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令和7年(2025)年11月歌舞伎座公演 松竹創業百三十周年「吉例顔見世大歌舞伎」夜の部にて、三谷幸喜が作・演出を手がける新作歌舞伎『ショウ・マスト・ゴー・オン(仮題)』が上演される。令和元(2019)年6月、歌舞伎座「六月大歌舞伎」で、三谷かぶき『月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと) 風雲児たち』が上演され、好評を博してから6年。今回題材とするのは、平成3(1991)年に三谷が書き下ろし、主宰する劇団東京サンシャインボーイズで初演した『ショウ・マスト・ゴー・オン』。初演時はもちろん、その後、令和4(2022)年にリニューアル版が上演された際も大きな反響を呼んだ作品だ。今回の舞台では、出演者として前回の『月光露針路日本 風雲児たち』にも出演した松本幸四郎と片岡愛之助、そして、これまでに三谷が手がけたテレビドラマ『HR』や大河ドラマ『新選組!』、舞台『江戸は燃えているか』にも出演した中村獅童が名を連ねた。そのほか公演の詳細は決まり次第発表される。<公演情報>歌舞伎座 松竹創業百三十周年「吉例顔見世大歌舞伎」夜の部上演演目:三谷かぶき『ショウ・マスト・ゴー・オン(仮題)』作・演出:三谷幸喜出演:松本幸四郎、片岡愛之助、中村獅童ほか2025年11月会場:東京・歌舞伎座「歌舞伎美人」公式サイト:
2025年05月22日子どもは楽しく、親は安心!普段は見られない歌舞伎の裏側へ!子どもといっしょに日本の伝統芸能に触れてみたい気持ちはあるけど、なかなか敷居が高そう。そんな風に感じている親は多いでしょう。小学6年生と4年生の子を持つ筆者もそんなひとりでしたが、見つけました。歌舞伎の製作・興行を支える松竹が開催する、小学生向けの歌舞伎小道具体験イベントを。本物の小道具に触れたり、子ども自身の手で作ってみたりできるというのです。この「歌舞伎を支えるおしごと体験」は、JR東日本が「学校の勉強が分かる!面白くなる!」をテーマに掲げ、さまざまな企業とタッグを組んで提供している「おしごと体験学習ことむすび」のラインナップのひとつ。というわけで、4月20日に開催された「歌舞伎を支えるおしごと体験」に参加した、小学3年生のはるちゃん親子に密着。歌舞伎座からほど近い、東銀座にある東劇ビルに行ってきました!はるちゃん(小3)。歌舞伎は「知らない」といいますが、今回「『やってみる?』と聞くと『やる!』と言うので参加しました。好奇心旺盛なタイプです」とお母さん談。小道具さんは舞台のプロ! ぐいぐい引き込まれていく子どもたち小学1〜6年生対象。親子2人で参加したり、家族4人で参加したり、さまざま。まずは、通常は一般開放していないという入口から、広々とした板の間へと案内されました。座布団が並べられて、和の雰囲気です。そういえば、事前の案内には「裸足は厳禁、靴下を履いてくること」とありました。「ここは普段、歌舞伎をはじめ松竹の演劇の稽古で使用している稽古場なんです。だから生活感があってすみません(笑)」と、松竹の広報さんが教えてくれます。そんな普段はなかなか入れない場所に、20組40人以上の親子がズラリ。おしごと体験学習ことむすび「歌舞伎を支えるおしごと体験」プログラム1.歌舞伎の歴史を学ぶレクチャー2.実際の小道具に「触れて」「乗って」体験してみよう!3.蝶々と手習草紙をつくってみよう!※2.と3.の順番は振り分けられた組により変動あり。今日のイベントでは、観客としては当然触ることのできない歌舞伎の舞台で使用される小道具を、歌舞伎の舞台を裏で支える「藤浪小道具」のスタッフさんとともに見て、触れ、作り、学んでいきます。まずは親子そろって「歌舞伎の歴史を学ぶレクチャー」。モニターで歌舞伎の基礎知識を学ぶアニメーションを鑑賞します。かわいいアニメーションで、基礎知識を学ぶことからスタート。歌舞伎をよく知らずに参加している子どもも多かったですが、親しみやすくわかりやすい内容で、みな熱心に観ていました。慶長8年、「出雲阿国」という女性芸人による「かぶき踊り」が歌舞伎の始まりでした。その後、女性による「女歌舞伎」が生まれ大人気となりますが、風紀を乱すとの理由で幕府から禁止令が出され、ならばと前髪のある頭髪が特徴の少年たちによる「若衆歌舞伎」が流行りますが、こちらも同様の理由で禁止されてしまいます。そこで、前髪を剃り落とした月代(さかやき)がある“野郎頭”の成人男性による「野郎歌舞伎」が誕生。女性役も"女方”として成人男性が演じる、いまの歌舞伎の原型が誕生しました。「ところで、人前で演技をしたり、歌ったり踊った事がある人はいる?じゃあ想像してみてください。学芸会で浦島太郎をやることになりました。どんな役が必要でしょう?」しっかりと歌舞伎のなりたちの基礎を学んだところで、藤浪小道具の近藤さんが、舞台と子どもたちの親和性を高めるため、お遊戯会や学芸会を例にあげ、子どもたちに問いかけてくれます。「藤浪小道具」近藤さん。手にはあの超・有名小道具が……!子どもたちは口々に「浦島太郎」「亀」「乙姫」「亀をいじめる人」「ほかの海の生き物たち」など自由に答えていきます。近藤さんは、さらに「役者さんだけではできあがりません」と、子どもの視野を広げていきます。「海の場面なら、背景に海の絵があってほしいです。龍宮城のセットもほしいですね。そういうお家やセットを作る、大道具さんが必要ですね」「お姫様の衣裳が必要です。衣裳さんや、化粧をしてくれるヘアメイクさんも必要です」「明るい舞台を作るために、照明さんが必要だし、波の音を流す音響さんも必要です」俳優も裏方も含めすべてが「ひとつのお芝居に関わっている」との解説の後、いよいよ小道具が登場。近藤さんが風呂敷から取り出した玉手箱に、子どもたちが「本物!?」とわくわくしながら意識を向けたところで、実際の体験プログラムへと移っていきます。馬や駕籠に乗り、効果音を鳴らす![小道具体験]「実際の小道具に「触れて」「乗って」体験してみよう!」ということで、稽古場から、実際に歌舞伎の舞台で使用されている小道具がズラリと並んだスペースへと移動します。ここでは、自由に小道具を見て、触れて、写真を撮ることができます。人が乗れるサイズの大きな駕籠(かご)や馬も、小道具さんのお仕事なんですね。「昔は電車やバスがないため、移動手段は駕籠や馬でした。舞台で駕籠を担ぐのはもちろん俳優さん、馬の中に入り前足、後ろ足、首を動かすのも俳優さんです。馬も舞台上で演技をしなければならないので」と藤浪小道具の近藤さん効果音を出す小道具も並んでいます。近藤さんが波ざるを実演しながら、「この音はなんでしょう?」とクイズを出すと、「波の音!」と元気のよい正解が返ってきます。ほかにも、雨の音を出す雨うちわを揺らしたり、刻みが深い赤貝を擦り合わせてカエルの鳴き声を出したりすると、子どもたちは興味津々。中に小豆が入っていて、片方を持ち上げると小豆がザザザ……波のような音を立てて転がる「波ざる」揺らすとバラバラバラバラ……と雨の音がする「雨うちわ」「こうやってアナログな方法で出す効果音は、いまも実際に使われています」(近藤さん)といい、デジタルにはない風合いが歌舞伎の舞台音響の魅力なんだなあとしみじみ。ここでは、複数人の子どもたちで「場所:海沿い天気:雨」などシーンを再現する体験も用意されていました。「雨がやみ、カエルが鳴き出しました……」近藤さんの語りに合わせて順に担当する小道具を鳴らす子どもたち。音が重なり、場面のイメージが浮かび上がってきたのか、貝を鳴らすはるちゃんもうれしそう。小道具さんの仕事が、いかに多岐にわたり舞台を彩っているのか、子どもたちもきっと身をもって実感できたことでしょう。舞台を舞う美しい生き物を手作り[ちょうちょづくり]次は、「蝶々をつくってみよう!」。最初にいた稽古場に戻って、折り紙を使って蝶々をつくる小道具ワークショップです。親子で並んで、木でできた低い机の前に座ります。この机、普段は松竹が主催する「こども歌舞伎スクール寺子屋」(※後述)でも使用しているそう。「使ったことがない子どもにとっては新鮮だと思います。年季が入っていますが、リアルな寺子屋気分を味わっていただきたく、用意しました」と松竹の広報さんが教えてくれます。気分はすっかり、江戸時代の寺子屋。作るのは「差金(さしがね)のちょうちょ」ですが、蝶は歌舞伎の心情表現において重要な役割を担うそうで、『鏡獅子』の舞台で可憐に舞うといいます。実際に舞台で使われている差金の蝶。差金=黒い棒のことで、「舞台上では“黒”は見えない設定になっている」と解説。藤浪小道具のスタッフさんが器用に差金を操ると、先端の蝶がひらひらと舞います。子どもたちは「思ったよりリアル」「すごい!」と声をあげ、手を伸ばして「本物みたい!」と大興奮です。次は、自分の手で蝶をつくります。ガイドを参考に、真剣に折っていく子どもたち。難所はスタッフさんがマンツーマンで教えてくれるため、折り紙が得意でなくても楽しんでつくることができそうです。作業の合間に、スタッフさんが「蝶の飛び方にも演技があり、台本に『優雅に飛んでいる』『手に止まる』など書かれている。その飛び方や止まるときの間がとても大切」と教えてくれ、大人も飽きさせません。10分、15分ほどで差金にちょうちょをつけて完成!完成した蝶を夢中で動かすはるちゃん。ゆらゆらとしなる差金を、早く振ったりゆっくり動かしたり、自分の世界で楽しむ。舞台で使用する本物の差金も触って操ってみることができる。お母さんの指に止まらせてみたり、はるちゃんの中でイマジネーションが湧いているよう。自分だけの、世界にたったひとつの「差金のちょうちょ」は、もちろん持ち帰って家でも楽しめます。お土産を手に、次のプログラムへと移動するはるちゃんの足取りは、小躍りのようなステップを踏んでいました。江戸版"自由帳”を手作り[わとじ本づくり]舞台で使う小道具をセッティングしたり舞台裏に用意するほか、いちから製作するのも小道具さんの仕事だそう。この会場にいる3人の藤浪小道具のスタッフさんは、普段は木工の仕事を担当したり、平面に絵を描いたり立体を塗るなどの工芸を担当したりと、ひとりひとり専門分野があるそう。そしてここでは、「手習草紙(てならいぞうし)」=江戸時代の子どもたちが勉強のために使用した紙の束を、和綴じで作ります!紙の束と紐が用意されている。ほとんどの子どもたちにとって、和綴じ本をつくるのは初めて。なかには、ひとつの穴に3回も紐を通すという複雑な作業が含まれますが、スタッフさんの説明をしっかり聞き、みんな黙々と作業をしています。「こうだよね」「できた!」など、あちこちから自分の力で完成に近づいていく声が聞こえてきます。難航している箇所も親に頼らず自分の力でやり遂げる。紐を通し終えると表紙の文字を筆ペンで書き、色とりどりの千代紙を選び、自由にデコレーション。見渡すと、誰一人として同じデコレーションにはならず、それぞれ個性があふれた手習草紙が完成!千代紙をわくわく顔で選び、配置を最後まで悩みぬいた。「どんな色が合うか、どんな柄がいいか、ずっと考えていました」(はるちゃん)出来上がった手習草紙はお土産としてお持ち帰りできますが、「自分だけの本」の使用を家まで待てず、イラストを描く子どもや、難しい漢字を書いてみる子どももいて、さっそく楽しんでいる様子。自宅では漢字練習をするもよし、イラスト帳にするもよし、とにかく使い方は自由自在です。「できたー!」とこの日イチの笑顔で記者に見せてくれました。これでプログラムは終了!あっという間に2時間が経っていました。帰宅時間ですが、「もっといたい」と駄々をこねる子どもの姿も。なんとここで知り合った同学年の子と友達になったようでした。歌舞伎をまったく知らなかったはるちゃんも、「もうちょっと馬や傘のところに行っていい?」と体験をおかわりしたのでした。この日、子どもたちが学んだことは、舞台は、姿が見えなくてもさまざまなプロフェッショナルたちの手によって作られているということ。近藤さんは「俳優として演劇をやりたいひともいるだろうけど、絵を書くのが好きだから小道具さんをやりたいとか、いろいろな参加の仕方がある」と話します。子どもの好奇心と学習意欲、そして未来の可能性を広げてくれた「おしごと体験学習ことむすび〈歌舞伎を支えるおしごと体験〉」。伝統芸能「歌舞伎」の世界に構えることなく触れる機会にもなってくれ、親も子も大満足な2時間でした。※「こども歌舞伎スクール寺子屋」とは、歌舞伎の製作・興行を手掛ける松竹が、日本舞踊や歌舞伎子役演技を通し、和の礼儀作法や日本文化を楽しく学んでもらうことを目的に、開校しているスクールです。稽古着である浴衣の着付けや和装での立ち居振る舞い、日本の伝統的な礼儀作法に加え、日本舞踊や歌舞伎演技の基礎を学ぶことができるんだそうです。例年、夏ごろに夏期体験ワークショップを開催、秋頃から新規生徒の募集を行っているようですよ!公式HP:(取材・文:有山千春)マイナビ子育てでは、「子どもにとっておきの体験をさせたい!」と考えるパパとママのための会員限定・無料のコミュニティサイト「とっておき体験部!」(以下、「体験部」)を運営しています。今回、取材協力してくれた親子も、体験部活動の一環としての「歌舞伎を支えるお仕事体験」参加でした。体験部について、くわしくは▶こちら
2025年05月18日毎年、恒例の三部制で多彩な演目を上演している東京・歌舞伎座の「八月納涼歌舞伎」。このたび、令和7(2025)年8月興行を盛り上げる「納涼歌舞伎」第二部で上演される2作品が発表された。1作品目は、古事記・日本書紀に記された出雲の八岐大蛇(やまたのおろち)伝説をベースに近松門左衛門が書き上げた『日本振袖始』(にほんふりそではじめ)。日本神話のなかでももっともよく知られる「素盞嗚尊(すさのおのみこと)の大蛇退治」を脚色した、古風な雰囲気あふれる人気作を、中村七之助の岩長姫実は八岐大蛇、市川染五郎の素盞嗚尊という清新な配役で上演する。今回は、自身が岩長姫実は八岐大蛇を勤めながら上演を重ねてきた坂東玉三郎の監修により、七之助が妖艶な姫の姿から恐ろしい大蛇へと変貌する女方の大役を、染五郎が生贄となった愛する稲田姫を救うため大蛇に対峙する勇ましい素盞嗚尊を、それぞれ初役で勤める。岩長姫の美しい踊りや、七体の分身となる大蛇と素盞嗚尊の大立廻りなど、歌舞伎の様式美とエンターテインメント性に満ちた見どころ満載の舞台を堪能できる。そして2作品目は、ロシア民話などで知られる「火の鳥」の伝説をもとに新たに書き下ろされた新作歌舞伎『火の鳥』を上演。玉三郎による演出、優れた新作歌舞伎の脚本に贈られる大谷竹次郎賞(第51回)を受賞した歌舞伎狂言作者の竹柴潤一による脚本、オペラを中心に幅広い舞台の演出を手がける原純の演出・美術により、バレエ作品などにも影響を与えた題材が、歌舞伎作品として新たに誕生。演出も勤める玉三郎が火の鳥、松本幸四郎が大王(おおきみ)、染五郎と市川團子が王子・ヤマヒコ、ウミヒコ兄弟を演じる、豪華競演による舞台が実現する。病に苦しむ大王(幸四郎)の命により、永遠の力を持つという火の鳥を探す旅にでる兄ヤマヒコ(染五郎)と弟ウミヒコ(團子)。次期王位の座をかけたふたりは、ある日、黄金に輝くリンゴの木のもとで、世にも美しい火の鳥に出会う。我先にと火の鳥を捕らえようとするふたりの王子、そして醜い争いを続け、永遠を求める人間たち。火の鳥が人間たちに伝える“真の永遠”とは……。<公演情報>歌舞伎座 松竹創業百三十周年「八月納涼歌舞伎」上演演目:第二部『日本振袖始』『火の鳥』2025年8月、東京・歌舞伎座で上演
2025年05月14日令和7(2025)年7月歌舞伎座、松竹創業百三十周年「七月大歌舞伎」の昼の部において、新歌舞伎十八番より『大森彦七』『船弁慶』『高時』『紅葉狩』の4演目が一挙に上演されることが決定した。新歌舞伎十八番とは、江戸から明治にかけて活躍した名優・九世市川團十郎が、父・七世團十郎が制定した「歌舞伎十八番」に続き、新たに家の芸を集めて制定したもの。このうちの4演目が一度に上演されることは非常に珍しく、歌舞伎座「七月大歌舞伎」に期待が高まる。詳しい内容は、歌舞伎公式サイト「歌舞伎美人(かぶきびと)」や松竹演劇部公式SNSで随時発表される。<公演情報>歌舞伎座「七月大歌舞伎」昼の部【上演演目】新歌舞伎十八番『大森彦七』新歌舞伎十八番『船弁慶』新歌舞伎十八番『高時』新歌舞伎十八番『紅葉狩』※詳しい内容は、歌舞伎公式サイト「歌舞伎美人(かぶきびと)」や松竹演劇部公式SNSで随時発表公演日程:2025年7月会場:東京・歌舞伎座歌舞伎公式サイト「歌舞伎美人(かぶきびと)」:
2025年04月18日令和7(2025)年4月3日(木) に東京・歌舞伎座で初日を迎えた、松竹創業百三十周年「四月大歌舞伎」において上演される新作歌舞伎『木挽町のあだ討ち』の特別ビジュアルが公開された。特別ビジュアルには、純白の雪景色を思わせる背景に、鮮やかな朱の振袖をまとった市川染五郎扮する美しき若衆・菊之助の姿、そしてその隣には、印象的な筆致の題字が並ぶ。流れるような題字は、染五郎が書き下ろしたもので、直木賞と山本周五郎賞のW受賞を果たした永井紗耶子の人気時代小説を原作に、新作歌舞伎として新たに誕生する『木挽町のあだ討ち』への期待が高まる仕上がりとなった。撮影は、BOØWYや布袋寅泰の撮影・アートワークをはじめ、数多くのアーティストのクリエイションを手がけ、17歳の染五郎が初めて歌舞伎座で主演した『信康』や、『新・陰陽師』『裏表太閤記』などの撮影も担当した永石勝が務めた。また、2025年2月に福岡・博多座で行われたスチール撮影のメイキング映像も公開された。新作歌舞伎『木挽町のあだ討ち』スチール撮影メイキング映像<公演情報>歌舞伎座 松竹創業百三十周年「四月大歌舞伎」2025年4月3日(木)~25日(金)※4月10日(木)・18日(金) は休演会場:東京・歌舞伎座『木挽町のあだ討ち』原作:永井紗耶子『木挽町のあだ討ち』 (新潮社刊)脚本・演出:齋藤雅文主な出演:市川染五郎、松本幸四郎チケット情報:()公式サイト:
2025年04月03日吉沢亮、横浜流星らが出演する映画『国宝』において、中村鴈治郎が歌舞伎指導を担当していることが発表された。原作は、これまで数々の賞に輝いた吉田修一の最高傑作との呼び声高い同名小説。任侠の一門に生まれながらも、歌舞伎役者の家に引き取られ、芸の道に人生を捧げる主人公・喜久雄の50年を描いた壮大な一代記だ。渡辺謙、高畑充希、寺島しのぶ、田中泯、森七菜、見上愛、永瀬正敏、宮澤エマ、黒川想矢、越山敬達、三浦貴大、嶋田久作らが共演として名を連ねるほか、監督は『フラガール』などで知られる李相日が務める。人間国宝・四代目坂田藤十郎を父に持つ鴈治郎は、1967年に東京・歌舞伎座にて『紅梅曾我』の一萬丸で中村智太郎を名乗り初舞台。『廓文章 吉田屋』の藤屋伊左衛門、『恋飛脚大和往来 封印切』の亀屋忠兵衛を当たり役とし、2015年に四代目中村鴈治郎を襲名、2019年には紫綬褒章を授与された。原作者の吉田が本作を執筆するにあたり血肉とした3年間の黒衣経験も、鴈治郎のもとで培われたという。また、歌舞伎役者・吾妻千五郎役として自らも出演することが明らかに。千五郎は、森演じる彰子の父親で、スキャンダルで騒がれた喜久雄に同情して優しくアドバイスをするが、彰子が喜久雄に恋心を抱いていることを知り、娘を使って成り上がろうとする喜久雄に対して厳しくあたる、名門・富士見屋の当主を演じる。鴈治郎の映画出演は、2019年公開の『ねことじいさん』以来となる。■中村鴈治郎 コメント普段は優しい李監督ですが、撮影現場ではより良い作品を目指す方なので、とても厳しかったです。映画は舞台と違い、同じシーンを何度も撮るのでクタクタになると思います。ラッシュ版で吉沢亮さんを始め、彼らの歌舞伎のシーンを観た時に、その時の現場の状況を思い出し、とても感動しました。この映画を通して、歌舞伎を知らない方には、歌舞伎ってこういうものなのかと感じてほしいですし、歌舞伎を観たことのある方には違和感なく、作り事でもなく、自然に観ていただければ一番いいな、と思っています。そして、この作品をご覧になった方々が歌舞伎に興味を持っていただければ、こんなに嬉しいことはないです。吉沢亮さん、横浜流星さん、黒川想矢くん、越山敬達くん、田中泯さん、渡辺謙さんには本当によくやっていただいたと思っています。今は観客の皆さんに受け入れてほしいなと切に願っています。<作品情報>『国宝』6月6日(金) 公開公式サイト:吉田修一/朝日新聞出版(C)2025映画「国宝」製作委員会
2025年03月11日令和7(2025)年4月歌舞伎座、松竹創業百三十周年「四月大歌舞伎」において上演される新作歌舞伎『木挽町のあだ討ち』の主演・市川染五郎の撮り下ろしスチール写真とティザー映像が公開された。原作は、史上3人目となる直木賞と山本周五郎賞のW受賞を果たした永井紗耶子の同名時代小説。江戸・木挽町の芝居小屋を舞台に、美しい若衆が成し遂げた仇討の真相に迫る。新作歌舞伎で染五郎は、父の仇を追い、木挽町の芝居小屋にやって来る主人公・伊納菊之助を演じる。染五郎のスチール撮影は、2月に福岡・博多座で上演された歌舞伎NEXT『朧の森に棲む鬼』の終演後に行われた。激しい舞台を終えたばかりの染五郎は、仇討ちに臨む白装束を纏い、撮影現場に颯爽と現れると、傍らに用意されていた赤い振袖を手にし、撮影に向かった。撮影はBOØWYや布袋寅泰の撮影・アートワークをはじめ、数多くのアーティストのクリエイションを手がける永石勝。17歳の染五郎が初めて歌舞伎座で主演した『信康』や『新・陰陽師』『裏表太閤記』などの撮影も担当している。現場には、東京から駆け付けた脚本・演出の齋藤雅文に加え、物語の鍵を握る重要な役で出演する父・松本幸四郎も撮影に立ち合った。また染五郎からのコメントが到着。「四月大歌舞伎」は、2025年4月3日(木) から25日(金) に上演される。■市川染五郎 コメントお客様がイメージする菊之助に限りなく近い像になるよう化粧や衣裳、かつらや小道具など工夫をして臨みました。カメラマンの永石さんが菊之助の若さ、鋭さを存分に引き出してくださり、このスチール写真を軸に、菊之助という役、また作品全体を膨らませていきたいと思っています。新作歌舞伎『木挽町のあだ討ち』ティザー映像<公演情報>歌舞伎座 松竹創業百三十周年「四月大歌舞伎」2025年4月3日(木)~25日(金)※4月10日(木)・18日(金) は休演会場:東京・歌舞伎座『木挽町のあだ討ち』原作:永井紗耶子『木挽町のあだ討ち』 (新潮社刊)脚本・演出:齋藤雅文主な出演:市川染五郎、松本幸四郎チケット情報:()公式サイト:
2025年03月04日映画館で毎月シネマ歌舞伎を上映する「月イチ歌舞伎」の2025年の上映ラインナップが発表された。今年で20周年を迎えるシネマ歌舞伎。今期の新作として、9年ぶりに劇団☆新感線と歌舞伎がタッグを組んだ「歌舞伎 NEXT」の最新作『歌舞伎 NEXT 朧の森に棲む鬼』の松本幸四郎、尾上松也それぞれが主役を務めたバージョンの両方と、坂東玉三郎、市川染五郎らが出演する『源氏物語 六条御息所の巻』の3本が公開される。またシネマ歌舞伎20周年を記念して、シネマ歌舞伎第1作目・十八世中村勘三郎が野田秀樹とタッグを組んだ『野田版鼠小僧』が4月のシーズンの開幕を飾り、坂東玉三郎の代表作『鷺娘/日高川入相花王』が5月に続く。その他にも、作・演出を宮藤官九郎が手がけた『大江戸りびんぐでっど』や、5人の花子が登場する『京鹿子娘五人道成寺/二人椀久』など、アニバーサリーイヤーにふさわしいバラエティに富んだ計12作品の上映を予定している。さらに、2025年シーズンはさまざまなキャンペーンを実施。シーズンのフィナーレとなる2026年2月には、投票によって上映作品が決定する「リクエスト上映」が開催されるほか、シネマ歌舞伎20周年アンバサダーとして前田航基の就任が決定。幼少期から俳優やお笑いコンビとしての経験を積む前田が、独自の視点で今期上映作品の魅力を発信していくとのことで、詳細は後日シネマ歌舞伎のホームページで発表される。「月イチ歌舞伎」2025年シーズン予告「月イチ歌舞伎」2025年の上映ラインナップ2025年4月4日(金)~10日(木):『野田版鼠小僧』2025年5月9日(金)~15日(木):『鷺娘/日高川入相花王』2025年6月13日(金)~19日(木):『蜘蛛の拍子舞/身替座禅』2025年7月4日(金)~10日(木):『大江戸りびんぐでっど』2025年8月1日(金)~7日(木):『喜撰/棒しばり』2025年9月26日(金)~10月16日(木):新作『源氏物語 六条御息所の巻』2025年10月17日(金)~23日(木):『刺青奇偶』2025年11月14日(金)~20日(木):『京鹿子娘五人道成寺/二人椀久』2025年12月5日(金)~11日(木):『歌舞伎 NEXT 阿弖流為〈アテルイ〉』2026年1月2日(金)~22日(木):新作『歌舞伎 NEXT 朧の森に棲む鬼 幸四郎版』2026年1月23日(金)~2月12日(木):新作『歌舞伎 NEXT 朧の森に棲む鬼 松也版』2026年2月13日(金)~19日(木):リクエスト投票で作品を決定シネマ歌舞伎 公式HP:
2025年02月07日アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』と歌舞伎がコラボレーションした朗読劇『PSYCHO-PASS サイコパス 京都南座歌舞伎ノ舘×こえかぶ 朗読で楽しむ歌舞伎』が、2025年1月11日・12日に京都・南座で上演。大盛況となった初回公演のレポートが到着した。アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』は、人間のあらゆる心理状態を数値化し管理する巨大監視ネットワーク〈シビュラシステム〉が人々の治安を維持している近未来の世界観。本公演では厚生省公安局においてシビュラの要請に依り、定期的に歌舞伎の上演を行っているというオリジナルのパラレルワールドの設定となる。『PSYCHO-PASS サイコパス』のBGMが流れる中、歌舞伎の劇場らしい定式幕が静かに開かれる。まず演じる演目は、上方歌舞伎の代表作『廓文章(くるわぶんしょう)』「吉田屋(よしだや)」。恋人である廓・扇屋の夕霧太夫に入れ揚げ大借金を負ったことから勘当され、行方不明となっていた藤屋の若旦那伊左衛門。この一組の男女の恋心が織りなす華やかな物語だ。日本三大太夫のひとりの夕霧を演じるのは宜野座伸元(CV:野島健児)。男性がヒロインの夕霧を演じるという歌舞伎らしい配役の妙が光った。宜野座伸元(CV. 野島健児)吉田屋の主人・喜左衛門が伊左衛門を気遣い、羽織を肩にかけるシーンでは、狡噛慎也(CV:関智一)が実際に須郷徹平(CV:東地宏樹)に羽織をかける演技を通して、温かい絆が丁寧に描かれた。須郷徹平(CV. 東地宏樹)歌舞伎の舞台で義太夫が出語りする際に太夫と三味線の居所である「文楽廻し」が語りのシーンで使われるところも注目ポイント。また、実際の歌舞伎の衣裳である刺繍の美しい打掛を身にまとい、花道から出てくる夕霧の姿は非常に印象的だった。伊左衛門と夕霧の仲が認められ、身請け金が用意された。年明けを控えた吉田屋の座敷は喜びに包まれ、ふたりは幸せな新年を迎えるという華やかな結末で物語は幕を閉じた。二作目は、人間の諦念と執着が描かれた近松門左衛門の名作『平家女護島(へいけにょごのしま)』「俊寛(しゅんかん)」。平家滅亡を企て鬼界ヶ島へ流された俊寛僧都が、赦免の船が訪れるも自らの身を島に残し、孤独と絶望に沈む様子を描いた物語だ。「俊寛」左より、須郷徹平(CV.東地宏樹)、常守朱(CV.花澤香菜)、狡噛慎也(CV.関智一)、宜野座伸元(CV.野島健児)俊寛を演じるのは狡噛慎也(CV:関智一)。俊寛の運命を変える海女千鳥と、非情な役人である瀬尾太郎兼康という対極的な2役を巧みに演じ分けるのは常守朱(CV:花澤香菜)。ご赦免船に乗ってやってきた瀬尾太郎兼康が読み上げる赦免状に、自分の名前がないことに俊寛は絶望するが、若い夫婦・成経と千鳥に希望を託し、自ら島に残る決意をする。狡噛慎也(CV. 関智一)常守朱(CV. 花澤香菜)しかし、千鳥を都へ連れて行くために上使を討ち、罪を背負って孤島に留まることに。船が去り、ひとり残された俊寛の悲嘆が人間の本質的な弱さを浮き彫りにし、観客の涙を誘った。舞台は花道も用いて、巧みな演出で感動的な別れを描き、声優陣に惜しみない拍手が送られ幕となった。朗読劇の終幕後は、出演者4名がステージに再登場し、関の司会によるアフタートークへ。朗読劇の興奮そのままに、今回の「こえかぶ」挑戦の裏話や、各々の一番好きな台詞といったテーマで、大いに盛り上がった。関からは、観客に向けて「次回以降の回では、歌舞伎ならではの“●●屋!”などと屋号を呼ぶかけごえ(大向う)をお願いしたい」というリクエストも。また、初めて歌舞伎に挑戦した出演者から客席に投げかけられた「歌舞伎は難しいという印象があったかと思いますが、想像していたよりも楽しめましたか?」という質問には、観客の多くが「楽しめた」と満場一致の挙手で応えるなど、朗読劇からトークショーまで、熱気に包まれた初回公演となった。また2025年1月18日(土) からは、南座の会場全体を使用した企画展がスタートする。<公演情報>『PSYCHO-PASS サイコパス 京都南座歌舞伎ノ舘×こえかぶ 朗読で楽しむ歌舞伎』脚本・演出:中屋敷法仁出演:狡噛慎也(CV:関智一)、常守朱(CV:花澤香菜)、宜野座伸元(CV:野島健児)、須郷徹平(CV:東地宏樹)演目:『平家女護島』「俊寛」、『廓文章』「吉田屋」2025年1月11日・12日会場:京都・南座※公演終了<イベント情報>『PSYCHO-PASS サイコパス 京都南座歌舞伎ノ舘』アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』と「歌舞伎」が融合したコラボ展示企画2025年1月18日(土)~2月2日(日) ※月・火・水は休館会場:京都・南座営業時間:木・金 12:00~18:00(最終入場 17:30)土・日 11:00~18:00(最終入場 17:30)イベント公式HP:
2025年01月14日歌舞伎俳優の市川團十郎が10日、自身のインスタグラムを更新。【画像】市川團十郎、歌舞伎公演への情熱を投稿!新橋演舞場の舞台裏を語る!投稿には「麗禾とお話しタイム。幸せです」と綴られており、娘・麗禾さんとの親子のひとときを楽しむ様子が垣間見えた。背景には押隈も写り込み、歌舞伎の伝統を感じさせる美しい一枚となっている。 この投稿をInstagramで見る Ichikawa Ebizo 十一代目市川海老蔵(@ebizoichikawa.ebizoichikawa)がシェアした投稿 コメント欄には「娘さん、ますます美しくなりましたね」「親子でお話しする時間、大切ですよね」といった温かい声が多数寄せられたほか、「後ろの押隈が素敵です」といった興味深いコメントも目立った。團十郎の親子愛あふれる投稿は、多くのファンにほっこりとした感動を届けている。
2025年01月11日お正月の風物詩として多くのファンに親しまれている「新春浅草歌舞伎」が、2025年も1月2日(木) ~26日(日) に東京・浅草公会堂で上演される。若手歌舞伎俳優の登竜門として知られるこの公演、前回で大半のメンバーが一区切りを迎え、新たにフレッシュなメンバーが加入、中村橋之助、中村鷹之資、中村莟玉、中村玉太郎、市川染五郎、尾上左近、中村鶴松という顔ぶれで新たなスタートを切る。中村玉太郎、尾上左近のふたりも、今回が初参加。公演への意気込みとともに、演目の見どころ、「新春浅草歌舞伎」の魅力を聞いた。いつか「新春浅草歌舞伎」に、と憧れた舞台──2024年はさまざまなことに新たに挑戦されたかと思いますが、おふたりにとってこの一年はどのような年でしたか。玉太郎役者として成長するために必要な一歩を、着実に踏み出すことのできた年だったかと思います。2月の御園座、『鯉つかみ』の小桜姫では、(市川)右團次のお兄さんからいろいろとアドバイスをいただきました。また9月の新国立劇場では『夏祭浪花鑑』の琴浦。いずれも、将来どのような役者を目指すとしても、確実に必要な経験だったと思います。左近女方の大役をいろいろと経験させていただいた一年でした。思ってもみなかったことです。9月には(坂東)玉三郎のお兄さんにご指導いただいて『妹背山婦女庭訓 吉野川』の雛鳥を、11月には(尾上)菊五郎のお兄さんに教えていただいて『三人吉三巴白浪』のお嬢吉三をと、とくに後半は本当にがむしゃらに取り組んだ、まさに挑戦の年でした。本当に勉強になりましたし、自分の進むべきところ、目指すべきところが少し、定まってきたかなと感じています。──では、初参加となる「新春浅草歌舞伎」への思いをお聞かせください。玉太郎ずっと憧れていました。いつかは、と思っていましたが、こうしてチラシの表に自分の写真が並ぶのを見ると、責任の一端を担うのだなとプレッシャーを感じます。左近私もいつかは、と憧れていました。例年、1月は国立劇場で尾上菊五郎劇団のお正月公演に出演させていただいていましたが、いざこうして浅草に、となると、劇団のお兄さん方に「しっかりやっているな」と思っていただけるようにしなければ。7人の中で私が最年少ですから、フレッシュなところを楽しんでいただきたいと思う一方で、年齢差を感じさせないよう、意識して取り組みたいと思います。玉太郎こうしていろんなところから役者が集まっての興行は、若手に限らずあまりないこと。また、いつもの舞台では父の世代、祖父の世代の方が座頭で引っ張ってくださいますが、今度は同世代の皆で頑張ろうと橋之助さんも言ってくださいました。皆で支え合っていくことで、結束力がどんどん強まっていくのではないかと思います。左近橋之助のお兄さん、中村莟玉のお兄さんに鶴松さんも「新春浅草歌舞伎」を経験されてきたわけですが、今回新たに入るメンバーは、これまで、同世代同士で大きな公演に携わる機会がなかったので、私たちも新鮮に感じますし、お客さまにとっても、「このメンバーが揃ったらどうなるんだろう?」という目新しさがあるのではないでしょうか。同時に、自分が育ったところの味を出していきたいと思うのは歌舞伎役者の性でもありますし、そこは皆、意識されているのかなと思います。ダブルキャストでのぞむ『絵本太功記』──では、上演される演目について、まずはおふたりが出演される『絵本太功記』「尼ヶ崎閑居の場」から教えてください。第1部では玉太郎さんが初菊を、第2部では今度は左近さんが初菊を演じられますね?玉太郎今回のように昼の第1部、夜の第2部で同じ演目をダブルキャストで上演する例はあまりないかもしれません。通しでご覧になる方には、役者による違いも体感していただけると思いますし、私たちにとってはそれも挑戦です。──『絵本太功記』は、武智光秀(史実では明智光秀)の謀反にまつわるドラマを描いた時代物の名作ですが、初菊についてはどのような役柄と捉えていますか。玉太郎初菊は、光秀の息子である十次郎の許嫁で、恋人同士ですね。この物語は家族のお話でもあり、初菊はその中で最も若い役ですから、若々しさ、可憐さが必要なお役です。「尼ヶ崎閑居の場」では、前半に十次郎と初菊との掛け合いがあり、ここが初菊の一番の見せ所に。十次郎に戦に行ってほしくない初菊は、その思いをこらえて送り出すわけですが、それでもつい、体は止めに行ってしまう──。初菊のその一途なところは、大事に演じなければいけないと思っています。私は(中村)魁春のおじさまに教わっているのですが、初菊の目線はいつも十次郎のことを意識し続けるように、と教えていただきました。左近「新春浅草歌舞伎」で『絵本太功記』を上演すると聞いたとき、多分、出演する俳優や、お客さまにも驚かれた方もいらしたかと思います。義太夫狂言の名作ですが、なかなか難しく、渋いお芝居なので…(笑)玉太郎あの……、今日は皆さんに歌舞伎を観ていただきたいという話なのだけど(笑)。左近そうですよね(笑)。でも、だからこそ、しっかり興味を持っていただくために、役者で見せなければいけないところがあると感じています。この作品は戦後、戦争で身内を亡くされた方たちの共感を得たという話を聞いたことがあります。いま、お客さまのそうした感情を引き出すのは難しいことですが、そこを、玉太郎のお兄さんがおっしゃったように、まず、初菊と十次郎の掛け合いの健気さを見せることが大切なのかな、と。その後で出てくる光秀の迫力、不気味さを際立たせるためにも、初菊と十次郎が舞台を作り上げていかないといけません。また、十次郎は裃から鎧に着替えるために一度奥へ引っ込みますが、初菊にはその間の時間をつなぐ役割も。十次郎の兜を引きずっていくところも、大きな見せ場ではないかと思います。玉太郎相手によって変わってくるところもありますね。私のときは鷹之資さんが十次郎、左近くんは鶴松さんとですが、おふたりがどのように動かれるかで初菊も変わってくると思います。左近私は(中村)時蔵のお兄さんに見ていただいているのですが、いろいろお話を伺うと、本当に役者によって違う。型はあるけれど、「そこは自分で考えて」とおっしゃってくださる部分もありますし、とくに十次郎が着替える間の合方、つまり演奏のスピードやノリは、毎日同じではありません。玉太郎生演奏というところも、歌舞伎の見どころのひとつですね。──第1部では左近さんは、染五郎さん演じる光秀の家臣、佐藤正清(史実では加藤清正)を演じられますね。左近最後の最後に花道から登場します。最終的には真柴久吉(史実では羽柴秀吉)、光秀、正清の3人で強引に幕を閉じるようなものですから、それだけの格好良さ、説得力がなければいけない。難しくない役などありませんが、これも大変な役だと思っています。お客さまとも一緒に歩む、これが第一歩──第2部の『春調娘七種』では、鶴松さんとおふたりの共演が実現します。玉太郎華やかで、実にお正月らしい演目です。左近音楽と役者の拵え、背景の絵なども楽しんでいただけたらと思います。玉太郎出てくるのは曽我五郎・十郎という兄弟と静御前。バックボーンとしての物語はありますが、ここでそのお話が進むわけではありません。左近五郎・十郎の親の仇が工藤祐経で、源頼朝の家来。頼朝に追われて殺されたのが源義経でその恋人が静御前、つまりこの3人は仇が同じという繋がりですが、何故ここで一緒にいるのかはわかりません(笑)。義経や曽我兄弟を題材とした演目はたくさんありますが、そのヒロインと兄弟たちが一緒に出てくる踊りは他にはないですよね。玉太郎私たちの世代で、曽我兄弟に静御前と聞いて「おお!」と目を輝かせる方はあまりいらっしゃらないかもしれませんが、いまで言うなら──さまざまなキャラクターが集まった「アベンジャーズ」のようなものです(笑)。私が演じる十郎は、和事と呼ばれ、立役ではありますが、少し線の柔らかい、端正な役柄です。左近私が演じる五郎は、荒事。むきみ隈という隈取りをした、荒々しく血気盛んな若者です。玉太郎パワー100%の力強い五郎に対し、十郎は一歩引いた感じを出すのが難しいところです。左近「新春浅草歌舞伎」はいろんな役をやらせていただく場ではありますが、私の家(尾上松緑家)としては五郎のほうの家系ですし、キャラクターとして好きなので、昔から仲良くさせていただいている玉太郎さんと兄弟をさせていただけるのは嬉しいですね。玉太郎以前、「いつかふたりで五郎十郎をやるかもね」と話をしていたんです。まあ、(左近は)覚えていないみたいだけれど……。左近(笑)。こういうところで役者同士が一緒になる様子を観ていただけるのも、「新春浅草歌舞伎」の魅力ですね。──また、第1部の『道行旅路の花聟落人』で玉太郎さんが演じられるのは、鷺坂伴内。どのような思いで取り組まれるのでしょうか。玉太郎やらせていただけるとは思っていなかった役のひとつですので、大きな挑戦です。三枚目の敵役で、憎たらしいけれど面白くて可笑しいキャラクター。第1部のお姫さまとはだいぶギャップがありますが、役者としてはそこが楽しいところですね。『仮名手本忠臣蔵』の一場面で、主役はおかると勘平。伴内は仇討ちされるほうの高師直の家来で、勘平にとっては敵ですが、勘平の恋人であるおかるにちょっかいを出しにくる。最初はおかると勘平が清元で踊る華やかな場面ですが、伴内の登場で流れはガラリと変わり、舞台は一気に立廻りとなるわけですから、そのインパクトを大事にしたいです。この役は祖父(中村東蔵)と父(中村松江)に教わっています。先輩方の映像を拝見すると、台詞まわしから動きまで本当に皆さんそれぞれの色がある。これも型があるようでない役のひとつだと感じます。祖父や父のアドバイスに倣いながら、伸び伸びと演じるのを、お客さまに観ていただけたらと思っています。──多くの方々に歌舞伎を楽しんでいただきたいですね。玉太郎初めて観るという方は、この「新春浅草歌舞伎」をきっかけに歌舞伎を観てくださるといいなと思っています。「『絵本太功記』を観た」と誇っていただけるように、この古典の大事な演目をしっかり勤めたいです。でも、歌舞伎には世話物から新作歌舞伎まで、本当にさまざまな演目がありますから、この「新春浅草歌舞伎」を、歌舞伎に親しむきっかけとしていただけたら嬉しく思います!左近これまで「新春浅草歌舞伎」を観てくださっていたお客さまに楽しんでいただくとともに、初めのお客さまにとっては、今回が、一緒に歩んでいただくその第一歩の公演となればと思います。役者の顔を覚え、追いかけていただくきっかけにもしていただきたいですし、そうなるよう、役者一同、一丸となって頑張ります。ぜひ、劇場に来ていただけたらと思っています!取材・文:加藤智子撮影:藤田亜弓<公演情報>「新春浅草歌舞伎」【第1部】11:00~一、『絵本太功記』「尼ヶ崎閑居の場」二、『道行旅路の花聟落人』【第2部】15:00~一、『春調娘七種』二、『絵本太功記』「尼ヶ崎閑居の場」三、『棒しばり』出演:中村橋之助、中村鷹之資、中村莟玉、中村玉太郎、市川染五郎、尾上左近、中村鶴松ほか2025年1月2日(木)~1月26日(日)※19日(日) 第2部は、「着物で歌舞伎」開催会場:東京・浅草公会堂チケット情報:()公式サイト:
2025年01月01日歌舞伎を映画館で楽しむ映像コンテンツ「シネマ歌舞伎」の新作『ぢいさんばあさん』が、2025年1月3日(金) より公開される。このたび本作を鑑賞したフリーアナウンサーの中井美穂、詩人の伊藤比呂美、漫画家の新挑限(読み:あらいどかぎり)からコメントが到着した。森鷗外の原作小説を、宇野信夫が歌舞伎舞台化した本作は、幸せに暮らすおしどり夫婦が、ある事件をきっかけに37年もの間離れ離れになり、再会するまでが描かれる。おしどり夫婦を演じるのは、片岡仁左衛門と坂東玉三郎で、初々しい若夫婦と37年後の老夫婦姿を、時に愛嬌たっぷりに、時にしみじみと、息ぴったりに演じ分ける。古典芸能に精通し、読売演劇大賞の選考委員も務める中井は、仁左衛門と玉三郎を「これまでもたくさんの作品に共演され、共に長い時間を歩んでこられた唯一無二のゴールデンコンビ」とたたえ、「おふたりの間にしか生まれない空気がシネマとして永遠に残る、こんなうれしいことはありません。同時代に生きておふたりの舞台を見ることができる幸せを噛み締めています」とコメントした。鷗外に関する著書も多数執筆している伊藤は「森鷗外、一世一代のラブストーリーが、こんなにも情の深い、とろりとした舞台になった。若くない、そばにいない。それでこその愛がある。エロスがある」とコメント。本作と同じく、時の流れと夫婦の情愛を描いた漫画『じいさんばあさん若返る』を執筆した新挑は「一つひとつの所作や静寂が時の重さを感じさせる演者さんたちの演技とシネマ歌舞伎ならではの演出力に圧倒されるばかりでした。歌舞伎であり、映画であり、ひとつの人生。温故知新の体験、ありがとうございました」と絶賛のコメントを寄せた。また本作の公開を記念して、歌舞伎公演のチケットを提示で鑑賞料金が割引となるキャンペーンの実施が決定。指定の映画館で2025年1月の歌舞伎座・大阪松竹座の歌舞伎公演のチケットを提示すると、通常料金から300円引きで『ぢいさんばあさん』を鑑賞できる。■中井美穂 コメント全文仁左衛門さんと玉三郎さんおふたりの歩んでいらした道のりがお話と重なって見えてくるようです。これまでもたくさんの作品に共演され、共に長い時間を歩んでこられた唯一無二のゴールデンコンビ。おふたりの間にしか生まれない空気がシネマとして永遠に残る、こんなうれしいことはありません。同時代に生きておふたりの舞台を見ることができる幸せを噛み締めています。■伊藤比呂美 コメント全文森鷗外、一世一代のラブストーリーが、こんなにも情の深い、とろりとした舞台になった。若くない、そばにいない。それでこその愛がある。エロスがある。こう老いたい。■新挑限 コメント全文「終わってみると、心が若返っていた」残酷な時間の流れを背負う老夫婦は、誰よりも愛嬌があり、若々しかった。一つひとつの所作や静寂が時の重さを感じさせる演者さんたちの演技とシネマ歌舞伎ならではの演出力に圧倒されるばかりでした。歌舞伎であり、映画であり、ひとつの人生。温故知新の体験、ありがとうございました!<作品情報>シネマ歌舞伎『ぢいさんばあさん』2025年1月3日(金) 公開原作:森鷗外作・演出:宇野信夫【出演】片岡仁左衛門、坂東玉三郎、中村芝翫、片岡孝太郎、坂東秀調、市川齊入、片岡市蔵、大谷桂三、中村鴈治郎、中村勘三郎ほか(平成22年2月歌舞伎座公演)割引キャンペーンの詳細はこちら:公式サイト:松竹株式会社
2024年12月25日2025年1月11日(土)・12日(日) に京都・南座で上演される『PSYCHO-PASS サイコパス 京都南座歌舞伎ノ舘×こえかぶ 朗読で楽しむ歌舞伎』。このたび、狡噛慎也役の関智一、常守朱役の花澤香菜、宜野座伸元役の野島健児、須郷徹平役の東地宏樹の4名の配役と朗読劇のあらすじが発表された。本公演は、アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』のキャラクターたちが、人間のあらゆる心理状態を数値化し管理する巨大監視ネットワーク〈シビュラシステム〉が人々の治安を維持している近未来の世界で、日本の伝統文化である「歌舞伎」に取り組むという内容の新しい朗読劇。現在より100年先の近未来という設定の『PSYCHO-PASS サイコパス』と、現代より400年前に成立した「歌舞伎」との接点。それは登場人物たちが「人生の選択」や「それに伴う苦悩の感情」を学んでいくこと。本作は、厚生省公安局の職務の一環としてシビュラシステムが下した決定で、常守朱たちが歌舞伎の上演に挑むというパラレルワールドの物語となっている。歌舞伎の演目は、上方歌舞伎の代表的な名作より、男女の恋模様を描く『廓文章』「吉田屋」(くるわぶんしょう よしだや)と、別離をテーマにした『平家女護島』「俊寛」(へいけにょごのしま しゅんかん)。難しいと思われがちな歌舞伎の物語だが、歌舞伎を鑑賞したことのない人でも歌舞伎の物語が楽しめるよう、現代語を交えた分かりやすい構成に。脚本・演出は、舞台『文豪ストレイドッグス』『黒子のバスケ』『ワールドトリガー』『推しの子』などを手がける中屋敷法仁が担当する。【ストーリー】厚生省公安局ではシビュラシステムの要請に基づき、職員のメンタルケアと文化理解を目的とし、定期的な歌舞伎の上演が推奨されている。シビュラシステムは、現代社会で失われつつある「人生の選択」や「苦悩」といった重要な感情を再評価し、人間の精神的豊かさを再び育む手段として歌舞伎に注目している。今回の上演は、刑事課が担当。演目や配役を管理する責任者となった常守朱は、宜野座伸元と須郷徹平へ、シビュラシステムによって決定された内容を伝える。挑戦的な配役に驚く宜野座。色気と気品のある役柄に挑む須郷。そんなふたりを横目に常守は今回の上演にあたって、狡噛慎也との稽古を回想する。その中で、狡噛に物語の力を信じることを教わり……。【配役】■狡噛慎也 全2役狡噛慎也(CV:関智一)「俊寛」より・俊寛僧都(しゅんかんそうず):平家打倒を図り、絶海の孤島へ島流しにされた僧侶。都に残した妻や、仲間への情も厚い人物。「吉田屋」より・吉田屋喜左衛門(よしだやきざえもん):吉田屋の主人。勘当された伊左衛門や、夕霧の身を心配する心優しい性格。■常守朱 全4役常守朱(CV:花澤香菜)「俊寛」より・海女千鳥(あまちどり):俊寛へ大きな影響を与える存在。孤島に暮らす海女だが、成経と恋仲になる。成経の赦免を知らされ、一緒に船に乗ろうとするが、瀬尾に拒まれる。・瀬尾太郎兼康(せのおのたろうかねやす):恩赦を伝えに来た上使。千鳥の乗船を拒み、俊寛に対しては妻が死んだことを突き付け絶望させる非情な役人。「吉田屋」より・若い者松吉(まつきち):吉田屋の使用人。・喜左衛門女房おきさ(きざえもんにょうぼうおきさ):吉田屋の女房。夫・喜左衛門と共に、伊左衛門と夕霧のことを心配している。■宜野座伸元 全2役宜野座伸元(CV:野島健児)「俊寛」より・丹波少将成経(たんばのしょうしょうなりつね):孤島での暮らしの中で知り合った千鳥と夫婦となる。千鳥が赦免船への乗船を拒否されると、自分も一緒に島に残ろうとする。流人の身でありながら、貴公子の雰囲気を漂わせる。「吉田屋」より・扇屋夕霧(おうぎやゆうぎり):人気の最高位の遊女。和歌や諸芸もたしなみ才色兼備と名高い美女で、伊左衛門とは夫婦になることを約束している間柄だが、伊左衛門が勘当され行方不明になったと聞き思い詰めて病気になってしまう。厳しい環境の中でも、芯の強さを持ち続けた女性。■須郷徹平 全3役須郷徹平(CV:東地宏樹)「俊寛」より・平判官康頼(へいはんがんやすより):謀反の罪で、俊寛と丹波少将成経とともに島流しにされる。・丹左衛門尉基康(たんさえもんのじょうもとやす):俊寛の赦免を伝えに来た上使。情け深く、彼らにできる限りの配慮をする。「吉田屋」より・藤屋伊左衛門(ふじやいざえもん):遊郭に通い、遊女遊びに夢中になり、実家から勘当されてしまった大店(おおだな)のおぼっちゃま。夕霧とは相思相愛の仲。気品に満ちた色男。<公演情報>『PSYCHO-PASS サイコパス 京都南座歌舞伎ノ舘×こえかぶ 朗読で楽しむ歌舞伎』2025年1月11日(土)・12日(日)会場:京都・南座【日程】■1月11日(土)16時の部:開場 15:15 / 開演 16:0019時30分の部 開場 18:45 / 開演 19:30■1月12日(日)12時の部:開場 11:15 / 開演 12:0015時30分の部:開場 14:45 / 開演 15:30※イベントの開場、開演時間は変更になる可能性がございます。脚本・演出:中屋敷法仁出演:狡噛慎也(CV:関智一)、常守朱(CV:花澤香菜)、宜野座伸元(CV:野島健児)、須郷徹平(CV:東地宏樹)演目:『平家女護島』「俊寛」、『廓文章』「吉田屋」【チケット】桟敷席:11,000円(税込)(全席指定)桟敷席(グッズ付き):13,000円(税込)1階 / 2階席:10,000円(税込)1階 / 2階席(グッズ付き):12,000円(税込)3階席 :8,000円(税込)3階席(グッズ付き):10,000円(税込)※ご購入時、座席を指定することはできません。チケット情報:()<イベント情報>『PSYCHO-PASS サイコパス 京都南座歌舞伎ノ舘』アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』と「歌舞伎」が融合したコラボ展示企画2025年1月18日(土)~2月2日(日) ※月・火・水は休館会場:京都・南座営業時間:木・金 12:00~18:00(最終入場 17:30)土・日 11:00~18:00(最終入場 17:30)【チケット】前売:2,500円(税込)当日:2,700円(税込)※入場時、チケット1枚につき「特典 A5イラストクリアカード(前期1月18日(土)~1月25日(土):全9種、後期1月26日(日)~2月2日(日):全8種 計17種)」をランダムで1枚お渡しいたします。絵柄は選べません。※会場内音声ガイドでは、必ずイヤホンまたはヘッドホンをご持参してご利用ください。会場でのお貸出しは出来かねます。イベント公式HP:
2024年12月23日歌舞伎座十二月大歌舞伎『あらしのよるに』が、2024年12月28日(土) 11時より松竹公式動画配信サイト「歌舞伎オンデマンド」で疑似生配信される。きむらゆういちによる同名の絵本を原作にした本作は、2015年(平成27年)の初演以来、子どもから大人まで多くの方に親しまれ、繰り返し上演されてきた。狼のがぶと山羊のめいの種族を超えた友情、心の葛藤を描いた絵本は発刊30周年を迎え、今回の歌舞伎座公演では中村獅童ががぶを、尾上菊之助がめいを演じる。疑似生配信では、NHK Eテレ『おかあさんといっしょ』で第12代体操のお兄さんを務めた“誠お兄さん”こと福尾誠が開演前、幕間、終演後に生出演し、視聴者をナビゲート。チャット機能で感想や質問をシェアしながら視聴することができる。なお『あらしのよるに』本編は収録済みの映像で、本編以外が12月28日(土) 当日の生配信となる。また舞台映像の本編には、歌舞伎を観たことがない人に向けた「やさしい解説音声」が付いており、絵本を読むように歌舞伎の舞台を楽しむことができる。さらに特典映像として、ここでしか見られないオリジナルコンテンツ「食べちゃいたいそう」も視聴可能で、誠お兄さんと歌舞伎のポーズに挑戦できる。アーカイブ配信は2025年1月13日(月・祝) まで。■福尾誠 コメント(C)松竹この度、歌舞伎『あらしのよるに』擬似生配信に出演させていただくことになりました。歌舞伎デビューにぴったりな本作品を親子で楽しんでいただけるよう、精一杯ナビゲートします!そして「食べちゃいたいそう」という体操コンテンツにも出演させていただいております。歌舞伎のポーズを真似して楽しむことができる体操になっています!みんなの感じるままに、“友だちだけど、おいしそう”、“食いてえなあ〜”を表現してくれたら嬉しいです!素敵な機会に皆さんと一緒に観劇できるのを楽しみにしています!<配信情報>歌舞伎『あらしのよるに』疑似生配信出演:中村獅童(がぶ)、尾上菊之助(めい)、尾上松緑(ぎろ)ほかナビゲート:福尾誠(誠お兄さん)、佳山泉(イヤホンガイド解説者)配信日時:2024年12月28日(土) 11:00より配信スタート配信場所:歌舞伎オンデマンド配信内容:やさしい解説音声付き本編特別映像「食べちゃいたいそう」※開演前、幕間、終演後には、誠お兄さんとイヤホンガイド解説者による生トークあり。特典映像:「食べちゃいたいそう」 ①誠お兄さんソロバージョン ②誠お兄さんとおともだちバージョンチケット販売期間:2025年1月13日(月・祝) 20:00までアーカイブ配信期間:12月29日(日) 10:00~2025年1月13日(月・祝) 23:59まで詳細はこちら:
2024年12月21日歌舞伎を映画館で楽しむ映像コンテンツ「シネマ歌舞伎」の新作『源氏物語 六条御息所の巻』が、2025年9月26日(金) より公開される。原作は、NHK大河ドラマ『光る君へ』でも話題の紫式部による『源氏物語』。2024年10月に東京・歌舞伎座で上演された『源氏物語 六条御息所の巻』では、六条御息所、光源氏とその妻・葵の上の三角関係を新たに描き、観客の心を揺さぶる恋模様が話題を呼んだ。坂東玉三郎が凄艶な女心を見せる六条御息所を、市川染五郎が世の女性を魅了する稀代の貴公子・光源氏を演じる。また、シネマ歌舞伎だけの特別映像として、本作への思いを語る玉三郎の特別インタビューも収録される。また本作のポスター・チラシは、六条御息所と光源氏のツーショットを使用。夢のような恋に身をゆだねる姿から、源氏物語ならではの美しくも儚い恋の世界観を感じさせるビジュアルとなっている。「この恋は、夢か現か――」というコピーで、光源氏に恋する六条御息所がやがて想いを募らせ変貌し、理想と現実の狭間で揺れ動く胸中を表現している。このポスター・チラシは、2025年1月3日(金) より上映映画館ほかで掲出。さらに、ムビチケカードも東劇含む上映映画館、東京・歌舞伎座、東京・新橋演舞場、京都・南座、大阪・大阪松竹座ほかで発売開始される。【あらすじ】時は平安の世。生まれながらの気品と美しさを兼ね備えた光源氏は、愛人としている六条御息所のもとを訪れる。楽しい時間を過ごすうち、六条御息所は光源氏との子を身籠る葵の上を嫉み、詰る。光源氏が堪えかねて屋敷を去ると、六条御息所は悲しみに暮れ、次第に嫉妬に狂い……<作品情報>シネマ歌舞伎『源氏物語 六条御息所の巻』脚本:竹柴潤一監修:坂東玉三郎演出:今井豊茂出演:坂東玉三郎、市川染五郎、中村時蔵、中村歌女之丞、中村亀鶴、坂東彌十郎、中村萬壽ほか(令和6年10月 歌舞伎座公演)公開日:2025年9月26日(金) 全国公開公式サイト:松竹株式会社
2024年12月16日12月3日、歌舞伎座12月公演「十二月大歌舞伎(じゅうにがつおおかぶき)」が初日を迎えた。そのオフィシャルレポートをお届けする。第一部は、『あらしのよるに』で幕開き。「あらしのよるに」は、きむらゆういち作の絵本で平成6(1994)年の刊行以来、国内外問わず幅広い世代に愛されてきた。平成27(2015)年に南座で新作歌舞伎として初演、その後歌舞伎座・博多座でも再演し大きな反響を呼んだ。そしてこの度、絵本発刊30周年を記念し、8年ぶりに歌舞伎座での上演となる。幕が開くと、そこには狼の親子、そして山羊の親子の姿。この度の歌舞伎座での再演に際して、新たに書き加えられた幼いころのがぶ(中村夏幹)とめい(中村陽喜)の記憶の場面から始まる。がぶの父である狼の長(中村獅童)との場面では、実際の親子での出演となり大きな拍手。そして、場面は激しい嵐の夜となり、粗末な小屋に身を寄せているのは、狼のがぶ(中村獅童)と山羊のめい(尾上菊之助)。暗闇で互いの姿が見えず、相手が誰かわからない状況にも関わらず話が弾み、すっかり意気投合。「あらしのよるに」を合言葉に、翌日の再会を約束する。夕べの嵐が嘘のような、どこまでも青空が広がる穏やかな午後、がぶとめいは「あらしのよるに」の合言葉を嬉しそうにかわす。ところが、互いに相手の姿をみてびっくり。目の前にいるのは狼にとって大好物の山羊と、天敵の狼。食べたい欲求を抑えるがぶと、食べられてしまうかもと不安を抱くめい。初演よりがぶを演じてきた獅童と、初役でめいを勤める菊之助による二匹の息ぴったりな掛け合いに客席のあちらこちらから笑い声が聞こえてくる。またがぶとめいが縦横無尽に客席をめぐる演出では、観客は大盛り上がり。ふたりは話をするうちに、ますます親しみを覚えていくと、互いを“友達”と呼び合う仲になっていく。一方で、狼のぎろ(尾上松緑)は自らの恥辱を晴らそうと手下たちにめいたちを捕まえるよう命じる。狼のばりい(澤村國矢改め澤村精四郎)が、めいの行方を問いただそうとがぶを連れてくると、精四郎と獅童による狂言半ばで襲名のご挨拶。獅童から送られた暖かいエールをうけて、精四郎の眼には涙が浮かぶ。門閥外から幹部俳優となった精四郎の決意表明に、会場中からも割れんばかりの祝福の拍手が送られた。そして、ある月夜の晩にがぶとめいが並んで美しい月を眺めていると、そこへめいを狙うぎろが現れ、いよいよ物語は佳境に。めいを追いかけ狼たちに捕まったみい姫(中村米吉)たちの姿が……。狼と山羊との息を呑む、大迫力の立廻りは圧巻で手に汗握る展開が続き……。幕切れでは、がぶとめいの誰も邪魔することのできない強い友情に、客席は温かい雰囲気に包まれながら、手拍子で一体となっておおいに盛り上がった。客席には粋な江戸の風が名作者・河竹黙阿弥の傑作第二部は、『加賀鳶(かがとび)』で幕開き。歌舞伎の名作者・河竹黙阿弥による江戸の粋が巧みに織り込まれた世話物の傑作だ。今回は見応えある「木戸前」からの上演。本郷界隈では先日、加賀藩お抱えの鳶と旗本配下の定火消の間で大喧嘩が起こった。今日も日陰町の松蔵(中村勘九郎)をはじめとする加賀鳶たちが勢揃い。歌舞伎座の花道に俳優が並ぶ姿は壮観だ。ずらっと花道に並び、黙阿弥らしい七五調のツラネの台詞は圧巻で、客席には一気に粋な江戸の風が流れ込む。血気に逸る加賀鳶の若い者たちを、頭分の梅吉(尾上松緑)が江戸の町衆の憧れであった鳶頭の気風の良さを見せながら留めに入る。ところ変わって、日の暮れた御茶の水の土手際では按摩の道玄(尾上松緑)が通りがかりの百姓を手に掛け懐からお金を盗んで立ち去るが、落としていった煙草入れを松蔵が拾い、この後の物語に大きく関わっていく。続く場面では、姪の奉公先へ道玄と内縁の妻お兼(中村雀右衛門)が強請りに行く。道玄のふてぶてしさと、お兼の小悪党ぶりに思わずハラハラしながら強請りの現場を見守る。ようやく道玄たちがお金を手に入れたところへ松蔵が現れ事態は一変。ここでも黙阿弥らしい七五調の名台詞での道玄と松蔵のやり取りが聞きどころとなる。いよいよ、道玄とお兼の悪事が露見すると、可笑しみ溢れる立廻りに客席からは笑いが漏れ、最後はすっきりと晴れがかった結末と、どこか憎めない道玄に大きな拍手が送られた。続いては、長唄舞踊の名作『鷺娘(さぎむすめ)』。幕が開くと、しんしんと雪の降る水辺に、綿帽子に白無垢姿の娘がひとり佇んでいる。傘を差したこの娘は、人間との道ならぬ恋に悩む鷺の精(中村七之助)。恋に思い悩む様子を踊りで見せていくが、ところどころで鷺の精であることを想起させる。衣裳が引き抜かれ、艶やかな町娘の姿となると、客席からは驚きとがらっと変わった雰囲気への期待感に包まれる。曲調も変わり、恋しい男と結ばれた頃の様子を踊ると、今度は男心のつれなさを訴えていく。美しい娘が踊る女心にうっとりしていると、舞台は降りしきる雪の中へ。恋の妄執が甦り、ついに鷺の精の本性を顕していく。幻想的な美しさの中で激しく凄まじく踊る幕切れに、客席には止まらない拍手が響き渡った。まるで花の香りが漂うような艶やかな踊り『舞鶴雪月花』と玉三郎、團子の『天守物語』第三部は、季節の移ろいをコミカルに描いた変化舞踊『舞鶴雪月花(ぶかくせつげっか)』から始まる。本作は、十七世中村勘三郎(俳名「舞鶴」)に書き下ろされた中村屋ゆかりの舞踊だ。幕が開くと枝垂桜の大樹の陰から、ひょっこりと姿を現した桜の精(中村勘九郎)が、愛らしい娘姿で桜の名所の景色を歌いながら、まるで花の香りが漂うような艶やかな踊りをみせる。季節が変わり、月明りの下のすすき野となり、子どもの松虫(中村長三郎)がはぐれた親を探して踊っている。親の松虫(中村勘九郎)が花道のすっぽんから現れると、先ほどまでの娘姿から一転した姿に客席からは驚きの声が。短い生命の虫の運命を哀れに踊る姿に観客の心は引き込まれていく。そして舞台は雪景色の町中へ。大きな雪達磨が舞台からせり上がり、炭屋の町娘に恋する雪達磨(中村勘九郎)が、恋心を滑稽に踊って見せる。勘九郎が歌舞伎座で初めて踊る『舞鶴雪月花』、三役目となる雪達磨では、軽妙に踊る姿に客席からは笑い声と拍手、場内の温度も上がる。燃える恋心と共に、朝日が昇ると雪達磨のからだはどんどん溶けていき……。「中村屋!」の大向うが響きわたり、場内は惜しみない大きな拍手に包まれた。続いては、幻想的で詩情豊かな泉鏡花の世界が浮かび上がる『天守物語(てんしゅものがたり)』だ。舞台は播磨国姫路にある白鷺城。この天守閣の最上階は、人間たちが近づくことのない、美しい異界の者たちが暮らす別世界で、侍女たちが秋の草釣りをする中、蓑を纏った富姫(坂東玉三郎)が登場する。美しく気高い姿は、まさにこの異界の主たる風格で、客席も人間の世界からいつの間にか変わっていく。やがて、富姫を姉と慕う亀姫(中村七之助)が訪れる。手土産として亀姫が持ってきた、血のしたたる生首を手に微笑む件は、鏡花らしい妖しい魅力に満ち溢れながら、奇怪な存在感を放つおどろおどろしい異界の者たちにも目を引かれる。前半の不思議な世界から一転、後半の姫川図書之助(市川團子)が行方知れずとなった白鷹を探しに天守へやってくると空気が変わり、富姫と図書之助の異界の者と人間との恋が描かれる。特に、富姫が想いを顕わにしていく様子は物語の最大の見どころとなり、異世界に住むふたりの行く末を案じる。随所に感じられる鏡花らしい美学と世界感の中、当り役として輝きを放ち続ける玉三郎の富姫と、堂々と真っ直ぐに図書之助を演じきった團子のふたりが描き出した至上の恋に、観客からの陶酔した拍手が止まない中、幕が閉まっていった。「十二月大歌舞伎」は2024年12月26日(木) まで、東京・歌舞伎座で上演される。<公演情報>歌舞伎座「十二月大歌舞伎」【第一部】11:00〜二代目澤村精四郎襲名披露あらしのよるに【第二部】15:00〜一、加賀鳶二、鷺娘【第三部】16:20〜一、舞鶴雪月花二、天守物語2024年12月3日(火)〜12月26日(木)※休演:11日(水)、19日(木)会場:東京・歌舞伎座※第一部:4日(水)、5日(木)、6日(金)、12日(木)、18日(水)、20日(金)、23日(月)、24日(火)第三部:4日(水)、10日(火)は学校団体来観公式サイト:※公演期間が終了したため、舞台写真は取り下げました。
2024年12月04日歌舞伎の公演を撮影、映画館のスクリーンで楽しむことのできる〈シネマ歌舞伎〉に、森鷗外原作の、心に染みる名舞台が登場する。片岡仁左衛門、坂東玉三郎ほか豪華キャストで平成22年(2010年)に上演された『ぢいさんばあさん』だ。物語の舞台は江戸。おしどり夫婦として知られる美濃部伊織とその妻るんは、子どもも生まれ幸せに暮らしていたが、怪我を負った義弟の久右衛門に代わり、伊織が京都に勤めに出ることに。勤めは1年、翌春には江戸に帰ってくるはずだった伊織はしかし、ささいな言い合いから同輩の下嶋甚右衛門を斬ってしまい、越前にお預けの身となってしまう。月日は流れ37年後、罪を許された伊織が懐かしい我が家へ帰ってくる……。伊織とるんの夫婦を演じるのは、昭和、平成、そして令和の今もなお、歌舞伎界随一のゴールデンコンビとして不動の人気を誇る仁左衛門と玉三郎。姿かたちの良さはいわずもがな、何といってもふたりの息の合いっぷりは感心するばかり。若夫婦時代のイチャイチャぶりは「一体、我々は何を見せられているのだ……?」と思ってしまうほど(もちろん、そこがいいのだが)。そして白髪の老人となった37年後の、若夫婦時代とはひと味違う品のある可愛らしさも最高なのである。伊織が江戸に帰れなくなる原因を作る下嶋甚右衛門は十八世中村勘三郎。執拗に伊織を挑発する厭らしさを、芝居巧者の勘三郎がねっとりと演じている。久右衛門役の中村鴈治郎(当時 翫雀)、その息子夫妻を演じる中村芝翫(当時橋之助)と片岡孝太郎も爽やかで、作品に通底する清らかな心根をしっかりと伝えてくれる。脚本は昭和の黙阿弥と呼ばれた宇野信夫。鴎外の原作では1行で簡潔に表現されていた伊織とるんの再会を一場面として膨らませ、歌舞伎作品として深みのあるものに作り上げた。庭の桜の樹の変化や、手紙に添えた桜の花びらなど、情感溢れる描写も美しい。そして新歌舞伎ならではのリアリティある俳優たちの芝居は、表情のアップも捉える映像作品との相性がいい。歳月が流れても変わらぬ夫婦の情愛の深さと、それでも“失われてしまった37年”を思うやるせなさと――。溢れ出る思いをぐっとこらえるような仁左衛門と玉三郎の繊細な演技は、涙なしには観られない。名コンビが見せる、時を超えた究極のラブストーリー。ぜひ映画館の大画面でじっくり味わってほしい。文:平野祥恵<公演情報>シネマ歌舞伎『ぢいさんばあさん』シネマ歌舞伎『ぢいさんばあさん』本予告上映期間:2025年1月3日(金)~2025年1月23日(木) 全国の映画館にて上映ぴあアプリ限定!アプリで応募プレゼント★シネマ歌舞伎『ぢいさんばあさん』の東劇(東京・築地)招待券を【よくばり❣ぴあニスト】限定で5組10名様にプレゼント!【応募方法】1. 「ぴあアプリ」をダウンロードする。こちら() からもダウンロードできます2. 「ぴあアプリ」をインストールしたら早速応募!
2024年12月02日2024年11月30日、歌舞伎俳優の片岡愛之助さんが、稽古中にケガを負ったことが発表されました。翌日から京都府京都市の劇場『南座』にて上演が開始される『當る巳歳 吉例顔見世興行』に出演予定だった、片岡さん。しかし稽古中に舞台装置と接触し、上顎(じょうがく)および鼻骨骨折と診断されたことを受け、同公演を当面の間、代役を立てて休演することになったといいます。片岡愛之助、負傷による舞台休演に「申し訳ない気持ちでいっぱい」出演予定だった『當る巳歳 吉例顔見世興行』の初日である、同年12月1日、片岡さんは自身のブログを更新。心配をかけていることについて謝罪するとともに、「とても残念で悔しい思いです」と正直な気持ちを明かしました。続いて片岡さんは、今回の休演を受け、このように想いをつづっています。ご予約を賜っていたお客様、並びに竹馬を贈ってくださっているご贔屓方,そして離れたところから応援のお気持ちをくださるファンの皆様に申し訳ない気持ちでいっぱいです然し乍ら、神様がくれたしばしのお休みなのだと、気持ちを切り替え しっかり治したいと思います僕は当面の間 休演となるので、昼の部『大津絵道場寺』は中村壱太郎さんに、夜の部『色彩間苅豆』は中村萬太郎さんに代役をつとめていただいております。萬壽兄さんには大変申し訳無く、お二人にはとても感謝致しております。12月のこの公演が、大成功することを心より願うとともに、療養の間、確りいろいろなことを勉強して、また皆様の前で いい作品を届けられるよう努めます。六代目片岡愛之助オフィシャルブログーより引用ケガをする前日、南座の前で撮影した写真とともに、「お稽古を頑張ります!」と気合を入れたコメントをブログに残していた、片岡さん。日々稽古に励み、舞台と向き合ってきたにもかかわらず、休演という結果になってしまい、誰よりも片岡さん本人が深い悲しみを感じていることでしょう。また、『南座』の顔見世興行では、いわゆる『ご贔屓筋』の人が出演者へのご祝儀として、馬を竹で作った『竹馬』を贈る風物詩があります。そういった多くの声援を噛み締めながら、片岡さんは最後に、ファンに向けて「お心を寄せていただいて感謝致しております」と述べました。片岡さんの気持ちを理解したファンからは、1日も早い回復を祈る声が寄せられています。・本当に驚きました。今は無理をせず、しっかりと休んでくださいね。・愛之助さんを拝見できないのは残念ですが、命が一番大事ですからね!・大河ドラマの撮影もあって、忙しかったと思います。無理しないでください!『當る巳歳 吉例顔見世興行』の上演期間は、同月22日まで。片岡さんが回復し、稽古の成果を舞台上で披露できるよう、たくさんの人が祈っていることでしょう。[文・構成/grape編集部]
2024年12月01日歌舞伎俳優・市村竹松が母校・早稲田大学にて、“Feel the world of Kabuki: Discover the timeless art”(時代を超えた芸能“歌舞伎”を再発見してみませんか? / 早稲田大学ICC主催)と銘打った参加者体験型の歌舞伎解説イベントに登壇。歌舞伎座『十二月大歌舞伎』(12月3日(火) 初日~26日(木) 千穐楽)の第一部で上演される『あらしのよるに』を解説した。きむらゆういち原作の絵本『あらしのよるに』(講談社刊)は、平成6(1994) 年の発売以来、高い人気を誇り、続編を含めた累計発行部数が350万部を超えるベストセラーシリーズ。平成27(2015) 年9月に、京都・南座で新作歌舞伎として上演されると、狼と山羊の迫力満点の立廻りや群舞、義太夫や長唄など、歌舞伎ならではの演出や技法を取り入れた舞台が大きな話題に。今回、絵本発刊30周年を記念し、狼のがぶと山羊のめいがはぐくむ友情を描く感動作が、歌舞伎座で8年ぶりに再演される。『あらしのよるに』ビジュアル竹松は、初演時より山羊のはくを演じており、12月の歌舞伎座での上演でも竹松が5度目となるはく役を勤める。はくは冷静沈着ながら、熱い心を持つ仲間思いの山羊。めいの窮地を救うなど、物語の随所で重要な働きをみせる役となる。平成27年9月(2015年9月) 京都南座『あらしのよるに』はく=市村竹松(C)松竹2013年に早稲田大学国際教養学部を卒業し、父・市村萬次郎が主催する“みんなの歌舞伎”公演プロジェクトを通じて、国内外に向けた歌舞伎及び日本の伝統文化を発信する事業に携わってきた竹松。歌舞伎の歴史や文化との関わり合い、隈取など独特の演出方法に至るまで幅広い内容を、古典の演出手法がちりばめられた『あらしのよるに』の写真や映像を交えながら、留学生を中心とした参加者に全編を英語で解説した。イベント後半には、見得や立廻りを実演。解説ののちに参加者が実際に見得をしたり、二人一組になって立廻りを体験したりするパートでは、歌舞伎の型を丁寧に解説。実際に体を動かしながら、会場を大きく使っての体験は、会場のあちこちから笑い声が聞こえる和やかなひとときに。参加者からは歌舞伎をより身近に感じることができたという声も聞こえた。立廻りの実演立廻りの体験さらに、藤浪小道具株式会社の協力により、実際の舞台で使用される小道具の体験も。普段は間近で見ることのできない和傘などの小道具に直接触れ、雨の音を模した団扇や、浪籠(かごに入れた小豆を動かし、波音を模した小道具)など、参加者たちは先人たちの創意工夫を体験した。差し金の解説和傘・刀(小道具/藤浪小道具提供)イベント終了後も長時間にわたって参加者からの熱心な質問に回答した竹松。「みなさんに熱意をもってお話を聞いていただき、大変意義深い会になったかと思います。多くの海外からの留学生の方、若い方たちが歌舞伎や日本文化に大きな関心を寄せていただいていることがわかり、『あらしのよるに』に向けて身の引き締まる思いです」と公演に向けた決意を語り、イベントを締めくくった。終了後、参加者らの質問に答える竹松<公演情報>歌舞伎座『十二月大歌舞伎』第一部『あらしのよるに』作:きむらゆういち脚本:今井豊茂演出・振付:藤間勘十郎出演:中村獅童、尾上菊之助、坂東亀蔵、中村米吉、市村竹松、市村光、中村陽喜、中村夏幹、澤村國矢改め澤村精四郎、市村橘太郎、市川門之助、河原崎権十郎、市村萬次郎、尾上松緑2024年12月3日(火) 初日~26日(木) 千穐楽会場:東京・歌舞伎座
2024年11月26日2024年11月23日、歌舞伎俳優の市川團蔵さんが亡くなったことが分かりました。73歳でした。サンケイスポーツによると、團蔵さんは同月19日に誤嚥性肺炎による敗血症性ショックのために亡くなったとのこと。葬儀などは親族のみで執り行ったそうです。1951年5月29日に生まれた、團蔵さん。祖父は8代目市川團蔵で、1987年に9代目市川團蔵を襲名しました。日本舞踊柏木流十代目宗家を兼ねており、菊五郎劇団の重鎮としても、なくてはならない存在だったといいます。国立劇場養成事業の歌舞伎俳優研修の講師も務めた團蔵さんは、芝居だけでなく生き方も含めて、後輩の指針となる存在であったとか。2024年5月の歌舞伎座『四千両小判梅葉』が最後の舞台となりました。團蔵さんの訃報を受け、ネットでは悲しみの声が広がっています。・歌舞伎界に貢献された功績は素晴らしかったです。ご冥福をお祈りいたします。・ショックです。もっと見たかった。・渋くて太い演技が好きでした。味わいがあってよかった。・ついこの間、元気な姿を拝見したばかりなのに。さびしいです。堂々とした風格で舞台に立ち、人々を魅了してきた團蔵さんの姿は、多くの人の心に残り続けるでしょう。ご冥福をお祈りいたします。[文・構成/grape編集部]
2024年11月23日11月21日、東京・TACHIKAWA STAGE GARDENにて、立川立飛歌舞伎特別公演が開幕した。地元企業の立飛グループが創立100周年の記念事業として実施、立川で一流の芸能を楽しんでもらう機会をと昨年初めて開催、今回が2回目となる。初出演となる片岡愛之助に、昨年から引き続いての出演となる市川中車、中村壱太郎、さらに大谷廣松、中村歌之助、市川九團次、市川笑也、中村亀鶴らが勢揃いし、4日間の華やかな公演を繰り広げる。11月17日には開催記念のお練りが行われ、開幕に向けて大いに盛り上がりを見せていた立川の街。初日開場前には、立川で初めて実施されるという「一番太鼓の儀」も行われた。寛永元(1624)年に初世田中傳左衛門が開幕を知らせる太鼓を打ったのが始まりという古式ゆかしき儀式。立飛ホールディングス代表取締役社長の村山正道から撥を渡された歌舞伎囃子方の田中傳次郎が太鼓に向かうと、晴れ間がのぞく秋の立川に、勇壮かつ厳かな太鼓のリズムが響きわたった。幕開けは、中車による口上に壱太郎、歌之助による解説が続く。『新版 御所五郎蔵(しんばんごしょのごろぞう)』は、河竹黙阿弥の作を、新たに木ノ下裕一の補綴、藤間勘十郎の演出により上演、最近はあまり取り上げられることのない前半の“時鳥殺し”にも光を当て、幼い頃に生き別れになった姉妹の物語を丁寧に描き出す。歌之助は、自身が演じる浅間巴之丞良治の愛妾、時鳥が、愛之助演じる後室百合の方の恨みを買い、なぶり殺しにされる“時鳥殺し”について、また後半の、愛之助の二役目となる御所五郎蔵、中車演じる星影土右衛門のストーリーを紹介。これを受けて壱太郎は、「登場人物がいろいろで皆さんパニックになっていると思いますが、ひとつ覚えていただきたいのは、愛之助さんが良い人、中車さんは悪い人です!」と場をなごませた。壱太郎は時鳥、傾城逢州の姉妹二役を演じる。その壱太郎、『玉藻前立飛錦栄』でも九役を勤め、宙乗りも披露する活躍ぶり。藤間勘十郎脚本・振付による、「九尾の狐」をモチーフとした新作舞踊だ。いずれも新たに作られた作品で、「皆さまが最初の目撃者、存分に楽しんでいただければ」と、立川発信の舞台をアピールした。いよいよ『新版 御所五郎蔵』の幕が開く。愛之助の登場に客席は大いに沸くが、時鳥を執拗に折檻する姿は、意地悪を通り越して背筋も凍る恐ろしさ。翻って後半は、二役目として演じる御所五郎蔵の男伊達ぶりでまた客席の心を掴む。両花道に愛之助の五郎蔵、中車演じる土右衛門が、それぞれに子分、門弟を引き連れて登場、一触即発の緊張の中で繰り広げられる七五調の台詞の応酬に、会場の広い空間が高揚感で満たされる。ちなみに、TACHIKAWA STAGE GARDENは、多摩地区最大規模となる約2,500席の次世代型エンタテインメント施設で、花道は通常の感覚よりずっと長く、天井も高い。演じ手の声の響き方や、大向う大向うが遥か彼方の遠くから聞こえてくる独特の雰囲気も、専用劇場や公共ホールでは味わえない、スペシャルな空気を醸し出す。2階、3階の一部の花道が見えない観客のために、舞台正面両側には大型のLEDビジョンを設置、舞台の模様をさまざまな角度から映し出すが、正面の席から観ても、生の舞台と中継の映像を同時に体感するような不思議な臨場感が魅力に。最後の演目『玉藻前立飛錦栄(たまものまえたちひのにしきえ)』は、いわば“秋の道成寺”。遠景に富士山が浮かぶ、紅葉の景色が美しい。壱太郎が、美しい白拍子吾妻から座頭杢市、村娘お陽、船頭壱吉、夜鷹お徳、雷、巫女天目、花売りお橘、金毛九尾の狐と、次々と早替りしていくたびに、客席から大きな拍手が。禍々しい金毛九尾の狐が場を圧倒すると、中車による薬王院秀明上人の祈り、愛之助による川村大介義明の押し戻しで、ついにクライマックスへ。宙乗りは初と明かしていた壱太郎だが、この会場ならではの高さのある、ダイナミックな宙乗りが実現、秋らしい演出も素晴らしく、連日客席をあっといわせる。会場では、お弁当やお土産はもちろん、地元立川の製菓店による和菓子も販売。今回の公演では、開演前と幕間のみ客席での飲食を可能にした配慮も嬉しい。地元発信で、歌舞伎の楽しさを多くの人たちと共有したいという思いが、そこここに滲む、温かみのある公演だ。取材・文:加藤智子<公演情報>「立川立飛歌舞伎特別公演」口上・解説河竹黙阿弥 作木ノ下裕一 補綴藤間勘十郎 演出曽我綉俠御所染より新版『御所五郎蔵(しんばん ごしょのごろぞう)』藤間勘十郎 脚本・振付『玉藻前立飛錦栄(たまものまえたちひのにしきえ)』髙尾山薬王院鐘供養の場中村壱太郎九変化宙乗り相勤め申し候出演:片岡愛之助中村壱太郎大谷廣松中村歌之助市川九團次市川笑也中村亀鶴市川中車2024年11月21日(木)~11月24日(日)会場:東京・TACHIKAWA STAGE GARDENチケット情報:()公式サイト:※公演期間が終了したため舞台写真は取り下げました。
2024年11月22日2024年11月18日放送のトーク番組『徹子の部屋』(テレビ朝日系)に、ドラマやミュージカルなど、多方面で活躍している、歌舞伎俳優の尾上松也さんが出演。「最近分かったこと」を明かし、ネット上で驚きの声が上がりました。尾上松也の親戚だと分かった、有名人とは?番組で司会を務める、タレントの黒柳徹子さんから「最近、親戚だと分かったというのは、どなたですか?」と聞かれた尾上さん。「じゃあ、ちょっといいですか」といいながら、尾上さんが、ポケットから取り出したのは、同年7月から発行が始まった、新紙幣の1万円札です。「こちらの1万円札に描かれているのが、実は、私の親戚である、渋沢栄一さんでございます!」と答え、判明した経緯について、このように語りました。番組で調べていただいて、分かったことなんですけれども。びっくりしましたね。すごく近い親戚でございまして。その後、番組を通じて、交流ができまして、今も親戚付き合いをさせていただいているのですけれども。徹子の部屋ーより引用祖先をたどる番組で『日本資本主義の父』とも呼ばれる、実業家の渋沢栄一と親戚であったことが分かり、渋沢栄一の親族と、親戚付き合いが広がったことを明かしたのです。もともと、第12代、14代内閣総理大臣の西園寺公望と、親戚であることは知っていたそうですが、渋沢栄一との関係は聞いたことがなかったようで「家族も知らなかったのだと思います…」とコメント。実は、渋沢栄一だけでなく、新千円札の北里柴三郎、旧500円札の岩倉具視とも親戚だといい、このように述べました。『お札系親戚』が、めちゃくちゃいっぱいいたってことが分かりましてですね。たくさんいて、びっくりしました。光栄ですけれどもね。徹子の部屋ーより引用黒柳さんから、岩倉具視の玄孫(やしゃご)が歌手の加山雄三さんであるため「加山さんとも親戚かも」と伝えられ、さらに驚いた表情を見せた、尾上さん。また、その番組で、タレントのDAIGOさんとも親戚であることが分かったそうで「ほかにも、まだたくさんいるかも」と、人の縁の面白さについて話しました。【ネットの声】・尾上さんの親戚が、華麗すぎて驚く…。・お札のデザインに採用されるような、偉人ばかりとつながりがあって、すごい。・尾上さんと渋沢栄一さんは親戚なのか。知らなかった!・DAIGOさんともつながりがあるのね。血筋がすごすぎる。・尾上さん、お札の人と親戚って、びっくりです!尾上さんの、豪華な家系図に驚いた人も多いことでしょう。祖先を調べると、意外なつながりが見えてくるかもしれませんね![文・構成/grape編集部]
2024年11月21日歌舞伎と劇団☆新感線の作品が融合した歌舞伎NEXT『阿弖流為〈アテルイ〉』から9年。待望の第二弾が立ち上がる。演目は、脚本・中島かずき、演出・いのうえひでのり、主演・松本幸四郎(当時市川染五郎)で17年前に上演され、“いのうえ歌舞伎”の中でも名作と語り継がれてきた『朧の森に棲む鬼』。主演は、初演に引き続いての幸四郎と、歌舞伎NEXT初挑戦となる尾上松也がダブルキャストで勤める。歌舞伎の新たなるステージを目指して命名された歌舞伎NEXT。幸四郎と松也がどんな歌舞伎の未来を見せるか。こんなに怖いものを観たことがないと興奮してくださる世界を──歌舞伎NEXTが第一弾の『阿弖流為』でスタートしたのが9年前。幸四郎さんには立ち上がったときの思いを、そのとき出演できなかった松也さんには当時どう感じておられたのかをお聞かせください。幸四郎これまでに何度か劇団☆新感線さんの作品に出演してきて、その中で次にどんな展開があるだろうと考えたときに、今度は逆に歌舞伎の世界のほうに来ていただけないかと思ったんです。歌舞伎と新感線のあの世界観が混ざり合ったら何が生まれるか。そこをテーマにスタートしました。演出のいのうえひでのりさんも、新感線でのいつもの演出のようにしっかり絵を作られたうえで、「ここは歌舞伎だったらどういう表現法がありますか」と聞いてくださって。我々もそれに応えていって、毎日何か新しいものが生まれていくという稽古でした。松也そもそも劇団☆新感線さんの作品には、幸四郎さんがご出演される前から歌舞伎へのリスペクトが感じられる場面や演出がたくさんありましたので。まず、幸四郎さんが新感線に出られたときに、歌舞伎俳優が演じたらこうなるぞというお手本みたいな表現が観られるぞと思って拝見していたんです。それが歌舞伎NEXTでいよいよ本当に歌舞伎俳優だけで上演するとなったときには、もちろん参加したいという気持ちがありましたが、別の公演がすでに決まっていて出演できず。とにかく悔しかったというのが一番でした。──今回の第二弾『朧の森に棲む鬼』で松也さんもようやく参加できることになりましたね。新感線では2007年に上演され、幸四郎さんが主演された作品ですが、改めてその面白さはどこにあると思われていますか。幸四郎主人公のライというのは悪に染まりまくった男で、嘘をつき、騙して、ほしいものを手に入れていくんです。その姿は怖くもあり、怪しくもあり、刺激的でもあり、快感でもある。だから、その悪の生き様にどっぷり浸って、こんなに怖いものを観たことがないと興奮してくださる世界を目指したいと思っています。松也ライが駆け上がって堕ちていくそのスピード感とスケールの大きさは、『リチャード三世』が下地にあるとはいえ、他にはなかなかないものだと思います。その成長と堕落のどちらの要素もあるのが面白いところですし、それに加えて悪の面も、実は誰しも共感できる部分があると思うんです。幸四郎企んだことがすべて上手くいくというのは、やはり興奮しますよね。口先で人を自分の思い通りにしていき、さらに強力な剣も手に入れているのでもう怖いものがない。だから、演じるうえでは改めて、喋ること、強い体を作ること、という基本的な訓練をして臨みたいです。とにかく、17年前に新感線さんで演じたものは忘れて、一から挑戦するつもりです。松也僕はもう、いつも以上に内面からその世界に陥る感覚にならなければいけないなと思いますね。ライの野性的な狂気に、いかに自分が俳優として人間として興奮できるか。それが幸四郎さんのおっしゃるお客さまの興奮につながっていく気がします。もちろん立廻りなどいろいろな仕掛けからでも迫力や興奮は伝わると思うのですが、そこに至るまでをまず自分で作って、お客様に悪の世界に没入していただけるよう努めたいと思います。──今回のダブルキャストには趣向があって、おふたりは、ライを演じない回では、ライと敵対するサダミツ役で登場されます。二役を演じることについて、現段階で何か思うところはありますか。幸四郎サダミツとしてライと対峙することで、ライを演じることに影響がないわけないでしょうね。松也敵対する役という意味では、二役を演じるのにちょうどいいかもしれないですね。(市川)猿弥さんが演じられるマダレも、遊べる役どころですので挑戦してみたかったですけど。ですが、サダミツも面白いことができそうな気がします。初演で演じていらっしゃった小須田康人さんがすごい表情をしてらっしゃって(と、口を大きく開けて顔を歪める)。幸四郎(笑)。松也あの顔が大好きなので、歌舞伎的に正面切ってやりたいなと(笑)。いのうえさんの演出によってどうなるかわかりませんが。「永遠の演劇少年」いのうえさんと、新感線の面々から学んだこと──幸四郎さんは市川染五郎時代に、『阿修羅城の瞳』(00年、03年)、『アテルイ』(02年)、『髑髏城の七人~アオドクロ』(04年)、『朧の森に棲む鬼』(07年)で新感線に主演され、松也さんは『メタルマクベス』disc2(18年)の主演で初めて新感線を経験されました。いのうえさんの演出にはどんな刺激がありますか。幸四郎いのうえさんは具体的に動きを演出してくださるんですけど、「確かにこれカッコいいよね」とか、「ここでキマると気持ちいいよね」とか、すぐに納得させられるというか、乗せられてしまうんです(笑)。松也新感線の皆さんと一緒にお芝居を作って感じたのは、一見バカみたいなことを(笑)、全員が全力で楽しんでいるということでした。そういう大人たちを見ているだけで僕は楽しかったですし、その一番手にいるのがいのうえさんで永遠の演劇少年みたいな。その情熱や魂が基盤となって作品が作られていくのを目の当たりにしていると、自分もこうありたいと思えて。これから演劇に携わり、もの作りをしていくうえでの勇気をいただけた感覚があります。幸四郎それこそ、5秒使うだけの小道具も、時間をかけて素晴らしいものを作るんですよね。殺陣にしても、当たり前のことではありますが、全員に意味のある手をつけていく。お芝居も、アドリブを入れる隙がないくらい作り上げられていますし。そこまで徹底しているからあれだけ面白いんだと気づかされるんです。──第二弾では、第一弾以上に歌舞伎の要素を盛り込みたいといのうえさんがおっしゃっていましたが、歌舞伎俳優として提案してみたいことはありますか。幸四郎いのうえさんの作品は、音楽にインパクトのあるものが多いんですけど、その意味では、歌舞伎はまさに音楽的なお芝居で、長唄や義太夫などいろいろな音楽がありますので。それと新感線の音の組み合わせで歌舞伎NEXTの音楽というジャンルができたら面白いなと考えたりはしています。松也僕はまだ具体的な案はないのですが、せっかく歌舞伎の要素を取り入れるのであれば、何をすれば作品にとって効果的なのかをしっかり見極めていきたいと思っています。見得をすればいいというものでもありませんし、何が必要かを考えながら、歌舞伎が持っている力を出したいです。幸四郎稽古では自分自身のことで手一杯になってしまうと思いますが、でも、出演者がそれぞれ自分を最大限活かせるような稽古を積み重ねていけるといいですよね。松也たぶん逆に、歌舞伎俳優としての引き出し以外のものも求められると思うんです。僕も『メタルマクベス』のときに、吹っ切ってやらなきゃいけないこと、越えなければいけない壁みたいなことがありましたから。そこでそれぞれのいいものが出てくるだろうなとも思うので、今回出演する歌舞伎俳優たちにぜひ期待していただきたいです。「憧れるのはやめて」刺激を与え合う関係──幸四郎さんと松也さんは、ダブルキャストとして、またライとサダミツで対峙する相手として、お互いのどんなところを楽しみにしておられますか。松也幸四郎さんは前回演じたライを忘れて挑戦するとおっしゃっていますが、もちろん僕が幸四郎さんの立場でもそう考えると思いますが、それでもやはり、17年前の幸四郎さんを観て憧れてきた人間としては正直、「あの幸四郎さんのライをナマで観ることができる」という喜びが大きくて(笑)。僕だけではなく後輩たちみんながそれを楽しみにしているところがあるかと。それだけの印象と影響を幸四郎さんは僕たちに残してくださいました。その方と同じお役を演じるのはプレッシャーですが、大谷翔平さんの言葉をお借りして、「憧れるのはやめて」挑戦するという心を持って臨みたいです。幸四郎いや、僕のほうこそ頑張らないと。松也くんは本当に情熱的なお芝居をするんですよね。常に自分の心を動かして芝居をしているなと感じる。本来芝居ってそういうものだなと、改めて実感させてくれる刺激になる存在なんです。今回はダブルキャストで同じ役を見比べていただくので、さらに刺激になると思います。なんとか僕も頑張ります!取材・文:大内弓子撮影:荒川潤ぴあアプリ先行抽選受付中!【チケット先行受付中!】歌舞伎NEXT『朧の森に棲む鬼』新橋演舞場()<公演情報>歌舞伎NEXT『朧の森に棲む鬼』作:中島かずき演出:いのうえひでのり【配役】ライ/サダミツ(交互出演):松本幸四郎/尾上松也ツナ:中村時蔵シキブ:坂東新悟キンタ:尾上右近シュテン:市川染五郎アラドウジ:澤村宗之助ショウゲン:大谷廣太郎マダレ:市川猿弥ウラベ:片岡亀蔵イチノオオキミ:坂東彌十郎【東京公演】2024年11月30日(土)~12月26日(木)会場:新橋演舞場【福岡公演】2025年2月4日(火)~2月25日(火)会場:博多座公式サイト:
2024年10月17日月公演「八月納涼歌舞伎」が、8月4日に初日の幕を開けた。納涼歌舞伎は、平成2(1990)年より十八世中村勘三郎(当時 勘九郎)と十世坂東三津五郎(当時 八十助)らを中心に、花形俳優が活躍する公演として人気を博してきた。納涼歌舞伎恒例の三部制で、古典歌舞伎の名作から期待高まる新作歌舞伎、熱の訪れを感じさせる舞踊まで、熱気あふれる舞台が目白押し。その初日オフィシャルレポートをお届けする。第一部の開場前には、松本幸四郎、中村勘九郎、中村七之助、坂東巳之助、坂東新悟、大谷廣太郎、中村米吉、中村児太郎、中村橋之助、中村福之助、中村虎之介、中村歌之助、市川染五郎、中村勘太郎、中村長三郎が、それぞれ直筆の言葉をしたためたうちわを手に、そろいの浴衣で劇場前に登場。幸四郎、勘九郎、七之助、巳之助、新悟、児太郎、橋之助が挨拶し、皆で「歌舞伎座でお待ちしております!」と掛け声をかけると、集まった人々から大きな拍手と声援を受けた。うちわは、公演期間中、出演者31名分を劇場2階ロビーに展示するという。第一部は、『ゆうれい貸屋(ゆうれいかしや)』から。山本周五郎原作の人情喜劇で、今回坂東巳之助の弥六、中村児太郎の染次、中村勘九郎の又造と、それぞれの父たちが勤めた役々を初役で勤めることで話題の舞台だ。幕が開くと、江戸は京橋の桶屋。お兼(坂東新悟)と家主平作(坂東彌十郎)が、仕事もせずに出かけてしまった弥六(巳之助)を嘆いている。しかし酒に酔って帰ってきた弥六が聞く耳を持たないため、お兼は実家へと帰ってしまう始末。やがて日が暮れ、弥六のもとに現れたのは美しい芸者の幽霊、染次(児太郎)。女房にしてほしいと申し出る染次と戸惑いつつもまんざらでもない弥六のコミカルなやりとりに、観客からは自然と笑みがこぼれる。やがて染次と夫婦同然の仲となり昼夜逆転の生活を送る弥六は、平作から店賃の滞りがあれば追い出すと言われてしまう。ふたりが店賃を稼ぐ算段として考え付いたのは、恨みを晴らしたい人に幽霊を貸し出す「ゆうれい貸家」。染次は、屑屋の幽霊又蔵(勘九郎)をはじめ、爺の幽霊友八(市川寿猿)、娘の幽霊お千代(中村鶴松)を呼び寄せ、大いに商いは繁盛するが……。個性豊かな幽霊たちと弥六の軽快なやりとりに笑いながらも、人間の本性をも感じさせる哀愁溢れる人情喜劇に、客席からは大きな拍手が送られた。続いては、『鵜の殿様(うのとのさま)』。歌舞伎舞踊としては本年2月に博多座「二月花形歌舞伎」にて初演され、好評を博しての再演となる。夏の盛り、大名(市川染五郎)が腰元たち(市川高麗蔵、澤村宗之助、市川笑也)を相手に舞を舞っている。大名は暑さしのぎに太郎冠者(松本幸四郎)を呼び寄せると、故郷の鵜飼の様子を語らせる。自らも鵜飼ができるかと尋ねる大名に、容易いことだと答える太郎冠者。しかし、太郎冠者は日頃の憂さ晴らしにと、鵜飼をよく知らない大名に鵜の役をさせて……。鵜匠と鵜が縄でつながれている様子を、幸四郎、染五郎親子がまるで本物の縄でつながれているように全身いっぱいでダイナミックに表現。鵜匠と鵜の関係に見立てた可笑しみ溢れる舞踊劇に、客席からは笑いが沸き起こり、快活な雰囲気に包まれた。「エッチで悪い男」と語った勘九郎が、初役の新三で観客を魅了第二部は、河竹黙阿弥による生世話物の傑作『梅雨小袖昔八丈 髪結新三(つゆこそでむかしはちじょう かみゆいしんざ)』で幕開け。祖父十七世中村勘三郎、そして父の十八世勘三郎が当たり役とした新三に、満を持して勘九郎が初役で挑む。幕が開くと、そこは材木問屋の白子屋。身代が傾きつつある白子屋では、一人娘のお熊(中村鶴松)に婿を迎えようとしている。仲人の加賀屋藤兵衛(市川中車)と奉公人の車力善八(片岡亀蔵)が結納品を持参し、後家お常(中村扇雀)が迎える。しかし店の手代忠七(中村七之助)と恋仲のお熊は、縁談を受け入れることができない。白子屋に出入りする髪結の新三(中村勘九郎)はその事情を盗み聞き、慣れた手つきで髪を撫でつけながら、忠七に駆け落ちを唆す。その晩、お熊を連れ出した忠七は永代橋のたもとで豹変した新三に蹴飛ばされ、額に傷をつけられてしまう。手練れた髪結姿から一変し、忠七を罵る新三の「傘づくし」の名セリフ。悪党の本性をあらわにしながらもどこか色気のある新三の姿に、客席は一気に引き込まれた。新三が颯爽と立ち去ったあと、身投げしようとする忠七を引き留めたのは侠客の弥太五郎源七(松本幸四郎)。お熊を取り返すため新三との交渉を引き受ける。悠然とやってきた親分の源七を新三と下剃勝奴(坂東巳之助)はうやうやしく迎える。源七は新三に啖呵を切ったものの追い返されしまい、ふたりの間には遺恨が残る。代わって交渉を引き受けたのは長屋の家主・長兵衛(坂東彌十郎)で……。老獪で言葉巧みな長兵衛に新三が次第にやり込められる、打って変わったおかしみある展開に、客席の雰囲気もがらりと変化。さらに、小気味良いやり取りの中では、「それはうちの親父だよ」と今年が十三回忌となった十八世勘三郎を思わせるセリフも飛び出すなど、客席からは大きな笑いが起こった。初鰹を売る魚売りの声や、湯上りの浴衣姿の新三など、季節感に溢れ、江戸市井の生活を活き活きと描き出す本作。筋書に向けたアンケートで新三を「エッチで悪い男」と語った勘九郎が、初役の新三を粋でいなせに勤めあげ観客を魅了した。続いては、夏の江戸風俗を軽妙洒脱に描いた舞踊『艶紅曙接拙 紅翫(いろもみじつぎきのふつつか べにかん)』。幕が開くとそこは富士山の山開きで賑わう、浅草・富士浅間神社。庄屋の銀兵衛(坂東巳之助)、団扇売りのお静(中村児太郎)、朝顔売りの阿曽吉(中村福之助)、蝶々売留吉(中村虎之介)、大工の駒三(中村歌之助)、町娘のお高(市川染五郎)、角兵衛獅子の神吉(中村勘太郎)らが揃ってそれぞれ踊る。何か面白いことはないかと口々に言う皆に呼び出されてやってきたのは、江戸で評判の遊芸を見せる紅翫(中村橋之助)。虫売りのおすず(坂東新悟)に続いて面を使った踊りや多彩な芸を披露すると、客席からは大きな拍手が送られた。最後には賑やかに勢ぞろいの踊りとなり、花形俳優が揃った清新な舞台の華やかな雰囲気で第二部を締めくくった。「京極夏彦×歌舞伎」というファン待望の組み合わせがついに実現第三部は、ミステリー界の鬼才・京極夏彦脚本による新作歌舞伎『狐花 葉不見冥府路行(きつねばな はもみずにあのよのみちゆき)』が遂に開幕。小説家デビュー30周年を迎える京極夏彦が、初めて歌舞伎の舞台のために書き下ろした本作は、累計発行部数1000万部を超える「百鬼夜行」シリーズ、そして文学賞三冠を果たした「巷説百物語」シリーズにも連なる物語。「百鬼夜行」シリーズの主人公・中禅寺秋彦の曽祖父である中禪寺洲齋(ちゅうぜんじじゅうさい)を主人公に、美しい青年の幽霊騒動と作事奉行らの悪事の真相に中禪寺が迫る。歌舞伎の上演に先駆け7月26日には小説も発売され注目が集まる中迎えた初日、「京極夏彦×歌舞伎」というファン待望の組み合わせがついに実現するとあって客席からも興奮が伝わる。物語は呪詛を生業とした信田家当主の妻・美冬に横恋慕した上月監物(中村勘九郎)らが信田家の一族郎党を皆殺しにした残虐な事件から始まる。事件から25年後、監物の娘雪乃(中村米吉)、近江屋の娘登紀(坂東新悟)、辰巳屋の娘実祢(中村虎之介)、そして上月家女中お葉(中村七之助)の周囲に現れたのは彼岸花を染め抜いた小袖を着た謎の男・萩之介(中村七之助)。いくつもの謎をはらむ幽霊事件を解き明かすべく、“憑き物落とし”を行う武蔵晴明神社の宮守・中禪寺洲齋(松本幸四郎)が監物の屋敷に招かれる。やがて明らかとなる真実とは――。作中では鮮やかな赤の曼珠沙華の花が物語の重要なモチーフとして登場し、「死人花」「墓花」「彼岸花」「蛇花」「幽霊花」「火事花」「地獄花」「捨子花」「狐花」と、曼珠沙華の別称で章立てされ、歌舞伎座の舞台を印象的に彩る。そして、暗闇の中に赤く浮かび上がる曼珠沙華と共に人々を妖しくも、美しく哀しい物語の世界に誘う舞台音楽。公演に先立ち行われた取材会で「京極さんの作品は、小説でありながら、優しく、怪しく、艶っぽい音楽が聞こえてくるような感覚があります。」と語った幸四郎の言葉にもつながる、小説から聞こえてくるかのような音色が、歌舞伎座を包み込む。初日を観劇した京極夏彦氏は「小説は書かれていないところこそが大事。読者が小説の行間や紙背をいかに生み出すか。一方で、歌舞伎を含めた演劇というのはそこをどう作るか。舞台づくりは役者さんと舞台を作られるみなさんに全幅の信頼をおいて一任していましたので、本日拝見して、見事に小説の行間を埋めて紙背を描いてくださっていたと思います。」とコメントしている。まさに“京極歌舞伎”が誕生した瞬間を目撃した観客からは、割れんばかりの拍手が贈られた。「八月納涼歌舞伎」は8月25日(日)まで、東京・歌舞伎座で上演中。〈公演情報〉「八月納涼歌舞伎」【第一部】11:00~一、ゆうれい貸屋二、鵜の殿様【第二部】14:30~一、梅雨小袖昔八丈髪結新三二、艶紅曙接拙紅翫【第三部】18:15~狐花葉不見冥府路行2024年8月4日(日)~25日(日)※13日(火)、19日(月)休演※第三部は21日(水)貸切。幕見席は営業会場:東京・歌舞伎座チケット情報:()公式サイト:※公演期間が終了したため、舞台写真は取り下げました。
2024年08月06日明治座花形歌舞伎が8年ぶりに復活することが決定し、11月に『明治座 十一月花形歌舞伎』が上演されることが発表された。明治座花形歌舞伎は平成23(2011) 年以来、次世代を担う花形俳優たちが大役に挑む話題性や、歌舞伎に馴染みのない人にも分かりやすいエンターテインメント性に富んだバラエティ豊かな演目を上演してきた。令和2(2020) 年3月には、中村勘九郎、中村七之助を中心とした座組で『明治座 三月花形歌舞伎』を予定していたが、新型コロナウイルス感染拡大に伴い全公演中止に。それから4年の時を経て明治座花形歌舞伎が帰ってくる。『明治座 十一月花形歌舞伎』は中村勘九郎、中村七之助をはじめ、花形公演に相応しい華やかな顔ぶれが揃う。昼の部は歌舞伎の様式美溢れる『車引』、長谷川伸の傑作『一本刀土俵入』、華やかな女方舞踊『藤娘』、夜の部は義太夫狂言の名作『鎌倉三代記』、息もつかせぬ早替わりが圧巻の『お染の七役』と多彩な演目が上演される。<公演情報>『明治座 十一月花形歌舞伎』公演期間:11月2日(土) 初日~26日(火) 千穐楽※休演日は11月11日(月)、20日(水)会場:明治座開演時間:昼の部 11:00 / 夜の部 16:00【演目・配役】■昼の部一、菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)一幕車引長谷川伸 作村上元三 演出二、一本刀土俵入(いっぽんがたなどひょういり)二幕五場三、藤娘(ふじむすめ)長唄囃子連中『菅原伝授手習鑑 車引』松王丸:坂東彦三郎梅王丸:中村橋之助桜丸:中村鶴松藤原時平:坂東楽善『一本刀土俵入』駒形茂兵衛:中村勘九郎お蔦:中村七之助堀下根吉:中村橋之助若船頭:中村鶴松波一里儀十:喜多村緑郎船印彫師辰三郎:坂東彦三郎老船頭:市川男女蔵『藤娘』藤の精:中村米吉■夜の部一、 鎌倉三代記(かまくらさんだいき)一幕絹川村閑居の場四世鶴屋南北 作渥美清太郎 改訂於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)二、お染の七役(おそめのななやく)三幕中村七之助早替りにて相勤め申し候浄瑠璃「心中翌の噂」(しんじゅうあしたのうわさ)『鎌倉三代記』佐々木高綱:中村勘九郎時姫:中村米吉おくる:中村鶴松母長門:中村歌女之丞三浦之助義村:坂東巳之助『お染の七役』油屋娘お染・丁稚久松・許嫁お光・後家貞昌・奥女中竹川・芸者小糸・土手のお六:中村七之助鬼門の喜兵衛:喜多村緑郎油屋多三郎:坂東巳之助船頭長吉:中村橋之助丁稚長松:坂東亀三郎腰元お勝・女猿廻しお作:中村鶴松山家屋清兵衛:坂東彦三郎庵崎久作:市川男女蔵【チケット】(税込)一等席(1階席・2階席正面)15,000円二等席(2階席左右)7,500円三等A席(3階席正面)5,000円三等B席(3階席左右)3,000円※未就学児入場不可※車いすスペースは明治座チケットセンター及び明治座切符売場にて販売いたします。※三等B席は舞台の一部が見づらい可能性のある座席です。■一般発売電話・ネット予約:9月21日(土) 10:00~
2024年07月17日歌舞伎に現代の視点を取り入れつつ、その新たな可能性を発信してきた木ノ下歌舞伎(通称・キノカブ)の『三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)』が9年ぶりに再演されることになり7月16日(火)、東京池袋の東京芸術劇場にて制作発表会見を開催。監修・補綴の木ノ下裕一、演出の杉原邦生、出演者の田中俊介、須賀健太、藤野涼子、川平慈英、緒川たまき、眞島秀和が出席した。(「お嬢吉三」を演じる矢部昌暉は体調不良のため欠席)。歌舞伎作者のレジェンド・河竹黙阿弥による最高傑作に大胆な新解釈を加え、2014年の初演に続き、翌15年には東京芸術劇場でも上演され、読売演劇大賞2015年の上半期作品賞部門のベスト5に選出された本作。数奇な運命に翻弄される3人の“吉三”の運命を描き出す。キノカブ版では、現行の歌舞伎ではカットされている商人と花魁の恋のパート、さらに初演以来約160年ぶりに「地獄の場」を復活させており、上演時間は5時間におよぶが、演出の杉原は「絶対にお客様を飽きさせることなく興奮の渦に巻き込みます!」と力強く宣言。木ノ下は河竹黙阿弥について「既存の認識では、メッセージ性が希薄な作家と思われていますが、そんなことは全然ないんです。初演は安政7年ですが、5年前には安政の大地震が江戸に壊滅的な被害を与え、2年前にはコレラによる多くの犠牲者が生まれていて、随所に昨日まで元気だった人が今日、急に死ぬという、死の近さや疫病の存在が散りばめられています。震災や大きな疫病を体験し、まだその真っただ中にいる現代の私たちにとって、この『三人吉三』は、また違った輝きを見せると思います」と現代に上演することの意義を強調する。この日、登壇したキャスト陣は全員、キノカブは初挑戦。木ノ下歌舞伎では、歌舞伎俳優によって演じられている歌舞伎の映像のセリフや動きを俳優陣が徹底的に模倣する“完コピ稽古”を稽古前半に行なうことになっており、これまでと異なる初めての稽古を前に一同、戦々恐々……?坊主上がりの盗賊である和尚吉三を演じる田中は「(普段は役を)自分で生み出すことが多いんですが、今回はモノマネをするところから始まるという初めての経験です。家で繰り返し、(資料の)映像を見て、モノマネをしています」と語る。武家上がりのお坊吉三を演じる須賀は「上演前の台本を読みながら、2~3回閉じました(苦笑)。本当にこれをやるのか…? と」と明かす。この日、共演陣とも初めて顔を合わせたが「どことなく、学校のテスト前の探り合いのようなピリピリ感を感じています(笑)」と語る。藤野は、武家出身の花魁を演じるにあたり、実際に現在の吉原に足を運んでみたそうで「あまり(昔のものは)残ってないんですが、見返り柳や門が残っていました」とふり返る。眞島は歌舞伎初挑戦を前に「右も左もわからない状態」と不安を口にしつつも「初日には堂々と舞台に立てるように稽古に励んでいきたいです」と意気込みを語る。川平も歌舞伎初挑戦となるが「これまでの生業のほとんどがミュージカルと楽天カードマンだったので……」と笑いを誘いつつ「人間のドロドロした負の部分が入り混じる物語ですが、軽やかでスタイリッシュに、観終わって『よかったな』と生への賛美の気持ちを抱いたり、前向きなエネルギーを届けられたらと思います」と語った。緒川は、本作が初演時にお正月公演として上演されたということに言及。「台本を読むと様々な運命を背負った、こんなにも人の生き方って多様なのかという人たちが右往左往していて、これを黙阿弥は(正月公演で)人を楽しませるために描いたというふうに読むと、江戸の庶民のひとたちは、なんて粋で心が広い人たちだったのかと感じます。現代版の作品として、いまを生きる私たちに楽しんでもらえる作品になるといいなと思います。不幸が渦巻いていて、どうしてこんなにかわいそうなのか? どうしてこんな酷いことができるのか? という人たちが出てきますが、江戸の人たちに倣って、楽しめる方向に引っ張っていきたいです」と思いを語っていた。木ノ下は緒川の言葉を受け「こんな暗い芝居を正月に当て込んだ木阿弥やっぱりヤバいなと思いました(笑)。でもその背後には『みなさん、よくぞ生き延びました。こういう世界だけど頑張っていきましょう。死んだ人がかわいそうだと思うかもしれませんが、私たちも頑張ってますよね』というエール、メッセージが強くあると思います。そのあたりを引き出せる『三人吉三』にしていきたいです」と“生”への希求を力強く描き出す作品にしたいと語った。『三人吉三廓初買』は東京芸術祭 2024 芸劇オータムセレクションとして東京芸術劇場プレイハウスにて9月15日(日)より上演。7月19日(金)まで、『三人吉三廓初買』東京公演のチケット先行発売中!この機会にぜひ!▼詳細は下記よりご確認ください。<公演情報>東京芸術祭 2024 芸劇オータムセレクション東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎『三人吉三廓初買』作:河竹黙阿弥監修・補綴:木ノ下裕一演出:杉原邦生[KUNIO]【主な配役】和尚吉三:田中俊介お坊吉三:須賀健太お嬢吉三:矢部昌暉丁子屋花魁 一重:藤野涼子木屋手代 十三郎:小日向星一伝吉娘 おとせ:深沢萌華八百屋久兵衛:武谷公雄丁子屋花魁 吉野:高山のえみおしづ弟 与吉:山口航太文蔵倅 鉄之助:武居卓釜屋武兵衛:田中佑弥丁子屋新造 花琴:緑川史絵土左衛門伝吉:川平慈英文里女房 おしづ:緒川たまき木屋文蔵[文里]:眞島秀和スウィング:佐藤俊彦藤松祥子【東京公演】日程:2024年9月15日(日)~29日(日)会場:東京芸術劇場 プレイハウス【長野(松本)公演】日程:2024年10月5日(土)・6日(日)会場:まつもと市民芸術館 主ホール【三重公演】日程:2024年10月13日(日)会場:三重・三重県文化会館 中ホール【兵庫公演】日程:2024年10月19日(土)・20日(日)会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
2024年07月16日●悪役は「非常に楽しい」『怪盗グルー』最新作でも熱演ドラマや映画など映像作品でも活躍している歌舞伎俳優の片岡愛之助。「より多くの人たちに歌舞伎に興味を持ってもらいたい」との思いで歌舞伎以外の仕事にも精力的に取り組んでいる。アニメーション・シリーズ『怪盗グルー』の最新作『怪盗グルーのミニオン超変身』(7月19日公開)では、グルーの高校の同級生であり宿敵のマキシム役の吹き替えを務めた。愛之助にインタビューし、『怪盗グルー』シリーズ参戦の喜びや悪役のやりがい、今の仕事に対する思い、自身の性格や結婚後の変化など話を聞いた。本作で『怪盗グルー』に初参戦となった愛之助。人気シリーズへの参加に「すごくありがたいです。皆さん知っていて、小さいお子さんたちはミニオンと聞いただけで目を輝かせますよね。すごい人気ぶりなので緊張しましたが、生きた証として作品がずっと残っていくというのもうれしいです」と喜んでいる。TBS系ドラマ『半沢直樹』シリーズの黒崎駿一役や、昨年公開された映画『翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~』の大阪府知事役など、主人公と敵対するクセの強い役を見事に演じ存在感を放っていた愛之助。『怪盗グルーのミニオン超変身』でも重要な悪役を任された。「ミニオンの役かと思ったらそうではなく、しかも今回こそいい人の役かと思ったら、また悪い役でした(笑)。いつもクセ強めだなと。でも夢があって、悪だけではなく、悪さの中にかわいらしい部分やツッコむようなところがあったり、素晴らしい作品だなと思いました」そして、「悪役は面白いですね」とやりがいを語る。どんな物語でも主人公は痛めつけられて痛めつけられて最後に跳ね返す。悪役はガンガン攻撃するほうなので演じていてスッキリしますし、実際の生活ではできないようなことをするので非常に楽しいです」続けて、「『翔んで埼玉』もそうですが、ああいった馬鹿げたことを真剣にやるからこそ面白い。中途半端にふざけて照れながらやっても面白くないんです。とことん真面目にやり続けるから面白いので、真面目に悪役やっています」と言い、今回のマキシム役も「真面目に演じました!」と話した。アフレコでは、監督と話し合いながらどんな声で演じるか決めていったそうで、「明るくて陽気で、おフランス帰りの嫌味なヤツみたいな、ちょっとインテリぶった感じと(監督が)おっしゃっていたので、その雰囲気を出せればいいなと思いながら演じました」と説明。「絶叫もあり、楽しかったです(笑)」と普段発さないようなセリフを満喫したようだ。そして、「役を構築するという意味ではどの仕事も共通している」と言うも、「声で喜怒哀楽を表現するのはすごく難しい」と吹き替えの難しさを実感。「しかも英語でしゃべられていることを日本語で。英語の単語の字数と日本語だと、絶対に日本語のほうが長くなり、それをキャラクターの口が開いている間に全部しゃべらないといけないので早口になるところもありました」主人公グルーの声はシリーズ1作目『怪盗グルーの月泥棒』から14年にわたって笑福亭鶴瓶が務めているが、愛之助は収録で鶴瓶演じるグルーの声を聞き、シリーズ参戦の喜びを感じたという。「僕が収録するときに、鶴瓶さんの声がすでに入っているところもあって、自分が見ていたグルーと会話ができているというのはうれしかったです。昔から鶴瓶さんを存じ上げていますが、グルーのイメージも大きいですから」●自身の生き方に影響を与えた両親の死歌舞伎への思いも自身と演じたマキシムの共通点は「全くないです」と笑い、「正反対だから、そんなに根に持つんだとか、こういう考え方の人もいるんだとか、勉強になりました。唯一の共通点を探すとしたら、マキシムは虫が大好きで虫の研究ばかりしていて、僕は歌舞伎が好きで歌舞伎に没頭しているので、何か一つに没頭するというのは共感できました」と話した。そして、自身の性格をどう捉えているか尋ねると、「悩まないです」と回答。「悩んでずっと立ち止まっている時間は人生において無駄だなと思うんです。解決しないから悩み事なわけで、それを一生考えていても一生解決しない。ちょっと違う道に行ってみたら解決することもあるので、あまり悩まず次に行くようにしています」悩まない性格は、両親の死も関係があると明かす。「両親が2人とも早く亡くなり、母親が53歳、親父が56歳でした。母親が亡くなった時に、母親の骨壺を見て『人間死んだら終わりやで。だから、後悔しないように生きることが大事だな』と言っていた親父も1年後に骨壺に入ってしまったので、こういうことかと、その言葉が身に染みました。自分の人生だから後悔しないように生きていかないといけないなと。好きなことだけして生きていくというのは無理ですが、人生楽しく、調和を取りながらみんなと仲良く生きていきたいなと思っています」両親の死をきっかけに「後悔しないように生きよう」と改めて感じ、悩んで立ち止まることがなくなった。「もちろん『なんで失敗したんだろう』と考えることは必要ですが、反省したらすぐ次に行けばいい。ずっとそこでくよくよしていても次の扉は開かないので、切り替えが大事だと思います」仕事においても立ち止まることなく挑戦を続け、歌舞伎以外の仕事にも精力的に取り組んでいる愛之助だが、原動力は「もっとたくさんの人たちに歌舞伎に興味を持ってもらいたい」という思いだ。「僕は歌舞伎役者で、特に上方歌舞伎を残していかなければいけないお家に入れていただいたので、最近上演されていない上方歌舞伎を復活させたり、新作を作ってみたり、歌舞伎に興味のない人たちに振り向いてもらうことがすごく大事だと思っています」最近は海外の観客がとても増えているという。「僕らも海外旅行をする時にその土地の文化を調べるように、海外の方が日本の文化に興味を持って歌舞伎を見に来てくれる。この間、歌舞伎で『流白浪燦星(ルパン三世)』をやったら、『ぜひこれを海外に流してほしい』という声がたくさんあったので、海外配信も決まりました。そうやって広まっていくのはうれしいですね。でも日本に住んでいる方たちになかなか興味を持ってもらえないので、そういう方たちにも興味を持ってもらうために僕はいろんな仕事をやっています」幅広く活動する中で相乗効果も実感しているという。「それぞれ全然違うステージだなと感じますが、結局職業としては俳優なので、どれをやってもとても勉強になる。『怪盗グルー』のような新しい仕事でも歌舞伎で培ったものが使えたりしますし、こっちで培ったものも新作歌舞伎を作る時に使えたりしますから。どん欲にいろんなことを死ぬまで挑戦し続けていきたいなと思っています」実際に、歌舞伎以外の仕事でファンになってくれた人が歌舞伎を見に来てくれるという反響も感じている。「今の時代はネットでいろんな感想を書いてくださいますが、『半沢直樹』の時に一番反響を感じました。『黒崎さんの歌舞伎が見たいと思って歌舞伎を見に来ました』って見に来てくれて、『歌舞伎かっこよかったです』『黒崎さんありがとう』という声をいただき、自分がやっていることは間違ってなかったんだなと。だからこれからも続けていこうと思います」1年のうち歌舞伎は6カ月、残りの6カ月はドラマや映画などほかの仕事をするように決めているそうで、「10年以上ずっとそうしています」とのこと。そして、今後について「貪欲にいろんなことに、ご縁があるものには挑戦していきたいなと思っていますし、海外でいろんな歌舞伎ができればなと思っています」と抱負を述べた。●結婚して食生活が変わり健康に「感謝しています」悪役のやりがいを語っていたが、『もっと悪役をやりたい』『いい役もやりたい』といった願望はないそうだ。「もうどんな役がやりたいというのはないですね。ほぼほぼやり尽くしていると思うので。これをやってほしいと言ってくださったら、そこに全力をかけるという感じで、いただいたお役をどれだけ膨らませるかということが楽しいです」そして、役をどれだけ魅力的なキャラクターにすることができるかは役者次第だという。「全力をかけてピッチャーゴロになるのか、セカンドフライになるのか、ホームランになるのか、それはその俳優がどこまでその瞬間にできるかということですから。少ししか登場しない役を演じた時に、『かわいそうだな』と思われるのか、『この役にこの人を使うなんて豪華だな』と思ってもらえるのか、そこは大きな分かれ道で、役者の腕だと思います」『怪盗グルーのミニオン超変身』のタイトルにちなみ、自身に関する変化を尋ねると、2016年3月に藤原紀香と結婚してからの変化を語ってくれた。「結婚して9年目ですが、結婚して食生活が変わり健康になりました。それまで100%外食だったものが、うちの妻が作ってくれる料理を食べるようになり、妻は体に悪いものや良いものなどいろんなことを研究していて詳しいので、そういうものを食べていると体の数値がすごく良くなりました。結局一番大事なのは健康だと思うので、感謝しています」また、気持ちの面でも変化があり、「家族のために頑張ろうという思いはありますね」と述べ、藤原の活躍から刺激ももらっているという。「お互い俳優をやっているので、彼女の舞台を見に行ったり、テレビに出た作品を見たり。彼女の台本を一緒に読んであげることもあるのですが、普段僕がやらないような役をやるんです。ラブストーリーは全くご縁がないので面白いなと思いながら読んでいます。僕が出演する作品だと周りにいるのは武士や銀行員なので(笑)」最後にファンに向けて、「『怪盗グルーのミニオン超変身』では、私が務めさせていただいたマキシムが素敵な彼女を連れて現れ、高校時代の因縁を晴らそうとします。そして、ミニオンがどういう風に超変身するのか、楽しみに見に来ていただけたら。2回、3回見ても何度も楽しめると思うので、ぜひお友達も誘って見に来ていただきたいです」とメッセージを送った。■片岡愛之助1972年3月4日生まれ、大阪府出身。1992年1月に片岡秀太郎の養子となり、大阪・中座『勧進帳』の駿河次郎ほかを演じ六代目として片岡愛之助を襲名。歌舞伎のみならず、映画やドラマなどでも幅広く活躍。2023年はドラマ『警視庁アウトサイダー』、『大奥』、映画『仕掛人・藤枝梅安』、『キングダム 運命の炎』、『ホーンテッドマンション』(吹き替え)、『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』、舞台『西遊記』、新作歌舞伎『流白浪燦星(ルパン三世)』などに出演。2025年のNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』への出演も決定している。
2024年07月15日昨年12月に東京・新橋演舞場で上演された新作歌舞伎『流白浪燦星(ルパン三世)』の収録映像が、歌舞伎の公式有料動画配信サービス「歌舞伎オンデマンド」にて世界28の国と地域へ向け、英語字幕付きで2024年8月11日(日) 21時(日本時間)より世界生配信される。漫画やテレビアニメを通し、海外でも高い人気を誇る『ルパン三世』と日本の伝統文化・歌舞伎の融合が大きな話題を呼んだ新作歌舞伎『流白浪燦星』。本作は、安土桃山時代に名を馳せた大泥棒・石川五右衛門(五ェ門)のいる世界を舞台に、流白浪燦星(ルパン三世)が国宝級の秘宝「卑弥呼の金印」を巡り、激しい奪い合いを繰り広げていくオリジナルストーリー。ルパンお決まりの名セリフやルパン一味と銭形刑部の大捕り物、“本水”を使った滝の中でのルパンと五右衛門の対決など、随所に散りばめられた原作のエッセンスと歌舞伎らしさあふれる演出、そして片岡愛之助、尾上松也ら歌舞伎俳優の熱演によって歌舞伎版『ルパン三世』の世界を体現。上演時にはその粋で華やかな舞台に多くの観客が魅了された。今回の生配信は、海外からも本作の配信を熱望する声が多かったため実現した。「歌舞伎オンデマンド」では、海外の人にも日本の伝統文化である歌舞伎を楽しんでもらうため、これまで9演目の歌舞伎の古典作品を英語字幕または英語副音声付きで配信。なお、本作は生配信翌日の8月12日(月・祝) から8月18日(日) 23時59分までアーカイブ配信も実施される。<配信情報>新作歌舞伎『流白浪燦星(ルパン三世)』配信配信日:2024年8月11日(日) 21:00 (JST)アーカイブ配信:2024年8月12日(月・祝) 0:00~18日(日) 23:59 (JST)配信地域:アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、デンマーク、フランス、ドイツ、ギリシャ、香港、インド、インドネシア、イタリア、日本、韓国、メキシコ、オランダ、フィリピン、ポルトガル、シンガポール、スペイン、スイス、台湾、タイ、アラブ首長国連邦、イギリス、アメリカ【視聴料金】4,000円+システム利用料 200円(海外不課税)4,400円+システム利用料 220円(国内税込)発売日:2024年6月28(金) 10:00~8月18(日) 20:00 (JST) まで販売チケットはこちら:公式サイト:
2024年06月28日6月1日(土)、歌舞伎座「六月大歌舞伎」が開幕した。「六月大歌舞伎」では中村時蔵が初代中村萬壽(まんじゅ)、時蔵の長男・中村梅枝が六代目中村時蔵をそれぞれ襲名し、梅枝の長男・小川大晴(ひろはる)が五代目中村梅枝として、中村獅童の長男・小川陽喜が初代中村陽喜(はるき)、次男・夏幹が初代中村夏幹(なつき)として初舞台を勤める。萬屋の襲名・初舞台に所縁の出演者が揃うめでたい公演のオフィシャルレポートが届いた。昼の部は、『上州土産百両首(じょうしゅうみやげひゃくりょうくび)』で幕開け。米国の作家オー・ヘンリーの短編小説にヒントを得て、劇作家・川村花菱が相手を思う気持ちを丹念に描いた、昭和8(1933)年初演の感動作だ。偶然の再会を喜ぶ幼馴染の正太郎(中村獅童)と牙次郎(尾上菊之助)。しかし、ふたりは互いの懐から財布を抜き取って掏摸(すり)を働いてしまったことを嘆き、これからは堅気となって真面目に生きることを美しい月夜に照らされた浅草・聖天様の森で誓い合い、十年後の再会を約束する。十年の間、流れ着いた先の上州の地で板前としてこつこつと働き、牙次郎のために金を蓄えていた正太郎は料亭の一人娘のおそで(中村米吉)からも慕われていた。ふたりの仲睦まじい姿に客席の温度も上がる。しかし、昔馴染みの金的の与一(中村錦之助)と一緒に現れた三次(中村隼人)に正太郎は強請られると……。一方の牙次郎も心を入れ替え、隼の勘次(中村歌六)のもとで岡っ引きとして働いているが、ドジな性分は変わらず。遂に迎えた十年目の再会の日、あの夜と同じ月夜に照らされたふたりを待つ運命とは……。「(萬屋)錦之介の叔父も演じたことのある役。とても良い話ですし、菊之助さんと歌舞伎座でかっぷり組んで芝居をさせていただくのは初めてなので、楽しみ。」と語る獅童。菊之助も「初演では、六代目菊五郎と初代(中村)吉右衛門のために書き下ろされた作品に携わることに、ご縁を感じました」と意欲をみせる。互いに所縁の役を勤める獅童と菊之助が魅せる互いを想う気持ちが観客の胸を打つ感動の幕切れに、客席からは温かい拍手とともに、すすり泣きの声も聞こえた。続いては、『時鳥花有里(ほととぎすはなあるさと)』。歌舞伎三大名作『義経千本桜』より、悲劇の英雄・義経の旅路を描いた所作事だ。幕が開くと、桜が満開の華やかな舞台中央から大和国へ向かう源義経(中村又五郎)とその家臣・鷲尾三郎(市川染五郎)が登場する。これまでの流転の日々を嘆く義経だったが、三郎は、義経の合戦での活躍を物語り励ます。そんなふたりのもとへ白拍子三芳野(片岡孝太郎)が白拍子と傀儡師を連れて現れると……。義経たちの旅の慰めにと次々に披露されるバラエティに富んだ踊りが賑やかで、白拍子たちが「実は……」と姿を現す驚きも楽しめる、華やかな所作事に晴れやかな拍手が送られた。昼の部の幕切れは、六代目中村時蔵襲名披露狂言の『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)』。四世時蔵、そして五代目時蔵襲名の際にも上演しており、時蔵家に大変ゆかりのある演目だ。「女方の憧れの役」というお三輪を演じる心境として新時蔵は、「作品の世界観、ファンタジックなところを存分に味わっていただきたい」と話す。大化の改新を題材とした史実とフィクションが織り交ざった古典の大作に、新時蔵が初役で挑むことに開幕前から観客の期待は高まっていた。そして、遂に迎えた初日。『妹背山婦女庭訓』の開幕前には、歌舞伎座の黒・柿・萌黄の定式幕から、先日公開された萬壽・時蔵襲名、梅枝初舞台を祝う「 祝幕() 」(「紅白滝図」美術:千住博/提供:TSUCHIYA株式会社)がお披露目されると場内からは歓声が上がり、拍手が起きた。「祝幕」が引かれると、そこは権勢をふるう蘇我入鹿の三笠山御殿。華やかな衣裳に身を包んだ入鹿の妹・橘姫(中村七之助)が花道から登場し、続けて求女(中村萬壽)がやって来て、奥へ入っていく。恋い慕う求女を追ってきた杉酒屋の娘お三輪(中村時蔵)は、求女の裾につけた苧環の白い糸が途中で切れてしまい途方に暮れると、娘おひろ(中村梅枝)の手を引いてやってきた豆腐買のおむら(片岡仁左衛門)に声を掛ける。ここで仁左衛門、時蔵、梅枝の3人が座を正し、「狂言半ばにはござりまするが、口上な以てご挨拶申し上げ奉ります」と仁左衛門が発し、時蔵の襲名披露と梅枝の初舞台を紹介。時蔵、梅枝からはお客様へそれぞれ挨拶が行われ、場内からは盛大な拍手が巻き起こった。口上の後、改めてお三輪がおむらに求女の行方を尋ねると、橘姫との祝言が行われると告げ、おむらはおひろの手を引き花道を引っ込む。さて、お三輪が求女を連れ戻そうと館の奥へ押し入ろうとすると、官女たち(中村歌六、中村又五郎、中村錦之助、中村獅童、中村歌昇、中村萬太郎、中村種之助、中村隼人)が現れ、お三輪を追い払おうと弄ぶ。官女を演じるのは梅枝らと同じく小川姓の親戚一同。普段は立役を勤める面々が女方を演じるユーモラスな姿に笑いが起きる一方、嬲られるお三輪の惨たらしさが際立ち、観客を惹きつける。一度は諦め、里に戻る決意をしたお三輪でしたが、橘姫と求女が祝言を挙げる声を聞き嫉妬に狂ったお三輪は、可憐な娘役から「疑着の相」(嫉妬に狂った凄まじい悪相)を表す変貌ぶりを見せる。すると漁師鱶七(尾上松緑)が現れ、お三輪の前に立ちはだかると突如お三輪のことを刺し……。時代の大波に翻弄されながら、一途に恋心を貫いた娘の姿は時代を超えて共感を呼び、女方の大役を勤め上げ、六代目として新たな一歩を踏み出した新時蔵に大きな拍手が送られた。獅童初役の宗五郎、陽喜・夏幹の新たな門出にも沸いた夜の部夜の部は、運命に導かれた“八犬士”の出会いを描く『南総里見八犬伝(なんそうさとみはっけんでん)』で幕を開ける。『南総里見八犬伝』は江戸時代に大流行した曲亭(滝沢)馬琴の長編小説。八犬士たちが、里見家の再興のために力を合わせる物語は、時を超えて愛されている。今回上演の「円塚山の場」は、単独でも度々上演され歌舞伎らしさの詰まった場面。里見家滅亡のとき、不思議な力をもつ八つの水晶玉が空中に飛び散り――。円塚山の山中にやってきたのは浪人者の網干左母二郎(坂東巳之助)と庄屋の娘・浜路(中村米吉)。浜路は、行方知れずとなっていた里見家再興のために不可欠な名刀村雨丸を左母二郎から取り返そうとするが、逆に刀で斬られてしまう。そこへやってきたのは、八つの玉のひとつを持つ犬山道節(中村歌昇)。さらに、運命に導かれるように、犬村角太郎(中村種之助)、犬坂毛野(中村児太郎)、犬川荘助(市川染五郎)、犬江親兵衛(尾上左近)、犬田小文吾(中村橋之助)、犬塚信乃(中村米吉/二役目)、犬飼現八(坂東巳之助/二役目)らが姿をあらわし、ついに八犬士が集結。「だんまり」と呼ばれる闇の中を探り合う歌舞伎独特の演出で、「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」の文字が入った玉を手に、各々の個性を表すかのような趣向を凝らした扮装で美しく決まる八犬士の様子はまるで動く錦絵のよう。若手が顔を揃え華やかに歌舞伎の様式美を味わう一幕となった。続いては、初代中村萬壽襲名披露狂言、五代目中村梅枝初舞台『山姥(やまんば)』。美しい紅葉の足柄山を舞台にした情趣溢れる舞踊だ。開幕前には、先日公開された萬壽・時蔵襲名、梅枝初舞台を祝う「祝幕」(「紅白滝図」美術:千住博/提供:TSUCHIYA株式会社)がお披露目された。その「祝幕」が引かれると、舞台は足柄山。山姥(中村萬壽)が住まう庵に山樵の峯蔵(中村芝翫)が訪ねてくる。そこへ山姥の息子・怪童丸(中村梅枝)が帰ってくると、花道を力強く歩く姿に客席は温かな拍手で包まれる。山姥が季節の移り変わりを読み込んだ浄瑠璃に合わせて舞う「山めぐり」で観客を魅了したかと思うと、山姥たちを召し捕ろうとやってきた猪熊入道(中村萬太郎)たちを怪童丸が持ち前の怪力で次々と倒す快活な立廻りをみせる。藤原兼冬(尾上菊五郎)の館では、多田満仲(中村歌六)、平井保昌(中村又五郎)、源賢阿闍梨(中村錦之助)、亡き坂田時行の妹である白菊(中村時蔵)、源頼光(中村獅童)、渡辺綱(中村陽喜)、卜部季武(中村夏幹)らがうち揃い、劇中口上へ。舞台上から菊五郎が「こうして一同顔を揃えし上は、いずれも様へご挨拶を」と切り出すと、襲名、初舞台の挨拶が行われ、劇場へ詰めかけた客席からは万雷の拍手が降り注いだ。やがて、怪童丸は父の氏である坂田を受け継ぎ、坂田金時の名を与えられると別れを惜しむ母のもとを離れ、武士としての一歩を踏み出すべく凛々しく花道を去っていく。俳優としての大きな一歩を踏み出す梅枝と重なる晴れやかなその姿を観客も温かく見守り、新たな門出を寿ぐ舞台にひときわ大きな拍手が送られた。夜の部の幕切れは、初代中村陽喜、初代中村夏幹の初舞台『魚屋宗五郎(さかなやそうごろう)』。魚屋の宗五郎(中村獅童)は、奉公に出した妹のお蔦が不義の疑いによって手打ちにされたと知り、悲しみに暮れている。しかし、弔問に訪れたお蔦の朋輩おなぎ(片岡孝太郎)から、お蔦の罪は濡れ衣であると聞き、ついに禁酒の約束を破り酒を飲んでしまう。酔った宗五郎は、女房おはま(中村七之助)の静止も聞かず、妹の無念を晴らすために磯部邸に乗り込み……。この度初舞台を迎える中村獅童の長男・中村陽喜、次男・中村夏幹は、物語の重要なアイテムである酒を運んでくる酒屋の丁稚をふたり仲良く勤める。花道から登場するや否や、待ってましたとばかりの大きな拍手が巻き起こる。「酒が好きだから酒屋に奉公しているんだ」という陽喜演じる丁稚与吉のセリフには観客も思わず顔をほころばせる。「ふたりとも本当に歌舞伎が大好き。今はとにかく舞台を楽しんでくれればと思います」と語る獅童の言葉が表すように、楽しそうに初舞台を勤める様子が伺えるふたり。さらに、物語の後半では、今回初役で宗五郎を勤める獅童が怒りと悲しみが伝わるせりふを聞かせ、江戸の市井の人々の喜怒哀楽が生き生きと描く一幕となった。開幕前と舞台転換時、そして終演時には先日公開された陽喜・夏幹の初舞台を祝う「祝幕」(「風神雷神」原画・提供:ビートたけし(©株式会社T.Nゴン)/謹製:歌舞伎座舞台株式会社)がお披露目され、舞台に華を添えた。初代中村萬壽、六代目中村時蔵襲名披露、五代目中村梅枝、初代中村陽喜、初代中村夏幹初舞台となる豪華な「六月大歌舞伎」は、6月24日(月)まで東京・歌舞伎座で上演。<公演情報>「六月大歌舞伎」【昼の部】11:00~一、『上州土産百両首』二、『義経千本桜』時鳥花有里三、六代目中村時蔵 襲名披露狂言『妹背山婦女庭訓』【夜の部】16:30~一、『南総里見八犬伝』二、初代中村萬壽 襲名披露狂言『山姥』三、『魚屋宗五郎』2024年6月1日(土)~6月24日(月)※11日(火)、17日(月)休演※昼の部4日(火)、6日(木)、7日(金)、12日(水)、14日(金)、18日(火)、19日(水)、21日(金)、夜の部4日(火)は学校団体が来観会場:東京・歌舞伎座チケット情報:()公式サイト:※公演期間が終了したため、舞台写真は取り下げました。
2024年06月03日戦後、復興事業の一環として歌舞伎の劇場誘致を図り「歌舞伎町」と命名された新宿・歌舞伎町。当時それは実現しなかったものの、この地は現在、劇場や映画館が立ち並ぶ日本有数のエンターテインメント発信地として賑わいを見せている。そしてついに、歌舞伎町に歌舞伎がやってきた。東急歌舞伎町タワーのTHEATER MILANO-Zaにて「歌舞伎町大歌舞伎」が5月3日に開幕したのである。出演は中村勘九郎、中村七之助を中心とする面々。父である十八世中村勘三郎のチャレンジ精神を受け継ぐ中村屋兄弟は、庶民の生活に根付いていた江戸時代の歌舞伎の良さを現代に蘇らそうと、古典を大事にしながら現代的なアプローチで様々な挑戦を続けている。「歌舞伎町大歌舞伎」の宣伝として歌舞伎町のホストクラブのようなアドトラックが東京の街を走ったのも話題になったが、この“傾いた(かぶいた)”奇抜なアピールは、現代の歌舞伎役者のイメージ=古典芸能の従事者というより、本来の“傾奇者(かぶきもの)”歌舞伎役者の面目躍如といったところだろう。さて、「歌舞伎町大歌舞伎」は、『正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)』と『流星(りゅうせい)』という古典舞踊2演目と、この公演のために作られた新作歌舞伎『福叶神恋噺(ふくかなうかみのこいばな)』という3本立て。幕開きは『正札附根元草摺』。初春芝居として上演されることの多い“曽我物”(曽我兄弟の仇討を題材にしたもの)の一種だが、新しい場所での歌舞伎公演ということで縁起を担いでの演目であろう。中村屋の「黒・白・柿」の定式幕があくと、曽我物らしく富士山の描かれた油障子が目に飛び込み、たしかにおめでたい気分。その中で、今にも父の仇を討たんといきりたつ曽我五郎(中村虎之介)と、「今はその時ではない」と止める美しい女性・舞鶴(中村鶴松)の丁々発止のやり取りが、荒々しくも華やかな舞踊で展開していく。共にまだ20代の虎之介と鶴松が、エネルギッシュでフレッシュな華やかさを見せながら、古典らしい重厚感もしっかりと表現し、魅せた。またこの劇場には花道がないため、通常は花道を使う場面で客席通路を使う演出も。客席のただ中で彼らが見得をきる臨場感は、離れた席から見ても一種独特の高揚感がある。続いての『流星』は、前半と後半で趣がガラリと変わる面白い一作。前半は七夕の夜、年に一度の逢瀬を楽しむ牽牛と織女のロマンチックな恋模様が描かれる。パステルカラーの雲が舞台いっぱいに広がるファンタジックな世界の中、牽牛と織女に扮するのは、勘九郎の息子たち、中村勘太郎と中村長三郎。しっとりした恋の舞踊だが、まだ13歳と10歳のふたりが踊るとなんとも可愛らしく、微笑ましい。そこに飛び込んでくるのが、勘九郎扮する流星。彼は長屋に住む雷夫婦がケンカを始めたと牽牛と織女に注進する。カミナリ様が長屋に住んでいるという設定自体が面白いが、夫婦の嫉妬に幼い子ども雷の仲裁、隣家の雷ばあさんまで登場する大騒ぎ。これを舞踊の名手・勘九郎がひとりで、コミカルにテンポよく演じ分けていく。4役をお面を取り換えつつ演じ分ける場合もあるが、勘九郎は手に持つ小道具のみで演じ分けるのが見事。中華テイストな神様の世界から、江戸の下町へと飛躍する大胆さも歌舞伎らしく、また親子三人の共演もほっこりとする、楽しい舞踊劇だ。七之助と虎之介の相性ピッタリ! 人情と、笑いと、幸せな余韻が揃った名作が誕生休憩をはさみ、最後は『福叶神恋噺』。上方落語「貧乏神」をもとにした世話狂言の新作歌舞伎で、「貧乏神」を作った落語作家・小佐田定雄がこの歌舞伎版の脚本も手掛ける。主要キャラ・貧乏神のびんちゃんは落語のみならず、TVドラマでフランキー堺が演じたほか、宝塚歌劇でも『くらわんか』『ANOTHER WORLD』と2作にわたり登場したことのある人気キャラクターだ。物語は仕事嫌いの根っからの怠け者、大工の辰五郎が主人公。お金がないのに働かないため家はボロボロ、食べ物にも困るありさま。妹のおみつの婚約者にまで借金をして、おみつは怒って家を出ていってしまったが本人はどこ吹く風。そこへ忽然と現れた貧乏神のおびん。貧乏神は人間から養分を吸い取るものなのに、おまえには吸い取るものすらないから少しは働けと小言を言う。しかし「働かなくても貧乏、働いても貧乏神に吸い取られて貧乏になるのなら、働かない方がいい」と屁理屈を言う辰五郎。しまいにはおびんにまで借金をねだる始末。みかねたおびんは内職をし、辰五郎の世話を焼き……。辰五郎を演じるのは虎之介。勇壮な曽我五郎から一転、言い訳ばかりなのにどこか憎めないダメ男を、愛嬌たっぷり、水を得た魚のように演じている。大きな目で上目遣いに借金をねだるさまは可愛らしく、まわりの人々がついほだされてしまうのも無理はないと思わせる説得力。落語では男である貧乏神は、本作では女性となり七之助が演じる。ボサボサの髪を嘆きながらも派手な着物を着けるユニークな貧乏神は七之助の華やかさが相まって可笑しみがあるし、年下の男に振り回されながらせっせと世話を焼く姉さん女房のような一面も可愛らしい。何より七之助と虎之介の相性がピッタリだ。途中、歌舞伎町ならではのお遊びも挟みつつ、気付けば大団円。辰五郎がどう心を入れ替えるのかは舞台を観ていただくとして、世話物らしい人情と、笑いと、幸せな余韻が揃った名作が誕生したことは断言しよう。歌舞伎が初進出する新たな劇場での第一回公演にふさわしく、賑々しい門出となった「歌舞伎町大歌舞伎」。歌舞伎本来の華麗さ、勇壮さ、楽しさの詰まった舞踊2作と、テンポよく楽しめる新作歌舞伎は、ご通家が観ても納得で、歌舞伎を見慣れない人が観ても楽しめるものになっている。縁起が良いとされる初物、しかも極上の初物だ。ぜひお見逃しなく。上演時間は休憩を含め2時間30分。公演は5月26日(日)まで。取材・文:平野祥恵写真提供:松竹<公演情報>『歌舞伎町大歌舞伎』2024年5月3日(金・祝) ~5月26日(日)会場:東京・THEATER MILANO-Zaチケット情報:()公式サイト:
2024年05月10日