いま、年収が多くても貯金できない家庭が問題になっています。年収750万円以上1,00万円未満の家庭の11.2%、1,000万円以上1,200万円未満では13.5%、1,200万円以上では11.8%が金融資産ゼロ、というデータもあります。『隠れ貧困 中流以上でも破綻する危ない家庭』(荻原博子著、朝日新聞出版)の著者は、テレビでも人気の経済ジャーナリスト。著者がこれまでに取材してきた“高収入なのに貯金できない家計”をヒントに、老後破綻をきたさない家計を考えてみましょう。■人生には「3つの大きなお金のハードル」がある本書では、「年収800万円ありながらも、ローン返済や教育費を払うと毎月の収支は赤字」といったケースが示されています。こうした、大きな無駄をしているわけではないのに貯金ができず将来が不安な家計を、著者は「お金の生活習慣病」と呼びます。こんな状態では老後も不安。そのため、ローンを長期に組みなおすなどして家計に余裕を持たせ、「若いうちから退職までに何万円貯めよう」という考えになりがちです。しかし著者は、そんな発想に“待った”をかけています。「30代、40代で老後の準備を始めるのは合理的ではない」というのです。人生には、「住宅ローン」「子どもの教育費」そしてその後にくる「老後資金」という3つの大きなお金のハードルがあります。著者によれば、貯金できない家計の問題の根本は“貯金ができない”こと自体ではなく、ハードルを越える“順番”を見極められていないこと。まず「住宅ローン」「子どもの教育費」をクリアしてから「老後資金」に着手すべき、というのが著者の主張。そして、30~40代の目標は「ズバリ、家計を“50歳でプラスマイナスゼロ”に近づけておくこと」。仮に貯金ゼロでも、現役時代に住宅ローンさえゼロにできるなら「老後の勝ち組といっても過言ではない」とまでいいます。■住宅ローンの返済は「早ければ早いほどおトク」そのために、30~40代は貯蓄できなくてもまず繰り上げ返済で住宅ローンをできるだけ早く返し終えることが得策、と著者は訴えます。その理由は2つ。ひとつは、早めに返すほどおトクだということ。多くの人が、最初に利息を多く払う「元利均等方式」でお金を借りているため、早い時期に多めに返済することで利息分が大きく減るのです。買ったばかりの時期に約100万円繰り上げ返済をすれば、約100万円分の利息を払わずに済むそう。これは、なんと100万円投資して200万円手にするのと同じことなのです。そして、住宅ローンを早く返し終われば、それまでローンで支払っていたお金を貯金に回せる点。たとえば年間150万円をローンで払っていた場合、そのお金は“ないもの”として生活してきているので、家計に大きなメスを入れなくても年150万円の貯金をすることが可能なのです。年間150万円のローンを50歳で終えれば、その後60歳で退職するまでに1,500万円貯めることができます。妻がパートに出るなどすれば、2,000万円も見えてきます。■まずは「住宅資金を用意すること」に専念すべきもうひとつ、著者が指摘するお金の使い方は「住宅ローンの頭金をなるべく多く出す」こと。ここでもハードルの順番をよく考えて行動することが大切になってきます。教育資金や老後資金として別に貯めていると、必然的にその分住宅ローンの頭金に割ける金額は少なくなるもの。しかし著者は「まずは目前の住宅資金を貯めることに全力投球しましょう」と断言します。頭金を多めに用意できれば、住宅ローンもその分少なくなり、返済を早めたり貯蓄をしたりする余裕が出て、教育資金も貯められます。最も教育費がかかる大学入試から大学卒業までの数年間を乗り切ることができれば、今度は老後資金に全力投球することができるのです。「お金には色がついていない」と著者はいいます。その時々、手元にあるお金をもっとも使わなくてはいけないところに集中的に使っていくことで、効率的なお金の使い方ができるというわけです。*公的年金が目減りしていくなか、30~40代の若い世代にとって「老後資金をどうつくっていくか」は大問題。しかし著者は、「30~40代は、年金より現金」を肝に銘じよと訴えます。遠い将来を不安がり個人年金などを検討するよりも前に、まずは足元固め。確実に借金を減らす方が、効率よく家計を回すことができるのです。本書では、平均より収入が多くても効率的なお金の使い方をしていないばかりにお金の生活習慣病に陥っている家計を詳細に分析。そこから逆説的に「効率的なお金の使い方」を導き出しています。また、高収入でも収支がマイナスになるケースなど62の具体的なお悩みをQ&Aの形で解説。自分の家計に即、活かせるアドバイスを見つけることができます。収入が増えてくる50代、そして老後に借金家計に陥らないために、30~40代で読んでおきたい1冊です。(文/よりみちこ) 【参考】※荻原博子(2016)『隠れ貧困 中流以上でも破綻する危ない家計』朝日新聞出版
2016年04月24日タイトルが示すとおり、たしかに『話し方で、男は決まる』(櫻井弘著、フォレスト出版)は男性をターゲットとした書籍。しかし内容に目を通してみると、そこに書かれていることの多くは、男女を問わずさまざまな人に訴えかけるものであることがわかるはず。そういう意味では、「大人のための」話し方メソッドであるともいえるでしょう。ちなみに本書は、よくある「話し方本」のように、テクニックやスキルを重要視しているわけではありません。たしかに、それらも重要なこと。しかし現実的に、「あるもの」がなければ、身につけたスキルは活用できないというのです。それは、相手に対する「意識」。「相手は自分になにを求めているのだろう?」「この話の目的はなんだろう?」など、相手の思いや考えを想像し、それを意識してコミュニケーションをとる(=相手の感情に気を配る)必要があるというわけで、十分に納得できる考え方です。著者はコミュニケーションにおける「魅力(みりょく)」を、「三力(みりょく)」ともいいかえることができると考えているそうです。なぜなら魅力を上げるためには、3つの力が必要だから。それは、「思考力」「行動力」、そして「言語力」だといいます。■コミュニケーションに必要な「三力」(1)思考力たとえば相手になにかを説明するとき、「具体的な説明」ができなかったとしたら相手にははっきりと伝わりません、つまり、具体的に説明するためには、「具体的な思考」が前提となっていなければならないということ。そして同じように、肯定的に伝えるためには、「肯定的な思考」が必要になってくるもの。また論理的に話す必要があるときには、「論理的な思考」が前提となってくるでしょう。つまり、しっかりと聞いて、話して、伝えるためには、「しっかり考える」、すなわち「思考」が前提条件になるということです。(2)行動力「考えてから行動するか?」「行動してから考えるか?」「考えながら行動するか?」「行動しながら考えるか?」……なにか行動を起こさなければならないときには、行動する前につい、いろいろ考えてしまいがちです。しかし現実的には、そんなことばかりを考えていると、相手や状況はどんどん変化していってしまうもの。いいかたを変えれば、「行動力」は「スピーディーに」「速やかに」がキーワードになってくるということです。そして、そのために重要なのは、考えながら行動したり、行動しながら考えたりするという「同時進行」。いわば、「思考」と「行動」はセットになっていなければならないということです。(3)言語力またコミュニケーションという観点からすると、「行動」のなかには、口を動かす言語活動としての「口動」という行為も必要になってくるのだとか。すなわち、それが「言語力」だということ。たとえば朝の挨拶であるにもかかわらず、ボソボソッと低い声で「おはようございます……」などと挨拶したら、相手から「朝っぱらから暗い声で挨拶してきて……感じ悪い」というマイナスの印象を抱かれても当然。それでは、コミュニケーションが成り立たないことになります。■言語力・思考力・行動力が「大前提」「気持ちは、態度や声に現れる」とよくいわれます。たしかに気持ちが暗ければ、声も暗くなりますし、お辞儀も暗い感じになるでしょう。だからこそ、実際に「相手に確実に届く挨拶」をしたいなら、「言葉に心を込めて行動する」ことが大切だといいます。そして著者はこのことを、「3つのコ」と呼んでいるのだそうです。それは「言葉(コトバ)」「心(ココロ)」「行動(コウドウ)」、すなわち「言語」「思考」「行動」だということです。いってみれば、これら3つが揃っていて、なおかつバランスがとれていなければ、相手には伝わらない。しっかりとそう認識し、理解し、身につける必要があるわけです。一例として、「謝罪」の場面を思い浮かべてみましょう。たとえ「申し訳ございません!」とすまなそうに頭を深々と下げていたとしても、もしポケットに手を入れたままだったとしたら、相手は間違いなく不快感を抱くことになります。なぜならそれは「言行不一致」の状態だからで、相手に不信感や不快感、懐疑心といったマイナスの感情を意識させてしまうわけです。したがって、「言語力」「思考力」「行動力」の3つの力がバランスよく、しかも違和感なく相手に届いていることが、人間同士のコミュニケーションにおける大前提だということです。*著者はコミュニケーションの原則に基づいた、日常の話し方・聞き方の指導を行う「話し方・コミュニケーション」の第一人者。そんな立場を前提として書かれているからこそ、本書には説得力があるのだともいえそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※櫻井弘(2016)『話し方で、男は決まる』フォレスト出版
2016年04月24日『患者は知らない 医者の真実』(野田一成著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は、NHKの記者から医師に転身したという異例の経歴の持ち主。きっかけは、事件や事故の取材に明け暮れるなかで、しばしば医療問題に接する機会があったことだといいます。記者の立場から見た医療界は、専門性を壁として外部の目をシャットアウトする、閉鎖的な世界だったのだそうです。そしてそんななか、以前からあったという医療への関心がどんどん高まっていくことに。そこでNHKを辞めて医学部へ編入学し、医療を学んだ末に医師になったというのです。しかし現場に足を踏み入れてみ実感したのは、医療状況がさまざまな問題を抱えているという現実。たとえばそのひとつが、「よりよい治療を受けたい」という患者さんと、理想の医療を目指して奮闘している医師との間に「溝」ができてしまっていることです。そこでその溝を少しでも埋めたいという思いから、本書を上梓したのだといいます。ところで医療について考えるとき、私たちにとって切実な問題は「時間」です。特に大病院では、時間どおりに診てもらえないことが常識化しつつあるということ。なぜ、そんなことになるのでしょうか?■大病院では予約時刻が守られない理由せっかく予約しておいたのに、予約時刻をすぎても一向に呼ばれなくて次第に苛立ってくるということはよくあるもの。当然のことながら、医師の数が十分でないこと、もしくは大病院を受診する必要のない患者さんも大病院に集中してしまうことが。患者さんを長時間待たせてしまうことの一因だと、著者も認めています。医師のがんばりと患者さんの忍耐がギリギリのバランスをとることで、なんとか成り立っているというのが現状なのだそうです。ちなみに著者は都内の公立病院に勤めていたころ、15人から20人の患者さんを病棟で受け持っていたそうです。みんな、がんや肺炎の患者さん。しかもそこは臨床研修指定病院という、研修医を育てる病院でもあったので、医学部を卒業したばかりの研修医とともに患者さんを診察していたといいます。本書のなかでは、そのころの状況の一例が紹介されていますが、これがなかなかハード。■遅れても無理はない診察スケジュール・外来がはじまる8時半、一緒に回診していた研修医に、その日行うべきことを記したメモを渡して指示を出し、外来へ。・外来の診療枠はほとんどが予約で埋まっているものの、近隣のクリニックから紹介状を持参して来院する患者さんや当日突然受診する患者さんもいるため、診療スケジュールは次第に遅延していくことに。・予約時間をすぎて苛立つ患者さんへ、受付の事務員や看護婦が対応。・診療室に入ってきた患者さんに医師からもう一度遅れた理由を説明して頭を下げ、診療開始。・午前10時半に病棟から、長らく診療していた進行肺がんの患者さんの心拍が止まりそうだとの連絡。・診療スケジュールはすでに1時間遅れとなっていたものの、いったん診療を中座して病棟へ上がり、ご家族が見守るなかで死亡宣告を行う。・死亡診断書を記載し、外来診療部門に戻るが、結局11時の予約患者さんを診察室に呼び入れることができたのは午後1時前。たしかにこんな感じなら、予約時刻に遅れてしまってもむしろ当然かもしれません。■ランチは時間どおりに食べられない!ちなみに著者の場合、平日の外来診療で、昼食を食堂や医局で食べることができるのは週に一度程度。なんとか外来を抜けることができ職員食堂にたどり着いたとしても、定食がすでに品切れなので、コンビニでおにぎりとお茶を買うということも珍しくないのだとか。それは著者に限ったことではなく、多くの勤務医も同じような状況だそうです。・そんな昼食後は複数の検査をこなし、すべてが終了したのは午後4時。・その後は病棟に戻り、研修医と夕方の回診(家族との面談も)。・研修医が姿を消した午後5時以降は、彼らの記載した診療録(カルテ)のチェックと追加の記載。・入院患者に翌日の点滴や処方を出し終えると午後7時すぎ。そこからが自分の時間で、学会発表のためのプレゼンテーション資料を準備したり、論文を読んだり。その後、午後9時半に病院を出て、帰宅は10時半。ただし、がんや重症の患者さんを担当しているときは、自宅にいても看護婦さんから相談の電話がかかってくることが。緊急の場合は病棟に戻らなければならず、深夜でも容赦なく携帯がなるのだといいます。そこで緊急の出勤ができるよう、枕元に着替え一式とカバンを常に置き、連絡を受けてから10分以内に出られるようにしていたのだそうです。医師が多い大学病院や一般病院の一部の診療科では、夜間や休日の呼び出し当番をつくって対応しているものの、著者の所属する呼吸器科のように医師が不足している科では、このように勤務は決して楽ではないのが現実。しかし著者も書いているとおり、それは「医師にとっても患者さんにとってもむしろ害悪」であるはず。なんとかして、こうした状況を改善していくことが急務であるようです。*他にも医師としての立場から、治療や投薬など、さまざまな角度から医療の現実を切り取っているため、とてもわかりやすい内容。医師との間によりよい関係を築くためにも、読んでおいたほうがいかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※野田一成(2016)『患者は知らない 医者の真実』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年04月22日『よく通る声、伝わる声に5秒で変わる!ビジネスがうまくいく発声法』(秋竹朋子著、日本実業出版社)の著者は、ビジネスボイストレーニングスクール「ビジヴォ」代表として、多くのビジネスパーソンの声指導を行ってきたという人物。いわば声に関するプロフェッショナルですが、だとすれば聞いてみたいのは、「どうしたらいい声になれるのか」ということではないでしょうか。自分の声や話し方が好きになれなくて、それが自信のなさにつながっているという人は、決して少なくないはずですから。ところが著者は意外なことに、「自分を変えようなどと思う必要はない」と断言するのです。なぜなら、ちょっと声を変えてみれば解決できるから。しかも声は、ほんのわずかな努力で変えることができるのだとさえいいます。そんな本書ではさまざまな「声テク」が紹介されているのですが、そのなかからすべての基本である「腹式呼吸」についての記述を引き出してみたいと思います。■腹式呼吸で自律神経も整えられるヴォイストレーニングの基本は腹式呼吸。しかも難しく考える必要はなく、ちょっとしたコツを学べば、誰にでもできるようになるのだそうです。腹式呼吸によって期待できるものの第一は、ダイエット効果。インナーマッスルが鍛えられ、代謝アップにもつながるというのです。当然のことながら、インナーマッスルが鍛えられると、ウェストサイズダウンや体の引き締まりが期待できるわけです。また代謝がアップすると、肌のトラブル解消や便秘解消などにもつながるのだとか。そして腹式呼吸は、自律神経を整えてくれるのだそうです。短い「胸式呼吸」では、吸い込んだ空気は肺の奥まで到達できません。その結果、肺には炭酸ガスなどの不要なものが溜まってしまうのだといいます。この状態が長く続くと、血液循環が低下したり、自律神経失調症担ったりしてしまうこともあるのだというのですから油断は大敵です。一方、腹式呼吸をすると、肺の下の横隔膜が上下運動することになります。横隔膜には自律神経が密集しているため、腹式呼吸をすると自律神経が刺激されることに。すると副交感神経が優位になり、リラックスすることが可能に。現代社会においては、ストレスと緊張状態の多い生活を強いられるもの。しかし腹式呼吸をすることで、心の平安も得られるのだとすれば、それは無視できません。そればかりか、腹式呼吸はひらめきや直感ももたらしてくれるのだといいます。腹式呼吸をしばらく続けると、脳波がアルファ波へと移行するわけです。ひらめきや直感は、体がリラックスし、脳がアルファ波を出しているときに生まれるもの。それが、大きな効果につながるということ。なぜならビジネスシーンでは、多くの場面でひらめきが必要になるものだから。■腹式呼吸は百利あって一害なし!たとえば新製品のアイデアを出さなければならないとか、お客様の問題を解決するための提案書を書かなければならないなどがそれにあたるでしょう。そんなとき、腹式呼吸を身につけていれば、斬新なアイデアがひらめく可能性があるということ。また、「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンも、腹式呼吸のときに分泌されるそうです。つまり、腹式呼吸はいいことだらけで、害になることはひとつもないと著者は断言します。「百害あって一利なし」という言葉がありますが、その正反対で「百利あって一害なし」だというのです。では次に、「腹式呼吸の3ステップ」をご紹介しましょう。(1)正しい姿勢で立つ(プリマドンナ姿勢法)足は肩幅より少し狭く開き、両足に均等に体重を乗せます。重心は、かかと側ではなく、前方のつま先寄りに。このとき、お尻、背中、肩、首、頭が一直線になるように背筋を伸ばします。プリマドンナが舞台に立つようなイメージだそうです。(2)お腹に力を入れて息を吐きます右手をお腹にあてて、左手は口の前に置いてください。冬の寒いときに、手を息であたためるようなイメージで「ハァー!」と息を吐いてみます。それが腹式呼吸。息を吸うときは、鼻から自然に入ってくる感じ。(3)10秒間、息を吐く練習をします「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10」」と10秒間、腹式呼吸で長く息を吐いてみましょう。これを3回続けたら、今度は20秒間、長く吐く練習です。それを3回続けたら、今度は30秒間にチャレンジ。毎朝5分間、練習をしてみるといいそうです。1日のはじまりに腹式呼吸をすると、爽やかな気分で活動できると著者。*これは基本中の基本ですが、他にもさまざまな呼吸法、そして「伝わる声」を実現するためのメソッドがぎっしりと詰まっています。実践的な内容なので、きっと役に立つはずです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※秋竹朋子(2016)『よく通る声、伝わる声に5秒で変わる!ビジネスがうまくいく発声法』日本実業出版社
2016年04月22日『社会人1年目からの「これ調べといて」に困らない情報収集術』(坂口孝則著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、「フレッシュパーソンのためのあたらしい教科書」と銘打って創刊された「やるじゃん。」ブックスのなかの一冊。タイトルからもわかるように、「情報収集術」に関するノウハウがわかりやすく解説されています。きょうはそのなかから、大切な基本について解説された「情報収集5つの鉄則」をご紹介したいと思います。■1:情報収集は、上司へのヒアリングから社会人になると、上司から「◯◯について調査して報告しなさい」と要求されることがあります。しかし、ネットで検索しただけではよくわかりませんし、誰に聞いたらいいのかも検討がつかないもの。それどころか、資料が世の中のどこに存在するのかすらわからなかったりします。そんな新社会人に対して、著者は自らの経験値をもとにアドバイスをしています。資料を作るに際しては、次の表の項目を明確にすることが大事だというのです。・いつまでにつくればいいのか・資料の目的は明確になっているか・対象者は上司だけか、あるいは、さらに上の役員なども見るものか・報告手段はなにを求めているか・できれば、どういう結論を導きたいのか・上司はどのくらい詳しいのか︎特に重要なのは、「できれば、どういう結論を導きたいのか」。上司の意見を尊重しつつ、上司の仮説をていねいに修正し、適切な資料をつくることが大切だということです。■2:資料は「会社に役に立つもの」でなくてはならない情報収集とは、調べる行為だけではなく、考えることでもあり、さらには仮説を検証し続ける行為でもあると著者。しかも仕事でつくった資料は、会社のなかで使われるもの。だからこそ、会社が得するのか、効率化するのか、コスト削減できるのか、売り上げが伸びるのが、社員の職場環境が改善するのかなどの「実利」を追求することが必要。そこで資料をつくる前には、次のことを意識して情報収集をすることが大事。・ネットだけのつぎはぎ資料になっていないか・そのほか、情報源として信頼のおけないソースに拠っていないか・書籍、雑誌、テレビといった情報の単なるまとめになっていないか・あまりに原則論の、誰でもわかっている情報ばかりになっていないか大切なのは、その情報から新たな発見を導くことだといいます。■3:情報には「種類」がある著者によれば、情報には、一次情報、二次情報、三次情報があるそうです。一次情報とは、その情報源に直接当たったもの。誰かについて調べるとき、その人と会話したりインタビューすることです。二次情報は、新聞や書籍、テレビ、ラジオ、論文などから得た情報。誰かの発言を間接的に得る場合もあてはまるのだとか。一次情報を元につくりあげられているだけに密度は濃いものの、一次情報の「次」にあたるということを意識する必要があるといいます。そして三次情報は、情報源すらわからなかったり、何重にも編集しなおされたりしたもの。正式かつ厳格さを求められる資料であれば、避けるべきだということです。また、どの情報であれ、それが「事実」なのか「分析」なのか「希望」なのかを意識しなくてはならないわけです。■4:情報は常に疑おう!一次、二次、三次に限らず、その情報が信頼に足るものかどうかを意識することはとても大切。そして一次情報を使うときは、それを裏づける他の一次情報か二次情報を探すべき。つまり、重要なのは二重で確認すること。そのうえで大切なのは、直感的にも正しいかを常に自問すること。新しい内容に接するときは、「ほんとかな」と5回くらい疑うべきだといいます。■5:情報収集は「時間」が命資料提出に際しては、なによりも「期限」を守ることが大切。期限ぴったりに資料を報告したら及第点、期限より早ければ得点は3割増し、遅延は3割減だと著者はいいます。さらにもうひとつ重要なのは、情報の鮮度。つまり「いつの時点の情報を使うか」。常に資料の趣旨・目的をとらえ、多くの人たちが納得してくれるかを自問するとよいそうです。*情報収集は社会人に必須のスキルであるだけに、目を通してみればきっと役立つはず。また新社会人のみならず、すでに相応のキャリアを身につけている中堅ビジネスパーソンにとっても、忘れかけていたことを再確認するのに最適だと思います。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※坂口孝則(2016)『社会人1年目からの「これ調べといて」に困らない情報収集術』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年04月21日いま、教育の現場で注目度が高まっている“中1ギャップ”。昨今ニュースで見聞きする子どもの自殺やいじめによる傷害、殺人といった深刻な事態も、この中1ギャップが根本の原因のひとつと見る向きも少なくありません。しかし、Benesse教育情報サイトが中学生の子どもを持つ親に行った調査では、「中1ギャップ」という言葉の意味まで知っているという回答は7%。知らないとの回答が47%と、ほぼ半数を占めました。教育学博士の著者による『中1ギャップを乗り越える方法わが子をいじめ・不登校から守る育て方』(渡辺弥生著、宝島社)から、この中1ギャップを引き起こしている子どもの3つの環境の変化を追ってみましょう。■中1ギャップとは「中学校生活にとけ込めない状態」そもそも、中1ギャップとはなんなのでしょう?これは、「子どもの心身の発達時期が現代の小学校や中学校の義務教育の学校区分や学校制度と必ずしも適合していないことから生じる心身のギャップ」のこと。もう少しやわらかいいい方をすれば、「小学校から中学校に入学した1年生が、大きな段差や壁を感じとり、中学校生活にとけ込めない状態」です。実際、たとえば不登校は小学生から中学生に進学した段階で減ることはなく、むしろ統計上は増えています。さらにいじめの認知件数データでも、小学校6年生から中学校1年生で件数が増え、中学校2年生になると若干減少する傾向があるのです。データ上でも、ギャップの存在がはっきりと見て取れます。では、小学校から中学校に上がる段階で、子どもたちのなかではどのような変化が起こっているのでしょうか。■中1ギャップを引き起こしている子どもの3つの変化(1)内面の変化=第二次性徴この年ごろの子どもたちが避けて通れないのが、自分自身の心身の変化です。とくに小学校5年生から中学校1年生ぐらいまでの時期、子どもの身体は人生で初めての大きな変化を経験します。第二次性徴です。男子は声変わりや筋肉質な体格になるなど。女子は乳房が発達したり、初潮を迎えたりします。体つきも丸みを帯び、男子とは違いがはっきりしてきます。こうした変化に戸惑ったり、友だちとの違いに劣等感を感じたりするなど、この時期に感じる不安や緊張が、子どもたちのストレスの一因となり、ギャップの根元になっていることが考えられます。(2)関係性の変化=友だちグループの変容子どもたちにとって大切な人間関係、友だちづきあいにもこの時期には大きな変化が現れると著者は指摘します。“ギャンググループ”から“チャムグループ”への変化がそれ。ギャンググループとは、リーダー格、いわゆるガキ大将を中心とした一体性の高いグループで、つねに遊びを一緒にする「仲間」という意識が強いもの。いっぽうのチャムグループとは、お互いの好みや共通点を確認しあう関係性。中学生に入るころ、こうした関係性に変わっていきます。チャムグループに移行するとき、「共通点を失いたくない」「グループから外れたくない」といった焦りにも似た気持ちを感じたり、本音と建前のある関係性になじめかったりして、戸惑う子どもも少なくないのです。(3)環境の変化=進学小学校から中学校へと進学すること自体も劇的な変化です。ほとんどの教科を担任が教えていた小学校と、教科ごとに担当教師が変わる中学校。中学校では部活動に比重が置かれるようになるなど放課後の過ごし方も変わり、先輩後輩関係も小学校時代よりもはっきりしたものになりますよね。なかでも著者が指摘するのが、小学校と中学校の教師には溝があるのではないか、という点。著者によると、子どもたちができるだけ同じ条件のもとで中学校にとけ込んでいけるよう、小学校側は進んで子どもたちの情報を中学校に渡さない傾向があるといいます。一方で中学校側は、子ども本人や学校生活のことなどの情報をもっと伝えてほしいと考えているというのです。著者は、その“バトンの受け渡し”にギャップが潜んでいるのは、といいます。*本書では、中1ギャップに側面した子どものケアとして、円滑なコミュニケーションを学ぶ「ソーシャル・スキル教育」を提案しています。そして同時に訴えているのが、親にもできることがたくさんあるということ。中1ギャップのメカニズムを理解したうえで、親がまずできることは「わが子をよく見ること」。子どもの心を理解するように務め、子どもの心に寄り添おうとすること。頭ごなしに決めつけたりすぐに誤りを正そうとするのではなく、いったん受け止めてあげること。そして、愛情を伝えて心を安定させてあげること。何気ないことのようですが、それが子どもがギャップを乗り越えるのに大きな後押しになるのです。わが子が壁にぶつからないように、ぶつかった壁を自分の力で乗り越えられるようにするためには、はたしてなにができるのか?そんなことを改めて考えさせられる1冊です。(文/よりみちこ) 【参考】※渡辺弥生(2016)『中1ギャップを乗り越える方法わが子をいじめ・不登校から守る育て方』宝島社
2016年04月20日「運動なし、カロリー計算なしでやせた!」とうたうダイエットレシピ本はいろいろあれど、これほどの“実績”を持つものはそうありません。『お弁当もやせるおかず作りおき朝つめるだけ、食べて減量!』(柳澤英子著、小学館)は、料理研究家・編集者の著者が52歳の1年間で体重73kgから47kgへ26kgの減量に成功した、その黄金ルールに則ったレシピ本。この減量で、洋服もじつに15号から7号にサイズダウンしたそう。15号は大きいサイズの店でしか見つかりませんが、7号ならばおしゃれなものが選び放題です。この違いは女性ならば理解できるはず。『やせるおかず作りおき』シリーズでは3冊目で、お弁当にフォーカスしたものです。しかも本書では、38歳から51歳のモニター4人による、お弁当ダイエットの体験レポートも紹介。4人ともが約3週間で-7.0kgから-4.6kgの“結果”を出しているのです。著者やモニターが運動なしでやせた理由は“やせるおかず=やせおか”流のやせる食べ方3ヶ条。キーワードは「酵素、血糖値、食物繊維」の3つ。それぞれ詳しく見ていきましょう。■1:酵素「野菜をたっぷり食べて代謝を上げる」生の野菜や果物には「酵素」が含まれています。酵素は、身体の中で栄養素をエネルギーに変えてくれる立役者。大きく分けると、食べ物を身体に取り込みやすいかたちに分解する「消化酵素」、身体の再生をしてくれる「代謝酵素」、そして生の野菜や発酵食品に含まれ、身体のなかに入って働く「食物酵素」があります。消化酵素と代謝酵素はもともと体内にあるものですが、体調の変化や加齢によって減ってしまうものでもあります。そこでその働きを補うのが、食べ物から摂取できる食物酵素。生野菜にはこの食物酵素が含まれ、消化酵素としての働きだけでなく、代謝酵素としても働くので、代謝がスムーズになり、やせやすくなるのです。■2:血糖値「炭水化物は控え、肉・魚を多めに」ダイエットというと、まず「カロリーの高い肉は避ける」と考えがちですが、“やせおか”ではこれはNG。「低カロリーよりも低血糖」で、カロリーは一切気にしません。そもそも肉や魚は、私たちの体を作る上で必要なたんぱく質です。糖質は身体を動かすエネルギーですが、余ったものは脂肪になって蓄えられてしまう側面も。肉や魚は糖質をほとんど含んでいないので、たくさん食べても大丈夫。カロリー計算ではアウトになりがちな、チーズや生クリームもOK。本書でも、チーズいりミートボールやカルボナーラ風スパゲッティのレシピが紹介されています。いっぽう、糖質の高い炭水化物は控えめに。ごはん、パン、めんなどは通常の1/2~1/3に減らし、早めに結果を出したければ数日抜いてもかまいません。そして、食べる順番は野菜→肉・魚→炭水化物の順で。これによって、炭水化物の量を減らせるだけでなく血糖値が急に上がるのを防ぎ、満腹感を持続することができるのです。■3:食物繊維「加熱野菜も積極的に。出すものは出す!」野菜に含まれる酵素は加熱すると失われてしまいます。しかし、加熱した野菜も“やせおか”の重要な要素。野菜は加熱するとかさが減るのでたくさん食べられ、食物繊維をたっぷりとることができるからです。食物繊維は“第6の栄養素”ともいわれ、その重要性がどんどん認知されています。近年の研究でも、悪玉菌を減少させたり、腸内の有害物質を減らしたりするなど、おなかの調子を整えるのに大きな役割を果たしていることが明らかになっています。*この3つのキーワードに沿ってつくる“やせおか弁当”のもうひとつの特徴は、「つくりおき」できること。週初めに主菜としてタンパク質のおかず2品(A・B)、副菜として生野菜のおかず2品(C・D)、加熱野菜のおかずを2品(E・F)作り、少なめのごはんを入れたお弁当箱に、月曜日は〈B+C+D〉、火曜日は〈A+E+F〉、水曜日は〈B+D+E〉、木曜日は〈A+C+D〉、金曜日は〈B+E+F〉といった具合につめるだけ。朝の忙しい時間、非常にシステマチックにお弁当をつくることができるのです。新年度、気分も新たにお弁当でダイエットに挑戦してみるのもよさそうです。(文/よりみちこ) 【参考】※柳澤英子(2016)『お弁当もやせるおかず作りおき朝つめるだけ、食べて減量!』小学館※おなかの調子と食物繊維の関係とは?―大塚製薬株式会社
2016年04月19日『金利を見れば投資はうまくいく』(堀井正孝著、クロスメディア・パブリッシング)の冒頭には、「炭鉱のカナリア」の話題が登場します。ご存知の方も多いとは思いますが、改めてご紹介しておきましょう。カナリアは周囲の異変に敏感で、それまでさえずっていたとしても、危険を感じると鳴き止んでしまう習性を持っています。そこで炭鉱労働者は昔、坑道に入る際に3羽のカナリアを鳥かごに入れて持っていったというのです。いうまでもなく、そのうち1羽でも鳴き止んだら、「炭鉱内にガスが発生しているなど、なんらかの変調が起きている」という合図だと認識したわけです。つまりカナリアは、一種の警報(アラーム)として使われていたということ。でも著者はなぜ、こんな話を持ち出したのでしょうか?理由はいたってシンプル。つまり投資の世界にも「炭鉱のカナリア」が存在していて、それは「金利」だというのです。なぜなら金利は、まだ表面化していない景気の変調をいち早く教えてくれるものだから。それが、投資の世界におけるカナリアだという根拠なのです。だとすれば、金利について知っておけば投資の確実性は向上するでしょう。投資家にとっては、とても頼もしい味方だということです。そして著者は、「3つの金利」を「炭鉱のカナリア=警鐘」として機能させれば、景気の変調に気づいていけるとも主張しています。そこで今回は、この「3つの金利」に焦点を当ててみましょう。■1:政策金利(短期金利)まず金利には、「短期金利」と「長期金利」があります。短期金利は一般的に、期間が1年未満の金融資産の金利のことで、政策金利は短期金利のひとつ。政策公純は簡単にいうと、中央銀行が一般の銀行に融資を行う際に受け取る金利のこと。日本では2006年まで「公定歩合」といわれていたものです。金融政策とは、景気を安定的に拡大させるため、中央銀行が政策金利を変更し、市中に出回るお金の量(通貨供給量)を調節すること。中央銀行は、景気がよいときは政策金利を上げて通貨供給量を減らし、景気が悪いときには政策金利を下げて通貨供給量を増やします。こうして政策金利を引き上げることが「利上げ(金融引き締め)」で、引き下げることが「利下げ(金融緩和)」。政策金利は、金融政策の影響を大きく受けるといいます。預金やローンの利率など、私たちがふだん接している金利で、期間の短いものについては、政策金利が基準のひとつになるそうです。また、時期によってその利率が上下するのも、政策金利が上下することが理由のひとつ。私たちは日常生活のなかで、知らず知らずのうちに金融政策の影響を受けているわけです。■2:10年国債利回り(長期金利)長期金利とは、一般的には期間が1年以上の金融資産の金利。10年国債利回りは、長期金利の指標のひとつだそうです。債券とは、国や企業が期間や利率を決め、一般投資家から資金調達をするために発行するもの。そして10年国債とは、国が10年間利率を決めて発行する債券のこと。10年国債利回りとは、債券市場における10年国債の流通利回りのこと。そして流通利回りとは、債券市場で債券を購入し、満期まで保有し続けた場合の1年あたりの利回り(%)。つまり流通利回りは債券の収益率のようなもので、お金を借りるときに支払う金利だと考えればいいそうです。■3:社債利回り社債は、企業が発行する債券のこと。社債利回りとは、債券市場におけるその社債の流通利回りのことで、企業が資金調達をする場合のコスト。流通利回りには債券の構成要素がすべて盛り込まれているため、同年減で発行体が異なる社債をくらべた場合、社債利回りの差は発行体となる企業の信用力の差と考えられるそうです。信用力とは、満期が来たら借りたお金をきちんと返済できるか、定期的に利息を支払えるかという返済(支払い)能力。いわば、企業の信用力が社債利回りに大きく影響するわけです。私たちもなにげなく、この信用力を使って生活しているのだとか。いい例が、「お金を誰に貸すか」ということ。誰かにお金を貸して欲しいといわれたら、返してもらえるかと不安になるもの。でも、銀行になら安心してお金を預けます。銀行なら利息を払ってくれるし、必要なときにはお金を返してくれると、無意識のうちに銀行の信用力を評価しているからです。たしかにこうして考えていくと、金利を身近に捉えることができそうです。*著者は25年以上にわたって運用の世界に身を置き、金融市場と奮闘してきたという人物。そのような経験に基づいて書かれているからこそ、本書の内容にも説得力があるのです。著者のいうとおり金融市場の「炭鉱のカナリア」を意識してみれば、投資を成功させることができるかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※堀井正孝(2016)『金利を見れば投資はうまくいく』クロスメディア・パブリッシング
2016年04月19日わが子の能力を伸ばしてあげたい、主体性のある子に育ってほしい――。多くの親がそう願っていることでしょう。誰かにいわれなくても、自分からなにをすべきか考えられる子、状況を判断して行動できる子。わが子に、そんな主体性を身につけさせるためにはどうすればよいかを指南するのが『賢い子どもは「家」が違う!』(松永暢史著、リベラル社)。著者は、長年“カリスマ家庭教師”として活躍した人物です。家庭教師としてたくさんの家庭で子どもに勉強を教えるなかで、子どもの学力と家庭環境には密接なかかわりがあることに気づいたそう。現在は家庭環境設定コンサルタントとして、子どもの主体性を伸ばし、アタマのいい子が育つ家庭環境をアドバイスしています。本書では、子どもが自分から勉強したくなるリビングやダイニングの使い方、子どもを伸ばす本やおもちゃの選び方などが具体的に解説されています。そんななかから、子どもがよちよち歩きをするころになったら気になる「子どもに自分の部屋を与えるタイミング」を見てみましょう。■目安は「親とお風呂に入らなくなったら」子どもが自分の部屋を持つのには“適齢期”がある、と著者。それはズバリ「ひとりでお風呂に入るようになるころ」だといいます。とくに異性の親、男の子なら母親と、女の子なら父親と一緒に入らなくなったら。著者の考える“適齢期”は10歳です。この時期は、ちょうど体が大人へと変化する第2次性徴がはじまるタイミングと重なっています。思春期の入り口に立ち、家族からの精神的分離がはじまる時期です。このとき気をつけたいことが、いつでもひとりで寝ることができる環境を整えておきつつ「実際にひとりで寝るかどうかは子ども自身に任せる」ということ。この時期はまだ、ひとりの人間として扱われることを求める一方で、精神的な親離れはまだまだはじまったばかり。突然突き放されたと感じれば、不安になってしまうからです。さらに、この時点ではまだ部屋を完全な密室にせず、親の声が届くような余地を残しておくのが理想。思春期が本格化する中学生ごろからは、大人と同じプライバシーが必要になります。■勉強机は幅120~150センチがベスト本書では、部屋のなかのモノの配置や状態についてもこまかく解説されています。子ども部屋に欠かせない“勉強机”もそのひとつ。家具屋さんや大型のホームセンターなどでは、棚が充実したものや机とベッドが組み合わされたものなど大きさもデザインもさまざまで、目移りしてしまいますよね。家庭教師として子どもの机で勉強を教えてきた著者は、一般的な「学習机」は勉強に向いていないと指摘しています。ここでいう学習机とは、幅1メートルほどで片側に引き出しがある、いわゆる片袖タイプのもの。一般的なものですが、勉強部屋に置くには「不向き」だというのです。理由はその狭さ。教科書とノートを広げるともういっぱいで、参考書や副教材、資料集、地図帳などを広げるにはスペースが足りないのです。著者は、こうした副読本を広げる瞬間こそが、子どもの“賢くなる火”が点いた瞬間だといいます。「あれ、これってどういう意味だろう」「これについて、もう少し知りたい」そういう風に思う気持ちの積み重ねが、子どもの自主性を育てることにつながるのです。著者の考える理想の勉強机のポイントは、幅が広いこと。幅120~150センチあれば、本を何冊広げても大丈夫。画材を広げて絵を描くこともできます。そして、使い終わったら机の上になにもない状態に片づけ、勉強を始める時にはまっさらな状態で使い始められることも大切です。■小学校入学まではマットで工夫をしよう!小学校に上がる前くらいなら自分の部屋はなくても問題ないとする著者ですが、そうはいっても遊ぶときや絵を描くときには“自分専用の場所”がほしいもの。著者も、“自分専用の場所”を作ることは、子どもにとってもよいといいます。「自分の場所だから、使い終わったらきちんと片づけなければいけない」という気持ちを育てることができるからです。場所はリビングの片隅でOK。スペースの境界が視覚化できるよう、マットを敷くのがおすすめです。遊ぶときはこれを敷き、その上ならおもちゃを思い切り広げてもいい、といったルールを子どもと一緒に決めるのです。マットは小さすぎると遊びにくくなりますが、大きすぎると幼児には片づけがたいへん。120センチ×80センチくらいのサイズが最適です。*本書には、子どもの主体性を伸ばすための家庭環境づくりのアイデアがたくさん詰まっています。どれもすぐに取り入れることができ、それが必要な理由も説明されています。子どもが小学校に入学する前の親御さんにはもちろん、小学校や中学校に通う子どもの自主性をもっと育てたい、という方にもおすすめの1冊です。(文/よりみちこ) 【参考】※松永暢史(2016)『賢い子どもは「家」が違う!』リベラル社
2016年04月19日『あなたのまちの政治は案外、あなたの力でも変えられる』(五十嵐立青著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は、茨城県のつくば市で8年間にわたって市議会議員を務めてきたという人物。そのような活動を通じ、感じたことがあるのだそうです。それは、多くの人が「どうして保育園に入れないのか」「なぜ街灯が少ないのか」など日常生活の不便さには関心を持っているのに、その原因となっている“政治”には関心を持っていないということ。しかし現実的に、私たちの毎日の生活は政治から切り離されたものではないはず。だからこそ、多くの人々に政治への関心を持ってもらいたい。そんな思いから、本書を執筆したのだといいます。主人公で主婦の香織、夫でサラリーマンの大輔、小3で長男のソウタ、2歳の長女ヒナタからなる「香織一家」を軸としたストーリー仕立て。話の要所要所で、ママ友や市議会議員、市役所職員などが絡んできます。そのやりとりを読み進めるうちに、子育て、介護、交通、都市計画などさまざまな問題への疑問を無理なく解消できるわけです。きょうはそのなかから、“政治とお金”についての気になる話を引き出してみたいと思います。■市議会議員の報酬は人口によって変わるこの項で、「政治家ってやっぱり儲かるの?」というストレートな疑問が浮上します。市議会議員の山下の回答によれば、議員は“報酬”を受け取っており、彼の議会の場合、額面は月額45万円なのだそうです。「やっぱり多いんだな」という印象を否定できませんが、詳しく説明を聞くと、どうやらそうともいい切れないようです。なぜならこれは、会社でもらう給料とは違って、税金などが引かれていないものだから。ここから所得税、国民健康保険税や市県民税、国民年金などをマイナスすると、手取りは月平均で24万円くらいだというのです。それに加え、「期末手当」というボーナスのようなものももらえるので、実質は年450万円くらい。なお、業績に関係なく支払われるのだそうです。ちなみに全国どこの市区町村でも同じ額だというわけではなく、人口が多いところは金額が多く、人口が少ないところは金額も少ないのだといいます。人口によって仕事が変わるわけでもないので、仕組みとしてはちょっとおかしい気もします。また報酬の他に、政務活動費というものも支払われるそうで、山下のまちの場合は月額3万円なのだそうです。■県議会議員と国会議員の報酬はいくら?しかし、もしも県議会議員になったとすると、金額はずいぶん上がるのだとか。額面で年収約1,200万円だといいますから、税金や年金を払ったあとの手取りもかなりの額になりそう。しかも県議会議員の場合、政務活動費は月額30万円。つまり市議会議員のひと月の手取りとほぼ同じ額が政務活動費としてもらえるわけです。さらに国会議員になると、年収は約2,200万円。そして報酬の他に文書通信費が月額100万円もらえることに。しかも領収書がいらず、つまりはなにに使ってもいいということ。秘書給与費なども合わせると、年間約7,000万円くらいがもらえるというのです。また、公務ということになると新幹線のグリーン車が乗り放題になるなどの特典も。■市会議員にはなにが求められているのかしかし、そういう話を聞くと、「はたして金額に相当した仕事をしているのか」ということが気になります。その点については、市議会議員の場合だと、議員として必ず出席しなければいけないのは年に4回の定例会で、年間で30日くらいだそうです。それに加えて、委員会が開催されたり、全員協議会という会議が開催されたりしますが、すべてを合わせても公務は年50~60日くらい。それだけで何百万円ももらえるとはうらやましい気もしますが、議員としての活動は、公務以外の部分で差が出てくるのだといいます。たとえば政策の勉強や現場の声を聴くことに時間をかなり割く議員もいれば、もっぱら地域のお葬式やお祭りに有力者として顔を出す冠婚葬祭専門というような議員もいるということ。「冠婚葬祭専門議員」には1年で100~150回も出席する人がいるそうで、そのため新聞のお悔やみ欄をしっかりチェックしているのだとか。そんな議員に税金から高い給料を払ってほしくないと感じても不思議はありませんが、議員報酬を高いと思うか低いと思うかは、その人が政治家になにを期待するかということとも関係しているもの。葬式や結婚式に来てほしいとか、道路などの陳情を市に届ける役割をするとか、仕事の口利きをしてほしいとか、姿勢の問題点を追求してほしいとか、いろいろなニーズがあるわけです。つまりそう考えると、政治家を育てるのは、選挙で投票している市民の仕事ということになるのです。*話の大半が会話形式で進んでいくため読みやすく、知りたいことを無理なく知ることができる良書。政治に関心を持つために、有効な内容だといえそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※五十嵐立青(2016)『あなたのまちの政治は案外、あなたの力でも変えられる』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年04月18日時間を効果的に使うことはなかなか難しいだけに、時間管理についてモヤモヤした気持ちを常に抱いている方も多いはず。そこでぜひご紹介したいのが、『世界で一番シンプルな時間術[新装版]』(マリオン&ヴェルナー・ティキ・キュステンマッハー著、佐伯美穂訳)です。著者の一人であるヴェルナー・ティキ・キュステンマッハーは、プロテスタントの牧師であると同時に、イラストレーター、作家としても活動する人物。そして共著者のマリオンは彼の妻です。そんなふたりが2006年に発売した本書は、以来10年間にわたり支持され続けてきたロングセラー。そして今回お目見えしたのは、そんな名著をコンパクトサイズにした新装版です。タイトルから想像できるとおり、テーマは時間と上手につきあうこと。「いま、この瞬間」を生きていることを、純粋な気持ちで楽しむためのアイデアが紹介されているわけです。だから、ここに書かれていることを実行すれば、ゆったりとして満ち足りた気持ちになれると著者はいいます。やるべきこと、やりたかったことはたくさん。だから実際のところ、1日中あわただしく動きまわっていた。にもかかわらず、その日の終わりに1日を振り返ると、きちんと達成できたことがひとつも見つからなかった……。そんな経験は、誰にでもあるのではないでしょうか? 著者も、そんな「収穫ゼロ」の日は誰でも経験するものだと認めています。とはいえ、「みんなもそうなんだ」と満足してみたところで進歩はありません。そこで意味を持つのが、“時間の上手な使い方の4つのコツ”を取り入れること。そうすることで、1日の充実感はまったく変わってくるというのです。■1:短時間でも運動する時間をとるやらなければならないことがたくさんあって、時間がまったく足りない。そんなとき、時間を得るために多くの人は、ランニングやフィットネスジムに行く時間を削ってしまうと著者は指摘しています。しかしそれは、もっともやってはいけないことなのだとか。体を動かして心拍数を上げると、必ず気分はよくなり、「やった!」という達成感も味わうことができるもの。しかも時間をかける必要はなく、たった30分で十分だといいます。それだけで、その後の時間もずっと、充実した気分で過ごすことができるわけです。また短時間の運動をすることには、判断力が向上するというメリットも。その結果、「重要なことと、そうでないこと」がはっきり見えてくるというのです。いいかえれば、運動することで「時間を上手に使う能力」が高まるということ。しかも定期的に体を動かしていれば、疲れにくい体質になり、頭痛や風なども予防することが可能。良い体調で集中できるようになり、充実した時間が増えるといいます。■2:毎日、計画する時間をとる「イライラした気分だ」「集中できない」「やる気が湧いてこない」などと感じるなら、仕事を続けず、いったんその場から離れてしまうといいのだとか。そして5分程度、その日の仕事について「やるべきことはなにか?」「やり終えたいことはなにか?」「達成したいことはなにか?」と考えをめぐらせ、計画してみる。それが、時間の効率化にとっては大切だという考え方。ちなみに著者のいちばんのおすすめは、1日の計画を考える短い時間を、1日のはじまりの習慣とすることだといいます。■3:机の上を片づける机に向かっているのに集中できないというときは、机の上を片づけて、余計なものをどかしてしまうのがいいそうです。とはいっても、大掃除になってはいけないといいます。あくまで片づける場所は机の上だけ。時間も短く区切り、ちょっとだけ瀬尾入り整頓をするということです。目的は、集中すべきこと以外のものが、目に入らないようにすること。自分の目の前に「これだけをやる」と絞った仕事に必要なものだけを置くようにすれば、気が散ることも少なくなるわけです。■4:小さな愛情表現をする友人や恋人、妻や夫、両親や家族など、大切な人に感謝と愛情を伝えることは、つい先送りにしてしまいがち。しかし著者はこのことについて、「愛情とは、植物のようなものだ」と記しています。普段は放っておいて、1年に1回、ゴージャスに水と肥料をあげても効き目はないということ。こまめにやさしい気持ちを注がないと、いつの間にか枯れてしまうわけです。だからこそ、ほんの少しの気遣いをすることが大切。コツは、堅苦しく考えず、「相手のちょっとした望み」を叶えること。*このように、著者の主張はいたってシンプル。しかし考え方のひとつひとつは理にかなったものであり、上記の「小さな愛情表現をする」のように、一見すると時間管理には関係がなさそうにも思えることにもあえて注目。そこから、本質を見事に引き出しています。だからこそ、読んでみればきっと「忘れかけていた多雪なこと」を思い出せるはずです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※マリオン&ヴェルナー・ティキ・キュステンマッハー(2016)『世界で一番シンプルな時間術[新装版]』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年04月17日『「話し方」に自信がもてる 1分間声トレ』(秋竹朋子著、ダイヤモンド社)の著者は、声楽家としてのノウハウ、そして音に対する敏感な聴覚(絶対音感)を生かし、「ビジヴォ」というビジネスボイストレーニングスクールを運営している人物。スクールでの授業、全国各地での企業研修・セミナーなどを通じ、これまで250社以上の企業、3万人以上のビジネスパーソンに対してボイストレーニングを指導してきたのだといいます。そして、そんな実績があるからこそ、「声が変わるだけで、仕事の成果が上がる」と断言できるというのです。特にビジネスの現場においては、話の内容を相手にきちんと伝えるために、話し方がとても重要。その土台を支えているのが「声」だということ。いい発声・発音で話しているかどうかによって、話の伝わりやすさの大部分が決まり、それが説得力につながるというわけです。■声と年収は比例していることが明らかに声についての情報発信を行っている「声総研」が、20代から50代の働く男女を対象としてアンケート調査を実施したのだそうです。自分の声に自信があり、「声をほめられたことがある」「声の通りがよいほうだと思う」などの要素・経験を持つ人を「モテ声(ちゃんとした声)」、対して自分の声に自信がなく、「他人に声が暗いといわれたことがある」「声にハリがなくなったと感じる」などの要素・経験を持つ人を「老け声」と名づけ、それぞれのタイプにどのような傾向があるかを探ったものだとか。質問のなかで、「現在、役職がついている、または管理職に就いている」と回答した人の割合は、「モテ声」の人が「老け声」の人を約1.3倍上回るという結果になったのだといいます。また、「自分の声が仕事で有利に働いたと感じたことがある」割合も、41.2%もの差をつけて「モテ声」の人が上回る結果に。つまり、いい声をした人のほうが上の役職につきやすく、また仕事もうまくいくということが、データから明らかになったというわけです。役職が上がれば給料も上がりやすくなるので、「声のよさと年収は比例する」傾向があるということになる。著者はそう主張するのです。■とくに魅力的な声を持っているのは誰か実際のところ、著者がビジネスの現場で見ていても、一流のビジネスパーソンは声に気を使っているのだといいます。ビジネスパーソンに特化したボイストレーナーとして3万人以上と接してきた経験のなかにおいても、間違いなく、できるビジネスパーソンはいい声の人が多かったといえるというのです。なかでも、特に魅力的な声を持っているのは、若くして大きな成功を収めたベンチャー企業の社長。それはおそらく、彼らが活動的でエネルギッシュであり、また体力もあるので、そのパワーが声になって表れているからだといいます。もちろん、声がいまひとつだったとしても、大企業のトップに上り詰めたり、ベンチャー企業を成功させたりした人はいます。ただしそういう方でも、ビジネスエリートになったことで「人に見られている」という自覚が芽生え、その結果、改めてボイストレーニングをして声を改善するというケースがよくあるのだそうです。だから、そういう人たちも結果的には声がよくなる。そのため、ビジネスでトップに立つ人は、必然的にいい声の人が多くなるというわけです。■いい声は「ビジネスチャンス」にもなるそこで著者は、「ビジネスで多少なりとも上を目指すのなら、いい声を手に入れることが必修科目」だと断言するのです。ところが、ビジネススキルとしての声に注目し、完全するためのトレーニングを受けようという人は、まだあまり多くないというのが現状。そのような考え方が浸透しているとはいえない以上、仕方のないことかもしれません。けれど、「あまり意識している人がいない」以上、それはビジネスチャンスにもなりうるはず。意識していない人に先んじて「いい声」を手に入れることができれば、他の人と差をつけることができるということ。昨今では、個人に対してコーディネートなどのアドバイスをしてくれるパーソナルスタイリストを活用するビジネスパーソンも出てきました。彼らは服装に気を使うことによって、イメージ戦略を実現しているわけです。そんな時代だからこそ、「声」にもしっかり気を使うべきなのだというのが著者の考え方。*このようなコンセプトに基づき、本書では「声トレ」の具体的なメソッドがわかりやすく紹介されています。声をなんとかしたいと感じている人にとっては、必読の一冊だといえそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※秋竹朋子(2016)『「話し方」に自信がもてる 1分間声トレ』ダイヤモンド社
2016年04月16日『相手を完全に信じ込ませる禁断の心理話術 エニアプロファイル』(岸正龍著、フォレスト出版)は、アップル、IBM、コカ・コーラ、P&G、トヨタなどの大企業も採用しているという「エニアグラム」について解説した書籍。「破壊力は劇薬並み!」などというキャッチフレーズを見ると少なからず胡散臭さを感じてもしまいますが、著者は「胡散臭いことは認めます」とはっきり記しています。その理由は明快で、つまりは「相手を完全に信じ込ませる」と大上段に構えているため、いかがわしさはぬぐい切れないと自覚しているのだということ。しかしそれでも、エニアグラムをベースに開発されたエニアプロファイルは、相手を完全に信用させるというのです。でも、そもそもエニアグラムとはなんなのでしょうか?きょうは、基本というべきその点に注目してみたいと思います。■人の基本的な性格の働きを描いた地図エニアグラムとは、ギリシャ語で「9の図」という意味の幾何学図形。そして、この図形をシンボルとした「性格タイプ論」なのだそうです。人間を「1.改革する人」「2.助ける人」「3.達成する人」「4.個性的な人」「5.調べる人」「6.忠実な人」「7.熱中する人」「8.挑戦する人」「9.平和をもたらす人」という9つの基本的な性格に分類したもの。なお、「エニアグラム研究所[日本]」のサイトには、その9つの性格の位置関係が表示されていますので、ぜひチェックしてみてください。いずれにしても、つまりはこの9つに相関関係があるということです。著者はそれを、それぞれの性格の働きを描いた“こころの地図”だと表現しています。エニアグラムは、心理学的研究が急速に発展してきた現在、もっとも効果的な自己成長のシステムとして、ビジネス、コーチング、カウンセリング、教育などのさまざまな分野に取り入れられているのだといいます。具体的にいえば、個人の特性を9つのタイプに分類し、世界中のすべての人は、そのうちのひとつに当てはまると定義しているわけです。なお、タイプは生まれた瞬間に決まっていて、死ぬまで変わることはないとか。とはいえ、自分がどのタイプであったとしても、9つすべてのタイプを自分のなかにある程度は持っているのだそうです。そして、そのなかでいちばん強く表面に現れているものが自分のタイプだということ。つまり、エニアグラムのタイプは「ありなし」ではなく、「強弱」だというのです。■エニアグラムは今も進化し続けている各タイプは人生観や価値観、行動の動機や選択の基準、コミュニケーション方法やストレスへの対処法などにおいて、それぞれ特徴的で共通の「やり方」を持っているのだそうです。いわば、それを丹念に観察し、研究し、性別や国籍を超えて等しく当てはまる知見としてまとめたのがエニアグラム。古代ギリシャ時代に誕生し、やがてアメリカに渡ったエニアグラムは、スタンフォード大学やバークレー大学で、心理学や精神医学の見地から研究や検証が行われるようになったのだといいます。そしてフロイトやユング、カレン・ホーナイなどの研究、対象関係論、DSM-IV(精神疾患の分類と診断の手引き)など、精神医学の理論との比較研究をしながら、詳細な理論として編まれてきたという経緯があるそうです。いわば完成系ではなく、いまも日々進化していて、年を追うごとに奥深さを増しているということ。■触れた人が100%驚くほど見抜く!そんなエニアグラムは本当に、驚異的な確度で人の内側を見抜くのだと著者は断言しています。その精度の高さに、エニアグラムに触れたことのある人は100%、驚くのだとか。ちなみに自分のタイプがわかったとき、いちばん多い反応は「笑っちゃう」。「なんでそんなに自分のことがわかるのか」と衝撃的すぎて、「笑っちゃう」という反応しか出てこなくなるというわけです。「そんなことがあり得るのかなぁ?」と疑いたくもなりますが、アップル、トヨタ、コカ・コーラ、IBM、ソニーなど世界のそうそうたる企業が注目し、取り入れているという事実は、エニアグラムの精度の高さの証明だといえるかもしれません。*エニアグラムの活用法をここで明かすことはできませんが、少なくとも著者がいうような「胡散臭い」ものではなさそう。だからこそ、信じるか信じないかは別としても、読んでみる価値はあると思います。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※岸正龍(2016)『相手を完全に信じ込ませる禁断の心理話術 エニアプロファイル』フォレスト出版
2016年04月15日いよいよ今夏に迫ったリオデジャネイロ五輪。お茶の間で世界のトップ・アスリートたちの激闘を見ながら、「うちの子も、いつかオリンピックで活躍する選手になったらいいなぁ……」と夢見るパパやママも多いのではないでしょうか。そんな夢を現実に近づけるために読んでおきたいのが『伸びる子どもの、からだのつくり方「かけっこ一番」を目指す前に、知っておきたい60のこと』(森本貴義・山本邦子著、ポプラ社)。本書は、アスレティック・トレーナーとして数々のトップ・アスリートの心身メンテナンスを行う夫妻による共著。ご主人の森本さんは2004年から10年間、米大リーグのシアトル・マリナーズでトレーナーを務め、メジャーリーガーの心身のケアに従事した経歴の持ち主で、日米の子どもたちのスポーツ環境を熟知しています。ここでは、本書33項の「子どもには3つ以上の競技を経験させましょう」に注目します。■アメリカではスポーツの掛け持ちが当たり前日本では、プロのアスリートの多くが小学生くらいまでにひとつのスポーツを選び、それをずっと続けることでプロになっています。たとえばプロ野球界で活躍する選手の場合、小学生時代からリトルリーグなどに入って毎日4~5時間練習し、中学、高校と経験を積んで実力をつけていくスタイルが一般的でしょう。これに対し、アメリカでは多くの子どもが小学生の間に少なくとも3~4種目のスポーツを経験するそう。著者の森本さんがマリナーズで接したメジャーリーガーも、ほとんどが野球だけでなく3つ以上の競技を子どものころから体験していたというのです。なかには高校までほかの競技をしていて野球をやったことがない人や、大学時代に野球とバスケットボール両方で選手として活躍していた人もいたのだといいます。■日本でも広がりつつあるスポーツの掛け持ち子ども時代に複数のスポーツを経験することのメリットは、「動きの引き出し」が増えていくこと。競技によって異なる身体の使い方をするため、いつもやっている競技ではあまり使わない筋肉などを使うことで、身体の使い方を見直すことができるのです。これはケガをしにくい身体をつくったり、子どもが向いているスポーツを見つけたりすることにも役立ちます。森本さんは、アメリカのスポーツ選手が世界で活躍できるのは、子どものころからこうした多種多様なスポーツ経験があることも大きな要因だろうとしています。日本でも、子どものころから複数のスポーツに取り組む例が増えているとか。昨年、1年生ながら甲子園を沸かせた早稲田実業の清宮幸太郎選手はお父さんが社会人ラグビーの監督であることは有名ですが、このお父さんが「将来の運動能力が開花するのは12歳くらいまでの経験にかかっている。だからさまざまなスポーツを経験させるのがまずは大事」と、幼いころから水泳、ラグビー、野球、テニスなどを経験。ラグビー日本代表の五郎丸歩選手は、中学時代サッカー部とラグビー部の両方で活躍していたといいます。早い時期に「これ」と決めてしまわずに、少なくとも3つのスポーツを経験させることが子どもの未知の可能性を引き出すことにつながるのです。■成長段階に合わせた運動経験をさせるべし!子どもの成長に合わせて、身体の使い方を工夫することも大切。本書では、20歳までの臓器別発達パターンが紹介されています。それによると、身体の発達はおおまかに3つに分けることができるのだそうです。(1)第一段階:【小学生前半まで】神経系の発育が顕著な時期脳や脊髄、視覚器などの神経系は5歳ごろまでに80%、6歳では90%までに成長し、12歳ごろに100%に達するといいます。神経系は器用さやリズム感を担う場所であるため、幼児期から小学生の前半ごろまでは基本的な運動動作の習得が大切です。この時期は、身体の動きを楽しく体験することが望まれます。(2)第二段階:【中学生ごろ】呼吸器や循環器系の発育が顕著な時期この時期は、持久力をつけるのにふさわしい時期。粘り強さなど、精神面での持久力を身につけるのにも、この時期が最適。特定のスポーツや種目を選び、少しずつ専門性を高めていける時期ともいえます。(3)第三段階:【14歳ごろ~】生殖系の発育が顕著な時期生殖器系の発達に伴って、男性ホルモンや女性ホルモンの分泌が盛んになります。性ホルモンの働きで、男性は骨格筋の成長が高まり、筋力トレーニングを効果的に行える時期に突入していきます。プロのアスリートに必要な筋力をこの時期に本格的に鍛えていくことになります。*本書では、「呼吸」や「姿勢の保ち方」といった基本的な動作と、子どもの心と体の発達の関連が分かりやすく具体的に解説されています。「呼吸」ひとつとっても、体幹の安定や精神の安定、ひいては身体のコントロールや思考の発達まで、子どもの成長全域に影響を及ぼすことに、みなさんもきっと驚くはず。我が子の可能性を引き出すために、家庭でできることはまだたくさんあります。本書を手に、我が子をオリンピアンに導く最初の一歩を踏み出してみませんか?(文/よりみちこ) 【参考】※森本隆義・山本邦子(2016)『伸びる子どもの、からだのつくり方「かけっこ一番」をめざす前に、知っておきたい60のこと』ポプラ社
2016年04月14日『マンガでよくわかる怒らない技術』(嶋津良智著、アサミネ鈴作画、星井博文原作、フォレスト出版)は、「怒り」「イライラ」をテーマにしたベストセラー『怒らない技術』シリーズ(『怒らない技術』『怒らない技術2』『子どもが変わる怒らない子育て』)をマンガ化したもの。食品会社の営業部に所属し、いつもイライラと怒ってばかりだった主人公が、ふとしたことから「怒らない技術」を知り、少しずつ変化していくというストーリーになっています。とはいえ、ここにマンガを掲載することは不可能。そこで、もうひとつの重要なポイントである著者の解説のなかから、数字に関連したトピックを引き出してみたいと思います。■怒りの背景「第一感情」を探す著者によれば怒りとは「第二感情」であり、その背景には「第一感情」があるのだそうです。第一感情とは、不安、ストレス、痛み、悲しみ、苦痛、寂しさ、弱さ、絶望、悲観など。人はそれらに対して怒りを感じるものなので、原因となっている第一感情を探すことがとても大切だということ。たとえば、夜遅くなっても高校生の娘が帰ってこないので、父親が「どこへ行ったんだ、連絡もしないで」「帰ってきたら叱りつけてやろう」とイライラしているとします。でも、ここで落ち着いて、「このイライラの第一感情はなんだろう」と考えてみると、それは「心配」だということがわかってくるはず。つまり、「娘になにかあったのではないか」と心配しているからイライラしてしまうわけです。そして第一感情に気づくことによって、気持ちを「怒りの感情」として表に出すのではなく、「自分の気持ちをきちんと伝えるにはどうしたらいいか」と考えることができるようになるといいます。その結果、感情に流されることなく、冷静に、素直に伝えることができるようになるということです。■職場で人にイライラしない方法同じことは、さまざまなトラブルによってイライラしてしまいがちな職場にもいえるでしょう。本書のマンガにも、仕事の遅い人に対して、主人公がイライラしてしまう場面が登場します。つい、感情的な言葉を投げつけてしまいそうになるわけです。けれど、そうしなかったのは、落ち着いてイライラの第一感情を探したから。すると、それが「不安」であることに気づいたのです。いわば、「怒らない技術」の本質は、解決方法に焦点を当てること。部下の仕事が遅いことについて、いくらイライラしても怒っても、状況が変わるわけではありません。「急ぎなさい!」と感情的に叫んだら、仕事があっという間に終わるなどということもありません。だとすれば、そんなことにエネルギーを注いでも意味がなく、まったく無駄だということになります。つまりコントロールできないことに集中するのではなく、あくまでもコントロールできることに集中すべきだということ。■イライラのもとは価値観の違い「腹が立つ」「かっとする」「むかつく」といったイライラは、価値観の違いから生まれるものだと著者はいいます。自分が仕事の早い人だった場合、仕事が遅い人に対してイライラする。自分が明るい性格であれば、暗い人にイライラするのだということ。きれい好きな人はだらしない人が気になるとか、神経質な人は無神経な人が鼻につくとか、時間を守る人は時間にルーズな人が気になるなど、さまざまな状況にあてはまるはず。しかし、それは自分の価値観に合わないから気になるだけのこと。自分のやり方に合わないからイライラしているだけだということです。でも、その人はそれでいい、それが普通だと思ってやっているわけですから、そのことで自分がイライラしているのは、相手の問題ではなく、自分の問題だということ。自分で勝手にイライラしているだけなのだから、自分が受け止め方を帰る必要があるわけです。たとえばミスばかりする新人にイライラするのであれば、「自分も新人だったころは、あの人と変わらないことをやっていたな」と考えなおしてみればいいということです。*まずマンガで見せて、そののち平易な文章で解説されているため、「怒らない」ための技術を身につけやすいはず。方の力を抜いて読んでみれば、日ごろのイライラを解消できるかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※嶋津良智(2016)『マンガでよくわかる怒らない技術』フォレスト出版
2016年04月14日『フジテレビはなぜ凋落したのか』(吉野嘉高著、新潮社)とは辛辣なタイトルですが、それもそのはず。現在は筑紫女学園大学現代社会学部教授であるものの、著者は1986年にフジテレビに入社し、情報番組、ニュース番組のディレクターやプロデューサーのほか、社会部記者などを務めてきた人物なのです。つまり、いい時代もそうでない時代も見てきたわけであり、だからこそ、ここに書かれている内容にはとてもリアリティがあります。しかも共感できるのは、内部にいた人間だからと主観に偏ることなく、可能な限り中立な立場をとることを意識している点。フジテレビの歴史を1970年代までさかのぼり、以後の番組改革や組織の変化を確認しつつ、その軌跡を再確認しているのです。つまり“ファクト”を主軸として据えることにより、内部からの視点を維持しつつも、客観性を失っていないというわけです。そうすることによって、タイトルにもなっている「フジテレビがダメになった理由」を明らかにしようと試みているわけですが、なかでも特に注目すべきは、著者が最終章で「企業の寿命」に焦点を当てている点です。■フジテレビは本当に寿命なのか?「フジテレビは終わった」「もうだめだ」と、その凋落がメディアを賑わせるようになったのは、2011年あたりから。ご存知のようにフジテレビは、結果として多くの大ヒット番組を生むことになった「80年改革」によって“テレビの王者”としての立場を獲得したわけですが、はからずもそこから30年ほどを経たことになるわけです。ここで著者が指摘しているのは、企業経営者にとって「30年」という数字が不吉なものであるということ。1983年に『日経ビジネス』が打ち出した「会社の寿命30年」説によれば、企業が「繁栄を謳歌できる期間」は平均で30年だというのです。また、それから30年後の2013年に、改めて時価総額をベースに「日本の企業が輝いていられる時間」を算出したところ、わずか18.07%とかなり短くなっていたとか。つまり日本企業の短命化が、急速に進んでいるというわけです。だとすればそれは、80年改革から30年以上を経ているフジテレビは、もはや寿命が尽きたということなのでしょうか?その点について、著者は次のように記しています。「フジテレビの現状を振り返れば、フジ・メディア・ホールディングスが誕生して、事業の数が増え、組織運営が複雑化した。次第に個性的な“テレビバカ”は絶滅危惧種となり、社員が事務作業をそつなくこなすような優等生タイプに均質化されてきた。まさに“会社の老化現象”にぴったりとあてはまるのだ。(208ページより)」■起死回生のチャンスはきっとあるそれはともかく、そうなのだとすればここでひとつの疑問が持ち上がります。現在のフジテレビを覆っている沈滞ムードは、企業のバイオリズムにおける“波”にすぎないのかということです。つまり、業績が再び上向いてくれば消えてなくなるものなのか、それとも人間の老化現象のように、不可逆的なものなのかということ。このことについて著者は、前者だと考えていると記しています。つまり、フジテレビにも起死回生のチャンスはきっとあるはずだということ。■再生に必要なのは「社風の一新」そして、そのために必要なのは「社風の一新」。社風が変われば、社員の表情が変わり、行動が変わるもの。つまり社風を一新することで、それが再生の力になるということです。しかし、だからといって、イケイケだった80年代の社風に戻るわけにもいかないはず。それは、自殺行為ともいえるかもしれません。では、どうすればいいのでしょうか?その結論として著者が提示しているのは、“場”をつくること。立場の違いを超えて、異質な人とも腹を割って話し合う“場”を設けるという手法は、これまで多くの日本企業の労働慣習として行われてきたこと。そんな、価値観や目標を共有する“場”を再生させ、“ものづくり共同体”を復活させることができるかどうか。そこにフジテレビの未来がかかっているというのです。*フジテレビを肯定するか否かは別としても、“フジテレビ論”としては非常に優れた内容であると感じます。しかし、ここに書かれていることの多くはフジテレビだけでなく、伝統を持つ多くの大企業に同じことがいえるのではないでしょうか?そういう意味でいうと本書は、企業社会への警鐘だとも表現できそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※吉野嘉高(2016)『フジテレビはなぜ凋落したのか』新潮社
2016年04月13日ソクラテスといえば、だれもが知る古代ギリシアの哲学者。いまから2400年前、生まれ故郷であるアテナイの街に出て、若者に質問を投げかけて対話をしていたということで知られています。本人すら気づかない「本当の考え」を引き出す「ソクラテス式問答法」という対話法を得意としていたことも有名な話。『ソクラテスに聞いてみた 人生を自分のものにするための5つの対話』(藤田大雪著、日本実業出版社)は、そんなソクラテスが登場人物として活躍するユニークな書籍。現状に不安や不満、疑問を感じる27歳の青年と、いきなり目の前に現れたソクラテスとの対話を軸に、ストーリーが展開されていくのです。きょうはそのなかから、第4章「お金お金との「ちょうどいい距離」とは?」に注目してみたいと思います。■投資は確実に富をもたらすものではない将来の生活を不安に思っていたサトルは、その打開策として「投資」に注目し、その重要性をソクラテスに説きます。ところが意見は噛み合わず、ソクラテスはサトルに「投資をする人の人生を吟味しよう」と提案します。将来の生活を憂えて投資をはじめようとしているということは、投資によって将来の生活不安を和らげたいと願う心が宿っているということ。では、その心は、それが宿った人間の魂を全体としてどのようなものにつくり変えていくものなのか?すなわち、投資家のメンタリティを持つことが、人間の生き方にどういう影響を与えるのか?ここで重要なのは、投資が必ず儲かるものではなく、不確実性が伴うものであるという事実。どんなに優秀な投資家であっても、損をする可能性はゼロではないということ。つまり投資は、確実に富をもたらす性質のものではないとソクラテスはいうのです。■備えあれば本当に「憂いなし」でもないだとすれば、投資によって将来の生活不安を和らげたいと願う投資家たちは、自分の意のままにならない事柄に自らの運命を委ねているということになるはず。ところで、自分の意のままにならない事柄に運命を委ねる人は、内面的になにかの不安を抱え込みやすくなるのではないか? ソクラテスはそう疑問を投げかけます。サトルはそれに対して「備えあれば憂いなし」と反論しますが、ソクラテスはそこを指摘します。本当に「憂いなし」なのか?ほかならぬ「備え」のために、ずっと大きな憂いを抱えているように見えると。■なにを愛し求めるかで人の価値が決まる次にソクラテスはサトルに対し、一般的にいって、「なにかを追い求めようとする場合、そのなにかの点で不安になったとすれば、それについて考えることはいっそう多くなる」と指摘します。だとすれば、財産の点で不安を感じやすい投資家は、お金のことを気にしやすく、お金に執着した人間になりやすいということになるとも。つまり、お金に執着した人間になることは恐ろしいということをサトルに伝えたかったわけです。そして、このような趣旨のメッセージを伝えます。・人間の値打ちは、「なにを愛し求めるか」によって決まる。・立派なものを愛し求め、徳のために最善を尽くす人は、もうそれだけで立派で幸せな人である。・逆にお金の魔力にとらわれた人は、心が狭く、お金以外の価値を信じられない人間になる。・その結果、幸福な人ならだれもが持っている大らかさや朗らかさをうしなっていく。だからこそ私たちは、自分の心にお金への執着が生まれないように気をつけなければならないというのです。金儲け以外のことにはいっさい心を向けず、ただ「できるだけたくさんお金がほしい」と願いながら一生を送るなどということは、恥ずべきことだと。なぜならそれは、たった一度しか生きられない人生の価値を、自分自身の手によって、小さく、みすぼらしく、つまらないものにしてしまうことだから。■ソクラテスの考える正しいお金の使い方そしてお金は、「いい使い方」をすることが大切。そう主張するソクラテスは、自分が考える「いい使い方」とは、大切な人のために使ったり、立派で美しいことのために使ったりする、そういうお金の使い方だといいます。そういう使い方ができない人は、いくらお金を持っていても不幸せだというのです。なぜなら、友だちや恋人よりもお金のことを気にかけるような人は、決して「幸せ」ではないはずだから。*ここでは簡略化していますが、実際のサトルとソクラテスとの対話は、まるで禅問答のよう。つまりは堂々巡りの連続であるわけですが、だからこそ最終的には“真理”へとつながっていくことになるわけです。ソクラテスをホームレスのようなキャラクターに設定しているなど、見方によってはかなり強引な部分もありますが、そこが本書のおもしろさだともいえそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※藤田大雪(2016)『ソクラテスに聞いてみた人生を自分のものにするための5つの対話』日本実業出版社
2016年04月12日学内でのイジメ問題に関連し、「スクールカースト」という言葉をよく耳にするようになりました。『桐島、部活やめるってよ』や『暗殺教室』など、人気作品の背景になっていることでも知られていますが、つまりは学校社会に存在する階級制度のこと。学年とは異なるピラミッド状の上下関係が生じていることから、カースト制度になぞらえてこう表現されています。このスクールカーストについて、株式会社オウチーノが「高校時代にスクールカーストはなかったと思うか?」という質問を投げかけたところ、30代の61%が「カーストはなかった」と答えたのに対し、20代で「カーストはなかった」と答えた人は約44%しかいなかったそうです。つまり、20代の半数以上がスクールカーストの存在を感じていたことになるのです。しかし、私たちはそんなスクールカーストを本当に理解しているのでしょうか?学生時代にはスクールカーストなど感じなかったという人や、逆にスクールカーストにどっぷりつかっていた人には見えてこないなにかがあるかもしれません。そこで今回は、エッセイ漫画『いつもうっすら黒歴史』で、スクールカーストの外で過ごした高校生活を描いた「お肉おいしいさん(以下お肉さん)」にお話を伺ってきました。スクールカーストを外から眺めていたお肉さんだからこそ語ることのできるカースト像とは、いったいどのようなものなのでしょうか?■「見た目がすべて」から生まれるスクールカースト「入学したてのころは当然スクールカーストなんてありません。みんな誰がリーダーなのかという探り合いから、徐々にグループを形成していき、スクールカーストができていきます」とお肉さん。形成されたグループには序列があり、お肉さんの学校ではいちばん上がギャル、次に運動部・優等生タイプ・オタクと続いていたそうです。また、ギャルグループのなかにだけ、スクールカーストの存在に気がつかない人がいたとのこと。お肉さんは、どのグループにも属していませんでした。「私がカーストの外にいたのは、コミュニケーションが苦手だったことと、お洒落などに興味がなかったことが原因です」学生時代は外見だけで人を判断し、ダサい人は見下されるような世界だったそうです。また、「誰と話すか」も重要でした。ダサいと思われている人と仲よくすると、自分もダサいと思われ見下される世界だったそうです。そんななか、お肉さんは話しかけることも話しかけられることもなく、どこのグループにも所属することができなかったとのこと。「高校時代はみんな精神が未熟だったんでしょうね。自分と他人をくらべてしまい、『アイツは私より下だ』みたいなことをやっているうちに、自然にスクールカーストができていったんだと思います」また、グループのなかにも細分化されたカーストが。たとえばカーストの頂点であるギャルグループのなかにも序列があり、グループのリーダーが存在していたそうです。最下層のオタクグループも同じような状況でした。「ギャルなのにオタクな人は、オタクだとばれないようにしていました。オタクが迫害される時代でしたから。そういう子は世渡りがうまかったですね。誰にも見られないところで私に話しかけてきたりして(笑)」■学校生活はスクールカーストが全てで逃れられないでは、学校生活とスクールカーストはどのように結びついていたのでしょうか?「休み時間や昼休みは、みんなカースト内で過ごしていました。私はひとりで本を読んでいることが多かったですが、同じようにグループに入れなかった友人と一緒にいることもありました」学校生活のほとんどを固定されたグループで過ごしていたそうですが、他のグループとの交流がまったくなかったわけではないそうです。ギャル~優等生までのグループは仲がよく、一緒にいることもありましたが、オタクグループは蚊帳の外だったとのこと。また、固定化されたカーストに変化があっても、クラス替えのときに数人が上のグループに入る程度で、最初に形成されたグループは卒業までそのままだそうです。お肉さんの学校では明確ないじめはなく、あっても嫌がらせ程度のものでしたが、なかには上位のカーストにいたのにトラブルを起こしカーストの外になってしまう学生もいたとのこと。そういう学生は「誰ともつきあわないよりましだから」という理由でお肉さんと一緒にいるようになったそうです。■ネット上だとカーストはないが少し変わりつつある学校内ではグループでの行動が目立ちましたが、ネットの世界ではみんな自由に交流していたようです。「SNSやメールでは人目を気にしなかったり、いいたいことをはっきりと発言できたりするのでグループ外の人とも交流があったみたいです。でも、ネットのつきあいがあっても現実では一切つながろうとしないですね」また、お肉さんは、ネットがスクールカーストに変化を与えたかもしれないとおっしゃっていました。1つ目の変化は、オタクが認知されたことによるもの。動画サイトでアニメが見られるようになったことでオタクが認知され、迫害されることは少なくなった可能性があるということ。2つ目の変化はLINEの登場によるものです。グループラインで四六時中誰かの悪口をいえるようになり、ネットの世界にもカーストが入ってきているかもしれないとのことです。オタクが受け入れられるようになったのはいいことですが、その一方で、学生がLINEを使用して起こしたトラブルやイジメが問題になっているように、ネットの進化はスクールカーストの悪い側面を強調しているようです。■お肉さんが「地獄のような高校生活」で学んだこと「高校生活を楽しいと思ったことは一度もありませんでした。学校を辞めようとも思いましたが、親が許してくれなかったのと、辞めたら将来なににもなれないと思いなんとか卒業しました」そう語るお肉さん。最後に学生生活で学んだことを伺いました。「人は見た目で人を判断してしまい、中々中身を見てくれないということです」そう断言するお肉さんですが、決してマイナス思考というわけではありません。本書のあとがきでこのようなことをおっしゃっています。「ずれている人間はズレている人間なりの生き方がある」(本書あとがきより引用)普通の人とくらべて少しズレているからといって、それをなおそうとすると余計に辛くなってしまいます。周囲の目を気にして自分に向いてない生き方をするよりも、ズレているなりの生き方をした方がずっと楽なのではないでしょうか。自分らしい生き方を貫いていれば、それを認めてくれる人がいるかもしれません。*スクールカーストの根幹にあるのは、「誰かと同じでなければ安心できない」という気持ちなのではないでしょうか。だからこそ外面ばかりを気にしてしまい、他人と違ったことをして孤立してしまわないよう、自分と他人を比べているうちにカーストが形成されてしまう、大人でも人を見た目で判断しがちなのに、未熟な学生ならなおさらです。今回のインタビューで、スクールカーストは学生だけの問題ではないように感じました。社会のなかで出る杭にならないよう、自分の外面ばかり気にし、他人の中身を見ずに過ごしていませんか? もしそうだとしたら、周囲でカーストが形成されているかもしれません。実際に「社会人カースト」という言葉がメディアに登場するようになりました。スクールカーストは学生だけの問題と決めつけず、自分と周囲の関わり方を見直す必要があるのでしょう。(文/堀江くらは) 【取材協力】※お肉おいしい・・・漫画家・イラストレーター。1988年秋田県生まれ。等身大のコミックエッセイがネットを中心に人気を集めている。著書に『ほっこりできない根暗オタク女の日常をまんがにしてみた』『いつもうっすら黒歴史』等がある。 【参考】※お肉おいしい(2016)『いつもうっすら黒歴史』KADOKAWA※「スクールカースト・社会人カースト」実態調査-株式会社オウチーノ
2016年04月11日『聞くだけで脳が目覚めるCDブック』(山岡尚樹著、あさ出版)の著者は、「超脳トレ」全脳活性プロデューサー。そう聞いただけで活動内容をイメージすることは難しいかもしれませんが、つまりは脳をより活性化させるためのオーソリティ。具体的にいえば、人の脳に秘められた潜在能力を、音、イメージ、気の力を通じた実践ワークによって引き出しているのだそうです。つまり本書においては、これまで10万人以上に実践してきたという脳トレのノウハウを凝縮しているということ。CDも付属しているので、聴くだけで無理なく効果が望めるのだといいます。■脳は3%しか使われていない!ところで著者は脳のことを、あえて「道具」だと位置づけています。いってみれば、それはスマートフォンのようなもの。いろいろなアプリが入っていて、さまざまな使い方ができるという意味です。だとすれば、一般的に「頭がいい」「デキる」「効率がいい」といわれるような人は、総じて「道具としての脳の使い方がうまい」ということになるでしょう。ところが多くの人は現実的に、「電話をかける」「メールをする」といった程度の使い方しかできていないのだといいます。せっかくの多機能を、まったく使いこなせていないというわけです。しかも一説によると、ほとんどの人が脳をわずか3%しか使えていないというのですから驚き。だとすれば必要なのは、残り97%の「脳力」をどう引き出すかということになるはずです。■右脳・左脳・間脳・脳幹の役割そこで、まずは脳の役割をおさらいしてみましょう。ご存知のとおり、脳には大きく分けると「右脳」「左脳」「間脳」「脳幹」という部位があり、それぞれ次のような役割があります。[右脳]ひらめきやイメージ力、調和などをつかさどる脳。「芸術家肌の人は右脳優位」といわれるのは、このような理由があるからです。[左脳]計算や分析が得意な脳。言語、計算、論理、理屈といった理性的で論理的なところをつかさどるわけです。[間脳]脳内ホルモンの分泌を調整し、感情の操作をつかさどる役割。[脳幹]呼吸、体温調整といった、生きるための調整を担当。本書のトレーニングにおいては、まず「右脳」を活性化させ、多くの人のなかに眠っている未使用の脳力を引き出すのだそうです。■新しい「脳力」を目ざめさせる日常生活においてほとんどの人は、左脳が優位に働いているもの。著者によれば7~8割以上の日本人が左脳優位だというデータもあるそうですから、日本人は左脳民族であるともいえるのかもしれません。左脳優位である以上は、計算、論理、理屈など、現実的に判断・実行する力をしっかり持っているということになります。では、そんな実行力ある左脳に加え、右脳を活性化するとどうなるのでしょうか?答えは次のとおり。・与えられたことだけではなく、斬新な発想、ひらめき、イマジネーションを現実的に判断・実行できる。・ひとつのことだけでなく、同時に複数のことを実行できる(効率がよくなる)。・直感力や判断力が上がり、課題・問題に対して「検討→解決」の時間が短くなる(問題解決が格段に速くなる)・ものごとを俯瞰的に見ることができ、マネジメント脳力が上がる。つまり、一般的な「デキる人」「頭がいい人」のイメージと重なっていくということです。現代人は、もともと左脳が鍛えられているもの。だからこそ、右脳や間脳、脳幹などで眠っている“新しい脳力”を目ざめさせることにより、また異なった脳力を生かすことができるということです。■聴くだけで脳が活性化する理由よくある計算ドリルなどの脳トレは、左脳中心の訓練しかできないことが難点。一方、右脳を刺激できるのが、本書に採用されている「音」のトレーニング。なぜなら脳は「音」「イメージ」「気」という3種類のアプローチで活性化できるからだそうです。「イメージ」することは、人によってうまい・下手の差があるでしょう。「気」にしても、感じられる人と、そうでない人がいるはずです。しかし「音」は、誰にとっても、耳に届く内容は同じ。また、そもそも脳に伝わるエネルギーの約90%は、耳から入ってくるといわれているのだそうです。こうしたことから、「音」は脳を活性化させるための、もっともベーシックで優れた刺激だといえるのです。*しかも、脳は何歳からでも鍛えることができるのだとか。「脳を鍛える」という発想自体があまりなじみのあるものではありませんが、音を聴いているだけで鍛えられるならば、ぜひ試してみたいところではあります。CDに収録されている音源は、クラシック、オペラ、落語までバラエティ豊か。著者のノウハウが凝縮されているだけでなく、リラックスして聴くこともできるというわけです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※山岡尚樹(2016)『聞くだけで脳が目覚めるCDブック』あさ出版
2016年04月11日「全然いいことが起きない」「世の中は不公平だ」と不満や愚痴をこぼすことはありませんか?不運なことばかりが続くのは、決して偶然ではない。自分の身の周りに起きることは、すべて自分の心が引き寄せている。そう主張するのは、『人生がうまくいく引き寄せの法則』(扶桑社)の著者でカウンセラーの植西聰氏。心のなかのプラスのエネルギーはプラスの出来事を、マイナスのエネルギーはマイナスの出来事を引き寄せるそうです。つまり幸せを引き寄せるには、心の中にプラスのエネルギーをどんどん増やしていくことが大切。それは、誰にでも可能だというのです。きょうは本書のなかから、いくつの方法をピックアップしてみたいと思います。■1:80点主義で考えていく自分のことを完璧主義者だと思っていますか?たとえば、友人が待ち合わせに5分遅れてきたときをイメージしてください。ほとんどの人は、少しイライラしてもすぐに忘れてしまうもの。しかし完璧主義の人は「なんで5分遅刻するの? 私は5分前に来たのに」などと腹を立てるそうです。怒りの気持ちは、大きなマイナスのエネルギーを生むといいます。そこで著者が勧めるのが「80点主義で考える」こと。100点満点でなければ納得できない、という気持ちを捨てて、「80点ぐらいでまぁいっか」と考えるということ。「まぁいっか」という考えができると、自分自身に対するプレッシャーも和らぐうえに、人に対してストレスを感じることも減るのだそうです。不完全なものや、他人の欠点を受け入れるおおらかさが、プラスのエネルギーを増やすコツになるわけです。■2:瞑想でリラックスする「最近、引き寄せがうまくいかない」というときは、不快な感情を抱いたときに生まれるマイナスのエネルギーが増えている可能性があるそうです。そんなときに著者がオススメしているのが、ヨガのリラックスポーズをしながら、瞑想をすること。瞑想には、ストレスを和らげる効果があり、心地いい気分に包まれるそうです。具体的なやり方は以下のとおり。(1)床に仰向けの状態に寝て目を閉じる。(2)両方の手のひらを上に向け、体側30度の位置に置く。(3)両足を30度くらいに開く。(4)体全体の力を抜く。(5)山や高原、自然の中で深呼吸している様子など、自分がリラックスして気持ちがよいイメージを思い浮かべる。このポーズを10分ほど行いましょう。瞑想でリラックスすることで、心のなかのマイナスのエネルギーを追い出すことができるのです。■3:早起きを習慣にする新しい習慣を始めることは、プラスのエネルギーを増やすことになるそうです。なかでも、誰にでもでき効果も高いのが、早起きの習慣を身につけること。朝に余裕のある時間を過ごすことは、心に大きなエネルギーを生むのです。さらに脳から分泌される副腎皮質ホルモンの働きは、朝6~8時がもっとも活発になるため、知的な作業にも適しているとか。あるOLが30分早く起きるようにしたところ、仕事の能率がアップ。さらに時間をかけてメイクするようになり、自分自身に自信を持てるようになったといいます。早起きを習慣にして、いいことを引き寄せた人は大勢いるそうです。まずは30分、今より早く起きしてみることを著者は勧めています。■4:テレビを見ない日を作ってみる自分の時間をつくる方法として著者が提案するのが、「テレビを見る習慣を改める」こと。たいていの場合、テレビを一度つけるとその後もずるずる見続けてしまうもの。有意義ではない「なんとなくテレビを見ている」時間をカットすれば、自由な時間が手に入るのです。毎日テレビを見るタイプの人なら「この番組だけ」と決めて、その番組が終わったら消すようにすること。また思い切ってテレビを見ない日を決めるのもよいそうです。1ヶ月に1度でもテレビを見ない日を作れば、新鮮な気分で空いた時間を過ごせるといいます。*本書には、幸せを引き寄せるための方法が詳しく紹介されています。どれもお金が掛からず、シンプルで実践しやすいものばかり。より充実した人生を過ごすために、ぜひ読んでいただきたい一冊。自分を変えるきっかけにもなりそうです。(文/椎名恵麻) 【参考】※植西聰(2016)『人生がうまくいく引き寄せの法則』扶桑社
2016年04月10日忙しい毎日を過ごしていると、あたかも自分が充実した人生を送っているかのように錯覚してしまいがちです。しかし、それは大きな勘違いだと指摘するのは、精神科医・医学博士である『ぼんやり脳! 上手にボーッとできる人は仕事も人生もうまくいく』(西多昌規著、飛鳥新社)の著者。充実しているどころか、常になにかをやって忙しくしているのは、脳にとって「非常に不健康な状態」だというのです。そして、だからこそ「なにもせずにボーッとしている時間」が必要なのだということが本書の考え方。実際、ボーッとしているときには、脳内において意識的課題を行っているときの15倍にもおよぶエネルギーが使われているというのですから驚きです。ちなみに、ぼんやりしているときの脳活動システムは「デフォルト・モード・ネットワーク」(本書では「ぼんやりモード・ネットワーク」と呼ばれています)。脳をすこやかにキープしていくためには、その機能を落とさないようにしていくことが重要だというのです。■ボーッとすると脳の健康にいい!書店には、「時間術」「手帳術」などをテーマにした本や雑誌がたくさん並んでいます。しかし、その多くに書かれているのは、「ほんの数分の時間もムダにすべきではない」「すき間時間をフル活用しよう」というようなことばかり。たしかに時間は大切で、有効に使うに越したことはないでしょう。しかし、ほんのわずかな時間に対して汲々とするのは、ちょっと余裕がなさすぎると著者はいいます。すき間というすき間をすべて予定で埋めてしまったら、ほっと一息つく時間すらなくなってしまうということです。むしろ、ビジネスや自分磨きなどにおいて他人に差をつけるために重要なのは、「いかに効率的にぼんやりするか」なのだとか。脳を健やかに機能させていくためには、ボーッとする時間が不可欠。だからこそ、仕事と仕事の合間のすき間時間になるべくボーッとするようにしていれば、脳の疲れがスッキリとれて、その後の仕事に対してフレッシュな頭で臨むことができるということ。■ボーッとするといい企画が浮かぶまた、ボーッとしていると、ひらめきが湧きやすくなるのだともいいます。つまり、いい企画や、仕事上の懸案に対しても「そうか、こうすればよかったんだ」という解決策が浮かぶ可能性が高まるということ。また、ぼんやりしているときの脳内においては、過去のことを反省したり、未来に対する準備をしたりしながら、自分の現在の状況を立てなおすようなネットワークが働いているのだそうです。無意識のうちにぼんやりと頭に浮かべている反省や準備のイメージが、あとあと自分の思考や行動を修正する際に生きてくるのです。だからこそ、「時間術」を学ぶよりも「ぼんやり術」を学ぶほうが、より脳の力を引き出して自分を伸ばしていけるという考え方。■活動時の15倍もエネルギー消費ちなみに「デフォルト・モード・ネットワーク」の存在を世界で初めて明らかにしたのは、ワシントン大学のM・E・レイクル教授。その研究においては、脳の活動エネルギーの大半をデフォルト・モード・ネットワークが使っていたという点に多くの注目が集まったといいます。レイクル教授によれば、脳が消費するエネルギーのうち、本を読んだり仕事をしたりといった「意識的活動」に使われるエネルギーは、全体のわずか5%程度。約20%のエネルギーは脳細胞のメンテナンスにあてられ、残り75%のエネルギーが「なにもせずにぼんやりしているときの活動」のために使われているそうなのです。「なにもせずにボーッとしているとき」には、「意識的な活動をしているとき」の15倍ものエネルギーが使われているということです。■ボーッとする時間を大切にしようつまりエネルギー消費という側面からみれば、「なにもせずにぼんやりしているとき」の活動のほうがメインだったことになるわけです。逆に、仕事や作業に集中するなどの「意識的な活動」は、脳のエネルギー消費量からすれば“どうでもいい”という程度のものであったということ。私たちは多くの場合、「なにもせずにボーッとしていること」に価値を見出すことはなく、むしろ「意識的に働いていること」を重要視して日々の生活を送っているのではないでしょうか?事実、ぼんやりしている姿は、周囲の人から「仕事や作業をなまけている」「集中力を欠いている」と見られがちでもあります。ところが、そんな「ぼんやり時間」にこそ、脳は大量のエネルギーを投入して重要な活動を行っていたというわけです。だからこそ私たちは、これまでの先入観や価値観をいったんリセットし、「なまけモード・ネットワーク」「ぼんやりモード・ネットワーク」の大切さを見なおしていく必要があるのではないか?著者はそう提言しています。*たしかに著者がいうように考えれば、ずいぶん気が楽にもなります。精神的な負担を意識せず、最良のかたちで物事を進めるために、「ぼんやり時間」を意識してみるべきかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※西多昌規(2016)『ぼんやり脳! 上手にボーッとできる人は仕事も人生もうまくいく』飛鳥新社
2016年04月10日「Ameba」や「Ameba FRESH!」を筆頭とするインターネットメディア運営、インターネットの広告事業などを推進しているサイバーエージェント。『成長をかけ算にする サイバーエージェント 広報の仕事術』(上村嗣美著、日本実業出版社)は、そんな同社において、実に13年にわたり広報事業に携わっているキーパーソンによる著作です。大成功を収めた同社は現在、社員数3,500以上の規模。しかし著者が同社で広報の仕事をはじめたときは、まだ30人そこそこの会社にすぎなかったのだそうです。つまり、30人の会社の広報から、3,000人規模の会社の広報まであらゆる広報戦略に携わってきたということになります。30人程度の社員数なら、社員全員がなにをしているのか、どこに行っているのかを実感として把握できる規模だといえます。しかし3,500人となると、すれ違った人が社員なのかどうかさえわからなくても当然。そして著者の感覚からいえば、社員全員のことがわかり、「なにを誰に聞けばよいのか」を把握できるのは、社員数が300人くらいまでの規模なのだそうです。事実、サイバーエージェントでは、300人を超えた2002年に「社員の顔を伝える」ことを目的として社内報を立ち上げたのだとか。そして多くの場合、ステークホルダーも事業の幅も、社員数に比例して変わっていくもの。つまり、社員数が変われば、広報の活動も変わってくるわけです。■1:社員数30人のときの広報活動社員数が30人のときのサイバーエージェントの広報は、完全に社長中心の活動だったそうです。理由は、このくらいの会社規模のときは、会社の顔といえば経営者だから。名もない会社だからこそ、社長が語るビジョンや会社の将来性に価値があるということです。会社のトップである社長がどんどん表に出て行かないと、なかなかメディアに取り上げてもらえない規模なのです。また取り上げてくれるメディアも、トップがチャレンジャーであるスタートアップ企業には好意的なことがほとんどなのだそうです。■2:社員数300人のときの広報活動サイバーエージェントが300人規模になったのは、設立から5年経ったころ。経営者が象徴的な存在であることには変わりがないものの、なんでもかんでも「経営者頼み」という広報活動から脱却するタイミングです。会社の成長を現場で見てきた著者の実感は、「300人くらいの規模は人数がたしかに増えてきたけれど、まだある程度社員の顔や人柄はわかる。でも、少人数だった昔のような一体感は失われつつある」というものだったといいます。つまり300人とは、組織としても少しずつ一体感が失われていく規模だということ。また企業としてそれなりの社会的責任や影響力も出はじめてくるため、広報としてもそれを踏まえつつ、企業ブランドをつくっていく必要があったそうです。そこで、このときにサイバーエージェントの広報として著者が取り組んだのが、「経営者依存による広報露出からの脱却」。そこで社長以外に、会社のスポークスパーソンとなりうるスター社員を何人か発掘したのだといいます。その結果、それまではすべて社長が受けていた取材の一部を、そういった社員に振り分けて取材慣れさせることで、「必ずしもいつも社長がメディアに出なくてもいい」という体制になってきたというのです。社員を出すことは、会社で働いている人の姿を見せること。その積み重ねから、働く社員の姿を通じて共感を得たり、企業イメージが形成されたりしていくというわけです。■3:社員数3,000人のときの広報活動ベンチャー企業としてスタートしたサイバーエージェントも、現在ではグループで社員数3,500人。より企業としての一体感やメッセージの発疹が重要な局面に来ていると著者はいいます。そして急成長してきたいま、広報の現場づくりにも必要になってくるものがあるとも主張しています。社員の意識が取り残されてはいけないだけに、いま取り組まなければいけないことは、「社格」を高める企業ブランドづくりだというのです。そのために欠かせないのは、「自分たちの言動や行動が会社のイメージに関わってくるんだ」といった社員の意識。また、事業が多岐にわたり、どうしても縦割り組織になってしまうからこそ、改めて社内広報が重要になってきたともいいます。そこで現在は、社内報やプロジェクト史などを通して、社員の啓蒙活動を強化しているのだそうです。常に新しいことをしなければ、企業イメージは衰退の一途をたどってしまうことになるため、広報としても常に自分の取り組みを見なおす必要があるということ。会社の規模が大きくなったいま、サービス広報の観点では、サービスの認知向上や利用価値促進はもちろん重要。しかし企業広報という観点では、会社として常に新しいイメージを保つこと、さらに企業ブランドを高めることが重要になっているということです。*短期間で急成長を遂げた会社の歴史を紐解けば、広報活動のあり方を確認できるはず。ぜひ一度、手にとってみてください。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※上村嗣美(2016)『成長をかけ算にする サイバーエージェント 広報の仕事術』日本実業出版社
2016年04月09日「花まる学習会」といえば、「数理的思考力」「国語力」「野外体験」を三本柱とし、将来「メシを食える人」「魅力的な大人」を育てることを主眼とするユニークな学習塾として有名です。きょうご紹介する『60点でも伸びる子、90点なのに伸び悩む子』(相澤樹著、あさ出版)の著者は、同塾の講師として約10年間、2,000人の子の学習指導に携わってきたという人物。また、豊富な事例に基づく講演「後伸びする子の家庭の習慣」も、全国の小学校や企業から好評なのだそうです。つまり本書においては、そのような実績を軸として、子どもに身につけさせたい大切なことをつづっているわけです。■伸びるために大切なのは「家庭習慣」長いキャリアのなかで著者は、当然のことながらさまざまなタイプの子どもたちを見てきたといいます。印象的なのは、低学年のときにテストの点数が悪くても、高学年からぐんぐん伸びていく子がいるということ。さらに中学、高校、大学、そして社会に出てからも活躍していく子も多かったといいます。また反対に、低学年のころはテストの点数がとてもよかったにもかかわらず、高学年から伸び悩む子、中学、高校でうまくいかず挫折してしまう子、社会に出てから引きこもったり、転職を繰り返したりするような子たちも見てきたのだとか。では、高学年以降に伸びていく子たち(著者は「後伸び」する子と呼んでいるそうです)は、なにが違うのでしょうか?著者によれば彼ら「後伸び」する子には、テストの点数では計れない「力」が備わっているのだそうです。それは、問題を見つける「発見力」、筋道立てて考えられる「論理性」、物事を「検証する力」、折れない「精神力」、「体力」など、解答の正誤だけでは計れない「力」。親は、子どものテストの点数が悪いと心配になるもの。しかし重要なのは、「いま点数が悪くても、大切な力を持っている子がいる」ということ。そして、その力を育てるのは「家庭習慣」なのだといいます。■子どもがお手伝いするとなぜいいか?ところでそんな著者が、よい習慣だと強調しているのが「お手伝い」。なぜならお手伝いをさせることにより、「試行錯誤」を経験させることができるから。お手伝いをすると、失敗や成功を繰り返し、工夫する力、よりよくしようとする力、つまり「検証力」が身についていくというのです。たとえば、料理をしているお母さんのお手伝いを習慣的に行う子は、ハンバーグをこねて形にするとか、サラダのレタスを洗ってちぎるとか、餃子の餡を皮で包むとか、ちょっとしたことでも「お母さんのようにできない」という壁にぶつかるはず。そこで試行錯誤を重ね、「どうすれば上手にできるようになるんだろう」と、さまざまな工夫と検証を繰り返した末に、思いどおりの結果に行き着くことになる。それが、検証力や成功体験、達成感を生み出すわけです。また料理においては、実感を通した学びが無数にあることも魅力。たとえば料理をつくるときは、「完成のイメージを持ち、そこに至るまでの過程を考え、必要なものを準備し、実行に移す」というサイクルを無意識のうちにこなしているもの。そして食後には、その料理がどうだったのかを自然と検証し、無意識で次回への工夫を蓄積していくことに。こうしたことから知識と経験が合致し、深い理解につながる。それもまた、料理を通したお手伝いの副産物だという考え方です。■お手伝いで子どもの責任感が養われるさらに料理には、「重さを計る」「時間を気にする」など、生活のなかで体験できる学びの要素も豊富。火や包丁を使うなどリスクがあるものには細心の注意が必要ですが、「やらせない」のではなく、危ないということをきちんと伝えたうえで「経験させる」ことが大切。料理に限らず、最初から上手にできることなどないものです。むしろ重要なのは、同じことを何度も繰り返し、試行錯誤することだということです。またお手伝いは、「責任感」を養うことにもつながるのだといいます。つまり、子どもに「家のなかでの役割(自分が家族に必要とされていること)を認識させることができる」というメリットも備わっているということ。「あなたがいないと困るのよ」という家のなかでの役割を認識させることにより、子どものなかで責任感が芽生えるということ。そのような責任感から生まれる継続力、行動力もまた、伸びるこの重要な要素。結果的にはそれが、社会でたくましく生き抜くことの源泉になるというわけです。*本書の魅力は、ただ「学習力をつける」ということだけに偏らず、広い視野で子どもの可能性を見つめていること。だからこそ、子育てに悩んでいる方に対して、大きなヒントを与えてくれることでしょう。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※相澤樹(2016)『60点でも伸びる子、90点なのに伸び悩む子』あさ出版
2016年04月08日新年度がスタートしました。この春から職場復帰するママも少なくないのでは?ただでさえドキドキの職場復帰に家事、育児と、やることは山積み。「朝は子どもを保育園に送り、バタバタ!」「退社時間になっても、仕事も中途半端なまま……」と悩みは尽きません。そんな悩みに答えてくれるのが、『マンガで楽しく読める〈仕事も育児も!ハッピーママ入門〉』(加倉井さおり著、かんき出版)。著者は財団法人で18年間保健師・心理相談員を勤めた後、起業。働く女性を対象にしたセミナーやカウンセリングを行うかたわら、男の子3人を育てる現役ママでもあります。自身の経験や失敗談を踏まえ、忙しくても毎日ニコニコ過ごせるハッピーママへの道をアドバイスしています。そのなかから著者が提唱する、時間を上手に使うために決めておきたい3つのことをご紹介しましょう。「時間がない」と悩むすべての人にとって役立つアイデアです。■時間を上手に使うために決めておきたい3つのこと(1)「増やしたい時間」と「減らしたい時間」を決めておくこれによって、生活のなかでの優先順位がはっきりしてくる、と著者。たとえば「増やしたい時間」には、「子どもに絵本を読む時間」「睡眠時間」「本を読む時間」など。自分や家族にとって必要なこと、リフレッシュになることを優先して増やしていければ、気持ちにも余裕が生まれハッピーママに近づけます。また、睡眠時間を削って仕事や家事をしていると体調不良を招くことも。健康にかかわる時間は意識して増やしたいものです。反対に「減らしたい時間」には、たとえば「スマホをいじる時間」「ネットサーフィンしている時間」「テレビを見ている時間」など。気づかないうちにダラダラと時間を費やしてしまいがちな行動には、時間を決めることが有効です。(2)あえて「やらないこと」を決めておく家事をはじめ、日々していることのなかには「やらなければならないこと」と「やっておければいいなぁと思うこと」が混在しています。カンペキをめざすと、息切れも心配。そこで著者がおすすめするのが、やらないことリストをつくること。「掃除機は2日に1度しかしない」「帰宅後は携帯を見ない」など、思い切ってルーティンの断捨離をしてみましょう。たとえば、小さい子どもがいると、部屋がおもちゃで散らかるのは仕方がないこと。できるだけキレイな部屋をキープしたくてこまめに片づけていると、「このおもちゃをしまうのは、今日これで3度目!」なんていうことも。寝る前の「お片づけタイム」で子どもと一気に片づけることにして、「『お片づけタイム』までは片づけしない!」と決めると、気持ちもずいぶん楽になります。(3)「スキマ時間にすること」を決めておく子どもがお昼寝をはじめたときや、電車の待ち時間や移動時間など、ポッとできたスキマ時間を上手に活用するのはなかなか難しいもの。スマホをぼんやり眺めていると、あっという間に過ぎてしまいます。そうしたスキマ時間を有効活用できればグッと楽になります。たとえば「メールに返信をする」「ネットスーパーに食材を注文する」など。また、「本を読む」「寝てしまう」、電車などであれば「ボーっと外を眺める」といったリフレッシュの時間にしてしまうのも手。気持ちのゆとりは、忙しい毎日だからこそ忘れたくないものです。■やることの優先順位は重要性と緊急性で決めるべしあれもこれもと「やること」は無数に思い浮かびます。その中から優先順位を決めるのは、意外と難しいですよね。そこで著者が提案するのが、「やることを4つのカテゴリーに分ける」方法。「重要性」と「緊急性」の2つを基準に、優先順位の高い順に「(1)緊急性も重要性も高いもの」 → 「(2)緊急性は高いが、重要性は低いもの」 → 「(3)緊急性は低いが、重要性は高いもの」 → 「(4)緊急性、重要性どちらも低いもの」に分け、各項目最大3つまでに絞って書き出します。こうすれば、「やらなければならないもの」の優先順位が一目瞭然。4つのカテゴリー×3項目=12件の「やること」が順序よく並びます。そこで気をつけたいのが、「12件全部やろうと思わない」こと。優先順位を決めることのメリットは、「どうしてもやらなければならないこと」と「できたらやっておきたいこと」を見分ける点にあるのです。「『(1)緊急性も重要性も高いもの』3件がクリアできたらOK!」など自分なりの合格点を決めておけば、負担感が減って充実感を増やすことができます。*「人生は期間限です。でも、子育てはもっと期間限定。その貴重なかけがえのないこの時間を、少しでも楽しみ、後悔なく過ごせたら、きっとしあわせ」。そう著者はいいます。大変なことも多いけれど、その分喜びも多いのが子育てという時間。「時間がない」とあくせくするのではなく、ゆったり構えたハッピーママでいたいですよね。(文/よりみちこ) 【参考】※加倉井さおり(2016)『マンガで楽しく読める〈仕事も育児も!〉ハッピーママ入門』かんき出版※株式会社ウェルネスライフサポート研究所
2016年04月08日いま、30代以降で独身の男女が増えています。厚生労働省の調査でも、平均初婚年齢は男女ともに上昇傾向。女性は平成5年の26.1歳から平成23年の29.0歳へ、男性も平成5年の28.4歳から平成23年には30.7歳へと、いずれも右肩上がりです。加えて、50歳の段階で一度も結婚をしていない人の割合を示す“生涯未婚率”が男性2割、女性1割(平成22年)と、「一生結婚しないかもしれない」層が広がっているといいます。結婚しない男女が増えているのはなぜなのか、彼ら彼女らはなにを求めているのか、その理由に切り込んだのが『未婚当然時代 シングルたちの“絆”のゆくえ』(ポプラ社)。著者のにらさわあきこ氏は元NHKディレクターで、10年ほど前から結婚・婚活をテーマに取材、執筆を続けている人物。本書には、のべ100人ほどの未婚者・関係者の生の声がまとめられています。そのなかから、現代のお見合いのあり方に焦点を当てた「“お見合い恋愛”時代の到来!」の章にスポットを当ててみましょう。■お見合いには厳しい本人確認ルールも本書で、有力な出会いの場のひとつとしてフォーカスされているのが「お見合い」。結婚相談所に登録し、ネットワークを通じて全国の何万人という登録情報から自分の好みや条件に合う相手を探し、これはという人を見つけたら、実際に合ってみて相性を確かめるというものです。よく似たシステムに、インターネットを使って相手探しを行う「結婚情報サービス」もありますが、著者曰く、お見合いには独自のルールが存在するそう。まず、お見合いのほうが学歴や収入、独身証明や場合によっては両親の職業に至るまで本人確認をしっかりと行っている点。相談員と呼ばれる仲介担当者が口添え文を提出する制度もあり、安心して信頼できるパートナーを探せる配慮がされています。さらに行動に関するルールも。「最初に会ったときに双方ともに断らなければ交際成立とみなす」「(複数の相手とデートを重ねる)複数交際もOK」「(相手を絞り込んだら)『真剣交際宣言』をする。宣言後は、ほかの異性とは会えなくなる」といった具合。入会金、年会費などのほか、成婚のあかつきには成婚料を支払います。■すぐ結婚ではない「現代のお見合い」著者は、お見合いを積極的に行う女性たちに取材。「これはという人になかなか出会えなくて……」「誘ってくれる人がいるけど、決め手がない」という悩みを聞き、「これって普通の恋愛の悩みと同じじゃないか」と思い当たります。活況を呈している“現代のお見合い”とは、お見合い=結婚とはほど遠いもの。お見合いで相手を「イヤだと思わなければ」また会うことになり、その時点で「交際がスタート」。ただしそこで結婚というわけではなく、そういう関係の異性「複数と交流」する中で、ひとりの相手を選んでいくのです。そして出会った後は、ほかの多くの出会いと同じように関係性を一から築いていくことが必要になるのです。■お見合い数>お見合い結婚数の裏事情事実、お見合い結婚率は減っています。本書で紹介されている出生動向基本調査(国立社会保障・人口問題研究所)によると、2010年における夫婦の出会いの場のうち、もっとも多かったのは「友人・兄弟・姉妹を通じて」29.7%。それと次点の「職場や仕事で」29.3%がツートップで、以下「学校で」11.9%、「サークル・クラブ・習いごとで」5.5%。「見合い結婚」はその次、5.2%です。時代ごとの推移を見ても、「お見合い結婚」の割合は1982年の29.4%をピークに下降の一途。つまり、「お見合い結婚した人の人数」では測れない「ひとり当たりのお見合い数」が増えている、そう著者は推測します。お見合いの先に恋愛を求める人が増え、成婚につながらないお見合いの数が増えた結果、お見合いが出会いのツールとしてこれほどまでに発展したのかもしれない、というのです。お見合いが結婚を前提にしたものではなく、恋愛のきっかけづくりという位置づけになっている。そんな状況こそが著者のいう“お見合い恋愛”なのです。*なぜ結婚しないのか。それは、なぜ結婚するのかという問いと表裏一体。結婚しない人が増えているいまこそ、逆説的に「結婚の意味」を考えるチャンスといえます。本書では、婚活する女性たちの生の声のほか、「結婚したい」とは思いながらもシングルを続ける30代、40代、50代の男女の本音を垣間見ることができます。そして、そうした結婚のあり方を、著者は“絆”というキーワードで見つめます。長らく当たり前と考えられてきた家族という絆を、わたしたちはどうやって結んできたのか。あるいは、どうやって結んでいけばよいのでしょうか。「結婚・婚活」をきっかけに、絆について立ち止まって考える機会を与えてくれる1冊です。(文/よりみちこ) 【参考】※にらさわあきこ(2016)『未婚当然時代 シングルたちの“絆”のゆくえ』ポプラ社※平成23年人口動態統計月報年計(概数)の概況―厚生労働省
2016年04月07日『社会人1年目からのお金の教養』(泉正人著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、そのタイトルどおり、新社会人を対象とした“お金の教科書”。入社3年目までに身につけておくべきだと著者が考える「お金の教養」43をピックアップし、わかりやすく解説しているわけです。きょうはそのなかから、いくつかのトピックスを抜き出してみたいと思います。■「消費」「投資」「浪費」の違いとは当たり前のことですが、自分が稼いだお金だけで生活する社会人は、お金をコントロールして使う必要があります。なにを買うべきなのか、なにを買ってもいいのか、なにを買ってはいけないのか、すべてを自分で判断しなければならないということです。そのためにはまず、お金の使い方が「消費」「投資」「浪費」の3つに分けられることから知る必要があるのだと著者はいいます。消費とは、毎日を生きていくうえで欠かすことのできないもの。電気・水道・ガスといった光熱費や家賃、通信費、毎日の食費、日用品などが含まれます。投資は、株や不動産など将来の資産形成につながるもの。キャリアアップのために資格取得や、健康維持のための食費などの自己投資も含まれます。そして浪費は、必要以上に飲み食いしたお金とか、欲に任せて買う高級品や嗜好品など、生活に不要なもの。いい方を変えれば、「消費=買ったものが払ったお金と同等の価値を持っているもの」「投資=買ったものが払ったお金以上の価値のあるもの」「浪費=買ったものが払ったお金より価値がないもの」といえるそうです。■新社会人は消費に慣れることが重要!社会に出たばかりの人についていえば、「買うべきもの」は投資であり、「買っていいもの」は消費にあたり、「買ってはいけないもの」が浪費にあたるものだと大別できるそうです。そして、毎月決まって十数万円以上のお金が振り込まれる経験が初めてであるはずの新社会人にとっては、心がけるべき重要なことがあると著者。当然のことながら、浪費を控えるように心がけ、まずは「消費」に慣れることが重要。どのような生活をすれば、毎月の消費が「使っていい金額」のなかにおさまるのか、その感覚をつかむことが大切なのです。次に投資ですが、社会に出たばかりのときは、日常業務に追われ、3~5年後を見据えて行動することなどできないのが普通。しかし、そんな時期だからこそ、自らの成長に投資をする「自己投資」を意識することが大切。そうすることによって、社会人として一気にライバルを引き離すことすらできると著者はいいます。■毎月の支出と収入を正確に把握しようお金をコントロールするためには、毎月いくら稼いでいるのか、なににいくら使っているのかという「お金の現状」を把握することが必要。住居費や食費などの出て行くお金(=支出)と、毎月会社から振り込まれる給与(=収入)を正確に把握しなければならないわけです。収入とは、新社会人にとっては給与に当たるものですが、給与には「額面金額」と「手取り金額」があります。額面金額は、基本給に時間外手当や通勤手当、住宅手当などの手当を足したもの。会社から支払われる報酬のすべてを合計した金額だということ(一般的には給与明細に「総支給額」と書かれています)。手取り金額は、「差引支給額」と書かれたもので、額面金額から税金(所得税、住民税)や社会保険料(健康保険、厚生年金、雇用保険)などが差し引かれたもの。つまり自由に使えるのは、手取り金額だということです。■把握しづらい支出を管理する方法は?支出の基本は「毎月の生活費」であり、固定支出と変動支出に分けられます。固定支出とは、住居費や月払いの保険料、教育費といった毎月一定に支払っているもの。預金通帳を見れば、すぐに把握できるものです。対する変動支出とは、食費や光熱費、通信費、レジャー費など、月によって変わる支出。特に食費やレジャー費は把握しづらいので、レシートや家計簿を活用して、1週間、1ヶ月単位で管理するべきだといいます。他にも年払いの保険料や冠婚葬祭費、家電・家具の購入費など「年に数回の支出」、学校の入学金、住宅購入の頭金、自動車購入など特定の年にだけ発生する「一時支出」が。いずれにしても収入と支出は、ひとり暮らしで生計を立てていくうえでの基本。必ず把握することが大切です。*このように基本がわかりやすく解説されているため、聞くに聞けない疑問も解消できるはず。ぜひ、手にとってみてください。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※泉正人(2016)『社会人1年目からのお金の教養』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年04月07日「リーダーの資質」というと、あたかも大層なものであるようにも聞こえるかもしれません。しかし、それはもともと備わった才能ではなく、あくまでもチームで仕事をするときの「役割」にすぎないもの。そう主張するのは、『99%の人がしていない たった1%のリーダーのコツ』(河野英太郎著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者です。だからこそ「リーダーである自分は偉くなければ」と考えてしまうと、さまざまな障害と直面することになってしまうわけです。「リーダーはあくまで役割だ」ということを、しっかりと意識しておくべきだということかもしれません。でも、リーダーとしての役割を全うする以上、そこにはさまざまな問題が生じることにもなるはずです。具体的にいえば、「メンバー選び」と「依頼の仕方」が大きな意味を持つということ。そこで、この2点をスムーズに進めるためのコツをチェックしてみましょう。■4番バッターばかり集めない仕事は、チームをつくることからはじまるもの。だから自分がリーダーだった場合、「ドリームチーム」をつくりたいと思ってしまうこともあるわけです。理由は簡単で、つまり実績あるメンバーが多いチームのほうが、成果が出るに違いないと思ってしまいがちだから。しかし、そこで注意すべきことがあると著者はいうのです。それは、「チームというのは、バランスのとれたメンバー構成にしなければならない」ということ。野球でいえば、4番バッターばかり、エースばかりを集めすぎないというわけです。■4番級ばかりだとまずい理由それはなぜなのでしょうか?いたってシンプルなことで、4番級、エース級ばかりをチームに入れると、必ずうまくいかなくなるものだから。しかし、それはある意味では当然のことだともいえるのではないでしょうか?なぜなら過去の経験や実績があればあるほど、人は自分のやり方でやりたいと思うものだからです。また、そのような人材は、いい意味で自己顕示欲が強いもの。つまり、自分が支援にまわることを望まないわけです。ところが、各人の「主張合戦」がはじまってそれぞれが譲らなかったり、もしくは誰かが強い不満を持ったまま仕事を継続したりするということも往々にしてあります。でも、そんな状態が続いてしまうと、いつか誰かがチームを去らなければならなくなるという、最悪の結末になってしまうわけです。だからこそ、重要なことがあるのだと著者はいいます。チーム編成をするときには、「前に出て引っぱる人」「全体を冷静に見渡す人」「専門分野で貢献する人」「それぞれを支える人」など、個々のリーダーシップの特徴を見極めることが重要だという考え方。■異分子を招き入れて評価するチーム内で反対意見が出ると、それは「議論」につながるもの。ここで重要なのは、議論とは、新しい価値をつくるためにするのだということ。いま、自分が正しいと考える意見を「正」とすると、それに反する意見は必ずあるものです。この「正」と「反」をくらべ、合意された「結論」を出すことが「議論」です。そして議論という作業で導き出せた結論は、もとの「正」意見や「反」意見のいいところを取り込んで、より高いレベルになっているのだといいます。いわばそれが、チームを組んで仕事をすることの醍醐味。チームを組んで仕事をするとき、合意された結論に対して新たな意見が出てきたとしたら、さらに高いレベルに届かせるための議論がはじまるといいます。つまりそうして、新しい価値をチームのなかでつくり出していくわけです。この価値をつくり出すきっかけが、メンバーによる「反対意見」の表明だということ。価値をつくる議論を生み出すために必要なのは、異なる意見を持っているメンバー(つまり異分子)をチームに迎え入れることだと著者はいいます。いわば、新しい価値を生み出すリーダーというものは、常に「意見」を持つ人を歓迎し、そして招き入れ、それを評価できる人だということです。*これらからもわかるとおり、著者の考え方は非常に客観的で、そして冷静なものです。強い共感を意識させるのは、つまりそれがあるから。だからこそ、広い視野を軸としてリーダーシップのあり方を考える際には、本書が大きな力になってくれるはずです。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※河野英太郎(2016)『99%の人がしていない たった1%のリーダーのコツ』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年04月06日『あなたの年齢は「意識」で決まる』(ディーパック・チョプラ著、渡邊愛子、水谷美紀子訳、フォレスト出版)の著者はインド出身の医学博士だそうですが、その功績はひとことで語り尽くせそうにありません。代替医療のパイオニアであり、心と体の医学、ウェルビーイング分野における世界的第一人者。そして、人間の潜在能力分野における世界的に有名な指導者。多くの著名人たちのメンター役を務めており、故マイケル・ジャクソンやレディー・ガガにはじまり、ミランダ・カー、マイク・マイヤーズ、マドンナ、デミ・ムーアなど多くのハリウッドセレブたちから厚い信望を得ているというのです。そんな著者は本書において、時間に支配されることなく、それどころか意識によって時間をコントロールし、若さを保ったまま生きていく方法を説いています。まず、「時間は決して敵ではない」ということを受け入れることができれば、時間による破壊を逃れることが可能になると著者はいいます。そして、もし世界中のすべての時間を自由にしたいと望むのであれば、次のシンプルな演習を通して訓練することが可能なのだそうです。2つの演習をピックアップしてみましょう。■1:内的対話を鎮めるこれは、意識の源である静止と静寂の場に接するシンプルな方法。心に、元来の自然な状態である静けさと、無理なく集中できることを再発見させるための演習だそうです。(1)目を閉じて、静かに座る。(2)呼吸を落ち着かせる。(3)胸の中心に注意を集中させる。(4)息を吸うとき、「ソー」という音節に意識を置き、吐くときは「ハム」という音節に意識を置く。(5)空気が自分の体に入ってくるのを感じ、音がやさしく巡るのを感じる。(6)空気が自分の体から出ていくのを落ち着いて感じる。「ソーハム」「ソーハム」これは古代インドのマントラで、「アイアム」や「アーメン」「オーム」といった音に置き換えても同じ効果がもたらされるのだとか。これを10分から20分間続けるといいそうですが、このシンプルな瞑想は、絶え間ないおしゃべりから心を解放してくれるのだといいます。著者によると、気を散らす原因は3つあり、それは(1)外部の騒音、(2)体内の感覚、そして(3)思考。だからこそ、いずれかに気づいたら、「ソーハム」という音に合わせた呼吸に楽な気持ちで戻るといいのだそうです。大切なのは、一定のリズムを保とうとしないこと。そして、自分に催眠をかけようともしないこと。■2:緊張を解放する意識は流れる水のように、なにものにも遮られることなくスムーズに流れるもの。しかし意識が滞ると、体のなかに緊張感が生まれます。そんなときに効果を発揮するのが、ヨガまたは深いエネルギーワーク。体の記憶を解放してくれるのだといいます。(1)入眠する前にベッドに横になる。(2)まくらを使わずに、平らな仰向けの体勢をとる。(3)手を横に広げて大の字になる。(4)深くゆっくり息を吸い込み、口からため息をつくように息を吐く。自由に、自然に、体が欲するまま、口から息を吐く。(5)吐く息は、あえぐような速い息になったり、うめき声のような深い息になったりすることもあるとか。安堵感、悲しみ、嘆き、高揚感、もしくは他の感情を意識することもあるといいますが、そんな、湧いてくる感情を意識するわけです。そうしているとき、ただ身体的な緊張を解放しているだけではなく、同時に身体的記憶にアクセスしているのだといいます。緊張が自然に解放されれば、思考、感情、感覚がひとつにまとまり、一度にすべて解き放たれるのだそうです。10分間にも満たないこの演習を行ってみることにより、非常に強い効果を生み出すことが可能。ちなみに、もし体が欲するのであれば、そのまま眠ってしまっても大丈夫だとか。なぜならそれもまた、解放のプロセスの一部だから。*たとえばこのような手段を通じて「時間」と共存する術が、本書では他にも紹介されています。向き不向きはあるかもしれませんが、もし感覚的にフィットするなら、相応の効果を実感できる可能性があります。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※ディーパック・チョプラ(2016)『あなたの年齢は「意識」で決まる』フォレスト出版
2016年04月05日1920年に大分県で生まれ、現在96歳の梅木信子先生。18歳のときに出会った夫梅木靖之さんと23歳に結婚しますが、結婚式は遺影と行うことに。婚約者だった夫は、戦死してしまったからです。その後「戦地に赴き、死んで婚約者と一緒に靖国に往く」ことを目的に、東京女子医科大学に入学。それから壮絶な人生を経て女医となり、いまなお現役でいらっしゃいます。先生が新著『ひとりは安らぎ感謝のとき』(KADOKAWA)のなかで語る健康や食についての考え方は、現代を生きる私たちにも必見です。■梅木先生が語る「ドクターの選び方」50年も地域医療に向き合った梅木先生から見ると、日本ではどうしても大病院志向の人が多いのだとか。たとえば夜中に卒中発作を起こしたとき、いつもかかっている大病院が遠い場合、救急隊員が必死に診察を受け入れてくれる近くの病院を探します。しかし、そうして受け入れられた病院では病歴がわからないため、改めて検査をすることに。ところが、その間に亡くなってしまうことも多々あるそうなのです。そのため、梅木先生はホームドクターを持つことを強くすすめています。常に全身を診てくれて、でも専門外はさっさと紹介状を書いてくれる先生がいいと。また、病院やドクター選びの注意点として、先生自身なら「患者さま」と呼ぶ病院はまず敬遠するそうです。そういう病院は、経営面ばかりが前面に出ているものだから。かといって、患者に気が回らない病院もダメ。まったく診察に呼んでくれなかったり、フォローがなかったりするドクターはその典型だそうです。そして、診察のときにパソコンばかり見ている先生もNG。なぜなら診察室に入ってくるときの患者の歩き方や顔色を見るだけで、だいたいの診断はつくものだからだといいます。これは、すぐにでも参考にできるポイントですね。■梅木先生が考える「食で大切なこと」そして梅木先生は、人生を健康で豊かに楽しむため食にもこだわっています。といっても、食との向き合い方はいたってシンプル。できる限り自然のものを、あまり手を加えず食すことがモットーなのだといいます。また自然に任せ、空腹になれば食べる、空腹にならないと食べないそうです。さらに料理をするという行為は段取りや分量のことで頭を働かせるので、認知症予防にもつながるといいます。そして、好き嫌いはあってもOK。バランスよく食べることが健康にいいのはたしかだけれど、「健康にいいから」と無理して好まないものまでを食べる必要はないというのですから驚き。その前提として大切なことは、「不足しているものは自然に体が要求するから、その自然の声に耳を傾けて従う」ということなのだそうです。現代の私たちは忙しすぎて、体や自然の声に向き合うことがなかなかできません。しかし、それがいちばんの問題かもしれません。著書のなかには、ときに厳しい言葉も並びます。しかし、先生の歩んでこられた険しい人生の上に並ぶこの言葉たちは、これからも伝えられていくべきもの。本書を通じ、「愛とは?」「老いとは?」「健康とは?」ということをいま一度考えてみていただければと思います。(文/料理家・まつながなお) 【参考】※梅木信子(2016)『ひとりは安らぎ感謝のとき』KADOKAWA
2016年04月04日『こんな時代に たっぷり稼げる株の見つけ方』(天海源一郎著、幻冬舎)の著者は、個人投資家が儲けるための投資の啓蒙をライフワークにしているという株式ジャーナリスト/個人投資家。本書は「“いまそうなっていること”に素直になる(いまの株式相場の枠組みを知る)」「株価を動かす主体をイメージする(投資家が株価を決定している)」という考え方に基づき、個人投資家が「流れに乗る」ことを手段として書かれているものだといいます。それは、「枠組み」と「投資家の動き」を意識するところからはじまるのだとか。いわばヤマ勘との決別だということで、地に足のついた考え方だといえるのではないでしょうか。きょうはそのなかから、「イマイチ相場がビックリ高値になる背景」を取り上げてみたいと思います。■食品株や薬品株がなぜかブレイク2015年前半相場の特徴的な動きは、薬品株や食品株の上昇が派手だったこと。しかもそれは、“ド派手”といっていいほどのものだったのだとか。8月初旬に日経平均採用銘柄(225社)の年初来騰落率をランキングしてみると、上位10社中6社が薬品株もしくは食品株で、これは過去にあまり例を見ない状況なのだそうです。少し前に話題となった「食べるラー油」のように大ヒット商品が出ることはあるものの、よほどのことがない限り、売り上げが大きく浮き沈みすることがないのが食品業界。なにしろ食品は必需品なので、コンスタントに売れる反面、それほどの変化はないわけです。風邪などの病気は景気とは無関係なので、薬品にしてもまた同じ。つまり食品や薬品を手がけている企業の業績は、景気の波にあまり左右されず安定しているということ。安定=「変化がない=目立たない=地味」というわけで、食品株や薬品株は典型的なディフェンシブ(防衛的)銘柄に位置づけられているもの。高騰は期待しづらいながら、暴落のリスクも低いわけです。逆にいえば相場の上昇が顕著な局面では、見過ごされるべき銘柄群なのです。■インデックス運用が拡大したからなのになぜ、食品や薬品が2015年前半相場でさかんに物色されていたのでしょうか?その一因として考えられるのは「インデックス運用」の拡大だと著者はいいます。インデックス運用とは、日経平均株価やTOPIXなどといった指数に連動するパフォーマンスを、着実に得ることを目的としたもの。つまり、平均点狙いの投資ということ。指数をしのぐ成果は望めない代わりに、指数を下回る結果に甘んじることもあまりない手法なのだそうです。こうしたことから、保守的な運用を重んじる機関投資家などの間では、インデックス運用が主流となってきたのだといいます。個人投資家においてはコストが圧倒的に低いという観点から、インデックス運用の具体的な投資対象となってくるのはおもにETF(指数連動型上場投資信託)。株と同じく証券取引所(市場)に上場しており、取引時間中ならいつでも時価で売買が可能。現にETFの運用資産残高は拡大の一途をたどっており、それは世界的に見られる現象でもあるといいます。■イマイチ銘柄が高値をつけた背景そして数あるETFのなかでも保守的な機関投資家が選考しがちなのは、よりボラリティリティが低い(値動きが穏やかな)タイプ。つまり、リスクの低いものが好まれているということです。では、そのような低ボラリティブのETFがどうやってリスクを抑えているのかといえば、ディフェンシブ銘柄に属するセクターの組み入れ比率を高めることにより、運用の安定化を図っているのだとか。つまり、「インデックス運用の拡大に伴って低ボラリティリティのETFが盛んに買われて運用資産残高が拡大→おのずとディフェンシブ銘柄がさらに組み込まれていく→株価が動き出すことから、トレンドフォローの投資家から追随買いが入る→株価高騰」という流れが生じたということ。これが、「イマイチ銘柄」が驚くほどの高値をつけた背景だというわけです。*これはほんの一例ですが、わかりやすく解説されていることがおわかりなのではないでしょうか?いわば、株のことはよくわからないという方でも、その動き方を無理なく解釈することが可能なのです。目を通してみれば、株に対する考え方が変化するかもしれません。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※天海源一郎(2016)『こんな時代に たっぷり稼げる株の見つけ方』幻冬舎
2016年04月04日