実写版『るろうに剣心』シリーズが『るろうに剣心 最終章 The Final』『るろうに剣心 最終章 The Beginning』をもってついに完結する。これを記念してシネマカフェではキャスト陣のリレーインタビューを敢行! 最終章を迎える心境、いまだから言える“あの”話、主演の佐藤健に言いたいor聞きたいことなどなど、赤裸々に(?)語ってもらう。さらにはアンケートで寄せられた読者からの質問も!第2回に登場するのは、剣心との“これから”も気になる神谷薫役の武井咲。シリーズを通して「演じるということの根本的な意味を教わった」――第1作から10年近くにわたってひとつのシリーズに参加するという経験はいかがでしたか?前作の時にフィリピンに行ったときもそうでしたが、海外の人が当たり前にこの作品を知ってくれていて、なおかつファンでいてくれたことの衝撃がありました。日本の剣術を扱ったこういう作品を海外の方に好んでいただけて、実写化に対する大きなハードルも受け入れてもらえたということが大きく今作も楽しみに待っててくださって大変嬉しく思っています。そんなグローバルな作品に出演できたことはすごく光栄なことだったなと思います。大友組の撮影方法って、他の現場ではあまりないんですよね。一部分だけを演じるのではなくて、きちんとキャラクターとして生きられる現場で、演じるということの根本的な意味を教わったと思っています。「その一瞬だけ演じていればいい」ではなくて、役者に自由にできる環境を与えてくれて、自由に演じて良い部分を切り取られているというやり方なので、「役を生きる」ってこういうことなんだと教えてもらえた現場だったと思っています。――シリーズを通じて、薫を演じる上で大切にしていたこと、気をつけていたことはどんなことですか?役に入る際にルーティンとしてやってきたことなどがあれば教えてください。何度もテイクを重ねてくださるので、それでだんだん自分も慣れていきますし、今回は前作から5年ぶりということで、同じキャラクターをまた演じるということはそんなにあることではないので、空白の部分どうやって過ごしてきたのかなって想像したりして世界観を思い出すように心がけました。あとは衣装の澤田石(和寛)さん(※シリーズを通じて衣装デザイン、キャラクターデザインを担当)がパンチのある衣装を作られるので(笑)、それをまとうと「戻ってきたな!」って思いましたし、現場に行ったら巨大なセットが用意されていて(笑)、そこには『るろ剣』ワールドが広がっていました。完璧なシチュエーションを用意していただいた中でどう感じるかという、本当に質の高い現場だったので、行けばその世界に入れるような感じでしたね。役作りはあえて“変化”を意識しないこと――特に今回の「The Final」における薫のこれまでのシリーズとの変化や成長について、ご自身でどのように受け止められて、作品に臨まれましたか?今回(剣心の過去を)『The Final』で初めて知るので、それまでは何も変わらない薫ちゃんです。剣心たちと変わらない日常を過ごしていたんだけれども突然、衝撃的なことを知りどうやって受け止めていくのか? この時代背景の中で薫ちゃんという女性がどんな心情でいるのか? 考えました。なので、あまり“変化”というのは意識しないでいたかなと思います。その時、剣心が話してくれることをリアルに感じようと思っていたので、特に準備というのはしていなかったですね。――『るろうに剣心』シリーズがこれで終わってしまうこと、薫を演じるのが最後になってしまうことへの寂しさはありますか?日に日に寂しく感じますね。「早くみなさんにお届けしなければ」とか「無事に公開できるのかな?」と、世の中の不安な状況もあってそのことばかり考えていて、今回みたいにインタビューしていただくうちに、本当に終わりに向かっているんだって改めて思うようになりましたね(笑)。――薫に対し、この映画の「先」の人生について、エール、アドバイスなどがあれば一言お願いします!(原作では)剣心との子どもが生まれているので、単純に会ってみたいですね。プライベートのこととか、子育てのこととか聞きたいですね(笑)。剣心メンバーは色んなことを共有できる特別な仲間――改めて武井さんにとって、映画『るろうに剣心』シリーズ、このチームはどういう存在ですか?私は10代の時に第1作に参加させていただいているんですが、10代の頃を知ってる人ってほぼ親戚のような感じなんです(笑)。緊張して右も左も分からないような私に大友(啓史)監督は寛大な心で「そのままでいいんだよ」って言ってくださったり、「演じるっていうのはこういうことじゃないかな?」と、そっと教えてくださったりしました。(演技の)ベースを作ってくれた、それを学ばせていただいた現場でもあるので、私にとっては(スタッフのひとたちは)家族のように思っている方たちです。(キャスト陣の)剣心メンバーには特別な思いもあって、10年同じキャラクターを演じてきた仲間として色んなことを共有できるし、久しぶりに会ったらやはり嬉しくて。また会いたいと思える方たちです。――「座長・佐藤健にいまだから言いたいこと、聞きたいこと」はありますか?なんだろうな…。いまの自分の弱み(笑)?全部できるし、知的だし、運動神経もいいし、ユーモアもあって。何かないの?って(笑)。何かできないことはないの?って、素朴な疑問です(笑)。あと、10年経ってこれだけビジュアルが変わらないのもすごいことだと思うんですよね。太ったりも痩せたりもないですし。なので、何か続けてやっている事とかあるのか?そのへんのコツも知りたいです(笑)。――読者から寄せられた質問です。「薫として緋村剣心のどこに一番惹かれましたか?一番チャーミングだと思うところは? グッとくるところをぜひ教えて下さい!」えぇ~どこだろう。言えないなぁ…。(笑)きっと今作を含めて今まで見て下さる方々が、それぞれの剣心に対する想いがあるし今作でまたその想いが芽生えてくるだろうから…。それが一番大事だと思うんですよね。そうですね…私個人的には、今作で薫が初めて剣心から明かされる過去を知るのですが、その過去をきちんと伝えるべき時に剣心は伝えてくれて、そして、いつでもどんな時でも自分の命を危険にさらしても、大切な人を守り抜く強い思いのある剣心のその姿勢に「愛」がある人だなと個人的には思っていますね。(text:Naoki Kurozu)■関連作品:るろうに剣心最終章 The Final 2021年4月23日より全国にて公開© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final」製作委員会るろうに剣心最終章 The Beginning 2021年6月4日より全国にて公開© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会
2021年04月30日「恋愛ドラマは難しい」と言われる昨今の風潮をものともせず、話題のラブストーリーを次々と世に送り出している脚本家・吉田恵里香。映画『ヒロイン失格』にアニメ「思い、思われ、ふり、ふられ」、そして“チェリまほ”こと「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」など映画、アニメ、ドラマとメディアを問わず幅広い活躍を見せている。そんな彼女のオリジナル脚本による新ドラマ「ブラックシンデレラ」がABEMAにて配信中。この作品、ド平凡なヒロインと2人のタイプの異なるイケメンが…という、シンプルなラブストーリーのように見えて、いわゆる“ルッキズム(=外見至上主義)”をテーマにするなど、非常に挑戦的な作品となっている。「映画お仕事図鑑」第7回では吉田さんにロングインタビューを敢行! なぜABEMA配信の若者向けのラブストーリーであえてルッキズムをテーマにしたのか?といったことから、現代のラブストーリーの在り方、魅力的なヒロインの描き方までたっぷりと話を聞いた。様々な経験が今の仕事に繋がった――まず、吉田さんが脚本家になろうと思ったきっかけについて教えてください。もともとは小説を書きたくて、いまも小説の仕事もしているんですが、そんな中で大学時代から西田征史(※「とと姉ちゃん」などで知られる脚本家)さんのアシスタントをしていたんです。そこでいろんな作品のプロット協力であったり、ラジオドラマをやらせていただくようになり、「脚本の仕事ってすごく面白いな」と思うようになりました。西田さんとの出会いで沢山素敵な経験をさせていただき、人生が変わったと言いますか……それで以前から映像作品も好きだったこともあり、だんだんそちらが主軸になっていった感じですね。なので明確に「脚本家になろう!」と思ったことはないというか、いま自分が脚本家なのかというのも正直、曖昧で…(苦笑)。大きな意味で物語を書く“作家”というイメージで仕事をさせてもらっています。――実際、映画やドラマの脚本だけでなく小説、漫画原作など幅広くお仕事をされていますね?そうなんです。とにかくお話が書ければ何でもいい…と言うと言葉が悪いですが(笑)、実際に絵本や漫画もやりたいなと思ってますし、“お話”に携わる仕事がしたいんですね。――そもそも、そうやって「お話をつくる仕事をしたい」というのは小さい頃から?そうですね。幼稚園の頃から絵本を描いてましたね。両親が映画や本が好きで、小さい頃から読み聞かせをしてもらっていて、絵を描くのも好きで、自分で“連載”していました。「バイオハザード」だったり、ジブリだったり、『フック』、『ジュマンジ』など、いろんな作品の要素を混ぜてパクッて(笑)、200話以上の物語にしてました。読者は親と数人の友達なのに、キャラクターの人気投票をしたり、手塚治虫先生に憧れて、手塚漫画みたいに作者を作中に登場させたり(笑)。お話の世界に生きていたい子でした。そういう意味ではずっとその頃の延長線上で生きている感じですね。――大学時代から西田さんのアシスタントをされていたとはいえ、大学卒業にあたり普通に就職しようという気持ちはなかったんですか? ご両親に反対されたりは?ありましたね。実際、大学で教員免許も取ってまして、子どもの教育に興味があったので、もし(脚本家の道が)ダメでも…と言うと教師の方に失礼ですが、先生をやりながら小説を書いたりしてもいいかなと考えてました。一番大きかったのは父から「3年やってみて、何かしらの手応えが得られなかったなら、それを主流にするのはやめなさい」と言われたことですね。当時は実家に住んでいたんですが、3年は何も言わないから好きなことをやればいいと。――この世界でやっていけるかどうかを試すための3年の時間を与えられて…。“手応え”ということに関しては(アシスタントではなく)私個人のお仕事をもらえるようになればいいんじゃないかということで、結果的に3年の間に一応、自分の仕事をもらえるようになったんですね。具体的には「シャキーン!」というNHKの教育番組の構成の仕事、西田さんが書いたドラマ「実験刑事トトリ」のノベライズ、それから学生時代から西田さんと共同で脚本を書いていた「TIGER & BUNNY」もオンエアが始まりました。その後、日本テレビの「恋するイヴ」というSPドラマのオファーもいただけて、ポツポツとですが、未来のスケジュールが埋まるようになってきて、それで私自身「もうちょっと頑張ってみよう」となりましたし、親も「頑張れ」と言ってくれました。ちなみにそれまでは「誰かに報告しないと人は怠ける」ということで毎月、両親に「こういう仕事をいまやっています」「こういう仕事でいくらもらいました」「こんな企画をつくったけど通りませんでした」とか報告書を提出することを義務付けられていたんです(笑)。いま考えるとありがたいですが、当時は「大学も卒業したのに何でこんなことを…」と思ってましたね。報告をしないといけないので、通らなくてもドラマの企画書をとにかくいっぱい書いてみたり。――アシスタント時代も含めて、初期の頃から脚本だけでなく、ノベライズから番組の構成まで様々な分野の仕事をされていたんですね。そうですね。最初から希望通りに小説を書かせてもらえてたら、そうなってなかったと思いますが、事務所の社長からも「小説を書きたいなら、賞を獲るか、仕事を積み重ねていくしかない」と言われていましたし、そうやって何でもやっていくうちにいろんなお仕事をもらえるようになった感じですね。――そうやっていろんな仕事をされる中で、作家として鍛えられ、成長につながったのはどういう業務ですか?まず「最初から最後まで書く」という作業ですかね? 当たり前ですけど仕事なので必ず最後まで終わらせないといけないので。学生時代は途中で放置している作品が沢山あり、物語を作るアプローチの仕方は明確に変わりました。終わりまで書き切らないとそれが面白いのか? 駄作なのかもわからないですから、それはどの仕事でも言えることだと思います。“鍛えられた”という意味では、自分が素人の時はドラマを見ても安易に「つまらない」「私には合わない」とかで終わってたんですが、そこで終わらず「なんでつまらないのか?」「自分ならどうしてたか?」ということを考えることは、この仕事を始めてからやるようになったことですね。そうやって自分で考えてみると「こうやればいいんじゃない?」と思いついても「いや、それじゃ主人公が全然輝かないな」といったことが見えてくるんですね。それで「そう考えるとこの作品、あまり面白くはないけど、やろうとしてるテーマは間違ってないな」とかわかるようになってくるんです。そうやって見ていくと、実は世の中、そこまでつまらない作品ってないんだなと思いますね。もうひとつ、具体的に鍛えられた仕事は「TIGER & BUNNY」のコミカライズの脚本ですね。これがすごく大変で毎月短編を1本書かないといけなかったんです。どうやって切り口を変えながら、いろんな話を書いていくかという勉強をさせてもらいました。この3つが、いまの自分を作ってくれたのかもしれないですね。――ちなみに、吉田さんがアシスタントをされていた西田さんは、あまり恋愛作品を書くイメージがないのですが、吉田さんは映画やドラマでラブストーリー、少女漫画の実写化の脚本を書かれることが多いですね。吉田さん自身、もともとラブストーリーを書きたいという思いはあったんですか?結果として得意になったというところはありますね。私、もともと向田邦子さんの作品が好きで、いまでも向田さんみたいになりたいんです。ファミリードラマも恋愛ドラマも書きたいし、エッセイも書きたいなぁと。事務所に所属した時は年齢が若かったこと、恋愛作品を観るのが好きだったこと、そして西田さんが恋愛ものをあまり書かないことから、私はそっちの分野を仕事を頼まれる脚本家になろうというのもありました。自分の転機となった作品で『ヒロイン失格」という映画があったんですが、あの作品を評価していただいたことで、そこから恋愛作品のオファーをいただくことがグッと増えましたね。「ルッキズム」の問題をいかに説教臭くなく伝えるか――ここから具体的に、ドラマの脚本の作り方、書き方についてお話を伺ってまいります。例えば今回の「ブラックシンデレラ」は、どういう経緯で企画され、どの段階から吉田さんは参加されたのでしょうか?「ブラックシンデレラ」はABEMAの池田克彦プロデューサーと一緒に作った作品なんですが、前作の「フォローされたら終わり」というドラマも池田さんとやらせていただいてまして。そもそも前作の段階で「ラブコメやりたいね」という話をしてたのが、紆余曲折あって「フォロー…」はサスペンスドラマになったんです(笑)。なので「次こそは恋愛ものをやろう!」と決めていて「フォロー」が終わった直後から、何をやろうかと話はしていたんです。若い世代、特にティーンにどんなメッセージを伝えられるか? それをラブストーリーでどう表現できるか? というのを考えたとき、どうしても“外見”というものに囚われて傷つき傷つけてしまう世の中で、いわゆる「ルッキズム」の問題をいかに説教臭くなく伝えることができるかというのを私がやりたかったんですね。テーマとして難しいと分かっていたんですが、どうしても挑戦したかったんです。それを池田さんとブラッシュアップしていくという作業でした。――目立たないヒロインが、なりゆきで高校のミスコンに出場することになるというところから物語は始まります。ただ単にヒロインがミスコンのために頑張る…という物語ではなく、第1話でヒロインは事故により、顔に一生消えない傷を負ってしまうという衝撃的な展開が描かれます。私がもともとミスコンという、おそらく今後なくなっていくであろう「これぞルッキズム!」ともいうべきイベントを題材にしてみたいと考えていたんですね。最初は大学を舞台にしたミスコンで、自分の美に自信を持っていて信念のある女性の話を考えていたんですが、そうするとティーンよりもちょっと年齢層が上がってしまうかなというのがあって、やっぱり高校を舞台にしようとなりました。分かりやすく外見でクラス分けや学校での地位も決まってしまうようなぶっ飛んだ設定も一度は考えましたが、ネタに走りすぎる危険性があるので、このアイディアもやめました。何度も企画を練り直して、ルッキズムというのは凄く難しいテーマなんだと改めて痛感しました。どうすれば説教臭くなく、単純にラブコメを楽しみたい若い子にも、このテーマが伝わるか? ということを池田さんといろいろ考えていく中で、現実と地続きの世界観で、現実に同じような悩みを抱えている女子高生を主役にしようということで、いまの「ブラックシンデレラ」に落ち着きました。――企画およびストーリーを執筆される上で、特に気をつけたことや大切にしたのはどういったことですか?繰り返しになりますが、説教臭くならないこと、暗くなり過ぎないこと、正解を決め付けないことです。企画段階で池田さんが中心となり、ミスコンに実際に参加された方にも沢山取材を行いました。自分自身のミスコンへの偏見にも気づかされ、反省もしました。やっぱり私は手放しに「ミスコン」というものを賛成はできないけれど、でもコンテストに出場する為に頑張る子たちを一刀両断したり、その頑張りを否定するようなこともしたくないなと。それに、いまの世の中、私たち大人がルッキズムに囚われているのに「ルッキズムNO!」「絶対ダメ!」みたいな描き方をして、若い子に響くわけがないんですよね。大人が現状を変えられていないわけですから。そういう意味で、いろんな価値観がある中で、「やってはいけないこと」を見極めることができるようなお話にしたいなと思いました。――ちなみに今回はゼロから企画に携わられたとのことですが、作品によっては携わる段階や深さなどは変わってくるのでしょうか?それは作品ごとに全て異なりますね。既に原作が決まっていたり、主演の俳優さんが決まった段階でオファーをいただく場合もあります。ただ私の場合、ここ数年はオファーをいただいた段階で、原作があろうとなかろうと「どういうテーマで何を軸に作品を作るのか?」ということはきちんと企画としてまとめさせていただいて、それにGOサインをいただいてからストーリーを書き進めるというやり方をしています。例えば、原作に明確なテーマがなかったとしてもドラマでは「自己肯定」だったり、「嘘をついてはいけない。嘘をつくと自分がしんどくなるよね」ということだったり、必ずテーマを決めて書くようにしています。そうしないと、単なる原作のダイジェスト版になってしまったり、何を書いているのか一貫しない物語になってしまうので。――今回の「ブラックシンデレラ」に関しては、キャスティングに関しても吉田さんが意見を出されたりしたのでしょうか?企画の段階から「イメージとしてはこういうひと」といった意見は出していました。コロナ禍ということでオーディションなどには立ち会っていないのですが、結果的に理想的なキャストがそろったと思っています。主演の莉子ちゃんとは以前、Y!mobileの放課後ドラマシリーズ「パラレルスクールDAYS」という作品で仕事はしてたんですが、すごく魅力的で、他の現場でも「莉子ちゃん、いいよね」という話はよくしてたんです。正直、こういうテーマの作品の主演を引き受けてもらえると思ってなかったのですごく嬉しいです。――連ドラの場合、企画会議の段階で、物語の最後の結末まである程度、決めてしまうものなのでしょうか?基本的には最後までだいたい固めてからスタートするものですが、とはいえ書いているうちに変わることもありますし、ラストで伝えたかったメッセージが、既にきちんと作中で十分に伝えられているので、その上でラストをどうするか? という具合に変わることはあります。ただ大きなメッセージは変わらないですね。――先ほど「ルッキズムというテーマは難しい」という話がありましたが、このテーマをドラマにするということに関して、企画自体はすんなり通ったんですか?思いが強かったということもあって、最終的に「やってみようか」とはなったんですが、最初に企画を伝えた段階では「話を聞けば面白いってわかるけど、それを1~2行で伝えられるの?」といったことはよく言われましたね。“外見”や“本当の美しさ”って人によって価値観が異なるので、それをどう伝えるかというのは最後の最後まで悩みましたね。――ルッキズムという非常に現代的なテーマをABEMAのドラマで描くというのが驚きでした。ABEMAさんは、実際はいろんなジャンルを扱っているんですが、どうしても恋愛番組などのポップなイメージが強いので「そのテーマどうなの?」「見てもらえるの? 重すぎない?」ということはよく言われました。ただ、だからこそABEMAを見ている子たちにこの作品を見てほしいなと思います。それこそNETFLIXで海外の作品や「クィアアイ」を見ている人たちがこの作品を見ても「うん、そりゃそうよ」って思うだろうと思います。自分で「外見至上主義ってどうなの?」とか「本当の美しさとは何か?」と考えられる人、「他人に何を言われても自分が好きなことを変える必要はないし、『痩せろ』とか『化粧しろ・そんな化粧をやめろ』なんて声は気にしなくていいんだよ」と思える人が、自分で選択して見られるドラマは既にたくさんあると思います。そうじゃなくてただ「カッコいい俳優さんが出るキラキラした恋愛ドラマが見たい!」という人、「ポップな作品が見たい」という人が、このドラマを見てちょっとでも「あぁ、そうか。私が抱えていた息苦しさって、こういうことだったんだ! 気にしなくてもいいんだ!」と思ってもらえたらいいなと。むしろ「ルッキズムって何?」「そりゃかっこいい・可愛いほうがいいに決まってるじゃん!」という子に見てほしいなと。決して外見にこだわったり、他人からよく見られたいと思うこと自体を全否定するつもりはないんです。それはティーンには酷だと思うし、私自身も他人によく思われたいという気持ちはあります。ただ外見で他人を評価したり、差別したり、外見の美しさがないと魅力的じゃないと考えたりするのは間違っているんだという、本当にルッキズムの問題の初歩の初歩の初歩の部分だけでも伝えられたらいいなと。ちょっとでも生きやすくなる子が一人でもいてくれたらいいなという気持ちで作っています。説教臭く「人間は見た目じゃなく中身だ!」と訴えるんじゃなく、ゆるく段階的に伝えつつ、そこで興味を持った子がネットで「ルッキズム」とか「ボディ・ポジティブ」といった情報に行き着いたり、別の作品も見てみようとなったりしてくれればいいかなと思っています。――ちなみに、劇中に「ルッキズム」という言葉は登場するんでしょうか?少なくとも脚本の段階で私は書いてないですね。もちろん、ワードを使うことでカテゴライズされて、可視化されて安心できることって世の中にたくさんあると思うんです。例えば自分のセクシャルに揺れを感じる人が“Xジェンダー”とか“セクシャルフルイド”という言葉を知ることで自分を説明できるようになったり安心することができたり。ただ、このドラマで“ルッキズム”という言葉を使って説明してしまうと「あ、お勉強だ」と感じて、途端に見たくなくなってしまう人がいるんじゃないかなと思って、あえて使わないようにしました。恋愛ドラマのヒロインをどう描くか――続いて、この作品のもうひとつの重要な要素である“恋愛ドラマ”の部分に焦点を当てて、お話を伺ってまいります。まず、魅力的なキャラクター、ヒロインはどのように生まれるのか? ということを教えてください。そうですね、まず作品のテーマにいかに沿った人物にするかということですが、前提として、私自身が嫌いじゃないということが一番大事かなと思いますね。「こいつ、嫌いだな」「このひと、いやだな」と思うような人物は、書いてても愛情を持てないんですよね。嫌なヤツであってもいいんですけど、そうである理由や背景というのはきちんと考えますね。今回で言うと、恋愛ものなのでヒロインですけど、ヒロインを嫌いになるような作品だと見ていてしんどくなってしまうんですよね。もちろん欠点や完璧ではない部分はあります。「応援したくなる」と言うと平たくなってしまうんですが「この子が頑張っている姿を見ていたいな」と思える“熱量”とか根っこの部分の良さ、信念みたいなものは大事にしていますね。その人が絶対に守っている信念みたいなものを決めると、「動き出す」とまでいかなくとも「あぁ、こういう行動はしないな」と言うことは見えてきますね。――恋愛作品だと、ヒロインを巡る三角関係、ライバル関係みたいなものも重要になってくるかと思いますが、そういう関係性を作る上で大事にしていること、意識していることなどはありますか?いまの時代性なのかもしれないですが、“恵まれすぎているヒロイン”に対して見る側はすごく厳しくなるところがあるんですよね。あまりにヒロインがいろんな男の子から言い寄られると「モテモテじゃん!」みたいになってしまうので、その塩梅は意識しますね。理想は“一方通行”ですけど、それができない場合は「でも、この子はこんなつらい問題を抱えている」とか「こういうことがあるから上手くいかない」といった設定は作るようにしますね。それがリアルだとも思うんです。どんなにモテている人でも実は自信がなかったり、周りの目を気にしてうまく動けなかったりするのが現実だと思うので。――まさにいまおっしゃった“現実”との兼ね合いで言うと、恋愛ものはちょっと浮世離れした設定やありえないシチュエーションを求め、楽しんでいる視聴者もいるかと思います。そうですね。やはり視聴者が見たいもの、恋愛ものに求めるものは、見せたいという思いは常にあります。男性キャストにキュンとしたり、ヒロインの健気さとか頑張りを応援したくなったり。王道から外れて、テーマ性を声高に叫んでも、見てもらえなきゃ意味がないですから。そういう意味で、自分が恋愛ドラマを見る上で何を求めるか? という部分での王道感は外さないようにしています。ただ、いまの時代、相手からもらってばかりの受け身のヒロインなんてみんな、そこまで見たいのかな? と思いますし、男性側にしても「男性だから完璧じゃなきゃ」とか「男性だからリードしなきゃ」という“マチズモ”的な男性観に男女共に縛られるのも違うんじゃないかなと思うんです。それをしないからといって“草食”という言い方をするのもまた違うと思いますし、女性の方から積極的に行くからってそれを“肉食”と言うのもそうじゃないよねと思います。そもそも恋愛を食性に例えるのはどうなの?とずっと思っています。自分がどうしたいか? 自分がいかに不快じゃないか? 自分がいかにハッピーになるか? というのが大事だと思ってて、第1話のきっかけとして、相手からもらうばかりになってしまったとしても、それを今後の展開でどう返していくか? どう見せていくか? ということ――いま私が見せたいこと、いまの時代にやるべきことというのは、すごく意識していますね。やっぱり塩梅ですよね。偏ったらお客さんは離れていってしまうので。――若い視聴者、登場人物を意識して、いわゆるイマドキの若者の流行や文化をリサーチされたりはするんでしょうか?SNS上のやり取りを見たり、マクドナルドに行って若い子たちの言葉遣いを研究するというのは以前はやっていましたね。ただ、会話を盗み読み・盗み聞きするというのも失礼じゃないですか。なのでいまは、時代に乗り遅れないようにトレンドを見たり、実際に若い子たちとLINEでやり取りをさせてもらったり話を聞いたり、その子たちが熱中しているものをフラットに見るようにしたりということですかね…?流行を追いかけようと思っても、オンエア時期ともズレるし、「これが若者に流行っているだろう」みたいなことしてもどうしてもダサくなっちゃうんですよ。一番駄目なのは見下す・媚びることなので。基本的には「普遍的なものを“いま”の感性でやる」ということを大事にしていますね。「これ流行ってるからやるぞ」なんてやり方したら絶対に失敗するので。流行を取り入れるなら、自分もまずやってみるようにしてます。言葉遣いにしても、変に若者に寄せすぎないようにしています。言葉のブラッシュアップはしますけど、感覚に関してはそこまで意識してないですね。特に恋愛ものは、誠意さえ持っていれば伝わるのかなと思っています。恋愛ドラマは「いまの時代に合ったものを」――最近では「いま恋愛ドラマヒットさせるのは難しい」という声もあったり、フィクションよりもリアリティショーに魅力を感じるという人が増えているとも言われています。吉田さん自身は、恋愛ドラマの変化、現代の恋愛ドラマについて、どんなことを感じていますか?「恋愛ドラマは難しい」という声に関して言えば、これだけスマホが普及してしまえば、昔のトレンディドラマみたいな、待ち合わせをしていたのにすれ違って…みたいな展開は無理ですよ(笑)。でもその時代ごとにやれることはあるし、恋愛ものの難しさみたいなものを私はそこまで感じないですね。どちらかというと、自分が昔好きだったドラマも含めて、そこで描かれている女性像が、リアルというよりも男性から見た「女ってこうだろ?」みたいなイメージだったり、「ちょっと自虐しすぎじゃない?」と感じるものだったりする部分はあるので、そういう違和感を持つ部分を変えていくだけかなと思いますね。私自身が嫌なんですよ。まだ付き合ってもない相手に頭をポンポンとかされたくないし、「お前」とか言われたくないし、急に無理やりキスされたくもないし、知らない人に抱きしめられたくないし(笑)。そういうルール(=恋愛ドラマの文法)が変わってきているだけだと思います。もちろん(そういう行為の中にも)ドキッとしたりキュンとしたりするものもあるし、私自身が好きだったものもあるので、全部を否定する気はないんですけど、単純に自分がやられたら不快なことはやめていきたいなと思っています。10代の子で「全然、そんなの気にしないよ」という子もいるとは思います。けれど今は平気でも年を重ねて色々経験すると気づきや変化がある。例えば、急にキスしてきて「気持ちを抑えられなかった」みたいなシチュエーション(笑)。私自身も昔は好きだったし、好きな役者さんがやっていると当然ドキッとする。でも「あれ? よく考えたらそれって相手側の勝手な都合じゃない?」と段々気づいていくんです。自分の作品でそういうことはなるべく起きてほしくない。だから私は特にここ数年、メッセージとして「嫌なものは嫌」「無理やりなことはしない」というのは気をつけていますね。それが「つまんない」と言われたら、終わりだと思いますけど、いまのところそうはなってないので、やはり工夫次第じゃないですかね? それを作る側が放棄したら、ラブストーリーも何もできないなと思います。私はラブストーリーが好きなので、書いていきたいし、いつか自分の感覚がニブくなって「吉田の描くものはもう時代遅れだ」と言われるかもしれませんが、いまのところそうなってはないと思うので、いまの時代に合ったものをどう描いていくかということをやっていきたいですね。――お話を伺っていると「ラブストーリーが変わった」のではなく、社会の中での女性(そして男性)の在り方が変わってきて、そうした変化をごく当たり前のこととして、作品に反映させようとされているのかなと感じます。そうですね。「社会が変わった」とか「時代が変わった」じゃなく、ずっとみんなが抑えていたことを声に出してもよくなったし、正しいことと認められるようになったんです。それは素晴らしことだとクリエイターはポジティブに受け止めて、いまの時代に何ができるのか、知恵を絞って考えていけばいいのかなと思います。それは決して、みんなお利口な優等生ばかりの作品を作るということじゃなく、もちろん誰しも欠点はあるし、完璧ではないことも受け入れていかないといけないと思います。「相手が嫌なことをしない」というのは前提ですが、仮に嫌なことをしてしまった/されてしまった時にどうするか? もちろん「好きだからOK」というのは絶対にダメで、この人はちゃんと謝ったね、反省したねというのをきちんと作品の中で見せていくというのも必要だと思います。――脚本家を目指している人に向けて、吉田さんからアドバイスやメッセージがあればお願いします。テクニカルな部分に関しては仕事をしていけばついてくるものだと思います。まずは書きたいものを、粗くてもいいので最後まで書いてみると、その中にある“パッション”みたいなものは必ず伝わります。自分が審査員の立場で脚本を読んでても、支離滅裂だったり、意味がわからなかったり、物語として破綻してる作品でも「セリフが面白い」とか「ものすごい熱量だ」とか伝わってくるんです。とりあえず書いてみて、それから他人の意見を聞く――その意見は怒らずにきちんと聞くということですかね? 4コマでもペラ2でもいいからまずは書いてみるのがいいと思います。2分のお話でいいんです。もし、他人に見せるのが恥ずかしければ、10日くらい置いて、冷静な頭で読んでみて、いいところ3つとダメなところ3つを書いてみてください。とにかく書いてみて、その作品を自分でちゃんと「好き」と思えることが大事だと思います。これは「ブラックシンデレラ」のお話にもつながることですけど、自分のことを簡単に嫌いになれてしまう世の中、時代ですが、自分のことを「好き」と思える心をどう作っていくかということが、すごく大事だと思います。――最後に第2話以降、本作がどうなっていくのか? 見どころをお願いします!1話で「え? これからどうなっていくの?」と思った人への“答え”が2話以降で転がってきます。恋愛面はもちろんですが、ヒロインの愛波が、自分の意思とは関係なくやってきた悲劇、苦しみとどう向き合い、成長していくのか?愛波だけでなく、それぞれの登場人物たちの悩みや価値観も見えてくるので「この人、こういう人なのね」とか「こういう人にそばにいてほしいな」とか感情移入しながら楽しんでもらえたらいいなと思っています。愛波がミスコンでの事故をきっかけに傷を負ってしまったように、人によっていろんな“傷”やコンプレックスを持っていると思います。そういう不条理にできてしまったものにどう向き合っていくのか? を描いたドラマです。これが絶対的な「正解」だと言うつもりはないけど、そこに誠実に向き合った作品です。恋愛も盛り上がっていきますし、神尾楓珠さんも板垣瑞生さんも本当にお芝居が素晴らしいです!恋愛ドラマが好きな人を満足させられる自信はあるので、2話以降もぜひ楽しんで見てください。(text:Naoki Kurozu)
2021年04月29日スタジオに3つの子ども部屋を用意し、幼く見える顔立ちの3人の18歳以上の女優が「12歳・女子」という設定でSNSのアカウントを開設し「友達募集」をしたところ何が起こるか――。チェコで行われたそんな“実験”の様子をカメラに収めた衝撃のドキュメンタリー『SNS-少女たちの10日間-』が公開を迎えた。10日の間に、3人にコンタクトを取り、裸の写真を送らせようとしたり、直接会おうとするなど、卑劣な誘いをかけてきた成人男性は2,458名――。子どもを持つ多くの親たちを戦慄させ、チェコ警察、さらには国家までをも動かすことになった問題作が日本に上陸する! 公開を前に共同監督のひとりであるヴィート・クルサークがリモートインタビューで本作への思いを語ってくれた。社会を動かした衝撃のドキュメンタリー本作の製作にあたり、クルサーク監督と共同監督であるバーラ・ハルポヴァーの2人が、「12歳・女子」を演じる3人の女優と事前に約束したのが以下のルール。1:自分から連絡しない2:12歳であることをハッキリと告げる3:誘惑や挑発をしない4:(チャット相手からの)露骨な性的指示は断る5:何度も頼まれた時のみ裸の写真(※映画スタッフが作成した偽の合成写真)を送る6:こちらから会う約束を持ち掛けない7:撮影中は現場にいる精神科医や弁護士などに相談する撮影はカウンセラーや性科学者が同席する中で進められていった。映画はチェコで公開されるやセンセーションを巻き起こした。「ある種の社会現象とも言える事態を引き起こしました」と語るクルサーク監督。実際、チェコ警察からは映画の内容を児童への性的搾取の犯罪の証拠とするための協力を求められ「いま取材を受けている時点で(※3月下旬)、52人の男性と1人の女性が捜査をウケており、既に8人が裁判で有罪判決を受けました」。動いたのは警察だけではない。「映画を見た政治家たちは、サイバー環境における犯罪に対する取り締まりを強化することを決めました。また映画公開後に3つの省庁から連絡があったのですが、そのうちのひとつ、文部省は子どもたちへの性教育のカリキュラムを改正し、小学3年生から性教育を取り入れることを考えているとのことでした」。少女たちを陥れる卑屈な手口とは映画を見ると、男たちが画面を通して時に言葉巧みに女性の容姿を称えたり、理解者であるように振る舞いながら、性的に搾取しようとするおぞましい姿が映し出される。映画はチェコで撮影されたが、もちろん同じことは日本でも既に起きている。時にニュースとして報じられることもあるが、それは氷山の一角に過ぎないだろう。とはいえ、大人たちの多くは、こうした「未成年の少女がチャット相手に裸の写真を送らされた」といった事件の報に接して、こんな疑問を抱くのではないだろうか? なぜ少女たちは、ネットで(大人たちから見て)安易に会ったこともない相手に裸の写真を送ってしまうのか――?クルサーク監督は本作のための取材を重ねた経験から、少女たちの心理をこう説明する。「12歳の少女たちは、いわば大人と子どもの“境目”と言える非常にデリケートな時期を生きています。親をはじめ、周りの大人たちは彼女たちに厳しいことを言う存在であり、なかなか対等と言える関係を築くことはできません。そんな時、ネットには親や教師たちと同じような年齢で、自分と対等に接してくれる存在、自分のことを理解してくれているようにふるまう存在がいるわけです。少女たちは、自分を大人として接してくれる存在、優しくしてくれる存在を求めてしまいます。そうした状況でネットでコンタクトを取ってくる男たちは、まず彼女たちと友達になろうとしてきます。彼女たちのプロフィールはオープンにされていて、それを見れば趣味やペット、好きなものが全てわかります。そうした情報をミラーリングして、彼女たちに話を合わせてくるのです。そうすることで少女たちは徐々に、彼らを“信頼できる存在”と認識していきます。ある時点で彼らがこうした関係を「終わりにしたい」と告げると、少女たちは『関係を維持したい』と願います。そうした少女たちの心理に付け込んで『じゃあ裸の写真を送ってくれるなら…』と要求し、彼女たちもそれに応じてしまうのです」。子どもたちを大人の歪んだ欲求から守るために改めていま、クルサーク監督は、子どもたちを大人の歪んだ欲求から守るために必要なこととして「正しい知識を教えること」と「親子の信頼関係を築くこと」の重要性を説く。「こんな例えがあります。“満員の地下鉄で、スリと遭遇するのを避けることはできないかもしれないが、リュックを開けっ放しにしないことで被害を防ぐことはできる”というものです。ネット環境も同じことが言えます。悪質な行為を行なう者たちを根絶やしにすることよりも、子どもたちが被害者にならないためにネットの正しい使い方を教育すること、家庭で信頼関係を築くことが重要です。専門家が指摘していますが、13~14歳の思春期の子どもたちは(チャットの)相手のプレッシャーに怯えてしまうものですが、それ以上に彼ら、彼女たちが怯えるのは『もし親にバレてしまったらどうしようか?』ということだと言います。実際、チェコでは昨年、こうしたネット上のやり取りのプレッシャーの末に14人の子どもたちが自殺しています。もし、彼らが親に相談することができていたら、こんな悲劇は起こらなかったのです。『何があっても相談しろ』と言える関係性を築くことが大切なのです」。(text:Naoki Kurozu)■関連作品:SNS少女たちの10日間 2021年4月23日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて公開@2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.
2021年04月24日実写版『るろうに剣心』シリーズが『るろうに剣心 最終章 The Final』『るろうに剣心 最終章 The Beginning』をもってついに完結する。これを記念してシネマカフェではキャスト陣のリレーインタビューを敢行! シリーズ完結への思い、いまだから言える“あの”話などを語ってもらう。第1回に登場してくれたのは、我らが緋村剣心役・佐藤健! 読者から寄せられた質問にもじっくり丁寧に答えてくれた。このエピソードをやらずして終わることはできない――前作の『京都大火編/伝説の最期編』が終わった後、もう一度、剣心を演じることになるだろう(=原作の「人誅編」の映画化があるだろう)と感じていましたか?最終章は、いつかどこかでやる時がくる――僕も大友(啓史)監督もそれはずっと思っていたことですが、前作の撮影の過酷さがなかなか消えなくて見て見ぬふりをしてきました。(前作から約5年後に)最終章の話をもらって、ついにその時が来たかと。『るろうに剣心』シリーズとしても、今回のエピソードをやらずして終わることはできないなと思っていました。――その間の剣心という役柄との距離感みたいなものはどんな感じだったのでしょうか?仲は良いけど会わない親友という感じですかね。そのくらいの距離感だと思います。――武井咲さんや青木崇高さん、江口洋介さんらおなじみの面々と今回の現場で久々に顔を合わせたときの気持ちを教えてください。高校の同級生に久々に会う感覚じゃないですかね(笑)。今までで一番“潔い”驚きのアクション――『京都大火編/伝説の最期編』で、見ている側にとっては「もうこれ以上の激しいアクションはないのではないか…?」と思わせるくらいの激しく素晴らしいアクションを披露されていましたが、今回、それをさらに超えるアクションをしなくてはいけないということへのプレッシャーはありませんでしたか? アクション監督の谷垣健治さんとどのように話し合い、作られていったのでしょうか?基本はやはりアクション部がどんどん新しいアイデアを出してくれて、よりパワーアップしたアクションを提案してくれたというのが一番です。例えば「『京都大火編』『伝説の最期編』で壁を走ったから次は天井を走りたいね」とか、「屋根走ったけど、走っただけだったから飛び降りるところまで一連で撮ってみようか?」とか。そういった話から始まりました。今回のアクションは、今までで一番“潔いアクション”にしたかったんですよね。“潔いアクション”というのは、アクションシーンって“待ち”になってしまう可能性があると思っていて。人と人が戦っていて、お客さんはそれを見ているんだけど、決着するまで待っている時があると思うんですよ。「すごいなぁ」って見ているんだけど、“観てる”ではなくて“待っている”時があるんです。アクションが決着したらまた集中して見始めるみたいな。それはやっぱり避けたいなと。そうなるくらいだったら一撃で決するくらいの方が逆に面白いんじゃないかと思っていて。練習をしながらアクションを構築していく時に「これはいらないな」って思ったことを積極的に「カットしましょう」と言っていました。そうするとアクション部が「いやいや、それだとすぐに終わってしまうから、こうしましょう」と言ってくださって、そのやりとりでより良い動きだけが残っていくんです。つまり待ちにならないための吸引力のある、観たことのない驚きのあるアクションだけ残ったと思っていて。そのようなことを目指してやっていました。「喜ばしい財産であるのと同時に、大きな壁」――今回の『The Final』では剣心はセリフが決して多くはない中で、「答え」を探し、苦悩する姿などを見せなくてはならなかったと思いますが、剣心の心情をどのようにとらえ、作り上げていったのでしょうか? 何かキーになった感情やセリフ、やり取りなどがあれば教えてください。基本的には現場ですね。自分の中にもう剣心はいたので、その剣心が何を感じ、何をセリフとして言って、どういう表情で敵と向き合っているのかということは、シーンごとで感じながら作っていきました。――読者からの質問です。「緋村剣心を演じたことで、佐藤さん自身が得たものはなんですか?また、成長したところはどのようなところですか?」今後、役者をやっていく上で、これだけ関わっている人たち全てが人生を懸けて、魂を削って作る作品はなかなかないと思います。そういった作品に出演させていただいたことは、ひとつとても大きな財産だと思いますし、やはりアクションに関してのノウハウが身についたと思っているので、今後、別の現場に行っても、より良いものを映像に残せると思います。あとこれは良くも悪くもだと思うんですが、ひとつ大きな代表作になったので、今後も佐藤健といえば『るろうに剣心』だよね? とか、僕を見るその陰に、剣心も同時に見る人たちがたくさんいると思うので。それは嬉しいことでもあり、今後、僕がさらに上に行くためには、この殻を突破しないといけないなという思いもあります。非常に喜ばしい財産であるのと同時に、大きな壁ともなっているんだと思います。(text:Naoki Kurozu)■関連作品:るろうに剣心最終章 The Final 2021年4月23日より全国にて公開© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final」製作委員会るろうに剣心最終章 The Beginning 2021年6月4日より全国にて公開© 和月伸宏/ 集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会
2021年04月23日4月25日(現地時間)に開催される世界最高峰の映画の祭典「第93回アカデミー賞授賞式」を、WOWOWではアメリカ・ロサンゼルスのドルビー・シアター他より独占生中継。案内役としては14回目の出演を果たすジョン・カビラ、そして初の案内役を務める宇垣美里に話を聞いた。新型コロナウイルスの影響が長引く中、開催が危ぶまれた第93回アカデミー賞授賞式は例年の2月開催から4月に延期に。映画館の閉鎖が続く現状を考慮し、インターネットを通じて配信された作品も各部門のノミネート資格を得る異例の条件が加えられた。その結果、作品賞にノミネートされた8作品は、オスカー前哨戦で強さを見せる『ノマドランド』、デヴィッド・フィンチャーがNetflixと手を組んだ『Mank/マンク』、さらに80年代、アメリカに移住した韓国人一家の過酷な運命を描く『ミナリ』など、例年以上に多種多様なラインナップに。一筋縄ではいかないのが、アカデミー賞の常ではあるが、今年は例年以上に予想が難しい。作品賞の最有力は2人そろって『ノマドランド』!――ずばり作品賞に輝くのは、どの作品だと思いますか?カビラ:日本からハリウッドを見守る僕らファンとしては、劇場公開を優先する作品がいつまで牙城を守れるか。それとも配信系の作品が、ついに栄冠に輝くか?そういう意味では『ノマドランド』と『Mank/マンク』の争いに注目ですね。振り返ると、アルフォンソ・キュアロン監督がNetflixと製作した『ROMA/ローマ』で監督賞を獲得しましたが、作品賞に及ばなかった(第91回)。うーん、でも最有力は『ノマドランド』かな。個人的には『ミナリ』に期待する部分もありますし。日本でも大ヒットしていますもんね。宇垣:私も「受賞するだろう」という意味で、劇場公開された『ノマドランド』が一番作品賞に近いと思います。実際に作品を拝見し、映像の美しさ、それに寄り添う音楽、主演を務めるフランシス・マクドーマンドの素晴らしさ…、作品としての完成度が非常に高いですよね。前哨戦でも評価されていますし、6部門ノミネートというのも強み。個人的に注目しているのは、『ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア(原題)』。現代に地続きになった“Black Lives Matter”のメッセージが描かれた作品で、今回エントリー期間が延びたおかげで、候補にあがったので、どこまで伸びるのか未知数ですし。今年のアカデミー賞は“多様性の賛歌”になる!――監督賞に2人の女性(『ノマドランド』のクロエ・ジャオ、『プロミシング・ヤング・ウーマン』のエメラルド・フェネル)、主演男優賞と助演女優賞に『ミナリ』からスティーヴン・ユアン、ユン・ヨジョンがそれぞれノミネートされています。カビラ:“多様性”といかに向き合い、包括していくかはアカデミー賞にとって長年の課題だったわけで、今回のノミネーションは1つの回答だと言えますね。監督賞に韓国系アメリカ人のリー・アイザック・チョン(『ミナリ』)が名を連ねているのも快挙。単純に優劣をつけるのは難しいですが、今年のアカデミー賞が“多様性の賛歌”になるのは、間違いないと思います。宇垣:カビラさんがおっしゃる通り、多種多様な方々がノミネートされていますよね。特に俳優部門は、昨年受賞者が全員白人だったこともあり、これまでの反省をくんでいるのかなと。こういったアカデミー賞の選択は、とても前向きで素敵なことだなと思います。映画館だからこそ“没入”できる!配信の利便性に勝る魅力――近年のアカデミー賞は配信作品をどう扱うかが、大きな課題になっています。映画を観る方法もまた“多様”になる時代、おふたりにとって理想の映画体験はどんなスタイルですか?宇垣:コロナ禍で家から出られない状況が続きましたし、配信で映画を楽しむことができるのは、ありがたいことだと思います。見たいときに、何度でも見返せる利便性もありますし。一方で、私は映画館で映画を観るのが大好きなんです。やはり、あの没入感は自宅では得られませんから。カビラ:本当ですよね!同感です。暗闇で感性を研ぎ澄ませて、作品と対峙する体験は何物にも代えがたい。チケットを買って…、まあ、今はスマホで予約の時代ですけど、劇場に足を運ぶことで、映画はもちろん、出演者や作り手と“チームメイト”になれる感覚こそが、映画館の醍醐味ですから。――そういう意味で、コロナ禍では映画館で映画を鑑賞すること自体が、非常に貴重な機会となりました。カビラ:本当にそんな1年でしたよね。まだまだ先行きは不透明ですけど、もうエンターテインメントに対する渇望感は限界に来ています。不要不急っていったい何?って。心の潤いに、エンタメは絶対に必要不可欠なものですから。シアターがいかに貴重であり、必要であるか痛感しています。宇垣:私もエンターテインメントを摂取するために生きていますから、実際に緊急事態宣言が明けて、映画館に行ったときは、どれだけ自分が“この感覚”を求めていたか、そのありがたみも含めて、思い知りましたね。同じ空間で、一緒に感動を共有できる人がいることが、どれだけ私のことを支えてくれていたか…。ですから、自分なりに(エンターテインメントに対し)恩返しもしなくてはと思っています。コロナ禍での授賞式「驚きの連続をめちゃくちゃ期待」――エンターテインメントの真価が問われる現在、アカデミー賞が受賞式でどんなメッセージを発するのか大いに注目ですね。昨年の受賞式の映像を改めて見直してみると、もはや「これって夢なんじゃないか?」って思ってしまうほどで…。カビラ:超“密”じゃん!ってね(笑)。みんな普通にハグとかしていましたし。だからこそ、今年は厳しい制約の中で、どんな魔法をかけてくれるか?歌唱とかどうするんでしょうね…。それでも、スティーヴン・ソダーバーグら、プロデューサーたちが、想像を超えたマジックで魅せてくれるはず。実は、驚きの連続をめちゃくちゃ期待しているんですよ!一生に一度。もちろん(コロナ禍での授賞式は)これっきりにしてほしいですけど、だからこそ必見です。それでも夜は明ける、です!宇垣:そういう映画もありましたね(笑)。私も「魅せてくれるよね」って期待感が大きいです。いつか「第93回はいろいろ大変だったけど、良いセレモニーだった」とふり返ることができればいいなって。生中継のスタジオは、カビラさんがご一緒だから、安心して、授賞式を楽しもうと思っています。あっ、でも「ここは覚悟しておいたほうがいい」ってアドバイス、ありますか?カビラ:ないです!完全に気持ちを解放してください。ただ、僕が急に大声を出しても、驚かないでくださいね(笑)。話が脱線したら、引き戻してもらって。当日は式典の流れをある程度把握していますが、基本的には、視聴者の皆さんと同じ目線。例年通り、一緒に感動をシェアできればうれしいですね。「生中継!第93回アカデミー賞授賞式」は4月26日(月)午前8:30よりWOWOWプライムにて放送。4月26日(月)21時~WOWOWプライムにて放送。(text:Ryo Uchida/photo:Jumpei Yamada)
2021年04月19日俳優の向井理は、2021年でデビュー15周年を迎えた。洒脱な雰囲気は当時から変わらないが、近年においては、少しリラックスしたような温かみまでも、持ち合わせているように見える。「今年で15、16周年なのかな?振り返ることはあまりないですし、“こういう人になりたい”というのも、特にはないんです。ああ…!けど、ドラマ『華麗なる一族』で共演した中井貴一さんのスタンスは、すごく素敵だなと思っています。僕はまだ引き出しが全然足りていないので、もっともっと、いろいろなことを経験していかないと」。向井さん本人はこう話すが、フィルモグラフィーをたどると、その“経験”はとても多彩で、俳優としての確かな歩みが感じられる。最近では、松居大悟監督とタッグを組んだ「バイプレイヤーズ」での「向井理」本人役での出演、そのひょうきんな演技も話題になったばかりだ。「松居くんとは何度かやっていて、あれも、台本通りではあるんですよ(笑)。ただ、別にコメディだから軽いとか、シリアスだからしっかりやるとか、そういうことはないです。あくまでもひとつの作品なので。僕としては、そうやって全然違う役で呼んでいただけることが、本当にありがたいことだと思っているんですよね」。そこまで言い終わると、向井さんは、「いろいろやっていくと、結局、欲が出てくるんですよ。“違う役やりたい”とか、“シリアスをやったらコメディをやりたい”という感じで。だから、バランスよくやれればいいなぁって思う」と、役のバリエーションについても言及する。その思いは、いわゆるブレイクを迎えた20代後半の頃から感じていたことだった。「当時、朝ドラで『ゲゲゲの女房』をやったときに、すごく感じたんです。『ゲゲゲ』のときに、ちょうどTBSのすごくシリアスなドラマ『新参者』もやっていて。その後、日本テレビで『ホタルノヒカリ2』という、ラブコメディに出て、と。確かに忙しかったけど、いろいろなジャンルの作品に出ていたから、意外とストレスはありませんでした。シリアスな演技をやっていると、ふざけたくなるんですけど、絶対ダメじゃないですか(笑)?それをコメディで発散できたり。で、ちゃんと芝居をやりたいなと思ったら、シリアスでやれたりとか。だから、いろいろな作品をやることは、役者としては意外と、精神衛生上いいことのような気もしています」。「華麗なる一族」出演にあたり、独自の準備法「僕は本当にアナログなので…」向井さんの最新出演作は、山崎豊子による名作「華麗なる一族」(新潮文庫刊)のドラマ化。政財界をまたぎ、富と権力をめぐる人間の野望と愛憎を描いた本作において、向井さんは主人公・万俵大介(中井さん)の息子、鉄平を演じる。「華麗なる一族」について、向井さんは「人間の欲や、生々しいドロドロした作品、というイメージを持っていました」と印象を話した。出演については、「断る理由がなかったです。信頼しているプロデューサーからのオファーでもありましたし、作品の重要な役どころという意味でも」と、即決したことも明かす。向井さんが演じる鉄平は、大介とは親子関係でありながら、対立している役どころ。阪神特殊製鋼で高炉建設に尽力する専務という役職や、狩猟をたしなむ人物であることなど、キャラクターの造形における準備は膨大だった。「ありがたいことに、WOWOWさんのほうから資料をいただいて、全部読みました。プラス、自分なりに“鉄平というキャラクターだったらこうなんじゃないか”と考えましたね。どんなワードでも、わからないものは全部調べました。自分がしゃべるものだけではなくて、相手の専門用語も知らないと、リアクションが取れないんです。当たり前のことなんですけどね」。利発な向井さんなら、難なく頭に入るのだろうと振ったが、「いや、全然入らないです(苦笑)」と、首を振る。「僕は本当にアナログなので、調べたものを全部台本の後ろのメモ欄に書いているんです。1話、2話…とやっていって。同時に、初見や何度か読んだときの印象も、インする前に全部書いています。撮影はすべて1話から撮るわけではなく、1話の後に8話、ということもあるので。“今こういう状態だから、これぐらいのテンションだな”とか、考えながらやっています。けど、読んでいくと、また全然変わってきたりもするので…難しいですね。だから、本当にずっと読んでますね」と、こつこつと積み重ねる手法を取っていると伝えてくれた。これまで演じた多くの役柄が、こうした努力の結晶の上で成り立っているかと思うと、改めて向井さんのおごらぬ姿勢に感心する。敬愛する中井貴一への思い「ぶつかる気持ち、いろいろ盗む気持ち、勝つ気持ちでやっている」インタビュー冒頭、向井さんは共演の中井さんについて「貴一さんのスタンスは、すごく素敵」と表現していた。今一度、初共演の中井さんの印象に触れると、さらに饒舌に語り出した。「『華麗なる一族』という作品に出ること自体も憧れでしたけど、何より、貴一さんとお芝居ができることが、僕としてはすごく大きかったんです。最大限の敬意を持って接しているつもりですし、貴一さんは…もう、ちょっと敵わないぐらい、すごいお芝居をされるので。“すごいな…”としか言いようがないんですよ。だから、今回は、本当にぶつかる気持ち、いろいろなものを盗む気持ちで、何ならこう…勝つ気持ちで(笑)、やっています。最初から負けると思ってやってたら、全然響かないと思うので。久しぶりにそういう気持ちになったというか、くってかかるような感じで“させていただこう”という決意で、撮影に臨んでいます」。向井さんの熱い闘志がほの見える。中井さんといえば、コメディからシリアスまで、どんな役でもお手の物という俳優。そのあたりも、向井さんにとって気持ちが強く惹かれる要素なのだろう。「貴一さんの様々な役を観ていますけど、仕事のチョイスと振れ幅、芝居の構築していった、その抽出した結果が本当にすごい」と瞳を輝かせ、「ご自分で舞台をプロデュースして、再演されたりもしている。そういうスタンスがすごく素敵ですよね」と、言葉を重ねた。現場では話したいこと、聞きたいこと、コミュニケーションを取りたいことなど、この上なくあるだろうが、向井さんは「役柄の関係が関係なので、正直そんなに普段の話はしていません」と表情を引き締めた。「(大介の愛人、高須相子役の)内田有紀さんも、そこは同じです。以前共演したときは、普通にお互いの好きなお店の紹介をしたり、仲良くしていたんですけど、今回は挨拶だけ。プライベートの話は一切してません。作品も作品ですし、顔が緩んだ状態は一番、僕としても良くないと思いましたし、遊びに来てるわけでもないので。内田さんとは敵対する役なので、本当に顔も見たくない、ぐらいまでいったかな(笑)。そこまでなれたのはよかったな、と思っています」と、プロ意識をあらわにした。向井さんが全身全霊をかけてぶつかった本ドラマ、放送を心待ちにしたい。WOWOW開局30周年記念「連続ドラマW華麗なる一族」4月18日(日)スタート(全12話)毎週日曜夜10時~WOWOWプライム、WOWOWオンデマンドにて放送・配信(第1話無料放送)(text:赤山恭子)
2021年04月12日いま、日本で一番“笑い”を求められる俳優である。俳優としての映画やドラマへの出演はもちろんのこと、バラエティ、さらには年末の紅白歌合戦の司会まで務めるなど、コロナ禍にあっても引っ張りだこの大泉洋。恐怖や不安が社会を覆ういま、観客、視聴者を笑顔にすべく、この男が強く求められるのだろう。周りを楽しませるサービス精神「四六時中ひとを笑わせたい」この日のインタビューでも、取材部屋に入ってくるや、質疑応答に入る前の何気ない会話ひとつで、あっという間にその場にいる全員を笑顔にしてしまった。すさまじいまでのサービス精神! しかし、そんなふうに常に周りを楽しませようとすることに、大泉洋は疲れないのだろうか? 常に“おもしろいこと“を求められ、そのハードルがどんどん上がっていくことにプレッシャーは感じないのだろうか?そんなこちらの問いを一笑に付す。「僕の場合、『ひとつの笑いも取らずに淡々と真面目にやってくれ』と言われる方がつらいんです。四六時中、ひとを笑わせたい人間なんでね」。この取材が行われたのは12月。年末の大仕事を前に「確かに紅白の仕事はちょっと特殊かもしれない…」と語ったが、それは決して紅白歌合戦という伝統ある大舞台に対する恐怖や不安といった類のものではなく「面白いことを期待されているというのはわかるんですけど、紅白って全然、(フリートークの)尺がないでしょうからね。その部分での難しさはあるのかなと感じていて…」というもの。“エンターテイナー”としてのこの男のすごさが垣間見える。今回、大泉さんに話を聞いたのは、主演映画『騙し絵の牙』について。出版界を舞台にした小説の映画化だが、本作が特殊なのは原作者の塩田武士氏が小説の執筆段階で、大泉さんにあてがきする形で主人公・速水を作り上げたということ。映画やドラマの脚本執筆の段階で、出演俳優をイメージしてのあてがきはよくあるが、小説で、しかも執筆前の段階で作家が公言する形で、特定の俳優にあてがきするというのは非常に珍しい。わざわざ、あてがきされたキャラクターということは、この速水という男は、さぞや大泉さんそのままなのであろうと思いきや…。「速水さんという人はやりたいことが明確にあって、そこに向かって忖度なく、どんな手段を使っても突き進んでいく人なんですけど、僕にはそういうところが全くない(笑)。ものすごく周りばかりを見てしまう人間なので…。『これ、やりたいけど周りに迷惑かかるよな』って(苦笑)。速水さんのように策を講じて…ということも全くできないですし」自信をイメージした役なのに「一番僕らしさを出せなかった役」出版不況のなか、崖っぷちにある出版社、出版業界でエネルギッシュに暴れまわる速水だが、一方で周囲の人間をその気にさせ、味方にして巻き込んでいく“人たらし”の側面も持っている。そんなところは大泉さんと重なるのでは?「どうなんでしょうねぇ? 自分ではそうでもないと思うんですけどね。こう見えて、僕はすごく人見知りだったりするし、人付き合いを面倒くさいと思ってしまうタイプなので。いや、人は好きなんですよ。甘ったれなところもあるから、出会った人となるべく別れたくないんです。だから、北海道での仕事もそうですけど、僕の仕事って長いんです。でも、メチャクチャべったりというのでもなくて、仕事でつながっているくらいがちょうどいい。関係が切れるのが寂しいけど、だからってこっちから『ごはん行こう』とか『遊びに行こう』って連絡するでもない。仕事で会って、そこでくだらない話をしてくれるのがちょうどいいんです」大泉洋をイメージして作られたはずの人物なのに、リアル大泉洋とはズレている…。そんな不条理(?)は映画の撮影の現場でも続く。「当初は単純に『だって僕をイメージしているってことは僕のままでいいんだろ?』って思ってたんですけど、現場でやってみたら全然、そういうことじゃなくて。なんで僕をイメージした役を演じてるのに、こんなに監督から『いまのは大泉さんっぽかったからNGです』って言われるんだろう…? って(苦笑)。いや監督、原作者は僕をイメージしてんだから、大泉洋っぽくてもいいんじゃない?って思ったんですけど。そこが吉田大八さんという監督の素晴らしさで、彼がイメージする速水という人間がハッキリとあって、それはバラエティなどで見せる素の大泉洋ではないんですね。結果、僕がいままで演じた中で、一番僕らしさを出せなかった役になりました(笑)。この間まで宣伝してた『新解釈・三國志』の方がよほど大泉洋でしたね。それは本来、おかしいというか問題ですよね(苦笑)。あの役は劉備玄徳という実在の人物であって、あっちこそ俺じゃいけないはずなのに、99%俺でしたからね」好感度は「そこまで気にすることはない」ちなみに、こうした“ボヤキ節”もまた、大泉さんの魅力だろう。取材の場で、バラエティ番組で、暑さや寒さから共演者への嫉妬、愚痴などなど、とにかくボヤく。だが不思議と聞いてて、ネガティブな気持ちにならず、ボヤけばボヤくほど、なぜか好感度が上がっていく。昨年末も、先述の出演作などのプロモーションであちこちの番組に出演し、ボヤキを交えつつ愛娘や料理の話を披露し、しっかりと視聴者の心をつかんでいた。とはいえ本人は「好感度をそこまで気にすることはない」という。「どうなんでしょうね? いや、いろんなところで『三度の飯より好感度が好き』って話はしてるんですけど(笑)、そう言いつつも実際は、そこまで『好感度を上げてやろう』と思ってるわけでもないんです。バラエティ番組に出る際に事前に『いま気になっていることは?』とか『興味があることは?』とアンケートがあるんですけど、僕の興味って『娘』か『ゴルフ』か『食べること』しかない。でもゴルフって、TV局はほとんど乗ってこないですからね(苦笑)。結果、娘か飯の話になるわけです。こないだも散々、TVに出たけど、娘の話しかしてない。さすがに申し訳ないですね。嫁は『パパはあんなに娘の話をしてるのに、1回もベストファーザー賞が来ないね』って。いったい、どういうことなんだろう、これは(苦笑)。だから、好感度がほしくて娘の話をしてるわけでもないんです!」この取材中も、あれやこれやと現場でのことをボヤきつつ、完成した作品、そしてスクリーンに映る自身について「この映画、派手なお芝居をする話じゃなくて、速水も飄々とした何を考えているかわかんない人なんですけど、僕自身も『いつもの僕とは違うな』と思いながら見れました」と充実した表情で語っていた大泉さん。TVで見せる“おもしろい”部分は、この男の魅力の一側面でしかない。ぜひ、映画館で、役柄をまとった上での大泉洋のかっこよさにしびれてほしい。(text:cinemacafe.net)■関連作品:騙し絵の牙 2021年3月26日より全国にて公開©2020「騙し絵の牙」製作委員会
2021年03月22日デビュー20周年を迎えた人気女優、綾瀬はるか。放送中のドラマ「天国と地獄~サイコな2人~」(TBS系)や、東日本大震災10年の節目に放送された特集ドラマ「あなたのそばで明日が笑う」(NHK)、あるいは数多くのテレビCMや、街頭広告など、彼女の顔を見ない日はないだろう。しかも、その活躍ぶりは今年に限った話ではない。綾瀬はるかさんが芸能界に身を置いてからずっと第一線で輝き続けていることを、私たちは知っている。そんな彼女にとって、俳優活動のひとつの軸といえるのが「アクション」だ。『ICHI』や「精霊の守り人」等々、多くの出演作でキレのあるアクションを披露してきた綾瀬さんだが、その特性を存分に生かしたあの作品を忘れてはならない。そう、『奥様は、取り扱い注意』だ。2017年にテレビドラマとして製作された本作は、大河ドラマ「八重の桜」で共演して以来「兄ちゃん」「はる坊」と呼ぶ仲の西島秀俊が相手役。元特殊工作員の妻・菜美(綾瀬はるか)と公安警察の夫・勇輝(西島秀俊)がお互いの素性を隠して夫婦生活を送るという物語で、放送時には大いに話題を集めた。その『奥様は、取り扱い注意』がこのたび、満を持して映画化。よりスケールアップし、かつツイストのきいた物語が展開する。新型コロナウイルスの蔓延による公開延期を乗り越え、3月19日より劇場公開された本作をフックに、綾瀬さん流の「アクション」「俳優論」などを聞いた。常に動ける体を作っておくため、自トレを重ねた劇場版『奥様は、取り扱い注意』は、冒頭から怒涛のアクションが畳みかける「これぞ映画!」な仕上がり。綾瀬さんのきりりと引き締まった表情と、しなやかな身体表現に驚かされる。とはいえ、ドラマ版からは約3年半の時間を経ての映画化だ。3か月前からトレーニングに時間を費やしていたというが、準備は大変だったのではないか?「ドラマの頃から、基本的な体幹トレーニングは週に1回くらい、欠かさずに続けていたんです。次(劇場版)があるかもしれないな、とは思っていたので。その後映画化が決まって、撮影が近づいてきたら、トレーニングの時間を増やしました。動ける体を作っておくということは、個人的にやっていましたね」さらりと語る綾瀬さん。やはり、一朝一夕ではなしえなかったのだ。本作はカリとシラットという実践武術をミックスさせた動きがベースになっており、“止め”や“突き”などを高速で、かつピンポイントに繰り出さなければならない。綾瀬さんは「何もない状態から始めたドラマ版のときは、すごく大変でしたね。それこそ家で腕立て伏せ200回×何セットもやっていましたが、今回は前回の経験もあったので、家での個人練習はそこまでハードではなかったです」と振り返り、経験者の余裕を感じさせる。常日頃から準備を怠らない彼女のプロ意識がうかがえるが、同時に「いまはもうやってないんですが…」と申し訳なさそうに付け加えるところもまた、彼女のキュートな魅力といえよう。「撮影前には、対人稽古も行いました。その中で、徐々に体が思い出したり慣れてきたりしたら、相手役の人と劇中で行う動きの“合わせ稽古”を始めましたね。振付のように、覚えないといけない動きが多かったです。並行して、タイミングを合わせたりスピードに変化をつけたりちょっとずつ調整して、動き自体が完成したら何回も何回も練習して、本番で怪我がないように精度を高めていきました」言葉で聞くだけでも大変そうだが、撮影は夫婦そろってのアクションシーンからだったという。「いきなり山場のシーンというのはさぞかし大変だったのでは?」と聞くと、「アクションが先だったから、夫婦の本気がアクションに乗って、そのうえでこの夫婦ならではの会話のやりとりができたのかなと思います」と何とも頼もしい答えが返ってきた。“兄ちゃん”じゃなければ、もっと重圧を感じてしまっていたただ、いきなりフルスロットルで挑めたのは、“兄ちゃん”こと西島さんがそばにいたからこそ。「やっぱり安心感が違いますね。変に気を遣うこともないし、すごく精神的にも助けられています。あまりプレッシャーを感じることなくできました」。その西島さんが本作のイベントの際に明かしたのは、撮影の合間に綾瀬さんが励んでいたという自主練ならぬ“闇練”。綾瀬さんは「闇練(笑)」と笑いながら、その意図を教えてくれた。「アクションの量も多かったですし、一瞬の気の迷いが本当に危ないんですよね。アクションの相手役の方とは体格差もありましたし、お互いに動きがズレて当たってしまったら大変だから、そういう不安や心配をなくすために、準備だけはしっかりしなくちゃいけないと思ったんです。いい時もあれば調子の悪い時もあるし、本番になると練習でうまくいっていたことがそうならない場合もある。でもそれで終わったらもったいないので、『もうちょっとよくできるからもう1回やらせてほしい』というのは、兄ちゃんも私も言っていました。せっかくやるんだったらその時のベストを出したいし、みんなが『よかったね』と納得できるように粘りたいと思っています」。余談だが、綾瀬さんが西島さんの出演作を観て、“ダメ出し”をすることもあるのだとか。「ある作品のアクションで銃を構えるときに肩が変に上がっていたから『肩がすごく上がっていたよ』ってメールを送ったら、『うるさい!俺も気にしてるんだよ』って返事が来て(笑)」と楽しそうに語る姿からは、2人の信頼関係が伝わってくる。西島さんという最高の相棒を得て、ますます冴えわたるパフォーマンスを見せた綾瀬さん。そんな彼女に、改めて「自分にとっての、アクションとは」を聞いた。「アクションは、全身で表現するもの。体全体を映像で見せるものなので、対話劇とは全く違いますね。アクションという軸があることで、やらせていただける役の幅が広がったように思います。自分自身も、アクションを求められることで、刺激を受けていますね」心で演じることを、大切にしていきたいもともと、劇場版『奥様は、取り扱い注意』は、2020年6月5日に封切られる予定だった。公開延期を乗り越え、2021年3月19日についに観客に披露される。綾瀬さんは「本当に公開できてよかった」としみじみ語り、「ちょっとずつ映画館に行けるようになって、皆さんが非日常的なものを楽しめる空間になったらいいなと思います。スケールの大きなアクションを、大きなスクリーンで観てほしいですね」と笑顔を見せる。外出自粛期間中には「遅いんですが、今さら『ウォーキング・デッド』にハマってしまいました」とエンタメの力を改めて感じたという綾瀬さん。「ドラマだったら週に一回の楽しみになるし、映画も含めて、日常に花を添えてくれるものですよね」という彼女は、この先も表現者として、多くの娯楽を届けてくれることだろう。最後に、綾瀬さんがいま、役者として大切にしている信条を教えてもらった。「当たり前ですが、心で演じることですね。経験を積んでいくと、慣れが出てきてしまって心とズレるときが生まれてしまうと思うんです。そうならないようには気を付けていますね。『感情で動く』は、演じるうえですごく大切にしていることです」。この20年で多くの後輩が台頭し、いまや現場を引っ張る立場。それでも「現場での“居方”は特に変わらない」という。「自分がたとえ年齢や芸歴が上でも、皆さんプロですし、尊敬しています。といっても、そういう風に思おうとしているのではなく、自然とこんな感じで生きてきただけです(笑)」。長い間変わらず、ずっと自然体でいること。それがどれだけ難しいかは、俳優でなくても多くの人が身をもって知っているはず。だからこそ、「いつもワクワクしていたいですね」とふわりと笑う彼女に、トップランナーたる凄味を感じずにはいられない。(text:SYO/photo:Jumpei Yamada)■関連作品:奥様は、取り扱い注意 2021年3月19日より全国にて公開©2020映画「奥様は、取り扱い注意」製作委員会
2021年03月22日時代ごとに常に多様な女性像を描き出してきたディズニーがまた新たなヒロインを誕生させた。先日、公開を迎えた『ラーヤと龍の王国』の主人公・ラーヤは、過去のディズニーのヒロインの中でも屈指の強さを誇りつつも、全てを失った“ひとりぼっち”な存在である。そんな彼女が旅を続けながら仲間に出会い、大切なものに気づかされていく姿を描く。ラーヤの日本版声優を担当した吉川愛に本作、そしてラーヤの魅力について話を聞いた。「自分を信じられるような努力」が大切今回、声優初挑戦となった吉川さん。子どもの頃からディズニー・アニメーションが大好きだったそうで、ラーヤ役に決定する以前、オーディションの段階から「信じられない」気持ちだったという。「オーディションは、すごく緊張しました。“ディズニー”というワードをまさかお仕事で聞けるとは思ってなかったですし、『(受かる受からない以前に)いい経験をさせていただいたなぁ…』という気持ちでした。だから受かった時は『え…!?』という感じで。別のお仕事の休憩中に電話で知ったんですけど、まさか受かると思ってなかったので『私?』って(笑)。普段からアニメはよく見るので、声優さんという仕事への憧れはありました。アニメを見ているうちに、いつか自分でもやってみたいなと。でも、まさか初めての声のお仕事がディズニー・アニメーションになるとは思ってなかったです(笑)」。かつて、龍と共に栄えた王国を取り戻すべく、伝説の最後の龍・シスーを探す旅を続けるラーヤ。過去に“敵”に心を許したばかりに、父を失い、王国の荒廃を招いた経験があるがゆえ、他人を心の底から信じることができない。この「信じる」ということが物語を通じて大きなテーマとなっている。「最初に脚本を読んだ時、信じ合う心というのはこんなにも大切なものなのかと思いました。私自身、初対面の方に対して慎重になりすぎてしまう部分があるので、そういうところはラーヤと似ているなと思うし、彼女に共感できました。でもこの物語から、自分から積極的に一歩踏み出してみようと思えたし、私みたいな人にもぜひ見てほしい作品だなと感じました」。「信じる」ということに関して、何よりも難しく、そして大切なのは「自分自身を信じること」だと吉川さんは言う。「まず、自分を信じられないと、どういうふうに生きていくのかも決められない。自分を信じて、行動に移していくのが大事だなと感じています。そのために、自分を信じられるような努力を積み重ねていかないといけないんですよね。私自身の経験として、ちょっとでも自分で自信を持たないといけないなというのは感じています。中身を磨く努力をしてみたり、ちょっとだけでも見た目を変えてみたり、ちょっとしたことでもいいから少しでも自信を持てるように努力していくことが必要だなと思いますし、その努力があれば(不安な時に)『ちゃんとやってきたんだから』と思えるんですよね」ラーヤ同様、様々な出会いが成長につながるディズニー作品、そこに登場するヒロインたちは、幅広い世代に愛され続けてきた。先述のように、小さな頃からディズニー作品が大好きだったという吉川さんもまた、大好きなディズニーのヒロインに大きな影響を受けてきたし、今回、命を吹き込んだラーヤもまた、人々の背中を押す存在になる可能性を秘めている。「私は小さい頃、一番好きだったのはアリエル(『リトルマーメイド』)でした!アリエルの恰好をしてリビングを歩き回ったり、仕草をマネして髪をかき上げて『アリエルみたいでしょ?』って(笑)。かわいくて、でも勇気を与えてくれる存在でした。芯の強さや好奇心旺盛なところはラーヤと同じだなと思います。ただ、ラーヤはこれまでのヒロインたちと違って、すごく孤独で、周りを信じることができないんですよね。それが仲間たちと出会って成長していく――そこはすごく惹かれる部分だなと思います」ここ数年、途切れることなく次々と話題作に出演する吉川さんだが、自身もまた、様々な出会いが自分を成長させてくれたと感じている。特にターニングポイントとも言えるほど大きな出会いとして挙げるのが、2019年に放送されたドラマ「緊急取調室」。同作への出演は3エピソードだったが、何がそれほどまでに吉川さんに強烈な印象を残したのか?「あの作品に出させていただいたとき、すごく楽しかったんです。いままでのお芝居の中で、一番ウキウキしました。(主演の)天海祐希さんは、ずっと憧れの存在で、小さい頃に一度、お見かけしたことがあったんですけど、すごくかっこよくて『いつかご一緒したい』というのは夢でした。それもあって、すごく力が入ってたんですよね。本番前は緊張感もものすごくあったんですけど、演技に入ったらものすごく楽しくて、最高でした。この作品に出会ったことで『もっと頑張ろう!』とこの仕事の楽しさを実感できました」。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、当初は劇場公開予定だった作品が、配信で公開となるケースが昨年は続いたが、本作は全国の劇場で公開される(※ディズニープラス プレミア アクセスにて同時配信もスタート)。最後に吉川さんの映画館体験、映画館で映画を鑑賞する楽しさについて聞いてみた。「小さい頃はあまり映画館に行く習慣がなかったのですが、一度だけ母が映画館に連れて行ってくれたんです。それがすごく楽しくて、今ではよく映画館で映画を観ます。映画館でキッズアニメを観るのもすごく好きで、必ずポップコーンを買って観ます。普段、撮影の合間に数時間空いたら、時間を調べてひょいっと映画を観に行くことは多いです」。(text:Naoki Kurozu/photo:You Ishii)■関連作品:ラーヤと龍の王国 2021年3月5日より映画館 and ディズニープラス プレミア アクセス 同時公開© 2020 Disney. All Rights Reserved.
2021年03月13日藤原竜也主演、バディに竹内涼真。初顔合わせながら、何だか非常にしっくりくる安定感を持つふたりの共演作『太陽は動かない』(3月5日公開)は、規格外のアクションが「これでもか」とたたみかけてくるノンストップ・サスペンス。藤原さんと竹内さんは、本作において、秘密組織「AN通信」に所属する、心臓に爆弾を埋め込まれたエージェントを演じた。完全無欠のスペシャリストで、冷静沈着な鷹野一彦を藤原さんが、やさしさを見せながらも、どうにか鷹野にくらいついていく相棒の後輩・田岡亮一を竹内さんが演じ、ミッションに挑んでいく。物語の鍵は、全人類の未来を決める次世代エネルギー。その極秘情報をめぐり、世界各国のエージェントたちが動き出すのだが…国境を超えて始まる命がけの争奪戦では、藤原さん&竹内さんがスタントをほぼ使わず、体を張った。緊迫感あふれるさまはスクリーンからびしびしと伝わり、大量の爆薬、きわどいカーチェイス、列車での肉弾戦、水責め…様々な状況から死に物狂いで脱しようとする姿に、手に汗握る。演じた当の本人たちはと言えば、「やるしかなかった…」、「降板の“こ”…まで出かかった!」と、冗談半分、本気半分(?)、大盛り上がりで振り返る。およそ半年の撮影期間で、すっかり打ち解けた彼らは、実は同じ事務所の先輩・後輩同士。息の合った凄腕エージェントが板につく、肝胆相照らす仲のふたりに、撮影の裏話を聞いた。「一緒にトム・クルーズのメイキングを見たり…」先輩・藤原さんを鼓舞した竹内さんの技――『太陽は動かない』を語る上で、アクションは外せないと思います。藤原さん、高所や水中など、実は苦手なもののオンパレードだったそうですね…?藤原:そうなんですよ!今回、海外ロケでブルガリアに1か月行ったんですけど、異国の初めての地で、羽住組も初めての中、クランクインを迎えました。セットというか世界が、すごく整っていたんです。羽住組って面白くて、「状況は整わせましたよ、だからここで好きにやってください」と。それは非常に恵まれた環境だと思うし、後戻りはできない。だからこそよかったし…もう、やらざるを得なかった(苦笑)。――羽住監督のチームが、背中を押してきたと言いますか。藤原:本当に、職人だと思います。スタッフはみんな、本当に映画が好きで、羽住組が好きで。監督が求める以上のセットを用意したり、派手なライティングをしてくれたり、誰ひとり嫌な顔ひとつせずにやっていましたから。過酷な要求をして、過酷な状況に追い込む監督だけど、人徳というか愛されているんです。「監督のために、このワンカット成立させてやろうじゃないか!」と思わせるような人だから。なかなか危険なことは確かにありましたけど、みんな、監督の満足そうな顔を見たくて、やっていた部分は多少なりともあるんじゃないかなと思います。竹内:竜也さんがお話されたように、本当に状況が整えられていて、あとは、僕たちがそこの場で、どれだけ出せるかでした。それまでに何回もリハーサルもしましたし、段階を経てやったおかげで、自分が想像していたよりも、いいものができました。僕、本格的なアクションをすごくやってみたかったんです。アクションを思いっきりやるには、ものすごくいい舞台とチームがそろっていて。アクション部の方たちに本当に支えてもらって、足並みを揃えて僕らに寄り添ってもらったので、過酷な撮影も乗り越えられました。――今回は体作りもかなりされたんですよね?おふたりの肉体美も堪能できます。藤原:羽住さん、筋肉好きだからね。「やってくれ」と言われたので、やりました。もともと僕、肉体美的な表現にあまり興味がなかったんです。けど、羽住組を経験してトレーニングすることによって「なるほどなぁ」といろいろな発見がありましたね。精神的にも、もちろん違う部分がありましたし、このようなキャラクターでトレーニングを積むことは、役に説得力を与えられるなと、改めて気づかされました。竹内:本当に、そうですね。今思えば、本当にやっておかなかったら、できていたのかわからないぐらいのアクションがありましたし。トレーニングはきついことをやるから、そこで気持ちも鍛えられるんですよね。――竹内さん、現在ドラマでもアクションを披露されていますし、もともとトレーニングはお好きなんですか?竹内:いや!できれば、やりたくないです(笑)!お酒をいっぱい飲みたいし、甘いものもいっぱい食べたいですから。けど、強い男やエージェントを演じる上では、説得力を持たせるため、やるのは大事だと僕は思います。――本格的なアクションは初めての竹内さんに、藤原さんからアドバイスなどもありましたか?竹内:いやあ…、どっちかというと、「竜也さん!もうやりましょう!」という感じでした(笑)。藤原:逆だよ…。いかに、こう…呼ばれても、こう……。竹内:竜也さんが時間稼ぎをされるんですよ!藤原:「藤原さん、もう時間がありません!」と言われても、「だって、やりたくないんだよ…」って。――怖いんですよね?藤原:そう、そう、そう!竹内:怖いから、一緒に、トム・クルーズのアクションのメイキングを観たりしましたよ。「これ、おかしいよ」とか言いながら、結果やるしかないんですけど(笑)。いかに先輩のエンジンをかけるか、でした!藤原:この映画をやりながら思っていたのは、ほかの作品だったらクライマックスだろうな…と思うシーン、ほぼ連日そういうシーンの撮影だったんですよ。本当に「やりたくないな」と思うことはたくさんありましたけど。けど…難しいよね。僕らって、じゃあなんで次もやるかと言ったら、苦しいことって忘れちゃうんだよね。「涼真のおかげで乗り切れた」、「竜也さんがいるとチームがまとまる」――お互いに刺激を受けた点なども、ありましたか?藤原:海で撮影していたときに、もう、ずーっと足もつかないようなところにいたんですよ。そうしたら、涼真がね、「僕もう、水何リットルも飲んでますよ。溺れてますよ。いいっすよ、もう」と、腹くくったみたいな感じで言いやがったんです。こっちなんて、「降板したい」と言う直前なのに!「(降板の)こ…」まで出ているのに!「俺、もういいっすよ」と涼真が言うから、「何でお前がこんな力強い言葉を言うんだ、バカッ!!」と思ったので、乗り切れました(笑)。竹内:(爆笑)。竜也さんのすごいところって、巻き込む力だと思っていて。こんな風に「やりたくなーい」とか言ってみたりするのに、みんな、気づいたら「竜也さん、竜也さん」みたいな感じでついていくんです。藤原:…別に、そんな風に言ってないよ。竹内:言ってるじゃないですか(笑)!「こわーい」、「いやぁ、もうやりませんよ」とか。でも、結果、それ以上のことをやってらして。藤原:へへ(笑)。――本当に愛され力と言いますか、ギャップも藤原さんの魅力で。撮影を通して、おふたりの仲もリアルに深まったんですね。竹内:竜也さんて、ガキ大将みたいなイメージなんです。撮影部のベテランの方とかも引き連れて、「みんな、行こう!」って言うし。すごいと思います。竜也さんが意識されているかはわからないですけど、そういうことをやってくださると、チームがまとまるんです。わーっと連れて行って、飲んで、ダメになって、僕が大体連れて帰ってくるんですけど。藤原:そうだね(笑)。俺、大体、巻き込むだけで終わるんです。あとは、へべれけになって帰る。竹内:『太陽は動かない』の撮影中、僕、3回ぐらい竜也さんのこと抱っこしましたからね、はい。撮影後、飲みに行ってベッドに連れて行く。藤原:そう、「ありがとう」つってね(笑)。藤原さんが久々に抱いた感情「何回でも映画館に通って観たい作品」――精魂込めた作品の完成作をご覧になったときは、どんな感情を持たれたんですか?藤原:本当に「これ、面白いな!」と思いましたし、何だろうなあ…。ひとりで、何回でも映画館に通って観てみたいなと思いました。それぐらい、個人的には懐かしさや、涼真とかヨハンの大変さ、「ここ、セリフ苦労してたなぁ」とか、いろいろな見方ができるわけだから。自分の中では割と、そういうのが久しぶりなんですよね。素敵なものを監督に作ってもらったな、という想いです。竹内:僕も竜也さんと同じです。面白かったですし、やっぱり映画館で観るべき映画というか。僕らは現場でいろいろやりましたけど、想像した以上のクオリティになっている場面が、本当にいっぱいありました。どこがCGなのか、その境目がわからないぐらい。1か月ブルガリアで撮影できた、行った意味を、完成作を観てすごく感じました。――本作では「1日を生きる」ことが、ひとつのテーマになっています。俳優業をされている中で、「今を大切にする」、「1日を頑張って生きていく」と意識した経験はありますか?藤原:俺、今年で39歳になるんですよ。若くもなく、かと言って、年がいっているわけでもないわけで。そろそろ人生の半分になったのかもしれないけれど、そんな中、自分のやっている仕事が、自分の1回の人生において正しい道なのか、もうちょっと大切にするべきものは仕事なのか、家族なのか、または自分なのかを考えるんです。この世界に生きていて、どういう選択肢をするのがベストな自分の人生の選び方なんだろうって、気にするようになってきましたね。竹内:そうなんですね。僕は「1日を生きる」とか、あまり考えないかなぁ。今、こうした難しい世の中の状況になってしまって考えるのは、自分が何をやりたいか、自分の目的は何なのか、ということです。自分が幸せにしたいもの、幸せになるためにどうすればいいか、優先順位をつけるようになりました。ここ1~2年ぐらいの変化かなと思います。(text:赤山恭子/photo:Jumpei Yamada)■関連作品:太陽は動かない 2021年3月5日より全国にて公開©吉田修一/幻冬舎 ©2020 映画「太陽は動かない」製作委員会
2021年03月04日スクリーンの妖精、永遠の天使――。確かな演技力とイノセントな魅力を併せ持つエル・ファニング。2歳で映画界入りし、現在に至るまで数多の実力派監督と組んできた彼女が、かねてより熱望していた製作総指揮・主演を務めたドラマ「THE GREAT ~エカチェリーナの時々真実の物語~」が、日本初放送を迎える(2月15日から、海外ドラマ専門チャンネル スーパー!ドラマTVにて)。放蕩者のピョートル皇帝(ニコラス・ホルト)のもとに嫁いだ女性エカチェリーナ(エル・ファニング)は、夫の傍若無人ぶりと堕落しきった宮廷内の様子にカルチャーショックを受ける。理想と現実の違いに絶望した彼女だったが、やがて「自分がこの“世界”を変える」と決意し、“女帝”エカチェリーナとしてのし上がっていく。『ロブスター』『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』の鬼才ヨルゴス・ランティモス監督によるアカデミー賞受賞作『女王陛下のお気に入り』の脚本を手掛けたトニー・マクナマラが企画・製作総指揮も兼ねた本作は、ブラックな笑いと過激な描写が畳みかける意欲作。混沌の世界でず太く生き抜いていくエカチェリーナを体当たりで演じたエルの新境地といえるだろう。製作総指揮を経験し、彼女がいま見据える先は?表現者としてさらに覚醒した感のあるエルの、濃密な単独インタビューをお届けする。企画段階から参加し、自らスタジオに作品を売り込んだエルによれば、「THE GREAT ~エカチェリーナの時々真実の物語~」は、元々は戯曲だったとのこと。トニー・マクナマラからエカチェリーナ役のオファーが届き、ドラマ版のプロットと第1話の脚本を読んだ際の第一印象を「圧倒されました」と振り返る。「トニーは『女王陛下のお気に入り』の脚本も手掛けていますが、その当時はまだ世に出ていなかったんです。だからこの独特の雰囲気を比較するものが何もなかったのですが、すごく特殊でかつ野生的で、だけれど同じくらいエモーショナルで地に足がついていて…それでいて歴史劇の要素も押さえていて、『こんなの読んだことない!』とびっくりしました」。瞬く間にこの物語の虜となったエルは、「エカチェリーナ役を私に、と言ってくれたこともすごくうれしかったし、迷うことなく即『出演したい』と言いました」と振り返る。しかも、役者としてだけではなく、エグゼクティブプロデューサー(製作総指揮)としての役割も打診してくれたのだという。「トニーは、出演者としてだけでなく、私にもう少しがっつり作品に関わってほしかったようで、私もプロデュースと監督は長年やりたいことのひとつだったので、『ぜひ!』と挑戦したんです。自分自身、映画のセットの中で育ったから、いつもプロデューサーや監督を見ながら『あの人たちの仕事は、どうやって生まれて、どのように出来上がっていくんだろう?』と興味を持っていました」。「ただ、私が加わったときは、まだチームができていなくて。私とトニーと、脚本しかなかったんです」と、エルは思い出し笑いを交えながら明かしてくれた。「まだスタジオも決まっていなかったので、トニーと一緒に、自分たちと作品を売り込むところから始めました。私にはまったくの新しい体験で、プロデュースも最高に楽しかった!ただ同時に、『自己主張をしっかりしないといけない』など、学ぶことも多かったです。この経験って、まさにエカチェリーナと重なりますよね」。これまでに組んだ監督たちが、“師”としてそばにいてくれる『20センチュリー・ウーマン』のマイク・ミルズ監督や、『ガルヴェストン』で組んだ女優・監督のメラニー・ロランなど、クリエイターの友人も数多いエル。彼らから製作業・監督業のアドバイスなどは受けたのだろうか?「はい、プロデュースに限らず、今までもたくさん話はしたし、あらゆることを教えてもらいました。私が若すぎたから、これまでにご一緒した監督たちは導いてくれたし、同時に護ってくれていたんだなと思います。皆さん優しくて、すごく感謝しています。製作や監督については、マイク・ミルズとサリー・ポッター(『ジンジャーの朝 さよなら、わたしが愛した世界』『The Roads Not Taken(原題)』でタッグ)とは特にたくさん話しました。サリーは女性の監督としてはパイオニア的な存在だと思います。他にも、多くの女性監督と仕事をした経験が生きていると感じています。彼女たちが成功する過程を見ていると、自分自身も刺激をもらえるんですよね」。エルはここで、『SOMEWHERE』『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』と役者人生の節目で組んできたソフィア・コッポラ監督の名を挙げた。「ソフィアと初めて一緒に作った『SOMEWHERE』は、これまで私が経験した中では最大級の女性主導の大がかりなセットでした。あの作品を経ているからこそ、『大丈夫、私もできる』と思えるようになったんです」。監督たちとのコラボレーションが、血となり肉となり、いまの自分を作っている――。エルにとっては、もの作りは決して“独り”ではないのだ。「私は、映画学校にも通っていないし、技術的なトレーニングも受けていないんです。その代わり、セットを“教室”として、一緒に仕事をした監督たちから多くを学んできました。そして、その関係性は幸運なことに、いまだ続いているんです。私が監督をしたい、何かを創造したいと思ったとき、いつでも質問できる場所にみんながいてくれる。そしてそのことを、私自身が知っている。それってすごく素敵なことだと思うんですよね」。グッチとコラボした短編で念願の監督デビュー!「いまは、監督をしたい気持ちがすごくあるんです!」とはつらつと語るエル。「でも、大作を監督するのはプレッシャーを感じてしまうし、飛び込まなくちゃいけないとはわかっているんだけど、ちょっと怖い気持ちもあります(苦笑)。自分にとって、どうしても語りたい“正しい物語”を見つけるのが先だとは思っています」。創作への衝動を抑えられないのか、くるくると表情が変わるさまがほほ笑ましい。そんな彼女の、新たな挑戦となったのがグッチとコラボレーションした短編『Gucci Always Wins』。エルは本作で、脚本・監督を手掛けているのだ。「あれは素敵な“序章”になりました。3分という短い時間ですが、オファーをいただけて、コンセプト作りから携わることができ、脚本も自分で書いて…。母の家の裏庭で友だちと撮って、『こうやって自分が描いているビジョンに映像が宿るんだ!』とすごく楽しかったですね」。創作の原点に立ち返り、「ものづくりの喜び」に声を弾ませるエル。ただそこには、役者という立場に対する苦悩もあったという。「たまに、自分がパペットのように感じてしまう瞬間があるんです。もちろん自分が演じて、スクリーンの中で表現しているのだけど、このお話自体を作っているのは監督であり、脚本家なんだと思い知るんですよね。だからこそ、『自分のもの』と思える作品を作りたい、という願望がありました。『Gucci Always Wins』はロックダウン中だったこともあり、衣装から美術から、自分で用意しないといけなかったのですが、すごくやりがいを得られましたね。ただ同時に、ものづくりの責任というか、怖さも感じました」。家族、そして姉ダコタ・ファニングへの感謝だが、エルの口ぶりからは、初監督作で去来した“恐怖”、或いは“重圧”すらも、渇望していたものだった、という思いがにじみ出ている。人生のほとんどを役者として過ごしてきた彼女はいま、より多角的に映画作りの面白さに触れ、大きく羽ばたこうとしているのだ――。ただ、だからこそ、聞きたいことがあった。「パペットのように感じる」悩みを抱きながらも、ここに至るまで、どうして彼女はメンタルを保ち続けられたのだろう?エルは「たしかに私は幼少期から演技をしてきましたが、一緒にいてくれる家族がいたんですよね。いわば私の“サポートシステム”です」とほほ笑む。「家族が支えてくれたから、友だちとパーティやプロムに行くこともできたし、地に足の着いた生活を続けられたんだと思います。もちろん、映画というアートに触れて、撮影で様々な地に旅することができた経験は何物にも代えがたいですが、家族の存在が、私に正気を保たせてくれたところはあったと思います」。そして、彼女が感謝を述べるのが、最愛の“先輩”ダコタ・ファニングだ。「彼女自身が小さなころから演技をしていて、子役のイメージを上手に脱却していきましたよね。私も姉のことをすごく尊敬しているし、家庭内にロールモデルがいたことは大きかったです」。エルは「例えば高校生の役を演じるときに、自分の中に学生生活の経験がないと、そもそも共感できないと思うんです。こんな時代になってしまったから、何が『普通』かはわからないですが、『普通っぽい』生活をできたことが、演技にも役立ちました」と続ける。「だからやっぱり、私にとっては家族の存在が大切ですね」。ちなみに、彼女の公開待機作『The Nightingale』(原題)は、ダコタとの姉妹共演が実現した作品。しかも、監督は2度目のコラボレーションとなるメラニー・ロランだ。エルの想いを聞いた後だと、見え方が変わってくるのではないだろうか。製作総指揮を務めた「THE GREAT ~エカチェリーナの時々真実の物語~」から始まり、初監督作『Gucci Always Wins』、家族と作った『The Nightingale』(原題)へ――。エル・ファニングの“第2章”から、目が離せない。「THE GREAT ~エカチェリーナの時々真実の物語~」海外ドラマ専門チャンネル スーパー!ドラマTV にて2021年2月15日(月)22:00より独占日本初放送Copyright (C) 2021 MRC II Distribution Company, L.P.(SYO)
2021年02月15日土屋太鳳×田中圭、勢いに乗る2大俳優が挑んだ映画『哀愁しんでれら』が、全国の劇場で好評公開中だ。児童相談所で働く真面目な小春(土屋さん)が、思いもよらない凶悪事件を引き起こすことになる本物語は、「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM 2016」グランプリを受賞した完全オリジナル作品。先の読めない「まさか」な展開、土屋さんの新しい扉を開いた演技、小春と再婚することになる開業医の大悟役・田中さんのいびつな佇まいが三位一体となり、物語への没入感をより強くする。…そして、ゾッとさせる。撮影に入る前、キャスティングの時点で「面白い映画になれる自信があった」と話したのは、脚本・監督を担った渡部亮平。渡部監督に、キャスティングの裏話もまじえ、怒涛のストーリー展開や込めた想いなど、ネタバレも“あり”で語ってもらった。自信があった脚本、思い通り撮れた手ごたえ「いい意味で、奇跡を信じず撮った」――シンデレラ・ストーリーのその先を描く、新たな着眼点の映画になりました。脚本を書いているときから「いい作品が撮れそう」な予感はしていましたか?脚本を書き終えて読むと、いつも割と「我ながらいいな、自信あるかも」と思うんです(笑)。けど、時間が経つと「本当は僕にしかわからないのかな…?」と、不安になってしまったりもして。ただ、今回は田中さんと会ってしゃべったとき、「脚本、めちゃくちゃ面白いです!」と言ってくれたので、よかったなと胸をなでおろしました。本当にラッキーだったのが、オリジナルで、ちゃんとエンターテインメント性と作家性を尊重してくれる作品を作れたことですね。いろいろ挑戦しました。――いざ撮り始めてからは、工夫されたり、プラスオンした箇所もありましたか?いえ、特にありませんでした。「意外と思い通り撮れたな」という手ごたえがあります。もちろん、どうしても時間的・予算的にできなかったことはありますけど、代案を考えてはいたので、脚本という設計図を信頼して組み立てていく感覚を持ち、現場で撮っていました。――もともと、そういうタイプなんですか?そうですね。ちゃんと準備した上でやりたい、というタイプです。いい意味で、奇跡を信じず撮っていったというか。いいものにするための準備をちゃんとして、現場に入ったので、思い通りに撮れました。土屋さんが生きた小春を見て、抱いた確信「最高になる、傑作を作れる」――小春は土屋さんに、大悟は田中さんに、という渡部監督の強い思いがあったそうですね。キャスティングについて、伺いたいです。キャスティングが決まり、このふたりでできるとなった時点で「やった!」と思っていました。「きっと大丈夫だな」と、面白い映画になれる自信があったんです。――土屋さんに関しての自信は、どこからきたんですか?土屋さんが持っている普段のパーソナリティ、真面目すぎる感じからです。例えば、Instagramひとつ取ってもわかる、ものすごく長文を書くような、あの真面目さ。異常なレベルの真面目さだと思うんです、これは褒めていますよ…!真面目すぎて変、というか。土屋さんはものすごい努力をしていると思っているので、努力家で真面目すぎるがゆえの危うさ、みたいなものが、小春という人物とすごくリンクしてるように僕には見えました。――どこか重なり合う部分があったんですね。真面目すぎる土屋さんの持っているパーソナリティが、小春とリンクして、頭の中で脚本を読み直したときに、「土屋太鳳の力が存分に発揮される映画のはずだ!」と、強くイメージできたんです。とても根拠のない自信ですけど…(笑)。多くの監督が言うことですが、イメージできるかどうかがあれば、撮影に入らなくても手ごたえは持てたりすると。あとは、度合いはあれど、真面目に生きている人は世の中に多いと思うので、多くの方が共感できる存在に土屋さんがなれると思っていました。――実際、撮影を始めて、どのあたりで予感が確信に変わったんでしょうか?撮影序盤は、割と前半の幸せ描写から始めていたんです。けど、一部、後半のダークというか、堕ちている小春を演じてもらうシーンがあったんですね。妹(山田杏奈)と電話をするところなんですけど。土屋さんは別室でやっていただいたので、僕は声だけ聴いていました。そのとき、声を聴いただけで、小春の後半のキャラクターがしっかり出ていたので、一気に「これはいける!傑作を作れる、想像した作品ができるんだ!」という感覚を持ちました。「後半の土屋さん、最高になるな」と思いましたし、現にそうなりましたね。――小春は、大悟以外の人と結ばれていたら、おぞましい事件は起こしていなかったと思うんです。「誰にでも、小春のようになる要素があるかもしれない」と思わされたのが、本作のゾッとするポイントでもありました。絶対なっていないと思いますね(笑)。それは大悟たちも同じというか…、彼らの部品が集まったとき、たまたまそういうものに仕上がってしまったんですよね。もともと小春は、危ない女でも、モンスターでもないですし、「私、実はモンスターでした」という映画ではないので。たまたま出会った人、環境、場所、立場、与えられるプレッシャーなどが原因で、気が付いたときに「モンスターですよね?」と言われる側に立ってしまっていた。もしかしたら、彼ら自身は「え、違うんだけど」と、まだ思っているかもしれないですし。事件だけを見ると、遠い世界というか、自分とは関係ないし、自分がそっち側の日常にいつかなってしまうなんて想像もしていないんですけど、それは意外と身近な話だったりする。単純に遠い話にはできないな、とやっぱり思いますね。まだ見ぬ一面を見せた田中さん、繊細な芝居が織りなす恐怖の人物像――田中さんに関しても、もともと何かイメージをお持ちだったんでしょうか?田中さんは、いくつか舞台を観に行ったことがあったんです。すごく繊細なお芝居ができる方なんだな、というのを僕自身が知っていたので、オファーにあたって信頼もしていました。脚本に関しても、これだけお芝居の上手い人が「面白いです」と言ってくれているので、「ちゃんとやってくれるんだろうな!」という期待がありました。――大悟を演じた田中さんの演技、まだ見ぬ一面を見られたという印象を受けました。そうですね。田中さんは、脚本を変えるようなお芝居をしなくていいと思われていたようで、忠実に形にしてくれていった気がします。映画の前半と後半で、大悟の目指す像は変えているんですよ。前半では「こんなパパがいるなんて羨ましい~!こんな人と結婚したい!」と思える感じで、後半にいくにつれて、同じ人なのに「怖いかも…」と見えるように、意識していました。1本の映画の中で、憧れの父親像と、「こんな父は嫌だ」という両面、ふり幅のあるパパ像をやってもらえました。「暴力親父だから嫌」というわけでなく、愛情が強すぎて嫌なパパ、なんですよね。あまりにも理想すぎるがゆえ限度がある、というのは、あるんじゃないですかね。――豹変というか、表と裏の顔という見え方のように思います。映画としては、ものすごく「え、何でこうなったの!?」と見えてはいるんですけど、僕からしてみたら、そんなに豹変していないと思っているんです。映画は小春視点で描いているので、「大悟には、こんな一面があった!」と見えてはいますけど、大悟からの視点を想像すると、30何年間ずっとああいう生き方をしているはず。大悟は、頭からずっとそのままでいて、求めているものはいつも一緒で、ずっとそれをやっているだけだと思っていて。小春にとっての日常の延長線とか、大悟にとっての日常の延長線、普通に毎日を過ごしているはずなのに、「何で今こんな場所にいるんだ…」みたいな危うさを、しっかり描けた映画になっているのかな、と思います。渡部監督からのメッセージ「社会の無意識な重圧に気づいてもらえたら」――土屋さんは、インタビューで「物語の過程を見てほしい」、「自分なりの幸せの形を見つけてもらえたら」とお話されていました。監督からも最後にメッセージをいただきたいです。伝えたいことは3つあります。ひとつは、自分が理解できないという側の視点に立ってみることは重要じゃないかな、というところです。理解できないと思う人の人生を体験してみる重要性というか、小春の目を通して、想像できなかった側の視点に立ってみる価値はあるんじゃないかな、と。ふたつ目は、単純に家族って、すごく不思議な関係性だなと僕は思っているんですね。本音を秘密にし合う運命共同体、という感じですかね。永遠に不思議な家族というものの、家族愛の強い人たちの話を、僕がやってみたかったというのがありました。3つ目、最後、作品の中で小春がモンスターのような存在になっていくのは、自分のなりたい理想を求めているがゆえの、裏に苦しみや悲しみがあるからだと思うんです。社会の中で無意識ながら存在しているプレッシャーを感じているというか。世の中に存在する数多くの重圧を、この映画にいろいろ詰めています。家族になるプレッシャー、子育てのプレッシャー、1回手に入れた幸せを手放せなくなるプレッシャー…無意識ながら追い詰められていってしまい、強がって「私は大丈夫」と保とうとするから余計苦しんでいってしまう。モンスターじゃなかった人たちを、気づけば「モンスター」と呼ばれるような存在にしてしまう、そういう社会の無意識な重圧に気づいてもらえたら、という気持ちで作りました。(text:赤山恭子)■関連作品:哀愁しんでれら 2021年2月5日より全国にて公開©️2021 「哀愁しんでれら」製作委員会
2021年02月10日仲野太賀、28歳。菅田将暉、神木隆之介、有村架純、吉岡里帆らとともに、「黄金世代」と呼ばれる1993年生まれの実力者たちの一角を担う彼は、いま変革の時を迎えようとしている。2020年には、主演映画『泣く子はいねぇが』をはじめ、7本の出演作が公開。テレビドラマ「あのコの夢を見たんです。」「この恋あたためますか」にも出演し、ますます活躍の幅を広げている。そんな仲野さんの2021年1本目の新作映画は、念願だったという西川美和監督との本格タッグ作『すばらしき世界』(2月11日公開)。人生の大半を刑務所で過ごした元殺人犯の三上(役所広司)が、出所後に“カタギ”として生きようと決意するも、その道のりは険しく…。仲野さんは、三上を取材する元テレビ番組制作会社勤務の津乃田に扮し、いち取材対象を超えて、三上と絆を結んでいく重要な役どころをこなしている。今回は、日本映画界に欠かせない存在へと成長した仲野さんに、単独インタビュー。作品の舞台裏はもとより、芸能界入りした2006年から現在までの彼の歩みを、共に振り返る。西川美和監督作にハマった「日本映画史上最高の瞬間」仲野さんと西川監督の“出会い”はスクリーン越しではなく、中学校の授業だったという。「国語の先生が授業中に、『ゆれる』の小説を薦めてくれたんです。40代くらいのお母さん世代の先生で、大槻ケンヂさんのエッセイを教えてくれるような方でした。先生の言葉で小説を読み始めたらすごく面白くて、その流れで映画も観て、子どもながらに感銘を受けました」。歴史に名を遺す人物は“出会いを引き寄せる力”も持ち合わせているというが、仲野さんもそんな星のもとに生まれたのだろう。「すごい先生でしたね」と恩師に感謝を述べつつ、映画『ゆれる』を観た当時を、仲野さんはこう振り返る。「まず物語の面白さに引き込まれたのですが、香川照之さんの演じた役が一面的ではないところがとても印象的でした。角度によって、全く違って見える…つまり、人間の複雑さを豊かに表している気がしたんです。そこに、西川監督が生み出すそれぞれのセリフだったり状況だったり、人間の芯をついた要素が加わって、とてもえぐられました。観ていて苦しくなったし、『映画が観る人に与えるものってこんなに複雑なんだ』と衝撃を受けたんです。同時に、人間を描く“強さ”も感じて、頭を殴られたような感覚になりましたね」。丁寧に言葉を選びながらも、口調が次第に熱を帯びてくる仲野さん。「香川さんのラストカットが衝撃で…カメラを観てふっと笑って、バンッて映画が終わるんですが、僕にとっては日本映画史上最高のラストカットなんじゃないかと思うくらい好きなんです。香川さんのあの表情を、良く練習していました(笑)」。本人は照れ笑いを浮かべるが、それほどまでに西川監督の現場は目標であり、夢の場所だったのだろう。「ゼロ年代の日本映画からは、特に影響を受けています。憧れていましたし、恋焦がれていました」という仲野さんの言葉からも、そんな思いが感じ取られる。西川監督が2010年に演出で参加したテレビドラマ「太宰治短編小説集」第3シリーズ「駆け込み訴え」 の撮影時には、マネージャーに「何が何でも出たい」と掛け合って現場に参加したとか。その際の出番はわずかだったというが、その後『ゆれる』の主演俳優だったオダギリジョーとは『南瓜とマヨネーズ』で共演し、『すばらしき世界』で西川組に本格出演を果たしたのだから、着実に夢をかなえてきた印象がある。苦悩の時期に道を照らしてくれた、岩松了の存在ただ、芸歴15年間は、決して順風満帆な道のりではなかった。ここからは、仲野さんの言葉と共に、『すばらしき世界』に至るまでを紐解いていこう。「僕はこの仕事を始めた当初から、映画俳優というものにものすごく憧れを抱いていました。自分が好きな俳優さんもそう呼ばれている方が多かったし、その想いがあったがゆえに、見向きもされない時間がとても苦しかったですね。いまは、志が高かったからだと受け止められるのですが、10代の頃はとにかく悔しくてしょうがなかったです。そんななかで、最初に手を差し伸べてくれた感覚があったのは、岩松了さんの演劇に出させていただいたとき(『シダの群れ 純情巡礼編』)。当時は、18歳くらいでした」。仲野さんの口から出てきたのは、意外な人物の名前だった。岩松さんといえば、劇作家・演出家・俳優・映画監督とフィールドを問わずに活動するマルチクリエイター。ある種専門職的な意味合いのある「映画俳優」とは、真逆のポジションではないか。「岩松さんと出会って、『自分がこだわっていた映画に対する想いは、演劇にもあるのか』と気づき、視野が広がったんです。また、僕自身も、見向きもされない期間に『自分は映画俳優にはなれない』と思ってしまって…。それは悲しくもあり、自由になれる瞬間でもありました。そこからは、ドラマや演劇含めて、媒体にこだわらずに様々な方とお仕事をさせていただくように変わっていきました。だから必ずしも映画だけが手を差し伸べてくれたわけではなく、演劇にもドラマにも自分の可能性を広げてくれた人たちがたくさんいて、とても感謝しています」。良薬は口に苦し――。かつての仲野さんが経験した“挫折”は、飛躍への起爆剤でもあったわけだ。彼は「ここ2・3年が転換期だったと思っていて、自分に手を差し伸べてくれた方々や、ご一緒したかった方々と立て続けに仕事ができるようになりました。その最たるものが『すばらしき世界』でしたね。ずっと切望して、恋焦がれていた場所に来られた気がして、本当に嬉しかったです」と顔をほころばせる。「『ゆれる』を観て、西川監督とはいつかご一緒したいと思い続けていましたし、役所広司さんは日本映画の大黒柱であり、共演するのは俳優人生において最大の目標の一つでした。そして、念願かなって現場に入り、周りを見渡すと、数々の日本映画を作ってきたスタッフの方々がたくさんいたんです。僕にとって『すばらしき世界』は、聖域のような場所でした。その中にいられた時間は、本当に楽しくて幸せでしたね」西川監督とシンクロした、入浴シーンもどかしい“我慢の時間”を乗り越えて、ついに夢の場所へと到達した仲野さん。となると気になるのは、「にもかかわらず、なぜあそこまで安定したパフォーマンスを発揮できたのか?」だ。仲野さんは『すばらしき世界』の劇中で、役所さんを相手に堂々と渡り合い、圧巻の存在感を見せつけている。焦りも不安もなく、淡々と「良い芝居」を繰り出せたのは、どうしてだろう?「10年早くここに立っていたら浮足立っていたかもしれませんが、自分は自分なりに様々な現場を踏ませていただいて、何かしら形成されたうえでこの場所に来ることができました。色々な場所に行って、多くの人と出会って…。そのすべてが、僕の自信にもなったんです。だからこそ、ようやく出会えたこの環境に対して、しっかりと自分の仕事をしたいという思いがありました」。無駄なことなど、一つもなかった。知識も経験も蓄えたからこそ、憧れの人々とがっぷり四つに組むことができたわけだ。仲野さんは「西川監督は、どこまでも寄り添ってくれました。僕が感じた疑問を自分のことのように一緒に解決してくれたし、役所さんと共演する喜びすらも、共有できたんです。伴走者のように、どこまでも一緒に走ってくれる方でした」と、西川監督の存在も大きかったと語る。「具体的に『ここをこうしてほしい』というよりは、衣装合わせでお会いした瞬間に、すべてを託していただいたような、そんな感覚がありました。『これが人に何かを“託す”ということなんだ』と、西川監督から教わったかもしれないですね。どこまでも一緒にいるし、手を差し伸べてくれるんだけど、こちらにちゃんと“責任”を渡してくれる。だから僕も、ちゃんと応えなければと思える。とてつもない“信頼”をいただいた気がしています」。仲野さんが感じた、西川監督との絆。一緒に、ものづくりをする意義。その象徴が、津乃田と三上が共に入浴するシーンだったという。「役所さん演じる三上と、津乃田がお風呂に入るシーンは、僕自身も演じるうえでとても重要だと考えていました。本作ではふたりの“距離”をすごく大切にしていて、三上と津乃田が取材対象と取材者だったのが、友人になったり見放してしまったり、関係性がころころ変わっていく。ただ、あの瞬間だけは裸一貫で、人と人として寄り添いあう。その様子が父と子のように見えればいいなと思っていたら、本番前に西川さんが『ここは息子が父を見るような気持ちで演じてほしい』と言ってくださったんです。自分の中で感じていたものと、西川さんが描きたかったものがマッチして、託された身としてはすごく嬉しかったですね」。仲野太賀の演技論:「主観」と「客観」の意識について仲野さんの語りを聞いていると、理路整然とした思考回路と、俯瞰的な視点にうならされる。ある種、演出的な目も持っている彼は、役者としての自身をどう分析しているのか?本人は「全部つながっている感覚がありますね」と前置きしたうえで、言葉を紡いでいく。「演じるうえで、『どういう風に表現したいか』『それがどう見えたほうがいいのか』――主観と、客観はすごく意識はしています。演じる際のディスカッションも、作品に合わせて姿勢を変えていますね。入念に打ち合わせてから本番を迎えるパターンと、本番でまず体験してみるパターンと、やり方は組む人それぞれで違います。やっぱり、言葉を尽くしすぎると“共通言語”がなかった場合、表現にズレが出てきてしまうんです。たとえばお互いに共通言語がなかった場合、やってみたほうが言葉以上に伝わることもあるし、言葉で言い尽くせることをやってもしょうがないという思いもあります」。言葉にならない“演技”という領域を、ここまで的確に解説できるスキルには舌を巻く。やはりこの人は、これから加速度的に、もっともっと上に行くのだろう。そんな確信を抱きつつ、最後に2021年の抱負を伺った。「時代の変わり目という大きな出来事があったからこそ、自分がここからどういう風に映画や演劇やドラマに関わっていくかは、慎重に考えたいなという気持ちにはなりました。外出自粛期間中に、改めて創作の強さを如実に感じたんですよね。自分は何を表現できるのか、何を表現したいのか、どういうものに携わっていきたいのか…より真摯に考えたい。この世界に誠実なものを作っていきたい、観る人に寄り添える何かを作りたいと思っています」。(text:SYO/photo:Jumpei Yamada)■関連作品:すばらしき世界 2021年2月11日より全国にて公開©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会
2021年02月08日自分のイメージにないものを演じる挑戦と興奮、それは俳優だけが享受できるものだ。土屋太鳳が持つ清廉さは『哀愁しんでれら』(2月5日より公開)には1ミリも存在しない。剥き出しの喜怒哀楽と愛情への執着と貪欲さ、人間の尊厳を根底から揺るがす、シンパシーを感じない人物を土屋さんは演じた。「…これって土屋太鳳だよね?」こちらが戸惑うほどに、どぎまぎしてしまうほどに。強烈なインパクトを剛速球でくらう。俳優としての進化を感じさせる、グラデーションの効いた役、土屋さんの圧倒的な佇まいについて感想を伝えると、「うれしい…ありがとうございます。すごくうれしいです。最初、3回お断りした役だったので」と、「ああ、土屋太鳳だ」と認識させてくれるイノセントな微笑みで、土屋さんは同作について語り出した。覚悟が必要だった役、しかし「“難しいな”とは、あまり感じなかった」主演映画『哀愁しんでれら』で土屋さんが演じたのは主人公、小春。児童相談所で働く実家暮らし・26歳の小春は、ある夜、信じられないほどの不幸が重なり、すべてを失ってしまう。どん底にいた小春だったが、バツイチ&子持ちの大悟(田中圭)と出会った。人柄のよさもさることながら、開業医という地位、広い戸建ての家、そしてかわいい娘という背景も込みで彼に惹かれ、小春は結婚へと進む。「シンデレラストーリー」と友達に羨望がられるほど、順風満帆な結婚生活。しかし、娘からは地味な嫌がらせを受け、愛する夫は理解しがたい“癖”を持っていた。いくつもの落とし穴を、見て見ぬふりをして過ごす小春。その代償は、彼女自身の性格を狂気に染め、とんでもない顛末へと転がっていく。家族や周囲に翻弄され、変化していく小春というキャラクターを演じたことについて、土屋さんは「振り幅がある役のほうが、割とやりやすいんです。“難しいな”とは、あまり感じなかったんです」と意外にも、すんなり入っていけたと話した。小春を生きる上でのキーワード、土屋さんが広げた共通項は「幸せになりたい、という気持ち」だった。「小春が思っている“幸せになりたい”という感情は、私もわかるところがあります。あと、“自分を認めてくれる人に出会いたい”という願望も、自然なことだと思うんです。もちろん、それで小春が取った行動は、受け入れられないところはありましたけど、私が小春をやると覚悟して(現場に)入ったからには、全力で生きようと思いました」。「覚悟が必要だったんですね?」そう聞くと、土屋さんは「はい、覚悟は必要でした」と真っすぐ答えた。「狂っていくことが美しいでしょ?、とは思ってほしくなかったんです。すごくつらくて、苦しいことだから、格好いいという風に受け取ってほしくないと思って、本当に小春が生きているようにしたかったので」。ともすればダークヒロインになってしまう小春を、祀り上げないように演じた。土屋さんの覚悟は、人物の丁寧な掘り下げに表れており、だからこそ、本作は痛みを感じる仕上がりになっている。土屋さんからのメッセージ「自分なりの幸せの形を見つけて」本作のトレーラーでは、「なぜこの女性は社会を震撼させる凶悪事件を起こしたのか」という文字が躍る。いわゆる「どんでん返し」、「とんでもないことが起こるかもしれない」を予告している作品だ。土屋さんに、そもそもそうしたジャンルの映画は好きなのかを聞いてみると、「ドキドキする作品は、すごい好きですね!ただ、不条理に人が巻き込まれていくお話とかだと、首謀者に腹が立って、腹が立って、泣いちゃうんです(笑)。“何してんだー!!私がやってやる!!”と怒りで」と、正義感をのぞかせた。そうした物語の終盤に小春が取る行動は、大悟や子どもを愛するがゆえ、家族の一員として受け入れられたいがゆえの、切実な気持ちから発するもの。大事な人を守りたいという気持ちに関しても、土屋さんは理解を示す。「自分の好きな人が傷ついた、となったら“私は許さない”と思うかもしれないです。姉とか弟、父や母、周りの大切な人に嫌なことがあったときは、どこかで許せない感が…出てしまいます。その相手に何かしてやろうとか、具体的にそういうわけではないんですけどね、そう思っちゃいますね」。波紋を呼びそうな作品が、世に放たれる。同時に土屋太鳳という俳優の真価をまた、世間が知る一作にもなる。「『哀愁しんでれら』は、最後ああいうことが起こるまでの過程を、やっぱり観てほしいと思います。自分の中で、どこかに押し殺している気持ちや不安に思っている気持ちって、あると思うんですね。幸せになりたいと思うと、イコール結婚、子どもと考えてしまいがちですけど、…私もそういうところはあるんですけど、そこには壮絶な戦いがあるのかなと思います。この作品を観て、“自分はこういう形の幸せになりたい”と、自分なりのものを見つけてもらえたらいいな。そして、そこにいくまでの過程を大事にしてほしいと思います」。(text:赤山恭子/photo:Jumpei Yamada)■関連作品:哀愁しんでれら 2021年2月5日より全国にて公開©️2021 「哀愁しんでれら」製作委員会
2021年02月01日安藤サクラ主演『百円の恋』の監督・武正晴、脚本・足立紳をはじめとしたスタッフが再集結し、森山未來、北村匠海、勝地涼がそれぞれ闘う理由も、バックグラウンドも異なるボクサーを熱演した『アンダードッグ』。「ABEMAプレミアム」にて配信版(全8話)が配信されている本作で、この度、ずば抜けた身体能力と表現力で主人公の崖っぷちのボクサー・末永晃を演じた森山さんと、「週刊少年マガジン」にて1989年から連載され、アニメ化もされた人気ボクシング漫画「はじめの一歩」の原作者・森川ジョージとの貴重な対談が実現。森山未來のふくらはぎが「ガンダムのよう」!?森川:撮影って結構バラバラにやったりとかするじゃないですか。でも、これに限っては森山さんはどんどんボクシングの型もできてて、スウィングスピードも上がってるわけですよ、振っていくのも。そこは順を追ってやっていったんですか。森山:ほぼほぼ順撮りですね。最初のかませ犬的な、点描的なものが序盤にあって、海藤(演:佐藤修)戦のタイトルマッチをやって、宮木(演:勝地さん)戦、大村(演:北村さん)戦というふうになっていたので。単純に映画の中でたくさん発見があったのは、12月にプロテストを受けたんですけど、撮影の開始は1月なんですね。プロテストって基本的にワンツーしか見られないじゃないですか。あとディフェンスとスタミナっていう。だから、基本的にフックとかボディとか、映画の振付としてはちょっとやってたんですけど、12月まではほぼワンツーだけやってた感じだったんです。でも、片や末永晃はそれこそ、ボディもありますけど、左フックが主体だったりだとか、スタンスが全然違うから、撮影をやっていくうちにプロテストのための練習よりも勉強になることがどんどん増えていって。森川:なるほど。森山:だから、本当にやっていくうちに宮木との試合とかでもまた勉強になっていくことも増えていって。という意味では、単純にちょっとずつ上達していたっていうのはあるかもしれないです。森川:本当にうまくなってるって思って。もともと末永は上手い設定だから。日本(ライト級)ランク1位じゃないですか。そういう設定なんですけど、それが勘を取り戻しているように見えるんです。そんなに下半身は映ってないんですけど、最後の試合に臨む前の練習で縄跳びのスキッピングやるところがあって、そこだけ森山さんの脚が映るんですが、それがガンダムみたいな脚じゃないですか!森山:(爆笑)森川:うわ、随分鍛えたなって。なるじゃないですか、ふくらはぎが。うわっと思って。どんどんラストに向けて体ができていって、スウィングスピードが速くなって、ちゃんと試合になっていくような。多分気持ちもできているから試合になっていくんですよ。途中で投げないボクサーになってましたから。うわ、凄いと思って。森山:実際、(プロが行う食事療法)カーボ・ローディングとかもやりましたから。本当に面白かったです。こんなに体って変わるんだっていう。森川:面白いですよ。森山:純粋な驚きがありました。森山未來が考える“プロフェッショナル”とは?森山:単純に、自分の性格とこの仕事の特性みたいなものが僕は運良く合ってるんだろうなとは思ってるんです。ボクシングというもののためだけに人生を捧げられない、と僕は思っていて。それこそ自分の好奇心というか興味のおもむくままにいろいろ流動的に動く、落ち着きがないともいうんですけれど、流動的に動くのが自分の性に合っているので。だから、1年という期間を決めてボクシングをやるとなったら、何か入れ方っていうのは自分なりにあるとは思っていて。だからボクシングっていうものだけを見つめ続ける能力を持っている人は本当に素晴らしいと思うし、僕には全くない、ある種の能力だと思うんです。でも、大きな表現というか、舞台芸術だったり、映像表現だったり、こういう表現の場において自分がどういうアンテナを張り巡らして、ここに行ったら面白いんじゃないかというところで人と出会ったりとか、その自分の好奇心とか、自分で向かう先をパンパン、パンと振っていくっていうその直感、と言ってしまうとちょっと抽象的なんですけど、そのセンスっていうのは大事にしたいなとは思っています。森川:僕は、当たり前のことなんですけど、読者が一番大事。ボクシング漫画を始める前に3つKO負けしてるんですよ。才能ないな、と自分で思い知らされたんで。それから「はじめの一歩」で初めて成功って思えたんですけど、これは本当に読者のおかげですね。少年マガジンってボクシングファンが少ないというのが大前提にあるんですけど、その中で全員楽しませられるものはなんだろう、というのをずっと追いかけてる感じです。「漫画うまいってなんですか」というは読者に楽しんでもらうってなんですか、というのと同じだとおもってるんで、それが永遠のテーマですね。最後には、これだけは聞きたかったという様子で森川さんから、「試合中の撮影のとき、当ててます?」との質問が。「ボディと、ガード越しは当ててます」との森山さんの答えに、「見ててキツそうだな、と思いまして。当ててるの分かりますからね。お客さんにも分かってもらえるといいですね。当たってますよ、っていう」と感心した様子の森川さん。「本当にやってますから。その視点で見てほしいと思います」と続ける。そんな森川さんから「一歩」の描き下ろし色紙がプレゼントされると、「やった!めちゃ嬉しい、ありがとうございます!家宝にします」と、劇中とは別人のような満面の笑みが森山さんからこぼれていた。森川さん流の漫画の描き方と森山さんの撮影の悩みの共通点は!?後編インタビューはABEMAビデオにて公開中。劇場版『アンダードッグ』前後編は全国にて公開中。配信版は「ABEMAプレミアム」にて独占配信中(全8話)。(text:cinemacafe.net)■関連作品:アンダードッグ(2020) 2020年11月27日よりホワイトシネクイントほか全国にて【前編】【後編】同日公開ⓒ2020「アンダードッグ」製作委員会
2021年01月31日安藤サクラ主演『百円の恋』の監督・武正晴、脚本・足立紳をはじめとしたスタッフが再集結し、森山未來、北村匠海、勝地涼がそれぞれ闘う理由も、バックグラウンドも異なるボクサーを熱演した『アンダードッグ』。「ABEMAプレミアム」にて配信版(全8話)が配信されている本作で、この度、ずば抜けた身体能力と表現力で主人公の崖っぷちのボクサー・末永晃を演じた森山さんと、「週刊少年マガジン」にて1989年から連載され、アニメ化もされた人気ボクシング漫画「はじめの一歩」の原作者・森川ジョージとの貴重な対談が実現。開口一番「面白かった」と語る森川さんから観た『アンダードッグ』についてや、実際にプロテストにも挑戦し、“かませ犬=アンダードッグ”のボクサーとして役を生きた森山さんのプロフェッショナルな姿勢などが語られた。「やめられない。未練がある」そういうボクサーは多い森川:本当に僕、褒めるの下手で語彙力なくて申し訳ないんですけど、主人公が心配で心配で…。うまくいかないんだろうなっていうことの連続で。また持ち直してがんばる、がんばるの連続なんですけど。これはうまくいかないんだろうな、と思いながら。でも、本当に面白かった。大人のドラマだなと思って僕は観ました。森山:ボクシング指導の松浦(慎一郎)さんからお話を伺ってはいたんですけど、ああいう(末永晃のような)タイプというか、ああいうふうに生きざるを得なくなってしまったボクサーとの出会いって、いままでありましたか。森川:僕も会長としてジムを経営しているんですけど、僕が知る限り、ああいうボクサーは間違いなくいます。やめられない、まだ未練がある、もう一発やれるんじゃないか、そういうのがあるでしょうね。KO負けしても、またお願いしますって来たりとか。こっちではもうこれで終わりだろうなって思ってるわけです。なのに、まだやりたいですって来るわけです。そういうボクサーは多いと思いますね。森山:末永晃は夜にしかジムに行けないので。午前中とか昼間とかは現役の若い選手もいるから、行くのも憚られて、夜しか行くことができない。でも、夜に行ってもトレーナーも会長もいないから、自分を追い込む相手とか、稽古する相手がいないからどんどん変なクセもついていくし、結局身にならないトレーニングになってしまう。そういうボクサーもいるとは聞いていました。森川:いるんです。森山:そうなんですね。今回『アンダードッグ』っていうタイトルですけど、かませ犬っていう、外から見てかませ犬的に扱われているっていう見方はあると思うんですけど、やってる本人としてはかませ犬だと思ってやっているボクサーは基本的にいないっていう話も聞いたんですけど。森川:それが難しい。どこの会長も恐らく、選手をやめさせるのが一番の仕事なんですよ、もう駄目だよって。映画の中でもありましたけど、それが役割だと思うんですけど。やっぱり事故も起こります、ボクシングですから。あのパンチもらったらお前無理だよっていうのがあるんですけど。選手にとっては職業のひとつじゃないですか。俺の職業、何でお前が決めるんだってことになっちゃうんで。引き際は自分で決めたいんだよ、っていうのはやっぱりすごくある問題で。移籍してもやるっていう人は多いです。森山:それは会長も気持ち汲んじゃいますもんね。森川:そうですね。僕も劇中では、会長の気持ちになって「やめよう、やめろよ」って思ってました。森山:そうですよねえ。人間ドラマをきっちり描かないと「試合で応援してもらえない」森川:『アンダードッグ』を見る限り、僕が一番気をつけていることをやっているなっていうのはありました。「少年マガジン」の読者には、ボクシングファンは多分1割もいないんですよ。だからボクシングを描いても受けないんです。それでどうやるかっていうと、主人公を好きになってもらう、主人公の環境を好きになってもらう、主人公の周り人たちを好きになってもらう。人間ドラマですよね。まずはそこを描かないと、試合が始まっても応援してくれないんですよね。ですから『アンダードッグ』も、試合に行くまでをじっくり描いているじゃないですか。そうそう、そういう描き方しないと、きっと試合では応援してもらえないよなと思って観ていて。それで試合で応援している自分がいるので、「ああ、勉強になったな」って思いながら僕は観ました。――『アンダードッグ』の前半戦では末永の日常を観ていくうちに、共感したという観客が多いようなんですが、ボクサーの日常について先生はどう思われますか。共感というか、そのキャラクターが好きになっていくというか。森川:僕ね、(主人公が)不安で不安で。ダメなやつだな、こいつと思いながら、でもいいとこあるじゃないですか。女性のこと「待ってるから」とか。あれも多分、適当に言ってるんですよ。本気でちゃんと思ってたら…。森山:そこ「最低だね」って言われますからね。そんなに見え透いてるのかなっていう(笑)。森川:不安でしょうがないんですよ。だから、どうなんだろう、こいつ。本当にがんばってチャンピオン目指すのかな。もしかしたら途中で投げ出してもおかしくないですよね。何か不安で。自分にもダメな部分があるから共感はしますけど、「がんばれよ」しかない。森山:「少年マガジン」では性的描写って描けないじゃないですか。今回、逆に言うとすごく盛り込んでるじゃないですか、主要な3人のボクサー全員に。末永は明確なパートナーっていないけれど、ほかのボクサーにはちゃんと彼女や奥さんがいて、性的描写がしっかり出てくるじゃないですか。それってどう思われますか。というのは、末永に関していうと、ボクサーとそれを支える女性っていうことになるんですけど、その描かれ方っていうのが、ともすれば杓子定規に見えることもなくはないかなとおもうんですが。末永の場合は妻(演:水川あさみ)にも逃げられてるし、生活もうだつが上がらない中で何とかやりくりして。デリヘルの女性(演:瀧内公美)と関わって。彼は言葉をしゃべらない、無口なので、セックスをするっていう描写そのものも彼自身の何かメンタルの表れみたいにならないかな、と思いながらやってるところはあったんです。森川:末永は夜の街に流れていったボクサーなので、『アンダードッグ』で性描写はあって当然だと思うんですけれど。息子さんがいるじゃないですか。息子さんと夜の街とのコントラストが素晴らしくて。だから、息子の力強さだとか、清らかさみたいな、唯一の希望のように際立ったところかなと。「お前、息子のためでいいからがんばれよ」って思って観てました。森山:誰にも愚痴も吐けないけど、最終的に(息子の)太郎にだけ愚痴を吐くって言う…。息子に愚痴吐くの、みたいな(笑)。「俺どうしたらいいか、分かんないんだよ」みたいなことを子どもにしか言われへんのかい、っていう(笑)。――晃は知るよしもないんですが、母親がテレビ中継を何度消しても、息子はまたテレビを付けるっていうシーンがありましたね。森川:あのシーン、カッコいいんだよね、息子さんの決意みたいなのがうかがえて。僕はかなりグッと来ましたよ。「続けていったら世界チャンピオンですよ」と森川さんからお墨付きをいただいた森山さんが「撮影に向けて取り組んだこと」などはABEMAビデオで公開中。劇場版『アンダードッグ』前後編は全国にて公開中。配信版は「ABEMAプレミアム」にて独占配信中(全8話)。(text:cinemacafe.net)■関連作品:アンダードッグ(2020) 2020年11月27日よりホワイトシネクイントほか全国にて【前編】【後編】同日公開ⓒ2020「アンダードッグ」製作委員会
2021年01月30日2021年1月8日に発令された緊急事態宣言により、飲食店の営業時間が短縮。多くの店がラストオーダーは19時までとなり、人によっては外で夕食をとるのが難しくなってしまいました。また、在宅勤務によって自炊の機会が増え、「もうレパートリーがない」と悩んでいる人もいるといいます。街で見つけた変わったサービスに興味津々!そんな中、筆者が街で見つけたのは、ある飲食店が始めた面白いサービス。食材を持ってきたら1品200円~調理します!平日限定で10~16時半の間に食材を持って行くと、店にある調味料などを加えて1品200円から調理をしてくれるというのです。貼り紙には「買った野菜や釣った魚、畑でとれた野菜でもいい」と書かれています。どんな料理ができるのか、そしてどんな人がサービスを利用しているのかが気になった筆者は、実際に食材を持って店に行ってみました!実際に食材を持ち込んでみた!できたものは…この一風変わったサービスを提供していたのは、神奈川県横浜市にある『中国料理 堀内』。しっかりと感染対策をした上で、今回持ち込んだ食材はこちらです!左から、豆苗、里芋、キャベツ、大根、豚もも肉、小さい玉ねぎ、鶏むね肉…なんだこの葉野菜は!普段、街の小さなスーパーにしか行かない筆者。いつもとは違うスーパーで見慣れない野菜を発見したため、購入してみました。「ナニコレ!」と思わず手に取ったのは葉野菜のターツァイ。「よく分からない野菜を持っていけば、面白いかもしれない…」と選ぶも、のちのち凡ミスに気付くこととなるのです…。そして、小さい玉ねぎは『ペコロス』というもの。どんな料理ができるか楽しみです!店長のアドリブ力がすごすぎる…!できた料理に舌つづみ!早速、調理をしてもらいます。調理をするのは中華ひと筋23年の店長・駒形栄太郎さん。まず、持って行った食材を切って下ごしらえをします。「切ってるけど、まだ何を作ろうか決まっていない…」と迷っている様子。突然見慣れない野菜も入った8つもの食材を持ち込んで、「これで、中華料理を作ってほしい!」という無茶ぶりは大変かと思いきや、ササっと料理ごとに具材をグループ分け。しかし、まだ駒形さんは「何がいいかな…」と悩んでいます。筆者が写真を撮っているうちに、料理の構想は思い付いたようです。まず1品目に選んだ食材がこちら!いきなり見知らぬ顔の野菜・ターツァイが来た!注目の野菜、ターツァイと里芋を使って何ができるのでしょうか。手際よく調理を進める駒形さん。購入したスーパーでの売り文句には「炒め物に最適」と書かれていたターツァイを、やはり炒めて調理をしています。店の食材から、しめじ、豚ひき肉、ネギのみじん切りなどを加えてできた料理がこちらの『里芋とひき肉の黒コショウ炒め』!『里芋とひき肉の黒コショウ炒め』黒コショウが効いていて、チンゲン菜よりも柔らかいターツァイとの相性も抜群です!箸が止まらないおいしさでした。ターツァイというよく分からない野菜で困るだろうと思いきや、実は中華料理では定番の野菜なのだとか!しかも、ターツァイは中国野菜だったようです。筆者の凡ミスにより、駒形さんは難なくターツァイを調理してみせたのでした…。さらに2品目に入ります。ここにきてペコロスを投入!キャベツと、豚もも肉を使って炒めていきます。しばらくすると、すぐに2品目が完成!店の赤ピーマンと、ピーマンを加えて『豚肉とペコロスのホイコーロー風』ができました。『豚肉とペコロスのホイコーロー風』こちらもしっかりした味付けで、白いご飯があればいくらでも食べられそうなぐらいおいしいです。本音をいうと、玉ねぎが苦手な筆者。それでも、小さいペコロスがかわいかったため買ってみると、通常サイズの玉ねぎよりも甘みが強くどんどん食べてしまいました!手際よく3品目に入る駒形さん。自宅で育てている人も多い豆苗と、大根、鶏むね肉を使います。店から赤ピーマンとタケノコの細切りを加えて、『鶏むね肉と大根の塩味炒め』が完成です!『鶏むね肉と大根の塩味炒め』できたてほやほや。大根の柔らかさが最高です!塩味が効いていて、豆苗の青臭さも気になりません。3品をつくってもらい、かかった費用は600円!手間がかかる魚介類などの場合は200円以上になる場合もあるといいますが、今回は1品200円で調理してくれました。夕飯のレパートリーに悩んでいる人や、自分では作れないけど温かい手料理を食べたいという人には嬉しい値段とサービスですよね。一人暮らしの人でも、白いご飯を用意しておけばいいという手軽さです。通常、できた料理は持ち帰るためのパックに入れて提供されます。しかし、1品200円からという安さでこのサービスはとても嬉しいですが、店としては採算が取れているのかが不安になりますよね。1月初旬から始めたというこのサービス。店長の駒形さんに、始めたきっかけや利用者について聞いてみました。変わったサービスを始めたキッカケを聞いてみた店主に話を聞いてみた――サービスを始めたきっかけは?緊急事態宣言の予告の時から準備し、地域の人から必要とされる店であり続けるために、何かできないかというところを考えていました。同時に、コロナ禍で自粛期間中の家庭での食事を作る人へのお手伝いがしたいと思い、ほかがやっていないものをやろうと始めた次第です。時間を決めて行っているのは時短営業になったこともあり、ランチでもディナーでもないアイドルタイムの15~17時を有効活用したかったからです。――どのような人が利用しているか。小さい子供のいるお母さんですね。近くにある保育園のママ友つながりで、20~30代の女性の利用が多いです。――利用者は多い?まだ1日数件ほどです。保育園に迎えに行く前に食材を持ってきて、子供と一緒に料理を取りに来る人もいます。――どのような食材を持ち込む人がいるか。ギフトなどでもらった物が多いです。あとは、普段使用している豚肉や鮭なども、家だと同じレパートリーになるため持ち込む人がいます。――困った食材は?時間のかかる乾物は困りましたね。ひじきなど和食の食材が来ると、「このまま日本食を作ろうか」と思いますが…そこは納豆と炒めて中華にアレンジしました!ハムを持ってきた人には、チンジャオロースにし、鮭の切り身は黒酢あんにしました。アドリブで料理ができる力がないと成立しない、このサービス。駒形さんは「今までの経験や、まかないでやってきたのもあって、それが活かされている」と語っています。――このサービスを始めてからお客様からの反響や変化はあったか。ママ友つながりや、職場のつながりでのお客様が利用してくれるようになりました。お客様にも楽しんでもらえているし、自分も楽しい。「何ができるかな」という発想や、勉強にもなります。そこから新しいものが生み出されるかもしれないと思っています。――第2弾の計画は?はい、やる予定です。まだ次の企画は考えていませんが、利用されているお客様にも聞いて構想を練ります。「こういうのがあると買うのに」というのがあれば…。使ってくれている人に聞くのが早いと思うんですよね。店内とは違う新商品の開発が必要かもしれないし!家から鍋を持ってくれば、麻婆豆腐を300円で提供するというサービスも行っている『中国料理 堀内』。取材時には、こちらのサービスのほうが利用者が多く、一人暮らしの男性などがよく来店するそうです。「たまに使ってもらえればいいなと。そういうお客様が増えればいいなと思っています」と、駒形さんは語りました。飲食業界では、緊急事態宣言により20時までの時短営業を余儀なくされています。多くの店が、この時短営業に悩まされているようですが、駒形さんは…。――20時までの時短営業は厳しい?変化に対応していくしかないので、不満はいいません。新型コロナウイルス感染症が1日も早く収束するためには、我慢の時なのかもしれません。しかし、一方で飲食店は大きな打撃を受けています。また、時短勤務やテレワークといった、働き方も変わり生活が一変した人もいるでしょう。日々変化する中で、店のあり方や私たちの生活もまた変わっていく時なのかもしれませんね。『中国料理堀内』住所:神奈川県横浜市青葉区青葉台1ー29-36電話番号:045-982-2270営業時間:11:30~14:00、17:30~22:30(ラストオーダーは21:30)※政府の要請により緊急事態宣言発令中は、11:30~14:00、16:00~20:00(ラストオーダーは19:30酒類の提供は19時まで)持ち込みサービス:平日限定(受付時間10:00~16:30、調理受け渡し対応時間:16:00~18:00)定休日:月曜日(月曜日が祝日の場合、火曜日に振替)[文・構成/grape編集部]
2021年01月28日物語の始まりは、似た境遇で育った幼なじみ、キダ(岩田剛典)とマコト(新田真剣佑)の学生時代から。強い絆で結ばれた2人は転校生のヨッチ(山田杏奈)と出会い、3人で平穏な日々を過ごしていた。そんな彼らの青春は“ある時点”を境に、別々の道へ。しかし、かたや裏社会の人間、かたや実業家となったキダとマコトには、ある目的があった…。ラスト20分の真実。この世界の終わりに、あなたは心奪われる――。こんなキャッチコピーからも分かるように、『名も無き世界のエンドロール』は実に巧妙で厄介な作品だ。友情と恋心がもどかしく交錯する青春映画かと思えば、衝撃をはらむサスペンスの香りも。そのため、初共演の岩田さんと新田さんも、プロモーションに四苦八苦!?親友同士を演じた親密さを漂わせつつ、物語の秘密を共有する者同士の“共犯感”を匂わせつつ、作品やお互いのことについて語った。岩田剛典「まっけんは本当にいい具合に闇を匂わせる」──キダとマコトは幼なじみであり、同じ女の子に想いを寄せる者同士でもあります。岩田:キダの立場から言えば、マコトのような親友がいること自体は幸せなことだなと思いました。人生のいろいろな出来事を同じ目線で共有してきた唯一の人間ですから。キダにとってのマコトは他に変えることのできない、すごく大切な存在なんです。新田:ただ、キダがマコトを思うほど、マコトはキダを思っていないのかもしれなくて…。岩田:そう考えると、切ないよね(笑)。新田:はい(笑)。でも、マコトにとってはヨッチが“世界の全て”だから。キダのことも大切に思ってはいるけど、やっぱりヨッチが一番なんです。岩田:そこがマコトとキダの違いで、マコトは真っ直ぐなんですよね。その点、キダはもっと受け身。ヨッチへの想いがありつつ、マコトも大事で。現状に抗う気持ちと寄り添う気持ち、その間で生まれる葛藤を常に抱えながら生きているんです。──恋心すら内に抱える点には共感できましたか?岩田:でも、親友と同じ人を好きになったら僕も引くと思う。キダと同じですね。新田:引くんだ!岩田:うん、引く引く(笑)。新田:僕もです。岩田:僕もかい(笑)。新田:争いは嫌いなんで(笑)。それに、マコトの場合はキダの気持ちを知りませんでしたから。知っていたらどうなっていたか、そこはちょっと分からないですよね。──そんな親友関係を初共演にして演じ、お互いにどんな印象を持ちましたか?岩田:マコトって、難しい役だと思っていたんです。やることはストレートだけど、そこには闇があって。闇の出し方が難しいだろうなと。でも、まっけんは本当にいい具合に闇を匂わせるんです。匂わせ過ぎてもサスペンスとして成立しないし、匂わなければ表面的な役になってしまう。それを、実は意識して調節しているんですよね。表情も、話すスピードも、トーンも。まっけんがそうやって早い段階からマコト像を示してくれていたので、僕もキダになりやすかったです。新田:マコトも正義感の強い人ではありますけど、キダは正義そのもの。正義を貫くキダがいて、ちょっと矛盾しているマコトがいて。しかも、マコトのことを誰よりも考えてくれている。物語上、実は一番つらい役目なんですよね。そう思えたのは、岩田さんがキダを繊細に演じていたからだと思います。それに応えるお芝居を僕もできるように臨みました。──その“つらさ”を岩田さんは自覚していましたか?岩田:そうですね。ただ、確かにつらい役ですけど、ある意味客観的な役どころでもあるので。観客と同じ目線で物事を受け止めていくというか。そのせいか、キダのつらさに飲まれるようなことはなかったです。むしろ前向きな気持ちでいられたような(笑)。地方ロケで集中できる環境だったのも、作品と健全に向き合えた理由かもしれない。人生において「目的を達成する」こととは?──地方ロケで、お二人の距離も縮まりやすかったですか?岩田:うん。それは絶対にあります。まっけんは正直なんですよね。心の中をダイレクトに伝えてくれるから気持ちがいい。天真爛漫で、子ども心をまだまだ忘れていなくて。そんなまっけんに、現場で沢山の元気をもらいました。>新田:そう言ってもらえて、うれしいです。だから、ありきたりな言葉で返したくないけど…。岩田さんは例えるなら…。岩田:例えてくれるんだ(笑)。新田:ものすんごくいい表現をしたいんですよ。岩田:してみてよ。(笑)新田:いや、そう言われると…(笑)。でも、岩田さんこそ裏表が全くなくて。きっと、ファンの方々が知っている岩ちゃんのまんま!イメージ通りです。「みんなが思っている通り、岩田さんはかっこいいよ!」と僕は伝えたい。岩田:伝えてくれるのね(笑)。新田:はい。これからも大きな声で伝えていきます。──イメージ通りで、闇などもなく?新田:闇ですか?それはまだ見せてもらえていないです。でも、絶対にないと思う。だって岩田さんだもん。岩田:あるかもよ。ブラックホール並みの底知れないやつが。──(笑)。さて、ネタばれをしないよう気をつけなくてはいけませんが、この作品は人生の優先事項についての物語とも言えると思います。キダとマコトにとっては目的を達成することが第一で、そのために長い時間を過ごしてきたのですから。岩田:確かに。彼らの場合は、それが難しいことでもあった。その目的を知ると、尚更そう思います。でも、目的に向かう熱量の大きさに関しては、ある意味羨ましくもありますね。僕自身、人には遠い目的と近い目的があると思っていて。遠い目的を達成するためには、近い目的を次々とこなしていくことが一番の近道なのかもしれない。そもそも、先々の目的を具現化できる人って少ないと思いますし。いろんな経験、いろんな出会いが影響してくることも少なからずあるはず。結局、自分の目の前にあるミッションをこなすのが人生だと思うと、彼らの明快な生き方に惹かれる気持ちもあります。──岩田さん自身の目の前のミッションは?岩田:僕ですか?この映画を上手くプロモーションしていくことです。新田:難しいですもんね。言っちゃいけないことが多過ぎて(笑)。岩田:そうなのよ。──気持ちはすごく分かりますが、目の前過ぎます…(笑)。新田さんはキダとマコトの人生をどう思いましたか?新田:彼らはいつからそうなってしまったのか…。可哀想だなと思いますし、けれどそれを生きがいにしているのであれば、決して否定できるものでもないのかなと。演じた人間として、僕はマコトの一番の理解者でいたいので。目的を達成させてあげたいなと、一番近くで思ってきました。だからこそ、先々まで考えなくてはならない彼らとは違い、目の前のことに集中できる人生が幸せだとも感じました。(text:Hikaru Watanabe/photo:You Ishii)■関連作品:名も無き世界のエンドロール 2021年1月29日より全国にて公開©️行成薫/集英社 ©️映画「名も無き世界のエンドロール」製作委員会
2021年01月27日放送作家でタレントの高田文夫さんと、曜日ごとのアシスタントが出演するラジオ番組『高田文夫のラジオビバリー昼ズ』(ニッポン放送)。「新型コロナウイルス感染症(以下、コロナウイルス)が流行している、こんな時代だからこそみんなに笑ってほしい」との想いから、同番組の出演者たちが登場する舞台を高田さんが企画しました。舞台には、金曜アシスタントでタレントの磯山さやかさんも出演。インタビューで、演じた役について語ってくれました。磯山さやか、わりと筋肉痛!?明治座とタッグを組み、同番組のアシスタントたちが出演する企画舞台『よみがえる明治座東京喜劇 -ニッポン放送「高田文夫のラジオビバリー昼ズ」全力応援!!-』は、2021年1月29日~2月14日まで公演されます。2部制になっており、第1部は幕末が舞台の喜劇『こちとら大奥様だぜぃ!』。過去に明治座で上演された喜劇作品『俺はお殿様』を大奥様メインに変更し、パワーアップした爆笑必至のドタバタコメディです!物語に登場する、とある藩のバカ殿役は、歌手で俳優の前川清さん。大奥様役は俳優の田中美佐子さんが演じます。クリックすると画像を拡大しますそして磯山さんが演じるのは、大奥様のことをなんでも知っている奥女中。アドリブもある舞台のため、「ちゃんと拾って反応したい」と相手の言動に集中しながら演じているそうです。――自分に合っている役?私が演じる『紫』は、受け入れやすいキャラクターですね。割とこう、難しい役ではないといいますか…。「そこまで変な人ではない」というのは、私としてはありがたいなと思って。自分の身分によって立ち位置が違う時代なんですけど、まだ慣れてないのか、たまにそこを忘れちゃって!なんか前に出ちゃう時もあります。主演の田中さんは出ずっぱりで、普段使わない言葉が私のセリフよりたくさん並んでいます。――役柄の大変なところは?舞台が江戸時代なので、所作とか、言葉遣いとかが大変です。途中で言葉遣いが現代に寄るところもあるので、そうなるとちょっとホッとするんですけれど…。大奥様とお話する時は「わたし」ではなく「わたくし」。それが途中から「わたし」になるんですね。でも、セリフの間や気持ちの問題で、なかなかうまく切り替えられないことも。あとお稽古の最初のほうは、着物で動いてわりと筋肉痛になってましたね。着物自体は着慣れているので「すごい苦しい」とかいうことはないんですけど、所作とかが難しいのかな。――番組メンバーと同じ舞台に立つ感想は?心強いですね!同じ『ビバリー昼ズファミリー』がいてくれると安心感がありますし。同じく金曜アシスタントの松村邦洋さんが稽古場にいらっしゃる時、一生懸命な姿にみんな癒されています。モノマネをやってもらって、みんなが笑って和むこともあって。でも稽古中、厳しい時は厳しい。悩む時間も多いんですけど、面白いシーンとかは何回見ても笑えて!メリハリがものすごくハッキリしている現場ですね。明治座客席『四季喜昇座 - 時を紡ぐ緞帳』――コロナウイルスの対策は?稽古場に入る時の手洗いや消毒は、ずっとやっています。マスクとフェイスシールドを着けた状態でお稽古していて。あと換気を常にしているので、稽古場がめちゃくちゃ寒いです!風邪ひかないようにするのも結構大変で…。コロナウイルスだけでなく、冷え対策もそれぞれしていますね。あとマスクで表情がまったく見えない!いろんな負担がありますね。――本番はどうなりそう?マスクをして、目元だけ見えている状態で初めてお会いした人たちもたくさんいたので、顔と名前を一致させるのが結構大変。稽古場ではまだ、マスクを外してお芝居できていないので、だからこそ本番でお芝居をする時、嬉しいでしょうね。「あ、こんな顔してたんだ!」とか思うのかな。幕が開いたという感動プラス、その感動もあると思いますよ。――公演に向けての想いは?「ぜひ来てください」と私たちはなかなかいうことはできない感じですけれども…。でも、来ていただいたからには笑ってほしい!笑わせる自信はみんなあると思います。心が温まるというか、帰る時に「来てよかった」って思ってもらえるような舞台にしたい!私たちは気を付けて感染予防対策をやっていますが、お客様に協力していただくこともたくさんあるかなと。今まで以上にお客様と一緒に作る舞台になりそうです。2部もものすごい豪華ですよ。見に来ていただけたら嬉しいなと思います。第2部に公演されるのは、『ラジオビバリー昼ズ寄席』。『高田文夫のラジオビバリー昼ズ』の全面監修により、豪華メンバーが日替わりで繰り広げる、遊び心満載のステージをお届けします!クリックすると画像を拡大します大変な時期だからこそ、世の中には笑いが必要。『高田文夫のラジオビバリー昼ズ』や磯山さんのファンはもちろん、それ以外の人たちも、公演が気になったらチェックしてくださいね。よみがえる明治座東京喜劇 -ニッポン放送「高田文夫のラジオビバリー昼ズ」全力応援!!-[文・構成/grape編集部]
2021年01月25日私たち世代の、等身大の恋愛映画がついに生まれた――。率直に言えば、『花束みたいな恋をした』はそんな思いに駆られる作品だ。2015年、東京・明大前駅で終電を逃した21歳の男女、麦と絹。ふたりが歩んでいく5年間を、当時のカルチャーを織り交ぜてリアルタイムに描いていく。人気ドラマ「カルテット」(17)の脚本家・坂元裕二と土井裕泰監督が、映画では初タッグを組んだ本作。運命的な出会いに恋の予兆を感じたふたりが付き合い、同棲を始め、社会人になったことでモラトリアム期間が終わり、恋愛感情にズレが生じていくさまを、坂元ならではの“生きた”セリフの数々が彩り、土井監督の優しいまなざしが観客の涙を誘う。菅田将暉と共に、ある男女の5年間を生きたのは、近年ますます活動の幅を広げる有村架純。「有村架純の撮休」(20)や『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』(21)など、話題作に引っ張りだこの彼女は、どのような想いで本作に挑み、何を得たのか。本作の舞台裏から、大切にしている本や、いまの目標に至るまで、有村さんの豊かな“感性”と“言葉”があふれ出すロングインタビュー。じっくりと、身を浸していただきたい。坂元裕二の「設定に頼らない」姿勢に共鳴「撮影前に『坂元さんにとって「花束みたいな恋をした」はどういった作品ですか?』と聞いたら、『日記のようなお話です』とおっしゃっていたんです」と語る有村さん。「坂元さんの『麦(菅田さん)と、絹(有村さん)は、ある意味出会ってしまったことが悲しい運命だったのかもしれない』という言葉が、すごく印象に残っています。お互いの好きなものを全部共有してしまったし、多分この先も何かに触れた時に必ず思い出す存在になったはず。自分が好きだったはずのものが、ちょっと切ない思い出になってしまった――。そういう切なさは、坂元さんにしか表せられないものだと思います」。有村さんと坂元さんといえば、名作ドラマと名高い「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」(16)に続くタッグ。「完成版を一緒に観たのですが、『すごく良かった』と言ってくれて、だけど私に対して『今でもよく分からない人で、できればずっと知りたくない』とおっしゃっていました」と明かす。「坂元さんの中でどんどん想像して創作していってほしいなと思ったので、『知らないままでいてください』と伝えました」とほほ笑む有村さんの“返し”も見事で、早くも3回目のコラボレーションへの期待が高まるところ(ちなみに、今回の菅田さんと有村さんは、当て書き(役者を想定して脚本を書くこと)だったそうだ)。彼女自身も、坂元さんに対する“共鳴”を口にする。「坂元さんがラブストーリーを書くときに気を付けているのが、『わかりやすいシチュエーションや設定に頼らないこと』だそうなんです。そうじゃない方向で戦うために考えているし、課題を持ってやっているんだ、とおっしゃっていて、自分も納得できる部分がありました。私自身も近年等身大のキャラクターというか、目立たないタイプを演じる機会が多く、すごく難しいとずっと思っていたんです。でも、坂元さんがそこで勝負しているとおっしゃっていたから、自分自身も同じようにありたい、一個一個の役にちゃんと向き合いたいと改めて思いましたね」。菅田将暉との休憩時間の会話が、役に生きたちなみに坂元さんと菅田さんは、ドラマ「問題のあるレストラン」(15)に続いてのタッグ。同じ坂元作品の出演者だが、菅田さんと有村さんが本格共演するのは初めて。にもかかわらず、劇中では見事な連係プレーを見せている。一体どうやって、「何年も付き合っているふたり」の空気感を作っていったのだろう?「1か月半で5年間を演じないといけなかったので、本番以外のところで距離感や空気感を補いました。菅田くんも、本番以外の時間をすごく大事にしてくれていて、撮影以外の時間も音楽の話をたくさんしたり絵しりとりをしたり、そういう他愛もない会話をずっと現場で行っていましたね。その雰囲気のなか本番に向かっていけたので、どっちが演技かわからないくらいの感覚でした。おかげで、麦と絹の5年間を画面に映すことができたと思います」。さらに、Awesome City Clubやきのこ帝国など、劇中に登場するバンドの楽曲を改めて聴き込んだり、麦と絹をつなぐ今村夏子の小説を読んだり、その他の小説家や漫画家たちの作品を調べたりと、固有名詞がたくさん出てくる本作だからこそ、インプットに励んだそう。ただ、有村さんは「菅田くんとじゃなければ、この雰囲気は出せませんでした」と強調する。「ラブストーリーの経験は多くさせていただいているんですが、実は付き合い始めてからの物語って初めてなんです。いつも会えなかったり、先生と生徒の関係だったり、何かしらの壁があったので、こんなにスムーズに恋愛をしたことがなくて(笑)。付き合っている雰囲気をどういう風に出せばいいのかは、菅田くんのおかげで肩肘を張らずに、自然体で取り組むことができました」。また、有村さんは「菅田くんとは初めてこんなにしっかりお芝居をさせてもらったのですが、改めて思ったのは、彼はとても人望が厚い方だということです」と、彼の人間的魅力についても指摘する。「菅田くんはその人自身を認めて、受け入れられる方で、絶対に否定しない。菅田くんと接しているうちに自分のいいところが見えてくるからこそ、みんなからこんなにも信頼されているんだなと感じました。そうした姿勢を見られたことも、一緒に過ごせた1か月半の収穫ですね」。そして有村さんは、菅田さんとのこんな微笑ましいエピソードも明かしてくれた。「絹が初めて麦のアパートに行くシーンでは、パーマをかけていたんです。雨に濡れる描写もあるので余計に髪がくるくるしていたのですが、その後にあった『麦が絹の髪をドライヤーで乾かす』というシーンで、菅田くんがパーマが取れないようにすごく気を遣って乾かしてくれました」。撮影前と撮影後で全く違ったモノローグの演技『花束みたいな恋をした』で興味深いのは、「日記のようなお話」という言葉通り、麦と絹のモノローグ(独白)に、重きが置かれていること。坂元さんの作品の特徴でもあるが、時としてダイアローグ(対話)以上にセリフ量が多いのは、映画という形態においてはなかなかに珍しいバランスだ。役者からすると、モノローグは別録りであるため、「二度演じる」ような意識でもあるだろう。有村さんによれば、その部分にも実に本作らしいドラマがあったのだという。「最初に、『使うかはわからないけれど1回やってみよう』と、土井監督にも立ち会っていただき、俯瞰の目線で1回モノローグを録ったんです。そのあと、本編を全部撮りきったあとに改めてもう1回録り直したら、麦と絹を演じた後だから、全く客観的な目線じゃなくなっていたんですよ。土井監督も『麦と絹の話だから、モノローグも気持ちを込めて話したほうがいい』と言ってくださって、そういう意味では監督の演出がしっかり反映されたものになっています」。思えば、本作はほぼ順撮り(脚本の流れ通りに、順を追って撮影すること)で撮影が組まれており、そういった部分にも、『映画 ビリギャル』(15)でも有村さんと組んだ土井監督のマネジメントの上手さが感じられる。もちろん、「カルテット」などで坂元さんの脚本の活かし方を把握している、という経験則もあるだろう。「普段口ではしゃべらないようなことが言葉になってセリフで起こされていた部分がいっぱいあったんですが、不思議と自分のすぐ近くに言葉が落ちている感じがしたんです。坂元さんが書くセリフは、着眼点だったり、目立たない方を主人公にしていることもあったりして、本当に呼吸をするように自分の中で咀嚼できる。だからこそ、モノローグでもダイアローグでも、あの雰囲気が出るんだと感じましたね」。清廉な言葉で、坂元さんが紡ぐ言葉の魅力を分析する有村さん。改めて、本作の中のお気に入りのセリフを聞くと、「サンキュー、押しボタン式信号」を挙げてくれた。これは、麦と絹が初めてキスを交わす際に登場するもの。「押しボタン式信号に感謝する時が来るとは思わなかったですね(笑)。当たり前すぎてスルーしがちな出来事を坂元さんはちゃんと覚えてて、言葉にしてくれる。『押しボタン式信号って、(ラブストーリーの中で)こうやって使うんだ!』とびっくりしました(笑)。すごくユニークで、チャーミングで…とても気に入っています」。“お守り”になっている書籍「日日是好日」笑顔も交えながら、リラックスした雰囲気で、はきはきと質問に答えてくれる有村さん。それでいて一つひとつの言葉が洗練されており、その言語化能力の高さには、改めて驚かされる。ここからは、芸歴11年目に突入した現在の有村さんを形成した「経験」や「信念」について、話を聞いていこう。劇中では「2014年のサッカーワールドカップのブラジル国民よりはまし」と、自身のメンタルケアを行う絹の姿が描かれる。有村さんはどうやって、苦しいときに自分を奮い立たせているのだろう?彼女は「綺麗ごととか、格好つけているわけではなく、自分に矢印を向けちゃうタイプなんです」と前置きしたうえで、話を続ける。「やっぱり、大変な現場を乗り越えられたことが大きいですね。たとえば、朝ドラに出演していた時期は、平日はタイトなスケジュールをこなさなければならず、撮影がない土日は別のお仕事を行っていました。そういう状況の中で過ごした期間中は正直ついていけていない部分もありましたが、いまは『あれを経験したんだから大丈夫!』と思えるようになりました」。苦難も試練も糧にして、成長してきた有村さん。「作品の空気や世界観にブレがないかなど、自分が演じる役柄以外のところをより考えるようになりました」と変化を語る。だが同時に、「そういった部分を見られる余白はできたかなとは思いますが、まだすべてに気を配れているかというと、全然そんなことはないです」とストイックな姿勢も崩さない。それは、「自分一人ではない」という意識が働いているが故だろう。「どの現場に行っても、セットをじっと観察しています。その役が生きている説得力がより強まるものが、衣装や美術だと思うんです。役を演じるヒントがたくさん隠されていて、面白いですし、いつも助けられていますね」との言葉からも、俳優部としての矜持がにじむ。常に貪欲に、かつ真摯に――。下学上達を地で行く部分が、有村さんの強みだろう。そんな彼女の“お守り”になっているのが、書籍「日日是好日-「お茶」が教えてくれた15のしあわせ-」だ。「自分の人生の基盤になっていますね。茶道の話ではありますが、人間としての在り方やお芝居の向き合い方など、自分にもつながる部分がたくさんあって大好きですし、すごく大事にしています」。次の時代を作るべく、諦めずに戦い続ける新型コロナウイルスが世界を襲った2020年を総括し、「きっと、皆さんが色々なことに“気づいた”1年だったと思います。そんななか、人と人のつながりや、ぬくもりといった見えないところに改めて価値を感じる方が増えたのではないでしょうか」と語る有村さん。いま、この時代にラブストーリーが持つ可能性についても、持論を教えてくれた。「家族も友だちも、性別も関係なく、全てに対して愛は生まれるから、我々はラブストーリーを生きていると考えています。様々なカルチャーに救われたり、好きなものに救われたりする人もいらっしゃるけど、人を救えるのは人が1番じゃないでしょうか」。そして、目線はさらに向こうへ――。本作で同い年の菅田さんと共演したことで、さらなる責任感が芽生えたそうだ。「菅田くんは、自分たちが次の時代を作っていかなきゃいけないと意識がすごく高い方で、自分の思いを行動に表わすこともできる。その姿が、後に続く20代前半の役者に『自分もこういう風に、実体として残していきたい』という影響を与えていると思います。菅田くんが先陣を切って体現してくれることによって、私たちも勇気をもらえるし、尊敬しますね。私も、次の世代の子たちのためにもそうだし、先輩たちが作ってきたものを壊さないでちゃんと結果として残していかなきゃいけないなと思います。私たちの年齢は、忙しくさせていただいていた時期から、少し落ち着いてじっくり仕事と向き合う時間に差し掛かっていると感じています。考える時間が増えたときに、どういう方向でやっていこうか、きっとみんな同じところで悩むかと思うのですが、悩む時期は悩む時期で、楽しまなきゃいけないし、戦い続けなきゃいけない。私の中では、『諦めない想い』があります。いまやっていることにいつか実りが来るかもしれないし、どうなるか分からないけど、とにかくやり続けるしかないと思っています。あとはちゃんと自分のセンスを信じて選択することですね」。(text:SYO/photo:You Ishii)■関連作品:花束みたいな恋をした 2021年1月29日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国にて公開©️2021『花束みたいな恋をした』製作委員会
2021年01月25日主演・小林聡美×「連続ドラマW パンとスープとネコ日和」のスタッフが再タッグを組むWOWOWオリジナルドラマ「ペンションメッツァ」が放送中だ。長野の別荘地に立つ、カラマツ林の中の一軒の家に住む女主人と、そこを訪れる人々が織りなす物語。主人公・テンコを演じた小林さん、全6話の脚本も手掛けた松本佳奈監督に話を聞いた。贅沢なひとときを、じっくり味わってもらえたら小林さんは「ペンションメッツァ」への出演が決まった際「特別なドラマになるといいな」と思ったのだとか。「いま、こういう時代なので…、ちょっと心が疲れたと思ってらっしゃる人も多いでしょうから、画面からあふれる(自然の)緑に触れてもらうだけでも、きっと深く印象に残るはずですし、私が演じたテンコさんと、魅力的な客人たちとの贅沢なひとときを、じっくり味わってもらえたら」企画が動き出したのは昨年5月のこと。1回目の緊急事態宣言が解除されると、粛々と準備が始まったという。「いままで想像もしなかった状況になり、この先どうなっていくのか。そんな不安もありました」と松本監督。テンコと客人が向き合い、言葉を交わす姿には「人と人が出会い、顔を合わせて会話するというシンプルな話にしたくて。いまは、そういうことさえ難しい状況ですし、だからこそ、シンプルだけど大切なことを淡々と描きたかった」という切なる思いが込められた。毎回こちらの想像を裏切ってくださり、敵わないなって松本監督が示す“シンプル”という言葉通り、舞台となるペンションメッツァが提供するのは、決してゴージャスな施しではなく、穏やかな時間と温かな空気、そしてテンコとの会話を通して“本当に大切なもの”に気づかされる瞬間だ。どこまでも自然なテンコを前にすると、どんな客人も内に秘めた思いのたけを素直にさらけ出してしまう。「わたし自身、誰とでも深い部分で語り合えるテンコさんってどんな人なんだろうって想像を巡らせました。ひとつ言えるのは、圧倒的な自然に囲まれた環境に対峙して暮らしていける人って、やっぱりそれなりにエネルギッシュなんだって。客人が来れば温かくもてなすんですが、まず自分の気持ちを優先し、自然と寄り添えるたくましさがある。そういう面は細かく計算して芝居をしなくても、緑に囲まれたロケ地からパワーをもらって。わたしですか?わたしはただマイペースなだけ(笑)。テンコさんを見習いたいと思う部分が多いですね」(小林さん)松本監督はテンコという登場人物に、ある種のあこがれを込めたという。「いまの時代は、ペンションとはいえ、山奥にひとりで暮らす女性が、初対面の人を家に招き入れるって、難しいですよね。だから、テンコはある意味ちょっと“スーパー”な人。こんな風に他人と接することができれば、きっと新しい世界が広がるんじゃないかって」。ちなみに、脚本の段階からテンコ役は小林さんを想定していたといい「デビュー当時からお世話になっていますが、小林さんは毎回こちらの想像を裏切ってくださり、敵わないなって(笑)。頭で考えた脚本が、撮影で別物になる気持ち良さをいつも味わっています」と全幅の信頼を寄せる。役所広司は「人知を超えた雰囲気」さわやかで涼やかな長野県の自然はもちろん、「ペンションメッツァ」の大きな見どころは、テンコのもとを訪れる“人々”役の豪華俳優陣だ。第1話「山の紳士」には、名優・役所広司がユニークな役どころで登場し、飄々とした意外な一面を披露する。役名が導き出す、サプライズな結末も秀逸だ。「役所さんがあんな役を…(笑)。でも、普通なら絶対に演じそうもない役柄ですし、わたしも2人芝居をご一緒できてうれしかったですよ。あれは第1話ですが、撮影は最後でした。それまで客人と心情を語り合うシーンが多かったので、役所さんの回はちょっとアクション的な要素もあって、新鮮で楽しかったです。役所さんがいらっしゃると、現場にいい緊張感も生まれますし、ご本人はテストから全開で。ますます大好きになりました」(小林さん)「すごい俳優さんであるのはもちろんですし、初めてご一緒するので、ド緊張でしたが、現場に対して、すごく誠実でいてくださって、とても感動しました。改めてすごいなと。さらに撮影を終えて、編集段階で何回もお芝居を見るんですが、なんて言うか…、見るたびに人間に見えないというか(この発言に、小林さんは爆笑)、500年くらい生きている人知を超えた雰囲気があって。しかもあれだけチャーミングなんですから、繰り返しになりますが、やっぱりすごいなと」(松本監督)“森の人”もたいまさこは「誰よりも目立っていました」もう1人忘れてはいけないのが、全話を通して“森の人”として出演する、もたいまさこ。セリフを発することなく、遠くからテンコと客人を見守る存在は、物語に不思議な神話性をもたらしている。「お芝居の直接的な絡みはなかったし、今回は距離感がありましたね。ソーシャルディスタンスもありますし。もたいさんご自身も、自分の役目を自覚していらっしゃったみたいで、自然と距離を置いていて。まあ、誰よりも目立っていましたけど(笑)、『わたしは近寄らないわよ』っていうオーラが、現場全体に行き渡っているような感じでしたね」(小林さん)小林さんの言葉からも、8月に行われたという撮影では、マスクやフェイスシールドの着用、社会的距離の確保など、万全の感染症対策が敷かれていたことがわかる。「撮影現場で仲間と一緒に仕事ができる喜びが大きかったですね。もちろん、なるべく人の数を少なくし、お世話になった長野の皆さんにご迷惑をかけないように。それでも、たくさんのご協力をいただき、美しい自然を撮ることができましたし、何よりすばらしい俳優さんが集まってくださった。大変な時期にもかかわらず、とても豊かなドラマが撮れたと思っています」(松本監督)(text:Ryo Uchida)
2021年01月22日映画の世界に携わる人たちにお仕事の内容について根掘り葉掘り聞く「映画お仕事図鑑」。連載第6回目となる今回、ご登場いただくのは、海を渡りハリウッドで映画のポスターのデザイナーとして活躍されている暁恵ダニロウィッチさん。インタビュー【後編】では現在、在籍している映画・TVの広告デザイン会社GRAVILLISのポスター制作の仕事の詳細についてお聞きします。アイディア出しとプレゼンの連続! 過酷なコンペティション――「GRAVILLIS」でのお仕事、ポスターデザインの流れについて詳しく教えてください。まず“ブリーフィング”というのがあって、クリエイティブ・ディレクターとアート・ディレクターから「こういう仕事が来ました」という説明があります。そこで、映画の趣旨やテーマ、ターゲットなどマーケティングに関する情報、また作品によってはスクリーニング、台本、そして写真が渡されます。それをもとに各デザイナーがそれぞれ、作品について調べ、アイディアシートというものを作ります。これは、インターネットや本などから、その自分のポスターデザインのアイディアに役に立ちそうな素材を集めてスクラップにしたもので、それを参考にラフなポスター案を作ります。これをアート・ディレクターに見てもらうんですが、私はひとつの作品で5つくらいの案を提出して、3案通れば良い方で、「まだ足りない」と言われたら、さらにいくつかの案を出します。そこでOKが出た案に関しては、アート・ディレクターがさらに上のクリエイティブ・ディレクターにプレゼンをします。クリエイティブ・ディレクターからもOKが出たら、実際に制作にとりかかります。制作は基本的にPhotoshop(※画像編集ソフト)を使うんですが、最近はみんながPhotoshopを使うので飽きてきているというのもあって、手でペイントしたり、紙を切り貼りしたり、面白い加工をすることが流行っていますね。映画のロゴもデザインするんですが、既存のフォントを使うのではなく、自分で書いてみたりもします。私も書道の筆を使ってみたりとか、いろんな工夫をするようにしています。ひとつの作品に参加しているデザイナーは、私一人ではなく何人かいて、クリエイティブ・ディレクターはそこでOKを出したいくつかの案について、クライアントにプレゼンをします。そこでクライアントが「この案とこの案で」とOKを出した案は、さらにもうひとつ上のステージに上がっていく感じで、ラウンド2、ラウンド3…という風に勝ち抜き戦で進んでいきます。当然、映画スタジオが仕事を依頼している会社はひとつではなく、いくつかのデザイン会社がコンペティションに参加しています。作品の規模にもよりますが、常に3~5社の代理店が、それぞれ20くらいの案を最終的なクライアント(=スタジオ)にプレゼンすることになるんじゃないかと思います。だから、クライアントは100案くらいの中から選択することになるんです。なので自分のアイディアが最終的に採用されることは、本当に、本当に限られてます。そんなことを毎日、毎日、繰り返してます(笑)。――凄まじい競争率ですね…。本当にすごいです…(苦笑)。だから、選ばれたときはすごく嬉しいですね。ただ、そこに行き着くまでに、いくつもの関門をくぐり抜けなくてはいけなくて、そのプロセスで自分だけでなくいろんな人の手が加えられるし、修正の依頼も来るわけです。例えば最近、ある有名な女優さんが出演している作品で自分の案が選ばれたんですけど、その女優さんの顔が笑っていないので、笑わせてくれという依頼があって、CGを使って無理やり笑わせたり(笑)。顔や手の向きを変えたり、服の色を変更することもよくありますね。作品によっては予算がなくて、(劇中の)写真の撮影ができなかったという場合もあって、予告編の動画の中からスクリーンショットで画像を抜いたり、場合によっては写真を使わずにイラストにしてしまうこともあります。――ちなみに仕事の受注は基本的にコンペティション形式なんでしょうか? 映画会社から直接、指名されることはあるんですか?そういうこともありますね。ハリウッドで働く人の割合はいまだに白人が高いですが、私がいるGRAVILLISの社長は黒人で、もともと音楽業界にもいた経験があり、そうしたコネクションもあります。スパイク・リー監督や個人的に繋がりのあるミュージシャンが制作に関わっている作品の仕事をつながりで受注するケースもあると思います。うちの会社に限らず、ハリウッド全体で見ても、コネクションの存在というのはすごく大きいと思います。このスタジオの作品はいつもあのデザイン会社が受注しているというケースもよくあります。私自身、ワーナーという大きなスタジオにいて、見てきた部分もありますが、(実力第一、成果主義と思われがちな)アメリカでも、仕事において人間関係が左右する部分はすごく大きいです。とはいえ、大きなスタジオの場合、予算も潤沢なので、その予算が(コンペティションなど)いろんな形で配分されるんです。だから、先ほども言ったようにコンペで最後まで勝ち抜く確率は決して高くはないんですが、勝ち目は少なくともコンペ自体にはうちの会社もどんどん参加するわけです。競争と緊張の毎日「同僚が急にいなくなることもしょっちゅう」――お話を聞いていると、常に競争にさらされている、緊張感のある日々を過ごしていらっしゃるのが伝わってきます。緊張感はありますね(笑)。社内での競争率もすごく高くて、入社して最初の3か月は試用期間だったんですが、実際にその期間で切られてしまう人も多いし、私は幸運にもここまで約1年半、仕事を続けていますが、同僚の誰かが急にいなくなる(=解雇される)こともしょっちゅうあります。特に「GRAVILLIS」はアイディアをすごく重視する会社なんです。映画のポスターにも、こういうレイアウトにするとコンペに通りやすいといったものがあるんですけど、GRAVILLISはそれに縛られず、デザイナーは常に「クレヴァーなアイディアを出してくれ」と言われるんです。私はこの会社のそういうところがすごく好きなんですけど、とはいえ、人間のアイディアなんて、そんなに常に出てくるもんじゃないですよね(苦笑)。朝、ある映画のアイディアを5つを出して、昼に別の作品のために5つを出して、夜、また違う作品用に5つ…って生活していると、ときどきおかしくなりそうになりますね(苦笑)。アイディア出しは本当にストレスで、私はその段階が終わって、実際に作っている段階が一番ホッとしますね。「あぁ、よかった! やっと作れる」って(笑)。――ここまでに携わってきた作品、コンペに参加されたことについて、可能な範囲で教えてください。以前の会社で、DVDやブルーレイのデザインに携わった作品としては『ゴースト・イン・ザ・シェル』、『ラ・ラ・ランド』、『猿の惑星』シリーズ、『レディ・プレイヤー1』、『カンフー・パンダ3』、『ザ・プレデター』、『ツイン・ピークス:リミテッド』、『レゴアイズド』、『メイズ・ランナー コレクション』、『ペット・セメタリー』、『グリース 製作40周年記念』、『レッド・スパロー』、『スター・トレック:ロッデンベリー・アーカイブス』、『プリンスムービーコレクション』などがあります。この中には世界三大広告賞のひとつであるクリオ賞で金賞を受賞したデザインもあります。いまの会社では、『ザ・ウェイバック』、『ガンズ・アキンボ』という映画で私のデザインが選ばれました。また、タイトルは出せないんですが、私の案が採用されて、いま公開に向けて準備している作品もあります。その他、『シカゴ7裁判』、『ジョーカー』、『Candyman』、『Charm City Kings』、『ザ・ファイブ・ブラッズ』、『JUDAS AND THE BLACK MESSIAH』、『サイレンシング』、それからドラマシリーズですが、HBOの「Lovecraft Country」(邦題:ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路)や「ウォッチメン」などのコンペにも参加しましたが、最終的に私のデザインは選ばれませんでした。――この仕事にやりがいや喜びを感じる瞬間は?やっぱりアイディアが採用された時ですね。苦労して、苦労して、苦労して…「まさか」と思いつつ最終ステージまで残って、ようやく仕事を取れた瞬間は嬉しいです。でも、だからって私にボーナスが入るわけでもないんですよ(笑)! さっきも言いましたが、コンペティションで案を出すだけでも会社にはお金が入ってきて、勝てばさらに大きな額が払われるはずなんですけどね。――ちなみに報酬は固定給なんですか?そうです。年俸制ですね。残業代も出ないです(笑)。でも、24時間の中で起きている時間はずっとどこかでデザインのアイディアについて考えているようなものなので、普段、映画やドラマをプライベートで観るのがイヤになりますよ(苦笑)。――初めて自分のデザインが採用されて、掲出されているのを見た時は…。すごく嬉しかったですね。ただ、さっきも言いましたけど、私だけのデザインじゃなく、コンペの過程でいろんな人からの修正が加えられたりするので、SNSに「これ、私がデザインしました!」とポスティングするのは気が引けてしまうというか…(笑)。「あの人のアイディアも入ってるし、上司がここを修正してくれて通ったんだよなぁ」とか。そう考えると、やっぱりチームワークなんですよね、この仕事。――先ほど、「映画のポスターにもコンペに通りやすいレイアウトがある」、「GRAVILLISはアイディアを重視する」というお話がありましたが、実際にアイディアを考えたり、デザインを制作する際に重要なことはどういったことですか? ハリウッドの傾向なども含めて教えてください。まず、いま私がいるGRAVILLISは「コンセプト重視、アイディア重視」の会社なんですね。でもハリウッドの大作映画は、大きな予算で有名なキャストを数多く起用していて、そこまでアイディアを重視せずとも、有名な俳優を前面に出すことで十分に成り立つんです。メインキャストをどう見せるかみたいな部分が重要で、あまり物語そのものの深みを伝えるようなアイディアは採用されません。そこで、GRAVILLISのようにコンセプト重視で勝負しても、なかなか勝てないというのはあります(苦笑)。私が以前いたBONDという会社はそういう大作のポスターを取るのが多かったんですが、GRAVILLISはどちらかというと、予算のあまり多くないインディペンデント系の映画、コンセプチュアルな作品のポスターを担当することが多いですね。先ほども名前が出たスパイク・リー監督の作品もそうですし、『アス』や『Candyman』(原題)を監督したジョーダン・ピールの作品などもよく担当しています。アートとマーケティングのはざまで大切にすべきこと――そんな中で、ご自身でデザインする上で、大切にしていることは?制作に関して言うと、私自身はその映画について――監督やスタジオ、出演者のことまで、すごくリサーチするようにしています。それこそ監督や俳優のインスタグラムの内容とかも含めて、趣向をリサーチします。それは昔、広告代理店で営業の仕事をしていた経験があるからかもしれません。多くのデザイナーさんは、当然ですが自分のクリエイティブを発揮したいと考えるし、デザインとしてかっこいいものを作ろうとするものなんですけど、私はそれだけでなく「この人(監督)はきっとこういうことを考えている」とか「このスタジオはマーケティング的にこういう層をターゲットとして重視しているだろう」みたいな裏側の部分や心理を意識するようにしています。「この俳優さんはきっと、顔の向きはこっちのほうが好きなはず」「この角度はきっとダメだろうな」といったこともインスタを見るとわかったりします。ただ、GRAVILLISはあくまでもコンセプト、アイディア重視なので、入社後に上の人から「きみはいつも『獲ろう』と狙っているよね? それはやめなさい」って何度も言われました(苦笑)。極端な話「獲らなくていいからクリエイティブを重視しろ」って。でも私からしたら、映画のポスターって芸術作品ではなくて、人々に映画館に来てもらうためのもので、マーケティングの要素もすごく大事だと思うんです。いくらスタイリッシュなものを作っても、ターゲット層と合わなければ、ただのかっこいいデザインというだけで終わってしまって、映画は観に行かないかもしれない。もちろん、コンセプトは大事なんですけど、同時に自分の経験を活かせるように頑張っていますし、そこに私の強みがあると思っています。――この1年ほどの新型コロナウイルスの感染拡大はお仕事にどのような影響をもたらしていますか?まず、業界全体で言うと、一昨年から準備してきたのに制作自体がストップしたり、延期になってしまった作品はいっぱいありますね。映画館で公開されるはずだったのに、配信での公開に切り替わった作品も多いです。それから、これはコロナの影響とは別の話になってしまいますが、Black Lives Matter運動をきっかけに、ハリウッドで黒人の人権などについて描く作品が増えているというのは感じます。特にロサンゼルスは抗議活動がかなり激しかったので。私自身の仕事の進め方もコロナで大きく変わりまして、いまは基本的に出社せずに家で仕事をしています。ブリーフィングなどもオンラインでやっていますね。今後、映画の制作そのものが感染対策のために少人数で行われるようになったり、いろんな面で変わってくると思いますし、それに伴ってポスター制作も変わってくる部分はあると思います。一緒に撮影ができなかったり、これまでのように海外でのロケができなくなったりして、バラバラに撮られたキャストの写真や背景の画像をくっつけて、CGを使って…といったやり方は増えてくると思います。基本的にいま(※インタビューの実施は12月下旬)、カリフォルニア州は外出を控えるようにと言われているんですが、こちらの人たち、特に西海岸の人たちは“自由”を求める精神が強くて、束縛を嫌うので、気にせずに外出しているという人も多いですし、レストランなども結構、お客さんがいっぱいで、その影響もあってロサンゼルスは感染者数が全米でもかなり多くなっています。私と夫は基本的に家で仕事をしているんですが、ずっと家の中にいても気が滅入ってしまうし、頭をリフレッシュさせないとインスピレーションも失われてしまうので、週末に人が少ない山のほうに行ってハイキングしたり、海辺でビーチヨガをしたり、自転車で走ったりしてリセットするようにしています。コロナ禍だからこそ外国人も活躍できる? 自分にできるポスターデザインをアピールすべし!――ハリウッドで仕事を続けていく上で大切なことはどんなことだと思いますか? これからハリウッドで仕事をしたいと考えている人たちへのアドバイスをお願いします。“仕事を得るまで”と“働き始めてから”のそれぞれの局面で大事なことはあると思いますが、どうしても日本にいると、常識や周りの空気に流されてしまう部分ってあるじゃないですか? それこそ、29歳で「仕事辞めて渡米します」なんて言い出したら怒られますよね(笑)。「何考えてるんだ?」って。でもアメリカにはそもそもそんな常識はなくて、29歳で学校に通い始めて、31歳で仕事を探してても全然大丈夫なんです。だからまず日本の常識にとらわれず、自分が「やりたい」と思ったら行動に移したらいいと思います。アメリカでは、いくつになっても“入口”はあるので。私自身、日本で周囲に流されることが多かったのですが、流されたままになっていると、自分が本当にやりたいことが何なのかわかんなくなっちゃうんですよね。流されずに、遠回りしてもいいからやりたいことを探して、やればいいし、やっているうちにいろんなビジョンが明確になってくると思います。――言葉の壁やビザのことなども含めて、どうしてもアメリカに渡って仕事を見つけるというのは、相当ハードルが高いんじゃないか? と考えてしまう人も多いと思います。暁恵さんから見て、ハリウッドで日本人を含む外国人が活躍できる余地はあると思いますか?十分にあると思います。言葉に関しては、デザイナーというのはそこまで英語が流暢じゃなくとも、受け入れられやすい仕事だと思います。営業の仕事などとは違って、デザインのスキルがあれば、それを相手に見せることができるので、最低限の英語ができれば大丈夫なんです。実際、そこまで英語ができないけど、すごくクオリティの高いポスターをデザインして活躍している外国人のデザイナーはいっぱいいます。私が最初に在籍したワーナーでも、前の会社でも外国人のデザイナーはいましたし、いまの会社の同僚にもいます。日本の方は慎重な人が多いので「難しいんじゃないかな?」と考えてしまうと思うんですが「映画のポスターのデザインがしたい!」という人たちが世界中からハリウッドに来ています。あと、コロナの影響で逆に外国のデザイナーをどんどん起用しようという傾向もあるんです。例えば、映画がまだ全く撮影されていない段階で、ポスターの企画を考えなくてはいけない時、スケッチ・アーティストと呼ばれるデザイナーが、絵を描いてアイディアを説明するんです。うちの会社ではそのスケッチ・アートをタイに在住のデザイナーさんに外注でお願いすることもあります。おそらくなんですけど、タイのデザイナーさんは自分でポートフォリオを、うちの会社に送ったんだと思います。いまは基本的にほとんどリモートで仕事を進めているので、どこに住んでいようと、ネットさえつながれば、全く問題がないんです。グラフィックデザインもイギリスのデザイナーさんに外注したり、外国の人たちが自分の国で暮らしながら、ハリウッドの仕事を請け負い始めているんです。――暁恵さんのようにハリウッドに行かなくても、日本にいながらにしてハリウッドの仕事ができるかもしれないということですね。そう思います。ただ、日本の方は謙虚で、あまり強く自分を売り込もうとしないかもしれないので、強く自分をアピールしてほしいなと思います。そういう意味で、私からおすすめしたいのが、自分のアイディアでデザインしたハリウッドのポスターを作ってみて、それをポートフォリオに入れて送るということですね。日本の学校でデザインを勉強していたとして、映画のポスターと全く関係のないデザインや学校での制作物だけを見せてもあまり意味がないんですよ。私の転職時もそうでしたが、実際に映画のポスターを作るスキルがあるのかどうかを会社は知りたいので。インターネットにある素材などを使って、例えば過去に公開された映画を題材にして「私なら『ジャスティス・リーグ』のポスターはこんなふうにデザインします」というのを見せたり。そのアイディアが優れていたら、「ちょっと依頼してみよう」となると思います。――暁恵さんが、これから実現したいことや将来のビジョンなどはありますか?私はいずれ独立したいと思っています。会社で働いていると、どうしてもその会社のブランド、スタイルの枠の中でしか、表現することができないんですよね。個人として仕事をして「この人のデザインはこうだから」という形で評価してもらって、自分のスタイルで仕事ができるようになったらいいなと思ってます。また、これから映画のポスターデザイナーになりたいと思っている人たちに私の経験やスキルをシェアして、新しいデザイナーが活躍できるような手助けがしたいです。――作品として、こういう映画のポスターをデザインしたいとか、この監督、スターの作品を担当したいというのは?うーん、これまで広くいろんな作品に関わってきたので、とくに「この人の作品を」というのはないんですけど、やはりどうしてもインディ系の作品のほうがクリエイティブを発揮できる幅は広いので、いろんな事ができて面白いというのはありますね。――最後にプライベートについても少しだけ。ご結婚はそちらに渡ってから現地でされたんですね?はい、2年ほど前です。夫は前の会社の近くにあるアートギャラリーにいた人です。――おふたりともアートに関わるお仕事をされているんですね。そうなんです。でも、彼はエンターテインメント関連の仕事ではなくアーティストでして、それがお互いにすごくいい刺激になっていて、インスピレーションを受けたり、彼の仕事を参考にデザインを考えたりもしていて、すごくいい影響を受けています。(text:Naoki Kurozu)
2021年01月21日映画の世界に携わる人たちにお仕事の内容について根掘り葉掘り聞く「映画お仕事図鑑」。連載第6回目となる今回、ご登場いただくのは、海を渡りハリウッドで映画のポスターのデザイナーとして活躍されている暁恵ダニロウィッチさん。29歳で単身、アメリカに渡り現地でグラフィックデザインを学び、いくつかの会社を経て、現在は「GRAVILLIS」という映画・テレビの広告デザイン会社に勤務している暁恵さん。ハリウッドでの職歴はすでに15年近くになり、現地で結婚もされて、現在は新型コロナウイルスの影響もあり、ロサンゼルスの自宅でお仕事をされています。そんな彼女にリモートインタビューで話を伺いました。暁恵さん曰く「ハリウッドの映画の世界で日本人が活躍する余地はたくさんある」とのこと。ハリウッドで仕事をしたいと考えている人はもちろん、新しく何かを始めたいと思っている人は暁恵さんの言葉、行動力に背中を押してもらえるはず!帰国子女→広告代理店勤務…順風満帆に見える人生の中でわき起こった「本当にやりたいことは?」という問い――29歳で渡米されたということですが、そこに至るまでの経緯について教えてください。子どもの頃は、父の仕事の関係でアメリカと日本を行ったり来たりするような生活を送っていました。高校時代をミシガン州で過ごしたので、帰国子女ということで日本で大学にもすんなり入学できて、就職活動でもわりとスムーズに内定をもらって、25歳で広告代理店で働き始めました。環境が自分を運んでくれたというか、なんとなく、世の中をうまく渡っていたんですけど、ある時、「自分が本当に何がやりたいのか?」がわからなくなってしまったんです。そこでようやく自分の人生について真面目に考え始めたんですけど、そんな時、広告代理店でクリエイティブ系の部署の人とお仕事をしたことで、グラフィックデザインに興味を持ちました。とはいえ、会社ではずっと営業だったので、いまからグラフィックデザインを学ぶことなんてできるのかな? という思いもありました。同時に、自分はせっかくアメリカで長く過ごしてきたのに、その経験を活かしきれていないということにも気づいて、もう一度、アメリカに行って自分のやりたいことを勉強しようと思い立ったんです。それが29歳の時です。――アメリカで過ごした経験があるとはいえ、29歳にしての大きな決断ですね。そうなんです(笑)。どこに行ったらいいのか? と考えた時、ハリウッドのあるロサンゼルスならエンターテインメントの仕事ができるんじゃないかと考えて「絶対にグラフィックデザインの仕事をやってやろう!」と、まずはロサンゼルスに飛びました。グラフィックデザインの勉強をする学校の中では比較的学費の安いUCLA Extension(カリフォルニア大学 ロサンゼルス校附属エクステンション)のサーティフィケートプログラムというのがあるんです。通常のアートスクールは学費がすごく高いんですが、UCLA Extensionは、仕事をしながら学びたい人、転職のために手に職をつけたい人が勉強できる学校で、夜間コースなどもあります。私はUCLA Extensionのデザインコースに2年間通い、修了証を取得しました。――グラフィックデザインに関しては、そこでほぼゼロから勉強を始めたということですか?そうですね。日本でグラフィックデザインに興味を持ち始めてからは、自分でPhotoshop(※画像編集ソフト)などを使って、友人の名刺のデザインをさせてもらったりはしていましたが、せいぜいそれくらいで、以前にデザインについて学んだことも全くなかったです。――カリフォルニアでエンターテインメントの仕事をしようと考えたということは、以前からハリウッド映画や海外ドラマが好きで、親しみを覚えていたということでしょうか?それがすごく不思議なんですけど(笑)、私自身、小さい頃から洋画が大好きで…というタイプの人間でもなかったんですよね。大好きなスターがいたわけでもないし。ただ、エンターテインメントそのものというか、人々を楽しませる“メディア”には興味がありましたね。もうひとつ、渡米後の話ですが、映画のポスターデザインをやろうと思うきっかけとなった出来事があって、学校にポスターデザインをやってるUCLA extensionの卒業生が講演に来たことがあったんです。大手の映画・TVの広告デザイン会社で働く若い女性で、彼女から映画のポスターデザインの仕事について話を聞く機会があり、その時、この業界に魅力を感じ、自分で調べ始めました。その時に使ったのがIMP Awardsというサイトです。業界で働いている人や映画のポスターデザインに興味のある人には必須のサイトです。新しい映画やテレビ、オンラインストリーミングのポスターデザインが毎日アップデイトされています。仕事の募集も出てますが、デザイン会社も全て出ているので、どの会社がどのポスターをデザインしたかをすぐに調べることができます。このサイトのDesignersをクリックするとアメリカはもちろん世界のエンターテインメントのデザイン会社のリストも見ることができます。調べてみると、ハリウッドだけでポスターのデザインをする会社って数え切れないほどあるんですよ。そんなにあるんだったら絶対にどこか自分も仕事させてもらえるところが見つかるはずだ! と思って、リストにあった会社100社以上にメールを書いて、郵送でポートフォリオも送りました。そうしたらいくつか「面接に来てください」と連絡がありました。ただ、実際に面接に行っても、就労ビザが必要な旨を説明すると必ずそこがネックになって、採用に至らないんですね。結局、会社の数は多いけど、それぞれの会社がそこまで規模が大きいわけでもなく、余裕もないのでビザを出してまで外国人を採ろうと思わないんですよね。多くの人がぶつかるビザの壁をどう乗り越えるか?――多くの外国人が、アメリカでの就労に関して直面する大きな“壁”ですね。はい。できる限りのことはしたので、諦めて日本に帰国することも考えました。そんな時、車を運転していたら偶然、映画・TVスタジオのキャリアフォーラムの広告を見つけたんです。もうどんな可能性も試してみようと足を運びました。ところがそのフォーラムはクリエイティブ系の仕事をする人に向けたものではなかったんですけど…(苦笑)。でもそこで、ワーナーブラザースの人事の方にダメ元でポートフォリオを広げて、熱意を見せたんです。そしたら、私のアプローチに圧倒されながらも私がデザインした手作りの名刺を受け取ってくれて、その半年後に奇跡的にその人事の方から「新しくできたTVマーケティングのクリエイティブ部門に空きがあります」と連絡があったんです。そしてクリエイティブ・ディレクターとの面接の機会をいただき、ワーナーブラザースの「World Wide Television Marketing 」という部署で働き始めることになりました。過去の経験から、労働ビザの依頼を採用面接の時点でするのは難しいことを学んだので、その時は、OPTという学生終了後1年だけ働けるビザで仕事を始めました。心の中では、大手の映画スタジオであれば、ビザを出してくれるんじゃないかという思いで、自分のスキルをアピールするために必死に働きました。そして半年後、タイミングを見てクリエイティブ・ディレクターに労働ビザのスポンサーになることを依頼したんです。ところが期待は裏切られ、この部署ではビザのスポンサーはできないと断られました。労働ビザのスポンサーになる会社はお金の負担と厄介な手続きが必要となるので、新しい部署ではそこまでする余裕がないとの理由でした。ただその時「でもこの部署であなたをキープしたいので、もし自分でなんとかビザを手配できるのであれば、引き続き採用することを約束します」という言葉をいただきました。その言葉を信じて、なんとかしてビザを自分で取得しようという思いが募りました。そこで、広告や口伝で探した弁護士に相談に行き、やっとの思いで自分でデザイン会社を起業して、投資家ビザを取得することができました。ただし投資家ビザの更新はとても難しかったので2年後、新しい弁護士をまた探し、結果的に通常は困難と言われているアーティストビザの取得に成功しました。アーティストビザとは科学や教育、事業、スポーツの分野における活躍が顕著な外国人や芸術、映画、TVの分野で優れた才能を持つ人に発行されるビザで、それまでの仕事の成果を見てくれたクリエイティブ・ディレクターをはじめ、他の上司も私のアーティストビザの取得を支援してくれました。ハリウッドでのお仕事スタート! TVのポスター制作を経て、念願の映画のポスターデザインの世界へ!――念願のハリウッドでのデザイナーとしての生活が始まったんですね!結局、ワーナーには7年ほどいたんですが、CWテレビジョンネットワークやDC作品、カートゥーン・ネットワークなど、グループ内の会社の作品の広告、ポスターなどを作っていました。ただ、私がやりたいと思っていたのはあくまでも映画のポスターデザインだったんです。そこはTV関連の部署なので、ドラマやコメディなどTV番組のポスターだけしかできなくて…。そもそも、規模の大きな映画の場合、マーケティングの予算も大きいので、ポスターはスタジオが自分たちで作るんじゃなく、ほぼデザイン会社への外注なんです。そこでワーナーを退職して、映画のポスターのデザイン会社への転職にトライしてみたんですが、これまで映画ポスターをデザインした経験がないので、なかなか難しいんですね。――これまで担当されてきたTV番組のポスターと映画のポスターではデザインの仕方は大きく異なるんですか?これが全然違うんですよ、訴え方が。TVのほうはすごくシンプルです。ワーナーは特にそうで、例えばトーク番組の「The Ellen DeGeneres Show」(邦題:エレンの部屋)なら、とにかくホストのエレン・デジェネレスを大きく見せればいいという構成ですし、他のコメディやトークショーもそうですね。映画のようにストーリーを伝えるデザインである必要がないんです。――ちなみに“ポスター”というのは、日本でも映画館や街中などに貼られているタイプのポスターのことですか?簡単に説明しますと、業界では“キーアート”という言い方をするんですが、作品を紹介する際にメインで使用される代表的な画像、デザインがあるんです。それがリサイズされたり、背景を取り除かれたりして、例えば“billboard”と呼ばれる、高速道路などで見られる大きな看板が作られたり、バス停に張り出されるポスターになったりもするし、背景のないシンプルな形でストリーミング用に使用されたり、用途に合わせていろんな使い方をされるわけです。映画のポスターに関してもいくつか種類があります。ポスターのデザインなんて、写真と文字をくっつけているだけだろうって思っている方も多いと思うんですが(笑)、実際は映画が公開される何年も前から計画されて、細かく作られているんです。まず“teaser(ティザー)”と呼ばれるものがあって、これは映画について全てを見せるのではなく、一部だけを紹介したり、におわせることで話題性、人々の興味や関心を喚起するためのもので、キャストの顔さえも出さないものもあります。その後、“payoff(ペイオフ)”と呼ばれる、メインのポスターが出てきます。ある程度、その映画が認知されている状況で、より多くの人々に広めるために出されるポスターですね。それとは別に“character(キャラクター)”というのがあって、これはその名の通り、映画の登場人物をひとりひとり見せるためのポスターです。――制作から公開までの時間の長さや登場人物の数などの違いも含めて、TVと映画では同じポスターでもそのデザインが大きく違うんですね。そうなんです。結局、スタジオでの経験しかないと、転職するにしてもスタジオからしか声がかからないんですね。それでワーナーからFOXに転職して、1年ほど仕事をしたのですが、やはりそこでも「本当に自分がやりたいこととは違うなぁ…」という思いは抱えていました。その後、会社を辞めてフリーランスで仕事をすることにして、映画のポスターデザインをする会社に「フリーでやっているので仕事をください!」と電話とメールで仕事を探しました。フリーランス時代に最後に仕事をした会社が「BOND(ボンド)」という会社で、そこは一流の映画のポスターデザイン会社にいた4人の人たちが共同パートナーになって設立した新しい会社だったんです。当時、業界でも一番話題になっていた会社で、あちらから声をかけていただけて、そこで働くことになったんです。ただ、ここで配属されたのが「ホームエンターテインメント」という、DVDやブルーレイなどのソフトのパッケージなどをデザインをする部署だったんです。ここでも微妙に自分の希望とは違ったんですが(苦笑)、とはいえ、これだけ話題になっている会社だし、いつか映画のポスターのチャンスが来るかもしれないという思いで働き始めました。ちなみにDVDやブルーレイのパッケージのデザインも、映画のポスターを小さくしただけだろって思われがちなんですけど(笑)、あれはあれで別でデザインし、作っているんです。そういう意味で、自分で「デザインを作る」ということを勉強をさせてもらいました。――キャリアを積みながら、徐々に自分が本当にやりたい仕事に近づいていくという感じですね。そうですね。「BOND」に在籍していたのは3年ほどで、その間、たまに自分の部署の仕事が空くと「映画のほうも手伝って」と声をかけてもらって、映画のポスターをデザインする機会もあったんですが、そのうち「映画のポスターデザインをメインでやりたい!」という気持ちが強くなって、いま在籍している「GRAVILLIS(グラヴィリス)」という会社に移りました。それが1年半ほど前になります。(text:Naoki Kurozu)
2021年01月19日シャネル、ディオール、エルメス、ゲラン、イヴ・サンローラン、フラゴナール。フランスでは、これまでいくつものメゾンが伝説的な香りを生み出してきた。その立役者ともいえる調香師の日常を描いた映画『パリの調香師しあわせの香りを探して』が、フランスの人々を勇気づけている。いくつもの選択肢の中からよりすぐられたエレメントが作用し合い、ひとつの香りとして花開くパルファン。全く違う人生を歩んでいた者同士が出会い補い合うことで、豊かに色づいていく人生。香水も人生も、「調和」によって完成していくことを、情感たっぷりに映し出したのが監督のグレゴリー・マーニュと主演のエマニュエル・ドゥヴォスだ。2人のいるパリと東京を繋ぎ、映画について、香りについて話を聞いた。香水と映画の共通点「根本にあるのは作りたいという欲求」――コロナ禍の大変な中、インタビューにお答えいただきありがとうございます。お二人は行動制限が多い生活の中で、創作意欲新たにしたのでしょうか?エマニュエル:もちろんそうです。こういうときだからこそ、映画を作りたいという気持ちがますます強くなりました。今は撮影も再開しています。(2020年12月2日時点)。ただ、制作しても映画館が閉まっていて、映画産業は休止状態。だからグレゴリーも私も、スタート地点でスタンバイしている状態。やりたいという気持ちが深まっている気がします。グレゴリー:この作品は、最初のロックダウンが解除された直後に公開することにあえて決めていました。映画館を訪れる人たちが観たいのは、こういう作品だろうと考えたからです。実際に映画館に駆けつけてくれた観客が喜んでくれたことは、僕らにとって大きな励みとなりました。――映画を見る前は、映画で香りどのように表現するのだろうと思っていました。ところが拝見していくうちに、香水が持つ「様々な要素が混ざり合って調和する」ということの美しさを、人間ドラマにおけるテーマとして強く感じ取ることができました。グレゴリー:今回一番描きたかったのは、調香師と周りにいる人々の人間関係でした。どのようにすれば、まるで香りが漂っているかのように観客に感じてもらえるかということにも、とても興味がありました。香水と映画にも、似たところあるでしょうね。どちらも行ったり来たりしながら多くの要素を調和させて作るクリエイション。どちらも、根本にあるのは作りたいという欲求です。そして、作ったものがどのように受け取られるかという楽しみがあるところにも共通点がありますね」――ドゥヴォスさんは、今回、本作のどんなところに惹かれたのでしょう。エマニュエル:まずは脚本が決め手になりました。すぐに、この物語がとても気に入ったんです。フランス映画ではあまり描かれないタイプの人間関係もオリジナリティに溢れていると思いました。2番目に、調香師という役を演じられることにとても惹かれました。私自身、18歳の頃に調香師という仕事に興味を持ち、学校を調べてみたことがあったんです。今回はすべてのことが気に入り、グレグリーと会ってすぐに意気投合しました。シンプルにとても気持ちよく、わくわくしながらできた仕事でした。演技者、フィルムメーカーとしての苦悩――視覚的な効果が最も高い映画という媒体で、香りを観客に想像させるために、お二人はどのように工夫されたのでしょうか?エマニュエル:話が決まり、私たち二人はすぐにエルメスの専属調香師であるクリスティーヌ・ナジェルに会いに行きました。業界では天才として知られる人物です。その後も、私は彼女と共に過ごす時間を持ちました。私自身、2つフレグランスを作ったんですよ。商業化するためのものではなく、パーソナルな使用のためのものですが。調香師を演じるに当たり大切にしたのは、所作などはもちろん、アーティスティックな仕事をしている人たちが、それに専念するとどういう生活を送らなければならないのかということ。香水はひとつの芸術です。それは画家やミュージシャン、監督、女優の仕事と同じ。どちらかというと、インスピレーションをどう得るかという視点を彼女の仕事ぶりから学びました。実は、最初についていたタイトルは、「Inspiratrice(インスピレーションをもたらす人、ミューズの意)」だったんですよ」――アンヌは、素晴らしい才能の持ち主ですが、才能があるゆえの恐怖、苦悩、孤独を抱え、ストイックに生きています。お二人は演技者、フィルムメーカーとして、アンヌのような生きにくさを感じることがあるのでしょうか。グレゴリー:確かに監督として脚本家として孤独は抱えていますね。制作の準備の段階で誰かとアイディアをシェアすることは難しい。しかも撮影後、編集の際に共同作業をするのもかなりやっかいです。つまるところ、自分の中にある疑念とか迷いといったものは自分の中にとどめ、内なる闘いをせざるを得ない。クリエイションとはそういうことだと思うんです。大事なのはできあがった作品だと思っています。エマニュエル:実は、脚本を読んだときに驚き、興味を引かれたのは、このアンヌという人物が凄く私に似ているということだったんです。彼女と同じように感じていることが多かった。単に表現の仕方が違うんだという気がしています。彼女ほど人見知りではないし、歯に衣着せずものを言ったり、感情を顔に出したりはしない。もう少し社交性はあると思います。今の社会って、私のことを見て見てと自分をさらけ出す人が多い。私はそうではなくて、すべてを人にさらけ出す必要はないし、自分の内に秘めおく必要のあることも多いと思っています。そういう意味では、アンヌと似ていると思います。「幸せにしてくれる香り」は?――日々、様々な香りに接しているアンヌが、コプラ油の石鹸の香りを嗅ぎ、子ども時代を懐かしむシーンが美しくて大好きでした。お二人にとって、「幸せにしてくれる香り」はありますか?エマニュエル:もちろん沢山ありますよ。古い、昔ながらの家の冷たいタイルの香り、丁寧にワックスが塗られた木の床の香り。そういう香りが私を幸せにしてくれます。まさに、祖父母の家の香りなんです。グレゴリー:僕は、ブーランジェリーの香りですね。母方の実家がパン屋で、祖父の頃から代々継いでいるんです。店の中に入らずとも、裏口から漂うパンをこねている香り、パン作りの香りに幸せを感じますね。限られた時間の中でも、作品への思いを、絶妙なコンビネーションで語ってくれた二人。「ありがとう、また日本に行きますよ!」と笑顔で手を振ってくれた。パリと東京と、距離離れていても確かに感じられた温かな人柄と、クリエイションへの真摯な姿勢は、この映画にしっかりと投影されている。最後に監督からはこんなメッセージも。「この作品が日本で公開されるということに、とても感動しているんです。世界各国で公開されることに感激していますが、とりわけ日本はフランス人にとって、アートの国。見事な職人の技、几帳面で丁寧な仕事、細かいところまで行き届いた配慮でも知られています。感受性豊かでデリケートなという二つの形容詞がぴったりな国と思っています。だから、日本で観ていただけることに感動しています。ぜひ楽しんでください」(text:June Makiguchi)■関連作品:パリの調香師しあわせの香りを探して 2021年1月15日よりBunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて公開©LES FILMS VELVET - FRANCE 3 CINÉMA
2021年01月08日動物をモチーフにした人形『シルバニアファミリー』で、かわいい写真を撮影し、人気を博している、ひよこ(@h1natan0h1y0k0)さん。grapeではこれまで2回、ネット上で話題になったひよこさんの投稿を紹介してきました。「2千円分のお菓子がー!」部屋に広がっていた光景に5万人が悶絶ネット上で「最高にかわいい」と話題になった写真がこちら【全6枚】シルバニアの人形で作る『着ぐるみシリーズ』がかわいすぎるひよこさんの投稿は、人形たちをセッティングして写真を撮るものだけでなく、『着ぐるみシリーズ』にも反響が上がっています。ほとんど手作りという、かわいらしい作品の数々をご覧ください!マシュマロネズミの小さい赤ちゃん〜食べ物着ぐるみまとめ〜 #シルバニアファミリー #シルバニアの赤ちゃん #手作りシルバニア pic.twitter.com/9FNPooH8wo — ひよこ (@h1natan0h1y0k0) September 26, 2020 顔と手だけがちょこんと出ている、シルバニアの赤ちゃんたちの着ぐるみ。1つずつへのこだわりを感じられます。どれも食べちゃいたいぐらいかわいいですよね!投稿には「かわいすぎる」「アイディアが素敵」「かわいさの暴力!」など、写真を見た多くの人がトリコになっているようです。そんなかわいいシルバニアの赤ちゃんたちに命を吹き込んでいる作者のひよこさんに、制作の裏側を聞いてみました。独自性のあるアイディアはどこから?作者に聞いてみたら…ネット上で話題の人形、その作者に話を聞いてみたひよこさんのInstagramとTwitterには、さまざまなシルバニアファミリーの動物たちが登場します。一体、どのくらいの人形を持っているのかを聞いてみると…。―全部で何体ぐらい持っていますか。約250体です。なんと、自宅には約250体のシルバニアファミリーがいるのだとか!このように並べて写真に収めると圧巻ですよね!また、人気のオリジナル性のあるかわいい衣装は、ほとんど販売しているものではないのだとか。―衣装はすべて手作りですか?食べ物などの着ぐるみは手作りです。洋服はほとんど公式のものですが、自分で作った洋服も数着あります。―1つの着ぐるみを作り上げるのにどのくらい時間がかかりますか?簡単なものだと30分、縫うところが多いものだと2時間くらいです。手の込んだ衣装は2時間ほどかかるという、着ぐるみシリーズ。しかし、当初ひよこさんは裁縫には自信がなかったそうです。作り始めるきっかけになった作品はというと…。―作り始めたきっかけを教えてください。さまざまな方が作っていた、食べ物の着ぐるみを着ている赤ちゃんに、ずっと憧れていました。でも、裁縫には自信がなく作ることを諦めていたんです。ちょうどその頃、チーズを食べることにハマっていて、6Pチーズを食べた時に大きさがちょうどマシュマロネズミの小さい赤ちゃんのサイズだなと思いました。「この包み紙をそのまま写せば型紙を作れるかもしれない」と思い、いざ作り始めると意外とフェルトが縫いやすいことに気が付きました。毎日少しずつ、1週間ほどかけて6人分作った記憶があります。完成した時は達成感がありました。そして「自分でもかわいい着ぐるみが作れるんだ」と、自信が持てました。―お気に入りの着ぐるみはどれですか?初めて作ったチーズの着ぐるみです。初めて作って、自分でも納得のいく出来だったので思い出深いです。作り始めるきっかけにもなった、チーズの着ぐるみがお気に入りだという、ひよこさん。作品ができることによって自信にもつながったようです。―これまでで一番難しかった衣装はどれですか?一番時間がかかったのは野菜畑の赤ちゃんたちです。特にキャベツとカリフラワーを作るのに時間がかかりました。カリフラワーの葉の部分とキャベツの葉脈を作るのが難しかったです。野菜畑には、沢山の野菜が必要だったので大変でした。―どういう時にアイディアは思い付くのですか?子育てをしている日常の中や、SNSの情報を見て思い付くことが多いです。雑巾がけをする赤ちゃんたちは、『赤ちゃんなりきりシリーズ』という商品が発売された時に、SNSを通してハイハイをしている赤ちゃんは人気がないということを知ったのがきっかけでした。「どうすれば皆さんにハイハイの赤ちゃんの魅力を伝えられるだろう」と考えた時に、「部屋の隅から隅までハイハイの赤ちゃんが一斉に雑巾がけをしていたら楽しそうだな」と思ったんです。ただ、年末までにハイハイの赤ちゃんを集めることは難しく、最終的には10人で頑張ってもらいました。お菓子を運ぶシーンは、息子と散歩をしている時に、アリの行列が目に入ったことがきっかけでした。帰宅して息子とおままごとをしながら、「この食材をシルバニアの人形がアリの行列みたいに運んだらかわいいんじゃないか」と思ったんです。でも、おままごとの食材では大きいので、運べそうなお菓子にしました。お菓子はパッケージがカラフルでかわいいのでシルバニアとの相性もとてもいいんです。そのほか、お菓子の着ぐるみは、息子が喜びそうなものをクローゼットの中から探してる時に、たまたましまっておいた空き箱を見つけて作りました。SNSで写真を投稿した時に「こういうのもかわいいと思うんです」というようなコメントをいただいて作ることもあります。アイディアを思い付くのは家族やSNSを通して知り合った方々のおかげでもあると思ってます。独創的でかわいい赤ちゃんたちの衣装。さらに、動きを付けることで本当に動いているかのように見えてきます。人形遊びは子供の時しかできないと思われがちですが、大人になれば違う見方でまた新たな発見ができそうですね![文・構成/grape編集部]
2021年01月05日新型コロナウイルス感染症の拡大による緊急事態宣言を受け、日本全国ほとんどの映画館が休館していた時期があった2020年。公開延期などが相次ぎ、平年に比べ、劇場公開作品数が少ない年となりました。そんな中でも、シネマカフェでは映像に関わる方々に取材を敢行。時にはリモート取材となったインタビューもありますが、今年掲載した記事の中から、多くの方に読まれた人気記事をランキングにして発表します!10位:千葉雄大×鈴木拡樹『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』主演に抜擢されたのは、前作で成田凌演じる浦野善治との激しい対決シーンが話題になった刑事・加賀谷学役の千葉雄大。今作では、新たな殺人事件を捜査するにあたり、自分が逮捕した浦野と奇妙な“共闘”関係のような間柄となり、物語の軸を担う。そして、『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』からは、白石麻衣、鈴木拡樹、音尾琢真、江口のりこ、奈緒、井浦新など強力かつ豪華な共演者が顔をそろえた。シネマカフェでは、千葉さん&鈴木さんにインタビューを実施。「撮影以来の再会」とは思えぬほど、話が尽きない様子のふたりは、ときに真剣に、ときに冗談も交えつつ、戯れ合ってくれた。9位:長澤まさみ『MOTHER マザー』気高く・強く・美しい楊端和(『キングダム』)から一変、最新主演映画『MOTHER マザー』で、長澤まさみは瞳を濁らせ、気性の激しい、息子への歪んだ愛を心に宿したシングルマザー・秋子になった。本作で演じた母親という立場について、秋子を通して長澤さんの持つ母親像に変化があったかを尋ねた。「“こういう母親になりたいな”と思う明確なものができたというわけではなく、親もやっぱり初めて親になるわけだから、迷いながらでいいんだろうし、失敗しないのが親ではない、と感じました。お互い一緒に学んでいくのが親子だと思うというか。子どもが初めてすることは、親も初めてだと思うから」。8位:井浦新『朝が来る』役に真摯に向き合う。井浦新ほど、その言葉にぴったりハマる役者はいないだろう。作品ごとに監督と対話をし、役への理解を深めると同時に、どのようにその役に染まっていくかを組み立てていく。ときに感情的に、ときに身体的に。「役や作品・監督によって当然、求められるものは違ってきますが、毎回、同じ熱量でぶつかっていく構えでいます。“てにをは”含め、すべて台本通りにやってほしいと、テクニカルなものを求められるときもあるし、台本より心をそのまま表現してほしいと言われるときもある。僕はどれでも完全燃焼ですし、毎回、同じではないから楽しいんです」。7位:野木亜紀子『罪の声』社会現象とも言える盛り上がりを見せた「逃げ恥」こと「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)や原作ファンから絶大な支持を集めた映画『図書館戦争』シリーズ、「アンナチュラル」「MIU404」(TBS系)など、原作もの、オリジナル脚本を問わず、 次々と話題作を生み出す脚本家・野木亜紀子。人気のマンガや小説の映像化の企画が多くを占める昨今のエンタメ業界ですが、原作のイメージを損なうとたちまち炎上しかねない状況で、野木さんの作品が称賛を集めるのはなぜなのか? オリジナルの作品が多くの視聴者の心を鷲掴みにするのはどうしてなのか――?2016年の「週刊文春」ミステリーベスト10で第1位を獲得するなど高い評価を得た塩田武士の同名小説を原作とした映画『罪の声』の脚本執筆について、創作の裏側に迫る。6位:ポン・ジュノ監督&ソン・ガンホ『パラサイト 半地下の家族』昨年、第72回カンヌ国際映画祭で韓国映画として初めてパルムドール(最高賞)に輝いて以来、数多くの映画賞で快進撃を続け、国内外の興行記録を更新。アメリカでは外国語映画の歴代興収トップ10入りを果たした。いまや、第92回アカデミー賞でも作品賞の有力候補と目されるほどの一大旋風だが、当のポン・ジュノ監督は「まったく予測していなかった事態。いつも通り、淡々と撮った作品ですが、公開後に予期せぬことが次々と起こった。胸躍るアクシデントとでも言うべきでしょう」と笑みを浮かべる。5位:浜辺美波×北村匠海『思い、思われ、ふり、ふられ』浜辺美波・北村匠海といえば、2017年、月川翔監督作『君の膵臓をたべたい』のW主演で第41回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した、ゴールデン・コンビ。実写映画では『君の膵臓をたべたい』以来3年ぶりの共演、さらに、『思い、思われ、ふり、ふられ』は月川監督の師匠にあたる三木孝浩監督が手掛けていることも踏まえると、集まるべくして集まったという言葉が浮かぶ。ふたり揃ってのインタビューは2017年以来となったが、当時、やや固く感じられたような彼らの空気感は、2020年、開放的で明るいムードへと変化していた。浜辺さんが10代半ばから10代終わりへ、北村さんが10代後半から20代へと、年を重ねたことも関係するだろうが、それ以上に、この3年間、多くの現場で培った得難い経験が、うら若きふたりのほのかな自信として、たたずまいを変えたのだろう。浜辺さんと北村さんに、今の心境をインタビューした。4位:宮沢氷魚『his』冷静に自身を分析する宮沢氷魚は、常に穏やかなトーンで話し続ける。身長184cm、「MEN’S NON-NO」専属モデルという人目を引くプロポーション、透明感にあふれるたたずまいも彼の大きな持ち味だ。しかし、それ以上に、自分を過小評価も過大評価もしない真っすぐに生きているスタイルが、多くのライバルがいる若手俳優群の中でも注目を集める存在となっているのだろう。独特の魅力を放つ源泉を探りたくなる。「自分ひとりだけの考え方、生き方、物の感じ方だと、たぶん限界があると思うんです。僕は周りの人たちからいろいろ刺激を受けています。けど、それに流されてはいけないと思っていて、自分という人間を持ったまま、刺激を受けてどんどん自分に着せていくことが大事だと考えています。流されてしまうと自分ではなくなっちゃうし、その人の分身になってしまうから。けど、人から受ける影響は、いいことも悪いことも、すごく素敵だと思います」。3位:綾野剛『影裏』綾野剛にとって演じることは、「生活をするためのものではなく、生活なんです。呼吸するのと変わらないんです」と定義する。そして、過去を見つめ、「自分を救ってくれたのは、唯一、映画、役者であることだった気がします」と希望を見出したことを吐露。「救ってもらったから何かをするわけではなく、応えたいという気持ちは、とっくに超えちゃっている感覚があります。救ってもらうために、最早、映画をやっていないんです」と。1月に38歳を迎えたばかりだが、40代に向けて、綾野さんはどんな進化をしていくのか。2位:岡田健史『望み』デビュー以降、休む間もなく駆け抜けてきた岡田健史。主演作5本に加え、数々の映画やドラマ、CMなどに出演し続け、コツコツ俳優としての研鑽を積んだ。「ひとつ、ひとつの仕事に惜しみなく、すべてを投じています。どんな作品においても、誰よりも語れる自信があるんです。語れることこそが、全力投球してきた証拠だと思っていて。2年前と今で、仕事の熱量はまったく変わっていませんし、むしろ高まっています」。1位:佐藤浩市×西島秀俊×勝地涼×中村倫也×井之脇海『サイレント・トーキョー』「アンフェア」の原作者・秦建日子による小説を、「SP」シリーズの波多野貴文監督が映画化した『サイレント・トーキョー』が、全国の劇場で絶賛公開中だ。「クリスマスイブの渋谷で、爆破テロが起こったら?」という衝撃的なストーリーを軸に、刑事やテロ事件の容疑者、一般市民の物語が交錯していく。シネマカフェでは、テロの容疑者・朝比奈を演じた佐藤浩市、事件を追う刑事・世田とその相棒・泉を演じた西島秀俊と勝地涼、事件の裏で不可解な行動をとるIT起業家の須永を演じた中村倫也、犯人に仕立て上げられるテレビ局の契約社員・来栖を演じた井之脇海の5人に単独インタビュー。1位は12月公開の『サイレント・トーキョー』から豪華キャスト陣が揃った5ショットのインタビューでした。2位は今年数々の作品に出演し活躍をした岡田健史。3位は演じることへの強い責任とこだわりや自分への“甘やかし”について語った綾野剛。そのほか、小栗旬&星野源が初共演した『罪の声』や「逃げ恥」「MIU404」などの脚本を手掛けた野木亜紀子氏のインタビューなどがランクインしました。来年は作り手たちのどんなエピソードが聞けるのか…乞うご期待!(text:cinemacafe.net)
2020年12月31日「アンフェア」の原作者・秦建日子による小説を、「SP」シリーズの波多野貴文監督が映画化した『サイレント・トーキョー』が、全国の劇場で絶賛公開中だ。「クリスマスイブの渋谷で、爆破テロが起こったら?」という衝撃的なストーリーを軸に、刑事やテロ事件の容疑者、一般市民の物語が交錯していく。シネマカフェでは、テロの容疑者・朝比奈を演じた佐藤浩市、事件を追う刑事・世田とその相棒・泉を演じた西島秀俊と勝地涼、事件の裏で不可解な行動をとるIT起業家の須永を演じた中村倫也、犯人に仕立て上げられるテレビ局の契約社員・来栖を演じた井之脇海の5人に単独インタビュー。「ネタバレあり」で繰り広げられる、濃密かつ大ボリュームの座談会をお楽しみいただきたい。見えないパートを想像すること――それは映画の“嘘”でもあり面白い部分――『サイレント・トーキョー』には、各々の独立したパートが徐々に1本に収斂していく快感がありますが、演じ手としては出ずっぱりではないぶん、難しさもあったのではないかと思います。佐藤:ぶっちゃけてしまうと、僕の役はその中でも“フック”だったんですよね。本作に関しては、それぞれが観客に対して、ある種のミスリードを誘う役割を担っていました。そして、これはなかなか難しい。観客をうまく誘導していくとなると、役に対する整合性というか、真摯な向き合い方を1回外さなければならないわけです。――役としての思考と、俯瞰して物語全体を見る思考の2つが生まれてきますね。佐藤:そう。さらに本作では、全体の長さを99分にするために、役の色々な背景を敢えて外している。そうすると、背景が見えないことが、いい意味で「ミスリード」を成立させていくことにもなるんです。西島:台本を読んでいても、「実際どういう作品になるか」は、他の作品に比べてはるかに見えなかったですね。それぞれのパートで作品に関わってはいますが、僕は自分のパートという一部分しか見られないため、そういった意味では完成品を観て「ああ、こういう映画だったのか!」と改めて知る、新鮮な驚きがありました。勝地:西島さんと僕が演じた刑事は、自分たちが「こいつが怪しい」と思った人を追っていくポジションなので、どちらかといえばお客さんに近い目線だったかもしれません。だから僕の中では、容疑者を追い詰めていくことを大事にしていました。真っ当に刑事として向かっていくことを意識して演じました。中村:僕が演じた須永は、前半と後半で印象がねじれていく役でした。(佐藤)浩市さんがおっしゃったようなミスリード的な部分でいうと、観る人の「この人は何なんだろう?」という心をずっと引き付けていくミステリアスさが、まず必要なものとしてありましたね。それに須永の探求している一本の軸があり、その役割も全うしつつ、順を追って観ていくと「実際はどうだったのか」や「どういう欲を持って行動していたのか」と符合がいき、そこから推進力で引っ張れるような…そんな役割を意識しながら、役作りを行いました。井之脇:僕は来栖という役を演じることでいっぱいいっぱいになっちゃっている部分もあったのですが、波多野貴文監督が「来栖としてはこうだけど、映画としてはお客さんはこういうことを経験しているから、来栖もこういう在り方でいてほしい」と伝えてくださったのが大きかったですね。見えないパートを想像すること――それは映画の“嘘”でもあり面白い部分だと思うのですが、お客さんのことや、他のパートをどこか感じながら作っていくのがすごく面白かったです。――波多野監督は「本作は、それぞれの人物に二面性がある」とおっしゃっていました。どの人物に感情移入するかで見え方が変化する作品でもあるかと思いますが、その点について、佐藤さんはどうお考えでしょう?佐藤:お客さんというのは二通りいて、自分に近しい人間に感情移入をすることによって物語に寄っていくタイプと、あくまで俯瞰視して、自分自身は物語の外に置いておいて観るというパターンがありますからね。特にサスペンスだと、俯瞰視して観たくなるのが人情じゃないですか(笑)。それ以外だと、自分を映画の中に置いて、「自分がどう思うか」という風に観たほうがわかりやすいところはありますね。そういう意味では、今回はお客さんのスタンスによって見方が変わる気はしています。それぞれの共演を振り返る――非常に興味深いお話です。本作は演技対決も魅力ですが、佐藤さんと中村さんはかなり重要なシーンで共演されています。お互いに、どのような感想を持ちましたか?佐藤:電話での受け答えのシーンが印象的でしたね。中村くんの芝居が、いい意味で乾いていて。ここをウェットな感じでやってしまうと、いままで積み上げてきたものがなくなってしまうなか、「そうだよな、それしか言えないよな」という絶妙な具合でした。本当はお互いもうちょっと踏み込みたいんだけど、それができない不思議な距離感があって、面白かったですね。中村:須永が抱えているのは「家族」の遠い記憶なんですよね。いくつか思い出もあるけれど、きっとそこから塗り替えられている部分もあるんじゃないかなと思います。記憶って、劣化したり美化したりするものじゃないですか。とはいえ鮮明なポイントはあるだろうなと思いながら、「さてどうするか」と一生懸命考えていきました。なんだか不思議な感覚でしたね。台本に書かれていないシーンが、浩市さんと対峙した瞬間にふわっと頭の中によぎったんです。それは、自分のリアルな経験から来ている部分もあるでしょうし、よぎったといってもおぼろげで具体性がなく……何とも言い難い体験でした。須永にも、様々な事情や想いがあって、演じているこちらとしても「これがこうでこうなる」という理論立てたものとはまた違った、それでいて妙な実感があったシーンでした。――西島さんと勝地さんは、刑事役でバディを組んでみて、いかがでしたか?西島:勝地くんが演じた泉は、一見すると本人がもともと持っている明るさや、前向きなエネルギーが出ていたと感じるかと思うのですが、それだけではないんです。「爆破テロに巻き込まれる」というすさまじい体験をすることで、それを境にすっかり人間が変わってしまう。劇中でははっきり描写はされていないのですが、勝地くんと芝居をする中で、泉のそれ以前とそれ以後を目の当たりにし、「こいつは変わってしまった」とはっきり感じられました。タフな人間であっても、人生や人格が変わってしまう。それを提示して見せた勝地くんの陰と陽の両方を持っている部分が、すごく魅力的でしたね。もっと共演したいです。勝地:僕は「バディ感」を出すのがすごく大事だと思っていて、初日からリハーサルをやりながら、2人にとっての「いつも」を作り出せるようにしました。たとえば、泉が世田を探しているシーンで「またここか…しょうがないなぁこの人は」という感じを出してみて、「2人の関係性っていつもこうなんだろうな」と見せる。そして、「俺が喋ってるのにこの人、まだタバコ吸ってるぞ…」と思いながら(笑)、空気感を作っていきました。西島:(笑)。勝地:自分の中では、泉が明るいキャラクターだから世田とバディを組んでいてきっと世田に対して「俺が面倒見てやるか」と思っている感じがしたので、そういった解釈を表現したつもりです。――映るシーンが限られているからこそ、しっかりと関係性を伝えられるように努力されていたんですね。勝地:そうですね。現場ではずうっと西島さんを見ていました。一同:(爆笑)。勝地:いやでも、それくらいしないと駄目だと思っていたんです(笑)!撮影も飛び飛びだったから、僕も必死でした。ちょっと気持ち悪いですけど……(笑)。――(笑)。井之脇さんは、石田ゆり子さんと共演されたご感想をぜひ、教えてください。井之脇:僕自身が演じた来栖に関しては、「自分も爆発に巻き込まれたらこう変化するだろうな」というリアルを追求しつつ、そこにフィクションの要素も入れて、変化にグラデーションをつけられるように、とは考えていました。石田さんが演じる山口アイコとは一緒に事件に巻き込まれるから、どこか心のよりどころにしていた部分はあったんです。でも芝居をしている中で、山口アイコとしての“熱”がふっとなくなる瞬間があって、ちょっと驚いたんです。現場にいるときは僕も来栖として「どうしたんだろう?」と不安になったのですが、完成した映画を観たら「そういうことか」と合点がいきました。アイコにも様々なことが降りかかって、その都度変化していく。観客として観たときに、そんな彼女の“道筋”を感じられたんですよね。「そうか、だからあのとき熱が消えたり、距離が遠くなったりしていたのか」と発見がありました。石田さんに引っ張られて自分の演技に変化が起こった部分もたくさんあったので、改めて、石田さんのすごさを感じましたね。本当に助けていただきました。“日本国民”が大事な登場人物――皆さんのお話を伺っていると、「自分が演じる役」という主観と、「作品全体の動き」という客観を常に意識されながら演じていたことが伝わってきます。そんな皆さんが“集結”する瞬間が渋谷のスクランブル交差点における爆破シーンかと思いますが、参加された感想を教えてください。足利に原寸大のセットを作って撮影したそうですね。西島:足利のセットはもちろん原寸大で地面はあるんですが、グリーンバックの部分もあるんですね。だからこそすごいと思ったのは、毎日千人以上のエキストラの皆さんが、渋谷のスクランブル交差点をイメージして演技をされていたこと。ここで爆破があって、衝撃がこっちからこう向かってきて…ということを想像しながら、大量の人間が一斉に動く。もちろんその前から、渋谷のクリスマスイブの楽しい雰囲気を作っておいて、それが一気にとんでもない世界になる、という落差を見せる。この規模でよくできたな…というのが、正直なところですね。CGでいくら作りこんだとしても、そこにいる千人以上の人々が「渋谷の空気」をイメージできていなければ、絶対そうは見えなかったわけですから。撮影は何日もかかって本当に大変でしたが(苦笑)、参加してくださった皆さんに「ありがとうございます。本当に楽しかったです」という思いがありますね。勝地:爆破があった後のシーンでは、エキストラの皆さんがそれぞれ「どういうけがをしたのか」「何を感じているのか」を想像しながら芝居されていましたよね。僕自身も爆破に巻き込まれてしまって…という状況で演じているなか、目の前で多数の人々がそれぞれ違った芝居をしているのを見て「いま、すごい現場にいるんだ」と思いました。西島:セリフも、皆さんがご自身で考えていたよね。勝地:すごかったですよね。這いずりまわる人がいたり、立とうとする人や動かない人がいたり…。これまでにない経験をさせていただきました。中村:出来上がったものを観たときに、渋谷でこんな大規模なシーンをたくさんの人を動員して撮っている“光景”を今まで観たことがなかったから、驚きが大きかったですね。「これ本当に渋谷で全部撮ったんだろうな」と思っていて、あとから「足利で撮った」と聞いてびっくりするんじゃないかと感じるほど、説得力のある仕上がりでした。あと、スクランブル交差点に集まっている人たち…つまり“日本国民”というものが、大事な登場人物の一つである気がしています。それぞれは一人ひとりの個人ですが、集まった際のマジョリティというか群像というか、それがこの映画のテーマを象徴する大切な存在だと思っています。西島さんがおっしゃる通り、それを成立させるのは並大抵のことじゃないですよね。グリーンバックに囲まれて、役者ひとりが想像力を働かせて芝居する×何千をやっているわけじゃないですか。このシーンを撮られたことが、作品にとってすごく大きかったんじゃないかと思います。――西島さん・勝地さん・中村さんは実際にスクランブル交差点の“中”にいましたが、井之脇さんはその光景を別の場所から見ているポジションです。井之脇:はい。僕はビルの屋上から眺めている設定でした。あのシーンも実はセットを作って、グリーンバックで撮っています。中村:『バットマン』みたいでカッコよかったよね。ゴッサムシティだ!と思った(笑)。西島:あのシーンは僕も参加しましたが、撮っているときはあんなに高いビルの屋上になっているとは思わなかったですね。井之脇:本当にそうですよね。僕もなかなか想像がつかなかったのですが、先に足利ロケが終わっていたため、撮り終えた映像を波多野監督が見せてくれたんです。まだエフェクトを付ける前で、爆破もないしグリーンバックなのに、参加されていた皆さんが「良い作品を作ろう」という共通意識を持っていたからこそ、渋谷の街や爆発が見えてきて、とても助けられました。「役を引きずる」かは時代やシステムによる?――佐藤さんにぜひお伺いしたいのは、本作における娯楽性と社会性のバランスについてです。本作はノンストップサスペンスかつアクション大作でありつつ、「渋谷で爆破テロが起こったら?」というリアルな恐怖がありますよね。佐藤:やはり大きいのは、「何が起きても不思議じゃない」というリアリズムを、昨今誰もが思うようになったということですよね。僕らはフィクションとして、「こういうことがあったら怖いよね」という思いの中でこの映画を作ってはいるけれど、ただ「あるかもしれないよ」といくら声高に言ったとしても、これが観た方で現実的に感じられるかは、別問題ではあると思います。しかし、いまの世の中の感覚だと、本作で描かれることが「あっても不思議じゃない」と思えてしまう。それこそが恐ろしいし、どこか気味の悪さを感じてしまいますね。――なるほど…ありがとうございます。本作では皆さんが鬼気迫る演技を見せられていますが、これまでに「役を引きずる」経験はありましたか?佐藤:若いときはありましたね。やっぱりどこか持って帰らないと、次の朝現場に来たときに切り替えるスイッチングがまだ、自分の中でうまくできない時期がありました。それが、何がきっかけというわけではないけれど、経験則の中で変わってきた。スイッチングできないとメンタルがもたないから、「できるように」というより「するように」なりましたね。逆に言うと、いまはカットとカットの間でスイッチングするから、周りの役者が迷惑そうな顔をする時があります(笑)。西島:僕は昨日の夜に広島から帰ってきたんですが、絶賛引きずり中です…。また数日後に現場に戻ります。久々に引きずっていて、困っています(苦笑)。――なんと!佐藤:きつい役なんだ。西島:そうなんです。毎日、涙がこぼれそうです…。勝地:そんな話をされた後に言いづらいんですが、僕は役を引きずったことがないです(苦笑)。一同:(笑)。勝地:もしかしたら引きずっているのかもしれないけど、勝手に「スイッチングできてる」と思っているタイプだから(笑)。そのほうが楽なのかもしれないですね。なんかすみません…。西島:いやいや、いいことだよ。中村:僕も引きずることはないですね。たぶん、僕と勝地はバカなんだと思います(笑)。勝地:(笑)。中村:僕らには繊細さがあまりないんじゃないかな…。――それぞれの役者さんのスタンスや、作品によっても変わりますよね、きっと。中村:そうですね。あえて日常生活に役を入れてみることはあります。それでどうなるか見てみたくて。でも、引きずるということはないかな。井之脇:僕はどちらかというと引きずらないようにしています。いまはどうしても複数の作品を縫わなければならないので、引きずるとつぶれてしまうんですよね。お風呂に入って寝て、日常に戻ってリフレッシュするようにしています。佐藤:時代もあるんじゃないかな。その時々の撮影のシステムで、変わってくる部分もある。僕が若いときは、ワンカット撮るのにアップで30分、引き画で長回しだと、モニターもないから準備に1時間かかるんですよ。その間に役者が何をやっているかというと、とにかくずっと稽古をしている。そうやって役が刷り込まれていくんですよね。すると、引きずる度合いも増えてくる。今はテストは1回2回ですぐ本番に行く、というシステムですよね。役者にとって「行ける」なのか「行かせる」なのかはわからないけど、どっちが悪いかではなくて、そういった違いに依存する向きはあるように思います。(SYO)■関連作品:サイレント・トーキョー 2020年12月4日より全国にて公開Ⓒ2020 Silent Tokyo Film Partners
2020年12月17日SNSでは埋められない孤独や、仕事に対する不安を抱える男女が、葛藤しながらも過去を受け入れ前進する姿を描く映画『パリのどこかで、あなたと』が、12月11日(金)より日本公開。この度、公開に先駆けて、本作の監督セドリック・クラピッシュと主演のアナ・ジラルドが、舞台となるパリや演じた役柄についてインタビューで明かした。本作は、パリの隣り合うアパートメントでひとり暮らしをしている30歳のメラニーとレミー、不器用な男女の出会いを描くフレンチ・ラブストーリー。メラニーは元恋人との恋愛を引きずりながらも仕事に追われる日々を過ごし、一方、レミーは同僚が解雇されるも自分だけ昇進することへの罪悪感とストレスを抱えていた。その影響からメラニーは過眠症に、レミーは不眠症に苦しむ日々が続き、それぞれセラピーに通い始める。都会の喧騒の中で、同じ電車に乗り、同じ店で買い物をして、同じように孤独を埋められない2人は、道ですれ違うことはあっても知り合うことはない。そんな2人の人生が交わることはあるのか、その出会いは2人の人生を変えるものとなるのか…というのが本作のあらすじ。『おかえり、ブルゴーニュへ』以来のタッグとなった2人。“都会に暮らす大人”たちが抱える悩みや寂しさを、丁寧に映し出していく本作でアナが演じているのは、がんの免疫治療の研究者として働く傍ら、プライベートではマッチングアプリで一夜限りの恋を繰り返し、ありのままの自分をさらけ出すことができずに悩む女性メラニーだ。またレミーは、日本でも注目度上昇中のフランソワ・シヴィルが演じている。――メラニーに共感できたところはありますか?自分とは違うと感じたところはありますか?アナ:最初は自分とは全然違うと思っていました。人生に対する態度が私とは真逆だったので。ただ、次第に好きになってきて、なんというか、劇中のように彼女を許せるようになったとでも言うのでしょうか、弱点を強みに転じることを学びました。撮影中に友人たちと役についてストーリーについて話したんですが、彼らの中でもメラニーと同じような態度や反応、自分で自分を苦しめるような悩みを抱えている人が多かったんです。セリフが自分の中に少しずつ染み入って、作品が公開された1年ほど後になって、やっと映画で語られていたこと、起こったこと全てを分かった気がします。友人たちにも「この映画を観て欲しい。もしその時メッセージがわからなくても、とばさずに観て欲しい。あなたの中に残って、そのうち意味に気づくから」と言いました。作品の中で選ばれている言葉はとても強いパワーを持っているから。――『おかえり、ブルゴーニュへ』以来のタッグ。また一緒に仕事をされてみて、どうでしたか?クラピッシュ監督:また一緒に仕事ができて嬉しかったです。映画を一緒に作ったメンバーは、バカンスを共に過ごしたグループや小さなファミリーみたいなものなので、離れると寂しいですよね。アナとは家も近いし、友達だから、その後もプライベートで会っていますけど、仕事で会うのはまた違う喜びですよね。フランソワとアナとまた働きたいと思ったのは、職業に対しての構え方、考え方が似ているからだと思います。アナ:私たちは自分の仕事、映画への強い愛を持っていて、その愛をスクリーンに映し出そうとベストを尽くします。芸術的で、クリエイティブな仕事だということを意識していますし、仕事を遂行するには真面目にやらないといけませんが、そもそも映画は人生、人々、人間について語っているので、そんなに上から物事を見る必要はなくて、一緒に笑うこと、よい雰囲気で仕事することがとても重要なんです。「セドリック・クラピッシュ監督との仕事はどう?」とよく訊かれます。映画業界の人はみんな、セドリックの作品はそういうユーモアのある、家族みたいな雰囲気で作っているという噂を聞いていて、フランス映画界のレジェンドみたいになっています(笑)――撮影中の印象的だったエピソード、撮影現場の雰囲気について教えてください。アナ:たくさんありますが、アパート全部が大きなスタジオの中にあったことですね。アパートのインテリアも細部まですごくよくできていて、ペンキや質感も本当のアパートのようで。思わず窓を開けてバルコニーで外の空気を吸いたくなるような。実際は開けてもスタジオの中なんですけど(笑)あとは『おかえり、ブルゴーニュへ』でもしらふと酔っ払いの間を演じましたが、今回は泥酔したメラニーを演じて、ああいう状態の演技を追求するのはとても面白かったです。クラピッシュ監督:スタジオに関しては色々ありますね。パリの典型的なアパートをスタジオに再現しましたが、メラニーのアパートは、インスタグラムで見つけたブロガーの写真を沢山ミックスしたインテリアで、若い女性の理想のアパートを作り上げたんです。あまりに理想的すぎて、アパートの部屋に入ると皆出たがらず、もう出てくださいと言わないといけなくて、ベッドルームはみんな本当に気に入ってしまって(笑)。なので現場の雰囲気はとても良かったです。スタジオでの撮影ならではのおかしな点もあって。例えばメラニーが妹に手を振るシーンは、妹の乗った列車がアパートの前を通過して行くんですが、スタジオなので列車の代わりにスタッフが前を歩いて横切っていて、それを見ながらアナが手を振るんです。シリアスな演技をしないといけないシーンなのに、みんな大笑いしそうになってました(笑)――本作の舞台、パリとはどんな街ですか?クラピッシュ監督:パリは変化し続ける街で、そこが好きです。パリの「変化」には2つあります。パリは色んなカルティエ、地区がある都市で、東京も似たところがありますが、銀座、表参道、渋谷、みんな違いますよね。パリも、サン=ジェルマン、モンパルナス、モンマルトル、アナや私が住んでいる11区も、それぞれ別の都市かというくらい、全く異なります。そういうパリの中での変化が好きです。私が16区やシャンゼリゼに行けば、うちの近所とは別の国に行くくらい違って、旅しているような気分です。もう一つの変化は時間によるものです。変わらない部分は心地よいですが、それでも街は変わっていきます。ルーブル美術館やオスマン様式の建物などずっとそこにある建築物とは裏腹に、人々の生活は変化していきます。日本もそうですが、パリには優れた伝統や長い歴史があり、同時に力強い現代性もあります。多くの人はその2つは相対するものだと思っていますが、実は共存します。例えばファッションウィークのようなモードの世界では、優れた過去、長い歴史がありますが、同時に今を表現するクリエイティビティもあり、著名デザイナーも常に日常に変化をもたらしています。シャネルやディオールなどの老舗ブランド、フランスの若手のクリエイターも、モードの歴史をリバイバルさせることもあれば、現代性のあるものを創り出すこともあります。私はパリのこういうところが好きなんです。力強い歴史があり、力強い現代がある、矛盾するようにも思える反対のものが共存する街なんです。アナ:セドリックの後に話すのは難しいですね(笑)。私はパリで生まれて、8回引っ越したので、右岸にも左岸にも、色んな区に住みました。この間、街を歩いていたら、ちょうど陽が落ちるところで、セーヌ川がオレンジ色に染まっていて。ポンデザール橋を渡っていた人々も橋の途中で足を止めていました。見ごとな空の色に、心地良い気温、カモメが空を飛んでいて。今は通りも人が少ないので、街は芸術品のようで、荘厳でした。長い歴史で多くの出来事を見てきた永遠の街、世界一美しい街に住んでいるんだと、ふと思い出した瞬間でした。多くのパリジャンはその素晴らしさを忘れてしまっているんですけど。――マッチングアプリで出会い、デートをするシーンが登場しますが、コロナ禍で人との関わり方はさらに変化していくと考えますか?また、監督自身の作品にも、コロナ禍の変化は影響を与えると考えますか?クラピッシュ監督:もちろん影響はあると思います。世の中の全ての出来事が影響します。私たちは今、全世界的に危機に直面していて、それはもちろん私たちの行動を変えると思います。怖いし、奇妙ですよね。例えば、フランスで6か月前に生まれた子どもは、マスクをしている人しか目にしていないんです。人の顔の半分しか見えなくて、そもそも人ともあまり会いもしないし、みんな人に触ることを避けるんですから。子どもたちにどんな影響を及ぼすのかわからないですよね。今となっては十人くらいがハグしあっているシーンなんて、「なんだこれ、変なの!」と思いますよね。カップルがキスするシーンだって、意味が違ってきます。そもそも人間にとって他者との接触は怖いものなのに、この病気でその恐怖は更に増大したわけです。不安ですよね。そういうわけで、私はむしろみんながハグする映画を作りたいんです。マスクなしで!(笑)1月に次作の撮影を開始しますが、通りのシーンでみんなにマスクをさせるかどうか考えて、マスクなしにしました。なので、エキストラも含めて通りの人たち全員、マスクなしです。ある意味、時代物みたいですよね、コロナの前と同じようにするので。これは演出において、とても重要な選択でした。コロナの話をしないし見せない、ということですから。私にとって、マスクをして人を遠ざけるということは、映像の概念を邪魔する、非人間的なものだと思ったのです。――公開を楽しみにしている日本のファンへメッセージをお願いします。クラピッシュ監督:この映画は、パリを旅行するのにちょうどよい方法です。今、なかなか本当の旅行は大変ですからね(笑)よくこれはロマンチックコメディかと訊かれるんですが、普通とは違ったタイプのロマンチックコメディだと思います。ロマンチックコメディというと、最初は仲の悪い2人が最後はくっついたりしますが、この映画ではラブストーリーをいつもとは全く違う方法で描いています。なので、日本の方には、パリが舞台、普通と違うラブストーリー、という点で気に入ってもらえるのではと思います。アナ:パリの物語ですが、東京も大都会なのでこういう関係はありうると思います。「近所の人が自分の探している男性じゃないかしら?」と。(cinemacafe.net)■関連作品:パリのどこかで、あなたと 2020年12月11日より全国にて公開© 2019 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURE - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA
2020年12月10日吉田羊、永山絢斗、滝藤賢一、光石研、三浦友和が豪華共演する大ヒットクライムサスペンスシリーズ待望の第3弾、「連続ドラマW コールドケース3 ~真実の扉~」の放送がスタートした。<シーズン3>となる今作では、石川百合(吉田)率いる神奈川県警捜査一課チームの結束力はさらに高まり、闇に葬られた悲劇的な事件の真実が続々と明らかになり、今まで語られることがなかった<個々の物語>も展開していく。その放送を記念して、映画『サイレント・トーキョー』も公開中の波多野貴文監督にインタビュー。シリーズ史上最大のスケールとなった<シーズン3>について、そして本シリーズの魅力について語ってもらった。刑事たち5人がメインキャスト――いよいよシーズン3 の放送ですが、今の心境はいかがですか?まさにいよいよという感じですけど、コロナがあったのでものすごく長い期間携わっていた感じがしますね。2か月ほど中断しましたので。そのせいか、より愛おしい感じです。細かい仕掛けに気づいてくださるかなあというわくわくとどきどきも(笑)。冒頭のダーツのシーンも別の話に繋がってます(笑)。――今回、そういう小ネタや伏線は意図的に増やしたのでしょうか?そうですね。でも撮りながら工夫して増やした感じですね。シリーズが続いてるので、安心してできる仕掛けではあります。マンネリ化しないようにと。――その意味で、今回の演出で一番こだわったところはどこでしょうか?難しいですね(笑)。全部で10本で、僕は5本分ですけれど、過去の事件を掘り起こした際に、当時の社会環境とは適度な距離を保っている刑事たち5人がメインキャストなわけです。その入り込み具体と仕事として距離を取っている姿勢については、いつも気にかけています。もともとはサラリーマン刑事を目指していたので、事件バカになりすぎないようにしたかったんです。刑事であることが人生の全てではなく、普段の生活もありつつ捜査もしているところもあるはずで、しかも5人いれば5人の人生がある。そこはこだわったところです。あとは視聴者の方々の目線を大切にしていますね。こちらの独りよがりにならないことを心がけています。――そのニュアンスは、5人のみなさんとどう共有したのですか?何をもって正解かは本当に難しい作業なので、撮影の時のディスカッションでお話をするしかないんですよね。みなさんの心のひだの奥にあるものが表情に出て、それを上手く画におさめて伝えられればと思っていました。ただ、WOWOWさんのいいところは、視聴者のみなさんが観ようと思って観てくださっていますよね。なので、ただ流しているのではなく、しっかりと受け止めていただける視聴者の方々が多いので、彼らの表情やセリフの端々とうとうで、事件に対する距離感や、この想いは伝わるのではないかって、勝手に思ってはいます(笑)。――最終話まで、丁寧な演出がどう映像になっているのか楽しみです!いえいえ、監督ってね、何の技術もないんですよ(笑)。カメラマンは画を切れる、編集マンはカッティングできるし、プロデューサーはキャスティングできるし脚本も作れますが、監督はメイクもヘアセットも美術のデザインも演技もできない。何にもできないわけですよ。なので、みんなの持っているモノをよりよく引き出す事が自分の出来る事なんです。みんなにより気持ちよく仕事をしてもらうことを考えますよね。なので、現場ではなるべく笑顔でいる事につとめてます(笑)。初めての人も楽しめる、おすすめのポイントは?――今回シーズン3まで来ましたが、初めての人にはどうおすすめしますか?ありがちな説明でいいですか?(笑)。当時の自分を思い出しながら、あの時期にこんな事件があったのかもと楽しめる作品だと思います。過去の未解決事件を扱う作品なので、現代パートは最新のカメラで撮影していますが、過去は白黒フィルムということで当時の民生機を使って、その時代を回想させる撮影しています。それと当時流行った時代曲を使っているので、そういうところも特色だと思います。時代が異なるので同じキャラクターを別々の俳優さんが演じることが多くて、入れ替わるシーンもコールドケースならではのカットです。なにより豪華キャストが次から次へ出てきまし、謎解きも楽しめます。泣ける回もあればサスペンスが楽しめる回もあり、バラエティー豊かですよね。コールドケースはレギュラー5人がいながらも、各話の主人公は事件を起こした人や加害者、または被害者なんです。ですから、毎回違う話を観ているような面白さはあると思います。長く観ていただいている人には、5人の関係性が見えてきたり、それぞれ5人が抱えているものが何かあるということも見えてくる面白さもあると思いますので、初めての人もそうじゃない人も、ぜひ注目してください!「連続ドラマWコールドケース3 ~真実の扉~」12月5日(土)より、 WOWOWプライムにて放送スタート毎週土曜22時~全10話(第1話無料放送)(C) WOWOW/Warner Bros. Intl TV Production(Text:cinemacafe.net/Photo:Maho Korogi)
2020年12月08日映画、ドラマ、舞台と幅広いジャンルで活躍し、出演作も多い女優・吉田羊。コミカルからシリアスまで、演じるキャラクターにしっかり感情移入できる芝居は、制作陣からも高い評価を受けている。そんな吉田さんが「私にとってのホーム」と特別な作品と位置づける「連続ドラマWコールドケース」シリーズ。最新作「連続ドラマWコールドケース3 ~真実の扉~」では「もしかしたら最後かもしれない」と複雑な思いで現場に臨んだ。しかし、だからこそ見えてきたものも非常に多かったようだ。今回が最後かもしれない……という思い吉田さん演じる神奈川県警捜査一課の刑事・石川百合をはじめ、同じ課に属する同僚を演じた永山絢斗、滝藤賢一、光石研、三浦友和の痛快なチームワークと、そんなメンバーたちがスリリングに事件を解決していく描写が魅力の本作。2016年にシーズン1が放送されると、大きな反響を呼び、シーズン2が2018年に、そしてシーズン3が今年放送されるなど、人気シリーズとなった。吉田さんは「台本を読んだとき、これまでのシーズンとは違う感覚がありました」と語り出すと「いままでは次があるような終わり方だったのですが、今回はなんとなく最後かもということを意識するような感じだったんです」と率直な感想を述べる。「もしかしたら今回で『コールドケース』が終わるかもしれない」という思いでクランクインした吉田さん。そのため、各シーン一つ一つが「とても愛おしくて、終わるたびに泣きそうになってしまいました」と撮影を振り返る。役と自分の境目が分からなくなるほどのめり込んだ吉田さんにとって百合という役は「私の一部になっていて、撮影が終わっても自分のなかに内包されている感じ」というほどで、役と自分の境目が分からなくなるほどのめり込んだキャラクターだったという。ただですら思い入れが強い役。さらに今回は「最後かも」という思いが心の片隅にあった。「それを意識していたからかどうかは分かりませんが、いままで百合さんだったら抑えていただろうなという感情に対して、しっかり弱さや怒りを出せたような気がします」と百合自身の変化を述べる。そこには、捜査一課のメンバーたちへの信頼感も大きかった。「本当に5人のバランスがいい。このドラマって、ゲストの方たちが主役であり、彼らの思いをすくい取っていくのが、私たちの役目。皆さん暗黙の了解でそれがわかっている。誰一人『俺が、俺が』という人がいないんです」。作品はみんなで作るもの作品のために――。キャスト、スタッフ皆が持つ共通認識。互いを信頼し尊重し合う関係。吉田さん自身も「お仕事をいただくことが困難だった時期は、作品に出演するだけで嬉しかったし、出たからには爪痕を残さなければいけないという思いが強かった」と語ると「でもやっぱりモノを作ることって一人ではできない。作品を重ねるごとに、その思いは強く感じられるようになりました。当たり前のことなのですが、その当たり前を、皆さんが普通にやっている現場は素敵ですよね」と笑顔を見せる。吉田さんにとって、捜査一課の同僚たちはマスト。絶対に欠かせない存在だという。「第2シーズンのお話があったとき、私はプロデューサーさんに『もしこの先シリーズ化することになっても、新鮮さを求めてメンバーを入れ替えたり、追加したりすることはやめてほしい』とお願いしたんです」。百合さんは一生演じていきたい役本作は、新型コロナウイルス感染拡大の余波を受け、約2か月間撮影が中断した。再開後も、感染症対策を徹底することをはじめ、以前とは現場も大きく変わった。「どうなってしまうんだろうという思いはありましたが、現場に戻ると自粛前と変わらない皆さんがいました。逆に『絶対撮り切るんだ』という強い熱意がすごく、そういう空気を感じていると、いい意味でこだわりの強いプロ集団であるこのチームで撮影がしたい、絶対終わらせたくないという気持ちが湧いてきました」。いまや作品が途切れることない売れっ子女優であるが、自粛期間を経ての現場では「これが最後になるかもしれない」という危機感を意識するようになったという。一方で、大泉洋さんとリモートで芝居をした「2020年 五月の恋」など、こんな時期だからこそという発想でできあがったドラマも誕生した。「どんな状況でも発想の種は転がっているなと。作品を観て『面白かった』と言っていただけた方もいて、改めてエンターテインメントの力を再認識させられた時間でした」。知恵とアイデア、チームワークで、高いクオリティを保ったまま完成した「コールドケース3 ~真実の扉~」。これまで数々の作品で印象に残る演技を披露してきた吉田さんにして「『コールドケース』は私にとってのホーム。戻るべき場所なんです」と断言する。ほかの作品を撮影していても、「コールドケース」に戻ってくればホッとする。続編が決まれば、それがモチベーションとなり、別の仕事も頑張れる――。「百合さんは私がやった役のなかで、その後の人生が観たいと思える数少ない役柄なんです」と特別な存在であることを明かすと「できるなら一生百合さんを演じていきたいという気持ちがあります。それと同時に今シリーズのラストの百合さんで終わった方が美しいのかなという思いもあります。いずれにしても百合さんはずっと私の中で生き続けます」。最高のメンバー!それぞれの魅力とは吉田さんの“コールドケース愛”が伝わるインタビュー。最後に「最高」というメンバーについて話を伺うと、吉田さんの口からは称賛のコメントが止まらない。「永山絢斗さんについては、今シリーズでやっとバディになれたなと感じました。劇中ではシーズン1から軽口を叩き合っていましたが、そこに信頼がプラスされた感じです。これまで私が年上ということもあり、どうしても彼の遠慮を感じていたのですが、今回はそれが払しょくされました。彼は、予測不能な台本の読み方をする。だからこそ現場でなにが出てくるのか分からない。あまり決め込まず、相手のリアクションを最上としている。そんな彼の姿勢をすごく尊敬しています」。「滝藤さん演じる立川は、俳優・滝藤賢一史上最高に格好いいです。視聴者が観たい滝藤さんが詰まってキュン死してしまいます。光石さんは現場のムードメーカー。光石さんがいれば、どんな状況でも現場は平和(笑)。光石さんの説明セリフの安定感があるから、物語が明瞭になるんです。(三浦)友和さんは、以前にも増して捜査一課のなかにドンといてくださいました。大先輩なので、恐れ多い部分もあるのですが、ご自身がそれを意識して取っ払ってくださったので、今回は皆で友和さんの懐に入っていくことができました」。吉田さんをはじめ、固い絆で結ばれた捜査一課のメンバーたちの活躍を、思い切り堪能したい。「連続ドラマWコールドケース3 ~真実の扉~」12月5日(土)より、 WOWOWプライムにて放送スタート毎週土曜22時~全10話(第1話無料放送)(C) WOWOW/Warner Bros. Intl TV Productionスタイリスト:梅山弘子(KiKi inc.)ヘアメイク:paku☆chan(Three Peace)(text:Masakazu Isobe/photo:You Ishii)
2020年11月30日SNS依存夫の裏の顔
そのピエロは帰ってくる
私のママ友付き合い事情