『〈マンガとQ&Aで楽しくわかる〉1人でできる子になる 「テキトー母さん」流 子育てのコツ』(立石美津子著、日本実業出版社)の著者は、子育てに関する著者、講演家として精力的に活動している人物。教育現場での経験に基づいた講演には定評があり、自身が自閉症児を育てる母親でもあります。前作『『1人でできる子が育つ「テキトー母さん」のすすめ』も話題を呼びましたが、新作である今回も、テーマにしているのは子育てにおける“テキトー”の重要性。というのも、著者が“テキトー”を強調することには大きな理由があるのです。■子育てはテキトーなくらいがちょうどいい子育て経験のある方ならおわかりになると思いますが、子どもに向き合って一生懸命になればなるほど、「いいママにならなくちゃ」「いい子に育てなくちゃ」という“いいママプレッシャー”にがんじがらめになってしまうもの。理想を追い求め続け、つい完璧主義になってしまうわけです。事実、かつては著者もそうだったといいます。しかし、そんな状態だと、親も子どもも不幸になってしまって当然。そのことに気づいてから、“テキトー”な子育ての重要性を実感したというのです。つまり“テキトー”とは“いいかげん”ということではなく、肩の力を抜いた“ちょうどよい状態”だということ。そして、そのような考え方をもとに、本書では6歳までの子育てアドバイスを紹介しています。■ちょうどよい状態のテキトー母さんタイプとはいえ、“テキトー”になるのは、そうそう簡単なことではありません。そもそも、どんな人が「テキトー母さん」なのか、基準がよくわからないという方もいらっしゃることでしょう。では、どうすればちょうどいい「テキトー母さん」になれるのでしょうか?著者によれば、テキトー母さんとは次のような人だそうです。(1)期待しない人期待しすぎてハードルを上げると、子どもも親もしんどくなってしまってしまうもの。だからこそ、過度に期待しない人になることが大切だというわけです。(2)くらべない人親としては、つい他の子のことが気になってしまいます。とはいえ、よその子やきょうだいとくらべずに、子ども自身の昔といまを比較することができる人になることも重要。(3)あるがままを受け入れる人たとえいい子でなかったとしても、わがままをいっても、子どものあるがままを受け入れることが大切。つまり、世界中を敵に回してでも子どもの味方になる人になるべきだということ。■子育ての成功は子どもが自分を好きか否かでは、子育てに成功と失敗はあるのでしょうか?このことについて著者は、「子育てが成功したかどうかは、その子が“自分のことが好きかどうか、自尊感情が育っているかどうか”に尽きるのではないか」と記しています。よくないのは、親が自分の理想像を追って「まだうちの子にはこれが不足だ。あれもできない、これもできない」と引っ張りまわしたり、追い立てたりしてばかりいる状態。そんな状況のなかにいると、子どもは「どうせ自分なんかダメな人間なんだ……」と自分自身を好きになれず、人生を楽しめなくなってしまうというのです。いってみればテキトー母さんは、その逆。親の価値観を一方的に押しつけることなく、子どもにないものを嘆くこともせず、あるがままをすべて受け入れる子育てだということ。そうやって育てられた子どもは、大人になったとき、他人を妬んだりすることなく、「自分は自分、生きているだけで幸せ」と思えるようになるといいます。そして、人生でどんな壁にぶち当たったとしても、乗り越えられる力がつくとも言います。つまりテキトー母さんになると、子どもも親も幸せになれるということです。■テキトー子育てなら自分自身も苦しまない著者は幼児教育の仕事を通じ、30年以上にわたり、多くの子どもたちと接してきたそうです。そしてそんななかで、「こうあるべき」「こうあらねば」と、子どもに自分の理想を押しつけ、子どもの成長の芽を摘んでしまっているママを数多く見てきたのだといいますしかし、立派な花を咲かせようと鉢に水をやりすぎてしまうと、根腐れして枯れてしまうもの。子育ても同じで、あれこれ手をかけすぎると、子どもの可能性を潰してしまうということです。だからこそ著者は、「どこへ出しても恥ずかしくない子に育てなきゃ」「人に迷惑をかけない、いい子に育てないと」、だから、そのために「自分もいいママにならないと」という完璧な子育てを目指し、子どもだけではなく自分も苦しめているママに、「テキトー」な子育ての大切さを伝えたいのだそうです。*Q&A形式になっているのでわかりやすく、自分の子どもに当てはめて考えることができるはず。子育てのストレスに悩んでいる方にとって、本書は大きな力になってくれることでしょう。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※立石美津子(2016)『〈マンガとQ&Aで楽しくわかる〉1人でできる子になる 「テキトー母さん」流 子育てのコツ』日本実業出版社
2016年08月02日2013年に、『100%好かれる1%の習慣』がベストセラーとなりました。12年間にわたりANA客室乗務員(以下CA:キャビンアテンダント)を務め、現在はマナー講師として活躍する著者が、人間関係の法則を説いた著作。きょうご紹介する『1秒で「気がきく人」がうまくいく』(松澤萬紀著、ダイヤモンド社)は、そんな著者による新刊。今回は、「気がきく人」になるために必要な習慣を説いています。著者は本書において、CA時代にも、マナー講師となってからも、出会った経営者、芸能人、同業他社の方々などにはひとつの共通点があることに気がついたと記しています。それぞれの業界で成果を上げている人たちはみな、ほんの一瞬、ほんの「1秒」という短い時間のなかで判断をくだし、「気がきく習慣」をいつも実行しているということ。99%の人がやっていないそれは、やろうと思えば誰でも実行できる、たった「1%の習慣」でもあるのだとか。また、「1秒」意識することではじめられる習慣でもあるので、本書では「気づかい」「機会」「習慣」「言葉」「行動」という5つの観点から、このことについて解説しているのです。■コミュニケーションの「3かけ」が大切!ほんの少しのさりげない「声かけ」が、相手の心を元気にしたり、励ましたり、あたたかくすることがあるもの。実際、CAはいつも、機内のお客様との「スポット・カンバセーション」を心がけているのだとか。スポット・カンバセーションとは、「短い会話」のこと。そして、このことに関連して、著者は過去の自分位影響を与えた人物のエピソードを引き合いに出しています。それは、著者が卒業した中学校の西谷先生という方。西谷先生は、生徒ひとりひとりに寄り添う教育を信条としていて、「3かけ」を実践されていたのだそうです。「1:目をかけ、2:気にかけ、3:声をかけ」というもの。「目をかけ」とは、子どもたちを「見る」こと。とはいえ、ただ目を向けるだけではしての心の機微に気づくことができないので、思いやりを持って「気にかけ」ながら、「目をかけ」ることが大切だという考え方。そしてこれは、子どもに対することだけではなく、あらゆるコミュニケーションにとっても重要だというのです。私たちは誰でも、「自分のことを知ってもらいたい」「自分の存在に気がついてもらいたい」という「承認欲求」を持っているので、いつも声かけをして「あなたのことを気にかけていますよ」という気持ちを示してあげることが大切だということ。■コミュニケーションの「3かん」も大切!ところで著者は、コミュニケーションで大切なのは相手の「味方」になることだと説いています。相手から、「この人だったらわかってくれる。この人だったら信頼できる」と感じてもらうことが重要だということ。でも、どうしたら「味方」になれるのでしょうか?その答えとして著者は、西田先生が実践していたという「3かん」(3つのきょうかん)によるコミュニケーションを紹介しています。コミュニケーションの「3かん」とは、以下のようなもの。(1)「共感」子どもたちの思いに共感する(2)「共汗」子どもたちと一緒に汗を流す(3)「共歓」子どもたちと一緒に喜び楽しむこれら他人への「きょうかん」が、人と人との結びつきを強くするというのです。それぞれについて、詳しくご説明しましょう。■相手に寄り添う気持ちを持つだけでOK!「共感」とは、他人の意見や感情に「そのとおりですね」と寄り添うこと。否定してしまうのではなく、同じ思いを示すことが大切だという考え方です。「共汗」とは、一緒に汗を書く、つまり手伝うこと。「お手伝いできることはありませんか?」のひとことは、「人と人をつなぐ言葉」だと著者は考えているそうです。なぜならそのひとことは、「あなたと一緒に汗をかきますよ」という「信頼」につながるから。そして最後は「共歓」。自分が「うれしい」と思ったとき、相手も自分のことのように「一緒に喜んでくれる」と、もっとうれしい気持ちになるものです。喜びを人と分かち合うと、喜びが2倍になるといっても過言ではないわけです。だから相手が喜んでいたら、一緒に喜んであげることが大切だということ。他人に「きょうかん(共感/共汗/共歓)するとは、いいかえると「相手の立場になる」こと。「3かん」を心がけて人と接すれば、相手の気持ちがわかるようになり、「味方」になることができるというわけです。つまり、特別なことをする必要はないのです。寄り添う気持ちを持って「同じ感情を分かち合う」だけで、相手から「この人だったらわかってくれる」と思われる人になれるのだから。そしてその結果として、多くの人が「味方」になってくれるということです。*決して難しい主張をしているわけではなく、アプローチはシンプルで柔らか。だからこそ、「気がきく人」になるためのメソッドを無理なく理解することができるはずです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※松澤萬紀(2016)『1秒で「気がきく人」がうまくいく』ダイヤモンド社
2016年08月02日『1週間で8割捨てる技術』(筆子著、KADOKAWA)の著者は、カナダで暮らしている50代のミニマリスト。「持たない暮らし」や節約に励む日々のこと、海外ミニマリストに関する情報などを、ブログで発信中です。と聞くと、いかにもミニマルな生活が身についていそう。しかし実際には20代のころからずっと、モノが中心の部屋に住んできたのだとか。でも20代後半のあるとき、部屋にあふれるモノの多さに愕然とすることになり、それがきっかけで。「持たない暮らし」を目指しはじめることに。とはいえ、なかなかうまくいかなかったのだといいます。現在は50代半ばにして“自分が中心”の部屋に住めるようになっているそうですが、そこに到達するまでの30年間は、モノを捨てたり、増やしたりの繰り返しだったというのです。つまり、そんな経験を経てきたからこそ、本書が生まれたのだといえるかもしれません。■シンプルな15分で「27個捨てる」方法著者はここで、「いますぐなにかを捨てたくて、うずうずしている人」に最適な方法を明かしています。アメリカの『FlyLady,net』という無料のお片づけお助けサイトの方法を参考に、片づけに利用していたという「15分で27個捨てる方法」というもので、やり方は次のとおり。(1)タイマーを15分にセット(2)ゴミ袋をつかむ(3)タイマーをスタート(4)家中を走り回って、捨てるものをゴミ袋に放り込む(5)27個集まったら、袋ごと、ゴミ箱に捨てるあまりにもシンプルなので驚きを隠せませんが、「15分で27個捨てる方法」は、「捨てる」加速がつくメソッドなのだといいます。もったいなくて、モノがなかなか捨てられなかった人でも、「不用品だったら自分だって捨てられる」と自信を持ち、捨てる快感を味わうことができるというのです。なお、捨てる27個はテーマを決めてもいいそうです。たとえばゴミではなく、「その部屋にあるべきではないもの」や「寄付するもの」を集める、というようにするわけです。著者も、27着の服、27枚のCD、27冊の本など、テーマを決めてモノを捨てたことがあったといいます。種類別にするとハードルが高くなるものの、捨てる効果は抜群だとか。いずれにしても、ルールはできるだけシンプルに。やりすぎない手段で、とにかく15分間だけ捨て続けてみるといいそうです。■誰でも必ず捨てられる6つの典型的なモノ「27個捨てる方法」で手が止まってしまう人は、簡単なモノを捨てて、経験値を高めるのがいいとか。ちなみにどれほど捨てるのが苦手な人でも、必ず捨てられるモノがあるといいます。たとえば次のようなモノが、典型的な「限りなくゴミに近いモノ」。(1)明らかなゴミ誰が見ても明らかなゴミは捨てられるはず。空のペットボトルから紙くず、残っていない調味料など、見渡せば多くのいらないものが見つかるはず。(2)期限切れのモノ調味料や乾物、缶詰などを入れてあるスペースをチェックし、賞味期限切れのものは手放すと決めてしまうこと。賞味期限切れの商品がたくさんあるのは、消費しきれない量をストックとして買い込みすぎているということなので、そこに気づくことが大切。(3)サンプル、無料のモノ化粧品売り場のカウンターやドラッグストアでもらったサンプルは、もし全然手つかずの状態だったなら、思い切って捨ててしまうべき。重要なポイントは、無料でもらったモノは大事にしないという事実。そもそも自分が気に入って買ったものですら持て余しているのだから、無料のモノを入れておくスペースの余裕はないと考えるべきなのです。(4)空き箱、あきびん、空き袋これらは、「なにかに使えるかも」と思って保存しがち。しかし、そもそも本体(中身)を家に運び終わったら使命を終えるもの。パッケージがほしくて買ったわけではないので、3か月以内に使う見込みがなければ捨てるべきだという考え方です。(5)壊れているもの壊れたドライヤー、時間がどんどん遅れるめざまし時計、ヒビが入った鏡、ふちが欠けた食器、取っ手が取れてしまったお鍋など、部分的に壊れていて、だましだまし使っていたモノはすぐに捨てられるはず。(6)ダブっているもの同じものが2つ以上あったとしたら、使いやすいほう、好きなほうを残し、あとは捨ててしまうことが肝心。とりわけ缶切り、ハサミ、ヘアブラシなどの雑貨は粗品でもらうことも多いので増えてしまいがちですが、引き出しのなかをていねいに調べ、間引き捨てをすることが重要だといいます。*上記からもわかるとおり、著者が勧める「捨てる技術」はとてもシンプルで実戦的。すぐに応用できるので、部屋をスッキリさせたい人は必読です。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※筆子(2016)『1週間で8割捨てる技術』KADOKAWA
2016年07月30日「低カロリー」「食べごたえも十分」「食物繊維が豊富」「インスリンの分泌を抑える」「リバウンドしにくい」など、さまざまな効果があるということで、「もち麦」ダイエットが話題になっています。食事制限なしで体重を4kgも減らすことができるとなると、それはやはり気になってしまうところ。しかし、気になるからこそ、正しい知識を身につけておくことは大切です。そこでお勧めしたいのが、『腸内環境を整えながら健康的にやせる!2週間で体が変わる「もち麦」ダイエット』(小林弘幸著、KADOKAWA)。ご存知の方も多いと思いますが、著者は消化管機能不全や便秘症の治療に定評があり、現在、便秘外来の初診は7年半待ちだという順天堂大学医学部教授。つまり、ここではそのようなキャリアを軸としながら、「もち麦」ダイエットの基本や活用法を説いているのです。■もち麦の食物繊維量は白米の25倍!もち麦とは大麦の一種で、コメや小麦と同じ穀類に分類されるもの。ちなみに「もち麦」と呼ばれているのは、ずばり「もち性」の大麦だから。米にうるち米ともち米があるように、含まれているデンプン(アミローストアミロペクチン)の割合によって、大麦もうるち性ともち性に分類されるのだそうです。うるち性の押し麦はプチプチとした食感が、もち性のもち麦はモチモチとした食感が特徴だとか。もち麦の食物繊維の量は、白米とくらべて約25倍。しかもそれでいて、カロリーは白米よりも少ないというのですから、まさに優良食です。また食物繊維には「水溶性」と「不溶性」がありますが、その両方をバランスよく含んでいるのがもち麦。また、あらゆる食べもののなかでも、水溶性食物繊維の量がもっとも多いという特徴も。それが糖質の消化・吸収をゆるやかにし、血糖値の上昇を防ぎ、腸内環境を整えながら、腸からやせやすい体を作ってくれるというのです。■大人気もち麦ダイエット2つのルール(1)もち麦を1日2回食べるだけ「もち麦」ダイエットとは、ふだん不足しがちな食物繊維をとり、特に水溶性食物繊維の血糖値の少々を抑える、腸内環境を整える、などの働きを効率的に取り入れる方法。そのため目標にすべきは、もち麦を1日2回食べること。たとえば米2:もち麦1の割合で炊いた「5割もち麦ごはん」であれば、朝食と夕食でそれぞれお茶碗1はいずつが目安量だといいます。ずいぶん簡単ですが、これにはしっかりとした根拠があるのだと著者はいいます。つまり、白米を食べるよりも糖質を減らすことができ、さらには食物繊維を十分に取れるというわけです。(2)とりあえず2週間続けるだけもち麦の食物繊維は腸内で善玉菌を増やし、やせやすい体へと体質改善してくれるのだそうです。しかも、腸内環境は約2週かんで改善されるというのですから驚きです。にわかには信じられませんが、具体的には次のような段階を経て変化が起こるのだとか。1.もち麦を食べる↓2.食物繊維で善玉菌が増える↓3.腸内環境がよくなる↓4.消化・吸収や血流など、体内環境がアップする↓5.便秘が解消されるそしてその結果、“溜まりにくい”体になるというわけです。つまり、腸の特徴を活かしているからこそ、無理することなくやせられるということ。■もち麦ダイエットなら挫折しにくい!「もち麦」ダイエットは、以下の項目に当てはまる人にオススメだそうです。・炭水化物が大好き・糖質制限ダイエットはうまくいかなかった・食物繊維が不足していると思う・食事を減らすのはツライ・つねに便秘がち・早食い傾向がある何項目かに当てはまるという方も少なくないはず。しかし「もち麦」ダイエットは、リバウンドとも、厳しい食事制限とも無縁。だからこそ、無理なく続けることができるということです。*こうした基本的な考え方を軸とした本書には、「もち麦スムージー」「もち麦サラダ」「もち麦スープ」「もち麦ごはんアレンジ」など、さまざまなもち麦レシピも掲載されています。つまり、難しく考えることなく、すぐに「もち麦」ダイエットを実践できるわけです。気になっていた方は、一度手に取ってみてはいかがでしょうか?(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※小林弘幸(2016)『腸内環境を整えながら健康的にやせる!2週間で体が変わる「もち麦」ダイエット』KADOKAWA
2016年07月30日『会話ははじめの4分がすべて――相手とうちとける最短・最速のコミュニケーション術』(箱田忠昭著、フォレスト出版)というタイトルは大胆なようにも思えますが、そこには明確な理由があるようです。なぜなら著者は、「会話ははじめの3分33秒で決まる」と考えているから。つまり、“およそ4分”だということです。そして重要なポイントが、そのわずかな時間の扱い方によって、その後4分以降の相手との関係性が決まってしまうということ。そこでうまくいかなくなると、相手から好印象を持ってもらえず、面接や営業などの場面においては“それっきり”になってしまう確率が高いというのです。しかし、だとすれば気になるのは、「その4分の間になにをすればいいのか」ということであるはず。とはいえ著者によれば、それはさほど難しいことでもなさそうです。なにしろ、大切なのは「雑談」だというのですから。■「雑談」はコミュニケーションの潤滑油雑談とは、コミュニケーションの潤滑油だと著者は主張します。なぜなら雑談をすることによって空気が緩み、互いをよく知ることができるようになり、それが相手に対する好感につながるから。つまり「3分33秒」の内訳は、こうなるわけです。第一印象:3秒あいさつ:30秒雑談・世間話:3分とてもシンプルな考え方ではないでしょうか?いってみれば著者は本書において、こうした考え方を軸にコミュニケーションのあり方を説いているわけです。しかしコミュニケーションについて考えるとき、大きな壁になるものがあります。それは「初対面では、いったいなにを話したらいいのか?」という問題。話し上手な人からすれば当たり前すぎることかもしれませんが、実際のところ、そのことで頭を悩ませている方は少なくないはずです。ある程度ネタを仕込んで行ったとしても、必ずしも現場でそれが使えるとは限りません。かといって「どうせ雑談だから」と、話の構成をないがしろにしていいというわけでもないでしょう。しかし、だからこそコミュニケーションに際して意識しておきたいのは、「3Kの法則」なのだとか。■相手に好かれたいなら「3Kの法則」を3Kとは、「好意」「好感」「好印象」の頭文字をとったもの。そして、まず真っ先にすべきことは、自分が相手に対して「好意」を持つ努力をすることだといいます。もちろん、もともと嫌いだったり苦手だったりする相手に好意を持つことは容易ではありません。でも初対面であれば、いい意味で相手のよさも悪さもわからない状態。だからこそ、それは好意を持つためのチャンスになるわけです。なお、見た目に注目しすぎると、好き嫌いがはっきり分かれてしまうことがあるので注意。そんなときは、「きっと人格的にすばらしい人のはずだ」「彼から学ぶべきことがあるはずだ」というような姿勢になることが大切だといいます。自分のことを好きになってもらおうと努力する前に、まずは自分から先に好意を抱く。それが大切だということです。■人は自分に好意がある人を好きになる!不思議なことに、心に抱いている感情は必ず相手に悟られてしまうもの。たとえば誰かと接した際、「この人、自分に興味がないな」「私のこと、好きじゃないな」と感じた経験は、多かれ少なかれ誰にでもあるはずです。しかも困ったことに、人はネガティブな感情ほど察してしまうものだと著者は指摘しています。たしかに、そのとおりかもしれません。だとすれば、逆から考えた場合、自分が心のなかで「こいつ、イヤなやつだな」とか、あるいは「この人、いい人だな」と思えば、それは必ず相手に伝わるということになります。そして当然ですが、人は自分に対して好意を持っている人に好感を抱くもの。そしてその好印象は、のちのちまで残ることになります。そういう側面があるからこそ、初対面のときは、好印象を残していくことだけを考えるくらいでちょうどいいというわけです。*本書の魅力は、コミュニケーションを「最短・最速」という観点から捉えている点。たとえばそのいい例が、「3Kの法則」だということです。いいかえれば、コミュニケーションは決して難しいものではないということ。本書を読むと、きっとそんなことを実感できるはずです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※箱田忠昭(2016)『会話ははじめの4分がすべて――相手とうちとける最短・最速のコミュニケーション術』フォレスト出版
2016年07月30日『背骨から自律神経を整えるねじるだけで体と心が変わっていく!』(石垣英俊著、清流出版)は、2014年にベストセラーとなった『背骨の実学』(池田書店)の著者による新刊です。根底にあるのは、骨や関節、筋肉のトラブルはもちろん、内臓、自律神経、メンタルの不調など、あらゆる不調は背骨に現れるという考え方。そこを軸として、健康な背骨づくりによって自律神経を整え、不調を改善し、老化を防ぐためのノウハウを明かしているのです。きょうはそのなかから、本書の核のひとつである「中医学」についての記述を引き出してみたいと思います。中医学の基本的な考え方を知ると、体の関係する部位や改善法が理解しやすくなり、健康な体づくりにも役立つというのです。■西洋医学と中医学の違いとは中医学は、中国の伝統的な医学。古来4000年もの昔から経験的に伝えられていた医学で、1973年ごろに系統立てられ、理論化されたのだそうです。ご存知のとおり、西洋医学(現代医学)は病気の直接原因を立つことや、症状を抑えることが中心。それに対して中医学は、その人の体質や状態によって対処法を変え、自然治癒力を高めながら回復に導いていくのだといいます。中医学の基本が、「陰陽五行論」。自然や宇宙、人間の体、起きている現象など、この世にあるすべてのものは表裏一体の関係にあり、5つの性質に分けられるという理論だと著者は解説しています。いうまでもなく、陰陽は正反対の性質を持つものを指します。たとえば、表と裏、男と女、昼と夜、上と下、興奮と抑制など。正反対のものでありながら密接に関係し、つながっていると考えるのです。どちらかが強すぎたり弱すぎたりすると偏りが出るため、陰陽のバランスが大切になるということ。中医学では、外部環境と内部環境のバランスがうまく整っている状態を「健康」と考えるのだといいます。外部環境である自然とのつきあいが上手になったり内部環境のバランスがいい状態であれば、ちょっとしたストレスや外部環境の変化にも、うまく適応できるようになるのだとか。このような考え方が、「整体観念」です。■自然界の性質5つとの関係性そして陰陽五行論は、「木・火・土・金・水」という自然界の性質5つに、体にあらわれる現象や部位、方角や季節といった自然を分類するもの。それらは絶えずつながりあい、影響しあっているという関係性があるのだそうです。たとえば「水は木を養い、木は燃えて火になるというような協力的な働きかけ(相生関係)をする一方で、「水は火を消し、木は土から養分を奪う」といった抑制する(相剋関係)を持ちながら影響しあっているという考え方。よく聞く「五臓六腑」という分け方も、この陰陽五行論に基づいたもの。中医学では、人間の体や生理活動を「五臓六腑」に分類して考えるのだそうです。五臓は「肝・心・脾・肺・腎」、六腑は「胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦」を指し、五臓と六腑は表裏関係にあるのだといいます。これら五臓六腑も、「木・火・土・金・水」の性質に分けられ、中医学では体に起こるすべてのことは密接につながりあっていると理論づけているわけです。■西洋医学とは根本的に違う!なお中医学における「肝」や「腎」は、西洋医学の肝臓や腎臓とイコールではないとか。ひとつの内臓器官を指すのではなく、代表的な内臓を中心に関わり合って生まれる生理現象や働きを意味しているというのです。たとえば「肝」の働きを見てみると、「肝」は「胆」と表裏一体関係にあるため、肝が病んでいるときには怒りっぽくなり、また怒りの感情は肝を痛める原因にもなるのだというのです。そして肝の状態が悪いときは、目に症状が表れやすく、涙が出やすくなったり、爪がもろくなるなどの傾向も見られるのだそうです。そこで、目の症状に対して肝の状態を改善させる治療を並行して行うことが往々にしてあるのだとか。■体はすべてがつながっている五気の「風」は、風を避けたほうがいいという意味。しかし「風」には揺れ動くという意味もあり、つまり、めまいなどの症状を意味する場合もあるといいます。また、五色の「青」は皮膚の病色であると同時に、その色の食品を食べるといいともいわれているのだそうです。こうやって見ていくと、体はすべてがつながっていて、なにひとつとして無駄に表れている現象はないということがわかるわけです。そしてもちろん、それらが背骨とも密接に関係するということ。*このように本書では、背骨を軸としながらも、それ以外の「つながった」物事がわかりやすく解説されています。イラストをふんだんに取り入れた各種チェックも実用的。手元に置いておくと、きっと役に立つと思います。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※石垣英俊(2016)『背骨から自律神経を整えるねじるだけで体と心が変わっていく!』清流出版
2016年07月29日『チームを動かすファシリテーションのドリル』(山口 博著、扶桑社)の著者は、ビジネスパーソンに対する能力開発プログラムを数多く実施してきたという人物。その能力開発プログラムは、「ビジネスパーソンが体得するべきスキルを分解し、1分間の反復練習により身につけられる形式であること」が特徴です。本書は、そんな能力開発プログラムのなかから、「強いチームをつくるために必要な、ファシリテーション(会議などがスムーズに進むように支援すること)を高めるスキル」に焦点を当てたもの。そのなかから、きょうは、プレゼンテーション時にわずか30秒で効果を発揮するという「BIGPR」をご紹介したいと思います。■BIGPRは聞き手の関心をつかむスキル著者によれば、「BIGPR」はわずか30秒で聞き手の関心をつかみ、聞き手をこちらの話に集中させることができるパワフルなスキル。面談でも、電話でも、会議でも、プレゼンテーションでも、その他のどのような場面においても活用できるのだといいます。ちなみにこれは、Background(背景)、Introduction(自己紹介)、Goal(目的)、Period(時間)、Role(役割)の5つの頭文字をとったもの。プレゼンテーションの冒頭に、「そのプレゼンテーションを行う背景」「自分自身の紹介」「プレゼンテーションの目的」「必要な時間」「相手に期待する役割」を伝えることだというわけです。この手順を踏むことにより、プレゼンテーションのセットアップを効果的に行うことができるのだとか。BIGPRを実施することにより、「この人は、こういう目的で説明してくれているんだな」「30分、聞かせて貰えばいいのだな」「この人は、私にA案がいいかB案がいいか判断してほしいのだな」というようなことがわかるため、聞き手は安心してプレゼンテーションを聞きはじめることができるというわけです。逆にこれを行わないと、聞き手は「いったいこの人は、どういう目的で話しているんだろう?」「私にどうしろというのだろう?」というようなことが気になったまま、話に集中できないという状況が生まれてしまうことに。■BIGPRでプレゼンが成功するポイントBIGPRのB(背景)とI(自己紹介)は、簡潔に行うことがポイント。「前回、語彙論を多数いただきましたので、再度整理してプレゼンテーションさせていただきます(B=背景)、販売部の山田太郎です(I=自己紹介)」という具合です。お互いに顔と名前が一致するメンバーばかりのなかでプレゼンテーションする場合は、「前回の続編を実施させていただきます。この製品開発担当となり張り切っています。よろしくお願いします」というように、現在の心境を入れることも効果的。そしてG(目的)とP(時間配分)は、連動させて話すとスムーズに表現できる場合が多いといいます。「本日は競合会社の類似商品の特徴を(G=目的)、30分でご紹介させていただきます(P=時間配分)というようにつなげるわけです。■BIGPRでいちばん難しいのが役割のR残るR(役割)とは、聞き手に期待する役割。このプレゼンテーションを聞いて、どういう役割を果たしてほしいのかを伝えるのです。たとえば、「気軽にお聞きになって、自由に感想をおっしゃっていただければ幸いです」「ニーズに合うかどうかの意見をお聞かせください」「本日は、買うか、買わないかの判断をしていただきたいと思います」といった内容。なおBIGPRのなかで、修得にいちばん時間がかかるのがRだといいます。日本のビジネスパーソンには、これを冒頭から伝えることに抵抗を感じる人も多いというのですが、なんとなくわかる気もします。とはいえ、このRをクリアに示すことができるようになると、プレゼンテーションの目的に加え、さらに一歩踏み込んで「聞き手にどうなってほしいのか」「何をしてほしいのか」を伝えられるため。目的が果たされやすくなるのだそうです。■電話でBIGPRを使うときはシンプルに電話での会話の冒頭に行うBIGPRは、さらにシンプルに行うことが大切。電話の場合は、このBIGPRができるかどうかで、その後の話が続くかどうかが大きく左右されるのだいいます。具体的には、「〇〇しました(背景)、橋本です(自己紹介)」と、背景と自己紹介をワンセンテンスで表現するのがポイント。さらに「〇〇のために(目的)、○分(時間配分)、〇〇していただきたく(役割)お電話しました」という具合に、目的と時間配分と聞き手に期待する役割を、これもワンセンテンスで表現するわけです。*ここではご紹介できませんが、実際には冒頭で触れたとおりの「1分間の反復練習」も豊富に掲載されています。そのためシンプルかつ実践的に、ファシリテーション力を向上させるためのスキルを身につけることができるのです。著者によれば、「1日1分」を30日間続ければ、30日後にはファシリテーションに必要な能力が身につくのだとか。だとすれば、ビジネススキルを高めたい人には最適な内容であるといえそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※山口博(2016)『チームを動かすファシリテーションのドリル』扶桑社
2016年07月26日『これが「買い」だ私のキュレーション術』(成毛眞 著、新潮社)の著者は、マイクロソフトの社長を務めたのちに独立し、投資コンサルティング会社「インスパイア」を設立した人物。現在は早稲田大学客員教授、スルガ銀行社外取締役、そして書評サイト『HONZ』代表としても知られています。そんな著者による『週刊新潮』の人気連載を単行本化した本書は、情報に流されることなく、あらゆるものを的確にキュレーション(情報を集め、まとめる)する術を明かしたもの。最先端IT機器やアプリ、果ては住まいの選び方、あるいはSNS活用法、投資先、遊び場所、接待手段、人物やニュースの見分け方まで、モチーフもさまざま。そして、「手に入れるなら、世間の逆を行け」という“逆張り”の選び方を貫いている点が最大の特徴だといえます。きょうはそのなかから、時間についてのユニークな記述を引き出してみたいと思います。■ぼんやりする時間を持つべし!ご存知のとおり、昨今は電車の中で本や雑誌を読む人が少なくなり、代わりにスマートフォンでゲームをしている人をよく見かけるようになりました。それは悪いことのようにいわれていますが、著者の意見は少し違うようです。「ゲームによっては、脳にとってむしろいいことなのではないか」と思っているというのです。そしてもうひとつ重要視しているのが、「ぼんやりする時間」を持つことだといいます。ボーッとして過ごす時間が大切だということはよく聞きますが、ボーッと草原で大の字になっているとき、温泉に浸かっているときなどには、心身ともにリフレッシュしていると感じられるもの。だから著者もかねがね、ぼんやりする時間をつくってきたそうです。■ぼんやりするためにゲームするとはいえ現実的には、ぼんやりするために草原に出かける時間を捻出したり、温泉を探したりするだけでも大仕事。しかしここで注目すべきは、「なので、私はタブレットでゲームをしている」という著者の記述です。草原で寝転んだり温泉に浸かったりする代わりに、タブレットでゲームをするとは、意外過ぎる発想ではないでしょうか?ただしゲームといっても、一時期流行した脳をトレーニングするようなタイプのものではないだそうです。また、世界征服を企む敵と戦い続けたり、迷宮を探検し続けたりするためにプレーヤーとして成長し、さまざまな決めごとをおぼえ、戦略を練らなくてはならないような複雑なゲームでもないのだとか。かつては長時間拘束されるタイプのゲームにハマり、起きている時間のほとんどすべてをつぎ込んだことが著者にはあるそうですが、そんな経験を持ってしても最近のゲームは複雑すぎ、わからないことが多いのだといいます。はじめたとしても、悶々としながらスタート地点に佇むことになるだろうから、脳は休まることがないわけです。ちなみに余談ですが、そんななか、新版になってもさほど難易度を上げない任天堂の『ゼルダの伝説』シリーズは評価に値するそうです。■予定調和的なゲームでぼんやりしかし、将棋やオセロのように、コンピュータや対戦相手と真剣勝負をするようなものもしないのだといいます。その理由は、著者がビジネスを対戦型ゲームだと思っているため。つまり実際に対戦型ゲームをはじめたら、つい本気になってしまって「間違いなくぼんやりできない」というのです。そこで著者が移動中や待ち時間にしているのは、まず『Hidden Object Games』と呼ばれるジャンルのゲームなのだそうです。なかでも好ましいのは、一枚の大きなイラストのなかに潜んでいるアイテムを探すタイプ。と聞くと思い出すのは、樹木のシルエットのなかに隠されている動物を探すような昔ながらのゲーム。しかし、それよりもずっと単純だというのです。なぜなら、画面になにが隠れているのか、文字でヒントが表示されるから。そのため、文字を見ると反射的に手が動くというわけです。正直なところ、そう説明されても、なにが楽しいのかわからない部分はあります。でも、予定調和的に身をまかせることは、思いのほか快適だというのです。つまり、気分よくぼんやりできるということ。■ぼんやりのための手間をかけるなにもしない、ぼんやりできる時間をつくるのは、意外に難しいもの。しかし著者は、ゲームというツールを用いることによってそれを確保しているというわけです。そして、そんなことをしているからこそ、「いろいろなものに追われる現代日本では、せめて電車のなかくらいは、ぼんやりするためにゲームをしてもよいのではないか」という発想になるというわけです。だから著者自身も、ゲームをするのはたいてい移動中。そして飽きたら、ボーッとするための新しいゲームを懸命に探すのだそうです。そして、「ぼんやりするため、この程度の手間は惜しんではならない」とも記しています。*このトピックからもわかる通り、著者の発想は実にユニーク。適度のユーモラスでもあるので、他の項目も含め、リラックスしながら読み進めることができるはずです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※成毛眞(2016)『これが「買い」だ私のキュレーション術』新潮社
2016年07月25日程度の差こそあれ、人は面倒なことを先送りしてしまいがち。「なんとかしなくては」と感じてはいても、なかなか理想どおりにはいかないものです。そこでご紹介したいのが、『「すぐやる人」になれば仕事はすべてうまくいく』(金児昭著、あさ出版)。信越化学工業で38年間にわたり、経理・財務の仕事を進めてきたという人物(2013年没)が、経験に基づく考え方をまとめた書籍です。■上司から教わった3つのモットー著者は新入社員時代から課長になるまでの15年ほどの間に、3つの「モットー(日常生活における努力の目標として掲げる言葉)」を上司から教えられたそうです。1.正確さ(アキュラシー=accuracy)2.迅速さ(スピード=speed)3.誠実さ(インテグリティ=integrity)この3つは、著者の会社人としての行動の指針となってきたのだとか。ひとつひとつを確認してみましょう。(1)正確さ正確さとは、著者が携わってきたような経理・財務ではいちばん大切。会社の決算書は、企業経営の事実に合っている規則に則った正しい計算でなければ、信用されることはないわけです。だからこそ、「正確な記述」「正確な記録」を心がけることはなによりも重要だということ。(2)迅速さ迅速さは、すばやく物事を処理したり、物事の進み具合や人の行動などが滞ることなく進行すること。もちろん、速さを追求するあまり安全性を無視するわけにはいかないでしょう。しかし、迅速さが安全性の担保や、大きなチャンスを逃さないことにつながるのも事実だといいます。(3)誠実さ最後の誠実さは、経理・財務だけでなく、経営トップをはじめとしてすべてのビジネスパーソンが必ず心がけなければならないこと。仕事の進め方の基本というよりも、人間としてのあり方の基本といってもよいだろうと著者は記しています。いずれにせよ著者は、この3つを心に据えながら、日々、目の前にあるひとつひとつの仕事を「すぐにやる」ことを実践してきたということです。しかし、そのことを踏まえながら本書を読み進めると、ひとつの重要なことに気づきます。著者が「すぐにやる」ことをステレオタイプに把握するのではなく、“深く”理解しているということ。たとえばそのいい例が、「5分間の原則」についての考え方です。■約束の「5分前」に到着する理由著者は、人と会うときは、遅くとも約束の時刻の5分前には面会場所に到着するという習慣が身についているそうです。かつて自分が他の人と待ち合わせたとき、相手の人が5分遅れてきたら、15分も20分も待たされたように長く感じたことがたびたびあったのだとか。特に若いころは、そうした他人の遅れを「許せない」と感じたこともあったといいます。しかし商談をするにしても、会食をするにしても、スタート前から相手に「許せない」と思われては、話が気持ちよくスムーズに進むはずもありません。だから、「自分は人からそのように思われたくない」「スタートから負い目を感じたくない」という思いから、5分前に到着する習慣を身につけたというのです。陸上のトラック競技や水泳では、スタート・ダッシュに失敗すると、その後、いくら懸命にがんばっても最初の出遅れを取りも載せないことがあるもの。同じように「約束の時間」は、それ単独で存在するわけではありません。その後に10分間、30分間、1時間、それ以上かかるかもしれない仕事が待っている。そのことを忘れるべきではないと著者はいいます。約束の時間は、あらゆる仕事がはじまるスタート時間でもあります。事実、著者も約束の時間に遅れないことで、よいスタートを切ることができ、仕事がうまくいった経験が何度もあるそうです。■人に待たされることも悪くない!ここで著者は、官庁へ審査を受けるための書類を提出しに行った時のエピソードを紹介しています。審査担当者のところへも約束の5分前に行くわけですが、担当者に急用ができ、15分、30分、ときには1時間待たされることもしばしばあったのだそうです。相手が遅れるのが常習なら、遅れることを想定し、少し遅く行くほうが効率的だという考え方もあるでしょう。しかし著者は、いくら相手が遅れても決して短気を起こさず、催促もせず、じーっと座って待ち続けるようにしていたのだといいます。理由は、それが審査の結果によい影響を与えることに気づいたから。誰しも、人を待たせると後ろめたい気持ちになり、相手に対して少しやさしくなるもの。お役人も例外ではなく、少し長く待つだけで、気持ちのうえでも仕事のうえでも、こちらが有利になることがあったというのです。少なくとも、審査がスムーズに進むことだけはたしかだったとか。そして、この体験がべースとなって、30代以降の著者は「人に待たされることも決して悪いことではない」と思えるようになったのだそうです。そして「5分間の原則を守る」ことで、仕事によい結果を生み、時間を有効に使えるのだといいます。*上記の話は、一見すると「すぐにやる」こととは無縁のようにも思えます。しかし、その根底にあるものが「正確さ」「迅速さ」「誠実さ」であることを思い出してみれば、すべての考えが線としてつながることがわかるはず。つまり、まず守るべき「3つのモットー」があって初めて、「すぐにやる」ことを現実化できるというわけです。これは、仕事と向き合ううえで、とても大切なことではないでしょうか?(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※金児昭(2016)『「すぐやる人」になれば仕事はすべてうまくいく』あさ出版
2016年07月25日『脳が勝手に記憶するユダヤ式英語勉強法』(加藤直志著、サンマーク出版)の著者は、オンライン英語塾「加藤塾」主宰にして「ユダヤ英語コーチ」。本書で提唱する「ユダヤ式英語勉強法」を通じ、これまでに1万8,000人以上にインターネットで英語を指導してきたそうですが、その主張は想像以上に大胆です。なにしろ「記憶の民」といわれるユダヤ人の究極の記憶法は、「体をキツツキのように揺らしながら、口を動かしてつぶやくこと」にほかならないというのですから。にわかには信じられないような話ですが、事実、彼らはそうやって、1,000ページ以上もある聖書のなかの「トーラー」と呼ばれる部分を全文記憶しているのだとか。3、4歳から体をゆらゆらさせながら、ブツブツ聖書をつぶやく……すると、いつの間にか「トーラー」を記憶できているというのです。■体と口を動かしながら覚える理由では、なぜ彼らは聖書を記憶する際に体を前後させるようになったのでしょうか? それは、「聖書の数が足りなかったから」なのだといいます。奴隷として扱われたり、ひどい迫害を受けてきた彼らはその昔、日常的に聖書を燃やされたり捨てられたりされていたのだそうです。そのため聖書の数が慢性的に足りなくなり、みんなで一冊の聖書を読もうとしたため、見えるように体を動かす習慣がついてしまったということ。そしてその結果、「ひょっとしてこれは画期的な記憶法なのでは?」と気づいたというのです。さらには「体を動かすことで体温が上がり、血行がよくなる」というメリットにも気づいたため、この記憶法が広まっていったのだとか。■音読と反復による暗記練習が肝!だから、「英語をどのように勉強すれば、いちばん効果があると思いますか?」という問いに対しても、著者はまず「つぶやくこと」だと断言するといいます。ただし、それだけでは不十分。「体を動かしながら」という要素が加わって、初めて効果的な「ユダヤ式英語勉強法」が完成するというわけです。<学ぶ(ミシュナ)というのは、繰り返し朗読をし、繰り返し書き写し、そして繰り返し考えることである>というユダヤの格言があるそうです。そして著者もまた、ユダヤ関連の本を読みあさり、ユダヤ人が多く通っていたニューヨーク州立大学で彼らと共に学んだことから、「音読と反復による暗記練習が英語を身につけるうえでは最大のポイント」だと確信したのだといいます。なぜなら、単純なリズム運動が加わることで、英語が脳に勝手に定着してくれるから。いわば「単純なリズム運動」と「つぶやくこと」が英語学習にとってはもっとも大切だということ。なお、ユダヤ人の語学学習に関する考え方は、次の「5つの基礎」にまとめられるそうです。■ユダヤ人「語学学習」5つの基礎(1)とにかくワクワクすることからはじめるユダヤ式勉強法によってふたたび英語を学びたいなら、まずは心が踊るくらいワクワクすることからはじめるべき。なぜなら、興味が持てないことや難解なことからはじめても、すぐ嫌になってしまうから。だから自分の好きなものが題材になっていて、「簡単そう」「いますぐ取り組めそう」と思える教材を選ぶことが大切なのだといいます。そしてもちろん、「楽しむ」ことも不可欠な要素。(2)体を動かしたり、歩いたりしてリズムをつけて学ぶ「体をキツツキのように揺らしながら、口を動かしてつぶやくこと」が大切だといっても、そもそもその動きは“昔からのなごり”。つまり、同じような動きをしなければいけないという意味ではなく、とにかくじっとさえしなければOKだといいます。別ないいかたをするなら、英語学習においては、とにかく“動き”を取り入れることが大切だということ。(3)声に出して、つぶやきながら学ぶつぶやくことには抵抗があるという方もいるかもしれませんが、これにも明確な根拠が。声に出せば、自分の声を聞くことになります。視覚だけではなく聴覚も使っていることになるため、記憶に厚みが増すというのです。(4)最高の「つぶやき」環境を整える多くの情報や物質であふれ返る現代社会は、集中を妨げる要素がたくさん。そんななか、それらの原因と向き合い、うまく対処する方法のひとつは「感情が乱れて気が散っている状態で勉強しない」ということ。そしてもうひとつは、「自分にとって集中できる時間帯とその時間を把握する」こと。一切の心配と悩みを遠ざけ、環境を整えたうえで勉強に集中すべきだという考え方です。(5)反復練習や復習をすぐに行う<学んで復習しない者は、種をまいて刈り取らないのに等しい>というユダヤの格言があるそうですが、たしかに復習しなければ、どんなに努力したところで実を摘み取ることは不可能。英語学習はまず復習しなければ意味がなく、復習にこそ、英語学習の本当の意義があるといっても過言ではないそうです。*こうした考え方を軸として、以後は「単語力」「英文法」「リスニング力」「リーディング力」「スピーキング力」「ライティング力」、そして「資格試験勉強法」まで、ユダヤ式のさまざまなメソッドが紹介されています。それぞれが実践的なので、きっと役立つはず。英語学習で悩んでいる人にとって、大きな助けになるかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※加藤直志(2016)『脳が勝手に記憶するユダヤ式英語勉強法』サンマーク出版
2016年07月25日『今いる仲間で「勝手に稼ぐチーム」をつくる』(池本克之著、日本実業出版社)の著者がいう「勝手に稼ぐチーム」とは、メンバーひとりひとりが自分で考えて行動できるチームのこと。リーダーが常に仕事の進捗状況を気にして、チームにあれこれ指示を出しているようでは、たとえ売り上げがアップしても「勝手に」稼いでいるとはいえません。リーダーがチームの状況を気にすることなく、自分がやりたいことに時間を使えるようになって初めて、「勝手に」稼ぐチームだといえる。そして、それこそが企業に求められるべきものだという考え方です。ところで「2:6:2の法則」をご存知でしょうか?組織内で優秀な人は2割、普通の人は6割、仕事のできない人が2割という割合に分かれているという法則。どんなに優秀な人を採用しても、この割合は変わらないのだとか。だとすれば、2:6:2のメンバーで「勝手に稼ぐチーム」をつくるしかないわけです。難しそうにも思えますが、著者はどんなチームでも勝手に稼ぐチームにレベルアップできると確信していると断言します。そのために必要なのが、チームの「課題発見力」を高めること。そしてチームの課題発見力を高めるには、次の5つの要素が不可欠だと主張します。■第1の要素:鳥の目を持つ「鳥の目、虫の目、魚の目」が重要だといわれることがあります。「鳥の目」とは、ターゲット全体を高い位置から見渡す視点。「虫の目」とは、近づいてターゲットをあらゆる角度から細かく見る視点。そして「魚の目」とは、ターゲットを時代や社会の傾向といった「流れ」に照らし合わせて見る視点。リーダーは当然、すべての目が揃っているのが理想ですが、メンバーにもそれを強いるのが難しいのも事実。そこで、ひとつだけ選ぶとしたら、部下には「鳥の目」を持足せるべきだといいます。メンバー全員が「鳥の目」を持っていないと、リーダーはずっと鳥になって監視していなければならず、それでは勝手に稼ぐチームになれないから。そして大切なのは、全体思考。会社全体の業務を把握し、すべてが自分とつながっているのだと考えられるようになると、全体思考ができるようになるそうです。■第2の要素:チーム全体で学ぶ力をつけるこの場合の「学ぶ」とは、「課題を発見して解決するようなチームのつくり方」を学ぶこと。そしてそのためには、チームのメンバー全員でチームシップ学習をするのがいちばんだといいます。簡単なことで、つまりは社長から幹部、チームのリーダー、新入社員までが同じことを理解し、学ばなければ「勝手に稼ぐチーム」にはなれないから。具体的には、実際にそのチームが抱えている課題を洗い出し、解決策を考えて実施する。そのプロセスを全員で話し合いながら進めるうちに、チームはひとつになっていくというわけです。■第3の要素:メンバー個人の自己成長力を育てる課題発見力を養うためには、ひとりひとりの「個」の力を伸ばしていくのも重要なポイント。自分がそのチームでなにをすべきかを考え、行動する。仲間が困っているときは一緒に解決策を考える。それがチームシップで大切な「個」。そして「個」を育てるためには、次の3つの方法が意味を持つのだとか。(1)自分事にさせる:他人事だった仕事を自分事として考える(2)学ぶ精度を上げる:習慣化し、学ぶ精度を高める(3)発信させる:自分の考えを自分の言葉で発振する力を養う■第4の要素:チームメンバーがお互いを理解しあうメンバー同士がわかりあえないということは、往々にしてあるもの。しかし重要なのは、わかりあえなかった問題をそのままにしておかないことだといいます。ただし「相手の立場に立って考える」ことは、実際にはなかなか困難。そこで著者は相互理解を深めるためのトレーニングとして、「ストーリーテリング」を勧めています。・まずはテーマや目標をつくり、それを実現するまでの未来を、参加者に自由に描いてもらう。・次に参加者を何人かのグループに分け、描いたストーリーを持ち寄る。・そしてそれを1本のストーリーにまとめる作業をしてもらい、配役や小道具をつけて、即興で演じてもらう。このプロセスを形にすることが大切だというのです。突拍子もないように感じても不思議はないかもしれませんが、きちんと根拠があるようです。それぞれがまったく違う目的で同じ会社にいることを認識し、お互いの立場、相手の考えを受け止められるようになることが目的だというのです。■第5の要素:全員で同じ方向を向く会社やチームで一体感を持つためには、セクショナリズム(縄張り意識)は最大の敵。そしてセクショナリズムをなくすためには、会社が向かう方向性をひとつに定めることが大切。そして、そのために必要なのは・ミッション:企業が社会に対して果たしたい使命・ビジョン:「こうなりたい」という将来像・バリュー:社会に提供し、貢献する価値この3つを共有することだといいます。ミッション・ビジョン・バリューを共有すると、リーダーがそばにいなくても、それぞれのメンバーが「うちの会社ではこれが大事だ」と判断しながら行動できるようになるというのです。*ここでご紹介したのは、あくまで一部、しかしこれだけでも、著者の意図するものが伝わるのではないでしょうか? 「勝手に稼ぐチーム」のつくり方をさらに深く知りたい人は、ぜひ手にとってみてください。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※池本克之(2016)『今いる仲間で「勝手に稼ぐチーム」をつくる』日本実業出版社
2016年07月22日キャリアや仕事に関する価値観が大きく変わるなか、ぜひ読んでおきたいのが、る『WORK MODELS 世界で働く日本人から学ぶ21世紀の仕事論』(太田英基著、いろは出版)。世界を旅しながら「サムライバックパッカープロジェクト」という試みを通じ、世界を舞台に奮闘する人たちと出会ってきたという著者が、新たなワークスタイルを実践する13人にスポットを当てた書籍です。その根底に根ざすのは、「世界と時代の最先端で働く彼らの仕事観やキャリア観には、これからの時代を生きていく日本人にとっての多くの学びがあるはずだ」という思い。そもそも著者本人がグローバルの「グ」の字も持たないような、「海外」や「世界」という言葉とは遠い場所で生きてきた人間だったと言いますが、だからこそ、「彼らの生き方からは、きっと多くのものが学べるはずだ」と確信しているのだそうです。きょうはそのなかのひとり、Amazonブラジルでプロダクトマネージャーを務めているという石丸浩司さんのケースから、年齢に関する2つの質問をピックアップしてみましょう。妻と子ども3人を残し、40歳でブラジルに単身赴任したという人物です。■1:転職のデッドラインは何歳でしょうか?石丸さんは、35歳までに転職を経験しないと、とても環境の変化にはついていけないと考えていたのだそうです。なぜなら、新しい職場に対応する能力は、年齢とともにどんどん低下していくから。また同時に、「unlearn(アンラーン=過去に学んだことを壊す)」には年齢の限界があるともいいます。著者が35歳で転職したコンサル会社では、徹底的に経験や実績を「ゼロ」にするように仕込まれたのだとか。なぜなら、「昔はこうやっていたんで、こういうのがいいと思います」「私の経験上、こういうのがいいと思います」といったことは、コンサルの世界では通用しないから。そして、いまブラジルという異国の地でどんなことにも対応できているのは、35歳で「unlearn」の機会があったからだといいます。また注目すべきは、Amazonもほとんどの社員が35歳以下で転職してきているという点。それを踏まえたうえで著者は、世界的に見れば「日本は転職をしなさすぎている」と指摘します。清い転職であれば、それはキャリアを形成するうえでとても重要なステップだというのです。ただし、日本でキャリアを積むうえでも、ひとつだけ重要なことがあるとも主張します。それは、35歳までに転職経験を持つこと。次の職場が海外であるか日本であるかは関係なく、35歳を超えても転職のないキャリアでは、新たな職場で成功するためには苦労が多くなるというのです。■2:40歳までのキャリアをどのように描いてきましたか?40歳までのキャリアをどう描くべきか?この点については、ポイントが2つあると石丸さんはいいます。まずひとつは、「自分のものさしはなにか」ということ。もうひとつは、「自分の給料は自分で決める」ということだとか。石丸さん自身は、キャリアを描く際には、直感ではなく、ものすごくいろいろな選択肢を考えるのだそうです。そのとき忘れてはならないのが、「自分のものさしはなんだろう?」ということ。たとえば、それまで勤めていた公団を辞めてコンサルに転職する際、「お前は残っていれば20年後には社長になれるのに」と多くの人にいわれたのだといいます。ところが、20年後に社長になるということは、自身の価値基準(ものさし)においては高いものではなかったというのです。そもそも、20年後に会社があるかどうかもわからない。だったらそれよりも、別の可能性にかけることを選んだというわけです。一方の「自分の給料は自分で決める」は、当たり前のようで、しかし日本人があまり意識できていない点だと指摘します。大学の同期で公務員として働いている人と話すと、来年の給料がどうなのかをすごく心配しているのだそうです。公務員の場合、翌年の給料は人事院の勧告で決まりますが、キャリアを自分でしっかりと描くことができれば、自分の給料を自分で決めることは可能。もちろん実際は自分が決めたり、自分で交渉したりするわけではありませんが、いまの職場の待遇に満足できないのであれば、他に移ればいい。つまり、「いつだってもっと高いところにステップアップすることを選べる」という意味においては、自分で給料は決められるということになるという考え方です。そして給料だけではなく、海外に住むかどうか、はたまたいつ帰ろうかなど、さまざまな選択もまた、自分で決められるということです。*こうした考え方からもわかるとおり、本書に登場する13人の生き方には、ひとつの共通項があります。日常的に世界と対峙しているからこそ、揺るぎない自信を身につけているということ。そしてそれこそが、本書の提示する「ワークスタイル」の本質なのかもしれません。だからこそ本書は、読者の知的好奇心を強く刺激してくれることでしょう。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※太田英基(2016)『WORK MODELS 世界で働く日本人から学ぶ21世紀の仕事論』いろは出版
2016年07月22日男性は、女性よりも情報収集が苦手。有限会社Imagination Creativeが全国20~59歳の男女358人に調査したところ、情報を見つける“調べる力”は女性が10ポイント以上高い、という結果になっています。また、1回の情報収集にかける平均時間は10分が最多だそうです。しかし、情報収集は夢につながるものと思い、もっと時間をかけてもいいかもしれません。『とことん調べる人だけが夢を実現できる』(方喰正彰著、サンクチュアリ出版)の著者は、「リサーチ力」に定評があるというビジネスコンサルタント、コンテンツプロデューサー。「調べる習慣」が人生を変えると確信しているそうで、現在はブランディングを軸として、企業向けコンサルティングや新規事業のプロデュース、個人向けパーソナルブランディングの構築などを行っているのだといいます。ユニークな点は、タイトルにもあるとおり、「調べること」と「夢の実現」を同列で捉えていること。夢へと続く道は、まっすぐな一本道ではないからこそ、「情報」こそが夢を実現できるかどうかを左右するカギになるという考え方です。そして、「情報」がそれほど大事なものであるからこそ、まずは「調べる習慣」をつけてほしいと訴えているのです。なぜなら、「調べる習慣」がある人とない人とでは、人生で大きな差がつくものだから。だからこそ、それが「夢までの距離が近くなるか、遠くなるか」の差につながっていくということなのかもしれません。■夢につながる情報を調べていると思え夢を実現できる人に共通しているのは、知りたい情報や気になる情報があったら、「すぐに調べる」ことだと著者はいいます。では、情報収集にはどのくらいの時間をかければいいのでしょうか? いうまでもないことですが、その答えは「必要な情報が見つかるまで」。探している情報によっては、時間がかかることもあるでしょうが、それは情報を得るために必要な「コスト」として受け入れることが大切なのだそうです。タイミングなどによっては、すぐに調べるのが難しいときや、情報収集を中断しなければならないときもあるかもしれません。しかしそんなときでも、「自分は、夢へとつながる重要な情報を調べている最中だ」ということを忘れてはいけないといいます。■情報収集は優先順位を高いままキープもしかしたら大げさだと感じられるかもしれませんが、本気で調べた経験がある人なら、こう強調する著者の気持ちはわかるのではないでしょうか。ときには、調べることが精神的苦痛を伴うこともあるからです。でも、それを乗り越えなければならないということ。そして、日々の雑事に追われ、なにを調べていたのか忘れてしまわないように、「調べること」の優先順位を高いままキープすることが大切だといいます。なぜなら優先順位さえ高ければ、ちょっとしたスキマ時間を利用して、情報収集を再開することができるから。■時間が足りないときは有料サービスをしかし、それでも情報を探すための時間が足りないのであれば、以下のような有料サービスを利用することを検討するのもひとつの手段だそうです。・日経テレコン21国内外のメディアや調査会社が有料で提供するコンテンツを、データベース化したサービス。オプションを活用することにより、専門家によるリサーチ代行を依頼することも可能。・ジャパン通信社新聞、雑誌、テレビ、ウェブなどの情報を、自分に必要なテーマに応じてクリッピングしてくれるサービス。・各種インターネットリサーチ自分自身でウェブを通じてアンケートができるサービス。各サイトの登録者のなかから特定層を絞り込んでリサーチができる。■クラウドソーシングも利用価値が高い他にも、インターネットを利用して不特定多数の人に業務を発注できる「クラウドソーシングサービス」を活用し、個人にリサーチや情報収集、データのまとめを依頼する方法もあるのだとか。日本人登録者が多いサービスとしては、『ココナラ』『クラウドワークス』『ランサーズ」などが有名。また『Workshift』『Freelancer』は、日本語でサービスを提供しているものの、海外の登録者数が多いサービスなので記憶しておいて損はないといいます。情報収集をするうえで重要なのは「どんな情報を探すか」であり、「誰が情報を探すか」ではないと著者はいいます。時間は有限だからこそ、夢を実現するために、「なにを優先すべきか」を常に考える習慣をつけるべきだということです。*「ウェブ」「本・雑誌・新聞・テレビ」を通じての情報収集法、そして「人」に情報を聞くコツなど、情報収集をさまざまな角度から掘り下げた一冊。「夢の実現につながる、自分にとって必要なもの」を見つけ出すにあたっては、大きな力になってくれそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※方喰正彰(2016)『とことん調べる人だけが夢を実現できる』サンクチュアリ出版
2016年07月19日『伝説の秘書が教える「NO」と言わない仕事術』(フラナガン裕美子著、幻冬舎)の著者は20年以上にわたり、銀行や証券会社などの外資系企業と日本企業の双方で活躍するエグゼクティブたちの秘書を務めてきたという人物。「外資系エグゼクティブの秘書」というと、なんだかすごい人というようなイメージがありますが、実際にはドラマのような難題珍問題の連続。毎日が上司や仕事相手との真剣勝負だったといいます。事実、仕事をはじめたころは、パワハラで胃が切れたり、1円ハゲができてしまったり、失敗して怒鳴られることもしばしばだったとか。しかしそんななかでいつも思っていたのは、「どうせ働くのであれば、少しでも楽にストレスなく働きたい」ということ。そして工夫を重ね、ちょっとでも毎日が楽になるような働き方を探してきたというのです。つまり本書では、そうやって身につけた「ちょっとしたコツ」を明かしているわけです。きょうはそのなかから、「時間」についての考え方を抜き出してみたいと思います。■長時間プレゼンをしてはいけない!ダラダラした説明や、無意味に長いプレゼンテーションがあるものです。しかし当然ながらどちらも、相手をイライラさせるだけ。それどころか、「結局、要点はなんなのか?」と問い返されることになる場合もあるかもしれません。しかも、罪はそれだけではないと著者は指摘します。なぜならそれらは結果的に、相手の貴重な時間を無駄づかいしていることになるから。上司や仕事相手の「1分いくら」の時間が、ただ長いだけの説明の間にどんどん失われていくということです。■1分1万円の時間が10分も無駄に著者も実際、厳しいことで有名な上司からこういわれたことがあるのだそうです。「君はいま、1分1万円の私の時間を10分も無駄にしたのだ。いったいどうやって補填するんだ?」そのとき著者は、上司からの予想外の質問に答えられず、手元の資料を見ながらつっかえつつ説明したのだとか。そのため余計な時間がかかってしまい、批判されたというわけです。どこのオフィスにもありそうな光景であるだけに、他人事とは思えない部分があるのではないでしょうか?■上司も自分の「お客様」と同じ存在しかし、だからこそ、上司も自分のお客様だと考えるべきだと著者は主張しています。いうまでもなく、お客様は自分に利益をもたらしてくれる存在。つまり、その大切なお客様の時間はお金のようなもの。粗末に扱えば、立派な時間泥棒だというのです。なぜなら、部下たちが無駄づかいしてしまったその時間で、彼らはさらなる利益を生み出したり、会社を守ったりすることができるから。著者に厳しい言葉を投げかけた上司がいったとおり、どうやってもその時間は補填できないわけです。■時間の無駄遣いをなくすためには?そんな考えがあるからこそ、上司を含めたお客様と接するときには、必ず「相手の時間=お金」と思わなければいけないと著者は記しています。そして、決して無駄遣いをしないように、次のことに注意する必要があるともいいます。(1)常に話は短く要点のみ(2)話をする前に、相手からくる質問を想定して準備しておく(3)上司やお客様の時間=お金が減れば、自分の利益も減ると心得る相手の時間を大切にするクセがつけば、自分の時間に対する考え方も変わると著者はいいます。そして、時間を無駄づかいしないクセは、仕事においてもプライベートにおいても、必ずプラスにつながるものだと断言しています。■1分1万円はワンランク上の考え方「1分1万円の私の時間を10分も無駄にした」などといわれたとしたら、「なんてひどいいいかたをするんだ」「パワハラだ」などと考えてしまっても不思議ではありません。しかし、著者はそんなふうに受け止めず、ワンランク上の考え方をしていることがわかります。その客観性があるからこそ、伝説の秘書として外資系エグゼクティブたちからの信頼を勝ち取ることができたのでしょう。*著者は、仕事をロールプレイングゲームのようなものだと考えるべきだと主張しています。毎日新しい「お題」が与えられ、それを自分の知恵と経験によって乗り切り、最後にはステージクリアするというようなイメージ。そう考えると、日々の仕事場で苦手だと思っていたことも、ちょっと楽しいチャレンジに変わるというのです。だからこそ、本書も自分のためのロールプレイングゲームのマニュアル感覚で読んでほしいのだといいます。著者自身が、ここに書かれている方法によって、「常にベストなレベル」を求めるモンスター上司たちからサバイバルしてきたというだけあって説得力抜群。成果は実証済みだということですから、きっと応用することができるはずです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※フラナガン裕美子(2016)『伝説の秘書が教える「NO」と言わない仕事術』幻冬舎
2016年07月17日仕事中は、一日中ずっとパソコンに向かっているという人も少なくないはず。しかしそうなると必然的に、肩こりの症状も悪化していくものです。そこで、肩こりの改善を願っている方にぜひお勧めしたいのが、『1日10分歩き方を変えるだけでしつこい肩こりが消える本』(宮腰圭著、サンマーク出版)。とはいえタイトルを目にしただけでは、「1日たった10分でよくなるなんて、そんなことあるはずがない」と思っても無理はないかもしれません。しかも、驚くほどシンプルなメソッドを、1日わずか10分程度行うだけでいいというのですから。しかし読み進めていくと、本書に展開されている考え方が理にかなっていることがわかります。著者は、これまでに39,000人の体の悩みを解決してきた整体師。その活動プロセスにおいて、肩こりに悩む人を改善に導いてきたメソッドが、2006年の夏に考案されたという「こりとりウォーク」なのだそうです。■両手首の向きを90度変えるだけ!著者によれば、肩こりをゆるめ、根治に結びつけるスイッチ(肩ゆるスイッチ)の入れ方は驚くほどシンプル。なにしろ、「両手首の向きを90度変えるだけ」だというのです。つまり手のひらを正面にし、手の甲を後ろに向けた状態。そうして歩くだけで、内に巻いていた肩が自然に矯正され、内側に凹んでいた胸部が前方に突出。自然と胸を張った状態になるため、猫背はもちろん、猫背によって引き起こされるストレートネックも改善されるということです。■両手首の向きで肩こりが消える理由手の甲が正面に向いてしまっていると、それだけで肘には内向きの回転がかかってしまうというのがその根拠。そうなると、肩にも内巻きの回転が加わってしまうというわけです。事実、その場で両腕をだらんと下に垂らした状態で、手にひらが後ろになるように手首の向きを変えてみると、手首を回したとき、肘にも内向きの回転が加わることがわかります。しかも、そのとき同時に肩にも、少し内向きの動きが加わるというのです。ちなみに静止している状態ではそれほど強い力はかからないものの、歩いている状態だとこの作用は顕著になるのだそうで、ここがポイント。そこで、姿勢改善も含め、肩や背中のこりをとるには、静止している状態よりも動いている状態で治したほうが効果が出やすいということ。だから、この歩き方が効果的だというわけです。肩よりも肘、肘よりも手首といったように、肩からの距離が離れれば離れるほど、4つの動き(遠心力・向心力・てこの原理・振り子の原理)は大きくなるもの。いってみれば腕のつけ根から遠くにある場所ほど、内側に巻いていく作用も強まるということ。だとすれば歩行時に、手のひらが正面になるように向きを変えて歩けば、内へ内へと回転する腕の動きが抑止されることになるでしょう。そして、それにともなって、内側に巻いてくる方の動きも抑制されるというわけです。このことについては、通常の歩行をイメージするとわかりやすいようです。人が歩くとき、まず手を前に出すことで、腕に外側へ向かう「遠心力」が発生して肘が外方へ向かうことになります。そして次に中心へ向かう「向心力」が発生し、肘と手首には内向きの回転がかかります。しかし、手のひらを正面にして歩くことで、その働きが抑制できるというのです。■人体すべての骨格は連結している!次に腕を後ろに降ったとき、手の甲が正面(手のひらが後ろ)に向いたままだと、あまり後ろに手を振れなくなるため、肩が内側に残ったままになるのだとか。でも手のひらを正面位すれば、後ろに腕が振りやすくなり、肩を後ろまでしっかりと動かすことができるということ。そうすることで手首から肘、肘から肩へと、逆行的な外巻き方向への連鎖が発生するわけです。肩からの距離が離れた場所ほど、回転や「てこの作用」が強まります。それを逆手に取ることで、外へ外へと回転していく力を、下から上に作用させる。これが、手のひらを正面へ向ける狙いだと著者は記しています。重要なポイントは、人体すべての骨格は連結しているという事実。だからこそ、たった1ヶ所が改善されるだけでも、そこに関わる周囲に変化が生まれるということです。著者はそれを「まるで『スイッチ』のように、オセロの黒が、白に変わる」と表現していますが、たしかにそんなニュアンスかもしれません。ひとつの小さな変化が、その周囲の変化を誘するため、他の部分もどんどんよい方向に矯正されていくということです。*必要以上の方法論を絡めることなく、シンプルに徹しているからこそ、説得力は抜群。本書を参考にしながら1日10分のエクササイズを続ければ、肩こりが改善されるかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※宮腰圭(2016)『1日10分歩き方を変えるだけでしつこい肩こりが消える本』サンマーク出版
2016年07月17日いま、多くの人が親の老後に不安を感じている時代。実際、オウチーノ総研が20~49歳までの男女741人に「親の介護について考えているか、不安はあるか」アンケート調査したところ、不安を感じている人は81.0%もいるとの結果が出ています。なかでも親の認知症介護は、誰にとっても他人事では片づけられない問題ですよね。だからこそ参考にしたいのが、きょうご紹介する『医者は知らない! 認知症介護で倒れないための55の心得』(工藤広伸著、廣済堂出版)です。著者は、介護ブログ「40歳からの遠距離介護」で生計を立てながら、家族の介護をしているという人物。40歳のとき、祖母(要介護3)が子宮頚がんで余命半年と宣告されたことを契機に介護離職。現在も、認知症が発覚した母(要介護1)とのダブル介護を行っているのだそうです。つまり本書では、そんな経験から得た認知症介護のノウハウを明かしているわけです。本書によると、介護には「魔の3大ロック」といわれるものがあるのだとか。身体を拘束する「フィジカルロック」、薬で抑えつける「ドラッグロック」、言葉で圧力をかける「スピーチロック」がそれ。その一方、著者を含めた介護者も、実はいろいろなものに「ロック」されているのだといいます。■介護の魔の3大ロック(1)マネーロックまずは「マネーロック」。住宅、教育ローンなど固定された支出が多くなり、金銭的に身動きが取れない状態を指した、著者の造語。というのも認知症介護をしていると、想定外の手術、施設への入所、リフォーム費用など、突然の出費が多いものなのだそうです。(2)タイムロック次にタイムロック。本来の意味は「時計錠」ですが、これも著者の造語。勤務時間がキッチリ決まっていて、通勤時間も2時間かかるなど、日常が「自由度のないタイムスケジュールになってしまっている状態」を指すものです。「認知症の人が徘徊して警察に呼ばれてしまった」「下の世話に1時間以上かかってしまった」「デイサービスに行きたくないといいだした」など、介護をしていると予想外のトラブルが発生することになります。そんなとき、仕事に行けなくなってしまったりしたら、そのフラストレーションを認知症患者本人にぶつけてしまうことになったりもするとか。つまり、それはタイムロックが原因だということ。ちなみに著者の場合は、祝業をフリーランスにしたため、タイムロックはほとんどないのだといいます。お母さんの妄想に30分以上つきあうこともあるそうですが、イライラしていないので気持ちに余裕があるのだそうです。それは、とても大切なことであるはず。つまり介護をするにあたっては、なんらかのかたちでタイムロックから自分を解き放つことが必要なのでしょう。(3)常識ロックそして最後は常識ロック。これは介護者が、「まわりのみんながそうしている」という意識から、自らをロックしてしまうことを指すのだといいます。少しわかりにくいかもしれませんが、「みんなすべて自分の手で介護している。他人に頼るなんてもってのほか」という“常識”にとらわれすぎている介護者が、本当に多いというのです。もしかしたら、日本では家事も育児もすべて自分でやる人が多いという現実が、介護にも影響しているのかもしれない。著者はそう分析しています。また、崩れつつあるとはいえ、「介護は女性がするのが当たり前」という幻想もいまだ根強いのだとか。しかし、介護をアウトソーシングしてなにがいけないのでしょうか?そんな疑問を投げかけている著者も、週2回のデイサービス、ゴミ捨てなどの訪問介護、週1回の訪問リハビリ、隔週での訪問看護など、アウトソーシングをしているといいます。■自分の手で解除しようまた、「介護でタイムロックされている人は大変な思いをしているから偉い」と尊敬され、自分の時間をつくり出そうとしている人は尊敬されないというのも不思議な話だと著者。たしかに私たちは苦労を尊敬の対象にしがちですが、そういうものではないはずです。だからこそ、そういった「常識ロック」を自分の手で解除すべきだと著者は主張します。そうすれば、介護の幅が広がり、孤独からも解放されるというのです。アウトソーシングしていると親戚から文句をいわれることもあるでしょうが、大切なのは「介護者が主体的であること」だからです。見るべき方向は「世間やみんな」ではなく、認知症の人ご本人、そして介護者自身。認知症の人ご本人には「介助」が、介護者には「ロックの解除」が必要だといいます。*当然のことながら、介護には、つらく苦しいものというイメージがあります。たしかに、それは事実なのでしょう。しかし本書の魅力は、著者がそういった被害者意識とは別の場所にいることです。「わたし自身、認知症介護は4年目に突入しました。もちろん、悩みはあります。しかし、思ったほど悩みは深くなく、『しれっと』介護ができています。『しれっと』とは、何ごともないかのような状態のことです」(「はじめに」より)この記述からもわかるとおり、決して悲観的ではないのです。だからこそ本書を読んでみれば、絶望的なものとして語られがちな認知症介護を、もう少し広い視野で眺めることができるようになるはずです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※工藤広伸(2016)『医者は知らない! 認知症介護で倒れないための55の心得』廣済堂出版
2016年07月17日『圧倒的な勝ち組になる効率のいい考え方と仕事の仕方』(天明麻衣子著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者はフリーアナウンサー。東京大学文学部卒業後にNHK仙台放送局にキャスターを務め、その後JPモルガンへ転職。弁護士の夫と結婚し、スペインで1年弱を過ごし、帰国後にフリーアナウンサーとして活動を開始したというエリートです。印象的なのは、「いまどき“勝ち組”しかも“圧倒的な勝ち組になる”ってなんだよ(笑)」という意見に対して、「そんなのは所詮キレイごと」だと真正面から反論している点です。結果を出した人はきちんと評価され、大きな見返りを得ることができる。望むと望まないとにかかわらず、現実には勝ち負けがあるのだから、どうせなら圧倒的に勝ちたいという考え方なのです。そこで本書でも、独自の「必ず結果を出す法則」を記しているわけです。■数字はゴールまでの道しるべゴールへの道の途上には、いくつか指標となる数字を置いたほうがいいと著者はいいます。たとえば、将来的にもっと英語を仕事で活用するためにTOEICに挑戦するとします。900点を目指していてもまだ400点だったとしたら、「まだまだだな。もっと勉強時間を確保してがんばろう」と喝を入れる必要があります。しかし、もし800点まで来たら、「あともうひと息。ここからはがんばりすぎず、無理のないペースで」ということになるでしょう。つまり、数字があればこのように、その時点での自分に合った戦略の立て方がわかるということ。数字は道しるべのように「いま、ゴールを目指す道のりの、このあたりにいます」と示してくれるので、より効率的に努力することができるというのです。■数字がやる気スイッチになる数字を設定することのもうひとつのメリットは、数字が「“わかりやすいやる気スイッチ”になってくれる」ことだそうです。「次のTOEICの点数を10点上げる」というような小さなことでも、達成できたら嬉しいもの。そのとき数字があれば、自分がなにかを達成したと実感しやすくなるわけです。成功体験は、重要なモチベーションになると著者はいいます。成功体験を積み重ねていくことによって、「やればできるんだ。今度は30点上げたい」と、やる気スイッチが自然と入るもの。それだけではなく、計画の途中でだらけそうになったときも、数字を意識すれば「先は長いのに、時間を浪費している場合じゃないよね」と罪悪感や危機感が大きくなっていくので、そのぶん重い腰を上げやすくなるというメリットも。■大きすぎる数字を設定するなただし、気をつけなければならないこともあるといいます。それは、適切でない数字を指標として設定してしまうこと。大きすぎる数字にしてしまうと、達成が難しくなり、燃え尽き症候群になる可能性を否定できないというのです。なんとか達成するために、持てるすべてのエネルギーと時間を集中的に費やし、「よかった、なんとか達成できた……とホッとした瞬間に燃え尽きてしまうということ。そうなってしまうと、ふたたびやる気を奮い起こして次の数字を目指すまでに、長い時間がかかってしまいます。10日で100点を取って、そのあとの10日間なにもしないより、8日で70点を取ることを2回繰り返したほうがいい。そうすれば、結果的には16日間で140点取れるからです。そう考えてみても、無理のしすぎは逆効果だということがわかるのではないでしょうか?■小さすぎる数字の設定もダメとはいえ、能力にくらべて小さすぎる数字も、それはそれで考えもの。たとえば、本当は10日間で80点取る力があるのに、「まぁ、ここは60点くらいかな」と無駄にハードルを下げたりすることがそれにあたるわけです。それよりも、もし60点を目指してみた結果、「意外とつらくないぞ」と感じたなら、思い切って80点を目指すのも手だということ。自分の限界を低く見積もりすぎると、結果的に自分が損をしてしまうことになると著者は主張します。そういう意味ではむしろ、「もう無理だ」と感じるくらい、「時間とエネルギーをすべて費やしたらどこまで達成できるのか」を一度試してみるのもいいかもしれないとか。もちろんそれは楽なことではないでしょう。しかし、そうすることによって、「次からはその少し下くらいが数字目標としてちょうどいい」という感覚がつかめるというわけです。*「圧倒的な勝ち組」を目指すことだけが人生の選択肢ではないので、本書の内容がすべての人に当てはまるかどうかはわかりません。しかし、その点を踏まえたうえで目を通してみれば、参考になる箇所を見つけることはできるかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※天明麻衣子(2016)『圧倒的な勝ち組になる効率のいい考え方と仕事の仕方』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年07月16日『リストマニアになろう!理想の自分を手に入れる「書きだす」習慣』(ポーラ・リッツォ著、金井真弓訳、飛鳥新社)の著者は、テレビ界のアカデミー賞とも称される「エミー賞」の受賞歴を持つアメリカの著名TVプロデュ―サー。それだけでも特筆に値しますが、さらに注目すべきは「リストマニア」であること。「いまの自分があるのはリストのおかげ」と信じて疑わないとすらいうのです。リストマニアといわれてもいまひとつピンときませんが、これは「リストづくりへの情熱を持っている状態」「リストづくりに異常なほど惹かれる状態」と定義されているのだとか。「たかがリストで大げさな」と思いたくもなりますが、著者は「エミー賞を受賞できたのもリストがあったから」だとすら断言しています。そればかりか、締め切りに追われていても、リストを使うことでさらに多くの仕事を進めることができ、海外での結婚式を計画し、引っ越し先を見つけることもできたのだというのです。リストを書くだけでそこまで変わるというのは、驚きではあります。ちなみに、リストをつくるプラス面は6つあるのだそうです。■1:不安が減って時間が増えるやらなければならないことが山積みになっていて、どうしたらいいかわからない。しかしそんな不安も、リストをつくれば和らぐということ。やるべきことを紙に書きはじめて(またはスマートフォンに入力しはじめて)頭から追い出したとたん、ストレスのレベルが下がるということです。それに、そもそも人は忘れる生き物。だからこそ、なにかを思いついたら、目立つように書いておくことが大切だといいます。■2:脳のパワーが高まるリストをつくるときに使う脳の一部は、普段は使わない部分なのだそうです。だから、人生をきちんと整理しながら、脳の力をアップさせて冴えた状態でいられるというわけです。別な表現を用いるなら、脳を活性化できるということになるのでしょう。■3:目的に集中できるたとえば、いろんなところから次々とメールが届いたり、忙しい生活を送っていると、物事に集中することが難しくなってくるもの。しかしリストがあれば、邪魔が入ったとしても、それまで自分がやっていた作業に戻るのが簡単になるそうです。つくったリストを手引きにすれば、目的を確認し続けられるということ。焦点をはっきりさせられるため、1日にやるべきことを前よりもたくさんできるようになり、しかも心から好きなことをする時間もあるということに気づくといいます。■4:自信が高まるやり終えた項目をリストから外していくと、達成感という素晴らしい感覚が味わえるといいます。そしてそれが自信につながるため、やる気も計画性も持続できるわけです。積極的に自分の人生に参加すると、さらに力を得られるもの。多くのことを片づけられるようになれば、「自分は成果をあげられる人間で、より有能だ」と思えるよいうになるだろうという考え方です。■5:思考を整理できる困難な決断をしなければならないときや、休暇の計画を立てるといったときも、著者は思いついたことのすべてを紙に書くことにしているのだそうです。リストを書き、目標の達成に役立つあらゆるステップを考えると、これから待ち受けているものに立ち向かう用意ができたように感じるのだといいます。そして当然のことながら、リストをつくって心のなかを片づければ、混乱状態になることも減っていくわけです。■6:心の準備ができるこのことを解説するに際して、著者はガールスカウトの公式モットーを引き合いに出しています。それは、「備えよ、常に」というもの。ガールスカウトに入っていようがいまいが、このモットーはとても大切だというのです。人生は、いつ、なにが起きるかわからないもの。だからこそ、自分にとっての優先事項をチェックできるリストが必要だということです。ちなみに著者は本書において、独自の「リストフル・シンキング(リスト活用思考)」を克明に解説しています。そして、それを身につけると、たとえば次のようなメリットがあるといいます。・職場でも家庭でも、もっと生産的で効率よくなれる・新しい戦略がわかり、悪いリストづくりの習慣が改められる・心からやりたいと思っていることに使える時間をより多く確保できる・いつもなにもかもやらなくてもいいように、人生のさまざまな面をアウトソーシングする方法がわかる・時間ができるので、もっとすてきなプレゼントをしたり、もっとすばらしいパーティを開いたり、もっとなにかに打ち込めるようになる・ストレスが減る*いわば本書を通じて著者が訴えかけているのは、より快適で効率的なライフスタイルの実現。そしてそのためには、リストを活用することがとても大きな意味を持つということです。本書は、日々のタスクに追われて疲れ切っている方の強い味方となってくれそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※ポーラ・リッツォ(2016)『リストマニアになろう!理想の自分を手に入れる「書きだす」習慣』飛鳥新社
2016年07月15日インターネットが発達した現代において、連絡の手段としてはパソコンやスマートフォンのメールを使用することが一般化しています。しかしそんななか、「お客との関係づくりにおいて、『手書き』によるお礼はがきの重要性が高まってきています」と主張するのは、『1枚のはがきで売上げを伸ばす方法』(竹田陽一著、あさ出版)の著者。従業員100人以下の会社を専門にしているという経営コンサルタントです。■なぜ「お礼はがき」を出すことが重要なのかでも、お礼はがきを出すことが、なぜそれほどまでに重要なのでしょうか? 「お礼はがきを出すことは、決して軽視できる仕事ではありません」と著者が強調する理由は、果たしてどこにあるのでしょうか?そのことについて、著者はこう記しています。「お礼はがきを出し続けることによって、お客から好かれて気に入られ、忘れられない存在となり得るから」そして、それは、継続的に自社の商品や有料サービスの購入者になってくれることを意味するともいいます。そうしたお客が購入のために出してくれたお金が、自社の利益につながっていくということ。つまり本書ではそのような考えに基づき、お礼はがきを出す「仕組み」のつくり方から文例までを幅広く紹介しているわけです。では、お礼はがきの原点ともいえる「1枚のお礼はがきでuriagewonobasu12カ条」を見てみましょう。[第1条]すべての経営はお客からはじまり、すべての利益はお客のお金から生まれる[第2条]商品をどこで買うかの決定権は、お客が100%持っている。一方、売るほうの決定権は0%である。お客は自分の気に入ったところを優先して選ぶ、と心得よ。[第3条]お客は、自分に関心を示し、自分を知るために努力する人を好きになる。[第4条]もっとも価値ある知識は、お客について知ること。お客の仕事内容と生き方にもっと関心を示し、お客の情報を本気で集めよ。[第5条]真の財産はお客の数である。利益発生源のお客台帳をつくり、内容の充実にもっと時間と人手をかけよ。[第6条]訪問による面会やご来店、それにお客の紹介や銀行送金は新たな出会いである。そのつどお礼はがきを出し、出会いに感謝せよ。[第7条]商品をお買い上げいただいたお客を、決して忘れてはならない。と同時に、お客からも忘れられてはいけない。[第8条]お客との人間関係を維持するためには、売込みを抜きにした「まごころはがき」を年4回出し、固定客の増加に取り組め。[第9条]はがきは、形の変わった「営業パーソン」である。競争条件が不利な会社は、日本郵便の職員を嘱託営業社員と考え、もっと積極的に使って営業力を強化せよ。[第10条]お客との音信不通が、売り上げ不振のもっとも大きな原因になる。はがきを「ついでの仕事」と軽く見るな。自分のモノグサや筆不精を自慢するな。[第11条]社員全員がはがきを出しやすくするために、はがきを出すタイミングのルール化」「専用のはがき」「モデル文章」の3点セットを準備せよ。[第12条]1日30分、はがきを書く時間を確保し、お客への「まごころはがき」を1日あたり5通、年間では1,000通出し、お客への感謝を態度で示せ。この実行は、自分の人格を磨くことになる。■お礼はがきはコミュニケーション円滑ツールこの12カ条をご紹介したことには理由があります。これを見れば、ビジネスに対する著者の考え方がはっきりとわかるはずだから。すなわち、お客のことを考えることがビジネスパーソンにとっての重要な義務であり、大切なお客とのコミュニケーションを円滑にするためのツールとして、お礼はがきを利用すべきだということ。まずお礼はがきがあるのではなく、お客がいるからこそお礼はがきを大切にすべきだという考え方なのです。だからこそ、この考えを理解すればお礼はがきの存在価値も理解できるはず。*感謝の心は大切で、ひいてはそれが売り上げにつながっていく。そんなメッセージが、ここには込められているのです。ぜひ本書の内容にも目を通し、お礼はがきを実践的に活用してみてください。・なお、「客」という言葉そのものが「神」を意味しており、「客」1文字だけで尊敬語になるという考え方から、本書において著者は「客」を「お客様」ではなく「お客」と表記しています。今回の原稿も、その点に準じました。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※竹田陽一(2016)『1枚のはがきで売上げを伸ばす方法』あさ出版
2016年07月15日「男女平等」が叫ばれてはいるものの、現実的には女性が我慢を強いられる場面がまだまだ多い。いまの日本の状況についてそう実感しているというのは、『くたびれない離婚 – じっと我慢したまま、もう何年ですか?』(吉成安友著、ワニブックス)の著者。2007年に弁護士になってから、多くの離婚事件に携わってきたという人物です。つまり、そのような経験を軸として、「抑圧された結婚生活にくたびれ、離婚を切望しているような女性たちの助けになれば」という思いで書かれたのが本書だというわけです。きょうはそのなかから、なにかと誤解されることも多い「慰謝料」についての記述に注目してみたいと思います。■一般的な慰謝料の額は100万円以下そもそも慰謝料とは、相手方が不貞行為、DV、モラハラなどの不法行為を行ったことによって被った精神的被害に対する賠償。そして離婚の際の慰謝料には、「不貞行為等によって生じる苦痛の慰謝のためのもの」と「離婚そのものによって生じる精神的苦痛の慰謝のためのもの」があるそうです。ただし、裁判の場合も、合意によって決める場合も、基本的には両者を区別せず、一括して処理するのが通常だとか。実際のところ、離婚の訴訟で認められる慰謝料は、それほど高額ではないのだといいます。よく芸能人の慰謝料が何千万円などというニュースが話題になることがありますが、「そうした報道の多くは、おそらく財産分与と区別がされていないのではないか」というのが著者の見解。実際、家庭裁判所が公表している2011年の認容件数は次のとおりだとか。・100万円以下208件(28.2%)・200万円以下196件(26.6%)・300万円以下183件(24.8%)・400万円以下53件(7.2%)・500万円以下60件(8.1%)・500万円以上37件(5.0%)このように100万円以下がいちばん多く、300万円以下が8割。不貞のケースでも、通常は100万円から300万円くらいだといいます。■慰謝料は3年が時効なので注意が必要少し意外ですが、慰謝料請求権は、事実を知ってから3年が経過すると時効によって消滅するのだそうです。ただし3年を経過する前に、裁判を起こして請求をした場合は、時効が中断するとか。また、相手がちゃんと払うと約束したり、「ちょっと待ってくれ」というような発言をした場合、つまり相手が債務を承認した場合にも事項は中断し、それから再度3年が経過しないと時効にならないといいます。さらに、3年が経過したあとでも、相手が慰謝料を支払うなどと言った場合は、時効の利益を放棄したことになり、請求ができるそうです。■浮気相手に慰謝料は請求できるのか?不貞の場合、不貞相手に慰謝料請求を行うことも可能。不貞相手にだけ請求することも、配偶者と不貞相手の両方に請求することもできるといいます。ただ、不貞相手が結婚の事実を知らずに関係を持ち、知らないことに過失もないような場合は請求することは不可能。婚姻関係がすでに破綻している場合にも、請求はできないそうです。なお、この点については浮気相手から、「結婚しているのは知っていたけれど、妻とはもう婚姻関係が破綻していて、離婚することになっていると聞いていた」との主張がされることがあるとか(よく聞く話ですね)。しかし実際には破綻していなかった場合、そう聞いていたからといっても、ほとんどの場合は責任を逃れることはできないといいます。特に別居もしていないような場合、婚姻関係が破綻していると信じたとしても、過失がないとはいえないものなのだそうです。ただし、一方から十分な賠償を受けた場合は、他方に請求することはできないといいます。精神的損害なので、どれくらいが十分なのかは曖昧な面もあるものの、片方から通常の上限の300万円を受け取っていたとしたら、もはや他方には請求できない場合が多いと著者は考えているというのです。■事情によっては慰謝料の額が低くなるまた、不貞相手にだけ請求をした場合、配偶者への請求の場合よりも額が低くなる傾向があるのだとか。判決になった場合の相場が100~200万円だといっても、事情によってはもっと低くなる場合もあるということです。学説上は不貞相手への請求を認めるべきではないとする見解や、制限すべきとする見解も有力になってきているのだとか。感覚的には、裁判所も以前よりは額の面で低くしている感じもあるのだそうです。*先に触れたとおり「離婚=高額な慰謝料」というようなイメージはたしかにありますが、現実はそれほど甘いものではなさそうです。しかしいずれにせよ、離婚問題で疲れている人は、本書で知識をつけておくべきかもしれません。もちろん、離婚することなく円満な夫婦生活を続けることこそが理想ですが……。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※吉成安友(2016)『くたびれない離婚 – じっと我慢したまま、もう何年ですか?』ワニブックス
2016年07月13日きのう、『マンガでわかる「続ける」習慣』(古川武士著、みつく作画)という書籍をご紹介しました。「習慣化コンサルタント」として有名な著者が、「続ける」ためのメソッドを明かした名著のコミック版です。そちらに続いてきょうは、同時発売された『マンガでわかる「やめる」習慣』(古川武士著、みつく作画)を取り上げてみたいと思います。タイトルからもわかるとおり、「続ける」とは対極にある「やめる」をテーマにしたもの。ちなみに原作は、2013年に発売された原作『新しい自分に生まれ変わる 「やめる」習慣』。心理学やコーチング理論に基づいた、合理的かつ理論的に悪い習慣をやめられるメソッドとして大きな話題を呼びました。その要点をマンガで紹介しているわけですから、わかりやすさも抜群です。主人公は、食べすぎを改めるべく「やめる」習慣をスタートさせた28歳のOL。その変化を確認しながら、「やめる」コツがつかめる内容になっています。■やめ続けるために必要なキーワードまず、悪い習慣を止めるために必要なのは、「なんのために」それをやめたいのかという「骨太の理由」。それは、次の3つに集約されるといいます。(1)危機感:この習慣をやめないときに起きる悪いこと(2)快感:この習慣をやめれば起こるいいこと(3)期待感:長期的に得られるメリットこのように3つのキーワードから骨太の理由を見つけ、危機感、快感、期待感が調和すると、モチベーションは最大化するそうです。■やめることを習慣化する3つの原則著者が本書で主張しているのは、「やめる習慣」を維持できれば好循環が生まれるという考え方。やめることを習慣化するということです。現実的に難しいことでもありますが、習慣化に失敗する原因を探してみると、それは3つに集約されるのだとか。(1)欲張ってあれこれ止めようとすること(2)すべてを一気によくしようとすること(3)短期的な目標に夢中になりすぎることそして、これらの失敗を招かないためには、守るべき3つの原則があるのだそうです。きのうの「続けるための3つの原則」と似ているようでいて、また少し異なっているところがポイント。[原則1]:一度に1つの習慣に取り組む複数の習慣を一気にやめようとすると、挫折の確率が高まるもの。一度に1つずつ、確実にやめることが大切だといいます。[原則2]:センターピンとボトルネックを明確にする習慣化にはキーとなる指標があり、それをセンターピンと呼ぶのだそうです。たとえば早起きのセンターピンは、「寝る時間」。起きる時間だけ早めても、睡眠不足で挫折してしまうということ。逆から考えれば、重要なセンターピンを明確にして習慣化すれば、自動的に結果が出るわけです。一方のボトルネックは、「急な飲み会で遅くなり、早起きできない」など、センターピンに集中すべきときに問題となる障害。「誘惑に負けそうになる瞬間はいつなのか」「要因はなにか」を考えておくことが大切だといいます。[原則3]:目標達成ではなくプロセスに集中する「5キロ減らす!」などと結果重視でがんばると、目標達成後はモチベーションがなくなるのでリバウンドが起きるもの。一方の習慣化は、「5キロ痩せるために1日1,800キロカロリーの食事にする」など、行動を無意識化するプロセス。しかし無意識化さえできれば、目標を達成するためのモチベーションは不要です。■禁欲期に誘惑に負けない3つの対策骨太の理由とやめる3原則を知って習慣化をスタートしたとしても、次に訪れるのは誘惑に負けそうになる禁欲期(第1週~第3週)。この時期に大切なのは、成功と挫折を繰り返す「山あり谷あり」を乗り切り、続けること。失敗しても引きずらず、3週間、習慣行動を続けるべきだというのです。[対策1]:誘惑を断つ環境をつくる有効なのは、誘惑の要因を避ける努力=誘惑を避ける環境づくり。たとえば本書の主人公のようなダイエットの場合なら、高カロリーなお店に行かない、食べ放題やスイーツ店などは避けるということが重要。[対策2]:行動を可視化する習慣行動は無意識に繰り返されるので、コントロールすることはなかなか困難。しかし記録して可視化すると管理が容易になり、自己コントロールする意欲が湧いてくるそうです。その際のポイントは、数値とともに感情も記録すること。「きょうの体重は56キロ、摂取カロリーは2,000キロカロリー、感情:きのうより食べる量をコントロールできている実感あり!」という具合。[対策3]:「投げやり」に上限をつくる一度の挫折で心が折れ、「投げやり思考」に陥らないための対策が必要。まずは「投げやり思考」に陥るケースをいくつも想定してみる。そして、挫折時の対策を考える。これが大切だといいます。なぜならこうしておけば、「投げやり思考」に陥りそうなときでも、「少しでも自分が定めたルールを守れた」という自己コントロール感を持てるから。ひいてはそれが、習慣を持続させることになるわけです。*『「続ける」習慣』と同様に、とても理解しやすい内容。マンガがハードルを引き下げてくれてもいるので、読みながらストレスを感じることもないはずです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※古川武士(2016)『マンガでわかる「やめる」習慣』日本実業出版社
2016年07月12日『マンガでわかる「続ける」習慣』(古川武士著、みつく作画)は、2010年の発売以来ロングセラーを続ける『30日で人生を変える「続ける」習慣』のコミック版。あることをきっかけに「フランス語が話せるようにならないとクビだ!」と難題を突きつけられた新人パティシエールを主人公に設定し、「続けるための」コツをわかりやすく説いた内容です。ちなみに著者は、「習慣化コンサルタント」として500人以上の習慣化をコンサルティングしてきた習慣化のオーソリティ。そんな実績を持っているからこそ、続かないのは「性格や根性ではなく、習慣化のコツや原則を知らないこと」が原因だと断言しています。だとすれば、習慣化についてもう少し詳しく知っておく必要がありそうです。著者によれば、習慣化には3つの「挫折の波」があるのだそうです。つまり、それを理解しておけば、挫折しないように対策することができ、習慣化のプロセスもイメージできるというわけです。それはどのような波なのか、ひとつひとつを確認してみましょう。■習慣化「3つの挫折の波」[ステップ1]反発期:やめたくなる時期(1~7日目)三日坊主という言葉がありますが、いちばん続けるのが難しい、やめたくなる時期は7日目までなのだといいます。習慣引力(「いつもどおり」を維持しようとする、いわば習慣化を阻害する力)の抵抗がもっとも強く、あたかも大雨洪水警報が発令されている暴風雨のなかを歩くような状態。性格や根性とは関係なく、誰もが挫折しやすい時期といえるのだそうです。[ステップ2]不安定期:振り回される時期(8~21日目)急な残業やプライベートの予定などに振り回されて挫折しやすい時期。予定どおりに行動が進まず、「もういいや」「やっぱりムリ」と思ってサボりがちな時期だといいます。[ステップ3]倦怠期:飽きてくる時期(22~30日目)マンネリ化を感じやすい時期。徐々に続けることへの意味を感じなくなったり、物足りなくなったりして、「意味ないかも」「つまらないなあ」「飽きてきた」という言い訳が出てきやすい時期だそうです。■習慣化のための3つの原則続かない人の傾向を見ていると、習慣化のスタート前の計画と姿勢に原因があることがほとんど。著者はそういいます。そして三日坊主に陥らないためにも、次の3つの原則を守ることが大切。[原則1]:一度に1つだけ取り組む一度に2つ、3つ同時にはじめることは、習慣引力が2重、3重にかかることを意味しているとか。いってみれば、重力が2倍、3倍かかっているなかで走るようなものだということです。だからこそ、たとえばダイエットなら、食事制限を習慣化できるようになってから、その次に運動に取り組む。それが成功の秘訣。[原則2]:複雑なルールにしないひとつの習慣について複雑な行動ルールを決めてしまうと、続かなくなってしまいがち。いろいろ詰め込むのではなく、「なにをやればもっとも効果的なのか」を考え、シンプルな行動に絞り込むことが大切だというわけです。[原則3]:結果よりも行動を重視する3つ目の挫折する原因は、結果にこだわりすぎて行動リズムを崩してしまうケース。たとえばフランス語のテストに向け、短期目標を設定して一気に加速するとしましょう。しかしその場合、どうしても結果主義になってしまい、目標を達成できたら、その後は学習を継続する意欲を失ってしまうそうなのです。ここで著者が強調しているのは、目標達成と習慣化は違うということ。目標達成の場合は短期的なゴールを設定し、成果を得るために一気に行動することになるでしょう。しかし習慣化は、結果よりプロセスに集中すべきもの。いつもどおりの行動を無意識に繰り返せるようになることが習慣化であり、その行動の積み重ねによって成果が出るということです。■慣れるまでは毎日続ける!先に触れた習慣引力の抵抗を受けている間は、一定の行動を続けることにこだわるべきだといいます。焦らなくても、習慣化できれば結果は返ってくるもの。焦らずに待つことが大切だということです。なお1ヶ月(30日)の行動習慣は、習慣化するまでの期間に関しては、毎日続けることが大前提なのだといいます。「週3回のペースでできるようになりたい」ということであっても、最初は毎日続けることが重要だということ。これには明確な理由があります。やったりやらなかったりというペースだと、どうしても習慣化のリズムが定着せず、忘れてしまいがちだというのです。ただし、1ヶ月で習慣化したあとは、週3回、4回と本来の頻度に落としても大丈夫だそうです。*マンガはもちろんのこと著者の解説文もわかりやすいので、「続けたい」人に最適。無理なく自然に習慣化を身につけることができるでしょう。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※古川武士(2016)『マンガでわかる「続ける」習慣』日本実業出版社
2016年07月11日『悩みごとの9割は捨てられる』(植西聰著、あさ出版)の著者は、資生堂勤務を経て独立し、現在は人生論の研究に従事しているという、少し変わったキャリアの持ち主。「成心学」という独自の理論を確立し、“人々が明るく元気になる”著述活動を続けているのだそうです。人には、自分で自分を慌ただしい気持ちにさせるところがあるもの。しかし人生は、いくら慌てたところでどうなるものでもありません。どんなに悩んでみたところで、事態が大きく改善するわけでもないわけです。むしろ楽天的に、のんきに生きていくほうが賢く、人生はより豊かになる。それが著者の根本的なメッセージです。そして本書では「楽天的になる」という趣旨のもと、「自分を悩ませていることの9割は取るに足らないことであり、捨て去ってよいものである」と気づくためのヒントを紹介しているわけです。数字に関する大切なテーマ、すなわち「お金」に関する考え方を引き出してみましょう。■お金は精神的なゆとりを持つことが大切「金はよい召使いでもあるが、悪い主人でもある」ここで紹介されているのは、アメリカの政治家であり、科学者でもあったベンジャミン・フランクリンの言葉。お金は、いい使い方をすれば、生活を便利で楽しいものにしてくれます。そして、より充実した生活に役立ちもするでしょう。しかしその一方で、「もっとお金がほしい。もっと金儲けをしたい」と、金の亡者になってしまうこともあります。そうなると、結果的にはお金のためにこき使われ、お金に振り回され、お金のために悩まされることになってしまうもの。まさにお金という「悪い主人」に仕えるようなものなので、それでは本当に意味で幸せな暮らしとはいえないというわけです。お金に対して、心にゆとりがあるときは、お金を「よき召し使い」として上手に扱っていくことが可能。ところが、お金儲けのことしか頭になくなり、精神的なゆとりがなくなっていくと、お金は「悪い主人」になるということ。そして、大切なことは、必ずしも金銭的なゆとりを持つことではないと著者はいいます。いってみれば、お金について「精神的なゆとり」を持つことが大切だということ。■お金がなくても贅沢な時間は楽しめる!お金がなければ、贅沢な食事はできませんし、豪邸に住むことも不可能。高級な衣類を見にまとうこともできないでしょう。しかし、そういう意味での贅沢な生活はできなくても、「贅沢な時間」を楽しむことはできると著者はいいます。「贅沢な時間」を楽しむためには、必ずしもお金が必要なわけではないということ。むしろ、お金儲けに無我夢中になっていると、「贅沢な時間」を持てなくなる場合も出てくるもの。なぜなら、朝から晩までお金儲けのために働かなければならなくなるからです。「贅沢な時間」を楽しむために必要なのは、自分が自由に使える時間、気楽に過ごせる時間を持つことだといいます。そして「贅沢な時間」を持つために大切なことは、自分なりの工夫と情熱だと著者は考えているのだそうです。もしお金がなかったとしても、自分なりの工夫と情熱によって、真の「贅沢な時間」をたくさん持つことができるということ。そして、そんな時間が人生を豊かにしてくれるというわけです。■勇気と想像力で素晴らしい人生にできるここで引用されているのは、喜劇王チャールズ・チャップリンの次の言葉。「人生を素晴らしいものにするために必要なものは、勇気と想像力、そしてほんの少しのお金だ」まず「勇気」は、「チャレンジ精神」といいかえてもいいだろうと著者は記しています。「自分にはなにができるだろう。どんなおもしろいことが達成できるだろう。自分には、どんな秘められた才能があるのだろう」とワクワクしながら自分の可能性を見つけ、人生を切り開いていこうとするチャレンジ精神。仕事においても、またプライベートでも、旺盛なチャレンジ精神を持ちことで、より充実した人生を実現できるという考え方です。そして「想像力」とは、自分の将来、つまり、これからの人生をよりよいものとして創造する力のこと。将来を悲観するのではなく、「自分にはこの先、大きな喜びが待っているはずだ」と信じ、喜ばしい人生を具体的にイメージする力。素晴らしい人生にするためには、この2つの力さえあれば、それほど多くのお金は必要ないとチャップリンは主張しているわけです。つまり私たちも、お金の欲に振り回されることなく、自分なりの勇気と想像力に満ちた人生を追い求めていけばいいということです。*収録されているのは、実に84種ものメッセージ。しかもひとつひとつがコンパクトにまとめられているため、空いた時間を利用して楽に読み進めることができるはずです。精神的に追い詰められていたり、漠然とした不安感から抜けきれない人は、本書のなかから答えを探し出してみるのもいいかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※植西聰(2016)『悩みごとの9割は捨てられる』あさ出版
2016年07月10日きょうは、『40代を後悔しない50のリスト【時間編】―――1万人の失敗談からわかった人生の法則』(大塚寿著、ダイヤモンド社)という書籍をご紹介したいと思います。もしかしたらタイトルを見てピンときた方もいらっしゃるかもしれませんが、ベースになっているのは2011年のベストセラー『40代を後悔しない50のリスト 1万人の失敗談からわかった人生の法則』。ビジネスパーソンが意識しておくべき考え方を記した同書を軸としつつ、今回は40代にとっての「時間」に焦点を絞っているわけです。そして大きなポイントとなっているのは、「なぜ40代にとって時間の使い方が重要なのか」ということ。でも、なぜ40代にとってそれが大切なのでしょうか?■時間の使い方は「40代の重要事項」20代、30代の方はまだイメージしづらいかもしれませんが、40代は人生において非常に意味のある時期。やっと自分の裁量で仕事ができるようになり、自分のやりたかったこと、あるいは個性やセンスが発揮できるようになる年まわりだということです。また一方、子どもの進学や親の介護など、家庭においてあらゆる問題が起こってくるタイミングでもあります。しかしそんななかで40代は、「頭ではイメージできても、物理的に時間を奪われるため実行できない」というジレンマに悩まされることにもなるのだと著者は指摘しています。「やりたいけれど、やる時間がない」「30代と同じ感覚で仕事に時間をかけられない」というような現実に直面してしまうため、時間についての考え方を一新する必要に迫られるということです。■30代と40代では大きく違う時間術もちろん、時間の使い方はどの年代にとっても重要。しかし現実的に、20代、30代の時間術と、40代のそれは決定的に異なると著者は断言します。30代までの仕事の大半は、いかに速く作業を終えるか、いかに効率的に行うかという「作業スピード」でカバーできることが中心でした。でもそれは、成果を生み出すために時間を犠牲にしていたということでもあります。しかし40代が抱える業務量は、30代までの延長線上で「もっと努力」したり、「さらなる改善」を行うことでクリアできるものではないというのです。ちょっとスピードが上がった程度では、とても解決できる量ではないということで、そこをクリアすることこそが、40代にとっての仕事なのです。具体的にいえば、時間管理の方法を根本から見なおし、仕事の進め方や意思決定、ものの見方を大幅に変え、必要とあらばこれまで身につけた「勝ちパターン」を思い切って捨てることも必要だとか。勇気が求められるでしょうが、それを乗り越えることが40代の責務なのかもしれません。■時間配分を変えることで人生が変わるいうまでもなく、時間は有限の資源。決して増やすことができず、持ち時間の総量は常に一定であるため、「資源となる持ち時間を、なににどう振り分けるか」が重要な意味を持つわけです。だとすれば、人生を変えるために大切なのは、時間の配分を変えること。時間の振り分け方を見なおすことが、仕事の成果を生みだし、人生をよりよく彩ってくれるという考え方です。とはいっても、巷にあふれる時間術にあるように、「手帳を上手に使いこなす」とか、「スキマ時間を有効活用する」ことが、時間を上手に使うということではないでしょう。仕事の成果に焦点を合わせたり、自分の価値観や生き方に合わせ、「持ち時間をなににどう配分するか」にかかっているということです。■仕事でも人生でも時間配分を変えよう端的にいえばそれこそが、「40代が考えるべき時間の使い方」。別な表現を用いるならば、ドラスティックに時間割を見なおすことが、どの年代よりも求められているというわけです。もし小手先の技術でスケジュールを調整し、わずかな自由時間をひねり出すことができたとしても、それは決して根本的な問題解決にはつながらなくて当然。もちろん仕事の効率化も大切ですが、それだけですべての問題を解決できるほど、40代の役割は小さいものではないということです。そこで仕事においても人生においても、正しく優先順位づけを行い、それを実行するために時間配分を変えることが重要だというわけです。そのことについての重要なポイントを「計画術」「習慣術」「仕事術」「マネジメント術」「生活バランス術」とさまざまな角度から検証しているだけに、本書を活用すれば、きっと未来への道筋をイメージできるようになれるでしょう。*「40代までには、まだまだ時間があるから」と感じていたとしても、現実的にそこに到達するまでの時間は驚くほど早いもの。そうでなくとも、準備は早ければ早いに越したことはありません。いつか訪れる40代をよりよいものにするために、ぜひとも読んでおきたい一冊です。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※大塚寿(2016)『40代を後悔しない50のリスト【時間編】―――1万人の失敗談からわかった人生の法則』ダイヤモンド社
2016年07月10日『30年後もお金に困らない! 共働き夫婦のためのお金持ちの教科書』(加谷珪一著、CCCメディアハウス)の著者は、日経BP 社の記者、投資ファンド運用会社での企業評価や投資業務を通じ、企業のオーナー社長やファンド出資者(個人投資家)など、多くの富裕層と接してきた実績の持ち主。そのようなバックグラウンドをバックボーンとして、お金に関する数々のベストセラーを送り出してもいます。いわば本作もそのひとつだというわけですが、特徴的なのは、「共働き夫婦のお金の残し方」に焦点を絞っているところ。しかも、お金(と、お金に対する向き合い方)を多角的に捉えているため、「必要なこと」「考えるべきこと」「すべきこと」を深く理解することができるのです。今回はそのなかから、「お金持ちのお金の使い方」をご紹介したいと思います。■まとめ買いは本当にお得?まとめ買いはたいていの場合、うまくいかないもの。著者ははっきりとそう断言しています。もちろん、まとめて買うことができ、その品物を余らせることなく完璧に消費できれば、1個あたりのコストは安くなることでしょう。しかし、それを最適に、そして常に実行していくためには、かなり綿密に計画を立てる必要があるというのです。また、日用品を安く買うことは、労力ほどの効果が得られないことがほとんどなのだとか。総額5,000円の買いものを1割安く済ませることができたとしても、1,000円のムダな買いものをしてしまうことは大いに考えられるわけです。だから、まとめ買いはホドホドにしておいたほうがいい。それが著者の考え方なのです。■お金持ちの服の買い方は?いうまでもなく、洋服はとても面倒な支出。いい洋服を着ていると、たしかに周囲の評価は高くなることでしょう。しかし、高いものを買おうと思えば、どこまでも値が張ってしまうのもまた事実。そればかりか洋服には流行があるので、同じ服を何年も着られるわけでもありません。では、どうすべきなのでしょうか?お金持ちになるための基本は「ムダな支出を抑える」ことで、それは洋服についても同じだと著者は主張します。そこで参考になるのは、服を10着しか持たず、うまく着まわしているといわれるパリジェンヌの考え方なのだとか。もちろんこの話には都市伝説的な側面がありますが、それでも学ぶべきところはあるというわけです。洋服は同じようなものを買ってしまうことが多く、ほとんど着ないままクローゼットに入れっぱなしになっていることもしばしば。しかし10着(トップス5枚、スカート3着、パンツ2本など)と決めてしまえば、そのなかで着まわしを考えるようになるため、ムダな重複支出を劇的に減らすことができるというのです。また、服の数が少なければ支出の絶対値も少額になるので、毎年思い切ってすべての服を捨てることもできそう。そうすれば、10着という制限こそあるものの、毎年、新しい服を着られるということになります。なお、同じことは男性のスーツにもいえるといいます。高いスーツをくたびれるまで着るよりも、それなりの価格のスーツを、毎年1着ずつ購入していくほうが経済的だという考え方です。そしてもちろん最悪なのは、計画性なく服を購入すること。■外食はどのように楽しむ?外食は魅力的。ですが、お金持ちになれる人と、お金に縁がない人では、その楽しみ方にも差があるのだそうです。具体的にいえばお金持ち体質の人は、事前の情報収集に力を入れ、質のよい食事を安い値段で楽しんでいるそうなのです。たとえば平日の夜にはとても入れないような高級店であっても、ランチや休日には特別メニューを設定していたりするもの。外食が上手な人は、そうしたプランをフル活用しているということです。一方、あまり計画を立てずに行動する傾向にあるのが、お金に縁がない人。いってみれば、お得なメニューに出会えるかどうかも運任せになるわけです。回数を重ねると、こうした違いも大きな金額になってくる可能性があるので、ばかにできないといいます。ちなみに、便利ではあるけれど注意しなければいけないのがファミレス。なぜなら、そこそこ満足できるとはいえ、客単価はそれほど安いわけではないから。それにファミレスと同じエリアの高級店が、時間帯によってはファミレスとほぼ同じ価格帯のメニューを提示しているケースもあるので、やはり事前チェックが大切なのだといいます。*夫婦ともに生きて行く以上は、当然ながらさまざまなお金の問題に直面することになるはずです。でも、だかといって、プロのコンサルタントやカウンセラーに解決策を求めるとしたら、そこでまたお金がかかってしまうことになります。だからこそ、まずは本書を活用しながら、夫婦二人三脚で将来について考えてみるべきかもしれません。それもまた、お金の節約につながるわけですし。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※加谷珪一(2016)『30年後もお金に困らない! 共働き夫婦のためのお金持ちの教科書』CCCメディアハウス
2016年07月09日『新入社員から社長まで ビジネスにいちばん使える会計の本』(安本隆晴著、ダイヤモンド社)の著者は、30年以上にわたって経営コンサルティングの仕事に携わってきたという人物。ユニクロ(ファーストリテイリング)、アスクル、UBICなど、複数の上場企業の社外役員を上場前から勤めてきてもいるのだといいますが、そうした活動のなかで気づいたことがあるのだそうです。多くの人は自社のビジネスの話は熱心に語るのに、会計の話になった途端に逃げ腰になるということ。会計数字の裏づけがないため、事業の内容を聞いてもまったくピンとこないというわけです。だから「会計」や「簿記」に自分から壁をつくってしまっていて、そのあたりは経理担当者や顧問税理士に任せっきりになっている人が少なくないというのです。そこで、多くの人が敬遠しがちな複式簿記の内容にはできるだけ触れず、決算書や会計の考え方が理解できるように解説しているのが本書だということ。しかし、「そうはいっても、やっぱり不安」だという方もいらっしゃるはず。そこできょうは、基本中の基本に部分に触れた「算数がわかれば『会計』は理解できる」に注目してみましょう。■会計は算数がわかればOK!世の中のすべての組織の活動を、ひとつの観点から説明するのは現実的に不可能。ところが、どんな会社の活動であっても、決算書でほとんど説明することができると著者は断言しています。会社で人が動けばお金が動き、お金が動けば会計がその動きを記録する。正しいルール(会計基準)に基づいて記録された数字(会計数字)は、絶対にウソをつかないというのです。端的にいえば、会計とはビジネスの行動指針になるとともに、事業の関係者に活動成果を報告するための道具。そして、それは決して難しいものではなく、小学校で習った加減乗除(+—×÷)がわかれば理解できるのだといいます。だとすれば、算数がわかりさえすれば会計は理解できるということになります。本当なのでしょうか?■会計の役割は舵取りと成績表そもそも社会に役立つようなビジネスにおいては、商品の品質や価格がお客様に受け入れられれば、必ず儲け(利益)が出るもの。そして儲けが出れば、少しずつ現金も貯まっていくことになります。しかし逆に、それが社会に役立たないビジネスで、お客様に受け入れられなかったとしたら、当然ですが儲けは出ません。やがて会社を立ち上げたころの元手資金も底をつき、いつかは倒産ということになるわけです。そのため経営者は、最初からきちんと儲けが出て、その儲けをどう使えば事業が続けられるのか、しっかり考えなくてはならないということ。そんなとき、「いけるぞ!」「このままだと危ない!」などのセンサーの役割を果たすのも会計なのだと著者は主張しています。大工さんが家を建てるのにノコギリやカンナを使うのと同じで、経営者は会社の舵をとるために会計という道具を使うという考え方です。そして会計のもうひとつの役割は、お金を出資してくれた株主や、お金を貸してくれた銀行などに対して「事業はこんな状況になっています」と説明するときの資料。言葉だけで説明するよりも、成績表のような数字の裏づけがあるほうが説得力は高まるということです。■会計の種類は覚える必要なしところで会計の本を読むと、「財務会計」と「管理会計」の違いが書かれていることがよくあります。「財務会計」とは株主、銀行、税務署などの社外関係者に情報を伝えるための会計。貸借対照表、損益計算書。キャッシュフロー計算書などの決算書、会計方針・注記など、法律で決められたルールをもとに書類がつくられているのだそうです。対する「管理会計」は、原価計算書や事業部別損益表などのように、経営者や管理者などの車内関係者に情報を伝えるための会計。法律で決められたルールではなく、自由な形式で資料がつくられているのだといいます。そしてビジネスの現場では、財務会計と管理会計の区別なく資料をつくったり、会計用語を使ったりしているのだといいます。また上場会社などでは、決算書の目的によって金融商品取引法会計、会社法会計、税務会計、国際会計など、いろいろな制度の会計があるのだとか。名称を並べられただけで頭が痛くなりそうですが、実際のところ、どこからが○○会計でどこからが別の会計だと定義しても難しくなるだけ。著者はそういい切ってくれるので、それだけでも少し気が楽になります。もっといえば、そのような観点に立っているからこそ、本書には一般的な会計の本のような堅苦しさ、難しさがあまりないのかもしれません。*以後も全体的に、会計の基礎をビギナー目線で手取り足取り教えてくれるようなスタンスが貫かれています。だからこそ本書を利用すれば、少なくとも会計についての“覚えておくべきこと”は頭に入れておくことができそうです。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※安本隆晴(2016)『新入社員から社長まで ビジネスにいちばん使える会計の本』ダイヤモンド社
2016年07月08日『潜在意識を使いこなす人 ムダにする人』(井上裕之著、フォレスト出版)の著者は歯学博士ですが、他にも経営学博士、コーチ、セラピスト、経営コンサルタント等、さまざまな肩書きを持っています。歯科医師と並行し、ジョセフ・マーフィー博士の「潜在意識」と経営学の権威ピーター・ドラッカー博士の「ミッション」を総合させた「ライフコンパス」を提唱。また、セミナー講師としても活躍しており、著者のセミナー会場は常に満員。1,000名規模の講演も成功させてきているそうです。つまり本書ではそんな実績を軸として、潜在意識を使いこなす人とムダにする人の違いを明らかにしているわけです(これは、「成功する人」と「そうでない人」にも置き換えられそうです)。きょうはそのなかから、お金についての両者の考え方の差を見てみたいと思います。■お金は使う人の品性次第で変わる日本人の根底には多かれ少なかれ、「お金のことを口にするのは卑しい」「お金をたくさんもらうことは不誠実である」というような考え方があるもの。しかし、著者はそうした考え方に疑問を呈しています。お金がいちばん大事だとはいわないけれども、お金がないと心は豊かになりにくく、人生の選択肢を狭めてしまうこともあるから。そう考えると「お金がありすぎる苦労」より、「お金がない苦労」のほうがはるかに問題だというのです。「貧しくても心が豊かならば」というけれど、やはりお金はあるに越したことはないということ。ユダヤ人の格言のなかに、次のような一節があるそうです。「貧乏は恥ではない。でも、名誉だと思うな」いうまでもなく、「貧乏を清いと思い、名誉だと思うことは危険だ」という意味。世の中の万物はエネルギーであり、お金自体もまた、本質はエネルギー。いいとか悪いとかの問題ではないわけです。あくまでも使う人の品性次第で、よいエネルギーにも悪いエネルギーにもなるということ。だから、「貧乏」=「清い」、「お金持ち」=「悪」ではないという考え方。ユダヤ人はこうした格言を通じて「お金の本質をよく理解しているからこそ、ためらうことなくお金に執着し、お金儲けをするのだろうと著者は分析しています。■お金に対する偏見を取り除こうそこで、もしも「お金に不自由したくない」「お金持ちになりたい」と思うのであれば、まずはお金に対する偏見を取り除くことからはじめなければいけないともいいます。では、潜在意識を使いこなす人とムダにする人とでは、お金に関する考え方にどれほどの違いがあるのでしょうか?著者によれば、潜在意識を使いこなす人は、「お金の本質」をよく理解しているのだそうです。一方、潜在意識をムダにする人は、そのあたりがよくわかっていないのだとか。心のどこかに「お金は卑しい」というマイナスのイメージを持ち、否定的な思いを抱いているというのです。だからこそ、いつまでたっても「お金が寄ってこない」=「貧乏」だというわけです。だとすれば、果たして著者自身はどう考えているのでしょうか? このことについて、著者は興味深いことを書いています。「いま、なにが欲しいですか?」と聞かれたとしたら、「いろいろあるけど、お金もそのなかのひとつ」だと即答するというのです。そしてそれは、著者自身が「お金の本質」と「資本主義社会におけるお金の価値」を正しく理解しているからだとも断言します。なぜなら誤解を恐れずにいえば、資本主義社会においては、お金を持っていれば勝てることが多いのも事実だから。■お金持ちになるには目標設定をでも、もし「お金持ちになりたい」と思ってはいても、実際にお金持ちになれる人はほんのわずか。では、なぜお金持ちになれないのでしょうか?著者によればそれは、多くの人が「お金持ちになりたい」と願ってはいるけれど、なにをもってお金持ちなのか、その定義が曖昧だから。そこで、「なぜ、お金持ちになりたいのか」「具体的にいくらくらいを持つお金持ちになりたいのか」「そのお金をどのようにして稼ぐのか」「そのためにどういう自分であるべきなのか」などを見つめなおし、具体的な目標に落とし込んでいかなければならないといいます。「お金がないからビジネスをはじめられない」という人がいますが、そういう人は「いま、持ち得ているお金でなにをすべきか」を必死に考えるべき。もしも「自分にはビジネスのセンスがない」と思うのならば、いままさに稼いでいる人から学んだり、本を読んだりして、必死に勉強をすることが重要。ところが、お金持ちになれない人は、こういう作業を「労力」と捉えてしまい、「必要な作業である」という認識がないのだと著者は指摘します。でも、そのような作業を面倒くさがってやらないから、お金持ちになれないのだそうです。*潜在意識を操れるようになれば、常に正しい「選択」と「行動」ができるようになるのだと著者はいいます。お金に対するこうした考え方も、そのひとつなのでしょう。潜在意識をさまざまな角度から操れる人になるために、目を通してみてはいかがでしょうか?(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※井上裕之(2016)『潜在意識を使いこなす人 ムダにする人』フォレスト出版
2016年07月07日一般的に「計数感覚」とは、企業活動と計数の動きを関連づけて考えられる能力のことをさします。しかし『1%の人は実践している ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』(前田康二郎著、クロスメディア・パブリッシング)の著者は、少し考え方が違うようです。計数感覚とは、「数字」と「行動」を関連づけて物事を正しく推察できる能力だというのです。そしてもうひとつ重要なポイントは、「できる人」は行動を数値化して管理しているということ。いったい、どういうことなのでしょうか?■そもそも会社の行動は数値化できる会社には、目標、予算、スケジュールなど、関係者全員に対して事前に伝えられた情報があるもの。それらを遂行し、「その結果がどうであったか」を踏まえたうえで評価が下されるわけです。そしてその結果として、予定どおりや目標どおり、あるいはそれ以上の結果であった場合、「できる人」と判断されることになります。ここからわかるのは、「会社における行動は数値化が可能」だということ。そして「できる人」は、事業計画やノルマ、スケジュールなど、あらゆる数字の管理が上手だということ。たとえば「できる人」は、会話やメールのやりとりをしていても、時系列(タイムライン)がしっかりしているもの。3日後に締め切りが設定されている仕事があったとしたら、「予備日として1日とり、その前日までに終わらせるためには、現場から明日までに情報をもらう必要がある。だから、きょうは『明日までに情報をください』とメールで連絡しなければいけない」というように、「時間の足し算引き算の感覚」が優れているというのです。■計数感覚が人からの評価を集める!いってみれば、特別な能力や学歴、職務経歴がなかったとしても、計数感覚や計数管理がしっかりしていれば、日ごろの行動の積み重ねだけで無理なく「できる人」になれるというわけです。そこで、朝、机の前に座ったら、「きょうは、これと、これと、これをやる」と、カレンダーやスケジュール表を見て唱えてみることが大切。そうすれば、1日のスケジュールを自分のなかで管理できるようになるわけです。当たり前ではありますが、しかし、実はとても大切なことではないでしょうか?著者の目から見ると、計数管理が苦手そうな人は、仕事の優先順位をあまり考えず、「来たものからとりあえずやっている」という印象が強いのだとか。しかし実際には、優先順位をつけるという、たったそれだけのことも、計数感覚を養うために重要。正しい計数感覚を備え、計数管理をすることによって、周囲からは自然と「仕事ができる人」と認識され、頼りにされるというのです。■数値化の習慣で計数感覚が身につくもしかしたら、「理論上は知っているから、プロセスを軽視したとしても問題ない。自分が知る意味はない」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、決してそういうことではないのだと著者は断言します。それではいつまでたっても、本質をつかむことはできないとも。計数感覚は、その基礎となるひとつひとつの数字に目を通し、「その結果はどうなったのか」ということの検証によって養われるものだというのです。それを繰り返し行うことで、ひとつひとつの数字から結果を推測する想像力が身につくということ。そして、みなさんのそれぞれの仕事のなかで、会社が重要視していることを数値化し、それを繰り返し検証することで計数感覚を養うことができるのだともいいます。著者の場合はそれが経理の仕事だったといいますが、営業であれば得意先の売上数値や個人の売上数値の推移がそれにあたるでしょう。数字と直接関係のない部署でも、自分自身のルーティン作業には、毎月どれくらいの時間がかかっているのか、あるいは一定時間の間にどれだけ作業をこなせたかをカウントすることも、計数感覚を養うために役立つわけです。つまり、身近のことがらについて、「もっとよい数値にするにはどうしたらいいか」を考える習慣をつける。そんなところから、計数感覚は身についていくということ。その結果、想像力=先を読んで行動する力も養うことができるそうです。*もしかしたら「数字は苦手」という人のなかには、「計数感覚」という言葉を聞いただけで身構えてしまうという方もいらっしゃるかもしれません。しかし実際には、このようにシンプルなことの積み重ね。だからこそ、日常的に意識しておけば、無理なく身についてくるものなのでしょう。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※前田康二郎(2016)『1%の人は実践している ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』クロスメディア・パブリッシング
2016年07月07日「私は6年間1日45分以下しか睡眠をとっていません」と明かすのは、『できる人は超短眠!』(堀大輔著、フォレスト出版)の著者。もはや45分睡眠で活動することは、空気を吸うように自然なことなのだというのです。しかも活力がみなぎり、集中力も増し、ストレスも解消され、健康状態も良好なのだとか。そんな著者によれば、短眠の習慣をつけるためには「7つのルール」が大切なのだそうです。いったいどんなルールなのか、ひとつひとつを確認してみましょう。■習慣1:二度寝やスヌーズ機能使用の禁止二度寝をすると、(本来備わっているはずの)起床を促すホルモンが出なくなるのだそうです。また、目覚まし時計がないと起きられないような暮らしをしている人は、(本来備わっているはずの)本能的な睡眠力が減退してしまうため、睡眠障害や不眠症に陥りがちなのだといいます。そこで、起床がつらい人ほど、生活リズムを180度変えるようなつもりで、二度寝や目覚まし時計のスヌーズ機能を使わないと決断をすることが大切。■習慣2:自分の睡眠記録する食べたものと摂取カロリーを記録し続ける「レコーディング・ダイエット」のように、毎日の自分の睡眠時間を記録する習慣を。何時に寝て何時に起きたのかはもちろんのこと、入眠時の感覚、寝起きの状態、日中の活動記録などをつけておく。そうすることにより、自分の活動と眠気、睡眠時間との関係性を分析し、改善することが可能になるわけです。■習慣3:起床時間を固定する入眠時間を固定するよりも、大切なのは起床時間を固定するべき。たとえば7時に起きると決めたら、たとえ何時に寝たとしても7時に起きるということ。入眠時間がどのようなタイミングであっても、起床時間を固定すると、レム睡眠とノンレム睡眠のリズムを調整するコルチコトロピンというホルモンが有利に働き、寝覚めがよくなるのだそうです。その結果、生活のリズムが整いやすくなり、感情の揺れも抑えられるわけです。■習慣4:1日1回はパワーナップをするパワーナップとは、夜の睡眠(本眠)ではなく、昼間に眠気を感じたとき15分程度とる仮眠のこと。睡眠に“質”という概念はないのだと著者はいいますが、パワーナップに関しては短時間で眠気をとるための効率が期待できるそうです。日中の一度のパワーナップが、本眠の1時間半ぶんにも匹敵する睡眠効果を発揮することも珍しくないのだといいます。著者がオススメしているのは、日課(ルーティンワーク)として取り入れられる仕組みをつくること。パワーナップの時間を最初から決めておくとか、休憩時間やお昼休みに合わせるということです。なおパワーナップは長ければいいというものではないので、休み時間が10分しかとれないという場合でも問題ナシ。■習慣5:眠る前にストレッチをすることを習慣にするストレッチは短眠にとって大切な習慣。しかし難しいものではなく、手足の先端まで血液を流すこと、膝の裏の筋を伸ばしておくこと、そして股関節の鬱血した血液を流すだけで十分だそうです。たった2分のストレッチ運動でも、目覚めのスッキリ感は別次元だといいます。■習慣6:週に1~2回であれば、長時間睡眠OK短眠のカリキュラムを実行しているときでも、どうしてもつらかったり、のっぴきならない覚醒時の諸事情があったりする場合も考えられるでしょう。しかしそんなとき、週2回までなら長時間睡眠をしても大丈夫だと著者は伝えているといいます。ただし、2日連続の長時間睡眠はNG。恒常性維持機能(内部・外部の環境の変化によって身体のリズムが左右されないように維持する力)を長時間睡眠に合わせないためだそうです。たとえば土日が休みだからといって土日に寝だめしてしまうと、月曜日の朝やその後のウィークデーに、地獄のような睡眠不足の感覚を味わうことになってしまうというのです。■習慣7:本書を1日1回は広げて、短時間睡眠の知識を上書きする世の中には「長時間睡眠こそ正義」という理論が氾濫していて、意識しなくても勝手に情報が入ってくると著者はいいます。そして、だからこそ本書を何度も読むことが大切だとも。長時間睡眠に関する情報を遮断することも悪くはないものの、「短眠で生活することは間違っていない」と自分に刷り込むことが非常に大切だということ。*これ以外にも短眠を実現するための方法が細かく解説されており、その他、睡眠の常識を覆す新事実なども。当然のことながら、すべての人に適しているとは断言できないでしょうが、その一方にはこのメソッドを有効活用できる人もいるはず。短眠が自分に向いていると自負できる人にとっては、活用度の高い一冊になるかもしれません。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※堀大輔(2016)『できる人は超短眠!』フォレスト出版
2016年07月04日ヨガはこれからのビジネスマンにとって、ランニングやウォーキング、ラジオ体操などと同じくらい一般的な習慣になる。そう断言するのは、『外資系エリートがすでに始めているヨガの習慣』(竹下雄真著、ダイヤモンド社)の著者。フィットネスクラブでウェイトトレーニングを中心とした肉体改造に携わったのち、心身をバランスよく鍛える手段としてのヨガの可能性に大きく共感。現在は会員制のヨガスタジオを、東京の広尾で運営しているという人物です。「姿勢」「呼吸」「瞑想」からなるヨガとは「フィジカル」と「メンタル」両方に作用する最強のエクササイズ。心と体が持つ本来のパワーを取り戻し、100%機能するように調整していくのだといいます。そして世界のビジネスエリートやトップアスリートは、ヨガの習慣がこれからの時代に必要であることを知っているのだとか。だからこそ著者のヨガスタジオにも、大企業の経営者からプロのアスリートまでが訪れているのかもしれません。■私たちには引き算エクササイズが必要興味深いのは、現代人に必要なのは「足し算」のエクササイズではなく、「引き算」のエクササイズであるという考え方。子どものころとは違って、大人になるとさまざまなものがのしかかってくるもの。たとえばテレビ、パソコン、スマホからは常に情報が垂れ流され、SNSでは嫌でも知人や友人の近況が飛び込んできて、しかも仕事に関する焦りやプレッシャーなど、あらゆる思いに囚われてしまうということ。その結果、朝の目覚めも悪くなり、起きたときから体はガチガチ。肩や首は重りが乗ったような感覚で、腰にも鈍痛。思考もモヤモヤし、幸福感とはほど遠い状況に……。いわば年齢を重ねるにつれ、体には余計な脂肪がつき、気持ちには余計な感情がこびりついてしまうということです。だとすれば、悲惨な状況から抜け出すために、心身をリセットする必要があるわけです。パソコンにたとえるなら、メモリがいっぱいになっているような状態だということ。そこでいったんリセット・リブートし、バージョンアップさせなければいけないわけです。■筋トレでは根本的な解決にならない!ちなみに本来の体調を取り戻し、健康でい続けるために、「筋トレ」を選ぶ人も少なくないはず。もちろん著者も、それを否定してはいません。体ががっちりとすれば、風邪もひきにくくなり、自信もつくはずだから。ただし、それが根本的な解決にはならないのも事実だというのです。筋肉をつけることで、ストレス耐性は高まるかもしれない。けれど、いってみればそれは鎧を着込むようなものだから。いい方を変えれば、“鎧を着込む”筋トレは「プラス」のエクササイズだということになるわけです。しかし、現代人のほとんどに必要なエクササイズは、むしろ余計なものをそぎ落とす「マイナス」のエクササイズではないか? 著者は、そう考えているのだといいます。そこで、ヨガに注目すべきだということ。なぜならヨガは、余計なものを取り除く「マイナスの」エクササイズだから。ストレスなど余計な情報をそぎ落とすことによって、「本来の自分の姿」が浮かび上がってくるのです。そしてその姿こそが、真の健康的なあり方だということ。■ヨガの瞑想がストレス解消にも効果的なお、ヨガは体だけではなく、心の健康にもよい影響を与えるのだといいます。ヨガを習いに行くと、一連のポーズをとったあとに5分から10分の瞑想(正確にはシャバーサナ)の時間があるもの。体の力を抜き、思考を空っぽにするわけです。近年、瞑想やマインドフルネスが注目されていますが、ポーズのイネージが強いヨガも、実は瞑想の要素が大きいということです。問題は、「ヨガは難しそうだ」というように感じている人が依然として多いこと。その原因は、「アーサナ」「プラーナ」「ニヤマ」など、難解な専門用語にあると著者も指摘しています。ヨガの思想は奥が深いので、そのすべてを理解するのはなかなか難しいわけです。しかし、それらを深く理解することよりも大切なのは、難しいことを考えず、楽しんでみること。呼吸を意識しながら、自分が気持ちいいようにポーズをとってみる。ストレスや情報で頭が混乱したら、軽く瞑想をやってみる。そうやって、少しずつ実践することによってヨガの楽しさに触れ、気軽に人生に取り入れることこそが重要だというのです。*本書には、ヨガに関する基本的な知識はもちろんのこと、すぐに実践できるヨガなども数多く紹介されています。気軽にそれらを取り入れてみれば、日々のパフォーマンスはきっと高まることでしょう。(文/作家、書評家・印南敦史) 【参考】※竹下雄真(2016)『外資系エリートがすでに始めているヨガの習慣』ダイヤモンド社
2016年07月03日