発達障害にはさまざまな障害が含まれますが、身体障害などとは違い、周囲の人にとって発達障害自体がわかりにくいことから、発達障害の特性から本人ができないことやとトラブルがあった時などに親のしつけ不足や愛情が足りていないせいだ、育て方が悪いからだと思われがちです。しかし、決してしつけ不足や愛情不足、育て方が直接の原因ではないことがわかっています。現在、発達障害の医学的な原因ははっきりと解明されているわけではありませんが、多くの研究から発達障害は先天的な脳の機能障害によるものとされています。脳機能障害を引き起こすメカニズムとして、遺伝的な要因が原因の一部であると推測されています。何らかの先天的な遺伝要因に様々な環境的な要因が重なり、相互に影響しあって脳機能の障害が発現するのではないかという説が現在有力とされています。たとえば自閉症スペクトラムの関連遺伝子が数多く報告されています。ですが、さまざまな遺伝子が複雑に関連しているため、現時点では、原因となる遺伝子を完全に特定することはできてはいません。ただし、かつて広汎性発達障害に含まれていたレット障害(レット症候群)についてはX染色体上に存在する遺伝子の突然変異が原因だということが発見されました。1999年にMECP2という遺伝子が主な原因遺伝子であることが発見され、その後2004年にCDKL5、2008年にFOXG1という原因遺伝子も発見されています。そのため自閉症スペクトラム障害の概念から除外されました。現在、その他の発達障害についても関連する遺伝子や環境要因に関して、それぞれ研究が進められていますが特定には至っていません。またその遺伝子も一つではなく、複数の要因や組み合わせが存在すると考えられます。それらがさまざまな道筋をたどって発達障害の特性となって現れると言われているのです。そのため全ての発達障害のある人にあてはまる唯一の原因はないとも言えるのです。発達障害は親から子へと遺伝するの?出典 : 親から子へと遺伝する遺伝的要因はあるのでしょうか?発達障害に関しては双生児研究や家族間での一致率に関する研究が活発に行われ、遺伝子が近いほど一致率が高くなる傾向があるといわれ、これらのことから家族性があるとは言われています。「家族性」とは、その障害のある人がいる家系の場合、ない家系より発現しやすい傾向があるということですが、これもまだ研究段階ではっきりと確率が出ているわけではありません。家族間では遺伝による体質と、生育環境が似ているため、このような傾向が出るのではないかと考えられていますが、体質や環境要因が相互に、複雑に影響して発現するのではないかと言われています。これまでの研究で発達障害は単一の遺伝子が原因で起こる「メンデル型遺伝疾患」と呼ばれるタイプではなく、複数の遺伝子の変化が影響して起こる「多因子遺伝疾患」であることも推測されています。つまり、親の遺伝子が単純に子どもに遺伝して発達障害が起こるわけではないということです。発達障害の遺伝要因は原因の一部にすぎず、発達障害のある親から発達障害ではない子どもが生まれることもあれば、両親とも定型発達の場合でも発達障害のある子どもが生まれることもあるのです。この親から子へと遺伝する確率については、現在のところ不明です。親が発達障害だった場合で子どもも発達障害である確率も、調査によって数値がまちまちで確かな結果は出ていません。このことも、遺伝要因と環境要因の相互影響が複雑で、偶然性に左右される部分が多いことを示唆していると言えるでしょう。きょうだいで発達障害になる確率は?出典 : きょうだいや、双子の場合の発達障害児の確率についてもさまざまな研究が行われています。遺伝子が完全に一致する一卵性双生児の場合、ふたりとも発達障害をもつ割合は75~85%といわれています。もし、遺伝子のみで発達障害が出現するのであれば、100%の確率になるはずです。遺伝子が異なる二卵性双生児の場合は、5~10%と低くなります。中山 和彦・小野 和哉 (著)『図解よくわかる大人の発達障害』(ナツメ社,2010年)より引用これらの数値は報告されている様々な研究の一例ですが、このような研究から発達障害は兄弟・姉妹で発現する確率がないとは言い切れないということが分かります。また、同じ遺伝子を共有した生まれてきた一卵性双生児でも片方が発達障害であっても、100%の確率で発現するわけではないこともわかりました。きょうだいは遺伝的な要因となりうるリスク遺伝子を体質として共通してもっている可能性や同じ養育環境で成長していくことから影響を受ける「家族性」があるため、遺伝子が近い家族であるほど一致率が高くなる傾向があると推測されています。しかし、環境要因などの偶然性に左右される可能性も大きいため、例え同じ遺伝子を持っている一卵性双生児であっても、きょうだいに発達障害のある人がいるからと言って、同じく発達障害を100%発症するとも言えないのです。発達障害は男女で発現率が違うの?出典 : 医学的には、実際には発達障害の発現率は、男性の方が多いと言われていますが、割合に関しては諸説あります。またこの理由に関しても諸説あるとされています。近年、女性の発達障害についてはあらわれる症状や特性に男性とは違いがあり、発達障害の状態像にも性差があるからではないかとする説もあり、研究も進められています。以下が、自閉症、ADHD、学習障害それぞれの男女の発現率に関して現段階でわかっていることです。■自閉症男女比は3~4:1で男子に多いと考えられてきましたが、近年の調査では男女比の差は少なくなりつつあるとも言われています。理由としては、男性と女性では症状にも少し違いがあり、男性は「コミュニケーションの困難」「言語の発育不足」などの症状がより見られやすいからだといわれています。女性の場合は男性と比べて症状が表に出にくい傾向があり、自閉症であるとわかりくく、気づかないまま暮らしている人もいると推測されます。そのため、自閉症の女性は統計に十分反映されていないのでは、という可能性も指摘されており、実際のところ4:1よりは男女差は少ないとする研究者もいます。出典:岡崎祐士/総編集『ICD-10精神科診断ガイドブック』中山書店、2013年/刊■学習障害(LD)学習障害は男女どちらにも発現する可能性のある障害ですが、男性に発現する確率の方が高いことが分かっています。発表されているデータの数値は調査によってまちまちですが、その発現率は女性の約4倍であるというデータも発表されているのです。男性はその中でも読字障害になる確率が一番高いとされていて、その確率は女性の数倍とも言われています。ですが、男性に学習障害が多い理由ははっきりと分かっていません。出典:上野一彦/著 『LD(学習障害)のすべてがわかる本』 講談社,2007年/刊■ADHDADHDも男女によって発現率の違いがみられます。男女による違いは男:女の比率は4:1とされています。この比率の差は脳の働きや仕組みが男女によって異なるからではないかと推測されています。また、性別によって症状にも違いがあります。男の子は多動の症状が多く見られており、女の子は不注意の症状が多く見られています。この症状の差から女の子の場合、ADHDの症状が分かりづらいため、見逃されてしまうことも少なくありません。そのため、この4:1という男女の比率の差は実際はもう少し小さいのではないかとも言われています。ADHDであることが診断される年齢が男の子は8歳前後、女の子が12歳前後と差があります。この診断年齢の差も、女の子の場合は発達障害であることに気づくことが遅れやすいことに関係があるとされています。出典:月刊 「みんなのねがい」LD・ADHDの基礎知識独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 「発達障害と情緒障害の関連と教育的支援に関する研究」 2012年発達障害を診断する方法出典 : 現在の医学では妊娠中の羊水検査、血液検査、エコー写真などの出生前診断で発達障害が判明することはありません。また、出生後も遺伝子検査や血液検査といった生理学的な検査ではわかりません。これは、発達障害の原因が完全には解明されておらず、またその原因も複雑で単一ではないと考えられるためです。生理学的な検査方法を確立するのはかなり難しいとも言われています。発達障害の人の多くが幼児の頃から12歳ぐらいに何らかの症状をきっかけに専門機関を受診し、医師によって診断されます。診断は問診と心理検査・知能検査などの様々な検査を総合的に判断して行われます。その他MRIを使い脳の器質的な疾病がないかを確認する場合もあります。検査や診察は一度ではなく、何度か行われたうえで慎重に診断が下されることが多いです。医療機関では、多くの場合は、精神医学的な診断基準にに基づき、保護者や本人に問診に問診をしたり直接行動観察をしたりして、症状から判定します。アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)や世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)など、国際的な診断基準の定義を用いて診断が行われます。また、必ずしも1つの障害しか持っていないということではなく、複数の障害を併発している可能性もあります。それぞれの障害の診断基準に沿って診断を下すことが基本ですが、基準の解釈には医師によってばらつきが生じることもあります。ばらつきの原因として、診察室で見ることのできる子どもの姿がその子どものすべてではないので、乳幼児期の診断はとても難しい場合があります。正確な診断のためには日常生活の様子などをくわしく医師に伝えることも大切です。まとめ出典 : 発達障害の原因を探ることは、治療法の開発・研究のためにはとても大切であり、世界中の研究者が日々、研究を進めています。その成果は少しずつ明らかになってはいるものの、いまだにわからないことも多いのが現状です。また、発達障害が発症する道筋は一つではなく、複雑な要因が絡み合っていると考えられるため、すべての人に当てはまるたった一つの原因は今後もわからないのではないかという考え方が主流となっています。そんななか、遺伝的要因が関係していると聞くと、不安を感じるかもしれません。また、遺伝するかどうかというのは本人や家族にとって大きな関心事でしょう。しかし、現段階でわかっている範囲でも「親の育て方のせい」というのも医学的に否定されていますし、発達障害の発現は様々な要因が複雑に影響しあい、いわば偶然性が大きいため、その人に発達障害があるかどうかは予測できないといえるのです。また得手不得手や特性のようなものは人間だれしもが持っています。少なくとも「遺伝のせいで発達障害が発現した」というのは正確ではありませんし、単純に親から子へと遺伝するのではないことがお分かりいただけたのではないでしょうか。目の前の子どもにとって大切なことは、どうしたら本人の困りごとが減らせるか、特性を生かしていけるかという対応方法を考えてみることです。一人ひとりの子どもの発達障害の特性は様々なバリエーションがあります。本人の成功体験を積み重ねながら、今のよりよい環境を大切にすることが重要です。保護者や支援者が一人で悩み考えるのではなく、地域の相談機関や専門家と繋がりながら解決していきましょう。
2017年01月30日タレントのGENKINGが25日、自身のインスタグラムを更新し、性同一性障害の診断書を公開した。「性自認は女性であり、終生変わらないと考えられる」と記された診断書の写真をアップし、「あたしのオカマは病気です!!」と告白。「同じ悩みの方は病気とか言われて嫌な気分にしてしまったらごめんなさい。けど今のあたしは病気って言われた方が気持ちが楽なのね。載せるか悩んだけど、こゆ勇気を出す事で変わる気がする」とつづった。そして、「正直今でも自分の性が嫌だなって何度も思う」と打ち明け、「何度も言いたい事は、なりたくてなったんじゃないって事本来は女の子に生まれてくるべきだったって事生まれつき障害がある子と比べてはダメだと思うけど、あたしは同じだと思ってる」と主張。「好きな人が出来ても、殆は叶わない辛い恋をする気持ちが分かる!?」などと具体的なエピソードを挙げて訴えた。また、「TVに出てからも同じで、ユニセックス系ですとか言ってまた本来の自分隠してみたり僕って言ってみたりそんな自分らしく生きれない毎日が嫌だってなったから去年の夏くらいから徐々に本来のあたしを出しはじめたの」と説明。「今まではコンプレックスや嫌な部分を隠して格好つけてたけど、この投稿みたいに出したくない部分をあえて出すと、今日からまた変われるんじゃないかな?って思える」と自身の変化にも期待した。さらに、「死ぬまでこの悩みが無くなる事はきっとないけど、まあこんな人生も良かったなって思える日が増えたらいいな」とGENKING。「こんな風に勇気を出す気分にしてくれたのは、さっきのみんなからのコメントを読んだから」と感謝の思いも伝え、「あっ決して病んでませんからね笑ただ、みんなのコメントにある女の子らしくなったとかの本質の気持ちを伝えたくなっただけそして、どんな時も同じ悩みにぶつかって未だに苦しく悲しくなるだけ結末はいつだって悲しかったから」とつづった。
2017年01月25日言葉の理解が遅い娘とのコミュニケーション、そこにはちょっとした苦労があって…Upload By SAKURA広汎性発達障害がある5歳の娘は、言葉能力が他の子よりも大幅に遅れています。他の子が一度で理解できるようなことも、娘に言葉だけで伝えるのは至難の業。同じことを言葉を変えて何度も繰り返したり、絵を描いたりしてやっと伝わります。娘も一生懸命聞こうとしているのは、わかっているんだけど…娘は決してやる気がないわけでも、わざとやっているわけでもなく、本当にわからないのです。一生懸命に聞いているのですが、理解できない。それが十分分かっている私ですが、どうしても自分に余裕がないときはイライラしてしまいます。Upload By SAKURA何度説明してもわからなかったり、途中で諦めてしまう娘を見て、「も~!なんでわからないの!?」と酷い言葉を言ってしまうことも…。そんなことを言ってしまった日の夜は、罪悪感がこみ上げてきて、娘に申し訳なくなります。そんなときは、素直に謝るUpload By SAKURAそんな時は夜寝かしつけるときに、娘に正直な気持ちを伝えて謝るようにしています。私の言うことが100%理解できない娘なので、言ってる意味がわからないかもしれない…。それでも娘は「だいじょーぶ!きにしないで。」と言ってくれます。その度に、「あ~私の子どもがこの子で良かった…」と、改めて娘の良さを実感しています。完璧な親なんていない。親だって人間。イライラもするし、感情的に怒ったりもします。私は「いい親になろう」とは思いませんが、娘に素直に謝ることが出来る親でいたいな…と思っています。Upload By SAKURA
2017年01月25日発達障害の娘(5歳)は、とにかく虫が大キライ!Upload By SAKURA広汎性発達障害がある5歳の娘は、とにかく虫が大嫌いです。どんなに小さな虫でも、発見すると毎回大騒ぎ!この日も、とーっても小さなクモを見つけて叫んでいました。こんな小さい虫で、毎回大騒ぎされては困る…。そこで、危険ではない虫を覚えてもらおうと思いました。「この虫は悪いことしないよ!」そう教えた途端に…Upload By SAKURA「このクモさんは大丈夫だよ。悪いことはしないからね~」そう説明をすると、大丈夫と分かった途端、娘はクモにあいさつ(笑)!それから・・・それから娘は、虫を見つけると騒ぐ前に「だいじょーぶの?だいじょーぶじゃないの?」と聞くようになりました。そして、大丈夫と分かると、あいさつ。虫にあいさつをするようになってから、気づけばどこからか娘のあいさつが聞こえてくる日々です(笑)。Upload By SAKURAUpload By SAKURA
2017年01月18日発達障害の娘(5歳)がおねだり。でもお菓子は1個だけの約束で…広汎性発達障害がある5歳の娘。ある日の買い物中、お菓子をねだってきました。しかし、この日はすでにお菓子を1個買ってあげていました。「お菓子は1個だけ」と約束していたので、娘に考えさせてみることにしました。Upload By SAKURAお菓子を見つめながら、何やら考え始めた様子の娘。さぁ、どうする…?娘が考えに考えて出した結果は…?Upload By SAKURA娘が考え抜いて出した結論は、「お菓子を戻してくる」ということではなく…「ママを褒めて、お菓子を買ってもらおう!」という「見え透いたお世辞作戦」でした(笑)。ちなみに、どんなに褒められてもお菓子は買いませんでしたよ!!
2017年01月11日