聴覚障害とは?出典 : 聴覚障害とは、音の情報を脳に送るための部位のいずれかに障害があるために、音が全く聞こえない、あるいは聞こえにくい状態のことです。全く音が聞こえない状態を全聾(ぜんろう)、音が聞こえにくい状態を難聴といいます。また、聴覚障害には、後天性のものと生まれつきの先天性のものがあります。先天的に難聴のある子どもは、毎年1000人に1人の割合で生まれています。聞こえの障害は、生まれつきの障害の中で、もっともよく見られるもののひとつです。そのために新生児の段階で聴覚に問題がないかどうか調べるためのスクリーニング検査を受けることがすすめられています。子どもの難聴が中軽度の場合には、重度の場合に比べてその発見が遅れる傾向にあります。というのも、中軽度の場合には、自分が難聴であると自覚することが難しく、日常生活の中で不自由が生じても、保護者に伝えることが稀であるためです。耳から情報を適切に取り入れることができない聴覚障害の子どもは、コミュニケーションや言語発達の面に遅れが生じる傾向にあります。そのために、聴覚に問題が見つかったときには、できるだけ早く治療を行うことが大切です。聴覚障害のある子どもに対しては、聞こえを改善する訓練や治療、視覚的な手段を使ったコミュニケーションの方法を取り入れることにより言葉の獲得を目指します。耳鼻科疾患分野 先天性難聴|難病情報センター聴覚障害の原因出典 : 父親と母親の遺伝子の組み合わせや、遺伝子の突然変異などにより引き起こされる難聴です。遺伝的な要因の場合には、外耳やその他の器官の奇形など難聴以外の障害が同時に出現することがあります。遺伝以外の要因には、妊娠中にかかった以下の疾患があげられます。●風疹●サイトメガロウイルス感染●トキソプラズマ●ヘルペス感染●梅毒そのほか、●早産(妊娠37週未満での出産)●出生後の頭部外傷や、幼小児期の感染症(髄膜炎、麻疹、水痘)●ある種類の薬(ストレプトマイシンという抗生物質など)が難聴の原因となることもあります。また、耳の感染(中耳炎)によっても一時的に難聴となることがあります。耳の感染を繰り返していて、きちんと治療されていないような場合、難聴となってしまう可能性があるので注意して下さい。ここで紹介したものは、聴覚障害全体の原因の約6割であり、その他の原因についてはまだ調査が行われている途中です。幼少児難聴とは?|独立行政法人国立病院機構 東京医療センター聴覚障害のタイプ出典 : 聴覚障害は、聞こえを阻害する部位によってタイプが異なり、伝音性難聴、感音性難聴、混合性難聴という3つの種類があります。タイプごとに治りやすさや治療、改善の方法も変わってきます。外耳から中耳の間で、異物などが音の通り道をさえぎることで起こるのが伝音性難聴です。具体的な原因は、以下のような場合です。・腫瘍や耳垢などにより外耳道が塞がっている・鼓膜に傷がついている・中耳に水が溜まっている・中耳が菌などに感染し、膿(うみ)が溜まっているこれらが原因の難聴は一時的なものであり、ほとんどの場合は薬を飲んだり、溜まった水や膿(うみ)を抜く治療を行うと、聞こえは改善されます。感音性難聴とは、耳の奥の内耳と呼ばれる部位に障害がある状態を指します。遺伝的な要因や、妊娠中の感染が原因のときには、このタイプの難聴が起こることが多いです。音を感知する部分、その音を信号に変換する部分に障害が起こっているために、治療や手術によって聞こえを改善することができないことがあります。そのような場合には、補聴器や人工内耳の装着により、聞こえを補うことが必要です。上記のふたつの難聴が同時に引き起こされる場合が混合性難聴です。聴覚障害はどうやってわかるの?診断は?出典 : 聴覚の障害が重い場合には、生後間もなく聞こえの問題が発見されますが、中軽度の場合にはその発見が遅れる傾向にあります。子どもの聴覚障害の場合には、コミュニケーションや言葉の発達の面に遅れが生じることがあり、それらの遅れが聴覚障害を見つけるきっかけとなることが多いようです。聴覚障害のサインとしては以下のようなものがあります。・乳児のとき、一時期は出ていた「あー」「あうあう」などの声が出なくなった・大きな音がしたときに反応を示さない・生後6ヶ月を過ぎても、相手の声の真似をしようとしない・3歳までに単語をしゃべらない・言葉の代わりにジェスチャーを使うより年長のお子さんでは、難聴のサインとして以下のようなサインがあります。・周りの子どもより言葉の数が少ない・理解しにくい言葉でしゃべったり、非常に大きい(またはか細い)声を出したりする・何度も聞き返す・授業中ぼんやりしていたり、読み書きや計算が苦手だったりするこれらの項目に当てはまる場合にも、一概に聴覚障害であると判断することはできませんが、子どもの様子を見て、心当たりのある場合には一度聴覚検査を受けてみるとよいでしょう。聴覚検査は、病院の耳鼻咽頭科で受けることができます。聴覚検査で調べることができるのは主に2つです。聞こえの程度と、どこの部位に異常があるかどうかについてです。聴覚を調べる際には、月齢、年齢に応じた検査が行われます。6ヶ月未満の子どもによく行われているのは、脳波を測定する検査です。この検査では、小さなイヤフォンで音を聞かせます。子どもの頭の上に、コンピューターに接続されている電極をつけることにより、音に反応して脳波に動きがあるかどうか確かめます。年齢が上がってきたときには、スピーカーから音を流して何らかの反応があるか調べる検査や、音が聞こえたらおはじきを取ったり、ボタンを押したりする検査を行います。耳の聞こえのチェックは、1歳半、3歳の乳幼児健診のときに行われますが、聴覚障害のある場合には、治療を施す時期が早いほど、聴力が回復しやすく、言葉の学習をスムーズに行うことができます。ですので、定期検診が来るのを待つのではなく、なるべく早い段階で検査を受けるようにしましょう。聴覚障害の等級出典 : 聴覚障害の等級分類は、聴力のレベルと、言葉がどれくらいはっきりと聞こえるかを示す語音明瞭度により決まります。聴力のレベルは音の大きさを示すデシベル(db)という単位により表されます。デシベルの数値の示す音の大きさの目安は以下をご覧ください。どの程度大きい音からなら聴き取ることができるかという測り方をするため、聴力の場合は、デシベルの値が大きくなればなるほど、耳が聞こえにくいということになります。正常聴力の場合は、0デシベル近辺であり、難聴の程度が強くなるほどこの値が大きくなります。Upload By 発達障害のキホン厚生労働省により定められている聴覚障害の等級の基準は以下の通りです。◇2級:両耳の聴力レベルがそれぞれ100デシベル以上、全聾(ぜんろう)の場合◇3級:両耳の聴力レベルが90デシベル以上の場合◇4級:両耳の聴力レベルが80デシベル以上の場合、または両耳による通常の話し声の語音明瞭度が50パーセント以下の場合◇6級:両耳の聴力レベルが70デシベル以上の場合、または片方の聴力レベルが90デシベル以上、もう片方の聴力レベルが50デシベル以上の場合上記のいずれかに該当する場合には、身体障害者手帳の交付を受けることができます。身体障害者障害程度等級表|厚生労働省身体障害者手帳とは、難聴を含め、障害のある人が取得することができる手帳です。平成23年の時点で聴覚に障害があり、身体障害者手帳を所持している人数は14万2000人です。障害者手帳を取得することで、障害の種類や程度に応じて様々な福祉サービスを受けることができます。交付を受けるためには、指定された医師による診断書と意見書が必要となります。用紙は市区町村の窓口にある用紙に記入をして申請を行います。申請から約1ヶ月程度で身体障害者手帳が発行されます。手帳の申請については、以下のページに詳しく手順が載っているので参考にしてください。身体障害者手帳の所持者数|内閣府聴覚障害の治療・改善方法先天性の聴覚障害には、治療により治すことができるものと、治療によっては治すことができないものがあります。治すことができない聴覚障害の場合には、聴力を補うために何らかの改善方法がとられます。子どもが聴覚障害の場合には、早い段階で治療を開始するのが理想的といわれています。聴覚障害の改善には、難聴の種類や聞こえの程度により、その内容が変わってきます。ここでは、聞こえの改善のための方法についてお知らせします。出典 : 補聴器は、普通の大きさでの会話が聞こえにくくなったときに、はっきりと聞くための医療機器です。補聴器が有効となるのは、音を伝える部分の障害である伝音性難聴に対してのみとなります。音を脳に伝える機能の障害である伝音性の難聴には別の改善方法がとられます。補聴器にはたくさんの種類があり、また価格によってついている機能もさまざまです。最適な補聴器を選ぶために、補聴器の相談医から販売店の紹介を受けるようにしましょう。補聴器の購入の際には、保険は適応されません。しかし、身体障害者手帳をお持ちの場合には、補装具交付申請書を市区町村の福祉関係の窓口に提出することで1割負担で購入することが可能となります。人工内耳は、機能しなくなった内耳の部分に電極を挿しこみ、音を電気信号に変えて神経に送る方法です。人工内耳をつける場合には、以下の条件を満たした上で、手術が必要となります。・内耳が原因の感音声難聴である・年齢が1歳以上である・体重が8kg以上である・6ヶ月以上の補聴器装用によっても十分に聞くことができない人工内耳の手術には、健康保険が適用されるほか、自立支援医療(更生医療)、高額医療費支給などの各種医療費の助成を受けることにより、負担額の軽減ができます。詳しくは、お住まいの市区町村のHPをご確認ください。補装具費支給制度の概要|厚生労働省自立支援医療(更生医療)の概要|厚生労働省高額療養費制度|全国健康保険協会小児人工内耳適応基準|一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会難聴の原因部位によっては、手術が行われることがあります。手術が必要なものの例としては、音の聞こえを阻害している異物の除去や、新たな鼓膜の形成、中耳の骨を人工のものに置き換える必要がある場合などがあります。耳の手術は、耳の後ろを開いて行うものと、耳の穴から原因となっている部位に治療を施す方法があります。耳の手術について | 耳鼻咽喉科専門 医療法人財団 神尾記念病院内耳の循環や血行を良くするために、血管拡張薬、向神経ビタミン製剤(ビタミンB12)の服薬が処方されることがあります。薬物による治療法の効果や必要な量・期間には個人差があるため、服薬の際には、専門家の指導を受けながら用量・用法を守りながら行いましょう。難聴、耳鳴り|慶應義塾大学病院 KOMPAS聴覚障害のある子どもの学び場出典 : 聴覚障害があるときには、どのような場所で学ぶことができるのでしょうか。子どもの状況に応じて、必要な環境を柔軟に選択していくことが大切です。この章では、それぞれの学び場の概要や特徴をご説明します。聞こえやコミュニケーションの程度と照らし合わせ比較しながら、お子さんに合う学びの場はどこか検討してみましょう。Upload By 発達障害のキホン強度の難聴のある子どもや、まったく耳の聞こえない聾(ろう)の子どもが入学することができます。入学の際には、学校教育基本法の就学基準を満たしていることが条件です。就学できるかどうかは、保護者の意向を尊重しながら、市町村の教育委員会が総合的な視点から判断して、本人の聴力レベルと、コミュニケーション能力、学力から総合的に判断されます。学校教育法施行令第22条の3による、特別支援学校の就学基準は以下の通りです。・両耳の聴力レベルがおおむね60デシベル以上のもの・補聴器等 の使用によっても通常の話声を解することが不可能、または著しく困難な程度のもの特別支援学校の授業には、国語や算数などの一般的な学習のほか、自立活動が時間割に取り入れられます。例えば、補聴器の取り扱いや音の聞き取り、語句・文・文章の意味理解やコミュニケーションの改善についてが自立活動の内容になります。1クラス当たりの人数は平均で3人であり、少人数での教育が行われています。特別支援学校への就学(入学・転校等)をご検討されているお子さん、保護者に対して、見学や教育相談に対応している学校もあります。◇聾(ろう)学校また、特別支援学校という区分の中に「聾(ろう)学校」という学校があります。ですが、厳密には、学校教育法が2007年に改正された影響を受けて、聾(ろう)学校という個別の区分はなくなりました。現在、校名の変更や休校・統廃合が進められたりすることにより、全国的に聾(ろう)学校の数は年々少なくなってきています。聾(ろう)学校という名前がついていても、その受け入れは聴覚障害のある子どものみではない学校もあります。学校名は「聾(ろう)学校」 のままですが、他の障害種別の学校と統合されたり、知的障害教育部門が設置されたりするなど、様々な形態が見られるようになっています。詳しくは直接学校へお問い合わせください。Upload By 発達障害のキホン聴覚障害が比較的軽度の場合には、難聴の特別支援学級に通うことができます。就学ができる条件は、主として聞くこと・話すことにかかわる特別な指導をすれば、通常の教育課程や指導方法によって学習が進められるような場合です。難聴特別支援学級では、原則として小学校や中学校と同様の学習指導が行われます。それに加えて、必要に応じて、音の聞き取りや補聴器の扱いなどに関する自立活動が行われます。聴覚の活用のためにオージオメータや集団補聴器、発音・発語指導のための音声直視装置などの機器が用意されていることがあります。聴覚障害の程度が軽度な場合や、その学校・学級で適切な配慮・支援を実施できる場合には、通常の学級で指導することが適当なことがあります。難聴のある子どもが通常学級で学習する場合には、教室内の音の環境や、座席の配置などに配慮をしてもらう必要があります。Upload By 発達障害のキホン「通級による指導」は、学校の通常学級に在籍している軽度の障害のある子どもに対して、決められた時間のみ、在籍する学級の授業の代わりに受けられる特別な指導のことです。通称「きこえの教室」といわれています。平均的には、週1~2回ほどで、1回あたり90分ほどの個別指導を行います。必要に応じて、グループでの指導も取り入れられます。通級指導の先生は、子どもがよりよく通常学級に適応できるよう、連絡帳や連絡会を用いて、学級担任の先生方と密に連絡を取りあいます。聴覚に障害がある人のコミュニケーション手段出典 : 聴覚に障害のある人のコミュニケーション方法には、手話、指文字、読話、補聴器、筆談などの方法があります。コミュニケーション手段をいろいろな場面や相手に応じて使い分けたり、併用したりすることによってコミュニケーションを行っています。手や指の形、動きによって、お互いの意思を伝え合う方法です。手話は、話し言葉とは異なる文法や語彙をもつ、ひとつの言語として捉えられています。手話にもさまざまなバリエーションがあり、障害の生じた時期や手話を覚えた時期によって、使用される手話も異なります。50音をすべて指の動きで表現する方法です。指文字だけを用いる場合もありますが、手話と一緒に補助的に使われることがほとんどです。母音を口の形で表しながら、子音を手の形で表すコミュニケーションの方法です。キュードスピーチは、母音を口の形で表すために、発音の勉強にも使われます。発音を1文字ずつ丁寧に表すときに使用します。習得すると、会話と同じかそれ以上のスピードでコミュニケーションをとることができるようになります。紙やボードへの読み書きによって、意思を伝え合う方法です。特別な技術を習得することなく取り入れられるコミュニケーションの手段です。ただ、文字による情報だけでは細かいニュアンスや感情が伝わらない場合があります。口話は、話し手の口の動きや表情などを見て相手が発する言葉を捉え、話し言葉を用いて意思を伝える方法のことをいいます。口話は、耳の聞こえる人とのコミュニケーションにおいては便利なものではありますが、伝わりにくい場合もあります。例えば、「たばこ」「たまご」「なまこ」など口の動きが似ていることばや、「協力」と「強力」など同じ発音の言葉などです。また、暗い場所や、相手との距離が離れている場合には、相手の口の動きがわかりくいために、ジェスチャーや筆談と併用されて使われます。聴覚障害のある子どもが周りにいる方へ出典 : 聴覚障害のある子どもは、耳から情報を取り入れることができない、もしくは取り入れにくいために、生活の中でさまざまな困りごとに出くわします。聴覚障害のある子どもに対して、どのような配慮をすればより過ごしやすくなるのかご紹介します。補聴器や人工内耳をつけていても、騒音に囲まれた場所では、相手の声が聞こえないこともあります。ですので、補聴器や人工内耳をつけていたとしても、聞こえの困難を抱えていることを理解して対応する必要があります。例えば、静かな部屋では言葉のやりとりができるのに、にぎやかな場所に行くと、相手の声が聞き取れず、急に無口になるということが生じます。音声での会話に加えて、視覚的に情報を示すことで、周囲と円滑にコミュニケーションをとることができます。そのほかには以下のような配慮が考えられます。・向かい合った状態でアイコンタクトをとり、相手が自分の顔を見ているか確認してから話し始める・文節で区切りながら、ひとつひとつの単語をはっきりと話す・複数の人数で話すときには、手をあげるなどして話し手が誰かわかりやすくする・明るい場所で話す耳の聞こえない子どものコミュニケーションの方法は、手話に限らず、さまざまです。どの手段が確実にコミュニケーションできるのか把握しておくことが重要で す。確実にコミュニケーションできているかどうかを確認するには、大人が話したことをもう一度言わせたり、質問に答えさせたりします。そのときには、指文字を使ったり、文字で書かせたりします。そのほか、子どもの実態に合わせて、具体物や絵カードなどの視覚的な情報を使い確認をしてみましょう。子どもがどのような方法を用いてコミュニケーションをとるのか知っておくことで、円滑なやりとりを行うことができます。聴覚に障害があると、音の情報がはっきりと聞こえないために、周りの状況がつかめず、場にそぐわないことをしたりすることがあります。周りが騒がしかったり、話し手の声が小さい場合には、その場の状況をもう一度伝えてあげるなどして、大人が援助してあげるとよいでしょう。その他には、クラクションや、近づいてくる車の音が聞こえないことがあります。一緒に外出する際には、あらかじめ危険な場所などを伝えておくとともに、大人が道路側を歩くなどの配慮をしてあげましょう。まとめ出典 : ここでは、子供の聴覚障害の原因、種類や障害の等級の判定、改善方法や、周りの人が気をつけておきたいことについてご紹介しました。聴覚に障害が見つかった場合には、できるだけ早くに治療、改善を行うことが大切です。生まれてくる子どものうち、1000人に1人は聞こえに障害があるというデータが示すように、子どもの聴覚障害は決して珍しいことではありません。現在は、子どもが新生児期のときにスクリーニング検査の受診が進められており、早期発見が進んできてはいます。ですが、子どもの聞こえに何か不安があるときには一度検査に行くことをおすすめします。聞こえの障害の程度が中軽度の場合には、周囲から気づかれにくいことが多く、耳の聞こえがよくない状態で長い間過ごしてきています。必要な情報を聞き取ることができないために、言葉やコミュニケーションの面に遅れが生じる傾向にあります。聴覚障害のある子どもは、耳の聞こえる子どもに比べると、言葉を覚えるのに長い時間がかかります。言葉を覚えさせようと急かすのではなく、子どもの成長の可能性を信じて待つことが、子どもの育ちを支えます。子どもに対して積極的に関わっていこうとする大人の姿勢が、子どものコミュニケーションをより豊かなものにしていくでしょう。
2016年11月21日PDD-NOS(特定不能の広汎性発達障害)とは?出典 : とはPervasive Developmental Disorder Not Otherwise Specifiedの略で特定不能の広汎性発達障害のことです。自閉症スペクトラム障害やアスペルガー症候群などの、他の広汎性発達障害の特徴がみられるが、それらの基準を満たさない場合に診断される障害です。この障害はアメリカ精神医学会の『DSM-Ⅳ-TR』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第4版テキスト改訂版)という診断基準により分類されたものです。しかし、2013年、この診断基準の改訂版である『DSM-5』(『精神障害のための診断と統計のマニュアル』第5版テキスト改訂版)において、PDD-NOSは自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害というカテゴリに変更されています。そのため、現在はPDD-NOSの診断名が下されることは少なくなりつつあります。とはいえ、すでにこの名称で診断を受けた人も多いこと、医療機関などでPDD-NOSの名称を使用している場合も多いことから、本記事では『DSM-Ⅳ-TR』において定義されているPDD-NOSについてご説明いたします。Upload By 発達障害のキホンこの障害は、発達障害の1カテゴリーである広汎性発達障害が含む5つの障害のうちの一つとして位置づけられます。(上図参照)広汎性発達障害が含む5つの障害とは、自閉症、アスペルガー症候群、レット障害、小児期崩壊性障害、PDD-NOSを指します。この広汎性発達障害という発達障害のグループの特徴として①対人関係・社会性の障害②コミュニケーションの障害③特徴的なこだわりや興味の3つが挙げられます。『DSM-Ⅳ-TR』によるPDD-NOSの定義は以下の通りです。対人的相互反応の発達に重症で広汎な障害があり、言語的または非言語的なコミュニケーション能力の障害や常同的な行動・興味・活動の存在を伴っているが、特定の広汎性発達障害、統合失調症、失調型パーソナリティ障害、または回避性パーソナリティ障害の基準を満たさない場合に用いられるべきである。例えば、このカテゴリーには“非定型自閉症”――発症年齢が遅いこと、非定型の症状、または閾値に達しない症状、またはこのすべてがあるために自閉性紹介の基準を満たさないような病像――が入れられる。引用:高橋三郎ら/訳『DSM‐IV‐TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』2004年医学書院/刊という診断区分を定めた『DSM-Ⅳ-TR』は最新の診断基準ではありません。そのため現在、PDD-NOSに相当する症状がある場合は、『DSM-Ⅳ-TR』以外の診断基準で診断をされることが多くなってきています。ここでは、PDD-NOSに相当する症状が、別の診断基準ではどのような名称なのか紹介いたします。・『DSM-5』におけるPDD-NOS『DSM-Ⅳ-TR』の改訂版であり、2013年に発行された『DSM-5』において、PDD-NOSは自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害というカテゴリに変更されています。Upload By 発達障害のキホン・『ICD-10』におけるPDD-NOS世界保健機関(WHO)が定める『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)(以下、本文中の表記は『ICD-10』とする)という診断基準では、『DSM-Ⅳ-TR』におけるPDD-NOSは非定型自閉症、他の広汎性発達障害、広汎性発達障害,特定不能のものという3つのカテゴリーに相当するとされています。Upload By 発達障害のキホン参考文献:神尾陽子/著『DSM-5を読み解く』2014年中山書店/刊PDD-NOSの診断基準出典 : は、1.広汎性発達障害にみられる症状がある2.広汎性発達障害に含まれる他の障害カテゴリー基準に当てはまらず特定できないという2つの条件をどちらも満たすものです。そのため、一言にPDD-NOSといっても、その症状は一人ひとり異なります。また、症状の程度は他の広汎性発達障害のなかでは比較的軽いと一般的には言われています。以下において、PDD-NOSの2つの条件についてそれぞれ説明いたします。1.他の広汎性発達障害にみられる症状があるPDD-NOSを除く4つの広汎性発達障害にみられる症状の特徴として以下の3点があります。・対人関係・社会性の障害人とのかかわりにおいて、お互いが快適に過ごすための振る舞いが難しく、良好な対人関係を築きにくいこと。・コミュニケーションの障害話し言葉や、表情や身振りなどのコミュニケーション能力において、なんらかの障害がみられること。たとえば、一方的な発話、独り言、言外の意味の組み損ねや話題の偏りやお決まりのフレーズなどが例に挙げられます。・特徴的なこだわりや興味特定の習慣や儀式にかたくなな興味をもつことや、特定の対象に対して持続的に熱中すること。参考ページ ペック研究所HP2.他の広汎性発達障害の基準に当てはまらない以下において説明する、4つの広汎性発達障害の基準を満たさない場合、PDD-NOSに分類されます。・自閉症自閉症は、目や耳から脳に入ってきた情報を「意味のあるまとまったこと」として認知することを苦手とします。原因は脳の器質的な異常によるもので、遺伝病ではありませんが、染色体異常や遺伝子異常などの遺伝的素因が強く、先天的に発症するという考え方が有力です。具体的な原因遺伝子はまだ解明されていません。詳しくは以下の記事をご覧ください。・アスペルガー症候群アスペルガー症候群(AS)は対人コミュニケーション能力や社会性、想像力に障害があり、対人関係がうまくいきづらい障害で、知的障害や言葉の発達の遅れがないものを言います。明確な原因は現在もわかっていませんが、何らかの脳機能の障害と考えられています。詳しくは以下の記事をご覧ください。・レット障害レット障害(レット症候群)は、ほとんどが女児に見られる脳障害で、少なくとも6ヶ月の正常な発達の時期を経た後に、重度の精神および運動の発達的後退がみられます。この障害の原因はX染色体上の遺伝子異常(MECP2、CDKL5、FOXG1)であることが1999年に解明されています。このため、『DSM-Ⅳ-TR』の改訂版である『DSM-5』では、自閉症スペクトラム障害から除外されました。参考ページ:レット障害|ハートクリニックHP・小児期崩壊性障害2~5歳頃まで健常な発達をしていたが、言語の理解や表出能力の退行が始まり、退行が終わったあとは自閉症と類似した症状を示すようになる障害です。原因はほとんど解明されていません。脂質代謝異常(コレステロールの蓄積)、はしかやウイルスの脳への感染、遺伝性疾患などとの関連がある可能性を指摘されています。参考ページ:小児期崩壊性障害|ハートクリニックHPPDD-NOSの発現時期出典 : 広汎性発達障害の子どもを持つ親が、言語能力の遅れやこだわりなどの症状から何らかの疑いを持つ時期は、3歳未満が多いとされています。また、1歳半健診や3歳児健診などの乳幼児健康診査で広汎性発達障害を含む発達障害に関する何かしらの指摘があり、その後医師の診断により判明することもあります。中には子どもの頃に気づかず、大人になってから広汎性発達障害と診断された方もいます。不安障害やうつ病などの気分障害・睡眠障害などのいわゆる二次障害と呼ばれる症状や状態となり、その検査を通して広汎性発達障害に気づく人もいます。PDD-NOSの原因特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)は、その名の通り特定の原因は不明とされています。現段階では正確な原因は解明されていませんが、脳機能の障害により症状が引き起こされるといわれています。その脳機能障害は、先天的な遺伝要因と、様々な環境要因が複雑かつ相互に影響し合って発現するというのが現在主流となっている説です。また、かつて言われたような親のしつけや愛情不足といった子育てのしかたによるという説は、医学的に否定されています。PDD-NOSかなと思ったら…?出典 : 上記で述べた症状や特徴などが見受けられる場合、専門家に判断してもらうことをおすすめします。ですが、いきなり専門医に行くことは難しいので、まずは無料で相談できる身近な専門機関の相談窓口を利用するのがおすすめです。また、1歳半や3歳児健診などの乳幼児健康診査がある場合は、医師や専門家もいるのでその際に相談してみるのもよいでしょう。子どもか大人かによって、行くべき専門機関が違うので、以下を参考にしてみてください。【子どもの場合】・保健センター・子育て支援センター・児童発達支援事業所・発達障害者支援センター・児童相談所など【大人の場合】・発達障害者支援センター・障害者就業・生活支援センター・相談支援事業所など児童相談所などでは無料で知能検査や発達検査を受けられることも多いので、児童相談所で相談するパパ・ママも多くいます。まず身近な相談センターに行って、診断をすすめられたら、そこから専門医を紹介してもらいましょう。自宅の近くに相談センターがない場合には、電話での相談にのってくれることもあります。以下のリンクにおいて全国の発達障害者支援センターを検索できます。発達ナビ地域情報|発達障害者支援センターの施設一覧・どの診療科にいけばいいの?PDD-NOSの診療が可能な診療科は、小児科、精神科、児童精神科、小児神経科、心身医療科、心療内科、発達障害外来など、病院により様々な名前となっています。どの病院に行けばいいか少しでも迷った場合は、まずは市町村の窓口や都道府県等の発達障害者支援センター等の相談窓口に電話で相談することをおすすめします。大人になって検査・診断を初めて受ける場合には、精神科や心療内科、大人もみてくれる児童精神科・小児神経科や精神科など専門の医療機関を受診することが一般的ですが、大人の発達障害を診断できる病院はまだ数が多くありません。上記の相談機関で紹介してもらえるほか、医師会や障害者支援センター、発達障害者支援センターなどでも調べることができます。発達障害の専門機関は他の病気に比べると少ないですが、発達障害者支援法などの施行によって年々増加はしています。以下のリンクは発達障害の診療を行える医師の一覧です。この他にも、児童精神科医師や診断のできる小児科医師もいます。担当者との相性も大切なので、納得のいく医療機関を選ぶようにしましょう。日本小児神経学会 「発達障害診療医師名簿」発達ナビ地域情報|病院(発達障害の診療可)の施設一覧・ 診断・検査の流れ本人や保護者に対する問診(面接)や行動観察、家族・学校の先生による提供情報の精査などと、専門機関によっては知能検査や発達検査などを実施する場合もあり、筆記や口頭質問などの検査が行なわれ、様々な情報を総合的に評価して診断されます。検査は複数回に分けて行なわれたり、慎重に経過を見ながら行われるため、一度の受診で診断されることはあまりありません。知能検査は、田中ビネー知能検査Ⅴ(ファイブ)やウェクスラー式知能検査(3歳10ヶ月〜7歳1ヶ月の幼児の場合は「WPPSI」、5歳から16歳11ヶ月の子どもは「WISC」、16歳以上の成人の場合は「WAIS」)などの検査を受けることによって検査結果がでます。特性の現れ方や発達段階などを評価するため「CARS」や「新版K式発達検査2001」、「PEP-R」などを行う場合もあります。・診断に必要な準備や持ち物初診時に必要な物として保険証、子どもであれば母子手帳などがあります。服用中の薬などがあれば、お薬手帳なども持っていくとよいでしょう。また、生育や発達歴についての問診がありますので、言葉を話し始めた時期や日常生活での困りごとなどをメモして持っていくと質問に答えやすいかもしれません。発達外来などの専門機関によっては保育園や幼稚園の連絡帳、小学校の通信簿やホームビデオなどを参考にする場合もあります。事前に問診票をプリントアウトして持参する機関もありますので、専門機関の公式ホームページをチェックしたり、予約時に電話にて必要な持ち物を問い合わせてみてください。PDD-NOSは治療できるの?出典 : 広汎性発達障害のひとつであるPDD-NOSの根本治療はできませんが、症状を緩和するためには療育的アプローチと薬物療法の2つが効果的です。療育とは、障害のある子どもが社会的に自立できるように行う、治療と教育を組み合わせた発達支援の取り組みのことです。自分の問題を自分で解決できるようになるには、療育によりコミュニケーションスキル等の能力を身につける必要があります。療育は何歳からでも始めることができ、なるべく早くから通うことで、その子に合った学び方や人との関わり方を見つけやすくなります。療育とは医療、訓練、教育、福祉などの現代の科学を総動員して障害を克服し、その児童が持つ発達能力をできるだけ有効に育て上げ、自立に向かって育成することである。(出典:療育と教育の接点を考える|障害保健福祉システムHP)療育とは何か|LITALICOジュニアHP広汎性発達障害そのものを根本的に治す薬はありませんが、特定の症状を緩和するために使用することがあります。薬によって開始できる年齢や症状が決まっており、人によって副作用がある場合もあるので、主治医とよく相談し、用法用量を守って服薬していくことが大切です。薬物療法は、症状を一時的に抑えるためのものであり、症状が軽減している間に、その子の課題に応じた支援を行い、自分に合った学び方や人との関わり方の獲得を促していくと効果的であるともいわれています。PDD-NOSの場合、障害者手帳は取得できるの?出典 : 障害者手帳の取得により、就職時に障害に応じた配慮を受けやすくなったり、税金面での控除や医療費助成を受けたりすることができます。・療育手帳PDD-NOSと診断されただけでは療育手帳付与の対象とはなりません。しかし、療育手帳を申請し、知的障害を有すると認められた場合は療育手帳が取得できます。・精神障害者保健福祉手帳精神神経症状をともなう発達障害は、精神障害者保健福祉手帳の交付対象となります。そのため、PDD-NOSの症状によって、長期にわたり日常生活又は社会生活への制約があると認められた場合は、精神障害者保健福祉手帳を受けることができます。もし、知的障害と精神障害のどちらも有すると判断された場合は、療育手帳と精神障害者保健福祉手帳を両方取得することは可能です。まとめ出典 : 特定不能の広汎性発達障害)も、他の広汎性発達障害と同じく、早めに症状に気づくことで、療育や通院といった専門的な支援につながりやすくなります。お子さまの発達に何か違和感を覚えた段階で、お住まいの地域の発達障害者支援センターなどの相談窓口に連絡を取ることをおすすめいたします。専門家や支援機関のアドバイスも参考にしながら、子どもの課題に応じた支援を受け、その子らしい学び方、過ごし方を身につけることを応援していきましょう。
2016年11月21日「発達障害の特徴」って言われても…息子に当てはまってるのか、全然わからない!出典 : 発達障害という言葉を初めて聞いたとき。「もしかしたらこの子も…?」と考えた私は、「発達障害の子どもの特徴」と言われるもののチェックリストに息子の行動が当てはまるかどうかを確かめてみました。例えば、「こだわりが強い」。…「こだわり」?「こだわり」と聞いても「こだわりの逸品」というフレーズくらいしか思いつかなかった私は、「息子にはんなもの無い無い!」とまったくピンときませんでした。それから、「回転するものが好き」。…「ぐるぐる回ること?」いやぁ、子どもってぐるぐる回りたがる時期みんなあるよねー?他には、「環境の変化に弱い」。劇的に環境変わったのは、息子が3歳のときの引越しくらいかな?うーん、そのころはまだ小さかったしなぁ…他には幼稚園入園?母子分離も全く平気だったし、これもあてはまらなそう。などなど、「発達障害の特徴」と実際の息子の行動とをどう重ねて良いやら分からず、診断云々の前にこんなところでいきなりつまづいてしまいました。そんな私が「発達障害って、こういうことだったんだ!」と腑に落ちるきっかけとなったある2冊の本をご紹介します。発達障害って言われても、どうもピンとこない!そんなときに出会った2冊の本出典 : まさか!うちの子アスペルガー?―セラピストMママの発達障害コミックエッセイアスペルガー症候群と診断された息子さんがいる、佐藤エリコさんのコミックエッセイです。この本の中のある1ページに、「そういうことだったのか!」と納得したのです。Upload By Chie私もまさにコレでした(笑)。本当にこのお母さんと同じように、車輪を回す息子の様子を特におかしいとも思わず見ていました。発達障害の子どもの特徴として、「回転するものを好み、回転するものをじっと見つめる」などと書いてあるのをよく目にしますが、まさか息子の遊びがそういう表現・言い回しでチェックリストの中に存在するとは思いもしなかったのです。出典 : ベンとふしぎな青いびん―ぼくはアスペルガー症候群 (あかね・新読み物シリーズ)こちらの本は、物語のような読み物になっています。うるさいことが苦手、突然新しい家へ引っ越すことへの不安、限定されたモノへの興味や情熱、深い知識…この本を読んで、発達障害のある本人の考え方や目線、行動の意味などが本当によく分かりました。そして、周囲の大人たちの接し方など参考になるのはもちろん、お話としてもとても微笑ましく読みやすい内容です。アスペルガー症候群のある主人公のベンが遭遇した困難を息子に当てはめて、「こんなことが起きたらどうする?」と息子に尋ねることで、やっと息子の行動の意味や、実はこんなことも苦手だったのかと気づくことができました。もっと早く気づけたかも…そう思うこともあるけれど出典 : これらの2冊の本はどちらも「アスペルガー」に焦点を当てたものになりますが、息子の主たる診断名は「ADHD」です。ですがこうして調べてみると、「ADHD」も人それぞれで、アスペルガーや他の発達障害の特徴も息子の場合は多く持っていることがわかります。私はこうしてこの2冊を読んで初めて、息子の行動が発達障害の傾向に重なることを見出していきました。普通の育児書や母子手帳、健診時の問診票にも、「発達障害の特徴」として抽象的な表現ではなく、もっと実感として手に取るように分かる書き方がしてあったら、もしかしてずっと前に気付いて疑うことができたのでは?と思ったものでした。「発達障害」ということにとらわれ過ぎるのも良くないと私は思うのですが、発達障害って結局どういうこと?と実感が湧かず、わが子の姿と重ねられずに悩んでいるときには、こうした本もオススメですよ。
2016年11月20日息子の障害は言えない…周囲からの批判的な目に怯えていた私出典 : 皆さんは、子どもに発達障害があるとき、入園予定の幼稚園や保育園、習い事などで、障害についてカミングアウトしますか?私は必ず、「うちの子は発達障害があります」という話を、一番最初に言います。けれども3年前、息子に診断が下りたばかりの頃、私は息子に何をやらせるにも、発達障害ということを周囲に隠していました。その理由は、「発達障害と知られたら断られるかもしれない」「周りから差別されるかもしれない」「私の育て方が悪いと言われるかもしれない」といった恐怖心があったからでした。そして、息子の特性が絶対にバレないように…ということに集中し、常に気を張っていました。ただでさえ息子が発達障害であるとわかり、自分自身がそれを受け入れるのに必死になっているときです。その上他人からこれ以上傷付けられたら、自分がどうなってしまうかわからなかったのです。私は、私と息子を守るため周囲に診断の結果を隠していました。でもそれは、私たち親子を逆に傷つける結果になったのです。障害を隠して入会したトランポリン教室。しかしパニックを起こした息子は先生に叱られ…出典 : 私は診断名や特性を隠したまま、近所のトランポリン教室に息子を連れていきました。発達障害の子にはトランポリンが良いと聞いていたからです。ところが、息子は連れていくたびにパニックになりました。プロ仕様のトランポリンは、かなり高く飛ぶことができるのですが、重力不安のある息子には異常な恐怖だったようです。そこで、先生が息子の体を支えて一緒に飛ぶようにしてくれたのですが、息子は触覚過敏があるため、他人に身体を触れられることをひどく嫌います。終いには苦痛のあまり、ぎゃーぎゃーと泣き出してしまったのです。こうして息子は、パニックになるたびに先生に叱られていましたが、それも仕方ない話です。息子の特性がわかっていなければ、この様子はただの我儘な子にしか見えないからです。先生に「ちゃんとやりなさい!」と叱られるたびに、息子はパニックになって部屋中を駆け回り、物を割ったり落としたり。教室内では、「とんでもない問題児が来たよ…」という冷えびえとした視線が突き刺さりました。ある日息子が大暴れし、教室を辞める決意をした私。思わず口から出た本音に先生は出典 : 回目のトランポリン教室で、息子は先生から身体を触られた途端にパニックになり、大暴れした拍子に鼻血が出て止まらなくなってしまいました。1時間のレッスンのうち、50分以上を鼻血の処置をしながら息子をクールダウンさせる時間に費やしました。私は頑張っていた心がポッキリと折れ、帰り際に先生に教室を退会する旨を伝えました。「この子にはとても無理そうなので退会させて頂きます。実はこの子、自閉症スペクトラムの診断がおりてまして…。ここで一緒にやらせて頂くのは難しかったようです。すみませんでした。」そう私が謝ると、先生は「えっ!」と驚いた顔をし、そして言ったのです。「どうして最初に自閉症スペクトラムだと教えてくださらなかったのですか。知っていれば、ちゃんと対処法がわかったのに。うちの教室、自閉症の子をたくさん見た経験あるんですよ。声のかけ方だって、変わってきたのに。」私はそのとき始めて診断名を隠していたことで息子のことも自分のことも無用に傷つけ、先生にも迷惑をかけてしまっていたということに気付きました。入会前にカミングアウトしていれば…!!私はそのとき、初めて自分のミスに気付いて、涙が止まりませんでした。そのときにはもう、息子はトランポリン教室に恐怖心を持っており、これ以上続けることができない状態になっていました。断られる恐怖はまだある。しかし、障害をオープンにすることで合う場所もきっと見つかる出典 : トランポリン教室での失敗を踏まえ、今では幼稚園や習い事に入るときだけではなく、小さなイベントや病院での診療などのときでも、必ず「この子は発達障害があります」ということを最初にお伝えするようにしています。それでも、「断られたらどうしよう」という怖さはいつもあります。でも、断ってくるところに無理して参加させても、もっと傷つくことになるだけだと思うのです。利用サービスの中には、他の子と区別をせずに指導する習い事もあります。けれども、息子がパニックになったときなどに、指導者があらかじめ「この子はこういうことでパニックになりやすい」と知っていてもらうことで、私も息子も十分救われるのです。傷付くことを怖がって隠していても、もっと傷付くことはたくさんあります。それよりも、カミングアウトしても「大丈夫、一緒に頑張りましょう」と言ってくれる人や環境を見つけることの方が、発達障害児の育児はずっと実りあるものになります。
2016年11月17日大好きなオモチャにいつも夢中な息子…発達障害があるなんて思いもしなかった現在高校生の息子・リュウ太はADHDがあります。息子がまだ小さいころ、私は息子が発達障害だとは思いもしませんでした。でも今思うと、「発達障害かも?」というサインは小さいころからあったのです。たとえば保育園へお迎えに行ったとき、息子はいつも…Upload By かなしろにゃんこ。保育園に迎えに行くと息子は、だいたい寝そべって大好きな車や電車のオモチャを並べていました。私が声をかけるまで自分の世界にどっぷりなんてこともよくあり、迎えに来たことに気が付き嬉しそうにするときもあれば、遊んでいるのを誰にも邪魔されたくない様子のときもあります。登園したときも、私が教室から出ていくことはお構いなしで、息子は大好きなおもちゃに一直線。そんな息子を見て私は「泣いて追ってこられるよりもいいかな」と何も心配していませんでした。ある日保育園の先生がそれとなく教えてくれた、息子の発達障害のサインしかしある日、保育園の先生がこんなお話をしてきました。Upload By かなしろにゃんこ。みんなでお遊戯をしたりお片付けをしたりするときに、先生が息子の名前を呼んで指示しても、オモチャ遊びに夢中で反応がないことがあるというのです。「名前を呼んでも反応しない」というのは、発達障害の子どもにあらわれる特徴でもあります。Upload By かなしろにゃんこ。息子に障害があるなんて思っていなかった私は、先生の意図に全く気付かず…Upload By かなしろにゃんこ。保育園の先生は息子の発達障害を疑っていて、私にそれとなくサインを教えてくれていたのかもしれません。でも息子が発達障害なんてこれっぽっちも疑っていない私は、先生は「リュウ太君、もしかして耳が悪いんじゃないですか?」と心配してくれているのかとすっかり勘違いしていたのです。それどころか、Upload By かなしろにゃんこ。なんて安心しきっていました。発達障害の子どもは、名前を呼んでも反応しないことがあると知ったのは、息子が発達障害の診断を受けた小学校4年生のときでした。保育園の先生は病名を告知する立場にないので、遠まわしにしか伝えられなかったのだろうな~と思うと、それとなく伝えてくれた先生に後で申し訳ない気持ちになりました。「お子さんは発達障害かもしれません」というのは親には本当に伝えにくいことだと思いますので、先生という立場の方はご苦労されているかもしれませんね。今では「私もあのときもっと突っ込んで先生に質問すればよかったのかな?」と思っています。
2016年11月15日発達障害の子が起こすパニック。みんな長男のように激しいものかと思いきや…発達障害の子がよく起こすパニック。それは、自分の思い通りにならなかったり、いつもと違う生活に混乱したりしたときに現れ、冷静でいられなくなってしまう状態を指します。Upload By モンズースー長男のパニックは派手でした。泣いたり、怒ったり、話が聞けなくなったり、次の行動に移せずその場から動けなくなって大暴れ。赤ちゃんの頃はよくえびぞりになって大騒ぎ。私が考えていた「パニック」は派手なイメージだったのですが、支援を受ける子どもたちのパニックは、それぞれ違ったものでした。大声や奇声を発する子自分を叩いたり、壁に体をぶつけたり、自分を傷つけてしまう子他者を叩いたり、物を投げたり、噛み付いたりして、他者を傷つけてしまう子…中には固まって言葉が出ない子や、1人片隅で延々泣いてしまう子もいました。このような静かなパニックは、集団の中では見逃されることもあるかもしれませんね。今思うと長男も、1時期壁に頭を打ちつけるなどの自傷行為がありました。当時は理由がわからなかったのですが、今思うと環境の変化などでパニックになっていたのかもしれません。パニックの原因もさまざまですが、パニックの現れ方も色々あるのだな…と思いました。
2016年11月04日初めまして、この記事に目を留めて下さりありがとうございます。これを読まれている皆様は発達障害との縁が多少なりともある方だと思います。お子様への接し方が分からない。学校などの集団生活になじめない。他人と考え方・感じ方が異なるため誤解されやすい。抱えていらっしゃる悩みごとは様々だと思います。そこで発達障害当事者である私が、自分の障害とどのようにして付き合い、受け入れ、いまの仕事をしているかについて書かせていただきました。今回は、私の幼少期の学校生活についてです。「障害」を周りの大人たちが認識したのは小学生のとき出典 : 小学生のころ、私は自分自身に障害があることを認識しておりませんでした。私の異常を最初に気づいたのは周囲の大人達で、小学1年生のときでした。この時期になっても未だに私だけ読み書きができなかったためです。私は文字の形を認識することができず、平仮名が書けませんでした。ようやく書けるようになっても、文章を書くことはとても難しかったです。作文の宿題が出ると、机に向かって書こうとするのですが、2~3時間頑張ってやっと2~3行書けたぐらいでした。読解については、文字を1文字ずつしか読めず、意味も理解できませんでした。例えば「がっこう へ あるいて いく」なら「が、つ、こ、う、へ、あ、る、い、て、い、く」か「が、つこう、へある、いていく」としか読めず、単語の認識ができなかったようです。さらに算数も、数字の意味や計算の仕組みを理解する事ができませんでした。1+1すらできなかったそうです。自分の努力と適切な支援のおかげで、勉強ができるようになった出典 : 私の様子を担任の先生から指摘され、手を尽くして原因を調べた母は、「発達障害」の存在を知りました。当時はまだあまり知られていない障害でしたが、運よく発達障害を研究している機関を見つける事ができました。そこで私に下された診断は学習障害(LD)。でもこのとき私はまだ、自分に障害があるということをきちんと認識できていませんでした。研究機関に通って母と医師が何やら話しているものの、私は内容が自分に関することだとは思いもせず、退屈だったので同じ部屋内で遊んでいました。しかしこの診断があったことで、母は「根気よく繰り返し、できなくてもイライラせずに、できた事があれば必ず褒める」という教育方針のもとで私を勉強させてくれました。最初なかなか進歩は見られませんでしたが、学校の授業で漢字が出てきてから変化が見られました。例えば「つき」という平仮名だけだとその意味がわからなかったのですが、漢字の「月」は三日月の絵が崩れて漢字になったという成り立ちを見ながら教えてもらうことで、漢字の形と意味を理解できました。漢字を覚えたことがきっかけで、「文字を組み合わせて単語をつくる」ということもだんだんと理解できるようになり、これをきっかけに文章も徐々に読めるようになりました。作文はやはりかなり苦手で、宿題はいつも母が隣で手助けをする必要がありました。しかし、私が強く「書きたい」と思ったことについては、周囲が驚くほど筆が進んだそうです。算数については、数を数字以外のもので視覚化する事で分かるようになりました。例えば先ほどの1+1は、りんごを用意して実際に数える事で理解できました。ただし、文章問題は問題を読み解く必要があるため、できるようになるまでかなり時間がかかりました。このように私は、苦手なことを他の子どもたちとは違う方法で勉強することで、学習の遅れを補うことができました。いじめもあった。でも得意なことをがんばることで、周りに認めてもらえた出典 : 同級生達を始めとした人間関係ですが、小・中・高のどこでも入学してから数ヶ月の間よくいじめられていました。幸い私の周りには助けてくれる大人たちがたくさんおり、大事には至りませんでした。ただ、担任の先生は私の扱いに困っていたようで、よく怒られていたのを覚えています。でも私自身は何が問題で怒られているのかさっぱりわかりませんでした。何が原因だったのか、はっきりとした事は不明ですが、私は授業中に逃げ出して行方不明事件になる一歩手前まで大騒ぎになった事がありました。このように、後先考えず衝動的に行動するところが、恐らく周りから見て異質に見えたのではと思います。このように書くと「発達障害のある子どもは学校になじめないんだ」と思われるかもしれませんが、そんな事はありません。そして、私自身の得意分野が周りに認められたことも、同級生たちとの関係が良くなった一因でした。小学校3~4年生のころ、クラスメイトの誕生日カードを作る宿題がありました。私はこの宿題に夢中になり、夜中の12時頃まで絵を描き続けて、本来は作る必要のない表紙の絵まで描いたそうです。そのとき母は「学校の成績ではあまり重要ではないことに時間を割いて…」と思ったそうですが、夢中になって完成させたカードはクラスメイトの間で好評になり、同級生たちと仲良くなるきっかけになりました(ちなみに誕生カードを贈ったクラスメイトとは、特に親しい間柄ではありませんでした)。何かを作りだすと夢中になり、図工や美術の科目で良い評価を受けることは、その後もたくさんありました。こういった経緯で、周りから見た私は「変わり者だが、すごいやつ」という認識になっていき、次第に同級生たちから認められるようになっていきました。周囲には「障害は完治した」と思われた。でも自分の心の中には違和感があった出典 : 多くの支援と私自身の努力により、学校の成績や友達関係などの問題は解決していきました。これにより、先生も母も「学習障害は完治した」と思ったそうです。特に母は、障害に対する忌避感も重なって、私に「障害がある」とハッキリと伝えることはしませんでした。これでめでたしめでたし…のように見えて、実はそうではありませんでした。確かに目に見えて明らかな問題は解決しましたが、私は他人と打ち解けることが苦手で、周りとは何とも言えない壁を感じ続けていました。例えるなら私と他人の間には常にガラスの壁があり、わかり合えず、私の声は向こう側に届いていないようでした。この壁に、長い間私は1人で悩まされていました。「障害は完治した」という周囲の認識は、成人してからの私の生活にも大きな影響を与えることになります。障害を受け入れた今、保護者や学校に思うこと出典 : 障害があっても、今後も社会で生きていく以上、学校など何かしらの社会的な集団に所属しておく必要はあると思います。でも自我が確立していない幼少期に、所属している集団で自分の存在を認めてくれる人がいないと、本人が自分を認められず、社会で生きていくことは困難になってしまうかもしれません。ありのまま生きる姿を、「障害」としてではなく「個性」として接してくれる人がいれば、その子にしかない才能を発揮して力強く生きてくれるでしょう。私はいじめも経験しましたが、個性の一部として周囲の人に受け入れられていたため、自分を異常だなどと追い込んだり、できないことや失敗したことを障害のせいにすることはありませんでした。そこで、発達障害のお子さんを持つ親御さんへ、発達障害の当事者としてお願いがあります。どうか皆さんには、お子さんの最大の理解者になって欲しいと思います。良くいわれている事だとは思いますが、発達障害=悪いことではありません。だから、悔やむことも、恥じ入ることも、責められることも何一つありません。悪い方向に傾くのか良い方向に傾くのか、それはこれからの行動次第です。いじめや学習障害を乗り越えた私ですが、自分自身に障害があるとは認識しておらず、障害と向き合うことをしていませんでした。このことが将来に影響を及ぼすこととなります。次回は私が大人になってから仕事をするにあたり、ぶつかった困難についてお話します。
2016年11月02日気分障害とは出典 : 気分障害とは常に気分が落ち込んだり、逆に高まることで日常生活に様々な支障をきたしてしまう心の病気です。この障害名は世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)により定められています。気分障害とは気分に関する障害がある病状・疾患を一群としてまとめたものをさしますが、主に以下が含まれます。・うつ病エピソード・躁(そう)病エピソード・双極性障害(躁うつ病)・反復性うつ病性障害・持続性気分障害「エピソード」とは、症状が現れている状態であるということを表す用語です。上記の分類に当てはまらない場合は、その他の気分障害や特定不能の気分障害と診断されます。人は生活を送っていると少なからず嬉しいことや悲しい出来事に直面しますが、その際に気分が上がったり、気分が落ち込んだりしてしまうことは当たり前のことです。しかしこのように発生した感情を、自分でコントロールできなくなることがあります。こうした状態が一定期間以上続いて仕事や私生活など普段の生活に支障がでている場合は、気分障害の可能性があります。参考文献: 『ICD-10』 2013年 中山書店/刊気分障害の種類と症状出典 : 『ICD-10』によると気分障害は大きく分けて5つに分類することができます。うつ病エピソードは気分の持続的な落ち込みを主体とした症状が現れている状態のことです。医師によってうつ病エピソードが確認されると、いわゆるうつ病と診断されます。うつ病エピソードが当てはまると診断された場合は、他の細かい基準が用いられ障害の程度が判断されます。厚生労働省のデータによると、日本においては「一生のうちにうつ病になる頻度は約15人に1人と考えられている」とされるとてもメジャーな疾患ですが、その中の4分の3の人は治療を受けたことがないと言われています。症状としては、・通常なら快楽を感じる活動に対して興味または喜びを感じなくなる・喜怒哀楽などの感情の変化が顕著に無くなってしまう・通常より2時間以上早く起床する・重度の抑うつ気分が午前中に現れる・食欲が激しく低下する・体重の減少・様々な欲求への著しい減退が挙げられます。現れる症状は人それぞれですが、『ICD-10』によるとこれらの症状のうち4つ以上の症状が2週間以上つづくとうつ病の基準を満たしていると診断されます。また、うつ病が重症になると妄想の症状が出ます。代表的なものは体の過度な不調があると妄想する心気妄想、自分はまずしいと思い込んでしまう貧困妄想、自分は犯罪など悪いことを行ってしまったと確信してしまう罪業妄想です。1990年のWHOの研究では「健康な生活を障害する疾患」の4位として発表されていましたが、2020年には虚血性心疾患に次いで2位に上昇すると言われています。その理由として社会のストレス要因が増えてきていることがあると言われています。また慢性疾患を抱えているとうつ病が合併しやすいといわれていることも挙げられます。例えばがんを発症している人のうちの20~38パーセント、糖尿病は25パーセントの人がうつ病を合併していると言われています。こころの耳l 厚生労働省気分障害l 慶応義塾大学病院躁病エピソードは爽快感、身体の快調感、幸福感があり、自信に満ち溢れ楽観的な考えに支配される症状が現れている状態のことです。医師によって躁病エピソードが確認されると、いわゆる躁病と診断されます。躁病エピソードが当てはまると診断された場合は、他の細かい基準が用いられ障害の程度が判断されます。躁病の症状としては、・活動的になる・口数が多くなる・注意不足、集中力低下によるミスが増える・睡眠欲求の低下・性的欲求が高まる・リスクを考えない浪費や無謀な運転などの常識をはずれた行動を起こす・社交的になる、または過度に馴れ馴れしくなるが挙げられます。『ICD-10』によると躁病の診断には上記の症状のうち3つの症状が4日以上持続していること、日常生活に本人が感じる程度のトラブルを起こしてしまっていることが条件となります。多くの場合、躁病の症状は徐々に始まり、何となく元気がみなぎってきたり、仕事の能率が上がったりすることで調子がいいと感じていきます。症状が重くなっていくと活動性が増加し、多くのアイデアを実行しようと一日中活動し続けます。この場合に睡眠時間が短くなってしまったとしてもあまり疲れたと感じません。当初は意識的に活動量を調整するように気をつけることができます。しかし、次第に調子が出すぎているという認識がなくなり周囲の人を考えない言動をするようになります。最終的には口数が多く、自己主張が強くなり、しきりに他人の世話を焼こうとし、対人関係トラブルを起こしてしまう傾向にあります。生涯にわたって躁病の症状しか発症しない単極性躁病はとても珍しく、躁病エピソードを発症している人のほとんどは双極性障害を発症しているといわれています。うつ病エピソードのみを2週間以上継続し、2回以上繰り返すと反復性うつ病性障害と診断されます。反復していると診断される基準として、先述したうつ病を発症した後2ヶ月以上同じような症状が現れない期間が存在することがあげられます。反復性うつ病性障害の一例として季節性感情障害が挙げられます。季節性感情障害とは主に秋から冬にかけて抑うつ状態となり、春には症状が改善するなど、抑うつ症状になる期間と回復する期間の転換が1年のうちの特定の時期に起こる疾患です。双極性障害とは一般的に躁うつ病と呼ばれる疾患です。双極性障害はうつ病エピソードと躁病エピソード両方を反復する場合、基準に当てはまると診断されます。初めのエピソードを発症してから次のエピソード発症するまで平均5年程度かかるといわれますが、エピソードを繰り返すごとに再発までの期間は短くなり、一つ一つのエピソードの継続期間はながくなるといわれています。躁病エピソードは急に発症することが多く、2週間から5か月程度持続します。一方うつ病エピソードは徐々に発症し、躁病エピソードに比べて発症期間が長い傾向にあります。双極性障害によって気分が高揚し、いらいらしたり、注意散漫になったり、誇大的になったりするなど対人関係などにも様々な障害を引き起こすことがあります。双極性障害は再発率が高いと同時に、自殺をしてしまう確率が精神障害の中で最も高い精神疾患の一つといわれています。双極性障害(躁うつ病)l 前田クリニック主に気分循環症・気分変調症をまとめて指す疾患です。躁病やうつ病の症状は当てはまらないけれど、明らかに気分が変わっていることが分かる状態をさします。■気分循環症通常は成人早期までに発症する双極性障害の軽症型です。うつ病エピソードと双極性障害の症状すべての条件を満たさない程度で、数日単位で落ち込んでいる状態と気分が良い状態が不規則に反復する期間が2年間以上続きます。気分循環症の症状としては、うつ病期間と気分高揚期間にそれぞれ3つ以上の症状が当てはまることが条件となります。うつ病期間:・エネルギーあるいは活動性の低下・自信が急に無くなるなどの自己評価の激しい変化・不眠・集中ができなくなる・引っ込み思案になり、社会からひきこもる・欲求の低下、喜びの感情の喪失・口数が少なくなる気分高揚期間:・エネルギーがありあまり、活動性が高くなる・睡眠欲求がなくなる・自己評価が過大になる・頭の働きがとてもよくなる・社交的になり、人付き合いがとてもよくなる・口数が多くなる・欲求を追い求めるようになる・過剰に楽観的になったり、過去に成し遂げたことに対して過大評価をしてしまう軽うつエピソードが優位の抑うつ型、軽うつエピソードと軽躁(そう)エピソードが同じ頻度で出現する定型的な気分循環症、軽躁(そう)エピソード優位の軽躁型の3つのパターンがあります。抑うつ型を発症している人が一番多く、割合としては気分循環症を発症している人の50パーセントを占めていると言われています。■気分変調症うつ病の診断基準を満たさない程度の軽度の抑うつ状態が2年以上持続する疾患です。うつ病と違い比較的短期間であれば気分が落ち込まない正常な期間が存在しても診断内容に影響がないと言われています。気分変調症の症状としては、気分循環症のうつ病期間に発症する症状に加えて、・涙もろい・物事に対して絶望感を感じる・日常生活でこなさなければいけない課題を対処しきれないという考えに陥る・将来や過去の出来事に対して考え込んでしまうなどの症状を発症します。これらの症状のうち3つ以上が当てはまると気分変調症を発症していると診断されます。持続性気分障害を発症している人自身は無気力感や気分の大きな落ち込みを感じていますが、社会的・職業的にはトラブルが発生していない場合が多いです。そのため本人も周囲の人も疾患を発症していると認識できず、本人は不調をそのままにしてしまう傾向があります。参考文献: 『ICD-10』 2013年 中山書店/刊気分障害を発症しやすい年齢出典 : うつ病はいかなる年齢においても発症しますが、発症率は思春期以降に大きく増加します。平均発症年齢は20歳代ですが、高齢者になって初めて発症する人も少なくはありません。厚生労働省研究班のデータによると、日本においては「一生のうちにうつ病になる頻度は約15人に1人と考えられている」とされています。女性のほうがかかりやすく、有病率は男性の1.5倍~3倍であると言われています。これは女性ホルモンの増加、妊娠、出産など女性に特有のトラブルが多いことが原因の一つであると考えられています。うつ病をしっていますか?l 厚生労働省双極性障害の発症年齢をみてみますと、15~19歳が最も多く、20~24歳がそれについで多く、それ以上では50歳以上も稀にあると言われます。発症平均年齢は30歳と言われています。5、6歳くらいの子どもについても双極性障害の発症が認められていますが、ADHD(注意欠陥・多動性障害)との識別が難しく、まだ研究が進められている段階です。双極性障害l 前田クリニック気分循環性障害は通常青年期または成人期早期に始まる疾患です。性別関係なく発症すると言われており、子どもの気分循環性障害では症状発症の平均年齢は6.5歳です。気分循環性障害がある人が双極性障害を発症する可能性は15~50パーセントです。気分変調症は小児期、青年期、あるいは成人期早期に発症し、慢性化する場合が多いです。『DSM-5 』(『精神障害のための診断と統計のマニュアル』第5版)2014年医学書院/刊気分障害の原因出典 : 気分障害が発症してしまう理由として遺伝子、ストレス、環境、性格などの様々な要因が複雑にかかわりあっていることが挙げられます。主な要因は抑うつ症状の強いうつ病・気分変調症、もしくは躁うつ症状がでる双極性障害・気分循環性障害のどちらかによって異なります。しかしまだはっきりとした原因は解明されておらず、今後更なる研究が必要とされています。うつ病・気分変調症は主に性格、ストレス、生物学的要因が大きく関与しているといわれています。かつてはうつ病や気分変調症は性格や遺伝の問題であるとされていましたが、近年患者数が急増するとともに研究が進み、性格や遺伝の問題だけではないことが徐々にわかってきました。近年ではストレスや生物学的要因がうつ病に深く関与していると多く言われています。■性格:主にきまじめな性格や社交的な反面気が弱い性格の人がうつ病になりやすいと言われています。熱心に仕事に打ち込み、責任感が強くすべてのことに対して正直に取り組む人や、親しみやすくいい人として周囲からは見られるが、実は気が弱いために他者を優先させてしまう一面を持つ人が例として挙げられます。■ストレス:近親者の死亡、病気、家庭内のトラブル、出産、結婚・離婚、会社の人事異動や転勤、仕事上のトラブル、過労などさまざまなストレスがうつ病の発症の大きな誘因となっているという研究結果が出ています。■生物学的要因:上記の性格やストレス要因が当てはまる人のなかで、うつ病を発症する人としない人の違いは主に生物学的要因にある傾向があります。脳の中で重要な情報伝達の働きをしているセロトニンやドーパミンなどの異常が、うつ病の発症と深く関わっているのではないかという有力な説もあります。しかし、この生物学的要因もまだ解明されたわけではなく、研究が進められている過程にあります。双極性障害・気分循環性障害の発症要因と考えられるものは遺伝子、ストレス、性格、生物学的要因で、もっとも深く関与していると言われているのが遺伝子です。■遺伝子:双極性障害は同じ家系に発症する確率が高いことから、何らかの遺伝子が発症にかかわっているのではないかと指摘されています。しかし、ある特定の遺伝子ではなく、いくつかの遺伝子の組み合わせによって発症するのではないかと推測されています。■ストレス:身の周りで起こることを本人がストレスに感じてしまうことも大きな原因の一つであると言われています。例として結婚や引っ越し、出産などのライフイベントに対する受け止め方や重なり具合、職場の人間関係などが挙げられます。このような生活環境の変化がストレスとなり、こころの安定の成分をつかさどるセロトニンに影響がでてしまったり、様々な支障が発生します。■性格:うつ病・気分変調症を発症する人と違い、双極性障害・気分循環性障害を発症する人は社交的で明るい、ユーモアのある性格という傾向があります。このような性格を一般的に循環気質と表現します。気配りも上手で、常に周囲の人の中心的役割を果たしていますが、気分が高揚しているときと沈み込んでいるときが周期的に訪れるため、状況に応じながら気分や思考がポジティブになったり、ネガティブになったり変化します。しかし、現在では循環気質の性格だけではなく様々な気質の人も発症することが分かっており、執着気質がその一つです。執着気質とは一つのことにたいして徹底的に自分を追い込む頑張り屋さんのような人です。「疲れてなんかいない」といって自分自身を鼓舞し、さらに頑張り過ぎることを継続することで双極性障害を知らない間に発症している場合があります。■生物学的要因:近年双極性障害には生物学的要因もあることが明らかになってきています。それは、脳細胞内にあるミトコンドリアの機能異常です。ミトコンドリアはエネルギー物質を生産する働きの他に、情報伝達にかかわるカルシウムの濃度を調整する機能をもつ物質です。ミトコンドリアの異常によってカルシウム濃度の調整がうまく行われなくなると細胞内の情報がうまく伝わらず、双極性障害の発症を誘因するものと考えらます。しかし双極性障害は発症する確率も低くはっきりとした原因はまだ解明されていません。研究が今後進んでいくことが期待されます。気分障害l 前田クリニック気分障害の相談先と治療先出典 : 気分障害に区分される疾患はストレスが多い現代社会ではいつ、誰が発症してもおかしくない疾患です。気分が上がらず憂鬱な気分のまま数週間が経ってしまったり、逆にテンションの上がり下がりにムラがあり不安を感じる場合は以下の行政機関に相談するか、医療機関の受診をおすすめします。■児童相談所:児童相談所は、すべての都道府県と政令指定都市に最低1つ以上設置されている児童福祉の専門機関です。主に、「子どもの養育に関する相談」、「障害に関する相談」、「性格や行動の問題に関する相談」などの育児に関する相談ができる機関となっています。全国児童相談所一覧l 厚生労働省■全国精神保健福祉センター:各県、政令市にはほぼ一か所ずつ設置されている、保健・精神保健に関する公的な窓口です。精神保健福祉に関する相談をすることができます。精神科医、臨床心理技術者、作業療法士、保健師、看護師などの専門職が配置されています。相談については、施設によって予約が必要な場合や健康保険の適用が可能なところがあります。詳細は、それぞれのセンターにお問い合わせください。全国の精神保健福祉センターを探すl 厚生労働省■精神科:精神疾患をはじめ、精神障害や睡眠障害、依存症を診療する科です。具体的には不安、抑うつ、不眠、イライラ、幻覚、幻聴、妄想などの症状を扱います。■心療内科:心と体、それだけでなく、その人をとりまく環境等も考慮して扱う科です。前述の精神症状だけでなく、ほてりや動悸などの身体症状、また社会的背景及び家庭環境なども考慮して治療を行います。精神科、心療内科どちらに行ったらいいか迷う方もいらっしゃるかもしれませんが、気分障害の場合は精神科を受診しても、心療内科を受診してもどちらでも大丈夫です。気分障害の治療出典 : 気分障害の治療法として現在主に効果的であると考えられ、用いられているのは薬物療法、精神療法、そして電気けいれん療法です。発症している疾患により細かい治療法は異なるので詳しい情報は専門家に相談することをおすすめします。薬物療法の場合、うつ病に対してはうつ症状を改善する「抗うつ薬」が用いられます。一方、双極性障害に対しては激しい移り変わりがある感情を安定させる「気分安定薬」が中心的に用いられます。いずれの場合も、不安を抑える「抗不安薬」が同時に処方されることがあります。代表的な抗うつ薬として三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などが挙げられ、適切な量と期間で服用することが重要であるとされています。抗うつ薬は主にうつ病・気分変調症に処方されています。双極性障害・気分循環障害を発症している人が抗うつ薬を服用するとかえって気分が不安定になったり、躁状態になってしまったりすることがあるため、躁うつの症状に対しては抗うつ薬は基本的に使用されせん。気分安定薬には気分が上がりすぎる躁状態を抑える効果、沈みすぎてしまう抑うつ状態を改善させる効果、いったん安定した気分を維持させる効果があります。現在、双極性障害・気分循環障害の薬物療法は気分安定薬が中心となっていますが、飲み始めてからしばらくは重い副作用を防ぐために血液検査が数回必要です。また検査後も一定期間ごとに採血をすることで効果と安全性が確かめられるため、継続して受診することが大切です。うつ病は再び症状が出現することの多い病気です。回復後1年の間に約20%の患者さんに再び症状が出現する上に、その後の再発も含めると、その割合は約40~50%に上がります。また、途中で治ったと感じて治療することをやめてしまうと半年後に再び症状が出現する危険性が2倍になるという研究結果もでています。しかし、いずれの場合も治療法の効果や必要な量・期間には個人差があるため、自分だけで判断することは危険です。治療の際には、専門家の指導を受けながら用量・用法を守って行うことが大切です。気分障害l 慶應大学病院気分変調症l前田クリニック現在様々な精神療法が開発されていますが、気分障害に有効であると考えられているのは認知行動療法と対人関係療法です。一般的には医師やカウンセラーとの対話を通して、自身がどのタイミングで不安や心配を感じるのか、物事をどのように捉えているのか自身の思考のクセを把握します。そして、不安を感じる状況をどのように捉え、対処していけばいいかを考え、自身の感情をコントロールできるようにしていく治療法です。また対人関係療法は気分障害を抱えている人だけではなく、その人の家族や恋人などの重要な他者との関係に焦点を当てて、他者との関わり方を考えていく精神療法です。最終的には身近な他者との関係だけではなく、より広い範囲の人々に対してもよりよい関係を築けるようになることを目的とします。頭皮から電流を流すことで意図的にてんかん発作を発生させ、抑うつ症状を改善します。うつ病、双極性障害に有効といわれています。この治療法が用いられるのは薬物療法をはじめ、認知行動療法、その他の治療では効果が認められない場合、あるいは妄想をしてしまうなど症状が非常に重く治療の緊急性が高い場合です。軽、中度のうつ病の場合、あるいは他の治療法によって効果が認められている場合には原則使用されません。電気けいれん療法がなぜうつ病や、双極性障害の症状に効果があるのかについては未だ解明されていません。しかし、多くの医療機関においてその有効性が確認されており、日本においても保険の適応となっています。以前は治療の過程で生じる全身のけいれんが骨折などの怪我につながるリスクがありました。しかし、1980年代頃から施行されるようになった「修正型電気けいれん療法(m-ECT)」では麻酔科医の同伴のもと麻酔薬及び筋弛緩剤を投与し、けいれんを防ぐことができます。治療を受けることができる医療機関は必要な薬剤や人員の確保ができる病院に限られるようです。気分障害l 慶應義塾大学病院まとめ出典 : 気分障害がある人は少なくとも世界に3億5000万人以上もいると言われており、世界的に増加傾向にあります。日本も例外ではなく厚生労働省によると、平成26年度時点で約112万人の人が発症していると言われています。気分障害の症状により日常生活に悪い影響をきたしてしまうと、何かとうまくいかないことがストレスにつながり悪循環に陥ってしまう場合も少なくはありません。そのため気分障害は悪循環に陥る前の初期治療、そして症状が治まった後の再発予防がとても大切になっています。近年研究が進んでいることにより治療法の種類も増えてきています。そのため疾患や症状の程度を考慮した上での一人ひとりに合わせた治療法が選択できるようになっています。最近気分が晴れずずっと暗いままであったり、気分の上がり下がりが激しく自分をコントロールできない時があるなど、不安を抱えている場合はこころの風邪である気分障害を抱えている可能性があります。気になることがある場合は、専門家に相談しながら、症状の見極めや対応方法を検討すると良いでしょう。平成26年度患者調査の概要l 厚生労働省
2016年10月26日情緒障害とは出典 : 「情緒障害」とは、子どもが何らかの要因により感情面に問題が生じ、社会に適応できない状態にあることを指す言葉です。広義に解釈すると上記の意味ですが、実は「情緒障害」は、厳密かつ普遍的な定義がなく、その意味や内容は時代や社会的な背景とともに大きく変遷してきました。そのため現在実際に使われている「情緒障害」という言葉も、文部科学省、厚生労働省、医学のそれぞれにおいて定義や概念にばらつきがあります。情緒障害に含まれる具体的な障害もそれぞれの定義によって異なるため混乱を招くこともままあり、必要に応じて関係機関の定義を参照し、確認する必要があります。以下でそれぞれの定義を見ていきましょう。教育、福祉、医学、それぞれ違う「情緒障害」の定義出典 : ・情緒障害の教育的定義主に特別支援教育の場面で使われる、文部科学省による「情緒障害」の定義は以下の通りです。状況に合わない感情・気分が持続し、不適切な行動が引き起こされ、それらを自分の意思ではコントロールできないことが継続し、学校生活や社会生活に適応できなくなる状態をいう。平成25年教育支援資料Ⅶ 情緒障害|文部科学省HP・情緒障害の教育的定義に当てはまる症状教育の場で用いられる情緒障害にあてはまる症状の具体例としては、主に選択性緘黙(かんもく)を指し、その他、集団行動・社会的行動をしない、引きこもり、不登校、指しゃぶりや爪かみなどの癖、常同行動、離席、反社会的行動、性的逸脱行動、自傷行為をあげています。・教育的定義における情緒障害と発達障害の関係文部科学省では、情緒障害は心理的な要因から生じる後天的な問題であり、先天的な問題から生じる発達障害とは違うものと定義しています。・「情緒障害」の教育的定義の成り立ち教育の場で言われる「情緒障害」は、教育上の概念・分類であり、医学用語の「情緒障害」の定義とは必ずしも一致しません。現在、このようなわかりにくさを生んでいるのは、情緒障害という障害の概念が時代によって変遷していることと、特殊支援教育の歴史的背景に由来しています。公立学校に現在の特別支援学級の前身である情緒障害特殊学級が成立した1969年当時、自閉症などの先天性由来の障害も含めおおまかに「情緒障害」と定義していました。のちに、先天的な障害である自閉症は「情緒障害」から除外されたため、「情緒障害」は後天的な心理的問題により社会に適合していない子どもを分類するための概念と修正されました。平成18年には「学校教育法施行規則の一部を改正する省令」が発令され、平成21年には「情緒教育特別支援学級」の名称も「自閉症・情緒障害特別支援学級」と変更され、特別支援教育の場でも自閉症が情緒障害から分けられるようになりました。・情緒障害の福祉的定義厚生労働省管轄の情緒障害児短期治療施設などの福祉の場面で用いられる「情緒障害」は、厚生労働省が定義したものに沿っています。厚生労働省の情緒障害児の定義は以下の通りです。情緒障害児とは,家庭,学校,近隣等での人間関係のゆがみによって,感情生活に支障をきたし,社会適応が困難になった児童をいう。厚生白書(昭和53年版)・情緒障害の福祉的定義に当てはまる行動や状態不登校、引きこもり、かん黙、軽度の非行、チック、発達障害による二次障害、虐待により心理的に傷ついた状態など参考ページ:厚生白書(昭和43年版)第3章社会福祉|厚生労働省HP・福祉的定義における情緒障害と発達障害の関係厚生労働省が定義する「情緒障害」(情緒障害の福祉的定義)は、同省が定義する発達障害に含まれる、としています。参考ページ:発達障害者支援法の施行について|厚生労働省HP医学的な用語としての「情緒障害」は、主として、心理的な反応として起きる、情動が著しく不安定で激しい現れ方をする状態であり、病名ではないとするのが主流です。国立特別支援教育総合研究所によると、医学的な用語としての「情緒障害」は次のようにまとめられます。1)厳密で普遍性のある定義はない。2)病名ではなく症状もしくは状態像を指して用いられることが一般的。3)現在では、心理的要因が原因と想定されるものに主に用いられるが、例外もある。世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)においては、「情緒の障害」と表記されているものが、医学的な用語としての情緒障害とほぼ同義とされ、病名に相当する診断カテゴリーとされています。参考:発達障害と情緒障害の関連と教育的支援に関する研究・医学的見地における情緒障害と発達障害の関係基本的に、医学的には情緒障害と発達障害は別の区分とされています。就学相談などで使われる「情緒障害」のさす意味とは?出典 : 教育の場で「情緒障害」とされる状態は、具体的には2種類の問題行動があります。一つは、周囲から介入しない限り周囲に迷惑や支障を生じない、内向性の問題行動、もう一つは、周囲からの介入がなければその行動自体が周囲の人に迷惑や支障を生じる外向性の問題行動です。専門用語で「内向性行動問題」と呼ばれるもので、周囲が介入しない限り迷惑や支障を生じないものをさします。具体的な例として、・選択性緘黙(かんもく)・不登校、集団行動・社会的行動をしない・ひきこもり、指しゃぶりや爪かみなどの癖・身体を前後に揺らし続けるなどの同じパターンの行動を反復すること(常同行動)・自分の髪の毛を抜くことなどです。一般的にはただの「癖」と考えられているものでも、この行動が長期間頻繁に続き、学校での学習や集団行動に支障をきたすほどの場合には情緒障害としてとらえられます。専門用語で「外向性行動問題」と呼ばれるもので、周囲からの介入がなければその行動自体が周囲の人に迷惑や支障を生じる場合をさします。具体的な例は、・離席、教室からの抜け出し・集団逸脱行動・犯行、暴言、暴力、反社会的行動・非行、性的逸脱行動などです。これらの行動から、学校での学習や集団生活に支障をきたしてしまいます。攻撃性を示す場合が多く、その攻撃性が自分に向った場合である自傷行為も情緒障害としてとらえられます。教育の場で「情緒障害」としてあがることの多い、選択性緘黙と不登校について紹介します。・選択性緘黙文部科学省が定義する選択性緘黙は、以下の通りです。選択性かん黙とは,一般に,発声器官等に明らかな器質的・機能的な障害はないが,心理的な要因により,特定の状況(例えば,家族や慣れた人以外の人に対して,あるいは家庭の外など)で音声や言葉を出せず,学業等に支障がある状態である。(平成25年文部科学省教育支援資料)・不登校文部科学省の教育支援資料において、不登校は、以下のように定義されています。不登校の要因は様々であるが,情緒障害教育の対象としての不登校は,心理的,情緒的理由により,登校できず家に閉じこもっていたり,家を出ても登校できなかったりする状態である。そして,本人は登校しなければならないことを意識しており,登校しようとするができないという社会的不適応になっている状態である。したがって,一般的には,怠学や学校の意義を否定するなどの考えから,意図的に登校を渋る場合は,学校に登校しないという状態は類似しているが,ここでいう情緒障害の範囲には含まない。平成25年教育支援資料Ⅶ 情緒障害|文部科学省HP「情緒障害」の子どもには、どのような支援があるの?出典 : 自閉症・情緒障害通級指導教室通級指導教室とは、通常学級の学校に籍を置いて、通級指導の時間のみ通級指導教室に通って支援を受けるという制度です。子どもが在籍する学校に通級指導教室が無い場合は、通級指導教室がある他の学校に通って通級指導を受ける場合もあります。障害の種別に分かれ、その子に合った指導が受けられますが、情緒障害のある子どもは「自閉症・情緒障害通級指導教室」に通うことになります。・対象者通常の学級におおむね参加でき、一部特別な指導(社会的適応のための特別な指導や強化の補充指導など)を必要とする程度のものであるとされています。・どのような指導がされるか基本的には、特別支援学校などにおける、障害がある生徒の自立を目指した教育的な活動を参考とした指導が中心で、社会的適応性の向上が目的とされています。通級指導を受ける場合、大半の時間を通常学級で過ごし、通級指導を受ける時間は限られています。そのため、必要に応じて各教科などの補充的な指導は行っていますが、個別の指導内容を設定することはできません。自閉症・情緒障害特別支援学級特別支援学級とは、通常学級ではなく特別支援学級に籍を置き、よりきめ細かな指導を受ける少人数の学級です。もし、子どもに手厚い指導が必要な場合は、上記の通級指導教室ではなく特別支援学級に通う場合が多いです。情緒障害のある子どもは「自閉症・情緒障害特別支援学級」で指導を受けることになります。・対象者文部科学省は、自閉症・情緒障害教育の対象を以下のように定めています。一 自閉症又はそれに類するもので,他人との意思疎通及び対人関係の形成 が困難である程度のもの二 主として心理的な要因による選択性かん黙などがあるもので,社会生活へ の適応が困難である程度のもの平成25年教育支援資料Ⅶ 情緒障害|文部科学省HP選択性かん黙や不登校などの感情面での問題のために、通常の学級では学習を行うことが難しく、社会的適応のための特別な指導を行う必要がある子どもが対象者であるとされています。・どのような指導が受けられるか情緒障害や自閉症のある子どもなどが、人とのかかわりを円滑にし生活する力を育てることを目標に指導を受けることができます。 特別の教育課程を編成することができることが特徴です。基本的に主な授業は特別支援学級で受けますが、体育や図画工作、給食の時間は通常学級の子どもたちと過ごすこともあります。特別支援学校基本的には、情緒障害であるというだけで特別支援学校の支援対象となることはありませんが、情緒障害とされている子どもが、知的障害や病弱・身体虚弱を伴う場合は、知的障害、病弱などの区分での支援対象となることもあります。特別支援学校と特別支援学級・通級指導教室の違いについては、以下のコラムに詳しく解説されています。・放課後等デイサービス幼稚園・大学を除いた学校に就学中で、かつ障害のある子どもが、学校の授業終了後や長期休暇中などに通い、生活能力向上のための訓練および、社会との交流促進を行う施設です。施設利用にあたって療育手帳や障害者手帳は必須ではなく、障害児通所支援受給者証を申請し、認可が下りれば利用することができます。施設のタイプは、習い事型、学童保育型、療育型の大きく分けて3つのタイプに分けられます。詳しくは以下の記事をご覧ください。・情緒障害児短期治療施設(児童心理治療施設)情緒障害短期治療施設とは、学校教育との緊密な連携をとりつつ、医学的な心理治療を行う総合的な治療・支援施設です。情緒障害児短期治療施設の対象児童は、心理的困難や苦しみを抱え日常生活に生きづらさを感じている子どもたちであり、心理治療が必要とされる子どもたちであるとされています。知的障害児や重度の精神障害児は基本的に対象ではありません。利用方法は、宿泊入所、通所、外来相談の3つがありますが、施設によっては外来相談が設置されていない場合もあるため、一度お近くの情緒障害児短期治療施設に電話などで相談してみることをおすすめいたします。・児童相談所児童相談所とは、家庭や学校などから18歳未満の子どもに関するあらゆる相談に応じ、また、子どもおよび家庭に対して医学的、心理学的、教育学的、社会学的及び精神保健上の判定や調査、調整を行う場所のことです。各相談所には精神科医師、児童心理士、児童福祉司などの専門職員が配置されています。・児童家庭支援センター児童家庭支援センターは、児童心理療育施設、児童養護施設、児童自立支援施設、母子生活支援施設、乳児院に設置されているもので、18歳未満の子どもに関する様々な相談を、子ども、家庭、地域住民から受け付けます。また、児童福祉施設などの関係する機関との連絡調整も行います。学校で子どもが直面する「情緒障害」の原因は?出典 : 教育的定義における「情緒障害」とされる状態を引き起こす原因としては、対人関係のストレス状況、学業・部活動の負担、親子関係の問題などが考えられるとされています。友人同士や教師との関係において、対等な人間関係が崩れた場合大きなストレスが生じます。いじめがその最たるものとされています。一方的、威圧的に教師や友人に接されることによりストレスが生じ、情緒障害とされる状態に陥る原因になります。学業、部活などにおいて、本人の能力に見合わない要求をされ、かつその環境から抜け出すことができない雰囲気がある場合、それがストレスとなり情緒障害の原因となると言われています。親子関係において信頼関係が築けていない場合に、教育的定義における「情緒障害」の原因となる可能性があります。親子の信頼関係が築かれていないパターンで、児童虐待なども含まれます。子どもと過ごす時間を十分にとることが信頼関係の構築において大切です。平成25年教育支援資料Ⅶ 情緒障害|文部科学省HP子どもが情緒障害の疑いがあるとき、どう対応すべきなの?出典 : 生活上の問題が生じたときは、できる限り早い段階でなんらかの対応をとることが必要です。・毎日の基本的な生活環境を整える子どもの成育には、障害の有無、障害の種類にかかわらず、安心して過ごせる環境作りが必須です。毎日の生活のなかで、家族関係の安定を意識し、なるべくお子さんをほめてあげること、そして、できるだけ一緒に過ごしてあげること。このような安心して過ごせる基本的な環境作りを心がけることこそが、お子さんの症状の回復のための基礎づくりとなります。・いじめはすぐ対処もし、お子さんがいじめを受けているように感じたら、本人に対処させるのではなく、いじめが起きている環境から保護することが最優先です。まず、教師に相談し、お子さんのいる環境を変えるなどの対応をし、それに加え児童精神科などで専門的な治療を受けることで、心の傷がこれ以上深まらないようにする必要があります。・医療機関を受診する身体症状が強い場合は小児科、情緒面の問題が強い場合は児童精神科を受診することをおすすめします。専門家の指示を仰ぎ、適切な指示を受ければ、ご家族もお子さんも、無為に苦しむことなく解決の糸口を見つけることができます。どうしても、医療機関の受診への敷居が高い場合には、スクールカウンセラーや各相談機関を利用するのも一つの手です。もし、近くに児童精神科がない場合は、大学病院や総合病院の精神科でも診療してもらえます。少しでもお子さんが何らかの問題を抱えているように感じたら、どうか一人で抱え込まずに、専門家の助けを求めてください。参考文献:杉山登志郎 /著『子どもの発達障害と情緒障害』2009年講談社/刊まとめ出典 : 「情緒障害」の定義はさまざまですが、一般に情緒障害とされる状態は、主に対人関係などの後天的なストレス要因から生じるとされています。先述の通り、お子さんの成育の基本となるのは安心して生活できる環境づくりであり、それには家族からの理解が不可欠です。お子さんをあたたかい目で見守ってあげることこそが、問題解決のための近道となります。とはいえ、保護者の方が、何のストレスも感じずお子さんに接し続けるのは難しいこともあります。専門家からアドバイスしてもらうことで、今までずっと悩んでいた問題から抜け出す解決の糸口が見つかることもありますので、少しでも悩み事がある場合は一人で抱え込まず、医療機関や相談窓口に連絡を取ることをおすすめします。平成25年教育支援資料Ⅶ 情緒障害|文部科学省HPあなたのそばの相談機関|情緒障害児短期治療施設(児童心理治療施設)ネットワークHP発達障害者支援施策について|厚生労働省HP厚生白書(昭和53年版)|厚生労働省HP情緒障害児短期治療施設運営指針|厚生労働省HP特別支援教育について|文部科学省HP 自閉症・情緒障害とは|国立特別支援教育総合研究所HP
2016年10月24日発達障害支援の研究は日進月歩。最新の研究はどうなっているの?出典 : 発達障害の原因や治療法、支援技術に関する研究は、世界各地、様々な分野の専門家が取り組んでいる領域です。私たちが日常生活するなかでも、メディアに掲載されるニュースなどを通して、その研究成果の一部にふれることがあります。実際に発達障害のある子どもを育てている保護者や、その周辺の支援者にとって、最新の研究成果は今と未来の生活にどのような影響をおよぼすのでしょうか?そんな疑問に応えるシンポジウムのお知らせです。11月5日、「うちの子、少し違うかも・・・~発達障害に対する適切な療育・支援のための研究開発~」と題されたシンポジウムが、東京都江東区青梅にある、日本科学未来館にて開催されます。主催団体である「社会技術研究開発センター(RISTEX)」からいただいたシンポジウムの概要をご紹介します。ご興味のある方はぜひ参加してみてください。11月5日(土)「うちの子、少し違うかも・・・~発達障害に対する適切な療育・支援のための研究開発~」シンポジウム概要Upload By 発達ナビ編集部1. 趣旨落ち着きがない、こだわりが強い、人見知りが激しい、などで子育てが難しいと感じられる子どもに発達障害※があると診断されることがあります。しかし、発達障害は早期に発見し適切な療育を行うことで子どもの将来の可能性が広がり、周囲の支援によりご家族の困難を軽減することが期待できます。JST社会技術研究開発センター※※では、発達障害に関する研究開発プロジェクトを支援しています。本シンポジウムでは、その中で活動した研究者からの最新の研究報告と有識者によるパネルディスカッションを行い、早期発見、療育、ご家族への支援の大切さへの理解を深めることをねらいとします。※発達障害は、生まれつき脳の発達が通常と違っているために、幼児のうちから症状が現れ、通常の育児ではうまくいかないことがあります。成長するにつれ、自分自身のもつ不得手な部分に気づき、生きにくさを感じることがあるかもしれません。(厚生労働省 みんなのメンタルヘルス HPより)※※社会技術研究開発センター(RISTEX)では、「社会のなかの科学・社会のための科学」の理念のもと、社会の具体的な問題の解決を目指す研究開発を推進しています。2. 日時平成28年11月5日(土)開場12:30開演12:45~14:45(2時間)3. 場所日本科学未来館(東京都江東区青海)7階未来館ホール(定員300名)4. 対象ご家族、教育・保育に携わる方、子育て支援に関わる民間団体の方、地方自治体の方、など注:主に、以下の方を対象とします。・情報収集がインターネットや親同士の情報交換に限られ、クリニックの検診まで踏み出せないご家族・子どもが発達障害との診断を受けたがその後の子育てに不安を持つご家族・発達障害がある子、もしくは、気になる子を持つご家族が親戚や友人にいる方5. プログラム12:30受付開始12:45開会挨拶12:50講演①神尾 陽子 氏(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 児童・思春期精神保健研究部 部長)『一人ひとりの発達特性にあった子育てとそれを支える地域社会』②船曳 康子 氏(京都大学大学院人間・環境学研究科 総合人間学部 准教授)『MSPA(Multi-dimensional Scale for PDD and ADHD)による発達特性の理解と今後』③山野 則子 氏(大阪府立大学大学院 人間社会システム科学研究科 教授/スクールソーシャルワーク・評価支援研究所 所長)『発達障害を抱える児童・生徒の学校における支援と課題~スクールソーシャルワークの視点から~』13:35パネルディスカッションモデレーター:熊 仁美 氏 (特定非営利活動法人ADDS 共同代表)パネリスト :上記講演者3名、山﨑 順子 氏(東京都発達障害支援センター(TOSCA) センター長)14:25フロアとの対話(質疑応答)、まとめ14:45終了Upload By 発達ナビ編集部京都大学医学部卒業、ロンドン大学付属精神医学研究所児童青年精神医学課程終了、京都大学医学部精神神経科助手の後、米国コネティカット大学(フルブライト研究員)で自閉症研究に従事した後、九州大学大学院人間環境学研究院助教授を経て、2006年より国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所児童・思春期精神保健研究部部長、2010年より山梨大学客員教授を併任。Upload By 発達ナビ編集部H8年京都大学医学部卒業。京都大学医学部付属病院、京都市立病院にて研修後、京都大学大学院医学研究科に入学し、認知症の臨床研究を行った。H12年からは、カリフォルニア工科大学行動生物学教室に留学し、小鳥の歌を用いた音声発達の臨界期の研究に従事。H15年に帰国し、こころの発達、発達障害の分野の臨床と研究に従事。日本学術振興会特別研究員、京都大学医学部付属精神科助教を経て、H27年より現職。Upload By 発達ナビ編集部関西学院大学社会学研究科後期博士課程修了、博士(人間福祉)。スクールソーシャルワーク評価支援研究所所長内閣府: 子どもの貧困対策検討委員会委員・有識者会議委員、文部科学省:中央教育審議会生涯学習分科会委員、企画調整部会委員、家庭教育支援の推進方策に関する検討委員会座長、教育相談等に関する調査研究会議委員、ほか国の委員多数。大阪府子ども施策審議会会長、子どもの貧困部会部会長、大阪府スクールソーシャルワーク配置事業スーパーバイザー、ほか多数。Upload By 発達ナビ編集部2010年、慶應義塾大学大学院社会学研究科修士課程修了。2011年、自閉症児に効果的な早期療育が届くことを目指し、NPO法人ADDS設立。2013年、同大大学院後期博士課程を単位取得退学、同大先導研究センター研究員。自閉症児のコミュニケーション研究や、早期療育の実践研究に携わる。NPO法人では、保護者が家庭療育に取り組むためのペアレントトレーニング、セラピスト認定制度等を実施し、現在までにセラピストを約100名養成、ペアレントトレーニングを約200家庭に提供してきた。Upload By 発達ナビ編集部東洋大学社会学研究科社会福祉学専攻博士後期課程修了、元国際医療福祉大学医療福祉学部教授。前清瀬市子どもの発達支援・交流センターセンター長、東京都発達障害者支援体制整備委員会委員、東京都要保護児童対策地域協議会代表者会議委員、東京都若者の自立等支援連絡会議委員 等を歴任。障害やソーシャルワーク関連の著書多数。イベント申し込みはこちら参加申込フォーム
2016年10月24日発達障害のある小5の息子が、自分からお手伝いをしてくれた日出典 : 我が家には発達障害の息子と、定型発達の娘がいます。小5の息子にはADHD、アスペルガーの診断が出ています。ちょっとしたことですぐにイライラしやすく、手先が不器用なところもあります。そんな息子が少しでも自分に自信を持てるよう、私はどんなに些細なことでも本人の頑張りを見つけたら褒めるようにしていました。ある日のこと、我が家の和室に洗濯物が山づみになっていました。これが目に入るといつも、「たたまなきゃ」とストレスの原因になっていました。ある日、夕食の支度をしようと動き出しながら、ふと和室を見て驚きました。洗濯物がたたんであったのです。出典 : 驚きつつも、嬉しくてつい聞きました。私「洗濯物、誰がやってくれたの?」息子「ボクだよ!」声をあげたのは息子。これには心底驚きました。たまに手伝いでやっても、とにかくブーブーと文句を言いながらやっていた息子が、自分からやったんですから。私「助かるよー!ありがとう!」心の底から出た言葉でした。その日の夕飯時、息子が嬉しそうに今日の出来事を報告し始め…出典 : 夕飯時に、息子が再度その話を掘り返しました。「ボクがたたんだの、スゴかったでしょ?!」褒められたい!頑張ったよ!そんな言葉が聞こえてくるような表情です。息子の成長になればという気持ちもあり、私は再度、助かったことを伝え、たたみ方の話などを持ち出し、本や相談機関から得た方法「より具体的に褒める」を実行しました。それに対し、喜ぶ息子。私も嬉しかった気持ちを「意識して」伝えました。するとそこへ割り込んで来たのは、夫の一言でした。「そろそろ、そのお話は終わりにしよう。」この言葉で振り向いた私の目に映ったのは、目に涙をいっぱいためた5歳の娘の姿でした。すぐに「しまった!!」と思いましたが、時すでに遅し。「私もたくさんお手伝いしてるのに、どうしてお兄ちゃんだけたくさん褒めるのぉぉぉーー!!」娘は泣きながら言いました。息子の障害を理由に、娘に我慢をさせてはいけない。わかってはいたけれど出典 : 娘の絞り出した言葉は、当然の言い分でした。自分からお手伝いをしてくれる回数は、娘の方が断然多いのです。洗濯物をよくたたんでくれるのも娘。たたみ方の上手さは同じだけど、むしろお片付けまで一緒にしてくれる事を考慮したら、私を助けてくれたのは、いつも娘でした。息子へは頭の片隅に「支援」があるので、褒めるのも意識して言葉を追加しています。でも、娘にはそこまでの配慮をしていなかった事が、この件でよくわかりました。健常のきょうだい児への配慮。これは、常に息子への支援で手一杯の私に、欠けていた部分でした。それでも気を付けていたつもりだったのに。娘へしわ寄せがいかないように、と思っていたのに。悩みは尽きない。けれど、工夫できることはきっとある出典 : 当事者への支援はそれだけでも大変なのに、2人以上子どもがいる家庭は、きょうだい児へのケアまで配慮しなくてはならない…。私たち親が、日々の支援で気を配らなくてはならないことは計り知れません。それはまるで、積んでも積んでも崩れる砂の山へ、根気よく砂を積むような日々です。いつか立派な砂山を目指して。今回の出来事でのせめてもの救いは、娘との関係が「理由や意図を伝えられる関係」だったことかもしれません。今後もその関係を続けていけることを意識し、娘のガス抜きができる時間を作っていく必要性を考えさせられました。
2016年10月24日医療は日進月歩。その進歩はニュースになりやすい一方で…出典 : 医療は日進月歩です。他の領域に比べて、新しい発見や新開発の治療法の情報がニュースになりやすいのは、医療領域の一つの特徴であると言えるでしょう。けれども本人やご家族は、その新しいニュースを見聞きする度に一喜一憂することになります。また、ニュースで報じられるような新しい治療法は、受けられる機関がとても限られています。本当に新しいニュースを追い続ける必要は果たしてあるのでしょうか。医療で採用される新しい診断法、治療法などは、とても慎重に、何度もその有効性と安全性が確かめられてから、一般的な医療機関に採用され、また日本では健康保険が適用され、安価に利用できるようになります。この数年でも発達障害に含まれる障害に対して、新しく正式に適応が承認されたお薬がいくつかあります。その一方で、ニュースになった多くの新しい発見や治療薬は、まだまだ開発のごく初期段階に留まっているものがほとんどです。その後の研究の中で、実はあまり有効ではないことがわかったり、思ったより安全ではなかったりすることがしばしばあります。自閉スペクトラム症の領域では、これまでにも数多くの薬剤が颯爽と登場しては消えていくという経過を繰り返しています。こうした新しい診断法や治療法に期待することは悪いことでありません。また新たな方法の開発を担当するような医療機関に通院している方には、ぜひその研究に協力していただいて、新しい支援の道を開くことを助けていただきたいという思いもあります。けれどもそれはむしろボランティア、社会貢献という位置づけです。残念ながら本人やご家族に利益をもたらすとは限らない、それが研究途上の新しい医学的手法なのです。サプリメントを使っても良い?判断の基準は安全性・コスト・併用可能性出典 : もう一つ、残念ながら現在の日本の状況では、医学による厳密な効果や安全性の検討を受けない、あるいはあえてそうした検討を避けて、宣伝されたり使われたりする物質や薬物も少なくありません。医師の処方箋を必要としない多くのサプリメントや薬物などが、発達障害への有効性を謳って、あるいはより巧妙にそれをほのめかして宣伝されていたりします。診察室でそうした物質を使ってみてもよいか、相談されることもしばしばあります。自分の場合にはこのようなとき、それがかなり安全であることがはっきりしていて、家計の負担になるほど高価ではなく、標準的な他の支援を受けることを妨げないのであれば、それを使ってみることを検討してもよいのではないか、とお伝えしています。このうち、安全であることを確かめるのは実はなかなかやっかいです。物質そのものは安全そうであっても、製造過程で混じり物がないかどうか、そもそも能書き通りの物質が含まれているのか、それを確かめるのはなかなか難しいことも多いのです。またこうした有効性と安全性の検証を経ていない治療法というのは、実はお薬に限りません。心理社会的介入と呼ばれるような薬物以外の様々な支援の中でも、しっかり研究が進められているものと、確からしい証拠がほとんど見つからないものが、世の中で入り混じっています。このときにも判断の原則は、安全性、価格や時間などのコスト、標準的な支援との併用可能性ということになります。貴重な時間やお金、気力や体力を上手に使っていくためにも、筋のよい情報を収集することが必要ですね。迷ったときは、主治医に相談を。これからも上手に医療と付き合って出典 : 全ての医師がこうした、標準的な医療以外の支援に詳しいわけではありませんが、迷ったときに主治医に相談してみるのは、悪くないかもしれません。そして主治医がまったくそれを知らなかったら…、それはその方法についてほとんど研究が進んでいない証拠かもしれません。さてここまで10回の連載では、医療による支援そのものの詳しい説明ではなく、どのようなスタンスで医療とつきあってゆくと物事がうまく進みやすいのか、できる限り踏み込んで書いてみました。実は自分のスタンスは必ずしも平均的な医師とは重ならないところもあるかもしれず、そこはたいへん申し訳ないのですが、皆様の今後の医療サービスの利用に際して、少しでもご参考にしていただけたらとても嬉しく思います。
2016年10月21日自傷、噛みつき、頭突き…発達障害とも関係が深い「強度行動障害」とは?出典 : 「強度行動障害」という言葉をご存知でしょうか。強度行動障害は厳密には医学用語ではなく、知的障害がある人に、他害、自傷、著しい反復的な行動や睡眠障害などが現れて来る場合に用いられる、行政・福祉の用語です。最初にこれが定義された際には、「精神科的な診断として定義される群とは異なり、直接的他害(噛み付き、頭突き等)や、間接的他害(睡眠の乱れ、同一性の保持等)、自傷行為等が通常考えられない頻度と形式で出現し、その養育環境では著しい処遇の困難な者であり、行動的に定義される群」であり「家庭にあって通常の育て方をし、かなりの養育努力があっても著しい処遇困難が持続している状態」とされていました(1989年行動障害児者研究会)。どんな状態の子ども達、大人達なのか、なんとなくイメージができたでしょうか。そしてこうした行動の障害を示す人では、その背景に知的障害だけではなく、自閉スペクトラム症を持っている場合がとても多いこともわかっています。こうした強い行動上の障害は、元来の障害の特性を背景として、育っていく環境との間に大きな不適合が生じ、それに対して、どうしても上手くいかない方法、長く続けてはいけない方法が身についてしまった場合に起こってくると言われています。例えば、・不快な音に対して自分の頭を激しく叩いてそれを紛らわす・退屈な時に窓ガラスをバンバン叩いて楽しむ・大人の指示に従いたくないときに暴れて拒否をするなどのパターンです。ある意味でこの強度行動障害こそが、「二次障害」の一つの典型であると言えるでしょう。このように行動の障害が著しい場合には、家庭はもちろん、教育、福祉などの多くの領域の支援者が関わって、その対応を考える、また本人やご家族を支えていく方法や態勢を考えていくことになります。「強度行動障害」に対して、医療で出来ることは何か出典 : このようなときには、もちろん医療に期待が集まることも少なくありません。そしてご家族や支援者の気力や体力、時間に限界が近づくと、「もう家で、地域で、施設で暮らせないから、入院させよう」というアイデアも浮かんできます。入院すれば魔法のように行動障害がよくなって、落ち着いた状態で帰ってきて、しかもその後その状態が長く続くといった、ちょっと現実離れした期待をしてしまうこともあります。ではこの強度行動障害に対して、実際に医療は何ができるのでしょうか。強度行動障害の本質は、先に述べたように、本人の特性と環境との不適合、そしてそれを補うために誤って学習された行動のパターンです。このように考えていくと、実は医療で出来ることはそれほど多くないことがわかります。知的障害があり、強い行動障害のある患者さんが入院する場合、ごく一部の専門病床を持つ病院などを除けば、ほとんどの総合病院や精神科病院の場合には、外から鍵をかけた個室に入っていただくことになります。激しい他害や自傷がある場合には、身体拘束といって、手足をベルトなどでベッドに固定したりすることも少なくありません。こうした対応は、緊急時に本人と周囲の人の安全を守るための手段としては、やむを得ない場合があります。興奮が激しく、このままでは自宅で安全に暮らせないという状況で、家族や支援者がそれに対応する時間と気力と体力の余裕を取り戻すために、一時的に入院を選択することは充分にありえます。逆に病院は、施錠や身体拘束という方法を法的に許されているために、慣れていない患者さんが急に入院してきた場合でも、本人や周囲の人の安全を比較的守りやすいのです。しかし、このような対応を長く続けることは、本人がその特殊な状況に合わせた、更にうまくいかない方法を身に付けてしまう結果に繋がることがあります。本人にとっても辛い状況であることも多いので、退院した後、行動の問題が悪化することも少なくありません。また入院が長期化すると、地域の支援体制はだんだんと手薄になって、時間が経てば経つほど、地域に戻りにくくなってしまうこともあります。そして行動を制限された入院の環境は、本人の誤った学習、うまく行かない行動のパターンを変えていく、別のやり方を模索していくためには、とても不利な状況でもあるのです。更に言えば、こうした行動障害に対しては、第7回の記事で触れたように、お薬が使われることがあります。しかし行動を強く制限された状態では、お薬の量の調整がうまくいきません。施錠、身体拘束の状態では行動の観察ができず、どの程度のお薬の量が適当なのか、知る手立てが限られてしまいます。また病院と家庭では全く環境が違うので、入院中に適当であったお薬の量が退院後にもちょうど良いかどうか、帰ってみないとわからないということになります。医療を上手に活用して、本人も周囲の人も無理のない生活を出典 : 結局、強度行動障害に対して、一般的な医療機関ができることは、外来の薬物療法によって一部の行動の問題を和らげること、特に「易刺激性」が関わっている場合に、本人や支援者が対処しやすくなるように、少しそれを緩和することが一つです。入院については、急性期の対応、家族や支援者が対応の余裕を稼ぐために一時的に避難するのが上手な使い方です。また地域の支援体制ができていても、どうしても家族や支援者に疲れがたまってきてしまうという場合、家族や支援者、時には本人の休息の目的で病棟を使うこともあってもよいかもしれません。そしてとても大切なことは、医療が関わり始めたとしても、地域の支援体制を解除しないということです。行動障害のある人は、正しい手順が踏まれていれば、地域の支援力が総動員されているはずです。それでも足りないから医療もそこに加わる。けれどもそれは足りないから足しているわけであって、医療が出てきたからといって、他の領域の支援者が手を引いてもよいということにはならないのです。このような医療の限界がよくわかっているからこそ、厚生労働省は平成25年から、福祉領域の従事者を対象に、「強度行動障害支援者養成研修」を始めました。対応の主軸が地域の生活と、その中での再学習、環境の調整であることが明らかであるからです。強度行動障害に関して、医療は「最後の砦」ではありません。むしろ必要がありそうなら追い詰められる手前の、できるだけ早い時期から医療をチームに加えていただくこと、医療を支援の一つのパーツとして組み込むことで、無理なく地域での生活を続け、できるだけ早く、本人も周囲の人も苦しまない暮らし方を再獲得していくことが必要なのです。
2016年10月19日学校生活を楽しんでいるかに見えた息子。ある日から登校を渋るように出典 : 学期が始まり2週間ほど経ったころ、アスペルガー症候群を持つ小学1年生の息子・ハルが、「学校へ行きたくない」と登校を渋りました。勉強も運動も得意で、コミュニケーション能力が高く友人が多い息子が、そんなことを言い出すのは、私にとって意外なこと。しかし、「夏休み明けに疲れが出て休みたがる子は多い。大抵の子はすぐにまた学校へ行きたがるから心配ない」というような話をどこかで聞いたことがあった私は、さして気にはしませんでした。ただ、何かしらの問題を抱えていて言い出せない、という可能性も危惧し、念のため理由を聞いてみることに。すると、「何かあったわけじゃない。でもうまく言えない」と言い、困ったような表情を浮かべました。同じアスペルガー症候群の私自身にもあることなのですが、自分の感情をすぐさま理解できなかったり、心の中にある思いを上手く言語化できないことが、息子にはしばしばあるのです。ですからここで無理に聞こうとしても、ますます困るのが目に見えているので、「整理がついたら教えてね」とだけ伝え、私は息子の要望を聞き入れ、欠席する旨を学校に連絡しました。3日後に学校から電話が。一方的に話を展開する先生についカーッときた私は…出典 : そんな調子で3日休んだとある週末、担任の先生から電話がかかってきました。先生「このままですと、息子さんは不登校になる危険がありますよ」私「危険?何が危険なんですか?しかも、たかだか3日で…」先生「きっとハルさんは“こう言えば学校を休める、嫌なことから逃げられる”ってパターンがわかってるんですよ。休み癖が付いてきてるんじゃないですか?」私「休みぐせ?何ですかそれ?息子は息子なりの理由があるのかもしれなくて、今は言葉にまとめられないと申し上げたじゃないですか!!」先生「だってそうとしか考えられませんよ、この状況は」冷静に話さなければならないのはわかっていましたが、息子なりに理由を整理しようとする姿を見ていた私。先生とのやり取りですっかり頭に血が上ってしまいました。結局その日は、状況の確認はおろか何の解決策も見出せず、水掛け論のまま終わってしまったのでした。ようやく出てきた本音。そこには、息子なりに学校と向き合おうとしている姿が出典 : しかし、土日を挟んだ週明け、息子は何事もなかったかのように学校へと向かいました。「やっぱり一時的なものだったのか…」と安心していたら、2日通ったその翌日、また登校を渋りだしたのです。これはやはりはっきりとした理由があるのだなと思い、「何か嫌なことがあるの?説明できる?」と再度質問してみたのです。ハル「授業中、早く終わった他の教室から、ザワザワした声が聞こえてくるのが辛い。不安になる」聴覚過敏を持つ息子は、小学校に上がる前から多人数の声がザワザワ響くのが大の苦手です。ハル「あとね、絵を描くのが辛い。先生は『こうやって描けばいい』って教えてくれるけど、それを描くのが辛くて怖い」アスペルガーならではの、セルフイメージの高さもあるのかもしれませんが、文字はともかく、絵に関しては同年代の子と同じように認識し、描画することに強いプレッシャーを感じているようでした。私「そっか…ところでさ、ハルはそういうのを学校の先生に言ってる?言えないのだとしたら、それはどうして?」ハル「だってさ、先生には正しいこと(先生が喜ぶこと、納得しやすいこと)を言わないと、先生が悲しむでしょ?」その言葉は息子が入学以来、何度も口にしてきたものでした。相手の期待を優先し、自分の辛さを抑え続けたら、疲れも溜まるし学校にも行きたくなくなるはずです。私「わかったよ。じゃあ私がそのことをE先生(発達障害専門医)に相談して、そこで聞いたことを学校の先生方に伝えてみる。そうすればハルの辛い気持ちが先生方にも伝わって、対策が見つかるかもしれないね」専門医からのアドバイスを踏まえ、改めて先生に状況を伝えるものの…出典 : 翌日私は、発達障害専門クリニックの先生に相談しに行きました。先生からは「行事はできれば部分参加、できなければ無理強いの必要はない。」とのアドバイスを頂き、それを息子自身の言葉と併せ、担任の先生に伝えることにしました。ところが、私が息子と同じ障害を持っていることが災いしたのか、「息子はこのように申しています」と伝えても、「それでハルさんはどう言っていますか?」「お母さんはそのようにおっしゃいますけど…」と、まるで私が勝手な代弁をしているかのように思われ、話が一向に進まなかったのです。これではらちがあかないと、主治医の先生の言葉を伝えました。すると今度は、「絵だって、“こういうふうに描きましょう”とお手本を見せれば上手にできるし、感覚過敏に関してもさほど辛いようには見えませんよ。そうやって嫌なものを避けさせて、学ぶ機会を失ってしまってもいいんですか?」と返ってきました。強いプレッシャーや感覚過敏に耐えていると息子が発言していたことは、全くと言っていいほど信じていない様子です。ただ、私も学校での姿を見ているわけではありません。とはいえ息子のことを疑いたくもないし…。このようなやりとりが連日続き、発達障害に関して普段は楽天的に捉えている私も、さすがに疲弊してしまいました。改めてこのことを、主治医の先生に相談すると「教育支援センターに相談し、学校との間に入ってもらうこと」を、勧められたのでした。実はこの問題は現在も相談中で、まだ解決していません。子どもの選択に親がどこまで介入すべきか?正解は無いけれど、大切にしたいのは出典 : その後10日ほど欠席をし、息子は学校に行き始めました。今でも楽しい日々の報告と合わせ、感覚過敏の辛さ等について私に話してくれますが、登校を拒否するまでには至っていません。しかし、このまま何事もなく学校に通い続けるのかといえば、それは私にも、息子自身にもわからないことです。とはいえ、息子が本当に辛い思いをしているのだとしたら、学校に行かなくても済む環境作りをしたいと思っています。でも、そもそも私は「学校なんかに行かなくてもいい!」と主張したい訳ではないのです。学校でしか学べないこと、できない体験はたくさんあります。それを親である私が奪う権利はありませんし、奪いたいとも思いません。しかし同時に、学校に行かなかったからこそ学べること、できる体験もあるように思えるのです。どちらが優れているのかなどは簡単に比べられるものではなく、私には判断できません。出典 : 以前コラムでもお伝えしましたが、息子自身、感覚過敏や環境の変化の辛さを堪えて行事等に参加すること、あるいは欠席すること、双方のメリットとデメリットを体験しています。このため、私はそれを元に自身で判断するように促してきました。メリットとデメリットの境目は息子の成長によって変わるかもしれませんし、体調や気分でも変化するかもしれません。何より息子の辛さは息子にしかわからないので、何かと難しいことがあるのですが…。学校には引き続き、努力で乗り越えられない辛さがあることを、ご理解いただけるように伝えていくつもりです。学校と支援センター、そして息子と私で協力し合いながら、息子にとって最善の判断、「これで良かった!」と思える選択ができるように、サポートしていきたいと思います。
2016年10月19日もうすぐ運動会シーズン。ふとリレーの順番表が目に留まり…出典 : 運動会を間近に控えた、長男の保育園での出来事です。いつもより早くお迎えに行った日、誰もいない教室をふと覗くと、そこにはリレーやかけっこの順番表が貼り出されていました。その順番表を見て思わず嬉しくて、涙が溢れました。順番表に長男の名前が「あった」からです。これまで受けたことのない対応につい感動出典 : 私は順番表に名前があったことが嬉しくて、保育園の先生に伝えました。私「長男もリレーに出られるんですねー!嬉しいです。」先生「あたりまえじゃないですか。みんなで参加する行事ですから。」私「実は、去年通っていた幼稚園では、出ないで欲しいと言われたんですよ。だから嬉しくて正直驚いています。」これまで、園の先生とここまで話せたことはありませんでした。その後も先生は、長男のために「環境に慣れるためにも積極的に運動会の練習に参加してください」と言ってくれました。私はこうした園の対応がとても嬉しく、感動していました。もう終わったことと思っていた、以前の幼稚園での出来事出典 : 以前、コラムにも書いたことがありますが、発達障害のある長男は以前通っていた幼稚園で「かけっこに出ないでください」と言われたことがあります。それでも私の意地で出場させた結果、長男の尊厳を傷つける結果になったのでした。結局その幼稚園はやめてしまったのです。現在長男は、別の保育園に通っています。あのときの出来事は「絶対におかしいことだ」とは未だに思いますが、それでも私なりには「仕方がなかった」と消化したつもりでいました。しかし、名前のある順番表を見て涙するなんて、心の中ではずっと消化されないままだったようです。運動会が近付くにつれ、「かけっこはゴールできないだろうから出してもらえないかもしれない」「リレーに出ると迷惑がかかるから、出してもらえないかもしれない」そんな気持ちがあったからこそ、順番表を見るときには息苦しくなるほどに緊張をしましたし、名前があったことに感動し、感謝し、涙が溢れたのだと思います。障害児をもつ私たち親が、気付かずに受け入れている悲しい現実出典 : 本来ならば「クラスに在籍しているのだから出場して当たり前」な運動会。しかし私は、これまで何度も園から断られ、「息子の障害のせいでイベントに参加できない」ことに、すっかり慣れてしまっていたことに気付きました。例えば、健常のお子さんが「足が遅いので、リレーには出ないでください」と言われたらどうでしょう。きっと学校や地域を巻き込んだ大問題になるのではないでしょうか。しかし、障害のある子どもやその保護者は、「周りのために遠慮する」ということを当然のように強いられ、私たち親も無意識のうちにそれを受け入れ、生活していることが多いように思います。これは果たして社会の望ましい姿なのでしょうか?障害者という理由で、奪われて当然なものなんてあるのだろうか?出典 : 園に断られたイベントは、他にこんなものがありました。入園式お誕生日会かけっこ園外学習…これらは全て、子どもの発達障害が理由で参加できなかった数々です。思い返せばもっともっと浮かんでくるでしょう。そして、きっとこれから就学すれば、もっともっと分け隔てられて、手の届きそうな「普通」さえも、我慢しなくてはならないのかと思うと、とても切ない気持ちでいっぱいです。子どもがいつか大きくなったとき、「皆が当たり前に過ごしてきたことを、自分は経験してこなかった」と、辛い思いをしないかどうか、私は気がかりなのです。解決方法は1つだけじゃないはず。全ては参加できなくても、「工夫」できる社会に出典 : 発達障害のある子どもたちも、それぞれの速度でそれぞれの形で成長していきます。彼らもいつか大人になるのです。過去を振り返ったときに、さまざまな園や学校のイベントを、「障害」を理由に勝手に奪われていたとしたら、どんな気持ちになるのでしょうか。たくさんの選択肢の中から、何を選べば正解、というものは無いのかもしれません。ただ、周りが少し工夫すれば経験できたことも、きっとあると思うのです。さまざまな可能性を前にして、「ただ取り上げる」だけで解決することは、もうやめにして欲しい。親として、心から訴えたいと思うのです。
2016年10月18日発達障害の「二次障害」って?その原因は?出典 : 発達障害について考えるとき「二次障害」について考えることは避けて通れません。ただ、この「二次障害」という言葉は誤解も産みがちです。このために自分は必ず括弧をつけて使うようにしています。「二次障害」には実は学術的な定義がなく、使う人によって含まれるものが異なります。さらには、「二次災害」「随伴症状」「併存症」など似たような意味で様々な言葉が使われています。また「二次障害」であるからといって、必ずしも経験や環境のみがその原因、誘因となっているとは限りません。最近では発達障害のある人は、生まれつき様々な精神疾患にかかるリスクが高いことがわかってきました。またある共通の要因が発達障害のリスクも、他の精神疾患のリスクもともに高めることがあることもわかってきています。このため「二次障害」の全てを経験や環境のせいだけにすることはできず、生まれつきの要因がかなり大きな役割を果たしている「二次障害」もあると考えるのが合理的です。もちろん、適切な見立てと対応、環境の調整を根気よく行っていくことで、「二次障害」のリスクを減らしたり、何よりも「二次障害」が起こってきたときに、それに対処できる力を身に付けていったりすることは可能になると考えておくのがよいと思います。「二次障害」をめぐる医療の現状出典 : 様々な二次障害、併存症の中には、統合失調症スペクトラム障害や双極性障害、うつ病、不安症などのように、医療による対応によって、改善が期待しやすいものが少なくありません。こうした疾患に対する治療法はかなり研究が進んでおり、ある程度有効な方法が確立しています。しかし残念なことに、発達障害が背景にある場合、どのようにその治療法をアレンジしていくべきか、特性にあわせて変更していくべきか、ということについては、まだまだ充分な研究がなされていないのが現状でもあります。主治医とよく相談しながら、障害の特性、またその人の置かれた状況に合わせて、実際の治療を進めていくことになります。思考や行動のパターンを、医療の力だけで変えることは難しい出典 : 一方で、医療が苦手にしているのは、狭い意味での疾患、病名がつかない「二次障害」です。自閉スペクトラム症の人達は、その生い立ちの中で「大人が用意した課題に挑戦すると、いつも失敗する」と信じ込んでしまったり、「人と関わると嫌なことが起こる」と学んでしまったり、「人に依頼しても助けてもらえない」経験を積み重ねてしまったりすることがあります。こうした経験を通じて身に付けた思考や行動のパターンを変えることは、医療だけの取り組みでは極めて困難です。また注意欠如多動症を持つ人達に最も学んで欲しくないのは、「待っていてもいいことはない」という考え方です。もともと「報酬を待つ」ということが多数派の子どもよりも苦手に生まれついているのがADHDの子どもたちなのですが、「待っていても退屈だった」「待ちきれなくて怒られた」「課題の達成を待ちきれなくて、諦めてしまった、失敗した」という経験を積み重ねると、どんどん待つことが苦手になってきます。そのとき子ども達は、将来に向けて投資をすることが難しくなってきます。遠い将来の手応えを期待して今を頑張る、ということがどんどん信じられなくなっていくのです。このとき彼らの求めるものはどんどん刹那的になってきます。今の楽しみやスリルをどうしても優先したくなります。それは時にはアルコールや違法薬物の使用につながって、そのために医療を必要とすることが出てきてしまいます。発達障害の「二次障害」に対して、医療ができること出典 : こうした疾患ではない「二次障害」に対して、医療が単独でできることは限られます。しかし状態の悪い方に対して、それでも途切れずにつきあい続けるということは、医療が比較的得意な支援です。また必要に応じてお薬を使ってその時の苦痛を少し和らげることもできる場合があります。誤った学習を解きほぐしていくための、日常生活の中での支援と経験の積み重ねと併せて、医療の支援を活用することも必要な場合が多いでしょう。また、医療のもう一つの役割は「二次障害」の予防でもあります。前回お薬についての記事のなかで、薬を使うことを考えるのは「嫌いなもの・ことが増えているとき」と書いたのは、そのためでもあります。正しい見立てと、適切な日常的な支援、どうしても必要な場合のお薬は、「二次障害」の軽減、予防に役立つと信じたいところです。
2016年10月17日発達障害の治療、お薬はどんなときに使われる?出典 : 発達障害に対してお薬が使われるとき、それは全て対症療法として投与されます。対症療法とは症状を和らげることが目的の治療で、根治、つまり障害を治すための治療でありません。残念ながら現在の医学の水準では、発達障害を根治する治療はありません。ただ、適切なタイミングと種類、量のお薬を使うことで、その症状を緩和できる場合があります。どんな症状に対してお薬が使われるの?出典 : では主にどんな症状に対して、お薬が使われるのでしょうか。自閉スペクトラム症の場合には最も効果が確かめられているのは、その易刺激性、つまり刺激に対して反応しすぎる状態に対する投薬です。日本でもいくつかの抗精神病薬が、厚生労働省からその適応を正式に承認されています。こうしたお薬は自傷や他害といった攻撃的な行動がある際に用いられますが、その効き目の見極めには大事なポイントがあります。易刺激性に基づく攻撃的な行動、例えば嫌いな音を聞いた後のパニックやイライラする状況から逃れるために人を突き飛ばすなどの行動には、ある程度効果が期待できることがあります。一方で、遊びの目的、つまり「窓ガラスを叩くといい音がして楽しいから」とか、コミュニケーションや交渉の目的で「冷蔵庫を開けさせるために家族を叩く」とかの行動には、お薬の効果は期待しにくいのです。ここを上手く見極めて使わないと、無効なお薬を飲むことになったり、大量にお薬を使って、効果よりむしろ副作用が問題になったりすることが起こってきます。結局はお薬を使う場合にも、その標的となる行動の分析が必ず必要となるのです。著しい反復的な行動に対してもお薬が使われることがありますが、この場合もその背景が重要になります。遊びの性格が強い反復的な行動にはお薬はほとんど効果がありません。もしこれを薬で止めようとすると、大量のお薬を使って、眠くてだるくて遊ぶ元気もないという状態を作ることになってしまいます。一方で不安や強迫といった、「やらないと心配」「やらないと落ち着かない」からやむを得ずやっているという、繰り返しの行動には時にはお薬が有効な場合があります。その他、睡眠の障害やカタトニアなどの症状に対して、それぞれの状況にあったお薬が使われることがあります。これらの場合にも有効な場合とそうでない場合の見極めが必要ですので、主治医にご相談いただくとよいでしょう。また注意欠如多動症(ADHD)に対しても、お薬が使われることがあります。実はADHDの治療薬は、あらゆる精神科のお薬の中でも一番効き目が確かなお薬の一つです。投与するとかなり高い割合で効果を発揮します。しかしこれも対症療法に留まり、一方で副作用もしっかりあるので、使いどころを見極める必要があります。どんなときに「薬を使う」という決断をすれば良い?出典 : さてそれでは、どんなときにお薬を使うことを考えればよいのでしょうか。発達障害そのものへの投薬は常に対症療法であるため、発達障害があること、それだけでは投薬の対象にはなりません。必要な対応や環境の調整をして、それでも本人の苦しさが続くとき、またいろいろな対策を講じていてもどんどん環境との不適合が増しているときは、お薬をつかうことを考えても良いでしょう。自分の場合には、「人生の中で嫌いなもの・ことがどんどん増えているとき」というのを一つの基準にしています。またお薬以外の方法をとることがそもそも難しい場合も、投薬を考えることになります。家庭の状況に全く余力がないとき、家族に他の危機が訪れているときなどには、時期を限ってお薬を使うこともあります。もう一つ、これは発達障害に対する投薬ではありませんが、併存する他の精神疾患がある場合には、当然その治療薬を使うことになります。また最も大切で難しいのはお薬のやめどきです。これについては、常に止めることを考えながらお薬を使う、というのがおそらく正解であると思います。減薬や中止のチャンスを常にうかがっていないと漫然とお薬を使うことになってしまいます。・標的となっていた症状が改善してきたとき・環境との不適合が小さくなってきたと感じられるとき・他の支援がうまく回り始めたときなどが、お薬を減らす・止めるチャンスです。ただし急な中止や減量によって逆に有害な症状を来すお薬があるので、減量、中止の際には必ず医師と相談してください。
2016年10月14日発達障害であることを公表した栗原類さん、初の自叙伝の見どころを紹介!出典 : 今月10月6日に、モデルの栗原類さんの自叙伝である『発達障害の僕が輝ける場所をみつけられた理由』が発売されました。最近はモデルとしてだけでなく俳優としても活躍する栗原類さんは、昨年5月に自身が発達障害(ADD)の診断を受けていることを公表しました。今回の自叙伝はそんな類さんが自分自身について振り返り、これからの夢を語る1冊となっています。ミステリアスな雰囲気を醸し出している類さんは、日々の生活で何を感じ、何を思い、何を考えているのでしょうか。著書に収められている、母親である栗原泉さんや主治医である高橋猛さんによる類さんの幼少期の振り返り、友人である又吉直樹さんとの対談からは、栗原類さんが「輝ける場所」を見つけるまで支え続けた人の存在がうかがえます。「発達障害の僕が 輝ける場所を みつけられた理由」 著: 栗原類「ネガティブすぎるモデル」でブレイクした栗原類さん。本当はどんな人?出典 : 筆者・栗原類さんは1994年生まれの21歳。日本人の母親である栗原泉さんと、イギリス人の父親との間に生まれ、ニューヨークと日本を行き来しながら育てられました。小さいころから忘れ物が多く、注意力が散漫であった筆者は、8歳のときにアメリカのニューヨーク市で発達障害の一つである注意欠陥障害(ADD)との診断を受けます。ADDとは、attention-deficit disorder の略で、注意力の低さや集中力の短さなどの症状を一つの障害としてみなしたものです。現在ではADHDとして診断されるこの障害ですが、他の人からは「障害がある」ことは一見すると分かりません。例えば、類さんの障害の特性には以下のようなものがあります。・ついさっき言われたことが数分後に思い出せなくなってしまう・人の表情などから相手の気持ちを読み取ることが苦手・うれしい気持ちや楽しい気持ちを表情にすることが苦手こういった特性のために、人とのコミュニケ―ションがうまくいかない場面もあり、少年時代はいじめに悩まされたり、不登校になったりと、「生きづらさ」を感じることもあったそうです。自分なりに努力を続け、発達障害と向き合ってきた類さん出典 : ご自身の障害に苦労することもあった類さんですが、著書の中では発達障害を「脳のクセ」と表現しています。自分の脳のクセに気づいて、環境を整え、改善する訓練をすることが、「生きづらさ」の解消につながると語ります。作品中では自分の障害に向き合うために、日々努力を続ける姿が印象的です。例えば、忘れっぽさや集中力の低さに対しては、事前に周りの人に自分のクセを伝えることで協力を依頼する。嬉しい・楽しいという気持ちを抱いたときは、表情で伝えられない分、人よりも丁寧な言葉や行動で気持ちを伝える。類さんは、「忘れっぽい」「感情が表情に出にくい」という「脳のクセ」を無理やり直そうとするのではなく、そのクセが相手を傷つけないように工夫をしたり、自分ができそうな行動に代替することで、自身の障害に対して向き合ったのです。同じ発達障害の診断を受けた母・泉さんが、子育ての中で忘れなかったこと出典 : 類さんがこのように自身の特性に気づき、障害に向き合っていくためには、周りの人からのサポートが欠かせませんでした。特に、母親である栗原泉さんは、今でも類さんにとって大きな支えとなる存在です。泉さんは、類さんと同じように発達障害の診断を受けています。しかし泉さんは、同じ診断があっても、類さんのことを「自分とは違う個性を持った人間」と考え、その個性を常に尊重・尊敬することを忘れないようにしていました。その一方で、類さんにとって必要なサポートをすることは惜しみませんでした。周りに過保護すぎると言われることもあるそうですが、泉さんは力強くこう語ります。「他のみんながこうしているからとか、普通ならこうだからという尺度ではなく、自分の頭で考えて、自分の子どもにとって、必要なものは何なのかを選択している。」泉さんの存在があったからこそ、類さんは自分の輝ける場所に辿りつき、今でも苦手なことに向き合う努力をし続けることができているのでしょう。類さん自身も、「注意してくれたりアシストしてくれる人がいることで、その人の環境は大幅に違うはずです。それは過去、現在、未来、全てに影響します。」と、サポートしてくれる人がいることの大切さを語っています。周りの人や環境との関わりによって障害のあり方は変わってくるのです。あきらめず、成長する努力を続ければ、誰でも「輝く場所」を見つけられる出典 : 発達障害の特性とうまく付き合いながら、類さんのように活躍できる人は、稀なのでは?と思われる方もいるかもしれません。しかし、類さんはこう語ります。「人は、発達障害であろうとなかろうと、『その人が輝くための場所』さえ見つけることができれば、そしてあきらめず、その人なりの時間軸で成長すれば。誰もが必ず輝くことができるのだと思います。」決して諦めることなく、自分のペースで努力を続け、今の「輝くための場所」に辿り着いた類さんの言葉は、これからもたくさんの人を励まし続けるでしょう。
2016年10月13日「私が子どもの頃はそんなことなかった」あまりに違う息子のことが理解できず…出典 : 教室を立ち歩く(私はやらなかった)揶揄されてカッとなって手を出してしまう(私にはなかった)テストのときに集中力が途切れて解かずに終えてしまう(私は途切れる前に解き終えて問題になることはなかった)自分には経験のなかった彼の特性ゆえの言動に戸惑い、対処に困り、自分はそんなことしなかったのに…と過去を振り返る。比べてはいけないと頭ではわかっているのに、過去の自分と現在の彼を、心の中でつい比べてしまう。発達障害のある次男を育てていると、そんなことがよくあります。もちろん、言葉に出してしまえば彼を傷つけるのはわかってる。でも、私自身が精神的に辛いときなど、余裕がなくなるとつい、心の底の方で周りや自分と彼を比べて、「あれもできない、これもできない」という目で次男を見てしまいそうになる。そんな自分が母親でいいのかと、怖くなることもありました。栗原類さんの母、泉さんの経験に自分を重ねる出典 : 今回読んだ栗原類さんの新著『発達障害の僕が輝ける場所をみつけられた理由』では、私が抱えていたまさにその、母が息子と自分を比べてしまう困難についての経験が書かれていました。栗原類さんの手記のあとに添えられていた、母の泉さんの手記。アメリカで類さんが診断を受けるときに、ご自身の発達障害についても示唆され、その特性の違いにより自分と比べてしまう困難が起こっているだろうことについても指摘を受け、接し方について教育委員会から助言を得たエピソードがありました。教育委員会での会議で「(略)あなたは自分が子どもの頃、何の苦労もなくできたことが、どうして息子さんにはできないんだろうと理解できないかもしれない。不思議でしょうがないでしょうね。だけどそう思ったときは、子どもの頃に自分ができなかったことをたくさん思い浮かべてください。そして、自分ができなかったことで息子さんができていることを、ひとつでも多く見つけてあげてください。そうすれば『なんでこんなこともできないの?』という気持ちがしずまり、子どもを褒めてあげられるようになります」と言われました。---発達障害の僕が 輝ける場所を みつけられた理由 栗原 類 (著)KADOKAWA本文より引用「過去の自分なら出来たことと、子どもが出来ないことを比べない」ここまでは私も頭には入っていましたが、「子どもには出来ていて、過去の自分は出来なかったことと比べる」という視点に、目からウロコが落ちる思いがしました。「比べてはいけない」んじゃない、「彼の良い所と比べればいい」んだ!息子に出来ること、私に出来ないこと出典 : 振り返ってみると、私自身にも「出来ないこと」はたくさんありました。たとえば私は方向音痴で、初めて行く場所にはスマホのナビが欠かせません。2度目以降の場所でも入る道を1本間違えれば自分がどこにいるのかわからなくなったり、どっちの方角に向かえばよいか分からなくなることもあり、小さい頃からよく道に迷う子でした。対して次男は、1度行った場所は経路の風景から現地の様子までしっかり記憶する力があり、まず道には迷いません。以前来た時と逆方向から入った商店街で私が迷っているときに、「この先にこれとあれがあって、何個めの角で曲がれば着くよ」と案内してくれたこともありました。小さい頃の私は極度の人見知りで、小学生になっても近所のよく会う人にも挨拶ができず母の後ろに隠れていた記憶があります。今ではそんな片鱗は見せないのでこの話をすると周囲から意外だと言われますが、小学校低学年の頃までは顔を知っていても周りの大人と話すのを避けていました。そんな私の子供なのに、次男は小さい頃から人見知りをせず登下校のときにも元気に挨拶をします。畑仕事をするおばあちゃんたちに挨拶をして世間話をし、ほりたてのジャガイモを袋一杯抱えて帰って来たりすることも。屈託なく話す様子が可愛いと近所のおばあちゃんたちの人気者です。今までは、私が出来て彼が苦手なことばかり目についていました。けれど、改めてゆっくり考えてみたら、私が苦手だけど彼が得意なことだって、たくさんあるのです。出典 : このことに気づいたとき、障害のある子たちの保護者が集まる座談会で、司会者さんから言われたある一言を思い出しました。「お子さんの良いところを話してください」保護者の集まりは、ついつい子どもの問題行動やその対処法ばかりが中心になりがちです。だけどその日は、司会者の方の投げかけにつられて、一人、また一人と参加者が子どものいいところを話し始めたのです。「うちの子はとても優しくて、自分が疲れていると気にかけてくれるんです」「お友達がお休みしたときに心配して、お手紙を書いていたことがあったわ」「そういえば、いつも家の手伝いをよくしてくれます」お子さんの良いところを話す皆さんに続いて私も、次男のことを話しました。思いついたのは前述したような、自分が苦手だったけど次男がラクラクとこなすことばかりで。順番に我が子の良いところを話していき、最後に司会者さんがおっしゃいました。「その顔を、お子さんに見せてあげて」ハッとしました。自分の顔の筋肉が緩んでいるのを感じたからです。見回すと周りのお母さんたちの顔も本当に柔らかい、自然な笑顔でした。凸凹な親子が一緒に生きるためにも、親自身が自分を見つめること出典 : 栗原さんの手記の中で母の泉さんが繰り返し書かれていたのが、いかに親である自分自身が良い状態を保つかということ。発達障害児の育児は健常児の何倍も負担が大きい。泉さんご自身も、ご実家や担当医をはじめとした周囲の方の協力を得ながら自分自身のメンテナンスをこころがけ、類さんに対して良い状態で接することができるような自己管理をされている様子が紹介されていました。"子育てはロングラン。短距離走のように瞬間的に力を発揮しても、あとが続きません。"(本文より)力を入れ過ぎず抜き過ぎず、自分たちのペースで。私と次男それぞれのペースで。子どもが自分にちょうどいいタイミングで親から巣立って行くその日までを、一緒に走り抜くためにはどうしたらいいのか。栗原さん親子のこれまでが綴られたこの手記には、そのためのヒントが詰まっていたように思います。もちろん、私は私で、泉さんとは別の人間です。泉さんが類さんにしてきたことと同じことを次男に与えることは、多分できない。けれど、次男と他の3人の子たちそれぞれにとって、彼らの人生に並走するパートナーとしての親のあり方を改めて考えるきっかけを与えてもらえた、そんな1冊との出会いでした。発達障害の僕が 輝ける場所を みつけられた理由 栗原 類 (著)KADOKAWA出典 :
2016年10月13日発達障害のある子どもの保護者たちが始めた、署名キャンペーン先日、発達障害児童のための専門的な教員を増やすための、文部科学省に向けた署名キャンペーンがインターネット上でスタートしました。Upload By 鈴木悠平(発達ナビ編集長)「change.org」署名キャンペーン: 発達障害の子どもの個性に合った教育を!学校現場で専門の知識を持った先生を増やしてください!発達障害の小学校6年生の男の子を持つ親です。小学校入学時からずっと、発達障害児向けの通級指導のクラスに入れず、4年間「待機児童」となっていました。他に優先すべきお子さんが沢山いて空きがないと言われ続け、この2年間は申し込みすら諦めました。仕方なく通常学級のみに通わせていますが、周りのお子さんに興味はあるけどコミュニケーションの取り方が分からない我が子は、これまで沢山苦労してきました。1年生の時から待ち続けて、気付けば今年で小学校卒業です。このキャンペーンは、発達障害のあるお子さんのいるご家庭保護者の方々有志によって呼びかけられています。学習や行動面に困難がある子どもを個別にサポートする手段として、「通級」による取り出し授業も重要な選択肢の一つですが、このキャンペーンのエピソードのように、通級指導教室のニーズに対して空き枠や教員数が足りず、「待機児童」が発生している学校や地域も少なくありません。発達が気になる子どもたちの学びの機会を保障・拡充していくべく、「LITALICO発達ナビ」としてもこのキャンペーンを応援しています。このコラムでは、今回のキャンペーンの背景にある、障害や困難のある生徒児童を取り巻く状況と、学校教職員の配置・育成に関する政策動向をおさらいしてみます。通常学級で困難を抱える子どもたちへの支援を取り巻く現状出典 : 「6.5%」この数字に見覚えのある方、この数字が何を指すかご存知の方はおられますか。これは、通常学級の中で、知的発達に遅れはないものの学習・行動面で著しい困難を示す生徒の割合の推計です。2012年に文部科学省によって行われた、全国の小中学校の児童生徒約5万3千人の状況を対象にした調査結果で示されたもので、以来、発達障害のある子どもの教育・支援政策を議論する上での重要な前提指標となっています。調査では、①学習面(「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」)②行動面(「不注意」「多動性-衝動性」)③行動面(「対人関係やこだわり等」)の3点について質問紙が配布され、担任教員が学級の児童生徒の状況について回答しました。6.5%ということは、たとえば30人学級であれば、1クラスにつき約2名の子どもは、勉強や行動・コミュニケーションで大きな「困り」があり、なんらかの支援を必要としているということになります。こうした通常学級の子どもたちの困難を解消する手段として、「通級指導教室」という、自分の苦手なことに合わせた個別の支援・指導を受けられる少人数の教室が存在します。通級指導の対象となった子どもは、授業時間割の一部は通常学級を抜けて通級教室に通い、個別の支援・指導を受けることができます。Upload By 鈴木悠平(発達ナビ編集長)ただし、通級指導教室は現状全ての小・中学校に設置されているわけではなく、通級がない学校で通級指導の対象となった子どもは、近隣の学校の通級教室に移動して授業を受けることになります。こうした事情もあり、2012の同調査でも、困難が大きいとされた6.5%のうち、「現在、通級による指導を受けていない」児童生徒は93.3%に上るという結果が出ています。さらに、これら「現在、通級指導を受けていない」児童生徒のうち97.4%は、「過去、通級による指導を受けたことがない」ということです。冒頭の署名キャンペーンにあるように、複数年にわたって通級待機状態にある子どもたちも決して少なくないと言えます。文部科学省初等中等教育局特別支援教育課, 「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」, 平成24年12月5日通級指導員を10年で10倍へ―文科省の予算要求とその実現可能性は?出典 : 次に、先日提出された、文科省による2017(平成29)年度概算要求を見てみましょう。文部科学省初等中等教育局, 「2017(平成29)年度概算要求」上に述べたような通常学級の子どもたちを取り巻く状況を受けて、通級指導に関わる教員の増加に注力した予算要求が提出されています。1) 教員対子ども比率が現在の13:1から10:1になるように、教員数を追加で10年間にわたって毎年890名増やすこと2) 増加教員を加配ではなく基礎定数化することの2つが大きな柱です。1つ目の増員目標ですが、これは、通級指導教員を今後10年で10倍に増やしていくという方針を示した数値です。少子化の進展により、日本の学校の児童生徒数全体は減少傾向にありますが、発達障害に対する認知の向上や、個別の支援を必要とする子どもたちの早期発見体制が整ったことなどもの要因もあり、通級指導の対象となる児童生徒は、この10年で約2.3倍に増加しました。Upload By 鈴木悠平(発達ナビ編集長)今後もこうした個別の支援に対するニーズは拡大していくと思われ、専門的な個別の支援・指導が行われる通級指導教員の増員が目指されています。次に、通級指導教員を「基礎定数化」するとはどういうことでしょうか。これまで、通級指導教員は、「加配定数」という扱いで、毎年の予算折衝ごとに人数が決められていました。これを、通級の対象児童生徒人数に応じて、教員の必要人数を機械的に算出する「基礎定数」枠に変更することで、安定的・計画的な教員採用・配置を出来るようにするという狙いのようです。Upload By 鈴木悠平(発達ナビ編集長)一方、今回提出された予算要求については、財務省との間で考え方の相違があり、交渉は難航しているとの見方もあります。これに対して、財務省は、通級指導と日本語指導の教員定数を基礎定数に組み入れることには賛成しているものの、加配定数の増加は認めない考えです。少子化による児童生徒数減少で、放っておいても、これから基礎定数は減少していき、そのうえで加配定数の増加を認めなければ、教員数全体を大幅に削減できる……という狙いです。つまり両省は、基礎定数の変更までは同じ方針でも、その後の加配定数の扱いについては、まったく別の考え方を持っているわけです。---「ベネッセ教育情報サイト」, 小中学校の先生の数はどうなる「定数構想」めぐり攻防か, 2016/10/11公開, 2016/10/13最終アクセス通級指導教員を定常的に確保し増やしていくための予算が確保できるかどうかは、この秋の予算交渉が正念場となるようです。一人ひとりの個性を伸ばす教育を。市民の声を力に変えて出典 : 署名キャンペーン上では、「1日も早く専門的な知識をもった先生を、もっと多く、増やしてください。」という声が上げられています。また、署名に賛同した人たちの投稿コメントの中にも、発達障害のある子どもを持つご家族の体験談や、現場の教職員の方々の悩みの声が寄せられています。また、このキャンペーンは決して「発達障害児童」だけのためのものではないでしょう。診断の有無によらず、学習・行動面で個別の取り出し支援が必要・有効な子どもは多くいるなか、専門性の高い教職員を安定して確保・育成していくことは、全ての子どもたちの学びが保障される社会をつくるために、とても重要な施策であると思います。私たちは、発達障害の子ども一人一人が必要な個別支援を受けられるよう、専門の先生を増やすように国に求めます。この問題は、何も発達障害の子どもだけの問題ではありません。コミュニケーションが得意・苦手、足が早い・遅い、手先が器用・不器用など、子どもはみんな違います。一人ひとりの子どもたちが学校で自分の個性に合った教育を受けられる、そんな社会を私たちは望みます。子ども達はこの国の未来です。どうかこの問題が国に届くように、皆さんの力を貸してください。---「change.org」署名キャンペーン: 発達障害の子どもの個性に合った教育を!学校現場で専門の知識を持った先生を増やしてください!実際に、通級指導の担当教員をどれだけ確保できるかは、今後の文科省と財務省の間の予算交渉次第ですが、それによって、今後の教育環境の方向性が大きく決まってきます。来年度の予算交渉が本格化するこの時期に、署名キャンペーンを通して家族当事者や市民の声を伝えることは、重要なアピールとなります。今回の署名キャンペーンを、「LITALICO発達ナビ」としても応援したいと思います。この問題に関心を寄せ、賛同される方はぜひご署名をお寄せください。以下のページからオンラインで簡単に署名可能です。「change.org」署名キャンペーン: 発達障害の子どもの個性に合った教育を!学校現場で専門の知識を持った先生を増やしてください!
2016年10月13日発達障害児童の親が何よりも知りたいのは、子どもの将来のこと出典 : 発達障害の息子は6歳。その成長は一進一退を繰り返す日々です。今回は、栗原類さんの書籍『発達障害の僕が輝ける場所をみつけられた理由』を読んで、発達障害児を育てる親として、感じたこと、気付いたことを綴ってみたいと思います。幼い頃に発達障害(ADD)と診断を受けた栗原類さん。類さんが今こうしてご自分の障害を告白し、その生きざまを本にして綴ったことには、大きな意味があると私は思います。まず、私たち発達障害児の親は、毎日毎日が子どもへの支援や配慮に手いっぱいの状態です。肝心の「この先に何があるのか」「この子がどう育っていくのか」ということに対する将来像が全く見えていません。これは、発達障害児を育てている親同士で話すと、よく出てくる話です。発達障害児を育てていると、誰もが思うのです。「ロールモデルが欲しい」と。しかし、一般的に取り上げられる「発達障害の大人」のロールモデルといえば、人より秀でた才能があったり、その才能ゆえに幼い頃から特別だったような、いわゆる「天才型」の人が多いのです。実は、これは親にとって、何の励ましにもなりません。そんな特別な子どもはごく一部で、大抵の親は、「誰にでもできることがなかなかできるようにならない」という発達障害児の育児に、毎日くじけそうになりながらも、自分を励ましている状態ではないでしょうか。等身大のロールモデル、それが栗原類さんだった出典 : そこで彗星のように現れたのが、栗原類さんという存在でした。彼は、感覚過敏や強いこだわりといった、発達障害児独特の特性があったのはもちろんのこと、記憶力の弱さや人の感情の読み取りが苦手といった困難さを持ち、学校の勉強にもとても苦手意識がありました。中学生時代にはいじめに遭って不登校になり、高校受験も失敗、決して順風満帆とは言えない人生を送ってきています。この言い方は語弊があるかもしれませんが、私たち親から見ると、栗原類さんは「とても身近な発達障害児」であり、等身大の発達障害当事者であると言えます。この本の表題には「僕が輝ける場所をみつけられた理由」という言葉が入っています。「輝く」という言葉に、芸能人として、モデルとして、華々しい生活をしている類さんのイメージが湧くかもしれません。しかし、この本を読んでいるうちに、類さんは決して「輝ける場所」という言葉を、才能を生かして大活躍する華々しい場所、という意味で使っているわけではないことが分かります。類さんにとっての「輝ける場所」とは、できないことや苦手なことが沢山あっても、それを補い受け入れながら、好きなことを好きと言える安心できる居場所、そんな場所である気がします。そしてそれこそが、多くの発達障害児にとっての「輝ける場所」なのかもしれません。類さんを支えてきた存在、栗原泉さん。その子育てスタンスとは?出典 : 発達障害児は、よくある曖昧なルールや、空気を読み取るのがとても苦手です。普通の子どもであれば、いちいち口に出して注意せずとも習得してくれる社会的ルールのようなものを、発達障害児には、繰り返し伝えなければなりません。しかも、伝えたとしてもすぐに忘れます。次第に、毎日毎日ガミガミと注意を繰り返す自分が、嫌になってきます。本の中に登場する、栗原類さんのお母さん、栗原泉さん。彼女の強力な支援のもと、類さんは目の前に立ちはだかる数々の困難に、1つひとつ対処していきます。面白いことに、栗原泉さんも、決して特別なお母さんではありません。類さんの教育環境を考え、海外に移住するようなフットワークの軽さはありますが、言われたことをどんどん忘れていってしまう類さんに、何度も何度も同じことを畳みかける一面も描かれています。泉さんは「過保護と言われてもいい。子どもの幸せを優先する」というスタンスで育児をしています。発達障害児の親は、これを読んだらきっと、肩の力が抜けることでしょう。なぜなら私たち親は、いつも自分が過保護になり過ぎていないか?自問自答している状態だからです。手助けをしなければ、当たり前のことがなかなかできるようにならない、しかし、「自分の手助けが、いつかこの子の自立を阻むことになるかもしれない」、と手助けするたび罪悪感を感じる毎日。泉さんの「子どもが今幸せであることを大切にする」という割り切った姿勢は、子育てに葛藤を抱いていた私にとって、涙が出るほど有り難いものでした。子どもの得意なこと、好きなことを無理して探していない?出典 : また、泉さんは、発達障害児の世界観を形作るのは「好きなこと」である、と述べ、いろいろなことを体験させることの大切さを説いているものの、泉さんが類さんに体験させてきたことは決して、「特別な何か」ではないことが分かります。博物館や美術館に連れて行くでもいい、インターネットやゲームをさせるでもいい、テレビで一緒にコメディを見るでもいい、泉さんが類さんに体験させたのは、日常的にできる小さな楽しみでした。この本を読んで、発達障害児にとっての「好きなこと」を探すのは、もっと気楽な気持ちで取り組めばいいのだと分かってきます。発達障害児の親をしていると、なぜか「この子の好きなものは何?」「才能のありそうなものは何?」という質問を、周りから嫌というほどされるのです。この質問は、数学や芸術などの天才的な能力があることを、暗に子どもに期待しているものだと思います。これは、一部の天才的な才能のある発達障害者ばかりが取り沙汰されてきたことに原因があるように思います。他のことが全部苦手でも、1つとんでもなく長けている部分があるはずで、そこを伸ばせば良いじゃないかと。この質問をされるたびに、子どもの天才的な才能を見つけることのできない自分のダメさ加減と、特に飛び抜けたものがないように思える息子への情けなさが募るのです。等身大の泉さんの姿で気付かされる、私たち親が背負ってきた無言のプレッシャー出典 : しかし、ほとんどの発達障害児は、平凡な子どもたちです。いや、平凡なことすらも、普通の人よりも何倍もの努力をしないとできるようにならない子どもたちです。ですから、「特別な才能」をわざわざ探すこと自体が、子ども自身の本来の姿を見ていないように感じるのです。そうではなく、泉さんは、類さんが楽しい経験をすること、ちょっとでも好きだと言ったことをとても大切にしています。そして、そんな毎日の小さな「好き」が、やがて大きくなってからの類さんにとって宝物となります。しかし、泉さん自身は、類さんに好きなことを作らせるために躍起になっているわけでもなく、それを極めさせようとするわけでもなく、類さんの楽しいという気持ちを自然に尊重しています。この本で泉さんという等身大の母親の姿を目にして、私たち発達障害児の親は、子どもに対する目も、自分に対する目も、少し優しくなるのを感じるのです。環境は違っても、泉さん親子が取り組んできたことは、「特別なこと」じゃなかった出典 : この本を読むと、類さんが育ったアメリカという国の教育の包容力や、日本の教育とのシステムの違いがとても印象に残ります。ややもすれば、「アメリカで育ったから類さんは恵まれていたんじゃないか?」というようなことを考える人も少なからず出てくるのではないかと思います。けれども私は、類さんが「輝く場所をみつけられた理由」は、アメリカという環境で育ったことが全てだったとは思いません。類さんと泉さんの凄さは、困難にぶつかるたびにそれを分析し、それにいかに対処するかを冷静に考え続けてきたことだと思います。また、高橋先生という専門家に相談し、自己判断のみに頼らなかったことも重要なことだったと思います。そして、対処法についても、誰もが雰囲気やコミュニケーションの中で察してしまうような些細なことでも、泉さんはしっかりルール化していました。泉さんと類さんが、発達障害である自分と向き合うために日々やってきたことは、決して「何かすごいこと」ではないのです。それは本当に、小さな取組みの積み重ねでした。なぜ私たちは、子どもの成長を待てないのだろうか?出典 : 発達障害の特性を劇的に軽減する魔法なんて、残念ながらありません。けれども私たちは、結果が出るか出ないか分からないような小さな取組みを日々積み重ねることに辛くなってしまって、どうしても劇的に変わる何かを求めてしまいます。そこをグッとこらえ、20年、30年の長いスパンで子育てを見つめながら、今ここでできる小さな行動を積み重ねていく、それが今の「輝ける場所」にいる類さんを作ったのだと思います。泉さんは、「コツコツやることの大切さ」を類さんに教えたい、と言っていましたが、お2人の20年の生きざまこそが、まさに「コツコツやることの大切さ」を表していると思います。そしてそれは、先の見えない毎日をもがきながら歩き続ける、発達障害児とその親を、どれだけ励ますものであるか、想像に難くありません。栗原さんの体験談に、発達障害児を育てる親としてもらったもの出典 : 類さんがアメリカにいた当時、まだ日本では「発達障害」という言葉がそれほど認知されておらず、教育現場でただの問題児として扱われて育った人たちが沢山いました。類さんが1番辛かったという中学校時代は、まだ日本では発達障害に関する認識が薄かった頃かもしれません。そういう意味では、先をいっていたアメリカという国で幼少期をおくり、適切な支援を受けることができた類さんはとても貴重な体験をされたのではないかと思います。しかし最近になって、日本の教育現場でも発達障害についての認知が広まり始め、いろいろな体制が急速に変化してきていることを私は肌で感じています。私の息子が入学する予定の学校では、発達障害児の聴覚過敏に配慮し、運動会のピストルを音が小さいものに変えました。刺激に弱い子どもは、特別支援級のついたての中でテストを受けることもできます。別の学校では、特別支援級の授業にiPadを導入するようになりました。類さんが10年以上前にアメリカで受けていた特別支援教育が、ようやく日本にも少しずつ入ってきています。今この時代は、10年、20年前に辛い思いをして育った発達障害の子どもたちが築いてきたのだと思います。私はこの急速に変化していく過渡期の社会を、発達障害児の親として、しっかり見守っていこうと楽しみにしています。類さんの本は、そんな社会を生きる私たちに、生きるヒントをくれる貴重なものであったと思います。発達障害の僕が 輝ける場所を みつけられた理由 栗原 類 (著)KADOKAWA出典 :
2016年10月13日こんにちは、親子でADHD(注意欠陥・多動性障害)をやっています、ママライターの木村華子です。事の発端は今年の4月。年度始めの家庭訪問で担任から「療育センターで教育相談を受けてみては?」と勧められたのが始まりでした。それから今日に至るまで、検査や今後の支援・教育方法にまつわる相談を重ねています。そんなある日、ADHDの支援を受けようとする私たち親子のことを知った近所のママ友から声を掛けられました。要点をまとめると、それは以下のような意見です。・『療育センターを勧めるなんて、なんて失礼な担任だ!』・『私だったら、「うちの子の何を見て、そんなことを言うんですか!?」とキレると思う』・『木村さんちのお子さんは全然良い子!担任が間違っている。療育センターなんて行く必要はない』じつは、彼女のような意見は少数派ではありません。多くの親が、わが子の発達障害を受け入れられない心境に陥る といいます。今、この記事を読んでいただいている方の中にも、心あたりのある方がいらっしゃるかもしれませんね。しかし、実はその思考や姿勢が、子ども自身をさらに苦しめてしまうことをご存じでしょうか。今回は、発達障害を持つお子様のパパ・ママが現実を受け止めることの重要性についてお話しします。●「わが子に限って、そんなこと……!」親の姿勢が子どもを傷つけた悲劇3つ息子の教育相談を受ける中で、さまざまな方から両親の姿勢が子どもの支援を阻害してしまったというエピソードを耳にしました。以下に、「わが子に限って、そんなこと……!」と拒否してしまう心が招いた3つの悲劇を紹介します。●(1)療育センターを勧められたのが納得できなくて……!『知り合いの息子は療育センターを勧められたけど、ママは納得していなかった。学校から提出を求められた教育相談の申込書に子どもの能力についてのアンケートがあったが、“障がい者”になってしまうのが怖くて、本当はできないことも「できる」と回答。その結果、支援は不要だと判断され、息子には何の改善策も取られなかった 。支援も無く、能力に見合わない教育を受ける息子は学校の勉強からどんどん取り残されていった』(Sさん/30代・主婦からのエピソード)●(2)パパの理解が得られないため、家庭のムードが険悪に『同級生に、発達障害があるお子さんがいた。ママは比較的早くに娘の状況を飲み込んでいた。問題点を理解したうえで、受けられる支援や教育方法の改善を前向きに学んでいたようだけど……。パパがそうも行かなかったみたい。ママが「こういう支援があるみたいだから、考えてみよう」と提案しても、「そんなもの必要ない!あの子は普通!甘やかしたら、それこそ将来ろくでなしになるぞ!」などなど、理解ゼロな発言でママを罵倒していた らしい。ママ友と愚痴っているのをよく聞いた。お仕事の関係か、パパが家にいるのは平日の夜と休日。つまり、子どもがいる時間帯に言い争いをしていた様子。いつもニコニコとかわいい笑顔を浮かべていた同級生のお子さんも、次第に卑屈な性格に変わってしまった 』(Mさん/30代・主婦からのエピソード)●(3)通級指導教室へ通うことを、親子ぐるみで隠し通しているうちに『通常学級に在籍しながら、週1回の通級指導教室へ通うある親子のお話。決められた曜日に通常学級の授業を抜けて通級に行くため、他のクラスメイトから「どこへ行くの?」と聞かれることもあるようです。その子のママはわが子が通級へ行くことをできるだけ他言したくなかったため、「同級生には、毎週病院へ言っていると言いなさい 」と言い聞かせたそうです。お子さんもママの言いつけを守り、「病院へ行くんだ」と答えていたようなのですが、毎週ウソを重ねることがストレスになり 、次第に「ウソをつかなきゃイケナイことを、私はしているの?私は隠さなきゃイケナイ悪い子なの?」と、心が不安定な状態に。ママの考え方や言動が自己肯定感を引き下げてしまった出来事でした』(福岡県で通級教室の指導員を行う女性からのエピソード)●子どもの障がいを認めること、まわりに隠さないことの大切さわが子の発達障害を受け入れることや、周囲の人たちにそれを隠さないことには大きな勇気が必要です。私たち夫婦も、当初は「ちゃんとした大人になれるのか……これからどう育てていくべきか……」などと不安を抱きながら、何度も話し合いを重ねました。そんな大人たちの懸念を吹き飛ばしてくれたのは、息子本人です 。療育センターへ行くことに対し、お友達から「どこへ行ってるの?」と聞かれた彼は、臆することなく「僕って、大人のお話を集中して聞けないじゃん?それを直してくれるトコロがあるみたい!」と返していたのです。そしてまわりのお友達も、「へえ、そうなんだ!頑張ってね!」と送り出してくれていた様子。あっけらかんとした子どもたちのやりとりに、覚悟が足りていないのは大人の方だった ことを思い知らされました。息子はとっくの前から自分の不得意に悩み、受け入れ、そして改善させようと前を向いていたのです。わが子が“その気”になっているのに、大人が後ろを向いているわけにはいきません。一口に学習障害といっても症状や程度はさまざまで、ケースごとに抱く不安も異なるかと思います。とはいえ、極端にまとめれば、“できないこと・苦手なことに悩んでいる ”ということに変わりはありません。不得意なことができるようになるためには親がその事実を認めることと、周囲の方に隠さず伝えることで積極的にサポートを仰ぐことが重要なのではないでしょうか。●世間体は、お子さまの“できない”を受け入れることより大切でしょうか?私事ですが、このたびの“息子のADHD騒動”の最中(さなか)、母親である私自身のADHDも発覚しました。昔から物忘れが激しく、お勉強も決して得意ではなかったことには原因があったのです。そんな私ですが、発達“障害”を障害だと感じたことはありません 。特別忘れっぽい性格をしている私は成長の中で、「お、提出物だ。こういうの、私はすぐ忘れちゃうんだよね〜、だから今すぐ済ましちゃおう!」といった具合に、自分なりの対処法を編み出してきました 。発達障害の有無に限らず、すべての人間に得意・不得意があって、おそらく私のように自分なりの対処法を見出してきたはず。それぞれが持つ不得意やそれに応じた対処法は、それぞれがうまく生きていくためのノウハウです。決して特別なことではないと感じませんか?昨今注目度の高まっている発達障害児への支援については、要は私のような小学生に対して早い段階で“自分なりの対処法”を教えてあげるサポート なのだと思っています。「私が小学生のころにこんなサポートがあったらよかったのにな」と、正直わが子がうらやましい……。障がいと言ってしまえば、確かに聞こえは良くないかもしれません。しかし、「頑張ってるのに、まわりの友達と同じようにできない……」と不得意なことにわが子が苦しんでいることだけは確かです。小さな胸に芽生えたコンプレックスは、パパやママが気にする世間体よりも無価値でしょうか?優先すべきは、お子さまの“できない”に真っ向から立ち向かってあげること。親子で逆上がりや自転車の練習に励んだときと同じテンションで、お子さまの“できない”を受け入れてあげてみてはいかがでしょうか。●ライター/木村華子(ママライター)
2016年10月12日発達障害の大人が医療機関を利用するとき、どんな問題が生じるか出典 : 児童精神科医の吉川徹です。これまでの連載では「発達障害と医療」をテーマに、医療機関や診断を受けるタイミングなど、様々な角度から執筆させていただきました。今回は、発達障害と医療の問題を考える際に特に悩ましい、成人された方の医療の利用についてです。この問題は大きく分けて、●子ども時代から大人への医療の引き継ぎ(移行医療)の問題●成人期になって初めて、発達障害を主なテーマとして医療を利用するときの問題の2つがあります。大人になってもスムーズに医療機関を受診し続けるには出典 : 近年では子どもの発達障害を診療できる医療機関はかなり数が増え、診断を受けている子どもも急増しています。こうした子ども達はいつ大人の医療に移行していくのか。これは遠からず全国的に問題になることは目に見えています。子ども時代に診断を受けた方のうち、大人になっても医療が必要な方は、実はそれほど多くはありません。ただ継続した投薬が必要であったり、前回の記事にあるような診断書が必要であったり、どうしても医療のサービスを継続して利用する必要がある方もいらっしゃいます。特に小児科で診断、治療を受けていた場合、必然的に移行が必要となることが多いです。児童精神科などの場合では、医療ニーズが高い場合には継続して診療を受けられることもあるでしょう。最近では発達障害の診療に対応できる、成人の医療機関も増えてきています。成人医療への移行に備えて、地域の医療事情について早めに情報収集を行っておけると安心です。移行が必要になる時期はおおむね15歳〜20歳前後であることが多いのですが、できれば20歳ごろ、総合支援法医師意見書と障害基礎年金の診断書が揃っていると、後の移行がスムーズです。その時期の移行が可能かどうか、通院中の医療機関に相談してみる価値はあります。大人になってから初めて発達障害がわかったとき、医師による診断が必要だとは限らない出典 : もう1つ悩ましいのが、大人になってから初めて発達障害をテーマにして、医療機関を受診する際の問題です。成人期の発達障害診療を受け入れていると広報している医療機関はまだ少なく、たどり着くのが難しい地域もあります。それ以外にも成人期の医療には様々な課題があるのです。まず、そもそも大人になった方の発達障害の確定診断を行うことは、医師にとってもかなり難しいという問題があります。発達障害の診断の多くの部分は、乳幼児期や子ども時代のエピソードの聴き取りに拠っています。成人するころまでには、養育者の記憶も曖昧になり記録も散逸しており、どんなに頑張っても診断を確定できるだけ根拠が得られないことがあります。こうなるとせっかく受診しても「特性はありそうだけれど、診断は確定できない」と伝えられてしまいます。特に専門性の高い医師ほど、正確な診断と診断基準を意識するので、このような伝え方が多くなります。乳幼児期の情報が充分得られない場合、発達障害診断のみを目的にした医療機関受診の効率は下がってしまいます。次に、不眠や不安などの発達障害以外の症状がなく、発達障害の疑いしか医療への「入場券」がない場合、医療機関への受診はそれほど実りのあるものにはならないことも多いという問題があります。成人になるまで診断を受ける機会がなかった方の場合には、当面の主要な問題は発達障害そのものよりも、不眠や不安、抑うつ、強迫症状や精神病症状などであることのほうが多いのです。このように他の精神症状がある場合には、むしろそれを入り口として、優先して相談、対応することが望ましいことが多いのです。その場合、受診できる医療機関の間口も広がるので、通える医療機関を見つけやすくなります。「発達障害の診療はしていません」というクリニックでも、通院中の患者さんの疾患の背景にある発達障害には、気づいてくれたり対応してくれたりすることもしばしばあります。この場合でも支援者の口コミなどで、発達障害の対応に慣れた医療機関を選んでおけるとなお良いですね。何のために受診するのかよく見定めて、効率的に医療機関を使おう出典 : 診断書や薬物療法が不要である場合、本人や周囲の人がその特性に気づき、実際に工夫しながら対応する中でそれを確かめることが可能であれば、発達障害の確定診断は、必ずしも必要ではありません。極めて限られた専門医療機関を別にすると、一般の成人精神科医療機関の診療の時間や構造は、障害特性そのものへの対応を相談するのには、あまり適していないことも多いのです。成人期の発達障害医療はまだまだ発展途上です、今後大きく状況は変わっていくかも知れませんが、現時点では医療機関を受診する目的をよく見定める必要があります。それは診断なのか、診断書なのか、薬物療法なのか。あるいは得意な医療機関は限られますが、自己認知の支援なのか。それともむしろ併存する他の精神疾患の診断や治療なのか。ご本人や支援者の方にはうまく見極めていただき、医療機関を効率よく使っていただけるとよいと思います。
2016年10月12日医療機関による受診が必要になる、「診断書」の取得出典 : 前回はいつ医療機関による受診をするのか・勧めるのか、というテーマでしたが、一方でどうしても受診、診断が必要なタイミングというのがあります。その代表的なものが、診断書が必要になる時期です。発達障害を持つ子どもや大人が健康に成長し暮らしていくためには、様々な支援が必要になることがあります。その入場券になることが多いのが診断書です。今回の記事では診断書が必要になる代表的な場面と、その時期を解説します。ただし、診断書を巡る状況は、地域によって少し異なることがあります。地元の支援者や先輩の親御さんにも確かめてみるとよいでしょう。18歳未満で診断書が必要となる場面出典 : 子ども時代には診断書が必要な場面は、実はあまり多くありません。知的障害を伴う方の場合、愛の手帳や療育手帳などと呼ばれる知的障害の福祉手帳の取得には、原則として医師からの書類は必要ありません。地域の役所の窓口から申請でき、その手帳があることで多くのサービスが利用可能です。以下では、医師の診断書が必要となる場面をご紹介します。知的障害の手帳の対象ではない場合、精神保健福祉手帳という精神障害の福祉手帳を取得することがあります。子ども時代の取得はまだ多くはありませんが、だんだんと取得する方が増えているようです。精神保健福祉手帳の取得には必ず医師の診断書が必要となります。子ども時代の取得にはそれほど多くの利点はありませんが、必要であれば診断書の発行を受けることが可能です。福祉手帳の取得をしていない場合、児童福祉法に基づくサービスを利用するための「受給者証」を発行してもらうために、医師の診断書が必要となる地域があります。制度本来の主旨からするといかがなものかと思うのですが、残念ながらそのような運用が広がってきているようです。また地域によっては、通級指導教室や特別支援学級などへの入級にあたって診断書を求められることがあります。幼稚園などの場合でも、園への助成金などの支給のために、診断書の提出を求められることがあります。これも文部科学省などが通達している特別支援教育の方向性からすると、本来あってはならないことだと思うのですが、残念ながらそのようなルールが設定されている地域もあるようです。また障害の状態によっては、特別児童扶養手当の支給対象となることがあります。やや厳しい世帯の所得制限などもありますが、支給にあたっては医師の診断書が必要です。18歳以上で診断書が必要となる場面出典 : 歳以上になったときに、障害者総合支援法による様々な福祉サービスを受けるためには、診断書ではないのですが、「医師意見書」が必要になります。また20歳になると、障害基礎年金の対象となる方も出てきます。障害年金の受給には必ず医師の診断書が必要です。この中で特に注意しなければならないのが、子ども時代に医療機関を受診し診断を受けた後、経過が順調な場合、特に身近で適切な支援が受けられている場合です。このとき、どこかの段階で医療機関の受診が不要になり、通院を止めていることが少なくありません。しかしその場合であっても、18歳以降に福祉サービスの利用の可能性がある場合、障害基礎年金が受給できる可能性がある場合には、それに備えて少なくとも1,2年前からは通院医療機関を確保しておいた方がスムーズです。初診でいきなり診断書の発行を受けることは困難です。16歳、17歳という年齢であれば、成人の精神科医療機関に受診できるので、通院先の選択肢は格段に広がります。初診には予約が必要であることもありますので、将来の診断書の発行に備えたいという受診の意図を伝えて、事前に確認しておくとよいでしょう。この他、就労支援を受ける際に医師の意見書を求められたり、障害が重度である場合には特別障害者手当の受給のためにも診断書が必要となったりします。必要な時期に診断書の発行が受けられるように情報収集しておけるとよいですね。
2016年10月10日反抗挑戦性障害(ODD)とは?出典 : 反抗挑戦性障害(ODD)とは、別名「反抗挑戦症」とも呼ばれ、親や教師など目上の人に対して拒絶的・反抗的な態度をとり、口論をしかけるなどの挑戦的な行動をおこしてしまう疾患です。症状の現れ方によって過興奮型、すね型、マイペース型に分類される場合があり、症状を発症する場面・相手が多いほど重度であると診断されます。反抗挑戦性障害が発達期を通じて何年間も続く場合、両親、教師、監督者などの目上の人だけではなく、同年代の友人、恋人ともトラブルを起こしてしまい日常生活に様々な障害が発生します。反抗挑戦性障害は捉え方によって特徴が異なる疾患です。とくにアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)と世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)では診断基準などが違う場合があるので注意が必要です。反抗挑戦性障害の主な症状出典 : 反抗挑戦性障害の症状として大きく3つのパターンがあげられます。・怒りっぽくイライラする:周囲からの刺激に過剰に敏感になり、すぐにイライラしてしまいます。そのためしばしばかんしゃくを起こしたり、腹を立てて怒ったりしてしまいます。・周囲に挑発的な行動をする、口論がすき:権威のある目上の人物や、子どもの場合は大人から決められたルールに従うことに積極的に反抗し、口論をふっかけます。そしてわざと周囲の人をイライラさせ、自分の失敗、または失礼な行動の原因を他人のせいにしてしまいます。・意地悪で執念深い:周囲の人との間に起こった出来事を根に持ち続け、他人に対して優しくなれない状態が半年に少なくとも2回発生します。反抗挑戦性障害と反抗期の違い出典 : 通常子どもの健康な育成に反抗期は必要なものとされています。反抗期には誰でも親に反抗的な態度をとったり、いらいらしたりするものです。そのため反抗期と反抗挑戦性障害を見きわめることは難しい場合があります。見分けるためには反抗的な行動がどのくらい続いているのか、どのくらいの頻度で発症するのかを考えることが重要です。例えば第一次反抗期にあたる5歳未満の子どもの場合、周囲の人に対して怒ったり、乱暴な言葉をもちいて反抗したり、かんしゃくを起こしたりする行為が1週間に1回、少なくとも半年間続くことが条件となっています。しかし反抗挑戦性障害か見分けるためには、これらの条件だけではなく発達水準、性別、文化の基準などさまざまな条件を考慮する必要があります。これらすべての条件をふまえた上で発症頻度・症状の重さが通常の反抗期を超えている場合は、反抗挑戦性障害と診断されます。判断することが難しい場合は専門家に相談することをおすすめします。反抗挑戦性障害を発症しやすい人出典 : 反抗挑戦性障害は通常就学前に発症し、青年期初期以降の発症はあまり見られないといわれています。発症率の男女比は思春期以前は1.4:1となっており、男児のほうが発症率が約1.4倍高いです。しかし思春期以降は性別による発症率の差はあまり見られなくなります。2~5歳児を対象とした調査では反抗挑戦性障害を発症している人の割合は、それ以外の疾患を発症している人の割合より格段に多く、16.8%のという研究結果がでています。そのうちの半数は重い症状があると診断されました。参考文献: ロバート・ヘンドレン/著 『子どもと青年の破壊的行動障害―ADHDと素行障害・反抗挑戦性障害のある子どもたち』 2011年 明石書店/刊反抗挑戦性障害の主な原因出典 : 反抗挑戦性障害の要因として、育った環境が関わっている場合があるといわれています。その理由として、反抗挑戦性障害は、目上の人からの指示などに対して拒否する拒絶症状が症状の中核となっていることが挙げられます。拒絶症状は一日で現れるものではなく、反抗的な感情がだんだん積み重なって発症してしまうと考えられており、主に幼少期の環境に左右されやすいのです。保護者や周囲の人と対立してしまったときに、大人が次はこうしようかという改善策を提示せず、子どもをただ批判、非難することによって抑圧してしまうことはとても危険です。これにより、子どもは自分を守るため挑戦的で反抗的な感情をおこしたり、行動してしまう可能性が生まれるのです。しかし環境要因は決定的な要因ではなく、気性が荒い、我慢することを苦手などのもともとの気質要因、遺伝的要因なども関わり合うともいわれているため、はっきりとは原因が解明されていないのが現状です。反抗挑戦性障害の診断基準出典 : アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神障害のための診断と統計のマニュアル』第5版)による診断基準は以下の通りです。A. 怒りっぽく/易怒的な気分、口論好き/挑発的な行動、または執念深さなどの情緒・行動上の様式が少なくとも一人以上の人物とのやりとりにおいて示される。怒りっぽく/易怒的な気分:(1)しばしばかんしゃくをおこす(2)しばしば神経過敏またはいらいらさせられやすい(3)しばしば怒り、腹を立てる口論好き/挑発的行動:(4)しばしば権威のある人物や、または子供や青年の場合では大人と、口論する(5)しばしば権威のある人の要求、または規則に従うことに積極的に反抗または拒否する(6)しばしば故意に人をいらだたせる(7)しばしば自分の失敗、または不作法を他人のせいにする執念深さ:(8)過去6ヶ月に少なくとも2回、意地悪で執念深かったことがある注:正常範囲の行動を症状とみなされる行動と区別するためには、これらの行動の持続性と頻度が用いられるべきである。5歳未満の子どもでは、ほかに特に記載がない場合、その行動は1週間に1回、少なくとも6ヶ月間にわたって起こっていなければならない(基準A8)。このような頻度の基準は、症状を定義する最小限の頻度を示す指針となるが、一方、その他の要因、たとえばその人の発達水準、性別、文化の基準に照らして、行動が、その頻度と強度で範囲を超えているかどうかについても考慮すべきである。B.その行動上の障害は、その人の身近な環境(例:家族、同世代集団、仕事仲間)で本人や他社の苦痛と関連しているか、または社会的、学業的、職業的、またはほかの重要な領域における機能に否定的な影響を与えている。C.その行動上の障害は、精神病性障害、物質使用障害、抑うつ障害、または双極性障害の経過中のみ起こるものではない。同様に重篤気分調整相の基準は満たされない。■現在の重症度は軽度:症状は一つの状況に限局している(例:家庭、学校、仕事、友人関係)中等度:いくつかの症状が少なくとも二つの状況でみられる重度:いくつかの症状が三つ以上の状況でみられる『DSM-5』では、反抗挑戦性障害と素行症を別の疾患として定義しています。素行症とは、周囲の人に反発して、学校のずる休みや繰り返しの嘘をつくなどの挑発的な行動をとったり、激しい喧嘩をしたりすることに加えて、放火や盗み、物に対しての破壊行為などの法律違反に当たる行動をとることを指します。一方、世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)では、反抗挑戦性障害は素行症という疾患の中に含まれて定義されます。ここでは、反抗挑戦性障害はおよそ9~10歳未満の子どもに発症する行為障害(素行症)の軽度の症状であると位置づけられます。参考文献: 『ICD-10』 2013年 中山書店/刊反抗挑戦性障害の合併症出典 : ■素行症反抗挑戦性障害の代表的な合併症として素行症が挙げられますが、これは小児期発症型のをもつ子どもによくみられる併存症です。合併してしまう主な原因は、自分より偉い人との間に挑戦的な感情をもってトラブルを起こしてしまうという、共通の症状があることと言われています。反抗挑戦性障害が重度になるにつれて素行症の症状もあらわれてきてしまうのです。しかし反抗挑戦性障害と違い、素行症には人や動物に向けた殴るなどの攻撃的な行動や、物の破壊、または盗みや詐欺など違反行為がみられるため、しっかりと区別することが重要です。■ADHD(注意欠陥・多動性障害)もう一つの代表的な合併症としてADHD(注意欠陥・多動性障害)があげられます。ADHDとは、不注意(集中力がない)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(考えずに行動してしまう)の3つの症状がみられる発達障害のことです。 年齢や発達に不釣り合いな行動が社会的な活動や学業に支障をきたすことがある障害です。ADHDを発症している子どもの20~56%は二次障害として反抗挑戦性障害を発症するといわれており、発症する確率は3歳の子どもが一番高いと言われています。その他にも反抗挑戦性障害は不安症群やうつ病の合併のリスクも高いと言われています。その理由は怒りっぽい、気分の波が激しいなどの症状が一致している傾向にあるからです。発達障害に関連のある行動障害についてl 国立特別支援教育総合研究所ADHDの二次障害としての反抗挑戦性障害出典 : 反抗挑戦性障害とADHDは強い関わりがあるといわれており、年齢を重ねるとともに合併する可能性が高くなると言わています。そのときは、元々ADHDがある人が“人間不信的行動”という二次障害として反抗挑戦性障害を発症する場合が多いです。人間不信的行動とは、自尊心・自己肯定感が低下して自分はダメな人間かも知れないと思い、そんな自分のことを誰も理解してくれないという気持ちから、周囲の人を信じれなくなったときに起こしてしまう行動のことを指します。ADHDを発症している人は、自分自身がADHDであることを認識していないケースも多く、周りから理解が得られていない場合も多いです。そのため知らない間に人間不信になり、反抗挑戦性障害を発症しているということも少なくないのです。またADHDには主に、不注意優勢型、多動性・衝動性優勢型、混合型の3つのタイプがあります。その中でも、不注意優勢型のADHDのほうが反抗挑戦性障害の症状が比較的軽い傾向にあります。ADHDのある子どもとその家族の間でおこる衝突の多くは、合併症としての反抗挑戦性障害が関与している場合があります。そこで衝突・喧嘩をする回数が過度に多いときはADHDではなく、反抗挑戦性障害が原因かもしれないと考えることが重要です。ADHDに反抗挑戦性障害が合併すると、対立や怒りの感情の発生、コミュニケーション障害によって、単なる衝突・喧嘩にとどまらない対人関係への悪影響の及ぼし合いが多く発生します。例として母親との関係を挙げると、ADHDと反抗挑戦性障害が合併している10代の子どもの多くで、その青年の症状に加えて母親の精神的苦悩が加わり、親子間の対立や悪影響の及ぼし合いが発生することが分かっています。反抗挑戦性障害が気になったときの相談先出典 : 反抗挑戦性障害は素行症(行為障害)やADHD、うつ病などの、様々な合併症と関わりあっている場合が多く、年をとるにつれて症状が複雑化しやすい傾向があります。また、年齢が上がってからの治療は、反抗挑戦性障害がある子どもが治療に対して抵抗することがあるため、早期に診察・治療することがおすすめとされています。明らかに感情の波が激しく怒りっぽかったり、口論が絶えなかったりする場合は以下の相談先に相談するか、医療機関の受診をおすすめします。■児童相談所:「子どもの養育に関する相談」、「障害に関する相談」、「性格や行動の問題に関する相談」などの育児に関する相談ができる機関となっています。全国児童相談所一覧l 厚生労働省■全国精神保健福祉センター:各県、政令市にはほぼ一か所ずつ設置されている窓口であり、精神保健福祉に関する相談をすることができます。相談については、予約制、健康保険の適応があるところがあります。詳細は、それぞれのセンターにお問い合わせください。全国精神保健福祉センター一覧l 厚生労働省■精神科・心療内科:心の症状、心の病気を扱う科です。心の症状とは具体的に不安、抑うつ、不眠、イライラ、幻覚、幻聴、妄想などのことです。心療内科は心と体の不調だけではなく、ほてり、動悸などの身体的症状とその人の社会的背景、家庭環境なども考慮して治療を行います。反抗挑戦性障害の治療法出典 : 反抗挑戦性障害の治療は・症状の重さと発症する頻度を減らすこと・患者が社会生活を送る上で発生するトラブルを少なくすること・家族のストレスを軽減すること・行為障害へ進行することの予防を目的として実施されます。治療法として主に薬物療法、社会技能訓練、認知的技能訓練、ペアレント・トレーニングなどがあります。薬物療法に関しては、反抗挑戦性障害の原因に直接的に効果がある薬はまだ開発されていないため、興奮や衝動性などの症状を抑える薬が処方されます。社会技能訓練とは反抗挑戦性障害がある人が、大人や友だちがいる場で周囲の人のサポートを受けながら行う、社会の中での過ごし方を取得する訓練です。正しいコミュニケーション方法のとり方、怒りや拒絶の感情が発生したときの対処方、目上の人との適切なやり取りの仕方などの練習を行います。また、反抗挑戦性障害がある人が否定的な物事の捉え方や考え方を修正し、トラブルが起こらない意見の言い方を獲得するための治療を認知的技能訓練といいます。そこでは主に反抗挑戦性障害がある人がトラブルをおこさないように、自分で課題解決が行えることを目的としています。反抗挑戦性障害がある人を訓練するのではなく、その保護者の子どもとのかかわり方を訓練する、ペアレント・トレーニングという支援方法もあります。主に、保護者の子どもへの行動、対応方法を変えられるようになることを目的としています。親は子どもの反抗的な行動の動機、行動のパターンを理解・分析する訓練をすることによって、問題行動にたいして上手く対応し、子どもの反抗的な行動を減少させることを目指します。日本ではアメリカで開発されたペアレント・トレーニングをさらに日本向けに改良した治療法が実施されており、訓練を受けたトレーナーの指導の下で行われています。反抗性挑戦性障害がある子どもへの周囲の人の対応方法・接し方出典 : 反抗挑戦性障害には主に過興奮型、すね型、マイペース型の3つのタイプがあります。タイプ別の対応法を解説します。■反抗-過興奮型過興奮型の子どもは指示に素直に従えず、無視するか、返事はするものの結局やらない傾向があります。このような状態にも関わらず指示を繰り返すと、子どもが興奮して暴言を返してくるなど、売りことばに買いことばとなってしまいがちです。「指示に従うことは自分の負けだ」などと、誰に対しても、勝ち負けの気持ちが働いてしまうことが主な原因です。このような過興奮型には、前もって約束する方法が適切です。その場ですぐに「~しなさい」と命令するのではなく、前もって約束したことを思い出させるようにします。そうすることで子どもにとって親との戦いではなく、約束を守るかどうかという「自分との闘い」となるように誘導します。具体的なポイントとして、子どもが約束を思い出せないときは、「何を約束したっけ?」と内容を聞きだすのではなく、まず約束したという事実を伝え、「お風呂、遊ぶ、どっちかな?」と二択の質問にします。ことばだけでは伝わらないときには、絵カードを用いて選ばせることもおすすめです。■反抗-すね型すね型の子どもは衝動性が高く、思いついたら計画性なくすぐに行動してしまいます。しかし、自分の思い通りにならないことがあると、ちょっとした拍子ですねていじけてしまったり、ケンカをしてしまったりします。すねていじけてしまう原因として、数多くの失敗体験が心の中にたまり自信が持てなくなり、どうせやっても失敗してしまうとネガティブな思考が染み付いてしまったことが挙げられます。そのため、自分は上手になれる、上達できるという成功体験を実感してもらう必要があります。おすすめは、運動や料理などを通じて、成功体験を実感してもらうことです。例えば縄跳びでは、跳ぶ回数や跳び方でランクをつくり、徐々に上手くなっているという実感を体験してもらいます。ここで重要なポイントは、・何をやるべきかを明確にする・どこまで到達することができたか分かりやすくするために段階的な目標を示す・子どもの取り組みのモチベーションを維持するために結果のみではなく過程を評価することです。また子どもは。本当に自分にできるかと、心の中では不安を感じています。そのため、「本当に上手くなってきたね、こうやっていけばもっと上手くなるよ」と語りかけをしつつ、自信をつけてあげることが大切です。■反抗-マイペース型マイペース型の子どもは集団で遊ぶことや、他の子との共同作業を苦手とします。幼児期では集団に入るよう誘うとパニックを起こしてしまうことがあります。その後、小学校の半ばあたりになると、周りの子どもたちと興味やペースが合わないことがはっきりとしてきます。マイペース型は、じっとすることは苦手であるにも関わらず、好きなものには集中することができるといった子どもによく見られます。また、人の気持ちを理解することを苦手とする一面がある子もいます。このような子どもに対しては、本人の興味やペースなどを配慮して、周囲との距離感を調整してあげることが主な対応方法となります。子どもが嫌がっているような素振りや表情を見せた場合は、無理強いしないで合わせてあげることが重要です。出典 : と反抗挑戦性障害を合併している子どもと家族がうまく関わっていく上で、重要な4つのポイントを紹介します。1. 感情的に対応しない:子どもが感情的に話をする場合には「静かに話すこと」を促し、落ち着くまで相手をしないようにしましょう。ちょっとしたことでも感情的に反応してしまう傾向があり、周囲の人々がそれに対して感情的に接してしまうと状況が悪化してしまう恐れがあります。2. パパに理解してもらう多くの家庭は子どもと多くの時間を過ごすのはママである場合が多いです。そのため、たとえ子どもとママの関係が悪化してもパパはあまり状況をつかむことができず、子育てから離れるようになってしまうケースは少なくありません。一方、子どもは普段一緒に過ごす時間が少なく、あまり反抗する相手とはならないパパの話にはよく耳を傾けることも多いため、パパが話し合いに加わることでみんなで冷静な話し合いができるということも考えられます。思春期を乗り越えていくときのことも含めて子どもを上手に育てていくには、パパの理解を得てみんなで協力していくことが重要です。3.約束を守りきる経験を積ませる:ADHDと反抗挑戦性障害を合併している子どもは約束したことをなかなか守れないという傾向があります。しかしそのような傾向があるからといって諦めたり大目に見ることを続けたりすると、子どもはどんどん約束を守ろうとしなくなります。そのため子どもの特性を理解し守りきれる約束をすることが大切です。守れたらいっぱいほめる、破ったらなんで守れなかったのかきちんと話し合うとあらかじめ明確に決めておくことがポイントです。また約束を守れなかったときには簡単に許さず、譲らないようにしましょう。4. 子どもに期待し、ポジティブになる:過去のことを責めても子どもの自尊心が低下し、状況や症状が悪化する場合が多いです。これからの成長に期待しネガティブになりすぎないことが子どもの心の健康のために重要です。の理解と対応l 公益社団法人発達協会まとめ出典 : 反抗挑戦性障害とは、通常子どもが発症する障害であり、青年期早期以降の発症はあまりみられません。発症する症状として怒りっぽい、口論が絶えない、執念深く根に持つなどの症状が少なくとも半年続くことが挙げられますが、現れる症状は人それぞれです。通常、反抗期そのものは子どもの健康な成長には必要なものです。それゆえ、反抗期と反抗挑戦性障害の見極めが難しい場合があります。また反抗挑戦性障害はADHD・素行症などの他の障害とも合併・併存しやすい疾患であり、症状が複雑化しやすい傾向にあります。気になることがある場合は、専門家に相談しながら、症状の見極めや対応方法を検討すると良いでしょう。
2016年10月09日不自然なまでに文字を間違える息子…病院の診察で判明したのは?出典 : 発達障害のある小学生の息子は、ディスグラフィアの診断を受けています。ディスグラフィアとは、知的な発達は遅れておらず、文字を読むこともできるのに、文字を「書く」ことに大きな困難がある障害を言います。小学校1年生のときの息子の字は、枠からはみ出たりして乱雑だったのですが、学校の先生も私も「丁寧さに欠けているだけ」だと思っていました。ただ、100点ばかりのテストでも、名前だけ赤ペンで「ていねいにかきましょう」と直されていたことがありました。しかし1年生の終わりごろになって、文字の汚さ以上に間違い方に特徴があることに気が付きました。例えば「お」の点が無かったり、1つの単語の中にひらがなとカタカナが混ざったり、漢字の「へん」と「つくり」が逆だったり、鏡文字になっていたり…ちょうど発達障害について専門機関にかかり始めた頃だったので、合わせて相談すると、「書く」ということが特に難しいディスグラフィア(書字障害)があるとわかったのです。とにかく「書けるように」訓練する日々…息子と私の葛藤出典 : その後、字が書けるようになるための訓練が始まりました。息子はなぜ字を書けないのか、そしてどうすれば書けるようになるのか。通級の時間も漢字を覚える練習をたくさんして、言語聴覚士さんによる訓練も受けました。このとき特に役立ったのは「ハイブリッド・キッズ・アカデミー」の遠隔評価キットです。子どもの読み書きの遅れがどの程度であるのか?の評価を、在宅で受けることができ、どういった対処が望ましいか?までのアドバイスがもらえます。ハイブリッド・キッズ・アカデミーしかし、通級の時間全てを漢字を覚えることに費やして、その時間には覚えても、家に帰るともう書けない…息子は決して怠けているわけではなく、何度も何度も練習しています。でも書けるようになったと思っても、それも束の間で、覚えた漢字がポロポロと頭の中から消えていく…それがどれ程悔しく辛く、そして切なかったことでしょう?いつしか息子は「文字を書く」行為にものすごい拒否反応を示すようになっていました。そんな息子の様子を見ていて、私は葛藤していました。確かに今後、受験などで字を「書かなければいけない」ことはあるかもしれない。でも、ここまでさせなければいけないのだろうか。「文字が書ける」ことはそこまで大切なことなのだろうか、と。「文字が書けない」ことは障害なのか?息子の成長を本当に阻んでいたものは出典 : 息子はパソコンを使ってローマ字のタイピングもできますし、正しい漢字を選んで変換することもできます。それに、自分で字を書くことは難しいですが、「作文」は出来ます。私が代筆すれば、原稿用紙2~3枚の良い文章を書くことができるのです。そんな息子の様子を見ているうちに、息子に対する「文字を書けるようになってほしい」という思いは消えていました。それよりも「書く」ことが前提の課題を前にしたとき、「書く」という最初のハードルにとらわれて、課題自体に取り組む意欲を失くしてしまう方が大問題だと思うようになりました。何か自分のやりたいことを始める前に、「自己紹介」「説明」「作文」などが求められると、未だに息子は顔が暗くなります。「これ、書かなきゃいけないの?」「…やっぱりやめようかな…」と恐る恐るつぶやきます。「パソコンで打ち込めばいいんだよ。何なら喋ってくれたらママが打ち込んでもいいから。」と私が言うと、息子はホッとして取り組む気になってくれています。目の前の「できないこと」にとらわれて、子どもが意欲を失わないように出典 : まだまだ社会にはこういった障害は認識されておらず、学校側に理解してもらえないこともあるかもしれません。私も学校の先生にはICT機器の導入などをお願いしたのですが、難色を示されてあきらめたという経緯があります。「できないこと」ばかりにとらわれて、子どものやる気や意欲の芽を摘んでしまわないよう、「こういう子もいるんだ」という認識が浸透してほしい。そして「合理的配慮」として快く代筆やICT機器などを使わせてあげてほしい!心からそう思います。
2016年10月09日発達障害の疑いがあるとき…医療機関を受診する適切なタイミングはいつ?発達障害の疑いのある方、またそのようなお子さんがいる保護者の方で、「医療機関をいつ受診するか」にお悩みの方もいらっしゃるかと思います。また、「発達障害の存在が疑われる子どもに医療機関の受診をすすめる際、どんなタイミングがよいのでしょうか」というのは、支援者の方もしばしば口にされるご質問です。発達障害のある子どもの場合であれば、保護者は様々なプロセスを経て、子どもの発達特性に気づき、その特性と長くつきあっていくための準備を進めます。その過程は男女が出会って、結婚に至るプロセスに少し似ています。Upload By 吉川徹このプロセスは、もちろん全てをたどっていく必要はありませんし、正しい道筋というものもありません。最近では結婚式を挙げない人も増えてきました。どうしても診断書やお薬が必要でなければ、かならずしも確定診断を受ける必要はないのです。ただ、もしできることであれば、発達障害の特性とずっとつきあっていく準備がそれなりに整った段階で、医療機関の受診ができると、きっとよい節目になるでしょう。医療機関を受診する前の大切なプロセス「障害とつきあう準備」は、どうすれば整うのか出典 : では、「発達障害とつきあっていく準備」はどうすればできるのでしょうか。前回の記事でも触れましたが、診断を受ける前の支援が大切になってくると私は考えています。最初に発達障害の特性に気づいた誰かが、診断を受ける前から上手く支援を始めて、医療による支援へと繋げてくれる。そうすると保護者は、子どもの特性に合わせた関わり方をすると、少し物事が楽になる、前に進みやすい、という感覚をもつようになります。このように、保護者が発達障害とつきあう準備ができていたほうが、診断は正確になり、その後も医療のサービスを最大限有効に使えることになります。もしもその準備が整っていない段階で、「あなたの子どもさんは発達障害の疑いがあるので病院に行って下さい」と言われてしまったら、何が起こるでしょうか。おそらく、一部の保護者は「絶対に障害だと言われたくない」と思って病院の門をくぐります。そうすると、「赤ちゃんの頃は?」「普通でした」「保育園では?」「年少さんは問題ありませんでした。年中になってから行くのを嫌がるようになりました」「ああ、それはきっと担任の先生が……」といった、診断に結びつかないやり取りになってしまいがちです。発達障害の診断には、もちろん子ども自身の状態の観察なども参考になりますが、それまでの発達の経過、道筋の情報が極めて重要です。ここが上手く聞き出せないと見落としや誤診に繋がってしまうのです。「『仮に』理解して、『実際に』支援する」。これはある児童精神科医が編集した書籍の副題ですが、とても良い言葉だと思います。支援を始める時に診断は不要です。まず特性に気づいた人がその「仮の理解」に基づいた支援を実際にやってみる。それが上手くいったときには、その子どもが少数派のものの見方、感じ方、考え方の道筋を持っていること、その理解に基づいた支援が上手くいったこと、その特徴がいわゆる発達障害の特性であることを保護者に伝え、専門機関を受診することで、より効率のよい支援ができる可能性があることを伝えます。準備段階の支援がうまくいかなかったときには出典 : もし最初の支援が上手くいかなかった場合はどうすればよいのでしょうか。その時には「仮の理解」に基づいて援助してみたが上手くいかなかったこと、更にほかの「理解」や援助の方法を見つけるために専門家への相談、受診が望まれることを伝えられるとよいでしょう。このときに必要なのは、受診を勧めようとする人が、子どもの特性を理解しようとしてくれて、実際に手を動かしてくれる、信頼できる人だと保護者に思ってもらうことです。診断を受けても、その支援者が引き続き関わってくれると安心できるとき、保護者は「本当は障害なんて言われたくないけど、あの先生が勧めてくれるなら」と思って、診察に臨むことができるのではないでしょうか。いつ受診を勧めるのか、その答えは、勧める人と勧められる人の間に少し信頼関係が出来てきたとき、ということになるのでしょう。
2016年10月07日親子で発達障害と診断された、栗原類さんと母の泉さんUpload By モンズースー栗原類さんの著書『発達障害の僕が輝ける場所をみつけられた理由』を読ませていただきました。幼少期からの出来事をご本人、お母様、主治医の先生と、3人の視点から書かれていてとても面白かったです。ADHD当事者の私は、類さんご本人のエピソードに共感できることも多く、お母様の泉さんのお話は育児の参考になることがたくさんありました。中でも私が一番印象に残ったのはこのお話です。Upload By モンズースーUpload By モンズースー我が家も栗原さんのご家庭と同じく、親子で発達障害です。そのため、子ども達の特性で共感できる部分もありますが、違う部分もたくさんあります。私は就学前、文章や絵で何かを表現することができましたが、長男は現在絵も字も書けません。私も運動神経は良い方ではありませんでしたが、ジャンプは自然とできました、でも長男は教えてもらっても中々できませんでした。自分が苦労なくできたことを、他者ができないと「なんでこんなこともできないの?」という気持ちになってしまいます。これは定型発達の方でも、大人でも同じことが言えるのではないでしょうか。私も長男が成長するにつれ、できることとできないことの差が広がっていくと、よくこの気持ちになっていました。特に気になったのが偏食です。私はアレルギーのため、自分から食べたくない食べ物はありましたが、食べろと言われて食べられない物は基本的にありませんでした。なので、ほとんどの料理が食べられない長男の気持ちが、なかなかわかりません。でも、栗原さんのお母様のエピソードを読んで、少し気持ちが静まりました。私と子ども達は別々の個性を持った人間、あたりまえのことなのですが、私はつい忘れてしまっている気がいました。栗原さんのお母様が「一生忘れることのできない大切な言葉」と書かれていらっしゃいましたが、私も印象に残るお話でした。出典 : 発達障害の僕が 輝ける場所を みつけられた理由 栗原 類 (著)
2016年10月07日栗原類さん、自身の発達障害について語る初の自叙伝発売!モデル・俳優として、テレビや舞台、ファッションショーなど様々な分野で活躍する栗原類さんが、10月6日に自身の生い立ちから現在までを綴った著書『発達障害の僕が輝ける場所をみつけられた理由』を発売されました。LITALICO発達ナビでは、書籍の出版を記念して栗原類さんに単独インタビューを実施。ご自身の発達障害(ADD: 注意欠陥障害)を公表し、書籍を出版するに至った背景、自身の特性を理解し俳優として「輝ける場所」をみつけられるまでの日々、お母様である泉さんと歩んできた21年間の日々について、たっぷりと語っていただきました。Upload By 鈴木悠平(発達ナビ編集長)栗原 類さん: 1994年生まれ。イギリス人の父と日本人の母を持つ。8歳のときNYで発達障害と診断される。中学時代にメンズノンノなどのファッション誌でモデルデビュー。17歳の時バラエティ番組で「ネガティブタレント」としてブレイク。19歳でパリコレのモデルデビュー。21歳の現在は、モデル・タレント・役者としてテレビ・ラジオ・舞台・映画などで活躍中。2015年に情報番組でADDと告白し話題となる。実は「カミングアウト」したつもりなんてなかった!?―出版おめでとうございます。出来上がった本を今日手にとってみて、ご感想はいかがですか。栗原類さん(以下、類さん): いやー、本当に思った以上に時間がかかってしまって、担当の方には、正直ご迷惑をかけっぱなしだったと思います…Upload By 鈴木悠平(発達ナビ編集長)―初の長編エッセイですもんね。やはり大変でしたか。類さん: これまでも雑誌の連載などで文章を書いたことはあったのですが、今回のように自分の過去を深く掘り下げて書く本は初めてで。僕はあまり記憶力が良くないので、昔のことはほとんど覚えていなかったんですよ。母親や友人、主治医の高橋猛先生などに自分の過去を聞いて回って、そこから思い出して書くまでにものすごく時間がかかりました。それに、これまでのファッションやアートの分野での執筆ではなくて、発達障害をテーマにしたエッセイですから、どうやって興味を持って読んでもらえるかはかなり悩みました。担当編集の方に、全然進んでいない原稿を見せては、「この状態では出版も出来なくなりますよ」などと言われる始末で…。長い間辛抱強く待ってくださって、本当に感謝しています。―それはそれは…本当にお疲れ様でした。今回の出版は、類さんにとっても新しい挑戦だったと思うのですが、なぜ、ご自身がADD(注意欠陥障害)であることを公表し、書籍まで出版されようと思われたんでしょうか?類さん: そもそも僕は、自分がADDであることを隠していたことはないんですよ。―え、そうだったんですか。類さん: 最近まで、他人から「発達障害なんですか?」なんて聞かれたこともなかったし、聞かれていないなら答える必要もないかと思っていただけで、この仕事をする前から、ブログやツイッターでは自分の発達障害について書いていました。Upload By 鈴木悠平(発達ナビ編集長)―へえぇ、知らなかった…類さん: だから僕としては、「書いているんだから、みんなもう知っているだろう」ぐらいに思っていたし、テレビ番組で話した時も、「カミングアウトする」というような気持ちでは全くなかったんです。それが、いざテレビに流れるとすごい反響で…―昨年5月、NHKの「あさイチ」ですね。放送後、ネットで話題になっていたのをよく覚えています。類さん: 僕も放送直後に自分の名前でツイッター検索をかけたら、本当にたくさんの方がコメントされていて。自分で言うのもおこがましいんですけど、賞賛のコメントも多く、「公表するのは勇気があることだ」とか「私も勇気をもらった」とか…色んな声をいただけてすごくありがたかったです。―ポジティブな反応も多かったですよね。類さん: KADOKAWAさんから出版のお声がけをいただいたのは、それからしばらく経ってからのことでした。自分と母がこれまでやってきたことや、生まれ育ったアメリカの教育制度など、僕の人生を紐解くことで、もっと多くの人が発達障害に興味を持ってくれるかもしれない。いま発達障害に悩んでいる人たちにとっても何か励みやヒントになるものを提供できるかもしれない。そんな思いで、今回のお話をお受けしました。他人の気持ちが分からなかった少年が、「演じる」楽しさに目覚めるまでUpload By 鈴木悠平(発達ナビ編集長)―ここからは本を拝見していくつか印象に残ったところを中心に、お話をお聞きできればと思います。ご自身の特性として、感情表現や人の気持ちを読むことが苦手だと書かれていましたが、俳優やモデルといった、むしろ、感情理解や表現をかなり求められる世界に飛び込んだというのが印象的でした。類さん: やっぱり傾向としては、発達障害のある人って、他人の気持ちを読み解くのが苦手な人が多いようで、僕もそのタイプでした。原因としては色々あると思うんですけど、僕の場合は、そもそも自分自身の内面にも興味がなかったというのが大きかったです。自分に興味がないから、他人にもそこまで興味を持てなかった。Upload By 鈴木悠平(発達ナビ編集長)―もともと自分にも他人にもあまり興味がなかった。そこからどうしてお芝居の世界に?類さん: ニューヨークにいた頃、小学1年の担任の先生の勧めで、コメディ映画を観始めたのがきっかけです。―コメディ映画を。類さん: 僕は昔から冗談が通じない子で、周りの冗談を真に受けてすぐにカチンと来てしまうなところがありました。先生は、このままでいると僕が人間関係で躓くことになると予見して、人の感情、特にユーモアを学ぶ必要があると言い、コメディ映画を観ることを勧めてくれたんです。特にハマったのはアニメの「サウスパーク」ですが、他にも色んなアメリカのコメディ映画やドラマを観ていました。僕が気になった部分があると一時停止して、「この人はこんなセリフを言っているけど、内心こういう感情で、本当はこういうことを伝えたいから、こんな表情をしているんだよ」っていう風に、母がひとつひとつ解説してくれたんです。おかげで、少しずつ登場人物の気持ちや意図が予想できるようになっていきました。―お母様が横で解説を入れてくれたんですか!セリフと表情のギャップを学ぶという点では、コメディはピッタリの教材かもしれませんね。類さん: そこからは僕も予想外だったのですが、ユーモアを理解するためにコメディ映画を観ていたのがきっかけで、お芝居自体に興味を持つようになったんです。自分ではない、色々な人になりきることの面白さを感じ、自分も俳優になりたい、と思うようになりました。―なるほど、そこから俳優を目指すように。類さん: モデルの仕事はもっと早くからやっていたのですが、本格的に芝居に取り組んだのは高校の演劇部に入ってからです。そこからバラエティ番組に出て、2012年にNHKのドラマで役をもらったのが、俳優として初のお仕事でしたが、最初は右も左も分からず、自分のセリフを覚えるだけでも精一杯で…Upload By 鈴木悠平(発達ナビ編集長)―自分から興味を持って飛び込んだ世界とはいえ、集中を要したり、シーンに応じた振る舞いを求められたりと、大変な部分も多かったでしょうね…類さん: そうですね。実際、今でも苦労している部分はありますし、これからもたくさんあると思います。でも、先輩の役者さんにアドバイスをいただいたり、舞台を観に行ったりと、学ばせてもらう機会にはとても恵まれていて、いま少しずつ吸収、成長していく時期なのかなって思います。―コメディ映画に学んでいた頃のように、今後は周囲の先輩たちから学んで吸収されているのですね。類さん: すぐにはうまく出来なくても、ひとつひとつ訓練していけば、いつかは壁を突破して成功できる。そうやって、長い目で見る気持ちは忘れないようにしようと思っています。自分のことを「ネガティブ」だなんて思ったことはない?Upload By 鈴木悠平(発達ナビ編集長)―お話を聞いていると、類さんは、身の回りの物事への注意集中が難しいという特性がある一方で、ものすごく楽観的だったり、長期的な視野を持っている印象を受けます。先ほどの話のように、「いつかは成功できる」と思って苦手なことも続けられたり、かと思えばバラエティ番組で人気沸騰だった時期にも、「この人気が続くわけがない」と、パリコレのオーディションに挑戦したり…類さん: バラエティは毎年旬が変わっていくものですし、そもそも自分に向いていないと思っていたので、ずっと続けていくつもりはありませんでした。それよりも、今までやったことがない新しい挑戦をしたいなと思ったんです。―とはいえ、まとまった期間で日本を離れると、連ドラなどの仕事は断らなければいけないし、オーディションに落ちてしまったら仕事が全部なくなってしまうかもしれない。なかなか勇気の要る挑戦だったと思いますけど。類さん: 確かに、僕にとっては大きな挑戦でしたね。でも、パリコレは21~24歳ぐらいの若いモデルが求められていて、僕のこの年齢で飛び込むのがむしろベストなのかなとは思っていました。結果的に、「Yohji Yamamoto」では4期連続、2年間を通して出演させていただきました。―周りからは当時、「ネガティブすぎるモデル」とか言われていましたけど、ネガティブというよりむしろ戦略的というか、かなりリスクを取って挑戦するタイプじゃないですか…類さん: というかそもそも、僕は自分のことを「ネガティブです」と言ったことは一度も無いんですよ!Upload By 鈴木悠平(発達ナビ編集長)類さん: 僕は普通に振る舞っていただけなのに、気づいたら周りからそのような煽りが付けられていて…僕はメディアの取材などでは毎回「言っていないです」って説明してたんですけど、必ず毎回カットされるんです。―メディア的にはあまり美味しくはないセリフなんでしょうね…(笑)類さん: まぁでも、周りからの評価も含めて客観的に受け止める性格なので、そういうことが2, 3回続いたあとは諦めて受け容れてましたね(笑)親子というより友人―母、泉さんのことUpload By 鈴木悠平(発達ナビ編集長)―焦らず、長期的な視点を持つというのは、「人生はマラソン」だと語られた類さんのお母様、泉さんの影響も大きかったと思うのですが、類さんにとって泉さんはどんな存在ですか?類さん: 僕の一番の理解者ですし、すごく尊敬しています。本にも書きましたし、どんだけお母さん好きなんだって言われるかもしれないけど、やっぱりあの人の影響によって今の自分が成り立っているんだと思います。好きな音楽とか役者とか、映画のセンスも、あの人が見ていたものを一緒に見たりとか、こういうオススメがあるよって連れて行ってもらうなかで確立したものがあって。僕がどうして今この仕事をするようになって、これから何を目指したいのか、僕自身がちゃんと理解して歩んでいけるようになったのは、母の影響がすごく大きいです。―なるほど。類さん: それから、母は自分が出来ることだからといって、子どもの僕に決して同じようには要求しない人でした。母自身もADHD(注意欠陥・多動性障害)だと言われているんですけど、同じ発達障害といっても、お互いに真逆な性質なんです。母はものすごく記憶力が良いのに、僕は極端に忘れっぽい。母は他人に言われた嫌なことも全部覚えてストレスになっちゃうけれど、僕はどれだけ怒られても翌日にケロっと忘れたりすることがしょっちゅうありました。僕は忘れ物や同じミスを繰り返すので、そのつど耳にタコが出来るぐらい母に怒られていましたが、「長い目で見たらあなたの性質の方が気楽だし、メンタルも安定していて良いわよね」なんて言われたりもします。Upload By 鈴木悠平(発達ナビ編集長)―ほんとに真逆の凸凹なんですね。人生の先輩として厳しい言葉をかけつつも、長い目で類さんの成長の過程に伴走していこうという泉さんの思いが、本を読んでも伝わってきます。類さん: お互いの長所も弱点も理解しながら、20年以上ずっと二人暮らしてきているので、息子と母親というよりは、むしろ心を開ける友人という感じがしますね。普通の親子なら言わない冗談とか言葉遣いもけっこうあったりします。発達障害に悩める人たちへ―「背負い込まず、一人でも仲間をみつけて」Upload By 鈴木悠平(発達ナビ編集長)―最後に、自分やお子さんに発達障害があって悩んでいる人たちにメッセージがあれば、お願いします。類さん: 大人の当事者の場合でも、子どもに発達障害がある保護者の場合でもそうですけど、全部自分一人で背負い込んでしまわないことが大切だと思います。これまで親子の関係について多く話してきましたが、信頼できる第三者の相談相手がいると、すごく良いと思います。僕にとっては、主治医の高橋猛先生がそうでした。誰だって、どうしても親には話したくないことだってありますし、親子だけだと視点が偏って閉塞的になることもあります。そんな時、信頼できる第三者の意見を聞くことが出来れば、新しい発想やアプローチも出て来ると思います。大人の場合でも、仕事がうまくいかないからといって、自分のせいだと背負い込みすぎたら絶対身体も心も持たないです。全員に100%発達障害のことを理解してもらうなんて出来ませんが、上司や同僚、相談できる相手が一人いるだけでだいぶ違うと思います。一人でもいいので、信頼できる人を見つけること。それから、自分の特性や周囲の人たちと、長い目で見てじっくり付き合っていくことだと思います。―信頼できる人を見つけて、焦らずじっくりと。人生は「マラソン」、これからもずっと長い道のりが続きますものね。今日はありがとうございました。Upload By 鈴木悠平(発達ナビ編集長)聞き手・書き手: 鈴木悠平写真撮影: タナカトシノリ出典 : 発達障害の僕が 輝ける場所を みつけられた理由 栗原 類 (著) , KADOKAWA
2016年10月06日発達障害の診療のための医療機関にはどんなものがある?それぞれが担う役割は?出典 : これまでの記事では、発達障害のための医療機関が少ない原因や、医療機関でできる支援についてお話させていただきました。今回は医療機関の種類をご紹介していきます。発達障害の診療に携わる医療機関には様々な種類がありますが、その分け方も色々あるのです。医療機関の種類というと、もちろん小児科や精神科などの診療科による分類が思い浮かぶのですが、今回の記事では別の切り口で分けてみたいと思います。いくつかの医療機関は日本の、時には世界の発達障害研究を担っていく役割を持っています。こうした先進的な医療機関にかかると厳密な手続きを経た診断が受けられたり、他では利用できない治療法が使えたりすることもあります。日本の、世界の発達障害支援の質の向上に貢献できる可能性があるというメリットもあります。一方でこうした機関の医療者は診療以外の業務が多く多忙です。また機関の数も限られるので、通院時間が長くなるなどアクセスも良くないことが多いでしょう。また研究途上の新しい治療には、確かめられていないリスクも伴います。良くも悪くもハイリスク、ハイリターンな選択です。その他に、地域の中核的な発達障害診療を担っている医療機関もあります。小児や障害者の病院、療育センターに附属している診療所などがこうした役割を担っていることが多いでしょう。こうした機関の専門性は高く、既存の診療技術に限って言えば、研究機関と比べても遜色がないことが大半です。また入院治療の機能を持っていることもあります。一方でこうした医療機関は比較的広域(都道府県単位)などから患者がきていることが多く、地元に密着した支援機関や学校の情報などはやや医療者に集まりにくくなります。また地域への医療サービス提供の責任を負っているので、新規患者優先、診断と投薬優先になりがちです。発達障害専門の小児科や児童精神科のクリニックなどを中心とした地域密着の医療機関も増えてきました。こうした医療機関は医師によっては、非常に高い専門性を持っていることもありますし、アクセスも良く比較的患者数も少なく、丁寧な診療が可能であることもあります。また何よりも地元の情報が集まりやすいことがメリットです。ただし地域によっては医療機関の不足のため、こうしたクリニックが中核的医療機関の役割を担わざるを得なくなっていることもあります。また最近では、地域のかかりつけ医、つまり一般の小児科医や内科医の役割にも注目が集まっています。こうした医療機関は、発熱やワクチン接種などの日常の身体的な問題に対応できるのはもちろんですが、典型的な事例の診断や専門的な医療機関での診断後のフォローアップなどが期待されています。平成28年度からは厚生労働省によるかかりつけ医向けの発達障害の診療研修も開始されました。こうした医療機関は極めてアクセスがよく、また発達障害の特性を知ってもらった上で、身体医療が受けられるという大きなメリットがあります。医療以外の支援者に恵まれている場合、医療の役割は限られるので、必要な時にかかりつけ医に相談するというスタイルでも、充分に対応が可能である場合があります。年齢の高い方の場合、成人の精神科医療機関も受診先の候補になります。現状では全ての精神科医療機関が発達障害の診療に対応できるわけではありませんが、着実にそうした機関は増えています。こうした医療機関のメリットはアクセスの良好さと、何よりも併存する他の精神疾患への対応への熟練度と手立ての豊富さです。ただし構造的に成人精神科の診察時間は短いことが多いので、それに合わせた受診の工夫を考えておく必要があります。医療機関に迷ったら、身近な支援者に相談を出典 : こうした分類は医療機関の看板に書いてあるわけではないので、利用者の方からは見分けにくいかもしれません。受診の前に保健センターなどの身近な支援者や、先輩の親御さん、ペアレント・メンターなどに受診先を相談するのはよい方法です。最後に、多くの種類の医療機関があるので、専門機関のいいとこ取りをしたい、かけ持ちをしたいという気持ちはとてもよくわかります。しかし極めて恵まれた一部の地域(ほんとにそんなのところが日本にあるのでしょうか……?)を除けば、現状ではそれはマナー違反であると考えるべきでしょう。必要な人が、少しでも早く、少なくとも正しい診断と診断書、時には薬物療法にたどり付けるような気遣いができる、余裕が持てるとよいですね。
2016年10月05日