独フランクフルトにて開催されているスーパーコンピューティングに関する国際会議「ISC(International Supercomputing Conference)2015」において、7月13日(独時間)、スーパーコンピュータ(スパコン)の処理能力ランキング「TOP500」の2015年7月版が発表された。45回目となる今回の1位は、前回に引き続き、中国National University of Defense Technologyの「Tianhe-2(Milky Way-2/天河2号)」となり、5回連続のトップ獲得となった。演算性能は前回から変わらず33.8627PFlopsとなっている。また、上位5位までは、前回と順位ならびに演算性能に変化はなく、2位が米オークリッジ国立研究所(ORNL)の「Titan」(17.590PFlops)、3位が米ローレンスリバモア国立研究所(LLNL)の「Sequoia」(17.173PFlops)、4位が日本の「京」(10.510PFlops)、5位が米アルゴンヌ国立研究所(Argonne National Laboratory)の「Mira」(8.586PFlops)となり、第41回の発表以降、変化はない。順位に変化があったのは7位で、サウジアラビアKing Abdullah University of Science and Technologyの「Shaheen II」が5.537PFlopsで新たにランクイン。TOP500の歴史上、初めて中東のスパコンがトップ10入りを果たした。また、その結果、前回7位であった米テキサス大学の「Stampede」(5.168PFlops)が8位に、同8位であった独Forschungszentrum Juelich(FZJ)の「JUQUEEN」(5.009PFlops)が9位に、そして同9位であったDOE(米国エネルギー省)/NNSA(米国国家核安全保障局)/LLNLの「Vulcan」(4.293PFlops)が10位と、1つずつランクを下げることとなった。TOP500に掲載されたシステムの性能を合計すると、361PFlopsとなり(前回は309PFlops)、1PFlops超のシステムも68システム(前回は50システム)へと増加した。また、何らかのアクセラレータ/コプロセッサを搭載したシステムは88システム(前回は75システム)となり、その内の52システムがNVIDIA、4システムがATI Radeon(AMD)、そして33システムがIntel MICアーキテクチャ(Xeon Phi)となっている。システムベンダ別に見ると、HP製が178システム(前回153システム)、IBM製が111システム(同153システム)、Cray製が71システム(同62システム)となっている。また、国/地域別で見ると、米国が前回から2システム増の233システム、次いで欧州141システム(前回130システム)、日本が39システム(同32システム)、中国が37システム(同61システム)となっており、アジア全体でも120システム(同108システム)となっている。なお、日本勢の1PFlops超のシステムは、4位の京のほか、22位に東京工業大学の「TSUBAME2.5」(前回15位)、27位に核融合科学研究所の「Plasma Simulator」(前回224位)、51位に国際核融合エネルギー研究センター(IFERC)の「Helios」(前回38位)、53位に宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「SORA-MA」(前回なし)、54位に東京大学 物性研究所の「Sekirei」(前回なし)、65位に東京大学情報基盤センターの「Oakleaf-FX」(同48位)、67位に九州大学の「QUARETTO」(同49位)となっているほか、1PFlopsには到達しなかったが、70位に0.9896PFlopsで理化学研究所の「HOKUSAI GreatWave」、71位に気象庁気象研究所のシステム(名称なし)が同じく0.9896PFlopsがそれぞれランクインしている。
2015年07月14日東京大学(東大)は7月10日、食物アレルギーを発症させたマウスを用いて、アレルギー反応の原因となる「マスト細胞」が細胞膜の脂質から産生する「プロスタグランジンD2(PGD2)」と呼ばれる生理活性物質に、マスト細胞自身の数の増加を抑える働きがあることを発見したと発表した。同成果は、同大 大学院農学生命科学研究科応用動物科学専攻の中村達朗 特任助教、同 大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻の前田真吾 特任助教(研究当時:応用動物科学専攻)、同 大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻 博士課程2年の前原都有子氏、同大 大学院農学生命科学研究科 応用動物科学専攻の村田幸久 准教授らによるもの。詳細は「NatureCommunications」に掲載された。食物アレルギーの患者数は全国で約120万人と言われているが、年々増加傾向にある。これまでの研究から、腸におけるマスト細胞の増加が、食物アレルギーの発症や進行に関与することが示唆されていたが、どのようにしてマスト細胞が増加するのか、そのメカニズムはよくわかっていなかった。そこで研究グループは、マウスに食物アレルギーを発症させ、その際の症状の悪化推移とマスト細胞の数の変化を調査。その結果、マスト細胞が造血器型のPGD2合成酵素(H-PGDS)を発現すること、H-PGDSを欠損させたマウスでは、マスト細胞の数が増加していることを確認。これにより、PGD2が、マスト細胞の増加を抑え、症状の悪化を防ぐ役割であることが示されたという。また、PGD2が産生できないマスト細胞などでは、血球細胞を強力に遊走させる生理活性物質「Stromal Derived Factor-1α(SDF-1α)」ならびに、細胞と細胞の隙間を埋めるコラーゲンなどを分解する酵素の1つで、炎症性生理活性物質を活性化する役割も持っている「Matrix metaroprotease-9(MMP-9)」の発現や活性が上昇していることが判明したほか、SDF-1αの受容体阻害剤や遺伝子欠損、MMP-9の活性阻害剤は、食物抗原に応答した消化管のマスト細胞増加と食物アレルギー症状を改善することが判明したとする。なお、今回の成果について研究グループは、SDF-1αやMMP-9といったマスト細胞の浸潤を促進する分子の発現を抑えることから、PGD2を標的とした食物アレルギーの根本治療への応用が期待されると説明しており、今後は、PGD2がどのようにマスト細胞の細胞内へ情報を伝達し、その浸潤を抑制するのか、その機序のさらなる解析を進めていく予定としている。
2015年07月13日東京大学(東大)は7月10日、超伝導回路を用いた量子ビット素子と強磁性体中の集団的スピン揺らぎの量子(マグノン)をコヒーレントに相互作用させることに成功し、ミリメートルサイズの磁石の揺らぎが量子力学的に振る舞うことを発見したほか、その揺らぎの自由度を制御する方法を開発したと発表した。同成果は、東大 先端科学技術研究センター 量子情報物理工学分野の中村泰信 教授(理化学研究所創発物性科学研究センター チームリーダー)、田渕豊 特任研究員(現 日本学術振興会 特別研究員)および同大 工学系研究科 物理工学専攻 修士学生の石野誠一郎氏らによるもの。詳細は米国科学振興協会(AAAS)発行の学術雑誌「Science」に掲載された。量子コンピュータや量子暗号通信といった量子力学の応用分野の1つに、情報処理と通信を統合した量子情報ネットワーク技術があるが、これを実現するためには、互いの間で量子情報を授受するためのインタフェースが必要となり、マイクロ波と光の活用が期待されている。しかし、量子状態をコヒーレントに転写する方法があり、その手法として、ナノ機械振動子や単独の電子スピン、常磁性電子スピン集団などを用いた研究が進められてきたが、強磁性体中のスピン集団に着目し、スピン波のエネルギー励起運動の量子であるマグノンを用いた研究はこれまでなかったという。研究では、強磁性絶縁体であるイットリウム鉄ガーネット(YIG)単結晶球の中のマグノンと共振器の中のマイクロ波光子の結合について調査を実施。その結果、絶対零度に近い状態において、共鳴スペクトルに反交差が見られ、両者のコヒーレントな結合が示されたという。また、1つのマイクロ波空洞共振器の中にYIG球とミリメートルスケールの超伝導回路上で動作する量子ビットを配置した実験では、超伝導量子ビットとYIG球上のマグノンの間のエネルギー量子のコヒーレントな相互作用の証拠を、真空ラビ分裂と呼ぶエネルギー準位の分裂として観測することに成功したとのことで、これにより量子力学的な基底状態ある強磁性体中のスピン集団と、超伝導量子ビットの間でエネルギー量子をコヒーレントにやりとりできることが示されたとする。今回の成果について研究グループでは、今後、超伝導量子ビットとマグノンの結合を用いて、強磁性体中の集団スピン励起の自由度であるマグノンの量子状態を自在に制御し、観測することができるようになることが期待されるとするほか、並行してマグノンと光通信波長帯光子との相互作用の研究も進めているとのことで、マグノンを介したマイクロ波と光の間の量子インタフェースの実現やそれを用いた量子中継器への応用を目指すとコメントしている。
2015年07月10日東北大学は7月9日、光触媒や太陽電池、半導体などに用いられる二酸化チタン(TiO2)の機能を制御する欠陥を自在に操る方法を開発したと発表した。同成果は、同大 国際高等融合領域研究所(現 学際科学フロンティア研究所)および理化学研究所Kim表面界面科学研究室の湊丈俊 助教(現 京都大学 特定准教授)、理化学研究所Kim表面界面科学研究室の金有洙 主任研究員、東京大学 大学院 新領域創成科学研究科の川合眞紀 特任教授、千葉大学 大学院 理学研究科の梶田晴司 博士(現 豊田中央研究所)、中山隆史教授、University College of London化学専攻のChi-Lun Pang博士、東北大学 原子分子材料科学高等研究機構の山本嘉則 特別研究顧問および名誉教授、浅尾直樹 教授らによるもの。詳細は米国化学会発行の「ACS Nano」に掲載された。TiO2が発揮するさまざまな機能には、その結晶構造を乱す原子欠陥の配列や量などが関わっていることが知られており、これを操作できれば、新たな機能の開拓も可能になると言われてきた。これまでの研究では、加熱や光励起などを用いて、粗く原子欠陥の量を変化させる方法は報告されていたものの、量や種類を精密に制御するといった方法は報告されていなかった。今回、研究グループでは、STM(走査型トンネル顕微鏡)を用いて、TiO2表面に存在する原子欠陥である水素イオンを1つずつ操作することで、その反応機構の解析を行った。その結果、これまでに提案されてきた反応機構では説明ができないこと、ならびに水素イオンの脱離は量子トンネル効果による反応であることを見出したほか、量子トンネル効果は、電場によって反応障壁の幅が狭まり、そこに電子による励起が加わることで誘発されることを発見。これらが「電場誘起トンネル反応」という新たな反応であることを突き止めたという。なお、今回の成果を受けて研究グループでは、同技術の活用により、活性の高い光触媒や、高い発電効率を実現した太陽電池などの開発や、従来ない機能の創生などにつながることが期待されるとコメントしている。
2015年07月10日日本科学未来館ならびに読売新聞社は7月7日、7月8日~10月12日の期間にて未来館にて開催される企画展「ポケモン研究所 ~ キミにもできる! 新たな発見~」の開所式を開催した。同企画展は、新感覚・科学アトラクション展を銘打たれたもので、ポケモンを題材に科学研究のプロセスを体験していくというもの。内容としては、3つの研究室が用意されており、来場者は1日研究員として、それぞれの研究室での体験を通じて、科学研究に必要な「観察すること」や「分類すること」といった科学的なプロセスを学んでいく。メインとなる第1研究室は「~博士からのミッション~」となっており、最初に難易度の異なる3種類のモンスターボールをモンスターボール自動支給マシンにてゲット、研究室内に設置された12種類の観察マシンにボールをセットすると、ボールの中に入っているポケモンのさまざまな特徴を調べることができる。観察マシンの中には、セットするだけで特徴を見ることができるものもあるが、中には身体を使わないと、上手くデータを手に入れられないものもあり、結構な運動が求められる場合もある。第1研究室に設置されている12の観察マシンは以下の通り(順番どおりに回る必要はない)。足あと観察マシンシルエット撮影マシンりんかく撮影マシン拡大観察マシン付着物分析マシン高さ測定マシン重さ測定マシン外見分析マシン進化回数確認マシン鳴き声確認マシンわざ確認マシンポケモン図鑑検索マシンちなみに観察を終えたモンスターボールは残念ながら、持ち帰ることはできない。その代わりに、未来館のスタッフにモンスターボールを返却するさいに、「ポケットモンスター X・Y」ならびに「ポケットモンスター オメガルビー・アルファサファイア」で受け取ることが可能なメガ進化に必要なメガストーンを持ったポケモンのシリアルコードを1つもらうことができる(対象となるポケモンはフシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメの3匹から1匹を選択)。第2研究室は「~ポケモンコレクションルーム~」であり、これまでに発見されているポケモンたちの特徴を踏まえたワークショップを通して、それらの多様性を学ぶことが可能だ。また、これまでに発見されている全720匹のポケモンが一気に並べられている集合パネルや、記念撮影ができるフォトスポットなども用意されている。そして第3研究室は「~キミにもできる新たな発見~」と題されており、実際にそうした観察や分類によって、小学生が発見した学説を覆すような発見などの例を紹介。そうした行動が科学研究において大切なものであるというメッセージを含め、紹介を行うものとなっている。なお会期は7月8日から10月12日までで、開館時間は10時から17時(入場券の購入は閉館の30分前まで)、休館日は7月14日、9月1日、9月8日、9月15日、9月29日、10月6日となっている。また入場料は当日大人(19歳以上)が1600円、中人(小学生~18歳以下)が1200円、中人土曜(小学生~18歳以下)が1100円、小人(3歳~小学生未満)が500円となっている(2歳以下は入場無料、障がい者手帳所持者は当人ならびに付き添い者1名まで無料)。(C)2015 Pokémon. (C)1995-2015 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc ポケットモンスター・ポケモン・Pokémonは任天堂・クリーチャーズ・ゲームフリークの登録商標です。
2015年07月08日理化学研究所(理研)は7月7日、磁性絶縁体にパルス光を照射すると磁気弾性波が発生し、局所的に磁区を操作できることを発見したと発表した。同成果は理研創発物性科学研究センター強相関物性研究グループの十倉好紀 グループディレクター、小川直毅 上級研究員らの研究グループによるもので、7月6日付けの「米国アカデミー紀要」に掲載された。従来の磁気メモリデバイスは、電流をコイルに流すことで磁界を発生させ、近接する磁性体の磁化の向きを反転させることでデータ書き換えを行っているが、磁気メモリデバイスは微細化、高密度化に伴い消費エネルギーが増大するという課題がある。そのため、より低エネルギーで磁化の反転が可能な金属磁性体への電子スピン注入を利用することで、金属磁性体の「磁区」と呼ばれる磁化の向きがそろった領域とそれに隣接する領域の間の境界領域である「磁壁」を駆動し、磁化を反転させてデータを書き換える技術の研究が進められている。しかし、電子スピン注入を利用する方法は磁性絶縁体には不向きで、動作速度にも限界があると考えられているため、金属磁性体と磁性絶縁体の両方に適用できるスピン波を使った磁化の反転、磁壁の駆動が期待されている。同研究では、パルス幅が約100フェムト秒(1フェムト秒は1000兆分の1秒)で非吸収波長のフェムト秒レーザー光を磁性絶縁体である鉄ガーネットの薄膜に照射し、スピン波と結晶中の原子の結合波である磁気弾性波を発生させることに成功した。薄膜中の磁気弾性波を時間分解磁気光学顕微鏡で観測・撮影したところ、発生した磁気弾性波は伝搬速度と空間パターンの異なる波から構成されており、ギガヘルツの周波数で振動するスピン波としての性質を持つことがわかった。次に、同サイズの磁気構造との相互作用を観測したところ、磁気弾性波と磁壁との間に引力が働き磁区を駆動できることが判明。磁壁の形状を変えて観測した結果、磁壁の曲がり方が大きいほど、磁気弾性波と磁壁、磁区の相互作用が大きくなった。また、理論式に磁壁の曲率を取り込むことで、磁壁、磁区の動作を定性的に説明することができることがわかった。これは、より小さく複雑な磁気構造についてもスピン波との相互作用を理論的に予測できることにつながるという。同研究グループは「これらの結果は、光を用いて磁気弾性波を発生させることで磁性絶縁体中の磁壁・磁区を高速かつ局所的に操作できることを示しており、より省エネルギーなスピン波を用いた磁気メモリデバイスや高速磁気情報制御の実現に近づく重要な結果と言えます」としている。
2015年07月07日東京大学は7月7日、銅酸化物高温超伝導体では、通常の超伝導体と異なり抵抗ゼロの超伝導温度よりも遥か高温から超伝導電子が生成されていることを発見したと発表した。同成果は東京大学物性研究所附属極限コヒーレント光科学研究センターの近藤猛 准教授、同 Walid Malaeb 特任研究員、同 石田 行章 助教、同 辛埴 教授、東京工業大学応用セラミックス研究所の笹川崇男 准教授、名古屋大学工学研究科結晶材料工学専攻の坂本 英城氏、豊田工業大学物質工学分野エネルギー材料の竹内恒博 教授、東京理科大学理学部第一部応用物理学科の遠山貴巳 教授によるもの。7月7日付の英国科学雑誌「Nature Communications」に掲載される。超伝導とは、物質を非常に低い温度に冷却した際に、電気抵抗がゼロになる現象のこと。銅酸化物高温超伝導体は安価な液体窒素温度でも超伝導転移するため、エネルギー問題を解決する物質として期待されている。しかし、銅酸化物の高温超伝導の機構は解明されておらず、発見から約30年経った今でも現代物理学の最重要課題の1つとされている。超伝導の研究では、光電子分光法という手法を用いて、物質内の電子を外に弾き飛ばして直接観察する。同研究グループは、独自に開発したレーザー励起型の光電子分光装置を用いて、従来とは一線を画すエネルギー分解能で超伝導状態を担う電子(超伝導電子)を観察した。その結果、一般的な超伝導体では温度上げると抵抗ゼロの超伝導状態が消滅すると同時に、物質内の超伝導状態を担う電子は皆無となるのに対し、銅酸化物高温超伝導体では、超伝導温度よりも1.5倍近く高い温度まで超伝導電子が生き残ることがわかった。同研究グループは今回の成果について「超伝導の名残が高温超伝導体の超伝導温度よりもさらに高温で発見されたことから、超伝導温度の飛躍的向上と、その先にある室温超伝導実現へ向けての、大きな一歩だといえる」とコメントしている。
2015年07月07日理化学研究所は7月6日、シロアリ腸内の原生生物の細胞表面に共生する細菌がリグノセルロースの分解酵素を持ち、シロアリの効率的なリグノセルロース分解に役立っていることが分かったと発表した。同成果は理研環境資源科学研究センター バイオマス研究基盤チームの雪真弘 特別研究員とバイオリソースセンター微生物材料開発室の大熊盛也 室長らの研究グループによるもので、欧州の科学誌「Environmental Microbiology」オンライン版に掲載された。リグノセルロースは植物の木質部を構成する成分で、セルロース、ヘミセルロース、リグニンなどを主成分とし、バイオマス資源として注目を集めている。しかし、容易に分解することができず、化学処理や物理的処理で前処理を行った後、セルロースやヘミセルロースを酵素によって単糖まで分解しないと利用する事ができない。そのため、木材を効率的に分解することができるシロアリの能力は、リグノセルロースの活用への応用が期待されている。シロアリのリグノセルロース分解能力は、腸内に共生する微生物群が大半を担っている。この微生物群は10数種類の単細胞の真核生物である原生生物と数百種の細菌から構成されており、これまでの研究では分解プロセスで主に働いているのは原生生物であると考えられてきた。しかし、微生物群集全体を対象にした解析では、個々の微生物がリグノセルロースの分解でどのような役割を持っているか明らかにすることが難しく、シロアリ腸内の効率的なリグノセルロース分解プロセスの詳細についてはわかっていなかった。今回の研究では、ヤマトシロアリの腸内に共生する細菌を分離装置を用いて1細胞ずつに分離後、ゲノムDNAを増幅した。この中から原生生物の細胞表面に共生している細菌の全ゲノム増幅産物を用いて、シングルセルゲノム解析を実施。その結果、セルロースやヘミセルロースを分解するさまざまな分解酵素を持つことが分かり、原生生物が取り込む前のリグノセルロースを効率的に分解できるように、前処理をする役割を担っている可能性が示唆された。同研究グループは「今後、原生生物と原生生物に共生する細菌が協調した分解システムの理解が進めば、効率的なリグノセルロースの分解システムに応用できると考えられる」とコメントしている。
2015年07月06日話題のデットクスウォーターにレシピ本モデルをはじめ、美容に敏感な女性に人気沸騰中なのが、デットクスウォーターだ。果物やハーブ類を容器に入れて、あとは水を注ぐだけ!自然な甘みや香りを楽しめる上、水溶性のビタミンや食物繊維も摂取できる。6月30日、学研ホールディングスは、話題のデトックスウォーターのレシピ本「飲むだけでキレイになれる デトックスウォーター」を発売したと発表した。女性に人気!木下あおいがレシピ作成同本のレシピは、インナービューティープランナーとして活躍中の木下あおいが作成。彼女は、女性を内側から美しくしてくれる管理栄養士として人気を集めており、気分や体調で選ぶレシピや、漬け込んだ食材をリメイクしたアレンジウォーターを紹介している。SNSでも人気!「Myデトックスウォーター」また、デトックスウォーターといえば、女心をわしづかみにする見た目の鮮やかさを忘れてはいけない。カラフルな食材を、透明なタンブラーやドリンクジャーにインするのがトレンド。今やSNSは、オシャレな「Myデトックスウォーター」の写真で溢れている。見た目が可愛く、おいしくて、さらにキレイになれる。三拍子揃ったヘルシードリンクをあなたも試してみてはいかが。(画像はプレスリリースより)【参考】・学研ホールディングス プレスリリース(PR TIMES)
2015年07月03日広島大学、東北大学、千葉工業大学は7月1日、アポロ15号計画で回収された月表層の岩石試料からシリカ(SiO2)の高圧相であるスティショバイトを発見したと発表した。同成果は、広島大学大学院理学研究科の宮原正明 准教授、東北大学大学院理学研究科の大谷栄治 教授、千葉工業大学の荒井朋子 上席研究員らを中心とした研究グループによるもので、米国鉱物学会が発行する「米国鉱物学雑誌」に掲載された。月のクレーターや、月の表層を覆う岩石層は激しい天体衝突の名残と考えられている。巨大な物体が光速で衝突すると、地表では衝撃波によって瞬間的な高圧力状態が発生する。月の表層を構成する鉱物の1種であるSiO2に高い圧力を加えると、より高密度な物質(高圧相)であるスティショバイトというに変化することが知られている。これまでの研究で、天体が月に衝突した際に地球へ落下したとされる月の岩石にはスティショバイトが含まれていることが確認されているが、アポロ計画で回収された月の表層試料からはスティショバイトがみつかっていなかった。今回用いられた試料「Apollo 15299」は、月の「雨の海」と呼ばれるエリアに位置するハドレー谷の近くで回収されたもの。研究では、これを大型放射光施設Spring-8を使って解析することで、同試料がスティショバイトを含むことを世界で初めて明らかにした。含まれる物質の種類や化学組成から、このスティショバイトは月のプロセラルム盆地の形成に関与した天体衝突に伴い生成されたと考えられるという。現在、クレーターの形成年代や衝突規模の推定は数値シミュレーションなどを用いて間接的に行われているが、高圧相を調べることでより直接的な証拠から衝突が起きた年代を明らかにすることができる。同研究グループはさらに「今回の成果によって地球外の天体の地表に高圧相が存在することが証明されたため、今後、地球へのサンプルリターンが期待される火星や小惑星の地表の岩石に高圧相が存在可能性があり、高圧相にも注目していく必要がある」としている。
2015年07月01日日本語は世界一難しい言語とも評されますが、その言葉遣い1つ1つに人柄はにじみ出るもの。そこで、日本文学研究者のロバート・キャンベルさんに、日本語の持つ奥深さについて聞いてみました。***若山牧水の「白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ」という和歌があります。この風景を絵にしてください、と言うと、白鳥の数が人によって異なるのです。日本語は数や時制をはっきりさせず、文脈の中からそれらを読み取っていくからですね。それが、あの歌が名歌になっている所以だと思うのです。欧米の言語だと、1羽なのか数羽なのかを決めなければなりませんから。でも、それだと人の不安や憧れなどの情感が歌に乗らないのではないでしょうか。このように日本語の和歌や歌謡曲には「曖昧」という表現では括れない、可能性をプロデュースする力があると感じます。日本語は多元的で、とても奥行きがある言語。単語の数もかなり多く、和語、漢語、外来語などから使う言葉を選んだり、時にミックスしたりすることで、微細な違いも表れます。「ケチ」という言葉ひとつとっても、度合いによって「しわい」「けちんぼ」「あたじけない」などの表現があり、その縫い目なく繋がっている言葉のグラデーションも豊かです。自分でも日本語で原稿を書いて推敲をする時に、気づくことがたくさんあります。漢字をギュッと使いたい時もあれば、ひらがなを使ってゆったりさせたい文もある。「この2~3行の調子だと、こっちの言葉がいいな」というように、文章そのものが言葉を迎える感じがするんですね。野球の専門用語でも、バットに球が当たった時の「快音」、球を投げたときの「魔球」などすごく素敵な漢語がたくさんありますが、それらの比喩を自分の文章に取り入れると引き締まるという発見をすることもあります。そういったところにも、日本語の面白みを感じるのです。◇ロバート・キャンベル日本文学研究者、東京大学大学院教授。ニューヨーク出身。さまざまなメディアで活躍中。編著に『ロバート キャンベルの小説家神髄』など。※『anan』2015年7月1日号より。取材、文・仲野聡子©hiorgos
2015年06月24日AKB48の曲名に使用されたこともあり、ご存じの人も多いフォーチュンクッキー。アメリカのチャイナタウンなどで愛されているこのお菓子、実は日本の“辻占”という占いが起源だという説があるというのです!著書『辻占の文化史』を持つ神奈川大学研究員・中町泰子さんに聞きました。「奈良時代、“意中の彼は、今晩私の元に来るかしら?”と、女性が夕方に四辻(四つ角)に立ち、通行人の言葉を聞き占う、“夕占(ゆうけ)”という占いが始まりました。その“偶然聞いた言葉から未来を占う”というスタイルが徐々に簡略化され、江戸時代末期に、言葉を記した紙をおみくじのように楽しむ“辻占”が大流行。煎餅に辻占の紙を入れた“辻占煎餅”というものも登場し、人気は昭和まで続いたそうです。一方、米国に移住した日本人の中で、サンフランシスコで日本庭園の管理をしていた萩原眞さんが1910年前後に、アメリカ人の客のために、日本から持ち込んだ鋳物の型で生地を手焼きし、占い英文の紙を挟み、英文版辻占紙片入り煎餅を製作しました。それがフォーチュンクッキーの始まりといわれています。他の会社も作るようになった’20年代頃から、日系中華料理店でサービスで出され、そのことで、現在の“フォーチュンクッキー=中華料理店”という印象になったのではないかと思います」(神奈川大学研究員・中町泰子さん)今でも辻占のお菓子は金沢や長崎の平戸に残っており、お正月の定番菓子として愛されている。また京都にも似た煎餅が。クラシックな和のお菓子と、ハイカラなクッキーに繋がりがあるとは、なんとも驚き。◇なかまち・やすこ神奈川大学日本常民文化研究所、特別研究員。22歳のときNYでフォーチュンクッキーと出合ったことで、研究を始めた。※『anan』2015年6月24日号より。©hannamonika
2015年06月19日理化学研究所(理研)は6月18日、うつ様行動を示すマウスの神経細胞を操作して、過去の楽しい記憶を活性化することで、うつ状態を改善することに成功したと発表した。同成果は、理研脳科学総合研究センター 理研-MIT神経回路遺伝学研究センターの利根川進 センター長、スティーブ・ラミレス氏らの研究グループによるもので、6月17日付(現地時間)の英科学誌「Nature」に掲載された。楽しい体験の記憶は、海馬歯状回の特定の組み合わせの神経細胞の活動によって保存されることがわかっており、同研究グループは2014年に光遺伝子学を用いて、マウスの嫌な体験の記憶を楽しい体験の記憶に書き換えることに成功している。実験ではまず、オスのマウスにメスのマウスと一緒に過ごすという楽しい体験をさせ、その時に活動した海馬の歯状回の神経細胞を標識した。次に、そのオスのマウスに体を固定する慢性ストレスを与えて、うつ状態になったことが確認されたあと、楽しい体験の記憶として標識された海馬歯状回の神経細胞群に光をあてて人工的に活性化したところ、うつ状態の改善が確認された。さらに調べると、このうつ状態の改善は、海馬歯状回から「恐怖」「喜び」といった情動記憶に関わる扁桃体の基底外側部を通り、やる気や意欲に関与する側坐核シェルと呼ばれる領域へとつながる回路の活動によるものであることがわかった。したがって、メスのマウスと一緒にいるという楽しい体験の最中に実際に感じた喜びの記憶や感覚などが細部まで呼び覚まされて、症状の改善につながったと考えられるという。研究グループは「今のところ、ヒトの楽しい記憶を細部まで再現するような神経細胞の活性化技術はまだ確立されていませんが、今後このような技術の開発を進めることで、うつ病の新しい治療法の開発につながることが期待されます。」とコメントしている。
2015年06月18日理化学研究所(理研)は6月16日、原子レベルの超格子薄膜技術を用いてイリジウム酸化物の電子相を制御し、磁性の出現と絶縁体化が密接に関係していることを解明したと発表した。同成果は、理研 石橋極微デバイス工学研究室の松野丈夫 専任研究員、東京大学 理学系研究科の髙木英典 教授、東京大学 物性研究所の和達大樹 准教授(研究時は東京大学工学研究科特任講師)、日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究センターの石井賢司 研究主幹、トロント大学 物理学科のHae-Young Kee教授らによるもの。詳細は、「Physical Review Letters」に掲載された。イリジウム酸化物は、低消費電力デバイスを実現する材料として期待されるトポロジカル絶縁体の1種で、電子のスピンと軌道運動の磁気的な相互作用である「スピン-軌道相互作用」と、電子同士の相互作用である「電子相関」を併せ持つ物質として知られているが、これまでその結晶構造の種類が少なかったため、イリジウム酸化物全体の性質を体系的に理解できていなかった。今回、研究グループは、原子レベルでイリジウム薄膜とチタン酸化物薄膜を交互に積み重ねた超格子構造を作製し、イリジウム酸化物の電子相を精密に制御することが可能であることを示し、磁性を持った絶縁体相から特殊な金属の一種である半金属相へと電子相が変化していく様子を連続的にとらえることに成功したという。この結果、イリジウム酸化物における磁性の出現と絶縁体化が密接に関係していることが判明したとのことで、これにより、イリジウム酸化物において期待されるさまざまな電子相を超格子構造によって自在に制御する可能性が示されたとする。なお、研究グループでは今回の成果を受けて、理論で予測されながらも発見されていない新たな種類のトポロジカル絶縁体の実現、さらには低消費電力デバイスへの応用が期待できるようになるとしている。
2015年06月18日東北大学は、原子のクラスターにX線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」から供給される強力なX線を照射すると、ナノメートルクラスの大きさのプラズマ(ナノプラズマ)を生成することを見出したと発表した。同成果は、東北大学多元物質科学研究所の上田潔 教授、福澤宏宣 助教のグループ、京都大学大学院理学研究科の八尾誠 教授、永谷清信 助教のグループ、広島大学大学院理学研究科の和田真一 助教、理化学研究所 放射光科学総合研究センターXFEL研究開発部門ビームライン研究開発グループの矢橋牧名グループディレクター、高輝度光科学研究センターXFEL利用研究推進室先端光源利用研究グループ実験技術開発チームの登野健介チームリーダーらによるもの。詳細は、英国の科学雑誌「Scientific Reports」に掲載された。強力なX線と物質との相互作用はこれまで研究されていなかった。そこで今回、研究グループは、そうした強力なX線と物質との相互作用の解明に向け、原子の集合体である原子クラスターを試料として、XFEL照射によりどのような応答を示すかを調べたという。これまで、X線を原子クラスターに照射すると、クラスターを構成する原子の深い内殻軌道から電子が放出され、原子はエネルギーが高く不安定な原子イオンになるが、比較的浅い軌道の電子を放出することで安定化し、多価原子イオンになることが知られていた。また、SACLAのような強力なX線パルスを照射した場合、単一クラスター内の複数の原子においてこのような過程が起こり、たくさんの電子が放出され、この過程が進行していくと、時間的に遅れて原子から飛び出した電子のうち、エネルギーが低い電子は正の電荷に引き寄せられてクラスターからは飛び出せなくなっていくことから、微小空間内に正の電荷と負の電荷が混在するナノプラズマが生成することが予想されていた。研究では、アルゴン原子クラスターに強力X線を照射し放出される電子の運動エネルギー分布を測定。その結果、2000~5000eVの高速電子はクラスターから飛び出せなくなることなないが、200eVから低エネルギー側の領域が平らになることが確認され、電子が減速し、ナノプラズマが生成されることが示唆されたとする。また、理論計算からX線照射によって放出される電子の中でも比較的低エネルギーの電子とクラスター内の原子との衝突により放出される2次電子がナノプラズマ生成に主に寄与していることも判明したという。なお、今回の研究結果について研究グループでは、SACLAの強力なX線パルスを用いた物質の構造解析を行う上で、ナノプラズマが生成される反応素過程を正確に知り、考慮したうえで解析を行うことが必要不可欠であることを示すものであるとするほか、強力X線と物質との相互作用に関する問題を1つひとつ解決していくことで、SACLAを用いて、これまで見えなかった超微細・超高速な現象を見ることも可能になることが期待されるとコメントしている。
2015年06月18日基礎生物学研究所(NIBB)は6月11日、主に血糖値を下げる働きをすることで知られる「インスリン」と結合し、血液中から細胞内への糖の取り込みを増加させエネルギー源としての利用を促す「インスリン受容体」の働きを抑制する酵素を発見したと発表した。同成果は、同研究所 統合神経生物学研究部門の新谷隆史准教授、野田昌晴教授らによるもの。詳細は生化学専門誌「Journal of Biochemistry」に掲載された。具体的には、受容体様タンパク質チロシン脱リン酸化酵素(RPTP)のR3サブファミリーに属する分子群(Ptprb、 Ptprh、Ptprj、Ptpro)がインスリン受容体を脱リン酸化することで、その働きを抑制していることを見出したとする。これまで糖尿病の治療薬としては、インスリンそのものや膵臓からのインスリンの分泌を促進するもの、腸管からの糖の吸収を邪魔するものなどが用いられてきたが、今回の成果を踏まえ研究グループでは、R3 RPTPサブファミリーを阻害する薬剤が新たな糖尿病の治療薬となる可能性が示されたとしており、今後の治療薬開発に進むことが期待されるとコメントしている。
2015年06月15日基礎生物学研究所は6月12日、メダカを用いた研究で生殖細胞が「精子になるか卵になるか」を決定する遺伝子を同定したと発表した。同成果は基礎生物学研究所の西村俊哉研究員(元総合研究大学院大学)と田中実 准教授らと、九州大学の佐藤哲也 助教、大川恭行 准教授、須山幹太 教授、岡崎統合バイオサイエンスセンターの小林悟 教授(現筑波大学 教授)との共同研究によるもので、米科学誌「Science」に掲載された。精子と卵子は生殖細胞という共通の細胞から作られることが知られている。生殖細胞は体細胞の性が決定した後、その影響を受けて「精子になるか卵になるか」が決定すると考えられているが、その際に細胞内でどのような遺伝子が働いているかはわかっていなかった。同研究グループは、生殖細胞でオスとメスに違いのある遺伝子を探索し、foxl3という遺伝子が、卵が作られる過程のメスの生殖細胞で働いているのに対し、オスではその働きが抑制されていることを発見した。また、foxl3の機能が欠損したメダカのメスは通常のメスと同様に卵巣を作るものの、卵巣の中で受精可能な精子が作られていた。これらの結果から、foxl3はメスの生殖細胞で働き、「精子形成を抑制」する機能を持つことがわかった。foxl3による「精子形成の抑制」を解除すると生殖細胞を取り巻く環境がメスでも精子が形成されるという今回の研究は、体細胞とは独立した性を決めるスイッチが生殖細胞に存在することを示すものとなった。今後は、オスの生殖細胞でfoxl3の発現が抑制されるメカニズム、およびメスの生殖細胞でfoxl3が具体的にどのように精子形成を抑制しているのかについて研究を進めていくという。
2015年06月12日理化学研究所(理研)は6月11日、エリンギに「眠り病」と呼ばれる感染症の病原体に特異的に結合するタンパク質が存在することを発見したと発表した。同成果は、理研小林脂質生物学研究室の石塚玲子 専任研究員、小林俊秀 主任研究員らの共同研究グループによるもので、6月9日付け(現地時間)の米科学誌「The FASEB Journal」に掲載された。「眠り病」は吸血バエが媒介する寄生原虫「トリパノソーマ」が引き起こす感染症で、病状が進行すると患者は昏睡して死に至ることが名前の由来となっている。病原体であるトリパノソーマに対する特効薬は開発されておらず、ワクチンや抗体療法による予防や治療が考えられている。しかし、トリパノソーマは抗原変異を繰り返すため、今のところ成功していない。トリパノソーマは血流中に存在するとき「セラミドホスホエタノールアミン(CPE)」という脂質を細胞表面に発現することが報告されている。脂質は遺伝子変異の影響を受けないため、抗原変異が起こりにくいため、CPEは眠り病の診断や治療薬のターゲットとして有用であると考えられる。今回の研究では、エリンギ由来の「プロロトリシンA2」「エリリシンA」、ヒラタケ由来の「オステリオリシン」という3つのタンパク質がCPEとコレステロールの複合体と非常に強く結合することを発見した。このうち、「プロロトリシンA2」と「オステリオリシン」はトリパノソーマだけでなくヒトの細胞にも結合したが、「エリリシンA」はヒトの細胞に結合せず、血流型のトリパノソーマに特異的に結合した。「エリリシンA」とトリパノソーマの結合は数分で発生するため、今回の結果は同タンパク質がトリパノソーマ感染の1次診断に利用できる可能性を示すものとなった。また、「エリリシンA」は「エリリシンB」の存在下では、細胞膜に孔をあける毒素として作用するため、この性質を使ってトリパノソーマ感染の治療に応用できる可能性がある。
2015年06月11日理化学研究所(理研)は6月8日、高輝度光科学研究センター(JASRI)のX線自由電子レーザー(XFEL:X-ray Free Electron Laser)施設「SACLA」が新たなXFELビームライン「BL2」の共用運転を開始し、複数のXFELビームラインを同時に稼働させたことを発表した。従来のXFELビームライン「BL3」は、0.1nm以下のX線レーザーを安定的に供給することで、微細世界の研究に活用されてきたが、世界で共用運転を実施しているXFELビームラインはこのBL3と米国のLinac Coherent Light Source(LCLS)が有するビームラインの2本だけであり、国内外の大学や研究機関、産業界の利用者からXFELの利用機会の拡大ニーズが強かったという。今回、共用運転を開始したBL2はSACLAにとって2本目となる共用XFELビームラインという位置づけで、2013年度から整備が進められてきており、2015年4月16日には1パルスあたり100μJを超す出力を実現し、翌4月17日に、BL2による初めての利用研究課題として、理研放射光科学総合研究センターの大浦正樹ユニットリーダーらの研究グループが実験を実施したとする。なお、BL2は、XFEL利用研究の重要ターゲットの1つである生物科学分野における利用が想定されており、理研では、BL3とBL2を効果的に運用することでXFELの利用機会を向上させ、学術・産業の発展に貢献していきたいとしている。
2015年06月08日理化学研究所(理研)と東京工業大学は6月8日、非対称な光学迷彩を設計する理論を構築したと発表した。同成果は理研理論科学研究推進グループ階層縦断型基礎物理学研究チームの瀧雅人 研究員と東京工業大学量子ナノエレクトロニクス研究センターの雨宮智宏 助教、荒井滋久 教授らとの共同研究グループによるもので、米科学誌「IEEE Journal of Quantum Electronics」に掲載された。光学迷彩は、光を自在に曲げる装置によって、物体や人を見えなくする技術で、最近ではメタマテリアルという人工素材が注目を集め、透明マントのような装置の研究が進められている。これまで提唱されてきた光学迷彩装置は、入射した光が1つの閉領域を迂回するようにすることで、外部から見た人にとって、あたかもその領域内に何も存在しないように見せるという仕組みとなっており、外から光が入らないため、外部だけでなく内部からも見えない「対照的」な振る舞いを示す装置しか実現することができなかった。今回の研究では、「内部から外部を見ることができるが、外部から内部は見えない」という「非対称性」を持つ光学迷彩装置を実現するための理論を構築した。ベースとなったのは2012年に米スタンフォード大学のグループが提唱した「光子に作用するローレンツ力」の概念で、光を補足する光学的な共振器を格子状に配置し、共振器間を光が曲がりながら伝搬する理論モデルだった。同研究グループはこの格子共振器が光学迷彩装置にも利用できる点に着目し、格子共振器を拡張し電場に相当する効果を発揮させる、光学格子共振器を用いた理論モデルを構築した。その結果、光があたかも一般的な電場中を運動する電子のように振る舞うことで、光学格子共振器のパラメータを調整するだけで自由な伝搬光路を実現できることがわかった。特に、磁場が及ぼすローレンツ力によって、完全反対称な光路を実現することができ、電場から受けるクーロン力に相当する力により光路を調整することで、より多様で非対称な光の伝搬経路が実現できることがわかった。現在、研究は理論の提案に留まっているが、今回提唱された光学格子共振器モデルは、フォトニック結晶を用いた非対称光学迷彩を実現に近づける理論だという。また、非対称な光学迷彩という研究テーマは、新たなメタマテリアルの開発を促し、理論とメタマテリアル開発の進展によって、非対称光学迷彩の実現が期待される。
2015年06月08日東北大学などの研究グループは6月5日、次世代の多機能電子素材として期待される「マルチフェロイック物質」において、新たな電子機能制御手法を実証し、その基礎原理を確立したと発表した。同成果は、東北大学 大学院理学研究科の松原正和 准教授、青山学院大学 理工学部の望月維人 准教授(HSTさきがけ研究者兼任)、大阪大学 大学院基礎工学研究科の木村剛 教授らによるもの。詳細は米国科学雑誌「Science」に掲載された。磁石の性質(磁性)を兼ね備えた強誘電体である「マルチフェロイック物質」は、磁場を変化させて誘電的な特性(電気分極)を制御することや、電圧を変化させて磁気的な特性を制御することができるため、次世代のエレクトロニクスデバイスへの応用に向けた取り組みが世界中で研究されている。今回の研究では、-246℃以下で電子が持つ磁石の性質(スピン)が空間的に規則的に配列し、これに伴い強誘電分極が生じることが知られている「TbMnO3」を光学的手法を用いて、電気的かつ磁気的な応答をする特異な強誘電分極を可視化することに成功し、マルチフェロイック物質に特有な強誘電分極の振る舞いを発見したという。これにより、電場による強誘電分極の制御過程が明らかとなり、電気的・磁気的な性質を備える強誘電分極が、電場により制御可能な通常の強誘電体としての機能を持っていることが確認されたとするほか、こうしたメカニズムは電気的エネルギーの利得よりも磁気的エネルギーの利得を稼ぐために起きる、マルチフェロイック物質に特有な現象であることも判明。これにより、同メカニズムが、強誘電性を磁場で制御する新しいメモリ・ロジック素子の基礎原理として用いることができるだけでなく、これを利用することで、電気的に異なる性質を持つ2種類の「ドメイン壁」(電気的に中性なドメイン壁と荷電したドメイン壁)を磁場により選択的に作り出すことが可能となるため、将来的にはドメイン壁を利用した新たなナノスケールのエレクトロニクスへの展開も考えられるという。なお、研究グループでは今回の成果について、今後、同様の機構を持つ材料を研究するさいの重要な知見になるとしており、新たなナノエレクトロニクスデバイスなどへの応用が期待できるとコメントしている。
2015年06月05日東京大学(東大)や理化学研究所(理研)などで構成される研究グループは、スピントロニクス材料として期待される巨大磁気抵抗を示すコバルト酸化物「SrCo6O11」に、スピン配列の周期として理論的に考えられるすべての状態が存在し、それらが磁場の変化とともに磁化が階段状に増加していく様子「悪魔の階段」を確認することに成功したと発表した。同成果は、東大 物性研究所の和達大樹 准教授、同大学院工学系研究科の石渡晋太郎 准教授、同大学院工学系研究科の十倉好紀 教授(理化学研究所創発物性科学研究センター センター長)、京都大学化学研究所の齊藤高志 助教、独Leibniz Institute for Solid State and Materials Research Dresde とHelmholtz-Zentrum Berlin らによるもの。詳細は米国科学誌「Physical Review Letters」の6月8日オンライン版に掲載される予定。実際の観測は、ドイツの放射光施設「BESSY II」において共鳴軟X線回折実験として行われ、その結果、ほとんどすべてのスピン配列の周期性に対応する分数値の回折ピークが観測され、各々の温度でさまざまな周期の磁気秩序が共存している様子が確認されたとのことで、これについて研究グループは、磁気的な相互作用の正負が距離によって変化するモデルを理論的に解くことで得られる「悪魔の階段」の状態が、実際の物質で実現している事が示されたとしている。また、さらなる解析により、磁化の測定で見られたステップを生み出す磁気構造の様子の解明にも成功したとのことで、これにより、「悪魔の階段」を生み出す磁気構造の詳細が判明したとしている。なお研究グループでは今後、こうした「悪魔の階段」型の磁気構造をさらなる系統的な研究により他の物質にも見つけることを目指し、単純に磁場により電気抵抗を増減させるだけでなく、電気抵抗や磁化が階段状にとびとびの値をとることを活かした、新しいタイプのスピントロニクス材料の開発などにつなげたいとしている。
2015年06月05日東京大学(東大)とベネッセホールディングスは6月4日、2014年1月に立ち上げた「子供の生活と学び」の実態の解明に向けた共同研究プロジェクトの第1回調査を2015年7月に実施すると発表した。同調査は、小学1年生から高校3年生までの親子約2万1000組に対し、10年程度の長期にわたり、追跡調査を行い、その結果から、子供の生活や学習の状況、保護者の子育ての様子などにより、子供の成長がどのように変わるのかを明らかにしようというもの(毎年、小学1年生が補充されていく予定)。調査の内容については、子供(小学4年生~高校3年生)に向けては、日頃の生活(生活時間、生活習慣、遊び、ICTの利用状況、学校生活)、人間関係(親子関係、友だち関係)、学習(学習実態、学習習慣、受験、勉強についての意識)、意識・価値観(悩み、社会観、職業観)、身につけている力などとなっており、保護者に向けては、子供への働きかけ(子育て・しつけの実態、家庭のルール、親子の会話)、子育て・教育に関する意識(教育方針、教育観、子供に対する希望、将来像、受験)、教育費(習い事、学習塾)、保護者自身の生活(仕事や生活の状況)などとなっている。プロジェクトの代表者は、東京大学社会科学研究所の石田浩 教授ならびにベネッセ教育総合研究所の谷山和成 所長となっており、研究結果については東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所にて広く公表する予定としているほか、元データについては東京大学社会科学研究のデータアーカイブ(SSJDA)に寄託し、研究・教育目的で公開を行う予定だとしている。なお、第1回目の調査結果については2016年2月に公表される予定だという。
2015年06月05日東京工業大学(東工大)は6月5日、センチメートル(cm)クラスの面積で、局所的に構成分子の配向や配列が揃っている領域(ドメイン)が隣り合う部分「ドメイン境界」がない有機薄膜を形成することに成功したと発表した。同成果の詳細は、東工大 資源化学研究所の福島孝典教授らの研究グループと、科学技術振興機構ERATO「染谷生体調和エレクトロニクスプロジェクト」の染谷隆夫研究総括(東京大学 教授)、理化学研究所放射光科学総合研究センターの高田昌樹主任研究員(現 東北大学 多元物質科学研究所 教授)、引間孝明研究員らによるもの。詳細は米科学誌「Science」に掲載された。従来、有機薄膜の形成過程では、生成した結晶核から構造成長が起きてしまうため、ドメイン境界が生成されていた。ドメイン境界は、膜強度や半導体膜であれば電導度など、膜の機能を低下させる要因として知られており、次世代の高性能半導体の実現に向けて、ドメイン境界がない大面積の有機薄膜の作製手法の開発が求められていた。今回、研究グループは、構造規則性の長距離伝搬を可能にする分子・分子集積体の空間充填デザインを考案することで、ドメイン境界のない有機薄膜の形成が可能であることを示したほか、実際に、設計した分子をサファイア基板ではさみ、加熱溶液状態から冷却することで、均一な薄膜がcm規模で形成できることを確認したという。また、この薄膜の構造を調べたところ、構造が膜全体にわたって完全にそろった、単結晶のような構造規則性を有していることが分かったという。さらに研究グループはこの薄膜は、加熱溶融状態からの冷却以外にも、スピンコートや真空蒸着法でも完全に配向した均一な膜形成が可能であることも確認したとする。特に真空蒸着法では、ガラスやプラスチックなど、基材を選ばずに高秩序な薄膜を形成できることも確認したとのことで、この結果について研究グループは、分子集積膜の応用可能性を広げるものであると説明している。なお、今回の成果について研究グループでは、、基材を選ばずに大面積分子集積膜を形成できることから、表面改質の汎用的な手段として多方面への応用が期待されるとコメントしているほか、既存の成膜方法と組み合わせることで、超高精細分子膜を用いたフレキシブルデバイスの創出など、新しい応用展開が期待されると、次世代の半導体デバイスの実現への期待を語っている。
2015年06月05日腸内の細菌環境に注目2015年5月30日、学研パブリッシングから1冊のムック本が刊行された。腸内の細菌環境に注目して刊行された「腸内フローラ健康法太りやすい人ほどやせる!!」は朝日放送の「みんなの家庭の医学」と提携。同書では太りやすい人の腸内フローラの状態を詳しく解説し、痩せやすい腸内フローラへ改善する方法なども書かれている。奥薗壽子先生の体質改善レシピも見どころのひとつだ。腸内フローラヒトの腸の中には100兆を超える細菌が住んでいる。その細菌が集まっているところを顕微鏡で見てみると、まるでお花畑のように見えることから腸内フローラと呼ばれる。近年の研究により、腸内フローラを構成する細菌の種類や数が体質に影響することがわかってきている。腸内細菌と聞いてまず思い浮かべるのは「善玉菌」「悪玉菌」であろう。実は腸内には善玉菌と悪玉菌だけでなく、日和見菌というのも存在する。日和見菌とは善玉菌にも悪玉菌にもなる可能性のある腸内細菌で、腸内で善玉菌が優勢の時は善玉菌を加勢し、悪玉菌が優勢の時は悪玉菌を加勢する。たくさんの腸内細菌で構成される腸内フローラは約1.5kgもあり、大便の約60%は腸内細菌の死骸であるというのも驚きだ。(画像はプレスリリースより)【参考】・株式会社 学研ホールディングスプレスリリース(PR TIMES)
2015年06月04日理化学研究所(理研)は6月2日、バセドウ病の発症を予測するバイオマーカーを同定したと発表した。同成果は理研統合生命医科学研究センター統計解析研究チームの岡田随象 客員研究員らの共同研究グループによるもので、6月1日付け(現地時間)の米科学誌「Nature Genetics」に掲載された。青年期の女性に多く発症することで知られるバセドウ病は、甲状腺機能の異常をもたらす自己免疫疾患の1つで、動悸や体重減少、疲労、眼球突出などの症状が発生する。移植や免疫反応に関わるHLA遺伝子の配列が発症に関わっていることは以前から知られていたが、具体的どの部分が関与するのかはわかっていなかった。同研究グループは、HLA遺伝子の個人差を高精度かつ網羅的に解析する「HLA imputation法」を日本人に適用するためのデータベースを開発。これにより、HLA遺伝子配列の網羅的な疾患リスク解析が可能となった。HLA遺伝子に「HLA imputation法」を適用した結果、複数のHLA遺伝子のアミノ酸配列の個人差によってバセドウ病の発症リスクが規定されていることが明らかとなった。具体的には、最も強いリスクを示したのはHLA-DPB1遺伝子の35番目のアミノ酸配列で、同部位のアミノ酸にロイシンを有する人が1.4倍程度、バセドウ病を発症しやすくなることがわかった。今回同定されたHLA遺伝子配列はバセドウ病の発症リスクを予測する疾患バイオマーカーとしての活用が期待される。また、作成したデータベースを用いて日本人における他の疾患に対してHLA imputation法を適用することで、さまざまな疾患バイオマーカーの同定や疾患病態の解明、個別化医療の実現に繋がる可能性がある。
2015年06月02日学研グループのデジタル事業会社であるブックビヨンドは、主要電子書籍ストアにて、「学研リレーSALE」の一環としてペット関連本12タイトルを半額で販売している。期間は6月4日まで。「学研リレーSALE」とは、学研グループから発売している特定のジャンル5~20タイトルの値引きキャンペーンを、原則2週間ごとに継続的に行う企画のこと。今回は、ペット(ねこ、いぬ、うさぎ)関連電子書籍を半額で販売する。対象となるのは、「超保存版! うちの猫のキモチがわかる本 フシギ発見編」(通常価格1,143円→SALE価格571円)、「猫の毛色&模様 まるわかり100!」(通常価格1,143円→SALE価格571円)、「改訂版 うちの猫との暮らし 悩み解決Q&A100」(通常価格1,143円→SALE価格571円)、「決定版 うちの猫の長生き大事典」(通常価格1,048円→SALE価格524円)。うさぎの関連本「うちのうさぎのキモチがわかる本 まるごとうさゴコロ編」(1,238円→SALE価格619円)も半額となる。犬関連の本は「うちの犬の健康をまもる本」(通常価格1,143円→SALE価格571円)、「うちの犬の長生き大事典」(通常価格1,048円→SALE価格524円)、「教えて! 獣医さん 犬の悩みなんでも相談室」(通常価格1,048円→SALE価格524円)、映画「わさお」の撮影に密着した、わさおの撮り下ろしフォトブック「わさわさ」(通常価格762円→SALE価格381円)など。販売は、学研BookBeyond、Digital e-hon、honto、BookLive!、music-book.jp、GARAPAGOS STORE、yodobashi.com、BOOK☆WALKER、どこでも読書、Reader Store、ひかりTVブック、いつでも書店、ポンパレeブックストア、Neowing eBooksにて。なお、セール価格・期間は予告なく変更する場合もあるとのこと。
2015年06月02日核融合科学研究所(核融合研)は6月1日、スーパーコンピュータシステム「プラズマシミュレータ」を、従来システム比で8倍以上の演算性能を有するシステムへと更新し、同日より稼働を開始したと発表した。今回更新したプラズマシミュレータには、富士通のスーパーコンピュータ「PRIMEHPCFX100」を採用、システム全体として総合理論演算性能2.62PFLOPSの性能を実現した。これは、昨年11月に発表された「TOP500 Supercomputer Sites」において、日本に設置されているスーパーコンピュータの中で3番目の演算性能に相当し、従来のシステムと比較して8倍以上の性能向上となる。主記憶容量はシステム全体で81TBを実装しており、同研究所で利用される大容量メモリを必要とするプログラムに対しても、最適な計算環境を実現できるという。また、大規模シミュレーションで生成される膨大な数値データに対し、並列分散ファイルシステムで構築された10PBの高速ストレージシステムを採用し、大容量データの保存に充分耐えうる性能を実現した。核融合研は、今回のプラズマシミュレータの更新によって、核融合プラズマの複雑な挙動の物理メカニズムの解明、実験結果の解析や予測、核融合炉材料の物性シミュレーションなどを、これまで以上に大規模かつ短期間に行うことができるようになるとしている。
2015年06月01日理化学研究所(理研)は5月29日、記憶痕跡細胞同士のつながりを強めるシナプス増強がなくても、記憶が神経細胞群の回路に蓄えられていることを発見したと発表した。同成果は理研脳科学総合研究センター 理研-MIT神経回路遺伝学研究センターの利根川進 センター長らの研究チームによるもので、5月28日付けの米科学誌「Science」オンライン版に掲載された。記憶は記憶痕跡とよばれる神経細胞群とそれらのつながりに蓄えられると考えられている。これまでは記憶が長期的に保存されるには記憶痕跡細胞同士のつながりを強めるシナプス増強という過程が不可欠であるとされていた。動物実験では、シナプス増強を阻害すると過去のことを思い出せない状態になることが報告されている。しかし、記憶の固定化プロセスの中で、記憶痕跡を形成する神経細胞群そのものにどのような変化が起きているかはわかっていなかった。今回の研究では、光遺伝学という技術を用い、シナプス増強が起こらないような条件下でマウスの記憶痕跡を操作して、記憶痕跡自体の変化を調査した。実験ではマウスを小箱Aに入れた後、小箱Bに入れ電気刺激を与え小箱Bが怖いということを記憶させ、直後にシナプス増強を阻害する薬を与えた。通常では次の日にマウスを小箱Bに入れると怖い体験を思い出してすくむが、シナプス増強が阻害されているマウスは小箱Bに入れてもすくまず、小箱Bの体験の記憶を喪失していた。さらに次の日では、同じマウスを小箱Aに入れた。小箱Aでは怖い体験をしていないので、通常では特に何も反応を示さないが、実験で用いたマウスの小箱Bでの怖い体験に対応する記憶痕跡細胞群を光を照射して人工的に活性化すると、小箱Bの記憶を思い出してすくんだ。これは、シナプス増強がない場合でも、怖い体験の記憶が記憶痕跡細胞群の中に、直接保存されていることを意味している。また、周囲の環境とそこでの怖い体験を結びつける記憶は、海馬から扁桃体へと伝わる回路の活動に依存することが知られているが、シナプス増強が起きないマウスでも、海馬と扁桃体の間の記憶痕跡細胞同士のつながりは強まっていることもわかった。これは、シナプス増強によらない記憶痕跡細胞同士のつながりの強化によって、記憶が安定的に蓄えられていることを示唆している。今回の結果について利根川教授は「シナプス増強というプロセスはおそらく、記憶が形成されるごく初期の段階には重要な役割を果たしているが、すでに保存された記憶を維持するための基本メカニズムではなさそうだ。しかし、自然な手がかりから効率よく記憶痕跡を活性化し、過去の体験を細部まで思い出すには、シナプス増強が不可欠なのかも知れない」とコメントしている。
2015年05月29日岡山大学は5月29日、光化学系Iというタンパク質複合体の構造を解明したと発表した。同成果は同大大学院自然科学研究科(理)の沈建仁 教授(同大光合成研究センター長)、菅倫寛 助教と中国科学院植物学研究所の共同研究グループによるもので、5月29日付け(現地時間)の米科学誌「Science」に掲載される。光化学系Iタンパク質複合体は、酸素発生型光合成において、太陽光を生物が利用可能な化学エネルギーに変換する役割を担い、水からの電子と光エネルギーを利用して、二酸化炭素を糖に変換するために必要な還元力を作り出している。高等植物の光化学系I複合体は14個のタンパク質と90個以上のクロロフィル(葉緑素)、22個のカロテノイドなどで構成されており、外側に光エネルギーを集める集光性アンテナタンパク質が4つ結合し光化学系I-集光性アンテナタンパク質複合体が形成されている。光化学系I-集光性アンテナタンパク質複合体における光エネルギーの高効率吸収・伝達の機構を明らかにするためには、同複合体の立体構造を解明する必要がある。同研究グループは、エンドウ豆の葉から精製・結晶化した光化学系I複合体を、大型放射光施設SPring-8を利用することで2.8 Å分解能で立体構造を解析。その結果、155個のクロロフィル分子を同定し、これまで分かっていなかった多くのカロテノイド、脂質分子などの配置を解明した。さらに、詳細な構造が分かっていなかった多くのタンパク質サブユニットの構造を明らかにし、光エネルギーを吸収し、反応中心へ伝達する経路を同定することに成功した。同研究グループは今回の研究成果について、光合成の機構解明や人工光合成での光エネルギー利用効率の向上だけでなく、他の巨大膜タンパク質の結晶構造解析にも重要な知見を提供することになるとしている。
2015年05月29日