『年収1000万円以上のNYキャリアが教える 仕事も恋愛もキレイもすべてを手に入れる女性のワークルールズ50』(バーバラ・スタニー著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、2003年に『ミリオネーゼになりませんか?』というタイトルで出版された翻訳書の新装版。原題は『SECRETS OF SIX-FIGURE WOMEN』ですが、“SIX-FIGURE”とは「6桁」のこと。日本円でいえば年収1,000万円以上というわけで、「ミリオネーゼ」とは、そこから着想した造語なのだそうです。ミリオネーゼの定義は、「仕事も恋(家庭)もおしゃれに楽しみ、1,000万円稼ぐ女性」というもの。また、「すべてをあきらめなくていい。わたしたちは、すべてを手に入れることができる」というメッセージも込められているのだといいます。ちなみに年収1,000万円である必要はないものの、収入に対するこだわりこそが女性たちにもっとも欠けていることだと著者。そこで、その数字を女性たちの経済的自立、精神的自立の象徴としたのだそうです。ところで、本書が初めて出版されたときには「一部のキャリアウーマンにとっての課題」だった事柄が、13年を経たいま、「ほとんどすべてのワーキングウーマンたちの課題となってきている」といいます。そこで改めて、「自分に自信を持つこと」「八方美人になろうとせず堂々と意見を述べること」「チャンスがきたら『とりあえずやる』と考えること」「自分の能力と業績に応じた正当な権利を主張すること」などの心得を訴えかけるために本書が復刊されたというわけです。きょうはそのなかから、お金に関するルールをいくつか引き出してみます。■お金に関する3つの法則を守る経済的自立は、頭で考えるよりもはるかに簡単だと著者はいいます。お金を賢く増やすのに、時間はそんなにいらない。お金がたくさんなければ財産をつくれないわけでもない。それどころか、現在の収入額がいくらであろうと、数千万を貯めることは可能だというのです。若いうちからはじめるに越したことはないけれど、歳をとっても遅過ぎることはない。もっとも危険なのは、年齢にかかわらず「なにもしない」こと。そして財産を築くためには、お金に関する3つの法則を守る必要があるのだとか。[法則1]支出を収入より少なくする[法則2]なによりもまず貯蓄する[法則3]お金を運用して増やす大切なのは、「なにを持っているか」ではなく、「持っているものでなにをするか」。それこそが、経済的安定を手にできるかどうかの決め手だということ。(1)支出を収入より少なくするミリオネーゼたちはたいてい、自由気ままにお金を使わないように自制しているのだそうです。ケチっているわけではなく、“贅沢”と“倹約”とを上手に使い分けているということ。いってみれば富の大きさは「どれだけ稼いだか」ではなく、「どれだけ使わないか」で決まるというわけです。(2)なによりもまず貯蓄する“お金を貯めるのが上手な人”は、収入の一部を定期的に貯蓄にまわすもの。ただし忘れるべきでないのは、貯蓄はいざというときに備えるもので、バーゲンセールのためにしているのではないということ。銀行に預けたお金は、借金や大きな損失に対する緩衝材になるだけではなく、予期せぬ出来事が起こったとき、あるいは夢を実現させるときのための賢明な備えになるということです。(3)お金を運用して増やす難しそうに感じはするものの、実はお金の運用はそんなに面倒なことではないもの。一般的な原則は次のとおりだといいます。1.臨時の出費や近い将来に買いたいものを買うためのお金など、今後5~7年以内に必要なお金は、現金か、MMF(マネー・マネジメントファンド)、CD(譲渡可能定期預金)などにしておく。2.今後8~10年以内に必要なお金は、株式や債券、現金に分散しておく。3.11年以上使う予定のないお金は、大半を株式に投資しておく。■いい投資家になれる4つの秘訣そして、お金の運用にもっとも有効なのは投資。そこで、誰でも腕のいい投資家になれる4つの秘訣も紹介されています。(1)自動化する一定の金額を、銀行口座や給料から自動引き落としで証券会社の口座に入れる契約をするということ。自分で銘柄を考えながら投資すると、意図に反する結果になることがあるためです。(2)プロに任せる専門家は投資のやり方を詳細に検討し、ポートフォリオのバランスを考え、定年後の生活に必要な資金計画を立てるようにサポートしてくれるというのです。(3)勉強する投資銘柄をむやみに怖がったり、無知なまま、あるいは習慣的に投資したりするのではなく、知識の裏づけを持って参加することが大事だという考え方。(4)人の話を聞く金融についてなんらかの知識がある人に会ったら、その知恵を借りるために質問をする習慣をつけるということ。*当たり前に思えることばかりですが、つまりは「当たり前のことをきちんとやる」ことが、なにより大切なのかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※バーバラ・スタニー(2016)『年収1000万円以上のNYキャリアが教える 仕事も恋愛もキレイもすべてを手に入れる女性のワークルールズ50』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年06月02日ご存知の方も多いと思いますが、『「自分の言葉」で人を動かす』(木暮太一著、文響社)の著者はフジテレビ「とくダネ!」レギュラーコメンテーターであり、他にもフジテレビ「ネプリーグ」、NHK「ニッポンのジレンマ」、Eテレ「テストの花道」など多くのメディアで活躍する作家。『カイジ「命より重い!」お金の話』など数々の著作も有名ですが、最新刊である本書では「言葉」をテーマに掲げています。自分の思いをうまく人に伝えられないという人も少なくないはずですが、「ある視点」を身につければ、自分だけの言葉を紡げるようになるというのです。そればかりか、“借り物”の「レンタル言葉」を脱却し、「自分と血のつながった言葉で話す」経験を繰り返すことで自信をつけることもできるのだとか。ただ、そのためには「伝え方」をしっかり認識しておく必要はありそう。事実、著者も「人を動かす伝え方」には3つの大きな勘違いがあると指摘しています。■勘違いその1:論理的に伝えれば、人は動くビジネスの現場においては、「もっと論理的に説明して」などという言葉が飛び交うことがあります。たしかに、なにかを伝えようというとき、筋道を立ててきちんと整理することは大切。膨大なお金が動くビジネスにおいては、客観的な論理や根拠が求められるのは当然でしょう。しかしロジカルな話し方や客観的な情報は、あくまで自分の理論や感性を証明する“証拠”であり、人を動かす“要因”にはならないのだと著者はいいます。相手が反論できないくらいに理論武装したとしても、それで相手が動いてくれるとは限らないということ。もちろん論理や根拠も、ないよりはあったほうがいいかもしれません。が、こちらの話を聞くことによって相手が動いてくれるとしたら、それは「正しいことをいっているから」ではなく、話に共感したり、刺激を受けたりしたから。だから、準備に準備を重ね、論理をきれいに積み上げた言葉よりも、支離滅裂に、しかし素直に気持ちを語った言葉のほうが人を動かせるというわけです。ビジネス書の定石とは正反対の考え方ですが、それでも「論理的であればあるほど人を動かせるという考えは幻にすぎない」のだと著者は主張しています。■勘違いその2:認知度が上がれば、人は動く企業が多額のお金を使ってテレビCMを放映するのは、「人の目に触れたら、商品は売れるようになる」と考えられているから。ただし、その情報を見聞きした人が思いどおりに動いてくれるかといえば、それほど簡単な話でもないそうです。その一例として明かされているのが、著者がレギュラーコメンテーターとして出演しているフジテレビ「とくダネ!」でのエピソード。毎日、約1,000万人が見ている番組ですから、ここで本を紹介してもらえ他としたら、大きな反響が得られるというのです。ただし、最初に紹介された『カイジ「命より重い!」お金の話』(サンマーク出版)は、『賭博黙示録カイジ』というギャンブルをテーマにしたマンガを題材にしたもの。つまり同番組の主要視聴者である主婦層との親和性は高くないわけですが、なぜか爆発的に売り上げが伸びたのだそうです。一方、次に紹介してもらった『今までで一番やさしい経済の教科書』(ダイヤモンド社)は、経済のニュースをわかりやすく解説しているだけに主婦層にぴったり。にもかかわらず、あまり売り上げが伸びなかったのだといいます。不思議な気もしますが、その理由を著者はこう分析しています。2冊目の本に対しては、MCの小倉智昭さんが、「コメンテーターの木暮さんが新しく本を出しました」と紹介したのみ。その内容は小倉さんの知っていることばかりだったため、客観的な情報だけをコメントしたということです。しかし1冊目の紹介コメントは「表紙を見てドキッとしますよね。本当におもしろかったです」というもの。つまり、そこには小倉さんが伝えたいと思ったことが詰まっていた。だから、それが視聴者に響いたというわけです。この結果が意味するのは、ただ単に多くの人の目に触れさせればいいということではなく、「その人が動くような言葉を発信する必要がある」ということ。「認知度が上がればOK」というような、単純な問題ではないのです。■勘違いその3:テクニックを使えば、人は動く本質的に、ラクに効果が出るものを求めるのが人間。たとえば、「食べていてもやせる!」などの謳い文句を掲げたダイエット本が話題になるのも、「ラクだし、効果も期待できそうだ」というイメージのおかげでしょう。魔法のテンプレートにあてはめれば、自分で考えなくても努力をしなくても大丈夫。ラクさの代償として、自分の気持ちに嘘をつく習慣を容易につくってしまうということ。しかし、借り物の「レンタル言葉」に自分を当てはめても、自分のためにならないのは明らか。そうしたテクニックとは、むしろ危険だと著者はいいます。人を動かすのは会話のテクニックではなく、伝える側の「教えたい」という視点。それが、聞く側の教官につながる。それが、人を言葉で動かす力の本質だといいます。*どれも常識だと思っていたことばかりなので、意外に感じた方も少なくないはず。でも、たしかに納得できることでもあります。他にも、納得できるエピソード満載。目を通してみれば、「伝えること」はもちろん、コミュニケーション全般についても自信がつくかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※木暮太一(2016)『「自分の言葉」で人を動かす』文響社
2016年06月02日『イヤなことを1分間で忘れる技術』(石井貴士著、きずな出版)は、『本当に頭がよくなる 1分間勉強法』(KADOKAWA)などのベストセラーを生み出してきた著者による新刊。タイトルにも明らかなとおり、今回のテーマは忘れる技術、すなわち「忘却術」。忘却術について語るにあたり、著者はまず「イヤなこと」について言及しています。いうまでもなく、イヤなことは誰にでもあるということ。しかし、イヤなことが起きたあとに、すぐ前向きに切り替えられる人と、後ろ向きに引きずる人がいるのも事実。それはなぜなのでしょうか?当然ながら、違いを生んでいるのは「感性が鋭い・鈍い」という違いでもなければ、生まれつきの遺伝子の違いでもないはず。違うのはただひとつだけで、すぐに忘れることができる「忘却術」を知っているかどうかということだけだというのです。■人の頭は忘れるようにできている「エビングハウスの忘却曲線」(『本当に頭がよくなる1分間記憶法』SBクリエイティブ)によれば、人は20分後には44%を忘れ、56%しかおぼえていないのだそうです。それどころか、1時間後には約55%を忘れ、約45%しかおぼえていない。1日後には74%を忘れ、26%しかおぼえていないということ。単純に考えれば、イヤなことがあったとしても翌日には74%をわすれているということで「人は物事を忘れるようにできている」と考えれば気持ちも楽になる。それこそが、「イヤなことを忘れる技術」だというわけです。そして、こうした基本を踏まえたうえで、もうひとつおぼえておきたい重要なことがあります。それは、完璧主義からの脱出。■完璧主義じゃないほうが愛される完璧主義になって「100点でなければダメだ」と思っていると、毎日のように落ち込むことになります。なぜなら、100点を取れるケースは滅多にないから。しかし「65点でいい」と思っていれば、65点を超えた日は笑顔、下回ったら落ち込めばいいということになるため、落ち込む回数は減ることに。また完璧主義者は「頭が固い」と敬遠されがちですが、短所があることを認めて生きると愛されるもの。完璧主義ではなく、弱点があるくらいのほうが、多くの人から愛されて、落ち込む回数も減るということです。■人生は78点が満点だと考えようだから人生を100点満点で考えると、完璧主義に陥ってしまいがち。しかし人生は100点満点ではなく、78点満点なのだと著者はいいます。そして、ここで紹介されているのが「78:22の法則」というものです。地球上は、海が78%で陸地が22%。空気中の窒素は78%で、酸素など窒素以外が22%。人間の身体は、水が78%、それ以外が22%。会社の売上も、上位22%の人が全体の78%の売上を上げているといわれているそうです。だとすれば、満点は78%だと考えることができるはず。人生のルールも同じで、100点満点ではなく78点満点で考えれば、楽に生きることができるというわけです。では78点満点で考えたとき、合格ラインは何点なのでしょうか?著者いわく、毎日の合格ラインは65点。65点をクリアしたら、「いい1日だ」と自分をほめる癖をつけるべきだといいます。100の仕事が目の前にあって、今日中に100すべてをこなさなければならないと考えると、完璧主義になってしまいます。だから、がんばったとしても78点で終わらせて、残りの22日は明日の分として残しておく。具体的には、合格ラインを65、満点を78にしていくと長続きするそうです。■65点で4日仕事すれば260点つまり著者が訴えたいのは、がんばりすぎるよりも、常に余力を持っておくほうが、毎日を健康的に生きられるということ。・「きょうはがんばったから100点、翌日は疲れてなにもしなかったから0点、次の日はがんばって100点、その次の日は疲れてなにもせず0点」ということだと、4日後の総得点は200点。・65点で4日間仕事をした人であれば、4日後には260点。こうして比較してみると、差は歴然とします、しかも後者は仕事以外のこともする余裕があるので、人生をエンジョイすることも可能。だからこそ65点主義でいるべきであり、がんばったとしても78点で止めておく。そうすることで落ち込み癖が減り、最終的なパフォーマンスも上がるということです。*このように、基本的な考え方はいたってシンプル。だからこそ無理なく読み進めることができ、しかも実践しやすいはずです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※石井貴士(2016)『イヤなことを1分間で忘れる技術』きずな出版
2016年06月01日『その節約はキケンです――お金が貯まる人はなぜ家計簿をつけないのか』(風呂内亜矢著、祥伝社)の著者は、これまでに3,000人以上の資産状況をヒアリングしてきたというファイナンシャルプランナー。そんな立場から、「ダイエットと節約はとてもよく似ている」とユニークな主張をしています。ダイエットの基本は、口に入れるカロリーより、身体を動かすカロリーを大きくすること。そして節約の基本は、出ていくお金より入ってくるお金を大きくすること。構造が同じだということです。さらにもうひとつの共通点は「世間の噂話を鵜呑みにするとキケン」だという点。本質を理解しないままダイエットしたら、栄養のバランスが崩れる可能性があります。節約法も、ネットや新聞で紹介されているやり方を真似するだけだと、かえってお金が貯まらないことがあるというのです。理由は、その方法の本質を見落としてしまうことになるから。そこで本書では「キケン」という観点から節約術や考え方を捉え、よりよいメソッドを紹介しているわけです。きょうはそのなかから、「住宅ローンは短く組むとキケン」をご紹介したいと思います。■住宅ローンは短く組むとキケンな理由住宅ローンを利用する際には、金利は低く、期間は短く、さらに積極的な繰上げ返済を行えば、総支払額を抑えることが可能。そのため、ローン選定時に借入期間をとにかく短くしようと考える人は少なくないでしょう。たとえば3,000万円の住宅ローンを年利1.5%で借りる場合、35年間で返済すると総支払い額は約3,858万円。しかし25年間で返済すると、総支払い額は約3,600万円となり、約258万円の差が生まれるわけです。これだけ違うわけですから、返済期間を短くしたくなるのも当然。でも返済期間を短くしようとすると、当然のことながら月々負担する金額は重くなります。先ほどの例で考えてみましょう。月々の返済額は35年ローンで約9.2万円ですが、25年ローンだと約12万円。期間が10年短くなる代わりに、毎月の負担は約3万円も増えることになるわけです。つまり、この支払い額の増加が、のちのち家計を圧迫してしまう可能性があるということ。これはかなりキケンだと著者は主張しています。■現在と同レベルの収入を維持できる?住宅ローンを借りるときは、現在の収入を基準に考えることが多いもの。また共働きの場合だと、妻の収入もアテにして返済計画を立ててしまいがちだといいます。しかし考えなければならないのは、夫婦揃って現在と同レベルの収入を今後もずっと得られるとは限らないということ。子どもができれば産休・育休を取得することになるでしょうし、子育て中は時短勤務になることも考えられます。また夫婦がフルタイムで働いたとしても、子どもが大学生になるころには学費の負担が大きくなるでしょう。こうした問題以外に、実家の両親の介護が必要になることも考えられます。夫婦のどちらかがリストラされたり、転職を考えたりする可能性もあります。しかも単身者であった場合は、これらの事態に自分ひとりで対応することになります。■「短期間」にこだわってはいけない!このように、人生には不確定な要素が数多くあるわけです。しかし住宅ローンを組んだ時点では、その後数十年の生活の変化を予想することなど不可能。だからこそ、住宅ローンの返済期間を短くすることだけを考えて月々の返済額をギリギリまで高くしてしまっていると、いざというときに身動きが取れなくなってしまう恐れがあるということ。それどころか、その月の生活費をまかなうために、住宅ローンよりも高い金利でお金を工面しなければならない事態になるかもしれません。「住宅ローンの借入期間をできる限り短くする」という節約方法は、慎重に選択する必要があるわけです。総支払い額ばかりに注目するあまり、いまの生活を苦しめることになってしまっては本末転倒。そうならないように、気をつけることが大切なのです。もちろん、収支や支出のバランスに見合った住宅ローンを借りることが大前提。そして借りる金額が同じである場合、短い時間での返済を確定してしまわない方が、苦しまずに返済できる可能性があると、著者はいいます。そして、そんな理由から、「短期間」にこだわらないことをおすすめしているわけです。*このように、実際の生活に密着した「キケン」を取り上げているため、とてもわかりやすい内容。ぜひ一度、手に取ってみてください。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※風呂内亜矢(2016)『その節約はキケンです――お金が貯まる人はなぜ家計簿をつけないのか』祥伝社
2016年06月01日本日ご紹介したいのは、『理系の伝え方―最良の知恵を生み出す「ロジック&コミュニケーション」』(籠屋邦夫著、きずな出版)。著者は、東京大学で工学(理系)を学び、アメリカではスタンフォード大学で経営と意思決定論という“理系と文系が融合した分野”を学んだ実績を持つ人物。その後に関わった経営コンサルティングの現場は「働く人たちの協働作業によって物事が成し遂げられる」という、文系の側面が強い環境だったのだとか。いってみれば理系と文系という、相反する2つの「思考回路」と接してきたということ。そこで本書ではそうした実績に基づき、「理系ならではの伝え方」を明らかにしているのです。■「理系思考」とは何なのかところで、あまり聞きなれない「理系思考」とはどのような思考なのでしょうか。著者の説明によれば、それは“すべての事柄に対して、価値判断の傾向が「絶対的ロジックである」”という「思考回路」を意味するもの。事実、グーグルの創業者であるラリー・ペイジ、アマゾンCEOのジェフ・ベゾス、インテル創業者のゴードン・ムーアなど理系出身の起業家たちも、大半が「ロジカル」なコミュニケーションを得意としているのだとか。そして、「ロジカル」なコミュニケーションの土台にあるのが「理系思考」だということです。スタンフォード大学大学院で「意思決定論」を学んだ経験を持つ著者の現在の本業は、クライアントの「意思決定のクオリティを高める」こと。それを “エデュサルティング”(「エデュケーション」と「コンサルティング」とをかけ合わせた造語)と名づけ、戦略的マネジメントと意思決定の本質を「教え」、プロジェクトや事業の成功を「支援」し、次世代リーダーを「育成」しているのだそうです。■伝える力は意思決定の武器「意思決定」というと「決断の瞬間」をイメージする人が多いかもしれませんが、実はそういうことではないようです。著者によれば「意思決定のクオリティを高める」とは、決断の瞬間の前後、そこに至るまでの思考のプロセスをも含めた、幅広い活動を刺すというのです。そして「意思決定のクオリティを高める」という作業のなかには、必ず「伝える」という行動が入ってくるのだといいます。たとえばA・B・Cの3つの候補のなかから、A案を採用してほしいという場合は、当然ながら「A・B・C案のうち、A案が最適」と思ってもらえるように話をする必要があります。つまり「伝える力」は、意思決定のための武器として重要な意味を持っているということ。だからこそ、意思決定のエデュサルティングをする日々のなかで著者は、コミュニケーションに関しては「“理系思考”を持っていたほうがうまくいく」と感じるようになったのだというのです。なぜなら理系思考を持っていれば、内容を整理し、伝達し、論理的に議論することが可能になるから。■伝えることの目的は3つ!そして、そのことに気づいてからというもの、「伝える」ことの目的の大半は次の3つに絞られると確信しているのだそうです。1.相手と衆知を結集する(お互いの意見を出し合う)2.意思決定と決断をする(目的とゴールを明確にする)3.次のアクションに結びつける(実際に行動を起こす)思ったとおりのことが正確に相手に伝わる。そして、それが相手の知恵と知識を活用した、より高次元の意思決定とアクションにつながる。それだけで、コミュニケーションは大きく変わるということです。■実は「内容や議論」も重要なお著者は、コミュニケーションの基本構造は以下の3つに分類されるとも主張しています。1.「内容」→伝える前に、自分が伝えたい内容を整理すること2.「伝達」→その整理した内容を実際に相手に伝えること3.「議論」→伝えたあとで、その内容をもとに相手と話し合ったり、相手の疑問を解消したり、その後の行動につなげること「伝える」というと、上記の3つのうちの「伝達」の部分ばかりをフォーカスしがち。しかし、その前段階である「内容」を準備すること、そしてそのあとの「議論」をイメージしていくことも、それと同等、あるいはそれ以上に重要なことだというのです。いわば「内容をどうするか」を考え、それを「伝達する」、そして、それに基づいて「議論をし、衆知を結集していく」ということ。それぞれが持っている知識やスキルや思考を合わせることによって、内容をよりよいものにし、そのやりとりを通じて合意を形成し、手を携えて次のアクションに結びつける。それこそが、理系の伝え方だというわけです。*「理系の伝え方」は決して難しいものではなく、文系の人でも抵抗なく受け入れられるはず。だからこそ、目を通してみればコミュニケーションに対する考え方が変化するかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※籠屋邦夫(2016)『理系の伝え方―最良の知恵を生み出す「ロジック&コミュニケーション」』きずな出版
2016年05月31日『あれか、これか――「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』(野口真人著、ダイヤモンド社)で著者が訴えているのは、「ファイナンス理論」の有効性。それは本当の価値を見抜き、正しい選択をするために人類が産み出した究極の実学なのだといいます。著者の言葉を借りるなら、ファイナンスとはすべての価値をお金に置き換える“現金な”学問。その証拠に、ほとんどの金融商品・ギャンブル、あるいは詐欺までもが、「現金(キャッシュ)が持つ魔力」をうまく利用することによって成り立っているのだそうです。つまりファイナンス理論は、それらのまやかしを見破り、“本当の価値”を見極めるためのシステム。そして驚くべきは、ファイナンスの価値体系において、現金は「もっとも価値の低い資産のひとつに位置づけられているということ。■お得なビールはどっち?ところで著者は、読者に対してある質問を投げかけています。「同じ銘柄のビールがコンビニAでは400円、隣のコンビニBでは350円で売られていたとしたら、この場合、お得な買いものは?」というもの。当然のことながら、お酒好きの方は「コンビニBに決まっている!」と思うことでしょう。しかし、ビールを飲まない人にとっては、「どちらも買わない」が正解であるはず。どうせ飲まないビールなら、買わないほうがマシだからです。また、このビールが普段から300円で売られている商品だとすれば、どちらのコンビニで買っても損することになります。この例からもわかるとおり、私たちは買いものや取引をする際、価格を見比べて損得を判断しようとするものです。「こちらのほうが価格が安いからお得だ」「あっちのほうが価格が高いから、価値も高いに違いない」というように、価格同士の比較が価値判断の基準になっているということ。しかし、価格だけを見くらべても、正しい判断はできないと著者はいいます。これは、ビールを株式に置き換えて考えてみると分かりやすいのだとか。■株の「買い時」はいつ?Q:昨日1,000円で取引されていたC社の株式が、きょうは700円で取引されている。きょう、この株は買うべきか?株価だけを見れば、1,000円だったものが700円で買えるのですから、C社の株は「まさに買い時」ということになるでしょう。とはいえ株式投資の経験がない人でも、ここで「買い」の判断をすることはないはず。なぜならC社の株は、700円よりももっと下がる可能性があるから。では、どうすればいいのでしょうか?この問いに対して著者がいいたいのは、「価格と価格を見くらべている限り、まっとうな意思決定はできない」ということだそうです。700円、500円、100円のどの時点で買うにせよ、あるいは買わないにせよ、目に見えている株価だけを根拠にして判断する人は、単なるヤマ勘を頼りにしている点においては「同じ穴の狢(ムジナ)」だということ。■「価格と価値」を分けるだとすれば気になるのは、「正しく意思決定をするためにはどんな情報が必要なのか」ですが、いうまでもなく、C社株の本当の価値がわかればいいのです。たとえば、「この株には本当は150円の価値しかない」とわかっていれば、1,000円から700円に下落した時点でも手を出そうとは思わないはず。逆に100円にまで下落したなら、迷わず購入を決めるはずだということです。私たちはどうしても、価格という“目に見えるもの”に惑わされてしまいがちです。しかし本当の意思決定は、「価格と価格」を比較する世界から抜け出したところ、すなわち「価格と価値」の両方を見渡す視点からしか生まれないのだと著者は主張しています。だからこそ、ファイナンス的な思考の第一歩は、価格と価値を分けて考え、価値の見極め(価値評価)に軸足を移すことなのだといいます。原価や市場価格に注目する従来の考え方は、あくまでも「目に見えるもの」、端的にいえば価格に注目していることになります。「価格が価値を決める」という発想であり、いいかえれば価格中心の世界観。対して、ブランドのような「目に見えないもの」を価値の源泉だと考えるのがファイナンス。「価値が価格を決める」という、“価値中心”の世界観でとらえようとするわけです。お金が単なる尺度であり、それ自体が価値を決めるものではないのだとすれば、ファイナンスのほうが現実に即していると著者はいいます。*「数字は苦手」だという方も、抵抗を感じることなくすんなりと読める内容。未来に向けて新たな価値観を身につけておくためにも、必読の書といえそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※野口真人(2016)『あれか、これか――「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』ダイヤモンド社
2016年05月31日『銀行員が教える 一生困らないお金の増やし方』(長岐隆弘、高市 亮著、総合法令出版)は、メガバンク行員経験を持つ不動産鑑定士/不動産投資プロデューサーと、メーカーに技術者として勤務したのちに独立した不動産投資家による共著。「銀行にお金を預けることの意味が大きく揺らぎはじめているなか、ただ漠然と貯金しているだけでは、とっさの事態に備えることは不可能。そこで、いますぐ行動を起こす必要がある」という考え方に基づき、一生お金に困らない生活力を身につけることを提案しているのです。■「お金に働いてもらう」という発想「一生お金に困らないなんて、ありえない」と感じる方がいても不思議はないかもしれません。しかし著者によれば、それは決してありえないことではないようです。彼ら自身が、そうした生活を送っているのがなによりの証拠。その根底にあるのは「自分で働くのではなく、お金に働いてもらう」という発想。つまりは投資によって、給料以外の安定収入を得ようという考え方です。しかもそれは、自己資金がまったくなくても始めることができるというのです。そんなコンセプトを軸に、お金を着実に増やすためのさまざまな方法を明かした本書から、きょうは不動産投資の魅力をピックアップしてみたいと思います。■不動産オーナーは銀行から借金するおそらく、「不動産投資はお金持ちのすること」だというイメージが一般的でしょう。つまり、「ビジネスで成功した人が、稼いだお金で不動産を購入している」というふうに思われているわけです。しかし意外なことに、不動産オーナーは実際には自分のお金を使ってはいないと著者はいうのです。何故なら1億円の不動産を買うとき、多くのオーナーは銀行から1億円の借金をするから。利回りが5%程度あれば、その借金は単純計算で20年あれば返済可能だということです。1億円×5%=500万円1億円÷500万円=20年※実際には税金の支払いなどが必要つまりこれまでは、お金持ちの人たちだけがこのことを知っていて、自分のお金を使わず、さらにどんどん資産を増やしていたということ。ところがサラリーマン大家の裾野が広がっていくにつれ、「自分のお金を使わずに不動産投資ができる」という情報がブログやSNSなどを通じて世間一般にも知れわたっていくことに。著者の分析によれば、これが最近の不動産投資熱の大きな原因のひとつなのだということ。■銀行が全額融資してくれるのが魅力家賃収入がローン返済額に見合っていて、なおかつ不動産の評価が高ければ、銀行は全額融資(フルローン)をしてくれるのだといいます。そしてこれこそが、あらゆる投資のなかで不動産投資だけが持っている最大の魅力。現在それほど自己資金のない人が不動産を購入するためには、不動産の購入資金を全額借り入れることができる、不動産投資ならではのこのメリットを使わない手はないということ。いいかえれば、全額融資可能な物件を見つけさえすれば、自分のお金をまったく使わなくても手に入れることができるわけです。■不動産の管理を自分でする必要ないとはいえ、もしそんな物件を手にすることができたとしても、管理などに手間がかかりそうです。しかし、それも心配ないのだとか。簡単なことで、購入したあとも、管理などは管理会社に外注できるからだというのです。つまり、自分で動く手間をとことん少なくすることができるということです。いってみれば、重要なのは、そういった仕組みを「知っているかどうか」だけ。さらにいえば、そのような物件の見極め方を学ぶ、あるいは、見極められる人を味方につける。たったそれだけでいいということです。もし「株式投資をやりたい」といっても、そのための資金を貸してくれる銀行はありません。FXにしても、証拠金によるレバレッジがあるとはいえ、基本的には同じこと。しかし不動産投資は、株やFXのような高度なセンスが求められる投資とは異なり、端的にいえば「誰にでもできる」投資なのです。つまり、あとは「やるかやらないか」だけ。だからこそ、強いのは「明確な理由のある人たち」だと著者はいいます。そして、「やりたい理由」を持っている人たちは、確実に一歩を踏み出し、成果を上げているということです。*まだまだ実感できないかもしれませんが、「納得するしかない」というほど説得力に満ちた根拠が、本書にはぎっしりと詰まっています。お金に困らない将来をつかむために、読んでおくだけの価値はありそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※長岐隆弘、高市亮(2016)『銀行員が教える 一生困らないお金の増やし方』総合法令出版
2016年05月30日『執事に学ぶ 極上の人脈―世界の大富豪が、あなたの味方になる方法―』(新井直之著、きずな出版)の著者は、執事によるフルオーダーメイドサービスを提供している「日本バトラー&コンシェルジュ株式会社」代表取締役社長。自身も執事として資産50億円以上の顧客をサポートし、さらに企業向けにも富裕層ビジネス、コンサルティング、講演、研修などを行っているのだそうです。本書においては、そんなキャリアのなかで見聞きした大富豪のさまざまなエピソードを交えつつ、人脈づくりの具体的な実践例を紹介しているということ。きょうはそのなかから、「人脈」に関する大富豪の考え方をご紹介したいと思います。■人脈を「トップ20とベスト5」に分類いうまでもなく、人脈とは、まわりの人を分け隔てなく大切にすることから育まれるもの。とはいってもそれは、決して簡単にできることではありません。また、人脈が広がれば広がるほど、おつきあいの量が必然的に増え、管理仕切れなくなるという現実的な問題もあるでしょう。そこで大切なのは、おつきあいの仕方を工夫すること。では、大富豪の方々は、この問題にどう対処しているのでしょうか?著者によれば、大富豪たちは人脈を「トップ20」と「ベスト5」に分けている人が多いのだそうです。といっても、おもてなしに差をつけているということではなく、それは「かける時間の差」。たとえば、トップ20に対しては月に一度程度、電話をかける。電話する時間がないときは、執事が手紙を代筆することもあるとか。一方、ベスト5とは、直接会う時間を設ける。そのようにして、時間のかけ方を工夫しているというのです。■食事にかける時間で大切か否かがわかるちなみに時間のかけ方の違いは、食事のお誘いを見ているとよくわかるそうです。というのも、大富豪は総じて、「誰と何回食事をともにするか」をとても意識しているから。そんななか、夕食を2~3時間かけてゆっくり過ごすような相手は、間違いなくベスト5だということ。なお人数に関しては、絶対に20人と5人でなくてはいけないわけではないと著者は補足しています。つまり30人と8人でもいいのですが、無理のない範囲でおつきあいを続けていくには、このくらいの人数に絞るほうが管理しやすいということです。■「トップ20とベスト5」に対する工夫「トップ20」「ベスト5」の数こそ違うものの、著者自身もこうした考え方にならっておもてなしの仕方を工夫しているのだといいます。具体的には、トップ20に当たる方たちは、いままで実際に問い合わせや商談など、仕事の話をした方々。そういう人たちには月に一度、相手にとって有益そうな情報をメールや手紙でお送りしているというのです。一方、ベスト5にあたるのは、契約のあるお客様と、過去に契約したことがあるお客様。さらには、お世話になっている旅行代理店などの取引先や、自社で働く仲間たちもそれに相当するのだとか。こうした方々には、どんなに忙しかったとしても、月に一度、自分の方から出向いて近況報告をしたり、意見をうかがったり、一緒に食事をしたりと、なにか相手に対して貢献できることを見つけに行くのだそうです。■3か月以上「間隔」を空けてはいけないただし、注意すべき点が1つ。特にトップ20の方たちからは、3か月以上間隔を空けてしまうとリセットされてしまう場合があるということ。事実、著者自身も、せっかく執事のサービスに興味を持ってもらえたにもかかわらず、3か月連絡しなかったために関係が切れてしまったという苦い経験があるのだといいます。これは他業種にもいえることで、たとえば営業マンなども、3か月連絡をとらなかったお客様に会いに行くときは、多少なりとも勇気がいるはず。しかも3か月といえば、人事異動で担当者が変わっていることも考えられる期間。だからこそ、間隔を空けてはいけないのです。そこでトップ20に限らず、今後も関係を持ちたいと思う相手に対しては、相手の負担にならない程度のコンタクトをとり続けることを著者は勧めています。*このように、「対執事」であるといっても、そのメソッドの多くは私たちのフィールドでも十分に応用できるものばかり。読んでみれば、コミュニケーションをより円滑にできるかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※新井直之(2016)『執事に学ぶ 極上の人脈―世界の大富豪が、あなたの味方になる方法―』きずな出版
2016年05月30日『体に毎日たまる毒をちゃんと抜く技術』(矢城明著、サンマーク出版)の著者は、外資系製薬会社で約20年間にわたり、新薬の開発を担当してきたという人物。「生涯で2~3種類の新薬開発に携わるのが常」とされていた当時の業界において、7種類もの新薬開発に携わったというのですから驚きです。現在は、薬学部トップクラスの大学で最年少の客員教授となり、講義を中心に活躍しているのだといいます。■毒を「抜く」という考え方つまり、そうしたキャリアを軸に書かれたのが本書だというわけですが、その主張の軸になっているのは「抜く」という考え方。私たちは毎日の食事を通じ、生きるために必要な栄養を摂取していますが、その過程においては必然的に「老廃物」という毒をためることになります。そこで、まず気をつけるべきは、毒をためないこと。ただし人間は毒を摂取しなくても、みずから体内で毒をつくってしまうもの。だからこそ、体内に毒をためないこと以上に、「たまった毒をいかに“抜く”か」が健康のカギを握っているというわけです。■なぜ水分補給が必要なのか本書で著者が強調していることのひとつが、「水分補給」の重要性です。まず、入浴して汗をかいたら、当然のことながら水分補給は不可欠。しかも人間は、寝ている間にコップ一杯分の汗をかくといわれています。この汗は睡眠中の体温調節のために欠かせないものだそうですが、朝起きたときの喉の乾きの原因になっているのも事実。それだけでなく、汗を大量にかいたあとの寝起きの体は水分が不足しているため、血液やリンパ液の流れが悪くなり、循環しづらい状態になっているというのです。そこで、水分補給が必要になるということとなるとスポーツドリンクを思い浮かべる方もいらっしゃるでしょうが、スポーツドリンクは糖分が多すぎて胃に負担をかけてしまうのでよくないそうです。それに、そもそも、体内の循環を上げるためには、冷たい水で体を冷やさないことが大切。たしかに暑いときには、冷たい水をおいしく感じます。しかし冷たい飲みものは体温を内側から下げ、血管やリンパ管を収縮させてしまうので、循環のスピードが確実に落ちるというのです。■理想的な飲みものは白湯!そこで、もっとも体に負担をかけない飲みものとして著者が推奨しているのが、常温(15~25度)か、できれば暖かい白湯(さゆ)。体温よりも温かい白湯を飲むと、胃腸をはじめとする臓器が温められて活性化することに。循環が高まれば、体も自然と目覚めてくるというわけです。ちなみに著者は、いつも沸騰させたアルカリイオン水をポットに、そして常温のアルカリイオン水をやかんに常備しているそうです。朝起きると、すぐにそれを1対1で割り、200~400ミリリットルほど飲んでいるというのです。ポイントは、温度を体温よりも少し高い40度くらいにしていること。フーフーと冷まさなくても飲める程度の熱さにしているわけです。朝起きたときだけではなく、寝る前にも白湯を飲み、寝ている間に水分が失われても大丈夫なように備えておくことも大切。また、お風呂上りも体の水分が相当失われているため、白湯を飲んで潤すといいのだとか。お風呂上りにはどうしても冷たいものを飲みたくなるものですが、どんな状況であれ、冷たいものは体温を下げ、臓器の機能を低下させてしまうのだといいます。循環機能においては、確実にマイナスなのです。■白湯を飲むべきタイミングつまり、(1)起床後、(2)入浴後、(3)就寝前というように、朝・夜・夜の3回は意識して40度前後の白湯を飲むのが理想的。それで体は活性化するというのですから、ぜひ取り入れてみたいものです。暑いときに冷たいビールやかき氷がおいしく感じられるのは、暑さによって上がった体温を下げようとするあまり、脳が間違ってサインを出しているからなのだとか。本当は冷たいもので内部から体温を下げるよりも、白湯で水分を補給して循環を上げ、汗をかいてゆっくりと体温を下げたほうがいいということです。なぜ、そこまで白湯がいいかといえば、糖分やカフェインなど、他のものが混ざった飲みものよりも、純粋に水分だけの白湯のほうが直接吸収できるから。特に朝は排出の時間なので、糖分などが入ったものを飲んで、消化・吸収にエネルギーをかけることは避けたいところ。そこで就寝前後は、白湯以外のものは飲まないようにするべきだという考え方です。なお、「白湯は苦手」という人でも、飲み慣れてくると次第においしいと感じるようになるといいます。*特筆すべきは、一方的に理屈としての持論を押しつけるのではなく、自身の体験に基づいた記述が徹底されている点です。そのぶん、机上の空論とは違った説得力が生まれているということ。しかもすぐに実践できることばかりなので、きっと役立つはずです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※矢城明(2016)『体に毎日たまる毒をちゃんと抜く技術』サンマーク出版
2016年05月30日『マーケティングで面白いほど売上が伸びる本』(市川晃久著、あさ出版)は、ビジネスセミナーの人気講師である著者が、マーケティングについてわかりやすく解説した入門書。「初めてマーケティングに触れる方でもわかりやすいように解説しています」という言葉どおり、有名企業の成功事例などを交えつつ、マーケティングの基本が紹介されています。注目すべきは、マーケティングに欠かすことのできない「3C分析」「STP分析」「4P戦略」について順番に説明がなされている点。つまり、この流れに従えば、無理なくマーケティングができるわけです。でも、ビギナーにとってはそもそも、「3C分析」「STP分析」「4P戦略」自体が疑問かもしれません。そこできょうは、この3つの基本をさらってみましょう。■3C分析とは複雑かつ多様な環境要因が存在し、常に変化を続けているのが現代社会。そのため、成果を上げるためにはまず「現状を正確に把握すること」が必要とされます。そして、そのための最初の手法として用いられるのが「3C分析」。3Cとは、「市場・顧客」「自社」「競合」のこと。詳しく見てみましょう。・市場・顧客(Customer)特定商品の市場規模や顧客特製のことで、「顧客ニーズ」「市場状況」と同義。・自社(Company)自社の「市場シェア」「技術力」「資金力」など、定性的および定量的の両面によってはかることができる「自社の経営資源」のこと。・競合(Competitor)自社と同じ市場で競争する「他者の経営資源」のこと。つまり3C分析においては、自社と競合を比較することによって、「競合に対して自社が優位なマーケティング活動をどのように実施すべきかを考えるわけです。3C分析なくして、「ターゲットの選定」「商品」「価格」「販路」「販促」を決定することは無謀。ところが現実的に、9割以上の企業はこの段階が不完全なのだとか。そして、マーケティングが失敗する最大の理由は、この現状分析を正しく行っていないことなのだといいます。■STP分析とはSTPの「S」とは「セグメンテーション(Segmentation)」の略であり、つまり「市場を細分化する」こと。「T」は「ターゲティング(Targeting)」の略で、細分化した顧客のなかから、どの顧客を狙う(選ぶ)のかを明確にする、いわば「顧客の選定」。そして「P」は「ポジショニング(Positioning)の略。自社が参入した(しようとしている)市場を細分化し、顧客を絞り込んだうえで自社の立ち位置を決定するということです。ちなみにこれは、3C分析の知識があって、初めて可能になるのだといいます。顧客(ターゲット)を決定せずに営業するのは、現実的に不可能。プレゼントをする際に、「誰」に贈るかに寄って購入するもの、予算、時期が変わるのと同じことだといいます。商品をつくってから、それを必要とする顧客を探すようなマーケティング活動では、収益は安定しないわけです。■4P戦略とはそして最終段階は、「顧客に自社の価値をどのようなマーケティング活動で伝えるか」。そこで重要なのが、4P戦略を活用していくことだといいます。4Pとは「商品(プロダクト)」「価格(プライス)」「流通(プレイス)」「販促(プロモーション)」の4つの略称。この「4つのP」をどのように組み合わせるかによって、顧客の感じる価値は大きく異なるそうです。自社のマーケティング活動は、ターゲットを明確にしたうえで「商品」「価格」「流通」「販促」の4P戦略を活用しつつ、自社の価値を最大化すること、そして顧客の満足度を最大にすることが目的。その組み合わせパターンを複数持っておくことで、そのときの経済環境や、さまざまな顧客ニーズにも対応できるというわけです。当然ながら簡単なことではありませんが、刻々と変化する市場においては、その対応なくしては生き残れないと考えるべきだと著者はいいます。*こうした基本を踏まえつつ、以後もマーケティングについて無理なく学べる一冊。聞きたくてもいまさら聞けないことでもあるだけに、大きく役立ってくれそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※市川晃久(2016)『マーケティングで面白いほど売上が伸びる本』あさ出版
2016年05月24日『大富豪が実践しているお金の哲学』(冨田和成著、クロスメディア・パブリッシング)の著者は証券会社に勤めていた当時、多くの大富豪と交流があったのだそうです。顧客である彼らの相談にのったりしながら、親密なコミュニケーションをはかっていたということ。つまり本書ではそんな経験を軸に、大富豪の実態をつまびらかにすることによって、大富豪ならではの習慣や心構え、その根底に流れる「お金に対する哲学」を明らかにしているというわけです。ちなみに本書でいう「大富豪」とは、純金融資産で1億円以上を保有する人のこと。これは日本の人口の約2%だといいます。また、年収数千万円はあるものの純金融資産が1億円未満の人を「小金持ち」、それ以外を「一般人」としているそうです。■節約するときの考え方の「差」節約するとき、毎日の食費を削るのが一般人で、入った分だけ使い切るのが小金持ち。そして、大きな支出だけを抑えるのが大富豪なのだと著者は主張しています。大富豪を目指すのなら、倹約の精神はたしかに必要。ただし、倹約だけで大富豪になる人はあくまでもレアケースだというのです。なぜなら大半の大富豪は「消費より倹約」の精神を持ちつつ、「消費より投資」というマインドをさらに強く持っているものだから。そこには理由があって、つまり過度な倹約は、将来的にリターンが期待できる支出まで控えてしまう恐れがあるということ。40代、50代になってから倹約するなら仕方がないとしても、若い世代は投資の回収期間が長いだけに、細々とお金を貯めるのは効率が悪いもの。つまり、大半の大富豪はお金を使うこと自体には積極的で、「それをいかに効果的に使えるか」を重視するというのです。■大きな支出をコントロールするだとすれば、支出を抑えるための極意のようなものはあるのでしょうか?著者によれば、それはただひとつ。大きな支出をコントロールすること。血眼になって、1円単位でお金を貯めたとしても、効果はきわめて限定的。たとえば「今月はお金がピンチだから」という理由で、いつもは500円かけているランチを200円にしたところで、月に6,000円(300円×20日)しか浮かないわけです。でも、その程度の節約をするため、安くて添加物満載のランチで健康を切り売りしながらお金を貯めるというのは本当に得策でしょうか?だとしたらバランスのとれたランチを食べ、心身ともに健康体を維持し、仕事の集中力を高めて早く収入を上げたほうが、長い期間で考えれば利回りがよいと著者はいうのです。体調を崩せば収入が途絶えますし、医療費もかかるわけですから当然といえば当然。しかも、細々とした節約をする人に限って、平気で飲み会に参加し、タクシー代を含めて1~2万円使ってしまうこともあるもの。でも、「コントロールすべきはそこだろう」と著者はいいたいのだそうです。■家計簿で交際費の多さに気づくそんな著者は20代の前半に、家計簿をつけていた時期があるのだとか。目的は、自分の生活パターンを可視化することで、どこに大きな支出があるのかを確認するため。その結果、出費の大部分は自分の目標にとって必要ではない交際費に使われることがわかったのだそうです。もちろん、なかには大切な飲み会もあるでしょうが、そうやってフィルターをかけていくと、参加しなくてもいい飲み会が意外と多いことに気づくのだといいます。そこで考え方を改め、無駄な宴席には出席しないと決めて、そのぶんのお金で本を買ったりスーツを買ったり、自分の仕事日雨ながる分野に投資していくことに。すると、その成果はすぐ収入面に出て、振り返ればその判断は自分の成長にとっての大きなターニングポイントになったのだそうです。■大局的な視点を持つことが大事そんな著者は、節約を考える時に重要なのは「木を見て森を見ず」の状態にならないように大局的な視点を持つことだといいます。もちろん、1円を粗末に扱わないことも大切。しかし、そこだけに注力するくらいなら、もっと効果的な節約手段を考えるか、もっとお金を稼ぐ方法を考えるほうが合理的だということ。*こうした主張からもわかるとおり、著者が明らかにする大富豪の考え方は、「大富豪」という言葉が持つ一般的なイメージとはだいぶ異なります。しかし、だからこそそこにリアリティと説得力があるのもまた事実。「大富豪だからものすごい浪費をする」という決めつけこそが間違っていて、基本的には堅実であることが重要だということです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※冨田和成(2016)『大富豪が実践しているお金の哲学』クロスメディア・パブリッシング
2016年05月23日20年間にわたってIBMに在籍していたという著者による『ひきずらない技術』(深谷純子著、あさ出版)は、IBMでの経験から得たものを「ひきずらない」ための技術としてわかりやすくまとめた内容。というのも同社には、やりたい仕事があると、自分から「やります」と手をあげることができる社風があるというのです。いってみれば、社員の意思が尊重される社風だということ。そんな環境下において著者は、「ひきずりやすい人」と「ひきずりにくい人」には共通点があるということに気づいたそうです。だからこそ、彼らの特徴を研究すれば、「高いパフォーマンスを発揮できるノウハウ」を見つけられるというわけ。「ひきずらない技術」を身につけることによって、「ストレスフルな現場で、いかに適応しながら結果を出していくか」を学ぶことができるということです。著者によれば、引きずってしまういちばんの原因は、「ストレス対応力」の弱さ。つまり裏を返せば、ストレス対応力を鍛えることが、ひきずらないためのいちばんの方法だということ。なお、ストレス対応力を鍛えるためには次の4つのステップで進めていくのだといいますが、どの段階でストレスが解消できるかはその人の感じ方によって違うとか。■ステップ1:ネガティブ感情を受け入れるネガティブ感情を放置すると、心理的に落ち込むだけではなく、食欲低下や不眠などの身体的不調、生産性の低下やミスなどの行動面にも影響が出るもの。それが、ますますストレスを増幅させる原因となるわけです。大切な基本は、心のなかで絡み合うモヤモヤをじっくりと紐解いて受け止めること。喜怒哀楽があるのが人間で、ネガティブ感情がまったくない人はいないので、否定せずに受け止めることが大切だというわけです。ネガティブ感情がわかったら、・腹式呼吸(おなかからゆっくり吸って、ゆっくり吐く。吐くときにネガティブ感情を外に出すイメージで)・エクササイズ(ジョギング、水泳などの有酸素運動を行うことで、心身の安定をはかるセロトニンが分泌される)・集中してできる作業や趣味(作業に没頭することでイヤなことを忘れる。料理や楽器の演奏、カラオケなど)などを試してみると効果的だそうです。■ステップ2:思い込みを見なおす感情の多くは、「思い込み」から生まれるといいます。たとえば過去に失敗を経験した人は、同じような状況に遭遇すると、「今回も無理だ」「自分にはできない」をいうネガティブ感情を持ってしまい、行動をためらうということ。思い込みは過去の経験がつくりだしたものなので、とても大切。しかし、頑固な思い込みはストレスの原因にもなるため、本当に正しいか、間違っていないかを見なおす柔軟さが必要だということです。思い込みの扱い方で重要なのは、ネガティブ感情を感じたら、自分に問いなおしてみること。思い込みとは、一事が万事そうだと決めつけてしまう心の動き。「きょうはちょっと都合が悪い」といわれただけで全否定されたようにとらえてしまい、「いつも断られる」などと思い込んでしまったりするわけです。だからこそ環境や人のせいにせず、当たり前と思っていたことを疑ってみると、突破口が見つかるかもしれないということです。■ステップ3:肯定的な意味づけをするこれは、ネガティブ感情をいったん横に置き、問題に視点を変えてみるということ。自分にとってプラスになることはないか、肯定的にその状況をとらえてみる。感情を切り離し、ストレスの原因となった状況を冷静に見るために、傍観者となってみる。いってみれば、他人事だと思って自分にアドバイスをするということです。ポイントは、どんなことにも肯定的な見方が必ずあると信じること。■ステップ4:脳によいレッテルを貼っていくここまでやってきて、まだストレスを感じている場合は、自分からストレスのある状況を変えるために行動することが必要。その際に重要なのは、どんな小さなことでも行動に移すこと。しかもその際、脳が喜ぶ感情のレッテルを貼ると効果的なのだとか。なぜなら、人の感情はパフォーマンスに大きく影響するから。私たちは情報を目や耳からインプットし、それを脳で「受け取り」→「感じ」→「理解し」→「考えて」→「記憶」するもの。このとき脳が好きな情報だと一連のサイクルが活発になり、嫌いな情報だと鈍くなるのだそうです。つまり、好きか嫌いかと言う感情によって脳のパフォーマンスは左右されるということ。だからこそ、脳によいレッテルを貼っていくことが意味を持つわけです。*本書では他にも、「ひきずり」状態から抜け出すためのさまざまな方法が紹介されています。活用すれば、「ついひきずる」回数を減らすことができるかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※深谷純子(2016)『ひきずらない技術』あさ出版
2016年05月23日『ハリウッド式ワークアウト 腹が凹む! 神の7秒間メソッド』(北島達也著、ワニブックス)は、画期的な身体のつくり方を明かした書籍です。ポイントは、最短距離で一番楽に理想の体型になれるワークアウト(トレーニング)である「神の7秒間理論」。その方法を用いれば、最小の運動で最大の効果が得られるというのです。■なぜ7秒間で理想の体型になれるのか?でも、わずか7秒間のワークアウトで本当に身体づくりができるのでしょうか?そもそも、なぜ7秒間なのでしょうか?著者によれば、7秒間というのは、筋肉が最大筋力を出せる限界の時間なのだそうです。ポイントは、ウエイトで筋肉に負荷をかけ、筋肉が働く限界の7秒間をつくり出すこと。すると身体が劇的な変化を起こし、筋肥大とともに体脂肪を減らしていくことができるというのです。ちなみにこれは著者独自の理論ではなく、正しいワークアウトを行ううえで必要不可欠な、ワールドスタンダードな理論なのだとか。7秒間に集中して正しい方法でワークアウトすると、脳が「いま以上の筋力が必要だ」と判断し、運動のエネルギーに成る体脂肪の分解の指令を体に出すというのです。つまり、そこで初めて、出っぱったおなかが凹みはじめ、バランスのとれた体がつくられはじめるということ。“神の7秒間”について、もう少し探ってみることにしましょう。■最大筋力を使わないトレーニングは無駄神の7秒間は、ひとつの筋肉がもっとも強い力、すなわち「最大筋力」を出すことのできる限界の時間。「身体を鍛える」という表現から多くの人がイメージするのは、ジムで60分間、全身の筋肉をまんべんなく鍛えるようなトレーニングではないでしょうか。著者もそれ自体を否定してはいないのですが、ただし、これから理想の身体を手に入れたい人には向いていないと指摘してもいます。なぜならそれは、上級者のアスリートのためのメソッドだから。少なくとも、「この腹を凹ませたい」「もっとかっこいい身体を手に入れたい」と思うのであれば、長時間のウェイトトレーニングを行うことは、遠回りの道を歩いているようなものだというのです。最大筋力を使わない60分間のトレーニングをダラダラとやっても、筋肉の形が劇的に変わることは少ないということ。■見た目が変化して「体脂肪も減少」する「身体の見た目」を変化させるためには、筋肉を鍛えるしかないのだといいます。もちろん、体脂肪がついてたるんだ体になっているのであれば、体脂肪も減らす必要があるでしょう。しかし「神の7秒間」をつくり出せば、その両方が可能になるというのです。神の7秒間で大切なのは、トレーニングを繰り返すことによって筋肉側で変化するのを期待することではないそうです。そうではなく、脳に「筋肉を大きくさせる」スイッチを入れることが重要な意味を持つということ。■最大筋力を出せる7秒間のワークアウトワークアウトの1セット目は、動きを捉えるために軽く。2セット目で、重さを十分に感じる。そして3セット目に本気を出して、ドカンと力を出す。この3セット目が、スイッチを入れる刺激。そこで、最大筋力を出せる7秒間をつくるポイント。限界値を超える力が必要になったとき、脳は「いま以上に力が必要だ」「筋肉を大きくしなければいけない」と指令を出すことに。そこで初めて、筋肉のなかで筋繊維を太く大きくする化学反応が起こりはじめるのだそうです。■どこで7秒間の最大筋力を発揮するのか100メートル走の予選などで、アスリートたちが全力を出していないような走りをすることがあります。スタートでポンと飛び出して、ゴール前の何メートルかは流しているということ。著者によればそれは、彼らがきちんと身体の仕組みを理解しているから。通過タイムだけを稼げる走りをしているというのです。なぜなら、最大筋力は48~78時間に1回しか出せないから。本レースは予選の48〜78時間以内に行われるので、予選で最大筋力を出してしまうと、本番のレースで最大の力を出せなくなってしまうわけです。この例と、おなかを凹ませるということは、筋肉の成長や痩せるため、動くためのエネルギー代謝の仕組みと大きく関わっているのだといいます。100メートル走の時間は、およそ9~10秒間。そのなかのどこで、7秒間の最大筋力を発揮するかが勝敗を左右するということです。彼らが練習で体感し、科学的にも考えた走りが示すとおり、ワークアウトにおいても、最大筋力を計画的に出すことが腹を凹ませるということです。*たしかに効率的なワークアウトが実現できれば、効率的におなかをへこませることができるかもしれません。興味のある方は、ぜひ手にとってみてください。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※北島達也(2016)『ハリウッド式ワークアウト 腹が凹む! 神の7秒間メソッド』ワニブックス
2016年05月21日きょうご紹介したいのは、『赤ワインは冷やして飲みなさい』(友田晶子著、青春出版社)。ソムリエ、ワインコーディネーター、日本酒きき酒師、焼酎きき酒師、トータル飲料コンサルタントとして多方面で活躍する著者が、最高の1杯に出会うための飲み方・選び方の「新常識」をまとめた書籍です。しかし、そもそも「新常識」とはなんなのでしょうか?なぜ、「新常識」が必要なのでしょうか?つまり、こういうことです。いまはスーパーやコンビニでも気軽に「おいしくて安い」ワインを買うことができ、日本全国の個性的な地酒も手に入れることが可能。またクラフトビールも、これまでになかった味のバリエーションを身につけています。そんなことからもわかるとおり、現代はプロの目から見ても「お酒が楽しい時代」だということ。でも、それだけ幅が広がったということは、時代に見合った「新しいルール」も必要になってきます。そこで本書では、長らく受け継がれてきた常識に敬意を払いつつも、時代の変化とともに続々と生まれている「お酒の新常識」を紹介しているわけです。きょうはそのなかから、気になっていた人も少なくないであろう、あるお酒についてのエピソードをご紹介したいと思います。■ロマネ・コンティは高級だけどまずい?「ロマネ・コンティ」といえば、世界最高峰の赤ワインとして有名。そのヴィンテージや古酒の価格は、1本数百万円になることもあります。ところが、そんなにおいしいのかと聞かれた場合、答えはかなり難しいのだと著者は記しています。それどころか、自身の経験を拠りどころにするなら、「おいしくないかも……」が本音なのだとか。高級赤ワインといえば、色が濃く、香りが強く、果実味が豊富で酸味も豊か。渋みが十分にあり、とにかく濃厚なイメージではないでしょうか。でもロマネ・コンティは、色が非常に淡く、フルーティというより土のような香りで、どことなく臭い感じも。なにより濃厚さに欠け、味も淡くてパンチがないように感じるのだそうです。いってみれば、「高級な赤ワイン」のセオリーからは外れた味だということ。■ロマネ・コンティは理解するのが難しいしかしロマネ・コンティの魅力は、その淡さにこそあるというのです。ただ淡いだけではなく、香りも味も奥深い。そして、最初のインパクトこそやさしいけれど、最後に残る深く官能的な余韻こそが魅力だということ。その特徴は、ある程度ワインを飲み続けた人にしかわからないのだといいます。とはいえ、高級ワインを飲み続けられる人はほんのひと握り。だからこそ、「特徴を理解するのが難しいワイン」ということになってしまうというわけです。この話からもわかるとおり、そのお酒本来のおいしさを最大限に味わうには、一定の段階を踏んでいなくてはいけないのだと著者はいいます。ある種の“おいしく飲む順番”というものがあるということ。■ソムリエが教える「おいしく飲む順番」まだお酒を飲みなれていない人の多くは、飲みやすいフルーティなタイプ、いわば個性がさほど強くないタイプを好むはず。これが第一段階です。しかしその後、次第にそれでは物足りなくなってきて、濃い味わいのもの、つまりそのお酒の個性が強く打ち出たタイプに進んでいく。これが第二段階。その時々の段階で、「なるほど、これはおいしい」と感じながら、徐々にそのお酒が持つ本来の魅力と意味がわかるようになっていくというのです。しかし、お酒が本当に好きで魅力を知り尽くしている人は、「味の濃いお酒」まで進んだら、その次のステージとして「淡いお酒」へと舞い戻るのだそうです。いってみればこれこそ、ロマネ・コンティの味の意味がわかるようになるのと同じ理屈。インパクトのある味や濃い味の魅力を知り尽くしたのちに、最後はふたたび淡い味わいのお酒に戻り、その淡さの奥にある豊かな底力を楽しむようになる。そういった、奥深い楽しみ方ができるようになるということ。淡くて深い味わいでありながら、飽きずにずっと飲み続けられる、そのお酒ならではの底力を感じられるものこそ、“ツウの到達点”になるというわけです。*どちらかといえばこれは“常識”の範疇に収まる話ですが、他にも目からウロコの“新常識”満載。お気に入りのお酒を飲みながら読んでみれば、心地よい週末が過ごせるかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※友田晶子(2016)『赤ワインは冷やして飲みなさい』青春出版社
2016年05月20日『人間は、人を助けるようにできている』(服部匡志著、あさ出版)の著者は、開業することなく、どこの大学や病院にも属してもいないというフリーの眼科医。14年にわたり、ベトナムで無償の医療活動を続けているのだといいます。その取り組みは、テレビ東京系列のドキュメンタリー番組『カンブリア宮殿』でも取り上げられたばかりなので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。「フリーの眼科医」というポジションを貫き続ける人がいること自体が驚きですが、1ヶ月の半分は、北は盛岡から南は鹿児島まで、約10ヶ所の病院を渡り歩き、診察と手術を行っているのだとか。そして残りの半分は、ベトナムの首都ハノイと地方に足を運び、貧しい人たちのために働いているというのです。自宅で丸一日過ごせるのは年に1日か2日だけだという話にも、十分納得できます。■お金はすべて「持ち出し」そういう話を聞くと、つい頭をよぎるのは「どうやって生活しているの?」という純粋な疑問ですが、その答えは意外なくらいにシンプルでストレート。つまりは日本全国の病院で働いて得た収入で、家族の生活はもちろんのこと、ベトナムでの活動費用もすべてまかなっているということ。しかもベトナムでは、患者さんからは一切の金銭を受け取らず、渡航費、滞在費、医療品代などもすべて持ち出しなのだとか。■医者は特別な存在じゃない「白衣が患者さんに与える威圧感が好きじゃないから、もう何年も白衣を着ていない」「権力、金銭欲、嫉妬、憎しみ、裏切りが渦巻く環境で、そんなふうに染まるのが嫌だった」「変なプライドなんか必要ない。困っている人がいたら助けてあげたい」「目指すは“医者らしくない医者”。医者は特別な存在じゃない」著者の言葉はそれぞれが真っ当なもので、だからこそ強い説得力があります。とはいえ、ここまで献身的になれるということにはただ驚くばかり。近年は「人のためになる」ことの価値が再確認されていますが、そうはいっても簡単にできることではないはずです。■父親を侮辱した医師の言葉著者が医師になる決意をしたのは16歳のころ。がんのためみるみる衰弱していく父親についての、医師と看護師との会話を偶然耳にしてしまったことがきっかけだったのだといいます。「82号室のあのクランケ(患者)は文句ばかりいって本当にうるさいやつだ。そうせもうすぐ死ぬのに」病気を治して命を助ける存在だと思っていた医師が、死と戦っている父親を侮辱した……。その怒りが、「こんな医者が世の中にはびこっていては、世の中は良くならない。だったら僕がいい医者になってやる。そして病気で苦しんでいる人を救いたい」という思いにつながったということ。そして結果的には、1万人以上のベトナム人を、無報酬で失明から救ってきたというわけです。父親の遺書には「お母ちゃんを大切にしろ。人に負けるな。努力しろ。人のために生きろ」と書かれていたそうですが、その約束を守ったことになります。■大切なのはいまこの瞬間!そんな著者が尊敬しているのは、マザー・テレサ。少しでも彼女に近づきたいと思ってきたそうですが、それでもまだ半人前だと、ストイックに自身を評価しています。しかしそれでも、暗く沈んだ顔をした患者さんや、その家族の人たちに笑顔が戻る瞬間に立ち会えることが、最高の幸せなのだといいます。患者さんたちのこれからの人生に関わっていくことはできないけれど、ただ、この瞬間のために活動しているのかもしれないとも。大切なのは、いま、この瞬間。ひとりひとりが、それぞれの場所で、「いまできること」を精一杯やること。著者だけではなく、どんな環境で、どんな立場にいようとも、すべての人にとってそんな姿勢が大切だという考え方です。*これらのエピソードからもわかるとおり、著者はとても純粋な人柄。お世辞にも器用なタイプとはいえないかもしれませんが、だからこそ、多くの人が忘れかけていたことを再確認させてもくれます。人間関係に疲れた人、人生に迷っている人、挫折した人などに、強い力を与えてくれる一冊だといえます。ぜひ読んでみてください。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※服部匡志(2015)『人間は、人を助けるようにできている』あさ出版
2016年05月19日タイトルからわかるとおり、『やるべきことがみるみる片づく 東大ドクター流やる気と集中力を引き出す技術』(森田敏宏著、クロスメディア・パブリッシング)の著者は、地方の新設校から初めて最難関の東京大学理科三類に合格したという実績の持ち主。そればかりか、心臓病の専門医として、東大病院の心臓カテーテル手術件数を10年間で50例から600例まで、10倍以上に増やしたのだそうです。また、次世代リハビリとして加圧トレーニングを東大病院に導入し、いまやすっかりおなじみの加圧ブームを起こした仕掛け人でもあります。つまり本書では、そんなキャリアを生み出すに至った「集中力」の活かし方が紹介されているわけです。きょうはそのなかから、「仕事と向き合う」3つの視点に焦点を当ててみましょう。■仕事で重要な3つのポイント人によって差があるとはいえ、仕事に費やす時間は、1日24時間のうち最低でも8時間。つまり私たちは、人生の3分の1以上は働いていることになるわけです。それだけ多くの時間を費やす仕事と真剣に向き合うということは、当然ながらとても大切。そして著者によれば、仕事について考える際、「自分にとってなにが重要なのか」を考えるには、次の3つのポイントが大きな意味を持つのだそうです。・お金・キャリア・好きなこと(1)お金・・・いくら稼ぎたいのか?世の中の働く人を見てみると、「特にやりたい仕事ではないけれど、お金を稼ぐために働いている」というケースが大半でしょう。それどころか、会社に勤めることもなく、株式の売買など、投資だけでお金を稼いで生活している人もいます。さて、みなさんが働いているのは、お金を稼ぐためでしょうか?また、「年収1000万円稼ぎたい」など、具体的な目標はあるでしょうか?(2)キャリア・・・どんな人になりたいのか?知識や経験を積み重ね、地位を確立することによって、収入はアップしていくもの。つまり、それがキャリアです。では、働くことで社会的に立派な地位を確立することが、みなさんにとっては大切なことでしょうか?「起業して経営者になりたい」など、具体的に目指したい姿はあるでしょうか?(3)好きなこと・・・なによりも大切にしたいことは?これは、収入や地位に関係なく、心底好きで打ち込めること。たとえば動物が好きな人が大学を卒業し、収入のいい企業を蹴ってまで動物園に就職して働いているというようなケースもそのひとつ。このように、なによりも優先したい、本当に好きなことがあるでしょうか?■3つの視点で考えることが大切!こうした3つの視点で考えると、自分にとって本当に重要なことが見えてくると著者はいいます。たとえば著者が、東大病院で毎日のように心臓カテーテル手術を行い、患者の治療をしてきたのは、小学生のころに病気で母親を亡くしたから。そんな経験から、「医者になって多くの人の命を救いたい」と思ったことがきっかけだったのだそうです。ところがあるとき、治療を施した患者さんがみんな元気で長生きしているわけではないことを実感したのだとか。そもそも心臓カテーテル手術を受ける人は、健康状態がよくないもの。そこで心臓を治療するよりも、もっと前段階で、「心臓の病気にならないような健康で幸せに生きられる人を増やしたい」と思い、加圧トレーニングを取り入れた健康法を広めようと考えたというのです。■10年後20年後をイメージするこのように、一度じっくり自分と見つめ合う機会をつくると、そこから見えてくることがあるというわけです。いまの仕事をずっと続けた場合、続けなかった場合、10年後、20年後、定年を迎えたとき、果たしてどうなっているかをイメージしてみることが大切だということ。著者は社会人の方から、「東大を再受験したい」という相談をよく受けるのだそうです。しかし、これもよく考える必要があると主張しています。理由は明白で、18歳で東大を受験するのと、30歳で受験するのとでは意味合いがまったく違うから。さらにいえば、40歳、50歳、60歳と年齢が変わるだけで、受験する意味合いもそれぞれ変わってくるわけです。だからこそ、「それを行うことに本当にメリットがあるのか」としっかり考える必要があるということ。ひとりひとりの目の前には、多くの選択肢があるもの。しかし、そのなかから選べるものは限られているわけです。そこで、その道を選んだとき、明るい未来をイメージできるかが重要な意味を持つことになるのです。*ここからも推測できるように、「やる気」と「集中力」を基本テーマとしながらも、視野は大きく広がっています。そのぶん、地に足のついた説得力を感じることができるのです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※森田敏宏(2016)『やるべきことがみるみる片づく 東大ドクター流やる気と集中力を引き出す技術』クロスメディア・パブリッシング
2016年05月18日『もうこれで英語に挫折しない――マッキンゼーで14年間活躍できた私は英語をどう身につけたか』(赤羽雄二著、祥伝社)は、『ゼロ秒思考』など、マッキンゼーで培ってきたキャリアを軸に多くの書籍を生み出してきた著者の新刊。タイトルからもわかるとおり、今回は「英語学習法」をテーマにしています。いうまでもなく英語学習の最大の問題点は、長く続けることの難しさ。しかし著者は本書において、「英語の勉強は、細く長く続けられなくて当然」だといい切っています。■3ヶ月だけ区切って英語の勉強をほとんどの日本人は、中学高校の6年間にわたって英語の勉強をしてきたはず。にもかかわらず、普通はそれだけでは使いものにならないというのが現実です。なぜなら、英語ができなくても、さしあたりなにも困らないから。日本語だけで完結してしまえるし、ほとんどの場合はキャリアアップにもあまり関係してこないでしょう。つまりそんな状況下で、英語の勉強を細く長く続けようとしてもうまくいかないのは当然だということです。そこで著者が提案しているのは、もっと短期、たとえば3ヶ月だけ区切って英語を勉強すること。長く続けようと思うとつらくなるけれど、3ヶ月ならなんとか集中力も続くだろうという考え方です。そもそもビジネスパーソンは、普段から仕事や生活に追われているもの。やるべきことが常にたまっているわけですから、そんななかで英語の勉強をしようということは、それ自体に無理があるわけです。■時間を決めれば学習効率が高まる「いつまでになにをやるべきか」がよくわかっていなければ、集中してやり遂げることもできるはずがありません。でも、ずっと続けるのではなく、3ヶ月集中したら、1ヶ月休むようにする。そうすれば、日々の仕事、生活のなかに英語学習を組み込むことができるという発想。1ヶ月の休みの間にたまったことを整理すれば、気分的にもすっきりするはず。それに時間を決めれば、「英語の勉強をしなくては」と常に思い続け、しかし実際はできずに後悔するというようなことがなくなっていくといいます。3ヶ月は集中するけれど、その後1ヶ月は休憩し、余裕を持つというほうが、精神衛生上もいいわけです。また、集中もしやすくなるそうです。■仕事のプロジェクトと同じペース「たった3ヶ月だけ勉強したってダメだろう」と思われるかもしれませんが、3ヶ月集中し、本気で英語の勉強をすると、かなりレベルアップするのだと著者はいいます。それに仕事の現場で3ヶ月のプロジェクトはよくあるもの。ビジネスパーソンにとっては慣れたペースでもあるはずなので、プロジェクトの一環としてとらえれば、「そのくらいならできるだろう」という気持ちになりやすく、普段の習慣でやり続けられるわけです。なお、3ヶ月の間にやるべきこととしては、次のようなことが挙げられるといいます。(1)動画を視聴する3ヶ月間、毎晩1時間ずつ、英語の動画を真剣に見る。YouTubeでもCNNニュースでもドラマでも、自分が好きな分野、関心の強い分野に関して見るわけです。好きな分野だと好奇心が湧くので、楽しく知識が増え、言葉にも馴染みが生まれ、人の名前も耳で聞き分けられるようになるので続きやすいといいます。(2)英語記事を見る、タイトルをA4メモに書く好きな分野、関心の強い分野でのキーワードで検索し、出てくる英語記事を100回くらい眺めてみるといいそうです。さらにそれらのキーワードをGoogleアラートに登録し、毎朝流れてくる記事を眺める。それが習慣になると、なんとなく記事の内容がわかってくるので、タイトルや見出しなどをA4用紙に書き留めておきましょう。(3)動画を見ながらシャドーイング好きな分野、関心の強い分野の記事、動画ばかりを読んだり見たりしていると、だんだんリズムが頭に入ってくるもの。少しずつ、言葉が聞き取れるようになってくるわけです。その段階で、次にはじめるべきはシャドーイング。シャドーイングとは、英語を聞きながら、同時に小声で同じ言葉をいってみること。日本語にくらべて英語のシャドーイングは難しくなりますが、一般的に演説やインタビュー番組はわかりやすく、ゆっくり発音しているものが多いのだとか。それを何度も聞き返しながら、耳と口とを鳴らしていくわけです。■1ヶ月休むとまた勉強したくなる3ヶ月集中して勉強したら、1ヶ月あえて休むことに。気分も明るくなり余裕もできるので、気分よく、いろんなことに取り組めるといいます。しかし1ヶ月休むと、英語を勉強したくなる気持ちがまた湧いてくるので、そうなればしめたもの。1ヶ月の最後の週には、次の3ヶ月12週間、なにを目標にしてどういうステップで勉強するかをA41ページにまとめておくとよいそうです。そうすれば、次の3ヶ月集中して勉強する意欲が強く湧いてくるということ。*たしかにこういうやり方なら、続けるのが難しい英語学習も続けていけそうです。本書ではさらに具体的な勉強法が紹介されているので、きっとチャレンジしやすいはず。英語を身につけたい方は、ぜひ読んでみてください。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※赤羽雄二(2016)『もうこれで英語に挫折しない――マッキンゼーで14年間活躍できた私は英語をどう身につけたか』祥伝社
2016年05月18日『「世界」で働く。 アフリカで起業し、50社を経営する僕が大切にしていること』(金城拓真著、日本実業出版社)の著者は、タンザニア・ザンビア・マダガスカル・ベナン・ニジェール・ブルキナファソ・コートジボワール・カメルーン・トーゴと、アフリカ9ヶ国で50社以上の会社を経営しているという起業家。金取引、農場経営、不動産、タクシー、運送業、金鉱山運営、ホテル、中国製品の卸売、土地開発など業種もさまざまだといいますが、「アフリカでビジネスをする際に、一番気をつけなければならないのは、相手の裏切りです」(20ページより)という言葉からも想像できるとおり、そのビジネスは一筋縄ではいかないもののようです。しかも「裏切り」に気をつけなければならないのだとしたら、お金のトラブルも少なくなさそう。そこできょうは同書のなかから、お金についての考え方を引き出してみたいと思います。■日本人はお金に盲目的になりがち日本人のいちばんの欠点は、お金を絶対視していることだと著者はいいます。もちろんお金は重要ですし、なければご飯も食べられないことになります。しかし多くの方は、お金に対して信仰に近い念を抱いているというのです。そして多くの場合、盲目的になりがちでもあるといいます。ところが著者は、「すべての物事は俯瞰的に、客観的に捉えなければいけない」と考えているのだそうです。■海外では「お金で解決できない」また、「お金でなんでも解決できる世界は日本のなかだけ」と思っておいたほうがいいともいいます。外国に出て、お金で物事を解決しようとすると、「私からどんどんボッタくってください」と喧伝しているようなものだというのです。しかしそうなると、よからぬ輩がその人のもとに現れるのは時間の問題だということ。それは、日本人が海外でトラブルにあう原因のひとつではないかとも著者は考えているのだそうです。にもかかわらず、多くの日本人はお金で物事を解決しようとするもの。もし取引において不安な部分があれば「専門家に委託しよう」「この規模の会社なら委託しても間違いないはずだ」「これだけの金額を積んだのだから、大丈夫なはずだ」というように考える企業が多いというのです。しかし当然ながらそれは、著者の目から見ると「詐欺をしてください」といっているようなもの。もちろん、業務を委託すること自体が悪いことだというわけではないでしょう。ただし、相手が誰でもいいというわけではないということ。取引相手を自分の目で見て、自分の感覚に従って取引を決めたり、業務を依頼したりすべきだというわけです。気になってしまいがちな会社の規模や金額は、そのあとに見ればいいという考え方なのです。■お金を出してしまったらおしまい「騙し」や「裏切り」と表裏一体の環境に身を置いているだけに、自分と取引をしている人を見ずに、取引をしている人の外側で判断するなんて理解できないと著者はいいます。ビジネスはある意味においてマネーゲームであり、お金で解決しなければならないことも多くあります。しかし、それと同じくらいの割合で、「お金を出してしまったら間違うビジネス(相手にたかられるような結末を迎えてしまうビジネス)もある」というのです。実際のところ、著者が尊敬しているビジネスパーソンも、お金に関してこのようにシビアな感覚を持っている人ばかりだといいます。そして、実際に大成功されている方も多いのだとか。また、いま成功していなかったとしても、将来的に大成功するのはこのようなタイプだとも感じているそうです。そして著者は、こうもいうのです。この先、日本人が世界で戦っていくためには、こうしたお金の感覚を養うのも大切なことかもしれないと。*たしかに、著者のビジネスフィールドであるアフリカの現状を、そのままのかたちで日本に置き換えるのは現実的ではないかもしれません。著者の目に映っているアフリカのビジネスシーンと日本のそれとの間には、大きな隔たりがあるのも事実だからです。しかし、それはあくまで「現時点においては」の話にすぎません。世界が加速度的にグローバル化している状況下においては、予想よりも早く、彼らの価値観を共有しなければならないときが訪れる可能性もあります。つまり未来に焦点を当てた場合、本書はぜひとも読んでおくべき一冊であるといえるのです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※金城拓真(2016)『「世界」で働く。 アフリカで起業し、50社を経営する僕が大切にしていること』日本実業出版社
2016年05月16日『あの世へ逝く力』(小林玖仁男著、幻冬舎)は、著者のショッキングな告白からスタートします。「間質性肺炎」という進行性の難病により、早ければ2年半ほどで死に至ると宣告を受けたというのです。つまり本書は、死の宣告以来書きつづっていた、自分の心の対話や葛藤、本音を洗いざらいまとめ、あとに続く人たちのために遺したもの。いわば、“死の前に整えたい気持ちの準備書”だといいます。■「死んだ気になって」の真実とは人はよく、「死んだ気になって」という表現を使ったり、思ったりするもの。しかし死ぬ身になってから、この「死んだ気」の意味が変わったと著者。健康な人の「死んだ気になって」は、ガムシャラ、貪欲、足し算、かけ算、プラス発想。もし絶望の淵にいたとしても、死にたいと思っていたとしても、死ぬ気になったらなんでもできるという、みなぎるパワー全開のイメージだというのです。事実、著者もこのようなプラス軸を駆け抜けてきて、つい最近まで「死んだ気」とはそういうものだと思っていたのだといいます。ところが死ぬ人の「死んだ気になって」の真実とは、冷静沈着、引き算、マイナス発想、ロスをしない、確実性を求める総決算発想。“なにとなにを”“なにからはじめて”確実に仕上げるかということなのだというのです。いままでは、なんでも無限にできるような気でいたからこそ、気持ちだけ先で、後回しになることも多かったのだとか。しかし人生の集大成には(せめて熟年になったら)、死ぬ前の「死んだ気になって」の発想で、確実にやり遂げることも大切だと考えるようになったそうです。そういう気持ちで、未来の残された時間を計算しながら仕上げていくと、ミスやロスや無駄がなくなることに。つまり効率がよくなるわけで、いままでにない新しい発見や、具現性のある答えも出るといいます。■死ぬ前に夢や計画の多くを断捨離そして著者は、「死ぬ前のこの境地は“買い”」だと主張しています。死ぬ人がいうのだから間違いないとも。死の宣告を受けたことで、心の水面に大きな石を投げ込まれ、波紋が広がって一気に気持ちが沈んだといいます。そして以後の11日間を、人生でいちばん長く感じたそうです(この11日間のことも、本書では詳細につづられています)。でも、その期間を過ぎると、気持ちがだんだん沈静化していったのだというのです。潜在意識のなかから、死の覚悟をつくる最適解を選択し、確実に心の波紋を沈めたということ。それは人生の価値観が一気に変わったということでもあり、その変化には驚いたそうです。具体的には、いろいろな夢や計画の多くは断捨離をし、そうしたうえで考えたのは、「自分はなにとなにをやらなければならないのか?」「なにをやりたいのか?」「なにができるのか?」ということ。■最後の願いは「8本」に限定したまず、「事業」「著述業」「身内」「社会奉仕」の4つの方面でやりたいことを2つずつに絞り、順番を決めていったのだそうです。心がけたのは、“絶対に失敗しない”こと。当然のことながら、失敗する時間がないから。確実性をもっとも重要視しなければならないため、大きな夢は描かないということです。そして、できるだけ高い成果はあげたいと思っているとか。ただし、これから先の物差しは「生きてきた証になるかどうか」。こうして「4方面×2つ」で願いは8本。そのなかで、さらに優先順序を決めたそうです。いままで、つまり死を宣告される前までは、時間がいっぱいあって、なんに対してもアグレッシブで、根拠のない自信がみなぎっていて、絶対にできるという気合いで物事に取り組んできたと著者は振り返ります。無駄もあったけれど、元気だったし、無駄は次のエネルギーにもなったというのです。しかしこれからは、日に日にそうはいかなくなっていくわけです。時間も体力も精神力も限られていくからこそ、もっとしたたかに、そろばんずくで考え、効率的に仕上げていかなければならないと考えているのだとか。仕事を「片づける」は、「形づける」「価値づける」ことでありたいと思うのだそうです。*死は誰もが避けて通れないもの。だからこそ、死と真正面から向き合う著者の言葉には強い説得力を感じます。そこにある強さを本書から感じ取れば、自分自身にとっての肥やしになるのではないでしょうか?(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※小林玖仁男(2016)『あの世へ逝く力』幻冬舎
2016年05月16日『NASAより宇宙に近い町工場』(植松努著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は、紆余曲折を経たのち、北海道の小さな田舎町で宇宙開発に取り組んでいるという異例の人物です。注目すべきは、本書においてはっきりと「宇宙開発はお金を稼ぐ対象ではない」と断言している点。宇宙開発には、お金よりも大切な意味があるように思えるというのです。そして宇宙開発は、「あること」を実現するための手段だとも考えているのだとか。それは、「どうせ無理」という言葉を世の中からなくすこと。多くの人があきらめてしまう夢を実現できれば、「どうせ無理」といわない人がひとりでも増えるのではないかという考え方です。■手加減した働きかたをしてはいけないそんな著者は、給料に関しても明確な考え方を持っています。手加減をして給料分の仕事しかしていないと、本当に給料分の人間になってしまうというのです。「俺は正しく評価されていないな、俺の給料は安いな、だから、このへんで手を抜いておこう」と考えるような人は、本当にその給料どおりの輝きしか持たなくなるというのです。いいかたを変えれば、(給料をいくらもらっているかにかかわらず)仕事とは自分の人生の時間。そうであるだけに、手加減した働きかたをしていると、手加減した生き方になってしまうということ。しかしそれでは、人生の時間を無駄に浪費していることになってしまう。だからこそ、職場という環境を生かして、学ぶべきことを徹底的に学ぶことが大切だというのです。■トレーニングをしながら給料をもらうもしも職場で徹底的に学ぶことができれば、その結果として人はもっと輝きを放つようになるそうです。そればかりか、そのことを評価できる人と出会ったときに、その輝きは「本当の力」を持つようになるといいます。とはいっても現実的に、「その職場では評価されない」というケースもあるでしょう。でも、それはトレーニングやランニングだと思えばいいのだと著者はいいます。ランニングをしてもトレーニングをしても、誰かがお金をくれるわけではありません。だから、「トレーニングをしながら給料を少しもらえている」と考えたほうがいいということです。「俺はこんなにがんばっているのに、あいつはたいして仕事をしていない。でも、あいつのほうが給料を多くもらっている。おもしろくない」そう感じるようなことは、誰にでもあるかもしれません。しかし、そんなふうに考える必要はまったくないと著者。なぜなら、人生において最後に勝つのは、どれだけ「やったか」だから。どれだけ「もらったか」ではないということです。■前例がない世界に刺さることが大切!だからこそ、給料に不満を抱きながら手加減をするのではなく、できるだけのことをすべき。また、不景気で仕事が減ったとか、暇になったと嘆いてみたところで状況が好転するわけでもありません。むしろ大切なのは、世界を取り囲んでいる不景気を打破するためには、いかにして暇を生かし、前例や規則のない分野に挑戦していくかということ。ビジネスの現場匂いては、新しいアイデアなどが「前例がないから」という理由で却下されてしまうことは少なくありません。けれども、前例がない、規則がない世界に刺さっていくことが、もしかしたらこの不況を打破するための大切な考え方になっていくかもしれない。「そのために、不景気が暇をつくってくれていると考えればいい」という著者の意見は、とてもユニークです。しかし、そこに本質が見え隠れしているのもまた事実ではないでしょうか。さらにいえば、そんな思いが著者の仕事に対するポテンシャルになっているということがはっきりとわかります。*語り口は、きわめてソフト。しかし、その裏側には煮えたぎるような情熱があることがわかります。それが、本書の強い説得力につながっているのです。また、ここで紹介したことがら以外にも、学びとなるトピックスが随所に盛り込まれているため、得るものは大きいはずです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※植松努(2016)『NASAより宇宙に近い町工場』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年05月14日『聴きながら眠るだけで7つのチャクラが開くCDブック』(永田兼一著、フォレスト出版)の著者は、心理トレーナー、ヒーリングセラピスト、心理カウンセラー。世界的な支持を得るチャック・スペザーノ哲学博士に師事して「ビジョン心理学」を学び、さらにはヒマラヤ密教の聖者カルマ・ソノ・フンソク大師に師事。宇宙や神と霊的存在についての秘伝を習得したのだそうです。そんな著者が本書のテーマにしているのが「チャクラ」、そして「クリスタルボウル」。30年以上にわたる研究により、クリスタルボウルの演奏によってチャクラを活性化させる方法を編み出したのだそうです。でも、そもそもチャクラとは、そしてクリスタルボウルとはなんなのでしょうか?古代アトランティス時代にルーツを持つというクリスタルボウルは、水晶でできた、大きなサラダボウルのような形状の楽器。7つのチャクラに対応する音色を持っているそうです。つまりクリスタルボウルの音色を聴くことで、チャクラを理想的に開かせることが可能になるということ。一方のチャクラとは、生命活動や生活・愛・学び・心をコントロールするために必要なエネルギーが出たり入ったりしている「気」の出入り口。私たちの体には7つのチャクラがあり、それぞれのチャクラに潜在能力を開花させる役割があるのだそうです。チャクラが開くと、健康で快活で、やる気に満ちあふれ、毎日快適な気分になれるのだとか。逆に閉じていると、体調不良に悩まされ、やる気も起きないのだといいます。そこで、7つのチャクラの性格をもう少し詳しくチェックしてみましょう。■生命力の根源「第1チャクラ」第1チャクラは体を動かす、危険を知らせるなど、生存のために欠かせない大事なスポット。第1チャクラがチャクラ全体の大きさの決め手になるのだといいます。第1チャクラが開いていると、現実での実現能力が開花し、物質世界(現実世界)でのサバイバル能力が高まるのだと著者はいいます。物事を組織立って考えたり、恐怖に打ち勝つことができたりするようになるわけです。■自己信頼感をつくる「第2チャクラ」愛、「自分は自分」という安定感や自信、肉体的・感情的・精神的な喜びと関係するのが第2チャクラ。第2チャクラが開くと、第1チャクラから吸収したエネルギーが上向きに働くことに。エネルギーを全身に運ぶことができ、生きる喜びが感じられるのだそうです。■感情を司る「第3チャクラ」第3チャクラはポジティブ/ネガティブの感情を司るエネルギー。私たちの性格に影響を及ぼし、潜在意識を支配しているという第3チャクラが開くと、第2チャクラから吸収したエネルギーが上向きに働き、感情がポジティブに。人と人とのつながり、信頼が生まれ、精神的な充実感を得られるといいます。■愛の泉「第4チャクラ」7つのチャクラの中心になることから、バランスや調和を司ると言われているのが第4チャクラ。肉体の基本となる第1~第3チャクラと、心や精神的なことに関わる第5~第7チャクラを結びつけ、より高いレベルでのエネルギーを生み出す役割。開くと素直になれ、あるがままの自分を受け入れられるようになるそうです。■コミュニケーションの要「第5チャクラ」第5チャクラは、コミュニケーション能力や言葉、音楽など、音や声に関するエネルギー。表現力や人間関係を司るわけです。第5チャクラが開いていると、積極的に自分の意見をいえるようになれるそう。容易に自己表現ができ、明るく前向きな発言によるコミュニケーションが可能に。■超能力を呼び起こす「第6チャクラ」「第3の目」ともいわれるこのチャクラは、目に見えないものを見たり感じたりすることのできるエネルギー。真実を見極める力、インスピレーション、直感、洞察力、予知能力とリンクしているといいます。開いていると、必要な情報だけを見極め、正しい判断ができるようになるそうです。■宇宙とつながる「第7チャクラ」「クラウンチャクラ」とも呼ばれる第7チャクラは、電気信号で宇宙からの情報をキャッチする場所。第1~第6チャクラまでが全開しないと開かないものの、開けば時間と空間を超越した、「悟り」の境地を生み出すといいます。*つまりクリスタルボウルの心地よい音色によってチャクラを開くことができれば、心身ともに最良の状態を生み出すことができるわけです。ちなみに本書には、クリスタルボウルの楽曲8曲を収録したトータル67分35秒に及ぶCDがついています。付属品だと侮れないほどのクオリティで、聴き流しているだけでリラックスできるはず。いま、実際にこの原稿を書きながら聴いているのですが、たしかに気持ちがとても落ち着きます。そういう意味でも、目と耳でリラックス効果を勝ち取れる本書はオススメ。受け入れてみれば、チャクラの効能を少なからず活用できるようになれるかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※永田兼一(2016)『聴きながら眠るだけで7つのチャクラが開くCDブック』フォレスト出版
2016年05月13日『日本でいちばん大切にしたい会社5』(坂本光司著、あさ出版)は、2008年の『日本でいちばん大切にしたい会社』から続くシリーズ第5弾です。著者は過去40年以上にわたり、企業の現場研究に携わってきたという人物。そんななかで経験法則として知ったのは、短期の業績や勝ち負けではなく、継続を第一義に、関わる人々の幸せを追求し、努力している企業は例外なく、業績が安定的に高いということなのだとか。つまりそのようなファクトに基づき、本書では、人をとことん大切にする「いい会社」を世の中に広めようとしているわけです。さらに思いの根底には、「そのような正しい経営を一途に実践する会社を1社でも多く増やしたい」という思いがあるということ。きょうはそのなかから、「世の中の役に立つ」ための会社としてNo.1の地位を保ち続ける福岡の明太子メーカーについてのエピソードをご紹介したいと思います。■「元祖」とも「本家」とも名乗らない姿勢福岡県の博多にある「ふくや」は、いまや国民食といっても過言ではない明太子を、日本でいちばん最初につくった会社。しかし、そうであるにもかかわらず、「元祖」とも「本家」とも名乗っていないのだそうです。それどころか、明太子の製法特許や商標登録さえとっていないというのですから、ただただ驚くしかありません。「いろいろな会社があったほうがお客様が喜ぶから」ということがその理由。心が広いとしかいえないこの会社の原点は、「社会貢献」「地域貢献」にあるのだそうです。現在、「ふくや」を引き継いでいるのは創業者の2人の息子。しかし、創業者が築いた精神はしっかりと受け継がれているのだといいます。製造のすべてを自社で行なっているのはもちろんのこと、お客さまアンケートを実施し、日に200件、年間6万件におよぶアンケートに全社員が目を通したり、全社員に販売士の資格を取らせたりするなど、顧客サービスや商品開発を徹底しているというのです。■利益の20%にあたる1.5億円を寄付!しかも「ふくや」の姿勢について、著者にはそれら以上に感銘を受ける部分があるのだといいます。それは、社会貢献にかける“尋常ならざる姿勢”。なにしろ、現在「ふくや」は、イベントやスポーツ支援、文化支援など大小合わせて150もの事業に対して寄付活動を行なっているというのです。それだけのことをしていれば、当然のことながら寄付に使うお金も膨大。金額は年間1.5億円は下回らないそうです。2015年の「ふくや」の利益は7億円だといいますから、1.5億円の寄付は利益の20%に相当するわけです。大手企業あるいは社会貢献に対する意識が進んだ会社でも、寄付金額は「利益の1%程度」が常識的な数字。そう考えても、「ふくや」が寄付のために支出するお金が常識をはるかに超えていることがわかるのではないでしょうか?■働く人の雇用を守るために合併したこともしかも寄付活動だけではなく、つぶれかかったホテルと酒造会社の2社を有効的なM&Aで合併し、2社の社員の雇用をすべて守っているというのです。事業拡大のための“欲”で合併したのではなく、働いている人の雇用を守るため、経営再建を頼まれたから引き受けたのです。2社は1人のリストラを行うこともなく、現在では見事に再建しているといいますから、見事というしかありません。経営再建といえば、すぐに思い出すのは日本航空です。会社更生法の適用からわずか2年で営業利益2,000億円というV字回復を実現した稲盛和夫氏の経営哲学あっってこその成功だったわけですが、それが厳しいリストラのうえに実施されたことも事実。ところが「ふくや」の現社長である川原正孝氏は、社員の雇用を守るというしっかりとしたビジョンと見識を持って再建を引き受け、それを成功させてみせたわけです。その根底にあるのは、「少しでも世の中の役に立ちたいという思いで『ふくや』をつくった」という創業者の口癖。いわば創業者の思いが、十分すぎるほどに生かされているということなのです。■愚直にひたすらおいしさを追求している!明太子を製造販売している会社なら、全国にいくらでもあるでしょう。しかし「ふくや」はひたすら世の中のため、お客さまのため、原点をブレさせることなく、愚直においしさを追求しているということ。いわば心がこもっているわけで、「元祖」「本家」とことさら強調しなくても長く愛され続ける理由も、そのあたりにありそうです。*他にも「ふくや」同様、さまざまな思いを軸に会社を経営している人たちの姿が、本書には映し出されています。忘れかけていた原点を再確認するという意味で、働くすべての人が共感できそうな内容です。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※坂本光司(2016)『日本でいちばん大切にしたい会社5』あさ出版
2016年05月12日『ITエンジニアが覚えておきたい英語動詞30』(板垣 政樹著、秀和システム)の著者は、米国Microsoft社シニアプロジェクトマネージャーとして、用語管理システム開発、音声モデル構築システム管理などに携わる人物。そしてインド、中国系エンジニアが台頭する現場において、日本人の決定的な弱点に気づいたのだそうです。それは、日本人は会話の際、動詞が出てこなくなって詰まることが多いということ。しかし現実的に、IT現場の6割は基本動詞で成り立っているのだとか。だからこそ日本人エンジニアにとっては、日本語に捉われることなく、動詞のイメージをつかむことが重要。そこで本書が誕生したというわけです。とはいえ、まったく難しく考える必要はなく、動詞力は中学生レベルで十分。基本動詞を使って、シンプルに伝えるだけでOK。きょうはそのなかから、「する・やる」イメージを表現するためのdoのポテンシャルに注目してみましょう。というのも、「する・やる」を意味する場合は、doで7割がこと足りるというのです。■実はdoほど便利な動詞はない「なんでいまさらdoをおぼえなければならないの?」と思う方も多いでしょうが、その反面、doを使いこなせていない人は少なくないのだと著者は指摘しています。「意味を知っている」のと「使いこなせる」のとでは話が別。こんなに便利な動詞は他にないので、ぜひ身につけてほしいのだといいます。まず、次の質問に英語で答えてみてください。・御社のITシステム部門はどんな業務を行っていますか?多くの方は、システム業務を担当する人たちのことを思い浮かべ、They do…と言葉をイメージしたのではないでしょうか?また、さまざまな作業や仕事の説明にどんな動詞を使うべきかも迷うところ。「管理する」はmanageかadminister?「トレーニングをする」はtrain、それともprovide training?引っかかりそうなポイントがたくさんあります。そんなとき、まずはこう口にするのはどうかと著者は提案します。Well, our IT system team does a lot of stuff.(私たちのITチームはいろんなことをやっています)たしかに、これならシンプルでわかりやすいですね。■doで代用すればこと足りる!そして、さらに補足的にこう続けるわけです。They do computer management;they do software update;they do security training, and so on.(コンピュータ管理もしますし、ソフトの更新もすれば、セキュリティのトレーニングなどもします)見てのとおり、動詞はdoしか使っていません。しかし、日常会話レベルとしてはこれで十分な説明になるわけです。“do+名詞”で「物事をする」という一般的な表現となります。なお具体的な動詞が思いつかない場合は、その動詞をdoで代用すればこと足りるケースが多いのだといいます。■わりとなんでもdoでいえる!computer management、security updateなどの名詞の部分は、ITエンジニアとしてすぐ口にできるはずなので、あとは動詞「する・やる」のdoを使うだけ。・do the work(仕事・作業をする)・do the exchange(交換をする)・do the copy(コピーをする)・do the investigation(調査する)つまり、「動詞を表す名詞」であれば、なんでもdoでいえるということ。先のシステム部門の説明でも、各名詞は以下のようにすべて動詞が存在します。management(名:管理) → manage(動:管理する)update(名:更新) → update(動:更新する)training(名:トレーニング) → train(動:訓練する)■「do + 名詞」に慣れようたとえばcomputerのような、名詞だけの意味しかない単語の場合は、do the computerといっても言葉として成立しません。しかし動作を表す名詞は、山のように存在するもの。つまりdoが使える場面が多いのは、実はここがポイントだというのです。だからこそ、“do + 名詞”に慣れてしまうと、英会話が一気に楽になるのだという考え方です。*このようにわかりやすく、そして実践的。英語で伝えることに悩んでいるITエンジニアは必読です。そしてもちろん、IT以外のなんらかの業務によって外国人と会話する必要がある人にも役立ちます。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※板垣政樹(2016)『ITエンジニアが覚えておきたい英語動詞30』秀和システム
2016年05月11日世の中の森羅万象は、「ハカる」ことと一体。物理学的に表現すれば、「ハカれないものは、存在しないのと厳密に同じ」。ハカれるからこそ「存在」となり、意味が与えられる。こんな考え方に基づいた書籍が『プロフェッショナルをめざす人のための新ビジネス基礎力養成講座 「ハカる」力』(三谷宏治著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)。当然のことながら、主題となっているのは「ハカる力」です。「謀(はか)る」でも「図(はか)る」でも「諮(はか)る」でもなく、「測る」「量る」「計る」ことだといいます。それは、定規をつくり、あてて、試して、対象のなかに潜む「真実(インサイト)」を見抜くことなのだそうです。■「ハカる」力が必要な理由多くのビジネス現場に足りないのは、革新的な商品やサービス、あるいは、それらにつながるような調査や発見。しかし現実的に、職場で行われているのは硬直的なルーティン作業。出てくるアウトプットも新鮮味のないものばかり。仕事がそんなことばかりになっている方も、決して少なくないはずです。しかし、だからこそ必要なのは、ジャンプ力のあるおもしろい商品やサービスのアイデア。そしてその前提となる世の中の(見過ごされていた)変化、もしくは大変化の予兆。だからこそ、それらを見つけ、生み出すために「ハカる」力が必要(=足りない)ということ。■「ハカる力」の根源とは?ハカることの対極にある姿勢は、「感覚的に重要そうな要因を羅列すること」。たとえば、「売上が増えるには、景気好転と人口増が必要だ」などと口に出してしまうことがそれにあたるでしょう。たしかにそのとおりかもしれませんが、こんな主張をしたところでなにも変わるはずがないのです。ハカる姿勢とは、重要な事柄(この場合であれば売上増の分析)にあたって、曖昧な表現を許さず、重要な要因を選び出し、それらに因果関係があるという事実を示すこと。この例でいえば、・GDP成長が1ポイント上向いたとき、自社売上は5%向上する・商圏人口が1%増えたとき、自社売上は2%向上する・その他の外部要因が変動しても、自社売上にそれ以上のブレは生じないなどというようなことを示す。つまり、(1)定性的表現にとどまらず、定量的もしくは具体的指標に落とし、(2)大事な要因(だけ)を見定め(3)それらと目的(売上増やブランド向上等々)との因果関係を確認することが大切で、それこそが「ハカる力」の根源だというわけです。■言葉を数字に落とすべし!曖昧な表現を廃し、主張を具体的・定量的にしようとするとき、もっとも明確なのは数字で表すこと。たとえば「市場シェアが高い」ではなく、「市場シェア30%」と伝える。30%が高いかどうかは競合状況によるもの。シェア50%の敵がいるなら、30%は高いとはいえないわけです。しかしシェアトップで2位が20%なのだったとしたら、その30%は高いといえます。だからそのときは、「シェア30%、相対シェアは1.5」と表記すれば完璧だということ。このように、言葉を数字に落とすことはなかなか面倒。しかも私たちはつい、感覚的表現を使ってしまっているものです。・この分野では敵が「強い」・顧客とのリレーションが「効く」・流通を「押さえれば」勝ちでも、「押さえる」といわれても、そこに具体的な説得力はないわけです。そこで、・カバー率90%:流通チャネルの9割が自社製品を取り扱っている・専売契約率70%:それらのうち7割が専売契約を結んでいる・離反率3%:専売ディーラーが他者に寝返る率が年3%のみというふうに、数字に落としていくことが重要。しかも単純なところからでいいのだそうです。議論をきちんとぶつけ合おうとするとき(明確な意思決定をしようとするとき)、そのベースとなるべきなのは数字。客観的なファクト(事実)が求められるということで、発言者の情熱や気合い、声の大きさであってはならないといいます。たとえ周囲がそうだったとしても、それを覆すことができるのは「数字による議論」だということです。*こうした基本を軸として、以後も「ハカる力」の重要性が解説されていきます。事例やコラムも豊富に用意されているので、著者の考え方を無理なく理解できることでしょう。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※三谷宏治(2016)『プロフェッショナルをめざす人のための新ビジネス基礎力養成講座 「ハカる」力』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年05月11日どこの街にもあって、誰でも利用できるのが図書館の魅力。とはいっても、いまの時代はインターネットが主流。本当の意味で図書館を使いこなしている方は、意外に少ないかもしれません。とはいえ図書館には、インターネットにはないいろいろな魅力が詰まっているもの。うまく活用すれば、ビジネススキルも高めることができます。そこでぜひ読んでみていただきたいのが、『図書館「超」活用術』(奥野宣之著、朝日新聞出版)。図書館を活用することにより、知識や思考力を高めようという意図に基づいて書かれた書籍です。きょうはそのなかから、図書館の魅力やメリットをいくつか引き出してみましょう。■公共施設で図書館だけが無料な理由図書館を利用するのにお金が必要ないということは、私たちにとっては当たり前の事実。ところが戦前の日本の図書館では、入館料を取っていたのだそうです。いま無料化されているのは、戦争に負けてアメリカに占領されたから。GHQが、「日本を民主化するためには、市民の意識を変えなくてはならない。そのために、アメリカのようにあらゆる市民に無料でサービスする図書館が必要だ」と考えたからだというのです。同じ公共施設である博物館や公民館、体育館などは、いまでもたいてい有料です。なのになぜ図書館だけが無料にされたのかといえば、それは重要な教育施設だから。事実、自治体組織では、図書館は教育委員会が設置しているのだといいます(2005年からは首長部への移管も可能に)。小中学校の授業料が無料なのは、すべての子どもに教育を受けさせるため。同じように、貧富の差にかかわらず、赤ちゃんから高齢者まで、すべての人が社会教育を受けられるように図書館は無料になっているというのです。■誰でも図書館で情報にアクセス可能ところで「無料」というと、「本がタダで借りられる」という話になってしまいがち。しかし本当に重要なことは、「どんな人でも情報にアクセスできる」ということなのだと著者はいいます。たとえば自営業者や零細企業にとって、業界雑誌や市場調査レポートを購読することはなかなかの負担。しかし購読する余裕がなかったとしても、図書館へ行けば読むことができるわけです。また自分が珍しい難病にかかって、治療費がいくらかかるかわからないとします。そんなとき、その難病に関する高額な専門書が図書館にあったら、とても助けられることになるでしょう。■図書館では有料データベースも無料しかも無料なのは、書籍や雑誌など「紙の本」だけではありません。有料データベースにしても、費用は図書館持ちなのです。たとえば日経新聞の過去記事や企業情報などが検索できる『日経テレコン』に個人で契約すると月額8,000円(2016年1月現在)かかりますが、図書館でならどれだけ見てもタダ。また、講演会やセミナーなども無料(もしくは有料でも資料費程度)というケースが多いといいます。つまり図書館は、本やDVDなど形のあるものだけでなく、インターネットやオンラインデータベース、講演、セミナーなど無形のものを含めたあらゆる情報を無料で提供してくれるということです。■書店と図書館の決定的な違う点とは次に「数」について。書店と図書館をくらべたとき、最大の違いは「本のタイトル数」なのです。しかも書店と図書館には、決定的な違いがあります。「売れる本」を中心とした品揃えになっている書店に対し、図書館の資料は基本的に「一点もの」だということ。また書店の場合、売れない本は返品され店頭から姿を消すことになりますが、図書館は保管できる限り、どんな本でも残しておくのが基本方針。もし、ほとんど閲覧されることがないとしても、貴重な本が破棄されることはないのです。また図書館の蔵書は、「世の中のあらゆることに関する本を中立的に集めよう」という意図でつくられているもの。たとえば「日本国憲法」の棚には、護憲派の本もあれば改憲派の本もあるわけです。世の中の森羅万象を集めているのだから、それでいいということ。その結果、図書館では「レンジ(幅)」の広い本探しができるのです。ただし図書館にも、書店に劣る点はあります。最たるものは、「速さ」。図書館が本を買って棚に並べるまでには多くの作業があるため、新刊の発売日に貸出することはまずないということ。その結果、図書館の本棚はなかなかブームに反応できないのです。かわりに得意なのは、有名作家が亡くなった時に過去の作品を並べる「追悼コーナー」。つまり書店の棚が「現代の縮図」なら、図書館の棚は「社会の足跡」だと著者は表現しています。*「集中力」「発想力」「思考力」「教養力」それぞれの高め方など、図書館を使いこなすためのメソッドが詰まった内容。読み終えたから図書館に足を運んで見れば、新たな気づきが得られるかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※奥野宣之(2016)『図書館「超」活用術』朝日新聞出版
2016年05月11日『大学受験の神様が教える 記憶法大全』(和田秀樹著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、2014年に刊行されて話題となった同名作のコンパクトなハンディタイプ。長年にわたって受験勉強法の書籍を送り出し続け、多くの受験生を成功に導いてきた実績を持つ著者が、さまざまな記憶法を紹介したものです。つまり読者はこのなかから、自分に合った記憶法を見つけ出すことができるのです。そのためにまず知っておきたい基本は、記憶の3ステップが「おぼえる」「保つ」「思い出す」であるということなのだとか。これらは専門用語で「記銘」「保持」「想起」というそうですが、この3つの機能を強化していくことで、年齢に関係なく記憶力を伸ばすことができるというのです。記憶や想起をする際に、重要な手がかりとなるのが「イメージづけ」と「関連性」なのだそうです。単に情報をインプットするよりも、この2つを活用することで効率よく記憶を行うことができるということ。そこでこの項目で著者は、そのために重要な「10の基本原則」を紹介しています。これらを、記憶したい情報に適した原則を探して活用すればいいということです。しかも、決して難しいことではなく、いたってシンプルなことばかり。だからこそ、すぐに応用することができそうです。■原則1最初の原則は、五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)から得られる情報に意識を向けること。そうすることで記憶はより強化され、必要なときに想起しやすくなるというのです。■原則22つ目の原則は、情報を大げさに誇張させること。大きさや形、音などで誇張されているものは想起しやすいということです。■原則3原則3は、リズムと動きのあるイメージにすること。歴史の年号などを語呂合わせでおぼえるのも、この原則に従ったもの。■原則4原則4は、「色」をイメージづけること。色は記憶を鮮明にし、ものごとをおぼえやすくするのだそうです。たとえば、消防車と聞句とすぐに赤色を連想することができますが、まさにそれがいい例。そこで著者は、マーカーなどでカラフルに彩り、視覚効果を活用することを勧めています。■原則5原則5は、「数字」を使うこと。数字によって整理・順序づけを行い体系立てる。そうすることにより、膨大な記憶から必要な情報が引っぱり出しやすくなるといいます。箇条書きなどが、これにあたるわけです。■原則6原則6は、「記号」を使うこと。ブランドロゴや道路標識などは、まさにこの原則を活用したものだそうです。記号ひとつで瞬時に多くの情報を思い出すことができる効率的な記憶法といえるそうです。■原則7原則7は、「順番」をつけてパターン化することで、これも体系づけて整理する方法。また同じように、色や大きさなどでグループ分けしたり、距離や高さ、年齢、場所などで分類したりしてもよいといいます。■原則8原則8は、「魅力的」なイメージづけをすること。人間は魅力的なイメージを持ったものに対して強い関心を示すものなので、記憶しやすくなる傾向があるというのです。■原則9原則9は、「ユーモア」を活用すること。理由はいたってシンプルで、おもしろいことは記憶に残るものだから。しかも思い出すと楽しい気持ちになれるので、ふたたび想起しやすくなるということ。■原則10最後の原則は、「ポジティブ」なイメージにすること。当然のことながら、ネガティブよりもポジティブなイメージのほうが想起しやすくなるわけです。脳は、わくわくして居心地がよい状態に戻りたがるものだというのです。*このような基本を軸として、以後はさまざまな記憶法が紹介されていきます。目的や効果別に分かれているので、理解しやすいはず。自分にとってベストな記憶法が、きっと見つかるのではないでしょうか。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※和田秀樹(2016)『大学受験の神様が教える 記憶法大全』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年05月08日『欧米人を論理的に説得するためのハーバード式ロジカル英語』(青野仲達著、秀和システム)の著者は、外資系企業勤務を経て、ハーバード大学経営大学院でMBAを取得したという人物。現在は、大前研一氏が学長を務めるビジネス・ブレークスルー大学で英語カリキュラムの設計に携わり、その一方で幅広く学生や社会人の実践英語習得を支援しているのだそうです。つまりここでは、そのようなキャリアに基づいた独自の英語術が展開されているわけです。■英語はロジカルであることが重要本書における著者の最大の主張は、「話す内容がロジカルでなければ、英語のネイティブスピーカーであっても通用しない」ということ。逆にロジカルであれば、もし非ネイティブスピーカーであったとしても差別されないというのです。「ロジカル(logical)」とは、「ロジック(logic)=筋道」に裏打ちされたという意味。つまりロジカルな英語とは、「筋が通ったわかりやすい英語」ということになるのです。そしてロジカルな英語が必要とされるのは、舞台がハーバードのような世界的教育機関であろうと、グローバルな仕事環境であろうと同じなのだとか。では、「ロジカル英語」を身につけるには、いったいなにをすればいいのでしょうか?ロジカルな英語を身につけるために不可欠なのは、まず「書く」ことだと著者はいいます。「英語を書くためのルール」に沿って英語を書けば、自然にロジックと出会えるということです。そして英語を書くためのルールは、「エッセイ」を書くことで習得できるのだとか。そこで本書では「5行エッセイ」と「1枚エッセイ」を通じ、そのルールを解説しているのです。その最大の基本である、「5行エッセイ」をクローズアップしてみましょう。■5行エッセイで英語が身に付く!エッセイと聞くと難しそうに思えるかもしれませんが、その基本はとてもシンプル。たとえば5行エッセイを使って「冬が好きだ」という意見を伝えるとすれば、以下のようになるわけです。1.I like winter.(私は冬が好きだ)2.I can dress up.(おしゃれができる)3.I enjoy winter sports.(ウインタースポーツが楽しめる)4.Sea foods are in season.(海の幸が旬だ)5.Winter is my favorite season.(冬は私の大好きな季節だ)1行目で結論を述べ、2~4行目で3つの理由を挙げ、5行目でふたたび結論を伝えていることがわかります。ここには、「3つの基本ルール」があるということ。1.結論を述べる(1行目)2.理由を3つ挙げる(2~4行目)3.結論を繰り返す(5行目)たしかに、構造的にはきわめてシンプルであることがわかります。だからこそ、これらの基本ルールに従って英語を書き、さらにはそれを話す習慣を身につけることが大切。そうすることによって、どこへ行っても通用する「ロジカルな英語」の基礎を養うことができるというのです。■シンプルな言葉はそのまま話せるいってみればエッセイを書くことによって、自分の考えを「シンプルな言葉でわかりやすく伝える力」を養うことができるという考え方。しかもシンプルな言葉には、難しいことを考えるまでもなく、そのまま話すことができるというメリットがあります。英語を書くためのルールは、「世界標準の英語」を習得するための基本型だと著者は主張します。つまりエッセイが書けるようになれば、それだけで基本をものにしたことになるわけです。*このように「5行エッセイ」を軸としたシンプルな考え方に基づき、本書ではロジカルな英語を身につけるためのメソッドが解説されています。シンプルなのに奥深い。だからこそ本書には、オリジナリティ豊かな説得力が備わっているといえそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※青野仲達(2016)『欧米人を論理的に説得するためのハーバード式ロジカル英語』秀和システム
2016年05月07日なぜだかわからないけれど、一緒にいると疲れてしまう相手がいるものです。あるいは、うまく話すことが苦手で、知らず知らずのうちに相手を疲れさせてしまうと悩んでいる方もいらっしゃるかもしれません。そこで、ぜひとも読んでみていただきたいのが、きょうご紹介する『一緒にいて疲れる人の話し方 楽な人の話し方』(野口敏著、KADOKAWA)。「TALK&トーク話し方教室」を主宰し、大阪および東京でコミュニケーション講座を開講。これまでに5万人以上の受講生を聞き上手、話し上手に変身させてきたという実績を持つ著者が、「うまく話せる」「聞いてもらえる」ルールを明かした書籍です。特徴的なのは、「疲れる人の話し方」と「楽な人の話し方」を対比させながら話を進めている点。そのぶん、無理なく話し方のコツをつかめるというわけです。■優柔不断な人は人の時間を無駄にしている優柔不断な人といると、それだけで疲れてしまうもの。たとえばレストランで、他の人はすでに注文が決まっているのもかかわらず、いつまでもメニューを見ている人はいないでしょうか?「あれにしようか」「こっちもいいかな」と迷ってばかりで、なかなか決断を下せないタイプです。あるいは友人同士で旅行の計画を立てているときにも、「行く」「行かない」を繰り返した挙げ句、結局はドタキャンして大ヒンシュクを買ったなどという人もいるかもしれません。好き嫌いは別としても、優柔不断な人といるとそれだけで、時間が無駄になってしまうことが少なくないわけです。■優柔不断な人は実はあまり考えていない?そして、ここには重要なポイントがあると著者は指摘しています。優柔不断な人はたくさん考えていそうで、実はなにも考えていないということ。なぜなら頭のなかを巡っているのは「どうしよう」という迷いばかりで、肝心の「どれを選ぼうか」という考えはほとんどないから。仮にあったとしても、「これを選べばこういうマイナスがある」といったようなアラ探しばかりで、最善のゴールを目指して考えを巡らせることはないというのです。そして優柔不断な人は、決断できずに問題を先送りしがち。だから、成功も失敗もしないわけです。すると、どうなるでしょうか?いうまでもなく、なんの経験も積むことができず、成長すらできないという寂しい結果に終わってしまうということです。■ベスト3を決めると優柔不断を卒業できるそこで、優柔不断から卒業するためには、選択のプロセスを身につけることが大切だと著者は主張しています。まずは優柔不断な人の思考をチェックしてみましょう。たとえばファミリーレストランでメニューを決めるとき、優柔不断な人は「ハンバーグもいいし、トンカツ定食もおいしそう。パスタにはコーヒーがセットになっているのか。でもダイエットには和食がいいよね」という具合に迷いつつ、「でも、桃のパフェってどんなものだろう?」と考えなくてもいいことまで考えて迷子になってしまうことになりやすいものです。目に入るものすべてが選択肢になったのでは、決められなくても当然だということ。そこで重要なのは、まずメニューの中でベスト3を決めることだと著者はいいます。たしかに1つに絞り込むことが難しくても、3つなら挙げることができそうです。洋食から1つ、和食から1つ、別のジャンルから1つというように、各ジャンルから1つを選べばいいわけです。■ベスト3を決めたら理由を言い聞かせよう3つを選んだら次にすべきは、そのべスト3を選んだ理由を明確にすること。「晩ご飯が遅くなりそうなので、ガッツリとしたものを」「いちばん安いから」「ダイエットにいいから」という具合に、理由を考えてみるということ。確かにそうすれば、自分でも気づかない自分の真意がわかりそうにも思えます。そしてその理由を自分の胸にいい聞かせ、いちばんときめくものを選ぶようにすればいいということです。このとき重要なのは、一度決めたら、選択しなかったものを振り返らないことだとか。どれにもそれぞれの魅力があるから迷うので、振り返れば後悔がはじまるということです。*たしかにこうして考えを進めていくと、優柔不断なスタンスの原因を突き止め、克服することができそうです。そして結果的にはそれが、「楽な人」になるための道を切り開くというわけです。また他にも、「疲れる人」と「楽な人」の考え方の違いが数多く紹介されていますので、きっと役に立つ内容だと思います。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※野口敏(2016)『一緒にいて疲れる人の話し方 楽な人の話し方』KADOKAWA
2016年05月06日『カール教授のビジネス集中講義 金融・ファイナンス』(平野敦士カール著、朝日新聞出版)の著者は、実務家、経営コンサルタント、著者、大学教授とさまざまな経験を経てきた人物。本書は、「経営戦略」「ビジネスモデル」「マーケティング」に続くシリーズ第4弾で、「金融・ファイナンス」をテーマに設定しています。と聞くだけで、「難しそう」という印象を持たれる方も少なくないはず。しかし著者は、そうではないと強調しています。そればかりか、金融やファイナンスは、企業人としても個人としても、これからの時代にもっとも学ぶべき学問だと断言しているのです。なぜなら、ファイナンスを学ぶことによって、お金を増やし、減らさないようにするための知恵が身につくから。金融初心者でも理解できるようなアプローチが貫かれた本書から、最近の気になる話題である「マイナス金利」に焦点を当ててみたいと思います。■金利は「お金のレンタル料」のこと去る2016年2月、日本でも史上初となる「マイナス金利」が開始されました。そこでまずは、金利についての基本を知っておきたいところです。著者の表現を借りるなら、金利とは、お金を貸し借りした際に発生する「レンタル料」のことなのだとか。金利の利率は、ローンの種類によっても異なってきますし、同じローンでも「変動金利型」の場合には、借りる時期によって変動するのだそうです。なぜ利率が異なるのかといえば、ひとつは、需要と供給の関係。お金を借りる人が多い場合、金利を高くしたとしても借りる人がいるからこそ、金利は上がります。しかし借りたい人が少なかったとすると、金利は下がることになるわけです。■なぜ消費者金融は金利が高いのか?また、貸し手が元手をどのように調達したのかによっても、事情は変わってくるのだそうです。たとえば銀行は、多くの人から集めた預金を原資にしてお金を貸しています。ところがノンバンク(銀行のようにお金を預かることはできないものの、企業や個人への融資を手がける金融会社)やその代表的存在である消費者金融は、銀行からお金を借りて、いってみれば「また貸し」をしている立場。それで、貸し出す際の金利も、銀行より高くなるわけです。最終的に、世の中のさまざまな金利を決めるのは、民間の銀行同士がお金を貸し借りし合う短期金融市場のコールレート、つまり「政策金利」となります。いうまでもなく、金利は経済を大きく左右する要素です。金利が高いとお金を借りる人が減るため、企業の設備投資、あるいは個人の住宅購入などが減り、経済が冷え込むわけです。しかし金利が低すぎたとすると、貸し手にメリットはありません。また、借り手が増えて経済が活性化するかというと、必ずしもそうでもありません。■マイナス金利だと現金保有が合理的さて、ここでマイナス金利について。マイナス金利政策は、ヨーロッパ中央銀行(ECB)が2014年に実施したもの。通常であれば民間銀行が中央銀行にお金を預ければ利息が得られるわけですが、マイナス金利の場合は、お金を預けた民間銀行側が逆にお金を徴収されることになります。預金すると損をするので、銀行は余ったお金を企業や個人への貸し出しに回すものだと期待されていました。事実、一部の国では銀行の貸し出しが増加しましたが、効果は限定的だといいます。マイナス金利だと、銀行に預金をするよりも、現金を保有するほうが合理的になります。とはいえ大量の現金の保有は危険であり、保管場所やセキュリティ、保険が必要になるはず。■マイナス金利によって個人はお得?では日本はどうかといえば、日銀の金融緩和も株や不動産が値上がりしただけ。つまり効果は上がっていないのです。それどころか、借金をしたほうが得をするという、常識では考えられない自体を引き起こしているのだとか。そんななか、日本の金融機関は政府の意向とは逆に、中小企業などリスクのある企業への融資に対して厳しくなると著者は読んでいます。一方、マイナス金利によって個人は、住宅ローンを借りると国からの補助もあり、むしろ得をしてしまうという逆転現象も。しかし金利は安くても、価格そのものが上昇してしまっている可能性が高いので注意が必要。今後は「いかに資産を増やすか」よりも、「いかに資産を守るか」という視点が重要になってくるといいます。*他にも多くの人が知りたかったであろう問題をわかりやすく解説しているため、とても役に立つ内容。金融やファイナンスの基礎を固めたいという方には最適です。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※平野敦士カール(2016)『カール教授のビジネス集中講義 金融・ファイナンス』朝日新聞出版
2016年05月05日『なぜあの人は中学英語で世界のトップを説得できるのか』(三木雄信著、祥伝社)の著者は、かつてソフトバンク社長室長を務めていたという人物。当然のことながら同社社長である孫正義氏のすぐそばにいて、海外出張にも同行し、英語でスピーチする姿も何度となく見てきたのだそうです。そんな立場から著者は、孫正義氏の英語は聞き取りやすかったと感想を述べています。しかし、興味深いのはその理由です。孫氏の英語は発音が日本人なまりのわかりやすいもので、つまり流暢ではなかったからこそ聞きやすいというのです。またスピードもかなりゆっくりで、ネイティブのお母さんが自分の幼い子どもに話しかけるくらいの速さなのだとか。■孫氏は中学英語で世界と交渉それだけではありません。英文をよく見てみると、きわめてシンプルなものばかりだというのです。使っている英単語がやさしいものだけで、複雑な関係代名詞や高度な仮定法も使っていないというのです。にもかかわらず、孫氏は世界のトップと互角に交渉している。むしろ、こちらの交渉を通している。そこで、「中学英語なのに、なぜ相手を説得できるのか」という観点から書かれたのが本書なのです。当然のことながら、英語に関する孫氏ならではのメソッドが数多く明かされているのですが、本書のおもしろいところは、単なる「英語本」で終わっていないところ。英語の話題が軸になっているとはいえ、その裏側に、プレゼンテーションや交渉に関する孫氏ならではの哲学が垣間見えるのです。たとえばそのひとつが、「A4の紙1枚の使い方」。■A4用紙でうまく伝える方法孫氏は、事前準備なしの手ぶらでミーティングに望むことはまずないのだそうです。重要な会議であればあるほど、入念に準備をするということ。多くの場合は、Power Pointのスライドを使ったプレゼンテーションを持っていくそうですが、プレゼンテーションを使わない場合は、小さな紙にキーワードをまとめているのだといいます。A4の紙を短冊状に折ったものに、自分で書き込んでいる場合もあったのだとか。あるいは、毎朝秘書から手渡される紙のスケジュール表に、手書きで書き込んだもののときもあったといいます。■英語学習にも有効な事前メモ著者も孫氏のこうした手法を見習って、必ず事前に準備をしているそうです。特に英語でのミーティングの前には、A4用紙1枚に自分のいいたいことをまとめているというのです。箇条書きで、自分のいいたいことを英文でまとめただけのシンプルなもの。また、そのテーマに関連する重要な英単語を、参考のためにまとめておくことも。このようにミーティング前に準備をすることは、非常によい英語学習の機会になるのだとか。理由は簡単で、絶対に自分がアウトプットをしなければならない立場になるから。■準備を恥ずかしがる必要なし「事前の準備をせずに英語でミーティングができないと格好が悪い」と思い込んでいる方もいるかもしれませんが、そうすることを結果に結びつけているからこそ、「恥ずかしがる必要はまったくない」と著者は断言しています。メモさえつくっておけば、こちらが伝えたいことは必ず伝えることができるから。たとえ相手のペースで話が進んだとしても、手元の紙に戻れば、もう一度自分のペースに戻ることができるわけです。また、このような紙が手元にあることが、自分の心配を事前にぬぐい去ることにつながるともいいます。英語で交渉に臨もうというとき、緊張してしまうのは当たり前の話。でも、そのようなときに、手元の紙はお守りのような役割を果たすというのです。不安な気持ちのままで臨んでしまうと、英語ができるかできないか以前の、「ビジネスパートナーとしてどうか」というレベルの問題にもなってしまいかねません。どのようなミーティングであったとしても。静かに自信をたたえた態度で臨みたいもの。そこで、手元の紙がとても有益だということです。■日本語の会議でもメモは有効なお、このA4のメモは、ミーティング終了後も捨ててはいけないそうです。いうまでもなく、これらがたまると、自分にとって最適な単語集と表現集になるから。だからこそ著者は、ミーティングの前にA41枚のメモをつくることを強く勧めています。そして英語のときだけでなく、日本語の会議でも事前につくる習慣を持つと、さらに有益だといいます。*このように、英語学習を主軸としながらも、さらに広い視野が本書には備わっているわけです。だからこそ、読んでみればきっと得るものは多いと思います。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※三木雄信(2016)『なぜあの人は中学英語で世界のトップを説得できるのか』祥伝社
2016年05月04日