明治座花形歌舞伎が8年ぶりに復活することが決定し、11月に『明治座 十一月花形歌舞伎』が上演されることが発表された。明治座花形歌舞伎は平成23(2011) 年以来、次世代を担う花形俳優たちが大役に挑む話題性や、歌舞伎に馴染みのない人にも分かりやすいエンターテインメント性に富んだバラエティ豊かな演目を上演してきた。令和2(2020) 年3月には、中村勘九郎、中村七之助を中心とした座組で『明治座 三月花形歌舞伎』を予定していたが、新型コロナウイルス感染拡大に伴い全公演中止に。それから4年の時を経て明治座花形歌舞伎が帰ってくる。『明治座 十一月花形歌舞伎』は中村勘九郎、中村七之助をはじめ、花形公演に相応しい華やかな顔ぶれが揃う。昼の部は歌舞伎の様式美溢れる『車引』、長谷川伸の傑作『一本刀土俵入』、華やかな女方舞踊『藤娘』、夜の部は義太夫狂言の名作『鎌倉三代記』、息もつかせぬ早替わりが圧巻の『お染の七役』と多彩な演目が上演される。<公演情報>『明治座 十一月花形歌舞伎』公演期間:11月2日(土) 初日~26日(火) 千穐楽※休演日は11月11日(月)、20日(水)会場:明治座開演時間:昼の部 11:00 / 夜の部 16:00【演目・配役】■昼の部一、菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)一幕車引長谷川伸 作村上元三 演出二、一本刀土俵入(いっぽんがたなどひょういり)二幕五場三、藤娘(ふじむすめ)長唄囃子連中『菅原伝授手習鑑 車引』松王丸:坂東彦三郎梅王丸:中村橋之助桜丸:中村鶴松藤原時平:坂東楽善『一本刀土俵入』駒形茂兵衛:中村勘九郎お蔦:中村七之助堀下根吉:中村橋之助若船頭:中村鶴松波一里儀十:喜多村緑郎船印彫師辰三郎:坂東彦三郎老船頭:市川男女蔵『藤娘』藤の精:中村米吉■夜の部一、 鎌倉三代記(かまくらさんだいき)一幕絹川村閑居の場四世鶴屋南北 作渥美清太郎 改訂於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)二、お染の七役(おそめのななやく)三幕中村七之助早替りにて相勤め申し候浄瑠璃「心中翌の噂」(しんじゅうあしたのうわさ)『鎌倉三代記』佐々木高綱:中村勘九郎時姫:中村米吉おくる:中村鶴松母長門:中村歌女之丞三浦之助義村:坂東巳之助『お染の七役』油屋娘お染・丁稚久松・許嫁お光・後家貞昌・奥女中竹川・芸者小糸・土手のお六:中村七之助鬼門の喜兵衛:喜多村緑郎油屋多三郎:坂東巳之助船頭長吉:中村橋之助丁稚長松:坂東亀三郎腰元お勝・女猿廻しお作:中村鶴松山家屋清兵衛:坂東彦三郎庵崎久作:市川男女蔵【チケット】(税込)一等席(1階席・2階席正面)15,000円二等席(2階席左右)7,500円三等A席(3階席正面)5,000円三等B席(3階席左右)3,000円※未就学児入場不可※車いすスペースは明治座チケットセンター及び明治座切符売場にて販売いたします。※三等B席は舞台の一部が見づらい可能性のある座席です。■一般発売電話・ネット予約:9月21日(土) 10:00~
2024年07月17日歌舞伎に現代の視点を取り入れつつ、その新たな可能性を発信してきた木ノ下歌舞伎(通称・キノカブ)の『三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)』が9年ぶりに再演されることになり7月16日(火)、東京池袋の東京芸術劇場にて制作発表会見を開催。監修・補綴の木ノ下裕一、演出の杉原邦生、出演者の田中俊介、須賀健太、藤野涼子、川平慈英、緒川たまき、眞島秀和が出席した。(「お嬢吉三」を演じる矢部昌暉は体調不良のため欠席)。歌舞伎作者のレジェンド・河竹黙阿弥による最高傑作に大胆な新解釈を加え、2014年の初演に続き、翌15年には東京芸術劇場でも上演され、読売演劇大賞2015年の上半期作品賞部門のベスト5に選出された本作。数奇な運命に翻弄される3人の“吉三”の運命を描き出す。キノカブ版では、現行の歌舞伎ではカットされている商人と花魁の恋のパート、さらに初演以来約160年ぶりに「地獄の場」を復活させており、上演時間は5時間におよぶが、演出の杉原は「絶対にお客様を飽きさせることなく興奮の渦に巻き込みます!」と力強く宣言。木ノ下は河竹黙阿弥について「既存の認識では、メッセージ性が希薄な作家と思われていますが、そんなことは全然ないんです。初演は安政7年ですが、5年前には安政の大地震が江戸に壊滅的な被害を与え、2年前にはコレラによる多くの犠牲者が生まれていて、随所に昨日まで元気だった人が今日、急に死ぬという、死の近さや疫病の存在が散りばめられています。震災や大きな疫病を体験し、まだその真っただ中にいる現代の私たちにとって、この『三人吉三』は、また違った輝きを見せると思います」と現代に上演することの意義を強調する。この日、登壇したキャスト陣は全員、キノカブは初挑戦。木ノ下歌舞伎では、歌舞伎俳優によって演じられている歌舞伎の映像のセリフや動きを俳優陣が徹底的に模倣する“完コピ稽古”を稽古前半に行なうことになっており、これまでと異なる初めての稽古を前に一同、戦々恐々……?坊主上がりの盗賊である和尚吉三を演じる田中は「(普段は役を)自分で生み出すことが多いんですが、今回はモノマネをするところから始まるという初めての経験です。家で繰り返し、(資料の)映像を見て、モノマネをしています」と語る。武家上がりのお坊吉三を演じる須賀は「上演前の台本を読みながら、2~3回閉じました(苦笑)。本当にこれをやるのか…? と」と明かす。この日、共演陣とも初めて顔を合わせたが「どことなく、学校のテスト前の探り合いのようなピリピリ感を感じています(笑)」と語る。藤野は、武家出身の花魁を演じるにあたり、実際に現在の吉原に足を運んでみたそうで「あまり(昔のものは)残ってないんですが、見返り柳や門が残っていました」とふり返る。眞島は歌舞伎初挑戦を前に「右も左もわからない状態」と不安を口にしつつも「初日には堂々と舞台に立てるように稽古に励んでいきたいです」と意気込みを語る。川平も歌舞伎初挑戦となるが「これまでの生業のほとんどがミュージカルと楽天カードマンだったので……」と笑いを誘いつつ「人間のドロドロした負の部分が入り混じる物語ですが、軽やかでスタイリッシュに、観終わって『よかったな』と生への賛美の気持ちを抱いたり、前向きなエネルギーを届けられたらと思います」と語った。緒川は、本作が初演時にお正月公演として上演されたということに言及。「台本を読むと様々な運命を背負った、こんなにも人の生き方って多様なのかという人たちが右往左往していて、これを黙阿弥は(正月公演で)人を楽しませるために描いたというふうに読むと、江戸の庶民のひとたちは、なんて粋で心が広い人たちだったのかと感じます。現代版の作品として、いまを生きる私たちに楽しんでもらえる作品になるといいなと思います。不幸が渦巻いていて、どうしてこんなにかわいそうなのか? どうしてこんな酷いことができるのか? という人たちが出てきますが、江戸の人たちに倣って、楽しめる方向に引っ張っていきたいです」と思いを語っていた。木ノ下は緒川の言葉を受け「こんな暗い芝居を正月に当て込んだ木阿弥やっぱりヤバいなと思いました(笑)。でもその背後には『みなさん、よくぞ生き延びました。こういう世界だけど頑張っていきましょう。死んだ人がかわいそうだと思うかもしれませんが、私たちも頑張ってますよね』というエール、メッセージが強くあると思います。そのあたりを引き出せる『三人吉三』にしていきたいです」と“生”への希求を力強く描き出す作品にしたいと語った。『三人吉三廓初買』は東京芸術祭 2024 芸劇オータムセレクションとして東京芸術劇場プレイハウスにて9月15日(日)より上演。7月19日(金)まで、『三人吉三廓初買』東京公演のチケット先行発売中!この機会にぜひ!▼詳細は下記よりご確認ください。<公演情報>東京芸術祭 2024 芸劇オータムセレクション東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎『三人吉三廓初買』作:河竹黙阿弥監修・補綴:木ノ下裕一演出:杉原邦生[KUNIO]【主な配役】和尚吉三:田中俊介お坊吉三:須賀健太お嬢吉三:矢部昌暉丁子屋花魁 一重:藤野涼子木屋手代 十三郎:小日向星一伝吉娘 おとせ:深沢萌華八百屋久兵衛:武谷公雄丁子屋花魁 吉野:高山のえみおしづ弟 与吉:山口航太文蔵倅 鉄之助:武居卓釜屋武兵衛:田中佑弥丁子屋新造 花琴:緑川史絵土左衛門伝吉:川平慈英文里女房 おしづ:緒川たまき木屋文蔵[文里]:眞島秀和スウィング:佐藤俊彦藤松祥子【東京公演】日程:2024年9月15日(日)~29日(日)会場:東京芸術劇場 プレイハウス【長野(松本)公演】日程:2024年10月5日(土)・6日(日)会場:まつもと市民芸術館 主ホール【三重公演】日程:2024年10月13日(日)会場:三重・三重県文化会館 中ホール【兵庫公演】日程:2024年10月19日(土)・20日(日)会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
2024年07月16日●悪役は「非常に楽しい」『怪盗グルー』最新作でも熱演ドラマや映画など映像作品でも活躍している歌舞伎俳優の片岡愛之助。「より多くの人たちに歌舞伎に興味を持ってもらいたい」との思いで歌舞伎以外の仕事にも精力的に取り組んでいる。アニメーション・シリーズ『怪盗グルー』の最新作『怪盗グルーのミニオン超変身』(7月19日公開)では、グルーの高校の同級生であり宿敵のマキシム役の吹き替えを務めた。愛之助にインタビューし、『怪盗グルー』シリーズ参戦の喜びや悪役のやりがい、今の仕事に対する思い、自身の性格や結婚後の変化など話を聞いた。本作で『怪盗グルー』に初参戦となった愛之助。人気シリーズへの参加に「すごくありがたいです。皆さん知っていて、小さいお子さんたちはミニオンと聞いただけで目を輝かせますよね。すごい人気ぶりなので緊張しましたが、生きた証として作品がずっと残っていくというのもうれしいです」と喜んでいる。TBS系ドラマ『半沢直樹』シリーズの黒崎駿一役や、昨年公開された映画『翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~』の大阪府知事役など、主人公と敵対するクセの強い役を見事に演じ存在感を放っていた愛之助。『怪盗グルーのミニオン超変身』でも重要な悪役を任された。「ミニオンの役かと思ったらそうではなく、しかも今回こそいい人の役かと思ったら、また悪い役でした(笑)。いつもクセ強めだなと。でも夢があって、悪だけではなく、悪さの中にかわいらしい部分やツッコむようなところがあったり、素晴らしい作品だなと思いました」そして、「悪役は面白いですね」とやりがいを語る。どんな物語でも主人公は痛めつけられて痛めつけられて最後に跳ね返す。悪役はガンガン攻撃するほうなので演じていてスッキリしますし、実際の生活ではできないようなことをするので非常に楽しいです」続けて、「『翔んで埼玉』もそうですが、ああいった馬鹿げたことを真剣にやるからこそ面白い。中途半端にふざけて照れながらやっても面白くないんです。とことん真面目にやり続けるから面白いので、真面目に悪役やっています」と言い、今回のマキシム役も「真面目に演じました!」と話した。アフレコでは、監督と話し合いながらどんな声で演じるか決めていったそうで、「明るくて陽気で、おフランス帰りの嫌味なヤツみたいな、ちょっとインテリぶった感じと(監督が)おっしゃっていたので、その雰囲気を出せればいいなと思いながら演じました」と説明。「絶叫もあり、楽しかったです(笑)」と普段発さないようなセリフを満喫したようだ。そして、「役を構築するという意味ではどの仕事も共通している」と言うも、「声で喜怒哀楽を表現するのはすごく難しい」と吹き替えの難しさを実感。「しかも英語でしゃべられていることを日本語で。英語の単語の字数と日本語だと、絶対に日本語のほうが長くなり、それをキャラクターの口が開いている間に全部しゃべらないといけないので早口になるところもありました」主人公グルーの声はシリーズ1作目『怪盗グルーの月泥棒』から14年にわたって笑福亭鶴瓶が務めているが、愛之助は収録で鶴瓶演じるグルーの声を聞き、シリーズ参戦の喜びを感じたという。「僕が収録するときに、鶴瓶さんの声がすでに入っているところもあって、自分が見ていたグルーと会話ができているというのはうれしかったです。昔から鶴瓶さんを存じ上げていますが、グルーのイメージも大きいですから」●自身の生き方に影響を与えた両親の死歌舞伎への思いも自身と演じたマキシムの共通点は「全くないです」と笑い、「正反対だから、そんなに根に持つんだとか、こういう考え方の人もいるんだとか、勉強になりました。唯一の共通点を探すとしたら、マキシムは虫が大好きで虫の研究ばかりしていて、僕は歌舞伎が好きで歌舞伎に没頭しているので、何か一つに没頭するというのは共感できました」と話した。そして、自身の性格をどう捉えているか尋ねると、「悩まないです」と回答。「悩んでずっと立ち止まっている時間は人生において無駄だなと思うんです。解決しないから悩み事なわけで、それを一生考えていても一生解決しない。ちょっと違う道に行ってみたら解決することもあるので、あまり悩まず次に行くようにしています」悩まない性格は、両親の死も関係があると明かす。「両親が2人とも早く亡くなり、母親が53歳、親父が56歳でした。母親が亡くなった時に、母親の骨壺を見て『人間死んだら終わりやで。だから、後悔しないように生きることが大事だな』と言っていた親父も1年後に骨壺に入ってしまったので、こういうことかと、その言葉が身に染みました。自分の人生だから後悔しないように生きていかないといけないなと。好きなことだけして生きていくというのは無理ですが、人生楽しく、調和を取りながらみんなと仲良く生きていきたいなと思っています」両親の死をきっかけに「後悔しないように生きよう」と改めて感じ、悩んで立ち止まることがなくなった。「もちろん『なんで失敗したんだろう』と考えることは必要ですが、反省したらすぐ次に行けばいい。ずっとそこでくよくよしていても次の扉は開かないので、切り替えが大事だと思います」仕事においても立ち止まることなく挑戦を続け、歌舞伎以外の仕事にも精力的に取り組んでいる愛之助だが、原動力は「もっとたくさんの人たちに歌舞伎に興味を持ってもらいたい」という思いだ。「僕は歌舞伎役者で、特に上方歌舞伎を残していかなければいけないお家に入れていただいたので、最近上演されていない上方歌舞伎を復活させたり、新作を作ってみたり、歌舞伎に興味のない人たちに振り向いてもらうことがすごく大事だと思っています」最近は海外の観客がとても増えているという。「僕らも海外旅行をする時にその土地の文化を調べるように、海外の方が日本の文化に興味を持って歌舞伎を見に来てくれる。この間、歌舞伎で『流白浪燦星(ルパン三世)』をやったら、『ぜひこれを海外に流してほしい』という声がたくさんあったので、海外配信も決まりました。そうやって広まっていくのはうれしいですね。でも日本に住んでいる方たちになかなか興味を持ってもらえないので、そういう方たちにも興味を持ってもらうために僕はいろんな仕事をやっています」幅広く活動する中で相乗効果も実感しているという。「それぞれ全然違うステージだなと感じますが、結局職業としては俳優なので、どれをやってもとても勉強になる。『怪盗グルー』のような新しい仕事でも歌舞伎で培ったものが使えたりしますし、こっちで培ったものも新作歌舞伎を作る時に使えたりしますから。どん欲にいろんなことを死ぬまで挑戦し続けていきたいなと思っています」実際に、歌舞伎以外の仕事でファンになってくれた人が歌舞伎を見に来てくれるという反響も感じている。「今の時代はネットでいろんな感想を書いてくださいますが、『半沢直樹』の時に一番反響を感じました。『黒崎さんの歌舞伎が見たいと思って歌舞伎を見に来ました』って見に来てくれて、『歌舞伎かっこよかったです』『黒崎さんありがとう』という声をいただき、自分がやっていることは間違ってなかったんだなと。だからこれからも続けていこうと思います」1年のうち歌舞伎は6カ月、残りの6カ月はドラマや映画などほかの仕事をするように決めているそうで、「10年以上ずっとそうしています」とのこと。そして、今後について「貪欲にいろんなことに、ご縁があるものには挑戦していきたいなと思っていますし、海外でいろんな歌舞伎ができればなと思っています」と抱負を述べた。●結婚して食生活が変わり健康に「感謝しています」悪役のやりがいを語っていたが、『もっと悪役をやりたい』『いい役もやりたい』といった願望はないそうだ。「もうどんな役がやりたいというのはないですね。ほぼほぼやり尽くしていると思うので。これをやってほしいと言ってくださったら、そこに全力をかけるという感じで、いただいたお役をどれだけ膨らませるかということが楽しいです」そして、役をどれだけ魅力的なキャラクターにすることができるかは役者次第だという。「全力をかけてピッチャーゴロになるのか、セカンドフライになるのか、ホームランになるのか、それはその俳優がどこまでその瞬間にできるかということですから。少ししか登場しない役を演じた時に、『かわいそうだな』と思われるのか、『この役にこの人を使うなんて豪華だな』と思ってもらえるのか、そこは大きな分かれ道で、役者の腕だと思います」『怪盗グルーのミニオン超変身』のタイトルにちなみ、自身に関する変化を尋ねると、2016年3月に藤原紀香と結婚してからの変化を語ってくれた。「結婚して9年目ですが、結婚して食生活が変わり健康になりました。それまで100%外食だったものが、うちの妻が作ってくれる料理を食べるようになり、妻は体に悪いものや良いものなどいろんなことを研究していて詳しいので、そういうものを食べていると体の数値がすごく良くなりました。結局一番大事なのは健康だと思うので、感謝しています」また、気持ちの面でも変化があり、「家族のために頑張ろうという思いはありますね」と述べ、藤原の活躍から刺激ももらっているという。「お互い俳優をやっているので、彼女の舞台を見に行ったり、テレビに出た作品を見たり。彼女の台本を一緒に読んであげることもあるのですが、普段僕がやらないような役をやるんです。ラブストーリーは全くご縁がないので面白いなと思いながら読んでいます。僕が出演する作品だと周りにいるのは武士や銀行員なので(笑)」最後にファンに向けて、「『怪盗グルーのミニオン超変身』では、私が務めさせていただいたマキシムが素敵な彼女を連れて現れ、高校時代の因縁を晴らそうとします。そして、ミニオンがどういう風に超変身するのか、楽しみに見に来ていただけたら。2回、3回見ても何度も楽しめると思うので、ぜひお友達も誘って見に来ていただきたいです」とメッセージを送った。■片岡愛之助1972年3月4日生まれ、大阪府出身。1992年1月に片岡秀太郎の養子となり、大阪・中座『勧進帳』の駿河次郎ほかを演じ六代目として片岡愛之助を襲名。歌舞伎のみならず、映画やドラマなどでも幅広く活躍。2023年はドラマ『警視庁アウトサイダー』、『大奥』、映画『仕掛人・藤枝梅安』、『キングダム 運命の炎』、『ホーンテッドマンション』(吹き替え)、『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』、舞台『西遊記』、新作歌舞伎『流白浪燦星(ルパン三世)』などに出演。2025年のNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』への出演も決定している。
2024年07月15日歌舞伎俳優の松本幸四郎、小説家の京極夏彦氏が9日、都内で行われた歌舞伎座『八月納涼歌舞伎』第三部『狐花 葉不見冥府路行(きつねばな はもみずにあのよのみちゆき)』の取材会に参加した。本作は、京極氏が今回の舞台化のために執筆した完全新作で、「姑獲鳥の夏」「魍魎の匣」で知られる『百鬼夜行』シリーズや『巷説百物語』シリーズなどに連なる物語。7月26日に小説版として刊行し、その後8月4日から歌舞伎座で上演されるという新たな試みが採られる。幸四郎は開口一番、京極氏との初タッグについて「京極先生の作品を歌舞伎でできるというのは夢の夢の夢…ぐらいのことだと思っていましたけども、それがやっと実現する時が来たということで、本当に興奮しています」と喜びを伝える。続けて京極作品のファンであると言い、「独特な世界観ですし、小説でありながら優しいというか、怪しいというか、艶っぽい音楽が聞こえてくるような感じがする。それに、いわゆる歌舞伎の絢爛(けんらん)豪華なものとは違う美しい色彩も感じていた」と語り、「歌舞伎作品もやはりそういった絵的な美しさは、どの作品、どういう表現の仕方でも大事になってくる。そういう意味で、京極先生の世界観が歌舞伎の作品に落とし込まれるのは必然ではないかと思っていました。今回が初めてですけれども、やっとこの日が来たという思いです」と言葉に力を込めた。作中では、『百鬼夜行』シリーズの主人公・“京極堂”こと中禅寺秋彦の曾祖父・中禅寺州齋が生きる時代を舞台に、美しい青年の幽霊騒動と作事奉行らの悪事の真相に州齋が迫る様が描かれる。歌舞伎版では、州齋役を幸四郎、萩之介とお葉の2役を中村七之助、上月監物役を中村勘九郎が勤める。州齋については「陰陽師のような存在に通じるところはあると思いますが、対等にいる人間のような感じもある。何かを成し遂げる使命感というより、起こる出来事の中に冷静に存在しているような人」と分析しつつ、「セリフでドラマが進んでいくものではありますが、最初に思ったのはシェイクスピアの劇などともまた違う世界観だなと。ですので、『京極歌舞伎』という今までこの世に存在しなかったものを新たに作るという姿勢で取り組もうと思っております」と意気込んだ。さらに「真正面からこの作品を歌舞伎の演目にするんだという気持ちですが、歌舞伎の型にはめ込んでいくということではなく、京極さんの新作を歌舞伎としてみていただきたい。歌舞伎ならではの表現方法を汲んで、どれだけ自分が頭の中で自由に発想していけるか。そこにこだわって作っていきたいですね」と気炎を上げた。
2024年07月09日昨年12月に東京・新橋演舞場で上演された新作歌舞伎『流白浪燦星(ルパン三世)』の収録映像が、歌舞伎の公式有料動画配信サービス「歌舞伎オンデマンド」にて世界28の国と地域へ向け、英語字幕付きで2024年8月11日(日) 21時(日本時間)より世界生配信される。漫画やテレビアニメを通し、海外でも高い人気を誇る『ルパン三世』と日本の伝統文化・歌舞伎の融合が大きな話題を呼んだ新作歌舞伎『流白浪燦星』。本作は、安土桃山時代に名を馳せた大泥棒・石川五右衛門(五ェ門)のいる世界を舞台に、流白浪燦星(ルパン三世)が国宝級の秘宝「卑弥呼の金印」を巡り、激しい奪い合いを繰り広げていくオリジナルストーリー。ルパンお決まりの名セリフやルパン一味と銭形刑部の大捕り物、“本水”を使った滝の中でのルパンと五右衛門の対決など、随所に散りばめられた原作のエッセンスと歌舞伎らしさあふれる演出、そして片岡愛之助、尾上松也ら歌舞伎俳優の熱演によって歌舞伎版『ルパン三世』の世界を体現。上演時にはその粋で華やかな舞台に多くの観客が魅了された。今回の生配信は、海外からも本作の配信を熱望する声が多かったため実現した。「歌舞伎オンデマンド」では、海外の人にも日本の伝統文化である歌舞伎を楽しんでもらうため、これまで9演目の歌舞伎の古典作品を英語字幕または英語副音声付きで配信。なお、本作は生配信翌日の8月12日(月・祝) から8月18日(日) 23時59分までアーカイブ配信も実施される。<配信情報>新作歌舞伎『流白浪燦星(ルパン三世)』配信配信日:2024年8月11日(日) 21:00 (JST)アーカイブ配信:2024年8月12日(月・祝) 0:00~18日(日) 23:59 (JST)配信地域:アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、デンマーク、フランス、ドイツ、ギリシャ、香港、インド、インドネシア、イタリア、日本、韓国、メキシコ、オランダ、フィリピン、ポルトガル、シンガポール、スペイン、スイス、台湾、タイ、アラブ首長国連邦、イギリス、アメリカ【視聴料金】4,000円+システム利用料 200円(海外不課税)4,400円+システム利用料 220円(国内税込)発売日:2024年6月28(金) 10:00~8月18(日) 20:00 (JST) まで販売チケットはこちら:公式サイト:
2024年06月28日戦後、復興事業の一環として歌舞伎の劇場誘致を図り「歌舞伎町」と命名された新宿・歌舞伎町。当時それは実現しなかったものの、この地は現在、劇場や映画館が立ち並ぶ日本有数のエンターテインメント発信地として賑わいを見せている。そしてついに、歌舞伎町に歌舞伎がやってきた。東急歌舞伎町タワーのTHEATER MILANO-Zaにて「歌舞伎町大歌舞伎」が5月3日に開幕したのである。出演は中村勘九郎、中村七之助を中心とする面々。父である十八世中村勘三郎のチャレンジ精神を受け継ぐ中村屋兄弟は、庶民の生活に根付いていた江戸時代の歌舞伎の良さを現代に蘇らそうと、古典を大事にしながら現代的なアプローチで様々な挑戦を続けている。「歌舞伎町大歌舞伎」の宣伝として歌舞伎町のホストクラブのようなアドトラックが東京の街を走ったのも話題になったが、この“傾いた(かぶいた)”奇抜なアピールは、現代の歌舞伎役者のイメージ=古典芸能の従事者というより、本来の“傾奇者(かぶきもの)”歌舞伎役者の面目躍如といったところだろう。さて、「歌舞伎町大歌舞伎」は、『正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)』と『流星(りゅうせい)』という古典舞踊2演目と、この公演のために作られた新作歌舞伎『福叶神恋噺(ふくかなうかみのこいばな)』という3本立て。幕開きは『正札附根元草摺』。初春芝居として上演されることの多い“曽我物”(曽我兄弟の仇討を題材にしたもの)の一種だが、新しい場所での歌舞伎公演ということで縁起を担いでの演目であろう。中村屋の「黒・白・柿」の定式幕があくと、曽我物らしく富士山の描かれた油障子が目に飛び込み、たしかにおめでたい気分。その中で、今にも父の仇を討たんといきりたつ曽我五郎(中村虎之介)と、「今はその時ではない」と止める美しい女性・舞鶴(中村鶴松)の丁々発止のやり取りが、荒々しくも華やかな舞踊で展開していく。共にまだ20代の虎之介と鶴松が、エネルギッシュでフレッシュな華やかさを見せながら、古典らしい重厚感もしっかりと表現し、魅せた。またこの劇場には花道がないため、通常は花道を使う場面で客席通路を使う演出も。客席のただ中で彼らが見得をきる臨場感は、離れた席から見ても一種独特の高揚感がある。続いての『流星』は、前半と後半で趣がガラリと変わる面白い一作。前半は七夕の夜、年に一度の逢瀬を楽しむ牽牛と織女のロマンチックな恋模様が描かれる。パステルカラーの雲が舞台いっぱいに広がるファンタジックな世界の中、牽牛と織女に扮するのは、勘九郎の息子たち、中村勘太郎と中村長三郎。しっとりした恋の舞踊だが、まだ13歳と10歳のふたりが踊るとなんとも可愛らしく、微笑ましい。そこに飛び込んでくるのが、勘九郎扮する流星。彼は長屋に住む雷夫婦がケンカを始めたと牽牛と織女に注進する。カミナリ様が長屋に住んでいるという設定自体が面白いが、夫婦の嫉妬に幼い子ども雷の仲裁、隣家の雷ばあさんまで登場する大騒ぎ。これを舞踊の名手・勘九郎がひとりで、コミカルにテンポよく演じ分けていく。4役をお面を取り換えつつ演じ分ける場合もあるが、勘九郎は手に持つ小道具のみで演じ分けるのが見事。中華テイストな神様の世界から、江戸の下町へと飛躍する大胆さも歌舞伎らしく、また親子三人の共演もほっこりとする、楽しい舞踊劇だ。七之助と虎之介の相性ピッタリ! 人情と、笑いと、幸せな余韻が揃った名作が誕生休憩をはさみ、最後は『福叶神恋噺』。上方落語「貧乏神」をもとにした世話狂言の新作歌舞伎で、「貧乏神」を作った落語作家・小佐田定雄がこの歌舞伎版の脚本も手掛ける。主要キャラ・貧乏神のびんちゃんは落語のみならず、TVドラマでフランキー堺が演じたほか、宝塚歌劇でも『くらわんか』『ANOTHER WORLD』と2作にわたり登場したことのある人気キャラクターだ。物語は仕事嫌いの根っからの怠け者、大工の辰五郎が主人公。お金がないのに働かないため家はボロボロ、食べ物にも困るありさま。妹のおみつの婚約者にまで借金をして、おみつは怒って家を出ていってしまったが本人はどこ吹く風。そこへ忽然と現れた貧乏神のおびん。貧乏神は人間から養分を吸い取るものなのに、おまえには吸い取るものすらないから少しは働けと小言を言う。しかし「働かなくても貧乏、働いても貧乏神に吸い取られて貧乏になるのなら、働かない方がいい」と屁理屈を言う辰五郎。しまいにはおびんにまで借金をねだる始末。みかねたおびんは内職をし、辰五郎の世話を焼き……。辰五郎を演じるのは虎之介。勇壮な曽我五郎から一転、言い訳ばかりなのにどこか憎めないダメ男を、愛嬌たっぷり、水を得た魚のように演じている。大きな目で上目遣いに借金をねだるさまは可愛らしく、まわりの人々がついほだされてしまうのも無理はないと思わせる説得力。落語では男である貧乏神は、本作では女性となり七之助が演じる。ボサボサの髪を嘆きながらも派手な着物を着けるユニークな貧乏神は七之助の華やかさが相まって可笑しみがあるし、年下の男に振り回されながらせっせと世話を焼く姉さん女房のような一面も可愛らしい。何より七之助と虎之介の相性がピッタリだ。途中、歌舞伎町ならではのお遊びも挟みつつ、気付けば大団円。辰五郎がどう心を入れ替えるのかは舞台を観ていただくとして、世話物らしい人情と、笑いと、幸せな余韻が揃った名作が誕生したことは断言しよう。歌舞伎が初進出する新たな劇場での第一回公演にふさわしく、賑々しい門出となった「歌舞伎町大歌舞伎」。歌舞伎本来の華麗さ、勇壮さ、楽しさの詰まった舞踊2作と、テンポよく楽しめる新作歌舞伎は、ご通家が観ても納得で、歌舞伎を見慣れない人が観ても楽しめるものになっている。縁起が良いとされる初物、しかも極上の初物だ。ぜひお見逃しなく。上演時間は休憩を含め2時間30分。公演は5月26日(日)まで。取材・文:平野祥恵写真提供:松竹<公演情報>『歌舞伎町大歌舞伎』2024年5月3日(金・祝) ~5月26日(日)会場:東京・THEATER MILANO-Zaチケット情報:()公式サイト:
2024年05月10日4月2日(火)、歌舞伎座4月公演「四月大歌舞伎」が開幕した。豪華顔合わせにも注目の昼夜二部制でおくる本公演より、オフィシャルレポートが到着した。昼の部の幕開きは、『双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)』より「引窓(ひきまど)」の名場面。歌舞伎三大名作『菅原伝授手習鑑』『義経千本桜』『仮名手本忠臣蔵』を手掛けた竹田出雲・三好松洛・並木千柳の合作による義太夫狂言の名作で、「引窓」の場面の舞台は中秋の名月を翌日に控えた、京都郊外。南与兵衛(中村梅玉)の家では、亡き父の後妻であるお幸(中村東蔵)と女房お早(中村扇雀)が、放生会(ほうじょうえ/捕らえられた生き物を解き放つ行事)の支度をしている。そこへ相撲取りの濡髪長五郎(尾上松緑)がやってくる。長五郎は訳あって人を殺めてしまい、この世の名残に母であるお幸に会いに来た。久しぶりに実子である長五郎に会ったお幸の無邪気な喜び、そして死ぬ覚悟を打ち明けられない長五郎の苦しみの対照が胸に響く。郷代官に任ぜられ、長五郎を捕らえる命を受けた与兵衛が手水鉢に写るその姿を見て気色ばむところから舞台は一気に緊迫、やがてお幸の気持ちを察して与兵衛は長五郎を見逃すために奔走する。南与兵衛後に南方十次兵衛という役が大好きだという梅玉は「今回は12年ぶりですし、親しいあらし君(松緑)が濡髪役。活きの良い後輩に負けないよう勤めたい」と公演に向けて語る。梅玉は義理の母を思う与兵衛の優しさを丁寧に演じ観客の心を掴み、実子と継子の間に入って苦悩するお幸、夫を愛しながら母の心情を思うお早、そして与兵衛の情けを感じ縄に付こうとする長五郎というそれぞれの想いが繊細に描かれた胸に沁みる一幕となった。続いては、舞踊『七福神(しちふくじん)』。室町時代末期ごろから始まったとされる七福神信仰を素材として作られた数多の作品から、平成30年に歌舞伎座で新たな台本と音楽、振付で上演された本作。この度は、中村歌昇、坂東新悟、中村隼人、中村鷹之資、中村虎之介、尾上右近、中村萬太郎という花形七人がいずれも初役で七福神勤める話題の舞台だ。富士山を背景に、宝船が七福神を乗せてやってくると、天下泰平を喜び、いつまでも平安な世が続くようにと願いながら、神々が酒を楽しんだり、恋の手習いの艶っぽい踊りを見せたりと、賑やかで愛嬌溢れる空気に包まれた。春の陽気に相応しく、花形たちが心躍る舞踊を魅せた。そして、上方狂言の人気作『夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)』。片岡愛之助が団七九郎兵衛と徳兵衛女房お辰を、尾上菊之助が一寸徳兵衛を勤める。ふたりの競演は昨年6月博多座から引き続き、今年2月に芸術選奨文部科学大臣賞を受賞した愛之助の受賞理由に『夏祭浪花鑑』の演技も挙げられた。公演に向けた取材会では、団七について「俠気(おとこぎ)に溢れ、一本気な上方の兄ちゃんですね」と話し、「今回も徳兵衛は、博多座でもご一緒させていただいた菊之助さん」と愛之助は喜び、菊之助も「こんなにも早く歌舞伎座で、またご一緒できてとても嬉しいです。徳兵衛は、俠気を見せる団七に惚れて、義兄弟の契りを結ぶ男なので、かっこいい愛之助さんの団七に食らいついて行きます」と話している。息の合ったふたりの競演に期待が膨らむ。罪人となっていた団七(片岡愛之助)の出牢の日。団七の女房のお梶(中村米吉)と伜の市松(中村秀乃介)は釣船三婦(中村歌六)と住吉社へやって来る。髪や髭が伸び放題の団七が、身なりを整えて浴衣姿で現れると、その爽やかな佇まいが場内を魅了する。団七は、大恩人の息子である玉島磯之丞(中村種之助)とその恋人琴浦(中村莟玉)の危難を救うため、一寸徳兵衛(尾上菊之助)とその女房お辰(片岡愛之助/二役)、釣船三婦らと奔走。立札を用いた団七と徳兵衛の息の合った立廻り、勢いある団七の花道の引っ込み、愛之助が一本気な団七と気風がよく筋の通ったお辰の二役を勤めるなど、みどころ満載。団七が泥にまみれながらの舅義平次(嵐橘三郎)殺しの場は、歌舞伎ならではの様式美で客席を魅了し、息を呑む展開が続くと幕切れには「大当り!」の大向うが掛かる盛り上がりとなった。仁左衛門・玉三郎の競演に沸いた夜の部人間国宝・片岡仁左衛門と坂東玉三郎の競演が話題の夜の部。幕開きは、四世鶴屋南北の『於染久松色読販(おせめひさまつうきなのよみうり)』より、土手のお六と鬼門の喜兵衛に焦点を当てた人気作。惚れた男のために悪事を働く“悪婆”と呼ばれる役柄の土手のお六を玉三郎、色気ある悪に満ちた喜兵衛を仁左衛門。昭和46(1971)年に初めてふたりで勤めて以来、上演を重ねてきた当り役で、「玉三郎さんとのコンビがこのときからスタートしたようなもので、思い出深いお芝居です」と仁左衛門は話し、「玉三郎さんのお六との呼吸は、自然に合います。強請りの場では、ちょっと間の抜けているところも見せます。そこが南北さんの芝居作りの巧さでしょう」と語る。凄味を見せながらも、ふたりの息の合った強請りの場は観客の心を引き込み、山家屋清兵衛(中村錦之助)に見破られ目論見が外れる件はユーモアある幕切れとなり、観客からは笑いと共に大きな拍手が起こった。続いては、仁左衛門・玉三郎が魅せる舞踊『神田祭(かんだまつり)』。江戸の二大祭のひとつ「神田祭」を題材として、粋でいなせな鳶頭を仁左衛門、艶やかな芸者を玉三郎が勤め、華やかな江戸風情が場内を包んだ。賑やかな祭囃子で幕が開くと、そこは祭り気分に浮き立つ江戸の町。仁左衛門演じるほろ酔い気分の鳶頭が登場し、江戸前のすっきりとした踊りを見せて祭りを盛り上げる。続いて、玉三郎演じる芸者が自らの思いの丈をくどきで表現する場面、そしてふたりが揃って踊る場面では、その美しさに客席も華やぐ。鳶頭が大勢を相手にした立廻りでは、割れんばかりの拍手が送られた。夜の部の打ち出しは、舞踊『四季(しき)』。明治・大正時代に活躍した女流歌人の九條武子による本作は、日本の四季折々の風情を美しく描き出し、「春 紙雛」「夏 魂まつり」「秋 砧」「冬 木枯」を通した上演、また歌舞伎座での上演は実に43年ぶりとなる。「春 紙雛」では桃の節句に飾られた尾上菊之助の女雛、片岡愛之助の男雛の紙雛の仲睦まじい恋模様が描かれ、「夏 魂まつり」は夏の風物詩である大文字の送り火を舞台に、中村芝翫の若旦那を中心に芝翫の長男・中村橋之助が若衆、三男・中村歌之助が太鼓持、甥・中村児太郎が舞妓を勤めるなど成駒屋一門が情緒豊かに舞う。「秋 砧」は筝の音に乗せて、夫を想う片岡孝太郎勤める若妻の心をしっとりと描き出し、「冬 木枯」では尾上松緑と坂東亀蔵のみみずくが見つめる先で、木枯らしに吹かれ舞う木の葉の動きを群舞で鮮やかに表現。木の葉女を勤める尾上左近を中心に木の葉男の坂東亀三郎・尾上眞秀が軽やかに踊る姿、とんぼやアクロバティックな動きが盛り込まれた振付に拍手が起きた。情緒豊かな日本の四季の変化を描く優美な舞踊に、酔いしれるひとときとなった。見どころ満載の歌舞伎座4月公演「四月大歌舞伎」は4月26日(金)まで、東京・歌舞伎座で上演中。<公演情報>歌舞伎座「四月大歌舞伎」【昼の部】11:00~一、双蝶々曲輪日記二、七福神三、夏祭浪花鑑【夜の部】16:30~一、於染久松色読販二、神田祭三、四季2024年4月2日(火)~26日(金)※休演10日(水)、18日(木)会場:東京・歌舞伎座チケット情報:()公式サイト:※公演期間が終了したため、舞台写真は取り下げました。
2024年04月08日「シネマ歌舞伎」の3~8月配信ラインアップが決定し、3月11日(月)より歌舞伎版「風の谷のナウシカ」が配信されることが分かった。映画のように気軽に歌舞伎を楽しめる「シネマ歌舞伎」。松竹公式動画配信サービス〈歌舞伎オンデマンド〉にて月に1本ずつ、話題の公演や月イチ歌舞伎(映画館上映)と一緒に楽しめる関連作品の配信を行っている。新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」©松竹株式会社この度2024年度前半のラインアップが発表され、最初の作品は、歌舞伎化で大きな話題になった「風の谷のナウシカ」。2019年、尾上菊之助がナウシカ、中村七之助がクシャナを演じた初演版の映像を、今年公開40周年を迎えるアニメ映画版『風の谷のナウシカ』の公開日にちなんで、3月11日(月)より配信する。「野田版 桜の森の満開の下」©松竹株式会社5月はコクーン歌舞伎第15弾の舞台を撮影した「四谷怪談」、6月は片岡仁左衛門が当たり役・河内屋与兵衛を一世一代で勤めた「女殺油地獄」、7月は中村勘三郎、坂東玉三郎、片岡仁左衛門の豪華共演による「籠釣瓶花街酔醒」、8月は野田秀樹による伝説的な舞台の歌舞伎化作品「野田版 桜の森の満開の下」と、多彩な演目が揃った。「女殺油地獄」(C)篠山紀信2024年3~8月 シネマ歌舞伎配信ラインアップ■期間・作品・3/11(月)~4/30(火)「風の谷のナウシカ」前編・後編(出演:尾上菊之助、中村七之助ほか)・5/1(水)~31(金)「四谷怪談(よつやかいだん)」(出演:中村獅童、中村扇雀ほか)・6/1(土)~30(日)「女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)」(出演:片岡仁左衛門ほか)・7/1(月)~31(水)「籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)」(出演:中村勘三郎、坂東玉三郎ほか)・8/1(木)~31(土)「野田版 桜の森の満開の下」(出演:中村勘九郎ほか)■配信サイト歌舞伎オンデマンド■料金(税込)各1900円(レンタル配信・購入時から7日間何度でも視聴可能)(シネマカフェ編集部)
2024年03月10日3月3日(日) より開幕する「三月大歌舞伎」にて、ポストカードが販売されることが決定した。ポストカードは、歌舞伎座「三月大歌舞伎」で上演される昼の部『菅原伝授手習鑑「寺子屋」』『傾城道成寺』『御浜御殿綱豊卿』、夜の部『伊勢音頭恋寝刃』『喜撰』。絵柄はいずれも、これまでに公開されて注目を集めていた特別ビジュアルが使用される。3月の公演期間中、各演目1枚ずつ5枚1セット1,000円(税込、枚数限定、セット販売のみ)で販売となる。「三月大歌舞伎」ポストカードセット価格:各演目1枚ずつ5枚1セット 1,000円(税込)販売期間:3月歌舞伎座公演期間中(3月3日~26日)販売場所:歌舞伎座地下2階 お土産処「かおみせ」、1階お土産処「木挽町」、歌舞伎座オンラインストア<公演情報>「三月大歌舞伎」3月3日(日)~26日(火)昼の部:11:00~夜の部:16:15~休演日:11日(月)、18日(月)【演目】■昼の部一、菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)寺子屋二、四世中村雀右衛門十三回忌追善狂言傾城道成寺(けいせいどうじょうじ)三、御浜御殿綱豊卿(おはまごてんつなとよきょう)■夜の部一、通し狂言伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)二、喜撰(きせん)チケット情報:()
2024年03月01日歌舞伎町に昨年オープンしたTHEATER MILANO-Zaにて今年5月、「歌舞伎町大歌舞伎」と銘打っての歌舞伎公演が開催されることになり1月23日、記者懇親会が開催。中村勘九郎、中村七之助、中村虎之介、中村鶴松が出席し、意気込みを語った。THEATER MILANO-Zaの開場1周年を記念して行われる今回の公演。勘九郎は以前、中村獅童がオフシアター歌舞伎として赤堀雅秋の演出で歌舞伎町で上演された『女殺油地獄』に出演したことに触れ「歌舞伎町という、猥雑というか、人間の欲と野望が渦巻く場所が合っているなと思い、いつか新宿で(歌舞伎公演を)やりたいなと思っていました」と語り、歌舞伎町のど真ん中での歌舞伎公演の実現の喜びを口にする。中村勘九郎今回、上演されるのは、虎之介と鶴松が出演し、親の仇である工藤祐経の元へと向かおうとする曽我五郎と、それを引き留めようとする小林朝比奈の妹・舞鶴の“引き合い”を舞で見せる荒事舞踊『正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)』、勘九郎と勘太郎、長三郎の父子競演で、七夕の夜の雷夫婦のケンカの顛末を軽妙洒脱な舞踊で表現する『流星』。さらに、小佐田定雄の脚本で、落語の「貧乏神」を題材にした世話狂言の新作歌舞伎『福叶神恋噺(ふくかなうかみのこいばな)』も披露される。以前から行なってきたコクーン歌舞伎(Bunkamura シアターコクーン)では、古典に新たな解釈を加えて現代の観客に発信してきたが、今回の「歌舞伎町大歌舞伎」について、勘九郎は「歌舞伎町という特殊な場所で演じるにあたって、僕らのホームである歌舞伎座と演出を変えずに、歌舞伎の本来持つ魅力、歌舞伎の底力をぶつけてみようじゃないかということで、こういうラインアップになりました」と説明する。『福叶神恋噺』に関しては、まだ台本が完成していないとのことだが、落語版の主人公の貧乏神を女性(貧乏神おびん)に変更して七之助が演じ、彼女がとり憑く飲んだくれの大工の辰五郎を虎之介、おびんの先輩の貧乏神すかんぴんを勘九郎が演じる。中村七之助七之助は新作歌舞伎を上演する点について、普段の歌舞伎座などの客層との違い、初めて歌舞伎を観るという観客が多いであろうという点を意識したと明かす。「長屋の喜劇で落語味があふれた作品で、情というよりもおかしみが多いふたりの掛け合いがほとんどなのですが、それを舞台でやるには落語のテンポ感に負けるところがあるので、そこも考慮して、僕が主演でもあるので貧乏神を女性にしました。どう転んでいくのか? オチもすごく落語的で、舞台的にはそのままだと難しいので、(貧乏神を)女性としたのも、これは推測ですが(辰五郎との間に)恋愛感情が生まれるんじゃないかと」と舞台ならではのアレンジを予測する。中村鶴松中村虎之介話題が歌舞伎町にまつわる思い出になると、鶴松は大学時代に友人と一緒に飲みに行った店で「お会計を見たら『20万』とあって……(苦笑)」とぼったくり被害に遭ったことを告白。服を破られながらも逃げ出して「半分裸でタクシーに乗って、それ以来、(歌舞伎町には)近づかないでいました」と明かし、これには勘九郎から苦笑交じりに「『昔と違って浄化されていると思う』と書いといてください(笑)。安心してお越しください!」と報道陣に要望が……。その勘九郎は、友人がオーナーを務めるホストクラブに遊びに行った経験を明かし「男が相手でも(ホストたちが)命がけでちゃんとコールをしてくれて、『これはハマっちゃうかもしれないな』と思いました(笑)」と述懐。この経験を踏まえつつ(?)、今回の公演の宣伝について、中村亀鶴さんから、歌舞伎町近辺で見かけるホスト広告トラックを活用した広告を打ってみてはどうかと提案があったことを明かし、虎之介も「白いスーツを着て(笑)」と乗り気な様子を見せ、写真撮影でもカメラマンからの「ホスト風のポーズで」との要望に一同応えるなど、笑いを誘っていた。取材・文・撮影:黒豆直樹<公演情報>「歌舞伎町大歌舞伎」昼の部:12:00~夜の部:16:00~【演目・出演者】※昼夜同一狂言一、正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)流星(りゅうせい)「正札附根元草摺」曽我五郎時致:中村虎之介小林妹舞鶴:中村鶴松「流星」流星:中村勘九郎牽牛:中村勘太郎織女:中村長三郎二、福叶神恋噺(ふくかなうかみのこいばな)落語「貧乏神」より小佐田定雄 脚本今井豊 茂 演出貧乏神おびん:中村七之助大工辰五郎:中村虎之介貧乏神すかんぴん:中村勘九郎2024年5月3日(金・祝)~5月26日(日)会場:東京・THEATER MILANO-Zaチケット情報:()松竹公式サイト:公式サイト:
2024年01月25日歌舞伎界の次代を担う若手花形俳優が顔を揃える『新春浅草歌舞伎』の千穐楽公演の第1部・第2部が、生配信されることが決定した。今年は尾上松也、中村歌昇、坂東巳之助、坂東新悟、中村種之助、中村米吉、中村隼人、中村橋之助、中村莟玉ら若手花形俳優陣と、中村歌女之丞、市村橘太郎、中村吉之丞、そして中村歌六が浅草公会堂の舞台を盛り上げる。2015年に主要な出演者が一新され、フレッシュな「浅草」がスタートしてから今年で10年。尾上松也、中村歌昇、坂東巳之助、坂東新悟、中村種之助、中村米吉、中村隼人の7名は本公演で出演が一区切りとなることが発表されている。第1部・第2部をまとめたお得なセット配信に加え、「歌舞伎オンデマンド」生配信では史上初となる歌舞伎デビューにうってつけのイヤホンガイド解説付き配信も実施。副音声での演目同時解説や幕間で出演者の貴重なコメント放送も聴け、初めて歌舞伎を観覧する人にも分かりやすく歌舞伎の魅力をお届けする。アーカイブ配信ではイヤホンガイドなしの舞台映像も配信されるので、解説なしでじっくり見直すことも可能だ。『新春浅草歌舞伎』イヤホンガイド解説付きビジュアル<配信情報>『新春浅草歌舞伎』生配信第1部:1月26日(金) 11:00 生配信(約196分予定)第2部:1月26日(金) 15:00 生配信(約249分予定)※公演の状況によって開始時間が前後する場合がございます。※公演開始15分前頃より視聴ページを開場。公演開始まで待機画面が配信されます。※〈イヤホンガイド解説付き〉は公演開始12分前頃より開演前の解説が放送されます。【視聴料金】(税込)■舞台映像のみ第1部&第2部セット:7,000円+システム利用料220円第1部:3,600円+システム利用料220円第2部:3,600円+システム利用料220円■イヤホンガイド解説付き第1部&第2部セット:8,000円+システム利用料220円第1部:4,300円+システム利用料220円第2部:4,300円+システム利用料220円アーカイブ配信:1月27日(土) 10:00~2月4日(日) 23:59※一度ご購入いただきますと、アーカイブ配信中は何度でもご視聴可能です。【イヤホンガイド解説付き購入者特典】「舞台映像(イヤホンガイド解説なし)」もアーカイブ配信にてセット配信配信期間:1月29日(月) 10:00~2月4日(日) 23:59配信場所:歌舞伎オンデマンド詳細はこちら:
2024年01月16日2024年5月3日(金・祝) から26日(日) に東京・THEATER MILANO-Zaで上演される『歌舞伎町大歌舞伎』の追加出演者と演目が発表された。THEATER MILANO-Zaの開業1周年に彩りを添える本公演。中村勘九郎、中村七之助に加え、新たに中村虎之介、中村勘太郎、中村長三郎、中村鶴松の出演が決定した。公演の幕開きは、曽我兄弟の仇討を題材にした作品で、荒事の豪快な趣向と華やかさを併せ持つ長唄の舞踊『正札附根元草摺』。続いて、七夕の夜、牽牛と織女の前に現れた流星が、雷の夫婦と子ども、婆の4人の騒動の様子を踊り分ける軽妙洒脱な舞踊『流星』。そして落語の『貧乏神』を題材に、どこか憎めない貧乏神をはじめ、個性豊かな登場人物たちが織り成す世話狂言の新作歌舞伎『福叶神恋噺』で打ち出しとなる。<公演情報>『歌舞伎町大歌舞伎』2024年5月3日(金・祝) ~26日(日) 東京・THEATER MILANO-Za■一、正札附根元草摺、流星〈正札附根元草摺〉曽我五郎時致:中村虎之介小林妹舞鶴:中村鶴松〈流星〉流星:中村勘九郎牽牛:中村勘太郎織女:中村長三郎■二、福叶神恋噺落語『貧乏神』より脚本:小佐田定雄演出:今井豊茂貧乏神おびん:中村七之助大工辰五郎:中村虎之介貧乏神すかんぴん:中村勘九郎詳細はこちら:
2023年12月21日12月3日(日)、歌舞伎座新開場十周年「十二月大歌舞伎」が開幕した。三部からなる公演は、第一部が『旅噂岡崎猫(たびのうわさおかざきのねこ)』と『今昔饗宴千本桜(はなくらべせんぼんざくら)』、第二部が『爪王(つめおう)と『俵星玄蕃(たわらぼしげんば)』、第三部が『猩々(しょうじょう)』と『天守物語(てんしゅものがたり)』と、師走を彩る豪華ラインナップとなっている。そんな、歌舞伎の多彩な魅力が詰まった本公演の初日オフィシャルレポートが到着した。第一部の『旅噂岡崎猫』は、化け猫伝説を題材に趣向が凝らされたひと幕。本作のもととなるのは、三代目市川猿之助(二世猿翁)が昭和56(1981)年、エンターテインメント性を取り入れて154年ぶりに復活上演して以来、人気作として上演を重ねてきた『獨道中五十三驛(ひとりたびごじゅうさんつぎ)』。当月、おさん実は猫の怪を勤める坂東巳之助は、平成28(2016)年の全国巡業公演にて、猫の怪を初役で勤めている。今回は「岡崎無量寺」の場に新たな趣向を取り入れている。岡崎の無量寺にやって来たのは、由井民部之助(中村橋之助)と幼子を連れたお袖(坂東新悟)夫婦。ふたりは、主君の病平癒祈願のための道中でお袖の母親おさんがこの世を去ったことを知る。そんな中、日も暮れたために一夜の宿を求めてここへ辿り着くが、そこにはなんと死んだはずのお袖の母・おさん(坂東巳之助)の姿。無量寺に向かう道中には、民部之助とお袖が客席通路を練り歩く演出もあり、場内を盛り上げる。いかにも怪しげな雰囲気に包まれる空間で、おさんが放つ只者ならぬ異様な佇まいに観客の視線が釘付けとなり、民部之助とお袖の端正な姿が対比として浮かび上がる。死から蘇ったと語るおさんだが、実はその正体は……。次々現れる猫と戯れるなどおさんが人間ならざる仕草を見せたのち、次第に本性を顕す様子は最大の見どころ。江戸時代から伝わる「日本三大怪猫伝」のひとつである「岡崎の猫」の怪奇譚をもとにした趣向に富んだ演出で歌舞伎ならではのケレン味を存分に堪能できる。続く『今昔饗宴千本桜』では古典歌舞伎とNTTの技術を始めとした最新のテクノロジーが融合した“超歌舞伎”が歌舞伎座に初降臨。歌舞伎の名作『義経千本桜』と、バーチャル・シンガー初音ミクの代表曲である「千本桜」の世界観に着想を得て書き下ろされた本作は、超歌舞伎の初演である「ニコニコ超会議2016」で上演された記念碑的な作品で、この度は獅童の次男・小川夏幹が初お目見得することでも話題の舞台。さらに、中村勘九郎と中村七之助が超歌舞伎に初出演。見どころ満載の一幕だ。冒頭では、獅童に続いて、今回更なる進化を遂げた「獅童ツイン」が姿を現し、バイリンガルに獅童の同時通訳を務めて客席からは驚きの声が上がった。物語の幕が開くと、御神木の千本桜のもとで桜の節会が執り行われている。白狐の尊(中村獅童)、朱雀の尊(中村勘九郎)、舞鶴姫(中村七之助)、初音の前(中村蝶紫)らが居並ぶ華やかさ、満開に咲き誇る桜の美しさに目を奪われる。ここへ千本桜を我が物にしようとする青龍が襲い掛かるが、白狐と初音の前の娘・美玖姫はそれぞれ狐と蝶に姿を変えて落ち延びていくのだった……。物語は、それから千年後へ――。美玖姫と青龍の精(澤村國矢)、白狐の生まれ変わりである佐藤四郎兵衛忠信(獅童)と青龍による立廻りの場面は、客席も巻き込むような大迫力。陽櫻丸(小川陽喜)と夏櫻丸(小川夏幹)のふたりが花道から元気いっぱいに登場する場面では、昨年1月に初お目見得して以来の歌舞伎座出演となる陽喜が、溌剌とした台詞で成長ぶりを見せ、夏幹は力強くも可愛らしい名乗りと見得で観客を魅了した。クライマックスでの獅童とミクによる宙乗りでは、客席にペンライトが光り輝き、場内の盛り上がりも最高潮に。桜の花びらが降り注ぎ、熱気溢れる場内を上がっていく中、本舞台には朱雀の尊の勘九郎、舞鶴姫の七之助、陽櫻丸の小川陽喜と夏櫻丸の小川夏幹らがペンライトを手に並び、超歌舞伎ならではの高揚感に包まれた。最後には鳴りやまぬアンコールの声に応えて花道より獅童が登場。歌舞伎座での上演が実現したことについて、「ミクさんファンの皆様、超歌舞伎ファンの皆様がここに導いてくださいました。伝統を守りつつ、革新を追求する!これが中村獅童の生き方、これが超歌舞伎!!」と声を上げ、割れんばかりの拍手と熱狂に包まれる中、幕を閉じた。勇ましい立廻りが胸に響く、講談から生まれた新作歌舞伎『俵星玄蕃』第二部は、鷹と狐の決闘、ダイナミックな舞踊劇『爪王』で幕開き。動物文学の作家・戸川幸夫の感動作を平岩弓枝が脚色した中村屋所縁の舞踊劇。雪が降り積もる角鷹森。「吹雪」と名付けた鷹(中村七之助)を飼う鷹匠(坂東彦三郎)のもとへ庄屋(中村橋之助)がやって来て、村で悪さをする狐の退治を頼む。やがて鷹匠と吹雪は山へ向かい、鋭く牙を剥き出す狐(中村勘九郎)と対峙。勘九郎の狐と七之助の鷹には、細かい仕草の隅々に生命力と闘志が漲り、幻想的な世界が広がる。緊張感漂う決闘の末、狐に破れてしまった鷹は、谷底へと消えていき……。季節が過ぎた頃、吹雪は再び狐と対峙するため、果敢に大空を舞っていく。そしてついに狐を討ち負かす吹雪は、誇らしげに鷹匠のもとへと戻ってくるのだった。ダイナミックな舞踊で表現される狐と鷹の激しい闘い、鷹と人間の絆が胸に染み入る一幕に、大きな拍手が送られた。続いては、この度が初演となる演目、槍の名手・俵星玄蕃と赤穂義士の心の交流を描いた『俵星玄蕃』。人間国宝の講談師・神田松鯉の脚本協力、昨年好評を博した『荒川十太夫』のスタッフにより、新たな舞台が誕生する。時は元禄15年12月13日、槍の名手・俵星玄蕃(尾上松緑)の道場に、玄蕃が贔屓にする夜鳴きそば屋の十助(坂東亀蔵)が訪ねて来る。ふたりで酒を酌み交わすうち、赤穂義士の討入りが噂される吉良邸に用心棒の仕官を誘われていることを話す玄蕃。実は十助は、そば屋に身をやつして吉良邸の動向を探る赤穂義士のひとり、杉野十平次で……。義士たちが素性を隠し、虎視眈々と吉良邸討入りの準備を進めるなかで登場する槍の名手・俵星玄蕃は、講談や浪曲でも有名な人物。玄蕃を慕うも、正体を明かせぬ杉野との交流を織り交ぜながら、討入り前夜から当日までを情感豊かに描く物語だ。筋書のインタビューで「歌舞伎のセオリーに則して、歌舞伎ならではの『俵星玄蕃』をお見せしたいと思います」と語った松緑。槍の名手としての見せ場を勇ましい立廻りで表し、義に生きる玄蕃の姿が胸に響く。歌舞伎座では、尾上松緑主演による「赤穂義士外伝」を2カ月連続上演する。赤穂義士が討入りを果たした当月には討入り前夜と当日を描く本作を初演、そして新年1月には、討入りの後日譚を描き好評を博した『荒川十太夫』を再演。それぞれ義を貫く男の生き様、赤穂義士との交流が胸を打つ、講談から生まれたふたつの物語に期待が高まる。幻想的で詩情豊かな物語で観客を魅了する歌舞伎座初演『天守物語』酒好きの霊獣が舞う、華やかな舞踊『猩々』で幕を開ける第三部。猩々とは古くから中国に伝わる水中に棲む霊獣で、酒を好み、無邪気に舞い戯れる妖精のような存在。酒に酔った猩々が水上での戯れを見せる猩々舞がみどころで、酒好きの霊獣からはあふれる愛嬌と品格が漂う。今回猩々を勤めるのは、尾上松緑と中村勘九郎。壺から酒を酌む仕草や、盃を傾けて嬉しそうに酒を飲む仕草など随所に施される細かい振付が見どころだ。中国・揚子江のほとり。ふたりの猩々(尾上松緑、中村勘九郎)は酒売り(中村種之助)に勧められるままに大好きな酒を飲むと、酒の徳を謳いながら、上機嫌に舞って見せる。やがて、酒売りに酒壺を与えて猩々は打ち寄せる波間に姿を消すが、その酒壺は……。格調高く朗らかな舞台に客席には自然と笑顔が広がった。続いては、この度が初演となる『天守物語』。今年、生誕150年を迎えた泉鏡花の戯曲のなかでも屈指の名作とされる本作は、姫路城(白鷺城)の天守に隠れ住む姫の伝説を題材に、鏡花ならではの幻想的な世界を織り込んだ至上の恋の物語。歌舞伎では、昭和30(1955)年に六世中村歌右衛門の富姫で初演し、近年では坂東玉三郎が昭和52(1977)年に富姫を初演して以来、自身が演出も勤めながら大切に上演を重ねてきた。今回は、中村七之助が富姫を勤め、演出の玉三郎が富姫の妹分・亀姫を初役で勤めることでも話題の物語だ。播磨国姫路にある白鷺城の天守閣。ここは、人間たちが近づくことのない、美しい異界の者たちが暮らす別世界。この世界の主こそ、美しく気高い富姫(中村七之助)だ。そこへ富姫を姉と慕う亀姫(坂東玉三郎)が訪れると、富姫は久しぶりの再会を喜び、土産として白い鷹を与える。玉三郎の亀姫は可憐で可愛らしく、妹分の亀姫を可愛がる七之助の富姫には貫禄ある美貌が漂う。美しいふたりが生首を手に微笑みあう場面は、鏡花ならではの妖しい魅力に満ち溢れます。亀姫に仕える朱の盤坊(中村獅童)、舌長姥(中村勘九郎)なども奇怪な存在として作品の世界観に深みを持たせる。その夜、行方知れずとなった城主播磨守の白鷹を探しにやって来たのは、播磨守に仕える姫川図書之助(中村虎之介)。そこで富姫と図書之助が運命的な出会いを果たし……。美しい異形の世界の住人と、この世の人間とが織りなす幻想的で詩情豊かな物語で観客を魅了した。歌舞伎座新開場十周年「十二月大歌舞伎」は2023年12月26日(火)まで、東京・歌舞伎座で上演中。<公演情報>歌舞伎座新開場十周年「十二月大歌舞伎」【第一部】11:00~一、旅噂岡崎猫二、今昔饗宴千本桜【第二部】14:45~一、爪王二、俵星玄蕃【第三部】17:45~一、猩々二、天守物語2023年12月3日(日)~26日(火)※休演11日(月)、19日(火)※貸切(幕見席は営業)第一部:15日(金)、24日(日)会場:東京・歌舞伎座チケット情報:公式サイト:※公演期間終了のため、舞台写真は取り下げました。
2023年12月04日アニメなどでおなじみの「ルパン三世」が歌舞伎になる。タイトルは、盗賊が活躍する“白浪物”から当て字をした『流白浪燦星』。ルパンを演じるのは片岡愛之助だ。愛之助と脚本・演出の戸部和久との対談で見えてきたのは、この新作歌舞伎で古典歌舞伎の魅力をとことん伝えようとしていること。そして、「ルパン三世」がそれにふさわしい題材であること。両者が引き立つ面白い公演になりそうだ。「恐ろしいことをやっているなという思いでいっぱいです(笑)」──『流白浪燦星』でルパン三世を演じられる愛之助さん。その前後に上演される舞台『西遊記』では孫悟空を演じておられますが、誰もが知るキャラクターに続けて挑まれるのはどんなお気持ちですか。愛之助それはもう役者冥利に尽きます。ルパン三世もずっと観てきたキャラクターですし、孫悟空も堺正章さんが演じられたテレビドラマを観て育った世代ですから、恐れ多くて演じてみたいなんて思ったこともなかっただけに、本当にありがたいです。──脚本・演出を手掛けられる戸部さんもいかがでしょうか。よく知られている作品を歌舞伎にすることについては。戸部恐ろしいことをやっているなという思いでいっぱいです(笑)。ただ、「ルパン三世」の原作者であるモンキー・パンチ先生は歌舞伎がお好きだったようで、歌舞伎を題材にした話も登場しますし。もし江戸時代に「ルパン三世」が描かれていたら、盗賊もののひとつとして歌舞伎になっていてもおかしくないくらい、キャラクターの設定や関係性がそのまま歌舞伎の世界にはまるんです。新作歌舞伎『流白浪燦星』チラシ唯一、歌舞伎に落とし込むのに苦労したのがビジュアルの部分でしたが、それも、スチール撮影時の愛之助さんを拝見したら、カッコよくて愛嬌があって見事にルパンになっていて。石川五エ門(尾上松也)、次元大介(市川笑三郎)、峰不二子(市川笑也)、銭形警部(市川中車)など他のキャラクターもキマっていたので、これはイケるなと安心しました。古典歌舞伎の泥棒と現代の泥棒の“夢の顔合わせ”──演じるにあたって愛之助さんが考えておられることがあれば教えてください。愛之助ルパン三世と言えば、やはり、ダンディーでカッコよく、それでいて、不二子ちゃんに一途であったり、抜けているところがあって、お茶目な部分が愛される所以なんだろうなと思います。そして、盗賊ですからダークヒーローであり、悪を持って悪を制すというようなところも気持ちいい。そういった部分を大切にしながらも、歌舞伎の中のルパンとして、今回の脚本を体現できればと思っています。戸部先生とお決まりのセリフは言いたいよねという話をして、「ふ〜じこちゃ〜ん」といったセリフは入れさせていただいています(笑)。──その歌舞伎のルパンたちが活躍する舞台として用意されたのが、天下の大盗賊・石川五右衛門が実在した安土桃山時代の物語。「卑弥呼の金印」という国宝級の秘宝を巡って、ルパン三世と石川五右衛門が激しい戦いを繰り広げることになります。戸部歌舞伎の世界で泥棒と言えば石川五右衛門ですから。この初代五右衛門がいる世界にルパンたちがいたらどうなるのか、ルパンとの顔合わせを見てみたい、そんな思いからこの物語を書き始めました。愛之助夢の顔合わせです(笑)。戸部歌舞伎らしく華やかに描きたかったので、『楼門五三桐』で五右衛門が、南禅寺の山門の上で語る「絶景かな、絶景かな」という有名なセリフがありますが、そこにルパンがいたら…というのも浮かんできました。愛之助普段歌舞伎をご覧になっている方からすると、「待ってました!」と思っていただけるでしょうし、初めて歌舞伎をご覧になられる方には、「すごいな」と驚いてもらえるシーンになると思います。戸部そうやって、初代五右衛門が現代のルパンたちにつながっているという話にできればなと思っていますし、つながることによって、さらに深い関係が、歌舞伎と「ルパン三世」にできればと思うんです。──そもそも、「ルパン三世」を歌舞伎にしようと思われたのはどういうところからだったのでしょうか。戸部正直申しまして、コロナ禍の中、歌舞伎も大変な時代を迎えました。それで、歌舞伎にすることができて、将来は古典作品に発展するような題材はないだろうかと探していたんです。その中で「ルパン三世」であれば、先程も申しましたように、キャラクターの設定や関係性が歌舞伎に当てはめるにあたっての汎用性が高いなと。そしてだからこそ、今回もそうですが、オリジナルで物語を作らせていただけて、いずれ、歌舞伎座でかかる作品の1本になる可能性もあるのではないかと思い、いろいろな方のご理解とご協力を得て、ここまでこれたというところなんです。──昨今は、「ワンピース」「NARUTO」「風の谷のナウシカ」など、漫画を原作とした新作歌舞伎も多くつくられています。その中で今回の取り組みにはどんな思いがおありですか。戸部基本的には古典歌舞伎をつくるつもりでやっているので、また違ったアプローチになるのかなと僕自身は思っています。これまでの新作歌舞伎で、原作の世界にも寄せていけるんだという歌舞伎の懐の深さは示せたと思うんです。だから今度は逆に、古典歌舞伎という世界や演出の中に今現代に生きているものを飲み込んでいくことができれば、さらに歌舞伎の可能性が広がるのかなと。愛之助漫画を再現するのではなく、あくまでも歌舞伎の世界にルパンたちがいたらこうなるのではないかという夢をお客様に観ていただけたらなと思います。そもそも歌舞伎は、主役の人がパッと手を広げたら10人くらいの人が倒されるという、あり得ないことを観て楽しんでいただく夢の世界なので。──では、今回は古典の要素が盛りだくさんなんですね。愛之助全体的にそうなっていると思います。本水(本物の水)を使う場面や、だんまり(暗闇の中で黙ったままお互いを探り合う演出)、義太夫(三味線を伴奏に物語を語る)を使うところもありますから、歌舞伎要素は強いです。それでいて言葉は難しくないので、初めての方でも入りやすく、よくご覧になっている方には、「ここはあの作品のパロディじゃない?」とわかるところが何箇所もあるので、それも楽しんでいただけるのではないかなと思います。戸部音楽で言えば、おっしゃったように古典の演奏も入りますし、アニメの大野雄二先生の音楽を使わせていただけることになり、それを和楽器でアレンジして見せ場で使っていくので。音楽でも楽しんでいただければなと思っています。愛之助僕もちょっと聴かせてもらいましたけど、ワクワクしました。歌舞伎俳優が「なりたい職業ベスト5」に入るように──戸部さんから愛之助さんのルパンにはどんな期待をされていますか。戸部僕としては、「こんな愛之助さんが観たいな」「こんな愛之助さんのルパンが観たいな」と思いついたものを並べていった感じなので、愛之助さんにルパンで楽しく遊んでいただければなと思っています。あとは、新作をおつくりになるときもいつも、時間のことなどいろんな現実的な問題も踏まえ、一座の皆さんのことも気にかけながら、ちゃんとこだわりを持って、お客様のことを一番に考えてゴールに向かっていかれる方なので。心強く思いながら、胸を借りるつもりでいます。愛之助僕は書かれていることをやるだけですから(笑)。本当に、戸部先生はいろんなものをご覧になられていますし、なんと申しましても、戸部銀作さん(演劇評論家、歌舞伎脚本・演出家)の息子さんでいらっしゃいますから、いろいろ教えてもらいながら、相談しながらやっていけたらと思っています。やっぱり芝居はひとりの力ではできませんから、みんなでそれぞれいろんな角度から見て意見を出し合ってつくったほうがいいと思うんです。若い頃は、「あの芝居がしたい」「この役がやりたい」と思うものもありましたが、今はまったくないんです。このメンバーで面白いものができて、お客様に楽しんでいただいて、もう1回観たいな、友だちや家族にも観せたいなと思ってもらえるような作品をつくりたいです。戸部そういう意味では、役者さんたちに楽しんでいただいて、それぞれのいいところが出ることが、お客様に楽しんでいただけることにつながると思うので、演出としては、そこを目指していきたいと思います。──ちなみに今回のメンバーは、どんな方々が揃っていると言えるでしょうか。愛之助狭い歌舞伎界ですが、家によって違いがあって、今回は違う畑で育った人たちが集まっているので、面白いと思います。戸部同じ演目でも家によって扮装が違ったりするので、今回は、スタッフさん同士が情報を交換し合ったりしています。愛之助それでお互いにいいところを取り入れれば、新たなものが生まれるでしょうし、そうやってみんなが提案できる場を僕はつくりたいです。──先程愛之助さんはやりたいものはなくなったとおっしゃっていましたが、歌舞伎をもっとこうしたいというような目標はありますか。戸部さんにもお伺いしたいです。愛之助日本はもちろん、世界にももっと広めたいです。そして、広めることによって、歌舞伎や歌舞伎俳優に憧れてほしい。それこそ、なりたい職業のベスト5に入ってほしいんです。難しいでしょうけど、歌舞伎を、とりわけ古典歌舞伎を残していくには、それくらいにならないと。戸部外国でその国の言葉で歌舞伎がやられるくらい裾野が広がってほしいですよね。外国のミュージカルを日本語でやっているのと同じように。そうして世界中から憧れを持って歌舞伎座に来てもらえるようになったらいいなというのは、ずっと思っているんです。そのためにもまず、日本で裾野を広げ、自力を高めていかなければと。愛之助この『流白浪燦星』がその足がかりとなって、「これが歌舞伎なんだ。じゃあ古典も観てみたいよね」と思っていただけたら、こんな幸せなことはないですね。取材・文:大内弓子撮影:源賀津己<公演情報>新作歌舞伎『流白浪燦星』モンキー・パンチ 原作「ルパン三世」より脚本・演出:戸部和久出演:ルパン三世:片岡愛之助石川五ェ門:尾上松也次元大介:市川笑三郎峰不二子:市川笑也銭形警部:市川中車傾城糸星/伊都之大王:尾上右近長須登美衛門:中村鷹之資牢名主九十三郎:市川寿猿唐句麗屋銀座衛門:市川猿弥真柴久吉:坂東彌十郎2023年12月5日(火)~12月25日(月)会場:東京・新橋演舞場チケット情報:公式サイト:
2023年11月22日2023年5月18日、自宅で倒れていたところを発見され、歌舞伎俳優の四代目市川猿之助(本名:喜熨斗孝彦)氏ら3人が救急搬送される事件が発生。後に、搬送された猿之助氏の両親は死亡が確認され、猿之助氏は自殺ほう助の容疑で逮捕されています。同年11月17日、猿之助氏の判決公判が東京都千代田区の東京地裁で開かれ、懲役3年、執行猶予5年の判決がいい渡されました。市川猿之助氏、判決を受けコメント同日、猿之助氏の判決を受け、松竹株式会社はウェブサイトを更新。亡くなった猿之助氏の両親へ哀悼の念を表し、「いかなる事情があったとしても、市川猿之助が行った判断は決して許されるものではなく、大きな過ちであった」と、会社としての考えを述べました。続いて猿之助氏の今後については、「まずは1人の人間として、両親のぶんまでしっかりとこの後の人生を歩んでほしい」と述べ、歌舞伎俳優としての予定が白紙であることを明かしています。また、同社はウェブサイトに猿之助氏のコメントも掲載しました。本日、裁判所から、懲役3年執行猶予5年の判決の言い渡しを受けました。失意のどん底で決意したこととはいえ、常に自分を見守ってくれた父と母を巻き込んでしまったこと、そして、歌舞伎界を含め、多くの皆様に治癒し難い傷を負わせてしまったことに対し、言い表せない罪を感じています。自分の記事が世に出るとき、そのこと自体により、四代目猿之助を継承した自分が「猿之助」という名前のみならず歌舞伎界という大きな伝統と文化に対し深い傷を与えてしまうこと、また成長を歩み続けている猿之助一門のみんなを暗闇の中に放り出すこと、その現実の大きさから自死を選んでしまいました。どん底の中で生き長らえることを選ばなかった自分の弱さを責めるしかありません。たとえ生活の場を失ったとしても、次の日を信じて静かに待つべきでした。生きることを諦める気持ちになったとき、自死を成し遂げることだけを考えていました。自分の精神状態の異常性すら理解できない状況に陥っていました。「あなただけ行かせるわけにはいかない。」という両親の言葉も自然に受け止めてしまっていました。来世に向かう両親の身支度をし、そして、自分の終止符へと向かいました。自分一人で抱え込まず、周囲の人に自分の不安や絶望を相談するべきでした。ただ、当時の自分は、自分の立場もあり、他の人には自分の気持ちは理解できないだろうと考え、また、周囲に弱みを見せることもできませんでした。事件の日から今日まで生きてきました。毎日、あの日のことを思い返してきました。私だけが生き延びてしまった、父と母に申し訳ない、そういったことを考えていました。事件後も、死んでしまいたい、明日命が終わっていないか、と思うこともありました。しかし、周囲や病院関係者の助けのおかげで、事件のときほど真に迫った自死の思いが生じることはありませんでした。「最後に何か言いたいことはありますか。」という裁判官の言葉に対し、「自分にできることがあればやらせていただきたい。」と答えました。今後は、生かされた自分に、これから何ができるか考えていきます。これからは、一人で抱え込まずに、自分の弱さも自覚し、周囲の方々に相談し、助けていただきながら、一日一日一生懸命に生きていこうと考えています。本当にご迷惑をおかけしました。松竹株式会社は、猿之助氏と時間をかけて話し合い、責任をしっかりと受け止めた上で、今後について模索していくとのこと。また、事件の発端とされているハラスメント行為の報道については、現時点で事実確認はないものの、通報窓口の利用者を拡大するなど、会社として改善を進めていくといいます。[文・構成/grape編集部]
2023年11月17日歌舞伎俳優の中村獅童とバーチャル・シンガーの初音ミクが共演する「超歌舞伎 Powered by NTT『今昔饗宴千本桜』」の製作発表会見が11月13日、都内で行われ、獅童をはじめ、共演する長男の小川陽喜(はるき)、次男の夏幹(なつき)くんが出席した。古典歌舞伎とNTTが開発した最新テクノロジーが融合した「超歌舞伎」が、歌舞伎座新開場十周年「十二月大歌舞伎」第一部として、満を持して歌舞伎座に初登場。歌舞伎の名作『義経千本桜』と、バーチャル・シンガー初音ミクの代表曲である「千本桜」の世界観に着想を得て書き下ろされた『今昔饗宴千本桜』。初演である「ニコニコ超会議2016」で上演された記念碑的な作品で、「超歌舞伎」が生み出す舞台と、ペンライトに染まる客席の熱気あふれる一体感が、大きな魅力となっている。2023年12月歌舞伎座『今昔饗宴千本桜』特別ポスター初演から8年目を迎えた「超歌舞伎」の歌舞伎座公演決定に、獅童は「念願が叶い、正直にうれしいという思いが一番でございます」と喜び声。「歌舞伎座でやるには、異質な演目で賛否両論、ご意見あるだろうなと思いますが、そこをやるのが、伝統を守りつつ、革新を追求する中村獅童の生き方」と語り、「僕にとってはライフワーク。同時に、歌舞伎座はゴール地点なので、もしも“第1期”があるとすれば、これで一度ピリオドを打ちたい。今までの集大成として、思いをすべてぶつけたい」と強い決意を示した。『今昔饗宴千本桜』(H31.8南座)左より、中村獅童、初音ミク©松竹・NTT/©超歌舞伎『永遠花誉功』(R4.9南座)左より、小川陽喜、中村獅童©超歌舞伎2022 Powered by NTT」「歌舞伎座でペンライトが光る風景って、今までないですよね。一見奇抜に見えるかもしれませんが、演技や表現は古典歌舞伎に則っている。歌舞伎は本来、庶民の娯楽。“敷居が高い”を取っ払って、大げさですけど、時代を切り開きたい。いずれは歌舞伎座でやって、超歌舞伎というジャンルを本物にしたいという思いもあった」(獅童)さらに、同公演にて次男の夏幹の初お目見得も決定。今年6月に3歳の誕生日を迎えた夏幹は、夏櫻丸(なつおうまる)を勤める。本作には佐藤四郎兵衛忠信を勤める父・獅童、陽櫻丸(はるおうまる)と狐の精を勤める長男の小川陽喜に加えて、中村勘九郎、中村七之助らも出演し、「超歌舞伎」の歌舞伎座初上演と初お目見得の舞台を華やかに飾る。会見で、獅童は「重たく受け止めてほしくないですが」と切り出し、夏幹君について「生まれながらに、両手の小指が欠損している状態」だと説明。本人の「歌舞伎をやりたい」という思いを尊重しつつ、表舞台に立つ以上は「指がないというのは、隠せないこと」と語り、「歌舞伎役者をやらせるべきなのか、この問題を公表するべきかも含めて、妻と話し合った。どちらが正しいか分かりません」と葛藤を明かした。それでも「明るく生き抜こうとする夏幹の姿に、僕自身も成長し強くなれた。その日々の積み重ねが、公表につながった。ひとつの個性として受け入れられ、どんよりした時代を、少しでも明るくする道しるべのような存在になってもらいたい」と希望を託し、同時に「海外にはチャレンジドという言葉があるように、かわいそうとか、感動的に捉えてほしいとか、そういうことでは一切ない。同情されたくないですし、普通に温かく接してほしい」と思いを訴えかけた。「生まれたときからの状態なので、本人に(チャレンジドだという)認識はないと思います。学校に通い始めると、きっと他の子と違うと気づくときが来て、悲しみや苦しみを味わうこともあるかもしれないが、役者にとってはそれが最大の武器になる。だから、個性的で強力なライバルが現れたと思っていますよ。未来を見据えて、チャレンジする精神は僕も忘れたくない。『超歌舞伎』を歌舞伎座でやるのはチャレンジなので」(獅童)【あらすじ】神木である千本桜の咲き誇る神代の時代、この世を闇に落とさんと企む青龍の精の襲撃を受け、桜はその花を散らし、世界は闇に包まれ、神木を守護なす白狐や美玖姫はその難を数多の犠牲を伴って逃げ延びる。時は移り。枯れ果てた千本桜の周りで寂しく舞う蝶々は、記憶を失い逃げ延びた美玖姫の仮の姿。そこへ、白狐が転生した姿である佐藤忠信が現れる。神代の時代の記憶を残す忠信は、美玖姫に駆け寄るが。取材・文:内田涼<公演情報>歌舞伎座新開場十周年「十二月大歌舞伎」第一部「超歌舞伎 Powered by NTT『今昔饗宴千本桜』」出演:佐藤四郎兵衛忠信:中村獅童美玖姫:初音ミク蝶の精:中村種之助陽櫻丸・狐の精:小川陽喜夏櫻丸:小川夏幹初音の前:中村蝶紫青龍の精:澤村國矢頭取:市川青虎女神舞鶴姫:中村七之助朱雀の尊:中村勘九郎2023年12月3日(日)~12月26日(火)会場:東京・歌舞伎座チケット情報:公式サイト:
2023年11月14日11月2日(木)、歌舞伎座新開場十周年「吉例顔見世大歌舞伎」が開幕した。熱狂を巻き起こした初演から6年ぶりの再演となる『極付印度伝(きわめつきいんどでん)マハーバーラタ戦記』を上演する昼の部と、秀山十種の内『松浦の太鼓(まつうらのたいこ』、義太夫狂言の傑作『鎌倉三代記(かまくらさんだいき』、そして「顔見世」を彩る舞踊三題をお届けする『顔見世季花姿繪(かおみせづきはなのすがたえ』で締めくくる夜の部。それぞれ初日公演のオフィシャルレポートが到着した。世界三大叙事詩のひとつ「マハーバーラタ」を原典とした『マハーバーラタ戦記』は、尾上菊之助がSPAC(静岡県舞台芸術センター)の芸術総監督・宮城聰が演出した『マハーバーラタ~ナラ王の冒険~』を観て感銘を受けたことがきっかけで、青木豪の脚本、宮城總の演出により、2017年に初演。今回、事前に行われた取材会で「二幕目の婿選びのシーンでインド映画の舞踊を模した踊り合戦」が加わることを菊之助が明かしており、映画『RRR』で話題となった「ナートゥダンス」のような激しい踊りの場面が登場するなど、脚本と構成が練り直された再演となった。初演に引き続き尾上菊五郎が仏の化身である那羅延天で出演、主人公・迦楼奈とシヴァ神の二役を勤める菊之助、我斗風鬼写(がとうきちゃ)とガネーシャの二役を勤め、今回が初出演となる菊之助の長男・丑之助の、親子孫の3人が共演することも大きな話題だ。開幕するとそこは、神々の世界。神々は人間界を見下ろし、争いを繰り返す人間たちを嘆く。黄金を身にまとっているかのように煌びやかに居並ぶ神々は、神聖さを感じさせる。中央に聳える那羅延天(ならえんてん/尾上菊五郎)が「この世の終わりが始まる」と告げると、滅びの神・シヴァ神(尾上菊之助)は人間たちが始める戦争で世界が滅ぶだろうと語る。このままでは世界は滅びてしまうと、太陽神(坂東彌十郎)が世界の終わりを止めるため慈愛に満ちた子を人間界へ送り救世主にしたいと告げる一方、軍神である帝釈天(坂東彦三郎)は圧倒的な武力をもって世界を支配すべきだと言い、それぞれ若く徳の高い汲手姫との間に迦楼奈と阿龍樹雷をもうける。母なるガンジス川に泰平を祈っている汲手姫(くんてぃひめ/中村米吉)のもとへ太陽神が現れると、汲手姫は迦楼奈(かるな/尾上菊之助)を宿し、瞬く間に美しい耳飾りの子を産み落とす。しかし、まだ恋すら知らない身であり恐ろしくなった姫は、生まれたばかりの赤子をガンジス川へ流してしまい……。 十六年が経ち、亜照楽多(あでぃらた/河原崎権十郎)と羅陀(らーだー/市村萬次郎)夫婦に育てられた迦楼奈は天性の弓の才能を秘めた青年へと成長を遂げるが、ある日、太陽神から人間界の救世主であるとのお告げを受けると、弓の修業のために家を出る決断をし、旅立つのだった。王が亡くなったばかりの王宮では、王妃である汲手姫の前に百合守良(ゆりしゅら/坂東亀蔵)、風韋摩(びーま/中村萬太郎)、阿龍樹雷(あるじゅら/中村隼人)、納倉(なくら/中村鷹之資)、沙羽出葉(さはでば/上村吉太朗)の五王子が並ぶ。五王子の名乗りの台詞は歌舞伎らしさに溢れ、王子たちとその従兄弟である鶴妖朶王女(づるようだおうじょ/中村芝のぶ)と道不奢早無王子(どうふしゃさなおうじ/市川猿弥)姉弟による王位継承争いが勃発すると、仙人久理修那(くりしゅな/中村錦之助)の助言により王位を競う武芸大会が開かれることに。都へやってきた迦楼奈もその武芸大会に出場し阿龍樹雷と対峙するが、鶴妖朶は自らが国を治めるべく迦楼奈を仲間に引き入れる。憎しみに駆られ五王子を亡き者にしたい鶴妖朶と、永遠の友と誓った約束を貫く迦楼奈。ふたりの関係は果たして……。また、迦楼奈と阿龍樹雷は、それぞれ葛藤しながらも自らの使命を受け入れていく。菊之助と隼人のふたりは初演でも話題となった客席を貫く両花道を走る馬車に乗ると、激しい立廻りを見せ、客席もヒートアップ。汲手姫という同じ母親を持つふたりの運命がぶつかり合う場面に拍手が止まない。戦乱の場面では、迦楼奈を演じる菊之助と、我斗風鬼写を演じる丑之助が親子で立廻りを見せると、観客からは大きな拍手が送られ、丑之助はハッキリとした口跡で重要なセリフを聞かせた。両花道を使った効果的な演出をはじめ、屏風を模した大道具、甲冑の衣裳デザインなど視覚的な楽しさから、歌舞伎座の空間に響き渡る国際色豊かな音楽、次々に繰り広げられる怒涛の展開は時が経つのを忘れてしまうほど。溢れんばかりの躍動感と哲学的な問いの余韻を残し、客席は大きな拍手で満たされた。仁左衛門の松浦候に鳴り止まない拍手夜の部は、秀山十種の内『松浦の太鼓』で幕開き。元禄十五年、師走の両国橋。俳人の宝井其角(中村歌六)は、笹売りに身をやつした赤穂浪士の大高源吾(尾上松緑)に出合う。其角の俳諧の弟子でもある源吾は、其角の詠んだ上の句に「明日待たるゝその宝船」と下の句を残し去っていく。その後の物語に大きな役割を果たす意味深な付句に、緊張した空気が漂う。そして翌日、大名・松浦鎮信(片岡仁左衛門)の屋敷では、其角を招き句会が催されているが、松浦侯は源吾の妹で腰元のお縫(中村米吉)の姿を見て苛立ち、其角から前日の源吾の話を聞くと、赤穂には忠義に篤い浪士がいないのかとさらに苛立ちが増す。するとそこへ、隣の吉良邸から陣太鼓の音が……。ひとつふたつと指折り数える松浦侯は赤穂浪士による討入りを覚る。その松浦侯の姿は本作最大の見所で、観客も心高鳴る様子で熱い視線を注ぐのだが、大名の風格と教養そして喜怒哀楽を自在に現し愛嬌を備える松浦侯は、忠義を重んじる武士の精神を持っている。「忠臣蔵」外伝の人気作を、2002年以来21年ぶりに歌舞伎座で演じる仁左衛門の姿に拍手が鳴り止まなかった。続いては、義太夫狂言の傑作『鎌倉三代記』。今回の上演では、中村時蔵と梅枝の親子が三浦之助義村と時姫をそれぞれ初役で勤めることが話題。中村芝翫が3度目となる佐々木高綱を勤める本作は、大坂夏の陣をモデルとして、三浦之助義村は木村重成、時姫は千姫、佐々木高綱は真田幸村であるとされ、鎌倉時代に舞台は置き換えられている。三浦之助の母が病に伏す絹川村の侘びた住居。京方と鎌倉方の争いのさなか、京方の三浦之助(中村時蔵)が現れ、恋人である鎌倉方の時姫(中村梅枝)が出迎える。戦へ戻ろうとする三浦之助に時姫は夫婦の契りを交わしてほしいと嘆願するも拒絶され、自害しようとしますが三浦之助に止められてしまう。時姫は父の北條時政と恋人の三浦之助との板挟みに苦しみ、ついに苦渋の決断を下し……。二枚目の若武者である手負いの三浦之助を時蔵が、“三姫”と呼ばれる女方の大役のひとつである時姫を梅枝が勤め、運命に翻弄される男女を色濃く演じると、客席はその一挙手一投足に見入った。前半では可笑しみを見せる藤三郎が、後半では佐々木高綱(中村芝翫)としての本性を現し、勇将たる姿でこれまでの計略を語る対照的な姿に観客は沸き立つ。趣向に富んだ重厚な義太夫狂言の傑作に、大きな拍手が送られた。夜の部を締めくくるのは、『顔見世季花姿繪』。最初は、春の七種行事を曽我兄弟の仇討ちと結びつけた舞踊『春調娘七種(はるのしらべむすめななくさ)』から。親の仇である工藤祐経の館に現れた、曽我五郎(中村種之助)と曽我十郎(市川染五郎)の兄弟。工藤を討とうと血気づく兄弟を、春の七種を摘む静御前(尾上左近)が押し止める。七種の名を巧みに織り込んだ長唄に乗せ、若手3人が華やかに踊る姿に客席は温かい空気に包まれた。続いては、清元による『三社祭(さんじゃまつり)』。浅草寺本尊の観音像を拾い上げたふたりの漁師(坂東巳之助、尾上右近)が粋な踊りを見せると、頭上に黒雲が下りてきて、ふたりに悪玉と善玉が取りつく。悪玉と善玉の面をつけて競うように踊るふたりは、軽快で可笑しみに溢れ、躍動感ある勢いを見せる。悪玉の巳之助と善玉の尾上右近という踊り巧者ふたりの競い合いに拍手喝采、大いに盛り上がった。そして最後は、吉原の遊廓を舞台に風情ある踊りで魅せる『教草吉原雀(おしえぐさよしわらすずめ)』。男女の鳥売り(中村又五郎、片岡孝太郎)が吉原の客を様々な鳥たちにたとえて踊り、吉原通いの様子や廓の風習を伝える。鳥刺し(中村歌昇)が登場し、賑やかさが加わり客席も浮き立つ。やがて3人の正体が明らかになると、驚きと共に沸き上がり、華やかに幕となった。歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」は2023年11月25日(土)まで、東京・歌舞伎座で上演中。<公演情報>歌舞伎座新開場10周年「吉例顔見世大歌舞伎」【昼の部】11:00~極付印度伝『マハーバーラタ戦記』【夜の部】16:30~一、秀山十種の内 松浦の太鼓二、鎌倉三代記三、顔見世季花姿繪2023年11月2日(木)~25日(土)※休演:10日(火)、20日(月)会場:東京・歌舞伎座チケット情報:公式サイト:※公演期間が終了したため、舞台写真は取り下げました。
2023年11月04日歌舞伎を観るならまずはコレ。尾上右近さんおすすめの古典歌舞伎10演目をご紹介します。【連獅子(れんじし)】歌舞伎といえば毛振り!勇壮な姿に釘付け。文殊菩薩の霊山。獅子頭を手にした狂言師の右近と左近が現れ、親獅子が我が子を谷底に突き落として這い上がってきた子だけを育てるという、獅子の子落とし伝説を厳かに舞い始める。舞い終えたふたりが胡蝶に誘われ場を去ると、現れたのは法華宗の僧と浄土宗の僧。旅の道連れとなるが、互いの宗派を知った途端、言い争いに。そのとき一陣の風が吹き、親子の獅子の精が現れる。毛振りを見ると清々しい気持ちになります。歌舞伎のジャンルのひとつとして、踊りで物語を表現してゆくのが舞踊。「基本的に舞踊は、始まって終わるまでに物語が完結するうえ音楽劇的な要素もあり、誰にでも観やすいジャンルだと思います。その中でも『連獅子』は、多くの人が歌舞伎と聞いてイメージする“毛振り”があり、華やかさや迫力も含め、観て面白い演目だと思います。獅子はもともと能に端を発していますが、それが毛を振るというのは歌舞伎にしかない演出。あの毛を振る間の歌舞伎俳優の心境というのは、ど派手なパフォーマンスを見せてやろうというのではなく、心静かに経を唱えているような感覚。僕は、あれこそ歌舞伎の自己犠牲の美学が一番凝縮した姿だと感じます。そこに子に試練を与える親獅子の厳しさが重なりますし、親獅子に食らいついていく子獅子の姿には、生や芸を受け継ぐことの重みを感じる。でも、そこに不思議な命の高揚感があり、だからこそご覧になる方々は清々しい気持ちになるのではと思っています。また同じ『連獅子』でも演じる方によって全然違うので、見比べるのも面白いと思います」(尾上右近さん)【春興鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)】踊るうち徐々に興に乗ってゆく娘の変化に注目。江戸城の大広間。正月の祝いの余興にと奥づとめの弥生が殿様に舞を所望された。最初は恥ずかしがって逃げるが、お局らに引き戻されてしまう。ようやく観念すると、さまざまな舞を次々と披露する。徐々に舞が興に乗るなか、弥生が手にしたのは獅子頭。いつしか獅子頭が弥生を翻弄し始め、姿を消した彼女に代わり、獅子の精が姿を現す。僕にとって絶対外せない特別な演目です!右近さんが幼いときに観て、歌舞伎に魅了されるきっかけとなったのがこの演目。「これがあるから自分は歌舞伎をやっていると言っても過言ではないので、これを挙げないと自分としては納得できない」と言うほど特別なもの。「弥生は、最初はお殿様に所望されて仕方なく踊り始めますが、殿様に見られているという高揚感も手伝って、徐々に興に乗って踊りに気持ちが集中していきます。この弥生の見られている高揚感と緊張というのは、演じている役者の心境とぴったりリンクしますし、ひとりで30分の大曲を踊り切るわけで、役者にとって孤独な闘いでもあり、それだけ覚悟のいる演目でもあります。歌舞伎の舞踊の中ではストーリー性が薄いこともありエンターテインメント性より芸術性が強いかもしれませんが、歌舞伎の芸術としての側面を味わうには最適なはず。初めてご覧になるなら、ぜひ僕が挑戦するときに観てほしいです。絶対後悔させませんので」【京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)】美しい女性が釣り鐘を前に大蛇に豹変。恋に狂った清姫が大蛇となり僧を鐘ごと焼き殺した伝説が残る道成寺で、鐘供養が行われることに。そこに鐘を供養させてほしいと訪ねてきたのは美しい白拍子(男装の舞妓)。女人禁制ながら、修行僧たちは舞の披露を条件に寺へ招き入れる。さまざまな舞を披露するが、次第に白拍子の様子が変わり鐘に登ったかと思うと蛇の正体を見せるのだった。細部にまで日本の美が詰まっている総合芸術です。「1時間近くをひとりで踊り通すわけで、役者にとっては『鏡獅子』同様、心境的には自分との闘いのような演目ではあるんです。ただ、華やかで美しい衣装に鬘があって、大道具があって、役者がいて、音楽があって、小道具もすべてキラキラしていて、細部まですべてに日本の美が詰まっていて、それらが互いに引き立て合って、観る者を作品の世界に引き込んでくれる。役者ひとりの力で魅せる芸術ではなく、歌舞伎が総合芸術であることを実感してもらえる演目だと思います」赤の振り袖に烏帽子をかぶっての、能を取り入れた静かで厳かな舞から始まり、引き抜きという手法で一瞬にして浅葱色の衣装に替わったり、小道具も次々と持ち替えて、さまざまな踊りを見せていく。「視覚的にも聴覚的にも起伏がたくさんあって、観る人を飽きさせないようにと考えて作られていますし、この作品の時代背景や設定などを知らなくても楽しめる演目だと思います」【弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ) 白浪五人男(しらなみごにんおとこ)】美しい娘だと油断するなかれ。その正体に驚き。呉服問屋・浜松屋を、従者を連れた美しい娘が訪れる。品物を選ぶ最中に娘が万引。それを番頭が見咎めるが、その品は他で買ったものと判明。無実の罪を着せられたと従者の男が店に法外な金を要求。仕方なく金を渡すが、じつは娘は男で、すべてがゆすりの芝居だった。娘は開き直ると着物を脱ぎ刺青を見せ、盗賊の弁天小僧菊之助と名乗るのだった。女形の楽屋裏での姿を想像してもらえれば(笑)。「ヤンチャ小僧って、周りは手を焼きながらも、かわいいなって思ったりしますよね。弁天小僧は、まさにそのかわいさとかっこよさが共存した存在。しかも女性の格好をしているときは本当に綺麗だから、その後の展開を知らずに観た人は、男がやっているのに女形って本当に綺麗だなと感じると思うんです。それが後で服を脱ぎだし裸になっちゃうのだから、驚きますよね(笑)。弁天小僧が男に戻る場面は、女形の役者が楽屋に戻った状態と同じなわけで、女形の裏で見せる素の顔というかバックステージを見ているような感覚も楽しんでいただけるはず。男が女性を演じる女形という存在をうまく利用した話だと思います」正体がバレた弁天小僧菊之助が、開き直って自分の素性を明かす場面での「知らざぁ言って聞かせやしょう」は、歌舞伎屈指の名ゼリフ。「難しい知識は必要なく、これが名ゼリフといわれているんだ、と思って楽しんでいただければと思います」【夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)】蒸し暑い夏の夜、はずみで起きた哀しい惨劇。武士の玉島兵太夫に大恩のある魚売りの団七は、兵太夫の息子・磯之丞の恋人で遊女の琴浦が男たちに絡まれているのを助ける。老侠客の三婦の家に匿われた琴浦だったが、団七の使いを騙る団七の義父・義平次が彼女を連れ去ってしまう。それを知り義平次を追いかけ琴浦を取り返した団七だったが、揉み合ううちに義平次を斬ってしまう。芝居の随所から夏の暑さを感じる作品です。劇中の主人公・団七のセリフに、「悪い人でも舅は親」というものがあるが、どんなにはずみで犯した過失であっても親殺しは世の大罪。「あってはいけないことではあるけれど、団七の、一度走り出したら止まれない男の性みたいな部分は多くの方に共感していただけるのではないかと思います。義理と忠義を立てようと奔走する団七を邪魔する舅がいなくなり、ほっとする気持ちと同時に、本人が望まない結果となった団七をかわいそうにも思う。いろんな感情が湧き上がる作品です。団七は多少無理でも男を立てることを優先しようとするけれど、義父の義平次は、泥水をすすってでも必死に生きるのが男だという、ふたりの価値観の違いも面白いですよね。また、夏の暑さだとか、遠くから聞こえてくる祭り囃子だとか、季節を感じる描写が芝居の随所にあり、湿度と汗でベタベタするような夏の夜の空気感を体感してもらえるところも面白い作品だと思います」【東海道四谷怪談(とうかいどうよつやかいだん)】みるみるうちに面相が醜く変わり恐ろしい姿に。色男の民谷伊右衛門は、産後の肥立ちが悪く、ことあるごとに主君の仇討ちを迫る妻の岩を疎ましく感じていた。その矢先、隣家の金持ちの伊藤家から孫娘との縁談を持ちかけられ、承諾した伊右衛門の元に伊藤家から毒薬が届く。血の巡りの薬と騙され飲んだ岩の顔はたちまち醜く変わり、非業の死を遂げる。その後、伊右衛門は岩の亡霊に悩まされ…。江戸時代生まれのホラーは怖いけどすごく哀れ。「江戸時代にもホラーというジャンルは存在して、当時から少しでも涼しく感じたいということで、夏に上演され喜ばれてきたジャンル。ゾクッとする怖さを楽しむ人がいるのは、今とまったく同じです。この物語の中心人物であるお岩様は、信じていた夫に騙されて殺されて、本当にかわいそうな女性です。夫の伊右衛門に薬と偽られ毒薬を飲んでしまい、髪をすく間にどんどん髪が抜けていく描写などは、怖いけどすごく哀れ。そのぶん恨みも深いのか、お化けになって登場するお岩様は本当に怖いので、ホラー好きな人なら喜んでいただけるのではないでしょうか」また、伊右衛門はお岩を死に至らせたばかりでなく、内職の手伝いに雇った小仏小平も殺害。そのふたりの幽霊が同時に現れる場面では、一人の役者が二役を一瞬で演じ分ける早替わりの演出も。「舞台の上に幽霊を登場させる演出の面白さもあれば、仇討ちのエピソードなどもあり、見どころの多い作品です」【め組の喧嘩(めぐみのけんか)】火消しと力士の意地の張り合い。喧嘩は迫力満点!品川宿、隣り合わせた座敷で飲んでいた力士たちと鳶の面々が、ひょんなことから小競り合いに。そこに割って入ったのは町火消しの「め組」の鳶頭・辰五郎。場は収まるが、鳶は武士に召し抱えられた力士より格下だと言い放たれる。面子を汚された辰五郎は仕返しを決意。妻と子に別れを告げ、彼を慕う鳶たちを率い、真剣勝負の場に乗り込んでいく。江戸の華といわれる“喧嘩”を堪能できます。「火消しと力士それぞれが自分たちの主張を曲げず、意地の張り合いから、それぞれのプライドをかけての命懸けの喧嘩に発展していきます。火事と喧嘩は江戸の華といいますが、それを嫌というほど堪能できる演目。これぞまさに“江戸っ子”というものが随所に描かれているので、そこを楽しんでもらえると思います」描かれるのは、ひたすら喧嘩の場面だが、「大人が本気で喧嘩している姿って、はたから見ていると面白いんですよね」とも。「力士たちへの意趣返しをしようと決意した鳶たちが勢揃いする場面がありますが、その迫力は本当に圧巻のひと言。鳶頭の辰五郎を筆頭に、手桶の柄杓でおのおの水盃をして威勢よく駆け出していく姿は無条件にかっこよく、観ていて気分が高揚すること間違いなし。出てきすぎじゃないの?と思うくらいたくさんの鳶がそこに登場するのも面白く、お祭り騒ぎ感も満載。わかりやすく見応えのある作品です」【義経千本桜(よしつねせんぼんざくら) 川連法眼館(かわつらほうげんやかた)】親への恋しさゆえ武将に化けた子狐の情愛に涙。兄・源頼朝に謀反を疑われた源義経は川連法眼の屋敷に匿われていた。そこに家来・佐藤忠信が訪ねてくるが、そのすぐ後、静御前を伴い忠信が来たとの知らせが入る。義経の命により忠信の真偽を確かめようとした静の前に正体を現したのは狐。鼓にされた父狐と母狐への恋しさゆえ、鼓を持つ静の供をしていたという。憐れんだ義経は狐に鼓を与える。あっと驚くようなアクロバット的演出も。『義経千本桜』は、兄・源頼朝から謀反を疑われ追われる身となった源義経の物語を背景に、戦によって思わぬ境遇となった人々を主人公にした、複数の物語で構成される壮大な作品。「タイトルロールでありながら、どのお話も主人公は義経ではなくその周りに生きる人々。なかでもこの場面は、狐が主人公で、その狐が人間の姿に化けて言葉をしゃべるというところが面白いです。しかも描かれているのは狐ではあれど親子愛で、どの時代もどの人にも伝わるテーマ。また義太夫という、ナレーションを兼ねた音楽に乗った音楽劇的な要素もあれば、“ケレン”と呼ばれるあっと驚くようなアクロバット的な演出もあり、見どころが多い演目。物語のラストは、狐の視点で大団円を迎えるので観ていて爽快感がありますしね。また、物語の時代背景や前後のエピソードを知らずとも、このお話単体で楽しめるので、初めて歌舞伎をご覧になる方にはぴったりだと思います」【俊寛(しゅんかん)】孤島に残された俊寛の深い悲しみが胸に迫る。平清盛打倒の謀略で孤島に流された俊寛僧都、藤原成経、平康頼。侘しい島暮らしの中、成経は海女・千鳥を妻に迎えた。そんなおり島に赦免船が。喜ぶ彼らだったが、使者の瀬尾は千鳥の乗船を拒む。当惑する中、瀬尾から妻が清盛に殺されたと聞いた俊寛は絶望。瀬尾を討ち、その罪で島に残る代わりに千鳥を船に乗せるよう懇願。俊寛は、ひとり島から涙で船を見送る。徐々に遠ざかっていく船を見送る俊寛に注目です。「舞台の真ん中に大きな岩があって、浜辺があって、海が見えて、そこに突然大きな船がやってくる…。あえてリアルを追求せず、デフォルメされた大胆な構図のセットで歌舞伎をやるということに、驚く人もいるのではないでしょうか。終盤、どんどん潮が満ちていく中、ひとり岩の上に取り残された俊寛が、仲間が乗る船を見送るシーンがあります。このとき船は舞台上に出すことなく、俊寛を演じる役者の目線を通して、徐々に遠ざかっていく船の姿を想像させる演出になっています。セットと役者、そしてそれを観る観客の想像力を借りることで、孤島にひとり残された老人がこれから直面する現実の悲しさを強烈に印象づける、極めて演劇的な作品だと思います」それゆえ、俊寛を演じる俳優によって、作品の印象がガラッと変わってくるのも面白いところ。「この作品に限ったことではないですが、さまざまな俳優で比べて観られるのも歌舞伎の面白さです」【実盛物語(さねもりものがたり)】どんでん返しに次ぐどんでん返しで飽きさせない。平家全盛の世。平家の武将・実盛と瀬尾は源氏方の木曽義賢の妻が産む子の詮議に訪れる。そこに運ばれてきたのは源氏のシンボル・白旗を握る女の片腕。それは源氏方の娘・小万の腕で、元源氏方の実盛が平家に白旗が渡るのを恐れ切り落としたもの。小万の子・太郎吉が母に悪態をつく瀬尾に刃を向けると瀬尾は自らを討たせ、小万はかつて己が捨てた娘だと告白する。「そんなわけあるか!」と心の中でツッコんで(笑)。「物語の舞台が源平合戦の時代であったりするので、フォーマルな堅い演目のように感じるかもしれませんが、描かれているのは登場人物たちの心の話。ここに登場する武士たちは、みんなが庶民と何ら変わらないことを思っていて、我々と何ら変わらない行動を取るので、親近感を持ってカジュアルな気持ちで楽しんでいただける演目だと思います。また、切り落とした片腕を死体に繋いだら、死んだ人が息を吹き返すという馬鹿馬鹿しい展開もあるので、『そんなわけあるか!』と心の中でツッコみながら楽しんでいただければと思います(笑)。そしてもうひとつの見どころは、最後に出てくる馬。中に人が入っているんですが、結構大きく迫力があるので本物かと驚く方もいるはず。しかもちゃんと芝居をする馬で、尻尾を揺らしたりブルッと震えたりする仕草は結構リアル。その馬に実盛が乗りますが、高さも乗り心地もまるで本物みたいなので注目していただければ」おのえ・うこん1992年5月28日生まれ、東京都出身。清元節宗家の家に生まれながら、7歳から歌舞伎の舞台に立ち、名子役として評判に。2005年に二代目尾上右近を襲名。現在は、歌舞伎の舞台のほか、ドラマや映画、バラエティ、現代劇やミュージカルなど幅広く活躍。’15年からは自主公演『研の會』を主催し、数々の大役に挑戦。11月には歌舞伎座への出演も決まっている。※『anan』2023年10月4日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・三島和也(Tatanca)ヘア&メイク・西岡達也イラスト・momo構成、取材、文・望月リサ(by anan編集部)
2023年10月01日3歳のときに曽祖父で名優の六代目尾上菊五郎の踊る『春興鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)』を映像で観て歌舞伎の虜になり、歌舞伎俳優の道を歩み始めた尾上右近さん。その右近さんの考える歌舞伎の魅力とは、「なんでもない所作に拍手が起こる現象があるところ」。結局は、歌舞伎がすごいっていう結論になるんです「手ぬぐいをすっと取る動きだけで、深い感動を呼ぶっていうことが歌舞伎では本当にあるんです。それがなぜできるかといったら、“芸”があるからなんですね。先輩の中には何も動かずそこにいるだけで感動を呼ぶ方もいらっしゃいますけれど、基本的には芸で魅せるものだと思っています」その芸とは、何百年と続く歴史の中で“型”として構築されたもの。「新作歌舞伎と違い、古典は自分以外にも同じ役をやっている人がたくさんいます。もっと言えば、過去にその型を作った人がいて、それがいろんな人の手により継承されてきた歴史がある。だからどんなに僕が褒めていただいても自分の力だと思えなくて、結局、歌舞伎がすごいんだって結論になる。でもそれが古典の面白さだとも言えるんですよね」しかし古典も、昔の型をただ踏襲してきただけではない、とも。「六代目菊五郎の話ですが、かつては数百人の劇場でやっていたものが1000を超えるキャパに変わってきたとき、それまでの蛍を目で追う振りが後ろの観客には伝わらなくなったそう。どうしたらいいかを考えていたときに、目の不自由な人が、目の代わりに指先で見ると話していたのがヒントになって、蛍を指で追う振りを思いついたんだとか。そうやって時代を超えるために変わるものもあれば、変わってはいけないと意地になっている部分もあって、今の古典歌舞伎があるんですよね」その時代時代に歌舞伎役者がいて、彼らの肉体や精神を通して伝承してきたところに価値がある。「松本白鸚のお兄さんのところに教わりに伺ったとき、お兄さんが僕くらいの頃、年上の先輩に芸を教わりに行かれた思い出話をたくさんしてくださったんですよね。そのとき十七代目中村勘三郎さんの芸がいかにすごかったか話しながら当時を思い出して感動して泣かれるんです。僕はそのお兄さんの姿に感動でした。十七代目の芸を間近で見た感動を伝承する。これこそが継承で、その感動もひっくるめて古典になっていくんだなと思いました」歌舞伎1603年頃に京都・鴨川の四条河原で、出雲の阿国が始めたかぶき踊りが始まり。“かぶき”とは“傾(かぶ)く”が語源といわれ、風変わりな派手な服装で、これまでにない斬新な踊りを踊ったことから付いた名称といわれる。かぶき踊りは庶民の間で一世を風靡したが、風紀の乱れを助長するとして幕府より禁止令が下った。その後、男性による野郎歌舞伎が誕生。元禄時代、人気役者と実力派作家の台頭とともに娯楽として発展した。おのえ・うこん1992年5月28日生まれ、東京都出身。清元節宗家の家に生まれながら、7歳から歌舞伎の舞台に立ち、名子役として評判に。2005年に二代目尾上右近を襲名。現在は、歌舞伎の舞台のほか、ドラマや映画、バラエティ、現代劇やミュージカルなど幅広く活躍。’15年からは自主公演『研の會』を主催し、数々の大役に挑戦。11月には歌舞伎座への出演も決まっている。※『anan』2023年10月4日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・三島和也(Tatanca)ヘア&メイク・西岡達也構成、取材、文・望月リサ(by anan編集部)
2023年10月01日現代の視点を取り入れ、歌舞伎上演の新たな可能性を発信してきた「木ノ下歌舞伎」の代表作のひとつ『勧進帳』が東京芸術劇場にて上演される。歌舞伎の名作を大胆に再構築した本作について、監修・補綴を務める木ノ下裕一に話を聞いた。木ノ下は自らの創作を「古典をかきわけ、その先で見つけたものに“現代”を感じる瞬間があるんです。かきわけた地面の底に鏡が貼ってあって、そこに自分の顔が映し出されるような感覚です」と説明する。「勧進帳」で言えば、義経に対する弁慶の“忠義”、そして彼らの正体を見破りながら、騙されたふりをして見逃す関守・富樫の“情”を描いた物語として語られがちだが、木ノ下が着目したのはそこではない。原作を掘り起こす中で見出したのは、様々な形で現れる“境界(ボーダー)”の存在だった。「原作の長唄に『今またここに越えかぬる人目の関』という詞章があるんです。かつて、人目を忍んで恋をした弁慶が、いま再び世間の目を避けながら関所を越えようとしているという意味ですけど、確かにこの作品、いろんな“関”が出てくるんですね。義経らが越えようとする“国境”という意味での関所はもちろん、義経と弁慶の主従の間にも絶対に越えられない一線があるし、富樫と義経らの間にも敵味方という境界線がある。これをテーマに“境界(ボーダー)の物語”として新たな『勧進帳』が描けるんじゃないかと思ったんです」この“境界線”の存在もまた現代社会の中で時間と共に変容する。2010年の初演、2016年の再創造を経て、2018年にも再演された『勧進帳』だが、社会の変化と共に常にアップデートされていく。「2016年、18年の頃はまだ“分断”という言葉が新しかったですよね。『分断を生む』という言葉によって分断が顕在化し、認識されるような感じでした。でも2023年のいま、分断が存在することは当たり前で、それをどうすべきか? ということを考えなくてはいけない中で解釈や演出も確実に変わります。例えば入管や移民の問題は、いま『勧進帳』を上演するならば、しっかりと勉強した上で押さえていかなくてはいけない問題だと思っています」演出を務めるのは杉原邦生。「僕が思う杉原さんのうまさは、エンタメ性と批評性のバランスの良さだと思います。相反するものとされがちだけど、本当に素晴らしいエンタテインメントは批評性も高いし、批評性が高い作品はエンタメをまぶしてないと面白くない。せめぎあいの中でその両立ができるのが杉原さんの特徴」と全幅の信頼を寄せる。2023年を生きる我々の心をどのように揺さぶってくれるのか? 完成を楽しみに待ちたい。取材・文:黒豆直樹
2023年08月21日江戸時代から令和にいたるまで、日本の伝統芸能として人気を誇る歌舞伎。演じる歌舞伎俳優たちはその高い演技力や存在感で、歌舞伎だけでなく映画やドラマでも脚光を浴びている。しかし、女性問題などのスキャンダルで注目を集めることも少なくない。最近では、市川猿之助(47)の心中騒動も話題になるなど、風当たりが強くなりつつある。そんな令和の歌舞伎界で、今誰が評価され、嫌われているのかを400人へのアンケートで調査した。今回は「好きな歌舞伎役者」の結果を公表する。まず3位に選ばれたのは、市川團十郎(45)。昨年コロナ禍で延期となっていた團十郎襲名披露興行を東京・歌舞伎座で行い、歌舞伎界屈指の大名跡を継承した。これからの歌舞伎界を背負って立つ存在として、古典はもちろん『プペル歌舞伎』など新たな演目にも積極的に挑戦している。また、’17年6月に妻・小林麻央さん(享年34)が亡くなってからは、男手ひとつで長女・ぼたん(11)と長男・新之助(10)を育て、SNSでは仲睦まじい様子もたびたびアップしている。歌舞伎役者と父親を両立している團十郎の姿に好意的な声が多く寄せられた。《子育てしながら歌舞伎に頑張っているから》《良くない噂もありますが、奥様を亡くされて、二人のお子さんを育てていらっしゃる素晴らしい方だと思います》《芸を演ずるのが、上手く私の好み》2位に選ばれたのは、尾上松也(38)。歌舞伎に加えて、昨年のNHK大河『鎌倉殿の13人』や9月には映画版も上映されるドラマ『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ系)など数々の話題作にも出演し、バラエティ番組にも登場するなどマルチな才能を見せている。そんな多方面での活躍ぶりを評価する声は多く、テレビ番組での明るいキャラクターと歌舞伎に取り組む真剣さに良いギャップを感じるという人も少なくないようだ。《バラエティ番組でユーモアたっぷりな様子を見て親しみを持ち、歌舞伎の芸事にとりくむ真剣な様子とのギャップが魅力に思うため》《俳優さんとして昔何かに出ていて演技も上手だし、バラエティで見てても面白い方だから》《軽そうにみえるけど、仕事に対して真面目に取り組んでいるから》《特に不祥事もなく、ドラマなど多方面で活躍しているから》そんな2人を抑えて、見事1位に選ばれたのは、市川中車こと香川照之(57)。昨年には女性ホステスへの性加害が報じられたことで、CM契約、テレビのレギュラー番組などをほぼ全て失う形となり、俳優としての露出は激減。しかし、歌舞伎役者としては昨年12月の團十郎襲名披露興行で舞台復帰を果たしている。40代後半で歌舞伎界入りしたため、梨園での影響力はあまり大きくなかった中車だが、澤瀉屋のトップである猿之助が心中騒動を起こしたことで、同門再建のキーマンに。七月大歌舞伎では猿之助の代役で宙乗りも披露するなど、奮闘している。自身の騒動前から俳優として絶大な知名度と人気を誇り、現在は歌舞伎役者として奮起する中車の好感度は今も高いようだ。そんな中車へのエールが多く見られた。《演技がダントツで上手く、出てると見入ってしまう魅力があるから》《不遇な子供時代を送ったのに、一生懸命に努力している》《途中から歌舞伎の世界に入っているので頑張って欲しいから》【好きな歌舞伎役者ランキング】1位:香川照之(市川中車)2位:尾上松也3位:十三代目 市川團十郎4位:十代目松本幸四郎5位:二代目中村獅童6位:六代目片岡愛之助7位:六代目中村勘九郎8位:五代目坂東玉三郎9位:二代目松本 白鸚10位:中村隼人調査対象:20代以上の男女400人調査方法:WEBでのアンケート(クロス・マーケティングのセルフアンケートツール『QiQUMO』を使用)
2023年08月12日歌舞伎座新開場十周年『八月納涼歌舞伎』3部それぞれの特別ポスターが公開された。第一部『裸道中』『大江山酒呑童子』のポスターは、どこか憎めない愛嬌をもつ勝五郎と、喧嘩をしつつも夫への愛情が滲む女房のみきの姿をとらえた『裸道中』と、盃を重ねて心地よく踊る童と本性を現した荒々しい鬼神の姿が印象的な『大江山酒呑童子』の世界が凝縮された1枚。第二部『新門辰五郎』『団子売』は、江戸町火消しのシンボルでもある纏と並ぶ松本幸四郎演じる新門辰五郎と、明るく軽やかな風俗舞踊『団子売』に出演する坂東巳之助演じる杵造、中村児太郎演じるお福が映し出されている。そして第三部『新・水滸伝』には、役人たちの不正による国の乱れに憤り、腐った体制に反旗を翻し縦横無尽に暴れまわる梁山泊に集結した豪傑たちが登場。熱く燃え上がる魂を表すかのような朱色の世界に、個性豊かな登場人物が鮮やかに浮かび上がっている。これらの特別ポスターは、歌舞伎座ほかにて順次掲出予定。なお『八月納涼歌舞伎』は、8月5日(土) から27日(日) まで歌舞伎座で上演される。<公演情報>歌舞伎座新開場十周年『八月納涼歌舞伎』8月5日(土) ~27日(日) 歌舞伎座歌舞伎座新開場十周年『八月納涼歌舞伎』ビジュアル詳細はこちら:
2023年07月27日6月27日、歌舞伎俳優の市川猿之助容疑者(47)が母親に対する自殺ほう助の疑いで逮捕された。歌舞伎界のスター俳優に関する衝撃的な報道に波紋が広がっている。5月18日発売の「女性セブン」で、弟子や俳優へのハラスメント疑惑が報じられた猿之助容疑者。すると同日、東京・目黒区の自宅で猿之助容疑者と両親が倒れているのをマネージャーが発見。119番通報したものの両親は死亡した。司法解剖の結果、両親の死因は向精神薬を服用したことによる中毒死とみられ、ひとり生き残った猿之助容疑者は警視庁に「死んで生まれ変わろうと家族で話し合い、両親が睡眠薬を飲んだ」と説明していた。そして6月27日、猿之助容疑者は逮捕されることとなった。猿之助容疑者は警視庁の調べに対して「両親が自殺する手助けをしたことに間違いありません」と容疑を認めており、さらに動機について「週刊誌報道をきっかけとして家族会議が行われて、みんなでさよならすることにした」という趣旨の供述をしているという。猿之助容疑者は歌舞伎界きってのスター俳優の一人であるだけでなく、ドラマでも大活躍。’20年の『半沢直樹』(TBS系)を筆頭に、’22年には大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合)や『最初はパー』(テレビ朝日系)に出演。さらにバラエティ番組にも登場し、そのキャラクターが親しまれていた。「同じく歌舞伎界に縁のある俳優・香川照之さん(57)が’22年8月、性加害報道で大幅に露出が減りました。そのためテレビの視聴者にとって、猿之助さんは最も距離の近い歌舞伎役者でもありました」(芸能関係者)そんな人気者の猿之助容疑者が、両親とともに命を絶とうとした、そしてその母の自殺を猿之助が手助けしたーー。ネット上では、衝撃的な事実に絶句する人々が。《猿之助さん、なんでこんな事しちゃったんだろう。ほんとうに残念でならない》《反省をして出直すことだってできた筈》《死して詫びなきゃいけないなんて…。そんなつまらないプライドが邪魔しちゃったのかな?悪い点を認めて裸一貫でやりなおせばいいのに。本当に残念》
2023年06月28日2023年5月18日、自宅で倒れていたところを発見された、歌舞伎俳優の四代目市川猿之助(本名:喜熨斗孝彦)氏が、救急搬送されました。マネージャーが発見した際、自宅では猿之助氏の両親もその場で倒れており、後に両親は死亡が確認されています。同年6月27日には、母親に対する自殺ほう助の容疑で、警視庁は猿之助氏を逮捕。今後、父親であり、歌舞伎俳優である市川段四郎さんへの自殺ほう助容疑でも捜査を進めていくとのことです。市川猿之助氏の逮捕を受け、所属事務所がコメント猿之助氏が逮捕された日、所属事務所である株式会社ケイファクトリーはウェブサイトにコメントを掲載。ファンや関係者に向けて「多大なるご迷惑、ご心配をおかけしておりますこと改めて深くお詫び申し上げます」と謝罪の言葉を述べ、今後についてこのようにつづりました。現在、本人は警察の取調べを受けていると認識しております。このような事態に至りましたことを重く受け止め、今後も当局の捜査に協力して参ります。また、司法による最終的な判断がなされるまで、所属契約に関する見解について申し上げることは差し控えさせて頂きます。マスコミ各社様、SNSを含む個人の記者様への改めてのお願いでございます。市川猿之助の自宅及び、ご親族の方へのご取材はお控えいただきたく、皆様のご理解賜りますようお願い申し上げます。尚、この件に関する弊社所属俳優のコメントは差し控えさせていただきます。株式会社 ケイファクトリーーより引用また、松竹株式会社は「司法による最終的な判断がなされるまではコメントを差し控え、今後の捜査等を見守りたい」とコメント。今回の事件が家族内のものであるため、両社ともに、会社としての見解を述べるのは控える模様です。[文・構成/grape編集部]
2023年06月27日歌舞伎界のプリンスと呼ばれ、古典歌舞伎はもちろん『ワンピース歌舞伎』、そして今年7月に控える「新作歌舞伎『刀剣乱舞』」などでも主要な役を任され、ドラマ、映画、ミュージカルと多彩に活躍している尾上右近。彼が2015年から続けている自主公演『研の會』が今年も上演される。右近が未経験の名作に積極的に挑戦する場だが、第七回である今回は、任侠に生きる浪花の男たちの濃厚な人間ドラマが見どころの『夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)』と、女形舞踊の最高峰『京鹿子娘道成寺(きょうかのこむすめどうじょうじ)』。「自主公演でなければこんな大変なことはできない充実した内容。自分で決めておいて途方に暮れている」というほどの大作2作に挑む右近に話を聞いた。歌舞伎を通じて愛を学ぼうとしている――自主公演『研の會』も七回目。もともとどんな思いで始めたものなのでしょう。10代、20代の頃はなかなか主役をやらせてもらうことなどなく、自分からその機会を作らねばという思いがありました。それを叶えるには自分で公演をプロデュースするしかない、と始めたのがこの『研の會』。「僕を見て!」という思いがスタートですね。今は『刀剣乱舞』といった新作や、歌舞伎座などでも中心的な存在で舞台に立たせてもらうことが増えてきたので、体感的には少しずつ、振り向いてもらってきている感覚がありまして……。――「僕を見て」というのはお客さまにではなく“歌舞伎という憧れの存在”に僕に気付いてほしいという意味なんですね!そうです、そうです。歌舞伎に振り向いてもらいたくて始めました。もちろん歌舞伎を愛する皆さまにも僕を見てもらいたい、こんなに歌舞伎を好きなんだと知ってほしいという思いもありますが、何よりも僕は10代の頃からずっと歌舞伎に片思いしているんです。――では歌舞伎から振り向いてもらっている今は、何か別の目標が?いや、例えば恋愛にたとえると、ずっと恋していた相手が僕に気付いてくれて「もしかしたら向こうも僕のことを思ってくれているのかも……?」と思ったところで、相手へのアピールを止める男なんて嫌でしょ(笑)? あなたの愛情はそれまでのものね、って相手を失望させちゃう。なので引き続きアピールは続けていきたい。言ってみれば、恋から愛に移行している段階。僕は歌舞伎を通じて愛を学ぼうとしている……(笑)。――(笑)。今のフレーズ、見出しにしていいですか。してください、してください(笑)。もうね、愛って本当に海と同じで、広くて深く澄んでいるものだから、溺れないようにしないと……。――止まりませんね(笑)。右近さん、言語センスとサービス精神が素晴らしいですよね。僕ね、退屈が一番嫌いだし「面白くない」が一番の罪だと思っているフシがあるんですよ。喋ることも表現のひとつだと思いますから。――インタビュアーとしては助かる限りです!歩けなくなるまで“出し切る”のが理想――右近さんの近年のご活躍ぶりから、長年の歌舞伎ファン以外にも、歌舞伎を観始めたばかりのお客さまもご覧になるかと思います。改めて今回の演目である二作について教えてください。まず『夏祭浪花鑑』は。『夏祭』は市井の話ですが、ある意味武家社会にも似た、義理や人情といった“自分の命よりも大切なもの”がある社会の中に生きる団七という懸命な男が主人公。そこに義理のお父さんが悪役として絡み、物語が生まれる。「舅殺し」と呼ばれますが、ふとした過ちから親を殺める、単純に言えば「事故が事件になっちゃう」話。でも実は上演しない場面も含めるととても長くスケールの大きなお芝居で、お家騒動なども絡み、忠義など昔の日本人の美学がふんだんにつめこまれています。様式美、決め台詞、立ち回りの絵面としての美しさが堪能できる。何よりも人殺しをし、夏祭りの喧騒の中に消えていく男に拍手喝采が起こるというのは「そんなことあるかい」と思いつつ、歌舞伎ならではの臨場感を楽しんでいただけると思います。現代美術家・横尾忠則氏に直談判したという特別版ポスター――『道成寺』はいわゆる道成寺伝説を基にした歌舞伎舞踊。こちらも話の筋は単純で、男に逃げられた女の執念の物語、とひと言で説明できます。男への恨みで、女が蛇になる。その蛇の怨霊が踊り子に化け、道成寺という寺に現れてお坊さんの前で踊りを披露するのを、お客さまが目撃しているという形で見せる舞踊演目。女形の美しさの要素がふんだんに織り込まれ、ひとりの女性がずっと踊っている中で初恋のような初々しさから強い恋心、それが恨みに変わるまでを表現していきます。様々な要素が入るし、衣裳も変わるし曲もテーマもどんどん変わるので、退屈しない作りですし、筋がなくても楽しめる、古典としての強みが伝わる作品です。――この大作2本を、1日2回ずつやるのは大変そうです。そうですね。でもやっぱりコロナ禍以降、ひと月のうちに何役も大役をできるというのは、特に若手にとっては難しくなっていますので、この大変さは自主公演でしかできない。またスケジュール的な大変さなどははある種の限界はあると思いますが、僕、歌舞伎において自分の中で限界を設定したくないんですよ。2日間で4回公演するのも1回でも多く僕がやりたいから。本当はもっとやりたいくらい。理想は2日目、最後の『道成寺』が終わったら、舞台から楽屋まで歩けなくって台車に乗せられて移動するくらい“出し切る”ことです! あとは女形という生き物は演劇の中でも稀有ですし、僕は男を演じる立役と女形、両方やらせていただく立場で、これだけ振れ幅のある役をひとりの役者が演じるというのはなかなかないことです。そこを観ていただきたいというのはアピールポイントです。受け継がれていく技術と思い――『夏祭浪花鑑』の団七九郎兵衛とお辰、『京鹿子娘道成寺』の白拍子花子、いずれも初役ですが、右近さんの中で印象深い先輩の姿は。団七とお辰と言えば17代目の勘三郎のおじさまがまず思い浮かびます。僕は直接舞台を拝見できた世代ではありませんが、とても憧れており、家で歌舞伎の映像を観る時は“17代目勘三郎率”が高い。もちろん18代目勘三郎のおじさま、勘九郎のお兄様、團十郎のお兄様もなさっており、各先輩それぞれの魅力を見させていただいてます。今回、団七は幸四郎のお兄様に教えていただき、最終的には白鸚のおじさまにも教えをいただく予定です。お辰は中村京蔵さんが先代の雀右衛門のおじさまのお辰の型を覚えていらっしゃるので直接伺って勉強させていただきます。『道成寺』は、曾祖父の6代目菊五郎がこの作品を今の形にブラッシュアップしたということもあり、やはり曾祖父の印象が強いです。そこから師匠である当代の菊五郎のおじさまといった自分のルーツの中にある音羽屋系の方々、あるいは18代目の勘三郎のおじさま、今の勘九郎さんといった中村屋の方々のお顔も浮かびます。そして女形の修行という面で言うと、やはり10代のうちからずいぶんと色々なことを教えていただいた玉三郎のお兄様の存在が大きいです。その玉三郎のお兄様が菊之助のお兄様とふたりで踊られた『京鹿子娘二人道成寺』という人気作があったのですが、「歌舞伎座でしっかりした道成寺の形で踊ることはこれが最後だろう」とおっしゃった時のその舞台はとても印象に残っています。色々なお話を伺い、千穐楽の日も、出番を待たれている場所までついて行かせていただきました。生で観た『道成寺』はあの舞台の記憶がとても強いです。――先輩方から技術とともに思いも受け継がれていくものなのですね。今回は舞踊家であり振付家である尾上菊之丞さんのご子息、羽鳥嘉人さんが初舞台を踏まれるとのこと。右近さんも子役の頃から舞台に立たれています。実は僕が初めて舞台に立ったのは、嘉人くんのお父様である菊之丞先生のお姉様、尾上紫さんが『京鹿子娘道成寺』を舞踊公演で演じられた時なんです。歌舞伎の初舞台は7歳なのですがそれ以前、4つか5つの時でした。その僕が『道成寺』の白拍子花子を初役で挑戦するこの公演で、嘉人くんが初舞台を踏む。嘉人くんは『夏祭浪花鑑』の方での出演ですが、循環しているな……と感慨深い思いがあります。自分の中で、歴史の1ページがめくられる思いです。歌舞伎の世界は大きな家族だなと思うし、自分だけでやっているのではなく、歴史の中に自分がいて、お互いに関わり合っているんだなと改めてかみしめています。ミュージカルの経験で得たもの――さて話は変わりますが、昨年右近さんは『ジャージー・ボーイズ』で、ブロードウェイミュージカルに初挑戦されました。その経験は、歌舞伎に戻った時、あるいは清元の太夫としてのお仕事に、何か影響を及ぼしていますか。これは時差があって、やっている時は無我夢中だったし、歌舞伎から離れていることの不安も伴うし、共演者の皆さんは百戦錬磨で、若手と呼ばれる方ですら全員がミュージカルの舞台を経験している中にひとりで入って、プレッシャーも戸惑いも大きかった。ひとつの技術を習得するにも時間がかかる自分に対してノッキングが起こり、苛立ちすら感じていました。でもやっぱり今思えば確実に良い経験になっています。ミュージカルは歌の中に心があり、そこに気持ちを吹き込むことが大事だし、音楽と音楽の間にお芝居が入り、芝居の流れで歌になり、またお芝居になり……と行ったり来たりする。その作業は新鮮で、勉強になることだらけでした。歌舞伎は、ミュージカルで言うところの歌とお芝居を複数人で分担してやっている形ですので、それをひとりでやるというのはやはり芝居面でも音楽面でもどちらの勉強にもなりますよね。――具体的には、たとえば。まず台詞に対する慎重さが増しました。そして声を使って音を捉えるという作業に対しての感度が上がった。「この音の間にこの台詞をしゃべったら綺麗に収まるんだな」ということを普段あまり考えていなかったのですが、演奏家の方に伺ったら「役者さんはご自分のお芝居のテンポでやられるので、この寸法で終わるかなと塩梅を見計らっています」と言われた。合っているもんだと勝手に思っていたのですが、合わせてくださっていたんです。でも本当はどう思っているのかとお聞きしたら、もちろん「役者さんとそういう話をわざわざする機会もないし、こちらが見計らえば成立しますのでご自分のテンポでどうぞ」とおっしゃってくれるのですが、やはり長唄だったら長唄のそのワンフレーズをその形のまま、お芝居にはまれば音楽家としては気持ちがいい、という話がお聞きできまして。微妙な違いではありますが、一度その音の中で芝居をしてみたらすっぽりハマったし、お客さまの反応も心地よさそうでした。やはり音をちゃんと聞いて合わせるのがいいんだ、という気付きは、ミュージカルを経験したから得たものです。また役者とは別の、家業である清元の太夫としては、音程に対して慎重になりました。清元はすごい高音で節を展開させることが多く、それは繊細な音程を突くのですが、そういう音を攻める時はつい音が下がりがちになるんです。下がるとやはり気持ち良くない。そこは自分としてもシビアになりましたし、三味線を弾いてもらって音をとっても下がらない感じになってきたなと感じています。――ちなみに西洋音楽であるミュージカルの発声と、邦楽である清元の発声はまったく違うものですか。全ッ然違います! 例えば、高音を出す原理をホースの水でたとえると、水勢を強くすると高音が出るのですが、西洋の音楽は水の量を単純に増やして水勢を増す。古典声楽である清元は、同じ水分量の中でホースの口をキュッと絞る感じ。感覚としては日本とブラジルくらい違います(笑)。――興味深いお話をありがとうございました。最後に、歌舞伎の新しいファンが増えていますが、例えば『FFX歌舞伎』で初めて歌舞伎に触れた方が次に何を見ればいいのか迷っていることもあるかもしれません。そういった方々にこの『研の會』のアピールをするとしたら。歌舞伎座の興行などは、色々な役者さんが主役を勤め、それぞれの思いが詰まっていますが、この『研の會』は“僕の思い”しか詰まっていません! もちろん出演してくださる皆さんの思いのおかげでやらせていただいている公演ではありますが、僕の「これをやりたい、これを観て欲しい」という強い思いは、観てくださったら必ず伝わるはず。惰性や義務といった言葉とはもっとも遠い場所にある公演です。また、新作歌舞伎の時……例えば『刀剣乱舞』でいえば、もともとあるコンテンツへの真剣な気持ち、歌舞伎に対する真剣な気持ち、キャラクターに対する真剣な気持ち等々、真剣さが四方に分散していますが、『研の會』は歌舞伎に対しての真剣な気持ちのみ、純度100%の僕の歌舞伎愛だけで出来ています。僕が歌舞伎を好きな気持ちをストレートに詰め込みましたし、誰かが何かを好きな気持ちって伝播していくと思うんですよね。これで伝わらなかったらちょっと役者稼業考えます……という思いで挑みますので、ぜひいらしてください!取材・文:平野祥恵撮影:興梠真穂ぴあアプリ限定!アプリで応募プレゼント★尾上右近さんのサイン入りポラを1名様にプレゼント!【応募方法】1. 「ぴあアプリ」をダウンロードする。こちら() からもダウンロードできます2. 「ぴあアプリ」をインストールしたら早速応募!<公演情報>尾上右近自主公演 第七回『研の會』一、 夏祭浪花鑑二、 京鹿子娘道成寺出演:尾上右近、坂東巳之助、中村米吉、羽鳥嘉人、尾上菊三呂、中村莟玉、中村種之助、中村鴈治郎ほか2023年8月2日(水)・3日(木)昼の部11:00開演/夜の部16:30開演場所:東京・浅草公会堂尾上右近自主公演 第七回『研の會』のチケット一般発売に先がけて、ぴあアプリ先行が決定!6月17日(土) 12:00(正午)より受付開始! この機会にぜひ、ぴあアプリをDLのうえ、お申込みください!詳細は こちら() から
2023年06月16日6月16日(金) 12時より歌舞伎の公式有料動画配信サービス「歌舞伎オンデマンド」にて、今年5月に上演された歌舞伎座『團菊祭五月大歌舞伎』の全演目の有料配信がスタートした。「歌舞伎オンデマンド」は最新の舞台作品から選りすぐりの名演、歌舞伎俳優によるトークショーなど、“いつでもどこでも楽しめる”歌舞伎コンテンツをお届けするサービス。劇場で感じる迫力はそのままに、配信ならではの目線や細かい仕草、俳優の息遣いなどを楽しむことが出来る。また、初代尾上眞秀の初舞台を記念した特別インタビューも配信することが決定。初舞台を振り返る貴重なインタビュー映像の配信は、歌舞伎オンデマンド初となる。『音菊眞秀若武者(おとにきくまことのわかむしゃ)』で初代尾上眞秀として初舞台を踏み、10歳とは思えない堂々とした立居振る舞いで、可憐な女童と凛々しい岩見重太郎の2つの姿を見事演じきった尾上眞秀。インタビュー映像には、初舞台が決まった時の心境や祖父・尾上菊五郎からの教え、約1カ月の舞台を乗り切った元気の源などを、自身の言葉で語った等身大の姿が収められている。<配信情報>「團菊祭五月大歌舞伎」配信期間:6月16日(金) 12:00~7月6日(木) 23:59まで※購入後7日間繰り返しご視聴可能配信場所:歌舞伎オンデマンド【配信演目】■舞台映像6演目:2,200円~3,300円(税込)『寿曽我対面』、十二世市川團十郎十年祭『若き日の信長』、初代尾上眞秀初舞台『音菊眞秀若武者(おとにきくまことのわかむしゃ)』、『宮島のだんまり』、春をよぶ二月堂お水取り『達陀(だったん)』、『梅雨小袖昔八丈』『髪結新三』配信はこちら:【初代尾上眞秀初舞台記念セット】『音菊眞秀若武者』:3,700円(税込)【収録内容】1. 本編2. 初代尾上眞秀初舞台記念「尾上眞秀特別インタビュー」3. イヤホンガイド「Web講座」※ご視聴には歌舞伎オンデマンド連携の配信プラットフォーム「MIRAIL(ミレール)」の会員登録(無料)/ログインが必要です。
2023年06月16日人気演目を充実の俳優陣でお届け歌舞伎俳優がみどころをわかりやすく解説する「歌舞伎のみかた」 観劇の手引きの無料配布も「初代 国立劇場 さよなら公演」 令和5年7月 歌舞伎鑑賞教室『双蝶々曲輪日記-引窓-』が2023年7月3日 (月) ~2023年7月20日(木) に国立劇場大劇場(東京都千代田区隼町4-1)にて上演されます。チケットはカンフェティ(運営:ロングランプランニング株式会社、東京都新宿区、代表取締役:榑松 大剛)にて6月7日(水)19:00より先着先行発売開始です。カンフェティにて6月7日(水)19:00よりチケット先着先行発売開始 社会人のための歌舞伎鑑賞教室(お勤め帰りなどにおすすめの18時30分開演回) 公式ホームページ 初代国立劇場最後の歌舞伎鑑賞教室『双蝶々曲輪日記-引窓-』先行販売開始歌舞伎の入門公演として、半世紀以上にわたり延べ650万人を超える方が来場した歌舞伎鑑賞教室。今年10月末からの建て替えによる閉場を控え、初代国立劇場では見納めとなる7月歌舞伎鑑賞教室は、美しい月明かりの夜に仲睦まじい家族に起きた“事件”を情緒豊かに描いた名作を上演します。主演はテレビや舞台などで幅広く活躍する中村芝翫が務め、そのほか令和の歌舞伎を担う充実の俳優陣で上演いたします。公演プログラムと鑑賞のしおりの無料配布もあり、英語音声ガイドの貸出(有料)で、外国人のお客様にもお楽しみいただけること間違いなし!国立劇場大劇場の舞台に実際に上がることができる「【外国人限定】7月歌舞伎鑑賞教室 ステージツアー付きチケット 『The Last National Theatre Open House』」も好評発売中!▼【外国人限定】7月歌舞伎鑑賞教室 ステージツアー付きチケット『The Last National Theatre Open House』 【番組】解説「歌舞伎のみかた」澤村宗之助『双蝶々曲輪日記-引窓-』一幕八幡の里引窓の場南与兵衛後ニ南方十次兵衛:中村芝翫女房お早:市川高麗蔵平岡丹平:中村松江三原伝造:坂東彦三郎母お幸:中村梅花濡髪長五郎:中村錦之助ほか歌舞伎鑑賞教室とは?四百年の歴史を持つ歌舞伎の魅力を、より多くの方々に気軽に楽しんでいただけるよう、人気のある演目を充実した俳優陣でご覧いただきます。また、歌舞伎俳優がみどころなどをわかりやすく解説する「歌舞伎のみかた」もご好評いただいております。ご観劇の手引きになる豆知識を小冊子にまとめた『歌舞伎―その美と歴史―』やプログラムの無料配布など歌舞伎を初めてご覧になる方にも最適な公演です。公演概要「初代 国立劇場 さよなら公演」 令和5年7月 歌舞伎鑑賞教室『双蝶々曲輪日記-引窓-』公演期間:2023年7月3日 (月) ~2023年7月20日(木)会場:国立劇場大劇場(東京都千代田区隼町4-1)■公演スケジュール7月03日(月) 11:00 / 14:307月04日(火) 11:00 / 14:307月05日(水) 11:00 / 14:307月06日(木) 18:30☆7月08日(土) 14:307月09日(日) 11:00 / 14:307月10日(月) 11:00 / 14:307月12日(水) 14:307月15日(土) 11:00 / 14:307月18日(火) 11:00 / 14:307月19日(水) 11:00 / 14:307月20日(木) 18:30☆※開場は開演の30分前の予定です。※この公演には休憩がございます。※11時開演:13時05分終演予定/14時30分開演:16時35分終演予定/18時30分開演:20時35分終演予定☆6日(木)、20日(木)は「社会人のための歌舞伎鑑賞教室」です。演目・出演者・料金は通常の歌舞伎鑑賞教室と同様です。■チケット料金学生全席:1,800円一般1等席: 4,500円/2等席: 3,000円(全席指定・税込)<カンフェティ取扱>先着限定!1等席:4,500円(全席指定・税込)→4,300円! 詳細はこちら プレスリリース提供元:NEWSCAST
2023年06月07日2023年5月18日午前、歌舞伎役者の市川猿之助さんが、自宅で倒れているところをマネージャーに発見され、救急搬送されました。産経ニュースによると、猿之助さんのほか、猿之助さんの両親もその場で倒れているのを発見され、母親の死亡が確認されたといいます。なお、猿之助さんは搬送時に意識があったといい、警視庁が状況を調べています。[文・構成/grape編集部]
2023年05月18日東京丸の内、丸ビルで体験型イベント「丸ビルde歌舞伎」が開催される。本イベントは、初心者がわかりやすく歌舞伎の世界を知り、身近に感じることのできるもの。エントランスロビーには、いつもは歌舞伎の舞台で活躍している、様々な歌舞伎の動物たち(小道具)が来場者を出迎え、中村梅乃らによる歌舞伎の実演レクチャ―、中村莟玉による舞踊『玉兎』(素踊り)が披露される。歌舞伎に興味はあるけど、まだ観たことのない人にピッタリのイベントになりそうだ。また、丸ビル1Fのマルキューブでは5月27月(土)から6月2日(金)まで歌舞伎の巨大な“親子クジラ”が展示され、人気キャラクター「カナヘイの小動物」と歌舞伎がコラボしたグッズが販売される。丸ビルde歌舞伎5月28日(日) 13:30~/16:00~5月29日(月) 16:00~/19:00~(各回約90分予定)丸ビル7F 丸ビルホール出演:歌舞伎俳優 中村莟玉ほか一.レクチャー中村梅乃中村莟玉 ほか二.歌舞伎舞踊『玉兎』(素踊り)中村莟玉ロビー開場時間5月28日(日) 12:00~18:005月29日(月) 14:30~21:00■チケット情報
2023年05月15日「毎月のように歌舞伎の舞台に立っている市川中車さん(香川照之)ですが、6月公演でついに主役を務めます」(歌舞伎関係者)昨年8月に銀座のホステスに対する性加害を報じられた香川照之(57)。昨年末の「十二月大歌舞伎」で舞台復帰しているが、歌舞伎ファンからは辛口な声も聞こえてきた。「まったく声が出ていませんでしたね。襲名披露した10年前から変わっていないようで残念でした」「六月大歌舞伎」では、『傾城反魂香』で主役の浮世又平を演じるが、果たして観客を満足させることはできるのか。「通称“吃又(どもまた)”と呼ばれる人気の演目です。吃音を抱える主人公が自分のコンプレックスを克服し絵師として成長していく物語で、夫婦愛も描かれます。中車さんにとって初めて演じる役どころですが、主役としてどれくらいの存在感を出せるかに、今後がかかってくると思います」(歌舞伎ライター・仲野マリさん)いっぽう、テレビについては“追放”されたまま半年以上が過ぎた。「香川さんと結びつきの強かったTBSからも声はかかりません。7月期の日曜劇場は主演が堺雅人さん、演出は福澤克雄さんと『半沢直樹』チームの制作だったのですが……」(テレビ誌記者)そんな香川は、自分をとりまく状況について近しい仲間にこう語っているという。「“テレビ復帰はもう諦めた。俺にはもう歌舞伎だけだ”と言っていました。性加害報道でそっぽを向いた視聴者よりも、“自分を理解してくれるお客さんのために演技したい”とも……」(香川の知人)梨園だけで生きていく決断をしたという香川。「先輩後輩にかかわらず、自分から挨拶したり、差し入れがあればおすそ分けするなど殊勝な態度です。以前は時折見られた“上から目線”も消えましたね」(前出・歌舞伎関係者)出演の決定権を持つ座頭には特に気を使っているようだ。「中車さんをよく起用しているのが、市川猿之助さん(47)です。中車さんは、演技で評判を落とすと彼の顔をつぶすことになってしまうので、必死ですよ。また、復帰の手を差し伸べてくれた市川團十郎さん(45)にも、一生頭が上がらないでしょう」(前出・歌舞伎関係者)主役に向けて、歌舞伎にとりつかれたように稽古しているという。ドラマ『半沢直樹』では一度失脚した大和田常務が復活していたが、果たして香川もしぶとさを見せられるか。
2023年05月01日