ポーラ美術館の開館20周年記念展「モネからリヒターへ ― 新収蔵作品を中心に」が4月9日(土)~9月6日(火)に渡り、同美術館で開催される。2002年9月6日に開館したポーラ美術館は開館以来、創業家2代目の鈴木常司(1930-2000)が戦後約40年をかけて収集したコレクションを公開し、これを基盤としてさまざまな企画展を開催。2012年の開館10周年を機に、当館は森の遊歩道の整備と開放、野外彫刻の設置、現代美術ギャラリーの開設、体験型の展示の開催、ラーニング・プログラムの実施など、その活動を広げてきた。また、近年では従来のコレクションに加えて、20世紀から現代までの美術の展開を跡づけるために重要な作品の収集を行っています。本展覧会は、鈴木常司が収集したコレクションと、近年新収蔵した作品を合わせて紹介する初の機会となる。本展の企画にあたり、主要なテーマとしたのは「光」。クロード・モネをはじめとする印象派の画家たちは光の表現を追究していますが、ゲルハルト・リヒターやケリス・ウィン・エヴァンスなどの現代の作家たちの作品にも、光への強い関心をうかがうことができる。本展覧会では、ポーラ美術館のコレクションの「現在(いま)」をご紹介するとともに、美術館の未来とコレクションの可能性を探っていく。見どころは以下の通り。<1・従来のコレクションを拡充し、近代と現代をつなぐ新収蔵作品を一挙初公開>鈴木常司のコレクションは西洋・日本とも19-20世紀の近代絵画が中心。しかし新収蔵作品はこれを拡充するものと従来のコレクションにない、近代と現代をつなぐ戦後の日本や欧米の絵画、そして同時代の作家たちの作品であり、そのほとんどが初公開となる。<2・新旧の名品を並べて展示する第1部、新収蔵作品の特徴がわかる第2部の全2部構成>本展覧会は、鈴木常司のコレクションと新収蔵作品を組み合わせた第1部と、従来のコレクションには含まれていない、近代と現代を結ぶ作家たちの作品を紹介する第2部とで構成。特に第2部では初めて収蔵する作家の名品が多数含まれており、コレクションの新たな展開が明確にわかる内容となっている。<3・ポーラ美術館全館と森の遊歩道を会場とした、当館史上最大の超大型企画>本展覧会では、従来のコレクションと新収蔵のコレクションをできるだけ多く観覧するため、館内の5つの展示室、2017年に新設された現代美術を展示するアトリウム ギャラリー、ロビー空間、森の遊歩道にいたるまで作品を展示。ポーラ美術館開館以来、最大規模の超大型企画となる。<4・印象派から現代へ―。「光」にまつわる作品がラインナップ>「箱根の自然と美術の共生」を設立のコンセプトとするポーラ美術館にとって、「光」は建築や照明デザイン、そしてコレクションの重要なテーマ。移ろう光を絵画に描き留めようとしたモネやルノワールら19世紀の印象派の画家たちの作品から、シャイン(光=仮象)を表現し続けるゲルハルト・リヒター、光の色そのものを写し撮る作品を展開する杉本博司、ネオン管を用いたケリス・ウィン・エヴァンスの作品まで、印象派から現代までの「光」にまつわる作品を数多く紹介する。<展覧会構成>第1部:鈴木常司が収集したコレクションと、これをさらに拡充する新収蔵作品を、テーマや時代、作家ごとに組み合わせて紹介。例として、鈴木常司のコレクションの中心となる印象派絵画では、女性像(ルノワール、レジェ、ロベール・ドローネー他)、水辺の風景(モネ、ニコラ・ド・スタール他)、静物(セザンヌ、ベン・ニコルソン他)、マティスとフォーヴィスムなどテーマ別に展示する。日本の近代洋画では、時代や流派、作家ごとに展示。例として大正の洋画(岸田劉生、村山槐多、関根正二)や日本のフォーヴ(里見勝蔵、佐伯祐三他)、その他、レオナール・フジタ(藤田嗣治)や松本竣介、坂本繁二郎など、作家ごとに観覧可能。第2部:従来のコレクションには含まれていない、近代と現代を結ぶ作家たちの作品を紹介。とりわけ重要なのは、山口長男、山田正亮、猪熊弦一郎らの戦後日本の抽象絵画、ジャン・デュビュッフェ、斎藤義重、白髪一雄、中西夏之らマティエール(材質感)を探究した画家たち、そしてモーリス・ルイスやヘレン・フランケンサーラー、ゲルハルト・リヒターら欧米の作家たちによる抽象絵画だ。その他にもアニッシュ・カプーア、中林忠良、杉本博司、三島喜美代、ケリス・ウィン・エヴァンス、ロニ・ホーン、スーザン・フィリップスなど現在も精力的に活動する多様な作家たちの作品も含まれており、ポーラ美術館の新しいコレクションの在り様を楽しめる。■展示情報ポーラ美術館開館20周年記念展「モネからリヒターへ ― 新収蔵作品を中心に」4月9日(土)~9月6日(火)会期中無休会場:ポーラ美術館道主催:公益財団法人ポーラ美術振興財団 ポーラ美術館関連プログラム:詳細が決まり次第、展覧会ウェブサイトにてお知らせ。
2022年01月19日国立文化財機構 文化財活用センター〈ぶんかつ〉は、令和5(2023)年度「国立博物館収蔵品貸与促進事業」実施対象館を募集します。本事業では、東京国立博物館・京都国立博物館・奈良国立博物館・九州国立博物館(いずれも国立文化財機構)が全国の美術館・博物館に対し、地域ゆかりの収蔵品を貸し出し、〈ぶんかつ〉が作品輸送費等を支出します。※令和5(2023)年4月下旬から令和6(2024)年3月末までに開催される展覧会が対象です。本事業によって、立地条件等により、これまで国立博物館の収蔵品に親しむ機会が限られていた地域に対し、文化財が広く公開されること、日本とアジアの歴史・伝統文化の発信、地域文化の創生、次世代への文化財の継承、観光振興につながることをめざします。募集チラシこれまでに23施設16都府県で貸与促進事業の展覧会が開催過去の事業実績(展覧会)はこちらから ◆事業内容<主な展覧会開催費用について>本事業では、次の費用を〈ぶんかつ〉が支出します。(1)国立博物館貸与品の梱包・開梱および展示・撤収作業にかかる費用(2)国立博物館から貸与先へおよび貸与先から国立博物館への本事業の貸与品の輸送にかかる費用(3)国立博物館貸与品の保険にかかる費用※詳細につきましては必ず申請要項をご確認ください。<以下のいずれかのカテゴリーへの申請が可能です。>(1)【大規模貸与】1申請につき21~50件の国立博物館収蔵品を貸与/各年度1~2か所を選定予定(2)【小規模貸与】1申請につき20件以内の国立博物館収蔵品を貸与/各年度4~5か所を選定予定<申請にあたっては、以下のいずれかの方法で借用希望作品リストを作成してください。>(方法1)国立博物館の収蔵品の中から申請館が自ら設定したテーマに沿って作品を自由に選択してリストを作成。(方法2)貸与可能作品が掲載されたリスト(a. 【日本考古】およびb. 【黒田】)を活用し、必要に応じてその他の国立博物館の収蔵品を加えてリストを作成。a. 【日本考古】東京国立博物館所蔵の各時代や地域を代表する日本考古資料の優品28件。(『申請要項』別紙1-(1)参照)貸与可能作品例左:深鉢形土器(縄文時代〔中期〕・前3000~前2000年、長野県伊那市宮ノ前出土)、中央:みみずく土偶(縄文時代〔晩期〕・前1000~前400年、埼玉県鴻巣市滝馬室出土)、右:埴輪 馬(古墳時代・6世紀、群馬県伊勢崎市下触町出土)※いずれも東京国立博物館所蔵b. 【黒田】東京国立博物館所蔵の黒田清輝の代表作12件。(『申請要項』別紙1-(2)参照)貸与可能作品例左:読書(明治24年〔1891〕)、中央:重要文化財 舞妓(明治26年〔1893〕)、右:重要文化財 湖畔(明治30年〔1897〕)※いずれも黒田清輝筆、東京国立博物館所蔵◆本事業の対象となる美術館・博物館について文化庁長官の承認を受けた公開承認施設および博物館法で定められた登録博物館、博物館相当施設であれば、公私立を問わずにご応募いただけます。貸与条件や事業内容の詳細ならびに申請方法につきましては、<ぶんかつ>WEB掲載の「2023(令和5)年度 国立博物館収蔵品貸与促進事業実施対象館申請要項」を必ずご確認ください。<ぶんかつ>WEB 2023年度 国立博物館収蔵品貸与促進事業 申請要項URL: 全国の美術館・博物館からのご応募をお待ちしております。◆これから開催される令和3(2021)年度「国立博物館収蔵品貸与促進事業」展覧会「やまと絵のしらべ ―帆山花乃舎と復古大和絵―」展 会場 : 桑名市博物館(三重県)会期 : 2022年1月22日(土) ~ 2022年2月27日(日)貸与件数 : 18件公式サイト: 見どころ : 桑名出身の帆山花乃舎(1823~1894)は、復古大和絵派の絵師として活躍した画僧です。花乃舎は内国勧業博覧会への作品出品で全国的に名声を高めた一方で、桑名萬古焼の再興に挑んだ初代森有節(1808~1882)に絵を教えるなど、地域文化と芸術の発展に大きな貢献を果たした人物でした。花乃舎が師事した浮田一けい(草かんむり+惠)(1795~1859)や渡辺清(1778~1861)、そして復古大和絵の祖である田中訥言(1767~1823)の作品など18件の文化財を、東京国立博物館ならびに京都国立博物館からお貸し出しし、花乃舎の画風の源流とその功績を紹介します。桑名市博物館「やまと絵のしらべ ―帆山花乃舎と復古大和絵―」展チラシ(令和3年度国立博物館収蔵品貸与促進事業)※最新情報は博物館の公式サイトなどでご確認ください。▼ぶんかつSNSYouTubeチャンネル : Instagram @cpcp_nich: Twitter @cpcp_nich : 詳細はこちら プレスリリース提供元:@Press
2022年01月11日新国立劇場の演劇『あーぶくたった、にいたった』が12月7日に公演初日を迎えた。本作を生んだ「こつこつプロジェクト」は、時間に追われない稽古の中で、作り手の全員が問題意識を共有し、作品への理解を深め、舞台芸術の奥深い豊かさをひとりでも多くの観客の方々に伝えられる公演となることを目標とする。そして1年間かけて試演を重ね、その都度、演出家と芸術監督、制作スタッフが協議し、上演作品がどの方向に育っていくのか、またその方向性が妥当なのか、そしてその先の展望にどのような可能性が待っているのかを見極めて製作してきた。本企画の第1期は2019年3月から20年3月まで行われた。演出家の・西沢栄治はプロジェクトがスタートした「令和」という新たな時代に「昭和」という時代とそこに生きた名もなき人々について思いを馳せ、別役実がさまざまなかたちで描き続けた「小市民」シリーズ、なかでもこの『あーぶくたった、にいたった』に惹かれたという。ネット上での承認欲求、自己発信だらけの現代において、もはや絶滅危惧種となった「小市民」の有様を見つめ捉えなおすことで、生活者レベルの日本人論にたどり着きたいという西沢。本作は別役戯曲を鮮やかに立体化し、次世代にその魅力を伝える。<演出:西沢栄治・コメント>まさかここまで長い付き合いになるとは。こつこつプロジェクトは1年間の試みでしたが、企画立ち上げから数えれば足掛け3年!いまではすっかり別役実のとりこです。そうして時間をかけた愛着のある芝居がやっと御披露目になるのですが、早く観てほしいのと同時に、いつまでも稽古していたいような、なんとも不思議な感覚です。あぁ、これが「こつこつ」の効能なのか。共に歩んでくれたキャスト・スタッフには本当に感謝。舞台の上には彼らとチャレンジを続けた成果があります。あぁ、やはり早く観てほしい。不条理劇? いやいや、そんなふうに難しく考えず、クスクス笑いながら別役さんの風に身をまかせてみてください。『あーぶくたった、にいたった』上演は東京・初台の新国立劇場 小劇場にて、12月19日(日)まで。■公演情報演劇『あーぶくたった、にいたった』12月7日(火)~19日(日)会場:新国立劇場小劇場作:別役実演出:西沢栄治芸術監督:小川絵梨子主催:新国立劇場出演:山森大輔浅野令子木下藤次郎稲川実代子龍 昇
2021年12月09日日本初のタロットカード美術館「東京タロット美術館」が、東京・浅草橋に誕生。2021年11月16日(火)よりオープンする。日本初!タロットカード専門の美術館「東京タロット美術館」は、日本で最初にタロットカードの輸入販売をはじめたニチユーが手掛ける、日本初のタロットカード専門美術館だ。ニチユーの直営施設としてオープンする美術館は、同社が保有する約3,000種類のタロットカードのコレクションをもとに、企画展示を実施。普段はなかなか出会えない希少なタロットカードの公開をはじめ、絶版品を含む約500種類のタロットカードの展示販売も常時実施する。ライブラリースペースを併設また併設のライブラリースぺースでは、約1,000種類のカードの絵柄をオリジナルのカタログで閲覧できるほか、カードサンプルや関連書籍も自由に読むことが可能。そのほか手土産にもぴったりなオリジナルグッズや、セレクト商品の販売も行われる。原画展示や占星術のセッションなどなお「東京タロット美術館」では、今後タロットカードの原画展をはじめ、タロットや占星術を用いた対面セッションなど、タロットにまつわる様々な企画を計画中。来館の際は日時指定の予約制となっているため、気になる人は是非チェックしてみてほしい。【詳細】「東京タロット美術館」オープン日:2021年11月16日(火)住所:東京都台東区柳橋2-4-2 Ubase浅草橋6階営業時間:平日 10:00~20:00、土曜日 9:00~18:00 ※公式ウェブサイトから予約制。入館料:500円定休日:日曜日(イベント開催日は除く)、祝日、年末年始、他季節休業有
2021年11月18日2017年に約30年間活動した旧八戸市美術館が閉館し、生まれ変わった八戸市美術館が11月3日(水・祝)にオープンした。新しい美術館は、建築家の佐藤慎也館長のもとに「種を蒔き、人を育み、100年後の八戸を創造する美術館〜出会いと学びのアートファーム〜」をコンセプトとしている。「もの」としての美術品展示を中心とした従来の美術館とは異なり、アートを介した人の活動に焦点を当て、「もの」や「こと」を生み出す新しい形の美術館となる。同館では、美術館活動に主体的に関わる人を「アートファーマー」、美術館活動を一緒に行う市民や団体、教育機関、企業などを「共創パートナー」と呼ぶ。アーティストや美術館スタッフ、市内外から訪れる多様な人々がともに活動し、新たな文化が創造され、八戸市全体の活性化にもつながることを目指している。テープカット。手前が佐藤慎也館長、隣が開館記念「ギフト、ギフト」のディレクター、吉川由美。老朽化していた建物は、西澤徹夫建築事務所・タカバンスタジオ設計共同体によって全面的に建て替えられた。美術館を象徴する面積約834㎡、天井高約17mの巨大空間「ジャイアントルーム」では、プロジェクトで話し合ったり、つくったり、ライブイベントが行われたりと、多様な動きが同時多発的に起こる。9mのカーテンや家具で自在に空間を仕切ることができるジャイアントルーム。また、展覧会を行う「ホワイトキューブ」やコレクションを展示する「コレクションラボ」、映像展示に適した「ブラックキューブ」、パフォーミングアーツや展示、講演を行う「スタジオ」など、それぞれの機能に特化した「個室群」が並ぶ。その時々でこれらの部屋を自由に組み合わせることも可能だ。開館記念「ギフト、ギフト、」は、アートプロデューサーの吉川由美をディレクターに迎え、八戸のシンボル「八戸三社大祭」を出発点として企画された。9組のアーティストと、共創パートナー「八戸クリニック街かどミュージアム」の浮世絵コレクションからなる展覧会、向井山朋子によるパフォーマンスプロジェクトで構成されている。八戸では、お年寄りから子どもまでが山車造りに参加するなど、世代を超えて祭りが受け継がれている。そうした創造活動を、過去から未来へ、人から人へと循環する「贈与」=ギフトとして展覧会が構想された。大西幹夫「八戸三社大祭絵巻」展示風景切り絵作家、大西幹夫が八戸三社大祭300年の歴史を描いた「八戸三社大祭絵巻」の切り絵とアニメーション映像から始まり、写真家の浅田政志が祭りを支えるコミュニティを撮影した写真群へと続く。山車からイメージを膨らませた桝本佳子の陶器や半磁器。田附勝が八戸発祥といわれるデコトラ(電飾で飾ったトラック)を撮影した写真。いずれも八戸を賑わす音や声が聴こえてくるようだ。浅田政志の新作写真14点と膨大なスナップ写真(市民より提供)を展示桝本佳子《波濤/皿》2021年田附勝が撮影したデコトラ写真の展示風景三社大祭に使われた山車彫刻を、市民から集めた柄毛布で包み、彩った江頭誠のインスタレーションは圧倒的だ。また、美術館を建築した西澤徹夫、浅子佳英、森純平がアーティストとしても参加。八戸の文化をリサーチして制作した「八戸文化資源相関図」では、漁業や遊郭、消防屯所などの解説の合間に、八戸市美術館の所蔵作品が組み込まれている。また、田村友一郎、KOSUGE1-16が現代社会の中のギフトのありように問いを投げかけてもいた。江頭誠《おやすみのあと》2021年西澤徹夫、浅子佳英、森純平《八戸文化資源相関図》展示風景KOSUGE 1-16《インバウンドおじさん》2021年八戸を知ることから、日本及び世界にも通じる問題や提案が、明るさやユーモアを交えて表現された展覧会だった。今後、美術館にどのような景色が繰り広げられていくのか楽しみだ。取材・文・撮影(外観以外):白坂由里【開催情報】『八戸市美術館開館記念「ギフト、ギフト、」』11月3日(水・祝)~2022年2月20日、八戸市美術館にて開催
2021年11月15日新国立劇場の演劇『イロアセル』が11月11日に開幕。作・演出の倉持裕と出演の箱田暁史からコメント、及び舞台写真が到着した。小川絵梨子芸術監督が、その就任とともに打ち出した支柱の一つ、「演劇システムの実験と開拓」として、すべての出演者をオーディションで決定する「フルオーディション企画」。第1弾『かもめ』(演出・鈴木裕美)、第2弾『反応工程』(演出・千葉哲也)、第3弾『斬られの仙太』(演出・上村聡史)に続く、第4弾として上演されるのは、2011年10月に倉持裕が新国立劇場に書き下ろした『イロアセル』。演出に作者でもある倉持裕自身を迎え、20年10月より公募を開始、11月末から約3週間をかけて開催したオーディションを経て、10名の出演者が決定した。物語の舞台は海に浮かぶ、小さな島。その島民たちの言葉にはそれぞれ固有の色がついている。それは風に乗って島の空を漂い、いつ、どこで発言しても、誰の言葉なのかが島のどこにいても特定されてしまう。だから島民たちはウソをつかない。ウソをつけない。ある日丘の上に檻が設置され、島の外から囚人と看守がやって来る。島民は気づく。彼らの前で話す時だけは、自分たちの言葉から色がなくなることにーー。ネット上に溢れる匿名だからこそ話せる抑えてきた本音、匿名という隠れ蓑を利用した無責任な発言。『イロアセル』は2020年代のSNS社会を揶揄したような架空の島のおとぎ話となっており、ネット社会やコロナ禍において、対面を必要とせず、言葉だけに頼るコミュニケーションツールが発達・増加した現代に、日常における対話や発言の在り方を、今改めて問いかける。<コメント>■演出:倉持裕フルオーディションによるキャスティング、稽古、スタッフミーティング、いずれもじっくり時間をかけて当たりました。おかげでいつもより平常心でこの日を迎えることが出来た気がします。この作品は、SNS社会に対する批評がベースにはありますが、人間の業を描いた喜劇でもあります。そんなテーマやストーリーのことなど考えず、色とりどりの仕掛けを眺めているだけでも楽しめると思います。皆様、ぜひご覧ください。■出演:箱田暁史コメント第4回目のフルオーディション公演『イロアセル』がいよいよ開幕となりました。「囚人」とはいったい何なのか?「色」とは?ずっと考えています。私たちはいつも他人の目を気にし評価を気にしています。それは必要なことです。より良い社会とはみんながちょっとずつ我慢することできっと成り立っている。出さなかった声があるということです。じゃあその我慢した声、思いはなかったことになるのか?そんなことできるのかな?みたいなことをぐるぐる考えているんです。こういうことって一言で言い表せないから物語が、演劇が存在しているんだと思います。ぜひ劇場で、体感していただけたらなと思っています。【公演概要】令和3年度(第76回)文化庁芸術祭主催公演演劇『イロアセル』作・演出:倉持 裕芸術監督:小川絵梨子主催:文化庁芸術祭執行委員会 / 新国立劇場出演:伊藤正之東風万智子高木 稟永岡 佑永田 凜西ノ園達大箱田暁史福原稚菜山崎清介山下容莉枝会場:新国立劇場小劇場公演日程:2021年11月11日(木)~28日(日)<チケット発売中>料金(税込):A席7,700円 / B席3,300円公演詳細: チケットに関するお問い合わせ:新国立劇場ボックスオフィス:03-5352-9999(10:00~18:00)Webボックスオフィス:
2021年11月12日新国立劇場における2021 / 2022シーズン演劇「声 議論, 正論, 極論, 批判, 対話…の物語」の『アンチポデス』、『ロビー・ヒーロー』、『貴婦人の来訪』3作品の出演者が決定した。小川絵梨子芸術監督による4年目のシリーズ企画は「声 議論, 正論, 極論, 批判, 対話…の物語」。対面を避け言葉だけのコミュニケーションとそのツールを手に入れた現代人が一方的に投げつける、あるいは、投げつけられる言葉。その多くは時に正論のようでただの批判になっていないだろうか、極論をぶつけるだけで議論として成立さえしていないのではないか、相手を傷つけることが目的になっていないか。直接耳に届く声と、内なる声に耳を傾け、そこから始まる議論や対話を描く作品が並ぶ。第1弾は『フリック』で 2014年ピューリッツァー賞も受賞したアニー・ベイカーによる演劇『アンチポデス』。「地球の裏側」を意味するタイトルを冠した戯曲に登場するのは、閉ざされた部屋で物語を作り出す、という作業をしている8人の男女。「人に渡す言葉の在り方を、他者との関係性を、今一度、立ち止まって考えたい」というテーマのもとおくる「ものがたりを紡ぐ“言葉”にまつわる物語」。危機に陥った世界にとって「ものがたり」がどのような価値を持つのか、観客と一緒に考えたいと、小川絵梨子自らが演出を務める。出演は白井晃、高田聖子、斉藤直樹、伊達暁、富岡晃一郎、亀田佳明、草彅智文、八頭司悠友、加藤梨里香。シリーズ第2弾は、2017年アカデミー賞脚本賞受賞で話題となった映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のケネス・ロナーガンが執筆した『ロビー・ヒーロー』。自分のやりたいことを見いだせずロビーの警備員として過ごしている若者が、おもわず口を滑らせてしまったことから起きるトラブルとその顛末を描く。ジェンダーや上司と部下、人種など、さまざまな格差のレイヤーがある中で、彼なりに考えて起こした行動は、果たして正義なのか、正論とはいったい何なのか。自己承認欲求がSNSであふれ出す現在、さまざまな角度から考えられ身近に感じる戯曲となっている。2001年にオフ・ブロードウェイ初演、翌年にはウエストエンドで上演、18年にはブロードウェイでリバイバル上演された本作を、新国立劇場初登場の桑原裕子を演出に迎え、日本初演で立ち上げる。出演は中村蒼、岡本玲、板橋駿谷、瑞木健太郎。第3弾は、フリードリッヒ・デュレンマットの代表作『貴婦人の来訪』だ。1956年に初演された本作は、全体主義へと傾倒していった社会への痛烈なアンチテーゼとして話題を呼び、その後は世界各国で多くの演出家の手によって上演。舞台のみならず、映画やオペラ、ミュージカルとしても上演され続けている名作である。議論を重ねた上での他者との対話が、人間関係にどのような影響を及ぼし、どのような社会を形成するのか。演出に、新国立劇場では『どん底』での大胆でユニークな演出も記憶に新しい五戸真理枝を迎えて届けるシリーズ最終作。出演は秋山菜津子、相島一之、山野史人、加藤佳男、外山誠二、福本伸一、津田真澄、山本郁子、斉藤範子、高田賢一、清田智彦、谷山知宏、髙倉直人、福本鴻介、田村真央ほか。魅力的なラインナップが揃った「声 議論, 正論, 極論, 批判, 対話…の物語」。第1弾『アンチポデス』は2022年4月8日より上演予定。■公演情報「声 議論, 正論, 極論, 批判, 対話…の物語」 Vol.1『アンチポデス』2022年4月8日(金)~24日(日)<プレビュー公演:4月3日(日)・4日(月)>会場:新国立劇場 小劇場一般発売日:2022年3月13日(日)料金:A席7,700 円 / B席3,300円(税込)<プレビュー公演:A席5,500円 / B席2,200円(税込)>公演詳細: 出演:白井晃、高田聖子、斉藤直樹、伊達暁、富岡晃一郎、亀田佳明、草彅智文、八頭司悠友、加藤梨里香「声 議論, 正論, 極論, 批判, 対話…の物語」 Vol.2『ロビー・ヒーロー』2022年5月6日(金)~22日(日)<プレビュー公演:5月1日(日) ・ 2日(月)>会場:新国立劇場 小劇場一般発売日:2022年4月10日(日)料金:本公演A席7,700円 / B席 3,300円(税込)<プレビュー公演:A席 5,500円 / B席2,200円(税込)>公演詳細: 出演:中村蒼、岡本玲、板橋駿谷、瑞木健太郎「声 議論, 正論, 極論, 批判, 対話…の物語」 Vol.3『貴婦人の来訪』2022年6月1日(水)~19日(日)会場:新国立劇場 小劇場一般発売日:2022年5月7日(土)料金:A席7,700円 / B席3,300円(税込)公演詳細: 出演:秋山菜津子、相島一之山野史人、加藤佳男、外山誠二、福本伸一、津田真澄、山本郁子、斉藤範子、高田賢一、清田智彦、谷山知宏、髙倉直人、福本鴻介、田村真央 ほか<シリーズ「声」演劇3作品通し券>20,700円(正価23,100円のところ、10%オフ)※購入特典として「プラスワンチケット 10%割引きクーポン」をもれなくプレゼント!詳細:
2021年11月10日舞台『ロビー・ヒーロー』のプレビュー公演が2022年5月1日(日)から2日(月)まで、本公演が5月6日(金)から22日(日)まで東京・新国立劇場 小劇場で行われる。一般チケットは2022年4月10日(日)より発売スタート。主演は中村蒼が務める。トラブルを巻き起こす警備員が主人公の舞台『ロビー・ヒーロー』舞台『ロビー・ヒーロー』は、2017年アカデミー賞脚本賞を受賞した映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のケネス・ロナーガンが手掛けた作品。自分のやりたいことを見い出せずロビーの警備員として働く若者が、思わず口を滑らせてしまったことから起きるトラブルとその顛末が描かれている。世界では2001年にオフ・ブロードウェイで初演され、翌年2002年にウエストエンドで上演された。主演・中村蒼で日本初演そんな舞台『ロビー・ヒーロー』が桑原裕子を演出に迎え、新国立劇場 小劇場で日本初演されることに。主人公の警備員役には、2006年に新国立劇場小劇場で上演された『田園に死す』で俳優デビューを果たした中村蒼を起用。その他のキャストには、岡本玲、板橋駿谷、瑞木健太郎が名を連ねる。なお、舞台『ロビー・ヒーロー』は、新国立劇場2021/2022シーズン3作品のひとつで、シリーズ「声 議論,正論,極論,批判,対話・・・の物語」の第2弾として上演される。公演概要舞台『ロビー・ヒーロー』作:ケネス・ロナーガン翻訳:浦辺千鶴演出:桑原裕子出演 : 中村蒼、岡本玲、板橋駿谷、瑞木健太郎公演日程:<本公演>2022年5月6日(金)~22日(日)<プレビュー公演>5月1日(日)・2日(月)会場:新国立劇場 小劇場住所:東京都渋谷区本町1-1-1一般チケット発売日:2022年4月10日(日)料金:<本公演>A席 7,700円、B席 3,300円<プレビュー公演>A席 5,500円、B席 2,200円【問い合わせ先】新国立劇場ボックスオフィスTEL:03-5352-9999 (10:00~18:00)
2021年11月08日新国立劇場バレエ団の2021/2022シーズン最初の演目、ピーター・ライト版『白鳥の湖』が開幕した。ライトが芸術監督を務めていたサドラーズウェルズ・ロイヤル・バレエ団 (現バーミンガム・ロイヤル・バレエ団)で1981年に発表し、今に至るまで上演されている名プロダクションだ。サドラーズウェルズのプリンシパルだった吉田都が、自身の監督就任のお披露目として準備するもパンデミックで延期。今回、満を持してのバレエ団初演だ。このプロダクションの大きな特長は、重厚な質感・色調の美術の中で繰り広げられる、イギリスの振付家らしい演劇的・論理的なドラマ。通常の『白鳥の湖』ではジークフリード王子の父王の不在の理由は明示されないが、本作は王の葬儀の場面で始まる。だからこそ、王妃や臣下は、まだ若い王子に、次期国王としての自覚、そして結婚を求めるのだ。また、第3幕では、物語と関係なく挿入されることが多い各国の踊りが、王子の花嫁候補の踊りとセットになることで一貫性が生まれ、第4幕での悲劇的結末にも説得力があった。初日は、本島美和扮する愛情深くも厳格な王妃の前で王子が息苦しさを感じ、自由を希求するさまを、福岡雄大が瑞々しく体現。そんな王子を案じ、支える友人のベンノの木下嘉人は、若者らしい遊び心を持ちつつも王子を心から気遣い、甲斐甲斐しく励ます。ベンノとクルティザンヌ(池田理沙子、飯野萌子)のパ・ド・トロワは緩急豊かで、途中で王子を巻き込み、王子のソロによってその憂愁を浮かび上がらせる趣向も効果的。古典を知り尽くしたライトならではの振付が光る。特筆すべきは、米沢唯のオデット。第2幕での登場の瞬間は、まさに白鳥が舞い降りたかのよう。無駄なく磨き抜かれ、それでいてゆとりのある動きの比類なさ。身の上を語るマイムも雄弁だった。その清らかなオデットに対し、黒鳥オディールでは一転、妖艶に。ただ単に存在が魅惑的、蠱惑的なのではなく、表情、仕草、踊りで王子を引き寄せ、突き放し、心を揺さぶる巧みな駆け引きが、手に取るように伝わる。ダブル、トリプルを交えた32回転のフェッテを含め、圧倒的な黒鳥だった。王子がオディールに愛を誓ってしまったあとの第4幕では、悲しみの中にも慈愛を湛えて王子を迎え入れるオデットに。王子に抱かれ、仰け反る背にも気品が漂う。そのオデットと王子が、貝川鐵夫演じる悪魔ロットバルト男爵に立ち向かおうとするラストも見応え十分。そして忘れてはならないのが、第2幕および第4幕の白鳥たちの動き。一糸乱れぬ“4羽の白鳥の娘たち”、おおらかな美しさの“2羽の白鳥の娘たち”、そして、複雑なフォーメーションを綾なす群舞。吉田監督は、揃っていながらも個々の個性が見えることを重視するとしていたが、容易にできることではない。にもかかわらず、一人ひとりが鮮やかに表現し、それが一まとまりの踊りとなるさまは、さながら美しい細密画だ。第4幕では、霧(スモーク)の中から白鳥たちの腕が浮かび上がる幻想美あふれる冒頭に拍手が起きた。今後長くバレエ団を代表するレパートリーになるであろうこの舞台を、お見逃しなく。取材・文:高橋彩子新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』<新制作>【東京公演】2021年10月23日(土)~2021年11月3日(水)会場:新国立劇場 オペラパレス【長野公演】2021年11月7日(日)会場:上田市交流文化芸術センター 大ホール
2021年10月26日10月23日、新国立劇場バレエ団2021/2022シーズンが、ピーター・ライト版『白鳥の湖』(新制作)の上演をもって開幕した。その前日、賛助会員や報道陣に公開された舞台稽古の模様をレポートする。冒頭、客席に向けて挨拶した新国立劇場舞踊部門芸術監督の吉田都は、「やっとここまで辿り着けた」と本音をのぞかせた。この『白鳥の湖』は、昨年、彼女の芸術監督就任1年目のシーズン開幕を飾る作品として予定されるも、コロナ禍で海外の指導者、スタッフの招聘がかなわず、1年の延期を経てようやく実現した。「サー・ピーターに喜んでいただける仕上がりになったと自負している」と吉田はいう。1981年に初演されたこの『白鳥の湖』は、演劇の国・英国らしいドラマティックで説得力ある舞台で、世界中の観客を魅了する。第1幕の幕開きから、振付家の手腕が色濃く反映された独特の場面が展開する。薄暗い舞台の下手から上手へとゆっくりと進むのは、王の葬列。多くのヴァージョンでは王の不在は説明されないが、ライト版のこの場面は、息子ジークフリード王子が置かれた状況を明らかにし、その先の重々しいドラマを予感させる。客席をぐいぐいと物語の世界へと引きこむのは、作品の力のみならず、ダンサーたちのきめ細やかな演技、確かな技術に基づいた踊りだ。米沢が演じ分けた、儚いながらも凛とした美しさが魅力のオデットと、品の良さと大胆さを併せ持つ誘惑者オディール。一方の福岡は、悩み多き王子を清々しく演じた。その後も日替わりで登場する主役カップルそれぞれが、各々の個性を存分に生かした演技で客席を魅了するだろう。もちろん、第2幕、ガリーナ・サムソワによる、ロシアの伝統を受け継ぐ幻想的な群舞の美しさは格別だし、英国のオリジナルを再現したという衣裳も圧巻。バレエの美しさ、楽しさとはこうであったかと、あらためて実感させられる舞台だ。冒頭、吉田は10月20日に他界した牧阿佐美への弔意を表し、翌23日の開幕公演を彼女の追悼公演としたいと述べたことにも触れておきたい。翌日の舞台は、熱気あふれるカーテンコールで成功を印象付けたが、1999年から2010年の長期にわたりこの劇場の舞踊部門芸術監督を務めた故人の、その大きな功績をしのぶひとときともなった。公演は11月3日(水・祝)まで新国立劇場オペラパレスにて開催。好評につきチケットは残り僅か。文:加藤智子
2021年10月25日19世紀後半、日本からやってきた美術工芸品はヨーロッパに衝撃と熱狂を巻き起こし、「ジャポニスム」と呼ばれる流行のスタイルが誕生した。パナソニック汐留美術館で12月19日(日)まで開催されている『ブダペスト国立工芸美術館名品展 ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ』では、ジャポニスムとアール・ヌーヴォーをテーマに、ブダペスト国立工芸美術館のコレクションを紹介する。古くからヨーロッパでは日本や中国の工芸品を憧憬の的として扱ってきた。漆器類は16世紀後半から盛んに輸出されていたし、繊細で色鮮やかな有田焼は17世紀からはじまり、装飾や形状などヨーロッパの多くの窯が手本としてきた。そして19世紀後半、各地で開催された万国博覧会などをきっかけに日本の美術工芸品がヨーロッパに大量に流入。人々は熱狂し、工芸品やデザインに日本の影響が色濃く出た、いわゆる「ジャポニスム」、そしてアール・ヌーヴォーの源泉となっていく。展覧会エントランス本展は、日本の美術工芸品が西洋にどのような影響を与えたのかを、ブダペスト国立工芸美術館の名品でたどっていくものだ。ブダペスト国立工芸美術館は、ハンガリーの首都ブダペストに1872年に創立された美術館。国内外の第一級の工芸品を収集していることで知られ、アール・ヌーヴォーのコレクションは1900年のパリ万国博覧会や、館内で毎年開催されていたクリスマス展覧会で買い上げた作品によって築かれている。(左)イギリス ミントン社《葡萄に蝶蜉蝣文飾皿》1877年頃(中)イギリスミントン社 デジレ・ルロイ《鼻に燕と蝶文飾皿》1877年頃(右)フランス ジョセル=テオドール・デック《菊花に蝶文皿》1877〜1878年展覧会は6章構成。「第1章自然への回帰 -歴史主義からジャポニスムへ」では日本や東洋の影響を強く受けた工芸品を、「第2章日本工芸を源泉として -触感的なかたちと表面」では、東洋の陶磁器で用いられている釉薬や顔料の使い方に影響を受けた工芸品を、それぞれ紹介している。窯の中で偶然起こった変化を尊ぶ東洋の陶磁器の価値観は、意匠や装飾に合わせ釉薬や顔料を配合した完全な仕上がりのものを高く評価するヨーロッパの人々の目にはとても新鮮に映ったようだ。作陶家や窯は、東洋の陶磁器の色や斑紋の組み合わせなどを参考に、さまざまな釉薬の実験を重ねていく(左)フランス グラティニー製陶所 銀製台:リュシアン・ガイヤール《銀製台付き花器》1899〜1900年 (右)花器:日本の茶入(瀬戸、17世紀)台:フランス ポール&アンリ・ヴェヴェール《銀製葉形飾付き花器》(左)ハンガリー ジョルナイ陶磁器製作所《結晶釉花器》1902年(右)ハンガリー ジョルナイ陶磁器製作所《結晶釉飾坪》1900年続く「第3章アール・ヌーヴォーの精華 -ジャポニスムを源流として」は展覧会のメインとなるセクション。ジャポニスムを源泉のひとつとして発展したアール・ヌーヴォーの作品群を丁寧に紹介していく。3章は花、鳥と動物自然をモチーフにした作品のほか、独自の製法で鮮やかな輝きを見せるガラス作品、伝統的な装飾モチーフなど、アール・ヌーヴォーという様式のなかにさまざまなバリエーションがあることが見てとれる。(左)ルグラ・ガラス工場 デザイン・制作:フランソワ=テオドール・ルグラ 《野蔓葡萄枝文花器》1900年頃(右)ルグラ・ガラス工場 デザイン・制作:フランソワ=テオドール・ルグラ 《苺枝文花器》(2点とも) ハンガリー ジョルナイ陶磁器製造所 成形デザイン:シャーンドル・アパーティ・アブト図案デザイン:ラヨシュ・マック《レリーフ飾水差》1903年本展は、ミントン社やエミール・ガレ、ドーム兄弟にルイス・カンフォート・ティファニーなど名だたる陶磁器、ガラス工房の作品が出展されているほか、ハンガリーの名窯、ジョルナイ陶磁器製造所の作品も多数出品されているのが見どころのひとつ。《葡萄新芽文花器》などに使われた玉虫色に輝くエオシン彩は本製造所が開発した装飾技法で人気を博した。(右)ジョルナイ陶磁器製造所 絵付け:ユーリア・ジョルナイ《蔦蔓葡萄文花器》1910年頃(左)ジョルナイ陶磁器製造所《葡萄新芽文花器》 1898年-1899年下の写真の花器もジョルナイ陶磁器製造所の制作。右が日本趣味文様花器、左がハンガリー民芸文様花器と銘打たれている。日本美術のさまざまな文様を取り入れ、自分たちのものにしているところが非常に興味深い。(2点とも)ジョルナイ陶磁器製造所 成形デザイン:シャーンドル・アパーティ・アブト《花瓶 右:日本趣味文様花器 左:ハンガリー民芸文様花器》1903年そして、日本の美術工芸の影響は、陶磁器やガラスだけにとどまらない。壁を装飾するタイルもまた日本の影響を受け、意匠や釉薬の使い方などに変化が現れていた。「第4章建築の中の装飾陶板 -1900年パリ万博のビゴ・パビリオン」では、1900年開催のパリ万国博覧会のために作られた装飾陶板を展示する。(上)フランス ビゴ社《蔓葉図台座フリースタイル(ビゴ・パビリオンの一部)》1898年〜1900年(下)ハンガリージョルナイ陶磁器製造所 デザイン:ヤーノシュ・バッハ《蔓花図フリースタイル-建築用陶器》アール・ヌーヴォーが植物の有機的な動きを文様にした一方で、植物を用いながらも直線的、幾何学的な様式に発展させたのが、ドイツ語圏で発展したユーゲントシュティールだ。「第5章もうひとつのアール・ヌーヴォー -ユーゲントシュティール」では、アール・ヌーヴォーとは趣きが異なる様式を紹介する。(左) 《樹文花器》ビレロイ&ボッホ製陶所 1903年 (右)ビレロイ&ボッホ製陶所デザイン:ヨーゼフ・マリア・オルブリッヒ《オルガ・ブラウエ食器セット》 1906年頃日本の影響を強く受けて生まれたアール・ヌーヴォーに続く様式がアール・デコだ。最終章となる「第6章アール・デコとジャポニスム」では、このアール・デコ様式も日本の影響を受けていることをガラス器などから検証していく。(左)フランスドーム兄弟《フローティングペイント鉢》1925〜1930年(中)フランス ガブリエル・アルジー=ルソー《蝶文鉢》1915年(右)フランスドーム兄弟《金箔付花瓶》1925〜1930年本展は約170件の作品をもって19世紀から20世紀までのヨーロッパ工芸における日本の影響を辿ることができる貴重な展覧会。日本の美の概念を、ヨーロッパの人たちがどのように受け入れ、発展させていった道のりを楽しんでみよう。取材・文:浦島茂世【開催情報】『ブダペスト国立工芸美術館名品展 ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ』2021年10月9日(土)~12月19日(日)、パナソニック汐留美術館にて開催※日時指定予約制
2021年10月22日新国立劇場芸術監督の小川絵梨子が就任とともに打ち出した、「すべての出演者をオーディションで決定する」フルオーディション企画。その第5弾となる『エンジェルス・イン・アメリカ』を2023年4月〜5月に二部作で一挙上演することが決定した。今年4月に上演したフルオーディション第3弾『斬られの仙太』を手がけた上村聡史を演出に迎え、2021年10月25日(月)より出演者の応募を開始。12月にオーディションを開催し、合格者は23年2月からスタートする稽古に参加、4〜5月の連続上演の公演に出演することとなる。フルオーディション第5弾の開始にあたって、芸術監督の小川絵梨子、演出家の上村聡史より、応募者に向けたコメントが到着した。<コメント>●演劇芸術監督・小川絵梨子『かもめ』、『反応工程』、『斬られの仙太』、『イロアセル』に続く、フルオーディション第5弾が決定いたしました。作品は、1991,92年の初演から世界中で愛され続け、20世紀の最も重要な現代戯曲とも言われるトニー・クシュナー作『エンジェルス・イン・アメリカ』です。この作品は第一部「Millennium Approaches」と第二部「Perestroika」に分かれており、この度の公演では、第一部と第二部を新国立劇場小劇場にて一挙上演いたします。演出には『斬られの仙太』をフルオーディションで作り上げてくださった上村聡史さんを再びお迎えしました。個人的にも大好きな作品ですが、本作品は、変化が起こったとき、それを否定して安定を図るのか、それとも不安定でも進歩を選ぶのか、その葛藤と再生が描かれていると私は考えています。混乱と不安の今の時代に、根源的な人間の本質の一つでもある「変化すること」を、私たちはどう捉え、それにどう反応していくのかを考える機会になればと思っております。この作品に興味を持って下さった方には、是非、オーディションに参加していただけましたら幸いです。 今年のオーディションにて、新しい出会い、嬉しい再会がたくさんありますことを祈っております。●演出家・上村聡史フルオーディション企画も今回で5回目となり、回を追うごとに「自らの意思で創作現場へ赴むく」という企画の根幹が、すくすくと育まれ、本企画が心地よい刺激と熱量に溢れる作品を生み出しているように感じます。そのようなシリーズ企画に再び、取り組めることに喜びを覚えつつ、今回はシリーズの生長にふさわしい、20世紀を代表する名作、『エンジェルス・イン・アメリカ』に挑みます。今から約40年前、1980年代のニューヨークを舞台に、社会の変革期に生きる人々を、疫病によって混乱を引き起こす愛を、多様化への不寛容に苦しむ精神と肉体を、そして己の変革に果敢に挑む魂を、これらをユーモアに満ちた力強さで描きたいと思います。そして、その姿を通し、セクシャリティ、すなわち生きていく上での自由・解放に対し、今も強かな政治力でステレオタイプを固持する無意識、無自覚に一石を投じる作品を目指します。8名の出演者で8時間近い大作を上演することは並々ならぬ技術、個性、そして意気込みが必要になるかと思います。また、今回は二部作形式の上演で、稽古日程も多くなりますので、タフな体力と精神力も必要です。こう書くと、ゾッとするかもしれませんが、なによりも、作者トニー・クシュナーの宝石箱のような劇世界・文体を想像していく作業は、演じることの喜びに加え、表現の尊さを感じることのできる体験になるでしょう。是非、ご応募いただけたら何よりです。【公演概要】『エンジェルス・イン・アメリカ』公演日程:2023年4月上旬~5月末 予定会場:新国立劇場 小劇場作:トニー・クシュナー / 翻訳:小田島創志 / 演出:上村聡史芸術監督:小川絵梨子主催:新国立劇場オーディション詳細: 一般発売日:未定/料金:未定チケットに関するお問い合わせ:新国立劇場ボックスオフィス 03-5352-9999(10:00〜18:00)
2021年10月18日まもなく2021/2022シーズンが幕開けとなる新国立劇場。バレエの開幕公演では、吉田都舞踊芸術監督の陣頭指揮による新制作、ピーター・ライト版『白鳥の湖』の上演が、1年の延期を経てついに実現する。9月28日に催された制作発表で、芸術監督2期目を迎える吉田が、作品の魅力、意気込みを語った。「本当にいろいろなことがありましたが、とてもいい、実りあるシーズンでした」と初年度を振り返る吉田。新型コロナウイルス感染拡大による影響で、公演中止をはじめ様々な事態に直面した。『白鳥の湖』の新制作も海外からの指導者の招聘ができず準備半ばで断念、演目変更を余儀なくされただけに、再挑戦への思いは強い。「ダンサーたちには踊る喜び、演じる楽しさを味わってもらいたい」と吉田は言う。英国の振付家、ピーター・ライトによる『白鳥の湖』は、吉田自身が現役時代、初めて主役を踊った作品だ。「とてもロジカルで、ダンサーたちも演じやすいはず。舞台上の全員が、自分がどういう役柄で、なぜここにいるかということが明確になっています」と、英国ならではのドラマティックな作品であることを強調した。オリジナルを忠実に再現した衣裳も大きな魅力だ。「生地選びが大変でした。独特のゴシック調で、シェイクスピア劇を見るようなイメージ」と吉田。昨年2月には衣裳の打ち合わせのために渡英するも、その直後に感染状況が悪化、上演延期が決定的に。「ですが、逆によかった。ゆっくりと時間をかけてダンサーたちのことを知り、彼らに私が何を求めているか理解してもらえた。今回の上演は完璧なタイミングだと思います」。日替わりで主役を演じるダンサーたちも登場。オデット/オディール役の米沢唯、小野絢子、柴山紗帆、木村優里、ジークフリード王子役の福岡雄大、奥村康祐、井澤駿、渡邊峻郁、長野公演で同役を演じる速水渉悟が、舞台への意欲を言葉にした。その後、本作の魅力について改めて問われた吉田。「『白鳥の湖』にはいろいろな演出がありますが、初演から40年、ライト版『白鳥の湖』が上演され続けているのには理由がある。これは、『白鳥』本来の魅力を残しつつ、彼自身の解釈を入れて成功している作品。改めて、素敵な演出だなと感じています」と確信に満ちた笑顔を見せた。公演は10月23日(土)から11月3日(水・祝)、新国立劇場オペラパレスにて。チケットは発売中。
2021年10月05日新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』〈新制作〉が2021年10月23日(土)から同劇場オペラパレスで開幕する。本作品は、吉田都舞踊芸術監督の就任第1作目として、昨年10月の上演が予定されていたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響から延期となり、今年10月の上演となった。開幕まで1ヶ月を切った9月28日(火)、同劇場で記者会見があり、吉田都舞踏芸術監督らが登壇した。吉田都 舞台芸術監督とオデット/オディール役ダンサー(米沢唯、小野絢子、柴山紗帆、木村優里ジークフリード王子役ダンサー(速水渉悟、渡邊峻郁、井澤駿、奥村康祐、福岡雄大)この1年間を吉田監督は「長いといえば長いですし、あっという間に過ぎたような気もします。就任1年目でよく分からない状況で、コロナ禍がやってきて。周りのスタッフがサポートしてくださって、どうにかやってこれました。実りのあるシーズンだったと思います」と振り返る。『白鳥の湖』は王子と姫の恋、それを邪魔する悪役、そして情景を美しく表現するコール・ド・バレエというクラシック・バレエの基本要素が凝縮されている。ピーター・ライト版は、そうしたクラシック・バレエの王道の魅力に加えて、演劇的な要素が加わり、まるでシェイクスピア劇のようなドラマティックさが際立つ。また、フィリップ・プラウズによる重厚感のある美術や衣裳も、見どころといえるだろう。今作のために新調したという衣装も見どころ吉田監督自身、このピーター・ライト版への思いが強い。1番最初に主役になった作品でもあり、ほぼすべての役を踊ってきたという。吉田監督は「サー・ピーターの『白鳥の湖』はロジカルで分かりやすいんですよね。役柄によって何をすべきか、本当に細かく決められているので」と語った上で、「ダンサーたちに踊る喜びだけではなく、演じる楽しさも味わってもらいたいと思います」。ピーター・ライトは上演に際し、「ミヤコがこのプロダクションをシーズン開幕の演目として選んでくれたことをとても嬉しく思いますし、新国立劇場バレエ団のダンサーたちが楽しんで踊ってくれることを願っています。東京に行くことが叶わないのはとても残念なのですが、彼らの踊りを過去に見ておりますので、彼らならこの『白鳥の湖』へ見事に命を吹き込んでくれることでしょう」とコメントを寄せている。上演時間は約2時間50分予定(休憩あり)。公演は11月3日(水・祝)まで。オデット/オディール役は、米沢唯、小野絢子、柴山紗帆、木村優里。ジークフリード王子役は、福岡雄大、奥村康祐、井澤駿、渡邊峻郁。そのほか、11月7日(日)には、長野県上田市のサントミューゼ大ホールでの公演も予定されている(主演:米沢唯、速水渉悟)。取材・文・撮影:五月女菜穂
2021年09月29日新国立劇場で上演される『イロアセル』(作・演出:倉持裕)と『あーぶくたった、にいたった』(作:別役実/演出:西沢栄治)の合同取材会が開催され、新国立劇場芸術監督の小川絵梨子、倉持、西沢の3名が出席。『イロアセル』は「フルオーディション企画」の第4弾、『あーぶくたった、にいたった』は「こつこつプロジェクト─ディベロップメント─」第一期から生まれた作品で、ともに小川が芸術監督就任の際に打ち出した三つの柱の一つ、「演劇システムの実験と開拓」を実践する企画だ。3名がこの2つの企画について語った。2018年に新国立劇場の演劇芸術監督に就任した小川だが、フルオーディションによるキャスティング、1年間を通して少しずつ作品を育てていく「こつこつプロジェクト」は、どちらも「(芸術監督への)就任の理由」と語るほどの強い思いをもって、進めてきた企画である。小川絵梨子小川自身、アメリカで演劇を学んだこともあって「(欧米では)オーディションが日常茶飯事。『やりたい』と思った方が受けて、作り手は作品に合った方と作ることができる。シンプルで健康的なものの作り方だと思います」と、演じる側、作り手双方にとってのメリットを強調。実際に進めていく中で「試行錯誤の連続です」と語りつつも、「稽古が始まると稽古場が非常にフラットで、気後れや遠慮がなく、風通しが良いし、よいチーム感がすぐに立ち上がる感じがしています。贅沢で豊かな、創造性の高い現場を作れていることを実感しています」と手応えを明かす。役を役者に寄せるのではなく、役者が役に寄っていく作り方『イロアセル』作・演出の倉持は、現状の商業演劇におけるキャスティングが「知名度や集客力」という基準で行われていることが多いとし、「でも、そういう方法に偏ってしまうと、その時に旬な俳優を選ぶことになるので、結果、(どの作品も)似た俳優ばかりになってしまう」と指摘。元々、フルオーディションに興味を持っていたという倉持は、フルオーディション企画の第1弾として新国立劇場で上演された『かもめ』を鑑賞し、「役を役者に寄せるのではなく、役者が役に寄っていく作り方をしているのを感じました。余計なことを考えず、フラットに作品を観ることができて、それは当たり前のことなんだけど、新鮮に感じました。普段、有名な役者の芝居を観ることが多くて、(自身が)役者への批評みたいな目線で見ることが多かったと気づきました」と自省を込めつつ、フルオーディションだからこその“作品本位”による作り方のメリットを口にする。倉持裕一方で、実際のオーディションでは選考に頭を悩ませる部分も多かったよう。「やってみたら大変でした(苦笑)。死ぬ気で役を獲りに来ている人間のエネルギーはすごいです。普段は頭の中で決めるんですが、オーディションだと役者が発信してくれるので、想定外のことがたくさん起こって楽しい経験でした。最終審査になるにつれて、甲乙つけがたい役者が増えて、『どっちもいい。でもどっちか決めないと……』となってくる。この人を選ぶなら、(こっちの役は)この人も……という組み合わせが出てきて、作品の方向性をオーディションの段階で決めないといけなくなるんですね」とつらい決断を振り返った。『イロアセル』チラシ(4種類)物語の舞台はある島。そこで暮らす人々が発する言葉には独自の“色”がついており、誰が何を話したかがすぐに特定されてしまう。ところが、島民たちが自分の言葉に色がつかない手段を手に入れたことで、これまで覆い隠されてきた人々の本音や人間性が露わになっていくさまが描き出される。10年前に新国立劇場での上演のために倉持が書き下ろした戯曲であり(※10年前は鵜山仁が演出を担当)、SNSをはじめとする匿名の書き込みが持つ特異性を鋭く問う本作。倉持は「(初演から)10年が経って、コロナもあって匿名の言葉が塊になって一方向にドンと進んだりして、偏りがすごいし、“敵”を見つけたらそこを攻めていくという現象も激しくなっている。権力の側も、その匿名の言葉の塊を利用するようになっているのを肌で感じますし、これはいま、やることで感じることがあるんじゃないかと思いました」と物語が持つ“現代性”についても言及した。演劇という文化の未来のために、公共劇場だからこそできること「こつこつプロジェクト」は「作り手が、通常の1か月の稽古ではできないことを試し、作り、壊して、また作る場にしたい。」という小川の意を受けて発足した、1年を通して作品を育てていくというプロジェクト。第一期として『あーぶくたった、にいたった』、『スペインの戯曲』(演出:大澤遊)、『リチャード三世』(構成・演出:西悟志)の3作が2019年3月にスタートし、リーディング公演、1st試演会、2nd試演会、3rd試演会と、途中でコロナ禍の影響を受けつつも、1年にわたってトライ&エラーを積み重ねてきた。『あーぶくたった、にいたった』2020年3月3rd試演会より小川は「通常、プロデュース公演の場合、(稽古期間が)約1か月という制約があり、どうしても『何とか初日を迎えるために』という意識になっているんじゃないか? と思っていました。1年を通して稽古を積み重ねていくことで、作品の強度や豊かさを高めていくという作業は贅沢ですが、そこから学ぶこと、知ることが多く、作品への理解度が圧倒的に変わっていくんです」と時間をかけて、作品を作っていくことの意義を語る。西沢栄治西沢は実際に1年にわたってひとつの作品に取り組み、「稽古と発表を重ねていくうちに芝居の強度が上がっていくし、毎回発見もあり、1回目の発表ではわからなかったところに到達できた気がします」と充実した表情を見せる。今回、その成果を観客の前で上演することになったが、もし新国立劇場で上演することができなかったとしても「絶対に別の場所で上演していたと思います」と語り、公共の劇場だからこそ可能な同プロジェクトであるが、「新国立劇場だけに還元されるのではなく、演劇界全体に幅広く貢献していくことになると思う」と目先の利益にとらわれず、じっくりと作品を作り上げていく、こうした企画の必要性を訴えた。小川は西沢の言葉に深くうなずき、演劇という文化の未来のために、「場所」「空間」「時間」「お金」をきちんと提供することの重要性を改めて強調。「すぐに成果につながらないと難しいのはわかるんですけど、焦り過ぎて失うものもたくさんあります」と語った。『あーぶくたった、にいたった』チラシ『あーぶくたった、にいたった』は、別役実が昭和の“小市民”の姿を鮮やかに描写した傑作。西沢は今回の企画で初めて同戯曲に触れ、「不条理と言われるけど、アクロバティックな迷宮が潜んでいて、これは迷い甲斐があるなと思いました。『風が出てきた』『運動会が終ったんだよ』というセリフがあるんですが、オリンピック、パラリンピックが終わって、我々は何を見るのか? 何を置き去りにしてきたのか? 僕なりの“日本人論”みたいなものにたどり着けたらと思っております」と本格的な稽古の開始を前にしての意気込みを口にした。取材・撮影(会見写真)・文:黒豆直樹■『イロアセル』作・演出:倉持裕出演:伊藤正之東風万智子高木 稟永岡 佑永田 凜西ノ園達大箱田暁史福原稚菜山崎清介山下容莉枝2021年11月7日(日)プレビュー公演2021年11月11日(日)~2021年11月28日(木)会場:東京・新国立劇場 小劇場★9月26日(日)10:00よりチケット先行発売!■『あーぶくたった、にいたった』作:別役実演出:西沢栄治出演:山森大輔浅野令子木下藤次郎稲川実代子龍 昇2021年12月7日(火)~2021年12月19日(日)会場:東京・新国立劇場 小劇場チケット情報
2021年09月24日新国立劇場のオペラ2021-22シーズンが10月1日(金)に開幕する。オープニングを飾るのはロッシーニの《チェネレントラ》。チェネレントラはイタリア語でシンデレラのこと。しかしオペラには、かぼちゃの馬車やガラスの靴などのファンタジーの要素は登場しない。ロッシーニお得意の喜劇のなかで、登場人物たちの心模様を、見事な音楽で描いた人間ドラマ。息を呑むようなアクロバティックな声の技巧も満載だし、なによりおなじみのあのストーリーということもあり、世代やオペラ経験値を問わず、幅広い層が屈託なく楽しめる傑作だ。主役アンジェリーナ(シンデレラ)を演じるのが脇園彩。ロッシーニやモーツァルトをレパートリーに、いまヨーロッパの劇場が最も注目する新世代のメゾ・ソプラノだ。8月下旬、公演のためミラノから帰国して隔離待機中の彼女にオンラインで聞いた。――新国立劇場には、今年2月の《フィガロの結婚》(ケルビーノ役)に続いて、ロッシーニでは昨年の《セビリアの理髪師》(ロジーナ役)に続いての出演です。どんなことを楽しみにしていますか?私、継父ドン・マニフィコ役のアレッサンドロ・コルベッリ(バリトン)の大ファンなんです。テクニックも経験もある方なんですけど、それをひけらかさず、本当に語るように歌って、人間性が表現に出てくる。いつか彼と共演するのが長年の夢だったので、それがまさか東京で叶うとは。たくさんのことを学べると思っています。――ご自身の演じるアンジェリーナ役の見どころ・聴かせどころを。私が一番大事に思っているセリフが、最後のアリアの前のレチタティーヴォ(※話し言葉のように歌う部分)の中に、さりげなく出てきます。「私の復讐は彼らを許すこと」アンジェリーナが王子と結婚することになり、彼女を虐げていた継父と義理の姉たちを許して言うひとことです。この言葉を見て、私は自分の新しい世界の扉が開いた気がしたんです。理不尽な扱いを受けたりして辛い思いをすると、つい怒りや悲しみに飲み込まれてしまいそうになるじゃないですか。でも、ちょっと視点を変えて、ネガティヴな感情を解放することが、よりよく生きるためのひとつの解決策になりうるのではないかと思うんです。ロッシーニって、物の見方がものすごく冷静で俯瞰的なんです。日本の禅とか能にも通じるような。困難な状況でも、どんなに辛いことも笑いに変えてしまう。「いろいろあるけど、人生っていいよね!」というロッシーニの精神性が凝縮されたセリフだと思います。――音楽的にはどんな魅力が?《チェネレントラ》は、最も有名な《セビリアの理髪師》の1年後に書かれた作品なんですけど、《セビリアの理髪師》と比べても、音楽的にすごく充実しているんです。一曲一曲、すべての登場人物に、次から次に名曲が続きます。幕開けから、お姉さん二人とアンジェリーナ、アリドーロ(王子の家庭教師の哲学者)の四重唱も素晴らしいし、その次の継父ドン・マニフィコのアリアは本当に素晴らしいんです。ドン・マニフィコにはアリアが3つあるのですが、どのアリアもそれぞれ違うテクニックが必要です。しかも、敵役なんだけど、ちょっと可愛げがある、隙だらけの人物なので、そういうキャラクターも見せなければなりません。マニフィコ役のコルベッリのテクニックを間近で見られるのが、すごく楽しみです。そしてそのあとのアンジェリーナとドン・ラミーロ王子が出会うシーンの二重唱は、私は世界で一番ピュアで美しい恋の始まりの二重唱だと思います。運命の人と出会った瞬間を、光が弾けるような輝きで繊細に表現している二重唱は、この世に他にはありません。ドン・ラミーロ役のルネ・バルベラ(テノール)とは何回も一緒に歌っているので、すごくやりやすいです。アリドーロのアリア(第1幕)は、難しくてバス歌手泣かせなんですよ。いろんな要素があって、それをきちんと丁寧に聴かせなければならないのですが、とにかく長いので、ただ歌うだけだと、ちょっとつまんなくなっちゃうんです。アリドーロ役のガブリエーレ・サゴーナ(バス)は、私が以前についていた先生と同門ということもあって、プライヴェートでも友人です。2018年にヴェローナのフィラルモニコ劇場の《フィガロの結婚》で共演しました。彼のフィガロ、素晴らしかったですよ。あ、あと、ダンデイーニ役(王子の従者。命じられて王子に扮装している)の上江隼人さん(バリトン)は、ミラノでたいへんお世話になった先輩です。食事をご馳走になったり声楽談義をさせていただいたり。初共演なのですごく楽しみです。とにかく声が素晴らしいし、そのうえで人間の器がものすごく大きい。ダンディーニは合うだろうなとずっと思ってたんです。彼のアリア(第1幕)も、めちゃめちゃ難しいんです。細かい音符がたくさんあって、でもそれをさりげなく歌わなくてはならなくて。――聴き逃せない重唱もたくさんありますね。私、ロッシーニの大編成の重唱が大好きなんです。ものすごく厚みがあって、しかも緻密。それが、「細かく計算して書いてます!」っていう感じでなく、とても自然なのが粋(いき)ですよね。心躍らされるというか。聴けばとにかく圧倒されると思います。たとえば《ランスへの旅》には14声の重唱がありますが、それが14人のコーラス隊ではダメ。一人ひとり、テクニックも色もあるソリストたちが集まって、それぞれの色を消すのではなくて、むしろ原色のまま、極彩色を出しまくって、それでみんながひとつの音楽を作るから、ものすごいエネルギーが出るんだと思うんです。個性を出しつつ、一つのものを作る。これは、多様性を受け入れながら、みんなで世界をよくしていきましょうという、今の社会の流れに、すごく繋がっているような気がします。現代はロッシーニの重唱に学ぶことが、けっこうあるのではないでしょうか。新国立劇場『チェネレントラ』稽古風景――今回、粟國淳さんの演出は、舞台を1950~70年代のハリウッドやイタリア映画黄金時代のチネチッタ(ローマ郊外の映画撮影所)のような映画撮影所に設定したもの。すでにローマで衣裳合わせをしてきたそうですね。私、50年代、60年代の映画やファッションが大好きなんですけど、今回の衣裳が全部、私の趣味のど真ん中!オードリー・ヘップバーンとか、ソフィア・ローレンとか、あの時代の雰囲気なんですよ。夢が実現したみたいな衣裳で、本当にちょっと鳥肌が立ちました。私もまだ他の役の衣裳や舞台スケッチを見せてもらっただけなんですけど、喜劇王トトとか、映画監督のフェデリコ・フェリーニとか、あの時代のイタリア映画からインスピレーションを得て、舞台上のヴィジュアルにもいろんなオマージュが登場するようなので楽しみです。――2014年にペーザロのロッシーニ・アカデミー(※)に参加したことは、ロッシーニを歌ううえで大きな経験だったと思います。アカデミーの校長でもあったロッシーニ研究の権威アルベルト・ゼッダ(1928~2017)から何を学びましたか?(※アドリア海に面したロッシーニの生地ペーザロで1980年に始まった「ロッシーニ・オペラ・フェスティバル」が開催している、次世代育成プログラム)ゼッダ先生が何度もおっしゃっていたのが、音楽が演者のテクニックのひけらかしになってはいけないということでした。ロッシーニって、アジリタ(※速く細かい音符を転がすように歌う装飾的な声楽技術)がすごく重要視されがちですよね。ともすると、それが自分を誇示するためのエゴイズムになってしまうと思うんです。テクニックは素晴らしい音楽を伝えるためのツールに過ぎません。ゼッダ先生がおっしゃっていたのは、音楽に対して忠実に、音楽に対して敬意を表すること。テクニックは、自分ではなくて、音楽をさらに輝かせるためのツールであるべきだということです。ゼッダ先生の教えを受けた方が世界中にいます。そういう方たちと一緒に、先生が伝えようとされたロッシーニの音楽の素晴らしさを継承・発展させていきたいなと思っています。――なるほど。でもオペラ・ファンにとって、ため息の出るような圧巻のアジリタは大きな楽しみのひとつではあります(笑)あはは。もちろん、見ていただく視点はそれぞれでいいと思います。いろんな楽しみ方ができると思うんですけど、ロッシーニ歌手にとってアジリタは基本であって、その先に、ゼッダ先生のおっしゃっていた、音楽の表現があると思います。それはもしかしたら、世界を、人間を表現することですね。――最後に、脇園さん自身のことを少し聞かせてください。趣味や熱中していることはありますか?旅行が好きです。いろんな場所を知ったり、そこでいろんな人に出会ったりするのが好きなので。ということを、じつはコロナ禍で移動が制限されて、あらためて痛感したんです。ああ、私、旅行が好きなんだなと。あとは映画を見るのも好きだし……。あ、あと歌舞伎と文楽は帰国したら絶対に見ています。(坂東)玉三郎さまと(片岡)仁左衛門さま!――マスク生活が続きますが、喉や身体のコンディション作りで気をつけていることは?おすすめなのが鼻うがい。私は毎朝、ティーツリーというエッセンシャル・オイルをちょっと混ぜてやっています。ティーツリー・オイルは天然の抗生物質と言わるぐらい抗菌作用があるそうなんです。私は子供の頃からアレルギー性鼻炎で、数年前から研究に研究を重ねて、たどり着いたのが鼻うがいでした。おかげで風邪もひかなくなりました。身体と合うかどうかは人によってそれぞれなので、よく調べてやっていただくのがいいと思います。――ファンの皆さんへメッセージをお願いします。厳しい時期が続いて、外出を控えている方もいらっしゃるかもしれません。どうか無理はなさらないでください。でも私は、劇場は魂に栄養を与えてくれる場所だと思っています。とくにロッシーニの音楽、ロッシーニの世界観は、私たちに生きる元気を与えてくれるはずです。魂の栄養補給のために、ぜひ劇場へいらしてください。ロッシーニ《チェネレントラ》全2幕(新制作)(イタリア語上演/日本語・英語字幕付)10月1日(金) 19:00開演10月3日(日) 14:00開演10月6日(水) 19:00開演10月9日(土) 14:00開演10月11日(月) 14:00開演10月13日(水) 14:00開演ロビー開場は開演60分前、客席開場は開演45分前上映時間は休憩を含めて約2時間50分会場:新国立劇場オペラパレス脇園 彩(わきぞのあや/メゾ・ソプラノ)東京生まれ。東京藝術大学卒業、同大学院修了。2013年、パルマ・ボーイト音楽院に留学。14年、ペーザロのロッシーニ・アカデミーに参加し《ランスへの旅》に出演。同年、ミラノ・スカラ座アカデミーに参加、《子供のためのチェネレントラ》アンジェリーナでスカラ座にデビュー。15年にはマスカット・ロイヤルオペラ《ファルスタッフ》メグに出演。《セビリアの理髪師》ロジーナ、《チェネレントラ》アンジェリーナ、《フィガロの結婚》ケルビーノ、《ドン・ジョヴァンニ》ドンナ・エルヴィーラ、《コジ・ファン・トゥッテ》ドラベッラなど、ロッシーニとモーツァルトをレパートリーの中心に活躍している。ボローニャ歌劇場、フィレンツェ歌劇場、カリアリ歌劇場、バーリ・ペトルッツェッリ劇場、ロッシーニ・オペラ・フェスティバル《セビリアの理髪師》、マルティーナ・フランカ音楽祭のメルカダンテ《フランチェスカ・ダ・リミニ》パオロ、カリアリ歌劇場、ロッシーニ・オペラ・フェスティバル《試金石》クラリーチェ、ヴェローナ・フィラルモニコ劇場《フィガロの結婚》、トリエステ・ヴェルディ劇場《コジ・ファン・トゥッテ》、《ナブッコ》フェネーナ、パレルモ・マッシモ劇場《イドメネオ》イダマンテなどに出演。スカラ座アカデミー《セビリアの理髪師》、ヴェローナ・フィラルモニコ劇場《チェネレントラ》は際立った成功を収めた。新国立劇場へは19年《ドン・ジョヴァンニ》ドンナ・エルヴィーラでデビューし、20年《セビリアの理髪師》ロジーナ、21年《フィガロの結婚》ケルビーノに出演した。
2021年09月17日熊本市現代美術館は、展覧会「こわいな!恐怖の美術館」を2021年9月25日(土)から12月5日(日)まで開催する。“恐怖や不安”をアートを通して受け止める「こわいな!恐怖の美術館 展」は、無意識を揺さぶる恐怖や不安を理知的に受け止め、「それ(恐怖や不安)」をテーマにした作品を紹介する展覧会。本展では、天災や疫病など、日常生活の様々なところに偏在する多様な“恐怖と不安”を、人間の持つ自然な感情の1つとして捉え、作品として昇華したアーティスト達の独自のセンスとユーモアを体感できる。作品を通して、恐怖や不安に対する発想の転換や、“こわい”ことに向き合って新たなアイデアを促すポジティブな内容となっている。“恐怖”から“安心”までのお化け屋敷体験迷路のような「お化け屋敷」に象徴されるように、出口がどこかわからない“恐怖”を体感できるのが、会場入口に登場する「南無サンダーの演劇お化け屋敷@大學湯」。恐怖と不安を抱えながら出口を目指し、最後に「あー怖かったね」と安心するまでの“お化け屋敷体験”をセットで楽しめる。尚、「お化け屋敷」が苦手な人には回避ルートも用意する。また、屋敷という場所そのものが悪しき場所であり「化け物」だととらえる西洋型お化け屋敷を見て取れる、オディロン・ルドンが描いた幽霊屋敷の絵画作品、出口の見えなさを“行き止まり”で表現した浜田知明の《行き止まり》なども登場する。恐怖の対象を可視化する「お化け」人々は、得体のしれない“恐怖の対象”に不安を感じ、「お化け」という可視化された存在を求める心情を持っている。実際に、江戸時代から伝わる怪談「百物語」や、都市伝説上の口裂け女、人面犬、人面魚、疫病除けのアマビエなど、数々の「お化け」を定義することで、不可解な存在を受け止めて理解しようしてきた。そんな人々の心情に共鳴するかのような、“得体のしれないもの”に形を与えた田名網敬一や浜田知明の立体作品などが登場する。恐怖と結びつく暗闇、夜の時間さらに、恐怖をあおる暗闇や、ホラー映画で恐怖の出来事が起こる“夜の時間”に着目した作品も展示。薄暗いタッチで描かれた暗闇の作品を紹介する一方で、恐怖とは対照的な“夜の楽しさ”を思わせる田名網敬一のカラフルアートや夜をモチーフにしたコーダ・ヨーコの「ヨルのキオク」シリーズなども登場。様々な真夜中のイメージを目の当たりにすることができる。【詳細】こわいな!恐怖の美術館開催期間:2021年9月25日(土)~12月5日(日)会場:熊本市現代美術館 ギャラリーⅠ・Ⅱ住所:熊本県熊本市中央区上通町2-3 びぷれす熊日会館 3階休館日:火曜日、11月24日(水) ※ただし11月23日は開館開館時間:10:00~20:00(展覧会入場は19:30まで)観覧料:一般 1,100(900)円、シニア(65歳以上) 900(700)円、学生(高校生以上) 600(500)円、中学生以下 無料※( )内は前売/20名以上の団体/各種障害者手帳を提示した人と付き添い1名(身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、被爆者健康手帳等)、電車・バス1日乗車券、JAF会員証、緑のじゅうたんサポーター証/美術館友の会証を呈示した人。前売の販売は9月24日(金)まで。※10月10日(日)は熊本市現代美術館開館記念日を祝して入場無料。チケット取扱い:熊本市現代美術館、イープラス(e+)、ローソンチケット“ローチケ”[Lコード:81992]、セブンチケット[セブンコード:090-328]※開催内容の変更、入場制限の実施などの可能性あり。最新情報は、公式ホームページを確認。【問い合わせ先】熊本市現代美術館TEL:096-278-7500
2021年08月13日2009年から続く新国立劇場の人気シリーズ「新国立劇場 こどものためのバレエ劇場」が7月24日(土)より開幕。今年は、昨年上演され好評を博した『竜宮 りゅうぐう~亀の姫と季(とき)の庭~』が再演される。演出・振付・美術・衣裳とトータルで手掛けたのは、ダンサー・振付家の森山開次だ。森山と言えば、しなやかながら直線的で空間を切り裂くようなダンス、能など和のモチーフを題材とした独自の作品世界で注目を集め、2005年に発表したソロダンス『KATANA』ではニューヨークタイムズ紙に「驚異のダンサーによる驚くべきダンス」と評されるなど世界でも高い評価を得てきた逸材。また、こどもからおとなまで楽しめるカラフルな作品も得意とするほか、様々なジャンルとのコラボレーションでも才能を発揮し、演出面での活躍も注目される存在だ。その森山が初めて手掛けたバレエ作品が本作。モチーフとなっているのは日本の御伽草子『浦島太郎』で、一般的に知られる『浦島太郎』の物語とは違い、御伽草子では太郎に助けられた亀が実は竜宮城のプリンセスという設定だ。亀の姫と浦島太郎が惹かれ合う愛のストーリーを軸に、おもてなし担当のお茶目なフグ、タンゴを踊るイカの三兄弟など、竜宮城にいる愉快な海の生き物たちが登場。太郎が竜宮城から帰ってからの結末も、太郎が翁になった後に更なる展開が待ち受けている。さらに、海の中、日本の美しい四季を表現したプロジェクションマッピングの映像も見どころのひとつで、想像力を掻き立てられる空間が出現。初演時、森山は「この作品にはテーマとして〝時″が流れています。竜宮城には不思議な〝季(とき)の庭″があり、一度に春夏秋冬の美しい四季を堪能することができます。太郎が竜宮城にいる間に700年もの年月が経過していました。ふるさとで玉手箱を開けた太郎はお翁さんになってしまいます。玉手箱には、時が封印されていた、そうこれは〝時の物語″なのです」と解説。さらに「時とは何か。そして、竜宮城とは何か。なぜ、太郎は故郷に帰ったのか。現代を生きる私たちも〝今″という時をどのように生きるべきか、あらためて見つめることができるかもしれません」とも。日本で語り継がれる物語を題材に生み出された新作バレエ。遊び心溢れる美術や映像が掛け合わさり、心弾む空間が広がるステージで、とびきりポップな竜宮城の世界を堪能してほしい。上演は7月24日(土)から27日(火)まで、東京・新国立劇場オペラパレスにて。文:伊藤由紀子撮影:鹿摩隆司
2021年07月24日展覧会「WHO ARE WE 観察と発見の生物学国立科学博物館収蔵庫コレクション|Vol.01 哺乳類」が、大分県立美術館にて、2021年7月22日(木・祝)から9月12日(日)まで開催される。動物の剥製をめぐる“観察と発見”国立科学博物館の収蔵庫には、約480万点もの標本が保管されているものの、その多くは普段は公開されていない。本展では、そのうち世界屈指の動物標本コレクションとして知られる「ヨシモトコレクション」を中心に、選りすぐりの哺乳類の標本を紹介する。生物の形は長い進化の歴史の成果である。その歴史の「ある一時」を切り取った動物の剥製を観察することで、環境の適応による動物の生き様や多様性の複雑さ、そして自然が創り出した美しさを知ることができる。本展では、「観察の眼、発見の芽」をテーマに、動物の剥製1点1点を“美術作品のように観察する”という方法で展示。標本についての解説でなく、観察の「視点」を提示することで、ほかの動物との共通点や、現代の人びとの日常とのつながりの発見を促す構成となっている。展覧会概要展覧会「WHO ARE WE 観察と発見の生物学国立科学博物館収蔵庫コレクション|Vol.01 哺乳類」会期:2021年7月22日(木・祝)〜9月12日(日)会場:大分県立美術館 3階 コレクション展示室住所:大分県大分市寿町2-1開館時間:10:00〜19:00(金・土曜日は20:00まで)※入場は閉館30分前まで観覧料:一般 300円、小・中・高校生 200円※大分県芸術文化友の会 びびKOTOBUKI無料、TAKASAGO無料※障がい者手帳などの提示者と付添者(1名)は無料※学生は入場時に学生証を提示【問い合わせ先】大分県立美術館TEL:097-533-4500
2021年07月16日特別企画展「スイス プチ・パレ美術館展―珠玉のフランス近代絵画―」が、滋賀の佐川美術館にて、2021年9月14日(火)から11月7日(日)まで開催される。なお、鹿児島市立美術館では9月5日(日)まで開催される予定であったが、8月19日(木)をもって終了。フランス近代絵画の充実したコレクションスイス・ジュネーブに1968年に開館したプチ・パレ美術館は、19世紀後半から20世紀前半にかけて芸術の都・パリを中心に制作された、フランス近代絵画を主としたコレクションを所蔵する美術館。1998年以降は休館しているものの、充実した所蔵コレクションから、国外の大規模美術展に継続的に出品協力を行っている。日本では30年ぶり、鹿児島では初となるコレクション展「スイス プチ・パレ美術館展―珠玉のフランス近代絵画―」は、プチ・パレ美術館の主要コレクションが来日する、日本では30年ぶり、鹿児島では初となる本格的なコレクション展だ。印象派のルノワールからナビ派のモーリス・ドニ、フォーヴィスムのヴラマンク、キュビスムのアンドレ・ロート、エコール・ド・パリのユトリロ、スタンラン、藤田嗣治まで、38作家による油彩画65点が一堂に集結する。19世紀後半に“光の描写”に挑んだ印象派が現れて以来、フランスでは画家たちによって次々と革新的な絵画が生み出されてきた。「プチ・パレ美術館」では、時代を象徴する巨匠の作品のみならず、その他多数の優れた周辺作家の作品も所蔵。実験的な精神に満ちた画家たちによる多彩な作品を通して、時代の活況を見て取ることができる。印象派からナビ派/ポン=タヴァン派、新印象派、フォーヴィスム、キュビスム、そしてポスト印象派やエコール・ド・パリに至るまで、フランス近代絵画の全体像とダイナミックな時代の潮流を体感できそうだ。【詳細】特別企画展「スイス プチ・パレ美術館展―珠玉のフランス近代絵画―」会期:2021年9月14日(火)~11月7日(日)場所:佐川美術館住所:滋賀県守山市水保町北川2891開館時間:9:30~17:00 ※最終入館は16:30まで。休館日:月曜日(9月20日は開館)、9月21日入館料:一般 1,200円、高大生 800円(要学生証提示)、中学生無料 ※ただし保護者の同伴が必要。※専門学校・専修学校は大学に準じる。※障害者手帳の持参者(手帳の提示が必要)、付添者(1名のみ)は無料。■終了した会場・鹿児島市立美術館会期:2021年7月23日(金・祝)~8月19日(木)※当初は9月5日(日)までの会期を予定していたものの変更(チケットの払い戻しについては、後日美術館ホームページにて案内)住所:鹿児島県鹿児島市城山町4-36問い合わせ先TEL:099-224-3400
2021年07月09日「六本木アートナイト2021」が、東京・六本木地区にて2022年3月18日(金)から21日(月・祝)まで開催される。尚、当初2021年9月23日(木・祝)から26日(日)まで開催予定だったが、開催延期となった。六本木の街を舞台にした都市型アートフェスティバル「六本木アートナイト」は、六本木の街を舞台に2009年より継続的に開催されてきた都市型アートフェスティバル。美術館をはじめとする文化施設や大型複合施設、商店街が集積する六本木の街全域にわたって、インスタレーション作品や、音楽、パフォーマンス、トークなどの多様なコンテンツを展開する。尚、「六本木アートナイト2021」のプログラムなど内容詳細は、今後随時発表予定となっている。【詳細】六本木アートナイト2021開催期間:2022年3月18日(金)~3月21日(月・祝)※日程は変更となる場合あり。※当初の予定では2021年9月23日(木・祝)~9月26日(日)開催予定だったが、延期となった。
2021年07月08日大阪駅から徒歩約9分。アクセス抜群な梅田スカイビル27階に位置する絹谷幸二 天空美術館。7月3日(土)から、絹谷幸二の画業を振り返る新展示『ARS VITA ESTA藝術は人生~色彩画家の軌跡~』がスタートする。「絹谷幸二 天空美術館」チケット情報アフレスコ(壁画の古典技法)の第一人者であり、日本の現代画壇をリードする絹谷幸二。イタリア留学時代に描いた初期作品から、絹谷藝術が開花した1980年代の大作、二次元から三次元へと展開したエポックメイキングな立体作品、自由なイマジネーションで描く最新の作品までを時系列で紹介し、絹谷藝術の誕生から現在への軌跡をたどる。アトラクション感覚でアートを楽しめると話題を集めている、“絵の中に飛び込む3D体験”も2本立てで公開中だ。高さ約3メートル、幅約14メートルの大型ラウンドスクリーンに、悠々と空を駆ける風神雷神、大きな口を開けて観客に向かい来る龍神が映し出され、絹谷幸二の世界観を体感できる。さらに、画家自らが美術館を案内し作品解説をするVR体験も実施。東京のアトリエをバーチャル訪問し、制作風景を360度で見渡せるなど、ここだけの貴重な体験も待っている。アート鑑賞のあとは、併設の「天空カフェ」へ立ち寄るのもお忘れなく。スイーツやアルコールが楽しめる隠れ家カフェでは、壁一面に大きく取られた窓から大阪の街が一望でき、大阪湾に夕日が沈み、空一面が茜色に染まる美しい光景を目にすることができる。アートの余韻に浸るもよし、目の前に広がるパノラマを楽しむもよし。思い思いの時間を過ごしてほしい。遠出がしにくい今だからこそ、想像力が無限に広がるアートの世界で、リフレッシュをしてみるのはいかがだろう。■VR体験をお試し!スマホ・タブレットのYouTubeアプリで、360度周囲を見渡すVR体験がお試しできる!下記のURLにアクセス!
2021年07月02日フランス・シャンパーニュ地方にあるランス美術館は、ルーヴル美術館に次いでカミーユ・コローの作品を多く所蔵するなど、19世紀の風景画が充実していることで有名。本展『ランス美術館コレクション 風景画のはじまり コローから印象派へ』では、このランス美術館のコレクションから厳選した約80点の名作を通して、印象派の中核ともいうべきフランス近代風景画の歴史をたどる。18世紀以前の西洋美術において、風景画は崇高な神話や歴史画の背景にすぎなかった。けれど18世紀末から19世紀初頭にかけて、その風景画に注目が集まり始める。この動きは革命後の社会の変化、新興ブルジョワジーの台頭、産業革命と都市化による田園風景への憧れなど、当時新しく生まれた価値観を受けて引き起こされたもので、画家らはアトリエを出て屋外で風景をスケッチし始めた。そんな風景画家の中でも特に注目を集めたのは「バルビゾン派」と呼ばれる画家たち。彼らはパリ郊外にあるフォンテーヌブローの森に隣接するバルビゾン村に滞在し、大作を生み出してゆく。その写実的な作風がモネやルノワール、シスレーなど19世紀後半に活躍する印象派の画家たちに受け継がれていったのだ。こうしたフランス印象派の成り立ちを余すところなく紹介したのが本展。近代画家の先駆者であるミシャロンやベルタンに始まり、コローやクールベ、ブーダン、さらに印象派のモネやルノワール、ピサロまで、19世紀フランス絵画の巨匠の作品が一堂に会する。会場では時系列に章が展開し、関連する資料も数多く登場。例えばチューブ式絵の具や、エッチング(腐食銅版画)の発明が風景画の発展を加速させたことなど、文明が美術に大きく影響を及ぼしている様子がよくわかる。いま話題となっているデジタルアートも、過去の名作も、技術の発展が新しい芸術を生んでいるという事実は変わらない。心が洗われるような異国の美しい風景画とともに、そんな普遍性にも気づかせてくれる、発見のある内容だ。コンスタン・トロワイヨン《ノルマンディー、牛と羊の群れの帰り道》1856年Inv. 907.19.234ランス美術館©MBA Reims 2019/Photo : C.Devleeschauwerジャン=バティスト・カミーユ・コロー《湖畔の木々の下のふたりの姉妹》1865‐70年Inv.887.3.82ランス美術館©MBA Reims 2019/Photo : C.Devleeschauwerクロード・モネ《べリールの岩礁》1886年Inv. 907.19.191ランス美術館©MBA Reims 2019/Photo : C.Devleeschauwerピエール=オーギュスト・ルノワール《風景》1890年頃Inv. 949.1.61ランス美術館©MBA Reims 2019/Photo : C.DevleeschauWer『ランス美術館コレクション 風景画のはじまり コローから印象派へ』SOMPO美術館東京都新宿区西新宿1‐26‐16月25日(金)~9月12日(日)10時~18時(入館は17時半まで)月曜休(8/9は開館)一般1500円ほかTEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)※『anan』2021年6月30日号より。取材、文・山田貴美子(by anan編集部)
2021年06月29日日本を代表する建築家のひとり、隈研吾。彼のこれまでの活動を「公共性」を軸に振り返る展覧会、『隈研吾展新しい公共性をつくるためのネコの5原則』が、東京国立近代美術館で9月26日(日)まで開催されている。これまでにない大規模な個展だ。隈研吾は1954年生まれ。1964年開催の東京オリンピックの際に見た丹下健三の国立屋内総合競技場(現・国立代々木競技場)に衝撃を受け、幼少期より建築家を志した。コロンビア大学客員教授を経て、90年に隈研吾建築都市設計事務所を設立した後は、20か国を超す国々でその土地の環境や文化に溶け込む建築を手掛けている。国立競技場の設計への参画はもちろんのこと、根津美術館やサントリー美術館、角川武蔵野ミュージアムに富山市ガラス美術館など数多くの美術館建築を手掛けていることから、美術ファンにも知られた存在だ。本展は、彼の手掛けた建築の「公共性」という部分に着目。隈自身がピックアップした建築と映像作品、前庭に展示されるトレーラーハウスを合わせ、合計74件を5つのキーワードで読み解いていく。第一会場エントランス本展は、有料の第1会場と入場無料の第2会場からなる2部構成。第1会場では、序論として、隈も参画した国立競技場のディテール模型が並ぶ。国立競技場ディテール模型国立競技場ディテール模型以降は彼が手掛けた68件の建築が怒涛のように並んだ展示が続く。本展は、時系列ではなく、自身が考える建築の5つの原則「孔」「粒子」「斜め」「やわらかい」「時間」で分類され、構成されている。「孔」のセクションで紹介されている「V&Aダンディー」は、日本の鳥居に着想を得て、街と川をつなぐ孔を作っている。スコットランド《V&Aダンディー》2018年の模型栃木県に建設された《那珂町馬頭広重美術館》は、建物内にトンネル状の孔を明けて、街と建物の背後にある里山をつなげようとしている。《那珂町馬頭広重美術館》2000年の模型《那珂町馬頭広重美術館》2000年の模型「粒子」の項目では、細かいパーツを組み合わせて全体を形作る建築物を紹介している。国立競技場はこの粒子の概念を象徴した建物だ。青山《サニーヒルズジャパン》部分 2013年代々木《国立競技場》2019年の模型このほか、「斜め」や「やわらかい」、「時間」のカテゴリーで隈研吾の建築が語られている。キャプションに添えられた作品解説も隈本人によるものだ。なお、展覧会のタイトルにちなみ、会場内にはネコが時々出現しているのでお見のがしなく。浅草《浅草文化観光センター》2012年の模型よく見ると…浅草《浅草文化観光センター》2012年の模型(部分)かわいいネコがいる注意書きにもネコ第2会場では、人間ではなく、「ネコ」の視点から都市のあり方を見直すリサーチプロジェクト《東京計画2020(ニャンニャン)ネコちゃん建築の5656(ゴロゴロ)原則》(Takramとの協働)とVR展示が行われている。ネコにGPSをつけた記録や、ネコの習性、生態を取り入れた新しい都市の考え方だ。国内外に数多くの建築物を残してきた隈研吾。彼の建物の魅力と本質に迫ることができる重厚な内容の展覧会だ。『隈研吾展新しい公共性をつくるためのネコの5原則』6月18日(金)~9月26日(日)、東京国立近代美術館にて開催取材・文:浦島茂世
2021年06月22日三鷹の森ジブリ美術館の新企画展「アーヤと魔女」展がスタート。2022年5月(予定)までの期間限定で開催される。三鷹の森ジブリ美術館の新企画「アーヤと魔女」展本展は、監督・宮崎吾朗によるスタジオジブリの新作3DCGアニメーション映画『アーヤと魔女』制作のあらましを紹介する企画展。宮崎吾朗自身の企画・監修で、スタジオジブリが挑む初のフル3DCGアニメーションの現場で一体どんな作業が行われていたのか、様々な展示を通してその制作の裏側に迫る。宮崎吾朗自身の企画・監修で様々な仕事を紹介3Dモデルのキャラクターを動かすための骨格や表情の造形、丸々1年を費やして作られた魔女の作業部屋の美術ボード、ラベルや壁紙などのデザイン、あるいは光や色の足し算に特殊効果。展示室ではこれらの仕事を、展示オリジナルの3D映像を用いながら、監督自らのコメントと共に展示する。また、実際に主人公アーヤの表情を作る体験コーナーや、キャラクター作りに大きな影響を与えたというスタジオライカ制作のストップモーションアニメ『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』(2016年)の人形も設置される。アニメーション表現におけるフォーマットは変わっても、大勢のスタッフによる膨大な手作業によって生み出されるスタジオジブリらしさは不変。ジブリにとって新たな挑戦となった『アーヤと魔女』を通じて、3DCGアニメーションのおもしろさ、奥深さ、そして表現としての可能性を知ることの出来る展覧会となっている。開催概要「アーヤと魔女」展開催期間:2021年6月2日(水)〜2022年5月(予定)会場:三鷹の森ジブリ美術館※三鷹の森ジブリ美術館の入場は日時指定の予約制。チケットは全国のローソンで発売。※チケットに関する詳細は公式WEBサイト(より。© 2020 NHK, NEP, Studio Ghibli © Studio Ghibli © Museo d’Arte Ghibli
2021年06月20日2006年、写真集『IN MY ROOM』(2005年刊行)によって第31回木村伊兵衛写真賞を受賞した鷹野隆大(1963-)の美術館では初となる大規模展覧会が、6月29日(火)より国立国際美術館にて開催される。ジェンダーやセクシャリティをテーマとする写真家として認知されている鷹野だが、1998年から毎日欠かさず写真を撮るプロジェクト「毎日写真」を実践し続け、写真という媒体の特性とその限界について、考察を重ねてきた。同展では、鷹野の芸術活動の根幹を成すその「毎日写真」を主軸としながら、ジェンダー・セクシャリティ系の出世作や、「毎日写真」から派生した日本特有の無秩序な街並みの写真「カスババ」、定点観測的な「東京タワー」など、約130点を時系列に紹介。鷹野隆大の思索の変遷をたどる。また、東日本大震災後の混乱した日々のなかで、自分の足元にまとわりついてくる黒いもの=影が気になりだし、シリーズとして発表している「影」の作品を実体験できるコーナ―も登場。作品と同じセッティングを使って、自分の影をスマホで撮影することができる。《2018.11.14.#05》2018 年 ©Takano Ryudai, Courtesy of Yumiko Chiba Associates《赤い革のコートを着ている》2002 年 ©Takano Ryudai, Courtesy of Yumiko Chiba Associates《2011.03.11_T》2011 年 ©Takano Ryudai, Courtesy of Yumiko Chiba Associates《2018.03.03.D.#02》2018 年 ©Takano Ryudai, Courtesy of Yumiko Chiba Associates【開催概要】『鷹野隆大毎日写真1999-2021』会場:国立国際美術館会期:2021年6月29日(火)~9月23日(木・祝)時間:10:00~17:00(金土は21:00まで、入場は閉館30分前まで)休館日:月曜(8月9日、9月20日は開館、8月10日休)料金:一般1200円、大学生700円※金土は夜間割引あり公式サイト:
2021年06月18日第二次世界大戦後から現在までのファッションの歴史をたどる展覧会、『ファッション イン ジャパン 1945-2020-流行と社会』が、6月9日(水)より国立新美術館で開催されている。世界でも注目されている日本のファッションについて包括的に紹介する大規模なものだ。本展は日本の洋装文化を紐解く大展覧会。洋服を基本とした歴史について、衣服はもちろんのこと写真や雑誌、映像などを通して検証していく。従来のファッション展はデザイナーやメーカーの視点に立つことが多かったが、本展は実際に衣服を着用し、ときには流行を自ら作り出していった消費者の視点でもファッションを俯瞰することも試みている。展示風景第8章 未来へ「未来へ向けられたファッション」より第二次世界大戦が終わり、国民はもんぺや国民服以外の服も自由に身に纏えることとなった。そのため、戦後日本は洋裁学校で仕立てた自前の服を着ることが大流行。『装苑』や『私のきもの』、『ソレイユ』、『スタイルブック』に『ドレスメーキング』など、型紙が掲載された洋裁雑誌は大人気となる。また、文化服装学院やドレスメーカー女学院をはじめ、全国に多くの洋裁学校が設立されていく。展示風景第1章 1945〜1950年代「花開く洋裁文化と若者の台頭」より展示風景第1章 1945〜1950年代「花開く洋裁文化と若者の台頭」より高度経済成長に入り、既製服が大量生産されるようになっていくと、洋服は仕立てるものから、購入するものへと人々の意識は変わっていく。また、ロンドンやアメリカの若者文化の流行が日本にも伝播し、戦後から僅かな時間で日本人の服装はまたたく間に多様化されていった。展示風景 第2章 1960年代「消費拡大!モーレツ社員たちによる高度経済成長はとまらない」より展示風景 第2章 1960年代「消費拡大!モーレツ社員たちによる高度経済成長はとまらない」よりそして、1970年代に入ると、KENZOやISSEY MIYAKE、山本寛斎など日本人デザイナーたちが海外で活躍し始め、日本のファッション全体が注目されるようになっていく。その一方、大川ひとみの「MILK」や、菊池武夫、稲葉賀恵による「BIGI」、荒牧太郎の「マドモアゼルノンノン」など若者を引きつけるファッションブランドが原宿に誕生、流行の発信地となっていく。展示風景 第3章 1970年代「カジュアルウエアのひろがりと価値観の多様化、個性豊かな日本人デザイナーの躍進」より展示風景 第3章 1970年代「カジュアルウエアのひろがりと価値観の多様化、個性豊かな日本人デザイナーの躍進」より1980年代に入ると、川久保玲や山本耀司が海外で活躍。「黒の衝撃」とも呼ばれるデザインはそれまでのファッションの価値観を揺るがす大胆なものであった。いっぽう、デザイナーの個性をより強調した「DCブランド」も流行した。第4章 1980年代「DCブランドの流星とバブルの時代」より左 トップ、ドレス 川久保玲 コム デギャルソン 1983年春夏 京都服飾文化研究財団(株式会社コム デギャルソン寄贈)右 コート、トップ、パンツ川久保玲 コム デギャルソン 1983年春夏 京都服飾文化研究財団(株式会社コム デギャルソン寄贈)展示風景第4章 1980年代「DCブランドの流星とバブルの時代」よりしかし、1991年のバブル崩壊後、ファッションの表舞台は裏原宿や渋谷などの「街」に移っていく。ギャルや渋谷系、裏原系など流行は細分化し、等身大の着こなしをする読者モデルたちがファッションリーダーとして憧れの対象となっていく。展示風景第5章 1990年代「都市から発信されるスタイル、ストリートファッションの時代へ」より展示風景第5章 1990年代「都市から発信されるスタイル、ストリートファッションの時代へ」よりそして、ファッションの歴史は2000年代から現在、未来へと続いている。「kawaii」という日本語が万国共通語として広く認知され、ゴシック系やロリータなどが人気に。また、2011年の東日本大震災以後は、サステナブル(持続可能)な社会のあり方が、ファッションにも影響を及ぼすようになっていった。シンプルで無理なく生活をできるスタイルを目指す服、暮らし方に共感が集まるようになっていく。展示風景第6章 2000年代「ンターネットで繋がる社会と『kawaii』ファッションの台頭」より展示風景第6章 2000年代「インターネットで繋がる社会と『kawaii』ファッションの台頭」より展示風景第8章 未来へ「未来へ向けられたファッション」より1945年から70年強にわたり、変化し続ける日本のファッション。作る側、着る側の双方向の視点で長い歴史を見つめることで、過去と現在、未来に思いを馳せることができる刺激にあふれる展覧会だ。構成・文:浦島茂世【開催情報】『ファッション イン ジャパン 1945-2020-流行と社会』6月9日(水)~9月6日(月)、国立新美術館にて開催
2021年06月09日60年以上にわたり、第一線で活躍を続ける写真家、篠山紀信。現在、東京都写真美術館で、彼の足跡をたどる展覧会『新・晴れた日篠山紀信』が開催されている。初期作品から、現在までの作品116展が展示される大規模な展覧会だ。本展のタイトル「晴れた日」は、1974年にアサヒグラフ誌に掲載されていた連載にちなんだもの。大スターのふとした仕草から不安定な空模様まで、時代の雰囲気巧みに捉えたこの作品群は、75年には写真集「晴れた日」としてまとめられ出版されている。篠山紀信は「自分は、大衆向けの写真を撮り続けていたため、東京都写真美術館で展覧会の声がかかるとは正直思っていなかった」と展覧会の企画を持ちかけられたときの心境を率直に語っていた。しかしながら、本人の期待をさらに上回る展示となり、非常に手応えを感じていることもコメントしている。本展は、美術館の2フロアをたっぷりと使った2部構成の展覧会。『晴れた日』や、ヴェネツィア・ビエンナーレにも出品された「家」など60〜70年代までの主要作品が展示する第一部、1980年代からバブル時代の東京を捉えた『TOKYO NUDE』、2011年の東日本大震災を捉えた『ATOKATA』、変わりゆく東京の姿を捉えた『TOKYO 2020』などが並ぶ第二部を通して観賞すると、篠山紀信がたどってきた60年の道のりをたどることができる。■第一部 1960-70年代展示風景より広い海原に、ぽつんと浮かぶ白いヨット。この写真は、海洋冒険家の堀江健一が単独無寄港世界一周に挑戦し、まもなく日本に到着するときを撮影した写真だ。この写真を撮影するため、篠山は東京から朝日新聞大阪本社まで赴き、朝日新聞社のセスナで数時間かけて250km離れた海上まで移動したという。「晴れた日」シリーズより《堀江謙一潮岬沖240キロを航行中の「マーメイドIII」》 1974年)約9年間、表紙を担当した《明星》は、8☓10と呼ばれる大判カメラとフィルムで撮影されたもの。当時のスターたちのきらめきが写真のなかに封じ込められているようだ。『明星』表紙1972年〜81年「家」のシリーズは実際に人が暮らす日本全国の家を約4年かけて撮影したもの。人が長く暮らすことで生まれた傷やたわみ、においまでも感じさせる。このシリーズで篠山は76年の「ヴェネツィア・ビエンナーレ」日本館の代表作家に選ばれている。「家」1972~75年■第二部 1980-2010年代1980年代以降、篠山の作品はさらに自由度が増していく。「TOKYO NUDE」シリーズは、様々な技法を用いて、普段は目に見えない東京の姿を篠山があぶり出していくものだ。隅田川を真上からとらえたこの作品は、35ミリカメラを3台連結し、同時にシャッターを切り、合成したもの。現在は東京スカイツリーが完成し、空から見える東京東部も大きく変貌したと篠山はコメントしている。「TOKYO NUDE」より 1990年「人間関係」は、1992年から現在まで続く雑誌『BRUTUS』の連載シリーズ。毎回、縁のある二人を、ゆかりある場所で撮影されている。たった一枚の写真のなかに、被写体の関係性が深く浮かび上がっているようだ。「人間関係」1994〜そして、篠山は休みなく姿を変える東京をさらに撮り続けていた。羽田空港D滑走路のち家やレインボーブリッジのうねる曲線などを撮影した「TOKYO 2020」において篠山の視点はさらに広がりを見せていることが感じられる。「TOKYO 2020」2009〜18年展示されている116点の作品は、ヌードから魚の頭まで被写体の対象はバラエティに富んでいる。しかしながら、どの作品も対象の本質を捉えようとする姿勢が感じられる。写真家の60年にわたる長い歴史をたどることができる、貴重な展覧会だ。取材・文:浦島茂世【開催情報】『新・晴れた日篠山紀信』5月18日(火)~8月15日(日)、東京都写真美術館にて開催
2021年06月09日東京都写真美術館で開催中の「新・晴れた日篠山紀信」の会場の模様が6月10日(木)、『篠山紀信本人とめぐる大回顧展 「新・晴れた日」東京都写真美術館』として、ニコニコ美術館で生中継される。「ニコニコ美術館」は博物館 / 美術館の特別展・常設展を専門家の解説つきで巡る番組。視聴者がPCの前にいながら、展覧会場を巡っているような感覚で「インターネット生放送ならでは」の体験を楽しむことが可能だ。篠山紀信は時代の熱量を捉えた写真によって1960年代から活躍。数多くの雑誌の表紙やグラビアを手がけ、写真家として時代をつくり出してきた彼の、60年間にわたる116作品を2部構成で展覧している。第1部は写真界で注目を集めた1960年代の初期から『晴れた日』や1976年のヴェネチア・ビエンナーレでも出品された『家』ほか、その後の幅広い活躍の原点となる1970年代までの主要作品で構成。第2部は1980年代以降の作品を中心に、バブル経済による変貌から、2011年の東日本大震災を経て、2021年に向かい再構築される東京の姿まで。創造と破壊、欲望と不安が相即不離な変化の時代をとらえた作品を紹介する。番組では篠山とキュレーションを担当しれた東京都写真美術館学芸員の関昭郎が主演。篠山自身が「最初で最後」、「写真家人生を代表するような展覧会」と語る大回顧展の魅力を、時間が許す限り解説していく予定だ。■番組情報『篠山紀信本人とめぐる大回顧展 「新・晴れた日」東京都写真美術館』6月10日19時、ニコニコ生放送にて開始予定URL: 展示詳細:
2021年06月09日東京都世田谷区にある、『世田谷美術館』。砧(きぬた)公園内にある同美術館は、豊かな自然とアートを楽しむことができ、近隣住民の憩いの場となっています。そんな憩いの場に訪れるのは、どうやら人間だけではないようです。美術館に現れた『小さな訪問客』が話題に!ある日の夕方、美術館の職員用通用口の前では、警備員と客の攻防が行われていました。何かの侵入を必死に防ぐ警備員。中に入ろうとしていたのは…!通用口の前にいたのはなんと、赤ちゃんタヌキ…!出典:世田谷美術館母親とはぐれてしまったのでしょうか。ちょうどスタッフが通用口を行き来する時間帯だったため、ドアが開く度に侵入を試みようとしていたそうです。まだ体の小さな赤ちゃんタヌキは、階段を下りるのが怖い様子。その後、スタッフに見守られながらゆっくりと階段を降り、最後は茂みへ帰っていきました。美術館に現れた珍客に、ネット上ではこのような声が寄せられています。・かわいい…!無事お母さんの元へ帰れるといいな。・きぬた公園に、『たぬき』が現れたのか!・なんてかわいいお客様…。ずっと見ていられる。美術館に現れる珍しい客といえば、広島県尾道市の『尾道市立美術館』へやって来る猫も有名ですよね。美術館にやってきた『珍客』警備員とのやり取りに、心がポカポカどうやら美術館には、人間だけではなく動物も引き寄せる不思議な力があるようです…![文・構成/grape編集部]
2021年06月04日