手に取ると、まずそのボリュームに驚かされます。『酒井若菜と8人の男たち』(キノブックス)は、昨年芸能生活20年を迎えた女優・酒井若菜さんが、友人である8人の男性芸能人との対談とエッセイをまとめた1冊。2段にびっしり埋め尽くされた文字と、厚さ3cm、400ページを超える重量感にたじろいでしまいます。でもそれは、本書を開くまでのこと。俳優・脚本家のマギー氏、俳優のユースケ・サンタマリア氏、芸人で俳優の板尾創路氏、ロックバンド「サンボマスター」の山口隆氏、俳優の佐藤隆太氏、お笑いコンビ「バナナマン」の日村勇紀氏、「ナインティナイン」の岡村隆史氏、「浅草キッド」の水道橋博士氏を招いて繰り広げられる8つの対談はどれも率直で驚きに満ちていて、ページをめくる手を止めるのが難しいほど。そんな8つの対談を支えるのが、対談相手の話を引き出す酒井さんの「聞く力」。その源はどこにあるのでしょうか。ノンストップで2時間に及ぶこともあったという各対談を牽引したのは、人間関係づくりになによりも大切な「3つのK」の存在でした。■1つめのK:「好意」対談相手は、酒井さんが仕事の現場で知り合い、その後も縁が続いている人たち。誰もが酒井さんとの対談の時間をとても楽しんでいる様子が文面から伝わってきます。そんな空気をつくり出しているのが「好意」の感情。酒井さんは、相手への尊敬・敬意よりもと強い、「恋心」といってもいいくらいの感情を素直に言葉で伝えていて、ドキッとすることもしばしばです。佐藤氏との対談では「私、りゅうちゃん(佐藤さん)と結婚するかもと思ってたけどな~」と、サラッと衝撃発言。でもそこにいやらしさはまったくありません。対談相手にも、読者にも、酒井さんが抱く相手への敬意がしっかりと伝わるのです。酒井さん流の好意の最上級表現といったところ。普段、好意を言葉で伝えるのはなかなか難しいこと。恥ずかしさが先に立ち、受け入れられなかったときの不安も大きくなりがちです。でも、案外いわれたほうは素直にうれしいと感じてくれるもの。酒井さんと対談相手とのやりとりを追っていくと、そのことに気づかされます。■2つめのK:「共感」会話のなかで、共通の趣味などお互いがよく知っているテーマを話題にすることってよくありますよね。でも、話題が広がれば広がるほど、会話の着地点を見失う恐れも。サンボマスター・山口さんとの対談でのこと。さまざまなカルチャーに造詣が深い山口さんの話題は、落語や歌舞伎からジャズ、尊敬するミュージシャン・忌野清志郎さんへの思いなど、どんどん変化していきます。熱中して話す山口さん、ときどき「こんな話ばっかで大丈夫?」と不安顔に。すると酒井さんは「大丈夫。さいっこうです」「とりとめのない話、聞きたいです」と、とことん相手の思いに共感し、がっちりと受け止めます。それは、向き合う相手をまるごと受け止めたい、という酒井さんの思いの現れ。「もっと聞きたい」という思いを伝えることが、相手を丸ごと受け入れる意思表示になるのです。■3つめのK:「感謝」本書全体から感じられるのは、対談相手に対する酒井さんの感謝の気持ち。なかなか口にできない言葉を、酒井さんは率直に伝えます。マギーさんとの対談では、悩みを抱えて女優を休業した酒井さんと、その日々を支えていたマギーさんの関係が明かされています。苦しみのなか、救いを求めてマギーさんに頻繁にメールを送っていた酒井さん。あるとき、不安に負けそうな酒井さんが「いつ死ぬかわからないから」と送ると、年上のマギーさんから返ってきたのは「順番抜かし禁止」というメッセージだったそう。対談中、酒井さんはメッセージを受け取った当時の思いを振り返り「それだけで泣きそうになっちゃって」「あ、生きようとか思っちゃいましたね」と率直に話しています。悩んでいるときに、家族や友人のちょっとした一言に救われることは誰にでもあること。そんなとき、「救われた」という思いをこんなふうに率直に相手に伝えることができたら。いまよりもう一歩、強いきずなを結ぶことができるのではないでしょうか。*読み進めるうちに感じるのは、本書全体を取り巻く「もう一つのK」の気配。その正体が、あとがきで明かされます。「完治のない病ばかり患うけれど、わたしが新たに患った「幸福」という病に関してのみ言えば、これだけは不治の病であればいいのに、と思っている。私は今、幸福を患っている」「聞く力」といっても、そこにあるのは特別なテクニックではなく、相手を思う素直な気持ち、この時間が幸せだ、という思い。それが対談相手にも、読む人にも伝わって、幸福感を生んでいるのでしょう。対談中「第二弾、第三弾とかで、女性バージョンとか、いろんなバージョンで(対談集を)創れるかなっていうもくろみがあったりもして」と展望を語る酒井さん。第二弾も期待大です。(文/よりみちこ) 【参考】※酒井若菜(2016)『酒井若菜と8人の男たち』キノブックス
2016年03月22日『OLが考えたお金を増やすたった一つの方法』(松川佑依子著、扶桑社)は、株式投資について解説した本。一見、数ある投資ノウハウ本のように感じますが、そのアプローチはとてもユニーク。女性の視点から株式投資をすることの利点に気づかせてくれるのです。著者の松川佑依子さん自身、資産運用会社で働くOLでありながらタレントとしても活躍するというユニークな経歴の持ち主。業務で資産運用を行い、「入社から約3年、会社に損はさせていません」という株式投資のプロであると同時に、25歳のイマドキ女子の感覚もしっかりと持ち合わせています。その著者が約3年の投資経験のなかで気づいた「株(株式投資)って女性の強みが生かせるんじゃないかな?」というひらめきが、本書のベース。ここでは本書から、投資する企業を選ぶときに役立つ女子目線について見ていきます。■女性向けの製品を知っている強み著者は、「株選びはやっぱり女性のほうが有利」といいます。女性向けの製品やサービスを売っている企業もたくさんあるのに、株式投資をするのは圧倒的に男性が多いから、というのがその理由。女性にとって身近な製品の使い勝手や人気を把握できるのは、女性の強みです。たとえば、カメラのフイルムなどを作る富士フイルムが株式上場していることを知っている男性は多いと思います。しかし、アスタリフトという化粧品がいまファンを増やしていて、そのアスタリフトをつくっている会社が富士フイルムであることは、男性にはなかなか気づけないもの。それが、女性であれば「アスタリフトの人気が高まっている→アスタリフトをつくっているのは富士フイルム→富士フイルムの業績や経営状況を確認してみよう」と連想ができるというのです。■実は街歩きを楽しむことも大切!街歩きのなかにも、株式投資のヒントが詰まっていると著者はいいます。都市部でいえば、たとえば新しい商業施設がオープンしたとき。繁華街に新しい施設をオープンすれば、さぞ株価は上がっていくだろうと予想できますが、著者はここで「自分で感じた体験も大切」とくぎをさしています。実際に自分の足で訪ねてみて「なんか想像と違うな」「惹かれないな」と思ったら、いくら短期的に株価が上昇していても安心して持ち続けることはできません。さらに、ショッピングをしながら歩いていると、行列のできるオシャレなお店を目にすることがあります。普段から女友だちとお茶をしたりウインドーショッピングしたりと街歩きを楽しんでいる女性は、こうしたトレンドにも気づきやすいのです。著者のおススメは、流行っているお店や、サービスがほかとはちょっと違っていて人気の出そうなお店を見かけたら「連想」をしてみること。しかも、連想にはいくつかのパターンが考えられるそう。たとえば行列のできる人気パンケーキ屋を見つけた場合。(1)人気のパンケーキ店→その経営母体が上場企業かどうか。(2)パンケーキの原料は小麦粉→製粉会社や製菓会社の業績に影響があるかもしれない。(3)パンケーキが流行った→次はどんなスイーツが流行るだろうか。といった連想ができるというわけです。たしかに、(1)はごく一般的なアプローチですが、(2)や(3)には女性の視点が生かせます。女性は口コミやSNS、雑誌、テレビの情報番組などで流行の移り変わりをキャッチしやすいといえますし、普段から料理をしていれば食材にまで連想を働かせることも可能だからです。■お気に入りカフェで四季報めくり本書では、こうした女性目線を生かした銘柄選びだけでなく、とっつきにくい専門用語、実際に株を買うまでの流れもわかりやすく解説されています。なかでも、「会社四季報」をめくるシチュエーションがイマドキ女子っぽくて印象的。会社四季報とは、日本の株式市場に上場している約4,000企業すべての情報が詰まった本。3か月に1度発行されており、企業の所在地や事業内容、財務情報や過去5年分の業績、記者による業績予想などが収録されています。株式投資をする上で必要な数字を確認することができる必携書ですが、かなり分厚くて見た目もややハード。とても若い女性がめくるようなイメージはないのですが、著者はこの2,000ページもある会社四季報を、お気に入りカフェでリラックスして目を通しているというのです。*株式投資への入り口は人それぞれ。お気に入りブランドでも、好きなレストランやコンビニ菓子でもいいのです。とくに女性にとって、入り口が自分の生活圏内にあるということはとても重要です。身近な商品をきっかけに、株式投資の広くて深い世界に進んでいく、本書がその水先案内人の役割を果たしてくれるでしょう。(文/よりみちこ) 【参考】※松川佑依子(2016)『OLが考えたお金を増やすたった一つの方法』扶桑社
2016年03月21日職場のエースといわれていた人が、課長になったら部下をマネジメントしきれなくなり、結果を出せずモチベーションを落としていくというようなことはよくある話。『部下が絶対、目標達成する「任せ方」』(中尾ゆうすけ著、PHP研究所)の著者も、できるはずの人が力を生かし切れずに終わってしまう現実をいくつも目にしてきたのだそうです。でも、本来はできる人であるはずなのに、なぜそのようなことが起きるのでしょうか?この問いについて著者は、課長職に2つのタイプがあることの影響を指摘しています。まずは、部下をマネジメントし、組織の成果を最大化することで会社に貢献していく「マネージャー」タイプ。そしてもう一方は、管理職の権限を持ち、高い専門能力を発揮しながら実務を中心に活躍し、個人の成果を最大化していく「プレーヤー」タイプ。個人として活動していくのなら、プレーヤーで十分。しかし上に立って人を動かしていくのであれば、課長ひとりでがんばってもあまり意味がありません。部下に適切な業務を与え、目標を持たせ、「絶対部下に目標達成してもらう」ためのマネジメントを行うことが必要になるということ。それができるかできないかで、課長としての資質が問われるわけです。ただ、理屈でわかっていたとしても、現実的に人を使うこと、もっと具体的にいえば、部下になにかを頼むことはなかなか難しくもあります。仕事を任せるためには、部下に快く引き受けてもらえるようにうまく頼むことが重要。そのコツはたったひとつで、「部下の立場になって頼む」ということだと著者はいいます。なぜなら自分の都合で頼むのは、マネージャーではなくプレーヤーのやり方だから。具体的には、以下の9つのステップをしっかり押さえておくことが大切だとか。■1:部下の状況を確認する部下に仕事を受ける時間的・能力的余裕があるか?その状況を見極めることが大切だ。なぜなら無理にやらせると、かえって反発を生むことになってしまうから。しかし仕事に納期はつきものなので、優先順位をつけることで調整すべき。■2:仕事を任せたい意思を伝えるなにかを頼むとき、前置きが長いと部下をイライラさせてしまうもの。そこで単刀直入に、頼みたい旨を伝えるのがいいそうです。場合によっては「ノー」といわれる可能性もありますが、そんなときは納得いくまで話し合うことが大切。■3:あらかじめ覚悟を決めてもらう難易度が高いことや、手間がかかることなどは先にいうのが鉄則。あとから「こんなはずじゃなかった!」といわれないためにも、正直に伝えることが大切なのです。難易度が高すぎて不満が出ることもあるでしょうが、そんなときはOJTのチャンスだと思って指導するのがベスト。■4:なぜ任せたいかを伝える人は理由のないことにモチベーションを持てないものなので、「なぜ頼むのか?」「なぜ君なのか?」、部下が納得するように伝えるべき。それでも反発されるなら育成計画を示し、部下の成長のためだと理解させ、将来的なメリットを伝えるといいそうです。■5:具体的な内容を伝えるアウトプットイメージ、納期、注意事項などを、5W1Hを意識して伝えること。人はゴールと道筋が見えると、自ら歩みはじめることができるものだから。しかし細かく指示しすぎて、「指示待ち人間」を育てないように気をつける必要も。■6:仕事を進めるための問題点がないか確認する仕事の進め方からアウトプットまでをイメージさせ、支障がないか確認するということ。人はやれる見込みが立つと、自信を持って取り組むことができるからです。でも、問題点が想像できないことも考えられるので、そんなときは上司として中止すべきポイントを指導することが必要になるとか。■7:了解を得るやるか、やらないか、部下自身のやる気を確認するということ。人は、自分で決めたことには責任を持つようになるからだといいます。「ノー」といわれる可能性もありますが、そんなときは理由を十分に確認して問題を解決していくべきだそうです。■8:必要な支援を約束する困ったときや迷ったときは、いつでも相談に乗るという約束をする。困ったときの支援があると、安心して仕事に取り組めるからです。ただ、それがあまえにならないよう、注意をする必要はあるでしょう。■9:感謝を伝える仕事の成果が出たときだけではなく、頼むときにも「引き受けてくれてありがとう」と感謝の意を伝えることも大切。もちろん、成果が出たときにも感謝の気持ちを伝えることをお忘れなく。*こうして見てみると、上司は部下に対してずいぶん気を使う必要がありそうです。しかし、「絶対部下に目標を達成してもらう」ことが上司のミッションである以上、それもまた必要なのでしょう。このような考え方も含め、上に立つ人に役立つ情報満載。部下とのコミュニケーションで悩んでいる方には、ぜひ読んでみていただきたい内容だといえます。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※中尾ゆうすけ(2016)『部下が絶対、目標達成する「任せ方」』PHP研究所
2016年03月21日『ハーバード×MBA×医師 目標を次々に達成する人の最強の勉強法』(猪俣武範著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は、異例のキャリアの持ち主です。まず、医師として働きつつ、「語学力ゼロ」の状態からハーバード大学に留学したというのですから驚き。しかもそればかりか、ビジネススクールでエグゼクティブMBAを取得したというのです。制限の多い環境のなか、限られた時間内でこれほどの実績を打ち立てることは、そうそう簡単ではないでしょう。しかしそれでも、必ずしも特別なことをしたわけではないと著者はいうのです。効率よい目標達成のポイントは、「勉強に対する考え方や姿勢」「勉強のスキルやプロセス」「勉強以外のネットワーキング」などを良循環させること。そしてそのなかで著者は、「人生で達成したいことを見据えて目標を立てる」ことと、「なにをやらないかをはっきりと決める」ことにもっとも気をつけているのだそうです。つまり最大限のパフォーマンスを発揮するためには、その2つが重要な意味を持つということです。そんな基本をもとに、限られた時間内で最大の成果をあげる術を紹介した本書から、時間を有効に使うための「スキマ時間」の活用法をご紹介したいと思います。■時間管理を適切に行う1日24時間のなかで、人より多くのことを達成できる人がいるものです。でも、そんなことがなぜ可能なのでしょうか?著者は、その答えは時間管理の意識と方法にあると断言しています。時間管理とは、忙しく予定を詰め込めばいいというものではなく、目標に対する時間をどれだけ捻出できるかを指すものだといいます。たとえば通勤時間中にスマホでだらだらネットを眺めたり、好きな音楽ばかりを聴いたりしていたのなら、有効な時間管理をしているとはいえません。しかし目標に対して時間を管理することができていて、通勤時間中に英語やオーディオブックなどを聴いたり、勉強のための読書をしたりするようになれば、それは自身の成長につながるということ。時間管理をマスターすることは、決して難しいことではないと著者。もっとも大切なのは、時間管理が自分自身にとってどのくらい大切な規則であり、テクニックであるかを、自分の心に理解させることだといいます。時間管理を適切に行うことは、目標達成や成長に必要不可欠。だからこそ、時間管理の基礎を学ぶべきだと著者はいいます。■スキマ時間を有効活用効率的に勉強するためには、当然のことながら多くの時間を確保する必要があります。ポイントは、「長い」時間ではなく、「多く」の時間だということ。集中力は長く続くものではないので、勉強は必ずしも長くやればいいということではないという考え方です。一方、多く勉強するということは、細切れでもいいのでたくさんの時間を捻出し、それを勉強やタスクに振り分けること。忙しいビジネスマンも、子育てに忙しい人も、細切れの時間なら確保できるはず。つまり、そうした「スキマ時間」を有効に使うことが、いくつもの目標を同時に達成するためにもっとも有効な時間術だということです。会議を待つ10分間だったり、顧客との面談の待ち時間だったり、スキマ時間は日常のなかでたくさん見つかるもの。もし仕事が驚異的に忙しかったとしても、スキマ時間は必ず生じるものだと著者は断言しています。なぜなら社会で働いている限り、業務の継ぎ目をなくすことは不可能だから。■すぐツールを取り出すそして私たちは、このスキマ時間を有効に使うことが可能。たとえその時間が、わずか3分間であっても。たとえば著者は、いつも本や簡単な書類を持ち歩くようにしているそうです。電車やエレベーターの待ち時間も、読書やメールの返信作業などのために利用しているわけです。また、スマートフォンはスキマ時間を有効利用するのに必要不可欠。メールの返信や簡単な仕事は、スマホでスキマ時間に終わらせてしまえばいいのです。なお、iTunesなどのクラウドサービスに英語のポッドキャストを入れておけば、リスニングの練習も可能になります。これらのアイデアからも推測できるとおり、重要なのは、スキマ時間ができたら「すぐに」ツールを取り出せるようにしておくこと。1日のTO DOリストの確認をしたり、机の上の整理や書類のサイン、メールの返信をしたりするなど、オフィスで仕事中のときも、スキマ時間が5分あればさまざまなことができるはず。もし20分以上あれば、レポート、発表に使うパワーポイントの骨組みの作成なども可能。少しでも手をつけておくことで、その後の仕事の効率が大きく変わるわけです。そしてスキマ時間は、仕事場だけでなく家でも応用可能。たとえば5分あれば、今日やることを書き出したり、買いものリストをつくったりすることができます。10分あれば洗濯物をたためますし、20分あれば掃除機をかけられるでしょう。そうすれば、余った時間を仕事や勉強にあてることができるということです。*このように、1日のスキマ時間を合計すれば、相当の時間を捻出できるということがわかります。大切なのは、この時間を重要なことに投資し、自己投資と目標達成の良循環を生み出すことだというわけです。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※猪俣武範(2016)『ハーバード×MBA×医師 目標を次々に達成する人の最強の勉強法』ディスカヴァー・トゥエンティワン
2016年03月20日『ビジネスマンのお腹が凹むのはどっち?』(秋津壽男著、あさ出版)の帯には「できる男のスマートな食事と習慣」と書かれていますが、太らないための生活習慣は男女を問わず気になるところ。その証拠に、世間にはさまざまなダイエット情報があふれています。しかし問題は、そのすべてが正しいわけではないという事実。「短期間で劇的にやせる!」というように、極端なダイエット方を勧めるものも少なくありませんが、短期的な効果にあまり意味がないことは誰にでもわかるはず。むしろ目指すべきは、長期的な健康なのです。そこで本書では、リバウンドすることなく体重と体脂肪をゆっくりと減らし、適正な体重をキープしつつ、体型もよく見せるための方法を紹介しているということ。第2章「『糖質制限』のどっち?」から、いくつかをご紹介したいと思います。■糖質を過剰に摂取すると太る理由当然のことながら、食事量の目安になるのは「カロリー」。カロリーを制限し、過食を適正な食事量に戻せば、体重は必ず落ちていくといいます。一方、ここ数年ブームになっているのが、炭水化物抜きダイエットなどで知られる「糖質制限」。糖質が多いことで有名な白米やパン、野菜、果物などは、体の主要なエネルギー源で、素早くエネルギーに変わるのが特徴。しかし、そもそもなぜ糖質を過剰に摂取すると太るのでしょうか?糖質は、人間の体内に入るとブドウ糖に変化します。その後、小腸で吸収されて血管に移り、血糖値が上昇。すると血糖値を下げるインスリンというホルモンが分泌されるのだそうです。インスリンはブドウ糖を細胞内に送ってエネルギーとして使用させる一方、充分なブドウ糖を中性脂肪に変え、必要以上の中性脂肪を脂肪細胞に変える働きもあるのだとか。そのため、糖質を過剰に摂取してしまうと脂肪が増え、太りやすくなるということ。つまり食事で中性脂肪を増やさないためには、白米やパンなどの糖質、スイーツなどの糖分が多く含まれるものを食べ過ぎないことが重要だというのです。■3食中「1食」炭水化物を抜こうだとすれば気になるのは、どのように糖質を制限すればいいのかということ。糖質の摂りすぎが脂肪の増える要因になるとはいえ、炭水化物を一切食べないなど、糖質の減らしすぎは体に悪く危険だといいます。つまり正しい糖質制限とは、過剰摂取している糖質量を是正すること。では、1日にどのくらいの糖質を摂取するとよいのでしょうか?厚生労働省の「日本人の食事摂取基準2015年版」によれば、1日に必要な炭水化物は、総エネルギー必要量の50~65%を目標としているのだとか。また、ブドウ糖は少なくとも1日100gと推定しているのだそうです(実際は肝臓が必要に応じて血中にブドウ糖を供給するため、あくまでも推定量)。とはいっても、糖質をどれくらい減らせばよいのかはわかりにくいもの。そこで、おぼえておきたいことがあります。ダイエットのために正しく糖質制限をするなら、いまの時代であれば「1日3食のうち1食だけ炭水化物を抜く」と目安にするとちょうどよいのだそうです。もしくは毎食、ご飯の量を3割減らすのもいいとか。また、糖質制限と合わせて、中性脂肪値を下げる働きのある食品を意識して食べるのも効果的。青魚に含まれるEPAや、クルミやアマニ油に含まれるαリノレン酸、海藻に含まれるアルギン酸などを意識して摂るといいといいます。■玄米が「ダイエットにいい」理由白米は太る、玄米はやせる。そんなイメージを持っている人も多いと思いますが、白米も玄米も、お茶碗1杯分のカロリーはほとんど変わらないのだといいます。しかも、糖質の量も大差がないのだとか。だとすれば、なぜ玄米のほうがダイエットによいといわれるのかといえば、それは玄米は「GI値」が低いから。太らないためには、カロリーや糖質の低いものを選択するのはもちろんのこと、もうひとつ目安になるのがGI値なのだそうです。GI値とは、食品が体内で糖に変わり、血糖値が上がる速度を数値化したもの。GI値が低ければ検討値の上昇は緩やかになり、高ければ急上昇しやすいといえるのだというのです。また「GI値が低い=消化・吸収のスピードも遅い」ということなので、ヨーグルトやナッツ類、りんご、いちごなどGI値が低い食べものは腹持ちがよく、ダイエットに最適なのだそうです。なおダイエットに玄米が向いているのは、食物繊維が豊富に含まれているから。食物繊維は小腸で吸収されにくく、摂取カロリーを抑える働きがあるのです。さらに、白米より固いこともダイエットに向いている理由のひとつ。固いものを食べると噛む回数が増えますが、すると満腹中枢が刺激され、早く満腹感を得られるので食欲がストップ。食べすぎを防げるというわけです。*これらからも推測できるとおり、二択の質問を通して「肥満解消」に関する正しい知識を得られるのが本書の特徴。読んでみれば、きっとノウハウを得ることができるでしょう。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※秋津壽男(2016)『ビジネスマンのお腹が凹むのはどっち?』あさ出版
2016年03月19日日本の世帯数が約5,000万世帯として、資産1億円以上の富裕層は100万世帯。そんななか、「お金持ちになりたいけれど、上位2%には入れるわけがない」とあきらめてはいないでしょうか?『使えば使うほどお金が増えるお金の使い方』(中桐啓貴著、ワニブックス)の著者は、会社員時代から経営者になった現在まで、富裕層を中心とした顧客に資産運用のアドバイスを行ってきたファイナンシャル・プランナー(FP)。たくさんのお金持ちのお金の使い方を目の当たりにしてきた人物です。著者によれば、ほとんどのお金持ちはただ“お金を生むお金の使い方”をしていた結果、お金持ちになったというのです。さっそく本書から、“1代でお金持ちになる人”が守っている8つの絶対ルールをチェックしましょう。■1:お金を増やす「習慣」をつける著者は、多くのお金持ちは“お金を増やすためにお金を使う”ことが習慣になっているといいます。問題はその使い方。無理のない金額を賢く使っていくことで、お金はどんどん増えるもの。使うことを恐れてはいけないのです。■2:今の預金残高は気にしない著者のクライアントはほとんどが富裕層ですが、みな若いころはお金がなかったという人ばかりだそう。むしろお金がない経験をしているからこそ、新しいアイデアを生む力が身につき、弱い立場の人の気持ちがわかるようになるのだと著者はいいます。お金がないということは、将来お金持ちになるためのステップなのです。■3:お金がないうちから貯蓄をがんばりすぎない著者は「過度な貯蓄はおススメしません」といい切ります。支出をギリギリに抑えて貯金するよりも、自分の価値を高めるために使うことの方が大事。少額でも、自分の専門性や人間関係の充実のためにお金を使えば、やがてほかの誰にもできないモノを生み出すことができ、収入も増えるという考え方。お金を貯めるのはその後で大丈夫なのです。■4:自分のお金で社会の変化を感じる社会はものすごいスピードで変化しているもの。変化を感じることは、自分自身の価値を高める助けになります。海外などへ出かけて見聞を広めるのもそのひとつ。著者自身、創業後すぐのお金がない頃から身銭を切ってアメリカに毎年視察に行き、いまではアメリカの事情に詳しいFPとして業界でも知られるようになったそう。■5:月収の5%は自己投資するお金を生むお金の使い方といえば投資が浮かびますが、著者にいわせれば、金融商品や不動産よりも効果が高いのは“自分自身への投資”。お金持ちには、若いころから収入の5~10%を自己投資に向けていた人が多いとのこと。収入アップに結びつけたいなら、あまりマニアックすぎないものがベター。中国語やスペイン語など使う人の多い言語を学ぶ、汎用性の高いパソコンスキルを身につける、などです。■6:目標をわかりやすく言い換える著者が考えるお金持ちとは「お金を稼ぐ力がある人」のこと。漠然と「お金持ちになりたい」と考えるより、「自分の価値を高めてお金を稼ぐ力を身につけよう」と考えた方が現実的です。いわゆる富裕層とは資産1億円以上の人。だいたい年収1,500万円を超えれば、資産1億円が見えてくるそう。お金持ちになる=年収1,500万円以上稼ぐためのスキルを身につけること。すると、お金持ちになるためにはどうすべきかが具体的に見えてきます。■7:自分に還ってくる「生き金」を見極めるお金には「生き金」と「死に金」がある、と著者。生き金とは、自分に還ってくるお金の使い方です。生き金になる使い方の目安は、「仕事の専門性を高められるか」、「人間性を高められるか」。そして「人間関係を構築できるか」、「ワンランク上の体験ができるか」、「モチベーションアップにつながるか」。1つめと2つめは文句なしの生き金ですが、あとの3つは、やりすぎたり使い方を間違えるとただの浪費(=死に金)になってしまうので注意が必要。見極めるには、将来どんなかたちで自分に還ってくるかをイメージすることが大切です。■8:浪費を「投資的」に使うお金持ちほど、浪費を投資に変えるのがうまいと著者はいいます。たとえば贅沢なランチを食べに行ったとして、「あ~、おいしかった」で終わってしまったら浪費ですが、そこに目指すスキルを身につけた先輩を誘って話を聞いたり、ランチの経験からアイデアを得れば、それは投資になります。浪費はなかなか減らせないもの。投資的に使えないかという視点を持つことが、お金持ちになるお金の使い方のポイントです。*「攻撃は最大の防御」という言葉がありますが、お金についても同じことがいえます。貯めるためには、稼ぐこと。そのためには積極的に使うことが有効。数多くのお金持ちを見てきた著者の考え方は一貫していて、説得力があります。8つのルールのうち、納得できたもの、実践できるものから取り入れていけば、“お金が増えるお金の使い方”を実感できるのではないでしょうか。(文/よりみちこ) 【参考】※中桐啓貴著(2016)『使えば使うほどお金が増えるお金の使い方』ワニブックス
2016年03月19日仕事のジャンルにかかわらず、「仕事で一流になりたい」と思っている方は多いのではないでしょうか。しかし、「一流とはなにか」「どうすれば一流と呼ばれる人になれるのか」など悩むことも少なくないと思います。今回は、和歌山県の有田みかん農家の三代目・谷井康人さんが書いた本『奇跡のみかん農園 けっして妥協しない零細農家のすごい仕事の話』(SBクリエイティブ)をピックアップ。谷井さんは父親から継いだ小さな農園主ですが、毎年お断りするほどみかんの注文が殺到するまでに成長。また、パークハイアット東京やザ・ぺニシュラ東京、フォーシーズンズホテル丸の内などの東京の名立たる高級ホテルに生搾りのフルーツジュースを卸す一流のビジネスマンでもあります。そんな谷井さんの「プロフェッショナルになるための流儀」とは、どのようなものなのでしょうか。早速ご紹介していきたいと思います。■1:ひとつのことを極めて一流になる「雲の上の頂上に登りなさい。雲の上の頂上に登ると、下界からは見えない他の雲の上の山頂が見える」これは、ひとつのことを極めて一流になると、他業種でも一流の人たちに会えるようになるという意味。著者が師匠と呼んでいる農園主・永田照喜治さんの言葉だそうです。永田さんは作物の糖度や栄養価を高める「永田農法」の開発者でもあります。著者は高校卒業後こちらの農園で働き、この言葉で、視界が一気に広がったそうです。■2:20代で1000万円分食べる「みかん農家」という食の仕事をする著者が、一流オーナーシェフからいわれたのは「20代で1000万円分食べなさい」ということでした。「食べたら、プロに負けない舌ができる。まずは食べることだよ」といわれ、そのとおりに実践。おかげで、今は高級ホテルやレストランで仕事をするとき、どんなシェフが出てこられても、舌では負ける気がせず、自信をもって自分の意見を言うことができるそうです。仕事に必要であれば、お金がかかっても、よいアドバイスを実行に移すことが一流への道なのでしょう。■3:お金で経験を買う若いときはお金の貯金をするよりも、お金を経験に変えて、「経験貯金」をしましょう。「どんな分野でもよいので、自分の熱中できるものにどんどんお金と時間を投資して、経験という貯金をする。次第にその経験がその人の魅力となり、人から見たらいつも輝いている人間となって映る」と著者はいいます。一流を目指すなら、他の一流の職人が持つ空気感を味わう・経験することが重要。著者もお客様の求める味を追求し、一流の人を相手に仕事をするために大きな金額を投資してきたそう。失敗もあったそうですが、お金は無駄にはならず、経験として自分に返ってきているようです。■4:ホテルごとの100種類の味を覚える著者は、取り引きするホテルの要望に合わせたジュースをつくることを心がけています。そして、一度つくれば終わりではなく、さらに少しずつでも改良を重ねているといいます。約100種類ものジュースを頭に入れ、それぞれに違う酸味、甘味、濃度加減など、数字ではなく舌で覚えてブレンド。ときには、頭と体で覚えることも重要だということです。■5:一流のお客様に愛されるものをつくる自然界では、川流れのように上から下へと流れる法則があります。下流でうろうろしていてもダメです。下流でヒットした商品は一時的には売れたとしても、すぐに消えてしまうし、忘れられてしまうもの。上流、すなわち一流のお客様に評価されると、商品は長く生き続けると著者はいいます。そうすれば、10年、20年経ったときに勝ち組になっているはずだという考え方。■6:できないときは正直に謝る一流のお客様とおつきあいするコツは、媚びを売らないこと。味や値段には妥協せず、おいしいみかんができなかったときは「今年はおいしいみかんができなかったので、送れません。すみません」と謝るそうです。みかんは生もの、年によっても出来の良し悪しがあります。お客様にも5年10年というスパンで毎年毎年食べていただくことで、同じように自然とつきあってほしいとのことでした。■7:スタッフをリッツ・カールトンに宿泊させる経験を通して学ぶことはとても大事です。お客様から「おたくの電話対応はおかしい」とクレームが入り、スタッフの研修として「ザ・リッツカールトン大阪」のクラブフロアに泊ってもらったとのこと。ホテルのサービスやホスピタリティに感心したスタッフは、電話対応の声や言葉つきまでガラリと変わり、大きな変化があったようです。■8:ひとつに特化して深く掘る三代目サルバトーレ・フェラガモ氏と食事をする機会に恵まれた著者は、「ブランド価値を高めるためには、なにをするべきだとお考えですか」と、思い切った質問をしました。すると、「ひとつに特化して、深く掘ることが大事。そしたらそこにブランドができる」とのお答えをいただいたそうです。著者もひとつのことをやり続けて臨界点まで達したときに、ポンと跳ねることができる、と考えていたそう。やはり、これだと思ったらとことん突き詰めるのが重要なようです。*著者の好きな言葉に「種のまき方で、収穫は決まる(アール・ナイチンゲール)」という名言があります。人生で手に入れる収穫物はすべて、自分が社会にまいた種の質と量の結果、という意味だそうです。少しでも共感がある人は、ぜひ本書を手に取って、一流に近づくヒントを得てみてはいかがでしょうか。(文/齊藤カオリ) 【参考】※谷井康人(2016)『奇跡のみかん農園 けっして妥協しない零細農家のすごい仕事の話』SBクリエイティブ
2016年03月19日『半熟アナ』(狩野恵里著、KADOKAWA)の著者は、テレビ東京の人気女性アナウンサー。前任の大江麻理子アナに代わり、2013年4月からバラエティ番組『モヤモヤさまぁ~ず2』(モヤさま)に出演していることで知られています。そればかりではなく、他にも『ネオスポ』『SUPER GT+』『競輪中継』などにも出演し、さまざまな分野で活躍中。本書は、そんな人気女子アナによる初のエッセイ。生い立ちから、『モヤさま』に初めて出演した時のエピソードや失敗談、さらには将来に対する思いなどを、素直につづった内容です。■1:「振られたら全力で」著者は『モーニングサテライト』や『ワールドビジネスサテライト』の現場で約3年を過ごしたのち、2013年の春から『モヤさま』に携わることになったのだそうです。もちろん、初のバラエティ番組。見たことのある方ならおわかりかと思いますが、出演者がしばらくしゃべらない場面など、独特の“間”があるのがこの番組の特徴。しかし著者は「しゃべりたいときにしゃべり、“間”を埋めて20数年を生きてきた」タイプなので、そこに戸惑いを感じたのだとか。具体的にいえば、“間”を埋めすぎてしまったり、さまぁ~ずのふたりの言葉で場が盛り上がったところに言葉をかぶせてしまい、おもしろさを半減させてしまったりするようなことが何度もあったということ。しかしそんなときにも、さまぁ~ずのふたりは、「振られたら全力でいけよ!トライ精神をなくしたら人生終わりだぞ」と励ましてくれたのだとか。その言葉に助けられ、「番組をよくするためにはどうしたらいいのか」について、より深く考えるようになったのだといいます。■2:「三歩進んで、二歩下がる」そこで著者は、さまぁ~ずやスタッフからの助言を受け、「我慢」をしてみることにしたのだそうです。話し出すタイミングを3秒ほど「我慢」して待ち、そして、思いついたことをすぐに口に出すことを「我慢」する。“間”が開くと必要以上に焦り、なんとかそこを埋めようと話をしまくる人がいます。著者がまさにそのタイプだったわけですが、そこを改善しようとしたわけです。“間”があっても慌てず焦らず、さまぁ~ずのふたりの呼吸をよくチェックして、間合いをはかってみるようにしたということ。とはいえ当然のことながら、一流芸人の呼吸に合わせて場の空気を読むということは、そうそう簡単ではないでしょう。実際ふたりからは、「最初の半年ぐらいは本気でヒヤヒヤしたよ(笑)」といわれたといいますが、実際そのとおりだと自分でも認めています。オンエアを見て、自分でも自分にヒヤヒヤすることがあるということ。しかし、だからこそ、大切なことがあるのだと著者はいいます。三歩進んで、二歩下がる。いけるかなと試してみて、行きすぎたと感じて、戻る。それが重要で、毎回、その繰り返しだというのです。そしてその根底には、なにも攻めないで縮こまるより、「攻めすぎて戻る」やり方でいくしかないという思いがあるようです。■3:「3人で、ひとつ」そんな調子で、周囲からいろいろなアドバイスを受けながら、あっという間に3年が経過。それでもいまだに、「モヤさまメンバーの一員」だとはなかなか胸を張っていえない状態。しかしそんなある日、「きょうは朝からテンションが高いな」とふたりにいわれたことがあったのだとか。また出すぎてしまったと思って「すみません! 静かにします」と誤ったところ、三村さんから「いいんだよ。俺ら3人でバランスとれば。その方が楽だし」といわれたのだといいます。このとき、「3人で、ひとつ」という考え方に感動し、そして救われた思いがしたのだそうです。「新参者として入ってきた人間がどんな気持ちでいるか、きっと考えてくださったに違いない!」と思ったといいますが、そのとおりだったとしても、勘違いだったとしても、そう捉えることはとても大切。そういう意味で著者は、「ポジティブ思考」の意義を無意識のうちに活用しているといえるかもしれません。*柔らかな文章からは、誠実に書こうとする姿勢がはっきりと感じられます。だからこそ読みやすく、苦悩しながらもあきらめない前向きさに共感できるはず。特に働く女性には、ぜひ手にとっていただきたい一冊です。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※狩野恵里(2016)『半熟アナ』KADOKAWA
2016年03月18日『大好きなことをやって生きよう! 【ポケット版】』(本田健著、フォレスト出版)は、2013年1月に刊行されてベストセラーのポケットサイズ版。新たに【実践ワーク】が加わり、さらに実用的な内容になっています。著者によれば本書は、「失われた記憶を取り戻すサポートを目的として」書かれたものなのだとか。「ワクワク」する感覚を思い出し、少しずつ試し、自分らしい人生への一歩を踏み出せるようにサポートしようということ。きょうは第5章「お金と大好きなことを両立させる生き方」から、「才能をお金に変えていく7つのステージ」をご紹介したいと思います。■好きなことをやって生きる人の共通項世の中には、大好きなことをやって、しかも経済的にも成功している人が存在しています。著者はそんな人たちのことを、20年以上前から研究対象にしてきたのだそうです。その過程で彼らに共通する法則を発見し、ワクワクしたといいますが、成功するまでには7つのステージがあるというのです。ひとつずつチェックしていきましょう。■好きなことで成功する7つのステージ(1)才能発見ステージまずは、自分がなにをやりたいのかが、おぼろげながらもわかるという程度のステージ。このときはまだ自分の才能がなんなのかわからず、「なんとなくこっち方面かな」というぼんやりしたことが多いのだといいます。しかし、悟りのように「私の才能はこれだ!」とわからなかったとしてもスタートできるもの。それを意識しておくことが大切だといいます。実際、いま成功している人の大半が、最初は方向性もぼんやりしていたそうです。それよりも、「とにかくスタートを切る」ことが大事だということ。(2)才能開発ステージこの段階は、自分の才能らしきものを大事に育てるステージ。しかしたいていの人は、この段階で才能の芽を摘み取ってしまうのだそうです。「どうせ、こんなことで生活できるわけがない」と、トライする前からあきらめてしまうから。でも、いきなりすべてを変える必要があるわけではありません。たとえば仕事が終わってから試したり、週末にやってみたりすればいいのだと著者はいいます。(3)修行ステージ自分が発見した才能をベースに、人生を組み立てなおすステージ。このステージは、どこかの組織に属するか、メンターに弟子入りすることになる段階。その組織やメンターが一流であれば、自分自身も一流の道に進むことができるわけです。ただしそうでない場合は、それなりの結果しか得られなくなるといいます。だからこそ、どこで修行するかがとても重要な意味を持つということ。(4)独立ステージこの段階までくると、いよいよ自分の足で立つことに。たとえば組織のなかで活躍する人も、自分の生で仕事するようになるということ。そして独立する人は、この段階で組織からでることになるわけです。人によっては、数年苦労するかもしれないとか。(5)独自性を発揮するステージこの段階は、独立して自分なりのポジションを築き上げようとしてがんばっているところ。ラーメン屋さんにたとえれば、独自のタレを考案したり、一風変わったサービスをつくり出す段階だといいます。つまり、ここをクリアできるかどうかで、本物になれるかどうかが決まるということ。(6)ブランドを築いて活躍するステージここまでくると、業界でも注目されるようになるといいます。お店だったら行列ができたり、雑誌やテレビで絶えず紹介されるような有名店になるということ。会計事務所や設計事務所などの堅い仕事の場合は、クライアントが列をなす状態。(7)業界のトップとして、リードするステージブランドを築いて活躍して数年から10年以上になると、その業界では第一人者として認められることに。その業界で最も有名なトップ10のひとりくらいになると、業界に対する責任が出てくるそうです。その業界の団体の理事になったり、業界全体を盛り上げるような仕事をするようになるわけです。絶えず自分の仕事もバージョンアップさせ、ワンアンドオンリーの世界をつくり上げ、次の世代を育成することに情熱を注ぐようになっていくのです。*こうして階段を登るようにステージを上がっていけば、どんどんライフワークをきわめていけるようになり、生活の心配もなくなっていくということ。また、毎日を充実感とともに過ごすことができるようになるわけです。たしかにこれなら、モチベーションをも確実に高めていけそうです。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※本田健(2016)『大好きなことをやって生きよう! 【ポケット版】』フォレスト出版
2016年03月17日現代は働くお母さんも多いだけに、家族のご飯を3食手づくりするのは、なかなか大変なこと。そんななか、毎日お母さんの手料理を食べられる家族は本当に幸せです。今回は、雑貨店『hal』のオーナー・2人の母・主婦と3つの顔を持つ、後藤由紀子さん著書の『おおまか、おおらか、だいだいでやってます 毎日続く お母さん仕事』(SBクリエイティブ)をピックアップ。後藤さん家の“毎日のご飯づくりの小さなコツ”がとても興味深かったので、ぜひご紹介したいと思います。■1:晩ごはんまでは約20分!著者は店から家へ帰り、晩御飯をつくり終えるまでがだいたい20分!でも、もちろん、そんな短時間ですべてをつくれるはずがありません。コツは朝や前の晩に下ごしらえをしておくこと。たとえば筑前煮なら、朝ごはんとお弁当をつくり終えた流れで野菜を刻み、肉といっしょに鍋に投入。煮ている間に朝ごはんを食べたり、洗濯したり、という具合のようです。■2:野菜の下ごしらえはまとめて行う野菜は鮮度の高いうちに無駄なく料理したいところ。だいたい3~4日分の献立やお弁当を考えながら野菜を仕分けるといいようです。ほうれん草なら1束を全部茹で、水気を切ってジップロックコンテナーへ。かぼちゃ一個なら2分の1~4分の1を蒸してしまい、蒸している間に具材を用意し、冷ましてサラダへ。にんじんならスライサーで1本千切りにしておけば、サラダにも炒め物にもきんぴらにも使えます。■3:留守番料理は煮込みがおすすめ子どもが大きくなり、仕事で一泊の出張をしたり、夜遅くに帰宅したりすることが増えたという著者。そんなときに活躍したのが煮込み料理です。カレーやクリームシチュー、ポトフなどは食べる直前に温めなおしてもらえばOK。ポトフならキャベツ1/2個を入れ、その他の野菜もたっぷり食べられてヘルシーです。■4:買い出し前は残り野菜を使いきるメニューを週に一度、新しく野菜を買いに行く前には、冷蔵庫の野菜を使いきるのがコツ。活躍するのが八宝菜やオイスター炒めです。残り野菜を全部入れるので分量はそのときによりけりですが、火を通せば野菜のかさも減ります。また、肉やキノコを入れれば旨みも増します。■5:目分量で味付けできればラク定番料理の調味料は目分量でできると楽チンです。毎回つくっていれば自然とできるようになるといいます。「炒め物の醤油はフライパン一回し」とか、煮物は「しょうゆと酒は同じくらい」「みりんはその半分」など調味料の比率を覚え、コツをつかめば簡単です。■6:魚はフライパンで焼くグリルはあっても洗うのが大変なので、魚を焼くのはフライパンがおすすめとのこと。皮目から焼いて、こんがりしたら裏返して蓋をして蒸し焼きに。これだけでメインのおかずになってくれる、働くお母さんの強い味方です。■7:野菜をゆでるのもフライパンで野菜を買ってきたら、下ゆですることも多いのですが、そんなときはフライパンはが活躍!鍋よりも早くお湯がわく上、中の野菜の状態も見やすいようです。茹であがりの確認で菜箸をさすときも、深い鍋よりフライパンのほうが具が沈まずにやりやすいそうです。■8:サラダは10個まとめて作り置き生野菜サラダは一人分ずつ、10個のジップロックコンテナーへ入れてつくり置きします。忙しいときはそのまま食卓に出し、家族に先に食べていてもらえてとても便利なようです。■9:ひき肉は1キロ買って下ごしらえしておく著者は肉の特売日にひき肉を1キロほど買い込んで、おかずを何品がつくるようにしているそう。合びき肉の場合は玉ねぎと混ぜて、ハンバーグやピーマン肉詰めやロールキャベツに。ハンバーグは焼いてから冷凍します。鶏ひき肉の場合はれんこんのはさみ焼きを作り、他は鶏だんごにして茹でて冷凍。照り焼きや煮物にも使えて便利なようです。■10:ポイントを押さえ、30分で5品作り置き段取りさえよくできれば、30分で5品もつくり置きができるとのこと!たとえば根菜を茹でたら、お湯は捨てずに中身だけ取り出し、同じお湯で葉野菜を茹でれば時短になります。煮物を煮込んでいるときに洗い物を済ませ、その後におひたしやサラダをつくれば、時間を効率よく使えます。■11:おかずが少ないときは炊き込みご飯著者の家では白ご飯にメインのおかず、副菜が2~3品がいつものパターンとのこと。しかし買い出しの前日などはおかずが足りなくなることも。そんなときに登場するのが炊き込みご飯だそうです。買い置きしてある干ししいたけなどの乾物に、油揚げやにんじん、残り物のきのこを入れればOK。季節を感じさせる春の豆ごはん、秋の栗ごはんなどもおすすめです。■12:毎日のみそ汁の具は2種類で具だくさんのみそ汁も魅力的ですが、具が2種類くらいなら毎日でも苦にならず、さっとつくれて便利なようです。だしは週に2回程度取り、冷蔵庫で保管。人数にもよりますが、著者の家では2日間でなくなるとのことです。*家族の健康のためにお母さんが毎日つくる、さまざまなおかず。これほど温かく愛情の詰まったものはないと思います。効率よくつくれる小さな工夫の数々は、ぜひ取り入れてみたいですね。本書のなかには他にも、狭い台所だから使いやすい道具や収納、気持ちよく暮らすためのコツなども掲載されています。ぜひ手にとって参考にし、ほっこりした気持ちになっていただきたいと思います。(文/齊藤カオリ) 【参考】※後藤由紀子(2016)『おおまか、おおらか、だいだいでやってます 毎日続く お母さん仕事』SBクリエイティブ
2016年03月17日良質のバターとMCTオイルを入れたコーヒーを朝に飲むことで、体重を減らすだけでなく、筋肉をつけ、集中力とパフォーマンスを高めてくれる……。にわかには信じがたいダイエット法が米シリコンバレーのIT起業家・投資家のデイヴ・アスプリーによって考案され、世界中で話題になっています。日本でも彼の著書『シリコンバレー式 自分を変える最強の食事』(ダイヤモンド社)が、2015年9月に刊行。現在まで7刷を数えるベストセラーとなっています。eコマースを史上はじめて行うなど、若くしてITの世界で成功を収めた著者ですが、一時は体重140キロに達しそうになり、30歳の頃に血小板凝集を発症、副鼻腔炎や咽頭炎が治らずにずっと集中していられなかったといいます。太っていては仕事ができないと悟った著者は、あらゆるダイエット法に挑戦。さらに最新の医療知識を求め、それらに30万ドル以上を費やした結果、行き着いたのが「自分の身体をハックすること」。このあたり、シリコンバレーのIT長者らしい発想といえるのではないでしょうか。しかし、なぜ著者自ら考案した「完全無欠(ブレットプルーフ)ダイエット」が、ここまで大きな反響を得たのか?それは、徹底的に従来の常識を「逆張り」していったことが挙げられます。たとえば、「朝にヨーグルトを食べると太る」「脂肪を食べると痩せる」などの考えは、従来のダイエットでは考えられないことです。そこで今回は、この「完全無欠ダイエット」の反響の秘密について紐解いていきたいと思います。読者に驚きを与えたのは、主に下記4つの逆張り部分ではないでしょうか。■1:「オーガニックな食材が良くない」と逆張り著者の言葉では「バイオハック」、つまり「痩せたい」「集中力を上げたい」と望む者に対して、すべて食べ物の「質」によると断じた単純明快さ。身体の炎症がパフォーマンスを下げること、それには加工食品や野菜が持っている反栄養素の存在を詳らかにしていることは特筆に値します。ナス科や豆類、ナッツなどに含まれているレクチンが偏頭痛や肌荒れの原因になるといった指摘は、オーガニックな食事がよいとされてきたこれまでの健康食とは明らかに相反する内容。特に著者は「ピーナッツはレクチンを含む。ほぼ誰にでも炎症反応を生じさせ、アナフィラキシーを起こし死に至らしめる重篤なアレルギー症状をもたらす物質だ」と記し、腸粘液の生成が40%増大し、ヒスタミン濃度も高くなるといった弊害もあるとしています。このように、食物に含まれる成分の悪影響を列挙することで、自説の説得力を与えています。■2:「コーヒーは悪くない」と逆張り著者はコーヒーを飲んで不調に陥る原因を、豆が侵されているカビに求めます。粉末のコーヒーよりも挽きたてのコーヒーを使うことを推奨しているのは、前者が低品質の豆を使い加工技術によってカビ毒の含有量を増やしているからとしています。また、コーヒー自体はポリフェノールを大量に供給するため、そのままでもパフォーマンスを高めてくれるとも。このほか、野菜にもカビ毒は含まれているため、アボガドなどの例外を除いて生ではなく加熱して調理をすることを奨めています。■3:「フルーツを食べるとなぜお腹が空く」と逆張り一般的に朝食べるとよいとされるフルーツ。しかし、含まれている果糖は空腹感を刺激するホルモン・グレリンをオフにするのが苦手だと著者は指摘します。つまり、食欲を抑えられなくなるのです。その上、著者はフルーツの果糖が「ふつうの砂糖より中性脂肪値を上げ、結果として砂糖より代謝障害を引き起こす」としています。そればかりか、「シュガークラッシュ」(糖の摂取による低血糖症)により集中力とエネルギー、血糖値が奪われるといい、「糖を食べると体が疲れ、脳とホルモンの機能が乱され、肥満が助長される」と断言しています。一方で、「正しい食品を摂っているかぎりは、食べたいだけ食べればいい」と述べ、脂肪は「人体の重要成分」「いかなる健康的なリスクを受けることがない」と強調。カロリーを減らすことがダイエットの「決定的な要素でない」とも述べています。これまでのカロリー制限とは真逆の発想で、最適な時間に最適な食材を摂ることの重要性を説いているあたりが読者に驚きを与えてくれます。■4:「運動をすれば痩せるわけでない」と逆張りそしてなにより、目的は「他人によく見られるために痩せる」といったものではなく、「高パフォーマンスを維持する」ためだという点が、多くのビジネスパーソンの琴線に触れたのだと考えられます。「運動は腹が空っぽのときにして、20分以上はがんばる必要はなく、走るのは毎日でなく週一の方が効果的」という考え方は、生産性を求める人には福音のように聞こえたのではないでしょうか。また、朝にタンパク質を摂り、夜には炭水化物を食べるといった、時間によって効果が違うことを明らかにしているところも、データによる管理が簡単になった現代向きといえそうです。*とはいえ、著者は「映画を観るときは、ポップコーンを食べればいい」と述べ、人によって合う食べ物とそうでないものがあると指摘しています。本書のキモは、自分が口にしている食べ物の正体と身体への影響を知ること、そして自分の変化を観察して、その人なりの「最強の食事」を見つけることだと、訳者の栗原百代さんも記しています。いまある常識から脱するのはなかなか難しいかもしれませんが、ダイエットがうまくいかない人や、身体の不調の原因がわからないという人にとっては、ヒントに満ちた説といえるのではないでしょうか。(文/ふじいりょう) 【参考】※デイヴ・アスプリー(2015)『シリコンバレー式 自分を変える最強の食事』ダイヤモンド社
2016年03月17日『熱狂しやがれ – 転職せずに100倍楽しく働く方法』(小杉俊哉著、ワニブックス)の著者は、NEC、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク、ユニデン株式会社人事総務部長を経て、アップルコンピュータ株式会社(現アップルジャパン)人事総務本部長に。そして、そののち独立したという人物。3万人にキャリア研修を行ってきた実績もあり、つまりは誰よりも、「人が成長していくさま」を見てきた人物だということです。そんなキャリアを軸として、本書ではビジネスパーソンとしておもしろく生きる方法を伝授しているわけです。きょうはそのなかから、会社員にとってのお金、すなわち「給料」についての記述を引き出してみたいと思います。■同じ給料なら難しい仕事を選べ仕事に熱狂している人たちは、仕事を選べる立場になったとき(上司から選択肢を与えられたとき)、難易度の高い仕事を自然と選んでいるのだそうです。もっといえば、「同じ給料なら、楽な仕事の方がいいに決まっているだろう」と思っている人がいたとしたなら、それは明らかに仕事に対する熱狂が足りていない証拠だと著者は指摘します。そもそも難易度が高い仕事にチャレンジするとき、人は自分の実力以上のものを出さなければならないといいます。いわば、それは背伸び。なぜなら、人は背伸びをする過程を経ないと成長しないものだから。いまの仕事に甘んじることなく、少しずつ背伸びをすることによって可能性が開けていくというわけです。しかも、そうやってチャレンジした結果が成果につながれば、周囲から賞賛され、自尊心も満たされるもの。それこそがビジネスパーソンにとっての至福の瞬間であり、それが最高の養分となるのだといいます。つまり、「やり甲斐」が生まれる瞬間。また、それだけではありません。一時の幸せを噛み締めたら、そこに安住することなく、さらなる幸せを求めて新しいチャレンジを指向するべきだということ。そうなると怖いのはゴールとしての「成果」ですが、仮に成果につながらなかったとしても、気にする必要はないと著者はいい切ります。なぜなら仕事に熱狂している人は、成果を出せなかったとしても「ベストを尽くしたのだから仕方がない」と、気持ちをすぐに切り替えることができるものだから。いっぽう、中途半端な気持ちで仕事に取り組んでいる人は、失敗を経験してもその原因がわからないもの。だから結果的に、失敗したという「結果」だけを引きずってしまう傾向があるのだそうです。しかし、著者はこう断言します。本来、仕事の醍醐味とは「プロセス」にあるのだと。プロセスで全力を尽くすことで、はじめて失敗からなにかを学び取ることができるというわけです。「今回はこうやって失敗したから、次はもう少し工夫をして絶対に成果を出そう」と、再挑戦に向けて自分を鼓舞できるということ。■簡単な仕事を選ぶとどうなる?では逆に、難易度が低い仕事ばかりをしているとしたら、結果的にどんなことになるのでしょうか?この問いに対して著者は、それだと「普通にやっていれば成果は出せるだろう」と甘えの感情が肥大化していくものだと断言しています。いいかたを変えれば、マンネリ化、ルーチン化。だから、必死でやろうとは思わないわけです。だから、日に日に仕事に対する熱量が低下していってしまうということ。だいいち、簡単な仕事で成果を出したとしても、それは「やって当然」だと思われるだけ。当然のことながら、周囲から評価されることもないわけです。もし、自分では真面目にやっているのだとしても。だとすれば、自尊心が満たされることもないということになります。それどころか、難易度の低い仕事でミスを犯してしまったとしたら、それこそ目も当てられないことになるでしょう。周囲の評価も著しく落ちることとなり、それによって自信を失ってしまうことも十分に考えられます。だからこそ、「どうせ同じ給料なら、難しい仕事を選べ」と著者は断言するのです。それは緊張感を生み、精度の高い仕事につながり、ひいてはさらに高い給料へとつながっていくものだから。*著者の主張は(文体も含め)とても熱く、だからこそ不思議な説得力があります。なにかしたいことがあって、でも一歩が踏み出せないという人にとっては、格好の一冊であるといえます。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※小杉俊哉(2016)『熱狂しやがれ – 転職せずに100倍楽しく働く方法』ワニブックス
2016年03月16日健康のために、野菜をたくさん食べるようにしている人は少なくありません。しかし、どの野菜をどのように食べるかで、体への影響が変わることをご存知でしょうか。『野菜の新常識 体にいい食べ方はどっち!?』(扶桑社)の著者は、管理栄養士であり、日本野菜ソムリエ協会講師を務める人物。本書によれば、たとえ野菜をたくさん食べても、食べ方によっては、栄養をうまく吸収できないといいます。しかし正しい食べ方をすれば、体の疲れから肌の調子、体質までも大きく変えられるというのです。「体質は持って生まれたものだから変えられないのでは?」と思う方もいらっしゃるでしょうが、人間の体質は3ヶ月で変えられるのだそうです。■食べ物を変えるだけで「体も心も」変わっていく私たちの体は、小さな細胞がたくさん集まってつくられています。そのため、細胞をキレイで質のよいものにすれば、体質も変わっていくわけです。どのくらいで臓器の細胞が入れ替わるかというと、胃は約30日、腸なら約40日。また肌は約28日の周期、口の中なら約2日とのこと。良質な細胞をつくるために大切なのは、良質な血液。そしてその血液を生み出すのが、水分と栄養なのです。著者はそれに気づいてから、食べ物で自分の体質を変えようと、体に足りていない栄養素を調べ、その栄養素が含まれている食べ物を意識して摂ったそうです。すると、もともとニキビ体質だったはずが1ヶ月目に肌のテカリがなくなり、2ヶ月目にニキビが治まり、状態が改善されていったというのです。さらに、消極的な性格も変えることができたのだとか。つまり食べ物を変えれば、体も心も変わることがわかったのです。これがきっかけで、著者は30年以上「食べ物と体・心の関係」について研究を続けているといいます。食べ物のなかでも、特に体と心に影響を与えるのが野菜と果物だそうです。なぜなら野菜と果物には、生きた栄養素が詰まっているから。上手な食べ方を知り、そのパワーを摂りいれることで、私たちの体と心はどんどん元気になると著者は主張しています。本書では、各季節の旬な野菜が持つ栄養価や、それを最大限活かす食べ方を明かしています。春はフレッシュな成長パワーを秘めた野菜たちが登場しますが、今回はキャベツと玉ねぎに注目します。どちらもよく食べる野菜ですよね。■栄養価を最大限活かすキャベツと玉ねぎの食べ方(1)キャベツキャベツの食べ方は、煮たり焼いたりそのまま食べたりいろいろあります。しかし胃の調子を整えたい場合は、生で食べるべきだといいます。キャベツに入っている「キャベジン」は、胃の粘膜を守り、胃潰瘍の予防や胃腸の調子を整えるのに役立っています。しかしキャベジンは水溶性ビタミンであるため、熱や水に弱いそうなのです。だから加熱せず生のままで食べる方が、そのままの栄養を体に取り込めるというわけです。またキャベツはビタミンCも豊富ですが、こちらも水溶性の栄養素になるため、生で食べるのがベスト。千切りサラダなどにして食べるのがおすすめだそうです。(2)玉ねぎ玉ねぎを切ったあと、水にさらすことはありませんか?たとえばオニオンスライスなど生で食べる場合、水にさらして辛味を流す人は多いはず。しかし栄養価のことを考えると、細かく刻んだ玉ねぎは水にさらさない方がよいそうなのです。辛味は、玉ねぎが持つ硫化アリルの一種「アリシン」が引き起こすもの。そのまま食べると辛味が強いですが、血液をサラサラにしてくれる作用があるそうです。他にも生活習慣病や体の新陳代謝も助けるため、肌のくすみにも効果的なのだとか。しかしアリシンは水に溶けやすいため、切った玉ねぎを水にさらすと、せっかくの成分が逃げてしまうことに。そこで著者は、切った後15分から30分くらい空気に触れさせることを提案しています。それなら栄養成分を損なわず、辛味を飛ばすことができるわけです。*このように野菜は調理方法などによって、栄養価がダウンしたり、アップしたりするのです。いくら野菜を摂っても、そのパワーを体に取り込めないなら、もったいないですよね。本書には、手軽に実践できる野菜や果物の体にいい食べ方が紹介されています。毎日の食生活、そして自分の健康のためにも読んでほしい一冊。本書の内容を活かせば、体も心も変わっていくかもしれません。(文/椎名恵麻) 【参考】※中沢るみ(2016)『野菜の新常識 体にいい食べ方はどっち!?』扶桑社
2016年03月16日タイトルからもわかるとおり、『万病が治る! 20歳若返る! かんたん「1日1食」!!』(船瀬俊介著、講談社)の著者が勧めているのは「1日1食ファスティング」(少食、断食)。タモリさん、ビートたけしさんを筆頭に、芸能界、音楽業界、スポーツ界などさまざまな分野の著名人がこれを取り入れているのだそうです。プロローグで紹介されたその記述を読むだけでも、なんだか効果がありそうだなと思えてきます。しかし大切なのは、具体的に、どのような効能があるのかということであるはず。そこで第1章「ファスティング、『奇跡』の十五連発」から、ぜひ知りたいファスティングの15大効能を引き出してみたいと思います。■1:持病が消えていく新陳代謝能力を超えるほどに食べると、代謝しきれなかった老廃物は、万病のもとである“体毒”として蓄えられるのだそうです。それらは感染症や炎症、発ガンなどにつながるといいますが、ファスティングをしてインプットをストップさせれば、身体は自己浄化されてクリーンな状態に。そこで、持病も消えていくというのです。■2:病気にかかりにくくなる1日1食にすると“体毒”を速やかに排出できるので、免疫力、自然治癒力がアップして、病気にかかりにくい体質になるのだといいます。■3:身体が軽くなるまずファスティングで体重が減るので、文字どおり軽い状態に。そして1日1食により血液が末梢血管をよく廻るようになるため、身体の隅々まで血液が行き届き、新陳代謝も活発に。体内に老廃物(体毒)が残らないから筋肉や神経もスムースに働き、身体が軽くなるというわけです。■4:疲れにくくなる1日1食で身体が軽くなり、当然のことながら作業がはかどる。食べ過ぎていないから、疲れもたまらないということです。■5:睡眠時間が短くなる食後に眠くなるのは、消化吸収でエネルギーがとられ、睡魔が襲ってくるから。なので、少食者(スモール・イーター)は短眠者(ショート・スリーパー)になるということ。■6:肌が若返るファスティングすると“体毒”のデトックス(解毒)が進むため、肌が驚くほどみずみずしく若返るのだとか。ちなみに皮膚がきれいになったということは、内臓の排毒も進んだことを意味するのだそうです。■7:頭が冴えてくる頭が冴えてくるのも、脳の神経細胞のデトックス効果。ファスティングをする神経細胞からも排毒が進み、電気信号がスムースに流れるようになり、記憶力から直感力までが格段に冴えるようになるというのです。■8:生き方が前向きになる脳内デトックスされると頭も軽くなり、ものごとをポジティブに考えるようになるそうです。■9:身体が引き締まる1日1食でダイエットは確実に成功すると著者は断言します。理由は、ファスティングで余分な体脂肪などが落ちていくから。■10:不妊症が改善する粗食、少食こそ子宝に恵まれる秘訣で、空腹感は生殖能力もアップさせるのだといいます。■11:寿命が延びる1日1食ファスティングをすると摂取カロリーが少なくなるため、空腹感により長寿遺伝子にスイッチが入るのだとか。■12:食費が三分の一ですむ食べる量が減るのですから、当然のことながら食日も減ることに。また、1日1食でいやでも健康になるので、薬代や医者通いの費用もかからなくなるといいます。■13:仕事がはかどる頭が冴え、睡眠が短くてすみ、料理も三分の一ですむのだから、仕事がはかどるのも当然の話。■14:趣味を楽しめる仕事がはかどると、時間とお金を浮かせることが可能に。その分を趣味に回せば、人生をさらに豊かに楽しむことができるというわけ。■15:感性が豊かになるファスティングで脳から、さまざまな神経毒がデトックスされるといいます。だから頭が冴え、感受性や直感力が研ぎ澄まされるということ。*「持病が消えていく」「不妊症が改善する」「寿命が延びる」などは決して断定できるようなことではなく、そういう意味では、すべてを過信するのは危険だと思います。しかし客観的な視点を持って読み、リスクを回避しながらファスティングに挑戦してみれば、少なくともいくつかのメリットは実感できるかもしれません。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※船瀬俊介(2015)『万病が治る! 20歳若返る! かんたん「1日1食」!!』講談社
2016年03月15日『プレゼンの勝つテクニック 図解 書く・伝える・フォローする』(天野暢子著、実業之日本社)の著者は、「プレゼン・コンシェルジュ」という一風変わった肩書きの持ち主。いってみればプレゼンテーションに関わることならなんでも相談に乗り、最適なアドバイスをする仕事だということ。広告代理店、新聞社、広告主などのマスコミ畑で働いてきた実績を持ち、プレゼンテーションのスキルは実務を通じて積み上げてきたそうですが、そんななか「上手に」とか「格好よく」と依頼されることはなかったのだそうです。では、なんといわれたのかといえば、「勝てるものをつくってくれ」。だから常に、「勝つためにはなにをすべきか?」しか考えてこなかったのだといいます。いうまでもなく、プレゼンは「勝つ」ことに意味があるから。そこで本書でも、意識しているのはとことん「勝つ」こと。そこを軸として、プロが当たり前のようにやっていること、けれども簡単に実践でき、すぐに効果が出るテクニックを公開しているわけです。きょうはSTEP1「資料作り」のなかから、数字と時間に関する項目に焦点を合わせてみたいと思います。■数字は右揃え・小数点揃えで売り上げや伸び率、人数、提案額など、プレゼンにおいては数字を使って説明することがよくあります。それは、相手を納得させるための有効な武器であるともいえるでしょう。とはいっても、それは便利な反面、理解するのにいちばん時間のかかるものでもあります。必ずしも、数字に強い人ばかりではないからですが、仮に数字を読み間違えさせてしまったとしたら、自分にも相手にも損害が生じることになります。そこで読み間違えられないようにするために重要なのが、「数字は右揃え、小数点揃えで見せる」こと。数字は「一」の位で揃えて見せるのが原則なので、必ず右揃えに。そして小数点を含む数字は小数点で揃えて表示。3ケタごとにカンマを振れば、さらに認識しやすくなるといいます。単に「千人」「百万円」などを使わず、ストレートに把握できる表記で見せるべきだということ。瞬時に数字が把握されれば、提案数字を正しく評価、検討してもらうことが可能に。その結果、「選ばれる資料」になるというわけです。■意味の区切りにはスペースをひと続きの名称や用語は、「どこが意味の区切りなのか」がわかりにくく、相手を誤解させてしまうことがあります。しかし、一瞬で意味がわからず考え込ませてしまうとしたら、それは相手の時間を奪うことにもなってしまいます。そればかりか、意味を取り間違えられたり、誤解されたままになったりする可能性も否定できません。だとしたら、そんなプレゼンが成功するとは考えにくいはず。そこで重要なのが、スペースで区切って意味を伝えること。的確に文章の内容を把握してもらうために、まずは段落を分け、次に適宜、句読点で文を切るのです。そして意味の区切りでは、スペースをはさんで字と字を分けて見せるといいのだとか。たとえば・北大学食ランキング・加賀美香(氏名)・東京都営業能力開発協会・国立府中間高速料金・関内科外科これらはどれも、どこで区切ったらいいのかが判断しづらいのではないでしょうか?そこで、・北 大学食ランキング・加 賀 美香(氏名) ← 姓と名の間を空けることで区別がつく・東京都 営業能力開発協会・国立府中 間高速料金 ← 句読点や「・」を入れるべきではない言葉も、スペースを加えれば区切りが伝わる・関 内科外科というように、半角スペースと全角スペースを駆使すれば見やすくなるのです。つまり相手を考え込ませることなく、ストレートに理解できる文章に変えてみれば、それは相手に無駄な時間をかけさせない資料になるということ。その結果、素早く「決定」へと誘導できるわけです。*このように著者のプレゼン資料に対する考え方は、「勝つ」ことだけを目的としているだけあって実に具体的。応用できるポイントも多いので、プレゼンで悩んでいる人はぜひ参考にしてみてください。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※天野暢子(2016)『プレゼンの勝つテクニック 図解 書く・伝える・フォローする』実業之日本社
2016年03月14日『お金を整える』(市居愛著、サンマーク出版)の著者は、マネーコンサルタントとして活躍する人物。しかし過去には、リーマンショックの影響でご主人の会社が倒産したことから、「お金がない恐怖」をリアルに体験したことがあるのだそうです。その恐怖感は相当なものだったでしょうが、そんななかでも得たものがあり、それが未来につながっていったのだといいます。それは、「お金の通り道」を整えることの重要性。お金の通り道を整えることによってムダな出費が減り、お金が貯まることに気づいたのだというのです。逆にお金の通り道が片づいていないと、新鮮なお金が入ってこなくなり、ムダなお金がどんどん出ていくことになるのだとか。また、散らかりすぎているあまり、本来あるはずのお金の存在に気づかないということも考えられるでしょう。その感覚を著者は、部屋の状態にあてはめています。部屋が散らかっていると「気が散る」のと同じように、お金の通り道が散らかっていると「お金が散る」ということ。そんな経験に基づいて書かれた本書のなかから、きょうはカードについておぼえておきたいことをご紹介しましょう。■カードは1枚に集中させるべし「クレジットカードを1枚にしましょう」と著者が提案すると、たいていの場合は「えー、無理ですよー」というリアクションが返ってくるのだそうです。たしかに最近はサービスが充実しているだけに、「ポイントほしさに」次々とクレジットカードをつくってしまうことも考えられます。ところが何気なくつくってしまうクレジットカードは、枚数が増えれば増えるほどリスクが高まるのだとか。しかも、もらえるご褒美も減っていくのだそうです。まず「ポイント」という観点から考えると、クレジットカードは使う頻度が高い企業で、もっとも効率よくポイントが貯まるものを選ぶべきだといいます。たとえばネットショッピングが多い人は、楽天やアマゾンなどのネット系カードを、食料品や日用品の買い物が多い人は、イオンカードやセブンカードなどの食料系カードを、といった具合。なぜならクレジットカードのポイントは、カードによって異なるものの、基本的にはそのカードのお店で使えば使うほど貯まる仕組みになっているから。そして当然のことながら、貯めたポイントはその企業の商品やサービスに換えることができるわけです。貯まっていくポイントは決して少なくないだけに、カードを1枚に集中させるだけで、お金(ポイント)が自動的に貯まるということ。■カード1枚だと信用も得られるまた、クレジットカードを1枚にすべきもうひとつの理由が「信用」。クレジットカードの支払い期限までに入金できなかった場合、その情報は「信用情報機関」というところに記録されるのだそうです。すると、住宅ローンなどで銀行からお金を借りたいとき、車などをローンで買いたいときなどに不利が生じてしまうということ。クレジットカードが複数枚あると、それぞれの請求額を把握しづらく、つい支払いを忘れてしまいがち。しかし1枚だけにしておけば、そんなリスクを減らすことができるわけです。■ポイントカードは3枚にしぼる最近はどんなお店にもポイントカードがありますが、いわれるままにいろんなポイントカードをつくるのも考えもの。なぜならポイントカードが多いほど、行く店が多くなるものだから。しかし、それぞれのお店でのポイントはたいして貯まらず、結果的にはムダづかいが多くなってしまうというのです。そこで悪循環を断ち切るために、著者はポイントカードの枚数を3枚にしぼり、お財布を整えることを勧めています。まずはお財布からすべてのカードを出し、過去「1年以内」にポイントを換金、あるいは商品に換えたことのあるカードだけをチョイス。そしてそのなかから、理容頻度の高い3枚を選ぶといいそうです。「1年以内」である理由は、お店のポイントカードは1年で有効期限が切れることが多いため。つまり1年以内にポイントを使ったおぼえがない場合には、必要のないカードだということになるわけです。そして「3枚」である理由は、1枚や2枚では、さまざまなシーンに対応できない可能性があるから。そして4枚以上持つとポイントが分散してしまい、得にならないからだといいます。*主婦としての感覚がベースになっているだけあり、考え方やメソッドはこのように具体的かつ実践的。つまりはすぐに役立てることができるわけなので、目を通しておきたい一冊だといえます。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※市居愛(2016)『お金を整える』サンマーク出版
2016年03月13日たとえば、毎日遅くまで残業続きなのに、そのわりには成果をなかなか出せないとか。あるいは、忙しすぎて自分の時間がつくれないとか。時間をうまく使いこなすことができず、密かに悩んでいるという方も多いのではないでしょうか?そこでご紹介したいのが、『仕事の速い人が絶対やらない時間の使い方』(理央周著、日本実業出版社)。著者は、トヨタ系列の日系企業に就職し、入社3年目にして外資系企業のフィリップモリスに転職。以後もアマゾンやマスターカードなど、10社を経験してきたという人物。つまり本書では、そんなプロセスのなかで身につけた独自の時間管理術を明かしているわけです。ところでそんな著者は、複数の職場でたくさんの優秀な人たちと働くことによって、大切なことを学んだのだといいます。それは、「仕事には、こなすことが目的の『作業』と、価値を生み出すことが目的の『価業』のふたつがある」ということ。当然のことながら、「価値」を大切にする必要があるということです。事実、仕事の速い人は「作業」をどんどん効率化して時間を短縮し、成果につながる「価業」を充実させる時間の使い方をしているもの。ところが仕事の遅い人は常に「作業」に追われ、結果的にはそれで仕事をしたつもりになってしまうということに……。■まずやるべきことを明確にするでは、そんな状況から抜け出して「仕事の速い人」になるためには、いったいどうしたらいいのでしょうか?この点について著者は、「時間の使い方」次第で成果が大きく変化し、より有意義な人生を過ごせるようになると主張しています。その際の重要ポイントは、不要なものをきっぱりと「捨てる」こと、「なにをやめて、なにをやるか」を決め、「やるべきことを明確にする」ことからはじめる必要があるということです。たとえばそれは、メールについてもいえるとか。メールに時間をかけすぎないように、考えるべきことがあるというのです。理由は明白で、「成果」を出すことが求められるのが仕事だから。それを前提に考えると、メールは仕事の目的ではなく、手段にすぎないということになるわけです。だからこそ、メールの送受信に必要以上の時間をかけてはいけないと著者はいいます。メールをしただけで仕事をした気分になっている人は、メールだけではなんの成果も生んでいないことを自覚すべきだというのです。■集中力を途切れないようにするいっぽう、仕事が早い人はメールを手段と割り切り、できるだけ効率よく処理しているもの。具体的にいえば、わざわざメールチェックをする時間をとらず、5分、10分の隙間時間を使っているのだといいます。たしかに、メールが届くたびに仕事を中断するのは非効率的。そんなことになるのを防ぐためにも、メールボックスを開くのは1日数回だけにして、「価業」(成果につながる仕事)に使うための時間の途中で集中力が途切れないようにすることが大切だといいます。著者の場合は、朝に仕事(価業)をはじめる前に、脳のウォーミングアップとしてメールチェックをするのだそうです。件名をざっと見て、「今日中に返事をしなくてはいけないもの」だけを受信ボックスに残し、メルマガや迷惑メールなどの残りは別フォルダに移動。そしてそのとき、すぐに返信したほうがよいものはその場で返信するのだといいます。なぜなら、あとで返信するために、またメールを開くのは二度手間になるから。そしてそのあとは、夜までメールソフトをシャットダウン。■メールチェックは1日3回のみ一般的に、ビジネスメールは24時間以内に返信するのがいいとされているのだそうです。なぜなら2日、3日も返信がないと、「仕事が遅い人」とみなされてしまうから。しかし逆にいえば、ふだんは1日に3回メールをチェックしておけば、相手に失礼になることはないわけです。朝に一度メールチェックをしたら、その後は午後の隙間時間に一度チェックし、最後に終業前に再チェックをすれば十分だということ。そして、メールは開いたと同時に返信するのが効率的。もちろん確認事項があり、少し考えてからでないと返信できないものもあるでしょう。しかしそういう場合でも、仕事が速い人はメールを受け取りっぱなしにせず、「メールを受信したこと」を伝えるメールを送ることが大切。とはいえ、長々と書く必要はなし。「メールを拝受しました。ご指定の期日までには返信いたします。まずは拝受のお知らせまでで失礼します」と返信するだけでいいのだそうです。*このように、著者の時間の使い方はきわめて効率的。すぐに応用できることも多いので、本書の内容を活かせば時間の有効利用が可能になるかもしれません。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※理央周(2016)『仕事の速い人が絶対やらない時間の使い方』日本実業出版社
2016年03月12日きょうは3月11日。いうまでもなく、多くの人々に衝撃を与えた東日本大震災から5年目にあたる日です。5年前の現在と同じ時刻に、なにをしていたか、どんな不安を心に抱えていたかなどを鮮明におぼえている方も少なくないと思います。あの日を境にいろんなことが変化しました。なかには思い出したくないこともあるはずですが、いいことがあったとすれば、人の心の温かさを共有できたことではないだろうかと感じています。多くの人が「当たり前のこと」として、困った人がいれば手を差し伸べ、助けられた人は素直に「ありがとう」と口に出し、感謝の気持ちを表すことができた。そんな気持ちを共有できたということには、とても大きな意味があるように思えるのです。そこできょうはひとつの区切りという意味も込め、『ありがとう ~Thank you~』(寺井広樹著、世界中に笑顔を広げるアーティストRIEイラスト、あさ出版)という書籍をご紹介したいと思います。■「ありがとう」の気持ちを伝える39の言葉著者は、能動的に涙を流す時間を設けることによって心のデトックスを図ろうということを目的とした「涙活プロデューサー」。直木賞作家、志茂田景樹氏との「天国ポスト」、川嶋あいを筆頭とするアーティストへの詩の提供など、幅広く活動している人物です。イラストを手がけるRIEさんは、ボルネオ島のある村で、貧しくとも笑顔を忘れない少女と出会ったことから「人の心の豊かさ、温かさを世界中に広げたい」と感じるようになり、絵を描き続けているという人物。つまり本書は「涙活」のコンセプトに基づき、「ありがとう」の気持ちを伝える39のメッセージを集め、それらを日本語と英語で表記。ソフトでやさしい質感をもつイラストとともに紹介しているというわけです。このなかから、6つのメッセージをご紹介しましょう。■6つのシンプルな「ありがとう」メッセージ(1)生きること、生きていくこと今日、こんな言葉に出会いました“生きるというのは、人に何かをもらうこと。生きていくというのは、それを返していくこと”Today, according to a quote;“Life is getting something from others.To live means giving it back to others.”(2)雨の匂いも風の音も雨の匂いも風の音もあの頃と違っているけれど……星たちは今日も変わらず輝いているThe smell of the rain and the sound of the wind do change,But the stars brightness will always stay the same.(3)「ごめんね」よりも「ごめんね」と言われるよりも「ありがとう」と言われたほうが何倍もうれしいSaying “Thank you” makes me happierThan saying “I’m sorry”.(4)今日があるから今日があるから明日がある許し許されて現在(いま)があるToday makes tomorrow.To forgive and being forgiven makes the present.(5)どんな日も晴れの日も、曇りの日も、雨の日も、雪の日も、嵐の日も、流れ星がたくさん降る日も、あなたが大切であることは変わらない。On sunny days, cloudy days, rainy days, snowy days,Stormy days, and nights with many shooting stars,You are always important.(6)本当に大事なこと本当に大事なことはいつだってあとから気づきますPeople only realize what is importantwhen it is too late.*このようにメッセージはどれもシンプルなので、絵本のように気軽にページをめくることができるはず。感謝の気持ちを再確認するためにも、手にとってみてはいかがでしょうか?(文/書評家・印南敦史) 【参考】※寺井広樹(2016)『ありがとう ~Thank you~』あさ出版
2016年03月11日マインドフルネスとは、自分の気持ちや体の状態を把握するための行為もしくは精神状態のこと。瞑想に似ており、効果的なストレス対処法として欧米でその効果が高く評価されています。そんなマインドフルネスの観点から「怖れ」との対峙法を説いているのが、きょうご紹介する『怖れ~心の嵐を乗り越える深い智慧~』(ティク・ナット・ハン著、島田啓介訳、サンガ)。著者は、ベトナム出身の禅僧、人権運動家、学者、詩人。また、ダライ・ラマ14世と並んで20世紀から平和活動に従事する代表的な仏教者で、マインドフルネスについて多くの著作を持つ作家でもあります。■人は「怖れの種」をまっすぐ見つめると変わる私たちは、過去に起こった出来事に心を縛られ、これから先のことに不安を抱いてしまうもの。しかし、怖れから逃避したりせずに「怖れの種」をまっすぐに見つめれば、そこから変容がはじまると著者は主張しています。そして変容をうながす強力な方法のひとつが、「5つの確認」の実践。息をゆっくりと吸って吐きながら、それぞれのフレーズを心のなかで唱えてみると、自分のなかにある怖れの性質とその根源を深く見つめるための味方になってくれるというのです。ではまず、その5つの確認を見てみましょう。(1)私は歳をとる。老いからは逃れられない。(2)私は病気になる。病気からは逃れられない。(3)私はやがて死ぬ。死からは逃れられない。(4)いま大切にしているものや愛する人々はすべて変わりゆく。別離からは逃れられない。(5)私は体、言葉、心による行為の結果を受け継ぐ。私の行為だけが継続していく。ひとつひとつの項目を深く見つめつつ、気づきを向けつつ息を吸い、息を吐く。そうして自分を力づけながら、怖れに取り組んでいくというのがその手法。各項目を見ていきましょう。■心のなかで唱えると怖れが減る5つのフレーズ(1)私は歳をとる。老いからは逃れられない。私たちが確実に歳をとっていくのは、普遍的で避けようのない事実。しかしほとんどの人はそれを認めずに、なんらかのかたちでその事実を否定して生きているもの。しかし心の奥底では、それが本当だとわけってもいます。ところが、不安に満ちた考えを抑圧したところで、それは闇のなかでくすぶり続けるだけ。だからこそ、私たちはこれを単なる理屈ではなく、現実に起こっていることとして、真実として受け入れなければならないと著者はいいます。5つの確認は表面的な描写ではなく、自ら直接体験しなければならない真実を理解するためのよい機会だということ。(2)私は病気になる。病気からは逃れられない。たとえいま健康であったとしても、いつかやがて自分も病気にかかるときがやってきます。いますぐにその真実を見つめようとしない限り、あるとき突然それが降りかかったとき、対処のしようがなくなるもの。そこで、いまこの時点で、「体がある限り、必ずいつかは病気になる」ということを自覚しなければならないという考え方。それを知れば健康ゆえの傲慢さから抜け出すことができ、そこから正しい行動(正業)の道が開ける。すると自らの時間とエネルギーを最大限に生かして必要なことを行い、身心を傷めるような無意味な行動にうつつを抜かすことはなくなるというのです。いわば、すべきことがはっきりするということです。(3)私はやがて死ぬ。死からは逃れられない。死は私たちが向き合うべきリアリティであるだけに、潜在意識は常にそれを忘れようとするもの。しかし、自分がいつかは死ぬというリアリティに本当に向き合ったとき、人は馬鹿げた行動で自分を苦しめたり、永遠に生きるという幻想にしがみついたりはしなくなるといいます。自分の死という事実を深く見つめれば、自らのエネルギーを、自分自身と世界を変容させ癒すための実践に注ぐことができるようになるのです。(4)いま大切にしているものや愛する人々はすべて変わりゆく。別離からは逃れられない。死ぬときに携えていけるものはなく、いま大切にしているものはすべて、明日にはなくなるかもしれません。ブッダは「いつでも手放せる心構えを持つべきだ」と説いているそうですが、それは別離からは離れられないものだという考えがあるから。私たちはいつでも、手放すための準備ができていなければならないということです。(5)私は体、言葉、心による行為の結果を受け継ぐ。私の行為だけが継続していく。第5の確認が教えるのは、私たちの死後にも続いていく唯一のことは、カルマ(業)と呼ばれる、思い、言葉、行動だけであるということ。カルマは私たちが依って立つ基盤で、むしろ唯一の基盤こそがカルマなのだとか。健全なものであれ不健全なものであれ、どんな行為からも私たちはその事実を受け取るべきだということ。*マインドフルネスに詳しくなかったとしても、無理なく取り入れるアイデア満載。怖れを少なくしていくためにも、目を通してみる価値はあるかもしれません。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※ティク・ナット・ハン(2015)『怖れ~心の嵐を乗り越える深い智慧~』サンガ
2016年03月10日『世界NO.1執事が教える“信頼の法則”「信じていい人」「いけない人」の見分け方』(新井直之著、KADOKAWA)の著者は、日本バトラー&コンシェルジュ株式会社代表取締役社長。同社は、執事によるフルオーダーメイドサービスを提供しているという珍しい会社で、著者自身も執事として大富豪のお客様を担当。また、それに加え、企業向けに富裕層ビジネス、顧客満足度向上に関するコンサルティング、講演、研修なども行っているのだそうです。そんな実績を持つ著者の新刊である本書は、お客様をトラブルから守るために蓄積してきた「信頼できるかどうか」を見極めるテクニックを公開した書籍。切り口自体が、とてもユニークです。■日本人が大好きな数字の3と8に要注意ところで著者は本書のなかで数字の話題に触れており、「3と8は適当な数を表すときに人が好んで使う数字」だと指摘しています。たとえば、こんな感じ。「こちらの商品ですが、すでに3社からオファーをいただいております」「朝から営業に回っていて、こちらで8件目なんですよね」前者の「3社」は、本当は1社からしかオファーがないのに、「それでは少なすぎる」「かといって5社と大ボラを吹くのは後ろめたい」というときなどに、「ほどよい数字」として使われることが多いといいます。ただし無意識のうちに使っている人がほとんどで、自分がそれを多用していることに気づく人は少ないのだとか。また無意識である以上、本人に罪悪感はないものの、聞く人が聞くと「あれ? おかしいな」と感じることも。一方の「8」は、「想像以上に数が多い」ことをアピールしたいときによく使われる数字。昔から「嘘八百」などといいますが、80%、800件、8,000人などは要注意。10のようにキリがいい数字ではわざとらしいので、それに近いところで、8なら「そこそこ多い」というイメージをアピールできるのではないかという心理がそこにはあるのだそうです。日本人が3を好んで使ってきたことは、歴史的にも明らか。その証拠に、「石の上にも三年」「三日坊主」「三日天下」「仏の顔も三度まで」など、さまざまな言葉があります。また3は、「満」「充」を連想させる縁起のよい数字と考えられることも。対する8も、「八雲」「八重桜」「八百万」など、「たくさん」という意味を込めて使われてきました。そればかりか「八」には「末広がり」の意味があるため、運のよい数字としてお祝い事などにも使われています。■根拠のない「大げさな表現」にも要注意また、数字ではありませんが、映画のCMに多い「全米が涙した新作」「絶賛上映中」などの根拠のない大げさな表現、あるいは通販番組の「他にはない切れ味」「限定100名のみ先着順」「全国から感謝の声が届いています」など、調べる音ができない「あおり文句」にも、3と8に通じる曖昧さがあると著者は指摘しています。とはいえ映画や通販番組の場合、多少は誇大な表現を使ったとしても、エンタテインメントの暗黙の了解として楽しめるので問題はないといいますが。ただし、ビジネスの世界では話が別。大富豪のように常に数字に神経をとがらせている人は、8が多用されていることに気づくと、すぐに「うさんくさいな」と警戒するというのです。つまり、そうした人との商談において、こうした表現を多用すると信用を失いかねないということ。もちろん、3と8を使ってはいけないというわけではありません。しかし、そもそも3と8は10のうちの2つの数字でしかないわけです。本来、話に出てくる確率は5分の1程度なので、それが2回に1回出てきたら、確率的にもおかしいということ。だからこそ、「この商品は、ご紹介したほとんどの方がご購入なさっています」「こちらの商品は人気が高く、あと残りわずかです」というようなあおり文句も含め、あいまいで無責任な言葉が口癖になっていないか、一度、周囲の人とチェックし合うことを著者は勧めています。いわれてみれば、無意識に多用していたかもしれませんね。*プロの執事が書いているだけあって、語り口は上品でソフト。気持ちよく読み進めながら、「信頼」についての大切なことを無理なく身につけることができるでしょう。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※新井直之(2015)『世界NO.1執事が教える“信頼の法則”「信じていい人」「いけない人」の見分け方』KADOKAWA
2016年03月09日「あがりや緊張を克服したい」「ここぞという場面で力を発揮できるようになりたい」「大勢の前でも堂々と話せるようになりたい」というような望みは、誰の心のなかにもあるものなのではないでしょうか?しかし、わかってはいても、なかなかうまくいかないものでもあります。そこで手にとってみたいのが、上記のように願っている「人たちに向けて書かれたという『本番に強い人は、ヤバいときほど力を抜く 人前で話すのが劇的にラクになる7つの技法』(森下裕道著、清流出版)。接客、営業、人材育成、人間関係のコミュニケーション問題の観点から幅広く活動する著者が、円滑なコミュニケーションを実現するための術を明かした書籍です。本書において著者は、いま感じている緊張は、3つに分けられると主張しています。はたして、どういうことなのでしょうか?■著者が教える「緊張の公式」とはどんなにあがり症の人でも、ちょっとのことで緊張してしまう人でも、その緊張度合いを1/3以下に減らすことができるのだと著者はいいます。なぜなら緊張は、次のような公式で表すことができるから。「自分が感じている緊張度合い」=「自分の過去の体験やトラウマからくる緊張」+「自分のいまの実際の緊張」+「自分が勝手に想像してつくった未来の緊張」「自分が感じている緊張度合い」は、3つの要素の複合体だということ。本来は「現実問題の緊張」だけでいいにもかかわらず、そこに「過去の体験からくる勝手な思い込みによる緊張」と「勝手につくった未来の不安や被害妄想からくる緊張」とを合わせ、3倍以上にふくれあがらせてしまっているということ。だとすれば、たとえ緊張したとしても、本来感じるべき緊張は、いま感じている緊張の1/3以下にはなるという考え方です。犬が苦手で、犬を怖がる人の例で考えてみましょう。■緊張度合いを構成する3つの緊張(例)「自分が感じている緊張度合い」……友人の家に遊びに行ったら、部屋のなかに苦手な犬がいた。その犬が近くにいる緊張度合い。たとえばこの緊張度合いは、次の3つの緊張によって構成されているということです。「自分の過去の体験やトラウマからくる緊張」……幼いころ、親戚の犬にしつこくちょっかいを出していたら、いきなりガブッと手を噛まれた。そのときの「いきなり噛みつかれた恐怖」と「痛かった体験」からくる緊張。「また噛まれるに違いない」という勝手な思い込みからくる緊張など。+「自分のいまの実際の緊張」……犬が近くにいる、その実際の緊張。+「自分が勝手に想像してつくった未来の緊張」……幼いころの犬に噛まれた経験から、「また噛まれたらどうしよう」「また急に襲ってきたらどうしよう」「こっちに向かってきたらどうしよう」など、自分で勝手につくった未来の不安や恐れからくる緊張、自分で勝手につくった妄想からくる緊張など。■過去に起きた悪いことは続かない当たり前の話ですが、幼いころ犬に噛まれたからといって、今度もまた噛まれるとは限りません。それに目の前にいる犬は、幼いころに出会った犬とは違う犬です。だからこそ、そこまで怖がる必要はないということ。「こうなったらどうしよう」という「未来の緊張」など、他人からすれば理解不可能なことでしかないでしょう。それに、ある人が恐怖心を感じる犬も、犬好きな人にととてもかわいく映る可能性があります。そんなとき「犬を怖がっている」と伝えたりしたら、「大の大人なのに」と驚かれるかもしれません。緊張や不安、恐れなどを感じたら、次のように考えるべきだと著者は提案しています。「ちょっと待てよ。これって、本当にそこまで怖いものなのだろうか?」たしかに、自分の過去の嫌な体験やトラウマから緊張してしまうことは十分に考えられることではあります。しかし問題は、「過去の悪いこと」がずっと続くものだと思い込んでいるということ。そして、なぜかそういう人は、悪いことは続くのに、よいことは続かないと思っているものだと著者は指摘します。でも、そんなことがあるはずもありません。なぜなら、未来は“現在”の延長線上にあって、よいことは続くものだから。*当たり前のことなのですが、そこに立ち戻ると、たしかに緊張を緩和することができそうでもあります。本来あるべき原点に立ち戻るためにも、目を通してみる価値はあるのではないかと思います。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※森下裕道(2015)『本番に強い人は、ヤバいときほど力を抜く 人前で話すのが劇的にラクになる7つの技法』清流出版
2016年03月08日ビジネスの現場では、人に「教える」機会は少なくないもの。また、面倒だからといって、それを避けるわけにもいかないでしょう。とはいえ現実的に、それはなかなか困難なことでもあります。そこでぜひ読んでおきたいのが、『たった1日でできる人が育つ! 「教え方」の技術』(齋藤孝著、PHP研究所)。大学教授として若い人と20年以上つきあってきた著者が、新入社員もできない人も「戦力」に変えるためのメソッドを公開した書籍。本書で著者は、誰もが「教師」になる必要性のある時代において、上司・先輩は必要なことをより短時間で部下や後輩に伝えなければ、仕事が回らなくなってきていると指摘しています。■最低限のことは教えよう大きな要因として考えられるのは、職場にパソコンが普及したこと。その結果として生産性が大きく向上したわけですが、そのぶん個人の仕事量は大きく増えることにもなりました。しかもいまは時代の流れが速いので、新しい仕事もどんどん増える一方です。ではそんな状況下、職場に新しい人が入ってきたとしたらどうなるでしょうか? それは新卒の場合もあるでしょうし、異動で他部署から移ってくる場合も考えられるはずです。しかしどうであれ、たとえその人がどれだけ優秀だったとしても、経験知がなければ力を発揮することは不可能。そこで、最低限のことは部署で教える必要性が生まれます。■見て覚える時代ではないそうはいってもインストラクターがいるわけではありませんから、誰かが自分の仕事と並行して教えなければなりません。ただでさえ忙しいのに仕事が上乗せされるわけですから、かかるエネルギーもプレッシャーもかなりのものであるはず。そしてもうひとつの問題は、いまはもう新人が「見て覚える」時代ではないことだといいます。職人や芸の世界ならともかく、一般的な職場においては、上司や先輩の言動を見て主体的に判断・行動できるタイプは減っているわけです。だから、「見ていれば覚えるだろう」では、新人にとってはストレスになるだけ。「なんも教えてもらえない」と上司や先輩への不満を募らせるばかりだということです。重要なのは、「まずは基本的なことをていねいに教えてほしい。そうすれば、ちゃんとできるようになる」というタイプが多いこと。この点について著者は、「最近の若い人は真面目なので、うまく教えれば順調に成長するものだ」と断言しています。つまり仕事の種類が増えたうえに、「ていねいに教えてほしい」という若者が増えた。そんな状況下では、この2つの要素をクリアする必要があるということ。上司や先輩は、効率よく、細やかに教えることが求められるというわけです。■2つの基本的な「心構え」そしてそんな観点に立った場合、職場で「教える」ということについては、持つべき2つの基本的な“心構え”があると著者はいいます。まずひとつ目は、「教える」ことは「業務の一環」であると覚悟を決めること。部下や後輩が入ってきたり、その指導係を任されたりすることを「面倒だ」と感じる人は少なくないでしょう。たしかにそれは時間を必要としますし、大きなストレスの原因にもなります。まして上の世代は、「自分が新人のころはそんなに教えてもらわなかった」と、ていねいに教えることを「不必要」と考えがちでもあります。(1)伝承し続けることしかし、その根底にあるのは「教えることは業務外のサービスである」という意識なのではないかと著者は指摘します。そして、「だとすれは、明らかに時代を読み違えている」とも。以前がどうであれ、いまはかなり変わってきているのです。会社組織のなかで重要なのは、毎年のように人が入れ替わるなかで、ノウハウや技術などを伝承し続けることにほかなりません。そうでなければ組織の意味がないわけなので、そこに費やすエネルギーを惜しんではいけないわけです。(2)教える循環をつくることただし、特定の誰かが教育の全責任を負う必要はなく、大切なのは全員が役割を分担し、「教える循環をつくる」ことだといいます。つまり、これがふたつ目の“心構え”。たとえば学校の部活には、3年生が2年生に教え、2年生が1年生に教えるという循環があるものです。会社でも同じように、入社2年目の時点で新入社員の教育係を務められるようになれば、3年目以上の社員の負担はかなり軽減されるはず。このように「教える」という行為を血液のように循環させることが、組織にとっての生命線になるという考え方です。*経験に基づく著者の言葉には、強い説得力があります。そんなこともあり、教え方で悩んでいる人にとっては、大きく役立つ内容だといえそうです。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※齋藤孝(2015)『たった1日でできる人が育つ! 「教え方」の技術』PHP研究所
2016年03月08日『ブームをつくる人がみずから動く仕組み』(殿村美樹著、集英社)の著者は、「PRプロデューサー」。これまでに「ひこにゃん」「うどん県」「佐世保バーガー」「今年の漢字」など、世間を騒がせたさまざまなムーブメントのPRを手がけてきたのだそうです。「PRプランナー」や「PRコンサルタント」ならまだしも、PRプロデューサーとはあまり聞いたことのない職種ですが、そう名乗ることには理由があるのだといいます。つまり著者が理想とするPRは、従来型の「企業PR」とは本質的に異なるものだということ。すでにでき上がった商品や理念を既存のレールに沿って告知するのではなく、PR活動を通じ、ひとつの文化をつくり上げていくことを目指しているというのです。根底にあるのは、「文化と歴史は“つくるもの”」だという考え方。だからこそ、PRはプロデュースしなければはじまらないものだというのです。つまり本書では、そのような考え方を軸として、ブームづくりについての持論を展開しているわけです。■ダイレクトメールはPRではなく広告!ブームをつくるということは、社会を動かすということ。社会を動かすために避けて通れないのは、クライアントを動かすこと。そして同じように重要なのは、「メディアを動かす」こと。PR業務には、メディアとの連携が必要不可欠なのです。ところで製品やサービスの情報を、人々に対して直接発信する方法として思いつくものに、ダイレクトメールがあります。しかしダイレクトメールはPRではなく、広告に分類されるもの。またダイレクトメールは大量に印刷し、さらにポスティングも行わなければならないため、コストも発生することになります。いっぽう、PRの場合はまずメディアに向けて「プレスリリース」という形で情報を発信します。そしてその情報をメディアによって、ニュースとして人々に伝えてもらうということ。いわば、メディアが持つ情報発信力を「てこ」のように利用するのがPRによる情報発信の手法。著者は、そう解説しています。■すべての文字情報の基本は「5W1H」だとすれば大きな意味を持つのは、「効果的なプレスリリースを、どうやって書くか?」ということであるはず。そして著者によれば、特に重要なのはタイトルなのだそうです。基本として大切なのは、「5W1H」を的確に伝えること。いうまでもなく「5W1H」とは、「いつ(When)」「どこで(Where)」「誰が(Who)」「なにを(What)」「なぜ(Why)」「どのように(How)」という6要素。これを踏まえることは、プレスリリースに「限らず、すべての文字情報の基本だといえます。文章を書くということは、誰にとっても「すでに頭のなかにあることを文字化する」ことだと著者。いいかえれば書いている本人にとっては、すでにわかっていることだというわけです。だから、その情報をまだ知らない人に向けて発信する際には、必要なことがらをつい書き漏らしてしまうことがよくあるのだそうです。いってみれば「5W1Hを正確に伝えていない」という基本的なミス、誰もが犯してしまう危険を持つもの。しかし、そのミスを防ぐための心構えがあるのだといいます。それは、「この情報を知ってもらいたい!」という根本的な目的意識を強く持ち続けること。プレスリリースとは、メディアに向けての提案書。だから著者も、「この情報が記事に役立ち、読者や視聴者のためにもなると思う」と強く思いながらプレスリリースを作成しているそうです。■プレスリリースで重要なのは「YTT」また、プレスリリースという特定の目的を持つ文章を書くにあたっては、5W1Hに加えて「YTT」という要素も重要なのだとか。Y(Yesterday)、T(Today)、T(Tomorrow)という時間軸に沿って、情報の価値を表現する必要があるということ。つまり、「情報の物語」を簡潔に伝えなければならないのです。たとえば「間違いなく人類に利便性を提供する新商品の発売」という情報を発信するのなら、伝えるべきはその商品の性能という現在的な価値だけではないといいます。それに「加え、「それが存在しなかった過去はいかに不便だったか」、さらに「その商品が普及した未来が、どれほど快適になるか」を表現するということ。だからこそ、社会にとっての商品の価値は、このYTTを抜きには決して決められないのだと著者は断言しています。*この考え方にも明らかなとおり、著者が提唱するPRに関する手法は、さまざまな業種に応用することもできるはず。そういう意味でも、ぜひ読んでおきたい内容だといえます。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※殿村美樹(2016)『ブームをつくる人がみずから動く仕組み』集英社
2016年03月06日人生にはつらいことがつきもの。それを避けて通ることは、不可能だと断言しても過言ではありません。しかし「つらい」という部分こそ同じでも、「次はもっとうまくやろう」と、まるで何事もなかったかのように楽しげに毎日を過ごす人もいれば、いつまでもくよくよと「終わったこと」を引きずっている人もいます。でも、できることならイヤな気持ちを引きずらず、気持ちを前向きに切り替えて進みたいもの。そこでぜひとも参考にしたいのが、きょうご紹介する『「引きずらない」人の習慣』(西多昌規著、PHP研究所)です。著者は、おもに大学病院で患者さんの診察や、医学生・研修医の教育に携わってきたという人物。現在はそのキャリアを生かし、スタンフォード大学で、ご自身の専門である睡眠医学の研究を行なっているそうです。当然のことながら、そんな著者自身も人間関係のトラブルでネガティブな気持ちを引きずってしまったり、心を砕かれたりした経験があるのだとか。また、自分よりもはるかに大変な「引きずりそうな出来事」を克服してきた多くの患者さんとも接してきたといいます。そんな経験からいえるのは、くよくよしないことはできないにしても、いつまでも「引きずらない」ことはできるということ。そこで本書では、「引きずらない」ために必要なことを説いているわけです。■100%引きずらないのは無理仕事の悩みを、プライベートでも引きずってしまうことはよくあるものです。たとえば仕事でミスをし、家に帰って家族に八つ当たりしてしまったり。また逆に、失恋のショックから立ちなおれず、仕事に身が入らないというようなこともあるでしょう。「仕事をしている私」も「家でプライベートな時間を過ごしている私」も、どちらも同じ私。だからこそ、仕事とプライベートを分けることは、なかなか難しいのです。そんなせいもあってか、「オンとオフのスイッチを切り替えよう」と、いろんなところで耳にします。しかし、仕事とプライベートを完全に分けることができて、悩みを100%引きずらないというのは無理な話だと著者は断言しています。仕事中にも帰宅時間や余暇のことを少しは考える、プライベートでも、大切な案件のことはアタマに残っている、それが現実だということ。そのような考えを軸に、むしろ、数ある悩みのなかから「引きずってもいい」ものを選ぶというやり方があってもいいと著者。すべてを引きずらないというのは困難な話で、現実的ではないからです。そして、そのようなチョイスができたなら、すでに心のなかに余裕が生まれている証拠でもあるといいます。いいかたを変えれば、「引きずってもいい」というのは、未来を向いている態度。なぜなら「引きずる」自分を許してあげているから。■引きずってもいい4種類の悩みところで、人間の悩みは、たった4つしかないという説があるのだそうです。それは(1)人間関係、(2)金銭問題、(3)健康問題、(4)未来のこと。なんとなく納得できる話ではありますし、著者のフィールドである精神科の診察室での悩みも、この4種類がほとんどなのだといいます。そして著者は、この4種類の悩みに関しては、「引きずる」ことを許してもいいと考えているのだとか。それには根拠があるようです。職場の人間関係がこじれている人はもちろんのこと、リストラによる生活苦、がんを告知されたあとのショック、自分自身の将来の不安など、数々の悩みをたくさん聞いてきたからこそ、こうした思い悩みは「引きずらない」ほうがおかしいと思うのだそうです。いっぽう、「こんなことは絶対に引きずらない」「気持ちを切り替えたい」というものも、ひとつくらいは決めておいてもいいといいます。たとえば、プレゼンで失敗した、会話で場違いなことをいってしまったなど、その日のうちに片づけてしまいたいモヤモヤについては、「引きずらない」と決めてしまうほうがいいということ。そして4つの悩みに関しては、「仕事は家に持ち帰らない」「プライベートは職場に持ち込まない」などと無理にオンとオフとで割り切ろうとするのではなく、家族や職場の同僚などに話してみてもよいといいます。ただし当然のことながら、家で仕事の愚痴ばかり、職場で家の不満ばかりになってしまうなど、極端にならないように気をつける必要はあるでしょう。*豊富な経験を軸として書かれており、しかも語り口がソフトなので、無理なく受け入れることができる内容。「ついつい引きずってしまう」という方には、ぜひ読んでいただきたいと思います。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※西多昌規(2016)『「引きずらない」人の習慣』PHP研究所
2016年03月05日ダイエットが続かないのは自分がズボラだから……なんてあきらめかけている人はいませんか?コミックエッセイ『メタボでズボラな夫がみるみる10kgやせました』(メイ ボランチ著、リベラル社)を読めば、それが大間違いだということがよくわかります。ダイエットに、性格がズボラかどうかは関係ないのです!本書は、著者のメイさん夫婦が歩んだ、笑いあり涙ありの約5年にわたるダイエット記録。2人で11ものダイエットに挑戦し、それぞれが自分に合ったダイエットに巡り合っていく過程は、まるで1本の長編ドキュメンタリーです。本書の主役は、かつて身長181cm体重65kgで細身のパンツをはきこなしたイケメン夫・あつさん。ズボラな性格ゆえに、手持ちの服が着られなくなっても「ボクまだやせ型でしょ」と好きなお菓子をやめられず85kgまで増量。そこから失敗を繰り返し、10kgの減量に成功していく姿には目を見張るものがあります。成功の要因は、いったいなんだったのでしょうか?ここでは本書に描かれた夫妻のダイエット遍歴から、ズボラさんだからこそマネできる3つの秘訣をご紹介します。■ズボラだからこそマネできるダイエットの秘訣(1)モットーは「無理しすぎない」ダイエットを決意すると、どうしても「半年でマイナス10kg!」など張り切りがち。ですがあつさんは、決して気負った目標は立てず、肩の力を抜いてできる範囲でのダイエットを続けます。大変だ、無理だと思ったらその方法はすっぱりとあきらめることも大事。すぐに新たな方法に挑戦することで、複雑なものや我慢を必要とするものは淘汰され、無理なく続けられる方法が自然と残っていく……という展開は、「むしろズボラな性格である方がダイエットに向いているのでは?」と思いたくなってしまうほど。ズボラでも、新しいことにトライする意欲があれば、大幅減量は夢ではないのです。(2)グラフで成果の「見える化」そうはいっても、モチベーションを維持するのは大変。ズボラさんならなおさらです。そこで夫妻が導入したのが、毎日の体重を計りグラフ化する方法。体重の変化を折れ線グラフにすることで経過は一目瞭然、ゲーム感覚でダイエットが続けられるようになったそうです。やり方は簡単。初日の体重を目安に、あとはシートに毎朝トイレ後の体重を記録して線でつないでいくだけ。さらに、その日食べたものや食べすぎた反省、運動や排便の有無もチェックしていくと、太る原因も何となくわかってくるといいます。本書には、コピーして使える体重記録シートがついています。思い立ったらすぐ実践できるのも、うれしいところです。(3)励まし合える同志の存在どんなに意志が固くても、我慢が限界に達したり、疲れたときやイヤなことがあったときなど「もう我慢できない!」「きょうだけは特別!」と食べたいストレスが爆発したりすることだってあります。そこで力を発揮するのが、励まし合える同志の存在です。あつさんの場合は、それが奥様であり本書の著者・メイさんでした。たとえば大好きなお菓子を半分残すのは至難の技ですが、夫妻で半分こして食べればカロリーは半分、おいしさは2倍です。パートナーのがんばったエピソードや失敗談も、競争心があおられたり逆に気持ちのリセットになったりと、ダイエットのいいスパイスに。メイさん・あつさん夫妻は体重記録シートを並べて貼ってモチベーション維持にも役立てています。一緒に頑張れる同志を見つけることが、ダイエットへの近道です。■読者は自分に照らし合わせて疑似体験できる!本書の魅力のひとつが、まったくタイプの違う2人が11種類のダイエットに一緒に挑戦し、成功したり失敗したりする姿を描いていること。男女の違いだけではありません。悪くいえばズボラ、よくいえばおおらかなあつさんと、真面目で責任感の強いメイさんという性格面の違い、会社勤めの夫と自宅で家事・育児をこなす妻という生活パターンの違い。それぞれがジョギングやウオーキング、主食抜きダイエットや杜仲茶ダイエットなどに挑戦し、続いたのか挫折したか、何キロ増減したかも記録されています。読んでいると、「ああ、私もこれは挫折するだろうな~」と思うこともしばしば。読者は、2人のうちどちらかに自分を照らし合わせ、11ものダイエットを疑似体験することができるのです。*終章で、それまで太っても気にせず服も「適当に買ってきて」といっていたあつさんがついに自分に合ったダイエットを見つけ、「服を買いに行きたい」とつぶやくシーンは、11のダイエットを一緒に疑似体験してきた読者にとっても感動の瞬間。本書を閉じた時、「よし、私もきょうからやってみよう」と思える1冊です。(文/よりみちこ) 【参考】※メイ ボランチ(2016)『メタボでズボラな夫がみるみる10kgやせました』リベラル社
2016年03月04日ワインはおいしくて好きだし、興味もあるからいろいろ知ってみたい。でも、入門書を見てみても難解な専門用語ばかりで、基本的に敷居の高い世界。つまり、近づきたくても怖くて近づけない。そんな悩みをお持ちの方は、決して少なくないはずです。そこでおすすめしたいのが、従来の入門書とは一味違う『30分で一生使えるワイン術』(葉山考太郎著、ポプラ社)。日本で初めてワインの世界に笑いを持ち込んだ人物として知られるワイン・ライターが、「ワインに対する恐怖心を取り払うことを最大の目的として」著したものです。情報を厳選し、初心者を遮断する壁になってもいる「薀蓄(うんちく)」は必要最小限にとどめているところが特徴。そして本書の意義は、ワインのキーワードを理解できるようになることだといいます。だから本書を読んでレストランやワイン店へ出かけるころには、胸を張ってソムリエやワインショップの店員と話せるようになると著者は断言しているのです。ところでワイン初心者にとって気になることのひとつに、「スーパーやコンビニに並んでいる1,000円以下のワインはだめなのか?」という問題があるのではないでしょうか?そこで本書のなかから、価格についての解説を引き出してみたいと思います。■高額ワインと安価なワインの違いワインの価格帯には、大まかに1,000円、3,000円、1万円の3つの分岐点があり、4つの価格帯に分かれるのだそうです。でも気になるのは、1本1万円の高額ワインと、1,000円の安価なワインとの違い。高いワインほどおいしいものなのでしょうか?ワインは高価になると、凝縮度やアルコール度数が上がるのだそうです。果汁3%のオレンジジュースが1,000円のワインだとしたら、果汁100%が1万円のワインだということ。つまり高くなると水っぽさがなくなり、色が濃くなるというわけです。具体的にいうと、白ワインは色が黄色に近くなり、赤の場合は香りが大きく、渋さが強くなって色も黒に近くなるのだとか。しかしそんな赤ワインを若いうち(20年以内?)に飲むと、ものすごく濃くて渋く、食べものとも合わせにくいといいます。だからイギリス人のような「濃厚ファン」でない限り、おいしいとは思わないだろうというのが著者の意見。高価なワインは熟成させるとおいしいものですが、若い高級ワインは「渋み爆弾」なので、コルクを開けるのはもったいないという考え方。「高価」と「おいしい」は同じではないので、高価なものは飲みごろを自覚して買うべきだというのです。そして毎日飲むのなら、1,000円前後で買える「濃厚なワイン」がベスト。探せば、お買い得ワインが必ず見つかるはずだといいます。では、先に触れた「ワインの4つの価格帯」について詳しく見てみましょう。■ワインの価格帯ごとのおもな特徴[1,000円以下]毎日大量にワインを飲む「ヘヴィー・ユーザー」にとって、この価格帯のワインはうれしいところ。一般的に低価格のワインは渋みが少なめですが、安くても、渋みの乗ったおいしいものがたくさんあるといいます(特にボルドー系の赤)。[1,000円以上3,000円未満]3,000円近く出すと、ワインの質は格段に上昇。上品な渋みと酸味のバランスがいいため、ボルドー系ならこれで十分だといいます。また、ブルゴーニュ系にもよいものが多数あるというのでチェックが必要かも。ちなみに、気軽なビストロで出てくるのがこのクラスのワイン。[3,000円以上1万円未満]有名なフレンチレストランへ食事に行き、普通の人がオーダーできるのはこのクラス。つまり、かなりの高級ワインだということ。ちなみにワインの仕入原価は小売価格の約70%で、レストランでは食材やワインの原価の3倍で値づけするのが基本。小売価格が3,000円のワインは原価が2,100円で、その3倍なら6,300円。これがワイン・リストの価格になるというわけです。[1万円以上]著者いわく、ワインマニアが人生を犠牲にして集めるクラス。なお1万円以上なら、10万円も100万円も同じなのだといいます。この価格帯のワインは、長期熟成するようにつくられているため、若いうちに飲むと、赤ワインの場合は渋み爆弾。口のなかに紙やすりを敷き詰めたようにギシギシするのだそうです。一方の白ワインの場合は酸味がきつく、歯が痛くなるとか。*つまり「高価だからいい」というわけではなく、1,000円以下のワインでも充分に満足できるようです。本書のページをめくりながら、この週末にはワインを楽しんでみてはいかがでしょうか?(文/書評家・印南敦史) 【参考】※葉山考太郎(2009)『30分で一生使えるワイン術』ポプラ社
2016年03月04日ものごとについてしっかり結果を出せる人と、懸命にやっているのに結果を出せない人がいます。でも、結果が出せない人は、はたしてどこに問題があるのでしょうか?はじめる前から、すでに差がついているということなのでしょうか?あるいは、努力の差が違うというのでしょうか?『東大生が知っている! 努力を結果に結びつける17のルール』(清水章弘著、幻冬舎)は、東大出身の著者がそんな疑問に答えてくれる書籍。具体的には、大切な努力を無駄にしないためのルールが紹介されているのです。「正解を求めない勉強法」「テストの勉強法」「思考法」「社会に出てからの勉強法」からなる構成。著者は学習塾の経営などに携わっている人物であるだけに、勉強法が多め。しかしそれらは、ビジネスパーソンの仕事にも置き換えることができそうです。きょうは思考法のなかから、「時間」に関連する項目を引き出してみたいと思います。■学生時代は時間に振り回されていた!著者は起業した前後には「時間」に関する失敗を重ねていたため、「いつか『時間』で痛い目に遭うよ」といわれていたそうです。大学2年生の冬から会社づくりをはじめたので、結果としてとんでもなく忙しい毎日になってしまっていたというのです。たとえばそのころは、次のようなスケジュールで生活していたのだといいます。【部活のない日】9時~14時30分:授業(@駒場キャンパス)14時40分~16時:自主練習(@駒場ホッケー場)17時~22時:アルバイト(@御茶ノ水)22時30分~23時:夕飯23時~26時:仕事【部活のある日】9時~12時10分:授業(@駒場キャンパス)12時10分~13時:筋トレ(@駒場ホッケー場)13時~16時20分:授業(@駒場キャンパス)16時30分~21時:部活(@駒場ホッケー場)21時30分~22時30分:夕飯23時~26時:仕事■時間を固定することで時間が生まれたこの生活が楽しくて仕方がなかったといいますが、しかし時間に振り回されながら、ミスを連発してもいたのだとか。そうやって不規則な生活を続けていたある日、「予想外なことがたくさん起こるからといって、自分の生活も不規則にする必要はないな。むしろ、規則正しくしたほうが、時間が生まれるんじゃないか?」と気づいたのだそうです。そこで実践してみたのが、中学・高校時代に学んだ「三点固定」という発想。それは、次の3つの時間を固定するというものだといいます。(1)起床時間(2)帰宅時間(3)就寝時間この3つを固定すれば、規則正しい生活になるということを、数年前に学んでいたというわけです。■時間が生まれた決め手は「帰宅時間」それを20歳になってからふたたび試してみたというのですが、結果からいえばこれが大成功。理由は、このようにすると、自分がコントロールできる時間を算出することができるから。なお算出するための計算式は、次のとおりだそうです。(コントロールできる時間)=「就寝時間」—「帰宅時間」—「ご飯とお風呂の時間」たとえば18時に帰宅して、ご飯とお風呂に2時間かかって、24時に寝るのであれば、(コントロールできる時間)=24-18-2=4時間ということになるわけです。つまりここからもわかるとおり、帰宅時間が固定されていると、計画がとても立てやすくなるということ。「起床時間と就寝時間を固定しよう」という話はよく聞くかもしれませんが、そこに「帰宅時間を固定できるか」が大きなポイントだったのだといいます。*この話など、すぐにでも応用することができるはず。また実体験が数多く盛り込まれているので、読み物としても楽しめる内容になっています。時間のあるときにでも目を通してみれば、効果的に結果を出す方法を身につけることができるかもしれません。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※清水章弘(2015)『東大生が知っている! 努力を結果に結びつける17のルール』幻冬舎
2016年03月03日『子どもはイギリスで育てたい! 7つの理由――住んでわかった。子育てと教育から見える日本へのヒント』(浅見実花著、祥伝社)の著者は、タイトルからもわかるとおりイギリス在住。大手広告代理店のマーケティング部門を退職したのち、2010年に移民として、イギリスで起業する夫を含む家族4人で移住したのだそうです。ところが暮らしてみると、日本で慣れ親しんできたものとは違うやり方や考え方に何度も出会うことになったのだとか。そしてそのたびに、「ああ、そういうものか」と思いなおし、適応するように努めてきたのだといいます。イギリスで教わった重要なことは、「あらゆることに期待しない」という人生の教訓。悲観的な意味ではなく、物事を大きすぎもせず、小すぐもせず、ありのままに捉えることなのだそうです。そのうえで実践的に行動すれば、人生が少しだけリラックスしたものになるという考え方。本書でもそこを軸として、子育てや教育の観点から、イギリス社会を個人的に深索しているというわけです。そしてそれは、子育てや教育の観点から、日本社会を深索する作業にもなるはずだといいます。きょうはなにかと気になる「お金」のトピックスのなかから、保育費の問題を引き出してみたいと思います。■保育費が高額なのに復職する母親たちイギリスにおいて、子どもを保育所に預けることは、日本でいわれるほど罪悪感に結びつかないものなのだそうです。むしろそれ以上の問題は、保育所にかかる費用がとんでもなく高額であること。なにしろロンドンで3歳未満の子どもを週5日のフルタイムで保育所に預けた場合、毎月800~1,300ポンド(約15万~24万円)もかかるというのですから驚き。そんなことになるのには理由があって、つまりは3歳未満の公的保育サービスがないから。そのため保育にかかる費用はほぼすべて、各家庭が負担することになるというのです。家庭の経済状況に応じた育児手当や、全員に与えられるわずかな無料保育日など、多少の公的支援があるとはいえ、あまりにも高額な保育費には太刀打ちできないというわけです。いっぽう、保育所への公的資金援助がある日本では、各家庭が保育所に支払う費用はずっと安いものになります。たとえば東京であれば、認証保育所にフルタイムで預ける場合、3歳未満の子どもは上限が8万円。それ以上の子どもは7万7,000円で、認証保育所はさらに低額。もしロンドンの保育所が東京の価格水準で利用できるとしたら、おそらくイギリスの親たちは、国庫に多大な負担をかけるほど保育所を使い倒すだろうと著者は推測しています。■イギリスの保育費は住宅ローン以上!いずれにせよ、いくらフルタイムで働いたとしても、毎月20万円前後の保育費を払うことは決して容易ではないはずです。事実、母親が朝から夕方まで毎日必死で働いたとしても、手取りがほぼ保育費に消えてしまう家庭は決して少なくないというのです。月々に返済する住宅ローンよりも保育費のほうが高くつくという、私たちの感覚では信じられないような話も有名な話。もちろん費用やライフスタイルのバランスをとって、どちらの親がフルタイムからパートタイムに切り替える場合もあるでしょう。しかし不思議なのは、保育費が高くついたとしても、多くの母親たちがなんらかのかたちで復職しているという事実。イギリスで労働可能な年齢の女性のうち、専業主婦は10人に1人にすぎないというのです。■なぜイギリスの母親たちは復職する?でも、母親たちはそんな状況下で、なぜ復職することを選ぶのでしょうか? それは、長い目で見たとき、収入面でプラスになるからというだけではないと著者はいいます。家庭に入るより働くほうが、充実感や満足感を得られるから。働くことによって、自分が健全でいられるから。自分の仕事が好きだから。子どもが成長したあとも、自分のキャリアを続けられるから。働くことで、子どもに手本を示したいから。などなど、復職する母親に関するさまざまな記事に目を通してみると、彼女たちの動機は実にさまざま。つまり母親たちは、復職すること・復職をやめることの、よい点と悪い点とを自分なりに秤にかけ、シビアに判断しているということです。*この話に限らず、イギリスと日本では感覚的に違いすぎることばかり。しかし、だからこそそこを直視すれば、私たちが日本で進むべき方向も見えてくるのではないでしょうか?(文/書評家・印南敦史) 【参考】※浅見実花(2015)『子どもはイギリスで育てたい! 7つの理由――住んでわかった。子育てと教育から見える日本へのヒント』祥伝社
2016年03月02日「これから先、より豊かな暮らしをするためにいちばん大切なものは?」もしもそう問われたとしたら、なんと答えるでしょうか?『ストレスゼロの伝え方』(木村英一著、CCCメディアハウス)の著者は、それは間違いなく「対話力」だと断言しています。そしてその理由は、コンサルタントという自身の仕事に関係するのだといいます。起業家や業界トップ企業の経営者、新入社員、60代のビジネスマンまで、さまざまな人々のトレーニングを行なってきた結果、対話力がないことで「見えない壁」にぶつかって悩んでいる人を数多く見てきたからだというのです。いっぽう、「対話力の達人」「コミュニケーションの達人」といってもいい人たちにも数多く出会ってきたのだとか。そういう人たちは、なにか特別なことを話すわけでもないのに、相手の心をしっかりとつかんでしまうそうです。つまり、そんなたくさんの達人たちと出会い、その対話力を分析する機会にも恵まれてきた著者は、本書を通じて彼らの「伝え方」を公開しているのです。ちなみに、対話の達人たちが自在にこなしている「対話力を上げる7つの要素」があるのだそうです。それは、「伝える目的」「伝える方法」「相手」「環境」「印象」「影響力」「自分」。これらを「整える」ことで、対話力は格段にレベルアップするという考え方です。きょうは「印象」に関する章のなかから、ひとつのトピックを抜き出してみたいと思います。■重要なのは「動く5%」!私たちのDNAのなかに、動物だったころの記憶が刻み込まれているという話は有名です。事実、私たちは、動くものがあるとその対象に意識を集中させてしまうもの。それは、持って生まれた記憶によるものだということです。ところで、話すときに手を動かすクセのある人がいます。ちなみに手の大きさは、体全体からするとせいぜい5%程度。にもかかわらず、他の95%が動いていなかったとしても、残り5%の手が動いただけで、相手の視線はその手に釘づけになってしまうものです。そして無意識のうちに、動かない95%の方ではなく、動く5%によって相手を判断しようとします。■不快に感じさせる動きとは著者は約700名に対し、対面の印象トレーニングを実施したことがあるそうです。おもしろいのは、その結果、ほぼ100%の確率で人々が無意識に行なった行動があったということ。書く必要のないときに筆記具を持った場合、ほとんどの人が無意識に筆記具を使って手で遊びはじめたというのです。そしてその映像を見せると、多くの人が「手の動きが気になる」「不快である」と反省の弁を述べるのだとか。どれだけ真剣に話を聞いているような顔をしていても、手が動いていると真剣さや誠実さに疑問符がついてしまうということです。では、手を隠してしまえばいいのかというと、それも違うと著者はいいます。賄賂や悪だくみを指す「机の下」「袖の下」という言葉があることからもわかるように、手が見えない状態は相手を多少なりとも不安・不快にさせるもの。もしも人にいい印象を与えたいのだとすれば、手は机の上に置き、書く必要がない場合は手を組むといいのだそうです。■話すときのクセは色々ある私たちには誰にでも、「話すときのクセ」というものがあります。たとえば立って話してもらった場合、体の重心をずらしながら話す人、左右に微妙に揺れる人、首で表紙をとりながら話す人など、さまざまなタイプがいることがわかります。しかし体のどこかでリズムをとりながら話す人に対し、「その動きを止めて話してください」というと、まるで話せなくなるのだとか。体を動かしながら話すというクセは、一度習慣になってしまうとなかなかなおしづらいもの。しかし、決して見過ごせないと著者はいいます。理由はいたって明快で、すなわち「この動きはあったほうが好印象」だといえる動きに出会ったことがないから。だからこそ、今後相手に嫌な思いをさせたくないと思うのなら、なおしておいたほうがいいと著者。いってみれば、これも「5%」の範疇に収まること。どうでもいいように思えることが、実は印象を大きく左右してしまうというわけです。*このように、意外とも思える角度からも「伝え方」を検証している点が本書のおもしろさ。人になにかを伝えること、好印象を与えることは楽ではないだけに、目を通しておくといいかもしれません。(文/書評家・印南敦史) 【参考】※木村英一(2015)『ストレスゼロの伝え方』CCCメディアハウス
2016年03月01日おじいちゃんやおばあちゃんが認知症になったとき、みなさんはどうするでしょうか。まずは医者に行って診断をしてもらい、お薬を受け取るのではないでしょうか?しかし、宅老所よりあい代表の村瀬孝生さんとフリーライター兼編集者の東田勉さんの共著書『認知症をつくっているのは誰なのか』(SBクリエイティブ)には、衝撃的な内容が書かれています。なんと、“認知症の問題行動の8割は薬のせいではないか”というのです。また、薬害認知症も認知症全体の3割はいるのではないか、という話も出ています。そこで今回は本書より抜粋した、「認知症の薬物療法を勧めない理由」をご紹介していきたいと思います。■知っておきたい認知症の「症状」まず、認知症には、大きくふたつの症状があるそうです。ひとつは、認知機能が障害されたことで出る中核症状。具体的には記憶障害(直前のことを忘れる、出来事全体を忘れる)、見当障害(ここがどこで、いまいつか、自分が誰だかわからなくなる)、実行機能障害(これまでできていた家事や趣味がなくなる)など。もうひとつが周辺症状で、かつては問題行動と呼ばれていたもの。現在は「BPSD」とも呼ばれているようです。具体的には徘徊、暴力、介護抵抗、失禁、不潔行為、昼夜逆転、幻覚、妄想、不穏などがこれにあたります。■認知症の薬物療法には問題がある筆者が問題提起するのは、この認知症の薬物療法です。中核症状については抗認知薬を、周辺症状については向精神薬(抗精神病薬、抗うつ薬、精神安定剤、睡眠薬など)が使われるのが一般的だそう。最初に抗認知薬の問題点を上げてみましょう。(1)抗認知薬は認知症を治す薬ではない厚生労働省や医学会、医者、マスコミによる認知症キャンペーンでは、よく「早期受診・早期診断・早期治療」を勧めています。その後に必ず「進行を遅らせる薬があるから」といわれるそうです。しかし、アリセプトに代表される抗認知症薬は進行が止まるものではなく、飲み続けても緩やかに進行していきます。一部の人(4~6割)で9カ月~1年間は進行速度が弱まるものの、その時期を過ぎたら効かなくなるそうです。飲むのをやめれば飲まなかったのと同じ症状になってしまうとのこと。認知症を治す薬ではないので、効果に過剰な期待はしないほうがいいようです。(2)抗認知症薬のうち3種は興奮系の薬剤ということ確実に存在する“副作用”について見ていきましょう。抗認知症薬のうちメマリーという薬を除く3種は興奮系の薬剤で、「病的な怒り」を引き起こす点が大きな問題です。高齢者が認知症の薬を飲んで、興奮して暴れたという報告はものすごく多いとのこと。認知症の人を介護する側はこれらの薬によって、かなり大変なことになってしまうようです。(3)抗認知症薬には必ず増量規定があるそのような副作用が出るにも関わらず、抗認知症薬には増量規定があります。たとえばアリセプトという薬は1日3mgから服用を開始し、3週目からは5mgに増量しなければなりません。個人差があっても増量です。約20%に出てしまう“病的な怒り”にもお構いなく、医者は規定通りに増量しようとするそうです。それは、規定以外で処方すると、医者の診療報酬がカットされて保険診療にならず、薬代が病院・医院の自腹になる可能性があるから。抗認知症薬の副作用で大変な思いをした家族は医者にすがると、今度は多くの医者が増量規定を守りながら、お年寄りを鎮静させる「向精神薬」を処方します。これはつまり、アクセルとブレーキを両方踏むような薬物療法です。これが現在の70歳代、80歳代、90歳代のお年寄りに行われているのです。■問題行動の約8割が薬害性の疑い著者は「問題行動といわれるものの約8割は薬害性なのではないか」と疑っています。一昔前までは、認知症でも悩まず明るく、混乱もしていないお年寄りがいたそうです。しかし、いまでは「早期受診・早期診断・早期治療」で大量の薬を飲まされているから、“病的なボケ”が蔓延しているとのこと。お年寄りは医療では生活の支援が受けられず、著者の施設のような所へ来るのですが、みんな薬漬けになって来るそう。そして、薬によって元々もっている人間としての排泄や睡眠のリズムが崩れてしまいます。薬ではコントロールができていないのです。著者は経験として、薬を断ったお年寄りが心身ともに安定した例を多数見てきたこともあり、「できれば薬を使わない、減らしていくことが必要」と訴えています。また、著者と同じ考えで協力してくれる医者もいるとのことです。*自分の身近な人が認知症になったとき、医者の指示どおり、処方された薬を飲ませてしまう人は少なくないでしょう。しかし、薬はどんなものであっても、効き目には個人差があり、たくさん飲めば副作用も出てくるかもしれません。だからこそ、その時々で本人の様子を観察し、本当にこの薬でいいのか疑う目も必要なのではないでしょうか。認知症に関する疑問や興味がある人は、ぜひ読んでほしい本だと思います。(文/齊藤カオリ) 【参考】※村瀬孝生・東田勉(2016)『認知症をつくっているのは誰なのか』SBクリエイティブ
2016年03月01日